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2011年10月1期創作発表【ジェンスレ】キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!4 TOP カテ一覧 スレ一覧 削除依頼

【ジェンスレ】キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!4


1 :11/07/10 〜 最終レス :11/11/26
【なりきりネタなんでもあり板】通称なな板から来てはや4スレ目。
『キャラクター分担型リレー小説』とは参加者各々が自分のキャラを作成して持ち寄り、共通の世界観の中で物語を綴っていく形式だッ!
通常のリレー小説や合作小説との違いは、『自分が動かせるのは自分のキャラとモブ・NPCとだけ』という点で、GMと呼ばれるスレの進行・まとめ役がいたりいなかったりする。
弊板では『TRPG』あるいは『TRPS』といったタイトルで楽しんでいるこのキャラクター分担型リレー小説を、他板交流の一環として貴板で展開中!
前スレ 【ジェンスレ】キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!3
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1299781333/
キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1292705839/l50
なりきりネタなんでもあり板
http://yuzuru.2ch.net/charaneta2/
なな板TRPGまとめWIKI「なな板TRPG広辞苑」
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/

2 :
以下テンプレ(参加する場合は以下のテンプレの項目を埋めてキャラをつくって下さい)

名前:
職業:
性別:
年齢:
身長:
体重:
性格:
外見:
備考:

3 :
前回までのあらすじッ!

歴史が変わってしまった世界で、魔王討伐の決意をあらたに旅を続けるジェンタイル一行!
ジェンタイル達を追って再会した幼なじみのエクソシスト(神官)・カレンを新たに仲間に加え、舞台は王都・精霊樹ユグドラシルへ。
ボンさんが死んだりを滅茶苦茶にしたりとてんやわんやしながら風精霊を探す最中、
一行は陰険少女マーガレットと、何の因果か対決することに。
ブチギレモードのジェンタイルと何かを企むマーガレット、勝利は一体どちらの手に!?

4 :
「保守しなくても落ちないのかにゃ?」
ねこは生乾きのコンクリートに満足そうに足跡をつけていた

5 :
久しぶり、不在しててすまんな。
名前:キャプテン・H・スパロウ
職業:海賊
性別:男
年齢:4、50過ぎのおっさん
身長:短い
体重:軽い
性格:短気
外見:不細工、ちり毛にアミアミの付け毛
備考:どっかで見た事ある顔のおっさん、今は海賊をしている

6 :
>「――汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ」
俺のフランベルジェが振り下ろされる刹那、マーガレットの唇から詠唱が紡がれた。
瞬間、極光。
>「リンクAct2‐魔力附与‐――!」
ギィン!と硬質の衝撃音。肉を断つ手応えどころか、何かに弾かれたような痺れが返ってくる。
ひやりとした風が俺の頬を嘗め、濃霧が晴れれば、そこにいたのは――
>「霊装――極寒騎士《フローズンナイト》!」
氷の鎧と氷の剣を装備した甲冑騎士がそこにいた。
うわ、なにこれカッコ良い。
>「まさか、魔力附与も霊装も知らないなんて……言わせないわよ、センパイ?」
氷兜の奥に光る双眸が、ドヤっと輝いた。
知らなかったよーーーっ!
え、なに、精霊術ってこんなこともできるの?なんで教えてくれなかったんだよ炎精霊!
<<魔力附与も霊装も、対悪魔戦用の殲滅術だからな。汝が悪魔に喧嘩売るつもりならば教えたが>>
あー。そういえば元の歴史軸では、大先輩を初めとして俺はわりと悪魔とも仲良くやってたからな。
必要ないっちゃあ必要ない技術なんだろう。炎の鎧を纏ったとして、それが大学受験にどんだけ役に立つんだって話だし。
ん?じゃあ、なんだ。このエストリス大修道院ってのは、元の歴史軸の時代から悪魔しの尖兵を育成してたってことか?
戦争でもおっ始めるつもりだったのかよ。とにかく、ここで明らかな不利を悟られるわけにはいかない。
「あーうんうん、知ってるぜもちろん知ってるよ!精霊の魔力がアレしてコレするやつだろ!」
話を合わせる俺。
>「ジェンタイルさん逃げてぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
場外から叫ぶカレン。
>「もう遅い!!」
レイピアを突き上げ攻撃動作に入るマーガレット。
生まれた氷の刃は、俺のまわりに球状に展開し、その中心へ切っ先を向けて――集束。
>「氷結の《アイス・メイデン》――避けきれるかしら?」
望まれる結果は串刺しの俺!
既に逃げ場はない。炎を展開して溶かしつくそうにも、この量はとても捌ききれるものじゃない。
絶対の回避不可領域。迫り来る刃の雨に、思わず目を瞑り――
>「避ける必要なんてないさ、この程度ならな」
覚悟していた痛みは、こなかった。
『なんとぉ!ここでエセsラサイドから乱入ー!
 マーガレット女史のアイスメイデンに対し、顔有りペプシマンがバリアで援護!これは明らかなルール違反です!』
広場がざわつく。突如のメタルクウラの闖入と、奴がしたことの意味は、セコンドの領分を越えての過介入。
最初に決めたルールとして、このバトルは完全なタイマンであり、仲間の援護は反則負けだった。
メタルクウラの存在は、間違いなくそれに抵触。この時点で、俺の負けは確定――
いや。
「何勘違いしているんだ……まだ俺のターンは終了してないぜッ!」
『しかし、貴方のお仲間さんが貴方を護る為に介入してきたわけですから、これは貴方側の反則――』
「『錬金魔法』――」
俺は実況を遮って、そう言い放った。
それだけで場の空気が一段と上昇する。これだ。この空気、この雰囲気。この場の全員だって飲み込める、俺のペース。
メタルクウラのボディを軽く拳で叩いて、言う。
「こいつが俺の霊装だ。錬金術によって創りだした金属素体に精霊を宿し、戦闘存在として顕現させる……。
 霊装を超えた、言わば錬金による武装!『武装錬金』――!! 霊装名は『鋼鉄の益荒男《メタルクウラ》』!」
<<またとんでもない嘘が飛び出たな>>
これぐらい突飛なほうが確証を求めづらくてバレにくい。なにより勢いで押しきれる。
もとより、ハッタリと屁理屈は俺の得意分野だ。精霊術で完全に格上のマーガレットに拮抗しうるとしたら、これしかねえ。
『つ、つまり、その顔有りペプシマンはエセsラさんの霊装だから反則ではないと……?』
「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」
マーガレットを指さして、俺はメタルクウラのケツを叩いた。

7 :
>>5
【うおおおおおおおお!おかえりなさい!】

8 :
マーガレットは今度こそと勝利を確信していた。
だが、彼女等を待ち受けていたのは――――思いもよらない結末だった。
>「避ける必要なんてないさ、この程度ならな」
突如、ジェンタイルの背後に現れるメタルクウラ。
バリアが展開され、氷の刃が弾かれる。水のヴェールを突き破り、ローゼンの額に刺さった。
>「NOOOOOOOOOOOOOO!!」
「いやあああああああロゼ兄ぃーーーーーーーーーーー!!」
ローゼンとカレンの悲鳴をバックに、マーガレットはただただ唖然と開いた口が塞がらなかった。
>『なんとぉ!ここでエセsラサイドから乱入ー!
 マーガレット女史のアイスメイデンに対し、顔有りペプシマンがバリアで援護!これは明らかなルール違反です!』
広場が途端ざわめきに包まれ、中にはブーイングを発する者も。
メタルクウラは一旦バリアを解除するとマーガレットに提案する。
>「私の乱入のせいで双方納得がいかないかもしれないが。
マーガレット、この戦いはお前の勝ちだ 」
メタルクウラの言う通り、マーガレットが出したルールに則れば、明らかなジェンタイルの負け。
しかし、誰より一番納得出来ないのは他ならぬマーガレット自身で。
展開は更に思わぬ方向へ。ここでジェンタイルの屁理屈という名の悪あがきが始まった。
>「何勘違いしているんだ……まだ俺のターンは終了してないぜッ!」
>『しかし、貴方のお仲間さんが貴方を護る為に介入してきたわけですから、これは貴方側の反則――』
>「『錬金魔法』――」
マーマレードの実況を遮り、ジェンタイルはメタルクウラこそ霊装、いや霊装すら超えた武装錬金だと主張した。
「(ああ、マーガレットにそんな屁理屈が通用する訳――)」
だが、マーガレットは口を挟もうとはせず、それどころか――笑っている。
――――――まさか、マーガレット。このまま試合を続行する気か?
>『つ、つまり、その顔有りペプシマンはエセsラさんの霊装だから反則ではないと……?』
>「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」
どうします?と言いたげに実況がマーガレットに視線を投げる。
マーガレットは――相変わらず微笑んだまま。

9 :
「良いわよ、試合は続行…「もう止めて下さいッ!!」
怒りを含んだ鋭い声が場を制し、全員が大声の主を見やる。
涙で目を潤ませたカレンと、血だらけのローゼンが、マーガレット達へと歩み寄る。
「もう試合は止めて下さい!ローゼンさんが怪我してるんですよ!?」
>「フフフ、まさかこんなアクロバティックな方法で僕を攻撃してこようとは……
>エクソシスト風情がなかなかやるね」
ローゼンは出血の為か意識朦朧で、間もなく気絶してしまった。
カレンはローゼンを支えたまま、マーガレットとジェンタイルの間に割って入る。
「マーガレット、今すぐこんな馬鹿げた戦いは止めるんだ」
「何を言ってるのカレン。試合は続行よ」
静寂が張り詰める。
両者ともに一歩たりとも退こうとはしない。
苛々としたマーガレットがドスの効いた声を上げる。
「……退きなさい」
「イヤです」
最早、怒りの限界点は突破していた。
「退けと言うのが分からないの!!?」/「止めろと言うのが分からないんですか!!?」
吠吼する二人、氷槍と鎌鼬が激突する――――――!
「お止めなさい、二人共」
音が止んだ。マーガレットやカレン、見習いエクソシスト達の誰もが凍りついた。
そこにいたのは一人の青年。白髪を束ね、神官らしい服装は凍てつく氷を思わせる。
氷槍が蒸発し、鎌鼬は風と解けて消える。
男はマーガレットとカレンを交互に一瞥すると、静かに言った。
「マーガレット、霊装を解きなさい」
「…………………………はい、先生」
霊装を解き、マーガレットはうなだれる。先の好戦的な態度は一瞬にして消え失せた。
男はローゼンを姫抱きし、ジェンタイル達に向き直る。
「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい。
 私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」

10 :
>「こいつが俺の霊装だ。錬金術によって創りだした金属素体に精霊を宿し、戦闘存在として顕現させる……。
>霊装を超えた、言わば錬金による武装!『武装錬金』――!! 霊装名は『鋼鉄の益荒男《メタルクウラ》』!」
私の胸を叩いたジェンタイルがまた適当なことを言った。
さすがにマーガレットにそんな冗談は通じないだろうと、私は思っていた。
しかし、マーガレットの様子を見るからには乗り気のようにも見えるな。
これは試合を続行するのか?
>「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」
「任せてくれっ!」
私は尻を叩いたジェンタイルの後ろに回り込み、戦争男直伝のパロスペシャルを仕掛けてやった。
>「良いわよ、試合は続行…
「あぁ、ここからはお前と私のタッグで
>「もう止めて下さいッ!!」
私とマーガレットの台詞はカレンに遮られた。
>「フフフ、まさかこんなアクロバティックな方法で僕を攻撃してこようとは……
>エクソシスト風情がなかなかやるね」
「ゲーッ!ローゼンに当たってた」
私はジェンタイルに仕掛けたパロ・スペシャルを解いて、ローゼンの方を見た。
ローゼンが気絶して崩れ落ちそうになったところをカレンが支え、カレンは試合を行っていた両者の間に入り、マーガレットと口論に至る。
>「お止めなさい、二人共」
口論が苛烈になって両者が精霊の力を使おうとした矢先に、一人の男が現れた。
マーガレットもカレンも精霊の力を消し、男の指示に従っている。
>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい」
顔有りペプシマンとか言っていた生徒だけは絶対に許さんがな。
「いや、こちらこそ私の仲間がそちらの生徒に迷惑をかけてしまい、申し訳なく思う」
>「私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
「ジェンタイルよ、どうするのだ?
私はこの機会に行った方が良いと思うが」

11 :
「ごっつ尻痛いわぁ。うわ、こいつ小便してるやん……」
空に浮かぶ巨大な船、「ホワイトパール・イン・ソーセージ号」の主である
海賊、キャプテン・H・スパロウは顔を苦痛に歪めながら
座布団の代わりにアザラシのゴマちゃんを椅子に敷いていた。
彼はかつて傭兵集団を率いていたが、隊長の多額の借金が原因となり
親会社が傭兵部隊を売却し、解散。更には彼までもがその負債を背負う羽目になってしまっていた。
会社の社長である桂・イラッシャイ様の命により、彼は空飛ぶ海賊船で大いなる借金返済の旅に出たのであった。
「ごっつ暇やわ。それにしてもお宝なんてどこにあんねん、そんなに簡単に探せたら苦労せぇへん
わ、あの社長死んだらええのに。ん?あいつら弱そうやな、ええカモやで」
地上に人影を見つけたキャプテン・Hは海賊船を急降下させロープを放ちながら
地面に着地しようとした。
その瞬間だった、片足を地面にしたたかに打ち付けたキャプテンの苦悶の表情が
悲痛なものに変わる。
明らかに、足をあらぬ方向へぐにゃりと曲げてしまったのだった。
「あかん……足いってもうた……。
お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」
ジェンタイル達の顔に気付きそうになったが
子ゴリラの知能はそのまで高くはなかった。
「まぁ、ええわ。思い出せへん。」

12 :
>9-10
>>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい」
……ん? 光の勇者? そうだ、僕は光の勇者だった。
おい! 光精霊は出してないのに正体がバレバレやん!!
気付けば銀髪美青年に抱かれていた。
>「私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
院長先生!? 院長先生といえばてっきり爺さんが出てくるかと思ってたよ!
>「ジェンタイルよ、どうするのだ?  私はこの機会に行った方が良いと思うが」
僕は眠たいので成り行きに任せてこのまま寝ておくことにした。
僕がちょっとぐらいサボったって話は進むのである。
・・・
・・・
・・・
固まる世界! 巻き起こるTHE☆WORLD!! 
名も無き精霊達が異変を感じ時が止まったと騒ぎ始めた!
「嘘おおおおおおおおおおおお!? 気のせいだよ!? 皆返答を迷ってちょっと黙ってただけだよ!?」
変な伏線になっては大変なので慌てて飛び起きる。
誤魔化しが効かなくなる前にさっさと話を進めるに限る!
「謹んで同行させていただき……」
>11
「ぎゃああああああああああ!!」
空から海賊船が急降下してきた! 正確には空賊船か!?
これはマッチョでいかつい屈強な男達に取り囲まれて身ぐるみはがされるパターンだ!
が、降りてきたのはむさ苦しい髪型をした貧相なおっさん一人。
しかも着地に失敗して足が変な方向に曲がった。別の意味で絶叫ものである。
「ぎゃああああああああああ!! 痛い痛い!」
>「あかん……足いってもうた……。
お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」
「金と食料!? そんな急に言われても……おやつに食べようと思ってた桜島大根なんてどうかな!?
っておやつ食べてる場合じゃないでしょ!?」
>「まぁ、ええわ。思い出せへん。」
「そうそう、まあいいからそれどうにかしてもらおう! ほら丁度ここ修道院だし!」

13 :
>「任せてくれっ!」
以心伝心、即意答妙、撃てば響く鐘の如く、メタルクウラは応答する。
俺の首に足をかけると、そのまま一撃必☆パロスペシャルをぶちかましてきやがった。
「いだだだだだだだ!俺じゃねーよあの女だ女!」
<<とか言いつつきっちり耐えてる辺り汝もたいがい慣れてきたな>>
逆だ、メタルクウラがようやく手加減を覚えたってことだよ。
敵を前にしてコントかまし始めた俺たちを見てなにを思ったか、マーガレットは口端を吊り上げる。
>「良いわよ、試合は続行…「もう止めて下さいッ!!」
マーガレットが俺の屁理屈を許容せんとしたそのとき、カレンが絹を裂くような声でそれを制した。
>「もう試合は止めて下さい!ローゼンさんが怪我してるんですよ!?」
言われて、見る。血だらけのローゼンが虚空を見上げてブツブツ言っていた。
「うわーーっ!?何があったんだし!」
アカン、この前みたいな邪神モード発動しとる!こうなったらこいつ、妄言しか吐かないからな。
ローゼンを心配する俺とメタルクウラを傍目に、カレンとマガーレットが口論を始める。
一触即発ってカンジ。あのヘタレ全開のカレンが、ここまで食い下がるなんて。何か意地でもあるんだろうか。
そして。
>「退けと言うのが分からないの!!?」/「止めろと言うのが分からないんですか!!?」
互いの精霊術を行使し、正面衝突する氷と風の刃。無音の剣戟が無数の刀傷を広場に生み出す。
>「お止めなさい、二人共」
穏やかにそれを制する声があった。
あれだけやかましかった精霊同士のぶつかり合いが嘘のように止み、静かに薙ぐ微風が地面を洗った。
そこにいたのは謎のイケメンだった。品の良い仕草でローゼンをお姫様抱っこする。
>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい。
 私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
「光の、勇者――」
ああ、やっぱりそうなのか。
ローゼンを初見で光の勇者と見破れるのは現状この歴史軸には存在しない。光精霊そのものが不世出のものだからだ。
つまりは、この大修道院が歴史改変を生き残ったという何よりの証左。カレンの存在を裏付ける完全事実(パーフェクトパス)。
>「ジェンタイルよ、どうするのだ?私はこの機会に行った方が良いと思うが」
「うーん」
知りたいことがある。それに答えを用意できるだろう人物の誘い。
断る理由はどこにもなかった。強いて言えば、ロスチャイルド先生からそこはかとなく漂う胡散臭さだが……
なに。如何わしさならこっちも負けちゃいねーさ。
<<物凄い理論展開を見たぞ今>>
積極的にフラグ立ててかねーと終盤の展開に困るぞっ。
>「あかん……足いってもうた……。お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」
そこへ落ちてくる海賊風のおっさん。
なんで空から海賊が!?ソマリアで海自にでも狩られたのか!?
つーかどっかで見たことある顔だよな、このおっさん……。
>「そうそう、まあいいからそれどうにかしてもらおう! ほら丁度ここ修道院だし!」
いつのまにか復活していたローゼンがおっさんを強引にパーティに加える。
あれ?『仲間になった!』の表示が出ない。ステータス画面は普通に確認できるから、NPCじゃないはずなんだけど。
<<昔どこかでパーティ組んだんじゃないか?>>
それしか考えられねえな。システムのバグじゃなけりゃの話だが。
「ともあれ、修道院で水と食料も貰って来いよ。汝貧しきに施すべし、だ」
修道院へゆく道すがら、俺は院長に質問を投げておくことにした。
「向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?」

14 :
>『向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?』
――――――――――――――――――
怪我人のローゼンとスパロウを保健看護室へ運び、ジェンタイル一行は院長室へ。
ロスチャイルドはヴェルヴェットの椅子に深く座り、ジェンタイル達にソファに座るよう促す。
「――――さて、ジェンタイル君。早速だが質問に答えさせて頂こう。
 まずは歴史改変の回避の件だったね。話すと長くなるから先に結論から話そう。
 この修道院はね、風精霊の魔力と光精霊の最後の力によって守られているんだ」
――――それは、この世界に歴史改変が起こる直前。
光精霊が自らが消失する代わりに、最大限の魔力を使い、この修道院を守った。
だが歴史改変の力は凄まじく、一部の者――ロスチャイルドやカレン等のごく一部の人間――以外から、光精霊の存在は『消去』されてしまった。
今は、失った光精霊の代替を努めるように、風精霊がこの修道院を守っている。
ロスチャイルドの語りは続く。
「光精霊が居なくなった今も修道院が存在していられるのは、ひとえに風精霊様のお陰です。
 ……とはいえ、そう遠くない未来に、限界が来ることも分かっていました」
遠くを見据えるロスチャイルド。
窓から差し込む日差しを彼の銀髪が反射させる。
「何時か、この状況を覆すことの出来る『誰か』を探し出す必要がありました。
 まさにその時でした。貴方達の存在を知ったのは。これは精霊様のお導きだと思ったのです」
立ち上がり、ジェンタイル達の元へ歩み寄る。
彼等を見つめるロスチャイルドの目は、期待に満ちていた。
「貴方方の力を借りたいのです。私達に出来る事ならば何でも協力致します」
そう言ってロスチャイルドは微笑む。
肝心の二つ目の疑問には答えぬまま、ロスチャイルドは言う。
「今お返事なさらなくても結構ですよ。
 何なら、暫く此処で寝泊まりしては如何です?精霊の授業の見学もご自由ですよ」

15 :
成り行き上、襲いに来たはずのスパロウも同行することになり、私達は修道院へ。
怪我をしているローゼンとスパロウは医務室に、私達は院長と話をするために院長室に。
道中でのジェンタイルの質問に対し、院長が現状の説明と共に答える。
私は黙って聞いておくことにした。
院長の話が終わった。
少し考えてから、私は院長に言う。
「医務室にいる仲間達と相談した後、答えを出させてもらおう」
私はソファーから立ち上がると、ジェンタイルの手を引いて院長室から出た。
院長室から出た私は、ジェンタイルの肩に手を置く。
ローゼンの生命反応をサーチして、反応のある場所にジェンタイルと共に瞬間移動をした。
ローゼンの目の前に、私達は突然現れる。
院長室でのことを、私達はローゼン達に教えたのであった。

16 :
>13
>「向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?」
「んーそりゃあ悪魔しの殲滅術ぐらいやってても特に不自然はないんじゃない? 
だって基本的に悪い奴だから悪魔って言うんでしょ。光と闇は属性システム的に天敵だしねえ」
とはいえ、お約束という名の常識やステータス画面と言う名の建前に縛られずに核心を突くのがジェン君の得意技。
思いがけない情報を聞き出せるかもしれない。
>14
院長室に招かれ重要会話シーン……と思いきやむさ苦しいおっさんと二人で保険看護室に隔離されるらしい。
「ちょっと、主人公ハブるってどういうこと!?」
ぶつくさ言いながら、取ってつけたような“保険看護室”というプレートが掛かったやけに豪華な扉を開ける。
その瞬間。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
絢爛豪華な調度品。天井に煌めくシャンデリア。ずらりと並んだ女装美少年が出迎える。
「ただいま、我が可愛い弟たちよ!」
隔離部屋最高! 重要会話シーンなんて知らんがな。
『関係ないけどバブル時代には内定を出した学生をリゾート地の豪華ホテルに放り込んで逃げないようにキープしていたそうだよ!』
救急箱を持った女装美少年が駆け寄ってきて、前髪を上げる。
「お兄ちゃん大丈夫!? ……あれ? もう治ってる」
「お兄ちゃんはなにしろ超イケメンだからな! これぐらい何ともないさ!」
「さすがお兄ちゃん、素敵! 長旅で疲れたでしょう。
すぐにご飯の用意をするからその間にお風呂に入ってきて」
「う……」
全身汗まみれ顔は血まみれで入りたいのは山々だ。
だけどこのパターンは絶対誰かが乱入してきて放送事故になるに決まってる!
「んー……」
また地の文で脇汗とか書かれたらイケメンキャラとしては死活問題だしな。
まあ女装美少年なら乱入してきてもそれはそれでいいし警戒すべきはこのむさ苦しいおっさんだけだ。
「君が男の裸が大好きななのは分かるけど絶対入ってくるなよ!!」
おっさんに有無を言わせぬ目力でそう言い渡し風呂場に入って、内側から鍵を閉める。
数分後。誰も乱入して来る気配はない。
念のために言っておくと浴室内には必要以上に湯気が充満しているので別にサービスシーンにはならない。
「なんだ〜、よく考えてみればマンガやアニメじゃあるまいしいちいちそんなイベントなんか起こらないよな〜!」
>15
そう言った矢先、目の前にクウ君たちが瞬間移動してきた。
「そうやって乱入するんかいッ!! 
クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
瞬間移動万能すぎるだろ! おっさんにばっかり気をとられてこのパターンはノーマークだった!

