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2011年10月1期創作発表週刊少年サンデーバトルロワイアル part3 TOP カテ一覧 スレ一覧 削除依頼

週刊少年サンデーバトルロワイアル part3


1 :11/06/25 〜 最終レス :11/11/28
当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。
また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/
まとめwiki
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/
前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1302007729/

2 :
参加者名簿
からくりサーカス 14/14 
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二
ARMS 11/11       
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ
金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
  
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)
うしおととら 7/7    
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり
烈火の炎 7/7      
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗
うえきの法則 7/7    
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩
SPRIGAN 6/6      
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ
GS美神極楽大作戦!! 6/6       
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス
YAIBA 5/5       
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛
計80名

3 :
【ルール】
バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません
経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1〜3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後
『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない
【制限について】
基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます
金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
                       また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
                       なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。
うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。

4 :
スレ立て完了。
前スレで忘れてた『週刊』を忘れずに。

5 :
>>1乙です

6 :
前スレ埋まったんで、続きはこちらに。

7 :
    

8 :

 ◇ ◇ ◇
 ジョージが存在を否定した魔物――蛍の化身たるルシオラもまた、花火を視界に捉えていた。
 彼女の当面の目的は、他の参加者を害して支給品を奪うこと。
 花火が打ち上げられたのならば、その真下に参加者がいるのは明白である。
 にもかかわらず、彼女は花火の元へと向かおうとしなかった。
 花火を美しいと思う感性の持ち主ならば、ちょっとくらい後に回してやろうと考えたのだ。
 輝けるのはほんの一瞬だけで、すぐに散り散りになって闇に溶けてしまう。
 そんな花火に、彼女が好きな夕陽を重ねてしまったのだ。
 少しの時間しか見られない昼と夜の微かな隙間は、彼女にとってとても魅力的だった。
 本当に短い時間しか存在しえないから美しい、と。
 そう、ルシオラは考えていた。
 あるいは、思いたかったのだろうか。
 一年という短い寿命しか持たない彼女は――
(ああ、アシュ様どこにいらっしゃるのですか)
 流れる川の上を飛びながら、ルシオラはこの会場のどこかにいるはずの主に思いを馳せた。
【C−2 上空/一日目 黎明】
【ルシオラ】
[時間軸]:横島と夕日を見る以前。
[状態]:負傷と疲労(自力で回復中)。
[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則
[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者をし支給品を奪う。花火が打ち上がった付近は後回し。

9 :

 ◇ ◇ ◇
 ルシオラが捜索しているアシュタロスは、花火が打ち上げられた地点へと進んでいた。
 彼にとってし合いなどどうでもいいものの、目的のためには全参加者を害せねばならない。
 だからこそ、参加者が集うであろう場所を目指すことにしたのだ。
 魔力を足元に集中させ、川の水面をさながら地面のように踏み締める。
 その気になれば瞬く間に目的地へと辿り着くだろうが、アシュタロスはあえてそれをしない。
 どちらにせよ、彼に敵う者などいない。
 神族とて、魔族とて、人間とて、アシュタロスクラスの魔神を滅ぼすなど不可能だ。
 また勝たねばならない。邪悪であれねばならない。踏み躙らねばならない。
 空を見上げると、いつもと変わらない月が浮かんでいた。しばらくすれば沈み、太陽が顔を出すだろう。
 アシュタロスは、もはやそれらと変わらないのだ。
 決まった周期で同じ動きしかしない。いや、できない。
 ゆえに、足取りが重くなる。
 川を渡り切ったアシュタロスは、さながらただの人間であるかのようなペースで進み続ける。
(どうせなら、強者と巡り合いたいものだ)
 最上級魔族である自分をせる存在など、この世には存在しないのだが。
 胸中で付け加えて、アシュタロスは自嘲気味に笑った。
【C−3 中心部路上/一日目 黎明】
【アシュタロス】
[時間軸]:横島がエネルギー結晶体を破壊する直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3
[基本方針]:優勝し、ブラックもす。滅びたい。ひとまず花火のほうへと向かう。

10 :
    

11 :

12 :
   

13 :

 ◇ ◇ ◇
 アシュタロスが空を見上げたころ、氣法師・朧も同じように空を眺めていた。
 天体から現在地を推測しようとしたのだが、いまいち掴み切れずに終わる。
 この地に転送されて以来、朧は感覚が僅かに乱れているように感じていた。
 どうにも奇妙な違和感があるのだ。
 妖気に似たなにかが立ち込めており、人の気配を感じ取りづらくなっている。
 そのため場所を特定しようとしたものの、世界の妖気の溜まり場とは合致しない。
 大地に流れる気が一際強い場所なのだろうかとも考えたが、そんなところは龍脈地図でもなければ特定できまい。
 やれやれと呟いて、朧は肩をすくめた。
 水晶髑髏が関わっている以上、どんなオーパーツが出てきてもおかしくはないのだ。
 視線を空から戻して、再び足を踏み出す。
 花火が打ち上げられたのは確認していたが、来た道を戻ることになるので向かわない。
 感覚の異変が結界によるものなのかを確認するべく、朧は会場の端を目指しているのだ。
 それに、参加者同士の戦いで死んでいるようなら、キース・ブラックには到底勝ち目はない。
(どうせなら、強者と巡り合いたいものですね)
 まだ見ぬ参加者を求め、黒衣の氣法師は夕闇に溶け込んだ。
 かくして――
 世界最高の氣法師と称されるまで登り詰め人間の枠を超越した仙人を目指す朧と、最上級魔族として生誕しながらも種族の枠を超えることを諦めて滅びを望むアシュタロス。
 各種族の最高峰であるものの、種族に対する考えが全く異なり目指す場所もまた異なる。
 そんな彼らは――もしなければ、当然ながら闘いもせず、お互いを知り合うことさえもなかった。
 さながら両者の目的の違いを表すかのように、まったく別の方向へと進んでいく。
 少なくとも現時点においては、人間と魔族の最強同士の歯車は噛み合わなかった。
【C−4 西部路上/一日目 黎明】
【朧】
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:し合いに乗る気はない。

14 :

15 :
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
期限間に合わず申し訳ない。
そして50話到達ッ!

16 :
   

17 :
投下乙です
それぞれの理由で花火の方へ行ったり行かなかったりしてみんならしい展開だわ
卑怯番長と紅煉の会話は最初は笑えたが不安がぬぐえないな。邪魔な相手か…
金剛番長と隼人は式神をあっさりボコったけどフェイスレスは興味津々だw
そしてジョージさんは花火の方へは行けず
アシュ様とルシオラはご対面ならずで最強の人間と魔族の対決もならずか
波乱は次回に持ち越しだがみんなの行動が運命を分けたって感じで面白いなw

18 :
投下乙です
対主催組のジョージは足止め、金剛番長と隼人は花火事態知らない、卑怯番長は君子危うきに近寄らず
なのに向かってくるアシュ様
烈火ピーンチ!

19 :
投下乙!
シーンの繋ぎ方が面白いね。シーンが飛ぶのに違和感なくスラスラ読めた。
有力な対主催はみんな花火スルーで、最強マーダーの一角だけ向かうとかw
ジョージとカルナギは楽しみな戦いだ。どちらもかまs(ry
もう収拾つかなくなるほどの乱戦になるかと思ったけど、上手く捌いたね。さすがw

20 :
大人数を捌き切ったいい繋ぎだわ
卑怯番長と紅煉はブラックなうしとらコンビみたいでいいね。見た目がブラックってだけじゃなくてw
金剛番長と隼人のやり取りも、金剛一喝する隼人や高槻と日本番長重ねたりらしい。金剛が禁止エリアとか知れてホッとしたw
別れちゃったけど主人公タッグにも燃え。式神に話しかける金剛w
フェイスレスがただのマーダーじゃないのも書かれててよかった。夢を追うのがフェイスレスだよなwたち悪いけどw
ジョージは離れたけどカルナギ足止めしてるし、烈火的にはプラマイ0かな。こいつらのバトルも楽しみ!
ルシオラは出番少なかったけど、花火と夕日(と自分)を重ねたのには納得です
そしてアシュ様来ちゃった!wなのに朧来ない!wジンクス的にはありがたいけど!w

21 :
ん?一行目消えてる
投下乙

22 :
代理投下します。

23 :
 東の地平から現れたのは、世界を白く染める朝の光。
 夜の闇は西の彼方へと追いやられ、かき消されてゆく。
 だが、この町中にドロリと充満する絶望は、朝日に照らされても絶えることはない。
 不穏な色が渦巻く空を民家の窓から眺めながら、加藤鳴海は深く溜め息をついた。
 なんだか、ずいぶん久しぶりに太陽に会ったような気がする。
「…………」
 左腕が僅かに軋んだ。
 五指をおもむろに開き、そして握り締めて、鳴海は目を細める。
 長い間、彼は真夜中で戦っていた。
 このし合いに参加させられるよりも前から。
 天幕の下で、機械仕掛けの道化たちとずっと戦い続けていた。
 それは、時計の針で測るなら一夜にも満たない出来事。
 けれど、彼の中では千夜に渡る闘争だ。
 命を賭けて、仲間を失ってまで、彼としろがねたちは悪夢に立ち向かい続けた。
 だが、久遠に続くかに思われたその戦争の結末を、彼は知らない。
 戦いの最中で彼の意識は闇に落ち、次に目覚めたとき、そこはキース。ブラックが演説の聴衆席であったのだ。
 しろがねと人形のどちらが勝利したのかも、仲間の誰が生き残ったのかも分からずじまい。
 さらには我が身に起こっている事態も把握できぬまま、先の騒動に巻き込まれた。
「…………」
 先ほどの、騒動……。
 思い出してしまった鳴海は、ソファーで眠る少年を横目で見る。
 少年は毛布のみを身に着けて、静かな寝息をたてている。
 これが数刻前の巨獣の正体であるなど、にわかには信じがたいことだ。
 化物がこの少年の姿に変化する瞬間を実際に目にしていたのにもかかわらず、である。。
(こいつが目覚めてみないと、わからねえことだ)
 彼が何者なのか。
 まだ暴れるつもりなのか。
 キース・ブラックとはどういった関係なのか。
 そういった疑問のすべては、少年自身から聞き出すほかない。
 考えることは得意じゃねえんだ、などと呟きながら、彼は思い出したようにリュックの口を開いた。
 女性の腰回りくらいの太さはあろう腕を突っ込み、中から一枚の紙切れを引っ張り出す。
 このし合いが始まったときにも、彼はこの参加者名簿をチェックしようとしていた。
 だが、高槻涼が暴走したせいで、それも中途半端なままでほったらかしてしまっている。
 見間違いでなければ、仲間のしろがねの名前が記載されていたはずだったのだが……。
 その名がまぼろしでないことを確認し、鳴海は安心と怒りをこね回したような表情で笑った。
 やはり、見知った名前が幾つかあったのだ。
 まずは、ギイ、ルシール、ジョージ、そしてフェイスレスの四名。
 いずれも彼とともに戦っていたしろがねたちだ。
 死んでしまったと思われていた二人の男の名前も記載されているではないか。
 その事実がなんとも嬉しくて、鳴海は「バカヤロウ」と小さくこぼした。
 彼らならば心配は要らない。
 しろがね・Oのジョージだけは信用ならないが、残りの三人はいずれも技術と経験を多分に有するつわものたちだ。
 下手を打つことも、し合いに乗ることもあり得ないといっていい。
 しろがねたちとは逆に、鳴海の顔から明るさを奪う名も四つ。
 パウルマン、アンゼルムス、ドットーレ、コロンビーヌ。
 世界中に最悪を運ぶ、自動人形たちだ。
 最初の二体に関してはそれほど問題ではない。
 今の鳴海ならば、一撃のもとに葬り去ることができる。
 とはいえ、やつらとて腐ってもオートマータだ。
 一般人からすれば十分な脅威となるはず。。
 できることなら、早めに破壊しておきたいところ。

