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2011年10月1期ほのぼの毒男の小説と雑談のスレ 〜第二号〜
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毒男の小説と雑談のスレ 〜第二号〜
- 1 :10/03/02 〜 最終レス :11/10/29
- 『毒男の毒づくスレ 〜第27章〜』のスピンオフ的なスレッドです。
創刊号で私が書いた小説の続編を書いていくところですが、前スレ同様に雑談もOKです。
初心者なのでまだまだ不手際があるかと思いますが、どうか最後までよろしくお願いします。
みなさんのご来場、お待ちしています!
注意:
1.荒らし行為はお止め下さい。
2.sage推奨。メール欄に、半角英数でsageと入力して下さい。(但し例外を除く)
3.トリップをお持ちの方は、入力願います。
関連:
毒男の毒づくスレ 〜第27章〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1258874810/
毒男の小説と雑談のスレ 〜創刊号〜(小説第三弾まで)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1253336376/
前作までのお話は、過去ログ倉庫をご覧下さい。
- 2 :
- この小説では、以下の物を元ネタとして扱っています。
1.『ウルトラシリーズ』
2.『NIGHTMARE CITYシリーズ』(有名フラッシュ)
さらに今回は、前作に加えてもう一つ作品を混ぜ込めようと思います。
どんな作品になるかは、お楽しみに。
- 3 :
- 3取りー!!!
- 4 :
- >>3
おw
誰か来たw
コテハンよろすく!
小説執筆開始まで少々お待ち下さい。過去ログには入れないで下さい。
- 5 :
- 小説第四弾(NIGHTMARE CITYシリーズ)
プロローグ 新たな命
ーー宇宙の大いなる二つの光がし時、その光は一つとなりて、真の姿を現さん。その燃えゆる力、正に神の如しーー
あの旅立ちから、約10ヶ月後・・・
夜の月明かりに照らされ穏やかに輝いている、蒼い惑星ーー『地球』。その星に向かって突然、一つの小さな白い光が飛び込んで行った・・・。
地球の夜空へと飛び込んだ白い光は、そのまま日本の関東地方上空を飛び、やがて東京のとある病院の前へと降り立つ。その直後に、白い光は人の形を取りながら小さくなり、中から出てきたのは『赤髪に透き通った黄色い瞳を持つ青年』だ。
青年はどこか心配な表情を浮かべると、そのまま病院の中へと入っていった。
(エー、待ってろ・・・もうすぐだ・・・。)
彼は頭の中でそう言い聞かせながら、階段を五階まで駆け上がっていく。『エー』とは、彼の愛する妻のことだ。今日はある一大事のために、病院に入院している。そのため彼は地球に帰ってきたのだ・・・
大切な『我が子の誕生』を、見届けるためにーー。
- 6 :
- 彼が五階まで階段を駆け上がると、部屋の前には既に二人の若い女性が座席に座って待っていた。見た目からして、二人とも同じぐらいの年齢だろう。
一人は薄紫色の長髪をポニーテールで纏め上げ、落ち着いた水色の瞳を持っており、もう一人は桃色の長い髪をそのままに、透き通った青色の瞳を持ち合わせている。その顔に映る表情は二人とも、『不安』と『心配』だ・・・。
彼の参上に気が付き、薄紫色の髪を持つ女性が声を掛けた。
「アヒャはん・・・。」「のー、しぃさん・・・遅れてしまって、本当にすみません・・・。エーの様子は・・・?」
息が切れながらも発した彼の質問に、その水色の瞳を持つ女性『崎島 野里華』(のー)が答える。
「・・・エーちゃんの陣痛が始まって二時間が経つんやけど・・あともう少しの所なんや・・・。」「そうか・・・。」
「エーちゃんも体力ギリギリなんよ。でも、アヒャはんが応援してくれたら、エーちゃんもきっと頑張れる筈や。」「ああ・・・。分かってるさ・・・。」
そう言いながら、のーに『アヒャ』と呼ばれた青年はゆっくりと部屋の前の座席に腰掛けた・・・。
- 7 :
- 座席に座った途端、彼の口から『ハァ』と大きなため息が吐き出された。額から汗が流れ落ちている・・・。相当慌てていたのだろう。
息を切らしているアヒャに、『エー』の母親ーー『擬古河 椎奈』(しぃ)が心配して声を掛けた。
「相当慌ててきたんだね・・・。大丈夫? 無理させちゃったね。」
彼女の声に、アヒャは笑顔で答える。
「大丈夫ですよ。エーが必死に耐えている痛みに比べたら、このくらい・・どうってことも・・・。それに自分の子供が生まれる時なんかに、仕事なんてしていられないですから・・・。」
彼の家族思いな性格が伝わる一言に、義母でもあるしぃは心配な表情を浮かべつつ、口元には笑みを浮かべた。
体に鞭を打ってでも家族に愛情を注ぐところが、まるで自分の夫である『擬古河 醍醐』(ギコ)によく似ており、自分の娘を大切にしてくれてることがとても嬉しかった。
しかしこの頃の彼は仕事盛りで、休む暇さえない。従って彼の体は消耗しきっている筈だ。彼女は、アヒャがいつか過労で倒れてしまうのではないかと心配していたのだ。
「本当に大丈夫なの・・・? ・・・栄香の事をよく考えてくれているのは嬉しいけど・・・自分の体も心配しなきゃダメよ?」
- 8 :
- 「はい・・・。」
彼女の心配する声に、アヒャは苦笑いで返答する。
そんな彼の顔が、やはりどこかやつれているようにも見える・・・。体を酷使し過ぎているのではないだろうか・・・彼女はそんな気がしてならなかった。
扉の奥で、若い女性が力一杯に叫んでいる声が聞こえる・・・。この声はつまり、新たな命が間もなく産まれること意味しているのだ。
苦しそうな彼女の声に、アヒャは握り拳を作りながら複雑な表情を浮かべている。
本当は今すぐにでも、分娩室の扉を開け放して彼女の手を握りたい・・・自分が側にいることを、伝えたいのだ。しかし、彼は数日前に彼女からあることを頼まれたのだ。
『お願いって、どうした?』『赤ちゃんが産まれるまで、分娩室に入らないでほしいの・・・。』『? それは、どうして・・・』
『貴方が私の側にいてくれるのは、とても嬉しいよ。でも赤ちゃんを産むとき、何だか貴方に甘えそうな気がして・・・。だからお願い・・・一人にさせて。』『・・・本当に平気か?』
『うん。私の中には、いつも貴方がいるから・・・。心配しないで。』
今入ったら、この約束を破ってしまうことになる。一体、自分はどうすれば・・・。
と、その時・・・
- 9 :
- 「おぎゃぁぁ〜〜!」「!!」
分娩室の奥から、自分とエーの間に新しい命が誕生したことを示す、『生命の産声』が耳に響いたーー。
産声が聞こえた直後に分娩室の扉が開き、中から白衣姿の医師が彼らの前に立つ。三人とも反射的に立ち上がり、医師に視線を合わせた。
「『相沢 珀作(ひゃくさ)』さん・・ですね?」「先生! エーは・・・赤ちゃんは!?」
「お二人とも無事です。出産おめでとう。元気で可愛い、『女の子』ですよ!」
「やったぁ!!」
医師の口から出た言葉に、全員顔を見合わせ喜び合う。アヒャは特に、瞳から涙を溢れ立たせながらも笑っていた。余程心配だったのだろう・・喜ぶあまりに、声のボリュームが無意識の内に上がっている。
「アヒャはん、良かったなぁ!! ついに『お父さん』やで!」「みんな、本当にありがとう・・・。マジで嬉しいよ・・・!」「さぁ中に入って、顔を合わせてあげて下さい。」
医師に言われるがまま、彼らは分娩室の奥へと入っていく。すると・・・
しぃと同じ桃色の長い髪を持ち、透き通った深みのある緑色の瞳を持つ女性ーー『相沢 栄香』(エー)と、その隣に『生まれたての小さな命』がベッドの上に横たわっていた・・・。
- 10 :
- 「エー!」「! アヒャ・・・!」
ベッドに近づき、彼らの無事を確認するアヒャ。その目には安堵した表情と、嬉涙が薄く浮かび上がっている・・・。嬉しいだけでなく、言葉に言い表せないほどの高まる感情が、彼の心を満たしていた。
アヒャは彼女の手を握り、涙を頬に流しながら話しかける。
「お前・・よく頑張ったなぁ・・・。二人とも無事で、本当に良かった・・・。」「アヒャ・・ありがとう・・・。貴方が私の側にいてくれたから・・・私は頑張れたんだよ?」「! べ、別に俺は・・・。」
「ふふっ・・・。赤ちゃんを見てあげて・・・。」
彼はエーの側で眠っている小さな赤子に視線を合わせる。
赤と桃色が綺麗に混ざり合った、朱色の薄い髪の毛・・・そして人形のように可愛い顔には、黄緑色の眠たそうな円らな瞳がウルウルと輝いている。この二つの特徴が、彼らの子供であることを強く象徴していた。
「可愛いなぁ・・・。この子が、俺達の・・・」「うん。・・・名前を付けてあげて。」「うーん・・・そうだなぁ・・・。」
アヒャは暫く悩んだ後、一番しっくり来るものを紙に書き、答えを出した・・・。
- 11 :
- 「これでどうだ・・・?」「?」
彼の書いた紙には、『珠璃』の二文字があったーー。
「名前は、『ジュリ』。『珠』のように美しく、『瑠璃色』のような穏やかな心を持つ子に育ってほしい・・・という意味さ。・・・どうだ?」「綺麗な言葉・・・。私もそれが良いと思う・・・。」「じゃあ、決まりだな・・・?」
エーが頷いた後、二人は再び赤子に視線を向ける。すっかり眠くなってしまったのか、瞳を閉じてスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている・・・。エーは彼女の頭を優しく撫でながら、静かに声を掛けた・・・。
「私がお母さんだよ・・・。これから宜しくね・・『珠璃ちゃん』・・・。」
この時、まだ二人は気づいてなかったのだ・・・
その子供『相沢 珠璃』(ジュリ)が、この世界を救う鍵になることをーー。
- 12 :
- ウルトラスモスvsウルトラマンジャスティス×エヴァンゲリオン〜Rebirth of Legend〜
主な登場人物(前作から)
擬古河 宝(ウルトラスモス):
本作の主人公。コスモプラックを用いてウルトラスモスへと変身し、優しさの『ルナ』・強さの『コロナ』・コロナがパワーアップした『スペースコロナ』、そして勇気の『エクリプス』の四つのタイプを使い分けている。
前作のラストで、自分の夢である『宇宙警備隊員』になるためにM78星雲へ旅立っていったが、訓練を終え晴れて正式な隊員として約七年ぶりに地球へ帰還する。
得意技は『フルムーンレクト』(ルナ)・『ブレージングウェーブ』(コロナ)・『コズミューム光線』(エクリプス)、そして教官であるウルトラマンタロウに教わった、『コスモストリウム光線』(コロナ・スペースコロナ、小説オリジナル)。
房波しぃ(フサしぃ):
17歳。本作のヒロインで、タカラの初恋人。両親が前作でナックル星人によってされたため、現在は擬古河家に居候中。
前作で小学一年だった彼女も、今や立派な高校二年生。しかし彼女の心優しい性格や、タカラへの特別な感情は今も変わっていない。
- 13 :
- 乙!
偶然だろが、友達から「今日、次男が誕生した」とメルが北♪
- 14 :
- 相沢 栄香(ウルトラマンティガ):
通称『エー』。タカラの姉にして、前作の主人公。26歳。本作品では一児の母親である。
父親から光の遺伝子を受け継いだため、スパークレンスを用いてウルトラマンティガへと変身し、素早さの『スカイ』・怪力の『パワー』、そしてバランス型の『マルチ』の三つの能力を使い分けて戦う。
母親同様、とても心優しい性格の持ち主だが、怒るときは非常に厳しいという一面も持ち合わせている。光の力の意味をまだ完全に理解できていない娘『ジュリ』が非常に気がかりで、一番の悩みの種である。
得意技は、『ゼペリオン光線』(マルチ・パワー)、『ランバルト光弾』(スカイ)、『デラシウム光流』(パワー)。
相沢 珀作(ウルトラマンゼロ):
前作のもう一人の主人公で、ウルトラセブンの実の息子。エーと同い年で、同時に彼女の夫でもある。通称は『アヒャ』。
性格は少々荒っぽいが、家族に対する献身や他人を思いやる優しさは、エーに負けていない。彼女同様、光の力に目覚め始めた娘『ジュリ』が一番の悩みの種で、光の力の意味を教えるのに苦労している。
得意技は『ゼロスラッガー』や『ワイドゼロショット』等、父親のセブンによく似ている。
- 15 :
- >>13
そうですか! 本当に驚きましたwww
おめでとうございますとお伝え下さい!
