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2011年11月1期25: 【三題使って】 三題噺その3 【なんでも創作】 (703) TOP カテ一覧 スレ一覧

【三題使って】 三題噺その3 【なんでも創作】


1 :10/10/25 〜 最終レス :11/11/11
三つのお題をすべて使って創作するスレです。
創作ならなんでも可。
折を見て新しいお題を出し合います。
過去のお題の投下もどうぞ。
お題の提出は一人一題まで。早い者勝ちです。
お題クレクレ以外はsage推奨です。
初代スレ 三題噺
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219901189/
前スレ 【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239028681/

2 :

  ○  >>1 乙 もうお前に用はない 
 く|)へ
  〉   ヽ○ノ
 ̄ ̄7  ヘ/
  /   ノ
  |
 /
 |


3 :
お題を決めるぞ
「ダンディなかっこいいおじ様」
「日本鬼子」
「ハルトシュラー」
冗談だ!

4 :
おお、三題噺スレ立ったんだ
>>1乙です!
まずはお題か
>>3はどれか一つ有効にするの?
ベタだけど
「かぼちゃ」
でひとつ

5 :
おお、乙です乙です。自分で立てようかどうしようか迷ってたのでありがたいw

6 :
>>4
まあ、冗談って言ってるから、一先ず向こうでいいんじゃないかな?w
どれも単体お題(?)でスレ(もしくは企画)があるし。

7 :
>>6
おk
んじゃ、あと二つは他の方に↓

8 :
 

  ヽo/ スタッ
        |__
  __| |    三題噺スレは蘇るのさ、何度でも!
早速お題だ!「軍艦」

9 :
………なんという様だ

10 :
お題「天気予報」でお頼申します

11 :
初めてここで投下します。
「カボチャ」「軍艦」「天気予報」ですが、こういうのが出来ました。

12 :
学校の図書館で舟をこいでいた。うつらうつらとしているつもりが、いつの間にかに夢の中に紛れ込んでしまった。
秋の日差しは意地悪で、ガラス窓越しにぼくの時間を奪ってゆく。だから、気が付くと夕方近いと傾く太陽が教えてくれた。
「……どっかで見たような」
いつものように律儀に沈む夕日に、日常を感じているなかぼくが枕にしていた机の上に日常からかけ離れた日常のようなものがいつの間にか転がっていた。
見た目は普通の竹とんぼ、ただ竹を削って作られたものではなくプラスチックのような肌触り。手に取ると小さな体の割には
意外とずしりと重くくるものがあった。羽根の中心から軸が伸び、吸盤のような半球状の皿。竹とんぼを立てようと思えば立てられる。
ぼくはその竹とんぼを机に立ててみると、Tの字をした薄い影が机に伸びて横たわっていった。
なにが本当で、なにがウソ。眠気まなこにこの質問はきつい。ウソならウソで諦めがつくけど、微かな希望がぼくを揺り動かす。
好奇心は恐ろしい。
そんなつもりは無いのに、体が勝手に思考を逸脱してくる。
小さい頃いつもどこかで見ていたことがあったからか、そうすることが当たり前のような行動を取る。
不思議がることなく小さい頃見ていたように竹とんぼを手に取り指で摘み、そして小さい頃見ていたように頭の上に乗せてみる。
言い訳がましく自分の行動を恥じると、竹とんぼはぼくの頭の上にちょこんと立った。まるでさっきぼくが机の上に立てたように。
不確かな自信がぼくを動かす。小さい頃いつも見ていたように窓を開けて、図書館から抜け出すとぼくの体はふわりと宙に浮いていった。
ぼくの気持ちを汲んでか、竹とんぼの羽根は季節外れの扇風機のように廻りだす。風が心地よい。
本当だったんだ。
当たり前だと思っていた。
だって、本に書いてあることは本当だもん。
テレビの言うことは本当だもん。
ネットの書き込みだってウソつかないもん。
しかし、それがオトナの戯言だと知ったのはいつの頃だろう。
オトナは本当のことを教えてくれない。
イチョウの木によじ登っていた小学校の頃か、オンナノコに心傾きかけた中学校の頃だろうか。
いつかは分からない。オトナの言うことは真面目な顔でぶちまける天気予報でさえ、嘘っぱちに聞こえてきた。
「降水確率は100パーセント、傘の準備は必要ありません」
だが、それらが本当のことだと知った今、すうっと秋の空に吸い込まれる自分が否定できなくなった。
唯一の自分の眼に見せ付けられたら、これを拒む方がおかしい。
本当だったんだ。
ぼくの足元はグラウンドからはるか高く、手元は自由すぎてつかまるものが欲しいぐらいの不安がよぎる。
町が遠く見える。人が小さく見える。大きく旋回しながらグラウンドを廻ると、ウソだと疑っていたことが本当のことに見えてきた。
「本当だったんだ」
そうなのだ。
制服のカーディガンだけでは空気が通り体中の体温を奪ってしまう。「空を自由に飛べる」のはいいが「自由」の引き換えが酷過ぎる。
ぼくはグラウンドの上を彷徨いながら、校舎の屋上へと進路を固めた。竹とんぼはぼくの意のままに屋上へと誘う。脚が少し重い。

13 :
「乾っ。なにやってるのよ!」
まさか屋上で誰かから見上げられるとは思わなかった。ぼくの名を呼ぶ者が、上目遣いで屋上に居るとは思わなかった。
同じクラスの岩見が一人で料理の本をかじりつくように読み漁っているところだったのだ。
両膝を閉じて短いスカートを庇うように、岩見は座ったまま丸くなる。まさか上空から発見されるとは思っていなかったのだろうか。
顔は上から良く見えないが、きっと頬を紅くしている。多分頬を紅くしている。
岩見はクラスでは割りと目立たない方なのだ。だが、結構世話焼きとも聞いている。両親は共働きで小さい弟がいるかららしい。
少し岩見の『子どもっぽい』ところを垣間見たような気がする。岩見はぼくにはバレバレの本を隠してすっと立ち上がる。
「なにやってるの、乾」
「岩見こそ。こっちが聞きたいよ」
「教えたくない」
ぼくの目に狂いがなければ、岩見はきっと料理のレパートリーを増やそうと一人で研究していたに違いない。
学校に居るときさえも家事のことを考えなければならない岩見が、ぼくと同い年なのにオトナに見えてきた。うそつきなオトナに。
岩見が手にしている『四季の野菜クッキング100』と題された本には、後ろのページに固まって付箋紙が顔を見せているゆえ、
いくら岩見が隠そうとしても、彼女より上方で漂うぼくからは何をしているのかは筒抜けなのである。
オトナな顔を見せる岩見も同い年の子。
「やってみたんだ。乾も」
「なんのこと」
「ほら、頭の上の竹とんぼ」
ぼくが「屋上に降りたい」と願うと、竹とんぼは素直にぼくを屋上へとゆっくり下降を許してくれた
空から屋上に降りることは始めての体験。正直、自分が降り立つ屋上が少しずつ近づいてくるのが見えるのは怖かったが、
母船に帰還してきた飛行機を労うように屋上が受け入れてくれたのが優しかった。弾みで二、三歩進む。
とん。と、上靴がタイルに触れる感触が何故か慣れない。しっかり屋上に立っているというのに今だ空の上の感覚が続く。
ただ、空を飛んでいたときと同じように風が吹いていた。ある意味、屋上も空の上と等しい。
煽られて岩見のスカートがふわりと舞う。岩見が頬を紅くする。そして、恥ずかしそうにぼくの頭上を一瞥する。
気になっているのは竹とんぼ。
「最近、流行ってるってね」
「うん。お弁当作ってくる男子もクラスで増えてるしね」
「違う!お料理の話なんかしたくないし」
岩見をわざと怒らせるのは楽しい。読み込まれて元の厚さよりも厚くなった本を隠しきれない岩見が面白い。
頬を紅くして肩を小さくする岩見とぼくの間を風が通り抜ける。秋めいた風はぼくらには薄情だ。
「乾の頭の上のヤツだよっ」

