2011年10月1期創作発表男「君が好き」
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男「君が好き」
- 1 :11/02/13 〜 最終レス :11/04/18
- 小学校の裏山に古い大きな木がある
僕と彼女はそこで出会った・・・
僕の父と母は家族より仕事人間だったから、僕は常に孤独だった。
- 2 :
- 女「男君、またこの木を見ているの」
男「別に、お前には関係ないだろ」
女「関係あるよ、だって悲しそうな人がいたら助けろってパパが言ってたもん。」
男「別に悲しくない、悲しくても助けてもらうこともない」
女「ふ〜ん分ったじゃあね」
男「あっち行け」
- 3 :
- この木に同級生が来ることは殆どない、来るのはあの馬鹿と
俺だけだった。
親との冷たい生活の中で僕は少しみんなより大人びていた、
そのせいで回りからいじめを受けたこともあった。
- 4 :
- いじめっ子「お〜いお前いつも一人だな、馬鹿じゃないのww」
男「僕に構うな、あっち行け」
いじめっ子「なんだと〜この野郎」
気がつくと僕の周りはいつも敵だらけ・・でもあの子は違った。
女「いじめ君もうやめなよ、男君が困ってるじゃない」
その子がいじめっ子を非難すると野次馬や取り巻きが何時も居なくなった、
一人の勇気が幼いなりの良心を責めるのだろう。
俺はその子がいじめっ子を追っ払ってもお礼も何も言わなかった
その子の勇気も敵みたいな気がした・・・
- 5 :
- きん〜こん〜かん〜こん〜
学校の終わりを告げる鐘が鳴ると、俺はランドセルを背負い
校舎を飛び出した・・・・あの木に行くためだ
いつものように木の前に座り本を読み始める
僕の楽しみだった。
そうこうしてる内に、30分ぐらいすると
いつもあの女の子が木の前に来ていた。
- 6 :
- 女「またここにいるの?」
いつも聞いてる単調な質問だ
男「別に」
そしていつもと同じ答えを彼女に返す
- 7 :
- そうゆう会話が毎日続いた、会話とまでは行かないけど
僕の精一杯だった。
そして僕が質問を返すと彼女は帰った
最初は帰ることを喜んだ僕も一か月後には
それが悲しくなった。
- 8 :
- 女「またここにいるの?」
聞き飽きたけど・・悲しい言葉が僕に降りかかる
男「別に」
でも僕はいつも同じ答え・・変わりたかった・・変われなかった・・
そして近づくお別れの時、僕にはそれが耐えられなかった・・
- 9 :
- でもその日は違った
女「あのね・・男くん隣に座っていい?」
男「え?」
僕は混乱した・・でも嬉しかった
女「だから・・隣いい?」
男「いいよ」
- 10 :
- 僕は変われなかったけど・・・
彼女は僕を変えようとしたのだと思った・・
男「ううひぐ・・うう」
彼女の心に触れて僕はその時初めて泣いた
でも彼女は優しく頭を撫でこう言った
女「男くん今日は泣いていいよ・・でも・・
明日からは泣かないで・・きっといっぱいの幸せがあるから」
彼女の言葉は僕の小さな心を溶かした・・・
僕は日がくれるまで泣いた
- 11 :
- 女「もう元気になった?」
男「たぶん・・」
女「そうよかった・・・」
この夕焼けをみて僕はまた辛い現実を知る
彼女との別れだ
女「じゃあね」
そう言うと彼女はいつものように行ってしまう
僕は耐えられない・・だから・・・
男「女ちゃん・・」
僕は初めて彼女の名を呼んだ気がする
- 12 :
- 女「なに?」
男「もしよかったら・・明日ここに二人で来ようか」
女「・・いいよ君と居ると楽しいし・・」
男「ありがと」
女「じゃあ・・男君が元気出せるように、おまじないしてあげる・・」
- 13 :
- そう言うと彼女は僕のほっぺにキスをした・・
今は覚えてないけど・・きっと赤面していたと思う・・
女「じゃね///男君」
男「うん///また」
彼女の特別な魔法は・・
僕をきっと変えた
その日から僕は変ろうとした
少しずつではあるけど友達もできた
でも・・山の大きな木は僕と彼女との秘密基地だった
最初は二人で本を読む事しかなったけど
彼女は楽しそうだった
でも楽しい時間にも別れがやってくる
彼女のお別れの言葉は世界の破滅のように感じた
- 14 :
- 彼女との往来は僕たちが高学年になっても
続いた・・・・・
男「女ちゃん、僕・・君のこと好きみたい」