- 16 :
- 擬古河 醍醐(初代ウルトラマン):
栄香の父親で、通称『ギコ』。元々が『WALL.E』というロボットだったためか見た目はとても若いが、実は50歳の中年。
βカプセルを用いて初代ウルトラマンに変身するが、エーと遺伝子が同じなため、彼女の道具でティガに変身することも出来る。
ウルトラ兄弟の一員で、現在も地球を拠点に活躍中。正義感が強い性格だが、少々面倒くさがりな所も・・・。
必技は『スペシウム光線』。また人間体では、仮想空間『NIGHTMARE CITY』(以下NC)で使っていた剣『アクア・ジャスティス』を使用することも出来る。
擬古河 椎奈(しぃ):
栄香の母親。ギコ同様、元々『EVE』というロボットだったためか見た目が若いが、実年齢は48歳。かつて、NCで管理AIというCPプログラムだったという過去を持つが、今は生身の人間である。
彼女の持ち味でもある心優しい性格は、娘であるエーにそのまま受け継がれた。自分に孫が出来たことを喜んでいる反面、見た目が若いまま孫を持つことに複雑な思いがあるようだ。
管理AI時代の武器『ルナ・アロー』以外に、エーやギコ同様に光の力を持っているため、ティガへの変身も可能である。
- 17 :
- 相沢 珠璃(ジュリ→ウルトラマンジャスティス):
本作におけるもう一人の主人公で、本作プロローグにてエーとアヒャとの間に生まれた女の子。七月七日生まれの6歳で、小学一年生。
両者の光の遺伝子が混ざり合い、ティガとゼロの要素を組み合わせた新しいウルトラマンーー『ウルトラマンジャスティス』へ変身する能力を持っているが、その力は未知数である。
人見知りが激しく、あまり他人に対して心を開かない性格だが、本当は心優しい。
自分の力に目覚めたばかりで、力の持つ本当の意味について、まだ何も分かっていない。また『怪獣=倒すべき相手』という考えが強く、暴れる怪獣や超獣を倒さずに浄化する『ウルトラスモス=タカラ』に疑問を持ち、後に対立することになる。
主人公にしてキーパーソンであり、何やら重要な役割を担っているようだが・・・。
得意技は、『ビクトリューム光線』(スタンダード)と『ダグリューム光線』(クラッシャー)。
その他の登場人物1(名前のみ):
藤沢 克明(フサ→ウルトラマンガイア)
藤沢 つー
藤沢 楓香(フー)
金崎 モララー(ウルトラマンアグル)
金崎 唯(ぎゃしゃ)
白山 モナー(ウルトラマンダイナ)
- 18 :
- その他の登場人物2(名前のみ)
崎島 野里華(のー)
野上 いょぅ
碇 シンジ
惣流・アスカ・ラングレー
綾波 レイ
ヒビノ ミライ(ウルトラマンメビウス)
モロボシ・ダン(ウルトラセブン)
ウルトラマンタロウ
ウルトラマンレジェンド(???+???):
ギャシー星の伝説に残されている、宇宙最強のウルトラマン。過去に数度地球を守るために現れているが、正体不明で何処から来たのか分からないので、『幻の超人』とされている。
伝説によると、『大いなる二つの光』が出会うとき、その光は一つになり『真の姿』を現すとされているが・・・。
- 19 :
- 第一話 光の再会
ジュリの誕生から、約七年後・・・
地球から300万光年離れた、M78星雲ーー『光の国』。その中枢部に位置する『宇宙警備隊・訓練センター』では、ある人物が教官と出発前のトレーニングをしていた。
生徒であるウルトラマンは、銀色に赤と青の体表。教官であるウルトラマンは全体的に赤色の体表をしており、頭には特徴的な二本の角ーー『ウルトラホーン』を持っている。
教官と生徒はアクロバティックに攻撃を繰り返しながら、互いの体力を少しずつ削っていた。
「ヘッ! デャァッ!」「タァッ! ンンッ!」
彼らは互いに回し蹴りをヒットさせると、後ろへ間合いを広げる。
「よし・・・次は光線技だ。用意はいいか、『コスモス』!」「はい、『タロウ教官』!!」
互いに名前を呼んだ二人の巨人ーー『コスモス』と『タロウ』は、同時に両腕を上にあげた後、両手を腰に添えてエネルギーを貯めて・・・
「「『ストリウム光線』!!」」
両腕を横L字にして、『ストリウム光線』を同時に放った。
互いの光線がぶつかり合い、激しく火花が弾け飛んでいる・・・。威力はほぼ互角のようだ。
- 20 :
- タロウは教え子であるコスモスに、一喝をする。
「どうした、コスモス。その程度では私は倒れないぞ! お前の本気を見せてみろ!」「くっ・・・うぉぉぉおおおおおッ!!」
教官の一喝に、更に光線の威力を上げていくコスモス。彼の言葉に目が覚めたようだ。そして・・・
「セイヤァァッ!!」「! ぐっ・・デッ・・・!」
タロウのストリウム光線を見事に押し返し、彼の腹部にそのままヒットした・・・。
「! タロウ教官!」
猛々たる埃が舞い上がる中、コスモスは攻撃体のコロナモードから優しさのルナモードへと戻り、タロウの元へと駆け寄る。
教官相手に本気で光線を出してしまった・・・。遠慮するなと言われ、任務の出発前に最後のお浚いを申し出たのは自分自身だが、本当に大丈夫なのだろうか・・・。
駆け寄ってみると案の定、タロウの腹部には光線を受けた酷い火傷があり、カラータイマーが命の危険を表すかのように赤く点滅していた。
衝撃は自身の光線である程度押さえられていた筈だが、その腹部の傷はとても痛々しい・・・。
本気で光線技を打ったことに対して罪悪感に見回れたコスモスは、両手から倒れているタロウに向けて回復光線『ルナフォース』を照射した・・。
- 21 :
- コスモスの発する暖かい光に、タロウが受けた傷や火傷・・・そして、カラータイマーの輝きが戻っていく・・・。
これが彼の『優しさの力』であり、コスモスが持つ特別な能力の一つなのだ。
「大丈夫ですか・・・?」「ああ・・・。すまないな。」「・・・すみませんでした。貴方を傷つけてしまうなんて・・・。」「いや、あれでいい。私は『本気でやれ』と言ったんだ。それにお前は答えただけだろ。謝る必要が、何処にあるんだ?」
タロウは体の傷が癒えると、その場でゆっくりと立ち上がる。
「怪獣との戦いは、常に最悪の事態を想定して戦わなければならないのは、覚えているな?」「はい・・・。」「今の私がもし侵略者だったら、お前はどうしていた?」「・・・必ず、倒していました。」
彼はコスモスの肩に手を置くと、更に話を続ける。
「良いか、コスモス・・・。お前のように相手をいたわり、分かり合おうとする気持ちも大切だ。しかし相手が誰であれ、その星を守るには必ず止めを刺さなければいけない時もある。それが例え、『味方』と対立したとしてもだ。・・・分かったな?」
「・・・はい。」
コスモスの静かな返答にタロウもゆっくりと、しかし確実に首を縦に振り、頷いた。
- 22 :
- 「よし・・・私が教えられるのは此処までだ。あとは、実戦から学んでいけ。」「タロウ教官・・・。」「お前は力も、その使い方もよく分かっている。心配はない・・・気を付けて行くんだぞ。」「・・・はいっ! 今まで、ありがとうございました!」
教官に背中を押され、宇宙へ飛び立とうとするコスモス。しかし、次のタロウの声に再び立ち止まった。
「コスモス!」「? 何ですか?」
「『メビウス』に、よろしくな!」
「分かってますよ。 ・・・シュアッ!!」
タロウの言葉に押されたコスモスは、約七年の間お世話になった『光の国』を遂に離れ、『宇宙警備隊員』としての初任務地へと飛び立っていった・・・。
これから彼は太陽系にある、蒼く輝く『生命の星』ーー地球を拠点として活躍することになる。それは同時に、彼が約七年ぶりに『故郷』に帰ることも意味している・・・。
(みんな、元気かなぁ・・・。)
コスモスは地球にいる友達や家族を思い浮かべ、期待に心を踊らせながら宇宙空間をひたすら飛び続けていった・・・。
- 23 :
- 一方・・・
地球では、一人の若い男性がある家に向かって歩いていた。
どこからか暖かさが伝わる彼の髪は茶色で、白いシャツに青い上着を着ている。一見普通の若者のようだが・・・。
彼は住宅街にある、二階立てのクリーム色をした一軒家の前に立ち、インターホンを押す。
「は〜い! どなた様ですか?」
そう言いながら扉を開けて出てきたのは、桃色の髪を持ち、透き通った深みのある青色の瞳が美しい若い女性だった。彼女の方から漂う香りは、落ち着きのあるラベンダー・・・。
男性は扉を開けてきた彼女に、笑顔で話しかける。
「『椎奈さん』、お久しぶりです!」「『ミライ君』! 今日はどうしたの?」「皆さんに、お話があって・・・。」「本当? じゃあ、中に入って。ここで話しても、おかしいでしょ?」「ありがとうございます!」
『しぃ』にそう呼ばれた男性ーー『ヒビノ ミライ』(ウルトラマンメビウス)は、彼女の誘いに喜んで中に入ることにした。
リビングにあるソファーに座り、一息をつくミライ。そこに暖かいアップルティーを用意したしぃが、扉を開けてソファーの前のテーブルに三つカップを並べ、お茶を注ぎ込んだ。カップからはふんわりと甘い香りがする・・・
- 24 :
- 「これしかないけど・・・良かったら飲んでみてね。」「ありがとうございます。いただきます。」
ミライは暖かなアップルティーが注がれたカップを手にとると、そのまま口へと運ぶ。
一口飲んだだけだが、そのリンゴの香りは瞬く間に口の中に広がり、飲み込んだ後でもほんのりと香りが残る・・・。ここまで味に深みのあるアップルティーは、ミライにとって初体験だ。
「・・・気に入ってもらえたかしら?」「とても・・美味しいです。」「そう? 良かったぁ・・・。」
彼の感想に、しぃは思わず笑みがこぼれる。自分の入れたお茶を気に入ってもらえて、本当に嬉しかったのだろう。
ふと、ミライは直感的に気付いたことを口にした。
「・・・椎奈さんは今、おいくつでしたっけ?」「? 私にその質問を・・・?」「! ごめんなさい・・不味いですね・・・。」
微妙な反応を示した彼女に恐縮したのか、ミライは素直に謝る。彼はこのように純な性格だが、時に良いことも有れば悪い面にも出たりするのだ。
しぃは彼の反応を見て小さく舌を出し、小悪魔のような笑みを浮かべながら話す。
「ふふっ、冗談よ! 今私は48歳なんだけど・・・何故か体は年を取らないのよ。」「えっ・・・?」
- 25 :
- 「どういう事なんですか?」「つまり・・・『不老現象』って言うことなのかなぁ・・・。私やギコ君だけじゃなくて、フサ君とかモナー君もみんな老けないの。今、モナー君が一生懸命研究してるんだけど・・・原因もわかってなくて・・・。」
しぃは自分のカップに手を置きながら、若干落ち込んだような表情で話を続ける。
「この若い体は、今の生活にもの凄く大切だし、とても役立ってるよ。それに、いつまでも若いままで居られるから嬉しい。でも・・・」「でも・・・?」
「・・・私の『孫』に、『おばあちゃん』って呼ばれるのは辛いかなぁ・・・。確かに私はあの子の『祖母』だけど、若いままで『おばあちゃん』は、ちょっと・・・。」「・・・。」
しぃの複雑な表情に、ミライは申し分けなさそうな表情を顔に映し出す。聞いてはいけなかっただろうか・・・。いや、絶対に聞いてはいけなかったに違いない。
「何か・・・ごめんね。折角来てもらってるのに、暗い話しちゃって・・・。」「椎奈さん・・・。」
その時廊下の奥から、玄関の扉が開く音が響いた。
「ただいまぁ〜!」「! 丁度、帰ってきたみたいね。」「・・・?」
- 26 :
- ミライとしぃが声が聞こえた方へ視線を向けると、丁度その人物が扉を開けてリビングへ入ってきた。手に握られている手提げには、何処かで買い物をしたのか食材が詰め込まれている・・・。
「! こんにちは、ミライさん!」「『栄香さん』!」
ミライにそう呼ばれた女性ーー『エー』は、母親のしぃに今夜の材料の買い足しを頼まれていたようだ。
透き通った美しい緑色の瞳以外、しぃと同じ桃色の長い髪を持つ華奢な姿は、七年前となんら変わっていない。むしろ、更に美しさが磨かれている気がする。そして・・・
「ほら、『珠璃』。貴方もちゃんと挨拶しなさい。」「うん・・・。」
彼女の後ろに隠れていた小さな女の子が、ひょっこりとこちらに顔を覗かせ、エーの脚を掴みながらゆっくりと体をこちらに向かせた。
まだその顔には眠たそうなエメラルド色の瞳が輝いており、長く延びた髪は桃色と赤が混ざり合い、朱色にも見える。
「こ、こんにちは・・・。『相沢 珠璃』・・です・・・。」
「ジュリちゃん、初めまして。僕はヒビノ ミライです。」
恥ずかしそうに自己紹介したこの女の子。彼女こそが、七年前に生まれたエーの娘『相沢 珠璃』である。
- 27 :
- ジュリは自己紹介をした後、顔を赤くしながら再び母親の後ろに隠れてしまう。突然の可愛らしい行動に、ミライは思わず笑みがこぼれる。
「ごめんなさい。ジュリはどうしてか、他の人と顔を合わせるのが苦手で、よく人見知りもしちゃうの・・・。」「大丈夫ですよ。気にしてないです。」「ところで・・・何でミライさんがここに?」
彼女の質問に、しぃが答える。
「何か大切な話があるみたいで、これから聞くところだったの。栄香も聞いておいた方がいいわ。」「大切な話・・・? 分かったよ。」
エーはそう言うと自分の娘に振り返り、しゃがみ込んで言い聞かせた。その表情は七年前とは違い、すっかり母親の表情だ。
「ジュリ。ママはこれから、大事なお話をしなきゃいけないの。だから、お話が終わるまで静かに待ってて。いいかな?」「うん。」
エーの説得に素直に頷いた珠璃は、自分の部屋へとすぐに戻っていった。
珠璃は素直な性格で、エーの指示にもすぐに答えてくれる。しかし何故、彼女は此処まで他人と接触するのが苦手なのだろうか・・・。
娘が行ったのを確認し、エーは母親の隣に腰掛ける。こうして並んでみると、本当に瓜二つということがよく分かる。
- 28 :
- 「それでお話って、どうしたの?」「はい・・・。本当はもっと早くに伝えるべきだったんですが、実は今日・・・」「知ってるよ。」「?」
ミライの話の途中で、エーが言葉を遮る。
