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2011年10月1期創作発表妖精「男さん! 今日の天気予報です!」
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妖精「男さん! 今日の天気予報です!」
- 1 :10/11/20 〜 最終レス :11/10/22
-
男の自室。午後八時。
オキロー。オキロ―。ネテタラシヌゾー。オキロ―。オキ(ry
男「いやー。よく寝た」(むくり)
男「あれ? 胸に違和感が」
妖精「スー、スー……」
男「おおおおおおおお……!?」(小声)
男「なんだこれなんだこれ」(観察)
妖精「……」
男「羽もある。体長目測十センチ。ちっちゃい靴も履いてる。かわいい」
妖精「!」(耳がピクピク)
男「いやいやいやいやいや俺(の性癖)は正常だ……」(ブツブツ)
妖精「……んん」(パチクリ)
男「!?」
- 2 :
- 妖精「んー……ふー」(背伸び)
妖精 蒲団の上をてくてく歩くと、男の顔が以外に近い。
男「おおおおはようございます!」
妖精「きゃぁっ!」(尻もち)
男「大丈夫ですか?」(さっと手を伸ばす)
妖精「いえいえお構いなく……コホンッ!」(姿勢を正す)
男(いったい何が起こるんだ……。俺なんかやっちまったっけ?)
- 3 :
- 妖精 一番最初に寝てた付近に正座。
妖精「こんばんわ。今日の天気予報です」
男「妖精さん……?」
妖精「いかにも。私が妖精です」
男「あ、やっぱりそうなんだ。って実在したんだ!」
妖精「失礼ですね。非実在青年のくせに」
男「あ、ごめんなさい……」
男「じゃなくてさ。何をしに来られたのですか?」
妖精「少し黙ってもらえません? 今から話しますから」(ジトー)
男「申し訳ありませんでした」
- 4 :
- 妖精「さて、気を取り直しまして、今日の天気予報です」
男「……」(時計ちらっ)
妖精「天気予報です」
男「え、いや、その……夜なのに今日の天気なの?」
妖精「ふふふっ。あなたのお仕事は夜勤の警備員ですよね」
男「ええ……そうですけど……なんでそれを」
妖精「妖精に分からないものはありません!」(人差し指ビシッ!)
男「そ、そうですか……」
妖精「では今晩から明日にかけての天気は……」
男「はい」
妖精「天気は……」
男「天気は……?」
- 5 :
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- 6 :
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- 7 :
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- 8 :
-
妖精「あ、あれ? おかしいな」(ポケットごそごそわたわたパタパタ)
男「え? どうしたんですか?」
妖精「――――たいです」(ジワァ――)
男「?」
妖精「どどっどど、ド忘れしたみたいです……ぅうぅ……」(メソメソ)
男「あの、ちょ、待って。な、泣かないで」
妖精「今日が……私の……大、舞台なのに……えぅぅ……」
男「あの、メモとかは……?」
妖精「そ、それもっ、忘れて来てて……ひっ、うぇええん!」
男「ま、まあまあ落ち着いて」
男(間に合うかなー。仕事)
- 9 :
-
数十分後。男の部屋のテーブルの上。
男「落ち着きました……?」
妖精「お見苦しいものをお見せしました……」
男「ティッシュもう一枚いる?」
妖精「ではお言葉に甘えて」(ズビーッ)
男「あのさ、事情を聞きたいんだけど」
妖精「事情……?」
男「そう。どうして妖精さんがここにいるのかって話」
妖精「通過儀礼です」
男「いにしえーしょん?」
妖精「はい。この世界で言うなら、成人式」
男(お酒飲めるのか、この娘)
- 10 :
-
男「わかった。先を続けて」
妖精「ええとですね……私達妖精は『一つだけ願い事を叶える力』を得ていれば一人前とみなされるんです」
男「へぇ……」
妖精「そしてその力を得るために、
私達は人間界……つまりあなた方の世界で善行を積むとその力が手に入るのです。」
男「それが妖精天気予報なの?」
男(それでいいのか)
妖精「ええ。私はあんまり願い事とかに興味が無いので、簡単な物を」
男(おお。ぶっちゃけたな)
妖精「街頭のテレビで天気予報を見て、これだ! って思ったんです」(エッヘン)
男「で、その結果を忘れた、と」
