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2011年10月1期創作発表主従キャラバトルロワイアル part1
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主従キャラバトルロワイアル part1
- 1 :11/10/22 〜 最終レス :11/11/28
- 当スレッドは、漫画やアニメに登場する主従キャラでリレーSSの形式でバトルロワイアルを進める
「主従キャラバトルロワイアル」という企画の為のスレッドです。
前スレ
(なし)
主従キャラ・バトルロワイアル@wiki (まとめ)
ttp://www38.atwiki.jp/msbr/
主従キャラ・バトルロワイアル専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15038/
【参加主従一覧】
【Fate/Zero】 衛宮切嗣/セイバー
【Fate/Zero】 ウェイバー・ベルベット/ライダー
【Fate/Zero】 雨生龍之介/キャスター
【コードギアス 反逆のルルーシュ】 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア/ジェレミア・ゴットバルト
【コードギアス 反逆のルルーシュ】 ユーフェミア・リ・ブリタニア/枢木スザク
【コードギアス 反逆のルルーシュ】 天子(蒋麗華)/黎星刻
【東方儚月抄】 レミリア・スカーレット/十六夜咲夜
【東方儚月抄】 西行寺幽々子/魂魄妖夢
【東方儚月抄】 蓬莱山輝夜/八意永琳
【HELLSING】 アーカード/セラス・ヴィクトリア
【HELLSING】 インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング/ウォルター・C・ドルネーズ
【スター・ウォーズ】 ルーク・スカイウォーカー/C-3PO
【スター・ウォーズ】 ダース・シディアス/ダース・ベイダー
【ゾンビ屋れい子】 姫園れい子/百合川サキ
【ゾンビ屋れい子】 雨月竹露/姫園リルカ
【戦国BASARA】 伊達政宗/片倉小十郎
【戦国BASARA】 織田信長/明智光秀
【うたわれるもの】 ハクオロ/トウカ
【おまもりひまり】 天河優人/野井原緋鞠
【ジョジョの奇妙な冒険】 DIO/ヴァニラ・アイス
【そらのおとしもの】 桜井智樹/イカロス
【まよチキ!】 涼月奏/近衛スバル
【北斗の拳】 シン/ハート様
【魔法少女リリカルなのは】 八神はやて/シグナム
【物語シリーズ】 阿良々木暦/忍野忍
25組50人
テンプレ>>1-4
- 2 :
- 【バトルロワイアルのルール】
1.バトロワイアル
送り込まれた土地を舞台に、主従同士がし合い、最後の一組が残るまでこれを続ける。
2.主従
参加者は主従一組で選ばれ、主には赤の★が、従者には青の★がそれぞれ左手の甲に刻まれる。
バトルロワイアルの優勝は一組の主従であることが条件なので、片方を失えば優勝の権利も失う。
ただし、あぶれた主と従者同士で新しい主従を組むことは可能。
その場合、赤の★と青の★を触れあわせれば新しい主従契約が成立したとみなされる。
3.禁則
これを破ると強制的にその場から退場させられ死を与えられる。
・し合いの舞台となる土地から逃げ出した場合。
・主あるいは従者が死に、一人あぶれた状態で12時間が経った場合。
・後述する「禁止エリア」に進入した場合。
・バトルロワイアルによる死者が出ない状態が24時間続いた場合。(全員に適用される)
・バトルロワイアル開始より72時間が経過しても決着がついていない場合。(全員に適用される)
4.放送と禁止エリア
バトルロワアイアル開始より6時間ごとに、その間に死亡した参加者の名前を読み上げる放送が流れる。
また同時に、禁止エリアの場所と禁止となる時刻も読み上げられる。 ※詳細は実際のSSで決定。
5.支給品
参加主従には、それぞれ一組ごとに背負い袋がひとつ支給される。
中身は、「舞台となる土地の地図」「参加者の連名簿」「筆記具」「明かりとなるもの」。
それと、内容が不明な「し合いに使う道具(不明支給品)」が4つ。
背負い袋の中身は不思議な空間となっており、いくつでも道具を入れられるし重さも一定で変わらない。
6.優勝
最後の一組となり優勝した者らには願いを叶える権利と元の世界への生還が約束されている。
- 3 :
- 【書き手向けのルール】
1.リレーSS企画
当企画はリレーSS企画です。なのでルールを無視した作品の投下は受け付けないのであしからずご了承ください。
2.予約制度
作品を投下するにあたっては、まず該当スレにてその旨を書き込むことをお願いしています。
必要なのは書き込んだ人物の同一性を保証するトリップと、予約するキャラクター(全員分)の名前です。
予約すればそれから5日間(※1)、そのキャラクターの作品を投下する権利を得ることができます。
期間を過ぎれば権利は失効(※2)しますが、失効後続けて予約することは期限が無限に続くことと同じなので禁じます。
※1 作品が3作以上採用されている書き手には+2日。
※2 予約期間を過ぎた後でも、他の人の予約が入っていなければ作品の投下は認められます。
予約スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15038/1319268571/
3.修正/破棄要求
投下された作品内に修正や、部分的もしくは全体として破棄する必要な箇所があると感じられた場合、
該当スレを使用し、それを指摘し改善を求めることができます。(※)
要求が出た場合、該当作品およびそれに関わる部分の進行を凍結し、該当スレで話し合いを行います。
そこで、修正や破棄の要不要が決定すればその通りにし、凍結状態を解除し通常の進行に戻ります。
※単純な誤字や表記ミス等、簡単に修正できるものであればわざわざ修正要求スレを使うことはありません。
修正/破棄要求、議論スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15038/1319268687/
4.自己リレー
リレー企画であることを尊重し、原則として自己リレー(自作の後に自作を続けること)を禁止とします。
ただし、投下以後2週間経っても続きが書かれなかった場合はそれを解禁するとします。
5.登場時期や能力制限等々
バトルロワイアルおよびリレーがつつがなく進行するよう、それを害する能力は制限されているとします。
また参加者が原作のどの時点から登場するかは書く人に委ねられていますが、これもある程度の制限があります。
詳細についてはまとめwikiの該当ページを参照してください。(>ttp://www38.atwiki.jp/msbr/pages/18.html)
- 4 :
- 【状態表のテンプレおよび時間表記について】
作品内の情報を共有するため、それをテンプレートにそって記し作品内に付け加えることを義務とします。
【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(主従の属性):(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[主従]:(現在、主従を組んでいる相手の名前)
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[方針/目的]
基本方針:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)
例)
【A-1/森の中/1日目-黎明】
【主:衛宮切嗣@Fate/Zero】
[主従]:セイバー
[状態]:魔力消費(小)、令呪(3画)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのは、種籾@北斗の拳
背負い袋(基本支給品)、ゼロの衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ
[方針/目的]
基本方針:優勝し生還する。
1:土地と建物を把握し、有利な場所を見つける。
2:はぐれた従者を見つけ、利用できるよう言いくるめる。
3:爆弾の材料となるものを調達する。
[備考]
※レイジングハートから一時的なマスターの承認を受けました。
コピペ用)
【-//-】
【:@】
[主従]:
[状態]:
[装備]:
[方針/行動]
基本方針:
1:
2:
3:
[備考]
※
方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
備考欄は書くことがなければ省略してください。
時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。
[00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
[06:00-07:59 >朝] [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
[12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
[18:00-19:59 >夜] [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
- 5 :
- 本日24時丁度より予約解禁、企画スタートです。
- 6 :
- >>1乙
- 7 :
- オープニングを投下します。
- 8 :
- 【001】
異例事態である。
僕は――僕こと阿良々木暦はこれまでに語り部として様々な《物語》を語ってきた。
それは僕という人物のことであったり、僕の周辺にいる人物のことであったり、あるいはそれらにまつわる事件、
また取り留めのない出来事、戯言であったり、逆に含蓄のあるエピソードだったりを、それこそ悲喜交々に
多くの無駄と脱線を含んだ上で、好き勝手に自由奔放に、僕の思うままに語ってきた。
しかし、今回のこれはそれらとは全く異なる。
繰り返すが異例事態なのだ。
なにが起きたのか。あるいはなにが起きなかったのか。そういうレヴェルにおいての異例事態ではない。
そういう意味で異例だというのならば僕の語る物語は毎回が異例だと言えるだろう。
高校2年生から3年生に移る春休みより僕の人生は予想だにもしない展開を、唐突に、理不尽に、衝突するように迎え、
滅茶苦茶に転がり始めた。七転八倒なんてものじゃない。百転百一倒なんてものである。
とはいえ、後悔の数は山ほどあれ、僕は同時に満足もしている。
例えどんな人生を生きようと人生はかけがえなく、そして今の僕がいるのだ。なのでIFに思いを馳せることに意味はない。
さておき、そんな人生訓めいたものを、しかもまだ若造でしかない僕が語ったところでそれは滑稽でしかないし、
今は滑稽でしかないそれを語っている場合ではない。
異例事態なのである。
何が異例なのかというと、簡単に言うとこの《物語》はまだ終わっていないのだ。というよりも始まったばかりである。
まだ語るほどのストーリーがあったわけではないし、無論オチもついていないし、現在進行形だったりする。
ミステリで例えるなら第1の人事件が発生したところ。
アニメで例えるならアバンが終了しこれからオープニングアニメが流れ始めるといったところか。
もっとも、ここ最近のアニメじゃ1話の場合オープニングアニメを流さないって場合も多々あるようだけど、ともかく。
ならば何故語るかというと、終わってもないことを語り始めるのかというと、やはり起こった事も異例事態だからだ。
これまでのどの物語よりも異例。先が読めない。命の保証がない。後々、僕が回想できるかも想像できないし、
オチがついたとて僕がそれを知りうるかも定かでない。知ったとしても語れる立場にあるのかもわからない。
故に、異例として、例外として僕はこのまだ物語にもなっていない語り部である僕ですら知らない物語を語るのだ。
もし僕がこの物語の最後までいられなくなったとしてもこれがなにかの切欠になるように。
助けを呼んでいるわけじゃない。追ってもらうためでもない。
感心してほしくも、経験にしてほしくも、笑ってもらうためでも、ましてや悲しんだり憤ってもらうためでもなく、
無論アニメ化などを望むべくもなく、誰に届かなくてもいいと諦め、けど語った事実だけはどこかに残るはずだからと、
存在証明として僕はこの物語を語る。
まだ誰も知らない。名前のない《■物語》を――
【002】
その時、僕はなんの変哲もない路をただ歩いていた。
この場合、路というのは別段人生や何かの隠喩だったりはしない。正真正銘、ただの道路だ。
僕は街中のアスファルトで舗装されている道路をただ歩いていたのである。
そこに不正行為やフラグ立てはなかったはずだ。
あるいはもしかしたら何かあったのかもしれないが、それについての推察は割愛する。必要があれば後に語ろう。
で、落ちた。
ストンという感じだ。なんら警戒も予想もしていない場面で僕は唐突に落ちた。
最初はマンホールの穴にでも落ちたのかと思った。
誰かの悪戯でマンホールの蓋が外されており、僕は間抜けにもそれに気づかずに落ちたのだと。
ヒューストンとアメリカの都市の名前のように、カートゥーンの登場人物のように落ちたのだと僕はその瞬間思った。
そうではないとわかったのは、その後のことだ。
- 9 :
- 【003】
次に気づいた時、僕はどことも知れぬ場所に倒れ伏していた。
気づけばとは言ったものの、感覚的には一瞬だ。まさに、落ちたと思ったら地面に伏していたのである。
途中、気を失っていただけなのかもしれないがそれもはっきりしない。
普通だとここで身体の調子や空腹の度合いでブランク(空白期間)がどれほどあったのかを推測するところであるが、
いかんせんそういう意味では僕の身体は不便にできていた。
吸血鬼なのである。それも中途半端ななりそこないの半人前以下の吸血鬼。
詳しい経緯と説明は省くとして、半端なりにも再生能力を備えた僕は通常に比べて体調の変化が鈍い。
故にこの場合、自らの体調でもって経過した時間を計るというのは不可能、ではないにしろ当てにはならなかった。
不死性故に気を失っていた時間もわからないのだ。
吸血鬼がおしなべて寝太郎なのはこのせいかもしれない。
だが、語り部をしている僕が寝太郎なのでは話が進まないだろう。
正しくは僕が寝ていたとしても話は進むし、この世界の有様は刻一刻と変化していくだろうがそれでは語れない。
伝えられない。少なくとも、僕という立場からは。
なので起き上がり、立ち上がる。
少し湿り気を帯びた芝生の地面から立ち上がってみれば、そこは実に奇妙な空間だった。
星の瞬きが見える夜空の下、薔薇の垣根で囲われたそこは一見してどこかお屋敷の中庭という風だ。
その印象を補強するかのように、その空間には等間隔で白いレースのクロスをかけられたテーブルが並列している。
テーブルの上には食事や飲み物とおぼしきものが並び、ここで奇妙だと思うのだが小さなぼんぼりが立っていた。
これも和洋折衷と言うのだろうか。ともかくそこはそういう少し奇妙なパーティ会場のような場所だった。
ぼんぼりが灯す橙色の明かりはささやかなものであったが、吸血鬼の視力ならば問題はない。
僕は現状を把握すべく更なる情報を得ようと辺りを窺う。そして、そこでまた奇妙なことに気がついた。
どうやら、この空間には僕以外にも多数のゲストがいるようなのである。
何故そこであやふやな物言いになるのかというと、これはそのままあやふやだからなのである。
人はいる。その数は決して少なくない。一見しただけでも数十人はいる。多分、学校の1クラスよりも少し多いくらいだ。
もっとも学校の1クラスなんて地方と年代によってバラバラなんだろうけど、じゃあ具体的に言えば50前後ってところだ。
50前後の人――いや、人影と称するべきか。
人影としか言えないようなそんな認識が曖昧な存在がそこらじゅうにいるのである。
存在として曖昧なのではない。存在は確かだとはっきり言える。幽霊でもない。実体はある。けど認識が曖昧なのだ。
そこに視点をあわせた途端、まるでカメラのピントがズレたようにはっきりと見えなくなるのである。
これは一体なんなのか?
考えるまでもない。僕の脳みそが落下の衝撃でいかれてしまうなんてことは吸血鬼の再生能力が否定してくれる。
ならば、もう答えは一つだ。いつもどおり、不思議なことは――《怪異》の仕業なのである。
【004】
「ようこそいらっしゃいました」
そう思い至った瞬間、その言葉は会場の中へと響き渡った。静かだがはっきりと耳に届く声だった。
声のした方を向いてみればこの奇妙なパーティ会場の端に一人の女性が立っている。
曖昧でなくはっきりと認識できる僕以外の唯一の人物がここに登場したのだ。
「私は貴方達を此処へと誘った張本人、八雲紫と申します。まずは無理矢理に御呼び立てしたことを詫びましょう」
そう言って彼女は頭を下げ、また上げた。
波がかった長い金髪に不思議な色の瞳。大人の女性なのに少女人形のような、そんな印象のある顔だった。
紫色のドレスを着こなしており、その有様はどこか僕の相方である吸血鬼の在りし日の姿に近い。
彼女は“貴方達”と言った。ということは、僕を含めてこちら側の人影は同じ境遇なわけだと推察できる。
つまり、僕を含む数十人の何者かが互いが認識できないよう術をかけられ、ここに軟禁(?)させられている。
回数をこなしたこともあるが、鈍い鈍いと言われる僕も随分と頭の回転が早くなったものである。とここは自画自賛。
- 10 :
- 「また、企てていることに皆様を巻き込むことにも、張本人としてここにお詫びします」
そして彼女はまたぺこりと頭を下げた。そして再び人形のような顔がこちらを向く。
わざわざ拉致してきたのだ。呑んで喰って帰れという話ではないだろう。じゃあ彼女は僕達に何をさせる気なのか?
「これより、集まっていただいた皆様の中で“し合い”をしていただきます」
ストレートな言葉だった。しあってもらうだって?
僕はこの会場の様相から金持ちが主催する人遊戯のようなものを想像した。
次にスティーブン・キング原作のバトルランナー。思い浮かべるのは映画版のほうだ。原作は読んだことがない。
実に明快な話だ。この先どういった流れになるのかも容易に想像できる。
どうせ簡単には逃げ出すことなどできないのだろう。人質をとられている可能性もある。
僕達は抗う術もなくし合いを強制されるのだ。大いなる闇やら、権力者やら、はたまた《怪異》と呼ばれる者に。
「私は皆様をそれぞれ主従一組としてこの場にお招きしました。
ですから、正しく言い直すならばその主従と主従の間で対立し、し合いをしていただくということになります」
そして、一番最後まで残った主従には生還を約束すると彼女は言った。
僕は自分の足元。芝生の上にかかった自分の影を見る。主従一組と言うなら僕のパートナーはこいつしかいない。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼――の成れの果てであり、吸血鬼の絞りかすでしかないあいつだ。
「生還では気にいらぬ。気が入らぬと仰るのでしたらなんなりと望みも叶えましょう。
――兎にも角にもし合いをしていただきたいのです」
兎にも角にもってなんだよ。そんなどうでもいいからさっさとやってくれみたいな理由でしあいなんかできるか。
もちろん、どんな理由があったとしてもし合いなんか絶対に認めたりはしないけれど。
「残るのは主従一組だけ。主と従者、どちらを失っても生き残る権利は失われてしまいます。
あくまで一組の主従でなくてはならないのです」
矜持としての不戦不はともかくとして、情報を聞き逃すことはない。なので僕はひとまず彼女の話に集中する。
「ですが、これだとあまりにも可能性がない。始まってしまえば皆が皆早々に権利を失ってしまい誰も残らない。
なのであぶれた者同士で新しい主従を組みなおすことを認めます。
例えそれが仮初めの関係であろうと、主と従者の一組であれば、私はその者らの生還を認めましょう」
意味はわかるが目的がわからない。主従の間柄が本物でもなくていいのなら最初からそうでもいいんじゃないか?