「今日、『弟』が帰ってくるんでしょ?」「! 知っていたんですか?」「うん。アヒャからもう聞いてるよ。」「それなら、話が早い。」「え? 話って、それの事じゃないの?」「はい。二つあります。」
しぃとエーは頭に疑問符を浮かべながら、同時に首を傾げる。
「まず一つ目に、僕も一緒に地球に来ることになりました。怪獣や異星人の活動が活発になったので、これからは僕とコスモスで地球の任務に当たります。僕は一時的に滞在しますが、『タカラ君』はこのまま地球で活動する予定です。」
ミライの口から出た『タカラ』とは、コスモスの地球人としての姿だ。
「そしてもう一つ、重要な話があるんです。」「・・・?」
ミライは一呼吸置くと、顔色を真剣な表情に変えて話し始めた。
「僕とコスモスが地球に来た理由は、護りに来ただけではないんです。ある『超人』を探して、この星に来ました。」「超人って・・・?」「はい。遙か昔に、地球の危機を救ったと言われている『伝説のウルトラマン』です。」
- 29 :
- 「その話・・・もっと詳しく聞かせてくれる?」「はい・・・。」
しぃの願いを聞いたミライは、今自分が分かっていることを淡々と話し始めた。
「その昔に、地球が宇宙正義『デラシオン』から危険と見なされ、地上の生物全てを消し去り元の何もない状態にリセットされる危機があったんです。人類とその当時にいたウルトラマンは決死の覚悟で敵に挑みましたが、全く歯が立たちませんでした。」
ミライの話に真剣に耳を傾けるエーとしぃ。彼らの頭の中では、地球が紅蓮の炎に包まれ崩壊していくビジョンが浮かんでいる・・・。地球のリセットは、考えただけでも悪寒が走るものだ。
「最大限の力を出し切った守備を退けて、地球に向かって惑星破壊兵器『ギガエンドラ』によるリセットがいよいよ仕掛けられようとしたその時、何処からかその巨人が現れて、ギガエンドラを破壊したんです。」「・・・。」
彼の話に沈黙をする二人。彼らの気はすっかりミライに向けられており、動く気配もない。
「その巨人は敵を一撃で倒した直後に光と共に消え去り、以来は姿を見せることがありませんでしたが、地球ではその伝説的な力から、後に巨人を『ウルトラマンレジェンド』と呼ぶようになったようです。」
- 30 :
- 「ウルトラマン・・レジェンド・・・?」
しぃはその伝説の巨人の名前を聞いたとき、何故か違和感を感じた。以前にその名前の巨人に、何処かで会った気がしたのだ。
自分の錯覚だろうか・・・。でも、彼女自身にはその記憶に確信があった。
(確か・・・仮想空間であの時見たウルトラマンって・・・。)
仮想空間『NIGHTMARE CITY』でのラストバトルで、グリッターティガと共に戦ったウルトラマンを回想するしぃ。
光を失い掛けていたコスモスに、その当時仮想空間の実体データだったモララー・モナー・つー・フサの四人と、セブン・ジャック・エース・メビウスのウルトラ兄弟達のエネルギーが注入され、融合して登場した謎のウルトラ戦士・・・。
(あのウルトラマンの名前は・・・。)
「・・・お母さん?」「! ん?」
しぃがそんな事を考えていると、娘から突然話しかけられた。
「どうしたの? 真剣な顔しちゃって・・・何か考え事?」「え? あっ、ううん。何でもない。続けていいよ。」「ふぅん・・・。」
娘の不満そうなため息を余所に、しぃはミライと更に話を続ける。
- 31 :
- 「どうして、そのウルトラマンを探しているのかしら?」「僕もその指令の後にゾフィー兄さんに理由を聞いてみたのですが・・・」
彼は出発前の出来事を頭の中で回想し、その内容をしぃ達二人に向けて話した。
『隊長!』『! メビウス、君はもう出発したのではなかったのか?』『出発前に一つ、あの指令の理由についてお聞きしたいのですが。』『! そうか・・・君は、大隊長からまだ何も聞かされていないのだな・・・。なら、私から話しておこう。』
『どうしたのですか?』『大隊長から、地球が何者かに狙われているとの知らせがあったのだ。』『なら、僕達に任せて・・・』『君達にそう言いたいのだが・・そうもいかないんだ。』
『えっ・・・?』『つまり・・君達や私達にも対処が出来ない途徹もなく大きな勢力が、地球を狙っていると言うことだ・・・。しかしそれが、一体何者なのかは分かっていない・・・。』
『そんな・・・。』『・・・ある星の伝説によれば、二つの光が出会う時に、光は一つとなって真の姿を現すとある。このヒントを元にして、調査を続けて欲しい。』『・・・。』
『・・・着いたら、ギコ達に伝えてくれ。地球に今、再び最大の危機が迫っていることを・・・。』
- 32 :
- ーー地球最大の危機ーー
この言葉を聞いた彼女達は、一瞬にして顔色を変えた・・・。自分達が住んでいる青い惑星が、知らぬ間に再び外敵に狙われているとは・・・。
すっかり青ざめたエーが、ミライに聞く。
「何者か分からない・・・? それって怪獣でも、異星人でも無いって事なの?」
「いいえ・・・。これは僕の予測ですが、地球を狙っているのは『エンペラー星人』の可能性が高いです。」
エンペラーという名前に、眉を若干顰めるしぃ。
「彼は暗黒宇宙の大皇帝で、全宇宙の怪獣や異星人を束ねることが出来ますから、僕達ウルトラ兄弟でも対処しきれない程の大軍団を形成することも出来ます。でも・・一つ気になることがあるんです。」「それは・・・何?」
「僕がまだルーキーの頃に、エンペラー星人は怪獣達を操るだけでなく、パラレルワールドの世界に足を踏み入れる事も可能だという話を聞いたことがあるんです。その話が本当だとすれば、異世界の敵をこちらの世界に解き放つ可能性も恐らくは・・・。」
ミライの話に、不安の色を濃くする二人・・・。不安な表情を浮かべたまま、しぃはミライに聞く。
「万が一、そのウルトラマンを見つけられなかったとしたら・・・?」
- 33 :
- しぃの質問に、ミライは一瞬躊躇した後に答えた。
「・・・僕達戦士が戦って、守り続けるしかありません・・・。地球が戦場になることは、間違いないでしょう・・・。」
そう言うとミライは突然立ち上がり、目の前で座っているしぃ達に向かって深くお辞儀をした。剰りに突然な行動に、しぃとエーは戸惑いを隠せない。
「ちょっ、ミライ君いきなり・・・」「こんな事になってしまったのは、僕達戦士の責任です! ・・・本当に、ごめんなさいっ!」「ミライ君・・・。」
頭を深々と下げているミライに、しぃが優しく声を掛ける。
「謝らなくても大丈夫だよ・・・。ミライ君達が、全部悪い訳じゃないのよ? それに、もし見つけられなくても私達が手伝うから。」「椎奈さん・・栄香さん・・・。」
「忘れないで。私達だって、ウルトラ戦士の一人なんだから! だから頑張って、一緒に探しましょ?」「・・・G.I.G.! 有り難うございます!」
彼女達の頼もしい一言に、笑顔で頷くミライ。その時・・・
アップルティーの入ったカップが音を立てて小刻みに揺れだし、外の方で突然轟音が響き始めた・・・。
「! この揺れは何・・・? 地震?」「いや・・空から、何かが来る!」
- 34 :
- 三人は外へ出ようと、衝撃で揺らめく廊下を玄関まで進む。
その時、二階へ続く階段から誰かの声が掛かった。
「ママっ!」「ジュリ! 気をつけて!!」「わ・・・っ。」
揺れる階段を、おぼつかない足運びで降りてくる『珠璃』。彼女の足取りでは、途中で必ず転落してしまう・・・。故に足元が板張りなので、大怪我をする可能性もある。大丈夫なのだろうか・・・。
そうエーが考えていた矢先・・・突然ジュリが足を滑らせて、母親に飛び込んできた。
「きゃあああっ!」「ジュリ!」
板の間に頭をつく前に、エーの胸に無事に飛び込んできたジュリ・・・。正に間一髪の所だ。しかし、受け止めたエー本人はそのまま廊下の壁に激突し、頭を強打してしまった。
「あぁっ! 痛・・っ・・・。」「ママ! 大丈夫・・・?」「う・・ん・・。ジュリは平気? どこも怪我してないの?」 「私は、大丈夫・・・。」「もう、無茶したらだめよ。分かった?」「うん・・・。」
エーは彼女を抱きかかえたまま、ミライ達がいる外へと駆けていった。
- 35 :
- 扉の開いた玄関へと駆け込み、エー達は外でようやくしぃとミライに合流できた。
先程までの揺れが嘘のように、辺りは静けさを取り戻しつつある。ジュリはあの体験が余程怖かったのか、自分の体を彼女の体に引き寄せ、顔を胸に押しつけたまま動こうとしない・・・。
一方でしぃ達は視線を一つに向けたまま、険しい表情でそれを見つめていた。彼らの視線の先には、一体何があるのか・・・。
エーも構わず、彼らの視線に合わせてみる。すると・・・
住宅街の空に、まるで蝉のように黒くスラリとした体を持った『不気味な影』が、そこに立っていたーー。
両手はハサミに変化しており、頭部の近くで輝く目は怒りを表すかのように赤くなっている・・・。
特徴的なその姿に、エーはミライに聞く。
「あの宇宙人って、もしかして・・・。」「・・・宇宙忍者『ネオ・バルタン星人』です・・・。」
バルタン星人は地球へ強制的に移住するために、過去に幾度も人類を襲い、ウルトラマンに倒されてきた宿敵である。
今回もまたその目的で、地球を襲いに来たのだろうか・・・。
そうエーが考えた時、しぃがある異変に気がついた。
「あのバルタン星人・・・何処か様子が変よ・・・。」「えっ?」
- 36 :
- 彼女に言われるがまま、エーはバルタン星人の姿をよく見てみる。すると・・・
彼の周りに、無数の虹色の光が飛び交っているのが分かったーー。
「・・・『カオスヘッダー』!? でも、何で・・・」「きっと、何者かが細工したに間違いありません。バルタン星人はこのカオスヘッダーにコントロールされて・・・」
「ブォッフォッフォッフォッフォッ・・・!」
ミライが言い掛けた瞬間、バルタン星人は特徴ある笑い声を発し、ついに町を襲い始めた・・・。それもただ襲うだけではない。まるで、ミライ達三人を襲うように攻撃をし始めたのだ。
ハサミから放たれた光弾が家の近くに被弾し、土砂と爆風が彼らを襲う。
「きゃあっ!」「! ハッ!」
自分達の危険を察知したミライは、次々に追撃してくる光弾から彼女達を守るため、左腕にメビウスブレスを発生させた後、光のバリアー『メビウスディフェンサークル』を発現させる。
更に隙を見て、ブレスに右手を添えて『メビュームスラッシュ』を発射し、敵の左腕にヒットさせた。
「ここは危険です! 今は早く避難しましょう!!」「はい!」
ミライの真剣な言葉に押され、彼らは逃げまどう人々の中に紛れ込み、逃走を始めた・・・。
- 37 :
- バルタン星人はまるで狂ったかのように暴れ回り、住宅街を次々に破壊していく。
彼らの自宅から少し離れたとある高校も、生徒達が慌てながらも外へと避難を開始していた。
そんな中、外へと逃げ出したのにも関わらず、ある一人の少女がバルタン星人の様子をじっと見つめていた。
すらりとバランスがとれた美しい体型で、髪は赤いピンで留めた長い亜麻色。そしてその優しい輪郭を持つ顔には、蒼い円らな瞳がウルウルと輝いている・・・。
バルタン星人の攻撃を見て、少女は小さく呟く。
「あの光は、あの時の・・・。」
彼女は、約七年前にこの虹色の光を見た時のことを思い出していた。あの時は『ある巨人』の姿をコピーし、互角以上の戦闘を見せていたが・・・。
そう思い出していたその時、バルタン星人が突然攻撃を止め、体勢を別の方向へと変えた。視線の先にあるのは・・・路上に倒れた小さな女の子だ。
バルタン星人は今にもその女の子を打とうと手を上げ始めている・・・。
「! 危ないっ!!」
少女はその脅えている小さな女の子を見つけるととっさに体を動かし、抱き上げたまま逆方向へと走り始めた。
宇宙人の手から放たれた連続光弾が、少女のすぐ後ろに被弾していく・・・。
- 38 :
- うまく逃げきった彼女達はビルの後ろに隠れ、一呼吸をおく。バルタン星人も気付いていないようだ。
「ハァ・・ハァ・・・。」
少女の口から吐き出されている息は、とっさに起こした行動ですっかり息が上がっていた。普段は人を抱えたことも無かったためか、その疲れは半端なものではない。
彼女は助けた女の子を見るため、顔を女の子の方へ向けてみる。すると・・・
「! ・・・『フーちゃん』?」「・・・! 『フサしぃお姉ヒャン』!」
知り合い同士の顔が、目の前にあった・・・。
彼女に抱き抱えられていた女の子は『藤沢 楓香』(フー)といい、9際の小学四年生である。実は、少女の通う高校の担任の娘なのだ。
フーに『フサしぃ』と呼ばれた少女は、どうして彼処にいたのか理由を聞いた。
「逃げないで、どうして彼処に居たの? 危なかったでしょ?」「お父ヒャンが心配で、お母ヒャンとはぐれちゃったの・・・。お父ヒャンは何処?」
因みに、フーは生まれつき『さん』を『ヒャン』と呼ぶ癖がある。
「大丈夫・・・。お父さんは、きっともう避難している筈だよ。一緒に逃難しましょ?」「うん・・・!」
事情が分かったフサしぃは、フーと一緒に逃げようと立ち上がった。
- 39 :
- バルタン星人の登場に自衛隊の戦闘機達も遂に動きだし、F-15Jイーグルの軍団が立ち向かい、次々にミサイルをヒットさせていく・・・。
「大丈夫? 行くよ・・・!」
戦闘機の連携攻撃で、徐々に追いつめられていくバルタン星人・・・。建物の陰からその活躍を見たフサしぃとフーは、隙を見て避難を開始しようとした。ところが・・・
「っ!」「! 嘘・・・。」
バルタン星人は腕を振り上げると、両手のハサミから赤い光線を発射し、一撃で戦闘機全てを破壊してしまったーー。
道の真ん中で、呆然と立ち尽くすフサしぃ達・・・。バルタンは手を振り上げたまま、道路上でポツリと取り残された彼女達に再び視線を合わせた・・・。
このままこの場所にいたら、絶対にやられる・・・。そう思ったフサしぃはフーの手を引いて、バルタンとは逆の方向へ走ろうとする。しかし・・・
向いた逆の方向にも、全く同じ構えをしたバルタン星人がーー!
