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2011年10月1期創作発表だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ6 TOP カテ一覧 スレ一覧 削除依頼

だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ6


1 :11/10/14 〜 最終レス :11/11/27
・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
 オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ
・短編、長編、絵、あなたの投下をお持ちしてます
・こんな設定考えたんだけどどうよ?って声をかけると
 多分誰かが反応します。あとはその設定でかいて投下するだけ!
携帯からのうpはこちら
ttp://imepita.jp/pc/
PCからのうpはこちらで
ttp://www6.uploader.jp/home/sousaku/
過去スレ
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ5」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280676691/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ4」
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1258723294/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ3」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245402223/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ2」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236428995/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219832460/
これまでの投下作品まとめはこちら
ttp://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html

2 :
>>1 乙 

3 :
>>1乙です

4 :
一応重複回避のため、あげ

5 :
>>1乙です。
で、スレ開始早々ですが最終回やろうと思います。ガーベラの。突っ走ります。
連投規制にかかったらごめん

6 :

「戦いはしない。向こうがこっちを潰しにかかってきたら、全員で脱出する。MSCTの上にハイザック・キャノン二機を載せ、敵を迎撃しつ
つ脱出。レイジス少尉とキャロル3は随伴護衛機として、キャノンが撃ちもらした敵を捌いてもらう」
「待て待て作戦なんか聞いてねえよ。何で連邦軍に俺達が潰されなきゃならない?」
「――機密を見たからだ。それも連邦軍の暗部に関わる」
「だから、んなこた知らねえっつってんだよ!」
 リューグの言葉を遮り、サムソンが吼えた。「ざけた事抜かしてんじゃねえよ! 何がガンダムだ!? 敵が来たってんで大慌てで帰ってき
てみりゃ知らねえMSが突っ立ってて、見たかと訊かれてああ見ましたがと答えたら貴方は機密を見たんでよくて犯罪者、悪くすりゃ銃にな
るんで俺と一緒に逃げてくださいだと!? 馬鹿か! こっちに何も知らせねえで勝手に爆弾抱え込んどいて、マズくなったら逃げるの手伝っ
てくださいだ!? 誰が手伝うかそんなもん! お前一人がガンダム持ってトンズラこけば済む話じゃねえか! 俺達ゃここに残ってそんなガ
ンダムなんぞ見てないですし知りませんと答えてやるよ! ついでにテメエみてえなクソ司令も一切存じ上げませんってな!」
 サムソンは一気に喋り、息を整えるように大きく息を吐いた。「…一理ある」
「だが、俺は別にふざけてるつもりは無い。軍人が軍機を守るのは当たり前だ。しかし、事情も知らないのに協力はできないというお前の意思
は理解できる。――要するに、お前はここに残りたいのか?」
「…そう冷静に返されると、こっちも息が続かねえけどよ」
「ま、お前の言う通りになれば俺も一番ありがたいけどな。ただの臨検で俺とレイジス少尉ぐらいが査問会に出頭、この基地は解体、他の連中
も各部隊へ配転、ガンダムは再び闇の中へ、と平和的に進むならそれが一番だ。――が、俺の勘だと、そうはならない。その時の覚悟もしてお
かなきゃならないのさ」

7 :

「その俺の勘、ってのが今一つ気に食わねえんだよな」
「だったら祭りが始まってもお前は基地に残ればいい。トレーラーに乗るのは一機でも充分だ。だがフレッドは連れて行くぞ。あいつはどの道
今すぐにでも病院に運ばないとヤバい」
「……ちっ。隊長も余計な時にやられやがって」
「他の奴はどうだ? 今一つ危機感がわかないとか、俺に付き合うのはごめんだとか、あるか?」
 リューグがパイロットを見回し――最後に、レーダー手席に座るハルを見た。ハルは肩を竦める。「私は、司令の命令なら従います。事情が
よく分からないんで」
「俺は行きますぜ。隊長を放っておけないんでね」
「きったねえなお前。ここぞとばかりにいい部下アピールか」
「アピールも何も俺は初めからいい部下だからな。基地司令に大暴言を吐くどこぞのバカと違って」
「野郎」
「俺も行きます」
 口喧嘩をするアニータ2と3の隣で、キャロル3が口を開いた。「ウチの隊長がそんなヤバいもんに乗ってんのに、無関係ってわけにもいき
ませんからね」
「…一段落したら何かおごるよ」
「マッカランの二十年ものでももらいましょうか」
「…微妙に高ぇ」
「――よし、始めるぞ。連中がそろそろ敷地に入る頃だ。キャロル1と3、それから俺は正面でお客さんを出迎える。残りの連中は庫内で待機だ。せいぜい俺の取り越し苦労で終わることを祈ってくれ」
 敬礼する。「散会」

8 :

 そいつらは、闇夜に融けるようにひたひたとやって来た。歩行音はほとんど無い。主力機はジムUのようだが、全身をマントのような黒い布
で覆っていた。「隊長、何ですかねありゃ。新手のデコレーションとか?」
「SSC《サーモ・ステルス・クロス》だろう。機体が出す熱を遮断して、熱源探知にかかり難くする布切れだ」
「――失敗作ですかね。さっきレーダーにはかかったって」
「要するに、機体を全部あの布で覆えばレーダーには映らなくなるんだが、そうすると機体の出す熱が全部内側にこもるのさ。俺達が使う非常
用の銀紙《サーモ・コート》と同じ原理だからな。だから完全なステルス性は発揮できないし、戦闘中は外すしかない。どうせまくり返って役
に立たないし、それでオーバーヒートなんてしてもバカらしいからな」
「…よく知ってますね」
「前の作戦で使う予定だったが、無くなったんだよ。必要無いってさ」
「前の? ――ああ」
 性格のいいキャロル3は、意味を察してそれ以上追求しなかった。移動速度を求められない隠密作戦には最適の装備だ。
 ――しかし、それが何故使われなかったのか、そこまではレイジスにも分からない。
「足音がしないのは、厚底《シークレット・アブソーバー》でも履いてるからか」
 リューグが言う。リューグはガンダムとハイザックの間に生身で立っていた。何かあれば、レイジスとキャロル3の最初の任務はリューグが
MSCTに乗り込むまで格納庫正面を死守することになる。
「司令。敵が何か予想はつきますか」

9 :

「本部の誰かの子飼いの部隊だろう、ってだけだな。だが腕はそれほどじゃないだろう。昔からいたエースはほとんどティターンズかエゥーゴ
に引き抜かれてる。残ってるのは普通の奴か、おだてられて調子に乗ってる小僧だけさ」
「――まあ、腕が普通でも、これだけ数がいりゃ負けないだろう、ってことですかね」
「それだな」
「出迎え御苦労」
 横柄な声が響いた。正面にジムが九機。中央の隊長機らしい。「地球連邦軍本部直轄機動群第42戦隊、ダルトン・シノハラ大尉である」
「ご苦労様です。キャリフォルニア・ベースのリューグ・ファーバンティ大尉です」
「いえ、そちらこそ。――早速ですがファーバンティ大尉。貴官には本部から出頭命令が出ています。拒否権はありません。この基地は私の戦
隊が引き継ぎます。明朝、我々が使用したガルダで出発してください」
「出頭命令ということは、私の行動に何か軍規に反する点があったということですか」
「そうですな」
「拒否権が無いというなら、説明ぐらいはして頂きたい。基地を守って戦い、多くの部下を失った。それでも敵を撃退し、半壊したとはいえ自
分の陣地も守りきったつもりです。それで出頭命令というのは、正直心外だ」
「――説明が必要ですかな?」
「是非」
 わかっているだろうが――ダルトン大尉とかいう男の声には、そんな感情が滲み出ていた。「そこの」ダルトンの搭乗するジムUがレイジス
――ではなく、彼が乗るガンダム・ガーベラを指差す。
「平然と突っ立ってるMSの話です。貴方はそのMSを受領する際、それを最高軍事機密として秘匿・保守するよう命令を受けたはずだ。なの
に貴方は本部に許可も取らず報告もせず、そのMSを起動し、戦闘に使用した。貴方に命令を下した人間は連邦軍本部勤務の官僚だったはずだ
。つまり貴方は、本部の直接指示を蹴ったのだ。それも最悪の形で。だから貴方の軍人として、司令官としての適性を確認するため、本部で査
問会が行われるのです」

10 :

「私の最大の任務は、指揮官としてこの基地と管轄区の連邦市民を守ることだと認識していましたが」
「では、貴方と本部の認識に齟齬があったのでしょう。それ以上は出頭してから聞いて下さい」
「――」
 レイジスは黙って二人の会話を聞いていた。――問答無用で潰しにかかることは無かった。それどころか、出だしは横柄な口調だったが、こ
のダルトン大尉の言う事はそこそこ筋が通っている。胡散臭いところはあるが、少なくとも因縁つけて喧嘩をふっかけてくるような族ではなさ
そうだ。
「…ふっ」
 笑う。――くだらない。
 迷う気は無かった。仮に筋が通っていても、前提が間違っているのなら話にならない。それに――「…」
 桿を横目で見て、握り込む。鋼鉄の下に流れる力を感じた。ガンダム四号機。ガンダム開発計画。歴史から外され、葬られた闇。その闇が、
今リューグやレイジスを蝕み、飲み込もうとしている。
 今度こそ終わりかもしれないという恐怖と――ほんの少しだけ、衝動を感じた。
 どうせ死ぬなら、この目で真実を確かめてみたい――「司令」
「何だ」
「最後かもしれないから、司令には、本当のことをお話します」
 目覚めてMSハンガーへ向かう時、前を歩くリューグにレイジスは語った。「俺は、病気なんです」
「――何?」
「あの時、周りからは散々言われました。裏切り者、偽善者、ヒーローごっこ、人し、クソ野郎――でも、一部の――本当に一部の人には、
誉めてもらえたんです。よくやってくれた、君こそ軍人の鑑だ、あのコロニーに妻が、親が、息子がいました、助けてくれてありがとう――で
も、違うんです」

11 :

「…何がだ」
「俺があの時行動したのは、勇気でも正義感でもない――俺は、病気なんです」
 パワー・ギア四番まで開放。FCSセイフティ・オフ。コンバット・インフォメーション・インターフェース・リンク開始。特殊戦闘機動ス
ロット・アクティブ。全エネルギー・バイパス稼動確認。ウェポン・ハード起動確認。戦闘準備完了。コクピット・セイフティに異常確認。パ
イロットはヘルメットを着用してください。
「――了解」
 低く呟き、メットを被った。最後にもう一度だけ自分に反論する。軍人なら自分の勝手で力を振るうな。リューグやお前がされると決まっ
たわけじゃない。お前は正しくもなんとも無い。また同じことの繰り返しだ――
「――かもな」
 でも。
 ガーベラが動いた。ダルトンが乗るジムUの眼前に踏み込み、蹴り倒す。「――な」驚いたその声が誰のものだったかは分からない。スラス
ターを全て右に向けて左に控えていたジムUを弾き飛ばし、反動をつけてのローリングソバットで右の奴も蹴り飛ばした。格闘を選択したのは
一応リューグのためだ。いきなりビーム・ライフルだと、爆風でしてしまう可能性がある。
「――何だ、これは!」
 ダルトンの叫びを端緒に、堰を切ったように周囲の人間が声を上げた。
「隊長!? 何やってんです!」
「少尉! 止せ! 馬鹿な真似は止めろ!」
「貴様ら! ボヤボヤするな! あのガンダムを止めろ! 中の人間はしても構わん!」
「ダルトン大尉! 止めてください! これは何かの間違いです!」
「聞けませんなファーバンティ大尉! 当該MSは制御不能、あるいは敵性体に乗っ取られたと判断する! 全機攻撃開始! オール・ガンズ
・イグニション!」
「少尉、どうしたんだ! 俺の声が聞こえないのか、少尉!」
 怒号の中でも戦闘は続く。ガーベラはロング・ビーム・ライフルを構え、後ろに控えていたジム二小隊を砲撃した。六機のジムは散開してか
わすが、その後方でかわしきれなかった車両部隊が爆発し、転倒する。ジム隊が体勢を立て直し、サイレンサー付きのAMSマシンガンから音
も無く火線が飛ぶ。

12 :

 ――確率の問題でしかない。ガーベラを無事に始末した後、連邦軍が知りすぎたリューグやレイジスをどうするか。
 あるいは、無事に始末できていなければどうなるのか。
 地獄の底に封印しておかなければならない禁断の魔獣が野に放たれ、それが自分達の最大の秘密をばら撒きながら暴れまわっているとしたら
――それでものんびりだの事後処理だのやっている暇があるだろうか。
 ――というのも、所詮は理由の一つでしかない。
 心と命なら、貴方はどちらを選ぶだろう。
 たぶんそれは、かつて見た夢の続き。
 消したい過去を再現し、やり直して自分の心の隙間を埋める、命がけのリトライ。
 ――もしも、明らかに悪と分かる相手に対し、正面から名乗りを上げて戦い、勝利することが出来たなら――
「俺はレイジス・スプリンター! お前等のやり方には愛想が尽きた! 辞めさせてもらう! このMSは退職金代わりにもらっていく!」
 …いまいち決まらなかった。

13 :

 ジム隊がマシンガンを構えた瞬間、レイジスは迫る火線に対して右へ飛んだ。避け切れない弾は盾で防ぎ、後方から肉薄したジムUに右脚で
後ろ蹴りを食らわせる。さっきソバットで蹴り倒した奴だ。
 まだ、後ろへビームは撃てない。
「止まれええええ!」
 ダルトンが叫び、搭乗するジムUがSSCを脱ぎ捨て、ビーム・サーベルを構えて肉薄した。速い。判断も的確だ。逃げる敵の足を止めるな
ら、近づいて格闘戦を挑むのが一番だ。
 自分の身を捨てる覚悟があるなら。
「せいっ!」
「ぐお――っ!?」
 先のことを考えるとエネルギーが勿体無かったので、レイジスはライフルを転がしてダルトンに正拳を打ち込んだ。ダルトンの苦悶の声が聞
こえ、ガーベラが拳を戻すと同時にジムUがうつ伏せに倒れこむ。ジムUの接近する力とガーベラの拳が真正面からぶつかったのだ。パイロッ
トはしばらく起きてこないだろう。
「無駄な抵抗は止めろ! 貴様はすでに包囲されている!」
「…そうかい」
 呟き、レイジスは再び飛んだ火線をやはり右に跳んで回避した。同時に右腕のウインチを作動させ、転がしていたロング・ビーム・ライフル
を巻き戻す。技師長がレイジスの戦法を見て、格納庫の備品を急造で取り付けたものだ。天才ジジイである。
 戻ってきたライフルを握り、身体を捻って肩越しに撃つ。ジム隊が爆炎に飲み込まれた。何機も潰せた訳ではないだろうが、距離は取れた。
速度も充分。このまま増速すれば逃げ切れる。
 レイジスはガーベラの身体を正面へ向き直らせ、
「!?」

14 :

 正面から降り注いだ火線を全速で桿を切って右に回避した。「ぐあ!?」衝撃が機体を揺らし、ガーベラが地面に滑るように転倒する。被弾。
避けきれない火線を防ぐためにやや左寄りに構えていた盾でなく、機体に直撃を受けた。動きを読まれたのだ。「クソ…!」機体を立ち上がら
せ、レイジスはモニターを確認する。夜の闇に浮かび上がる影。ずんぐりとした身体から、ハリネズミのように四方に突き出た砲身。中央に光
るブレード・アンテナ。「な…!?」
 一年戦争時代の機体は、レイジスも教習やシミュレーションでほとんど知っていた。その中でもジオンの最後期、当時の技術を結集して建造
された特殊強襲用MS。連邦の基地にたった一機で乗り込み、最終目標――ニュータイプ用ガンダムを破壊するという無謀な作戦のために送り
込まれた『闘士』。全高17.7m、全備重量78.5t。出力1550kw、推力159000kg。型式番号MS‐18。
「ケンプファー……だと…!?」
 その存在を知る者の間では旧ジオン最強とも謳われるMSが三機、全砲装備形態《フル・アームド・コンディション》でレイジスの前に立ち
はだかっていた。「く…!」怯んでいる時間は無い。レイジスはスロットルを押し込み、右端の一機に踏み込んだ。ぐずぐずしてたら引き離し
たジム隊が追いついてくる。それに、大量の重火器を搭載したケンプファーに対して遠距離戦はいかにも上手くない。格闘戦ならビーム・サー
ベル同士で条件はほぼ同じ、しかも軽い分速度でこちらが有利なはずだ。敵は接近するレイジスに対し、右端の一機がビーム・サーベルを、残
りの二機は左/隊形で援護射撃の構えを取った。適当なところで右端が引き上げるか、あるいは右端を捨石にして全力射撃でレイジスを墜とす
気だ。
「それなら、こうだ!」
 ガーベラは左腕にビーム・サーベルを構えて全速で敵に接近し、寸前でスラスターを傾けて低空で水平左方向に一回転した。サーベルを斬り
上げて右端のケンプファーの左腕を斬り飛ばし、倒れずに突っ立っているそいつを盾に後ろの二機をロング・ビーム・ライフルで砲撃する。二
機が散開して回避し、腕を落とされた奴がガーベラに右腕のショットガンを向ける。散開した二機は両側へ回り込み、ガーベラを三方から囲む
形になる。「ち…!」足を止めたらやられる。ガーベラはスラスターを噴かして上空へ跳び、下方へロング・ビーム・ライフルを撃ち込んだ。
真下の一機はショートステップでこれを回避し、

15 :

「ぐ――っ!」
 残りの二機が放ったジャイアント・バス四発が、轟音と共に空中のガーベラに着弾した。ガーベラは墜落し、レイジスは一瞬意識を失う。「
やっぱ、ダメか…!」失神から目覚め、損傷を確認する。装甲及び駆動系に危険度Cの損傷が数箇所。一部信号伝達不調。さすがというか、致
命的な損傷は無かった。まだ動ける。しかし、どうしても数の不利を押し返せない。「立て、ガーベラ…! お前だって地平線とか、朝日って
やつを見たいだろ…!?」軋む機体を立ち上がらせる。
「そこまでだ、ガンダムのパイロット」
 横柄な声が響いた。悠々とジム隊が近づき、ケンプファー三機と共にガーベラを取り囲む。「…もう起きたのか。タフだな、ダルトン・シノ
ハラ大尉」
「誉め言葉は素直に受け取っておこう。レイジス・スプリンターと言ったな? 聞き覚えがあると思ったら、味方し《フレンズ・キラー》の
前科者じゃないか。どうやらファーバンティと一緒に、貴様の軍人としての適性も徹底的に追及するべきなようだな」
「――それだけか?」
「何?」
「このガンダムは、ガンダム開発計画の成れの果てだと聞いた。その計画の裏に、連邦軍の洒落にならない秘密が隠されてるとも聞いた。関わ
った奴は全員酷い目にあって、された奴もいるらしいって。――そんなものを動かしちまって、本当に軍人としての適性の確認だけですむの
か?」
 時間稼ぎの減らず口のつもりだった。どうにかしてこの囲みを突破する作戦を立てなければならない。
 ――あるいは、たとえ嘘でも、ダルトンが「何の事だ?」とでもすっとぼけてくれれば、レイジスもここで諦めたかもしれない。そんな話は
見た事も聞いた事も無い。くだらないお前の妄想だ。バカ言ってないでさっさと降りろ――そう言われれば、思い留まったかもしれない。
 だが――ダルトンの返答は、レイジスに諦めと安堵ではなく、戦慄と恐怖を与えた。「そうか」
「残念だ、少尉。そこまで知ってしまったのなら、もう君を生かしてここから出すわけにはいかない」
「…!?」

16 :

「君は本当に期待されていたんだ。連邦軍が一度だけ君を見逃したのは、エースパイロットが軒並みエゥーゴやティターンズに流れていく中で、
君こそがそいつらと向こうを張って戦える最後の切り札だと見込まれたからだ。――だが、もう駄目だ。そこまで知られているとしたら、もう
連邦軍は君を信用しない」
 本物の恐怖を突きつけられた。あの横柄なダルトンが『貴様』ではなく『君』と言った。口調が優しく、だが哀しかった。本当にレイジスを
惜しんでいた。その上で、もはやレイジスを生かしておけないと言っている。
 ダルトンのジムUが片手を上げる。「オール・ガンズ・イグニション。――さよならだ、少尉。君無しでどこまでやれるか分からないが、地
球の平和は我々が預かる。安心してってくれ」
「……冗談じゃない…!」
 レイジスは吐き捨て、桿を握り直した。恐怖が身体を突き動かす。表情など無いジムUの群れが、ガーベラにサイレンサー付きのマシンガン
を向ける。何が地球の平和だ。本気で言ってるのか。お前らは一体、何を守ってるんだ。こんな得体の知れない奴等に、られてたまるか――