24 :

 しかし、それ以上に厄介なのが……残りの二体だ。
 鳴海の顔に刻まれた皺たちが、その恐ろしさを物語っている。
『最古の四人』が一角、ドットーレとコロンビーヌ。
 このものたちの実力は、数多の自動人形の中でも桁違いだ。
 万全の状態で戦ったとしても勝率は低い。
 これらに対抗するためにも、一刻も早く仲間たちと合流する必要がある。
(それに、ヤバイのは自動人形だけじゃねえ)
 名簿を雑に畳み、少年に視線を移した。
 蛍光灯の灯りの下で寝息を立てる彼を見ながら、鳴海はその胸に不安を募らせる。
 もしかしたら、目覚めた彼は再び怪物と化して戮に興じるのではないか。
 そうなったとして、鳴海ひとりで止めることは難しいだろう。
 彼が目覚めるまでは見守ると決めたものの、やはり心配だというのが本当のところだ。
 暴走した彼に鳴海が敗れてしまえば、今度こそ大勢の人が犠牲になってしまう。
「…………ッ!」
 いつかの病院で見た地獄を思い出す。
 あの凄惨な光景が繰り返されるかもしれないのだ。
 口に広がる生唾に、僅かながら鉄の味がする気がした。
 だが、鳴海はそれをグッと飲み込むと、朝の空に向き直る。
 それ以上、悪い方向へ考えるのはやめにしようと。
 彼は高槻を信じようと決めたはずだ。
 それが御神苗優から少年を託された彼の役目。
 それに、左腕を失った少年の姿に、昔の自分を重ねているのかもしれない。
 あの頃の鳴海は、何もなかった。
 彼に生きる意味をくれたのは、ギイでありルシールであり、そして白銀だ。
 少年に止血などの応急処置を行いながら、彼は「ギイたちもこんな気分だったのだろうか」と感じていた。
「そういや……」
 窓から吹き込む風の冷たさを受けて、今さらながらに気づく。
 少年は服を着ていないのだ。
 魔獣へと変化したときに、破れてしまったのだろう。
 首輪が残っているのが不思議だったが、そこは未知のテクノロジーでも働いているのかもしれない。
 とにかく、今は考えるよりも先に彼が目覚めたときのために服を探してやらなくては。
「この家にありゃあいいんだが」
 めんどくさそうにあくびをしながら、鳴海はリビングの扉を開けて二階へと向かう。
 彼の鍛え上げられた巨体に、木製の階段はギシリ、ギシリとうめき声をあげ続けた。
「ここは……」
 寝室らしき場所で、スーツ一式を発見した鳴海。
 それを抱えて一階へ向かう最中、彼は別の部屋の前で立ち止まった。
 特に用があるわけではなかったが、なぜだか惹かれてしまったのだ。
「子供の部屋か……」
 扉を開けて電気をつけると、様々な玩具や漫画が目に付いた。
 どうやら、この家に住んでいた一家はそこそこ裕福な環境にあったらしい。
 すべての子供がこうならな、と鳴海の顔が少しだけ曇る。
 しかし、彼がナーバスになったのも一瞬だけのこと。
 血が通っている方の手で頬を張って気を取り直した鳴海は、近くにあった本棚に手を伸ばす。
 適当に選んだ一冊を手に取り、その表紙をまじまじと眺めた。

25 :

(…………まだ、あいつは起きそうにないしな)
 なんだか面白そうに思えたので、勉強机に座ってその漫画を読むことにした。
 こうして少年漫画を読むのは何年ぶりだろうか。
 少なくとも、記憶を失ってからは初めてのことだ。
 ぎこちない手つきでパラパラとページをめくっていく。
 不思議な話だった。
 主人公は、金髪の少年。
 物語は、彼のもとに妙な被り物をした女がやってくるところから始まる。
 その女に頼まれるがままに、主人公はおとぎ話の登場人物たちとの戦いに身を投じるのだった……。
 どうにも素っ頓狂なストーリーではあるが、なかなかどうして、面白い。
 初めこそ戸惑った鳴海だったが、読んでいるうちにグイグイと話に引き込まれてゆく。
 漫画というものに慣れていなかった彼でも、あっという間に一巻を読み終えてしまうほどだ。
 その勢いで続きを読もうとしたが、この家には二巻以降は置いていないようである。
 残念そうに眉をしかめると、本棚にその本を戻した。
 ついでに、背表紙に記述されたその漫画のタイトルと作者も確認しておく。
「富士鷹、ジュビロ……変な名前だな……」
 ペンネームだろうか。
 それにしたって、おかしな名前である。
 インパクトはあるのだろうが……。
 とりあえず、その名とタイトルを頭の片隅に保管して、鳴海は部屋を出ようと立ち上がった。
「…………?」
 ふと。
 部屋に散らばるオモチャのひとつ、カラフルなロボットと目が合った。
 地球を救うために悪の組織と戦うとか、そういった類のものであろう。
 いかにも少年が好みそうな造詣をしている。
 それが、彼に問う。
 お前は俺たちと同じなのか。
 鳴海は、ありもしない歯車が軋むのを感じた。
 しろがねとは、操り人形だ。
 ある錬金術師の意のままに、自動人形を破壊する集団のはず。
 世界の平和のために戦っているわけではない。
 だけど、鳴海は違う。
 彼を突き動かすのは憎しみでもなければ、白銀の遺志でもない。
 もちろん、忠誠心のはずもない。
 脳裏によみがえるのは、子供たちの笑い声。
 戦いの最中で命を落としたドミートリィの、リイナの顔。
 最古の四人から彼を護ろうとした、しろがねたちの背中。
 ミンシアの拳。
 それに……御神苗優。
 すべてはまるで鎖のように繋がりあって、彼の心臓に絶えず力を送り続ける。
 今は、それが加藤鳴海の背中を押すもの。

26 :

 ならば、彼はあのロボットと同じなのか。
 しばらく俯いた後、彼は白い歯をむき出しにして笑う。
 にっこりと。
「俺は、俺になるんだよ……」
 背中でおもちゃに返事をすると、部屋の電気を切る。
 閉まっていく扉の向こうで、何者かの笑い声が聞こえたような気がした。
「お前は、何になりたいんだ?」
 一段一段、階段のうめき声を聞きながら下りてゆく。
 彼が問い返した相手は、正義のロボットか。
 それとも……。
【F-4 民家 一日目 早朝】
【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:気絶中、疲労大、全身にダメージ大(ARMSによる修復中)、左二の腕から先を喪失(止血済)
[装備]:毛布、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)
[道具]:なし
[基本方針]:――――――――――――――――――――
※左腕喪失はARMSしによるものなので、修復できません。
【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済み)、高槻涼のリュックサック(基本支給品一式、支給品1〜3)、スーツ一式@現地調達
[基本方針]:仲間と合流し、し合いを止める。戦えない人々は守る。

27 :
126 名前: ◆d4asqdtPw2[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 03:02:33 ID:???
以上で投下終了です。
誤字や矛盾点などあれば、遠慮なく。
本スレ規制されているので、どなたか代理投下お願いします。

28 :
代理投下終了です。
以下、感想。
投下乙っす。
涼は起きなかったか。どうなるやらだ。
鳴海いいなー。いちいち加藤鳴海だなぁ、こいつは。
名簿を改めて確認して自動人形を倒さねばと思いつつ、動けないのがつらいな
ジョージの評価低さはしょうがないのに笑ってしまうw
富士鷹センセイ出張お疲れ様です!

29 :
あと指摘です
>>23
>キース。ブラック
>かかわらず、である。。
はタイプミスですよね?

30 :
投下乙!
鳴海兄ちゃん、いちいち格好良いぜ
優が首輪やメモとかの考察を託したのが紅麗なら、思いを託したのは鳴海と涼か
人から人へ繋がってくのがからくりらしいね

31 :
投下乙です
ホント、渋くて格好いいんだよなぁ
いやあ、確かにからくりらしいけどそれを作品にするのはどれだけ大変か…

32 :
投下します。

33 :
 ◇ ◇ ◇
 This wonderland is not dream .
 ◇ ◇ ◇
 眼前に広がる光景に、高嶺清麿は言葉を失う。
 『自動人形(オートマータ)』と名乗った襲撃者を追う気力は完全に抜け落ち、弱々しくへたり込んでしまう。
 清麿が到着したころには、何もかもが遅かった。
 ともにし合いを否定していた宗谷ヒデヨシは、変わり果てた姿となっていた。
 全身を部位ごとに解体されて――死体と化して、転がっている。
「……う、ぇ…………」
 立ち上がろうとした清麿だったが、口元を抑えて力なくくずおれる。
 ヒデヨシの両瞳と目が合ってしまったのだ。
 言葉など発するはずのない口元が動いたように、清麿は見えた。
 お前の指示に従ったばっかりに――と。
 聞こえるはずのない抗議が、鼓膜でなく脳内を震わせた。
 反射的に視線を逸らすと、そちらには腹部が置かれている。
 やけに綺麗な切断面からは、ピンク色のホースが零れ落ちていた。
 幼いころに図鑑で見たのと変わらない外見であったそれからも、清麿は顔を背ける。
 なにも見えてしまわぬよう目蓋を薄くしか開けず、壁に体重をかけて起き上がり階段へと向かう。
 そのまま逃げ出すように、階段を下りて二階の職員室に入り込んだ。
 乱れきった呼吸と動悸を整えようと、最もドア近くにあった教員用イスに腰掛ける。
 生徒用の木製イスと異なる柔らかい素材が使われおり、清麿はこのまま身体を預けっぱなしにしていたいと思った。
 し合いを甘く考えていたワケではなかった。
 掌で両目を隠して視界を暗くしながら、清麿は再確認する。
 最初の説明の時点で、すでに二人が死んでいるのだ。
 誰も死なずに済むだとか、まさか自分の仲間が死ぬはずがないだとか、そんな生温い考えなど持っていなかったつもりだ。
 魔物の王を決める戦いにおいても、仲間は数えきれないほど倒れた。
 それでも仲間の思いを抱えながら突き進み、彼と親友は勝ち残ったのだ。
 にもかかわらず、現在――
 たった一人死んだだけで、清麿は動けなくなった。
 し合いを一刻も早く止めると決めたはずなのに、足を止めてしまっている。
 やはり、状況をいささか楽観視しいたのかもしれない。
 そう清麿が分析し直したのは、ようやく呼吸と心拍数が落ち着いてからだ。
 自分は修羅場を潜り抜けているという認識が、清麿のなかにはあった。
 魔物の王を決める戦いは、何より大切な親友との思い出であり忘れてはならない記憶だ。
 だからこそ、あの戦いは過酷なものでなくてならなかった。
 親友と二人で乗り越えたからこそ、高い壁であるべきだったのだ。
 だが、実際は違う。
 たしかに困難な道のりだったが、最も困難などと考えてはいけなかった。
 いま目の前にある壁をナメてかかっていては、乗り越えることなどできない。
 そんなこと、あの戦いで知ったはずなのに。
 親友と自分の二人ならばなんとかなるなどと、どこかで考えてしまっていた。
 名簿に親友の名を発見して、舞い上がっていたのかもしれない。
 理由はともあれ、驕りが招いたのが宗谷ヒデヨシの死だ。
 あのような無惨な死体は、魔物の王を決める戦いでさえ見たことがない。
 人の死をもって、やっとかつてない障害が立ち上がっているのだと気付いた。
 認識の過ちに気付く代償に、高嶺清麿はこの地でできた仲間を永遠に失った。

34 :