まさかと思い、フサしぃは落ち着いてゆっくりと辺りを見回す。すると・・・
自分達の気付かない内に、周りが全て無数のバルタンに囲まれていた・・・。
- 40 :
- フサしぃ達の周りを囲むバルタンはまるで巨壁のようで、その外へは絶対に出ることが出来ない。まさに八方塞がりで、『袋の鼠』の状態だ。
周りを囲むバルタン星人達はゆっくりと腕を上げて、ハサミの先をフサしぃへと向ける・・・。
フサしぃはその威圧的な行動に押されてしゃがみ込み、肩を震わせて腰が抜けてしまったフーを自分の胸に抱きしめる。今の自分にはこれしか出来ないが、まだフーを救えるのならせめてもの救いだ。
突然の事で、フーは震えながら声を出す。
「フサしぃ・・お姉ヒャン・・・?」「心配しないで。私が貴方を守ってあげる・・・。フーちゃんはさせない・・・。」
フーの前では冷静に声を出していたフサしぃだったが、内心はいつ光弾が発射されるのか分からず、自分が死んでしまうことに対する恐怖と、自分の大切な人と交わした『約束』が、守れなくなってしまう後悔で一杯だった・・・。
約七年前のあの日に交わした、『再会の約束』ーー。その約束が、いつか果たされることを彼女は夢見ていた。
しかし、そんな夢もこの宇宙人達の一撃で粉々にされてしまうのだ・・・。
エネルギーが集まる音が大きくなる度に、その『逢いたい』気持ちも大きくなっていく・・
- 41 :
- 自分が頃からいつも一緒で、ピンチになった時に幾度も救ってくれた『幼なじみ』は今、遠い空の彼方で『夢』を追っている。
その夢がかなった時、必ず再会できると信じていた。なのに・・・
そんな彼女の想いが最高潮に達した時、その気持ちは初めて『声』となって吐き出された・・・。
「『タカラ君』っ!! 助けてぇぇーーーっ!!」
刹那、バルタンのハサミから強烈な威力を持った光弾が発射された・・・。
数秒後・・・
猛々たる煙に包まれた着弾点・・・。その煙は遙か上空にまで上り、まるでベールのようにその中心を隠していた。
煙の中で、フサしぃは瞑っていた瞼をゆっくり開いてみる。体に痛みはない・・・。それだけボロボロにやられたということなのか・・・。
しかし目を開いてみると、自分の体は全く粉々にされておらず、胸には抱きしめた状態でフーが気絶している。一体、何で自分の体が無事なのか・・・。
そう思ったその時、煙の奥で誰かの声が聞こえた。
「その無茶な性格も、変わっていないんだな・・・。」「えっ・・・? 誰なの?」
彼女が何処からか聞こえるその声に質問すると、煙がまるでそれに答えるかのようにゆっくりと晴れ始めた・・・。
- 42 :
- 下からベールが無くなっていく内に、声の主の体が徐々に明らかになっていく・・・。
声の主は、バルタンに静かに語りかけた。
「バルタン・・・君は前に、僕に話してくれたよね。君の星の秩序を乱してしまったのは、自分達のせいだって・・・。だから君は地球の人達に、決して夢を捨てないでくれって言ってくれたよね?」「・・・。」
「僕も地球の人間として、君の言葉のように夢を捨てないで生きてきた・・・。だから、今の僕が居るんだ。」「ナニヲ・・イッテイルンダ・・・?」
「僕はその恩返しがしたいんだ・・・。苦しかったよね・・・望まぬ力を持って、こんな風に暴れたくなかったよね・・・。」「ダマレ!!!」
次の瞬間、ベールの奥から再び光弾が飛び出す。しかしフサしぃ目の前に突然金色の壁が反り立ち、彼女達には爆風だけが行き届いた。
「きゃっ!」
強烈な爆風に再び目を瞑るフサしぃ。その瞬間、巻き上がっていたベールが全て吹き飛ばされた。
爆風が止み、フサしぃは堅く瞑っていた目を見開く。すると・・・
自分の目の前に、青い2本の柱のような物・・・更に視線を上げてみると、太股から胸にかけて銀色と赤い帯が走っている巨人が姿を現したーー。
- 43 :
- 胸の部位には若干金色の帯があり、遙か遠くに見える顔は優しさを現すかのように円らな瞳が輝いている。
フサしぃは彼のこの顔に、とても見覚えがあった・・・。十年前に自分を守ってくれた、あの『青い巨人』にそっくりだったからだ。
「! ・・まさか・・・!」
怒り狂ったバルタン星人は、その巨人に言葉を返す。
「オマエハ、ワタシニナニヲノゾンデイルンダ、『ウルトラスモス』!」「僕は大切な人を護りたい・・・! 君の心を、救いたいだけなんだ!!」
バルタンにその名前を呼ばれた『勇気の巨人』ーー地球での新モード『エクリプスモード』となった『ウルトラスモス』は、足元にいる自分の大切な人とバルタン星人の両方を救うため、地球の大地を駆けだしていった・・・。
- 44 :
- 「!!」
コスモスという名前に、突然胸の鼓動が高鳴ったフサしぃ。長い間待ち続けていた相手が、遂に地球へ帰ってきたのだーー。
フサしぃは瞳に薄く涙を浮かべると、小さくエールを送る。
「頑張って・・『タカラ君』・・・!」
「トゥアッ!!」「!」
バルタン星人の手前まで来たコスモスは、大きく跳躍をする。それに合わせるように、バルタンもハサミを構えて彼に向かって光弾を打ち込んだ。
ところがコスモスは空中で体を曲芸的に捻りながら、三発の光弾をかわし・・・
「『スワローキィィィック』!!!」「フォッ!?」
バルタンの脳天へ向かって急降下し、タロウから教わった『スワローキック』を食らわせた。
約七年の訓練を終え、成長したコスモスの戦い方は想像を大きく越えており、旅立つ前に見せていた攻撃に対する気の迷いも、敵の戦法や不意打ちに対する動揺も全く見られていない。
連続で叩き込まれる技の中にはタロウ直伝の技も組み込まれており、メビウス同様に教官から学んだ技を多く取り入れているようだ。
其れだけではなく、彼の体から繰り出される独自のパンチやキックなどの格闘技も鍛え直され、刺すように出される連撃はまるで蜂のように鋭くなっていた。
- 45 :
- 挿入歌:
Spirit(ウルトラスモスOP)
COSMOS! 強くなれるIt's all right!
愛って何なんだ 正義って何なんだ
力で勝つだけじゃ 何かが足りない
時に『拳』を 時には『花』を
戦いの場所は『心の中』だ!
COSMOS! 強くなれるIt's all right!
優しさから始まるPower それが『勇者』
COSMOS! どんな時もOne me right!
自分にだけは決して負けない 『ウルトラの誓い』・・・
- 46 :
- 傷ついた誰かが 何処かにいれば
見ているだけじゃなく 助けに行きたい
広がる『宇宙』 一つの『世界』
僕達はきっと つながっている・・・
COSMOS! 頑張るからIt's all right!
君に見える『光のPower』 それが『未来』
COSMOS! どんな時もOne me right!
本当は敵なんかいない 『ウルトラの願い』・・・
- 47 :
- 影分身をも見破り、隙のない攻撃で攻め立てたコスモスに対し、バルタン星人はどうにか対抗するために赤い冷凍光線を彼に向けて放つ。しかし、コスモスはその攻撃を読んだのか右腕から金色の矢尻光弾『エクリプススパーク』を発射し、相させた。
光弾を発射させた後、再び構えを正す両者・・・。しかし、コスモスはすぐに握っていた拳を開いて、構えを解いた状態でバルタンに話しかける。
「バルタン・・・もう戦うのは止めよう。僕は君と地球を救いに来た・・・。戦うつもりは、もう無いんだ。」「!? ナニヲイッテイル! キヨワニナッテ、マトモニタタカエナクナッタノカ?」
「違う・・そうじゃないんだ。このまま破壊活動を続けると、君の故郷の二の舞になってしまう。それは、本当の君だって望んでいない筈だ。」「・・・。」
「この星には、僕の掛け替えのない大切な人がいる・・・。そんな故郷を、僕は命に変えてでも護りたい。その故郷を護りたい気持ちは、君も同じだろ?」「ナニヲ・・ホザイテ・・・。」
「君はその護るための力を、破壊に使おうとしている・・・。そんな事は、僕が絶対にさせない・・・!」「ウルサイ!! オマエニワタシノ、ナニガワカルトイウンダッ!!!」
- 48 :
- バルタンは内から溢れる感情と共に、両腕のハサミから白色光弾を炸裂させた。
しかしコスモスはそれにも動じることなく、目の前に金色の壁『ゴールデンライトバリア』を展開させて光弾を弾き返す。弾き返された光弾はそのまま、打った張本人であるバルタンの胸に着弾しダメージを与えた。
不覚を取ったバルタンは、更に憤りを持った低い声でコスモスに問いかける。
「タカガウルトラマンゴトキニ・・ワタシハ・・・!」
ゆっくりと起きあがりながら、バリアで弾き返してきた彼を睨むバルタン星人。そこには・・・
両腕を胸の前で交差した後、その腕を下から大きく外方に回して金色のエネルギーを右腕に貯めているコスモスの姿があったーー。
エネルギーの貯まった右腕を構え、コスモスは静かに告げる・・・
「バルタン星人・・・君を今、自由にしよう・・・。」「ヤメロ・・ナニヲ・・・」
コスモスは光線のエネルギーが貯まった右腕を水平に伸ばすと・・・
「デェイヤァァァァーーーーッ!!」「ヤメロォォォォォォォ・・・!」
エクリプスモードの浄化必技『コズミューム光線』をバルタン星人の胸へ放った・・・。
- 49 :
- コズミューム光線がバルタン星人の体に放たれている間、その背中からは大量のカオスヘッダーが浄化されて吹き出ている。次々に出ていくカオスヘッダー・・・。そして・・・
「ウッ・・グッア・・・。」
全てを浄化されたバルタン星人が、ゆっくりと膝から崩れ落ちていった・・・。彼はカオスヘッダーに侵されながらも、自分の命を削って戦っていたのだ。しかしその顔は、浄化されてとても満足しているようにも見える・・・。
コスモスの想うとおり、彼は望まぬ力に苦しめられて暴れていた。この浄化はむしろ、望んでいたことなのかもしれない・・・。
白い光になって消えていくバルタンに、コスモスは優しく声をかけながら見送っていた。
「バルタン・・・。君の地球へ想いは、僕が受け継ぐ・・・。今まで、本当に有り難う・・・。」
コスモスに見送られ、バルタン星人は白い光になって散っていったのだった・・・。
数十分後・・・
騒動が収まった後の石碑の丘には、金髪を持った一人の青年が丘の頂上の木に触れながら、まるで懐かしむように町を眺めていた・・・。
空には既に夕日が落ちかけていて、麓にある満開のソメイヨシノが白から燃えるような紅に染まり始めている・・・。
- 50 :
- 「七年も帰ってないのに・・・あんまり変わっていないんだなぁ・・・。」
彼が自分の青い瞳で、暮れ泥む町を眺めながら呟いた時、春の暖かい風が吹き付ける・・・。
それと同時に、彼の持っている少し長めの金髪が柔らかそうに靡いた、次の瞬間だった・・・
「そう言う君も、ちっとも変わってないね・・・。」「えっ?」
背後から、誰かが話しかけてきた・・・。声からして、自分と同じぐらいの少女だろうか?
