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2012年6月マリンスポーツ374: サーファーとして生きる、ということ。vol.2 (402) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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サーファーとして生きる、ということ。vol.2


1 :06/06/23 〜 最終レス :12/05/15
とある物語のプロローグは一人歩き始めた
あの頃の僕達は
そう、あの頃の僕達は・・・・・

2 :
2ゲットだフラァ!!
     ∧∧,..,、、.,、,、、..,_       /i
   ;'゚Д゚、、:、.:、:, :,.: ::`゙:.:゙:`''':,'.´ -‐i
   '、;: ...: ,:. :.、.:',.: .:: _;.;;..; :..‐'゙  ̄  ̄     
    `"∪∪''`゙ ∪∪´´

3 :
前スレ
http://sports9.2ch.net/test/read.cgi/msports/1081907500/

4 :
thanks
you
>>3
byまんまんみてチィンコむきむき

5 :
海行った後はムラムラしてしょうがない。

6 :
前スレ落ちてますね。
どうしよう・・・

7 :
>>6
にくちゃんねるで検索してリンク貼るべし

8 :
がんがれ

9 :
サーファーって家族を養えるの?

10 :
(*´Д`)ハァハァ
まだーのありがとう

11 :
あっれ〜。いつの間にか、次スレ立っちゃってたの?
つか、前スレ落ちちゃったんだ。残念。
新作君のは完結したのか?その前に落ちちゃったのかい?
そんなことあるんだね。新作君完結してなかったらカワイソス・・・。
てか、後半まだよく見てなかったのでオレも非常に残念。
けっこう盛り上がる展開だったのにな・・・。
でも、ありがとう。面白かったぜ。
続きあれば、ヨロシク!
つか、バイロン先生見てたのねw

12 :
新作君kottini
買いちゃいなよ。
byjany

13 :
>>12 なーにそれ?初めて聞いたっスよ。
てか新しい作品も読みたいけど、出来たのかな?

14 :
それじゃあ、もう一回始めちゃいます。
若干、加筆、修正をくわえてアップしますので
皆さまどうぞ再度おつき合いください。

15 :
>>14
お〜新作君復帰かい?
オレなんて仕事片手間でいろいろ考えてるんだけど、中々進めなくて・・・。
でも新スレ立ったら載せるっていった手前、1/3くらいできたから、
ゆっくり載せようかと思ったけど、新作君のが完結するまでまっとるよ。
前スレでは、少年と地元ローカルでひと悶着あって、
華子が少年の寝込みに失敗するところまで読んだw
実はもうやっちゃったのかなっていうぐらい進んでないよね?
がんがれ!

16 :
まってたお。
あげるお

17 :

『サーファーガール華子と犬の太郎』
<第一章> 「編」
華子が住んでいたアパートの近くに太郎という犬がいた。
しかし、その名前は華子が勝手にその犬の名前を太郎とつけて呼んでいるだけの名前だった。
飼い主がつけた本当の名前が太郎には存在したがそんなことは華子が知る由もなかった。
華子がなぜその犬を「太郎」と呼んだのかは定かではない。もしかしたら「ジョン」とか「ポチ」でも
よかったのかもしれない。しかし華子が「太郎」と呼んだことでその犬の名前は以後「太郎」となったのだった。
太郎はおそらく雑種犬だった。しかしそれも華子が犬の種類をよく知らないだけのことで、
もしかすると太郎は血統書付きの犬だった可能性もあった。ようするに太郎という犬はそんな犬だった。
華子が太郎と初めて会ったのは、華子が海沿いのアパートに引越してきた次の日に海に向かう途中の道程だった。
太郎はいつも眠っていた。少なくとも華子が太郎を見かけるときは太郎は犬小屋の脇に寝そべり、
必ず死んだように身動きもせずに眠っていた。ほんとうに死んでいるんじゃないかと思うくらい太郎は
身動きひとつせずに眠っていた。
華子は海に向かうときにはいつも「太郎、太郎」と呼びかけながらその家の前を通り過ぎた。
何回目のことだっただろうか。海に行く途中その家の前に差しかかるといつものように
太郎は犬小屋の脇で死んだように眠っていたが、華子の呼びかける声に反応するかのように
僅かに耳をぴくっぴくっと動かしたのだ。
華子は初めて太郎が動くところを見て、あたりまえだがやっぱり生きているんだと思った。
そして、それと同時に普通の犬のようにワンと吠えたり尻尾を振る太郎の姿をどうしても見たいと思った華子は
なんとかして太郎を起こして自分に懐かせる方法はないものかと考え始めた。

18 :

華子が東京から海沿いの小さなこの町に移り住んだのは、高校生のとき友人と訪れたこの町で
生まれて初めて見たサーファーの印象が強く記憶に残っていたからかもしれない。
真夏のある日、友人とこの海岸に来た華子は、キラキラと目を細めるほど眩しい陽光をまき散らしながら
寄せてくる波の中に人がいるのを見た。
始めそれがサーファーだとわからずまるで幻でも見ているような錯覚にとらわれ呆然とした。
やがて目が慣れてくるにつれ波の中にいる人間がサーフィンをやっていることに気づいたのだった。
サーファーは切り立った波の壁に白い軌道を描き大きくカーブしながら自在に走り回っていた。
ときにはもの凄いスピードでクルンっと回転して空に大きな飛沫を飛ばした。
「なんか孫悟空が筋斗雲に乗ってるみたいだね」と友人の珠子は言ったが、
華子にはアラジンが魔法の絨毯に乗っているように見えた。
魔法の絨毯。華子は自分が空を飛んでいることを想像した。ああ、なんて素敵なんだろう。
そう思うとどうしてもサーフィンをやらなければならないという使命感にも似た高揚が華子を包んだ。
家に帰るとさっそく近所の本屋に行きサーフィン雑誌を探した。何冊か立ち読みしてわかったことは、
高校生の華子にとってサーフボードが高価な物だということと、サーフボード以外にも必要な物が
いくつもありそうだということだけだった。

