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2012年5月創作発表56: 週刊少年サンデーバトルロワイアル part4 (268)
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週刊少年サンデーバトルロワイアル part4
- 1 :11/12/11 〜 最終レス :12/05/05
- 当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。
また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/
まとめwiki
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/
前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308998404/
- 2 :
- 参加者名簿
からくりサーカス 14/14
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二
ARMS 11/11
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ
金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)
うしおととら 7/7
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり
烈火の炎 7/7
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗
うえきの法則 7/7
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩
SPRIGAN 6/6
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ
GS美神極楽大作戦!! 6/6
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス
YAIBA 5/5
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛
計80名
- 3 :
- 【ルール】
バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません
経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1〜3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後
『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない
【制限について】
基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます
金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。
うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。
- 4 :
- スレ立て完了。
気付いたら前スレ500kb超えてました、すみませんorz
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308998404/439-
が今回の投下分です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
>他書き手のみなさん
放送後SSの予約解禁は本日24時でどうでしょう。
- 5 :
- 乙でした
6時間でずいぶん死んだなあ
対主催としては、巴武士が惜しいな
生きていれば終盤相当な戦力になっただろうに
- 6 :
- 建て替え乙です!
書き手じゃないから反応できない
他の書き手さん、今日の24時でいいのだろうか
- 7 :
- wikiでは『第一放送までのSS』などと書かれていたので、放送のタイトルを『第一放送(六時間経過)』に変更します。
- 8 :
- 投下乙
テンコかわいいw
スプリガンの伝言板の使い方が面白い。ブルー頑張れ
予約解禁については問題ないですよ
- 9 :
- 投下乙
このチームもバランス良いな
ブルーの脚が不自由なことを差し引いても、かなりの戦力だ
第一回放送も終わって、何人か心配な参加者がいるな
…特に風子、鬼にならなければ良いが
- 10 :
- 風子横島の周り誰かからみそうな参加者いたっけ?
横島一人で全部背負いきれるか?w
しかし風子たちが花火の気付かなくて良かったわ
- 11 :
- うお
話題にしてたら予約ktkr
ドットーレと清磨…だと!?
どうなるんだw楽しみw
- 12 :
- どう絡めるのかまったく予想つかねーw
ていうか放送明けてもう予約三つか。順調順調
- 13 :
- 投下します。
- 14 :
- ◇ ◇ ◇
定時放送が始まる数分前から、永井木蓮は食事を一時中断して耳をすましていた。
放送がもたらす二つの情報は、最後の一人になるまで生き延びるつもりの木蓮にとってかなり有益なものだ。
死者の数は以降どう動くかの目安になるし、禁止エリアに至っては知らなければ呆気なく死にかねない。
ゆえに注意深く聞き耳を立てていたのだが、にもかかわらず半ばから先を聞き損なってしまった。
自分自身の哄笑に遮られて、放送の終盤が耳に入ってこなかったのである。
まずいとは思っていたものの、とめどなく溢れてくる歓喜の念を抑えることはできずに終わった。
勝手に口元は大きく歪んでしまうし、笑い声は手で押さえた程度で止められるほど穏やかなものではなかった。
神様の力を使うなどとぬかしていたワケの分からんガキに敗戦を喫したことなど、いまとなっては思慮の外だ。
先ほどまで味気ないと思っていたコッペパンさえ、極上の一品に思えてくる。
殺し合いがいつまで続くのか分からない以上、日持ちする食品には当分手をつけないつもりだったが、いつの間にかその計画さえ忘れて缶詰を開封してしまっていた。
よくある焼き鳥の缶詰であったが、木蓮は鶏肉を一つ口に運ぶと舌が痺れるかのような錯覚を覚えた。
醤油に砂糖とみりんと日本酒を加えて煮詰めたタレが、甘辛い味を染み渡らせていく。
歯が震えてなかなか成功しなかったがどうにか鶏肉に歯を入れると、焼き鳥特有の焦げた脂の香ばしさが広がる。
風味は舌の上に納まることなく、口全体へと侵食するかのように一気に及ぶ。
数回咀嚼したのち、木蓮は微細に砕かれた肉片を飲み込んだ。
「……うっめぇ」
木蓮にしては珍しく、素直に感嘆の言葉を漏らしてしまう。
それほどまでに、その焼き鳥は旨かった。
口のなかに残った味に浸ったのち、木蓮は二つ目の肉片に手を伸ばす。
これまた格別の味で、あいにく手元に酒がないのが非常に残念であった。
もちろん、ただの焼き鳥の缶詰がそんなにおいしいワケがない。
木蓮は食品を温める機器を持ち合わせていないので、先ほどから食べている焼き鳥は常温だ。
もし仮に温めたとしても、所詮は缶詰だ。長持ちこそするものの、味はたかが知れている。
かといって、この缶詰が実はただの缶詰ではなく、スペシャルな技術を用いて作られた究極だったり至高だったりする料理であるのでもない。
ならばどうしてこうも木蓮が舌鼓を打っているのかというと、食事の楽しみとは料理の味だけによるものではないからである。
環境、同席相手、空腹具合、気分、といった要素もまた絡んでくるのだ。
とはいえ、木蓮がいるのは地面に大きく開いたクレーターの端で、たった一人きりであり、取れるうちにエネルギーを取っておこうと思っただけで別段空腹でもない。
ただ、それら以上に、木蓮はいま非常に上機嫌であるのだ。
憎んでいた相手が息絶えたのだから。
それも、二人一気に。
火影の大将であり、体内に八匹の火竜を宿す炎術士――花菱烈火。
火影でもっとも冷徹な、氷の精神を持つ水の剣士――水鏡凍季也。
かねてより気に喰わなかった二人が、たったの六時間でおっ死んだ。
その事実が、ただの缶詰をご馳走へと押し上げる極上のスパイスであった。
プログラムの主催者に死んだものと誤認させている可能性もあるが、かなり低い。というかほぼゼロだ。ありえないと言っていい。
生死の判断はおそらく首輪によって下されていると、木蓮は推測している。
ならば科学者でもなんでもないただの高校生である彼らに、容易く外せる道理はないのだ。
この手でくびり殺してやりたかった。
自ら死を懇願するほどいたぶってやりたかった。
彼らの勝ち誇った顔が歪むところをこの目で見たかった。
偽善じみた言葉ばかり吐く口から出るくぐもった悲鳴を聞きたかった。
そういう気持ちも、木蓮のなかにはある。
しかしながらば敗北で、生き残っているものの勝利なのだ。
すなわち、永井木蓮は花菱烈火と水鏡凍季也に勝ったのである。
長い因縁の割になんとも呆気ない幕切れであるが、木蓮は己の勝利を受け入れない男ではない。
それに、まだ火影は三人残っているのだ。
仲間が死んだことを受け入れられていないだろう甘ちゃんたちに、人は死ぬってことをキッチリ叩き込んでやるのも悪くない。
死んじまった二人の亡骸をどうにか見つけ出して、生き残りどもの前に放り投げてやるのもいいかもしれない。
などと思考を巡らせていた木蓮に、不意に背後から声が浴びせられた。
- 15 :
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- 16 :
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- 17 :
-
「よう、そこの兄ちゃん」
食事を楽しんでいたばっかりに、かなり接近されてしまっている。
生き残るつもりの参加者ならば危ういところであったが、相手は奇襲をしかけるでもなく声をかけてきた。
どうやら、これまで出会った三人同様に甘い野郎らしい。
悟られぬよう胸を撫で下ろしながら、木蓮は振り向く。
振り向いた木蓮の瞳に映ったのは、茶髪をオールバックにしている太眉の青年だった。
ライダースジャケットにデニムというありきたりな風体であったが、右手に携えた薙刀だけが異質だった。
全体が金属でできており、ところどころに玉が埋め込まれている。
「俺は秋葉流っつーもんだけどよ。
飯喰ってるとこ邪魔されんのは気分悪ィとは思うんだけど、まァちょっといいかい」
薙刀の正体は、木蓮のよく知る魔道具『鋼金暗器』であった。
その特性である異なる武器への変形まで使えるのかは不明だが、流はかなり巨大な鋼金暗器を片手で持っている。
ある程度は『できる』相手だと、木蓮は内心で判断する。
「ああ、構わないぜ。ちょうど喰い切ったとこだしな」
タレしか残っていない缶の中身を見せつけて、木蓮は笑う。
相手が甘いことは明らかなので、信用させたところで不意を打とうと考えたのだ。
そのために内に潜む快楽殺人者の面を隠したのだが、すぐに明らかにすることになる。
「植木耕助ってヤツに聞いたんだけどよォ……ああ、緑色の髪したこんくらいの身長の」
身長を示すようなジェスチャーをしながら、流がこのようなことを言い出したのだから。
「なんでも、この辺にナゾナゾ博士っていう爺さんを殺した殺人鬼が――」
言葉の半ばで、木蓮は魔道具『木霊』を発動させる。
右手を樹木に変化させて伸ばすが、流はたじろぎもせず鋼金暗器を傾けるだけだ。
脳天、首、左胸、腱――と四ヶ所を貫かんとしていた細枝が、それぞれ鋼金暗器の刃に受けられる。
攻撃をすべて払うと、流は背後に跳んで距離を取った。
「続きは、『殺人鬼がいるらしいけど知らねえか』ってところか?
はッ! よく言いやがるぜ! 俺がそいつだと確信してなきゃできねえ身のこなしだったぜ?
大方、あのガキから特徴を洗いざらい聞いてたってとこか。外見だけじゃなく、戦闘スタイルまで含めてな」
「さァてね」
「いやいや、別に構わねえんだぜ? むしろ、あのガキよりよっぽど賢いと思うぜ。
あの耕助とかいうガキゃあ、俺がいっくら情報は大事って教えてやっても聞きゃしねえ。
人生のセンパイがわざわざ教えてやってんだから、そこはちゃんと聞いとけって思わねえか?
ああ、別に答えなくていいぜ? 俺がどういう攻撃してくるかまで聞いてくるテメェのことだ。答えは聞くまでもねえ。
…………で、だ。
となると、疑問が浮かんでくるよなァ?
そんな頭よくて冷静なはずのテメェが、どォォして殺人鬼だと分かり切ってる俺にわざわざ話しかけてきたのかっつぅよォォォ! ナメてんじゃねえぞ、クソがァァァァ!!」
言い切る前に、木蓮はツタを伸ばしていた。
その速度は凄まじく、どれもが人体の急所へと向かっている。
だがそのすべては、流がたった一度鋼金暗器を振るうだけで斬り落とされてしまう。
「ぎゃひゃひゃひゃっ! やるじゃねえか! さすがに声かけてくるだけあるぜ!
だけどなァ、俺の植物は特別製なんだよッ! モノホンみてえに、斬りゃあ終いとか思い込んでんじゃねえぞッ!」
「――――ッ」
- 18 :
-
- 19 :
-
- 20 :
-
切断されて落下したツタが再生して、流へと襲い掛かる。
木霊は植物の成長を促す魔道具だ。
そして、魔道具は使用者と適応すればするほどに力を発揮する。
木霊を身体と同化させた木蓮には、もはや斬られた端から元のサイズに急成長させる程度簡単なことだった。
二回、三回、四回――と、流はツタを斬り刻むが意味はない。斬った端から再生していくのである。
キリがないことを速やかに悟って、本体を狙うことにしたのだろう。
ツタから視線を外すと、木蓮のいたほうを見据え――流は太い眉を僅かに動かした。
「どうしたどうしたどうしたァァッ!