彼は声がした背後へと体を向けてみる。すると・・・
さっきの戦いの時に見た『亜麻色の髪を持つ少女』が、目の前に微笑みを浮かべながら立っていたーー。
まさかの登場に、彼は七年ぶりに見た彼女の姿に胸を高鳴らせながら、その名前を恥ずかしそうに小さく呟く。
「フサしぃ・・ちゃん・・・?」
彼に名前を呼ばれた少女は、瞳に溜めていた涙を流しながら嬉しそうな笑顔を浮かべ、約七年ぶりに彼の名前を呼ぶ。
「お帰りなさい、『タカラ君』・・・! ずっと・・・ずっと、待ってたよ・・・っ!!」
彼女は約七年ぶりに帰ってきた青年『擬古河 宝』(タカラ)の胸に抱きつき、嗚咽をしながら泣き出してしまった・・・。
遂に果たされた、『約束の再会』ーー。
- 51 :
- フサしぃが自分の胸に倒れ込むのに合わせてタカラも優しく抱きとめ、約七年間離れていた温もりを確かめる・・・。
今の二人には、それだけで十分だった。
約十年前に告白しあい、約七年前に離れ離れになった『恋人』が今、同じ場所で『再会』する・・・その喜びは、一言では絶対に表すことが出来ない。
その言葉で表せない心の底からの幸せを、彼らはこうして静かに感じとっていた・・・。
暫くの間抱き合った後、二人は大きく成長した丘の大木の根本に座り込み、自分の中に秘めていた想いを語り合っていた。
約七年の間に溜めていた色んな想いを言葉にして、互いにぶつけ合う二人・・・。話が進む中、体育座りをしていたフサしぃが弱気な声で発言した。
「君がいない間・・・私、ずっと会いたくて苦しかった・・・。苦しくて、タカラ君に今すぐに打ち明けたいこと・・沢山あるんだよ・・・。」
数十分前に見せた勇敢な姿とは違い、彼の隣で弱気で甘いところを見せるフサしぃ。タカラは顔を少し赤くしながらその呟きに答える。
「ずっと長い間、待たせて悪かったね・・・。僕も君と離れている間、本当に辛かったんだ・・・。苦しくて、逃げ出したいと思うことも何度もあったし・・・。」
- 52 :
- タカラの言葉に、フサしぃは申し訳なさそうに顔を半分膝の中にうずくめる。
横目で見た彼の表情から、この青年が約七年の間に体験した辛く苦しい訓練の日々を感じ取り、静かに口を開いた。
「ごめんね・・・。」「? いきなりどうしたの?」「私、自分のことで精一杯で・・・。何もタカラ君にしてあげられなかったね。見送り方もあんなに酷かったし・・・私、本当に自己中だから・・・。」
ハァとため息をつきながら肩を落とす彼女に、タカラが慌てて取り繕う。
「そ、そんな事は無いよ! 気にしないでって! それに、君との約束が僕の支えになってくれてたし。」「本当に・・・?」
夕焼けで赤く染まる町を見ながら、タカラは言葉を繋げる。
「さっきも言った通り、僕は訓練の辛さから逃げ出したくて、何度も地球に帰りたいって思ったことがある・・・。でもその度に、僕は君との約束を思い出していたんだ。早く一人前の戦士になって、地球に戻るんだって・・・!」
彼はフサしぃの方に視線を戻し、穏やかな笑顔を浮かべながら言う。
「しぃちゃんとの約束がなかったら、きっと途中で折れてたよ。心の支えになってくれて、本当にありがとう・・・。」
- 53 :
- あの時の覚悟があるから、今の自分がいる・・・。タカラの曇りの無い笑顔が、そう彼女に訴えかけていた。
彼の言葉と表情に、頬を赤く染めるフサしぃ。同時に、恥ずかしいという気持ちが胸の底から湧き水のようにこみ上げてしまう・・・。
「べっ、別に私は何も・・やってないよ・・・っ!」
タカラの顔をみるのが恥ずかしくて、顔を横に背けた。そんな彼女の行動に、タカラは思わずプッと吹き出してしまった。なんか・・・かわいい・・・。と言うよりも、昔のフサしぃより少しツンデレになった気がする・・・。
「なっ、何がおかしいの!?」「! ごめん・・何でもないよ。」「ハァ・・・タカラ君に笑われるし、宇宙人に狙われるし・・・今日は本当に厄日なんだなぁ・・・。」
フサしぃは更に顔が赤くなって、膝の中に顔を隠してしまう。タカラはそんな彼女をフォローするかのように話しかける。
「ふふっ・・でも、本当に君も変わってないんだね。その優しいところとか、他人を助ける思いやりも・・・。ちょっと、嬉しかったよ。君がもっと変わってて、僕のことを忘れちゃってるのかなって思ってたけどね。」
タカラの言葉に、フサしぃは少し赤みが引いた顔を上げて言葉を返す。
- 54 :
- 「本当? 結構私の中では変わったなって思ってたけど・・・。」
「確かに変わった所はあると思う。けど僕が言いたいのは、しぃちゃんの基本的な性格が変わっていないって事だよ。優しいし、素直なところも、ね。見た目は・・・とても綺麗になったけど・・・。」
顔を赤くしながら自分の外見について言うタカラに、フサしぃも少し顔を赤くしながら微笑む。
「うふふっ・・・そういうタカラ君も、優しい性格は全然変わっていないね。本当に、そのままウルトラマンになっちゃったみたい。でもそんな優しいタカラ君で、怪獣を倒せるのかな?」
半分冗談を含め、笑いながら話すフサしぃ。この無邪気な微笑みも少しは大人っぽくなったが、昔と殆ど変わっていない。
しかしその言葉に突然、タカラは彼女と180度逆の真剣な表情になって答えた。
「僕は怪獣や異星人をむやみにしたくはないんだ・・・。確かに地球を侵略したり、怖そうとする動きは僕だって許せない。でも人が他人の事を互いに知るように、怪獣や異星人と分かり合おうとする気持ちも必要だと思うんだ。」
「タカラ君・・・。」「僕は地球を救いたい・・・でも、地球を狙う宇宙人とも、分かり合いたいと思う。」
- 55 :
- タカラが町を見ながら言ったその瞬間、フサしぃの目には昔よりも遙かに成長した彼の顔が映り込んでいた・・・。
確かに自分は、優しい性格は全然変わっていないと言った。しかし今の彼は優しいだけでなく、ウルトラマンとしての重い覚悟を肩に背負った『優しさの勇者』に大きく変わっている・・・。
その青く輝く眼差しをじっと見ていると、何だか彼の中に吸い込まれそうで、その証拠として自分の鼓動が高鳴っていくのが分かる・・・。
彼女がこの自分の鼓動について考えていたとき、タカラが不安そうな顔で彼女に言う。
「僕の覚悟・・ダメかなぁ・・・?」
彼の不安気な表情に、フサしぃの心は救われた。そして、彼の覚悟は間違っていないと言うように顔を横に振った。
「ううん。君の覚悟は、間違ってなんかないよ。その優しい気持ちが、なんかタカラ君らしくて・・・。とてもカッコいいと思うよ。」「ありがとう・・・。」
そう言うと、二人は視線をゆっくりと沈む夕日に向けてみる。風の音も、車の音も全く聞こえない無音の時間が、彼らの間を過ぎて行く・・・。
無言の時間が過ぎていく中、フサしぃは思ったーーータカラは今でも、自分の事を『恋人』だと思っているのか、と・・・。
- 56 :
- 時間が経つに連れ、タカラにその話を切り出したい気持ちがウズウズしてくる・・・。
(今、彼は私のことをどう思ってるんだろう・・・友達ぐらいにしか思ってないのかな・・・。それとも・・・。)
たまらなくなって、タカラにその話を切り出そうとした瞬間、彼がフサしぃに突然声を掛けた。
「そろそろ・・・帰ろっか?」「・・・え?」「だって、もう夕日が落ち掛けているし。このまま此処に居ても、不味いと思うけど?」「あ・・・そうだよね。そろそろ、帰らなきゃ・・・。」
あ〜あ・・・せっかく聞こうと思ってたのに・・・と心の中で思いつつ、タカラが立つのに合わせて彼女も立ち上がろうとする。
不満そうな溜息を吐いたフサしぃに、タカラが心配して声を掛ける。
「どうした? 何か不満でもあった・・・?」「? ううん、何もないよ。(タカラ君、私の気持ちに気付いてよぅ・・・。)」
彼女がそう心の中で呟いた次の瞬間・・・
「! わっ!?」「!?」
今までずっと座っていたせいか、足がもつれて目の前のタカラに激突してしまった。しかも、其れだけでなく・・・
「んっ・・・!!!」「ーーーーッ!!!!??」
タカラの唇に、自分の唇が重なってしまったーー。
- 57 :
- 「きゃっ!」「うっ!?」
二人はそのまま抵抗することなく、丘の斜面に体を打ち付ける。と言っても、実際はタカラが下敷きになったおかげで、彼女には一切ダメージが掛からなかったのだが・・・。
タカラが二倍のダメージを受けた証拠に、ゴツッといういかにも痛そうな音が響きわたった。地面が芝生だからまだ良いが、これが石がゴロゴロの大地だったら、どうなっていたことか。
突然のトラブルキスに、倒れたまま互いを凝視する二人・・・。顔が真っ赤に染まり上がり、サウナにでも入ったかのように熱い。一体なんて声を掛ければいいだろう・・・。
取り合えず、この状況をどうにかしなくては・・・我に帰ったフサしぃは、自分の下敷きになっているタカラに声をかける。
「! タカラ君・・・大丈夫?」
タカラは痛そうに顔を引きつりながら返答する。
「一応大丈夫だけど・・先ずは降りてくれないかな・・・。ちょ・・ちょっと重い・・・。」「あっ・・・!」
彼の指示に従い、フサしぃはサッと彼の上から離れる。
タカラは痛そうに後頭部を捻りながら、顔を赤くしたまま小さく呟いた。
「今のは、反則だよ・・・。」「えっ・・・?」「な、何でもないよ! 行こう!」「うん・・・。」
- 58 :
- 更に数分後・・・
日が暮れて、茜色だった空がすっかり暗くなった頃、彼らはようやくに家の前に到着した。
あのトラブルキスの後から、二人は殆ど会話していない・・・。正直本当に気不味くて、何を言えばいいのか分からなかったからだ。
久しぶりに自分の家の前に立ち、タカラは全体を見上げてみる。約七年も経ってるのに、どこも変わってない・・・。結構ボロがきてるかと思っていたが、案外そうでもないようだ。
感慨深く見上げていると、後ろから鍵を持ったフサしぃが彼の横を無言ですり抜ける。
一瞬顔が見えただけだが、未だに赤く染まっているのが分かった・・・。キスをされた彼よりも、してしまった彼女の方が遙かに恥ずかしそうだ・・・。
彼が声を掛けようか迷っている時、彼女が弱々しい声でタカラに言う。
「さっきは、ごめんね・・・。いきなりのことだったから・・・。」
顔を赤らめながら、フサしぃはタカラに一言謝罪する。あの事を謝っているのだと理解した彼も、若干顔を赤くしながらも微笑み、言った。
「大丈夫。気にしてないよ!」「! うふふっ・・・ありがとう。」
タカラの表情にホッとしたのか、彼女も嬉しそうに微笑んだ・・・。
- 59 :
- 「ただいまぁ〜!」
鍵を開け、いよいよ自分の家へ入った二人。しかし・・・
「・・・あれ?」「誰も居ない・・・?」
玄関に入ったは良いが、家の中は真っ暗で誰も居ない。避難してしまったのだろうか・・・。
「しぃお母さーん、エーお姉ちゃーん、帰ったよ〜! タカラ君も一緒だよ〜!」
声を張り上げながら廊下を進む二人。しかし、やはり返答がない・・・。何処に行ってしまったのだろうか。
「変だなぁ・・・。今日はずっと家に居るって言ってたのに・・・。」「・・もしかして・・・。」
何かに感づいたタカラは、ゆっくりとリビングの扉を開けてみる。と、次の瞬間・・・
パァーーーン!!
『タカラ君、お帰りなさい! 宇宙警備隊入隊おめでとう!!』
「!!?」
真っ暗だったリビングに突然電気が点り、クラッカーの音と共にタカラの帰還を祝う声が響いた。
「な、・・・何だ!?」
突然のことで驚きながら周りを見渡すと・・・そこには、約七年ぶりに顔を合わせる懐かしい面々が立っていたーー。
「みんな・・・!」
- 60 :
- リビングに並ぶ、タカラにとって久しい顔ぶれ達ーーフサ、つー、モララー、ぎゃしゃ、モナー、のー、フー・・・そして実の姉であるエーと、母親のしぃ・・・。
彼らは全員、タカラの為に予めパーティーを予定していたのだ。
「タカラ、お帰り!」「みんな、ずっと貴方の帰りを待ってたのよ♪」「でも、みんなどうして僕が帰る日を・・・?」
タカラの疑問に、クラッカーを持ったつーが答える。
「エーちゃんの『夫』が、あたし達に教えてくれたんだよ!」「あっ! ちょっと、つーさんっ!」「へ? 『ゼロ兄さん』が・・・? あ、そう言えば・・・。」
慌てるエーの反応を見ながら、タカラは前にゼロに地球へ帰る予定日を聞かれた事を思い出した。
「そうか・・・。それで『兄さん』は・・・って、姉ちゃんがバラしたんだね?」「てへっ・・・ごめんね。」
小さく舌を出しながら苦笑いで返答するエー。
「でもパーティーを開こうって言ったのは、私達なの。」「! ぎゃしゃさん・・・。」
エーの言葉をフォローするように、フサ達がタカラに言った。
「ター坊・・とはもう呼べないな・・・。タカラ。これは元々君の帰りを祝って俺達で企画したのさ。」「僕達からのプレゼントだモナ!」
- 61 :
- 「折角の機会だし・・・まぁ、今までの苦労もこのパーティーで吹き飛ばせってことだな。・・・本当によく頑張ったな、タカラ!」「モララーさん・・・。」
目頭が少し熱くなり、瞳に涙が浮かんできているタカラにモララーはサムズアップをしながらウインクをした。
そこには、管理AI時代の暗くて冷たい笑みを浮かべた彼は確認されず、人間として暖かな感情を持った大人の笑みのモララーが顔に映し出されていた。
NCメンバー達の暖かい心に、タカラの青い瞳に溜めていた涙がポロリと一筋、頬を伝った。
「みんな・・・本当にありがとうございます・・・。向こうの生活は辛かったけど・・・僕は本当に、夢を諦めないで・・良かったです・・・。」「タカラ・・・。」
涙を流しながら言葉を繋げるタカラに、しぃの青い瞳も潤んでいる・・・。あの幼かった息子が、立派な青年に成長して戻ってくるとは・・・。母親として、あの子の夢に託して本当に良かったと心の中で感じていた・・・。
彼が泣くのを見て、のーが軽いツッコミを入れる。
「あらら・・・パーティーの前から泣かれても、困るなぁ(汗)。」「フサしぃちゃん。協力してくれてありがとうモナ!」
「・・・えっ? 今、なんて?」
- 62 :
- モナーの口から出たある言葉に、タカラはもう一度聞き返す。
何で・・フサしぃが関係しているんだ・・・?ーーそう言いたげな顔に、モナーはニヤケながら言った。
「パーティーをやる事はフサしぃちゃんも知っていたモナ。だから、わざとタカラ君に言わないように頼んでおいたモナよ。」「え・・・?」
