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2011年10月1期創作発表続・怪物を作りたいんですが
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続・怪物を作りたいんですが
- 1 :10/09/14 〜 最終レス :11/11/27
- ジャンルは問わない
サイコ、特撮、SF、ホラー、オリジナル、二次創作、フィギュア、イラスト、テキスト、動画、どんとこい
サーバー整理で消滅した前スレの再生にござる。
……再生怪獣みたいなスレですから、どなたさんも肩ひじ張らずにどうぞ。
- 2 :
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|_| |__| l二二二__ノ
// 三=― 三==− \ __,,l l_ ,,
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 ̄/≪;;;;;⊃;;;;;⊃\ ヾヾ // −−= 二 三/ | \\ 三=― (――/l;:v;:v;:v;:v;:v;:l ―――)
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- 3 :
- 前スレぐらい貼っとけ
怪物を創りたいんですが……
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1225191869/
- 4 :
- >>3
感謝。
過去スレは発見できませんでした。でもまあ、私の駄文っきゃ投下作は無いから、前スレは無くてもいいかなと…。
重ねて感謝です。
- 5 :
- とりあえず体長5mのヒグマ。
- 6 :
- そういうユーマいたなw
- 7 :
- リンゴ→ゴジラ→ラッパ→パセリ……
リンゴ
バラ科の果樹。
神話におけるリンゴ(その1)→知恵の木の実
ユダヤ神話における知恵の木の実は、西洋絵画においては一般にリンゴとして描かれる。
知恵の木の実をイブに食べるよう唆したのはサタン(悪)。
←ギリシャ神話における知恵の付与者はプロメテウス(善)。
赤い木の実を食べるのは、人にとって果たして善だったのか?それとも悪だったのか?
神話におけるリンゴ(その2)→黄金のリンゴ
テテュスとペーレウスの結婚式に招かれなかった不和の女神が、腹いせのため式場に「手紙」つきで放り込んだ。
手紙に描かれていたのが「この中で最も美しい方へ」だったため、ヘラ、アテネ、アフロディーテの三女神が争い……結果としてトロイア戦争が勃発する。
進化の車輪を回すのは神の手なのか?それとも悪魔の手なのだろうか?
……どっちかというと、ここよりSF板っぽいか?
- 8 :
- 神は停滞を望み
悪魔は進歩を望むような気がする
神にとって人間は愛玩動物であり
変わる事なく神を慰める事が存在意義
悪魔にとっては神を貶める為の道具であり
神を超えるように囁きかける
科学とは知恵の実にして悪魔であり
科学に魂を売り渡した人間は神の寵愛を捨てた
先駆者を超えようとする者の常として
人は神の御技を模倣し遂には生命を生み出した
神の慮外であるそれは怪物と呼ばれる事となる
- 9 :
- むしろ"神"と呼ばれるものこそが、人類の生みだしてしまった最大の怪物であろうよ
- 10 :
- 前スレの整理消滅の時点で途中になっていた「人を呪わば」の続きを投下するのが本来の形なんだろうけれど…。
あれはとっても異常な話なんで、新スレ冒頭の投下には相応しくないかと。
そこで…もっとまっとうな怪獣ものの駄文を先に投下してみましょう。
その次に「体長5メートルのヒグマ」が大暴れする話を、アーネスト・シートンの「灰色熊の一生」とか「タラク山の大熊」みたいな動物文学にならないよう注意しながらデッチ上げ(笑)。
さらにその次あたりで、変化球として「人を呪わば」を投下したほうがベターでしょうなぁ。
それでは「まっとうな怪獣」もの駄文、さっさと投下開始。
- 11 :
- 「…働けど、働けど、わが暮らし楽にならざり…か…。ごめんよカアチャン。今夜も飲んじまったよぉ」
横須賀の路地裏をゆく酔っ払い。
したたか酔っているが、かといって千鳥足からはまだ遠い。
男の給料では、千鳥足になるまで酒を飲むのは不可能だ。
「……お?…おおっと、いけねえや」
肩を激しく震わせると、彼はそそくさとズボンのチャックを下ろし、四つ角の電信柱へと向きを変えた。
ドボドボと音がし、男の足元から湯気が上る。
その時だ。
かくんと肩が落ちた男の傍らを、音も無く人影が行き過ぎた。
「…お?………お!?おおおおおぉっ!??」
手元が狂いションベンをズボンにひっかけてしまったが、そんなこと全く気にならない。
何故かといえば……いま通った女がたしかに全裸と見えたからだ。
それもすこぶるつきにグラマーの。
「あ……あの、あの、あのちょっと…」
思わず声をかけてしまってから、男は「もの」が出しっ放しであることに気付き、あわててしまい込むとチャックを上げた。
そのあいだにも、全裸の女は暗い路地をヒタヒタと歩いて行く。
「ちょっと待って…」
男は女を追いかけると、酔った勢いとスケベ心に励まされ、相手の剥きだしの肩に手をかけた。
そのときになって、初めて男は気がついた。
(………舞妓さんなの?)
女の頭が日本髪でも結い上げたような奇妙なシルエットを描いているのだ。
…女がクルリと振り向いた!
「………う…うあああああああああああああああああっ!」
男が恐怖の悲鳴を上げる!
同時に、圧倒的な潮の臭いが辺りに溢れた!
…そして彼は、白い光に飲み込まれていった。
「赤い鳥飛んだ/A級戦犯」
- 12 :
-
「おい、いったい何が起こってんだと思う?」
「え?何かあったの?」
大学に顔を出すなり、朝子は知り合いの男子学生に呼び止められた。
「おいおい知らないのかよ。いまたぶん世界中がこの話題でもちきりだぞ!」
「だから何があったってゆうのよ?」
朝子は「苦学生」という絶滅危惧種に属していた。四畳半一間の下宿にはパソコンはおろかテレビも無く、もちろん新聞もとっていない。電話代がもったいないから携帯電話も極力使わないようにしていた。
「この情弱女!ドけちライフもたいがいにしろよな」
もう降参だと言うように両手を上げるアクションを挟んで、男子学生がつづけた。
「昨日の夜、また出たんだよ!ゴジラが!!」
「え!……え?えええええええっ!?」
大袈裟でなく朝子の目が丸くなったる
「またゴジラが来たの!?」
「こんどは横須賀だってよ。でもいったいぜんたいどうしちまったんだろうな。だってよ……」
朝子は相手の話も終いまで聞かず、脱兎の勢いで校舎を飛び出した。
- 13 :
- 朝子は相手の話も終いまで聞かず、脱兎の勢いで校舎を飛び出した。
こういうとき、彼女の行く先は決まっていた。
「おばちゃん!シャケ定お願い!それからテレビ点けていい?」
「そろそろアンタが来る頃だと思ってたよ」
テレビが見たい時、朝子は大学近くの定食屋に行っていた。
幸い時間が半端なせいで、他に客はいない。
朝子はリモコンのスイッチを点けると遠慮なくボリュームを大きくした。
『……繰り返しますが…』
チャンネルを操作する必要はなかった。
原爆投下直後の広島のような世界をテレビはすぐさま映し出した。
『…御覧のように横須賀の町は壊滅状態です。市街地はゴジラの熱線によって瞬時に焼き払われてしまいました。ではスタジオにお返しします』
場面は東京キー局のスタジオにかわった。
局の男性アナウンサーと評論家らしい男性が2人。それからどういう理由で呼ばれたのか判らないが、巨系グラビアアイドルも端の方に座っている。
『でも、どうしちゃったんでしょう?』
コメントの口火を切ったのは、意外にもグラビアアイドルだった。
『ゴジラってこれまでずっと私たち人間と上手くやってきてたのに。なんで急に町を襲いはじめたんでしょう?』
『現在のゴジラの個体は…』
局アナの仕切りも待たずに喋りだしたのは著名な怪獣評論家だった。
『……現在の個体は、かつてベビーと呼ばれ、いちどきは人の手によって育てられたこともある個体です。それが、親ゴジラがメルトダウンに伴い放出した放射能を全て吸収して成獣となりました。
ですから、もともと人間に対しあまり敵対的ではない。…というより、友好的とすら言える個体だったのです』
(そうだ。だからあの人もGフォースを辞めたはず)
朝子は、自分の目の前にシャケ定食が現れたのにも気がつかない。
(それなのに…それなのに何故?)
『……あのベビーが我々の町を襲うなんてことが…』
『しかし先生!』
局アナの厳しい口調は世論を背景にしたものだった。
『…ゴジラの襲来は一月ほど前の札幌に続いてこれで二度目です。我々人間とゴジラとの間にあると思われていたある種の信頼関係など、幻に過ぎなかったのではないでしょうか』
『今回の事件で不思議なのは…』
もうひとりの男は話題からいって軍事評論家らしかった。
『……ゴジラが横須賀の米軍基地を素通りしていることです。あそこには原子力空母が停泊していたのに、何故かゴジラは手を出しませんでした』
『ということは先生。ゴジラはエネルギーを求めて出現したわけではないということですね?』
『そう断定して差支えないでしょう』
(それじゃ、あの人が間違ってたってゆうの?)
テレビを見ながら、朝子は心の中で自問自答していた。
(ゴジラと戦って、ゴジラを理解し、最後にはゴジラを愛していたあの人が…)
…シャケ定食はいつの間にか冷たくなってしまった。
- 14 :
- 昔描いたゴジラ怪獣
http://loda.jp/mitemite/?id=1424.jpg
- 15 :
- 「…おう情弱女、やっぱり来たか」
定食屋でたっぷり1時間半も粘ったあと、朝子は大学の二年先輩である男子学生を空き教室で捉まえた。
結城佑。
経済学部の4年生。
ボサボサの髪とこけた頬、そして小さめの吊り目が、貧乏神みたいな雰囲気を醸し出す。
友人からは「何を考えているのか判らない」と評される男だが、この就職氷河期にとっとと内定決めたという噂だから、案外しっかりしているのだろう。
朝子と違い携帯やパソコンにも普通に触れているので、当然情報も早い。
今も携帯のディスプレイと睨めっこをしているところだった。
「佑さん!ひどいですよ!テレビはみんな『ゴジラをやっつけろ!』ってばかりで」
「今度で二度目だからな」と佑。
「…札幌の時は深夜だったんでゴジラそのものの目撃情報もなかったけど、横須賀じゃバッチリ姿も確認されちまってるしな。悪者にされんのも仕方ないよ」
「でも…」
「それより大事なのはだ…ゴジラが何の目的で札幌と横須賀を襲ったのか?ってことだぞ。まぁこれ見ろよ…」
朝子の鼻っ先に、佑は携帯を突き付けた。
「ゴジラ好きって奴は別にオマエだけじやないんだ」
「わ、私は別にゴジラ好きってわけじゃ…」
そう反論しかかったところで、朝子の声がすとんと消えた。
ディスプレイに表示された、あるフレーズが目に止まったからだ。
『ゴジラは怪獣Xと対決するため…』
- 16 :
- 『ゴジラは怪獣Xと対決するため…』
「た、佑先輩!ここに書いてある怪獣Xってゆうのは?!」
「読んだ通りさ。怪獣Xってのは未知の怪獣って意味だよ」
佑はふらりと席を立つと白墨を手に黒板の前に立った。
「前のゴジラ。つまり横須賀を襲ったゴジラのオヤジが日本を襲ったパターンは三つだ。第一は…」
佑は黒板に大きく@と書いた。
「エネルギーの補給。つまり核施設の襲撃だ。オヤジ・ゴジラが最初に日本上陸したときの目的もこれだった。二番目はベビーの救出。オヤジ・ゴジラはベビーを助けるためデストロイアと交戦している。そして三番目は……」
朝子が頷くのを確認すると、佑はひときわ大きくBと書いた。
「三番目は……敵怪獣との戦闘目的の上陸!ゴジラはビオランテやスペースゴジラと戦うため、日本に上陸している!」
「そっか!」
朝子の表情が明るくなった。
「今回の上陸だと、@とAはあり得ないですよね!ってことは三番目、つまり敵怪獣と戦うため、ゴジラは札幌と横須賀に現れた!だから人間と敵対してるわけじゃないんですね!!」
「あんまり喜びすぎんなよ」
今にも踊りだしそうな朝子に、佑は静かに釘を刺した。
「問題は、怪獣Xなんて誰も見てないってことだ」
佑は再び携帯を朝子の鼻っ先に突き付けた。
「今朝からオレは、ゴジラファンの開いてるHPやブログ、ツイッターにずっと目を通し続けてる。けども、札幌からも、横須賀からもゴジラ以外の怪獣の目撃情報はあがってきてない」
「…そうなんですか」
「そもそもゴジラに認識されるほどの怪獣が、人間には全く気付かれないなんてことはちょっと考え難い。朝子もそう思わないか?」
- 17 :
- >>10
5mのヒグマの話、タイトルは
「マイティージョーvs大五郎」なんてどうでしょう?
興業と研究を兼ねて日本に連れて来られた巨大ゴリラの
マイティージョーがマタギ十数人をした巨大ヒグマの
大五郎と闘うみたいな。
- 18 :
- >>17
最初に考えてたのは「ハニーゼリオンを食べて巨大化した熊」と「青葉クルミを食べて巨大化した猿」が対決するウルトラQ話でした。
ただ、どっちも毛が生えてるから絵柄的に判り難いかとも。
一方を毛の無い生物にした方がベターなんでしょうが、鱗系だとTレックスか蛇になってしまう。
いっそ先史時代の化け物熊でもだそうかとか…。
- 19 :
- キングコングの続編にありましたね。サルvsクマ
http://loda.jp/mitemite/?id=1427.jpg
- 20 :
- しかしマイティージョーとかコングの続編だとか、随分詳しい方ですね。
普通の人なら「コング」は知ってても、続編は知らんでしょ?
こういう方がいらっしゃるなら、昔「特撮板」で書いてた怪獣GP(グランプリ)みたいな話も書いてみようかな。
それともカルティキVSウランVSブロブのドロドロぐちゃぐちゃ対決とか。
いっそジョゼフ・ペイン・ブレナンの「スライム」や「吸血鬼ゴケミドロ」もまぜて、収拾つきかないくらいドロドロぐちゃぐちゃに(笑)。
- 21 :
- その日以来、しばしば例の定食屋でテレビ前の特等席に陣取る朝子の姿が見られるようになった。
『これまでこのゴジラは、ベビーあるいはリトルと呼ばれ、私たち日本人から特別な扱いを受けてきました』
札幌、横須賀と相次いだゴジラの襲撃は、日本全国に恐慌を巻き起こした。
デストロイアとの対決以後、ゴジラが日本近海に現れることは皆無となっていた。
そしてたまたま外洋航路の船舶がゴジラと遭遇してしまったような場合でも、ゴジラの方から距離をとり、船から遠ざかる様子が報告されていた。
…そんな状態が20年以上続いていたのである。
そのため、かつて対ゴジラ戦のスピアヘッドを務めていたGフォースは度重なる予算削減の末に解散。
メカゴジラやモゲラといった対ゴジラ兵器の開発計画はすべてキャンセル。
対デストロイア戦で活躍した冷凍光線砲が、「防災用」との名目でかろうじて装備継続されるだけとなっていた。
つまり、いま「ゴジラと戦え」と言われても、日本は事実上の丸腰状態になっていたのである。
『……私たちはゴジラとの関係を見直さなければなりません。政府は直ちに……』
「……バッカみたい」
唇を尖らせて朝子は呟いた。
「その政府が、事業仕訳でGフォース廃止にしたんじゃない」
朝子は数年前ニュースで見た「Gフォースは廃止と決定します」と宣言した女性議員のことを思い出した。
その彼女が今の内閣総理大臣であることは、朝子にとって皮肉としか言いようがなかった。
「あのときGフォースを廃止しなきゃ今だって……」
そのとき、テレビの向こうのスタジオがにわかに慌ただしくなった。
アナウンサーの顔色が変わり、視線がカメラを離れた。
何者かの指示を受けている!
朝子は悟った
「…またやって来たんだわ!」
カメラの前を堂々と横切って、スタッフがアナウンサーの前に一枚のメモを置く。
それを読み上げるアナウンサーの声は、明らかに上ずっていた。
『ゴ、ゴジラが、ゴジラが三度現れました!』
- 22 :
- ハア…ハア…ハア…
男は走っていた。
ハア…ハア…ハア…
気管が笛のように鳴り、横っ腹にズキズキと痛みが走る。
一瞬、男はこれまでの不摂生を悔いたがもう遅い。
…カツ!…カツ!…カツ!