19 :

何をすればいいのか皆目見当がつかなかったがとにかくバイトを始めることにした。
そして、その合間に量販店のサーフショップを回り疑問点などを質問した。
まず初めに選択しなければならなかったのがボードの種類だった。華子はあの海岸で見たサーファーを
思い出しショートボードから始めるつもりだったが、そのショップの店員はなぜかロングボードを薦めた。
身長160cm弱の華子はその長い板を見上げこれでは持ち運びすらままならないと思い店員の薦めを却下した。
まだボードすら持っていない高校生の華子がどうしてもショートボードに乗りたいというのを聞いた店員は、
女の子には難しくおそらく挫折するだろうと懇々と説いたがそれでも華子は頑として譲らなかった。何軒かサーフ
ショップを回ったがやはりどこでも似たようなことを言われた。
しかしある日、量販店とは違う一軒の小さなサーフショップを偶然見つけたところから話は急展開した。
「ショートやりたいの?そう、じゃあオーダーしちゃいなよ」
その店長は華子の話を聞くと言った。高校生だとも言うと、どうやって海まで行くのか?サーファーの
知り合いはいるのか?何かスポーツをやっていたか?など、今まで聞かれなかったことばかりを質問された。
華子は道具を揃えたあとのことまで考えていなかったので何のツテもないと言った。
「そう。じゃあ、海には僕が行くときに便乗すればいいし、一緒に行ってもいいっていう知り合いも紹介してあげるよ」
支払いはボードが仕上がってからでいいと言われたので、二回目にその店に訪れた華子はボードをオーダーした。
そして季節は夏から秋に移り変わり冬の訪れを告げる木枯らしが吹き始めた頃、サーファーガール華子が誕生した。

20 :

太郎のいたその家は高台にある華子のアパートから海へと続く坂道の途中にあった。
入り口には大きな門があり、2台分の駐車スペースの奥にぽつんと太郎の犬小屋が置かれていた。
クリーム色をしたタイル張りの家と合わせるかのように太郎の犬小屋も似たような色で塗られていた。
初めてその家の前を通ったとき華子が目を奪われたのは雑誌に出てくるような外観や駐車場に
止まっていた高級車ではなく、庭の隅に設置されていた屋外シャワーだった。
海から上がったらボードもウェットもすぐ洗えるし夏は最高だろうなと華子は思った。
そして門からその家を眺めているときに死んだように眠っている太郎の存在に気づいたのだった。
それ以来太郎を懐かせようと思った華子は、「太郎」と呼びかけながら海へ持っていくカロリーメイトを
太郎に向かって投げてみることにした。しかし眠っている太郎は何の反応も示さず、海の帰りに再び様子を窺うと
カロリーメイトだけがなくなっていて太郎は相変わらず同じ姿勢で眠っていた。
そんなことを繰り返していたある日、海へ行く途中いつものように太郎にカロリーメイトを与えようと
門から家の中を覗くと華子は自分の目を疑った。いつも寝ているはずの場所に太郎がいなかったのだ。
しばらく辺りをきょろきょろと見回してみるがやはり太郎はどこにもいなかった。
太郎はどこに行ったのだろう?その疑問が頭を占めたまま華子はいつものように海へ向かった。                 
風は緩いオンショアが吹いていたがフェイスにはそれほど影響もなく、
腰から胸くらいのセットがたまに入っていた。
平日の昼間のせいかサーファーも少なくのんびりとした雰囲気が海にも漂っている。
華子はぼんやりと波待ちをしながら消えた太郎のことを考えていた。
なんで太郎はいないんだろう?眠っている太郎の姿しか見たことがない華子にとって
太郎が消えること自体想像がつかないのだ。
何本目かのセットをつかまえ岸近くまで乗り継ぐと海からあがり、ペットボトルとカロリーメイトが
入ったバックを置いた場所まで戻ってきた。

21 :

防波堤に腰掛けてスポーツドリンクを飲みながらカロリーメイトを食べていると
ゆるゆると吹き抜ける風に混じって微かに犬の鳴き声が聞こえた。
そしてほんの数十秒の後、何かの足音が聞こえたと思った次の瞬間背中に触れる誰かの気配に
驚いた華子は小さく悲鳴を上げた。
ふり返ると茶色の毛をした犬が舌を出してハアハアと息を切らしていた。
「太郎!」華子は自分にまとわりつきながら尻尾を振る太郎に叫んでいた。
眠っているところしか見たことがないがそれは間違いなく太郎だった。
「お前どうしたの?なんでここにいるの?」
矢継ぎ早に問いかける華子にはお構いなしに太郎は何かをじっと見つめ尻尾を振り続けていた。
華子はその視線の先に自分が持っているカロリーメイトがあることに気がついた。
「なんだこれが欲しかったんだ」
太郎は華子の食べかけのスティックをペロリと食べてしまうともっとくれとばかりに尻尾を振ってワンとひとつ吠えた。
「ごんめんね太郎。もうカロリーメイトないんだよ」
そう言いながら太郎の頭を撫でていると、ふと人の気配に華子は顔を上げた。
そこには自分と同じ年くらいに見える真っ黒に日焼けした少年が不機嫌そうな顔をして立っていた。
「お前、なんで名前知ってるの?」少年はいきなりそう言うと華子を睨みつけた。
見ず知らずの少年に「お前」と言われたことに腹を立てながら「なんで名前を知ってる?」と
聞かれたことに動揺して華子は口ごもった。まさか自分が勝手につけた名前だなんて
どう説明したらいいのだろうと思ったからだ。
華子が黙っていると少年は苛立ったように再び言った。
「何でお前、俺の名前知ってるんだ?」

22 :