「撃て!」
「――!」
 声と、銃声と、煌く火線とほぼ同時にレイジスは翔んだ。右でも後ろでもなく、前へ。逃げる手は捨てた。恐怖が腹の中で燃えて、怒りに変
わっていた。どうせマシンガン程度は問題にならない。敵の中央へ踏み込み、身体が動く限り倒し続ける――!
 しかし、敵の眼前へ踏み込んだガーベラがサーベルとライフルを閃かせるより早く、周囲のジムUが爆発と共に倒れ込んだ。「…!?」
「退がってください、少尉! 援護射撃をかけます!」
「オラオラ! よりどりみどりのり放題だぜ!」
「…バカな!?」
 砲火を放ったのは、疾走するMSCTに乗る二機のハイザック・キャノンだった。傍らに通常装備のハイザック――キャロル3が随行してい
る。「馬鹿野郎! 何やってんだ! お前らこそ退がってろ!」

17 :

「苦戦してたくせにいい言い草じゃねえかよ少尉! 一人だけいいカッコしようたってそうはいきませんぜ!」
「そうじゃねえよこのクソバカが! お前ら自分が何やってんのかわかってんのか!」
「それはこっちの台詞だこのクソバカが」
「――リューグ!?」
 予想外に冷静な声にうろたえた。MSCTに乗っているらしい。「貴様ら――全機攻撃開始だ! 反逆者共をここから逃がすな!」「うるせ
えちょっと黙ってろ!」レイジスは手持ちの武器で周囲を牽制しつつ後退、サーベルを仕舞ってロング・ビーム・ライフルで敵陣を攻撃した。
ハイザックの援護射撃も追い討ちをかけ、続けざまに爆炎が上がる。
「よくもやってくれたな少尉」
 リューグの声が続ける。秘匿回線。「しかし作戦は続行する。我々はこのまま敵を外周より攻撃しつつ、東へ抜けて基地を脱出。あわよくば
連中の乗ってきたガルダを奪取する。お前は俺達の脱出を援護しつつ南側へ脱出しろ。敵の注意を分散させる。俺を出し抜きやがったツケだ。
せいぜい働いてもらうぞ」
「――司令。俺の狙いは分かってくれていたんでしょう。何もせずに俺を見捨てれば、皆は無関係でいられたんだ。それが無理でも、俺がとっ
捕まらない間は司令の処遇も確定せず、開廷を遅らせることが出来る」
「ふざけるなこの馬鹿野郎。俺をナメるのもたいがいにしろ。どこの世界に仲間を見捨てる基地司令がいる」
「――」
「お前の事じゃないぞ。フレッドだ。どのみち今回の最優先事項はこいつを一刻も早く病院に運ぶことだ。それを思い出して俺ももう吹っ切れ
た。状況は利用させてもらう。怪我の功名というか、お前のおかげでこいつらの真意も聞けたからな」
「しかし――」
「しかしじゃねえぜ少尉!」
「そうだぜ! もう始まっちまってんだ! こうなりゃ行くとこまで行ってやるさ!」
「隊長。俺達は同じ基地のチーム、キャリフォルニア・ガンズです。誰かがミスれば全員でカバーする。誰かがハネれば全員で乗っかる。それ
がウチの流儀です」

18 :

 桿を動かす腕が、不覚にも一瞬止まった。「うお!?」その瞬間、激しい衝撃と共にガーベラが地面に倒れこんだ。ケンプファーの放ったシ
ュツルム・ファウストが命中したのだ。「クソが!」叫び、起き上がって盾とロング・ビーム・ライフルを構える。ケンプファーがすかさず回
避機動を取り、「甘い!」フェイントだ。ガーベラは一気に距離を詰め、盾を構える左腕に持っていたサーベルでケンプファーを斬り捨てた。
爆炎を抜け、ガーベラは斬り抜けた速度のまま敵陣に向き直り、ロング・ビーム・ライフルでの砲撃を続ける。
「少尉。短い間だったが今生の別れだ。俺達が同じ方向に脱出するわけにはいかない。俺達も適当なとこまで逃げたら散開する。一人一人、別
々の方向へ走り出そう」
「おいクソ司令! ウチの隊長に話の分かる病院を見つけてからだぞ!」
「ここぞとばかりにいい部下アピールか。ご苦労だな」
「お前にゃ言われたかねえ!」
「隊長。俺はヨーロッパに渡ります。マドリードが地元なんで」
「わしはアフリカに落ちようかの。老骨に北の寒さはキツいわい」
「あの、私行くとこ無いんですけど」
「じゃ、俺とミラノ辺りにどうだい?」
「嫌です」
「…ひでえ」
「――」
 最大戦速で踏み込んできたケンプファーを左に跳んでかわした。ケンプファーは見越したように右手のショットガンを撃ち、ガーベラも右手
のロング・ビーム・ライフルの片手撃ちで迎え撃つ。ビームが弾幕を飲み込み、ケンプファーごと爆光に飲み込んだ。ガーベラは片手撃ちの反
動で大きく吹き飛び、取り落したライフルをウインチで巻き戻しながら空中で姿勢制御して増速した。「――みなさん」
「すみません。俺のせいで、こんなバカな事に巻き込んじまって」
「――聞いたかよクソ司令。少尉を見習えよ。あの台詞は本来あんたが言うべきもんだろうが」
「…少尉。逃げ切れたら、オーストラリアへ渡れ」
「…オーストラリア?」

19 :

「真実を知りたいのなら、な。南太平洋管区オーストラリア方面軍トリントン基地――そこが全ての始まりの場所だ。記録は残っていなくても、
当時の事を知る人間が一人ぐらいはいるだろう。今はあそこも破棄同然になって、まともな戦力は残っちゃいない。そのガンダムの性能なら、
叩きのめして洗いざらい吐かせ、ついでに給油もできるだろう」
「…ま、頭の隅には入れておきます」
「少尉。俺なりにいろいろ考えてみたんだが、おそらくお前が連邦軍を向こうに回して生き残るには、そのガンダムの存在を逆手に取るしかな
い。そのガンダムを証拠物件として死守し、それが作られた経緯とそもそもの発端、ガンダム開発計画との因縁を調べ、それを第三者機関にす
っぱ抜くんだ。そうすれば事はお前と連邦軍だけの問題じゃなくなる。真実を突き止め味方を増やし、それまでお前が連邦軍の追手を捌き切れ
れば、生き残れる目も出てくるはずだ」
「…面倒ですね」
「生きるのは大概面倒なんだよ」
「ダメだリューグ! 追いつかれる!」
「――!」
 レイジスはその瞬間転針し、ロング・ビーム・ライフルを撃ち込みながら敵陣を突っ切った。見えた。MSCTに最後に残っていたケンプフ
ァーが取り付いている。その機動力の前にハイザック・キャノンの砲撃は悉くかわされ、逆に車の上に乗っているハイザック側はろくに回避も
できない。キャロル3は。確認している暇は無い。ケンプファーのジャイアント・バズが火を噴く。アニータ2は盾で凌いだが、3は肩口を掠
められてよろめいた。荷台から落ちそうになったところを2が手を引いて支える。「何やってんだ優等生!」「こんなこともあるんだよ!」し
かし、砲撃が止んだ瞬間ケンプファーが一気に距離を詰めた。至近距離でショットガンの狙いを定め、引き手にビーム・サーベルを構える。

20 :

 MSCTが近すぎてライフルは使えない。レイジスは飛び蹴りを食らわせてケンプファーをMSCTから引き剥がした。「何やってんだ少尉
! 俺達に構うな! さっさと脱出しろ!」
「ガーベラの方が速力《アシ》がある! あんたらを逃がしてからでも離脱は間に合う!」
「カッコつけんな! 一機で囲まれて勝てないのは分かってんだろ!」
「だったらこの際言わせてもらうがあんたらが邪魔でライフルが使えないんだよ!」
 起き上がろうとしたケンプファーを撃ち抜いた。撃墜。「ええい! そっちはもういい! 後で始末する! ガンダムを先に片付けろ!」ダ
ルトンの声。残りのジムUがガーベラに到する。「少尉!」答えなかった。勝算はある。ケンプファーさえいなければ。かつて通った道だ。
「ありがと」
 不意に、少女のことを思い出した。逃げただろうか。どうして唐突にそんなことを思い出したのか、レイジス自身も分からない。
 死に際に見る走馬灯、かも知れなかった。
「――――!!」
 何か言った気がしたが、自分でも何を言ったか分からなかった。
 ガーベラとジムUの群れがぶつかり、激しい光と砲声が、夜明けの空に乱れ飛んだ。
 機動戦士ガンダム・ガーベラT <了>
 -This is only a beginning-

21 :
ここまでで一区切りです。ご読了ありがとうございました。
で。

22 :

新番組予告
 宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
 同年1月15日、ドズル・ザビ中将率いる公国軍機動艦隊がサイド5に侵攻。地球連邦軍はこれに対しレビル中将率いる第一連合艦隊を差し
向け、後に言う『ルウム戦役』の戦端がここに開かれる。
 数で勝る連邦艦隊に対し、公国軍は『新兵器』を投入し対抗。必勝を期して人類史上初の宇宙艦隊決戦に臨む。
 しかし、その『新兵器』の存在は、すでに連邦軍に察知されていた――
 艦隊決戦砲ヨルムンガンドとその母艦ヨーツンヘイム、そして護衛についていたザク小隊に襲い掛かる謎の機体。
 ザク三機を瞬く間に沈黙させたその機体は、後に『連邦のMS』『白い悪魔』――ガンダムと呼ばれ恐れられるMSに酷似していた――
 新番組、機動戦士ガンダム−翼の往先−
 近日という名の遥か未来に公開予定。
 人の身で翼を欲した者は、恒星の光に灼かれて地上へと堕ちる――

23 :
>>ガーベラの人
お疲れ様でした。
最後がなんか、終わった感が無いのはZのラストで百式が漂っていた時の様な印象が……
で、続いて次ですか?
連邦ではなくジオンで新兵器!?
しかもガンダムに酷似???
wktkで待ちますね〜
GPB、次投下して宜しければ、前スレでURLだけ。
一応書いて良いのかな? と勝手に判断して続き書いたけど。

24 :
ロダじゃなくて、最初から直接スレに投下してくれたら嬉しい
携帯から読めねぇ…

25 :
>>24
じゃあ、ガーベラの人も一段落したから、
これからはこっちに直接投下した方が良いのかな?
あと、ロダの方は消した方が良いんだろうか?
なんかすごい勢いで三話書いてる。
あのキャラが色々無茶してるw

26 :
>>25
ぜひ頼んだ

27 :
ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト)01
 子供の頃。
 ボクは自分の名前が嫌いだった。
 ちゃん付けで呼ばれると、なんだか自分が女の子みたいだったから。
 でも。
 ある時、近所のお兄さんが教えてくれたんだ。
「いいかユイト。その名前は別に、男の子の名前でもおかしくなんかない」
 そう言って、あるテレビアニメのDVDを見せてくれたんだ。
 そのアニメの主人公は、どんなに酷い怪我をしても、決して涙を見せない。
 ちょっとどころじゃない程のクールな姿を、最初から最後まで崩さなかった。
 ボクは、その姿に感動した。
 そして、思ったんだ。
 ボクもいつか、こんな風になりたい、って。

28 :
 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 広い。
 どこまでも広い戦場(バトルフィールド)を、一機のMSが駆け抜ける。
 全身にこれでもかと言う位の火器を装着し、左腕に着けた大口径の六連装ガトリング砲を振るって戦う、
 白を基調にカラーリングされた重MS。
 ガンダムヘビーアームズ。
「新機動戦記ガンダムW(ウイング)」というアニメ作品に登場したガンダムの一つだが、その作中の姿とは少し違う点がある。
 まず色。
 テレビシリーズで赤やオレンジ、ビデオ&劇場版では濃紺で塗られた部分が、この機体
は濃緑色で塗られている。
 他の白い部分も、少し緑掛かっていて、若干ミリタリーっぽい配色だ。
 そして。
 右腕には、オリジナルではあり得ない形状の、長めのビーム砲が一門マウントされている。
 そう。
 これは、個人の手で作り上げられたカスタムモデルなのだ。
 単機で疾走するこの機体に向かって、
 空から、そして陸からも。
 あらゆる攻撃が降り注ぐ。

29 :
だが。
 弱い攻撃はその頑丈な装甲で弾き返し、大きな攻撃は巧みに避ける。
 全てを処理し切れている訳ではないが、今のところ損害は軽微だ。
 舞い上がる土埃の中から、左のビームガトリング砲を乱射する。
 精密な狙撃は必要ない。
 その物量に物を言わせ、ありったけの反撃をするのが、その戦闘スタイルなのだから。
 とはいえ。
 この乱戦の中、攻撃が自分一人に集中してしまうのはキツイ。
 どうやら単機で行動しているところを、カモと思われて集中攻撃されてしまった様だ。
 両脚に取り付けられた高機動ユニットのキャタピラのおかげで、本来の性能より速度が上がっている分だけ、何とか凌げているが。
「――クソッ!」
 一声上げて、両肩の内蔵ミサイルポッドを解放する。
 まだ戦闘終了まで時間があるが、
 出し惜しみしていると、確実にられる。
 ガンダムW作中のヘビーアームズパイロット、トロワ・バートンのセリフではないが、
 弾薬が尽きた時が、自分の最後だ。
 モニターに目を走らせながら、そんな考えが頭をよぎった。
 ドドドバシュッ!
 肩から発射された弾体が、無差別に周囲を炎に包む。
 爆発と、自分の移動のせいで視界を塞ぐ靄は、なかなか晴れない。

30 :
 そして、丁度眼の前から。
 一機のMSが飛び込んできた。
 MS−06J・ザクU。
 ガンダム作品の祖、「機動戦士ガンダム」に登場した、もっともスタンダードなMSである。
 こちらが近接戦闘に弱いと見てか、右手に握ったヒートホークを振り上げて迫る。
 見た目ノーマルのザクUだが、動きが良い。
 かなり手が入っている。
 このままだと、鈍重なヘビーアームズの方が、危ない。
 そこに。
 ――ズゴッ!
 横から突き込まれた長い突起に、そのザクは胴体を貫かれた。
 コクピットをまともに捉えている。
 この機体の戦いは、ここで終わりだ。
 すぐ眼の前で起こる爆発に、スクリーンが真っ白に染まる。
『悪りぃ、待たせたな! こっち来るまでちょっとジャマが多くってさ!!』
 ヘルメットのスピーカーを通して聞こえるのは、戦闘開始からずっと会えなかった相棒の声だ。
「――遅いよケンヤ!」
『しょうがねえだろ! 時間には間に合ったんだから良いじゃん!!』
 モノアイを輝かせて眼の前に現れたそのMSは――
 ある意味、このヘビーアームズ以上の重装MSであった。
 頭部を見れば、これもベースがザクUなのはわかる。
 だが。
 首から下が、少し異常だ。
 上半身を、過剰な重装甲が覆いつくし、その両肩からは長い二本の突起が。
 そして下半身は、腰から下と膝から下が、大きなスカート状のパーツで覆われている。
 右手に握るのは、長大な突撃槍(ランス)
 ただでさえ、ザクをカスタムした機体は多いが、これはその中でも一二を争う重装備になるだろう。
 黒とガンメタ基調の塗装が、さらに迫力を増している。

31 :
 共に重装を誇る、ガンダムとザクU。
 まさにヘビー級同士のコンビだ。
 普通は相反する機体を選んでコンビを組み、互いの不得手を埋める事が多いのだが。
 こういう同じ傾向の機体で組むコンビは珍しい。
 一応、近接戦闘に特化した機体と砲撃戦に特化した機体で、欠点は埋めようとしているのだが。
 お互いお気に入りがこんなMSだと、どうしてもこういう組み合わせになってしまう。
 それに、欠点を補っている様には見えていても、いざ始まった時今日みたいにはぐれてしまったのでは、それも意味が無い。
 それより。
『それにしても、随分人気じゃないか。なあ“UY(ユーイ)”君!?』
 いつもは呼ばない登録名の方で、皮肉を込めて呼ばれた。
「一人だったから、勝手に獲物に認定されちゃったんだよ。でもここから反撃だ!」
『そうだな。やられた分やり返さないと、ポイントも溜まらないし』
 負けてしまったのでは、ポイントは丸々パーだ。
 最低でも、生き残らなくては。
「あーあ。結局オレ達の勝ち、とは行かなかったな〜」
 結局ゲームはタイムアップ。
 ちょっと体付きの良い友人が愚痴るのを、ウエハラ・ユイトは黙って聞いていた。
 ゲームオーバーでこそなかったが、勝利で無ければ戦う意味が無い。
 悔しいのは、ユイトも同じだ。
 せっかく組みあがったばかりのお気に入りのガンプラで、久し振りのバトルだったのに。
「でもよユイ、MSって言ったら普通初代ガンダムだろ。お前ホントに好きだなウイング」
 刺々しいザクUを駆っていた親友、ホシナ・ケンヤは呆れた様に言う。
 だが。
 ユイトにしてみれば、どんな戦場でもザクにしか乗らないというのもどうかと思う。
「ケンヤこそ、たまにはザク以外も使ってみれば良いのに」
 別にザクしかガンプラを持ってない訳じゃないのは知っている。
 何より、ガンダムも結構好きだというのはとっくにバレていた。
 それなのに、この親友は、あくまでもバトルではザクにこだわる。
 それもシャア専用とかじゃなく、量産型のザクUに。
「ザクはすべてのMSに通じるんだよ」
 ケンヤはそううそぶいた。
 似たような言葉を、歴史の授業で聞いた事があるような気がする。
 だが、二人にはそんな事はどうでも良かった。
「とにかく、次は絶対勝とうぜ!」
「うん! がんばろうね!!」
 眼の前のテーブルに置かれた紙コップの中身を二人同時に飲み干し、席を立つ。

32 :
 ここは、街のアミューズメントセンターだ。
 昔はゲーセンなんて呼ばれていた時代もあったが、最近は少し違う。
 不良の溜まり場なんて呼ばれていたのも、若い彼らは知らない。
 彼らがプレイしていたのは「ガンプラバトル」
 自分で組んだガンプラをスキャンして自分の機体とし、そのパイロットになって戦うアーケードゲームだ。
 以前は「戦場の絆」なども人気だったが、このゲームの特徴は、
 自分で作ったガンプラを、自機として使用出来る。
 という点にある。
 だがら、初代ガンダムとダブルオーが対戦なんてドリームマッチも可能だし、
 ベースがガンプラでさえあれば、かなり思い切った改造をしても使えたりするので、稼動開始以来大人気を博していた。
 大きな模型店なんかでも筐体を置いている事があるが、逆に筐体を置いているところでガンプラを販売する様になったという場合もある。
 むしろユイト達が住むこの街では、そっちの方が多かった。
 ガンプラを買うのは行きつけのホビーショップだが、プレイするのはもっぱらこういうところだと彼らは決めている。
 ホビーショップでもゲームはプレイ出来るが、設備はこっちの方が断然良いからだ。
 逆に買う方は、ホビーショップだと割引がある。
 資金に乏しい中学生の辛いところだ。
「それにしても、今日のお前のヘビーアームズ、右手のビーム砲は一体何なんだ?」
「ああ、あれはゾイドから流用したビームガンだよ」
「げえっ!? そりゃお前邪道だろ」
「えー? でもレギュレーションチェックは通ったよ。それにちゃんと使えたし」
「ガンプラなんだから、パーツはガンプラから持って来いよ〜。そんなの当たり前だろ」
 ヘルメットとパイロットスーツ一式が入ったバッグを提げて、二人は店を後にする。
 店でレンタルもしてくれるが、何度もプレイしていると、レンタル料も馬鹿にならない。
 それに、身に付ける物は自分専用にあった方が良いし。
 何より、専用のがあると本物のMSパイロットになった気がする。
 彼らは今や、この辺ではそれなりに顔の知れたプレイヤーなのだ。
 名前は知らないけれど、顔は嫌と言うほど知っている知り合いが、最近特に増えた。
「そういや。ユイトの父ちゃん、もうアレ出来たのか?」
 歩きながら、ケンヤが訊いてくる。
「ああ、仕事が忙しくってなかなかはかどらないみたい」
 

33 :
 ガンプラバトルの存在を知った時、ユイトの父は興奮していた。
『こ……これは、“プラモシュミレーション”!?』
 なんでも昔、自分で作ったプラモ同士で戦うという内容の漫画があったらしい。
 ガンプラにもなっている、パーフェクトガンダムというのはその漫画で初めて出てきたらしいのだが……
 あれは確か、箱に書かれた設定はそんな感じでは無かったような。
 父はいつか参戦を目指してそのキットを買ったが、なかなか作る時間も無い。
「はっははは! いっそお前が作ってやれよ」
「ダメだよ。そんな事したら怒られちゃう」
 作る楽しみはわかるだけに、その時の父の落胆振りは容易に想像できた。
「そんな事言ってちゃ、いつまでたっても親子対戦は無理だぜ」
「良いんだよ。アレは父さんが自分で作るって決めてるんだから」
 どちらにしろ、父のそのキットが完成したところで、親子対戦は難しいだろう。
 1/144 スケールでは旧キットしかないのだから、今のユイトの機体と対戦したのでは負け必至だ。
 プレイ自体は出来ても、機体の性能が違いすぎる。
「でも良いよなーユイトは。うちの親なんかうるさいんだぜ、ゲームばっかしてないで勉強しろ〜って」
「普通はどこもそうだよ。うちの父さんが子供なんだ」
「子供に子供って言われちゃう親って! なんかすげえな!!」
 大きな荷物を持ったまま、二人は塾へと向かう。
 今日は塾へ行く前に、一戦楽しむと二人で決めた日だ。
 ケンヤはそれを楽しみに、塾へもサボらずに行く様になったのだから、良い傾向ではあったが。
 そんな二人の様子を。
「……ウエハラ君……」
 電柱の影から覗く、小動物の様な二つの瞳があった。
 見つめられている肝心の本人達は、それに全く気付いてないが。

