2011年10月1期なりきりネタ邪気眼-JackyGun- 第Y部〜楽園ノ扉編〜
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邪気眼-JackyGun- 第Y部〜楽園ノ扉編〜
- 1 :11/09/29 〜 最終レス :11/12/01
- かつて、大きな戦いがあった。
個人、組織、そして世界をも巻き込んだ戦い。
戦士達は屍の山を築き上げ戦い、
それでも結局、勝者を産まぬまま、
戦いは、全てが敗者となって決着を迎えた。
そして、『邪気眼』は世界から消え去った――――筈だった。
- 2 :
- 《過去への扉》─カコログ─
邪気眼―JackyGun― 第零部 〜黒ノ歴史編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1225833858/
邪気眼─JackyGun─ 第T部 〜佰捌ノ年代記編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1251530003/
邪気眼-JackyGun- 第U部 〜交錯世界の統率者編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1260587691/
邪気眼-JackyGun- 第V部〜楽園ノ導キ手編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1267327455/
邪気眼-JackyGun- 第W部〜目覚ノ領域編〜
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1275651803/
邪気眼-JackyGun- 第X部〜黎明ノ紡ギ手編〜(なりきり板)
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1287755863/※邪気眼-JackyGun- 第X部〜黎明ノ紡ギ手編〜(なりきり板避難所)は現在消失中
《堕天使の集いし地》─ザツダンスレ─
http://yy702.60.kg/test/read.cgi/jakigan/1280151413/
《世界ノ真実》─マトメウィキ─
http://www31.atwiki.jp/jackygun/
- 3 :
- Q.ここは何をする所だ?
A.邪気眼使いたちが戦ったり仲良くしたり謀略を巡らせたりする所です。
Q.邪気眼って何?
Aっふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・
邪気眼のガイドライン(http://society6.2ch.net/test/read.cgi/gline/1261834291/)を参考にしてください。
このスレでの邪気眼とは、主に各人の持つ特殊能力を指します。
スタンドとかの類似品のようなものだと思っておけばよいと思います。
Q.全員名無しでわかりにくい
A.昔(ガイドライン板時代)からの伝統です。慣れれば問題なく識別できます。
どうしても気になる場合は、上記の雑談スレでその旨を伝えてください。
Q.背景世界とかは?
A.今後の話次第。
Q.参加したい!
A.自由に参加してくださってかまいません。
Q.キャラの設定ってどんなのがいいんだろうか。
Q.キャラが出来たんだけど、痛いとか厨臭いとか言われそう……
A. 出来る限り痛い設定にしておいたほうが『邪気眼』という言葉の意味に合っているでしょう。
数年後に思い出して身悶え出来るようなものが良いと思われます。
- 4 :
- 世界観まとめ
邪気眼…人知、自然の理、魔法すらも超えた、あらゆる現象と別格の異形の力
包帯…邪気を押さえ込み暴発を防ぐ拘束具
ヨコシマキメ遺跡…通称、『怪物の口腔』
かつての戦禍により一度は焼失したが、アルカナを率いる男【世界】の邪気眼によって再生された。
内部には往時の貴重な資料や強力な魔道具が残されており同時に侵入者達を討ってきたトラップも残存している。
実は『108のクロニクル』のひとつ
カノッサ機関…あらゆる歴史の影で暗躍し続けてきた謎の組織。
アルカナ…ヨコシマキメの復活に立ち会い守護する集団。侵入者はもとより近づくものすら攻撃する。
大アルカナと小アルカナがあり、タロットカードと同数の能力者で構成される。
プレート…力を秘めた古代の石版。適合者の手に渡るのを待ち続けている。
世界基督教大学…八王子にある真新しいミッション系の大学で、大聖堂の下には戦時から残る大空洞が存在する。
108のクロニクル…"絶対記録(アカシックレコード)"から零れ落ちたとされる遺物。"世界一優秀な遺伝子"や"黒の教科書"、"ヨコシマキメ遺跡"等がある。
邪気払い(アンチイビル)…無能力者が邪気眼使いに対抗するべく編み出された技術
遺眼…邪気眼遣いが死ぬとき残す眼の残骸。宝石としての価値も高いが封入された邪気によってはいろいろできるらしい
- 5 :
- >>1、乙ッ!!
消滅した過去ログは、避難所でtxtを貰えるかもなッ!!
- 6 :
-
『歴史』とは時の旅路
『年代記』が語る過去と現在の『交錯世界』
虚栄の『楽園』が古の『墓標』より目覚めし時、夜空に紡がれた『黎明』が冒涜の『扉』を暴き出す
『眼』を『剣』と成し
『邪神』の『大罪』を討ち滅ぼす『翼』を持つ者達の物語
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・…━━━━ J A C K Y G U N ━━━━…・
C H A P T E R Y : The Gate Of Heaven
[ The strands of Destiny ―― the Past, the Presence, the Future, and... ]
ハジマリ
―――――――彼等の『行方』は、『創世』の空へと飛翔(むか)う。
- 7 :
-
【簡単なあらすじ】
ヨコシマキメ遺跡での死闘から数日後。
訪れた束の間の平穏は、世界各地で発生した邪気眼使いを狙う強襲事件によって破られる。
能力者が数人通う世界基督教大学。
遺跡で敵として立ちはだかった非所属異能集団、【アルカナ】。
そして、かつて旧世界で隆盛を誇った超巨大結社・カノッサ機関でさえも、地方支部を次々と壊滅状態へと追いやられるという凄惨な被害状況の最中にあった。
カルディナル=ヘヴン
判明した襲撃者の正体は、【枢機院・楽園教導派】。
カノッサ機関首領『創造主』が密かに設立した、世界規模の一大宗派『世界基督教』総本山にして世界政府宗教統治機関。
『創造主』は何故、自らが作り上げたカノッサ機関を裏切ったのか?
全ての邪気眼使いを葬り去ろうとする目的とは?
渦巻く様々な疑問を置き去りにして、【枢機院】の強行軍は罪のない無関係な人々をも巻き込みながら、その戦火を世界に燃え広がらせていく。
崩れる「日常」と「非日常」の境界。
権力と暴力だけが支配する『旧世界』の悪夢が、現代の新世界に黄泉還りつつあった。
戦う理由は違えど、刃を向ける相手は同じ。
プレイヤー
様々な意志の炎を胸に宿した主人公達が、環流する無慈悲な歴史、その運命の悪意に立ち向かう物語。
そして今、戦いの舞台はいよいよ枢機院本部、聖樹堂へ。
- 8 :
-
【敵勢力状況報告】
『生命ノ樹(セフィロト)』 ―― 楽園教導派上位幹部。異能の核を身体の照応する各部分に埋め込んでおり、単体で戦局を揺るがしかねない強大な力を持つ。
・第一位『王冠』哲学のケテル:死亡
・第二位『知恵』塵壊のコクマー:ラツィエル城防衛戦で撃破された後、本部へ収容
・第三位『理解』エロヒム:Rによって害後、魂を凍結
・第四位『慈悲』ケセド 《未登場》
・第五位『峻厳』冥罰のゲブラー:聖樹堂地下、ヨシノの守護霊「旅団」を拉致し、何かをしようとしている
・第六位『美』真贋のティファレト:ラツィエル城で小アルカナと交戦、終結後撤退
・第七位『勝利』聖女ネツァク:聖樹堂で待機
・第八位『栄光』ホド 《未登場》
・第九位『基礎』イェソド:聖樹堂で待機
・第十位『王国』マルクト=アリス?:聖樹堂で待機
・隠数位『知識』ダアト:ラツィエル城防衛戦で撃破された後、本部へ収容
・『創造主』:不明
・旧世界の天使:復活の兆し?
・『枢機院・楽園教導派議長』アルテロイテ・エルフェンバイン:聖樹堂で待機
- 9 :
- >>7修正
カルディナル=エデン
【枢機院・楽園教導派】
- 10 :
- ――魂は仲間を選ぶ ――― そして、扉を閉めてしまう (エミリー・ディキンソン 「魂は仲間を選ぶ」)
Rの奇妙な問いかけに、庭師は少しの間押し黙った。
彼の答えを待つのか待たぬのか、彼女は庭師を頭上に乗せたまま、ほんの少し歩調を緩めて城門へと向かう。
もう庭師のことなど忘れたかのように城門に手を掛けようとしたところで、頭から声が聞こえた。
『うんとねー、別に君と敵対するつもりはないんだよ。ただ、僕あいつらのことが嫌いでさぁ、だからこうしようよ』
その言葉の後、長身の謎めいた男はふわりと地面に降り立ち、Rに手を差し伸べた。
手とともに差し出された言葉は、これもまた新たなる混沌の訪れを予感させるものだった。
『僕、君の力に興味がある。だから戦わせてくれよ……あいつらを巻き込みながらさあ』
――奇妙な時勢が奇妙な同盟を生む。
太陽は正午をいくらも過ぎていないというのに、彼の長身が大地に長く影を落としている。
彼女はその手に見向きもせずに、押し黙ったまま城門へ右手をかざした。そして左手は庭師をまっすぐに指し――何の前触れもなく、両掌から忌まわしい透明の波動が噴き出した。
視覚によって捉えることはほぼ不可能だっただろうが、それでも空震として感じ取ることは出来る、というより否応なく注目せざるを得ない出力を伴っていたし、それに続く現象もまた、信じがたいほどに人目を引くものだった。
すなわち、Rの波動に曝された城門が塵よりも微細に分解されて消滅したのだ。
世界の裏に暗躍する巨大組織である枢機院の正門である、当然ながら物理的にも魔術的にも当代最高クラスの強度を誇るはずの門(ゲート)が、まるで乾いた砂のように一瞬にして消滅した――
この一事を取ってみても、彼女の文字通り人間離れした力量の一端がうかがえよう。
「さて、かくして閉ざされた扉は開け放たれ、我らの戦いの幕もまた上がったわけだ。」
無造作に城内へと足を踏み入れながら、振り返りもせずにさも当然のように声を掛ける。
先ほどの奇襲めいた破壊波動に庭師が巻き込まれた可能性などはまったく考慮していないようだ。
「ああ、楽しみという概念が私にもあったらなあ!
