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2012年1月2期なりきりネタ78: 人間とエルフTRPGスレ2 (211) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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人間とエルフTRPGスレ2


1 :11/01/10 〜 最終レス :12/01/19
どうやら前スレが落ちてしまった様だな……。
ここはエルフと人間の共存、そして戦いの物語。
前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1275408771/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1284122609/
落ちてしまった前スレはココから見る事が出来るぞ
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/223.html
テンプレ等
名前:(長すぎる者は略名も共に書いてくれ)
種族:(一番の重要所だ。一応ハーフやドワーフが居るみたいだが、基本的には人間かエルフだな)
性別:(ほぼ二択だと思うが、それ以外の人は解り易く書いて貰うと助かる。)
年齢:(私みたいなエルフだと年齢と外見が合ってない故に、エルフの人は外見年齢も頼む)
肩書:(役職、自称も含むらしいから、ほぼ何でもありかな)
容姿:(身体的特徴、服装、髪型、身長等、思いつく限り書き込んでくれ)
装備:(服装もちゃんとした装備の一つだ、裸は捕まるから止めてくれ…)
特技:(特技、魔術、あまりぶっ飛んで無ければ何でも有りだ)
好き:(何がとはこの際言わないで置こう。)
嫌い:(人は生きていれば嫌いな事もあるハズだ。)
備考:(上で書き切れなかった事等自由に書くと良い。)

2 :
〜 序 〜
遥か彼方、剣と魔法により成り立つ世界。
そこには、大きく分けて二つの種族が暮らしていた。
種の数と力、その強い探求心によって多くの文明を築き、まるで自然に反するかの如く発展を続ける種族、人間。
自然に溶け込み神秘の中に生き、長い寿命と高い魔法親和性を持つ種族、エルフ。
この二者は永い歴史の中で、時にその考えの違いから反発し合い、またある時は共に歩み寄りながら、しかしほとんど交わる事なく暮らしてきた。
しかし今から100年前、ある『災害』によりその関係は大きく崩れる事になる。
後に魔物と呼ばれる事になる、謎の高次魔法生命体の出現である。
突如出現した魔物達は、辺り構わず人々を喰らい自然を荒らし、瞬く間に世界を崩壊の一本手前まで叩き落としたのだ。
追い込まれた二つの種族は、それぞれが生き残る為に、過去のしがらみを捨て同盟を結ぶ。
その絆は、始めこそ小さな光だったが、共に力を合わせ魔物に立ち向かう中でだんだんと勢力を増し、やがて世界を救う程の強い輝きとなった。
…そして、時は現在に至る。
未だ魔物は駆逐し切れてはいないが、世界は概ね平和を取り戻した。
失ったものは多いが、そこには得るものもあった。
共に戦った二つの種族は、互いに仲間として親交を深め、世界の復興に励む日々を続けている。
そしてその中で、少しずつではあるが…共に暮らして行くための努力が現在も続けられていた。
これは、そんな二つの種族が織り成す、新たな歴史の物語である。

3 :
というわけでまだまだ続きます。
具体的に言うと前スレの255の続きとなります。
よろしくお願いします。

4 :
いつの間にかスレが落ちていて吃驚しましたw
上のログの方は数日の内に消えるらしいので、
御手数ながらもログが見たいと言う人はこちらの過去ログの方からどうぞー。
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/39.html

5 :
ちょっと早まってしまいました。修正ありがとうございます。
ではいきます。

6 :
カナが「卵」から生まれるより少し前、カナの元へと飛んだ蜻蛉は竜の内側へ潜り込んで行った。
周りの人々はといえば追撃の手を休めぬよう、次の攻撃へ移れるよう竜の反撃に身構えていた。
そして、竜に動きが見られた時、それは起こった。
骨に纏わり付いていた毒の衣がずるずると地面に落ちて文字通り竜は骨身をさらけ出すと、その場で小さく
うずくまったのだ。隠す物の無くなったアバラの隙間からはカナが心臓部に取り込まれていく様子が見えた。
その光景は神秘的とも、猟奇的とも言うことができただろう。カナが動いて心臓部が動くよりも彼女が
心臓部に同化されてしまう方が早い。
「カナさん!気を強く持って!」
マイノスが声をかけるが最早届いていないようだった。心臓部と顔が接しようかというくらいにまで
近づいたとき、変化があった。様々な文字が掘られた球状のソレが明滅するとまずカナの姿が消える。
次いで伏した竜の体が球に吸い込まれるように縮んでいったのである。
まるで植物の枝葉が伸びる光景を巻き戻しているような、そんな動きだった。脆くなりひび割れた骨のいくつかは
その場に落ちていくが多くはカナを取り込んだ球に戻って行った。その変化が収まった時には竜は消えて
人間大の大きな卵が一つ残されていただけだった。
誰も声をあげることができなかった。これを一体どう解釈すべきか、誰も分らなかったのだ。
竜の内側へ飛び込んだ女性が、弱った竜の体毎心臓部に取り込まれてしまったこと、そして卵が一つ。
簡単言えばコレは竜の卵である。僅かな間に多くの意見や疑問が噴出した。
曰く、倒したのか、否、この卵から復活するのではないか。ならばどうするか、壊すべきという声、
或いは、もし赤子に戻っているなら育ててしまおうという声、そもそもあの女性はどうなったのかという声。
死闘の後だというのに達成感の得られぬ幕切れに、人々は焦れた。その時、卵から普通は見えない
虫が飛んで来たのは。
「ラック・・・!カナさんは、カナさんはどうなったんだ・・・!」
不安に思い帰ってきた精霊に問い合わせるが指先に留まった羽虫は取り合うこともなく前足で頭を撫でるばかりだ。
余裕があるのか興味がないのかその無反応さが今は気に障る。
仕方なくもう一度例のモノを見る。
骨を吸うごとに球から楕円形へと形を変え、色も白くなっていき本当に卵になったソレが、動いた。

7 :
「動いたぞ!」
その声にあれこれと話していた一同も息を飲んで固唾も飲んだ。
そして卵にひびが入り、ついに割れた瞬間、その場に居合わせた全員に緊張が走る。
しかし現れたのは取り込まれたはずのカナだった。彼女を見た瞬間、急速に辺りの気勢が削がれていき、
そして今に至る
服を着ていないこともあったが何より、誰もが竜が生まれると思っていたのでこの結果に肩透かしを食らう形となったのだ。
ただやはり誰もすぐには警戒を解くことはできない。もしかしたら人の皮を被った竜なのでは、という思いもあったし
有り得なくはないので、どう声をかけたものか悩んでいたのだ。
マイノスも例外ではなかった。竜の卵から生まれた女性は確かにカナだったが、匂いが今までと少し違っていた。
それが少年を躊躇わせた理由でもある。もしも、もしも彼女がもうカナ・マヤカサでなかったら?
決まっている。その時は戦いが続くのだろう。だがもしそうなったら自分は・・・
じっとしたまま焦っていると、またもラックが「付き合ってられない」とばかりにカナの元へと飛んでいく。
彼女の頭上の辺りまで行くとくるりとマイノスを振り返りじっと見てくる。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
蜻蛉と目があって、その後カナを見る。キョロキョロと周囲を見回したあと、裸の自分に気づいて
非常にばつが悪そうな顔をした。変わったけど、変わってないのかも知れない。
それを見て、自分の中の緊張の糸がすっと解けるのを感じると、マイノスは革鎧の肩にあるマントの留め具を
外した。幾分汚れてくたびれていたが、穴は開いてないので問題ないだろうと判断すると、カナの元へと持っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なるべく見ないようにしてカナへマントを渡すと後ろを向く。短い間言葉を交わしていないだけなのに、
何故か随分と会っていないような気がした。こんな時何といえばいいのか、少年は言葉を既に決めていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・おかえりなさい、カナさん・・・」
告げた後、他の人に手で合図をする。大丈夫だと。その報せは次々に伝播していき次第にざわめきが大きくなり、
やがて歓声となる。マイノスは今度こそ立っていられなくなりその場にへたり込んでしまった。

8 :
御前達は輪廻転生と言う言葉を知っているか? 肉体を捨て魂のみで他の命と成って文字通り生まれ変わる事だ。
竜は私の体を使い再び私を作り直す事により竜の細胞を持った新たなる私が誕生したと言う訳だ。
自然界がする転生の形とは大きく異なる為に竜の記憶を全て受け継いでしまったがな……。
今まで通り主観は私なのだが、この記憶を次いだ事により自分が自分ではない変な感覚に襲われる。
記憶を私が誕生するより更に辿れば自らの体は巨大で、硬く厚い鱗に覆われている。 なんとも不思議な感覚だ……。
竜の記憶も合わせて今回の騒動の見解を明かすとこうだ。
没した竜はあまりにも完璧な形で残りすぎていた故に器が本来離れるハズだった魂を縛りつけていたのだ。
魂は肉体から離れたい一心で魔を放ち、自らを引きずり出してくれる様な者を引き寄せようとしたが、
魔が強すぎたせいで、人々には毒と成り得てしまったのだ。 本来人と言うのは理解出来ない物に神を宿したりする。
近づいただけで死人が出る鉱山を聖地として崇めてしまったのだ。 これは本来の竜の思惑とは違い人を遠ざけた。
しかし、年月が経つ毎に魔にも限度は有り、少しづつ弱まった所に魔を有効活用出来ないかと考えたエルフ族が骨の一部を発見。
掘り出して、それを元に傀儡を作り出したが長年かけて磨り減った心の臓腑の魔は傀儡を動かすには足りなかった。
故に盗賊に情報を流し、集まった所を捕らえる事で生命から魔を作り出し、どうにか動き出したと言う所で
我々の襲撃に合い計画が狂ってしまったらしい。 私の命が危なかったアノ戦いですら本調子では無かったらしいな…恐ろしい……。
その後の展開は記した通りだ。 傀儡の呪縛から逃れたかった竜は私を取り込んで、自らの体を追加して再び私を作り出した。
もう暫くその魂を開放してやる事は出来そうにないな。 まぁ、地下に埋まっていた数世紀に比べればあっという間さ……。
どうやら姿は元の姿らしいが、今私の心の臓腑は二つある。 不揃いな二つの鼓動が胸の内にあるのが感じ取れる。
本来私の物だった心の臓腑は毒を循環させ、竜の物は魔を循環させている。 明らかに人の物ではない流れ方をしているが……。
毒ですら既に人間離れしていたって言うのに、強い魔を宿した事で更に魔物に近い生態となってしまった。
もう既に私の自我を除けば、私のカテゴリーは魔物と言っても良いだろう……。
晴れて念願の魔が流れる体となったと言うのに、畏れの対象となると思うと余り嬉しくはないな……。
しかも、そもそも私には魔術を扱うだけの精霊と契約したり、思想も持ち合わせていない……魔性を帯びただけ…か…?
全く、私の不幸も来る所まで来た様だな……。
見た目が変わらなかった事が唯一の救いだな……。鱗とか尻尾が生えてでもいたら直ぐさま斬られていたかも知れないのだからな…。
いや……これから変化していく可能性も否定も出来ない訳か……。 というかそろそろこの晒し者状態から脱したい……。
服なんせどうせ防寒具の一種だと思っていたが、服の元に生活を送ってきた故に些か違和感と言うか……恥ずかしい……。
そこら辺の私の三分の一程も生きていない娘とは違って無闇に叫んだりとかはしないが……
人はその存在を無くして初めて有り難さに気付くと言われているが、正に其の通りだな……。
我々は神話では知恵の実を食べ、知恵を付けた事により、裸でいる恥じらいと限られた命を与えられた。
この際人類が始めて身に付けたとされる衣装の無花果の葉でも良い…、何か隠す物は……。
「だ、誰か……何か着る物を……」
周囲の者に意を決して近づいて見るが、どうやら警戒されているらしく後退りして行った……、
まぁ、一回この都市を崩壊の危機まで追いやった竜に取り込まれたのだ、その気持ちは解らんでも無い……。
都市と命を守ろうと奮闘した私だが、この都市の住民からしたら毒を撒き散らした罪人なのだ……。
それもそうだ、私のやった事は人助けを称した自己満足に過ぎないのだからな……。
結局の所、他の所で崩壊を招いてしまい、この都市を今少しづつだが確実に崩壊へと導いている。
私も何かの犠牲の上でしか事を成しえないのか……、全く……英雄譚の様には上手く行かない物だな……。

9 :
うう……、全裸でこんな事考えていてもカッコも付かないな……。
最早時刻は夕闇が迫る大禍時、この騒動の発端が数日前とは思えない程に長い時間を過ごした錯覚に陥る……。
それと同時に流石に全裸だけあって少々所では無い程冷えるぞ……。
寒さに震えていると、意を決した少年が私にマントを手渡してきた。 ああ、今はお前が神や仏の様に思えるな……。
マントを羽織っていると少年から声を掛けられた。 何の事も無い挨拶だが今は何だか其の言葉だけでも嬉しかった。
自らの帰る場所等とうの昔に大罪と共に私の故郷に置いて来たハズだが……今はその言葉だけで嬉しい……。
「あ……ああ、只今帰った……」
有難うと言いかけてしまった……。 其の言葉を聴いた少年が何か合図を出すと、周囲は一気に騒がしくなった。
成る程、竜に乗っ取られていないか私は試されていたのか……。
しかし、アノ竜の破壊行動は傀儡によってプログラムされていた事、竜の意思とは違うんだ……。
魂と一体化し、記憶を引き次いだ私だからこそ、それがハッキリと解る。 今回は竜ですら被害者側だった事がな……。
黒幕は解っての通りエルフの里に居た族長と、それを推進した過激派の者達だ……。
彼らは人間と対等の立場がどうしても許せなく、再び魔族が現れる以前の戦争状態にしようした。 争いに何の意味も無いと言うのにな。
自分の器以上の力を手に入れた者は少なからず正気を保って居られないらしいな、かつての私がそうだった様に……な…。
今回の騒動は事実上の解決を迎えたが、その爪痕は甚大だ。 ただ崩壊するのが早かったか遅いかの違いしかない。
汚染区域となった鉱山からは有毒物質が流れ出し、井戸を汚染し大地を不毛の物とし、いずれ大気すら汚染される。
じわじわと、蝕む様にこの都市を崩壊させていく……、それが自らで起こした事態だと言うのに何も出来ないのがただ悔しい…。
仕方無いでは済まされない、今は良いかも知れないが後には同じ結果に到達してしまう……。
それがどうしても許せなく、毎回の様に次こそは使うものかと強く思い続けたが、結局はコレだ……。
どうしても強い力に頼ってしまう……。 そして毎回の様に闇に紛れて逃げ出して来た……私は弱い者だ、心底そう思う……。
丁度その時、鉱山がある方からほんの僅かの間だが眩いまでの光柱が出現した。 新手かと思ったがアレには見覚えがある……!
儀式魔術の中でも特異中の特異、聖地の魔術発動時特有の現象…!
都市の人々が何が起こったか解らないと言う顔をしていると言う事は、森に生き残っていた同族の手による物だろう。
聖地魔術ならば毒に沈んだ鉱山を浄化するには十分過ぎる。しかし、最高の浄化術式である故に、破壊的に燃費が悪い。
私が持てる中で最高の素材を使ったとても一晩持続させるのがやっとだ、森を助けたいとは言え気休め程度しかならな……まさかっ!
気が付いたら身振りも気にせず只管に鉱山に向け、走っていた。 同属達が何も考えも無しにあんな事をするハズが無い……!
だとすると、嫌な予感がする……それも、とびっきりのな……。 私の嫌な予感はこう言う時に限って外れた事が無いんだよな……。
ああ、此れが夢であるならば幾分かマシな事か……、鉱山へと到達した私の目前には正に予想通りの展開が待ち受けていた。
里の全員とも思える数の同属達は鉱山を大きく取り囲むように聖歌術式を展開していた。
其処までは普通の魔術となんら変わりは無いが、同族達は皆、物言わぬ石に変貌していた。
つまりは、聖地術式に魔力、生命、魂の全てを投げ打ったのだ……、
成る程……此れならば私の毒の効果が切れても尚、向こう数百年は術式を維持出来る……。
同族達が正に命に代えて森を守ったと言うのに、私は何も出来ない事を悲しんでいただけ……、
そして、あわよくば、この問題を放置して逃げようとも思っていた……本当に嫌になる程弱い者だな、私は……。
元汚染された鉱山であったのが嘘の様に、美しく輝く泉の辺で、元同族だった者達の前にて私は、
同族を失った悲しみもあったが、それ以上に湧き上がった己へのどうしようもない位の怒りでどうにかなってしまいそうだった。
激しい自己嫌悪の中、訳の解らない事を喚きながら、血が出るのも構わずに地面を殴り続けた。 何度も、何度も……。
その後どうなったかは解らないが私の記憶は其処で途切れている。 そう言えば新たなる私を作り出したとは言え傷はそのままだったな…。

10 :
・・・同族性の召喚は知っているね?
水を召喚するのには水、火を呼ぶには火
つまり…キミの身体は染物質を召喚するのに最適なのだがねぇ(クヒヒッ

11 :
呆気無い幕切れとなったがそれでも驚異が去ったことに変わりなく、街は勝利と生存の喜びを
沸き立っていた。そんな中を鉱山から天へ昇る光が少しの間照らし出す。
何事かと皆が緊張するが、その光は先程の竜とは正反対の清らかな輝きに満ちていた為むしろ
多くの者がこの光を戦いの終わりの合図として受け取った。しかしその光の下へとたった今生まれた
ばかりのカナは文字通り血相を変えて駆け出して行く。
まるで置いてきぼりを食らった子どものような彼女の表情を見て、何かがあったとマイノスも勘付くが
その時、>>10の匂いにも気付いてしまう。
喧騒の中に瘴気とは異なる濃く、昏い匂いを思わず嗅ぎとり立ち止まる。
(誰だ・・・!まだ誰か、いや!何かいる・・・どうする、今は、今はカナさんを追うべきだ!でも)
逡巡していると匂いは他の匂いに紛れるように消えてしまった。不安はあったがマイノスは急いで
カナの後を追うことにした。
弱ってそれほど速く走れないことが幸いしてかカナを見失うことは免れた。街を外れ鉱山へと強引に
山道を分け入って直進するのは体力をかなり消耗する。傷つき、体も冷えていながら構わず走る
カナの体はとっくに限界のはずだ。どちらも早く走れないが、差を詰めることもできない。
無理をしたおかげか嘘のように早く鉱山へと着くと、見覚えのある風景に異なる点が二つあった。
一つは入り口の辺りが崩れていたこと、そしてもう一つは・・・
「これは・・・」
鉱山の手前の魔方陣から始まって延々と石像が置かれている。その表情には生気さえ感じられた。
呆然としていると先に到着していたカナが蹲って何かを叫んでいる。地面に打ち付けた手からは
血が出ていた。傍目にも自棄になっているのが分かる。
マイノスは声を掛けたかったが、言葉が見つからなかった。さっきとは状況が違いすぎるし
何よりマイノスにはカナの気持ちを推し量ってやることさえ難しかったのだ。
ただそれでも断片的な呻きから、彼女の悔いと自責の念を知ることはできた。
やがて体が痛みを思い出したのかカナがその体勢のまま動かなくなり、慌てて近寄るがどうやら
気を失った様だと分かるとマイノスは胸を撫で下ろした。

