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2011年11月1期31: よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3 (359)
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よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3
- 1 :10/09/11 〜 最終レス :11/11/14
- お約束
・前の投稿者が決めたお題で文章を書き、最後の行に次の投稿者のためにお題を示す。
・お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
・感想・批評・雑談は感想スレでどうぞ。
前スレ
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ2
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1213581632/
関連スレ
よくわからんお題で次の人がSS書くスレ 感想メモ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1179045857/
- 2 :
- 次「不器用と偏差値」
- 3 :
- 「不器用と偏差値」
「自分、不器用ですから」
ある俳優のセリフらしい
その言葉がやたら頭から離れずにずっと居座っている
「自分、不器用ですから」
なぜか、この短いセリフに癒される自分
このセリフで何もかも許されてしまうような気がするのだ
僕は何かトラブルに直面するたびに、このセリフを口にした
大抵の相手はあきらめ顔でしょうがないねといい、僕のミスを水に流してくれた
そんな、誰かの考えたたった一つのセリフを糧に僕は生きてきた
しかし、どうにもこの不器用だけで言い逃れられない人物と出会ってしまったのだ
「人生は!偏差値!全てが偏差値で決まる!」
彼は常にこう叫びながら、僕の側に寄ってくるのだ
そして、僕はいつも自信なく
「自分、不器用ですから」
と、小声で返し、黙って俯くのだった
「それも悪くはない!だが!人間はまず偏差値で選別され、偏差値でその先人生を決められるのだ!」
僕の声を二倍、いや三倍くらい大きくした声で叫ぶように話す彼
彼はいつも目が血走り、興奮してるのか顔はいつも真っ赤だ
何をそんなに興奮してるのかさっぱりだが、不器用なので適当にながしておく
次「不器用な僕とどじっ子女教師」
- 4 :
- 「不器用な僕とどじっ子女教師」
「いや〜ん、また遅刻しちゃった。てへっ」
舌を出しながら、クラス担任の橘乙女先生が全速力で教室に駆け込んできた。
なんと驚いたことに彼女はパジャマを着たままで、口には食パンと歯ブラシが一緒に詰め込まれていた。
顔には白いパックが貼られ、その上に乗っているキュウリとレモンの輪切りが清々しい香りをそえている。
長い髪には櫛やらドライヤーやらが絡み付いており、まるで江戸時代の花魁か、ブルボン王朝の貴族みたいな独特な頭を形作っている。
更に彼女は教壇に足を引っ掛けたかと思うと(何故かスリッパ)、勢いよく右足をぶつけ、顔面から床に激突した。
バキボキグワラゴシャッ!
「ふにゅ〜」
明らかに全ての四肢の関節が曲がってはいけない方向に曲がり、大量の血流がリノリウムの床に人現場もかくやと思われるほどの広大な赤い海を出現させようとしていた。
口からは入れ歯が飛び出し、パンやジャムや歯ブラシや歯磨き粉やキュウリやレモンや黄色い胃の内容物が前衛絵画のようにカラフルにぶちまけられた。
「おーい、誰かとっとと保健室に連れて行けよ」
「ていうか救急車が先じゃないの?ま〜た整形外科に入院ね、こりゃ」
「いや、精神科じゃねえの?最近アルツ進行してきたみたいだったしな。いつも存在しない奴当ててたし・・・」
僕はクラスメイト達が騒ぐのを尻目に、何もせずただ倒れ付す老婆を眺めるだけだった。
橘乙女、70歳女性教師。独身。すさまじい若作りをして、再々々任用で現役教師を今も続けている。しかし最近どんどん認知症が進行してきたようで、そのどじっ子・・・もとい注意欠陥およびまとまりない行動は半端ではない。そろそろ介護レベルなんじゃないだろうか?
「おい、お前も手伝えよ!うわ、便まで漏らしてるぞ、この!」
「自分、不器用ですから」
そういうと僕は地獄絵図と化した教室を出て行った。
次「不器用な僕と女子更衣室」
- 5 :
- 俺はどちらかといえば器用だ。
細かい作業もある程度はこなせる。
しかしどうも対象が人となると不器用になる。
励ますつもりが逆に怒らせてしまったり、良いことを言ったつもりなのに腹を抱えて笑われたこともある。要は少し普通ではないのだ
まあそんな自己紹介はどうでもいいか、とにかく今俺がいるのは女子更衣室である。
…いやそんな冷たい目で見ないでくれ。
実際体育の授業中に体調が悪いと嘘をついてここまで来たのは十分いけないことなのだが、これにはこれなりのわけがあるわけだ。
突然だが、ラブレターというものはいつ渡すべきだろう。
下駄箱でも机の中でも構わない。しかし他人が何かで間違えた場合俺の青春時代は一瞬で黒歴史となるだろう。
もうわかったかもしれないが。相手のポケットに誰にもばれず手紙が入っていれば取りあえずOKだろう。
ん?更衣室に行ったのがばれるだって?その時はその時だ。彼女になってくれれば過去なんて気にしないに決まっている。
…とはいえ、こんな紙切れに想いを込めたって何も伝えられないだろう。ああ、自分は本当に不器用だ。
コンコン
「あの…ここ女子更衣室だよ」
ノック音が聞こえたことに気付いたときにはもう彼女は部屋の中にいた。
そう彼女こそ俺の初恋の相手だ。終わった。もう何もかもだ。さあ嫌え!いくらでも嫌うがいいさ!
「も〜保健委員である私を置いてっちゃうなんてひどいよ。道を間違えちゃうくらいツラいなら早退する?」
「…」
そういえば彼女って天然なんだっけ。一番のチャームポイントを忘れるとは我ながら情けない。
とはいえこれはチャンスなのかもしれない。
俺は一度深呼吸をしてただ一言だけ言った。
「好きです!俺と付き合ってください!」
不器用なりの精一杯の告白だった。ロマンチックとは遠くかけ離れている。
それでも彼女は一瞬驚きはしたが確かに頷いた。
俺は頭が混乱して何一つ動作というものができなかった。
「私、誰かから告白してくれるなんて考えもしなかった」
「そんなことない。何でそんなこと言うんだよ」
すると彼女はいつもみたいに優しい笑顔でこう言った。
「だって私、不器用ですから」
「告白と幼なじみ」
- 6 :
- 「告白と幼なじみ」
僕は自他共に認めるほどの不器用だ
何をやっても成功したという記憶がまったくないほどに不器用だ
道を歩けば、壁にぶつかり、交差点に立っていればそこに車が突っ込み
コンビニにいけば万引きと間違われる、駅にいけば宗教勧誘話しかけられ電車に乗り遅れる
そう不器用を通り越して一部では不幸男と呼ばれている
そんな俺も恋をした
いや、正確にはずっと昔からなんとなくは気付いていたのだ
隣りに住む幼なじみの女の子のことが好きだということに
そんなわけで不器用な僕は告白することにした
相手の気持ちなど汲み取れるほど僕は器用じゃないので、即告白だ
毎朝、一緒に登校することになっているので、そこで告白すると決めた
明日から始まる夢のような生活を夢見つつ床についた、おやすみ
「おはよう」と僕は彼女に声をかけた
彼女がちらと僕のほうを見てコクリとうなずく
彼女が挨拶をしないというのは周りの目があって恥ずかしいからだ
と、僕は不器用なりに彼女の気持ちをくんだ
「あのさ、ちょっといいかな」
僕はいつもより少しだけ大きな声で彼女にいった
彼女は黙って立ち止まる
立ち止まった彼女の背中を見ているだけで僕の胸が貼りそう消そうになる
深く深呼吸し、口を開く
「好きだ。今までずっと好きだった、そろそろ幼なじみから恋人に・・・」
「キモい。あんたのことなんてこれっぽちも想ってないから、もう付きまとわないで」
「え?」予想外の彼女の返事に僕は驚いた
「誰がストーカーと付き合うお人好しがいんのよ、もう毎朝話しかけないで」
彼女はそうきっぱり言い切って、ダッシュで走っていってしまった
取り残された僕は、空を見上げて思った
「やっぱり不幸だ」
「隣りのストーカーの行く末」
- 7 :
- 「隣のストーカーの行く末」
私の家はファミリー向け用マンションの4階にある
階段、エレベーターからもっとも遠い端にある
そんな自宅を出て学校に向かうのは午前7時30分
毎朝、日焼けしたうるさい爺さんの番組を横目で見ながら朝食を食べ
洗顔をしトイレに入り、寝間着から制服に着替え家を出る
ここまではいい、実に幸せな日常生活だ、両親と弟との会話もそれなりに弾む
時間が来て玄関で靴を履き、ドアを開ける
ある男がそこに立っている、学校が休み意外の毎日だ
隣りに住んでいる男で、小中高とずっと一緒、教室も一緒
偏った見方をすれば運命の一言で片づいてしまうような関係
引いた見方をすればたんなる偶然、すべてがたまたまで終わらせることが出来る関係
そんなどうでも取れる関係にある男が、毎朝、私を待っているのだ
「おはよう」と男が私に声をかける、毎朝だ、毎朝、毎朝うざいったらありゃしない
親に相談しても隣りだから、先生に相談しても小中高一緒だから、友達に相談しても運命なんじゃない
相談結果がまるで私が我慢すればすべて収まるかのような答えばかりだった
しかし、私は私に付きまとうこの男が嫌いなのだ、厳密に言えば
まったく生理的に受け付けることができない男なのだ
よって、私は毎朝、無視をして男の目の前を通り過ぎ、階段をダッシュで降りていく
エレベータには乗らない、男と二人きりになるなんて虫酸が走るというものだ
男と十分距離を引き離し、学校へと歩き出すが・・・・
もうこんな生活耐えられない、そう私の中にある何かが切れた
学校へは行かずと、ある場所を目指すことにした、私からだいぶ離れた場所に男が笑顔で立っている
私は地元の警察署に飛び込み、受付の婦警さんに目一杯の演技で変な男に終われると告げた
涙ながらの演技をしてる私の背後で、ガラスドアが開き男が入ってきた
「温泉宿」
- 8 :
- 立て直した感想スレです。感想・批評等はこちらに。
よくわからんお題で次の人がSS書くスレ 感想メモ
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/
- 9 :
- 「温泉宿」
三日連休を利用して山奥にある温泉宿に来てみた、俺
もちろん一人旅だ、かなしくなんかないやい
他の客からはすこしばかり哀れみを感じるが気にしない
大広間での食事も一人で余裕だ、お櫃を空にしてやったほどだ
飯も食い終わって、ちょっと一っ風呂浴びて、部屋でビールを飲んでいる最中だ
窓の外には少しばかり赤くなった木々の葉が見える
窓を開け山の新鮮な空気を部屋に入れ、火照ったからだを冷やす
なんて優雅な休日、これこそが日頃頑張ってる俺自信のご褒美
携帯の着信ランプが点滅しているではないか
俺は慌てて携帯を手に取り画面を見た
着信履歴がすごいことになっていた
「いつか見た夢」
- 10 :
- 「いつか見た夢」
「俺は海岸に近いところに住んでてなあ…ほら、あそこに見える貸し舟屋の建て物が見えるだろう?
子供ん時よく遊んだ場所だったんだ。これぐらいの細い竹の先に釣り糸結んで、浮きには代わりに割箸を使
ったんだ。まあ、そんな簡単な竿でさあ。エサは安い豚肉さ。そこの波打ち際で糸を垂らすんだけど、そこ
では河豚しか釣れねえ。大きさは違えど、河豚、河豚、河豚。タライはあっという間に河豚だらけさ。…釣
った河豚は逃がしたさ。しかしなあ、俺も餓鬼だったから針が上手く外れなくて取ったときには死にかけて
た奴もいた。そういうのは逃がしたところで別の何かの餌になったんだろうけどな。それでもまあ休みにな
ると飽きもせず河豚釣りに通った。それが、いまでも懐かしくてなあ」
友人は機嫌よく俺の隣で話していた。船のエンジン音と波の音が邪魔してそいつの声を遠くした。
俺は一度手に持った竿のリールを巻くことにした。
「草河豚か」
「釣り人にゃ嫌われ者だがな…そりゃ今だってよく餌横取らちまう」
「そうだな」
「餓鬼ん時俺はさ、ただ可愛いあいつらを家に連れて帰りたかったんだ」
「そういえばお前の家に海水水槽があるな?まさか…」
「河豚だよ、俺の夢だったからな」
次は「地下室の理由」
- 11 :
- 「地下室の理由」
そりゃおまえ、まちなかでやっちまったらヤバイだろ
『便所のシミ地蔵が泣いてる』
- 12 :
- 便所のシミ地蔵が泣いてる
と、ある公衆便所の壁にお地蔵様みたいな染みが浮かび上がっている
神のお告げだといいはる人
ただの汚れだといいはる人
呪いだといいはる人
染みに対する感じ方は人それぞれだった
そして、ある少女が地蔵染みを見て言った
「公衆便所から始まる奇跡」
- 13 :
- 「公衆便所から始まる奇跡」
神は今、ここに誕生した。この広さ一畳にも満たないこの男子トイレの密室で――そんなフレーズが頭をよぎった。
何も並々ならぬ事情を持った妊婦が人目を避けて男子トイレの個室に入り、そこで秘かに子供を産んで、それが後光をこれでもかと発散する赤子だった……とかそういうことを言いたいのではない。
きっかけは単純かつ間が抜けたものだった。
突如として下腹部を襲った火急の用事に切迫していたわたくし(三十二歳男性)は、電車を途中で下車をして、駅のトイレへと直行した。
間が悪く清掃中ではあったが、掃除のおばさんは私の切迫した様子を見ると快く通路を譲ってくれた。
若干潔癖症のきらいがあるわたくしが和式便所へ足を踏み入れる。瞬転、濡れたタイルで見事に足を滑らせた……問題はそこからだった。
著しく重心を崩したわたくしは倒れまいと必死にもがいた。
時間にして一秒にも満たない猶予時間ではあったが、それなりに効果はあったらしくなんとか両腕で壁を掴み、スーツ姿を便所の床に横たえることだけは避けることができた。
崩れたバランスのままではあったが、ほっと安堵のため息をついた瞬間、わたくしの目に飛び込んできた光景はまさに便意も吹っ飛ぶものであった。
足である。
右足である。
わたくしの右足である。
便器に突っ込まれたわたくしの右足である。
いや、それだけでは言葉が足りない。
正確では無い。
神々しいほどまでに。
便器には突っ込まれているわたくしの足は一滴たりとも汚水にまみれてはいなかった――さながら『奇跡の人』がそうであったように、わたくしは水の上に立っていたのだった。
「こんなところで!」
- 14 :
- 「こんなところで!」
「こんなところで……だめよ……」
僕が突然の便意に襲われ、近くの公園のトイレで格闘している最中、二つしかない部屋の隣りに男女(声から判断するに)と思われる二人が入ってきた。しかも事もあろうに情事(やりとりや息遣いから判断するに)を始めたのだ。
僕は不幸中の幸いとばかりに腹痛を忘れ一心に耳をそばだてた。
「じゃあ、何処ならいいんだい?」
よしよしいいぞ、僕はもう便意よりも胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。しかしその次の女の妙な言葉。
「スタジアムでなら……」
すたじあむ?今女はスタジアムと言ったのか?いや、聞き間違いだろう。
「スタジアムじゃぁ足りないよ……」
何だと?スタジアムで正解だったのか?じゃあ今隣りでやろうとしていることは一体?いや、拡大解釈すればそういう趣味だととれない事もない。それに男のほうは我慢出来なさそうだ。
「じゃあ、ペンタゴンなら……」
ペンタゴン?今ペンタゴンって言った?ペンタゴンってあのペンタゴン?え?え?何で?