ボーッとしてんじゃねえぜッ、俺を格下の雑魚みてえに思ってたクセによォォォ!!」
ツタでの攻撃は、木蓮にとって本命までの時間稼ぎに過ぎなかった。
流がツタを刻んでも無駄だと理解するまで三十秒もなかったが、それで充分であった。
とうに、木蓮は準備を完了していたのだ。
流に仕向けていた細いツタではなく、直径十センチほどの枝を大量に発現させていた。
その枝を組み合わせて作り出した二メートルほどの人形――『木偶』。
木霊によって、十三体の木偶はすべて木蓮の思うままに動かせる。
しかもただの植物人形集団ではない。
ある一体は魔道具『飛斬羽』を、ある一体は拳銃を、ある一体はサブマシンガンを所持している。
本来、魔道具は意志あるものにしか使えないが、木蓮の意思に従う木偶ならば使用可能なのはすでに検証済み。
道具を持つ三体が銃弾と風の刃で相手を誘導し、残った十体が仕留めるのである。
木霊の持ち主がやられれば木偶はすべて消滅するが、そうなることはない。
流には、木蓮がどこに潜んでいるのかなど判別できないのだから。
外見からは、どの木偶が内部になにかを隠しているのかなど判別不可能だ。
声で、どれに潜んでいるかを見極めるのも叶わない。
なぜなら――
「ほら!」
「ほらほら!」
「ほらほらほら!」
「ほらほらほらほらァァーーーッ!」
「避けなきゃ」
「必死こいてッ」
「死に物狂いでッ」
「死にたくねえ一心で!」
「逃げ回んなくちゃッ!」
「弾丸やらッ」
「カマイタチがッ」
「当たっちまうぜ!」
「まァ」
「避けたほうにゃあ」
「木偶が向かうけどよォォーーーッ!」
木偶すべてが、木蓮の意思通りに声を発するのである。
声とは、声帯の振動によって生まれるものだ。
植物に声帯などあろうはずもないが、木霊は植物を操作する。
枝に凹凸のある空洞を作り出せば、空気が振動して望む音を奏でてくれる。
その程度、木蓮にとっては造作もない。
- 21 :
-
- 22 :
-
「ちいッ!」
流は大きく舌を打ちつつ、地面を蹴る。
無数に放たれた風の刃や弾丸を回避するのには成功したが、そちらには無数の木偶が拳を掲げている。
停滞している余裕など、流には存在しない。
少しでも止まってしまえば、武器持ち木偶のいい的になってしまう。
走りながら鋼金暗器を構え、進行方向にいる木偶を両断する。
横切って行くときにはすでに再生していたが、構うことなく駆け抜ける。
ひたすらに射撃を回避しながら、前に出てきた木偶を斬っていく。
その行為を繰り返し、木偶を十数回斬り伏せたところで、流は攻撃の方法を変えた。
薙刀形態のまましようしていた鋼金暗器を分解し、鎖鎌へと変形させたのだ。
鎖部分を掴んで鎌部分を回転させて、走りながらその回転速度を上げていく。
またしても眼前に木偶が現れるが、流は鎌を投げない。
回転する刃で迫りくる拳だけを斬り落として、木偶集団を掻い潜るように進む。
「――ふッ」
そうして木偶の集団から抜けてから、流は短い呼気とともに鎌を投擲した。
サブマシンガンを持つ木偶に鎌が刺さってから、鎖を勢いよく振り回す。
すると、すぐ横にいる拳銃と飛斬羽を装備した木偶にまで鎖が絡みつく。
「ッらあ!」
咆哮を上げて、流は鎖を振り上げて落とす。
結果、鎖に絡まっていた木偶は地面へと叩き付けられる。
武器こそ無事だが、木偶を構成する枝が完膚なきまで粉砕されてしまう。
だが、無意味だ。
木霊から送られるエネルギーを糧に、折れた枝は見る見る再生する。
本来もっと早急に木偶を再生できるというのに、木蓮は見せつけるようにあえてゆっくりと木偶を治していく。
鎖鎌は木偶に絡まったままであり、つまり流は木偶に武器を奪われた状況だ。
わざわざ急ぐ理由がない以上、木蓮は己の楽しみを優先する。
自分をナメてかかったばっかりに、流は打つ手を失くした。
そのことを嘲るように、声を荒げる。
「最初に奇襲しかけときゃ、もっと別の結末もあっただろうになァァ!
かえーそうになァ! 植物を操るとか聞いて、大したことねえとでも思ってたか?
テメェが勝てる算段だったのにこんなことまでできるだなんて、まったく想定外か?
ひゃはははははははっ! オイ! いいぜ! 優しい優しいこの俺が、テメェに時間をやるよ!
木偶が再生するまでに、せいぜい神様にでも祈ってみろよ! もし聞いてもらえたら、地獄落ちは免れるかもしんねぇぜ!」
相手が祈る時間をやるつもりなど、木蓮にはない。
武器を持った木偶の再生は遅らせているが、その他の木偶はもう再生が完了済み。
最期に祈ろうとしたところを攻撃して、呆けたところを嘲笑って殺してやろうとしているのだ。
「じゃ、まァ祈らせてもらうとするかね」
ゆえにこの返事を受けて、木蓮は吹き出しそうになってしまった。
悟られぬよう、木偶を背後から接近させる。足音を立たせずに、ゆっくりと。
肉薄させた上で、木偶の右腕を鋭く尖ったものへと変形させる。
しばらくして、流が目を閉じる。
いまだと、木蓮が木偶に指示を下そうとしたときであった。
流が、一気に目を見開いて振り返った。
「木は青、青は東なり、春なり鱗なり」
そこまで一息で言うと、ポケットから釘を取り出して指で弾く。
「金剋木! 金気を以って木偶を剋す!」
- 23 :
-
- 24 :
-
- 25 :
-
詠唱が終わったと同時に、釘が眩い光を放つ。
次の瞬間には、鋭利な右腕を持つ木偶が幾百もの木片に分割されてしまっていた。
再生しようにも、あそこまで細かく刻まれてしまうと一から樹木を作り出したほうがよっぽど楽だ。
唖然とする木蓮の前で、流は落下してきた釘をキャッチする。
予想外の攻撃を受けたとはいえ、木偶が一人やられたにすぎない。
木偶なんぞ、いわばやられるためにある。
だから予想外の攻撃であっても、事態は予想外ではない。
そう自分に言い聞かせて、木蓮は流の持つ釘を眺める。
ただの釘ではないのだろう、おそらく。
黄色く、かつ金属としての輝きを併せ持つその光沢はまるで――
「…………金、か?」
「まさか。そんな高価なもんじゃあねえさ。
耕助の持ってたゴミのなかから回収したんだしな。
だいたい、金をわざわざ釘なんかにしちまう物好きはいねえよ」
木偶の口を借りての呟きに、流は律儀に答える。
返答する理由がないというのに、わざわざ。
得体の知れない道具の正体を教えてくれるのならば、ありがたいはずだ。
勝手に情報を漏らすのなら、使ってやるだけのはずだ。
だというのに、木蓮には流の態度が気に入らなかった。
格下の相手に教えてやるかのような口調に、虫唾が走る。
「銅と亜鉛の合金……つまり真鍮さ。
神具や仏具なんかによく使われる金属だ」
だからなんだ。それがどうした。
即行で返してやろうとしたが、流の言葉はまだ続くらしい。
「だからまあ当たり前なんだが……こいつはよォく通すんだぜ、霊力をな。
んでもって、俺はさっきからこれをちょっとずつ落として……違うな。
地面に『設置』してたんだ。飛んでくる攻撃を避け続けながら、少しずつな」
すぐには理解できなかったが、ややあって木蓮は青ざめた。
流が走っていたコースには、真鍮が設置されている。
さらに、流はわざわざ鋼金暗器を捨ててまで、武器持ちの木偶をそのコース内に侵入させた。
そのコースが、『陣』であるとするのなら――
ところどころに落ちている真鍮が、『起点』であるとするのなら――
木蓮がかつて所属していた組織『麗』にも、『結界師』は在籍していた。
ゆえに、流がこれからすることを察することができた。
再生速度を遅らせていた武器持ちの木偶に、成長力を全力で流し込む。
一気に復元させて、銃器を釣る瓶打ちにしてやるべく。
が、遅い。
木蓮が気付く前に流は疾風となっており、木偶が再生する前に陣の外に出ていた。
「坎(かん)ッ!」
流が両手を合わせて声を張ると、起点である真鍮が発光する。
たちまちそれらを結ぶように光の線が走り、陣が形成されていく。
すべての起点が結び付いた途端、陣の内部の発光が異なるものになる。
白かった光が、金属じみた鉛色のものになって内部を包み込む。
そして――爆ぜる。
- 26 :
-
- 27 :
-
- 28 :
-
- 29 :
-
「待゛ァ゛」
十数もの木偶の呻き声は、爆発音に呑み込まれた。
内部に存在する木偶だけでなく、地面に生えた雑草の一本に至るまで。
なにもかもが斬り刻まれてからようやく炸裂は納まり、結界壁が消滅していく。
すべての『木』が塵と化したため、ただ塵を被っている状態の銃器や魔道具を流は回収する。
鋼金暗器以外をリュックサックに仕舞い込んで、流は転がっている木蓮へと歩み寄る。
身体に枝を纏わせて木偶に紛れていたのが、木蓮の最大の不幸だった。
いざ発動するまで、木蓮には流が仕掛けた結界がいかなる類のものかを分かっていなかったのだ。
植物が対象と分かっていれば咄嗟に木偶を脱ぎ捨てたのだが、神ならぬ木蓮に分かるはずもない。
ゆえに、全身のいたるところを残らず切り裂かれてしまった。
それでもなお生きているのは、彼の執着心ゆえであろう。
死ぬワケにはいかなかった。
殺されてしまうワケにはいかなかった。
命を落としてしまえば、敗北したことになるのだから。
(…………じゃ、ねえだろ。全ッ然的外れだ。
そんなんじゃねえ。そんな些細なこと、問題でもなんでもねえんだよッ!)