12 :
無理に起こす事もこのまま連れ帰ることも気が咎めたので、少年は仕方なく正座をするとその膝から
腿の上の辺りに彼女の頭を乗せ、目覚めを待つことにした。上着もかけたので夜気が身に染みた。
もう一度辺りの見回す。石像の中には以前に会った顔もあり唯事ではない様子だった。
『終わっちまったな、いい奴らだったんだけど』
シルフが指輪からマイノスに語りかける。どうやらこの状況が分かるらしい。
「何があったんだろう」「簡単さ、浄化だよ」「浄化?」「そう、浄化」
水の流れと木のささめき以外の音が淡々と繋がっていく。
「この女の毒で山が汚染されたから、こいつらは浄化の為の儀式魔法の触媒に自分たちを使ったのさ」
「これでこの山一帯は当分安全さ、けどこいつらは向こう数百年、世界の中には戻れないだろう」
なんとなくだがマイノスはことの顛末が理解できた。汚染された毒を消すために残ったエルフたちは
自分たちを長い間この地に捧げ続けることを選んだのだろう。そしてカナはそれを知って自分を責めたのだろう。
「もうあの祭壇で遊ぶこともないのか・・・」
霊廟のようになった山にそっと風が吹く。遠くに行ったモノを見つめながらシルフは小さく呟いた。
一方でマイノスはカナの汗を拭うと、彼女の顔をじっと見つめた。
世の中にはどうあっても自分が悪いと認めたがらない者がいる。そんな人は何が何でも謝りたくないのだ。
カナは真逆だな、とマイノスは思った。どれほどの人が許しても、他ならぬ彼女自身が許せないのだ。
きっと自分が言っても同じことだろう。そう思うと出会った頃のことが不意に脳裏に過ぎった。自分は見栄を
張ったりしていたが彼女にはどこか影があった。今にしてみればそれがマイノスにとっては放っておけない
部分だったのかも知れない。
血を流したカナの手を彼女の胸元に置くと、少年は手甲を外しまだ治り切っていない火傷した右手を重ねる。
不思議と今回は皮膚が焼けることはなかった。
「きっとあなたは納得しないんでしょうけど、あなたは僕を助けたんですよ。カナさん、分かってます?」
そう言うと彼は空いた左手で時折カナを撫でながら、周りにも聴かせるように子守唄を口ずさむ。
既に夜になっていたが、月と星の夜空の下、マイノスはそうして、何かを見送るように朝までの時を過ごした。

13 :
エラッタ
× 思わず嗅ぎとり立ち止まる。
○ 嗅ぎとり思わず立ち止まる。

14 :
私は夢を見ていた。 内容は淡い淡い物だが、ハッキリと夢と解る夢は久々だな……。
ん? それは何故かって? 術式に魂を投げ出し、全てを魔術に縛られる事を是とした同族の者達が目の前に立っているからだ。
私は魂の存在や、其れの意識の干渉を信じるが、相手は全てを縛られた者達。 そう、此れは私が作り出した虚像に他ならない。
記憶の中から作り出した虚像ならもう私を苦しめないてくれ! もう目の前で助けられる者達を諦めるしかないと言う選択は嫌だ。
この者達の魂を開放させてやるのは簡単だ、術式を崩してやれば良いだけだ。
しかし、この均等を壊してしまえばまた誰かを不幸にする事になってしまう……。
その時、目前の同族達から此れは我々が望んだ事だから罪を被らないでも良いと聞こえた様な気がした。
都合の良い事を言うな、流石は自らが作り出した幻影。 罪の意識を逸らそうとしている訳か……。
仮にこの者達が本物だったとしても、私はある信念の内にやっている事だ、これは絶対に曲げない。
何せ、この私に名をくれた者との約束に他ならないからな……。
己の手段で罪を清算し、償いが終了したと思ったならば其の名を元に戻す。 其れが私の罪に課せられた罰。
清算の手段は人命、過去に私が原因で命落とした者と同数の命を救った時に逆名の呪縛から開放される。
それに一切の例外は無く、今の所増え続けている一方だな。
元々しの専門だった私が逆に救うという事はこんなにも難しい事だったのだなと気が付かされた。
と言う訳だ幻影の諸君残念だったな、私は自らに甘えたりはしないし、もう逃げたりもしない。
さらば、幻影達よ。 我が罰の道はまだ始まったばかりだ、故にこんな所で油売ってる訳にもいかないのでな。
体の感覚が戻り、微睡から覚醒する、と同時に全身を襲う痛みも再開した。
だいぶ鈍い痛みになって来てはいるが未だに続いている。 直るまで待つしかないとは言え、痛みは考えを鈍らせる。
鎮痛処理は痛みは無くなるのは良いんだが、使いすぎると体に良くない。 身を粗末にしている私が言えた事じゃないがな。
次に身を起こそうとして、私はある事に気が付いた。
自分の今居る場所が宿等の屋内では無い事と、後頭部に感じる明らかに地面の感触ではない物の二点だ。
そう言えば、この光景を目の当たりにして怒りで我を忘れてしまった様だな、ガラにも無く喚いて取り乱してしまったな……。
しかし、もう整理は付いた。 私は彼等の魂を背負う事で更なる罪を重ねる事にした。
さて、それは良いとして、だ。 どうして私は少年に膝枕されている状態なのだ……? 普通は立場が逆なんじゃ無いのか……?
まぁ、私も今だかつて他人にはした事が無いんだがな……。 だがしかし、たかがあんな事とは思っていたが気は悪くは無いな。
走る鈍痛に鞭を打って私は無理矢理立ち上がった。 私には命に代えてでもやるべき事がある。
しかし、私の命が燃え尽きた時、原罪から開放される。 今までの無茶な行動は自らをそうとしていたのだ。
何時だって私は他人の為と言いつつ自らの為にしか行動をしていない、言わば偽善者だ。
少年の前で位は私の真実を教えてやってもいいか……。 何せ私の墓に真名を書き込む人が必要だからな。
「少年……。 いや、マイノスと言ったか。
 私の真名は『坂山 香奈』、それが私の墓に刻む名だ、覚えて置けよ。」
其れは、人より長い命を持っている種族である私が、
お前より先に死ぬぞと言っている様な物で、何か言い返されると予想した私は直ぐ様に次の言葉へと続けた。
「もう此処には用は無い、都市に戻ろう。 薬箱も置いてきてしまった故にな……」

15 :
どれくらいの間そうしていただろう。膝の上でうなされるカナを見て、もしかしてやらない方が
良かったのだろうかとマイノスは不安そうに寝顔を見ていた。段々と汗を掻き始めたがその量が
尋常ではなかったので懐から手ぬぐいを出して汗を拭く。
とはいっても触ってせいぜい首の辺りまでなのであまり効果があったとは言えない。
そんなことをしているとカナが目を覚ます。
「あ、起こしちゃいましね」
呼びかけてみるものの反応は芳しくない。
やはり夢見が良くなかったのか今一つ状況が飲み込めておらず、少しの間目の前の儀式場の
光景とマイノスを振り返るとこれまでのことを思い出したようだった。その顔には様々な種類の疲れが
浮かんでいた。
カナが無理に体を起こしたのを見てマイノスも立ち上がる。ふらふらとした足取りにやはり黙って
宿へ連れ帰るべきだったかも知れない。どうもにやる気が空回っている気がする。
(もう少し寝てればいいのに)
考えても仕方がないので、傷ついた体を引きずるように歩くカナに肩でも貸そうかと思って
追いかけようとした瞬間、カナから声をかけられる。名前を呼ばれたのは初めてだったかも知れない。
何かと思っていると彼女は告げる。
>「私の真名は『坂山 香奈』、それが私の墓に刻む名だ、覚えて置けよ。」と
そしてマイノスに街へ戻るよう促すと歩みを早める。言われた瞬間何をと思ったが、不意にさっきまでとは
比べようもない不安がこみ上げて来たので、少年は届かせるように声を返した。
「長生きしますよ!」
どうしてそう言ったのかは彼にも分らない。カナが何を言おうとしたのか、それに対して自分が何を
言いたいのか、分らない。たぶん後でちゃんと考えれば分かることだが今だけは、どうしても。
「僕は、長生きしますからね、なるべく、たくさん、ずっと、ずっと・・・」
後に続きながらしかし、それ以上の言葉は出せなかった。頭の中でも口に出すにも言葉にならない。
もっと何か言えるはずで、もっと他に言うことがあるはずなのに、何も見つけられない。
「気の早い話です。でも忘れないでおきます・・・・・・それといい遅れましたけど、"香菜"さん」
マイノスはそこで区切ると息を吸い、もう一言だけ付け足した。
「何度か危ないところを助けてくれて、どうもありがとうございます」
最後に頭を下げると彼もまた歩き出す。きっと正解じゃない言葉だが、それでもこれだけは言っておきたかったのだ。
まだまだ明けそうにない夜の中短いやり取りを済ますと、二人はエルフの森を後にした。

16 :
愛したのは人であり、憎んだのも人。 人に違いこそあれ、同種には違いない。
同種で争うなんて本当に下らないと思うが、生物故なのかそれとも神が其の様に作ったのか我々は日々闘いを紡いでいる。
動物では縄張り争い然り、生殖活動然り、それを考えると生物の進化は争いの歴史だとも言える。
私に渦巻くこのドス黒い感情も、その一部だとすれば人の本能とは何とも恐ろしいモノだと言わざるを得ない。
何時でも私は人を助けようとした。 その度にどう仕様も無い程の意に襲われる。
人をしてみたい、無様に転がる人々が見たい。 一度味わってしまった快感は忘れられないと聞くが全くその通りだよ。
故に私は自分自身がとても嫌いだ、いっそ此の世から無くなってしまえば良いと本気で思っている。
しかし、私には託された約束がある。 それが完遂するまで私は命を捨てるつもりはない。
その一方、抑えれば抑える程私の中に眠る意は増して行く一方だ……。
最初は鼠や虫等をして何とか抑えていたが、最近では猫や犬をしても足りないと思うようになってきた。
いけないと思っているが、何時しか自分を抑えられなくなりそうで怖い。
そして、推測だが再び私が自らの意思で人をめてしまったのなら、最早後戻りは出来ないだろう。
今この時でも目の前に居る少年をしてやりたい衝動に駆られる。
気が付くと、何をしたら簡単に尚且つ証拠を残さないでせるか等、無意識の内に考えていて、私はその思考を振り払う。
気を抜いたら直ぐこれだ……全く嫌になる……。 私が師に出会わなかったら歴史に残る人鬼となっていただろうな……。
頭を掻きながら危険思想を取り払おうとしていると少年が長生きすると言ってくる。
彼は大真面目に言ってるのだろうが、余りの突然明後日の方向へと投げ出した答えを聞いて思わず吹き出してしまった。
今まで必死に抑えていた危険思想はそれの一発で吹き飛んだ。
「面白い事を言うな、少年…いや、マイノスよ。
 そんなに死に急ぐ訳では無い、只私の真名を知る者が一人増えても良いと思っただけだ……」
私は笑顔を作り出してみるが、普段表情の変化に乏しい私の笑顔は多分引き攣っていただろう。普段やりなれない事はする物ではないな……。
次に助けた事に対しての礼を言われる。
「何を言う、初めに私を助け出してくれたのは御前じゃないか。
 助けてくれなければ私は今此処には立っていなかっただろう。 だが、まぁ気持ちだけは受け取っておく」
さて、いい加減私もダメージを受け過ぎた。 少年との約束通り、暫くの内は安静にしていた方が良いな……。
そう言えば必死で此処まで走ってきて気がつかなかったが、今裸足じゃないか……。
良くここまで目立つ怪我も無く辿りつけたと自分でも関心するな、しかしこのまま戻る訳にもいかないな……。
所持品はマント位しか無く、それを千切って使うと布が少なくなってしまう……。 背に腹は代えられないか……。
「すまないマイノスよ……。見ての通り裸足で飛び出して来てしまった様でな、
 このまま覚束無い足取りで下山は危険故に麓の都市まで背負って行ってはくれないか…?」

17 :
エロフ

18 :
カナが吹き出したのを見てマイノスも拍子抜けしたような顔をする。
もしかして自分の心配は只の杞憂で、何かものすごい勘違いをしていたのか知れないと思うと
急に顔が熱くなってくる。
しかも本人にしっかりと死に急ぐ訳ではないと言われてしまう。自分の心配の正体がはっきりするのと
それを否定されるのが同時に起こったのでいよいよ恥ずかしくなってくる。
(でも、思い過ごしならそれでいいか、カナさんもお礼は聞いてくれたし)
確かに初めは自分が彼女を助けた、だがその後も同じように互いに何度か助けあうこともあったのだ。
どちらかが助けることを辞めていたらきっと、こうして二人が生きていることはなかっただろう。
カナが助けなければ、自分だってここに立ってはいられなかった。
少年はそう思ったが敢えて口には出さなかった。これ以上言えばカナはきっと変に
へそを曲げてしまうような気がしたからだ。
そう言葉を交わしているといくらも歩かないうちにカナの足が止まる。今度はなんだろうと同じく立ち止まると
傷と疲れのせいか歩けないようだった。今まであまりに平然としているのでこのまま街まで戻れるのでは
と思ったが流石にそこまでではないらしい。
声をかけようとすると先にカナから声をかけられる。麓まで背負って行ってくれないか、と
「・・・っお安い御用です!」
喜んで、と言うと少年は彼女を背負い街を目指して歩き出す。彼も大分くたびれてはいたが
カナにそう頼まれたとき、不思議と顔が綻び、少しだけまた力が戻って来たのだ。背負った人の重さはそれほど
重くはなく、またマント一枚しか身に付けていない体は夜気に当たってすっかり冷えていた。
「とりあえず帰ったら、まず最初に暖をとりましょう。それとよく寝て、食べて、絶対安静ですよ!」
道すがら前も言ったことをもう一度言って山を降りる。もうしばらくすれば朝になるという頃にやっと街まで
戻ってくるが街は寝静まるどころかまだ騒いでいる。人々の気持ちが一段落するにもまだ時間がいるのだろう。
そういえば、マイノスは思う。カナが卵になるまえの竜骸石の欠片はどうなっただろうと。
出がらしと言えどそれなりに価値はあるはずだ。路銀の足しに辺りを探すが何も無い。目ぼしいの物は既に
人々が持っていったようだ。ちゃっかりしている。残っているのはカナが出てきた卵のカラだけだ。
どうやらこれだけは誰も手を付けなかったようで広場にぽつんと残されていた。
「あの、カナさん、これどうします。持って帰りますか」
返事の内容にだいたい見当は付いていたが一先ず彼女に聞いてみることにした。

19 :
……ああ、久しく忘れていたこの感覚、悠久の時の中に忘れてきて来てしまった物をふと思い出した。
心を強く揺さぶるその正体は既に分かっていた。 人の温もりと言う物を私は随分長い間忘れていた様だ……。
冷え切って感覚すら危うい体が他人による体温により温められていく……。
思い返せば、数百年の時の中で人とのこれまで長い触れ合いをした事は無かった。
私自身に眠る毒にて傷付けてしまうかも知れないと思うと人との触れ合いを私は避けてきた。
最大なる矛は相手と同時に自分にも向く事、一歩使い道を誤れば取り返しがつかない。私はそれを強く恐れた。
使い方次第で私は人々を助ける天使にも大惨事を引き起こす悪魔にもなれる。
悪魔となる生き方は飽きた。 私はこの温もりに応えるべく存在に成りたい。
マイノスより最早くどいと言わんばかりの言葉が出た。
今まで自らの命を捨てる事が正義だと思っていた私の命を案じる懸命さに何故か笑みが漏れた。
自分でもなんだか分からないが、此の者ならば何かしてくれるのではないかと変な期待を抱いていた。
「解った解った。 ああそれと、人とは食が合わない為に食物の調達は任せたぞ」
私は少し意地悪な事を頼み軽く笑う。 こんな気分は初めてだ、自らの気持ちが解らない……。
人と親しく慣れ合うと言う事をしてこなかった私にとっては未知の感情だ……。
しかし、それに比例するように私の中に眠る人願望は増すばかりだ、この手で首を締めれば……。
い、いかんいかん! 仮になりしも相手は私を救ってくれた恩人だ、そんな事はできぬ…!
もし私に間違いがあったと言うのなら私がこの世に生まれた事自体が最大の間違いだ。
たまに抑えられなくなる人願望に人を死に追いやるのに十分な毒を持っている。
今はこうして意思の力でブレーキをかけているが、理性が外れたならばただの快楽人犯と成り下がるだろう……。
自らの事だと言うのに全然思い通りにならなくて自らを思いっきり殴りたくなる。
自らとの葛藤をしている内に何時の間にか周りは市内の物になっていた。
自分に意識を向けなくて済むかなと考え、私は周囲の風景を眺めていた。
最早明け方の方が近いというのに、人々はまだ起きていて何やらザワついている。
未然に防がれたとは言え、一度滅びかけた故に当たり前の騒ぎだろう……。
これで毒が残ったままなら私は再び捕まっていたかも知れないな。 其の部分だけは森の同族達に感謝せねばな……。
そして我らは再び竜の記憶を伴った新しい私が誕生した場所に辿り着いた。
珍しい石と皆が言っていた通り、その殆どの部分が人の手によって持ち去られていた。
元々私の物でも無い上に、竜の意思が骨を加工される事を望んでいる以上私にはとやかく言うつもりは無い。
それでもやはり魔も用途も無い私が生まれ出た卵らしき石の破片はそのまま残っていた。 マイノスが持ち帰るかどうか聞いてくる。
「ふむ、そうだな。 利用価値はほぼ無いが記念として持ち帰るか。
 竜の遺伝子を次いで新しい事が出来るようになったしな、それを試してみるとするか」
私はマイノスに下ろすように言い、地面に降り立つと空中に魔方陣を描き出した。
空中には私がなぞった後に光線が描かれ、魔方陣が完成していく。 地面に描く時との最大の違いは素材を必要としないと言う点だ。
魔なら既に二つ目の心の臓腑が体中へと流している。 まぁ、扱いは物質から魔術装置と格は上がったのかも知れないが、
私が知っている魔術が魔方陣を用いての儀式魔法しか無い為に常人より遥かに高い魔力を持っているにも関わらずこのような方法を取っている。
しかし、描き込む媒体を必要としない為に素早く発動できると言う利点も存在するがな。
そんな事を言っている間に魔方陣が卵の残骸を分解し、再構成して圧縮する。 手のひら大となった卵型の石を拾い上げた。