華子はしばらくの間、少年が何を言ってるのか理解できなかった。
そして自分を睨んでいる少年とカロリーメイトをもっとくれとばかりに尻尾を振り続ける
太郎を交互に見比べるとようやくその意味がわかり思わず吹き出してしまった。
「何が可笑しいんだ?」少年がさらに怒ったように華子に言った。
「ふうん、太郎って名前なんだ」
「そうだよ。お前がさっき俺の名前を呼んでたの聞こえたんだ」
「別にあんたの名前を言ったわけじゃないわ。それにお前っていうのやめて」
今度は華子が不機嫌になって少年に答えた。
「この子のことを太郎って呼んだのよ。わたしがこの子につけた名前なの悪い?」
華子は腹が立っていたせいもあり開き直って、太郎を指しながら一気にまくしたてた。
その勢いに怯んだのか少年は困惑した顔で華子を見つめていた。
二人はしばらく無言のまま睨み合うと少年の方から口を開いた。
「と、とにかくこいつは太郎なんて名前じゃないし、勝手に変な名前つけんじゃねーよ」
「変な名前って、あんたの名前と一緒じゃない。確かに変な名前かもね」
華子がそう言うと少年の顔に怒り戻ってくるのがわかった。
少年は何かを言おうとしたが華子はくるっとふり返りボードを脇に抱えてバックを持つと
アパートへと続く坂道をすたすたと上り始めた。
華子は帰る途中、「太郎」と呼ぶ声に少し反応したのはあの少年の名前が「太郎」で
犬の太郎はその呼び名をいつも耳にしていたからではないかと思った。

23 :

それから何回か海に入るうちに同じラインナップに少年の姿を見つけた。
相変わらず華子はクリーム色のタイルの家の前を通るときは「太郎、太郎」と名前を呼んでカロリーメイトを与えていた。
少年と名前の一件で言い合って以来、太郎はその声に反応するようになりフルーツ味のカロリーメイトを
美味しそうに華子の前で食べるようになった。
華子はパドルをしながら少年に近づいた。4、5メートルの距離まで来ると少年も華子に気づいたらしく
気まずい顔をしながら沖を睨んでいた。
「こんにちわ、太郎君」
華子は気さくに声をかけると少年はぎこちない笑顔を作り曖昧に返事を返した。
「この前はいきなり怒ってごめんね」
「でもね太郎君、初対面の女の子に"お前"なんて言うものじゃないわ」
華子は一応謝ってから怒った理由を少年に伝えた。
少年はどうでもいいとばかりに沖をじっと見つめている。
「ねえ、謝ってるんだから何とか言ったら」
「ああ」と少年は返事とも独り言ともつかない声を発すると
次の瞬間ノーズを軽く沈めて素早くパドルの体勢に入り沖へこぎ出した。

24 :

華子はハッと沖に視線を移すと距離はあったがすでに切り立った状態のセットが入っていた。
少年を追いかけて沖へパドルした。波は今にもブレイクしそうだが辛うじてうねりの状態を保っていた。
波のトップがメラメラとオフショアに煽られてバックウォッシュを上げ始める。
間に合わない!なんとかインパクトゾーンを避けドルフィンで波の裏に出るとそこには華子しか残っておらず、
どうやら少年は今のセットをつかまえたようだった。
ふり返り通り過ぎた波を目で追うとボードのノーズが波の上に飛び出してはすぐに消え、
飛沫が大きく空に飛んでいた。華子は高校生の頃訪れたこの海岸で初めて見たサーファーを思い出し
少年のライディングを波の裏から想像した。そして波が終わりに近づくと岸近くで少年がボードと一緒に宙に舞うのが見えた。
華子は次のセットを期待したが波はどうやら今の一本だけだったようだ。仕方なく始めにいたポジションに
戻ると少年が再びパドルアウトしてくる。先程までの不機嫌そうな表情は消え顔には笑みさえ浮かべていた。
「今のよかったね。わたし乗り損なっちゃった」
「海の中でお喋りしてるからいいセットが入っても動きが遅れるんだよ」
華子は一瞬カチンときたが確かに少年の言うとおりだと思い、その日最高の一本を逃したことを後悔した。

25 :

その朝は、夜半に抜けた低気圧の影響でこの海岸にも大きな波を届けてくれるはずだった。
華子はまだ薄暗いうちから起き出し、タンクトップにジーパンを切ったショートを履いて
波のチェックに出かけた。期待と不安が入り交じった気持ちで海岸へと向かう坂を下りていると、
太郎を連れて前を歩いている少年が見えた。
「おはよう、太郎」華子が声をかけると、同時に少年と太郎が振り返った。
華子はいまだに犬の太郎の本当の名前を知らない。
尋ねることもしなかったし少年が華子に太郎の本当の名前を告げることもなかった。
海で時折散歩をしている少年と太郎を見つけることがあり、一緒に浜辺を歩きながら会話をしても
特に不自由を感じることはなかった。
「ねえ今日って波上がってるかな?」少年と太郎に追いつくと華子は尋ねた。
「微妙なとこかな。前線がブロックしてるから届かないかもしれない」
少年の意外な答えを聞くと華子は、そうなんだ…と少し拍子抜けした気分になった。
まだ天気図の読み方がよくわからない華子は単純に波がサイズアップするものだと思い込んでいたからだった。
海に着いて浜から波を見るとやはり少年の言ってた通り海面がざわつく程度の波しか起ってなかった。
華子は少年と太郎の散歩につき合いながら、そろそろこの辺りも波のない日が増える季節になることを聞いた。

26 :