いまにも意識を手放しそうな状況で、木蓮は自分の考えを否定する。
問題なのは、敗北を喫することなんかじゃない。
いや、確かにそれも問題だが、さらに許せないことがあった。
それは、屈辱だ。
自分のほうが優れていて、お前は劣っている。
そんな思いを雄弁に語る眼差し。
何よりも木蓮が許せなかったのは、それだったのだ。
ゆえに、烈火と水鏡の死に歓喜したのである。
あの視線を二度と見ずに済み、かつこちらが一方的に見下せる。
だが、ばできない。
死んでしまったら、下の存在になってしまう。
文句を言うことさえできない。
木蓮は、それが許せない。
それだけは、認められない。
屈辱を抱えたまま終わるなど、到底我慢できそうにない。
終わるのは、まあいいだろう。
納得してやることにする。
人はいつか必ず終わる。
だから、許可してやる。
けれど、屈辱を抱えたままはイヤだ。
敗北より、死より、気に喰わない。
みすみす死なねえ。
おちおちねえ。
わだかまりが残る。
永遠に燻ったまま。
お前の下じゃねえ。
やり切ってやる。
スッキリする。
見せつける。
発散する。
晴らす。
やる。
上。
- 30 :
-
木蓮が、勢いよく双眸を見開く。
しばらく目を閉ざしていたせいか、やたら陽射しが眩しく感じた。
すぐ前には、流が立っている。
携えているのは鋼金暗器だけ、さらに予期せぬ事態だったのか呆気に取られている。
好機だと、木蓮は思った。
両腕は上がりそうにないが、魔道具は操作できる。
そして、それさえできれば問題ない。
左腕をハエトリグサの束に変化させる。
唐突に降って下りたアイデアである。
ハエトリグサは、内部に鋭利なトゲを無数に持っている。
こいつで相手を捕らえて、どちらが上にいるのかを理解するまでトゲを身体に突き刺す。
上下関係を理解すれば、急所を突き刺して殺してやる。
そんな拷問器具じみた腕こそが自分には相応しい、と木蓮は笑う。ほんの少し頬が上がっただけだったが、満足だった。
「見下してんじゃねええええええええええええええええええッ!!」
思いのたけを全力で叫び、木蓮は左腕を振り下ろす。
ハエトリグサのトゲが肉に刺さる感覚があった。
より深く突き刺して、ハエトリグサのなかに閉じ込めてやろう。
いくらそう木霊に念じても、棘は一寸たりとも動かなかった。
木蓮が怪訝に思っていると、ハエトリグサが引っ張られた。
ぶちぶちと裂ける音を立てて、植物化していない肩口から引き抜かれた。
ハエトリグサが彼方に放り投げられたことで、流の姿が露になる。
その形相に、木蓮は意図せず息を呑んでしまった。
飄々と浮かべていた薄ら笑いは消え失せ、表情は皆無。
瞳からは光がなくなり、なにも見えていないかのように暗い。
思わず視線を背けると、身体の異様さに気付いた。
先ほどまでスマートな体格だったというのに、肉体が全体的に膨れ上がっている。
贅肉や脂肪がついているのではない。
すべての筋肉が三回りほど大きくなっているのだ。
ゆったりとしていた衣服が、いまではむしろ小さく見える。
言葉を失っている木蓮の頭に、流の左手が伸ばされる。
咄嗟に反応することができず、掴まれてしまう。
片手で握られているだけだというのに、木蓮は微動だにできなくなった。
目を背けることはおろか、まばたきさえ叶わない。
見るしかできない木蓮の前で、流は鋼金暗器を地面に滑り落とす。
「勝手に……ッ、見上げてんじゃねえええええええええええええええええええええッ!!」
流が、空いている右の拳を握った。
それを確認したのと同じくして、木蓮は意識を手放した。
最後に聞いたのは、身体を打たれた音ではない。
筋肉が捻じ切れる音でもなければ、臓器を抉られる音でもなく、骨が砕け散る音でもない。
なにかが崩れ落ちる音だった。
人間がどの範囲までは生き延び、どこまで行けば死んでしまうのか。
それを知るために何人も手にかけてきた木蓮でさえ、初めて聞く音色だった。
- 31 :
-
- 32 :
-
- 33 :
-
- 34 :
-
- 35 :
-
◇ ◇ ◇
『会場外へ近付いています。会場外へ近付いています。これ以上進むのは危険です。今すぐ引き返してください。繰り返します。会場外へ近付いています──』
などというアナウンスも意に介さず、秋葉流は会場を囲っている見えない壁を擦っていた。
あの植木耕助が破れなかったと言うだけあって、かなり強固な結界と言える。
生物だけでなく、無機物や霊力までも通さない。
思い切り息を吹きかけてみたところ、空気さえも弾かれてしまうらしい。
要するに、あらゆる物体を阻む結界壁のようだ。
だが、このタイプの結界壁をこれだけの大規模で展開し続けるなど不可能なはずだ。
それこそ法力僧に片っ端から招集をかければ展開だけはできるだろうが、維持し続けるほうが無理だ。
ならばどうやっているのか――といちいち思考を巡らすまでもなく、流はすぐに仮説を導き出す。
結界の起点が、会場のどこかにあるのではなかろうか。
外部からの展開は難しくとも、起点の設置さえできれば内部からならば可能だろう。
それにしたってかなりの技術を要するが、つまりかなりの技術さえあればできなくはないのだ。
(っつーとまあ、そりゃ怪しいのは禁止エリアってことになるよなァ)
生存者が少なくなっても、舞台が狭くなれば殺し合いはスムーズに進む。
なるほど。たしかにその通りだ。なにも間違っていないように聞こえる。
しかしながら、だとすれば六時間に三エリアというのは少なすぎる。
死者のペースを考えれば、なおさらだ。
ということで禁止エリアが現状もっとも怪しいのだが、あえてそう思わせている可能性もある。
本命を隠すべく、禁止エリアに注意を向けさせているのかもいしれない。
かといって、放置するワケにはいかないだろう。
そう結論を下し、秋葉流は思い切り地面を蹴った。
すぐ隣のエリアA−6が立ち入り禁止となるまで、猶予は一時間に満たない。
全速力で駆け抜ければチェックすることもできるだろうが、ユーゴーと植木の元に戻っている暇はない。
無断で知らせていない行動に出るのは悪いと思いつつも、流は南へと駆け出した。
――と、そのように。
プログラムを止めるのに最善の手段を選びながらも、秋葉流は自らがどうしてそんな行動を取っているのか分かっていなかった。
もはや、彼には目的などないのだから。
とらは、死んだ。
あの炎と雷の化生は、もうこの世にいない。
なにを捨ててでも戦いたかった相手だったのに、もう二度と会えない。
法力僧としての人生も、うしおの兄貴分というポジションも、手放した。
その他のすべてより優先するはずだった戦いは、永遠に実現できなくなった。
- 36 :
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- 37 :
-
信じられないという思いはあった。
もしかしたらという希望もあった。
だが流の明晰な頭脳が、ことごとく否定するのだ。
プログラムを主催しているのは、妖(バケモノ)に悟らせずに集めて首輪をかけるような輩だ。
それも、ただの妖じゃない。
とらと紅煉というとびっきりに力のある二体相手に、そんなことを仕出かしているのだ。
妖の生死を見誤るなど、到底ありえない。
ゆえに、流はとらの死を受け入れた。
不本意ながら受け入れた上で、考えなくてはならない。
とらがいなくなって、改めて熟慮してみる。
あの妖以外の強者と戦ってそれで満足できるのか、と。
満足できると思っていた。いざ、とらが死ぬまでは。
彼と戦ったときが一番楽しかったから、今度は本気の殺し合いをしてやるつもりだった。
だから彼と同じくらいに強い相手がいれば、そちらと戦ってもいいかなどと思っていた。
けれど、違うのだ。
日本番長はたしかにかなりの強者だ。植木耕助にも甘いところはあるが、実力は大したものだ。
どちらも、秋葉流を超える逸材かもしれない。でも違う。
彼らでは、ダメなのだ。
彼らには、戦うことに――『意味がある』。
植木は訊くまでもなく他者のために戦っているし、日本番長だってなにかしら大義を抱えているのは明らかだった。
それでは、いけない。
意味なんて、必要じゃないのだ。
前に立っているのにどかないから、ブチのめす。
そういうシンプルなところが、とらとの戦いのよさだったのだ。
秋葉流のなかに吹く風を知って、気にかけてくれるような相手ではいけない。
笑い飛ばしてくるようなヤツだからこそ、とらと戦いたかったのだ。
強いからというのも理由の一つだが、強いだけならいくらだって相手はいるのだ。
ただ、秋葉流のなかに吹く風を止めてくれそうなのは、とらだけだった。
風を忘れさせてくれるかもしれない、唯一の相手だった。
けれど、もういない。
「バッカ野郎……」
エリアA−6に足を踏み入れたとき、流はつい吐き捨てていた。
とらが死んで悲しむのは、流だけではないのだ。
目的を失って呆然としている自分と違って、あちらは泣いているかもしれない。
何せ、流とは違って素直にまっすぐなガキなのだから。
大粒の涙をこぼす彼の姿が脳裏を掠め、流は歯を噛み締める。
ようやく、どうして普段の自分のように振る舞っているのか分かった気がした。
「……テメェ、勝手に死にやがって。この大バカ野郎が」
秋葉流のなかに吹く風が、よりいっそう鋭くなる。
もう朝日が出ているというのに、風は冷たく突き刺してくるようだった。
【A−6 西端/一日目 朝】
【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0〜1
飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[基本方針]:――――――――
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◇ ◇ ◇
木蓮が目を覚ましたとき、他ならぬ木蓮自身が現状を飲み込めなかった。
たっぷり一分ほど使って、ようやく生きているらしいと理解することとなった。
完全に死を覚悟していた。
二度と起きることなどないものと踏んでいた。
にもかかわらず、どうして生きているのか。
周囲を眺めようにも、見えるのは空だけだ。日がだいぶ高くなっている。
木蓮は立ち上がろうとしたが、うまく行かなかった。
怪訝に思いながらも足元を確認しようとして、これまた失敗した。
首が動かない。視線だけ動かすことさえできない。
はたして、どうして身体がここまで重いのか。
しばらく考えて、木蓮はようやく思い出した。
すぐに意識を失ったが、おそらく流にしこたま殴られたのだろう。
ならばどうして生きているのかは不明だが、相手は甘ちゃんだ。
『殺しはやらない主義』とかふざけた戯言をぬかすのだろう、どうせ。
許せないとの思いが、ふつふつと沸いてくる。
殺さないとは、すなわちまでもないということだ。
生き残ったところで、大した障害にはなりえないと思われているということだ。
ナメられている。見下されている。
歯を噛み締めようとして、やはり動かない。
そこで、はたと思い付く。
身体を樹木化させさえすれば、すぐに回復できるではないか。
なぜ、すぐに思い浮かばなかったのか。
念じると、木霊はすぐに起動した。
地中に根を伸ばしていく。
戦闘で樹木を作り出すたびに思っていたが、この辺りの土はかなり栄養が豊富だ。
とはいえ、全身樹木化には多少時間がかかる。
栄養を吸い取りつつ、ゆっくり待つとしよう。
また敗北したが、構わない。
生きているのだ。
終わってない。
次こそ殺してやればいいだけだ。
ある程度まで根を伸ばしたところで、木蓮はふとある考えに至った。
もっと地下まで根を張れば、さらに巨大な樹木となれるのではないか。
- 41 :
-
- 42 :
-
こんな簡単なことが、いまのいままで思い浮かばないとは。
にぃ、と木蓮は笑った。
すでに栄養もかなり取り込んでおり、口元を緩めるくらいはできた。
縦横無尽に根を伸ばしていくと、思いのほかエネルギーは早く溜まっていく。
そろそろ、頃合いか。
ただそう思っただけで、木霊は発動した。
先の戦闘時より、さらに木蓮の身体に適応したらしい。
根を深くまで張った分、吸収した栄養は多い。
栄養が多ければ、樹木は巨大になるはずだ。
その考えの通り、木蓮の身体は巨大な樹木となった。
幹を木霊で操作すれば、自由に移動することも容易い。
もっと時間をかけて根を伸ばしていけば、会場全体を覆う大木になることも可能かもしれない。
「ぎゃひゃひゃひゃっ! あのヤローが『火竜』なら、俺はさしずめ『木竜』ってとこかァ!?
こいつは、ぜってえ火影の生き残りどもに見せてやりてえよなァァ!
火竜使いが早々におっ死んで、木竜がこうしてすくすくと育ってる様を見せてやりてえよなァァァ!」
そう高笑いして、自分の下にある有象無象を見下ろしてやろうとして――目に入ってしまった。
大木のあらゆる箇所が、黄金色の光を放っているのだ。
左胸を筆頭に、そのすべてが樹木化する前に重要だった部位ばかり。
見れば、木霊が埋め込まれているところまで煌めいているではないか。
木蓮は、その輝きをよく知っていた。
というより、思い知っていた。
――金剋木! 金気を以って木気を剋す!
流の詠唱がフラッシュバックしたのは、光と光が結びつくように線が伸びてからであった。
あの結界は、はたしてどういう効果であったのか。
いったい、なににいかなる作用をもたらすのか。
いちいち、思い起こすまでもない。
忘れられるものか。
他の誰かしらならともかく、永井木蓮が己の受けた屈辱を失念するものか。
「クソ……クソクソクソクソッ! クソッタレ! ちッくしょうがァァァァァァ!!
ざッけんな! 俺をナメてんじゃねえぞ、秋葉流ェェェ!! 直接戦うまでもねえってか!?
見下しやがって、この俺を下に見やがってッ! いまの俺にかかりゃあ、テメェごとき……クソッ!
次ッ! この次だッ! これが最後とか思ってんじゃねえッ! 今回は負けたがな、俺はしつけえんだッ!
俺を見下しやがった全員に後悔され間でッ、俺の戦いにゃあ終わりなんざねえのさ! ひゃはははははァァーーーーーッ!」
――――坎ッ!
【永井木蓮 死亡確認】
【残り63名】
【備考】
※木霊@烈火の炎は粉砕しました。
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- 投下完了です。
>>22の「金剋木! 金気を以って木偶を剋す!」は、「金剋木! 金気を以って木気を剋す!」の間違いです。
wikiにて修正しますね。
他に、誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
- 49 :
- 執筆お疲れさまでした。
これは……凄い。胸がいっぱいになっちまったなあ……。
とくにタイトルと流の心理描写、風を笑い飛ばすような相手だからこそって
部分との繋がりが強すぎてたまらなくなってしまった。
文章を読んでて投下のたびに叙情性が綺麗に滲んできてるなあ、と思うのだけど、
それ以上に、これは人情を書いてる。だからこそ流がより好きになる感じで。
木蓮の心持ちも分かるだけに、どうしようもねえなあコイツ、ってのも理解できたんで、
静かな終わり方が良かった。そしてこの時間に焼き鳥は反則だw GJっした!
- 50 :
- 乙んぁぁぁあああああぁん
- 51 :
- 乙!!!!
このロワで流の風を止めるのは誰だろうなあ…止まると良いなあ
ええと、木蓮の叫びの最終行の「俺を見下しやがった全員に後悔され間でッ」は
「俺を見下しやがった全員に後悔されるまでッ」で良いのかな?
- 52 :
- 投下乙!
