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2011年10月1期新シャア専用新人職人がSSを書いてみる 21ページ目 TOP カテ一覧 スレ一覧 削除依頼
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新人職人がSSを書いてみる 21ページ目


1 :10/11/27 〜 最終レス :11/12/05
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
荒れ防止のため「sage」進行推奨。
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。
前スレ
新人職人がSSを書いてみる 20ページ目
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/shar/1258807472/
まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/
旧まとめサイト ポケスペ
http://pksp.jp/10sig1co/

2 :
〜このスレについて〜
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。
■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。
■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H22,11現在)
■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。
■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。
■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。
■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます
■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。
■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。
■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトへどうぞ。そちらではチャットもできます。
■捕捉
旧まとめサイトのチャットでもトリップは有効ですが、間違えてトリップが
ばれないように気をつけてください。

3 :
〜投稿の時に〜
■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。
■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。
■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。
■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。
■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は最低四十秒以上あかなくてはなりません。
■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。
■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。

4 :
〜書く時に〜
■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。
また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。
以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。
■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 
“空 白 行”というものはっ――――――――!!!
まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。
■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。
■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。
■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。
■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。

5 :

こんばんは、ご無沙汰しておりました。文書係です。
これから前作「短編小説パトリック・コーラサワー」の続き4レス分を投下します。

6 :

ついでに脳内補完/機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー 補編2/短編小説カティ・マネキン その1
 帰宅してドアを開けると、エースパイロットが床に寝そべっていた。
地球連邦軍准将カティ・マネキンは、近頃しばしば目の当たりにするようになったその光景に、
いまだ戸惑いを禁じ得ないでいる。
サバイバル精神旺盛な彼が、寝るのに場所を選ばないのには慣れていた。
生体認証を新たに登録して、彼が自由に出入りできるようにしたのも彼女自身である。
だが長く訪なう者とてなかった家に、他人が――部下の一人であり、すこぶる付きの問題児である
パトリック・コーラサワーが存在しているという事実に、人生の不可思議を感じずにはいられない
のであった。
自分を待ち詫びて玄関付近をうろついているうち、突如眠気に襲われたのか。
MSパイロットというのもなるほど激務には違いないが、横たわっているのが彼でなければ、
急病人と勘違いして通報しているところだ。
紛らわしいからベッドか、せめてソファで寝ていてはくれないものだろうか――と
彼女が彼の名を唇の端に乗せかけたところで、点きっぱなしの携帯端末が彼の手を離れ、
床に転がっていることに気づいた。
見るとはなしに目に入った画面には、驚くべきことに報告書の一部が映し出されていた。
パトリックが諸文書の確認及び起草等、戦闘と直接関係のない軍務を放擲し、部下に丸投げ
しているのをカティが見咎め、今朝もきつく叱ったばかりだった。
――本件についての処分は報告の後、追って沙汰する。“直筆の”始末書を期日厳守で提出しろ!
叱責が功を奏して俄かに奮起したのか、単に彼女の機嫌を損ねたことを気にして、顔を合わせる
までに多少なりと目を通して良いところを見せ、怒りを鎮めようとしたのか――
残念だが天地が覆るようなことでもなければ、恐らくは後者であろうと彼女の経験が物語っている。
独立治安維持部隊アロウズが解体され、新生連邦政府の本格的始動を待つまでの僅かの間に、
既に何度目になるのだろう。

7 :

ついでに脳内補完/機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー 補編2/短編小説カティ・マネキン その2
 今日はたまたま先に帰宅したついでにと、報告書のデータファイルを開いたところまでは
褒めてやりたいところである。
しかし内容を再確認するに、ほとんど読み進めることなく早々に力尽きたようだ。
これではとても褒められたものではないが、そうした所も彼らしいといえば彼らしい。
「やれやれ、まったく……困ったものだ」
カティは彼を覚めさせるでもなしに、ぽつりと呟いた。
だがその口ぶりは、ドアの向こうで同じ言葉を聞き慣れた者たちからすれば、耳を疑うほど
柔らかであった。
そもそもパトリック・コーラサワーという男は、エースパイロットとしてのプライドだけは
人後に落ちないけれども、社会における自分のありよう、例えば軍における階級などといった
ものには殆ど関心を払わないタイプの人間であった。
カティの昇進を無邪気に喜んではくれても、呼称は何度指摘しても改める様子がない。
間違いをそのままにしておけない生真面目さから、彼女が即座に「准将だ」と訂正しても、
彼は毎度毎度にこにこ笑いながら間延びした声で「すみません」と言い、頭をかくばかりである。
自分自身の大尉昇進に至っては、軍務も部下も増えた結果、公私共に彼女と過ごせる時間が
激減したと不満をかこった挙句、昇進後初の大々的な職務放棄に走った始末である。
呼ばれて部屋に入るなりカティに詰責され、初めのうちこそ縮こまっていたパトリックだったが、
徐々に渋面になり、終いにはすっかりむくれてしまった。
――褒美ってんなら、大佐の側にいさせてくれりゃいいのに。コレじゃあんまりです。
涙目で訴える部下兼恋人を前にして、軍人としての心構えを問い質す以前の問題に、どこに手をつけ
何から言い聞かせればよいのかと、彼女は頭を抱えた。
以前であればふざけるなと一喝して叩き出していたが、今となってはそればかりという訳にも
いかなかった。
厳格を以て知られる彼女もこれには完全にお手上げとなり、長い説教を切り上げ彼に退室を命ずると、
頭を垂れて思索の海に身を投じた。
そうして後日、処分を申し渡したのとは別に、自宅への出入りを提案する次第となったのである。
これで幾らかましになったものの、隙あらばデスクから逃亡する悪癖は、一朝一夕ではやみそうに
ない。

8 :

ついでに脳内補完/機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー 補編2/短編小説カティ・マネキン その3
 
 パトリックが現状の服務態度を通せば、彼女を除く彼周辺の上官連は揃って匙を投げ、
遠からずお鉢が回ってくるのは目に見えていた。
何せAEU時代とまるきり同じ軌跡を辿って、彼女は彼と巡り合ったのだから。
AEUの上官連が彼を専らファーストネームで呼んでいたのも、彼への気安さ以上に、
階級呼びで反応が期待できないことを見越していたためであった。
AEUの威信をかけた最新鋭機のデモンストレーションに起用され、失敗後も事あるごとに
指揮官として新型機での出撃を命ぜられるなど、MSパイロットとしては優遇を受けていた
彼だったが、昇進に関して一様に難色を示したAEU司令部の対処は、今にして思えば
実に理に適っていた。
上官、部下、そして本人と、パトリック・コーラサワーの昇進は誰の益にもならない。
カティのミッションプランを理解するだけの知能を持ち合わせ、戦況に応じて戦術を用いている
のだから、彼女が半ば口癖のように罵るほど、戦場での彼は馬鹿ではなかった。
パトリックは少人数の部隊を率いる指揮官としては、優秀な部類に属するのである。
腕前は言うに及ばず、囮役など危険を伴う任務も進んで買って出るゆえか、直属のパイロット達には
信頼されており、言葉は粗いが、迷いのなさが幸いして瞬時の状況判断にも優れている。
が、同時にそこが人の上に立つ者としての彼の限界なのかも知れないと、カティは心中に
ひとりごちて溜息をついた。
彼の物事にとらわれない奔放なところを、彼女は嫌いではなかった。
だがそれも時と場合によるのであって、文書を滞らせて徒に混乱を招き、カティ以外の人間の
呼びかけにろくろく応じないのでは、組織の一角を担う人間としては話にならない。
何より多くの人命を左右する軍にあって、その任に堪えぬ者をおく訳にはいかないのだった。
今のところ降格は免れているが、早いか遅いかの違いでしかないように思われた。
ならばいっそ被害が拡大しないうちに、彼の事務能力でも裁ききれる程度にまで階級を降して、
目の届く所へ配置した方がよいのか――
上官としては頭の痛い問題である。
目下大戦の端緒となるほどの兆しは見当たらないものの、小規模な紛争は今なお各地で続いており、
カティは日々、対応に追われている。
新型機を盾にしたアロウズの残党も各所で根強い抵抗を見せており、鎮圧のためパトリックを
向かわせたことも一再ならずあった。
全てが新連邦政府の基本理念とする、対話を基調とした宥和策ではかたがつかなかったのである。
世界はゆっくりと平和的統一への歩みを始めたばかりで、全てが試行錯誤の連続で、多事多端だった。

9 :

ついでに脳内補完/機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー 補編2/短編小説カティ・マネキン その4
 かかる状況下でパトリックに向ける感情を一まず措き、事態への対応を優先させた結果、
上官としては彼への目配りを怠り、一個人としては思いやりが欠けていたことは否めない。
職務放棄に正当性など認めるつもりはさらさらないが、心情は理解の範囲内にあり、そしてその
原因はカティにもあった。
感情を後回しにし、表に出すことも抑えがちな彼女生来の性分が、致し方ない事情があったとはいえ、
子供のように装うことを知らぬ彼の心をも取り残していた。
命がけで守ったのに冷たい女だ、と逆に詰られたとしたら、あの時のカティには返す言葉がなかった。
それを他のことなどどうでもいいから側に居たいと言われた時には、公私混同はさておき、
彼女はこれからの自分のありようについて、戸惑いながらも考えざるを得なくなっていたのだった。
 彼の寝姿に、家人の帰りを待つ、赤茶色の毛足の長い大きな生き物を連想しかけたところで、
カティはおかしさに耐えかねて息を漏らした。
腰を下ろして耳の後ろ辺りにそっと手をさしいれ、長い髪をかきやる。
「……パトリック」
気ままにはねた赤い髪先を指で弄びながら、耳許で囁いた。
「今戻った。待たせたな」
いま一たび声をかけると、いつから覚めていたのか、パトリックは目を瞑ったまま半身をよじり、
「待ってましたぁ」
と、褒美でもねだるように頬を彼女の方に傾けた。
どこで寝ても風邪ひとつ引くことのない血色のよい頬は喜びに弾み、口許は緩いカーブを描いている。
心なしか口調が得意げであるのは、夢の中で報告書に目を通し終えたつもりでいるのかも知れない。
頭を占める悩み事の何割かは、彼に原因があると頭では分かっている。
それでもなお、いつもながらのおどけたしぐさに、いつしか肩の力も抜けていた。
彼女はかつて心の中で、彼をこう評したことがあった。
――いるだけで役に立つ男。
世界の変革に何ら思うところなく薔薇の花束を捧げ持つ彼に、彼女はこうも言った。
「放っておけない男だ」と。
表向きの立場を意識する余り尤もらしく言い装い、また思い做してきたけれども、彼が思い描く
未来への答えは、彼女の中に既にあったといえよう。
それにしては随分と時間がかかってしまったが、さしあたって彼女に今できることがあるとすれば、
寝転がりながら期待に湧くパトリックの望みを、早急に叶えてやることである。
「まったく……」
お調子者め、とカティは苦笑混じりに耳打ちして、彼の温かい首筋に腕を回した。
〈短編小説カティ・マネキン 完〉

10 :

今回投下分終了。
続きは劇場版のネタバレになりますので、規制がなければ今夜日付が変わってから投下に来ます。
これから劇場に足を運ばれる方や、BD発売まで内容を知りたくない方は回避行動をおとりください。

11 :
復活したのか! 投下乙!
>>同時にそこが人の上に立つ者としての彼の限界なのかも知れないと、カティは心中に
ひとりごちて溜息をついた。
確かに、組織の人間としては欠点の多い人でもあるんだよね。
普通なら捨て駒にされて、戦意昂揚のための悲劇のヒーローに祭り上げられ
そうなところが、全然死ぬ気配が無いって言うw

12 :

おばんです。
これから3レス分投下します。
劇場版のセリフをそのまま用いていますので、状況・心情の補完となります。
小説とコミカライズ両方でスキップされ、穴があるとつい埋めたくなる衝動に駆られました。
BD・DVD発売まで内容を知りたくない方は、くれぐれも回れ右で願います。

13 :

BD出るまで脳内補完/劇場版 機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー/「外宇宙航行型母艦ソレスタルビーイングにて その1」
 彼らの――表現に正確さを求めるとすれば――彼の妻である地球連邦軍准将カティ・マネキンの
居室として割り当てられた広大なリビングルームに、一足先にシャワーを済ませたパトリック・
コーラサワーは、晩酌用のビール両手に足を踏み入れた。
目の覚めるような浅葱色のパジャマに、白い玉房が先端にあしらわれた同色のナイトキャップを
かぶり、毛足の長いスリッパを履いて悠然と歩くさまは、ここが外宇宙航行型母艦ソレスタル
ビーイングの内部であること、そして遠くない過去、血みどろの惨劇が繰り広げられた舞台であった
ことを、忘却の彼方に追いやりかねないほどシュールな光景である。
無論、彼自身は知る由もない。
彼からすれば、日ごろ多忙な妻と計画した久々のバカンスを直前でおじゃんにされ、荷解きするのも
えい面倒だと、そのままの旅支度でくつろいでいるだけのことであった。
結婚に際して姓を改め、晴れてパトリック・マネキンとなった彼であったが、仕事中は紛らわしい
ため旧姓を通していた。
だから実際使う機会はそれほど多くはないし、彼が正式な書類にサインをするような機会は更に
少なかった。
本日の軍務を片付け終えた(と彼自身は認識している)今、目の前には愛する妻の姿だけがあった。
だだっ広いリビングの中央に座を占める、これまたでかいローテーブルの前に、カティはいまだ
制服をキッチリ着込んだまま床に端座して、通信端末と睨み合っている。
それが貴族趣味丸出しの、宮殿の広間めかしたリビングでひときわ異彩を放っているわけだが、
本人はてんでお構いナシのようだ。
――よく働くねぇ、まったく。
パトリックは、妻の口癖を心の中で無意識のうちに呟きながら歩み寄った。
相も変わらず惚れ惚れするほどクールなたたずまいに、自然と頬が緩む。
かつては妄想を交えつつ、飽かず眺めた上官の横顔であった。
恋に落ちたその日から、なりふりかまわず後を追い、焦がれに焦がれること5年、やっとのことで
モノにした恋女房である。
生涯の伴侶を得たことでプレイボーイの称号は潔く返上したが、持って生まれた気儘な性分までは
矯正しようがないのだった。

14 :

BD出るまで脳内補完/劇場版 機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー/「外宇宙航行型母艦ソレスタルビーイングにて その2」
 今を去ること2年前、カティ率いる連邦軍クーデター派に加担したパトリックは、アロウズ討伐の
功績を認められ、いっとき大尉にまで昇進した。
しかしいつもの素行不良と職務怠慢とであれよあれよと降格を重ね、現在は人生何度目かの准尉に
舞い戻っている。
有事の際はMSを駆って最前線で獅子奮迅の活躍をし、平時はカティに付き従って護衛を勤める。
軍におけるそれ以外の大部分は、彼にとって「どうでもいいコト」でしかない。
先日初めて目にした、イノ何たらとかいう同じ顔ばかりが勢揃いした情報通のことも、
謎の禁欲生活を強いられている、やたら勘の鋭いネコ目のイノ何とかのことも、既に彼の念頭を去り、
無限の宇宙へ向け出立していた。
脳裏にわずかばかり形を留めていたのは、長い粒子ブラスターの砲身を中央に構え、大小百余の
GNファングを搭載し、五個小隊の戦力に匹敵するという戦艦クラスのバケモノMA、
ガデラーザの雄姿くらいであった。
左右それぞれの肩に大型のGNシールドを掛け、GNビームライフルをひっ提げた現在の乗機、
ジンクスWの特徴あるシルエットと、トランザムが可能になり格段に向上した機体性能とには、
彼はいたく満足している。
とはいえ新型を見れば、たとい自分のモノにはならずとも、ワクワクはするのだった。
ようは男のロマンなのである。
「まーた考えゴトですか」
「考えずにいられるか。報告書の通り、探査船に未知なる金属生命体が紛れ込んでいるとすれば、
また同じような事が起こる可能性がある」
――報告書……って、どれだっけか?
妻が口外するからには、報告書はどうやら自分の所にも回ってきたものであるらしかった。
が、いつものごとくとんと覚えがない。
これが独身時代、狙った女の連絡先や彼宛ての心憎いメッセージが書かれた紙片であったならば、
瞬時に内容が脳深く刻み込まれていたわけだが、こと報告書のたぐいは、題目が視野に入っただけで
眠たくなる。
字面をなぞればまず眼が滑り、次に意味を成さない文字列が脳の表層を上滑りに滑ってゆき、
さっぱりわからないまま、気がつくと椅子から転がり落ちているのである。
彼の常人離れした視力も卓越した集中力も、気分次第で自動的に切り替わるのか、少なくとも
この分野で活かされることはなかった。
探査船の、金属生命体――妻の話では人や車両を襲い、乗っ取るということなのだが――
それは実際MSで宇宙(そら)を翔ける彼にとってすら、B級SF映画ばりに現実味の薄いシロモノ
である。
ただ敵が宇宙金物であろうが怪獣だろうが、この俺がカティの矛となり、盾となるのだ――そうした
決意はいつからか彼と共にあり、彼女の愛を得て一層ゆるぎないものになっていた。

15 :

BD出るまで脳内補完/劇場版 機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー/「外宇宙航行型母艦ソレスタルビーイングにて その3」
 パトリックは自信の笑みを満面に浮かべながら、
「あんな偶然なんて、もうありませんよ!」
と、手に提げた缶ビールの一本を無造作にテーブルに置いた。
そして残りの一本を、注意を惹きつけるようにカティの目の前で軽く揺らすと、
「もし本当にそうなら、地球は完全に狙われています――ワルい宇宙人によって、ね」
連れ合いの頭を悩ませる“考えゴト”を軽い冗談に言い紛れさせ、にっと笑って隣に座を占めた。
「・・・・・・お前といると、真面目に考える事が愚かしく思えてくる」
妻が形のよい顎を傾げ、呆れたように溜息をついたところで、彼の手が柔らかな頬に触れる。
自分の冷えた手指の感触が、働きづめの身体に心地よく沁みればいいと思う。
どれほどキレる頭の持ち主だって、息抜きは必要なのだ。
忙しいのはわかっている。けれど、二人きりでいる時くらいは――
謹厳を絵に描いたような上官の顔がふと緩んで、彼の前で艶冶な微苦笑に変わる。
誰に教えてやるつもりもないが、こうしたギャップも男心をひどくくすぐるのだ。
「んー……」
パトリックは待ってましたとばかりに身を乗り出して顔を近づけた。
上唇がまさに触れたか触れないかの、内側からゾクリと湧き起こる感覚に身を委ねた、
そのときである。
――司令!
テーブルに置かれた端末から、緊急を告げる無粋な声がリビングに響き渡った。
「おわっ」
カティは目にも留まらぬ早業で彼を押しのけると、何事もなかったかのように画面にとりつき、
ウインドウの向こう側で彼女の指示を仰ぐ部下の言葉に耳を傾ける。
――施設の未確認地域が独自に稼動し……、
ナゾの宇宙人が攻撃をしかけて来たとか、危機が差し迫っているでもないらしい小難しい報告に、
彼はすぐうんざりして聴覚を鎖した。
彼の耳が最後に捉えたのは、画面を食い入るように見つめる妻から発せられた、驚きの言葉だった。
「トランザム……!?」
――ちぇっ、またかよぉ。
女の細腕とはいえ、爪の先までどっぷり甘い気分に浸り、油断しきっていたところである。
正面からカティ渾身の張り手を食らい、彼は呆気なく突き飛ばされ床に転がった。
少々手荒ではあるが、照れ隠しゆえコレも十分に可愛い。
けれども、痛みまでは可愛くならないのだ。
パトリックはじんじんと痺れる鼻に顔をしかめ、したたかに打った尻をさすりながら、先程よりも
険しく引き締まった表情の妻兼上官を見上げて、
――さすが嫁さん、ワザのキレも相変わらずシャープだぜ……
休暇のみならず、またしても直前でお預けを食らうハメに陥った理不尽の余り、悔し紛れの懐古に
心を遊ばせていたのだった。

16 :

投下分終了。

17 :
投下乙。
>>久々のバカンスを直前でおじゃんにされ
ヴェーダのtwitterまでカバーしてるとは、流石。

18 :
ふむふむ

19 :
文書係さん復活と聞いて飛んできました
細かく行き届いた補完乙!

