2011年11月1期23: 勇者「これで終わりじゃぁあ!魔王「くっ!時よ戻れ (66)
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勇者「これで終わりじゃぁあ!魔王「くっ!時よ戻れ
- 1 :11/10/10 〜 最終レス :11/11/10
- 最初の村
勇者「うおおお!って?あら」
牛「もー」
勇者の目の前には魔王の代わりに牛がいた。勇者は振りかぶった剣を腰の鞘に納めた。
勇者「どうなってんの?」
辺りを見渡すと長閑な風景が広がっている。勇者は牧場にいる様で牛に囲まれている。
村民「なにやっとるかぁ!」
杖を振り回しながら村民が勇者に向かって来る。
勇者「なにって?魔王はどこ?」
村民「魔王だ?魔王は世界の果てにおるわ!けったいな格好しおって、牛が驚いとるわ!出てけー!」
- 2 :
- 勇者の煌びやかな装備に牛は怯えている様だ。勇者は牧場を後にした。
勇者「うん?よく見りゃこの村は最初に訪れた村じゃん」
勇者は村の入り口にある表札を確認した。最初の村だった。
- 3 :
- 勇者「魔王に魔法で飛ばされたか?よし、魔法で魔王の城まで飛ぶか」
勇者は魔法を唱えた。
しかし、勇者は魔法を覚えていなかった。
勇者「あら?魔法忘れてるな。アイテムはあるかな?」
勇者はアイテム袋を調べた。
しかし、何も入っていない。
勇者「お、おおお?え?マジかよ?ええー?」
勇者は再びアイテム袋を調べた。
何度調べても何も入っていない。
- 4 :
- 途方に暮れる勇者の周りを、何時の間にか魔物が囲んでいた。
?「あんた、なにボーっとしちゃってるわけ?死にたいの?」
勇者「・・・あら、女戦士か。確か最後の村辺りで喧嘩別れしたはずじゃ?」
女戦士「はあ?何で私の名前を知ってるのよ。それより、こいつらぶっ倒すわよ」
ネズミ1「ふん、噛み砕いてやるチュー」
ネズミ2「・・・チュー」
からす「かー」
勇者達は戦闘を開始した。
- 5 :
- 勇者のターン。勇者はアイテム袋を調べている。
女戦士のターン。女戦士はネズミ1に攻撃。5のダメージ。
女戦士「く!強いわね。ってあんた何を空っぽの袋をいつまでも調べてるのよ」
勇者「・・・本当に何もないなんて・・・」
ネズミ1のターン。ネズミ1は勇者に攻撃。しかし勇者には効かなかった。
ネズミ2のターン。ネズミ2は女戦士に攻撃。女戦士に10のダメージ。
カラスのターン。カラスは女戦士に15のダメージ。
- 6 :
- 女戦士「はぁ、はぁ。こんな所で死ぬ訳にはいかないわ・・・」
勇者「うーん。アイテムは何もないな。魔法は・・・結構覚えてるな。忘れてるのは何かのショックで忘れてる感じだ。いづれ思い出せる気がする・・・」
女戦士「何をブツブツ言ってるのよ。あんたのターンよ。少しは役に立ちなさいよ!」
勇者のターン。勇者は敵全体にマグマ津波を唱えた。ネズミ1に9000のダメージ。ネズミ2に9000のダメージ。カラスに9000のダメージ。敵を倒した。
勇者「ふぅ。やっぱり覚えてたわ」
女戦士「あんぐり」
- 7 :
- 女戦士「あ、あんたって何ものよ。ま、まさか魔物・・・」
女戦士は身構えた。勇者の返答次第では斬りかかるつもりである。
勇者「よく分かったな。俺は実は魔王なのじゃ」
女戦士「くっ!自分の部下をすなんて最低ね。魔王の風上にも置けないわ」
女戦士のターン。女戦士は勇者に攻撃。しかし勇者には効かなかった。
勇者「チミ、弱いなぁ。嘘だよ、俺は勇者だ。魔王を倒すのだ」
女戦士(くっ!こいつ何て性格してるのかしら。でも強さだけは本物ね。)
女戦士「しょうがないわね。一緒に旅をしてあげてもいいわよ?その代わり、足を引っ張らないでよね?」
勇者「どの口でいってんだ」
女戦士「ぐぅ」
- 8 :
- 勇者は分析していた。
魔王に何らかの魔法をかけられ、最初の村に戻されたのは間違いない。
奇妙なのは途中で別れた女戦士までもが、最初の村に戻されている事だ。
勇者(あの闘いには俺しか参加していない。つまり魔法は俺にしかかけられていないはず。では、何故、女戦士まで最初の村に居るのだろうか?)
勇者「まさか・・・時間を戻された?」
女戦士「何いってんのよ。てか痛くない訳?さっきからゾンビに肩を噛まれてるけども・・・」
- 9 :
- 勇者は更に分析を進めていた。
勇者(いや、まだ結論を出すには早い。まずは状況分析だ。アイテム袋はさっきから何度も調べているが、何もない。空っぽだ。時間が巻き戻ったのなら、これは当然だろうな。物を手にする前は、物を手にしていないんだからな。)
女戦士「ちょ、勇者ー!首筋から毒を注入されてるわよ?いいの?」
- 10 :
- 勇者の分析は続く
勇者(だが待てよ?おかしくないか?俺の戦闘Levelは戻っていない。魔法に関しても忘れている物も有るが、恐らくショックによる一時的な記憶喪失の様な物だ。つまり、俺自身の時間は戻っていない・・・?)
勇者「こ、これはまずいな。」
女戦士「当たり前よ、顔面真っ青じゃない。どっちがゾンビだか分からないわよ」
- 11 :
- 勇者「ぐ、うわあぁぁぁぁ」
勇者は倒れた。それが知恵熱による物なのか、それとも毒による物なのか、傍目には判断ができなかった。
女戦士「ゆ、ゆうしゃーー!」
女戦士がまとう空気が変わった。
ゾンビ1「うげ?強そうだゾンビ」
悪い猫「にゃんにゃん」
女戦士「あんた達だけは絶対に許さないわ」
女戦士のターン。女戦士はゾンビ1に攻撃。ゾンビ1に15のダメージ。
ゾンビ1「え?弱いなゾンビ」
悪い猫「なんだ、カスか」
- 12 :
- 女戦士「身にまとう空気が変わったからって、強くなる訳じゃないんだからね!」
女戦士の妙な捨てゼリフに場の空気が凍りついた。
女戦士(よし、いまだ)
女戦士は倒れている勇者の首根っこを掴み、一目散に逃げ出した。
ゾンビ1「・・・逃げたゾンビ」
悪い猫「逃げ足だけははえーのな」
- 13 :
- 2の村
女戦士は宿を探した。勇者は毒を注入されていて、一刻も早い治療が必要で有った。
宿の親父「わるいね。満杯なんだ。他をあたっ
女戦士「見て分からない?彼は瀕死の重症なのよ?毒を受けたの。もう、たすからないかもしれないんだから・・・」
女戦士の涙ながらの訴えは、人の良い宿屋の親父の心を揺さぶった。
宿屋の親父「どうもにもねえ。女の涙には弱いもんで・・・」
頭を掻きながら、店の奥の方に引っ込んだ。
- 14 :
- 宿屋の親父「息子の部屋を使いな。一階の五号室、廊下の一番奥だ」
宿屋の親父は女戦士に鍵を渡した。
女戦士「無理言ってすみません。息子さんにもぜひ御礼を言わせてください。」
宿屋の親父「いや、いいんだよ。奴はもう居ないんだ。ずっとあかずの部屋にしていたが、いい機会だ。好きにつかってくれたまえよ」
女戦士は親父の顔から深い事情がある事を悟ったが、追及はしなかった。
女戦士「ありがとうございます。このご恩は
宿屋の親父「いいからやすみなさい。」
何度も頭を下げる女戦士を見ながら、親父も頭を下げた。宿屋の鳩時計が6時を報せる。
宿屋の親父「いつまでも止まってる訳にはいかんわな」
そう言って、胸から下げているペンダントを握り締めた。
- 15 :
- チュン
勇者は目覚めた。毒は完全に抜けたが、女戦士にずっと引きずられていた為、全身に打撲と切り傷を受けていた。
勇者「いったぁぁ!」
女戦士「あ、起きた?良かったぁ」
勇者は知らない。昨夜、女戦士は1人でずっと看病していた事を。宿屋の親父がずっとあかずの部屋にしていた息子の部屋を勇者の為に開けてくれた事を。
勇者は何も知らなかった。
- 16 :
- 勇者「つぅ。ん?ここは?」
勇者の記憶はゾンビとの戦闘中から途切れている。
女戦士「宿屋よ。どう?疲れは取れた?」
勇者「んー?何か全身が痛いんだが。昨日何かあった?」
女戦士「あ、ごめん。私があんたをずっと引きずってたからかも・・・ごめん」
勇者「え?いや。ちょっと待ってくれ。なにしてくれてんの?」
女戦士「え・・・」
勇者「え?じゃないでしょ?お前俺をす気ですか?分かった、おまえ魔王の手下だろ!」
勇者としては、ふざけ半分の言葉に過ぎなかった。勇者は女戦士がどう言い返してくるかを期待していた。
しかし、女戦士の反応は勇者の期待していた物とはまるで違っていた。
勇者「お前、なんで泣いてんだよ・・・」
- 17 :
- 女戦士「うるさい!いくら腕が立つからって、人の気持ちも分からない奴は大嫌いだ!」
そういって女戦士は部屋を出て行った。
勇者「・・・何度目だよ。」
勇者はベッドから起き上がろうとしたが、身体ぜんたいに広がる激痛から起き上がれなかった。肋骨は恐らく、折れている。他にも右のかかとにも激痛が走る。
勇者はベッドに寝転び考えていた。
勇者(魔王に戻される前も、俺は仲間と喧嘩しては別れていた。最後までついて来てくれた女戦士も、結局は最後の村で別れてしまった。)
勇者は天井のシミの数を数えている。数えている内に涙が零れて来た。
勇者「俺は、何て傲慢な男なんだろうなぁ。」
勇者の呟きは、暗い部屋に吸い込まれるだけだった。
- 18 :
- 2の村から東の洞窟
女戦士は怒っている。しかし、彼女の怒りは全て自分に向けられていた。
女戦士(私は最低ね。助けるつもりが、あんなに酷い傷を負わせるなんて。それにあんなに酷い事を言ってしまったわ。)
女戦士は村民に聞き込みを行い、どんな怪我もたちまちに治るといわれる伝説の薬草の話をきいた。
女戦士は伝説の薬草を探しに、単身洞窟に乗り込んだのであった。
- 19 :
- 〜そのころ‥とある城では〜
兵士A「ヘヘヘ。フルハウスだぜ!!!」
兵士B「絶対イカサマだろ。ツーペア。」
若い兵士「ノーペア。神様を恨むよ。」
兵士C「同感。ノーペア。」
ボン!!!
兵士B「何だ?電気が消えたぞ。」
主任「奇襲だ!!!持ち場につけ!!!」
兵士C「動くな!!!」
???「…◇×◎▲…。」
ブォォォォォォォ!!!!