妖精「はい……」(シュン)
- 11 :
-
男「あー。あんまり気にしないでください。天気とか、たぶん晴れですし」
妖精「でも……それだと私……」
男(あ)
男「一人前に見なされない……とか?」
妖精「……」(コクン)
妖精「まいりました……」
男「そっか……」
男(どうすりゃいいのかな、ばあちゃん)
妖精「……」
男「……」
- 12 :
-
妖精「あ、あの……」
男「?」
妖精「何か私にできることはありませんか?」
男「できること?」
妖精「できればあなたにとって良い事を!」
男「切り替えはやいなー」(ボソッ)
妖精「なるべく手軽で……そのー」
男「…………」(ジトー)
妖精「あうあう」
男(この娘、昔の俺に似てるぞ)
- 13 :
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- 19 :
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妖精「……」
男「……」
男(会話が無いな)
男(涙目になってきてるし)時計チラッ
男(そろそろ飯喰いたいな)
ぐぎゅるる〜
妖精「あっ」
男「……お腹減ってるんだね」
妖精「いや、そのっ!」
くきゅるる〜〜
妖精「……」
男「くっ……ふふふ……!」(腹を抱えて爆笑)
妖精「お、なか減ってます」(赤面+ちょい涙目)
男「わかった。お箸は使える?」
妖精 首を振る
妖精「あ! 手伝いましょうか?」
男「はいはい。そこで待っててねー」
- 20 :
-
数十分後。
男「はい。どうぞ」
妖精「こ、これは?」
男「鮭お握り」
妖精「お酒入ってるんですか!?」
男「違う違う」(中身を割る)
妖精「オレンジ色だぁ……」(キラキラ)
男(目の付けどころが違うねぇ)
妖精「こ、このオレンジっぽいものは何なんですか?」(ワクワク)
男「鮭っていう『魚』。って妖精界にもいるの?」
妖精「キシャー!!」(手足バタバタ!)
男「うわっ、いきなり何だァ!?」
妖精「りゅ、両親の仇ーッ!!」(ブンブン)
男(噛んだ!?)
お握りポロリ
男「あッ!」
ぐちゃァ……
- 21 :
-
午後九時ちょうど。
妖精「すいません。取り乱してしまいました……」(ぺこり)
男「何か、あー……事情が、あるんだろう?」
妖精「はい。実は……」
- 22 :
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- 24 :
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- 25 :
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- 26 :
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過去。妖精界。
チビ妖精「パパ! ママ! どこ!」
長老「おお×××よ……」
チビ妖精「ちょうろうさん!」(タッタッタ)
長老「すまん……すまんのォ……」
チビ妖精「どうしたの!? ねぇおしえて!」
長老「お前の両親はなァ……魚に、魚に喰われてしまったんじゃ」
チビ妖精「な、なんで! パパもママもわるいことしてないのに!」
長老「魚軍が……ちょうど偵察に来とってなァ……ワシらが行った時には……既に……ッ!」
チビ妖精「うそ! そんなの……うそ!」
長老「すまんのォ……すまんのォ……!」
チビ妖精「いや……! そんなのイヤ!」
チビ妖精「うぇぇぇえええええん! うぇええええええん!」
- 27 :
-
男「つまり」(グスッ)
男「き、君の両親は……敵対する魚軍の偵察兵に襲撃を受け、」
男「君だけが、い、生き残ったと」(鼻水チーン!)
妖精「はい……」
男「そっか……そっか……!」
妖精「いくら私達が願い事を叶えられると云っても、限度があります、妖精によっても違います」
妖精「この儀式でどれほど良い事をしても、例え誰かの命を救ったとしても」
妖精「私の両親は帰ってきません」
男「……」
妖精「ごめんなさい。食べ物。せっかく作ってくれたのに……」
男「いや、いいよ。鮭……具だって他のがあるから、それを食べよう」
妖精「男さん……」
男「どうぞ。梅だけど」
妖精「ウメ?」(パクッ)
男「木の実だよ」
妖精「むしゃむしゃむしゃ」
男「酸っぱいけどね」
妖精「……」(ピタリ)
男「あー、もしかして酸っぱいの苦手?」
妖精「キュー!」(バタン!)
