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2011年11月1期39: この四語で書けζ 即興電波文ものスレ【第5楽章】 (131) TOP カテ一覧 スレ一覧

この四語で書けζ 即興電波文ものスレ【第5楽章】


1 :08/08/24 〜 最終レス :11/11/11
電波お花畑板の肺活量を見せつけろ!
即興の御飯でも結構ウマー!  閃きと勢いを駆使して書きまくれ。
【お約束】
1:前の投稿者が決めた4つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上1レス字数制限以内を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために4つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
この四語で書け! 即興電波文ものスレ
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1030681534/
この四語で書け♪ 即興電波文ものスレ【第2巻】
http://ex3.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1039659228/
この四語で書け? 即興電波文ものスレ【第3楽章】
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1046314820/
*注意*
>人それぞれ感性が違います。賞賛、批判は他スレで。
>荒らし、その他書き込みは全て無視。

2 :
保管庫より
この四語で書けζ 即興電波文ものスレ【第4楽章】
http://wannabe.fam.cx/service/2ch_279/read.cgi?denpa/1135016429/l50

3 :
前スレより
【Q メガネっ娘 ムーン おじゃる】

4 :
【Q メガネっ娘 ムーン おじゃる】
おじゃる丸が奇病にかかった。
おそらく、小動物との節操のない戯れが原因だろう。
なにせ1000年以上前の時代の日本から来ているのだ。現在の人類が当然のように免疫を備えている
ウイルス・細菌の類に対する抵抗力がないのは当たり前だ。
富井老あたりが気づいていて当たり前かと思われるが、あの研究狂いの老人は
せっかく老境著しい己の前に現れた僥倖、すなわちおじゃる丸という興味深い研究対象がいなくなるのを恐れたのだろう。なんとも自分勝手な老害ではある。
さて、件のおじゃる丸だが、その体を蝕む病状はと言うと、
顔はまるでムーンフェイス症のように赤黒く膨れ上がり、
くりくりとした眼はバセドー氏病のごとく眼窩から飛び出て、
ブルドッグ、パグの類のようなやぶにらみとなっている。
Q熱のような微熱が続き、脳をおかしくしたらしく、なにやら意味不明なうわごとを繰り返している。
彼の奇異な顔面をみた小鬼共は、恐怖のあまり立ち尽くし、青鬼はたったまま失禁、滂沱の涙を流しなにやら命乞いのごときを口走り
赤鬼はうずくまってひたすら嘔吐、黄鬼にいたってはその場に昏倒する始末。
鬼共に限らず、小動物倶楽部の面々は恐ろしがってどこかに姿を隠し、
かずまの両親は仕事からなかなか帰ってこない。
頼みのかずまですら、おじゃる丸を気味悪がって部屋に閉じ込め、己はリヴィング・ルームにて行住坐臥を送るようになった。
伝書ボタルは過去に戻り、なにやら怪しげなる薬師、祈祷師の類を呼び寄せた。
しかし彼らの懸命の努力もむなしく、おじゃる丸の容態はわるくなる一方である。
発病から2ヶ月、かずまはおじゃる丸をつれて慶応大学付属病院にいった。
眼科医いわく、『なぜもっと早く病院に連れてこなかった?』とのこと。
ここまで病状が悪化してしまったら、もうあとは両目の摘出しかない、とのこと。
其の晩9時間に及ぶ大手術が施され、おじゃる丸は両の目を失う変わりに、一命を取り留めた
眼を失った眼窩からは速やかに触角が生えた。
メガネっ娘、もとい、眼が根っこのような触角に置き換わったのである。まさに悲劇。
【ぬるぽ らき すた ラッキーストライク】

5 :
「ぬるぽ」という日本語がある。私たちはこの言葉を日常的に用いているが、
いざ「ぬるぽ」の意味を問われると、はてどう説明したものかとまどって
しまう。広辞苑には「ラッキーストライクの俗称」と書かれている。もちろん、
そんなことはわかっているのだ。しかし、どこか釈然としない。それが、
「ぬるぽ」という言葉の難しさである。
ここに一人の中年男性がいたとしよう。彼は、コンビニエンスストアで「ぬるぽ」と
声を発する。店員はおもむろに、それを取り出し、淡白な音で「ガッ」と答えるだろう。
あるいは、小さな声で代金を告げるかもしれない。いずれにせよ、真っ白な世界に
鼎立する枯れ木のような、この三者の関係はあくまで静かなものである。
しかしながら、もし男性が同じ言葉を、スーパーマーケットで口にしたとき、
三者の関係は、極めて活動的な開きを示すことになる。店員はすぐにそれを
出してはくれない。「当店ではタバコの取り扱いは行っておりません。あちらに
自動販売機がございますので、そちらをご利用願います」。たしかに、こう言う
のである。男性は、しぶしぶと自動販売機に向かい、目的の品を探す羽目になる
のだ。
ここに日本語の難しさがある。「ぬるぽ」は、単なる「ラッキーストライクの俗称」
ではなく、すぐには説明したがたい何かを包有しているのだ。
【めし わずか 宗教 否応なしに】

6 :
らき すたがない

7 :
いや、ちゃんと入れてるよ。
>極めて活動的な開きを示すことになる。
らき
>そちらをご利用願います」。たしかに
すた

8 :
平漢とか記号入はどうかな。どうかな。

9 :
そう、字余り、字足らず、二重季語、季語無しなど
あえて禁忌を犯す事で、もとい近畿キッズ(浅草キッズ)のふたりに犯される事で。
そのにがすっぱいうくくしさ、私は好きですよ。

10 :
【めし わずか 宗教 否応なしに】
誤ってマイコー印の美白クリームをサラダにかけて食べてしまった母は
それきりムーンウォーカーになってしまって今に至る。即ち、
前進に見せかけて後退。成長に見せかけて退化。
お婆ちゃんに見せかけて赤ちゃん。発毛日本一に見せかけて脱毛王。
総本家マイコーが鏡を見て輝く白さのあまり目が潰れた今、
もはや世界に一人だけのマイコーだ。
「のるていはめしおの色何んさ子しようぶばうぶば」
「きゃッ!もう、お義父さまったら!閉めて下さい」
戦前に生きるマイコーの朝は早い。
ボケたふりして嫁のシャワーを覗くのが日課である。
そんな嫁はマイコーを教祖に仕立て上げ、宗教法人ジャクソン教を運営している。
世界的司会者みのもんたろう一人を信者にするだけで、
自動的に世界30億の奥様に美白クリームを売りつけることが出来るというボロい商売だったという。
「生きるため否応なしに手を出したの。時代が皆を狂わせたのよ」
三十年の刑期を終えた後、嫁は静かにそう語り始めた。
「んゃち母よいいが汁噌味のめかわずかおの日今」
黒い服の男達に連れて行かれた母の帰りを待つ間に
ムーンウォークを練習し過ぎて擦り切れた畳の上、
そこに置かれた卓袱台に質素な夕餉が並ぶ。
この母子水いらずの安らかなひとときが次第に
無垢な黒人マイコーを美白狂いへと豹変させたと警察は発表した。
【黒酢こんぶ ビクンビクン 雲龍型 ジャンク】

11 :
【黒酢こんぶ ビクンビクン 雲龍型 ジャンク】
水銀党と創価学会どちらに入ろうか迷っていた中二の春、
池田・エネ・マグラ大作先生の御メガネでを刺激し、ドライオーガズムにいたった中三の冬。
このごろは就職も出来て、おかげさまで毎日毎日オフィースからオフィースへ、黒酢こんぶを
疲れたサラ★リーマンたちに売り歩く毎日ですよ。
あの夕焼雲龍型となりて悪しきペイガン達をチャパティするであろう。
これ、予言なw
【温水 作りかけ バリ ネコ】

12 :
【黒酢こんぶ ビクンビクン 雲龍型 ジャンク】
水銀燈『あなたたちぃ、ジャンクになりなさぁーい!』
はぁあぁっぁぁああぁあビクンビクン
【温水 作りかけ バリ ネコ】

13 :
【温水 作りかけ バリ ネコ】
 三年前から花の品種改良が活発になり、
世界中の人々はもちろん、ネコや杓子ですら花の品種改良に努めていた。
毎日を死んだ魚の目で過ごしていた人類は、目を輝かせて毎日を過ごしていた。
その努力により、不可能と言われた青い薔薇に続き虹色の薔薇もできた。
虹色の薔薇は奇跡とよばれ、科学の進歩の象徴となった。
 そして今。100mもある巨大な花からミクロ単位の小さな花、
人食い花、緑色のチューリップ、さらに花びらが布の花や人の顔の模様の花もできた。
3年間で、ざっと274億種類ほどの花ができたが、人々は自らの発想の凡庸さに悩んでいた。
 花の開発が人としての魅力につながるこの時代、
他の人と同じような花を作ることは、人としての魅力が欠けているということになる。皆必死だった。
 一日中研究室にこもるものもいれば、
世界中の様々な花を見て自らの発想に繋げようと、毎日見知らぬ土地へ行く者もいた。
研究につかれ、花を諦め自暴自棄に過ごすものも少なくなかった。
 そんな毎日を過ごす中、人類は究極の花ができるのを恐れていた。
究極の花ができることによって、自分の存在意義が危うくなるのを恐れたのだ。
 しかし、その願いは届かずに、究極の花は完成してしまった。
300年ほど前に放棄され、作りかけだった「究極の花」を、
ひとりの男が完成させてしまったのだ。
 バリバリと奇妙な音をたてて花粉なしで増殖可能なその花は、
あっという間に世界に広がった。世界中をその花が埋め尽くした。
そしてその音により、人類は自分や他人を意図的に傷つけることができなくなってしまった。
 それから人類は、死ぬこともできずに、あの輝いていた日々が嘘かのように
温水につかるような毎日をただ怠惰にすごすのだった。
【宇宙人 醤油 シャー芯 ハンガー】

14 :
あたし勝ちまして。
試合に勝ちまして。
宇宙人に勝ちまして。
ビームで勝ちました。
それでは試合内容をVTRに乗せて。
宇宙人「ま」
あたし「ビームこれを受けたらすぐ死ぬ」
宇宙人「ま」
あたし「ビーム発射ずぎゅん」
醤油こと。
第二回戦はガメラに勝ちました。
でかいつよい勝ちました。
精神攻撃で勝ちました。それゆけVTR。
ガメラ「ぎゃんぎゃおん」
あたし「カシャっカシャっ」
ガメラ「ぎゃおんぎゃぎゃ」
あたし「それはカメラ=写真」
ガメラ「ぎゃんぎゃ」
あたし「シャー芯目に入れるぞすぐ死ぬ」
ソーッス。
あたし食べて。昼にハンバーガー略してハンガー食べて。
三回戦遅刻失格棄権退場。いやんなっちゃうえへへいHEY。結局誰が優勝したんだろう・・・誰なんだ?誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ
【狂い 辛い わくわく 電鋸】

15 :
【狂い 辛い わくわく 電鋸】
大変に辛い事をご報告せねばなりません。
わくわくさんが狂いました。
得意の工作を悪事に用い始めたのです。
とってもよく飛ぶ紙飛行機をチラつかせて少年をかどわかしたり、
割り箸を切るのに電鋸を持ち出して、ごろりに羽交い絞めで制止されたり、
トレードマークのメガネは、いつのまにやらうっすらと紫色を入れて悪ぶっているのです。
まったく、困ったものです。
【ラバー ジョニー チワワ 奇形】

16 :
【ラバー ジョニー チワワ 奇形】
イギリスの貴族に生まれたエリーナちゃんがいました。
ある日ペットショップへと赴いたエリーナちゃんはそこで一匹の可愛らしいマルチーズを見つけお父様におねだりしました。どうしても欲しかったからバースデープレゼントを無しにしてもいいよと言いました。
お父様は小さい頃に飼っていたチワワを思い出し涙を浮かべました。エリーナちゃんはお父様に、どうして泣いているの、と尋ねました。お父様はチワワのお話を始めました。
お父様はそれはそれはチワワと仲良しで毎日チワワと遊んでいました。大きなお庭で追いかけっこをして水遊びをして、隠れんぼもしました。転んで膝を擦りむいた時もチワワは傷を舐めてくれました。
そしてお父様とチワワは公園にお散歩に出掛けるのが日課でした。ある日のこといつものようにお父様はチワワとお散歩にでたのですが、公園でお父様のお友達のジョニーとました。
ジョニーはとても大きな犬を連れていました。
びっくりしたお父様は、チワワの紐を手放してしまいました。大きな犬に驚いたチワワは一目散にどこかへとかけていってしまいました。
お父様はおじい様に頼んで行方不明になったチワワを探しましたが、見つかりませんでした。
1ヶ月程部屋に引きこもりがちだったお父様は、気晴らしに庭に出たのですが、そこでこと切れているチワワを見つけました。
やせ細り奇形児のような姿に、凄まじい匂いを放つチワワを見て、お父様は深く深く傷つきました。そして、お父様は庭にお墓を作り、チワワを弔いました。
そのお話を聞いたエリーナちゃんはわんわん泣きました。
エリーナちゃんはマルチーズを諦めて、電子ペットを飼うことにしました。

17 :
【宿命 業 崩壊 てろてろてろーんてろりんてろりん】

18 :
【宿命 業 崩壊 てろてろてろーんてろりんてろりん】
クーちゃんは僕が四年前の回想をしてる間に眠り込んだらしく、かすかに寝息を立てていた。
「さて、この女の子の病気の話だが…その前に、これを見たまえ」
カーツ大佐はバーコードリーダーのような機械を取り出した。
病名リーダーと印字してあったので、病名を読み取って表示する機械と思われた。
カーツ大佐は、病名リーダーをクーちゃんの顔に当てた。
数秒後、てろてろてろーんてろりんてろりんという音と共に病名が表示された。
表示された病名はいくつかあったが、今の状態と関係がありそうなのは一つだけだった。
それは…木星インフルエンザ。
木星インフルエンザ。すでに現代の医学書には載っていない、歴史書にのみ残る病気。
中つ国(僕たちの世界)における第七紀に起こったある事件の後、全宇宙から姿を消したはずの病気だった。
調べてみると、こちら(光の世界)でも同じ時期に全宇宙から姿を消したとされていた。
なぜ今頃になって、クーちゃんがそんな病気に罹ったのか。
「これは単なる不運ではない。君とその女の子の…主に君の背負った宿命、業と知りたまえ…」
カーツ大佐は厳粛に言った。
「宿命…業…」
鸚鵡返しに呟いた僕の頭の中に、崩壊した古時計の映像が一瞬閃いて消えた。
その映像が何を意味するかは分からなかったが、その映像から僕は、カーツ大佐の言葉が間違いでないことをなぜか悟った。
「君は知っているだろうが、木星インフルエンザを治せるのは、病状がある段階に達した時だけだ。今は、待ちたまえ」
そう、待つしかない。ある段階…クーちゃんの生命の危機を。
【笑み 機械 無くなって 指先】

19 :
【笑み 機械 無くなって 指先】
ときどき不安になる時がある。
匿名掲示板において自分の存在を追尾している人間についてである。
さて、不安なるものは、最悪の可能性ばかりを予想したり未知のものばかりに触れ状況の把握が困難になり脳の平衡感覚が無くなって困っちゃうことを指す。
不安を極めれば、精神あるいは常識概念を破壊し、時に発狂という形に昇華される。
つまりこの不安を取り除けなければ私は発狂するのだ。
不安が不安を呼ぶとはこのことである。
この不安を除去すべく、問題点を設定しよう。
まず問題となるのはやはり、自分を追尾する人間の存在の有無であろう。機械を介しての追尾のため実証は不可能に近いのだが、私には天啓めいたある種の確信がある。
確信に至るのに、3つの過程があった。一つ目はとある掲示板の書き込みを目視したことである。そこにはこう記されていた。
「特定しますた」
もちろんこんなの嘘付き放題である。そもそも特定という単語をはっきりと定義付けしていない以上この言葉は無意味である。
しかしここで私には機械の向こう側で私の存在を追尾して笑みを浮かべている人間がいるのではないかという疑念が浮かんだ。しかし根拠もなくこのような疑念を抱かせる文章は不愉快である。
2つ目はその後書き込まれた数字配列である。私の電話番号が書き込まれていた。
私は震え上がった。だが、偶然もあり得ると思い、読み進めると3つ目を発見した。
私の氏名である。
キーボードに触れる指先がジンジンとした。ああ恐怖を思い出した。私はもうダメだ不安に押しつぶされそうだ。何を話していたのか分からなくなってきた。ふひふひひ
【炬燵探査機 ケーキ自転車 玄米ビーム 戮電話】

20 :
掲示板をさまよっているあいだに、不思議な香りに誘われて変なバナーを踏んでしまった。
真っ赤な画面に登録フォームがあって、下には英語の同意確認条文。よく読むと其処にはいつものあいつの氏名と、電話番号が。
戮電話をかけるんだ!!僕の胸ポケットの中のイーピン(らき☆すた)がシンゴよろしくびびびびび〜っと宴会ネタを披露している。
普段炬燵探査機としてもっぱら使用しているこのイーピンだ。残暑の去らない島国の陋屋にひとり、にちゃんにかきこみをしていると、
無性に人恋しくなるものだ。君たちも経験あるだろう。
幸せにハロウィーンをいわう榎木家にお邪魔して、教育に宜しい小学生高学年向けの児童図書をホクホクと読む拓也君に性的ないたずらをしたいと。
炬燵はないがなwさすがにまだ炬燵はないがなw
仕方がないので祖父の家に行ったが(徒歩6分)、案の定の玄米ビーム、新興宗教高周波で身体のすみずみまでほっ、ほっ、ほっとなって月明かり。頭皮にしみ込む夜風、銀杏臭漂う田舎町ではある。
ケーキ自転車に乗ろうとしたが、甘い香りにやられた。そのままツモ和了、次に持ち越し。
ふぃあ、電脳、思考盗聴は順調に進んでいるのだよ?きみぃ?
僕のフィギュアがぁ!
こんなかわいい子が何でオンナなんだぁああああああ!
『オンナは産む機械』『オンナは有無器械』『オンナハ雨夢奇界』
『オンナ=ハ雨夢鬼界』
オンナ=ハ雨夢鬼界は、あらゆる次元で滅びた『魂』に相当する構造体がひとつ崩壊したときに
小さな白い花が一輪咲く世界なの。だからオンナ=ハ雨夢鬼界は、白い花であふれているの。
白い花から取れる蜜は、とても綺麗な味がして、本当にさわり心地の良い輝きを放っている。
オンナ=ハ雨夢鬼界に住む『人』たちは、この蜜を香って生きている。月の光のようにひんやりとした香り。
時々オンナ=ハ雨夢鬼界は壊れて、銀色の粒になってひかる。それが銀河として見えるのかもしれない。まぁ見えるものを見ているだけの
僕たちには本当の姿としてはうつってない。ラッセンの下品な風景画のような偽りの美しさを目で見ているだけ。
でもオンナ=ハ雨夢鬼界に住む『人』たちは、自分が死んでいる事を知らないから、死なない。
気がつくと冷たい雨がしとしととふる月夜の草原で、寝転がっていたのさ。だから滅びない。
どこにもいないし、どこにもいかない。生きてないし死んでない。ただ月の光のようにひんやりとした香りを見つめている。
榎木拓也きゅんをだきしめてええええええええええええええええええええええええええええ
【下僕王子 奴隷商人 火薬少女 気管支フィギュア】

21 :
【下僕王子 奴隷商人 火薬少女 気管支フィギュア】
砂海(すなうみ)の表面は
横たわる火薬少女のボディラインみたいな起伏。
奴隷商人のロレンスは気管支の動作不良に苦しみながら
日頃のメンテナンスの行き届かなさを後悔していた。
―― やはり機関士が必要だった…
奴隷商人ギルドの季刊誌『器官と奴隷』では確かに
機関士との契約を推奨していた。だが、砂海(すなうみ)を航海するのに
得体の知れない機関士とふたりというのは気が進まなかったのだ。
ロレンスはいままでずっと一人旅の商人だった。
舟の積荷は冷凍腎臓96体分である。明日には
砂海(すなうみ)の北辺に位置する北口駅に届けなければならない。
―― おい…
不意にロレンスの脳内で声がした。
―― おい…
脳内の声は下の積荷庫の方角から聞こえてくる。ロレンスは階段を降りて
積荷庫のハッチを覗いた。
―― うわぁあああああああ
冷凍腎臓を詰めたひとつのパッケージから皮膚のない丸裸の人体が生えていた!
人体、というか、何かどろどろとした管や器官がヒトガタを成している、樹木のようなものだ。
長い枝がハッチの窓の前まで伸びていて、枝の先端には唇があった。
ロレンスはその唇に見覚えがあった…
―― 下僕王子… さ、再生したのか?
―― ああ、ロレンス、愛しーてーいーるーよー。
下僕王子の再生体から気管支がまるで気管支フィギュアのように外れ、
小さな脚を生やしてとことこ歩いてくる。
―― 使ってーくーれー
ロレンスは自分への下僕王子のあまりにも深い愛に恐怖した。その時火薬少女が爆発した。
砂海(すなうみ)の表面が痙攣する少女のおなかのように揺らめく。
砂蟲だ。
ロレンスは死を覚悟した。
【朝 蛭 盤 信也】