鋭いヒールがオフィスビルの磨かれた床に鋭い音を刻む。
…カツ!…カツ!…カツ!
特に急いているようには聞えない。
にもかかわらず、靴音はさっきよりも大きくなっている。
……男との距離は明らかに狭まっていた。
悲鳴を上げたいが、そのため必要な呼気は、もう彼の肺には残されていない。
ひぃぃぃぃぃ…
泣くような呻くような声をかろうじて絞り出すが、それに応える者は誰一人いない。
この広いフロアーに、生きている人間は彼一人しかいなかった。
- 23 :
- 初めてスレを拝見させていただいたのですが、
RPGのモンスター辞典みたいな流れかと勝手に思って
書いたのでそれを。
////////////////////////////////////////
名称:弱り女(よわりめ)と祟り女(たたりめ)
攻撃方法:精神攻撃(呪いの言葉)
弱点:物理攻撃
耐性:魔法耐性あり
出現場所:森林地帯
出現率:ごく稀
解説:必ず、二匹一組で出現する。
サメザメと泣いている方が弱り女、
ものすごくこちらを睨んでくる方が祟り女である。
森ガールズとも呼ばれる。
二匹とも凄い勢いで呪いの言葉を吐いてくるので注意。
このモンスターに出会った冒険者は鬱になる前に、
仲間の僧侶に賛美歌を歌わせるか、読経してもらった方が良い。
弱点は物理攻撃。見習い騎士程度の腕前でもあっさり
消滅させることが出来る。ただし、後味は悪い。
- 24 :
- 魚神(うおみかみ):体長50mの巨大魚。超能力を持つ。
天魚神(あめのうおみかみ)と地魚神(つちのうおみかみ)の2匹いる。
天魚神は金色のコイ。空を飛び、暴風雨を呼び、雷を起す。
地魚神は黒いナマズ。水の底で体を震わせ地震や津波を起す。
- 25 :
- 23、24氏は、以前特撮板のウルQシナリオスレでプロットを提案してくれた方じゃないですか?
24の内容は読んだ覚えがあります。
たしか……「木神」も23、24氏のプロットだったはず。
実は24の魚の設定も、妖怪的な超能力からSF・生物学的設定に変更して駄文化してまして…。
ウルQシナリオスレに投下した「一万年に一度の」って駄文がそうでした。
魚の怪物を一万年に一度地上に出て来る巨大ゼミに変造したわけです。
怪物に関するレスであれば、絵であろうと設定であろうと、あるいは粗々のプロットであろうと構いません。
条件は「怪物」に関するものであること。
ただそれだけです。
私が怪物ものの駄文書いてるのは、この分野が特に敷居が高いからというだけです。
オレのお母ちゃんは怪物だぁぁぁぁっ…ってレスでセーフです(笑)。
- 26 :
- >>25
>>23を書いた者ですが、>>24氏と別人ですよ〜。
(特撮板にもほとんど行かないです)
私の方は設定が少しふざけていますし、特撮とはまた
別のノリ(RPG+不謹慎ネタ)だと思いますし。
- 27 :
- (死にたくない!)
経理部で見た光景が脳裡をよぎると、自己保存の本能が男の足に鞭を振るう!
…がしかし!
男の中年太りした肉体は、ついに限界を超えた。
足がもつれ、上体が泳ぐ!
「ひぃぃ」
短い悲鳴…というより、か細い呼気を放って男は前のめりに倒れた。
冷たいフロアにしたたか顔を打ち付けるが、そのフロアは迫りくる靴音を男に容赦なくつきつける。
啜り泣きながら四つん這いの姿勢になると、男は「営業部」と書かれたドアを押し開けて中へと這いずり込んだ。
定食屋のテレビが、現場からの中継画面に切り替わった。
『ゴジラです!ゴジラがみたび!それもこんどは白昼堂々と、我々の前にその姿を現したのです!』
交通状況を取材するため偶々現場上空にあった報道ヘリのカメラが、旧江戸川に沿って内陸へと北上する黒い巨体を捉えていた。
『いま、ディズニーランド横を通過しました。このヘリからも園内を逃げ惑う人々の姿が見えます。…あっ!』
アナウンサーの叫びとともに、京葉線と首都高湾岸線が一気に突き崩された。
まさに「脇目もふらず」という様子で、内陸へと内陸へと、ゴジラは突き進んでいく。
「まさか…」
呟く朝子の口からご飯粒が飛んだ。
「……またXが現れたっていうの!?」
- 28 :
- 部屋の一番奥にある「部長席」の影に男が身を隠すと、ほとんど間をおかず、さっき入って来たばかりの「営業部」と書かれたドアが、軋みながら開いた。
恐る恐るデスクの下から伺うと……見えたのは真っ赤なハイヒールだ。
…同時に、室内になにかの香りが漂い出す。
男のつけるオーデコロンではない。
女性のつけるようなフローラルの香り。
甘い香りが部屋に満ちるのを待つかのように、しばし戸口で立ち止まった後、赤いハイヒルは再び歩き出した。
ズシッ……ズシッ……
足音が不自然に重い。
デスクの下から見える範囲より上は、いったいどうなっているのか?
しかし男に、それを確認する勇気など無い。
ズシッ……ズシッ……
赤いハイヒールは、並んだデスクの下をひとつひとつ確認しながら、男の隠れる部長席に近づいて来る。
(どこか、どこかに隠れないと!)
男は、自分の姿が少しでも隠れるように、背後の窓際に押しつけられていた大きな肘掛椅子を自分の方に引き寄せようとした。
無駄な足掻き……どころかそれは最悪の行為だった。
わずかに動いた拍子に椅子の高い背がクルリと回って、背後に隠されていた見慣れた顔がが、男の方に倒れ込んで来た。
(……ッ!?)
営業部長の半紙のように白くなった顔!
その蒼白の顔で、涙のように流れる深紅のライン!
「ひ!ひゃあああっ!」
思わず跳ね起きると、男は後先考えずそこから逃げ出そうとした。
そして、すぐそこで待ちかまえていた相手の、広げた触腕の中に、自ら飛び込んでいってしまった。
……旧江戸川を遡上してきたゴジラが浦安駅一帯を完全に灰と化したのは、それから五分後のことだった。
- 29 :
- >>25
「俺の母ちゃんは怪物だぁ」で、フと思いついた。
ホエールマン
マッコウクジラの遺伝子を組み込まれたバイオ兵士。
身長2m級の巨漢。能力は、まず怪力。機関車を軽々と受け止める。
そして跳躍力。あの巨体で水面から何mも飛び上がるジャンプ力を
受け継いでおり、4〜5階建てのビルの屋上位までは一っ飛びで行ける。
また、大きく一回息を吸い込めば、そのまま数時間息を止めていられる
肺活量も水中は元より毒ガスが充満している中で行動するのにも役立つ。
そして何より特筆すべきは超音波。マッコウクジラにはコウモリやイルカ
の様に超音波を発生させ、それを聞く事で見えない場所に有る物を把握
する能力が有るが、コウモリやイルカと違うのは音波衝撃波を狩りに使う
と言う事である。ホエールマンにもこの能力が有り、暗闇で行動できる
のは勿論の事、衝撃波で重戦車を破壊する事も可能。その正体は最重要
国家機密のため常に迷彩服と迷彩柄のヘルメット、そしてゴーグルと
軍用フェイスプロテクターで身を固め、更に変声機で声も変え金属音の
ような声で喋る。声まで変えるのは、実は彼女の性別を隠すため。
ホエールマンは女性である。その普段の姿は商店街で普通に生活する
優しく、人なつっこく、そそっかしい肝っ玉母ちゃん。彼女を知る全て
の人たちは誰一人、彼女がホエールマンとは夢にも思ってはいない。
- 30 :
- 怪獣はかっこいい!
すごいかっこいい!
あさぎとくるまでおでかけします
ぶーん
- 31 :
- ホエールマンの役、ぜひ京塚昌子にやってもらいたいなぁ。
- 32 :
- その日の午後3時、朝子が吉祥寺駅の改札を出ると雨が降り始めていた。
「あらぁー、傘もってないよ。どうしよう」
彼女の財布には、往復の電車代+αの小銭しか入っていない。
ちょっとだけ困った顔をするが、駅前で落ち合うことになっている佑が傘を持ってくることを期待して、どうしようかと考えるのは止めた。
もし佑が傘をもっていなかったら……などとは考えない。
「佑先輩…まだかなぁー」
電車で一本の場所をゴジラが襲ったせいか、駅前だというのに人影は疎らだった。
佑がやって来たらすぐ気がつくだろうが、しかし何処にもあの「貧乏神」と評される独特の風貌は見当たらない。
なおも朝子が辺りをキョロキョロ見回していると、偶然同じく辺りを見回していた女性と目が合ってしまった。
(…あれ??この人どっかで…)
見覚えのある顔だった。
年のころは30後半か?40は超えていないと思う。
化粧っ気は全く無く、髪も短くカットされ、チャラチャラした印象は無いが、やや吊り気味の大きな目がとても印象的だ。
(……なのに……なんで?)
女性の顔には「影」が落ちていると、朝子は感じた。
日差しとは関係ない「影」。
祖母が癌だと宣告されたとき母の顔に見たものと同じ「影」が…。
……この人だれだったっけ?
…何を心配してるの?
…何を苦しんでるの?
視線を逸らすこともできないまま戸惑う朝子に向かって、女性はニッコリ微笑むと、口を開いて白い歯を見せた。
「…あの、もしご存知だったら場所を教えていただけませんでしょうか?」
- 33 :
- 「いやあ、ビックリしましたよ。朝子だけだと思って迎えに行ったら、もうひと方いらっしゃったんで…」
駅前で見知らぬ女性に声をかけられてから十数分後、朝子と佑、そして件の女性は、三人で佑の父がやっているラーメン屋のカウンターに並んで腰を降ろしていた。
暖簾は引っ込めて準備中の札を下げたので、不意の来客に邪魔されることもない。
「……昼少しすぎに電話があってな。オレに会いたいと。それでココに呼んだんだ」
カウンターの向こうで、鼻の横を掻きながら佑の父は言った。
「ほんと、無理言ってすみません。でも相談できるのはもう少佐しかいらっしゃらなくて…」
「少佐ってのはよしてくれ。もう10年以上も昔の話だ」
三人の「キャスト」が言葉を交わすのを、朝子はまるで映画の観客になったような気分でただ見つめていた。
佑の姓が「結城」だというのは知っていたが、名前が晃だとは知らなかった。
結城晃。
元Gフォース所属の少佐。
モゲラに搭乗し、福岡でスペースゴジラと対決した男だ。
そして駅前で合った女性は…。
見覚えがあったのも道理だった。
三枝未希。
やはりGフォース所属のエスパー。
そして、子供のころからの朝子のアイドルといっていい女性だった。
「…でオレに相談したいことってなぁ、いったい何だ?」
「実は……私の娘が……あ、申し遅れましたが私、Gフォースを辞めてから…」
「おお!結婚したのか!そりゃそうだな。オマエみたいな別嬪を世間の男どもが放っとくわけがねえや」
恥ずかしげに一瞬俯くと、未希は持っていた手提げ鞄の中から一冊のクリアファイルを取り出した。
「娘が……今年で4歳になるんですが……ひどく魘されるんです。それがみんなゴジラの襲撃があった夜ばかりで」
「うなされる?」
晃の眉がわずかに吊り上がった。
「娘さんもしかして……」
「そうです。かつて私がもっていた力を受け継いでいるようなんです。それが今日の昼、幼稚園から急の呼び出しがあって……」
- 34 :
- 「娘の、恵美の通う幼稚園から電話があったのは正午少し前ごろです。
とるものもとりあえず、私は幼稚園に駆けつけました。」
『あの、ご連絡いただいたんですが、娘になにか?!』
『ああ、恵美ちゃんのお母さんですね。どうぞこちらに…』
「担任の先生に案内された部屋で、娘は疲れ切ったように眠っていました」
『二三分まえに、やっと落ち着いたところです』
『あの、いったい何があったのでしょうか?』
『それが…クラス全員で絵を描いていたんですが、突然に……』
「…突然悲鳴を上げたかと思うと、椅子から転げ落ちたのだそうです。
床を転げまわりながら目の前で両手を闇雲にふり回して……何か目の前にある物を遠くに押し退けようとするような仕草だったと、先生はそうおっしゃいました」
『恵美ちゃんのバニックが他の子にも伝染して、たちまちクラス全体がパニック状態になってしまいまして。それでこの部屋に恵美ちゃんを……言葉は悪いですが『隔離』したんですが…』
「私が来る少しまえ、パニック状態は始まった時と同じく、前ぶれもなしに突然治まったのだそうです。そして急に…」
『一緒にもって来てあったクレヨンと画用紙を掴むと、急に絵を描き始めたんです』
『恵美が?絵を??』
『はい、なんだか怖いくらいに一心不乱に。赤いクレヨンを掴んで絵を』
「そして先生は、娘の横にあった一冊のスケッチブックを取り上げると、私に向かって開いて見せたんです。それが……」
そう言って三枝未希は、クリアファイルの中から二つ折された一枚の画用紙をとりだした。
「それがこの絵なんです」
未希が「絵」だと言わなければ、その場にいた誰もがそれを「絵」とは思わなかったに違いない。
真っ赤なクレヨンが、幼い子供の必死の力で、画用紙いっぱいに塗りたくられていた。
何重にも円を描いてグルグルと。
- 35 :
- 「なんだこりゃ?」
最初に口を開いたのは佑だった。
「…太陽か何かですかね??ほら、子供はお日様を描くとき、よくこんなふうに描くでしょ?」
「そんじゃ恵美ちゃんは、太陽が怖くってパニくったとでも言うのか?このバカ野郎め」
「でもオヤジ、この絵が、パニックの元凶を描いたものとは限らないんじゃ?」
「いいえ、私は少佐のおっしやられる通りだと思います」
未希の口調は、静かな確信に満ちていた。
親としての確信ではない。元Gフォースメンバーとしての確信だ。
「恵美は、それを絵に描くことで、心の中から恐怖を追い出したんだと思うんです」
「するってぇと……」
晃はどこからかジッポのライターを取り出すと、カチッと火ぶたを開いた。
「やっぱりゴジラが浦安襲った事件と、関連ありって考えなきゃならんだろうな」
「そ、そうか!」
ここで初めて、興奮気味に朝子が口を開いた。
「佑先輩!ほら、あれですよ。あの未知の怪獣X!ゴジラは怪獣Xと戦うため、浦安に現れた!そして恵美ちゃんはテレパシーで怪獣Xの存在を感知したんです!そうに違いありません!!」
- 36 :
- 鼻息粗い朝子の視線を受けながら、しばらくのあいだ佑は腕組みし何か考えているようだった。
それを見ていた晃の目が、次第にすうっと細くなった。
「おい佑。おまえ、何か心当たりがあるんじゃねえのか?」
「………ちょっと待ってて…」
佑は、短く言い置いて一旦店の奥に引っ込むと、しばらくしてノートパソコンを手に、再び姿を現した。
「……携帯の画面より、こっちの方が皆で見られるから…」
ぶつぶつ言いながら、佑の指がキーの上で踊った。
「…朝子、おまえをウチに呼んだのは、これを見て、2人でオヤジと相談したかったからなんだ。」
「…まあ見てよ」と言いながら佑は、晃、朝子、そして未希の方にディスプレイを向けた。
「………た、大量……大量人!?」
「そうさ朝子……」
- 37 :
- 『ゴジラに破壊されたばかりの浦安で、恐ろしい犯罪が発覚したらしい
熱線の直撃を受け跡形も無く破壊された商事会社ビルの地下室から、女性ばかり7人?の遺体が発見された。
人数に?マークがついているのは、遺体の損傷がひどすぎるためだ。
奇妙なのは、遺体の損傷がひどいにも関わらず、現場に血痕が殆ど見られないことだ。
遺体が一人であれば、別の場所で害の上でこの地下室に運び込んだと考えられただろう。
しかし7人?もの人数の遺体を、発見現場に白昼運び込むのは不可能だ。
そのため現場では、吸血鬼か?との声すら囁かれている。』
「……たまたま地下室だったから死体が焼かれずに残ったんだ。もっともネットの書き込みじゃ鵜呑みにはできないけど……」
「でも先輩!」朝子の鼻息がさらに粗くなった。
「その情報と、それから恵美ちゃんの話、ちゃんと辻褄が合うじゃないですか!」
朝子は、佑から鉛筆を借りるとラーメン屋のメニューを裏返してタイムテーブルを書き始めた。
「いいですか?幼稚園から電話があったのはえーと……」と朝子。
未希が直ちに答えた。「正午少し前です。」
「パニックが始まったのは?」
「…その十分ほど前でしょうか」
「ってことは、11時50分ごろですよね」
「ゴジラの出現を防衛省が確認したのは12時08分32秒だ…」
ネットで確認しながら佑が言う。
「……そして浦安が焼き払われたのが約10分後の12時18分と」
「恵美ちゃんのパニックが治まったのは?」
「…私がタクシーで幼稚園についたのが12時半少しまえの25分ごろでしたから…」
「その数分前なら、12時20分ですね……」
タイムテーブルが出来上がると、それまで腕組みしながら見守っていた晃が、ゆっくりと口を開いた。
「……確かに時間的には……合うな」
「でしょ!でしょ!でしょ!吸血怪獣Xが出現して、ビルの地下室で人がされる。
それを恵美ちゃんがテレパシーで感知。怖くてパニックになる!」
興奮気味の朝子の言葉に、落ち着いた声で佑も続いた。
「…その一方ゴジラも敵の存在を感知。そいつごと浦安の町を焼き払った。怪獣Xが死んだか逃げたかしたんで、恵美ちゃんもパニックも治まったというわけか…」
「まあ待て。結論を急ぐな」
晃は、開かれていたジッポの火ぶたをパチンと閉ざした。
「その考えにゃあな、ひとつ大きな問題があるぞ。いいか?恵美ちゃんがXとかいう怪獣を感知したのは未希譲りのテレパシーだ。だがな、ゴジラはなんでそいつのことを感知できたんだ?」
- 38 :
- 「だっかっらー、さっき言ったでしょ!お父さん!テレパシーですよ、テレパシー!」
一音一音区切って言った「だっかっらー」と部分が勘にさわったか、晃の目がにわかに細くなった。
「…そういうのをご都合主義って言うんだ。第一オメエみたいな小娘に『お父さん』なんて呼ばれる筋合いはねえぞ」
「でもそう考えるとスッキリするじゃないですか」
「便秘じゃねえんだから、無理やりスッキリするこたねえんだ!」
「ア、アタシ便秘なんかじゃありませんっ!!」
便秘という発言が図星だったのか朝子までヒートアップしてきたところで、仕方ないというように佑が割って入った。
「まあまあ、オヤジも朝子も落ち着いて…」
「だいたいテメエだ!佑!!なんでこんな便秘女なんか店に連れて来たんだ!」
「あっ!また便秘って言ったぁ!!」
「やっぱり図星だったか。この便秘女子大生め!」
もう収拾はつかない……と、佑が諦観したそのときだった。
……くすくすくす……けらけらけらけらけら…
笑い声が晃と朝子のあいだに水をいれた。
……未希だった。
子供のことで悩みを抱えていた一児の母が、少女のように笑っている。
それまで顔にさしていた影も、笑いによっていっとき吹き払われていた。
「……お二人ともなんだかとっても楽しそうですね。ホントに今日が初対面なんですか?」
「あ、あたりめえだ」「もちろんですっ!」
「そうなんですか?初対面どころか、私にはまるで親子みたいに見えるんですけど…あれ?」
何かに気づいたらしく、未希はハンドバッグを引き寄せた。
…微かに電子音が聞える。未希は中から携帯をとりだした。
「……義理の母からですわ。恵美のことをお願いして此処に来たんですけど……まさか恵美に何か!?