20 :
そう言えばこのへんに居たハズの奴に薬箱を預けたハズなんだが……。
アレから大分時間も経っているし、移動でもしたか…? 私がアレに固執するには訳がある。
私の生命の要である毒が入ってるのは勿論の事、使い方を間違えれば大惨事に成るような危険な物まで入っている。
何故そんな物が入っているのかと聞かれると、ま、まぁ……、色々あってだな……。
人の欲は時として自らを滅ぼす。 好奇心は猫をもすと言う言葉がある通り価値は有るかも知れないがそれは致命的と成り得る。
私の薬箱がパンドラの箱となる可能性は十分としてある。
無用心に開けると言う事は多分無いとは思うが、元々私は臆病者らしくてな、心配事が少しでも有ると心配でたまらないのだ。
そんな心配を他所に、私が薬箱を預けた傭兵と賊の者共が近くの酒場にて盛り上がっていた。
大いに酒が入っているらしく通りまで聞こえる程騒いでいる。 全く……何をやってるのだあいつらは……。
まぁ、自らの命が助かったも同義なのだ、酒盛りでもして祝いたく成る気持ちは分からないでもない。
薬箱が無事なら寛大な私だ、少しの事は水に流してやろう。
「おい、貴様等私の薬箱は何処にやった?」
騒ぎが一瞬止み、皆の視線が私に注がれる。 その刹那、さっき以上の音量を出し騒ぎ出した。
どうやらドタマの先まで酒で犯されているらしく、私の格好を見て酒場の催しだと思ったらしく更に盛り上がってしまった。
なんとも面倒な連中だ……。 今直ぐにでもその下品な笑みを私の毒にて苦痛一色にしてやっても良いんだぞ……。
こいつらの事など今はどうでも良い、薬箱を見つけるのが先決だ。
「おい、貴様等の余興はどうでも良い、私の薬箱は何処にあると聞いているのだ」
ううむ。 こいつ等に聞く事自体が間違っている気がする……。 まともに話が通じない相手程面倒な相手は居ない。
いっその事自白剤でも使うか……? いや、ダメだ薬箱が行方不明の為に今、薬を作る事は叶わない。
何時もの服のままならば常備薬が存在していたのだがな……。
考え込んでいたら、その内の一人に絡まれて私に強く飲酒を進めてきた。
「わざわざ毒と成る物を摂取する訳無いだろう!」
それでも私と気付いていない愚か者共は発泡する金色の液体の入った木彫りのジョッキを押し付けて来る。
必死に押しのけようとするが悲しいかな女の腕力では到底勝てるハズも無く、押し戻されてくる黄金色の液体。
普段は綺麗と思っていたが、今は金色の液体が煮えたぎる溶岩にすら思える。 効果自体は大差無いしな……。
「くっ……や、やめんか………」
そこで両側からの圧力に耐えられなくなった木製のジョッキが真っ二つに割れ、金色の液体を頭から被る。
同時に、全身に耐え難い熱さと痛みが走る。 染みこんでしまったマントを脱ぎ捨て頭部にかかってしまった分を拭う。
愚か者達への湧き上がる怒りを抑えつつも、薬箱の情報を聞き出そうと思った矢先、
何処からとも無く>>17の言葉が聞こえ、私の頭の中で小気味良い音を立てて何かが切れた。
私は空中に巨大な魔方陣を描いていく。 それは私の知りうる中では純粋なる破壊力で上位を冠するものである。
ひょっとしたら、この辺り一面が焼け野原に成るかも知れないがもういい、こんな奴らの為に我慢する事なんて無い……。
今は全てを焼き尽くしたい気分なんだ……。

21 :
カナがこちらの言い分を聞いてくれたことにマイノスは素直に喜んだが、食事も任せると言われて
僅かに思考が止まる。前にタバコを食っていたような気がしたが毒系統の食材となるとさて何であろう。
そもそも素人でも簡単に用意ができる毒物となるとちょっと見当がつかなかった。
(ま、まあでもその辺は探して見ればなんとかなるだろう。毒キノコとかでパンとかスープを
作ってみればいいんだろうし)
考えながら街へ入りカナを卵の殻の前に降ろすと、何やら空中に何かを書き出す。よく見れば指先に
魔力の光が灯っている。その指で書いたのはどうやら魔方陣のようだ。鉱山などで見た物を空中に描いたのだ。
(そういえばこういう使い方って考えたことなかったなあ)
そもそも魔力を使った文字があり、それを札や剣といった物に書きつける技術があるのだから
こういった形で直に魔方陣を書いて魔法を使うという形式があって当然である。これまでに見たカナの使う儀式魔法が
使用者の魔力に因らないものであったこと、そして近年では呪文を唱える音声魔法が主流という
ことから連想できなかったのだ。これもまた数ある魔法の中の一形態である。
それをやっとマイノスが理解し始めた辺りでカナの術が終了する。見れば手には先程の殻が石になって収まっている。
その技術がなんであったかかなり高度な魔法だったのではないかと思ったが、それよりも彼女が言った聞き捨てならない
台詞の方が脳裏に引っかかった。
(さっき竜の遺伝子って言ってたような、それってやっぱりカナさん竜になりそうだったんじゃあ)

22 :
内心少し冷やりとしているとカナが手近に人だかりに近づいていく。どうやら薬箱の在処を聞いているようで
確かによく見てみれば、赤くなってはいたが見覚えのある顔がちらほらとあった。
ただ文字通り全員デキ上がってしまっているようで、こうなるともう後は笑うか怒るか泣くかの何れかしか
反応は帰ってこないだろう。カナがしきりに聞いているがやはり話にならないようだ。マイノスはマイノスで早々に諦め
薬箱を探すが見つからない。誰かが椅子にでもしているのだろうか。
そう思っていると小さく悲鳴が聞こえる。今の彼女は一般人と大差がなかったことを思い出し急ぎ振り返る。
そこには酒を頭から引っ被ったカナがマントを外してかかった酒を拭いているところだった。健全な男子なら眼前の
女性の裸に興奮の一つもした方がいいのだろうが、あることがマイノスにそうさせなかった。
酒を被った部分が赤くなっている。安酒に含まれる微量な消毒作用でさえカナには毒なのだろう。
(料理用のお酒も止しといた方がいいな、これは)
そう肝に命じながらカナの方をなるべく見ないようにしながら引き続き薬箱とついでに代えの服を探す。
すると今度はすぐ近くで尋常でない魔力とそれに合わせたようなどよめきが聞こえたので、「今度は何だ」と「まさか」
という気持ちを半々に振り返るとカナがかなり細かい魔方陣を空中に書き出している。完成が近づくに連れて
魔方陣が輝きを増し、火花が散る。
酔っ払い達も自分たちが「しでかした」のに気づいたのだろう、顔色が青くなっている。自業自得と思わないでも
なかったが、かと言って巻き添えは御免だった。
止めようとカナに声をかけるが時既に遅く、「カナさ」まで言った所で光が弾けて激しく吹っ飛ばされる。
ごろごろと転がりどこかの壁にぶつかって止まると目の前に何かが飛んでくる。
どこかで見たことのあるソレが自分たちが探していたものだと判明するのは薬箱が少年の顔に綺麗に着席してから
きっちり三秒たってからのことだった。
(あ、薬箱、ありましたよカナさん)
頭の中でそう言うが声には勿論なっていなかった。沈みゆく意識の中でマイノスは思った。
たぶん酔っ払いたちは無事なんだろうな、と。これまでの短い人生の中で培った不条理感に裏打ちされた
考えだったが今となっては確認できそうもない。
それでも心のどこかで、何かが、大丈夫のような気がしたから、マイノスは薬箱の枕になりながら、
一足早くこのまま眠ることにした。

23 :
エロイエルフだからエロフ

24 :
今の状況を言うなれば、私は完全に自我を失っていた。
かつて私が此処まで頭に血を上らせて怒ったのは数十年も前の事だ。
あまり感情のコントロールが上手いとは……いや、正直感情のコントロールは下手だ。
普段余り外側に感情を出さない様に抑制している故に、一度抑制の箍が外れれば再び制御するのは自らでも難しい。
しかし、憤怒と言う割には魔方陣を描くと言う地味な行動に出たのが幸いして、内心落ち着きを取り戻してきた。
だが、私には術式を止められない訳があった。 空中に描いた魔方陣を此処で止めてしまうと何が起こるのか解らない、
都市を吹き飛ばす程のエネルギーは幸いにも、手負いのこの身では制御仕切れ無いと無意識で力をセーブしていた故に、
そこまでの凶悪な破壊力は秘めては居なかったが、それでも大惨事には十分な魔が込められている。
付け焼刃の様に手に入れた魔の力だが、中々に使いこなせる様だな。
この魔を使っていた竜の記憶ごと全て次いだのだから当たり前と言えば当たり前か……。
その気になれば炎を吐いたりも出来ない事も無いのだろうが、余りしたいとは思わないな……。
完成するにつれ魔方陣からは火花や稲妻の様な閃光が迸る。 自ら招いた事とは言え、此れは非常に不味い……。
まぁ、魔を持たない愚か者どもにも自らが起こした事がどれだけ深刻な事が気づいて、一斉に謝って来る。
しかし、その時丁度背後から声を掛けられ、思わず手が止まってしまった。 し、しまった……。
激しい閃光と音を放ちつつ、私の制御を離れた魔方陣が弾ける。 殆ど完成していただけあって魔方陣は無事、爆発を起こしていた。
その爆発は、丁度狙ったの様に酒場だけを瓦礫の山にしていた。
冗談の様な効果に笑ってしまいそうになったが巻き込まれた者達に取っては冗談出はないだろう。
愚か者とは言え守るべき生命なのだ、無事を確認すべき瓦礫を漁ると、簡単に埋もれた者達は見つかった。
…………。 う、うむ、こいつ等はこのままでも、だ、大丈夫だな……!
私は先程の爆発にて身に纏っている物が粉々になってしまった愚か者を尻目に足早にその場を後にした。
魔方陣に私怨が出てしまったのか、怒りつつも安全を第一に考えたのか、酒場に居た者達の損害は服だけであった。
しかし、何と言うか……そう、シュールな光景だな。 この事態を引き起こしたのは愚か者共だし、後処理は彼等に任せるか…。
些か手負いでは……いや、無傷であっても此れの収集は付きそうにないからな……。
等と責任を押し付け逃げ出そうとしていた矢先、顔面に薬箱をめり込ませて倒れている少年、マイノスの姿があった。
この状態はともかく薬箱が見つかったのだけは幸いだ。 薬箱に括ってあった刀も見事にそのままの形で戻ってきた。
喜ぶべき事なのだろうが、異常なこの状態でどう反応していいか判断に困る……。
ま、まぁ、マイノスには悪いが薬箱に入っている服を優先しよう。 最近、服関係のトラブルが多いような気がするな……。
そうして、久方ぶりとも思える何時もの服に袖を通す。 うむ、やはり此れが一番しっくり来る。
さ、て、約束通りに安静に出来る場所を探すとするか、この近くだと宿しか無いか……。
病院に行った所で人と同じ処置をされても、それはそれで困るしな。 全く人と違う身を持つと面倒で仕方がないな。
私はこれもまた久々と思える薬箱を背負い込む、此の重さが無いと足が空ぶっている気がして歩いている気がしない。
マイノスを引きずって持っていく訳にもいかず、空中に描いた魔方陣により宙に浮かせて風船の様に移動する事で問題を解決した。
まぁ、端から見れば奇妙な光景に他ならない為、人々の注目を多く集めていたが、私には関係無い事だ。
少年マイノスも旅の者、だとすれば何処かに宿を取っているハズだが当人がこの様子では聞き出せた物ではないだろう……。

25 :
無事と言うには弊害が有るだろうが、何とかこの時間帯でも開いている宿を発見した。
此れが幸運かそうでないかと言うと、私なら間違いなく後者だろう。
この時間まで営業をしていて、休憩出来る施設と言えば……まぁ、言うまでも無く如何わしい所なのだが…。
しかし、今までに酷使し続けた私の体は後数刻後に訪れる朝を待ってくれそうには無い。
背に腹は変えられないと言う言葉を今程に恨んだ事は無いだろう。
私は意を決して店内へ足を進める。 その時に>>23の声が聞こえてきたが、最早何と言われようが引き返せない。
悪趣味とも思える装飾が施されたロビーが飛び込んできた。装飾の派手さに軽く目眩を起こす。
早急に部屋を取ってこの場を去ろう……。
受付で手続きをしている最中に私は重大な事に気がついた。
言えば、私も旅の者で有るが故に、この地方の貨幣を持ちあわせて居ない事に……。
手続きは最早引き返せない所まで来ているし、今から他の宿を探したのでは私の体が持たない。
いや、その、あれだぞ、別に変な意味じゃないぞ! 勘違いするなよ!
受付に貨幣が無いと相談した所、物品でも良いと言う事になった。
此処が如何わしい店で無ければ、受付の者に握手でも求める所なんだがな……。
まぁ、何はとも有れ我々は仮初の宿を手に入れた訳である。
こんな所に長居は流石にしたくない故に、既に日付は今日だが明日には別に移ろうと考えている。
それ以上居ても料金的な面でも否が応にも移動しなくてはならない局地に立たされる訳だがな。
其れまでに同行人が目を覚ましてくれれば良いんだがな…。
当然ながら寝床は一つしか無い……訳だ。
私が床で寝ても別に取り立てて問題は無いのだが、後に同行人に何て言われるか解った物では無いな。
かと言って彼を床に転がす何て真似は、冷酷に戻りたくない私には到底出来そうに無い。
仕方が無い、一つしか無い故に共に使う事が今此の場で取れる最善の選択だろう……。
いいか、変な意味じゃ決して無いぞ! 本当だぞ!
彼も私みたいな者に欲情なぞしないだろう、薄い胸に手入れをしていない髪、抗い様の無い毒を持っている。
言わば猛毒の蛇や虫等と同じ扱いを受けてきたのだ。 それを知って尚私を愛す者など存在しなかった。
いや、私みたいな罪人には人を愛す資格なんて存在しなかった、ただそれだけの事か…。
今余計な事を考えるのは無粋だな、体を休めて傷を癒すのが先決だ。
私は登る朝日を尻目に意識の深層へと落ちて行った。

26 :
「うん、んーふ、うぅん」
外では登った日が既にいくらか傾き、少し立てばまた夕方になろうかという頃に彼は目を覚ました。
(あれ、ああそうだ確かあのまま寝ちゃって、面倒だなあ、こういうズレって戻すの疲れるんだよなあ)
ズレた生活時間を気にしながらふと自分が寝ている場所が地面でないことに気付く。
(そういえば体が痛くないし寒くない、もしかして、宿・・・?そうだ、カナさん!)
自分を宿まで連れて来てくれたのでないかと思い急いで飛び起きると、目の前の寝る前と何もかもが違う
光景に硬直した。自分の想像が恐らく合ってる気がしたが確信まで至らなかったのは何かが違ったからである。
確かにここは宿のようだ。宿のようなのだが一般の宿とは違う。
配置といい内装といい匂いといい、「いかにも」である。そしてすぐ隣には疲労していながら自分を
ここまで運んでくれたであろうエルフの女性が一人。何故か服を着ている・・・・・・
(落ち着け、僕はお酒を飲んだわけでも変な薬を飲んだわけでもない!仮に飢えてたとしても
そんな卑劣なことするわけがない!・・・・・・と思いたい)
一瞬弱ったカナに襲いかかる自分を想像して頭を振る。恐らく自分を運んだが手持ちが無い為に
二人で一室を取っただけだ。エルフの村でも同じ部屋で寝泊まりしたのだから今回に限ってそんなこと
しないだろうと自分に言い聞かせる。マイノスは何とか気持ちを落ち着けてもう一度カナを見る。
しどけない姿ですやすやと寝息を立てている。自分もそうだろうがこの所強行軍で事を進んで来たので
顔は少し汚れている。布巾で拭ってあげたかったが起こしてはいけないのでそっとしておく。
ただ汚れてはいても種族的に元がいいのか綺麗な寝顔だった。
この女性と今まで隣り合って寝ていたのかと思うと急に恥ずかしくなるが、それほど悪い気はしなかった。
(じゃあ、さっきのいい匂いって・・・)
そうと分かっていればもう少し眠っていたものを、そう思ったが起きてしまった以上は仕方がない。
それに何よりこの手の宿は時間が経てば延長料金を取られるのだ。長居は無用。回復したばかりの
魔力でカナに小さく回復呪文をかけると、マイノスは書置きをして部屋を出る。
お金を取ってくることと、もし自分が不貞を働いたのなら何でも言って欲しいという内容だった。

27 :
マイノスは知らないが受付の人が交代しておりその人に部屋番号を告げて自分の宿から金品を持って来る
ので中の女性を追い出さないで欲しいことと、出来れば湯を沸かしておくよう言うと受付の人物は
生暖かい目で了承してくれた。誤解だが今は時間が惜しい。
思った以上に延長料金が高かったのだ。戻り立ての体力とシルフの力にモノを言わせて初めの宿まで
戻る。もう随分長い間帰ってこなかったような気がするが今はそれよりもお金である。自室の前まで行くと
宿の主人と出会う。ぱっと見大雑把そうな小太りの中年男性で驚いたような顔をすると次にすまなそうな色を浮かべた。
「ああ、戻ったのかい、ああうん、生きてて何よりだようん」
嫌な予感がしたのでマイノスは部屋を覗き込むと部屋の中が幾分さっぱりしている。今回の冒険に持って行かなかった
物まで綺麗さっぱりだ。少年が呆然としていると主人が何かを手渡して来る。
「いやあほら、街の騒動があったでしょ、それでけっこう連絡もなかったから、ね」
手を見ると渡されたのはいくらかの金銭だった。見ればわかるが死んだと思われていて持ち物も
売られたということらしい。
「ああ、まあお詫びというかお祝いというか、無事だったみたいだし来月の分の払いはいいよ、うん」
言うだけ言って主人がどこかに去る。自分の持ち物を売られたお金を握り締めて来た時よりも早くカナの宿へ
戻る。彼はしばらく考える事をしたくなくなっていた。
(渡りに船さ!来月はいいんだから、カナさんも呼んでやる!くそう!)
自分の泊っていた宿をラックで探したのと同じことをして如何わしい宿へと急ぐ。急いだとしてもカナが
起きないことにはどの道待つしかないのだが。頭が諸々のことで一杯だったマイノスは気付かなかった。
小1時間程して戻ると受付に料金を支払う。
へそくりも含めた今の手持ちが正真正銘最後の資金だ。慎重に使おうと決めると彼は
カナが起きているかどうか確かめに再度部屋へと向かった。