それともそこに対した意味はなく、ゲームが不成立になりやすいから加えただけのルールなのか?
「それぞれ左手の甲に《印》を打ちました。統べる者には赤い星(★)を。傅く者には青い星(☆)を。
もし本来の主や従者を失ったのならば、同じく失った者を探し出し赤と青の星同士を触れ合わせてください。
そうすれば、その者らは新しく主従一組であると認められます。
よいですか? あぶれたなら赤と青の星を触れ合わせるのです。そうすればまた主従であると認めます」
僕は左手の甲を見た。いつの間にかにそこにはシンプルな赤い星印が痣のようにつけられている。
うぐぐ、俺の左手が疼く――って感じだが、これ後で取ってもらえるんだろうな?
なんか皮膚に染み込んでるっぽいんだけど。例え生きて帰ってもこのままじゃ家には戻れないぞ。
「逆に、あぶれたにも関わらず新しい連れを探そうとせずにいるのであれば、それは生還を諦めたとみなします。
半日。半日経っても新しい主、あるいは従者を見つけられなかった者はその場において死を与えます」
12時間、新しいパートナーが見つからなければ強制的にゲームオーバー。見つければゲーム続行。
一見救済措置に見えて、実際は逆だ。これは“諦めることもできずにしあうしかない”ってルールにすぎない。
胸クソが悪くなる。沸々と怒りが湧いてくる。こんな残虐を押し付けてなお平然としているあの美しい顔に。
「押し付けた無理難題ではありますが、理解できたでしょうか?」
ああ、理解できたともさ。八雲紫が悪逆を働く、人によって成敗されねばならない《怪異》だってことが。
- 11 :
- 【005】
「ならば、このし合いにおける進行といくらか存在する禁則を説明いたしましょう」
間を置くと、彼女はし合いゲームのルールをこれまでと変わらない調子で静かに語り始めた。
さて、お約束に従うならここらでそろそろ文句をがなりたて彼女に楯突く者が出てきてもおかしくないし、
なんなら僕が命を顧みずその役割を負ってもいいんだが、しかしどうやらそれは不可能のようだった。
「この後、皆様にはこちらが用意した土地へと移動していただき、その土地を舞台にしあっていただきます。
同時に地図を配りますが、まずそこから逃げ出すことを禁則とします」
先ほど、僕以外の者らの姿が曖昧なことは語ったばかりだが、どうやらそれは姿だけに限らず声もそうらしい。
いくつかの人影は身振り手振りを加え、なにやら発言しているようなのだが僕の耳には何も届かないのだ。
彼女には聞こえているかもしれない。けど、こうしているということは僕達の意見などは無視するということだろう。
「そしてこのし合いには限られた期限があります。
与えられる時間は丁度三日。これを過ぎることもまた禁則とし、過ぎれば全員に死を与えることになります。
また誰も死なない状態が一日過ぎれば、生還のためのし合いを放棄したと解釈し、禁則を破ったとみなします」
猶予は最大で3日。誰も死ななくていい時間で考えると1日。
果たして、この時間でなにもかもが解決するのかというとかなり微妙な時間設定だ。
「し合いが始まれば、四半日(6時間)が過ぎるごとに、し合いから脱落した者の名を読み上げます。
同時にし合いの土地で立ち入りできなくなる場所も読み上げます。
この後、禁じられた場所に踏み入れば、これも禁則を破ったとみなし即座に死を与えます」
逃げ場のないフィールドが時間と共に狭くなり追い立てられてゆく……。ますますゲームじみた設定だ。
時間設定といい、なにかそういった部分に人間の作為的なものを感じるのは気のせいだろうか。
「禁則はこれだけです。し合いそのものに禁じ手はありません。貴方達はただし合いから逃げなければよい。
そうすれば、この中で一組の主従、二人の者が望みを叶え生還できるのです。
――し合う。たったそれだけのことです」
たったそれだけとは言ってくれる。確かに人間と怪異の死生観は違う。人の間だって時代と場所で変わる。
もしかすれば彼女には深刻な理由があるのかもしれないし、怪異としての習性で悪気なくしているのかもしれない。
けど、どんな理由があろうとそれは認められない。
この世が弱肉強食というのならば、何者にだって、弱肉でしかない者にだって抗う権利は存在するのだから。
だから、僕はこのし合いを認めない。断固、阻止してみせる。そうこの時僕は決心した。
【006】
「では始める前に質問を受け付けましょう。
貴方方同士で声は通じませんが私には届きます。その場で質問を言葉で発してください」
などと言われても、僕はなにも質問する気が起きなかった。今後のことを思えばできるだけ情報は欲しいところだが、
生憎僕はそういうところで頭が回らないので、情報を引き出す為の質問というのが思いつかない。
逆に下手なことを言ってされたり、僕が言ったことでルールの不備などを先に封じられては、と考えてしまう。
「なんじゃ、いかようにして願いを望めば最低限の罪悪感でもって女共を侍らすことができるのかと考えておるのか?」
って! 僕の名誉を不必要に貶めるような発言をするのは誰だ!? と思って振り返ればそこに僕の従者がいた。
正確には、いや正確に言えば従者なんだが、気持ちの上ではなんというのだろうか……運命共同体?
なんにせよ、振り返ったそこにはかつて鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼であった少女がいた。
忍野忍――半人前以下の吸血鬼もどきに主としての権利を奪われたその成れの果てである。
八雲紫のことを忍と似ていると評したが、今の忍は八雲紫とは似ても似つかない。
吸血鬼としての力の大半を失った彼女はその身もまたそれに応じて幼いものへと変じているのだ。
およそ10歳程度。こんなロリっちぃ身体。よろこぶのはせいぜい僕くらいなものである。
- 12 :
- 「そんなこと考えてないってのはわかるだろう」
「まぁの。儂とお前様は感情が通じておる故、そのような懸想をしていないというのは一目瞭然じゃ」
「見えてないけどな。で、じゃあなんでそんな悪評が立つようなデタラメを言うんだ?」
「なぁに、お前様が今にも後先考えずに特攻などを仕掛けようと、そんな気がしたもんでの」
む。そうか、そんなに昂ぶっていたか。
自分では密かに闘士を燃やすクールな反逆者のつもりだったが、忍が言うならそれは間違いないんだろう。
僕と忍は一蓮托生だからそのためってこともあるんだろうけど、ともかくとして忍には感謝だ。さすが年長者。年の功。
「む、儂を後期高齢者扱いすると……」
「思ってない! 思ってない! そんなこと微塵も思ってない! って、お前なにしてるんだよ?」
「見てわからぬか?」
と言って忍は両手に持ったドーナツをこちらに向けて見せた。ちなみに口の中にもドーナツが入っている。
それぞれ、ゴールデンチョコレート、オールドファッションハニー、フレンチクルーラーである。いい趣味してやがる。
だから先ほどの台詞は正しく表現するなら「みへわひゃらぬは?」だ。翻訳してあげたのである。
「見てわかるから言ってるんだろうが」
「なぁに、戦の前の腹ごしらえじゃよ。これからバトル展開なんじゃろう?」
「言っとくけど――」
「わかっておるよ。でも、それでも……じゃろう?」
確かに、こちらが白旗を上げたからといって戦いを止めてくれる者ばかりじゃないだろうさ。
そこまで僕は理想と主義に殉じてはいない。止むを得ない戦いがあるということも理解はしてる。納得はしてないが。
しかしどうしてここでミスタードーナツなんだ? 怪異は等しくドーナツを好むなんて話聞いたこともないぞ。
って、よくよく見ればテーブルの上に並んでいるのはミスタードーナツばかりでなく僕の好物もあるみたいじゃないか。
これはつまりあれだ。死刑囚が死刑執行の朝に好きなものを食べられるとかなんとかみたいな。なんて悪趣味。
そして食べ物の好みまで把握されていることに僕はゾッと肝を冷やした。
「さてわがあるじよ。そろそろ話を進めるところじゃ」
言われて僕は再び振り向いた。あの八雲紫の方へ。どうやら質問タイムは終了し回答タイムへと移るらしい。
【007】
「……望みはなんでも叶うのかと? 正直に申し上げましょう。この世に絶対という言葉はありません。
なので、どんな願いでもとは確実には保証できません。ですがそれでもこの私なら多少の道理は曲げてみせましょう。
過去を見せろと言われれば見せましょう。
未来が見たいと言うのならば案内しましょう。
御伽噺の中にある宝が欲しいと言われれば取ってきましょう。
誰も知らない問題の答えが欲しいというのならば答えてみせましょう。
愛する者を亡くしたのならば、黄泉路へと足を運び連れ戻してまいりましょう」
死者蘇生。……できるのか? それならば、いや、信じてどうする。仮に真実だからといってそれがなんだ。
それは人をしてもいいという免罪符にはならない。生き返らせるからさせて、なんて通る話じゃない。
「……ならば、『このし合いをなかったことにしてみろ』と言われますか。ええ、勿論それは可能な願いです」
その発想はなかった。なるほど、終わった後に全てをチャラにするというわけか。
死んだ者を生き返らせろなどという対処ではなく、根本的な意味での完全解決。事象ごとの完全抹消。
確かにそれを願えば途中経過がどうであろうが問題ではない。だがしかし、可能だからといって叶えてくれるのか?
それにランプの魔神の寓話じゃないが、こういった根源を揺るがす願いというのは手痛いしっぺ返しがあるのが相場だ。
「確かに、皆がその願いを叶えてもらうとここで誓うならば、これからし合いをする必要もないでしょう。
あってもなくてもどちらにせよなかったことになるのならば、してもしなくても同じというのは道理です。
ならばここにいる皆に問いかけましょう。それを望むのか。
全員が等しく望むのであれば、貴方達はここで起きた全てを忘れただちに元の世界へと解放されます」
- 13 :
- 更に話の流れは変わった。もし、実現するというのであればこの願いと質問はたったひとつの冴えたやり方だ。
どこの誰かはしらないが僕は心の中で拍手喝采を送ろう。もしこれで元の日常に帰れるのならばいうことはない。
命の大切さをひしと噛み締め、素敵な提案をした誰かに感謝して(忘れるはずだが)生きていこうと思う。
「忍」
「わかっておるよあるじ様。儂も肯定し誓おう。仮に優勝すれば全てをなかったことにするとな」
じゃがな、これは無駄じゃよ。と忍はぼそりとこぼした。そして、儚い望みはやはり儚いままに終わったのだ。
「……残念ながら、また私には都合のよいことに、それでもなおし合いを望むという方がおられました。
なので、やはりこのままし合いをはじめたいと思います」
落胆は、それほどない。
全く素性のしれない僕達以外の数十人だけど、全員が同じ価値観を持っているなんてそれこそ天文学的確率だ。
そもそもこれは真偽の確認が取れない問題なのだ。八雲紫が嘘を吐いている可能性は多分に存在する。
願いを叶えるというところからして嘘である可能性もあるのだ。
なので、それらを含め、し合いが始まる前に様々な可能性を検討できた。今はこれで十分だとする。
妥協でしかないが。妥協は時に可能性をすが。しかし大事なのはバランスだ。分不相応を得ようとすれば人は死ぬ。
「ですが、その前に……禁則を破った者の末路を見せましょう」
ドキリと心臓が跳ね上がった。なんてこった。このまま始まるのなら、最低限“ここでは誰も死なない”と思ったのに!
所謂みせしめというものはあると思った。しあえなどと素直に従う人間がそういるはずもない。
そうなれば言うことを聞かせるための脅しは必要だ。それを欠かさずしてゲームが始まるわけがない。
けど、もし始まるまで相手の掌の上で転がるように従順に行動すれば、それも必要なくなるのではないかと、
そういう意味での“妥協”だったが……しかし、みせしめはやはり規定路線だったらしい。妥協の甲斐もなく誰かが死ぬ。
「主たる《エンリコ・マクスウェル》とその従者《アレクサンド・アンデルセン》」
僕の前方。僕と八雲紫を繋ぐ距離のおよそ半分くらいのところにあった人影がパッと鮮明な人の形となった。
後姿だから顔は見えない。けど名前からするに外国人だろう。そして彼らは揃いの黒衣に身を包んでいた。
おそらくは神父。そしてつまりは吸血鬼ハンター。いや、これはただの偏見と勘だが、
一度吸血鬼として神父と対決したことのある僕にとっては神父=吸血鬼ハンターなのである。
「し合いの始まる前にしてしまうというのは私が禁を破ったに等しい。
なので代わりに貴方達二人の願いを今叶えましょう。――《私としあいたい》という願いを」
先ほどの全員の願いが一致しなかったのは、欲にかられた者がいたからと思ったがそんな願いを思う人もいたのか。
いや、僕には理解できるはずだ。あれが僕の知っている神父と同種なのだとしたら彼らは《怪異》を見逃さない。
【008】
「――悪しき者の計略にあゆまず、罪人の道に立たず、あざける者の座にすわらぬ者は、さいわいなり。
かかる人は主の法をよろこびて、昼も夜もこれをおもう。かかる人は、流れのほとりに植えし木の、
期にいたりて実をむすび、葉もまたしぼまざるごとく、そのなすところみな栄えん。
あしき人はしからず、風の吹き去るもみがらのごとし。
されば悪しき者は審きにたえず、罪人は義しき者のつどいに、たつことをさえざるなり。
そは主は義しき者の道を知りたもう、されど悪しき者の道はほろびん」
神父の一人、従者だと言われた方が前に出る。
彼はただの人間だろう。しかし僕は知っている。《怪異》を狩るほどまでに突き詰めた人間のエゲつない強さを。
「あいつらはあいも変わらず念仏が長いの。儂の可愛い耳が腐って落ちるわ」
お前が間違えるなよ。あれはどう聞いても聖句だろ! と、僕が内心でツっ込んでいる間にそれは始まって終わった。
実に1秒にも満たない時間でのできごとだ。言葉ひとつ発する間もないことで、だから台詞もなにもなくそれは終わった。
- 14 :
- 最初に動いたのは従者の方の神父。突然加速したかと思うと黒い雷のような猛スピードで八雲紫へと突進した。
後ろから見ていたのが幸いした。でなければ吸血鬼の反射神経と言えどあの速度ではすぐに視界外だったろう。
そして次の瞬間、その神父が唐突弾けて、跳ね返った。何が起こったか、理解するまでに数瞬かかる。
彼が見えない壁にぶつかって跳ね返されたと理解したのは、半ば肉塊と化した彼が僕の前に落ちてきた時だった。
この時点で彼は死んだと思った。
だってそうだろう。普通の人間は身体が半壊するようなぶっ飛ばされ方をしたら即死だ。彼が人間なら間違いなく死ぬ。
けどそんな常識は容易く打ち破られた。彼は再生し、立ち上がったのだ。
無論、吸血鬼ほどの再生スピードではなかったが、逆に人間の常識の中にある再生スピードでもなかった。
正直に言おう。これまでの時点で僕はこのし合いをどこか舐めているところがあったことを。
曲がりなりにも吸血鬼とその眷属である。忍の本当の力は反則なまでに強い。最悪、それを解放すればと思っていた。
積極的には望まないまでも、そういう奥の手。最終手段があるのだと心の底で安心しきっていたのだ。
しかし、そんな軟弱な覚悟ですらない腐った性根はこの後木っ端微塵なまでに打ち砕かれる。
再生しながら立ち上がる神父の前で、彼の主人である神父の姿が消えた。それこそ神隠しのように一瞬で。
わけがわからなかった。また見えなくなったのかと思った。そして、僕の目の前にいた神父の姿も消えた。
今度は見えた。
近かったのもあるだろう。けどそれよりも、絶対的な危機感が僕の吸血鬼としてのスキルを強化したという方が正確だ。
それでも一瞬だが。一瞬とはいえ見えた。得体の知れない《何か》が神父を呑みこむのを。
「これが禁則を破った者の末路です」
八雲紫の声が聞こえた。その次の瞬間――
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- 15 :
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絶叫が響き渡った。いや、そんなものではない。声とは思えなかった。ならば絶音。いや絶怨と表現するのが正しいのか。
例えば人間を雑巾を絞るように頭と足の先を持ち実際に絞ってみたなら、こんな悲鳴が絞りだせるのかもしれない。
あるいは喉に細かいガラス片をびっしり詰めて叫ばせれば人間はこれほどの音を口から発せられるのかもしれない。
しかししかし、こんな想像では生温い。今聞こえているこの怨声はそんな程度では到底及びもしない心に罅く断末魔だった。
- 16 :
- 悲鳴とはそもそも危険を知らせる為に発信されるものである。危害を音声に変換して周囲に知らせるサイレンである。
聞いた者の恐怖を喚起し、警戒を促し、危険を自覚させ、逃走を実行させる根源的で本能に直接響く音声信号。
故に不快でありながら決して忘れられることのない動物としての機能。重要だからこそ、これは不快に深く機能する。
そして、それは十全に機能していた。耳から入った信号は全身に危険をこれでもかというほど詳細に伝えてきている。
いや、それは過剰すぎた。思考能力は機能しなくなり、眼球は振るえ、噛み鳴らす歯が口内をザクザクと傷つける。
身体中の筋は千切れんばかりに引き絞られ、膨張した心臓と血管が今まにも破裂しそうだった。
聞いているだけでる。それは、それほどまでに怨嗟と苦痛に満ちた悲鳴だった。
【009】
悲鳴が聞こえたのはほんの一瞬だったと思う。
長くとも5秒といったところだろう。無限の時間のようだったが、本当に無限だったのなら僕は精神は破壊されている。
地面に膝をつき、手もついて、四つん這いの格好で僕は上がった息を整えようと静かな呼吸を繰り返した。
吐き気がする。手足の先まで悪寒に包まれていて感覚があやふやだ。汗がぐっしょりと全身を濡らしていて気持ち悪い。
「今のが、禁則を破った者の末路」
八雲紫の声が聞こえる。顔を上げる余裕は今の僕にはなかった。なので声だけを耳で拾い続けた。
「私は……、
『死などは生ぬるい』『死など怖くもない』『死など知りすぎている。何度も繰り返した』『今まさに死んでいる』
という方ばかりをここに集めたつもりです。
ならば、ここで与えられる死がただの死では意味がない。罰は死よりなお厳しくなくては禁則に意味がない。
その為に特別な死を用意しました。私の力でここで死した者は直接地獄の最下層へと送りましょう。
――阿鼻地獄。
それがどのようなものかは先ほどの魂を砕き漂白する絶鳴を聞けば理解できたはず。
あれを五千四百万年通してようやく輪廻転生の機会を得られる。地獄の最下層とはそのような処なのです。
これならば、ここにおける死は誰にとっても重大なものであるはず。
逆に生還がこの世のなによりも価値を持つものだと考えることもできるようになるでしょう」
滅茶苦茶だ。どんな業を背負ってくればそんな馬鹿げたデスペナルティを受けるゲームに挑戦しなくちゃならないんだ。
負けたら地獄落ち。文字通りに地獄落ち。しかもただの地獄でなく阿鼻地獄だって? 糞ッ! 滅茶苦茶だッ!