- 39 :
- 警察署の前にオリーブドラブの高機動車が止まると、野戦服姿の長身の士官が降り立った。
「わざわざご足労ありがとうございます」
出迎えらしい背広姿の中年男が頭を下げる。
石を刻んだような顔の男だ。
カリフラワーのような耳、ぐローブのような手、そして蟹のような体躯が、この男が柔道の猛者であろうことを語っている。
「陸上自衛隊一等陸佐、黒木です」
「千葉県警の森田です」
事務的に挨拶を済ますと、2人の男は建物の奥へと並んで歩き出した。
「わざわざ大佐殿……いや、自衛隊の階級では一等陸佐ですか、そのような方においでいただけるとは思いませんでした」
「ゴジラ対策は我々にとって最重要任務ですから」
打ち解けた雰囲気を作ろうとする警視庁の男に対し、黒木は事務的な態度を崩そうとはしない。
「…ところで、浦安で発見された死体に不審の点があると電話で伺いましたが?」
浦安にあった商事会社ビルの地下で発見された遺体は、明らかにゴジラによるものではなかった。
こうした場合、変死の疑いあるに遺体は通常の手続きに従って警察へと引き継がれる。
だが今回は、事件を引き継がれた千葉県警から、再び事件発見者たる自衛隊へと連絡が入ったのだった。
「そのことなんですが……正式な検視はまだなんですがあまりに異様なので…。詳しい点は監察医の先生も交えてから……」
森田は足を速めて地下への階段をおりると、幾つもの角を右に左に曲がった挙句に、一枚のスチール製ドアの前に黒木を案内した。
「ここです。ここなんですが……ん?どこいったんだ?」
「どうかしましたか?」
「いや…事件が事件なんで、ここに張番の警官が置かれてたはずなんですが…」
森田の言を裏付けるように、ドア横には折りたたみ椅子が置かれているが、座っている者はいない。
警官らしい慣れた仕草で、椅子の座面に手を触れると森田は呟いた。
「…温かいな。少し前まで座っていたようだが…あとでとっちめてやらんと…しかし…」
ブツブツ言いながら軽く首をかしげると、森田はドアノブに手をかけた。
「さあどうぞ…」
- 40 :
- 「先生!……土井先生!」
ドアをけるなり、森田は大声で室内にいるはずの医師の名を呼んだ。
「土井さん?土井先生!!……まさか土井先生、張番の警官と駆け落ちでもしたんじゃないだろうなぁ」
おどけたことを言いながら、森田の姿勢がわずかに低くなった。
「……失礼ですが森田警部…その医師は女性ですか?」
「土井先生はたしかに女医さんですが、それが何か?」
「いや、ちょっと想像しただけです。張番の警官は男でしょうから、それと駆け落ちするなら……」
「なるほ……」
「なるほど」と言い終える寸前で、壁にでもぶつかったように森田の声が急停止した。
部屋の奥、被いをかけられて幾つもの死体が乗ったストレッチャーが並んだその向こうから、何かがゆっくりと這い出してきたのだ。
……手だ。
…蝋のように白い手だ。
白い手に爪だけがマニキュアを塗ったように赤い。
同時に、室内に甘い臭いが微かに漂い出した。
大蜘蛛の脚のように、指をくねくねと動かしながら、白い手はゆっくりと這い進んだ。
手首のあたりまで這いだしたところで、手は這うのを止めると、森田と黒木に向かって、艶めかしく指を動かした。
……いらっしゃい
…さあこっちへ…
いつの間にか甘い香りは勢いを増し、物質的な圧迫を感じるほどになっている。
直感的に黒木は悟った。
張番の警官の運命を。
- 41 :
- これを書くとき念のためwikiで調べると、結城晃の階級は「少佐」となっていた。
陸自なら「三佐」または「三等陸佐」だろうと思いながらも、「少佐」を踏襲。
しかし…平成ゴジラシリーズでも「一佐」「三佐」の階級名を用いているものもあって結構デタラメ(笑)。
統一しなきゃならんなぁ…と思い、今回から正しい階級に修正を図っております。
それが森田の「大佐…いや自衛隊の階級では一等陸佐ですか」という説明的なセリフなわけです。
- 42 :
- 「……下がってください」
森田に声をかけると、黒木は野戦服の下に手を突っ込んで黒い自動拳銃を引き出した。
「あんた帯銃してたのか!?」
驚く森田。当然だ。自衛隊員といえども、作戦行動区域外での帯銃には特別な許可が要る。
「下がれ!」
もう一度繰り返すと、黒木は、白い手の主が盾にしているストレッチャーを拳銃でポイントしながら、自らもじりじりと下がり始めた。
真っ赤な爪の手も、それまでとは逆の指づかいでスルスルとストレッチャーのうしろへと下がっていく。
「森田さん!ドアまではあとどれくらいありますか?」
ストレッチャーを睨み据えながら黒木が尋ねる。
「5メートルぐらいですか?しかし…」
…そのとき!
ストレッチャーに載せられた死体が、ぐるりと回転してストレッチャーの向こう側に落ちたかと思うと、次の瞬間、黒木と森田めがけ、大きな物体がもの凄い勢いで吹っ飛んできた!
とっさに床に転げてかわす黒木!しかし森田は直撃を受け、もんどりうって転がった!
背後を素早く一瞥すると、すっとんできたのはストレッチャーに載っていた死体だ。
(ヤツじゃない!それでは!)
ガシャン!
音に反応し、黒木は素早く視界を前へと戻すと、ストレッチャーの上に飛び上がっていたモノが黒木めがけて飛びかかる!
正確に狙っている余裕はない!
バ!バ!バン!
音が繋がって一つに聞える三連射!
45口径の弾量がものを言った!
黒木まで僅かに届かず、白衣を纏った人体が床へと落下!
すかさず踏み込むと、黒木は躊躇なく相手の胸部に残弾5発を叩きこんだ!
遊底が後退したまま止まり、激しく痙攣して人体が動かなくなった。
- 43 :
- 遊底が後退したまま止まり、激しく痙攣して人体が動かなくなった。
倒れているのは土井とかいう女医に違いない。
右肩側に大きく傾いた顔が着弾の苦悶によって大きく歪み、胸は全く上下していない。
死んだと見てとった黒木は、背後に転がったまま動かない森田のもとに駆け寄った。
「森田さん!森田さん!!」
……呼びかけに応えるように、警官の口から呼気が漏れた。
「大丈夫ですか森田さん?立てますか?」
言葉の代わりに、起き上ろうとする仕草で森田が応えた。
「………なにがあったんですか?黒木一佐??」
「説明はあとで……それより早くここを出ましょう」
森田に肩を貸して立ち上がらせると、黒木は例の鉄製ドアに向かって歩きだした。
一歩……二歩……
三歩めを踏み出そうとしたとき、背後からカチカチカチという音がするのに黒木は気がついた。
カチカチカチカチ…カスタネットを連打するような乾いた音が響き渡った。
音は、死んだと思った女医の口から鳴り響いている。
「ま、まだ生きているのか!」
予備弾倉までは持っておらず、森田も完全には回復していないという状況では勝負にならない。
「森田さん!急ぎます!!」
視界の隅で、弾痕の広がる女医の上体がむっくり起き上がるのが見えた。
同時に女医の口がバックリと、耳までどころか肩口まで裂け、その中に匕首を並べたように牙が突出。
白衣の裂け目から、棘だらけの触手が数本、奔流となって吹きだした。
「バケモノめ!」
飛び跳ねるように残りの距離をクリアすると、森田をドアから放り出した。
背後では甘い香りが再び勢いを増し、のたくるものが床を叩く音が迫る!
蔓のようなものが背中に触れるのを感じながら、間一髪黒木はドアの隙間から廊下に滑りだすと、入れ替わりにフルーツ缶のような形状の物体を室内に放り込んだ!
「くたばれ!」
スチールのドアが耐えられるか否か?
それは全くの賭けだ!
一瞬の後、ドアの隙間から閃光が迸って激しい震動が建物全体を襲った!
- 44 :
- 「ゴジラみたび襲来!こんどは浦安!!」
「こっちは『次は東京か?問われる政府の責任!」
「首相、Gフォースの再編を示唆」
報道機関の目が焦土と化した浦安に集まる一方、隣接の警察署地下で発生したボヤ騒ぎは、ほとんど耳目を集めることはなかった。
一部の知性派軍事オタクが、警察署のボヤ程度の騒動に除染装置搭載の73式トラックが現れたことに首を捻っただけに終わる。
浦安襲撃の一週間後になって、内閣総理大臣は緊急閣議を招集。
札幌・横須賀・浦安に対する緊急復興支援対策、そして対ゴジラ防衛組織、いわゆるGフォース再編に関する法律案が閣議決定された。
報道機関はこぞって政府の対応の遅さを激烈に避難した。
もしいまゴジラが襲ってきたらどうするのかと。
丸腰のままで怪物を迎え撃つつもりなのかと。
しかし幸いなことに臨時国会召集までのあいだ、ゴジラは日本近海に姿を現さなかった。
- 45 :
- 「政府、なにをグズグズやってるのかなぁ」と朝子。
ご贔屓の定食屋のカウンター席に、朝子と佑が並んで腰をおろしていた。
2人の見上げるテレビが映し出しているのは、他愛もない主婦向けの情報番組に過ぎない。
「浦安を襲ってから3か月、ゴジラは日本近海から姿を消してるからな。おまけに……」佑が理屈っぽく応える
こちそうさまと言い置いて客の誰かが出ていくと、2人に紛れて店内に入りこんだ落ち葉が吹きこむ風にカラカラ音をたてた。
狂った夏は立ち去ったが、続いてやって来た秋は夏とおなじく狂っていた。
夏の狂気は猛暑とゴジラ。
秋の狂気は気温の乱高下と円高だった。
「1ドル……78円でしたっけ?」
「78円47銭」
「……ゴジラに襲われてるのになんで円高になるの?」
「そんなの知るかよ」
社会が最も恐れているのはゴジラから、目前に迫った空前の円高不況へとシフトしてしまっていた。
Gフォース再編法の執行に必要な予算承認は円高対策のため消し飛んでしまい、うやむやのうちに継続扱いとなってしまっていた。
「Gフォースが立ち上げられたとき、日本はまだバブル景気の勢いが残っていたからな。
メーサー光線車?はい10台ね、スーパーX?一台でいいの?…ってな調子さ」
手を伸ばして佑の皿をとると、朝子は自分の皿に重ねて横に置いた。
「バブル景気ってすごかったんだなぁ。アタシ子供だったから覚えてないけど……」
「まあ、幸いいまのところ何か起こる気配も無さそうだけどね。小高さんからも連絡は無いし……」
「小高さん?」
「旧姓三枝さんだよ。いい加減覚えろよ朝子」
小高未希、旧姓三枝未希とは、「また何かあったら連絡する」と約束し別れて以来、音沙汰ないままだった。
「恵美ちゃんも、もう怖い夢は見なくなったんだね」
- 46 :
- ……もうゴジラは来ないな。
……あれはたまたま虫の居所でも悪かったんだよ。
……他に金が必要なところもあるしね。
……なにより選挙の票にはならんからな。
諺通り喉元過ぎて熱さを忘れた日本に、四度目の襲来の日は間近に迫っていた。
今度の舞台は東京。
キャストはゴジラと、そしてもう一匹。
悪夢のダブルキャストであった。
- 47 :
- その夜、都内にある商事会社の経理で働く田中有子は、月締め作業のため部下3名とともに社に残っていた。
「……ったく政府はなにやってんのかしら」
数次を見ているとおもわずボヤキが口から洩れた。
と、いっても手元に上がってきた数字にはまだ円高の影響は出ていない。
数字が変わってくるのは3か月程度先、つまり年度末決算の前ぐらいだろう。
昨年度は数次のやり繰りでなんとか黒字決算にできたが、今年はどうだろうか?
もし赤字に転落するようなら、会社は人員整理に踏み切るかもしれない。
……暗澹たる予感に気分が落ち込む。
「係長。考えたって仕方ないですよ」
社歴で2年下の境がデスクから立ち上がり、給湯室へと向かった。
彼女は正社員としての社歴は下だが、アルバイトとしての社歴を加味すれば田中の1年先輩ということになる。
そのため、田中にとって境は何かと頼りになる存在だった。
「……さてと」給湯室から境の声がする。
まずガス湯沸かし器を点火する音がして、つぎに金属のガチャガチャいう音と陶器が触れ合う音が続くと、他の2人も作業の手を止めて椅子で背伸びを始めた。
境はいつも絶妙なタイミングでティータイムを入れてくる。
それに今朝彼女は、ショルダーバッグ以外に紙袋も抱えて出社してきたから、お茶以外にも何か用意があるに違いない。
……案の定、境はお茶を配り終えると給湯室に引き返し、再びおぼんを手に戻って来た。
「田舎から送ってきたんですけど、よかったら……」
「あら?境さんって東北の人だったっけ?」
「いえ、田舎は箱根です。色だって白くないっしょ?」
- 48 :
- しえん
- 49 :
- あ……私の駄文は気にしないで怪物系の話題であればどんどん投下して下さい。
くくりは「怪物」というだけです。
それから「熊」の方もちゃんと作ってます。
普通ならヒグマにするとこなんですが、いっそ意表を衝いてツキノワグマでもいいかなと(笑)。
- 50 :
- 「……判りました。直ちに出頭します」
短く応えて、黒木は受話器を置いた。
時刻は未明の午前3時。
要件は市ヶ谷への緊急出頭命令。
時刻からして、不法帯銃の問責などでないことは言うまでも無い。
ではいったいなんのために?