「だから俺もそろそろ行こうと思ってさ。当分華子の顔見なくて済むよ」
少年は波のない海を横目で見ながら呟いた。
「え、どこに行くの?」華子が聞き返すと少年は意味ありげに笑っただけだった。
「内緒」
「なんでよ、気になるでしょう。教えてよ」
「ぬふふ、今度な」
その後、早朝から開いているドックオーケーのカフェテラスでコーヒーを二人で飲みながら、
華子は同じ質問を少年にしたがどこに行こうとしているのか最後まで聞き出すことはできなかった。
翌日、少年の家の前を通るといつものように中を覗き込んだ。太郎は相変わらず眠っていた。
カロリーメイトは持っていなかったのでそのまま通り過ぎようとすると名前を呼ばれて華子は振り返った。
「入ってこいよ」少年が庭の奥から手招きしている。
華子が近づくと少年の手元には新品のボードが置かれていた。
「どうしたのこれ!ニューボードじゃん!」
「ぬふふ、オーダーから上がってきたんだよ」
満面の笑顔で答える少年を見ると、華子は高校生のとき初めてオーダーしたボードがあがってきたときの感動を思い出し
自分も嬉しくてしょうがない気持ちになった。
ふと周りを見回すと新しいボードの他にも2本古いボードが置いてあり、
ほかにも寝袋やテントなど、まるでキャンプにでも行くような道具が散乱していた。
華子は昨日のことを思い出し、再び強い口調で少年にどこかへ行くのかと問いつめた。
少年はしまったという表情をしていたが、華子のあまりの迫力に負けてしぶしぶ口を開いた。
その言葉は華子にとってなんと魅力的な響きを帯びていただろうか。
「サーフトリップ!素敵!」
華子は思わず手を胸の前で合わせ空を見上げていた。

27 :

「バカ!連れてくわけねーじゃん」
華子の様子を見ていた少年は慌てて言った。
すでに夢心地で少年の家の駐車場に止まっている高級車に乗ってトリップするつもりでいる華子は現実に引き戻されて
少年にくってかかった。
「ありえないよ!」
「何がありえねーんだよ。女なんか連れてくわけないだろ!」
「悪いけどこの状況で連れていかないって言うあんたの方がありえないよ!」
「どうでもいいけどさ、お前俺のこと"あんた"っていうのやめてくんねー」
「何それ?なんかムカツク」
「あんただってわたしのこと"お前"って言うじゃん」
「お前さあ、確か初めて会ったとき"お前"って言うなって怒ってたけど
もう初対面じゃねーからいいんじゃないの?何?違うの?訳わかんねーよ!」
二人の会話は本題からどんどん外れて単なる口喧嘩になっていた。
さすがにこの騒ぎに眠っていた太郎も何事かと虚ろな顔で二人を眺めていたが、
しばらくすると安心したような仕草でいつものように体を横たえた。
「お前ら何騒いでるんだ?」
少年と華子の騒ぎを聞きつけたのは太郎だけではなかった。

28 :

睨み合っていた二人はその声のおかげで、金縛りにあっていたような状態からようやく解放されることができた。
「あっ、おじさま、おじゃましてまーす」
少年は華子の変わり身の早さに驚きながらも「別に何でもないよ」と照れくさそうに答えただけだった。
華子は少年の父親と会うのはこれで三度目だった。海から少年と一緒に帰るときには、屋外に設置されているシャワーを
使わせてもらうようになり、そのとき在宅していた少年の父親に紹介されたのだった。屋外にあるシャワーは、今も現役の
サーファーである父親のアイデアだと後になって聞いた。
「別にいいだろ?華子ちゃんも連れてってやれよ」
事の顛末を聞いた父親がそう言うと華子はうんうんとうなずき、少年はぶるんぶるんと顔を振った。
「ただし、これだけは約束してくれるかな?」
初めてのポイントでは絶対無理はしないこと、自分で判断できなければ少年の指示に従うこと、
というのが父親が出した条件だった。海では何が起こっても不思議じゃない。だからいつ生命の危機に晒されるかわからない
という意識を忘れてはいけないと言った。
華子は、絶対守りますと父親に約束すると少年にいつトリップに出るのか尋ねた。
まだ納得できずにいる様子の少年だったがやがて諦めたように言い捨てた。
「今夜出発する。遅れたらおいてくぞ」

29 :

華子はカート付きのバックを引っぱりながら、ニットケースに入れたボードを脇に抱え少年の家に向かった。
少し寝ておけよ、と少年に言われたが、遠足や運動会の前日に興奮して眠れない子供のように華子もまた
眠ることができなかった。
華子にとって初めてのトリップだったので何が必要なのかよくわからず少年に尋ねると
「着替え、洗面用具」とあたりまえの答えしか返ってこなかった。
外国に行くわけでもないので足りないものがあっても何とかなるだろうと、思いついたものをバックに
投げ込み荷造りを終えるとベッドに横になった。
目を閉じてまだ見たこともない波を想像していると眠気は全く訪れずより頭が冴えてしまう。
華子は約束の時間が来るまでベッドで寝返りを繰り返し何度も時計を見ては時間を確認した。
少年の家に着くと、少年はすでに準備を終えたらしく、荷物をかしなよと華子に手を差し出した。
駐車場に並んでいる2台の高級車を見ながら、どっちの車で行くのか少年に尋ねると
こっちにこいと呼ばれシャッターが下りているガレージの前に立った。
少年は華子の荷物を置いてシャッターを上げるとそこにはボロボロのワーゲンバスが止まっていた。
ボディの横に付いているドアを開け荷物を積み込むと少年は運転席に移動してエンジンをかけた。
「え〜これで行くの?」
車にあまり詳しくない華子でも高級車とボロボロのワーゲンバスとの違いはすぐにわかった。
元の色が何色だったのかわからないくらい塗装は剥げかけ、今にも爆発するのではないかと思うような
バタバタバタという聞き慣れないエンジン音が響いていた。ボディに辛うじて「ICHIRO'S FACTORY」と
いうローマ字読めた。
「文句があるなら来なくてもいいんだぜ」
少年が意地悪く笑った。

30 :