「ただ死すれば亡骸を残し魂だけを地獄に送りましょう。しかし、禁則を破れば先程の者達と同じ末路を辿ります」
それはつまり、死んでから地獄に落ちるよりも、生身のまま落ちるほうが責め苦は辛いってことで、
戦って死ぬほうが少しはましだってか? けど、僕はどっちにしたって地獄落ちは真っ平御免だ。畜生めッ!
「この恐怖と興奮が冷め遣るまで待つのもよくない。では早速し合いの舞台へと貴方方を飛ばしましょう」
し合いが始まる。始まってしまえばもう止めることはできないだろう。否が応にも僕は選択を迫られる。
- 17 :
- どうすればいいのか? 僕はそれだけを目を瞑りながら心の中で繰り返し――
――そして、再び。唐突に落ちていったのであった。
し合いの舞台。地獄の真上へと。
【010】
「最後に。
貴方達主従と一緒に背負い袋を一組につき一つずつ送りました。
土地の地図と、し合いに参加する者の連名簿。それらに印を打つ為の筆記具に、明かりのつくもの。
それとし合いに使う道具を四つ中に入れておいたので、自分の物として自由に扱っいなさい」
【エンリコ・マクスウェル@HELLSING 死亡】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING 死亡】
【主従キャラバトルロワイアル 開幕】
※
【主催者】:八雲紫@東方儚月抄
- 18 :
- 以上で投下終了です。
- 19 :
- なにこれどうやって死んだの?
- 20 :
- >>19
三途の川をショートカット
- 21 :
- >>20
それだけで悲鳴あげるものなの?
- 22 :
- 阿鼻地獄(無間地獄)
生・盗み・邪・飲酒・妄語・邪見・犯持戒人、父母害・阿羅漢(聖者)害。
地獄の最下層に位置する。大きさは前の七つより大きく、縦横高さそれぞれ二万由旬。最下層ゆえ、地獄に落ちるまで、まっ逆さまに(自由落下速度で)落ち続けて到着するまで二千年かかる。
前の七大地獄並びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、千倍もあるという。剣樹、刀山、湯などの苦しみを絶え間(寸分・刹那)なく受ける。背丈が4由旬、64の目を持ち火を吐く奇怪な鬼がいる。
舌を抜き出されて100本の釘を打たれ、毒や火を吐く虫や大蛇に責めさいなまれ、熱鉄の山を上り下りさせられる。これまでの地獄さえ、この無間地獄に比べれば夢のような幸福だという。
この無間地獄の寿命の長短は1中劫という。1中劫とは、この人寿無量歳なりしが100年に一寿を減じ、また100年に一寿を減ずるほどに、人寿10 歳の時に減ずるを一減という。
また10歳より100年に一寿を増し、また100年に一寿を増する程に、8万歳に増するを一増という。この一増一減の程を小劫として、20の増減を一中劫という。
例えの一例としては、一辺が一由旬の巨大な正方形の石を、100年に一度柔らかな綿で軽く払い、その繰り返しで石が磨耗、消滅するよりもさらに長い時間だと言われる。
この地獄に堕ちたる者は、これ程久しく無間地獄に住して大苦を受くという。
要するにめちゃくちゃキツイ地獄に落とされましたということでは
- 23 :
- 叫び声はマクスウェルだけだな
アンデルセンはむしろ大喜び
地獄の底で十字軍やれるんだから本望だろう
- 24 :
- 投下します。
- 25 :
- 【001】
「こんなに月も紅いのに……ええっと、あの時はなんて言ったんだっけ?」
「『楽しい夜になりそうね』ですわ。お嬢様」
しんと静まり返った闇の深い森の中、そのもう少し奥に木々が開き月光の降り注ぐステージのような場所があった。
そして、闇の中よりなお静謐なその場所に、可愛らしいドレスに身を包んだ幼き少女と彼女に仕える瀟洒なメイドがひとり。
「ああ、そうだった。あの夜は楽しかった」
「そうですね。後片付けは大変でしたけれども」
夜天に浮かぶ満月を見上げる少女――メイドのほうもまだそう言えるくらいには見える。は、どちらも、
あのような地獄、それも一番深く恐ろしい地獄の一端を垣間見たというのに平然としている。
それはそもそもの気性なのか、それとも二人が尋常な存在ではないからなのだろうか?
「私は夜が明けたら寝てしまったけど」
「私は夜が明けても寝る暇なんてありませんでしたけど」
ドレスに身を包んだ幼き少女――レミリア・スカーレットは吸血鬼である。
彼女に仕える瀟洒なメイド―― 十六夜咲夜もまた人間でありながら普通ではない力を持っている。それも強大な。
そしてこの二人は幻想卿というところから来た。
人の心から怪しいものを恐れる気持ちが失われつつある今、妖怪や神がそのままの姿でいられる数少ない場所である。
彼女達二人(とその仲間)もまた人の記憶から追われ、あるいは置いていかれた幻想の一員なのだ。
そして、その幻想卿を生み出したと言われているのが、あの他でもない八雲紫なのであった。
なので二人は八雲紫を知っている。
よくは知らないが。しかしこれは彼女達のせいではない。八雲紫は皆に自分を分かり易くは知らせていないのだ。
「それで、どうしましょうかお嬢様?」
「どうって?」
二人は丸い月を見上げながら会話を続ける。月光は怪しに近いものにとっては清流のようなものなのだ。
「これが《異変》でしたら解決しなくてはいけないと思うのですけど……」
「あー、あのスキマ妖怪をやっつけるってこと?」
八雲紫はスキマ妖怪と呼ばれる。しかし正式名称ではない。そんな名前の妖怪の分類は存在しない。
けど、彼女のことをどう呼んでいいかわからないから、皆はスキマを操る妖怪なのでスキマ妖怪だと呼んでいるのである。
「そうですね。立ちふさがる相手と戦いながら《異変》の主を探して」
「いつか満月がおかしくなった晩も私と咲夜でそうしたわよね」
幻想卿では幻想卿の存在を揺るがすような大きな事件のことを《異変》と呼ぶ。
《異変》は解決されないといけないのでそれ専門の者が対処することとなっている。そこに物好きも多少加わることもあった。
レミリア・スカーレットもかつては「紅霧異変」と呼ばれる《異変》を起こしたことがあり、《退治》されたこともある身だ。
そしてそう言ったように、《異変》を解決する側として動いたこともある。
何を隠そう、同じくこの場所に連れて来られた「蓬莱山輝夜」と「八意永琳」、
彼女達が起こした《異変》――「永夜異変」の解決に大きく寄与したのがこのレミリアと咲夜の二人なのである。
「ええ、ですから今回も……」
「だめだめ。咲夜、それはもう無理なことよ」
咲夜は主人の言葉に首をかしげた。
この500年も生きているのに見た目と精神とがそう変わらないご主人は「無理」なんて言葉を口にしないと思ったからだ。
- 26 :
- 「はい?」
「これが《異変》だとしたら私達はもう《異変》の真っ只中にいることになる。外から見たら人質みたいなものよ。
だからもう私達にはこの異変を解決する側に回る資格がない」
「そういうものなんですか?」
「それに、相手はあのスキマ妖怪よ。ただの《異変》じゃないし……そもそも《異変》じゃないかもしれない。
だったら私達が気に病む問題でもない気がするわ。
そもそもあんな口上に乗ってあげる必要はないのよ。私は私の理由がなければ動かないことにしている」
「はぁ……」
理屈がわかるようなわからないような。咲夜は首をかしげたまま相槌を打った。
そしてどうやら、ご主人は降りかかった問題を解決するよりも、あえて無視するほうがより格好がつくと考えたようだった。
ならばそれに逆らうこともない。粛々と従うだけだ。し合いが好きな人間なんてそんなにいない。
「紅白巫女に任せましょう。これが《異変》ならあいつの仕事よ」
言って、レミリアは深い森の中へと足を進めてゆく。咲夜はあわてて背負い袋を拾い上げるとその後を追った。
森の中に踏み込むと途端に光は失せ視界は閉ざされる。
夜族であるレミリアは平気だが、まがりなりにも人間な咲夜はそうもいかないので足元もおぼつかない。
背負い袋を探ると、咲夜は骨董品のランタンを中から取り出しマッチを擦ってそれに火を灯した。
「では、どうなされるのですか?」
主人の小さな背中に追いつくと咲夜はこれからどうするのかを尋ねる。
「……そうね。せっかく幻想卿の外の世界に来たんだし、色々見て回りたいわねぇ」
「ああ、それは……私も興味があります」
率直な感想を述べる。
幻想卿では外からのものが中々見ることができない。そもそも幻想に近しいほど忘れられてなくては届かないからだ。
なので数少ない外からのもの――“最新の忘れられたもの”なんかは珍重され、価値はともかくとしておもしろがられる。
ここが幻想卿でないとしたら、普段幻想卿の中にはないものが色々と見られることだろう。
「面白いものが手に入るかもしれないし――ほら、あれを見て!」
「何か光っていますね」
森の中を歩き、そろそろ途切れるかというとこらへんで二人はその先に真っ白でまぶしい光を見つけた。
空に輝く星ではない。地上スレスレの低い場所にあるし、星はあんなに強く光っては見えない。
ならば、それはなんだろうか? いきなり、幻想卿では見たこともないものである。
「流星が落ちてきたのかも」
言ってみましょう。というとレミリアは無邪気に走り出した。
咲夜も慌てて――ランタンの中の油を零さないよう注意しながらその後を追って駆け出した。
【002】
「不思議ですねこの明かり。とても明るいのに強い力を感じない」
街道の脇に立てられた細い柱。そのてっぺんまで上った咲夜は先っぽから吊るされている明かりを見てそう言った。
森の中から見た光。その正体は現代社会に住んでいるものならよく知っているただの電気の街灯である。
しかし彼女達は行灯は知っていても電気の存在には馴染みがないのでそれがなにだかわからない。
ガラスの中に妖精が入ってるわけでもない。流星の欠片が入ってるわけでも、魔法がかかってるわけでもない。
となれば、実に不思議なものと彼女達の目には映るのであった。
「向こうの方にも並んでいるねぇ。なんだろう。明かりの実をつける鉄の樹とか?」
レミリアは街道に沿って立ち並ぶ街灯を見てそんなことを言う。
そして夜の静けさの中に沈む見たことのない街並みと見たこともない光に、ここは天人か月人の世界かもと思った。
- 27 :
- 「しかし、空を飛べなくなっているのは不便ですね。明かりを確認するだけでも服に埃が」
するすると鉄柱をすべり降りてきた咲夜がそう零す。
どういうわけだか不明だが、彼女達の空を飛ぶ力が発揮できなくなっていたのである。
「大方、あのスキマ妖怪は空を飛べたんじゃあ私達が逃げ出すとでも考えたんだろうさ」
幻想卿では彼女達妖怪や魔法みたいなものを使える者は皆空を飛べる。
逆に空を飛べないのはただの人間か獣などの地面の上で暮らすことを選択した、また余儀なくされたものだけだ。
生物の進化に囚われない“浮いたもの”である妖怪達が飛べない道理はない。
しかし、その空に浮かび飛ぶという性質はなんらかの(十中八九、八雲紫の)力で封じられていた。
「ちょっと上のものを確認するためだけに、上ったり踏み台や梯子が必要なのは不便ですね」
「かまいやしないさ。この世界はこのレミリア様が飛ぶには狭すぎるからね」
やはり動じない二人であった。
「それよりもあの光る硝子球。木の実みたいにもいで持って帰れないか?」
「どうでしょう? もいだら光も消えてしまいそうな気がします」
「だったらこの柱ごと持って帰る?」
「それはちょっと……」
そして変な会話をしている二人に近づく、これも普通ではない二人の人間がいた。
【003】
「今晩は。お嬢さん方」
レミリアと咲夜が振り向くと、道の真ん中に黒いスーツを着た女とその傍らに控える老執事の姿があった。
「こんばんは。変な人間」
レミリアの不遜な態度(本当は率直なだけなのだが)にスーツの女の口角が上がる。
浅黒い肌に長く伸ばした金髪。眼鏡の奥の瞳は鋭く、その笑みはまるで猛禽類を思わせるものだった。
対して笑みを浮かべるレミリアの小さな口の中にも鋭い牙が覗いた。
俄かに、周囲を包む空気が剣呑なものへと変化してゆく。
「……変な人間か。然り。確かに私は変わり者だ。ならば、お前はどうだ? 幼い吸血姫よ」
「さぁねぇ。私の周りは変なものばかりだから変じゃないものがなにかわからない」
静かな夜の空気が風もないのにゆらゆら揺れる。
「私は、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。“お前達のようなもの専門”だ」
「私は、レミリア・スカーレット。“お前達みたいなもの”には一度も負けたことがない」
ふんと、インテグラと名乗った女はレミリアを見下ろし鼻をならす。
レミリアも平べったい子供の胸をそらしてインテグラを見上げふんと鼻をならした。
「幼いからといって侮りはしない」
「侮ったりしないほうがいいわ。このツェペシュの末裔たるレミリア様を」
「……ツェペシュ?」
「そう。正統なる吸血鬼の血統よ」
ツェペシュの末裔――その言葉を聞いてインテグラの目が見開かれた。そしてその肩が小刻みに震え始める。
その名。吸血鬼の祖、串刺し公たるブラド・ツェペシュの名に畏怖したのか?