(やはり……来たのか)
自分が呼びだされる理由などいちいち聞かなくとも、黒木には判っていた。
先方よりさし回された車で出頭すると、防衛省は、昼間と変わらぬどころか、昼間以上の稼働状態になっていた。
玄関口で待ち受けていた尉官の敬礼を受け建物地下の一室へと案内される。
なかで黒木を待っていたのは、三つ星と二つ星、2人の将官だった。
「米国から?…外交ラインを通してでしょうか?」
「両方だよ黒木一佐」桜星二つの将補が答えた。
「米大使館と横須賀基地の両方だ。根拠は、偵察衛星の観測した海水温度の上昇と海中の放射能反応。そして作戦行動中の原潜による聴音だ」
「場所は?」
「衛星が捕捉したのは南硫黄島の北東約300キロの地点、日本時間の昨日20時18分。米軍はそこから原潜による追尾を試みたが、およそ5キロほど北上した地点で目標を見失ったそうだ」
「南硫黄島の北東300キロ……そこから北上するということは……」
黒木の口元が、内心の覚悟により微かに引き絞られた。
「そのとおりだよ黒木一佐。日本だ。奴が日本近海に侵入してきたのだ」
ゆっくりかぶりを振ると、桜星三つが静かに立ち上がった。
「黒木一佐、これより君への謹慎命令を解き、直ちに新設Gフォースの指揮を執るよう命令する。ゴジラの四度目の襲来から、日本の国土を守るのだ」
背骨に電気が走ったように、瞬時に黒木は直立不動の姿勢をとった。
「了解いたしました」
- 51 :
- (アイツは昨夜20時の時点で東京からおよそ1000キロの地点にいた)
黒木は作戦室の大マップに×印を書きこんだ。
(もし直線的に日本上陸を目指すなら移動速度から逆算して……)
過去のデータにおけるゴジラの移動速度ならコンピュータで調べるまでもない。
黒木は記憶していた数値をいったん電卓に打ち込んだが、思い直したようにすぐクリアした。
(……違う、これは陸上でのデーターだ。海中ならもっとずっと速い)
山根博士の分析によれば、ゴジラは海中での生活に適応した生物であり、そのため海中での最大移動速度は陸上でのそれの二倍を超えると考えられた。
黒木は改めてゴジラの海中移動速度を打ち込なおした。
(約……一週間か)
時間の無さに慄然なり、黒木は自分が陣取る「作戦室」内を見渡した。
変化する況を刻々と映し出す大型モニターは無く、代わりに壁に大版の地図が張り出されていた。
コンピューターが設置されるのは明日以降。どこかの部署で余った機材が回されてくるに違いない。
7年ぶりに返り咲いたGフォース指令の地位は寒々としたものだった。
スーパーX、スーパーX2、メカゴジラにモゲラ、すべて開発・建造中止。
メーサー光線車は9年前の排ガス規制時に全て廃車。
海水温の温度差や微量放射能からゴジラの移動を追尾する監視衛星は、太陽電池パネルの老朽化により機能低下をきたしたまま放置されていた。
今回のゴジラ接近も、米国が連絡してくれなければ全く気付かなかっただろう。
だが最も深刻なのは、人員の問題だった。
機材なら作ればよい。自前で作れなければ、余所から買ってくればよい。
要するに「金」の問題だ。
しかし「人」はそうはいかない。
組織が一つの有機体として臨機応変に活躍できるようになるには、「時間」がかかる。
そして「時間」だけは「金」で買うことができない。
それに……今回黒木が対処すべき相手は、ゴジラだけではないのだ。
(なんとしても……なんとしてもアイツの目標地点を正確に割り出さなくては……)
- 52 :
- 黒木翔が眠れぬ夜を過ごした翌日……。
結城晃は、馴染み客の会話を聞くとは無しに聞きながら、ラーメンの上にチャーシューを手際よく並べていた。
「しっかし今日はよくヘリコプターが飛んでるよな。おれ、さっきので4機目だぜ」
「おれなんか5機目だよ」
「どっかで事故でもあったのかな?」
「ヘイ!チャーシューメンお待ちっ」
「おっ!来た来た」
待ちかねたように割り箸を割る客に、晃はさりげなく尋ねた。
「お客さん、いまヘリがどうとか言ってましたよね。そのヘリ、どっちの方角から飛んできましたか?」
「オレが見たのは……たしか北からだったよなぁ」「オレのは千葉の方からだったけど」
「そんなにアッチコッチから来て、なにウロウロしてやがんでしょうね」
へへへと作り笑いしながら、晃は厨房に引っ込んだ。
朝焼けの空を横切って南へと飛び去るヘリの姿は、晃自身も目にしていた。
型式はおそらくシーホーク。
対潜哨戒任務を目的に開発された機種だ。
(北から飛んできたのはたぶん「首都防空の要」入間基地、千葉から来たのは木更津の第一航空団だ)
寸胴鍋を見つめる晃の目がたちまち細くなる。
入間基地は航空自衛隊。それに対し木更津の第一航空団は陸上自衛隊の所属なのだ。
(陸自と空自のヘリが、そろって太平洋で空のお散歩か?……賭けてもい!海自のヘリだって絶対出撃してるぜ。目的は……)
元Gフォース所属の兵としては、理由など考えるまでもない。
(あいつが戻ってきたんだ)
「あっ!!」
そのとき、さっきの客が突然小さく叫んだ声で、晃は現実に引き戻された。
「儲けぇ!チャーシュー一枚多い!」「オレは二枚も!!」
(ち、ちくしょう!結城晃、一生の不覚!)
実にささやかな「一生の不覚」だった。
- 53 :
- 佑は、その日も夜遅くなって帰って来た。
「……帰ってやったぞオヤジ」
「なんだ帰ってきやがったのか、このバカ息子」
……と返って来るのがいつものパターンだが、その夜は何故か違っていた。
「おう、お帰り」
「……なんだよ優しくなりやがって、気持ち悪いな」
「気持ち悪いって言われてもなぁ……」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、晃は唐突にきりだした。
「と、ところで佑。おまえも、来年、卒業なんだから、今年あたり……卒業旅行でもしてきたらどうだ?」
「そ、卒業旅行?」
佑は内心の動揺を隠しながら、旅行パンフレットの入った肩掛けカバンを無意識に後ろに隠した。
「……ま、まあそれなら考えてないこともないけど……」
「おっ!そうかそうか、それなら善は急げだ。これからスキー旅行にでも行ってこい」
「初雪だって降ってないってのに、いったいどこのスキー場が開いてるってんだよ」
「スキーがダメなら……そうだな!紅葉狩りはどうだ?」
「スキーの次は紅葉狩りかよ」
「山はいいぞ。紅葉に温泉に鍋料理!寝酒で一杯、寝起きで一杯!」
「…オレをアル中にしたいのかよ」
「そうだ!なんならあの便秘女も連れてってやれ。ほらいわゆるその……婚前交渉ってやつだ」
「な、なんてこと言い出すんだよ、このバカおやじ!それにそれを言うなら婚前旅行だろが!」
「婚前交渉するために婚前旅行するんだから同じことだろうが。それにどうせオマエだってもう、やっちまってるんだろ!」
「や、やってなんか……」
「…お?赤くなりゃあがったな!よし、この父さんの目を真正面から見て『やってません』って言えるか?言えるか!?このスケべ小僧!!」
- 54 :
- 「オ、オヤ、オヤジがさあ、どうしてもって言うからさァ……」
朝子との旅行。
それはもともと佑自身も考えていたことではあったのだが……。
晃の申し出を渡りに船として、思い切って佑は、朝子に話をもちかけてみた。
朝子の答えは二つ返事だった。
「…いいよ。ちょうどアタシ、前から行きたかったトコあったんだ」
「前から行きたかったトコ?それって……」
そしてその三日後、佑と朝子は、そろって箱根登山鉄道の客となっていた。
- 55 :
- 「このお寺が、朝子の行きたかったトコなわけ?」
箱根登山鉄道の箱根板橋絵茎で下車。
東海道新幹線に沿って東京方面に戻り、それがトンネルになってしばらくした辺りから東海道新刊線を離れて更に100メートルほど。
閑静な住宅地のただなかに、その寺はあった。
ミミズクの彫られた石碑の下部に、「伝肇寺」とある。
「でん……けいじ?」
「でんじょうじって読むんだよー」
季節はずれの暑さに汗を手で拭いながら、佑は山門を見上げた。
「門……閉まってるな」
「奈良や京都の観光化されたお寺じゃないからねー」
そう言いながら、朝子は手ぬぐいを取り出して佑に手渡した。
「このお寺にいったい何の用があったんだ?」
「あたし子供のころね……自分のことが大嫌いだったんだ」
「へえー、いまの朝子からは損像できないな」
寺に隣接する幼稚園から聞える子供の声に促されたのか、朝子の視線が、ずっとずっと遠くを見るような気配になった。
「アタシね……自分が嫌で嫌で仕方なかったの。親にも、先生にも、友達にも好かれてないと思ってて……」
「いわゆる『みにくいアヒルの子症候群』って感じか?」
うん…と、小さく朝子は頷いた。
それとこのお寺と、どういう関係があるんだ?と佑は思ったが、それを口にするべきではないとも感じていた。
(きっと朝子にとっては、とっても大事なことなんだ)
だからこのまま、余計なことは聞かないで朝子の話を聞いていよう。
そう考え、佑は山門の石段に腰を下ろした。
すると、無言のままに朝子も佑の隣に腰を下ろした。
「このお寺にはね。北原白秋の歌碑があるの。歌碑っていっても短歌じゃなくて、童謡なんだけど……」
そして朝子は、微かな声で歌いだした。
「赤い鳥、小鳥、なぜなぜ赤い、赤い実を食べた」
「それで終わり?ずいぶん短い歌だな」
「うん、そうだね。でもその代わり、何番もあるんだ。白い鳥とか青い鳥とか」
「随分安直すぎないか?」
もういちど「うん、そうだね」と相槌をうって、ケラケラと明るく朝子は笑った。
「アタシ子供のころね、なりたかったんだー、赤い鳥に」
- 56 :
- 一方……息子の佑が朝子とともに列車の客となったころ……
壁の時計を見上げて「……そろそろいいか」と呟くと、ためらいがちに結城晃は受話器を上げた。
しばしの呼びだし音のあと、先方でも受話器がとられ、軽い息遣いが聞こえてきた。
「……ああ……オ、オレです……じゃなかった、結城です。結城晃ですが……三枝……じゃない、小高さんは……」
すると受話口からクスクスという聞き覚えのある笑い声が聞えてきた。
「『じゃなかった』とかいうのばっかりですね、少佐。私、未希です。」
相手の明るい声にほっと安堵の息をもらして晃は言った。
「あの……いま、ちょっといいかな?」
「時間なら、いま恵美を幼稚園に送ってきたばかりですから大丈夫ですよ。」
そして…ここまでの明るい声に微妙な影がさして未希は言葉を続けた。
「恵美の夢の件ですね」
「実は……そうなんだ。恵美ちゃんは……その……なんだ、いま夢は……」
「見ていません」
「いや、それならいい。それなら安心だ。それじゃ……」
相手の返事にほっとして電話を切ろうとした晃だったが、受話器からすがるように未希の声が追いかけてきた。
「夢は見ていないんですけど、気になることがあるんです。少佐、これからお会いしていただくわけにはいきませんか?」
- 57 :
- 娘の恵美を幼稚園に迎えに行かねばならないため、その日は晃の方から未希のところに出かけることになった。
待ち合わせの喫茶店に晃が入っていくと、未希は既に四人掛け席についており、隣の席にはどこかの和菓子屋の紙袋が置かれている。
「あ、お待ちしてました」
晃が向かいの席に腰を下ろすと、ウェイトレスがやって来るのも待たずに、未希は要件をきりだした。
「あの、今日いらしていただいたのはこれを見ていただきたいからなんです」
早口で言いながら、未希は紙袋から数枚の画用紙をとりだした。
「……これが電話で言ってた……」
「娘の、恵美の描いた絵です」
「ちょっと見せてもらうぞ」
晃は画用紙の天地を自分の側にすると、改めて絵に視線を落とした。
四角い枠の中に、四角い枠が描かれ、その中にもいくつか四角いものが描かれている。
「なんだこりゃ?抽象画か??」
次の一枚は……もっと意味不明だった。
絵の上?と思しき側から首吊り縄のようなものがいくつも並んでぶら下がっている。
黒いマッチ棒のようなものがいくつも、まっすぐなもの、右に斜めのもの、左に斜めのものとでたらめに重なりあっている。
「その絵は……さっき見ていて気がついたんですけど、満員電車じゃないでしょうか?」
「満員電車?……ああ、この首吊り縄は吊輪か」
晃の「首吊り縄」という大声に、客の何人かが振り返った。
「これが満員電車の絵だってんなら、さっきの絵だって何かの風景ってことになるな」
晃は三枚目の絵に眉寄せた。
「これは………蝋燭か?」
黒く塗られた中、大きな柱のようなものが描かれている。更によく見ると、蝋燭のまわりには四角い枠があり、基部にも何か箱状のものが描かれて、黄色い点々がいくつか散らされていた。
「これもよく判りません。最初はホタルの飛ぶ野原に置かれた蝋燭かなって……」
「……随分無理やりな解釈だな」
四枚目はやはり「蝋燭」の絵だった。ただし三枚目とは多少アングルが変わっていて、四角い大枠が無くなっている。
「蝋燭シリーズ第二弾だ。知らない人間に聞かれたら、変なシリーズと勘違いされるな」
にっと歯を見せて笑いながら晃は絵から視線を上げたが、未希は全く笑っていなかった。
ネタの選択を間違えたかと晃は後悔しかかったが、未希が笑わなかったのはそのためではなかった。
「あの少佐、次の、次の絵を御覧になってください」
「つ、次か?次の、次の絵だな。はは…」
照れ隠しに笑いながら五枚目の絵を広げた途端、晃の笑が瞬間に引っ込んだ。
「こ、こりゃあ……」
「一週間ほど前からです。恵美がこんな絵を描きだしたのは……」
未希の声が、母としての不安に震えている。
五枚目の絵……。
マッチ棒のような人型が何人も横倒しに描かれた上に、真っ赤なクレヨンが力いっぱいに塗りたくられていた。
- 58 :
- 「黒木一佐、Gは発見ポイントより全く動く気配はありません」
「……引き続き監視を続行せよ」
腕組みし両目を閉じたまま黒木一佐は命じた。
いまよりちょうど二日の前。
海自・空自に加え海保のヘリまで動員した一大捜索の結果、房総半島の洲崎と三浦半島の城ケ島を一直線で結んだラインの、ど真ん中からやや三浦半島よりの場所でついにゴジラは捕捉された。
これより少しでも北上されれば、海運の要衝浦賀水道、そして東京湾内である。
被害を最小限に食い止めようとするならば、Gフォース指揮のもと全戦力をもってゴジラを叩くべきでだ。
だが、ゴジラはそこですでに二日も動きを止め、黒木率いるGフォースもじっと静観に努めるばかりだった。
「監視を続行します」
女性士官の鈴木が黒木の命令を復唱すると、モニターを睨みながらオペレーターの豊原二尉が言った。
「……動きませんね」
鈴木と豊原も黒木と同じく元Gフォース隊員だ。かつて鈴木がスーパーX2のオペレイターを、豊原がガンナーを務めてゴジラとの実戦経験もある。
Gフォース解隊後、豊原は陸自、鈴木は空自所属となっていたのを、上層部に無理を言って黒木が引き抜いたのだ。
無言のままの黒木に対し、豊原は更に続けた。
「本当に攻撃しなくてもよろしいのでしょうか?これ以上こんな状態がつづけば政府も……」
「わかっている」
動かぬGフォースにしびれを切らし、政府が上層部にやいのやいの言ってきているのは、黒木も小耳に挟んでいた。
「……いまは待つしかないのだ。」
「しかし……」
「今回ゴジラは殆ど一直線に現在地点まで進出してきた。つまり今回は、東京湾から上陸可能な場所に出現する可能性が高いということだ……」
眠るように閉ざされていた黒木の両目が、うっすらと開いた。
「……ゴジラの憎む存在。札幌、横須賀、そして浦安に出現した怪物。アナザーワンの今回の出現地点は、おそらく東京だ」
- 59 :
- 「……東京」
鈴木が呟いて息を飲んだ。
「しかし一佐……」
モニターから顔を上げ、豊原が振返った。
「警視庁および神奈川・千葉・埼玉各県警のどこからも、連絡は入っていません。『事件』『大量人』のワードで独自に情報検索もかけていますが……」
「なにも引っかからないか。」
「はい。……検索ワードを変更してみますか。」
豊原はまず検索ワードから「大量」を削除し検索してみた。
「当然ながらヒットは多いですが……みんな普通の人事件ですね。不審なものは特に見当たりません……」
「その検索でヒットするような事件なら、警察が既に把握しているはずなのでは?」
「それでは……」
鈴木の指摘を受けて、豊原は再度検索ワードを変更した。
「今度は『人』を削ってみます」
豊原の指がキーボードの上で踊り、「事件」「大量」で実行キーが打たれた。
「こんどはもっと関係無さそうな事件ばっかりですね。タバコが100カートン大量盗難とか、何故か伊豆でリンゴが豊作とか……ん?これはなんだ??」
目に止まった事件の全文を、豊原は改めて呼びだした。
「……京急本線の同一車両内で5人の乗客が倒れ、病院に搬送されたそうです。他にも8人の乗客が体調の不良を訴えていると……症状は……貧血?」
貧血の語に、鈴木も思わずモニターから視線を引き剥がした。
「確か浦安で発見された死体も確か血が……」
「……5人のうち2人は……重態!?」
瞬間!黒木が動いた!!