兵士C「ギャァァァァァ!!!」
兵士B「脚がァ…脚がァ…。」
???「やはり…雑魚…ばかりだな…。」
- 20 :
- 構わん、続けろ
- 21 :
- 女戦士は魔物の群れに囲まれた。
毒サソリ1「・・・」
コウモリ「ころーす!」
蚊「ぶーん」
毒サソリ2「・・・」
女戦士のターン。女戦士は毒サソリ1に攻撃。毒サソリに20のダメージを与えた。毒サソリ1を倒した。
コウモリのターン。コウモリは女戦士に攻撃。女戦士に10のダメージを与えた。
毒サソリ2のターン。毒サソリは女戦士に毒バリの攻撃をした。女の戦士に5のダメージ。女戦士は毒状態になった。
女戦士(ぐぅ。ま、不味いわね。毒草を使わないと)
蚊のターン。蚊は女戦士に攻撃。女戦士には効かなかった。
女戦士のターン。女戦士は毒草を女戦士に使用した。女戦士の毒は消えた。
女戦士(く、駄目だわ。まともに魔物と戦闘してたら伝説の薬草までたどり着く前に、私が死んでしまう。ここは、逃げよう)
- 22 :
- >>19
???「◆×●△◇…。」
ザクッ
モブA「ぐあああああああああああああ!!!」
兵士A「クソ野郎。ここで死んでたm…
バゴン!!!
???「…ぐだぐだ…と…うるさい…」
若い兵士「クソっ!!!来るんじゃねぇ!!!」
青髪の王子「そこまでにして貰おうかな?…魔剣士君。」
魔剣士「…気安く…名を呼ぶな…」
青髪の王子「名を呼ぶほど、大した奴では無い。」
魔剣士「…やけに…威勢が良い…奴…。」
ブォォォン
青髪の王子「貴様!!!それは、禁術じゃ!?」
魔剣士「…×◇△▼…」
フィーーーーーン
主任「!?」
若い兵士「!?」
青髪の王子「き、貴様ァ!!!なにをした!!!」
魔剣士「そこで…のたれ……。」
シュン…グシャグシャグシャ…ボン!!!
パラパラ‥‥メシメシ…
若い兵士「ゲホゲホ…誰か、生きてるか?」
パラパラパラ
主任「…おまえは…生き…ろ…」
若い兵士「畜生ォォォォォォ!!!!」
これが後に、『第二の悲劇』を生もうとは誰も知らない。
- 23 :
- 女戦士は逃げ出した。
魔物の群れは女戦士を追わなかった。彼等は戦闘を好まなかった。縄張りを荒される事を望まないだけであった。
女戦士(追ってこないわね。良かった。好戦的な魔物ではないようね。これなら安心して伝説の薬草を探す事ができる)
女戦士は入り組んだ洞窟を隅々まで捜索した。魔物との戦闘は極力さけていたので、女戦士の体力は十分にあった。
- 24 :
- 東の洞窟最深部
女戦士(随分と奥まで入って来たけど、ここのフロアは空気が違うわね。このフロアに入った瞬間から、私に対する明確な意を感じるわ)
東の洞窟に住む魔物は、基本的に闘いを好まない。縄張りに侵入した者を追い出す事はするが、それも相手をす様な真似はしない。
しかし、最深部に巣食う魔物は毛色が違う。
別格、別次元、段違い平行棒。
東の洞窟にあると言われる伝説の薬草を探しに今まで何人の冒険者がこの洞窟に入ったか、明確な記録こそない物の、1000人は越えると言われている。
しかし、その全てが伝説の薬草を手にする事が出来なかった。
何故か?
最深部の魔物にされたからだ。
- 25 :
- 若い兵士「‥‥‥してやる‥‥‥。」
青髪の王子「おい君!!!生きていたのか!?」
若い兵士「‥‥‥‥。」
青髪の王子「他に生きている者は?」
若い兵士「‥‥‥‥。」
ザク!!!
ポタポタ
青髪の王子「…君!?」
若い兵士「剣を貰う。」
若い兵士「うああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ」
この出来事が後に『ミドリの剣の夜』として語り継がれる話である。
そして、一人の青年が墜ちた瞬間でもある。
>>なんか中二っぽくなって申し訳ない。
スレが立っているという事は参加してもいいのかな?
- 26 :
- >>25構わん、盛り上げてくれ
女戦士「あ、あれは!」
フロアの中央は少し高い丘になっていた。天井から漏れた光がその丘を照らしており、そこには黄色の花を付けた背の高い草が一本生えていた。
女戦士(あれが、伝説の薬草みたいね。さっさと抜いて帰ろう。ここは、危険な感じがする)
女戦士が薬草に手を掛けようと丘に近づいた。
?「女1人でここまで来るとは珍しい。」
丘の奥の暗闇に間物は潜んでいた。基本的に人語を話す魔物は強い。魔物の強さを測る最も簡単な基準は人語が話せるか?である。
女戦士「・・・隠れてないででてくれば?それとも恐くて出られない?」
?「可笑しな奴だ。怖がっているのは貴様だろう?声が震えている。」
そして、流暢に人語を話せる魔物は恐ろしく強い。
- 27 :
- >>26 それでは、参加します。
- 28 :
- 女戦士は震えていた。武者震いなどと強がりは言わない。単純に死の恐怖によって身体の震えを抑える事が出来ずにいた。
大蛇が姿を現した瞬間、その圧倒的な存在感に、女戦士の思考は止まり、逃げる事も戦う事も思考の外側に行ってしまった。
闘いを左右する最も重要な要素。それは闘いの場をいかに自分の有利な場にするか?である。
大蛇にとって洞窟は勝ってしったる自分の家であり、つまり最もリラックスして戦闘を行う事が出来る場所。
この場所は大蛇にとって戦闘の場ではなかった。一方的な狩りの場所でしかなかった。
雰囲気に飲まれてしまった女戦士には、もはや一分の勝ち目もない。
- 29 :
- 濃厚なリョナスレの予感
- 30 :
- 大蛇「さて、そろそろ始めるかね。」
大蛇の声に女戦士は我に帰った。
女戦士(あの薬草を勇者にわたすんだから。絶対に負ける訳にはいかない)
そして、絶望に満ちた戦闘の幕は降ろされた。
女戦士のターン。女戦士は大蛇に攻撃。大蛇に30のダメージ。
大蛇のターン。大蛇は女戦士に噛み付く攻撃。女戦士に40のダメージ。女戦士は毒を受けた。
女戦士「くっ。毒・・・」
初期段階の毒は毒草を使用すると即効で中和する事が出来る。しかし、勇者の様に全身に毒が回ってしまうと毒草のみでは中和し切れず、高価な解毒剤と充分な休養が必要になる。
- 31 :
- 女戦士のターン。女戦士は女戦士に毒草を使用した。女戦士の毒が消えた。
大蛇のターン。大蛇は女戦士に巻き付く攻撃。女戦士に60のダメージ。
女戦士(ぐ、こいつ本当に強いわ
。マトモにやりあってても勝てない。私の目的は薬草を取りに来ただけ。何とか大蛇の目を盗んで薬草を取らないと・・・)
大蛇「貴様の考えている事など、全て承知だ。今までワシに挑んで来た者と全く同じ目をしている。逃げるつもりだろ?」
女戦士「だ、誰が逃げるもんか!あんた何か蒲焼きにして勇者の晩飯にしてやるんだから!」
大蛇「舐めた口を聞いてくれる・・・」
彼女の体力は、もうほぼない。恐らくあと一度でも大蛇の攻撃を食らえば死んでしまう。
しかし、彼女は瀕死である事を表情に出さない。長年の戦闘の中で身についた生き残るすべであった。
ちなみに、この物語において基本的に回復アイテムはない。伝説の薬草は特別なイベントアイテムであり、通常体力は時間経過でのみ回復出来る物である。
- 32 :
- 女戦士(一瞬の隙をついて、薬草を引き抜く。そして、直ぐにこのフロアから逃げ出す。大丈夫、出来る。絶対にできる!)
女戦士のターン。女戦士は伝説の薬草を引っこ抜いた。女戦士は伝説の薬草を手に入れた。ティラティラティーン!
女戦士(よし、後は逃げるだけ・・・)
大蛇「馬鹿か?ワシはそんなに甘くはない」
大蛇のターン。大蛇は女戦士の背中に噛み付いた。女戦士に40のダメージ。女戦士は倒れた。
女戦士「ぐっ!」
大蛇「くくく!弱いな。さて、死んでもらうか・・・」
- 33 :
- 女戦士(ぐ、マズイ。しくじった。目が霞む・・・勇者、ごめん。薬草渡せそうにないわ。)
大蛇「・・・何だ貴様は?今日は客が多い日だな。まあいい、女は直ぐに食うとして、貴様は保存食としてとっておくか。くくく」
女戦士(な、に?もう目が見えない・・・)
勇者「だまっとけ引きこもり野郎。そこの女は連れて帰らして貰う。」
大蛇「大事な食糧をみすみす取り逃がす訳がなかろう。貴様も死ぬのだよ。ここで」
大蛇のターン。大蛇は勇者に噛み付く攻撃。勇者に30のダメージ。
勇者「く!」
大蛇「くくく!よく見れば貴様は随分とボロボロだな。そんな体でワシに挑むとは笑わしてくれるわ!」
- 34 :
- 話は遡る
宿屋の息子の部屋
勇者(魔法使い、賢者、格闘家、俺は大事な仲間を全て失った。俺は強くなるにしたがって仲間の存在を疎ましく思う様になっていた。仲間を足でまといとしか認識していなかった。)
静かな部屋には時計の針の音だけが響いていた。
勇者が寝ているベッドの横には椅子があり、床には水の張った洗面器と濡れたタオルがおいてある。
勇者(誰もそんな傲慢な勇者と一緒に旅をしたいなんて思わないよな・・・俺は誰も引きとめなかった。むしろ居なくなって清々していたんだ)
勇者は起き上がり、ベッドを降りた。
勇者「く!」
勇者(俺が間違っていた。俺には女戦士が必要なんだ。)
勇者は足を引きずりながら部屋を後にした。
- 35 :
- 宿屋の親父「おぉ、あんたもう大丈夫なのか?えらく傷だらけだけども」
勇者「ええ、お陰様で」
宿屋の親父「あの娘、一晩中つきっきりであんたの看病したたみたいだ。良い娘だね。」
勇者「・・・本当に素敵な女性です。あの、昨夜の記憶があまりないのですが、私は一体どんな状態だったのでしょう?」
宿屋の親父「うーん。毒を受けていたみたいだね。それも身体中に行き渡っちまってる状態だった。」
女戦士の必死な看病が無ければ間違いなく昨夜の内に勇者は死んでいた事だろう。勇者はコブシを握りしめた。後悔はいつも遅れてくる。
勇者「彼女は、女戦士は何処に行くといっていましたか?」
宿屋の親父「確か長老の所にいくとか・・・あんたその身体で出かけるつもりかい?無理するんでないよ?」
勇者「お気遣いありがとうございます。しかし、今彼女を追いかけなければ私はきっと一生自分を許せません。」
勇者は受付の机に金を置き、もたつきながら宿屋を後にした。
勇者「そうだ、親父さん。あの部屋の壁に掛けられた風景画、どれも素晴らしかったです。きっと描かれた方の心はあの絵の青空の様に澄み切っておられるのでしょうね。」
思いがけぬ勇者の言葉に親父は言葉が出なかった。胸のペンダントを開け、息子の写真に語りかけた。
宿屋の親父「聞こえているか?お前の絵を素晴らしいといってくれる人がいるぞ!お前はしっかり生きていたんだぞ!きこえているか?」
それから親父は息子の部屋を客室として開放する事になる。それもロイヤルルームとして。
- 36 :
- てす
- 37 :
- ロイヤルルームに入った勇者さまは、そこでスーツ姿の人たちの前に連れ出された。
ふと気付くと宿屋の親父はいつの間にかきっちりとしたスーツ姿になっており、
勇者さまをパイプ椅子に座らせると、そのまま長机の椅子に座る。
「宿屋の親父さん、どうしたんですか急に?」
勇者さまは戸惑いながらそう尋ねた。
だが、宿屋の親父は、そんな勇者さまの質問をきれいに無視し、手元にある書類を手に取り、目を通し始めた。
一体何なのだろう? 何で俺は何処かの会社のオフィスみたいなところに居るんだろう?