20 :
>>11さん、感想dです。
組織人としては、もう……非常に残念な人だと。
AEUはそんな彼を捨て駒にはしなかったのか、それとも何度捨てた気で出撃させても
気がつくと戻っているドラえもんの怖い道具のように考えていたのか、
各陣営に所属していたときのパトリックの年齢と戦績、階級などを考え合わせると
興味深いです。
カティが異例の出世をしているのは別として、MSパイロットのグラハムやソーマ、
ルイスやアンドレイと比較すると不自然なほど階級が低いままなので、
壊滅的な勤めぶりだったのだろうと思われます。

21 :
>>17さん、ありがとうございます。
劇場版を何度か観て小説版を読んでヴェーダのtwitterを見て模型誌を見て、と
MSの設定が少し出たところでやっとこさ投下に至りました。
しかしキャンセル料は払わないと。
>>18さん、どうもです。
確認はしましたが、セリフが間違っていたらすみません。
BD発売後に間違いが見つかれば>>1のガンクロにおいて訂正します。
グラハムの劇中のセリフ「全機、フルブラスト!」も劇場で聞いたときは何度目かまでは
「フルフラット」と聞き違えていたくらいなので。
>>19さん、飛んできて頂けるとはなんという僥倖。
BD発売後に階級や誤脱などガンクロにおいて全編の修正を予定していますが、
その際また補完できるようなネタがあれば、暫くの後投下に来ます。
感想を書いてくださった皆さん、ありがとうございました。

22 :
『空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』
の作者、弐国 ◆J4fCKPSWq.氏が規制に巻き込まれ中なので、
ただ今から代理人による投下を始めます。
赤目の少女のつくりかた
以下本編5レスです。

23 :

赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0(1/5)
「全く。……相手が政府がらみのコーディネーターとはな。俺たちの仕事はなんだ!?」
「黄道同盟、いやプラントか。いまやでかい組織だ。一部の気違い共の暴走を見逃したり、
黙認したりする程に。な、――隊長サマ。センチメンタリズムは仕事の効率が落ちるぜ?」
 ――分かってるさ。ギョーカイでもこの仕事は俺が一番長い、仕事は別だ。
ダークスーツにコートを着込んだ男はそう言うと革手袋をキュッと引き上げる。
「……奴らを囲ってた連中はどうなった?」
 処理は完了だと特務隊のユウキ君から報告があった。その同僚の言を聞いてコートの
ボタンを開ける。既に開いていたダークスーツの胸元、明らかにサスペンダーではない
革のベルトが見える。必要は無いのだが喉に付いたマイクについ手をやる。
「総員、聞け。この雪の中、踏み込むのはザフトの関わる施設、共食いだ。覚悟は良いな」
「イエッサー」
「所長とチーフクラス3名、都合4名を拘束。それ以外全員の“処理”の完了を確認」
 研究所と言うにはあまりに小さな3階建てのビル。地球、大西洋連邦領にある雪に
閉ざされたそのビルの中は、白衣を着た死体とおびただしい血の赤で染められていた。
「対象8名のうち、3名を存命の状態で救出。それぞれヒヤシンス、クロッカス、そして
グラジオラスと呼称されていた模様で本名などは不明。現状全員薬で眠らせて車に搬送」
 ナチュラルに拉致されたコーディネーターを救い出す特殊救出奪還部隊。それが彼ら。
政治家、思想家のみならず少年少女が救奪対象であることも日常茶飯事ではある、のだが。
 今回の任務は多少、いつもとは趣が異なった。
「3人も生きててくれたか!? パーソナルデータの照合、それと可哀想だが記憶処理を
大至急実行。僻地とは言え連合、わけても大西洋連邦領だ。いつバレるかは時間の問題だ」
 戦闘用にコーディネートされた子供達の確保とデータの奪取、破棄。これらが彼らの
今回の目的である。そしてデータ奪取と、3人ではあるが子供達の確保は成功した。
「オリジナル実験データの破棄を完了。機材はどうします? 班長」
「あとでビルごと吹っ飛ばす。ナパ−ムで中身丸焼きにしたあとでな。――隊長?」
 ――部下に振り返った瞬間、彼の耳の中に呼び出し音(コール)が鳴る。
『こちらワッチ。ブルコスの諜報屋が気付いた、地元警察を動かす模様。最低120分で
現着する。隊長、ビルを吹っ飛ばすってんなら30分は予定繰り上げてくれ。この雪に
現地の警察とくれば地の利は向こう。逃げ――。隊長、こっちもズラかる! 撤収!』
「対象の処理は移動中にも続行、――所長以下。全員、旧黄道同盟幹部サマと面会の
アポが取ってある。学者冥利に尽きるだろ? 但し何故“生け捕り”にされたかを考えておけ。
既にパトロンは全員あの世行き。生きてる方が幸せとは限らん、とだけ言っておく」
 事実、最高のコーディネーター。それを愚直に目指した研究者は家族も含め
結果的に悲惨な結末を迎えたのを、諜報畑に籍を置く彼は当然知っていた。
 それが戦闘専用となれば、係わったものの運命などほぼ決まっているも同然。
研究員の大半が同胞たるコーディネーターによってたった今、目の前でされたのだから。
「最低2時間で地元警察が来る。2班は建物破壊用爆薬の用意を。総員、撤収準備!」
「イエッサー。総員、撤収準備にかかれ! 1班は車回して対象5遺体分の回収、
2班は指示通り爆薬の準備、他の班は上階から順に火をかける用意だ、急げよ!」

24 :

赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0(2/5)
「よぉ隊長サマ、起きてたか。――。あぁ、一つ不味いことが……」
「なんだ?」
 ホテルの部屋。地上に専用のオフィスなどもちろん持たない通称救奪隊が、当面の
落ち着き先に選んだ安ホテルの一室。通常の部隊なら副隊長の男が入ってくる。
「例の娘(こ)の記憶なんだが、表層処理では無理なんだと。頭が“良すぎる”。とさ」
 救出した少女達は簡単な記憶操作で一時的に“記憶喪失”にしてしまおう。と言うのが
彼らの当初の計画であった。
 彼女たちはあり得ない存在、戦闘特化型コーディネーターではあるが戦闘用の知識や
記憶は“刷り込み”ではなく、訓練の賜であることが押収した資料からもはっきりした。
ならば単純にその部分の記憶をそっくり消してしまおうと言う事である。
 戦闘に特化しているとは言えコーディネーターである以上、軍事教練で習ったことさえ
忘れてくれれば、多少運動神経が図抜けて居たところでそうは目立たない。そしてコドモ
の範疇に入る以上、現状の技術ならその手の処理は上手くいく確率が高い。
 だから心に傷を負った記憶喪失の少女と言う設定で宇宙(そら)へ連れ帰りプラントの
孤児施設に収容する。のちに何かを思い出すだろうが、その頃にはいくらか
自分の運命についても消化出来る年頃になっているはず。そもそもが規格外に優秀な
ニンゲンを作り出す。その被検体である彼女たちだから乗り切ってくれるだろう。
 そう言う予定だったのだが……。
「なんてこった。只でさえ見た目も目立つと言うのに……」
 救出した3人は全員が奪取した資料通りローティーンと見えた。ただし、グラジオラスと
呼ばれる少女はそう言うつもりが無くとも、つい見入ってしまう程の美少女なのである。
 思わず触りたくなるシャンパンゴールドの細い髪、引き込まれそうなアイスブルーの瞳。
丸くつややかな頬、子供ながらに女性を感じるうなじは、戦闘用とは思えない華奢な身体へ
絶妙のラインを描く。そこに付いたしなやかで長い手足。痩せすぎているわけでなく
筋肉質でもない。脂肪も筋肉も必要な場所に必要なだけ付き、健康的で自然な小麦色の肌。
『付いておしりが出たらケチつけるとこ無いわよね。……ちょっと羨ましいかも』
『ほんの2,3年で凄いことになるぞ、あのコ。今だって。――イヤ、そう言う意味じゃ』
 明らかに何処から見てもコドモなのではあるのだが、未成年者の救出が実質的な
主な仕事である彼の部下達でさえこうだ。人目を引くには十分すぎる。
 そして更に悪いことにその少女は一番【出来】が良かったのだ。どうやら簡易的な
方法で記憶を消すのは無理だという結論になったらしい。
「生活に必要最小限のところは残して、それ以外は消す。それと見た目も多少変える
必要あんだろ? あの娘の場合。隊長が言う通り、良くも悪くも目立ちすぎる」
 ラボの美少女。多少でも見て、関わりのあった人間ならば必ず覚えているだろう。
だから全てを抹消し変えなければ、この先の生活に障害が出る。言う事の理解は出来る。
 ――だが。
「名前どころか全てを無くさなければいけないと? それではあまりに……」

25 :

赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0(3/5)
「時間がない、特務隊からの出頭要請だぞ? 一度宇宙(うえ)に帰らなきゃいけねぇ」
 何かを言おうとした彼を遮って言葉を被せる。彼ももちろん分かってはいた。
「分かってるさ。――預けるのは海か? 記憶だけでなくて見た目も弄るんなら
せめてそれなりに気の利いた、そうだな。……島なんかどうだ?」
 公式には地球上にプラントの研究施設などほとんどないのだが、そこは特殊な事情を
抱えた人間を多く手がける彼の部隊である。所員全てをコーディネーターに入れ替えた
海や山等と漠然とした名前で呼ばれるラボを少なくとも五カ所。実質的なプラントの
防衛軍である“ザフト”が管理しているのを知っている。
「今回は記憶処理が特殊だからな。砂漠にそっちの専門家が居るんだそうだが」
「砂漠……。ああ言う極端な輩にあの娘を触らせるのは、個人的に抵抗があるんだが」
 各所のラボは仕事の内容が内容なだけに、所員にはクセのある者が多い。砂漠のラボは、
特に所長が変わり者なので有名である。
「そりゃあんまりな感想だな。奴らもプロだぜ? ――それより特務隊。お呼ばれの理由、
ユニウスセブンだろ? アレが本格稼働すれば、……いよいよ宗主サマと決別か」
 呼んでいるのは本当は国防委員会だろう。回りくどいが存在しない部隊を委員会が
呼び出すわけには行かない。呼んだのは事実上ザラ委員長本人と言い換えても良い。
 そこまでして委員会がしたい事と言えば、一騎当千の特殊部隊を宇宙(そら)へあげて
“本土防衛の強化”を計りたい。と言うのは考えなくとも分かる。
「涙の別離で済めばいいがな、ユニウスセブン防衛にまわされたりしたら、俺たち自身が
それこそ永遠のお別れになりかねないンだぜ? ……麗しの君だけじゃ無くこの世と、な」
 自分達が連合宇宙軍との小競り合いの耐えない地域に配属になるだろう事は目に
見えている。彼は小さくため息を吐く。
「なぁ、マジで連合全加盟国を相手に回して戦争するつもりだと思うか? 最高評議会は」
 現状、ザフトに正規の籍がないほぼ全ての特殊部隊への通達が回っている。
正規にザフトへの任官を求めるその意味は、万が一に備えて実戦経験のある兵士の数を
表面上だけでも増やしておきたいが為だ。万が一の自体とはもちろん。
「宇宙での食糧自給増産実験だぞ? ブルーコスモスに正面切って喧嘩売ろうってんだ。
見過ごせば沽券に関わる。MSは確かに優秀だが、ケンカで最後にモノを言うのは数だ」
 新兵器の噂も聞こえては来るが、実績のないものは兵器たり得ない。使った時点で
間違い無く性能通りの効果を発揮する。兵器にはそう言う意味での確実性が必要だからだ。
 MSは絶大な威力を持った兵器だが、連合の核ミサイルのような抑止力には成り得ない。
なにしろ秘密兵器だった都合もあり、戦略的有効性を連合各国が分かっていないからだ。
 実際に戦争となればプラントは民生用機械の転用品を兵器として利用するしかない。
確実に動く機械と言えばMS以外、彼らはそれしかもっていないのだから。
「プラントに核ミサイルをグロスで撃たれてみろ……。ま、当然想定はしてるだろうが」
『隊長、砂漠への直行便。出すぜぃ?』
「了解だ。……せめて誕生日のデータは本物を使えと伝えろ。――あぁ、先に帰ってる」
 走り去る小型トラックの後ろ姿をホテルの窓から見やる。彼は考える立場ではない。
「総員、撤収の準備。宇宙(そら)へ帰るぞ。痕跡は髪の毛一本残すな」

26 :

赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0(4/5)
 ――砂漠の小さな街。その中の小さな建物内。白衣の人物が二人。
「所長、やっぱり例の噂はアタリです。ロゴス系の敗走部隊がこの町を通過するそうです」
「ふむ……。“眠り姫”以外の患者は5人、か。午前中のうちに“パーク”に搬送開始。
いきなり空に打ち上げる可能性があるからそう伝えろ。多少は心の準備が居るだろう」
 ところで眠り姫、進捗状況は? 所長と呼ばれた白衣の男は指で忙しく回していた
ペンを唐突に咥える。キリ、キリ。と軸が悲鳴を上げる。気分を害したときの彼の
クセである。――さ、作業自体は遅れてませんよ? もう一人の白衣が気色ばむ。
「光彩パターン変更は完了ですが瞳の色の定着作業はまだ出来ません。それと記憶処理は
現在フェーズ5。あと3ヶ月と言う所です。体の方も色素の除去のみで黄色人種の肌の色
にするには2ヶ月は必要。整形はその後ですが、そもそもアングロサクソン系列の……」
「眠り姫な。……今すぐに“起こす”準備を開始しろ」
「――? ご冗談をっ! ……アタマ空っぽな上、見た目真っ白、まっ白髪ですよ!? 
光彩もパターン確認用に紅いまんま。せめて瞳だけでも青く戻さないと加工の跡が……」
 あと36時間でここは戦場になる。死ぬよりマシだ。所長はそう言い放つとブラインド
を上げる。砂漠の刺すような日差しがオフィスの中を暴力的に照らし出す。
「街の外から来た迷子という設定で当人が当面戸惑わないように起こす前に処理。あとで
つじつまが合わなくなってかまわん。……一番近いのはマーカスの部隊。……ちっ、間に
合わんのか。上手く拾われてくれればいいな。――牝豹とやらを一目見たかったものだが」
「所長! 彼女をす気ですか!?」
「したくないから言うんだ。連合が来る直前に町役場のビルに放り込め。この辺では
どう見てもあの建物以上に頑丈な所はない。――我々の避難の時間も稼がなければならん」
 白人の愛らしい少女。この少女の記憶を強引に切り貼りした上、更に黄色人種にしろ。
但し絶対に“パー”にしたり不細工にしたりはするなよ? と無理難題をふっかけてきた
本人は、しかしヤキン攻防戦から依然行方不明のままである。
「だいたい、前政権からの引き継ぎ患者は彼女のみ。頼んだ当人も行方不明。ザフトから
の経費も滞ったまま。搬送も出来ない以上、彼女の保護は明朝をもって放棄する」
 ――今のままなら停電だけで死ぬからな。今回は発電機も予備電源も動かせんぞ?
そう付け加えるともう一人の白衣も流石に二の句が継げなくなる。
「但しマーカスに拾われて生き延びる事が出来る条件は最大限考慮する。特別サービスだ」
「……サービスって、所長ぉ!」
「機材の処分、データの転送。することは山程ある。彼女一人にかまけている暇はない。
俺たちも逃げねばならんのだ。姫と心中するのなら、止める理由は無いから好きにしろ」
 だいたい好き放題に研究出来る代償が、多少政治的に問題のある者達の整形手術や
身体の欠損部位の手術だったはずだ。連合の敗残兵が略奪目的でここに来るなら、
研究どころではない。所長としてはザフトとのバーターは一旦反故にしても筋は通るのだ。
「……すぐに全員集めて、まずは地下の機材搬出と埋め立てから始めます」
 彼女については可哀想には思うが、さりとて言ってしまえば惰性で面倒を見てきただけ。
天秤にかければ自分の身の方が可愛い、と言うのが彼らの本音である。
「そうしてくれ。――宇宙(うえ)と連絡は付くか? ふん、避難経費の確認だ」

27 :

赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0(5/5)
 埃が舞い上がり、粉々に砕かれたガラスとひっくり返った椅子やデスク。
巨大な建物の中、意味も分からずあたしは只一人、所在無く立っていた。
 みんなは何処へ行ったんだろう……。みんなでこの町に来て……。
「――みんな? アレ? ……みんな、ってだれだろう」
 自分で入ったのか、誰かが入れたのか。何でロッカーの中に入っていたのかは知らない。
「……つっ!」
 とにかく、右腕が冗談みたいにぶらぶらして垂れ下がっているのとお腹が痛い事。
そして何気なくやった手が真っ赤になったのでどうやら頭から血が出てるらしい事。
やっとの思いでロッカーを這い出したあたし。今分かる事はそれが全て。
「のど、乾いた……。ほこりっぽいからかな。気持ちわゆ、――! おぼぇ、げほ……」
 のどが渇いているのに、お腹がすいているのに吐いた。吐いたものより涙の方が
多いんじゃないかと思った程なのに。なのに嘔吐は続く。頭が痛くなってきた。
ぶらぶらの腕も何か付け根がジンジンして熱くなってきた様な気がする。
「いたいよ……。誰も居ないの? あたしこのまま死んじゃうのかな……。死ぬのはヤっ、
ここ、何処っ! 手が痛いぃっ! お腹痛い、気持ち悪いのーっ!!」
 そして……。
「――たんま。そんな事よりあたし、誰……っ!? ――えぼぇ、げぇ……げはっ」
 人影が近寄ってくる。やたら頭が大きく見えるのは何故だろう。でも、大人だったら。
あたし、手とお腹が痛いんです、助けて下さい!
(――!? 喋れない! なんで!?)
 喋っているつもりだった。独り言だと思っていたのは、ただ思っていただけ。
あの人が気付かずに通り過ぎてしまったら、そしたらあたしは……。
(げっ、ヤバ! あの人拳銃もってるよ!!)
 方針変更。とりあえずしゃがんでみるが、見つかったらしい。瓦礫の上を身軽に
乗り越えながら銃口は下げずにまっすぐこちらへ向かってくる。
 ヘルメットを被って、サングラスで表情が見えない女の人、と言うのは分かった。
「動くなっ! 武装を放棄して投降しろ! ゆっくり両手をあげて……」 
 言う事を聞かなければされる。まだ勝手に死ぬ方がマシだ。だから諦めてゆっくり
立ち上がった。素直に言う事を聞けば最後に水くらい飲ませてくれるかも知れない。
「……えっ!? 女の子?」
「お、脅かしちゃった……かな? コレはすぐしまうから。ホラ、もうしまった。
怖くない。……ね? 痛いところは無い? おなか? ――と右手ね。すぐ看て貰おうね?
――? お医者さん嫌い? ふふ……。大丈夫、ウチの先生は上手だから痛くしないよ?
わたしなんか、中身はみ出したのを繕(つくろ)って貰ったんだ。凄い先生なんだから」
 自分の事をぬいぐるみのように言いながら、優しく抱き上げてくれた人は、多分
そんなに年のいった人ではない。いや、お姉さんと言った方が良いかも知れない。
サングラスの奥に薄く見えた瞳がこちらを見返す。強くて、でも優しい眼。
「もう安心して良いよ。たった今から、わたしが守ってあげるからね……」
 その瞳を見た瞬間、何故だか急に気が抜けて眠くなった。
 かぁさんにだっこされる時ってこんな感じだったかな。なんにも覚えてないけれど……。

28 :

代理投下完了っす。

29 :
>>22 - >>28 弐国氏
相変わらず会話や描写が生き生きしているし、キャラへの愛が感じられるところが好きだ

30 :
てすと

31 :
>>短編小説
投下乙
カティ編、非常に楽しんで読ませて貰った
結局彼でなければいけない。と言う理由が行間からにじむという
まさにOOに対する思い入れを感じて、こちらも入り込める作りは
何時もながらさすが
映画補完編も誤解を恐れずに言うならば
コーラサワーへの愛に溢れている
文句があるとすればボリュームくらいか
>>さばそう#0
投下乙
赤目の少女が出来るまでの道のりは
本人そっちのけでやたらに険しく長い
結構そそる見た目も、本当はもっと見目麗しく
改造途中で放り出されたという衝撃設定
そう言えばムツキ嬢は見た目の描写が結構多かったように思うが
スムーズに本編に繋がるのは初めからあった設定なのか
だとすれば納得

32 :
規制、実質約半年ぶりでようやく解除されたようです。
デオン軍である事がこんなにハンデになるとは……。
スレ立て乙でした。
何より読んで下さった方ありがとうございます。
代理投稿もありがとうございます。
まとめ管理人さんもありがとうございます。