17 :
「うわ、こいつらあかんわ……なんか横文字で難しい話してるやん。
俺、歴史苦手や。」
修道院で何やら話をしているようだが、キャプテンには
理解出来ないようだ。
そのまま、成り行き上の展開でキャプテンは担架らしきアレに運ばれて
保健室みたいなのに隔離されてしまった。
チリ毛のおっさんこと、キャプテン・H・スパロウは
部屋にあった金目の物を鋭い視線で探し始める。
その形相はまるで檻に閉じ込められたpンジーである。
>「君が男の裸が大好きななのは分かるけど絶対入ってくるなよ!!」
最近流行の森ガールっぽい女か男かわからない感じの
若い子がおっさんに警告する。
しかし、こういう場合は逆に襲ってくれといっているようなものだ。
特に、Sっぽいが実はとんでもなくドMな子に限ってこういう思わせぶりな
言葉を言うものだ。
しかし、今のおっさんにはそんな事に気を振り分けるだけの気力は残っていなかった。
風呂場に入ったのを確認したら即、部屋を物色し始めるおっさん。
麻袋にありったけの物を詰め込んでいく。
「なんや、大したもんあれへんやんけ。俺も風呂入りたいわぁ〜ここ
空調効いてんのかぁ?暑いわぁ……あ!?
あのガキ……鍵閉めてるやんけ!!しゃあないわ……借りるで。」
おっさんはおもむろにローゼンの持ち物から使えそうな
衣服を取り出すと、全裸になり部屋にあった手洗い場で
簡単なシャワーを始めた。
「うわ……ごっつサイズ小さいやん。何これ。」
ローゼンの服に着替えたおっさんは既に、海賊の面影を失っていた。
ただの気持ち悪いゴスロリ・ゴリラの誕生である。

18 :
斜陽挿し込む院長室で、ロスチャイルド先生は紅茶のカップを何度か傾けながら語った。
俺は紅茶が駄目な子なので、コーヒーにたっぷりの砂糖を溶かし込んで啜る。その熱を、嚥下しながら。
>「――――さて、ジェンタイル君。早速だが質問に答えさせて頂こう。
 まずは歴史改変の回避の件だったね。話すと長くなるから先に結論から話そう。
 この修道院はね、風精霊の魔力と光精霊の最後の力によって守られているんだ」
「はあん。流石は精霊術の総本山ってことッスね」
<<やはり神格精霊の加護か。喜べ汝、光明が見えたぞ(光精霊だけにな)>>
どういうことだってばよ?(うぜぇ)
<<神格精霊を奉じる全国津々浦々に寺社仏閣がいくつあると思う?この修道院のように、運良く改編を免れた場所が、
  例え全体の一割だったとしても、軽く4ケタは下らないということだ。つまり、>>
俺たちの他にも改編を凌ぎ切った連中が少なからずいる――!
つまりはそういうことだった。
思わぬ天啓。悪魔しの総本山がそうであるように、反撃の狼煙はそこかしこで上がっていてもおかしくないのだ。
>「何時か、この状況を覆すことの出来る『誰か』を探し出す必要がありました。
 まさにその時でした。貴方達の存在を知ったのは。これは精霊様のお導きだと思ったのです」
熱の混じった口調で院長先生は言う。
>「貴方方の力を借りたいのです。私達に出来る事ならば何でも協力致します」
顎に手を添えて、返答や如何にか思索する俺を、メタルクウラの太腕が制した。
>「医務室にいる仲間達と相談した後、答えを出させてもらおう」
「だな。俺たちのリーダーはローゼンだ。俺の一存では決めかねます」
暗転。メタルクウラの瞬間移動が発動する。
視界が晴れると、そこにはローゼンがいた。
シャワー浴びてた。
>「そうやって乱入するんかいッ!!
 クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
「突込みどころそこぉぉぉぉ!?ちょっ、ストップ!これ以上はソフ倫からまた警告文来ちゃう!服着ろーぜん!」
俺はシャワー室と脱衣所を隔てるシェードを開いた。脱衣かごの中のローゼンの服を探す。
タオルと一緒にシャワー室に放りこんで、ローゼンに着させる。
それで完璧だ。有害図書指定はされまい。
と。
>「うわ……ごっつサイズ小さいやん。何これ。」
ローゼンの服があった。
何故か、パンッパンに生地が張った状態で、既に着用されていた。
ゴリラ顔のゴスロリおっさんは、先刻空から降ってきたあいつだった。
「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」
大声でカレンを呼ぶ。
女装っ子のあいつなら、ローゼンの着替えも用意できるだろうという目論見。

19 :
「あれ?僕もしかして気づかれてない?」
実は女装男子に混じっていたカレン。
怪我の方はもう大丈夫だったようなので、他の下級生達とローゼンの世話に廻っていた。
「ローゼン兄さん、湯加減の方は……」
>「そうやって乱入するんかいッ!! 
クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
>「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」
何も知らないカレンは呑気に返事をし、ドアを開ける。
「はい〜?ってきゃあああああああああああああ!?」
地獄が広がっていた。
何でオッサンがローゼンの服を着ているのだとか
何故ジェンタイルとメタルクウラが風呂場にいるのだとか
色々ツッコミどころが満載過ぎて悲鳴しか出てこないカレンだった。
「って!何でっ!私までっ!アイツ等の世話しなきゃいけないのよぉおっ!」
「マーガレット……君がローゼン兄さんを傷つけたのは事実でしょ?」
「何よ!あの田舎勇者がよけきれなかったのが悪いのよ!私のせいじゃないわ!」
廊下でカレンとマーガレット二人、濡れてしまったジェンタイル達の分の服を運んでいる。
マーガレットは忌々しげにドアを蹴って開ける。よい子は真似してはいけない。
「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
因みにジェンタイルとメタルクウラの服は男子用……つまりドレスのようなキュロット。
ローゼンも戸籍上男性なので女物だ。
オッサンには普通のキュロットが手渡された。
「郷に入っては郷に従えよ。文句言わずにき・な・さ・い〜〜!」
無理強いレベルで着せる。
そしてタイミングを見計らっていたように下級生男子達が現れる。
マーガレットはこれでもかと言わんばかりに厭味ったらしい笑顔を向ける。
「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
「はい、マーガレット姉さん!」
ジェンタイル達が下級生達に囲まれて化粧される様を見て、高笑いするマーガレットなのであった。

20 :
>「そうやって乱入するんかいッ!!
>クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
「あぁ、確かに風呂場で裸のお付き合いをしないのは、失礼になるんだったな」
裸の私はローゼンの方に近寄ろうとしたが、ジェンタイルに防がれる。
ジェンタイルは脱衣場のドアを開けて、ローゼンの新しい着替えを取りに行こうとした。
そしたら、私は見てしまった。
スパロウがローゼンの服を着ているのを。
私は、絶句した。
>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
マーガレットが扉を開けて、私達の着替えを持ってくる。
「いや、私は裸が常だから。
むっ、他のメタルクウラから緊急の連絡だ!
では、さらばだ」
私は無理矢理に服を着せようとするマーガレット達から、瞬間移動でこの場を去って、逃げることに成功したのであった。

21 :
>17-20
>「突込みどころそこぉぉぉぉ!?ちょっ、ストップ!これ以上はソフ倫からまた警告文来ちゃう!服着ろーぜん!」
「えっ、僕18歳未満じゃないのに!」
慌てて外に出ていったジェン君が悲鳴をあげる。
>「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」
>「はい〜?ってきゃあああああああああああああ!?」
クウ君が院長先生から聞いた話を教えてくれた。全裸で。
光の神格精霊が自らの存在と引き換えにこの修道院を守ったらしい。
「そっか、やっぱり師匠は本当は光の勇者だったんだよ!
ただその事を忘れてしまっただけだ!」
>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
「なぜにフリフリの女物を着る流れに!?」
>「いや、私は裸が常だから。
むっ、他のメタルクウラから緊急の連絡だ!
では、さらばだ」
「あ、うん。また今度!」
クウ君は瞬間移動で逃亡した!
>「郷に入っては郷に従えよ。文句言わずにき・な・さ・い〜〜!」
「それもそうだ。ここでは女装して当然だな!」
妙に納得しながらドレスのようなキュロットを着る。
>「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
>「はい、マーガレット姉さん!」
「ちょ!そこまでせんでいい!
どうしてもやりたいなら眉毛は絶対剃るな! 書かなきゃ眉毛無いとかシャレにならんから!
涙で流れて感動シーンが台無しになるからマスカラはいらん! バブル時代の真っ赤な口紅は勘弁!
あとスイーツみたいな厚塗りもギャルみたいなケバいアイメイクも禁止ね!」
騒いでいる間に弟たちはプロの指捌きで手際よく化粧を完成させた。
「出来ました!」
作品を披露しあうようにジェン君と対面させられる。
「ちょっとどうなったの!? やめてマジでやめて!」
出オチギャグな顔にされてたらどうしよう!?
「わあ……!」
ジェン君を見て思わず歓声が漏れた。勝気な瞳をしたマジもんの美少女がそこにいた。

22 :
「うわぁ、なんちゅう顔してんねん。今流行のシーメールとかいう
やつか?」
化粧をしたジェンタイルをまじまじと見つめながらキャプテンは
自分もパフを取り出して化粧をし始めた。
「うわ、眉毛ごっつ書き難いわ。これ、もっと太いのないの?」
やがて、キャプテンの顔は白塗りの珍妙なゲイシャガールズ風に変身完了していた。
口元にはやけにあざとい紅、顔には白粉と麻呂みたいな小汚い眉毛が書かれている。
そんなキャプテンを知ってか知らずか、停留してあった空賊船から1人の男が降り立つ。
「浜田さん、何してはるんですか?…あ、この人ら前にも会った事ありますやんか。
えーと、あの、ローゼンさんでしたっけ。
うわ、気持ち悪い顔……ようそんなピグモンみたいな顔で化粧出来ますね」
男の名前は遠藤章造。ローションと千秋が大好きな青年である。
「しかし、凄い池面が多いな……凄い池面ばかりじゃないか。
ここはパラダイスじゃないか。池面パラダイス……」
遠藤は修道院の男子達の臀部を、じっとりを見つめていた。
その横でキャプテンこと浜田は前田敦子の写真を手にとっていた。
「この娘、顔のパーツがより過ぎちゃうか?」

23 :
前回までのあらすじ。
ゴスロリおっさんが現れた!
おれは逃げ出した!しかしまわりこまれてしまった!
メタルクウラは逃げ出した! えっ、成功?
>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
マーガレットから差し出されたのは、カレンと同じ男子用の修道院制服。
ひらひらのフリルをふんだんにつかったきゃわわな仕様の、女キュロットだった。
「また女装ですかァーっ!? バベル編とはなんだったのか!」
あれはどういう経緯で女装したんだっけ。あーそうだ、ガチホモから逃れるためだっけ。
ガチホモの脅威はなくなったが、代わりに男の娘と男装麗人に取り囲まれているんだから、
人生って一寸先は闇だよな、つくづく。
<<哀愁ただよう諦念が見えるな。泣ける話だ>>
いやはや。どこへ向かってるんだろうねぼくたち。
>「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
「マジでどこ向かってんだよ!!解説してねーで助けやがれ炎精霊!」
<<吾はいつでも可愛い女の子の味方だ>>
「おめー後でぜってーシメっからな覚えとけよこの野郎ぉぉぉぉぉぉ……」
で、場面転換。
>「うわぁ、なんちゅう顔してんねん。今流行のシーメールとかいうやつか?」
「やめろよ!ゴスロリのおっさんにそーゆー感想抱かれるとマジ自死を選ぶレベルなんですけど!」
かくいうおっさんは、エンタの神様あたりに出てきそうなオリエンタルな化粧を完了していた。
なんちゅうか、うん、その……個性があっていいんじゃねえかなっ!
>「うわ、気持ち悪い顔……ようそんなピグモンみたいな顔で化粧出来ますね」
「身も蓋もないこと言うのやめたげてよぉ!」
>「ちょっとどうなったの!? やめてマジでやめて!」
同じように化粧を施されたローゼンも人垣から放り出される。
こいつなんで女のくせに女物のキュロット着てんだ。
ん?あれ?おかしくないな!おかしいのは俺でしたね!すいません!
>「わあ……!」
対面したローゼンは、髪を下ろし、薄化粧を施され、小奇麗に身なりを整えられた――どこから見ても女子の格好だった。
「う……」
顔面のあたりに血が集まっていくのがわかる。ファンデーションがそれを隠してくれるのがありがたかった。
何だかんだでこいつすっげー化粧映えすんのな。レイヤー歴長いから素地も完成してるわけだし。
「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
だっ。と、俺は逃げた。ダッシュで逃げた。アビリティとんずらだ。
部屋から脱出し、修道院の中を駆け抜け、どっちに行けばどこに着くのかわからないまま走る。
すぐに酸素が足りなくなった。金魚のようにパクパクと喘ぐ。心臓がカエルの喉みたいにバクバク言ってる。
そう。走ったから。ダッシュしたから俺の胸はこんなにも脈打っているんだ。
ぜーはー言いながら辿り着いた先は、先ほど通された院長のいる部屋だった。
そっと扉を開けて、中に滑り込む。院長先生がご在室かどうかご存じないけど、あわよくば、ここでやり過ごそう。

24 :
>「わあ……!」
>「う……」
「うわあーっ!二人ともすっごく似合ってます!」
「フン!私の弟達の手にかかればこんなのちょちょいのちょいよ」
すっかり見違えた二人に賞賛の言葉を送るカレン。
マーガレットもその出来栄えに満足しているのか、少し嬉しそうだ。
さて、着替えも終わったし施設の案内でもしようかとカレンが提案しようとしたその時。
ローゼンの顔をまじまじと見ていたジェンタイルが、
>「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
「ちょっ、ジェン兄いいいいいいいい!?」
逃げ出した。
脱兎のごとく、凄まじい奇声を上げながら。
カレンが驚く後ろでマーガレットは「何してんだか」と呆れる。
予想外のことに一瞬茫然とし、すぐに我に返った。追いかけなければ。
「ま、待って下さいジェン兄ー!」
慌ててばたばたと追いかけるカレン。
マーガレットも「面倒くさい」と言いながら続く。
ジェンタイルは此処にきたばかりだ。
この修道院は馬鹿みたいに巨大なので迷子になりやすい。
カレン自身、初めてここに来た日に丸一日迷子になった経験があった。尤も、本人が方向音痴なのもあるが。
「ハァ、ハァ…………どこですか、ジェン兄ー!!」
探し人ならすぐ近くのドアの向こう側にいるのだが、勿論カレンが知る由などない。
何処行ったんだろうとキョロキョロ辺りを見回し、カレンは南側を探すことにしてその場を離れた。
一方、院長室では。息を切らし肩で息をするジェンタイルの背後で笑う声。
そこにいたのは院長のロスチャイルド。だが、雰囲気は違う。
先程の物静かな空気はどこへやら、掴みどころのない子供のような微笑みだ。
『かくれんぼかい?随分息切れとるけど』
その喋り方は、まさしく風精霊のもの。
先程カレンに取り憑いたように、ロスチャイルド銀髪がまっさらな白に変わっている。
ロスチャイルドに取り憑いた風精霊はジェンタイルと視線を合わせると、双眸が三日月型になる。
『そーいや、あんさんウチに聞きたいことあるんやって?さっきチラッと聞こえとったんよ。
 ……ん?そこにおるんは、炎精霊か。ははぁ、どーりでさっきから暑いと思うとったんや』
で、と風精霊はあぐらをかく。
見た目はロスチャイルドのままなので違和感の塊だ。
『何や、ウチに質問せんのか?どーせ暇やし、あーんなことやこーんなこと、何でも答えたるで?』

25 :
>22
いつの間にかおっさんがゲイシャガールズ風になっていた。
しかも仲間が増えてるし。
「あ、な〜んだ、よく見ればハマちゃんじゃん。何それまた新しいコントのキャラ? 極東風?
そういえば風精霊さんがハマちゃんと似たような言葉づかいだったよ。気が合うかもね!」
>23
>「う……」
>「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
ジェン君は悲鳴をあげて逃げ出した! 
今レイヤーとか言われたような気がするんだけどそれどころではない。
余程酷い顔になっているに違いない。ヘアメイクの女装美少年につめよる。
「ちょっと! 酷いじゃん!」
「誤解です!」
ヘアメイクさんがサッと鏡を差し出す。別の意味でこれはひどい!
自分で言うのも何だが文句なしの美女になっていた。悔やむべくはヘアメイクさんがプロすぎたことだ!
「きえええええええ! 好ましくない、好ましくないぞこの流れ!!」
飽くまでもここでの男の恰好をしているだけなのに孔明の罠だ!
僕は世間に蔓延するギャップ萌え狙いのふざけた男装キャラじゃないのに、その手のネタは這い寄る混沌のごとく忍び寄っていたのである。
このままでは禁断の正統派ラブコメに突入してしまう。
ここではこの格好じゃないといけないなら一刻も早くこんなところは脱出して……
「でも……」
もう一度鏡を見る。キュロットをつまんで広げてみたりくるりと回ってみたりする。
にんまりと笑みが零れる。
「……悪くない」
何を焦っていたんだ、ステータス画面と戸籍が男になってる以上男装キャラじゃなくて男キャラじゃないか。
暫くの間、僕を見るたびにどぎまぎするジェン君を見て楽しむのも悪くない。
そしてここのイベントが終わったら男の女装で大騒ぎしてたとからかってやるのである。
「決めた!」
>「ハァ、ハァ…………どこですか、ジェン兄ー!!」
ジェン君を見失ったらしきカレンちゃんがいた。
「カレンちゃん、依頼受けるよ! この修道院救ってみせるよ!」

26 :
>『かくれんぼかい?随分息切れとるけど』
ぐったりとソファに転がる俺に、声をかける存在があった。
いやあったっつってもここ院長室だから院長先生以外にいねーんだけど、ロスチャイルド院長は常時のそれではなかった。
真っ白の髪に、霧中のような捉えどころのない笑み。
顔の造形こそ院長だけど、『中身』は絶対に違うことが感じ取れる。
既視感があった――そう、あれはカレンがユグドラシル編の冒頭で見せた表情。
「……やっぱ、アンタが一枚噛んでたんだな。風精霊」
冒頭でカレンに乗り移ったのも、ロスチャイルド先生をあのタイミングで介入させたのも。
全ては、ここで光の勇者を修道院勢力に迎え入れるため。
<<あ、風精霊にはタメ口なんだ……>>
敬語使っても地だまりスケッチの野郎はあんな結果になったからな。
距離感感じさせちゃ駄目だね、フレンドリーに行こう。
>『そーいや、あんさんウチに聞きたいことあるんやって?さっきチラッと聞こえとったんよ。
 ……ん?そこにおるんは、炎精霊か。ははぁ、どーりでさっきから暑いと思うとったんや』
<<久しいな風精霊。冬コミ以来か?いや、過日は吾もチケット取れなかったから、その前のワンフェス以来か>>
「お前風精霊とは結構頻繁に会ってんのな……水精霊ん時あんだけ嫌がってたのに」
<<奴は脚本より作画を優先してアニメを見るタイプだからな。吾からしてみれば邪道の極み>>
そういえば水精霊の奴、ジョジョとかカイジとか絶対読まないって公言してたもんな。
ちなみに炎精霊はどういう基準で見るアニメ選ぶんだぜ?
<<売り上げ>>
左様か……。
「単刀直入に本題に入ろうや。聞きたいことは二つある。まずはレジスタンスの現在の勢力図……
 どこに、どれくらいの戦力を囲ってある?神出鬼没のアンタのことだ、この修道院だけじゃないんだろ?」
バベルでの仏教徒達のように、寺社仏閣や修道院のような宗教施設――神格精霊を奉じている場所。
そこには今でも歴史改編を免れた連中が潜伏してるはずだ。風精霊のネットワークなら、既に統率網を構築していても不思議ない。
思えばあの仏教徒達も、やたらに対悪魔の殲滅術に習熟していた。そう、まるで、この修道院の生徒たちのように。
その戦力規模は、光の勇者を御旗にして、すぐに全国で武装蜂起ができるレベルなのか。
「そしてもうひとつは――俺たちがどれくらい悪魔相手に戦えるかってことだ。特に俺は、対悪魔戦術ってものをひとつも知らない。
 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」
勝てないなら今度こそ修行展開だ。
俺はもう迷わない。魔王を倒すと決めたんだ。
戦う力が必要だった。実弾の如く敵を穿つ、身を委ねられる武器。例えば、マーガレットが使ったあの『霊装』って技みたいな。
女装してこんなこと言うのも締まらねえが、シリアス展開へのルート分岐が見えた気がした。

27 :
「俺も精霊欲しいわぁ〜遠藤、どっかでこうてきて。」
炎の精霊や風の精霊、光の精霊など豊富なオプションの存在に
着目した芸者風のおっさんは手下の遠藤に無理難題を命じた。
しかし、遠藤にも精霊の事など何も分かるわけなど無かったのである。
「浜田さん、無茶いわんといて下さいよ…そもそも
精霊なんて手に入れて何しはるつもりですか?」
ハマタは修道院生達の股間に電気按摩を仕掛けながら
考えてみた。
遠藤の質問の意図がよく分からないからだ。
欲しいものは欲しい。他に意味なんかあるか。
それがこの男、浜田の全てだからだ。
その欲望、幼稚園児並みの幼さである。
「なんやって?あ?−ゴルゥアァッ!!
魔王と戦うとか、ごっつ見せ場やんけ!!
俺もなんか精霊と仲良く話したいねん!!どうせならエロい女の精霊がええんと違うちゃうかぁああっ!」
遠藤の顔面に大量のツバを飛ばし、浜田は宇田川モンキーパークの
ボスザルの如き顔で罵声を浴びせる。
遠藤は仕方が無いのでその辺りに精霊がいないかどうか呼んでみることにした。
「精霊さん、いませんか?いたら返事して下さい。」
生垣の草がガサガサいい始める。なんか期待できそうだ。
しかし、出てきたのは腰を振るパンチパーマのおばさん(無表情)であった。
「あれ、精霊か?いや、違うか…でもあれでええか。
すいません、浜田さん見つかりました。」
連れてきたおばさんを見た浜田の顔は苦悶に満ちていた。
「やっぱ……ええわ。そんなんより魔王倒すんやろ?
やったら、あいつ呼んだらええやん。」
「え?あの人、呼ぶんですか?止めといた方がええんちゃいます?」
真剣な話をしているジェン達を尻目に、遠藤の顔は明らかに青ざめていた。

28 :
「あーもう、そんなに脚広げてちゃダメなんだから」
「こらこら横向かないの。お化粧がソファに付いちゃうでしょ」
「起きて、起きて」
「膝は揃えて座るのよ」
「乱れた髪もちゃんと直して」
部屋の中にクスクス笑う声がした。
したっぱ風精霊かもしれない。
「話が終わったらみんなにさっきの子はここにいるよーって教えなきゃ」

29 :
>27
ハマちゃんが精霊が欲しいとごねていると、遠藤さんが精霊を連れてきた。
>「あれ、精霊か?いや、違うか…でもあれでええか。
すいません、浜田さん見つかりました。」
どう見てもパンチパーマのおばさんである。
精霊といわれてみればそういう気もするけど実体があるような。いや、それ以前に……。
「言わないぞ! ノーコメントを貫くぞ!」
>「やっぱ……ええわ。そんなんより魔王倒すんやろ?
やったら、あいつ呼んだらええやん。」
ハマちゃんはパンチパーマのおばさんとの精霊契約を却下した。
「えーと……よければ水精霊使う? 一身上の理由で実家に帰ったリヨナちゃんのだけど」
>「え?あの人、呼ぶんですか?止めといた方がええんちゃいます?」
「魔王討伐に心強い人がいるの? 是非呼ぼうよ!」