「見下してんじゃねえええ!」でぞくっときたけど、そうだった。これは流にとって最大の地雷だった
金剋木といい相性最悪だったな、木蓮。巡り合わせが悪すぎた
しかしたしかに美味そうな焼き鳥だw
- 53 :
- 感想感謝です。
>>51
俺を見下しやがった全員に後悔させるまでッ、ですね。
こちらもwikiにて修正します。
- 54 :
- 投下致します。
- 55 :
- やかましく首輪から響くアナウンスを無視し、鬼丸猛は北上する。
首輪が鳴ってから五歩ほど進んでから、ようやくその足を止めた。
目を眇めて、前方に広がる地平線を注意深く眺める。
一見何も無いようだが、しかし確かに何かが眼前に立ちはだかっている。
納刀したままの魔王剣を前に出してみると、やはり目視出来ぬ壁に阻まれた。
(結界か)
胸中でひとりごちる鬼丸に、驚愕の念は無い。
魔王鬼丸に殺し合いを強制しているのだ。
この程度の備えがあるのは必然。むしろ、していなくては愚鈍に過ぎる。
先刻の放送によれば、キース・ブラックは死者だけでなく参加者の所在地まで把握している。
つまるところ、自らに危機の及ばぬ外部より観覧を決め込んでいるのだろう。
「しかし地上に壁を作ることは出来ても……」
不可視の壁より視線を逸らし、上空を見据える鬼丸。
魔王の意に呼応して、魔王剣から響く呻きにも似た胎動音。
柄の髑髏を模した装飾から闇が溢れ出し、瞬く間に持ち主までも包み込む。
「“天”はどうだろうな」
不遜に言い放ち、鬼丸は魔王剣を抜く。
抜刀の勢いそのままに一閃すると、刃の軌道と変わらぬ形状の漆黒が天を昇っていく。
悪の素質を持ち合わせた者でなければ引き出せぬ、魔王剣の真なる力“魔王三日月剣”。
たとえ真空であろうとも消滅することのない、必滅の波動。
であるのだが、雲を両断し、大気を裂いて、その先で何かに阻まれた。
「ふん……、やはりな」
苦々しく吐き捨てると、鬼丸は魔王剣を鞘に納める。
結界は地上だけに非ず、上空を覆うように展開されているらしい。
これもまた想定内だ。鬼丸自身、超高速での飛行が可能なのだから。
まだこの場において披露するに相応しい機会を得ていないさらなる力、“魔王半月剣”及び“魔王満月剣”ならば結界を破れるやもしれぬ。
(が、まだ頃合いではない)
鬼丸の首には、忌々しい円環が嵌っている。
魔王剣の全力ならば結界を破ることは可能であろうが、その瞬間にこいつを起動させられてはたまらない。
ただの爆炎ならば耐えられるが、鬼を飼い馴らす為に作られた代物。下手は打てない。
世界を覆う殻を砕くのは、縛り付ける拘束具を外してからだ。
「それに……、随分と愉快な輩ばかり呼び付けたらしい。
そやつらの血で魔王剣を飾ってからでも、遅くはあるまい」
鬼丸の中に蘇るのは、先程殺害した魔物の子。
戦力では鬼丸に及ばなかったが、どれだけ斬り付けようと幾度となく喰らい付いてきた。
そうして仕留めた頃には時間を大分費やしてしまい、仲間の金髪を追うのは叶わなくなっていた。
あの“ボー・ブランシェ”という男の名は、放送で呼ばれることはなかった。生き長らえているのだ。
大して厄介な相手ではないが、魔王に仇なす輩を放置する道理は無い。
コウ・カルナギと同じく、次に発見すれば即座に切り捨てる。
だが、その二人より優先すべき相手が未だ生存している。
死者は十六名告げられ、その中には鬼丸の知った名も複数あったのが知ったことではない。
重要なのは、かつて野望が実現する寸前で鬼丸を打ち倒した男の生存だ。
そう。鉄刃の命を奪わずして、魔王鬼丸が世界に君臨する事は出来ない。
「何処にいるのかは知らんが、虱潰しに探し出してくれる。
この鬼丸と相対する前に、得物を手にしておくんだな。あの……覇王剣をなあッ!」
魔王剣と同等の力を持つ覇王剣。
その力を誰より引き出せる鉄刃。
決着を付ける事になれば、いかに鬼丸とて力を出し惜しむ訳にいくまい。
魔王満月剣を使うに相応しい舞台を夢想し、鬼丸は口元を鋭角に歪めた。
鬼を笑わせたのは全力で戦う機会の存在ではなく、宿敵が六時間の内に死んでいなかった事実かもしれない。
- 56 :
-
【D−1 北端/一日目 朝】
【鬼丸猛】
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:鉄刃と決着を付ける。ボー、カルナギを斬る。出会った者も斬る。
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。
- 57 :
- 以上です。
- 58 :
- 投下乙
刄ぁ……ナイフ一本じゃヤバいぞ……w
- 59 :
- これより投下します。
- 60 :
-
風子を追っている横島忠夫という男は、例えば風子が仲間としていた者達と比べ、頼りになる男なのであろうか。
見た目は、もうどうしようもなく負けている。辛うじて腐乱犬ぐらいが勝負になるかどうかだが、彼の雄々しき巨体は高い男度数を誇り、女子へのアピール材料ともなりうる。
うっかり水鏡君と比べようものなら、月と便所蟋蟀ぐらいの差をつけてやらねばならなくなる。
では中身はどうか。
それを、横島忠夫は試される事となる。
「ほう、人間にあの速さが出せるとはな」
そう呟いたドットーレは、視線の先に居た人物を見て感嘆の息を漏らす。
そして顔を大きく歪ませると、ニンゲンにはありえぬ速度でコレを追走し始めた。
ぐんぐんと迫る人間。
まだあちらはドットーレに気付いていない。
人間が鈍いのか、ドットーレの速さが尋常でないのか。
ドットーレは勿論、後者のおかげだと機嫌を良くしつつ速度を上げる。
「ふむ、どうした人間? 何をそんなに急ぐのだ?」
そんな風にドットーレが声をかけると、その人間は最初こちらを見もせずに応えた。
「何って見てわかんねえのかよ! 人を追ってんだ人! くっそ、あの子どんだけ足速いんだ……」
人間はそこで初めて気付いたかのように、ドットーレの方を向いた。
「……えっと、どちらさん?」
「オレか? オレはドットーレという。見ての通りの自動人形だ」
「ああそう。ちょうどいいや、アンタ女の子見なかったか? ばばーんな可愛い子」
「その質問に答えてもいいが、その前に一つオレの願いを適えてもらおう」
「ん? 何だよ」
「うむ、」
併走するドットーレの腕が人間、横島へと伸びる。
「うおおおおおああああああ!」
咄嗟に踵を立てて速度を落とし、これをかわす横島。
「あ、アンタいきなり何ばしよっとか!? 殺る気っすか!? おいおいやめた方がいい俺はこう見えて腕利きゴーストスイーパーでな、
俺に何かあったら友達百人が白装束着てアンタを退治に現れるぜ。だから出来れば穏便に対話で互いの問題を解決しましょう、
いやしてくださいお願いします」
ドットーレは大きく両手を広げてみせる。
「人間は取引を重んじるのだろう? オレはお前の質問に答える。代わりにお前は俺にその命を捧げる。実に明快な取引だろうに不満なのか?」
「ふざけんなああああああ! 話聞くだけで命取られてたら世の中霊魂しか居なくなっちまうじゃねえか! っつーか取引言うならせめて相手の同意を得てからにしやがれえええええ!」
片足をひょこっと曲げ十字に組み、残る片足のみで立ち奇妙な仕草を見せながらドットーレ。
「異な事を言う。何故オレがお前の意見を意に介さねばならんのだ」
「おいいいいい! 取引する気そもそも無いじゃねえかアンタああああああああ!」
ようやく横島も現状を認識した所で、ドットーレが襲い掛かる。
極めて高い運動性能は容易く人間のソレを駆逐し得るが、対する横島も無策にあらず。
文珠を用い、速度を激烈に上げているのだ。
本来、身体の反応速度を上げた所で、脳が対応しきれねば意味はない。
どんなに速い車に乗った所で、操る人間がヘボでは能力を発揮しきれぬのと一緒だ。
しかるに横島は、数多の実戦経験もさる事ながら、超加速状態や魔族の王の能力をすら身につけた事がある。
他ならぬ横島忠夫ならば、こんな速度も存分に活かし得るのだ。
「死っ! 死ぬぎゃああああああああ! 怖ぇようわあああああああん!」
- 61 :
- しえん
- 62 :
- 支援
- 63 :
- 顔は涙と鼻水塗れ、ゴキブリのように這い蹲りながらの逃走劇であり、見た目からはそんな優れた能力をまるで感じさせてはくれないのだが。
横島忠夫が優れた人材であるかどうか。
これには議論の余地がありすぎる。
風子の逃走に対し、文珠を用いてこれを追うのは実に素晴らしい選択であったと言えよう。
彼にしか出来ぬ確実な手法であったと。
しかし、実際には何時まで経っても横島は風子を捕捉する事は出来ず、それどころかドットーレという悪意の接近にも気付けなかった。
そもそも、横島は文珠を用いた段階で風子より圧倒的に足が速いはずである。
にも関わらず、風子より先にドットーレと接触してしまったという事は、つまり、良く考えれば結論が出る事なのだが、横島は風子を見失い、あまつさえ明後日の方角を追っていたという事であろう。
かっこつけて文珠まで使っておいてこのザマとは、彼の何処が主人公格であるというのか、全くもって片腹痛い。
更に横島忠夫は、問題行動を引き起こす事となる。
彼はドットーレから逃げる為に、とある建物に隠れようと画策する。
そう、そこは、つい先程ドットーレの襲撃を受けながらも、心折れず戦い続ける戦士、高嶺清麿が居る小学校であった。
横島必死の逃走は、結局の所最後の難所、小学校前にある遮蔽の一切無い校庭に突入した所で終わりを告げる。
学校ならばその造りは見ていなくても想像つくし、横島はこれを利して逃げようとしていたのだが、校庭側ではない所から突入すべきであったとドットーレに踏みしだかれながら後悔してたり。
「ひえええええええ! どうか命ばかりはお助けを! この横島忠夫! 見逃してくれるのならエターナル土下座すらこなしてみせますぞ!