目の前には宿屋の親父を含めて四人の人物がいた。
いずれもきっちりとスーツを着込み、テーブルのところには「採用担当」と書かれたプレートが掲げられている。
採用担当? 何の採用なんだ?と勇者さまは戸惑う。
それになんで突然、自分がこんなところにいるのか、と。
そう動揺する勇者さまに対して、三人いた面接官の一人が突然話を始めた。
「では、自己紹介を始めてください。名前、出身大学とその専攻・・・」
自己紹介? 何のことだ?
勇者さまは淡々と事務的に話をする面接官の方を見た。
窓を背にこちらを向いて話す面接官・・・パリッとしたスーツと、怜悧そうな銀縁のメガネ。
その両隣に座る面接官たちも、やはりしっかりとスーツを着込み、真顔で勇者さまの方を見つめている。
一人は女性。おそらく年のころは三十台半ばといったところか。
絵に描いたようなキャリアウーマンで、かなりの美人だがまるで隙が見当たらない、きつそうな女性であった。
もう一人も同じくらいの男性で、髪をオールバックに撫で付け、ダブルのスーツを身に纏っていた。
眉をひそめた厳しい表情で、手に持っている書類と勇者さまを交互に見つめている。
その男の隣に、ここまで勇者さまを連れてきた宿屋の親父が居た。
いや、もうあの朴訥な宿屋の親父の雰囲気は消し飛んでいた。
相変わらす書類・・・写真が貼られているところを見ると、どうやら履歴書が身上書・・・を険しい顔で黙読している。
「どうしました? 自己紹介をお願いしますよ」
銀縁のメガネの男は、言葉遣いは丁寧だが厳しい口調でそう言ってきた。
「あ、あの・・・ここは一体、一体なんなんですか?」
勇者さまは、そう尋ねた。正直動転していた。額にうっすらと冷や汗が浮かぶのを感じる。
数秒の間が空く。その沈黙が一斉に勇者さまにのしかかる。
沈黙がここまで重いものだとは、今まで勇者さまは知らなかった。
すると、女性の面接官が呆れたような口調で、
「ここは当社の採用試験の面接会場ですが・・・お忘れですか?」
と語った。やはり言葉使いは丁寧であるものの、刃のような鋭さが含まれている。
テーブルの四人・・・宿屋の親父だった男も含めて・・・の視線が、針のように勇者さまを刺し貫く。
動悸が早くなり、ドキドキという鼓動が鼓膜まで伝わる。口の中はもはやカラカラ。
沈黙は更に重みを増し、貧弱な勇者さまの精神は今にも押しつぶされそうだ。
- 38 :
- 「あ・・・あ、あの」
「どうしました? 早くお願いしますよ」
勇者さまを丁寧に促す。だが何故だろう、その言葉の中に苛立ちが含まれているのが解った。
「な、名前は、『勇者さま』です。出身大学・・・ではなく県立商業高校を卒・・・じゃなくて二年次に中退です。
専攻は・・・その・・・。趣味はアニメと漫画、それとエロゲ・・・じゃなくてゲームです。」
勇者さまは答えた。まるで搾り出すような声で。
これは戦いだ、悪辣なモンスターとの戦いなんだ、と己に言い聞かせて。
だが、なぜだろう、こんなに恥ずかしいのは!
だが、なぜだろう、こんなに切ないのは!
おそらく彼らの手元にある履歴書は、殆ど白紙に近いはずだ。
「・・・そうですか。では勇者さま、当社に入社したいと思われた動機について、語ってください」
面接官は言った。
口調は相変わらず丁寧だが、勇者さまをあざ笑っているように聞こえるのは気のせいなのだろうか?
「動機? 動機ですか?」
そんなの知らない。というより、ここの会社が何をやっているのかすら知らないのだから。
四人の視線が一斉に勇者さまに襲い掛かる。
それはどんなモンスターの物理攻撃よりも勇者さまにダメージを与えた。
それはどんなドラゴンのファイヤブレスよりも勇者さまを弱らせた。
それはどんな魔法使いの魔法よりも、勇者さまを徹底的に痛めつけた・・・心とプライドを。
「御社の・・・その、御社のですね。企業活動に共感?してですね、あの・・・」
「当社の企業活動のどのあたりに、共感を覚えましたか?」
体格の良いスーツ姿の男が尋ねてきた。もう嫌がらせのように丁寧な口調だった・・・。
勇者さまは、ここより先の記憶が無い。
憶えているのは、ふと気付くと区立公園のベンチに座って夕日を眺めていた。
手には飲みかけの缶コーヒーと、不採用通知の書類。
そして勇者さまは泣いていた。
あふれ出る涙を抑えることができなかった。
ファンタジーの世界で勇者だった自分が、何故今、こんな場所にいるのだろう?
そしてなぜ、こんな屈辱的な境遇に落とされたのだろうか?
そんな勇者さまを、公園で遊んでいる子どもたちが指差して笑っていた。
「しっ、いけません。失礼でしょ!」と母親たちは、そんな子どもをたしなめる。
だがその母親たちの目にも、勇者さまに対して明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。
勇者さまが我に返ったのは、夜になってからだった。
公園内の電灯に照らされ、勇者さまは先ほどと同じ姿勢のままでベンチに座っていた。
涙はもう流れていなかった。というよりも涙は既に枯れ果ててしまっていた。
夜風が勇者さまの(薄くなった)髪をなびかせる。
「これからどうしよう・・・」
勇者さまはそうつぶやいた。
そして自分の絶望的な未来を思い浮かべ、その不安に恐れおののいた。
そしてこの時ほど、「時よ戻れ」と思ったことは無かった。
馬鹿げたファンタジーの世界に現実逃避できたあの頃に、戻れるものなら戻りたかった。
- 39 :
- 「あら? そこで泣き濡れてる不細工な青年は・・・もしかして勇者さん?」
それは突然だった。公園のベンチの横でうずくまっている勇者さんに、声を掛ける女の声がした。
それはどこかで聞き覚えのある、少し棘のある可愛らしい声。
地べたに突っ伏していた勇者さんは嗚咽を止め、声の主の方へ目を向けた。
涙で曇る視界の中に、やたらド派手な女が一人。
公園の外灯の光の中で、その極彩色のミニスカート姿は妙に浮き上がっていた。
勇者さまは目元を拭い、その女をマジマジと見つめた。
「・・・まさか君は、女戦士?」
間違いなかった。勇者さんの目の前に突っ立っているその女は、あの女戦士だった。
だがどうしたことだろう。今まで見慣れた女戦士とはその装いが全く違っていた。
なぜか金髪に染められた長い髪(元々は栗毛だったはずだ)、それと無駄に長い睫(おそらく付け睫であろう)、
眉は不自然なほどに細く描きこまれ、唇は塗りたくられたルージュで毒々しいほどに真っ赤だ。
耳には無駄に大きいイヤリングがぶら下がり、安っぽい金色の光を反射している。
それにしても異様なのは服装だった。秋も深まったこの時期に、極端なまでに短いスカート。
レモン色と赤の生地のそれは、可能な限り肌のを多く取ろうとしたのか、殆ど土手が見える寸前だ。
というより、下に身につけた紫色の派手なショーツが、勇者さまのところから見える(何せ見上げているんだから)。
胸元も房を可能な限り寄せ、その谷間を強調するように締め付けている。
そういえば女戦士は貧だったな、と、どうでもいいことを勇者さまは思い出した。
「やっぱり! 勇者さまじゃん。どうしたの、こんなところで下半身丸出しで泣き伏せててさっ!」
そうなのである。現在、勇者さまは下半身丸出しなのだ。
夜半までベンチで呆けたように座っていた勇者さまに、数人の悪そうな少年グループが絡んできたのだ。
おいおっさん、金だせよ、出さねえとブン殴るぞ、と少年たちに脅された勇者さま。
何と悪いガキたちだ、ここで一つ懲らしめてやろうと立ち上がり、彼らとの勝負に挑んだのだ。
結果、僅か数分で勇者さまは打ちのめされ、少年たちの目の前で泣きながら土下座する羽目に。
さらに勇者さまが素寒貧だということが判明すると、少年たちは腹を立てて勇者さまを集団で暴行、
そのまま勇者さまのズボンとを引っ剥がし、ライターで燃やして笑いながら立ち去っていったのだ。
勇者さまは身を起こすと、とっさに己の股間を手で隠した。
そりゃそうだ。こんな情け無い格好、女戦士には見せられない・・・というか今更だが。
だが、女戦士は意に介していないようだった。
むしろケツ丸出しの勇者さまの情け無い姿を、さも可笑しそうにニヤニヤ笑いながら見ている。
「・・・な、なんだよ女戦士。そんなにジロジロ見るなよ」
勇者さまは少し拗ねながら、そう言った。だが女戦士はそんな勇者さまを見て、ついにはケラケラと笑い出した。
何やってんの勇者さん、まさか野糞でもしようとしてたん?と言いながら。
「ち、違うよ女戦士、そうじゃなくて・・・」
「そうじゃなくて、何さ?」
相変わらず女戦士は笑っている。
明らかに勇者さまをバカにしているようだ。
「どうせあれでしょ。どっかの不良グループにカツアゲ喰らってリンチでもされたんでしょ」
女戦士はサラリとそういった。まさしくその通りのことを。
何故解ったんだ? まさかこの女、どこかの物陰から見てたのか?
すると女戦士は勇者さまの目の前にしゃがみこみ、勇者さまの顔を指差して言った。
「顔中殴られた痕だらけだし、どう見たってカツアゲ喰らったってわかるよ・・・そんくらい」
そう言うと、抑えかねたように吹き出して笑い始めた。
- 40 :
- 目の前で勇者さまをバカにして笑う女戦士。
アンタって前からそうだったよね、弱くと臆病なくせに勇者さま気取ってさ、相変わらずなんだな!
そう言いながら笑い続ける女戦士を、勇者さまは恨めしそうに睨みつける。
すると、しゃがみこんだ女戦士のミニスカートの中が、勇者さまの目の前に。
あのデンジャラスなメコンデルタ地帯が、こ、この奥に!
そして女戦士が笑うたびに上下する胸元は、房を寄せて強調された谷間が艶かしく・・・。
ゲラゲラと涙を流して笑う女戦士。
そう、彼女も一人の若い女なのだ。
ああっ!
気付くと手のひらで抑えた己の股間が、熱く熱を帯びてきた。
徐々に熱を帯び、充血を始める。
そして抑えている手の中で、確実にその硬度が増してきて・・・。
「し、しまったっ!」
あわてて股間の相棒の暴走を抑えようと、手で押さえ込む。
だがその不自然な動作を、女戦士は見逃さなかったらしい。
「・・・へ、ちょっと勇者さま。どうしたの?」
そう、そのまさかである。勇者さまは女戦士に向かって苦笑いを浮かべる。
それが意味の無い行動だとわかっている。だがこの状況でどうすればよいというのだ?