いや、そうではない。彼女はその名を、その者を“よく知っている”。だから、その肩の震えは――
- 28 :
- 「くっ……く、はははははははははははははははははは!」
――滑稽に対するものであった。
「は、ははは……。まさか、“あいつ”にこんな幼い娘がいたとはな! 知らなかった! いやあいつも“水臭い”!」
「お前、何がおかしい!」
肩を震わせ、いやもう腰を折って身体を抱いて大笑いするインテグラを前にレミリアの顔がかっと紅潮する。
どうして彼女が笑うのかレミリアは知っている。だからこそ恥ずかしく、そして怒り心頭だった。
「咲夜! こいつ、私を馬鹿にしたわ! 半しにしてあげなさい!」
「お嬢様。相手は二人いますけど、一人すんですか? それとも半分ずつですか?」
「残り半分は私がすから半分ずつよ!」
「…………御意に」
いつの間にか腰に刀を携えた咲夜が一歩前に出る。
「ウォルター。彼女達からはよく話を聞きたい。丁重におもてなししろ!」
「畏まりました」
対して、インテグラの後ろからはウォルターと呼ばれた老執事が一歩前に出た。
慇懃に一礼すると、戦闘態勢を取り名乗りを上げる。
「ウォルター・C・ドルネーズ。ヘルシング家執事(バトラー)。元国教騎士団ゴミ処理係――行きますぞ」
黒手袋を嵌めた老執事の手の中で透明な糸が引き絞られギリギリと空気を掻き鳴らす音が響いた。
「十六夜咲夜。紅魔館メイド長。現役のお掃除当番――と応えればいいのかしら?」
同じく名乗りを上げ咲夜が鯉口を切り鞘から刀を抜くと、月の光を跳ね返したのか、キンと澄んだ音が鳴り響く。
静かに構えられた切っ先はそのまま真っ直ぐと老執事の面へと向けられる。
月光の下。緊張に息を潜めるように周囲から音は失われ、そして――華麗な武闘の幕が切って落とされた。
【004】
最初に動いたのは咲夜だ。抜いた刀を水平に構え老執事へと突進してゆく。
しかし、先手を打ったのは老執事――ウォルターであった。
彼が手を振ると、その指に絡められた糸がひゅるひゅると口笛のような音を鳴らしメイドへと到してゆく。
十重二十重に絡み取ろうとする糸の群れ――だがしかし、メイドはそれをなんなく避けてみせた。
「――ほう!」
老執事の片眉がぴくりと上がる。
メイドは群がる糸をただ避けたのではない。群がる糸の隙間を潜り抜けたのだ。
いかにこれが“本調子”ではないにしろ、神業とも言うべき回避を見せたメイドにウォルターは心の中で賞賛を送った。
「――ええいっ!」
肉薄し袈裟に斬りかかってきたメイドの刀を老執事はなんなくと軽快なステップで回避する。
年を重ね老いたとはいえまだまだそこいらの若者に劣るような男ではない。
回避と同時に隙を見せた相手へと攻撃を重ねる。今度はひうんと鳴った糸がメイドの足元を絡み取ろうと地を走った。
が、それも容易く回避された。その場で跳び上がったメイドは空中で一回転すると捻りを加えて着地して見せる。
口笛を吹きたくなるような見事なアクロバットだ。
- 29 :
- 「ならばこちらも気張りませんとなぁ……ッ!」
これまで片手で糸を繰っていたウォルターは更にもう片手に仕込んでいた糸を解放する。
空気を掻き鳴らす音は単純な旋律から重奏へと変化した。倍に増えた糸は乗数のパターンを生み出しメイドを追いつめる。
前後左右天地。四方八方。縦横無尽。
糸は鳴り響かせる音を変化させながら、時に直線的に、時に曲線を用いて弾幕ならぬ糸幕、あるいは網幕を描く。
日本刀を持ったメイドはもう近づくことも叶わない。時折包囲の薄い部分を潜り抜けるがそれも最早老執事の計算の内。
「“王手(チェックメイト)”」
両手の解放から四手目。
一本の糸を跳躍して回避したメイドの、その着地点に残りの糸が到する。最早いかようにしても回避は不可能。
メイドは蜘蛛の巣に飛び込んだ蝶と変わらない。そしてこうなってしまえば生かすもすもこちらの思うまま。
そのはずだったが――
「――なっ!?」
糸の先に獲物を捕らえた感触はあった――だがしかしそれはあのメイドではなかった。そこにあったのは街灯だ。
ギリギリと音を立てて糸が鉄柱に絡みつきその表面を擦る。
いかに年を取ろうと敵と街灯を取り違うことがあろうか? そんなはずはない。ならばこれはどんなトリックなのか?
「ウォルター!」
主の声にウォルターは我を取り戻す。消えたメイドは視界の端を刀を構え突進してきていた。
その速度は疾風のようで今までになく早い。後、数瞬で刃は身体に届く。
迎撃体勢を整えるべく両手の糸を引く――が、引き戻せない。糸は鉄柱に絡みつき、ただ不快な音を奏でるだけだ。
普段使用している専用の鋼糸であれば鉄柱くらい紙に鋏を通すように断ち切ってしまうのだが、これはそうではない。
いつの間に消えうせていたそれの代用品として、つい先刻に釣具店の軒先から拝借した糸と錘でしかないのだ。
「……ッ!」
糸を諦めるとウォルターはそれを手から離し、代わりに半歩下がりながら腰に挿していた大振りのナイフを抜き出した。
心得がないわけではないが得意の獲物ではない。そして相手が糸を回避したトリックも見当がつかない。
勝算はいかほどか? しかし、そこに不平を言ってもしかたない。
見たところメイドの刀捌きも滅茶苦茶だ。ならばメイドにとっても日本刀というのは本来の獲物ではないのだろう。
そうであるなら、戦略的には条件は五分と五分。後は引いたカードの運と己の力量のみが計られる勝負でしかない。
眼前に迫るメイドに老執事の眼がギラリと光った。彼の本性は獰猛だ。ここで負ける気などさらさらなかった。
老執事とメイドの影が交差する。
メイドは再び上段に構えてからの袈裟斬り。ウォルターはそれに打ち合わせるようにナイフを斬り上げ――
「あっ」
と、メイドの声。ウォルターは打ち合わせると見せかけ、その瞬間にナイフを引いた。
くるりと逆手に持ち替えるとそのまま刀をかわし、前に泳ぐメイドとダンスを踊るように身体を反転させると
勢いをそのままに構えた肘を隙だらけのメイドの顎へと繰り出した。これが本命。これが戦闘における経験の差!
「…………ッッ!?」
が! 再びウォルターの決着の一撃は空を切った。そこにいるはずのメイドが何故かいない。
一瞬前のメイドのように攻撃をすかされたウォルターは同じように身体を宙に泳がせ、一歩二歩とたたらを踏む。
体勢を整えようとするがもう遅い。それはこの瞬速の勝敗を決するには十分以上に過ぎた隙であった。
「“王手(チェックメイト)”――ですわ。ご老人」
ひやりとした冷たい刃が首筋へと当てられる。
いかような手品を使ったのか、よろめいていたはずのメイドの姿は彼の真後ろにあった。
最早次の手はない。勝敗は決した――そう悟ると老執事はナイフを地面に捨て、両手を上げて降伏の意を表した。
- 30 :
- 【005】
「あなたはよいメイドをお持ちだ。レミリア嬢」
「そうでしょう。咲夜は私が認めたメイド長なのだから」
決着の後。あれほど怒りを表していた吸血鬼のお嬢様は一転してころころと笑い一際上機嫌なご様子だ。
見た目通りの幼い振る舞いを微笑ましく思いつつ、インテグラは一命を取り留めたと冷や汗を拭う。
ウォルターがいれば並の吸血鬼に遅れを取ることはないと思っていたが、まさかそれ以前のメイドに一本取られるとは。
「“捕虜”になった以上はおもてなしが必要よ。ねぇ、咲夜、お茶の準備をなさい」
「それは結構ですが、しかし道具もなにも持ち合わせていませんが」
いかに瀟洒なメイドであろうと虚空からお茶は出せない。それはもうメイドではなく魔法使いかなにかだ。
もっとも魔法使いであろうと、わざわざお茶を飲むのにそんな大仰なことはしないだろうが。
「この通りを戻れば街がある。我々の口に適うものがあるかはわからないが――」
「いいわ! おもしろそうじゃない」
インテグラの言葉に機敏に反応すると、レミリアは彼女の横をすり抜け急ぎ足で街の方へと歩き始めた。
それを慌ててメイドが追いかける。
あまりの無邪気さに笑いと呆れが半分ずつの溜息がインテグラの口から零れた。
自分も“お嬢様”ではある。しかしあんな風に子供らしい子供の時代を生きれたのはいつくらいまでだったろうか。
「“あれ”はどこから現れたのでしょうな」
老執事の言葉に「さぁな」と応えてインテグラは吸血鬼とメイドの後を歩き始める。
八雲紫と名乗った何者か。そして、眉唾だがツェペシュの血統を名乗った幼き吸血鬼とそのメイド。
あれほどの者らがこれまでどこにいたのか。そして彼女達が何を求めて存在しているのか、興味は尽きない。
「……そういえばウォルター。あのメイドが消えた技は一体なんだ?」
「さぁ、相対した私にもまだ計りかねます。ただ、言えるのは……」
「言えるのは?」
「催眠術だとか超スピードだとか、そういったチャチな子供騙しなどでは決してないということでしょうか」
なるほどとインテグラは神妙に頷く。実際に体験したウォルターが言う以上、その言葉は嘘偽りはないのだろう。
実際、傍から見ていたインテグラにしてもあれがそういった簡単な理屈で片付けられるものとは思えなかった。
「真ならよろしいのですがな」
「なんの話だ……?」
「ツェペシュの末裔という話です。それが本当ならば、“話は早い”」
「確かにな……ククク」
ウォルターの言葉にきょとんとし、そしてインテグラは失笑する。
もし本当にこの幼き吸血鬼が彼の――“アーカード”の子供だというのならばそれはそれは愉快なことだろう。
それも、あるいは悪くない。インテグラはその光景を幻想し、ゆるやかな笑みを浮かべた――。
【B-3/北西・路上/1日目-深夜】
- 31 :
- 【主:レミリア・スカーレット@東方儚月抄】
[主従]:十六夜咲夜@東方儚月抄
[状態]:健康
[装備]:なし
[方針/行動]
基本方針:八雲紫の言うことは聞かない。現状を楽しむ。
1:インテグラ達を歓待し話を聞く。
【従:十六夜咲夜@東方儚月抄】
[主従]:レミリア・スカーレット@東方儚月抄
[状態]:健康
[装備]:黒龍@戦国BASARA
背負い袋(基本支給品)、不明支給品x3
[方針/行動]
基本方針:レミリアお嬢様に従う。
1:街の中でお茶とお茶の用意ができそうな場所を探す。
【主:インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@HELLSING】
[主従]:ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING
[状態]:健康
[装備]:なし
[方針/行動]
基本方針:状況(バトルロワイアル)の打破。屋敷へと帰還する。
1:レミリア達から話を聞く。
2:アーカード、セラスとの合流。
[備考]
※参加時期は、北アイルランド地方都市ベイドリックでアンデルセンと対決した後。(1巻)
【従:ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[主従]:インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@HELLSING
[状態]:健康
[装備]:アゾット剣@Fate/Zero
背負い袋(基本支給品)、不明支給品x3
[方針/行動]
基本方針:インテグラお嬢様に従う。
1:インテグラを警護し続ける。
[備考]
※参加時期は、北アイルランド地方都市ベイドリックでアンデルセンと対決した後。(1巻)
※咲夜との対決で使用した「テグスと錘@現地調達」は対決した場所で破棄しました。
【黒龍@戦国BASARA】
片倉小十郎の愛刀。特別な能力は備えてないが手に馴染みやすく使いやすい。
【アゾット剣@Fate/Zero】
アゾット剣はと一般的に魔術教会で一定の成果を修めた者に送られる礼装であり、
短剣であると同時に杖としての機能も有し、魔術師の魔力を増幅させる効果がある。
この1本は遠坂家に伝わるもので、柄に真紅の宝石がはめこまれている。
【テグスと錘@現地調達】
ウォルターが鋼糸の代わりにと釣具店で調達したポリエチレン製のテグス。
しかし普段使用しているものとは比べるべくもなく、早々に破棄された。
- 32 :
- 以上、投下を終了しました。
- 33 :
- 投下乙です!
余裕のレミリア主従の口ぶりがいいw
なにより、ヘルシングと他作品の吸血鬼のクロスに胸が躍りましたw
ただ……幻想「郷」が全て幻想「卿」に……。
と、とにかく乙でした!
- 34 :
- 投下乙です
一番手に相応しいほどほどの濃さというか、よかったです
レミリア主従の余裕っぷりがらしいし、そこからヘルシングとの絡みがよく出来てました
とりあえずレミリアは今は乗らないが自分から解決する訳でもないか
情報源としては紫を知ってるから重要なんだが…インテグラらはどう立ち回るかな
- 35 :
- やばい、このレミィはブヒれる
アーカードと会ったら・・・・「パパー!」とか言っちゃうのか
- 36 :
- 両作品の原作の雰囲気が出過ぎです! 脳内で映像に変換余裕でした。
それにしてもウォルターさんの台詞w
- 37 :
- アンデルセン瞬で東方キャラTUEEEEEかよ
- 38 :
- 予約からして東方厨の巣窟なんやから(踏み台にされても)しょうがないやろ
まあこの流れなら三ヶ月もたずで終わるし、カリカリすんなや
- 39 :
- ここは参加者のほとんどがカタギじゃねえな
例外が数人いるが地位やらなんやらも入れたら普通の奴いないなあ
それはそれで面白いけど
- 40 :
- 投下乙
ウォルターも咲夜さんもかっけえ
どっちも今のところ乗る気はなさそうだけど、どうなるか
>>39
主従関係って時点で普通じゃないしなw
- 41 :
- 投下致します。
- 42 :
-
「―――ウォーカー、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、レミリア・スカーレット………どうやら某達以外の知った名前は無いようですな」
「そうか…それは不幸中の幸いだったな」
月明かりの下、ハクオロとトウカは会場に飛ばされて早々に、名簿と地図の確認を行っていた。
化学文明に慣れ親しんだ世界の人間ならいざ知らず、彼等のもといた世界はそういったものとはほぼ無縁で、かつ、
夜戦なども幾度と無く体験していた二人にとっては、最低限の光源さえあれば、夜でも図や文字を正確に見る事は難しくない。
「八雲紫と言ったか…あの女の言葉を信じるならば、主従関係にある者達ばかりを呼び集めていたようだからな。
オボロとドリィかグラァ、或いはクーヤとゲンジマルなども呼ばれて―――」
「なんと!! 聖上はかのゲンジマル殿と知遇を得ておられるのですか!?」
「あ、あー、まあ、ちょっとな」
口が滑ったな、とハクオロはバツが悪そうに軽く頭を掻く。
自分とクーヤ達との密会を知る者は、当人達も含めて数える程しかおらず、御側付たるトウカでもそれは例外ではない。
だのに、いきなり『生ける伝説』とまで言われた同族の英雄の名前を、自分の主の口から聞かされたのだ。それは驚きもするだろう。
「詳しい話は後々にするとして……次はこれを確認しなくてはな。トウカ。周囲に人影は」
「ございませぬ」
「よし」
周囲の安全を確認した後、ハクオロは支給された背負い袋から、八雲紫の言うところの『し合いに使う道具』を取り出し始めた。
ちなみに、ハクオロが地図と周囲の地形と月の位置とを照らし合わせて確認した結果、現在地はA−2のほぼ中央だという事が判明していた。