14 :
風はお構いなしにぼくらをなぞる。だが、空を飛んでいたときより寒く感じないのは不思議なことだった。
「いいなっ。乾は空が飛べて」
「岩見も飛べると思うよ」
「そういう意味じゃないの。いつでも空が飛べていいなっ」
急に屋上の風は冷たくなり、岩見はスカートを抑えるのに必死だ。岩見の指が傷だらけだった。
オンナノコをやりながら女の子なことを悔む岩見は、自由に空を飛べるぼくを羨ましがる。
不思議がるぼくのことを「鈍感」と一蹴すると、少女の顔を取り戻して岩見がしおらしくなった。
「ほら、チュニックとかフリルのついたかわいめなゆるーい服着て飛んだら、風をバタバタ受けてすんごく疲れるでしょ。靴だって落っことしそうだし。
かと言って、体の線が出る服は嫌だな。いいなあ、男子って。そいつさえあれば、飛びたいなって思ったときに空を飛べるんだからさ」
「女の子も大変だね」
こくりと頷く岩見に女の子らしさを見た。
傷だらけの指はきっと料理の最中につけたものだろう。弱音を見せないのは、本当のことを言いたくないから。
それをそっとしてあげるのは『男の子』の役目であり、気付いてあげるのは『男子』の役目なのだ。
ウソはもう、たくさん。
「……きょうさ、寒くない?飛んできたばかりでしょ?空を。乾、風邪引くからさ、大根のはちみつ漬け作ってあげよっか?」
確かに岩見の言う通りに寒い。想像以上に寒かった。秋のせいではないことぐらいは分かっている。
カーディガンだけでは限界がある。鼻をちょっとすするのを岩見は聞き逃さない。
「うん……風邪引くかも」
「引いちゃいなさいよ」
「ひどい」
「でも、よく言うじゃない……ほら」
「バカは風邪……」
「ちがう。冬至にカボチャを」
「食べると風邪を引かない。そのくらい知ってるよ」
岩見はぼくの頭の竹とんぼをひったくってニコリと笑った。
さも興味なさそうに、ぼくの竹とんぼは岩見の手に奪われた。興味なさそうに。
「乾のバカー。冬至が来る前に風邪引いちゃえ」
もしかしてオトナより女の子の方が本当のことを教えてくれないのかもしれない。
冬が来る。
おしまい。

15 :
ネコ型ロボットのマンガのおまーじゅです。
投下終わり。

16 :
おじゃましまーす。
【お題】
>>4 かぼちゃ
>>8 軍艦
>>10 天気予報
17レス投下します。

17 :
   

18 :

「軍曹、現状の報告をせよ」
「はっ。当艦は戦闘海域まで現在50キロの位置です。到着予定は約1時間後となります」
「現地の天候は」
「観測班から、当分低気圧の接近はないものと報告を受けております」
「そうか、ならば、作戦の遂行に支障はないな」
艦橋にある司令官用の椅子に座るいかつい顔をした男と、
軍曹と呼ばれた、これまたいかつい顔をした男が、硬い表情で話し合っていた。
ここは、国際法によって指定された戦闘海域から少し離れた海上。
見渡す限り、空と海以外何も見えない場所だ。
戦闘海域とはすなわち、国と国が戦争を行うための場所であって、
流れ弾による被害などをなくすため、陸地からかなり遠方の海域が指定されていた。
周りに陸地は全くなく、風もなく、波もほとんどなく、穏やかな水面がただただ広がっていた。
そして、その海の上に一隻の、

19 :

一個のかぼちゃが浮いていた。

20 :
    

21 :
    

22 :

生意気にも推進装置をそなえ、白波を立てて海上をゆるゆると進んでいる。
ヘタに当たる部分には艦橋がそびえ立ち、艦首?と思われる部分には、
主砲が一門と副砲が二門備え付けられていた。
艦橋で作戦を話し合っている司令官や軍曹の周りでは、かぼちゃ頭の兵士たちが
船の操縦を行っている。もちろん、司令官も軍曹もかぼちゃ頭だ。
そりゃあ、いかつい顔で硬い表情なのもうなずけるというものだ。
「今日は、我らかぼちゃ王国の憎きライバル、にんじん帝国との決着の日だ。なんとしても負けるわけにはいかん」
「もちろんそうですとも。国際法により、最後の決着は双方の国が一隻ずつの戦艦を出して戦うことになっています。
一対一であれば、我が国最強のこの艦が破れることはありません」
「うむ。しかし、油断は禁物だぞ。少しの隙も見せず、完膚なきまでに奴らの艦を叩きのめすのだ」
「はっ、心得ております」
こうして、いかつい顔の兵士たちをのせたかぼちゃ軍艦は、にんじん帝国の待つ海へと邁進するのであった。

23 :
        

24 :

かぼちゃ戦艦が指定された戦闘海域に到着すると、そこにはすでに、
にんじん帝国のにんじん戦艦が待ち受けていた。
朱色に染まった細長いシルエットのど真ん中、茎にあたる部分に、
大口径の主砲が備え付けられているのが見える。
艦は後ろに行くほど先細り、前に行くほど太くなる構造だ。
スマートな見た目とは裏腹に、なんとも水の抵抗が強そうな戦艦だった。
「艦長。どうやら敵は、あの波do砲のような主砲で、一撃必を狙っているようですね」
「そのようだな。あの艦の真正面に立つのは非常に危険だ。周りを旋回しながら、細かく攻撃を仕掛けていくことにしよう」
「了解いたしました」
軍曹の指示が飛び、艦橋の兵士たちが艦の操作を行う。
まもなく、指定された戦闘開始時刻だった。
かぼちゃ戦艦とにんじん戦艦は、互いに横腹を向けた状態で、静かににらみ合っていた。

25 :
       

26 :

ぴっ  ぴっ  ぴっ  ぽーん
お昼の時報が鳴り、戦闘の開始が告げられた。
かぼちゃ王国のお茶の間では、今頃、サングラスをかけたかぼちゃ司会者が
いつものあのセリフを観客に叫んでいるころだろう。
「諸君! 今まさに、この戦争最後の火ぶたが切って落とされた。勝利に向け、粉骨砕身の活躍をしてくれるかな?」
「いいともー!!」
司令官の号令と共に、兵士たちがときの声を上げる。
双方の戦艦が動き出し、戦闘状態へと突入した。

27 :
       

28 :

当初の予想通り、にんじん戦艦は主砲攻撃を行うために、
かぼちゃ戦艦に艦首を向ける針路を取り始めた。
かぼちゃ戦艦は相手の旋回速度に合わせ、
常に相手の横側を見るように、艦首の真正面に入らないように針路をとる。
にんじん戦艦は、細長い胴体が災いして、艦の回頭速度は非常に遅かった。
一方、かぼちゃ戦艦はまん丸であるため、回頭をすばやく行うことができ、
いまだこちらに横腹をさらしているにんじん戦艦の方角に艦首を向け、
主砲の照準を合わせることができた。

29 :
     

30 :

「艦長、砲撃手より、主砲発射準備完了の報が入りました」
「よし、主砲発射! にんじん戦艦を沈めるのだ!」
主砲発射! 主砲発射!
兵士たちの復唱が艦内をこだまのように響いていく。
間もなく、轟音と共に一発の砲弾がかぼちゃ戦艦から発射された。
どかん!
砲弾は放物線を描きながらにんじん戦艦に向かい、艦尾に近い甲板上に命中した。
にんじん戦艦から煙が立ち上る。撃沈にはいたらなかったが、確実にダメージを与えることができた。

31 :

「主砲命中! 次弾装填!」
「主砲命中! 次弾装填!」
命令と復唱が艦内を飛び交う。砲兵が主砲の発射準備を行う間、副砲の機関銃により、
にんじん戦艦へ威嚇射撃が行われる。統制のとれた兵士たちは素早く次弾の装填を行い、
敵がこちらへ艦首を向ける前に、再度主砲発射の準備が完了した。
「艦長、主砲発射準備完了です!」
「次こそ、敵の戦艦を沈めるのだ! 主砲発射! 我が祖国に勝利を!」
主砲発射! 主砲発射!
さきほどと同じように、兵士たちが口々に復唱を行う。
そして、照準の微調整が完了し、今まさに主砲が放たれんとした瞬間、

32 :
     

33 :