34 :
「約束通り、持ってきたよ〜」
 その日ソウミ・ユウリが持って来たのは、飛行機に似た形状のプラモデル完成品だ。
「……一つしかない……」
 オレンジ色が目立つその機体を見つめて、マナサキ・ミスノは呟いた。
「大丈夫! これ二つが合体してるらしいのよね」
 そう言って、機体後方に付いた赤いパーツを外そうと試みる。
 なかなか外れない。
 無改造のままだと保持力が弱いので、ユウリの兄はそこに手を入れているのだが、
 今はそれが逆に仇となっている。
 一歩間違えたら壊れそうになる危なっかしい手つきを、大人しそうな女の子はハラハラしながら見つめる。
「だ……大丈夫なのユウリちゃん?」
「大丈夫! どうせオモチャじゃない。すぐ直るわよ」
 その乱暴に見える手つき同様、物言いにも遠慮が無い。
 オモチャとプラモデルでは、強度自体全く違うのだが。
「やっと外れた。手こずらせてくれるわね!」
 快活そうな少女が、二つに分離したキットを両手に持って得意そうにしている。
「でも、変形ってどうやるの?」
「大丈夫! ここでわざわざやんなくても、ゲームの中でスイッチ一つでポーンらしいし」
 質問に答える言葉も、なんだか楽観的と言うか、何も考えて無い口振りだ。
 たかがオモチャと舐めているのかもしれない。
「壊しちゃったら、ユウリちゃんのお兄さんに悪いよ」
「大丈夫! 兄貴の部屋には一杯あるから、一個や二個無くなったってわかんないわよ」
 そんな事が平気で言えるのは、全く見分けが付いていないからなのだろう。
 それでも、目的の物をちゃんと持ってこれたのは奇跡だと言えた。
「でも、よくこれだってわかったね」
「うん、昨日か一昨日に出来たばっかなのよねこれ。埃かぶってないからすぐわかった!」
 出来たばかりの兄の作品を部屋から勝手に持ち出して、彼女達が向かう先は――
 近所のホビーショップだ。
 夜になるとネオンサインで光るらしい看板は、ホビーランド・ノアとある。
 地元の小中学生のみならず、遠方から大人の客もやって来る。
 結構幅の広い品揃えを誇る店であった。
 しかし。
 デニムのスカートにキャミソールのユウリはともかく。
 白いワンピースを着るミスノは、結構場違いな所だ。
「でもさあ。ゲームしたいなら駅前のゲーセンの方が良いんじゃないの?」
「ダメだよぉ。あっちはウエハラ君達来ちゃう〜」
 先日、電柱の影からユイト達の事を見ていたのは、ミスノだ。
 実はガンプラを買うのはもっぱらこの店なので、来ると言うならこちらもなのだが、
 名前を出されて不意にパニックになっているのか、その事実には気付いてない。
「でも、ミスノがあのユイトを……ねえ」
 そう言うと、ユウリはニンマリと笑う。
「ちょっ……こんなところでそんな事言わないでっ!」
 顔を真っ赤に染めて大慌てでミスノが言うが、声が大きくて逆効果だ。
 ユウリがユイトとご近所さんで幼馴染みである、というのと、兄がガンプラを大量に持っているとう事で、
 ユイトが夢中になっているガンプラバトルを一度やってみようという事になったのだが、これは先行きが不安だ。
「大丈夫だって。誰も聞いてないわよ。それよりこれ、どっち使う?」
 ユウリの方はお気楽だ。

35 :
 ユウリ以上に、ミスノはガンプラの事を知らない。
 操作が簡単な方を……と、言いたいが、どっちも難しそうだ。
 実は操作自体は、どっちを選んだ所で同じなのだが。
 それに、彼女達からすればどちらも飛行機である。
 そんなの、一度も操縦なんてした事は無い。
 中学生なのだから当たり前なのだが。
「うーん……ユウリちゃん決めて」
「そう? じゃあ、ミスノはゲームとか知らなそうだし、あたしがこっちにしようかな」
 そう言って、赤い方を親友に手渡した。
 これだと、合体後はユウリの方が操縦を担当する事になる。
 もっとも、ユウリの方もガンプラバトルなんて一度もやった事は無い。
 完全に、たかがゲームと軽く考えている。
 女の子には敷居が高い店内に入っていくと、店長の出迎える声が掛かった。
「――いらっしゃーい! おっ? 君は確か、ソウミ君の妹さんだったかな?」
 地元の小中学生が通う、と言う事は、自分の兄も通っているという事だ。
 小学生の時から通算すると、もう十年ほどは通い詰めているに違いない。
 ユウリも、何度か連れて来てもらった事がある。
 その時は小さくてお小遣いも貰ってなかったから、何も買わなかったけれど。
「小さい時に来ただけなのに……覚えてるんですか?」
 ユウリは、どこか感心した様に返す。
「だって、顔なんか良く似てるもん。それに、私は客商売長いから」
 もうずっとここにいるんじゃないかと思われる四十代半ばと思われる店長が、笑いながら言う。
「うーん。あの兄貴に似てるって……ちょっと傷付くなあ」
「はっはっは! ごめんごめん。で、そちらのお嬢さんは、前に一度か二度来たかな?」
 今度はミスノを見て言う。
 確かに。
 以前従姉に付き合わされて、この店を訪れた事がある。
 従姉の目的がドールだったので、ガンプラなんかは全然見てなかったが。
 その時丁度店内のガンプラコーナーで、ユイトとケンヤが大声で話をしていたのを、僅かに覚えている。
 あの時あまりに楽しそうに、店長も交えて話をするユイトが、とても印象的だった。
 それにしても。
 たった一度の来店で、良く憶えているものだ。
 さすが客商売。
「で、ガンプラを持って来てると言う事は、君達バトルしたいのかい?」
 察しも良い。
「そう。すぐに出来る?」
 ユウリは段々楽しみになってきたのか、勢い込んで言うが、
「今まで一度もやった事が無いんだったら、とりあえずゲスト用のポイントカードを購入してもらって、パイロットの登録からしないとね」
「カード?」
「うん、ポイントを貯めるんだ。ある程度貯まったら、ポイントだけでプレイ出来る様になる。MSの使用履歴も記録されるよ」
 店長が短く説明するのを聞いて、
「ねえユウリちゃん。MSって?」
 ミスノが小声で聞いた。
「これよ。このロボットのオモチャの事。モビルスーツって言うんだって」
「へえ。そんな風に呼ぶんだ」
 どうやら、ゲーム以前の問題らしい。

36 :
 筐体が置かれている二階へと案内された。
 小さいスペースながらも、廉価版の筐体が六台が、二列に分かれて入り口を向かい合わせる形で並んでいる。
 店長が示したのは、筐体とは別に設置されたパソコンに似た機械。
「これが登録機。ゲスト用カードは名前を入力するくらいだけど」
「本名入れるの?」
「好きな名前で良いよ、ニックネームやイニシャルとかで。ここにカード入れて」
 指で示されて、読み取り機にカードを挿入する。
「イニシャルっていうのもなんだし、一応名前で入れようかな」
 入力状態になった画面に、“YOU−RI”と入れる。
 入力可能な文字数は十二文字までなので、充分余裕だ。
「後で正式に会員登録するなら、獲得ポイントは移行出来るから、プレイ後も失くさないでね」
 店長の説明に、二人して頷く。
 今度はミスノの番だ。
 表示された入力枠に、“MISUNO”と入れる。
「そんなの普通すぎるよ。もっとなんか入れないの? 横線とか星マークとか」
「わたしそんな余裕無い〜」
 ユウリが軽く言うのに、ミスノは困った様な返答を返す。
「はははっ! 後で変更も出来るから、そんなに慌てなくて良いよ」
 そう言いながら、二人の姿を見ると、
「二人ともスカートじゃないか。始める前に着替えないとね」
「えっ? このまま出来ないの?」
 このゲームの事は全く知らないため、そんな初歩的な質問が出る。
「専用のスーツとヘルメットがあるんだ。大丈夫、初回は体験版として無料でレンタルになってるから」
 そう言って、奥の方にあるフィッティングルームへと案内した。
「なんか本格的だねえ」
「男子達が夢中になるのも、なんだかわかる気がする」
「はははっ! 凝った子なんかは自分専用のを持ってたりするからね」
「……それで、あんなに大きな荷物持ってたんだ……」
 ユイト達の姿を思い出して、ミスノは呟く。
 あの荷物は何だろうと思っていたが、これで疑問が晴れた。
 サイズ合わせに若干手間を取られながら、
 二人のにわかパイロットが、店長の前に並ぶ。
 身体が小さなミスノなんかは、少し袖や裾が余り気味だ。

37 :
「じゃあ、準備出来たから二人とも筐体の中に入って」
「きょう……たい???」
「このおっきなゲーム機の事でしょ」
 専門用語に戸惑うミスノをよそに、ユウリは物怖じする事無く機械に潜り込んだ。
「じゃあ、横にあるハロの中にガンプラを入れて、その横にあるカードリーダーにカードを入れて」
 言われた通りにやってみる。
 筐体は完全に密閉型なので、二人同時に説明出来ない。
 今ミスノは店長の後ろから覗き込んでいるだけだ。
 ハロの形をしたガンプラスキャナーでスキャンされて、画面に表示される機体は……。
「ふーん……これ“アリオスガンダム”って言うんだ……」
 飛行形態でスキャンしたため、表示は人型ではないのだが。
「レギュレーションチェックや戦績の履歴が記録されるから、ゲームが終了するまでカードは抜かないでね。さあ、じゃあこっちもやろうか」
 ミスノはさっきと同じ説明を後ろから受けながら、おっかなびっくり登録作業をする。
「……じーえぬ……あーちゃー???」
「おっと、そろそろバトルロイヤル開始の時間だ。じゃあ二人ともがんばって!」
 ミスノの素人丸出しの呟きには頓着せず、店長は筐体を離れた。
「……あっ!? 待って動かし方わかんない!」
「ゲームなんだから、そんなの適当にやればいいのよ!」
「適当に出来るなんて、そんなのウソよ〜!!」
 筐体の仕切り越しに交わされるやり取りを聴きながら、入り口ハッチを閉じて店長は操作卓に着く。
 今のバージョンのガンプラバトルは、エリア単位のバトルロイヤルタイムが一日に数回設定されている。
 データ回線が繋がっている筐体なら、自由にエントリーが可能だ。
 その場にいないプレイヤー同士で、一つのフィールドにアクセスして対戦できる。
 平日でも午後ならば、対戦相手は誰かいるはずだ。
 途中で乱入してくるプレイヤーもいるため、油断できない。
 それだけに、対戦モードよりこちらを専門にしているプレイヤーもいる程だ。
『通信によるエリア統一バトルロイヤルを開始します。各パイロットはシートベルトを締めてください』
 音声案内が、筐体スピーカーとヘルメット内のヘッドセットを通して響く。
「……うっ……なんか緊張してきた……」
 もう引き返せないところまで来て弱音を吐くミスノに、
『こうなったら楽しむしかないじゃない。リラックスリラックス!』
 わかってないからなのか、ユウリはどこまでもお気楽だ。
『――開始十秒前……三……二……一……ガンプラバトル、スタート!』
 プレイヤーを取り囲む様に配置された全周囲表示に近いスクリーン全体が、ホワイトアウトすると……
 いきなり眼の前に、真っ暗な空間が表示された。
 宇宙だ。

38 :
「――いやあああああああっ!?」
 ミスノが思いっきり絶叫し、両手に握ったコントロールレバーをガチャガチャと動かす。
 それが忠実に伝わったか、景色はグルグルと回り始めた。
 一瞬、一際明るい大きな何かが見えた。
『ミスノっ! 右のレバーを画面が回ってるのと逆の方向に! 早くっ!!』
 聞こえた声に、思わず反応する。
 回転を止めた画面に映し出されたのは――
 三枚の長大なミラーを一点で固定した、巨大な円筒形の構造物だ。
『バトルフィールドは“サイド7・グリーンノア1周辺空域”です』
 画面表示と共に、音声でもご丁寧に伝えてくれる。
『あのでっかいのが、サイドなんとかってのみたいね!』
 興奮したユウリの声が伝わってくる。
 だがミスノの方は――
「……やっぱり怖いよぉ、ユウリちゃん……」
 足場が無いのが不安なのか、アッサリ弱音を吐いた。
『ここまで来てそれは無し。さあ、合体するから真っ直ぐ飛んで!』
 言うが早いか、視界の下からオレンジ色の機体が飛び出し、前方に着く。
 ユウリは持ち前の要領の良さで、飛行形態の操作を大体覚えてしまった様だ。
『速度そのまま。こっちで合わせるから』
 ユウリのアリオスガンダムが、ドンドン迫ってくる。
 衝突しそうな勢いで画面いっぱいにそのテール部分が映し出されて――
「きゃあっ!?」
 恐怖に固くまぶたを閉じると、ガシャンと大きなエフェクト音。
『合体完了。もう安心だよ』
 眼を開けると、スクリーンには広大な宇宙空間とコロニーが表示されているだけだ。
 合体したので、二機で一つの機体としてシステムに処理されているのだろう。
 操作は全て、アリオスのユウリがやってくれているので、とりあえずミスノがやる事はない。
 それにしても。
 宇宙空間で戦うという設定だからといって、実際に無重力になるわけではない。
 だが、上下が無いというのは心理的に大きなプレッシャーだ。
 画面を見ているだけで酔いそうになる。
『さってと。これ、どこが入り口なのかなあ? あ、ミスノは周りをしっかり見張ってて』
「えっ? この中に入るの!?」
『だって、地面が無いと不安じゃない。まあ、こっちの方が墜ちる心配は無いんだけど』
 ユウリも上下の無い感覚は不安な様だ。
 本当なら、飛行型の機体は限定空間では無い方が有利だったりするのだが、
 そういう基本的なゲーム情報は、彼女達の頭には入っていない。

39 :
 そんなコンビに、容赦なく襲い掛かる敵。
 コクピット内に独特の警告音が響き、
 二時の方向から、ビームの光条が二つ伸びてくる。
『ユウリちゃんっ!?』
 ミスノの声が聞こえるかどうかと言うタイミングで、いち早く反応する。
『きゃあああっ!?』
 悲鳴が耳一杯に響くが、構っていられない。
 アリオスガンダムとGN(ガン)アーチャーが合体した形態――アーチャーアリオスは、大きく機体をロールさせながら攻撃を避け、
 機首をその方向へと向ける。
 なかなかのゲーム勘だ。
『……逃げないの!?』
「そんな事したら、きっと後ろから狙い撃ちよ。だったらこっちからやんなきゃっ!」
 ユウリのこの判断は正しい。
 姿も良く見えない距離から攻撃されたので、どんな相手かもわからない。
 その上、二人ともガンプラには詳しくなく、迂闊に逃げても追い詰められるのは必至だ。
 ならば、距離を詰めて迎撃するのがベターだろう。
 こちらはまだ一発も撃ってないのだから、弾切れの心配も無い。
 驚くほど早い速度で回転する超巨大なシリンダーの壁面に沿って、ミラーの付け根へと一直線に飛んで行く。
 ビームによる砲火は断続的に続いているが、オレンジ色の機体は、それをことごとく避けていた。
 まだ距離が遠いので、そうそう当るものではない。
 撃つ方も、まだ牽制のつもりだろう。
 自分達同様高速で向かってくる機体と、速度はそのままにすれ違う。
 機体の両サイドに、ビーム砲とブースターを内蔵したバインダーを備える、明るいグリーンの機体。
 可変MA・ギャプランだ。
「機動戦士Zガンダム」に登場した、敵の兵器である。
 今はMA形態なので化け物じみた加速を誇っている。
 いざMS形態に変形すれば、その巨大なボディサイズと相まって、機動性が高い強敵になるはずだ。
『何あれっ!? 大きい!!』
「相手に不足は無いわねっ!!」
 ただただ驚いてばかりのミスノに対して、ユウリは分不相応にも不敵な一言を吐く。
 即座に反転して、追撃の体勢を取った。
 ギャプランの方は、直進安定性に優れているが、機動性自体はそう高くない。
 そのまま真っ直ぐ突き進み――
 人型の形態にその姿を変えた。
 こちらを睨んでくるかの様に、モノアイが輝いた。
「――変形っ!?」
 ユウリは敵の姿を睨みつける。
『どうしよう!? なんか強そうっ!!』
 ミスノは、これだけで戦意を喪失した様だ。
「あっちが変形したなら――こっちだってっ!!」
 そう言いながら、素早くセレクト画面を表示させて、変形を選択しようとする――が。
 変形と書かれた表示が、ポイントしても色が変わらない。
 これは変形できないという事だ。

40 :
「変形できないって――なんでぇ!?」
 アリオスガンダムは、GNアーチャーと合体していると人型に変形出来ないのだ。
 だが言うまでも無く、彼女達にそんな知識は無い。
「こうなったら――逃げるっ!」
 変形できないなら、やる事は一つ。
「ミスノっ! 何でも良いから撃ってっ!!」
 アーチャーアリオスの形態だと、火器管制は本来GNアーチャー側の役目だ。
『えーっと……えーっとぉ……えいっ!!』
 適当に選ばれて一斉に発射されたのは、ホーミングミサイルだ。
 反転しながら、まるでイタチの最後っ屁の様にばら撒かれた。
 敵機に到達する前に次々と爆発するミサイルの群れは、結果的に目隠しの役割を果たす。
「もう追ってこないでよぉ〜」
『もう逃げちゃおうよユウリちゃ〜ん!』
「それはダメ! 勝てなくっても、最後まで生き残らないと!!」
 途中退場したければ、ワザと撃墜されるしかない。
 だがそれは、普通に負ける以上に、自分自身に負ける事になる。
 それだけは嫌だ。
 そんな彼女達を、再び別の攻撃が襲う。
 ビームライフルを乱射しながら迫るのは、ガンダムトリコロールでその身を彩る大型のボディ。
 ガンダムGP−02だ。
 キットに付属していない筈のGP−01のライフルを右手に構え、大型のシールドを前面に押し立てて、コロニー外壁に沿う様に接近してくる。
「何あれっ!? なんか顔が悪役っぽい!!」
『怖い顔〜! あれもガンダムなの!?』
 ナマハゲに迫られる子供の様に、二人はおののく。
 速度性能は、圧倒的にアーチャーアリオスの方が上だ。
 それは良くわかっているのか、GP−02は右手のライフルをシールドに装着して、右肩にバズーカを構える。
 アニメ本編で、核砲弾を一発放っただけで終わった、凶悪なあの武装だ。
 ――ドウッ!
 躊躇無く放たれたその弾を避けると、コロニー外壁に命中したそれは、激しく爆発した。

41 :
『――きゃああっ!?』
「これ……当ったらヤバイっ!?」
 核攻撃だとは知らない彼女達は、その爆発の大きさに思わず眼を塞ぐ。
 ゲームなので、別の放射能汚染などの心配は無いが。
 それでもその攻撃は、掛け値なしの半端無い攻撃だった。
 コロニーに、大穴を開けてしまう位の。
 ――ゴオオオオオ……
 コロニー内部の空気を噴出しながら、他の障害物も宇宙空間に撒き散らす。
「大きな穴がっ!? ――よぉしっ!!」
『どうしたのユウリちゃん!?』
 その攻撃がもたらした結果に驚きながらも、ユウリはめざとくその外壁の穴を認める。
 ミスノは、ユウリの次の行動がわからない。
「ちょうど入り口が出来ちゃった! 中に飛び込むわよミスノっ!!」
『えええええっ!?』
 一旦コロニー壁面から離れ、大きく進路を変えつつ、その大穴に飛び込んだ。
 外の闇とは大違いの、光に満ちた風景が広がる。
「うわあっ! 中もすごいね!!」
『街が……森が……丸いっ!?』
 水道管の内側にジオラマを作った様なその光景は、ガンダム世界を知らない彼女達にとってはとても新鮮なロケーションだ。
 円筒形の人工の大地では、既にあちこちで戦闘が始まっている。
「でもこれ……どっちを足場にすればいいのっ!?」
『飛んでるんだから、あんまり関係無さそうな……』
 コロニー中心辺りは、重力が均衡になっているので、外の宇宙空間と変わらない。
 だが、その広さは限定される。
 後を追って来た悪役面のガンダムが、役目を終えた右肩のバズーカを放棄して、今度はビームサーベルを手に迫る。
 そのシルエットを形作る両肩のブースターユニットを、大きく左右に展開して。
 空間が限定された場所で、高速移動形態は不利だ。
 どんなに速くても、いつかは行き止まりになってしまうのだから。