「僕だってペンタゴンがいいけどペンタゴンじゃ間に合わないよ」
え、やっぱりペンタゴンなんだ!え、何?これってあれじゃないの?え、オレの勘違い? いや、まあ、でもまだ多少強引ではあるが説明はつく。彼等はスパイかなんかでもうペンタゴンでしか欲情しないみたいな、うん。辻褄はあった。
「じゃあ☆*□○※♯でならいいわ……」
「分かった。じゃあ☆*□○※♯に行こう」
ドアを開く音と二人の足音。僕も急いで尻を拭きベルトを締める。もう情事なんてどうでもいい、彼等が何者なのかがしりたかった。急いでドアを開け、外に駆け出したが既に遅かった。辺りは真っ暗で人っ子一人歩いてはいなかった。
ずり落ちたズボン姿で立ち尽くす。僕はからかわれたのだろうか?しかし僕がベルトを締めるのに手間取っていたあの時、外から聞こえたジェット機のような轟音は間違いなく現実のものとして僕の耳に反響していた。
「マクガフィン伯爵婦人の憂鬱」
- 15 :
- マクガフィン伯爵婦人の憂鬱
彼女はただ一言だけ口にした
「もう、私のことはお忘れになって」
僕の長年の恋は唐突に終わりを迎えた
「特攻野郎ナイトウルフ」
- 16 :
- 「特攻野郎ナイトウルフ」
奴は突然やってくる。静寂を突き破る、けたたましい爆音とともに……。
「そこのバイク止まりなさい」
「Why?」
「50kmオーバーです」
「Oh! My God!」
「至上の愛」
- 17 :
- 「至上の愛」
東京都内、某高級料亭に和装した男達が数人集まって密談していた
男達は初老の域に達していて、貫禄を感じさせられた
リーダー格の初老の男が手を叩いた
障子が開き、正座した女将が姿を現した
「えーーーーーーーい、女将をよべぇぇぇぇぇい!」
女将を目の前にし男は言い放った
「究極の恋」
- 18 :
- 「究極の恋」
俺の名は天使。人呼んで恋の狩人。ラヴ・ハンターだ。よろしくな。
生まれてこの方二千年間、俺は恋にまみれて生きてきた。神の命令で、他人様の恋を
こねくり回しておまんま食ってきんだ。要するに恋のプロってわけ。
そんな俺がいいことを教えてやろう、恋は無価値だ。神が死んだ今だからこそ言えるけどな。
おっと、怒らないでくれよ。信じたくないのはわかる。でも事実なんだ。
恋ってのは、愛と肉欲を繋ぐ、ただの架け橋に過ぎない。
”やりたい!”って言えない奴が、”好きだ!”って言ってごまかす。そんだけ。
あほらしいだろ? あほらしすぎて、俺は他人の仲をとりもつのをやめた。
逆に、人から恋を奪ってやろうと思ったのさ。
俺は人から恋を奪って、みんなが素直になれるようにした。恋のゴミ収集車だ。
集めた恋は山に捨てた。そんなこんなで百年たった。そしてある日、溜まった恋を
捨てに山に登ってみたら、なんとそこに、究極の恋が落ちていたんだ。
ビビったね。究極の恋は輝いていた。恋は無価値だと思ってたけど、何千と集めれば、
それなりの力が生まれるんだ。で、俺はその究極の恋を見て、どうしたと思う?
拾って、食った。食っちまった。食っちまいたいくらい、素敵だったからだ。
するとどうだ。みんなが俺に恋するようになった。会う人会う人、俺が好きになるんだ。
金もくれる。飯もくれる。若い娘を差し出してくれる。サイコーだよ。そのうち俺を巡って、
みんなし合いするようになった。マジかよと思ったけど、まあ別に愛してないし、
いいかなって思った。連中の勝手だしね。
ただ、この状態で天使を名乗るのはどうかと思うんだ。そろそろ神を名乗っても
いいんじゃないかと思うんだが、どうよ?
次「たんこぶ美人」
- 19 :
- 「たんこぶ美人」
私がご近所からたんこぶ美人だと噂されたのはある夏のこと
その夏は夏とはいえない冷夏で、街ゆく人のほとんどが長袖を着ていたという異常気象だった
私も寒さに耐えきれずに春用のカーデガンを羽織りながら買い物に家を出た
途中で、犬の散歩中の隣り三件先の自称幼妻さんに会い、立ち話をしたり
商店街のお肉屋さんでコロッケを買い、立ち食いをしたり
今にも潰れそうな商店街の本屋さんで今日発売の女性誌を立ち読みしたり
行きつけの薬局で使用品の化粧品をもらったりしながら、有意義な犬の散歩をしていた
いつもは大人しいペット犬の正太郎がいきなり吠えだし走りだした
リードに引っ張られ私も走り出す、商店街を
人混みを器用にくぐり抜けながら走り続ける正太郎
その後を息を切らしながら後を追う私
いったいどっちがペットなのか分からくなりそうだ
ちなみに正太郎は雌犬2歳、正しく育ってほしいと私の祖父が付けたのだった
何も雌犬につけなくてもいいではないかと祖父に文句をつけたら
なぜか祖父の妹がよいではないかーよいではないかーと言い張り仕方なしに雌犬なのに正太郎となった
そんなことはどうでもよく、私の数歩先を全速力で走り続ける正太郎
私がいくら止まれと叫んでも、いっこうに止まる気配はない
いつしか商店街を抜け、ただの住宅街までやってきてしまった私と正太郎
私の体力が限界を迎えフラフラと歩いていると、そこに・・・・
「失楽園」
- 20 :
- 「失楽園」
楽園が崩れたのは俺がこの地にきて三年目のことだった。
それまでの俺はこの地で平和に暮らし、何の不満もなく
それはそれは自由に楽しく暮らしていた。
命を狙われる心配もなければ、食べることに困ることもない。
まさにここは『楽園』だった。
しかしその状況は一変した。この地に新たな来訪者が現れたのだ。
そう、外の世界からの侵入者だ。
実をいうと俺は外の世界へは数回しか行ったことがない。
この楽園に来る前の俺はまだ子供だったが、外の世界は怖いところだった。
親元から離され、たった一人で冷たい檻に入れられた俺は、
外に向かって必死になって来る日も来る日も鳴いていたのを覚えている。
その時のことを思えば今の生活は奇跡だ。
絶望と孤独に満ちた地獄からこの楽園へ来れたのは、まさに神の導きあってのことだろう。
神に感謝しなくてはならない。
だが、それは悲劇というほかない。
皮肉なことに外の世界から侵入を許したのも、また神の仕業だったのだ。
この地を総べる神は、あろうことかその侵入者を手厚く歓迎した。
俺はその様子を物陰から隠れ、神の乱心に怒りを覚えた。
見てみると。そいつは奇妙な奴だった。
見た目は俺に似ているが、俺より一回り小さく、潤んだ瞳でプルプルと震えていた。
「なんだこいつは」と思いながら、俺は毅然とした態度でそいつに威嚇の姿勢を見せた。
しかしその姿を見た神は、満面の笑みで俺にこう言ってのけた。
「みいちゃん! 今日からこの家にチワワを飼うことになったから仲良くしてね!」
とりあえず俺は借りてきた猫のようにきょとんとし、「にゃー」とだけ言ってやった。
「もふもふ行進曲」
- 21 :
- 「もふもふ行進曲」
20xx年、名古屋駅桜通口で発生したあんかけは、またたくまに街を覆い尽くた。
政府は即座に自衛隊の派遣を決定。だが、圧倒的なあんかけの前になすすべもなく、
もりもりとろける粘液は、またたくまに庄内川に迫った……
だが。
事件発生から3日後、突如としてあんかけが蒸発しはじめた。家々の屋根が現れ、
やがて地面が見えようとしたとき、人々は目を背けるような惨事を予測して、
固唾を呑んだ。
だが、名古屋人は生きていた!
名古屋人は、あんかけの下で、普段通りの生活をしていたのである。しかし、
彼らの姿は一変していた。ファービーのような大量の毛に覆われ、もう服を着る
必要などなくなっていたのである。そして、彼らの言語も変化していた。すべてが、
『もふもふ』という発音と、イントネーションだけで済まされるようになっていたのだ。
彼らは3日ものあいだ街を閉鎖していた市に講義すべく、もふもふいいながら
市役所目指して歩き出した。歴史に残る、もふもふ行進曲である。
事件のあと、名古屋がどうなったのか誰も知らない。だが、噂によると、先日
名古屋駅前ビッグカメラあたりの路面からきしめんが吹き出して、通行人を
襲ったということだ。
『ジェントルマン触手』
- 22 :
- 『ジェントルマン触手』
彼がタコやイカまみれになったのは去年の冬
凍てつく極寒の地でタコやイカと交流関係を結ぼうとしたのだった
周りの人間はなぜタコとイカ?と首を傾げたものだった
しかし、彼は己の信念のために一人で最果ての地へ乗り込み、漁船に乗った
同行した漁師たちも一応に協力的であったが、タコとイカはなかなか捕らえられなかった
男が漁船に乗って二週間目の朝
船長の息子が誤って海に落ちてしまった
男は彼を救うために海へと飛び込もうとしたが、船長に止められた
この海域で海に入ったら生きて帰ってこられないといわれ
船長の顔には息子を失った悲しみが浮かんでいた
静まりかえる漁船、誰も口を開こうとしない、ただ波が漁船にぶつかる音だけが聞こえてくる
朝日が完全に空に登り切ったころ、漁船のまわりに怪しい霧が覆い尽くした
慌てる漁師たちと男
船長は的確に漁師たちに命令を出す
船の前に一筋の光が浮かび上がった
光の中にタコとイカのシルエットが見えた
「!$%〜#%”65”$&”」
人間には理解出来ない言語で語りかけてくるタコ
「@*+#”%”&#$’#$%’%#”#%!%”!&」
やはり理解出来ない言語でイカが語りかけてくる
もっとも言語といえるのかどうかも怪しいノイズだった
男は目的を思い出し、タコとイカに近づいていく
両手を広げ、敵意がないことを現し、笑顔を振りまく
イカの触手が伸び、男の体に巻き付いた
漁師の一人がこういった
「おージェントルマーンの触手プレー」
「夢のオチ」
- 23 :
- 「夢のオチ」
「まぁ初めに言っとくけどさ、あんたが見てるこれ夢なんだよね」
おいしそうに杏子飴をぺろぺろ舐めながら、目の前の少女はそっけなく僕にそう言った。
黒髪ストレートがきれいで、紫陽花柄の浴衣がよく似合ってる。
彼女がクラスのアイドル、夢宮小春であることは一目でわかった。
「はあ……、夢?」
いぶかしげに尋ねた僕に向かって彼女は「そう、夢。周りを見てみなよ」と、辺りを指す。
見渡すとはそこは、どこかで見たことのある祭りの風景で、人も賑わい屋台も出ている。
しかしなぜだろう。その風景にどこか違和感を覚えた。
「ほら、痛くないでしょ?」
「うわ!」
不意に彼女に頬をつねられた。
だが不思議と痛くない。そこで僕はこれが夢なのだと理解した。
「でもさぁ君も薄情だよね。この夢を望んだのはあなたでしょ?」
「え?」
「あんたもずいぶん大人になっちゃってさ、いいかげん現実見ないとだめだよ?」
「え、いや、いったい何を……」
その時、頭の中でけたたましいアラームが鳴り響いた。
『そろそろ眠りが覚めます。お望みの夢はご覧になれましたか?』
気が付くと僕は、カプセル状のベットに横になっていた。
頭がふらふらしたまま身を起こすと、しだいに僕は状況を思い出した。
ああ、そうだ。今は2037年。
あれから30年もの月日が流れ、今では僕はオジサンだ。
建物を出ると、派手に装飾された看板に
『初恋の人との淡い夢が見られるドリームサービス、あなたもいい夢見ませんか?』
と書かれて、僕は自嘲気味に笑った。
「今世紀最大の笑える話」
- 24 :
- 『今世紀最大の笑える話』
公開と同時に世界中を笑いと感動に包んだ超大作が遂に上陸――
「ウラー!」(13歳、学生、モスクワ)
「21世紀のチャップリンの誕生だ」(40歳、郵便配達、ロンドン)
「最上のコメディはいつも最高の感動をあたえてくれる」(ニューヨークタイムズ)
「しんしゅんしゃんしょんしょー」(72歳、落語家、パリ)
「おすぎです! いいから黙って笑いなさい!」(65歳、おかま、東京)
――笑いながら泣くか、泣きながら笑うか、あなたならどっち?