ずがーん!!
かぼちゃ戦艦に激しい轟音が響く。
強烈な衝撃が艦体を貫き、続いて立っているのが困難なほどの震動が兵士たちに襲いかかる。
これは、敵の攻撃により、かぼちゃ戦艦で爆発が起こったことを示していた。
「軍曹! いったい何が起こった!!」
「分かりません! にんじん戦艦からは、一発の砲撃も魚雷も発射されていません!」
艦橋内は混乱を極めていた。様々な情報が錯綜するが、確実な報告はいまだ入ってこない。
「被害個所の確認を急げ! 隔壁を閉鎖! 浸水を食い止めろ!」
「負傷兵を救護室に運べ! 看護兵は何をしている! 早く手当てに向かうんだ!」
これ以上の被害を食い止めるため、様々な役割の兵士が縦横無尽に艦内を走り回る。
一時的に混乱はしたが、厳しい訓練を受けている軍人達である。
すぐに統制を取り戻し、迎撃態勢に着いた。

34 :
      

35 :

「うむ、うむ、よし! 艦長! 爆発の原因が分かりました! にんじん帝国の潜水艦です!」
「なに、潜水艦だと?!」
「観測班が、ソナーに潜水艦二隻の船影を捉えました。先ほどの爆発は、この潜水艦からの魚雷です!」
軍曹が、艦長に向けて先ほどの攻撃の報告を行う。
観測班が覗き込むレーダーソナーには、黒い点が二つ、かぼちゃ戦艦の後方に映っていた。

36 :

「どういうことだ! この戦いは、戦艦同士の一騎打ちではないのか!」
「にんじん帝国は国際法を破って潜水艦を隠し、不利になればこちらを攻撃するつもりだったようです!」
「なんとひきょうな……。くっ! 操舵手に命令! 最大船速! 当艦は戦闘海域を離脱する!」
苦虫を噛み潰したような顔で、艦長が艦の操縦を行う兵士に命令を下す。
その命令を聞き、軍曹が驚愕の表情で艦長に叫ぶ。
「艦長! 戦闘を放棄するのですか?!」
「そうだ! 一対三では、当艦に勝ち目はない! 敵戦艦を沈めても、潜水艦に撃沈されては意味がない!」
「しかし!」
「いいか! 我々はこの卑怯な仕打ちを全世界に伝えなくてはならないのだ! 今沈めば、この事実は闇に葬られる!」
「それは! しかし! ……ぐぅぅ!」
「分かってくれ、軍曹。艦長である私は、君たち兵士の命を守ることも使命なのだ。今は、逃げることが最善なんだ」
悔し涙が、軍曹のごつごつした頬を流れ落ちる。
艦橋には、軍曹と同じように涙をながす兵士が他に何人もいた。

37 :

「操舵手、もう一度命令する。最大船速、当艦は戦闘海域を離脱する」
「……了解。最大船速、当艦は戦闘海域を離脱します」
艦長の指示により、かぼちゃ戦艦は速度を上げ始める。
レーダーに移っていた潜水艦は、やがてその姿を画面から消した。
もともと、この潜水艦はこの海域にいてはならないものだ。
離脱を始めたかぼちゃ戦艦を追跡して他の船に発見されるよりは、
追跡をあきらめ隠れた方が発覚の恐れは低いとの判断なのだろう。
だが、このままかぼちゃ戦艦を帰してしまっては、レーダーの記録から
一対一の戦闘に潜水艦を使ったことがばれてしまう。
つまり、にんじん帝国は、なにがなんでもかぼちゃ戦艦をこの場で沈めなくてはならないのだ。
回頭を続けていたにんじん戦艦の艦首が、離脱するかぼちゃ戦艦に矛先を合わせた。

38 :
      

39 :

がおおおおおん!!
すさまじい閃光がかぼちゃ戦艦のすぐ脇をかすめる。
にんじん戦艦から放たれた主砲の砲撃による光だった。
かぼちゃ戦艦は、命中こそ免れたものの、閃光がかすめた右腹部分は完全にえぐり取られ、
中身の黄色い果肉が外気にさらされていた。
かぼちゃ戦艦の装甲は非常に硬い。にもかかわらず、ほんの少し閃光に触れただけで、
まるで電子レンジで温められたかぼちゃの皮のように装甲が崩れてしまった。
もし命中すれば、かぼちゃ戦艦といえどもひとたまりもないのは間違いなかった。

40 :
     

41 :
      

42 :

「……軍曹、どうやら、我々の命運はここで尽きたようだ」
「艦長……」
暗い雰囲気が艦橋を支配する。
あの威力の攻撃を見せ付けられ、完全に彼らの戦闘意思は削がれていた。
もともと、一対一の戦いのために用意されたはずの戦艦だ。
こちらも最強の艦と精鋭の兵士をそろえている以上、相手も同様だと考えるべきであり、
おそらく、次の攻撃を外してくることはないだろう。
兵士たちはじっと目を瞑り、最後の時を迎え入れようとしていた。

43 :

「……ん? 観測班、どうした。………なに、それは本当か! よし、わかった!! 艦長!」
「どうした、軍曹。そんな大声で叫ばなくとも、お前の声は聞こえているぞ」
「艦長、まだ、諦めるのは早いかもしれません」
「……どういうことだ」
「気象観測班から報告です。突然、この海域に猛烈な低気圧が発生し、大嵐となる可能性が出てきました」
「大嵐?」
色めき立つ軍曹の声に、いぶかしげな表情で艦長が聞き返す。
軍曹は、表情に力を込め、艦長に告げる。
「そうです。嵐により波が高くなれば、敵艦の砲撃は照準をつけられなくなります。嵐が発生するまで逃げ切れれば――」
「しかし、その嵐が発生する確率はどれほどなんだ。あまり低くては、望みとしては期待できんぞ」
「報告によれば、30分後に4メートルの大波を伴う嵐が発生する確率は、90%です」

44 :

艦橋から上空を見やると、すでにそこには巨大な暗雲が立ち込めていた。
さきほどまでの快晴が嘘のようだった。
艦橋の窓に、大粒の雨が当たり始める。風がうなり、ごうごうという低音が艦を包み込む。
もう、確率など意味がない。嵐が来るのは確実だと、誰もが確信した。
「とり舵いっぱい! 敵艦の射線から離れろ! 最大船速を維持! あと30分だ! 何としても逃げ切れ!」
艦長の指示により、艦が左へ回頭を始める。
次第に大きくなる波に揺さぶられ艦全体がぐらぐらと揺れているが、兵士たちの顔はみな明るかった。

45 :

「軍曹、我々は、にんじん戦艦のあの攻撃から逃げ切れると思うか」
「もちろんです。絶対に逃げ切れます」
「ずいぶんと自信があるな。その根拠を、ぜひ私に教えてくれ」
「『かぼちゃは足が速い』という言葉です。この言葉に基づき設計されたこの艦は、必ずや敵の攻撃から逃げ切るでしょう」
「そうか。そうだな。観測班の気象予報とその言葉を信じよう。我々は生き延び、なんとしても祖国に帰るぞ」
「はい、艦長」
ひと際大きい波にかぼちゃ戦艦の艦首が突き刺さり、波が大きく割れる。
横殴りの雨が艦にぶつかり、激しい雨音をたてている。
外の天気がどんどん暗くなるにもかかわらず、
兵士たちの顔には、明るい笑顔があふれていく。
かぼちゃ王国の戦争は、まだ始まったばかりだ。

46 :
投下乙ー

47 :
あれ、打ち切りエンドになっちゃった。まいっか。
おっじゃましました〜。

48 :
追伸
支援ありがとうございましたです。

49 :
>>18
これはいいww
こういうシュールな設定でマジ展開が大好きww いいっすね! 
随所に本物の野菜の特性を盛り込んでるのがニヤリとさせられます
言葉遊び(敗れる→破れる)や権利関係回避(波do砲)なんかも笑っちゃいますww
ただ……非常にこまけぇことなんですが
「天気予報」でなく「気象予報」なのですね
作品によってはその言葉の別の意味や、ニュアンスの微妙な違いを活かしたものもあるので……
自分も以前、言葉を替えて(意訳して)使って指摘されたことがあります
たしかに、三題をそのまま織り込む方がよりこの企画を楽しめる気がします
(縛りがきつくなりますがww)
あまりルールガチガチもつまらなくなるので、そこは柔軟に……
ともあれ、乙でした! 面白かったです

50 :
>>49
あー、気にはなったんですよね。
ただ、軍隊もので「天気予報」はちょっとカッコ悪いかなーと思って、あえて差し替えました。
そういう意味だと、軍艦も戦艦になってますしね。
お題の使い方としては、
「かぼちゃ」+「軍艦」=かぼちゃ戦艦(主役)
「天気予報」=ストーリーのキーポイント
というふうに考えて、最初の予報とは異なる天気が突然発生して
かぼちゃ戦艦の危機を救う、みたいな感じで書いてました。
> 言葉遊び(敗れる→破れる)
やっべ、これ誤植だ。恥ずっ!
んーまー、結果おーらいということで。
感想どうもでした。
またよろしくです。

51 :
次のお題は「赤い羽」でいいですか?