困惑の中、勇者さまの手のひらの中で、相棒は徐々に元気になってゆく。
勇者さまは心の中で「静まれ!静まれ!」と祈る。
だが勇者さまの不自然な行動を不審に思った女戦士が、さらに勇者さまににじりより、そして、
「大丈夫、勇者さ・・・きゃっ!」
そう言って足を滑らせた。
そのまま女戦士は、勇者さまの上にのしかかるように倒れる。
その瞬間、勇者さまの顔は女戦士の房の間に埋もれてしまった。
ムニュッという女の肉の柔らかさが、勇者さまの頬に伝わる。
もはや限界であった。
「ああっ!」
勇者さまの理性の手綱を振り切り、相棒は100パーセントの威力を持って立ち上がってしまったのである。
そして同時に、その勇者さまの元気な相棒を目の前で見せ付けられた女戦士の悲鳴が公園の中に響き渡る。
勇者さまの記憶はここで途切れた。
女戦士に顔面を凄まじい勢いで殴りつけられた勇者さまは、その場で昏倒する。
記憶が途切れるその寸前、「てめえふざけてんじゃねえぞ!この俺にこんな汚らしいもん突きつけやがって!」と、
激怒する女戦士の声を聞いた気がした。
- 41 :
- ・・・勇者さまは目覚めた。
全身のあちらこちらがズキズキと痛む。
それと思い切り頬をぶちのめされたせいか、奥歯がガタガタであった。
「・・・うぐっ!」
その痛みに、勇者さまは思わず呻いた。
ゆっくりと目を開けると、染みだらけのコンクリートの壁が立ちはだかっているのが見えた。
そしてその壁の高い場所に、鉄格子ががっちりとはまった窓が一つ。
窓からは・・・おそらく朝なのであろう、穏やかな光が室内に差し込んでいた。
「ここは、どこだ?」
勇者さまは痛むからだを起こしながら、そうつぶやいた。
ふと気付くと、八畳ほどの広さの部屋の中に、自分の他、五人ほどの人がいた。
壁に寄りかかってうつむいている者や、床に寝転がって寝息を立てている者などがいる。
コンクリートで囲まれた風景な部屋・・・さすがの勇者さまも、そこがどういう場所か解ってきた。
そう、ここは留置所だ。おそらくはここは警察署の署内だろう。
だが、ここで疑問が芽生える。
なぜ自分がここにいるか、という疑問だ。
勇者さまは昨晩の記憶を思い返してみた。
電波じみたファンタジーの世界でヒーローを気取っていたところ、
突如、どこかの会社の面接会場に連れてこられ、あっさりの不採用が決定。
職にありつけず金もなく途方に暮れて泣いていたところを、モンスターに襲われて瀕死の状態に。
そして、ああそして。
「女戦士・・・」
勇者さまはそうつぶやいた。
自分は女戦士にぶちのめされて、意識が吹っ飛んだのだ。
そこで記憶は終わっていた。
「・・・おお、お前さん目覚めたか?」
目覚めた勇者さまに、声を掛ける人物がいた。
勇者さまはその声の主の方を振り返る。
そこにはだらしない格好をした中年男がいた。
小太りでハゲかけ、スーツはヨレヨレ。おそらく自防止のために没収されたのだろう、ネクタイは無かった。
ノーネクタイ姿のその中年男は、壁に背を持たれ、顔だけこちらに向けながらニヤニヤ笑っていた。
- 42 :
- 「ここは、ここはどこです?」
解りきった質問であったが、勇者さまは思わず尋ねた。
すると中年男は、「そりゃもちろん、ここは留置所だよ」と答える。
だが勇者さまは再び聞いた。
「ここはどこの警察署?」
そうなのだ。今自分がどこに(更に言えばいつの時代に)居るのか、それがわからないのだ。
今まではヒマで冴えない中学生が妄想したようなファンタジー世界にいたはず。
だがいきなり超現実的な世界にすっとばされて、仕事の当てもなく素寒貧で放り出されたのだ。
正規の仕事、給与、保険料、年金、源泉徴収明細票・・・
そんなものは、今まで呑気に過ごしてきたファンタジー世界には無かった。
最終学歴、今までの職歴、アルバイト先、資格、失業保険、ハローワーク・・・
次から次へと思い浮かぶ単語に、勇者さまは慄然とした。
何だこの恐るべき言葉の数々は! 何かの呪文なのか?
そしてそれらは「現実」という色彩を帯び、一斉に勇者さまこと>>1に押し寄せてきた。
馬鹿げた夢なんて見てるんじゃねーぞ、そろそろ現実みろよ!
それらは口々にそう叫びながら勇者さまを取り囲み、一斉にあざ笑った・・・。
「・・・ここか? ここはだな、現実社会警察署ってとこだ。お前さん、初めてかい?」
中年男はそう答えた。
「現実社会? それはどういう・・・?」
「現実社会は現実社会だよ、あんた。・・・ところであんた、名前は何て言うんだい?」
中年男が尋ねる。
「ボクの名前は、『勇者さま』と言いますが」
勇者さまは答えた。
そう、それが自分の名前のはずだ。
このスレが生まれ、そこに産まれ落ちたときに>>1によって名づけられた名前。
だがなぜだろうか。突然、今のこの自分の名前に違和感を感じた。
勇者さま、勇者さま・・・確かに名前としてはどこかおかしい。
すると、
「なるほどね、お前さん『勇者さま』か・・・だからだよ、ここは『現実社会』なんだよ。それ以上でもそれ以下でもなく」
中年男はそういうと真顔になった。
「だから俺は、ここではただの『中年男』だよ。おそらく『汚らしい』とか『だらしない』とかキャラ属性が引っ付いてるかもしれんがね」
そう言って中年男はせせら笑った。
勇者さまには理解ができなかった。確かに勇者さま程度の知能と学力では無理も無い。
しかしたった一つ、勇者さまはわかったことがあった。
そしてそれは、今までの自分のアイデンティティーを否定しかねない、重大な考えであった。
それは、自分がもはや『勇者さま』ではない、ただの人に成り下がっているという事実だ。
今まで自分は特別な人間だと、そう思い込んできた。
だから自分は勇者さまであり、『勇者さま』と名乗っていたのだ。
何せ今までは自分は主人公だったのだ。この世界において唯一、特別とも言える存在だったのだ。
しかし今は違っていた。今の勇者さまは、ただの人。いや、ただの変人に成り下がっていた。
この現実社会において、勇者さまを名乗り、勇者さまを気取って英雄伝説を生きようとする自分は明らかに変人。
その事実は、今の勇者さまにはとても受け入れることができない確かな現実だった・・・。
- 43 :
- ・・・ただの無職の冴えない男。
・・・ろくな学歴も資格も無い男。
・・・お金も無く解消も無い男。
自分は英雄伝説の主人公だと信じ込んでいた勇者さまに、この現実はあまりにも辛過ぎた。
勇者さまを倒したのは狂暴なモンスターでも悪の魔法使いでも魔の力を持つ黒騎士でもなかった。
実社会というごく当たり前の現実そのものだったのだ。
勇者さまは眩暈がした。そのままよろよろと跪き、うなだれる。
おい、アンちゃん大丈夫か? と先ほどの中年男が声を掛けてるのが聞こえる。
だがその声はどこか遠い場所から聞こえてくるようだ。
ふと気付くと、勇者さまの目に涙が浮かんでいた。
コンクリートの床の上に、勇者さまの目からあふれ出た涙が滴り落ちる。
それは乾いたコンクリートの床を黒く濡らし、そのまま吸い込まれてゆく。
もうダメだ。俺は生きてられない。
こんな現実、とてもじゃないが受け入れられない。
勇者さまの心は、そう叫んでいた。それは悲痛な叫びであった・・・。
・・・どれくらい時間が経過したのだろうか?
留置所の廊下の壁が、夕日に照らされ朱に染まっていた。
勇者さまは壁にもたれながら、その朱に染まった廊下の壁を呆然と眺めていた。
クリーム色のペンキで塗られたらしい壁は、夕日の光を鈍く反射している。
ときおり遠くから咳きがしたり、カツカツと足音がするほかは、とても静かな留置所だ。
気付くと、あの中年男の姿は無くなっていた。
それと、朝方にはいた同房の五人の未決囚たちも、今は二人に減っている。
おそらくは勇者さまが泣き濡れている間に、外に出されたのだろう。
勇者さまの目の前には、パンと紙パックの牛が置かれていた。
誰かが気を利かせて、支給されたそれを勇者さまの目の前に置いておいたのだろう。
勇者さまはそのパンに手を伸ばした。
どうやら中にクリームが挟まっているらしい。
それを口元に持ってゆき、小さく一口分ほど食いちぎった。
味気の無い安物の生地で作られたパンであったが、空腹の勇者さまにとっては、大変なごちそうであった。
少しずつ、少しずつパンを食べ、牛も一口ずつストローから吸って呑み込む。
生クリームの甘味が、舌の上でとろけるようだった。
気付くと勇者さまは泣いていた・・・。
- 44 :
- 「おい、そこの男。取調べだ」
勇者さまに、鉄格子の外から声が掛かった。眠い目をこすりながら勇者さまは声のする方を見た。
そこには看守らしき男が二人、立っていた。そして手にした鍵で鉄格子の扉を開けようとしている。
「あの、ボクのことですか?」
勇者さまは尋ねる。すると看守の一人が「そうだ、早くしろ」と淡々とした口調で答えた。
勇者さまは立ち上がった。ふと窓の外を見ると、そこからみえる空は、すっかり夜の帳が降りていた。
監房から出るとき、看守の一人が勇者さまの手に手錠を嵌めた。
なぜ手錠をされなければならないのか、そもそもなんで自分がこんなところに入れられているのか?