42 :
「――くうっ!?」
 機首を返して、真っ向から突っ込む。
「何か――あたしに出来る事っ!?」
 レバーのセレクトスイッチをわからないままに押す。
 すると。
 真っ直ぐに伸びていたアリオスの機首部分が、大きく左右に展開した。
 まるで大きなマジックハンドだ。
 そのままそれは、GP−02の腹に迫る。
『ぶつかっちゃうっ!?』
 ミスノの声を無視して、ユウリは体当たりを敢行した。
 瞬間的にエアブレーキを掛けて速度を急激に落としたので、弾かれる敵MSの振るうビームサーベルは空を切った。
「ミスノっ! 攻撃!!」
『えっと……えっと……えいっ!』
 武装コンテナとしてアリオスと合体しているGNアーチャーは、ミサイルを発射。
 内壁にびっしりと詰まった住宅地に叩きつけられたGP−02に、それらはすべて命中する。
 爆炎と共に、家屋とMSのパーツが散る。
 内側から大きく開いた穴から、空気と共にそれらは吸い出された。
 それを見つめながら、
「ここは変形できないとツライわね」
 ユウリは今更ながらその事に気付く。
『なんで変形できないんだろう?』
「一度兄貴に特訓してもらうしかないかなあ」
 ユウリは、このゲームにはまり始めている。
 本人はまだ無自覚だが。
『わたしはぁ……怖いの嫌だなあ』
 ミスノは弱気だ。
「何言ってんの。ユイトに教えてもらいなさいよ手取り足取り!」
『ええっ!? そんなの無理っ!!』
「チャンスだと思いなさいよ。きっかけなんて何でも良いの、きっと」
 気が緩んだか、戦闘の真っ最中にそんな会話を交わす二人に、
 再び向けられる魔の手。
 再び警告音が鳴り響く。
「――敵っ!?」『えっ? えっ!?』
 ユウリは気を引き締める様子を見せ、ミスノはまだ状況を読みきれていない口振り。
 ビーム砲火と共に高速で接近するのは――
 外で一度振り切ったはずのギャプランだ。

43 :
「うわっ!? また来たっ!!」
『また逃げるの!?』
「そう何度も、上手くは行かないよね」
 レバーを握り直し、ユウリは拡大された敵の画像を見つめる。
 コロニーの外と違い、見える景色が近いせいか、
 外で遭遇した時よりも、さらに速い速度で迫ってくるかのように思えた。
 次々と発射されるビーム攻撃に、アーチャーアリオスは思う様に身動きが取れない。
「このままじゃ――やられるっ!」
『いやぁっ!?』
 二人のその叫びも空しく、
 攻撃は、アリオスガンダム飛行形態の主翼へと、まともに命中した。
「あああああっ!?」『きゃぁぁぁぁぁっ!!』
 バランスを崩し、コロニーの内壁へと叩き付けられる。
 その衝撃で、アリオスとGNアーチャーは二機に分離した。
 緑色の敵機は、その上を通り過ぎるが――
 即人型へと変形し、反転してこちらへと戻ってくる。
『……イヤっ……イヤっ……』
「……こっちも……変形できてればっ!」
 二人は、もはや撃墜される事を覚悟するしかない状況だ。
 だが。
 ――ビヒュン!
 何処からか放たれたビーム攻撃が、ユウリの視界を横切る。
 それは真っ直ぐに伸びて行き、
 ギャプランの胴体のど真ん中を捉えて貫通した。
 ドド――ン!
 爆発が、ユウリ眼の前のスクリーンを真っ白に染めて、ハレーションを起こした。
 そして、徐々に回復する画面の向こうに、見えた。
 こちらに近付いてくる、一機の飛行物体の姿が。

44 :
『ユイ、こっちもそろそろ行くぜ! 放してくれ!!』
『――了解!』
 一機だと思われたその機体は、実は二機だ。
 コロニーの中を自在に飛行し、今ギャプランを撃破した攻撃を放ったのは。
 ウイングガンダム。
「新機動戦記ガンダムW」の最初の主役MSだ。
 しかも、リファインされたデザインの、俗に言うVer・Ka(バージョンカトキ)とか、アーリータイプなどと呼ばれているタイプである。
 カラーリングは作り手(ビルダー)の好みで、少し派手さを抑えた感じになってはいるが。
 これがウエハラ・ユイトのもう一つの愛機である。
 そして、本来ならそこには無いはずの物が懸架されている。
 刺々しい外観を持った、カスタムザクだ。
 ウイングガンダムの飛行形態・バードモードの脚に当たる部分を掴んで、自力でぶら下がっている。
 それが、脚のホバーと背中のバーニアを吹かしながら、降下して来た。
 ユウリとミスノの機体の、すぐ傍に。
『ソウミ、それにマナサキ。お前らいきなり無茶するなあ』
 通信してきたのは、同級生のホシナ・ケンヤだ。
「――ホシナ!?」『ホシナ君……なの?』
『ああ! ユイも一緒だ!!』
 ケンヤがユイトの事をユイと呼んでいるのは、二人も知っている。
『じゃあ、わたし達を助けてくれたのは!?』
「あの飛行機に……ユイトが!?」
『飛行機じゃない。あれもMSさ!』
 大きく二つに折れる様に。
 空中を移動しながら、ウイングガンダムが変形する。
 巨大な鳥の様な姿から、
 いかにも強力そうな、巨大な鳥人の姿へと。
『――任務了解。周辺の敵機を……殲滅する!』
「任務ぅ!?」
『ああ。あいつ今ノリノリで、あのガンダムのパイロットになりきってるだけだ』
 ユウリの疑問に、ケンヤは苦笑しながら答えた。

45 :
 シリンダー型コロニーの回転軸――巨大な円筒の中心部に相当するところは、重力が均衡していて無重力に近い。
 そしてそれは、空戦を得意とするMSにとっては、慣れさえすれば独擅場となりうる場所だ。
 グルグルと動き回りながら、右手のバスターライフルを構える。
 フィィィィィ……バヒュ――ン!
 銃口から漏れ出る程に溜め込まれたエネルギーを、一気に放出。
 その力が向かう先には――ウイングを標的と定めて集まってくる数機のMSが。
 それらをまとめて葬るかの様に放たれた一発の攻撃は、それらをまとめて巻き込み、
 そのうち一機は完全に捉えられて、空中に大きな爆発と共に、そのパーツを撒き散らす。
 ここに来るまでにも、エネルギーは消費していたのだろう。
 ウイングのビームライフルに取り付けられている三つのエネルギーカートリッジは、素早くその場で排除され、
 右腕にマウントされたホルダーに取り付けられた3つのカートリッジが新たに装着される。
 それが完了するが早いか、今度は反対方向に向かって数発放つ。
 どうやら細かく出力調整を行いながら攻撃しているらしい。
 ライフルを左手に持ち替え、シールドから取り出したビームサーベルを右手に握る。
 迫り来る多くの敵MSを前にしながら、少しも怯む様子は見せない。
「……これが……ガンプラバトル……」
『すごい……ウエハラ君大丈夫かなぁ』
 本日初参戦の二人は、呆気に取られて見ているばかりだ。
 だが。
『おい、ボケッとしてないで動けよ。いくらなんでも動けない奴を守るには限界があるぞ』
 ケンヤがスピーカー越しに話掛けて来た。
「でも! 変形がっ!!」
『分離してない状態で変形しようとしたんだろ。今は分離してるから、変形できるぜ』
 そう言われて操作すると、アリオスガンダムは地面に墜ちた状態のまま人型に変わった。
 ミスノのGNアーチャーの方もそれに続く。
「出来たっ!」『わあっ! これ女の子みたいなロボット!!』
 変形して画面表示が変わったのだろう。
 GNアーチャーのコクピットで、ミスノが喜びの声が上がる。
『今回は無理に戦えとは言わねえからさ。せめてドッジボールの要領で逃げ回れよ』
 そう言いながら、ケンヤのザクは手にしたランスを振るって、急接近して来た敵のドムを串刺しにした。

46 :
 無理に戦わなくても――と、言われたが。
 もちろん、ユウリはそれで済ますつもりは無い。
「逃げ回るだけなんて……冗談じゃないわっ!」
 アリオスガンダムは、その場に立ち上がる。
『ユウリちゃん!?』
 そんな友人の様子に、ミスノはオロオロするばかりだ。
「戦うのが目的のゲームだもん。逃げてちゃゲームにならない!」
『ふんっ……だったら、精一杯がんばれよ!』
 その覚悟を見て取ったか、二人を守ってランスを振るっていたザクは、脚のホバーを吹かして高速移動を始めた。
 戦うつもりがあるなら、それは邪魔しないでおこうと言う配慮だろう。
 両手にビームガンを握り、アリオスガンダムもそれを乱射し始める。
「ミスノ、そっちの方が武器が多いの! 後ろから支援して!!」
『ユウリちゃん……わかった!』
 寄り添う様に、女性的なフォルムを持つMSも立ち上がる。
 背中を合わせて、後方をカバーする様にライフルを構えた。
「今日が……あたしたちのデビュー戦!」
『生き残って……ウエハラ君とゲームするんだからっ!』
「そうよミスノ! その意気!!」
 心を奮い立たせて戦場に立つ二人の少女は、
 ここで、この戦いの舞台へと、大きな一歩を踏み出した。
「……おれのアリオスが……アーチャーが……」
 バラバラのパーツ状態になって返って来た二機のMSを見て嘆くのは、ユウリの兄のソウミ・カツキだ。
 しかも。
 二機分が仕分けされていない状態で、ひとまとめに机の上に置かれている。
「また……組み直さなきゃなんないのか……」
 勝手にガンプラを持ち出した妹を怒る気にもなれず、兄は大きな溜息をついた。
「面白かったねーガンプラバトル!」
 ユウリは、ゲームの魅力にすっかりはまってしまった様だ。
「うん……怖かったけど、ウエハラ君が一緒なら」
 動機はともかく。
 ミスノの方もやる気になったらしい。
「うん、次は自分達で作ったガンプラでやろうよ!」
「どんなの買おうかなあ?」
「とりあえず、今日兄貴に借りたのと同じの、買って来ようよ」

47 :
 ゲーム終了後、ケンヤとユイトが二人に言った言葉。
「兄ちゃんに感謝した方が良いぜ。ガンプラの出来が良かったから、今日お前らは生き残れたんだ」
「でも、自分で組んだガンプラで勝てたら、最っ高の気分になれるよ!」
 自分で愛情を込めて組んだガンプラは、強い。
 都市伝説に近い言葉だが、ガンプラバトルのプレイヤーは、それを固く信じている。
「あたしも……強くなりたい!」
「わたし……ウエハラ君と一緒に戦いたい!」
 二人の少女が、決意を固めた。
 今日は、勝利は出来なかったけど。
「あいつら……またやる気かなあ、ガンプラバトル?」
 ユウリの家まで二人を送り届けて、その帰り道。
 少し疲れを見せるケンヤがボヤいた。
「面白かったって言ってたから、またやるんじゃない?」
 ユイトはその様子に微笑みながら、思った事を返す。
「オレは初心者のお守り、そうそう何度も出来ないぞ」
「やってるうちに二人も覚えるさ。ユウリは飲み込み早そうだし」
「しかし、マナサキまで手出すとは思わなかったよ」
「うん、それは本当に意外だね。マナサキさん一体どうしたんだろう?」
 その原因がまさか自分だとは、ユイトは全く気付いていない。
「女が何か突然始める時ってさ、大抵男が絡んでるってうちの姉ちゃんが言ってた」
「はははっ! なんだよそれ〜」
「きっと誰か、好きな奴がやってんだよガンプラバトル」
「え〜? そんなの大抵オタクじゃない。きっと違うよ」
 男は、女の秘めた恋愛感情に疎い。
 特に中学に上がってすぐのこの二人には、尚更の事だ。
 まだまだ、男友達同士で馬鹿やってるのが楽しい年頃である。
 マナサキ・ミスノの恋は、前途多難が予想された。
 おわり

48 :
第一話投下完了。
あらかじめ支援頼んどけば良かったね。
いきなり全部ってのもなんなので、第二話はまた明日にでも。
楽しんでいただければ幸いです。

49 :
>>25
どのキャラだw
やっぱりヤツか? ヤツなのか?

50 :
>>49
一人しかいませんなあ。
ついにヤツ呼ばわりされるようになってしまったか。
やるな!

51 :
遊びだったのね!?」
 裏切られた気持ちで胸が張り裂けそうになりながら、彼女は叫ぶ。
「わかってくれアオイ。もう子供じゃないんだ……俺達は」
 背中を向けて去ろうとする男は、ふと足を止めて少しだけ視線を向け、言い訳めいたセリフを吐く。
「でもっ……でもでもっ!」
 彼も本気だと思っていた。
 いや。
 時に、「愛している」とさえ口にもした。
 それなのに。
 そんな過去をアッサリ捨て去り、一切を忘れてこれからを生きようとは。
 クルカワ・アオイには、信じられない事だった。
「私は……今でも本気よ」
 今は心の底から。
 胸を張って言える。
 私は……今でも愛している。
 全身全霊を賭けて、それだけの為に、これからも生きていける、と。
「勝手にしろ。お前がどう思おうと、俺には関係ない」
 再び歩みを再開し、前を向いて右手を頭上で振る。
「だが忠告だけはしてやる。いい加減に大人になれよアオイ。お前もう三回生だろうが」
 その言葉に、ピクッと彼女は耳を動かした。
「そろそろ動かないと、ヤバイぞ。就職活動! 全然やってないだろ?」
「あ〜! それなら私、教員試験を受ける予定で〜」
 慌てた様に、冷汗をダラダラ流しながら、女は言い訳するが。
「試験に受かったって、それで教師になれるとは限らないんだぞ。もっと視野を広く持て」
 そのシビアな言葉に、アオイは「う〜〜〜」と唸って黙るしかない。
 そして、トドメの一言。
「そろそろ卒業しろよ、ガンプラバトル。出来れば、四回生になる前に」

52 :
 ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト)02
「あなたにとっては……単なる遊びだったのね!?」
 裏切られた気持ちで胸が張り裂けそうになりながら、彼女は叫ぶ。
「わかってくれアオイ。もう子供じゃないんだ……俺達は」
 背中を向けて去ろうとする男は、ふと足を止めて少しだけ視線を向け、言い訳めいたセリフを吐く。
「でもっ……でもでもっ!」
 彼も本気だと思っていた。
 いや。
 時に、「愛している」とさえ口にもした。
 それなのに。
 そんな過去をアッサリ捨て去り、一切を忘れてこれからを生きようとは。
 クルカワ・アオイには、信じられない事だった。
「私は……今でも本気よ」
 今は心の底から。
 胸を張って言える。
 私は……今でも愛している。
 全身全霊を賭けて、それだけの為に、これからも生きていける、と。
「勝手にしろ。お前がどう思おうと、俺には関係ない」
 再び歩みを再開し、前を向いて右手を頭上で振る。
「だが忠告だけはしてやる。いい加減に大人になれよアオイ。お前もう三回生だろうが」
 その言葉に、ピクッと彼女は耳を動かした。
「そろそろ動かないと、ヤバイぞ。就職活動! 全然やってないだろ?」
「あ〜! それなら私、教員試験を受ける予定で〜」
 慌てた様に、冷汗をダラダラ流しながら、女は言い訳するが。
「試験に受かったって、それで教師になれるとは限らないんだぞ。もっと視野を広く持て」
 そのシビアな言葉に、アオイは「う〜〜〜」と唸って黙るしかない。
 そして、トドメの一言。
「そろそろ卒業しろよ、ガンプラバトル。出来れば、四回生になる前に」

53 :
 そう。
 彼がかつて愛し、彼女が今でも本気で愛しているのは、今大人気のアーケードゲーム。
 いい歳して何をやっているんだと田舎の両親に言われてしまいそうだが、
 これだけは、誰が何と言おうとやめられない。
 だが。
 いくら好きな事でも、たった一人で続けるには限界がある。
 ましてや、いままでチームでやって来た身としては、今更ソロ活動というのも難しい。
 特にバトルロイヤルなんかは、チームの連携は結構重要だ。
「でも先輩っ! 私の事“最高の相棒(バディ)”って言ってくれたじゃないですかぁ!」
 とりあえず食い下がるしかないが、
「お前とプレイすると、生き残るのが楽だったんだよ。勝手に眼の前に血路を開いてくれるからさ」
 そう。
 チームは大事だが、彼女自身がチームワークが得意かどうかというのは別の話だ。
 暴走しがちだという自覚はあったが、まさかそれに上手く乗っかられているとは思ってなかった。
 そう言えばチームの中で自分だけ、妙な二つ名がいくつもあるし。
「ま、一人でやる分には止めないけど、程ほどにしとけよ。でないと人生無駄にするぞ」
 立ち去るその背中を見送りながら、クルカワ・アオイは唇を噛み締めた。
 それから程なくして。
 教員試験を受けた辺りから、彼女自身もゲームから遠のく事になってしまう。
 別に控えようとも、卒業しようとも思った訳ではない。
 ただ、張り合いが無くなったのだろう。
 忙しい合間を縫って、気持ちを切り替えるかの様にバトルに没頭したあの日々が、
 教員試験に受かった途端、どうでも良くなった。
 そして。
 彼女は、その青春の全てを封印した。

54 :
 それなのに。
 今再び彼女の中に、消えかかっていたその火が、再び燃え上がろうとしていた。
 理由は二つ。
 一つは、新人教師として赴任してきた中学校の生徒が、あまり先生扱いしてくれない事。
 せいぜい、少し年上のお姉さんくらいにしか思われていない気がする。
 そしてもう一つは。
 今現在、職場である学校で、どこかの部活動の顧問をやる様に求められていると言う事。
 中学高校と帰宅部を通し、
 大学ではガンプラバトルに明け暮れた自分にとって、
 自ら進んで顧問をやってやろうと思える部活動など、一つとしてない。
 悩みは自然、イライラへと変わる。
 そのイライラを晴らす方法を求めて――
 やはり、アレしかないという結論に至った。
 前使っていた愛機や製作道具は封印して実家に放り込んであるが、問題は無い。
 別に、前の様に没頭するつもりは無かったし、そんな時間もないのだから。
 新しい自分の機体だけは、最低限用意しなければならないが。
 それよりも、注意しなければならない。
 本来なら、自分は教師である立場上、
 ゲームセンターなどで生徒を見つけたら、一言注意しなければいけない。
 校則で、保護者同伴無しでのそういう場所への出入りは禁じられているのだから。
 そんな立場の自分が、率先してそんな場所を楽しんでしまったら……
 生徒に対して、示しが付かない。
 だから、密かに事を進めよう。

55 :
 そんな事を思ったのが、たった今。
 時間は、もう夜中に近い。
 当然模型屋など開いてはいないし、明日は土曜日だが仕事もあり、とてもキットの調達など出来はしない。
 心の火はもう点いてしまったから、また後日というのも嫌だ。
 となると。
 足が向いたのは、仕事帰りにあるコンビニエンスストア。
 数は多くないが、ガンプラも扱っている事がある。
 自分が気に入るキットがあれば良いのだが。
 気に入りすぎても、またゲームに夢中になってしまうけれども。
 それは、とりあえず店で悩もう。
 そう決めて、ドアを潜った。
 それが、ある運命を開く事になるとは。
 彼女は、予想もしていなかった。
 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ああっ! だから、手でもぎ取ろうとするなってぇの!!」
 部屋の外まで聞こえそうな大声で、ホシナ・ケンヤの声が響く。
 ここは、ソウミ・ユウリの自宅。
 そこに部屋の主であるユウリ本人以外に――
 友人であるマナサキ・ミスノとホシナ・ケンヤ、そして幼馴染みであるウエハラ・ユイトもいる。
 この四人が、女子中学生の部屋で何をやっているのかと言うと――
 ガンプラ作りである。
 先日、ユウリの兄が作ったばかりのガンプラを持ち出して、
 ユウリとミスノの二人が、初めてのガンプラバトルに挑んだ。
 結果は、時間切れで辛うじて生き残り。
 彼女達のカードにはサバイバルポイントが入ったが、それもこれも、途中で乱入してきたユイトとケンヤのおかげだ。
 あの日ユイト達は、偶然立ち寄ったホビーショップ・ノアで、ユウリ達が初めてバトルに参加している事を知った。
 最初は見物だけのつもりだったが、途中から見ていられなくなったのだ。
 それから、四人は自然にガンプラ仲間になった。
 これは実は、ミスノにとっては瓢箪から駒の幸運だったのだが。
「いいじゃない。後でちゃんとゲート処理っていうの? やればいいんでしょ?」
 ケンヤに怒鳴りつけられたユウリは、大いに不満そうだ。
「ダメだよユウリ。そのゲートがもぎ取れちゃったら、処理も出来なくなってその部分が隙間になるよ」
 たしなめる様にユイトが言う。
 その横では、物珍しそうにランナーについたまんまのパーツをクルクル眺め回すミスノがいる。
「ニッパーがそこにあるだろうが。それちゃんと使えよ」
 ケンヤは厳しさを崩す事無くそう言った。