33 :
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
〜プロローグ ヤキンの亡霊〜
「何かをやってるのだけは確定ですよ、艦長。――誰も帰ってこないのがその証拠です」
「お言葉だがね、中隊長、ここまで既に艦船9隻、MAに至っては40機以上の被害が出て
おるのだぞ。この期に及んでさらに有人の強行偵察をかける必要性が……」
 “プラント”を名乗るコロニー群が既に目視で数える事が出来る距離。地球連合の巡洋艦が
メビウスを周囲に展開させながら進む。
 プラントの防衛軍である“ザフト”が絶対防衛線とする資源衛星を改装した要塞衛星
『ヤキン・ドゥーエ』と『ボアズ』を線で結んだライン。情報収集、哨戒、偵察、どう名前をつけようが
この近縁での諜報活動は、ここ数ヶ月、上手くいったためしがない。
 巨大な構造物を造っている。と言う未確認情報はあるものの、それがは果たしてコロニー
なのか、超巨大戦艦なのか。地球連合軍はその手がかりすらつかめずにいるのである。
 そして新たに情報収集の任を負ったその巡洋艦は、ザフトが自国内と定めた宙域に
今まさに入ろうとしている。
「それ以上は士気に関わります、艦長。――ところで中隊長。亡霊、どう思われます?」
 彼らより以前、這々の体で逃げ延びた強行偵察隊の生き残りがそう言う報告書を提出して
いる。曰く、ザフト内部で亡霊と呼ばれる機体、若しくは部隊が任務の妨害をしたのだ、と。
「ザフトの部隊が誰何を発したのを傍受したと報告書にはあるが、そんな暇があればとっとと
情報収集をすればいいのだ。とにかく何を作って居るのか、確認出来ねば対策も出来ん」
「はぁ、それはそうなのでありますが……。約三百でザフト勢力圏、絶対制宙圏まで七百」
 艦長。主機停止、以降ガスで推進。灯火管制。彼の声と共にブリッジがくらくなる。
「“G”が出てくるというわけでもあるまい。各センサー、見落としは無しだぞ!?」
「ザフトのモノと思われる通信複数傍受、――はっ、中隊長に回します!」
 ゆがんだ詰め襟姿と、ノイズで判別のつかないパイロットスーツが中隊長の椅子の前、
小さなディスプレイの中に映し出される。
『……前方のMS隊に告ぐ。友軍信……ていない。所属と隊長名……たし。繰り返す……』
『またヤキンの亡霊がでや……連合の船……入りこんだ可能性があるぞ、全……ションレッド』
 ヤキンの亡霊。作戦失敗の逃げ口上ではなかったか……。中隊長と呼ばれた男は呟く。
「亡霊の扱いに関してザフト内部でも混乱がみられます。亡霊とはいったい?」
「いずれこちらの存在が露呈した、気にしても仕方なかろう。エンジン始動、全センサーは
出力全開、目視の人数も増やせ。不自然な点を見逃すな! 本艦全隊戦闘態勢発令!
対MS戦よぉい、全砲門開け! メビウスは全機戦闘展開! 艦長、五分で退却宜しく!!」
「索敵班です! 中隊長、グリーンセンターに大規模な空間の歪みを目視のみで確認。超弩級
のミラージュコロイドの可能性、大きさはコロニークラスであると思われますが詳細不明!」
「だいたいで良い、位置は? よし、今回はそれで十分だ、艦長、至急回頭しつつ……」
「メビウス全機、反応消失! ――!? NJ反応急速増大! レーダー、潰されました!」
 立ち上がり指示を出しかけた中隊長の正面。風になびく骸骨旗を繊細なタッチで肩に
書き込まれた漆黒のシグーがマシンガンを構えているのが見えた。
「MS! ――バカな、懐に飛び込こんまれただと! いつの間に……」 
「ヤキンの亡霊か……。何処の部隊なんだろうな、傭兵というわけでもあるまいに」
「ジェネシス建造が順調で結構じゃないか。多分詮索なんかしない方が良いんだよ」

34 :
予告
 ラクス・クライン暗に失敗したデイビッド・ウィルソン。プラントに見捨てられ、行く当てのない
 彼は壊れた戦艦と破損したMS、そして100余名の少女達を連れデブリ帯へと逃げ込む。
 一方、アークエンジェル追撃を題目に強大な戦力を手に入れた反ブルーコスモス筆頭の
 連合将校は自身の野望の為、『ヤキンの亡霊』が持つ情報とネットワークに目をつける。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第一話 『為すべき事』

35 :
とりあえず今年はここまでです。
スレ保守の為、一話と切り離して投下しましたので
ボリューム、内容共ちょっと尻切れトンボな感じです。
それでは皆さん良いお年を。

36 :
投下乙です。
ジェネシスとかどうやって作ってたんだよ!
の所に突っ込んでくれるんですか、これは楽しみ。

37 :
てすと

38 :
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――為すべき事――
「この状況下で我らに出撃を、と?」
『だからこそ、だ。逆賊ラクス・クラインとオーブ亡命政権の頭、カガリを混乱に乗じて消せ』
 ヤキンデゥーエの奥深く。殆ど人の来ることのない区画のその廊下。倉庫や書庫の並ぶ
一角に、国防事務局特別資料管理室と書かれたプレートをドアに付けた部屋はあった。
 政治活動は勿論、基本的な組織運営等は評議会に移ったものの、政治結社であった
黄道同盟の実行部隊。是を祖とする現在のザフトにあって事務処理に特化された国防事務局
と言う、いかにも地味な部署。ザフト各部隊には軒並みここから数名、自隊内の事務処理の為に
隊員が派遣されている。ヤキンデゥーエ常勤各隊始め司令部さえも例外ではない。
 但しヤキンデゥーエ内に事務局直轄の分室があること自体、ヤキンの中では知る者の方が
少ない。現在モニターの前に立つ彼はその第12分室の室長なのだが、国防事務局の組織図
では第8以降の分室の存在は、そもそもない。
 その部屋の中、金モールの付いた黒く長い制服。中年と言うには若い人物がモニターに
向かって直立不動の姿勢を取っているがそのモニターはただ黒く、何も映し出しては居ない。
「彼女らの率いる一団が、核ミサイルを軒並み墜としていると特務隊から情報が。しかも
プラントきってのアイドルとオーブ代表首長の正当継承者。本当に、良いのですね?」
 彼の所属はもちろん国防事務局。専任事務員の記章の付いた黒い服に袖を通す隊長で
ある以上、部下も当然いる。だが、事務仕事のプロである専任事務官の部下にメカマンや、
ましてパイロットが配属されているはずもない。艦船、MS等の兵器も同様である。
『オーブの姫はともかく、全ての混乱の元凶はラクス嬢だ。エターナルにいるのが確認された。
上がエターナル奪還をあきらめた以上撃沈も構わん。アスハの娘は予防的措置。ついでだ』
 公式の特務隊とは別に、明らかな非合法任務を担う第9分室以降の非公式部隊。
その第12分室長、デイビッド・ウイルソンは身じろぎ一つせずモニター前で直立不動で立つ。
『別働隊にはすでにムルタ・アズラエルの動向監視を命じた。今、この機に乗じてラクスと
アズラエル、双方亡き者とすることが出来れば、核が何発か通ったとてまだ立て直す策はある。
アプリリウスとザラ閣下さえ残ればな。――貴様は普通のラインと違う。命令拒否は可能だが』
「……命令拝領、イチサンマルフタ。我が隊配備の全ての装備の使用許可を求めます」
 船籍はおろか、生産記録さえない黒いナスカ級が三隻。配備のゲイツやジン・ハイニューバ
等の艦載機も状況も色も同じ。そして乗り込む隊員達も全員公式には事務員。
パイロットであろうが機関士であろうが正規に登録されている者は一人たりとも、居ない。
 彼の配下になるモノは全て特務隊預かりの機密扱いで、コールは特務隊の物を使う。
装備は最新鋭、人材も優秀。但し、経歴も見た目も、なにしろ全てが黒で塗りつぶされた部隊。
『認める。必要と思えば今ヤキンにあるものは、ジェネシスとプロヴィデンス以外は全て強制挑撥
して持って行け。――それとX10A排除の件はクルーゼが引き継いだ。手を出すな』
「使用許可を確認。現時より直ちにターゲットの排除行動を開始。以降作戦完了まで通信途絶」
 特務隊とも分室ともラインが違う、本当の議長直轄たる唯一人の男。ラウ・ル・クルーゼ。
MSの名前を聞いて、仮面で隠していなくとも腹の読めないだろうポ−カーフェイスを思い出す。
『やり方は任せるが、クルーゼに全て喰われては我ら分室組の立場が無くなる。……頼むぞ』
「了解。以上、通信終わり。――ヴァルキリア隊、全隊にコンディションレッド発令、出撃準備!」
 ザフトの慣例なら通常隊長名を冠するはずの部隊名はヴァルキリア隊。登録はアプリリウス市
の専任防衛部隊。艦船とMS以外の兵器は憲兵隊貸与品。矛盾は数え上げればキリがない。

39 :
――為すべき事――
 エターナルを堕とせ。命令がそうであった以上、彼らの行き先は決まっていたし、そこには
戦術と言う概念の、意味が無くなる程の各陣営の強力な部隊がひしめいていた。
 先ずは連合の、あり得ない程の大規模なMS、MAと戦艦30隻以上からなる大部隊を
突破しなければならず、その中にはアークエンジェル級の艦船と、異様なまでのな機動性
と過剰なまでの破壊力の火器を装備した、他のMSとは一線を画すGタイプも含まれていた。
 そこを抜けても今度はオーブのM1が量産機の範疇を明らかに超える機動性で迫り
更には無敵のストライクと援護するバスター。白の堕天使フリーダムと、赤き鬼神ジャスティス。
 後方では、航宙艦船の中でも性能的には最強の誉れ高いオーブ宇宙軍のイズモ級と、
そして今や不沈艦の名を欲しいままにするアークエンジェルがエターナルを覆い隠すように
黒いMS群の前に立ちはだかる。
 所属部隊も名前も知れない、黒い機体群。唯一視認出来る白で描かれた骸骨旗の
パーソナルマークを付けた隊長機と思しき機体から、敵味方双方がヤキンの亡霊と呼んだ
彼の腕を持ってしても、連合とクライン派の二面攻撃を完全に躱すことなど不可能だった。
「やってくれるな! X10A、そして09はアスラン・ザラか……。この俺がエターナルにとりつく
事さえ出来んとは。――作戦続行は不可能だ! 全機戻れ、体制を建て直すっ!」 
 作戦遂行は現戦力では不可能。その決断を下さねばならない事実が腹立たしかった。
 黒いゲイツは母艦へと帰投するが、そのMSデッキは気密が破れ、焼け焦げ、無人である。
「……。生きているものは返事をしろ!! ――くそったれ、いくら何でもやられすぎだ!」
 進撃に気を取られすぎた。見るも無惨な姿になったナスカ級。途中の廊下では生きている
隊員とはすれ違わなかった。ただ所帯無く宙に浮かぶスペーススーツがあるばかりである。
 ブリッジに上がった瞬間、ウィルソンが着た黒いパイロットスーツのバイザーが低酸素を検知
して自動で閉じた。第2次ヤキンデゥーエ攻防戦。ヴァルキリア隊と名乗る部隊の、その旗艦。
ナスカ級ブリュンヒルデのブリッジ。
 隊長でありパイロットでもある彼がそこで見たのは、出撃した時とはまるで違う光景。見慣れぬ
景色。とりあえず多少ゆがんだ艦長席に収まると半ば機械的に動く制御系のチェックを始める。
 右側のオペレーター席がそこにいたはずの人間ごとごっそり無くなり、ブリッジにあったはずの
空気と共にクルーも吸い出してしまったようだ。戦闘時にスペーススーツを着ない主義の艦長は勿論、
冷静で、それで居て人当たりの良い副長、目視のみでぴたりと桟橋に寄せた航海長。
――わずかにスーツを4つ、視界の隅に見つけ、取り敢えず無線に大声で怒鳴ることにする。
「寝てるならとっとと起きて残ったシートに着け。――応急コンシールの準備をしろ。いつまで
ブリッジに大穴開けておくつもりだ! ダメコンデータも早くあげろ! 操艦はオレがやる、
廻せ! 旗艦ブリッジの、――? な……。状況確認! なんだ。コレは、どういう事だ!」
「最高評議会より全周波で停戦調停の申し入れです。無線は評議会、カナーバ議員の模様」
「特務隊の秘匿回線です! ――っ! ザラ閣下が……、指揮所内で射されたと!」
 戦争が終わるだけならばいい。黙って事務屋になればいい話だ。但しパトリック・ザラが
失脚した、となれば話は変わる。それは、もうプラントには戻れないことを意味するのだ。
 プラントの暗部を知り尽くしたウィルソン達は戻ると同時に捕縛されるのはほぼ間違い無い。
そしてただ拘束されるだけには終わらないことは容易に想像が付く。おそらくの場に立つ事
さえ適わずに、そのまま闇に葬り去られる。と言うのは想像に難くない。

40 :
――為すべき事――
 自分は良い、とウイルソンは唇を噛む。秘密のエリート部隊ではあるのだが、他の部隊と
同様、優秀であれば年端もいかない少年少女でも動員されるのがザフトである。彼の部下
にも当然たくさんの少年少女達が配置されているし、当たり前だが彼らの全員が政治の闇に
関わっている訳では決してない。彼らの大部分は謀される謂われなど、有る訳がない。
「反応があるハッチ、バルブは自動を解除! 安全確認は要らん、大至急全部閉めろ! 
これ以上エアと燃料を宇宙(そら)に垂れ流すな! 生き残ったのは自分だけと思え!」
 何とか混乱に乗じて潜り込めれば……。とも思っていたが、状況から母港のヤキンも既に
墜ちた。ならば先ずは逃げの一手だが、船は動くのか。艦長席から機関室をコールする。
「……自分含め3名です。――アイアイサー! 大至急エンジンの再始動準備に入ります」
 機関長を呼び出した彼のヘルメットには少女の甲高い声が響く。たった3名、しかも見習いを
卒業したばかりの機関助手が中破したメインエンジンの息を吹き返す事が出来るものなのか。
「フゥ、生きているか? ――よかった。何機残ってる!?」
 熟考している暇など無い。矢継ぎ早に赤い服を着る副官を呼び出す。彼女もまた、若い。
『5機ですが、実質稼働可能は自分とジェイミー、パメラの3機のみと考えて下さい』
「おまえは見える範囲で良い、救難信号の出ている機体を回収。ジェイとパムはワイヤーでも
ケーブルでも良い、ゲルヒルデ、オルトリンデ両艦をブリュンヒルデにつなげ。黒い船を人目に
さらす訳には行かん。他の艦も出来る限り拾え! 周囲で稼働可能なMSが居るなら
特務隊権限を口実にして手伝わせろ。各員とも作業は90分以内だ! わかったな!?」
 配置情報通りならばこの空域には学徒出陣兵がかなり多い。但し人命救助を最優先に
出来る程、自らに余力がないのもまた事実である。
「エンジンが、回った。か。出力は? ――訳のわからんものを動かして爆走したらどうする!
冷却が効かんはずだ、オーバーロードに気を、――あぁ、わかったから20%確保。良いな!」
『フジコ・セリアから室長(キャップ)。――らしくもない命令ですね。なんの意味が?』
「この空域の主力はゾディアック師団だったはずだ。捨てて良い命など……、一つもないっ!」
 ゾディアック師団。ヴィルゴやキャンサー等の12星座の名前を冠され優先的にゲイツを配備
された精鋭部隊。と言えば聞こえは良いがアカデミーの中でもMS適正のある者を半ば強引に
挑撥した学徒出陣部隊である。選考基準はMSを動かせるか否か。きっとそんな所だろう。
 通常MSパイロットには一般の隊長教育に準じた教育が成される。それだけ強力でかつ
自らも危険であるからだ。彼らにはそのような教育は勿論施されている訳もない。
 大戦前は所属のない部隊の長だった彼。連合やブルーコスモスに拉致監禁された
黄道同盟構成員やコーディネーターを救出、奪還する秘密強襲部隊。その隊長。
 軍服を着て任務に就くことは勿論無かった。傍目には裕福なナチュラルを襲う強盗団である。
 そしてターゲットとして”救奪”を指定された人物はほぼ毎回、容姿端麗で優秀な人物、年端も
いかぬ者が含まれる事も多々あった。それをさずにわざわざ監禁するには勿論意味がある。
救奪した者達の、その時の姿。それを思い出すだけで、今でも身の毛のよだつ思いの彼である。
 最低限、人間のモラルとしての戦争条約はあるし、もはや停戦もなされた。だからと言って
連合やブルーコスモスに対しての不信は拭い様が無く、戦場で若者が捕虜になる事は、
だから彼の中では死と同義なのである。
 出来る事ならば回収に尽力したいが、それを第一義に掲げるにはあまりにも人員も装備も
不足しているのであった。

41 :
――為すべき事――
「ザフト兵を連合の捕虜に取られる訳には行かん。それに燃料と食料、武器弾薬、エア、部品。
絶対に必要になる。出来る限りかき集めろ。――それとデッキは無人だ、全機帰投時は注意!」
 彼女、フジコは優秀ではあるがメンタルに波があるとして、本来はオフィサーとしての任官を
求められ事務局入り。12分室に”左遷”されて初めて赤い服に袖を通し、パイロットになった。
 彼女が不安定な理由。それは過去、ウィルソンが”救奪”した内の一人であることと無関係で
あるはずもない。コーディネーターは頑健な身体がウリの一つ、”何をされても”そう簡単には
死なない、逆に言えばないのだ。そして救奪時、まさにない状態であった彼女である。
 その彼女を副官として重用しているのは人材の活用か、センチメンタリズムか。
 但しこんな時の彼の複雑な思いは、言葉は無くともフジコには間違い無く伝わった。
『イエスサー! 燃料範囲内で回収に全力を尽くします、キャップ』
 救出回収に懸念はある。”黒い部隊”と接触したが最後、プラントに戻る事さえ難しくなるのだ。
だが、ナチュラルの玩具にされたり、ミイラになって未来永劫宇宙(そら)に漂うよりはマシだ。
「前方のデブリ帯まで何日かかるか? ――ならばたった今から出力15パーで計算しろ!
コンシールの用意はまだか!? ――当たりまえだ、初めから5人しか居ないだろっ!!」
 そして残ったクルーもまた彼の懸念材料である。確認出来た限り、狙いすました様に
ベテラン、熟練と言った言葉とは全く無縁の、しかも少女ばかりが残された。
「戦闘が完全に止まったか……? 今ならいける。――出せるパワー最大で現宙域を離脱する」
「最終報告。分室はキャップを除き、生存はセリア以下23名のみ、内パイロット5、重軽傷者13」
 数時間後、夜逃げの様に僚艦の他数隻分の残骸を背負って敗走を始めたブリュンヒルデの
サブブリッジで敬礼に囲まれた彼は、更に頭を抱えることとなった。
「サジタリゥス大隊アプト隊、隊長は死亡、生存12名です!」
「ヴィルゴ大隊キーマ隊です。隊長は行方不明、あ、いえMIA。生存6。うち負傷4です」
「レオ大隊デイトナ隊、マルコム隊併せて9名です。隊長は二方とも、……殉職なされました」
 救出した者を含め生存者は107名。全員が17歳以下の少女のみ。あろう事か少年の姿さえ
そこにはなかったからだ。オトナの男性は彼の他にもう一人いるのだがパイロットでは勿論
無いし、頼むべき仕事も既に決めていた。
「使えるのはこの船のみだ。先ずはメカニック総出でブリュンヒルデのブリッジ修復にかかれ」
「良い趣味してるな、キャップ。……だが、ハーレム作るにゃ女の子が若すぎやしないか?」
 黒い服、そして戦闘が関係無い専任事務員であることを示す胸の記章。唯一無二の
生き残ったベテラン男性。勿論、12分室所属である以上戦闘が全く埒外な訳ではない。
現にブリュンヒルデではCIC統括で更に砲術長でもあるのだが、本職は別にある。
「で? オーブに繋げばいいのか? あそこならマァ氏のラインを使って以外と簡単に……」
「あのイズモ級はアスハ家のクサナギだった。オーブは駄目だ、クライン派と繋がってやがる」
 100人からの女の子か。キャップが好かない方法ならいくらでも送り込めるんだが……。
おいセリア、2番ランチは出せるな? そう言いながら、彼の身体はブリッジの出口に向かう。
「ハーレムを作れば良いんだろ? マハラジャは俺でさ。キャップは掃除係で雇ってやるから
有り難く思え。――回線7番は俺用に開けておいてくれ。――ん? 俺のラッキーナンバーだ」
「先ずは月経由で下に降りてくれ。連絡は定時に拘る必要はない。回線は確保しよう。――
条件面での交渉の余地は残して貰うぞ、ご主人サマ。俺は住み込みはイヤだ。……頼んだ」
 住み込みは家賃が浮いてお得だぜ? 黒い服の男はそれだけ言うと、振り返りもせず右手を
ヒラヒラさせ、そのままエレベーターへと消えた。