三方を海に囲まれた岬に当たる場所の為に視界は開けており、近くに誰かいれば容易にそれが分かるのだ。
「おお、これはなかなかの名刀でござる!」
最初に取り出したものは、黒い鞘に納まった業物の刀だった。それを確認したトウカの表情がパッと明るくなる。
「――フッ、ハッ! …ふむ。これなら聖上を御守りするのに過分はございませぬ!」
二、三振り空を撫でて、刀の使い心地を確かめたトウカが満足そうに言う。
その様子を見たハクオロも、幾許か安堵の表情を浮かべていた。
- 43 :
-
「さて次はと……む? 何だ、また別の袋が…」
次にハクオロが取り出したものは、軽くて大きな半透明の、見た事も無い材質の袋――所謂大きめのビニール袋だが彼等はそれを知らない――だった。
中にはこれまた見た事の無い材質の布キレが何十枚と乱雑に詰め込まれており、その殆どに様々な意匠の飾りや模様が付いていたり、
或いは様々な色に染め上げられたりしており、また、それらの布キレは全て共通して三つの穴が開けられており、それが更に二人の頭を悩ませていた。
「これは……何かの民芸品か? まるで見た事が無いが…。よく見ると、三つの穴の内二つは大きさが同じで、もう一つの穴より一回り小さいな」
「某もこの様な物は初めて目にします…。用途は皆目解りませぬが、この完璧に均一な縫製、職人芸などと言う言葉では済ませれませぬ……!」
「…染めの技術や意匠の一つ一つを取っても見事なものだ。だが……」
「だが…?」
「正直、この場では火を熾した時の焚き付けぐらいにしか使い道はなさそうだな」
「…確かに」
途中までは、未知の技術で作られたであろうこの布キレを真剣に調べていた二人だったが、実用性に乏しいと判断するや、すぐに興味は失せたようだ。
まあ重量のある物ではないし、取り敢えずは焚き付け用に、とハクオロは布キレをビニール袋に詰め直して脇に置き、三つ目の道具を取り出した。
「むっ!? これはかなり重いな……トウカ、ちょっと手伝ってくれるか」
「はっ」
「「せえ……のっ!」」
主に請われてトウカも背負い袋の中に手を伸ばし、二人で力を込めて持ち上げて取り出す。
果たしてそこに現れたのは、簡素な止め具で閉じられた一つの木箱だった。
「随分と重かったが中身はいったい…」
「お待ちを聖上。それがしが開けまする」
止め具を外そうとしたハクオロの手を自らの伸ばした手で遮り、トウカが申し出る。
危険が無いか調べようとしてくれているのだと察したハクオロはその意を汲み、コクンと小さく首肯した。
「ではまず…」
最初に先程入手した刀の鞘で木箱を軽く叩き、明らかな危険が無いかを確認し、次いで、刀の切先で器用に止め具を外し、その蓋を開ける。
――ここまで特に変わった反応は無い。
- 44 :
-
「…どうやら罠の類は無さそうですな。では中身は……うん? これは…」
「何が入っていた」
「ギヤマンの瓶でござる。それも、中に何がしかの液体が入ったものが大量に」
「瓶?」
言われてハクオロも木箱の中を覗き込む。すると確かにそこには、大量のガラス瓶が整然と並べ立てられていた。その数は実に十本もある。
「鉄(かね)製の回し蓋と、瓶の側面に張られた紙に何やら文字らしき物が書かれていますが…」
「これも見た事の無い文字だな。中の液体の透き通り具合を見るに、薬の類ではなさそうだが…」
「一つだけ蓋を開けてみましょう……ぬわっ!」
「どうした!! …うおっ!? こ、これは…」
突如叫び声を開けて瓶の口から顔を背けたトウカの様子に、何事かとハクオロが蓋の開けられた瓶を覗き込もうとするが、すぐにその原因が解った。
着物の袖口で口元を覆い、呼吸を整える。
「これは……酒か。それもとんでもなく強いもののようだな」
「は、鼻が曲がるかと思いました…」
念の為にと二人で手分けして調べてみたものの、木箱の中に入っていた瓶は全て、洋酒の瓶だった。
とは言え、最初の一本のような極めて強い酒はほんの僅かしか無く、それだけは二人にとって些細な救いだったが。
余談だが、この酒は全てとある世界のサザンクロスと言う町の酒場にあった物で、その酒場のマスターを害した者もこのし合いに呼ばれているのだが、
勿論そんな事など、この二人には知る由も無い。
「もしこの場にカルラがいたら、諸手を上げて喜んでいただろうな」
「某にもその様子が容易に想像できまする…。ともあれ、これは如何致しましょう」
「背負い袋には術法がかけられているようだし、邪魔にはなるまい。何かの役に立つやも知れんし、これも持って行くとしよう」
「御意」
トウカが酒瓶を木箱に詰め直し、その木箱を更に背負い袋に詰める。
それと入れ違える形で、ハクオロが最期の支給品を取り出し――直後、トウカの表情が一気に緩んだものへと変わった。
- 45 :
-
「か……かわいいにゃ〜…!」
「人形…?」
最期に姿を現したのは、金髪碧眼の女児を意匠した手縫いの人形だった。
先の布キレと比しても遜色ない見事な縫製と出来栄えで、変わった服装をし、頭部には赤い大きなリボンが取り付けられている。
「む。なにやら文が付いているな……どれどれ」
破顔して人形にほお擦りするトウカを余所に、ハクオロは人形の足に括り付けられていたメモを読んでいく。
どうやらこの人形は、遠く離れた所にいる人物と言葉を交わす事ができるという代物らしい。
ただし会話できる相手は、対となる青いリボンを付けた人形を持つ人物に限られるようだ。
「ふぅむ。…トウカ」
「ああ、かわいいにゃ〜、かわいいにゃ〜」
「トウカ」
「はっ! す、すみませぬ聖上! ついうっかり…」
「いや、いい。それよりもその人形をちょっと貸してくれ」
「はっ?」
頭に疑問符を浮かべるトウカだったが、メモを読んだハクオロの説明を聞き、得心がいくと「おお」と感心して頷く。
「であれば、特定の誰かと合流するのが格段に便利になりますな」
「ああ。だがその人物が友好的な人物であるとは限らない。なにしろ地獄(ディネボクシリ)とはどういうものかをまざまざと見せ付けられたのだ。
考えたくはないが、他者をめてでもこの場からの脱出を計ろうとする者がいても不思議ではあるまい」
「……」
一瞬、トウカがつい先刻の光景を思い出し無言になる。
『魂を砕き漂白する』と八雲紫が評したあの絶鳴は、歴戦の猛者たるトウカですら聞いた事も無いような、身の毛のよだつものだった。
「だが、それはだけ阻止しなければならない。我等が討つべきはあの八雲紫ただ一人。それ以外の者は皆、一様に被害者なのだ。し合う必要など何処にも無い。
怯える者を救い、狂った者を正し、皆と力を合わせて、この島から脱出せねばならない。
――力を貸してくれるな。トウカ」
「無論。その尊き志、それでこそ聖上でござる。
このエヴェンクルガが末子トウカ、どこまでも聖上と共に参りまする!」
誓いの口上と共に足元に納刀した刀を置き、トウカが片膝を付いて深々と頭を垂れた。
- 46 :
-
◇◇◇
「さて、最初は街に出て物資と情報を集めるつもりだったが……まずは移動しながらこいつで誰かと話をしてみるか」
先も述べたが、二人の現在地は三方を海に囲まれた岬。
周囲の見晴らしは良いものの、それは裏を返せば身を隠す建物や遮蔽物も無いという事で、飛び道具をもった狩人などに発見された時にはいい的だ。
故にハクオロは、先ずは近くの街にあるらしい漁港か病院へと、情報と物資の収集も兼ねて向かおうと決めていたのだが、
遠距離通信のできる人形が支給されていた事で、若干、行動方針に追加事項が増えた形となった。
「会話中の周囲の観察は頼んだぞ、トウカ」
「はっ!」
会話中に若干とはいえ発生する隙を補うべく、ハクオロはトウカにそう命じてから、人形の頭のリボンを外した。
これを外さないと対の人形に声が届かないという記述が、あのメモにあったからだ。
「あー……聴こえているだろうか。私はハクオロ。このし合いを止めようとしている者だ。
誰かはわからないが、この声が聴こえていたら返事をしてほしい」
【A-2/中央・岬/1日目-深夜】
【主:ハクオロ@うたわれるもの】
[主従]:トウカ@うたわれるもの
[状態]:健康
[装備]:通信用人形(赤リボン)@東方儚月抄
[方針/行動]
基本方針:他の参加者と協力して八雲紫を討伐し、島から脱出する。基本的に参加者はめるつもりは無い。
1:通信用人形で他の参加者と話をする。
2:病院or漁港へと向かい、物資と情報を集める。
[備考]
※参加時期は、アニメ20話『初陣』直前。その為、まだ自分の正体(ウィツァルネミテア)には気付いていません。
【A-2/中央・岬/1日目-深夜】
【従:トウカ@うたわれるもの】
[主従]:ハクオロ@うたわれるもの
[状態]:健康
[装備]:六爪@戦国BASARA、背負い袋(基本支給品。以下は背負い袋内)、大量の@そらのおとしもの、洋酒(木箱入り)@北斗の拳
[方針/行動]
基本方針:ハクオロを守りながら他の参加者と協力して八雲紫を討伐し、島から脱出する。基本的に参加者はめるつもりは無い。
1:周囲に気を配り、ハクオロを守る
2:病院or漁港へと向かい、物資と情報を集める。
[備考]
※参加時期はハクオロと同じく、アニメ20話『初陣』直前。その為、まだハクオロの正体(ウィツァルネミテア)は知りません。
※会場のどこか、もしくは他の参加者の支給品に【通信用人形(青リボン)@東方儚月抄】があり、ハクオロの声を通信しています。
- 47 :
-
【六爪@戦国BASARA】
伊達政宗が『六爪流』で振るう刀の内の一振り。その名が示す通り本来は六本一組で、正宗は両手の指と指の間に三本ずつ挟んで使用している。
【大量の@そらのおとしもの】
イカロスが智樹の命令(?)を誤認した為、不幸にも世界中を飛ぶ羽目になった空美中学校の女学生達の。
この会場では空は飛ばない。
【洋酒(木箱入り)@北斗の拳】
サザンクロスの酒場から持ってこられた、多種多様の洋酒が十本と、それを収めた木箱。とんでもなく強い酒も若干数ある。
【通信用人形(赤リボン)@東方儚月抄】
地底での異変の際に八雲紫が用意し、アリス・マーガトロイドを介して霧雨魔理沙に手渡された物。
頭のリボンを外す事で、対となる青リボンの人形の持ち主と会話する事ができる。要するに通話先が限定されている携帯電話のような物。
本来は戦闘支援機能もあるが、このロワではその機能は取り外されている。
- 48 :
- 投下完了致しました。
- 49 :
- 投下乙です
トウカは可愛いなあw
この二人は乗ってないけど通信できる人形かあ
さて、相手次第では…
- 50 :
- 織田信長、明智光秀投下します。
- 51 :
- 暖かくも冷たくもない夜の空気が二の腕あたりにまとわりつくのを感じる。空気は鉛が溶けたかのように重い。
どろどろのぬめりに喉が詰まりそうだ。作り物のように紅く丸い月の下で、明智光秀は恍惚に呻いた。
飛ぶ鳥さえ落とす邪気の主は、光秀の主君、織田信長である。
「検分が終了致しました。事態はやはり、非常に不可解かつ面妖なものと思われます」
光秀は厳かな忠臣の声で言った。
かしずくと、石床のざらざらとした加工の違和感がより強くなる。これまで触れたことのない冷たい仕上げだ。
視界の端に覗く街は押し並べて陰湿で、光秀が知るどの城下とも違っていた。
主従は市街地の中でもとりわけ強く天を衝く摩天楼の屋上に居た。都会に見るそれとは流石に一段劣るが、戦国の世に生きる光秀には知る由もない。
濡れたは虫類を思わせる銀髪越しに、深く凝った憤怒の情が伝わってくる。
静脈を流れる血に汚物が集うように、主の怒りは時間とともに濁っていく。
「書状に名を記された者のうち、我らが知るのは奥州の独眼竜とその右眼のみ……あの八雲紫なる女の意図、皆目検討もつきません」
詰まるところ、分かったことはない。
第六天魔王、織田信長にすれば万死でも足りぬうつけといったところか。
万死。その言葉は光秀を刺す氷の刃だ。震え上がるような快感が背筋をかけめぐる。
頭の先で、古びた大樹を思わせる黒灰色の甲冑が鳴った。信長が振り返ったのだ。
怒り、猛っていることは顔を上げずとも分かる。主の瞳はこじ開けた肺腑から溢れる血のように暗い。
光秀は今頭から尻までを、冷酷に貫かれている。この視線だけで、楼閣が足元から崩れてしまいそうだ。
平時なら、光秀は斬首を覚悟しなければなるまい。尾張に聞こえた織田軍に無能の居場所はない。
過去の武勲など、盾とするには紙切れよりも頼りなかった。
- 52 :
- 「誠にお詫びの申し上げようもございません。ですが、あの八雲紫なる女、およそこの世の理に沿うものとも思われません」
美しい女だった。胸を刺せば立てた刃ごとこちらが飲み込まれてしまいそうだった。
あれにかかれば世の道理さえ、畜生でも手懐けるかのように容易く曲げてしまうのではないか。
女には、そう思わすだけの、甘美な妖しさがあった。
「闇雲に動くのは得策ではないでしょう。ひとまずはこれにて、御身をお守りください」
光秀は一振りの剣を恭しく差し出す。主の身を第一とする臣下の構えだ。
掲げた剣は雄々しさの中に気品を滲ませる業物だった。大剣であることは同じでも、信長が得意とする武具に装飾品としての美はない。
信長が刀を手に取り、光秀の手から重みが消える。遠雷と地鳴りが同時に起きたような主の息吹に、月さえ雲間へと潜んだ。
暗がりに深紅の外套が振るわれる。信長は下界の様子を確かめるかのように、再度背を向けた。
柄に刻まれた荘厳なる獅子は、魔王の瘴気に包まれ、少し黒ずんだようだ。
与えられた武器はもう一振り。光秀の得意とする鎌があった。
これで存分に戦えということだろうが、刃を波のように歪めた細工は、光秀にとっては趣向が足りない。
「恐れながら」
落ち着いた、知将としての声を崩さず、光秀は敢えて進言することにした。痩せた左手に青い<<印>>が刻まれている。
「まずは信長公御自らの目で、此度の事態を見極めることが先決かと思われます。
我らは既に喉元に刃を突き付けられたも同じ。対処に要する情報はいくらでもあります。
地の利を得、諜報に努めたうえで兵を用いずば、戦には勝てない。そのことは信長公が誰よりよくご存知のはず。
道中刃向かう者あらば皆しにし、従う者は駒とし使い潰せばよいだけのこと。
子細は知れぬとはいえ、屍の山を築くことは、八雲紫の望みとも重なりましょう。
この地を平らげ、地と慟哭が満ちれば、いずれあの妖の者に至る道も開けるかと」
およばずながら、私が露払いを務めましょう。
地に接する頭を一層低くして、光秀は言った。
「光ぃ秀ぇ……」
「はっ……」
- 53 :
- 参謀の鑑とも取れる直言に、主は刃を向けることで答えた。
切っ先が光秀の登頂にぴたりとあてがわれ、皮一枚を隔てて止まる。
主が手を突き出せば、光秀の頭蓋にはくり抜かれたかのような丸い穴が空くだろう。
刃を引いて撲りつければ、首から上が憐れな水風船と化す。
沈黙を、光秀は己が死に気を巡らすことで満たした。散じた吐息が雲に届く程に、長い時が過ぎる。
果たして信長は刃を掲げ、躊躇いもなく振り下ろした。
狙いは光秀の命ではない。伏した身から拳一つ前に刀が刺さり、同時に、火薬が壷ごと弾ぜたかのような爆風が巻き起こった。
災害にも等しい魔王の豪腕が、その怒りを吹き荒ぶ風に変えたのである。
ごうごうとしたうねりに髪を巻き上げられながら、光秀は従順な姿勢を崩さない。
