チャックが2歳の時、父の転職のために、ノリス家はオクラホマからカリフォルニアへと引越した。 実にチャックが12歳になるまで、そんな移動生活が続いたのだった。 ‘Had there not been mom’s spiritual and practical stability, we would have established no roots at all. Her love was glue that kept us together. And provided us with a sense of security, no matter where we moved, how often we packed and moved again.’ 「母の精神的かつ現実的な支えがなかったら、家族は根無し草になってしまっていただろう。 どこに移動しようとも、そしてまた荷物をまとめて何度移動しようとも、母の愛は家族をつなぎとめ、安心感を与えてくれた。」 さて、ノリス家がカリフォルニアに移って間もなく、チャックの弟が誕生した。母ウィルマはジミーと名づけたかったが、父レイは好物のビールの名前にあやかり、ウィーランドと名づける。 母の抗議もむなしく、ビールの名前は弟の出生届けに記載されてしまうのだった。
********* ノリス家を支え根無し草”establishing no roots”になるのを妨げたのが母の愛だったが、アメリカ人にとっての”Roots”「根」とは一体何を示すのだろう。それは生き方の基盤を成す信仰心の拠り所である。その意味で連中にのって宗教の存在は大きい。 日本人が特に宗教を持っていないことを知ると、どこに「根」があるのか欧米人は不思議でならないようだ。 一昔前までは集団主義の帰属意識がそれにあたったのだろうが、エセ個人主義のまかり通る現在では、日本人の「根」を感じるのは難しい。 「根」がしっかりと張った上に形成された個人主義なら、博愛精神に則った利他主義も発達するはずだ。 h ttp://blog.l ivedoor.jp/mediamon/archives/26978893.html
2年後、弟ウィーランドの持病の喘息が悪化し、気候の良いアリゾナ州に引っ越すことになった。 地元の学校の3年生に進学したが、そこでは殆どの生徒が原住民、つまりインディアンの子だった。 チャックは新入りで、しかもクラスでたった一人の金髪に青い目の生徒だった。 大柄なインディアンの子ボビーからチャックは目をつけられ、いじめが始まった。 チャックは毎日、学校から家までボビーに追いかけられることになった。 家の隣にあるガソリン・スタンドのオーナー、ジャックが見かねてチャックにこう言った。 "Son, it's time you fought this boy." "He is too big." "It doesn't matter. You can't run from fear forever. It's time to stand up for yourself." 「おい、そろそろあの子と闘ったらどうだ」 「大きすぎるよ」 「そんなの関係ない。怖いからって逃げてばかりはいられないんだ。立ち上がって自分のために闘うんだ」 そこでボビーに闘いを挑んだ。砂まみれになって地面でもみ合い、ボビーの指をつかむと思いきり反り返らせた。 「痛い!降参するからやめてくれよ」ボビーは泣き叫んだ。 それからボビーはチャックを追いまわすのを止め、ふたりは良い友達になった。 恐怖とは正面から立ち向かうことで克服できると、チャックはその時に初めて学んだのだ。
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アリゾナの生活はウィーランドの喘息を治すどころか、かえって悪化させた。 そこで一家はオクラホマへ引越し、父はトラックドライバーの職を得、母は間借りしているレストランでウェイトレスとして働いた。 ある晩、父が酔っ払って帰ってきてこう家族に告げた。「荷物をまとめろ。今から引っ越すぞ」 そして母の制止もきかず、父は酔っ払い運転で、オクラホマ州内の次の移動地へと車を走らせるのだった。 父は素面になるとおとなしくなり、二度と飲酒はしないと誓うのだが、その誓いが守られることは一度もなかった。 母はチャックとウィーランドにこう言い聞かせた。いつか神様がきっと助けてくれるから、その時まで辛抱して。 しかし、少年チャックには信じがたい話だった。 ***** "It's time you fought this boy." 「そろそろ闘う時だ」この構文は必ず過去形が使われる。そう、チャックはとっくの昔にいじめっ子と戦っておくべきだったのだ。 恐怖に打ち勝てるかで人間の真価が問われる考え方は、スターウォーズやバットマンの新作のテーマと通じるところがあり興味深い。 h ttp://blog.l ivedoor.jp/mediamon/archives/27007274.html