「豊原!」
「はい!」
「問題の列車は、何時、何処からスタートしてどの駅で停車したのか。沿線地域で何か事件が起こっていないか。それから救急搬送された患者の容体。直ちに情報収集せよ」
- 60 :
- 黒木一佐と結城晃がそれぞれのルートで怪獣Xに迫っていたころ……。
結城佑と朝子は、再び箱根登山鉄道に乗り、ロープウェイへと乗り継いで目指す芦ノ湖へと辿り着いていた。
晃のとってくれた宿に荷物を下ろすと、2人は軽装になって湖のほとりを散策してみることにした。
ただ湖の畔を散策と言っても、芦ノ湖は間近まで山と森が迫っているため、畔をグルリと歩いて回ることはできない。
宿を出ていくらもいかないうちに、2人の歩みは森を抜けてきた車道によって遮られてしまった。
「どうする?戻ろうか?」
「うーん……」
しばし小首を傾げたあとで、朝子は答えた。
「もうちょっと行ってみようよ。ほら、車道の向こうにもまだ歩けそうな道もあるし」
- 61 :
- 「もうちょっと行ってみようよ。ほら、車道の向こうにもまだ歩けそうな道もあるし」
朝子の言うように、確かに車道の向こう側の森の奥にも道は続いていた。
ただこれまで歩いて来たような、観光客用に整備された道ではない。
林道と言うほどではないが、限られた地元民の生活道という感じの、自動車一台がやっと通れる程度の道だった。
「なんか結局行き止まりになるんじゃないか?それとか、高圧線の鉄塔に行きつくだけとか……」
「いいじゃん、それでも。行こ行こ!」
朝子は左右からの車を素早く確認すると、佑を置いてさっさと向こう側に、独り渡ってしまった。
「お、おい!」
しかし朝子は佑の声など耳に入らぬ様子で、どんどん道の先へと進んでいく。
「ちょ、ちょっと…」
以外に途切れぬ車の流れに佑がもたついている隙に、道のカーブのところで朝子の姿は
とうとう見えなくなってしまった。
「おい朝子まてよ!」
なんとか車道を渡ると佑は大声で呼びながら朝子を追いかけた。
車道の湖側から覗き込んだときは暗いと感じた道だったが、いざ踏み込んでみればそれなりに日もさし込んでいて、思ったほどには暗くない。
だが、佑の呼ぶ声に応ずる声は無かった。
「……いい加減返事しないと、オレ怒るぞ!」
胸に微かに兆しかけた不安を打ち消すようにさらに大声を上げると、佑はついさっき朝子の姿が見えなくなったカーブまで走っていった。
カーブの向こうに出てみると、道はさらに20メートルほど行ったところで逆方向にカーブしながら登り勾配になっていた。
カーブのイン側には大きな木や下草が茂っていて、その向こう側はやはり見えない。
「朝子……」
今度は掠れるような声で言うと、佑は全速力で駆けだした。
次のカーブを曲がると、更に勾配を増した小道を息を切らして一気に駆け上る。
そのとき、揺れる木々のあいだに、真っ赤な何かが輝くのが見えた。
(赤い鳥……)
朝子に教わった童謡がふと頭をよぎる。
(飛んでいるのか?赤い鳥が!?)
枝葉のあいだに見え隠れする赤い鳥?…に導かれるように、佑は道を外れ、生い茂る灌木をかき分け進んでいった。
(朝子……)
「アタシ子供のころね、なりたかったんだー、赤い鳥に」
朝子の言葉が不意に脳裏を掠めた瞬間、灌木の茂みは突然終り、タスクの目の前にはポンと開けた土地が広がっていた。
開闢地のど真ん中に、幾百という真っ赤な実を実らせて、とてつもなく大きく大きなリンゴの木が聳えている。
そして下に立つ三人の男女。
そのうちの一人が振り返った。
「なんでそんな変なとこから出て来んのよー」
朝子だった。
一口ガリリと齧ったリンゴを手に、白い歯を見せて朝子が笑っていた。
- 62 :
- 相変わらずゴジラと静かに睨み合いを続けていたGフォースが、突如としてトップギアでの疾走を開始したのは、一本の電話からだった。
「黒木一佐、警視庁から電話です」
手真似で「回送せよ」と合図を送ると、一泊おき呼吸を整えてから黒木は受話器を取り上げた。
「はい……お電話代わりました。黒木です」
「私は警視庁の岸田といいます。……いいや、挨拶は抜きでいこう。たぶんアンタの探してた事件が出たぞ」
「なんだと!」
黒木は、ヘリ部隊にゴジラを捜索・監視させると同時に、東京・千葉・神奈川の警察には「不審死や大量人が発生した場合、すぐ連絡がもらえるよう手配をしていたのだ。
黒木は会話が部下たちにも聞えるよう、電話をスピーカーモードに切り替えた。
「事件があったのは東京都大田区大森。大森警察の目と鼻の先だ。」
豊原が直ちにパソコン画面に作戦マップを立ち上げた。
「……現場はメゾン大森。4階建てのマンションだ。建物の南北両側に二本の階段があって、それを挟む形でそれぞれの階に2部屋の玄関が向き合っている。その北側の階段に面した8部屋が全滅だ」
- 63 :
- 岸田警部の連絡によると、発見したのは地区の民生委員の女性だった。
問題の階段の2階に独り暮らしの80歳になる老女がおり、それを尋ねたところが呼び鈴を鳴らしても返事が無い。
心配になった民生委員が管理人と共に部屋のカギを開け中に入ったところ、血塗れの部屋で首が皮一枚を残して殆ど切断されかけた老女の遺体を発見したのだ。
「呼ばれて行った若い巡査が機転のきく奴で助かったぜ。
サイレン鳴らしてパトが来たってのに、階段の他の部屋の連中が何の反応も示さないのは変だと思ったって言うのさ」
「……まさに勲章もんだな」と黒木。
「死体の状態をいちいち説明する必要はねえだろ。市川のと同じさ」
「何か他に特徴的な点は?」
「それをいま言おうと思ってたとこさ。まず8部屋ともドアに鍵がかかっていた」
「ということは、犯人は何処から……」
「たぶんベランダだ。それらしい痕跡もあった。次に妙なのは血が少ないってことだ」
「しかしさっきアンタは部屋が血塗れだったと……」
「たしかに部屋は血塗れだった。だがな、人間一人をバラバラにしたら、部屋は血塗れなんてもんじゃすまねえ。だいたい人間の体重の2/3は体液、つまり血なんだぜ」
「それでは血が少ないということは……」
「食肉処理みたいに血抜きでもしたか、あるいは吸血鬼みたいに吸ったかだな」
- 64 :
- ついにGフォースは「アナザーワン」、朝子たちが言うところの「怪獣X」の痕跡を捕まえた。
場所は大田区大森の国道15号に産業道路が合流する三角地帯。そして最寄りの駅は大森駅。謎の貧血が多発した京急本線の駅だった。
警察の更なる調査により、203号室に住む母娘のうち38歳になる娘の遺体だけが見当たらないことも判明した。
この行方の知れぬ娘こそアナザーワンであると判断した黒木一佐は、近接戦闘ユニットの編制を指示する一方、更なる情報収集に当たらせるため、副官格である豊原二尉を現地に派遣した。
- 65 :
- 「あ、失礼ですが」
岸田がいるという3階の部屋の前で、豊原は若い私服刑事の誰何を受けた。
「陸自……Gフォース所属の豊原です」
「これは失礼しました」
若い刑事は、陰惨な現場には不似合いな笑顔を見せた。
「まるでモデルみたいな方だったので。もっとごっついゴリラみたいな方が見えるものとばかり……」
「ありがとうございます。それより岸田警部は?」
「この部屋ですが……」
と言って若い刑事は304と表示された部屋をしめした。
「でも入るのは止めた方がいいですよ。警察関係者も、三人そこで……」
豊原は、踊り場に誰かの吐しゃ物が三つあったのを思い出した。
「だから……」
「重ねてありがとうございます。しかし任務ですから」
相手に謝意を示しつつも、豊原は302号室へと入っていった。
数秒後、真っ青な顔で口元を抑え、転げるように豊原は駆け出して来た。
そして、踊り場の吐しゃ物は四つになった。
「おい凍条!」
302号の中からどなり声が聞えてきた。
「Gフォースが来ても、中にゃ入れるなって言っといただろうが!」
- 66 :
- 「遠路はるばるお疲れさん。オレが警視庁の岸田警部だ。この昼時に車で都内の移動は大変だったろ」
岸田と豊原は場所を変え、今は3階と4階の間の踊り場で顔を合わせていた。
「いえ、警視庁が先導のパトカー出してくれましたから。……それより警部、さっき……何をしてられたんですか?」
豊原はついさっき302号室で目にした光景を思い出した。
しゃがんだ姿勢の警部が豊原の方に顔を上げた拍子に、彼の体に遮られていた物が、豊原の前に露わになった。
……切断された女性の生首だった。
「おい、また顔色が悪くなったぞ」
豊原の様子を窺いながら、岸田は質問に答えて言った。
「あんた、プラモデル作ったことあるかい?」
「プラモデル??」
「Aの18とかBの2とか記号が振ってあってよ。それを所定のトコにくっつけてくと、戦車とか飛行機とかができるアレさ。あれの組立説明図を作ってたのさ」
つまり警部は「バラバラ死体の組立説明図」を作っていたらしい。
胸にこみ上げる酸っぱいものを意思の力でねじ伏せながら、豊原は更に尋ねた。
「それがこの事件となにか?」
「なにか……おかしいみてえな気がすんだ」
肩越しに302号室を顎でしゃくって警部は言った。
「他の7部屋も似たようなもんだが、この部屋だけ被害が特に酷でえ。それで刑事のカンが騒ぐんだ。何かこの部屋には秘密があるってよ。まあ、あくまでオレのカンだがな。なにか違うんだ。最初は部品が足りないと思ったんだが…」
「でもその……つまり……『部品』は揃っていたんですよね」
豊原にもようやく、さきほど岸田がやっていたことの意味が無理解できた。
「ああ、部品はちゃんと揃ってた。あの部屋に住んでたのは4人家族だったらしい。
おい凍条!そんなトコでくつろいでねえで、オマエが調べたことをこのGフォースのアンちゃんに話してさし上げろ」
「はいただいま」
さっきの若い私服がメモを取り出しながら階段を上がって来た。
「この部屋に住んでいたのは戸主である47歳男性、42歳の妻、17歳の長女3人です。他に長男もいますが、今は大阪の会社に勤めており、ここには住んでいません。電話でですが無事も確認できました」
「つまり、昨夜302号で寝起きしていたのは3人だったということですね?……それでその……『部品』は……」
「男の首が一つに女の首が二つ、手首が六つ、胴体も三つってな具合に全部な……お、おいおいアンタ、ホントに大丈夫か?」
- 67 :
- 同じ相手を追うGフォースと警視庁。
Gフォースは基本的に軍事組織なので巨大生物の相手はお手の物だが、人の中に紛れる術を知るアナザーワンが相手では勝手が違った。
一方、警視庁の猟犬たちは人を追うには長けているが、それがひとたび人ならぬ正体を露わにすれば、瞬時に手に負えないものへと変わる。
両者の協力無くして、作戦の成功はあり得なかった。
「つまり二尉殿……この事件のホシは人間じゃなく、ここでしをやったあと、京急の車内でもつまみ食いをやらかしてると、そういうことなんだな?」
「そうです警部」
「だったら……かなりマズイぞ」
「何かマズイんですか?」
これだけの規模のしをやって、おまけに移動経路でも事件を起こしてるなら、オレたち警察やアンタらGフォースに尻尾を掴まるのは時間の問題だ」
「そうだと思います。自分も今日明日にはアナザーワンを……」
「ちがう!明日なんてねえんだ。判んねえか!?」
警部は拳銃の銃口のように人差し指を豊原に突き付けた。
「もうバレても構わねえから、そいつは派手に動き出したんだ」
「バレても構わない??」
「そうだ!ソイツはな、明日と言わず、今夜にでも動きだすぞ」
ハッとして豊原が腕時計に目を落とすと、短針はまもなく二時になろうというところだった。
「Gフォースさんよ、正念場だぜ。遅くとも10時間かそこらの内に、アナザーワンとかは必ず動く」
- 68 :
- 「課長……田中課長」
自分の名を呼ぶ声に、経理課長の田中有子はハッと我に返った。
随分なんども名を呼ばれていたらしく、課員の女の子が全員田中の方を見ている。
「課長、大丈夫ですか?」
境康子が心配そうに覗きこんでいる。
「……ううん、だいじょぶ、だいじょぶ。ちょっとぼんやりしてただけだから……」
時計を見上げると、もう短針は二時をいくらか回っていた。
ぼんやりしていたのは15分ぐらいか?
働き過ぎなのかな?…と思った。
そういえば、どうやって家を出たかも、どうやって会社までやって来たのかもよく覚えていないほどだ。
でもその割には、体には疲れは感じられない。
むしろここ何年もなかったほど元気なくらいだ。
すると、外聞を憚るように境が田中に顔を近づけ言った。
「この部署は田中さんが頼りなんですからね」
いちおう武藤という男性の経理部長がいるにはいるのだが、仕事は100%部下に丸投げという、全くの役立たず男だった。そのため密かに部下からは武藤でなく無能部長とよばれていた。
「ねえ、誰かお茶入れてきてくれない?」
境が言うと、若い茶髪の女子社員が目をくるくるさせながら給湯室へと走って行った。
「さ、お茶して気分が変わったら、もうひと頑張りいきましょ」
「そうね。この仕事だけは、明日に回すわけにはいかないものね」
そう、明日にまわすわけにはいかない。
明日なんてもう……
何故だか、そんな思いが田中有子の脳裏をよぎって消えていった。
- 69 :
- パタパタ
,.-‐- ., `ヽ,. .,/´ ,. - ‐ - .,
(;;◎;;;( (;))`(O$O,,)´((;) );;;◎;;)
'ヽ;;;;(´ :(;;;;;:ミ:::::彡:;;;;;): `);;;;;;ノ
ヽ;`ヽ );;;;;〈;;;;;;;〉;;;;( ノ´;;/
γ´ ̄:ヽ:::ノ ̄`ヽ´
`ー ´ `ー ´
- 70 :
- 八岐九尾(やまたのきゅうび)
体は九尾の狐。首から上は八本の蛇が生えている。
- 71 :
- 続きマダー?