靴をなめろ? ふはーははは、犬の踏んだ靴裏ですら恐れるものではないわー! ですからお願いします何でもしますのでどうか命だけはー!」
横島を踏んづけたまま、ドットーレをかがみこんで横島の顔を覗き込む。
「ん〜? 本当に何でもするのか?」
「hai!」
「何でも、でいいんだな?」
「Yes! EveryThing!」
ドットーレに横島を生かしておくつもりなど欠片も無かった。
無論必死こいて命乞いしている横島にそれはわからなかったが、少なくとも、外から観察出来る状況にある人間からは丸わかりであったのだ。
そして、これを見ていた高嶺清麿に、見過ごせというのは無理な話であった。
「待て!」
ドットーレの強力さは理解している。それでも、止まれないのが清麿であるのだ。
こきりこきりと二度首を傾げた後、ドットーレは訝しげに問う。
「待てとはオレに言ったのか清麿。お前は、つくづく、身の程を理解出来ぬ奴だな」
「黙れ! 俺の目の前で人殺しなんて真似させてたまるかよ!」
「そうか、それはそれは……」
にへらーとドットーレの表情が歪む。清麿はドットーレが動く瞬間を見極めるべく目を鋭く凝らしたが、ドットーレはそこで不意に表情を変える。
「いや、そうか。清麿、お前は人間を守りたいんだったな。知り合いも、どうやらそうでない奴も」
「……それが、そんなにおかしいか」
「いやいや、実力不相応のものを求めて已まぬ、人間らしい欲求だと思ってな。さて、では対するオレはどうするかというとだ……」
踏みつけていた横島の両脇に手を入れ丁寧に起き上がらせる。
そしてバックよりアサルトライフルを取り出し、これを何と、横島の手に持たせてやったのだ。
ドットーレはこれ以上無い程のドヤ顔で、横島に語った。
「おい人間。これであの小僧を撃ち殺せ。そうすれば命だけは助けてやってもいいぞ」
横島は、手元の銃を見下ろし、ドットーレの歪んだ顔を見て、最後に、清麿の姿をじっと見つめる。
- 64 :
- 清麿は激昂し、軋む程に奥歯を噛み締めている。清麿が激怒している理由は横島にもわかった。
清麿は、自分の命が危険になる云々以上に、こんな薄汚い真似をさせようとしているドットーレに怒りを感じているのだ。
ゴーストスイーパーの誇り、それまで戦い培ってきた経験と自負、たくさんの仲間達。
「堪忍やああああああああ! 俺はまだ死にたくないんやあああああああ!」
それらを横島は一切思い出さず、号泣しながら銃の引き金に手をかけた。
高嶺清麿は正義感の強い少年であるが、決して無策で危地に身を晒すような真似はしない。
少なくともドットーレと対峙するからには、相応の準備を整えてから動いていた。
時間は少なく校庭に仕掛けは無かった為、それこそ緊急避難程度のものであったが、ドットーレではなく横島の使い慣れてもいない銃撃を避ける事は出来た。
校庭の一角に石灰をぶちまけ視界を奪う仕掛けを発動させた清麿は、一目散に校舎内へと逃げ戻る。
駆ける清麿は、石灰の煙が上がる中からドットーレと不幸な彼の声を聞いた。
「どうした人間? 逃げられてしまっては、お前を生かしておくわけにはいかんなぁ」
「お、お任せ下さい! 必ずやあの小僧めをしとめてご覧に入れます!」
何か下っ端っぷりが妙にハマってるなぁと思えた清麿であったが、アサルトライフル振り回されては正直清麿にも余裕はない。
それでも清麿は、状況の好転を感じていた。
ドットーレの足元に転がっている状態では、何時彼が殺されるかわからなかったのだが、とにもかくにもドットーレから離れる事が出来たのだ。
後は、二人がドットーレより逃れる方法を見つけ出し、それを元に彼を説得すればいい。
清麿は横島を状況に流され易い人間、そう見ていた。
実際、ドットーレのような怪物に襲われ脅されて、反抗出来る人間はそうはいないとも思っていたし、こうして横島が襲って来る事にもさして恨みを感じてはいなかった。
しかし清麿はこの後、自らの浅慮さを痛感する事となるのだ。
ドットーレに敗れた清麿が、何の対策も講じぬままに探索に専念するはずもない。
彼は、その才知と折れぬ信念で、魔界の巨獣ファウードをすら倒した男なのだ。
どうせ奴には勝てないから、そんな思考とは最もかけ離れた存在である。
今の清麿に出来る限りの備えを、小学校に張り巡らせる程度は、極自然にやってのけるのだ。
積み上げた机と椅子が一度にがらがらと落下してくる。
これにまともに巻き込まれた横島であったが、持ち前の無駄に高い体力とゴキブリ並みと評される生命力にて強引に突破。
移動し、次なる罠へと逃げ込みながら清麿は根気強く横島を説得にかかる。
「大丈夫だ! あの人形は俺が何とかしてみせるから一緒に逃げよう!」
「大丈夫な訳あるかああああああ! 大体男から一緒に逃げようなんて言われても嬉しくもなんともないわあああああ! どーせならぼいんぼいーんなボディと性別揃えて出直せボケがああああああ!」
清麿の言う事を聞く気が無いらしく、会話がロクに成立していない。
それでも清麿は言葉を止めない。
「アイツは確かに強い! だけど手はかならずある! 俺を信じろ!」
「アホかあああああああ! 今さっき会ったばかりの! それも殺し合いしろなんて言われた場所で会ったしかも男を! どうやって信じろっちゅーんじゃあああああ! 世の中嘗めてんじゃねえぞ小僧がああああああ!」
「諦めるなよ! 俺達一人一人の力は劣っていても、仲間を集めればきっと乗り越えられる! アンタだってタダ者じゃないのはわかってるんだ! もっと自分の力を信じろよ!」
「綺麗事抜かすなガキいいいいいいいいい! 自分程信じられないモンがこの世にあるかああああああああああ!」
廊下からまた別の教室へと駆け込む清麿に、額から血をだらだら流す横島よりの銃撃が襲う。
上手い事間を外す清麿に、横島はどうしても射撃ポジションが取りきれないのだ。
「チッ! 猪口才な! 幾ら逃げても無駄だぞ! この俺からは逃げられん!」
「何だってアンタそんな乗り気なんだよ!」
「うるせー! てめーからはなあ! 気配がするんだよ!」
「気配?」
「モテ男の気配だクソったれがあああああああああああああああ!」
清麿の、動きが期せずして止まってしまった。
- 65 :
- 私怨
- 66 :
- 「……モテ、何?」
「てめぇその頭良さそうな面といい清廉潔白ですー的な言動といい! モテやがんだろうが! 俺の目は誤魔化せねえぞ!」
「…………いや、俺、そーいうの経験無いし……」
「ケッ、カマトトぶってんじゃねえよ! どうせやったら面倒見の良い女の子が何くれとなく気にかけてくれたり、
意味がわからん超美人と何故か不思議な事にお知り合いだったりするんだろうがファアアアアアアアアック!
ああ!? 遊園地でデートですか!? プレゼントでももらったってか!? リア充地獄に堕ちろやクソがああああああああ!」
清麿は、順に一つ一つ考えてみた。
いやそんな事する義理は無いのだが、何かなんていうか相手が必死すぎるもので、つい、そうしてしまったのだ。
やたら気にかけてくれる女の子が居て、奇妙な縁で知り合ったアイドルが居て、遊園地行ったり、お守りもらったりは、まあ、した気がする。
その異常な嗅覚に驚きながらも、極めて常識的な事を清麿は口にした。
「それ……今、関係なくね?」
「うるせええええええええ! モテる奴ぁ何時如何なる時でも俺の敵じゃ死にさらせボケがああああああああああ!」
この横島の言葉に、清麿は思わず我を忘れかけた。
人が実際に死んでいるというのに、このふざけた言い草は一体何事だと。
銃撃に晒されぬよう姿を隠していたが、アレに対して一言言ってやらずば収まりそうにない。
清麿は怒鳴り返すべく、物陰より顔を僅かに出し、そして絶句した。
『……血、血涙だとおおおおおおおおお!?』
そう、横島は血の涙と共にこれらを叫び放っていたのだ。
彼はふざけてるのでもなく、こんな状況下でありながら、心底本音であんな台詞をのたもーていたのだ。
アサルトライフルに狙われている洒落にならない現状を自覚しながらも、清麿がビックボインを目の当たりにした時と同じ顔になってしまっている事に対し、彼にのみ責任を負わせるのは酷というものであろう。
諦めない男高嶺清麿をして、何かもういいや、って気にさせてしまう何かが横島にはあったのだ。
とにもかくにも、罠にかけて意識を奪い、ドットーレを清麿が引き付ける。
これで彼は逃げる余裕は持てるだろう。そう基本方針を決め、後はそれらに必要な準備を整えるべく清麿は走る。
無造作にライフルを乱射しているが、あれにも当然弾数制限はあるはず。
そこが、清麿第一の狙い目であった。
ものっそい顔、例えるなら目の玉が明後日の方に飛び出しそうな勢いで正気を疑うようなヘドバンかます、をしながら走る清麿と、これを追う横島。
そんな横島の隣に、ひょいっとドットーレが現れる。
「おい人間。何故銃を使わん?」
「Sir! ドットーレ! Sir! 弾切れが怖いであります!」
「ふむ? そいつを忘れていたな。確か予備が山程あった……おお、これだこれだ。さあ、存分にぶちまけて来い」
「Thank You Sir!」
『余計な事をおおおおおおおおおお!』(←盗み聞きしてた清麿君心の声)
そして、ドットーレは物陰に隠れたままの清麿に向かって叫ぶ。
「どうだ清麿!? 助けようとした者に命を狙われる気分は!」
怒鳴り返したい清麿であったが、怒鳴って居場所をばらすのはあまりよろしくはない。
ついでに調子に乗った横島も叫んでみたり。
「クックック、ランボー横島の魔手より逃れる事は出来ぬ……我が明るい未来の為、まだ見ぬ尻ふとももの為、その血を捧げるが良い……」
幾ら温厚な清麿でもこれにはキレていいだろう。
清麿は第二の狙い目に従って、廊下を走る。
奥まった場所、小さな扉が備えられたそこは、給食などを上階へと運ぶ事の出来る小型のエレベーターであった。
清麿が二階廊下を走っていたのはこれを利用する為。
部屋に入るなり窓から雨どいを滑り一階まで降り、既に準備済みのエレベーターのボタンを押す。
エレベーターが昇るタイミングは実際に動かして確認してある。
二階につきエレベーターの扉が開くなり噴煙が噴出すような仕掛けであり、これにまかれてくれれば当分視覚が失われ身動きが取れなくなるはず。
対ドットーレ用に仕掛けた罠であり、横島に使うのは少々もったいないと思えたが、今は確実に横島の動きを止めるのが優先する。
「のっぴょろぴょーーーーーーーーーん!」
清麿の頭上より、意味不明の叫び声が。
そこには、噴出した煙に押し出されるように二階窓から飛び出した横島の姿があった。
そう、彼はその反射神経のみで、清麿の仕掛けをかわしてみせたのだ。
- 67 :
- シエン
- 68 :
- 地上数百メートルであろうと、覗きの為なら壁面に張り付いて平然としていられる無類のタフガイ横島忠夫は伊達ではないのである。
「うおおおおおおおお! うおおおおおおおおお!」
そして号泣しながら一階窓より校舎内に逃げ込む清麿。
よほど横島ごときにかわされたのがショックであったのだろう。
校庭にて、ドットーレは時折ぴょーんと飛び上がったりしながら、校舎の中を覗きこんでいた。
戦況は、ドットーレの予想に著しく反し、清麿と横島の戦力が拮抗してしまい、容易に動かなくなってしまっていた。
といっても動きが無いわけではない、どちらも忙しなく動き回りながら、最後の最後、致命的な一撃だけは絶対に喰らわぬよう立ち回っているのだ。
ドットーレは知らぬ事であるが、清麿、横島、共にエンジンがかかってくると、それこそ高位の魔物ですら簡単に仕留め切れぬ程しぶとくなるのだ。
そんな二人が、決定打となる武器がアサルトライフル一丁のみという状況であっさりと決着をつけられるわけがないのだ。
「しかし……あいつら、実に楽しそうに見えるのはオレの気のせいか?」
何処かしらからか調達してきたリンゴを一つ、しゃくっと口にするドットーレの視線の先で、二人は激しく動き、或いは怒鳴りあいながら戦いを続けていた。
「ぜー、いい加減諦めて俺の未来の糧となれって、はー、もし霊になって化けて出る事になってもきっちり退治までしてやるから」
「ぜー、お前こんだけ運動能力あって何であんな奴に従ってんだよ、はー、俺達で消耗しあったって意味無いだろ」
「……アイツのヤバさ、お前本当に気付いてないのか?」
「…………」
横島の言う通り。
ドットーレは数多の魔物と遭遇した清麿が、これまで出会った事もないと断言出来る程、強烈な血臭漂う正真正銘の、怪物である。
単身で、百? 千? 万? 一体どれだけの人間を殺せばあそこまでの血臭をまとえるのか。
それは実際には臭気云々ではなく、全身より漂うねばりつくような気配である。
人を殺せば程、身に付くと言われている艶である。
人間の身では生涯人殺しに費やしたとしても、到底辿り着けぬ境地である。
部下に命じて、実感の伴わぬボタン一つで、そんなおためごかしではなく、自ら、意志持つ存在を文字通り手にかけ続けた存在にのみ許されぬ佇まい、これを総じて血臭と称しているのだ。
これは、他の如何なる参加者の追従も許さぬドットーレのみのモノであろう。
同じ出自とはいえ、作りなおされた後であるコロンビーヌでは、決してこの香りは出しえぬのだから。
より多くの異形と接触してきた横島がまず先に、続き、潜った修羅場の多さと知力の高さから清麿が、ドットーレの危険度に気付いた。
にも関わらず、清麿の声より強い意志の輝きは失われない。
「それでもだ」
「……くっそー、お前やっぱモテんだろコンチクショー!」
お互い物陰に隠れながらの会話は、天よりの声に遮られる。
第一回定時放送が開始されたのだ。
放送の内容を聞く為、一時停戦などという発想を二人共が持たなかった。
放送に耳を傾けるのは当然として、その上で互いに隙を狙いあっているのだ。
この硬直状態は、放送が続くにつれ有利不利がはっきりと出る。
全く知り合いが放送で呼ばれなかった横島と、二人も旧知の名を呼ばれた清麿とで。
清麿には放送内容の是非を考える余裕もなかった。
半泣きになりながら横島は、障害を飛び越え、ベランダを走り、一気に距離を詰めた後、壁面に向け銃を構える。
「ばっきゃろー! 俺はまだこんな放送で呼ばれたくねえぞ! まだ美神さんにあんな事やこんな事やそんな事やああそんな事まであーとか何一つしてねえんだ!」