何年も一緒に居て湧いた不思議な感情が
僕にそのことを彼女に告げさせた・・・・
女「男君・・・私は男君の事ずっと好きだったよ」
そう言うと彼女と僕は不思議と唇を合わせた
1年生の時に味わったおまじないよりも強い
おまじないだったと思う
- 15 :
- 女「ふふ//やっと思いが通じたみたい」
男「僕は大人になったらきっときみを幸せにする・・
だから今はこの思いだけを大事にしようか・・」
女「うん//」
彼女の夕焼けに照らされた笑顔は
今までで一番の笑顔だった
- 16 :
- 女「さあ、帰ろうか・・・」
今までは一人で寂しく帰った道も
二人で帰ると明るく感じられた
女「男君わざわざありがとう・・」
男「気にしないで・・じゃ」
女「じゃあね」
- 17 :
- 僕の家は山の木から彼女の家より近かったけど
彼女には僕と同じ寂しい気持ちにはさせたくなったから・・・
彼女の家に寄ってから帰った・・
思えばその時は「僕たちなりのデート」だったのかもしれない・・
お互いに純粋だったから・・
- 18 :
- 僕たちの恋人兼友人関係は中学に行っても数は少なくなったけど・・
続いた・・お互いに本を読むことが好きだったから・・
僕と彼女は文芸部に属した
- 19 :
- 僕は彼女が書いた作品を週末に彼女を誘って山の木の前で読むのが日課となった
彼女も僕の書いた作品を読んでくれたから二人は満足だった
変ったことと言えば・・僕たちの関係が恋人兼友人関係から、
本格的な恋人関係になったところか・・
- 20 :
- 女「男君の作品には必ず私が出てくるね///」
彼女は僕の本を読むといつもこの文句を使った
僕の人生には彼女がいつの間にか欠かせなくなったんだと実感できる・・
男「君の事本の中でも好きだから////」
不器用な僕なりの愛情表現だった・・
- 21 :
- 彼女は誰にでも優しく接した・・だから・・
女「男くん、また告白されちゃた」
僕が唯一友人たちに嫉妬する所
僕は君に恋人になる告白が出来ないからだ、
でも僕の愛の証明のために・・
男「僕は君のこと何年も前から好きだったよ//」
僕が言い終わると彼女は眼を伏せ恥ずかしそうに笑った
- 22 :
- 中学校2年生から君との1行ノートが始まった・・
内容は、クラブの事、学校の事、テストの事・・
いろいろあった・・・
7月3日男
「部活動、お疲れ様もう少しでテストだね、一緒に頑張ろう」
7月4日女
「テスト1週間前だね・・部活出来なくて悲しいよ。」
7月5日男
「僕も・・でも明後日は土曜日、僕の家で一緒に勉強しようか?」
7月6日女
「うん////明日が楽しみだね///」
そういえばどちらかの家に行くなんて、
初めての気がする。いつも山の木か部室が遊び場だったから・・
そして明日がやってきた・・
- 23 :
- 女「こんにちはー男君いますか?」
男「は〜い上がって上がって」
女「お邪魔しま〜す」
男「どうぞ」
初めて、彼女を家に呼んだから・・
少し緊張していた・・でもそれは彼女も一緒だったかもしれない・・
僕は少しでも緊張をほぐそうと一生懸命だった・・
- 24 :
- 男「な、何から勉強する?」
女「う〜ん国語」
君ならかならずそう言うと思っていた・・
僕と彼女の共通の「得意」だったから・・
女「男君ここ分らない///」男「うん?どれ?///」
女「ここだよ、ここ//」
男「ここはね///」
勉強してる時彼女は甘えてきてくれた・・
2人とも学校にいる時より大人びていたから・・
でも楽しい時間は早く過ぎていく
- 25 :
- その夜はドキドキが止まらず寝れなかったから・・
勉強していた・・思えば彼女と居る時国語しかしてなかったから・・・
苦手な数学をしていたこれは「彼女も苦手」だった・・
男夢の中
男「お父さん、お母さんまたどこかに行くの?」
父「ごめんな・・お前の誕生日なのに・・・」
母「お母さんたち一周間東京に行って来るから・・
なんかあったら、お婆ちゃんに連絡してね・・」
男「うん・・分かった・・」
一周間後
男「お父さん、まだ帰れないの」
父「ごめんな、男・・この埋め合わせは必ずするから」
男「うん・・ありがとう・・お父さん」
父「じゃあな男」男「じゃあ」
- 26 :
- 男君男君・・・
男「?」
女「どうしたの?泣いてるの?」
男「・・・・うん」
男「女ちゃん・・今日はね・・僕の誕生日なの・・」