52 :
普通の仮想戦記っぽいのかと思いきや、割とストレートにお題盛り込んできたなw
そして打ち切りエンド
カボチャ先生の次回作にご期待ください
お題は「お経」で

53 :
>>11
初めての投下乙でしたー。
ファンタジックな感じで、個人的には竹とんぼを頭につけて
窓外に飛んでいくくだりが好き。
半分夢見てるようなぽわーんとした感じがよく出てるねー。
「軍艦」がどこに入ってるか分かんないんだけど、見落としたかな…?

54 :
>>53
感想ありがとうございますー。
>「軍艦」がどこに入ってるか分かんないんだけど
うわああ、ごめんなさい。一応「軍艦」でなく他の言葉(母船)に置き換えてしまったんす。
2レス目の真ん中ぐらいです。分かり辛かったですね……。すいません。
またよろしゅう。

55 :
お題「バス」

56 :
「赤い羽根」
「お経」
「バス」
この三つか。
尚、以前からの慣例通り、過去お題で書くのもOKなので、
書きかけの人も心配なさらずに続きをどうぞどうぞ。

57 :
バスにて
「何聴いてるの?」
「え……お経だけど……君、誰?」
「へぇ、お経。iPodでそんなもの聴いている人、初めて見た。マニアなの?」
「違う。俺、佛教大生だから。で、君は誰?どっかで会った?」
「佛教大ね。じゃあ将来はお坊さんだ」
「いや答えろよ。君は誰なんだ」
「……面識のある他人。もっと詳しく言うと、困り事をかかえた面識のある他人」
「わけがわからない。もう話し掛けないでくれる?」
「ごめん、言い方が悪かったかも。簡単に言うと、何時もこの時間にこのバスを使う一人。
あなたの顔を見たことは何度もあるけど、話したことはない」
「なるほど。確かに見たことのある顔だ」
「でしょ。で、今回話し掛けたのは他でもない、私の困り事の解決に協力して欲しいの」
「困り事……」
「あ、心配しないで。変な勧誘ではないし時間もかからない」
「……ほんとかよ」
「ほんとほんと。ただ千円貸してくれるだけで良いの」
「知らない奴に金は貸せない」
「そういわないでさぁ……ほら、今募金の季節じゃない。今朝、募金しなかった?してないか、羽根付けてないもんね」
「君はしたみたいだな、募金」
「うん。でも、それがあだになっちゃった。帰りの電車賃が足りなくなってさ」
「……なんで募金したんだよ」
「小銭しかなかったから、思い切って全部募金箱に入れたんだ。ジャラッと。
そうしたら、カードで帰るつもりだったのに、チャージし忘れててさ」
「迂闊だったな」
「うかつだった。だから千円……お願いっ」
「……次会ったら、必ず返せよ」
「ありがとう!私の番号渡すね。それとコレ」
「……なんで羽根?」
「借金のカタ、って奴かな。わたしこの駅で降りなきゃ。じゃあね」
駅にて
「ヨッシャ!収入安牌フラグとのツテげっと!」

58 :
フラグてwww
現金な子やなぁw

59 :
 お経の響く部屋から、俺はそっと抜けだした。
 何も考えたくない……と言うわけではなかったけれど、少なくとも、その陰鬱たる
空気が蔓延している部屋から出で、ボーっとできる場所には行きたかった。
 行きたかった、か。
 生きたかったんだろうか、あの人は。
「……ありゃ」
 中学の頃から吸い続け、すっかり中毒になってしまっているタバコは、定位置で
ある右の胸ポケットにはなかった。普段着ていないこの真っ黒な服を着ているせいで、
定位置に仕込み直すのを忘れていたのだ。わざわざ値上がり前にまとめ買いした
というのに、これでは新しく買いなおさなくてはならない。
「ちっ……出鼻くじかれた気分だな」
 これもあの人の嫌がらせだろうか。いや、違う。あの人は嫌がらせなんかできる
ような性格(たま)じゃなかった。もしもこれがあの人の仕業だとすれば、それは
嫌がらせなどでは全くなく、純然たる"親切"なのだろう。
 あの人は、そういう女だった。いつも誰かに何かしら"親切"をしてるような奴で、
年末には胸ポケットに赤い羽根をいっぱいにして帰ってくるような、そんな奴だった。
 無論、小さな親切何とやら、という言葉もあるわけで、俺にとってのあの人の
"親切"は、まさにその何とやらだったわけだが。
 考えて見れば、あの人はいつもそうだった。いつも俺の事を本気で心配して、
いつも俺の全てを本気で考えて言葉をかけてくれて、いつも俺の将来を本気で
案じて困った顔をしていたものだ。
 ……どうして、思い浮かんでしまうんだろうか。
 俺はあの人が、嫌いだったはずなのに。
 どうして、困った顔ばかり思い浮かんでしまうんだろうか。
 俺はあの人の、そんな顔が嫌いだったはずなのに。
 ……あの人がそんな顔をするのが、俺のせいだったという事はわかってる。
 だから、俺は嫌いだったんだ。あの困り顔が。
 こんなダメな俺みたいな奴なんて、放っておけばいいのに。
 でも、あの人はそれが出来ずに、いつも困った顔で俺に色々な"親切"をして
くれていた。もちろん、それが義務だったから、というのもあるんだろうけど、
そんな義務なんか要らないと、俺はずっと思っていた。口に出しても言っていた。
 その度に、あの人はやっぱり困った顔をする。俺の大嫌いな、困り顔を深める。
 終いには涙すらその目に浮かべ始めて、そこでようやく俺は嫌々ながら、あの
人の言う事を聞くのだ。
 それがいつもの、俺とあの人のやりとり。
 でも、泣かれるのが嫌だからと、俺が改心したりする事はなく……結局、あの人の
表情で一番多く見たのは、困り顔だった。
「……ん?」
 わずかに聞こえるエンジン音。
 見れば、こちらに近づいてくるバスが一台。
 とりあえず、街の方に出るつもりだった俺は、それに乗ろうと、バス停の近くに立つ。

60 :
「……げ」
 が。そこで俺は大事な事に気づいた。
 タバコが無いのと同じく、財布もポケットの中に入っていない。
 言うまでもなく、これもまた、気慣れない黒服をまとっているせいだ。普段のズボンに
いれっぱなし、という事である。これではバスに乗る事はできない。タバコを買い直す
事も、無論。
 まあ、バスに乗る前に気づいて幸いだった、というべきか。あの人流に言わせれば、
人生いつだってプラス思考という奴だ。俺にはそんな楽観論はできそうにないと嘲笑って
きていたが、今は何故か素直にあの人の持論に乗る事が出来た。
 俺は一時間に一本しかやってこないバスが近づいてくるのに背を向ける。
 こうなっては、戻るしかない。流石に、歩いて二時間の距離を踏破してまで
街に出ようとは思えなかった。俺ももう、そんなに若くない。タバコが問題なく
吸える歳になって、早数年だ。
「……ちっ」
 何故かその時、脳裏に浮かんだのは、あの人の笑顔だった。
いつも困った顔をして俺に"親切"をしてくれて、そして泣きそうになり、そこで
俺が言う事を聞いたその時に、あの人はいつもそんな笑顔を見せてくれた。
 別に、その笑顔がみたくて、いつも最終的には言う事を聞いていたわけじゃない。
 俺は、そんな笑顔なんか、別に見たくはなかった。ただ、泣かれるのが面倒だった
だけだ。それだけだ。
 でも、どうしてだろう。
 あれだけ困り顔しか浮かんでこなかったあの人の表情が、今は笑顔しか
思い浮かばない。
 ……なるほどな。
 この一連の俺のうっかりは……あの人の"親切"って事か。
「んっとに……大きなお世話だよ……」
 ちゃんと向かい合いなさい。でないと泣いちゃうわよ?
 そんなあの人の声が、聞こえた気がした。
 だから俺は、あの陰鬱たる空気の蔓延した部屋へと、戻る事にした。
 考えて見れば、まだ手も合わせちゃいなかったからな。
「……禁煙、するか」
 もし、そうしてたら、そして、その時あの人が生きてたら、今まで見たことも
無いような笑顔を、見せてくれただろうか。
 ふと浮かんだそんな考えに、俺の視界はぼやけた。まるで霞でもかかったかのように。
「ちっ……うっせえよ。泣いてねえっつうの」
 泣いたらダメよ。泣いたら泣いちゃうから!
 そんなあの人の声が聞こえた気がして、俺は黒服の袖で目端を拭う。
 ゴミが目に入ったからであって、他に意味は無い。絶対に。
「ま、もう孝行はできねえけど……養生はするさ。あんたの分まで長生きしてやる」
 だから……俺があと五十年くらいして、そっち行った時にゃ……笑って迎えてくれよ。
「頼むぜ――母ちゃん」
                                               おわり