「神の見えざる手ぬぐい」
- 25 :
- 「神の見えざる手ぬぐい」
『神は全知全能』とは誰が言ったのだろうか。
おそらく神を知らないどこぞの宗教家が、なんでもかんでも神の力のせいにして
気がつけば神を全知全能の「何でもできるキャラ」に仕立て上げてしまったのだろう。
しかし、事実とは小説より奇なり、だ。
「ねぇーねぇー、あたしの手ぬぐい知らない? 超お気に入りのやつなんだけどさぁ〜」
「いえ、存じ上げません。お風呂場に忘れてきたのではございませんか?」
「えー? そんなことないよ。さっき千里眼で見たけど脱衣所にはなかったもん」
「そうですか、では一体どこにあるのか……」
悩んだふりをしながら、目の前で涙目になりながらあたふたする少女の姿を見る。
果たして件の宗教家たちは、神の外見がただの少女の姿だと知ったら
どんな反応を見せるのだろうか、
「神様、そろそろお仕事に戻られる時間ですが」
「いやああああー! 手ぬぐい見つけるまでいやあああ」
「ですが……」
彼女は駄々をこねるように、ぶんぶん頭を振った。
その拍子に頭に乗ってるブタのかわいいイラストがプリントされた
神お気に入りの手ぬぐいが落ちそうになったが
どうやら彼女はその事実に気付いていなかった。
「神様、頭に手ぬぐい乗ってますよ」と教えてやろうか。
いや、いいか。
いつものことだし面白いから黙っておこう。
数分後、手ぬぐいの在り処に気付いた彼女が恥ずかしそうに
「こ……これこそまさに、神の見えざる手ぬぐいだべ!」
と噛み気味に言ってきたのは、ここだけの秘密だ。
「湯けむり温泉人事件、ただし容疑者は256人!!」
- 26 :
- 湯けむり温泉人事件、ただし容疑者は256人!!
「犯人はこの中にいます」
シルクハットを深くかぶった小柄な少年がそう告げた
温泉宿の大会議室に集められた総勢256人に向かって告げたのだ
256人からどよめきが起きる
しかし、少年は引き下がることなく胸を張りもう一度いった
「犯人はこのなかにいます」
少年の背後にスクリーンが降りてきて、大会議室の電気が消え暗くなった
パチン!少年が指を鳴らすと同時にスクリーンに映像が映し出された
一人の全裸の若い女性が大浴場の御影石の上にうつぶせに倒れている
口からは血が流れていた
再び256人がどよめいた
少年の鋭い瞳が輝く、ある人物の反応を見逃さなかったのだ
少年は大勢の人垣が左右二つに割れ、その中を歩いて行く
行き着く先は髪の長いスーツ姿の女性のところだった
「ママ!お腹空いたよ」
『世界の果てで愛を歌う中年女性」
- 27 :
- 『世界の果てで愛を歌う中年女性』
あの人は今何をやっているだろう?
果てしない海の向こうを見つめながら、彼女は最愛の夫に思いを馳せる。
私がいなくてもご飯はちゃんと食べているだろうか。
それとも私のことなんて忘れてしまっているだろうか。
見飽きたはずの夫の顔が、今ではとても恋しいものになっていた。
どうか神様、死ぬ前にもう一度だけあの人に逢わせてほしい。
そう願いながら、彼女は力なく目を閉じた。
いつしか彼女は、夢を見ていた。
二人で住むには少し広い部屋で、夫と二人きりで食事をしていた。
彼女と夫は、テーブルの上にあるものを無言で平らげている。
会話がなく、ただ食器の音だけがかちゃかちゃとなる空間で、不意に彼女が声を発した。
「ねえ、それおいしい?」
「……ああ、おいしいよ」
「本当?」
「もちろん。お前の作るハンバーグは世界一おいしいって思っているさ」
「!」
ずっと待っていた言葉だった。結婚したときから、いや初めて彼に料理を作った時からずっと望んでいた言葉だった。
何かが壊れるように、彼女は思いのたけをぶちまけ始めた。
一生懸命料理を作っているのに何も感想を言ってくれないこと。結婚した日のこと。初めて出会った日のこと。
遠慮も偽りもなく交わす、子どものような会話。
それは本当に、夢のように楽しい会話だった。
次『さすらいのカレー屋さん』
- 28 :
-
「それじゃあもう行ってしまうのね」
「ああ、これ以上ここに長居したら僕はこの香辛料の効いたココナッツ仕立てのカレーを最高だ、究極のカレーだなどと言い出しかねない」
「いいじゃない!それで、そんな選択肢もあっていいんじゃないの?」
「いや、僕は僕のこの味を守りたいんだよ。誰にも影響されない、何も取り入れないし何も削らない。要するにこのカレーはアイデンティティ。僕自身なんだ。それを変えるって事はもうそれは僕じゃ無くなるって事だ」
「そんな、それじゃああなたは………」 「ああ、このカレーを、つまり自分を愛している。最低だろ?だから君ももう僕の事なんか忘れて誰かいい人見つけて下さい」
「…………そんな事出来ない」
「君の為なんだ」
「……ついてく」
「……簡単な事じゃない、昼夜問わずスパイスラクタ(カレー吸引域)に気を張りながら生活するんだぞ」
「…………」
「それじゃ……」
「待って!」
そうして彼は去っていった。来たときと同じ軽さで。だけど彼は私に二つのものを残していった。初恋の傷跡と味の全くしない、茶色の絵の具を水に溶かしたような、確かに他のどんなカレーにも似ていないカレーを。
次題 「ウィークエンドブレイン」
- 29 :
- ある創作料理屋に酔いつぶれた男がいた。
男は言った。「何でもいいから珍しいモノ出せ!」
板前は子羊の脳みその天ぷらを出してきた。
男は料理を一口だけ食ったが、即座に吐いた。
「うぃー、食えんど、ブレイン」
「すっぽんヌーディスト」
- 30 :
- 「すっぽんヌーディスト」
市場競争が激化するアイドル業界。
より強いインパクトを、とつけられた名前は「すっぽんヌーディスト」
「いくらなんでもそりゃないですよ」とプロデューサーに食って掛かるも、聞く耳持たず。
度の高い衣装に、無駄に多い14人ユニット。
その内5人がおバカキャラで
1人はすっぽん知識に明るい最強インテリアイドル(顔は微妙)
3人が受け口の三つ子で
4人は電波系キャラを確立すべくイカれた設定を目下考え中。
リーダーある私は「恋はすっぽん」という曲を作詞作曲をした体で歌うが、パクリ疑惑でリーダー交代。
熱愛報道と「枕営業やってます」発言で業界から干され、行きつく先は女優。
より強いインパクトを、とつけられたタイトルは「すっぽん、すっぽんぽん」
「いくらなんでもそりゃないですよ」とメーカーに食って掛かるも、当然聞く耳は持たず。
「あるあるネタシリーズその26〜水溶き片栗粉あるある〜」
- 31 :
- 「あるあるネタシリーズその26〜水溶き片栗粉あるある〜」
水溶き片栗粉を作ったら玉になって料理につかえなかった
そんな悲しい経験をした僕はお湯で溶くようになったがあまり効果がなかった
それでもあんかけチャーハンが好きなので、幾度となく挑戦し続けた
その間、大量の片栗粉とチャーハンたちが犠牲になったことはいうまでもない
「僕の恋は無線LAN」
- 32 :
- 「僕の恋は無線LAN」
僕は無線LANに恋をした。
あの娘は見えないけれどそこにいる。いつも笑って僕を出迎えてくれる。
電波が送られてくるたびに彼女を感じた。
その美しさに絶頂を覚えた僕は今日もパソコンを開く。開かずにはいられない。
僕の棒はすでにあの状態だ。
2次元の薄っぺらい存在を嫁とか言っている奴は随分と浪費をしている。
彼女こそ、4次元こそが至高なのだから。
ふぅ……
「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」
- 33 :
- 「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」
どう返信したものか分からない。
しかしその友人からのメールには、俺に答えを急がせる切実さがあった。
件名:「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」
本文:「助けて」
……意味が分からない。
とりあえず、落ち着けと返信しておく。
友人からの返信はすぐにあった。
本文:「姉のラブ+をやめられない。見つかったときの言い訳を考えてくれ。とりあえずブラはつけたままだ。」
メール打つ前にやることあるだろう、と返す。
今度は電話が掛かってきた。
「やばいやばい! 興奮を抑えられねぇ! 今? うん、姉ちゃんの部屋だ。見つかったらされる。だがそれを思うと余計に……」
突然電話の向こうが静寂に包まれる。
どうした、と、嫌な予感をしつつ問うた。
「やばい、ほんとにやばいかも……。俺、なんでこんなことしてたんだろう……」
まだ遅くない、とりあえずブラを外せ、話はそれからだ。
「……もう遅い」
俺は友人の名前を叫んだ。
しかし、帰ってきたのはツー、ツー、という無機質な音のみ。
くやしさに唇をかみ締める、俺はまた友人を救えなかった。
あいつが姉に半しの目に遭うのは、これで何度目になるだろう。
「多分はじめまして」
- 34 :
- 「多分はじめまして」
大学の講義が早めに終わったので、学食で少し早い昼飯を食べていたら、後ろから「久しぶり〜! 元気にしてた〜?」と声をかけられた。
何事かと振り向くと、見たことのない綺麗な女性が笑顔で俺に手を振っていた。
なんということだ。こんな美人が同じ大学に通っていたのか。
しかし俺は彼女のことは知らない。
「ええと……失礼ですけど、どちら様ですか?」
「えー? うっそ! 私のこと覚えてないの?」
「はあ。多分はじめまし……でえ!!」
襟を思いっきり引っ張られた。
「私のことを忘れたなんてありえない! 多分記憶を消されたんだわ!」
そう言って彼女は俺の手首を掴み、強引にどこかへ連れて行こうとした。
「あだだだだ!! ちょ! どこ連れてく気っすか?」
「司令部に決まってるでしょ!!」
「司令部ぅ?」
「そうよ! 『対エメラウス星人撃退対策司令部』!」
「なにそれ!」
すると、突如地面が競り上がり、簡易トイレのようなシェルターが現れた。
中に連れて行かれると「司令部」と汚い字で書かれた小スペースがあり、真ん中に見知らぬおっさんが座っている。
「おー! よく来たな、武田隊員! 元気にしてたか」
もう、なにがなにやらわからない。
二人の視線を感じる中、俺は「多分、はじめまして」とひねり出すのがやっとだった。
「最後の三分間」
- 35 :
- 「多分はじめまして」
多分…多分というだけまだやんわりとしていると言えるだろう。
前世系というのは一歩間違うと本気でこちらを転生者とか呼び始める。
今目の前にいる女の子もいわゆるソッチ系、なのだろうか?
絵チャットで知り合い話題が盛り上がり、ジャンルオフ会に参加したら
目印をつけようなどという所までは一応笑い話のラインだ。
だがそれ以上は、やばい。間違いなく。
「覚えてませんか?ほら」
「!?」
彼女は俺の黒歴史本を取り出した。高校の時の忘れたい何かが詰まったそれを…
「私、これを読んでから絵を始めたんですよ」
「そ…そう。それは、うん、よ、よかった」
どう考えても覚えがない。誰だ!?
「ほら、私あの時の親子連れの」
ふと思い出した。そういえば、そんな事もあったような気がした。
初めての販売、女の二人組、初めてのお買い上げ。買ってくれた方だけ覚えていた。
面影がある。そうだ、彼女は…
「今年のライダーってちょっと冒頭うしおととらに似てますよね」
「あー。確かに蘇って知識吸収したり対立してたりねえ」
20代の子とする会話か?と思いつつ、思い出が今と昔を繋いでいく。
彼女の手元には、俺の描いた下手糞な太陽の王子。
なんなんだこの光景は。まあ、いいか。面白いし。
「少女、ただし巨大。どっちも」
- 36 :
- しまったリロ忘れすまん
>>34
「最後の三分間」
「なあ・・・俺は、あと何分待てばいい?」
「五分って言ったでしょ」
昼飯の調達を忘れた母は「カップ麺にしちゃった」とメールしてきた。
正直不満はないと言わないが、三分待てば食べられると思った。
俺は硬い麺派なので二分で食える。
俺は歓喜した。
直後に絶望した。
-熱湯5分-
それが、リミットだった。最近のカップ麺は即食べられるのもあるというのに…
「何で5分のやつ買ってきたの?」
「悪かったと思って美味しい方にしたの」
いらない心遣いだった・・・つくづく。
俺の胃が溶けて無くなるような気がする。これが、最後の三分…最悪の三分。
「あーっ!駄目!まだ硬いでしょ!」
「うるせぇ!もう限界だ!食うね!」
ちと硬すぎるが、もうどうでもいい…腹へった。
母親に何と言われようが、男にはやらねばならん時がある。
というわけで俺はとっととラーメンを啜る事にした。
空腹こそが最高のソースだと昔の人も言ったしな。
「最後の人は?」
- 37 :
- 「最後の人は?」
修学旅行一週間前
班分けすることになった
当然、僕はあまる側の人間なのでいつものごとく先生のご慈悲を待っていた
十分、二十分。三十分、次第に班が決まっていき、先生が学級委員長に確認を取った
委員長が名簿を確認していく上から下へと視線が動いていく
そして、途中で止まった、そう場所的にいって僕だろう
委員長が先生に小声で何かを告げている
先生が僕のほうを見て、小さな溜息をついた
「班が決まってるないのは君だけだぞ」
「は、はい・・・」
「最後の人はどうするんだ?」
僕は担任にすら名前を覚えていてもらっていなかったのだった
「はじめての海外旅行」
- 38 :
- >>36
お気になさらず
「少女、ただし巨大。どっちも」
三年ぶりに親戚の女の子(姉妹)に会うことになった。確か姉は今7才で、妹は5才。
二十歳の僕とは年齢が離れすぎている。困った。どう接すればいいのだろう。
そんなことを考えながら駅で待ってると、二人は現れた。
「あー!! お兄ぃだぁ!」
「ちょっとまってよ美香ぁ!!」
改札のほうから声がしたので見てみると、楽しそうに巨人が二人僕に駆け寄ってきた。
僕はそれを石のように硬直しながら見る。
でかい。
3メートルは超えようかというような巨体だ。駅の天井はなかなか高いのが、姉は明らかに天井を破壊しながら走っている。
おいおい。一体この三年間に何があった。
「えーい!!!」
二人は、無邪気に僕の体へ飛び込んだ。
「ぐほおおおおおおおおお!!!」
彼女たちに悪気はない。しかし、僕はその日、虫けらのように天を舞った。
- 39 :
-
>>37
「はじめての海外旅行」
「海外旅行いこうぜ!」
夏休み前にどこか行こうかと話してると、目を輝かせ俊哉はそう提案した。
「えー海外? あたし海外行くのはじめてなんだけど」
飲み干したバニラシェイクをいじりながら、不安そうに真理は言う。
真理と俊也は付き合ってもうすぐ一か月、バイトで出会った関係だ。
「お〜! 海外初か! だったら俺がいいとこ知ってるよ」
「で、でもさあ、怖くない? 海外。言葉わかんないしさぁ」
「あはは、んなこと全然ないって。価値観変わるよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。な、行こうぜ海外。俺と真理が付き合った記念にさ」
『記念』という言葉に真理は弱い。
依然として不安ではあったが、どうやら彼は海外に慣れているらしいし、真理は思い切って海外旅行する決心をした。
パスポートの申請をすませ、旅行鞄に荷物を詰める。
その頃にはもう、不安より期待のほうが勝っていた。
「海外……どんな所なんだろう。俊也は教えてくれないけど」
海外に着いた。
暗かった。
人はいなかったが、代わりに鬼がいた。
鬼は真理を囲んで涎を垂らす。
「そんな……! なんで俊也……?」
俊也は、にやりと笑って、本来の姿へその身を変えた。
海外。
確かに価値観は変わる。
薄れゆく意識の中、真理はそう思った。
「パパとママと僕とネアンデルタール人」
- 40 :
- 「パパとママと僕とネアンデルタール人」
「絶対におかしいよ」
僕の甲高い声にママが笑う。
「おかしくないわよ」
「絶対におかしいってば!」
僕は納得がいかなくて地団駄を踏むのに、パパもママも顔を見合わせて、しょうがないわね、
なんて肩をすくめる。
「どこがおかしいんだ? パパは素敵だと思うよ」
「どうして猫の名前がネアンデルタール人なのさ!