42 :
――為すべき事――
 事実上の停戦から2週間の後。虚空に連合ではまだ珍しい完全MS対応型のアガメムノン
級の新造艦カエサルと、その2倍以上の体躯を誇るいかにも貨物船から改修しましたと
言わんばかりの武装輸送艦マテウスが浮かぶ。
「艦長。シェットランド少佐、帰投報告。……ジン2機を撃墜、ジンハイマニューバ1機を拿捕。
都合パイロット一名を現在拘束中。――そろそろどこかに上陸しようぜぇ、艦長。女成分が
たりねぇよ。この船にゃよぉ」
「毎度のことだが貴様の腕だ。撃墜を少なくはできんのか? 自分達の目的は殲滅戦でも
ゲリラ狩りでもない。――自分も女のつもりで30余年生きてきた。何がどう足りんか、少佐」
 厳しい調子の女性の声が飛ぶ。パイロットスーツの少佐は大げさに首をすくめてみせる。
「本気で撃ってくるんだぜ? 腕や頭が無くとも、だ。気を抜けば堕とされるのはコッチだ」
「確かに貴官に墜ちてもらっては困る。但し、艦長の言もまた本当だ。必要以上の人死には
必要とはしていない。貴官なら出来ると私はそう踏んだ。その事は一応、覚えておいてくれ給え。
男女比率が多少偏ってはいるが戦艦は何処もこんなものだ。――捕虜は後送、MSはドッグへ」
 エレベーターの扉が開いたことにブリッジ要員は殆ど気づかなかった。大佐の階級章に
参謀を二人引き連れた、階級章の重みを鑑みればいささか若い高級士官がその前に立つ。
 艦長以下、シェットランドまで含めた全員が姿勢を正して敬礼したのに対し、わざわざ
気をつけの姿勢を取り直して返礼してみせる男。後ろの参謀2名もそれに倣(なら)う。
「――司令、月軌道艦隊本部から何か?」
「ドレイク級2隻も艤装(ぎそう)完了だそうだ。漸く我が艦隊もまともな編成になる。それと少佐、
次期型ダガーの量産試作機5機とX102のストライカーパック装備用改修型を手に入れた。
艦船と一緒に回送されてくる。乗機の割り振りはMS隊統括たる貴官の専決事項だ。頼む」
「デュエルねぇ。ストライク程荒っぽくは無いそうですが、それでもG兵器。俺で行けますかね?」
 フェデラー・ド・ラ・ル−ス大佐。連合軍の中では少数派で迫害さえ受ける反ブルーコスモスを
掲げる者達の旗頭。地下に潜っての活動が多い反ブルーコスモス勢にあって、唯一目立つ
言動をとり、それに見合った功績も挙げ、大佐ながら准将相当官として宇宙艦隊を任される男。
 彼の率いる第201独立機動艦隊の主な任務はアークエンジェル、並びにその運用に手を
貸した者達の捜査、追跡。勿論そこに手を抜くつもりなど毛頭無いが、だからといって諜報部
でさえ全く痕跡を見つけられない船をどう追跡せよと言うのか。
 要は体の良い左遷ではあるのだが、実際はどうであろうと反主流派が持ち得ない最新鋭の
装備は彼の手元にある。自分のターンが来たのだ。ラ・ルース大佐はそう思える男だった。
「貴官が使えんなら後は誰も乗れぬよ。せいぜい準備をしておく事だ。――艦長、例の件は?」」
「司令が仰った通り、ドミニオン撃沈位置付近で黒いナスカ級と骸骨旗のゲイツを視認した者が
出ました。聞き取り調査の為、メビウス2機と舟艇一隻、人員8名が現在作戦行動中であります」
 アークエンジェルとはやり合いたくねぇなぁ、と呟くシェットランドの声が聞こえたのかどうか。
「大天使サマが駄目ならヤキンの亡霊だ。奴らはプラント、連合の暗部を知り尽くしている。
上手くすればブルーコスモスを潰した上で、プラントに非戦条約を突きつける事が出来る」
「ヤキンの亡霊……。あれらのせいで連合はとてつもない代償を支払った。ヤキンに強行偵察
さえ出来ず、結果ジェネシスを易々作らせ、月基地まで……。少佐、借りは返す。そうだな?」
 そう、彼の行動は連合自体の利益には矛盾しないのだ。彼を封じ込めようとした勢力は
歯がみしていることだろう。自信満々で笑みを浮かべる彼を、止める大義名分が今は無い。

43 :
――為すべき事――
「調査チームから電文! 黒いナスカ級の敗走コースを確定とのこと。計算終了後直ちに
メインスクリーンに出します」
 速かったな、もう来たか。部下から見ればのんびりして見えるだろうなと思うラ・ルース自身、
実は一番余裕がない事を自覚している。とにかく急がなければならないのだ。
 せっかくブルーコスモスの盟主があの様なかたちで死んだのだ。再編にはある程度の
時間がかかるだろう。ムルタ・アズラエル自身、最期こそ功を焦ったが決して無能な男では
なかったし、組織の維持には必要な人材でもあった。そのアズラエルの次を決めるとなれば、
ただ事ではすまないことは考えるまでもない。
 組織が無くなった訳では勿論ないのだ。余分な時間などあろう筈がない。
 だからこそ今、『大天使』をダシに功績と情報。両方が手に入る筈の『ヤキンの亡霊』を手中に
しなければならない。ブルーコスモス一党を軍閥、軍属から追い出す最高のタイミングである。
 強力な装備、思いをを同じくする優秀な部下。そして情報。更には事を起こす大義名分。
駒は全てそろった。あとは……。
「解析終了。――コース出します!」
「デブリ帯に、向かった。だと? アプリリウスとは真逆だぞ。データは大丈夫なのだろうな?」
「確度82%との情報です。こちらの解析でも80%越えは確定、現在再計算中。3分お待ちを!」
 願ってもないチャンスだ。プラント本国に向かわないなら、それは暫定政権に見捨てられた
ことに他ならない。調査に依れば撃破された艦船やMSも大量に引きずっていったらしい。
物資を確保したのだと見るならば、これは長期に渡って寄港出来ない理由がある。と言う事だ。
 もしも『亡霊の確保』が出来たなら。大西洋連邦、いや連合政府全体さえひっくり返すことが
出来るかもしれない。
 プラントから追っ手がかかるかも知れないが、それより先に見つけて確保すれば済む話だ。
「司令。目標の予測コースを、直ちに艦隊全艦で追跡することを進言します!」
 参謀の一人から声が飛ぶ。
「宜しい。進言を承諾、調査チームからのデータを精査、至急プランの作成に入れ。――艦長、
全艦緊急発進。転進左5、上下角プラス15。加速60! ……増援は追いつけるな?」
 ドレイク級2隻は5時間遅れで合流出来ますがマテウスの加速が追いつけません、艦隊全艦
で追うなら40に。と艦長が即答する。既にラ・ルースの後ろに控えていた参謀二人の姿は無い。
「良いだろう、事は急を要する。細かい所は艦長に一任。……やってくれ」
「全艦警戒態勢に移行、発進よぉい! 当艦を基準に、取り舵4、上下角プラ13、当艦隊は
デブリ帯の縁を目指す! 詳細目標は発進後に確定するので増援艦隊にも通達のこと!
メインエンジン臨界へ、全MS、MAは準待機体制。発進は300秒後。カウントダウン開始!」
「ラジャー。カエサル、オールステーションリンケージスタート。――調査チーム帰還完了を確認」
「こちらシェットランド。全パイロットはアラートに集合、MS、MAは全機、準備待機に入る!」
 シェットランドは艦長に敬礼を送り、マイクに呼びかけながらエレベーターへ流れていく。
『こちらマテウス、機関オールグリーン。発進後、最大加速で続く。補給中断、動力パイプ収容』  
 艦長、増援と合流するまで艦隊を任せる。そう言うとラ・ルースは入ってきたときと同じように
気配を感じさせずにブリッジを出ていった。
「オールステーションリンクコンプリート、――ラジャー。マテウスも機関良好とのこと。いけます」
「宜しい。……第201特務機動艦隊。――全艦、発進!」

44 :
予告
 自分達に手を出すな。――警告をかねてウィルソンは自分達を追ってきた201艦隊に
 対して小競り合いを起こすが、ようやく艦隊の概要を整えたラ・ルースはあえてその徴発に
 乗り、正面から黒い部隊へとぶつかる事を選択する。果たして戦力的には圧倒的に
 不利なウィルソン達。彼らに生き残る道はあるのか。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第二話 『寄せ集め』

45 :
今回分以上です、ではまた。
>>36
すいません。出来上がりを確認する前になくなっちゃいましたw

46 :
テストついでに保守

47 :
あれ?書けた!

48 :
誰だかわからないけどおめでとう!

49 :
書けるかな?
>ゴミ溜めの宇宙で
ジェネシスが堕ちる所からスタートしちゃったか。
帰る訳にもいかない部隊、死神をやるのも大変だな。
相変わらず、マァ氏の異常なフットワークに吹いたw
投下乙、続きを楽しみにしてます

50 :
具体的な描写がない分、
>逆に言えばないのだ
想像の余地が残っちゃって、危険な感じが増すな

51 :
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――寄せ集め――
「おまえが旗艦の艦長とはな。まともな人事ってのはやろうと思えば出来るモンなんだな」
「たまたま任務に就いていなかったのが自分だっただけで。本来は先任が……」
 デブリ帯の手前。アガメムノン級1、ドレイク級2、ドッグ艦1。そしてMS、MA多数。
第201特務艦隊はその陣容を整え、各艦を連絡チューブが繋ぐ。
 アガメムノン改級カエサルの会議室。艦隊幹部定期会議のテーブルの10数人の中に、
艦隊司令と4人居るはずの参謀達、さらにその彼らに付くはずの補佐官の姿はない。
 おかげで事務的な話はすぐに終わり、井戸端会議の様相を呈する会議室である。
「先任権なんぞどうでも良い、能力のある奴がやるべきだ。それに俺もアウグストゥスの艦長を
司令から仰せつかった。月面定期シャトルの機長からドレイク級の艦長だぞ。司令さまさまだ」
 能力は人並み以上にあるのに、冷遇され左遷されていた者達を文字通りラ・ルースが
寄せ集めたのが201艦隊である。それが故にラ・ルースへの信頼も表面上は厚い。
 本心が違おうがラ・ルース自身は気にしていない。表面上であろうと忠誠を誓ったのだ。
 『あなたの駒として働く』、と。
 だからこそあえて初回の顔合わせ、その冒頭は出席しなかった。自らラ・ルースに拾われた
のだ、と言う自覚を持って貰わねばならない。適度な時間の雑談は手法としては手っ取り早い。
だがあまり長い間、放し飼いにするつもりも毛頭無かった。時間がかかれば愚痴も出る。
 会議室へ向かうラ・ルースを下士官が追い抜いていく。
「私はツイて居るな。何かあったか……。良い頃合いだ、損耗が大きくては困るが、さて……」
「会議中失礼致します! ……艦長、宜しいですか?」
 かなり慌ててラ・ルースを追い抜いたことすら気づかなかった曹長の階級章を付けた制服が
艦長の耳元へ寄る。
「何事だ、会議の終了後の、……なんだと、偵察部隊が? ――緊急事態につき中座します。
副長、シェットランド少佐も一緒に来てくれ」 
「カエサルのみの変事、なのかね艦長。――少佐が、いやMSが必要なのに?」
 会議室の入り口。追いついたラ・ルースが立つ。
「アウグストゥスとブルートゥスはいきなり全開で慣熟航行をやって追いついた。Dナンバーズ
(ウチ)もそれなりに慣らしはしなきゃな。――艦長、吸い込まれたってのがわからん」
 G.U.N.D.A.M.の文字が連合のエンブレムに重なる。敵に奪取され多大な被害を出した
機体デュエル。戦果のみを見ればストライクの圧勝だが、ザフトクルーゼ隊に運用されつつ
常にヤキン戦役最前線を転戦、最期まで生き残った。基本性能の優秀さは間違い無い。
 そのデュエルにストライカーパックを装備できるように改装したのが彼の機体。
ラ・ルースがシェットランド用にと、あえてごり押しして一機だけ。特別に作らせたデュエルプラス。
「同じ部隊の人間ですら何が起こったのかわかっていない。現状ロスト位置以外の情報は無い」
「リーダーからDナンバーズ各機。初っぱなから派手になるかも知れん、気合い入れてくぞ!」
 彼の機体の後ろに控えるダガー後継機達。シンプルな構成ではあるが、故に乗り手も
選ばず、整備もしやすい。生産が始まったばかりのGAT02ダガーL。ブルーコスモスシンパ
以外で、しかも宇宙(そら)で運用している部隊は彼らしか居ない。
「ラジャー。Dワン、リーダーに続きます。派手なのは全員大歓迎ですぜ、リーダー!」
『司令より発艦許可出ました。――進路クリア。……Dナンバーズ、リーダーから発進、どうぞ!』

52 :
――寄せ集め――
『Dスリーからリーダー。メビウスが吸い込まれたって、どう解釈したら良いんすかね?』
「わからんな。一緒にいたダガーやメビウスのパイロットも何が起こったのかわからんとさ。
わからん以上はそう言う対応をするまでだ。Dナンバー各機、インフォメーションワイヤー展開、
後ろのメビウス隊、俺等とは距離を取れ。デブリからもだ」
 ――恐らくは。唐突に開いた通信画面にラ・ルースの顔が写る。
『方法は不明だが敵に拿捕されたのだろう。デブリの濃い上に、先日の戦闘でバラまいた
Nジャマーがまだ生きている。そのせいで、各種センサーもまるであてにならない宙域だ、
言葉通りに吸い込んだというのならミラージュコロイドだが、ならばこそ確認など出来ない訳だ』
 何らかの方法でいきなりコントロールを奪う。機体をジャックされた状態でコロイド粒子を
展開した輸送船か何かに取り込まれれば傍目には”吸い込まれた”と写るだろう。
 MAをそもそもバカにしているザフトがメビウスを拿捕する……。捕虜が欲しいのだろうか?
シェットランドは腑に落ちない。
「……捕虜なんざ、邪魔になるだけじゃないんスか?」
『欲しいのは武装だ。現にロスト機は全機ミサイルポット装備だった。ミサイルだったら面倒な
調整などは必要ない。――人間は、……捨てる。だろうな』
 レールガンや201艦隊の一部で試験的に運用しているビームガンアタッチメントの機体は
”吸い込まれ”なかった。地味に取捨選択をしているのだ。
 ミサイル起動はワンパルスのごく短い信号ですむし、条件設定さえすればその起動信号さえ
無しでも自動で設定された敵へ向かって飛ぶ。
 敵は人数が居ないのかも知れない。とラ・ルースは思うが口には出さない。パイロットの
緊張感はある程度持続した方が良い。
「捨てる、……でありますか?」
『この場合、す。と言い換えても構わんだろう。連中が欲しいのは武装だけだ』
 状況から、手間のかかる物は要らない。と言う事だろうとラ・ルースは踏んだ。もちろん
それには人間も含まれる。”吸い込まれた”機体のパイロット。もはや生きては居まい、と。
「戦争は止まったってのに何処まで……」
『結果的に人命が奪われたのならば、少佐の考え方も間違っては居まいが……。彼らの戦争。
それにはまだ”停戦命令”が出ていないのかも知れんな』
 確認は出来ていないがパナマで何が起こったか、知っている者ならばメビウスのパイロット。
その運命がどうなったのかは想像に難くない。
 そして味方にさえも追われて居るであろう現状、彼らの臨戦態勢は続いていると見て
間違い無い。停戦中の小競り合い、そう言う状況に201艦隊は自ら踏み込んだ事になる。
「ザフトが、武器を現地調達でゲリラ戦ねぇ。微妙な話ですなぁ」
 地上戦であっても滅多に迷彩服さえ着ないザフトである。その手の話はしっくり来ない。
『身内からも追われてはな。なりふり構っておれんのだろう。だからこそ気をつけてくれよ?
”吸い込んだ”仕掛けがわかっていないし、本当はMSが目当てかも知れん』
 いろいろ考えてはいるが、思いついても通信が通らんからな。そう言いながらふと表情を
ゆるめるラ・ルースはいかにも部下想いの若手高官である。
「ラジャー。だからこそ俺等が前に出る。キッチリ見極めてくるぜ。デュエルプラス、オーバー」
『期待するぞ、少佐。……カエサル、ラ・ルースからは以上だ』

53 :
――寄せ集め――
『Dワンからリーダー。そろそろ現場宙域です』
「確かにジャミングが非道いな……。各機、有線は有事の際もギリギリまで切るな。
これでは連携が取れん。Aテン全機、密集隊形は避けろ。何があるかわからん」
 目視ではわからない程のごく細いワイヤが、MS、MA全機とデュエルプラスを複数箇所
結びつける。そうでなければ細かい戦術画面などはとうてい送ることは出来ない。
 ノイズ対策を施されたケーブルでつながれた、その画面にまで時折ノイズが入る。
『Aイレブン、コピー。全機散開フォーメーションF。――その、少佐殿。先ほどの司令の話……』
 A11から始まる機体ナンバーを持つのは同行したメビウスの部隊。幸か不幸か、全機
ミサイルポッド装備である。絶対わざと、だな。あけすけの性格に見えるシェットランドは
だがそれは口に出さない。さっきのミサイルポッドの話も、当然ラ・ルースならば出撃前には
気付いている筈だ。
 それを知らぬふりで出撃させるなら、それは暗におとりに使え。と言われたに他ならない。
 だいたいが。いわゆる“反主流派”を寄せ集めたのが201艦隊なのであり、そのボスたる
反ブルーコスモスの筆頭フェデラー・ド・ラ・ル−ス大佐。彼などは何時暗されても、文句の
言えない様な立場である。命を狙われるのは何も反主流派だから、だけでは勿論ない。
政治や派閥の力関係などにはまるで興味のないシェットランドでさえ、それくらいは知っていた。
 それほどに優秀で、また狡猾であることは派閥を問わずに誰もが認める所だ。
 そのラ・ルースが何をどうしたものか、最新鋭の装備と最高の人材を手中にした。当人の
柔和な顔からは何も伺えないが、反乱を警戒されても仕方がないと言える戦力である。
 その彼がシェットランドを、専用機まで建造してわざわざ名指しで抜擢したのだ。メビウスが
犠牲になること前提の作戦もどうかと思うが、だからといって拒否出来る道理はない。
 腕があるのに冷や飯ぐらい、彼はそんな生活に逆戻りなどごめん被りたかった。
「Dナンバーズだけじゃねぇ。メビウスもダガーも、201(ウチ)は全員腕っこき揃いだ、
ビビるこたぁ無ぇさ。それにいざとなりゃ。――その為のDナンバーズ、デュエルプラスだ」
『こちらDツゥ、何も反応は有りません。……リーダーの言う様に目視の方が効果的ですかね?』
 新型ダガーの試作品と共にラ・ルースが調達してきたストライカーパックは、量産試作品ではなく、
【無敵のストライク】が背負っていたものと同型3種。そして格納庫内で異彩を放つのが
ブースターとバッテリーパック以外に、巨大なレドームを装備した索敵用パックである。
 作戦のほぼ全てをMSでこなすザフトには索敵専用のジンやディンがあるのは知られた
話だが、その考え方は連合に持ってくると多少風変わりに見える。
 但しそのおかげででシェットランドの目の前にはジャミングの嵐の中、通常二割減のレンジ
ではあるが各種のセンサーがモニターした画面が映し出されている。
「肉眼ならそれで良いがな。モニター越しじゃ空間の歪みなんぞ補正されっちまうだろ?
よぉ、ボルタ。ハッチ開放して探すってーのか? 広域索敵は継続、気を抜くな!?」 
 
『Dツゥからリーダー。インディゴ3アルファからチャーリーに流動する微粒子を確認、MS移動
の痕跡と思われます。粒子の動きからグリーンセンターの廃棄資源衛星に向かった模様』
「……。メビウスとDツゥは待機。残りは俺に続け、強攻偵察だ! ケーブル切断後再構築」
 ――恐らくは、居るなら逆だ。わざと痕跡を残して移動したのだ。だが、敵をあぶり出さなくては
動きようがない。彼はチラとデータ画面を見る。メビウス隊にはすまないが撒き餌になってもらう。