61 :
ここまで投下です。
三題スレ復活おめでとうございます。

62 :
投下乙です、やっぱさすがっす!
         J( 'ー,`)し 
(´-`).。oO
カーチャン……

63 :
全部のお題使ってみた。
「かぼちゃ」「軍艦」「天気予報」「赤い羽根」「お経」「バス」

64 :
岬めぐりのバスに乗っていると、
秋のかたむき加減の日差しに反射して、遠くの海原がきらきらと光った。
そうすると、ほら、いつもの骨に染み込んでしまったような
日々の疲れが遠ざかり、奇妙に胸の内が沸き立って、
波のように持上がり、甘い余韻を残して平らかになる。
ああして海が光るのを見ていると、
そこは、例えようもないくらいの幸せに満ちた、
この世に無いはずの場所のような気がしてくる。
私はバスに乗って町へ出る日には必ず天気予報を聞いてくる。
今日の予報は曇り。けれどもうっすらと雲間から日が射すこともあり、
そんなときにバスに乗ると、今みたいな光景を拝むことができる。
町の市場に出てかぼちゃを売りさばくのは、
商売上手とは言えない私にとって、とても疲れることなのだけれど、
帰りにこの光を見られるかもしれないと思うと、不思議と力が湧いてくる。
私の二列前の席にもたれるように座っている制服姿の女の子が咳をした。
かすれたような乾いた咳で、おかっぱ頭が揺れた。
あの子はロータリー前で募金の呼び込みをしていた子だ。
黒い襟に白いリボン。一列にならんだ少女たちが
高らかに報国のお経を誦する声がロータリーに響いていた。
募金箱をもった女の子に硬貨をさしだすと、白い歯を見せて、
にっこり笑って私の襟に赤い羽をつけてくれた。
女の子のかけているたすきには「国民総祈念 国土を穢れから守ろう」
という文字が、太く勇ましい書体で黒々と書かれていた。
バスの中の女の子は疲れきったように制服の襟に顎を埋めて
ぐったりと眼を閉じている。
窓から射す西日が、女の子の白桃のような頬のうぶ毛を透かして輝かせた。
それを見ているとふいに鼻の奥がつんとしてきて、
慌てて目を窓の向こうへと向ける。
黒い制服を着て、白いリボンをつけて、一心にお経を詠む頃が、私にもあった。
あたしたち、こんなにも若いのにね…。

65 :
バスを降りると強い北風が吹き付けてきた。
今夜は嵐かもしれない。灰色の雲が次々に流れていく。
かぼちゃ畑に囲まれた私たちの小さな家を取り巻く坂道では、
私は必ずあなたの姿を見る。
届けられた郵便を見ている肩のあたり。
私の涙を拭ってくれた、大きい荒れた手。
地面に突き立てられた鍬。
薄紅色の紙。
”すまんなあ”
”きっとすぐに、戻るよ”
ロータリーで聞いたお経がくるくると頭のなかで回っていて
なかなか私を離してくれない。踏み出す足の動きと一緒になり、
いつのまにか私は小声で詠いながら坂道を登っていた。
”……ハ ラ カラ ジン ボツ ストモ 
 ア ガ クニ ク オン ナ リ……” 
坂を登りきると、ひときわ強い一陣の風が海から吹き付けて、
私は思わず振り返って海を見た。
雲はすでに厚くたれ込めていて、水平線に近い所だけが少し明るい。
風は顔を叩き付けてくるように強く、口を開けていると
窒息してしまいそうだった。
”……ハ ラ カラ……”
お経の律動が鎖のように私の身体を縛り、四肢が重く痺れた。
私は髪が乱れるのもかまわず、ぼんやりと立ち尽くして鈍色に沈んだ海を眺めた。
”……ア ガ クニ ク オン ナ リ……”

66 :
その時、暗雲が割れ、隙間から太陽の光がもれて、
うんと遠くの海の一角にぽっかりと光の草原を作った。
そしてその近く、光の満ちるすぐ脇に
一隻の軍艦がぽつりと浮いているのが見えた。
私は手を振って、叫んだ。
「おーーーい!」
まつわりつく髪を首を振って払い、
めちゃくちゃに両手を振り回してかぼちゃ畑を走る。
「おおおおぉーーーーいい!」
束ねていた髪が解き放たれて広がり、宙に躍る。
襟もとの赤く染められた羽が風にもぎ取られて、飛んでいった。
「おおおおおぉーーーーーーーーいいいい!!」
いい。もう、いい。
それならそれでいい。
私は訳の分からないことを思いながら、
あらん限りの声をあげて軍艦に向かって手を振り続けた。
ふと気がつくと私の体を乗っ取っていたお経の律動は
どこかへ吹き飛んでしまっていた。
光は消え、軍艦もどこかへ去ってしまっていて、
息が切れて、寒さに震えて喉も枯れたけれども、
バスの中で海が光るのを見た時の、静かでありながら全身が脈打つような、
あの清らかなであたたかな心地に私は全身浸されていた。
ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
こんな風に海が煌めくだけで胸を躍らせ、うっとりと陶酔する私を
人は変に思うかもしれない。
けれども、私にはやっぱり、単なる気象現象が作り出しているのだとしても、
あの光に満ちた海原の一角がこの世ならぬ所に思えて、
もしかするとあなたもそこにいるのかもしれないと思うと、
身体が熱い涙の温度をしたもので一杯になるのです。
今夜はきっと嵐になるだろう。
古いかぼちゃをくりぬいて、たくさんのランタンを作ろう。
そうすれば、暗い夜の海を行く軍艦からは、
帰ってこいと彼らを呼ぶ、灯台のように見えることだろう。

67 :

かぼちゃのランタンっていうのは
例の顔の形をしているやつではないものをてきとうに思い浮かべてください。

68 :

ちょっぴり切ない気持ちになったよ。よかったです

69 :
次のお題でも
一つ目『鏡』で

70 :
公園

71 :
じゃ「タヌキ」で

72 :
「タヌキ」「公園」「鏡」で書いてみました。

73 :
「すいませーん。タヌキですぅ」
仕事に煮詰まり、わたしは近所をふらふらと歩いていた。閑静な住宅街と言えば通りが良いが、はっきり言えば何の特徴の無い町。
のどかな山に囲まれて、人々の住む町が遠慮するように栄えているわたしの住む町。他の言葉で言えば新興住宅街。
山のケモノの代わりに人間が住み着き、ケモノが狩りに出かける代わりに人間が都心に仕事に出る。
「おねえさんーん。タヌキですが」
原野を切り開いた模型のような町をいくらふらついても、何もときめくようなアイディアは開けない。
わたしは漫画家。名ばかりの漫画家。マイナーな雑誌で貴重な紙面を頂いている、ぽっと出の絵描きだ。
わたしのような新人にも、眼だけ描いてればいいような大御所にも等しくやって来るのは『締め切り』。ネタ探しを大義名分に
忍び寄る締め切りの足音を聞き逃そうと、自分の耳を塞ごうとしているのは、もう否定はしない。
歩いても、歩いても、代わり映えの無い景色。刺激は無い。求めることが間違っているような気がする。
「タヌキです!すいませーん!」
秋風を防ぐパーカーはわたしにとって貴重なおしゃれ着。女を捨てたファショナブルな着こなしが自慢だ。
文学少女が大きくなったそのままのショートヘアにメガネっ娘。わたしのアイデンティティは単純すぎる。
そう言えばきのうは夕方が来るまで大雨が降っていた。夕焼けが美しかった覚えがある。それ故、空気が肌寒い。
一雨ごとに季節が変わる四季折々。毎年のことなのに、この時期になると人恋しくなるのは不思議でしょうがない。
「お、ね、え、さーん!タ、ヌ、キ、でーす!!」
でも、この国に生まれてよかった。何気ない毎日に感謝……しようとしていたわたしに訪れた日常の中の非日常。
さっきから突き刺さる聞きなれぬ声に、不思議なフレーズ。誰もいないはずの道に背後からこだまする声。
振り向くと道路の真ん中にタヌキが立っていた。まるでぬいぐるみのよう。眼がビー球のように丸くて濁りが無い。
ケモノなのに人間のような声でわたしに話しかけてくる。ただ、この子の瞳が全てを許した。ウソをついているように見えなかったのだから。
ただ、灰色の空でも暖かそうな毛並みは少し羨ましかった。ケモノに対してこんな感情を抱くわたしを許して欲しい。