22 :
【朝 蛭 盤 信也】
信也くん信也くん!だぁい好き!だいだいだぁい好き!愛してる!ぎゅってしてぎゅぅって!朝まで一緒だよ!ずっと一緒だよ!蛭みたいにちゅちゅーぅって!蛭みたいに!
岩盤浴いこーね!約束だよ!約束しよーね岩盤浴!蛭みたいにちゅちゅーぅって愛してる!ぎゅぅって信也くん信也くん!だぁい好き!蛭みたいに!蛭みたいに!だいだいだぁい好き!ずっと約束だよ!
信也くん信也くん!岩盤浴ちゅちゅーぅって!蛭みたいに!朝まで愛してる!
【痣 ビル パン 深夜】

23 :
【痣 ビル パン 深夜】
砂蟲の湾曲した胴が舟に当たり、舟が宙に舞い上がる。
ロレンスは階段の下で体を突っ張って支え、階段の上を見上げる。
操縦席の天蓋窓を通してめまぐるしく動き回る外の状景。
そびえ立つビルのような砂蟲の首。
その首が真っ直ぐ目差す天頂には偽りの月。
その偽りの月をかすめて、あれは何だ? 大きな黒い鳥が飛んでいる…
不意に砂蟲が叫び声をあげるのと、ロレンスの舟が
衝撃とともに砂海(すなうみ)の表面に落下するのとが同時だった。
ロレンスが衝撃から立ち直ろうともがくあいだに、
重量物が砂海(すなうみ)の表面に崩れ落ちるような音が幾度か響いた。
ロレンスは階段を攀じ登り操縦席に着くとシートベルトを締め、
エマージェンシー高速推進のボタンを押した。
凄まじい加速が掛かる。気管支が悲鳴を上げる。
舟が戦域を離脱する直前、一瞬だけロレンスは見た、
黒い鳥が砂蟲のまわりを飛びまわるたびに
砂蟲の巨大な円筒状の体が平面ですぱすぱ切断されてゆく様を。
深夜。ぼろぼろになったロレンスは操縦席に背をあずけたまま倒れ込んでいた。
気管支がすっかりいかれていて、呼吸が苦しい。
眠ろうにも眠れず、かといって意識が活動するのも辛い。限界だった。
階段の下の積荷庫からは相変わらず下僕王子の声が脳内に迫ってくる。
―― ボークのぉー 気管支をぉー 使ってーくーれー
こつん… と軽い音がして、うっすら眼を開けると船首に少女が立っていた。
どことなく火薬少女に似た、美少女だ。
その背中からは大きな黒い翼が広がっている。
舟は船首を上にして30度くらい傾いて停止していたから、
操縦席に倒れこんだロレンスは船首に立つ少女を見上げる形だった。
(、見えてるんだけど。)
苦痛のなかでロレンスがそんな印象を抱いている時、
少女の方ではロレンスの裸の胸を見て確認を終えていた。
(胸の真ん中に破裂したような痣。間違いない。)
【素粒子 台風 掃除機 味噌】

24 :
【素粒子 台風 掃除機 味噌】
ニコニコ動画の見過ぎだろうか、最近素粒子の事が頭から離れない。
すべてのものはいくつかの素粒子の組み合わせでできている。
味噌も、糞も、組み合わせの違いにすぎない、と。
ダイヤと鉛筆なんかは、(有名な話だが)粒子の組成はまったく同じ。
ただ粒と粒の結合構造が違うというだけ。
まったく『おそろしい』ことですね。
それこそは『価値』の空虚さを
『命』のT.I.M.さをあらわしているです。
この宇宙の歴史は粒のくっついては離れ
消えては現れの歴史にすぎなかった。
それはなんと『むなしい』
そしていつからこの『自動世界』は人間という『自分で自分を省みる革命』
を起こしてしまったのか。
それは悲劇。とっても恐怖すべきことなのですよ。
掃除機の使用が台風を起こす要因のひとつでないとは言いきれない、
簡単に言うとすべての事象はうっすらとしかし確実に『つながっている』
という説であるところの『バタフライ効果』説は我々の唯一の希望
つまり個々の生は『つながっていない』とは言いきれないという
【排気塔少女 コーヒー・パイプライン 砂嵐嗜眠症 月面タブレット】

25 :
【排気塔少女 コーヒー・パイプライン 砂嵐嗜眠症 月面タブレット】
とんとんとんとんとん…
規則正しい音の繰り返しを聴きながらロレンスが目覚めると
見慣れた天井、操縦席の直下に当たるキャビンの自分のベッドの上だった。
天井には火薬少女が排気塔少女とサブユニットを組んだ時のポスターが貼ってある。
音の方を向こうとして体を起こすと激痛が走る。
―― いてててててて…
あの少女がキッチンに立って料理を作っていた。
背中全開のマイクロミニワンピで包丁を振るっているので、
背側から見ると「裸エプロン」みたいに見える。
「起きたのぉ?」
声を掛けられてロレンスの脳裏にいままでのいきさつがフラッシュバックした。
いかれた気管支、再生した下僕王子、砂蟲の襲撃、危機一髪の離脱、
謎の大きな黒い鳥、そして火薬少女に似たこの子の訪れ…
(そういえば背中の大きな翼は…?)
少女の裸の背中には天使の羽みたいな肩胛骨が見えるが翼などはない。
「まだ寝てた方が良いのに。」
「砂嵐嗜眠症じゃあるまいし、いつまでも寝てるわけにはいかないさ。きみが助けてくれたの…?」
「別に助けたわけじゃない。」
つんつんした少女の切り口上にロレンスが戸惑って目線を落とすと、
裸の自分の胸の上に大きな手術創が出来ているのに気づいた。
ロレンスの胸の真ん中には破裂したような痣がある。ロレンスが一人旅を好む理由だった。
砂海(すなうみ)は暑いので、つい気楽な格好で(上半身裸とかで)過ごすのだが、
胸の痣はあまり他人に見せたいものではなかった。
いま、その破裂したような痣にかぶせて大きな手術創が出来ていた。
「それ…? 気管支、換えといてあげたわ。」
―― っ!!
(勝手なことをするなっ!!)と叫びそうになった瞬間、
少女が命の恩人であるかも知れないことを思い出し、ロレンスは黙った。
横を向いてキャビンの窓から外を見る。驚いたことに、コーヒー・パイプラインが眼に入った。
(ここはどこだ…? 眠ってるあいだに随分移動したみたいだ。というか、
いったい俺はどれだけの時間、眠っていたんだ? いまはいつだ?)
少女は珈琲を手にロレンスに近づいてくると正面に立ち、
ロレンスが自分の方を見るのを待ってから、ロレンスの瞳を真っ直ぐ凝視め、こう言った。
「月面タブレット、わたしにちょうだい。」
【否定 虚無 太陽フレア 蟻】

26 :
哲学的思想をめぐらす老思想家、蟻崎実理男は、今夜もお気に入りの揺り椅子に腰掛けて
絶望の甘い恍惚に身をゆだねていた。
彼の思想は基本的に『否定』。
否定をすることですべての事象の
秘密を暴いた気になって、
自己陶酔にも似た、暗くて甘いしびれたような虚無の海の中に其の身を浸すのであった。
葉巻の紫煙が彼の陶酔を心地よく包む寝具である。
今夜はお気に入りのジャズを聞きながら、すべからく人間の栄華のむなしさについて
おもひを馳せていた。
すべて地上の繁栄は、今からおよそ数十億年の年を経て
老境著しい太陽の
醜い抗いによって
太陽フレアの最後の輝きによって
消し炭と化すということを
半ば皮肉めいた半笑いをともなって
想像していた。
彼の醜い生への羨望は
次元を超えたか超えないか
ともかくも空間を越えて
人々のいわく、地獄といわれる世界の
門戸を叩いた。
老境著しい蟻崎の
夢うつつの揺り椅子の前に現れたのは
それは若駒のようにしなやかで、クピドと見まごうばかりの美しいかんばせをもつ
金髪碧眼の美少年。
その後老博士はそれなりに人間の栄華を味わい尽くして
思わず満足のため息をつき
それを見咎められて魂を地獄に引き込まれそうになり
イエス☆キリストとかいうおっさんににすくわれましたとさ。
【キャラバン 蟲下し 壮麗な都 旗印】

27 :
【キャラバン 蟲下し 壮麗な都 旗印】
「殿!申し上げます。旗印見てから鉄砲隊余裕でした」
「イ、イサキは!?イサキはとれたの!?」
「……もちろんたくさん取れたよ」
「殿はもしやオスカル軍の幻術に!?」
「キャラバンに散った母を求めて旅立ったマリグニヤン・ペテロヴィチ・花梨がまさかの生還」
「オーッホッホッホ、刹那の腐閣のぎょう蟲検査はお諦めになるがよろしくてよ!」
「クソッ!ももいろ蟲下しさえあれば我が軍はーー」
「次回、運動会の変質者は壮麗な都蝶々似」
「この穴から貴方は産まれたのよ、アリョーシャアアアアアア!」
【映写機 飛びます 脳髄 哀しい子】

28 :
【映写機 脳髄 飛びます 哀しい子】
「脳髄ごっこしようよ!」
無理難題。どうする俺。
「えっとあの、何それ?」
「脳髄ごっこ?トトトトトびます!」
飛ぶのか?跳ぶのか?理解の範疇を超越。さあどうする。
「どこへトぶのかな」
「彼方へ!」
「彼方って?」
「えっ・・・何言ってるか分かんない!わかゎんわあんわんわん」
途中からの泣き声。分からないのはこっち。どうしよ。
「じゃあさ、とりあえず、脳髄ごっこするからさ、どうやるか教えてよ、ね?」
泣き止む彼女。
「トびます?」
会話不能。
「ええっと、んじゃ飛びます」
「キミって哀しい子」
「・・・・」
「トんじゃえ!」
はいはい。ぴょんぴょんっと跳躍して見せる。彼女はにこにこ。
「これでおっけー、かな」
「映写機を」
「映写機を?」
「食べる」
「食べ…?」
晩御飯映写機。うまかった。
君も脳髄ごっこしよう。
【放電 くりくり きゃわいい いっくぜええええ!!】

29 :
【放電 くりくり きゃわいい いっくぜええええ!!】
おいでよおいでこちらへどうぞ可愛い小僧さんこちらへどうぞ
黒い頭を撫でてあげるよやわいお口に飴どうぞ
灰色目玉はくりくり動くくりくりくるくるきゃわいいな
真っ赤な舌ちろちろで舐めようひりひりチリチリしみるかな
舌から放電された映像はそのまま小僧の記憶としてしみ込んで離れなくなり充電完了
今日もいっくぜええええ!!
【電子レンジ くま 幼なじみ ぐげげげげ】

30 :
【キャラバン 蟲下し 壮麗な都 旗印】(>26)
「月面タブレット…って、それなに?」
「とぼける気…? ふぅ〜ん。」
少女は、すーっと横を向き、キャビンの窓から外を見る。
ロレンスも少女の視線につられて外を見る。窓の外では
ワイヨのコーヒー・パイプラインが、壺と壺を結んで
砂海(すなうみ)の上を真っ直ぐ走っている。
砂海(すなうみ)南辺随一の壮麗な都ワイヨの執政府は7年前、
「人間のための環境」という旗印のもと、一大事業を立ち上げた。すなわち、
「砂海(すなうみ)からの蟲下し」である。
世界にただ一つ大学を備えた都であるワイヨを中心として
この事業が進行するにつれ、
砂海(すなうみ)南辺一帯には「領域的な自我」が、すなわち、
小共同体どうしを統合する「国家としての自我」が芽生えつつあった。
砂海(すなうみ)を動き続けるキャラバンを中心とした秩序より、
岸辺の定住民たちの秩序の力が強くなって来たのである。
だが開業から7年、事業は依然、準備工事の段階に過ぎない。
壺を本格的に稼動させて砂蟲を下し、
砂海(すなうみ)をその南辺から削りとって「陸地」を増大させるという計画は、
まだ「夢」という形で萌芽的な国家に資するのみで、
「実利」を産み始めるのはいったいいつからなのか、わからない状態である。
「あなた、奴隷商人のロレンスよね。で、月面タブレットを知らないわけ。」
少女は凛とした声でたんたんと言い、ロレンスの返事を待たずに続ける。
「そう。」
瞬間、その瞳がきらめいた。次の瞬間には窓の彼方のコーヒー・パイプラインが
すぱんと平面で切断され、どろりと赤い液体が血液のように噴き出した。
だが、少女は間違っていた。
あまりにも凄すぎる脅迫は、かえって実感を伴わないものだ。
ワイヨのコーヒー・パイプラインが破壊されたところで
一介の奴隷商人ロレンスにとっては痛くも痒くもない。
―― へぇ。ねえちゃん、やるな。うまいこと騙して味方にできねーかな。凄い戦力だ。
【電子レンジ くま 幼なじみ ぐげげげげ】(お題継続すまそ>29)

31 :
【電子レンジ くま 幼なじみ ぐげげげげ】(お題回収>29)
ロレンスは少女との膠着状態を打開する切っ掛けとして、内心、
ある要素を当てにしていた。下僕王子である。
だが下僕王子のテレパシーはいっこうに呼びかけて来ない。そうだ、
そもそも下僕王子の気管支を、彼女は俺に移植したんだよな…
キャビンの扉の向こう、積荷庫のハッチの方へと
さ迷わせたロレンスの視線を読んだのか、少女は言った。
「腎臓からの再生体…? なら、そこよ?」
少女は眼で電子レンジを差す。
「再生可能限界以下の0.6ミリキューブまでみじん切りして、電子レンジで焼却したわ。」
「な、なんだと…!?」
「ふっ 愛してたの…? 下僕王子だっけ、盛んにあなたの名前を呼んでいたわ。」
「愛して…ない…、俺は。―― 幼なじみだった。」
持て余してついに、今度の旅に出る前夜、ワイヨの奴の部屋でしたのだ。
だが、しながら同時に奴の再生能力に甘える気持ちもあった。
たぶん最終的なしではないのだと、痴話喧嘩にも似た
アンビバレントな気持ちがあった。
―― ぐげげげげ…
そのとき少女が背にしたキッチンのまな板の上から無気味な音がした。そう、
ロレンスが眼を覚ました時、少女は料理をしていたわけではなく、
下僕王子の肉片をみじん切りにする作業を続けているところだったのだ。
不意にまな板の上の肉片が霧状になって部屋の空気のなかに噴き上がり、
少女を襲おうとした。が、少女が機敏にキャビンの外に跳び出し、
扉を閉めるほうが一瞬、速かった。
キャビンに立ち込めた下僕王子の肉霧をまともに喰らったのはロレンスだけだった。
―― …くまか、…のあまは。
悪魔か、この女(あま)は。
ロレンスの脳内の罵倒は最大値を振り切って爆発していた。
【骨折 折鶴 口紅 紅茶】

32 :
【骨折 折鶴 口紅 紅茶】
クーちゃんの木星インフルエンザは着実に進行していった。
言葉に木星語が混じり始めたかと思うと、たちまち木星語しか喋れなくなった。
もっとも、僕が装備している指輪には自動翻訳の力があるので、会話に問題はなかった。
気休めに折鶴を千羽作ってクーちゃんの枕元に飾ってみたら、
クーちゃんは鶴よりフェニックスがいいと言って枕元から叩き落した。
フェニックスの折り方は寡聞にして知らなかったし、
レジスタンス基地の図書室にある限りの本を調べても分からなかった。
似たイメージのある鳳凰を折って枕元に飾ってみたら、
クーちゃんはこんなのじゃないと怒ってまた枕元から叩き落した。
その拍子にクーちゃんは手を骨折してしまった。
丈夫に作るためにプラチナイリジウム合金板で折ったのがいけなかった。
そんなこんなで数日が過ぎた。
クーちゃんは意識がない時間の方が多くなり、朝の紅茶も飲めなくなっていた。
そして、午後のこと。
意識を取り戻したクーちゃんがこう言い出した。
「アレス…口紅…付けて」
クーちゃんはいつも口紅を持ち歩いている。
でも、壁や床に目印を付けるのに使うだけで、口紅の用途に使ったことはない。
「生きてる限り、わたしみたいな美少女には化粧なんて必要ないよ」
クーちゃんはいつもそう言って笑っていた。
…生きてる限り、必要ないよ。
………
クーちゃんが口紅を付けてと言ったことの意味を悟った僕は、静かに首を振った。
「クーちゃんには化粧なんて必要ないよ。これからもずっと」
クーちゃんは期待のような諦めのような複雑な微笑みを浮かべて、こう呟いた。
「でもね…きっと…今夜…」
クーちゃんが自ら感じた以上、生命の危機は今夜訪れる。
その時こそ、クーちゃんを救う唯一のチャンスでもある…。
【覚醒 二分 幻夢 回避不能】

33 :
【覚醒 二分 幻夢 回避不能】
―― ぐほっ
下僕王子の肉霧をまともに吸い込んでしまったロレンスは、
喉の咳と
食道の奥から痙攣するように込み上げてくる吐き気とで、
眼から涙を垂れ流しながらのた打ち回った。
肉霧を構成する細胞がロレンスの粘膜の隙を縫って浸入し、神経線維の末端に触れるたびに
ロレンスは幻夢を見せられた。脳内のスクリーンに幻夢は
下僕王子の妄想のなかでのロレンスへの愛を映写し、
ロレンスは「愛するロレンスの形のいいお尻」とか、「欲望をそそる唇」とか、
むかし一緒に温泉に入った時盗み見た「ロレンスのペニス」の映像とか、
「それをくわえたいという欲望」とか ――を見せつけられて発狂しそうだった。
―― ロレンス… ああ、ロレンス… ロレンス… ああ、ああ。
くそぉ! やめてくれぇ!!
ベッドから転げ落ち、床をキャビンの扉へと這う。
扉が開かない。ドアノブを見ると鉄が蝋燭のようにとろけて固まっていた。
―― 畜生! 糞あまがっ
ロレンスはキャビンのあちこちにぶつかりながらキッチンに向かうと
ガスの栓を開き、ベッドの陰に隠れて二分待った。ライターをカチッと言わせて火花を散らす。
―― ぶぅわぁあああああああああああああんんんん
室内の空気が一瞬で燃え上がり下僕王子の肉霧が焼却された。だが、自分自身も高熱を浴び、しかも
燃焼で室内の酸素が消費されてしまったので、呼吸しても息ができない!
おぞましい幻夢のなかで自分の肉体への欲望を見せつけられ、
発作的に火を放ったロレンスの選択は間違っていた。
見るとキャビンの窓の外から少女が覗いている、黒い大きな翼を広げ、悪戯っぽい瞳を輝かせて。
ロレンスはよろよろと窓に近づく。少女は空間を後ろへ下がりロレンスの舟の後ろのほうをちらっと見る。
キャビンの扉の直前に仮想の直線を描いたとして、その直線に沿って舟がスパンと両断される。
切断された舟の前部と後部はそれぞれぶぶぶぶと砂海(すなうみ)の表面で姿勢を変える。
外の新鮮な空気が流れ込んできてロレンスの脳は死の淵の朦朧状態から覚醒した。その耳に
階上の操縦席から音が聞こえてきた。
そう言えばこの音はさっきから聞こえていたのだが、聞こえても理解できなかったのだ。
音は言っていた。
―― こちらはワイヨ軍警備隊第7班である。即刻、通信に応答せよ。さもなくば
非常措置としてミサイルを撃ち込む。逃げても無駄だ。このミサイルは回避不能である。
【肉球 地球 球根 球技】

34 :
【放電 くりくり きゃわいい いっくぜええええ!!】(お題頂戴>28)
その声を聞いてロレンスは安堵の溜め息を漏らした。
第7班のおやっさんなら飲み友だちだ。
ワイヨ軍警備隊と奴隷商人ギルドのあいだには砂海(すなうみ)の絆がある。
おやっさんの警告の声も、職務上の義務から形の上では威嚇しているが、
声音からは心配が覗いていた。
おやっさんの眼には、この舟がロレンスの舟だと認識できているはずだからだ。
―― きゃははははは! きゃわいい〜
―― ほーれ、くりくりしちゃうぞぉおおお。
―― さー、ロレンス、いっくぜええええ!!
ワイヨで女のいる酒場に繰り出した時のおやっさんのはしゃぎっぷりを思い出したロレンスは、
眼にうっすらと涙がにじんできた。
たすかる、これでたすかる。あの黒い悪魔、糞あまから逃れられる…!
だが、操縦席への階段を這って登り始めるロレンスの耳元に唇を寄せるようにして、
不意に声が囁いた。
―― 月面タブレットはわたしがもらうわよ。
テレパシーだった。ロレンスは逆上して泣きわめいた。
「おっおお俺は月面タブレットなんて知らねえ! なんだよそれ、知らねったら知らね!!」
―― 嘘。そんな嘘で騙されると思ってるの〜? くすくすくすくす。
「う嘘じゃね、嘘じゃねーーーーっ な何でお俺月面タタブレタブレ持ってる思うんだ? あ?」
両断された舟の前部は(少女のを覗き見たときとちょうど逆に)    >>23
船首に向けて下がって停止していたから、
階段を最上段まで這い登ったロレンスの眼には、操縦席の展望の良い窓を通して
砂海(すなうみ)の広い状景が跳び込んで来た。
遥か遠方に影が見えるのはワイヨ軍警備隊の高速艇だ。
切断されたコーヒー・パイプラインからは依然どくどくと「出血」が続いている。
「あああんた相手をまま間違えてんだ、間違えてるそそおおおも思わないか?」
ロレンスが叫んだ瞬間、どこか見えない場所にいる少女の瞳がきらめいたのだろう、
コーヒー・パイプラインが新たな平面で切断され、
ふたつの切断面(さっきのと今のと)に挟まれた短い管が
砂海(すなうみ)にごろんと転がった。
交渉が出来ない! 話を聞く気がない!
商人であるロレンスにとって少女の振舞いは狂気としか思えず、
単なる恐怖を超えた、より深刻な恐怖と絶望がロレンスを襲った。
その時、遥か遠方のワイヨ軍の高速艇がミサイルを発射した。
しゅばっ という音とともに飛来したミサイルは、
ロレンスの舟の船首に突き刺さると、
静電気放電によって電磁パルスを撒き散らし、舟の電気系統を壊滅させた。
ロレンスの脳内には、
まるで耳元で怒鳴るかのような凄まじい大音量のテレパシーが撃ち込まれ、
響き渡っていた。
―― 月面タブレットは、絶っっっ対っっ、わたしがもらうから!
【肉球 地球 球根 球技】(お題継続>33)