そんな可愛くない名前絶対にイヤだよっ」
「可愛いわよね?」
「素敵だよな?」
僕はどうしてこの二人の息子なんだろう。
拾った子猫を抱きしめながら僕は自分の名前も思い出したくない。
「どら焼きのあんなし」
- 41 :
- 「どら焼きのあんなし」
「どら焼きのあんなし?」
「そうだ。このお題でSS、まあ短い話を書いてもらう」
「早速説明セリフ、じゃなかったスレ案内なんですね」
「あんが無いらしいしな」
「ははは」
「はははは」
「それよりも何故、どら焼きにあんが無いのですかね」
「それは……あの青い猫型ロボが」
「ありがちすぎますよ」
「じゃあアンガールズが」
「それはあんがあるんですか無いんですか」
「私にはなんとも……なんせ中味の無い話ですからね」
「ははは」
「はははは」
「おでんと電子タバコの意外な関係」
- 42 :
- 「おでんと電子タバコの意外な関係」
「おう! 祐ちゃん、タバコやめたの?」
残業でクタクタになった夜中の11時。一人で行きつけのおでん屋に通うのが、社会人となった僕の日課だ。
「そうなんですよ。社内でも禁煙の声が強くなりましてね。酷いもんです。上司が禁煙したから僕も道連れですよ」
「がはは! 喫煙者には辛い世の中になっちまったな」
「まったくですよ。まだ初めて一週間ですけどね。これがなかなかきつい。ところで親父さん、タバコの銘柄変えたんですか?」
「おおこれか? 娘に勧められたんだが、これがなかなかよくてな。ほい、いつもの」
カウンターに出されたのは、とろけそうな大根二つに熱燗。
この屋台に通って二年半、変わらぬ定番メニュー。
「そういや、禁煙っていえば、アレ試したらどうだ?」
「アレ?」
芯まで出汁を吸った大根を一口頬張り、辛口の熱燗をくいっと一気に飲む。。
大根の風味が口いっぱい広がり、熱燗がそれを引き立てる。
うん。やっぱりこの店はおいしい。
「ほら、ニュースとかで話題になってたろ、機械のタバコだか……」
「あー電子タバコですか?」
「おう、そうそれ。禁煙すんならそれ試したらどうだ」
妙にうれしそうな親父さん。僕はそれを尻目に「だめだめ」と大げさに手を横に振った。
「あんなの気休めですよ。ああいうので止められる人ってのは、よっぽど意志の強い人か、タバコのなんたるかをわかっていない人ですね。
アレただの水蒸気ですから。子供のおもちゃです。アレを吸う唯一の利点は、周りに自分が禁煙していることを意思表示できることくらいですよ。
あはは、それにしても今日の大根は一段とうまいな……」
その瞬間殴られた。
なぜか知らんが、殴られた。
僕はカウンターから吹っ飛び、道路に突っ伏す。
「祐ちゃん。俺はアンタを息子のように思っていた。だがそれは間違いだったようだな」
「え? え?」
見てみると親父さんが吸ってるのは電子タバコだった。
どうやら遠回りに電子タバコを勧めた親父さんの好意を僕はバカにしたようである。
それ以降、僕は行きつけの店を失った。
まさか、おでんと電子タバコにこんな関係があろうとは。
「キスから始まるライトノベル」
- 43 :
- 「キスから始まるライトノベル」
先に断っておくが、僕はなんのとりえもない、どこにでもいるような存在だと自負している。
そんな僕が、妹といつものように朝食を取っている時に事件は起こった。
「ねぇおにーちゃん、今日はどこに遊びに行く?」
「んー、そうだな。久しぶりに白吾のところにでもいくか」
「白吾クンのところかー」
「ん、妹は白吾のこと苦手か?」
「ううん。おにーちゃんが行くところについていくよ!」
他愛のない日常。今日も僕は『普通』を謳歌できるはずだった。
「・・・・・・?」
「ん? おにーちゃん、どうしたの? 具合悪いの?」
「なんだ・・・・・・これは・・・・・・!」
突然、得体の知れない力が働き、僕の体が言うことを聞かなくなる。
否、それだけではない。いつの間にか僕の体は地面から3メートル程離れたところにあった。
「おにーちゃん!? おにーちゃん!!」
妹が叫んでいる。その間にも僕の体には天へ吸い込まれるような力が働いていた。
たった一人の家族である僕がいなくなったら妹は一人だ。僕は必死に突然襲ってきた力に必死で抗う。
しかし、抵抗も虚しく、とうとう妹の姿は見えなくなってしまう。
そして、力に導かれるようにたどりついた先は、僕の見たことのない世界だった。
光にあふれ、色にあふれ、開放感にあふれた、見ているだけまぶしい世界だった。
いつか、妹にこの景色を見せてやりたいなぁ、そう思ったところで僕は力尽きて瞳を閉じた。
海岸で、青年が釣り糸を垂らしている。そこに大学生程の娘が近づいて話しかけた。
「よっ。釣れてる?」
「ん、キスが一匹だけ。しかも釣っただけで死んじまった」
「ふーん。弱ってたのかな?」
「いや、サイズのわりに手ごたえはすごかったんだけどなぁ」
「なんかちょっとだけ可愛そうだね」
「ま、ありがたく昼ごはんにさせてもらうよ」
「そっか」
今日も波は寄せては引いて、太陽はゆっくりと廻る。
娘は青年の隣に座って、その変わり映えしない景色を何の感傷もなく眺めていた。
「結果的にファインプレー」
- 44 :
- 「結果的にファインプレー」
夏の高校野球決勝戦がTVで流れている
それを中華屋で見てる男女
二人は一応服装を決めてるつもりだか、全身から幼さを漂わせていた
いきすぎたおしゃれは滑稽に見えるものだ
本人達はそれに気付いていていない
中華屋の店長が注文は?と二人に聞く
「ビールと餃子ね、先にビールを持ってきて」
と、男が無愛想に注文する
「私もビールとつまみ三点セット」
と、女が舌を噛み噛み注文
店長が訝しげに二人を見つめる
男がその視線に気付き、ちょっと威嚇気味に「早くしろよ」
店長が中華用お玉を握りしめバットみたいにスイングする
その様子を見た二人が苦笑する
「ぷっ、ここって中華屋だよねー?振り回してないで注文した物だしてよ」
女が店長をバカにするように言った
店長がおもいっきりスイングする
店長のスイングと合わせるようにTVから大歓声が店内に響き渡った
「ホーーーーームラーーーーーーーン!!!大逆転!!!でーーーーす」
実況アナウンサーが大絶叫している
「悪いな、ガキに飲ますビールはねえんだ。チャーハン作ってやるから食って帰んな」
中華用お玉を鼻先に突きつけながら女はゴクリとつばを飲み込み男を見た
「・・・チャーハン二つ」
小さな声で注文しなおした
店長がお玉をおろし、満面の笑顔で「あいよ」と言った
TVには優勝校の選手たちが満面の笑みで涙をながしていた
店長はその映像を見て、かつての自分を思い出して鼻を啜った
- 45 :
- お題忘れたので
「忘れた頃に大爆発」
- 46 :
- 「忘れられた頃に大爆発」
「だから! 僕のミケのことをネアンデルタール人って呼ばないでよ!」
「でもミケなんてありきたりすぎて」
「つまらないよな?」
ぼくのネーミングセンスを馬鹿にする資格は両親には絶対にない。
「デデキントの切断とキントト」
- 47 :
- お祭りの帰り、浴衣で県道を歩いてたら、
「でーんでんむーしむしきーんとうんー」
なーんて変な歌を歌う男の子が向こうからやってきたの。
手には金魚すくいの袋を持ってて、何かぐるぐる振り回してる。
金魚汁でも飛んできたらやだなぁなんて思って、
ちょっと避けるそぶりをしたら、あたしに気を使ったのね、その子、
ぴょいって車道に飛び出たのよ。
キキーッドグワシャァアロロロッローーン
あっという間の出来事。軽トラが男の子を轢いて、そのまま逃げてった。
男の子は胴切りになって、辺り一面血の海。うわっ大変!
救急車呼ぼうと持ったんだけど、どだい無理っぽいのでやめたわ。エコだし。
「デ・・・デ・・・キント・・・」切断された男の子が呟いてた。
あたし可哀想になって、
「安心して! あなたの端点は上半身側にあるわ! きっと助かる!」
なんて言ってみたけど、コーシー列はコンパクトよね。
血の海の中で、金魚が跳ねてた。
次「オニヤンマらめぇええええ」
- 48 :
- 「オニヤンマらめぇええええ」
うちの妹は虫が平気、というか何故か好きだった。
田舎育ちのせいかもしれない。
生まれたときから見慣れていたのもあるし、ビビっていられないのもある。
むしろ虫は捕りに行くくらいでないといけない。
そこである日虫を捕らえに行ったのだが…
その時、俺は虫の力を体験した。
「やった!」
目を輝かせて妹が捕らえたのは、小さな緑のバッタ。
そこら中の草むらに幾らでもいる程度のものだが、半月型のそれは
まあまあ可愛らしく、手始めに捉えるにはちょうどいい。
「ばったー ばったー ふーんふーん♪」
妹は上機嫌でバッタを振り回していた。潰すような力の入れ方はしないが
足を捉えてもはやバッタは妹のオモチャだった。
しかし数秒後、妹の手からはフッとバッタが消えた。
黒い影が通りすぎると、妹も気づくような力強さでそれはバッタを奪ったらしい。
妹の目線の先を見ると、そこにはバッタを掴んだ巨大な黒と緑の影。
オニヤンマだ…
「オニヤンマらめぇええええ」
妹の叫びもむなしく、昆虫捕りは昆虫捕られになってしまった。
オニヤンマはオニの名の通り大きく力も強い。
妹が振り回した手からバッタを奪い去るくらいは平気で出来るのだ。
これは妹がうかつだったのだが、それにしても見事だとも思う。
「なあ、泣くなよ。ヤンマくらいあとで兄ちゃんが取ってやる」
びっくりしたのか悔しかったのか、妹はまだ「らめぇ」と舌っ足らずに泣いていた。
この約束が分かっているのかは微妙なところだが、あのヤンマをこの手にできるか
虫とのかけひきは俺にとっても面白いところだ。
「昆布ダシで作る魔界クッキング」
- 49 :
- 「昆布ダシで作る魔界クッキング」
我々が住む世界で「料理」と言えば、食事を楽しむためのものでございますが、
魔界での「料理」はそんな生易しいものじゃあございません。
『人貝のムニエル』『四つ首大鷲のソテー』『狂野菜のてんぷら』etc.
魔界に存在するすべてのレシピは、敵をすために考案されたものでございまして
「したけれれば、料理を作れ」なんていう諺もあるくらいです。
よく「食事に毒を盛る」などという言葉がございますが
魔界ではそんな回りくどいことは致しません。
なぜなら「料理」自体が「毒」ですから(笑)
え?
そんなもん誰も喰いはしないって?
あっはっは。いえいえ、そいつは違います。
我々は普段からいいものを喰ってますから舌が肥えてますがね、
魔界に住む野人どもはそうじゃあない。
頭は悪く、獣もみたいに食い荒らすもんだから、「おいしい」なんて感じたことがない。
そりゃあ喰いつきますよ。魔界の料理は味だけは絶品ですから。
“一口喰えば味に酔い、二口喰えば腸(わた)が裂け、三口喰えば天へと昇る――”
そぅら、どうです? あなたも食べてみたくなったでしょう?
今なら
『人食い昆布のミネストローネ』がおすすめですよ。
「13行のミステリー」
- 50 :
- 「13行のミステリー」
かつて、たった13行で完璧なミステリーを書き上げた作家がいた
あまりにも完璧すぎるので、誰もが意外な犯人に驚きの声を上げたという
しかし、いくら完璧といえたった13行の文章
一度読めば誰もが内容を記憶し、口述だけですむようになってしまった
もうこうなれば、本など無用の長物になりさがり、誰も本を手にしなくなった
それが完璧なる13行のミステリーの顛末である
そして、その本、今現在絶本になってしまった本が私の目の前にある
偶然、散歩途中に立ち寄った古書屋で見つけたのだ
13行のミステリーの値段は私が持ち合わせてる現金なら簡単に買えてしまう額だった
私はこのミステリー買うかどうか悩んでいる
なぜなら、立ち読みで内容を覚えてしまったのだ、もう読む必要がないのだ
私は本に格段な愛着を持つ人種ではないので、読み終わった本になんの愛着もわかないのだ
よってコレクターアイテムとして買い、高値で転売してやろうかとか
本当にコレクションにしてしまおうかと悩んだりしているのだ
一度悩み出すと、なかなか答えが出ないのが私らしいといえばらしい
ま、昼食代一回分程度の値段なので買うこと決めレジへと向かい金を払う
本を受け取り、そのまま店を出る、日差しで軽い目眩がした
ああ、もう夏なのだなと私は思い、そのまま隣りの古本屋に入り、手にしていた本を売り払った
「コーンスープの熱き想い」
- 51 :
- 「コーンスープの熱き想い」
さて、こまった。
眼前の状況は仕事であるとはいえ、やはり辛いものがある
そりゃあスープ業界でも1,2を争う人気職種のコーンスープである
女性客のリピーターが得られたときの満足感なんて言葉にも出来ない
出来高ではあるが俺ほどの売れっ子になれば毎月の給料袋のズッシリ感だけで昇天出来そうな勢いだ
そんなコーンスープだからこそ毎日の出勤にも気合いが入るってモンよ
ビシッとアイロンをかけたスーツを着込み背中にとってを差し込む
これだって我が社独自のデザインでお客様方からも「可愛らしい」と好評なのだ
もちろん女性客(なるべく若い子意識)だ
だのによぅ
だってのによぅ
「なぁぼうや。早くしてくんないかなぁ。じゃないと俺から始めちまうぜ?」
どうして時々こんな風に男客まで注文を引き受けちまうんだよ!