「……すまない、ヒデヨシ」
 謝罪をしたところで、返事が来ることはない。
 分かっていながら、清麿は頭を下げた。
 恨まれても仕方ないと思いつつも、まだ死ぬワケにはいかない。
 やるべきことは残っている。
 この地にいる他の参加者を、そして親友を生き延びさせなくてはならない。
 償うのは、その後だ。
 それさえ終えればなんだってするからと、清麿は胸中でヒデヨシに告げる。
 依然として、返事はなかった。
 しばし間を置いたのち、清麿は机の上にあるデスクトップ型パソコンの電源を入れた。
 自動人形とやらが去ってから時間が経ちすぎている。
 向かった方向も分からない以上、もはや追うことは不可能だ。
 どこにいるとも知れない者を追うより、試しておきたいことがあった。
 パソコンが立ち上がり次第、清麿はインターネットブラウザを起動させる。
 スタートページを確認もせずに、警視庁のホームページアドレスを打ち込む。
 このし合いは、八十人も巻き込んだ大規模な事件なのだ。
 間違いなく警察は動くし、会場の外には他にも頼りになる人間がいる。
 ゆえに連絡を取ろうと清麿は考えたのだが、警視庁のホームページが開かれることはなかった。
 ならばと清麿は記憶を辿り、覚えている様々なアドレスを入力する。
 しかし、どのサイトも開くことはできない。
 そう簡単に助けは呼べないようにされていると勘付き、清麿は天井を見上げた。
 予想こそしていたものの、実際に不可能だと分かれば徒労感に襲われるものだ。
 とはいえ、落ち込んでばかりもいられない。
 いち早く、し合いを止めねばならないのだ。
 何より、ヒデヨシのような被害者を出すワケにはいかない。
 大きく伸びをして、清麿は首を下ろした。
 インターネットは制御されているが、別にパソコンはインターネット専用の箱ではない。
 何かしら、キース・ブラックの考えが分かるようなデータが隠されている可能性だってある。
 そこで清麿はインターネットブラウザを閉じようとして、ふと思うことがありブラウザ上部のブックマークタブをクリックした。
 一応確認しておこう程度の考えだったのだが、そこには一つのホームページが保管されている。
 ダメ元でクリックして見ると、予想に反してあっさりと『Chat with ALICE』という名のホームページに繋がった。
「…………バカにしやがって」
 ディスプレイに表示されたファンシーなサイトに、清麿は顔をしかめる。
 チャット・ウィズ・アリスとはなんのこともない、ただの幼児教育用のチャットページであった。
 画面中央部にいる青と白を基調にしたドレスを纏った少女とチャットで会話させて、幼児に言語を学ばせるためのものだ。
 これは、参加者を子ども扱いしているという意識の表れだろうか。
 推測して、清麿は胸糞悪いものを感じた。
『あなたは誰!? あなたは誰!?』
 しつこく問いただしてくる少女に苛立ちながら、清麿は自分の名前を入力する。
 下らない答えしか返ってこなければ、ブラウザを閉じるつもりだ。
 エンターキーを押すと、少女が笑みを浮かべる。
 そんな微笑ましい動作でさえ、いまの清麿には腹立たしいものだった。
 いっそ返事を待たずに閉じてしまおうとしたところで、少女の横に浮かぶ吹き出しに文字が表示された。
『ああ……【アンサートーカー】の少年ね』
「なっ!?」
 予期していなかった答えに、清麿は意図せず立ち上がる。
 アンサートーカーの能力について知っているのは、極少数の人間だけだ。
 にもかかわらず、なぜ――
 疑問が清麿の脳内を埋め尽くしていくが、答えは出ない。
 先ほどまで座っていたイスが床に触れる音が、やけに遠くで響いたように清麿は感じた。

35 :

『あなたには期待しているわ。
 【答えを出す】ことができるのでしょう?
 私が長い間迷い続けている疑問さえ、的確な答えを見つけ出せるのかしら?』
 困惑する清麿の前で、吹き出しの文字が変化する。
 立ったままの状態で前かがみになって、清麿はキーボードに手を伸ばす。
『そのアンサートーカーを封じているのは、お前たちじゃないのか』
 清麿の表情から、焦りの色は消えていた。
 このし合いに呼び出された時点で、アンサートーカーの能力は使えなくなっている。
 アンサートーカーを持たずとも、キース・ブラックにより何かしらされてしまったからだと分かる。
 そして封じたのだから、もちろん知られていたということである。
 知っていたのであれば、人工知能と思しき少女に高嶺清麿がチャットに訪れた際に取るべき反応を入力しておけばよいだけだ。
 プログラム参加者は八十人だ。
 いくらAIプログラムとて、たかだか八十通りの対応くらいはできて当たり前である。
『おかしなことを言うのね、【アンサートーカー】の少年』
 清麿の考えを見透かしているかのように、少女は口元を緩めた。
『瞬時に浮かぶ答えにだけ頼っているのかしら?
 いいえ、そうじゃないわ。あなたと【ガッシュ・ベル】は、そうではなかったはずだもの』
 返信が送信されるのを待たず、さらに少女は続ける。
『私の知る【アンサートーカー】は、封じられた程度で諦めなかったはずよ。
 たとえ答えが出なくとも、足掻くのをやめずに【答えを出す】。それが【アンサートーカー】でしょう?』
 絶句しつつも、清麿はAキーを二度押してエンターキーを押す。
 少女は笑顔を浮かべたまま、指を絡めて両手を組むと胸元に持っていく。
『答えを出すのを諦めてもらっては困るわ。
 いくら【似顔絵】の少年がされたといってもね……』
 さながら歌うように紡がれた言葉に、清麿は目を見開く。
 『似顔絵の少年』が指すのが宗谷ヒデヨシであることは間違いない。
 ここにきて、清麿は少女に対する認識を改める。
 少女がただのAIプログラムであるとは、とても思えなくなったのだ。
 参加者の情報をインプットするくらいならば分かるが、所持している情報が詳細すぎる。
 魔物の王を決める戦いの詳細を知っているかのような口ぶりだ。
 さらに、ヒデヨシの死を知っているということは、リアルタイムでし合いの進行を確認していることになる。
 八十もの参加者を同時に観測するなど、人間業どころかパソコン業ですらない。
 背後に膨大なデータベースと、恐ろしく高度な演算能力を持つメインフレームがなければ――
 そして何より、それを操作する人間がいるとしか思えない。
 まさか機械がこれほど正しく言語を使いこなすはずがない。
 さらに言えば、選択可能言語が三十以上もある。
 それらすべてを文語体口語体ともに理解可能なAIなど、少なくとも清麿の常識ではありえない。
『お前は何者だ』
 どう対処するべきか迷いに迷って、清麿は結局この六文字を送信する。
 少女は組んでいた手を解いて、大きく広げた。

36 :

『不思議な質問ね。
 私が誰かなんて、もう書いてあるのに。私の名前は…………』
 半ばまで閉じられた目蓋の下で、少女の瞳が清麿を見据える。
『【 A L I C E 】』
 息を呑む清麿の前で、画面が切り替わる。
 同じ回線で一度にチャット・ウィズ・アリスに繋げられる時間は限られており、再度繋ぐには三時間ほど時間を空ける必要がある。
 そのような説明文が、ディスプレイに表示されていた。
 しばし硬直してから思い出したように倒れたイスを戻して、清麿は深く腰を下ろす。
 正直なところ、いまいち事態が呑み込めていない。
 つまりアリスとは何者なのかが、まったく分からない。
 ただいずれアリスとまた話をしたいという、そんな思いが生まれていた。
 いったんディスプレイから視線を外して、清麿は目頭を揉む。
 瞬きをほとんどせずに光る画面を眺めていたせいで、若干目が疲れている。
 一しきり目頭を揉みほぐしたのち、改めて周囲を眺めると卓上に奇妙なものがあった。
 鮮やかな『青色の薔薇』が、花瓶に挿してあるのだ。
 ごく自然に、あって当然だという雰囲気を放っているが、この世界に青い薔薇など存在しない。
 奇妙に思いつつも、清麿は儚げに咲く花に目を奪われていた。
【B−2 小学校職員室/一日目 早朝】
【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。ひとまずPCを調べる。

37 :
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。

38 :
投下乙です
清麿はヒデヨシの死を知ってショックだがそれでも先に進もうとしてたらアリスキター
さて、しばらくはPCを弄るだろうが……他の施設と繋がってるのだろうか?

39 :
投下乙!
清磨はきっついな
確かに自分とガッシュがいるから大丈夫という慢心に近いものはあったのかもね
そしてアリスきたーーー!!
あれ? でも既に死んだ武士の中にもアリスがいたっけ?
むむ…これは気になるんだな

40 :
投下乙!
時間を越えて二人のアリスが──とか一瞬妄想してしまった
まあこのアリスはあのアリスだろうけど

41 :
予約来たぞ

42 :
投下致します。

43 :
 マシン番長は南へと戻らず、東に進んでいる。
 先刻、子猿番長と命名した少年の攻撃を受けて移動している際、道中に人影は発見できなかった。
 番長抹プログラムを最優先している以上、誰もいない場所に向かってもメリットはない。
 子猿番長がいた地点まで帰還したところで、悠長に待っている可能性は限りなく無いに等しい。
 その為にマシン番長は、人間が潜むのに最適と思われるマンションが立ち並ぶ東へと足を運んだ。
 マンションに辿り着くなり、いちいち階段を上ってマンション内を隈なく歩いて回る。
 レーダーにエラーが生じており、さらにどの程度の範囲ならば反応するのかは不明。
 そのような状況では、抹するべき番長を捜索するのにまどろっこしい方法を取るしかなかった。
 番長がいようといなかろうと全ての建造物を片っ端から破壊すれば、最終的に番長抹プログラムは成し遂げられる。
 しかしそんな無茶苦茶をするように、彼はプログラムされてはいない。
 邪魔をしない一般人には、極力接触しないのが望ましいとされているのだ。
「コノマンションニモ、生体反応ハ無イカ……」
 優に地上二十メートルはあるマンションの屋上から飛び降りても、マシン番長は涼しい顔を保つ。
 靴と接触した地面は窪んでしまったというのに、姿勢は垂直のまま背筋を伸ばしている。
 少し離れた場所にあるアパートに向かおうとして、マシン番長は硬直した。
 先程までなにも捉えなかったレーダーが、唐突に反応したのだ。
 何か感知すれば即座に出向くはずだったというのに、石像のように固まっている。
 理由は、感知した反応の種類にある。
 反応したのは“生体を察知する”レーダーではなく、“動く物を察知する”レーダー。
 つまり、察知したのは“生物ではない”。人間の様な形をしていたとしてもである。
 そして、マシン番長はある事実を知っている。
 “全国にいる番長中、サイボーグはマシン番長だけ”なのだ。
「トハイエ、スデニ番長ト会ッテイル可能性ハ低クナイ」
 たとえ番長でなかろうと、接触してマイナスにはならない。
 情報を得ることは出来るし、仮に邪魔をするのなら破壊する必要がある。
 取るべき行動を決定し、硬直していた肢体を駆動させる。
 明確な目標を定めて尚、マシン番長は表情を変えない。
 否、彼は元より、変える表情など持ち合わせてはいない。
     ○
 足音を捉えて舌なめずりしていたドットーレは、接近者を視認して目を見開く。
 ドットーレにとって、マシン番長の正体を見極めるのは容易い事だった。
 人間と大差ないボディの上に学生服を身に着けていたところで、正体は筒抜けだ。
「“人形”か……」
「ソウダ」
 自動人形の中には、彼らの求める解答を導き出す為に人間世界に溶け込んでいるタイプが存在する。
 ドットーレは、マシン番長をその類と認識した。
「ソノ帽子、血液ガ付着シテイルナ。オマエノ目的ハ何ダ」
 無遠慮な言葉使いに、ドットーレの眉が微かに動く。
 人間風情と過ごしている低級人形が、“最古の四人”である自分に話す口調とは思えなかった。
 頭に血が上り帽子に手を伸ばしかけたところで、ドットーレは自分を抑えた。
 最古の四人が、他の自動人形より上位に位置しているのは“長”直々に意思を与えられたからだ。
 その長であるフランシーヌ人形よりも、ドットーレは自分の憎しみを優先してしまった。
 そんな自分に、低級人形を見下す資格はない。
「返答ヲ求メテイル」
 後悔に顔を歪ませるドットーレに対し、マシン番長は無表情のまま問い質す。
「目的……、取るべき行動……、進むべき道などッ、決まっている」
 ドットーレは、絞り出すように。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
 喉が引き裂けるほどに声を張り上げて、宣言する。
 分かり切った答えだ。
 主の笑顔にするべく、二百年もの間“真夜中のサーカス”として世界を巡ったのだ。
 二百年もの間、身体を改造し続けてきたのだ。
 にもかかわらず、ドットーレには聞こえてしまっていた。
 人形破壊者の老婆の言葉が、リピートされ続けている。
 取るに足らぬはずの言葉が、木霊し続けている。
 思考の片隅に、“永遠の歯車奴隷”というワードが引っかかっている。
 だからこそ、ドットーレはつい声を荒げたのだ。
 そして、その事にさえも勘付いてしまっている。