56 :
 今日は土曜日。
 学校は休みで、彼らは朝からこの作業に没頭している。
 ユウリとミスノが今作ろうとしているのは、
 この前ユウリの兄・カツキから勝手に借用したのと同じ1/144アリオスガンダムとGN(ガン)アーチャー。
 合体してコンビで動けるので、ユイトとケンヤも、これを選んだ時は反対しなかった。
 それよりも、ちゃんと作れるかどうかの方が問題だ。
 ガンプラバトルに参加する為のガンプラは、自分自身の手で組んだ方が良い。
 これは、このゲームのプレイヤー全てが共有する常識である。
 ユイトとケンヤも、自宅で作りかけだったガンプラを持参して、一緒に作る事になっていたが……
 このままだと初心者二人が気掛かりで、自分の作業に集中出来ない。
「ウエハラ君、ごめんね。せっかく自分のプラモデル持って来てるのに」
 ミスノが申し訳無さそうに言う。
「ううん、これはまたゆっくり作れば良いし。それよりマナサキさんは、わかんない所あったら聞いてね」
 そんな様子を見ながら、
(いいなあミスノは)
 ユウリは思う。
 教わるのはハッキリ言ってどっちでも良いが、
 どうせ教わるなら、優しく教えてもらった方が良い。
 ミスノのために、自分はケンヤから教えを請う事にしたのだが、
 どうも彼は、物を教えるのには性格が向いていない。
 今時のガンプラは、接着剤を必要としないスナップフィットになっている。
 ある程度慣れれば、数時間で組み上げる事は可能だ。
「スゴイスゴイ! もう色がちゃんと着いてるのね?」
 ミスノは、予想以上の出来上がりに自分で驚いている。
 どうやら手先はそう不器用でも無さそうだ。
「色プラだからね。でも色が足りてない箇所もあるし、どうせならオリジナルカラーってのも良いんじゃない?」
「オリジナル? わたしだけの色のガンプラ?」
「そう。せっかく自分の機体で戦うんだからさ。色とか、あとオリジナルのマークとかあると人との差がね〜」
「へぇ〜、マークかあ」
 どうやら、作る楽しみを植えつけられつつあるミスノである。
 もっともこれは、教えるのがユイトだからなのだろうが。

57 :
 一方。
「……やっと出来た……」
「まだまだ。今ユイも言ってたろ? 色塗らなきゃ」
「意外と面倒なのね〜」
 ユウリの方は、少しウンザリ気味だ。
 兄があんなに嬉々としてガンプラ作りに励んでいるのが、わからなくなって来た。
「兄ちゃんがガンダムマーカー貸してくれたんだろ? それ使えば少しは簡単だからさ」
 教えるのを頼まれた手前からか、少しでもやる気を出させようとするケンヤ。
「うーん。ちょっと休ませてよ〜」
 机の下から出した足を床に投げ出すユウリ。
 細かいパーツと格闘する事すでに数時間。
 集中力を維持するのは大変だ。
「おーい、入るぞ〜」
 ドアの外から声が聞こえ、返事を待たずに開けられる。
 兄のカツキだ。
「母さんが持ってけってよ。少し休め」
 そう言って、グラスやスナック菓子が載ったトレーを差し出した。
「カツ兄ちゃん!」
「おうユイト。最近バトルでは有名らしいな」
 顔を合わせるのは久し振りなのだろう。
 ユイトとカツキは、お互い喜びを見せる。
 なにせユイトにしてみれば、ガンダムの事を教えてくれた師匠の様な存在で、
 カツキからすれば、弟の様な可愛い存在だ。
 本当はお客にドリンクとお菓子を運んでくるだけの筈だったが。
 同じガンプラ好き同士。
 兄も四人に混じって、話し込んでしまっている。
「そうか、ホシナ君はユイトとずっとコンビなんだな」
「うん、小学生の時からの親友だからな!」
 ケンヤも気安く会話を交わしている。
「ところで、今日作っているガンプラで、いつバトルするんだ?」
 ふと気付いて、カツキは問う。
「明日、ノアに行こうかって話になってるんだけど」
 ユイトがそれに答えた。
 街の模型店程度の規模なら、筐体の数も少ない。
 ゲームに慣れるまで、店内のメンバーだけで対戦するも良し。
 バトルロイヤルの時間に合わせて乱入するも良し。
 そういう事が可能な場所と言う事で、第一候補としては文句の無い場所だ。
「あそこかぁ、しばらく行ってないなあ。店長元気?」
 懐かしそうに言うが、
「こないだ、兄貴に似てるって言われちゃった。それってなんかイヤだな」
「おいおい、兄妹なんだから似ててもおかしくないだろ。そう嫌がるなよ」
 怒るでもなく、そう返した。
 ガンプラを持ち出されて、バラバラのパーツになって返って来たのも、怒ってはいない。
 むしろ、それがきっかけでガンプラ仲間が増えたのを喜んでいる様だ。
 そして。

58 :
「――よし。じゃあ明日、おれも一緒に行こう!」
「ええっ!?」「カツ兄ちゃんバトルするの?」
 少し嫌そうなユウリと、喜ぶユイト。
「稼動したばかりの頃は、高い授業料払ってやってたなあ」
 アーケードゲームに慣れるまでに使った金額は、授業料だとゲーマーは良く言う。
「良いじゃないか、とりあえず引率って事で。なんなら、おれはおれで勝手に楽しむからさ」
 そこまで言われて、ユウリは拒否する事が出来ない。
「ガンプラは何持って行くの?」
 ケンヤの質問に、
「それは明日のお楽しみだ。店長にも久し振りに会えるなあ」
 のんきな事を言う兄だったが――
 そんなにのんきな状況にはならない事を、今の彼らは予想してはいない。
(勇気を出すのよ……勇気を出しなさいクルカワ・アオイっ!)
 日曜日の模型店。
 すでに開店していて、店の前には人もいない。
(逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃ……ダメっ!)
 豊かな胸元には、先日コンビニで買い求めたキットの箱を入れたバッグをギュッと抱きしめている。
 頭をグルグルと巡るのは、ガンダム一切関係無しの某アニメの主人公のセリフ。
 数ヶ月ぶりに手にしたガンプラだったが、組むのは難なく完了。
 とりあえずは色も、後から買い求めたマーカーでポイントだけ済ませた。
 今はこれで良い。
 下手に手を入れ始めたら、無駄に時間が掛かってしまうか、仕事そっちのけで没頭してしまうか。
 どちらにしても地獄へ一直線の究極の二択だ。
 そして、問題はもう一つ。
 バトルをするなら、場所は模型店。
 筐体を設置している模型店となると、この地区は数軒に限られてしまうが。
 だが、ゲーセンに行くと、それはもう考えるまでも無く、
 中学生の一人や二人は必ずいるはずだ。
 そうなると、言いたくも無い事を言わなければならなくなってしまう。
 それは嫌だ。
 年齢が離れているとは言え、志を同じくする自分の仲間を、売る事になってしまう。
 気にしなければ良いとも思うが、そうなると、巡回にやって来る他の教師の目も意識しなければならなくなる。
 だから、気を病む必要の無い模型店へとやって来た。
 まだ学校関係者は、模型店をマークしてはいない。
 それはとても甘いと言えたが、今のアオイには好都合だ。
 ここなら、仲間を売り飛ばさなくて済む。
 他の地区まで足を伸ばせば良いという考え方もあるが、そうなると交通費も馬鹿にならない。
 出来れば近くで、密やかにバトル出来る場所を確保したい所だ。
 そんな訳で。
 意を決して、模型店の扉を開けた。

59 :
 ホビーショップ・ノア。
 ガンプラの品揃えも充実していて、今後の役に立ちそうな店だ。
 せめてここには今、うちの学校の生徒がいません様に。
 そんな願いを頭に思い浮かべながら、ドアを潜った。
 その後ろから、五人の男女が連れ立ってやって来る。
「あれえ? 今ノアに入ってったのって、アオイちゃん?」
 最初に気付いたのはユウリだ。
「アオイちゃんって、クルカワ先生?」
 ミスノが驚いた顔で反応する。
「おいおい、ゲーセンだけじゃなくってプラモ屋にまで先公が邪魔しに来んのか? 勘弁してくれよ」
 ケンヤはウンザリした顔でボヤいた。
「クルカワ先生?」
「今年大学卒業したばかりの、新しい女の先生だよ」
 カツキの疑問に答えるのはユイトだ。
「ふーん……美人?」
「若くてとってもキレイなんですけど……ちょっとキビシイところあるよね?」
 ミスノは自分の評価を述べた。
 もっとも、ユウリは“ちゃん”付けで呼んでいるのだから、そこは人それぞれなのだろうが。
 それでも、新人だからか他の教師にもキツく言われて、
 結構肩に力を入れつつ、口やかましく言わざるを得ない現実がある。
「プラモ屋でまで、そんな野暮は言わないだろ。第一店内はそんな空気じゃないよ」
 カツキはそんなお気楽な事を言いつつ、久し振りに顔を出す店の看板を見上げた。
「懐かしいな。全然変わってない」
 見つめる目は、どこか遠い。
「カツ兄ちゃんは、いつもどこでガンプラ買ってるの?」
「大学の近くに、小さい模型店があるのさ。バトルは出来ないけど」
 ユイトの問いに答えつつ、ドアへと近付いた。
「さあ、入ろうよ」
 その声は、期待で弾んでいる。
「いらっしゃーい! おっ? ソウミ君久し振り!!」
 大学入学以来顔を出していなかったのに、まるで今も常連の様だ。
「店長お久し振り! 元気そうだね」
「今日は妹さんとそのお友達も一緒か。なんだかお兄さんっぽくなったねえ」
 長い間客商売をやっていると、客の成長振りも見る事が多いのだろう。
 店長も、どこか懐かしそうだ。
「早速なんだけど、バトルできる?」
 肩から提げたバッグをポンポンと叩くと、中に入ったガンプラがカラリと音を立てた。
「うん、今丁度空いてるよ。そうそう、彼女も仲間に入れてやってくれないか?」
 店長が、手で示した人は――
 たくさんのキットを収めたガンプラ専門コーナーの陳列棚の谷間で、Tシャツ&ジーパンというラフな格好で、
 なぜだかほんのりと頬を染めながら、1/144HGFCマスターガンダム&風雲再起のキットを手にして眺めている。
 その表情がどこか恍惚としているのが、ちょっとだけ不気味に見えないでもない。
 女性にしてはかなりマニアックなそのガンプラのチョイスは、ユイト&ケンヤを少しだけ呆れさせた。
 女子二人はその意味がわかってないし、カツキに至っては、女教師の顔にしか注目していない。

60 :
「やっぱり、アオイちゃん?」
「……クルカワ先生!?」
 ユウリとユイトが、同時に声を上げるのに振り向いた女性は、
「え? ……わっ!! あなた達、ここのお客だったの!?」
 店の照明をメガネで反射させながら、おののいた。
 手にしたキットを取り落としそうになり、慌てて棚に戻す。
「だぁ〜って、一番近いプラモ屋ってここだもんよ」
 相手がたった一人で、こちらが数の上で有利と取ったか、ケンヤは恐れる事無く言う。
「今日はどうかしたんですか先生?」
 模型店では浮いた感じにも見えるミスノも、そう問い掛ける。
 だが。
 そんな微妙な空気を全く読まずに、
 大きく一歩前へと進み出たのは、ソウミ・カツキ。
「どうも先生、初めまして。ソウミ・ユウリの兄の、カツキです」
 本人の想像の中では、歯がキラーンと輝いたりしているに違いない笑顔で、そう話しかける。
 即座に妹が「うわキモッ!?」と小さな声で反応していたが。
 どうやら、黒縁のメガネに肩辺りまでのストレートな黒髪が、カツキの心の変なツボを圧したらしい。
「ガンプラバトルですか? それなら是非、僕達とご一緒しましょう!」
「え……えーっと……」
 明らかに困惑して戸惑っている新人中学教師。
「兄貴、気持ち悪がられてるよ」
「ええっ!? これでも爽やかな好青年のつもりなんだがなあ」
 もちろん、アオイが戸惑っているのは、カツキの言動が原因などではない。
(……なんて事……よりによってうちの生徒達が……しかも四人もっ!?)
 こういう状況になってしまうと、もう言い訳出来ない。
 だが。
「先生。バトルしに来たんだったら、折角だから一緒にやろうよ」
 屈託無くそう背中を押してくるのは、ウエハラ・ユイトだ。
 素直で比較的真面目な生徒だという印象がある。
 なんとなく、その一言に救われた思いがした。
「そうそう。気にしないで一緒に楽しみましょう。初めてだったら、仲間もいた方が良いし」
 カツキの口振りは、完全にアオイが初心者であると決め付けているが。
(――うん、決めた!)
 柔らかい笑顔で堅かった表情を覆い隠し、
「そう……ですね。じゃあ、お邪魔で無ければ……」
 優しい口調で、そう答えた。
 クルカワ・アオイ。
 二十三歳中学教師で独身彼氏も無し。
 完全に、この状況を利用するつもりだ。

61 :
「なんだ。優しそうで良い先生じゃないか」
「兄貴がいるから、一応抑えてるんじゃない?」
「え? え? じゃあ、おれ好かれてるって事? どーしよー!?」
「いやー、そこまで言ってないし」
 兄妹で漫才を展開するカツキ&ユウリをよそに。
「先生は、ガンプラバトルやった事あるの?」
 何気に発されたウエハラ・ユイトの質問に、
「……えっ!? ……あ……ええ、大学の時に一度か二度……」
 学生時代をガンプラバトルに全て捧げたと言っても良い彼女だったが、
 さすがに、本当の事は言えない。
「そうなんだ。じゃあ、やり方はもう判るよね?」
 そう言って笑うと、登録に手間取るミスノの方に行った。
 良い子だ。
 アオイは心底救われた気になる。
「彼、この辺じゃちょっと有名なプレイヤーの一人なんですよね〜」
 何故か得意そうに顎に親指と人差し指を添えて、ユウリの兄カツキが言う。
 さも、自分が師匠だとでも言わんばかりに。
「そうなんですか? そうですね……慣れてるみたいですし」
「あ、でも補導とかは今日は無しですよ。一応僕が保護者と言うか引率者ですし」
 妙な心配をされた。
「大丈夫ですよ。仲間を売る……いえ、私も今日は、プレイしに来てますし」
「そうそう。同じプレイヤーなら、もう仲間も同然ですよ。ハハハッ!」
 つい口走りかけて飲み込んだ一言を、あまり深く取らずにそう笑うと、
 カツキも自分の筐体へと潜り込んだ。
(ふう……危ない危ない)
 シートに着いて、バッグの中に仕舞っていた箱を取り出す。
 着替えた後も、持参したキットはまだ見せたくなかったので、バッグはそのまま提げていた。
 ゴソゴソと取り出したその箱は――
 1/144HGUC、グフカスタム。
 B3グフとも呼ばれる、陸戦型のモビルスーツだ。
 そしてその本来のパイロットは、渋めのオヤジ。
「……本当は東方師匠の機体が良かったんだけど……さすがにコンビニじゃあ……ね」
 でも、ここの店内でさっき見つけた。
 MSではなくMF(モビルファイター)だけど。
 バトルの為となると、手持ち武器は別に購入しなくてはいけないけれども。
 それに小さいキットの割りに少しお値段が張るので、購入は考えてしまうが。
 しかし、あの渋さには逆らえないと思ってしまう。
「とりあえず今日は、これでがんばろう!」
 かつての愛機とは、少し違うが。
 それでも、久し振りのガンプラバトルに、期待で胸が躍った。
 ついでに揺れた。

62 :
『バトルフィールドは、“中央アフリカ・高原地帯、ジオン軍ダイヤモンド鉱山周辺”です』
 落ち着いた声音の案内音声がコクピット内に流れると――
 スクリーン一杯に、本当に熱風が吹きつけてきそうな、アフリカの大地が現れる。
 そして上空を、MSが飛行形態で飛び去っていった。
 アリオスガンダム&GNアーチャーが、合体した状態で。
 これはユウリ&ミスノのコンビだ。
 それに続いて、もう一機。
 こちらは、ユイトのウイングガンダム(TV版旧キット)
 まだ初心者のパイロットが駆る飛行型MSの慣熟に付き合う様に、ピッタリ寄り添って飛んで行く。
 やはり良い。
 このフィールドが、かつて自分が愛してやまなかった世界。
 このまま何かSF的なトラブルで、画面の中に迷い込んでも良いとさえ思ってしまう。
『うわぁ。なんか渋いMS選びましたね〜』
 すぐ隣に降り立ったのは、色をブルー系で統一したパワードGM。
 ソウミ・カツキが持参したMSだ。
 お互いに持ってきたMSは見せなかったが、
 今回は友軍登録しているので、相手は誰だか判る。
『そういう兄ちゃんは、GMかよ。ダッセぇ!』
 トゲトゲが目立つカスタムザクもやって来た。
 こちらはケンヤだ。
 彼はずっとこの機体を愛用し続けていると、筐体に入る前にユイトから教えられていた。
『いや。ザクには言われたくないな、ザクには』
 カツキがそう返すと、
『でもGMだぜGM。乗ってて面白いのか?』
 割りと失礼な事を平気で言うが、カツキは慣れているのか怒る事は無い。
『問題なのは機体じゃなくて、どう動かすか、どう戦うか、だよ』
 ユウリの兄は良い事を言う。
 黙ってやり取りを聞きながら、そうアオイは思った。
 だが。
 機体のチョイスは重要だとも思う。
 それでモチベーションが左右される事も、大いにあるのだから。
 自分だったら、ヤラレMSのイメージが強いパワードGMなんかは選ばない。
 もしどうしてもGM系しかない、と言う状況だったら……
 アオイのチョイスはGMストライカーになるだろう。
 強いて言うなら、だが。
 そもそもGMの様な、アオイの美的センスに合わないMSは、はなっから頭に無い。
 だがそれだけに。
 GMに対するカツキの深い愛情は、充分過ぎるほど感じ取れた。
 活躍する場面は思い浮かばないからこそ、自分が活躍させてやる。
 そういう愛も、確かにあるのだと。

63 :
 不意に。
 コクピット内に、警告音が響いた。
『――敵っ!?』
『いっぱい来たぜ!!』
 カツキとケンヤが、拡大された画像を確認して声を上げる。
 その言葉が、終わるかどうかと言うタイミングで、
 B3グフが、突然駆け出した。
『ああっ!? 飛び出したら危ないよ先生っ!!』
 カツキの声が聞こえるが、
 最早、聞いてはいない。
 右手でヒートサーベルを抜き放ち、シールドにマウントされた七十五ミリ六連装ガトリング砲を正面に構える。
 敵からの砲撃が、地上を突き進む自分の蒼い機体に集中するが、気にも留めない。
 ――これだ。
 これこそが、ずっと求めていた感覚。
 生きるか死ぬか、ギリギリの。
 固く結ばれていた口元が、両端を釣り上げて禍々しく歪んだ。
「……すごいなあ!!」
 上空を行くウイングガンダムのコクピットで、ユイトは思わず口を開く。
 言うまでも無く、地上の様子を見て言っているのだ。
 今回のバトル、自分はユウリとミスノの面倒を見る事になっている。
 飛行型MSに乗っているのだから当然なのだが。
 そして地上の方は、初心者だと思われたクルカワ・アオイのサポートを、カツキとケンヤで担当する事になっている。
 だが。
 今の地上のこの状況は、どうだ。
 まるでアオイの駆るグフカスタムが、この戦場を支配している様に上空からは見える。
『――あれ、クルカワ先生? スゴイね』
 素人ながら、ミスノの目にもその奮戦振りが見て取れた様だ。
『ええっ!? そんな、あたし見る余裕無いっ!!』
 機体の操作に慣れていないユウリには、地上に目を向ける暇は無い。
「上空からの援護は……必要ない、か」
 ユイトが呟く。
 むしろ下手に手を出すと、巻き込まれる危険があった。
 と、その時。
 ウイングガンダムの方も、コクピットで警告音。
 空は空で、別の敵がいるのだ。

64 :
 上空を余裕を見せつけるかの様に、比較的ゆっくりと進むのは、
 アッシマーだ。
 まるで空飛ぶ円盤の様なフォルムを持つこの可変MAは、
 人型に変形すると、普通のMSを遥かに凌駕する頭頂高を持つ。
 ゆっくり動いていると言っても、そこは飛行型。
 地上のMS群とは比較にならない猛スピードで移動しているのは間違いない。
 今は変形する様子は見せないが、機体の下に取り付けたビームライフルを撃ってきた。
「ユウリは高度を上げて余計な交戦は避けて。マナサキさんは、周りを良く見ててあげてね!」
『ユイトはどうすんのよ!?』
「ボクはあの、アッシマーを迎え撃つ!」
 そう言うと、
「……目標確認! 敵MAを撃破する!!」
 宣言し、機体を急激に加速させた。
 ビーム攻撃を掻い潜り、敵の攻撃の死角である機体真下に達すると――
 瞬間的に、ウイングガンダムは変形する。
 人型に変わるが早いか、即座にバスターライフルを直上に放った。
 アッシマーも変形を開始し始めていたが――
 死角からのビーム攻撃を至近距離で食らってしまい、中途半端な姿で爆炎を上げる。
『……すごい!』
『だーかーらー、見てる余裕ないっての! 爆発がスゴイのはわかるけどっ!!』
 予想以上の爆発の大きさに、アーチャーアリオスはその場を大急ぎで離脱する。
 そんな彼女達を、遠くから見つめていたのは――
『ふん。二人一組でバトロイ参加……か』
 呟いたのは、単独で飛行する偵察用MS・アイザック。
 そして。
『いいじゃないか。こっちは逆に助かる』
 さらにアイザックが飛行する位置から遠くの岩山の中腹辺りで、キラリと光る物があった。
『一発撃って、二機が墜とせるなら、オレ達には好都合な獲物だ』
 ライフルを構えて、スコープ越しに遠くを見据えるのは、一機の狙撃用MS。
 ケルディムガンダム。
「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」に登場するMSだ。
 身を隠す為か、それとも防御の為か、
 前面にGNシールドビットを壁として展開して、その影から長い銃身(バレル)を突き出している。
 奇しくも、アーチャーアリオスと同じシリーズに、友軍として同時に活躍するMSだが……
「MSとしては仲間に思えて少し気が引けるが、オレ達は傭兵。必要ならば、躊躇無く……撃つ!」
 言い終わると同時に、トリガーボタンを押した。