28 :
カナの眠る部屋の前に野性のへびが眠っている。
へびとはの色をしていてとても臭い匂いを放つ蛇だ。
牙には馬をもす猛毒をもっている。
(すやすや…すやすや…)

29 :
保守

30 :
私は思い出していた。 正確には思い出すと言うのも間違いな気がするが……。
今や記憶と遺伝子を次いで、私は二重の記憶を保有する者と成ってしまった。
睡眠と言うのは記憶を整理する行為だと言われている。
だとしたら、私はこの身一つで膨大な記憶と向き合わなければならない。
例えて見るならば膨大な図書館を手探りで本の整理をしている様な物だ。
しかし、それは悪い事ばかりではない。 竜の記憶には其れこそ膨大とも言える情報が入っている。
あるモノは魔の制御の事だったり、またあるモノは食べたら危険な食物の事等。 飛び立つときの翼の動かし方等。
殆どがどうでも良い記憶で構成されているが、どうやらこの竜は神格化していた様で神通力と言う物が使えるらしい。
其の内容は遺伝子の記憶を呼び覚まし、古の竜と融合を果たすと言う物で、二つ首、八首とかがこの部類に属する様だ。
私が使ったらどうなるんだろうな……。 興味はあるが、今この場で使う勇気は持ち合わせていない。
要らない誤解を招かぬ為にも出来る限り使用はしたく無い物だがね。
やはり魔術の事は殆ど無いな、神格化された竜ならばと微かな期待もしたが
人とは違う思考回路を持つ動物というだけは有るか。
まぁ、本来は人々がこういった化物と戦う為に生み出した知恵なのだから知らなくて無理も無い。
いや、記憶を見る限り、本当に化物なのは人なのか竜なのか解らないんだがな……。
魔族の味方をする訳じゃないが、本来私は人が大嫌いでもあり、大好きだ。
何の罪も無い、何の穢れも無い者こそ、それを汚したいと思う黒い欲求が湧いてくる。
間違いなく私は快楽人者なのであろう。 毒にて肉を溶かし、神経を侵し、もがき苦しむ様に気分が高揚する。
いかんな、こういう事を考えると欲求が抑えきれなくなる。
さて、そろそろ思考が煮詰まって来たし起きるとするかね。
随分長い事寝てしまった気がするしな。 それじゃあな竜よ、また次の睡眠で会おう。
目を開けて飛び込んで来たのはど派手な色の天井であった。 まったくセンスを疑うよ……。
はて、夢の中で何か考えていた気がするが、思い出せないな……。 まぁ、思い出せない物は仕方が無い。
私は思考を諦め、思いっきり背伸びをすると術後の傷が痛む。 そう言えばこいつの事をすっかり忘れていたな。
色々痛々しい跡や、動かない所が存在している。 実感は無かったが痛覚が戻ると重傷者だと言うのを思い知らされる。
人は痛みを二箇所同時に感じる事は無いと言われているが、今は全身が一つの痛みであるように痛む。
全く、痛みと私は本当に仲が良いんだな……。 こんなのに好かれても嬉しくは無いんだがな……。
薬箱から煙草を取り出し、火をつけると肺一杯に吸い込む。 あぁ、生き返る様だ……。
そう言えば少年は何処に行ってしまったのだ? 如何わしい店だと解って飛び出して行ったか?
……ん? 書き置きがあるな、なんとまあ律儀な事で……、何々……。
まさか、思った通りの反応をするとはな、思わず笑ってしまいそうになったぞ。
冗談で責任を取って結婚でもしてくれと言ってからかおうと思ったが、
事実上として何も無かった以上、この問題はこれ以上追求するべきではないだろう。
冗談で言ったつもりが、冗談では無くなってしまったとなると流石に笑えない。
丁度そこにマイノスが帰ってきたらしく、部屋の扉が開け放たれた。
「遅かったじゃないか、金銭に難でもあるのならば私の薬を交換条件に出しても良いぞ」
等と冗談交じりに部屋に入ってくるだろう少年、マイノスを迎えた。

31 :
    ____
  ,r '´____// ̄ ̄ ̄ ̄\
. /  <   .  彳丿; \,,,,,,,,/ u lヽ
/ /\ \.   入丿 -◎─◎- ヽミ
| |   \ \. (6| u:.::(●:.:.●)u:.::|6)
| |   /\ \ | :∴) 3 (∴.::|
| | rnl`h  \ \.、  ,___,. u .ノnl`h、
| | l l l l l  r  \ \.ー-----一' .l l l l l
| | | ヽr'´つ \ \   r 、.⊂' ヽ./ |
ヽ `ー一イ      \ \/ /`' `ー' -'
 \ \   ハリテヤマ > /
    ヽ、______,,/

32 :
「お知らせ」
地震後の各自の身辺が落ち着くまでの間「人間とエルフ」は
休止とさせて頂きます。その内また書き出すかも分かりませんが
しばらく保守に留まると思いますのでその旨ご了承下さいますよう
お願い申し上げます。

33 :
保守

34 :
「あ、カナさん、起きてましたか!」
息を整えながら一時的に置き去りにしてしまった女性を見つけるとマイノスは声を上げた。
悪趣味な内装の部屋へ戻ると、既に目を覚ましたカナがタバコを吸っている所だった。
まず一声かけようと思ったがその後なんと続ければいいのか分らず言葉がでない。
>「遅かったじゃないか、金銭に難でもあるのならば私の薬を交換条件に出しても良いぞ」
まごついている間にカナの方から話しかけてくる。軽口を叩きながら自分を出迎えてくれた辺り
いくらか体の具合は良くなったのだろうか。返事をしようとするが話題は多い。
起きて大丈夫なのか、傷の具合はどうか、やはりここの支払いをさせてしまったのだろうか、本当に
自分とは何もなかったのか、具体的にはどんな薬なのか、とにかく言いたいことや聞きたいことが色々あった。
色々あったが言葉選びに窮した彼はそういえば、と、ある一つの事を思い出し突然気を付けをする。
「あ、あの!お手数をおかけしてすいませんでした!それと、運んでくれてありがとうございます・・・」
深々と頭を下げ、彼は言いそびれていた礼をカナに言った。こほん、と咳払いして気持ちを落ち着かせようと
するがいまいち取り繕えておらず、すぐにカナから視線を逸らしてしまう。場に呑まれているとでも言おうか、
妙な所でマイノスは年相応だった。
「あの、それでもう起きて大丈夫なんですか。けっこう重傷だと思ったんですけど・・・」
立ってタバコを吸うカナの姿は自分が気を失う前と比べて余裕があるように見えてマイノスは些か戸惑う。
大丈夫ならいいのだが、もう少し休んでいたほうがいい気がしてならない。
「あ、それでですね、その、とりあえずここ出ませんか、僕が止まってる宿も無事だったみたいで、
一旦そっちに移ってしばらく休むっていうのはどうでしょう」
幸か不幸か彼の部屋はすっかり片付いている。マイノスはカナにとりあえずここを出るように促す。いつまでも
ここに居る訳にはいかないし、それになんだかここに居るだけでどんどん恥ずかしくなっていく気がしたのだ。
文字通り自分の部屋に女性を誘っているのだが場所のせいかそっちの意味には気づかなかった。
マイノスはもう一度カナを見るがやはり心配だった、出る前にかけた回復呪文の効果があまりなかった事も
気になった。無理に無理を重ね魔法で騙し騙し戦っていたのだ。いい加減魔法の効きも悪くなって然りである。
きっとあの体で無理して自分を運んでくれたのだろう、そう思うと少年の胸は痛み、妙な気持ちは鳴りを潜めた。
「乗ってください。どっちにしたって歩くんですから、僕またおんぶしますよ」
そう言ってカナに背を向けると少年は小さくしゃがんだ。

35 :
という訳で身勝手ながら続きを書かせて頂きました。
もしかしたら復帰できるかも知れません。

36 :
我々は一人では生きていけない、人の想い、愛、悪意、それらから目を背けるのは簡単だが
奴らは遠ざけようとすればする程、自らを追い詰める。 人が生きている以上決して逃げられない物だ。
それが私の今まで生きてきた時間の中で見付け出した答えであり、大きすぎる超えられない壁である。
故に私は己の終焉を望む、私の捻曲がった愛の形は決して他人には理解される事は無いだろう。
そう、私は生物が死んでいく様を見るのが好きなのだ、狂っていると思うならば、それで正常だ。
私自身も正気の沙汰では無いと思っている。 しかし、押さえ込めばそれだけ欲求が膨れ上がる。
偽善と言うのだろうな、私は表面では人々を助けたいと言っては居るが、その腹にはドス黒い想いを持っている。
その矛盾した二つの想いが時折、私を壊してしまうのではないかと思う時がある。
何、そうなったのなら自決すればいい、私一人の犠牲で多くの命が助かるのなら安い物じゃないか。
本当に、この想いは邪魔だ……。 掴み取れそうで届かない位置に有るようなもどかしい気持ちになって他の事が手に付かなくなる。
冷静な判断が求められる場面で思考にノイズが走り、何時もの調子が出ない。
ハッキリ何かとは解らないが、自分の中で何かが空振りしている様な、力を入れようとも入らない様な大きな違和感。
ひょっとしたら私の気がつかない所で少しづつ崩壊は始まって居るのかも知れない。
竜の遺伝子を次いだ影響で症状が悪化したのかも知れないな……。 その時が来る前に此処から離れて一人になれば良い。
そうすれば、此の想いも少しは和らぐだろう。 人に限りなく近い姿を持っているが、やはり彼等とは違うのだな私は……。
人に限りなく近い姿を持った隣人、望んでも交わる事は出来ない。 私の行く末は化物か、それとも……。
少年に何度礼を言われたかもう解らない程言われている。
礼を言われた事等数少ない私に取って戸惑わせるには十分な事だ。 また力が入らない様な奇妙な感覚に襲われる。
もどかしい様な感覚に奥歯を噛み締める。 本当は何か分かっているが、コレを表に出してはいけない……。
何とか表情に出さない様に頑張っているとマイノスから体の事を聞かれる。
無事か無事では無いかで聞けば、明らかに無事では無い、
昨晩はまだ痛覚が消えていたからどうにかなったが、今の状況は些か軽視出来るものでは無い。
大丈夫と無理に言い放つ。 本来ならばそんな余裕すら無いのだが、つい強がってしまう。
次に此処から出ようという提案には拒む理由が無い上に、最早此処に居たくないと言う想いが強い故に即決した。
しかし、私を背負っていくと聞いて、未だ出血している箇所もある上に迷惑を掛けられない。
「そこまでしてもらう訳には……くっ……」
自らで立とうとして激痛に足を取られる。 立つまでは出来るが、歩くのは不可能…か。
「此処はその言語に甘えよう。 怪我人故に慎重に頼むぞ。
 後、重いだろうが薬箱も頼む、命の次に大切な物が入っている故にな……」
私は少年の背に負ぶさった。 少年、少年と言うが小柄な私にしてみればやはり男の背、やはり広いと感じる。
その時私に再び黒い想いが蘇った。 このまま首を締めれば楽にせるのでは無いか、と。
首を軽く振ってその想いを振り払った。 彼は私の恩人なのだ、それをそうと考えるとは……。
しかし、背負われると言うのは何と言うか、子供に戻った様な気がして少々恥ずかしいな……。
そんな様子で我々二人は人々の注目を集めながら夕闇近づく街道を
只管に互いに話題を見つけられないまま、双方黙ったまま歩んで行った。

37 :
カナから了承を得るとマイノスは薬箱を前に抱え、後ろにカナを背負って如何わしい宿を後にする。
ただ、程なくして通りの視線を集めて気まずくなってしまう。基本的に親が子どもを背負うのとは
違うのだから当たり前と言えばそれまでだろう。おまけに薬箱もついて随分と目立ってしまう。
(まいったなあ、なんか目立っちゃって・・・カナさんも黙ってしまったし)
何か話そうと思ったが話題がない。さっきまではあったのにそれも殆ど解消してしまって状態は
振り出しに戻ってしまっていた。
仕方がないのでゆっくりと、しかし急いで宿へ向かうことにする。怪我人と薬を運んでいるので
一人の時より時間が掛かった。先程来たばかりの宿に帰り玄関口をくぐると他の住人と
話し込んでいた管理人と目が合う。カナを見て何か言いたそうにしていたが
目に「来月はまでは良かったはず」と含みというか力を込めて睨むとマイノスは自分の部屋まで
カナを運ぶ。手が塞がっているのでシルフに開けてもらい中に入ると再度部屋を確かめる。荷物はやはり
無かったが趣味である料理の本や足が付き易いギルド関連の品などは棚に戻っている。やる事が狡っ辛い。
ふう、と息を吐くとカナと薬箱を降ろす。本当ならもう少し荷物が増えたことで手狭になるはずだったが
まるでご新規さんが引っ越して来たかのように部屋のスペースには余裕があった。
息をひとつ吐くとマイノスは自分が使っていたベッドを見る。よく見れば自分が持ち込んだ布団が
さもこの宿の持ち物のように敷かれている。本当に危ないところだった。
「よし。カナさんはベッドを使って下さい。僕はこのまま食事の買出しに行ってきますから」
そういうとマイノスは買い物へ行く準備を整える。流石に今日はご飯を作る気にはならなかったが
カナから食事を用意を任されているのだ。自分は出来合いの物を買ってくればいいとしてカナ用のメニューを
考えないといけない。
外は既に暗くなりだしている。急がないと酒場以外の飲食店や雑貨屋が閉まってしまう。早くしないと
と思いながら少年はカナにこの宿の概要を手短に教える。ここはギルドに関係のある者が拠点として
使う宿の一つだと言う事。基本的には他の人も好き勝手に過ごしている事、事前に管理人に言っておけば
食事を用意してくれること、各種ゴミの日、湯を沸かしている時間にトイレの位置、部屋の間取りなどなど・・・
いきなり言っても戸惑うだろうと思い、彼はベッドの枕元にある引き出しに宿の案内と見取り図が入っていることを
告げてばたばたと出かけていく。出先は魔術師ギルド、実験用の毒物くらいはありそうだと思ったのだ。
「あ、そうだ。念のためこいつを置いていきますから用があったらどうぞ、ここの人たちも一応男だし気を付けないと」
そう言って黒い赤カビ饅頭ことキャクを呼び出すと入り口に置いて今度こそ出かける。
キャクはキャクでぼーっとした顔をして主人を見送るとカナに向き直りぺこりとお辞儀をして、またぼーっとし始めた。

38 :
私は悠久の時とも思える背負われている時間の中で考え事をしていた。
自分は他の長耳続…エルフと比べると人間に近いのだろう、なんせ私は汚く、目的の為ならば何でもする。
しこそはしないが、騙し、盗み、陥れ、逃げる。 人、一人の命を救う為ならば悪と付くものなら何でもした。
人は必要悪と言うが、私の本心は悪を楽しんでいたと言う面が存在していたと言うのも、また事実。
それこそ私の自我と欲求を挟みこむ間の肉体の苦痛に他ならない。 しかし、自らではどうにも出来ない。
いけないと思えば思う程、想いは抑えきれない物へと変貌を遂げて行った。
大戦の当時に移植術等と言う技術が無かった時代に死体から臓器を移植していた時があった。
あの時が一番医師としても、人鬼の面としてもとても有意義な時だったと私は自覚している。
肉を裂くと言う意味では同じ事をしていたと今でも思う。 神をも冒涜した混沌とした時代だと……。
それにより薬師や医師の間で死の情報が飛び交い、医療技術が飛躍的に発展したのは此れも神の意思通りだったと言うのか…。
そうだとしたら、魔族とはなんだったのか、私がこの呪われた体に生まれた意味は……。
そして、絶え間なく襲い来る意味の無い意の衝動は何なのか……、意味があることなのか……。
応える訳がない、神は何時だって気紛れで奇跡を起こす。 そこに平等と言う言葉は存在しない。
私は神を信じるが、大嫌いだ。 私の今まで生きてきた道が初めから決まっていた運命と言うなれば、私は神を許す事は出来ない。
長耳族に生まれたのも、生まれし時から持っていた毒の血液、それに私の中に眠る黒い想い。
ふと、彼の首に巻き付いている腕を締めそうになって其の腕を止める。 そろそろ本格的にまずい…か
少年には悪いが、私が過ちを犯す前に此処を出て行かなければならない。 残された時間は後僅か……。
ふと気付くと宿の入り口を潜る所だった。 入り口が古めかしい音を立てたので気がついた。
時間がそれなりに掛かったハズなのだが、そんな気もしなかった。 悪意を逸らす為の思考も煮詰まって来たな…。
入り口を抜けると、話し合っている二人の内一人が私を見て何かを言おうとしていたが、それを発する事は無かった。
何なんだ……? 長耳族に理解が有る様には見えなかったが……。 まぁ、彼には彼なりの事情が有るのだろう。
やっとの事で部屋に辿り着き、自らの精霊にてドアを開ける少年マイノス。 成程精霊と言うのも中々便利だな…。
前に一度土の上級種族に気に入られた事があったが、体格が山程有って連れて行くのを諦めた記憶がある。
神獣だか何だか知らないが、巨大であれば良いって物では無い……。
部屋の中はそれは風景な物だった。 男の部屋と言うのだから当然の如く散らかっていると思ったんだがな…。
少々、期待はずれと言うか、肩透かしを食らった気分だな……。
私なんか機材と素材、書類は広げるだけ広げるし、置ける場所一杯に置くから部屋を取ると三日と状態が保った事はない。
最終的には持ち込んだ毒物が繁殖して、悪魔の巣の様になって追い出される一連のパターンがあってだな…。
今回は人の部屋であるからそんな事をしないように気を付けなければな。
私はベットに降ろされ、ここの施設の配置と、どう行った者達が扱って居るのかを一通り説明してくれると、
バタバタと急いで部屋を出ていってしまった。 儀式魔法の使い過ぎで毒物が少なくなったとは言え少し意地悪だったか…。
しかし、共同に生活するとは……、夫婦にでもなった気分だな……。
私等の貰い手など毛頭すら無いのだろうな……。
良いさ、私は一人身のが気が楽だし、何せこの悪意がある以上は一つの場所には留まれない。
念の為にと言って置いて行った頭だけの毛むくじゃらなコイツ。
何度か助けられては居るんだが、初対面での記憶が引っかかってどうにも好きになれない。
触れるのも気が引けたので「よろしくな」とだけ言っておいた。