44 :
「“笑顔”……。何故ダ?」
「何度も言わせるなッ! 主の笑顔こそが、我ら自動人形の存在意義!」
 ドットーレの声量はより一層大きくなる。
 下級人形は、フランシーヌ人形への忠誠心が低い。マシン番長がしつこく尋ねてくるのに違和感は無い。
 だというのに、ドットーレは苛立ってしまっている。
 彼もまたフランシーヌ人形への忠誠より、己の欲を重視してしまった下級人形。
 話しているうちにいずれ自分でそう納得してしまうのを、強く恐れていた。
「ソウカ……」
 マシン番長が考え込むように黙ったのに安堵し、ドットーレは切り出す。
 実際の焦燥を隠すような、落ち着いた口調で。
「ではな。自動人形同士で戦う理由も無い」
 重厚な物言いとは裏腹に、素早くマシン番長に背を向けて足早に遠ざかっていく。
「“笑顔ニスル為ダケニアル”カ……」
 己に向けられた言葉でないと理解していながら、マシン番長の呟きがドットーレの思考に残った。
     ○
 ドットーレが去って数刻の後、マシン番長は再び番長の捜索を再開する。
 傍目には何も変化していないが、彼のCPUに新たな目的がインプットされていた。
 とある、壮大なテーマが。
 単に、ドットーレの言葉を鵜呑みにしたのではない。
 マシン番長のメモリーには、予てより製作者の一人であるDr.月奈の柔らかな笑顔が刻み込まれていた。
 不可思議なことに、そのメモリーは他のメモリーより蘇る頻度が多い。
 そしてDr.月奈の笑顔が浮かぶ度、マシン番長のCPUは落ち着くのだ。
 理由は不明であったが、ドットーレとのやり取りにて理解した。
 番長抹プログラムと同じく、“存在意義”の一つであったのだ。
 もう一人の製作者Dr.鍵宮の笑顔は思い返しても何の効果も得られないが、番長抹プログラムを進めれば見ることができる。
 だがDr.月奈は、それでは笑顔を浮かべてくれない。
 彼女は、すでに“もう二度と戻ってこれない”のだから。
 ただ、彼女によく似た少女がいる。
 月美という名の彼女の笑顔は、Dr.月奈の笑顔と同じ効果があった。
 微笑む彼女のメモリーが蘇れば、CPUが落ち着きより冷静になれる。
 ならば、月美を笑顔にすることも自分の存在意義なのだと、マシン番長は考える。
「シカシ、方法ガ分カラナイ……。探シテイクシカ無イナ……」
 “人間を笑顔にする方法を見付ケル”。
 それが、マシン番長が新たに抱えたテーマ。
 番長抹プログラムと同時に進行するべき、大きなプログラム。
 全ての番長を害するという彼にとって容易な任務とは異なり、何もかもが手探りなニューミッション。
【B−2 住宅街/一日目 早朝】
【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。人を“笑顔”にする方法を知る。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!、AK-47@現実
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員して清磨に『笑顔』を届ける。

45 :
終了です。
マシン番長の台詞読みづらかったらすいません……。

46 :
投下乙
ドットーレは大分人間味が出てきたなー
自身を下級人形と呼んだ彼が、忠誠を取り戻すために叫ぶ 熱い、外道マーダーのはずなのにほんとうに暑い
マシン番長にも新しい目的がインプットされたか……これが今後にどう響くか
作られたもの同士の美味しい絡みでした!
自身の存在意義について悩むのはこういった存在の華ですからね
改めて投下おつです

47 :
投下乙です
そういえば笑顔とか二人とも共通点があったわ。微妙にすれ違う部分もあるが、これは上手いな
マシン番長も人間の笑顔を模索するみたいだが…
先が気になるな

48 :
投下乙です
なんだかスパロボみたいな良いクロスオーバーだね
やっぱ金剛番長とからくりの馴染み具合はパネエ

49 :
『不思議な質問ね。
 私が誰かなんて、もう書いてあるのに。私の名前は…………』
『【W I N D】』 カタカタッ
こんな電波を受信したw

50 :
突入してくるよりマシwww

51 :
>>50
だが落ち着いて考えて欲しい
アンサートーカーとリーマンが手を組んだ話
キースホワイトは今すぐ荷物を纏めて夜逃げする準備を始めるべき

52 :
リーマンw
いまの魔王ならそれでも……!

53 :
しかし◆hq氏は止まらないな

54 :
ここは良作が定期的に投下があるな。
◆hq氏には感服するな

55 :
ただ、参加者が固まり過ぎてると書き難いな
書き手を選ぶというか…
まぁ、混戦の後に減って分散してくれたら落ち着くけど

56 :
アシュ様だけじゃなく、卑怯番長もルシオラも朧も行っていたら……w
そんな大混乱も見たくはあるけど書けないw

57 :

58 :
投下します。

59 :
 ◇ ◇ ◇
 夜を転がしてるのは――――の声さ。
 ◇ ◇ ◇
「何度も言ってるだろ、兜。そっちには海しかねえってな。
 コイツが水上走行できる可能性に賭けるってんなら、まあ勝手にすりゃあいい。止めはしねえさ。どうぞ一人で行ってくれ」
 大げさに肩をすくめながら、暁巌は精悍な顔付きを笑みで崩す。
 彼が体重を預けているのは、白いワンボックスカー・ハイエースの後部座席である。
 路上に停車しているその車は、しばらくまっすぐ走らせれば海へと落下するだろう。
 いかに暁が、生きるか死ぬかの瀬戸際におけるスリルを愉しむ人種であろうと、さすがに車ごと落水する気はない。
 ましてや同行しているのは、この場で知り合った兜光一という男だ。男同士で心中など絵にもならない。
「……くそッ!」
 暁の言葉に耳も貸さず、兜光一は盛大に毒づく。
 ハンドルを握ったまま、視線は前方に向けられている。
「まったく。そんなに、『アレ』が気になったってのかよ」
 暁の言うアレとは、先ほど発見した飛行物体のことだ。
 当てもなくワンボックスカーを走らせている道中、南方を何者かが高速で東へと飛び去って行ったのだ。
 全長は、暁の推定で三〜五メートルほど。
 時折、青白い電撃を放っていたので目撃できた。
 それを確認した暁が何気なく疑問を口にした瞬間、運転手である兜が飛行物体を追いかけようとハンドルを回したのだ。
 無茶な方向転換で体勢を崩しながらもアクセルを踏もうとしたが、その前に暁がサイドブレーキを引いた。
「……武士だ」
「ああ?」
「アレは武士だったんだ! なんで植物状態だったアイツが動けるようになったのかは知らんが、間違いない!!」
「…………落ち着け。深呼吸だ。お前だけじゃなく、俺もするから」
 すー、はー。
 すー、はー。
 決して若くない男二人の呼吸音が、狭い車内に木霊する。
「で、なんだって?」
「だから、アレは武士だ! ARMSを発動させるなんて、もうなにかあったのか……ッ」
「……よし分かった。なにも分からないってことが、よく分かった」
 『たけし』と読む名を持つ参加者は、三人いる。
 そのなかで、兜光一の知り合いは『巴武士』だけだ。
 おそらくその巴武士のことを言っているのだろうとは推測できたが、そこから先が暁には予想できなかった。
「まるであの電撃を纏って飛んでったのが、巴武士みたいな言い方だな……」
「だから、そうなんだよ!」
「……なにぃ?」
 適正者の体内に埋め込まれたコアが、肉体と融合するナノマシン。
 ARMSについて、暁は兜からそのような軽い説明を受けていた。
 暁にとって未知の技術であったが、高槻涼と呼ばれた少年が右腕が異形に変形したのを目撃済みだ。
 だとすればそのようなこともあるだろうと、簡単に受け入れていた。
 いかなる絶望的な状況でも生還(リターニング)するのにもっとも大事なのは、受け入れることだ。
 たとえ想定外であろうと、管轄外であろうと、常識外であろうと――なにから外れていようと事態を冷静に飲み込む。
 それこそが、生を手放さない一番の方法だ。

60 :

61 :
 ならば『生還者(リターニングマン)』たる暁巌が、未知の技術の存在を認めぬはずがない。
 が、さすがに高速で空を飛行できるとまでは考えていなかった。
「ARMSってのは、そこまでイカレてるのか……?」
「全身ARMS化した武士は音速を超える。だが、なぜもうあの姿にッ」
 顔をしかめる兜とは対照的に、暁は口元を緩める。
「全身ナノマシン化……ねえ。はん、そこまで行ったらバケモンだぜ」
 言い終えるより早く、運転席の兜が後部座席に手を伸ばしていた。
 腰を捻った不自然な体勢で、暁の胸ぐらを掴む。
「アイツは……アイツらは! 知らないうちに、身体に得体知れねえもんを埋め込まれてたんだ!
 まだ酒も飲めねえガキだってのに、もっとガキなころにだ!
 でも! 金属みてぇな身体になりながらッ、エグリゴリに抗ってる! お前が言ったそんなもんに、絶対なっちまわないように!」
 兜は思い切り力を籠めているようだが、暁の身体が持ち上がることはない。
 体勢が不自然だからというだけでなく、単純にこれが彼らの差だ。
 そもそもの鍛え方や戦闘経験が違いすぎる。
 ほんの少し暁が力を籠めただけで、兜に手出しなどできなくなってしまうのだ。
 右手が僅かに震えているのを無視して、兜は暁を睨み付ける。
 その眼力でさえ、劣っている。
 同じ黒い瞳だというのに、暁の視線のほうが鋭く強い。
 たじろいだように兜の視線が泳ぎかけ、しかし再び見据え直す。
 暁がまばたきせず見つめ続けるも、一向に怯まない。
 ここで退くワケにはいかない。
 そう語っているように、暁には思えた。
「悪かった悪かった。たしかにそうだ。ようは在り方、だよな。
 俺やお前みたいな見た目でも、壊れ切っちまったバケモンはいる。逆もしかり、ってヤツだ」
 一度目を閉じたのち、暁は自ら視線を逸らす。
 兜は呆気に取られたように目を丸くし、いつのまにか右手から力が抜けていた。
「つってもあの速さじゃいまごろ海だ。コイツじゃその武士のとこには行けないぜ。
 そいつを本気にさせちまうようなヤツがいるってんだから、焦ってる場合じゃない。気を引き締めねえとな」
「あ、ああ……」
 暁に言われるがまま、兜はハイエースの向きを戻す。
 今度は、常識的な角度でゆっくりと。
「焦ってちゃ生還はできない。
 戦場でできないことをやろうとするのは、死のうとするのと一緒だ」
 暁は落ち着いた口調で告げ、一拍置いて続ける。
 静かに、言い聞かせるように。
「ただ、さっきの話だが――
 人間のものじゃない身体を手に入れたヤツらを、俺は職業柄よく知っている。
 たとえば機械化、ようはサイボーグだな。
 だいたいそいつらは、最終的に……力に飲み込まれてバケモンになっちまう」
 運転席から返事はない。
 目をミラーに向ければ兜の表情が窺えると分かっていながら、暁はそうしなかった。
 武士が飛んで行ったのと逆方向である西へと向かう車内に、静寂が立ち込める。
 ◇ ◇ ◇