男「わー! 見た目通りだよ可愛いなぁ! じゃなくて! 俺の馬鹿!」
- 28 :
-
午後九時三十分。
妖精「男さん……さっきの飲み物をください」
男「ココアのこと? いっぱい作ったからまだあるよ」
男「重ね重ね本当にごめん」
妖精「いえ、こちらこそ」
男「……」
妖精「……」(ココアごくごく)
妖精「ぷハァ―! おいしいです!」
男「そっか。気に入ってくれたようでなにより」
妖精「なんだか私ばっかり良くしてもらって……」
男「そんなことないって。大丈夫大丈夫」
妖精「そうでしょうか……?」
男「うんうん」
妖精「……」(ポケットゴソゴソ)
男「何それ?」
- 29 :
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- 30 :
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- 31 :
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- 32 :
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妖精「『善行玉(ぜんこうだま)』です」
男(空の砂時計にしか見えないな)
男「もしかして、その容器に善行が貯まらないと帰れないとか?」
妖精「ザッツライトです」(人差し指ピシッ!)
男「全然貯まって無いね」
妖精「ええ……。これが一番小さいサイズなのに……」
男(セコイナー。まあそれも当然っちゃ、当然なんだけどさ)
男「それを貯めるのに期限とかあるの?」
妖精「3日、です」
男「そっか……。それなら焦らなくても良いのかな」
妖精「で、でも……」
- 33 :
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男「でも?」
妖精「一番小さいサイズの善行玉なのに帰る順番が最後になると……」
男(その先の生活に障害が……か)
妖精「『チョイ悪妖精』の汚名を被ることになります」
男「ブッ!ww」
男(ファンタジー! めっちゃファンタジー!)
妖精「わ、笑わないでください! 深刻なことなんです!」
男「……そ、ふふ、そんなに?」
妖精「はい。不良妖精と見なされて行く先は――」
男(ゴクリ……!)
妖精「性奴隷です」
男「」(ドッキーン!!)
- 36 :
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男(えええええ!! 嘘ウソ嘘ウソ!!)
男(ヤバいぞ。これはヤバいぞ! 洒落にならねェ……それだけは阻止しねーと)キリッ!
男(でも……)ニヤァ……
男(いや考え直せ!)キリリッ!
妖精「男さん? どうされました?」
男「いや君が性奴隷になったとこなんて想像してないよそれだけは絶対に保障する!」
妖精「しましたね」
男「申し訳ない! 本当にごめんなさい!」
妖精「あれは……想像するだに恐ろしいものです……」
男「へ、へぇ……」(wktk)
妖精「見知らぬ他人に頬っぺたをツンツンされるなんて! 好きな人ならまだしも、ああ恐ろしい!」
男「俺の純情を返せー!!」(ガバッ!)
妖精「キャー!?」
- 37 :
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- 38 :
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男(ファンシーだな……妖精界)
男(でも、そんな社会にも暗黒面があって)
男(きちんとそれを悲しんでる人……いや、妖精がいて)
男(楽しい事だけじゃ……ないよな。どこの世界でも)
妖精「お、落ち着きましたか? 男さん」
男「ん。落ち着いた」
妖精「ところで」
男「ん?」
妖精「お仕事の方は?」時計ちらりずむ
男「うわぁッ!行ってくる!!」
午後九時四十五分。
- 40 :
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- 41 :
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午後十時二十九分。街角。
男「すいません! 遅れました!」
先輩「いや、遅れて無いよ」
男「本当ですか!? 危なかった……」
先輩「じゃあ引き継ぎねー。そんじゃ」(バイバイ)
男「はい。お疲れさまでした……」
先輩「ああ、そーだ」クルリ
男「はい?」
先輩「私今妖精さんが見えるよ」
男「くぁwsえlふじえりjdき」
先輩「疲れてんのかなー。なんてね」(テクテク)
- 42 :
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男「ふ、ふふ、は……ハァ……」
妖精「あの人……すごい方ですね」
男「ナチュラルになんでついて来てんだよ!」
男「しかもそんな寒そうな格好でさ。家にいたときと変わんないじゃん」
妖精「私の事は良いんです。それよりもあの女の人は何者なんですか!?」
男「どうでも良くないって。……え?先輩のこと?」
- 43 :
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- 44 :
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男「説明しよう!」
男「曰く、合気道、剣道、柔道を嗜み」
男「一方では茶道、華道、盆栽、俳句にも通じ」
男「実態は俺が雇われてる警備会社の令嬢だよ」
妖精「わぁ……!」(キラキラ)