「行くよ!行く!車なんて関係ないもんね」とワーゲンバスの助手席に乗り込もうとすると、
エンジンの音で目が覚めたのか太郎が目を輝かせて尻尾を振っていた。
華子は太郎に近寄り思案顔で頭を撫でていると、思いきって運転席の少年に言った。
「ねえ、この子も連れてっちゃ駄目?」
また怒られるかなと思っていた華子だったが、意外にも少年は顎をクイっと動かし早く乗れという
ジェスチャーで華子と太郎を呼んだのだった。
ボディのドアを開けると待っていたとばかりに太郎が素早く乗り込み、助手席に華子が座ると
ワーゲンバスはゆっくりと走り出した。
「何見てるんだ?」
不思議そうに見つめる華子の視線に気づいたのか少年が言った。
「また怒られるかなって思ったのよ」
「ああ、こいつのことか」
少年は後部スペースですでに眠っている太郎をちらっと見た。
「元々、この車は親父が若い頃に乗っていたんだ。
親父はこの車で日本全国いろんな場所へトリップに行ってたらしい。
俺も子供の頃何度か一緒についていったことがあるけど、
そのときからこいつはいつも一緒だった」
数に入っていなかったのは華子の方だと言われ少し複雑な気持ちになった。
しかし車窓から入ってくる心地よい風をうけながらこれから出会う新しい波に想いを馳せていると
そんな気持ちもすぐに消えてしまった。
そして、これから始まる二人と一匹の旅が華子にとって生涯忘れられない夏になることなど
このときにはまだ知る由もなかった。

31 :

<第二章> 「トリップ編」
気づかないうちに眠っていたらしい。意識が覚醒するにつれワーゲンバスのエンジン音が次第に大きく聞こえてきた。
華子はうっすらと目を開けると辺りに視線を巡らせた。どこを走っているのか全く見当もつかなかった。
ふとサイドミラーを見ると背後の空が濃い藍色からわずかにオレンジ色を帯びたグラデーションに染まっていた。
「そろそろ夜が明ける」
華子が起きたことに気づいた少年が声をかけた。
「ごめん、眠っちゃった」
「ああ、別にいいよ。どうせ寝てなかったんだろ?」
「うん。いろいろ想像してたら頭冴えちゃって眠れなかった」
軽く伸びをしながら自分たちがどこにいるのか少年に聞くと、じきに海岸線に出て10km程走れば最初の目的地の
ポイントに到着すると教えられた。
しばらくすると少年の言うとおりワーゲンバスは夜明け間近の海岸線に出た。海はまだ暗く、よく見えなかったが
細く開けた窓から入ってくる風には潮の匂いが混じっていた。
「とりあえず朝飯を食べよう」
しばらく走ると、少年はウィンカーを出して海岸沿いに立つドライブインにワーゲンバスを乗り入れた。
サイドミラーだけを見ながら器用にワーゲンバスを駐車スペースに止めると少年はサイドドアを開けた。
弾けるように太郎が飛び出し辺りを注意深く窺っている。少年は華子に行くぞ、と言うとネオン管の灯った
ハンバーガーショップに歩き出した。
店に入るとカウンターの中で本を読んでいた男が顔上げ、少年を見ると笑顔になり手を差し出した。
「やあ来たな。今年は少し遅かったね」
「うん、新しいボードが上がるのを待ってたんだ」
少年は男と握手を交わしながら「お久しぶりです」と挨拶をしている。
華子は物珍しげに店内をきょろきょろと見回していると知らない間に太郎が店の一番奥にあるテーブルの下に
もぐり込み伏せっていた。

32 :

「ゴローさん、軽く食事がしたいんだけど何かある?」
「ああ、何か作ってやるよ。あとあいつには水だな?」
少年にゴローと呼ばれた男はカウンターに戻るとブリキの皿に水を入れて太郎の前に置いた。
太郎はそれを見るとむっくりと起きあがりペチャペチャと美味しそうに水を飲み始めた。
ゴローは軽く太郎の頭を撫でるとカウンターに戻り食事の準備を始めた。
華子と少年の前にハンバーガーとサラダのプレートが並ぶと、少年が思い出したようにゴローに言った。
「そうだゴローさん、こいつ華子っていうんです」
「はじめまして、こんにちわ。あ、ハンバーガーとっても美味しいです」
華子は食事に夢中になっていたので慌てて口の中のハンバーガーを飲み込んでゴローに挨拶をした。
「そう、それはよかった。でもまさかお前がトリップに彼女を連れて来るとは思わなかったよ」
ゴローが二人を交互に見ながら微笑んだ。
「違います!」「違うよ!」
一瞬の間があったが、ほぼ二人同時に否定するとゴローは「あれ、違うの?」と意外な顔をして聞いた。
「こいつが勝手についてきただけだよ」
「そうなんだ?」
「あら、おじさまの許可はちゃんと取ってるんですよ」
華子は少年の父親との約束を守ることを条件にトリップを許された経緯を話し、
だから勝手についてきたわけではないとゴローに説明した。
少年は不服そうだったが、これから入るポイントのことに話題を変え、華子にはよくわからない地形やカレントなど
最近の状況をいろいろ質問していた。
「そろそろ行こう」
華子と太郎に声をかけ、ゴローに挨拶すると少年は立ち上がった。ゴローとは後で海で落ち合うらしい。
その様子を見ていた太郎がワンとひとつ吠え早く行こうとばかりに尻尾を振っていた。

33 :

ポイントの海岸の前にある小さな駐車場にワーゲンバスを止めて着替えると浜に出た。
その海岸は全長300mにも満たない小さな浜だった。華子がまず目を奪われたのは海の青さだった。いつも入っている
あの海岸とはあきらかに水の透明度が違うのが一目でわかった。そして浜の砂はまるで漂白したように白く、海の青さと
そのコントラストがよりいっそうその海岸を美しく見せていた。
華子は初めての場所に興奮しながら目の前に広がる海を見渡しストレッチを終わらすと海へ入ろうとした。
「待て!」
「なによ?」
「ここに座れ」
まだ海を眺めていた少年が自分の隣りを指して言った。
「早く入ろうよ」
「焦るなよ。お前ここ初めてだろ?いいから来いよ」
華子は素直に少年の横に座ると波質や潮の流れなどの注意点を聞いた。
「ここの波、見た目より速いしパワーがあるからあんまりなめるなよ」
「うん、わかった。じゃあ行こう!」
少年と一緒に沖を目指しパドルアウトしていく。
時折、ふり返ると浜にちょこんとお座りをしている太郎がじっとこちらを見つめていた。