きっと今こそ、眼前に迫った大乱の予感に胸を震わせて全身に原始的かつ根源的な喜びの感情が到来しただろうに!」
咆えるRに呼応するように、いや事実呼応して、にわかに空が掻き曇り大粒の雨を降らし始めた。
その雨粒は魔神の涙であり、実際的な表記をするならばpHマイナスを遥かに超える酸度係数31.3のフルオロアンチモン酸であった。
かつて存在したとされる鳥人族文明の遺産として有名な防護服であってもまるで意味を成さないであろう強酸、いや超酸の降りしきる中、彼女は何者にも目を向けることなくただ歩いていった。
衣服はおろか皮膚も、肉も、骨をも蝕む液体を浴びながら即座に修復し続けていくその姿は、名状し難いほど醜悪でグロテスクであると同時に、筆舌に尽くしがたいほど人目を引く美しさがあった。
――以前、黒い雨が降り、大地は焼けただれ、鋼が悲鳴を上げるという、恐ろしい場所の話を聞いたことがあった。
そのときは、熱に浮かされた誰かの作り話だろうと考えて、自分を元気づけることにしたのだが……今となっては、真実を恐れるばかりだ。 (カシーブ・イブン・ナジー「書簡集」)
- 11 :
- 庭師は気がついたら痛みと共に飛んでいた。
まずは状況把握だ。彼は不思議なオーラを纏う少女の頭の上に乗っていて、戦うか退くかとわれ、戦おうと返答した。そこから一瞬だけ記憶がない。
太陽の光が嫌にぎらついて、すこしまぶしいと思った。
瞬間、思い出す。少女の出した謎の波動に大きく吹き飛ばされたことを。そして大きく体が雑巾のようにねじれまがっているいことを。
普通ならば体は木っ端微塵になっているであろう、だがこの男は幸運にもねじれまがっているだけですんだ。地面から落ちる直前、あの分厚く大きい忌々しい門が分解されていく様をみて、すっきりとするほどに余裕で。
地面にたたきつけられ、ねじられたからだをボリボリと骨が砕けるような音とともに自力で直していると、少女が城内へ踏み入れる足音が聞こえる。
『さて、かくして閉ざされた扉は開け放たれ、我らの戦いの幕もまた上がったわけだ。』
そうだね、と返そうとして喉からひゅうひゅうとしか音がでないことに、首をかしげる。さらに立ち上がってスコップを拾おうとしたらそもそも背骨が砕けて立ち上がれないことに、首をかしげるばかり。
しかたがないので地面を這うように――さながらたたき潰された蟻のように――ずりずりと後ろからついていく。もはや人間ではなく、この世にいてはならない何かにしか見えない。だがあえていおう、庭師にその自覚はない。
這う彼の視線に少女のすらりとのびる足がみえる。
『ああ、楽しみという概念が私にもあったらなあ!
きっと今こそ、眼前に迫った大乱の予感に胸を震わせて全身に原始的かつ根源的な喜びの感情が到来しただろうに!』
咆える声が耳障りだな、と言おうとしたら、舌に痛みが走る。
つぎに背中、太もも、背骨、左の薬指……その痛みの正体が雨だと気がつく頃には既に全身に雨がたたきつけられ始めていた。形容するならば無数の炎の矢が体に突き刺さるに等しい痛み。体は溶け始め皮膚は赤く爛れ、筋肉繊維がむき出しになっている部分すらある。
だがあえていおう、庭師は笑っていた。無邪気なまでに笑っていたのだ。
- 12 :
- 「あ゛ー あ゛ノ゛ ち゛ょ゛ っ゛と゛」
溶けては修復しを繰り返す少女に語りかけようとするが、骨と筋肉繊維がむき出しになった手では立ち上がることはできない。
困ったような(実際にそんな顔をしたかは定かではない)顔をした庭師は、なぜか腕を地面に突き刺した。いや違う、地面に腕が吸い込まれたのだ。
吸い込まれた腕が戻ってきたとき、手には黄土色の土くれのようなものが握られていた。それが本当に土くれなのかはわからないが、たしかに土だ。ただし取り出したのは『レンガ畳』の中から。腕が抜けた部分だけ妙に腐って粘着質になってはいたが。
奇妙な土くれを口元にもっていくと、行儀悪くスープを啜る様に土くれを口に含む。これは彼なりの儀式だ。
すると彼の背中から巨大な、派手すぎる茸が生える。それを乱暴に引きちぎり傘代わりにする。これは彼なりの儀式だ。
茸の影から草が生えてくる。不自然な草が生えてくる。これは彼なりの儀式だ。
その草が庭師の口に自らずるずると入り込む。心配になるほどに入り込む。草がスカスカになった体の隙間から一瞬生えると思うと次の瞬間体は癒されている。これにより儀式は終わる。
これは、回りくどいことが好きな彼なりの儀式だ。子供がなにかしら付け加えたがるように、これは彼なりの儀式なのだ。
酸性にも負けない架空の茸の傘をもち、彼は立ち上がった。口にはまだ草が入り込んでいて、サイボーグのようにも思える。
「ちょっとこまるなー、はしゃぎ過ぎるのはさぁ」
喉がつぶれちゃったじゃないか、とガラガラ声で呟くと、半分融解したスコップで地面をたたく。すると庭師が進むだろう方向だけ雨が晴れたのだ。かつて海が割れて道ができた奇跡のように。
「『アルミホイルに包まれた心臓は六角電波の影響を受けない』ってフレーズしってる?」
別に何に話しかけているわけではない。
さらにスコップをたたくと彼の周りに大きな大きな草が彼を囲むようにはえる。それは全て剣の棘の実を鳴らし、今にもはちきれそうだ。
「螺旋アダムスキー脊髄受信体って言葉に聞き覚えはある?」
初々しい緑が急速に茶色となり、毒の雨に打たれ溶かされかけたそのとき、爆弾のような音をたてて破裂する。厚さ30cmはあろうかと言う剣を模した弾丸が、少女を巻き込まんばかりの量となって前方に打ち込まれる。少女に関しては全くもってきにしてないようだ。
建物にガリガリと突き刺さる剣によって、針のむしろとなる様子を眺めながらのんきに呟く。
「ああこれはなんでもないんだ、僕が好きな話なんだ。眼にはいるものが平気になったときが最も恐ろしい。つまり洗脳についてなんだけどね・・・」
- 13 :
- 静寂の名がそのままのしかかったように静まり返った遺跡内。
ほんの数分前まで、耳を裂くような轟音に湧いていたとは思えない、かつての戦場は
はやくも篝火が灯され、かつての持ち主の元へと返っていた。
鷹逸郎は気絶したかのように眠り、剣のメンバーも疲弊しきり、やはり大多数が眠りについていた。
同じように疲れきって、肩を預けあって眠るシロフォン、ビブラフォン姉妹を見ながら、ピアノはふうと息を吐いた。
「……ヨコシマキメ遺跡。」
聞けば、あの基督教大学の一件はヨコシマキメが発端だという。
随分と忘れていた気がするが、ここがかの伝説の邪気遺跡だというのだろうか
そして、持ち主はアルカナ…これは前情報として知ってはいたが、本物のヨコシマキメを拠点としてるとはにわかには信じがたい物だった。
こんな大層な勢力が、なぜ今まで…基督教大学事変以前までカノッサや世界政府に発見されなかったのかが、これで分かった。
伝説の遺跡とあらば、身を隠す程度造作もないのだろう。
「まったく…改めてアルカナという組織がぶっ飛んでるという事が再認識できたわ」
そしてその大アルカナの面々と言えば、部下達が眠るのを後目に、次の戦いへの準備を着々とこなしていた。
といっても、傍からは喧嘩気味に話しあっているようにしか見えないのだが
だが、会話の内容は結果として皆がどう動くかという話題に帰結している辺り、一応は組織としての体裁は守れているのだろう
むしろ、あのやり方がアルカナ式なのかもしれない
本来の拠点が手元に戻り、彼らも本調子という事だろう
「…ねえ、大アルカナの皆さん」
ピアノは唐突に、本当に唐突に思った事を口に出した。
「私は、どちらかと言えばカノッサ側に就いてる人間よ
貴方達アルカナとは、味方じゃないわ…ただ、同じ強大な力を持つ敵を持っていると言うだけ
目的を同じくしている、という言い方は少し違うだろうけれど
それで、ここヨコシマキメは貴方達の塒(ねぐら)
……分かるでしょ、ここにおいて、優位性と主導権は貴方達にある
率直に言って、私は疲れたわ。これだけの組織を率いてる幹部達だもの、引っ張るのは得意でしょ?」
少し高慢で、遠まわしではあったが、それはピアノがアルカナに使役するという意思表示だった。
- 14 :
- 「ほう・・・。なかなかどうして、上々の滑り出しじゃねえか」
『方舟』の中央端末に胡坐をかいていた『皇帝』は、回転椅子を遊具のように回しながら、感慨深げに周囲を見渡した。
ちょっとした“ゴミ掃除”と“模様替え”を行った『方舟』改め『ヨコシマキメ遺跡』は、先程までの清浄さなど何処へやら、
正に邪(ヨコシマ)気(キ)眼(メ)の名を冠するに相応しき陰鬱さをその身に取り戻していた。
あの戦闘の後、ヨコシマキメを制圧したアルカナは、『方舟』に残されたデータから枢機院の本拠地を割り出すまでの間、一時の休息を得ることになった。
ある者は懐かしき古巣の思い出話に花を咲かせ、またある者は静かにその体を休め、思い思いの時を過ごしながら次なる戦いに備えていた。
一番の功労者であった<Y>も、今は眠っている。
「しっかし・・・わかんねえ奴だな、コイツも」
昨日まで敵対していた組織の懐でここまで無防備になれるとは、実に豪胆極まりない。
伝え聞いていた話ではもう少し老獪で抜け目の無い性格だと思っていたのだが。
それともこれが彼なりの信頼というやつなのだろうか?