54 :
――寄せ集め――
「艦長、当艦が現状で出撃させうる戦力は?」
 艦長席の隣の席で、端正な顔に皺を寄せてモニターを睨むラ・ルース。
「――カエサル、ですか? Dナンバーズはデュエルプラス以外は、現在マテウスを母艦にして
いますので、CワンからCファイブまで、ストライク・ダガーCゼロ隊、都合5機が待機中。ですが、
アウグストゥスのコスモグラスパー4機も未だ調整中で、状況的に随伴は無理であります」
 ダガーLは試験運用の側面もある以上、Dナンバーズは現在武装輸送艦、マテウスを
母艦にしている。更にマテウスでは既存のダガーへのストライカーパック用のハードポイント
追加やメビウス用ビームガンアタッチメントの制作も行っている。移動工廠といった趣である。
「うぅむ……。宜しい、カエサルは直ちに単艦艦隊を離脱、A3、H12、G5宙域へ向かう。
Cゼロ全機はCワン指揮にて戦闘待機に切り替え。カエサル以外は現状宙域にて待機継続」
 何事もないかのように簡単に言い放つ自らの司令の顔を見返す艦長。
「艦隊指揮は暫定的にアウグストゥス艦長に、――うん? 復唱復命はどうしたかね? 艦長」
「いえ。……コピー。当艦は艦隊を離脱、発進。目標A3、H12、G5宙域。機関長、メイン始動。
当艦は発進準備に入る。各艦との連絡チューブ連結解除、収納開始。第2MS中隊Cゼロ隊は
戦闘待機に入れ。当艦以外には現状待機を伝えろ! ――司令、何をお考えですか?」
「敵の頭の位置を、な。やることが派手な以上、現場にいるのはむしろ不自然。私ならあの
宙域で指揮を執りたいと言う話だ。――MSを出している。動かすならカエサル単艦が限界だ」
 ――何を考えている、この男……。そう思いつつ艦長は発進準備が遅滞なく進んでいるか、
チェックの手は休めない。
「ステーションオンラインコンプリート、エンジン臨界まで残り40。オールコンディショングリーン」
「Cワンより、第2MS中隊Cゼロ隊、全機準備完了。現状で待機継続とのこと」
 刻々と整っていく発進準備の状況を見ながら、それでも艦長は問わずにいられない。
「我が艦が、単艦で大丈夫と踏んだ根拠をお示し頂きたい。我が艦は連合の最新鋭艦船
とは言えアークエンジェル級と言うわけではないのです。単艦特攻など、特に司令の嫌う
処ではありませんか?」
 確かにその通り。特攻など愚の骨頂、人的にも物量的にもリソースの無駄遣いだ。
……艦長とは考え方が近いようだな。そう言うとラ・ルースは、椅子ごと艦長に向きなおる。
「敵の本体、な。たいした規模ではないと思うのだよ。MSが多くて2機、艦船は無し。
根拠と言えば……、カン、だな。艦長には怒られそうだが」
「……司令のカンなら信じるに値しましょう。――カエサル、発進するっ! 微速で前進。発進
10秒後に転進、取り舵20。ピッチ角マイナ20。転進30秒後より出力最大で艦隊離脱!」
「ふっ、上手いな。私は艦長の手の上か。それも良かろう。……経路は任せる」
 何を考えているかなどやはり艦長にはわからない。ラ・ルースは何も指示は出していないが
参謀達は既に何かを計算し始めている。わからないなりに、行けば“何か”はあるのだ。
「転進完了、艦隊安全圏の確保を確認!」
「宜しい。――艦長から総員、加速に備え身体を固定。……急ぐぞ。メインブースター点火用意」
 モニターの数字が一気に大きくなり、各グラフも赤くなって頂点を目指す。振動が伝わる。
「5,4、3,2,メインブースターイグニッション! ――最大加速、ようそろぉ!!」

55 :
――寄せ集め――
「ジェイミー、まだよ。もう少し離れてから……。ケーブルは?」
『だいじょーぶ! 逆光で丸見え。指揮官機はデュエルだね、蜘蛛の巣の真ん中にいるもの』
 シェットランド達の後方、デブリの中で黒いゲイツと、同じく黒のジン強行偵察型を改装して
長距離狙撃用にした機体が息を潜めて居た。
「パメラ、ミラージュコロイドは?」
 黒いゲイツのコクピット内、二つ目の通信画面が開く。
『今のところ順調。但しコントロール系の電圧が安定しなくなっきてる、10分くらいで何とかして。
早くなる分には良いでしょ? 放熱が上手くいかない、拾いモノはやっぱ駄目だわ。接続は?』
「ゲイツ(この子)なら届く。MS隊が置いてった分が浮いてる。捕まえるだけなら10秒、コネクタ
が付いたままだし、そっちに接続するまで20秒でやる。B−2K、いえ2Jのジャックを準備して」
 ケーブル自体はそもそも糸のように細いのだが、光の都合で向こうのケーブルは光学補正
を少しかければ丸見え。こちらは陰さえ見えまい。うかつなヤツらめ。黒いゲイツのコクピット、
少女の目はデータ画面をにらんだまま通信のコマンドを叩く。
「室長(キャップ)、敵はやる気です。X102と思われるGを出してきました」
 更にもう一枚、通信画面が開く。
『了解だ。こんなのはどのみち長くは続かん。手出し無用の警告も伝わっただろうし、ならば
ヤメで良かろう。デュエルは堕とさんで良いから足を止めろ。こちらは脱出路の確保を急ぐ』
「イエスサー。――キャップ。そちらこそ4機居ますが寄せ集めです、お気をつけを」
 ――俺を誰だと思ってる。ニヤリと不敵に笑うと通信が切れ、ケーブル断線の表示が出る
『残弾25、切るべき糸は18本。レーダー背負ったダガーも含めて全部切るのに全行程5秒』
「OK。ゴーをかけたら3秒後に狙撃開始、MAは無視してデュエルの糸を全部切って。その後は
位置を変えながら先行したMSをマシンガンで攪乱。パメラ、ケーブル接続後は任せるわ」
 了解。二人がそう言うと通信画面は全て消えた。
「ナチュラルどもは何をモタモタしている、早く。――良し距離は取った、……スタートっ!!」
 黒いゲイツはスラスターをふかさずにデブリを蹴ってメビウスへ向かう。そのゲイツを掠める
ように遠距離射撃の火線が飛ぶ。ゲイツはいきなりブースターを最大でフカすと一気に方向を
変え、そして消える。
『コントロール頂き! 今回はキャップじゃなくて良かったねナチュラルさん! 私は優しいもん』
 突如メビウスの隊列が乱れ、再度整然と並び直し、そしていきなり全機、一糸乱れず
パイロットを放り出す。その間にもゲイツはダガーの背負ったレドームを、ライフルを切り裂く。
「急いで! コロイド発生装置は切り離し、放棄! MAは収容しつつ全力加速を開始!」
『了解! 行くわよーっ!』
 元々強行偵察型のジンはその用途からスラスターの類はノーマルよりも推力が大きい。
最大加速であっという間にMS隊の横に回り込むとマシンガンを撃つ。混乱するダガーの群れ。
 その中、デュエルだけが冷静にメビウスを引き込む輸送船を認識しそちらへ向かおうとする。
「作戦を見切った!? やるじゃん。――でも残念。一機じゃ足りないし、……一歩遅い!」
 突如眼前に現れた黒いゲイツがシールドのビームクローを展開して迫る。デュエルは避ける
しかない。結果、輸送船の加速を許してしまった。
「ジェイミー! 引き上げよ!!」
 信号弾を打ち上げたゲイツは、黒いジンを引き連れ、冗談のようにあっさりと引いていった。

56 :
――寄せ集め――
「間もなく強引にブースターを付けたポンコツ輸送船が吹っ飛んでくる。予想航路のデブリ、
片付けは終わったか!? 通過予定まで300切ったぞ!?」
『あと60秒前後で予定の分は全て排除完了です』
 ミサイルの調達と追ってきたらしい連合艦隊への警告。我に手出しは無用。通じた上で
かかってくるなら排除の対象だが。
「――? センサーに反応!? ……読まれるとはな。――全機に至急! 作業は放棄、
ケーブル切断! ポイントBへ緊急待避せよ!?」
『キャップはどうなさるんですか!』
 多少見込みのある者を現状で稼働可能なMSに乗せているに過ぎない。敵に襲われたならば
逃がすのが常道、その上で輸送船の通過まで時間を稼ぐのはウィルソンの仕事である。
「おまえ等よりはMSの扱いは上手いつもりだが? 死にたくないなら待避急げっ!」
「アガメムノンタイプが単艦で来る、だと? ちっ、腰が軽いな。行動のみならず、数まで
見すかされている……? ふふん、ちっとは出来る指揮官が居る様じゃないか。ナチュラル!」
 有線でつながれたセンサー群は連合の船とストライクダガーの姿を捕らえ、黒のゲイツに
データを刻々と送ってくる。数、武装そして接触時間。
「この状況下では苦しいな……。圧倒的ってヤツだ。相打ちにもさせてくれんか……。くそっ、
時間がまだ。――フゥ、アドバンテージはどれだけ稼げた……? 急いでくれよ!」
 彼の駆るゲイツとて完調と言う訳ではない。左の肩アーマーとマニピュレータを2本失い
小規模な不調を、ダメージコントロールの画面を信じるなら102カ所抱えた状態である。
 
 ――だが。彼のすぐ後ろをデブリバンパーに火花を散らして小さな破片を弾き飛ばしながら
穴だらけの輸送艦が通過していく。陰になる部分には黒いシグーが張り付いて、右肩と盾に
骸骨旗のマークを付けた黒いゲイツに敬礼を送るが、それもすぐに見えなくなる。
「ちょいと早いが時間だ。ご足労頂いて恐縮だが、俺は帰るぜ。コドモ達が待ってるんでな」
「――ただ、せっかく作ったんだ。プレゼントは受け取ってもらおうかぃ!」
 そう叫ぶとケーブルを引きちぎって、発見されるのも厭わず黒いゲイツはスラスターを吹かす。
 次の瞬間、細い糸のようなケーブルを引きずったまま、センサーがダガーの編隊へと
到する。細いケーブルだが、状況によっては目となり耳となるまさに命綱。それだけに
強度は高く作ってある。
 そのケーブルに絡まれたダガーは当然ながら行動不能とは言えないまでも動きが鈍くなる。
そしてそのケーブルの先には岩塊や鉄くずが結びつけてあった。無線のスイッチを入れる。
「安っぽくて悪いがな、ウチのお嬢さん達の手作りだ。せいぜい楽しんでくれ! ははは……!」
 致命傷にはならないがかえってそれだけに始末が悪いと言えた。パイロットが頭に来れば
来る程、ワイヤカッターの届かない部分に絡まり、動きを規制され、機体とプライドを傷つける。
 アガメムノン級カエサルは輸送艦とゲイツを確認しながら、救出の為に止まらざるを得なくなった。
『キャップ、ご無事ですか?』
「ジェイか? ――俺は亡霊だそうだからな、ならばこれ以上は死なんさ。フゥと一緒に
散らしたヒヨコたちを拾い集めろ。とっとと帰るぞ!」
『イエッサー!』

57 :
予告
 孤高のエースパイロット、フジコ・セリア。自分さえ忘れてしまった彼女の過去は必要以上に
 彼女を縛り、彼女の行動は無意識のうちに規制されていく。その本人さえ忘れた過去を
 覚えているたった一人の人物は……。
 一方、シェットランドと艦長は艦隊司令ラ・ルースの秘めた本心を垣間見る事になるのだった。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第三話 『ゴミ溜の中』

58 :
今回分以上です、ではまた。
>>49
マァ氏は自分の作品群のトリックスターですので
何処にでも軽妙なフットワークで顔を出しますw
>>50
そう読んで頂けると嬉しいです。

59 :
ほしゅ

60 :
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――ゴミ溜の中――
 静かに雪が舞い降り、通りを少しずつ白く染めて行く。
「機械警備無力化。非武装警備員排除。不用心だねぇ、隊長みたいな人が狙ってるってのに」
『ワッチから隊長。警察、公安に動き無し。大西洋連邦情報軍諜報部も現状ノーマーク』
 革手袋に連合製の拳銃。ビジネスバッグ。コートの下に更に2挺、予備弾倉。そしてナイフ。
「総員。屋敷の見取り図は頭に入ってるな? 2班は二手に分かれて入り口と裏口を確保。
他の物は全員邸内への侵入準備。地下の出口が一カ所だ。全部屋の制圧を確認した後、
3班が階段を確保、1班、4班が地下へ向かう。――裏口はどうか?」
 特殊救出奪還部隊、通称強盗隊。今回の“救奪”対象データでは少女が二人、少年が一人。
写真を見るまでもなく完全に子供。
「――共が。すぐに助けてやる、……もう少し。もう少しだけ、我慢してくれ」
『裏口、警備員排除および機械警備の無力化に成功』
 救奪対象のパーソナルデータを思い出すのをやめる。先ずはこの屋敷の皆しが仕事だ。
確認出来るだけで、最低12人居るはずである。
「――良し、ミッションスタート。邸内のナチュラルどもは一人残らず全てせ。所詮の
付属品だ、に仕えて喜ぶなぞ空気を吸わせる事さえ勿体ない。……行くぞっ!」
『イエッサー』
 拉致、監禁された全てが非道い扱いを受けているかと言えば必ずしもそうではない。
例え外には出られなくとも、ただの話相手として意外な厚遇を受けていた例もある。
 だがそれは例外だ。ウイルソンは知っている。彼自身の目で見てきたのだ。
 実験動物の様に体中を切り裂かれて皮膚に何かを埋め込まれ、檻の中でうずくまって
感情も無くした少年。
 ただ性欲を満たす。それだけの為に半年間、むしろ健康状態は管理されつつ地下室に
閉じ込められて、何百人もの男性の相手を務めさせられていたアカデミー教官の女性。 
 来る日も来る日もダーツの的になって全身が腫れ上がった黄道同盟高官の男性。
 下着を着る事も許されず、全裸でメイドのまねごとをさせられていた少女。
 全ては頑健なコーディネーターの肉体だからこそ可能なのであり、だがそこに人間としての
扱いなどは微塵も感じない。だからこちらも非武装の人間を撃ち、ナイフを胸に突き立てる事は
何の抵抗もない。共の付属品であるなら、その首を折る事など、どれほどの罪になるのか。
 救奪対象者が社会に復帰出来る率は1割を切る。ある者は言葉を失い、情緒が崩壊し。
身体はともかく心の傷が深すぎたなら。自ら死を選ぶ者を、止める事の出来る者が居ようか。
 
「どなた? 何をなさっているのです? ……おこがましいようですが、生活にお困りですか?」
 品の良い女性が、開けはなったドアの向こう。背を伸ばして静かに座ったまま彼を見据える。
「屋敷の奥様かな? ……運がなかったな、ただの通り魔だ。――恨むなら旦那にしてくれ」
 それだけ言うと彼は何の躊躇もなくトリガーを引く。サイレンサーが傷力を隠す軽い音を
2回鳴らすとほぼ同時。額に二つ穴の開いた女性は、うなだれる様に椅子に沈んだ。
『隊長、1班が3階のナチュラル完全排除を完了。これで地下以外は制圧完了です』
「了解だ。1班、4班は地下の隠し通路へ。今日のアドバンテージはたった30秒だ、遅いぞ!」
 治らぬまでもせめてあるべき場所へ還す。だから今日も、彼は階段を走って降りるのだ。

61 :
――ゴミ溜の中――
 ぱっとしない中年男性がウィルソンに襟首を捕まれている。
「貴っ様ぁああ! この子達が貴様に何をしたっ!? えぇ!?」
「や、やめ……、うぐぅ」
 入り口の黒い服を着た如何にもという風体の男達三人を弾丸三発で打ち倒し、そのまま
地下室に踏み込んだウィルソン。男を持ち上げつつある後方で、だめ押しの銃声が鳴る。
 どうやら部屋の主は上階の変事に気づき”証拠隠滅”を計ろうとしていたものらしい。
 首に絞められた跡の残る少女、のど元を切られ血の海に沈む少年。いずれも衣服の類は
着て居ない。そして薬物の影響か、うつろな目を見開いたまま寝転がる少女。その指が、動く。
「生きてる? ――残弾全て、生きながらにして叩き込んでやる。覚悟しておけ、外道が!」
 パスパス。気の抜けた音が二つ響くと中年男性は両足を押さえて倒れ込む。
 
 手に持ったバッグからブランケットを取り出すと唯一生き残った少女にそっと近づく。
「……もう怖い事はない。遅くなってすまなかったな、迎えに来たぞ?」
 少女の股間にあった異物は抱きかかえる途中で何事もないかの様に装いながら引き抜き
放り投げる。出血のあった事はあえて無視して、目を見開き動かない少女を優しく包む。
 その少女の瞳に彼は映ってはいた。だが見ているかどうか、それは別問題だ。まるで
意志のない人形の様に抱きかかえられ、半分開いた口から涎を垂らし、ピクリともしない。
「さぁ、居るべき場所に帰ろう。――キミの様な優秀な人間はこんなにあっさり自分を捨てては
いけない、時間はある。必ず取り戻すんだぞ? ……何が何でも生きるんだ。約束だぞ?」 
 反応のない少女にそれでも言わずには居られない。そしていつもの空虚な感じが彼を包む。
何の為にこんな事をしている。共も、そして俺も……。
 
「隊長、”足”の到着まで120秒、表、裏。どっちに?」
 ――約束だったな。少女を左手に右手の銃は続けざまに火を噴き、その銃を投げ捨てると
更に新しい銃が火を噴いた。手足のみ、ぐずぐずに原形をとどめないまでに執拗に撃つ。
『ワッチ2から緊急。公安が動きます! 現着まで約240秒。作戦は40秒の切り上げを!』 
「遺体の回収急げ、さらし者にする気か!? ――受け取れ。高かったんだが、くれてやる!」
 かれは腰の鞘からからナイフを引き抜くと、ゆっくりと大きな弧を描いて放り投げる。
「引き上げる。”足”は正面、雪が厄介だ、ダミーは裏に”足跡”を。2班は退路確保を最優先!」
 手が、足があったならあっさり避ける事が出来たであろうナイフを胸に突き刺し、それでもまだ
生きている男を残し救奪隊は波が引く様に居なくなった。
 そして赤い色以外何も無くなった地下室。男の息の根は、止まった。
「…………から報告ですが対処の、……? 室長(キャップ)。――キャップ?」
 モニターに、赤い服を着た栗色のベリーショートの少女。フジコの生真面目な顔が写る。
「――すみません、お休みでしたか? ならば特に急ぎの報告ではないので……」
「いや、構わん。居眠りをしていただけだ。……俺もブリッジに上がるよ。報告はそれから聞こう」
 何故何の変哲もない個別の作戦を鮮明に思い出す事がある。髪を掻き毟る。判りきった事だ。
あの時救奪した少女。自我を取り戻すまで半年、自発的に食事を取るまにでは更に時間を
要したが社会復帰を果たした。アカデミーを卒業し、ザフトに志願する程に優秀な人材として。
「よろしいのですか? ――イエスサー。ブリッジにてお待ちします。……では」
 思い出したのはひとえに、その少女の名前がフジコ・セリアであったから。に決まっている。
「――せっかく当人が忘れてるっつーのに、……皮肉な話だ。タイムチャートまで覚えてやがる」

62 :
――ゴミ溜の中――
 デブリ帯のほぼ中央付近。
 黒いナスカ級、ブリュンヒルデ。そして自ら航行が出来なくなったオルトリンデ、ゲルヒルデの
三隻は既に使用期間が過ぎ、戦争が無ければ本来は廃棄されリサイクルされているはずの
民間用の浮きドックらしき巨大な建造物に身を寄せている。
『――はい、機関室です』
「機関長代理、ほぼ修復完了じゃないか。出力52%はどうしてだ? 問題点は?」
 引きずってきた僚艦の残骸や、更に此処までに拾った連合隻の船やMSなどは流石に全て
収容は出来ず、周辺宙域に浮かんだその様はまるでジャンク屋である。
『無理をすれば70を超えますが、B系統のエバポレータがイカレてます。30分が限度です』
「他の船からの転用は出来ないのか? パーツだけならそこら中に……」
 ヴァルキリア隊の2隻は勿論、ナスカ級が3、ローラシア級が2、更には移動の途中で
目に入った連合の船やMSまで。良くも見つからずに此処までたどり着いたもんだな。
とウィルソン本人が驚く程の戦艦やMSの残骸が、浮きドッグを比喩でなく覆い隠している。
「我が隊はあまりにも装備が新しすぎるんです。最新過ぎて他の艦とのパーツの規格が
合わなくって。オルテラとゲルヒィも修復の予定と聞きましたし、ならば互換性のあるモノは
ありません」
 最新鋭、最強装備が仇になったか……。自分のツキのなさを呪うウィルソンである。
ただし、落ち込んでばかりも居られない。前に進まねば生き残れない。そして何も最強装備は
機械関係だけではない。人材もその範疇に入る。
「アッシー交換ならな。材料がある以上、合わなきゃ作れ。他に道はない。それとたった今から
おまえから代理を取る。給料は上がらんがクッキーの配給を週に一箱増やしてやる。文句は?」
『――はい?』
「ついでに作業環境も、もう少し良くしてやる。――メカマンサブチーフに繋がるか?」
 彼の椅子の前、ディスプレイにもう一人の少女が映る。
『聞いてましたー。たった今作業終了。電源投入はキャップの指示待ちでーす』
「OKだ。――ならば3からカウントダウンを開始する。……3,2,1。電源投入!」
 