「ほうきを亀甲縛り」
- 52 :
- 「ほうきを亀甲縛り」
むかしむかし、あるところに「とんち坊主」と呼ばれるとんち好きの坊主がいました。
彼の手にかかればどんな難題も朝飯前。
とんちで解決できない問題などありません。。
そんな噂を聞きつけ、とあるお城のお殿様が彼を呼び出しました。
「これとんち坊主、今からそなたにとんちを出す。華麗に答えてみせよ」
「はい、お殿様!」
そう言ってお殿様が出したのは、一本のほうき。
「よいか。今からこのほうきを亀甲縛りするのじゃ!」
「……え?」
き……亀甲縛り?
とんち坊主が驚いたのも無理ありません。
お題が卑猥だったのは言うまでもなく、そのほうきは細くて亀甲縛りなどできっこなかったからです。
とんち坊主は頭を抱えました。
しかし、直ぐに坊主は何か閃いたのか顔をあげました。
「フフフ。どうじゃ、できんか?」
「いえいえお殿様。ぼくに解けないものはございません」
坊主は自信満々に言いました。
「では、やってみよ!」
「ですがお殿様……」そう言ってとんち坊主は、驚くほど冷たい目でにやりと笑いました。
「ですがぼくには、『亀甲縛り』というのがなんなのかわからないんです」
坊主のSっ気たっぷりの視線に、M気質のお殿様はたまらず「じゃあこの体で教えてあげるよ!!」と叫びました。
そうです。
これが「とんち坊主」のとんちなのです。
「時給4億円のお仕事」
- 53 :
- 「時給4億円のお仕事」
金に困って仕事を探していたら
「時給4億円のお仕事」 と書かれた貼り紙を見つけた
場所は人の往来が激しい駅前の電柱だ
中高生がこの貼り紙を見て笑っていた
私は中高生に混じって貼り紙を見ていた
書かれた番号を頭に記憶した
その場を離れ、携帯を取りだし記憶した番号に電話をかけた
3コール後に男の声でもしもしと応答があった
私は平静を装いながら貼り紙のことを尋ねた
男は電話口に、あなたみたいな人が多いんですよねーといった
続けて、世の中、そんな甘い話があるわけないでしょ
男が得意げにさらに続ける、楽することばかり考えないでちゃんとした仕事探しなさい
携帯を持つ手が震える、私が困っているのに、この男ときたら、何暢気に説教くれているのだ
とりあえず私は深呼吸して、てめぇーに説教される覚えはねえ!
ありったけの声で叫んでやった
ついでに携帯を道路に叩き付けてやった、液晶が割れるのが見えた
そう、私はこんな性格だからどこへいってもうまくいかずに終わってしまうのだ
せめてこの血の気の多いところだけでも直せないかと思う
それでも、今回は私が悪いわけではない、私に説教したバカ男が悪いのだ
コンビニで立ち読みして弁当とお茶買って家に帰ろう、あとコンビニに置いてあるフリーの求人誌をもらっていこう
そう考えるだけで私の足取りは軽くなった
「消費税25%、公務員給料大幅引き上げ」
- 54 :
- 「消費税25%、公務員給料大幅引き上げ」
Sが家へ帰ろうと鞄片手に靴箱を開くと、そんなことを筆ででかでかと書いたA4紙が入れられてあった。素人目に見てもなかなかの達筆だ。
「なんなんだいったい」
ぼやきながら、そのまま丸めて捨ててやろうとしたところで手が止まる。
「消費税25%って、イギリスだったかな」
デンマーク、ハンガリーなどであり、イギリスがそこまは高くないのだが授業で習ってもいない様なことは知っているはずもない。
「ま、どうでもいいか」
そういって隅に設置されているゴミ箱に向かって投げる。
ナイスシュート
吸い込まれるように紙くずが入っていくところを確認すると、Sは何事もなかったかのようにそのまま帰路へと向かった。
「三枚の」
- 55 :
- 「三枚の」
害現場に残されていたのは、三枚のだった。
ひとつは、青と白の縞々模様が特徴的な女児用。
ひとつは、紫色が刺激的な勝負用スケスケ。
そして最後は、先っぽに黄色い染みの付いた何とも汚い男性用ブリーフ。
三枚とも被害者の近くに脱ぎ捨てるように置かれており、床にはピンク色の錠剤と飲みかけの缶ビールが数個転がっていた。
事件が起きたのは、さびれたホテルの一室。出勤してきたオーナーの通報で事件が発覚。
その後の捜査で、現場に残された下着の一枚が被害者のものと判明した。
検視の結果、死因は『腹上死』
――つまり「精力増強剤と酒を服用したまま、事に及んだことによる心筋梗塞」
警察は残りの下着の所有者が、事件に何らかの関与があるとみて捜査を続けた。
しかし、犯人はあっさり捕まった。
「いいですか? あなたの体液が、このブリーフの先っちょから検出されたんです」
薄暗い取り調べ室には、おびえた顔の男がいた。
「す、すみません、すつもりはなかったんです。ただ、彼女が強い刺激を求めていたので……あ、あと、縞パンは僕の自前です、へへ」
そう話すオーナーの股間は、勃ってもないのに、その場にいた誰よりも大きく膨らんでいた。
皆の顔は呆れている。
とはいえ、そんなもので突かれたらそりゃ死んでしまうなと、見ていた誰もが被害者の女性に同情した。
「末期、少女病」
- 56 :
- 「末期、少女病」
「末期ですね」
医者から宣告された言葉は心へと突き刺さることすらなく通り抜けていった
「やはり、ですか」
「ええ、特徴的な病気ですからね。しかしこうなる前にも自覚症状はあったんじゃないのですか? 初期であればまだ対処法もあったものを……」
頭を掻きながらカルテを見つめ、医者はぼやくように言った
確かに、自覚はあった
気付いたのは半年ほどまえ。ちょうど夏物の服を買いに大手衣料メーカーまで足を運んだときだった
男物のTシャツ売り場へと足を運んでいたはずなのに、ふと気付くとそこは児童服売り場
大の男が、一人で、児童服売り場だなんて
周囲の目も気になったので急いでその場は立ち去った
不思議なこともあるものかと思いながらもその後は何事もなく……一ヶ月ほど
休日ということもあり、特に用事もなかったわたしは公園でのんびりと時間を過ごしていた。今思うと、その行動すらも少女病の一環ではなかったかと疑ってしまう
まあとにかく公園で時間をつぶしていたときだ
たまたま近くのブランコで無邪気に遊んでいた小学校低学年程度の女児達を目にしたとき、己の中の何か薄暗いものが鎌首をもたげたのだ
『あの子達の輪の中に加わりたい』と
そんなことを考えていた自分に気付いた瞬間、そんな自分のことが信じられなくなってしまった
そして暗転、気がついたときには自室のベッドにくるまっている自分がいた
そんなことが月に二、三度ありながらも三ヶ月ほどは何とか平静を保っていられた
単に現実から目をそらしていただけなのかも知れない
そんなカバーガラスのような薄い均衡が保たれていた日常は勤務中、唐突に音を立てて崩れた
「○○さん、最近なんだか声が高くないっすか?」
部下の冗談ともつかないたわいもないひとことがわたしのすべてを崩した
やはり、なのか。と
そんな小事のような大事が起こって以来、わたしは家に引きこもることにした
大人しくしていれば自然治癒してくれるのではないのかという泡沫のような期待、そして日に日に変わってゆく自分の姿を他人に見られたくなかったが故である
そんな生活をしていた昨日。見る気もなかった鏡。見たくもなかった鏡。恐れていた自分の姿が唐突に気になりだした
一体どうなっているのだろう
一度湧いた好奇心は収まることなくわたしの中を浸食してゆく
ああ、見るべきなのか
もしかすると直っているかも知れない
そんな、ありもしない期待がわたしを蝕んでゆく
- 57 :
- 「末期、少女病」(続)
そして
洗面台に設置された鏡の前
気がつけばわたしはすべてを失っていた
クリッとした瞳
キメの細かな桃色の肌
そこにあごひげの一本もあろうはずがない
背丈も半年前の半分以下にまで縮んでしまっている
目の前にはここ数年で急速に社会現象にまで発展した奇病の発病者がいた
『少女病』
三十代をすぎた男性を中心に発症しその姿を、その心をあどけないへと変えていってしまう恐ろしい病だ
「……う、うそだ!」
とっさに飛び出した声すら自身が聞いたこともないような高音に変わってしまっている
「う・・う、うわぁああああああああああああああああああ!!」
「さてとりあえず」
医者は淡々と今後の予測を話し始める
「未だにこれといった治療法も見つかっていないためにここまでの症例となると回復は絶望的です」
そんなことはわかっている。今後は一体どうなるのだ
「ええ、後一ヶ月もすればあなたは心も身体も完全にへと変わってしまっているでしょう。もちろん、そのときのあなたには今の人格も
記憶も綺麗さっぱりと消え去っているというのが今までの例ですし、あなたのような典型的な少女病の方がその例から漏れることは期待できないでしょう」
「そう……ですか」
わかっていたことだが気を落とさずにはいられない。わたしは深く俯いた
「ほう、あの男が例の患者か」
長方形の巨大な窓の向こう側を興味深げに眺めながら白衣の初老といってもいい男が言う
「ええ、何でも少女病などという奇病にかかっているのだとか」
額の汗をぬぐいながら、こちらも白衣の若い男が説明をする
「少女病、か……」
初老の男はそう呟き、手にしていた論文に目を戻す
『ネット社会の暗部、少女病の急増について』
「さて、どうしたものかな」
初老の男はガラスの向こう側へと目をやる
そこには精神科医を相手に泣きつくもう若いとは言えない大柄の男の姿があった
「ティッシュ、イカ」
- 58 :
- 「ティッシュ、イカ」
わからない、わからない、わからない、わからないか
いやちがう
わからない、わからない、わからない、わからないゲソ
これもちがう
わからない、わからない、わからない、わからないティッシュ
まったくちがう
なぜ、あの時、私はティッシュ、イカなどいってしまったのだろうか
まったくもってわからない、人体の神秘!