清麿の読みがほんの数瞬勝り、教室の壁沿いに走り出すと、その背後を壁越しに撃ち込まれた無数の銃弾が抜ける。
駆ける清麿。追う弾丸。
清麿が教室を飛び出すのと、銃を撃ちながら横島が隣の教室を飛び出すのが同時。いや、僅かに清麿が速い。
斜め下より突き上げるように醤油差しを振り上げる。
ライフルの銃口が清麿を捉える寸前、醤油差しは銃口を大きく弾き飛ばす。
このままライフルの確保に走る、踏み出した一歩でそう思わせておいて清麿は廊下側の窓を突き破って外へ飛び出す。
- 69 :
- ここは三階。体勢悪く落下などしたら、怪我どころか命が無い。
だが、横島が窓から外を見ると、清麿が飛び込んだのは校舎から体育館へと続く連絡通路の屋根の上。
転がるように屋根から降りた清麿は、連絡通路の屋根を遮蔽に逃走を続けていた。
幸運、ではないと横島は思った。
これまでの仕掛けやら逃げっぷりを考えるに、コイツはこれを計算でヤれる奴なのだと横島にもわかったのだ。
横島は、少しだけ殊勝な顔で呟いた。
「……アイツ、泣いてた?」
ドットーレにとってこの戦い、清麿に負けて欲しくはなかった。
守ろうとした人間を殺し、不幸を呪い嘆く清麿が見たかっただけなのだから、あの人間にはむしろ適当な所でさくっと死んで欲しかった。
しかし、まるで意味が不明な執着から清麿を狙う彼は、なかなかに愉快な人材であると思いなおし始めていた。
自分の命を優先し、他者を踏みつけ被害者顔を隠そうともしない。実に、ドットーレの知る人間らしい人間であったのだ。
ドットーレの経験上、こういう人間は彼の振るタクトに合わせ、面白いように踊ってくれるものだ。
そこでドットーレは、不覚を取ったかと校庭の方へと目をやる。
校舎内の戦闘に注視しつつ、流された放送の事を考えていた為、ふらふらと歩み寄って来る人間に気付くのが遅れてしまった。
校庭脇、校舎側の鉄棒の上にぴょんとドットーレは飛び乗る。
「そこな人間。オレに用か?」
俯いたまま顔を上げようとしない人間、霧沢風子は、表情を前髪で隠しながら呟く。
「……おい、中でやりあってる内の一人は、ツレなんだけどさ……何でやりあってんのか理由をアンタは知ってるか?」
ドットーレは芝居がかった所作で大きく両腕を開く。
「ほう、あの人間の連れ合いか。ならば加勢してやるといい。あの人間が中の清麿を殺せれば、命だけは助けてやる約束なんでな」
風子は、首元をかきながら首を小さく傾げる。
「あー、そりゃー、つまり、あれか。てめぇは見た瞬間感じたように、どうしようもねえクソッタレ野朗だって事でいいのか?」
「人間、侮蔑の言葉を並べるのは構わないが、相手は選ぶべきだぞ。オマエの連れ合いが何故言われるがままなのかを考え……」
ゆっくりと、風子は手にした剣を振り上げた。
「うるせえ! こっちゃあ虫の居所が悪ぃんだ! 加減なんざ出来ねぇからせいぜい本気で避けやがれ!」
風神剣より風の渦が放たれ、ドットーレが立っていた鉄棒をただの一撃で吹き飛ばした。
校舎内でバトっていた清麿と横島の二人は、それ故外の異常に気付くのが少し遅れてしまった。
それでも風神剣の轟音はきっちりと二人に届いてくれた。
ドットーレが何者かと戦闘している。
そう察した二人は、どちらからともなく戦闘を中断して校庭へと向かう。当然、互いに隙を見せるような真似はしないままだが。
まず、それを目にして声を出したのは横島だ。
「風子ちゃん!? ちょっ! マズイってソイツはヤバイ! 可及的速やかに逃げろ!」
「うるせえ腰抜け! こんなふざけた面の奴にあっさり脅されてんじゃねえよ!」
「顔はふざけててもマジで強いんだって……あーーー! ち、違うっすよ! ふざけてっていうかふざけてると思える程にクールというか痺れるというか! いやもうマジ惚れる顔っす! 俺が女なら間違いなくふぉーりんらぶっすよ旦那!」
こんな時でも下僕の立場は忘れないナイスガイ横島。
風子とドットーレの戦闘だが、風子は風神剣を縦横に振るい放つ飛び道具、風神波によりドットーレの近接を決して許さない。
ドットーレの足の速さは折り紙つきだが、それでも飛び道具を用いた中長距離戦闘に長けた風子の連撃に、不用意に踏み込む事も出来ないのだ。
「クソッ! クソッ! ふざけた事ぬかしやがってどいつもこいつも!」
風子の攻撃は止まらない。
ドットーレは安全に回避出来る間合いを保ち、じっくりと攻略の糸口を探す構えであるのだが、一切関係なく風神波を放ち続ける。
「みーちゃんがヤられただと!? ありえるか馬鹿野朗! あの陰険で根暗な上頭が良くて敵には容赦が無いみーちゃんをどうやったらヤれるってんだよ!」
- 70 :
- しえん
- 71 :
- 風神波に変化が生じる。
三日月状であった衝撃波が、渦を巻き、柱のようにまっすぐ昇り進んで行くのだ。
「烈火が負ける訳ねえだろ! 馬鹿みたいに次々と龍出してきやがって! あんなのどうやったって倒せるわきゃねえっての!」
大地を抉るような竜巻は一直線にドットーレへと向かっていくが、ドットーレは大きくこれを飛び越える。
「人間! 中々楽しめたがこれまでだ!」
何とドットーレは、放たれた竜巻の上を、その足で駆け抜けていったのだ。
「フハハハハ! 押し固めた人間玉を崩さぬよう転がすよりよほどこちらの方が楽だぞ!」
風子は竜巻を放つべく突き出した風神剣より、力を放つのをとめる。が、遅い。ドットーレは既に風子の近接間合いにある。
「ぐちゃぐちゃうるせえっつってんだよ!」
逆袈裟、というにはあまりに乱雑な斬り上げにて風子はドットーレを狙うが、ドットーレはこの剣筋を容易く見切り、ひらりと両の足で剣先に着地する。
まるで体重が無いかの如き動きだが、剣を手にしている風子はその重さ故剣を動かす事も出来ない。
後はドットーレが足を前に突き出せばそれでおしまいだ。
しかし、風子は尚も動いていた。
ドットーレが剣先に着地する為意識をそちらに集中した瞬間、目的を剣撃から投げに変化させる。
この辺りの判断の速さは考えてやっているものではあるまい。そも考えてから動いては間に合わない。
体がそう反応した。そう出来る程に、風子は自らを鍛えていたのだ。
この反射というもの、ともすれば電気信号のやり取りのみである機械をすら上回る速度があるというのだから、人間の持つ可能性というものは果てしないものだ。
中途まで振り上げた剣の下に自らの体を潜り込ませると、背負い投げの要領で剣を担ぐ。
こう動けば、剣の上に立つドットーレは足で風子を狙う事が出来ない。
ならば伸びる腕で、そう動く前に風子の剣越し背負い投げが炸裂する。
それだけならばドットーレに損害を与える事は不可能であったろう。
しかしこの剣は風神剣。如何なドットーレとて足元より衝撃を放たれては完璧にかわしきるなぞ不可能であろう。
そのまま、放たれた衝撃波に巻き込まれ体育用具室に叩き込まれるドットーレ。
風子は、そこで攻撃の手を緩める事は無かった。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! てめぇらどいつもこいつも人をコケにしやがって! 私をなめた奴ぁ皆ブッ殺してやるああああああああああ!!」
風子の怒鳴り声、そして鬼気迫る表情を見た横島の顔色が変わる。
それは清麿に一つの景色を連想させた。
慌てた口調で清麿が叫ぶ。
「おいっ! あの子なんかおかしくないか!? あれは幾らなんでも普通じゃないだろ!」
慌てた口調なのは横島も一緒だ。
「俺もそんなにあの子知ってるわけじゃないけど……でも、確かにおかしい。おいっ! 風子ちゃんどうしたんだよ! ちょっと落ち着いてってば!」
しかし、横島の言葉も聞こえないのか風子の表情が見る間に変化していき、それは、ヒトのそれとはかけ離れて見える程眉尻の吊り上ったモノとなる。
正気を失って見える少女。
清麿は、かつて助ける事が出来なかった、一人の小さな魔物の子を思い出す。
風子がその子と重なって見えた瞬間、清麿の脳裏より計算が全て吹っ飛んでしまう。
その時相棒のガッシュがその子にしてあげたように、清麿もまた、夢中で飛び出し、風神剣を振り上げた風子の前に両手を広げ立ちはだかったのだ。
「駄目だああああああああああああああ!」
何もかもが憎くて憎くて仕方が無かった。
目に映るもの、聞こえて来る音、肌に触れる大気すら、不快で不快でしょうがない。
だから目の前に突然現れたソレが何なのか即座に判別はつかなかったが、邪魔であるという憎しみランクを一つ上げるファクターを有していたので、容赦なく、剣を振り下ろし砕いてやるつもりだった。
そんな風子の剣が止まったのは、どうしてだったのか。
- 72 :
- 支援
- 73 :
- 私怨
- 74 :
- 彼女の心の何処かで、きっとこうしてくれる誰かが居る。そう、思っていたせいかもしれない。
そう信じられる、誰かが居てくれたせいかもしれない。
耳に届いた清麿の声が、彼でない他の、そいつの声なら聞いてやらなきゃならないと思える誰かの声に聞こえたのも、きっとそういう理由だったのだろう。
それでも風神剣の呪いを全てを弾ける程の強力な意志を、今の風子には望むべくもない。
「隙ありいいいいいいいいいいいい!」
だから、このほんの一瞬のみの勝機に、飛び込んで来た横島が風神剣を蹴り飛ばしたのは全くもって正しい。
例え強敵ドットーレとの対戦最中であろうと、清麿も、横島も、女の子が自我を失い暴れまわるような状態を、見過ごす事は出来ないのだから。
ケダモノのような直感で風神剣の危険さに気付き、見事蹴り飛ばす事に成功した横島は、そのまま意識を失い倒れる風子と、これに駆け寄る清麿の位置を確認する。
次に全壊した体育用具室よりドットーレがのそりと姿を現すのを目にする。
「やるしか……ねえよなぁ、これ」
これでも横島はゴーストスイーパーだ。風神剣より漂う危険な気配は百も承知。それでも、横島には風子には無い強烈無比な切り札が備わっている。
「たかが剣ごときが! 俺の煩悩を凌駕しうるものかよおおおおおおお!」
横島はそれとわかっていて風神剣を、その力を発揮すべく霊力を込めながら振り上げる。
途端、流れ込む殺意と害意と怨念の塊。
「ぼんのおおおおおおお! ぜんかああああああああああああい!」
シャワー口に顔を向け、水流の勢いにその身を晒す美神令子。バスルームならではの気安さか、惜しげもなく裸体を晒しながらもそこに羞恥の色は見られない。
極自然に、豊満にして珠玉なる果実を、地上三階の窓から覗き込む横島に晒していたりする。(直後、三階から殴り落とされた)
貸し出された一室で、仕事着に着替えるは小笠原エミだ。褐色の肌は人を選ぶというが、彼女に関してはその限りではなかろう。
それ自体が儀式であるかのように、厳かに一枚、また一枚と衣服を脱ぎ落とし、数多の死線をくぐってなお輝きを失わぬ肌を晒す。(この後ガチで呪われた)
驚いた顔の六道冥子。たっぷりとした丈の長いスカートは色気と無縁の彼女らしい装いであるが、如何なる神の気まぐれか、春一番に煽られて、そんなスカートすら大きくまくれてしまう。
そのままなら、よほど小さな子供でもなくば中の確認は出来ぬだろうが、視点を下に持っていければ、中の、それも下着をかっちりと確認しうるだろう。(式神に略)
横島忠夫の何が凄いかといえば、如何な緊張状態にあってもこんなタワケた妄想を一瞬で脳内に展開出来る所であろう。
切り替えが早いとかそーいう次元では最早語れぬ無茶さである。
横島の精神を犯さんと襲い来る風神剣の意志は、例え器物であろうと近寄るのが嫌であろうもーそーに阻まれ、横島はただその力のみを行使する。
『上手い事コントロールして、風子ちゃんとアイツを一緒にふっ飛ばせば……』
自分が助かる為に清麿を犠牲にするのは構わないが、流石に女の子を巻き込むのは本意ではない模様。
風神剣の力で二人を吹き飛ばし、何とか逃がしてやろうと横島は狙っていたのだ。
が、そんな意思疎通がなされているわけではない清麿は、横島の善意を欠片も信じず、ただこの子を守る為、襲い来る風の衝撃波の範囲から風子を突き飛ばし離したのだ。
『おいいいいいいいいい!? オマエどんだけ自己犠牲精神に満ち溢れて……いやっ! オマエ! 突き飛ばす時風子ちゃんの触ってたろ! 何てクズだ! こんな時にふざけた事しやがって俺と代われ!』
無論清麿は突き飛ばすのが目的であって、胸云々は所謂事故である。
ともかく、横島がコントロールしたおかげか、殺傷能力を落としたまま風の衝撃は清麿を校庭の外にまで吹っ飛ばしてしまった。
距離にして数十メートルは飛んでいる。普通の人間ならその飛んだ勢いだけで、結果を見るまでもなく即死であろう。
だが、横島は校庭と外とを分かつ壁の向こう側に、クッションとなる雑草が鬱蒼と茂る空き地を見つけてあったのだ。
後は清麿の運次第であろう。
予定が著しく狂った横島であったが、ともかくまずは何よりも先にせねばならぬ事がある。
「旦那見ましたか! 俺の勝ちっすよ! これで俺は助けてもらえるんっすよね!」
- 75 :
- シエン
- 76 :
- 自らの命の確認である。
ドットーレは小首を傾げたまま、ひょこひょこと奇妙な歩き方で横島に歩み寄ってくる。
「なあ人間。オレには意味がわからないんだが、何故清麿はあそこでオレを庇うような真似をしたのだ? それに、その女がいきなり倒れたのはどういう訳だ?」
横島は、言われて初めて、それがドットーレに理解出来ない理由に思い至った。
「はあ、アイツ、きよまろっていうんですか? アイツは単純に女の子助けたかっただけだと思いますよ。後、そこの子が倒れたのは、ほら、この剣使ったせいだと思います」
何の気なしに横島が握っている剣を、ドットーレはしげしげと見つめる。
「……ふむ、これを使えば風が出るのはわかったが、倒れるのは何故だ?」
「理屈はわかりません。だけど俺が使った時は、何かこわせーとかころせーとかそういう声が聞こえた気がしますから、その辺が何か関係あるかも……」
ならば、とドットーレは風神剣を横島から受け取り、大きく振るってみた。
何も起こらない。
もう一度。
やはり、何も起こらない。
ちらっと横島を見た後、三度振るい、それでも何も起こらなかった。