どちらにせよ、『審判』の気性を鑑みるに“その手の心配”は杞憂なのだが。
他の大アルカナも<Y>に対するスタンスを決めあぐねているらしく、『女教皇』などを除けば現時点で積極的に交流を持とうとする者は少なかった。
「・・・ま、あいつらも餓鬼じゃねえんだ。その内なんとかなるか」
早々と思考を切り替えた『皇帝』は椅子から勢い良く飛び降りる。
その足が向かう先には残存する大アルカナが円陣を作り、今後の方針についての議論を交わしていた。
当の会議は議論闊達歯に布着せぬ物言いで絶賛紛糾中だった。
それでも、彼は遠巻きにその様子を見つめながら「様になってきたな」と独りごちる。
『吊られた男』はなんのかんのと言いつつ頭が切れるし、『魔術師』はその巨体に似合わず知性派だ。
議論が白熱した時はすかさず『節制』が「口論の禁止」を実行する。
暫定的に議長を勤める『審判』も、『吊られた男』とマリーの夫婦漫才に青筋を立てながらも公平公正に各人の意見を聞いていた。
『愚者』と『運命の輪』は・・・。
「シエスタ中・・・だと・・・」
『隠者』はと言えば、度重なる負傷と消耗で倒れ、現在は小アルカナ術式部隊『聖杯』の治療を受け眠っている。
今朝までは通夜の三次、四次会気分という『審判』の揶揄が見事に当て嵌まるような酷い面構えをしていたのだが。今はかろうじて正視に堪える面になっていた。
以前のあれは『世界』に追従するばかりで全く使い物にならなかったのだが、今ならどうだろう。
ともあれ、これは良い傾向だと『皇帝』は考える。
少し前の鬱々とした雰囲気が消え、皆が意識せず正のベクトルを向き始めている。
『練議苑』の襲撃からこちら、『アルカナ』という組織の空気がなんとなく変化しつつあるのを彼は感じていた。
- 15 :
- さて自分もあの寄り合いに加わろうかと『皇帝』が歩きだした時だった。
「…ねえ、大アルカナの皆さん」
少し離れた所で休んでいたピアノが不意に口を開き、反応した幾人かの注目を集める。
「ん? どうした嬢ちゃん。あぁ、さては配給されたパンがマズくて食えたもんじゃねえってか?
ありゃあアルカナ糧食部門が丹精込めて作ったモンだから今ン所はそれで我慢してくれや。
あとでウマいモンでも食わせてやっから・・・え? 違う?」
「私は、どちらかと言えばカノッサ側に就いてる人間よ
貴方達アルカナとは、味方じゃないわ…ただ、同じ強大な力を持つ敵を持っていると言うだけ
目的を同じくしている、という言い方は少し違うだろうけれど」
どうにも婉曲的な言い方に『皇帝』は首を捻る。
互いの立場上、過剰な馴れ合いはしたくないという事なのだろうか。
他の者も彼女の発言の意味を計りかねたようで、皆一様に次の言葉を待つ。
「それで、ここヨコシマキメは貴方達の塒(ねぐら)
……分かるでしょ、ここにおいて、優位性と主導権は貴方達にある
率直に言って、私は疲れたわ。これだけの組織を率いてる幹部達だもの、引っ張るのは得意でしょ?」
そこまで聞いて得心する。要するに、一時的にアルカナの指揮下に入るという訳だ。
「あー・・・。つまり、なんだ。こっちの命令に従うってか。
そう言ってくれんのはありがてえんだが・・・」
一時的な同盟関係とはいえ、めいめい好き勝手に動かれるより指揮系統をアルカナに一本化してもらえた方が動き易いのは事実である。
彼女の連れらしき非戦闘員を人質代わりにすれば寝首を掻かれる心配も無くなるだろう。
順当に考えれば願っても無い申し出だ。
が。
『皇帝』は他の大アルカナの反応を見て、中央の『審判』に頷くと、翻ってピアノに返答する。
「・・・わりぃ。やっぱお互いイーブンな関係で行こうや」
- 16 :
- 「いや、な。確かにあんたの言う通りにした方が楽っちゃあ楽なんだよな。
実際、ちっとばかし前までは俺たちもそうやってた」
以前の大アルカナは、幹部というよりむしろ『世界』という王の意のままに動く駒、という意味合いが強かった。
また、小アルカナも体の良い雑用、捨て駒、使い走りであり、『杖』などがその代表例であった。
しかし、その構図は個としての成長も群としての洗練も生み出す事はなかった。
結果、敗走。迷走。右往左往。
『審判』が立ち上がらなければ今頃はどうなっていたことか。
「そのお陰で俺たちゃ自分で考えたり議論したりっつー当たり前の事をやってこなかった。今回のでそれがよくわかったぜ・・・。
『世界』がいた時はそれで良かったのかもしれねえ。だがあいつがいねえ以上、いつまでも縦社会を引きずっててもいい事ねえからな。
こっちとしては全員で知恵を絞って補って互いの穴を埋めなきゃならねえ現状で、あんまし上とか下とか言いたかねえんだ。・・・そうだな『審判』?」
あるいは、誰か1人でも『世界』に臆せず向き合っていれば、アルカナは別の道を歩んでいたのかもしれない。
今さら考えても詮無き事ではあるが、同じ失敗だけは二度とすまい、と彼は思う。
「俺たちは俺たちの頭で考えて、角突き合わせて話し合って、手段を選んで『創造主』をぶちのめす。
嬢ちゃんだって、ただ任務だからってえだけでここに居るわけじゃあねえんだろ? 譲れねえモンがあったから、ここに居る。
だったら、あんたも俺たちと対等だ。どっちが優位とか、んなことはどーでもいい。
俺たちは遠慮なくあんたを頼るし知恵も借りる。だからあんたも俺たちを頼ればいいし意見すりゃ良い。
言うなりゃ運命共同体だな。
仲間だ何だと馴れ合うつもりはさらさらねえが、顎で使って冷や飯食わせる気もねえよ。
同じ道を歩む一員として───期待させてもらうぜ、ピアノ・ピアノ」
『皇帝』はほんの一瞬だけ真剣な表情を作り・・・すぐにいつものだらしない顔に戻る。
「っと、やべえやべえ。こっちに来た肝心の理由を忘れる所だったぜ。
讃えろお前ら! この俺が普通ならまだつかない時間にきょうきょ奴らの本拠地を特定してやったぜぇ!