39 :
しかし、良くぞ命が持った物だな……。 普通じゃなくとも2,3回は死んでいる負傷のハズだったがな。
これが”運命”と言うヤツか、私はまだ此の世で役目を果たしきれてないのか……。
私がしてきた人々は私の昇華によって、その罪を浄化させる事が出来る。
した分だけ人々を助けると言うのは、私の恩師との約束だ……。
今思うと恩師は私が死にたがっている事に気がついて、こんな無理難題を押し付けたんだろうな……。
皮肉な物だな、死にたがり程死から程遠い運命とはな。
説明を受けたが、私はギルドと言うのは排他的な同業組合だと思っていたが、どうやら違うらしい。
私と思っている者とは180度違うと言っても良いかも知れない、私も見た目こそ若者だが中身は古い者だからな…。
商売敵だと思って避け続けている間にギルドは組合こそ変わらないが、内部は大きく変わったらしい。
今の形は職種全体の利益を守り、同時に職種全体の技術を向上させる為の動きを見せているらしい。
成程、此ればっかりは良い変化と言わざるを得ないな。
しかし、自分が孤島に取り残された兵士みたいな思想を持っていたのが逆に悔しいな……。
同族の里に篭っている者共ならば知らなくても無理もないが、流浪の旅をしている私が知らないとは…。
まぁ、我々長耳族と人間との間には戦争対立時の事が有り、
組合の蟠りが溶けず、対立している所が多く人の組合に我々長耳族が属することは少ない。
人と違い長耳族は果てしないと思うべく寿命を持っている。 未だに戦争の記憶を持ち合わせている者も少なくない。
それ故に未だ長耳族には多く人に対して嫌悪を抱く者も多く魔物を退けたと言うのに、
人と関わる事を嫌がって、族長のように戦争を起こそうとしている輩も少なくは無い。
真の意味で双方が手を取った訳では無く、実の所利害が一致した為互いに利用しただけに過ぎない。
その為、利害が一致しない限り組合を組みたがらない者が多く、人と長耳族の交流は戦前よりマシになった程度でしか無い。
私が言えた立場じゃないが、願わくば蟠りが溶けて、一人でも多くの者が解り合える様に……。
今回の様に無意味としか思えない戦いを起こそうと思っている者達が一人でも減るように……。
さて、ベットに寝っ転がったは良いが、天井だけ見ているのも些か飽きてきたな……。
寝られればそれに越した事は無いのだが、今さっき起きた所故に眠気はほぼ無いと言っても良い。
退屈と判ると途端に口寂しくなり、懐から煙草一式を取り出すと口に咥え火をつける。
煙草から揺らめく紫煙をぼんやりと眺めつつ、私は時が過ぎるのを只待ち続けた。
今は何も考えない方が良い、悪意を遠ざけようと何かに考えを巡らせた所で、結局は無意味。
それならば、何も考えないままで過ごすのが今出来る最良の選択に他ならない。

40 :
ギルドという物がある。これ自体は百年以上前からある仕組みである。そして個々のギルドは
自分だけの技術を持ち互いに競りあっていた、それは今でも然程変わらない。ただ一つ違うのは
魔物が現れ始めた百年前から先はいくらかの互助を始めたことだ。
多くの高い技術が失伝され誰にも受け継がれずに途絶えてしまったことを憂いた幾人かの人々が
対策として一つにまとめることを提案し、文字通り最悪に備えるということで当時生き残ったギルド
関係者が今の体勢を渋々ながら作ってきた。とは言ってもまとめ役とも言えるギルド本部に
送られてくるのは微々たるもので、各所のギルドはやはり全てを提供しているという訳ではない。
そして各職業のギルド間での橋渡しとも言える位置に、「冒険者ギルド」がある。各職業のギルドが
学校や訓練所の役割を兼任しているのに対してこのギルドはそれが一切ない。なぜなら「冒険者」と
銘打ってはいるがようは何でも屋であり、依頼をこなすのに特定の技能が要求されることはあっても
冒険者になるために要求される技能はないのだ。
各ギルドに回ってくる依頼と異なりその種類は雑多で膨大、ピンからキリまでとなっている。それこそ
小遣い稼ぎ程度の依頼もあるがこの冒険者ギルドの依頼を受けられるのはギルドで登録された
冒険者のみである。そして登録を受けるには各ギルド、もしくは冒険者から紹介のあった者が依頼を
こなし規定の点数を得ることで冒険者となるのである。
またこのギルドには復興途中において賊に身をやつしてしまう者が増えたことを受け手荒れくれや
風来坊といった人種をある程度囲っておくための入れ物としての側面もある。
何にせよこの登録はかなり取得しやすく他のギルドの人間が依頼者となったり、報酬欲しさに普段は
接点のないギルドを訪れたりすることで職業間の空気を循環させることに一役買っている。
魔術師と冒険者意外では料理や装飾、漁業に農業、戦士や商人の物もあり、中には旅行や医療
といったギルドがあることをあまり知られていない分野もある。マイノスは冒険者登録の目前で寸止め
を食らっている。ちなみに稼いだ点は全て同行者枠だったりする。
彼は今、このイービスの街の魔術師ギルドへ来ていた。まだ収拾の付かない「竜」の事件の調査と住民が
拾い集めていた竜骸石の持ち込みなどで、そろそろ夜だというのに中は随分騒がしかった。
「ええ、と売店は・・・あっちか」
だが少年は完全に他人事の態で同じくこの騒動とは無縁の売店へと足を運ぶ。そこでは暇を持て余した
中年の魔術師が同僚と世間話に興じていた。

41 :
店内というより物販コーナーと呼んだほうがしっくり来るような片隅でマイノスはあれこれと物色する。
(そもそも毒って何味なんだ?甘いのか苦いのかしょっぱいのか辛いのか・・・)
うーん、と考えながらカゴに毒性のある物を放り込む。毒リンゴに毒キノコ、具体的に麻痺毒の粉末などが
生活雑貨や日用品に紛れて置いてある。
ふと横を見ると「試供品」の札と共に猛毒を知らせるシールが張られた瓶が置いてあることに気付く。よく
見ると中身は街を襲った竜がぐずぐずに崩れた時に出た物で、彼はそれを無言でカゴに放り込む。
カナが煙草を食べていたので安手のものを一つ買っておく。子どもでも買えるのは如何なものだろうと
マイノスは思うが今は気にしないことにする。ある程度材料が揃った所で献立を考えるが中々思い付かない。
(一応加熱しても処理されないものを選んだけど、どうするか)
毒リンゴはそのまま切るか、摩り下ろせばいいだろう。味見はできないが。毒キノコは竜の毒も
有ることだしスープでいいだろう。味見はできないが。あとは・・・
(主食がないのか、お腹に重たい気もするけど有ったほうがいいかな、でも毒パンなんて無いし)
そこで彼は一つ閃く、というか思い出す。すぐにできそうなパンが一つあることを・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいまー」
ついついそんな言葉をいいながらも、出発した時からしばらくしてマイノスは宿に戻って来た。
ここの厨房を使うわけにはいかないので料理はギルドのを借りて作ってきた。作った献立は毒リンゴ(兎さん)
竜とキノコの毒スープ(緑色で炭の匂い、石の水筒に入ってる)と毒蒸しパンの三つ(味見はできなかった)である。
(ライザーがいてくれて助かったー、あの変な光線のことはすっかり忘れてたな)
彼の連れている球型の電気の精霊は呪文は使えない代わりに様々な光線を放つことができる。パンがおいしく
焼けたり関節を温めたり、食べ物を熱々にしたりとどれも生活を助けるものばかりで重宝する。この光線を毒の
粉と諸々の材料を混ぜた生地に十分ほど照射してできたのがこのパンである。
それではマイノスの食事はと言えば水と処分前に叩き売りされるサンドが数個にオレンジである。
いくらか手を抜いているがこれには彼が食べるよりもまだまだ寝たかった事に起因している。
回復が遅いのか起きて早々に動きすぎたのかは分からないがとにかくまた体力を使い切りつつあった。
「カナさん?ごはん持ってきましたけど・・・寝ちゃったのかな」
机に食事を置くとマイノスはカナに声をかけた。

42 :
私は天井の木目を凝視しつつ、何も考えてはならぬと言うが思考はやはり止められないで居た。
いけないと思っている時程逆方向に思考が進み、気が落ち込む。 その悪循環に成るのは分かっている。
しかし、どんな頑張った所で他に何もする事が無い以上自然に思考が嵩む。
今回の事件はもっとスマートに犠牲も出さないまで行かないが、少なく済んだのでは無いか、とか。
あそこで黒死蝶を使わなくても解決出来たのでないか、とか。 今更悔やんでもどう仕様も無い事が頭の中でぐるぐると回る。
気がつかない内に歯を食いしばっていたらしく、咥えていた煙草が口の中でバラバラになっていた。
煙草を粗食して飲み込む。 うげ、湿気ってやがる……。
仕方なく次の煙草を取り出し、火を付けようと起き上がろうとするが激痛が胸に走る。
持っていたマッチと咥えていた煙草を地面に放り出し、胸を押さえて蹲る。
ぐっ……、完全に鎮痛効果が切れたらしい……、痛みで意識は朦朧として冷や汗が吹き出す。
再び鎮痛処置をしたいのだが、体に負担が多いが故に続けて何回も出来ないのが最大の難点だ……。
蹲る為に体勢を変えた事で、新たに別の部位が痛み出した。 私はそれをただ過ぎ去るのを待つ事しか出来なかった。
痛みに対しての今の医学は麻痺させる事しか出来ず、それは一時的な物だ。
医学と言うのは最終的には本人の回復力あってこその処置なのだと、この時痛感させられた。
声も出ないような激痛に耐えていると部屋の入口が開かれる音がした。
そう言うのも私が蹲った方向が入り口の見えない方向で、推測の域を出ないがこの部屋に入ってくる者は一人しか居ないだろう。
帰宅を知らせる声を聞く、目論見通りマイノスが帰ってきた様だ。 返事をしてやりたい所だが、浅い呼吸が続き返事もままならない。
寝てしまったと思われた様だ。 布団を被って蹲っていれば傍目では寝ているように見えるわな……。
人は同時に二つの痛みを感じる様には出来て居ない。 私は手を口まで持ってくると親指を思いっきり噛んだ。
ギリギリと親指が嫌な音を立てて鋭い痛みを産んでくれた。 胸の痛みは無くならないまでもいくらか改善された。
ふと、口の中に広がる苦い味に気がついた。 どうやら親指を噛み裂いて閉まった様だ……。
私は親指を咥えたままやっとの事で体制を変える。 寝転がるのが此処まで辛い事とはな……。
「み、見ての、通り……寝ては…おらぬぞ……」
しかし、こんな調子では食事はおろか立つことさえも儘ならない。
仕方ない、出来る事ならばしたくなかった選択だが、今一度鎮痛処置を施す他あるまい……。
無理矢理立ち上がると薬箱から自分専用の銀で出来た注射器を取り出し、アルコールを水で薄めた水溶液を吸い上げて
自らの腕に打ち込んだ全身に蟻が這い回る様な不快感と共に痛みがしびれへと変わっていく……。
あまり良い事では無いのだが、事実生活に支障を来すのだから取り除かなくてはならない。
「悪い、待たせたな。 さて食事としようか」
私は薬箱から自らも馴染みの深い食事道具の一つである箸を取り出した。
どうやらこの地方では珍しい物らしく里の方では取り出す毎に何に使う物か聞かれた物だから一々説明するのが面倒になって
無理にでもこの地方に合わせてナイフとフォークを使っていたのだが、やはりこっちの方がしっくり来る。
しかし、出されたのは薄い皿に汁物と見るからに色の悪いリンゴ、それに毒々しいまでの鮮やかな色をした麺麭。
ふむ、まずはリンゴに箸を伸ばし口にする。 味は苦い、飲み込むと後味に酸っぱい様な風味……青酸系の毒か…。
私は何も言わずに部屋の窓を開ける。 青酸系は呼吸そのものが毒化する為に閉めきっていては危ない。
ふむ、残りの二品はガス系を発生させる様な物ではない様だな。 安心して食べ進められるな。
箸で食べ進めるのは苦労したが殆どの作られた料理を平らげた。

43 :
カナからの息も絶え絶えな返事を聞いて安堵と心配を半々にしつつそちらを見ると
辛そうな姿が目に映る。傷が熱を持ったのか痛みがぶり返したのかあまりに動かないので
こちらから食事を持って行こうと背を向けた直後に動き出す物音がする。
大丈夫かと思い振り返ったが手に持った注射器をしまう所から、そうではないせいで何か痛み止めでも
打ったのだろうということが分かる。カナはまた何とも無いとばかりに声をかけてくるのでマイノスは
またか、と思う。
「仕方がないのかも知れませんけど、言ってくれればこっちから行きましたよ」
ややむくれつつも小さな食卓につくと二人で食事をし始める。自信はないがどうにかこしらえた
三つの料理はなんとか食べられるらしい。もっとも常人は当然無理なのだが。
リンゴを食べたカナが突然窓を開けて戻ってきたのに少し戸惑うが他は特に問題もなく
食べ続けていく。食欲を削るためによく咀嚼してサンドを食べては水を飲む。これといった
会話も無かったがマイノスは目の前の女性のことを考えていた。人の物を食べている所をじろじろ
見るのもなんなので極力見ないようにする。
(なりゆきでこうなっちゃったけど、僕ってカナさんのことって全然知らないな。エルフで薬師ってのは
分かったけど、今回のことで謎も増えたし、けっこう綺麗な人なんだけどちょっと固い感じがして・・・)
などと思いちらとカナを見れば何やら変わった食器でパンをつついている。
「あ、それって確か、ハシ、ですよね。こっちじゃ見かけないけどカナさんはハシを使うんですねえ。
僕も前に試してみたけど指がつりそうだったから諦めたんですよー」
じろじろ見るのも、と思った矢先に器用に動く指先を見てしまう。鉛筆とは似て非なる道具で使用に
熟練を要する食器だ。自分は昔に他の街のお祭りで見かけたことが有ることを告げる。
もしかしたらカナはこの地域出身のエルフではないのかも知れない。ハシが主に使われる地域に
エルフがいるかは知らないし、ただ何かの縁でたまたまカナが使うようになっているだけかも知れない
のでどちらとも判断はつかないが。
カナが食べ終えるのを待ってから、ごちそうさまをすると「お粗末さま」と言って片付けを始める。
とは言っても毒物をよそった皿をそのまま水洗いする訳にもいかないので簡単な解毒の呪文
だけかけてから洗う。

44 :
「流石に一晩休めば体がいくらか回復呪文をまた受け付けるようになると思います。そうすればきっと
少しは早く治ります。だからそれまでの辛抱ですよ、カナさん」
安心させるつもりでマイノスはそう言うと、補充した日用品の一つである水差しに水を入れて帰ってくる。
彼はこれからのことを考えていた。一先ず今回の件で規定の点数は取れたので冒険者ギルドで登録申請
をしてこよう。それからいくらか依頼をこなして日銭を稼いでカナの回復を待とうと。
(その後はどうしようか、街はこんな状態だしなあ)
出しっ放しだったキャクをしまうと、マイノスはカナに話しかけた。
「そういえばカナさんは、傷が癒えたらどうするんですか。ってそうか薬師に戻るんだからどうもしないのか」
何を言ってるんだろうと自問しつつ、自分は冒険者登録を取って他の街へ行くつもりだと言う。
彼はこの数日間で体験した多くの色濃い出来事を思い返していた。
始まりは商人の女の子に雇われた所から始まって、カナと、鉱山で妙な二人組と遭遇し、
様々な魔物と遭遇して、エルフの村に行き、シルフと契約し、もう一度鉱山に挑み、ドワーフと会い、
エルフ達に裏切られ、竜と戦い、もう一度戦い、そして・・・
(色々あったなあ。ほんとに色々あって、僕にはちょっと贅沢すぎるかなあ)
目の前のエルフを見る。誰より傷つくことを求めては何度も戦って、その度に自分を助けた女性だ。
まさか最後まで一緒に戦う人が薬師だとは思わなかったと言えば、カナはどんな顔をするだろうか。
お荷物からいつの間にかメンバーとなり、初めて組んだパーティーももうすぐ終わる。終わってしまう。
今までにない寂しさに表情が曇りそうになる。吊り橋も三度も渡ればいい加減慣れるし覚める。
その効果を抜きにしても、この少年は目の前のエルフの女性を好ましく思うようになった。
別れを惜しむ程には懐いていた。
夕食や他愛のない会話からまた少し時間が経って、辺りも夜の時間を迎えたので、マイノスは寝る
準備として床に寝転がる。部屋を照らしていた天井の魔法の明かりもそろそろ消灯の時間だ。
「カナさん。色々ありましたけど、お大事に」
彼は最後にそれだけ言うと、静かにまどろみ始めた。

45 :
痛み止めの処置をした事に対しての叱咤を受けた。
事実上痛みが生活する上で邪魔だから取り除いたに過ぎんのに何故だ…?
痛みがそのままだったのならば、私の生活の全てを少年に依存しなくてはならなく成る。
約束は安静にしていると言うことだけだ、そこまで依存する訳にはいかない……。
いや、私が彼に依存すると言う行為が嫌なのだ……。 私は幸せになってはいけない。
私が奪って来た数多の命への礼儀と言うべきか、彼等の命がそうであった様に私も無残な死に方をしなくては……。
食事が終わろうとした、その時マイノスより声を掛けられた。
どうやら彼も例外なく箸と言う文化を持たない様であった。
「箸を知っておるのか、此方では珍しいな。 箸を扱うには其成の修練が必要との事だが、
私は此方で使っている刺したり切ったりする器具よりも幾分か使い易い。」
此方の地方では箸の文化すら無くて里では、見たことも無い棒を使って食を進めると気味悪がられた物だ。
そう、私は此処に定住してるのでは無く滞在していただけに過ぎない。
私は故郷を捨てた身、こんな所で故郷を思い返す出来事が有ろうとはな……。
最早故郷は私に取っての帰る場所ではなく、罪人である私が踏み入れてはならない場所。
故郷の誰に許されたとて、他ならぬ自分が許せぬ。 本当に私等ば良いのだ……。
そんな事を考えていると彼が回復魔法云々と話しかけてくる。
こんな罪人の身を案じてくれるのか……、御前は優しいな……。
しかし、私は治っていようと治っていまいと関係無い、私は只約束を果たして居るだけだ。
私は罪人だ。 簡単に嘘も付くし、約束等破ってしまうかも知れ無いのだぞ…?
その優しさは無駄になってしまうかも知れないのだぞ…?