30 :
>>26
> 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」
「おまえは無理だにゃ。魔王“軍”とならそこそこ戦えるだろうがその先が無いにゃ」
ねこはソファの前のテーブルに飛び降り前足をきれいにたくし込んだ
「ご主人様なら勝算など問う方が愚かにゃがそもそも戦わないにゃ、
戦おうとするならご主人様じゃないから勝算は無いにゃ」
ねこはジェンタイルの顔を見て意味ありげに笑った
「なお一問目は管轄外だからのーこめんとにゃ」
ねこはあなをほっていなくなった

31 :
「単刀直入に本題に入ろうや。聞きたいことは二つある。まずはレジスタンスの現在の勢力図……
 どこに、どれくらいの戦力を囲ってある?神出鬼没のアンタのことだ、この修道院だけじゃないんだろ?」
「そしてもうひとつは――俺たちがどれくらい悪魔相手に戦えるかってことだ。特に俺は、対悪魔戦術ってものをひとつも知らない。
 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」
ジェンタイルが質問する間、風精霊はただ静聴を貫いていた。そしてふ、と小さな嘆息をひとつ。
少々躊躇うような素振りを見せつつも、答えを弾き出す。
『……せやね。まず第一の質問やけど、聞いて驚かんでよ?
 ざっと数えるだけで1500の修道院と150000人の仲間たちが息巻いとる。」
けど、と表情を曇らせ、「こっからが大事やで」と続ける。
『今のうちらは迂闊には動けん状況や。魔王の配下達がうちらを見張っとる。
 下手こけば150000の仲間達の家族や親戚、友達までもが命の危険に晒される事になるで』
つまり、今こちらから武装蜂起を仕掛ければ、待つのは戦争と虐。人類側に未来はないと考えていい。
今までに武装蜂起を仕掛けた少数の人間達がどんな末路を辿ったか説明し、風精霊はまた憂鬱げに溜息を吐く。
『今は少しばかり時間が要るんや。戦うとしても、今のアンタ達やったら悪魔達の格好の餌や』
『………………今のアンタ達やったら、ね』
ふ、と悪戯っぽい笑顔に戻り、ロスチャイルドから風精霊の気配が霧散する。
そして、ジェンタイルの背後で光る風が人間の女性らしき姿を模っていた。
つい、とドアノブに指を走らせ、風精霊は微笑んで外に出る。まるでついて来いと言わんばかりに。
光る風が向かう先はローゼンやカレン達のもと。そして光る風はマーガレットの肩に留まる。
「じぇ、ジェン兄!それに……風精霊様!?」
何が起こっているのか説明を受ける。風精霊はマーガレットを一瞥し微笑んだ(ように見えた)
『まずは修行やで、あんさん等。マーガレット、一から叩き込んだりーな』
「……はい、風精霊様。仰せのままに」
マーガレットが風精霊に一礼すると、風精霊は満足したようにその場から消え――たように見せかけ、カレンに憑依した。
『うちは用事あるけん、暫く抜けるわ。ほながんばりや〜』
へらへらと笑い去っていくカレン(風精霊)。マーガレットはそれを見送ると、例の意地悪い笑顔をジェンタイル達に向けた。
「さて、風精霊様じ・き・じ・きのご指名だもの。みーーーっちりしごかせて貰いますわ。
 早速特訓と行きましょうか。……何ぼさっとしてるの!ほら運動服に着替えて修道院周りを50週よ!
 それが終わったら剣の素振り千回!徹底的にしごいてやるわ!おーっほっほっほっほ!」

32 :
>「魔王討伐に心強い人がいるの? 是非呼ぼうよ!」
「いや、あいつはあかんで。ただの酔っ払いやもん……」
ハマタとローゼンの会話を合図にして、1人の男が
空中に浮かぶ海賊船から降り立ってくる。
頭には赤い布を巻き、不潔そうな服と髭面。
そして池面と言えなくも無いその濃い顔が見る相手を深く印象付ける。
「えーと、あれだ。……俺の噂をしてるのは君達か?
俺は、あの船の船長をしているキャプテン・ジャックスパロウだ。
ハマタ君、魔王を倒すってのはマジか?マジでやるつもりなのか?」
ハマタの顔ににじり寄り、ゼロ距離で見つめないながら
スパロウはラム酒の瓶を口元へ近付けると2口ほどかっ喰らった。
ハマタはそんな酒臭いスパロウを物凄く不細工な顔で睨む。
「おいジャック、お前魔王軍と戦ったいうの嘘やろ?
だいたい、魔王死んでへんみたいやんか。」
ジャックはバツの悪そうな顔でハマタにラム酒の瓶を手渡すと
ローゼンやジェンタイル達へ向けて巨大な地図を取り出した。
「俺が倒したのは、その……魔王のまた次の下のその魔王だ。
つまりは、魔王の孫受けの魔王ってところだな。
お分かり?そいつを倒した時についでに頂いたのがこの図面だ。」
地図には魔王軍の拠点の配置が記されていた。
「魔王軍と戦うってのは、はっきり言ってお勧めしないな。
ある程度の金と余裕があるのなら、だ。
あるのなら、そこら辺の麗しい女性と優雅に午後の紅茶でも
啜ってた方が100倍マシだ。
特に、君は俺の知っている淑女に似ているな。そう、エリザベスのように。」
ローゼンの手に軽くキスをするとジャックはおどけた笑みを見せた。

33 :
名前:キャプテン・ジャック・スパロウ
職業:海賊
性別:男
年齢:40代
身長体重:いたって普通
性格:気まぐれ、守銭奴
外見:濃い目の顔、髭面に頭に赤いスカーフ
備考:ホワイトパール号の持ち主であり、ハマタ達を率いる船長。
かつて魔王のそのまた魔王を倒したことがあると吹聴してる。

34 :
前回までのあらすじ。
こうして修行編が始まった!
修道院生の朝は早い。日の出と共に起床し、朝飯の前に軽いランニングと精神統一。
精進料理みてーな朝食のあとは、涼しいうちに座学で精霊術の術理を頭に叩き込み、午後は外で課練だ。
このクソ暑いなか、基礎体力作りから本格的な武術に至るまであらゆる戦闘技能を刻みつけられることになる。
俺たちは院外からの特別聴講生という扱いで、制式のものじゃないジャージに身を包んで課練を受けていた。
「998、999、1000!……終わったぁー」
言い渡された素振り千本をようやく終えた俺は、練習用のジェラルミン剣を地面に放り出して膝を折った。
この修道院に世話になってから二週間ほどが経過していた。土日を除いて二週間、ぶっ続けで修行中である。
つーか、言われるがままに鍛錬積んでるけど、俺の本職は魔法使いなんだよなあ。剣振ってなんの意味があんねん。
お目付け役のマーガレットの目を盗んでポカリを喉に通しながら、俺はひとりごちた。
<そうでもないぞ。霊装というのは精霊の力を『武器』というイメージで縛って攻撃に特化させる術だからな。
 武術や武器……『戦うこと』を強くイメージ付けることは無駄にはなるまい>
ほー。イメトレみてーなもんなのかね。よくわかんねえけど。
まあ、なんかここ二週間ずっと筋トレばっかしてたからちょっと筋肉ついてきてんだよね。
モテる体型ナンバーワンと噂される細マッチョも夢じゃねーな、こりゃ。
「しっかし、15万かあ……」
2週間前、院長室で聞いた数字は予想を上回る膨大さで、あまり実感は湧かなかった。
そりゃそうだ、15万って言ったら一国が余裕で落とせる軍勢である。げに恐るべきは宗教勢力。
<<それだけの規模の戦力が全国で一斉蜂起すれば魔王城など一気呵成に落とせるのではないか?
  全国津々浦々に散らばっているのなら、反乱の目を一息に潰されることはなかろう>>
その散らばってるってのが問題なんだよ。戦力が分散してるってのは、リスクは減るがリターンも相応に減る。
組織がでかくなればなるほど末端にまで意志を行き渡らせるのは難しくなる。
特にいまの世の中の、魔王制ってディストピアは反乱抑止に上手く機能してんだ。
遠方に散らばった仲間と連絡を取り合おうとすれば、どうしても通信手段に頼らざるを得なくなる。
温泉村での実例が示すように、あらゆる通信手段――電波帯も有線通信も、魔王城の法務局の管理下にある。
通信手段を使わずに情報交換しようとすれば、手紙や人伝えなど非常にアナログな手段を使わざるを得なく、これは非常に遅い。
とどのつまり、レジスタンスは大きくなりすぎた。陸に上がったクジラが自重で死ぬように、自分で自分の首絞めてるのだ。
夕食時。食堂の一角に設けられた聴講生用のスペースでローゼンと食事を摂りながら、これからの展望を話す。
ローゼンは俺とは別メニューの課練を受けてるので、最近はこういう時にしか顔を合わせなくなった。
テーブルには俺たちの他に、カレン、マーガレットと世話役に任命されたこの二人が食事を共にしていた。
「攻めるとしたら、まずは通信手段を牛耳ってる法務局だ。ここを落とせば、15万のレジスタンスに一斉蜂起を伝えられる」
俺は課練の合間に片手間で作成した作戦立案書をテーブルにすべらせる。
魔王城――俺たちの最終制圧目標を落とすには、いくつかの関門を突破しなくちゃならない。
ハウスドルフのような四天王が、直属のセレクションを各地に置いて世界を直接統治している。
ここを無視して魔王城に攻めいっても魔王城の防衛戦力と四天王軍に挟み撃ちを食らってしまうというわけだ。
四天王直属のセレクションはその名の通り全部で4つ。
大陸全土の魔導技術を統括する『技術局』。
通信手段を掌握し反乱分子を粛清する『法務局』。
世界の土地を管理しインフラを治める『環境局』。
臣民を統治し法令整備や政治的事業を行う『内政局』。
このうちバベルにあった技術局は既に俺たちが攻略しているので、残りの3つのうちから選ぶことになる。
「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」
修道院カレー(旨い!)を頬張りながら、俺はローゼンに水を向けた。

35 :
その頃、ダリアンとマカロニーナがチェスをしていた。2人は今、アメリカに住んでいるので、この物語には全く関係がない。

36 :
ダリアン「セレクションって"選択"だよな」
マカロニーナ「気にしたら負けよ」

37 :
>32
ジョニーデップが現れた!
「いやー、僕はエリザベスさんほど剣が強くないですよ〜」
ジョニーデップが手にキスをしてきた。
「これは……精霊契約の儀式!? ごめんなさい、3つはさすがに定員オーバーです」
そこに風精霊が乱入してきた!
>「さて、風精霊様じ・き・じ・きのご指名だもの。みーーーっちりしごかせて貰いますわ。
 早速特訓と行きましょうか。……何ぼさっとしてるの!ほら運動服に着替えて修道院周りを50週よ!
 それが終わったら剣の素振り千回!徹底的にしごいてやるわ!おーっほっほっほっほ!」
「げえええええ!? 今時ジャンプでも見なくなったガチ修行かい! しかもこいつが先生!?」
「いや、君はやらなくていい」
院長先生が意味深に声をかけてきた。やらなくていいと言われたら反論したくなるものである。
「何でですか!? あのけしからんBMI指数のジェン君がやるんなら僕だってやります!
言っときますけど修行展開では主人公だけが厳しい修行をして
修行が終わったらヒロインもなぜかどさくさに紛れて強くなってるのが常識とか言うんなら逆ですからね!
常識的に考えてあっちがヒロインですよ!」
「おっと、勘違いさせてしまったようだね。
君はあのような時代錯誤の修行はしなくていいという意味だ。
私直々に貴方様の指導をさせていただきたい。駄目かな?」
銀髪美形に迫られて断れるわけがない。
「……よろしくお願いします!」
こうして修行編が始まった。
―― 修行その1、精霊術理論。院長先生と二人っきりの特別授業だ。
というのも、今や光精霊の術式を教えられるのはこの人ぐらいしかいないのだ。
「うう……」
難しい本を相手に頭を抱える。いつもノリで使ってるけど改めて理論的に学習するとなると訳分からん。
自分が普段使っている言葉の文法が分からんのと一緒である。
大学時代の知識? 忘れたに決まっている。というか最初からまともにやっていない。
「理論なんてやらなくても雰囲気で使えるんだからいいじゃないですかー。
それより早く霊装教えて下さいよ、多分勘でチャチャっとすぐ出来ますから!」
「残念ながら君の修行の内容を決める権限は君では無く私にある」
「そんな〜〜!」
―― 修行その2、剣術。
「どうしましたか? 本気でかかってきなさい、光の勇者!」
「ほ、ほんきです!」
ひのきの棒を振るいながら爽やかな笑顔を浮かべつつ鬼神のごとき気迫で迫ってくる院長先生。
一方的にやられっぱなしの僕。僕に精霊とのリンクなしに武術をやれなど元から無理な注文である。
あっというまに壁際まで追いつめられる。
「ひいいいいいい! ちょ! タンマ!
どうせリンクしたら超人バトルになるんだから地道に剣術修行したところで仕方ないですよ〜!
それより早く霊装教えてくださいよ!」
「君の修行の内容を決める権限は以下略隙あり!」
眉間に棒が叩き込まれた!
「ギャーーーーーッ!」

38 :
―― 修行その3、???
極めつけは、院長先生に怪しげな部屋に案内される。
そこに祀られているのはこれまた怪しげな本。
「これは”黒ノ歴史書”というマジックアイテムだ。触ってごらん」
触れた瞬間、目の前に鮮やかに映像が再生される。田舎ののどかな小学校の教室。
「おはよ――っ!」
見るからにマヌケそうな女子児童が扉をスライドさせて入ってくる。
扉の上に巧妙にセットされていたバケツが落下して水を頭から被る。
巻き起こる大爆笑。
どう見ても下級生の悪ガキ集団に玩具にされる小6の図だった。
うわー、バカだなあハハハ。黒板にでかでかと書いてある。”ばかろーぜん”と。
バカローゼン? どっかで聞いたことがあるぞ。
あろうことかこれは僕自身の記憶の底に封印された黒歴史だったのだ!
「……うわあああああああああああ!?」
叫びながら床を転げまわり、起き上がった勢いで院長先生に詰め寄る。
「こんな事をやって何の意味があるんだよ!? あなたは僕を立派な勇者にしたいんでしょ?
勇者って、勇者って……強くてかっこよくって! 愛で勇気で希望で正義で! 闇を打ち砕く光の権化なんだよ!
あんな個人的などうでもいい黒歴史なんて思い出したら邪魔じゃん!」
対する院長先生は例によってあっさりかわすだけ。
「君の以下略。今に分かるよ」
>34
夕食時にジェン君と顔を合わせる。
一見何も変わってないけど、毎日見てきた僕が分からないはずはない、確実に強そうになってる。
それに比べて僕は……言えない、毎日トラウマ部屋で転げまわってるなんて言えない!
>「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」
「聞いて驚け、超順調よ! もうすぐ霊装いっちゃうー?って感じ!」
「アンタは相変わらず嘘が下手だねえ!」
テーブルの下からパンチパーマのおばさんがでてきた。
「頑張るんだよ! 共に世界を救った勇者と魔法使いは永遠に結ばれる……」
「あっ、皆さんスルーをお願いします!」
どう反応していいか分からないのでスルーを呼びかけておいた。

39 :
まさか、自分にあんな映画のヒーローのような体験のチャンスが巡ってくるとは、その時は夢 にも思わなかった。
夜の繁華街の裏路地で、俺はたまたまその事件現場に遭遇してしまったのだ。
「やめてください、お願いですから……」哀願する少女を取り囲むように
「いいじゃねぇかぁ、少しくらいつきあってくれてもよう!」と、3人のsラ。
「……やめないか、悪党。」思わず、口をついで出てしまった挑発の文句。もう後には引けない。
逆上する3人のsラ。ナイフを手にしたやつもいる。
ならば……と、俺は左手で、懐からPSPを取り出す。
「PSPキック!」俺はすかさず、正面のナイフを持ったsラの鳩尾に蹴りを叩き込む。悶絶し、倒れるsラ。
「PSP裏拳!」返す右拳を、唖然とするモヒカン頭の顔面に叩き込む。鼻の骨が砕け、昏倒する。
「PSPエルボー!」もう一人のsラの頭蓋骨を砕く。
「PSPチョップ!」残るひとりの頚動脈を断ち切る。
一撃必。
一瞬にして、俺を取り囲むように倒れ悶絶する血ダルマが4つできあがった。
「次からは、相手を見て喧嘩を売ることだな……。」
返り血で真っ赤に染まったPSPを拭き取りながらそっと、俺に勝利をくれたPSPにつぶやいた。
「持っててよかった、PSP。」

40 :
『どや、修行のほうは?』
カレンに憑依している風精霊がマーガレットに尋ねる。
時は夕食中。マーガレットはパスタを啜りながら肩をすぼめる。
「まずまずって所ですわ。体力の方はついてきましたけど……惜しらむは戦闘スタイルですかね」
ふん、と鼻を鳴らすマーガレット。
精霊術を行使するにあたって必要なのは《イメージ》だ。
曖昧なイメージでは逆に術者自身を傷つけかねない。
マーガレットは過去の経験においてそれを十分に熟知していた。
「まだ少し時間が必要ですわ。少なくとも、……」
マーガレットは言いかけ、ジェンタイル達を見遣った。
彼らは作戦会議に夢中のようだ。
>「攻めるとしたら、まずは通信手段を牛耳ってる法務局だ。ここを落とせば、15万のレジスタンスに一斉蜂起を伝えられる」
>「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」
『へー、見てくれの割りにオツムの方は信頼出来そうやないの』
ふふっと風精霊は笑う。風精霊は敢えて彼らに干渉しようとはしない。
慈しみをこめた視線で見つめ続けているが、そこには一抹の寂しさが篭ってもいるようだった。
風精霊は席を立ち上がるとジェンタイル達に近寄り、ローゼンの隣に座った。
それに倣うようにマーガレットもジェンタイルの隣に座る。
『さて、その作戦やけどなジェン坊や。一つ情報があるで。
 法務局にはうちらの仲間が潜伏しとるんや』
その仲間達は法務局を通じて密かに情報を流すという役目を背負っていた。
だが。
『その仲間達からな、数日前から連絡が途絶えたんや。どういうことやと思う?』
眉尻を上げ、口を噤む風精霊。
『スピードアップや、マーガレット。ジェン坊に”霊装”、叩き込んだり』
瞬間、マーガレットがパスタを噴出した。
涙目で咳き込みながら、目を皿のように丸くして風精霊を穴が開くほど見つめる。
「い、今なんと?」
『せやから、ジェン坊に霊装叩きこむ言うたんや。今やったら魔力賦与も難しい話やないやろ』
さらっと言ってのける風精霊だが、マーガレットは未だに渋い顔をしている。
暫く難しい顔をして考え込んだが、嘆息ひとつ零しジェンタイルを見据えた。
「深夜月が真上に来る頃、私の部屋に来なさい。南塔の四階よ。
何時もは男子禁制だからロックが掛かってるけど、今日だけは外しておくから」
遅刻したら許さないからね、と鋭く睨み付け、空になった皿を持ってその場を後にする。
『あ、ローゼンちゃんは相変わらず先生の授業やからね。受けてええのはジェン坊だけやけん』
風精霊はそう言うとカレンの笑顔でにやけるのだった。

41 :
>「聞いて驚け、超順調よ! もうすぐ霊装いっちゃうー?って感じ!」
「う……」
うすうす感づいてはいたけれど、改めて言われるとショックだ。
ローゼンのやつ、もうそんな段階まで進んでんのか。
<<こっちは霊装のれの字も出て来てないというのにな>>
いやホント、毎日剣を振るだけの簡単なお仕事ですよ。むしろ最近は放置プレイのきらいすらあるね。
マーガレットの監視の間隔が10分に一回から3日に一回になったし。落差激しすぎだろ。
最初見放されたんじゃないかと涙目になったわ。
>『さて、その作戦やけどなジェン坊や。一つ情報があるで。務局にはうちらの仲間が潜伏しとるんや』
カレンに憑依した風精霊が、窓辺からゆっくりと歩いてきて俺のとなりに座った。
マーガレットも追従するように空いた方の俺のとなりへ。え、なに、なんで挟まれてるの俺。美人局?
>『その仲間達からな、数日前から連絡が途絶えたんや。どういうことやと思う?』
「……!」
俺は息を呑んだ。内部に忍ばせていたスパイが音信不通になった。小学生にだってわかる理屈だ。
この平和な修道院で、どこか麻痺していた危機感に再び火が灯る。風精霊が二の句を継いだ。
>『スピードアップや、マーガレット。ジェン坊に”霊装”、叩き込んだり』
瞬間、隣でぶばっと盛大に何かを吹き出す音がした。パスタを口から垂れ流す美少女マーガレットちゃんだった。
風精霊と二三言葉を交わしたかと思うと、パスタに苦虫でも混じっていたかのような顔をしながら言った。
>「深夜月が真上に来る頃、私の部屋に来なさい。南塔の四階よ。
 何時もは男子禁制だからロックが掛かってるけど、今日だけは外しておくから」
今度は俺が吹き出す番だった。
南塔。そこは、かつて数多ものツワモノ達が挑戦しては散っていった最強不落の不可侵領域。
――女子寮である。
「こちらコールサイン・ダークフレイムオブディッセンバー1。南塔に潜入した」
夜間戦闘用の黒ジャージに着替えた俺は、南塔のロビーから中央階段へかけてのルートを選定していた。
足音でバレないように靴は抱えて。消灯時間は過ぎているので中は真っ暗だが、夜更かしする女子は意外に多い。
どこで鉢合わせするかわからない。
素性も知れない外部聴講生が女子寮に侵入したとあらば、非公式に"対処"されてもおかしくない。
このスニーキングミッションは、そういう社会的に致命的なリスクを孕んだ任務なのだった。
「炎精霊、指示をくれ。炎精霊ー?」
<<おい馬鹿、疲労入るまで閃光玉使うなって。よし、じゃあ吾罠仕掛けるから溜め3かましといて>>
モンハンやってんじゃねーよ!お前女子寮潜入とかすげー好きそうなイベントじゃん!
<<聞いたことがないか汝?『女子校は男子が思ってるよりずっと汚い』――>>
だから全力で現実逃避してんのかお前……。
確かに、女子校に幻想持ってる奴が実態を知るとかなりショック受けるらしいし。
俺?はははバカめ、三次元なんぞに妙な期待を抱くからそういうことになるのだ!
二次元最高や!立体の女なんかいらんかったんや!
階段をひたひたと昇って4階に辿り着き、マーガレットの部屋を探す。
いくつか明かりのついた部屋の前を横切り、目的の扉の前に立った。
ん、あれ!?今までなんとなくスルーしてたけど、これってリア充の修学旅行によくある……
『夜中に女子の部屋にお邪魔する』イベントじゃねーの!マジかよ!どこでフラグが立ったんだってばよ!?
<<待て汝、これは罠かも知れんぞ。常識的に考えて、汝のような底辺アニオタ非リアを女子が誘うと思うか!?>>
うっせえ!ど、ど、ど、ちゃうわ!
<<ちゃうのか?吾ももうかれこれ7年か8年ほど汝に付き合ってるが今まで一度も――>>
うそですごめんなさいでした!いや待て、捉えようによっちゃあ、そいつは過去形になるかもだぜ!?
そうさ!遅ればせながら、俺にも春がやってきたに違いない!ふ、ふひ、ふひひひひひひひィ!
「ごめんください!!」
居ても立ってもいられなくなった俺は、部屋のドアをそーっと蹴り開くとフナムシのように滑り込んだ。