屋上の四方を囲う金網が、荒れ狂う力に無残に折り曲げられてさえ、光秀が動くことはなかった。
風が止む。他方、鞭打つように続く信長の罵声は、収まることを知らない。
「小賢しいわぁ……我は第六天魔王、織田信長ぞ。
地獄など、とうに我が内にあり。我が覇道を阻む愚者は、残さずそれに飲まれるのみ、よぉ……」
「これは出すぎたことを申しました。この光秀、心よりお詫び申し上げます」
凪そのものの口調で光秀は詫びた。対応を誤れば、今度こそ死ぬことになる。
息絶えた骸のように微動だにしない光秀に、信長の興は失せたようだ。襤褸屑を見るような一瞥と、剣を収める気配を察した。
顔を上げると、とりわけ大きく歪んだ金網の一角を、主が踏み潰すように乗り越えている。
出陣である。
「是ぇ非も無しぃ」
地上までの距離を意に介さず、魔王は暗黒の空にその一歩を投じた。
◇ ◆ ◇ ◆
- 54 :
- 土壁の上を行くような踏み慣れぬ感触を足元に味わいながら、光秀は主君の後に続く。
異界の街には夜が蔓延るのか、月が出ているにも関わらず街並は暗い。
あるいは、この闇もまた光秀の三歩前を行く主、織田信長が発るすものかも知れない。
(信長公のこれ程までの怒り……まさに甘露というものです)
味わったばかりの愉悦を反芻すると、思わず舌がのぞいてしまう。
国も兵もなく、自らの野望にさえ枷を嵌められた信長のどす黒い感情は、決して一度で味わいきれるものではない。
一歩ごとにきしむ甲冑の冷たい音が今の織田軍の全て。戦わずして敗残の将となった信長の腹は、自らを焼きす程に滾っているだろう。
鎧の継ぎ目から立ち昇る焼け爛れた毒の香りは、光秀がもっとも愛するものの一つだった。
このために、織田軍に仕えていると言ってもいい。
だが、一方で、二つとない好物を貪って得る悲鳴のような喜びが己に以前程の刺激を与えぬことを、光秀は自覚する。
原因ははっきりしている。
(あれが地獄……亡者たちの、絶望に満ちた歓喜の調べ……)
半刻程前、八雲紫の手でさらし者となって消えさった、あの偉丈夫の叫びである。
耳にこびりついて離れない。いや、離したくない。
巨大な臼で身を粉にでもされたか、焼けた鉄に目を溶かし潰されたか。想像はもはや無為だ。
光秀の知るあらゆる責め苦を同時に受けたところで、あのような声は出まい。
思い返すだけで恐怖に我が身を抱きたくなる。できるならずっと聞いていたい。
内面の光秀は色を知った小娘のように、陶然と宙を舞っていた。辛うじて被っている知将の皮が、今にもとろけてしまいそうだ。
(私は、己が世界の狭さを知りました)
- 55 :
- ここがどこで、何が起きているのか。光秀にはどうでもいい。
文字通りの地獄。阿鼻といえば獄界の最下層、仏説に聞く悪鬼の世界である。
死してからの楽しみととって置いたものが、眼前に像を結んだこの喜び。来迎を得た僧は、まさに今の光秀のような心持ちだったのだろう。
気を許せばすぐにでも飛び込んでしまいそうになる。方法が与えられているのが、また心憎い。
(ですが、私一人では片手落ちというもの……最高の食卓には、それに見合う食材が相応しい)
鬼と張り合うには、やはり魔王。
温もりを求めるかのように、主との距離を詰める。
近付いた分だけ、信長の背が広くなった。この世の事どもで我に従わぬものは無しと、全身でそう語っている。
あの世ならば、どうか。
(果たして、貴方といえど獄卒の責め苦には膝を屈するのでしょうか。それとも、所詮退屈な里帰りとお笑いになるのか……。
ああ、考えるだけで、口元がだらしなくなってしまいます。信長公…………んふ、んふふふ……)
謀反には、何より機が重要となる。
今すぐにことを起こすのではない。焦りは禁物だ。億に一つの僥倖が、泡となって消え失せる。
信長の、海洋のごとき大欲が、潮で満ちるそのときに。
八雲の檻を踏み躙り、天に返り咲くその瞬間こそ。
共に。
(宴は待つ間が最も楽しいと申します……今は、この焦れるような疼きさえ、愛しき快楽のうち……)
待ち切れぬ。
訴えるように、光秀の胸が騒いだ。
- 56 :
- 【D-3/市街地/1日目-深夜】
【主:織田信長@戦国BASARA】
[主従]:明智光秀@戦国BASARA
[状態]:健康
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/Zero
[方針/行動]
基本方針:八雲紫を含む全ての敵の抹。
1:感情の赴くまま進む
【従:明智光秀@戦国BASARA】
[主従]:織田信長@戦国BASARA
[状態]:健康
[装備]:小野塚小町の鎌@東方儚月抄
背負い袋(基本支給品、不明支給品x2)
[方針/行動]
基本方針:栄華を極めた信長に謀反を起こし、共に地獄へ行く。
1:臣下として信長に従う。
【キュプリオトの剣@Fate/Zero】
第四時聖杯戦争にて召喚された英霊イスカンダルの愛刀で、極めて強靭かつ軽量。
イスカンダルはこの剣で空間を切り裂くことで、自らの宝具を召喚する。それが剣の力か、イスカンダルの能力によるものかは不明。
【小野塚小町の鎌@東方儚月抄】
三途の川の船頭を務める小野塚小町の鎌。
本来渡し守の仕事には不要であり、小町が持っているのは死者に「死神って本当にいたんだ」と喜んでもらうため。
- 57 :
- 以上で投下終了です。ありがとうございました。
- 58 :
- お二人とも投下乙です。
同じような戦乱の世に生きる主従なのに、このあまりにも極端な差はなんだろう…w
つか、最初から死ぬ気満々の参加者なんて、パロロワ界隈広しと言えどそういねぇぜw いなくはないが。
信長達の参戦時期は、少なくとも光秀が裏切る前か。
- 59 :
- 予定より遥かに遅刻してしまいましたが、
シンハート組と、八神はやてシグナム組を投下したいと思います。
- 60 :
- ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
燃えている。
街が燃えている。
愛するおまえの街が、燃えている。
草も木も人間でさえも、愛するおまえのものだった。
それが全て燃えている。
終焉か。 違う。
無に帰ったならば、また新しく作り直せばいい。
もっと大きく、もっと煌びやかで、おまえが女王としてふさわしい王国を。
できる。
おまえがいれば、できる。
しかし、おまえは拒んだ。
罪のない人々をさらに苦しめめることを、同じ過ちを繰り返すことを、おまえは拒んだ。
お前はもう耐え切れなかった、だからおまえ死んでしまったのだ。
俺の心から、俺の魂から、俺の記憶から、俺の全てから消えてしまった。
俺は泣いた。
生まれて初めて泣いた。
俺はおまえの心を最後まで掴むことが出来なかった。
街が、お前のために築いたこの街が、灰になってしまった街が。
墓標となってしまった。
だがこんな街も、富も、権力も、今ではもう全てが虚しいだけだ。
俺が欲しかったものはただ一つ……
ただ一つ……
★
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おお! ハート!! 蛇口をひねると水が出るぞ!!!」
「おやまあこれは驚きですねえ。 まるで大破壊が起きる以前の地球を思い出しますな」
電波塔。
名前だけでは風景な建造物の一つだと抱かれても仕方はないであろう
しかし実際は建造物内はもちろんのこと、建造物外もきちんと観光施設として映えている。
日本で一番有名な電波塔、東京タワーも内側ではファストフード店などの飲食店や、
お土産を取り扱っている雑貨屋、ちょっとした水族園や蝋人形館などの展示コーナーなどが行き渡っている。
(もっとも後者の二つはとてもタワー内でなければ許されないであろう粗末なものだが)
もちろん外も例外ではない。
たこ焼き、たい焼き、今川焼き、クレープ焼き、ホットドックなど軽食屋が多数存在し、
それらのご馳走を楽しく食べるための洒落たベンチやパラソル付きテーブルなども完備されている。
このように一言に電波塔といっても、全くもって観光名所なのである。
- 61 :
- sien
- 62 :
- さてそんな電波塔、D-1電波塔の外部にて金髪で雲のように白い服とマントを羽織った男と
サスペンダーを着たピンクのズボンを履いている山のような大男が、なにやら蛇口から水が出ることに興奮している。
傍から見れば『ばかめぇ!』などと煽らても致し方ないであろう。
だが彼ら二人にとって意図も簡単に水が手に入ることは、少なくとも彼らが存命中の時点では奇跡には近かったのである。
「ともあれキング、これで菓子にあうお茶が沸かせますな。 ささ、どうぞ席にてお待ちください。 このハートめが、殿下の為に最高のお茶を入れて差し上げます」
「うむ、期待しているぞ」
山のような大男であるハートが、やかんに水を入れながら、キングと呼ばれる男を席に待つように促す。
それに対してキングは奨励の言葉を放ち、水口から離れ先にティーセットと菓子を置いたの四人がけのテーブルの席にもたれかかる。
席に座る姿を確認したと同時に水が満杯に収まったことを確認すると、どこからか持ってきた電磁調理器具の上にそのやかんをセットして
調理器具のスイッチを押す。
沸くまでは結構時間がかかりそうですな、それじゃあその間少し休んでおきますかとハートはその場を離れキングの下へと向かう。
キングの隣へ向かうと、そこには鉄製のベンチがキングの席の左隣に鎮座されている。
座っても構わんぞとキングは言いつけると、ありがたき幸せと感謝の意を述べ鉄製のベンチへと着座する。
(これは十中八九備え付きの椅子にハートが座ると壊れることを懸念した、キングからの心配りである)
「水も出て電気もあり食事にもありつける…… ふっ、どうやら死後の世界というやつは随分快適な世界だな」
「左様でございます。 それに血生臭くない空気、生い茂っている木々。 正直天国と言っても大げさではありませんなあ」
「ユダがこの世界に呼ばれていたらさぞかし『う、美しい…… この世界こそ俺の理想郷!』などとほざいておっただろうな」
キングとハートがこの世界についての率直な感想を言い合う。
何一つ不備のない世界、これが二人の出した共通の感想である。
実に不可思議だと思われかねない。
なぜならば二人は『し合い』と呼ばれる悪辣非道極まりない行事に参加させれらてしまっているのだからだ。
たとえ快適な世界であっても、このような断りがある限る決して幸せとは思えない。
だがこの二人のとっては大したことではない。
理由は簡単である、二人のいた世界は『し合い』は日常茶飯事であった。
無論二人とも両手の指の数だけでは数えきれない程の傷を犯している。
そして彼らはそんな死が当たり前の世界で、常に死んでしまっている。
なぜ蘇っているのかはここに集めたやつかなんかしたんだろうとしか考えてはいない。
ただ、現世で死んだことは確かなので、最早世に未練などなかった。
そういうこともあり、二人は軽く電波塔を見学したあと、袋に入っていた菓子とお茶っ葉を確かめると先に食べておくかと言う結論に至り
現在にいたるのである。
本来ハートもキングも、共に一ヶ月程度なら食わずとも生きられる。
キングに至っては水さえあれば一年近くは生きていける超人的な躰の持ち主だ。
だからこそ今日より明日のことを考えなくて良い現今においては、とれる時に食事をとっておく。
何も異論はあるまい。
「しかしいいのかハート? サザンクロスを壊滅させられ、ユリアの心を掴めず、ケンシロウに敗れたこの俺に、まだ付いていきたと思うのか?」
キングと呼ばれるこの男は、死ぬ時には全てのものを失った。
築いた街も、愛する者も、そして自分自身の身体も。
そんな落ち武者に等しい自分にまだ付いていくのかと、キングはハートに問いかける。
「何をおっしゃいますか。 私ハート、南斗孤鷲拳伝承者であるキングの人柄、そして技量に惚れているのでございます。
例え何があろうと、このハートは一生キングの部下でございます」
席から立ち上がり、真剣な眼差しで膝をつきハートはキングにそう告げる。
そんな姿にもう良い座れとキングはハートに伝える。
- 63 :
- 「ふっ…… 満更でもない。 すまんな、今後も頼む」
「畏まりました…… っと、そろそろお湯が沸きましたかな?」
そろそろお湯が沸いていても可笑しくはないでろうとハートがやかんを取りに行こうと席を立つ。
瞬間、ハートとシンの目と鼻の先でガシャンッ! と爆音を立てて何かが地面に落下。
ハートもキングも思わずその何かに目を奪われる。
「「車椅子ですね(だな)」」
二人の目先に降ってきた、それは歩行困難者の必需品といっても過言でもない福祉用具の一つ、車椅子であった。
なぜこんな所に車椅子が? と疑問を浮かべるまでもなく、既に両者の答えは出揃っている。
「ハート、まさか車椅子だけが落ちてくるわけではあるまい。 大元俺たちをここに呼んだ輩の仕業だろう。
まあいい、とにかく俺は後から落ちてきた方をどうにかする、お前は先に落ちてきた方を」
「そうでございましょうなあ。 承知いたしましたキング、わたくしは先の方を行かせてもらいます」
そんな会話をした後、シンは電波塔の脚から猛スピードで駆け上がる。
ハートはそれを見ながら、自身は空を見上げ呟く。
「今夜は星が綺麗ですねえ。 北斗七星もくっきり見えますなあ〜」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
世の中にはどうにもならんことがあるんやな〜。
ホンマにそう思うわ。
だってな、し合いっちゅーわけのわからんもんに巻き込まれてしまっておることにすらまだ理解できへんのに、
私が飛ばされた所ってどこやと思う?
頂上や。 もう一回言ったる、頂上や。
それも山とかビルの頂上やない、タワーの頂上や。
………………
え、あの偉ぶっていた人馬鹿なん?
よく考えてみ? 地上から数十メートル超もあるタワーの頂上に二人、そのうち車椅子に乗っている人が一人おるのに、アホなん?
もう一度言うわ、アホなん? なんどでも言わせてもらうわ、アホなん?
とりあえず頑張ったほうだと思うんや、だって数十分はあの狭い所で耐えられたんやから。
でもなー流石に無理やった、バランス崩して車椅子が落っこちて、そこから先はもう坂道を転げ回るようにスイスイと最悪の方向へ向かって行きおったわ。
それでも数分はシグナムが必死で支えてくれたけど、私のほうが限界が来て…… あーもう語りたくないわ。
私が落下してからすぐシグナムも追って同様に落下したんや。
でも、シグナム、一つ言わせてくれへん?
もしかしたらシグナムは飛べるのかもしれんけど、今のシグナムは完全に落下しているだけやで?
……………………
- 64 :
- なんか物凄く落下スピードが遅いような気がする。
そう言えば死ぬ間際は物事がスローに感じるってどっかで言ってたっけ。
あーそうかー私死ぬんかー、死んじゃうんかー。
死ぬ間際ってこんなにもあっさりしているんやな。
北斗七星もくっきりと見えるで〜、目を瞑っても、なんかこう、光りの感覚が降り注いでくる。
…………………………
あかん。 現実逃避しとる場合やない。
死にたくない。
こんなギャグみたいな死に方いやや。
誰でも何でもええ。
神様仏様キリスト様ブッタ様アッラー様お犬様お猫様悪魔様……
誰でもいいです……
私は…… 私は…… 死にたくない!
ばい〜ん。
口で表したらこんな感じやろうか?