ついでに他の組織にもバラしてやった。あとは情報(エサ)に喰い付くのを待つばかり・・・ってな」
『皇帝』がコツコツと地面をタップすると、それに呼応して『方舟』が淡く光り、正面に映像を投影する。
浮かび上がるのは深い霧と強酸の雨の中佇む、山と見紛うばかりの天突くシルエット。
「これが枢機院・楽園教導派総本山───『聖樹堂』だ。
比較するモンがねえんでわかりづらいが・・・小国まるまる1つ分がこの建物らしい。
ヴァチカンも真っ青、カリオストロ城も裸足で逃げ出す超・巨大宗教構造体だ」
『方舟』のスクリーン上に映し出されたそれは、画面越しですら見る者に威圧感を感じさせる巨大な影。
『皇帝』はその前に立ち、大アルカナに、<Y>に、ピアノに、この場に居る全ての者に言葉を投げかける。
「さぁて、そろそろ決めようじゃねえか。この『聖樹堂』、どうやって攻め落とす?」
- 17 :
- ここはどこだ、と言われたらたしかにヨコシマキメの、アルカナの皆が顔をつき合わせ相談しているすぐ傍だ。
本当にすぐ傍でアルカナの一員である約二名は非常に笑いをこらえられない様子でその周りをぐるぐると回っている。
正確にいえば黒いマッチ棒のような男『愚者』が、『運命の輪』の座る車椅子を全速力で飛ばしているというのが正解なのだろう。
さて、なぜか他の皆に気がつかれないは次第にけらけら笑い始めた。
「ねーねー『愚者』、ほんとうにあなたののうりょくってすごいわ!みーんなきがつかないのよ!」
「だろう?! 俺の邪気眼こんな使い方もできるんだぜ!」
「いいなー!いいなー!おかしたべほうだいだー!」
暗に犯罪行為をすると口にしながらもぐるぐるとまわっている。まるでアクセルの壊れたゴーカートのようだ。
しかし、運命の輪がすこしだけ体を傾けた途端車椅子は横転してしまう。
そりゃスピードの出しすぎなんだと彼らの行動を見ているものがいれば突っ込んだだろう。
だがしかし、いまの彼らは誰にも気がつかれない。
『運命の輪』が回転をかけたゴムボールのようにふっとんでいく。そのとき、寝ている『隠者』と衝突したが、無論だれにも針のむしろもとい、包帯のむしろなぞ見えていない。
そうだ、『愚者』の能力は制限がなかった。際限がなかった。圧倒的に『欠点(デメリット)』などなかった。
『運命の輪』に巻きつかれた包帯が、お代官様に帯をつかまれてトイレットペーパーのごとく解けていく。ぐるぐるぐるとよく回るなと愚者は感想を心のうちにしまう。
ようやく着地したときには、トイレットペーパーはすっかり巻物をうしなって芯だけとなる。あられもない姿はこの二人の間ではいつものことなので、別段驚きもしていない愚者は包帯を集めて芯のほうまで歩いて行く。
と、急に芯がむくりと起き上がった。その目はかつてセカンドを食べた『目』をして、貴婦人を思わせる。
「それで、貴方は本当にそれでいいのかな?『失格』クン?」
- 18 :
- 途端『愚者』は不愉快そうな目をしながら『布切れ』を拾う手を止める。
「いいんだ、死んでる身の上にこれ以上何を求めるんだ」
「あら、てっきり貴方の後悔が晴れないんじゃないか心配だったのに?」
「静かにしてくれ夫人、アンタに俺の何を理解してくれるんだ」
『夫人』はにたにたと意地の悪い笑顔をしながら『失格クン』の顎をつかむ。
「貴方も僕の事は理解できないでしょう?そういう事は抜きにした上でこの関係を結んだはずだよ」
「ミセスブラヴァツキー、だからといって今更取り返しのつかないことを蒸し返さないでくれ!!」
普段はあんなににやけている顔が苦虫を噛み潰した顔に変わっている。
「いいか、俺は失格者だ、だからあいつを見守らなきゃならない……それを変えるつもりはない」
「・・・・・・つまんないね、まあいいよ。僕も『シークレットドクトリン』さえ発見できたらそれでいいし」
『愚者』の手から包帯を奪い取ると自分でせっせと巻きなおしはじめる。
「あなたを知る人は僕以外にいないんだから自由にすればいいのに」
ポツリともらすその言葉に、彼は沈黙を保っている。
そうしてすっかりトイレットペーパーにもどった『運命の輪』は無邪気な青い瞳を『愚者』にむけた。
向こうではスクリーン越しに『攻略される砦』が映されている。
「ねっ、あっちで」
>「「さぁて、そろそろ決めようじゃねえか。この『聖樹堂』、どうやって攻め落とす?」
「っていってるから、いい加減表でよう?」
怪物と天使をみるような、複雑そうな表情をしていた『愚者』はいつもどおりのにやけた顔になると彼女の頭をなでた。
「そうすっか! 【『道』の案内を終了します】」
ぷつっ、と針で膜を刺すような音がして、彼らは『道』の中からいつもの空間へと帰還する。
- 19 :
- 『皇帝』の後ろに車椅子を運びながら、『愚者』はわざとらしい声をだす
「随分とぶち壊しがいのある!『運命の輪』だったらこんな強固なとこどうする?!」
「えー、『運命の輪』疲れてるからみんなと一緒がいいー!」
「でも先客がいるしまとめてつっこんで死んだら元も子もないぜー?!」
「じゃあ分けていけばいいの?」
「そうだな、こういうダンジョンみてーなとこ乗り込むなら弱点をカバーしあえる奴ら同士で行くべきだな」
「わーわー!まるでRPGみたいだね!」
「だろ?戦士と魔法使いとーって、そんな都合よくそろってないもんなー」
……正直ごちゃごちゃとやかましい。
そんないつもどおりの二人はシエスタの札をぽいっ、と投げ捨てたのだ。
- 20 :
- だだっ広い荒地....
その中心で赤い光が閃光を放っている。
光はだんだんと一箇所に集まり、小さな窓が出来た。
中から白い衣服を身にまとったブロンド髪の少女が顔を覗かせ、足から降りてくる。
「ここが.....そうなのね。まずは人探しをしないと♪」
少女は手をスッと前に掲げた。
- 21 :
- ――無情なること海のごとく、無慈悲なること死のごとし。
全てを塵と化す破壊波動にも、天をひっくり返したように降りしきる酸の雨にも、庭師は耐えていた。
相対するRは、崩壊と再生のサイクルで全身を不気味に泡立たせながら、その一挙手一投足を見守っている。
這いつくばり腕を地に突き立て、泥を啜り茸を生やす、その様を憑かれたように凝視する彼女の背後から、雨の幕を突き破って人影が現れた。
全部で30人もいるだろうか、聖樹堂に所属する管理権限所持者たちが異常を察知して出てきたものであるらしい。
降り続ける酸を魔力によって防御し、風車に立ち向かうドン・キホーテのようにRと庭師に対峙した彼ら彼女らは、年齢も性別も服装もばらばらながら一つの統一された意思のもとにあった。
すなわち、聖地を犯した侵入者を排除しなくてはならないという思いである。
とはいえ、自ら招いた雨によって内面のみならず外見さえも人ならぬものと化したRと、そして子供染みた悪夢のように茸の傘を掲げ草を咥えた庭師の二人は異様な圧力を放っており、聖戦士たちも手を出しあぐねているようだ。
しばしの後重い沈黙をシャベルの音が破ると、見よ、長身の男が歩む先の雨が途切れ道となった。
――モーセが手を海に向かって差し伸べると、主は夜もすがら激しい東風をもって海を押し返されたので、海は乾いた地に変わり、水は分かれた。
イスラエルの人々は海の中の乾いた所を進んで行き、水は彼らの右と左に壁のようになった。(旧約聖書・出エジプト記第14章21,22節)
『「アルミホイルに包まれた心臓は六角電波の影響を受けない」ってフレーズしってる?』
彼は誰に言うでもなく謎の言葉を放ち、再びシャベルの音が雨音を割って響く。
庭師を囲んで、土中からこの世界のどこにもありえない巨大な草が繁茂する。
芽吹いたと見えた次の瞬間には恐るべき剣の実をたわわに実らせ、酸に煙を上げながらも瞬く間に成熟していく。
『螺旋アダムスキー脊髄受信体って言葉に聞き覚えはある?』
そのただならぬ雰囲気に却って目が覚めたのか、大剣を携えた一人の勇気ある戦士がRに向けて弾かれたように走り出した。
20メートルはあろうかという距離を一瞬で詰め、裂帛の気合とともに突き出された剣はあやまたずRの右胸を貫いた。
彼女はそれをまったく気にする風でもなく、ただ庭師を覆うごとくに生えた禍々しい植物を見つめていたが、ともかくもその勇気ある行動に触発されて異能の軍団がRと庭師を葬るべく動き出した。
- 22 :
- 『ああこれはなんでもないんだ、僕が好きな話なんだ。眼にはいるものが平気になったときが最も恐ろしい。つまり洗脳についてなんだけどね・・・』
そこに、酸の嵐に続くもう一つの雨が横殴りに吹き付けた。
すなわち、鳳仙花や方波見、またはある種の豆と同じように剣の実が弾け、その巨体に比例した凄まじい速度と密度を持って聖樹堂に向けて打ち出されたのである。
その射線上には当然、Rと『エデン』の異能者たちが存在している。
戦士たちのあるものは各々の力で剣を迎撃し、あるものは避けようとでもしたのか小さくうずくまり、またあるものは虚を突かれて血と、それから命を流すことになった。
そしてRはと言えば、自らに突き刺された大剣を器用に背後へ手を回して掴んでいた。その持ち主はどこへ行ったのか見当たらない。ただ衣服と骨格だけが彼女の足元に転がっている。
さておき、迫り来る剣林弾雨、いやさ剣雨に対して、彼女は大剣を逆手に持ち、垂直に真円を描いて振り抜いた。
当然身体は胸から下腹部に至るまで自らの剣で切り裂かれているが、そのようなことが何の障害にもならないことは既にこれまで見てきた通りである。
Rの一薙ぎは表面的には何も起こさなかったが、一瞬の内に空間を細かく切り刻み、悪夢的な様相を呈するように再構成していた。
すなわち、庭師の弾丸は剣を振り切った姿勢のまま静止しているRに一本たりとも当たることなく飛び去り、その全てが聖樹堂の住人たちを直撃したのだ。