勇者さまは、そんな当たり前の疑問にようやく行き当たった。
「・・・あ、あの。ボクは何で捕まったんですか?」
勇者さまは尋ねる。だが、看守はそれに対して「詳しくは取調室で聞くから、黙って歩け」と冷たく言い放つ。
歩きながら勇者さまは、他の監房の中を見た。そこにはそれぞれ数人ずつ人が入れられていた。
髪を金髪に染め、目つきの悪い若者が勇者さまの視線に気付き、睨み返してくる。
他にも酔っ払ったサラリーマンのような男が、いびきをかいて床の上で寝転がっていたりしていた。
まるで掃き溜めだな、と勇者さまは思った。だが、今の自分も、そんな掃き溜めに溜まったゴミの一人なのだ。
廊下は長かった。規則正しく並ぶ蛍光灯の明かりの下を、勇者さまは看守二人に挟まれて歩き続けた。
出口に近いあたりでもう一つ大きな鉄格子の扉があり、そこに看守がもう一人いた。
机の上に広げたスポーツ新聞を熱心に読んでいたその看守に、先ほど鉄格子を開けた看守が合図を送る。
すると彼は立ち上がり、鍵の束を取り上げると、大きな鉄格子の扉をガチャガチャと音を立てながら開ける。
「ご苦労様です・・・」鍵を開けた看守がそう答える。
何かの書類にサインをし、看守は再び勇者さまの腕をとり、そこから外に出た。
警察署の中は、人ごみでごった返していた。
受付カウンターには、厚化粧の中年女性が婦警に向かって、酔客に看板を破壊された!と怒鳴りつけている。
数人の制服警官たちが、明らかにガラの悪い革ジャン姿の男が暴れているのを必死に取り押さえている。
階段を下りてきた十人ほどの警官たちが、緊急出動!と叫びながら警察署の外へと飛び出してゆく。
その一人が看守に「・・・地下街で爆破事故があって死傷者が出たらしいんだ」と早口で告げる。
すると看守は「まあ、手が空いたら応援に出るから」という意味のことを答えた。
どうやらこの警察署は、どこかの繁華街の真っ只中にあるらしい、と勇者さまは気付いた。
そんな慌しい警察署のロビーを、勇者さまは看守二人に連れられて通り抜けた。
奥の階段を登り、二階にたどり着く。再び長い廊下を無言で歩く。
刑事部屋には無数の刑事たちが屯していた。
廊下の中ほどに自動販売機があり、そこで三人の刑事が何か怒鳴りあっている。
また大会議室、とプレートが掲げられた部屋は捜査会議が行われているらしく、
中で険しい顔をした捜査員たちが、熱心にスピーチをしている人間の話を聞き入り、メモを取っていた。
- 45 :
- 「・・・君は『勇者さま』なのか」
目の前の初老の刑事はそう言うと、吹き出しそうなのを必死に堪えていた。
なぜ笑うのだろうか、と勇者さまは訝る。そりゃそうであろう、勇者さまは勇者さま以外の何者でもないのだから。
だが、スーツ姿のもう一人の刑事も、同じように笑いを堪えていた。
その表情には、こいつバカじゃね?と明らかに勇者さまを見下すような色が浮かんでいる。
「何か、可笑しいですか?」
勇者さまは憤然と聞き返した。
だが、それがまずかったのだろうか?初老の刑事も、若いスーツ姿の刑事も、それを合図についに爆笑した。
ぶーっ!ぶはははっ!と、そんな感じで。
しばしの間、風景なこの取調室は二人の刑事の笑い声で満ち溢れた。
とくにスーツ姿の男は腹を抱え、ひーっ!と苦しそうに笑っている。
おいそんなに笑うなよ、こいつがかわいそうじゃないか、とたしなめる初老の刑事も苦しそうに笑っている。
どうしたんだよ、と勇者さまは戸惑う。自分は自分の名前を普通に言っただけだというのに。
婦警の一人が、取調室にお茶と急須を運んでくるまで、二人の刑事は勇者さまを指さしながら、笑い続けていた。
取調べが再開されたのは、それから十分ほどたってからであった。
「・・・で、『勇者さま』くん、君の職業は何かね?」
初老の刑事はそう尋ねる。そう尋ねた瞬間、一瞬、顔の表情が崩れかけた。
だが、これ以上笑っていたら仕事にならない、と思ったのだろうか、それを堪えたの勇者さまは見逃さなかった。
「何か、・・・可笑しいですか?」
勇者さまは刑事を睨みつける。もし視線で人をせるなら、この初老の刑事は瞬されていることだろう。
「いや、その・・・別に可笑しくはないさ。何か気に触ったかな?」
初老の刑事はそう返した。もちろん笑いを堪えながら。
スーツ姿の刑事が、調書を書いている。ここまでで一体、何か書くべきことがあったのだろうか、と勇者さまは思った。
「まあ、とりあえずだ。『勇者さま』くん、本名と職業、現住所を言ってくれないかな?」
「いや、だから本名は『勇者さま』・・・です・・・よ」
勇者さまはそう言うも、語尾は徐々に蚊の鳴くようなか細い声になる。
そう、勇者さまもだんだん自信がなくなってきているのだ。
果たして自分が勇者さまなのか。勇者さまのはずなんだけど・・・。
- 46 :
- 初老の刑事は呆れたような表情を浮かべ、タバコを一本取り出した。
お前も吸うか?と促すようにタバコの箱を差し出すが、勇者さまはそれを断る。
初老の刑事はタバコを咥えると、ライターで火をつけた。
スーツ姿の刑事が調書にペンを走らせる音が、静かな取調室の中で軽やかに響く。
初老の刑事が黙るとともに、取調室が沈黙に包まれた。
その沈黙の中で、初老の刑事が吐き出す紫煙がゆっくりと立ち上る。
沈黙が、勇者さまに重くのしかかる。
勇者さまの中で、勇者さま自身を支えていた何かが崩れてゆくのを感じた。
沈黙を破ったのは、調書を書いているスーツ姿の刑事のくしゃみだった。
グシュン、グシュンという軽やかなくしゃみが、生ぬるい沈黙をやぶり、時を再び動かし始める。
それを合図に、初老の刑事は再び口を開いた。
「君の本名は・・・>>1だね?そうだね、>>1くん」
丁寧で穏やかな口調。初老の刑事も決して勇者さまに対して脅迫的な態度でもなかった。
だが、どうしたことだろう。今の初老の刑事の言葉は、決定的だった。
まるでボスキャラ級のモンスターが繰り出した必技が勇者さまにクリティカルヒットしたかのごとく打ちのめしたのだ。
決して思い出したくなかった現実。そう、現実社会での、あの惨めで冴えない、自分。
学校では目立たず、女子からは「>>1くんって、何か気持ち悪くない?」と陰口を叩かれ、
運動神経も悪く、成績もどうしようもなく、そんなつらい現実から逃れるためにファンタジーの妄想に逃げ込んだ・・・
そんな、「本当の自分」の姿・・・それが>>1という、現実社会での勇者さまの姿。
その『封印されし記憶』が、この初老の刑事の一言で一気によみがえったのだ。
「俺は>>1・・・>>1。俺は>>1だ、ああっ!」
いつしかキモヲタになり、ラノベとアニメの美少女たちにうつつを抜かし、一方で現実社会では完全に疎外され、
一発逆転を狙ってファンタジー作家(ラノベ、もしくは漫画・・・そしていつかはアニメ化で大金持ち)を目指し、
中学生レベルの駄文を書き始め、でも出版社に送る勇気など持ち合わせず、延々と一人で引きこもる日々。
気付けば>>1自身が、自ら作り上げた>>1-35までの痛い中学生妄想世界の住人となり、
なぜか自分はその薄っぺらなファンタジーワールドの中での伝説の英雄となるべく生まれた『勇者さま』になっており、
それでツンデレ系の美少女戦士キャラや、今後登場する予定のドジっ娘ロリ系魔法少女やら、
清純派系の白魔法使いの美少女や、人間とモンスターのハーフの妖艶系美少女や、
そういった主人公たる勇者さまに実に都合のよい(ついでに全員)の娘たちとハーレム状態のパーティーを編成し、
そんな萌えとちょいエロ満載の中学生的妄想サーガ的冒険に繰り出して、虚しいカタルシスを得る(予定)で・・・
「・・・う、うわああああーーっ!」
気付けば勇者さまは叫んでいた。
自分がこれから繰り出そうとするファンタジー冒険活劇と、>>1という現実世界の自分のあまりの情けなさと、
そのかけ離れた二つの世界の凄まじいギャップに、勇者さまの人格は引き裂かれてしまったのだ。
「俺は勇者さまなんだっ!>>1なんかじゃない!勇者さまなんだあっ!」
そう叫んだ勇者さまは椅子から立ち上がると、そのまま床にぶっ倒れ、床の上で泣き叫びながらのた打ち回り、
全身を痙攣させながら失禁し、ついでに先ほど食べた菓子パンと牛を吐きちらした。
初老の刑事が動転しながら勇者さまのそばに駆け寄る。
スーツ姿の刑事が助けを呼ぶべく取調室から飛び出してゆく。
その間も勇者さまは叫び続けた。そしてまもなく失神した・・・。
- 47 :
- てすと
- 48 :
- ・・・勇者さまは目覚めた。
白い壁に囲まれた部屋で、広さは六畳ほど。なぜか窓には再び鉄格子がはめこまれている。
勇者さまはそんな部屋のベッドの上に寝かされていた。清潔な白い寝間着は、どこかの病院のそれを思い起こさせる。
天井は高めで、おそらくは三メートルはあるだろう。天井には頑丈そうな金網に覆われた蛍光灯が煌々と輝いている。
そして天井の隅には、どうやら監視カメラらしいカメラが設置され、レンズが勇者さまの方に向けられていた。
「・・・ここは、どこだ?」
勇者さまは小さな声でつぶやいた。頭がぼやけている。記憶も曖昧だ。
なぜ自分がこんなところに居るのか、全く憶えていない。
身体がだるい。ベッドの上で横たわりながら勇者さまは呆然と天井を見上げる。
鉄格子ごしに見える窓の外の風景は、やはり空しか見えない。
そもそも窓自体が小さく、なおかつ勇者さまの身長では届かないほど高い場所にあるので、
恐らくは下をのぞき見ることはできないであろう。
ふと、尿意を覚えた。
勇者さまはその尿意をしばらく感じ取りながら、尚も天井を見上げている。
睡眠薬でも投与されたのだろうか、とにかく身体も頭もだるいのだ。
そんな間も、勇者さまの膀胱は徐々に徐々に溜まりつつある尿の圧力に苛まれててゆく。
さて、そろそろヤバイ、と思った勇者さまは、気だるい身体を起こそうとする。
「・・・?」
身体が動かない。というか、手足が完全に拘束されている。
ためしに右手を持ち上げようとした。が、恐らくは革のベルトか何かでベッドのフレームに固定されていた。
それは左手も、両足も同様であった。さらに拘束ベルトは勇者さまの首や額にも巻きつけられ、全く動くことができない。
「な、なんでボクは拘束されているんだろう?」
尿意はさらに高まってゆく。腹の下の方の、まさに膀胱の辺りで尿意が激しく疼く。
このままでは漏れてしまう、そう思った勇者さまは、何とか外せないものかと、右手をベルトから抜き取ろうとする。
だが、金具が鳴るガチャガチャという音がするだけで、手首を抜くことはかなわなかった。
そんな間も、尿意は徐々に徐々に強まり、もはや漏れる寸前だった。
「なんだよっ!なんで取れないんだよっ!」
勇者さまは叫ぶ。叫びながらも必死に手を抜き取ろうともがく。
だが革ベルトが手首の皮膚に食い込み、痛むだけ。
よほどがっちりと固定されているらしく、どう足掻いても手を抜き取ることができない。
だが・・・そしてああっ!
「ああっ!」
勇者さまは情けない声を上げた。
それとともに勇者さまは、そのままの格好で尿を垂れ流してしまう。
素晴らしい開放感とともに、勇者さまの(小さめの)ペニスから大量の尿が流れ出るのを感じた。
それは瞬く間に勇者さまの股間全体に広がり、その熱い迸りが勇者さまの股や尻をあたためてゆく。
それと同時に、おそらく勇者さまの股間を覆っている何かの布地(?)に尿が染みてゆくのを感じる。
それらをまるで自分のことではないような気持ちで勇者さまは体験していた。
放尿の開放感、広がってゆく尿の熱、濡れてゆく股間・・・何故だろう、軽い絶望感が勇者さまを襲った。
果たしてこれは羞恥なのだろうか?それとも屈辱なのだろうか?
勇者さまは涙を流していた。ハラハラと、目からあふれ出た涙が頬を伝って流れ落ちてゆく。
力ない溜め息を交えながら、勇者さまは泣き続けた。声も上げずにただ静かに。
尿が全て出終わって、濡れた部分が徐々に冷えてゆくのを感じながら、尚も勇者さまは泣き続けた・・・。
結局、ここが一体どこなのか、それが未だに解らずじまいのまま・・・。
- 49 :
- ・・・そして十年の月日が経った。
とある街の公園で行われた無料炊き出しの列に、あの勇者さまの姿があった。
冷たさを増す秋風が吹きさらしの公園を駆け抜ける。
勇者さまはボロ布のようなコートの裾を立て、風を防ぐ。
優に100人を超える人の列は、どこか伐としている。
咳払いをしながら、早くしろよ、もたもたすんなよ、と怒鳴りつける声がする。
すでに3日、勇者さまは食べ物を口にしていなかった。
短期労働者として工場で工員をしていたのだが、生産調整を理由に解雇されたのが先月末。
プレハブで建てられた寮を出て、それ以来放浪を続けてきた勇者さま。
方々を徒歩で放浪しながら、貯金を崩して食いつなぐも、ついに金が尽きてしまう。
中二病だったあのころ、あれほど憧れていた放浪の旅。
だが実際の放浪はこれほどまでに過酷で惨めだっただなんて・・・。
この現実社会には、勇者さまが憧れていたような血湧き肉踊る冒険などありはしなかった。
ただひたすら薄給でこき使われ、散々搾取され、生活苦と希望無き未来のはざまで汲々とする人生・・・。
よりぬきの美少女たちとパーティーを組み、ドラゴンや魔物と戦うような冒険の旅などありはしなかった。
ふと、勇者さまは思い出した。
あれはいった何年前だっただろうか?