全てを諦めて色んな者に願っていた私の体は、こんな音を立てて再度宙を舞った。
「え? ひゃあ!?」
思わず情けない声を上げてもうた。
そして再び地面へと私の体は向かっいく。
「よっと」
野太く、優しい声と一緒に私の体はその声の出す者へ包まれていく。
落ちた衝撃は一切感じなかった。
私はその包まれたまま、瞑っていた目をゆっくりと開いた。
「豚や」
「お嬢さん、人を豚扱いするのどうかと思われますよ? ブヒ! ブヒヒ……!」
「あ、ごめんなさい」
確実に私の命を救ってくれた人に第一声で豚やはないやろ私。
と言うかこの人も結構慣れているんやな、おもいっきり鳴き声やりおったで。
こんなやり取りをしているうちに、私の大切な家族のシグナムも無事に私の下へ現れたんや。
金色の髪で真っ白な服をきた男の人にお姫様抱っこされながら。
…………………………
ノーコメントや。
私が向こうのほうが正しいんちゃうかな? と思ったりしたけど、それは気のせいや。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ハートさん、キングさん、本当に私とシグナムを助けてくれてありがとうございます」
「なあに、気にすることはありません。 困ったときはお互い様ですよ」
- 65 :
- 空から降ってきた少女達の騒動から早数十分がだった。
四人はハートが準備したお茶と菓子を嗜みながら、軽い情報交換と自己紹介をしている最中である。
そうして一通り相互のことが解りはじめた後に、八神はやては改めてハートとキングに感謝の意を述べていた。
対してはハートは笑顔で感謝を受け取る。 その笑顔に企みなどは一切感じられない。
続けて、今度ははやての従者であるシグナムが口を開く。
「しかし信じられぬな…… そなた達が既に死人であるなどと……」
「信じられるも信じられぬも、事実なのですからなあ。 まあ私もあなたについてはにわかに信じがたいので、そこはお互い様でしょうな」
シグナムは自らを命を救ってくれたこの二名が、常に死んだ人間であることは到底信じられなかった。
もちろんハートもキングも完全に理解しているわけではない、だが常に蘇ってしまっているのだから、
それ以上に深く考えてもしょうがないというのが見解である。
対するキング側もシグナム(とはやて)が『魔法』と呼ばれる非現実的な技を会得しているとには若干疑いを持っている。
けれども彼女らの出す雰囲気から、信認しても良いとは思っている。
もっとも、本来なら空を飛べるはずなのに、現在は飛べないという点が気がかりではあるが。
「で、ハートさん、キングさん。 これからどうします?」
しばらく他愛もない時間が流れ、それなりにお茶と菓子を満喫した頃であろうか。
はやては率直にこれからのことを口にする。
自分たちをこの場に追いやった輩から支給された名簿とやらには、二組とも他に知り合いなどは書かれていなかった。
だからこの二組にとって、現在の交友は自らの相方と目の先にいる二人だけどなる。
「私は…… こんな体やけど、し合いなんて絶対にやっちゃいけないと思うんや。
そりゃあハートさんやキングさん、シグナムは甘い考えって言われちゃうかも知れんけど、
それでも、私は絶対にあんな人の言う通りにしちゃいけないんと思うんや」
はやては思い切って自分から考えを唱えてみた。
しあいなんて絶対にやってはいけないし、そんな目先の欲にかられて大事なもんを失う訳にはいかない。
たしかに私は脚も動かない足手まといだけど、それでも誰かの命を奪ってまで助かりたくはない、と。
その言葉を言い放つはやての姿は、とても真摯で綺麗なものであった。
「主はやて、私も同様です。 主はやてを葬り去ろうとした輩の戯言には付き合う義理はありませぬ」
それに追随するのは無論シグナム。
当然シグナムもはやての発言に同意する。
「そうですなあ、私はあまり深く考えてはおりませんでしたなあ。
ただ、はやてちゃんのような純粋無垢な少女まで巻き込むとは感心いたしませんな」
対するハートは、本音を言ってしまえば何も考えてはいなかった。
自分とキングは既に死んだ身、ここでさらに何が起ころうと知ったことではない。
ただ、はやてのような純粋無垢な少女までこのようなことに巻き込む奴はとても許しがたい。
だからハートははやてと同じように、人を遊び道具にする奴には従いたくない。
三者が思い思いに言葉を放ち、最後の一人であるキングの方へと目を向けられる。
急かされているようであっても、キングは優雅にカップに入ったお茶を口に含み、空を見上げる。
それに釣られてか、ハート、シグナム、はやても同様に星空を仰ぐ。
そしてキングは、静かに口を動かす。
「今夜は星がよく見えるな…… 北斗七星も、そしてその脇に輝く蒼星もくっきりとな……」
- 66 :
- 「あ、ほんまやなあ。あ、私、こんなに満天な星空見上げたの初めてかも」
「確かに……」
「……そうですなあ」
キングの発言に他の三名も同調する。
そのまま星空を見ながら、更にキングは口を走らす。
「そうだな…… 俺もあいつが気にくわないのは同意だ。
だがな…… そう意図も簡単にし合いを破綻などはできるまい、奴も相当に手を打っているであろう」
キングはそのまま、今度は空ではなく電波塔の方向へ目を移す。
「だから俺は築こうと思う……」
「築く……?」
キングの言葉をシグナムが反芻する。
それを耳にしながらキングは三人の目を見て、一瞬目を瞑り何かを悟る。
そして目を見開くき、口角を広げる
「サザンクロスをだ!」
キングの思わぬ発言に、ハートは思わずおおっと声を上げる。
「奴に打ち勝つには俺たち四人では絶対足らん。
だから集めるのだ。
奴を打ち破る人材を。
奴を凌駕する知識を。
奴を排除する団結を。
奴を戦慄させる拠点を。
奴を喪失させる勇気を。
奴を絶望させる奇跡を。
奴を超える技を。
奴を認めさせる愛を。
奴を覚悟させる執念を。
このふざけたし合いを壊す全てを集めるのだ。
一つや二つではない、全部だ!」
キングの演説にはやてとハートは思わず心が熱くなる。
食事中は口数が一番少なく、何も考えているようにはなかったキングが、こんなにも大望を掲げているとは、側近であるハートさえも見誤っていた。
だからこの言葉に、大きく感銘を受けるている。
「ひとまず、この電波塔をサザンクロスの第一拠点して行動を取る。
この電波塔が、俺たちの第一歩となるのだ!」
高陽している場にキングは高らかに宣言をする。
それは決して生半可な気持ちではない、凄まじい気迫であった。
- 67 :
- ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ユリア……
お前は例え何でも願いが叶うとしても、戮を認めはしないだろう。
おそらく同じ状況なろうとも、お前は慈母の愛で救いの光となるだろう。
だから、今度こそはお前が望むであろう新たなるサザンクロスを築く。
そして打ち破る。
それでもお前は俺を許しはしないだろう。
だが、これが死んだ俺ができる唯一の贖罪だ。
それがこの世に再び生まれた理由なのだからな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
南斗孤鷲拳伝承者シン。
彼は己が拳の星、殉星に従い肉体が滅びようとも奔走し続ける。
新たなるサザンクロスが必要とされなくなる、その時まで。
【D-1/電波塔外部/1日目-深夜】
【主:シン@北斗の拳】
[主従]:ハート様@北斗の拳
[状態]:健康
[装備]:なし
[方針/行動]
基本方針:サザンクロスを築く。
1:サザンクロスを築く。
【従:ハート様@北斗の拳】
[主従]:シン@北斗の拳
[状態]:健康
[装備]:
背負い袋(基本支給品) やかん@現実 ティーセット@現実 紅茶葉(1s)@現実
サーターアンダギー×138@現実
[方針/行動]
基本方針:キングの野望に付き従う。
1:全てはキングの仰せのままに。
【共通備考】
※参戦時期は両者ともアニメ版の死後です。
- 68 :
- 【主:八神はやて@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[主従]:シグナム@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[状態]:脚が不自由
[装備]:なし
[方針/行動]
基本方針:キングさんを手伝う。
1:キングさんを手伝いたい。
2:いきなりあんな位置に飛ばすなんてやっぱりアホやと思う。
【従:シグナム@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[主従]:八神はやて@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[状態]:健康
[装備]:背負い袋(基本支給品) 不明支給品x4
[方針/行動]
基本方針:主はやてに従う。
1:全ては主はやてのままに。
【共通備考】
※参加時期は八神はやてはやての足の障害が治っていない時期からの登場です。
※ハート様がシンの説明をしたため、シンの名を『キング』と勘違いしています。
【やかん@現実】
やかんである。
最近はケトルとか電気ポットに圧されて見かけない。
【ティーセット@現実】
内容は
カップ&ソーサーが各六つ、
ポットが一つ。
綺麗だけどもブランド物ではない。
【紅茶葉(1s)@現実】
紅茶に使われる紅茶葉である。
特に高級なものではない、大型デパートに行けばで売っていそうなものである。
【サーターアンダギー×150@現実】
沖縄名物の一つである、揚げ菓子。
表面はサクサク、中はシットリもしくはモッソリとした食感があるおいしいお菓子。
沖縄行ったら是非食べるべきものの一つであろう。
- 69 :
- 以上で投下終了です。
誤字脱字、とんでもなく違和感がある所や矛盾などがありましたらご報告ください。
遅刻と見苦し言い訳をして大変申し訳ありませんでした。
ちなみに北斗の拳はアニメ版と漫画版に大きな相違点はありません。
- 70 :
- 予約していた阿良々木暦、忍野忍を投下します
- 71 :
- >>70
ハンネが◆gqRrL0OhYEじゃなくなっているけど本人で間違ってないので大丈夫です
- 72 :
- 予約していたハンネの◆gqRrL0OhYEじゃなくなってしまったのですが本人で間違いありません
ご了承ください
- 73 :
- 月の光が映る広大な海。
その光が良く見える砂浜には2人の人影があった。
1人はごく普通の高校生の少年。
もう1人は月の光の様にキレイな金髪のであった。
彼女は少年とこのゲーム、2つのトラワレビトとなっている。
だがその表情は絶望には屈していなかった。
「お前様これからどうするのじゃ?」
僕は目が覚めて忍に血を吸わせていたので吸血鬼の力が普段より高くなっている。
その為暗い今も周りは普通に見えている。
「わかってんだろ忍。決心した通り僕はこのゲームには乗らない」
今までに見た人間の死は3人。
ギロJッターにあの2人組。
僕はまた目の前の人間の死を助ける事が出来なかった。
それが僕は悔しくて堪らない。
そして主催側の人間にはそれをわからせたい。
八九寺との別れを通し僕自身、『命』の価値観がどのくらいかを知った。
絶対にこのゲームを終わらせる。
- 74 :
- 「そうか。まぁお前様ならそう言うとわかっておったがの」
ニヤリと笑う忍。
それからしばらく無言になっていたが、忍が何かを思い出したかの様な声を出した。
「ところでなんで儂らはこんな砂浜で大の字になって寝ておるんじゃ?」
「……」
あっ、多分シリアスパートの終わりが見えた……。
「僕は一度誰かとこういう風に寝てみたかったんだ。青春みたいだろ」
「なんでその誰かが儂なんじゃ!ツンデレ娘や猫委員長とでもやればよかろう!」
「戦場ヶ原も羽川もやってくれるわけないだろっ!」
「じゃあ他の奴に頼めば良いじゃろ」
「僕は人望が少ないから無理だ!」
「なんで偉そうなんじゃ」
というかシリアスパートを終わらせたのは僕の責任だった。
「まず何をするにしても背負い袋じゃ。その中身を確認せい」
「そういえばそんな物があったな」
- 75 :
- 背負い袋を開けると地図、名簿、筆記具、ライトを中から取り出した。
多分これはみんなに配られているのだろう。
「他の物も出すのじゃ」
「わかった」
僕が奥の深い背負い袋に手を突っ込み、何かを手に取った。
「何かすごい物出ろよ」
中から現れた物は何かがぐちゃぐちゃに壊された物でなんらかの金属の材料だった。
それに、何かのメッセージが付いていた。
『これは阿々良木暦の壊されたマウンテンバイクです。これを本人に見せて凹ませよう!』
謎のメッセージが付けられてあった……。
「それが支給された事に凹むわ!それに僕の名前は阿良々木暦だ!」
「おっとお前様、その下にもう一枚紙があるぞ」
「本当だ」
一枚目の紙を下に落とし、それに重なっていた二枚目の紙を読む。
『失礼。誤字でした』
「人の神経逆撫でしてんのか!?」
これを読んで思いついた人物はもちろん八九寺である。
泣きたくなってきた……。
- 76 :
- 「くそっ、今度は仮面ライダーの様に変身出来る物が欲しい」
「そうそうそんな物ないじゃろ。大体もう吸血鬼じゃろ」
「普通の人間にお前の噛み痕を付けたくらいしか見た目は変わらないじゃないかよ。僕は見た目重視だ」
また背負い袋に手を突っ込み何かを掴んだ。
「これは!?」
「……ドン引きじゃの」
誰の物かわからないが姿を現した。うひょー、だよ。
忍の視線が痛いぜ。
「あれ?なんかまたメッセージがあるぞ」
ついさっき酷い目にあったのだが懲りずにそのメッセージを読んでみる。
『これはただのではない。マスク・ド・のマスクのだ!これで君もプロレスラーに変身だ!』
このメッセージをさっきの八雲紫が書いたのか疑問である。
「良かったなお前様。仮面ライダーではないがマスク・ド・じゃ」
「嬉しくないよこんな物。ただの変質者だよ。それにマスク・ド・のマスクのってもうなのかマスクなのかわかんねーよ!」
ろくじゃない物ばかり出てきてそろそろ僕もキレそうだ。
「もう、何か身を護れる武器でも出て来い!」
僕は掴んだ物を引っ張り出す。
多分感触的にこれが最後らしい。
- 77 :
- 「は……?」
ついさっき目が覚めてすぐに忍から血を吸ってもらい吸血鬼の能力を上げていなかったら持ち上げられなかった物であろう。
メッセージには物騒な名前の武器が書かれていた。
『対怪物戦闘用13mn拳銃ジャッカル』
「物騒過ぎるわ!」
「悪趣味じゃな」
壊れたマウンテンバイク、ときて急にこんなガチな武器が出ようとは。
「どうするんじゃこの拳銃?お前様は持てるみたいじゃが……」
「一応この拳銃は僕が武器として使う。忍は心もとないかもしれないけど僕の壊れたマウンテンバイクの金属部品を持っていろ。もしそれが無くなっても、他のマウンテンバイクの壊れた部品はまだいっぱいあるから」
「まぁこんな必要のない物とっておいても仕方ないものな」
本当は壊れた物といってもあまりこういう事はしたくないのだが……。
目くらましくらいなら使えるだろう。
「安っぽいけど文句言うなよ」
「お前様、これ安っぽくない?」
「人の話聞いてたかお前!?」
忍の右手には違和感なく、シュールにマウンテンバイクの一部品が握られていた。
チャンバラをするみたいだな。
それを口に出したら害を悪くしてしまうだろうか。
――ところで忍や僕って死ぬのか?
ふとそんな疑問が浮かぶ。
忍や僕って不死能力があるから死なないんじゃないか?
そう思うのに何故かこのゲームからは、不吉な何かを感じずにはいられなかった。
- 78 :
-
「しかし今一度確認じゃ。お前様はなるべく戦わないんじゃろ」
「あぁ、もしこのゲームから抜け出したとしても牢獄でまずい飯なんかを食べる生活なんか送りたくもないぜ。火憐ちゃんにも月火ちゃんにも会えなくなるし」
「なんです事よりしたあとの心配をしておるんじゃ。しかも儂やツンデレ娘より妹達の方が大事かよ」
「嘘に決まってんだろ、そんな事。あと妹達もみんなと同じくらい大事だから、みんなと会えないのが嫌だよ!」
いつもの様に忍とアホな話をしていたせいかさっきより落ち着いている自分が居た。
こんなにも信頼出来る奴が居るのは心強いものなんだな。
忍の横顔を見てそう思った。
「お前は参加者達と戦うのか?」
「儂は今までたくさんの人間を捕食して来た。男、女、子供、お年寄り。未だに全員の顔が思い出せるぞ」
「まったく答えになっていないじゃないか。……ところであまり聞きたくないが約600年で何人くらい捕食してきた?」
「覚えてるわけないじゃろが!」
「え……?じゃあさっきの嘘かよ……」
忍は慌てて「と、ともかく」と話を戻す。
説教してやりたかったが今は忍の話に合わせよう。
- 79 :
- 支援
- 80 :
- したらばより転載
2: ◆gqRrL0OhYE
11/10/28(金) 07:32:05 ID:psuf9o/.O
トラワレビトを投稿中だったのですが分割しすぎて書き込めなくなったので時間を置いてから投稿させてもらいます
まだあれは未完成ですので
今日か明日には続きを投稿します
- 81 :
- 構ってちゃんか?
何で最初から明日に纏めて投下しないの?
うわータノシミだー早く続きヨミタイ
- 82 :
- >>69
投下乙です。
正直この4人で予約が入った時は、絶対ハートとシグナムのバトルになると思ってたぜ!
原作の名台詞をうまく使ったシンの言い回しや、予想外の展開が見ていて面白かったです。これはいい対主催チームになりそうだ。
にしても、北斗組の支給品ひでぇw
ただ、ちょっと誤字脱字が気になりましたので報告を。
>>62、>>65
常に→既に
>>62
煽らて
>>63
大元→大方?
>>65
会得しているとには
- 83 :
- >>80
天然物やな
まぁ期限残ってるしいいんじゃね
- 84 :
- >>69
乙です
しかしながら初っ端から死兆星を光らせるのは良いのか?
- 85 :
- >>78の続き
「ゲームに乗らないのはわかったがせめて命くらいは護れお前様。正当防衛の時にはすまではしなくとも気絶ぐらいまでなら許されるじゃろ。それに儂にかかればお前なんか簡単に護れるわい」
「わかった……。それで良い」
背負い袋を持ち上げ、身長の低い忍に目線を向ける。
「忍、こんなゲームなんか終わらせて無事に平和な元の世界帰るぞ忍」
戦場ヶ原、羽川、神原、千石、火憐ちゃん、月火ちゃんの居る日常へ帰る為、
僕達は決意の一歩を踏み出す。
「ちょっと待てお前様、なんで砂浜に居て目の前に海があるのに遊ばんのじゃ」
「せっかく話をキレイにまとめたのにそんなくだらない事で呼び止めるな。それに遊んでヘラヘラいられる様な状況でもないのはわかってるだろ」
「……今まで遊んでヘラヘラしていた様にしか見えんがの」
忍の動きが活発になる深夜で海に居るとなどないからか、今の忍は生き生きしていた。
- 86 :
- 【Fー4/砂浜/1日目ー深夜】
【主:阿良々木暦@物語シリーズ】
[主従]:忍野忍@物語シリーズ
[状態]:健康
[装備]:対怪物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾30)@HELLSING、背負い袋(基本支給品)、壊れたマウンテンバイク(一部)@物語シリーズ、マスク・ド・のマスク
[方針/行動]
基本方針:ゲームを終わらせて島から脱出し元の日常に戻る。 忍と行動を取る。
1:なるべく戦わない。襲ってくる人間が居ても極力さない。
[備考]
参戦時期は鬼物語終了後です。それ以降の時系列の出来事はまだ知りません。
【従:忍野忍@物語シリーズ】
[主従]:阿良々木暦@物語シリーズ
[状態]:健康
[装備]:壊れたマウンテンバイク(一部)@物語シリーズ
[方針/行動]
基本方針:暦と行動を取る。
1:暦を護る。
[備考]
参戦時期は鬼物語終了後です。それ以降の出来事はまだ知りません。
【対怪物戦闘用13mn拳銃ジャッカル@HELLSING】
純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻マーベルス化学薬筒NNA9の13mm炸裂徹綱弾を用いる超大型拳銃。
下手な対物ライフルより重く、普通の人間が撃てる物ではない。
【壊れた阿良々木暦のマウンテンバイク@物語シリーズ】
阿良々木暦の所持していた物で、通学用は別にある。
レイニーデビルの乗り移った神原駿河に大破された。
【マスク・ド・のマスク@そらのおとしもの】
マスク・ド・(桜井智樹)がお祭り時に被っていた女子用の白い。
- 87 :
- ハプニングがありましたが投下終了です
因みに『トラワレビト』の元ネタはキラークイーンのOPです
- 88 :
- >>85
誤字
ラスト数行
居ると→居る時です
- 89 :
- 乙。無事投下できて何よりです。
ところで支給品が一つ足りない様ですが、これはまだ不明という事でしょうか?