恐るべき数瞬の後、立っている人間は10人にも満たない数まで減少していた。
その残存者も敗残兵というのが適当ではないかと思うほど傷を負っており、その上退路を塞ぐように門側には男の形をした化身が、建物側には女の形をした魔神が存在している。
――「選り好みするな。 どうせみんな死ぬ。」 ――火花魔道士の言い回し
「お前たちは、つまらない。」
そんな生き残りたちに、少女の姿をした虚無は退屈そうに告げた。
いつの間にか酸を受けるのをやめたのか、その姿は衣服以外傷一つない。
「与えられた力では、私には届かない。魂のない攻撃では、私には響かない。」
今のところ対等に渡り合っている庭師と引き比べて彼らの不甲斐なさに苛立っているのか、殊更に威嚇するように腕を大きく広げ、濃紫の電気めいた魔力を迸らせる。
先程までの食屍鬼と見紛うような姿は真に恐ろしかったが、今の一糸纏わぬ裸身もまた、その本質に由来するただならぬ威圧感と相まって見るものに畏怖に似た感情を想起させる。
「私と戦い得る力を持たぬのならば、せめて真に力ある者たちをこの地へと呼び寄せる烽火となるがいい!」
魔神が咆えるのと同時に、楽園教導派の戦士たち、そして世界の庭師それぞれの傍に凍てついた六角柱が現出した。
それは正確には非常に高密度の氷によって構成された二重螺旋であり、全ての発条は傍らの人間あるいは人間のような存在の腕や、足や、半身や、その他身体の一部を取り込んで固定していた。
捉えられた人間がどれほどあがこうとも、酸の雨に打たれながらも、その構造は微塵も緩まずにそこにあり続けている。
「あいにく受信先は脊髄ではないしアルミホイルで防げもしないが、質的量的には必要十分だと確信している。」
Rがそう告げた瞬間、天と地とを貫いて紅蓮光電の柱が文字通り雨のように降り注いだ。
それら造られた神鳴りたちは全て六角の氷螺旋へ向かい、それに繋がれた人間たちを辿って一瞬の内に消えていく。
まるで金星(ヴィナス)か、はたまたダンテの言う地獄(インフェルノ)のような凄惨たる光景は、しかしRの目には映っていなかった。
彼女の思いは全て、生ある者にして力ある者たち、例えば庭師や、或いはまだ見ぬ邪気眼使いたちに向けられているのだ。
――「エルドラージが目覚めたからって悪いことばかりじゃないさ。
君の人生が後悔の無い完璧に満たされたやつだったんならね。」 ――オンドゥの遺物狩り、ジャヴァド・ナズーリン
- 23 :
-
幻視する。
薄暗い岩壁の石室。
無惨に倒れ臥す人影と、それを冷徹に見下す人影。
暗闇に紛れたその二つの影に、鷹逸カは何処か奇妙な感覚を抱く。一方には親近の情と、もう一方には懐古の念を。
終わりだ、という旨の言葉を男が放つ。
抗うように放たれた苦悶と憤激の入り交じる怒号は、意外なことに女の声だった。
男の手にある黒色のプレートに昏い力が集まる。
漆黒のスペクトルを宿すそれは、邪悪に脈打ちながら木霊する。
人1人の肉体など塵も遺さず消し去ってしまうだろう。そういう類の、非情なまでに凶悪な圧力が感じられた。……そして倒れる女には、もう、避けるだけの力が残されていない。
力は七つの剣の形を取る。
大罪の魔剣――その刀身が集合し、一つの巨大な剣と成る。
天地開闢より連綿と紡がれてきた苦界の罪、その数と度を攻撃力へと直接変換する一撃が、女に振るわれようとしていた。
男は顔に貼り付ける不遜と嘲笑の向こうで、落胆と無念を表情に滲ませ。
刹那、女の首目がけて振り下ろした。
巻き起こる破壊の烈風。
悪しき情念の一刀が、次元を歪ませ時空ごと世界を切り裂く。
ノコ
しかしその多次元連続切断攻撃が、女を捉えることはなく――痕されたのは、虚しき戦いの勝利者のみであった。
これは、物語の一つの終焉。
有り得たかもしれない脚本と結末。分岐世界の一端。
角度を同じくした、決して交わらぬ平面上の直線。……が、天文学的な偶然か、それともある種の必然によって、摂理の平面を歪曲し、球状の時空で交錯する。
- 24 :
-
(――夢から醒める。)
(泥のような疲労の割に、すっきりした目覚めだった。)
(眠気のこびり付く頭を振り、荒立つ波のような黒髪を掻き上げる。……ヨコシマキメ遺跡、最深奥。そこに彼はいた。)
(この地を占拠していた『枢機院』軍を撃破し、拠点奪還に成功した。)
(厳密には、行動を共にする【アルカナ】の拠点であって、鷹逸カの物では無いのだが―――とにかく、これは「大きな一歩」には違いない。)
(ここまで来りゃ、後は単純だぜ。
奴らの使っていた大容量転移装置『方舟』に残されているデータから、『枢機院』の本拠地の所在を逆算する。
乗り込んで制圧、『創造主』の野郎をブッ飛ばして終わりだ。
やることは至って単純。 シビア タフ
だが、往々にして、行程が単純であればある程……求められる内容は、厳密で困難だ。)
(ここまで来たら、もう引き返すことはできない。)
(そして元よりそのつもりもない。)
(”異端狩り”と称し、世界各地を襲撃する『枢機院』の暴虐。)
(動き出したのは数日前、にも関わらず、もたらされる被害は加速度的に酸鼻を極める。)
(このまま手を拱いていれば、もっと多数の人間が犠牲になる。それだけではない―――”身近な人間”すら、その魔の手に掛かる可能性もある。)
(既に多くの人間が巻き込まれた。)
(大切な人を喪い、涙を流した少女がいた。)
(自らの力ではどうすることもない理不尽な惨劇に、助けを求めた者達がいた。)
ヒーロー
(主人公を気取る訳じゃない。)
(遙か遠くの地で死にく子らに、手を差し伸べることもできない。)
(超人的な力で飛翔したり、パンチ一つで悪漢を退治したり、鉛弾の掃射を受けても平気な鋼の身体を持っていたりするはずもない。)
(それでも、守りたい物がある。)
(守りたい人達がいる。守りたい世界がある。守りたい時代がある。)
(だったらそれで十分だ。)
(命を懸けるに値する何かを見付けた時、人はいつだって立ち上がっていい。)
(そして、自分はそれが出来ると知ってしまった。その瞬間、鷹逸カは二度と後戻りのできない、孤独な荒野を一人突き進む覚悟を決めていたのだから。)
カミ システム
(それが、結城鷹逸カの戦う理由。 ―――― 運命などというふざけた機構に、この世界は渡さない。)
- 25 :
-
(目覚める視界に入ったのは、『方舟』の映像スクリーン。)
(どういう原理なのかさっぱり見当も付かないが、幕や壁もない空中に映像が浮かんでいる。)
シュヴァルツヴァルト
(ドイツを思わせる、霧と雨に閉ざされた暗き 漆黒の森。)
(その中に、あるいはその果てに佇む影――およそ人間による人工物とは思えない程の、あまりに巨大で、あまりに壮大な建造物。)
(雲を貫いて空高く、否、文字通り”天高く”聳え建つ、塔とも、山とも知れぬ、人知を越えたナニカ。)
サグラダ=ファミリア
(脳裏に浮かぶのは、『聖家族贖罪教会』の完成図。)
(あれもあまりに途方もなかったが、映像の中のそれとは比べるべくもない――現実に建っている以上、尚更だった。)
(――にしても、バカげてやがるぜ。
あんな、映像に映りきらねえほど莫迦でけえモンが建ってたってのに、俺達は今の今までその片鱗すら掴めてなかった。
ありゃあ、情報操作でどうこうなるモンじゃねえ。
恐らく、認識阻害を誘発するような特殊な術式構成空間……「意識」をすることで、初めて確認可能な結界を張っている、ってことで良さそうだな。
そして激突、接触による発覚を防ぐ為の、「無意識」にその場所を避ける”忌”の術式。
成る程、これは『知識』の特性だ。
『知識』をさずに持ち帰ったのはこれが理由か……? …それなら、アイツを助けられそうだな。)
(一国規模という、途方もつかぬ程の建築。)
(最低、世界中の信徒の全員が生活できるだけの空間は確保されているだろう。)
(”有事の際”には、その全てを一大勢力として結集させる為の拠点としてか。鷹逸カはそう推測しながら、『皇帝』の打ち出した命題である、陥落方法について思索を巡らせる。)
(一見するだけで、「堅牢」であることは簡単に見て取れる。)
(それは物理的にも、術式的にもだ。)
(そして規模が規模だ、制圧にも時間が掛かる。敵に地の利があるという点もあって、かなり厳しい戦いになるのは明白だった。)
これだけでかいと攻め倦ねちまう。
拠点侵攻っつーか、これじゃ敵国に攻め入るのと変わらないぞ。 イリグチ
ってことは、真正面から一気呵成に、って訳には行かねえな。ここは歴史に倣って、「国境」からじわじわ行くしかなさそうだ。
多分、主要な各地点へ移動する為のテレポート装置か何かが内部にあるはずだ。
一国規模の建物の中を、馬鹿正直に物理移動する訳がないしな。
以上から推察するに、そうだな。
そういったテレポート装置を次々に制圧していって敵方の動きを封じていく、って方針でいいんじゃねえかと思うぜ。
……今までの戦闘とは訳が違う。今度は、本物の「戦争」だな。
- 26 :
-
(しかし。)
(鷹逸カは改めて、映像の建造物を見やる。)
(やはり、何度見ても大きすぎる。あれだけのサイズだと、自重は相当な物になるだろう。従来の建築技術だけでバランスが取れるはずがない。)
(何かしらの「力」が働いている、と考えていいだろう。)
(ということは、その「力」の源を破壊すれば、この『聖樹堂』は自重で崩壊することも有り得る。)
(それは後で知らせるとしよう。)
(だが、どうもこの映像を目にした時から、”違和感”が拭えない。)
(この建物の形状だ。「山」のようにも、「塔」のようにも思える奇妙な形をしている。…さっきから見覚えがある気がするのだ。)
(俺が普段、目にしている物か?