男「ついたあだ名は『妖精し(スイートドリームブレイカ―)』」
妖精「よ、『妖精し』!?」
妖精「あんなに綺麗なのに……」
男「そそ。誰も可愛い彼女に近づけない。だからだよ……ハァ……」
妖精「あ、男さん。あの方に惚れてますね?」(ニヤリ)
男「ぬわーっ!」
- 45 :
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妖精「図星ですか」
男「そ……」
妖精「図星ですね?」
男「そそそそそのようなこともないこともない」
妖精「ふふふ。真っ赤ですよ?」
男「なッ!」
妖精「えへへ」(パタパタ)
男「……一度だけ」
妖精「え?」
男「一度だけ、あの人が書いてる日記、見たことあるんだよ……」
妖精「日記、ですか。よく見れましたね」
男「俺もそう思う。同僚と一緒に見たんだけどさ――」
男「可愛かった。めちゃくちゃ可愛かった……!」
妖精「……」
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男「文武両道の権化とでも言うべきあの先輩がなァ!」
男「女子特有のちょい丸文字で!」
男「『けふもなにごともなし。おとこくんすこしおくれてきたり』と書いていたんだッ!」
男「俺はその時から真人間になった!」
男「仕事で遅刻はしない。仕事中に愚痴をこぼさない。顔の整形は無理だが雰囲気イケメンになろうとオシャレに気を使ってみたり!」
男「物を渡す時は両手で渡し! 話す時はひたすら爽やかな笑顔に見えるように!」
妖精「うわぁ……」
男「と、まぁ。こんな感じだよ」
妖精「そ、そうですか」
- 51 :
-
妖精「それで、男さんはまだ好意を伝えて無いんですか?」
男「できるかよ……だって『妖精し』だぜ?」
妖精「じゃあ、お手伝いしましょうか?」
男「何を?」
妖精「恋愛成就を、です」
男「いや、いいよ」
妖精「え?」
男「先輩、今度――」
男「いや、何でも無い」
妖精「そう……ですか」
- 52 :
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- 53 :
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- 54 :
- 妖精「へ、ヘクチっ!」
男「やっぱり寒いんじゃねーですか」
妖精「これくらいへいクチッ!」
男「おいおい。ほら、こっち来いよ」
妖精「胸ポケットですか?」
男「マフラーもつけて進ぜよう」
妖精「ありがとうございます!」
- 55 :
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- 58 :
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数分後。
スイーツ(笑)「うわ何あの警備員キンモー☆www」
DQN「ホントだwwwマジウケルwwwオタクでロリコンかよwwww」
スイーツ(笑)「やびゃあwwwww」
DQN「フィギュアとかマジ勘弁wwwww」
妖精「男さん……」
男「気にすんな」
男「大人になるって、こういうもんだろ」
妖精「男さん……」(マフラーをギュっ……)
- 59 :
-
男「成人式、ったっけ」
妖精「あ、はい」
男「俺も行ったけど、あん時は酷かったよ」
男「地元から離れた大学行っててさ。全然思い入れ無い場所で記念写真撮って、講演聞いて」
男「大学の友達はいたけど、地元の奴だったから、そいつは地元の友達んとこ行っちゃうし」
男「酒飲んだヤンキーが暴れ始めてさ」
男「それ見てみんな笑ってるし」
男「イライラしてたし、つい、カッとなっちゃってさ」
男「注意したら。タコ殴りにされちゃった」
妖精「そんな……!」
男「だから俺はその時……善行、積めなかったんだろーなー。って、今思ってる」
男「積んだらさ。人の願い事一つぐらい、叶えられたのかな……」
妖精「男さん……?」
- 60 :
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男「先輩、さ」
妖精「はい」
男「あの人、この前婚約したんだって」
妖精「そうなんですか!?」
男「不況だからさ……政略結婚。なんて言ってた」
妖精「もしかしてそれは、相手方が……」
男「そうだよ。一目惚れ。そして弱みに付け込んだ」
男「正直、ズリ―と思う。でも俺が逆の立場だったら利用しない手なんてないさ」
妖精「でもあの方の本心は……!?」
男「嫌だって。『でも仕方ないよねぇ。たははー』。なんて笑ってたけど」
- 61 :
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- 64 :
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妖精「どっちも、本心なんでしょうね……」
妖精「嫌なのも、仕方ないと思うのも」
男「ああ」
男「その時にさ『男君。是非ともどっか連れ出してくれ』って言われてさ」
男「頷け――なかった」
男「その後に『冗談だよ』なんて言われて、それっきり」
妖精「……男さん!」
男「ん?」
妖精「……それは、その……随分な意気地無しですね」
男「……ああ。自分でもそう思うよ」
- 65 :
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- 66 :
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- 67 :