42 :
>40
>『あ、ローゼンちゃんは相変わらず先生の授業やからね。受けてええのはジェン坊だけやけん』
にっこり笑ってジェン君を激励する。
「良かったね、頑張れジェン君!」
その夜。
「うううう……なんでジェン君だけなの!?」
この僕がジェン君に先を越されるなどあってはならない!
当たり前だ、ジェン君は生意気な口利いてもちっちゃい弟。それは未来永劫変わる事はないのだ。
もちろん世界の危機なのにこんな事を言っている場合ではないのは分かっている。
ジェン君だけでも一刻も早く霊装を習得するに越したことは無いのだ。
というかどうしちゃったんだろう。僕ってこんなうだうだ悩むようなキャラじゃないはずなのに!
「ローゼンさん、どうしたの!?」
隣の部屋の生徒が血相を変えて乱入してきた。
「どうしたのって……あ、ごめん……!」
無意識のうちに部屋の壁をどんどん叩いていたのだった。
「ジェン君が今夜女の子の部屋に呼ばれていい事を教えてもらうの。
僕は行ったらいけないんだってさ!」
「こうしてる場合じゃないですよ!
夜の秘密授業なんて怪しすぎますよ! どさくさに紛れて変な事をするに決まってます!
今こそ男子寮生の力を結集し総力を挙げて阻止しましょう!」
「えっ……」
そういう事だったのか! 全然気付かなかった!
あの女、何も知らずにホイホイっとやってきた純真なジェン君を食っちまうつもりなのだ!
「うをおおおおおおおおお!! あのアマ許さん!!」
光精霊経由で男子寮生達にメールを一斉送信。
『こちらエターナルフォースブリザード。
これより夜の秘密授業という怪しからん密通を阻止する! 総員出動だ!』
続々と返信が来る。
『アニキの頼みとあっちゃあ仕方ないな!』
『そうだそうだ、不純同友ならともかく不純異友はダメだ!』
「ふっふっふ、見てろよジェン君! 男子寮は今や我が手中にあるのだ!」
自分で言うのも何だが、なんだかんだで昔から後輩や子どもがよく懐く。
特にここでは、女装が似合う男の中の男として大人気だ。
ちなみに僕は後輩を変な道に引き込む悪い先輩は嫌いだ。
月が南中する約1時間前から我が組織力を持って女子寮の出入り口を全て封鎖する。
「さすがローゼンのアニキ! 完璧な作戦だ!」
「俗にいう水際作戦ってやつですね!」
「マジカッケー!」
だがしかし、完璧に見えた作戦には落とし穴があった。
「君達、こんな夜更けに何をやっているんだ? 首謀者は誰だ?」
「げ、院長先生!」
普通に見つかった。敗因は作戦を大規模に展開しすぎた事か……ッ!
「秘密組織ごっこをやってました。言い出したのはそこのローゼン兄さんです」
あっさりと差し出された!
「悪い先輩にはお仕置きが必要だな。君達はさっさと帰って寝なさい」
院長先生にお姫様抱っこされてどこかに連行される。
「あ、アニキ―――――ッ!!」

43 :
「貴方に霊装習得のヒントを教えてあげましょう。
 霊装には―――」
「 ア リ ス ゲ ー ム
 永 久 薔 薇 庭 園」
「―――みたいにオサレなルビが必要なのです」

44 :
>「ごめんください!!」
マーガレットはその言葉を聞くと振り返る。そこにはジェンタイルの姿。
仁王立ちの体勢でジェンタイルを見下ろすと、彼女はフン、と鼻を鳴らす。
「3分ジャスト遅刻よ。時間を無駄にしないで頂戴……それと、その気持ち悪いにやけ顔止めてくれない?」
変な顔、と馬鹿にしたように笑い、彼の横を通り過ぎる。
目的はドア。静かにドアノブを回し、外へ。
そしてジェンタイルを一瞥し、着いてこいと顎でしゃくる。
着いた先は屋上。普段は生徒は立ち入り禁止だ。普段は、だが。
空を見上げれば、丸く蒼い月が顔を覗かせていた。
マーガレットは息を吐き、白いネグリジェの懐から杖を出す。
「構えなさい、ジェンタイル。――――ここからは特別レッスンよ」
たちまち周囲を包む冷気。初めてジェンタイルと戦った時と同じ状況だ。
「汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ。極寒騎士《フローズンナイト》!」 」
白い吐息と詠唱が口から漏れた刹那、極光。
光が収まれば、杖は氷のレイピアへと変化していた。ただし、鎧は顕れていない。
ネグリジェの姿のままのマーガレットは、レイピアを構えジェンタイルを見据える。
「魔力賦与、そして霊装において大事なのは体力、精神力、経験、確固たるイメージよ。
 脆弱な腕と想像力では決して顕現しやしないわ。だからこそ貴方を鍛える必要があった」
ピッ、と鋭い切っ先が空を切る。
何時もの意地悪い目付きは何処へやら、真剣そのものの眼光だ。
「そして、一番必要なのは"貴方自身の覚悟"。――二週間の鍛練の成果、見せてみなさいよ」
そして場所は変わり院長室。
ローゼンをソファに降ろし、ロスチャイルドはふ、と小さく溜息を一つ。
「ローゼン君、今一度聞いてほしい。これは真面目な話だよ」
ロスチャイルドが机の上に置かれた本――黒ノ歴史書を掴み、引き寄せる。
それをローゼンの前に掲げながら、口を開く。
「以前君は言ったね。この修行に何の意味があるのかと」
さら、とページを開く。そこにはローゼンの消したい過去の記憶の数々。
一つ一つが、彼女の心や神経を抉るようなものばかり。
「君は光の勇者だ。だが、まだ"心"が完成していない」
自分の血を見て倒れてしまうくらいだからね、とクスクス笑うロスチャイルド。
実は、ジェンタイル達の戦いをこっそり観戦していた事をさらっと白状しつつも、真顔でこう言った。
「この訓練は、君の"心"を、崩れることのない屈強な精神を作るための特訓だ。
 魔王と闘う為に、ある意味では霊装以上に必要な訓練なんだよ、ローゼン君」

45 :
とりあえず、たった二人しかいないのに
クソくだらないエロほのめかすネタがやりたいばかりに
キャラクターを分担しちゃう馬鹿は自重ってものを覚えるべきだよね

46 :
たった2人にしか見えない文盲も
本スレ凸の自重を覚えるべきw

47 :
物の数として見られてないんだろw

48 :
>「3分ジャスト遅刻よ。時間を無駄にしないで頂戴……それと、その気持ち悪いにやけ顔止めてくれない?」
「おおっと。なんのことかなっ!?」
指摘されて、俺は頬をぴしゃりと叩いた。
マーガレットはおやすみ服のままで、部屋の中央に仁王立ちしていた。
ずっとこの格好でスタンバイしてたんだ……。
そのままマーガレットに促されて、俺たちは屋上へ登った。夜半の風は程良く湿気が抜けていて心地良い。
今夜はよく晴れているから、きっと涼しくなるだろう。夜風に当たるには絶好のシチュエーションだが――
>「構えなさい、ジェンタイル。――――ここからは特別レッスンよ」
マーガレットは俺から距離をとったまま、杖を抜き放っていた。
浮かべる表情はしかめっ面。どう見ても青春イベントの顔じゃあない。
「お、おい、そりゃどうゆう……」
>「汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ。極寒騎士《フローズンナイト》!」 」
問うた刹那、マーガレットが鍵語を紡ぐ。明滅する蒼光、顕現するのはマーガレットの霊装。
臨戦態勢だった。いや、夜の臨戦態勢とかそういう下ネタじゃなくてね。
>魔力賦与、そして霊装において大事なのは体力、精神力、経験、確固たるイメージよ。
 脆弱な腕と想像力では決して顕現しやしないわ。だからこそ貴方を鍛える必要があった」
杖から生まれた刃、その切っ先が俺を捉えた。
>「そして、一番必要なのは"貴方自身の覚悟"。――二週間の鍛練の成果、見せてみなさいよ」
<<汝!今すぐ二時方向へ跳べ!!>>
いつになく緊迫した炎精霊の警告。弾かれるようにして斜め前へと横っ飛び。
瞬間、俺の身体の側面を巨大な氷柱が擦過していった。まるで勢いをさず、屋上の落下防止結界に当たって大きく火花を散らす。
「おいっ!」
不意を打たれ、マーガレットに抗議の声を送る――が、届かない。
っはーん、わかったぜ。こいつは修行展開の締めによくある、「実戦の中で成長しろ」とかそういうアレだな!
胸から着地した俺はすぐに受け身をとって身体を反転。反動を利用して身体を振り上げ、地面に足を再会させた。
「つったって、俺まだ霊装のれの字も教わってねえんだぞ!成果を見せろってd――」
ゴオゥ!と俺の抗議を遮るようにして再び氷の嵐。うひい。俺は頭を抱えて転がる。
鍛錬の成果だぁ?剣振ってるだけで終わった二週間から何を学べってんだよ!

49 :
――いや、ここで『できるわけがない』と思考停止するのが一番駄目なパターンだ。
精霊の力は信じる力。『できる』と断ずるその意志こそが、精霊から力を引き出すキーワードなのだ。
だから、必要なのは認識すること。彼我の戦力差を分析し、霊装がどういうものかを理解し、己の血肉に変えるということ!
百聞は一見に如かないのだ。マーガレットがこうやってみせてくれているのだから、そこから盗む勢いで!
整理してみよう。『霊装』が何故、対悪魔殲滅術足りえるのか。
あくまで俺の見立てだが、理由は大別して2つある。そいつを両の車輪にして、修道院は悪魔と渡り合ってきた。
まず、『武器という形状の顕現化』。予め攻撃に特化させた形状に精霊魔力を縛ることで、
魔法使いの弱点の一つである"魔力から魔法への変換タイムラグ"を極限にまで減らしているのだ。
そして、『身に纏うという性質』。魔力附与という形で精霊魔力を纏うことで、基本的な身体能力を底上げしているのだ。
人類よりも肉体的なスペックが高い悪魔と戦うにおいて、このアドバンテージは生存率に直結する。
だから強い。マーガレットと最初に戦ったあの時も、四大精霊であるはずの炎精霊が遅れをとるほどの氷結速度だった。
相手が防御策を講じる前に最高の一撃を叩き込めるというのは、これすなわち一撃必なのである。
……考えれば考えるほど勝算がガリガリ削れていくぞぉ!
<<そこまで答えが出ているのなら、汝、やるべきことはもう決まりだろう>>
そう。最初から決まりきったことだ。
――この土壇場で霊装を完成させなきゃ、マーガレットには勝てない――
でも、どうやって?
「ぬおおおおおおおお!」
悩んでいてもしかたないので、マーガレットの利き腕の方から回りこむように疾走する。
人間の身体構造上、腕を身体の外側に向かって動かすのが苦手だ。ナイフを持った通り魔に襲われたときの為に覚えておこう。
とにかく、なんでも試してやってみるしかない。俺は素手で拳を握り、魔力を練り上げる。
えーと、戦うイメージ戦うイメージ戦うイメージ戦うイメージ……
「出ろ、霊装っ!」
マーガレットに向かって開いた掌を突き出すが、線香花火みたいな火花がちょろっと飛び出ただけだった。
「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」
素手の俺は、わけもわからないままただ手をぐっぱぐっぱするだけだった。
霊装、できましぇん。どうやって出すのかもわかりません。誰か俺を助けて下さい。

50 :
>44
>「以前君は言ったね。この修行に何の意味があるのかと」
院長先生はさらっと黒ノ歴史書を開きやがった!
「おんぎょおおおおおおおおお!? さりげなくページをめくるなあああああ!」
鮮やかに再生される黒歴史! 例えば! 恐怖の女子校編! 
皆の憧れの先輩、クールビューティーお姉さま阿部真理亜の恐るべき真実!
名付けて”真理亜様が視てる”! 本編に関係ないので詳細はまたの機会に!
>「君は光の勇者だ。だが、まだ"心"が完成していない」
院長先生は、僕が自分の血を見て倒れたという。
記憶が途切れている、また邪神モードを発動していたのか……!
あの状態を見ていてなぜそこに言及してこない?
何かが取り付いているならお祓いするとか、考えたくは無いけどあれが本性なら抹にかかるとか……何らかの手を打つはずだ。
確かめずにはいられなかった。
「……見たんですよね? 別人みたいになって妄言をブツブツ言っているのを!!
僕は……貴方達の敵、悪魔じゃないんですか?」
この質問に、院長先生は表情一つ変えない。
>「この訓練は、君の"心"を、崩れることのない屈強な精神を作るための特訓だ。
 魔王と闘う為に、ある意味では霊装以上に必要な訓練なんだよ、ローゼン君」
ものの見事にスルーされた。
「『勇者に心なんていらない、心なんて弱さでしかない。なのにどうして掻き乱す?
あなたも知っているでしょう、勇者とは何なのか』」
突然光精霊が僕の口を乗っ取って喋り始めた。
「『愛で勇気で希望。優しくて強くて、明るく前だけを向いて突き進む。
絶対の正義の象徴、実際には存在し得ないものの具現。世界が抱く理想の体系、あるべき姿、超自我《スーパーエゴ》を担う者。
我はローゼンとずっと一緒にいて勇者の人格を作り上げてきた。
恨みや憎しみは抹消して。いらない記憶は封じ込めて。人には親切にするべきだ、魔物は容赦なくせと囁いて。
自らの使命に何の疑問も持たず、決して揺らぐ事もない、忠実なロボットのようにね。
元が元だからこんなんになったけど、ギャグファンタジーの勇者と思えば上出来っしょ。』」
「そうだ。しかしその元が強力過ぎた。現に制御しきれずに時々表に出てくるじゃないか」
何が何だか分からないまま話は進む。完全に置いてきぼりだ。
「その通りにゃ。ご主人様は強力すぎたにゃ」
どこからともなくペットのねこが現れてソファーの上に座る。
「魔王とは《イド》の具現。生の欲動と死の衝動。欲望の体系。
人間の動因となるむき出しのエネルギーそのものにゃ。
だから世界に人間がいる限り魔王は何度でも現れ続けるにゃ。
時代が進んで人間の欲望が強くなればなるほど、現れる魔王も強力になってきたにゃ。
御主人さまは君の手に負えないにゃ。どうするにゃ? 光精霊」
一触即発の空気が流れ、光精霊とねこがバチバチ火花を散らす。
ここで院長先生が会話を引き継いだ。
「もう分かっただろう。
勇者と魔王は同じカードの裏と表、世界が幾度となく繰り返す物語に捕らわれし咎人。
勇者とは魔王の生まれ変わりなのだよ。
邪魔する者を叩き潰して欲しい物全てを手に入れようとする魔王。
私利私欲を滅し世のため人のために身を捧ぐ勇者。
正反対なのにとても似ていると思わないかい?
魔王の持つ爆発的なエネルギーが方向性を付けて改変されたものが、勇者の人格なんだ。
そして今の君はあのような状況だ」
院長先生は、火花を散らしている光精霊とねこを指さした。

51 :
「あ、あははははは……魔王が勇者なんて……そんな面白過ぎる設定誰が考えたんだよ」
笑うしかない状況とは裏腹に、膝の上で握りしめた拳の上に、涙が落ちた。
「僕の本質は極悪非道な大量戮者……この心は、作られた紛いものだったんだ……。
こんな戦いに巻き込まれなければ……魔王がいない平和な世界なら!
ずっと知らずに笑って過ごす事が出来たのに!!」
『らしくないよ。勇者は他人の為以外には泣いたらいけない』
光精霊の冷ややかな言葉が突き刺さる。だけど光精霊を責める気にはならない。
光精霊が抑えなていなければ僕の中の魔王が野放しになって暴れはじめるだろう。
と言うより、僕の人格は全てが魔王と光精霊で出来ているのだ。
「『アホかい、ほな今泣いとるのは誰やねん』」
顔を上げると、院長先生が掴みどころのない笑顔を浮かべていた。
「風の大精霊様……?」
「『時々この辺が締め付けられるような気持ちになる事があるやろ?』」
「え!?」
不意打ち。思いっきり胸を触られた。立ちあがって抗議する。
「な、何するんですか!? ふざけてる場合じゃありません!
そりゃあありますよ! 例えば……えーと……」
「『皆まで言うな、聞くこっちが照れるわ。
それは間違いなくローゼンちゃん自身の心やで。精霊や悪魔は実体を持ってへん。
実体を持たないウチらは精神エネルギー体そのものでありながら《無意識》の存在なんや』」
「あ……」
やっと、修行の意味が分かった気がした。意識せずに出来る事をなぜあえて理論からやらせたか。
なぜわざわざ黒歴史を思い出させたか。
隣で相変わらず睨み合っている光精霊とねこ。あいつらの真の意味での御主人さまになるためだったんだ!
「『納得したようやな。ほな今日の特別授業の仕上げや!』」
納得したと言うか風の大精霊にうまく乗せられたような気がするんだけど。
「『窓の外を見てみい、あの棟の屋上や』」
双眼鏡を渡され、促されるまま見る。

52 :
>49
ジェン君がいじめられていた。
「あーっ、酷い! でも訓練だし手加減はしてくれるよね……?」
「『分からんで。マーガレットのことや。不幸な事故でしたですませるかもしれん』」
最初の決闘の様子を思い出すに、その可能性は否定できない!
「きえええええええええええ!? お願い助けてあげて!!」
僕は風の大精霊に泣きついた。
そして今。……なぜか僕は、南塔屋上を見下ろす時計塔の上に立っていた。
月をバックに、魔王風のコスプレをして、漆黒のマントを夜風にはためかせながら!
ちなみに、演出は全て風の大精霊様考案のものである。
「なんでこうなった!?」
『厨二病全開の恥ずかしい言動をする事により屈強な心を作るために決まってるやろ!』
ちゃうやろ。もうただ状況を楽しんでるだけやろ。
ジェン君は追い詰められて袋のねずみだった。
>「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」
『最高のタイミングや、3、2、1、Q!!』
監督のGOサインが出てしまったので観念してやるしかない。
まずは無駄な高笑いで存在をアピール。
「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
光精霊まで風の大精霊監督の指示で動いているらしく、絶妙な角度でライトアップされる。
御丁寧に声にエコーまでかかってるよ!
「これは死にゆく貴様への手向けだ……、受け取るがいい!」
手紙を付けた、一輪の薔薇の花を投擲した。
不自然な突風に乗って、見事にジェン君の足元に突きささる。
「ではサラダバー!」
時計塔からひらりと飛び降りた。
手紙には>>43の内容が書いてある。

53 :
>「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」
攻撃を仕掛け、霊装を試みるも見事に失敗したジェンタイル。
マーガレットは先程から氷の槍を飛ばす攻撃しか繰り出していない。
ここで例の意地悪い笑みを少しだけ浮かべ、再び氷の槍を飛ばす。
「オホホホホ!さーて、何で出ないのかしらねえー?」
残念ながら教える気は更々なさそうである。
容赦なくレイピアで氷槍をジェンタイルに向けて放つ。
その時、頭上から声。
見上げれば、魔王風の衣装を着、黒マントをはためかせるローゼンが居る。
>「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
「……………………何、あれ?」
攻撃の手をとめ、マーガレットはポカンとローゼンを凝視する。
ローゼンは何やら手紙を括り付けた薔薇の花を投げつけ、去っていく。
手紙の中味には興味はない。が、あまり参考にはならなかったようだ。
時刻は既に三時を過ぎていた。 欠伸ひとつ吐くと、ジェンタイルへと振り返る。
「今夜はここまでにしましょう。お肌が荒れちゃ敵わないもの」
そう言うと、マーガレットは背を向ける。
「何故、霊装が出ないのか。明日教えてあげるわ。十時に食堂に集合よ」
そして翌朝の十時。食堂にはジェンタイルとローゼン、そしてカレンが揃っていた。
カレンはジェンタイル達の修行内容を知らされていなかったため、驚いている。
「えーっマーガレットがジェン兄に霊装を! い、虐められませんでしたか!?
 それに院長先生から特別に授業を……羨ましいなあー。特待生でも受けられないのに……」
「誰が誰を虐めるですって?」
カレンの背後から現れるマーガレット。いつもの黒いキュロット姿だ。
萎縮するカレンを一睨みし、まあいいわと話を切り出す。
「今日は買い物に行くわよ」
何の脈絡もなく、マーガレットはきっぱりと言い放つ。じゃらじゃらと金の入った袋を鳴らして。
「霊装に必要なものを買いに行くのよ。説明してなかった私の落ち度もあるし、今ここで教えるわ。
 魔力賦与と霊装にはね、イメージに伴った"媒体"が必要なの。私なら杖ね。細長い所は似てるでしょ?
 貴方達は悪魔と闘うし、どうせだから強力な武器もかねて買うわよ。因みにこの金は院長先生持ちだから」

54 :
煽るつもりじゃないんだけど、ローゼンの手紙ネタ振りはガン無視確定で話進めるのは何でなの?
手紙ネタからジェンタイル君が覚醒とか、そう言う可能性は一切考えられなかったの?
て言うか夜の呼び出しで結局何がしたかった訳?何の意味もなかったよね?
まさか本当にエロネタ仄めかす為だけにやったの?