…にしても一番てっぺんが雲に遮られて見えねえとは。
どんだけ高く作ったんだっつー話だな。バベルの塔のつもりかね。…だが、下部の凸凹とした斜面は「山」っぽいんだよな。変な形だぜ。
……あれ?
よく見ると、外壁に何か……模様か? 彫刻されてるみてえだけど……。)
(オベリスク的な模様が刻まれている。)
(霧と雨のせいでよく見えなかったようだ。鷹逸カは注意深く模様を眺める。)
(模様も重要なファクターである。例えばメアンドロスと呼ばれる古代ギリシャの模様は、「永遠」。永続効果を持たせる魔道具などにはまあまあ見るパターンだ。)
(つまり鷹逸カは、この建物に込められた「役割」を探そうとしているのだ。)
(形状や模様がそれに繋がっているはずだが…。)
(…ちょっと待て。
これって、ただの模様じゃねえな。
……そうだ、ラツィエル城で見たあの壁面と同じ! だとしたら、これは、音写すると……Th、P、A、R、Th………。
ティファレト
…『ThPARth』……ッ!? ネツァク
ま、まさか、…じゃ、これは、……N、Tz、C、H……『NTzCH』。
ゲブラー
G、B、V、R、H……『GBVRH』………、……成る程な。分かりやすいじゃねえか。「城」でも、「塔」でも無かった。こいつは、この形状は……。)
…………『樹』、だ。
(山のような傾斜は、「根」。)
(塔のように伸びるのは、「幹」。)
(そして、雨雲に遮られて見えないその向こうには、「葉」。)
(一本の巨大な”樹”――――この『聖樹堂』は、『生命の樹』を極限まで再現して建てられていた。)
- 27 :
-
―――――
―――
――
(と、)
「随分とぶち壊しがいのある!『運命の輪』だったらこんな強固なとこどうする?!」
「えー、『運命の輪』疲れてるからみんなと一緒がいいー!」
「でも先客がいるしまとめてつっこんで死んだら元も子もないぜー?!」
「じゃあ分けていけばいいの?」
「そうだな、こういうダンジョンみてーなとこ乗り込むなら弱点をカバーしあえる奴ら同士で行くべきだな」
「わーわー!まるでRPGみたいだね!」
「だろ?戦士と魔法使いとーって、そんな都合よくそろってないもんなー」
(場違いな、賑やかな会話が聞こえた。)
(”聞き覚えのある”片方の声に、鷹逸カはハッとしてその方を向く。)
(……否、知らない顔だった。全く、恐らく初めて見る顔だ。そのはずなのに、……二人の内の片方には、異常なまでの既視感を抱いていた。)
(……何、だ?)
(接点はないはずだ。)
(それなのに、一体、何故――?)
(しかし、「それは考えても答えの出ない問」だと本能で察知した鷹逸カは、一旦頭の隅に置いておくことにした。)
(いずれ、鷹逸カの前に立ちはだかる難問かも知れない。)
(だが、まだその時ではないはずだ。)
- 28 :
-
(鷹逸カは、【アルカナ】の面々を見つめる。)
(彼らはこの時代の能力者を象徴する一つの形と言っていいかも知れない。) ドラゴン
(ただ一つの旗の下に集っただけの烏合ではない。彼ら全体が一つの生命体のように、意志ある巨大な 怪物 になろうとしている気さえする。)
(彼らはこの陳腐な表現を嫌うだろう。)
(だが、人と人を真に繋ぐ関係性は、ある種の『絆』と呼ぶ他ない。)
(次に、ピアノと、『オーケストラ』の面々を見つめる。)
(『カノッサ機関』―――最高権力者であるはずの『創造主』に裏切られ、忠誠心と猜疑心の狭間で揺れ動くだろう彼ら。)
(これまで信頼してきた人に刃を向けるのに、どれほどの覚悟が必要か。)
(いま、彼らは試されているのかも知れない。)
(絶対の鎹を抜かれて分解してしまうのか、それとも盛り返すのか……奇しくも【アルカナ】と似通ったこの窮境を、乗り越えられるか。)
(そして、まだ見ぬ参戦者に思いを馳せる。)
(『皇帝』は本拠地の所在特定情報を他の各組織、各機関にバラしたと言っていた。)
(情報とは秘しても洩れる物だ。)
(既に動き出している者もいるかも知れない。それぞれの理由を胸に。)
(……その全員が、同じ目的を抱いているとは考えにくいが。『創造主』側に付く者も、全く関係ない野心の為に動く者も出て来ることがあるだろう。)
(それでも、物語は一つのオワリに向かって疾り出す。)
(来るべき約束された終焉へと。)
(ただ演じるだけじゃない。)
(運命の悪意に翻弄されたままでいるほど、か弱い存在でいるつもりはない。)
(そして、それは皆も一緒のはずだ。……戦いは新たな局面を迎える。)
(………俺みたいな特殊タイプって、どういうチーム分けされるんだ?)
(当面は、チーム分けの内容が気になる所だった。)
- 29 :
- 全てを打ち込み終わった後、未だその「魔神」は立っていた。全ての剣を木っ端微塵に弾き飛ばして。
痛々しいまでに切り裂かれ、それでもなお悠然と立つ威圧ある姿に、庭師は「わぉ」と感嘆の声をもらす。
彼の目に「その他大勢」は見えていない。そんなものは目の前の彼女を際立たせる背景にすぎなかった。
人の域をはみ出した彼には感動した。幾度もの死の危機すら耐え、幾重もの暴力すら撥ね退ける根のごとく強き生命。火焔の鳥を彷彿とさせるあり方。
それは「その他大勢」のぶちぶちと潰れる脆いものではない。
この世にまだこんなにも強き者がいたとは!奇跡だ!銀河規模で考えても奇跡だ!
ああなんと美しい、刃で切り裂かれようとも尽きぬ命!数の暴力すらものともせぬ圧倒的力!ここで出会えたことは私の人生の折り返しかもしれない!白い裸体に秘めたるそのグロテスクなまでの威圧をも興奮する!!Bravo!Excellent!!