「縞パンの見る夢」
- 59 :
-
私は夢を見ます。
あなたが窓辺の椅子に座って、鼻歌を歌っています。その歌は私が好きな歌で、私はそれを聴きながらコーヒーを淹れます。
窓の外には大きな木があって鳥達が休みに来ます。私は入れたコーヒーを運んであなたと一緒に椅子に座って鳥達の歌声に耳を澄ませます。
青い空と白い雲。君みたいだねってあなたは言います。
白い小さな花を揺らす優しい風。あなたみたいと私は思います。
手を握って。眼を閉じて。瞼を透き通る柔らかい光に永遠を思います。木々のざわめきが聞こえます。ずっと一緒だよ。ずっと、ずっと一緒だよってあなたが囁いているみたいで私はにやにやしてしまいます。
私は出来るだけあなたにくっついて、強く手を握り、もう一生目を開かないでおこうと思いました。そうすればもう二度とあなたと離れる事はないから、この椅子に一人で座る事はないから、そう考えたのです。
額を雨粒が濡らしました。部屋の中に雨が降るなんておかしい。私はとても不安になりました。気付くと握った手の感触が無くなっています。「待って!」たまらず目を開けてしまいました。
そこは見慣れた部屋でした。猫が心配そうにじっと見つめていました。雫が頬を伝いました。外は雨でした。私は一人でした。
次題「ジャスミン・ジャスミン」
- 60 :
- 「ジャスミン・ジャスミン」
アメリカ西部にある寂れた街に奇妙な怪盗が登場したのは、いつ頃だろうか
オレンジ色のスーツ姿の女二人組の怪盗
ジャスミン・ジャスミン
街の人たちは彼女たちをそう呼んだ
何もない小さな街だからすぐに有名になった
別に義賊でも、凶悪犯でもなくただの小悪党レベルの盗人なのにだ
それほど街は新しい何かを求めていたのだ
小さな街の小さな新聞が二人を取り上げる度に発売部数が伸び、発行部数の記録を塗り替えていったほどだ
街の子供たちはジャスミン・ジャスミンの格好を好んでし
中高生はジャスミン・ジャスミンの髪型を真似たりし
大人たちは俺の嫁論争に花を咲かせていた
そんな、大人気の彼女らが芸能界が放っておくわけもなく、遠くハリウッドからスカウトがやってきた
大金を摘まれ彼女ら二人はサインをし芸能界デビューすることになった
デビューはすぐだった全米に放送網を持つ大手TVのバラエティー番組出演だった
ジャスミン・ジャスミンはいつもより高価なオレンジ色のスーツとハリウッドのメイクアーティストを呼び着飾った
それは放送開始30秒前にやってきた
スーツ姿の男達が数名スタジオに入ってきてジャスミン・ジャスミンを囲ったのだ
二人は男達の手で逮捕され連行されていかれた
なんてことはない、犯罪者はどこへいってもどんだけ人気者になろうが犯罪者だったのだ
「朝風呂、朝酒、朝寝」
- 61 :
- 「朝風呂、朝酒、朝寝」
「やるならば朝風呂かな」
そんな壁の落書きを消し、首に巻いたタオルで顔の汗を拭きながらJがつぶやく
なんてことはない。町内会のボランティアだ
「朝風呂とか何様やねん。気色悪い」
「うっさいわ。じゃあアンタはこの中ならどれを選ぶんですか?」
あごひげの濃いいかにも工場のおっちゃんといった風体のFはしばし壁を眺めてから
「やっぱ朝酒やね、へへへへへ」
と、いたずら小僧のように笑って応えた。
「えー、朝からお酒ですかぁ? 健康に悪そうですねぇ」
タルーンとした口調で三人の中ではもっとも若いKが横やりを入れる
「じゃあお前はなんだってんだい」
「そりゃあ朝寝ですかねぇ。仕事柄そういった時間帯になっちゃいますしぃ」
「お前の方がよっぽど不健康なんじゃねえのか!?」
あははははと笑ってごまかすK。どうやら自身もわかってのことだったらしい
「でもホント、朝寝はイイモンですよぅ?」
「それをいったら朝風呂だって悪くはありません」
「どいつもこいつも馬鹿野郎だな、朝酒がなきゃ一日が始まらんだろうが」
三人とも一歩も譲らず
なんだか微妙な空気の中、黙々と壁の落書きを消したり、道路にこびりついたガムなどをはがしていたとき、
Jが思いついたようにこういった
「そうだ! 朝風呂に入りながら寝酒を飲めばいいじゃないですか!」
その言葉を聞いて、残りの二人もなるほどと思った。確かにそれならそれぞれの方法を試しても見られるし角も立たない
翌日、ほとんど同じ時間帯に三人の男が死んだことがニュースでも話題になった
死因はすべて急性アルコール中毒だったらしい
「狂気! アルバトロスでにゃんにゃん」
- 62 :
- 「狂気! アルバトロスでにゃんにゃん」
教えてほしい、この世界の真理を・・・・
「しゃっちょうさん、やすいよやすよ」
- 63 :
- 「しゃっちょうさん、やすいよやすよ」
夜も遅く、会社帰り。疲れたわたしの耳にそんなカタコトの日本語が入ってきた。はて、こんな場所に風俗の店なんて開いて
いただろうか? なんてことはない興味本位で声のした方へ振り向く。
「いやあ、しゃっちょうさん、やっすいよやすいよ。こちきてきて」
向いた先には明らかに日本人のものではない浅黒い肌の女の子がサイズも合わないピチピチの浴衣を着て手招きをしていた。
背後には屋台が一つ。目がチカチカするような色とりどりの豆球で装飾されたそれには大きくこう書かれていた。
『派遣掬い』
何かの見間違えだろうか。じっくりと文字を確認するが、書いている文字が変化したりなんてしない。
「なあネーちゃん。これってなんのお店やの?」
「おー、なんのみせ? しゃちょうさんふしぎなこというね。これ、はけんすくいだよ」
こっちこっちと屋台の奥へ手招きする店員。『派遣掬い』なるものへの興味もあったが、この店員が美人で断り切れなかった
ことの方がかなり大きかったのかも知れない。私は誘われるがままにフラフラと屋台の中へ首を突っ込んだ。
ざわざわざわ……
なんだろう、少し騒がしい。強いて言うなれば人並みでごった返した歩行者天国を身体一つ上から眺めているような感覚。後
々その感覚があながち間違いではなかったことに気付かされるのだが。
「これすくうね」
店員は金魚すくいでよく使われるようなポイを一回り大きくしたものを渡してきた。貼ってある紙は障子紙のように分厚い。
「一体こんな大きなポイで何をすくうってんだい?」
とっさに尋ねてしまった。店員ははて? といった表情を見せたかと思うとクスリと笑い、
「しゃちょうさんはせっかちだね。これではけんすくうだよ」
と、私の後ろを指さした。言われるがままに身体をねじりそちらを向くと、水色をした大きな浅い入れ物があった。深さは私
の膝くらいだろうか? 小学生くらいなら平気で大の字をかけるような広さを持った入れ物の中には黒々とした小さな生き物が
無数にうごめいていた。小さな生き物はひたすらキィキィと喚いたり、つかみ合いの喧嘩をしている。
入れ物の中に詰められた生き物たちを見ているとなぜだか心中穏やかではいられなくなった。
なぜだろう? 私はこの光景をよく知っている気がする。日常の一コマのような既視感だ。
「な、……まっ、これは何なんだよ!?」
「しゃちょうさんものしらないね。これ、はけんだよ」
見ててみなとという風にぞんざいに大きなポイを箱の中に突っ込んだかと思うと、あっという間に片手の桶の中に一匹の『は
けん』を入れて見せた。
「……………………」
「おかいあげしたらにるなりやくなりすきにするだよ」
「………………」
「あれ? しゃちょうさん?」
生き物の入った桶を私の顔に近づけてくる店員。桶の中を縦横無尽に走り回っていた生き物はふ、と動きを止め、ジッとこち
らを見つめる。
「うわ、うわわわっ、わぁああああああああああああああああああああ!!」
目の前の桶を払い落とし死にものぐるいで屋台から飛び出す。背中に抗議の言葉が投げつけられるが知ったことではない。
さっき見たものを兎に角忘れようと私はどこを走っているのかもわからずひたすら待ちを駆けめぐった。
まさか生き物が自分の顔をしているなんてことがあるはずがない。
「ウルトラマン、股間の神秘」
- 64 :
- 「ウルトラマン、股間の秘密」
かつて母なる惑星地球を宇宙からの侵略者から幾度なく救ったという伝説の巨人がいた
彼の者は全身を赤と灰色を基本色とし、胸にはカラータイマーとなる物を付けていた
両手を十の字にすると、今で言うレーザー光線らしきものが発せられ侵略者を爆発させたという
その勇者には父母兄弟がいるらしいことが分かっている
彼らも人間同様に性的行動をし、子をなすのだ
しかし、私たちが性的行為を行う時に必要な箇所には、人間の男性が本来あるべきものがないのである
何度か観測されている母親らしき巨人にはちゃんと胸があるという記録も残っているのに
なぜ男性シンボルだけは見あたらないのか、体内に出し入れ自由なのかと議論を呼んだが今だ議論の決着は付いていない
そこで我々ウルトラマン生体調査隊は再び地球を危機に陥れ彼らを呼ぶことにしたのだ
その結果、地球の人口の半分が死に、残った人間達は生きるために争いを続けているという悲しい結果になってしまった
いつになったらウルトラマンと呼ばれる巨人はやってくるのだろうか
今日も私たちが作った怪獣と呼ばれる人工生命体が暴れている
「孤独のB級グルメ」
- 65 :
- 『孤独のB級グルメ』
テレビで鳥モツが見事優勝したとき、私は蕎麦屋で鳥モツをつついていた。
ひょっとして、人気が出たら、こんなものでも値段が上がってしまうのだろうか
財布に余裕がなく、ご飯を作ってくれる恋人もいない私にとって、唯一のおかずなのに。
じろりと恨みがましい目でテレビを見つめ、最後のタマゴを口の中に入れた
『パクリ疑惑』
- 66 :
- 『パクリ疑惑』
テレビでフォアグラが見事優勝したとき、私はフランス料理店で肥大した鳥モツをつついていた。
ひょっとして、人気が出たら、こんなものでも市井で食べられるようになるのだろうか。
近所に定食屋もなく、ご飯を作ってくれる恋人もいない私にとって、唯一のおかずなのだ。
まさかねという目でテレビを見つめ、最後にポーチドエッグを口の中に入れた。
『タラコを焼くと死刑』
- 67 :
- 『タラコを焼くと死刑』
いかにも、それはふっくらぷりぷりとしたタラコだった。嘉助はゴクリと息をのんだ。
めったに食べられないタラコが目の前にある。折しも新米の出る季節で、古米の安売りがここそこで始まっていた。米を手に入れるのは難しくない。
あのタラコを焼いて白いご飯で食べる……往来で立ち止まったまま妄想した嘉助の口から涎が出てくる。
いかん。慌ててそれを拭い、気持ちを引き締め目の前のタラコに意識を戻した。
とりあえず、あれを捕まえて焼くとするか
「ちょいと! 誰か来ておくれ!! 火付けだ!」女の声に人が集まってきた。女が指している火付け男を数人が取り囲みひっとらえた。
「何があったってぇんだ、おきぬさん」
「いきなりあの男が火を持って襲いかかってきたんだ。ありゃ火付けをするつもりだったんだよ。見なよ、あの気の触れた顔」
「ありゃあ……深川の方の嘉助じゃねぇか」
「お前さん、知り合いかい。付き合いは考えた方がいいよ。この江戸で火付けなんざ恐ろしい。死罪になっちまえ」
女はふっくらとしたタラコのような唇から辛辣な言葉を吐き捨てた。
「ダンボールの中から……現る」
- 68 :
- 「ダンボールの中から……現る」
「あいつが犯人です!」
「な、ちげーよー、俺じゃねえーよ!あいつだよ」
「ふざけんな!俺じゃねえよ、あいつだよ!」
「アンタたちなにいってんのよ!私のわけないじゃない!アイツに決まってるわ!」
「ち、ちがいますよー私はなにもしてませんよ、ほ、ほんとうですって、きっとあの方に決まってますわ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ、僕がそんなことするわけないじゃないか、そこの貧乏人だろ」
「て、てめー金持ちだからっていっていいことと悪いことがあるぞ、犯人はそいつに決まってる」
「フッ、僕が犯人だって?困った人だね、僕が自分の手を汚すわけないじゃないか、犯人は君だろ」
「へい!おまちチャーシュー麺大盛!」
「「「「……」」」」
ラーメン屋の壁際に置いてあるみかんと書かれたダンボール
その箱が突如やぶけ人が飛び出してきた
超絶美少女がいきおいよく飛び出し、テーブルに置かれたチャーシュー麺大盛が入った丼を掴み
そして店の外へ向かって走り出す
その姿を呆然と見るしか出来ない客たちと店主
そして厨房から一つのお玉が美少女目がけて飛んでいく
くるくるーバッコ!勢いよく美少女の後頭部にぶつかった
美少女が何ごとかと後ろを振り向いた
そうダンボールの中に美少女が潜んでいたのだった
「雨の日はお休み」
- 69 :
-
「タラコを焼くと死刑ですか?」
「いや、正確には祭司職ではない一般の方がタラコを焼くと死刑になると言った方がいいですね」
「祭司職……」
「この星でタラコを焼くとい行為は神に民の忠誠や愛を表す神聖な儀式なんです。ですから当然選ばれた祭司にしか許されていないのです」
「そうですか……」
知らない土地。ましてや異なる星では、些細と思える事でももっと慎重にやるべきだった。トンネルを抜けると、色鮮やかなガラスのような素材で作られた建物が見えてきた。あれがこの星の所らしい。
次題 「失恋効果α」
- 70 :
- すみません。リロしてなかった。
そのまま>>68のお題で続けて下さい。
- 71 :
- 『雨の日はお休み』『失恋効果α』
「まいどぉ〜おなじみの〜縁切り〜寺でぇ〜ございますぅ〜♪
いらなくなった、妻ぁ〜、夫ぉ〜、恋人〜、ストーカァ〜♪
無料にてぇ〜縁切り〜いたしますぅ〜♪」
今日も今日とてルート営業。軽トラのマイクでがなりたてる。
荷台には寺をそのまま乗っけてある。ミニサイズだが、
消費者センターの計測した失恋効果αは、全寺社平均のなんと5倍だ。
おっと、路地から娘さんが走り出してきたぞ?
「ちょっとあなた、何で昨日は来てくれなかったの? もう遅いわ、
親が縁談まとめちゃったじゃない!」
「すいませんねえ、雨の日はお休みなんです。もう籍は入れてしまった?
あれまあ。じゃ、これをお使いなさい」
「なによこれ」
「心中セット。意中の人と心中して、嫌いな男とは縁を切るんです」
「心中するような人なんていないわ。単にあの男と結婚するのが嫌なの!
そうだ、あなた、わたしと心中して!」
そう言うとこの娘、心中セットからダイナマイトを取り出すと、胸の谷間に
差し込んで火をつけた。やばい! 離れろ! 車検出したばっかなのに!