勇者さまとともに、この現実世界に飛ばされたとおぼしき、あの女戦士の行方が知れたのは。
勇者さまがこの現実社会に飛ばされてきたあの夜以来、女戦士と会うことは二度と無かった。
そう、勇者さまが不良少年たちにカツアゲされ、リンチされて下半身丸裸にされたあの夜以来、
女戦士の行方は要として知れなかったのだ。
だが、しばらくして女戦士の行方がわかった。
医療刑務所を出て、建設現場作業員として働いていたころ、
飯場にあったビデオに、あの女戦士が映っていたのだ。
とりあえずツンデレ美少女系の女戦士としてキャラ設定していたせいもあり、
そのの中でも女戦士はそのキャラを演じていた。
肌のの多い中世ファンタジー風の衣装を身にまとい、
男優たちが扮した魔物やドラゴンたちと”熱いバトル”を繰り広げる女戦士。
最後にはビギニも剥がされ、魔物役の男優のペニスをねじ込まれ、咥えさせられ、
思い切り顔面に発射され、果てにはたっぷりと中に出されていた。
どうやら男優たちを果てさせて斃すという設定らしく、女戦士は無数の魔物男優たちのペニスをしごき、
くわえ込み、男たちの放った白い粘液で全身ネトネト状態になりながら戦っていた。
そして最後は鬼のような仮面を付け、黒いマントを羽織った巨根男優が登場し、女戦士とバトルを始める。
女戦士は男優に散々クンニされ、指マンで潮を吹かされ、巨大なペニスを咳き込みながらイマラチオさせられ、
巨大なペニスでヴァギナを衝かれ、幾度も果てながら、最後には大量の精液を顔面で受け止めて戦いに勝利した。
彼女もまた、戦っていたのだ。この現実社会の中で。
若くキレイな肉体以外、なんら武器の無い女の、ある意味成れの果て。
画面の中で、女戦士は精液にまみれた顔で笑っていた。
笑いながら鼻先に突き出された男優のペニスをしゃぶり、舌でを舐め上げていた。
- 50 :
- そんな女戦士の姿を見て、勇者さまは泣いた。泣きながら幾度も、そう幾度もーを繰り返した。
そして現場の仕事が完成し、飯場が撤去されるとき、勇者さまはこのを密かに盗み出した。
労働者たちの慰めのために数百本も合った・・・その一本が無くなったところで、誰も気付かないであろう。
それから数年後、再び女戦士の行方を耳にする。
運送会社の配送センターで荷役をしていたときに、ロッカールームにあったスポーツ新聞で。
そこには”元嬢、覚せい剤所持で逮捕”というタイトルがうたれた女戦士の記事があった。
三十路近くになり、もはや採算のとれない女優となった女戦士は、を引退。
その後、どこかの高級ソープ嬢を経て、暴力団員の愛人(というよりもsラたちの肉便器)となっていたらしい。
その際に(逃げ出さないように)覚せい剤を打たれ、ヘロヘロになりながらsラの性欲処理に奮発していた、とか。
スポーツ新聞に出ていた女戦士の顔写真は、もはやかつての面影がなかった。
虚ろな目、頬の肉は削げ落ち、髪も肌もカサカサ。
ツンデレ美少女だったあの頃の姿からはとても信じられないほどに、女戦士は穢れ、壊れていた。
そしてその翌年、女戦士は死んだ。死因は飛び降り自だった。
その訃報も、夜勤勤務の工場の休憩室にあった同じくスポーツ新聞で勇者さまは知る。
そこには現役嬢だったころの、きれいに取られたパッケージ写真が掲載されていた。
そう、勇者さまが飯場から盗み出した、あののパッケージ写真だった・・・。
夢を求め、夢を探して放浪と続けた勇者さまと女戦士。
だが、女戦士の方は、ともかく一度はスポットライトを浴びる場にたどり着いたのだ。
たとい最後がこのような形であったとしても、一生スポットライトを浴びる場にたどり着けない勇者さまよりは、マシ・・・なのか?
そんなことを思いながら、勇者さまの股間が徐々に熱を帯び、固くなっていった。
ああ、俺は一度も女戦士とをしてないのに・・・なんて不謹慎なことを思いながら。
そして炊き出しの列はまだ続く。
暮れなずむ公園の広場の中で、草臥れ果てた失業者たちの列がゆっくりと、ゆっくりと前に進む。
その歩調に合わせて、勇者さまも前に進む。
ようやく、鍋から立ち上る美味しそうな匂いが、勇者さまの鼻に届いた。
それとともに、勇者さまの腹が”グウゥ”と鳴る。
空腹が、勇者さまにはとても堪えた・・・。
- 51 :
- 「・・・清掃作業。日給8000円。五名。」
ライトバンの運転席から顔を出した男は、ぶっきらぼうにそう言った。
それと同時に、路上に屯していた労務者たちがワラワラと群がる。
勇者さまもまた、その人ごみの中に分け入る。
仕事を取らなきゃ、というただその思いで。
「押すんじゃねえよてめえ!」
「おらっ!どけよ!」
労務者たちは伐としていた。
まもなう冬を迎えるこの季節、朝の冷え込みは一段と厳しさを増し、労務者たちの吐く息も白い。
すり切れたジャンパーを羽織り、薄汚れたバッグを抱えた労務者たちの群れ・・・そう、ここは場末。
勇者さまも必死だった。
おそらくモンスターとの妄想バトルの際にも、ここまで必死になったことは無かっただろう。
この戦場では伝説の剣などという都合のよい武器など存在しない。魔法もなければ、特殊能力も存在しない。
もっともそれ以前に、勇者さまにはこの現実社会で生きるための資格も特技も何一つないのだ。
本人はファンタジー作家という特殊能力を持っていると思い込んでいるのだが・・・そんなもの、ここじゃ無意味だ。
ここでは生身の身体一つで、格安のガテン系の仕事を取らなければならないのだ。
「ボクもやります!ボクもっ!」
怒号渦巻く労務者の群れの中で、勇者さまも必死に叫んだ。だが、運転席の男にその声は届かない。
運転席の男は、車の傍にいた体格のよさそうな人間を適当に指差し、顎で車に乗れ、と促す。
指さされた男たちは嬉々としてライトバンに乗り込んでゆく・・・。
こうして勇者さまは、この仕事を逃してしまった。
遠ざかるライトバンのテールライトを眺めながら、絶望的な思いに浸る勇者さま。
からりと晴れ渡った初冬の空で、朝日が眩しく輝いている。
仕事にあぶれた労務者たちは再びその辺に散り、次の仕事が来るのを待ち構える。
生活保護を申請し、却下されてから既に一週間。勇者さまの財布の金は底をついていた。
そもそも住所もなく、名前も無い(正確には>>1というのだが)勇者さまに、生活保護申請が下るはずもない。
都会の片隅の、この草臥れた場末の街角で、勇者さまはもはや追い詰められていた。
勇者さまを追い詰めたのはモンスターでも、ドラゴンでも、黒魔術師でも、暗黒魔神でもなかった。
それは現実・・・現実社会という、どんなファンタジーよりも過酷で辛い目の前の世界そのものだったのだ・・・。
- 52 :
- どうしてこうなった
- 53 :
- 「・・・どうしてこうなった」
勇者さまは、小さな声でそうつぶやいた。
まもなく冬・・・冷たい夜風が、勇者さまの頬を撫でた。
寒さは身体だけではなかった。軒並みな表現だが、懐も寒い。
いや、それだけではない。それ以上に勇者さまは、心が寒かった。寒い、というより痛いのだ。
孤独と、絶望と、寂しさと・・・そういったネガティブな感情が勇者さまの心を冷たく侵食してゆく・・・。
・・・駅前のロータリーは家路を急ぐ通勤客が溢れ返っていた。
バス停には長い列が出来、列車が到着するたびにその列は少しずつ伸びてゆく。
高校の野球部なのだろうか、いまどき珍しい丸坊主の青年たちが楽しげに笑いながら駅へと吸い込まれてゆく。
コートを着込んだサラリーマンが、おそらく駅まで迎えに来た奥さんの車に乗り込む。
厚手のコートを着込んだ若いOLさんが、早足で駅ビルの中へと入ってゆく。
マフラーを巻いた女子高生が、おそらく彼氏であろう、背の高い青年と笑いながら歩いている。
寒さを増す夜の街は、それでも人々がせわしく蠢いていた。
そこには町の明かりに負けない様々な表情が溢れている。
喜びも、苛立ちも、楽しさも、とげとげしさも。
それらの喧騒が、勇者さまには何処か遠くから届いているような気がした。
目の前に繰り広げられる、まもなく冬を迎える街の夜であるのに・・・。
そこに勇者さまの居場所はなかった。
ここはあくまで現実社会の街だ。勇者さまが妄想し続けたファンタジーの世界ではないのだ。
ここには魔法もなく、ドラゴンもモンスターも居らず、勇者さまを待ち受ける冒険の世界などありはしない。
だが、そんな中学生の妄想じみたファンタジーの世界にしか、自分の居場所を見つけられなかった勇者さま。
そんな勇者さまに、この目の前の街の中に、居場所があるはずもないのだ・・・。
- 54 :
- ・・・どれくらいの時間が経っただろうか?