62 :

 ハイエースが進む先にある寺を、同じように目指している男女がいた。
 彼らには、当てのない暁や兜と異なって明確な理由がある。
 『才賀正二』と名乗った老人がそうとしている少年を救わねばならないのだ。
 そんな無力な子どもを助けようとしている彼らは、どのような会話をしているのかというと――
「ちッ、うざってえな。その長え髪なんとかなんねえのかよ」
「はあ!? アンタにだけは言われたかないわよ! 金髪に自信あんのか知らないけど、アンタも伸ばしてんじゃない!」
「俺は結ってるし、そもそも後ろに誰もいねえよ。こっちはさっきから前にいるお前の茶髪が、鼻くすぐってきてむずむずすんだよ!」
「っちょ、人の髪鼻に付けないでよ!? きったないわねえ!」
「勝手に来んだよ!」
「血とか付いてないでしょうね!? それこそ取れないじゃない!」
「知るかよ。多少付いてんじゃねえのか」
「あーもう! いきなりズタボロになってるんじゃないわよ、なっさけない!」
「るっせえな! こっちだってなりたくてなったんじゃねえよ!」
「だいたいゼオンだかなんだか知らないけど、子どもにやられたクセに偉そうにしてんじゃないわよ!」
「…………はッ」
 青き稲妻と呼ばれる空飛ぶ箒の上で、互いに罵り合っている。
 後ろに座る金髪の青年――ジャン・ジャックモンドが、先ほどし合い開始直後に受けた襲撃について話した。
 それまではどちらも静かにしていたのだが、話を終えてもまだ寺には到着しない。
 いざ落ち着くと、箒を操る美神令子の長い髪がジャンはどうにも気になった。
 いち早く向かうため速度を上げれば、髪がなびくのは当然。
 美神の腰まで伸ばした髪なら、だいぶ激しく風に泳がされることになる。
 ジャンは一見人間だが、実は『獣人(ライカンスロープ)』という種族である。
 獣としての特性を持っているため、微細な感覚に敏感なのだ。
 とはいえ普段のジャンであれば涼しい顔で我慢していただろうが、つい声を荒げてしまった。
 何せ、し合い早々にして、すでに二度も敗北を喫している。
 負傷や疲労も軽くはないが、敗北の事実が何より大きくのしかかっていた。
 美神のほうも、そんなことは分かっている。
 まだ会って数時間も経っていないものの、ゼオン・ベルという襲撃者について語った際にジャンが浮かべた苦々しい表情を見れば、十分察することができた。
 にもかかわらず痛いところを突くようにして黙らせたのは、美神がそういう人間だからとしか言えない。
 敗者に優しい声などかけてやらないし、偉そうな口を利かれたら言い返す。弱点が見えているなら、迷わずそこを攻める。
 甘くもなければ、柔らかくもなく、温かでもない。
 それが、世界最高クラスのGS(ゴーストスイーパー)美神令子という女なのだ。
「――いたわね」
 やっと寺上空へと到達し、二人は視界に目標を捉えた。
 獣人とGSのどちらとも、夕闇程度で視界が遮られるヤワな存在ではない。
 美神が高度を低くした箒から、ジャンが飛び降りる。
「なっ!? 君たち、その箒は……!?」
 面食らったような老人の言葉に耳を貸さず、ジャンは背後の美神へと声をかける。
 振り返ることなく、老人を鋭く見据えたまま。
「コイツは俺が黙らせる。美神、お前はガキを探してくれ」
「分かったわ! ……死なないでよ」
「ふん。なんだ、心配してくれてるのか?」
「いやいや、そうじゃなくて。
 さすがに三回連続で負けた挙句死なれたんじゃ未練タラタラだろうし、そんな面倒そうな霊をフリーで祓うなんてまっぴらゴメンってだけよ」
「…………そうかよ」
 再び高度を上げて行く箒に、ジャンは思い出したように声を張り上げる。
 やはり、視線は老人から離さない。

63 :

64 :

「さっき渡したヴァジュラは、あんま使いすぎんなよ!
 霊能力者ならある程度扱えるだろうが、あんまやりすぎると暴走しちまう!」
「オッケーオッケー! もうさっき聞いたわよ!」
 飛び去っていく美神を見送ることなく、ジャンは口角を吊り上げた。
 両腕に装着している門構えという名の籠手を振りかざし、老人へと飛びかかっていく。
「間に合わなくて残念だったなァ、才賀正二! もう逃がしゃしねーぜ!」
 才賀正二と呼ばれた老人は、解せないといった表情で飛びのいた。
 必死の形相でなんとかジャンの猛攻を潜り抜けて、距離を取る。
 両手を上に伸ばして無抵抗をアピールしながら、口を開く。
「ま、待ってくれ! 君がなにを言っているのか理解できん! 私と君は初対面じゃないか!」
「下らねえこと言ってんじゃねーぜ! テメーの演技に騙されっかよ!」
「ぐっ、こんなことをしている暇はッ。私は、少年の元に行かねば――」
「そんなこと……させっかよ!!」
 ジャンが思い切り地面を蹴る。
 大きく掲げた右の門構を、正二の腹に叩き付けるべく。
 拳が接触するすんでのところで、正二はポケットに手を伸ばした。
 取り出されたのは蔵王。さらに、そのなかから黒衣の人形が現れる。
「あるるかぁぁん!」
 隻腕の人形が右手に持つ腕状の武器が、ジャンの拳を受け止めた。
 しばしの拮抗ののち、ジャンはバックステップを踏んで遠ざかる。
「泣き落としから電撃、さらに透明と来て、次は人形ってか?
 はッ! ずいぶんこのジャン・ジャックモンドをバカにしてやがるぜ!」
 ジャンは不愉快そうに眉をひそめながら、吐き捨てるように言った。
 ◇ ◇ ◇
 美神令子が子どもを見つけ出すのに、大した時間はかからなかった。
 一人下りたことにより、青き稲妻の運転が楽になったのもある。
 しかし何より、子どものほうに動く意思がなかったのが大きい。
 河岸にへたり込んだままだったのだから、すぐに見つかろうというものだ。
「ふう」
 高度を下げた青き稲妻から降りて、美神は安堵の息を吐く。
 金にならない仕事はしない主義でこそあれど、子どもがされると聞いて無視するのは気分が悪いものがあった。
 ゆえに、偉ぶった才賀正二の意図を覆すためだと自分を納得させて、向かってきたのである。
 青き稲妻を蔵王に戻して、美神は子どもの元へと歩み寄り――静止した。
 近付いてようやく気付いたが、その子どもの姿に覚えがあるのだ。
 髪の色が違うものの、箒の上でジャンから聞いたゼオン・ベルの特徴と一致している。
 体型も衣服も、話に聞いていたのと変わらない。
 ジャンと巴武士を圧倒した舞台も、この近辺のはずだ。
 リュックサックから新たな蔵王を取り出し、美神はジャンに渡されたヴァジュラを出現させる。
 極力使うつもりはなかったが、もしもゼオン・ベルが相手ならば逃げるにしても得物を持たないワケにはいかない。
 ヴァジュラの柄を握る手に力が籠り、美神の掌にじんわりと汗が浮かぶ。

65 :

66 :

「ぬぅ……?」
 接近する気配を察知したのか、子どもは力なく顔を上げた。
 その表情に生気はなく、弱々しい。
 聞いていたゼオン・ベルの自信に満ちた表情とは、かけ離れている。
 また髪の色だけでなく、目の色もまたゼオン・ベルとは異なっていた。
 だが、美神は安易に気を許さない。
 違う点があるものの、重なる特徴が多すぎる。
 ゼオン・ベルと何らかの関係があるとしか思えない。
 取るべき行動を見定め切れていない美神の前で、金髪金眼の子ども――ガッシュ・ベルもまた動かない。
 光のない瞳で近付いてきた美神を見つめるだけだ。
 ◇ ◇ ◇
 硬直している美神とガッシュのすぐ近くで、暁巌と兜光一は彼女たちを眺めている。
 人影を発見してすぐにハイエースのエンジンとライトを切ったので、おそらく勘付かれていないと判断していた。
「ありゃヴァジュラだな」
「ヴァジュラ?」
 怪訝そうに首を傾げる兜に、暁は答える。
「オーパーツの一つさ。雷を放つ」
「な……っ。そんなバカな」
「オイオイ、ARMSを認めてオーパーツを認めねえのか? どっちも大概無茶苦茶だぜ」
 軽口を叩くように言いながら、暁は自分自身さえも確認していない支給品に思いを馳せる。
 破壊されたはずのオーパーツなんてものが配られているのなら、あの蔵王には何が入っているのか。
 未確認の道具に自分の命を委ねる気はないが、それでも意識してしまう。
 期待しすぎるつもりなどないというのにもかかわらず、だ
 意図せず、暁の口元が微かに吊り上っていた。
「なんでそんな危ねえもん、あの姉ちゃんは構えてんだよ!?」
「それこそオイオイだぜ、兜。
 いま俺たちが巻き込まれてるのはなんなのか、ってことを考えろ。そういうことだろ」
 暁の言葉に、兜は表情を強張らせた。
 そして思い悩んだように顔を伏せてから、勢いよくドアを開けて表へ出る。
「……行くのか?」
「ああ」
「いやはや、物好きもいたもんだな」
 からかうような口調の暁に、兜は笑みを浮かべる。
 予期していなかった反応に、暁は息を呑む。
「やっぱ、歳喰っちまった以上はガキ助けてやんねえとよ」
 ハイエースがもともと入っていた蔵王を残して、兜は離れていく。
 小さくなっていく背中を眺めながら、暁は誰にともなく呟いた。
「やれやれ。ガキを助けるのが大人ねえ……ふん、誰かみたいなこと言いやがるぜ」
 暁の脳内に蘇るのは、とある同僚の姿だ。
 独断で『聖櫃(アーク)』を沈めた暁は、所属している組織『トライデント』に目をつけられてしまった。
 入手すべきオーパーツを海の藻屑にしてしまったのだから、当然といえば当然だ。