35 :
【映写機 飛びます 脳髄 哀しい子】(お題頂戴>27)
◆◆第2章◆◆
見知らぬ天井の下で目覚めたロレンスは、初めのうち、
真っ白な記憶のなかをさ迷っていたが、やがて
黒い悪魔との遭遇シーンがフラッシュバックしてくると、絶叫した。
絶叫は長く長く、いつまでも止むことがなかった。
看護兵が駆けつけ、軍医が駆けつけてきて、鎮静剤を注射した。
絶叫か、さもなくばおどおどした抑鬱状態を繰り返す、まともに言葉も話せない3日間が過ぎて、ようやく
「脳髄のなかのその方角を見ないように努める」ということを習得した。
2日間、曲がりなりにも病床上での日常生活を営むと、その翌日から
軍の事情聴取が始まった。
「飛びます、飛びます、ってか? 女の子がどーやって空を飛ぶんだよ!」
ロレンスの語ったストーリーはあまりにも荒唐無稽で、まともに信じる者は誰ひとりいなかった。
最も疑う者はロレンスの絶叫ですら演技だと言い、テロリストが
獄中にあってなお、ワイヨ執政府の権威を愚弄しているのだ、と憤(いきどお)った。
ロレンスを信じてやりたいのだがとても信じるわけにはいかないと考える者たちは
「何かがあった」ということだけは事実なのだろう、と解釈した。ただ、その「何か」の記憶が
ロレンスのなかで歪曲しているのだ。その歪曲の理由を
「敵」の催眠術に求める者や、ロレンスの精神錯乱に求める者たちがいた。
ワイヨ軍警備隊第7班は大きな黒い鳥を見ていなかったのか?
いや、そう、彼らは「大きな黒い鳥」を見ていた。
高速艇から撮影したという粒子の粗い映像を、ロレンスも見せてもらった。
取調室の灰色の壁に映写機が映し出す飛行物体はほとんどノイズみたいな黒いシミに過ぎず、
それが翼を生やした美少女に見える者は誰ひとりいなかった。ロレンス本人も含めてだ。
「でもこれは映像が悪いからっ!」
叫ぶロレンスに第7班のおやっさんは気の毒そうに首を左右に振った。
これは鳥だよ、ロレンス。砂鴉(すなからす)だ。
事件自体はゆゆしき重大事件だった。
ワイヨのコーヒー・パイプラインやロレンスの舟が平面で切断されたのは物理的事実なのである。
切断の方法は何か、軍とワイヨ大学が協同して、目下研究中だった。だが、それはそれとして、
「現場に居合わせた人物」としてのロレンスの意義については、
犯行の実行グループの一味、協力者、事件の被害者、目撃者、など、
どの立場で使うにしても「使えない」という評価が定まってきた。
ごく一部の極端に悪意を抱く者を除き、ほぼすべての関係者が
ロレンスのことを「哀しい子」扱いし始めた頃…、
ある一人の若い私服の男だけが違う意見を持っていた。
「君が遭遇したという出来事は、たぶん、全部その通りに起こったのだろう、と私は思う。ただ、
女の子が空を飛んだとか、眼で見るだけでパイプラインや舟を切断したというのは、間違いなのだ。そして、
彼女、というか、彼女の黒幕だな、そいつらも読みを間違えたのに違いない。」
いったいどういう意味かさっぱり理解できなかったロレンスは、ベッドサイドに一人でたたずむ男の
頭の良さそうな整った顔を見上げた。軍服で充満した施設のなかを、珍しく私服で闊歩するこの男こそ、
特務機関のムスカ少佐だった。
【肉球 地球 球根 球技】(お題継続>33)

36 :
【肉球 地球 球根 球技】
土地球技師
群馬専門学校連盟認定の資格。
肥沃な土地で、球を測定するスペシャリストを認定する。
また、地方議会で肉球をもむ回数を保障するという側面もあり、
企業からの評価は高い。この資格が保障する『球』のプロフェッショナルとしての
評価は、増え続ける球根といういまや地球規模の問題を解決していく職業分野で今後さらに重要となるであろう。
最近は、全国専門学校カルテル
強力会社、(財)ポチョムキン・コンサルタント、(株)姪黒祖父戸等の幽名企業が
名を連ねる、全国やたら資格増やそうぜ連合公認の資格となったため一躍幽冥となった。
同時に、全国の大小専門学校がこぞってこの土地球技師取得を目指す学科、コースを開設する動きがみられる。
少子化、大学全入時代の逆境にあえぐ専門学校業界の助け舟となりそうだ。
【鎖 骨 薔薇 碧】

37 :
【炬燵探査機 ケーキ自転車 玄米ビーム 戮電話】 (お題頂戴>19)
    炬燵探査機が赤外線を放ちながら襲ってくる。敵だ! すかさず
     恋愛体質の少女が〈戮電話〉を掛けると、どういうわけか
      炬燵探査機のなかに電話は繋がり、敵の一人が
       無言電話の念波を受けて受話器を握ったまま悶絶する。
    敵は車体のすべてがスイーツで出来ているケーキ自転車を繰り出す。
     恋愛体質の少女はモンブランが漕ぐ自転車を追いかけて脱落。
      ロングヘアのキッチリした少女が、左手でV字を作り
       左眼の前に構えて〈玄米ビーム〉を放つ。
「いいか、ロレンス、よぅく思い出してみたまえ。
君は少女が飛び立つところを見たか? あるいは逆に、
飛んでいる少女が着地するところを見たか?」
ロレンスはベッドサイドのTVのスイッチを切る。
「ごめんなさい。」
みんなに「哀しい子」扱いされ続けるうち、すっかり
脳が鈍くなってしまっていたロレンスは、私服の男が来て
「ムスカ少佐だ」と名乗っても、軍服でないために事態がピンと来ず、
見ていたアニメを切りもせず話を聞くという無作法を犯していたのだ。
脳に血がめぐる気分とともにロレンスは真剣に考え始める。
エマージェンシー高速推進で戦域離脱する時、砂蟲の周りを飛翔する黒い大きな鳥が一瞬眼に映った。
数時間後、疲れ切ったロレンスがふと気づくと舟の舳先に黒い翼の少女が立っていた。そして、    >>23
ロレンスは意識を失い、再び目覚めたとき、舟のキャビンのなかで間近に見た少女の背中には
天使の羽みたいな肩胛骨が見えるだけで、大きな黒い翼など生えていなかった。    >>25
少女は下僕王子の肉霧を避けて舟の外に跳び出し、    >>31
次に見た時はキャビンの窓の外、大きな黒い翼を広げて宙に浮かんでいた…    >>33
ムスカ少佐の言いたいポイントがロレンスにも飲み込めてきた。たしかにロレンスは、
「眼の前にいる少女が翼を広げて飛び立つところ」とか、
「翼を広げて飛んでいた少女が眼の前に着地したところ」を一度も見ていない。
「なるほど、おっしゃるところが分かるような気がします。確かに俺は見ていません。」
ムスカ少佐はロレンスの理解力を品定めするかのようにその眼をしばらく凝視めた後、続けた。
「それから少女が眼から放ったという〈玄米ビーム〉だが…」
さっきのアニメキャラの必技を語りのレトリックに取り入れながら少佐は語る。
「キャビンのなかにいた少女が瞳をきらめかせると
窓の外のコーヒー・パイプラインが切断された、ということだな。だとすると    >>30
彼女の〈玄米ビーム〉は、窓なり船体なりを
透過する性質のものだということになる。つまり光線しかありえない。とすると今度は、
君の舟を斜めに見ながら真っ直ぐ切断したというのが腑に落ちない。光線は曲がれないからな。    >>33
残された可能性はただひとつで、
彼女が直接切断したのではなく、切断したのは敵の別働隊で、彼女は合図を送っただけ、
あるいはタイミングに合わせて演技しただけ、ということだ。」
「し、しかし、いったい何のためにそんなことをしたんですか…? そのぅ、敵の奴らは。」
「それだ。敵は読みを間違えたに違いない。」
【鎖 骨 薔薇 碧】(お題継続すまそ>36)

38 :
  お題頂戴のマイルール
  「自分が出したお題でなく」かつ
  「既に自分が消化したお題でもない」もののうち、
  「最も新しいお題」から順に消化してゆく。
  お題継続のマイルール
  新しいレスが寄せられていてお題が更新していても、
  既に旧題で書き込み準備をしてしまっていた場合、
  旧題にレスしても良いが、ただし、お題は継続する。

39 :
【鎖 骨 薔薇 碧】
ふさがれた!退路はすべてふさがれた!
ヌクレオチド・ヴァン・新垣は天空㋾駆ける美少年。
其の鎖骨はご飯百杯分の恵みをもたらす。
美少年の背中にはごぼうが生えていて、先のほうでなにやらおいしい香りがする。
ようくみるとそこでおでん屋を営むおじさんがいた。
おじさんの名前はヌクレオチド・ヴァン・高三沢(33)
髯蒼きサラリーマン(チキン野郎)であった。
彼の碧のネクタイはお昼ご飯のソースがいつもはねる。
彼の忙しいビジネスライフは少しずつ、だが確実にネクタイクリーニング経費によって浪費されていた。
それを知っていたのかどうなのか、彼は十年近く続いた社蓄生活をドロップアウト。
退社の日にかれは朝礼で、Rをおもむろに取り出してぶらつかせ、ステップを踏みながら松下幸之助の自己啓発本を
詩吟のように高らかに読み上げたのだった。
そんなかれの乱心振りに、20年会社に尽くしてきたott−bone様こと辛山酢天子さん(45)が仰天してエクセルデータを破壊しつくしたのは余談であるが、
ともかくも彼は自由のみとなり、誰もが辿る自分探しの旅(too late)に旅立ったのが今から2年前。
彼はどういういきさつできちがい少年のごぼうの先でかくのごとき赤提灯屋台をこしらえたか!?すべてはなぞである。
【奴隷水耕栽培技術 奴隷少年モノカルチャー経済 破綻 少女革命】++

40 :
余談:冤罪アク禁に救いの手を!!!!だれか!
だれかたすけてください!!!!!(解除)

41 :
【奴隷水耕栽培技術 奴隷少年モノカルチャー経済 破綻 少女革命】
 すると博士は弥生時代、お待ちなさい。縄文末期でしょうが、その当時には
もう奴隷水耕栽培技術が衰退していたとまで読んだ。
 風呂上がりの脳はスポンジ状で、ポカリスエットをたっぷり吸収させないと
露語と伊語の決定的差異は埋めようがないことだけしか理解出来ない。今は。
 自分なりの考察によると、どうやら人類の少年期における失われた少年
による少女革命の少女革命の少年による壁画は座標++です。
縄文とはつまり二重三重、幾重もの座標の重なりですから、縦軸に脊髄の罠、
横軸に集団自決係数、縦軸に流動性葛藤衝動、横軸に犬を揃えてみると
当時の奴隷少年モノカルチャー経済のしくみが一目で分かりません。
 それじゃああああ絶望的ですねええええ(一同苦笑)。
 宇宙人の言うことを真面目に捉えるなんてどうかしてますよ。お前がどうかしてるよ。
 崩壊してるという方が崩壊してるんです。グラフは崩壊するものですから正しい。
 駒込さんは耳の穴から栄養剤を注入するためにピペットを開発したそうだ。
常軌を逸した耳垢マニアだったのだ。耳垢で人生破綻だ。
縄文人の座標++がそう告げている。
【あゆみ かゆみ ふゆみ まゆみ】

42 :
【あゆみ かゆみ ふゆみ まゆみ】
「ランクA+の奴隷商人を「目撃者」として巻き込み、その眼前で
〈空飛ぶ少女〉が〈玄米ビーム〉を放つ、みたいに見えるイリュージョンを演出する。ワイヨが
〈それ〉を信じ驚愕すれば、以後の砂海(すなうみ)外交戦略に役立つだろう。―― 敵の読みは
おおよそこんなところだったはずだ。だが、敵は読み間違えたんだ。
ワイヨは〈空飛ぶ少女〉なんか、絶対に信じない。」
「敵、とは… ―― 蟻賊(ギゾク)ですか…?」
ムスカ少佐は肯定も否定もせず、ガラス球のような眼でロレンスを眺め下ろしながら沈黙した。
何とも言えない居心地の悪さがロレンスの脳にかゆみをもたらし始めた頃、ムスカ少佐は
唐突に話を再開した。
「君は偽りの月について何を知っている?」    >>23
「………ふつうのことしか知りませんが。
月そっくりの姿をしているけど、月ではない。
ありえないタイミングで天空のありえない位置に姿を現したり消えたりする。ふざけたことに、
本物の月と並んで空に昇ることさえある。」
「ワイヨが〈空飛ぶ少女〉を信じたがらないのも当然なんだ。われわれには
有人飛行機械が開発できない。技術のあゆみはもう充分なんだよ? だが、われわれが
有人飛行機械を実験飛行させると…」ムスカ少佐は話を切ってロレンスの瞳を睨むように凝視した。
「偽りの月から怪光線が飛んでくる。
4年前、バツク村を消滅させた爆発炎上事件を覚えていないか?
あれが、それだ。」ロレンスは初めて知る秘話に呆然とした。
「有人飛行機械はタブーだ。
偽りの月からの怪光線をワイヨは5回体験している。バツク村が丸い窪みに姿を変えたのを最後に、
有人飛行機械の実験飛行は禁止された。―― だから、
ワイヨには許されない有人飛行が
敵には許されるとなれば、あまりにも衝撃的なのだ。」
〈怪光線〉の話は、ロレンスの耳には
〈空飛ぶ少女〉なんかよりよっぽど非現実的に聴こえる。現実が外れたみたいになり、部屋の壁一面に
白い細い糸がまゆみたいに張り巡らされているような幻覚を感じた。
カリカリもふもふゆみちゃんがメロンパンを食べます。
ふもっふ。毛布にくるまれた不毛。ゆみちゃんて誰だ?
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
月面タブレット…?
【幻燈 厳冬 錠剤 浄財】

43 :
【幻燈 厳冬 錠剤 浄財】
浄財のためにお布施したら、夜の枕元に神様がやってきて
『素敵な夢が見られる錠剤を上げよう』
というので、小さな薬壜を受け取った。
薬壜を開けて、中の錠剤を幾つか取り出し、早速飲み込んでみると、
とたんに真っ白な空間に裸で放り出された。
あたりは雪が積もっているようだ。凄く寒い。
目が痛いほどの真っ白な雪原。周囲を見渡すと地平線がぐるりと僕を取り囲んでいる。
かなたまで雪原が続き、真っ青な空とかなたで溶け合っている。
厳冬の北海道にでもきてしまったか?僕は寒さに凍えながら考えた。
ああ、そうか、夢を見ているんだ。僕は微笑んだ。
とたんに地面がぐらりと揺れた。足元を見ると底なしの真っ暗闇。
星が輝いている。その場から逃げ出そうと考える暇もないまま、僕は
暗闇の中に引きずり込まれた。
【罵詈猫 朝太刀 社製 摂楠】

44 :
幻燈がない

45 :
【罵詈猫 朝太刀 社製 摂楠】
フローリングの床にゆみちゃんがあぐらを掻いて座っている。
脚が作る、数学用語で凧形(たこがた)と呼ばれる形の上に
制服のスカートが蓋をしている。ロレンスは(「ロレンス」て誰だ?)
ベッドの上に寝そべりながら「ぶっ!」と噴き出す。
「おれの朝太刀をうけてみろぉおおおお!!」
自分の描いた同人誌の描写の何かを笑われたと(正しく)理解したゆみちゃんが
「なによぉ」と言いながら上目遣いに見てくる。
「ん? なんでもね。」
「なんでもなくないでしょいま笑ったもん。なによ。」
「なんでもねーよ。」
ゆみちゃんがベッドによじ登りロレンスの(だから「ロレンス」て誰だ?)背中に馬乗りになって
「なにっ!」と言うので、ロレンスはご機嫌の加減を量りながら言う。
「朝だちってさぁー、そのなんだぁ、
使用可能な状態ってわけじゃなくてさぁ、おしっこ溜まってるだけなのよ。」
ゆみちゃんは信じるべきなのか騙されてるのか量るように背中からロレンスの眼を凝視めていたが、
信じないことに決めたらしく、罵詈猫みたいにロレンスの背中をバリバリ掻き始めた。
「やめ! やめろぉー」
「嘘ついたじゃん」
「嘘じゃねーって。あ、朝だちってのは、はっ、ひっ、や、やめろぉー」
「やーめない。」
ロレンスが身をひねって天井を向くと
天井に張ってある2人組みアイドルユニットのポスターが眼に入る。    >>25
壁一面を覆う本棚には専門書がびっしり並んでいる。
      
      解  熊情  .ナ
      析摂楠報形.ノ
      力動.と生而.マ
      学論細物上.シ
      .と.と.胞学物.ン
      量漸性  理演
      子近粘  学算
      論的菌    .と
        方 .     時
        法 .     間
デスクの横には穂坂社製のサイバースペース7が見える。
【朝食 月食 し文句 靴】

46 :

【朝食 月食 し文句 靴】
6年2組のミキちゃんは、異性をし文句で悶死させる。
男の子は本当に絶命するのだ。ミキちゃんがぼそっとし文句をつぶやくと。
そのことでミキちゃんは真剣に悩んでいる。自分が良いと思った異性に
想いを打ち明けられない苦しみは、誰もが知っていると思うが、
我々はちょっと勇気を出せば済む話。だがミキちゃんは別である。
警察やお医者さんが絶対禁止しているのだ。何故ならミキちゃんがし文句をささやいた相手は
どんな仕組みかわからないが、心臓が直ちにとまり命を落としてしまうのだから。
この恐るべきミキちゃんの特性が発見されるまでに、恋多きミキちゃんの甘い呪詛によって
命を落とした野郎どもはゆうに3000人を超えている。
いくらなんでも3000人は多すぎる、ひとりの少女がそんなにたくさんの異性に懸想するなんて・・・・。と訝る方も多いと思う。
そこで、なぜ少女は3000人もの異性に告白するにいたったかを説明しよう。
それは今から3年前、皆さんのご記憶にも新しい、アメリカはニューヨーク州の皆既日食。
皆既日食は皆既月食とは比べ物にならない貴重な現象である。同じ国、地方では100年に1回おこるかおこらないかといわれている天体現象である。
ミキちゃんの家族は天体マニア。わざわざ仕事を休んだ父親はミキちゃんと妻をつれてニューヨークへ旅行に行った。
もちろん、珍しい皆既日食を見るためである。ニューヨークの街はお祭り騒ぎだった。
平日であるにもかかわらず、オフィースに篭って仕事をするものは少なく、みな思い思いの格好で望遠鏡・双眼鏡・遮光眼鏡等を持参して街路にたむろしていた。
ミキちゃんの家族が向かった先の公園には、たくさんの人がいた他、テレビで日食を中継しようと言うのだろう、テレビ局の車が幾つか止まっており、高そうなカメラがずらりと天を指していた。
ミキちゃんは見たこともないお祭り騒ぎと、たくさんの人ごみにすっかり興奮して
かわいらしい頬を高潮させて父親の腕にぎゅっとつかまっていた。