55 :
なにを かいますか?
・どこかでみたような エネルギーろ
・どこかでみたような やすうりのだいこん
・どこかでみたような にほんとう
・どこかでみたような せっけん
・どこかでみたような ハルバード
・どこかでみたような ミスリルのいと

56 :
>「オホホホホ!さーて、何で出ないのかしらねえー?」
マーガレットの仮借ない攻撃が飛んで来る。
答えの出ぬまま俺は回避に専念するが、如何せん霊装が相手だ。前述したように、その攻撃速度は――桁違いだ。
>「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
と、俺の窮地に駆けつけたるは……え、ローゼン?
オサレマントに魔王っぽい格好のローゼンがライトの上で高笑いしていた。
>「これは死にゆく貴様への手向けだ……、受け取るがいい!」
飛んでくる薔薇が一本。そこには矢文のごとく手紙が括りつけてあった。
マーガレットの攻勢から逃げ惑いつつそれを開くと……>>43の内容が書いてある。
「そうか……俺に足りなかったもの、それはオサレ成分!」
熟語にカタカナのルビ振ったり!初めから本気出さなかったり!後付で都合よく新能力に目覚めたり!
そういうブリーチ的なセンスが俺には圧倒的に欠如しているのだ!
そしてそれは案外、理にかなっている。精霊の力は信じる力。明確な『強さのイメージ』はそのまま俺の刃になる!
「くっ……今から既刊分全部を読破するには時間が足りねえ!」
漫画喫茶やってるかな?
>「何故、霊装が出ないのか。明日教えてあげるわ。十時に食堂に集合よ」
興を削がれたらしきマーガレットは霊装を納め踵を返す。
え、夜イベントこれで終わり?まさかの全年齢対象?あらやだ。
>「今日は買い物に行くわよ」
あのあとフツーに女子寮侵入が見つかってボコられ、体中の骨がキレイに二分割された俺は這って男子寮に戻った。
同室の生徒に回復魔法をかけてもらったあともしばらく激痛と高熱で動けなかったよ!生きててよかった本当に!
で、翌朝。マーガレットは何食わぬ顔で俺たちに合流した。ズタズタの口の中にひぃひぃ言いながらフルーツグラノーラ詰めてる俺。
「買い物って。生活必需品は修道院の売店で揃うし、わざわざ街に出かける意味あんの?」
>「霊装に必要なものを買いに行くのよ」
答え合わせ。霊装に必要なのは愛と勇気と信念と……霊装を顕現させる"媒体"なのだそうだ。
それ先に言えや!と俺は怒りと憎しみと愛しさと切なさと心強さとその他もろもろの詰まった涙を流した。
「媒体ねえ……つまりアレだろ?契約してる精霊の力を象徴するような器物が一番適してるってわけだ」
でもまあ、理屈はわかる。人間が猛獣と最初に渡り合ったとき、彼らは無手ではなかった。
非力で、爪や牙も貧弱な人類が諸々の生物と戦う時、何よりも必要なのは強力な"武器"なのだ。
「ってことはローゼン、お前がよく使う精霊剣なんかと原理は似てるのかもな」
あれも手持ちのレイピアに精霊を宿して云々みたいな技だったはずだし。
ともあれ。ともあれだ。いささか安直ではあるけれど、こいつが真のパワーアップイベントということらしい。
「何気にちゃんと街に出るのは初めてだしな。買い物ついでに、この歴史軸の王都観光と行こうぜ」
とゆうわけで、街。
精霊樹ユグドラシルの内部に発生したこの街は、風精霊の加護によって擬似的に重力からの戒めを解かれている。
具体的に言うと、この街には階段の類がない。行きたいと思った場所へ向けて一足に跳べば、びゅーんと飛んでいけちゃうのだ。
これは、高濃度の風魔力が精霊樹の表面を覆っていて、クッションとスプリングの両方の役目を持っているためだ。
温泉村が地精霊によって栄えていたように、この精霊樹もまた風精霊の加護によって土地の特色を確保しているのだった。
>>55
「おいおい見ろよローゼン!どっかで見たような武器が目白押しだぜ!
 てっきりあいつらオンリーワンのキャラ付けだと思ってたけど、世の中おんなじこと考える奴がいるもんだなあ」
石鹸とか大根とか武器にする奴がこの世に二人もいるとは思いたくないけれど。
しかしまあ、上記2つは論外にしても、他のものは俺にも扱えるかもしれねえ。
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
全滅ぅぅぅ!?
<<どんだけ非力なのだ、汝……>>
いや、俺もビックリですわ。ローレシア王子とまではいかなくてもサマルトリア王子と同じぐらいは装備できると思ったのに。
俺はあの役立たずザラキ係よりも下だったのか……。地味にショックです。

57 :
>53
>56
僕は自室に戻って感慨に浸っていた。
「ジェン君は今頃霊装を完成させてるんだろうなあ。
明日会ったら素直に喜んであげなきゃ」
「みゃ〜お」
ちなみに僕は端っこの豪華な部屋に入れられてるから、ジェン君の部屋とは少し離れている。
今日はあえて顔を合わせずに寝てしまおう。
と、突如飛び込んできた凶報が感慨をぶち壊した。
「アニキーッ! HP3ぐらいになって帰ってきました!」
「ぎゃーーーーっ!! なんで!?」
ジェン君のところへ駆けつけると、詳細に描写するのが憚られる状態になっていた。
こうなったら光属性の強力な回復魔法で治したらあ! おーい、光精霊! 
返事がない、ただのしかばねのようだ。
「ちょっと! かくれんぼしてる場合じゃないの!」
だんだんと不安になってきた。返事がないどころか気配も感じられない。
付いてきていたねこに問いかける。
「光精霊がどこにいるか分かる!?」
「にゃー」
ねこまでも僕に反抗するのか。
「にゃーじゃなくてワンとかすんとか言え!」
「にゃお」
違う、原因は僕の方? 彼らは普通に話しているのに聞こえなくなっているのだとしたら!?
不安が一気に恐怖に変わる。
「うそ、そんな……そんな事が……」
「大丈夫ですか!? すいません、当然ショックですよね……」
多分余程酷い顔色をしていたのだろう。
ジェン君の同室生徒が、去っていく僕に声をかける。その声に応える事すら出来なかった。

58 :
次の日の朝、院長先生の顔をみるなり泣きついた。
「院長先生! 精霊の声が聞こえません!」
「今日はマーガレットに買い物に連れて行ってもらいなさい。午前10時に食堂で待ち合わせだ」
院長先生は人間の声が聞こえなくなっとる!
「聞こえない振りをしないでください! これじゃあ霊装どころかろくな魔法が使えませんよ!」
「ダイジョウブダモンダイナイ。ツイニぱわーあっぷふらぐガタッタトイウコトダ」
「意味分かんないよ!」
>55
>「霊装に必要なものを買いに行くのよ。説明してなかった私の落ち度もあるし、今ここで教えるわ。
 魔力賦与と霊装にはね、イメージに伴った"媒体"が必要なの。私なら杖ね。細長い所は似てるでしょ?
 貴方達は悪魔と闘うし、どうせだから強力な武器もかねて買うわよ。因みにこの金は院長先生持ちだから」
院長先生何考えてんだ! 霊装どころじゃありません。
>「ってことはローゼン、お前がよく使う精霊剣なんかと原理は似てるのかもな」
精霊剣出せましぇん。
>「何気にちゃんと街に出るのは初めてだしな。買い物ついでに、この歴史軸の王都観光と行こうぜ」
そんな気分じゃありましぇーん。
>55
>「おいおい見ろよローゼン!どっかで見たような武器が目白押しだぜ!
 てっきりあいつらオンリーワンのキャラ付けだと思ってたけど、世の中おんなじこと考える奴がいるもんだなあ」
「あはは、固有武器じゃなかったのか……」
ジェン君が石鹸と大根以外に挑戦し、あえなく撃沈していた。
ジェン君はムーンブルク王女ポジションだから仕方がないね!
あの棺桶魔法戦士のポジションは僕の専売特許だ。あれ!? 大丈夫かこのパーティー。
「えーと、じゃあ僕は安売りの大根で!」
一応棒状だし。
「ビジュアル的に論外でしょ、センスなさすぎ!
何よ辛気臭い顔して。しょうがないわねえ! 他の店に行きましょう!」
彼女が入っていったのは、なぜか都会風のブティック。
「まいどあり!」
E都会風のカチューシャ
E都会風の服
E都会風の鞄
E都会風の靴
「え、え、え? なんでこうなった!?」
「次行くわよ!」
マーガレットちゃんはずんずん商店街とは違う方向へ進んでいく。
言われるがままついていく。
「あの〜、一体どこに……」
「ここよ」
マーガレットちゃんは平然と遊園地に入っていってチケットを買っている。
「あー、遊園地かー……ってええええええええええええええええ!? いいの!?」

59 :
地面へと落下死した水玉の断末魔によく似た足音を立てながら、少女が歩いていた。
陽光の透き通る艶やかな肌、澄んだ泉さながらの瞳、小川のせせらぎを思わせる水色の髪、
歩調に合わせて揺れる豊満な胸、少女は瑞々しい美貌を誇っていた。
溶け始めの氷に似た美しく大きな眼が、忙しなくあちこちを見回す。誰かを探しているようだ。
「むぅ〜、見つかんないよぉ〜。この辺にいるって聞いたのになぁ〜」
空気の代わりに不満を込める風船のように頬を膨らませ、少女は唇を尖らせる。
足を時計の振り子の軌跡で大仰に振られ、少女が退屈している事を如実に体現していた。
「なんかぁ、もぉめんどくさくなってきたぁ〜……」
肩を落として目を細め倦怠感の権化となり、少女は当て所ない歩みを続ける。
視界はまるきり迷子になって、あちらこちらへと揺れ動いていた。
「……あ!」
けれども不意に少女は瞠目、透き通った瞳の奥で太陽の輝きが踊る。
「『ゆーえんち』だ〜! わたし知ってるよ! 色んな遊びが出来て、すっごく楽しいんだよね!」
俄かに駆け出した。
晴れ渡る青空の下、乾いた地面。
にも関わらず、相変わらず少女の足音は水溜りの悲鳴そっくりだった。
「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」
脇目も振らない盲目ぶりで駆け出した少女は、十歩も走らない内に誰かにぶつかった。
薄い胸板の感触が額に染み渡る。恐らく相手は男、それも虚弱な若者だ。
活発な少女の向こう見ずな突進は、その男をいとも容易く押し倒した。
そして一際大きな水音が響いた。同時に少女の全身に波紋が行き渡る。
屈折率を自在に変化させて再現していた人の体色が崩れた。
少女は一瞬間の内に透明に変色する。
少女の正体は液状生命体、すなわちスライム、魔物だった。
水と全く変わらない体、その西瓜のような胸の部分に、男の顔面が埋まっている。
「やっ……ひゃんっ、ちょ……もうっ、暴れないでよぉ〜♪」
溺死から逃れようと藻掻く男、ジェンタイルの頭を、スライムは抱き締める。
言葉とは裏腹に、声色はとても楽しげだ。
彼の暴力的かつ必死な足掻きは、液状生命体の彼女には堪らない愛撫、快感だった。
水を掻く音が響く中、少女は甘い嬌声を上げ続ける。
スライムの瞳に映る色が変移していく。
少女然とした明るい輝きは快楽に濁り、しかしまだ変移は止まらない。
蕩けたスライムの目は、次第に氷の眼差しでジェンタイルを見下し始めた。
魔物の本能、性癖、人衝動が発露しつつある。
「ん……よく見たらあなた……すごく可愛いお顔をしてるね〜……。なんだか……欲しくなってきちゃったぁ……」
スライムは濡れた刃のごとき艶やかで冷たい微笑みを浮かべていた。
情動は、衝動は加速していく。

60 :
「――正気に戻って下さい」
スライムの本能に歯止めを掛ける言葉、そして猛烈な拳撃。
ジェンタイルの鼻先を突き抜け、スライムを粉々に吹き飛ばして、彼を解放した。
「申し訳ございません。彼女にも悪気があった訳ではないのです。
 ただ、人は私達の本能、抜き身のナイフですから。
 気を緩めた彼女に否があるのは間違いないので、どうぞお好きなように非難してやって下さい」
打撃の主は、スライムと同じく少女の姿をしていた。
一切の光を宿さない黒曜石の目、正真正銘白磁の肌、風になびく事のない無機質な砂色の短髪、少女は無機生命体、ゴーレムだった。
恭しく頭を下げ、抑揚に乏しい口調でジェンタイルに謝罪をする。
「うぅ……ごめんなさい〜……。わたし、わるいスライムじゃないよぉ……?」
飛び散った体を集め、再生しながらスライムが涙目でジェンタイルを見上げる。
「……あれ? あなたもしかして……ジェンタイルさん? って事は、隣にいるのはローゼンさんだよね!
 ねぇ、そうだよねゴーレムちゃん! これってわたしお手柄じゃない!?」
だがすぐに、再び態度を一変。嬉しそうに声を上げて二人を指で差した。
ゴーレムの無機質な視線が二人に向けられる。磨き上げられた黒曜石の瞳に真実が映る。
「……どうやらそのようですが、スライムちゃんは少し黙っていて下さい」
思考回路さえ液状化していると言って何ら問題ないスライムがいては、話が進まない。
そう判断したゴーレムは彼女の発言を自粛させる、物理的に。具体的には再び殴り散らした。
改めてジェンタイル達に向き直る。
「改めて、初めまして。ジェンタイルさん、ローゼンさん。既にお察しでしょうが、私達は魔物です。
 ですが、どうか騒がないで下さい。私達は出来る事ならば人間を傷つけたくないと思っています。
 むしろ逆です。私達は人間を助ける為に、あなた達に接触したのです」
感情の音色を含まない淡々とした説明口調。
「私達は魔物の中でも人間を保護したいと考える組織から派遣されてきました。
 組織の名称は『母性的魔物達による人間保護団体』……」
「略して『もん☆むす』だよ〜!」
二度目の再生を完了したスライムがゴーレムの前に飛び出て、話に割り込んだ。
「え? 変? おっかしいなぁ……人間は長い言葉を真ん中に星一つ挟んでひらがな四文字に略したがるって聞いたのに……。
 他にも『らぶ☆こめ』とか『だれ☆とく』とか『えぬ☆ぴし』とか『らん☆ぞう』とかあるけど……ダメ?
 うーん、やっぱりよく分かんないなぁ、人間って」
腕を組み首を傾げて、唸る。
「ま、いいや! とにかくよろしくね〜!」
しかしすぐに思考を放棄して、ただジェンタイルに晴れやかで澄み通る笑顔を向けた。
続いてゴーレムが無機質な表情には一切の変化を見せず、小さく頭を下げる。
「黙っていて下さいと言った筈ですが……確かに挨拶がまだでしたね。まずは、よろしくお願いします」
【参加します。ひとまずコンタクトを取ってみました。頑張ります】

61 :
「私、ミッフィーマウス!遊園地にようこそ!」
着ぐるみでも無さそうな愛らしい生き物が、来園者たちに風船とバッジを配っている。

62 :
前回までのあらすじ!"どっかでみたことあるもの市"を冷やかし終えた俺達は一路遊園地へ!
……って、遊園地!?おいおいマーガレットちゃんや、お前修道院出て遊びたかっただけとちゃうんか!
>「あー、遊園地かー……ってええええええええええええええええ!? いいの!?」
ローゼンも予想外だったみたいで、素っ頓狂なツッコミを入れる。
こいつ街に出てきてからやけに元気がない。らしくないと言えば、ローゼンのくせに突っ込みに回ってやんの。
何かあったんだろうか。
ともあれ俺は、修道院の外出用ジャージからしまむらセットに着替えてマーガレット達の後ろを歩く。
ローゼンなんかはえらく気合の入ったおべべを着用しているが、俺はお母さんの選ぶような服で充分だ。
>「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」
そのとき、急に目の前が真っ暗になった。衝撃、次いで水音。ぷるんっとした感触が俺の目と鼻と口を覆う。
うひぃ、なんだこれ。ひんやりしてるんだけど!
>「やっ……ひゃんっ、ちょ……もうっ、暴れないでよぉ〜♪」
なんか言ってる!言ってるけど!返事とかそれ以前に俺は溺れかけていた。
陸で溺れそうになるのは湖畔村での水精霊の一件に続き二度目だ。水難の相でも出てんのかな俺。
と、そんな思考をつらつらと上滑りさせながら、徐々に視界がブラックアウトしてきて――
>「――正気に戻って下さい」
ぼっ!っとすごい音がして、目の前のひんやりが消し飛んだ。
鼻先を通り抜けていくのは硬質な運動エネルギー。
酸素とともに入ってきた光が視界を取り戻す。そこにいたのは、でかい美少女フィギュアだった。
しかも喋って動く。無機物の魔物、ゴーレムである。
そしてさっきまで俺の顔面に張り付いていたひんやりは、アスファルトに四散する寒天質と同一のもの。
ずるずるとお互いを求める欠片たちは、やがて一つの人型を再現する。ヒューマノイドタイプのスライムだ。
>「……あれ? あなたもしかして……ジェンタイルさん? って事は、隣にいるのはローゼンさんだよね!
  ねぇ、そうだよねゴーレムちゃん! これってわたしお手柄じゃない!?」
スライムの方が頭をぐにぐにさせながらゴーレムに何かを確かめる。
俺たちのことを知ってる?まさか、魔王軍の先遣が嗅ぎつけてきたのか!?
>「私達は魔物の中でも人間を保護したいと考える組織から派遣されてきました。
 組織の名称は『母性的魔物達による人間保護団体』……」
身構える俺たちに、ゴーレムはあくまでセメント面(当たり前だけど)を崩さず言う。
>「略して『もん☆むす』だよ〜!」
スライムが引き取った言葉は、いかにも同人っぽい組織のタイトルだった。
もん☆むす……。なんでそう極端な方向に転ぶかなあ!
「待て待て、何もかもがいきなりすぎるぜ! 人間を保護? 俺たち狩られる側なの!?」
それだけじゃない。
この歴史軸において、いきなり魔物から接触があったとして、それを好意的なものと誰が保証できる。
マジで魔王軍の手先だったりしたら、俺たちの所属から居場所まで全てあっちに筒抜けってことになる。
レジスタントどころの話じゃねえ。すぐにアジトを引き払って内通者の審問をはじめなきゃならなくなる。
「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」

63 :
>59-62
「あーっジェン君、何でそんな服着てんの!? 男なら女装でしょ!」
ジェン君に少女がぶつかった。
>「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」
「ぎゃーーーっ!!」
少女、否、スライムがジェン君を襲っている!
どうしよう今は多分電灯代わりぐらいの魔法しか使えないのに!
>「――正気に戻って下さい」
そんなドタバタがあって。
>「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」
そう言われても良く分からない。母性的魔物なんているのか!?
理論上は当然いない事になっている。魔王に従属する、人間の敵。それが魔物。
でも、絶対だった世界の掟に綻びが出始めているとしたら?
今までの僕なら光精霊に「行くよ!」とか言われて当然のごとく悪・即・斬!だったかもしれない。
でも光精霊は未だ出て来ない。ならば言うべきことは一つだ。
「一つ言っておく。
そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」
びしっと指を立てて力説した。
>「私、ミッフィーマウス!遊園地にようこそ!」
可愛い生き物から人数分の風船とバッジを受け取る。それを皆に配りながら言った。
「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」

64 :
アトラクションがあるよ
・船の周りでたくさんのむりょくなけいやくせいれいが民族衣装で踊るよ
・かわいいインプの導きで悪のユウシャと戦うパーターピンのショーだよ
・魔王への萌えが足りない人間を矯正するための炭坑労働施設をコースターで巡るよ
・不気味なソウリョの読経が流れるこわーいマンションを見物だよ
・幽霊船の上でアンデッド達が歌い踊る光と輝きに溢れたパレードだよ

65 :
>「待て待て、何もかもがいきなりすぎるぜ! 人間を保護? 俺たち狩られる側なの!?」
>「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」
「……何を言っているのですか? 養殖場で無理矢理繁殖させられて、一部の優秀な個体のみが道具として生かされ、
 あとは殆どが食品として加工される貴方達はどう贔屓目に見ても被虐者でしょう。
 貴方が言う通りの人間狩りも、娯楽として根強い人気を誇っています」
ゴーレムが歴史書を真砂の滑らかさで読み上げる教職のような口調で語る。
この世界の支配者は人間ではない。生態系の頂点に立っているのは魔物だ。
故に魔物にとって人間とは、人間から見た馬や牛や鶏、家畜の類いと何ら変わらない。
つまり養殖し、管理し、使役し、生かし、し、弄ぶ対象。
図抜けた能力はない代わりに汎用性、発展性、自己管理能力、生産性の高い優秀な道具だ。
「ひっどーい! 寒天娘じゃないよ!」
スライムが水風船のように頬を膨らませ、抗議の声を上げる。
「……あ、それとも、わたしを食べたいって意思表示!?」
けれどもすぐにスライムの表情から怒気は消え、代わりに驚きの色が浮かぶ。
「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」
今度はジェンタイルを茶化し、最後には両手を頬に当てて恥じらい、スライムは表情を二転三転とさせる。
それから嬉々として体を揺らしながらジェンタイルへと躙り寄った。
が、ふと自分を静かに貫く矢の根石さながらの視線に気付く。
ゴーレムだ。無言のまま、握り締めた拳をスライムに見せつける。
漆黒の瞳にありありと映る主張、『黙らなければもう一度殴り散らす』。
「う……分かったよぉ。大人しくしてるからそんな目で見ないでぇ〜」
彼女の視線に萎縮して縮み上がり、スライムはようやく鏡面のように大人しくなった。
>「一つ言っておく。
>そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」
「いえ、物事に必要なのは斬新さではなく合理性です。『モン娘。』では堅苦しい印象を抱かれてしまいます。
 それよりかは使い古された表現であっても『もん☆むす』の方が適切と言うものでしょう」
ゴーレムが無表情のまま右手人差し指を顔の前で左右に揺らす。
平坦な口調が、至って大真面目な反論の馬鹿らしさを助長させていた。
>「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
 これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
 実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」
「騒ぐ……了解しました。それでは貴方の試験とMr.ジェンタイルの質問、併せて答えてご覧にいれましょう」
言うや否や、ゴーレムは右脚を軸に一回転する。
様式美だと造形されたメイド服は微塵もはためかない。滑らかな砂で出来た髪が乱れる事もない。
ただ硬質な左爪先が地面に正確無比な正円を描いた。
続いて六度のステップ、重々しい音と共に地面に精緻な穴が穿たれる。
魔方陣が描かれた。最後に一度、地面を強く踏み付ける。
大地を揺るがす震動が魔力を帯びながら拡散する。
そして次の瞬間、ゴーレムの足元が生命の胎動を感じさせるように隆起した。
盛り上がった地面は不定形の状態から、ゆっくりと輪郭を得ていく。
人型、灰色一色のゴーレムだ。ゴーレムの精巧な複製物が地面の石材から生み出された。

66 :
「あ、わたしもおんなじ事が出来るんだよ〜! 見ててねー、えいっ!」
スライムは五月雨の奏でる軽快な雨音を思わせる無邪気にはしゃぐ。
右手で弧を描く。五指の先から一滴ずつ水玉が飛ぶ。
それらは重力に従って地面に落ちて五芒星の魔方陣を描く。
それから唐突に渦を巻き、固い地面に穴を開けて地の底へと沈んでいった。
スライムの体の断片は地下の水脈、或いは排水管へと至り、水に入り交じった。
水と同化、増殖したスライムがあちこちから湧き出てくる。
自身と同質か近似した物体と同化して複製、無機生命体の増殖方法だ。
雨粒のように、砂粒のように、数え切れないスライムとゴーレム達。
突如として現れた無数の魔物に、遊園地内は困惑、恐怖、怒りの叫びに満たされる。
「いかがでしょうか。出来る限りの騒ぎを起こしてみましたが」
恐慌に塗り潰された遊園地を背景に、ゴーレムはこれまでと変わらぬ調子で尋ねた。
「これならごーかく間違いなしだよね〜!」
スライムも依然変わらず無邪気に跳ねる。
途方も無い人間への不理解が曝け出されていた。
「さて……Mr.ジェンタイル。これが貴方の質問の答えです。
 貴方達をすのなら、もっと合理的な方法があります。
 ……人間は同じ顔立ちの二人以上の異性に囲まれると興奮を覚えるそうですが、
 この状況で貴方が覚えるのは興奮ですか? それとも危機感でしょうか?
 貴方が望むのであれば、二万と一体の私を揃える事もやぶさかではありません」
「あっ、そんな事言ってジェン君を取るつもりでしょ〜!
 駄目だよぉ、ジェン君は私のものって決めたんだから〜!」
「何を言っているのですか。人間にはかつて人権と言う物があったそうです。
 彼らを物扱いするのはいけない事ですよ」
「ふふ〜ん! 愛があればそれも許されちゃうんだよ〜!
 お前は俺の物だー! とか、言われてみたいな〜!
 ねぇジェンく〜ん、試しに言ってみてよぉ。お願い〜」
スライムがジェンタイルの腕に抱きついた。
ゴーレムは微かに首を傾げている。
二匹の魔物はそれぞれが我が道を邁進していた。
周囲で武器を構え、魔法を行使する人間達に囲まれている事には雨粒一つ、砂粒一つほども意識を向けないまま。
これだけ大々的に魔物である事を露見させて、騒ぎを起こしたのだ。
二匹は完全に敵視されていた。その二人が一方的に親しげに絡む二人も、或いは誤解される可能性は十分にある。
「……あーあー。もう、何やってんのさ。こんな大騒ぎ起こしちゃって」
前触れもなしに空から声が降り注いだ。
同時に空に夜の帳が下ろされた。太陽は深い黒に覆い隠され、代わりに満月が見える。
かと思いきや、満月はくるりと一回転すると正円の輪郭を失い、少女の姿へと変化した。
少女の背は低く、頭の上には三角形の耳が二つ、銀髪を尻尾のように後ろで括っている。
愛嬌のある顔立ち、満月によく似た大きな眼に、中央に縦に走る細い瞳孔。
服装は和風だ。袖も裾も短く動きやすい、童子が着るような服だった。
だが何よりも特徴的なのは、二本の尻尾が生えている事だ。少女は妖狐と呼ばれる魔物だった。
妖狐はくるくると回りながら人間達の包囲の最中、ジェンタイル達の傍へ降り立つ。
そして尻尾を揺らして優雅に人間達へと振り返る。和風の衣服が音もなく黒のタキシードへと変化する。
妖狐が両手を広げて作り物めいた笑みを浮かべた。