“She believed in determination and patience. The determination to succeed whatever you choose to do in your life, and the patience to stick with it until the goal is reached.” 「母は決心と忍耐の大切さを知っていた。決心さえあれば、人生でどんな道を選んでも成功することができるし、忍耐さえあれば、目標が達成されるまで粘り強く頑張ることができる。」 チャックが10歳の時、母は彼とウィーランドを連れて、父の出稼ぎ先のカリフォルニアへ移った。 あいも変わらず貧しい生活だったが、近所に住む日本人夫婦、ヨシとトニのハマ夫妻が親身になって色々と協力してくれた。 例えば、ノリス家が食事もままならないのを知ると、ハマ婦人が買い物帰りに家にわざわざ立ち寄り、「間違って食べ物を買い過ぎたの。 余分な食べ物をもらってくれる」と、あたかも自分達がお願いするかのように振る舞ってくれた。 また、母が同じ服を着たきりなのに気付くと、ハマ婦人は「この青い服と茶色の服とどちらにするか迷っているのよ。 あなただったらどちらが欲しい」と母に訊き、「青いのが素敵ね」と母が答えると、「じゃあ、青いのもらってね」と服を置いていくのだった。 母、チャック、ウィーランドの3人は、家の近くのバプティスト教会に通い続けた。 母は週給15ドルのうちの1割を必ず教会へ寄付した。食費もままならないノリス家の窮状を知った牧師が何度も訪問し、丁重に寄付を断った。 「ノリスさん。主はあなたのお気持ちを十分に理解されています。お金は一切要りませんよ。」 母は感謝しながらも、それからも必ず給料の1割を寄付することを怠らなかった。
その後、母は職場でジョージという名の男性に、お互い好きになった。 ジョージは真の意味での紳士で、いつも母を優しく扱ってくれた。 ある晩、チャックは母にこう訊かれた。「チャック、話があるの。ジョージに結婚を申し込まれたんだけど、先ずあなたの気持ちを聞いておきたいの」 チャックは母をひしと抱きしめてこう答えた。「ママ、ジョージとなら再婚に大賛成だよ」 母とジョージはその後すぐに結婚した。義父との新生活は、しばらくは慣れないで居心地の悪い思いをしたが、結果的にはジョージはチャックにとって最高の父親となるのだった。 ****** “I Believe in determination and patience ”「決心と忍耐の大切さを知る」 “Believe in”の後によく来る言葉として、”Love”と”God”がある。愛や神が本当に存在すると信じるかどうかを問う。 “I believe you”は、単に言ってることを信じるだけが、”I believe in you”は、その人の価値を認めることになる。 h ttp://blog.l ivedoor.jp/mediamon/archives/27151088.html#comments
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■Chuck Norris 男の中の男の物語 4 思春期という多感な年頃を、ジョージのような信頼できる父親の元で過ごすことができ、チャックは本当に幸せを感じていた。 しかし、ある日チャックが高校から帰宅した時に、思いもしない事件が起きた。 離婚したはずの父レイが居間に腰掛けており、寝室から母の鳴き声が聞こえたのだ。 レイはチャックに言った。「俺がジョージをつまみ出してやる。お前に俺が止められるもんか」 しかしチャックとしては、決してジョージのような紳士を傷つけるわけにはいかなかった。 チャックはレイを玄関から前庭に追い出すと向かい合った。これまでは怖くて立ち向かえなかった父だが、今こそ決着をつける時だった。 父はため息をつくと「お前とは喧嘩しないよ」と言い、車に乗って立ち去った。 チャックはこの日ある教訓を得た。 “True courage is not the absence of fear, but the control of it.” 「真の勇気とは、恐怖を感じないことではない。恐怖に向かい合うことだ」
翌日、柔道コーチはタンスー道の師範、ミスター・シンのもとへチャックを連れて行った。 ミスター・シンは、どうせアメリカ人なんかタンスー道の過酷な訓練についてこられないと思ったようだが、柔道コーチの顔を立てるためにチャックの入門を許可した。 道場で学ぶ子弟は20人ほどいて、殆どが黒帯を持っていた。韓国式の訓練では、黒帯も素人の白帯も一緒に同じ方法で学ぶ。 チャックは片手を吊りながら、訓練に参加し、一日5時間の訓練を月曜から土曜まで続けた。 訓練が始まる前のストレッチから既に拷問に近かった。訓練は午後5時に始まり、毎時5分間の休憩があるだけだった。 最初の20分はその場で突きを繰り出すウォーミングアップ。次の40分で受けの練習。次の1時間で各種蹴りの練習。そして残り3時間かけてパートナーと組み手を行なった。 チャックが吊り手をしているからといって、容赦する者は誰もいなかった。チャックはもともと運動神経が決して良いほうではなかったものの、どんどん回りの動きについていけるようになっていった。 肩が治った時から、タンスー道の訓練が休みの日曜日も柔道の訓練に参加した。 身体の節々が痛み、眠れない夜が続いた。とても過酷な訓練の毎日だったが、チャックはこう思った。 “If I can stick with this, I can stick with anything.” 「これに耐えられれば、何にでも耐えられる」
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チャックには黒帯を取るなどの目標は特になく、いつか警察官になった時に格闘技が役に立つのではとの思いから毎日の厳しいを耐えた。 そんなチャックを見て、他の韓国人訓練生達も徐々に打ち解けるようになっていった。 まさか自分が8年後に空手の世界チャンピオンになるなんて、チャックは夢想だにしなかった。 ****** “True courage is the control of fear.” 真の勇気とは、敢えて恐怖の根源と向かい合い、己の恐怖心を抑え込むことで生まれる。格闘家に必須の哲学である。 “Stick with it.” 続ける。転じて、頑張る。”Stick to it.”と同じ。 h ttp://blog.l ivedoor.jp/mediamon/archives/27247214.html