ドカーン。俺たちは死んだ。スイーツ(笑
『明治はブルガリアになりにけり』
- 72 :
- 『明治はブルガリアになりにけり』
とあるビルの一室で、就職面接が行われていた。面接官三人に対して学生は五人。皆、真新しいリクルートスーツに身を包んでいる。
「では、我が社のヨーグルト製品について忌憚のない意見をお願いします」
俺の逆端から順に答えていく。
「はい、酸っぱさと甘さの折り合いが素晴らしいと思います」
「あの大きさであの安さは他社製品に対して大きな魅力を消費者に訴えます」
「ヨーグルトといえば、の代名詞です」
「ヨーグルト用のジャムをヨーグルト売り場の横に設置するのはどうでしょうか?」
俺の番だ。心臓がばくばく言っているのが自分でも判る。深呼吸をしたそのとき、面接官が口を挟んだ。
「CMをご存知ですか?」「は、はいっ」
少し声が裏返った。
「歌えますか?」
「は、はいっ」
とっさに答えたものの、頭が混乱している。ヨーグルト、ブルガリアって単語が入ったよな……
俺はみんなの見守る中、口を開いた。
「ブッルガリア、ブッルガリア、ブルガリアはMEIJI♪」
次の週、採用通知は届いた。
- 73 :
- お題忘れました。
「4時10分前と俺の死」
- 74 :
- 「4時10分前と俺の死」
早朝4時
まだ夜も明けきれない中途半端な時間帯
俺はマンションのベランダで一人タバコを吹かしていた
夜空に浮かぶタバコの火
なんともロマンチックではないだろうか
あと二時間もすれば街全体が動き出し、街は喧噪に包まれていくのだ
俺はそれまでの時間をこうして過ごすのがこの頃の日課になりつつあった
タバコを一本すい終え、向かいのマンションをぼけと見ていた
カーテン越しに若い女性の姿が見える
どうやら下着姿で支度をしている風にも見えた
おっといけない、のぞきなんてことはこの俺のプライドが許さない
俺はそっと空を見上げ、次のタバコを取り出し口で加え火を付ける
時間は午前4時10分・・・
こんな時間に携帯が鳴った
携帯からは聞き覚えのある男の声が聞こえてくる
俺は適当に相づちをうちながら、男の話を聞く
聞き終わり、俺は電話を切り、タバコを口にし、そして再び女の部屋に視線を移した
最後くらい、見知らぬ女の下着姿を見ても文句はいわれまい
そう俺はこれから死ぬのだ
自とは違う、ある相手を助けにいく
おそらく、そこで俺は死ぬことになる、それが運命なのだ
携帯で男が告げた俺の運命は死ぬ
俺のスケジュールを考えると、人助けで埋まっているのだ
そうか・・・俺は死ぬのか、そう思うと胸の溜飲がさがりスッキリした気分になる
吸い終わったタバコの吸い殻をベランダから投げ捨て、部屋に入ろうと歩きだす
そうベランダの床に昨日、一晩中飲んでいたビールの空き缶がいくつも転がっていた
俺はその一つに足を取られ、窓へ頭から突っ込んでいったのだった
最後に見たのはヘルメット姿の男たちだった
「君であるために」
- 75 :
- 「君であるために」
「僕が僕であるためには、どうしたらいいのかなあ」
目の前の男がすっとぼけた顔でそう言った。
中山龍成。名前はすごいが容姿、性格すべてが人並みの凡人。
そいつが塾をこのあとに控えたぼくにもったいつけるように話かけてきた。
「君が君であるために? えーと、一体君は何を言ってるんだ」
鞄に教科書をつめながらそう訊ねると、中山はあわてて答えた。
「ああ、いきなりでゴメン! 実は村上君、ちょっと君に相談があるんだ」
「相談?」
「うん。君学級委員だろ? いつもみんなの悩みに答えているじゃないか。僕ほかに相談できる友達がいなくて……」
「ああわかったよ。それで悩みってのはなんだ」
ああ、めんどうなやつにつかまった。
ぼくが他人の相談に乗るのはほどよい人間関係を築くためだ。
つまり相手を選んでいる。無論こいつはそれに含まれていない。
さっさと聞いて終わりにしよう、こいつは馬鹿だから適当なアドバイスでもすれば納得するはずだ。
そんなことを考えると、中山は顔を赤くしてぼくの手を握りはじめた。
「な!? なっなにするんだよ」
「……」
中山は無言のまま、その手を自分の胸へと持っていく。
「村上君ゴメン。でもこうしたほうが一番わかりやすいと思うから……」
そして、ぼくの手は中山の胸へと導かれた。
しばらくの間のあと、ぼくは中山の“相談”が何なのかを理解した。
「中山……お前……」
「うん、今朝目を覚ましたらついてたんだ。今も動揺している」
中山の胸は膨らんでいた。
「僕、どうやら女の子になっちゃたみたいなんだ。ねえ村上君、僕自分が何ものかわからなくなったよ。僕が僕であるためにはどうすればいいかなあ?」
そう聞く中山にほくは何のアドバイスもかけることができなかつた。
「かまぼこ大統領の愉快な日々」
- 76 :
- 「かまぼこ大統領の愉快な日々」
「私はかまぼこ大統領だー!」
叫んだところでN氏はベッドで目を覚ました。寝ぼけながらも、枕元に置いたノートとペンをとる。かまぼこ大統領、親友のナルト宰相、想い人のちーちゃん……夢日記である。
N氏は作家だった。某誌の締切が迫っているが、まだプロットすらできていない。面白い夢を見れますように、と神に祈って寝たのであるが
「これじゃ児童書だな」
呟きノートを閉じた。まだ外は暗い。
「前はネタになる夢が多かったんだけど、最近質が落ちてきてるなぁ」
布団に戻りN氏は今度こそ面白い夢を見られますように、と強く神に訴えた。
「やれやれ」
神は手にした絵本を『済』と書かれたボックスに放り込んだ。
「私だって無から有を作れる訳じゃないんだぞ」
今まで神はN氏から祈られる度に、彼が昔作ったまま忘れてしまっていた物語を夢を通じて語ってきた。しかしN氏が小学一年の際に作った今回の『かまぼこ大統領の愉快な日々』でそれも尽きてしまった。
「仕方ない、面白い話を探しに行くか」
神はため息をつきながら、N氏面白い夢を見せるため、本屋へと向かった。
『自己紹介』
- 77 :
- 「自己紹介」
こんな不況でもなんとか転職に成功した俺
以前の会社はそこそこ名の通った会社だったが
上司の小さな失敗を覆いかぶるような形で会社を追い出された
クビなのだが、世間体の手前、自己退職になった
一応、退職金が既定より多く出たし、あまっていた有給も買い取ってくれた
金銭的にはそれほど心配せずにすんだ
独身だし、派手な性格ではないのでゆっくり仕事探しが出来た
今日が終われば月が変わる、仕事始めの日だ
はじめての会社、はじめて合うこれから同僚となる人たち
それを考えただけでも、子供のように胸が弾む
なにより、自分のことを簡単に説明し、舐められないようにする
簡単なようでいて難しい自己紹介
これを考えてるだけで夜が明けそうである
「督促状」
- 78 :
- 「督促状」
私の大好きな本は、今日も返却されてはいなかった。
図書委員は無理やり押し付けられただけだけど、
カウンターの中、静かに一人で座ってられる時間は心地よく感じる。
今日もまた、督促状に同じ名前を書きながら思いを馳せる。
私の好きな本を借りたまま返さない、男の子の姿を。
ページをめくる音だけが響く部屋の中、特別丁寧に鉛筆を走らせる。
書く必要なんかないのだけれど……私の名前を、こっそりと書き添えて。
別に、何の期待もしていない。
同じ本を愛する気持ちが、すごく幸せなものなんだって、知って欲しいんだ。
ちょっとだけ特別な督促状を、君に送ろう。
私もこの本、大好きだよ。
そんなメッセージを添えて。
「石鹸」
- 79 :
- 「石鹸」
くちゃくちゃ、ねっちゃねっちゃ
擬音で表すと正にそんな感じで弟は楽しそうにそれを混ぜていた。ワークショップの本日のお題は『君だけのマーブル模様の石鹸を作ろう!』である。
日曜日なので参加者は皆親子で、兄弟のみなのは僕たちだけだ。うちは両親共にサービス業って奴なので、日曜は二人とも仕事だからだ。
「ほら、また顔になんか着いてるぞ」
言いながら僕は弟にタオルを渡す。へへっと照れくさそうに弟は受け取った。だからみんなに「しっかりもののお兄ちゃん」なんて言われるんだ。こないだのバター作りのときだって……と思い出して僕は叫んだ。
「今日は食うなよ!? 似てるけどバターじゃないからな?」
「やだな、兄ちゃん。僕だってそれくらい判るよぉ」
ほっとした僕に答えてふんふん鼻歌を歌いながら弟は作業に戻った。
出来上がった石鹸は地味で暗い色が主張してなんか気味が悪い感じだったが、弟はご満悦だった。
「あーあ、毎回毎回あっちこっちぐちゃぐちゃじゃないか。帰ったらまず風呂で綺麗にしろよ」
呆れながら言った僕に、弟はきょとんとした顔をした。
「でも、僕汚くないよ。だって、これは汚いものを落とす石鹸だもの」
言ってにこりと無邪気に笑う弟を見て、さてどうやって風呂に放り込むか考え天井を仰いだ。
『あとがき』
- 80 :
- 「あとがき」
あ
と
が
き
・・・違った、これは縦書きだった
「ぼくの夢、きみの夢」
- 81 :
- 「ぼくの夢、きみの夢」
私の名前は利留瀬永子、高校三年生。将来の夢である報道関係への就職に向かって奮闘の毎日だ。
今日は、新聞部の記事のためにサッカー部のエースストライカーである河嶋くんの練習を見学している。
「関口パス寄越せー」河嶋くんがゴールに走りながら叫ぶ。
「あちゃー」河嶋くんががっくり肩を落とす。シュートが上手くいかなかったようだ。
「ギュンギュンいけー!!」通りすがりのバスケ部の女の子2人が絶叫する河嶋くんを見てクスクス笑う。
「ドンマイギュンギューン」私はサッカーに疎いので詳しくは分からないが
もしかしてギュンギュンという渾名の選手がいるのだろうか?
「ケイスケナイスシュート!!」河嶋くんがガッツポーズを決める。
河嶋くん、ここで一度給水をする。
夜の7時過ぎとはいえ、ずっと叫んで走り回っていたら喉が乾いたようだ。
そしてトレーニング再開。
「カミタぁナイスセーブ!!!」好プレーをしたチームメイトを称える。
「乾、右だ右!!…あれ?」どうやら交代の指示が出たらしい。
ゴールを決められず悔しい表情をしながら、入っていく選手に対するハイタッチの動作をした。
「お疲れ。」出てきた河嶋くんにタオルを渡す。「今日のイメージトレーニングはどういう内容だったの?」
汗を拭きながら河嶋くんは応える。「2018年のW杯の最終予選って設定。」
「その頃までには俺の人生設計においては海外リーグで活躍してる予定で
期待されるプレッシャーもかなり大きいだろうなってとこ」
「…なるほど、その頃わたしはどうなってるのかな?まだフリーで独立は厳しいかな?」
夜の8時前の学校でお互いの将来の夢を確認したのだった。
次のお題「ハイパーキャンドルクリエーター」
- 82 :
- 「ハイパーキャンドルクリエーター」
N氏は悩んでいた。雑誌企画のSSリレー、今レーベルで一番人気の作家からバトンを受け取ったところ。
N氏の小説を買ったことはなくとも、彼からのお題『ハイパーキャンドルクリエーター』がどう料理されるのか覗く読者も出るに違いない。
SSで読みやすいのも吉だ。
ここで興味を持らわねば……と意気込むのだが原稿は真っ白である。
以前、夢で見たままを書いたら、既存作品に似ていると言いがかりを付けられた。
N氏はもう、夢に頼る気はさらさらない。
しかし今やN氏は平時にネタを思いついても、既読作品のストーリーを自身で思いついたと勘違いしているのでは、とまで思い詰めるようになってしまった。
盗作疑惑はN氏の心に、そこまでの強い衝撃を与えたのだ。
「いや……これもどこかで見たような気がしなくもない」
何十回目かになる台詞を呟き、N氏は原稿用紙を丸めて捨てた。
「蝋燭人間……ドルドルの実……」
N氏の夜は、長い。
『立ちバックはじゃない』
- 83 :
- 『立ちバックはじゃない』
ふ‐りん【】
[名・形動]道徳にはずれること。特に、男女関係で、人の道に背くこと。また、そのさま。
「以前聞いたことあるんだけどアダムの最初の妻であるリリスは
正常位以外の体位は認めないアダムに嫌気さして出てったみたいな話で
だからキリスト教的には正常位以外は認めないとかなんとか」
「それは聖書を曲解した中世の文献に出てくるリリスの話を
に現代のカルト団体がさらに曲解して教義としたってだけのことだよ。
聖書にはアダムにイブ以外の妻がいた記述はないしリリスのリの字も出てこない。」
「まあなんだ、公衆の面前で全裸で本番したりしたら人間としてアレだけど
立ちバックでするくらいで人の道に外れてる、だというのはどうかと思うよ」
「北九州は九州の北半分じゃない」
- 84 :
- 「北九州は九州の北半分じゃない」
相手の間違いがあまりに酷いので訂正してやると彼は「またかよ」とうんざりした表情でこちらを見る。
「じゃあお前はどうなんだ? 島根と鳥取、形だけ見てどっちがどっちか判るのか?」
「島根と鳥取? っていったら中国地方の細長いアレだろ? えーと……」
……わかんないや
所詮こんなものである
「マルクス・400枚(200組)」
- 85 :
- 「北九州は九州の北半分じゃない」
以前、読んだことがある本によれば、北九州には魔法国がある
本州人の私にとっては、にわかに信じられないことだが、真実みたいだ
北九州に魔法の国があるなんて、お伽噺みたいでいいと思う人もいるみたいだが
その魔法国は日常的に魔法による大勢の人への理不尽な虐待が行われているとのことだ
我々が想像する魔法の使い方とは大きな隔たりを感じられずにいられない
そして、魔法国の人々、つまり魔法使い、とりわけすぐれた魔法の技巧を持つ人たちは
海を渡れないというのだ、私がこの魔法国のことを知った後にあるルートで調べた結果高い信憑性があった
それでも中には、偶然によって海を渡り本州に来てしまう魔法使いもいるみたいだ
「沖縄ソバに見た夢」
- 86 :
- 「マルクス・400枚(200組)」
日系ブラジル人三世のマルクス・ヨンヒャクマイニヒャクミ・リュージ・ムルザニ・タナカは
16歳の時に祖父母の故郷である日本に来日して、数年に日本国籍を取得した。
『田中マルクス400枚(200組)』
それが彼の日本人としての名前だった。
「リュージとムルザニはどこいったんだよ?」
「田中リュージじゃ駄目なんですか!!」
「名前の中にカッコ()があるとか斬新過ぎなんですが(笑)」
「四百とか二百ならともかくなんでアラビア数字なんだよ」
「400枚(200組)ってティッシュじゃないんだからさぁ…」
「全体的にお笑い芸人のセンスだね!」
「どうせなら闘とか王とかカッコいい漢字使いまくればいいのに。」
賛否両論だった。
次のお題。
>>85の「沖縄ソバに見た夢」
- 87 :
- 「沖縄ソバの見た夢」
「やっぱり僕は醜いの?」
僕はおじさんを見上げながら言った。
「醜いなんてことあるもんか、坊。何でそんなこと言い出したんだい?」
「だって……みんなと違うんだもの。みんなはもっと健康そうな肌の色してるし」
たどたどしく言葉を紡ぎながら、僕は恥ずかしさのあまり、顔から火が出るかと思った。
実際、そこまでは行かないまでも湯気は出ていたと思う。
「それに、僕はみんなより太ってるし」
「気にするな、お前の肌はそれはそれは真珠のように綺麗な肌じゃないか」
でも、と僕は一生懸命訴える。
「いつも持ち歩いてるものが高価で、嫌みだとか言われたり」
「もっと高いもの見せびらかしてる奴もいるだろう?」
おじさんはにっこり僕に笑いかけ、慈しむような目をした。
「坊、誰がなんと言おうと、お前はお前だよ。俺は素直な味のお前が大好きさ」
僕は、僕。誰がなんと言おうとそれだけは変わらない。
おじさんはこのままの僕が好きだと言ってくれた。僕は、その言葉を信じていいのだろうか?
「……おじさん……」
そこに、お姉ちゃんが僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ほら、自信を持って行っておいで」
僕は大きく頷いて、お姉ちゃんの方へ一歩踏み出した。
「おまちどおさまでぇす」
お姉ちゃんが僕をテーブルに置いた。
「ええ? これがソバ?」
「ソバちゃうやん、こんな白い麺、うどんやないか」
いつもの台詞が僕に襲いかかる。でも今日はいつもと違う。
ってゆうか、注文するならメニューくらいちゃんと読めよな!
沖縄ソバ……麺はソバ粉ではなく、小麦粉です。鰹だしの汁に三枚肉を載せて。是非、ご賞味ください。
「チロと千尋の神隠し〜アシタカ編〜」
- 88 :
- ごめんなさい、お題微妙に間違ってました……
- 89 :
- 「チロと千尋の神隠し〜アシタカ編〜」
私の名前はチロ。ふとしたことから千尋と二人で神隠しにあってしまい
ボロい旅館で変な婆さんにこき使われる日々を送っている。
この旅館から脱出して、元の世界に帰る方法はただ一つ、
変な婆さんに取られた名前を取り返s…ボカッ!