67 :
「……さあさあ皆、解散だよ! さっきの騒ぎはただのサプライズイベント。
 君達はちょっと戦々恐々としたけど種明かしを聞けば何の事はなくて、あー楽しかった、めでたしめでたし、おしまい。オーケイ?」
あまりにも見え透いた嘘だ。言い逃れとしては下の下、三流以下。
けれども妖狐は自信満々に人間達を見回す。
満月に酷似した両の眼に魔性の光を宿しながら。妖狐の特殊能力、幻術だ。
「おっと、君達は私の眼を見ちゃいけないよ。まあ、光や炎が操れるのなら
 幻惑の眼光をねじ曲げて無効化するくらいは出来るだろうけど」
妖狐が気取った所作で人差し指を立てて、ジェンタイル達に警告する。
かくて幻術による暗示は完了し、一般人達は虚ろな目をしながら散り散りとなった。
「ふう、これでよし、と。それじゃあ改めて勇者ご一行様に挨拶をさせてもらおうかな」
模造品の笑みを浮かべ、妖狐は束ねた銀髪を流麗に揺らしてジェンタイル達を振り返る。
「……ふぎゃっ!」
そして盛大に転んだ。自分の尻尾を踏んだのが原因らしい。
見事なまでに体勢を崩した妖狐は、受け身も取れずに鼻を地面に打ち付けた。
転んだ拍子に変化も幻惑も解けてしまったらしく、空は再び青さを取り戻し、衣服も和風の物に戻っていた。
「う……うぅー、痛いよぉ……」
鼻を押さえた妖狐は涙目になっていた。
水面に移った月のように瞳を揺らして、なんとか泣き出すのを堪えている。
「ま、また……また失敗しちゃっ……た……う、うえぇ……」
けれどもその我慢も長くは持ちそうにない。
慌ててスライムが妖狐に躙り寄り、胎児を包む羊水のように妖狐を抱き締め、あやす。
「そ、そんな事ないよぉ! だってほら! ちゃんと周りにいた怖ぁい人達を追い払ってくれたでしょ?」
「その通りです。目的は見事達成したのですから、成功だったと言って差し支えありません。
 Mr.ジェンタイル、光の勇者ローゼンも、同意して頂けますね?」
ゴーレムの石鏃に等しい視線が二人に狙いを定める。
既に右手は固く握り締められていた。
万が一失言があろうものならば、即座にそれを打ち砕くつもりだ。無論、物理的に。
「さあ、私達が何故彼らを訪ねたのか説明して下さい。大丈夫、貴方なら出来ます。
 朝昼晩と欠かさず滑舌練習をしているのでしょう?」
「……そんな事してないもん」
「おや、そうでしたか。ではきっと幻術を見せられてしまったのですね。
 無機生命体の私に幻術を行使出来るとは、流石妖狐ちゃんです。尚更、心配は無用でしたね」
「う……そ、そうだよ! 私は凄いんだから! そんな事言われなくたって分かってるよ!」
両眼を擦り、妖狐は立ち上がる。
再び優雅な舞踏で、二本の尻尾の先で満月のような正円を描く。
特殊能力、変化が発動。妖狐がスレンダーな矮躯に似つかわしいタキシードを纏う。
「それでは気を取り直して、初めまして。私は妖狐、二匹と同じく『もん☆むす』の構成員だよ。
 ここには彼女達のバックアップ要員として来たんだ。まったく、二匹は私がいなきゃ駄目なんだからさ」
見事に気取り屋の仮面を被った妖狐は立て板に水の滑らかさで語りを始めた。

68 :
「……っと、失礼。さっきのやり取りで私達に害意が無いのは信じてもらえたかな?
 だったら今度は、私達が君達を訪ねた理由を聞いてもらいたいんだ」
話している内に余裕が生まれたのか、語り口に芝居がかった身振り手振りが交じる。
スライムは、表情に変化はないが恐らくはゴーレムも、妖狐が失敗してしまわないか気が気でない様子で、背後から彼女を見守っていた。
「……まぁ、説明するより見た方が早いかもしれないけどね。
 ほら、あそこのマスコット。もうちょっと離れた方がいいよ」
妖狐の指が差し示すのは、ジェンタイル達の背後に見える紛い物のマスコットキャラだ。
「そろそろ、『風の噂』が法務局に届く頃だろうからね」
直後、上空から太陽をも凌ぐ眩さと熱を秘めた光柱が降り注いだ。
猛烈な高熱と光は風船配りに勤しむマスコットを綺麗に塗り潰した。
光柱は一本ではなかった。著作権法に抵触し得るアトラクション並びにキャラクターは纏めて消し炭にされている。
「噂をすれば、だね。今のは法務局が執行した極大魔法『裁きの光』だよ。
 法務局が支配している風精霊の分霊が違法行為を聞き付けているんだ。
 とは言え、あくまで分霊だからね。大した精度じゃない。
 さっきのマスコットは……著作権法の中でも特例の重罪だったから即座に執行されちゃったけど。
 例えば君達や、あちらこちらのレジスタンスの拠点は精霊の加護が干渉して上手く監査出来ないんだ」
だけど、と言葉が繋がれる。
「ここ最近、法務局はオリジナルの風精霊を探し始めた。原因は、君達だ。身に覚えがないって?
 ……四天王の一人、バベルのハウスドルフ様をやっちゃったのを忘れたのかい?
 アレ以来、法務局は血眼になって君達を探した。けど精霊の加護を受けた君達は不完全な風精霊の探査では見つけられなかったんだ」
とは言え、法務局がオリジナルの風精霊を見つけられる可能性は皆無だ。
好意的に思われているジェンタイル達にさえ、風精霊は姿を見せないのだから。
二人もすぐに、その事に思い至るだろう。
「でもお察しの通り、オリジナルの風精霊は見つけられなかった。めでたしめでたし、おしまい。
 ……だったら良かったんだけどね。法務局は、今度は風精霊を新たに作ろうと考えたんだ。
 そう、ハウスドルフ様の研究していた信仰心の操作を利用してね」
満月の眼光がジェンタイル達を睨む。鋭く、自分達に迫る危機の強大さを教え込むように。
「もしもその試みが成功してしまったら、君達だけじゃない。
 世界中のレジスタンスが一斉に『処刑』される事になるよ。
 そうなる前に、法務局を潰さにゃきゃ……っ!」
噛んだ。最後の最後で妖狐は盛大に噛んだ。
たちまちジェンタイル達に背を向けて俯き震え出す妖狐を、スライムが慌てて抱き締めた。
「だ、大丈夫だよぉ。伝えなきゃいけない事は全部伝えられたんだから大成功だよ〜。だからほら、泣かなくてもいいんだよぉ」
「泣いて、ないもん。これは……君が急に、抱き締めるから顔が濡れちゃっただけだもん……」
「……とにかく事情は理解して頂けましたね。
 法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」
スライムの胸に顔を埋めて震えてる妖狐に代わり、ゴーレムがジェンタイル達に尋ねた。

69 :
残念!法務局は範馬勇次郎の手でこの時には潰されていたのであった

70 :
>「……何を言っているのですか? 養殖場で無理矢理繁殖させられて、一部の優秀な個体のみが道具として生かされ、
 あとは殆どが食品として加工される貴方達はどう贔屓目に見ても被虐者でしょう。
 貴方が言う通りの人間狩りも、娯楽として根強い人気を誇っています」
「え……」
なに、そういう世界なの?ここって。今まであんまりにも伏線の積み重ねがなかったから戸惑ってしまう。
もしかして平和なのは街とかだけで、辺境の方じゃかなりヤバいことになってるとか……?
しかしよくわからねーのは、俺たちに対するこいつらの立ち位置。
街や村ってのは、結局のところ畜生動物で言う所の"巣"なわけだろ。しかもこの住人たちに飼われてる様子はないから、野生だ。
魔物側がその場所を突き止めていながら何故"人間狩り"に来ない?得物には事欠かないだろうに。
>「一つ言っておく。そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」
「一周回ってそこに行き着いちゃったーーっ!?もう十年前ってレベルじゃねーぞ!」
あーそっか、もう十年どころか13年ぐらい前なんだよな。
高校卒業してから殊更に時の流れが早くなった気がする。
ん。あれ?同窓会、呼ばれてない……。
>「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
 これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
 実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」
「待て待て!まるで俺たちが道楽で旅してるチャランポランな団体だと思われちゃうじゃねえか!」
<<? 何か間違ってるのか?>>
そうですね!大正解ですすいませんでした!
>・魔王への萌えが足りない人間を矯正するための炭坑労働施設をコースターで巡るよ
「おいおい、この歴史軸じゃこんなもんがアミューズメントになってんのかよ……!」
強制労働に課されている人間を見て楽しむなんて、いつから人類はこんなにも複雑な愉悦を求めるようになったのだろう。
胸糞悪いぜ。でも見もせずに批判するのは筋違いってもんだから、ちょっと拝見してこよう。
…………………………。
やっべ、ちょっと面白いなこれ。自分よりもダメな人間を見下すのは気持ちがいいからなあ。
でもこれは、慣れたらいけない遊びだよな。人間、上を見たらキリがないけれど、下を見て安心してるうちは底辺と何も変わらない。
だって見下ろしても怖くない高さにしかいないってことだもんな。
>「ひっどーい! 寒天娘じゃないよ!」
>「……あ、それとも、わたしを食べたいって意思表示!?」
「あ、いや、話しかけないでもらえます?そんなスケスケの体してる露出狂と知り合いだと思われると恥ずかしいんで」
>「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」
「上等だぜ無脊椎生物!三杯酢かけてチュルチュルといただいてやらぁ!」
寒天に可愛いとか言われるのは腹立つ。可愛いってワードは基本的に見下し成分が入ってるよね、真意に関わらず。
女が女に言う「可愛い〜」は侮蔑の意だって説が昔流行ったけれど、確かになんだか上から目線だ。リスペクトってもんがねーぜ。
>「騒ぐ……了解しました。それでは貴方の試験とMr.ジェンタイルの質問、併せて答えてご覧にいれましょう」
ゴーレムのほうが表情をピクリとも動かさず、片足で回転した。
アスファルトがゴリゴリと削れていく。コンパスのように、地面に円を描いていく。
その後なんやかんやして魔方陣が出来上がり、地面からゴーレムと同じ姿の連中がワラワラと湧いて出てきた。
>「あ、わたしもおんなじ事が出来るんだよ〜! 見ててねー、えいっ!」
寒天も似たような感じでなんか色々してたくさんのスライムを遊園地に発生させる。
和やかムードだった遊園地は一転、大量発生したスライムとゴーレムによってバトルシーンの舞台と化した。
みんな箸とポン酢持って駆け回っている。すれ違いざまにスライムから一片を剥ぎとり、ポン酢にinして即賞味。
瞬く間にスライムが全滅し、食いっぱぐれた民衆が暴動を起こした。

71 :
>「いかがでしょうか。出来る限りの騒ぎを起こしてみましたが」
「うーん、食欲に忠実な市民の心をガッチリと掴んだそのエンターテイメント、光るね!でもゴーレム増やした意味あんの?」
>「これならごーかく間違いなしだよね〜!」
「うんお前は食われただけだったね!」
>「さて……Mr.ジェンタイル。これが貴方の質問の答えです。貴方達をすのなら、もっと合理的な方法があります。
 ……人間は同じ顔立ちの二人以上の異性に囲まれると興奮を覚えるそうですが、この状況で貴方が覚えるのは興奮ですか?
 それとも危機感でしょうか? 貴方が望むのであれば、二万と一体の私を揃える事もやぶさかではありません」
「……オーケー。つまりいつでもせるのにさないのはバトル以外の用事があるから、ってわけだな?」
なるほど、スライムが増えた意味はぶっちゃけわかんねーけどゴーレムはそういうことか。
一番最初の自問に自答。初めからこいつらの言うとおり、こいつらは人間とバトルする団体じゃないということだ。
魔物側も一枚岩じゃあないんだろう。俺たちの巣を見つけたのがこいつらの派閥で助かった。
>「ふふ〜ん! 愛があればそれも許されちゃうんだよ〜!お前は俺の物だー! とか、言われてみたいな〜!
 ねぇジェンく〜ん、試しに言ってみてよぉ。お願い〜」
「自由だなお前……」
<<汝、危険度B>>
炎精霊の警告。そっと目配せすると、さっきまで寒天祭りを開催していた民衆が俺たちを取り囲んでいた。
みな血走った目で「クワセロ……モットクワセロ……」とか呟いている。その手には箸とお茶碗。
「か、寒天、民衆の皆様がお前にオファーかけてるぞ!後生だから行って来い!」
最後に残った寒天≒スライムに、民衆の視線は一極集中していた。マジか、どんだけ旨いんだこいつの体。
あとでちょっと味見させてもらおうかな。
>「……あーあー。もう、何やってんのさ。こんな大騒ぎ起こしちゃって」
あおのとき、天から声が降ってきて、なんやかんやあって民衆は解散し、俺たちの前にまた新キャラが登場した。
どんどん増えるなあ、もしかして、外堀埋められてる?俺たち。
>「ふう、これでよし、と。それじゃあ改めて勇者ご一行様に挨拶をさせてもらおうかな」
狐娘だ。和服から洋服に、洋服から礼服に衣装をチェンジしながら、
>「……ふぎゃっ!」
自分の尻尾を踏んづけて転んだ。
「寒天よぉ、お前のお仲間ってみんなこうなの?みんな凄めの登場シーンの後にオチつけるの?」
そろそろ感覚がマヒってきた。ってゆうか、ツッコミ疲れてきた。あとローゼンさんお願いします。
>「……っと、失礼。さっきのやり取りで私達に害意が無いのは信じてもらえたかな?
 だったら今度は、私達が君達を訪ねた理由を聞いてもらいたいんだ」
「ああ、うん。いうてみ?」
>「……まぁ、説明するより見た方が早いかもしれないけどね。
と、俺たちの傍にいたアメリカねずみのマスコットが一瞬にして消し飛んだ。どこだ?どこから狙撃された!?
>「噂をすれば、だね。今のは法務局が執行した極大魔法『裁きの光』だよ。
法務局。俺たちが攻め入ろうとしてる場所じゃねえか……!
妖狐は芝居がかった口調で朗々と語る。そろそろかなーと思ってたら、締めでやっぱり盛大に噛んだ。
いやあ、期待を裏切らねえなこの娘。どこぞの寒天とは大違いだ。
>「……とにかく事情は理解して頂けましたね。法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」
「悪い話もなにも――」
でもちょっと待て。法務局は風の分霊とやらで人間を監視してる?そういやネットもあいつらの監視下だったよな。
だったら何故、人間はこうやって生かされてる?『狩られる側』の存在が、ある程度の自由を残されたまま。
「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
 法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
 こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」
わざわざ風の精霊を再現するよりかは、そっちのほうがずっと経済的だ。
なぜなら家畜動物は。家畜化されたもの以外は害獣でしかないのだ。野犬が狩られるように、猪が狩られるように。
動物保護団体じゃあるめえし、野生の人類の絶滅を危惧する理由がわからない。
>>69
法務局から火の手が上がっている。レジスタンスが蜂起したのか!?まさか、拙速すぎる。

72 :
http://sonimcity.web.infoseek.co.jp//adaltn/yuukoadult001.html

73 :
ここで唐突にウルトラ兄弟達が元王都付近に登場
この星にやって来たバルタン星人の大軍と戦闘を繰り広げているようだ

74 :
「ほ、法務局大破!直ちに第十三魔甲師団を投入し反撃及び…」
「無用。私が直々に出ます」
銀髪に褐色の肌、ゴスロリファッションを纏った幼い少女の姿で。
武装もせず財布もケータイも持たず護衛も連れず。
魔王は禍々しくも豪奢な玉座から無造作に立ち上がった。
「バ、バルタン星人とウルトラ兄弟が…」
「第十三魔甲師団はそちらに。私に萌える者は武装解除して滞在を許可、萌えない者は殲滅」
飛び込んだ更なる報告に対し無邪気な笑顔で命じると、
魔王は散歩でもするかのような足取りで法務局に向かった。

75 :
現在の魔王の心境→\(^o^)/

76 :
>65-68
>70
と、いうわけで遊園地編。炭鉱労働施設を巡るコースターに乗る。
奴隷化した人々の強制労働といえば……
「あれはトンヌラとヘンリー!? さすが公式カップルだけのことはある!」
はい、久々にBL発言しときました! いろいろありすぎてガチで初期設定忘れかけてたよ!
>「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」
「後で眼科行こうか! これ程生意気で手におえなくて可愛げのない奴はいない!」
といってもスライムに目はないけど。
そしてスライム&ゴーレム祭り。
「あはははは、あはははははは、あはははは」
もう笑うしかないっていうかね、とりあえずイオナズン撃ちたい気分になってきた。
収拾が付かなくなったら爆発で場面転換するのはコメディの基本ね!
>「……とにかく事情は理解して頂けましたね。
 法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」
協力するしか選択肢がないだろう。はいと答えるまで無限寒天祭りされてもこまるし。
「分かった! まずは双方の幹部同士で話をして……」
>「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
 法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
 こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」
「だよねー、ところで法務局って……この街にあるんじゃなかったっけ」
灯台下暗しってやつ!? 法務局のお膝元でレジスタンスとはいい度胸しとるわ!
>69
>39
「えっ」
法務局から火の手が上がっている。
外に出てみると、王都は阿鼻叫喚の事態になっていた。
ウルトラ兄弟とバルタン星人が戦ってるし。
PSPを持った集団が法務局に攻め込んでいくし。
何これ、もしかしてこのまま法務局攻略編に突入する流れ!?
困ります、マジで困ります!
精霊の声が聞こえません、どうやったら治るかも分かりませんと正直に言うか?
そんな事をしたらスタメン外される。それどころか村人Aに降格。
「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」
混乱のどさくさに紛れて叫びながら駆けだした。どんっと誰かにぶつかる。
「す、すいま……お前は!!」
「フフ、やっと見つけた。魔王様の片割れ……」
それは、夜の闇より昏い、漆黒の髪と瞳を持つ少女。
忘れもしない、全ての始まり。元の世界を滅ぼそうとした闇の精霊。
「ローティアス……!」
「ローティアス? 素敵な名前ね。
だけど私は魔王様に仕える名も無き闇の精霊。精霊は個体としての名前を決して持たない。
とにかく私と共に来てもらうわ。魔王様の直々の勅命よ」
少女の姿をした精霊に腕をつかまれる。大した力でもないはずなのに金縛りにあったように抵抗できない。
闇の転移魔法が発動すると同時に、全てが影に沈んだ。

77 :
ローゼン達が転移した先で見た光景
精神を折られた魔王が範馬勇次郎によって顔の皮を剥がされる姿であった
この様子がPSPを持った集団の手により全世界に流されている
魔王の支配が終わり、人間達の逆襲が始まった瞬間であった

78 :
ここまでローゼンの白昼夢

79 :
そう。全てはローゼンの見た夢幻。
いかにファンタジー世界と言えども、創作物である版権キャラクターや実在の芸能人が現れたりするわけがない。
今までの物語はローゼンの願望だったのだ。
ローゼンが現実を見れば、公務員としての仕事が待ち受けている。

80 :
ジェンタイルはというと、実はローゼンの年上の上司だったりする。

81 :
ローゼンは夢を見続けていた。
精霊が作り出した直径3メートルほどの球状の漆黒の闇、
その中央に浮かされて身体を丸めて眼を閉じて。
――バベル
「Пожалуйста, умирают в ядовитый газ」
変色し溶けてゆく身体。
――祭の湖畔村
「そして……天高く光が輝けば、地には深い影が墜ちる」
途切れる事無く降り注ぐ花火に草木は燃え上がると見せて黒く溶け去り地に沈む。
――辺境村役場
「今期の道路補修工事区間の仕様出して見積…」
「広報に載せる放火注意の原稿今日中にお願いし…」
「避難所の看板の裏にスズメバチの巣があるそ…」
泊まり込みで働き続ける平凡で幸せな日々。
――無数の人々がそれぞれ手にする小さな画面の中
「魔王様バンザイ!バンザイ!一生ついていきますう!」
民衆の声に婉然と微笑む銀髪褐肌ゴスロリ……の顔がめくれ、現れる金髪白肌
「ククク……ハハハハハ! 僕に言わせればお前達人間こそが世界を食い荒らすバグだ!
もっとも星の歴史から見れば一瞬で消えてしまう程度の取るに足らない、ね」
……の顔がめくれ、現れる銀髪褐肌
「お姉ちゃん……じゃなくてお兄ちゃん。どうか辿り着いて、わたしのところまで!」
……の顔がめくれ……
闇の球が浮かぶのは、天井が焼け落ちて尚炎上を続ける法務局の一室。
ねこは闇の球の影の中で香箱を作っていた
「まったく手のかかるご主人様だにゃ」

82 :
「ふふ、いい絵が撮れた…これで薄情なお友達に招待状を送りましょう」
画面に映るは、炎に囲まれた朧な闇の中、胎児の姿勢で眠るローゼン。
(こーら、アホジェン!)
(待ちなさーいアホジェン!)
(何やってんの、アホジェン!)
(この……アホジェン……!)
(……どんなに怖かったと思う? アホジェン!)
交錯する数多の夢に翻弄される表情は、これが“あの”ローゼンかと疑う程痛々しかった。
数分の動画を再生し終えると、闇精霊は生き残った法務局の端末にデータを転送した。
強制配信;
対象=全回線;
繰り返し再生=無限;
即時実行;
この世界の全てのネットワーク端末――津々浦々に備えられた街頭モニタから
交通機関や施設の電光掲示、個人の携帯端末に至るまで――に、
眠るローゼンの映像が繰り返し映し出される。
ジェンタイル達がいる遊園地の大型スクリーンも例外ではない。
「…さっさと会いにいらっしゃい。あの小生意気な《風》を連れて」
闇精霊は呟く。

83 :
>「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
  法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
  こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」
「可能性ですよ、Mr.ジェンタイル。人類は基本的に、我々魔物に劣っています。
 力も、魔力も、知能も、それぞれ人間を遥かに上回る魔物がいます。
 だと言うのに、人類は魔物との長い争いの歴史の中で、何度もその格差を覆してきました」
スライムの胸の中でさめざめと泣いている妖狐に代わり、ゴーレムが返答する。
「屈強を極める巨人族と力比べで上回り、何百年もの時を生きた悪魔を魔術で下し、
 果てには魔王様さえすような存在が現れる。その可能性が人間を生かしておく最大の価値です。
 貴方達は誰しもが素晴らしい物を生み出し、素晴らしい者になる可能性を秘めていますから。
 えぇ、今はろくでもない女たらしにしか見えない貴方でもです」
それらを徴収し、果てには可能性そのものを魔物の物とするのが理想的な展開。
>「だよねー、ところで法務局って……この街にあるんじゃなかったっけ」
「えぇ、あちらに……」
ゴーレムが川の水流に磨き上げられた丸石のように滑らかな動作で手を動かし、法務局の方角を示す。
「……って、法務局燃えちゃってるじゃん! 大変だよぉ! あそこには私達のお友達もいるのにぃ〜!」
スライムが寝耳に水の様相で叫んだ。
見れば彼女の言葉通り、法務局からは火の手が上がり、暴徒の群れが押し寄せている。
「……魔物を相手に物量戦を挑むとは、愚かな事ですね。進んで自分達の可能性を手放すとは。
 とは言え、私達も人間を見しにする訳にはいきません。
 生き物というのは、往々にして弱くて愚かな方が愛らしいものですしね」
ゴーレムの態度は大山のごとく動じない。だが胸中には地中深くに眠りながらも熱く滾る溶岩のような激情を秘めていた。
握り締めた左の拳は激烈な大地震の前に訪れる僅かな揺れを思わせるように震えている。
>「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」
「いけません、光の勇者ローゼン。このような状況で錯乱して走り出すのは露骨な死亡フラグですよ」
>「す、すいま……お前は!!」
>「フフ、やっと見つけた。魔王様の片割れ……」
>「ローティアス……!」
>「ローティアス? 素敵な名前ね。
 だけど私は魔王様に仕える名も無き闇の精霊。精霊は個体としての名前を決して持たない。
 とにかく私と共に来てもらうわ。魔王様の直々の勅命よ」
「あぁ、言った傍から……仕方ありませんね。Mr.ジェンタイル、光の勇者を助けに行きましょう。
 法務局の中には私達の友達もいます。私達は全面的に貴方に協力させて頂きます。
 もしも貴方が断ろうとも、強引に。どの道、貴方には光の勇者を助ける以外の選択肢はない。そうでしょう?」
ゴーレムが提案、そしてジェンタイルに追随する形で法務局へと移動する。
「もぉ〜! ネズミさんじゃないんだから集団自の真似事なんかやめてよぉ!」
到着と同時にスライムは再び分裂、消火活動と、人間達と戦うふりをしながら保護を図る。
ゴーレムも同様だ。彼女達は人間をすつもりはないが、同様に同胞である魔物との戦闘を避けたいとも思っていた。