ドットーレは無言のまま横島の襟首を掴み、捻り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってぷりーず! 悪いの剣! 俺違う! 俺何もしてない!」
「……ふん、人間でなくば扱えぬ道具、とでもいうのか?」
横島はそこで、さっきからずーーーーーーっと気になっていた事を問うた。
「あの、ドットーレの旦那。旦那、もしかして人間じゃ、ないっすか?」
「当たり前だ。俺は誇り高き自動人形だぞ。人間なぞと一緒にするな」
あーなるほど、と横島はぽんと手を叩く。
「多分っすけど、この剣霊力とか魔力とかに反応するみたいですね。だからそーいうのが無いと、使うに使えないって話かなーって」
人形が自動で動く不思議はガンスルー出来るらしい横島。というか馴染みすぎである。人外に好かれる男の名は伊達ではないという事か。
剣に関する解説も、厳密に言えば横島の解釈は誤っているのだが、それでも一応現状では話が通ってしまうのでドットーレも問題視せず、興味は失せたとばかりに横島へ風神剣を放り渡す。
「へ?」
「オレが持っていていも仕方無いのだろう。お前にくれてやる」
こんないつ発狂するかわからんような剣、出来れば横島も持っていたくはない。
「い、いえいえ、俺はほら、もう銃とか預かってますし……」
「どちらも俺には不要なモノだ。それに、お前にはこれから存分に活躍してもらうつもりでいるからな」
「は?」
ドットーレは横島の眼前で顔を大きく歪める。
「人間にはゆらぎがある。それは、しろがね程人間を捨てた者にもあってしまう、人間には抗いようのない弱点だ」
「はぁ」
「ましてやしろがねでない者ならば、そのゆらぎは大きく幅広い。そうして本来の実力を発揮する事なく敗れる口惜しさ、惨めさは、筆舌に尽くしがたいそうな」
「(何かすげぇタチ悪い事言い出しそうな雰囲気なんですけどー)はぁ」
- 77 :
- しえん
- 78 :
- 「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」
ハーレルヤ♪ ハーレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレールヤー♪
一瞬、完全に意識が吹っ飛んでしまった横島君家の忠夫さん。
「おかせって! 俺に! その子を! つまりあんな事やこんな事やそーんな事までやっちまえって事ですかい!」
「……いや、そーいう話だが。お前、何故に鼻から血が噴出しているのだ?」
「嘘だ! こんな都合の良い話があるはずがない! だって俺は今生き死にの場に追い詰められ地獄の最中を漂ってるはずなのに! どうしてここで! 男子一生の本懐! 楽園の入り口! 喪失パレードが待ち構えているというのかああああああああああ!」
「…………喜んで、いるのか? あまり人前でする行為ではない、と認識していたのだが……」
「ああ、心が痛い! 心底痛む! こんな破廉恥で非道な行為! 断じて許されるはずないが命がかかっていては仕方があるまい!
ああ、仕方が無いのだよ! そうヤってしまえばきっと俺も風子ちゃんも命は助けてもらえるだろう! つまり人命救助故致し方なし!
命の危機という時に人工呼吸を惜しむ者が居ようか!? いや居まい! ならばこの行為こそが今この場で唯一の正義となるっ!」
ドットーレはもうこれに付き合うのが面倒になってきたので、放置しつつ名簿とさっきの放送内容を見比べてたりする。
「ふっ、悪いなお前ら。俺は一足お先に大人の階段、昇らせてもらうぜ。なぁに、最初は嫌がっていても、いずれ俺無しではいられない体になっちまうのさ……くっくっくっくっく……あー! 一度こういう台詞言ってみたかったんだあああああああああ!」
突然、横島はドットーレの前に土下座をして見せた。
「何?」
「ドットーレの旦那あああああああああ! この横島一生のお願いであります! どうか! 次に誰かと会った時なんて言わず! 今すぐにヤらせてくだせえええええええええ! 俺のこの盛り上がりきったパッションは最早留まる事を知らないんでさああああああああああ!」
ドットーレは眉根を寄せる。
「減るものでなし、そんなにしたいのなら別に構わんが、向こうでやれよ。実際目にした事はあるが、何が楽しいのかオレにはさっぱりわからんだけに、何時までも見ていると腹が立ってくるのでな」
ドットーレは横島の申し出を快く受け入れる。彼の人倫にもとる要求は、そこから推測される彼の人間性は、ドットーレがこれより人間達に仕掛けんとする様々な罠を実行するに素晴らしい助けとなりえる。
ただ殺して回るなど愚の骨頂。誰よりも真夜中のサーカスの一員であるドットーレが、楽しみを追求する心は何時如何なる時でも失われたりしないのだ。
ものっそいスピードで風子を抱えて走る横島を、ドットーレは侮蔑の視線で見送るのみであった。
意識を失ったままあどけない顔で横たわる風子。
彼女を教室の一室に連れ込んだ横島は、何時だったか見たビデオのワンシーンを思い出す。
見慣れぬ学校は、何処かわざとらしさが感じられる舞台装置のようで、ここで本当に生徒達が授業を受けているというのが信じられなくなってくる。
実際、タダのセットなのかもしれない。それでも、胸元を薄く上下させる風子は、セットでも舞台装置でもただ見る事しか出来ぬビデオでもない。
ごくりと生唾を飲み込む横島。
その手が、ゆっくりと風子のシャツの裾に触れ、止まる。
彼なりの葛藤があるのだろう。
その位置からぴくりとも動かぬまま時が過ぎるが、唐突に、横島が叫びだした。
「っていうか無理っ! 据え膳食わないとかこの横島忠夫にそんな真似ありうるかボケえええええええええええええ!」
ぐあばっと風子にのしかかりかけた所で、横島は後頭部を強打された。
「ごふぁああああああ!」
- 79 :
- 「こ、こんな下衆野朗、見た事が無い……それでも、なんて出来るはずもないか」
完全に意識を失いひっくり返った横島を他所に、突如現れ横島の後頭部をぶん殴った清麿は、風子をゆすぶり意識を取り戻させる。
当初、呆とした意識のまま清麿の話を聞いたため、風子はひどく動揺していたのだが、そこはそれ、意識がはっきりしていくなり自分を取り戻していくのは流石に荒事慣れしてるだけはある。
すぐにやらなければならない事が山積みだったので、迷ったり悩んだりしている暇が無いというのも良い方向に働いたようだ。
情報交換もそこそこに、最低限やるべき事だけを確認する清麿と風子。
ドットーレが校舎の外で何やらしている間に、清麿と風子はぶっ倒れた横島を抱えてこの場を逃げ出した。
「おい、清麿っつったよな。まともに追われたら逃げ切れねえぞ」
「わかってる。手は用意してあるさ」
清麿が校舎内に入り込めたのは、学校内の地下下水施設を伝ってきたおかげであった。
なので、出る時もこれを用いた訳だ。
「へぇ、良くこんなの見つけたな」
「この小学校は調べつくしておいたからね。拠点に出来ればと思ったんだけど……もう無理か。ともかく、一度この場所を離れないと」
「わかった。……一応、先に聞いとくけど、コイツどうする?」
コイツこと横島の所業を、風子は清麿から伝え聞いている。
スケベで腰抜けで根性無しの外道とか、どうすればいいんだと。
「……放逐するには危険すぎる。となると連れて行くしかないんだよなぁ……」
「ま、これ以上悪さ出来ないよう痛めつけておくってのが妥当な所じゃねえのか」
そうだな、と頷いた清麿の表情が、何かちょっとそれまでとは雰囲気が違かったので、風子は一度清麿の顔を見直したが、別段変な顔はしていなかった。
露天などで使う発電機に、清麿がとぽとぽと燃料を入れている時、横島は目を覚ました。
「おっ、目覚ましたみたいだぜ」
風子の声に横島は答えようとして身じろぎするが、そこで、体中が縛られて動けない事に気付く。
「え? あれ? 風子ちゃん、何か俺身動き出来ないみたいなんだけど……」
風子の表情は、全然笑っていなかった。
「よー横島。聞いたぜ、気を失ってる私に手出そうとしてたんだってな」
「なっ! 何故それを! ち、違うんやああああああああ! あれは若気の至りなんやああああああああ! 誰にでもある甘酸っぱい青春の一ページなんやあああああああ!」
「んな寝言で乙女の純潔散らされてたまるかっ。なあ清麿」
声をかけられた清麿は、横島に背を向けたまま答える。
「ああ、まったくだ」
その声で、横島は自らの置かれた現状にようやく思い至った。
「お前! そうか、上手くやったか……ははっ! ドットーレはどうした!? 上手い事逃げ切ったのか!」
「ああ……だがおかしいな。その言い草。まるで、俺を吹っ飛ばしたのはアンタが狙ってやった事で、後から俺が風子さんを助けに行くとわかっていたとでも言わんばかりじゃないか」
「そうそれ! いっやぁ、お前頭良さそうだと思ってたけど、やっぱりキレる男は違うな! よっ! 男前! あれだけで俺の意図を察してくれるとは……」
「じゃあ何で教室で風子さんに襲いかかろうとしてたんだ」
「溢れ出る若さの現れなんやああああああああ! 堪忍やあああああああああ! は男のワンダーランドなんやああああああああ」
清麿は紐を思いっきり引き、発電機に火を入れる。
「だそうだけど、風子さん?」
風子は首に親指を当てて、一気に真横に引いてみせた。
- 80 :
- 支援
- 81 :
- 「へるぷみいいいいいいいいいい!」
そこでようやく清麿が横島の方へと振り向く。
実に悪い予感しかしない横島は、恐る恐るソレを口にした。
「あー、そのー、おにーさん、何か牙とか角とか生えてる気がするんっすけど……」
清麿が両手に持っているのは、鉄の棒。その先端を近づけるとばちりと火花が飛び散った。
「……もしかして、そのばちばち、人に押し付けたりしませんよね? ほら、危ないじゃないっすかそーいうの、マジで火傷とかするかもしんないし……」
清麿は、まるで躊躇をしなかった。
「こんの外道があああああああああああああ!」
発電機をぶん回し電気を発生させ、これを、清麿は拷問用具として用いているわけだ。
少なくとも清麿から見た横島忠夫とは、悪漢に脅されれば他者の殺害も厭わず、あまつさえ意識不明の女性を欲望のまま蹂躙せんとする悪辣極まりない者である。
風子の腕より風神剣を奪った事も、ドットーレの援護をしたと見られればそれまでであるし、風神剣による清麿への攻撃も、それこそ攻撃としか見ようがない。
めったくそタフと知っている横島の扱いをどうするかにおいて、弱らせて共に行動するという一種残酷にも思える選択肢を選べたのは、清麿に横島への怒りがあったせいであろう。
「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!」
下水道のある地下での出来事であり、音が外に漏れないのは確認済み。その辺清麿さんは如才ない。
さんざっぱらビリビらせた後、清麿は押し付けていた二本の鉄棒を床に置いた。
脳まで真っ黒になった気がする横島は、虚ろな目で清麿を見て、こう、漏らした。
「……ヤロウ……燃料追加してやがる……」
再度発電機に燃料入れなおした清麿が、悪鬼羅刹の表情で放電を再開する。
風子からもちょっと引いているような気配が感じられるが、清麿はまるで止まる気配が無い。
「ぎゃはうあああああああああああああああ!!」
さしもの横島も意識を保つ事が難しくなる程の電撃は、もうこれこの状態で下手な事されたら性癖すら変化しかねねーぞな勢いであった。
それでも、終わりの無い夜はない、抜けないトンネルはなく、こんな地獄も終わりの時は来る。
再び鉄の棒二本を床に置いた清麿に、横島は安堵の息を漏らす。いや、漏らしかけた。
「……ヤロウ……棒持つの疲れたもんで一休みしてやがる……」
ぶらぶらと振っていた両腕から痺れが取れた清麿は、再度悪鬼の表情で鉄の棒を押し付ける。
「うふぅああああああああああああああああ!!」
それでも死なない程度で済ませられるのは、超がつく天才の清麿が医学を少なからず学んでいたおかげであると思われる。
だからと横島が感謝する気になれるかどうかは別の話だが。
ドットーレが横島の裏切りに気付いたのは、かなり後になってからだ。
あの手の者が一度恐怖に屈した相手に逆らうというのは、中々に考えずらい。
故に油断していたせいもあってか、あっさりさっくりと、裏をかかれあの女共々影も形も見られない。
まさかと思い清麿が吹っ飛ばされた場所も見に行ってみたが遺体もなく、着地跡を見る限り絶命したとも思えない。
「つまり……オレが、あの人間に一杯食わされたと……いうわけか。あの、何処までも下らん人間に……」
- 82 :
- その後のドットーレの激昂は筆舌に尽くしがたい。
小学校が丸々一つ、半壊してしまう程の大暴れでようやく、落ち着きを取り戻す程であったのだ。
【B−3 市街地地下下水道/一日目 朝】
【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実、風神剣@YAIBA
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。
【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:健康、錯乱
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0〜2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。
【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。縛り上げられている。
[装備]:なし
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。
【B−2 小学校/一日目 朝】
【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。
- 83 :
- 私怨
- 84 :
- シエン
- 85 :
- 以上です。問題点等ありましたら、ご指摘の方よろしくお願いします。
- 86 :
- しえん
- 87 :
- 投下乙
一日に二つくるとはw
ちょっと今は忙しいけど、後で読みます!