『な、なにが……?』
 いきなり暗がりに明かりが付き、ドッグのハッチが閉まり始める。エアの入る音が大きく響く。
「此処の電源が入った。エアーも入るから機密服も要らん。多少船の形が変わっても構わんし、
色も塗らんで良い。やってくれ。終わったら他の2隻も復旧指揮を執れ。いいな、”機関長”」
『……ア、アイサー!』
 データ画面には更にドッグ後端部、そう広いわけではないがメカマン待機所に人口重力の
発生を知らせるデータが流れる。数値は0.954Gまで上がって止まる。
 人間にはやはり重力が必要だ。そして言わずとも彼女はそこまでキッチリ修復していた。
「立て続けで申し訳無いとは思うが、人が居ない。悪いがMSの修復も急いでくれ。……おまえも
もうサブは要らんな。コッチはチョコの配給を2枚増やそう。文句はあるか? “チーフ”」
『アイアイサー、キャップ! 文句無いでありまーす!』
 ――相変わらず女の子の操縦、お上手ですね。後ろからいつも通り冷静な声がかかる。
「優秀な奴はほっといても優秀なのサ。ウチの娘(こ)達は操縦する必要なんざ、無いだろ?」
「――私には、やはり人の上に立つのは無理なようです……」

63 :
――ゴミ溜の中――
 MSデッキ。時間の空いたフジコは愛機を見上げながら、珍しく制服のまま素に戻っていた。
「――セ、セリア隊長、ほんの少しだけお時間を……、その。宜しいでしょうか!」
 少なくともヴァルキリア隊。その中で赤い服を着るのは彼女だけだが、彼女を隊長と呼ぶ者も
また居ない。デイビット・ウイルソン。第12分室の長たる彼の命令だけが部隊の全てだからだ。
「え? 隊長……? わ、私の事? え、えと。なに? どういう……」
 完全無欠のクールビューティ、フジコの唯一の弱点。人との交流、会話。慣れ親しんだ
自隊の人間とさえ”仕事”の括りが無くなったとたんにまともに喋れなくなる彼女である。
 つい素に戻ってしまった上、更に相手は自分に畏敬の念を抱き敬礼する少女達。最悪だ。
「私たちもただ居るだけではいけないと思うのです。けれど動かせるだけで基礎もありません。
お忙しいのは承知しています。でも、5分でも10分でも良いです。MSの事、教えて下さい!」
 拾った少女達の中では非戦闘員の比率が高かった。ブリッジや主砲を吹き飛ばされた
船の中、直撃を受けずに生き延びる事が出来た者。実に6割強がメカマンか、爆発を免れた
機関室詰めの人間。残りも大半が甲板員やCIC詰め要員、医療スタッフその他。
 そんな中、パイロット組は総数こそ15名居たものの、稼働MSも現状黒い機体以外は3機。
シミュレーターも使用不能。メカマンの手伝いと言っても本職ではない以上、限界はある。
但し、フジコにとって意外だったのは自らが未熟だという自覚を持っていた事。
 だからこそ生き延びたのだろう。……これではキャップの言いぐさだ。ますます喋れなくなる。
「う……。えと。わ、私……。その、隊長とか、そういうの、じゃ。……ないし」
 ある程度ポジションが纏まった現状、彼女ら以外はほぼ何某かの仕事に謀され、全員を
見渡してもほぼ”無職”であるのは彼女らの一団のみ。教えを請うなら分室という特殊部隊の
中でも室長以外なら、誰しもがエースと認め、たった一人、赤い服を着る事を許されたフジコ。
 自らを劣っていると自覚した人間が取る行動としては正しいだろう。但し指導を頼む人間として
フジコが適任かどうか、それは問題が別である。
 彼女らとて勇気を出して雑談にさえ殆ど乗ってこない孤高のエース、フジコに声をかけたのだ。
 それはフジコにもわかる。ただ彼女が孤高のエースである理由はザフトレッドだからでも
無ければ撃墜数でも無い。そして、そんな事は外から見ただけではわからない。
  
「意地悪しないでシミュレーターのデータだけでも見てあげたらぁ? セぇリアたーいちょ?」
 彼女のおしりを撫でながら流れて行くのは、自分の機体の整備を終えたジェイミーである。
「ひゃんっ! ――な、ジェイミー、あなた急に隊長なんて何を……!」
「そぉよーん、隊長。若手の面倒見てあげなさいよー。あこがれのザフトレッドなんだからさ?」
 いつの間にか彼女の肩に掴まるのは同じく自機の整備を終えたパメラ。
「私、の服は。偶々……キャップが、気まぐれを。――知ってるでしょ!? 私、隊長とか、その」
 ――と言う訳で! 突如としてジェイミーが高らかに宣言する。
「つい先ほど、我がリュンディのシミュレーターが全機復旧しました! 隊長は多忙である為、
直接訓練を見るわけには行かないけれど、データのチェックはしてくれるそうです」 
 ――燃料の都合もあるから実機演習はあまり出来ないけれど。パメラが後を引き継ぐ。
「格闘センスのある者は私、射撃の才能がありそうな者はジェイミーが面倒を見ても良い。
勿論、総合力が高ければセリア隊長の直接指導もあり得るが、これは私達が認めれば。だ」
 ――隊長、シミュレーター使用の許可を下さい! 少女達は全員がそろって敬礼する。
「ちょっ、パメラ、ジェイミー! 人にはね、出来る事と出来ない事がね……、ねぇ、聞いてよぉ」

64 :
――ゴミ溜の中――
「――帰投報告、以上!」
「ご苦労、少佐。――デュエル・プラスとダガーL、仕上がりは?」
 デブリ帯の縁に浮かぶカエサルの艦橋。艦長への定期パトロールの報告はシェットランド。
「PS装甲以外X105とほぼ同じ、確かにな。ダガーL、なかなか良い仕上がりだぜ?」
 GAT01A1の大規模量産型とも言えるストライク同等のスペックを誇る、GAT02ダガーL。
特にヌーボォと呼ばれる201艦隊の先行量産試験型は明らかなオーバースペックもウリである。
「ならばデュエルからは降りるか? 司令の意志とは言え骨董品では貴様に渡す意味がない」
 事務的な艦長の言葉にシェットランドは少し焦る。初めて貰った彼の専用機だ。
 それにGを与えられるのはエースの証、取り上げられてはたまらない。
「パワーが段違いだ。GはあくまでGなんだぜ、艦長? ダガー系列とは全てが違うんだよ!」
「そう言ってもらえるとわざわざ作った甲斐もある。本当は少佐の乗り方ならば、フォビドュン辺り
の方が良かったのだろうが、なにせGの第2期設計分は一般のパイロットからもメカニックからも
評判が悪いそうでね。まぁ、基本部分はほとんどカラミティからの転用だが」
 ブリッジで観測データを睨みながら索敵班と何事か話していたラ・ルースが振り返る。
「エンジンはおかげサンで絶好調でして。――連中はこのデブリとノイズの中央に居る。もう
慣熟飛行は完了だ。……なぁ、司令。いつまで此処に居るんで?」
 少佐、口を慎め! と言いながら立ち上がろうとする艦長をラ・ルースは手で制する。
「失ったメビウス8機分の補給が来る。……今はそれを待つ。急ぎたいのは山々だが、半端な
戦力ではむしろ危険だと言う事がわかった以上、選択肢はそれしかない」 
「――? 司令、自分は伺っておりません。月の司令部とは何時お話に……」
 ついさっきだ。艦長に答えると、手書きのメモを、すぅっとシェットランドに放ってみせる。
「ダガーが4機にグラスパーが5機、パックが、……30機!? ヒュー。スゲーな、こりゃ」
「来るのは中古のGAT01だが、ウチでパックのアタッチメントを付けてL仕様に改造する。
亡霊には上の方々も怒り心頭の様でね。必ず仕留めよ、との事だ。頼りにしている、少佐」
 シェットランドは無造作に浮き上がると艦長席の背もたれに掴まりつつメモを渡す。
「……ダガーLが6機、改造ダガーが15機、コスモグラスパーが9機、メビウスが30機。
そしてデュエルプラス。――司令。失礼ながら、最終的に何をなさるおつもりか? このほか
マテウスにパーツの形で更にダガーを12機分、是だけでも事が露見すれば、ただでは……」
 だが、ラ・ルースの鉄面皮は崩れない。むしろ艦長を見上げるとニヤリと笑う。
「先ずはヤキンの亡霊の皮をひん剥いて人間に戻って貰う。その後の事はまだ決めていない。
だが、時勢に乗るには数も勢いも必要だ……人目を引きたいなら行列は長い方が良い」
 そう、ラクス・クラインがやって見せた様に、勢いだけで後に続くお調子者が出るくらい、な。
……我々はハーメルンの笛吹きだ、艦長。ラ・ルースは艦長に向き直る。
「――だから私がハーメルンになって笛を吹こう。さればこそ、後に続く君たちの……」
 ラ・ルースは床を蹴って艦長席、シェットランドの反対側のアームレストに自然につかまる。
女のカンが身体を逃がそうとしたが、艦長の威厳の方がまさった。だから肩までの髪を揺らす
事もなくゆっくりとラ・ルースを振り返る事には成功したが、背中を伝う冷や汗までは止まらない。
「メロディ、リズム。狂っては困るのだ。連合からブルーコスモスを一掃する。我々の手で、な」
 まさに目の前。彼女の手にしたメモを取り上げ整った顔がそう言うと、口元に笑みを浮かべた。

65 :
――ゴミ溜の中――
 数分後のブリッジ。艦長席。
「なぁ、艦長。……実際問題、司令は何考えてるんだと思う?」
「自分に判るわけがない。貴様の方が人間的には近いのではないか? ――少佐、マテウスの
ダガーの件、貴様はたった今忘れろ。知っているのは自分を含めほんの数人。露見すれば
その時点で”名実共に”首が飛ぶ。そう言う代物なのだ、アレは」
 穏便に、若しくはラ・ルースの思惑通り粛々と事が運ぶというならそれで良い。
 但し、軍人には不正を知れば当然報告の義務があるのである。
 万が一にも”揉めた”場合には、知っているだけで反逆罪に荷担した責任を問われる
可能性が高い。内容から言って、軍法会議なぞ飛ばして直接命に関る事さえも否定出来ない。
「内緒話も気にくわねえがな。前フリ無しで憲兵隊に拘束されるとか、そう言うのは俺ぁごめんだ」
「……それで良い。貴様が必要のないリスクを負う事はない」
 階級章の示す立場がどうであろうと、シェットランド自身は艦隊運営には直接関わりはない。
部下に要らぬリスクを背負わせる必要など無いのだ。と艦長は息を吐く。
 ――何を、か。自分が知りたいくらいだ。艦長はアームレストについた肘に細い顎を乗せる。
 マテウスのパーツを組み上げて出来上がる物はGAT01ではない。宇宙空間においては
201艦隊においてのみテスト名目で運用されるGAT02”ダガーLヌーボォ”なのである。
 そしてストライカーパックの数もそれらを組み上げてなお、各機に2機ずつ行き渡る。
 更にはその運用をサポートするコスモグラスパー。重要性を軽んずる部隊司令が多い中、
さして量産されている訳でも無いその機体。ラ・ルースはMAを削ってまで1個中隊を揃えた。
 それをダガーLと共に重点配備するのはMSとストライカーパックを重視した戦術を持つ
まさにラ・ルースの意志そのもの。
 更には全艦MS運用仕様の艦船と、輸送艦とは言いながら実はほぼ空母と言って良い程の
徹底した改装を受け、アガメムノン級のシルエットを優に2つ飲み込んで有り余る程の超大型
武装輸送艦マテウスは、カタパルト2本を備え、更に簡易工廠としての機能まで持たされている。
 パイロットも無造作に選んだわけではなく、シェットランド以下全て歴戦の猛者。
キルマークを持たない者は居なかった筈である。勿論艦長以下のクルーも同様に方向性の
差こそあれ、優秀でない者は居ない。
 そして全隊員の絶対条件。ブルーコスモスに属していない、若しくはそのシンパでない者。
 何を。はともかく、フェデラー・ド・ラ・ルース大佐。彼は本気で事を起こすつもりだ。
「青き清浄なる世界のために……、か。コーディネーターとて人間であることに違いは無かろう
ものを。……互いの存在を認める事が、何故命がけになるのだと思う? 少佐」
「まぁ、ジョージ・グレンのマニアは居ねぇんだろうな。とは思うぜ? ブルーコスモスには、さ」
 貴様の冗談につきあっていると、ますます気が滅入る。艦長はそう言うと席を立つ。
「少佐、ちょうど標準時で12時だ。昼にしよう、つきあえ」
「デートのお誘いにしちゃ安上がりだなぁ。艦長をオトシたらマニアがいっぱい泣きますぜ?」
「失敬な! 自分の何処にマニアウケする要素があるかっ! ――副長、15分程頼む」
 珍しくバカ真面目な上司が軽口を叩いたのを好ましく見て、妹を見る目で副長が振り返る。
「ラジャー。1206、副長、頂きました! ……休憩も高級将校の責務。であります艦長。
張りすぎた弦は簡単に切れるそうですよ? 15分と言わずランチぐらい、ごゆっくりどうぞ」

66 :
予告
 亡霊の潜むデブリ帯を前に高ぶるシェットランド達。だが敵の技量を見て取ったラ・ルースは
 彼らの行動を規制する。そのラ・ルースは本部には極秘裏にザフト士官との会談の場を持つ。
 そこまでしてラ・ルースの求める物とは果たして……。
 そして時を同じくしてウィルソンの元へもミラージュコロイドをまとった来客がデブリのなかを向う。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第四話 『敵と味方』

67 :
今回分以上です。ではまた。
今回の震災で大きな被害を受けられた皆さんには謹んでお見舞いを申し上げます。
一応自分もほぼ被害は無いですが被災地域の一人であります。
何が出来るのかは状況により、人により違いはあるでしょうが
一緒に出来る事からやっていきましょう。

68 :

【痛いニュース】日米の同性愛者が集結!東北を救う "ホモダチ" 作戦の全容【画像あり】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/aniki/1249464650/

69 :
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――敵と味方――
「あれ、副長。艦長は?」
「自分が承ります。――今日は月曜ですので定例艦長会であります。少佐殿」
 デブリ帯の縁、カエサル以下第201特務艦隊の艦艇5隻は未だ動かずにとどまっている。
「平和なモンだな、チューブ伸ばして会議してるとかさ。緊張感というか何つーか」
「停戦合意が得られた以上、いろいろ言いたい事はあるでしょうが、今は平時であります故」
「……だが俺たちの目標、デブリの中の連中はまだ戦争中だ!」
「功を焦る気持ちはわかります。――だがね、少佐殿」
 オペレーター席がぐるりと回ってシェットランドは口調の変わった副長と目が合う。
「新しい機体に、新しい戦術。今は練度を高めておくべきだ。敵さんが生活で手一杯の内に、さ」
「副長(おやじさん)の言う事はわかるさ。そして焦っては居ないが、俺は確かに功績が欲しい」
 ブリッジクルーも含めてみんなそうだよ。少佐殿だけじゃない。そう言うとまた副長は
椅子をパネルに戻すと顔だけ振り返る。
「ところで少佐殿、何か用事があったのでは?」
「そうだ、忘れるとこだった。パトロール中に挙動のおかしなデブリを見つけたんだった。
データにタグ打ってコッチに流しといたんだが……。その後何か動きはあるか?」
 ブリッジから出て行きかけたシェットランドが振り返る。
「チャン軍曹が追ってます。ただ、ガスの噴出で軌道が変わっただけにも見えますな。軍曹?」
「レンジ内に入る所からデータ再検証してますが、人為的な動きを感じるとすればこちらの
レンジに入って来た際のスピードと角度だけ、ですね。ただそれも、どうなのかと言われれば、
まぁ自然と言えば、副長の仰る通り自然なのでありまして……」
 データを観測する索敵班。目の前のモニターには名前と記号の付けられた無数のデブリが
刻々と位置を変えて行く。
「だいたい何でこんなにゴミだらけなんだよ、この宙域は。レーダーも効かねぇし」
「引力の都合でゴミが寄ってくる。しかもラグランジュポイント程安定はしていないが引力が
微妙に釣り合ってるんだ。河の澱みみたいなものでね。――軍曹、モニター出してくれるか?」
 そのほぼ中心にヤキンの亡霊は陣取った。主力が高速艦のナスカ級である以上わざわざ
籠城すると言うのは、今は動けないと言う事でもある。シェットランドが苛ついているのは
その部分だ。今なら叩ける。と言う訳である。艦長以下、クルーもほぼ同じ感想ではある。
 ただ艦隊司令、ラ・ルース大佐は慎重であった。前回、連携が取れずに敵を取り逃がしたのを
重視し、インフォメーションワイヤー無しでの連携訓練を重点的に指示していた。
 そしてその指示はMS、MAに限らず各艦の艦隊行動においても同様である。
「プラントが初期のNジャマーの実験場にしていたのも此処の宙域と自分は聞いております。
実験初期のモノがまだ生きている事もあって、そもそもレーダーが効かんのでありまして……」
 だからこそオペレーターはデータ解析に首っ引きになり、索敵班は直系数mのデブリさえ
全て名前を付けてその動向を追いかけている。目に見えるモノのみで操艦をするからだ。
「そこまで踏まえて、だからこそ此処に逃げ込んだってことか。流石亡霊ってトコかい?」
「まぁ、さっきも言ったが、絶対安定ではない。中心部も年1mではあるが地球に引きずられてる。
加速が付けばあとは一気に流れ星だ。ただしそれに倍して次々新しいゴミが寄ってくるんだが」

70 :
――敵と味方――
「そこが気にくわねぇ。ジャンク屋どもは何やってやがる。MSやら戦艦のパーツが大量に
流れてきてるんだぜ? 奴らにしたらお宝の山じゃねぇのか」
「此処に集まるはずだったのは本当だ。連合政府と、プラント暫定政権が例のデブリの件で
金を積まなかったら、な。使えるモノは拾った奴の全取りでゴミは重さで買取り、更に経費が
通常の三倍+燃料費別、だそうだ。少佐殿ならわざわざダガーの腕を拾いにコッチに来るか?」
 ヤキン戦役中期、”足付き”ことアークエンジェルを執拗に追うクルーゼ隊はハルバートン提督
率いる第8艦隊を俗に言う地球低軌道会戦で打ち破り、旗艦を含むアークエンジェル以外の
ほぼ全艦を鉄屑へと変えた。
 ザフトにとっては目の上のたんこぶである月軌道艦隊、わけても知将の異名を取り
G計画を強力に推進したと言われるハルバートン提督。これを討ち取ったのは僥倖には
違いなかったが、全ての破片が地上に落下して燃え落ちるわけもなく、結果として地球低軌道上
にデブリベルトを作ってしまった事になった。
 もっともラウ・ル・クルーゼ自身、そのことは判った上であえて撃破した節がある。と言うのも
当時の地上プラント領の持つマスドライバーがデブリベルトにかかり使用不能になるのが一日
わずか2時間だったのに対して連合領内のそれは最短で6時間、最大では20時間を超える
地域さえあったのだ。そこまでの計算さえ彼ならばやるだろう。と言うのが大方の見方だ。
 ともあれ、連合、プラント、共に停戦合意の後に一番最初に手を付けたのがそのデブリの
除去であった。往還シャトルが飛ばずに困るのは月もプラントも一緒だからだ。
 結果手空きのジャンク屋はほぼ動員され、彼らの目の前の”澱み”は澱んだままである。
 
「そんなに出るのか。確かに俺でも軌道の掃除に行くわな……。ま、軍曹。監視頼まぁ」
 そう言いながら今度こそブリッジを出ていこうとするシェットランドに声がかかる。
「腕が立って頭も切れる。おまえさんが功績が欲しいと言うなら、俺たちは誰一人文句は言わん。
だからこそ。こないだみたいに味方を囮にする様な作戦は、もう採らないで欲しいんだ」
 副長の椅子が再度反転しシェットランドの背中を見つめる。
「……俺がそんなタマに見えるか? 副長。バカだからペテンに引っかかった。それだけだよ」
「猪武者のパイロットバカ。そう思ってんのは自分だけだ。201艦隊(ウチ)のエースなんだぜ?
おまえさんは、俺たち落ちこぼれ組期待の星なんだ。そう言う自覚は持ってくれ」 
「そう言ってくれんのはおやじさんだけさ。――多少は自惚れても良いっつう事かい?」
「自惚れていると言う自覚があれば、大いに結構。そうでなければ部下などついて来るまい。
自信満々のエース様ならばこそ部下は尊敬し、安心して命を預けるんだろう? 少佐殿」
 当分自惚れておくよ。そう言いながら三度(みたび)エレベーターに向かったシェットランドを
チャン軍曹が呼び止める。
「大隊長! 例のデブリに明らかな人為的機動を、――こちらへ来ます! 接触まで900秒!」
「自分が直接確認に出る! 副長。デュエルプラスとDナンバーズ全機、出撃許可を!」
 ちょっと待った、艦長も司令も会議室だ。そう言うとヘッドセットを被って副長は端末を叩く。
「状況的に……ラジャー。そのように伝えます。――少佐殿、出撃許可を確認! 司令より
出撃機および装備は少佐殿の裁量に任せる、との事!」
 了解だ、副長! シェットランドは今度こそエレベーターに飛び込む。
「プラスとDナンバーズ全機はエール、Cテン隊はランチャーで艦の直縁。出撃準備急げ!」