74 :
「あの、おねえさんにお礼を言いたくて、さがしていました」
正直、タヌキから感謝されるようなことをしたことをまったくもって覚えがない。ここ最近といえば、部屋に篭ってネームを描いて
電話で編集者にひたすら謝って描き直して、そこそこ家事をこなして昨晩はゴミをキチンと出したぐらいだ。
水曜の夜は生ゴミの日なのはこの町での常識。このように一人暮らしの小市民を名乗るのが相応しいぐらいに慎ましく暮らしてきただけだ。
タヌキは続けてわたしに深々とお辞儀をしながら、丁寧な言葉遣いでわたしを君子聖人のように崇める。
「この間のお礼に、おねえさんにわたしのたからものを見せたくて、さがしていたんです。みつかってよかった!」
誰かから感謝されたり、感激されることは悪い気持ちがしない。わたしが漫画を描き続けるのは読者から喜んでもらう為。
それを考えるとタヌキの喜ぶ姿が非常に愛しくて堪らない。わたしの漫画を読んで頂いたみなさんもこんな気持ちなのだろうか、と。
「見せたいものは公園にあるんですよ。こっちこっち!」
タヌキがそう言いながら駆けるので、わたしはその子について行くことにした。
わたしも知っている近所の公園。山を切り開いて出来た街のせいか、まだまだ垢抜けないのがいじらしい。
それ故、タヌキが現れてもおかしくは無い雑木林が、まるで手に届くように群がっている。子供たちが学校から帰る前の時間なので、ひと気は殆ど無い。
公園のグラウンドをタヌキが横切る。仔犬のように、短い四肢で足跡をつけてゆく。尻尾が揺れていた。
「すごくきれいなところなんですよ。そこでわたしたちは化けるれんしゅうをしているんです」
タヌキのふかふかな尻尾を追いかけながら、わたしはこの子が目を輝かせている顔を想像する。だって、自慢の宝物ですもの。
きっと、きらびなかな宝石のようなものなんだろう。お金に出来ないものなんだろう。と、みなさんは思うかもしれない。
だけども言おう。この子の言う宝物はきっと「公園の池」だ。この公園に池があることぐらいは知っている。
しかし、わたしはタヌキに心打たれて知らない振りを演じる。もう、なんの恩返しかどうかはこの際関係ない。
雑木林をくぐる。小道を駆け抜ける。風が通り抜ける。はらはらと落ち葉がタヌキに舞い落ちる。久しぶりに心揺さぶられ、
日常とともに雑木林を抜け出すと、大きな池がわたしたちの目前に広がった。だが、わたしを連れたタヌキは尻尾を力なく垂らしていた。

75 :
「ない……。わたしのたからものが」
きのうまでの大雨のせいで池の水は濁り決して『たからもの』と呼べるような輝きを持っていなかった。
タヌキは泥水のような水面を覗き込むと、まるで捨て猫のような声でわたしに教えてくれた。
「ここの池でわたしたちは『化ける』れんしゅうをしているんです。自分たちのすがたをうつして、みんなで化けかたをけんきゅうしているんです」
確かに池の周りには水銀燈が並び、夜行性の彼らにはお誂えの広場であることは言うまでもない。
タヌキはちょんと前足を冷たい水面に付けると、動物らしく反射的に引っ込めて耳を震わせていた。
「この前まできれいにわたしたちのすがたがうつっていたのに、きょうはうつってません……。どうしよう」
この子の後姿を見つめていたら、わたしも何かをしてやらねば、と言う恩義が芽生えてきた。
誰かを悲しい気持ちにさせたままだなんて、人を楽しませる為の仕事を生業としている者として黙ってられなかったのだ。
わたしは「ここで待ってて」とタヌキに言い残して自宅へ駆け戻った。『締め切り』なんかは……知らん。
―――タヌキの待つ公園の池に戻ると、ちょこんと池のほとりの石にその子は腰掛けていた。
わたしが自宅から持ってきた物をタヌキの目の前に差し出すと、円らな瞳が輝きを増していくのが目に見えた。
「わあぁ!わたしだあ!」
「気に入った?これ、あげるよ」
タヌキでさえ喜んでもらえることはわたしだって嬉しい。
「いいんですか?」と謙虚な姿勢を見せるもの、ケモノだったら遠慮はいらないよ、とばかりにわたしはA4サイズ程の鏡をタヌキに差し上げた。
わたしがいつも使っているごく普通の鏡。いたって変わりは無い。魔法なんぞは使えない。それでもタヌキは喜んだ。
「これでいつでも化けるれんしゅうができます!!」と諸手を挙げて喜ぶ。もっとも「諸手を挙げる」ことは出来やしないのだが、
わたしだったらそうするだろう、とタヌキの姿を想像したのだった。心がすっとするのはどうしてだろう。気持ちがよい。

76 :
―――タヌキとのから一週間後の水曜。
タヌキから何かを得たせいか、わたしの筆は留まることを知らなかった。『締め切り』という言葉が心地よい。
今ならページ単価が倍になってもいいんじゃないかと言う、勘違い甚だしい錯覚さえ覚えてきた。
深い夜、わたしのGペンの音だけが闇を裂く。言い過ぎかもしれない。それに突っ込むように表で音がする。
どうしてもそれが気になって、休憩がてらに筆を休めて、窓から外を覗くとどこかで見た人物がいた。わたしだ。
そっくりだ。そっくりすぎる。女っ気を捨てたパーカー、文学少女そのままのショートなメガネっ娘。どう見てもわたしだ。
いや、わたしはここにいる。じゃあ、誰なんだ、お前って言う前に窓の外のわたしは返事を返してきた。
「おねえさん!この間はありがとうございます!おかげで毎晩、化けるれんしゅうができるんですよ」
わたしに化けたタヌキに相槌すると、タヌキはわたしの顔をして薄暗いなか目を輝かせていた。
それにしてもそっくりだ。わたしの顔、眼、服装、メガネまでこと細かに再現されている。タヌキが化けると言うのは本当だった。
それに、わたしが贈った鏡のおかげで練習に練習を重ね、このクオリティを極めることが出来たのだとタヌキは語る。
「それもこれも、おねえさんのおかげです!今夜もおくりもの、ありがとうございます」
そのようにタヌキは言いながら、わたしの姿でわたしが出した生ゴミを美味しそうに漁っていた。
おしまい。

77 :
投下終了!!

78 :
確かにシュールな絵だな
結局何の恩返しだったんだろう……

79 :
生ゴミ→たぬきのご飯を出してくれて有難う、て意味かな

80 :
自分の顔で生ゴミあさりかw
何とも言えないなw

81 :
「……ん?」
 異変に気づいたのは、不意に……まあ、その、したくなって行った、公園のトイレ
での事だった。
 自分の顔が歪んでいる。何やら、実写版ピカソの絵のような、とんでもない姿に
なっているのだ。
 慌てて私は自分の顔を手で触れて確認してみる。
 ……が。
「……なんともなって、ない……よね?」
 だが、鏡の中の私は、相変わらずピカソだ。
 笑ってみると、ピカソが笑った。
 困った顔をしてみると、ピカソが困った顔をする。
 ……一体なんなんだこれは?
「………………」
 小一時間程、私は考え込んでいたが、結論は一つだった。
「……帰ろっか」
 とりあえず、家の鏡で見てもピカソなら、ちょっとばかり考えなくてはいけない
かもしれないが、そうでないなら問題はこの公園のトイレの鏡にあって、私には
無いという事になる。だったら、あまりここで悩んでいても仕方が無い。外の風景
は夕闇に包まれ、夜が近づいてきている事を私に知らせている。
 私がそう考え、最後にもう一度だけ鏡を見た、その時だった。
「あれ?」
 鏡の中の私が、私になっていた。
 ピカソじゃない私……普通の私が、そこにいる。
 同時に、入り口の方から何かが駆け去る足音が聞こえた。
「……ん」
 慌てて私は、入り口から外を覗いた。
 きっと、この現象は、足音の主のいたずらだったのだろう。だとすれば、一言
物申さねばなるまい。
「って……」