65 :
 ――ビヒュッ!
 放たれたGNスナイパーライフルUのエネルギー弾は、高速で空を飛ぶMSに迫る。
 ドウッ!
 その一撃は、左の主翼に命中した。
 かなり距離があるため、致命傷にはなっていないが。
『――わっ!?』『何っ!? 警告は鳴ってないけどっ???』
 大きく全体が揺れる機体に、二人は戸惑う。
「――マニュアル射撃だ!」
 アーチャーアリオスの様子を見て、ユイトは素早く周囲に目を走らせる。
 通常、オートでロックオンされた攻撃は、ロックオンされた時点でターゲットとなったMSに警告が伝えられる。
 射程距離の差から生まれる有利不利は、それで埋まる事になってはいるが……
 機械任せにせず、自分の目と腕で照準を合わせ、射撃を行った場合、それは行われない。
 システムの方で、攻撃目標が判断出来ないからだ。
 よほど自分の腕に自信があるプレイヤーだと思えた。
 こればかりは、相手を見つけて撃破するなんて芸当は、初心者二人には無理だ。
 人型のままで飛行を続けるウイングガンダムを操作しながら、ユイトは考える。
 これを撃破するのは、自分の役目だと。
 そして、見つけた。
 バトルに参加するでもなく、遠くを飛行する、偵察型MSを。
 いくら腕が良くても、まったくサポート無しでマニュアルで狙撃するなど、無理な話だ。
 だから、間違いない。
 潰すべきなのは射撃手だが……
 まずは、“眼”の方を狙う。
 ウイングガンダムは、素早くバードモードへと変形。
 すぐに速度を上げた。
「ユウリ! 急いで高度を上げるんだ! いくら狙撃が得意でも、狙える高さには限界がある」
 そう言いながら、自分は真っ直ぐにアイザックの方へと機首を向ける。
 バスターライフルの照準を合わせ、エネルギーを充填。
 そのまま高速で迫る。
 アイザックの方は、気付いている筈だが慌てる様子は無い。
 その時。
 眼下に広がる岩山の中ほどで、何かがキラリと光った。

66 :
「――そこかっ!?」
 いちいち確認する暇は無い。
 即座に反転し、その光の方向へと機首を向けた。
 その動きは予想して無かったのか。
 エネルギー弾は、ウイングガンダムから大きく外れて上空へと消えてゆく。
 そう。
 狙撃しようと思えば、簡単には見つけられない様に隠れているのが当たり前。
 ならば、それを炙り出す。
 その為に、敢えて眼の方を襲撃して、それを阻止させる様に仕向けたのだ。
『――何っ!?』
 飛行速度はそのままに、
 大きく機体をロールさせながら、ウイングガンダムはバードモードからMSモードへと変形。
 頭部のバルカンを乱射しながら、シールドビットを盾にするケルディムガンダムへと迫った。
『コイツっ! 舐めた真似をっ!!』
 スナイパーライフルを折り畳んで連射モードに切り替え、対空射撃を試みる。
 だが。
 ウイングガンダムも、耐久性抜群のシールドを前面に構えて、地表へとバスターライフルを撃った。
 ズズズズズ……ドオッ!
 地表を嘗め回す様に走るビーム攻撃は、動くのをためらってしまう程に強力だ。
 すぐ眼の前で、その強力な火器の銃口を向けてくるのを――
 壁の様に立てていたシールドビットを操作して、バスターライフルへとぶつける。
 そして、連射モードのGNスナイパーライフルUを迫る敵に向けると、
 今度はウイングガンダムの方が、左腕のシールドを打突武器として振るって来る。
 シールドの一撃はライフルを弾き飛ばした。
 だが。
 ケルディムは、素早く動く。
 続いて振るわれたシールドの一撃を防いだのは、両手に握ったGNビームピストルUだ。
 銃身の下部分が、近接戦闘用に刃を備えている。
『――このオレに……まさか、ピストルまで抜かせるとはなっ!』
 苦々しげに口走ったその言葉は、ユイトにも伝わる。
「……遠くからコソコソと狙うだけが得意なんだと思ってたよ。やる……じゃんかっ!!」
 パワーに物を言わせて、ウイングガンダムがシールドで押し切る。
 後方へと飛び退きながらピストルを乱射するケルディムだったが、ウイングも頭部バルカンで応戦。
 動きは止めずにシールドからビームサーベルを抜くと、横薙ぎに斬り付けた。
 それを、二つのビームピストルで受け止める。
 耐ビームコーティングを施された銃身は、たとえ近接戦闘に持ち込まれても、耐えられる様になっているのだ。

67 :
『……相手はガキかっ!? くそっ!!』
 声で相手の年齢を判断して、さらに後方へと飛び退く。
『スナイパー!』
 アイザックのパイロットから通信が入るが、
『ここは撤退する。ホークアイ、お前も逃げろ!』
 せわしげにそう言って、装備したミサイルを全て放った。
 当てるつもりは無い。
 この場は、目くらましとして使うしかない。
 普段は、遠くからの狙撃だけでほとんど片がついていた。
 だからここまでやられるのは、ガンダムバトル稼動開始以来の事だ。
 悔しさを噛み締めながら、スナイパーと呼ばれたプレイヤーは、撤退する。
 次の機会での復讐を、その心に誓って。
『あのスナイパーと、対等以上に戦えるプレイヤー……だと!?』
 予想外の出来事に言葉を失うコードネーム・ホークアイだったが――
 不意に、警告音が鳴った。
 そこに迫るのは。
『逃がさないんだからぁーっ!』
『ユウリちゃん! 行けぇーっ!』
 機首を展開して巨大なハサミと化した、アーチャーアリオスだ。
 油断した。
 相棒の戦闘に気を取られて、自分に迫る攻撃を――見逃した。
 回避しようと、一気に上昇を試みる。
 だが。
『逃がさないって……言ったでしょっ!!』
 声を上げたのは、ミスノだ。
 空中でがら空きになった偵察用MSに迫るのは、無数のミサイル。
 GNアーチャーに搭載された弾薬が、一斉に放たれたのだ。
『たかが偵察機に……攻撃に無駄が多すぎるーっ!!』
 最後に冴えない絶叫を残して、アイザックは仮想アフリカの上空に散った。

68 :
『やったー! これってわたし達の勝ち……だよねっ?』
『そうだよミスノ! よくやったわね!!』
『これでわたしも……ウエハラ君の立派な相棒にっ!?』
『いやいやいや、あんたはあたしの相棒でしょうがっ!』
 喜びのあまり、最早言ってる事も訳がわからない。
 深追いする事はせずに、ウイングガンダムもライフルを回収して空に飛び上がる。
「……やったね、ユウリ……マナサキさん!」
 その小さな呟きは、新しく出来た仲間が、確実に成長した事を喜ぶ物であった。
 一方。
 地上のバトルロイヤルは、完全に混戦模様だった。
 その場を引っ掻き回しているのは、たった一機のグフカスタム。
 クルカワ・アオイだ。
「ふふふっ……さあっ! 次は誰が相手してくれるのっ!?」
 絶叫に近いトーンでそう言い放ちながら、右手のサーベルを振るう。
 本当ならば、ヒート系武器の為熱を帯びている筈だが、
「……無駄にエネルギーを消費せずに、ただただ殴りつける! これぞノリス流――っっ!!」
「第08MS小隊」でのノリス・パッカードの戦いを、そのまま再現するかの様な乱れっぷり。
 接近戦を挑んできたドムを、鈍器として振るう凶悪な右手の刃で殴り伏せ、左の六連装ガトリング砲を遠くの敵にブッ放す。
 やがて、その左の飛び道具も弾を撃ち尽くすと、
「――弾切れっ! 次っっ!!」
 即座に砲身をその場にパージし、今度は盾の下に隠れた三十五ミリ三連装マシンガンを乱射する。
『……すげー……』
『アオイ先生って……ひょっとして、初心者じゃ無いんじゃね?』
 カツキとケンヤも、その鬼気迫る戦い振りを呆気に取られて見ているしかない。
 思えば、バトルにチョイスするこのMSと言い、店内で見ていたあのガンプラと言い、
 明らかに、素人離れしている。
 というか。
 完全に、マニアだ。
 メガネを掛けた大人しそうな見た目に、完全に騙された。
 もう確信するしかない。
 疑うまでも無く、ガンプラバトルにおいては、かなり歴戦の猛者だろう。
 初心者扱いしてしまった自分達が、恥ずかしく思えた。
 そして。
 かなりのガンダムオタクだと言う事も間違いは無いに違いない。
 何も知らない素人が、
 あのガンダムファンでさえ賛否両論分かれるあのシリーズのキットを手にして、あんな表情は浮かべないだろう。

69 :
 そこに。
 二人のコクピットに響く警告音。
『うわたっ!?』『いっけね! オレ達も戦闘中だったっ!!』
 自分達の状況も忘れて見入ってしまう。
 それほどに、アオイの戦いっぷりは見事だった。
 今度は、自分達が良いところを見せる番だ。
 そこに迫るのは、
 高速で滑る様に進む、三機のドムだ。
 それはさながら、あのジェットストリームアタックを想起させた。
『行くぞホシナ君っ!』『お……おうっ!!』
 大型のバックパックを備えたGMと、重装甲のカスタムザクが動く。
 真っ向から迎撃しようというのか。
 ケンヤのザクが、両脚のホバーを吹かして突進した。
 そして。
 カツキのGMが、バックパックのバーニアを噴射させて、上空へと飛び上がる。
 先頭のドムがジャイアントバズを放って来たが、ザクは横方向へと動いてそれを避け、
 右手のランスを手首の回転で振り回し、前方で盾にする。
 ドムの方も、負けてはいない。
 そんな物で防げる訳は無いとばかりに、続いて放たれたバズーカの砲弾が、回転を続けるランスに当り、
 ザクは爆炎に包まれる。
 炎を纏ったまま、尚も突き進むザク。
 その上空から、自由落下しつつ、GMがマシンガンを乱射する。
 ドムの重装甲に対しては、いささか力不足な武装だが、
 それでも。
 上下両方からの攻撃は、敵を惑わせる。
 そして。
『――くらえっ!』
 炎を吹き飛ばす様に、勢い良く突き出されたランスは、
 至近距離でいち早く察知した先頭のドムが、横方向に動いた事で、空を突いた。
『――なにっ!?』
 そしてその直前には、二機目のドムが。
 それを、
『昔のアニメだと、こうだったかっ!?』
 上空から落ちてくるパワードGMは、二機目の右肩に左足を叩き付けた。

70 :
 本当なら、これで「踏み台」に出来る筈だが――
 相手だって、そんな事は承知の上。
 そのまま再びジャンプしようとしていたGMの華奢な足首が、下になっていたドムの右手に掴まれる。
『何っ!?』
『フフフッ! 黒い三連星と同じ轍は……踏むかよっ!!』
 素早く接近して来た一機目のドムが、GMの背中にバズーカ砲弾を撃ち込んだ。
 バックパックもろとも、GMは激しく砕け、
 足首を掴んでいた二機目は、ゴミでも放る様に、GMを投げ捨てた。
『おれっ……なんかカッコ悪りい〜〜〜!』
 カツキの最後の絶叫が響き――
 爆炎と共にパワードGMは散った。
『うわっ! オレ一人になっちゃったじゃん!?』
 ケンヤは慌てて、大きく横方向に動く。
 このまま三機に囲まれる形になると、非常に不利だ。
 さすがに、一対三で戦おうと考えるほど、命知らずではない。
 いくらゲームでも、手痛い負けは実際の死と同じくらいショックだろう。
 こうなってくると、ケンヤも撃破されて退場……と言う結果を覚悟したが。
 そこに。
 上空から放たれた強烈な一発が、三機のドムが動き回る中に命中する。
 ウイングガンダムのバスターライフルだ。
 出力は、抑え目で撃っているが。
「ケンヤっ! 遅くなってゴメンっ!!」
 申し訳無さそうに言うユイト
『いやっ! 助かったぜ相棒っ!!』
 今回は上空を担当する事になっていたのだ。
 ケンヤに責めるつもりは無い。
『お兄さん……やられちゃった?』
『なんかドジでも踏んじゃったんでしょ』
 ミスノは心配そうだが、ユウリはゲームと割り切っての事か、冷たい一言を放つ。
 それでも。
『じゃあ、兄貴の代わりにこの妹が、ここでちょっと良いとこ見せましょうかぁ!?』
 そう言って、急降下するアーチャーアリオスから、ビームライフルを放つ。
 完全に調子に乗っている。
 だが。
 調子に乗る素人というのも、それはそれで怖いものだ。
 放った攻撃は、一つも当らない。
 だが、足止めには充分だった。

71 :
「――行くぞっ!!」
 人型に変形して、地面スレスレにウイングガンダムが高速移動する。
 ホバーで動く重MSよりも、確実に速度は速い。
 それに。
 元々空中戦を想定しているMSだ。
 ジャンプの為の踏み台など、必要としない。
 ヒートサーベルを抜く二機目のドムに対して、シールドから取り出したビームサーベルを抜き放ち、
 通り過ぎる瞬間に――斬る。
 ホバー移動のスピードを保ったまま、ドムが大爆発を起こした。
 その炎の中から。
 飛び出したのは、カスタムザクが持っていたランスだ。
 自分が武器を失う事も恐れず、思い切って投げた。
 予想外の攻撃に、一機目のドムが胴体のど真ん中を貫かれる。
 まともにコクピット部分を貫かれ、ドムは沈黙。
 これで、ドム得意の高速連携攻撃は不可能になった。
 油断無く、今戦っていた敵に正面を向けながら、後ろ向きに移動する残り一機のドム。
 充分距離を取り、方向を転換すると――。
 眼の前に、一機のMSが佇んでいた。
 数多くの敵MSを屠ってきた、鬼神の如き強さを発揮するその機体は、
 クルカワ・アオイが駆る、グフカスタムだ。
 影で内部が見えなかった頭部スリットに、モノアイが輝いた。
「……フフフッ……逃がさない!」
 振り上げられた右手のサーベルは、ここで初めてエネルギーを帯びて――
 恐れおののく黒い重MSに、真っ向から振り下ろされた。

72 :
「……おれは今回初めて……女って、恐ろしいと思ったよ……」
 ゲームを終えて、筐体から出て来たユイト達を待っていたのは――
 魂を抜かれた様に脱力して床に座る、ソウミ・カツキその人であった。
「しっかし、今日はビックリしたよな」
「ほんと、アオイちゃんすっごい強いのね」
 ケンヤの言葉を受けて、ユウリが感心した様に言う。
 彼女が目撃したのは、結局最後のあの一撃のシーンだけだったが。
 それでも、奇妙な気迫の様な物は、充分過ぎる程感じ取れた。
 そして思う。
 アオイが敵でなくて、本当に良かったと。
「そう言えば、クルカワ先生はどこに?」
「もう帰ったみたいだよ。なんかさっき、レジの所にいたけど」
 キョロキョロするミスノの言葉に、ユイトが答える。
 どうやら、ものすごくご機嫌だったようだ。
 ゲームで勝ったからか、それともお気に入りのガンプラを手に入れたからか。
 それは、わからなかったけれど。
「ふ〜んふふ〜ん ふ〜んふふふふふふ〜ん♪」
 口ずさむのは、やはり一番お気に入りのガンダム作品のオープニングテーマ。
 そして、今日勝利をもぎ取った機体が仕舞いこまれたバッグとは別に、左手から提げられて揺れるのは――
 ホビーショップ・ノアのビニール袋。
 当然、中に入っているのは。
 敬愛して止まない東方師匠の機体と、その愛馬のセットだ。
 結局、気分が良くなって購入してしまった。
 機体の特性上、バトルでは使えないけれど。
 そして、上機嫌のもう一つの理由。
 自分的に、画期的な考えが浮かんだ。
(うん、やっぱり協力してもらいましょうか……あの子達に!)
 まだ了承は得ていないが、そこは大丈夫だと踏んでいる。
 何より、もう自分も仲間だと信じているのだから。
(これから……燃やすわよ。青春を!)
 夕日が、周りの景色を染め上げる。
 これから先の運命を、告げるかの様に。
 終わり

73 :
第二話投下完了。
>>51はコピペミスなので、申し訳ありませんが>>52からスタートって事で。
あと、ロダにアップしたのを、表記ゆれや重複の部分を若干修正しています。
ロダの分は消しますね。
あと、これ別に、手持ちのサイトの方でアップしても良いだろうか?

74 :
他スレでシーマ様がヒロインの話があると聞いてやってきたが、投下はまだか
のんびり待っておこう

75 :
>>73
いんじゃね?
それより続きを
>>74
近日という名の遥か未来、らしい

76 :
未来か…

77 :
とりあーえず書くだけ書けた。
今見直し中なので、早ければ今夜投下。
出来れば遅くても、明日にはやっちまいたい。
ドン引きしないでね〜♪

78 :
 ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス アサルト)03
「……ああ、お母ちゃん? 私、アオイ」
 授業の合間を見計らって、校内にある公衆電話で連絡する先は、田舎にある実家だ。
 携帯電話は持っているが、遠方なので通話料が勿体無い。
 この電話機だと、一応生徒の連絡用に、硬貨は必要ない設定になっているので、自分の負担は無いのだ。
 職員は原則使えない事になっているが、見つからなければどうと言う事はない。
 これからは、こういう細かい出金も出来るだけ削減しなければ。
「うん……そう。私の部屋の押入れの奥に、ガムテープでグルグル巻きにしてある、大きなダンボール箱が二つあるの」
 実家の母は、子機で電話を受けながら、言われた事を確認しているのだろう。
 やや間があったが――
「うん、それ。宅配で、そのままこっちに送ってくれないかなあ? 着払いで良いから」
 その中身と大きさの事を考えると、さすがに送料を親に負担しろとは言えない。
 金の問題では無いのだから、これは当然自分で持つつもりだ。
「中身は絶っ対に見ないで! アレは乙女の秘密よ!!」
 そう。
 例え両親といえど、アレの中身を見られる訳には行かない。
 見せて良いのは――本当に気心の知れた、限られた仲間だけだ。
 ――ガチャリ。
 受話器を置いて、大きく「ふう」と溜息をついた。
 これで、準備が一つ片付いた事になる。
 そして、もう一つ残っている準備も、今日中に済ませよう。
 きっと、それほど苦労はするまい。
 クルカワ・アオイは、彼らを信じている。
 昨日、仲間だと確信できた、自分の後に続く、愛おしいと思える彼らの事を。

79 :
 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なあ、アオイ先生何の用なんだろう?」
 昼休みの教室で、カツサンドを頬張りながらホシナ・ケンヤが言う。
「なにか改まった用事なのかな? わざわざ放課後に、生徒指導室に来いって」
「職員室じゃなくて……ってのが、なんか不気味だよなぁ」
 持参した弁当を開きながらそれに応じるウエハラ・ユイトも、その意図を量りかねている。
「まさか、昨日の事を指導……って、訳じゃあないよね?」
「それだったら、その時直接言えば済む話じゃん。そんなの聞く耳無いけど」
 昨日、ホビーショップ・ノアで。
 偶然出会ったこの学校の女教師クルカワ・アオイと、同じチームの一員として、ガンプラバトルに挑んだ。
 結果は、久し振りの完勝。
 と言うより、ほとんどの敵を撃破したのは、アオイだ。
 あの鬼神の如き戦い振りは、忘れようとも忘れられない。
「でも先生……大学の時に一二度やっただけって言ってたけど……あれはウソだね」
「そりゃそうだろ。きっとプレイだけじゃなくて、ガンプラ作りも相当の腕だぞ」
 なんとなく、あまり広めてはいけない話の様な気がして。
 声のトーンを落として、二人はコソコソと話す。
「――何コソコソやってんの!?」
 そこに割って入ったのは、ソウミ・ユウリだ。
「うわっ!?」「いきなり何だよソウミっ!?」
 二人が驚いて飛び退くと、ユウリの背後にはマナサキ・ミスノもいる。
 女子二人は、隣のクラスだ。
「ねえ。あたし達放課後にアオイちゃんから呼び出し受けてんだけど、ひょっとして、あんたらも?」
 これで決まりだ。
 内容はわからないが、ガンプラバトルが絡んだ用事というのは間違いない。
「うーん。本当に、何の用事なんだろう?」
 ユイトには予想が出来ない。
「もうやるな……って話じゃないだろ。あの先生、バトルは好きそうだ」
 男子二人とユウリが、それぞれのポーズで長考に入るが――