47 :
いよいよ太陽が月に隠されていく。
普段太陽にくらべて地味で頼りない月が、ここぞとばかりに蚕食していく。
まるで朝食の目玉焼きの黄身のように黄色いお日様が、
まるで朝食の食卓の醤油のように真っ黒なお月様に食べられていく。
太陽はすっかり食べられてしまい、空にぽっかりと黒い穴が開いたようになった。
青空は暗く、星まで輝いている。
ミキちゃんはその幻想的なショーを見て、驚愕に打ち震えた。涙まで出てきた。
ミキちゃんの驚きと感動の影には、世界が未知のものに支配されているという実感、漠然とした恐怖感があった。
そして隣にいる家族、先生、それから友人知人、見知らぬ人たちにまで、
この頼りない世界に共に住まう隣人として、心から愛情を表明したいと思ったか思わなかったか、
ともかくも恋愛感情にも似た熱い想いをたたえながら、ミキちゃんはどうやってこの気持を表現しようと考えていた。
そんなミキちゃんのそばにやってきたのが地元テレビの取材クルー。
ミキちゃんに英語で語りかけ、マイクを近づけてきた。
ミキちゃんはカメラマンが何を云っているかわからなかったが、お父さんが通訳してくれたので理解する事ができた。
カメラマンの問いにミキちゃんは一生懸命答えた。その小さな胸に湛えている新鮮な気持、芽生えた隣人愛、家族愛を足りない言葉で必死に表現した。
『皆既日食、私は始めて見たのですが、え〜やはり、このようなですね、我々ちっぽけな人間風情がいかんともしがたい絶対的な自然現象を目の当たりにしますとですね、
えー全身を雷に打たれたような感じとでも云いますか、いやはやなんとも陳腐なセリフで相すみませんが、
ともかくもですね、みんな大好き〜〜〜〜〜!!!結婚してください!!!!』
これを聴いたカメラマン、お父さん、周囲の人々、テレビ局の人間は直ちに絶命、そして運悪くこの映像は生放送で、ご丁寧にも女性の同時通訳つきで日本にも届けられていた。
日本はちょうど夜中であった。夜更かしの男性が極端に減ったといわれているが、ミキちゃんの影響である。
残念ながらこの事件はそれぞれの突然死の関連性を見いだされることなく、一時は闇へと葬られた。
そのためミキちゃんの恐るべき能力、ミッドバレイ・ホーンフリークも靴をはく暇なくはだしで逃げ出すほどの魔技は発見がおくれ、
さらにその後30人ほどの少年達の命を奪った。
ミキちゃん、ごめんね。
【夢 土倉 真倉 作】

48 :
【夢 土倉 真倉 作】
私の受け持ちのクラスに双子ちゃんが転入してきました。
土倉君と真倉君。
部屋で遊べば二人揃って鼻の中にパR玉突っ込んで病院騒ぎ。
(どっから持ってきたんだパR玉)
園庭で遊べば仲良く二人で塀に立ちション。
(トイレ行けよ)
お昼寝で寝かせていると馬乗りになってきて腰を動かしたあげく
「気持ちイイ?」と聞いてくる。(チミ達は二歳なんだよ)
まあアレだ。子は親を映す鏡です。
夢ばかり追いかけ自費で本を作っては借金繰り返してる自称作家の
父親の行動を真似てるのでしょう。
お迎えにくる父親をいつも生暖かい眼差しで見ています。
【運動会 芋掘り 個人面談 ヨン様】

49 :
【運動会 芋掘り 個人面談 ヨン様】
2038年ーー
韓流ブームはいまだ続いていたが、渦中のペ様は植物人間となってしまった。
これを機に、冷戦状態だった南北の関係は一気に悪化。
ブームに踊ったおばさま達は悲しみを胸に、それぞれ新しい生活へと向っていった。
それから3年。突如二人のヨンジュンが現われ南の都を襲った。
おばさま達は闘った。だが呆気なく死んでいった。
クレヨン様、ライヨン様と名乗る二人組の韓流スターの前になす術もなく死んでいったのだ。
二人は北の将軍様が個人面談で選りすぐった影武者だったのだ。
そんな事態の中、ただ眠っているしかないペ様は自問した。
『運命とは何だ!?自由とは何だ!?人権とは何だ!?』
植物人間といっても、具体的にはペ様はサツマ芋になり果てたのである。
遠足で芋掘りに来た園児たちに、いつ引き抜かれるかとビクビクする毎日だった。
だがその園児の中、二人の韓流スターの魔の手から生き延びたが
後に自由民権運動会合を率いる指導者となるのであった。
これはそんなもう一つの未来の物語である。
【雌豚 烏賊娘 蛹酸 劣化硫黄】

50 :
【奴隷水耕栽培技術 奴隷少年モノカルチャー経済 破綻 少女革命】(お題頂戴>39)
ゆみちゃんが帰った後の部屋は非現実的なまでに静かだ。円筒形のゴミ箱の一番上に
ゆみちゃんが食べたメロンパンの空袋がくしゃくしゃっと捨てられている。
ロレンスが(だから「ロレンス」て誰なんだよ!?)ゆみちゃんと出会ったのは、
市街地の果て、大きな河を渡る橋の袂に立つ3階建ての古本屋でだった。
この河は市街地の西の輪郭を画していて、これを渡ると言わば街の外に出る。
ロレンスが大学院生として所属している大学も、橋を渡って丘を登った上にあるのだった。
1階で荷物を預け、階段を3階の理工学書まで登ると、本屋というより
大学図書館の忘れられた部屋といった感じのほこりっぽい部屋に、
華奢な女子高生が一輪、百合の花のように咲いていた。
形のいい脚がまぶしかった。
ふと、ベッドの上の同人誌が眼に入る。その表紙では
白衣の博士がうっとりとした眼差しでプランターを凝視め、栽培されている美少年は、裸の胸を
黒い学生服で隠しながらし、苦しそうに涙を流している。
―― 『奴隷水耕栽培技術』、か… 破綻だらけなのに破綻のない、不思議な子だよな。
出会ったときには、大学生も顔負けの専門書を物色している(しかも可愛い)女子高生に
「頭の良い優等生」という印象を持ったが、その後、
親しく話したり、同人誌サークルをやっているという「秘密」を明かされたりするうち、
「物凄く活性の高い小動物」という印象に変わってきている。
ゆみちゃんが友だち2人とやっている同人誌サークルは
「奴隷少年モノカルチャー経済」といって、その名の通り「奴隷少年」のみにこだわり抜く
妄想少女たちの輪だった。ゆみと美亜は同じ女子高に通う一年生。
進学校としてもお嬢さま高としても名の通った中高一貫の女子高で、やや
お莫迦キャラの美亜はともかく、ゆみちゃんは一貫校の女子高生らしい「才女」だった。つまり、
自分たちのサークルを「モノカルチャー経済」と名づける類の才気である。
3人目の鮎は背が高く、スポーツでもやっていそうな体形なのに、
何やらその筋の店でゆみと美亜に出会って意気投合して以来、つるんでいるらしい。
鮎は県立の共学高に通っている二年生である。
「どーじんし、やってるの。」秘密を明かしたゆみちゃんが数日後、初めて三人で部屋に来たとき、
鮎は目聡く『少女革命』という写真集を見つけ、ロレンスのことを「ロリコン!」と罵った。
冗談なのか本気なのかよく分からない声音だった。
天井のポスターのことも揶揄されたし、その後も何かにつけて鮎には敵対されるので、
ロレンスは(嫌われてるなぁ…)とあきらめていたのだが、美亜によればそれは違っていて、
たぶん、鮎はゆみちゃんのことが好きなのだ、という。だから、嫉妬だ、と。
「女子高だと、そーいうのって、ふつーにあるよ。鮎たんは共学だから、マジなのかも。」
その鮎も、ロレンスがサイバースペース7で、三人が萌えているアニメの
制作会社の社内ネットに侵入し、見たいものを何でも見せてやると、
驚嘆の眼差しを見せた。
【運動会 芋掘り 個人面談 ヨン様】(お題継続すまそ>48)

51 :
ごめんなさい。>49に気づかずに>50を書き込んじゃいました。
【雌豚 烏賊娘 蛹酸 劣化硫黄】(お題継続すまそ>49)

52 :
【雌豚 烏賊娘 蛹酸 劣化硫黄】
―― あー やっぱ下僕王子って、再生能力あるんだ。
―― 復活できなきゃされても意味ないし。
―― 今度こそ受け入れてもらえるねっ
ロレンスの部屋で(誰だよ、ロレンスって!)少女たちが囁き交わす
リアルの声を遠くに聴きながらロレンスは(だーかーら、ロレンスって誰!)
制作会社の侵入対抗電子機器が差し向けてくる烏賊娘たちの気を上手にそらす。
10本の脚が手招きするみたいに滑ってゆく横に隙を見つけ、なかに跳び込む。
ロレンスのサイバースペース7がハックしているのは一次的には大学のAIであり、
制作会社に侵入しているのは仮装した大学AIである。
大学のAIは大学内部の人間に対してセキュリティが甘いが、それ自体のスペックは高い。
制作会社の防壁を出し抜くくらいはそう難しいものではなかった。
少女たちが萌えているアニメの世界観では、
世界の中央には「砂海(すなうみ)」と呼ばれる砂漠が広がっていて、
人間たちの村や都市は砂海(すなうみ)の縁に沿って点在しているようだ。
設定資料や制作された美術をサイバースペースのなかで展望してゆくと、
ひとつの世界を鳥瞰している愉悦があった。
リアルの手で手探りしていつもの場所で壜を見つけると蛹酸の錠剤を口にぽんと放り込む。
肉体はリアルに置いたまま異界に頭を突っ込んでいる男の動作に異様なものを感じた
少女たちの気配を遠くに感じる。彼女たちは
ロレンスと一緒にサイバースペースに入っているわけではなく、
ロレンスがピックアップしたデータを、部屋のディスプレイ画面で見ているのだった。
口のなかで噛み砕く蛹酸の錠剤からは劣化硫黄の味が広がり、
みるみる神経活性が高まるのを感じる。少女たちのリクエストに答えて
「下僕王子」というキャラ関係のデータを次々ピックアップしていたが、
それにしてもこいつ、気持ち悪いやつだ。
主人公の幼馴染で、嫌な感じにからんでくる敵キャラなのだが、
攻め方がいちいち陰にこもっていてまわりくどい。とうとう主人公にされてしまう。だが、
「奴隷少年モノカルチャー経済」の脳に変換されるとこいつの行動はすべて
主人公への求愛に映るらしく、されたのも限界的な愛なのだそうだ。
おっと。
雌豚の群れが側面から突進してきてロレンスは危うく引っ掛かるところだった。
回避して転がり込んだ場所は主人公関係のデータ溜まりだった。
ロレンスは(だ!か!ら! ロレンスって誰!)サイバースペースに展開して
眼に飛び込んでくる膨大なデータを浴び、驚愕した。そこには
このアニメの主人公、奴隷商人ロレンスに関するすべてがあった。
ロレンスは―― ロレンスって誰だよ?―― ロレンスって…
あ、俺だ。
【膝小僧 盆の窪 双対空間 ブラ】

53 :
【運動会 芋掘り 個人面談 ヨン様】(お題頂戴>48)
ロレンスの意識野に「砂海(すなうみ)のロレンス」の膨大な記憶が流れ込んでくる。それまで
ロレンスの意識野は「束北大学の院生崩れ」としての生活意識に占領されていた。
「束北大学の院生崩れ」として過ごしていながら自分は「ロレンス」であるという謎の確信があり、
ロレンスの〈私〉は二重化していたのだった。
院生崩れには院生崩れとしての過去があった。意識すれば手の届く膨大な記憶。
幼稚園の芋掘りで土を掘ったら小さな小さな蟲たちがわらわら這いまわっていて、
せんせいはきゃーきもちわるいと言ったけどぼくはべつにきれいだなと思ったこと。
小学校の運動会のリレーで、前を走ってる奴を「抜く!」と思うだけではどうしても抜けなくて、
「意思は直接現実化するわけではなく、一定の物理的スペックを伴った肉体を介して成されるのだ」
という哲学的事実を深く思い知ったこと。
中学の個人面談では担任の他に学年主任まで来て絶賛され、大学への早期入学を視野に入れた上で
高校を選んだらどうかと言われたこと。(母親が嬉しそうだった。)
結局、院生崩れは一年間だけ高校で過ごして束北大学に進んだ。つまり、
鮎の歳には既に大学一年生だったことになる。    >>50
こうした、「束北大学の院生崩れ」としてのロレンスの人生意識の上に、重ね描くみたいにして
「砂海(すなうみ)のロレンス」としての記憶が降りそそいできた。
ワイヨの勢力が及ぶ「辺境」の村で生まれ、物心ついた頃、奴隷商人に丁稚として引き取られた。
(もともと人間の棲息地はすべて砂海(すなうみ)の縁に沿って点在しているので、
広がりをもった平面の「中央と辺境」というイメージは妥当せず、社会体として考えた時、
「中央」のワイヨに対して「辺境」ということである。)
ワイヨの本店で丁稚をしながら商売に必要な百般の技術・知識を習得したこと。
近所の貴族の邸宅で下僕として使われながら育てられていた下僕王子と遊んだこと。
裏庭の土を掘り返したら小さな小さな蟲たちがわらわら這いまわっていて、
下僕王子はうぇーきもちわるいと言ったけどぼくはべつにきれいだなと思ったこと。
胸の真ん中の破裂したような痣は物心ついた頃には既についていて、    >>23
生まれつきのものなのか、生れたあとの何らかの事故によるものなのか、
マスターに聞いてみたことが二度あるが、一度目には何となく誤魔化され、
二度目に聞いたときには聞いた瞬間に「前にも一度同じ質問をしたことがあり、そのとき誤魔化された」
という記憶が浮かび上がってくるのとともに、マスターの眼にも「前に一度誤魔化したではないか、
物分りの悪い奴だな」という失望の色が読み取れ、即座に質問を揉み消した。
三度目の質問をしたことはない。
ロレンスが十五歳で成人した時、健康診断をした医師は、カルテに「パピヨン様の痣」と記した。
【膝小僧 盆の窪 双対空間 ブラ】(お題継続>52)

54 :
【夢 土倉 真倉 作】(お題頂戴>47)
静かだった。
豪雨のように降り注いでいた「砂海(すなうみ)のロレンス」の記憶がいつの間にか止み、
いま、ロレンスの眼前に広がるサイバースペースの光景は澱んだグレイの渦だ。
と。
院生崩れとしてのロレンスはある可能性に思い至り、血の気が引いた。
―― 感染かっ?!
思い起こしてみると敵の侵入対抗電子機器が差し向けてきた雌豚を回避して
このデータ溜まりに転がり込んだのだった。
濁流のようなロレンスの記憶が敵の洗脳ウイルスへの感染だったとしたら…!
―― もう手遅れかも知れない…
アニメ制作会社に過ぎない民間企業がそこまでハードな攻性防壁を張るかは何とも言えないが、
いきがって侵入した者が何をされても文句は言えまい。
過剰防衛に対してを起こすことは不可能ではなかろうが、恥の上塗りだ。
人までいけば司法も黙っていないとしても、不可逆洗脳程度なら深刻に考えないのではなかろうか。
制作会社のセキュリティ担当のキチガイ具合によってはここまでやることもありえないことではない…
とにかく一刻も早くサイバースペースから物理的に離脱することだ。院生崩れは
頭の上半球面(眼、耳、脳)を嵌め込んだ直方体の箱を、リアルの両手で取り外そうとした。
が。
リアルの手がどこかに行ってしまった…
腕や手の感覚がない。電脳魔術師の悪夢だ。院生崩れは錆びついた口を動かし、恥も見栄もなく叫んだ。
「ゆ、ゆみちゃん、たぁすけてくれ。ゆみちゃん? いるんだろ?
ゆみちゃん? 美亜ちゃん? あ、鮎さん?」
声は調子外れで変な具合だった。そして誰も返事をしなかった。
不意にサイバースペースの光景が一気に暗転した。次の瞬間、院生崩れは
直方体の箱を脱いで部屋のフローリングの床に座っていた。いや、違う!
直方体の箱を脱いでなどいない。箱に標準装備されている外部センサーの入力を素材として、
サイバースペースのなかに院生崩れの部屋が仮想構築されたのだ!
こういう効き方をする攻性防壁の話、というか、都市伝説を耳にしたことがある…
それは「土倉真倉(ドグラマグラ)」という不可逆洗脳ウイルスで、感染された脳は
リアル(真)を生き写しにした仮想世界(土くれ)のなかに閉じ込められ、連続的に洗脳される結果、
現実への適応能力が徹底的に破壊され、早い話が分裂病に仕上げられる。
―― キチガイ過ぎるぜ! セキュリティ担当!!
院生崩れは涙を流し始めた。喉が嗚咽で痙攣している。すると鼻が突然、生臭い臭いを嗅いだ。
【膝小僧 盆の窪 双対空間 ブラ】(お題継続>52)

55 :
【膝小僧 盆の窪 双対空間 ブラ】
7:40起床 すぐさまコーヒーをセットし、シャワールームへ。15分ほどシャワーを浴びる。
     着替えが済んだら、ブラックコーヒーを飲みながらテレビでニュースをみる。
8:15出勤 徒歩にて会社に向かう。最近膝小僧が痛む。
8:30掃除 給料は出ない。
9:00朝礼 交代でスピーチ。今日は『双対空間における相互存在の絶対不可侵と、その事実により導き出せる物理空間の唯一性』について
      喋って同僚を煙に巻いてやった。
10:00 社長から呼び出し。コーヒーが飲みたいとのこと。あいにく普段社長のお茶を出している秘書たちがみんないない。
    よし、私のドリップの腕前を見せてやろうか。「
10:10 社長室にコーヒーを携えて向かう。『おまたせいたしました』
    社長のデスクに差し掛かったとき、コーヒーカップ、盆の窪みに引っかかりぶっ倒れる。
    黒い液体は社長のデスクに広げてあった書類をしっとりとぬらした。
11:00 搾体験
14:00 喪服を買う
18:00 ゼロムスを倒す
21:00 アプリケーションエラーに悩む

56 :
【ジャーニー 涼介 奪われた純潔 うらやましすぎる】

57 :
【ジャーニー 涼介 奪われた純潔 うらやましすぎる】
【鎖 骨 薔薇 碧】(お題頂戴>36 二重に消化)
院生崩れの眼・耳・脳を覆う直方体の箱、穂坂社製のサイバースペース7のヘッド部は、
彼が頭蓋を箱から取り外したら見るはずのリアルの部屋を、サイバースペース内に
仮想構築して彼の脳に与えていた。ただ、リアルの部屋には
3人の女子高生たちもいたはずなのに、仮想構築された部屋は無人であることから、
何らかの情報操作、目隠しが行われていると考えられる。
ざざ、ざっ…
その女子高生たちが見入っていたはずのディスプレイ画面が、    >>52
仮想構築された部屋の風景のなかで、
紺碧の無表情の上に不意に砂嵐を起こし、映像を映し始めた。院生崩れは画面に見入る。
―― エビバデ元気かぁーい、こちらジョッキーのウスタ涼介、きょうも
『ピューと吹く日直番長』の時間がやって、まいりました♪ まずは一発目、
「5分前の世界」のコーナーです。さーあ、見てくれ、これが
5分前の現場、だっ!ぜっ!
画面が映し出すのはフローリングの部屋。3人の女子高生たちが座り込み、身を寄せ合っている。
少女たちは怯えているようにも見えるし、変な気をもよおしてもじもじ触りあっているみたいにも見える。
彼女たちの傍らには、直方体の箱に首を突っ込み、床にあぐらを掻いて座っている無気味な男。
―― うらやましすぎるぜ、この男! 甘口・辛口・中辛と
女子高生を3人も連れ込んでいったい何する気よ? うひゃひゃひゃひゃ! ナニする気ぃ?
でーも、この男、箱に頭、突っ込んでうろうろするだけ。
嬢ちゃんたちは奪われた純潔を嘆くどころか、欲求不満に泣きそぉーよぉ?
でーも、だいじょぶ、グッジョブ、刺激なら充分。「棘のある真紅の薔薇」が現れたから…

58 :
ロレンスは箱が見せる仮想の部屋のなかで(しかしその部屋は
箱を外せばリアルに眼の前にあるはずのものだ)ディスプレイ画面にぐっと見入る。画面に入ってきたのは
砂海(すなうみ)の魔少女だ。3人の女子高生たちの顔に恐怖が走る。魔少女は画面のなかで、
何も気づかない愚かな箱男の傍らに立つと、カメラに向けて妖艶といって良い流し目を送る。
一瞬の後。魔少女が女子高生たちの方を向くと、ゆみの右腕が肩から切断され、
血しぶきを上げて宙を舞い、フローリングに落ちる。画面に見入る院生崩れは「うっ」とうめく。
よく見ると3人は脚を鎖で拘束されて立てなくされている。魔少女はゆるやかに歩きながら、
鎖が許す限度まで藻掻き蠢く3人の体を興味深そうに凝視める。
鮎のおなかが切り開かれ、吹きこぼれた小腸の塊が収納し切れないホースのように床にとぐろを巻く。
ゆみの脇腹は肋骨の下あたりで執拗に切り刻まれ、とうとう胃と肝臓が勢い良く垂れ落ちてくる。
美亜は胸部を輪切りにされ、床に流れ落ちた輪切りの胸部から
帯のように巻いているだけの衣服の残骸が外れると、きれいな膨らみのうえに首がつんと立っていた。
鮎・ゆみ・美亜の首がすぽん、すぽん、すぽんと切断されては肉畑に落ち、髪を血溜まりに散らす。
肉畑には6本の腕や脚や、赤べろべろとかホースの類いが散乱している。
箱男は、画面のなか、ずっと静かに床に座っている。
―― じゃーにぃ、嬢ちゃんたち、冥土のジャーニーいってらっしゃい、きゃはははははは。
冥土ではメイド服着てサービスしてねっ
画面のなかでは箱男が、ようやく何かに気づいたように動き始めている。
「土倉真倉(ドグラマグラ)」の感染に思い至って慌てているのか?
5分前の世界…? これが5分前遅れで見るリアルなのか?
院生崩れの喉の奥から嘔吐が込み上げてくる。サイバースペース7を取り外したとき直面するリアルの部屋は、
ほんとうにこの地獄絵図なのか…?
彼の鼻がさっきから嗅いでいる生臭い臭いは、女子高生たちの血や内臓の臭いなのか…?
と。
だぁーれだ。
蜜を含んだような可愛い声が院生崩れの耳元で囁く。
【眼と耳 柔らかい唇 砂丘 砂糖菓子】