などと、庭師が自分の世界もとい思索に走っていると、急に彼の右半身が冬の氷河に突っ込んだ。違う、氷の柱が突然彼の右半身を巻き込んだのだ。
反射的にダイアモンドの棘を地上から出して柱を叩き割ろうとするが、人生そんなに生易しいものではない。現実は非情である。
無駄だと悟ったのかあっさりと柱への攻撃をやめて、彼女を見る。
その目は正気を失いかけたものの目に似ていた。そもそも庭師がはじめから正気だったかも怪しいが。
>「あいにく受信先は脊髄ではないしアルミホイルで防げもしないが、質的量的には必要十分だと確信している。」
彼女がそう告げた瞬間、降り注ぐ紅蓮雷電の雨。避雷針のように二つの柱に降り注ぐ。
庭師の姿は雷雨に紛れて閃光のもとに焼き尽くされる・・・・・わけがなかった。
閃光が引いた後、柱から少しはなれた位置に彼の左半身が無傷で立っていた。右半身はない、柱とくっついたままだ。
そう、彼の左半身だけが土くれに支えられて立っていたのだ。
プラナリア、扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目ウズムシ亜目に属する動物の総称。著しい再生能力をもつ彼らは頭に三等分の切り込みを入れれば三つ頭のプラナリアになるといい、100に体を切り刻んでも同数の数のプラナリアとして再生するという。
彼はそれにちかかった。現に再生している彼はプラナリアを彷彿とさせるのだった。と言ってもぐずぐずに原型をとどめていない右半身はゲル状に溶けて地面へと吸収されていったのだが。
- 30 :
-
「最高じゃ、ないかえーっと…いや、固有名詞なんて君には似合わないね」
惚けたようにつぶやく。
機がつけば再生した庭師の右手には鋼鉄の柱が握られている、柱をがりがりと地面にこすりつけながら彼女に近づいていく。
再生しきらない右半面は妙に嬉しそうに笑いながらぶつぶつと言葉にならない言葉を吐き出す。
まだ体のつくりは人間のようだが、思考はどうだろう人ではない。
「ああ全くもって、全くもってすばらしく恍惚で、そうだね灰色は塗りつぶされていく感覚もあるね、蒼林檎も考えもしなかっただろうね!今まさにアタラクシアは完成したといえるよ!娘の百合も根から引きちぎられてさぁ!」
興奮しすぎて鼻腔から血が漏れ出している。その血は蒼かった。
歩み寄る左半身は千切られたときにはじき飛んだ蒼でペイントされているが、右半身は生まれたてのようにまっさらで、奇怪だ。
鋼鉄の柱が血に触れてブクブクと液体状になって地面へと溶ける。『儀式は完了した』
「胎児よ胎児、なぜ踊る」
また建物からその他大勢が覗いたようなきがしたが、きにとめない。
液体の鉄から二つの木が生える。片方は緋色の金、片方はコバルトブルーの金剛石。どうやら沙羅樹のようだ。その葉は爛々と輝いている。今にもそうとしているかのようだ。
庭師はきのこの傘を投げ捨てるとその手に本物の傘を握る。ただのビニール傘だ。だが彼にはそれで十分だ。
「母親の心が分かって恐ろしいのか」
――胎児よ胎児 なぜ踊る
母親の心が分かって恐ろしいのか―― (ドグラマグラ巻頭詩)
言い切ったときに、葉(刃)が木から離れて、叩きつける。それは風なんて生易しい量ではない、『嵐』だ。
彼の視界前面を覆い尽くす嵐とともに庭師は傘を突き立てて彼女へと突進する。速さは獲物を捕らえる虎よりも早い。傘も突き立ててれば人に刺さる、たとえそれで彼女が死なずとも相手の反応をみるだけで満足だ。
嵐に自らも巻き込まれて、彼女めがけて傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘を刺す。傘をさす。さす。さす。さす。さす。さす。
嵐は地面をもえぐって風景を塗り替える。やんだ頃にどうなったかは庭師の知るところではない。
- 31 :
- 保守
- 32 :
- 「…わりぃ。やっぱお互いイーブンな関係で行こうや」
「……ふぅん、そう」
ピアノはさして興味も無い、といった感じの 言わば無感情な声で呟く
もちろん、その中に大した意味はない…何も思い浮かばなかった。それだけのことである。
『皇帝』の方も全く気にしていないようで、話を続けた。
「いや、な。確かにあんたの言う通りにした方が楽っちゃあ楽なんだよな。
実際、ちっとばかし前までは俺たちもそうやってた。」
そこにあったのは、完全なる上下関係、縦社会の最大の弱点。
優れたトップがいれば完全無欠な組織も、そのトップを崩されてしまえば一瞬にして統率がとれなくなり破滅する。
むしろ、形式だけでもアルカナの姿がほぼ瓦解せずに残った事の方が奇跡的といえるだろう。
そして、これだけの大規模な組織をたった一人で統率していた『世界』という人物の力量の強さも理解できた。
「俺たちは俺たちの頭で考えて、角突き合わせて話し合って、手段を選んで『創造主』をぶちのめす。
嬢ちゃんだって、ただ任務だからってえだけでここに居るわけじゃあねえんだろ? 譲れねえモンがあったから、ここに居る。
だったら、あんたも俺たちと対等だ。どっちが優位とか、んなことはどーでもいい。
俺たちは遠慮なくあんたを頼るし知恵も借りる。だからあんたも俺たちを頼ればいいし意見すりゃ良い。
言うなりゃ運命共同体だな。
仲間だ何だと馴れ合うつもりはさらさらねえが、顎で使って冷や飯食わせる気もねえよ。
同じ道を歩む一員として───期待させてもらうぜ、ピアノ・ピアノ」
「期待されても、困るけどね」
『皇帝』から目をそらし、呟く。
あまり期待された事のない彼女にとって、その言葉は少し恥ずかしかったのだろう。
「…まあ、あるわよ。譲れないものは
微妙なものだと思うけど、私にとっては絶対譲れないもの」
秋葉原に散った剣士の遺志。ピアノが尊敬し、愛していた女性の遺志。
「っと、やべえやべえ。こっちに来た肝心の理由を忘れる所だったぜ。
讃えろお前ら! この俺が普通ならまだつかない時間にきょうきょ奴らの本拠地を特定してやったぜぇ!
ついでに他の組織にもバラしてやった。あとは情報(エサ)に喰い付くのを待つばかり・・・ってな」
『皇帝』の独特な調子の声が広間に戻る。
アルカナを統率しているのが『審判』なら、彼は進行役だ。
まだまだ形式的で脆弱ではあるが、彼らは彼らなりの横向きの関係を作りつつあった。
- 33 :
- さて、聖樹堂である。
ピアノの情報力を持ってしても、その片鱗すら掴めなかった巨大組織。
まあ…『創造主』の加護を受けているのだから発見できる可能性など万が一にも無いのだが
それが今、目の前にある。
一目見てまず思う事は、馬鹿げているという事だけ
あちこちの施された意匠、重力を無視したかのように張り出したテラス、それは、あたかも神話に登場する"バベルの塔"の様であった。
「…悪趣味」
ピアノはその一言で一蹴。彼女が嫌いなものは、そのものの機能を破綻させてまで姿形に特化させる事だ。
洗練された機能美を持つ先進機械類をその身に苞するピアノにとって、こういう宗教的芸術はまったく理解できない。
ピアノは無信教である。
ついでに言うと彼女の異常なまでの百合行動には、この宗教嫌いが一部関係している。どうでもいい事だが
「…………『樹』、だ」
「ぁん?」
ふと、鷹逸郎が呟いた。
『樹』?
ピアノはもう一度悪趣味な塔を見つめる。
"根"のように複雑な、複数本の半筒状の構造物重なり合った斜面から、
意匠によって"幹"のように凹凸が見て取れる中央部分。
そして雲の狭間に消えていく頂上部分、雲を透視してみれば、そこには大きく広がる"葉"があった。
「……うわ、悪趣味」
やっぱりその一言で一蹴。
「さぁて、そろそろ決めようじゃねえか。この『聖樹堂』、どうやって攻め落とす?」
『皇帝』の声が響く
巨大な『樹』である『聖樹堂』
一目には宗教観、美観のみを重視した姿だが、樹という姿こそが要塞としての一つの到達点である以上、陥落させるのは楽ではないだろう
広く張られた『根』は、相手を本丸…つまり『幹』に到達させるのを遅らせる壁だ。
そしてその幹もまた、なだらかな斜面から持ちあがったその形状が、地理的優位のある丘の役割を果たす。
「樹なだけに切り崩したいけど…にしても、火力支援の一つや二つないと、やっていけなさそうね…
こりゃ世界で一番過酷な伐採作業になりそうだわ」
相変わらず空気を読まないピアノだった。
- 34 :
- あげ
- 35 :
- age
『浮上せよ』――!
- 36 :
- AGE
- 37 :
- http://mbga.jp/.m211548d/_grp_view?g=30945028
- 38 :
- かつてのいつかのあの時に、彼らは敗れ、この地をやむなく後にした。
あの時からどれだけの悔恨に苛まれたことだろうか。
この時をどれだけ待ち望んだことだろうか。
最早言葉では言い尽くせぬ想いを胸に、『アルカナ』は彼らの約束の地『ヨコシマキメ遺跡』を、遂に、遂に取り戻したのだ。
にも関わらず。
「クソッ、頭が痛い・・・顔がヒリヒリする・・・」
『隠者』の寝覚めは最悪だった。
開口一番悪態づくと、のそのそと起き上がって体に付着している砂利を払う。
そこでようやく気が付いた。
「・・・なぜ、地べたなんだ」
すぐ近くに自分が寝かせられていたと思しき携帯用寝具があるにはあるが、どう考えても怪我人の寝返りで移動できる距離ではない。
訝しみつつ頬の砂を拭うと、今度は袖に血が付いた。
「・・・なぜ、ここは治ってないんだ」
あれだけの怪我を負いながらも、アルカナの誇る術式医療技術と各部に貼られた治療符やら自動治癒術式(オートリバース)付きの包帯やらで『隠者』の肉体は殆ど快復している。
しかし、なぜか頬にある擦り傷には治療の痕跡すら見当たらない。
というか出血の具合からして明らかにこの傷はついさっきできた物でありその他の状況を含めて総合的に推察すると何者かが
寝ている自分に対して狼藉を働いたという訳でつまり被疑者はそういった突拍子の無い行為をしでかしそうな人物に絞られ───
「…………『樹』、だ」
「・・・ん?」
その声に『隠者』は犯人探しを一時中断する。
顔を向けた先には『樹』が映っていた。
- 39 :
- 枢機院最大の聖地にして『創造主』の居城である『聖樹堂』。
その外観は聖樹の名に恥じず、天と地、人と神の世界を結ぶと言われる世界樹のように堂々と、そして力強く、空の果てまで伸びていた。
(なるほど・・・。非常識な大きさだけど、ある意味ラツィエル城よりはわかりやすいな。
『創造主』を目指すなら、わき目も振らずにひたすら上まで登ればいいんだから)
『隠者』は『聖樹堂』の頂点、雲に隠れた向こう側に思いを馳せる。
この『聖樹堂』が『生命の樹』を模した物だとするならば、『創造主』はおそらく、神に至る道の先にある“そこ”に居る。
映像の足元では、<Y>が他の大アルカナと共に『聖樹堂』侵攻の段取りを練っていた。
「多分、主要な各地点へ移動する為のテレポート装置か何かが内部にあるはずだ。
一国規模の建物の中を、馬鹿正直に物理移動する訳がないしな。
以上から推察するに、そうだな。
そういったテレポート装置を次々に制圧していって敵方の動きを封じていく、って方針でいいんじゃねえかと思うぜ。
……今までの戦闘とは訳が違う。今度は、本物の「戦争」だな」
「ほう・・・確かに移動手段さえ押さえりゃ敵が何万人いようと関係ねえわな。
こんだけのデカさだ。仮に辿りつけても足パンパンじゃ済まねえだろうしな!