勇者さまは、先ほどと同じ場所で、ずっと立ち続けていた。
駅のロータリーの隅にある大時計は、夜の十一時半を僅かに過ぎた時刻を指し示している。
あれほどの喧騒に湧いた駅前は、今は人影もまばらとなっていた。
客待ちのタクシーが数台、駅のロータリーの中で停車している。
帰宅途中のサラリーマンやOLたちが、早足でバスに乗り込む。
バスはプワンッ!と大きくクラクションを鳴らしながら、その大きな車体をゆっくりと発車させる。
勇者さまは、泣いていた。
今夜はどこで寝よう、と、泣きながらそう思った。もはやお金は無いのだ。
飯場のプレハブを追い出されて以来、カプセルホテルを転々としていたのだが、
仕事は何一つ見つからずに数日が過ぎ、そして今日、ついに金も尽きたのだ。
「・・・どうしてこうなった」
勇者さまは、再びそうつぶやいた。
いつ、人生を誤ったのだろうか?それを幾度も幾度も勇者さまは考える。
おそらく勇者さまも、それをとうに理解しているのだろう。
だが、そのことに面と向かってゆく勇気は無い・・・勇者さまのくせに。
そう、それは現実逃避でしかない。現実社会に立ち向かわず、ひたすら責任と自立を回避してきただけ。
その現実逃避の場所が、>>1-35までに描かれた中二病ファンタジー創作の世界だ。
だが、そうやって今まで生きてきた>>1こと勇者さまは、今更その自分の世界を否定できなかった。
これを否定してしまったら、勇者さまには何も残らないのだ。
たとえとうに終わってしまった夢であっても、それがそもそも虚構でしかない妄想であったとしても、
それでも勇者さまは>>1-35の中二病ファンタジーにすがりつくしかないのだ。
そうしなければ、勇者さまの精神は潰れてしまうのだ。
「・・・時よ、戻れ」
勇者さまは囁く。
だが、その囁きも、寒さを増した夜風が虚しく掻き消した・・・。
- 55 :
- >>35まで戻せよ
- 56 :
- 「>>35まで戻せよ!」
勇者さまは叫んだ。それは中二病に満ちた叫びだった。
>>1-35において繰り広げられた痛々しいまでの中二病全開ワールド。それは勇者さまの抱くパラダイスなのだ。
ラノベとエロゲとファンタジーRPG要素に満ちた、幼稚な妄想が積み重なっただけの瓦礫の山のような世界。
だが、その声を聞くものはいなかった。
今の勇者さまのような痛い中二病バカの声など、誰もが真面目に聞くはずも無かった。
路上に立ちすくむ勇者さま。
スーツ姿のサラリーマンやOLたちが、呆然と立ちすくむ勇者さまの横をすり抜けてゆく。
彼らはみな早足で、忙しそうだ。呆けた顔で立ちすくむ勇者さまには殆ど無関心だった。
彼らの足はオフィスビルへと、地下鉄の駅へと、タクシーへと消えてゆく。
そしてそこからは、別の人たちが再び現れ、せわしげに足早に勇者さまの横をすり抜けて行く。
そうした人の流れの中で、勇者さまは絶望に瀕していた。
アスファルトの上を次々と行き交う人の流れ・・・これこそ現実社会そのものだった。
そしてこの早い流れに、もはや勇者さまは乗ることはできなかった。
もう、もどれないあのパラダイスを思った。
>>1-35までに描かれた中学生の書いたファンタジー系ラノベの劣化コピーのようなあの世界。
「パラダイス・・・ロスト」
エデンの園を追われたアダムとイブのことを思った。
自分もまた、彼らのように楽園を追われた者となったことを、勇者さまは知った。
決して戻ることの出来ないパラダイス(中二病ファンタジーワールドというエデンの園)。
二度と見ることの無い楽園を思いながら、勇者さまは立ちすくんだ・・・。
- 57 :
- 「・・・もう、死のう」
勇者さまはつぶやいた。
秋の空は、残酷なまでに澄み切っていた。
日差しはゆっくりと西へと傾いてゆく。
眼下の光景を、勇者さまは見た。
西日を受けたオフィスビルの窓が、ギラリと輝く。
街路樹のイチョウの葉は、鮮やかな黄金色に染まっていた。
車道には車が行き交う。
タクシーやバス、運送会社の中型トラックなどが、数珠繋ぎで道を滑ってゆく。
歩道を行き交う人たちは、やはり早足だ。
いったい彼らはそんなに急いでどこへ行くのだろうか、と勇者さまは思った。
劣化ファンタジー脳の中二病患者こと勇者さまには、その現実社会の速度を推し量ることなど、到底無理であろう。
もはや電波な世界の住人でしかない勇者さまが、今目の前の社会の中で生きてゆくことなど、これまた到底無理。
そう、もう無理なのだ。
勇者さまが、この過酷な社会で生きてゆくことなど。
そう、ドラゴンでもモンスターでもなかったのだ。
悪の魔法使いでも、地獄の魔神でもなかったのだ。
世界崩壊をもくろむ魔王でもなかったのだ。
勇者さまを斃したのは、現実社会、という刃だった。
ファンタジーという要素の一切無い、目の前の現実そのものだった。
ファンタジーという逃げ場の無い、目の前の現実そのものだった。
ファンタジーという誤魔化しのきかない、目の前の現実そのものだった。
「もう、死のう・・・」
勇者さまは再びつぶやいた。
ここは雑居ビルの屋上。8階ほどの高さだから、地上約30メートルくらいか?
目の前の手すりを乗り越え、その先の虚空へとジャンプすれば、全ての苦しみから逃れられるのだ。
そう、ほんの僅かな勇気。
それさえあれば、勇者さまはもう、過酷な現実社会と向き合う必要がなくなるのだ。
>>1-35で描かれた中二病よりも、さらに楽な世界へと旅立つことができるのだ。
そこは永遠・・・決して侵されることのない、永遠の・・・闇。
勇者さまは、目をつぶった。
そう、あとほんの僅かな勇気。
それだけだ。
- 58 :
- こうして>>1こと勇者さまは死んだ。無残な死に様だった。
・・・自を決意し、ビルの屋上の手すりを乗り越えたものの、いざとなってビビッてしまった勇者さま。
屋上の手すりにつかまりながらあまりの恐怖にスンスンと泣き濡れていた。
膝はガクガクで、恐怖のあまり泣き声も震えている。
そんな姿のまま二時間近くもずっとオロオロ。
あと一歩、虚空に足を踏み出せば永遠に楽になれるというのに。
地上まで約30メートル・・・その距離を自由落下すれば、それだけで全てが無効化するというのに。
だけど、勇者さまはそれができなかった。
学歴なし。資格なし。職歴は空欄。趣味といえば漫画とラノベとエロゲ。嗜好はかなりのロリ。
おまけに公園でのわいせつ物陳列罪および強制わいせつ行為という前科がばっちり。
(強制わいせつってのは女戦士にをつきたてたやつね。あの後女戦士が通報したんだよ。言い忘れてたけど)
もう人生行き詰まってるじゃん、勇者さま。
この先生きててもろくなことないよ・・・そう囁く自分の声がする。
なのに、なのに、勇者さまは飛び降りることができなかった。
下をのぞき見るたびに、恐怖でブルブルと震える始末。
そのまま落下してしまえば、勇者さまの中二病な貧弱脳味噌などアスファルトがグチュリと潰してくれるのに。
ぶつかった瞬間は痛いかもしれないけど、直ぐに無の世界にぶっ飛んでお仕舞いなのに。
・・・そんな状態のまま、手すりを乗り越えて二時間ほどが経過した。
勇者さまは、尿意を覚えた。
季節は秋・・・もう11月に入り、夜風が勇者さまのだらしなく弛んだ身体を冷やす。
そんななか、確実に、確実に勇者さまの尿意は強まっていった。
時折下をのぞき見ながらも、勇者さまは尿意の高まりを感じ取っていた。
死にたくないよ、と泣き濡れながらも、勇者さまの膀胱は激しく解放感を欲していた。
そう、それがそろそろ限界に来ていたのだ。
勇者さまは思った。
「・・・とりあえず、自は中断して、おしっこしなきゃダメだな。
とりあえず手すりを戻って、そんでビルの階段途中にあったトイレへ・・・
いや、その、決して自から逃げるんじゃないんだよ。
おしっこ漏れそうな状態だと、潔く自もできないし・・・
やっぱり人間、死ぬときは全てすっきりしてからの方がいいよな・・・」
なんて馬鹿馬鹿しいことをね。
- 59 :
- だが、ここで勇者さまの中二病の脳味噌は、ある言葉に反応した。
「・・・死ぬときは全てすっきりしてから・・・」
先ほど自分が思ったその言葉を、勇者さまはもう一度反芻する。
そして思わず一言つぶやいた。
「・・・ー」
そう、ーである。
中二病こと>>1こと勇者さま、死ぬまえに一発抜いてすっきりしてからの方がいいんじゃないかな、と思ったり。
お前はバカなのか?勇者さまよ。という突っ込みはさておき、勇者さまはそのナイスアイデアにすがりついた。
そうだ、ーだ・・・自分としてくれずに死んだ女戦士のことを思ってー。
とりあえずあのは(とっくになくしたけど)散々見て脳裏に焼きついてるからな。
冥土の土産に、一発、女戦士に決めて(ーの妄想で)、それから死のう!
そんな阿呆なことを考えている間も、尿意は更に高まってゆく。
漏れる、漏れちゃうかも・・・勇者さまはあせった。
とりあえず手すりをもう一度乗り越えて戻り、そして屋上に来る途中にあったトイレへゆくんだ。
そしてそこでトイレの個室に入って(どうせ夜中だから殆ど人いないだろうし)、まずは膀胱を解放してやる。
それから心を落ち着かせて、女戦士のの艶姿を思い浮かべながらー・・・
・・・自はそれからだな。
尿の圧力に耐えかねるように、膀胱は解放感を訴える。
それと同時に、やっかいなことに、勇者さまの小さめの相棒が徐々に固くなり、熱を帯び・・・
「ヤバいっ! 早くしないと漏れちゃう!」
と言って、勇者さまは手すりを乗り越えようと・・・その瞬間だった。
あっさりと足を滑らした勇者さま。
そのまままっさかさまにビルから落ち、後頭部からアスファルトに叩きつけられ、絶命した。
幸い、下の通行人には誰にも当たらなかった。その辺の勇者さまのヒューマニズムには感服せざるをえない。
まもなく警察が呼ばれ、その場で検死が行われる。
死因は墜死・・・後頭部を強打し、脳そのものが破壊されたことによる。
そして名残惜しかったのだろう、勇者さまの股間のイチモツは、隆々とをしていた。
この世に未練でも・・・ありありだな、コイツの場合。
ストレッチャーに乗せられた勇者さまの死体。
その際、検視官の女性(これまた中々の美人)の房が、偶然にも勇者さまの鼻先をかすめる。
ラベンダーの香水の匂いが、既に死した勇者さまの鼻腔を甘くくすぐる。
その瞬間、勇者さまは射精した・・・。
同時に、大量の尿が尿道から流れ出て、勇者さまのズボンとをグショグショに濡らしたのであった。
こうして勇者さまの冒険はピリオドを打った。
勇者さまこと>>1こと中二病重篤患者の現実社会での顛末は、
今後の中二病治療の重要な症例として、長く記録に留め置かれることであろう・・・。
(※ 次回より、『 新・勇者さま伝説 〜 不滅の中二病ファンタジー編 』 が始まる予定です )
- 60 :
- さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)
- 61 :
- 「・・・さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」
>>60はそう言った。その瞬間、その場に居合わせた人たちは一斉に凍りついた。
それは明らかに失言であった。口にすべきではない、許しがたい発言であった。
>>60は、それをわかっていたのだろうか?いや、わかっていないのだろう。
なにせこの失言をやってのけた>>60はというと、
「どうだ、俺は上手いこと言っただろう」と言わんばかりのドヤ顔を浮かべている。
この場の沈黙と緊張の意味を、どうやら>>60は理解していないらしい。
場の緊張をよそに、>>60は滔々と話を続けている。
自分がヒーローにでもなったつもりなのだろうか?それとも聴衆たちに語るその口調は実に力強い。
だが、その口調が力強ければ力強いほど、この場では虚しく響く。
諸行無常の鐘の音・・・虚無の空間に、ただただ>>60の的外れな弁舌だけが響き渡っていた。
なぜ、誰も>>60を止めないんだ、と私は思った。
>>60は尚も壇上で「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」という言葉を繰り返しているのだ。
朗々とした口調で、拳を振り上げ、身振り手振りを交え、時に演壇に拳を振り下ろしながら。
おそらく>>60は今、得意の絶頂なのだろう。上手い発言をやってのけ、してやったりという感じなのだろう。
私の周りに座る男たちが、緊張した面持ちで互いを見つめ合う。
見開いた目は血走り、みな額にはうっすらと冷や汗を浮かべている。
会場の出入り口の方をチラチラと見るものもいる・・・確かにこのままでは、いつ警察がやって来てもおかしくはない。
一方、壇上では>>60が演説を続けていた。
彼はこの期に及んでまだ気付かないのだろうか?