59 :
【眼と耳 柔らかい唇 砂丘 砂糖菓子】
猫と耳、犬と耳、眼と耳、眼球、ちゃぽん。
砂糖菓子とけた、仲良し溶けた、内臓退けたら誰かが・・・|彡サッ、きゅぽん。
東からやってくる3人の先生が、ユースケ・サンタマリアがいつの間にか・・・・きょぽん。
ほれ、ほれほれ、ほれほれほれほれ、夢からけがはえていたよ。しかし、けがはえれているかもよ。ぬぽん、っというかね。
YOKOTA-sun@キッドナップKOREAJAPAN2008はじまるよ?テレビの音量を上げよう。あげようよ。
(・∀・)カエル!!
月が出てきた。葉巻をつける。
黄泉が
【桃 山ねずみ 園芸家 方法】

60 :
>>12
砂丘がない。それも其のはず、砂丘に埋めてきたのだから。僕の宝物。
砂丘はやがてうまりつけられていたのであるか、bもるk、s、ともかく内包された。宝物に。

61 :
>>A
君の柔らかい唇は、まるでらくだの柔らかい唇のようだね!
そんなにも汚してないで、抜こうよ?ZU

62 :
【桃 山ねずみ 園芸家 方法】
院生崩れは感電したようにビクッとなり、周囲を伺うが、
仮想現実に投影された室内には誰もいない。
ディスプレイ画面もいつの間にか紺碧の無表情に戻っている。
囁きかけた声は瞬く間に時の鎖に沿って過去へと逃げ去り、いまはもう、それが、
耳元に唇を寄せて発せられた声だったか、
箱を通じて受信した音声だったのか、確かめる術もない…
背中に弾力のある柔らかい膨らみが押し当てられた。
あたたかく柔らかい動きがロレンスの背中から耳元へと流動し、
くすくす笑いとともに声が囁く。
だぁーれだ。
いる。リアルのこの部屋ですぐ背中にいるのだ。
ロレンスの脳内を液体ヘリウムのような恐怖が舐めまわす。
跳ねるように立ち上がりながら体を返し、背中の少女をつかまえようとする。
頭蓋を覆う直方体が見せる仮想構築された自室は全くの無人だ。
虚空のなかを少女のくすくす笑いが逃げ去ってゆく。院生崩れの鼻が、
動き回ったためだろう、思い出したように生臭い臭いを嗅ぎ、喉に嘔吐が込み上げてくる。
(箱の外のリアルの部屋はほんとうにあの地獄絵図なのか…?)
床が一面の肉畑なのかどうか触って確かめてみるという方法がありえたが、
もし触ってしまったら発狂するのではないか? 恐くてとても勇気が湧かなかった。
理不尽で不条理ないまの状況に、一瞬、院生崩れはすべてを投げ出したくなった。
ごろりと横になって、されるならされるのを待つのだ。
寓話に出てくる園芸家が、桃の樹の根に巣穴を作る山ねずみとの知恵比べに疲れ果て、
たった一つの冴えたやり方だと呟きながら桃の樹に火を放って燃やしてしまうようなものだった。
【桃 兆 鼠色 銀本位制】

63 :
【桃 兆 鼠色 銀本位制】
暗い星空を落ちていった私は、気がつくと明るい場所に出た。
恐る恐るつぶっていた眼を開くと、ピンク色の光が眼に飛び込んできた。
…まぶしい。あまりのまぶしさにしっかりと眼を開く事ができない。
一体ここはどこなんだ・・・?
ようやく光に慣れてきて、あたりの様子が眼に飛び込んできた。
其処は広い空き地だった。ピンク色の地面に、薄桃色の空。はるか地平線まで見渡す限りそうだった。
視界がくっきりし始めたとたん、私は嘔吐した。
ナ・・・なんだこのにおいは・・・!!!
恐ろしいほど高濃度の香水・エステルの類を鼻から飲み込んだとしても、このような頭が変になりそうな匂いは感じられないだろう。
私はうずくまり、嘔吐に嘔吐を重ねた。眼から涙があふれ、再び視界はぼんやりした。
鼻から息ができない・・・!!!
しばらく口で息をし続けていたら、ようやく慣れてきた。
涙を拭き、ふと地面を見ると、たくさんの桃が落ちていた。
そうか、これがにおいの正体か。しかしこんなひどいにおいを放つなんて…!!?
私は目を凝らして地面を見直した。地面には一面の桃が落ちている。
落ちている、どころではない。しばらく眺めているうちに、地面自体が桃でできているということに気づいた。
私は辺りを見回した。地面はどこまで行っても桃桃桃桃桃桃桃でできていた。
一面に敷き詰められている桃のわずかな隙間から、青い空間が垣間見えた。あれは青空か・・・?
私は現状を完全に理解した。私はどこまで行っても桃だけでできている、桃世界に来てしまったのだ。
桃世界を構成する桃は何百兆、いや数え切れないほどの桃でできているはずだ。だからこの世界の風はこんなにも臭いのだ。
鼠色したスーツを身にまとう私の姿は、このピンク一色の世界でさぞ奇妙に浮き上がって見えることだろう。
そう思うと、なにやら恥ずかしいような、居心地の悪い気持がした。
いっそ私も桃になってしまいたい・・・。
このようなことをふと思ってしまったのも、桃世界という意味不明、気違いじみた世界に放り出されたとあっては仕方のない事だろう。
やがて私は桃世界を心からエンジョイしたい気分になった。
何せこれだけの数の桃だ。まず食事は心配ないし、着るものだって、私のほかに誰もいないのだから必要ない。
眠る場所は、このジューシーな桃の上だ。寝返りを打つたびに桃がつぶれてべたべたするかもしれないが、なに、直になれるだろう。
これだけの桃を出荷したら、一体どのくらい儲かるのだろうか。いや、あまりに市場に出回らせると、かえって単価が下がり、やがてはただ同然になってしまうだろう。
桃は鉱山のように掘りつくされ、ほぼ無限にあるとばかり思っていた桃の塊も、次第にやせ衰え、最後は種だけが残る薄ら茶色い世界になってしまうに違いない。
そうなった場合、まず危惧しなければならないのは、放置された種がいっせいに発芽する事である。
これだけの種が発芽し成長し、立派な気になってしまったら・・・そう、森の惑星の誕生である。
私は恐ろしい想像に身震いした。だめだ、銀本位制・金本位制・兌換紙幣制の資本主義のやつらにこの世界は知られてはいけない!
私は、ちっぽけなその身で、あまたの桃の身を守る悲壮な勇者になった気分でいた。
【少女地獄 壜詰め地獄 キチガイ地獄 地獄少女】

64 :
【笑み 機械 無くなって 指先】(お題頂戴>18)
◆◆第3章◆◆
―― ロレンス、ロレンス…
名前を呼ぶ声がする。見開いた眼の焦点が結ばれてくる。俺の名を呼んでいるのは…
「ムスカ少佐。」
「ロレンス、だいじょうぶか…?」
ムスカ少佐によるとロレンスは、会話の途中、突然宙を睨み意識が無くなって、    >>42
ベッドのうえで上体を起こした姿勢のまま硬直したのだという。硬直が1分ほど続いた頃、
少佐がこれは軍医を呼ぶべきだと判断してコールを掛けてから、さらに
4分ほどが経過しているらしい。つまり、
ロレンスの発作は5分ほど続いたことになる。
「それにしても、軍医が遅いな。ところで、君… 君は転換持ちだったのか?」
転換なんて、聞いたことがない。
砂海(すなうみ)の恐怖の後遺症だろうか。
しかし、わずか5分だったのか…
随分、長い長い夢をみていた気がする。
砂海(すなうみ)とは全く異なる別世界で、別の人生を暮らしていて…
ノックの音がして扉が開いた。軍医とナースだった。
軍病院の看護兵は基本的にはむくつけき男だが、ごく少数、女性看護師もいる。もっとも、
たいていのナースはオバサンなので、特にどうということもないのだが、
いま軍医の後ろにひかえているのは、火薬少女に似た、とびきりの美少女だった。
そう、砂海(すなうみ)の悪魔だ。

65 :
ロレンスの口が絶叫を上げようとした形のまま凍りついた。恐怖が限界を超えた。
指先がベッドのシーツを握り締める。
「遅かったじゃないか。とりあえず発作は通り過ぎたみたいだよ。」
軍医はムスカ少佐の声を不自然に無視したまま、扉の前に立っている。
ナースひとりが、花が咲きほころびたみたいな笑みを浮かべて近づいてくる。
その眼は、ベッドのうえのロレンスだけを、まっすぐ凝視めている。
            <●>   <●>
異状を感じたムスカ少佐が「おい、君…」と言いながらナースの肩に軽く手を掛けた瞬間だった、
魔少女の眼が少佐をきっと睨んだ。
少佐の頭から足先までが千枚ほどの平行平面でスライスされた。一瞬でスライスされたという、
そのことはそれとして、その後は通常の物理法則に従い、
千の断面から血や組織液が漏れだそうとする。
少佐の全身はぷらんと揺れながら床に崩れ落ち、薄切りされた断片が
ずれたりずれなかったりしながら床にぶちまけられた。
砂海(すなうみ)の悪魔はベッドサイドに立ち、花のように微笑みながらロレンスを凝視めている。
「お、俺にななのよがあるんだっ」
「言ったじゃない、忘れたの…? 月面タブレット、わたしに頂戴。」
「げ、月面タブレ、し、知らな…」

66 :
ところがロレンスは思い出していた、院生崩れが京部アニメーションに電脳的に侵入した時、
浴びせ掛けられた「ロレンス」の設定資料のなかに、「月面タブレット」があったことを。
    胸の真ん中に破裂したような痣がある。これは、
    超時空的な白い糸が無数に寄り集まった臍のようなもので、
    「月面タブレット」という。白い糸はロレンスと偽りの月を結びつけている。
    この事実をロレンス自身は知らない。
ロレンス自身は知らないはずの設定をロレンスは
院生崩れとして見た「ロレンスの設定資料」によって知っていた。
黙り込んだロレンスを見て砂海(すなうみ)の魔少女が言った。
「ほーら、やっぱ知ってんじゃん。嘘つき。」
「いや、俺は…」
もしほんとうにこの胸の痣が「月面タブレット」なのだというなら、
俺は念じるだけで偽りの月まで跳べるはずなんだが、とロレンスが考え始めた時、
リアルが不意に薄い紙のようになった。視覚的に扁平になったというわけではなく、
今、眼前に展開している3+1次元の時空が、もっと高い次元領域のなかの
極めて薄い沈殿物に過ぎないことが「見える」ようになるにつれ、リアルが
紙のように薄く感じられるようになったのだ。そしてその紙が
端っこの方でぺらぺらめくれ始めた。
見ると砂海(すなうみ)の魔少女の瞳は期待で大きく見開かれている。
胸が大きく呼吸して上下した。
「それ! 月面タブレット!」
魔少女の細い指先が自分の胸に向かってくるのを見たロレンスは反射的に身を引いた。
その瞬間、リアルがまくれ上がった。
ロレンスは跳んだ。
物凄く巨大な―― 森羅万象全体であるような巨大な機械が、
無数の蟲たちが寄り集まったような姿で、
虚空のなか、蠢いている。その傍らに、小さな小さな胎盤が落ちていた。
胎盤からのびた臍の緒は小さな小さな小さな胎児に繋がっている。
【少女地獄 壜詰め地獄 キチガイ地獄 地獄少女】(お題継続すまそ>63)

67 :
【少女地獄 壜詰め地獄 キチガイ地獄 地獄少女】
偽りの月に向けてロレンスが跳ぶのを見て、
少女は愉快そうに微笑み、「ふぅ…」とひとつ溜め息をつくと、
ロレンスが寝ていたベッドに攀じ登り、猫のように丸くなって、
親指を唇に当ててまどろみ始めた。
床の上には人体一個分の薄切りが血溜まりのなか散乱し、
扉の前に屹立し続ける軍医の顔には表情がなかった。
少女は自分の名前を知らない。
3か月前、目覚めるとピンク色の可愛い小部屋のベッドのうえで、
ふかふかのお布団のなかだった。
素肌をじかに抱きしめるお布団の心地好さからそうかな…とは思ったけど、
ベッドから外に出ると裸だった。自分が何者なのかわからないし、
ここが自分の部屋なのかもわからない。部屋のクローゼットを漁ってみる。
誰のかわからない下着をつける気にはなれなかったので、
上はTシャツのうえからカットソーを重ねて誤魔化して、
下は肌触りの良さそうなイレギュラーヘムのロングスカートをはいた。
この時点では「誰かと出会う」と想定していたし。
サイズは合っていた。(ブラもサイズは合っていた。)
小部屋の外に出ると寒々しい廊下だった。
最初の3日間は環境の踏査に費やした。
他の部屋が沢山あったが、誰にも出会わないし、驚いたことに、
建物の外に通じる扉も、建物の外を覗ける窓も、全く存在しなかった。
食事はキッチンがあり、冷凍食品も揃っていたし、料理もできた。
冷蔵庫の中身は使って減っても、ある程度の時間をおいて扉を開けると元の状態に復元している。
扉を開けっ放しにしたらどうなるのかな…という疑問が湧いたが、
「金の卵を産むニワトリをしてしまう」みたいな結果になるのが怖くて
実験してみる気にはなれなかった。
電気・ガス・水道の供給とか、水洗トイレとか、お風呂の水とか、基本的な生活環境は、
謎の機構によって動作し続けるようだ。
―― 壜詰め地獄…? まるで壜のなかで生かされてるみたい。

68 :
図書室を見つけた。
図書室、というか、メディア・ルームだ。
ある人物が日々の生活印象を複合直観像として記録し続けた「日記」を電脳のなかに見つけた。それを
ヴァーチャルリアリティシステム《窓》を通して「読む」と、その時々の彼女の気分をテイスティングできる。
彼女の名前は「アイ」と言った。
アイの記憶はある時点から始まっていて、それ以前の記憶がなかった。
記憶がない理由は本人にもわからない。だから、アイは一種の保険として日記をつけていたのだ。
この謎の施設がアイの「秘密基地」だったこともわかった。このことを知った時、
少女は、自分は再び記憶を喪失したアイなのかも知れない、と思った。
ブラもショーツもつけてみることにした。洗濯機も見つけたし。
アイの日記を読み、図書室の資料を調べる日々が続いた。
棚から抜き出してきた本を次々、机のうえに広げてゆく。机ごとにひとつのテーマを反映していて、
少女の脳内での思考過程を図書室が実体化している。
疲れが、あるいは時計が、眠るべき夜を告げると、ピンク色の可愛い小部屋に戻る。
アイの趣味だろうか、図書室の特別な棚に取り分けて並べられていた小説を持って帰って読んだりする。
『ドグラ・マグラ』という作品は、著者の長い顔の写真が怖かったが、中身も猟奇漂う哲学マンガで、
いまの自分と似た、自分が何者なのかはっきりしない〈私〉が主人公だった。
作中作の「キチガイ地獄外道祭文」を読んだ時は、
「チャカポコ、チャカポコ、スカラカ、チャカポコ」というのはいったいどういう節回しになるのだろうと、
こう…? それともこうかな? と、何通りかの演戯をして遊んだ。
同じ著者の『少女地獄』とか『瓶詰の地獄』も面白かった。
地獄と天国、考えてみると同じ「ゴク」でも漢字が違うんだ…
地獄少女、少女地獄、天国少女、少女天国、う〜ん…、どんな意味だぁ?
そんなことを考えているうちに寝入った日もあった。
【孤島 ヴィオラ 怪奇 日本銀行券】

69 :
【孤島 ヴィオラ 怪奇 日本銀行券】
怪奇博士(Doctor mysterious)「なるほど。永劫回帰的実存の苦しみに耐えかねている、と。」
ヴィオラ少年「そうなんです。毎日三度の飯を食いつつ、大小さまざまな習慣のハードルをぴょんぴょん
 ぴょんぴょんと。まるで絶望的RPGの際限ないレベル上げです。人間なんてつまらないものです。
 食って寝て産んで騒いであがいて…そうしているうちに死んでしまうんです。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「ふうむ。……ときに君」
ヴィオラ少年「はい?」
怪奇博士(Doctor mysterious)「『萌え』という哲学用語を知っているか?」
ヴィオラ少年「ええ…。私の通っていた大学の図書館で文献を読んだことがあります。確か、数千年前の日本で、哲学者達の間で活発に議論されていたという概念を表す単語ですよね。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「左様。『萌え』という言葉はこの世界で初めてインターネットが産まれた時代の日本で登場した概念である。」
ヴィオラ少年「そんなに昔のことなんですね。知らなかったなあ。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「知らないのも無理はない。おろかにも人類は折角手に入れた『萌え』の恩恵を、きっぱりと捨て去ってしまったのだからな。」
ヴィオラ少年「それはまたどうして…。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「例の、第1次電脳革命(次元間アウフヘーベン)で、我々の肉体世界と精神世界は相互に自由に干渉できるようになった。その為、『萌え』は滅びたのだ。
 かつて人類は、個別の肉体を持ち、個別の精神を持っておった。確固とした個の鬩ぎ合いが、競争を生み、進歩を生み出しておった。
 歴史の授業で倣ったと思うが、日本銀行券なる紙切れと、政府の太鼓判が、日本のすべての価値の土台となっておったのも、個別の人間存在が当たり前のように看做されておったからじゃ。
 しかし今から1000年前、日本のある若き研究者がヴァイタルストリームの発見と『生命の樹』への通信技術的接続に成功してから、現在の我々のように『個』の垣根がすっかり取り去られてしまった。
 他人が今何を考えているか、なんて知るには0.1秒の脳内検索ですぐにサーチできる。
 こんなこと今から1000年前は夢物語だったんじゃよ。」
ヴィオラ少年「へぇ・・・想像できないですね。やっぱり、不便なのかな…。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「不便なものじゃよ。隣のやつが何を考えているかわからないものだから、KYなんぞ言う言葉が流行ったりしてな。
 KYっちゅうのは、文献によると「孤独な奴」の略らしい。…ほかの研究によれば「孤島の椰子」の略という見解もある。ともかく、周囲の人の気持がわからないような空気が読めない奴を罵った言葉じゃ。」
ヴィオラ少年「バカらしいですね。電脳リンクしてなければ、他人の気持なんて理解できるわけがないのに。」
怪奇博士(Doctor mysterious)「そうじゃな。かつての人間たちが、社会でウマく生きていくためには『場』の空気を読めることが必須じゃった。あとコミュニケーションを円滑に行える能力も大事じゃったらしい。」
ヴィオラ少年「…そんなことに血道を上げて、貴重な人生を費やしていたのですね。わかります。」
【チャカポコ 少女帯 オマージュ 多分】

70 :
【宿命 業 崩壊 てろてろてろーんてろりんてろりん】(お題頂戴>17)
図書室で最も読み耽ったのは形而上物理学だった。初めのうちは
京部大学の大森教授が書いた『形而上物理学』という教科書を読んでいたが、やはり    >>45
原典の方がなまなましくてわかりやすいと思って、途中からは
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』と
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』を読むようになった。
形而上物理学metaphysical physicsは「主観性の物理学」であり、「普遍的な客観世界」ということを認めない。
ごく大雑把に説明するなら、つまり、形而上物理学が最もクリティカルに論じている部分を
むしろ塗り潰してしまうような形で要約するなら―― それぞれの〈私〉に
〈いま=ここ〉で与えられる場面のことをチャートという。 チャートの連鎖がモナドである。
モナドとは言ってみればそれぞれの観測者にとっての「主観世界」のことだが、
数学者のモヨコが証明した定理によれば、すべてのモナドを包摂する「普遍的な客観世界」は存在し得ない。
    アルジャーノンの相対性にもとづく時空の雛型において、
    チャート群Wにおける変換則Rが定められているとき、
    「Wを含むW’で、変換則Rを満たさないチャートを含むもの」が存在する。
簡単に言うと、ある狭い世界で、世界とはこういうものだと理解していたとしても、
必ずそれより広い世界が存在して、狭い世界で理解していたルールは破綻する、ということだ。
とはいえ、「すべてのモナドを包摂する普遍的な客観世界」は存在し得ないとしても、
「ある程度客観的な世界」が存在しないわけではない。(現に、在る。)
すべてのチャートが置かれている〈根底的な場所〉のことを、形而上物理学では
「同一カオス」「アーカーシャ」「7次元時空」などと呼ぶが、
いわゆる星の宇宙、つまり「4次元の客観世界」は、無数のモナドの相互作用によって生じる、
「7次元時空」のなかの不確かな沈殿膜であると考えられている。
したがって、
星の宇宙のなかに銀河系があり、太陽があり、地球があって、そして生物が発生したわけではなく、むしろ逆に、
寄り集まるモナドたちがあって、ガイアが沈殿したのだ。とはいえ、
充分な相互作用をもたないモナドは〈真空〉に溶けてしまうので、ガイア沈殿を成し、複雑化することによって
個々のモナドが在り続けている、とも言える。「ある程度客観的な世界」を沈殿し得ないモナドは、
チャートの連鎖をばらけさせて、単なる「もの」のレヴェルにとどまったり、死んだり、発狂したりするのである。
(だから、「〈私〉に〈いま=ここ〉で与えられる場面のことをチャートという」という説明は塗り潰しすぎで、
〈私〉とは、モナドが充分に焦点化した時、「ある程度客観的な世界」と同時に発生させるものなのだ。)