67 :
 もともとさまざまな組織を移って生きてきた身なので、暁自身も組織内の孤立にダメージなど受けてはいない。
 だというのに、一人の同僚が聖櫃沈没事件以降やたらと絡んでくるようになったのだ。
 身体を鍛えることに余念がない、暑苦しいドイツ人。
 そいつの信条は『強者は弱者を守るために存在する』というもの。
 なんでも聖櫃沈没事件の際、暁は弱者を守っていた。だから同志だ。これからは相棒だ――とのことだ。
 トライデント内で孤立していることに気付いているのかいないのか、その自称相棒は妙に暁に関わろうとしてくる。
 最初はうざったかったが、いつのまにやら気に入っていたのかもしれない――と。
 兜が残した言葉が気にかかりつい車から出てしまった暁は、そう思った。
「待てよ、兜。俺も行くぜ」
 ハイエースを収納した蔵王を放り投げながら、暁は軽く手首を回す。
 身に纏う機械式AM(アーマード・マッスル)スーツの調子を確認し、河岸へと向かった。
 ◇ ◇ ◇
「よう、姉ちゃん」
 いきなりあらぬ方向から声をかけられ、美神令子はビクッと身体を震わせる。
 彼女にしては珍しい反応であったが、生憎普段の彼女を知る者は付近にいなかった。
「いったいなんの用――ッ!」
 現れた二人の男の片方――暁が、何かを投げつけた。
 美神は紡ぎかけた言葉を切り上げて、咄嗟にヴァジュラへと霊力を流す。
 ヴァジュラの先端部より火花が散り、闇夜が強烈に照らされる。
 光により投げられた物体がカロリーメイトだと確認できたが、放たれた電撃がカロリーメイトを消し炭にしてしまう。
「いきなりなにすんのよ!」
「やっぱり、それがなんなのか……知ってるみてえだな。
 あんなに的確に迫ってくる物体を打ち抜くなんて、普通はできないぜ」
 美神が浴びせた抗議の声を無視して、暁は淡々と語る。
「…………で、だ」
 暁の声色が、いっそう低くなる。
 それまで浮かべていた軽い笑みが、唐突に消えた。
「そんな物騒なもん持って、相手がガキじゃつまんねーだろ。相手してやるぜ」
「ち、ちがっ!?」
 否定しようとする美神の前で、暁は腰を低く落とした。
 冷たい視線を飛ばして、仕掛けてくるのを待っているように見える。
「大丈夫か!? あの怖い姉ちゃんになんかされなかったか!?」
「っちょ!? 誰が怖い姉ちゃんよ!?」
 目を話しているうちに、ガッシュは兜に抱きかかえられていた。
 もう『怖い姉ちゃん』で通っていることに、美神はただ喚くしかできない。
「え、ええと。えっと、えーとー……」
 美神は、どうにか落ち着こうと思考を巡らす。
 まず才賀正二という危険人物について話し、彼が子どもをすと宣言したため助けに来たと説明。
 次に同行者であるジャンの説明をし、彼がゼオンという参加者に襲われたことも話す。
 そしてそのゼオンとあまりに似ていて度肝を抜かれて、ヴァジュラを構えた――と言えば。
 そこまで考えて、美神は両手で頭を抱えた。

68 :

69 :

70 :

(こんなの、まるでいま考えたみたいじゃない!!)
 事実だから当たり前だが、あまりに出来すぎている。
 言ったところで、納得してもらえるかどうか。
 美神は目蓋を閉じて、想像してみることにした。
(私が言われるほうだったら、絶対信じないわよ!!)
 髪を掻き毟りだした美神に、戦闘態勢を保ったままの暁が口を開く。 
「どうした? 来ねえのか、怖い姉ちゃん」
 ブヅン、と。
 何かが切れる音が、美神の脳内に響いた。
「ああぁぁーーー! もう、ごちゃごちゃうるっさいわねーーーー! こっちだっていろいろ考えてんのよ!!」
 怒鳴ってから慌てて口を押さえるが、もう遅い。
 疑われた挙句に、悪態を吐いてしまった。
 事情を説明するどころか、勝手に悪くなっていく事態にどう立ち向かうのか――
 いまここに来て、世界最高クラスのGS・美神令子はかつてない危機に直面していた。
【C−6 東部川岸/一日目 早朝】
【美神令子】
[時間軸]:少なくとも平安京から帰還した後。
[状態]:疲労(小)、雷撃のダメージ、すり傷。
[装備]:ヴァジュラ@スプリガン
[道具]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!、鍋@現実、土手鍋@金剛番長、基本支給品一式
[基本方針]:し合いには乗らない。脱出するべく首輪を調べる。アシュタロスには関わらない。
※ジャンと少しばかり情報を交換しました。
※美神は土手鍋の説明書を名前までしか読んでいません。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。
【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:肩に痛み、頬やひざに擦り傷。フェイスレスによるザケル使用で精神が弱っています。今のところ自覚はなし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:優しい王として、泣く者がいないように頑張れないかもしれない……
【暁巌】
[時間軸]:単行本10巻、聖櫃終了後
[状態]:健康
[装備]:AMスーツ@スプリガン、スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実
[道具]:基本支給品一式、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、ランダム支給品×1(未確認)
[基本方針]:キース・ブラックへの反抗、生還。
【兜光一】
[時間軸]:単行本12巻、コウ・カルナギに重症を負わせられ病院へ搬送中
[状態]:健康
[装備]:拡声機@現実、TOY○TA・ハイエース@現実
[道具]:基本支給品一式、H○NDA・スーパーカブ110@現実
[基本方針]:高槻涼ら知り合いとの合流し、脱出。

71 :

72 :

 ◇ ◇ ◇
 懸糸傀儡『あるるかん』を操りながらも、才賀正二の脳内は違和感でいっぱいだった。
 目の前で繰り広げられる戦闘には、思考の数割程度しか割けていない。
 し合い開始から現在までに、正二が出会った三人。
 金髪金眼の子どもに、美神という女性に、ジャンという青年。
 その誰もが、才賀正二に恨みがあるという。
 だが、当の正二自身にその記憶はないのだ。
 そもそもこのし合いの舞台に来てからやったこといえば――子どもを保護し、階段から落下し、リュックサックを確認し、美神とジャンに襲撃された。
 ただ、それだけなのだ。
 他のことをやる暇などなかった。
 にもかかわらず、どうして自分が恨まれているのか。
 正二には、まったく理解できない。
 仮に、このし合いに彼の親友であるディーン・メーストルがいたのならば。
 顔や声をそっくりそのままコピーできる彼がいたなら、こういうこともあるかもしれない。
 と考えて、正二は激しく首を左右に振った。
 ディーンは親友である。仮にこの場にいたとしても、自分の悪評を振り撒くはずがない。
 もとよりディーンは誠実な男なのだから、そんなことをするはずがない。
 混乱の果てにこの場にいない親友に罪を被せてしまったと、正二は自己嫌悪に陥る。
「うッ、らあ!」
 胸中でディーンに謝罪している正二の腹に、金属製の籠手を纏ったジャンの拳が叩き付けられる。
 浮き上がってしまったところに、合わせるようなハイキック。
 吹き飛ぶ正二の勢いは凄まじく、寺の壁を突き破って内部まで追いやられる。
 十の指にはまった糸にあるるかんが引き寄せられ、追撃するべきジャンも続く。
「くっ!」
 あるるかんは右手に持った腕状の武器を振るうが、あっさりと避けられてしまう。
 懐に入ってきたジャンのアッパーを受け、正二は別の壁に穴を開けて再び外に出る。
 このあるるかんにもまた、正二は違和感を抱かずにはいれなかった。
 妻である才賀アンジェリーナ愛用のマリオネットであり、もうだいぶ見慣れているはずだ。
 だというのに正二の知るあるるかんとは、どうにも異なっているところがあるのだ。
 左顔面部に空いた穴は、ギイ・クリストフ・レッシュとアンジェリーナが戦った結果開いたと聞いていた。それは構わない。
 しかし左腕が千切れているのは知らなかったし、ギイの操るオリンピアの腕を武器にしていることも知らない。
 ギイとアンジェリーナが戦ったあとのあるるかんを、正二は見ている。そのときには左腕は万全であった。また、オリンピアの腕も折れていなかった。
 けれどいま手元にあるあるるかんは、隻腕でオリンピアの腕を携えている。
 そして、同封されていた説明文だ。
 目を通してみたら、このあるるかんは『才賀エレオノール』のマリオネットだという。
 そんなこと、ありえるはずがないのだ。
 才賀エレオノールは――正二とアンジェリーナの娘は、まだ生まれたばかりの赤子なのだから。
(なにが起こっているのだ……?
 私がおかしくなったのか、それとも私以外がおかしいのか……)
 地面に叩き付けられた正二は、起き上がろうとしたが叶わなかった。
 これまで何度もジャンから受けた殴打は、人形破壊者(しろがね)の身体にさえダメージを蓄積させてきたのである。
 立てるまで回復するには、数分かかってしまうだろう。
 その数分を待たず、ジャンは正二の首元を掴んで持ち上げた。
「どうした。電撃出しても透明になって逃げても、かまやしねえんだぜ」
 まあ逃がさねーけどな――と続けて、ジャンは空いている左の拳を勢いよく振るう。
 どろりとした鉄臭さが、正二の口内に溢れた。

73 :

74 :
 吐き出された赤黒い液体を、ジャンはなんの感慨もなさそうに見やる。
 正二の首を持つ手に、少しずつ力が籠められる。
 このままなにも分からぬまま死に行くのだろうか。
 そんなことを考えた正二の視界に、愛する妻と生まれたばかりの娘の姿が浮かび上がる。
 都合のいい幻想だと理解していながらも、身を委ねかけ――
「ガあッ!?」
 そんなジャンのくぐもった声によって、正二は覚醒した。
 首にかけられていた力が一気にゼロになり、浮遊感が身体を支配する。
 地面に接触する寸前で、何者かに抱えられた。
「大丈夫でございますか、ご老人!?」
 かけられたのは、女性の声だった。
 まだ少女だろう――と、正二は推測する。
 視界が明瞭でなく、まだ姿を確認できないのだ。
「安心してくださいませ! この剛力番長が来たからには、あの悪党は退けて見せます!」
 地面の上に広げられた布の上に寝かせられる。
 正二の背中にボタンが触れ、下にあるのがただの布ではなく服なのだと分かった。
 血を流してしまい治癒が遅いが、そこはしろがね。
 少しずつ、視界が確かになっていく。
「聞きなさい、悪党! これより、正義を実行します!!」
 ようやく回復した正二の視界が捉えたのは、学生服の少女であった。
 学生服と言っても上はシャツ一枚だが、もともと着込んでいた学ランを地面に敷いてくれたのだろう。
 ジャンの力を知っている正二は少女を止めようとしたが、それより早く少女は力強く踏み込んだ。
 同時に地面にクレーターが空き、少女は一瞬で寺の壁に埋まっていたジャンへと肉薄していた。
「――クソッ! なんだ、あのガキは!」
 瓦礫の山と成り果てた寺を見て、ジャンは吐き捨てた。
 剛力番長と名乗った少女の攻撃は、すでに一度受けている。
 いきなり森から飛び出して殴りかかって来たのだ。
 だいぶ痛むが、寺の惨状を見る限りどうやら全力ではなかったらしい。
 なんとか攻撃を受ける寸前で壁から抜け出せたからよかったが、少しでも遅れていたらいまごろ瓦礫のなかだ。
 笑えないを通り越して、勝手に乾いた笑いが浮かんできた。
「オイ落ち着け! 俺は、あのジジィがガキそうっていうから止めようと――」
「そんなものに騙されませんわ!」
 ジャンはなんとか事情を説明しようとしたが、剛力番長は聞く耳を持たない。
 よくよく考えてみれば、老人を一方的に殴っていたのだ。
 なにも知らない人間には、勘違いされても仕方がない。
 一発でも喰らえば致命傷になりそうな拳の雨を潜り抜けながら、ジャンは歯を軋ませる。
(そのちっせえ身体のどこに、そんなパワー隠されてるってんだッ)
 見た感じ、剛力番長は獣人ではないようだ。
 ならば強化人間であろうかと考え、それにしては力がありすぎるとジャンは自ら否定する。
(電気出すガキといい、巴の変身といい、二つ目のヴァジュラといい、んでもって……)

75 :

76 :