「痛っ…!何するのよ千尋ぉ〜」
「なんでてめえが宮崎アニメのキャラであるこのアタシをさしおいて主人公ぶってるんだオイ」
千尋が投げつけてきたカオナシを適当にあしらいながら私は反論する。
「だってあなたは元の千尋とは明らかにキャラ違い過ぎて主人公に相応しくないじゃないのぉ〜」
「うるせえ!宮崎アニメにあるまじきコテコテの萌えキャラ口調の奴に言われたくない!!
だいたいテメエがハクのおにぎり勝手に食べたからこちとら腹が減ってイラついてるんだよ!!」
「おにぎりがないならパンを食べればいいじゃないのぉ〜」
「この純和風の建物のどこにパンがあるっていうんだ!次は王蟲投げ…」
突然、私と千尋の足元に銃弾が数発撃ち込まれた。
私と千尋が思わず銃弾の発射元とおぼしき庭を眺めると、
上空から中世日本風の衣装を纏ったイケメンと鹿モドキの巨大3D映像が降りてきた。
「静粛に!アシタカ王の御前だぞゴミのような人たち!!」
つぎのお題「銀紙英雄伝説」
- 90 :
- 「銀河英雄伝説」
かつて銀河を縦横無尽に駆け巡っていた神の右手を持つ少年がいた
その少年は銀河紛争地域にいっては、俺はふこーだーと叫びながらトラブルを起こした少女を救い恋に落としていた
やがてその少年は恋に落ちた少女たちに、英雄と呼ばれるようになった
それが銀河英雄伝説の始まりであった
伝説が語り継がれて数百年
銀河の片隅にある青き惑星に一人の少年が生まれた
少年は多感な幼少時代を送り、15の時に宇宙海賊と名乗る少女と宇宙に旅だった
少年は少女とともに、各惑星で不幸なトラブルにあっている少女たちを助けてまわった
やがて銀河水戸黄門伝説と語り継がれることを知らずに
「銀河遠山の金さん伝説」
- 91 :
- 「銀河遠山の金さん伝説」
銀河遠山は甘いマスクと卓越した歌唱力を併せ持つ歌手であり
「ごはんは主食」や「残酷な店主のテーゼ」などのヒット曲で知られていると同時に
天然ボケなキャラとしてもお茶の間で人気を博している。
これは彼が、とあるクイズ番組に出演したときのことである。
「水戸黄門がお供に連れている男性二人は助さんと誰でしょう?」
ピンポン!「金さん!!!」
銀河遠山の回答の直後、不正解のブー音をかき消さんばかりの爆笑がスタジオ全体に沸き起こった。
銀河遠山の「金さん伝説」としてファンの間で有名な逸話である。
「厨二病殲滅部隊」
- 92 :
- 「厨二病殲滅部隊」
厨二病、それは忌まれしものにして聖なるものである。
それは十代の少年少女に発病する精神の奇病。
たまに大きなお友達も発病する。
何が原因か、何かどうなってそうなるのか、いっさいを厨二の闇に秘したまま、
彼らはときに奇跡を起こし、あるいは歴史すら変えるほどの力をふるうのだ。
だが、一般社会人たる我らにとって、一個人の力で社会を激変されては困るのだ。
そこで一般人は、厨二病患者を保護……と称して処分する、準戦略特務部隊を結成した。
厨二病殲滅部隊。
通称「現実送還部隊」。
我ら送還部隊の今日の獲物は、物質を破壊できる線が見えるとか言う厨二異能を発言させた高校生だ。
高校生にもなって厨二病とはどういうことだ。まあ、三十路を越えてなお限界を知らず、
厨二病を発病する剛の者もいるというから、高校生くらいならまだマシだろう。
厨二病患者は主人公補正によって銃弾があたりにくい。命中率は0.002%、なおこれは環境によって左右され、
ドラマチックな音楽がかかっていたり、鳩が乱舞していれば命中率は上がる。
我々は、現実の象徴たる教科書や、内申書などで覆われた盾を持ち、
「テストまであと○○日」と書かれたプラカードでもって少年を追い込んでいた。
厨二病患者は、これらの文書文言には目をそらさずにはいられない。背を向けて走り出さずにいられない。
その習性を利用して、我らは着々と袋小路に追い詰めつつあった。
だがそのとき!
「合体変形巨大サラリーマン」
- 93 :
- 「合体変形巨大サラリーマン」
合体変形巨大サラリーマンのテーマ
♪(前奏)
紺のスーツ 一着二万円〜
日本の経済守るため 俺たち5人は今日も働く
サラリーレッドは部長さん サラリーブルーはクールなイケメン
サラリーグリーンはIT担当 サラリーイエローは営業マン
サラリーピンクは紅一点
日本を侵略する中〇の圧力 俺たち5人は今日も戦う
♪(間奏)
銀色の腕時計 一個二万円〜
家族の生活守るため 俺たち5人は今日も働く
サラリーレッドは東大卒 サラリーブルーはTOEIC900点
サラリーグリーンにメカは任せろ サラリーイエローの話術にみんなイチコロ
サラリーピンクはキャリアウーマン
日本を侵略する韓〇のパクり 俺たち5人は今日も戦う
「モテカワ人事件(最終回)」
- 94 :
- 「モテカワ人事件(最終回)」
ぜんかいまでのあらすじ。
「モテてモテて仕方ないほどカワイイ、略してモテカワ」でおなじみのモテ川トシ子(23)がされたのは三日前、彼女が主催したパーティーの最中だった。
舞台は断崖絶壁の孤島に建てられた洋館。容疑者は招待された総勢45人のセレブ達。
鍵が三重にかけられた密室でされたトシ子の脇には「人犯したなう」という謎のメッセージが。
なんだかんだあって45人のセレブの内41人が華麗なトリックでされ、残ったのはたった4人。
そして前回その4人が実は共犯だったことが発覚したので、事件は解決に向かい始めていた。
そして……
夕日の中で犯人たちは笑っていた。
犯人A「いやー思いのほかうまくいったなぁ」
犯人B「ほんとほんとww」
犯人C「これが小説だったらあまりにグダグダで誰も読まないよねー」
犯人D「俺だったら破り捨てて壁に投げつけるね」
全員「あっはっはっはっは、おれもおれもwwwwww」
彼らの笑い声はいつまでも明るく響いていた。
そう、こうして「モテカワ人事件」は静かに幕を閉じたのだった。
完
ご愛読ありがとうございました! 次回作はありません!
「目覚めたらゴキブリになっていたクワガタの話」
- 95 :
- 「目覚めたらゴキブリになっていたクワガタの話」
クワガタ刑事は銀行強盗との銃撃戦のさなか、子供を凶弾から庇い命を落とした………はずだった。
しかし病院で目覚めた彼の体は強靭な生命力を持つゴキブリになっていたのだった!!!
法の網をかいくぐる犯罪者を処刑するゴキブリコップ。
クワガタの妻子を物陰から見つめるゴキブリコップ。
街を支配する巨大企業バルサンカンパニーとの決戦!!!
カミングスーン!!!!!
「愛の新居浜市」
- 96 :
- 「愛の新居浜市」
とある田舎町。
若者の数は減り、市の平均年齢は高まってくる。
町おこしをして活気をもたらし、子供も増やしたい。市長は考えた。
「きみ、昨今の未婚率ってのは高いらしいじゃないか」
「そうですね、市長。の場でも作り、若者を呼びましょうか」
「いや……それでは市民にはなってくれないだろう」
「確かに。では、確実に市民でないと参加できないとか……ああ、でもうちには若者がいないので成立しません」
「そうだ。ぎりぎり通勤圏内なのだし、そこをうまく使った策を取りたい」
「と、申しますと?」
「新婚夫婦支援策だ。結婚資金は莫大で、お金は足りないだろう。新婚夫婦の場合、家を安く借りれる地域を作ってはどうか」
「なるほど、新しい発想です。大々的にアピールしましょう!」
〜半年後
「どうだね、新居浜区域の入居状態は」
「はい、対象マンションほぼ満室です。うちはもはや新居浜市と呼ばれるくらいですからね」
「やはり婚約中もOKという案がより一層拍車をかけたようだな」
「ええ、これで各夫婦に子供ができれば、幼馴染などといった、最近絶滅しかけているあこがれの関係を手にした子供たちが増えますね」
「保育所の支援も増やした方がいいかもしれないな」
〜一年後
「どうだね、新居浜区域の状態は」
「絶望的です。ほぼ空室です」
「なんだって? 何があったというんだ」
「まず、婚約中のカップルですが、マリッジブルーになった多数のカップルが互いに悩み相談をする会を作りました」
「いいことじゃないか、自分だけが悩んでいるのではないと知ることができる」
「悩みを打ち明けあっているうちに、ただならぬ関係になる男女が増え、婚約破棄が多発しここを出て行きました」
「なんということだ。しかし婚約中よりも、新婚の方が多かったはずだ」
「はい、新婚夫婦で初めて共に暮らし、相手の嫌なところも見えてくるようになったそうです」
「仕方ない、それが結婚だ。そこを乗り越えて真のの夫婦になれるのだ」
「やはり隣近所で悩み相談をしているうちに、マンション内浮気が多発し、離婚していきました」
「とんでもない話だ。ほいほい離婚するだなんて、最近の若者はこらえ性がない」
「いえ、とはいえそんなカップルも二割くらいです」
「よかった、まだ日本もそこまで落ちていないな。ということは七割くらいは残っている計算になるぞ」
「はあ、ですがその中で転勤者がかなりの数いました。結婚すると異動があるというのはあちこちの企業でよくあることらしいのです」
「その企業をリストアップしたまえ。訴えてやろう」
「そして残った幸せそうな五割のカップルですが」
「おお、居たんじゃないか」
「いえ、半分も結婚生活が破たんしているようなマンションは縁起が悪いと言って、結局出て行ったのです」
市長はもう何も言うことができなかった。
次のお題「シクラメンのメンはメンズのメン」
- 97 :
- 「シクラメンのメンはメンズのメン」
ここは裏路地繁華街。孤独な男女が愛を求めてさまよう場所。
路地の片隅にあるビルの地下、クラブ『シクラメン』に一人の男が迷い込ん
だ。
木製のドアが、鈍い音を立てて開く。同時に重い鐘の音が鳴り、男の空の頭
に響いた。
店の中は湿った酒と香水の匂いがした。談笑する声と、店を横切るドレスの
女に、男はすでに酔わされていた。
入り口でたたずむ男に、すぐさまボーイが声をかけた。
「いらっしゃいませ」
「かわいい子を頼む」
「かしこまりました」
銀色のみがかれたテーブルには、赤いバラの入った花瓶が。そして、大量の空
きボトルが転がっていた。
男の両隣りには、濃い化粧をした赤いドレスの女が二人。大きな目と、真っ
赤な唇が魅力的だった。話も上手く、男の気分を良くさせる。さりげなく尻に
回した手も拒まず、逆にすり寄ってくる。胸が小さいのだけは難点だが、男は
おおむね満足していた。
そろそろ帰ろうという段になって、男は気が付いた。
金が足りない。
「お客さん?」
女が怪訝な顔つきで尋ねる。
「まさか、お金がないなんてことは」
「こんな法外な値段を取るほうが悪いんだ。話をするだけでこんなに金をとる
とはなにごとだ」
「飲み逃げはいけませんよ、お客さん」
「うるさい!」
男は花瓶を手に取ると、女に向かって中身を当てた。女は頭から水をかぶり、
バラの花びらにまみれる。湿った髪を垂らして、女は悲しげにうつむいた。
「売女が金をとれると思うな」
「お客さん、どうやらこの店がどういうところかわかっていないようですね」
「なんだと?」
男が睨んだ女の顔は、水で化粧が崩れ始めていた。丸みのある頬は骨ばり、
魅力的な瞳は眉と合わせて力強く、男らしい。
女は自らの手でドレスを脱ぐと、胸筋に膨らんだ胸をさらけ出した。
「『シクラメン』は女装した兄貴たちの集う店。飲み逃げなんて許されない。
体で払ってもらうぞ」
女だったものは、胸筋を震わせながらそう言った。そして、さらに見せつけ
るように肩をいからせ、体中の筋肉を盛り上げる。
「や ら な い か」
「アッー!」
男の空の心に、新しい何かが満ちた。
次のお題「ゴジラ対犬のおまわりさん」
- 98 :
- 「ゴジラ対犬のおまわりさん」
ゴジラとはうちで飼っている子羊
犬のおまわりさんとは隣りで飼っている子海亀
そんな我が家と隣家のかわいいかわいいペットを賭けの対象にされたのは先週末のこと
町内会でぼんくら爺どもの宴会でのことだった
しょぼくれた町内を盛り上げようじゃないか、どこの爺がいったか分からないがこの一言で決まった
B級グルメならぬB級賭け、いやB級すらなっていないP級賭け
それを聞いたうちの両親は激昂し、町内会会長を殴り飛ばしたほどだった
書記の爺がなんとかその場をおさめ、もう決まったことだから取り消しは無理だと告げた
隣家でも同じように町内会会長が殴られ書記の爺が強引に話を取り付けた
無理矢理に参加が決まった家は町内でざっと12軒
町内会を盛り上げるどころか、伐とした雰囲気を作り出したP級賭けだった
「男性用大売れ」
- 99 :
- 「男性用大売れ」
男性用が人気と聞いた我々は早速、M県にある男性用を
製造・販売しているという会社へ取材に向かい、実物を見せてもらった。
それは何の特徴もない紺や黒の小さなだった。
一般的に女性の下着というと、可愛らしい模様やリボンやフリルをあしらったものが多いが
そういったものが一切ない、中学校のジャージのような野暮ったさがある。
疑問に思った我々は会社の社長に取材をする。
「これは昔、小学校の体育の時間に女子生徒が履いていたのレプリカで
当時は一般的に『ブルマー』と呼ばれていました。」
学校内で教師が生徒に対し、下着姿で授業を受けさせていたという
衝撃的事実に私は呆然とする。
「と、当時の、PTAなどは学校で行われていたこのような虐待を把握していなかったのでしょうか!?」
「むしろPTAは推奨していました。地方によってはこのブルマーのことを
PTA教育、略してPパンと呼んでいたという説もあります。」
しかしその後で色々な問題が発生し、ブルマーは教育の現場から姿を消すことになったが
失われた時代に思いを馳せる男性達にブルマーは根強い人気があるのだそうだ。
次のお題「虹色髭伯爵」
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