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男「先輩の事は……とっくに諦めはついてる。傍から見れば俺の先輩に対する態度はごますりにしか見えないだろうし」
妖精「男さん! そんなこと言っちゃ、ダメですよ……」
男「ごめん」
妖精「…………」
男「どうして頷けなかったんだろ」
男「任せてください、って言ったら、変わったか?」
男「そんなわけ、ねーじゃん」
妖精「でも、ですよ……諦めてしまったら!」
男「だよなァ……」
- 68 :
-
午前一時三十分。
男「妖精さんはさ、その、妖精界に行ったら。大人になったことになるんだろう?」
妖精「はい」
男「そしたら。何すんの?」
妖精「私は女なので……結婚させられます」
- 69 :
-
男「……ままならねーなァ」
男「相手がさ、もし俺みたいなキモい奴だったらどうするの? 離婚とかできるの?」
妖精「男さんはキモくなんてないです。とっても優しい人です」
男「意気地無しでも?」
妖精「はい。それに――」
妖精「妖精の外見にあまり変わりは見られません。種族が違えば変わりますが」
妖精「みんな同じような顔、身長……性格ぐらいですかね違うのは」
男「そっか」
妖精「私みたいなのは嫌われます」
男「なんでさ」
妖精「可愛くないですから、私」
妖精「両親も居なくて、利己的で、ちょっとひねくれてて、妖精失格ギリギリです。なんて」
男「んなこと、ないと思うよ」
妖精「え?」
男「さっきみたいに、俺には叱ってくれるしさ」
妖精「……」
男「……」
妖精「男さん……私達、傷の舐めあいをしてるみたいです」
男「…………そっか……やっぱ、そう思うのか」
- 70 :
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- 71 :
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- 72 :
-
- 73 :
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男「俺は妖精さんのことを見てさ、『昔の俺みたいだ』って思ったけど」
男「あんまり変わって無かったんだな、俺」
妖精「昔の男さん……ですか?」
男「そう。昔っからこれまでずっと、逃げてきた。諦めて、理由をつけて、責任転嫁して、自己弁護までして」
男「妖精さんさ、『一つの事が出来ないんだから自分には他の事が出来ない』って思った事ない?」
妖精「あります」
男「だろうね」
男「たぶん君の場合は……『一人前の妖精』つまり、『誰かの願い事を一つ叶える力』に失望して」
男「やけっぱちになった」
- 74 :
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- 75 :
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- 76 :
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午前二時十五分。
妖精「ええ……」
妖精「たしかにそうです」
妖精「何があってももう戻ってこないなら……もう良いかな、って」
妖精「私は甘えてばっかりです」
妖精「『両親が居ないから』『女の子だから』『かわいそうだから』」
妖精「そんな風に甘やかされて、それを利用して」
妖精「どうせ、どうせって……願い事なんて、私の願い事なんて叶わないって……」
妖精「でもそんなの、何の理由にもならないんです」
妖精「諦めて良い理由にもならないはずなんです」
男「そうか……妖精さんはもう立派な大人だね」
妖精「大人になるその為にも、今度は私が誰かに善い事をしなければなりません」
妖精「男さん……そうさせてくれますね」
男「……そうしてくれると、助かるかも」
- 77 :
-
妖精「では」
妖精「話してください」
妖精「男さんに何があったのか」
妖精「諦め続けてきた、そのきっかけを」
- 78 :
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- 79 :
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- 80 :
-
午前二時四十分。
男「振り返れば振り返るほどに、諦めてきたよ。昔から」
男「境遇的には、妖精さんとほとんど一緒」
男「父親は蒸発。母親は病死。ばあちゃん家に預けられて育った」
男「ばあちゃん家は……悪くなかった。むしろ居心地は良かった」
男「甘い人でさ、両親がいないことでイジメられると『男は悪くない。悪くないよ』っていってくれる人だった」
男「でも俺はダメだった」
男「打たれ弱くて、怒られたら条件反射で涙が出るような、それぐらい意気地無しだった」
男「俺……」
男「だから段々、臆病になって怒られない様に生きてさ。ズルイことだってやったよ」
男「で、ちょっと難しい問題が出てきたら、すぐに諦めて、それがそのまま癖になっちゃった」
男「そんなんじゃダメだよなって、勇気出したのが成人式で――」
男「そいつが再起不能になって、何も変われないまま、今まで生きてる」
- 81 :
-
男「だから今回も……無様な様を先輩には見せたくないんだ」
男「振られるのは怖いし、それをネタにしてからかわれるのも怖い」
男「仮に上手くいったとしてそれからどうなる?」
男「一時期上手くいってその後壊れたら?」
男「じゃあやっぱり諦めよう。なるようにしかならないんだ……!」
男「諦めればそれで済む。今までだってそうしてきた。だから」
男「だからさ、今回も諦めようと思って……!」