82 :
 足音の主を視界にとらえて、私は少しばかり驚いた。自分の顔がピカソになって
いたのを見た時よりも、ずっと。
「……タヌキ?」
 多分、そうだったと思う。もしかするとアライグマかレッサーパンダかもしれなかった
けど、多分アレはタヌキだ。
「……化かされ、た?」
 タヌキは人間を化かすというのは有名な話だ。
 今逃げて行ったのがタヌキなら……つまり、私は化かされたのだという事になる。
 そう考えれば、鏡に写った私のピカソ化にも合点がいかないでもない。
 色々とツッコミを入れたいところはあるが。
「……こんな街中に、タヌキか」
 タヌキは、もうすっかり見えなくなった。
 野生動物が、街中に出現するというニュースを最近よく耳にする。なんでも、山に餌
が不足しているから、という事らしい。あのタヌキも、餌を求めて街に降りてきて、それで
私を化かして、何か食べ物でも頂戴しようという魂胆だったのだろうか。
 それはもう、タヌキが姿を消してしまったのでわからない。
 ……まあ、こんな街中に住んでて、タヌキに化かされるなんて経験、なかなか出来ない
物だと思うし、今回はいい経験が出来たという事にしておこう。実害もなかったし。
「……帰ろっか」
 そんな風に自分の内心を納得させると、私は家路についた。
                 ☆
「父ちゃん父ちゃん!」
「おお、首尾はどうだった息子よ」
「父ちゃん、都会の人間は全然おいらの幻術にびっくりしないんだ! ずっと鏡見て、
 ふむ、とか、うーむ、とか言ってるばっかりで、驚いたり慌てたりとかしないんだよ!」
「……なんと。都会の人間は肝が座っておるのだな」
「驚いた所に声かけて食べ物ゲット大作戦は計画倒れだよ父ちゃん!」
「うーむ……これは都会の人間を舐めておったわい。山中の村なら、そんな肝の
 座った人間などおらんかったのだがなぁ……作戦の練り直しだのう」
「うん、父ちゃん! オレやるよ! 頑張るよ! あんなメスでも、びっくりさせてやれるように!」
「おお、なんという殊勝な心がけ……! 息子よ、強く生きていこうな!」
                  ☆
「へっくちゅ!」
 ……風邪でもひいたのだろうか。それとも、誰かが
 今日は早く帰って、暖かくして寝るとしよう。
                                               おわり

83 :
ここまで投下です。

84 :
って違う方投下してるのに今気づいた! 修正修正・・・。
----------------------------------------
「父ちゃん父ちゃん!」
「おお、首尾はどうだった息子よ」
「父ちゃん、都会の人間は全然おいらの幻術にびっくりしないんだ! ずっと鏡見て、
 ふむ、とか、うーむ、とか言ってるばっかりで、驚いたり慌てたりとかしないんだよ!
 その内、何事もなかったかのようにそこから離れようとするから、おいら逃げてきちゃった!」
「……なんと。都会の人間は肝が座っておるのだな」
「驚いた所に声かけて食べ物ゲット大作戦は計画倒れだよ父ちゃん!」
「うーむ……これは都会の人間を舐めておったわい。山中の村なら、そんな肝の
 座った人間などおらんかったのだがなぁ……作戦の練り直しだのう」
「うん、父ちゃん! おいらやるよ! 頑張るよ! あんなメスでも、びっくりさせてやれるように!」
「おお、なんという殊勝な心がけ……! 息子よ、いつかそのメスに目にもの見せてやれ!」
                  ☆
「へっくちゅ!」
 ……風邪でもひいたのだろうか。それとも、誰かが噂でもしているのだろうか。
 何にしろ、今日は早く帰って、暖かくして寝るとしよう。
                                               おわり
----------------------------------------
以上、修正でしたー
失礼しましたー(汗

85 :
誰もいないの?掻かないの?                                                                                                  

86 :
いる

87 :
鏡を見ると、そこにはタヌキがいた…とでも思っていただきたい。
無論、比喩だ。
「あぁ、最悪…」
がっくしと肩を落とし、しばし呻き声を絞り出し続けるあたし。
これというのも課長のせいだ。ウー子も悪い。コヨミも悪い。ミソノも悪い。ノゾミも悪い。ミっちゃんだって悪い。
「ん…ん、ん、ん、ん? ん〜はないな」
って、なにをやっているんだあたしは。
ますます陥る自己嫌悪。がっくし落ちた肩に続いて頭も落とし、あたしは……、
「サヤカ! 洗面所にいつまで引き篭もってるのっ! 会社におくれるわよ!!」
という、母の声でようやく自分の今の立場を思い出したのだった。
≪あたしはしょうきにかえった!≫
「あ〜あ、ファンデのノリ最悪ゥ」
駅まで走る10分間、気になることといったらやっぱりお化粧の仕上がりだ。バッグの中のコンパクトで確かめてみても、そこに映るのはタヌキみたいなあたしの顔。
なんでこの世には残業なんてものがあるんだろう。だいたい残業あるんだったら飲み会なんてするなよって思う。それも次の日普通に仕事じゃんか! 深酒なんてさせんな!!
「あ〜あ」
ポケットに手を入れて探る。なにも見つからない。
タバコは先週止めたのだ。
「ん、もう!」
舌打ちをするあたし。おじさんがその脇を足早に駆けていった。
「おじさんはいいなぁ。毎朝お化粧しなくていいもんね」
そんなぼやきが口からこぼれたその時、
「おい、そこのタヌキ」
とんでもなく失礼な言葉の槍が、あたしの胸を貫いた。
ふと見ると、駅前の小さな公園の中からヒラヒラとおいでおいでをしている手が見える。
あたしはフラフラとそっちの方へと歩いていった。
「おっす」
「やっぱあんたか」
ベンチに座ったそいつは缶ビール片手に手を振って見せた。
「朝からビールとはいいご身分ねェ」
「だってオレ、さっき仕事終わったとこなんだもん」
ニヤリと笑うと八重歯が覗く。仕立てのいいスーツを着ていなければ未成年と言われても信じてしまうような童顔。ホストなんてやってるだけあって、確かにいい男ではあるのだ。
「あんた、よくここからあたしのことがわかったわね」
「サっちゃんのことならどんなに遠くからでもわかるんだよね」
ウッサイシネ、と脳天唐竹割チョップをかま……そうとして、あたしは手を絡めとられてしまった。
「え?」
そのまま手をひかれ、あたしは二の腕まで抱えられるようにして引っ張られていく。
「え、ちょっと?」
「サっちゃんってば、オレのこと普通に男として意識してないもんねぇ」
笑いながらこの子があたしを引っ張って行く先は……公園のトイレ?
「ちょっ…! 待って、やだっ」
「待たない〜?」
「はい、おしまい」
トイレの中には二人だけ。あたしの視線は鏡の中のコイツとあたしを行ったり来たりしていた。
「どう? もう目の下の隈は目立たないっしょ」
目立っていない。それはもう、魔法の様に消えてしまっているのだ。鏡の中のタヌキは、もはやいつも通りのあたしの顔に戻っていた。
そういえばこいつ、美容師になるのが夢だったとか言ってたっけなぁ。
だからなのか、化粧の手際も髪を整える手際もずいぶんテキパキとしてた。髪をとかす手つきはとても優しくて、化粧を施していく指先はとても繊細で、それはもうずいぶんと…
「かっこよかった?」
うん……とあたし、言いかけて
「ちょうしにのんな!」
鼻っ柱に裏拳をかます。
「ちょ、顔は俺の商売道具っ!」
ごめんねぇと笑って、腕の中からスルリと抜ける。イカンイカン、ちょっとときめいてしまったではないか。
そういう訳にはいかんのだ。この手の男に化かされてしまうようじゃ、イイ女だなんて言えぬのだ!
≪あたしはしょうきにかえった!≫