- 72 :
- 木星クラゲ
木星のガス雲の中を漂って生きる浮遊生命体。
光合成で栄養補給するが一応動物。直径約2km。
- 73 :
- まだ規制継続中?
- 74 :
- 73みたいな文句を書き込んでは「規制中」と拒否され続けて、はや一カ月以上。
やっと復活か……。
ついでと言ってはなんですが、72の「木星クラゲ」でこんなお話は如何か?
「Tzitzimitl」
日本初の木星探査衛星「ミサゴ」が7年におよぶ宇宙漂流の末、地球に帰還する。
宇宙研究開発機構は太平洋上で「ミサゴ」のカプセルを回収。
カプセル内には「ミサゴ」には、シューメーカー・レビー第9彗星が1994年木星と衝突した際、衛星軌道上にまで舞い上げられた物質の収容が期待されていた。
しかし、胸を張って記者会見を行った宇宙研究開発機構からは、その後半年近くたっても何の発表も為されなかった。
移り気な世間が「ミサゴ」のことを忘れかけたころ事件が起こる。
宇宙研究開発機構の実験棟で火災が発生。
研究室一つが灰になっただけでなんとか火災は消し止められた。
だがその直後、研究員が別棟の一室から飛び降り自しているのが発見される。
窓が開いたままの部屋には遺書らしきものはなかったが、ただ一言だけ「Tzitzimitl」という言葉が、ホワイトボードに殴り書きされていた。
警察と消防は、火災発生に責任を感じたことが原因の投身自と推論するが……。
やがて火災は失火ではなく放火であった可能性が高いことが判明する。
宇宙研究開発機構での火事騒ぎと相前後して、地球では電波障害と日照不足が頻発するようになる。
原因は全く不明。
やがて沖縄基地から飛び立った米軍のブラックバードが太平洋に墜落するという事件が発生する。
墜落寸前パイロットは「ジェリー・フィッシュ」と叫ぶように通信してきていた。
- 75 :
- やがて……地球に降り注ぐ太陽光線の減少が、著しくなりはじめる。
各地の天文台による観測の結果、原因は宇宙空間に漂う巨大な物体によるものと判明。
ついに全ての事実が一つに繋がって、真相がその巨大な姿を現した。
自した研究員の書き遺した「Tzitzimitl」とはアステカ神話の太陽に戦いを挑む夜の神であって、日食・月食も司る魔神のことである。
研究員は「ミサゴ」のカプセル内からある生物を発見していた。
それは元来木星のガス雲に住む微生物で、僅かな太陽光を頼りに命を繋ぐだけの存在にすぎなかった。
ところが地球のような太陽光線の豊富な環境に置くと爆発的に成長することが判明。
研究室の放火は、突如爆発的な増殖を開始したこの生物をすためだったのだ。
彼は飛行データの解析により、地球に帰還した「ミサゴ」の外部にもこの微生物が付着していたらしいことを突き留めていた。
「地球オゾン層により地表に降り注ぐ太陽光は大きく減されています。しかしこの研究員が『ツィツィミトル』と呼んだ生物が宇宙空間に留まっているとすれば、地表の何倍もの太陽光を餌にできるんです。判りますか?この意味が!?」
いま宇宙空間にあって、地球に降り注ぐための太陽光を横取りし、地表を闇に閉ざそうとしている存在こそこの生物であり、墜落したブラックバードのパイロットが「ジェリーフィッシュ(=クラゲ)」と呼んだ怪物であった。
太陽を奪われ、次第に寒冷化する地球。このまま氷河時代の訪れにより滅びるのか?
いや、それより先に農作物の全滅によって餓死するのか?
地球と太陽のあいだから木星クラゲ・ツィツィミトルを排除すべく国連は核ミサイルによる攻撃を計画するが……。
……と、まあこんな話はどうでしょ?
なんだか「ドゴラ」のリメイクみたいな感もありますが(笑)。
インカやマヤの神話が引かれるからイタリア映画の「カルティキ」っぽくもあり。
工夫のしどころはモンスターの退治方法ですなぁ。
- 76 :
- 「いえ……おっしゃられることは判りますが、まだそのタイミングではありません」
黒木が電話で話している相手は、彼をGフォース指令に任じた例の陸将補だった。
「いま住民に避難命令を出しても意味はありません。避難民とともにアナザーワンが移動すればゴジラもそれを追っていくだけです。
それに避難命令によって住民がパニックを起こせば、アナザーワンに狩場を提供することにもなりかねません。そうなれば、最悪、東京で二匹の怪獣が激突することになります」
しばしの沈黙……なんとか今度も相手を納得させることができ、黒木は強張った手つきで受話器を置いた。
黒木をせっつく陸将補の背後には当然もっと上の階級の者、そして防衛大臣をはじめとする政治架たちがいる。
彼らは、自分たちの無能無策を棚に上げ、国民に発表できる「判り易い成果」を求めていた。
「どこだ!どこにいるんだ!?」
胸の内を思わず口に出していたのは、黒木の焦りの現れだった。
目の前には、30分ほど前、豊原が伝送してきた女の写真があった。
『黒木一佐、いまお送りしたのが例の203号室から消えた女の顔写真です』
「間違いないか?」
『間違いありません。203号室にあったアルバムに貼られた複数の写真から、近隣住民に頼んで現在の姿に最も近いものを選んでもらったものです』
「わかった。念のため豊原二尉は引き続き現場に残り、警察と協力してこの女の行方を追ってくれ」
『了解です』
こうして黒木が組織内部の力学に神経をすり減らしているあいだにも、警視庁および隣接する各県警が、「203号室から消えた女」を探し出すべく一斉に動いているはずだったた。
警察署と全ての派出署を空にして、駅前で、商店街で、役場でローラー作戦が展開され、
星のつくホテルから木賃宿にいたるまでが警察官による立ち入り調査の対象となっていた。
「……どこにいるんだ!?」
黒木の唇から、もういちど呟きが漏れた。
作戦室のデジタル時計は既に3時半を表示していた。
警察の指摘を待つまでもなく、黒木も山は今夜だと確信していた。
(ヤツが動き出す前に我々の手で仕止めなければ!ヤツがおおっぴらに動き出せば、それを察知したゴジラも来る。最悪、本当に……)
都内で怪獣同士が激突する。
それだけはなんとしても……。
そのとき突然、モニター画面に張り付いていた女性士官の鈴木が黒木の方を振返って叫んだ。
「黒木一佐!ゴジラが動きだしました!」
「とうとう東京湾に侵入して来たか」
「いいえ、東京湾侵入コースではありません」
「なに!?東京湾に入ってこないだと!?」
「はい、ゴジラは伊豆半島にぐんぐん接近しています」
- 77 :
- そのころ……
東京での騒ぎも知らず、朝子と佑偶然行き当たった果樹園で、経営者の夫婦とすっかり話しこんでしまっていた。
「すみません。いきなりお邪魔した上に御馳走にまでなっちゃって」
呆れる佑を尻目に、またも朝子は袖まくりした剥き出しの腕をリンゴに伸ばした。
もう5切れ目か6切れ目だ。全部つなぎ合わせれば、確実にリンゴ一個分をオーバーしているだろう。
「でもビックリしましたー。箱根でこんなに甘いリンゴがなるなんて」
「まあ無理ないでしょうね」
弘西と名乗る経営者の男性が笑って答えた。
年のころは四十になるかならぬかだろう。
顔と半袖シャツから伸びた腕は農業従事者らしく真っ黒に日焼けしているが、指は細く繊細で、土いじりよりも楽器の鍵盤かパソコンのキーボードの上にある方が似合いそうに見えた。
「普通、伊豆半島と言ったらミカンを思い出すでしょうから。伊豆でリンゴなんて……」
「そうですね」
弘西同様剥き出しの腕で、佑は額の汗を拭いながら言った。
「普通リンゴと言ったら、青森とか……寒い地方ものですから」
「しかしいまリンゴが栽培されている地域ではいずれリンゴがとれなくなります」と弘西。
さっき頬張った一切れがまだ口に入っているというのに、朝子はもう次の一切れに手を出した。
いい加減にしろよと朝子を横目で睨みつつ、佑は応じた。
「地球温暖化ですね。本来台湾あたりにいるなんとかいう蝶が日本に定着して今は神奈川あたりまで生息域が広がってるとか」
「ツマグロヒョウモンのことですか?それならもう神奈川どころかもう茨城まで進出してますよ」
「茨城まで……」
「そのうち青森でミカンがとれ、このあたりでもデング熱が流行するようになります」
「……やれやれですね」
「でっもぉ!」
2人して眉を寄せあう男どもの深刻さを吹き飛ばすように、朝子はピョンと跳びはねると、佑が止める間もなく今度は両手に一切れづつリンゴを掴んで言った。
「温暖化に負けちゃダメなんですよねー。このガッツ・リンゴみたいに!」
さっき弘西がリンゴを取り出した箱の表には、真っ赤な文字で次のような言葉が躍っていた。
『温暖化なんてぶっとばせ!ガッツ出せ日本!ガッツ・リンゴ!!』
- 78 :
- 「ガッツ・リンゴですか。変わった命名ですね」
佑もリンゴに手を伸ばしながら言った。
「もともとの名前の部分は別として、新種を命名するとき、イチゴの『あまおう』だとかブドウの『きょほう』みたいに濁音はあまり使わないんじゃないですか?」
「そうですね。『津軽』とか『長十郎』なんて命名もありますが、濁音のイメージは『フルーツ』というよりはどちらかというと『怪獣』なんでしょうね」
真っ白な歯を見せて、弘西は笑った。
「でも濁音や小さな「っ」は聞く人に強いインパクトを与えることができるんです。そして今の日本に必要なのは……」
「力強さ……ですか」
手にしたリンゴを一口咬むと、佑の口の端からもみずみずしい果汁が溢れ、甘酸っぱさがいっぱいに広がった。
「うまい!」
思わず佑は小さく叫んでいた。
「植物のリンゴだってこんなに頑張ってるんだから、僕ら人間も頑張らなきゃいけませんね」
無言のまま満面に笑みを浮かべると、弘西はリンゴの巨木をふりあおいだ。
「そうなんです。この木は本当に頑張っているんです。どんなに酷い目にあったって……」
「酷い目に?」
「ええ……」
そして弘西は小さくつけ足した。
「…家内と同じです」
そのとき事務所のドアが開き、弘西の妻・由梨香が盆を手に戻って来た。
「カット・リンゴばかりじゃ飽きたでしょ」
「でもオマエの持って来たのだってアップル・パイじゃないか」
「あらいいじゃない。少しは目先が変わるから」
二人のやりとりを見て、結婚して何年ぐらいになるんだろうかと、佑は思った。
長袖のブラウスを着ているせいもあってか、由梨香の方が夫より多少落ち着いた印象だが、
弘西夫妻のやりとりは、どこか新婚カップルのような感じがあった。
(自分もこんなふうに……)と思いかけ、(おい!いったい誰とだよ!)と佑は自分で自分に突っ込んだ。
そんな佑の目の前で、朝子がアップル・パイに一番槍をつける。
「いっただきまーす!」
「おい、いい加減にしろよ!」と佑。
「いいんです。ご遠慮なさらないで」
由梨香が笑いながら、アップルパイを載せてきた盆に、今度は空いた皿を重ねていった。
そのとき佑は、由梨香が左袖の下にだけ、薄いリストバンドのようなものをしているのに気がついた。
- 79 :
- (テニスでもやってるのかな?でもなんで左にだけ?)
一方朝子はといえば、パイの横の方からはみ出しかけたリンゴを中に押し戻そうと悪戦苦闘しながら、それでも食べるのを止めようとしない。
一噛みするたびどこかからはみ出すリンゴとモグラ叩きを続けている。
苦戦ぶりにクスクス笑いながら、由梨香も指さしてアドバイスした。
「ほら右から出てきましたよ。……あ!今度は反対側から」
「ごひょーりょふはんへゃひまふ」
……どうやら「ご協力感謝します」と言っているらしい。
そんな調子で一切れ目のパイをなんとか食べ尽くすと、二切れ目に挑戦するまえの食休みといった感じで朝子は由梨香に尋ねた。
「あの由梨可さん」
「なあに?」
「お子さん何人いらっしゃるんですか?」
瞬間、夫の顔に影がさしたと、佑には見えた。
「子供?私たちの?」
しかし、微笑みを切らさずに由梨香は朝子に答えた。
「たくさんいますよ。長女は北海道、次女は神奈川、三女と四女は東京なの」
「ええっ!」
目をまん丸にして朝子は驚いた。
「すっごい子だくさんなんですね!アタシびっくりしちやいました!」
「このバカ女!」
思わず佑は朝子の後頭部に突っ込みを入れていた。
「リンゴのことに決まってるだろ」
とうとう由梨香は、肩まで震わせ笑いだした。
「……とても楽しそうね。この子も笑ってるわ」
由梨香はリンゴの巨木を見上げ、そして朝子に向かって囁くように言った。
「あなたにも……聞えません?」
「え?何がですか??」
朝子は耳をすましてみたが、聞えるのは森の向こうから響く役場のサイレンのような音だけだった。
「なにか……警報みたいなのなら聞えますけどー」
「聞えないのね。聞えないなら……別にいいの」
そのあとも、リンゴの木の下で四人の笑い声が、何度も弾けては空へと消えた。
太陽は中天を大きく過ぎ、西の森へと近づいていた。
- 80 :
- 午後4時10分。
作戦本部から「小田原に向かい特殊部隊と現地合流せよ」との指示を受けた豊原は、現場を離れる旨話すため、岸田警部を探していた。
「凍条さん。警部はどちらに?」
「警部なら例のパズルの真っ最中ですよ。……呼んできましょうか?」
「……お願いします」
部下が室内に向かって声をかけると、横町のコンビニから帰って来たとでもいうような様子で岸田警部は修羅場から現れた。
「おうGフォースの、何かあったようだな」
「はい、実はゴジラが動きました」
「……あんたが言うところのアナザーワンを見つけたってことか。……で、ゴジラはどこに来るんだ?ここか?」
「いいえ、ゴジラは東京湾に入らず、伊豆半島に接近しつつあるそうです」
「伊豆半島??」
警部の片眉がピクンと痙攣するように跳ねあがった。
「はい。当然アナザーワンの潜伏先も伊豆にいるはずなので、陸自の特殊部隊がヘリで急派されました。それからゴジラ上陸阻止のため空自も……………警部?どうかされたんですか??」
豊原の話しに、警部は納得がいかないらしい。
しきりに首をひねったり、顎を左右に動かしたりし始めたのだ。
「あんた、さっき言ってたよな。バケモノが京急でもつまみ食いやらかしたってよ」
「はいそうです。しかしそれが何か?」
「向きが合わねえじゃねえか。貧血患者が出たのは上り線。でも伊豆方面なら下り線だぞ」
「しかしゴジラは……」
警部は豊原に反論の機会を与えるつもりなどさらさら無いらしい。
噛みつくような顔を豊原にぐいっと迫らせ、警部は一気にまくしたてた。
「それからもう一つ!この怪物は人食いだ。だからエサの豊富な都会に潜んでやがった。けどよ、伊豆ってのは小田原あたりを除きゃあ、みんな河口にへばりついたような小さな町ばっかりだぞ。
何が嬉しくて、この怪物はそんなとこに行かにゃあなんねえんだ!?」
相手の勢いに半ば以上気押されつつ、やっとの思いで豊原は問い返した。
「あの……それでは、それでは警部は……」
「その伊豆のヤツ、オトリじゃなきゃあいいがと、オレは思うぜ」
- 81 :
- 同日午後4時半過ぎ、結城晃は店舗兼自宅へと戻る電車の座席にひとり揺られていた。
小高(旧姓三枝)未希が帰った後も、落ち合った喫茶店でコーヒーを4杯御代りして粘った晃だったが、未希の娘・恵美の書いた絵を解釈することはできなかった。
(こんななぁ、佑のヤツに頼めば一発なんだが……)
しかし、息子の佑に頼むわけにはいかなかった。
頼まないと決めていた。
これ以上、佑をこの怪しい事件に関わらせたくなかった。
ヘリ部隊の動きから「ゴジラ東京上陸」と読んだ上で、旅行を理由に佑を都内から追い払ったのはそのためだ。
(恵美ちゃんのテレパシーは、札幌、横須賀、浦安ときて、どんどん怪獣Xとの接続が強まってるみてぇだ。と、なるとXが動き出す日は近い。最悪……今夜あたりが……)
思い余って晃はポケットの携帯を取り出したが、またすぐにしまってしまった。
(いや、Gフォースにも頼めねえ。そんなことしたら、未希を裏切ることになっちまう)
未希が、自衛隊や再編なったGフォースには連絡せず、OBである結城晃に連絡してきたのは……。
(娘の恵美ちゃんを、自分のようにしたくなかったからだ)
未希の青春時代は、Gフォースに所属する一種の「生物兵器」として費やされた。
そのこと自体に、悔いはないと未希は言う。
しかし、それを一人娘に、それも幼稚園に通っているような幼い娘に求めるような親などこの世にいるだろうか。
だがもし未希の娘に、母に匹敵するほどのテレパシー能力があると知れれば、無慈悲な国家は一切の容赦なく、母と娘を引き裂いてしまうに違いないのだ。
(い〜やダメだ!Gフォースの力も借りらんねぇ!この件は、なにがなんでもオレ独りで解決しにゃあなんねえんだ!)