80 :
「……部活動? ガンプラバトルの???」
 不意に思いついた様に、ミスノがポツリと言う。
「――はぁ?」「ええっ!?」「それは……無茶でしょ」
 ケンヤは素っ頓狂な声をあげ、ユウリは驚き、ユイトはその考えに異を唱える。
「でも……先生、なんだか“青春”とか“熱血”とか、そういう言葉……好きそう」
 自信は無い。
 だがミスノは、それ以外に考えが思い浮かばない様だ。
「――でも、ガンプラバトルって、どんなにオレらが真剣でも、結局見た目は遊びだしなあ」
「変に部活動にってのも、なんだか違う気がする」
「そうそう。第一、学校が許可出す訳無いわよ」
 そう意見は一致を見たが……
「でも……熱いのが好きってのは、その通りかもね」
「うーん。昨日アレ見て、なんか嬉しそうだったしなあ」
「え? え!? それ何の話???」
「どういう事? わかる様に説明してっ!!」
 昨日、ノアで購入して行ったと思しきガンプラの事を考えると、可能性としては無い訳ではないと、男子二人は思い直した。
 学校が許す訳は無いけれど。
「率直に言うわ。あなた達、私の為に同好会を作りなさい!」
 結果はミスノの思いつき通り。
 ただ、少しだけ違ったが。
「えーっと、いきなりそんな事言われても……」
「まず、なんでオレ達なんだよ!?」
 ユイトとケンヤは、あまりにもミスノの思いつき通りだったのに、逆に戸惑っている。
 クルカワ・アオイは、余計な説明一切無しに、開口一番にこう言い放ったのだ。
 説明不足にも程がある。
「それはあなた達が、私の秘密を知ってしまったからよ!」
 あれだけ派手にやらかしても、どうやらまだ秘密にしておきたかったらしい。
 吹聴しなくて良かった。
 もっとも、あの戦い振りを見て、それを喋り捲ろうなどと思う者はいないだろうが。
「別に……ボク達言いふらしたりしませんよ。言われなくっても」
「そうそう。バトルやってる以上、後でフィールドで酷い目に会うの、イヤだし」
 畏れを見せる男子二人の様子に、女教師は何故か満足そうだ。
「あら、そんな事はしないわよ。私の可愛い小鬼(ゴブリン)達に」
 普段の大人しくて真面目そうな表情は嘘の様に消えて、
 まるで女王様の様な顔つきで、二人を見つめる。
「ごっ……ごぶりんっ!?」「それって……どういう……!?」
 言われた事の真意が読み取れず、ケンヤとユイトは戸惑うばかりだ。

81 :
「先生。そもそもなんで同好会なんですか?」
「部じゃなくて、あえて同好会……なんでしょ?」
 ミスノとユウリは、違う方向から切り込む。
「ふっ……よくぞ聞いてくれたわ!」
 どうやら、最初の質問はこっちからするのが正解だったらしい。
「今私は、どこかの部活動の顧問をやる様に言われているの。でも、そんな部活動は、この学校に一つも存在しない」
 わかりやすい答えだ。
「つまり……自分の好きな事をやってる部活動の、顧問をしたいと?」
「でも……同好会……?」
 女子二人の言葉に、
「同好会という形を選んだのにも、理由があるわ!」
 どこか得意そうに、言葉は続く。
「まず、新たな部を発足させようと思ったら、最低五人の人数が必要よ!」
「人数は増やしたくない……と。でもガンプラバトルやるって言ったら、人数は集まりそうだけど?」
 ユイトは呟いた。
 だが。
「わかってないわねウエハラ君。私の秘密を知る生徒を、これ以上増やすつもり?」
 アオイの手がユイトの顎にそっと触れると――
 何故か、ゾッと震えが来た。
「あと。同好会と言う事は、学校からは会の運営予算が出ません。でも、それが良いの!」
「なんで? 学校の金でガンプラ買い放題じゃん」
 何も考えてないケンヤの言葉に、
 バンッ!
 アオイの手は、思わず机を叩いていた。
 一同は、黙るしかない。
「予算が出るという事は、何かあったら学校に指示に従わなければならないという事よ!」
 クルカワ・アオイの演説は止まらない。
「私達は、学校の思惑に縛られないで活動する事が大事なの! 勝ち取るべきは“自由”なの!!」
「要するに先生は……学校で堂々と邪魔されない様に、自由に好きな事がしたい、と?」
 しかも勤務中に大っぴらに。
 ユイトのその言葉が、結局は結論の様だ。
「どうせ青春を燃やすなら、熱い事でってのが良いわよね!」
 拳を握り締めて、女教師は悦に入った。
 だがしかし。
 さすがにガンプラバトルそのものを前面に押し立ててやる訳には行かない。
 クルカワ・アオイが提案してきたのは、“模型工作同好会”
 表向きは工作技術そのものの向上を目指して発足させる、学校公認だがバックアップは無しの集まりと言う事だ。
 ただし、校内にしっかり活動場所だけは確保して。
 会の本拠として候補になっているのは、技術実習室。
 どこの部活動も使っていないので、放課後は無人だ。
 そして、騒音が出たりする事が多いので、本校舎からは離れた校庭の隅にある。
 ますますもって好都合だ。

82 :
「新たな部活動や同好会の発足には、生徒の申請が不可欠なの。だから、文句を言わずにやんなさい! この私の為に!!」
 そして、自分は顧問を“頼まれた”という名目で、そこに収まる。
 完璧だ。
 そして。
 半ば強制的に出された申請書は、割りとアッサリ通ってしまった。
 予算は要らないというのが効いたらしい。
 それでも、電気代などは学校持ちになってしまうのだが。
 発足を決める職員会議では、クルカワ・アオイがかなりの熱弁を奮ったらしい。
 曰く。
「やはり今の日本にはモノ作りの文化と言うのが廃れてしまっていると思うんですよ
 ええですから若いうちにその精神を育てるのも我々教育者の務めだと思うんです
 素晴らしいじゃあありませんか将来の日本文化を担う若者を育てる集まりなんて」
 などと言う、半ば嘘っぱちの演説は、教師達に結構前向きに受け入れられたらしい。
 クルカワ・アオイには、詐欺師の才能がある。
 最初から強制的に頭数に入れられている四人は、改めて思い知った。
「第一回〜〜〜っ! ガンプラバトル対策会議ぃ〜〜〜っ!!」
 改めて一堂に会した会員達を前に。
 喜色満面の女教師が、声を上げた。
「いや、そんなに堂々と……」「うん、いくらなんでもマズイよな」
 ユイトとケンヤは顔を見合わせる。
「なによ! あんた達強くなりたいんでしょっ!? いまさらビビるなっ!!」
 ビシッと指を指して、顧問は言う。
 そして、視線を女子二人に向けた。
「まず、会の方針として当面は、女子会員の製作技術の向上を目指すわ!」
 そう言って、技術実習室備え付けの黒板に、カッカッカッと素早く白いチョークを走らせる。
“レベル別課題”と大きく書かれた。
「課題……?」
「つまり、先生が指定する物を作れ……と?」
 ユウリとミスノは恐々としている。

83 :
「むしろ物よりも重要なのは、指定した様にってところね」
 手でチョークを玩びながら、アオイは言う。
「男子二人は、ある程度技術的にクリアしていると思うの。だから、男子と女子でお題は別にします」
 そう言って、引き寄せたバッグの中から取り出した箱は――
「女子には、これを作ってもらいます。費用は当然自己負担!」
「そっ……そのキットはっ!?」
「うん……オレ達、課題は分けてもらった方が良いと思いま〜す」
 男子二人は、違う課題を出される事に不満は無い様だ。
 と言うより、そのキットは作りたくないと暗に宣言している。
「わあ! かわいい……のかな?」
「っていうかコレ、強いの? バトルで使うの前提なんでしょ???」
 そのガンプラのパッケージを見やり、
 ミスノは微妙な表情を見せ、ユウリは不安を滲ませる。
「これはれっきとした、過去のガンプラバトル全国大会で優秀な成績を残したMSのキットです。強いかどうかはプレイヤー次第!」
 アオイの説明は続く。
「十日後の日曜日にバトルを行うのでそれまでに完成。ただし、ただ素組みするんじゃなくて、どこか必ず変える事。無理はしない範囲で」
 どこかボンヤリしたお題だが、そこは感性に任せるという事だろう。
「――そして男子!」
 男子二人はビクッとなった。
「あなた達は大抵の物は作れると思うから、キットは自由。ただし、いつもと違う芸風で選びなさい!」
「違う……芸風!?」「げえっ!? じゃあオレ、何作れば良いんだよっ!!」
 さらにボンヤリとしたお題にユイトは戸惑い、ケンヤは文句を言う。
「当然ホシナ君は、ザク以外と言う事になるわよね!」
 ザク一辺倒のケンヤにしてみれば、不本意極まりない課題だ。
「私も模範解答の一つと言う事で、女子に出したお題であるこのキットを作りたいと思います。これで不公平は無いわよね?」
 不公平がどうとか言うよりも。
 このキットを、あの凶悪なグフ(でも基本素組み)を作ったアオイが作る。
 一体、どうなるのだろう?
 男子二人には、想像がつかない。

84 :
「女子二人は、このキットをホビーショップ・ノアで確保してもらっているので、早めに受け取る事。男子は別に、手持ちのでも良いわよ」
「うーん。どっちにしろ新しく買うしかねえよな」
 ケンヤはこのところ、本当にザクしか買ってない。
「じゃあ、今日帰りにみんなでノアに行こうか」
「そうね。まあ、あたし達は買う物で悩む必要ないんだけど、変えるってどこ変えようか?」
「ウエハラ君は、何買うつもりなの?」
「店で考えるよ。どっちにしろウイング系は今店に無いし、他は何もこだわってないから逆に悩む」
 ユイトとしては、こういう場合はトールギスでも選びたい所だが、このところ欠品状態が続いている。
 会員達が、頭を突き合わせて話しこむ様子を見て。
 ウンウンと頷く顧問は、満足そうだ。
(なんか本当に部活って感じよね!)
 校則では学校帰りにプラモ屋に寄り道するなど、本来は違反だが――
 今は、同好会活動と言う大義名分がある。
 それも、狙いの一つだ。
 そしてもう一つ。
 会として発足したなら、決めなければいけない事があるが――
「同好会の会長は……ホシナ君、お願い!」
「ええっ!? オレ???」
「あなたのある意味芯の通った頑固さは、リーダーに向いてるわ。頼んだわね」
 顧問の権限で、勝手に決めてしまった。
「でもよ! ユイはどうすんだよ!?」
「ウエハラ君は、このチームのエースでしょ」
 エースとリーダーは分ける。
 そういう事の様だ。
 クルカワ・アオイは、ウエハラ・ユイトの両肩に、ポンと手を置いて、顔を覗き込む。
「――ウエハラ君!」
「……はっ……はいっ!?」
 何故か緊張する。
「活躍に期待しているわよ。いえ……あなた好みの言い方で言い直すと……」
 ゴクリ。
 ユイトの喉が鳴った。
「“早く私を、しにいらっしゃい”」
 知らない人が聞いたら、あまりにも物騒な一言だ。
 翻訳すると、“自分と同じくらい強くなって、その時は本気で勝負しよう”という意味だったのだが。
 だがユイトとケンヤは、
 アオイがそのセリフを言ってみたくて、ユイトをエースに指名したんじゃないかと疑っている。
 いや、
 きっとそうだと確信した。

85 :
 課題締め切り当日。
 それは同時に、同好会としてのガンプラバトル初陣の日でもある。
 と言っても、新鮮味は全く無いが。
「さあ、早速見せてもらいましょうか!」
 顧問であるクルカワ・アオイも、なんだか気合が入っている。
 その割りに、今日もパイロットスーツはレンタルだが。
 女子二人も今はまだ、スーツを自前で持ってない。
 ホビーショップ・ノアの休憩スペースにある机の上に並べられた四つのガンプラ完成品。
 そして、それを取り囲む製作者四人と判定者。
「ソウミさんとマナサキさんのは……基本のカラーリング変更だけ……かあ」
「まだ改造は出来ないと思って」
「これでも結構悩んだんですよ」
 ユウリとミスノの言葉に、
「ううん、良いのよ。これで今のあなた達の技量が判断できました。これから一緒にがんばりましょう」
 先生らしい事を言うが、話題は勉強ではなくガンプラだ。
 そして。
「ウエハラ君は、そっか。元々飛行型と陸戦型両方愛用してるもんね。状況に応じて」
「その中間っていうのも悩んだんで。これで良い?」
「キットは自由って言ったでしょ。芸風を変えろという要求を違うガンダム作品という形で応えたんだから、これで良いわ」
 そして、最後の一つが問題だ。
「――ホシナ君。いつもと違う芸風でって、私確かに言ったわよね?」
「だからぁ、違うMSだろ?」
 文句を言うが、出題者は不満の様だ。
 さらに、
「うん、ケンヤ。ボクもこれは無いと思う」
「っていうか、いつもとどこがどう違うの?」
「わたしも、見分けつかない」
 女子二人はともかく。
 アオイとユイトがそう言うなら間違いないというところだが。
「これでも悩んだんだよ。悩みすぎて強化改造する時間も無かったくらいだ」
 ケンヤは珍しく泣き言を吐いた。
「はいはい、しょうがないわね。じゃあホシナ君は、今後このキットに徹底的に手を入れる事。それで勘弁してあげるわ」
 だが。
「これを……さらにいじるのか……」
 それ以上いじり様がない物をいじれと言われても困るだけだが。
「先生。先生が作ったのは?」
 ユイトは、少し期待のこもった声で言う。
 だが。
「うーん。私のは、フィールドでのお楽しみ、かな?」
 なんだか勿体付けて、自分のは見せてくれない。
「さて、じゃあ時間になったらエントリーしましょ!」
 戦いの舞台は――
 当然、バトルロイヤルのフィールドだ。

86 :
『バトルフィールドは、“旧サイド5・テキサスコロニー周辺”です』
 いつもの音声案内が終わると、目の前に世界が広がる。
 仮想空間だけれども、プレイヤー達にとっては、仮初めでもシビアな現実だ。
 ユイトが着いたコクピットのスクリーンに投影されたのは、深い闇の宇宙空間。
 そして、左手に損傷の激しい円筒型のスペースコロニー。
 太陽光を取り入れる強化ガラスに映し出されたユイトの駆る機体は――
 飛行形態のガンダムハルート。
 劇場版「ガンダム00(ダブルオー)」に登場する飛行型MSで、
 ユウリとミスノが前に使っていた、アリオスガンダム&GNアーチャーを、そのまま統合・進化させたという設定のマシンだ。
 本来は複座型で、パイロットも二人必要なのだが……
 今のところガンプラバトルのシステムは、複座型MSには対応していない。
 そもそも、複数のパイロットを必要とするMS自体が少ない為だが。
 もちろん、操縦は一人でも問題は無いはずだ。
 そして今回は、下手に改造などする事を考えずに、キッチリ作る事を心掛けた。
 もちろん、カラーリングは全面的に変更している。
 今回は、ブルー系の塗装を選んだ。
 オリジナルのイエロー系も良いが、ユイトの好みだと、飛行型MSはやはり空の色の方が良いと思う。
 なんといってもスタイリッシュだ。
 元々存在する損傷部分から、ハルートを進入させる。
 コロニー内部は、いつまでも終わる事の無い砂嵐だ。
 バトルロイヤルは、すでに始まっている。
『くそおっ! 全っ然前が見えねえっ!!』
 そう愚痴りながらマシンガンを乱射するのは、ホシナ・ケンヤだ。
 そして、今回彼が駆るMSは――
「機動戦士Zガンダム」で登場する、地球連邦軍の量産型MS。
 ハイザックだ。
 言わば、いつも彼が使っているザクの直系のMSと言う事で。
 違うと言えば違うが、あの課題の事を考えれば、何も考えてないに等しい。
 MSに詳しくない女子二人が「見分けがつかない」と言ったのも納得である。

87 :
 そして。
『ねえっ! これ本当に前の全国大会で、優秀だったんだよねぇっ!?』
『いくらなんでも、アオイちゃんはそんなウソはつかないと思うっ!!』
 敵の砲火に晒されて、砂嵐の中をただただ逃げ回るのは――
 二機のベアッガイ。
 ただし。
 一機はホワイト系のカラーリングで、もう一機はブラック系。
 見た目は良いコンビと言えたが、どちらも逃げてばかりでなんとも頼りない。
 動きだけはカワイイにも程があるが。
 白い機体はミスノ、黒い機体はユウリ。
 それぞれに“ポーラッガイ”“ベアッガイ・ツキノワ”という名前が付いている。
 色の対比的にはペアだが、ネーミングの面で微妙にコンビネーションが取れていない。
 視界が効かない中、ユウリの機体が両腕中央に仕込まれた機関砲を乱射する。
『このっ! このっ!!』
『きゃー!? ユウリちゃんわたしに当るわたしに当っちゃうっ!!』
 この状況では、最早パニックだ。
 初心者には非常にキツイステージとなってしまった。
 そこに。
 ちょうどユイトのハルートが到達する。
「――なんか、違う意味でスゴイ事になってるなあ」
 視界は効かないものの、上空からだととりあえず、敵味方の位置は良くわかった。
 オートでロックオンし、ミサイルを二発放つ。
 視界が悪いので、直接射撃するビーム系兵器は危険だ。
 下手をすると、味方に当ってしまう。
 ミサイルはどうやら敵に命中してくれた様だが――
 確認はしにくい。
 打つ手は……無いのか!?
 そう思った時。

88 :
『色んな意味で、厄介なステージよねえ!』
 通信で入ってきたのは、チームの中でもエース以上に最強の――同好会顧問。
 砂嵐でカメラ画像による確認が出来ない中、上空からは友軍機の識別信号で――マーキングの形で表示された。
『空からも攻撃がままならない。そう考えると、今回のウエハラ君のチョイスは、少し都合が悪いわ』
 この激しい風の中、バサバサと音を立てて岩山の上に立つのは――
 スッポリとボロボロのシートで全体をカバーする、一機のMS。
 あらかじめ、ユウリ&ミスノと同じキットを組むと宣言しているのだから、その中身も同じ筈……である。
 だが。
 妙に横幅が広い。
「あの……MSはっ!?」
 一番幅を取っていた部分が、カバーの中で立ち上がったのか。
 その布の塊が、その形を上へと伸ばす。
 地表に近い部分から覗く足元は、間違いなくベアッガイの物だ。
 だが。
 風に煽られてバサリと吹き飛ばされた後に残ったシートの下から現れた、その姿は――
 一匹の……白いウサギ。
 いや、正確には。
 ベアッガイをベースとした、クマ型ではなくウサギ型のMSだ。
 そして何故か、左腕のクローに引っ掛ける様に、どこから流用したのかスーパーの買い物籠を提げている。
 長い二本の耳をピンと立ち上げ、顔の真ん中にあるモノアイではなく、ウサギフェイスの二つの目の方を、赤く輝かせた。
「さあ……いよいよお披露目よぉ!」
 コクピットの中で、クルカワ・アオイは舌なめずりしている。
 まるで、御馳走を目の前にした時の様に。
「“ウサッガイ”行きますっ! レディー……ゴォーッ!!」
 この強風の中。
 意外な程の跳躍力を発揮して、ウサッガイが飛び出す。

89 :
「……ウソっ!?」
 上空から見守るユイトには、信じられない。
 バーニアなども一切使わず、通常では考えられないジャンプ力を見せ、
 さらには、その二本の足だけで、高速で移動する。
 何か特殊な改造を両脚に施しているのは明らかだ。
 ――ギョッギョッギョッギョッギョッ……
 大きな風の音に混じって、規則的な、そして奇妙な音が響き渡る。
 それは、敵に対して――
 妙な恐怖感を与える事になった。
 明るさはあるものの、闇の中で戦うに等しいその状況の中で、
 音だけが聞こえるというのは、やはり不気味だ。
 そして。
 その音が聞こえる方向にビームライフルを向けた量産型のゲルググは――
 突如近接戦闘の間合いに入ってきた謎のMSの、右拳の一撃を受けて爆発を起こす。
 そのゲルググとペアを組んでいたギャンは、その爆発の中から発射された機関砲の正射を全身に受け、やはり同様に爆発する。
「――これで……ふたつ!!」
 クルカワ・アオイは、尚も機体の動きを止めない。
 それどころか。
『こういう視界の効かない戦場で、一番有効なのはやはり、近接戦闘よ!』
 戦いながら、解説を入れてくる。
 もちろん、通信は友軍にしか届いていないが。
『汎用性の高い機体は、逆に言えば全てが中途半端な機体だと言える!』
 直上に飛び上がり、高速度で前転する。
 回転しながら突進した先にいたのは――量産型ズゴッグだ。
 頭のてっぺんから股下まで、二つの切り口を刻み付けられて三分割に切り分けられている。
 着地して回転を止めたウサッガイの耳にきらめくのは――ビームだ。
 長い耳がそのまま、クロスボーンガンダムX3が持つムラマサバスターの様な、鋸状のビームを発生させているのだ。
『だったら――近接戦闘に特化した機体を作って、飛び道具を後付けで装備させた方が、理論的には正しい!』
 ズゴッグの爆発が――視界を一時的に晴らした。
 風は相変わらず吹き付けているが、砂の多くが吹き飛んだのだ。
『今のは、私独自の持論で、絶対に正しいとは言わないけれど、こういう考え方もあるって事』
 一見ファンシーなウサギが、屍の転がる戦場に、ユラリと立っている。
 その異様な姿は、ユイトを初めとする同好会メンバー全てが、今まさに目の当たりにする事となった。