71 :
さて、モヨコの先駆的な数学理論によれば、
7次元時空における4次元ガイア沈殿の周辺には「モヨコ双対モナド」が析出する。
モヨコ自身が証明したのは、
    「4次元の客観宇宙」に棲まう単体のモナドについて、
    チャート群の双対的な逆極限を考えると、
    7次元時空のなかでは、4次元ガイア沈殿の周辺に「双対モナド」が析出する。
という、単体の場合についての定理だけだが、
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』では、ひとつひとつの「モヨコ双対モナド」が
全体として織り成す構造が研究されている。
「モヨコ双対モナド」は相互に複雑に絡み合いながら
(この絡み合いを「宿命」とか「業」とかいうのだろう)、
まるで葦の原みたいな幾何学的構造を成しているのだった。この葦の原こそ、
古来、冥界などと呼ばれてきた場所に違いない。
てろてろてろーんてろりんてろりん…
時計が時を告げ、見ると20時だったので、読書に没頭していた少女は夕ご飯を食べることにした。
時計の音に気づいたということは少し疲れてきているということだ。実際、
没頭し切っていた19時、18時、17時の音は聴いた覚えがない。
数学や物理学の議論は少女の脳髄を崩壊させるどころか、より活性を高め、わくわくさせた。
というか、『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』を読むと、
これは自分が書いたのではないのか…? というような深い了解が得られて、少女は興奮していた。
なぜなら、一方で読み進めているアイの日記が衝撃的な内容を語っていたからだ。
【チャカポコ 少女帯 オマージュ 多分】(お題継続すまそ>69)

72 :
【チャカポコ 少女帯 オマージュ 多分】
    一面にひろがる葦の原。パステルグリーンの空洞。
    7次元時空のなかでガイアの多様体からすこし浮上するとこの葦の原に出る。
    一本一本の葦は、ひとつひとつの〈生〉を体現している。
    アイはフィールドを張りながら、
    牛の胃袋みたいな大きなひろがりのなかを、遊ぶように翔んでいる。
    こういう場所では直感が大事だ。
    アイは浮遊しながら自分のこころのなかを見つめ、どの葦に惹かれるかを観察している。
    これ…
    アイはある葦のそばに降下し、横に立つ。
    身長と同じくらいの高さだ。
    バッグからナイフを取り出すと葦の背すじを すーっ ときれいに切る。
    葦の背中がみるみる開いて膨大な膜の重なりが羽衣のように湧き出して来る。
    羽衣はアイの体を包み込み、そして――
形而上物理学者たちが
〈リアル〉というものをチャートのモナド的連鎖と捉えたとき、
チャートの書き換えによる現実操作の技法が開発された。
何人かの形而上物理学者たちは、こうして
チャートの書き換えによる未知の旅を開始した。
「7次元時空」のなかで
「4次元の客観世界」に対してverticalな(垂直な)方向へ飛翔したかれらがそこで見たのは、
ガイア(地球生命圏)の全域に浸透している未知の勢力だった。
未知勢力は
NOVA―― つまり太陽の新星爆発―― ガイアの全モナドの死、という究極のsingularityを通って、
「異世界」からガイアに侵入してきたと考えられている。
つまり、地球生命圏の〈死〉の時点から侵入し、
時間を遡行して全ガイアに浸透するに至ったらしい。
21世紀初頭人たちはこの勢力を「NOVA警察」と呼んだ。
アイは、アンチNOVA警察のエージェントだった。

73 :
キッチンの少女は食後のカフェオマージュレを飲みながら
もしかしたら自分なのかも知れないアイについて考える。
NOVA警察の攻撃から逃れて「冥界」に跳び込んだアイは、いつの間にか自分が
滝壷に至る急流に乗ってしまっていることに気づいた。
アイの時間的前方に展開するガイアの多様体の支流では、
アルジャーノン指数が異様にゼロに近かったのだ。
アルジャーノン指数とは時空域の形而上物理学的な可塑性を示す指標で、
これがゼロのとき、形而上物理学は従来の物理学と一致する。
アイが追い込まれた時空の支流では、「チャートを開いて跳ぶ」ということが
限りなく不可能に近かった。
―― でも多分、アイはわたしじゃないな…
日記の全覚印象を反芻しながら何となくそう思う。
―― どっちかと言うと…
絞ったマージュレの実をテーブルのうえで転がして遊ぶ。
アイは「冥界」をさ迷い、
自分が居心地のよさを感じる場所を探して―― その場所を見つけたとき、
〈箱〉を開けて秘密基地を展げた。そして武器を調達するため、
「下界」に―― 人間たちの棲む現実世界に干渉することを始めた。
あちこちほっつき歩いて様子をつかんだ後、2年間、
京部大学の大森教授の研究室で形而上物理学を学んだ。
エージェントとして実用的な知識は充分もっていたが、
「どんどん自由度が狭くなってゆく時空流から脱出する」という困難な課題に取り組むには
「復習」から始めるのが良いと思ったし、最先端がどうなっているのかに興味もあった。
葦の原の秘密基地からチャートを開いて京部の下宿に出、そこから大学院に通った。
私生活をまったく見せない謎の女子学生として数人のストーカーを生んだが、
ことごとくこっぴどい不運を喰らわせて撃退した。
修士課程のあいだにこの時代の最先端の知識を蒐集し尽くしたアイは、
目的を果たしたのでこれ以上大学にとどまる必要を感じず、
「就職」することにした。しかしすぐに面倒くさくなって辞めた。
そして二度目の「就職」で出会ったのだ――

74 :
少女はブラック珈琲を手に持って図書室に戻る。
てろてろてろーんてろりんてろりん…
時計がちょうど21時を告げた。この音、
「チャカポコ、チャカポコ、スカラカ、チャカポコ」に変えてみれないかな… と思いながら、
ふと、この時計が告げている時刻って、どんな時間なんだろう、と疑問を抱く。
アイの秘密基地には外部への窓が一切なかったから
(というか、いまでもこの基地は「冥界」に浮かんでるの…?)、
時計の告げる時刻がいったいどんな時間と同期しているのか不明だった。
アイがいた頃は京部とか杣台とか、そのつどリンクしている「下界」の時間と同期していたが、
いまでは何とも関係しないそれ自体の時刻を告げているのかも知れない。
―― でも、その場合にも…
少女は時計の丸い文字盤の下のほうに表示されているデジタル数字を見る。
そこには「今年」を表わす数字とともに、今が11月であることが示されていた。
二度目の就職で彼女と出会ったというよりも、
彼女のことを発見したアイが、彼女に接近するために就職したのだ。
鰍主任科学官。
鰆主任経済官とともに美少女アイドルユニットを組みながら、同時に
榎少佐の独裁体制を支える天才科学者でもある、国家の少女神。
この鰍ちゃんこそ、『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』の著者だった。
少女は本を開き、
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』の奥付けをあらためて眺める。
初版第1刷が発行されたのは
時計のデジタル数字が告げる「今年」と同じ年の7月である、と印刷されていた。
もし、時計の「今年」がどこかの時点でリセットされた無意味な数字ではなくて、
少なくともアイがこの秘密基地を放棄して以来の連続した時間を表しているとしたら…
―― 日記の語る一切の事件が起こってから、まだ余り時間が過ぎてないことになる。
てろてろてろーんてろりんてろりん…
考えに集中するうち、もう22時になってしまった。
疲れた少女はどうでもいい本を探しに
図書室のふだんあまり見ない隅のほうの本棚の前で、床に膝をついて下のほうの段を見る。
『少女帯を解く』とかいう変なエロマンガが並んでた。
なにこれ? 読書の趣味が広すぎるぜっ、アイちゃん。
少女は帯が解けて着物が肌蹴ている少女が表紙のマンガを手にピンク色の可愛い小部屋に帰る。
【カフェオレ パノラマ島 ラブマスター 中欧】

75 :
【カフェオレ パノラマ島 ラブマスター 中欧】
人間へ…人間へ…
遺伝子が志向する先にあるのは…?
究極のKYなのか?それとも畢竟カオスへの収束なのか?
カフェオレを飲みながら、哲学夢想断片思索、轟々華麗なるショッパイ夢うつつ。
醜悪な殻にいつしか生まれたのは…?
世界は紙だ、小麦粉だ。いやいや鉄だ、羨望だと
いくら言葉を尽くしてみたところで、
しょせんこの世はパノラマ島。映画の映写を映写した、劇中劇中劇中劇。
パノラマ世界は5.1サウンド尽くした新技術。
いくら尽くしてみたとこで、マスターテープにとどかない。
だけどこれこそ我々の唯一無二なる現実と
ふんぞり返る、ラブマスター。因果のない愛ありえない。
所詮世界は約束の、絡まり絡まる茨道。
それがどうした畢竟落語、ウマいオチつきゃいいのかよ。
不遜なる怪奇博士の夢は、ざっとこんな歌で締めくくられていた。
ヴィオラ少年「わかります…。個が破られた今でも、肥大した一つの個が膨らみ続けるだけの世界。包括しても包括してもきりがない。
        僕たちは、どこを目指しているというのでしょう?」
中欧少年「それは中世真理亜信仰でげすよ。」
【エヴァ ンゲ リオ (・−・)・・・ん?】

76 :
サヌカイト採掘管理委員会通達 第27号
「パノラマ島における採掘済サヌカイトの小麦粉まぶし手順見直しについて」
サヌカイト採掘管理委員会(以下本委員会)は近年における早明浦ダムの貯水率の改善に伴い、
パノラマ島産サヌカイトの小麦粉まぶし手順の見直しを以下の通り関係者各位に通達いたします。
小麦粉をまぶす時は有資格ラブマスターの立会いの下で行うこと。
緊急時のみラブマスター不在でのまぶしを、作業者オケチョイ着用の上で認める。
仔猫3日分のサヌカイトにつき、2kg以上の小麦粉を用いないこと。
余った小麦粉をうどんにした場合、貯水率に関わり無く茹でること。
オーストリアは中欧ですが、バナナは中欧に入りますか?
そして僕は、ぬるくなったカフェオレの残りを飲み干して立ち上がった。
オフィスにいる同僚は皆PCの画面に向かい、したり顔でこの通達を眺めている。
部長と目が合った。
「伊藤君、いつも悪いね。よろしく頼むよ」
悪いと思うなら他の奴にもたまには頼めよ。
その一言を飲み込み、僕は笑顔でうなずく。
さぁ、もうすぐ小麦粉と冷凍ラブマスターの到着だ。
ラブマスターの解凍を失敗してオケチョイを着るのはまっぴらごめんだ。
さっさと「電子レンジ」の用意をしなければ。
倉庫行きの社内便がちょうど通りかかったので、赤いグリップを掴みプラプラ宙吊りになる。
乗り合わせた人たちもおなじようにプラプラだ。
ああ、そういえばバナナは中欧に入るのだろうか・・・。
【ノスタルジー 禊 弁護士 むらさき】

77 :
世界は紙だ、小麦粉だ。いやいや鉄だ、羨望だと
小麦粉をまぶす時は有資格ラブマスターの立会いの下で行うこと。
世界はゆっくりと、だがしかし確実につながり始めたのです

78 :
【エヴァ ンゲ リオ (・−・)・・・ん?】(正式のお題)
【ノスタルジー 禊 弁護士 むらさき】(二番目なので参考お題。二重に消化)
変なエロマンガを読みながら寝ついたせいか、
はっ と眼が覚めてみるとまだ深夜だった。ただ、「深夜」と言っても
夜が暗いわけではない。時計がそう言っているだけだ。
何か夢をみていたはず、という感じはするものの、はっきりとは思い出せない。
メレンゲを上手に泡立てて少女の体に塗りたくっていたような、塗りたくられていたような、
その少女が自分だったような、
『少女帯を解く』のむらさきであったような…
―― シャワー浴びよ。もっかいお風呂入ろ。
そう決めた少女はベッドの外に出ると
ピンク色の可愛い小部屋の真ん中でキャミソールを脱ぎ出す。
昼間の思考の緊張と、変なエロマンガ、そして深夜の不意の寝覚め、
それらの複合作用として少女は何となくハイになっていた。
―― どうせ誰かに出会うなんてことないんだから…
裸で廊下を歩いてバスルームまで行こうというアイディアを思いついた。
廊下は公共施設の廊下みたいな寒々しい廊下だから、
裸で歩くのはいま部屋のなかで考えてみてもタブーを破る感じがする。
ショーツも脱いで裸んぼになった少女は、心臓をドキドキさせながら部屋の扉を開ける。
廊下に出る。
もともと非現実的な秘密基地の時空が、ますます夢幻染みたものに感じられる。
誰とも出会うはずがないと決め込んで裸で歩くというのは
絶対に誰かと出会ってしまうフラグみたいなものだったらどうする…?
ふわふわとハイになって空中から自分のことを見下ろしている意志が
少女の裸の体をマリオネットみたいに操ってバスルームまで歩かせている。
バスルームに入ると猫脚の浴槽にお湯を張りながら、同時にお湯の雨を降らせる。
狭い空間が蒸気に満たされ、急にリアリティが戻ってくる。
ひとしきりシャワーを浴びた後で浴槽につかる。
胸のうえで指を組み合わせて遊ぶ。
両手の掌を合わせ、指先を伸ばして爪を眺める。
バスタブのなかで猫のように背中を丸くする。
突然、両腕を組んで頭のうえに突き出し、脚は脚で爪先までピンと伸ばす。
バスタブのなかで大きく伸びをする。
そして、バスタブに背中をあずけ、ゆったりすると、うとうとし始めた。

79 :
不意に「禊」という漢字が脳内に浮かぶ。
「みそぎ(示+契)」って、「神との契り」なんだ…
契約は弁護士立会いのもとで法に則って行われた。
所…? 何だか厳粛な感じのする黒々とした部屋に数人の男たちがいて少女一人が裸だ。
男たちは「エヴァリスト・ガロアの遺書の競売について」とかいう書類のやり取りをしている。
少女はふんふん〜♪ と鼻歌を歌いながら脳内で形而上物理学の公式を操作する。
チャートをアーカーシャのうえに置かれた薄片として眺め、ずらし、そして頁をめくる…
少女はいきなり「外」に出ていた。
物凄く巨大な―― 森羅万象全体であるような巨大な機械が、
無数の蟲たちが寄り集まったような姿で、
虚空のなか、蠢いている。その傍らに、小さな小さな胎盤が落ちていた。
胎盤からのびた臍の緒は小さな小さな小さな胎児に繋がっている。
一気に眼が覚めた。だが、不思議とパニックには襲われなかった。
チャートの書き換えによって7次元時空のなかを跳ぶ技法は、
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』の読書と
アイの日記の全覚印象とから学んで、机上では既にマスターしていたからだ。それに、
その凄まじく巨大な光景に、過去の記憶がないはずの少女は
なぜかノスタルジーのようなものを感じていた。
脳内で無数のチャートを裁きながら息を弾ませて虚空のギガマシーンを眺める。
たぶん、あれが〈ガイア〉。ううん、たぶん、じゃなくて、きっと。
〈ガイア〉は凄まじく巨大なので近く見えるが、実際にはかなり遠いようだ。
彼岸と此岸のあいだを広大な〈真空〉が隔てている。
少女はアイをまねて遊ぶように泳ぎ、
脳内で形而上物理学の変換写像を組み立てながら、
「小さな小さな胎盤」の上空に出る。
―― わぁ…!!
それは箱庭のようなひとつの世界だった。
世界の中央には大きな砂漠があり、その縁に沿ってあまたの集落といくつかの都市が繁茂している。
と。
ほんのわずか、変換写像がずれただけで砂漠世界は焦点を失い、ぼやけ、代わりに、
黴のように無数の建築物が繁茂するひとつの都市の光景が像を結んだ。
二重のリアリティが混在しているようだった。
少女は「小さな小さな小さな胎児」の方を見る。それは
小さな〈箱〉の形をしている。日記のなかでアイが展開していた、あの〈箱〉だ。
―― 初めてなんだし、もう帰ろう。
少女は〈箱〉に向けてチャートを開き―― 秘密基地の廊下、バスルームの入り口の前で、
裸の体からほかほか湯気を立てている自分を見出す。
―― (・−・)・・・ん?
三度目のお風呂に入り、
今度は適度に意識を集中させ、跳ばさないようにして、
よく温まったら出た。
体を拭いて、バスタオルで体を包んで廊下を帰る。
ピンク色の可愛い小部屋に戻り、バスタオルを椅子の背にかけると、
裸んぼのままベッドに潜り込んで、ふかふかのお布団に抱かれて眠る。
その脳内では無数の印象が蟲のように蠢き組み換わり
彼女の活性をさらに育て上げてゆく。
【式日 獺祭 ガロア理論 不完全性定理】

80 :
【式日 獺祭 ガロア理論 不完全性定理】
ガルの骨相学『式日は近づいてきています。庭に生える樒のように抹香臭い匂いが近づいてきています。』
怪奇博士『どこまで話したかのう。そうそうなぜ萌えが生まれ、そしてなぜ滅んでいったかじゃったな。
 今から2000年以上前の日本に、いつもむさ苦しい小部屋に引きこもる喪男がおった。。。
 彼の心はキレイじゃったが外見は恐ろしく醜くてのう。
THE少年(ヴィオラ少年と中欧少年、フュージョン後に誕生)『外見が醜い???
 それはどういうことですか?
怪奇博士『歴史で学習したじゃろう。サーチかけてみ。はるか昔の哲学では、人間を外見で審美する『美学』なるものが存在しておっての。
 簡単に言うと顔面における目鼻のミリ単位の微妙な位置に美的価値を見出す哲学じゃ。
 これは価値の根底の一端を担っておっての。金は美のために支払われ、美は金のために存在するアドバルーンじゃった。
THE少年『まるで相対的な世界に、何の疑問もなく安住していたのですね。
怪奇博士『そうじゃ。まったく出口の見えない世界じゃのう。美を語る言葉がそもそも、欠片のよせあつめにすぎないんじゃからな。
 我々はその不完全さに気づき、別の活路を見出す旅の途中にある。まだ行き先は見えていないが、少なくとも不完全性定理発見に息巻く田舎モノで終わるよりはましじゃ。
THE少年『そもそも言葉など論証に値しない約束事ですものね。小学校でならいます
ガルの骨相学『今こそ骨の美学を!美学を科学に!
怪奇博士『それでは話をもどして、不細工な喪男が見出したのは、恋愛対象二次元超越理論じゃった。現在の電脳精神科学の嚆矢ともいえるこの理論は、
 我々人類が、肉体のしがらみから脱却を図るはじめの動きじゃった。
ガルの骨相学『なるほど、その点で言えばはじめ人間ギャートルズであるといえますな。
怪奇博士『彼はかつて心に大きな傷を負うような失恋を経験しての。現実の女がほとほと嫌になったんじゃ。
 彼は、パソコンのデスクトップで潤んだ瞳を向ける美少女に懸想するようになったんじゃ。
 そこでショタの悪魔的思想に陥らなかったのが彼の最後の良心じゃな。
THE少年『戦争にまで発展したあのネオファシズムですよね。ぶるぶる。
怪奇博士『現在でも、フリーメイソン的な秘密電脳結社として、ショタズムの残党がネットのどこかにいるらしいぞ。あるいは完全オフラインのジャンクネットワークの中に住み着いておるかもしれん。
THE少年『アバター変えます。少年なんか選ばなければよかった
怪奇博士『いかん!かえてはいかん!
THE少年『なぜですか怪奇博士?
怪奇博士『どうしてもじゃ。話を戻すぞ。二次元美少女を懸想するようになった喪男はパソコン上にたくさんの美少女を作り出していった。自分の理想とする容姿・性格をもった美少女をな。
 そして作り出した美少女を次々とネット上に公開していった。すると賛同者が次々と現れていってナ。二次元美少女萌えは一大ムーブメントとなってそれはもう獺祭なみのにぎわいじゃったそうだ。
THE少年『ふうん、でもそれは歴史的に見て大してまあたらしいことではないと思いますが?
 だって小説などの創作で架空の男女を作り出し、それに自らのさまざまなパッションを昇華させるという行為は大昔から人間が行ってきた事ではないですか。
怪奇博士『そうじゃな。かのゲーテは自らの失恋を創作することによって慰めたし、シェイクスピアも然り。
 それら一般の創作活動におけるパッションの昇華と、萌えの違いは、ガロア理論が生まれてから決定的になったのじゃ。
【モノ ウル (〃∇〃) てれっ☆ ベルじゃない】