84 :
「ハイ、魔術師君。あの二匹は暫く忙しそうだから、ここからは私が君をフォローするよ。
 ……なんだいその顔は。まさか私だけじゃ心配だなんて言ったりしないよね?
 ま、法務局の中には友達がいるからね。どっちみち、その内合流する事になるだろうけど」
ジェンタイルの小脇から、ひょいと妖狐が顔を覗かせる。
「……と、ごめんよ。早速一匹、友達を見つけちゃった」
法務局の入り口へと続く道、ジェンタイルのやや前方、無惨に横たわる死体が転がっていた。
人型だ。病的に青白い肌をした、外見だけなら人間と見間違えてもおかしくない少女だった。
乱れた長い黒髪、死に濁った大きな目、まだ僅かな生気の残滓が見られる薄桜色の唇。
可憐な少女の面影が、死体の放つ虚無感を殊更に助長させていた。
した者は、彼女が人間でも構わなかったのだろう。
単にやり場のない怒りを誰かにぶつけられればよかったのか。
それとも法務局にいる時点で、魔物に重用された裏切り者だと思ったのか。
少女は胸を刃物で深く抉られ、露になった心臓を炎魔法で焼き尽くされている。
近寄れば人肉の焼ける臭いと、気化した脂肪が唇に纏わり付く感覚を覚えるだろう。
「あぁ、可哀想に。こんな姿になってしまって……。痛かったろう、苦しかったろう……」
妖狐が少女を抱き起こす。
「ほら、起きなよ。ここで寝てたらもっと酷い目に遭うかもしれないよ」
そして少女の頬を三発、平手で張った。
少女の首が叩かれた方へ力なく、振り子のように揺れる。
「ん……あ、おはよう妖狐ちゃん」
少女が目を半分ほど開き、虫の吐息のように小さく平坦な声を紡いだ。
「おはよう。魔術師君、紹介するよ。彼女はゾンビちゃん。……まぁ、名は体を表すって言うし細かい説明はいらないよね」
目を覚ました少女の胸の傷が、見る間に再生して塞がっていく。
「あ、でも怖がらなくて大丈夫だよ。彼女は別にTウィルスの保菌者って訳じゃないから。
 ただ全身の細胞が闇属性の魔力によって癌化しているんだ。だからどんな傷を負っても再生しちゃうんだよ。
 ほら、この人が光の勇者の愉快な仲間ジェンタイル君だよ、ゾンビちゃん。ご挨拶しないと」
ゾンビが寝ぼけ眼によく似た虚ろな瞳でジェンタイルを見据えた。
ゆっくりと立ち上がり、歩み寄る。

85 :
「……おなか、すいた」
言うや否や、ゾンビはジェンタイルに抱きつき、大口を開けて首筋に噛み付いた。
癌化した細胞による超再生の代償、急激なカロリーの消耗による飢餓感だ。
けれどもまた死後の硬直がほぐれないままのゾンビは上手く体を動かせない。
精々、甘噛みするので精一杯だった。
「いきてる、じっかんがほしいの……。あなた……とても、あたたかい……すてき……」
炎精霊の加護を受けたジェンタイルの体温は高く、死んだばかりで冷え切ったゾンビにはとても心地よかった。
衣服が引き裂け燃えてしまったゾンビは、再生したばかりで柔らかな胸をジェンタイルに押し付けて、その体温を貪るように感じている。
とは言えジェンタイルからすれば、ゾンビの行動はどれも驚く事ばかりの筈だ。
そうして彼が少しでも暴れれば、ゾンビは容易く振りほどける事だろう。
「あ……」
振りほどかれたゾンビは尻餅をついて、はっとした表情でジェンタイルを見上げる。
それから頭を庇うように抱えて、怯えながら懇願を始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……あたまだけは、いやなの。ぶたないで、こわさないで。
 ほかのことなら、なんでもするから。おしおきも、うけるから。ころしたっていいから。だから、ゆるしてほしいの」
「……彼女は神経細胞だって再生出来るけど、そこに書き込まれた記憶までは再生出来ないんだ。
 だからもしも脳が破壊されたら、彼女は記憶を失ってしまう」
妖狐がゾンビの傍で屈み、彼女を抱き締めながら真剣な眼差しでジェンタイルを見つめた。
「どうか許してあげてくれにゃ……ないかな」
大事な所でまたも噛んだのは完全になかった事として扱い、妖狐は立ち上がる。
「さておき……どうしようね、この状況。一人分断されちゃってるし、私達じゃ光の勇者様の居場所は分からない。
 手当たり次第探すしかないんだけど……まずは進入路から決めようか。正面から突破出来る自信はあるかい?
 無いなら、どこかの壁を溶かすとか、窓から侵入した方がいいね。勿論他のプランがあるのなら、私達はそれに賛同するよ」
【素人の私が主導するよりも、丁度一人になられたローゼンさんが主導した方がいいと判断しました。
 大変なお手数をおかけしてしまうのですが次からリードして頂けますか?】

86 :

>「可能性ですよ、Mr.ジェンタイル。人類は基本的に、我々魔物に劣っています。
つまりこういうことらしい。
ヒトという種に秘められた可能性――"実現の伸び代"とでも表現すべきそれは、悪魔や魔物の比じゃない。
技術や文明をここまで発達させたのは人間で、それは今後ともにまだまだ期待できるのだ。
なんか生物学的に研究されてるみたいでムカつくけれど、そういうふうに見られてるおかげで俺たちは絶滅してないんだと。
> えぇ、今はろくでもない女たらしにしか見えない貴方でもです」
「俺そんなふうに見られてるの!?」
いやいや、流石にそれはキャラじゃねーよ。テンプレ見ろよ、このシンプルさで売ってきてんだぜ俺は。
言うに事欠いて女たらして。
<<今のところ寄ってきたのはメタルマッチョと寒天だけだな>>
リストアップしないで。悲しくなるから。
>「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」
ローゼンが発狂しながら飛び出していった。名伏しがたき冒涜的な何かでも見たのか!?
否、奴が見たのは萌えるほうむきょくだった。間違えた、炎上する法務局でした。
「どこいくんだよ!?戻ってこいローゼン!――駄目だ、行っちまいやがんの」
いきなり敵の本拠地に乗り込むやつがあるか。まだ霊装も完成してねーのよ!
レベル上げしてねーのに新しいダンジョンに挑むようなもんだ。
俺あいつが大学生のときアリアハンでひたすらカラス倒してレベルカンストさせたの知ってるぞ。
>「あぁ、言った傍から……仕方ありませんね。Mr.ジェンタイル、光の勇者を助けに行きましょう。
「ああ、なんかもうどっちが人間側か分かったもんじゃねえな」
魔物のこいつらが建設的に進めようとしてるのに遊んでてすいませんホント。
すぐ連れ戻しますんで、ええ、よく言って聞かせます。
>「ハイ、魔術師君。あの二匹は暫く忙しそうだから、ここからは私が君をフォローするよ。
突入隊の援護に回ったゴーレムとスライムがログアウトし、代わりに妖狐がインしてきた。
駄目だ、こいつさっきオチつけたせいでそういうキャラにしか見えねーよ。
幻術使いだっけ?あれ、じゃあ寒天とかより援護に適任じゃねえの!?
>「……と、ごめんよ。早速一匹、友達を見つけちゃった」
進む俺たちの前に、一つ死体があった。死体。ガチの、死んだ人間。それもひどく損壊している。
貫かれた胸部から垣間見える骨、焼け焦げた臓腑。周囲に漂う、ヒトの焼ける匂い。
肌に妙な湿り気を覚える。そうだ、人間を燃やすとこんな風に、蒸発した脂で肌がベタつくんだ。
それは俺のよく知る感覚だった。俺の原初のキャラ設定。辺境村で――俺はもっと酷い焼き方をしたことがある。
「……う」
>「あぁ、可哀想に。こんな姿になってしまって……。痛かったろう、苦しかったろう……」
そうだ、慣れっこのはずなんだ。俺の趣味は人を焼くことなんだから。
なのにこの込み上げてくる嫌悪感はなんだ?焼死体に対する忌避感はなんだ?
理由は分かってる。あの頃とは違って、この死体は――死んだままなんだ。二度と蘇らない。
この世界では"死"は確かなものなんだ。元の歴史軸みたいに、適当に死んで生き返るような曖昧なものじゃない。
この少女は。死が確定している――!
>「ほら、起きなよ。ここで寝てたらもっと酷い目に遭うかもしれないよ」
>「ん……あ、おはよう妖狐ちゃん」
死が……確定……え?
みるみるうちに再生していく元・死体。数秒後には、ただの人間の女の子がそこに居た。
>「おはよう。魔術師君、紹介するよ。彼女はゾンビちゃん。……まぁ、名は体を表すって言うし細かい説明はいらないよね」
「はあああああああああ!? お前、お前、詐欺みてーな登場の仕方すんなや!」
そして気付くべきだったね!こいつらのお仲間はみーぃんな、登場シーンでオチつけくさるってことに!
はあ、ゾンビねえ。辺境村に居た頃は村民みんなゾンビみてーなもんだったから、リアルゾンビ娘はノーサンキューだわ。

87 :
>「……おなか、すいた」
ゾンビは、バイオハザード(やったことねーけど)のそれがするのと同じように俺に覆いかぶさってきた。
ぎゃー!冷たい!?やめて、死体の温度とか軽くトラウマになる記憶だろそういうの!
なんか柔らかいし!いや字が違う!軟らかいんだよこいつの身体!崩れそうで怖いんですけど!
>「いきてる、じっかんがほしいの……。あなた……とても、あたたかい……すてき……」
んな光に集まる虫みてーなこと言われてもさあ!生きてる実感とか、おめー死んでんだろーが!
つーかなに、そんな思春期の中学生みたいなこと言っちゃうのこいつ。退屈な日常に疲れちゃってるの?
あと押し付けないでください。感覚があの寒天と一緒なんですが。
みぶるいして、俺はじたばたした。ゾンビの拘束は簡単に外れ、地面にべたんと尻餅ついた。
>「ごめんなさい、ごめんなさい……あたまだけは、いやなの。ぶたないで、こわさないで。
>「……彼女は神経細胞だって再生出来るけど、そこに書き込まれた記憶までは再生出来ないんだ。
「頭壊されたら記憶にリセットかかっちまうってことか……」
まあ普通の人間は頭壊されたら人生にリセットかかっちまうから、一概になんとも言いがたいけれども。
脆弱な生身の人間よりも、再生能力があって頑丈なはずのゾンビのほうが頭脆そうなイメージがあるのはやっぱバイオのせいかな。
いや、プレイしたことはねーんだけども。ヘッドショットすると一撃らしいじゃん?
>「さておき……どうしようね、この状況。一人分断されちゃってるし、私達じゃ光の勇者様の居場所は分からない。
 手当たり次第探すしかないんだけど……まずは進入路から決めようか。正面から突破出来る自信はあるかい?」
「おっと驚け慄け山椒の木だぜ狐公。俺たち精霊使いはな、契約精霊同士の魔力波長を探知できるんだぜ」
まあ携帯電話同士で通話できるようなもんだな。精霊共はしょっちゅうおしゃべりしてるみたいだし。
こいつを使えば光精霊越しにローゼンの位置もスッパリ特定可能ってわけだ。
<<――――? 汝、光精霊の魔力が読み取れん>>
「あん? そんなはずがあるか、ローゼンは確かにこの法務局に入ってったぞ」
<<それがな。登録してある光精霊のパーソナルコードにアクセスできないのだ。通信が断絶している>>
つまり……どういうこと?
<<強力なジャミングが働いているか、あるいは――ローゼンと光精霊との契約が切れている可能性がある>>
「契約、破棄……?」
契約精霊との契約が切れることは、実はそう珍しいことじゃない。いくつか要件はあるけど、最も多い例は、
1.債務不履行に基づく契約破棄。対価を払えずに契約を維持できなかった場合。
2.期間の定めのある精霊契約における、期間満了。及び契約更新をしなかった場合。いわゆる雇い止めってやつだな。
3.契約内容の変更による契約自体の消滅。対価を変更したり、契約者が死んだりしたときに契約そのものが消える場合だ。
精霊との契約が切れると、再契約まであらゆる精霊加護が受けられなくなり、精霊魔法が使えなくなる。
ローゼンが今そうなってるとしたら、あいつかなり危険なんじゃねえのか?
つーか水精霊はどうしたんだよ、今たしかローゼンの中に光精霊と棲み分けしてなかったっけ。

88 :
「とにかくこれで虱潰しに探すしかなくなったな。しょうがねえ、ちょっと耳塞いで口開けてろ」
妖狐とゾンビに忠告して、俺は目の前の壁にプラスチック爆弾を盛りつけた。
ボタン電池型の信菅を中央に埋める。加護を受けた特殊なC4なので、盛りつけた壁にピタリとくっつくように立てば安全だ。
「ボタンフックエントリーでいくぞ。俺が右、お前が左だ狐」
持ってきたMP5(サブマシンガン)の弾倉ど動作をチェック。替えのマガジンも6つ持ってきた。
ホントはアサルトライフルの一つも欲しかったが、屋内戦闘を想定する以上あまり長物は取り回したくない。
「ゾンビは……どうしようか」
動きがトロいこいつは屋内でも良い的だ。盾にしたってヘッドショットでもされた日には妖狐に一生恨まれる。
戦えっつったって引き金の一つ引く間に蜂の巣にされそうなトロさだ。老人の霊でも乗り移ってんじゃねえかってぐらい。
「……あーもう!どうにでもなあれ!」
プルプル振るえる手をとる。腰で掬い上げるようにして、背中に脱力した身体を乗っける。
俺はゾンビを背負った。うひぃ、生冷た軟らかい!なんていうか"肉体"じゃなくて明らかに"人肉"の感触だよなあ!
赤ん坊にそうするみたいに、たすきでしっかりゾンビの身体を背中に固定。噛み付くなよーマジで。
「ん。こいつ噛むんだっけ?細胞増殖っつうからには大食いなんだろうけど、まさか俺、食われたりしねーだろうな……」
今度こそ。俺は万感の思いを込めて起爆スイッチを押し込んだ。
ドン!と轟音、次いで爆炎。壁に大穴が穿たれ、その向こうの戦場が垣間見える。
「ゴーアヘッド!」
俺はMP5を抱きしめて、戦火渦巻く最中へと飛び込んだ。

89 :
「…来た」
闇精霊が呟く。
セキュリティシステムは半壊、魔物達も警備要員一般職を問わず既に相当の数を減らしている。
武装を固め魔物に手引きされるジェンタイルが上階のこの部屋に辿り着くのは時間の問題でしかなかった。
「ねえ、きょうだいと幼馴染み、どっちの口づけで目覚めたい?
…別に勝手に起きてもいいけど」
ローゼンを浮かべていた闇の球体は薔薇を敷き詰めた天蓋付きのベッドに変わり、
銀髪褐肌ゴスロリが傍らに腰掛け語りかけていた。
「やつは近代火器持たせると実に生き生きするにゃあ。まるで霊装、ていうか原理は同じだにゃ」
ねこは伸びをした

90 :
>77-80
「……ん? 夢……?」
目を開けると、机に突っ伏していた。
「勤務中に寝るんじゃねー!
広報に載せる放火注意の原稿今日中に仕上げろよ!」
「ひゃいっ、係長!」
こいつは上司のジェンタイル。童顔美少年ルックのくせに人使い荒くて最悪だ。
「頑張って、あのアホ上司の相手を出来るのがはお兄ちゃんぐらいよ」
彼女はリリアン。本当はこんな所にいるのは勿体ないぐらいの自慢の妹。
なぜか夢の内容を語りたい衝動に駆られた。
「リリアン、夢を見てたんだ……。
アホジェンは年下の浪人生でメタルクウラ姉さん(通称)はマジもんの顔アリペプシマンになってて
変な奴が暴れて君は小さい頃に行方不明になってて、世界を救う旅に出るんだ」
「バカねえ、ゲームのやり過ぎよ」
「それで途中で魔王が復活して……その魔王はリリアンそっくりなんだよ!!」
「そんな事があるわけないでしょ?」
リリアンは微笑みながら手を伸ばし、頬に触れる。
――その手は、凍てつくように冷たかった。
「――!!」
漆黒の闇の中。リリアンが目の前にいて、愛しげに頬に触れていた。
「長い長い時を待っていた。やっと会えた……我が半身……」
こいつはリリアンじゃない、人間達を蹂躙する恐るべき魔王だ。
でも、それでも。もしかしたら話が通じるかもしれない。通じて欲しい。
「リリアン、僕を覚えてる!? 何の取り柄もない君の姉!」
「私はリリスティアーズ。あなたは姉じゃなくて兄でしょう。
肉体なんて魂の器に過ぎないんだから。
あなたが勇者に討伐されたあの日から、この時をずっと待ち続けた。
お兄ちゃん――魔王ローズブラッド様」
「違う!! 違うよ……覚えてないの? 辺境の村で一緒に遊んで喧嘩して……」
魔王は哀れむようにこちらを見るだけ。
あのリリアンはもういない。完全に時間改変に巻き込まれてしまったんだ。
「錯乱しているのね、すぐに落ち着くわ。もう少しお眠り」
成す術もなく、再び意識が闇に落ちる。

91 :
炎上する村。逃げ惑う人々。人々を蹂躙するのは、冷酷非道な薔薇の魔王。
「この村に勇者がかくまわれているそうじゃないか。答えろ、勇者はどこにいる?」
「僕」は無数の棘持つ触手を操り、村人を締め上げる。
「強情な奴め、まあいい。ならば皆しだ!!」
これってどこの某大作RPG4作目の魔王様ですか!?
嘘だ違うやめろやめろやめろ――世界が、砕け散る。
>「ねえ、きょうだいと幼馴染み、どっちの口づけで目覚めたい?
…別に勝手に起きてもいいけど」
夢か現か、訪れる何度目かの覚醒。
大層な舞台装置が演出するは、王子を待ち続ける眠り姫。
「……どっちもお断りだ。僕は王子様を待つお姫様ってガラじゃない。
大体ジェン君がそんな事をするはずないだろ」
ベッドを降りて去ろうとすると、後ろから魔王が抱きついてきた。
「ねえお兄ちゃん、勇者なんて、人間なんてやめよう? 
不毛な円環を終わらせるの……。私と一緒に新世界の神になって!」
必至で振り解いて逃げ出す。騙されてはいけない。耳を貸してはいけない。
これはリリアンじゃない。ありがちな魔王の籠絡だ!
「嫌だと言ったら!?」
「選択権は無いわ。ならば力尽くで人間としてのあなたを消すまで!」
魔王が手に取るは、豪奢なナイフ。
華奢な体からは想像もつかない速度で距離をつめてきた。
鈍く煌めく白銀の刃を、目にもとまらぬ速さで翻し。
切っ先は過たず左胸に向けられ。ヤバイ、刺さる――!
―――――
>85
>88
ジェンタイルとモン娘。じゃなかった、もん☆むすの前に球状の発光体が漂ってきた。
『付いて来て!』
どうやら光精霊のようです。

92 :
>「おっと驚け慄け山椒の木だぜ狐公。俺たち精霊使いはな、契約精霊同士の魔力波長を探知できるんだぜ」
「へえ、そりゃまた便利だね。……でもGPS携帯の一つや二つ持ってないのかい?
 光の勇者なのにアナログ派だとか、今時のキャラ付けとしては甘々なんじゃない?」
>「あん? そんなはずがあるか、ローゼンは確かにこの法務局に入ってったぞ」
>「契約、破棄……?」
妖狐の顔を覆っていた飄々たる仮面が剥がれ、三日月のように鋭い眼光がジェンタイルを見据える。
紅色の満月を見上げた時に心臓を気味悪く高鳴るような、穏やかならざる雰囲気は感じ取っていた。
>「とにかくこれで虱潰しに探すしかなくなったな。しょうがねえ、ちょっと耳塞いで口開けてろ」
「了解」
妖狐は目の高さ、側頭部に両手を添えた。
彼女の頭の上では可愛らしげな三角形の耳が小さく動いている。
「……って、うわわっ! ちょっと待って! 塞ぐとこを間違えちゃった!」
慌てて妖狐は手の位置を変える。
「わたしは……だいじょうぶ……。うるさいのも……いきてる、じっかんだから」
一方で、ゾンビが希望なき人生が迎える死のごとく緩慢な口調で答えた。
彼女にとって死は一度限りのものではない。
幾度となく完全な虚無に呑まれる内に摩耗した心は、死と消滅の恐怖以外の全てを生の喜びとして享受するようになっていた。
>「ボタンフックエントリーでいくぞ。俺が右、お前が左だ狐」
「オーケイ、私が先に行くよ。幻惑の光がフラッシュバン代わりさ。君に浴びせるつもりはないけど、一応対策はしておいてね」
妖狐は右手に魔力を集中させて満月の模型を思わせる光球を創り出す。
炸裂した光を直視すれば、対象の耐性にもよるが暫くは幻覚を見せられる。
とは言え歴史軸の交錯による記憶混濁の時のように、外部から精神の変異を是正してくれる精霊がいるジェンタイルならば、
仮に直視したとしてもすぐに回復が図れるだろう。
>「ゾンビは……どうしようか」
「ここに置いていくのも連れていくのも危ないからね。安全な場所が見つかるまでは私が……」
>「……あーもう!どうにでもなあれ!」
庇いながら進むと言おうとしたところで、ジェンタイルが半ば自棄になりながらゾンビを引き寄せた。
腕よりも遥かに効率的に物を支える機能を持つ脚の筋肉を活用して、非力なりに彼女を背負いあげた。
「……なんだいなんだい、光の勇者を助け出す前に魔術師を卒業したりしないだろうね。
 目鼻立ちが整ってるからって、君みたいなちゃらんぽらんにゾンビちゃんはあげないよ」
妖狐は初期のテンプレ的な紙切れを片手に、微かに唇を尖らせて不満気な様子だった。
不満の根っこにあるものは友達を取られてしまうかもしれないと言う危機感か、或いはもっと別の感情なのか。
それは彼女自身にも自覚し得ないものだった。
>「ん。こいつ噛むんだっけ?細胞増殖っつうからには大食いなんだろうけど、まさか俺、食われたりしねーだろうな……」
「……あなた、とてもあたたかい。からだだけじゃなくて、こころも。あなたがいやなら、かんだり……しない」
ゾンビがジェンタイルに抱きつく力を少しだけ強めて、答えた。
不死性や元人間と言う理由から、同じ魔物の間でも嫌われてきた彼女にとって、
ジェンタイルの対応はこの上ない、温かな生と存在の実感だった。

93 :
「さて、それじゃあ行こうか。と、その前に、このテンプレは君に返して……」
不意に突風、紙切れが妖狐の手中から奪い去られる。
「目鼻立ちは整っている」「人の焼け匂いが好き」等々と記入された真っ黒な初期テンプレが、
回収不可能の個人情報と化して世の中に解き放たれた。
「……さて、行こうか」
妖狐は完璧な笑顔の仮面を被って、何事もなかったように平静を演じた。
そして爆発、破壊音、設置されたC4爆弾によって壁が破壊される。
>「ゴーアヘッド!」
ジェンタイルの掛け声に応じて、妖狐が屋内へ飛び込む。
同時に幻惑の光を放とうとして、
「……ふぎゃんっ!」
足元に散らかった瓦礫に蹴っ躓いて、盛大に転んだ。
タイミングが遅れ、ジェンタイルが飛び込んだ後で幻惑の光は炸裂した。
目も当てられない大失敗だ。
幸い事前に対策は取るよう警告してある上、屋内の魔物達にも幻惑の光は命中した。
突入そのものが失敗になる事はないだろう。
「あ、あはは……ごめんごめん。まぁ結果オーライって事で……」
妖狐は誤魔化しの苦笑いを浮かべながらジェンタイルに詫びを入れる。
「と、とにかく! ここはどうやら休憩室のようだね。
 ヤバくなったらここに逃げ込めば多分体力回復出来るんじゃないかな。RPG的に考えて」
仮眠用の固そうなベッド、流れ弾の直撃した棚からぶち撒けられた紅茶葉の香り、
撃破された魔物の傍に転がる食いさしのマフィンの甘い匂い、それらを見回し、嗅ぎ取り推察した。
「まあ今は休んでいる場合じゃないよね。先に進もうか」
妖狐が休憩室の出入口、たった一つのドアに向かう。
そして尻尾の先端が満月を描くように一回転、変化の術を行う。
姿は変えないまま豆粒ほどの大きさに変化して、ドアの下の隙間を這って潜り抜ける。
外の様子を見てから休憩室内へと戻り、変身を解除。
「……外には誰もいない。けどさっきの爆発を聞き付けていつ誰が来てもおかしくない。行こうか」
振り返り、歩き出す。ドアで強かに顔面を打った。
変化を解除しているにも関わらず、先ほどドアの下を潜った時と同じ要領で外に出ようとしたのだ。
「い、痛い……うぅ……」
妖狐が鼻を押さえ、目に涙を浮かべ、湖面に映し出された満月のように瞳を揺らす。
先ほどから誤魔化し誤魔化しやってきたが、いい加減失敗続きの自分に言い訳が出来なくなったようだ。
と、ゾンビがジェンタイルの背中越しに、妖狐の頭に手を伸ばした。
「だいじょうぶ……ようこちゃんは、やればできるこ……」
頭を撫でながら、元々の絶望に満ちた人生に訪れる死のような緩慢さで一層優しげに聞こえる声色で妖狐を慰める。
不器用な撫で方だったが、妖狐は少し落ち着きを取り戻したようだった。
「……そんな事、言われなくたって分かってるもん。ほら、行くよ魔術師君」
何とか調子を取り戻した妖狐は気取り屋の仮面を被り直す。今度こそドアを開けて休憩室を出た。