90 :
『そして……これだけは覚えておきなさい!』
 特に誰に――という風でもない口調で、クルカワ・アオイは告げた。
『こだわりは、時にプレイヤーを生かしもしもする。でも、それは決して間違いじゃない』
 ウサッガイが視線を転じた先には――無数に迫る、MS群。
『間違いだと言えるのは、自分が撃破された時――それだけよ!』
 高速で迫るドムが振り下ろすヒートサーベルを、左の買い物籠で――受け止めた。
 これはゾイド、ガンスナイパー・ワイルドウィーゼル(リノン仕様)に付属している買い物籠だ。
 それを手持ちのシールドとして、左に装備している。
『――これだけ数が来ると……でもっ!』
 背中に背負ったランドセルが、蓋を爆着で吹き飛ばす。
 そこから覗くのは――6発のミサイルに見える物。
 だが。
 それはただのミサイルなどでは無かった。
 一斉に放たれたそれは――ファンネルだ。
 ウサギのデザインに合わせた様な、ニンジンの形の。
『みんな……ニンジンも食べなきゃダメよぉっ!! いらないなんて言ったら、山盛りにしてやるんだからっ!!』
 あのコウ・ウラキを眼の前にしているかの様に言う。
 アオイの絶叫と共に、全てのファンネルがビームを乱射した。
 次々と、迫り来るMSを、ビーム攻撃が貫いてゆく。
 それで、この場は終わりになる――かとも思われたが、
 それらを潜り抜け、手にしたビームサーベルでファンネルを切り裂き。
 迫るのは、銀色に全身を輝かせる、百式だ。
 すべての攻撃を乗り越えて、ウサッガイ本体に迫る。
 大きく跳躍し、右手で握ったサーベルを真っ向から振りかぶった。
 そのまま切り下げられて終わり――かに思われたが。
『やるわねっ……でも、今の私にはこれがあるっ!』

91 :
 ウサッガイは僅かに後方に飛び退き、買い物籠を投げ捨てて両腕を引く。
 そして――
『……私のこの手が……光って唸るっ!』
 まん丸い双眸が、真っ赤な輝きを放つ。
『……お前を倒せと……輝き叫ぶっ!!』
 ウサッガイの右の肘から先が、分割部分で展開して眩い輝きを放つ。
 上から迫る百式を迎え撃つべく、腰を落とした。
『――ひぃぃぃっっさぁーつっ!』
 相手が何をしているのかわからないまま、銀色の機体は間合いに入って行った。
 それを受けて、白いカスタムMSも真っ向からぶつかる様に跳び上がる。
『シャァァイニングゥッ――うさっ! フィンガァーッッ!!』
 ドフォゥッ!
 唸りをを上げて、光と共に突き出されるウサッガイの右の一撃。
 光の中からまず飛び出たのは、六本のクローだ。
 それらはことごとく高熱を発しながら、ただ一点を突くかの様に固く閉じられている。
 そのままの形で相手MSの右手首を捕捉すると――
 インパクトの瞬間に六本全てのクローを勢い良く開き、武器もろとも弾く。
 そのまま百式の顔面を掌(?)で捉えて打撃を与え、クローでガッチリと全体を掴む。
 水中型MS特有のパワーを利した強烈な握力で、百式の頭部はギリギリと軋んだ。
 そして、そのまま地面に叩きつける。
『――何っ!? なんでこんな……技ぁっ!?』
 接触する事で、百式のパイロットの声が聞こえる。
 そして、百式パイロットの眼前のスクリーン一杯に映し出されたのは……
 画面全てを埋め尽くす、アッガイハンド(右)の掌。
 その中央に真っ赤に輝くファンシーなウサギの図案と、その周囲を囲む反転文字。
『――ガンダムファイト国際条約第一条……頭部を破壊された者は――』
 クルカワ・アオイの呟きに、
『いやっ……これガンダムファイトじゃないしぃーっ!!』
 百式の方は、ボケに対するツッコミの様な絶叫を上げて――

92 :
 ――バフッ!
 銀色の頭部が、小さく爆発して煙を上げ、胴体から引き千切られた。
 胴体からもぎ取れた頭部を、ウサッガイはしばらく見つめていたが――
 やがて、見飽きたかの様にポイッと投げ捨てた。
 地面を転がるMSの首の、その広い額に刻み付けられたのは――
 ファンシーなウサギのマーキングと、“もっと がんばりましょう”の囲み文字。
 まるで幼稚園で使われているスタンプの様だ。
 実際に相手のキットそのものに残るダメージではないが……
 パイロットの心には、確実に刻印されるだろう。
 体験したくなかった強烈な負け方の思い出として。
 そして。
 その圧倒的な強さに、残った他のMS群は恐れをなして遠巻きに見つめている。
 ウサッガイの右腕はパーツの継ぎ目から内部メカを晒して排熱を行っていたが、
 やがて元の状態に復帰して、凶悪な六本のクローも全て収納された。
『――いい、みんな?』
 注意深く周囲を覗いながら、ユルリと立つウサッガイのコクピットで、アオイは呟く。
『これから活動していく中であなた達に、私が持っている全ての技術を伝えてあげる。それは、私自身の為でもあるわ!』
 そう。
 それは青春の全てを投げ出して、アオイ自身が自分で掴み取った物。
 ただ失くしたくは……無い。
 これは、後に繋げていくべき物だと、堅く信じている。
『だから――死に物狂いで付いて来なさいっ!!』

93 :
 再び駆け出したファンシーMSに、
 その動きを見守っていたMS達が、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。
 それはそうだろう。
 誰も、あんな負け方はしたくない。
 変にリプレイなどで延々と動画を流されたりなどしてしまったら、一生笑い者だ。
『ちょっ……なんでみんな逃げんのよっっ!?』
 慌てた様にアオイが叫ぶが。
 みんな逃げるのに必死で、射撃すらしてこない。
 これがあんな形のMSでさえなければ、一人くらい応戦してくるだろうが。
『くぉらぁっ逃げんなぁぁっ! 私と戦えぇぇっ!!』
 強いかどうかはプレイヤー次第、という自分の言葉を証明する為にがんばったのだが、
 時に、がんばりすぎるのも困りものだ。
『うーん……強いっ! ……だけど……』
『たしかに……逃げたくなるかもなあ……』
 上空で見守っていたユイトと、地上で呆気に取られているケンヤは呟く。
 傍にいれば、きっと互いに顔を見合わせているだろう。
『これがっ……“カワイイはカッコイイより強い”って奴っ!?』
『ユウリちゃん……それは多分違うと思う』
『ソウミぃ……今のセリフどこで聞いたんだよぉ……』
 多分カッコイイと思って、アオイはあれだけのセリフを吐いたであろう。
 だが、今のシーンですべて台無しだ。
『今のも……どうやるのか後で教えてもらえるんだよね?』
『教えてもらっても……多分真似は無理だよユウリちゃん』
『っていうか……秘密は知りたいけど、真似はしたくねえ』
 追いかけっこをよそにそんな会話を交わす地上部隊の三人の声を聞きつつ、
 ハルートはコロニーの中心軸を進む。

94 :
 コクピット内に警告音が鳴り響き――
「――前から……敵っ!?」
 飛んで来た一発のビーム攻撃を避けて、ユイトは正面を見つめる。
 そこに飛んできたのは、一機の蒼いMS。
 見事なパール塗装で全体をまとめ上げた、フル・フロンタル専用MS、シナンジュだ。
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」に登場するこのMSは、本来赤いカラーリングの筈だが。
『ふっ……あのふざけたMSの……仲間かっ!』
 通信で、声が聞こえる。
『ふざけてはいるが、強い。お前も仲間なら、相当強いんだろうなっ!?』
 ビームサーベルを抜いて、突っ込んで来た。
 重力均衡地帯なので、飛行型でなくても空中戦は出来るのだ。
「――接近してくるっ!?」
 MS形態に変形し、両手にGNソードライフルを構えた。
 そして、腰の武装コンテナからミサイルを一斉射。
 牽制のつもりで放たれた弾幕をことごとく避け、確実に間合いを詰めてくる。
 相当の腕だ。
 蒼い装甲を展開して内部の装甲を紅く輝かせると、サーベルを振るって来た。
 それを両手のソードで受け流し、後方に素早く動きながら射撃で応じる。
 シナンジュもそれを紙一重で避けながら、今度はまっすぐ突いて来た。
『反応は確かに良いな。認めてやるっ!』
「何っ!? ……認めるって何をっ!!」
『お前はおれの相手に相応しい……と、言ってるんだっ!』
 モノアイの輝きを強め、さらに圧してきた。
 受け流す様に弾き、距離を取った。
「……ボクを……ライバルだとでも言うつもりか!?」
 こちらの意思も関係なくそう決め付けられても迷惑なだけだが。
『怖気づいたか? ……いや、そんな事はあるまいっ!?』
 ライフルを二発撃ちつつ、接近。
『先日のバトル、観ていたぞ。腰抜けにあんな戦い方は出来まい!? U−Y(ユーイ)っ!?』
 アッシマーを撃破した時か、それともケルディムと一戦交えた時か。
 どちらにしろ、確かに。
 あの時のユイトに、恐れはまったく無かった。
「ボクの……名前をっ!?」
 機体をポイントすれば登録名は表示されるようになっているが。
『強い奴をマークするのは当然だ。喜べ! お前はこのおれに選ばれた!!』
 名前も知らない相手にそう言われても、困るだけだ。

95 :
 打ち込まれるビームサーベルの一撃を二本のソードライフルで受けつつ素早く下がり、即座に右の方を射撃モードにして撃つ。
『ふふふっ。 そうだっ! そうこなくてはっ!!』
 ただでは下がらないユイトのスタイルが気に入ったのか、満足そうに声を上げながら尚も迫った。
『だが、さっきから戦法がワンパターンになってきているな! そこは残念だっ!!』
 次々と放たれるビームをことごとく避け、顔面同士が接触するか、という距離まで接近する。
「――くっ!?」
 ユイトはハルートを急いで後退させようとする――が。
 シナンジュはビームサーベルの刃ではなく、グリップの方で相手の左手首を打った。
「ああっ!?」
 ハルートは左のソードライフルを取り落とす。
『今回のその機体の選択にも問題があるな。今のでお前は、完全な変形が出来なくなったっ!』
 そう。
 ガンダムハルートのGNソードライフルは、飛行形態時に両方の主翼を兼ねている。
 これが片一方だけになると言う事は――
 重力下での飛行能力を失うと言う事だ。
 もちろん、今戦っているコロニーでは、その限りではない。
 だが、それはたまたまだ。
 これが違う戦場なら、そうも言ってはいられない。
『だが、それはまだまだ伸びると言う事だ。楽しみだよおれはっ!』
 最後のトドメと言わんばかりに、
 大きな動きでサーベルを振るってくる蒼いMS。
 ここで今回は最後か――そう思った時。
 斬りつける寸前で、その動きが止まった。
『――どうやら、ここまでか』
「――っ!?」
 相手の言葉にユイトがいぶかしむ……と。
『ガンプラバトル、タイムアップ』
 不意に、コクピット内にシステムボイスが響いた。
『戦場に残っているMS・MAのパイロットには、サバイバルポイントが加算されます。カードは抜かずにしばらく……』
 名残惜しそうに、ユイトの目の前でシナンジュが宙を漂っている。
『……互いにこの戦場に立ち続ける限り、おれ達の戦いは終わらない』
 最後のメッセージが届く。
『この次はもっと、熱くなれる事を期待している。じゃあな』
 ユイトが返事をする間も無く、画面はブラックアウト。
 今回のガンプラバトルは、ユイトにとってどこか消化不良な内容となってしまった。

96 :
「ええっ!?」
「ウソだろこれぇ!?」
 ユウリとケンヤが、素っ頓狂な声を上げた。
 それに対して、
「イヤだわあ。今回は時間が無かったから、あまり仕上がりが良くないのよねえ」
 などと言いながら、どこか得意そうなのは同好会顧問のアオイだ。
 一同で囲んでいるテーブルの上に乗っているのは、ついさっき終了したばかりのガンプラバトルで、
 ギャラリーから妙な注目を集めてしまったMS。
 カスタムベアッガイこと、ウサッガイだ。
 仕上がりが良くない、とは言うが――
 キット自体はキチンと表面処理も施され、塗装も完璧にされている。
 ただ。
 恐らくアオイが不満なのは、右腕の部分だろう。
 内部構造を覗かせる様にワザとパーティングラインで分割された、この水中型MS特有の太い腕からは――
 無数のクリアパーツが飛び出している。
 しかもキッチリ型取りの後レジン成形された様な物ではなく……
 どこかから持ってきた、ジャンクの黄色い塩ビ板を、ランダムに切り取った物だ。
 同様のデコレーションが、これもジャンクパーツで作られたらしい長い耳の縁を取り囲んでいるが。
 これが、あの戦いの中で見せたスーパープレイの、正体の一端。
「ひとつ教えてあげるわね。ガンプラバトルシステムの裏技の一つ」
 そう言って、なぜかそこで「コホン」と一つ咳払いをしてみせる。
「特に設定の無い、突き出た様に取り付けられたクリアパーツは、スキャン時にシステムが、ビームエフェクトとして処理しちゃうのよ」
 衝撃の事実。
「ええっ!? そうなのぉ???」
 ユウリは驚くが――
「そっか、そう言やあ……」
 ケンヤは何かを思い出す。
「あのビギニングガンダムなんかは、たしかにその効果を利用してるフシ、あるよな」
「ふふっ、そうよホシナ君。良く思い出したわね!」
 ビギニングガンダム。
 ガンプラバトルに関わるビルダーで、その名を知らない者はいるまい。
 ユウリとミスノは例外として。
 アニメ作品などに関わりの無い、この特殊なガンプラには、いくつかの特徴がある。
 そのうちの一つが、額にあるV字アンテナだ。
 クリアパーツで成形されたビギニングガンダムのこの部分は、ガンプラバトルのステージ上ではビームとして処理されている。
 それを利用して頭部バルカンをビームで放つのだから、ただの飾りとは到底思えない。
 さらにその強化型のビギニング30(サーティー)に至っては、“IFS(イフス)ユニット”などという設定のパーツと共に、
 全身に配された着け外し自由の楕円形のクリアパーツが、攻撃にも防御にも使える万能ビーム兵器として機能していた。

97 :
「最初にアレを見た時、どうもおかしいなと思ったのよね〜」
 おそらく、それに気付いたのはアオイだけではないと思うが……
 本人は、妙に得意気だ。
「で、ついでにクローにもこんなもん被せたと?」
 ケンヤが指差した箇所には――
 しっかり飛び出させた六本のクローに、ピンク色の塩ビ板で作ったキャップを被せている。
 これも仕上がり自体は荒い。
「黄色の方もだけど、取り外し出来る様にするってのが肝よね〜」
 それでただのアイアンクローがヒート系兵器になるのだから、便利といえば便利だが、
「でもそれって、良く考えたらただのチートじゃん!」
「何言ってるのよ。レギュレーションチェックでは問題なく通ってるの。勘違いしちゃうシステムの方が悪いのよ!」
 女教師は自信たっぷりに言い切った。
 つまり。
 あの時同じ戦場に立っていたMS達を驚愕させた“シャイニングうさフィンガー(命名アオイ)”なる大技の正体は――
 強引に右腕から噴出させたメガ粒子を、高熱を発するクローの一撃と共に相手に叩き込む打撃技。
 しかも、それが出来た原因は、システムのバグ。
 蓋を開ければ、聞いたみんなが脱力しそうな技であった。
 もっとも、あのジャンプ力だけはバグなどではない。
 あれは足の中に、輪っかにしたモビルスプリングをいくつか入れて、サスペンション代わりにしている。
「今回は時間も無かったし、出来もこんなだったんでこの程度だったけど……」
「今回っ? まだやるのか先生っ!?」
「当然。技とパーツはとことん磨かないとね!」
 正体が判ったところで、真似する者はいまい。
 なぜならば。
 画面上ではともかく、ディスプレイされたガンプラとしては、とてもカッコイイとは言えない。
 どちらかと言えばマヌケだ。
 だが。
「アオイちゃんっ! あたし……やるっ!!」
 いきなりそう宣言したのは、ユウリだ。
「それで勝てるなら、あたし……マスターしてみせるっ!」
「おいおい……マジかよお」
 ケンヤは呆れる。
 元より、正体が判ったところでマネなどするつもりは無かったが。
「その意気込みや良し! 頑張りましょうソウミさん!!」
「はいアオイちゃん……じゃなくて、先生っ!」
「先生じゃなくて、師匠よっ!」
「はい師匠っっ!!」
「ああ師匠……なんて良い響き……」
「あ〜あ、もう勝手にしてくれよぉ」
 三人が漫才を展開する横で。
 ユイトの目は、傍に置かれた液晶画面を見つめている。

98 :
 映し出されているのは、自分と……あの蒼いシナンジュとの一戦。
 そして、その機体の、パイロットの名前。
 登録名:MAT
 本名は、当然わからない。
 それは向こうも同じだろうが。
 だが変に格好を付ける様子の無いそのセンスは、どこか自分と通じる物を感じている。
 と言うより、バトルさえ出来れば名前などどうでも良いのだろう。
「……ウエハラ君」
 真剣な顔で画面をじっと見つめるユイトの横に寄り添う様に、ミスノはそっと座った。
 それにも気付く様子は無い。
(今日のウエハラ君……ちょっとコワイ……)
 ユイトにもっと近付きたくて、ガンプラバトルを始めた彼女だったが。
 なんだか、逆に遠くなってしまった様な気もした。
 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 その日の夕方。
 自分のバトル内容はともかく、同好会としてはまあまあの成績を収めたと言う事で。
 ちょっと機嫌も良く、クルカワ・アオイは自分が住むマンションへと戻ってきた。
 マンションと言っても、アパートに毛が生えた程度の小さな部屋だが。
 日曜日だというのに、ポストに入っていたのは――
 宅配会社の、不在通知書。
 実家に頼んでいた、あの荷物が届いたのだ。
 即座に電話を掛けて、すぐに届けさせた。
 待ちに待ったその荷物。
 後日改めて、という訳には行かない。
 親には着払いで良いと頼んだが、親は配送料を支払ってくれていた。
 相当に掛かった筈である。
 何故ならば、その荷物――
 特に片一方はおそらく、小型の冷蔵庫が優に入ると思われる大きさなのだから。

99 :
 まるでエジプトのミイラの様に、ガムテープでグルグル巻きにされた二つの箱は、
 もはや、素手でその封印を破る事など出来ない。
 カッターナイフを取り出して、突き立てる。
 そしてそれを、ダンボールの合わせ目に沿って横に引いた。
 そこから乱暴にこじ開けられた箱の中に入っていたのは――
 月刊モデルグラフィックス別冊「ガンダムウォーズ・プロジェクトZ(ゼータ)」から始まる、ガンプラ作例関係の一連の参考書籍。
 当然その中でも「ファイティングG」はとりわけ重要だ。
 なにより、あの“マンダラガンダム”の作例があるのが特に素晴らしい。
 当時バンダイはなぜあれを製品化しなかったのか、彼女はいまだに理解に苦しんでいる。
 残念ながらホビージャパン別冊の「HOW to BUILD GUNDAM」 シリーズは、全ては揃っていない。
 あのシリーズは、刊行ペースが細かすぎる。
 だが。
 その貴重なガンプラ関連資料よりも、彼女が欲していた物は――
 ワンセットになって梱包されていた、フルフェイスのヘルメットと上下ツナギになったスーツ。
 艶の無い黒とビビッドなピンクのツートンカラーが、久し振りに眩しかった。
 早速取り出したヘルメットの後頭部には、剥がれかけたステッカーが残っている。
 艶のある黒い外装の上に貼られたそれは、
 丸く囲われて下で結ばれたピンクのリボンの図案。
 その囲みの真ん中には、なぜか妙にリアルなドクロがあったが。
 少し浮いたそれを摘むと――勢い良く剥がした。
 もう、こんな過去は要らないのだ。
 これから、新しい自分になれば良い。
 それでも。
 この荷物をわざわざ送ってもらったという事は、どこかに未練があるのだと思うが。
 もう一つの荷物の中に入っていたのは、数々のガンプラ。
 ガンプラバトルの為に買った物が多いので、スケールはほぼ全てが1/144だ。
 当然、昔の愛機もこの中に入っている。

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