しっかし、やっぱ『新生方舟with俺』の力で一気に上までって訳にゃいかねえのか。俺ァもっとガーッと行ってババッとやりたかったんだが・・・。
・・・ま、えっちらおっちら階段登るよりかマシだが」
『皇帝』が少し残念そうに言う。
いくら『方舟』の転移機能が高性能とはいっても、ピンポイントで上層に転移することは非常に危険を伴う。
他の組織ならいざしらず、今回はあの『創造主』が相手だ。
『創造主』は、因果律を操る。
これまでは『隠者』も半信半疑だったが、“世界の選択”の存在を知った今は、あながち的外れでは無いと考えている。
因果操作の及ぶ範囲は定かではないが、“近いほど効果が強くなる”というのが異能の一般的な法則である。
下手に『創造主』の近辺を狙って「“偶然にも”転移先の座標が塔の外にずれてしまった」などということになればもう目も当てられない。
(・・・あれ? そういえば、<Y>は・・・だったら・・・
・・・いや、まさかな)
- 40 :
- <Y>の言を皮切りに議論は進む。
「樹なだけに切り崩したいけど…にしても、火力支援の一つや二つないと、やっていけなさそうね…
こりゃ世界で一番過酷な伐採作業になりそうだわ」
「これまた大胆なアイデアだな。
チェンソーアートは難しいかもしれねえが、キャンプファイアーの当てならあるぜ。
ひひひ・・・どうやら本人も乗り気のようだしな」
この場で進行役を担っているらしい『皇帝』はピアノの「火力」という言葉に反応した誰かさんに目配せする。彼(ら)は火力の意味を履き違えていないだろうか?
「随分とぶち壊しがいのある!『運命の輪』だったらこんな強固なとこどうする?!」
「えー、『運命の輪』疲れてるからみんなと一緒がいいー!」
「でも先客がいるしまとめてつっこんで死んだら元も子もないぜー?!」
今度はいつの間にやら『皇帝』の背後に回っていた『愚者』と『運命の輪』が大声を張り上げる。
「そこにいたのにいなかった」という意味不明の表情をしている『皇帝』を無視して『隠者』はモニターの方に意識を向ける。
画面の向こうで『聖樹堂』の根元で荒れ狂う何かが見えた。
兵士達が入り乱れて判別しづらいが、既に何者かが戦闘を繰り広げているらしい。
正確には戦闘というよりは天変地異とでもいった方が良いレベルなのだが。
「じゃあ分けていけばいいの?」
「そうだな、こういうダンジョンみてーなとこ乗り込むなら弱点をカバーしあえる奴ら同士で行くべきだな」
「わーわー!まるでRPGみたいだね!」
「だろ?戦士と魔法使いとーって、そんな都合よくそろってないもんなー」
「パーティ分けか・・・俺と『審判』はこっちで支援に回るとして。
残りの大アルカナとゲストの2人、あとはマリーと宗旨替えした連中・・・そんでもって『剣』か。合計で何人・・・
んん? 『吊られた男』はマリーと1セットか? あれ? なんか訳わからんことになってきたぞ」
- 41 :
- 「───パーティ構成もいいけど、各部隊の役割も大事なんじゃないかな」
『皇帝』が1人で混乱し始めたので、『隠者』は助け舟を出す形で大アルカナの輪に合流する。
決して今まで話に割り込むタイミングが読めずにオタオタしていたのではない。
「お、やっと起きたか。おはよさん」
「・・・おかげさまで」
『隠者』は仏頂面を崩さない。『皇帝』は“被疑者”候補その1である。彼ならあれがモーニングコールのつもりだったとしても不思議ではない。
「なんだなんだひでえ面だなお前。低血圧か?
まあンな事今はいいか。そんで、役割ってのは具体的にどういう事だ?」
要らぬ嫌疑を掛けられているとは露知らず、被疑者はいつもの調子で『隠者』に聞き返す。
「そうだな・・・。まず、転移装置の確保を優先して敵を分断する部隊。次に転移装置を保守する部隊。
最後は、少数で先行して敵陣を引っ掻き回す部隊ってところかな。
最初の2つが事実上の制圧作業に当たる訳だけど・・・問題は3つ目だ」
その任に就く者達は、いわば誘蛾灯である。
他の部隊が滞りなく事を運べるように敵を刺激し、撹乱し、敵の目を自分達だけに引き付けるという、この作戦において最も重要かつ危険な役目を持つことになる。
「この部隊は、確実に奴らの最大戦力───セフィロトとぶつかる。
いや、むしろセフィロトが釣れなければ失敗だ。最悪、戦わずに逃げ回ってでも幹部クラスが後方の部隊と接触することだけは避けないといけない。
ああ、もちろんその内の1人は僕が務めさせてもらうよ。逃げるのだけは得意だし、言いだしっぺだからね」
そこまで言うと、少し息を留める。
ここから先はとんでもなく無謀な提案だ。自分でもリスクが高過ぎるということはわかっている。
敵を誘き寄せるという意味では他の誰より適任だろう。力も知恵も申し分ない。しかし一歩間違えればすべてがご破算になる「賭け」だ。
それでも。
『世界』を討ち倒した彼なら、あるいは。
「<Y>、君に先行部隊の指揮を任せたい」
- 42 :
- プカーリプカプカ、プカプッッ
- 43 :
-
片方が彼がこちらに気がついていたのは知っていた。
ああ、若き男よ、望むことならばこのまま悲劇を知らぬこととせよ。汝の出会わぬ糸の果て、滅びの地から来た悲劇の目撃者を、知らぬこととせよ……
会議の場に酷い面をした者が約一人。
>「───パーティ構成もいいけど、各部隊の役割も大事なんじゃないかな」
仏頂面の『隠者』が一人混乱していた『皇帝』に助け舟を出す。
表情に出していないが二人は知っている。彼は今被疑者探しに躍起になっていることを。
>「お、やっと起きたか。おはよさん」
>
>「・・・おかげさまで」
「おっはよー『隠者』、目覚めは最悪?」
「おっすおっす」
当の本人はそ知らぬ顔であくまで明るく『運命の輪』らしい話し方。もう一方の『愚者』も軽く会釈をする。もし彼が二人がしたことを知っていたら助走をつけてぶん殴る程の図々しさだ。
だが恐らくサイコメトリー能力でも持たない限り彼らの狼藉を見破ることは難しいだろう。それほどまでに証拠隠滅の完璧な茶番だった。
- 44 :11/12/01
- しかしここでボロが出ると感づかれてしまうので、表面は平静を装う。内心はガッツポーズをとっていたことは述べるまでもない。
その間に『隠者』が役割について意見を出していた。
>「そうだな・・・。まず、転移装置の確保を優先して敵を分断する部隊。次に転移装置を保守する部隊。
最後は、少数で先行して敵陣を引っ掻き回す部隊ってところかな。
最初の2つが事実上の制圧作業に当たる訳だけど・・・問題は3つ目だ」
> 「この部隊は、確実に奴らの最大戦力───セフィロトとぶつかる。
いや、むしろセフィロトが釣れなければ失敗だ。最悪、戦わずに逃げ回ってでも幹部クラスが後方の部隊と接触することだけは避けないといけない。
ああ、もちろんその内の1人は僕が務めさせてもらうよ。逃げるのだけは得意だし、言いだしっぺだからね」
「命がけの囮ってわけかぁ……」
一番生存する可能性のある人を選ぶだろう。
そう、例えば死亡フラグをおったててもガンガン折っていくような……
「<Y>、君に先行部隊の指揮を任せたい」
予想通り。
だが『愚者』は口を挟まずにいられなかった。普段余裕たっぷりな表情に焦りが覗く、珍しい表情だった。自然と口調も攻め立てるように早くなる。
「おいおい、いいのかよそんな賭けにでて……リスキーにもほどがあるぜ?確かに敵を引き寄せるにゃいいかもしれんが……!」
ついもう一言言おうとした。それはいまだ残る不安故だったからかもしれない。
そのとき、『運命の輪』が袖を引っ張った。『愚者』が袖を引く彼女をにらみつけるが、彼女もこれまでにない諭すような目をしている。
「『愚者』大丈夫だよ」
「何がだよ!」
「『愚者』は心配しすぎだよ、〈Y〉がそんなことで死ぬわけないよ」
暗に頭を冷やせ、言いすぎだと言っていることに気がつくと、ばつが悪そうな顔で舌打ちする。
『運命の輪』に言われずともわかっていた。彼はそういう男だ。
だが、もしもを考えると……
「(……ぞっとしねぇ話だぜ)悪い、話の腰を折って、続けてくれ」
「わたしと『愚者』は、どこでもいいからね!ただしふたりいっしょがいいなー!」
取り繕うように『運命の輪』が「いつもどおり」の顔でお茶を濁した。
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