81 :
【モノ ウル (〃∇〃) てれっ☆ ベルじゃない】
〔エッセイ〕 狩魔君と 4 letter words 〔エッセイ〕
思えば狩魔君の出すお題をずいぶん消化してきたものです…
「下僕王子」「奴隷商人」「火薬少女」「月面タブレット」のあたりでは、
異和感のある新しいDNAをくれてありがたかったのですが――
【下僕王子 奴隷商人 火薬少女 気管支フィギュア】20
【排気塔少女 コーヒー・パイプライン 砂嵐嗜眠症 月面タブレット】24
【キャラバン 蟲下し 壮麗な都 旗印】26
【鎖 骨 薔薇 碧】36
【奴隷水耕栽培技術 奴隷少年モノカルチャー経済 破綻 少女革命】39
【罵詈猫 朝太刀 社製 摂楠】43
【夢 土倉 真倉 作】47
【ジャーニー 涼介 奪われた純潔 うらやましすぎる】55
【桃 山ねずみ 園芸家 方法】59
【少女地獄 壜詰め地獄 キチガイ地獄 地獄少女】63
【チャカポコ 少女帯 オマージュ 多分】69
【エヴァ ンゲ リオ (・−・)・・・ん?】75
【モノ ウル (〃∇〃) てれっ☆ ベルじゃない】80
「朝太刀」「社製」「摂楠」のあたりから段々うざくなってきました。
    (でも、この時はまだ、「摂楠」の上手な処理が思いついて、
    結果的には楽しかったですけど。)
どんなお題を出すのも自由なわけですが、それにどう応じるかにも
電波ならではの流儀がありうるわけです。
わたし自身はなるべく「原理主義的」に振舞うのが好みなので、四語スレにおいては
「PCの検索機能で検出しうる時、その語を使ったとする」という定義でお題の四語を消化してきています。
狩魔君によれば、お題の未消化があったとしても
    9 :狩魔:2008/08/26(火) 02:59:55
    そう、字余り、字足らず、二重季語、季語無しなど
    あえて禁忌を犯す事で、もとい近畿キッズ(浅草キッズ)のふたりに犯される事で。
    そのにがすっぱいうくくしさ、私は好きですよ。
ということのようです。
もういっそ、すか。
四語スレもかつてのような活況ではないし、この際、
四語の制約を完全に無視して書き続けることで
四語スレをしてしまうのも手かも、と思っています。
この四語で書け! 即興電波文ものスレ
http://denpark.net/2002log/1030681534.html
この四語で書け♪ 即興電波文ものスレ【第2巻】
http://denpark.net/2002log/1039659228.html
この四語で書け? 即興電波文ものスレ【第3楽章】
http://denpark.net/2003log/1046314820.html
【人間狩り 放火魔 鼠剤 円状】

82 :
こっこれが・・・にちゃんねる(ごくり)

83 :
【人間狩り 放火魔 鼠剤 円状】
おいらは旅鼠。北の街から東の街まで風の向くまま気の向くままに。食いもん探して独り旅。
チーズにナッツにクッキーに。グルメな舌を満たすため。喰っては盗んで盗んじゃ喰って。
それを根に持つ人間はおいらをそと企んだ。やれ鼠剤、鼠捕り、飼い猫おまけに毒団子。
おいらもそいつにゃ怒ったぜ。生きるためなら飢えぬためなら。人間様も咬んですさ。口に病原タップリ含んでガブリと一咬みズブリと牙刺し。人間狩りの始まりだ。
アッチで子供、コッチで老人。バッタバッタと死んでゆく。愉快痛快、ざまあみろ。
毒団子を猫皿に。猫は倒れて向かうは敵なし。鼠剤には火を点けて。円状に広がり天井に。あっと言う間にお家は炎上。気分爽快、どんなもんだい。
人鬼で放火魔で旅鼠とはおいらのことだい。
っていう夢を見たよ、パパ。
パパ?パパ?
し、死んでる・・・・
【手首袋 晒首輪 腹斬巻 膝裂枕】

84 :

◆第4章◆
目覚めてしばらくのあいだ、何が起こったのか思い出せなかった。
ぐっすり眠ったなぁ、と思いながら、
わたし、なんで裸で寝てるんだろう… と疑問を抱いた瞬間、
虚空に蠢くギガマシーンのイメージが浮かんでくる。
夢と見分けのつかない記憶。
―― そうか。わたし跳んだんだ…
秘密基地の「外」に跳んで7次元時空を泳いだ記憶と一緒に、
素っ裸で廊下を歩いた記憶とかも蘇ってくる。
―― うわぁああぁぁぁ…
少女は顔を真っ赤にしてベッドのうえでごろごろのたうちまわる。
服を着ると朝食も取らずに図書室に駆け込み杣台の写真を探す。
「胎盤」の表面に広がっていた都市は
もしかしたら杣台なのでは…? という思いつきを確かめたかったのだ。
3週間後には準備が整った。
3週間のあいだはドリル・ドリル・ドリルの日々だった。
座標変換の新しい手法を
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』を読んで学んでは
7次元時空へと跳び、マッピングを実地に演習する。逆に、7次元時空を浮遊するうち、
もしかしたらこんなことができるはず… という思いつきを得る度に、
〈箱〉のなかに戻ってから図書室で『理論』や『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』を読み、
自分で計算してみて、新しい座標変換を構成したりする。
少女は、どうやら自分は何らかの理由で記憶を失った鰍なのではないか、と考えるようになっていた。
アイの日記で見る鰍の容姿は、鏡に映る自分そっくりなのだ。もっとも、
鰍とアイは姉妹だと言っても通りそうなくらい、不思議とよく似てるから、
もし鰍を見ずにアイだけを見たとしたら、自分はアイなのかも、と思い込んでしまったかも知れない。
ただ、アイは20代前半の大人の女性という感じだが、鰍はまだ少女少女している。
どちらかといえば自分は鰍なんじゃないかな… と思う。
(でも性格的には、サディスティックな行動力を持つエージェントのアイに似てる気もする。
記憶を失っているあいだは別人格が活動するものなのだろうか…?)
国家の少女神、鰍主任科学官は、
軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングの実験運転のために赴いた杣台で、
〈杣台〉という都市が発する集合的な声、とでもいうべき現象に遭遇し、
それを理解するため、初めは遊び半分に手を出した形而上物理学に、じょじょに深く没入してゆく。

85 :
鰍の構築した軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングは
いくつかの微量物質をシグナルとして使い、
神経系的というよりはホルモン系的な情報伝達を行うシステムである。
電子的な通信が、結局のところ ON‐OFF によるデジタルな情報伝達を行うのに対して、
ホルモン系的な通信は、「濃度」「拡散」「複合」などの液体的性質を持つ。
鰍が企図したのは、言ってみれば
「言語ではなく、感情を直接伝える媒体」だったのである。
軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングが
感情を直接伝える―― というか、感情を感染させる媒体だとすれば、
それによって各個人のモナド的な世界はシンクロし、融合してゆくのではないか、
そしてそれこそがあの〈杣台の声〉の発生源ではないのか。
そう考えた鰍は、
モナドの融合について考察する足がかりとして、まずは
世界のモナド的なありように数学的定式化を与えた
形而上物理学を参照してみようと思い、―― しかし、
最初は遊び半分のつもりで形而上物理学の本をひもといたのである。
というのも、形而上物理学という分野は、一時の爆発的な流行の後、
いまではすっかり廃れて「トンデモ科学」なみに見られていたからだ。
物理学としてはまともに相手にされず、
数学の一種として生き延びていた。
なにしろ、検証実験で結果が出ないのである。
いや、単に結果がでないよりももっと性質が悪い。
初期の―― アルジャーノンの相対性原理が提出され、モヨコの定理が証明された頃の
いくつかの検証実験では、確かに画期的な結果が出たのだ。
成功したはずの検証実験を、追試すると失敗するという結果は、
初期の成功が捏造だったのではないかというスキャンダルまで生んだ。
世間的にはこれが「形而上物理学の最期」だった。
種を明かせば(アンチNOVA警察のエージェント・アイが察知したように)、
この時空流はアルジャーノン指数が漸減する運命にあったから、
検証実験の成績は時とともに形而上物理学に不利になっていったのだ。
先端の形而上物理学者たちのあいだでは、
アルジャーノン指数の漸減自体がNOVA警察の謀略ではないのか、という恐怖が広まった。
物理法則をすら書き換えられる敵と、いったいどう闘えばよいというのか!

86 :
「NOVA警察」は国家的、どころか、インターナショナルな機密であり、鰍も知らなかった。
杣台駐屯軍基地の図書室に死蔵されていた極秘文書は、
「NOVA警察」とか「フダラク市」について言及していて、鰍を興奮させた。
鰍のなかで力点の置き方が逆転した。
「軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングを通して聴いた〈杣台の声〉を理解するために、
形而上物理学を学んでモナドの融合について考察する」というスタンスから、
「モナド融合によって形而上物理学の検証実験を行うために、
軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングをより精密に制御する装置を開発する」というスタンスへ。
こうして鰍が構築したのが軍用芋虫人システムである。
ハケンを50体購入した鰍は、そのうち41体を手術し、軍用芋虫人に改造した。
両手両足を切除し、断端に或る種の細胞というか、ナノマシンのペーストを塗りつける。
手術された軍用芋虫人は、鰍のレクチャーを受けた高級技術兵たちの手によって
ミイラが眠る棺みたいな装置に組み込まれ、入出力のさまざまな管や線が繋がれる。
ペーストを塗った断端からは、
樹の枝みたいな、あるいは鹿の角みたいな神経網が生えてくる。
残りの9体のハケンのうち、1体は鰍の暗を企てて射され、
4体は「夢空間共有システム」という別な装置の制作に使用、
最後の4体は「モナド融合実験」の実験材料として使われた。
(以上は50体の決算を述べただけで、使用の時系列としては順番が微妙に異なる。)
アイが鰍のもとを訪れ、実験助手と共同研究者の中間くらいの身分で雇用されたのは、
「モナド融合実験」が行われたこの時期だった。
4体のハケンのモナドを軍用芋虫人の制御のもと融合させることによって
「鰍粒子」を放出させ、局地的にアルジャーノン指数を増大させる、というこの実験は、
鰍の予想に反して、またしても形而上物理学に否定的にでた。
アルジャーノン指数の増大は検出されなかったのだ。
鰍はさっぱりわからなくなって困惑した。
実は、鰍の形而上物理学的な成果を自分の武器として独占するため、
アイが工作し、偽りの数値と差し換えたのである。
実験の否定的な結果は、鰍とアイの共著論文として出版された。
アイの日記で経緯を知った少女は、この論文、
『軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングによるモナド融合実験』を図書室で見つけて
複雑な気分になった。

87 :
7次元時空の葦の原から4次元ガイア沈殿にチャートを開くとき、
時制は必ずしも整合的ではない。
杣台駐屯軍基地で鰍とともに「モナド融合実験」を行う前に、
「冥界」を浮遊するアイは、「モナド融合実験」の成功に
「冥界」側で立ち会っていた。
    葦の原を浮遊しながらアイは
    鰍への愛にも似た
    抱き締めたいような気持ちであふれていた。
    なんて凄い子なんだろ…
    言われてみれば、全部あなたの式の通りだよ。
    確かにこの葦の原は、あなたの式が描き出した構造に従ってる。
    何で見えたの? ―― 見たこともない癖に!!
    ―― 始まった…
    ある4本の葦の背中から羽のような糸が ぷしゅるぷしゅる と吐き出されていた。
    観察者であるアイのモナドと葦の原の相互作用としてこの状景が描かれている。
    糸はある種の海中生物の受精の場面のように、空間に充満し、空間で絡み合う。
    アルジャーノン指数は7.92×10の4乗、つまり、
    8万[au]近い指数が出てる。            ※[au]は単位である。
    もし、跳ぶ技術があったら、もう、この4体のハケンは
    チャートを開いて跳べるんじゃないかな。
「モナド融合実験」の「失敗」によって、鰍も「お遊び」を切り上げざるを得なくなった。
鰍と鰆、それに榎は、ワタリ孤児院の幼馴染である。
鰆も榎も、鰍ちゃんの「お遊び」は暇つぶしなどではない
「真剣な遊び」であることをよく理解していたから
(しかも、しばしばそこから実利実益が生み出されるのだ)、
本来中央にいるべき鰍のずるずる延びた杣台滞在を容認していたが、
そろそろ苦笑交じりに「帰還命令」を出そうかな、というタイミングだった。
鰍もそれがわかっているから、そんな「帰還命令」を出される前に帰らなければならない。
鰍は形而上物理学の研究を一時休眠させて、杣台に来た本来の目的、つまり、
ひとつの都市を丸ごと支配するためのシステムの実験的構築に戻った。
軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングは、
鰍の「お遊び」の結果、軍用芋虫人システムへとヴァージョンアップし、
より強力な支配力を獲得していたから、
鰍の「お遊び」がしばしば実利実益を生むというのは確かな事実なのだった。

88 :
41台の軍用芋虫人が百万都市である杣台全域に配備された。
鰍が貴重な休暇を過ごしに、恋人と松嶋へ旅立った日、
アイは都市演奏室にこもり、システムを強奪した。
杣台駐屯軍基地の軍事AI〈杣台SQ1〉と、
都市演奏室自体のAI、そして
アイの秘密基地のAIの
三者を連繋させて〈杣台市〉を操縦する。
軍用芋虫人システムの砲火を杣台に浴びせ、1万体以上の市民をモナド融合させると、
〈杣台市〉という群塊と〈ガイア〉のあいだに罅(ひび)を入れた。
その後、3時間くらい、
薄く引き剥がされた〈杣台市〉がメガモナドを形成し始めるあいだ、
一瞬も手がぬけない微調整を繰り返しながら待つ。
3時間後、よく寝かせた生地を焼く。つまり、
さらに4万体以上の市民をモナド融合させ、〈ガイア〉から
〈杣台市〉を完全に切り離し、一隻の次元船と成す。
あるハケンをむごく追い込んで、
「この現実」への強烈な拒絶と
「別の現実」への欲望の
情動爆発をサンプリングし、〈杣台市〉全域に投射する。
これが進水式だった。
〈杣台舟〉は〈ガイア〉から離岸し、7次元時空のなかを出航する。
NOVAへ。
松嶋は切り離される〈杣台市〉の外だった。しかし、
アルジャーノン指数の上昇のため、鰍は跳ぶ能力に目覚め、
松嶋の福裏橋のうえから7次元時空へとダイヴする。が、
〈杣台舟〉出航の乱流に揉まれ、溺れる。そこに
「黒衣の花嫁」と呼ばれる途轍もない存在が姿を現し、鰍をアイのもとに連れてゆく。
(実は、鰍の跳ぶ能力を開花させるためのトリガーを引いたのは「黒衣の花嫁」だった。
鰍が福裏島を散策している時、無数のアオスジアゲハに襲わせて、脳髄を微調整したのである。)
突然、都市演奏室に現れた鰍を見て、アイは狼狽する。
狼狽するアイを見て鰍は
(わたしは裏切られたの…?)という情動に突き動かされるまま、
「フリーズ!」と叫び、〈杣台SQ1〉と都市演奏室自体のAIを
最優先命令によって緊急停止させる。
アイの秘密基地のAIに自動記録されたアイの意識はここまで。
この後何が起こったのかはわからない。
―― たぶん、この「フリーズ!」の結果、ミクロコスモスが誕生したということよね。
秘密基地の少女は推理する。
もしかしたら、「フリーズ!」の瞬間に〈杣台舟〉は崩壊しちゃったのかも。
それでも、秘密基地は残存して、それを中心として
残骸のモナドがある程度凝集して生まれたのが
あの円盤型のミクロコスモスなのかも知れない。
表面に展開している都市はたしかに「杣台」だった。
少女は「杣台」と、そして
砂漠世界の様子をつかむために
「胎盤」に降りてみるつもりだった。

89 :
書くのがどんどんパズル化して、うー、
面白いんだけど
面倒になってきた。
>>84-88は全部書き直そうと思って、書き直し始めて、座礁してる。
なぜかというと、
秘密基地の少女は
アイの日記を読むことによって経緯を知ったはずなのに、
その時点ではアイが知らなかったはずのことについてまで言及してしまっている!
えっと、そもそもいま書いてる【砂海のロレンス篇(仮題)】は
前に書いてて未完で放棄した【柊の国篇】からスピンオフしたもので、
第3章から始めた砂海の魔少女の過去譚のなかで
さらに入れ子になってる鰍とアイの物語は【柊の国篇】から来てる。
    『機械が坂を登ったら法律ができて女っぽくなった』【柊の国篇】
    http://unkar.jp/read/etc7.2ch.net/denpa/1149045915
    356から742まで
最後の「フリーズ!」の場面、アイにとっては青天の霹靂だったはずで、
鰍が黒衣の花嫁に導かれてそこに跳んできたことは、
「フリーズ!」のあと、追いかけっこをして、仲直りした後で会話して初めて理解したことのはず。
それ以前に、そもそもアイは、
「鰍がNOVA警察を知っている」ということを知らなかったはず。
「鰍が知っている」ということをアイが知るのは、これもまた、「フリーズ!」以後の仲直りの時だった。
だから、鰍が形而上物理学を研究する動機の底にNOVA警察への興味があったことは
アイは知らなかったはず。
うわぁぁん。
ここは完全に「アイからみた鰍」で書かなければならず、
そこにむしろ【柊の国篇】での鰍の内面描写との齟齬を導入すれば、
もしちゃんと読めるレヴェルでプロが描けば、
世界のモナド性を表現する・読みごたえのある興味深い作品になりそうだけど、
テキトーにお遊びとして書くには複雑すぎるパズル…
アルジャーノン指数漸減という自然現象(か、あるいはNOVA警察の策謀)が
形而上物理学の検証実験の不成功の原因、というアイディアはSFとして充分面白いと思うんだけど、
これも鰍視点からは書けない(それはアイの知らなかった鰍の内面だから…)。
だいたい、【柊の国篇】は、
柊おぢさんという固定を磨り潰して絵の具に換えながら書いた電波的創作物なので、
「軍用芋虫犬」とか「軍用芋虫人」とか、根幹を成すアイディアが微妙にふざけてる。
【砂海のロレンス篇】が維持しているリアリティレヴェルと噛み合わない感じがする。
ロレンスをいたぶったり、
院生崩れをいぢめたりしてる時は
もっと純粋に楽しかったな…

90 :

◆第4章◆    (>>84-88は削除)
目覚めてしばらくのあいだ、何が起こったのか思い出せなかった。
ぐっすり眠ったなぁ、と思いながら、
わたし、なんで裸で寝てるんだろう… と疑問を抱いた瞬間、
虚空に蠢くギガマシーンのイメージが浮かんでくる。
夢と見分けのつかない記憶。
―― そうか。わたし跳んだんだ…
秘密基地の「外」に跳んで7次元時空を泳いだ記憶と一緒に、
丸裸で廊下を歩いた記憶とかも蘇ってくる。
―― うわぁああぁぁぁ…
少女は顔を真っ赤にしてベッドのうえでごろごろのたうちまわる。
服を着ると朝食も取らずに図書室に駆け込み杣台の写真を探す。
「胎盤」の表面に広がっていた都市は
もしかしたら杣台なのでは…? という思いつきを確かめたかったのだ。
日記によれば、アイが
鰍とともに時を過ごしたのは
杣台駐屯軍基地においてだった。
国家の少女神、鰍主任科学官は、
百万都市を意のままに操縦することができる
一種の洗脳システムの実用試験のために杣台を訪れていたが、
この地で何かのインスピレーションを得たらしく、
滞在をずるずると引き延ばしては形而上物理学の研究に没頭していた。
(杣台駐屯軍基地のある軍人との恋愛が理由だという見方もある。)
鰍は繊細な少女だったが、同時に確信犯的な天才であり、
倫理的には「悪」とされるであろうことでも
平気で境界線を踏み越えておこなった。
というか、鰍には境界線が「見えない」のだった。
そういう意味で鰍は「天然」だったが、
良い意味でも悪い意味でも「莫迦」ではなかったから、
他の人間たちにはそこに境界線が見えるということを
知らないわけではなかった。
鰍は極めて強力な肯定的現実主義者だった。
鰍の内面は一切のエクスキューズを必要としなかったから、
たとえば鰍が印象的な瞳を真っ直ぐ向けながら
    「でもね、アイ、
    わたしがもともと作りたかったのは「感情を直接伝えるメディア」だったの。
    電子的な通信って、言語化した情報を「0」「1」符号にして送るだけでしょ…?
    ホルモン系的な通信なら、状態をじかに送ることができるし、
    「濃度」「拡散」「複合」とかの流体的性質も備えてる。
    情報を言語的に送りつけるんじゃなくて、
    感情を直接媒介するの。」
と話す時、それは、
「知的な課題を追求するうちに、結果的に洗脳システムができてしまったけど、
本来の興味は違ったんだから免罪されても良いよね」
みたいな貧弱な弁明をしているわけではなく、
ただ純粋に自分の本来の欲望を肯定しているだけだった。