………だが。
晃の堅い頭では、幼稚園児の描いた絵は前衛芸術そのものだった。
かろうじてそれらしく思えるのは「満員電車の絵」だけで……。
「はあぁぁぁ…」
眉を「ハ」の字に寄せた晃の唇から情けないため息がもれた。
(だめだ、どうしても判かんね)
晃は口をだらしなく開けたまま、カクンと首を後ろに倒した。
自然、視線が高くなり、向かいの窓が目に入る。
あの喫茶店で「首吊り縄」と見えた吊輪の向こうに、電柱や踏切、商店に住宅、さまざまな物が飛び去っていく。
(パトカーのサイレンがいやに煩いな……)
そんなことをぼんやり考える晃の耳に車内アナウンスが次の駅の近いことを告げ、そして駅前再開発中のビルが視界に飛び込んできた。
上層階のみ骨組みを露出したビルの最上部に、大きなクレーンが据え付けられている……。
(……あれは……)
その瞬間!結城晃は理解した!!
恵美ちゃんの絵の意味を!
そして、まさに今夜、惨劇が起こる場所を!!
- 82 :
- 時計の針が午後5時を回ったころ……。
豊原はまだ大森の人現場にとどまっていた。
これは明らかな命令違反であり、もちろん懲罰の対象となる行為である。
それでも彼が小田原へと向かわなかったのは、彼自身が小田原への転身に疑問を感じていたからに他ならなかった。
(警部は言った。「この部屋は何かおかしい」と。何が、いったい何がおかしいんだ??)
もう惨死体に尻ごみなどしてはいられなかった。
ゴジラが動き出した以上、アナザーワンも動き出しているに違いないのだ。
(いったい何がおかしいんだ!?)
それが判れば、それさえ判れば……。
何がおかしいんだ?
いったいなにが!?
「おいいいのかGフォースの兄ちゃん。命令違反で馘首になって、恩給ふいにしても俺は責任もたねぇぞ」
心配する警部の言葉に耳も貸さず、豊原は人現場となった203号室へと踏み込んでいった。
- 83 :
- (……玄関には内側からしっかり鍵がかけられていたが、チェーンは施錠されていなかった。それから……)
靴脱ぎには男性用の黒い皮靴とスニーカー、そして若い女性用の小さめのハイヒールとサイズが一回り大きいパンプスが並び、全く荒らされていない。
風呂場と脱衣場。洗濯機前も奇麗なものだった。スーパーで買ったらしい男物の安物シャンプーと高そうな女物のシャンプーそしてリンスが奇麗に並んでいる。
状況が一変するのは居間からだった。
何かが這いずったような血の跡が、床から壁に、そして天井にまで、うねりながら続いているさまはまるでムンクの絵「叫び」のようだ。
そして床一面には、バラバラになって散らばる………
「うっ……」
胸に湧きおこる嫌悪の念に思わず叫びだしそうになり、豊原は目を閉じ歯を食いしばって俯いた。
そしてそのまま耐えること数秒……。
やっとの思いで瞼を開くと、視界のど真ん中にあったのは被害女性の左足首だった。
足の指が人差し指の側に大きく曲がって、指の付け根が内側に飛び出した特徴的な足が、血の気を無くし、ビニール製品のようになって転がっている。
(外反母趾か……)
つまらぬものに気をとられてしまったことに、思わず豊原は苦笑した。
彼が昔つきあっていた女性が外反母趾だったからだ。
(あいつ外反母趾のこと気にしてて、それなのにハイヒール履くの止めなかったよな。自分でもハイヒールは外反母趾の原因だって知っていのに。それは……)
そして、ふっと豊原の顔から表情が消えた。
- 84 :
- 首をかしげつつ玄関に戻ると靴箱を覗き、そして振り返ると豊原は警部に訪ねた。
「すみませんが、この家の女性の背丈はどれぐらいだったかご存知ですか?」
「データはまだ揃ってないが、ちょっと待て……」
そう言うと警部は寝室に引き返し、衣装戸棚の扉を開けた。
「……ズボンの裾丈やベルトの位置にもよるが……このサイズなら、ざっと見積もって170前後ってとこだな」
「……そうだったのか!」
言うが早いか豊原は玄関に取って返すと、そこにあったパンプスを手に居間へと引き返した。
「いいですか警部。オレの元カノは外反母趾だったんですけど……『だったらハイヒール履くのを止めろよって』オレがいくら言ってもきかなかったんです。
何故って彼女は背が低かったから。150そこそこしかなかったんです。それでハイヒールを履くのを止められなかった……」
「そうだ!それだ!!」
バンと両手を打ち合わせて警部も叫んだ。
「そもそも背の高い女は、逆に高いヒールの靴なんて履かねえ……ってことは!?」
そして次の瞬間、警部の血相が変わった。
「おい凍条!ぼんやりしてねぇで…………おい凍条!凍条!?どこ行きゃがった!?」
すると階段を一足飛びに駆け上がる足音とともに、玄関口にいたはずの凍条が息せききって駆け戻って来た。
「どこ行ったって……203号室に決まってるでしょ。ほら、ありましたよハイヒール。履かせてみますか?」
「そんなこと試さなくたって判る!」
警部が鉄拳を玄関の壁に叩きこんだ。
「死体の移動だ!オレたち警察が捜し回っている203号室の女は、ここ302号室でバラバラにされていたんだ。人食い怪物なのは、この302号室の女だったんだ」
「それじゃ伊豆でいくら探したって捕捉できるわけ……」
「伊豆の話だって怪しいもんだ。オレは本庁に連絡する!凍条は……おい、いったいどこに電話かけてんだ?」
人差し指で〈ちょっとまってください〉と警部に合図し、しばらく凍条はじっと携帯に耳を当てていたが、やがて諦めたようにスイッチを切って言った。
「この家は夫婦共働きで妻も仕事に出ていますからね。それでダメもとで妻の勤め先の会社に電話してみたんですが……誰も出ないんです」
「その勤め先ってのは何処にあるんだ!?」
「田中有子の勤め先は東京都墨田区………」
そのとき豊原の公務用携帯に着信が入った。
『豊原二尉、いまどこにいる!?』
黒木一佐だった。
「……実は自分は……」
『細かい事情はいい。それより、一刻も早く東京へ戻れ!Gが反転した。東京湾侵入コースだ!!』
- 85 :
- 「なんだと!?なんで陸自の部隊まで伊豆に移動してるんだ!?」
作戦室に黒木の怒声が響き渡った。
突如東京湾侵入コースに戻ったゴジラを迎撃するため陸自部隊の展開を命じたところが、頼みの部隊は既に伊豆方面に移動中だったのだ。
「ゴジラの伊豆上陸阻止は空自だけで行うことになっていたはずだ!陸自に移動命令など出していないぞ!」
「それが……」
応える鈴木一尉も困惑を隠しきれなかった。
「……防衛大臣命令だったそうです」
国民……というより選挙民に対するアピールという政治的理由から、黒木の知らぬ間に地上部隊までもが動かされてしまっていたのだ。
「バカな!」
黒木は両手でデスクを激しく叩いた。
「伊豆半島は地勢的に地上部隊の展開には適していない!海岸沿いの道路や尾根道に部隊を入れたら身動きとれなくなる!だから航空勢力だけでということになっていたんだ!!」
やっとの思いで気を取り直すと、改めて黒木一佐は鈴木に尋ねた。
「至急地上部隊を呼び戻にはどれぐらいかかる?」
「部隊は既に横浜を過ぎ、先頭は既に真鶴道路に入っているそうです。いまから呼び戻しても2時間以上はかかるかと……」
「ではゴジラの東京上陸に間に合うのか?!」
「不可能です。間に合いません。ゴジラの移動速度が予測データの倍以上です」
「ば、倍以上だと!」
黒木は思わず絶句した。
ゴジラの東京上陸は確実だ。
しかしそれを迎え撃つ戦力は、かつてのスーパーXやメーサー光線砲車はおろか、通常兵力すら揃わないというのだ。
迫り来る巨獣の猛威の前に、首都東京は裸同然だった。
- 86 :
- ゴジラの東京上陸が時間の問題となっていたころ……。
電車を乗り継ぎ、乗り越して、乗り間違えまでした挙句、元Gフォース隊員結城晃が目指す駅の改札を通ったとき、時刻は既に5時半を過ぎてしまっていた。
(どこの入口から出るのが一番近いんだ?)
一瞬案内図を探して立ち止まったが、すぐにそんなこと調べる必要など無いと思いなおした。
地上に出さえすれば、「それ」は一目で目につくはずだった。
(……間に合ってくれよ)
祈る思いで地下道の階段を駆け上がり地上に飛び出すと、「それ」はまさに目の前だった。
未希の娘が描いた三枚目と四枚目の絵。
大きな柱のようにも、蝋燭のようにも見えるもの。
夜空をバックにそそりたつ首都東京の新たな象徴……東京スカイツリー。
「こっから先はあの絵が頼りだ……頼む!オレを導いてくれ!」
- 87 :
- 晃は未希の娘が描いた絵のうち、四枚目を取り出した。
(間違いない。この絵の通りだ)
巨大な柱か蝋燭と見えたのはスカイツリー。
下に飛ぶホタル?と見えたのは、周囲の建造物の窓明かりだ。
(次は……こっちの絵だ)
晃は、今度は構図的には似通っていて、ただし周囲に四角い大枠が描き込まれている三枚目の絵を取り出した。
(この四角い枠はきっと窓枠だ。この絵はどこかの建物の窓から見たスカイツリーに違いねえ!つまりその部屋に……)
Gフォースが「アナザーワン」と呼び、佑と朝子が「怪獣X」と呼ぶ存在がいるに違いない!
晃は、スカイツリーの見え方、それから低層の建物の僅かなディティールを頼りに、その建物を必死に探しはじめた。
- 88 :
- 結城晃が業平橋駅の改札を通る15分ほど前……。
りりりりん!……りりりりん!
経理課の境芳江は、壁越しに聞える呼び出し音に気がついた。
総務課の電話が誰も出ないまま鳴り続けになっているのだ。
(なんで誰も出ないんだろ?)
基本的に総務が無人になることはないし、どうしても無人にしなければならないときは、経理課に一言かけたうえで、外線電話を転送することになっている。
しかし今は、そうした手順が守られないまま、総務が無人になっているらしい。
(変ね……)
やはり呼び出し音に気付いたらしい同僚の女子社員に目配せすると、課長の田中有子に
「ちょっと見てきます」と言い置いて、境は席を立った。
境が廊下に出ると同時に、いったん途絶えていた呼び出し音がまた鳴りだした。
思わず足を速めた境は、「総務課」と表示された隣室のドアに手をかけた。
無人化とは思いつつも、コンコンと短いノックの後、「失礼します」と断ってドアを開ける。
微かに香水のような香りが漂う室内には、やはり誰もいない。
就業時間は一応五時までだから、さっさと退社してしまったのかとも思ったが、よく見るとデスク上でパソコンが起動したままになっている。
境は眉間に皺を寄せ首をかしげた。
パソコンを起動したまま席を立つのはご法度!…と、先日も総務がメールオールで、もう何度目かの通知をだしたばかりだ。
その総務で、パソコンがログオフされぬまま無人となっている。
(なんでログオフしてないのよ……)
そんなことを考えながら境は受話器に手を伸ばしかけたが、彼女の指が触れるか触れないかのタイミングで着信音は鳴り止んでしまった。
電話が鳴り止んでから改めて室内を見渡すと、おかしな点はログオンしてままのパソコンだけではないことに境は気がついた。
パソコンの前には数字の書かれた台帳が開いたままになっていた。
背表紙を見なくとも、境はそれが源泉徴収兼用の賃金台帳であると知っていた。
(あり得ない……あの台帳を開きっぱなしで置いてくなんて……絶対あり得ない)
そして境は、室内の様子が子供のころ読んだある船の話に似ていることに気がついた。
それは……「マリー・セレスト号」。
境の背筋を嫌なものが、ついっと走った。
だが、境はまだ知らなかった。
「マリー・セレスト号」のようになっているのは、総務の部屋だけではないことに。
- 89 :
- 総務課の様子を不審と感じた境は、すぐさま隣の経理課へととって返した。
「田中課長!総務に人が誰もいないんですけど……」
「……なんか変なんです」と続けようとしたところで、境の言葉が急に途切れた。
総務のドアを開けたとき微かに感じたのと同じ甘い香りが、もっと濃密に漂っている。
(さっきはこんな香しなかったのに……)
ただ、総務と同じなのは香りだけだ。
総務は完全に無人だったのに、ここ経理課では田中課長が独りデスクに座っている。
気を取り直すと、総務の状況を報告すべく境は田中のデスクの前まで進み出た。
「課長、隣の総務に誰もいません。パソコンは点けっ放しだし、業務書類も出しっ放しなんですが、誰もいないんです」
「……境……さん」
ゆっくり上げた田中の顔を見て、境は薄気味の悪さを感じた。
顔色が紙のように白い。
それなのに唇は血のように赤い。
その真っ赤な色が、唇からゆっくりと尾を引いて滴り落ちた。
(はっ!?)
思わず身を退く境の目の前で、田中有子はスローモーションのように立ち上がった。
「思い出したの……」
田中の口から、掠れるような声が漏れる。
「…えっ!?」
「思い出しちゃったの……忘れてたこと……なにもかも」
田中は左右にユラユラ揺れながら、デスクのサイドを回ってこちらにやって来る。
「私がやったの……全部わたしがやったの……夫も、娘もぜんぶ……」
- 90 :
- (逃げなさい!はやく!!)
境の心の中で、原始的な何かが叫んだ。
しかし境がしたのは逃げることではなかった。
「や、や……やったって……何を?」
すると……顔は境の方に向けたまま、すうっと左手を上げ、事務室の片隅を指さした。
(……はああっ!)
声は出なかった。出たのは肺に残った空気を残さず吐き尽くすような吐息だけ。
さっき総務の様子を見るので離席したとき、目配せを交わした同僚の女子社員が、そこにいた。
耳が肩に密着するほど首を傾け、糸の切れた操り人形のように絡まって、こんがらがって、放り出されて……。
そばに行って確かめるまでもなく、明らかに死んでいた。
(あれをやったの?あれを田中さんがやったの??)
脳が認識を拒絶する。
(そんなそんなそんな、そんなことは……)
馬鹿のように茫然と見つめる境の目の前で、田中の目から真っ赤な涙が一筋流れ落ちた。
「境さん……逃げて」
口では「逃げて」と言いながら、田中の足が一歩二歩と踏み出した。
「に……げ……て……」
途切れ途切れの言葉とは裏腹に、田中はジリジリとデスクを回って境の方に近寄って来る。
田中の事務服の下で、なにかが蠢いている。
ヘビのような何か。芋虫のような、触手のような何かが。
「に………げ………」
(誰か、誰か……)
逃げたいのに足が動かない。叫びたいのに声が出ない。
(誰かお願い!助けて!!)
甘ったるい臭いが濃密さを増した瞬間、田中の事務服を突き破り、うねる何かが境めがけて飛びだした!
- 91 :
- 触腕のような何かが、境めがけて空をうねった!
「……あ」
だが…
境が(もうダメ…)と思った瞬間、四角い見慣れた物体が宙を舞って田中の上体に叩きつけられた!