46 :
私は怖いのだ、私に眠るとんでも無い方向に捻り曲がった巨大な愛の形が……。
そして、人の愛の形が怖くてたまらない。 逃れようと藻掻こうとすれば、余計付きまとう。
しかし、受け入れた所で其れは決して消えたりはしない。
もう既に知識を持った時点で私は愛からは逃れる事の出来ない袋小路に入ってしまっているのだ。
不治の病とは良く言った物だが、ああ、全くその通りだよ……。
ふと、気が付くと目の前に座る人間の少年が私のこれからを聞いてきた。
途中で私の業務を思い出したのか勝手に納得している。 しかし、其れもまた事実。
「当たり前だろう、私にはそれしか無いからな。」
その後、本当に他愛も無い事を話した。 自らの腹の表面にも無い様な話だ。
彼が寝ると言って床に寝転がる。 部屋の主たる者に床に寝かすのば忍びないと
私が床で寝ると申すと、怪我人だからと酷く否定された。
消灯過ぎて、辺が真っ暗になってしまったしまった後私はゆっくりと口を開けた。
彼は既に寝ているかも知れないが、そんな事はどうでも良かった。
「有難うな……」

47 :
床に付いて数刻が過ぎ去ろうとしていた。
最初は気のせいだと思っていたのだが時と共に大きく成る強烈な乾きにより睡眠に付けないでいた。
この乾きは過去数度に掛けて経験がある、人衝動が私の許容を超えてしまった時の乾きだ……。
もう、こうなってしまっては己の体ながら抑えることは、ほぼ不可能である。
全く無意味な生は私とてしたくはないのだが……どうにも体が言う事を聞いてくれない…。
流浪の旅をしていた頃は動物をして、やり過ごしていたが此処最近は目まぐるしいまでの渦中に居た。
乾く……。 喉の奥が地獄の業火に熱されているかの様な乾き……。
居ても経っても居られない様な巨大な欲求が私の中で渦巻いていた。
まるで私では無い何者かの意思に操られて居るかの様に私はフラフラと外に出た。
此の意思がしたい事は既に分かっていた。 こうなったとしても自らの身体だからな…。
意思が行おうとしているのは悪意に従って人を害する事。
部屋に居るマイノスを狙わなかったのは悪意に眠る最後の善意だろう……。
最早、体の指導権は私には無い。 どんなに頑張って体を止めようとしても動いて行ってしまう。
いけない事と解っていながらも、乾きを潤す事が出来ると言う喜びの方が多かった。
喉が乾いて張り付く様なのに私の口からは止めど無く涎が垂れる。
口を閉める事も出来ずにボタボタと下に垂らす他無かった。
台所らしき場所に到達する。 幸か不幸か人の姿は無い。
私はよろめいた歩調で溜水に頭を突っ込みがっつく様に飲んでいく……足りない。
随分と飲んだか、相変わらず喉の乾きは満たされない。 むしろ、悪化の一途を辿っている。
くそっ、これならば飲まなかった方が良かったな……。

48 :
乾きが体を支配していくのが判る様な気がする。
先程まで無駄だと思いつつも抵抗を止めなかった精神が折れ、乾きを押さえつけている物が無くなった。
其れは既に私ではなく、私の形をした獣に他ならない。
いや、もう既に毒そのものと言っても過言では無いかも知れない。
皮膚は黒く眼は紅蓮の業火の様な赤い妖しい光を放つ。 こうなっては誰にも止められない。
既に人の形をしているかも不明だったが、このままでは非常にまずい……。
私は最後の力を振り絞って宿から飛び出し、人気の無い方へと走っていく、
このまま誰とも出会わなければ、森の方に突き抜けられる。 そこまで行って動物一匹でも……。
あと少しと言う地点で絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
どうやら私は人の形をしてなかったらしい…、私の事を魔物の類だと勘違いしたのだろう。
無理もない、人の形をしていない者がいきなり目の前に立てば万人が同じ様な反応をする。
最早止める事等不可能に等しかった。 目の前で何の罪の無い一つの命が消え去るのを見ている事しか…。
いや、何処か私は今の状況に楽しみすら覚えていた。 自然に頬が綻び笑顔を形成する。
気が付いたら目の前には血の海と全身が見事にバラバラになった先程の女性がそこにあった。
肉を裂いた感触が手に残り、少しの不快感と同時に巨大な開放感と達成感が私を包みこむ。
その次の瞬間、私はベットから飛び起きた。 夢…なのか……? 其れにしては妙にリアルだった……。
空が白みがかっている故に時間的には卯刻位か……、手にはまだ引き裂いた感触があるが血などは付いてない……。
考えて見れば魔物みたいな姿になったりと現実味が無かったな……。 夢ということにしておこう…。

49 :
四文字の言葉を呟く声が耳に届くと少年は気持ちだけではあったが、枕を高くして眠った。
しばらくして夜が明けて朝が訪れる頃、カナが起きると俄に張り詰めだした空気に充てられてマイノスも目を覚ます。
事態を飲み込めていないがそれでも直ぐに周囲を確認する辺りは経験の賜物だろうか。
「・・・あれ、何も無い?あ、かなさん、おはようございます。早いですね」
寝ぼけ眼を多少こすりつつ朝の挨拶をするが、何やら尋常ではない様子のカナに気づくと
彼は直ぐに気持ちを切り替える。汗をかき息を荒らげてじっと自分の手を見つめている。
「カナさん?」
こちらの声が聞こえているかも判然としない様子だったのでそっとしておくことにして、彼は一声かけてから
用をたしに部屋を出た。一応買っておいたタバコはテーブルの上に置いてきたのでつまみくらいには
なるだろう。
(そういえば、昨日はお風呂に入ってなかったな)
自分の匂いを嗅いでみる。まだ気にはならないが入れるうちに入っておいたほうが良いだろう。
今は湯の沸いている時間ではないので入れないが。
用を済ませ顔を洗い歯を磨く。一階の洗面所に各自自分の物を置いているが名前を書いてあるので
基本的には無くなることはないのだ。基本的には。広間では昨日の新聞が広げっぱなしに
なっていたので目を通す。放置されたものは共用の私物となるのは寄宿舎の宿命である。書いてある内容は
街に現れた竜による被害と事件に関する憶測がいくつか載っていた。
(まあその内分かることだけどさ)
鉱山で捕まっていた人たちの中の誰かがいずれ話すだろうとマイノスは思った。とは言っても記事にある
エルフの里の壊滅との因果関係までは流石に解明されないだろう。真相を知っている者はカナと一応は彼だけだ。
新聞を畳んで部屋へ帰ろうとすると、段々と外が騒がしくなってくる。
まだ人々が外に出るには早い時間だった。どんちゃん騒ぎも流石に一段落をしている。何かと思って玄関まで
行き外へ覗き込むと不穏な空気に惹きつけられるように一人、また一人とどこかへ歩いて行く。その先を
見れば向こう側の通りに朝から小さな人だかりができている。聞き耳を立てると物騒な単語が聞こえてくる。
「うえ、なんだ、これ」「魔物でも出たのかねえ」「バラバラだって」「どうも女だったらしい」「一体何が・・・」
人だかりのお陰で先に有る物を見ずに済んだのは幸いだったが、奥の方では近寄らないよう注意する
声が聞こえてくる。既に騎士か何かが来ているようだ。

50 :
「またいきなり物騒だね」『すぐそこで人間がメチャクチャになってたぞ』
上から見てきたと思われるシルフが事のあらましを教えてくれた。表現が乏しく適当な説明は
想像力を全然掻き立てないのでこういう場合に限ってはありがたかった。
「それで魔物は?」「いや、近くにはいないな、いたらすぐ分かる。案外人間の仕業じゃないのか」
コレだから人間は、とシルフが小さく肩を竦めると首を振る。マイノスは特に言い返さずに宿へと戻る。
魔物の犯行なら同意するわけにはいかないし、シルフの言う通り人間の仕業なら反論できないからだ。
割と近くであったことから他人事にはできず、カナにも知らせるべく二階へ上がる。この時台所の
飲み水が著しく減っていることに気がついた者はまだいなかった。
(カナさん、露骨に動揺というか憔悴?してたな。やっぱり何か悪夢でも見たんだろうか)
重傷を負ったものが回復の途中で熱に浮かされたり、強い印象のある記憶を思い返してうなされるのは
よくあることである。それだけに敢えて席を外したのだが、もしかしたら側にいたほうが良かったのかとも思う。
こればかりは完全に人によるので、判断の当たり外れは余程近しい人でなければいつも二分の一だ。
「良かった。流石にこの短時間で事件に巻き込まれるってのは、なかったみたいですね」
戻ってからカナにそう告げると、表で起こった事件を説明する。しかし彼が直接見たわけではないので
あまり詳しい説明はできなかったが。
「まだ何も分かってませんけど、あんまり近いですからね。少しは警戒したほうがいい気がします」
ただここにはいつも他の冒険者のニ、三人はいるので乗り込んでくることもないだろうと説明する。
「とまあ辛気臭いのはこの辺で、聞きそびれちゃいましたけど、体の具合、どうですか」
空気を入れ替えるように話題を変えるとマイノスはカナに聞く。昨日のことがあるので動けるかを
聞いておくのも忘れない。本人は慣れたものの様だがあのえげつない傷口が開く所は正直見たくなかった。
会話をしながらマイノスは周囲をずっと警戒していた。それは予感のようなものだったのか、それともラックの
報せだったのか。ついこの間の竜の一件とはまた別の嵐の訪れを、彼はぴりぴりとどこかで感じ始めていた。
何か、何かが自分たちの身に迫って来ているのではないかと。
「言ってくれれば、ご飯にしますよ。お腹、起きてます?」
ただ、それをなるべくカナに気づかれないように、マイノスは緊張を押しした。嫌な予感ほど当たるモノ。
遙か昔から使い古された占いの結果を、信じたくなかったから。

51 :
エルフの耳のうらがこそばゆくてたまらなくなる魔法を掛けてやろう!
なに、遠慮は要らんぞ それー!(ピロリロリン)

52 :
私は過去幾度と無くこの手で人をめた事がある。 その様は今でもハッキリと思い出す事が出来る。
まだ先が長く有望な者達の命を奪う事は眼を背けたくなる程の悪事だと分かっていながらも、その腹の奥底では何処か楽しんでいる。
自分に嘘を付いて無理矢理苦手としているが、実は今にでも実行に移したいと思っている己が居る。
離れれば離れる程私の人への欲求は募り、欲という名の化物は抑えきれない程にまで成長した。
最早そうなっては自我は何の意味も持たず、頭の中が滅茶苦茶になった様な感覚があった。
を使った所で此の時の快感は再現出来ないだろう。 それ程までに私はその感覚の虜となっていた。
最近特にその間隔が短くなってきている様な気がする……。自分を嘘で縛り付けて置くのも限界なのか…。

53 :
未だに私は見た夢が本当に夢だったのか疑っていた。 久々に味わった肉を裂くリアルな感触。
いけないと思いつつも顔がにやけるのに抗う事は出来そうにない。
私は煙草を取り出そうとして、昨晩痛みに任せて滅茶苦茶にしてしまった事を思い出す。
全く、目覚めの一服すら出来ないとは……、ん? テーブルの上に煙草があるのを発見した。
私が好んで買う銘柄では無いし、多分だが少年が気をきかせて買ってきたのだろう。
悪い気がしたが、有り難く吸わせて貰おう。 箱から一本取り出し、火を付ける。
肺一杯に吸込み、吐き出す。 何時もとは違う味わいだが、たまにはこう言うのも悪くない……。
私は戻ってくる少年の事を思って空気の入れ替えをしようと窓を開け放った。

54 :
「なっ……!」
余りにも窓から見える其の光景がショッキングで咥えていた煙草を窓から落としてしまった。
そこにあったのは昨晩夢の中で私が作り出した光景であった。 血の海と言っても良いだろう。
バラバラに引き裂かれた女性の遺体、顔から服まで細部に到るまで一致している。
夢と唯一違う部分は全ての傷口は鋭利な刃物の様な物で切り裂かれている事だ…。
……まさか、私がやってしまったのか……!? 偶然で片付けるには余りにも夢と一致している箇所が多い…。
それに、臓器を全く傷つけないでバラバラにしてある。 あんな事が出来るのは医者か私位な物だ…。

55 :
今ある情報だけで犯人は私だと即決するのは危険だ。 しかし、私じゃないと言えないのも其れもまた事実。
私は他でもない自分に腹を立てて奥歯を噛み締めた。 こうなる前にどうにかならなかったのか……。
近々此処を出て行った方が良いな、それもまたこんな犠牲者を増やす前……に……。
人の為とは言っているが実際の所、私はこの事態から逃げ出すのだ……。 此処で起こっている問題を放棄し……。
すまぬな……少年、約束守ってやる事は出来そうにない……。 こんな情けない私を許してくれ……。

56 :
私は薬箱を背負い、この部屋を後にしようと扉を開けようと近づくと扉が独りでに開いた。
どうやらこの部屋の主、少年が帰って来てしまった様だ、何と言うタイミング……逃げ損なったなぁ…。
急いで薬箱を置くと帰ってきた少年の対応を適当に行う。 こんな時まで私の心配をしてくれるんだな……。
私は今言っている其の事件の犯人なのかも知れないのだ……、全く自分が嫌になる……。

57 :
次に傷の具合を尋ねられた故に面倒ながらも服の上から確認してみる事にした。
怪我は今の所健在だが痛みを消す以上に体は不思議にも動いてくれる。 痛みを消したとて動かない所は動かないハズなんだが…な。
「傷の具合は言っては何だか悪い。 完治にはもっと強い毒が必要だ。
傷からの感染症は無いからこのままでも問題は無いのだが、いかんせん治りが悪い。」
治りが遅いと君にも迷惑がかかるしなと付け足し私は再び薬箱を背負い上げた。
昨晩の食事によって摂取した毒は見つけてくれた少年には悪いが足りないのだ……。

58 :
「済まないが毒を自らの手で探してくる。 少しの間だが迷惑をかけたな……」
それに掻痒感にも似た乾きが既に始まっている。 掻き毟りたい衝動を必死に抑え私は扉から外に出ようとする。
当然だが、少年マイノスの手によって其れは止められる。 今の外は危険だとか言っている様だが私の耳には届かない。
何故だ……、何故私の邪魔をする……。 黒い感情が沸々と湧き上がり、私の心に悪意が満ち足りるのが解る気がした。
ふと、気が付くと私は彼の首を掴み思いっきり締めていた。 ……え? 私は何をしているんだ……?
私がしている事の重大さに気が付き、急いで手を離す。 咳き込んでいる所から見て死んでいない事に安堵する。
死は思っていたよりも呆気無く訪れるが、こういう部分で生の強さを思い知る。
あまりの事態に頭で追いつけずに、思考が寄り道をしてしまったが、今の私の顔は真っ青だろうな……。

59 :
「わ、悪い……、暫く一人にさせてくれ……」
それだけ告げて私は扉から飛び出した。 少年と一緒に居るのも最早危険だ……。
彼の為、そして私自身の為にも今は暫くの間、距離を開けた方が良いだろう……。
いっそこのままこの都市を出てしまっても良いかも知れぬな……。
彼と居るのが心地が良くて忘れていたが、私に生が有る限り人と手を取り合って歩むのは不可能だと言う事を……。

60 :
少しの間ならば辛抱が出来るが、それ以上となると私にも愛情と言うものが芽生える。
それが私にとって毒と言っても良いだろう。 私の表現方法は他人を傷つける事でしか表現出来ない。
何時も何時だってそうだ、この感情の果てには血が見えなかった事が無い。
ある男に恋をした時もそうだ、その者をしてしまって私も死のうと思ったが自ら命を絶つ事が怖くて、
何時までも引きずっていたら、この様だ……。 今でも私はこうして生を保っている。
またある所では男の恋人だった者に命を狙われてこのまま死んでも良いと思ったが、結局はなかった。
二度とやるまいと毎回思うが、何をしても止められない、この感情を止める事は私には出来ない……。

61 :
とぼとぼと都市の中を一人歩いていると何者かが話しかけてくる。
変なヤツに絡まれたと思っていると、どう仕様も無い魔法を掛けてこようとする。
「謹んでご遠慮申し上げる。」
私は簡単な魔封の札を取り出し、そいつの額に貼りつけておいた。
全く騒ぎに乗じて変なヤツが混じりこんで居るようだな……。

62 :


63 :
ここ、一人しか、、居ないんだな
エロフも可哀相に…
なんかいきなりはっつけられた封魔の札を剥がし
それで作った紙飛行機を夕日に飛ばしながら
俺はいたって真面目な顔でエロフのいやらしい妄想にふけった

64 :
部屋へ入ると出かけようとしたカナと鉢合わせる。起きて大丈夫なのかと思ったがそこそこには
回復しているようだった。食事はどうするかを聞くとタバコをどうこうと言ってくる。言われてみれば
部屋の中にタバコの匂いが残っている。
吸わないマイノスにしてみれば銘柄などは全く分らないのでとにかく安い、言い換えれば
一際体に良くないものを買ってきたのだ。もっとも朝食までの繋ぎ程度のつもりでいたのだが。
体の方はあまり芳しくないらしく治療には毒不足だと告られる。これを聞くたびに未だに悪い冗談か
何かのような気がしてならない。しかし彼は現実に彼女の毒を食み、啜り、流す様を見ているので
この考えが気のせいだというのは分かっていた。
(そうか毒が血だったんだ!落ち着いてる場合じゃないけど・・・でも・・・)
慌てた風に外へ行こうとするカナを押しとどめようとマイノスはドアとカナとの間に体を割り入れる。
「って駄目ですよ!せめてもう少し日が昇ってからにしましょう。危ないですよ、僕も行きますから・・・」
そこまで言ってようやくカナの違和感に気付く。血の気がなく憔悴した顔からまだ具合が悪いからだ、
と決めつけてかかっていた事で彼女の眼の色、正確にはこちらを見る目がおかしいことと「それ」が
結びつかなかったのだ。あまりに無機的な瞳は野生の動物が獲物を時程の明るさも持ってはいない。
モノが物を見る、とでも言えそうな目に射竦められ思考が止まるのに釣られて息を飲もうとすると、喉に
始めはくすぐったさを、直後に強烈な圧迫感を覚えパニックを起こしかける。びくん、と体が反応し腕を上げると
何かに当たりそれを急いで掴み引き離さそうとする。
「・・・!っぁぐっ、ん、んぅ、は!」(何だ、何が、どうして!)
見かけよりも遙かに強い力で首を絞めてくる手は振りほどけず、いきなりのことに相手の名を呼ぶことも
できない。何故こんなことを、そう思い自分を締め上げるカナの目を見る、自分の姿が移っている。
その事に驚きながらも目の前が暗色に眩んでいくと不意に手を離される、マイノスは床に崩れ落ちると
急いで呼吸を再開する。さっきまで鼓膜を破りそうだった耳鳴りも次第に遠のいていく。息を整えていると
頭上に降ってきた言葉に返事をする間もなくカナは部屋を出ていってしまう。
しばし呆然としているとシルフが出てきて危ないとこだったな、と完全に他人事の素振りで話しかけてくる。
「もうちょいヤバかったらオレも出たんだけどーその前に離してくれたから結果オーライって事で、てどした?」
こちらの緊張を感じ取ったのか聞いてくる、少年の顔は今度は青ざめていた。