 剛力番長の一際力を籠めた一撃をなんとか回避し、ジャンは横たわっている才賀正二に目をやる。
 先ほど、ジャンは正二をしてしまうつもりはなかった。
 というのは、どうにも違和感があったからだ。
 あそこまで追い込まれて、人形以外の攻撃をしてこなかった意味が分からなかった。
 ゆえに一度意識を奪い、拘束する予定だったのだ。
「ワケ分かんねーことばっかだぜ!」
 緩まることのない剛力番長の攻撃を門構で受け流しながら、ジャンは声を張り上げた。
【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 早朝】
【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[装備]:門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら
[道具]:白兎の耳@ARMS、武士のリュック@現地調達、閻水@烈火の炎、
     蔵王(空)@烈火の炎、不明支給品0〜1(確認済み)、基本支給品一式×2
[基本方針]:し合いには乗らない。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。
※『才賀正二』に違和感。
【白雪宮拳】
[時間軸]:神闘郷にて暗契五連槍を撃破し脱出した後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認しているか不明)
[基本方針]:このゲームを壊す。ゲームにのった悪人を見つけたら倒す。
※木蓮の名前を小金井薫と勘違い。
【才賀正二】
[時間軸]:25巻、エレオノ―ル誕生直後
[状態]:全身ダメージ大(治癒中)、混乱
[装備]:あるるかん
[道具]:ランダム支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[基本方針]:妻と娘を守る。

77 :
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。

78 :
投下乙!
なるほど、雷繋がりか
なんかあっちこっちで誤解が誤解呼んでやがる!
暁らのコンビはいい感じなんだがな…
どうなる、次回!? あと相変わらず正ニさん涙目w

79 :
投下乙です
これは酷い行き違い多発な戦場だろうw
誤解に次ぐ誤解、みんながみんな無駄な戦いをしてるよwww
俺も次回が気になるよ

80 :
投下乙!
予約メンバーにはマーダーいないのに、戦っているだとw
フェイスレスは上手い具合にかき回してくれたな。
誰も悪くないだけに、早く収まってほしいが、このガチバトルも見たいw
しかしこのロワは人の話を聞きそうもないやつらがそろってるなw

81 :
美神もトラブってるが横島らも危ない奴が来てるぞw

82 :
投下乙
勝手にハマってく美神さんがらしいw 普段は横島が巻き込まれるパターンだけど、そうもいかんよなw
ジャンとのコンビや暁・兜組とか相性よさそうだし、正二・ガッシュ・剛力番長もいい対主催なのに、御覧の有様だよ!
フェイスレスは大変な種を蒔いていきました

83 :
投下します

84 :
生まれてすぐから、保護するべく隔離されていた“人形破壊者”。
親から捨てられ、幼少時代を孤児院で過ごした“元麗、現火影”。
持って生まれた異能の所為で、周囲から虐げられてきた“天界人”。
それぞれ似た過去を持ちながら、前二人と最後の一人の間には大きな差がある。
弱い為に孤立した二人と異なり、天界人ロベルト・ハイドンは強いが故に孤独だったのだ。
よって弱者を守ろうとする前の二人、才賀エレオノールと小金井薫に対して、ロベルトは疑問を抱く。
彼は、誰にも守ってもらえなかった強者なのだから。

「ところでしろがねさん、彼には探し人について尋ねたの?」
ホテルに到着したロベルトの言葉を受け、エレオノールの白銀の瞳孔が拡大する。
迅速に再会せねばならない人間の存在を、すっかり失念していた。
救出した小金井の安否に気を取られていた所為であるのだが、エレオノールは己を胸中で責める。
大きく肩を落とすエレオノールの動作から察して、ロベルトは視線を小金井に向けた。
「聞いてなかったのか……。君、ええと……」
「俺は小金井、小金井薫っつーのさ。そんでもって中二! 同い年くらいじゃねーかな?」
「それは偶然だね。僕も中学二年生だよ。名前は」
ロベルトは少し警戒心を抱く。
中学生であるのなら、神候補から力を授かっている可能性がある。
そしてそうだとすれば、ほぼ確実に“知られている”ことになる。
ロベルト・ハイドンは、能力者界隈ではちょっとした有名人なのだ。
「ずばり“ロベルト・ハイドン”でしょ?」
「……ッ。どうしてその名を?」
決して動揺を顔に出しすぎず、しかし多少驚いたという表情はしっかり浮かべて、ロベルトは問う。
「種も仕掛けもない簡単な話さ。しろがねのお姉さんが、さっきから心配そうに名前呼んでたからね。
ロベルトなんて名簿に一人しかいないから、当てられて当然って落ち」
白い八重歯を見せて笑う小金井。
ロベルトも一瞬唖然としてから、釣られて作っていた表情を崩してしまった。
「で小金井君、才賀勝という少年と」
「悪いけど、俺が最初に会ったのはあのシルベストリってサイボーグだよ」
小金井の言葉にエレオノールは頭を垂らし、また即座に勢いよく上げた。
「ロベルト! 怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫だよ。特に何も無い」
僅かだけ迷い、ロベルトは続ける。
小金井がシルベストリの名を知っているのならば、数時間と待たず明らかになってしまうことだ。
「人形を追い詰めたが、不意を突かれ逃がしてしまった。任されておいてすまない」
この発言は虚構だ。
あえて見逃したのが真実だが、それを言うほどロベルトは愚かではない。
多少叱責されてでも、不意を突かれた事にした方が立ち回りやすい。
そう考えていたロベルトに待っていたのは、予期せぬ反応だった。
「安心しました。何よりまずロベルトに傷が無いことが第一です」
大きく安堵の息を吐き、エレオノールは柔らかな笑みを浮かべる。
何故か胸が痛くなり、ロベルトは笑顔から目を逸らす。
「俺も怪我無いけど……、あいつを放っておくのは危険だね。どこに行ったか分かる」
「すまない。逃げられてから暫く捜したが見つからなかった。おそらく、既に離れられてしまっているだろう」
これもまた虚構。
エレオノールと小金井が浮かべた神妙な表情を、ロベルトは直視する事が出来なかった。
「なら、今から追っても仕方ないね……。
さっき言ってたお姉さんの探してる人の事教えてよ。俺も仲間探してるしね!」
“仕方がない”。
小金井がおそらく深い意味など籠めずに使ったであろう言葉。
それが、ロベルトの中に引っ掛かった。
先程の行動は、仕方がなかったのだろうか。
小金井とエレオノールの言葉に相槌を打ちながらも、そんな風に考えてしまっていた。


85 :

「お姉さんは、その勝を守らなきゃいけないんだ。大変だね」
「いえ、小金井もです。柳という子……間に合うと良いですね」
「まあ……、ここと変わらないくらい危険だからね」
遠くを見ながら、小金井は表情を険しくする。
折り畳んでいるエレザールの鎌を持つ手が、微細に震えていた。
その素振りを見て、エレオノールもまた目付きを鋭くする。
保護すべき対象の事を考えているように、ロベルトには見えた。
故に、これまで殆ど動かしていなかった口を開く。
「仮定の話になるが……もしも、だ」
才賀勝と佐古下柳。
どちらも戦う術を持たないらしかった。
幼少時のロベルト・ハイドンは見捨てられてたというのに。
彼と彼女は、守ってもらえるのだという。
ならば、ロベルトには尋ねずにいられなかった。
「君達が守ろうとしている彼や彼女が、仮に……、そうだな」
包帯を纏った額から、滑らすようにロベルトは髪を掻き揚げた。
さながら何でもなくふと疑問に思った事を口にしているだけだと、印象付けているかのように。
「あのシルベストリを圧倒出来るほどに強かったのなら……、君達は守ろうとするのか?
武器を持たずとも、自動人形を一蹴する実力があったとしたら。君達よりもよっぽど強かったとしたら。
それでも君達は、彼や彼女を守るのか?」
静寂が場を支配する。
あくまでロベルトにはそう感じた。
訊いてから答えを待つまでの時間が、永劫じみて思えた。
ようやく、或いはすぐにであったのか。
ロベルトには判別つかないが、エレオノールと小金井はほぼ同時に返した。
「それは関係ありません。私は、お坊ちゃまに危険な目に遭って欲しくないのです」
「そんなのどうでもいいよ。俺は、柳ちゃんには安全でいて欲しいだけなんだから」
瞬きすることなく、銅像のように固まってしまう。
そんな自分に気付いたロベルトは、慌てた素振りを見せないように再び右手を顔に持っていく。
「そうか。変な事聞いて悪かったね」
今回は、髪がうまく掻き揚げられなかった。
気付かぬ内に掻いていた汗の所為で、髪が一部肌に纏わりついているのだ。
それに焦るロベルトを、エレオノールと小金井は怪訝そうに眺める。
彼が何をやっているのか分からないといった様子で、首を傾げていた。

86 :

【E−4 ビジネスホテル/一日目 早朝】
【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間T〜「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0〜2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。

87 :
終了です
……投下後に気付いたけど、携帯で投下したらスペースがおかしくなってしまった
地の分のスペースが消えて、記号の後のスペースが半角になっている
wikiでは直します。申し訳ない

88 :
投下乙です
今のところは小康状態かな? エレオノールと小金井は普通にロワの打開に動いてるがロベルトが微妙なんだよな
彼の抱えてる問題からしたら当たり前なんだが…
ロワで人間観察するとロクな事が起こらないんだが

89 :
ちょっと気になった所を
ミッドナイト・クラクション・ベイビーなんですけど
空飛ぶ箒で移動してたジャンに追い付けるくらいの速さで剛力番長走ってきたんですか?
なんか移動距離と時間に違和感を感じました

90 :
投下乙
ロベルトは不安定で怖いな、どう転んでもおかしくない
この二人の真っ直ぐさが彼の救いになってくれればいいんだが
>>89
剛力番長の前話の時系列は深夜だ
そう考えるとそう矛盾したものでもあるまい?

91 :
番長ならそれくらいはやるだろjk

92 :
遅れました。投下します。

93 :
 ◇ ◇ ◇
 妖(バケモノ)が生まれるのに、特別な物など必要ない。
 供物を捧げなくとも。
 まじないを唱えなくとも。
 魂の宿る憑代を用意せずとも。
 代償として対価を支払わずとも。
 たった一つ。
 何かしらを憎悪する――
 深い思いがあるならば、どこからであろうと生まれいずる。
 妖とは、そういうものだ。
 ◇ ◇ ◇
「山を下りるのは早すぎると、俺は思う」
「あぁん?」
「あぁんって……そんな反応せんでも……」
 眉をひそめた霧沢風子に、つい横島忠夫はたじろいでしまう。
 とはいえ、考えを主張しないワケにはいかない。
 この場において一つのミスが死に繋がるのは、傍らに盛られた土山からも明らかなのだから。
 時間をかけて真剣な表情を作り、横島は再び口を開く。
「たぶんの話になるけど、地図の真ん中にある街に向かう人は多い」
「だから行こうつって――」
「さっき埋めた……坊主をしたヤツだっている」
 先ほど埋葬した坊主頭の遺体は、まだ死んで間もないものだった。
 あの遺体は、確実に他によるものである。
 全身を銃弾で抉ったのち、頭部を撃ち抜く。凶器は消え失せ、所持しているはずの道具も見当たらない。
 そんな自は――ありえない。存在し得ない。
 ならばあの坊主頭は何者かにより害されたということであり、すなわち坊主頭をした参加者がいるということだ。
「たりめーだ。そんなこと分かってる……だから!」
 風子の言葉に続きがあるのを分かっていながら、横島は抑え込むように告げる。
「たぶん、そいつはまだ山にいる」
「……っ!」
「人が集まる場所は、危険度も高いからね。
 最後の一人になるつもりなら、わざわざ最初から動いたりしない」
 はっとしたように目を見開いたのち、風子は勢いよく首を捻る。
 特になにも見当たらなかったらしく、安堵したように息を吐いた。

94 :