88 :
「タヌキ」「公園」「鏡」で書いてみやした
あるOLのたまにありそうな日常みたいな

89 :
>>87
>>あたしはしょうきにかえった!
かえってないw 正気に返ってないよwww
次のお題として「かもめ」

90 :
お題「めがねっ娘」

91 :
高圧線

92 :
A「かもめ」
B「めがねっ娘」
A「高圧線……あ!」
B「というわけで、毎日マッ缶3本おごりね」

93 :
しりとりになっているとは気づいてなかったw

94 :
『カモメのジョナさん』
(お題:かもめ、めがねっ娘、高圧線)
 おれはカモメのジョナ。みんなおれのことをジョナさんと尊敬の眼差しで呼ぶ。
146ヶ月も続いた空間戦争も今は一段落ついているから、俺は見張りをしている。
突撃兵のおれが警邏をするというのもおかしな話だが、
羽もち無沙汰になるのも嫌だからこれはこれでいい。
 目下に街が広がっている。ヒトとかいう無翼の獣が築き上げたものだ。
基本的に奴らはおれたちに無関心だが、なぜか奴らの居住圏ではなく森林部などで奴らは敵と化す。
それに奴らは馬鹿デカい鉄のコンドルを使役している。ヒトはそのコンドルに食われても物ともしない。
注意しておいて損はない。
 街の外れの畦道を、ヒトのメスが歩いている。
手にはなにも持っていないが、その先に仲間の狙撃手がいるのかもしれない。
おれはムスメの上空を注意深く旋回し続ける。
なるべく視界に入らないよう、メスの後背側を中心にして。
 おっと。鉄のコンドルが飛んでいく。危ねえ危ねえ。
あんなでけぇヤツにあの速度で衝突されちゃ、ひとたまりもねえや。
うるさくて頭が痛くなっちまわあ。
 おれが視線を戻すと、メスは立ち止まっていた。
……いよいよ怪しい。こんな田園風景、あのメスにとってなんの意味があるってんだ。
あんな若いムスメが独りで農耕をするというのもおかしい。
 しかし……黄金の絨毯。サマになってらあ。
畦道の両脇に金の穂がこうべを垂れて、まるで女神に膝を附いているようだ。
街は遠く、山海も隔てている。そして黄金を割っていく少女……
 あ。ムスメが首を動かして、横を見ようと……違う、ムスメはこっちを、おれのほうを……
「ジョナさん……」
 それはムスメの声だったのだろうか。
頬にそばかすのあるそのムスメは、三白眼に丸縁のメガネをかけていた。
それは金の田園と溶けて、あどけなさまで金色に……
 彼女は、高圧線に触れて墜落していくカモメを見ていた。
地面と衝突する小さな音を耳にしながら、
私はどうしてこんなところにいるんだろう、と頭の端で考えていた。
「ジョナさん……」
 なぜかその妙な名前が脳裏をよぎり、
雷の霊――いつか感じたような、刹那に身を焼く痛み――に体を震わせた。
 帰路へつくため来た道を戻る彼女は、カモメの落ちた場所もその事実も健忘してしまっていた。
涼やかな風が、穂を柔に撫でた。

95 :
ただのパロかと思ったら、なんか神秘的なふいんき(なぜかry

96 :
「乱視ですね」
眼鏡屋さんで、私は乱視を言い渡された。
フレーム調整だとかレンズの強化だとかで二万円プラスαが財布から蒸発した。
福沢諭吉がアイルビーバックなんて言いながら熱々のキュポラに沈下していく幻視を振り払い、私はできたてほやほやの眼鏡を掛ける。
電信柱を見た。
広告が見える。
そこから、NHKとNTTと電気屋さんが柱に登るときに使う足場を、右左、と登る。
視線は登って、変電用のバケツみたいなキュービクルを見る。
キュービクルから家々に伸びる電線を伝うと、更に向こうにある発電所の鉄塔から生える高圧線と、それが重なる。
アミダくじのように視線は高圧線を辿り、やがて遠景にある紅葉の綺麗な山の稜線に至った。
建物やら電線やらに区切られた稜線は、やけに遅筆の漫画家がこだわって描いた背景みたいで、ウソみたいな秋色だった。
二人の諭吉と雑兵的夏目漱石と桜と鳳凰堂を焼失せしめたオソルベキ双眼の屈折鏡は、なるほど確かに二万円の価値があるようだった。
私は眼鏡を外した。
途端に、稜線も電線も建物もキュービクルも電柱も、全部滲んだ。
輪郭の曖昧な、味のある水彩画みたいになった。
私は、カモメのジョナサンの訳者あとがきを思い出す。
この小説はヒッピーが憧れたアメリカンドリームの寓話だ。でも、そうと言い切ってしまうのも面白くない。
眼鏡を、付けたり外したりしながら帰った。
ペイントソフトでフィルタ→輪郭強調、ctrl+Z、フィルタ→水彩風。
それを繰り返しているみたいだ。
眼鏡は輪郭フィルタプラグインと呼ぶべきなんじゃないかな、と考えながら、私はお酒とおでんを買った。
今日はお酒がおいしそうだ。
終わり

97 :
>>96
こういう感じは結構好きかも

98 :
「かもめって、なんでジョナサンがデフォ名なの?」
 ある日、彼女が投げかけてきた唐突な疑問に、僕は即座に答えた。
 彼女は普段とすこしばかり風体が違っていたが、その疑問が脈絡の無い、
唐突な物である事は、いつもと変わりなかった。
「そういう小説があるんだよ……っていうか、ジョナサンがデフォ名か、かもめって?」
「いいじゃない。私はデフォだと思ってんだから。ほら、セバスチャンみたいな」
「セバスチャンの元ネタは、実際には執事ではなく使用人だったんだけどな」
「へえ、そうなの? っていうか元ネタってあったんだ」
「アルプスの少女ハイジのキャラクターが元ネタなんだと」
「クララが立つお話のあれ?」
「間違っては無いが……間違ってるような」
「細かい事は気にしない! 男は度胸だよ!」
「それも間違ってるような……まあいい。ところで、なんでかもめの話を?」
「あのね、この前向こうのアレ、高圧線の鉄塔があるじゃん」
「ああ、あのでかい奴か」
「そそ。そこにかもめがいたの」
「……ここ、山奥のはずだが」
「でしょー、不思議よね?」
「不思議と言えば不思議だが、それがどうしてジョナサンの話になるんだ?」
「そこはそれ、セバスチャン的発想で」
「どんな発想だ」
 そんなとりとめの無い会話を交わしている間中、彼女はかけている眼鏡を
しきりに指で押し上げる仕草を繰り返す。先日まで彼女の眉目を飾っていなかった
それを、やたらと強調するように。その意味する所は、つまり……そういう事なんだろうな。
「……眼鏡、似合ってるぞ」
「ななななな!? なんですか突然気持ち悪い!」
「き……気持ち悪いって」
 ……酷い言われようだ。そういう事じゃなかったのか? 以前髪を切った時に
さっぱりアピールに気づかずに怒らせてしまった事に学習したつもりだったのだが……。
「そういうのは、もっと自然に、流れに乗って言ってくれなきゃ……驚いちゃうよ」
「流れって……どうやって眼鏡褒める流れにしろって言うんだよ」
「その為の振りはわたしが作ってあげてたじゃん!」
「かもめ振りからどうやって眼鏡に結び付けろと……!?」
「だって、普通山奥にかもめはいないでしょ!? だったらそれは見間違いに決まって
 るじゃない! となると、目が悪くなった……これは、眼鏡の流れに相違いなし!」
 ……わけがわからん。
「あー、もう、わけがわからんって顔しなーい。せっかっくめがねっ娘好きな君の
 好みに合わせてめがねっ娘になったってのにー」
「……それで、コンタクトにしなかったのか?」
「うん!」
 ……はぁ、まったく。どうしてこいつはいつもこうなんだろうな。
「……僕は別にめがねっ娘好きってわけじゃないが……」
「えー!? そうだったのっ!? だって眼鏡かけてるじゃん!」
「そりゃ眼が悪いからに決まってるだろ……でも、お前がかけてるのは……その、
 似合ってると思うし……いいと、思うぞ」
 僕の言葉に、照れたような笑みを浮かべ、まるで猫のように擦り寄って来る彼女の頭を、
俺はいつものように撫でてやった。気持ちよさそうに目を細める姿に、俺の頬も自然と緩む。
 まったく……いつまでも、こんな感じでやれたらいいんだがな。
                                            おわり

99 :
ここまで投下です

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