65 :
「カナさんの目に、僕が映ってた」
何を当たり前のことを、そう言うとシルフはマイノスの目の前に回りこむ。
「いいか、オレはお前の目に映ってるしオレにもお前は見えてる。普通のことだろ」
少なくとも精霊使いと精霊においては普通だ、精霊が見えない者を精霊使いとは言わない。
しかし人間とマイノスにおいては別である。場所を移して一階の広間にある姿見の前に立つ。
そこにマイノスの姿は、無い。
主人の異常を察したシルフはもう一度姿見を見る。目の前にいるはずの少年の姿を、鏡は映さない。
「これがラックの対価なんだ、言ってしまえば僕は幽霊みたいなものなんだ・・・」
縁結びの精霊は正しくは生物の関係の精霊と呼ばれている。所謂精神の精霊の部類に属するが特異
なのは個人の中ではなく外に存在していることである。
「契約者は自分や人の縁を弄ったり、縁を辿ることで人の過去や時に未来を除くことができる。その代わり」
『世界』からの承認を抹消される。シルフはそこまで聞いて首を傾げる。おかしいと
「それならとっくに消えててもおかしくないだろ、なんでいるんだ」
生きている命までは消せず、人間には見えることで場当たり的に存在しているのだと教える。
「でも人より早く忘れられるし、よく見てみればやっぱり瞳に僕は映ってないんだよ」
契約を結ぶまでの間に自分を覚えている者が居た為に消滅を免れた、
人に存在する不具合に彼は生かされている。自分の縁がぷっつりと切れた瞬間に彼は消える、それ故
初めにシルフと契約した時にああまで動転したのだ。加速度的に自分の首を絞めたことになる。
そして問題は消えた女性エルフへと移る。何故彼女の目には自分の姿が映っていたのか。
人として存在していないからこそ、瞳の中に人として自分の像が結ばれることはなかったのだ。
この事が何を意味しているのかは分らなかった。だがマイノスはそこに恐れと焦燥を抱いた。
自分が見えるカナへの恐れと自分が見えるカナを失ってはいけないという焦り。
運命の相手を見つけた童話の住人のようなものとは異なる気持ちだった。
「行こう、まだ遠くへは言ってないはずだ」
自分がカナにしたようにシルフがマイノスを止めたが、彼はそのまま帰ってきた野次馬たちと
入れ違いに宿を出た。その中に見たことのある老人の姿を見咎める。

66 :
片方はこの辺りのひと通りの住民にちょっかいを出すお調子者の老人がしょんぼりしながら
歩いて来る。この状況下で周りと異なる空気という点だけは同じだが彼の反応がマイノスは気になった。
この辺りの人はほとんど彼にちょっかいを出された後だ、そして相手にされないとこのように落ち込む。
まだ会っていない新しい住人などいくらも心当たりがない。そして頭に貼り付けられた魔封じの札が
予想を裏付けた。間違いなくカナはこちらの方に来たのだ。マイノスは急いで老人を追い越し
彼女が向かったであろう先へ急いだ。
(でも、でも、カナさんに会ったら何て言えば良いんだろう、何を聞けばいいんだろう、どうしよう)
まるで悪戯が発覚するのを恐れて逃げ出した幼子のような不安に襲われながら、少年は駆けた、
追いかけているのは彼なのに会ってどうすべきか、どうしたいかが分らなかった。
それでも宿を飛び出した時のカナの声と、朝起きた時に見た苦しげな顔が思い出されて堪らない。
頭の片隅でこのまま追えば危険だと警報が鳴っていたが聞くことはできない。
事件のせいで鼻はどうしても血の匂いを拾ってしまい、彼女の荷物がないのでラックで辿ることもできない。
シルフに至ってはエルフの森で長年吹きさらしていたにも関わらず顔の見分けが付かないと言う。
だから毒を探すという彼女の言葉を頼りに森の入り口を終着点として走っているのだ。
周辺を探したが見つからない。
心配だった。首を絞められた時の目の冷たさは思い出すだけで背筋が凍るしショックだった。
どこかで裏切られたような感じもしたし、どうしてとも思う。命の危機だっただけに腹が立たないといえば
嘘になる。それでも心配だった。
その内マイノスの胸の内にあった思考も疑念も押し寄せる不安に簡単に塗りつぶされてしまった。
(このままいなくなっちゃうなんて、そんなの無しですからね!)
必死になったはいいが、その甲斐の無いままにただ時間だけが過ぎていった。

67 :
エロフあげ

68 :
保守

69 :
都市をトボトボと歩く私。 私には似合わず、酷く落ち込んでいた。 私に理由なんて解らない。
今までのこの人生で本性を知られた事など星の数程有るが、この気持だけは解らない。
私は少年をしたくない。 しかし、心体共に彼に近づけば近づく程、その欲求は溜まる。
彼の表情、言葉、その体、匂い、そして、その目。 今はそれ全てが愛おしかった。
強く装っている、とても弱く脆弱な私の心を虜にするまでそれほどの時間はかからなかった。
その全てを壊して私だけの物にしたいと思うほどに……。
歯痒い想いに、奥歯が潰れるのでは無いかと思う程に噛み締める。
言い得て妙だな、私は始まっていないのに失恋を味わったと言う事になるのか……。
しかし、人の命を奪って完結する恋等無い方が良いに決まっている。
これが我が身に毒を宿した対価と言うならば、尚の更私はこんな運命にした神が許せない。

70 :
私は少年に公言した通りに毒を捜す為に都市の内部を練り歩いていた。
その足は、私の同族達の自らの身を犠牲にしての大型魔術によって浄化した森に向かっていた。
良い記憶など殆ど無く、出来る事ならば二度と足を踏み入れたくなかった場所だ……。
この付近で毒を手に入れられる所を私が知らなかったからだ。
ギルドに向かえば、ある程度の毒は手に入るだろうが、如何せん弱い。
それを考えるとやはり今まで毒の収穫を行っていた森に行くのが一般的だろう。
巨大浄化魔術によって浄化されている為、確率は五分五分だが何もしないよりかは気分が晴れる。
少年マイノスと交わした約束は守りたいが、私と共に居れば再び同じ事が起こるだろう。
これは彼の為でもあるのだ、と必死に自分に言い聞かせて私は歩を進める。
段々とその速度が落ちていると言う事に自分では気づかずに……。

71 :
その途中で私は考えを巡らせた。 夢だと思っていた人事件の事だ。
いくら私が医学に優れ人を分解する技術に長けていても、骨まで綺麗に寸断など出来ぬ。
自らで言うのも何だが、私の腕力は高が知れている。 少年にすら腕力で敵うか解らない程だ。
百歩譲って私がやったとしても、この力は何処から出てきたのだ……?
解らない、解らない事が多すぎる。 即決が危険な様にこのままでも危険だ。
再び私はこの事態から逃げ出したいと想いに駆られた。
面倒な事に巻き込まれると逃げ出したくなる、私の悪い癖だ……。
今は只、この謎を解き明かした方が良いな……、まぁ、十中八九私のせいなのだろうけどな……。

72 :
私は十字路を曲がろうとして、突然衝撃が体を襲い尻餅を付いてしまった
何だ……? 見上げると一人の人物。 なんだこの人物と正面衝突したのか
しかし、何故立ったまま黙って居るんだ? 一言謝ったって良い筈だ……!
な……っ、なな……!? 何なんだコレは……!? 血がっ……! 血が……!
私はまた夢を……見ているのか………? 血とはこんなにも勢い良く噴出する物だったのか……?
心の臓腑が打つ鼓動が狂ったように頭に響く……
ん……? 何故私はメスなんて握りしめているんだ……、しかも血でべったりと汚れている…
これは……私…が…やったのか……? また罪の無い命を奪ってしまったのか……?
また……昨晩の様に感情に任せて人を切り刻んでしまったのか……?
自らに対しての恐怖で吐き気が込み上がってくる、そしてほんの少しの恍惚が交じる
最早自分で自分が解らなくなり半狂乱でその場から逃げ出した

73 :
もしかしたら素早く処置を施していれば助けられたかも知れないが、
その時私の頭は冷静な判断を下せず、逃げ出す事に必死だった。
誰も通らない様な狭い路地に到達すると私は内から湧き上がる吐き気に耐え切れなくなり、
壁に手を付き俯き気味に胃の内容物を地面に向かって吐き出した。
ベチャベチャと嫌な音を立てて、どんな毒でも分解してしまう私の胃酸が地面に叩きつけられる。
当然の事ながら、地面は焼け焦げ、まるで焚き火をした跡かの様に真っ黒に染まった。
殆ど何も口にしてなかった故に少量しか出なかったが、一気に体力を持って行かれた気がした。

74 :
くそっ……どうして……どうしてこんな事に……?
私の体に何が起きたんだ……? そして、さっきの事態は本当に私がやった事なのか……?
夢の様に記憶が残っているならまだしも、切った記憶も切ろう言う欲求すら私には無かった……。
しかし、この握られている血塗られたメスは間違いなく私の物だ……。
遂に私は無意識の中でも他人を傷つける事を求める様になってしまったのか?
……解らない。 元々己がおかしいと思っていたが、最早是程とはな……。
兎に角にも気分も落ち着いてきた訳だし、ずっと居るわけにもいかないし此処から移動しよう。
体がだるい、本格的に毒が足りなくなってきたな、これ以上犠牲者を出さない為にも森に行ってしまおう。
……!? いてて……、何だ…? 目から星が出るんじゃ無いかと思う衝撃を受けて私は地面に転がった。

75 :
まさか……またやってしまったのかっ!
……良かった…私と同じく地面に転げているが、相手にぶつかった事も含めて負傷は無い様だ……。
しかし、薬箱を背負っていると言うのに、良くこんなに俊敏に立つ事が出来たな……。
まぁ、良い相手の安否を確かめるとするか……。
「悪かった。 よそ見をしていた様だ、大丈夫か?」
倒れこんでいる人物に向かって手を伸ばしたが、その行動を行った直後私は気がついた。
ん…? この服、この容姿、見覚えがある……。 目の前に居るのはマイノス……。
暫くは会うまいと決めていたがこんなに早くにも禁が破られるとはな……。
彼に会えて嬉しい反面、少年さえも無意識の内にしてしまうのでないかと思うと複雑な気分だった…。

76 :
人間追い詰められた時や不安に駆り立てられた時に取る行動は様々である。
何も手に付かなくなる者、逆に一つの行動に執着する者、熱を出して寝こむ者などその人毎に違いがある。
ではマイノスはどうか、答えは全部と言える。その時々で異なるのだ。
先程までは思考の渦から逃れるために、視界に入った古書店で古びた魔道書を立ち読みして新たな
魔法を覚えたところだ。術の内容は対象に毒を付与する下級の魔法だった。滑り続ける頭の中で漠然と
『ああ、これなら少しは毒不足が解消できるな』と思いこうなったのである。
当然だがこんな商品の価値がなくなるような行為は、見つかれば出るとこに突き出されても
文句は言えなかっただろう。たまたま店主が席を外していたことと、追い詰められたマイノスが
普段よりも格別の集中力を発揮したことで事が発覚する前に用を済ますことができたのだ
水筒の水を飲み近場の井戸で補充すると、早速その魔法を水に汲んだ水に唱える。
これでカナに会ったときに渡せるだろう。そう考えるともう一度辺りを探し始める。
シルフに取り敢えずエルフを見かけ次第声をかけるよう言ったが、空振りだったので已むを得ずに
キャクに影に潜ってもらい、総当りをかけようとしたその時だった。エルフの森までまだ少し距離がある
路上の上で、当のキャクが気分を害し始めたのだ、この反応は何度か見た覚えがある。
鉱山に入った直後の辺りだったか、無益な生が近くで行われた際にそれを嫌うキャクが苦しみ悶えたのだ。
あの時同様のたうち始めると、やや遅れてシルフやラックも攻撃的な空気を見に纏う。
ついで微かに鉄さび染みた匂いが鼻を突く。朝のものよりも真新しい匂いの元へと駆け出すと
マイノスは思った。何かがおかしいと。
(僕は確かに何も知らない、何も知らないけど変だ、何か変だ!)
今まさに消えようとしている命の反応は弱々しくも、逆に周囲の命に紛れることなく存在を浮かせていた。
近づくに連れ徐々に強くなる血の匂いを辿る内に、道は大通りを外れて補足入り組んだ路地へと
変わっていく。
いくつか角を曲がると匂いの元を発見する。それはつまり血溜まりに沈む人影を見つけたということである。
夥しい流血に何処が傷口なのか判らなかったが、目に見えて致命的な欠損や大きな傷は無く
何か鋭利な物で切るか、刺されるかしたのだと予想する。首は刎ねられていないのがせめてもの救いだった。

77 :
臓器に傷が入っていると流石に自分の手に余るが、ゆっくりと判断している暇はない。元より自分は医者では
ないのだ。なんとか手を尽くして助かれば恩の字である。以前カナや自分にキャクが行ったのと同様の
事を、今度はマイノスは自分の魔法で行い助けようとする。
力量のある術士は補佐として精霊を使いより皇位の術を使うが、そうでない術士は精霊の後を追うように
成長する。段々と精霊のマネができるようになっていく、とでも言おうか。
今も血溜まりに足を入れずに他の精霊たちと治療を試みている。
(落ち着け、確か、輸血っていうのやつと同じだ。消毒してそれぞれの傷口に血を入れて、戻す)
頭の中でキャクにされたこと、やらせたことを思い出し治療の為のイメージを固める。
(血を入れたら傷を閉じて、生命力を分けて、どこかに寝かせる)
手順を確認すると次に行動に移る。強力な結界でなくていい、あくまでこの場を消毒して治療が終わるまでの
間保てばいいと「場」を用意する。そして流れた血を戻していく。
やり方水の下級攻撃呪文で使う水を血に代え、傷口に潜り込ませるのだ。護身用程度の低威力が幸いして
体に無駄な負荷をかけないようにする。本来の用途は相手に水を纏わせ鼻や目に入れて怯ませるのだが
要は使い方である。傷から出血しないというだけでもありがたいものだ。
潮が引くように血が減って行くのを見ると、次に簡単な回復呪文を唱える。傷が深い割に無駄な傷と
言えるものがなく、傷口も綺麗な上に小さいのですぐ閉じた。まるでただ大量に血を出させるためにやったように
思える。ここまでで息が上がっているのだが、彼は気にせず続ける。もう一息だった。
「遍く者、遍く時、遍く所におわします汝よ、汝なる者、未だ汝ならざる者、
願わくばこの場にこぞりて汝になりますよう」
そう唱えると目の前の人物の血色が戻り、息を吸って吐く様子がはっきりと分かるようになる。
ほっと息を吐いて周りをぐるりと見回すと組み出すタイプの井戸と洗い場があったのでそこに寝かせる。
今になった気づいたがどうやら倒れていたのは女性のようだ、今回の被害者は背の高い女性。
放っておくのも可哀想だが、あそこなら誰かに直ぐ見つかるだろう。今はカナを探さないといけない。
マイノスは心労と単純な疲労、緊張からこの短時間でバテていた。入り組んだ路地をよろよろと
歩きながら元来た道を戻ろうとするが足が止まる。足が震えて上手く動かせない。

78 :
思い切りよく一歩を踏み出そうと決めると、深呼吸して息を整える。歩き出せればまたしばらく
歩けるだろうと思い大きく踏み出そうとして気づく。目の前に誰かがいるということに。
驚いて避けようとするが叶わず、誰かとぶつかってしまう。わっと声を上げて尻餅をつき目を
しばたたかせる。自分の不注意にげんなりしながら起きようとすると先に起きがっていた相手が
手を差し伸べてくれる。
こちらこそ、と返事をしてその手を取って謝ろうとすると、彼女に遅れてマイノスも固まる。
目の前にいたのは朝から探し続けていた人だった。
掴んだ手にもう片方の手を添えて、項垂れるとしばらくの間、じっとしていた。
それまでの不安が溶けるように消えていく。とても長く感られる短い時間が過ぎ、
やっと口を開くとため息と聞き間違えるような小さな声で、搾り出すように「よかった」とだけ言った。
カナの顔を見る。何とも気難しそうな顔をしていた。少年はもう一度、今度は顔を見ながら、同じことを言うと
少しだけ近づいた。この手を離してはいけないと思ったからだ。
「大丈夫です。怒ってません、僕は全然怒ってませんよ」
他に言うことを飛ばして、心配ないと言い続ける。
「何があって、どうしたのか、言ってください。力になれないかも知れないけど、でも、教えてください」
きっと本人は嫌がると分かってはいたが、聞かないでいる訳にはいかなかった。
だから、言わなくてもいいとは言えなかった。
無意識の内にカナの手を握る自分の両手に力がこもり、震えていたことに彼は気付かなかった。
「さっきの人だって、大丈夫でした」
そう言った後直ぐにしまったと思った。
カナがやったかどうか等まだはっきりとしていないのに
何故かカナと先程の女性のことを結びつけてしまい、口を滑らせた。知らなければそれでいいのだ。
関係なければちゃんと謝ろう、そう思ったが、彼女から言葉を聞くのが何故だか怖くて仕方がなかった。

79 :
俗に言う交換日記状態である

80 :
保守

81 :
私達知的生命体は何時だって過ち、罪を繰り返しながら、その生を文字通り繰り返している。
誰が悪だ、誰が悪い、そんな事は些細な事だ、人類須らく罪によって穢れている。
私達は生きる為には対象をすと言う罪を犯さなくてはならない、それに例外は無い。
聖職者だろうと、聖人だろうと食事を欠いては生命を維持する事は出来ない。
最近、少しずつだが私が生きるのに他人をすと言うプロセスは必要な物なのかも知れないと言う結果に至った。
誰よりも罪を自覚しているのに誰よりも、その罪を重ねているのは他ならない己だったか……。
冗談にしても笑えないな……。 これならば、いっその事何も知らず罪を重ねている方が良かった……。
その方が私とっても人たちに取っても住みやすいのでないのか……?
まぁ、今更そんな事を言った所で私の今までの歴史を消す事は出来ない。