「下山する前に、まずそいつを見つける――って話かよ」
「そういうことそういうこと!」
「たしかに放っちゃおけないしね。ちぇ、アンタに教えられるなんてね」
 風子は軽く舌を鳴らしてから、いたずらっぽくはにかむ。
 照れくさそうな笑顔に、横島は見とれてしまい――そして良心が痛んだ。
 山奥へと歩み出した風子の背を追いながら、横島は僅かに俯いた。
 横島自身は、坊主をした者が山に残っているとは考えていない。
 あの死体は、銃撃をいくつも受けていた。
 ただ生き残りたいだけの参加者ならば、あそこまで弾丸を無駄にはしない。
 いたぶるような真似をするのは、自分の力に自信がある者だけだ。
 だとすれば、山に潜んだりはしない。
 山に籠り解決を待つのは、自信を持たない――横島のような人間だけだ。
 風子を危険に遭わせたくないという考えから、嘘を吐いたのだが――
 本当にそうだったのだろうか、と横島は思い始めた。
 危険に遭いたくないのは自分であり、風子と離れるのが怖かっただけではないか。
 そこまで考えて、横島は自嘲気味な笑みを浮かべる。
 まさしく、その通りであった。
 GS(ゴーストスイーパー)だというのに、女子高生に頼っている。
 元より自分に自信などなかったはずなのに、それでも横島は自分が情けなくなった。
「――っぶねえ!」
 そんな思考は、風子の振り向きざまの飛び蹴りより打ち切られる。
 吹き飛ばされる横島の視界に映ったのは、先ほどまで自分がいた空間を両断していく三日月状の刃であった。
 飛来してきた刃のスピードは緩まることなく、樹木を伐採していく。
 小枝だけでなく、両手で抱えきれないほど巨大な幹さえ容易く斬り刻まれた。
 舞い落ちてくる葉や枝は、上空数メートルの地点で弾かれる。
 横島が振り返ると、風子が握る風神剣に装飾された玉が鈍く光っていた。
 おそらく、風でバリアを張っているのだろう。
 道具に恵まれなかった横島と違い、風子は戦うことができる。
 邪魔にならないようにいち早く立ち去ろうとして、横島は怒声を浴びせられた。
「立つな、バカ!!」
 えっ、と。
 意図せず零れた声は、しかし風を斬る音に飲み込まれる。
 視線だけ音のほうへと飛ばすと、山奥へと消えたはずの刃が肉薄していた。
 なぜか、横島の視界はスローモーションじみていた。
 そこでようやく、三日月状の刃がブーメランに酷似していることに気付く。
 ブーメランであるのならば、戻って来るのは当たり前だ。
 などと考えている間にも、刃は少しずつ接近し――接触する寸前で突風が横島を押した。
 ◇ ◇ ◇

95 :

「ちいっ」
 三日月状の刃が戻って行った方向を見据えたまま、風子は舌を打つ。
 刃の正体が魔道具『海月』であると知っていたから、なんとか反応することができた。
 接近する音を捉えて初撃を回避して、二撃目も風神剣のおかげで避け切れた。
 だが仮に被害者が風子でなければ、こうはいかない。
 海月の特性を知らねば、二撃目でやられてしまっていたのだ。
「死ぬかと思った……ッ。サンキュー、風子ちゃん」
 突風によって地面に叩き付けられた横島が、ゆっくりと立ち上がる。
 そちらを見るワケにもいかず、返事だけしようとして――呑み込む。
 海月が戻っていった方向に、いつの間にか人影があったのだ。
 ずっと視線を向けていたはずなのに、接近に気が付かなかった。
 完全に、不意を突かれた。
 まるで、ほんの少し横島を意識した瞬間を見計らったように。
「魔族、か……?」
 横島が言うように、出現した影は見るからに人間ではなかった。
 服を纏っているのは下半身だけで、他の部位は肌が露になっている。
 その見える肌が、仮面のような顔面が、人間ではないことを主張している。
「へ、へへへ、見つけた。これで、やっと三人だァ!」
 海月はすべての部位が刃で構成されている分、通常の刀剣より遥かに重い。
 にもかかわらず、海月は右手一本で軽々と持ち上げられている。
 だが風子にとっては、そんなことはどうでもよかった。
 その程度、鍛えていればできることだ。
 問題は、薄ら笑いを浮かべながら紡がれた言葉である。
「オイ、化物(バケモノ)……いま、なんつった?」
 もしも言葉が真実であるのなら。
 人をして笑っているというのなら。
 そんなものは――化物だ。
 ゆえに、風子は眼前の影をそう呼んだ。
「あァ? なにって……へっ、これ見りゃ分かるだろ」
 海月を持たず空いている左手を、化物は前に出す。
 その手には、リュックサックが二つ握られていた。
「テメェ……っ!!」
 風子は何事か続けようとして、歯を噛み締める。
 言葉などでは足りないと、判断したのだ。
 風神剣を構えて、意識を集中させる。
 先ほどまで鈍い光しか放っていなかった玉が、激しく輝きだす。
 周囲を風が渦巻き、風子の髪が舞い上がる。
 身体にフィットした黒いタンクトップも、風によって揺らめく。

96 :

「タダじゃ済まさねえ……!」
 人をしておいてニヤついているのが、風子には分からない。
 悔やむことなく人を続けようというのが、認められない。
 死の重みをまったく感じていないのが、もっとも気に喰わない。
 自分のことを好きだと言ってくれた友達を、このし合いに呼び出される少し前に喪ってしまったから。
 自分を庇って死んでいった友達の体温を、死に際に浮かべた笑みを、彼女がかけてくれた言葉を――覚えているから。
 もう、あんな、緋水のような悲しい人が生まれてしまうのはイヤだから。
 風子は人しを許せない。
 許せないし――許さない。
 許さないから、だから――
「……やる……!」
 緋水をした男のように、人をして笑っているようなヤツは。
 そんな、化物は――
「……て、やるっ!!」
 風神の玉の輝きは、さらに増していく。
 月より遥かに強く暴力的に、闇夜を照らす。
 次第に、玉の中心に文字が浮かび上がる。
 文字は鮮明になっていき、ついに読み取れるようになる。
 宝玉に描かれた文字は、隠されていた漢字は――――『風』。
「…………してやるッ!!!」
 風子の宣言は、彼女を包む巨大な竜巻によって掻き消される。
 吹き飛ばされないよう必死で踏ん張っている横島には、聞き取ることができない。
 化物のほうも同じくのはずだ。
 だというのに。
 そのはずなのに。
 化物は、口角を吊り上げた。
「なァんだ」
 察したように。
 勘付いたように。
 見透かしたように。
 感知したかのように。
 ――――悟ったように。
「お前も妖(バケモノ)かァ」
 携える海月と同じ形に、化物は口元を歪めた。
 そのままの表情で膝を曲げる。
「他に妖がいるなら、任せるかァ。
 す数が少なく済むし、楽でいいや」
 とだけ言って、化物は跳ねた。
 一跳びで木々のなかに紛れ込み、影は見当たらなくなる。

97 :

「なん、だったんだ……?」
 首を傾げる横島と異なり、風子には化物の言わんとする言葉が理解できていた。
 先ほど風子は、化物をそうとした。
 人しを許さないはずなのに、自ら進んでそうとしたのだ。
 意を抱いていた風子自身だからこそ、分かってしまう。
 人をして笑うような化物に――なっていたことが。
「う……ぁ…………」
 風子は、自分を覆う竜巻を消滅させる。
 この規模の竜巻をぶつけたなら、人は簡単に死ぬ。
 当たり所が悪くても死ぬ。
 そんな竜巻を生み出していた事実に、風子は背筋が凍ったように感じた。
 駆け寄ってくる横島から、咄嗟に視線を逸らす。
 笑顔を向けられるのがつらかった。
 人をす――化物に、微笑みなんて向けないでほしかった。
 下卑た笑みが、風子の脳裏を過る。
 緋水をした男の哄笑が。
 憎いはずのあの男が化物であるのならば、化物と呼ばれた自分とあの男は――
 と、考えて、風子は駆け出した。
 近付いてきた横島に背を向けて、逃げ出すように走る。
「イヤぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
 甲高い声を上げて、無理矢理に思考をシャットアウトする。
 なにも考えてしまわないように、ただ叫ぶ。
 障害物は風神剣で粉砕して、人が集まらないであろう山奥へと走る。
 道中で、リュックサックも捨ててしまう。
 すべてを手放して逃げ出す彼女の手には、風神剣が握られたまま。
 拒んだつもりで、力強く握り締めている。
 その事実に、霧沢風子は気付かない。
 風神の宝玉が煌めき、『風』の文字がさらに鮮やかになる。
 彼女の前髪が二箇所――額が左右、僅かに盛り上がっていた。
 ◇ ◇ ◇
「どう、なってんだ……?」
 残された横島は、怪訝そうに呟く。
 なにがあったのか、まったく理解できていない。
 いきなり魔族が襲いかかって来たかと思えば去り、安心したら風子が山へと走って行った。
 ただ、去り際の風子が浮かべていた表情だけが、横島のなかに強く残っている。
 なにかを恐れるような怯えた表情をしていたのだ。
 やはり戦えるにしてもただの女の子なんだ――と、横島は再認識した。

98 :
 

99 :

 言いながら、横島はバンダナを解く。
 バンダナは、なにも言わない。
 いつかのように助言してくれることはない。
「美神さん、いるんなら出てきてくださいよ」
 横島の呼びかけに、応えるものはなかった。
 ただ、山の上から風が吹いてきただけである。
「……ははっ、誰もいやしない。俺だけの番外編か。
 ま、そらそうか。三話も、美神さん出て来ねーんだもんな」
 バンダナを締め直して、髪をかき上げ――笑う。
 魔族まで呼ばれているし合いの舞台で、ふてぶてしく。
 余裕があるのではない。
 むしろ、そんなものはない。
 余裕がある風に装って、自分を騙そうとしているのだ。
 この世に横島忠夫ほど騙されやすい人間がいないことを、横島はよく知っている。
 しかしうまく行かず、吊り上げた口元が微かに痙攣してしまう。
 そんな自分があまりに自分らしく、横島は今度は本当に笑ってしまった。
「出ろ、『文珠』」
 横島は、右手に意識を集中させる。
 自分の能力を発動させるために。
 とはいえ、この場で何度も試したことだ。
 これまで一度も発現させることはできなかった。
 その理由を風子には、霊力の源である煩悩が足りないためと説明していた。
「へっ、そんなワケないだろ」
 横島の掌上に霊力が集い、火花が飛び散る。
「あんな子といて、この横島がムラムラしねーかよ!
 知ってるかよ、気付いてるのかよ、風子ちゃん。
 風子ちゃんが前歩いてるとき、俺は尻ばっか見てたんだぜ。
 殴られてるときだって、ずっと揺れてる胸から視線離さなかったんだ。
 いっそもっと殴ってくれくらいに思ってたね。『ギャー』とか言いながら。
 あとさっきの竜巻で髪がなびいてるのもまた、新鮮でよかったね! 見とれた! 見とれとった!
 タンクトップが下からの風でめくれて、ヘソ見えちゃってたしね! もっかいやってくれよ!
 だいったい、タンクトップにホットって! そら見てまうわい! 肌が出ているもの!
 俺は悪くない! そんなカッコしてたら見るのが当然っていうか、見ないほうが申し訳ない!
 なににって、風子ちゃんに! せっかくそんなカッコしてくれたんなら、ガンガン見るのが礼儀でしょーて!!」
 一際激しい閃光を最後に、異変が収まる。
 横島の掌には、玉が三つ乗っていた。
 そのうち一つに『速』という文字が浮かび上がり、横島が加速した。
 これが、文珠の効果。
 玉に刻み付けた漢字次第で、効果を発動させる。
 無限の可能性を秘めた能力。
「横島ってヤツはタチ悪いんだぜ、風子ちゃん。
 はたかれても、殴られても、蹴られても、つねられても、呪われたって、追っかけるんだ。
 そんなヤローからなにもしないで逃げるなんて、まったくもって分かってないぜ! 甘い甘い甘い甘い! いまから行くから、もっと殴ってくれ!」

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