グアシャン!っという音!
触腕もろとも田中の体が悲鳴一つあげず、事務机の向こうに倒れて消えた!
「おいだいじょぶか?」
男のゴツイ掌が、肩越しに伸びてきて境の手を掴んだ。
「走れねえなら引き摺ってくぞ!!」
結城晃が叫んだ次の瞬間、彼が叩きつけたパソコンのディスプレイが、マッチ箱のように軽々と放りあげられ、天井に激突!
つづいて課長席の上から左右から、ニシキヘビのようなものが噴き出すように現れた。
「や、やべえっ!」
小柄な境を半ば抱えるような姿勢で晃は身を翻すと、「経理課」と書かれたドアから廊下に飛び出した。
ドアを出て左に折れ、総務のドア前を抜ければ一階に下りる階段がある!
(ここは三十六計逃げるに……)
ところが!ズズーーンという鈍い響きがして階段へと続く廊下の壁が一気に崩れ落ちた。
行く手を塞ぐ瓦礫に埃!その中に甘い香りとともに二足歩行の影がよろめき現れた。
「……なんだありゃあ?!」
……僅かのあいだに、田中有子は著しい変化をきたしていた。
床を踏みしめているのは人間の足だが、上体はゴリラのように肥大。
アポドーシスで萎縮した腕の代わりに、無数に棘の生えた触腕が数本、でたらめな配列で生え出ている。
人形のように表情を失った顔に走る真っ赤な涙の跡。
口からはカーブを描く牙が覗き、そのうちの一本は自らの下唇を突き破って伸びていた。
その口が、晃と境の見ている前で、自らの頬と唇を引き千切りながら肩口近くまで一気に裂けた!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ」
口や喉ではなく、直に胸郭から轟く叫び。その声に共鳴したか、ビル全体がビリビリ震動する。そして……怪物はゆっくりと晃たちの方に向き直った。
「…こうなりゃしょうがねえ!上に逃げるぞ!」
- 92 :
- 結城晃と境の二人が、逃げ場の無い上階へと追い上げられていたころ……。
凍条の運転するパトカーが、サイレンの雄叫び凄まじく都内一般道をひた走っていた。
「はい!はいそうです!自分もいまパトカーで……」
「所轄に連絡して近隣住民の避難誘導を……大至急です。おそらく事件は既に……」
覆面パトカーの中で豊原の声と警部の声が交錯しこだまする!
「まずいですね」
ハンドルを叩いて凍条が言った。
「帰宅ラッシュにぶつかってます。いくらサイレン鳴らしても交通渋滞じゃどうしようも……」
「そんな!なんとかならないんですか、警部!?凍条さん!!?」
豊原の声は悲鳴の色を帯びていた。
「さきほどの黒木一佐の話だと、アナザーワン討伐の特殊部隊はもう小田原を出発しているそうなんですが……」
「……連中を乗せた大型ヘリの降りられる場所が無いってわけか」
「双発の大型ヘリではその辺の空き地に下ろすわけにはいきません。だいいち都内にはそもそも空き地なんて……」
「皇居にゃ降りられませんかねぇ?」と軽く言う凍条の後頭部をゲンコで殴ってから警部は言った。
「まあ焦るなよGフォースのダンナ。とりあえずこっちで時間稼ぎぐらいはやってやるからよ」
- 93 :
- 足がもつれ気味の境を引き摺って、結城晃は三階への階段を上って行った。
「おい姉ちゃん。このビル、何階建てだ?」
「ご、5階建てです」
「非常口は?非常階段どこだ?」
「あ、ありません」
「な、無い?!非常階段が無えってのかよ!」
「だってこのビルもとは古い倉庫だから……でも屋上まで行けば、確かロープで降りられる仕掛けが……」
「緩降器か」
緩降器とは滑車などの仕組みにより、一定速度で避難者を下にロープ降下させる避難具だ。
「よし!それなら屋上まで一気に行くぞ」
ようやく足がまともに動くようになった境を連れて、結城晃は屋上へと急ぐ。
その背後で甘い香りが一層濃さを増し、ガリガリと何かを削る音が上がって来た。
足音はもう人間のものとは聞えない。
象か熊のような重量のある動物が歩くようなズン……ズンという重低音に、ギシギシという床の鳴る音が伴奏を奏でる。
(鉄筋コンクリートの床が悲鳴あげてやがる!)
相手がいまどんな姿をしているのか、もう想像もつかない。
ただひとつハッキリしているのは、もし捕まれば命は無いということだろう。
2階……踊り場を抜けて3階。
静まり返った3階フロアーを横目に4階へ。
途中の換気用小窓に赤いライトがちらつき、どこかでいくつもサイレンが鳴っているのが聞える。
途中階段に積まれた段ボール箱を障害物がわりにぶちまけると、次は5階。
しかし、5階を目前の踊り場で、突然晃は足が縺れて肩口からもろに壁にぶつかった。
痛みより先に頭をよぎったのは(やべっ!?もう膝に来た)ということだった。
ラーメン屋という立ち仕事で足腰はなまっていないと思い込んでいたが、「立っている」のと「階段を上る」のとは別なのかと思い知らされる。
その背中に、甘い香りが物質的な圧迫感をもって粘りついてきた。
ズシン!という足音は、すぐ下の4階からだ。
死がすぐそこままで来ている!?
もうここまでなのか!?
……しかし!
「も、元Gフォースを……舐めんなよォォ!!」
目の玉をひんむき、鼻の穴を無様におっぴろげて、晃は必死に姿勢を立て直した。
晃の誇り。
元Gフォースの誇り。
それはいまつれているこの中年OLを命に代えても守りぬくことだ。
「があああああああっ!」
境の手を改めて握りなおすと、晃はラストの階段を一段抜かしで駆け上がり、そのままの勢いで屋上への扉を押し開けた。
「うわっ!?」
白い閃光に、いきなり晃は目を射られた。
ローターの唸りをあげ、屋上より10メートルほどの高さでヘリがホバリングしている。
「早く!こっちへ来るんだ!」
スピーカーの声に促され、晃たちはヘリの真下へと駈け寄った。
同時にヘリは慎重に降下を開始し……コクピットのドアが開くと中の男が、口径の巨大な小銃を取り上げ、滑らかな動作でフォアエンドを前後させるのが見えた。
(ショットガンか?)
そしてその大砲のような銃口は滑らかな動きで結城たちの方に!
「バ、バカ野郎!オレたちはバケモンじゃね……」
「バケもんじゃねえ!」と、結城が言い終わるより早く、銃口がカチッと赤い光を放った!
- 94 :
- 「光が音より早いってこと、あの時ほどよく判ったこたぁねえよ」
後日、結城晃はそう述懐した。
大砲のような巨大な銃口が赤く光り、次の瞬間、猛烈な勢いで巨大な弾丸が飛び出した。
ズドンという音が聞えたのはさらにその一瞬後。
秒に満たない一瞬の現象が、晃にはそのとき確かにコマ落としの映像で見たのだという。
銃口から飛び出したのが散弾であれば、晃と境はもちろんただでは済まない。
だが、銃口から飛び出したのは巨大なスラッグ弾だった。
銃弾というより砲弾に近いそれは、晃と境の間を突きぬけると、2人がいま飛び出してきたドアの中に飛び込んだ!
ギェェェェェェェッ!
四角く切り取られた闇の中から噴き出す怒声!
ヘリの男は構えた姿勢のまま素早く第二弾を装填すると、狙いをつけながらヘッドマイクに叫んだ。
「屋上が狭すぎてこれ以上ヘリを下ろせられない。無理でもなんとか乗り移ってくれ!」
「わあったぁ(判った)!!」
晃は境を連れて駈け寄ると、赤ちゃんを高い高いをするように彼女の体をさし上げた。
「足はオレの肩に!手はヘリの……」
ヘリの男は続けざまに二弾、三弾を発射すると、素早く銃を置いて身を乗り出し、境の手を掴んだ。
「次はアンタだ!」
そのとき、一段と激しい怒声が上がると、階段室の中から軽トラックほどもある生物が飛び出してきた!
四弾目を装填しながらヘリの男が叫んだ。
「10ゲージのスラグを三発もぶち込まれて、まだ動けるのか!?」
頭部は完全に前後に裂け分かれてしまっていて、その裂けめ一面に匕首のような牙が並んでいる。
膝が逆関節になったように見えるのは、踵から前が以上に伸びたため、足首が膝のような場所にきているためだ。
上体には腕は無く、その代わりに無数に棘のあるニシキヘビのような触腕が数本、なんの規則性もなく生えていた。
そしてその触手の間に埋もれるように、白い人間の房が二つ……。
それがこの怪物の中に残された、唯一の人間の欠片、田中有子の存在証明と言えるものだった。
- 95 :
- ランディングギアに肘をかけぶら下がっていた晃が下から必死に叫んだ。
「オレをぶら下げたまま上がれえっ!」
ヘリの男は「了解」とも言わず、パイロットに命じた。
「上昇!」
機体はすぐさま上昇を開始!
その反動でランディングギアにか噛めっていた肘が滑り、晃は両手の握力だけでぶら下がる状態になった。
その晃の足に、屋上の怪物から触手が!
「うわっ!」
その晃の頭のすぐそばで、四発目の銃声が轟いた!
ドコーン!!
10ゲージのスラグ弾が、晃を逃すまいと伸びあがった怪物の触腕をちぎり飛ばした。
いつのまにか、ぶら下がった晃の手のすぐわきに、ヘリの男の靴がある。
「くたばれバケモノめ!」
続けざまの五発目は、赤い双葉のように前後に開いた怪物の口に!
灰色のコンクリートの上に、緑色をした怪物の体液が飛び散った。
それでも、この怪物は倒れない。
…がこのとき、境を乗せ晃をぶら下げたヘリは、怪物の触手の届かぬ高度へと逃げ切ってしまっていた。
- 96 :
- ヘリから見下ろすと、周囲の道路は赤色灯でいっぱいだった。
結城晃の視線を察し、ヘリの男が言った。
「交通規制と付近住民の避難誘導です」
「いや……助かったぜ。あんたGフォース?それとも自衛隊か?」
「いえ、自分らは……」
ヘリの男は上着のポケットから黒い手帳を取り出した。
「……警視庁です」
「警視庁!?あんたポリ……いや、警官か!だが、ありバケモノは、警官の手に負える相手じゃ……」
「もちろんそれは……」
そのとき、いま脱出したばかりのビルの玄関先に、赤い警告灯を回したマイクロバスが何台も停車するのが見えた。
「……来たか。SAT(=Special assult team)の連中」
呟くとヘリの男はマイクのスイッチを入れた。
「ヘリの南です。要救助者二名。………敵を仕留めようとは思わないでください。
自分が10ゲージのスラグを5発ぶち込みましたが効いた様子は………はい、以上です」
目の前にいない相手に対し敬礼すると、ヘリの男は交信を終了した。
「SATはアキュラシーAW50を持ってきているはずですが……」
「対物狙撃ライフルか。……効くと思うか?」
ヘリの男はすぐさま首を横に振った。
「いいえ。でも時間稼ぎなら十分こなせるはずです。近隣住民が避難を終え、Gフォースが現着するまではなんとしても我々が」
- 97 :
- 「……はい了解です」
交信を終えヘッドホンを外すと、振り返って鈴木は言った。
「黒木一佐!SATがアナザーワンと交戦状態に入ったそうです!」
「SAT?……警視庁のSWAT部隊か。しかし警察の装備では……」
「はい、向こうは時間稼ぎと近隣住民の避難誘導だと言っています。だから一刻も早くGフォースをと……」
「我々の部隊はいまどこまで来ている!?」
「陸上部隊はまだ都内にも入れていません。ヘリの強襲部隊は20分ほどで現着します」
「あと15分か…」
黒木は正面の壁に掛けられた時計に目をやった。
(15分保ってくれ!頼む!)
そのとき豊原と交代要員のオペレイターが席から立ち上がると大声で叫んだ!
「黒木一佐!ゴジラが上陸します。上陸地点は、都内墨田区お台場!」
- 98 :
- 東京湾が、黒い山となって盛り上がりながら、お台場めがけて押し寄せた。
黒い山は、護岸にぶち当たって夜目にも白い白い波がしらへと姿を変えると、まず居並ぶ巨大な倉庫群を一撃のもとになぎ払った。
そしてほとんど勢いを衰えさせることなく、一気にりんかい線までもひと飲みに。
続いて第二波、第三波!そして第四波!……いや、最後のそれは波ではない。
波と見紛う勢いで上陸した「それ」は、そのまますっくと二本の足で立ち上がった。
ゴジラ、遂に東京上陸!
ビルより大きく、夜より黒い巨獣は、そのままひとときたりとも休むことなく、内陸部に向かって猛然と前進を開始した!
計画なら、上陸時の大波をやり過ごした後、戦車と自走榴弾砲を中心とする機動部隊が沿岸まで一気に前進。ゴジラを迎撃するはずだった。
だがその迎撃部隊は、多摩川すら越えていない。
Gフォースの迎撃態勢は完全に後手に回っていた。
「鈴木!ゴジラの進行方向は?」
「予想通り首都高深川線に沿って北上しています。業平橋のアナザーワンまで一直線のコースです」
「やはりか……」と言ったきりそれ以上何も指示を出さない黒木に対し、鈴木は指示を仰いだ。
「黒木一佐、迎撃は!?」
「ゴジラに構うな!アナザーワンさえ倒せば、ゴジラは自分から海に戻る!」
「しかし……」
「ただでさえ分散している兵力を、更にゴジラとアナザーワンに分散するのは愚策の極みだ!いまはアナザーワンの討伐に全力を尽くすべきときだ」
すると別の士官が驚いたように黒木に振り返った。
「一佐殿!たったいま空自のイーグルがゴジラと交戦状態に入ったそうです!」
「な、なんだと!?」
- 99 :
- ドゴン!と轟く銃声は小銃というより大砲に近い。
それにダダダダダという誰にもイメージし易い機関銃の音が続く。
そしてもう一度、ドゴン!という轟き。
ゴジラがお台場に上陸したころ……SATは、アキュラシー対物ライフルと89式自動小銃のコンビネーションで、アナザーワンに挑んでいた。
威力はあるが反動も大きくボルトアクションということもあって連射速度が低いというアキュラシーAW50の弱点を、ハチキュウの3バーストでフォローするフォーメーションは合理的だったのだが……。
(な、なんで倒れん!?)
指揮官の額を冷や汗が伝った。
交戦場所が五階廊下のため一時に投入できる火力に限りがあるとはいえ、12.7ミリ弾を弾倉が空になるまで打ち込んで倒れない敵というのは、彼の想像力の限界を超えていた。
アキュラシーの12.7ミリとハチキュウの223を続けざまにぶち込まれながら、アナザーワンは全く倒れる気配を見せていなかった。
それどころか、怪物は触手で壁を打ち、無数に生えた棘でカベのコンクリートを深く抉りながら、SAT部隊に一歩二歩と向かってくる。
肩口に天井を向いて大きく開いた口から、舌のようなものかチロチロのぞき、緑色の粘液が溢れて怪物の肩を濡らした。
「(オレたちを食う気か!?)……こ、後退!」
トリガーに指をかけ、銃口を相手に向けたまま、交戦距離を保とうとSAT隊員らはジリジリ後退する。
…が!
それまで探るように壁をのたくっていた触手のひとつが、突然マムシのように電光石火の勢いでSAT隊員の一人を襲った!
「あ……」
悲鳴は一瞬で途切れた。
大蛇のような触腕はSAT隊員に巻き付くと、瞬時にその体を己の肩口に開いた牙の並んだ口へと放り込んだ。
断末魔の痙攣が手にしたハチキュウのトリガーを引き、壁!天井!床!天井!壁!壁!天井!と223がばら撒かれた。
そのオレンジのマズルフラッシュと怪物の緑の唾液、そしてSAT隊員の赤い血潮が
入り混じって、ありふれたオフィスビルの廊下に前衛芸術のごとき世界を現出させた。
「う、撃て!」
指揮官が悲鳴のように叫ぶが、あまりの光景に動顛した隊員はアキュラシーのボルトを
まともに操作できない!
「くそっ!」
指揮官はあわてて自分のMP5を構えたが、彼がトリガーに指を描けるより早く、目の前にいたはずの部下が瞬間に姿を消した。
残っているのは彼の持っていた対物ライフルと……グリップを握りしめたままの彼の手首だけだった。
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