34 :

太陽が昇り真夏を思わせるような陽射しがじりじりと照りつけていた。華子は不機嫌な顔で
波待ちをしている。何に対して腹がたっているのだろう。自分に問いかけてみたがそれは華子自身にも
よくわからなかった。
最初のラウンドでは一度も乗ることができなかった。
一本目の波で酷いパーリングをして嫌というほど巻かれたことが華子に恐怖心をもたらし、
その後の波に対してどうしても突っ込むことができなかったのだ。
少年に一度上がるぞ、と言われ少年がセットをつかまえて岸まで戻るのを恨めしそうに見ながら
華子はボードに俯せになりスープに運ばれた。
二人が上がってくるのをどこかで見つけた太郎が嬉しそうに駆け寄ってきた。
駐車場で太郎に水とドックフードあげて、華子はチーズ味のカロリーメイトを少年と食べながら
海を眺めていた。
「パーリングしたら恐くなって乗れなかったよ」
「そうか」
「うん」
「あのな華子」
少年が華子の顔を見て呼びかけた。
「サーフィンって技術が無ければ波に乗れないけど、技術だけでも波に乗れないんだと思うんだ」
「どういうこと?」
「お前はそれほどサーフィンが上手いわけじゃないけど、初めて会った頃よりもどんどん上達してるし
女にしては根性もある。技術的には乗れない波じゃない」
「うん」
「だけど乗れないんだろ?」
「うん」
「何でだと思う?」
「わかんない。でもいつも乗ってる波と違うからかなあ?」
「考えてみろよ。もともと同じ波なんてひとつもないはずだぜ」
少年に言われてその通りだと思い納得した。

35 :

「いいか?これは分かれ道だ。波に乗って前へ進むのか、波に置いていかれてそこに残るのか、のな。
華子はどっちの道へ行きたいんだ?」
「前へ進みたいよ」
「そうだろうな。でも進んだ先に何があるのか行ってみなければわからない。最高のフェイスが
あるのかもしれないし、最悪のワイプアウトが待ってるかもしれない。でもな華子、それは行った者に
しかわからないことなんだ」
少年が何を言いたいのかすべてわかったわけではなかったが、それが知りたければ乗るしかないのだと
いうことだけは華子にも伝わった。
お前はしばらくここで俺たちが乗るのを見ていろと言われ、ゴローたちと合流した少年は華子を
残して再び沖を目指してパドルアウトしていった。
木陰で太郎と並んで海を見ながら、少年がテイクオフするタイミングを何度も自分に置き換えてイメージした。
「太郎見ててね。じゃあ行ってくるよ」
しばらく海を見ていた華子は太郎の頭を撫でて、海にダイブすると沖を目指してパドリングを始めた。
最初のパーリングの恐怖心は消えてる。大丈夫乗れる。わたしは前へ進むんだ。心でつぶやきながら、
華子は比較的人の少ない場所にポジションを決めるとセットを待った。

36 :

沖から強い陽射しを反射させながらゆっくりとうねりが入ってくるのが見えた。華子はピーク寄りに
移動しながらタイミングを計った。しだいにうねりはどんどん盛り上がりパドルのスピードを最大限にする。
一気にテールが捲り上げられ、まるで逆立ちをしている錯覚にとらわれると水面は垂直に感じられるくらい
急激な斜面に見えた。そのときだった。最初の恐怖心が甦り華子は再び波に置いていかれてしまった。
「やっぱり乗れない。これじゃあ繰り返しだよ」
華子はどうしても拭い去れない恐怖心と戦いながら不機嫌に呟いた。
「どっちの道へ行きたいんだ?」少年の言葉を思い出した。
「絶対乗ってやる。もう置いていかれるのは嫌だよ」
華子は再び強く思うと岸をふり返った。さっきまで座っていた木陰に太郎が小さな点になって見えた。
試しに大きく手を振ってみると太郎はむっくりと起きだしてワンと吠えたように見えたが声は聞こえなかった。
「太郎にはわたしが見えるんだ」
華子は見ててね、と呟くと再びやってきたセット追いかけてパドリングを始めた。
うねりに合わせてパドルのスピードを徐々に加速させていく。しだいにテールに波の力を感じて、
そしてそこから一気にテールが捲り上げられる。「ここだ!」華子は思った。
これが少年の言う分かれ道なのだ。ここで引き返すのか、前へ進むのか。
目の前のフェイスが完全に見えなくなると華子はさらに体勢を低くしてパドルを続けた。
次の瞬間、ボードが推進力を得て走り出すのがわかった。素早く立ち上がると真っ逆さまに落ちるように
ボードはフェイスを滑降し始めた。

37 :

華子はそのスピード感に戸惑ったが、あっという間にボトムまで降りてしまうと反射的にレールを
入れて深いターンをきった。
背後に迫っていた分厚いスープから逃れると目の前には数十メートルは続くフェイスが広がっていた。
まるで夢を見ているようだった。なんてキレイなフェイスなんだろう。
そう思った瞬間時間が止まったように波の細部まで体に感じ取ることができた。
華子は無我夢中でフェイスを走り抜けた。インサイドまで来るとようやく余裕ができ弱いスープに
コースターをかけると脱力したように海面に倒れ込んだ。
再びエントリーしようと沖を振り替えると、少年やゴローたちが大きく手を上げて「やったな」という
ジェスチャーを送っていた。
誰も自分のことなど気にしてないと思っていたのに、ちゃんと見ていてくれたことが華子には嬉しかった。
浜から太郎の声が聞こえた。気がつくと波打ち際で嬉しそうに尻尾を振って吠えている。
華子は沖へは戻らず太郎のもとへ駆け寄った。
「乗れたよ!太郎」
太郎を抱きしめるとハフハフと顔を舐められたが、海水が塩辛かったのかゴホゴホと咳き込んで逆に顔を
背けられてしまった。
「行った者にしかわからない」
少年の言葉が甦った。
華子は経験したことのない掘れた波に恐怖心を覚えたがようやく乗ることができた。その過程を経て
少年の言いたかったことが何だったのかようやくわかった気がした。