タカラは目が点の表情でフサしぃの方を向く。彼女は舌を小さく出しながら、まるで小悪魔のような意地悪な笑みを浮かべたまま言った。
「家に入ってからは、全部演技だったの。隠しててごめんね、タ・カ・ラ・君♪(はぁと)」
「え・・・えぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」
フサしぃの見事な演技に騙されたタカラの声に、一同は爆笑の渦に巻き込まれた。
爆笑の後、モララーが真ん中に立つと、いよいよパーティー開始の合図がとられた。
「それでは皆様、タカラの帰還と宇宙警備隊入隊を祝って・・・」
「乾杯ぃ!!!」『かんぱぁぁいぃぃぃっ!!!』
- 63 :
- 乾杯の合図と共に始まったパーティーはすぐに盛り上がり、タカラを中心に楽しく時間を過ごした。約七年ぶりに彼らの前に姿を表した彼も、その空白を感じさせない程に忽ち仲にとけ込んでいく・・・。
パーティーが始まって数十分後、タカラは自分の姉である『エー』に話しかける。
「姉ちゃん・・・?」「ん? どうかしたの?」「いや、特に用事はないんだけど・・・何だか久しぶりで、話したくなっちゃった。」「ふぅん・・・。お母さんとは話したの?」
「うん。『夢が叶って、良かったわね』って何度も言って、とても喜んでたよ。自分の事のようにね。」
エーは彼の横顔を見ながら、穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「ふふっ、それはそうよ。お母さんは、タカラの事をもの凄く心配していたのよ? 毎日アヒャとお父さんが帰ってくる度に、『タカラはどうしてたの?』って聞いてたぐらいだもの。」「本当!? 毎日聞かれてお父さん達、嫌がってなかった?」
タカラの驚きの反応に、彼女は首を横に振りながら答える。
「ううん。寧ろ、貴方の成長をニコニコしながらお母さんに報告してたよ。みんな其れだけ、タカラの事を心配していたということなの。」「・・そうだったんだ・・・。」
- 64 :
- エーは自分の手にある、カップの中のメロンソーダを眺めながら言う。
「自分の子供を心配する気持ちは、私も母親になってから初めて分かるようになったの・・・。だから今は分からなくても、タカラに子供ができれば、自然と分かるようになるよ。」「子供、か・・・。」
タカラが、フサと話している笑顔のフサしぃの姿を見ながら呟いた、次の瞬間だった。
「ママ、そこで何してるの?」「? ママ・・・?」
振り返ると、自分の腰ぐらいの身長しかない小さな女の子が、二人をまじまじと見つめていた。
彼女は見たことがない青年の姿に、頭上にハテナを浮かべながら言う。
「お兄ちゃん、誰?」「! ぼ、僕は・・・って、姉ちゃんもしかして・・・。」
タカラは半分驚きながらエーに聞く。
「あ、タカラはまだ知らなかったんだよね。紹介するよ。この子が、私の娘の『珠璃』。ちょっと人見知りだけど、優しい子なのよ。」「へぇ・・この子がジュリちゃんか・・・。」
エーに似ているなと納得しながら笑みを浮かべているタカラに、ジュリは未だに視線を彼に合わせたままじっと見つめている。
「ジュリ。このお兄さんは、ママの弟のタカラよ。おじいちゃんに似ているでしょ?」「宜しくな!」
- 65 :
- 優しく手を差し伸べるタカラに、ジュリもゆっくりと手を差し出し握手をする。と、次の瞬間・・・
「・・・!」
握手をした瞬間、ジュリの手から何かのエネルギーを感じ取った・・・。光の力のようだが、今までに感じたことがない新しい感覚が手の中を伝わっていく・・・。
それに、その力も限り有るものではなく、無限に広がっていく宇宙のように限界が見えない・・・。
「? タカラ? どうしたの?」「ん? いや、何でもないよ。」
握手を止めてからわざと何もないように取り繕うタカラに、少し複雑な表情を浮かべるエー・・・。
そこに、シャンパンの入ったグラスを手に持ったモララーとぎゃしゃがタカラに話しかけてきた。
「見当たらないと思ったら、こんな所にいたんだな・・・。」「モララーさんに、ぎゃしゃさん・・・。」「パーティーの主役が何でこんな所にいるんだ?」「丁度姉さんと話したかったんです。」
「タカラ君も、エーちゃんに会うのが七年ぶりだものね。」
ぎゃしゃが優しい微笑みを浮かべている隣で、モララーはタカラと握手をしてからフーの所へ行ったジュリを見ながら言った。
「俺もあんな子供が欲しいなぁ・・・。明るくて優しい子がさ。」「・・・え?」
- 66 :
- モララーの『子供が欲しい』と言う言葉に、再び目が点になるタカラ・・・。二人はそれに構わず、口論を始めてしまった。
「無理言わないでよ〜! 貴方が元から暗い性格じゃなかったら・・・」「ちょっ、今は立派に明るい性格だからなっ! そう言う『唯』だって暗い方だろ?」「私だって明るい性格になったもん! それ以上言うと虐するよ!」
口論を始めている二人を見ながら、タカラは静かにエーに聞いた。
「姉ちゃん・・・。」「?」「モララーさんとぎゃしゃさんって、結婚したの?」「うん。二年前に結婚したのよ。」「へぇ・・・。」
タカラが納得しながら口論を見ていると、彼らの後ろから『ある人物』の声がかかった。
「おいおい二人とも、喧嘩はそこまでにしておけやゴルァ! 主役が喋り難いだろ?」「!」
後ろから聞こえた怒鳴り声にも似たそれに、一同は驚きながら視線を合わせる。すると・・・
タカラと同じ金髪にエーと似た緑色の瞳を持つ男性と、燃えるような赤い髪に穏やかな黄色い瞳を持った青年の二人が廊下の入口に立っていたーー。
「よっ、お帰り!」「久しぶりだな、コスモス。・・・いや、『タカラ』と呼ぶべきかな?」
「お父さんに、アヒャさん!」
- 67 :
- 「お前・・いつの間に・・・?」
周りはギコの登場に一瞬シラケる・・・。いきなり登場したのだから、仕方ないだろうが・・・。
「ちょ、シラケることは無いだろう・・・。」「おい、KYギコ! タイミング考えろって! パーティーはとっくに始まってんだぞ?」「ウルセー! ベムラーを倒しに火星に立ち寄ってたんだから、仕方ないだろっ・・痛っ・・・。」
フサの突然のツッコミに、キレ返すギコ。血がつながってもないのにまるで兄弟のような性格は、彼らの特徴だ。
場の空気が戻りかけた時、今度はしぃが声をかけた。
「! ギコ君、その肩の傷はどうしたの!?」
よく見ると、右肩に大きな引っかき傷がある。三本の爪で胸の近くまで大きく抉られて、未だにその口から赤い血液が流れている・・非常に痛そうだ・・・。気づかなかったが、ギコの顔色もあまり良くなく、表情も少し引きつっている。
「ベムラーの奴・・右肩を思いっきり引っかきやがって・・・・うっ・・・。」「! ギコ君!?」
突然倒れかけたギコに、しぃは急いで駆け寄って彼の左肩を支える。出血が多く、若干貧血状態になっているようだ。
楽しかった場の空気が、再び張りつめる・・・。
- 68 :
- 「大丈夫!? 何でこんな無茶したのっ!」「無茶って・・彼奴が襲ってきたもんだから・・・。」「もう・・・。」
しぃはギコの右肩に手を翳すと、管理AIだった時からの能力を使い、蒼い光を当てて彼の傷を修復していった。
彼女の能力はこのように、心の清らかさを表すかのように蒼く優しい光の力をモデルにして作られた。それ故、その能力が息子のタカラに遺伝し、今のコスモスの力へと発展したのだ。
傷を治療している間、エーは不満そうに眉を曲げてアヒャを睨む。彼女の目が、『何でお父さんをかばわなかったの?』と憤りを訴えていた・・・。
それに気づいたのか、ギコがエーに言った。
「栄香。ゼロは何も悪くない・・・。俺が単独で戦ってピンチだった時に、助けてくれたんだ。罪もない奴に濡れ衣を着せないでくれ・・・。」「お父さん・・・。」
ギコがそう言っている内に、傷の治癒が終わったようだ。しぃは翳していた手を離し、息を切らせながらギコに言う。
「ハァ・・ハァ・・もう無茶なこと・・しないでね・・・っ。結構疲れるんだから・・・。」「しぃ・・・いつも、ありがとう。」
ギコの言葉に、しぃも嬉しそうな笑顔で頷いた・・・。
- 69 :
- ホッとしたところで、パーティーは再び盛り上がり始める。
タカラがフサ達と話している間、キッチンの前にあるカウンター椅子に座っているエーの隣には、彼女の夫であるアヒャが寄り添っていた・・・。
楽しそうに会話しているところを、ただ無言で眺めている二人。あのギコの件以来、ずっと気まずいまま話していないのだ・・・。そんな重い空気の中、最初に沈黙を破ったのはエーからだった。
「ねぇ、アヒャ・・・?」「ん?」「さっきお父さんが言った事って・・・本当なの?」
彼女の質問に、アヒャは分かってくれとでも言うような表情で小さく頷く。そんな彼の反応を見たエーは、少し瞳を潤わせたまま落ち込んだ表情でため息を吐いた。
彼女は心の中で、少しでも彼を疑った自分が許せず、恥ずかしくなっていたのだ・・・。
「・・疑って、ごめん・・・。貴方を疑った私が、凄く恥ずかしいよ・・・。信用しないなんて・・妻失格だね・・・。」
「おいおい・・・。そこまで気を落とすなよ・・・。自分から言わなかった俺も悪いし、お互い様さ。」
「本当に・・・?」
「・・・でも、やっぱりもうちょっと信用して欲しかったかなぁ・・・?」
「! もう・・・意地悪いんだから・・・。」
- 70 :
- 只今、全サーバー規制の為更新できなくなってしまいました。
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過去ログには入れないでください。
- 71 :
- 「ハハハハ・・・。」
エーの膨れっ面に思わず苦笑いをするアヒャ。
その時、彼らの間から薄紫色の髪をポニーテールにまとめた若い女性が話しかけてきた。
「あれぇ? 二人で何しとるん? また喧嘩?」「! のーちゃん・・吃驚したなぁ・・・。」「ちょっ、エーちゃん・・・驚く事は無いんとちゃうか・・・?」「仕方ねぇだろ? お前がいきなり背後から話しかけて来るもんだからさぁ・・・。」
のーはタカラ達を見ながらエーの右隣により掛かって、コップに入ったサイダーに口をつける。
「そう言えば、タカラ君とは話したの?」「うん、ちょっとだけね。此からは一緒に暮らすから。」「まぁ、そうやからなぁ・・・。アヒャはんは?」「俺は光の国で毎日会ってるから、話すことは特にないな。」「ふぅん・・・。」
そう言うと、三人はタカラ達の様子を見ながら暫く沈黙をする。
タカラやフサしぃの楽しそうな表情を見ていると、十年前の自分達の姿がそのまま重なって見えてくる・・・。
自分達が高校一年・二年生の時も昼休みに、教室前や廊下、屋上でこんな風にどうでも良い会話をして、無邪気に笑っていたっけ・・・。
そんな時から早十年、今度は大人としての自分達が、ここにいる。
- 72 :
- 自分達はもう二度と、あの頃のような高校生には戻れないのだ・・・。
そう言えば、こうして三人で顔を会わせるのも久しぶりの事だ。エーとのーは買い物等で会うことがあるが、アヒャは宇宙へ行っているため顔を見せる機会がない。
そんな事を察してか、のーが眉を少し曲げてエーに聞いた。
「なぁ、エーちゃん・・・。」「ん?」「アヒャはんには、ちゃんと休みがあるの? うちには何だか、前よりも痩せて疲れてるように見えるんや・・・。」「う・・・。」「! 有るに決まってんだろ?」
返答に困っているエーに、アヒャがあわてて取り繕うとする。のーは改めて彼に視線を向けた。
「俺は向こうへの滞在勤務が週に二回有るから、交代しながら仕事してるんだ。怪獣出現の通報が無いときは、光の国の補修や整備に当たることもある。休みの日は家族といつも一緒だし、休養もとれてるから心配ないさ。な、エー?」
「! う、うん! そうだよ。」「・・・本当に?」
彼らに向けて疑いの視線を向けるのーに、エーは補足するように説得する。
「のーちゃん、本当だよ。アヒャは仕事で宇宙にいることは多いけど・・・地球で待機する日とか、休みの日はいつも一緒にいてくれてるんだから。」
- 73 :
- 「なら、いいんやけどなぁ・・・。」「何だよ・・信用ねぇなぁ・・・。」
彼女の言葉に肩を落として不満そうなため息をするアヒャに、のーは首を傾げながら彼に聞く。
「? 何であんたが落ち込むんや?」「お前、俺の言葉を信じてないだろ・・・。」「! べ、別にそう言う訳やないねん! ただ、最近過労で死ぬ人が多いからウチなりに心配してただけや!」
「無理に訂正しなくてもいいよ・・・どうせ、俺は・・・」「ちょっと、アヒャはんって!」
更に肩を落として『orz状態』になった彼を、必死に説得するのー・・・。そんな彼らの様子を、エーはクスクスと笑いながら見ているのだった。
この後、彼は立ち直るまでかなりの時間を要した・・・かは、定かではない。
フサ達が企画したパーティは、タカラやフサしぃだけではなく、むしろ企画した彼ら自身にとっても楽しい時間となっていた。
中でもエー・アヒャ・のーの三人にとっては、まるで高校時代のようにふざけ合い、無邪気な頃に戻る事が出来た、貴重で大切な時間だったに違いないだろう・・・。
- 74 :
- 第二話 COSMOS〜フサしぃの秘密〜
あれから約四時間後・・・
パーティーがお開きになり、その後の片付けも全て終わった後・・・。タカラは風呂に入ってから、テレビを見ながら緑茶で一息を入れていた。時刻は既に、22時を過ぎている・・・。
あの後、つー以外のメンバーは無事に家へ帰っていったようだが、フサは酔いつぶれて眠りだしてしまったつーを背中に背負い、フーと共に帰った。
フサやモナーの証言によると、彼女は元々お酒が好きなのだが、酔い始めると必ず発狂しだして眠ってしまうのだそうだ。
・・・考え方によってはかなり危ない性格だ・・・。
彼らが無事に帰ったのか気にしながら、タカラはチャンネルを回してニュースをつける。
ニュースの内容はどの局も似たような物が流れているが、そのどれを見ても、約七年前と比べて暗いニュースがばかりが目立っている気がする・・・。
自分が地球から離れている間に、世界では恐慌や犯罪などの混沌が溢れるようになってしまったのだ・・・。
(・・こんなに地球が酷くなってたなんて・・・。)
彼がそう感じながらリビングの周りを見渡していると、突然誰かがいない事に気付いた。
(あれ・・・? しぃちゃんは?)