71 :
――敵と味方――
「少佐のプラスからのデータはもう来ているな? 分析結果、どうか」
 艦長席と司令席、既に席の主は二人とも収まっている。
「表面の反射比率、その他からゴム、若しくはシリコン系と思われる素材である可能性95%!」
「ゴム製の岩、か。ダミーで堂々と入ってくる、しかもあの距離であえて正体をバラす様な挙動。
――艦長、全方位の索敵を怠るな? 攪乱の恐れがある」
「ラジャー。――各艦全方位の観測を厳となせ、手空きの者は目視観そ……、チャン軍曹!」
 データ画面にいきなり複数の画面が割り込んで開き、数値とグラフの表示が始まる。
「この反応は……、ザフトのNジャマーキャンセラ−? 艦長、ライブラリ照合結果はアンノゥン!
大きさからMSです! 機種不明、Gではないようですが注意を!」
「少佐! 一時後退、近すぎるっ! Cテン隊、全機目視照準っ! ロックはするな!」
 シェットランドのデュエル・プラスが後退するより早く、ゴムの岩は内側から破けて微塵と消え、
岩の代わりに真っ青に染め抜かれたMSが身を低くシールドを構えていた。背中には巨大な
リフター。腰には折りたたまれたレールガン。ザフトG系MSが持つのと同じ形式のライフル。
『あの質感、PS装甲だと? ジャスティス……、いやゲイツか!? ――ブリッジ!!』
 蜂の巣をつついた様な騒ぎのブリッジにシェットランドの声。艦長は双方を一括する。
「距離を取れと言った、少佐! ――騒いでいる場合か! 機種データはまだあがらんか!?」
「ライブラリにデータ無し! 更に通常型ゲイツが2機、現出を目視確認! 現在都合三機!」
「青い奴はゲイツの改造型と思わ……? 直振通信、回線接続要求。その青い奴からです!」
 インターホンの受話器を天地逆に持つとラ・ルースが立ち上がる。
「構わん、回線開け。――画面を出す必要は無い、こちらも送るな。……私が出よう」
【……り返す。こちらはザフト特務隊ジョーダンである。艦隊指揮官殿と直接話がしたい、返答を】
「自分は地球連合軍月軌道艦隊司令部所属、第201特務機動艦隊司令ラ・ルース大佐である。
ジョーダン隊長、この通信の意図する所を完結に話されたい」
 通信の相手が誰で、どういう状況であってもラ・ルースはまるで変わらない様に見える。
【往信感謝する。貴官とこちら、目的が同じと見る。よって直接話がしたい。着艦の許可を願う】
 いきなり予想外の要求にブリッジ中が、艦長さえも息をのむがラ・ルースは動じない。
「停戦状態とは言え、我らは地球連合に籍を置く者である。実質のプラント軍たるザフト武官。
これの言う事を鵜呑みにする事は出来ない。貴官の目的を、簡潔かつ具体的に乞う」
【狙いが亡霊ならば着艦許可を。違っているなら自分はこのまま帰投する】
 ブリッジ中が凍り付く中、ラ・ルースのみが笑みを浮かべる。
「……武装解除の上貴官の機体一機のみ。その条件で着艦を許可する。条件を妥当と判断
するなら当方のMSのエスコート、およびガイドビームに従われたい。どうか?」
 再度ブリッジ中がざわめくが艦長もそれを止める事を忘れている。

感謝する。外せる武装は全て外す。データは流せない故、光学観測で確認されたい。
――ところでMSデッキ内の気圧は連合内標準ではどうなっているのかお聞きしたい】
「……? 艦長。わかった。――当艦においては、ハッチ閉鎖後30秒以内に0.9気圧だそうだ」
【了解した。ビーム発振を開始されたい。ジョーダンからは以上】 
 彼なりに重圧を感じていたのか、インターホンを置いて息を吐きながら席へと座るラ・ルース。
「……。司令の話の通りに。当艦の2番へ誘導。少佐には武装解除の確認作業をせよと伝達!」

72 :
――敵と味方――
 カエサルのMSデッキに初めに入ってくるのはデュエル・プラス。ダガーとはそもそも機体精度が違うのだが、その分気むずかしい機体。それを後ろ向きで、ライフルを構えたまま軽いショック
のみで着艦してみせる。
 そしてその後方、ライフルを突きつけられているゲイツ。こちらは全く普通のことであるかの
ように鉄のこすれる音のみで全くショックを感じさせずに着艦を終える。
『ハッチ完全閉鎖、シール確認! 機体の温度確認開始、固定作業班は物理固定準備!』
『両機とも若干だが高い、冷却作業かかれ! ――若干だ、構わない。固定作業も開始しろ!』
 メカマン達が2機のMSにとりつく間にも、デッキの空気が充填される音が徐々に大きくなる。
『機体固定確認、気圧0.92まで回復。両機とも機体温度適正値確認よろし! 甲板長!?』
『宜しいか、艦長。――はっ! よおし、両機のハッチ開放、並びにパイロット降機を許可する』
 パイロットスーツのシェットランドが艦長の横へと流れてくるのと入れ替わりに、憲兵隊
一個小隊がゲイツへと向かう。一応鎮圧様ショックガンはホルダーに収まったままではあるが、
手にした電磁警棒は使用可能である事を示す赤いランプが付いている。
 シュン。ゲイツのハッチ、その気密が切れてゆっくりと開き始める。その中から白い軍服に
金モールを付けた人物が、無重力であることを感じさせない動きで何気なくデッキに降り立つ。
 気圧を聞いたのはパイロットスーツを着ていないから、であったらしい。いきなり迎撃されても
全く文句の言えない場所に文句の言えないやりかたで現れて、パイロットスーツを着ていない
と言うならば、MSの操縦には相当な自信があるのだろう。
「ジョーダン隊長にぃ、敬礼!」
 抑揚のない、それでいて良く響く声。ラ・ルースの号令が響くと同時にデッキに居る全員が
敬礼の形を取り、声の主、ラ・ルース大佐を見つけた白い服の人物が、向き直り敬礼を返す。
「直接会談の機会を与えて頂いたこと、感謝する! ラ・ルース司令!」
「全てを納得したわけではない、ジョーダン隊長! そちらの真意は知知る由もないが、我らは
この状況が上に知れただけで文字通り首が飛ぶ。任務遂行最優先でそちらの話を受け入れた
こと、理解されたい!」 
 ゲイツの足下と、デッキを見下ろすキャットウォーク。直立不動の者同士が、軍人らしい
良く響く声で会話を交わす。
「こちらも状況は変わらない! ――もう一つ、機体の方は固定以外のことはご遠慮願いたい。
NJCについてはもはや地球軍の方が保有数が多いだろうが一応機密扱いである、機体は
自分以外が手を出せば自壊する事になっている。理解を願いたい!」
「了解した! この後は大声で話す内容でもないでしょう! 軍艦故、たいしたお持てなしも
出来ないが部屋を用意しましょう! 部下に案内させる、従われたい!」
「少佐、余計なことは言うなよ? 白い服なら将官クラスだ。貴様が口を開けば連合パイロットの
風評は地に落ちる。そうなればフラガ少佐以下の優秀なパイロット達に申し訳がたたん」
「どうしてムゥ・ラ・フラガが好みのか、相変わらず謎だな。艦長ならもっとマッチョなのが好み
じゃないかとおもうんだが。――だいたい、俺が直接話をする機会なんぞ回ってこねぇだろ」
 自分もそうは思う。直立不動、鳶色の目は白い服を追いながら口だけが小さく動く。
「一応だ。何を考えているのか判らんからな。……ジョーダンも、そして我が司令殿も。だ」

73 :
――敵と味方――
 廃棄されたローラシア級2隻を強引に”貼り付けた”事で機動性を獲得した浮きドック。
機動要塞ヴァルハラ。ローラシア級の他、名前もフジコの命名で立派なものが貼り付いた。
「――都合の良い事この上ないな。ツイてるんだかツイて無いのか、全く。……他には?」
「主砲が生きている連合の艦を見つけたと連絡が。現在オルテラが3rdステーションに曳航中」
 そのドッグの中心。他の船から強引に部品をはぎ取り、もぎ取って再建成ったブリュンヒルデ
のブリッジ。フジコと、その報告を聞くウィルソンである。
 連合の部隊は12分室自体が目的だと読んだウィルソンの提案によって、廃棄コロニーや
既に使い終わった資源衛星等を目くらましの為にピックアップする様、指示がだされた。
 現在、1stから3rdまで都合三箇所の”ステーション”を手に入れた12分室である。
「曳航出来るくらいならオルトリンデはもう大丈夫そうだな……。浮き砲台にするか固定するか
はエンジンの様子を見て、か。――メカBチームを3rdステーションに回せるか?」
「2ndステーション電源修復にかなり手間取ってA,Cチーム双方に応援要請が来ています、
現在ゲルヒィで作業をしている機関長達を回した方が、連合の物ですが艦船のエンジンです。
結果的に早いかと。現状、部品不足で作業は燃料供給ポンプの圧力調整だけですから」
 ヴァルハラや各ステーションから目をそらす為の時間稼ぎ用のダミーである以上、それに
機動性を持たせることが出来れば目くらましとしてはまさに好都合。そう言う話である。
「――だな。定時軌道調整がある、機関長は此処に残せ。メカDチームもMSをいじってる間は
動かすな。パイロット分だけは稼働機を確保したい。他の者のシフトはメカと機関士に任せる」
「イエス・サー。さっそくメカチーフと機関長にシフトの変更要請を伝えます」
「ところでセリア隊長。パイロット達、見込みのある者は出てきそうか?」
「室長(キャップ)まで。……た、隊長とかそう言うのでは、私は……。制服はキャップの……」
 このところ分室組からも隊長と呼ばれて、たいそう居心地の悪い思いのフジコである。
「良いじゃないか。パイロット19人の長だ。そう言うのを一般的には隊長と呼ぶんだろう?
――フゥ、おまえの目から見て彼女らの状況はどうだ。……冗談はともかく、使えそうか?」
「とりあえず。ジェイミーとパメラがデータをチェックしろと言うので、シミュレータデータのみは
私がチェックと駄目出しをしています」
 と言いながら手にしたファイルから数枚の紙を取り出す。ブツブツ言いながらも上司に
見せられる形にまでデータを仕上げておくのがフジコという少女であった。
「今後次第ですが”使えそう”なのは現状、フィーネ、グラシアーナ、クレメンティナ、レベッカ、
マオ=スゥの都合5名と言う所ですね」
 彼女の言う”使える”の範囲は何処までだろうな。とウィルソンは思う。
 きっとあきれる程求めるレベルは高いはずだ。その彼女がピックアップした以上、訓練次第
では掃海作業や攪乱の為の無意味なステーション間移動、それ以外にも回せる。と言う事だ。 
「3rdステーションから緊急、ミラージュコロイド通過と思われる粒子反応をキャッチとのこと。
データから過去300秒以内に通過した模様、計算上ヴァルハラとの接触まで1800秒以内!」
「粒子の傾向はザフト系……。遅いのはコロイドが剥げるのを気にして、か? フゥ、デッキに」
「イエス・サー! 大至急予備含め、全MSを起動。私も先発で出ますっ!」
 ――逆だ! そう言うとウィルソンは額を抑えて椅子に沈み込む。
「全員を説得して押さえろ。どうやら魔女が亡霊狩りに来やがった……。出ればおまえも死ぬぞ?」

74 :
――敵と味方――
「正面、グリーンセンターに突如反応! ナスカ級と……、エターナル級!?」
「ウソ! だってエターナルは! ラクス様が、なんでこんな処に……」
 予定より15分は早い。途中で船足をあげた様だな。コロイド粒子をわざと見せつけておいて
真っ正面でコロイド解除、そして現れるのがエターナル級。攪乱のつもりか。”同業者”同士だと
言うのに舐められたもんだ……。ウィルソンはブリッジの少女達をを一括する。
「馬鹿者っ! 同型艦など設計図があれば作れる! 先ずはライブラリ照合、どうかっ!?」
「すいませんキャップ。熱紋はネームシップであることを否定。目標はエターナルタイプで確定」
「目視で確認、ミーティアの装備がありません。更にナスカタイプ2隻の現出を目視で確認!!」
「艦首をズームしろ! 光学最大っ!!」
 ウィルソンは、しかし画面がズームになる前に、黒いエターナル級の艦首に何が書いてあるか
など端から判っていた。真っ赤なカチューシャで止めた長い髪をなびかせ、嬉しそうに笑う骸骨。
 ヤキンの亡霊と共に、プラント本国を目指す幾多の連合特殊部隊を撃破してきたもう一つの
黒い部隊、ボアズの魔女。
「キャップ。MS隊抑止完了、パメラが危うく発進を……。黒い船! な、本当に魔女が……!」
 赤い制服がブリッジに上がってくるなり絶句する。
「NJ反応計測最大を超えます。レーダーその他計測機器は、光学系以外完全に死にました!」
「1stステーションとの通信途絶。長距離ケーブル、ノイズが乗りまくって使い物になりません!」
 いつでも特務隊の命令書は切り放題。ザフトの機材も人材も、自由に徴発出来る分室である。
基本的には諜報部隊の様な役割にあった第9から14までの”分室組”。その中であえて
実行力を持たされたのは12、13の二チームのみ。
 骸骨旗のMS。それを駆るヤキンの亡霊の率いる第12分室と、そして。今、彼の目の前で
笑う女骸骨。それを事あるごとに大げさに見せつけるボアズの魔女こと第13分室である。
「エターナル級からインフォワイヤー第三速度で射出を確認、キャップ!?」
 その第13分室が最新鋭最強装備を持ってここへ来る。つまり、”脱走”した第12分室の
排除命令が分室総長から出た。と見るのが妥当だ。
「逆らうな。分室組以外の連中まで危険にさらす気か? ――すまんな、分室組はただでは
すまんかも知れん。……ワイヤキャッチャ−を出して通常通りコネクト! 通信は俺に回せ」
 口封じは自分だけで良いはずだが、相手はそうは思うまい。立場が逆ならば、彼はきっと
そうしたし、なにより5分かからず一気に殲滅出来るレベルの戦力差があるはずだ。
「アイアイキャップ。……通信、来ました。――アイサー、だします」
 メインディスプレイに大写しになるのはウィルソンと同じく黒い服に金モール。
胸には彼と同じく、事務局所属の専任事務官を示す記章。
 赤く長い髪を無造作に肩に垂らした、妖艶でありながら嫌味に見えない美女。
【第13分室ゴルゴーン隊旗艦メデューサから12分室ヴァルキリア隊旗艦ブリュンヒルデ。
こちらは13分室長タチアナ・パルメラだ。――よぉ、亡霊の癖に生きていたか。久しいな】
「メデューサを新調したのか。……相変わらず美人で何よりだ。総長は何か言ってたか?」
 ふっ、あっはっはっは。さも可笑しくてたまらないといった風に笑う様も妖艶なタチアナ。
【穴倉に籠もったままヤキンで蒸し焼きだ。引きこもりはやはり身体に悪いな。……死んだよ】
「死んだ……? ならばおまえは今、誰の命令で動いている!? 何をしに来た!!」
【その件でおまえと話をしに来た。移乗許可、……昔なじみだ、勿論否はないよなぁ? デイブ】

75 :
予告
 ウィルソンとタチアナ。闇の世界を生き抜いてきた二人の会談。
 理想と現実の狭間で揺れるウィルソンと、それを理解出来ないフジコ。
 クルーが訝しむボアズの魔女、タチアナ来訪の目的。それは果たして何か。
 そして、ついにラ・ルース大佐が意図せぬ来客を機に、野望を形にし始める……。
 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第五話 『立つべき足場』

76 :
今回分以上です、ではまた。
いつの間にかコンビニが24時間営業になりました。
ガソリンも並ばずに買えます。
気がついていないだけで、普通の生活って
実はすごく幸せな事なのかも知れませんね。

77 :
>>76
投下乙
偶数話が連合サイドメインになるんだな
たぶんフジコちゃんは歴代トップのヒロインになる予感

78 :
>>76
最期、同業者との会話の剣呑さが洒落になってないなw
会話にドラマチックな緊張感がある
投下乙

79 :
マイスターの憂鬱  〜ルイス・ハレヴィ、星の海を旅する〜
 振動の中、電車を飛び降り駅を抜けると『副通信管制室』と大仰に漢字で書かれたプレートの
ついた部屋に飛び込む。カギがかかっていない上に誰も来ない。なのに情報は艦橋直結。
 【非常事態宣言の為、ただ今より中央線特別快速以外運休】の文字がモニターに流れる。
「あの警報、何だったのよ。非常事態って何? 電車、緊急時に止まったら意味ないじゃん……」
 だいたい、宇宙戦艦の中に電車が走ってる事自体非常識なのよ……。と、これはあえて
母国語で呟いてみるルイスである。と、艦内放送がかかる。
『非常事態発生。亜空間において敵と遭遇、現在交戦中。総員第一種戦闘配置につけ……』
 この放送だけで、事態がかなり悪い事はルイスにも理解出来た。
 “とある方”より提供された間もなく認可の降りる見込みの“新薬”。今までの薬とは違い効果は
ある程度感じる事が出来たが、強烈な副作用によって彼女はその日もうつらうつらしていた。
 気がつくと、ベッドも部屋も変わり、ベッドサイドにはカタカナで『ルイス・ハレビー』と書かれた
紙が差し込んであった。状況が変わった以上、本人に許可無く転院することもあるのかも
知れない、と思った。ならば日本語が出来る事は単純にプラスになりそうだ。
 ただこんなに変わる事もあるまい。と2日ほどして気がついた。ルイスが居たのは太陽系を
遠く離れた宇宙を征く、超大型戦艦『エクセリヲン』の艦内だったからである。
 これからどうしよう。途方に暮れて舷側から星空を眺めていたそんな時、彼女に出会った。
「あの、失礼ですけど……。もしかしてアメリカ出身だったりします?」
「AEU……。いえ、ヨーロッパの方だから、私。――もしかして、誰か捜してる?」
 同世代と見える少女に答える。ルイスの居たはずの時間より200年程さかのぼったこの世界、
光速で星の海を走る宇宙船はあってもAEUは無かった。
「この間の戦闘で帰ってこなかったの。パートナーだったのに、彼の事なんにも知らなくて……。
だから知ってる人を。――あ! ごめんなさい。こないだの出撃で、あなたも腕を……!」
「……こっちは命に関わったりしないから、気にしないで?」
 少なくとも左腕を無くしたのは『宇宙怪獣』などと言う埒外の存在によるものではない。
 30分程その彼女、タカヤ・ノリコと話し込んだルイスは彼女がトップ部隊という対宇宙怪獣戦を
想定したエリート戦闘部隊所属である事と、自分も此処ではそうらしい、という事を理解した。

80 :
 数日後。多少やつれた感じのノリコに今度はルイスが声をかける。個室の病室を自室として
割り当てられているルイスにとって、現状数少ない友人である。
「じゃぁ、ルイスさんお金持ちのお嬢様なんですね。いいなぁ。……ん? なんでトップ生に?」
 ……それは。口ごもる。だいたいトップ部隊に配属された覚えがないのに、日本の体操着の
ような制服をいつの間にか着て、ドッグには彼女専用扱いの壊れたマシーン兵器まであるのだ。
「その、沙慈が。……えと、友達の男の子が、宇宙で仕事をしたいって」
「彼氏サンですか? ふーん、宇宙で仕事をする彼を陰ながら守るんですね。なんかいーなぁ」
 口が滑った。沙慈の名を出すとそれだけで左腕がうずく。自分の事はあまり話したくない。
だいたい此処は、その沙慈の居る世界ではないのだ。だから話を逆に振る事にした。
「ノリコはどうなの? あなたこそ、普通に暮らしていても良かったんじゃない?」
「パパにあこがれて才能がないのに沖女に入って、お姉様と宇宙に出てきて、ユングとか
スミスと会って怪獣とも戦ったけど、結局なんにも出来なくて……。普通に暮らしてた方が誰にも
迷惑がかからないで良かったのかなぁ。やっぱり」
 ルイスは、話の中の固有名詞を聞いて偶に卑屈に見えるノリコの態度になるほどな。と思う。
「あなたの場合は周りがすごすぎるのよ。それでも努力と根性だけは誰にも負けないんでしょ?」
 彼女の父は、宇宙戦艦の高名な艦長で、宇宙学校への入学自体が親の七光りと虐められて
いたと言う。お姉様、はアマノ・カズミ。“薔薇の女王様”の異名を取る典型的優等生。何故か
事あるごとにノリコをかばい、叱咤激励するまさにお姉様。ユング・フロイトはストレートに“天才”と
呼ばれ、本人も全く動じずそう呼ばれるに任せている。双方ともまさにトップ部隊のエース。
 スミスはノリコとパートナーを組み初陣に望み、帰って来れなかった彼女の思い人。だからと
言って能力的に劣るわけではなく水兵だったものをわざわざトップ部隊に入り直した強者である。
 ほとんど他者との交流がないルイスでさえ知っているくらいだ。これら全てが彼女の周りの
大事な人達。というのであれば、ノリコでなくとも憂鬱にもなろうというものだ。
 そのノリコ自身も実はそんなに成績が悪いわけではなく学校時代につけられた“全滅娘”の
不本意な渾名もマシーン兵器に限っての話。ノリコの友人も生身では完璧、と評したらしい。
「でも。努力と根性、だけじゃ……」