女「え・・そうなの?」
彼女との「デート」で泣いてしまうなんて・・
なんて最低な男だろう・・
でも彼女は・・
- 27 :
- 女「今日は男君の大事な日だね・・
でも同時に辛い日でもある・・」
男「うん・・女ちゃん・・怒っちゃった?」
女「ううん・・大丈夫・・
それよりも・・男君今からパーティしない?」
男「え?」
彼女の予期せぬ一言に僕は言葉が出なかった・・
- 28 :
- 女「だ、駄目かな」
男「うん、いいよ・・」
男「でも・・どうして急に?」
女「男くん悲しそうだったから・・
自分の生まれた日ぐらい大切にしなきゃ・・」
男「うん・・ありがとう」
彼女に言われてまた泣いてしまった
ほんと、駄目な彼氏だと思う・・
- 29 :
- 女「男君、これからは男君の誕生日私が一緒にいる・・
何年も・・何十年も一緒に///」
男「うん・・ありがとう///」
女「だから・・悲しい顔しないで・・
私も悲しくなるから・・」
僕たちはもうすでにお互いを大切な存在だと
認め合っていたのかもしれない・・
悲しいことがあっても、嬉しいことがあっても
僕は君と一緒に居ることを望む、何年も・・何十年も居ると
思っていた・・・・・
- 30 :
- 「この度はご愁傷様でした」
父と母の他人行儀な声が聞こえていた・・
祭壇の真ん中に掛っていた遺影は
彼女の写真・・・・だった・・
- 31 :
- 僕の家に来たあの日の帰り彼女は
交通事故に巻き込まれてしまったのだ
僕は悔やんでも悔やみ切れなかった
女ちゃんが死んだから僕の大切なひとを守れなかったから・・
女父「君が男君か?」
女の父から呼ばれた・・・
正直殴られることも覚悟で行ったと思う
- 32 :
- でも彼女の父親からは一言
女父「君たちの秘密の場所に行け・・
女は最後にこれを残して死んだ・・」
男「ありごとうございます、女父さん・・」
悲しくてもこの人たちの前では泣かなかった・・泣けなかった
女父「君には謝罪されることも感謝されることもない・・
あの子の死は運命だったから」
女父「男君早くあの子の所に行きなさい
それが私たちに対する罪滅ぼしだ・・」
正直・・女父は無理しているようだった
だって自分の一人娘が奪われたのだから
男「女父さん・・俺もう行きます」
女父「そうしてくれ」
- 33 :
- 山の木前
僕が山の木前に行くと・・
光る球体があり僕を包み込んだ
そうして居ると彼女と会話してるようだった
女「男君、ごめんね私、貴方との約束果たせそうにない」
男「うんいいよ」
女「男君と居る時すごく楽しかった・
こんなことが・・永遠に続くと思った・・」
男「僕も・・だから女ちゃん僕もつれてって」
女「貴方を連れていくことは出来ないの・・
だって私は愛した人をころせないから・・・」
- 34 :
- 男「そんな・・」
女「男君・・私の言った事、覚えてる?
もう泣かないってこと・・」
男「うん・・覚えてる・・」
女「だから・・男君もう泣かないで・・
これだけ約束して」
男「わかった約束する」
でも自然に涙が出てきてしまう
女「もうだめじゃん・・泣いちゃ・・」
男「ごめんね・・ごめんね・・」
女「男君優しいし格好いいからモテルよ」
男「うぐ・・ひぐ・・でも僕は君だけを愛していきたいよ」
女「そんなわがままはダメ・・嬉しいけど」
- 35 :
- 男「そんなあ」
女「ごめん・・男君もう行かなきゃ・・
最後に約束しようか・・」
男「約束?」
女「そう・・約束・男君がもし幸せな人生を送ったら・・
私が向かいに来るぜったいに・・・・」
男「本当に?」
女「本当だよだから泣かないで・・」
気がつくと僕は泣きやんでいた
女「やっと笑ってくれた」
女「最後に一つだけ///貴方の事好きだよ」
男「僕も好きだよ///」
そう言うと彼女は嬉しそうに消えた
もちろん僕は泣かなかった
- 36 :
- 70年後
医者「残念ながらお父さんはお亡くなりになりました」
息子「そうですか・・分かりました」
暗くなる意識の中で息子がうつ向いてるのが
分かった・・でもしょうがない事だ・・
薄れて意識の中で女ちゃんの声が聞こえた
- 37 :
- 女「男君ひさしぶりだね//」
男「君は女ちゃんかい?」
女「そうだよ、男君いい人生を送れた?」
男「まあまあかな?でも恥かしくない人生だった」
女「そう・・だから迎えにきたよ/////」