自分がなした馬鹿げた失言で、今、自らの死刑スイッチを押してしまったということに。
私の隣にいたイワンが、私の肩を叩いた。私はハッと我に返り、イワンの方を見る。
するとイワンは緊張した面持ちで私の耳元で囁いた。
「・・・まずいぞミーシャ。今すぐここを出よう」
会場のあちらこちらで、静かに席を立つものがいる。
恐らくはイワンと同じ事を考えたのだろう。
私もそうだ。確かに今、ここはとても危険だ。
>>60の無邪気な発言が、この場を危険な場に変えてしまったのだ。
私はイワンを見、小さく頷いた。
イワンは直ぐに膝に乗せた上着を手に取ると、静かにかつ素早く席を立つ。
私も席を立った。そしてイワンの後を追う。
狭い座席の間を、腰をかがめながら進む。
ふと私はチラリと壇上を見た。
そこでは相変わらず>>60は何かをしゃべっていた。
もはや一心不乱に、声を張り上げて、まるで自分が英雄で、愚衆たちに崇拝されているかのように。
会場の脇の通路では、イワンが私に手招きをしている。
早く来い、とイワンの口はそう動いている。私は頷いた。
・・・会場は僅かにざわめき始めた。
ようやく、会場全体がこの場にいることの危険を察知したようだ。
さざなみのようなざわめきが、会場全体にゆっくりと伝わるのがわかった。
それはまさしく動揺であった。
決して踏み越えてはならない一線をあっさりと踏み越えてしまった>>60。
恐るべきことに、未だ>>60はそのことに気付いていないのだ。
もはや狂ったように「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」という馬鹿げた発言を怒鳴り散らしている・・・。
- 62 :
- ・・・そして、終生忘れることはないであろう、衝撃的なシーンを私は目にすることとなった。
私が出口へと向かっていた。
イワンも私も、この時はすでに駆け足と言ってもよいくらいに、早足で進んでいた。
そんな中、壇上の>>60が「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」と連呼しながら服を脱ぎだした。
既にその声は歌を歌っているかのようだ。勝利と栄光を称える歌を。
外套を脱ぎ捨て、ジャケットを脱ぐと、それを演壇の床に投げ捨てる。
会場はその>>60の異様な姿に動転し、所々で怒号が上がる。
だが、その声は>>60には届かない。
>>60は歌を歌うように演説を続けながら、無茶苦茶なステップで踊りを始めた。
それとともにシャツを破り捨て、上半身裸になる。
すると>>60の貧相な身体が、スポットライトに照らされる。
会場のあちらこちらから上がる悲鳴を、どうやら>>60は賞賛の声と勘違いでもしているのだろうか?
そのまま>>60はベルトのバックルに手を掛け、それをカチャカチャと外した(マイクでその音が会場中に響いた)。
バックルを外すと、>>60はそのベルトを、シュッ!とズボンから抜き去る。
そしてそのベルトを、まるでムチのように振るい上げて、ピシャリ!と会場を床を叩いてみせた。
尚も狂ったように「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」と絶叫する>>60。
ついに>>60は己のズボンから足を抜き去り、薄汚れたブリーフ一丁に。
既に会場全体から悲鳴が上がり始めた。
聴衆はみな一斉に席を立ち、この場から逃れようと怒涛のように出口へ向かってくる。
混乱する聴衆たちを、壇上から見下ろして悦に入る>>60。
まるで完全勝利を確信したかのような、躁的狂気に満ち溢れた笑顔。
私はその>>60の表情を見、そして思わず寒気がした。
恐怖・・・もうそれは間違いなく恐怖だった。
絶叫し、出口付近にいる我々の方へと向かってくる聴衆たち。
「早くいくぞ、ミーシャ!」と怒鳴るイワンの声。
- 63 :
- ・・・突然、会場の中央出口の扉が開いた。
ドカッ!と蹴破られるように、その扉が開け放たれると、どこから武装警察隊がなだれ込んできた。
紺色の制服と、黒いベレー帽。軽装とはいえ武器を帯びた帝都のテロ鎮圧部隊。
そして紺色の死の天使たちは、まるで野火のごとく会場全体に展開すると、逃げ惑う観客たちに銃口を向けた。
私はイワンとともに床に倒れこんだ。
まずい、もう終わりだ。そう思った。
会場では怒号や金切り声が響き渡る。
それを静めようと、武装警察隊の隊員たちが、銃床で聴衆たちを殴りつける。
もはや混乱のきわみであった。
私は倒れ、武装警察隊の連中に蹴飛ばされた。
そんな中でも私は、演壇上の>>60の姿から目を離さなかった。
>>60は、今目の前で起きているこの混乱を見下ろし、なぜか高笑いをしていた。
その狂った笑い声は、PAによって会場に響き渡る。まだマイクは生きているようだ。
一丁の>>60。
>>60は笑いながらも「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」と絶叫を繰り返している。
遠くから見ても、>>60が完全に狂っていることが私には解った。
武装警察隊の連中が>>60に銃を向けながら演壇に近づいてゆく。
「無駄な抵抗はよせ!」「今すぐに投降しろ!」と彼らは叫ぶ。
だが、>>60は意に介さない。
そして最後の時が訪れた。
演壇の上の>>60は、己ののゴムに指を掛けたのだ。
やめろっ!と言う叫びが聞こえる。それは会場の方々から一斉に響く。
それはもはや祈りに近かった。奇跡と救済を求める、心からの祈りの声。
その叫びの中、>>60はゆっくりとを脱ぎ払った。
右足、左足、とから足を抜き去り、そしてそのを頭上に高々と掲げる。
全裸になった>>60の股間・・・黒々とした陰毛の下から、赤黒いペニスが逞しくしていた。
その格好のまま、>>60は「さいこう!この書きては天才だね(^ー゜)」と絶叫・・・
- 64 :
- ・・・その瞬間、会場内に一発の銃声が響いた。
それはとても軽やかに聞こえた。乾いた銃声というのはこういうものなのだろう。
そして音響の優れたこの会場の中で、硬質な反共音が響き渡った。
同時に、壇上の>>60の頭が砕け散った。
まるで中から爆発したかのように、血と肉片らしきものがパッと飛び散るのが見えた。
そこからはまるでスローモーションのようだった。
頭を吹き飛ばされた>>60は、尚も己のブリーフを手で掲げながら仁王立ちしていた。
私はその時、何かを叫んでいたかもしれない。
だが、何を言ったのか、全く記憶がない。
そして私の視界の中で、>>60のペニスがピクリと痙攣した。
ふたたび銃声がひびく。
それとともに、>>60の腹が破裂した。
>>60の膝がガクリと折れた。
そのまま崩れるように、>>60の身体が床に倒れた。
私は尚も壇上を見つめていた。
血まみれの>>60の死体に向かって、紺色の制服を着た武装警察隊の隊員たちが押し寄せてゆく。
会場はもはや収拾がつかなくなっていた。
泣きわめきながら逃げようとする群衆を、武装警察隊の連中が殴りつける。
観客への発砲は許可されていないのだろうか?その代わり彼らは銃床で遠慮なく群集の頭を殴りつけている。
「・・・おいミーシャ!早く抜けるぞ!」
イワンが私の裾を掴み、力強く引っ張った。
非常用通路へ連なる扉が、直ぐ目の前にあった。
私はよろめきながらも立ち上がり、イワンに続いてその扉の間に身を投げ出すように飛び込んだ・・・。
- 65 :
- 異世界ファンタジーの物語書いてる。ちょっと見てくれるか?
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1320491988/
そんな事より、僕の書いた高度な小説をみてよ!o(^▽^)o
スレ主の頭じゃ理解出来ないかもしれないけど、超面白いからさ(^ー゜)
- 66 :11/11/10
- ・・・勇者さまこと>>1は目覚めた。
それはこれから始まる伝説の幕開けとなる、英雄の目覚めそのものだった。
朝日が勇者さまのブサイクな顔を照らす。
目ヤニがたくさん溜まった目が、ゆっくりと開かれる。
眠い目をこすりながら、勇者さまは公園のベンチの上で身体を起こした。
寒さに震えながら立ち上がり、公園の水道の蛇口を捻って顔を洗い始める勇者さま。
薄くなった髪を気にしながら丹念に顔を洗い、汚れて茶色くなったタオルで顔をゴシゴシとこする。
その姿は完全に社会の負け犬そのものであった。
冒険に負け、かといって死ぬこともできずに、恥辱と屈辱に塗れながら生き恥を晒している・・・
・・・それが、現在の>>1こと勇者さまの偽りの無い本当の姿であった・・・。
・・・勇者さまこと>>1がファンタジーを目指した(=逃げ込んだ)のは、はるか遠い昔の高校生時代、
それは、どちらかといえばかなり偏差値の低い高校に通っていた時分のことだった。
ラノベの走りのようなファンタジーノベル(名誉のために名は伏せる)を読み、天啓を受けたのだ。
エロゲにも没頭し、現実ではありえない目くるめくロリエロ恋愛ストーリーの世界にどっぷり。
そして勇者さまは妄想を始める。
自分は太古の昔の伝説的英雄の血をひく勇者さま。
パッとしない中学二年生くらいの男子が妄想するような幼稚なファンタジーの世界を、
この世界の真理を、そして本当の自分を探して旅をするのだ。
遠き先祖から受け継がれた伝説の剣、ティルフィングを携え、生まれ育った村を旅立つ勇者さま。
旅のお供はもちろん・・・美少女たち(※全員、萌えキャラでってのが最大のポイント)
ツンデレの女戦士、ドジっ子ロリの魔法使い、回復系白魔法を使う清純派系王女様、
エルフ族とのハーフでちょっとヤンデレの美少女、ヴァンパイアの血を引く謎めいた妖艶な美少女(なのに)、
大体この辺りの定番美少女キャラを一通り取り揃え、しかも全員都合よく勇者さまこと>>1のことを愛していて、
身近な男キャラは出家僧侶だったらホモキャラだったりと事実上虚勢されてて勇者さまの恋のライバルとはならず、
つまり登場する美少女キャラは全部、勇者さまが独占でき、
そんな複数の美少女たちとの恋愛関係の方が肝心の冒険よりもエピソードとしては長くなったり、
もちろんシーンなんて・・・・・・ねえ。
もっとも当時、現実の高校生活ではそんな甘い体験など一切なし。
それどころが「>>1くんって、キモいよね」と女子たち陰口叩かれる始末。
ヤンキー連中には嘲られ、クラスメイトの多くに距離を置かれ・・・
・・・そんなこんなで、中二病ムンムンのファンタジーに逃げ込むしかなかった高校時代の勇者さま。
のめりこめばのめりこむほどに、勇者さまは中二病を悪化させ、現実世界のレベルは下がってゆく。
そして2011/10/10(月) 01:05:26のことだった。・・・勇者さまはついに目覚めた。
「もしかしたら俺は本当に英雄なのかも!」と勘違いし、ついにこのスレを立てるに至ったのである・・・。
・・・目覚めたあの若き日からすでに幾年月が経っていた。
勇者さまは、未だに過酷な現実社会のなかを漂浪していた。
見果てぬ夢を追い求め、有りもしない才能を信じ、見果てぬ夢にすがり付いている冴えない男のままだ。
もう、とうに終わってしまった夢・・・だが、その事実を受け入れてしまったら、勇者さまは壊れてしまうであろう。
目覚めぬ夢のカケラに埋もれて、延々と彷徨っている今の勇者さまは、もしかしたら幸せなのかもしれない。
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