38 :

太陽が傾くまでサーフィンを楽しんだ華子と少年はまだ僅かな明るさが残る夕暮れどきの海を見ながら、
ゴローが店の前に設えてくれたテーブルでビールを飲んでいた。
時折、涼しい海風が二人の間を通り抜けていく。アルコールが入ると全身に心地よい疲れが広がり、
華子はなんとも言えない幸福感に包まれていた。
「ねえ、今日はありがとう」
「なんだよ」
「うん、なんとなくね」
「なんだそれ?」
「別にいいでしょう。そんな気分なの」
華子は足元で伏せっている太郎の頭を撫でながら言った。
どこまで行けるのだろう。まだ先は見えなかったが今日のサーフィンでほんの少しだけ前へ進めたと思った。
しばらくするとゴローがパスタやピザなど普段店にはないメニューを運んでくれた。
三人で食事をしながら会話をしていると、少年とゴローが華子の知らないポイントの話を始めた。
「あそこは最近ちょっと雰囲気悪いんだ」
「そうなんだ?」
「うん、最近人が増えてきてローカルがピリピリしてるんだよね」
「じゃあ、やめとこうかな。こいつも一緒だし」
少年は華子を見るとゴローに問いかけた。

39 :

「よっぽどのルール違反をしなければ平気だと思うけど。人が増えると摩擦も生じるからね。
なんとなく余所者をよく思わないって人間どこにでもいるだろ?」
微妙な海岸の向きで、うねりが入りやすくボトムも完全なリーフなので風が合えば最高のブレイクを
堪能できるだけに、最近では人も増えてトラブルが多くなっていると、ゴローは隣町にあるポイントのことを
説明してくれた。
最高のブレイクということだけがインプットされた華子は少年にそのポイントに行きたいと頼んだ。
「そうだな、まあ波次第だろうな。明日様子を見てから決めよう」
今晩はゴローの家に泊めてもらい明日も同じポイントに入ってから、次の場所に移動すると少年は言った。
「次はどこへ行くの?」
華子が聞くと少年はにっこり笑いながら言った。
「南さ」

40 :
キタ━(°∀°)━ !!!!!
「南さ」www

41 :

slowmusiclistenning
and
morebeer
肴is
surfergirlhanako and dog is taro
brandnewman
thaksyou

42 :

「南さ」にツッコミが入るのはこれが初めてというわけではなかったのでストーリーを進行させようと華子は思った。
夜になりゴローの家に行くと華子のために一部屋空けてくれたので、そんな気遣いは必要ないと固辞したが
一応、女の子なんだからとゴローに押し切られてしまった。
華子は好意に甘えることにしておやすみなさいと挨拶をすると部屋に引きあげた。
客間にひいてある布団にごろんと寝転んで目を閉じると自然と昼間の波がフラッシュバックした。
それは半分夢を見ているような心地よい気分で、やがてそれが完全に夢と同化すると華子はゆっくり深い眠りに
落ちていった。
翌朝、華子は胸のあたりに重みを感じて目を覚ました。外はすでに明るく家の中は静まりかえっている。
「ウ〜ワンッ」
太郎が華子の胸のあたりに前足を置いて見下ろしていた。
「太郎、重いよー」と言いながら寝返りをうつと今度は頭を足でつつかれ、たまらず華子はむっくりと起きあがった。
窓を開け放ち深呼吸しながら大きく伸びをした。全身には気怠い疲労感があったが爽快な朝だった。
まだぼんやりした頭で見慣れない風景を眺めていると不意に何かひっかかるものを感じた。
「あー!ワーゲンバスがない!」
華子はダイニングルームに駆け込むと無人のテーブルの上に少年の書き置きが残されているのを見つけた。
「8時には戻る。ドックフードあげといて」
「いやーっ!なんでもっと早く起こしてくれないのよ」
太郎をキッとにらむと、太郎はきょとんとした顔をしてワンとひとつ吠え、早くメシにしてくれと催促している
ようだった。
「わかったわよ。お腹がすいたからわたしを起こしたのね」
太郎にドックフードと水を与えると、華子は洗顔を済ませTシャツとジーパンに着替えた。
時計を見ると7時を少し回ったところだった。今頃少年とゴローはサーフィンを楽しんでいるのだろう。
置いていかれたことに腹が立ったが、時間が経つにつれ何度も揺り起こされた記憶が甦ってきた。
少年は何度か華子を起こしたのだが、最後は諦めてゴローと二人で出かけたのだった。

43 :

キッチンにコーヒーメーカーと挽いた豆を見つけたのでコーヒーを入れるとダイニングに香ばしい匂いが広がった。
コーヒーを飲みながらだんだんと目が覚めてくると、このままぼんやり二人を待っていても仕方がないと思い
ドックフード食べ終わり伏せっている太郎に向かって言った。
「よし、散歩に行こう!」
太郎にリードを付けると、ゴローの店の裏手にある家から出て海沿いの国道をぶらぶらと歩きだした。
陽射しはすでに真夏のような強さだったが、まだ時間も早かったので朝の凛とした空気が残っている。
すでに近くの海岸にはたくさんのサーファーが出ていた。
華子と太郎が日陰を探して砂浜に座り海を眺めていると、ちょうどセットを乗り継いで
インサイドまできたサーファーが上がってくるところだった。
おそらく地元のサーファーと思われる男と目が合ったので、華子が「おはよう」と言うと見慣れない女と犬が
珍しかったのかそのサーファーも挨拶を返して話しかけてきた。
「どっから来たの?」
「今はあそこから」
華子はゴローの店がある方向をさして言った。
「あのハンバーガーショップ?」
「うん、わたしの友だちが知り合いでお世話になってるの」
「そうなんだ。あそこのマスターもサーファーだけど、君もサーフィンするの?」
「うん、今友だちとトリップに来てるんだ。ゴローさんのこと知ってるの?」