81 :
「ワープ?」
「あと一時間だそうですよ。ワープ中は待機、ですよね? ……あ、ルイスさんは怪我、
してるから。その場合は病室待機になる、……んですかね?」
 200年前にワープする宇宙船があるなどとは聞いた事もないルイスではあるが、ともあれ
現状、天の川付近に居るのであり、ワープ航法でも使わなければ此処まで当方もない歳月を
要する。と言うのは多少物理を苦手にするルイスにも理解出来る。
「多分、そうだと思う。――でもそれは退屈で困るわね……」
 実際に怪我人であるルイスにはワープ中は病室待機が言い渡されたが、艦内散策くらい
しか気晴らしのない彼女にとっては苦痛以外の何者でもない。医療スタッフさえ医務室待機
なのだ。話相手も暇つぶしもなく、左手こそ無いものの本人としては言われる程重傷とは
とうてい思えない。彼女にとってはまさに退屈地獄。  
 そこで以前扉が半分開いていた、電車で二駅先の『副通信管制室』のことを思い出した。
看護士達も呼ばない限り来ないのだ。艦内をうろつく者がいない以上ルイスがいくら出歩こうが
咎める者は居ないと言う事だ。
「わ、綺麗。宇宙って、わけわかんないけどやっぱり素敵だよ。……沙慈」
 たくさん並んだモニターの中、艦外を示すプレートの付いたモニターには、言葉には尽くせ
ない様な、幾何学模様がいくつも現れては消える。
「生きてる間にワープが普通にできるようになるとか、多分そんなに進歩はしないよね。
……見せてあげたいな」
 沙慈は宇宙を目指すのだと言い、宇宙で待っている。と最後に言い残した。彼がそう言った
以上は本当に宇宙で生きていくと決め、決めた以上は実現する。彼はそんな人間だ。
 そしてその生真面目な彼が好きだった。左腕を失い、彼を好きでいる資格を失うまでは。
 その彼にワープの光景を見せたなら、何を思うのだろうか。
 第一艦橋と名前の付いたモニターにはくつろぐ士官達の顔が映し出される。どうやら
ワープに入ってしまうと船を動かすクルー達にはすることが無くなってしまうらしい。
「なんでパイロットが待機なのか、知りたいところね。偉い人達はのんびりしてンじゃん」
 そしてルイスはとりとめのない事を思いながら、ワープ終了数分前まで過ごすと部屋へ帰った。

82 :
 きちんと聞いていなかったのでよくわからないが、艦内放送で艦長が最終ワープで太陽系に
一気に戻る。と言った部分はわかった。なので、また副通信管制室に行こうと思いたった。
 駅の入り口。なんの気配も無しに、突然後ろから低い鋭い声がルイスに問いかける。
「ハレビー、だったな。病室内で待機するよう言われなかったか?」
 どうせ誰も歩いてなど居ない。とタカを括っていた彼女の鼻先にいきなりサングラスの男が
現れる。コーチと呼ばれる彼はトップ部隊統括でマシーン兵器指導教官も兼ねるオオタである。
「こ、コーチ。――は、はい。……その、ちょっとワープ中の船内に興味がわきまして……」
 あのノリコに努力と根性、ついでに操縦技能を叩き込み、トップ生からコーチと呼ばれる男。
何度か会った事はあるのだが、ルイスはどうもこのオオタと言う男を苦手にしていた。
「危険性はないと思うが、おまえは普通の怪我ではない。自重する事だ。……医療チームが
全力を挙げておまえの怪我を調査しているのは、まぁあまり愉快ではないだろうが我慢してくれ」
 飲んでいた薬は身の回りの物を詰めたポーチに入ってルイスと共にこの世界に来ていたし、
服用もしている。但し、医者には薬の事は黙っている。この時代、この世界には無いものだ。
 存在を教えてはいけない。彼女は直感的にそう思い、現状自身の直感に従っていた。
「珍しい症例であるのは否定しない。……だが、医療の発展はもとよりおまえの為でもある」
 それはそうだろう。彼女の腕は200年の先、ガンダムのGN粒子によって遺伝子レベルまで
徹底的に、200年後の医療技術を持ってしても再生医療を拒むまでに、傷つけられたのだ。
 宇宙怪獣はノリコの父親を奪い、ガンダムは彼女の全てを奪った。ただ考えも無しに破壊を
まき散らすのみの存在。双方、何も変わりはない。とルイスはそう思った。
「……コーチも待機、なのではないのですか?」
 つい口が滑ったルイスは怒鳴られる! と身構えるがオオタは、むぅ。と唸っただけだった。
「まぁ、な。……気晴らしに散歩も良いだろう。だが、身体に触る前には部屋に戻れ。良いな?」
 低い声でそれだけ言うとオオタは杖をつきながら廊下へと消えていった。
「初めて宇宙怪獣と接触した生き残り、か……。さすがに迫力が違うわね。本物って感じ」
 彼の杖、サングラスの奥の隻眼。全ては宇宙怪獣の傷跡なのだとノリコは言った。経緯は
いわばルイスの腕と同じ。ならば宇宙怪獣と戦えと若者達を叱咤する彼の胸中は如何ばかりか。
「なぁんてね。ノリコじゃあるまいし」
 つい深く考えて込んでしまった自分を少し可笑しく思いながら、ルイスは電車へと乗り込んだ。

83 :
 大混乱のブリッジの様子を、そのまま何十もあるモニターとスピーカーがルイスに生中継する。
『他の艦も攻撃を受けているのか! どうなんだっ!?』
『レーダーは全天真っ白です。亜空間を出るまでは調べようがありません!』
 ブリッジの怒号と悲鳴から、どうやらワープ中は隣を飛んでいるはずの仲間の船さえ見えない
らしい事と、その状態で宇宙怪獣に襲われたようだと言う事。以上2点は何とかわかった。そして。
『――! いかん、ワープアウトするな! 奴らに、……地球の位置を知られるっ!』
『……っ! 駄目です、間に合いません!』
『なんてこった!!』
 つまり、銀河の真ん中で出会った太陽系には居なかった筈の宇宙怪獣。それをエクセリヲン
以下の艦隊がワープをしたことで道案内をしてしまった。と言う事であるらしい。
『トップ部隊急速発進!  各部隊は、準備終わり次第発艦せよ!』
「ちょっと、地球……。マズいんじゃないの?」
 光子魚雷を撃ち、レーザービームを浴びせ、トップ部隊が肉弾戦を挑んでも宇宙怪獣の数は
減らず、数え切れない程居た筈の艦隊はワ−プ中のみならず、ワープ後もその数を減らし、
現在火星付近にはエクセリヲン他数隻を残すのみ。
 今までとは比較にならない振動が轟音と共にルイスにいる部屋の中へも響く。
『艦首大破! 主電探室応答無し!』
『ダメです! レーダーは完全に使用不能です!』
 そして最新鋭戦艦エクセリヲンも、ことここにおいては風前の灯火となったようである。
「いったい、どうするのよ……。地球どころか船が、――? うっ、く……。痛うぅ……」
 いきなりうずき出した左腕を抱いたまま、ルイスは椅子の上にうずくまる。
 そして痛みと共に突然視界が暗くなる。同時に包帯を巻いた傷口が、包帯越しに薄く燐光を
発し始めるが、本人が気づく余裕などは当然なかった。
 グラウンドを走る光景。マシーン兵器の中、コクピットの空気。カズミの微笑み、コーチの叱咤。
スミスとの何気ない会話。宇宙空間の虚無の恐怖。蘇る記憶と共にいきなり目の前に視界が
開ける。球状の部屋の中、ルイスは何かを決意して立つ。いや、立っていたのは……。
「これは……。この記憶、この目線。――っ! まさか……!?」

84 :
「スミス……。あなたと一緒に、今までのあたしは死ぬわ」 
 アームのようなものに無い筈の左腕がロックされたことでルイスは完全に理解した。
 どうしてなのかはわからないが、彼女はノリコと同調した。だから、これはノリコの見ている景色、
ノリコの感じている感覚、ノリコの発している言葉なのだ、と。 
「…… そして、今から生まれ変わる」
 カシャン。健康的な黄色人種の両足が何かの装置にロックされる。
「もう泣かない、誰にも頼らない。――自分の力で、最後までやるわ!」
 自分を、いやノリコを拘束したのが何の装置なのかは、さっきノリコの記憶が流れ込んで
きたことでルイスはよく知っている。
 但し、その記憶に間違いがなければ。その機体、ガンバスターはまだ未完成であるはずだ。
しかし、目の前のディスプレイには起動完了の文字が浮かんだ。
『トップ部隊42%壊滅、レーザー群損傷率85%!』
『重巡”ボソン”より入電。――われ操舵不能、われ操舵不能!』
 壊滅的な被害報告を聞いていた艦長が顔を上げる。――敵の親玉は、どいつだ? 
答えはブリッジのオペレーターから意外な程すぐに返る。
『本艦の右上方35度、目測で距離12,000です』
『エンジンを臨海まで上げておけ。いよいよとなれば本艦ごと奴にぶつける! ――あいつを
地球にやるわけには、いかん!』
 艦長が決意を固めたとき、既にノリコは動き出していた。
『艦長、第七ハッチが開いていますっ!』
『なにぃっ!?』
 巨大なハッチが全開になり、そこから腕組みでせり上がるのは、他のマシーン兵器とは
明らかに違う、全高200mを優に超える巨大な黒いロボット。
 第七ハッチと書かれたモニターに映る黒い巨体と、そのコクピット越しのエクセリヲンの甲板。
ルイスは感覚的に違和感はあっても、その両方を同時に見ていた。
『やめろ、タカヤ君! ガンバスターはまだ完全じゃ無いぞ! ――亜光速戦闘は、無理だ!』
「いざとなれば、ぶつけるまでです!」
 その部分はぶつける物以外、ノリコと艦長は意見が一致していた。

85 :
『タカヤ! 目標はあくまで敵の主力だ。雑魚には目もくれるな!』
 艦長の無線に割って入ったのは、サングラスに帽子を目深に被った男の顔。
「コーチ。……はいっ!!」
 艦長のオオタ君! の声は全く無視され、オオタはノリコに何よりも強い一言を、告げる。
『行けっ!!』
 “彼女”は全く戸惑い無く発進シーケンスを一瞬で終わらせる。――もう言葉は要らない。
そう思ったのはルイスか、ノリコか。
 だからたった一言。返信の後、ブースターを最大に吹かした。
「――発進!!」
 ぶつん。
「停電?」
 突如ルイスの目の前が暗くなり、かしましく騒いでいたスピーカーの音が消える。
トンだのがブレーカーではなく、自分の意識だと自覚するには多少の時間がかかった。
「まぁ、気にはなるけどさ。でもあれだけ努力したんだし。大丈夫、……だよ、ね。ノリ、コ……」
 どのくらいの時間が経ったのか、気がつくと誰かに背負われているのを感じる。
但し、どうしたものかまるで身体は動かない。
「――? 気付いたか。……そのまま動くな、もう病室だ」
「コー、チ?」
 多少偏って歩いているのは、足が悪いのにルイスを負ぶっているからだろうか。
降りる、と言ったのだがそれはまるで無視される。
「あのお、コーチ。……ノリコは」
「顛末を全て見ていたのだったな……。勝った。――ん? もちろんタカヤもガンバスターも
帰ってきた。……タカヤならもう部屋で寝ている頃だろう」
 良かった……。と思うと同時にまたルイスの視界が暗くなっていく。
「宇宙怪獣は撃退し、間もなく地球だ。無理をする必要は無くなった。今はおまえもゆっくり休め」
 いつもは恐怖さえ感じる低い声を頼もしく思いながら、今度は自分で意識を閉じていく。

86 :
「……さん、ハレヴィさん。どうしました? ぼんやりして。副作用かしら。……お薬は何時頃に
のみました?」
 ルイスが意識を取り戻すと、病室のベッドの背もたれを起こしてぼんやりと座っていた。
「――薬? えと、はい。薬は普通の時間に。……昨日手紙を遅くまで見ていたのでそれで」
「あまり無理をすると身体に触りますよ? ――はい、じゃあ検温からお願いしますね」
 日本から荷物が届いたそうですよ? オキナワってリゾートですよね? 私は日本語、
読めないですけど。そう言って多少痛んだ感じの荷物を置いて看護婦は部屋を去る。
「運ぶときに、どういう扱いをするとここまで痛んで……。? ちょっと日付、なにこれ!」
 その伝票。2032年、発帝国宇宙軍エクセリヲン環境局。ルイスは慌てて中身を確認する。
荷物は茶色の紙包みと、そしてルイス・ハレビー殿、と縦書きで書かれた茶色く変色した封筒。
前略
その後、腕の具合はいかがですか。
見舞いはおろか、見送りにも行けず申し訳無い。
エクセリヲンの廃艦、トップ部隊の解散、バスターマシンの強化と立て続けに
雑事が続き未だにバタバタしているが、そちらはゆっくり休めているだろうか。
タカヤが心配していた。彼女もこれから新規の作戦に参加する予定で何かと忙しいが
来年の今頃には落ち着いているはずだから連絡をしてやって欲しい。
おまえは腕と共に、大切な何かを無くしたのだろうと思う。
コップから零れた水はもう戻らぬのだと、したり顔で言う輩も居るが、俺から言わせれば
努力を怠り、根性を見せることのない怠け者のいい訳だ。零れた水ならまた汲めばいいのだ。
おまえの零した何か。それが腕の完治と共に再びコップに汲み上げられんことを切に祈る。
草々
2032年8月2日 帝国宇宙軍エクセリヲン トップ部隊統括  オオタ コウイチロウ
追伸
トップ部隊の制服がロッカーに残っていたそうなので手紙と共に送ることとした。
おまえが地球を守る誇りを渡し忘れるなど、言語道断な話だ。重ね重ね申し訳無い。
「コーチ、手紙が200年遅配。もうノリコとは連絡、取れないよ。――私が地球を、守る。か」
 包みを開けると、日本の体操服のような赤と白の制服が綺麗にたたまれていた。

87 :
投下乙
ガンバスター……だと?
しかも1……だと?
ルイス、というかがゆんデザインの00女性キャラがトップ生の制服着ると、
シリーズでラストにやる『びりびり』が派手な見た目になりそうだなと思った

88 :
投下乙
トップとルイスって組み合わせ、なにげに凄いな
しかし、毎回何処から発想するのかねえ

89 :
>>87
ビリビリはお姫様の方が良いなと思うんだ
言われて気付いた
がゆんキャラはトップ部隊の制服着せても違和感は無さそう
確かにビリビリをやったらいろんな意味で凄く派手になりそうだけどw

90 :
>>89
姫様はお歳が……いや、なんでもない
良く考えたら、設定上はガンバスターの時代が00の時代より二百数十年前ってすげえなw
この時代って、下手したらイオリア生きてるんじゃないかと思ったら、まだ生まれてなかった

91 :
>>90
ソレスタルビーイング発足前にワープしてるのかw
そのOOの西暦から見ても
あと約一万二千年しないとノリコは帰ってこないんだね

92 :
季刊新人スレ’11年初夏号
目次
 “コーラサワーというジャンル”においては唯一無二の作者が描く大好評“短編小説”シリ−ズ。
 今回のテーマはカティの想い。果たしてパトリック・コーラサワーは彼女の目にどう写っているのか……!
ついでに脳内補完/機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー 補編2/短編小説カティ・マネキン
>>6-9
 劇場版では(コーラサワー好きには)もの足りなかった(コーラサワーの)心情描写を作者の愛で補完!
 台詞と全く齟齬のない、まるで公式資料のような行動描写、心理描写の違和感のなさはまさに職人。
BD出るまで脳内補完/劇場版 機動戦士ガンダム00/
短編小説パトリック・コーラサワー/「外宇宙航行型母艦ソレスタルビーイングにて」
>>13-15
 特殊部隊が救い出した戦闘戦用コーディネーターの少女は、扱いに困る程の超絶美少女だった……。
 さばそうIIの主人公、ムツキの秘められた生い立ちと、それを取り巻くうす汚れた大人達の物語。
赤目の少女のつくりかた =少女は砂漠を走る! U= #0
>>23-27
 プラントの極秘施設建造をキャッチした地球連合軍の諜報部隊は情報収集のためにヤキン宙域へ。
 それを迎撃する所属も名前も知れないザフトの部隊。誰とも無しに彼らのことは皆がヤキンの亡霊と呼んだ。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で 〜プロローグ ヤキンの亡霊〜
>>33-34
 無い筈の部署、事務局第12分室。その彼らがヤキン戦役終盤、学徒動員兵で瀕死の少女達を拾う。
 室長以外は少女ばかり100名超。そんな萌え設定とは裏腹に硬派な物語を展開する、作者渾身の新機軸!
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
>>38-44,51-57,60-66,69-75
 
 ルイスはただ見つめていた。宇宙怪獣に落とされる艦船を、徐々に数を減らすトップ部隊のマシーン兵器を。
 毎回独特の感性を見せる作者が今回選んだ主役は、なんとルイス。舞台はまさかの『トップをねらえ!』だ!
マイスターの憂鬱  〜ルイス・ハレヴィ、星の海を旅する〜
>>79-86

93 :
新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】>>1-6
既存作品を一気読みしよう。 
旧まとめサイト ポケスペ ttp://pksp.jp/10sig1co/
若しくはガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki ttp://arte.wikiwiki.jp/ までアクセス!
・職人の方を絶賛募集中です。 エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。
 一応新シャア板なので、内容は当然ガンダム縛りとなります。
 絵師、造形職人さんも大歓迎。 新人スレですので駆け出しの絵師、造形職人の方ももちろんどうぞ!
・当方は旧まとめサイトとは一切の関係がありません。旧まとめサイト管理人様にご用の方は
 旧まとめサイト内チャット、若しくは掲示板内で『まの人居ませんか?』とお声掛け下さい。
・また『ガンクロ』とも一切の関係はありません。 登録等は当方では承りかねますので、ご容赦の程を。
・スレ立てされる方は450kBをオーバーした時点で、その旨アナウンスの上お願いします。
編集後記
お久しぶりです。出来る事を〜。の言葉に乗って、大変そうな方が居るのでスレの保守の為に復活してみました。
で、よせばいいのにあおりを2倍の2行にしてみました。まさか3週間もかかるとは! 
大多数の時間は書いてないでぼんやり読み直していたりしてたのですが。
しかし、たかが数行ですが文字を弄るのは楽しい! 
でも暫くやってなかったので読んだ方も楽しく感じてくれるかどうか、多少心配ではあります。
せめてインデックスくらいにでもお役に立てるなら幸いです。
最後になりましたが、震災で被害を受けた皆さんはまだまだ大変でしょうが、どうかお体には気を付けて下さい。
がんばろう東北! ではあるんですが、いつもがんばんなくても良いんです。たまには息抜きもしましょう。
何も出来ない自分ですが、せめてお祈り申し上げる次第です。

94 :
編集長、投下乙。
そしてお久しぶりです
2ページ目も微妙に変わってンですね
相変わらず芸がこまい

95 :
編集長、遅ればせながら乙であります。
作者じゃない人が書いた煽り文を通して本編をうかがうのもまた一興。

96 :
編集長も職人さんもみんな乙です!
ほしゅほしゅ

97 :
取りあえず状況が変わったので保守しよう
たった今リロードしてみたら上位4スレが種関連スレなので
そうそうDAT落ちなんかしなさそうだけど
そのうち良くなるのかな、AGE……
個人的にあの絵面と展開では毎回みるのつらいのは事実だけど

98 :
種が西暦を舞台としたSSなんてどうだろう
キラがエクシア乗ると、シンはアロウズ側で出るんかな
機体は外伝のガルムとか使えばいいし

99 :
>>98
ミスターブシドーとコーラの位置に誰を持ってくるかで
何となくあなたの趣味が判りそうw
なんとなくおもしろくなりそうだね
期待してます

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