男「ありがとう、そしてずっと好きだったよ///」
終わり
- 38 :
- あげ
- 39 :
- あげ
- 40 :
- このあとどうすんだよこのスレ……
- 41 :
- 『ずっと君が好きだった』男はそう言って、彼女の前から消えたのだという。
彼女は、ずっと男友達の一人だと思っていた。そう言った。
その後、男は携帯電話の番号も、メールアドレスも変え、引越し先もわからない。
「男くんの気持ちも気づかないで、あたし浮かれて話して……」
依頼人用のちょっと値の張ったオフィスチェアに座った彼女は、揃えた膝の上で、
私にはわからないブランドもののハンドバックに目を落とし、独り言のようにつぶやいた。
彼女の左手薬指で婚約指輪がきらりと光って見えた。
「ぼくはしがない個人経営の探偵だよ。むしろ覗き屋と言ったほうが正しい。
人探しなんて柄じゃない。どうしてぼくを?」
私はなんとなし、彼女のバッグを、指輪を眺めて尋ねた。
「探偵くんは男くんと友達だったでしょう?きっとなにか分かると思って」
彼女は顔を上げて私の顔に向かって言った。他のことを考えていない表情だった。
「……君の婚約者は知っているのかい?」
私の言葉に、彼女はうなだれるようにうなずいた。聞かなくてもよいことだった。
「バスケ部くんと結婚するの……バスケ部くんも男くんのこと気にしてて……」
やはり聞くべきではなかった。面倒臭い話は覗き見で辟易していた。
「心当たりはないことこもないかな。連絡先を教えてくれないか」
- 42 :
- 私の初めての失踪人探しは、呆れるほど簡単に終了した。
男は、昔私たちがたまり場にしていた古びた小さい喫茶店の窓際の席で
ぼんやりと外を眺めていた。
「よお探偵。元気か?久しぶりだな」
男はどこか投げやりな、焦点のあっていないような目で私を見て言った。
「男が彼女のことが好きだったのは、彼女以外は皆知っていたのにな」
私は単刀直入に言って、男の向かいの席に腰を下ろした。
私たちが入り浸っていた頃から変わらない、旧い革張りの椅子だった。
「皆、ここのこと、忘れちまったのかなあ」
男はテーブルに肘を立てた掌にあごをのせ、窓の外に目を向けながら、
反対の手でコーヒーカップを持ち上げ、口元に運んだ。
「相変わらずミルクは入れないのか。胃に悪いぞ」
私は言った。あのころより少し年輪を重ねたマスターが、
あのころと変わらない穏やかさで一番安いブレンドコーヒーの
カップとソーサーを私の前に置いて行った。
「おれだけじゃない」男がぽつりと言った「お前もだったろう」
私は男の横顔を見た。どこか清々しい貌だった。
「そうだな」私は言った「ぼくもそうだった。皆、彼女が好きだった」
男に釣られるように窓の外を見た。
5,6人の男女混合学生グループが、オーバーアクションで笑いながら道を歩いていた。
- 43 :
- 「これからどうするんだ」
別れ際、私は男に聞いた。
「どうもしない。彼女には幸せになってほしいと思ってる。
但し、おれの知らない、おれにはわからないところで」
男は口元だけで少し笑って応えた。
「そうだな」また私は言っていた「それでいいんだろうな」
なんとなく空を見上げた。まだ冬の装いを残した、澄んだ空だった。
私は男の写メを撮って彼女に送った。
彼女からは、それなりの料金が振り込まれた。
その後の、彼女とバスケ部ヤローと男の消息は気にもならない。
多分、三人とも幸せに暮らしているのだろう。
私の知らない、私にはわからないところで。
皆、それで良いのだと、私は思っている。
- 44 :
- 『ずっと君が好きだった』男はそう言って、彼女の前から消えたのだという。
彼女は、ずっと男友達の一人だと思っていた。そう言った。
その後、男は携帯電話の番号も、メールアドレスも変え、引越し先もわからない。
「男くんの気持ちも気づかないで、あたし浮かれて話して……」
依頼人用のちょっと値の張ったオフィスチェアに座った彼女は、揃えた膝の上で、
私にはわからないブランドもののハンドバッグに目を落とし、独り言のようにつぶやいた。
彼女の左手薬指で婚約指輪が、春の陽光にきらりと光って見えた。
「ぼくはしがない個人経営の探偵だよ。むしろ覗き屋と言ったほうが正しい。
人探しなんて柄じゃない。どうしてぼくを?」
私はなんとなし、彼女のバッグを、指輪を眺めて尋ねた。
「探偵くんは男くんと友達だったでしょう?きっとなにか分かると思って」