82 :
少年と出会ってしまって束の間時間が過ぎ去った。
しかし、その刹那の時は私に取って悠久とも言える長い時の流れに身を置いている感覚さえあった。
彼と共に有りたいがこの私にその資格も無ければ少年に迷惑をかけてしまうだろう。
いっそ、このまま逃げ出そうかとも思ったが、私の手は少年によってしっかり握られている為それも不可能だ。
それから暫くの時が経って少年が今までの事を説明してくれと言って来る。
実の所、この現象は自らで起こっておきながら全く解らない。しかし、彼の疑問もまた当然と言ってしまえばそうだ。
だが、この事態を話したら彼は優しい人間故に私の今現状をどうにかしようとしてくれるだろう。
話すことは簡単だが、彼にまで私の罪を背負わせてしまうのではないか……。
彼を手にかけてしまう事も恐ろしかったが、彼にまで私の罪を背負わせる訳にはいかないと言う強い念があった。

83 :
「私の体は生きる糧として毒を取り込むと言うのは解っているな?
 それと、もう一つ私の生きていく為のプロセスか解らないのだが、
 一部感情の変化にて他人を傷つけたくなる。 私は自らそれを悪意と呼んでいる。」
長い長い沈黙の後に諦めた樣に口に出した言は偽り、騙し、欺く事も出来たが、今放った言葉に嘘偽りは存在していない。
マイノスには私の周りに居るのが危険だと解って貰いたくて、必死に言を紡ぐ。
「今まではどうにか押さえてきたが、最早制御が効きそうにない。
 故に私と共に居るのは非常に危険だ、今は距離を取るべきだ。」
あわよくばこのまま彼とは別れられると一番良いのだろうが、彼がそれを許してくれないだろう……。

84 :
しかし、私はその次に発した言葉にひっかかった。 それで容易にさっきの光景が思い浮かぶ。
軽い吐き気が戻ってきた……。 そうか、さっきの事は少年に見られていたのか……。
「そうか……無事なのは何よりだが、私のやった事は取り消せない事実に他ならない……。
 それに、マイノス、もしかしたらお前の身がそうなっていたかも知れないのだぞ……?
 もう少し、自分の身を大切にしろ。 私はお前をしたくない……、したくないのだ……!」
気が付いたら感極まって彼の胸倉を両手で渾身の力で握り締めていた。
しかし、今朝の様な彼を持ち上げるまでの力は、この細い腕からはどうしたっても出そうにない。

85 :
さわさわ

86 :
カナから告げられた言葉は、俄には信じられないようなものだった。
無性に苛立つ事や、他人に辛く当たりたくなる事は誰にでもある、ただそれが誰かを
しかねないほどであったり、自制が利かないというのは常軌を逸している。
頭と胸の奥に鈍い痛みと抱えきれない重さを感じて、何も言えなくなる。カナが死にたがる理由の
底にあるのが何であるか、薄々と分かってきた。これが彼女が苦しむ理由なのだ。
自分のこれまで人生を掘り返しても、どんな気持ちを抱いてあげればいいのかが分らない。
動かすに動かせない思考のままでいるとカナが距離を取ろうと言い出す。
(そう、確かにそれが、良いのかも知れないけど…)
今までも自分の手に負えないような難題からは手を引くことはあったし、手を尽くしたけれど
駄目だったことも一度や二度ではない。これもその一つになるのだろう。ーその一つにしたほうがいいー
少しだけ残った自分の中の冷静さがそう囁くが、耳を貸したくない。
曇り出していた空から雨が降りだすと、体から熱を奪おうとしてくる。ふと、雨の中で体よりも先んじて
かじかんでいた手が動く。見ればカナの手がマイノスの胸ぐら掴んでいる。
今しがた自分の言ってしまった事への不安を肯定し、それでいて彼の身を案じているという言葉に
カナの本心の、優しい心根が見えた気がした。今までもお節介から首を突っ込んだり、巻き込まれたり
したが、カナの場合はどうも違っていた。
放っておけない、見ていられない、初めの内はそんな気持ちが先立っていた筈だった。
なのに今はそうでない気持ちが、上手く言えない保護欲や使命感にもよく似た何かが彼を突き動かしていた。
自分を掴む手を大事そうに抱え込む。背丈の近いふたりの、互いの顔がすぐそこにあった。
何かしたかった。カナの犯した罪が消えないまでも、その渇きを如何にかしたかった。
「降りしきる雫により生まれし泉よ、その命が尽きる束の間、己が甘露を毒として、この者を潤せ」
覚えたての魔法で足元にできた水たまりを即興で回復の泉へと変えて、毒を付加する。
回復魔法に毒属性を含ませることは必ずしも矛盾しない。少なくともこの女性にとっては。
カナの為に魔法を唱えた後ゆっくりと腕を離して距離を取り、その際に毒化した水筒を渡しておく。

87 :
「カナさん、確かに、あなたの言う通りなのかも知れないです。でも僕はー」
言い淀むも意を決すると、マイノスはもう一度声を出す。
「僕は、あなたを諦めたくない。もしもその悪意を何とかできなかったら、その時は僕も諦めます」
でも、とマイノスは言葉を続ける。
「だから、まだ、僕を諦めないで・・・!」
子ども染みた我侭を、救いを求める者に縋るように嘆願する。自分の考えている方法を教えると
マイノスはカナに問う。その悪意をどうしたいのかを、受けるか受けないかを
運命の悪戯というものがある。この世界に生まれた者は皆等しく世界に認証され、その上で互いに
生き死にを含めた関係を築いていく。そして最低限その循環を行えるように加護が自然と与えられる様に
なっているのだ。だが稀に加護や認証を受けた際にそれを受容できない個体が生まれることがある。
彼らには却ってそれらが逆効果となり心身を著しく歪めてしまい、その多くは早する。
今のカナの状態でマイノスに唯一ある心当たりはそれしか無かった。その世界からの加護や認証を
打ち消す手段を講じれば、もしかすれば徐々に良くなっていく可能性はあった。
しかしそれは、言い換えればカナを自分と同じ状態にすることでもある。
物に映らず、人と関わっていっても長く記憶に留まれず、当たり前にあるはずの日常的な恩恵は
受けられなくなる。当然、当て嵌らない可能性がある上に一度行えば取り返しが付かない以上カナに
良く念を押すように聞く。人の一生を左右する事を、たかだか一六の少年が遙か目上の者に迫っていた。
ラックと契約したときに知った、世界の秘密とでも言えそうないくつかの事柄と僅かな魔法は今日の様な
日が来ることへの備えだったのだろうか、マイノスは漠然と思う。
「言っといて何だけど良く考えて下さい。もしかしたら、あなたはこの先ずっと僕を恨むかもしれないのだから。
今の僕が考えつくのはこれぐらいです。他は・・・僕を打ったり蹴ったりしてみます?」
軽口と本気を半々にして締めくくるとマイノスはカナの返事を待つ。考えさせて欲しいと言うなら待つし
断られたらそれも已む無しだ。誰もカナの代わりに勝手に決めることなどできはしない。
雨脚は、段々と強まってきていた。

88 :
私の半生はこの悪意と共にあると言っても過言ではない。 始まりは約2世紀程前の私が子供と言うべき時代だ…。
まだ自らの感情を上手く制御が出来ない頃に、悪夢と呼べる其れはまるで病気であるかのように突然現れた。
今でも判然と思い出せる、私の記憶の中でも最も忌々しい記憶だ。 私は内から湧き上がる感情に従い自らの家族を惨した。
バラバラ人等生やさしい、それは人だったのかのかも解らない肉の塊になるまで調理用包丁でメッタ刺しにした。
それに含めて、事も有ろうにも私は家族だった物を口径摂取、簡単に言うと食べたのだ。
大好きだったから其の全てを自分だけの物にしたくて、其の全てを独り占めしたくて……私は許されざる罪を犯した。
人を強くするのも愛だが、どうしようもなく縛るのも愛、そして人を復讐に駆り立てるのもまた愛……。
形は違えども人が人足り得る故に愛からは決して逃れる事は出来ないのだ。

89 :
気が付けば我々は降り頻る雨に濡れながら立っていた。 降ってきていたのか気がつかなかった……。
それはまるで天が私の代わりに涙を流しているのではないかとも思える心まで冷える錯覚を覚える雨粒。
しかし、当の本人である私は表情の無い顔で其れを見送っていた。
流れ水は其の意味的にも私とは合いそうにないな、と流れ行く雨を見つつ変な事を考えていた。
天を仰ぎ見るとぐらりと世界が回った。 はは……本格的に毒が足りないらしいな……。
2,3歩よろ着くとその症状は嘘の様に回復した。 なんだ……?
ああ、少年が回復を施してくれたのか……。 やはり優しいな、私が独占するには勿体無い者だ…。
私は渡された水筒の蓋を開け、一気に飲み干す。 限界まで乾いた喉に毒が優しく広がる。
なんだか、その表現はおかしいな、と自らで考えた事にも関わらず笑いが漏れた。

90 :
そんな中彼が私に思い詰めた表情でこの悪意をどうしたいかを聞いてくる。
彼の様子がどうしようもなく愛おしく、そして狂った様に彼の命を私だけの物にしたかった。
私はさっきの荒々しい様子とは打って変わって今の心情は安らかな何かが小川の様に流れている。
「やはり……御前は優しいな。 可能性があると言う事は私にとっても魅力的だ。
 しかし、此れは私の犯した罪に対しての罰。私は奪ってきた命同様に幸せになってはいけない。」

91 :
そう、私は幸せになる権利なぞとうの昔に置いてきた。 私が生きて行く権利と一緒にな……。
私は只、生きたいと望む者を助け、守る、どんな手段を使おうともな。 其れこそ人に頼まれずとも…な。
「私は弱い者だ、弱い故にこうして希望を見せられるとそれに縋りたくなってしまう。
 手を伸ばしたくなってしまう。 私にはその権利は無いハズなのにな。」
刺すような降りしきる大粒の雨の中、彼を目の前に私は微笑んだ。
自分でも何故そんな事に及んだのか解らなかった。 しかし、答えは自らの胸にしまっておいた方が良さそうだ。

92 :
「そんな、そんなことはっ!」
ないと言いたかった。だが実際は、そんなことは、と弱々しく続けることしか出来なかった。
人足の絶えた路地裏には二人以外の人影はなく、誰かが訪れる気配もまたなかった。
分かっていた、分かってはいた。こうなることは、こう言うであろうことは。
弱っていたカナが毒の水を飲み、幾分持ち直したようだったが、その持ち直した
体と心で、マイノスの提示を優しく、しかしはっきりと断る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
やはり彼女は断った。自分の責任から自分が助かることを頑なに拒んたのだ。
已む無しと考えこそしたがそれでも、それでもその選択をして欲しくはなかったと少年は
眼前の女性をじっと見る。
助かって欲しい。生きたいと望んで欲しい。そう思ったのに彼女の選択は一番そうなるであろう可能性を
持っていた。自分が助かってはいけない。幸せになってはいけない、そんな馬鹿げたことがあるかと
マイノスは言いたかった。カナに目一杯噛み付きたかった。でもできない。
彼女の悲しくて優しい笑顔を見ると、逆に自分はどの面下げてそんなことが言えるのかと
言葉が出なくなってしまうのだ。否定したかった。自分を否定する彼女の全てを。
受け止めてみたかった。利己的であったとしても自分の生に前向きな彼女を。
(縋ったっていいじゃないか、幸せになったっていいじゃないか・・・!)
あんまりだ、と彼は思った。それでも、言うだけの事をしてきたのだろうカナの意思を覆せるほどには、
マイノスは言葉も、力もなかった。
「この手を、握り返してくれる、それだけでいいのに・・・それだけのことなのに・・・」
微笑まれているのに、少年の顔はくしゃくしゃになっていった。
助けたい。幸せになってほしい。そして、と思ったが今はもう何の選択肢も残されてはいなかった。
届かなかったという無念と彼女への罪悪感が胸に渦巻いてゆく。
震える手で自分のマントを外すと、それをカナに押し付ける。もう何度もやった事だった。
それだけに、マイノスの未練や悔しさがありありと見て取れた。
冷えますよ、と言った彼の顔は苦痛の百面相を終えて疲れ以外の色をすっかり落としていた。
「先に、宿に戻ってます」
それだけ言い残すと、目の前の女性に背を向けて来た方向へと歩み去る。もう何も言葉が出なかった。
相手を思えば思うほど、言葉の数は減っていき、相手の決意が硬ければ硬いほど、慰めることは
出来なくなっていく。路地裏の、二人分しか無い人影が、ゆっくりと離れていき、やがて一つになった。

93 :
人とは何処まで儚く、そして何処まで愚かに作られているのだ……。
愚鈍であり卑怯であり、嘘付きで自らの為ならば何でもやる汚い者達だ。 そして何よりも代えがたいまでも愛しい者達だ。
しかし、彼らと一緒に居ると私の愛の形が抑えられなく成る。
人の世だと私の愛は違法らしいから、私は彼等と長い事同じ道を歩めない。
いや、それが逆に良いのかも知れない。 私は許されざる罪を犯してしまった者。
何も知らなかったとは言え決して許されざる罪だ。 私はこの罪から逃げるつもりも目を逸らしたりもしない。
ましては、この罰から逃れて私だけ幸せになろうと言う考えすら持っていない。
私が奪ってきた命の中にも幸せになる未来が有ったかも知れないのだ。 それを潰したのは他ならぬ私。

94 :
決断をした私をまるで睨めつける様に見る少年。 無理もない、少年は私を思ってしてくれた行動だからな…。
分かっていた事だが、やはりこういう顔を向けられるのは気持ちいい物ではないな……。
刺すように降りしきる雨がまるで涙の様に私の頬を伝って地面へと落ちていく。
正直に言えば辛いさ。 しかし、私が奪ってきた魂への手向けにもこの罰は消してはならない。
中には私の苦しみ以上の苦痛と共に散っていった者達も居る訳だから、此の程度じゃまだ微温い……。

95 :
彼は私にもう幾度にかなるか解らない程に渡されているマントを手渡してくる。
その顔には判然と悔しさが有々と浮かんでおり私の気が一段と重くなる。
いや、此れで良かったんだ……、此れで失敗しようなら彼にも罪を着せてしまう。
彼は優しい、それ故に私同様に罪を背負って、引き摺ってしまうだろう……。
遠ざかる彼の背中を見送って私は反対方向へと歩き出す。
彼には悪いが、最早彼と一緒に居られない。 これで良かったんだ……。
まるで自分に言い聞かせてるみたいだな、彼の存在がそこまで大きくなっていたと言う事か……。
済まぬな、約束を守れない所か、このマントも返せそうにない、逃げ出す卑怯な私を許してくれ…。

96 :
暫く歩くと私の耳に劈く怒号と騒々しい足音が近づいてきた。
何事かと思い、そちらに首を向けてみると大柄な男達が私に向かって棒の様な物を振り上げている所だった。
な、なんだこれは……、状況を理解するより早く棒が振り下ろされる。 私に到達するまでに全ての動きが鈍い。
来るのが分かっていながらも、避ける事が出来ず、私の頭の中に鼓膜を突き破るのではないかと思う程の激しい音が響く。
意識を失う事だけは避けられたが、頭を強く殴られたせいで足に上手く力が入らない。
そんな事をしていると怒号を放った者達は私を取り押さえてきた。

97 :
「犯人を確保致しました」
……そうか、コレは私が行った事に対しての罰か……。少年が言っていた犠牲者が無事と言うのは本当らしいな……。
それとも少年に見られていた位だから他の目撃者が居たのか……? まぁ、今はどっちでも構わない。
周囲に不幸しかばら蒔かない私には死刑でも一興と思い、私は大人しくされるがまま連行されて行った。
しかし、法廷に到着して私に下された罰は都市外永久追放と言う予想外の判決であった。
仮にも私はこの都市の全ての命を救った英雄と言う訳か……、良いだろう、元々此処からは近々出て行く予定だったのだ。
後に知った話だが、都市を救った英雄のイメージを壊したくない都市側は私の処分を秘密裏に行ったらしく、
私が行った惨事件は表面上の永遠に解決しない未解決事件と成ったとか…。

98 :
ついでに言うと、真実を知る者と言う事で少年まで追放扱いになってしまったそうだ……。
また私のせいで不幸になってしまった者がまた一人……。
しかし、私のせいでこうなってしまったと言うのにいつもの様な罪悪感は一切無く、
彼と再び見会う事が出来たと言う喜びだけがそこには有った。 つくづく私は懲りずに愚かな者だな……。
「つくづく縁があるな我々は……」
少年に手渡されたマントを返すと、
豪雨と言うべく雨が嘘の様にすっかり上がり晴れ間が差し込む空の元に我々は都市を去った。

99 :
(帰って来ないな)
窓の外は既に暗くなっており、雨が降る音だけが、マイノスの耳に聞こえ続けていた。
宿に戻ってからも、彼は何も考えることはできなかった。
ただ漠然とした、言いようのない何かにマイノスは打ちのめされていた。
人を否定することは簡単だ。しかしそれ故に少年はカナを否定したくなかったし、生来の
性格もあって否定できなかった。
時には相手を否定しなくてはならない時もある。それがさっきだったのではないか、
強引にでも行動に移すべきだったのではないか、そんな考えが止め処もなく溢れてくる。
結果として、彼女は苦しみ続ける事を選び、彼は身を退いた。
(意気地なしめ)
自分を貶しては見るがそれでどうなる物でもない。今はただ、もしかしたらカナが
帰ってくるのではないかと、ありもしない未来に縋るくらいのことしかできなかった。
「でもさあ、これでよかったと思うぜーなあ」
シルフが空気も読まずに話しかけてくる。その声には気遣いの色は薄い。
顔をそちらに向けるとシルフは話を続ける。
「お前が許してもさ、やっぱされかけてる訳じゃん?一緒にいたら危ないって」
シルフの言葉に言い返せる所はない。身の安全を考慮すれば選択肢は現れない。
思わずため息を着くと、少年は小さく独り言を呟く。
「・・・あの人は、これからどうするんだろう」
恐らくまた何処かへと流れて行くのだろう。きっと、自分と会う以前の旅に戻るのだろう。
簡素になった室内は、一人の客人が帰って、数時間前の風景に戻っていた、なのに
前よりも余計に風景に見えるのは、文字通り気のせいなのだろう。
「追いかけようなんて思うなよ」
先手を打つ様にシルフが釘を刺す。態度や好みこそ異なるものの言うこと性格が段々
契約者と似てきたようだ
「またおかしくなっちまっても嫌だしな」
「また?またってどういうことだ、シルフ」

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