94 :
「とは言え虱潰しかぁ。ここ、結構広いし部屋も多いから手を焼きそうだね」
暫く進むと、壁に矢印の記されたプレートがあった。
「……ん、この先に資料室があるんだってさ。一応確認していこうか。
 光の勇者が監禁されてる可能性は低いけど、何か役立つ物があるかもしれない。
 ほら、ゾンビちゃんがいる事だし、なんかやたら意匠の凝った鍵とか、秘密文書とか……」
下らない冗談を交えつつ資料室に入る。
「さーて、手早く探しちゃおうか。こう言うのは大体、棚の奥に秘密のファイルや鍵が……」
妖狐が棚に歩み寄り、直後に自分の尻尾を踏んで盛大につんのめった。
体勢を立て直す暇もなく、棚に頭から突っ込んだ。
割れたガラスや雪崩落ちた資料が派手に悲鳴を上げる。
「……物音がした?」「資料室からだ!レジスタンス共が入ってきやがったか!?」
外にいた警備の魔物に聞かれてしまったようだ。荒々しい足音が資料室へと迫ってくる。
「あわわ……ど、どうしよう! あ、そうだ! 魔術師君、ドアを溶接して塞いで!」
けれどもそうした所で、外の魔物達は強引にドアを突き破ろうとするだろう。
乱暴に、何度もドアに打撃が加えられ、重々しい音が資料室を満たす。
「う、うぅ……急いで何とかしなきゃ……。でもどうやって……」
軽い錯乱状態に陥った妖狐の思考は上滑りし続け、時間は無為に過ぎ去っていく。
打撃音が恐怖と錯乱を煽り、心臓の鼓動を加速させる。
だが、不意に打撃音とも鼓動音とも違う、小気味いい音が響いた。
中指の先と親指の付け根で空気を弾く、フィンガースナップの音だった。
一拍遅れて、ドアの外で魔物達の短い悲鳴が上がった。
それきり、ドアは叩かれなくなった。静寂が僅かな不気味さと不安を連れて資料室に戻ってきた。
「おいおい、少し不注意過ぎるんじゃないのか?
 二人以上のチームで移動する際は、後方の一人が退路と後方の安全を確保し続けるのが定石と言う物だろう。
 まったく、私が偶然通りかからなかったらどうするつもりだったんだ?」
ドアの外からジェンタイル達に語りかける、微かに尊大な響きを含んだ声。
再び快音が鳴り響く。
「見ていられないぞ、ジェンタイル。暫く見ない内に腑抜けたんじゃあないのか?
 そんなお前なら、いっそ私がこの手で滅ぼしてやってもいいんだぞ? これ以上醜くなってしまわない内にな」
声の孕む音色が途端に、影に覆い尽くされた氷河の世界のごとく冷厳なものに一転した。
更に声の出所はドアの外ではなく、ジェンタイルの後ろへと移動していた。
ドアは一度も、僅かにも開いていないにも関わらず。まるで、いついかなる時も傍に這い寄る影のように。
だがジェンタイルが振り返ってみても、彼の視界に誰かが映る事はない。
「おいおい、どこを見ている。私はこっちだぞ」
声はジェンタイルの目線よりも大分下から発せられていた。
声の主は、少女だった。

95 :
声の主は、少女だった。
宵闇を思わせる艶やかな黒髪は、顔の左右を覆うようにして肩口まで伸びている。
長い襟足が鋭角的に跳ねて、ワイルドかつスマートな輪郭のウルフカットだった。
少女の肌は暗闇でこそ浮き彫りになる光のように白い。
顔立ちは端整で、月明かりに照らされたナイフのような印象を醸している。
特に目は特徴的だった。切れ長で鋭く、虹彩は血の色をしており、不穏な輝きを見せる紅い満月のようだった。
体格はジェンタイルの平時の目線では視界に入らないほどに背が低く、また起伏にも乏しい。
服装は黒い細身のジーンズにシースルーのシャツ一枚、シャツの生地が薄い為、白いスポーツブラが透けて見える。
少女はジェンタイルと目が合うと、たちまち鋭利な表情を僅かに崩して、得意げで小生意気な笑みを浮かべた。
「ね、ね、どうだった? 今のカッコよかっただろ? だろ?」
右手で打楽器の構えを取ったまま見せつけて、ジェンタイルに一歩詰め寄る。
背伸びをしながら問い詰めた。
「いや、カッコ悪いだなんて言ったらギルティだ! なんたって僕の尊敬する大先輩の真似をしたんだからね!
 聞くかい? 大先輩の話。聞くよね、聞くに決まってるよね。て言うか聞かなかったらパッチンするから」
少女は決して抗う事の出来ない夜闇の瀑布のごとく、「大先輩」について語り出す。
「大先輩はね、それはもうカッコイイんだ! いつもミステリアスな微笑みを絶やさずにいて、真名を決して明かさないところがそれを一層際立たせてる。
 それに動作の一つ一つがそれはもうスタイリッシュで、特にあのフィンガースナップの流麗さは見惚れてしまうほどだよ!
 あ、この服装も大先輩を真似してるんだ。まあ少し恥ずかしいのは否めないけど大先輩のお揃いと考えればそんなのは些細な事だよね。
 それに大先輩は、とっても物知り。いつだって理知的で、なのに料理も出来ちゃう家庭的な面もあって、まさに知性の体現者とでも言うべき方なんだ。
 でも大先輩の凄いところはまだある。あの方は凄く美しくて賢くて、それでいてとっても強いんだ。
 美貌と知性を損なわないまま、だけど圧倒的な力を見せつけてくれる。本当に完璧で、全きお方だ!」
血の色をした両眼にルビーの輝きを宿して、一息に紡ぎ切った。
月のない夜の漆黒に視界を覆われた迷い人さながらの盲目ぶりだ。
「……っと、いけないいけない。つい地が出ちゃった。名も無き大悪魔を真似る身としてはあるまじき失態だ」
ひとしきり語って満足したらしい。
少女は見た目相応の輝きを帯びていた瞳を、作り物の闇で濁す。
「そう言えば自己紹介がまだだったっけ。僕は堕天使。
 深淵に潜む麗しき大悪魔に惹かれ、自ら天を降りた名も無き元天使だ。
 よろしく頼むよ、ジェンタイル」
堕天使は不敵な笑みと共に、右手を差し出す。
>『付いて来て!』
「……おや、君が噂の光精霊? 悪いけどそれには従えないな。だって君の導く先は可能性の坩堝なのだから。
 ドミネ・クォ・ヴァディス、主よ何処へ行かれるのですか、だ。君が何処へ向かうのかを明言しない以上、
 君の導く先は天国であり、地獄であり、未来であり、過去であり、光であり、闇でもある。
 なに? 意味が分からない? そうだよ、意味が分からないんだ。だから君には従えない」
右手を光精霊へと伸ばし、快音を一つ。
光球状の光精霊が歪に歪み、強引に鍵の姿を押し付けられた。
「これは……見ての通り鍵だ。光の勇者が持っていた『結末を自分の望むように是正する能力』に指向性を与えた。
 これを使えば一度だけ、望み通りの場所に行く事が出来る。勿論これを使って君が元いた世界とやらに帰るのもアリだ。けどさ、ジェンタイル」
堕天使は地の底へと続く奈落のように底の見えない微笑みを浮かべた。
そして大先輩を意識した口調と表情で、続ける。
「――世界を変える。随分と遠回りをしたみたいだが……ようやく夢が叶いそうじゃないか?」

96 :
>「……ふぎゃんっ!」
C4が炸裂し、屋内へ飛び込んだ瞬間、妖狐の奴がまたやらかしやがった。
瓦礫でずっこけ、幻惑のフラッシュグレネードは俺の目の前で爆発。目の前が異世界に変わる。
<<汝!>>
オーケ、分かってる。すぐに炎精霊と精神を繋げて幻惑を払底する。
一瞬だけ名伏しがたい冒涜的な光景が広がったけれど、たちまちもとの屋内へと回帰した。
>「あ、あはは……ごめんごめん。まぁ結果オーライって事で……」
うん……まあ、そんなこったろうとは思ってたけど!
さて、俺たちは瞬く間に突入した屋内を制圧した。俺が使ってるのは炎精霊の加護を受けた特殊な非傷弾頭。
昔は人間だって迷わずしてたのに、今じゃ魔物もしたくないってんだからどういう心境の変化だろう。
変わったのは世界の方なんだけどな。
>「……外には誰もいない。けどさっきの爆発を聞き付けていつ誰が来てもおかしくない。行こうか」
制圧した場所は休憩室のようだった。無力化した魔物を拘束して部屋の隅に固める。
こういうときに自分が壁際に行くのは素人だ。壁ごとふっ飛ばされるかもしれないし、跳弾ってのは本当に怖い。
敵の射線が予測可能な中央付近に位置取るのが屋内戦の基本戦術なのである。
妖狐は変身能力をつかって外側から鍵を空け、俺たちを外へと誘った。
ついでにまたドアに頭をぶつけてやがる。こいつキャラ付けでやってんじゃねえだろうな……。
>「い、痛い……うぅ……」
おっと。今までなんやかんやで言い訳してたのに、今はなんだか妙にしおらしい。
これだけ凡ポカをやらかせば、流石に自己弁護のしようもないってことだろう。
>「だいじょうぶ……ようこちゃんは、やればできるこ……」
「そ、そうだぜ妖狐!お前が先んじてポカっとけば、俺たちはそれだけ気も引き締まるってもんだ、なあゾンビ!」
レディーファーストの本来の意味について思いを馳せながら、俺は妖狐に気を使った。
>「……そんな事、言われなくたって分かってるもん。ほら、行くよ魔術師君」
気をとり直して、敵陣の深くへ斬り込む。
とはいえあまりに広い法務局。俺たちはすぐに虱潰しの実現性のなさに思い至った。
そんなわけでここは資料室。ローゼンたちを探す手がかりについてここで何かヒントを得ようって考えである。
>「さーて、手早く探しちゃおうか。こう言うのは大体、棚の奥に秘密のファイルや鍵が……」
ドンガラガッシャーン。はい、フラグ回収!
妖狐がつんのめって突っ込んだ棚はガラス張りで、割れる音はもちろんのこと外にまで響き渡る。
戦闘状況にあっては不審な物音。警備兵が飛んで来るのも時間の問題だ。
>「あわわ……ど、どうしよう! あ、そうだ! 魔術師君、ドアを溶接して塞いで!」
「あーもう、お前は本当に期待を裏切らねえな!」
俺は炎魔法でドアの金属を溶かし、鋳造して一枚の壁にした。
だけども相手は悪魔だ。この程度の鉄壁なら一分もかからず破壊してくるだろう。
どうする……ブチ破られた瞬間サブマシンガンで斉射するか?一発で仕留められなきゃこっちが競り負ける。
交戦の覚悟を決めたそのとき、ドアの向こうで聞き覚えのあるあの音が響いた。
それを皮切りに、急速に敵兵の声が静まっていく。
>「おいおい、少し不注意過ぎるんじゃないのか?
>「見ていられないぞ、ジェンタイル。暫く見ない内に腑抜けたんじゃあないのか?
声は篭っていてうまく聞こえないけど、その喋り方は、まさか――
「だ、大先輩!?」
まさか。まさかまさかまさか。地精霊編からどっかいっていたあのクサレぼっち悪魔が!
俺の敬愛する大先輩が!このタイミングで駆けつけたっていうのか!?
>「おいおい、どこを見ている。私はこっちだぞ」
……そこにいたのは、大先輩のコスプレをした少女だった。

97 :
「……えっと、娘さん?」
いやいや、大先輩に嫁がいるなんて話は聴いたことがねーぞ。もしかしてまた女体化したのか?
このドヤ顔には見覚えがある。この尊大な喋り方にも聞き覚えがある。
だけども――俺の腹あたりに頭のくるこの低身長も、あどけない顔立ちも、どうにも俺の知らない少女のそれだった。
>「ね、ね、どうだった? 今のカッコよかっただろ? だろ?」
少女が相好を崩す。
年相応の、少なくとも俺の大先輩が浮かべていい表情じゃあない。あの野郎はもっとねちっこい笑い方をする。
こんな、男の子のハートを射止めるような魅力的な笑みを浮かべない!
>「いや、カッコ悪いだなんて言ったらギルティだ! なんたって僕の尊敬する大先輩の真似をしたんだからね!
 聞くかい? 大先輩の話。聞くよね、聞くに決まってるよね。て言うか聞かなかったらパッチンするから」
「だ、大先輩のファン、だと……!?」
あの男にそんな人気が出るような甲斐性があったとは思えねえ。
いや、カッコ良いけどさあ!そいつに憧れていいのは中学生男子だけだよ!
コスプレ、言動の真似、ところ構わず良さをシャウト。……アカン、この娘めっちゃギルティーや。
ヴィジュアル系には痛いファンがつきものだと言うけれど、実際遭遇して分かるこの香ばしさ。
何より許せねえのは――
>「そう言えば自己紹介がまだだったっけ。僕は堕天使。深淵に潜む麗しき大悪魔に惹かれ、自ら天を降りた名も無き元天使だ」
俺の前で大先輩について知ったような口を聞くんじゃねえ――ッ!!
「っは、大先輩のファンが聞いてあきれるぜ。お前が言ってるのは、全部大先輩のイイトコばっかじゃねーか。
 あの男の意味不明言動の全てを知ってるか!?厨二じみた発言のいい加減さは!?ときどき訳分からん講釈垂れるのは!
 大先輩のいいとこだけで知った気になってんじゃねえぞ!良いとこ悪いとこ全部まとめて受け入れて真の大先輩フリークなんだ!」
そしてその資格があるのは、あれとずっと旅をしてきた俺だけだ!
わかるかガキめ!おまえなんかとは年季がちげーんだよ!ばーかばーか!
>『付いて来て!』
「お前……光精霊……か?」
突如目の前に灯った光。人魂みてーなそこから伝わる魔力の波長は、ローゼンのものと一緒だった。
>「……おや、君が噂の光精霊? 悪いけどそれには従えないな。だって君の導く先は可能性の坩堝なのだから。
堕天使がまた意味不明な大先輩トークをしながら光精霊を掴む。
掴んで、瞬く間に輝く鍵へと加工してしまった。
>「これは……見ての通り鍵だ。光の勇者が持っていた『結末を自分の望むように是正する能力』に指向性を与えた。
 これを使えば一度だけ、望み通りの場所に行く事が出来る。勿論これを使って君が元いた世界とやらに帰るのもアリだ。
俺は息を飲んだ。つまり、つまりだ。地精霊がねじ曲げちまったこの世界から、俺たちは帰れる。
魔王が支配してなくて、人が死んでも生き返る、遠きにありて想う俺達の故郷へ。
「…………!」
でも、それでいいのか?
確かにこの歴史軸から離脱すれば、俺主観では世界は元に戻るのかも知れない。
だけどそうなったら、この世界はどうなるんだ?魔王に支配されたまま、ずっと泥沼で続いていくのか。
俺には関係ないのかもしれない。それがこの世界の在り方なら、何も触れずそっとしておくのが良いのかもしれない。
「"良い事"なんか……できっかよ」
俺は最初に言ったんだ。魔王を倒して、世界を変える。
できないことから逃げたくない。――俺はもう、自分で言ったことを曲げたくない。
堕天使から鍵を受け取って、俺は唱えた。
「魔王ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
瞬間、光が爆発して、俺は意識ごと吹っ飛ばされた。
世界の構造が変わり、この歴史軸が『魔王の死んだ歴史』へと是正されていく。
鍵から迸った光が刃となって法務局を貫き、ローゼンと対峙していた魔王の心臓を貫いた。
俺は吹き飛んだ意識の中でそれを観測していた。やがて俺の意識と一緒に世界が再構成され、俺は意識を取り戻した。
「ははは……もとの世界に戻るチャンス、フイにしちまったよ……」
法務局の瓦礫の上で五体投地に投げ出されて、俺はつぶやいた。
魔王は確かに死んだ。関係ない世界のために、俺は故郷を捨てちまった。
「悪いなローゼン。――俺はやっぱ、悪役でいたいんだ」
大先輩なら褒めてくれるだろうか。俺の『悪性』の師匠も、きっとこの破魔の光をどこかで観てることだろう。
世界を犠牲にして。世界を救った俺の。渾身の自己表現を、誰かに認めて欲しかった。

98 :
堕天使は光精霊を『鍵』として鋳造し直すと、それきり物言わぬ影となり口を噤んだ。
ただジェンタイルの結論を、決断を待つ。
彼には、彼以外の何者にも理解出来ない劣等感が、克己心が、甘えが、自戒が、弱さが、決心が、絶望が、希望がある筈なのだ。
それらを胸の内側でひしめき合わせて、数ある未来の中からたった一つを選び抜く。それ以外の全てを間引きする。
その過程に他人の意向と言う雑音を紛れ込ませるのは酷く無粋な真似だと、堕天使は理解していた。
一方で、『もん☆むす』としては是が非でもジェンタイルに魔王を討つ決断をさせるべきだ。それも分かっている。
だがそれは、彼女の憧れる『大先輩』らしさに反する事だ。故に、堕天使は一言たりとも言葉を発しない。
>「"良い事"なんか……できっかよ」
ジェンタイルが小さく呟く。
堕天使が不敵な笑みを添えて、『鍵』を差し出した。
>「魔王ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「おいおい……折角私がお膳立てをしてやったんだぞ? もうちょっと気の利いたセリフは無かったのか? まったく……」
額に右手の平を当ててため息を吐き、発生した莫大な光の瀑布に背を向けた。
鍵の先端から放たれた眩い閃光が魔王の胸を貫き、錠前を解くように抉る。
再び光の炸裂、世界が分解され、組み替えられていく。
魔王の死を中心にして世界中に拡散していった光は、次第に収まっていった。
>「ははは……もとの世界に戻るチャンス、フイにしちまったよ……」
堕天使が辺りを見回す。法務局は完全に瓦解していた。
ジェンタイルは瓦礫の上に、大の字になって倒れている。
>「悪いなローゼン。――俺はやっぱ、悪役でいたいんだ」
堕天使がジェンタイルに歩み寄る。
「――おめでとう、ジェンタイル。やっとお前も一端の悪役になれたじゃないか」
ジェンタイルに向けて、視界の外から声が投げ掛けられる。
確かに存在しながらも、しかし地と空の狭間に横たわる影のように、確かな認識の出来ない声だった。
「……なに? 急にこっち見たりして。でも見るつもりだった? なら残念、私は大先輩と同じでジーンズ派なんだ」
ジェンタイルが身体を起こして堕天使を見たとしても、彼女はそのようにしか反応を返さないだろう。
果たして彼の聞いた声が誰のものだったのか。『影』か、或いは単に堕天使の気遣いだったのかは、誰にも分からない事だった。
「まあ、とりあえずその格好は無様過ぎるし起こしてあげるよ。ゾンビちゃん下敷きにしてるし」
「……わたしは、このままでも……いいよ。おとこのひとって……おんなをふみにじると、たのしいんでしょ?」
「いや……悪いけど、光の勇者も探さなきゃいけないんだ。じゃ、起こすよ。せーの……」
堕天使はジェンタイルに手を貸し、引き起こす。同時にそれとなく視線を『もん☆むす』の同胞がいる方向へと向けた。
どうやらローゼンを見つけたらしい。が、まだ彼女をジェンタイルに会わせる訳にはいかなかった。
『もん☆むす』にとっては、魔王の死など過程でしかない。目的はまだ完了していないのだから。
「そう言えば……お前さっき大先輩に色々と悪口を言ったろ! あの時はスルーしてやったけど、今ここで断罪してやる!」
演技の中に殆ど本心の怒りを交えて叫びながら、堕天使はジェンタイルの股間を蹴り上げた。
「大先輩が意味不明だって? いい加減だって? 訳が分からないだって!?
 よくもあのお方に向かってそんな事を! 偉そうに、一体大先輩の何を知ってるって言うんだよ! 
 ふん! 皆はどうだか知らないけど、私はお前なんか大嫌いだからな!」
ふんぞり返って、激しい怒気を込めた罵声をジェンタイルに向かって吐き捨てた。

99 :
「起きて下さい。光の勇者ローゼン」
瓦礫の下から見つけ出したローゼンの頬を、ゴーレムが軽く叩く。
「おはようございます、光の勇者。目覚めて早々申し訳ありませんが……あなたの妹は死にました。
 Mr.ジェンタイルの手のよって、害されたのです」
コンクリートを思わせる淡々とした口調で、土石流のように一方的に告げる。
ローゼンが耳を塞ぎ、頭を振って、泣き叫ぼうとも一切構わずに。
「それでですね。貴方にはこれから、魔王の代わりを演じて頂きます。
 私達の目的は人間の保護と尊重です。
 魔王に瓜二つの貴方を替え玉として立てれば、これから先動き易くなりますから」
「と言っても、別に小難しい演技を要求する訳じゃないから安心してよ。
 ただ……君の人格は、ここで終りを迎える。ただそれだけだよ。じゃあスライムちゃん、先にお願い」
妖狐が歩み寄り、スライムを振り返る。
「まっかせといて〜! えいっ!」
掛け声と共に、スライムの指先が細い触手となってローゼンの耳の穴に潜り込んだ。
触手は耳孔から脳へと至る。突然ローゼンが白目を剥き、無意味な呻き声と涎を零し、小刻みに震え出した。
スライムはローゼンの脳細胞を部分的に刺激、破壊していた。
人格を損傷させ、自我を喪失させ、感受性の欠けた人形を創り上げる為だった。
「はいっ! 可愛いお人形さんの出来上がり〜!」
「よし、じゃあ次は私だね」
目から感情の光を失い、口の端から涎を垂らすローゼンに、妖狐が歩み寄る。
頭に右手をかざし、幻術を掛けた。何重にも重ねて、決して剥がれ落ちる事のない新たな人格を植え付ける。
上辺は今まで通りのローゼンと殆ど変わらない、しかし全く別の人格を。
「終わりましたね、それでは行きましょう。光の勇者ローゼン。
 Mr.ジェンタイルが待っています。彼に貴方の決断を聞かせてあげましょう」
「――うん、そうだね! ちょっぴり悲しいけど仕方ないよね!
 ジェン君泣いちゃったりしないかなぁ。なーんて、大丈夫だよね! 
 だってジェン君は世界を変えた英雄なんだもん!」
虚ろな目をしたまま、ローゼンは明るい声色と笑顔でそう答えた。
ゴーレムに背を押されると、彼女は何の抵抗もなく意気揚々と、ジェンタイルに向けて歩き出した。

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