彼女は顔を上げて私の目に向かって言った。それしか考えていない表情だった。
「……君の婚約者は知っているのかい?」
私の言葉に、彼女はうなだれるようにうなずいた。聞かなくてもよいことだった。
「バスケ部くんと結婚するの……バスケ部くんも男くんのこと気にしてて……」
やはり聞くべきではなかった。面倒臭い話は覗き見で辟易していた。
「心当たりはないことこもないかな。連絡先を教えてくれないか」
- 45 :
- 私の初めての失踪人探しは、2時間もたたないうちに、呆れるほど簡単に終了した。
男は、昔私たちがたまり場にしていた古びた小さな喫茶店の窓際の席で
ぼんやりと外を眺めていた。
「よお探偵。元気か?久しぶりだな」
男は私の方すら見ずに言った。
「男が彼女のことが好きだったのは、彼女以外は皆知っていたのにな」
私は単刀直入に言って、男の向かいの席に腰を下ろした。
私たちが入り浸っていた頃から変わらない、旧い革張りの椅子だった。
「皆、ここのこと、忘れちまったかなあ」
男はテーブルに頬杖をついて、窓の外に目を向けながら、
反対の手でコーヒーカップを持ち上げ、口元に運んだ。
「相変わらずミルクは入れないのか。胃に悪いぞ」
私は言った。あのころより少し年輪を重ねたマスターが、
あのころと変わらない穏やかさで一番安いブレンドコーヒーの
カップとソーサーを私の前に置いて行った。
「おれだけじゃない」男がぽつりと言った「お前もだったろう」
私は男の横顔を見た。どこか清々しい貌だった。
「そうだな」私は言った「ぼくもそうだった。皆、彼女が好きだった」
男に釣られるように窓の外を見た。
陽を浴びた5,6人の男女混合学生グループが、オーバーアクションで笑いながら道を歩いていた。
- 46 :
- 「これからどうするんだ」
別れ際、喫茶店の前の狹い通りで、私は男に聞いた。
「どうもしない。彼女には幸せになってほしいと思ってる。
但し、おれの知らないところで、おれにはわからない幸せに」
男は口元だけで少し笑って応えた。
「そうだな」また私は言っていた「それでいいんだろうな」
なんとなく空を見上げた。まだ冬の装いを残した、つんと澄ました空だった。
私は男と写メを撮って彼女に送った。
肩を組み、最高の笑顔で中指を立てた力作だった。
彼女からは、それなりの料金が振り込まれた。
その後の、彼女とバスケ部と男の消息は気にもならない。
多分、三人とも幸せに暮らしているのだろう。
私の知らないところで、私にはわからない幸せで。
皆、それで良いのだと、私は思っている。
- 47 :
- 何を言ってるんだ
最後は43改ではないか
- 48 :11/04/18
- 「ぼくは個人経営のしがない探偵ですよ。覗き屋と言ったほうが正しい
ボディガードなんて柄じゃないんです。どうしてぼくを?」
「迷っていた僕の目の前に看板があったからさ」
依頼人の男は当たり前のように言った。
「どうしようかな〜、誰か助けてくんないかな〜と思っていたんだ」
男は、顔全体で笑って言った。微塵の迷いもなかった。
「元カノに呼び出されたんだよね」男は言った「もう結婚してるんだけど」
私は黙ってうなずいた。背中に春の陽を感じていた。
「ガキの頃にさあ、なんての?ノートの切れっ端とかに、日記だかエッセイだかわかんない
なんかそんなもん書いて交換してたんだよ。彼女とね。それ持って来いってさ」
男は両の掌を上に向けて言った。
「そんなモノはもうないと言うんですね?」
「あ、いやそれが……」男は超手の指を空中でもぞもぞさせた「まだ持ってた……」
私はもう一度頷いて、男の次の言葉を待った。
「……だぜ?しかも旦那は仲間内じゃ有名なヤンキーだったんだ。それがさ、
いまさら、なんでそんなもんもってこいとか、でどうする気なんだよって話でさ」
男は両手をくるくる回しながら言った。
「でも、君は行こうというんだね?」
「いや、行くけどさ、でもアレだぜ?ひょっとしてまたおれと……なんてのとは違うぜ?」
「そうであれば、ぼくの出番は無し。旦那がでてきたらどうにかしろと」
「あ、うん、いや、まあ、そんな感じなんだけど……」
男は頭を掻き、私から目をそらせてそう言った。顔はしょぼんでいたが、目は笑っていた。
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