- 82 :
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- 83 :
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- 84 :
-
男「妖精さん……」
男「人間の世界は、都合良くどんな小さな望みでも……確実に叶うかどうかなんてわからないんだよ」
妖精「男さん」
男「何?」
妖精「あなたの願い事は何ですか?」
男「俺の……願い事……」
妖精「大したことは出来ませんが」
妖精「でも、お手伝い程度ならできます」
男「それは……」
妖精「私の願い事は叶いませんし、こんな力持っていたって宝の持ち腐れです」
男「後悔すると思うな」
妖精「構いません。これは私の為です」
男「妖精さんの……?」
妖精「はい。何か、辛いことがあった時、決して自分が逃げないようにする為です」
妖精「私はもう力を言い訳にしません。そして――」
- 85 :
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- 86 :
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- 87 :
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妖精「それを教えてくれたのは男さん……あなたですよ」
男「俺……?」
妖精「はい」
男「それは違うと思うよ。うん。君が気づいて君は大人になったんだ」
男「だから、その力は君自身が使ってくれよ。俺なんかのために使ったら勿体ないって!」
妖精「男さん!」
男「……」
妖精「逃げないで下さい。諦めないでください。忘れないでください。あなたの為に力を使った妖精が居ることを」
妖精「そうすればあなただってもう逃げ――」
男「一つだけなんでしょ? だったら本当にやめてくれ!」
妖精「男さんのそれは……本当に優しさや心配からきた言葉ですか?」
妖精「それとも……」
男「……そうだよ……そんなことあるわけがない………………!」
- 88 :
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- 89 :
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- 90 :
-
男「俺は怖い」
男「これが終わったら帰っちゃうような、そんな、他人みたいな妖精さんにまで後になって」
男「『あんな奴の為に力を使うんじゃなかった』って言われることすら怖い……!」
妖精「男さん……」
- 91 :
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- 92 :
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- 93 :
-
男「自分がどれだけ卑怯になろうと、いいやなればなるほどいつも誰かに嫌われるのが怖いんだ!」
妖精「……そうですか。でも、約束します! それだけは絶対言いません!」
妖精「あなたは確かに臆病です……自分を信用していません」
妖精「そして同等かそれ以上に他人を信用していません」
妖精「だったら言い換えます。これは『契約』です」
妖精「あなたが少しの勇気を出して変わる事を対価に」
妖精「大したことの無い『願い事を一つ叶える』力をあげます」
妖精「どうしますか? あなたが紙幣を信用できるなら、契約できますよね」
男「妖精さん……」
妖精「おまじないを、買いませんか?」
男「どうして、そこまで……?」
妖精「んふふ。放っとけないんです」
妖精「何だか、昔の私を見ている様で!」
- 94 :
-
午前三時五十三分。
男「わかった」
男「俺……怖いけど、頑張るよ」
男「俺なんかの為に力まで使ってくれるんだ。こんなに嬉しいことは無いさ」
妖精「男さん……それじゃあ!」
男「契約するよ。妖精さん」
妖精「良かったです……本当に!」
男「それで……善行玉はどうやって貯めるの? それがないと願い事は叶えられないんだろう?」
妖精「鋭いですね。ザッツライトです」
妖精「でも簡単ですよ」
- 95 :
-
- 96 :
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- 97 :
-
妖精「心のこもった『ありがとう』っていう言葉、それだけで良いんです」
男「……そっか。それで、いいのか」
妖精「はい。その時ちょっとだけ私は人間界に留まれますので、そのうちに力を使います」
妖精「では早速――」
男「待って」
男「もう少しだけさ、妖精さんと一緒に居させてくれないか?」
妖精「うひゃあ! え、えええええ……!?」
男「ダメ?」
妖精「でででで、でも男さんはあの方が好きなんですよね……!?」(わたわた)
男「あはは。いや、そうだけどさ。もう少し、このまんまで」
妖精「はははハイ!」
- 98 :
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乾いた夜、モノクロな冬の街並みを無言で過ごす。
きっとこのまま朝が来る。
そうしたらきっともう戻れないんだろう。
元のままには戻れない。
変わり続けなければならない。
その為の、モノクロのモラトリアム。
景色がセピアになるように、
俺は変わるための一歩目を歩き出すんだ。
失うように、俺は勇気を得る。
- 99 :
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