- 88 :
- 投下乙です
>「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」
腹筋が崩壊した
…この台詞がギャグになるなんて、横島じゃなきゃ絶対に無理だなwww
- 89 :
- 改めて投下乙
ここにきて横島が爆発しやがったwww
電車で読むSSじゃねえw笑い堪えられないww
- 90 :
- 投下乙です
ここまで横島を再現する技量に感服
風子を暴走から救い、沈んでいた清麿も通常に戻し、被害者を出すことなくドットーレから逃げおおせ、しかも武器まで奪ってくる
……凄まじく仕事はしているのに、何故素直に褒める気になれないのかw
- 91 :
- 投下乙!
>一閃
鬼丸かっこいいな
魔王化しても刃に対する執着が変わらない辺り、さすがのライバル
YAIBA本編では、刃が強くなる度に鬼丸もさらに強くなっていただけに、さらに恐ろしくなりそうだ
>横島
ま さ に G S
そうだった、かっこいい引きでもこうするのが横島だったwwwwww
いやぁ、成果は素晴らしいんだがなぁw
一話で三人もキレさせるやつ初めて見たわww
- 92 :
- >◆n0WqfobHTU氏
一ページに収まらないようなので、適当なところで分けて収録しました。
ここで前後編を分けて欲しくはなかった……ということもありえますので、確認していただけると嬉しいです。
- 93 :
- 死者リストの木蓮のセリフ長すぎwww
- 94 :
- 投下します
- 95 :
- ボー・ブランシェは走っていた。
脇目も振らず、ただひたすらに。
共に闘った仲間が、その命を賭けて逃亡の機会を作り出した。何としても鬼丸から遠ざからねばならない。
足を止める暇はおろか、たとえ山道でも速度を緩める余裕すらない。
傾斜であろうと関係なく、全速力で山を下っていく。
草土のせいで足場は安定しないし、枝が肌に突き刺さるが、無視を決め込む。
多少足を取られた程度で転ぶほど、戦場に慣れていないはずがない。
多少枝が刺さったくらいで痛みを感じてしまうほど、ヤワな鍛え方はしていない。
溢れていた涙も、大分前に拭い取った。視界はもはや明瞭だ。
人間の限界をはみ出しつつあるボーの全速力ゆえ、山を下り切るのに大した時間はかからなかった。
平地に到達しても、ボーは減速しない。
「ボウズは……、テッドはまだ戦っているッ!」
鬼丸の強さは身をもって知っているが、テッドもまたやすやすと倒れる男ではない。
ボー・ブランシェは、同志が戦っている最中に体を休めるような男ではない。
ゆえにさらに南下していたのだが、ボーはしばらくしてその足を止めた。
疲労が積み重なったのではない。鍛え抜かれた彼の肉体は、全力で走り続けても僅かに呼吸が乱れているだけだ。
いつの間にか接近していた植物園が、気にかかってしまったのである。
天井のガラスが砕かれ、さらに壁に穴まで開いている。
近付いて覗いてみると、ボーは言葉を失った。
中の惨状は、外見から予想したよりさらに酷いものだった。
単なる銃器では、いくら酷使したところでああは出来まい。
爆薬やバズーカ砲、レーザー兵器辺りが用いられたのだろう。
そこまで考えが至ると、ボーは植物園へと踏み入れた。
大きく息を吸い込んで、思いっきり声を張り上げる。
「誰かッ、誰かいるのか!? この殺し合いに反旗を翻さんとしている者ならば、安心するがいい! この私も同志だ! 仮に戦う術を持たぬ者だとしても、安心するがいい! 今訪れたのは世界最強の男、ボー・ブランシェだ!」
植物園全体に響くであろう大声。
しかし返事は、反響する呼びかけだけである。
深呼吸をすると、ボーは再度。
「もしも殺し合いに勝ち残るつもりの者ならば、残念に思うがいい! このボー・ブランシェを敵に回すことになるのだからな!」
やはり、呼びかけが響くだけ。
踵を返して植物園から出ようとして、ボーは踏み止まった。
内部にいる者が、返事をする事さえ出来ない状況であったとしたら。
ありえない事態ではない。もし瓦礫に挟まってしまえば、ボーのように鍛え抜かれた肉体を持たぬ弱者は一たまりもない。
ボーは、そんな考えが浮かんでいながら植物園を後に出来るような男じゃなかった。
弱者を守るのが強者の務めなのだから。
回れ右して再び植物園に向き直り、奥へと進んでいく。
戦場となったであろう地点に到着すると、いくつもの樹木が折れてしまっていた。
それらに下敷きにされている被害者がいるやもしれない。
ボーは、倒れた樹木を大きいものから順に持ち上げていく。
かなりの時間を費やして、やっと植物園に自分以外には誰もいないと気付いた。
ボーが安堵の息を漏らしたちょうどその時、死者を告げる放送が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆
- 96 :
-
「ふ! ふははははは! キース・ブラックめ! 人々を惑わすため嘘を流すとはッ! その程度、見破れぬボー・ブランシェではないわ! ふは! ふはは、はは……」
先の放送によると、もう十六人もの死者出たのだという。
挙げられた名前の中には、ボーの知った名も複数あった。
スプリガンの御神苗優、先ほど共闘したテッド。
どちらもたかだか六時間で死ぬような手合いではない。
優に至っては、世界最強の男を下した事もあるのだ。
倒されることがあるとすれば、それこそボー・ブランシェのリターンマッチ以外にありえない。
つまり、あの放送は嘘八百なのだ。そうに決まっている。間違いない。
ゆえにボーは笑い飛ばそうとしたが、思いに反して声はか細くなっていく。
「は……は、は。嘘つきは、この私ではないか。ボー・ブランシェともあろう者が……」
自分に嘘を吐こうとしたが、上手くいかなかった。
この殺し合いに、ボーを上回る参加者が存在するのを思い知ったばかりだった。
ボーは握った己の拳を見て、とても小さく感じた。
世界最強の男の拳とは、とても思えない。
鬼丸猛の振るっていた漆黒の剣とは比べ物にならぬほど、ちっぽけで弱々しい。
最も優秀な人種である我らには、より弱き者を守る義務がある。
それこそ、ネオナチの掲げた理想にして、ボー・ブランシェの信念であった。
ネオナチ上層部の思想がそうでなかったとしても、ネオナチが崩壊してしまったとしても、ボーの中でその信念は輝き続けていた。
が、ここに至って、ボーは疑問を抱いてしまう。
もしかしたら自分は守られるべき弱者なのではないかと、そんな事を考えてしまう。
一度浮かんでしまえば、その考えは正しいように思えた。
思い返してみれば、朧には手も足も出ず、御神苗優には一杯食わされてばかり、自慢のスピードさえジャン・ジャックモンドに敵わず、そして鬼丸猛には完膚なきまでに敗北した。
「この私は、世界最強の男ではないのかもしれないな……」
意図せず、ボーの拳を握る力が弱くなる。
同じ弱者でありながら弱者を守ろうとしていた自分が、とても滑稽に思えてしまう。
現に、先ほどもそうだったではないか。
強者であるテッドに、守られてしまったではないか。
あれこそ、ボー・ブランシェが弱者である証明ではないだろうか。
- 97 :
-
「だがッ!!」
解かれかけていた拳を握り直し、ボーはすぐ近くにあった樹木に叩き付けた。
直径一メートルはありそうな幹の全体に、亀裂が走っていく。
「もし周りが強者ばかりだとしても、そやつらと比べればこの私は弱者であったとしても、それでもッ!」
ボー・ブランシェは、世界最強ではない。
スプリガンの連中に負けた事があるし、ついさっきも鬼丸猛に敗北した。
数度目の敗北を喫して、やっと最強ではないと認めよう。
「弱者を守る強者は、誰より優秀でなくてはならないッ! その強さを弱者を守るために使わねばならない! いくら強かろうと、あの角ハゲではいかんのだ!」
しかしプライドが折れたとしても、胸の奥深くに刻まれたハーケンクロイツが曲がる事はない。
ネオナチの理想を捨ててしまうくらいなら、何も為さずに野垂れ死ぬ方がよっぽどマシである。
そもそも、プライドが折れるのは初めてではない。
朧に完膚なきまでにやられた際にも、薬に頼っていた己の心の弱さを受け入れたではないか。
結果として、今ここにいるボー・ブランシェは薬頼りだった頃より遥かに上回る強さを手に入れている。
折れてしまうようなプライドを抱いていたことは恥だが、おしまいではない。
むしろ、始まりだ。
「そうだッ! よりいっそう努力を欠かさず、今までよりさらに精進を積み、かつてないほどの研鑽を重ねていけばッ! この私は再び……」
殴り付けた樹木が、ゆっくりと倒れる。
舞い上がった葉の中で、ボーは断言するような口調で言い放つ。
誰かにではなく、自分自身に向かって。
「世界最強の男! ボー・ブランシェだッ!!」
決意新たに、ボーは植物園を後にする。
リュックサックから取り出したパンをかじりつつ、駆け出していく。
テッドの無念を晴らすべく鬼丸を倒さねばならないし、キース・ブラックのプラグラムを破壊せねばならないし、強者には劣る自分よりも弱い人々は守らねばならないし、再度世界最強の男にならなくてはならない。
やらねばならない事は多いし、どれもこれも大きすぎる。
いかにボー・ブランシェといえども、走らねばならないほどだ。
【D−1 植物園/一日目 朝】
【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。
- 98 :
- 以上です。問題点ありましたら、指摘お願いします。
- 99 :
- おっと、気付いたことがあったんだった
ボーの所持品のランダム支給品なんですが、0〜2ではなく0〜3ではないですか?
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