“I was training both my body and my mind and as a result of my discipline learning, I was developing a much better self-image. As I became more proficient in martial arts, I carried myself differently, standing more erectly, walking and talking with air of assurance.” 「格闘技で心と身体を鍛錬し、規律を学んだ結果、より良い自己イメージを築くことができた。 そして、より格闘技に精通することにより、以前とは違う振る舞いができるようになった。背筋がきちんと伸び、歩く時も喋る時も自信を醸し出すことができたのだ。」 それからもチャックはタンスー道の訓練に邁進し、自信がどんどん漲っていく自分を感じた。その頃、中隊長から優秀空軍隊員にも選ばれた。
“Sometimes you have to do whatever you can, while searching for something better.” 「より良い結果を得るためには、時には拒まずに何でもしなければいけない」 ロサンゼルス警察への就職を諦めたくはなかったが、次の採用まで6ヶ月かかると聞かされた。チャックにとって、この時期は人生の大きな回り道と思えたが、後で振り返ると必要な準備期間だったのだ。 会社の給料が少なかったので、仕事の後、両親の自宅の裏庭で空手教室を始めることにした。最初の生徒は、19歳のウィーランドと9歳のアーロンの弟二人だけだった。 3人が空手の練習をしているとの噂が徐々に広がり、人前でデモンストレーションを実演することになった。 小さなアーロンが大人相手に丁々発止する姿が観衆に多いに受けたが、5、6回目の実演をやる頃、アーロンはもう嫌だと言ってオイオイ泣き出した。それでもチャックは何とか説得してアーロンに協力してもらった。 観衆の反応から感じたのは、チャックが思った以上に空手に興味を持つ人が多いということだ。それにも係わらず、空手教室はアメリカではまだまだ珍しかった。
“The satisfaction of knowing that I finally won the tournament increased my confidence, and motivated me to continue competing.” 「ようやくトーナメントで優勝できた喜びで自信が増し、選手として競技を続ける原動力となった」 チャックは続いてカリフォルニア州空手トーナメントに参加した。今回は、黒帯から白帯までの様々なクラスの生徒を12人引き連れて行った。 チャックは得意の後ろ回し蹴りで中量級の優勝を決めたが、残念ながら体重無差別の総合優勝は果たせなかった。 この大会でノリス空手道場の生徒は、12人のうち11人までがそれぞれのクラスで優勝するという圧倒的な強さを見せた。 通常、トーナメントの最初の試合は、開会式で並んだ時に隣に立っている者と対戦することになる。 それからというもの、ノリス空手道場の道着を着た生徒から、次第に誰もが遠ざかって並ぶようになっていった。
In competition, as in attempting any goal in life, it is necessary to keep a big picture mentally. But the focus must be on the next step, the immediate goal at hand. 「人生の目標と同じで、競技に勝つためには心の中で大きな戦略を立てなければいけない。しかし気持ちを集中するべきなのは、すぐ次に段階である目の前の目標だ」 チャックが中量級で最もマークしていたのは、最強格闘家の一人である全日本チャンピオン、ナカムラ・ヒロシだった。 ナカムラが相手を次々に破る様子を観察した。体は小さいががっしりした体型で、動きは滑らかで洗練されており同じパターンだった。得意技は電光石火の早さで繰り出す前蹴りと突きのコンビネーションだ。 ナカムラもチャックの試合を仔細に観察していた。しかし、チャックは自分が有利であることを知っていた。彼は韓国式空手と共に日本式空手も熟知していたが、ナカムラは韓国式を良く知らないはずだった。 チャックとナカムラは、それぞれのグループで順当に勝ち進み、いよいよ二人が中量級の決勝戦で対決することになった。 試合開始は夕食後だったので、チャックは軽く腹ごしらえするためにレストランへ向かった。 食事前にレストランのトイレに入ると、そこにナカムラその人がいた。 チャックは彼に言った。「お互いに頑張りましょう。ミスター・ナカムラ」 「君の方が勝つよ」彼はぶっきらぼうに答えた。チャックは、その悲観的な態度に驚いた。 「いえいえ、あなたこそ勝つチャンス十分ですよ。ずっと試合を見ていましたが、あなたも凄いですよ」そう口では言いながらも、チャックは結局のところ自分が勝つことを知っていた。なぜなら心の中で既にナカムラに勝つ様子が思い描けていたからだ。