- 75 :
- そう。今更気付いたが、風呂から上がった後からフサしぃの姿がいつの間にかなくなっていたのだ。
彼女も風呂に入った後なので、普通に考えれば自分達の部屋にいる筈だが、さっき自分が部屋に荷物を置きに行ってもいなかった。唯一、風呂に入る前にエーと皿洗いをしている、長髪が湿った状態のフサしぃを見かけたが、それ以来見ていないのだ。
こんな夜遅くに、出掛けてる事はまず無い筈だが・・・。
気になったタカラは、居間から出てきたジャージ姿の姉に聞いてみた。彼女は丁度、珠璃を寝かしつけた後のようだ。
「うぅーん・・疲れたぁ・・・。」「姉ちゃん。」「ん?」「しいちゃんが、何処に行ったか知らない?」「! うふふっ・・・知りたい?」「知りたいけど・・・何か、随分意味深だね・・・。」
エーはその長い髪を指で軽く流した後、意味あり気な笑顔を浮かべながら言う。
「あの子なら今、きっと石碑の丘にいる筈だよ。何をしてるかは、自分の目で確かめるといいよ。」「石碑の丘? 何でそんな所に・・・?」「さぁね。だから人に聞くよりも、自分で確認してきなさいって言ってるの。」
タカラは少し悩んだ後、答えを出した。
「・・・分かった。ちょっと、行ってきます。」
- 76 :
- 「もう遅いから、お母さんに怒られる前に早く帰るのよ!」「分かってるって!」
エーが玄関から見送る中、タカラは袖が青いポーカーをパジャマの上から着込み、白いスニーカーを履いて外へと出掛けることにした。この服装で、一応外に出るには問題はない。
ここから石碑の丘まではそんなに距離が離れている訳ではない為、彼は夜の大通りをのんびり歩くことにした。
昼間には車の往来が多い大通りは都会とは違って、この時間帯にもなれば静寂の中に眠る太い一本の道だ。その道の近くに軒並み建っている建物も、星の下を寝床に眠っている・・・。今の歩行者は、タカラ一人のみだ。
彼は歩いている間に何故彼女が石碑の丘に居るのか、そこで何をしているのかを頭の中で想像させてみる・・・。
彼の思想は、フサしぃについてますます気になるばかりである。
一方、石碑の丘では・・・
薄桃色のポーカーを羽織った亜麻色の長い髪を持つ少女が、頂上の木の下で静かに星空を見上げていた。彼女の見る先には相模湾があり、その上で大きな満月が輝いている・・・。
太陽からの光を浴びて優しく輝く月を見ながら、その少女は何処か悲しそうに眉を曲げ、瑠璃色の瞳から一滴の涙を頬に伝わせた・・・。
- 77 :
- 数分後・・・
静寂に眠りつく町中をひたすらに歩いていたタカラは、ふと足を止めた・・・。石碑の丘はもう目の前だ。
あれから歩きながら彼女の事を考えていたが、やはり検討が付かない・・・。一体何の目的があってここにいるのか・・・それさえ分かれば苦労はしないが・・・。
彼はため息を吐きながら夜空を見上げてみる。
澄み切った漆黒の空に浮かび上がる、満点の星達・・・その星の一つ一つが、まるで蛍のように命を燃やしている・・・。自分はつい数時間前、この星空の彼方から故郷である地球に降り着いたのだ。
飛んでいる時は気にも掛けなかったが、音もなく過ぎていく星々の輝きが、それぞれ歌っているようにも見える・・・。
そんな風に感じながら夜空を見上げていると、背後から暖かい春の微風が自分を通り越して、石碑の丘の方向へと空気を運んでいった・・・。それもただの微風ではなく、その中から何処かシンセサイザーのような楽器の音が聞こえてきたのだ。
風に舞った砂埃が、月光に照らされてキラキラと輝きを放っている・・・。
(この綺麗な音は・・何だろう・・・。)
タカラがそう思った次の瞬間・・・
彼の周りにある自然全てに、ある『奇跡』が起き始めたーー。
- 78 :
- 突然、自分の目と鼻の先にある石碑の丘の頂上が青白く輝き始め、それに応えるように桜の並木やその他の植物が音を奏で始めたのだ。それもただの音ではない・・・美しい音色を持った、素晴らしい音楽になっているのだ。
更にそれだけには留まらず、今度は自分の頭上にある星達が音楽に合わせてキラキラと瞬き始めた・・・。
(光の声が 天高く聞こえる・・・
君も星だよ みんな、みんな・・・)
「この歌は・・・? とても綺麗だ・・・。」
まるで夢のような神秘的な世界が、彼を包み込んでいる・・・。
タカラは青白い光が一体何なのかを知るために、石碑の丘に一歩ずつ近づいてみる。すると・・・
青白い光に包まれている頂上に、『亜麻色の長い髪』を持つ『一人の少女』の姿が見えたーー。
錯覚ではない。タカラが今まで捜していた少女が、そこにいる。
「・・・! しぃ・・ちゃん・・・?」
タカラが驚いている内に、その少女は周りの自然が奏でる伴奏に合わせて歌いだした・・・。
- 79 :
- 挿入歌:
COSMOS(アクアマリン原曲版)
1. 2.
夏の草原に 銀河は高く歌う 時の流れに 生まれたものなら
胸に手を当てて 風を感じる 一人残らず 幸せになれるはず
君の温もりは 宇宙が燃えていた
遠い時代の名残 君は宇宙 みんな命を燃やすんだ 星のように、蛍のように・・・
百億年の歴史が 今も身体に流れてる・・・ 光の声が 天高く聞こえる
僕らは一つ みんな、みんな・・・
光の声が 天高く聞こえる 光の声が 天高く聞こえる
君も星だよ みんな、みんな・・・ 君も星だよ みんな、みんな・・・
(転調)
光の声が 天高く聞こえる
君も星だよ みんな、みんな・・・
君も星だよ・・・
- 80 :
- それは、ほんの五分間の出来事に過ぎなかったーー。
星や周囲の植物が奏でるメロディーに併せて、清水のように透き通った彼女の美しい声が、星の瞬く漆黒の空へと響き渡る・・・。
それはまるで社会の中に広がった混沌(カオス)の中で、小さな秩序(コスモス)がその場所で一輪の花を咲かせているよう・・・。とても不思議で幻想的で、また儚く過ぎてしまった時間でもあった・・・。
歌が終わると同時にフサしぃを纏っていた青白い光は消え去り、辺りは再び静寂の中に沈む・・・。
彼女の天使のようなその歌声に心を奪われていたタカラは我に帰り、丘の頂上で夜空を仰ぎながら小さくため息をついている彼女に駆け寄った。
「・・ここにいたんだね・・・。」「! 誰っ!?」
彼は木の陰から出て、月明かりに自分の顔を照らす。
「僕だよ。」「! タ、タカラ君・・・。」「隣、良いかい?」「うん・・・。」
そう言うと、彼は取り合えずフサしぃの右隣に寄り添うことにした。
月明かりに照らされて、両者の瞳が青から瑠璃色に輝きを変える。そんな二人の顔は、熟れた林檎のような色に染まっている・・・。
- 81 :
- 彼らだけで居ることが多いのに、二人とも何故か気まずくなっていた・・・。
重い雰囲気の中、タカラは彼女の身体に起きた現象である事が分かった・・・。しかしそれは彼にとって、信じたくない現実と向き合わなければならないことを意味している。
(まさか・・しぃちゃんは・・・。でも、そんな筈は無い・・・よね?)
どのように話し掛けたらいいか分からず、もどかしそうにするタカラ・・・。その時、今まで静かだった亜麻色の天使が重たい口を開けた。
- 82 :
- 「ねぇ・・タカラ君・・・。」「?」「もしかして・・・私が歌ってたの、見てたの?」「・・・うん。とても綺麗だったよ! なんか幻想的で、聞いてたら気分がホッとして・・・」「じゃあ・・私が青白く光ってたのも知ってる・・・?」
「! ・・それは・・・。」
いきなり聞かれた質問に、タカラは眉を曲げて困惑な表情を浮かべる。その質問にはとても答えたくない・・・そう言いた気に戸惑う彼に、フサしぃは不満そうな表情で更に言う。
「お願い・・・。君が言いたくないのは分かってるよ・・・。でも、ちゃんと答えて欲しいの。どうだったの?」
彼女の説得に、タカラは戸惑いながらも小さく頷いた。その反応を見たフサしぃは、何故か顔に悲しそうな笑みを浮かべた。この表情が意味するものは、一体何なのか・・・。
「そっか・・・。私の秘密、見られちゃったんだ・・・。」「しぃちゃん、本当にごめん・・・。でも、君も僕に何か隠していないか・・・?」「・・・。」
二人の間に再び暖かい風が通っていく・・・。フサしぃは少し顔を俯かせながら呟く。
「ねぇ・・・。」「ん?」
「私が・・・私がもし、地球の人間じゃなかったら・・・?」
「えっ・・・?」
- 83 :
- 突然彼女から出た言葉に一瞬疑問符が浮かんだが、タカラはすぐにその言葉の意味を理解した・・・。
「しぃちゃん・・君は・・・。」「私・・・本当は地球人じゃないんだ・・・。私はね・・・」
「私は月で生まれた、『月星人』なんだ・・・。」
「! 月の・・人間・・・?」
フサしぃは暗い表情を浮かべて、静かに頷いた・・・。更に、頷いた直後に彼女の瞳から一筋の涙が流れ落ちる・・・。
「酷いよね・・・。地球の人間だなんて大きな嘘・・・ついてたんだもんね・・・。」「・・でも、どうして地球に・・・? 月の文明は、復活したんじゃ・・・。」
彼女は次々に涙を流しながら、涙声で答える。
「私が小さな頃に、ナックル星人が月を強奪しようとして・・・みんなを次々にしたの・・・。」「! そんな、まさか・・・。」
フサしぃの脳裏には、月の住人達が沢山の呻き声と共に倒れていく映像が鮮明に浮かんでいる・・・。
「月の文明が倒れる中、エースさんとジャックさんが助けに来てくれて、生き残った私の家族は地球に逃げ出せたの・・・。でも私は友達を大勢失って、独りぼっちになってたんだ・・・。」
「そうか・・・それであの時のナックル星人は、君達を・・・。」
- 84 :
- フサしぃの足元には涙が一滴、また一滴と地面へ落ちていく。タカラはそれを、ただ複雑な表情で見ているしか出来ない・・・。
彼女は時から、自分よりも辛い気持ちで今日までを過ごしてきたのだ。それに比べたら、自分の努力は全く比べ物にならない・・・。
光の国のことを大っぴらに話していた夕方の自分が、恥ずかしくなっていた。
「夕方に言ったように・・・私、タカラ君がいない間はずっと、友達とあまり話せなくて苦しかった・・・。いつか私が、みんなと違う事に気付かれて・・・敬遠されるのが怖かったの・・・。あの時みたいに・・・。」「しぃちゃん・・・。」
「それでも私は、ずっと君に会いたかった・・・! 君と沢山、いろんな事を話したかったの・・・! なのに、君はっ・・・!!」
歯ぎしりをたてながら握り拳を握り、タカラに対して怒りをぶつけるような形相になるフサしぃ・・・。それはまるで、今までの苦しみを伝えるかの如く厳しく、また哀しい表情だった・・・。
暫くして歯ぎしりと握り拳を止め、溢れていた涙を右腕で拭うと、彼女は再び悲しい微笑みを口元に浮かべてタカラに顔をむかせる。
自分に向かって強がっているのだなと、タカラは理解した・・・。
- 85 :
- 「・・・ごめんね。最近・・たまにこういう時があるんだ・・・。でも、一番辛かったのはタカラ君だし・・・君に弱音なんて、吐いてられないや。やっぱり私って・・・自己中なんだね・・・。」「しぃちゃん・・・。」
「・・・もう遅いし、帰ろ? 眠たくなっちゃった・・・。」
彼女はそう言うと、背中を寂しそうに揺らしながら丘の下に降りようとする・・・。タカラは彼女の行動を見て、今まで殆ど閉じていたその重い口を開けた。
「やっぱり君は・・狡いよ・・・。」「え?」「君が謝る所じゃないのに・・・何で君から謝るんだ・・・?」「タカラ君・・・何を言ってるの・・・?」
「君は今までそのようにして、痛みをずっと自分の中にしまい込んでいたんだね・・・? 他の人に、自分の弱いところを見せたくないから・・・。」「・・・うるさいなぁ・・・。」
「そうやって強がって、君はまた自分の痛みを心の中に閉じこめるつもりか?」「うるさいよぉっ!!!」
フサしぃが眉間に皺を寄せてタカラに振り向いた、次の瞬間・・・
彼女の顔はタカラの一回り大きな胸に抱きしめられ、背中を彼の暖かい腕が優しく包み込んだーー。
- 86 :
- 突然抱きしめられ、顔を真っ赤にするフサしぃ。
「きゃっ!?」「本当にごめんね、しぃちゃん・・・。君じゃなくて、僕が自己中だったよ・・・。光の国に行かなければ、君は寂しい思いなんてしなかっただろうに・・・。僕の責任だ・・・。」
「タカラ・・君・・・。放してよ・・・っ。」「約束する・・・。僕は二度と、君を独りぼっちにはしない。だからもう、痛みを自分の中に閉じこめないで・・・。」
「・・・ねぇ・・放してよぉ・・・ぐすっ・・・。」「無理に強がらなくていい・・・そのままの君で、居て欲しいんだ・・・。」
「ぐすっ・・・うっ・・・ううぅ・・・。」「辛かった事を一杯、吐き出して良いんだよ・・・。僕が全部受け止める。僕は何時でも、君の味方だから・・・。」
「うぅぅぅっ・・・タカラくぅん・・ぐすっ・・・うぁぁぁぁん・・・ひぐっ・・すん・・・。」
彼の優しい言葉と温もりに包まれ、彼女は大粒の涙で顔を濡らしながら、タカラの暖かい胸の中で声を挙げて泣き出してしまった・・・。
タカラの前では、もう泣かないと決めていたのに・・・。それでも彼女にとって、彼という存在は自分の弱味も全て受け止めてくれる、『この世で一番大切な人』なのだ・・・。
- 87 :
- 数分後・・・
フサしぃは暫く彼の胸の中で泣いた後、二人で木に寄り掛かりながら、星で一杯になっている夜空を仰ぎながら話していた。
「綺麗だね・・・。」「うん・・そうだね・・・。」「タカラ君は、さっきあの星から来たんだよね?」
彼女が指で示した先には、一際強く輝く星がある。あそこがウルトラマン達の故郷ーー『M78星雲・光の国』だ。タカラは七年のも間、そこで戦士としての厳しい訓練を受けていたのだ。
タカラは微笑みながら彼女に言う。
「そう・・・。一際輝いてるけど、あれが300万光年離れている『ウルトラの星』だよ。」「そんなに離れてるの?」「ああ・・・。僕はそこからワープで飛んできたんだ。」「ワープって・・・何?」
タカラのワープという言葉に、キョトンとした表情を浮かべるフサしぃ。