後、吸血鬼の力が高くなっているのは、状態に明記しておいた方が良いかと。
>>84
いいんじゃないかな。
原作からして途中で死兆星が消えたマミヤの例もあるんだし。
- 90 :
- >>89さん
ご意見ありがとうございます
その辺を修正していきたいと思います
- 91 :
- >>75と>>76にこの修正文章を挿入します
「他にも何かあるな」
「お前様……。よくバカにされても支給品を取ろうと考えるな」
「僕はよくバカにされた人物と付き合っている人間だぜ?」
次はさっきのマウンテンバイクなどの金属とは別の触り心地のする物を手に握り、引っ張り出す。
「なんじゃ、つまらんな」
「え?結構かわいいじゃん。とあう反応を普通は僕よりお前の方がするべきだろ。性別的にも、高校生との見た目からしても」
中から大きな大きなぬいぐるみが出てきた。
なかなかかわいいのだが忍の評価は今の通り。
また付いていたメッセージを読む。
『チーズくんのぬいぐるみだよ。C.C.からいつも抱かれているピザ屋の景品でもらえます』
「C.C.って誰だよ!?男だったら気持ち悪いぞ」
「また二枚目があるぞ」
忍から言われてまた一枚目の紙を下に落とし、重ねられていた二枚目を読む。
『これがC.C.だよ〜』
写真がコピーされていた。
そのコピーには長い髪のキレイで不思議系な見た目の少女が映っていた。
「僕もチーズくんになりたい!抱かれたい!」
「……とことん堕ちていくのお前様」
なんてまたふざけた支給品であった。
もうちょっと真面目になれないのかと僕は問いたい。
- 92 :
- 修正版
【Fー4/砂浜/1日目ー深夜】
【主:阿良々木暦@物語シリーズ】
[主従]:忍野忍@物語シリーズ
[状態]:健康(現在吸血鬼の力が高まっております)
[装備]:対怪物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾30)@HELLSING、背負い袋(基本支給品)、壊れたマウンテンバイク(一部)@物語シリーズ、マスク・ド・のマスク
[方針/行動]
基本方針:ゲームを終わらせて島から脱出し元の日常に戻る。 忍と行動を取る。
1:なるべく戦わない。襲ってくる人間が居ても極力さない。
[備考]
参戦時期は鬼物語終了後です。それ以降の時系列の出来事はまだ知りません。
【従:忍野忍@物語シリーズ】
[主従]:阿良々木暦@物語シリーズ
[状態]:健康
[装備]:壊れたマウンテンバイク(一部)@物語シリーズ
[方針/行動]
基本方針:暦と行動を取る。
1:暦を護る。
[備考]
参戦時期は鬼物語終了後です。それ以降の出来事はまだ知りません。
【対怪物戦闘用13mn拳銃ジャッカル@HELLSING】
純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻マーベルス化学薬筒NNA9の13mm炸裂徹綱弾を用いる超大型拳銃。
下手な対物ライフルより重く、普通の人間が撃てる物ではない。
【壊れた阿良々木暦のマウンテンバイク@物語シリーズ】
阿良々木暦の所持していた物で、通学用は別にある。
レイニーデビルの乗り移った神原駿河に大破された。
【チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュ】
C.C.お気に入りのピザ屋の景品。黄色くて大きなぬいぐるみ。
【マスク・ド・のマスク@そらのおとしもの】
マスク・ド・(桜井智樹)がお祭り時に被っていた女子用の白い。
- 93 :
- しんと凍てつくような青白い光を放つ満月が、夜をいっそう恐ろしい舞台へと仕立て上げているのか?
それとも、方々に散った戦いを望む輩の気が、月ですら冷たくしてしまうのか?
そんなことを考えながら、蓬莱山輝夜は己の知覚を少し広げてみる。
木々を揺らし、肌身を通り抜ける風は決して冷たくはない。けれども、どこか生暖かさを含み、耳朶に浸透する風音はどこか生物の息吹めいたものを感じるのだ。
人間は夜になると感覚の大半を失う。視界は狭くなり、色彩は判然としない。人間を襲うには絶好の機会である。
いや、人間だけではないのだろう。あらゆる生物、この穢れた地上に住まう命あるものたちが己の生存をかけて過ごす夜という、それは戦いの時間だ。
だからすぐ近くに何者かの胎動を感じる。影のごとく忍び寄り、我が身の隙を狙って牙を突きたてようとするのは――
「ああ、貴女だったの忘れてた」
「急に走り出さないで。何事かと少し焦ったわ」
「月が見たかったのよ。どこでも変わらないわね、やっぱり」
くるりと振り返り、輝夜は仏頂面に少しだけ険を滲ませている己の従者に向かって微笑した。
八意永琳。かれこれ数百年か千年かは一緒にいる、『元』月の賢者にして『現』輝夜の従者である。
もっとも地上に移り住み、隠居同然の生活を過ごしながらも永琳の聡明さは劣ることを知らない。
聞けば大抵のことは知っているし、解説を交えて話してくれる。ただ、分かりやすいかというとそうでもない。
学者によくある、やたら難解な言葉を交えての話ばかりだから曖昧に頷いていることしかできない。
だから賢者の言うことはなんでもかんでも正しく聞こえてしまうのかもしれない。
「いいえ、変わっているわ。あの満月は天蓋に描かれた絵のようなものよ」
「絵なの? へえ、だったら素晴らしい才能だわ。私でも見間違えるなんて」
「そうね、とても素晴らしい才能よ。……あのスキマ妖怪の業とは思えないくらいに」
珍しく引っかかっているものを含んだ声だった。永琳でもそういうことがあるのかと思い、輝夜はくすくすと笑った。
こういうことが度々あるものだから、地上も捨てたものではない。
一昔前は穢れた地上とひとくくりにして嘲笑っていたのに、歴史を進み始めた途端こうも変質するものなのだろうか。
「余裕なのか、暢気なのか……全く、輝夜も動じなくなったわね」
「失礼ね、どっちでもないわよ」
ぷうと頬を膨らませてみせると、固い表情が霧散し、苦笑の色へと変わる。
それを見て、ようやく永琳もいつもの顔つきに戻ってきたかと安心した気分になった輝夜は、先ほど永琳が口に出したスキマ妖怪のことを思い返す。
八雲紫という、神出鬼没で派手な格好をした、よく分からない妖怪。輝夜自身はあまり面識がなく、以前宴会に呼ばれたときに顔合わせをした程度である。
そういえば、あのときの宴会も永琳はひどく驚いていたような気がする。尋ねてもはぐらかされてしまっていたが、もしかするとあの時も「分からない」ことがあったのかもしれない。
聡明な賢者は理由のない不可思議を認めたがらないものである。それだけが永琳の弱点だと輝夜は思っていた。
と、評した割に、輝夜自身も今回の事態の道理については見当がついていなかった。
これも一種の月面戦争なのだろうかと考えはしたものの、そうであるならばこんな遠回りなやり口ではないだろうし、紫個人の復讐としても、やはり装置が大袈裟に過ぎる。
そもそも永琳に分からなくて輝夜に分かるはずがないのであるが、不思議と輝夜は考える気分になっていた。
「ねえ、永琳は見当くらいはついてるの? 今回の黒幕」
「……ごめんなさい。恥ずかしいけれど、今のところはまるで思いつけないの。動機も目的も不明ときては……」
今のところは、などと言うあたり、いずれは分かってみせるという賢者らしいプライドが垣間見える。そういう意味では永琳も分かりやすい手合いである。
ただ、彼女の場合は本当の智慧者であるから虚勢でも何でもないのであるが。
「道楽、ってわけでもなさそう」
「ありえなくはないけど……自称でも『紳士』ならこんな野蛮な真似はしない。彼女ならもっと利口なやり方を思いつくはずよ」
「そっか、野蛮すぎるから永琳にも分からないのね」
「……『し合い』なんて私でも思いつかないわよ、もう」
- 94 :
- 嘆息交じりに首を振られる。これまた滅多に見せることのない姿に輝夜は可笑しい気分になった。
そう、ここは色々な意味で異常だった。見知った顔はいくらかいるものの、基本的に幻想郷内のどこでも見たことのない異形の数々に、見知らぬ土地。
決して逃れえぬし合いのルール。三日限り行われる、生存者二名を賭けた壮絶な共食い。
たった数十名の、観客もない寂しい死の舞踏会である。
と、そこで輝夜はふと、頭の中で形にした言葉に疑問が浮かんだ。
「ねえ、永琳」
「どうしたの。何かものすごい大発見をしたって顔をしてるけど」
「そういえば、私達ってるのかしら」
「どうかしら……」
反応自体は早かったものの、僅かに声を詰まらせたのを輝夜は聞き逃さなかった。
永琳は真っ先に気付いてはいたであろう。自分達は蓬莱人。どんなに時間が経過しようが、どんなに無残なし方をされようが決して死ぬことのない『永遠』を備えているのである。
正確に言えば、死ななくなったのではなく自らの歴史を止めたと言うべきか。変化することを忘れた身体は、どんなに手を尽くそうが消滅することはないのだ。
が、件の紫はし合いをしろと言っている。死なない自分達が脱落することは不可能であるはずなのだが、この矛盾はどうしたものだろう。
紫が何がしかの術を用いて、自分達の不死をなくした可能性。自分達以外の参加者全てが、実は不死を打ち破る術を備えている可能性。
輝夜が思いついたのはそのくらいのものだったが、果たしていずれであるのかは文字通り『死』に足を踏み入れてみなければ分からないであろう。
そう。死ぬか、死なないか。試してみなければ結論は出ないのである。かと言っても試すわけにもいかない。だから永琳は口を濁した。結論の出ない問答は学者の嫌いな分野であるからだ。
だが逆に、輝夜はすぐに「自分達は死ぬであろう」という結論を出していた。明確な理由があるわけではない。ただ、る可能性があると分かった瞬間、輝夜は嬉しくなったのだ。
「やっぱり、そうなのね。私達は死ぬことができるかもしれないんだ」
月明かりの下、長い黒髪を風に躍らせて輝夜はくるくると舞う。
咎めもせず、呆れることもなく、永琳はただ輝夜の踊る姿を見つめていた。絶句しているのかもしれない。
「死ぬってことは、私達は生きてる。生きているのよ、永琳。こんなにも素晴らしいことはないわ」
生きて、生きて、しかし生きることすらできなかった自分達は、今この瞬間を駆け抜けている命になっているのだ。
心臓の鼓動、唇から漏れる吐息、己が身に流れている血の暖かさ。全てが脈動し、一体となって現在に収斂してゆく。
何にもなれない永遠はなくなり。なにかになれる可能性が残されている。
ひとしきり舞った輝夜は、少しだけ息を切らし、世の男性が見惚れずにはいられないほどの笑顔を永琳に差し向けて、言った。
「私のやりたいことが決まったわ」
そして、姫の口調で告げる。
「この《異変》を解決するわよ、永琳。今を生きている人間として、幻想郷の一員として、為すべきと思ったことを為すわ。ついてきてくれるわね」
不死であるかどうかだとか、この企みの先にある目的がどうであるかは輝夜にとっては瑣末な事柄だった。
ようやく真の地上の住人として、幻想郷に住まう者としてやれることがでてきたのだ。
生きて、生きて、そして死ぬかもしれない。けれども、それがたまらなく嬉しい。
だからこれは、命に対するほんの少しの手向けというものだった。
そうした情緒と感傷を抱けるほどには、自分は地上というゆりかごで育てられてきたのだから……
- 95 :
- 「……お供いたします。どこまでも。それが私の為すべきと思ったことですので」
恭しくかしずくと、永琳も臣下の声を以って応じた。
こうして、彼女が畏怖と敬意を抱いた声を寄越してくれたのはいつ以来だっただろうか。
地上に降り立つ前、幻想郷にいる間。どの記憶を探っても、いつだって永琳は教育者というような顔ばかりだった。
本当に珍しいことばかりだ。地上の人間達は毎日こうなのかもしれないと思うと、ますます今の状況に喜びを感じるのだ。
「さあ、行きましょう。えーっと、この近くって何があったっけ?」
「はい、確か……」
「待って、思い出せそう」
答えようとする永琳を押し留めて、輝夜は額に指を当てながら少しだけ見ていた地図の内容を思い出す。
山の近くにあった施設。文字を見ただけで心地よい気分になれそうな、それは確か……
「温泉! そう、温泉よ! 温泉といえば『命のお洗濯』よね! 私一度やってみたかったの!」
「……姫様。《異変》は?」
「何を言ってるの。まだ何もわかってないんだから、行きたいところに行くのが一番よ」
「了解です、輝夜」
永琳は大きく溜息をついた。溜息は幸運を逃してしまうという。どのくらいの幸運が逃げていったのだろうか。
まあ、そんな瑣末事も温泉に浸かれば気にしなくてもいいだろう。温泉は思わず「極楽、極楽」と口に出してしまうほどの心地よさがあるらしい。
言霊を自然に吐き出してしまうほどの温泉が、輝夜は本当に楽しみだったのだ。
「いつまで突っ立ってるの。動かなきゃ物語は始まらないわ。早く始めるわよ」
やれやれという風に首を振って、立ち止まっていた永琳もようやく後をついてきた。
温泉は山を下ってすぐ近くにある。少し歩けばすぐだろう。
月下の散歩から始まる異変解決というのも風情があると思いながら、輝夜は従者を引き連れて進み始めた。
こうして、蓬莱山輝夜と聡明な従者の物語は、まずは「楽」を貪ることから始まったのである。
【D-5/山頂付近/1日目-深夜】
【主:蓬莱山輝夜@東方儚月抄】
[主従]:八意永琳@東方儚月抄
[状態]:健康
[装備]:なし
[方針/行動]
基本方針:《異変》を解決する。
1:温泉で命のお洗濯!
【従:八意永琳@東方儚月抄】
[主従]:蓬莱山輝夜@東方儚月抄
[状態]:健康
[装備]:なし
背負い袋(基本支給品)、不明支給品x4
[方針/行動]
基本方針:輝夜に付き従う。
1:やれやれ……
- 96 :
- 投下は以上になります。
- 97 :
- 投下乙です
信長はこうなるよなあ
そして光秀はきめええw こんな理由で死にたがるのはお前だけだあっ
死ぬ理由を除けば少数だが死にたがりはいなくはないがなw
少なくともこんな連中と関わりたくないなあ…
俺もシグナムとシンらと派手なバトルかなとは思ったら変化球来たなあw
カオスぎりぎりだが…後続書けるのか? 反対意見来たらどうなるか判らんがワロタわw
はやてはとんでもない相手に絡まれたなあ。だがとりあえずは組めただけマシか
この二人も対主催か。もっとも修羅場になったらありゃりゃ木さんと忍の考えがずれる危うさもあるが…
それと投下するならやっぱりまとめてした方がいいですよ。もっとも周りから揶揄されるほどでもありませんが
- 98 :
- 枢木スザク、ユーフェミア・リ・ブリタニア、投下します
- 99 :
- 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士、ナイトオブゼロ。
この名を聞き、彼を憎悪せぬ者がこの世界に存在するだろうか。
圧政を敷く悪逆皇帝ルルーシュの腹心として、その武を振るう無双の騎士。
父をし、友を売り、同胞をし、使えるべき主君を替え、皇帝暗を決行し、そして今はかつて売り払った友を皇帝と仰ぎ仕える。
枢木スザクの人生は、迷いと苦悩と裏切りの人生だった。
鞍替えをする度にのし上がり、気高い理想と引き換えに日本人の敵から世界の敵へとその身に受ける憎悪を増した。
恐らく自分は、このゲームの参加者全員から憎まれ、恨まれ、命を狙われることだろう。
だが、それはもう覚悟したことだ。
ゼロ・レクイエムのその日まで、皇帝ルルーシュとナイトオブゼロは死ぬわけにはいかない。
約束の日まで、ゼロが皇帝ルルーシュをす日まで。
たとえ、どんな手段を用いても。
異常な状況ながらも、枢木スザクの行動は冷静だった。
まずはいつの間にか背負わされていた袋を地に落とし中身を検める。
「地図」、「参加者名簿」、「筆記具」、「懐中電灯」
地図を確認するとどうやらここは陸地と分断された孤島であることが分かる。
また再び袋の中をまさぐると奇妙なことに底に触れる感覚がない。
だが常軌を逸した現象にも枢木スザクが驚愕することはない。
八雲紫が先ほど見せつけた『阿鼻地獄』も含め、ギアスに準ずる超能力のようなものだと当たりを付けていたからだ。
次に袋から引っ張りあげたものは一振りの魔剣。
スザクがこれをただの刀剣でなく、魔剣と称したのには訳がある。
漆黒に彩られたその剣は、美しいと呼ぶことすら憚られる魔貌をさらけ出していた。
―――尊い。
スザクにはその一言でしか讃えることができない。
この魔剣を永遠に眼にしていたい欲求を押さえ、スザクその剣を鞘に収める。
いつでも抜けるよう腰に下げ、手をかざしてみると、驚くほどに違和感がない。
初めて眼にし、初めて握った剣にもかかわらず、まるで体の一部のように感じられる。
自分のためにあつらえられたような魔剣を頼もしく思いながらスザクは名簿を確認していく。
自分が組んでいる相手は間違いなくルルーシュだろう。
検めるべきことでもないがスザクやルルーシュが知る人物が参加している可能性もある。
この戦いで彼は八雲紫に抗うか、従うか。
どちらにせよ情報は必須となる。
参加者はおよそ半数が日本人。
コードネームらしき名称の者や、なぜか一人だけ様付けの者も含まれる。
蒋麗華、黎星刻。
問題外だ。元から敵対した者同士。会えばす。ただそれだけだ。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、ジェレミア・ゴットバルト。
この状況でルルーシュの他にひとりでも信頼できる味方がいてくれたことは頼もしい。
ジェレミアはルルーシュの忠臣であり、彼の忠義と実力はスザクも一目置いている。
さらにジェレミアが備えるギアス・キャンセラーはルルーシュのギアスと最適な相性と言える。
同じ相手に一度しか使用することが出来ないギアスの欠点を完全にカバーすることができるからだ。
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