91 :
鰍は洗脳システムをより高性能にするため、
ハケン50体を購入し、そのうち41体に改造手術を施し、
軍用芋虫人を作った。
両手両足を切り落とされ、
断端に或る種の細胞というか、ナノマシンのペーストを塗りつけられたハケンたちは、
鰍のレクチャーを受けた高級技術兵たちの手によって、
ミイラが眠る棺みたいな装置に組み込まれ、
入出力のさまざまな管や線を繋がれる。
ペーストが塗られた断端からは、
樹の枝みたいな、あるいは鹿の角みたいな神経網が生えてくる。
軍用芋虫人初号機を作った鰍は「モナド融合実験」を企画した。
購入したハケンのうち改造手術を施さない4体を実験素材とし、
軍用芋虫人初号機を使ってモナドを融合させることによって「鰍粒子」を放出させ、
アルジャーノン指数を局地的に増大させるという実験だった。
実験助手と共同研究者の中間くらいの身分で
アイが鰍に雇用されたのはこの時期である。
榎少佐の独裁権力がほんらい鰍に期待していた任務は洗脳システムの制作だったが、
アイの見たところ、鰍のなかでの優先順位は逆転しており、軍用芋虫人を制作し
洗脳システムをグレードアップした目的は、
鰍的には「モナド融合実験」に使うため、だった。
もっとも、鰆主任経済官と榎少佐は
ワタリ孤児院での鰍の幼馴染みであり、ふたりとも鰍をよく理解していたから、
いよいよという限度がくるまで鰍が「遊ぶ」のを放任している様子だった。
アルジャーノン指数とは時空域の形而上物理学的な可塑性を示す指標で、
これがゼロのとき、形而上物理学は従来の物理学と一致する。
「冥界」から「地上」に降りたアイが眼にした世界(※)では、
形而上物理学という分野は、
一時の爆発的な流行の後、すっかり廃れ、
ともすれば「トンデモ科学」なみに見られていた。
物理学としてはまともに相手にされず、たとえば京部大学の大森教授なども、
形而上物理学を数学の一種として研究していたのである。
なにしろ、検証実験で結果が出ないのだ。
いや、単に結果がでないよりももっと性質が悪い。
初期の―― アルジャーノンの相対性原理が提出され、モヨコの定理が証明された頃の
いくつかの検証実験では、確かに画期的な結果が出たのだ。
成功したはずの検証実験を、追試すると失敗するという結果は、
初期の成功が捏造だったのではないかというスキャンダルまで生んだ。
世間的にはこれが「形而上物理学の最期」だった。
アイの眼には、ことの真相が明瞭に見えた。
つまり、この時空流ではアルジャーノン指数が漸減しているのだから、
「成功したはずの検証実験を、追試すると失敗する」というのは当然のことなのだ。
(※ アイはある時点以後の記憶しか持たないので、
別の世界ではどうなのか、ほんとうのところは知らない。
なお、形而上物理学が教えるところによれば、「現実世界」とは、
同一カオスを漂うモナドたちから析出する不確かな沈殿膜に過ぎず、
「世界」は曖昧に分岐したり、不意に途絶したり、互いに並行したりすることがありうる。
このとき、整合性は特に尊重されない。なぜなら、
整合性とか論理の成立とかは、沈殿の結晶度の帰結でしかないからだ。
たとえば、「タイムトラベラー」が何らかの「パラドックス」を引き起こす行動をとったとしても、
それは単に、その「タイムトラベラー」のモナドの周辺で沈殿が掻き乱されるだけで、
「世界」は別に困らない。)

92 :
形而上物理学の爆発期を体験している
古株の形而上物理学者(たいてい学者としては引退している)や、
現役の学者でも「上のほう」にいる者たちは、
極秘事項として「NOVA警察」を知っているらしく、
アイも、極めて優秀な院生として、飲みの席などで、
大森教授から「ことの真相」について冗談めかして「ヒント」をもらうことがあった。
    「現実にはアルジャーノン指数はゼロだ。
    したがって、数学としての形而上物理学がどんな主張を証明したとしても、
    それにゼロを掛けた事柄しか、現実には起こらない。
    しかしだ、もし、7次元時空に、ふふっ、「宇宙人」が棲みついていて、
    時空域のアルジャーノン指数を低下させる
    「土木工事」をおこなっていたとしたら、どうだ。」
あまり頭の良くない他の院生が、教授の冗談に相槌をうつつもりで、
「先生、意外とアニメとか見られるんですか?」と割り込んでくると、
大森教授はアイの眼を一瞬真剣に凝視めたあと、視線をそらし、その院生のほうを向いて、
「意外じゃないよ、ふつーに見るだろ。」と言った。
「ヒント」を語るためのレトリックなのか、ある程度本気なのか、大森教授が口にしたように、
この時空流におけるアルジャーノン指数漸減の原因を
NOVA警察による時空的な「土木工事」に見る仮説は、
アイ自身、検討してみたことがあったが、果たして正しいのかどうか判断がつかなかった。
単なる自然現象という可能性も充分考えられるのだ。
鰍の「モナド融合実験」は形而上物理学の閉塞状況に風穴を開けるものだった。
4体のハケンをモナド融合させることによって「鰍粒子」を放出させ、局地的にアルジャーノン指数を増大させる。
時空域のアルジャーノン指数がほぼゼロだから検証実験が否定的に終わるのだとすれば、
アルジャーノン指数を増大させればよいのだ。
「冥界」と「下界」で、時制は必ずしも整合的とは限らない。アイは、実験の首尾を
「冥界」側で目撃したあとで、同じその実験を
「下界」で鰍と一緒に実行するのだった。
    ―― 始まった…
    ある4本の葦の背中から羽のような糸が ぷしゅるぷしゅる と吐き出されていた。
    観察者であるアイのモナドと葦の原の相互作用としてこの状景が描かれている。
    糸はある種の海中生物の受精の場面のように、空間に充満し、空間で絡み合う。
    アルジャーノン指数は7.92×10の4乗、つまり、
    8万[au]近い指数が出てる。            ※[au]は単位である。
    もし、跳ぶ技術があったら、もう、この4体のハケンは
    チャートを開いて跳べるんじゃないかな。
            ◆◇◆
    実験が終わった第1研究室で、鰍が「あーあ」と溜め息をついている。
    4体のハケンをぐちゃぐちゃの臓物の塊になるまで追い込んで、
    しかも新開発の軍用芋虫人に制御させてより繊細な演奏をしたのに、
    ―― 実験は失敗だった。
    アルジャーノン指数は
    4.79×10のマイナス7乗から5.01×10のマイナス7乗までしか上がらなかった。
    これではとても形而上物理学を積極的に肯定する結果にはなっていない。
    「わたしが間違ってたのかなー
    もしかしたらわたしが間違ってたことがわかった、
    という成果を得た実験なのかも知れないけど、
    うー もうちょっと考えてみます。きょうはありがとう。解散します」

93 :
「冥界」では成功していたはずの実験が、「下界」では「不成功」に終わった。
アイが実験装置に介入して、偽りの結果を出力させたのだ。
もし実験が成功していたら、
形而上物理学にとっては衝撃的なブレイクスルーであり、死せる巨人が蘇っていたはずだが、
いっぽう、百万都市への洗脳システムの配備という点では、
システムの形而上物理学的な側面の検討が済むまで、計画の一時凍結をまねくだろう。
なにしろ、その装置(軍用芋虫人)によって「モナド融合」がもたらされるのだ。
だが、軍用芋虫人システムの杣台への実戦配備が遅れるのは、
アイにとっては好ましくなかった。
アルジャーノン指数が漸減するこの時空流から有意義に脱出するための計画が、
アイのなかでじょじょに形を成してきていた。
杣台に実戦配備された軍用芋虫人システムの制御を簒奪し、
何万体もの市民をモナド融合させて百万都市杣台をガイアから切り離す。
〈杣台市〉を一個のギガモナドに仕立て上げ、〈舟〉を作る。そして、
「モナド融合ドライブ」を推進力として〈真空〉のなかを航海し、
目差すのだ、究極の特異点、NOVAを。
「モナド融合実験」の「失敗」を受け、何か喰い違うものを感じながらも
鰍は「遊び」から一時撤退することを決め、
形而上物理学に関する研究結果を一種の数学としてまとめた。こうして出版されたのが
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』である。
鰍は本来の業務に戻り、軍用芋虫人システムを完成させた。
41体の軍用芋虫人が杣台に実戦配備されると、いい加減オーバーワークな
鰍は、ひと息つくため、恋人と松嶋に小旅行に出た。
アイはその日、午前9時に、
都市演奏室(杣台駐屯軍基地・司令ビル地下深くに新設された)に姿を現すと部屋をロックし、
軍用芋虫人システムの操縦席に着座した。
    午前10時、アイは正面の巨大プラズマ・ディスプレイ上の
    地図画面を縮小し、41の分割画面を出して
    軍用芋虫人の埋まっている地点のリアルタイム監視カメラ映像を映させる。
    作戦を開始する前に
    こころのなかの鰍に別れを告げる。
    バイバイ、天才少女。
    大好きよ。―― 時空のどこかで、
    また会えたら好いね。
そして、軍用芋虫人システムの砲火を杣台に浴びせ、1万体以上の市民をモナド融合させる。
〈杣台市〉という群塊と〈ガイア〉のあいだに罅(ひび)を入れ、その後、3時間くらい、
〈ガイア〉から薄く引き剥がされた〈杣台市〉がメガモナドを形成し始めるあいだ、
一瞬も手が抜けない微調整を繰り返す。
杣台駐屯軍基地の軍事AI〈杣台SQ1〉と、
都市演奏室自体のAI、そして
アイの秘密基地のAIの三者を連繋させて
〈杣台市〉を小刻みに操縦するのだ。
3時間後、よく寝かせた生地を焼く。つまり、さらに4万体以上の市民をモナド融合させ、
〈杣台市〉を〈ガイア〉から完全に切り離す。ある生け贄のハケンをむごく追い込み、
「この現実」への強烈な拒絶と「別の現実」への痛切な欲望を爆発させ、
サンプリングした情動爆発を〈杣台市〉全域に投射する。
いぃいいいぃいいぃああらぁあああぁあああぁあああああぁあああああああーーーー
これが進水式だった。
〈杣台舟〉は〈ガイア〉から離岸し、7次元時空のなかへ出航する。

94 :
ヴァーチャルリアリティシステム《窓》の語り(=騙り)で「日記を読む」のは、
アイとして生きる夢をみるみたいな感じがする。
「日記」は、アイの脳状態がある集中レヴェルに達すると
脳内の補助電脳が自動的にデータをコピーしストックしておいて、
不定期に秘密基地のAIに送信する、という仕組みで「筆記」されていたらしい。
アイが自覚的に「これ、日記に書こう」と意識して生活印象に集中する場合もあるし、
機械的に自動記録される場合もある。
    出航させた〈杣台市〉をアイが都市演奏室で操縦していると、不意に
    扉を開けて鰍が現れた。
    「アイ! 信じられる? わたし、跳べたんだよ? 松嶋からここまで跳んできたの!」
    アイを眼にした鰍は、興奮して笑いながら叫ぶように言った。
    「一代の奇書とか、美しい数学理論のあいだに一部妄想を含むとか言われていた
    『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』は、やっぱり嘘じゃなかったの。
    アルジャーノン指数が高まれば、ちゃんと跳べるの!」
    興奮した鰍の表情が、じょじょに染み込んできた違和感に冷えてゆく。
    部屋中の液晶画面が点っている。
    正面の巨大プラズマ・ディスプレイに映し出されている杣台市の地図と、沢山の分割画面。
    フル稼働している都市演奏室の設備。
    話を途中で止めた〈杣台SQ1〉の声。
    コックピット座席から立ち上がるアイ。
日記に記録されたアイは、予想外の事態に狼狽している。
惹かれてやまない天才少女には、自分のなかでは、既に永遠の別れを告げたつもりでいたのだ。
松嶋は〈杣台市〉の圏外だけど、アルジャーノン指数は
鰍ちゃんが跳べる程度には増大してしまったみたいね…、とだけ、脳の片隅で分析する。
    鰍が冷たい声で訊く。
    「アイ、ここで何をしていたの?」
    アイは答えない。
    「アイ、答えて。ここで何をしていたの?」
    アイは答えない。鰍は直感で何かを悟り、悲鳴のような大声で命じた。
    「フリィィィーズ!!」
    〈杣台SQ1〉と都市演奏室の全システムが、緊急最優先命令によって凍結した。
これが日記の「最後のページ」である。
秘密基地のAIに自動記録されていたアイの意識はここまでだった。
この後、何が起きたのかはわからない。
―― 「フリーズ!」の結果、ミクロコスモスが誕生したということかな…
秘密基地の少女は推理する。
「フリーズ!」の瞬間に〈杣台舟〉は崩壊しちゃったのかも。
それでも、秘密基地は残存して、それを中心として
残骸のモナドが凝集して生まれたのが
あの円盤型のミクロコスモス…?
表面に展開している都市はたしかに「杣台」だった。
少女は「杣台」と、そして
砂漠世界の様子をつかむために、
「胎盤」に降りてみるつもりだった。

95 :
【手首袋 晒首輪 腹斬巻 膝裂枕】
僕が生まれた朝に、死んだ祖母が枕元に立ってこう言ったのだ。
「その昔、あれは宇宙開闢の遥か7の19乗億年程前のこと。
まだクォークも知らない村に
一人の男の子が産声を上げた。それがお前だよ。
だが子宮から顔を出した瞬間に、その頭の下には膝裂枕があった。
村人の間に戦慄が走ったよ。そこでお前はこう叫んだのさ。
「俺の祖母が太古はPhilosopherしか存在しなかったと主張するけど、
そんなの嘘っぱちだね。
どうして奴らを捕食する部族Cannibalを隠そうとするんだ。
俺は今からこの腹斬巻で自害する。
俺の腹を食い破った祖母が必ず弁解するだろう。きっとこう言うんだ。
「それはどうかしら。晒首輪を掛けるでもなし、掛けられるでもない存在、
Analystもいたことを知らなかったとは言わせないわ。
だけども、Cannibalを圧倒する者としての存在Analyst、
実に禍々しい存在が7の19乗億年後に誕生するのを私は知っているの。
手首袋を頚動脈の切れ目に下げた忌むべき男は憎々しげにこう嘯いたのよ。
【ポンプ 定規 新箪笥 みょうが】

96 :
第4章で【柊の国篇】のダイジェストを続けると物語が止まってしまう…
これなら物語が続く、という線をひとつ思いついたけど、書いてる時間があるかわからない。
とりあえず第1〜3章を整理しとく。
『機械が坂を登ったら法律ができて女っぽくなった』【砂海のロレンス篇(仮題)】
◆◆第1章◆◆
>>21 砂海の表面は横たわる火薬少女のボディラインみたいな起伏。奴隷商人のロレンス。下僕王子の恋。
>>23 砂蟲に襲われたロレンスは黒い翼を持つ少女に助けられる。ロレンスの痣。
>>25 少女はロレンスに「月面タブレット、わたしにちょうだい。」と言う。コーヒー・パイプライン。
>>30 ワイヨの「人間のための環境」運動。少女は超能力でワイヨのパイプラインを切断する。
>>31 微塵切りにされた下僕王子の肉霧。「悪魔か、この女(あま)は。」
>>33 肉霧がロレンスに見せる下僕王子のロレンスへの欲望。ロレンスの愚行。少女は舟を両断する。
>>34 ワイヨ軍警備隊第7班。少女はロレンスに対し聞く耳を持たない。
◆◆第2章◆◆
>>35 ロレンスの話を誰も信じない、特務機関のムスカ少佐以外は。
>>37 「黒い翼の少女」は敵の仕組んだイリュージョンである可能性の示唆。
>>42 偽りの月。ワイヨが有人飛行機械を創ろうとすると偽りの月から怪光線が飛んでくる。バツク村の消滅。
>>45 JKゆみちゃんと院生崩れのロレンス(って誰だよ)。
>>50 院生崩れのロレンス(って誰だよ)と3人娘ゆみ、美亜、鮎。
>>52 院生崩れのロレンス(って誰だよ)は3人娘のために京部アニメのシステムに侵入してやる。
>>53 院生崩れのロレンス(って誰だよ)が罠にかかる。土砂降りに降り注いでくるロレンスの設定資料。
>>54 この状況は「土倉真倉(ドグラマグラ)」という不可逆洗脳ウイルスではないのか?
>>57 院生崩れのロレンス(って誰だよ)の頭部を覆う箱が仮想現実として再現する・編集改変されたリアル。
>>58 ディスプレイ画面に映るこの部屋のなかで、砂海の魔少女が3人娘を惨してゆく。耳元の蜜のような甘い声。
>>62 背中に押し当てられる弾力のある柔らかい膨らみ。院生崩れのロレンス(って誰だよ)は現実を放棄する。

97 :
◆◆第3章◆◆
>>64 眼を覚ましたロレンスはベッドのうえで、傍らにはムスカ少佐。軍医とナース。
>>65 ナースの衣装を着た砂海の魔少女はムスカ少佐を千枚の平行平面でスライスする。
>>66 設定資料で月面タブレットについて知らされていたロレンスは跳ぶ。虚空のなかのガイア。胎盤と胎児。
>>67 砂海の魔少女は3か月前、ふかふかのお布団のなか裸で目覚めた。記憶を持たずに。
>>68 図書室を見つけ、この謎の施設が「アイの秘密基地」であることを知る。
>>70 形而上物理学。モヨコの定理。「4次元世界」とはアーカーシャのなかモナドたちが分泌する不確かな沈殿膜である。
>>71 モヨコ双対モナドのモジュライ構造、葦の原。
>>72 葦の原でテイスティングするアイ。NOVA警察。
>>73 アイの時間的前方に展開するガイアの支流ではアルジャーノン指数が漸減し、ゼロになろうとしていた。
>>74 『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』の著者、鰍ちゃん。エロマンガ『少女帯を解く』。
>>78 性的な意味で寝つけない少女は夢うつつな気分のまま裸になって廊下を歩く。
>>79 バスタブに背中をあずけてゆったりするうち意識が解けてアーカーシャへと跳ぶ。虚空のなかのガイア。胎盤と胎児。
◆◆第4章◆◆
>>84-88 削除。
>>89
>>90-94 これも削除。
    『機械が坂を登ったら法律ができて女っぽくなった』【柊の国篇】
    http://unkar.jp/read/etc7.2ch.net/denpa/1149045915
    356から742まで

98 :
【ポンプ 定規 新箪笥 みょうが】
200X年
核戦争が勃発したわけでもないのに日本は荒廃するだろう
スイーツ業界でデフレが進行するだろう
金のエンゼルは銅のエンゼルになるだろう
銀のエンゼルはアルミのエンゼルになるだろう
200M年
アル中病棟で雲形定規が流行するだろう
山田君が出世して最新箪笥を運ぶだろう
200F年
ポンプキンヘッドの新社会人は空気を読まないだろう
園児たちはみょうがを肴にワカメ酒を嗜むだろう
世紀末は遠いだろう
【戦死 鉗子 乱視 尊師】

99 :
【戦死 鉗子 乱視 尊師】
ーモンスターは存在した。
話はこうだ。ある中年男が朝目覚めると股間に違和感があった。
布団をめくってみるとそこには歯のある女性器型の生物が
そう確かに生きていた、歯のある女性器が股座で蠢いていたのだ。
脳が理解を拒んだ時にはかえって思考がクリアーになるらしく
男はベッドからゆっくりと身を起こし、乱視矯正のグラスをかけ
まだ"無事"であることを確認して顔を洗いに洗面所へと向かった。
男にはコンプレックスがあった、ひとつはハゲていること。
彼の頭髪はすっかり後退している。そしてもうひとつはであること。
毎晩夢を見る。いや、夢か現実かの区別がついていたかは分からない。
美しい女性と暗がりの中で踊っている、墓地で戦死した戦友を悼む祖父の写真。
脈絡のない記憶がカフェインを摂取する毎に超スピードで耳の横を通り抜けて行く。
最初に愛した女が出入りしているのは他の男の家。1,2,3,4・・・入っては消える。
インターホンの音、覚醒、焦燥…飲んでいるコーヒーに砂が混じり、それが舌を削ぎ、熱を持つ。
愛用しているダッチワイフに空気を吹き込み、涎と鮮血で顎をべとべとにしながら事に及ぶ。
どこからともなく聞こえてくる嬌声は彼を苛んだ。禿げ上がった額がパックリと口を開け罵ってくる。
ある種の強迫観念は、狂気を駆り立てる。机の前に立ち、鉗子で包皮を固定し一本一本釘を打った。
脂汗がじっとりと滲み、再びインターホンが鳴った。ベランダのカラスと目が合った。午後2時だった。
来客は好青年に見えるスーツ姿の男。
ラペルの白い粉に意識が奪われ、尊師がどうたらと話していた彼の言葉は遠ざかった。
砂混じりのコーヒーを彼に出したが、一口も口をつけずにまくし立ててくる。 
「あなた・・・分かりますよ・・・女性・・・は・・・ですよね・・・」
酷薄な笑みを浮かべるスーツの男に、体中の毛穴から血を噴き出し絶命させるイメージを送り続けた。
男は洗面所で昨日のことを思い出していた。
その後、件のクレイジーサイコスーツは死んだ。死んだに決まってる。絶対死んだ。したもん。
洗顔を済ませ、ベッドルームに戻ると夢であればとあれ程願った現実が待っていた。
カチカチカチカチと歯を鳴らしながら「ねぇ、忘れたの?あの時の事、忘れてしまったの?」と話しかけてくる。
いびつに歪んだ男の体を、ある鮮明な記憶が貫いた。
「プロポーズ・・・」 呟いた男の前に美しい女性が姿を現した。
「思い出してくれたのね」 ーモンスターは嬉しそうに微笑んだ。
Vagina Dentata(歯のある膣)
古くから男性の恐怖の象徴として存在している妖怪
【墨 ハードラック セガ 歯科】

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