「うーん・・・分かりやすく言うと、遠い場所に行くために、その近くまでショートカットする事を言うんだ。僕らは光エネルギーを使って、行きたい星の近くにその空間を作る事が出来るんだ。テレポートみたいに寿命は縮まないし、手軽な手段だよ。」
タカラの説明に、彼女は少し眉を曲げてみせる。やはり少し分かり難いようだ。
- 88 :
- それに構わずタカラは話を続ける。
「テレポートは瞬時に体を別の場所に飛ばすから大量の体力を無くすけど、ワープは空間を作って飛び込むだけなんだ。でも直接その星に行ける訳じゃないから・・・あ・・・。」
フサしぃの困惑した表情に、タカラは話すのを止めて申し訳なさそうに聞く。
「ちょっと・・難しい話だったかな・・・。」「ちょっとじゃないよぉ・・・。私にはタカラ君が何を言ってるか、ぜーんぜん分かんないや。」「ごめん・・・。」
苦笑いを浮かべながら聞くタカラに対して、フサしぃは彼の表情を見ながら顔を膨らませる。しかし、その後に突然クスクスと笑い出した。一体何がそんなにおかしいのか。
「うふふふふっ・・・。」「? 何がおかしいんだ?」
「やっぱり、タカラ君と話すのは楽しいなぁって。色んな事を教えてくれるし、私が言いたい事も受け止めてくれるし・・・時々、全然意味が分からないことも言うけどね♪」「おいおい・・・それは勘弁してくれよぉ〜。」
頭を掻きながら顔を赤くし恥ずかしそうにする彼に、フサしぃは微笑みから表情を変えて、無邪気な笑みを浮かべていた。
- 89 :
- 二人は再び星を見上げて、口を閉じてみる・・・。
頭上をゆっくりと流れていく星はキラキラと静かに瞬き、時の流れをまるで感じさせない。じっと見ていると浮いているような錯覚に陥り、自分も宇宙の星の一つになっている感覚になる・・・。
ふと、フサしぃが沈黙を止めてタカラに話す。
「さっきの歌はね・・・つーお姉ちゃんから教えてもらったんだよ。」「えっ、あの人が? 意外だなぁ・・・。」
「うん。実際に歌ってくれて、とても綺麗だったから私も気に入っちゃったんだ。それ以来、私はこの場所で晴れた夜に歌ってるの。毎日じゃないけどね。」
「へぇ〜・・・。でもどうして『夜』なんだ? 昼に歌わないの?」
理由を聞くタカラに、フサしぃは恥ずかしそうに小さく言う。
「だって、夜に歌った方が気持ちが良いし・・・君が一番近くに居るような気がしたんだもん・・・。」「え?」「! やっぱり、何でもないっ!」「ふぅん・・・。」
タカラが『ま、いいか』的な反応を示した後、フサしぃは少し不満そうな表情を浮かべる。何だか軽く受け流された気がしたからだ。
不満そうな表情を暫くした後、彼女は再び眉を曲げた表情になって、タカラに話しかけた・・・。
- 90 :
- 「タカラ君・・・。」「ん?」「空を飛ぶって、どんな気分なの・・・?」「う〜ん・・・今でこそ普通だけど、ウルトラマンとして初めて空を飛んだ時は、本当に新鮮な気分だったよ。重力から解放されて、自由の身になったみたいにね・・・。」
タカラの気持ち良さそうな表情を、彼女は羨ましそうに瞳を輝かせる。
「いいなぁ・・・。私も、空を飛べる力が有ったらいいのに・・・。」「いきなりそんな事を聞くなんて、どうしたんだい?」
「私・・・前からちょっとした夢があるんだ。」「?」
「・・・もし私に自由に飛べる力があったら、いつか君と一緒に、この空を飛んでみたいなぁって・・・。」
彼女の意外な夢に、タカラは一瞬驚いたような表情をするが、何かを思いついたのかすぐに口元に微笑みを浮かべた。
そんなことを知らずに、フサしぃは残念そうな笑みを浮かべながら、更に話を続ける。
「でも・・・無理だよね。非現実的だし、私は宇宙人といっても飛ぶ力なんて無いし・・・」
「いや・・・。その願い、無理なんかじゃないよ。」
「・・・えっ?」
彼の自信あり気な答えに驚くフサしぃ。どちらかと言うと、驚くと言うよりも動揺に近い。
- 91 :
- 「何言ってるの・・・? 私は宇宙人だけど、殆ど地球の人と変わり無いって・・」「大丈夫。頭がおかしいと思ってるだろうけど、本当に出来るよ。ただ、君が考えてる事とはちょっと違うかもしれないけどね。」「え・・・?」
彼はそう言うと、言っている事が理解できていないフサしぃをそのままに、自分のポーカーのポケットからコスモプラックを取り出すと・・・
「ちょっと待ってて・・・。『コスモォォス!!』」
「きゃっ!」
夜空に向かって掲げ、巨人としての姿である『ウルトラスモス・ルナモード』へと変身した。
コスモスは変身した直後に、カラータイマーの前に両手を翳しエネルギーを溜める。そして・・・
「ハァァァ・・・!」「!」
溜まった光エネルギーを空中へと放射し、自分とフサしぃの周りを巨大なシールドのような物で囲んだ。
突然放射された光線技に驚きながら、フサしぃはコスモスに聞く。
「えっ、今何したの!?」「他の人に僕達の姿が見えないようにしたんだ。僕の家族には姿が見えるけどね。さてと・・・」
彼はゆっくりとしゃがみ込むと、そのまま彼女の前に左手を静かに差し出した・・・。
「僕の左手に乗って。一緒に、夜空を飛ぼう・・・。」
- 92 :
- コスモスの差し出した左手に、フサしぃはようやく彼の全ての行動を理解した。
彼は飛ぶ力が無い彼女を、左手に乗せたまま一緒に空を飛ぼうと考えていたのだ・・・。
タカラの行為に対して胸が熱くなったフサしぃは、瞳を潤わせながら遠慮するように聞く。
「私が本当に・・乗っていいの・・・?」
彼女の弱々しくも震えた声に、コスモスはゆっくりと頷く。
「早く乗って。時間が無くなっちゃうよ?」「・・・うん!」
フサしぃは溢れそうになった涙を右手で拭うと、嬉しそうな笑顔で彼の大きな左手によじ登った。
彼の手は戦っている時の、あの強くて厳しい戦士のコスモスとは思えない程にとても柔らかくて、包み込むような優しい温もりがある・・・。まるで人間の時のタカラと同じような感覚だ。
「これがタカラ君の温かさ・・なんだ・・・。」
コスモスは彼女が乗った事を確認すると、自分の胸元にゆっくりとその手を寄せた。
「用意は良いかな? 落ちないように、しっかり掴まっているんだよ。」「大丈夫!」
「分かった。行くよ・・・! シュアッ!!」
彼女の準備が出来た事が分かると、コスモスは空いた右手を空に挙げ、ゆっくりと星空に向かって舞い上がっていった・・・。
- 93 :
- 挿入歌
『Power of Love〜ウルトラスモスより』(タカラのテーマ)
1.
落ち込む友達を 見過ごせない時は
空の彼方で 風を送る
世界が悲しみに 包まれた時でも
人と人を結んでる・・・
限り無い愛の力 信じたならそれが
君だけの 『ウルトラの誓い』
迷わない勇気がきっと 誰かの心へと
透き通る 『光』を伝える筈さ・・・
2.
果てしない明日へ 夢追いかける時
いつも風を 感じていたい・・・
友達の嘘も 信じてあげるなら
心と心 結んでる・・・
限り無い愛の力 信じたならそれが
君だけの 『ウルトラの誓い』
何時の日か 宇宙に誇る地球にする為に
迷わずに 描いた未来へ走れ・・・
- 94 :
- 「わぁ・・・! ヤッホー!! あははっ・・・!」
空を飛ぶフサしぃの叫び声はそのまま町中に木霊し、ギコの家にもその声がよく響いていた・・・。
そのギコの家のベランダでは、エーがコーヒーカップを片手に夜空を見上げている。
コーヒーカップの中身は眠れるようにと用意したホットミルクで、温めたばかりなのか飲み口からは湯気がボンヤリと上っている。
上空ではコスモスがフサしぃと空中デートをしており、エーはその楽しそうな様子を見ながら静かに微笑んでいた・・・。
「ふふっ・・・。あんなに楽しんじゃって・・・。」
彼女がそう呟いた時、後ろのガラス戸が突然ガラリと音を起てて開いた。大きな音に驚いたエーは、後ろへとっさに視線を合わせてみる。すると・・・
「お前が外を眺めてるなんて、珍しいな。」「アヒャ・・・。」
そこにはガラス戸を開けた張本人ーー缶ビールを片手に持った夫『アヒャ』が、まるで珍しい物でも見るような表情でこちらを見ていた・・・。
「またお酒? さっき十分に飲んでたじゃないっ!」「休みの日ぐらい、許してくれよぉ・・・。と言うか、俺はそんなに飲んでないぞ?」
アヒャはそう言いながら、エーの左に肩を並べた・・・。
- 95 :
- 隣に並ぶ彼女と同じように、アヒャも空へと視線を上げてみる。
「・・・タカラの奴、随分大胆なデートをしてるんだなぁ・・・。」「うん・・・。」
見上げた先では、左手に少女を乗せた青い巨人が町の方から海へ向かって飛び去っていくのがよく見えた。
ちなみに、コスモスが透明なバリアを張っているため、今の二人の姿を確認できるのはこの家族だけしかいない。
飛び去って行く巨人を見ながら、エーはどこか悲しそうな表情を浮かべて彼に話しかける。
「アヒャ・・・。」「ん? どした?」「さっきは、ありがと・・・。」「あぁ、気にするな。確かに休暇が取れねぇのは、ビミョーな気分だけどな。」
そう言いながら、彼は缶ビールを一口飲む。実は休暇が取れている話は嘘で、本当は最近殆ど休暇が取れていないのだ。
彼女の落ち込んだ反応を見て、アヒャも少し悲しそうな表情を浮かべ、ため息をつく。
「・・何か・・・ごめんな。休暇返上で、最近殆ど家族サービスが出来ねぇからさ・・・。珠璃も寂しがってるだろうし、いい加減お前も疲れてきてるんじゃないか?」
「・・・ううん、私はそんな事は無いよ。貴方の仕事に対しての覚悟は、もう出来てるもの。でも・・・」「でも・・・?」
- 96 :
- 「分かってるけど、私はやっぱりアヒャの事が心配だよ・・・。辛いのに仕事を頑張りすぎて、倒れちゃうんじゃないかって・・・。そうなったら、私は・・・」
パーティーの時、のーの口から出た『過労死』という言葉に、エーは胸を締め付けられるような思いになっていた。
もし彼が倒れたときは安静にすればいいだろうが、最悪の状態になったらどうにも出来ない・・・。
月の光に照らされた瞳を潤わせながら肩を落とすエーに、アヒャは落ち着かせるように彼女の肩に手を乗せた。顔に出る表情は彼女を安心させる為に創った、何処か悲しげな微笑みだ。
「そ、そんなに心配するなよ・・・! 死ぬ勢いで働いてたら、もう倒れてるって。」「だって、貴方は・・・」
「大丈夫だ。もう少しで、休暇が来る筈なんだ・・・。何時までも苦しむ事はない。だから、焦らなくていい。ただ、もう少し時間をくれ・・・。」「・・うん・・・。」
アヒャの心からの説得に、エーは小さく頷いた・・・。
- 97 :
- しかし頷いた後に再び俯き、悲しそうな表情を浮かべてしまう。
彼女の複雑な表情が気になったアヒャは、顔を覗き込みながら更に聞き返す。
「・・・どうした?」「本当に約束・・守ってくれるの・・・?」「? もちろん・・・。」
「・・やっぱり私・・・約束できないよ・・・。」
「えっ・・・?」
彼女の意外な返答に、驚きの表情を浮かべるアヒャ。
「何でそんな事を・・・」「本当はその約束・・・守れそうにないんじゃないの・・・?」「! それは・・・。」
言葉を濁すアヒャに不満そうにため息をするエー・・・。更に、顔に苦笑いを浮かべてアヒャに言う。
「別に貴方のことを信じられなくなったわけじゃないよ・・・。でもその約束で、逆に無理をさせちゃってるような気がするの。」「無理なんて、そんな事は・・・。」「だから・・・」
「約束しなくて良いの・・・。余計な約束はしないで、貴方がやるべき仕事に集中して頑張ってくれればいい・・・。私にはそれで、十分なんだよ・・・。」
「エー・・・。」
健気な態度で説得するエーに対して、彼は反論する言葉が見つからなかった・・・。
彼女は既に彼の心情を読みとり、敢えて今のような発言をしたのだーー。
- 98 :
- それは同時に彼女からアヒャに対するエールでもあり、エーの心配事に蓋をするのにも等しかった。
「・・・もう、この話は止めよ・・・? 先にリビングに戻ってるよ。」「・・・。」
そう言うとエーは暖かいミルクに口をつけた後、静かに部屋へ戻ろうとした。
そんな彼女の後ろ姿が、何かのストレスを感じているように見える・・・。アヒャに対しては健気な素振りを見せていたが、心の中では心配に心配を重ねて疲れているのだ・・・。
彼女の背中を見つめながら、アヒャは再び声をかける。
「エー。」「? なぁに?」「その・・・いつも心配ばかり掛けて、ごめんな。俺が考えてる事まで全部分かっちまうなんて、やっぱりお前は凄いよ・・・。」
「ふふっ・・私だって、アヒャが光の戦士だって事を誇りに思うよ。だから自分に自信を持って、無理をしないようにね。・・・おやすみ。」
「おう・・・。」
彼女はアヒャに穏やかな笑顔を見せて、静かに扉を閉めて行った。
(約束・・か・・・。次こそ本当に守って、家族と一緒に過ごしたいな・・・。)
そう思いながら、アヒャは缶ビールに口を付け、静かに星空を見上げる・・・。
(タカラ達は今ごろ、どうしているだろう・・・。)
- 99 :
- その頃・・・
コスモスはフサしぃを片手に乗せたまま、相模湾の上空をゆっくり飛行していた。
星空では黄色に染まった満月が地上に向かって美しい輝きを放ち、海面を穏やかな光に包み込む・・・。
更に星のようにキラキラと瞬く海からは春の暖かい風が吹き付け、フサしぃの亜麻色の長髪を柔らかく撫でていった。
海と町と、満点の星空・・・。静寂に眠る世界の中、彼女は飛び始めた直後までのはしゃいでいた気分がまるで嘘のように、沈黙したまま景色を楽しんでいた・・・。
「綺麗・・・。」「空を飛んでいる気分は、どうだい?」「気持ち良くて、何だか・・・心が晴れていくみたい・・・。それに・・・」
「君の手が暖かくて、とても落ち着くんだ・・・。」
「! そ、そうか・・・。」
フサしぃの甘えも混じったかのような声に、コスモスは一瞬動揺する。彼女の甘える声を聞くと、何故か恥ずかしくなってくるのだ。
「! おっと・・・。そろそろ家に戻ろうか・・・。」「えっ?」「だってもう夜遅いし、何時までも空を飛んでいるわけには行かないだろ? そろそろ戻らないと、怒られちゃうよ。」「・・・うん。」
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