44 :

人の良さそうなその男に華子が聞くと、それほど親しいわけではないがこの辺りの人間はだいたい顔見知り
だと言った。
寝坊して置き去りにされて太郎と散歩に出た経緯を話すと男は大きな声で笑い、いつまで滞在してるのかと聞いた。
「今日はまだこの辺でサーフィンして明日には移動するの」
「そう。楽しいトリップになるといいね」
「ありがとう」
男が去ると華子と太郎は再び国道に出て散歩を続けた。しばらく歩いてると背後からクラクションが聞こえ
振り返ると少年とゴローが乗ったワーゲンバスが華子を追い抜いて止まった。
「なんだ散歩してたの?」
少年が運転席から顔を出すと言った。
「もうひどいよ。二人で行っちゃうなんて」
「これでも粘り強く起こしたんだぜ」
「まあ起きないわたしも悪いんだけどさ・・・」
文句は言ったものの太郎との散歩もまんざら悪くなかったので、まあいいやと思いながらワーゲンバスの
後部スペースに乗り込むとそのままゴローの家まで戻った。

45 :

真夏のような陽射しが降りそそいでいた。華子と少年を乗せたワーゲンバスは海沿いの国道を
南下している。
空に所狭しと沸きあがる真っ白な積乱雲を見ながら、数日中には梅雨明け宣言が出るだろうという
少年とゴローの会話を華子は思い出していた。
朝の散歩からゴローの家に戻った華子たちは、朝食を済ませると昼までゆっくりと過ごした。
午後から次のポイントに移動するために荷造りを終えゴローと再会の約束を交わすとワーゲンバスに
乗り込んだ。
「今日はどこか良さそうなところでもう1ラウンドやろう」
少年が言うと、華子は昨夜聞いたリーフポイントに行ってみたいと頼んだ。
「そうだな。それほど遠くないし行くだけ行ってみるか」
午後から風が変わり弱いサイドオンが吹いていたがフェイスにはそれほど影響がなさそうだ。
ゴローのところを出てから約40分程走ると目的のリーフポイントに到着した。
「太郎おいで」
ポイントに着いてサイドドアを開けると華子に呼ばれた太郎がワーゲンバスから飛び降りた。
太陽は少し西に傾きかけていたが陽射しはまだ衰えず、チリチリと肌に射すような痛みを感じながら
華子は眩しさに目を細めた。
また夏がすぐそこまで来ている。訪れたと思うとあっという間に過ぎ去ったいくつもの夏たちを
華子はぼんやりと思い出していた。
太郎を連れて少年と波のチェックに海岸に出た。サイズのほうはあまりなかったが腰から胸サイズの
形の良い波が割れている。少年は何かを考えているようだったがしばらくすると「入るぞ」と言い
ワーゲンバスに戻り着替えを始めた。
「いいか?あたりまえだけど、ここじゃルール違反は厳禁だからな」
海岸に出てストレッチをしていると少年が言った。
「うんわかった。人も少ないし大丈夫だよ」
「そうだな、ただポイントブレイクだから無理すんなよ」
海を見渡しながら少年の説明を聞くと華子は頷いた。メインのピークが海岸の正面に一つあり
7、8人のサーファーが疎らに入っていた。うねりの角度でメインがずれるとその両サイドのミドルが
ブレイクするというサイクルを見て、少年はメインを外してサイドで入ろうと言った。
ミドルポジションで波待ちをして浜を振り返ると太郎が日陰にうずくまりこちらを見ていた。

46 :

華子はメインから外れたうねりを見つけるとピークを追いかけてテイクオフした。形のいい三角波を
アップスでインサイドまで乗り継ぐとプルアウトした。
なんて気持ちの良い波なんだろう。華子は顔がほころぶのを我慢して再びミドルのピークに戻った。
少年も小ぶりの波ながらリッピングを繰り返しスプレーを飛ばしている。今回のトリップでテストする
ためにオーダーしたというボードは調子が良さそうだ。華子は少年のライディングを見て上手いなと
改めて思った。
しばらくするとセットが入らなくなり波待ちする時間が増えてきた。やはりメインを外しているので
波数は少ないのだ。華子は少年と並んで波待ちをしているとメインにいるサーファーから時折鋭い
視線で見られていることに気がついた。
「ねえ、なんか睨まれてるよ」
「そうか?目が合ったらにっこり微笑んでやれよ」
「わかった。そうする」
「馬鹿、冗談だよ。一応さっき軽く挨拶はしたんだけどな」
華子はなぜ睨まれているのかよく理解できずにいると、メインにいたサーファーがミドルまで乗り継いで
プルアウトすると華子たちの方にパドルで近づいてきた。
一瞬、少年が身構えたのがわかったが近づいてきた男が笑っているのを見るとすぐに緊張を解いた。
「やっぱり君かあ。ここで入ってたんだ」
華子は話しかけてきた男が今朝散歩の途中で会ったサーファーだということに気がついた。
「あ、こんにちわ。すごい偶然!」
「ほら浜にいる犬が見えてさ。もしかしたらって思ってね」
男がいうには太郎は印象に残る犬だったらしい。少年に男と会った経緯を話すと互いに挨拶を交わした。
男はシローと名乗ると地元はどちらかというとこのポイントの方が近いのだと言った。
「でも君、上手いね。アウトから見ててもわかるよ」
シローが言うと、少年はまだまだそんなことはないと謙遜した。
「駄目だよ。そんなに誉めると調子に乗るから」
「ったく。おまえが言うなよ」
「そうねえ。確かにサーフィンは上手いけど、男としてまだまだって感じ?」
「そういうおまえはサーフィンも女としてもまだまだジャマイカ?」
二人の様子を見ていたシローは、君たちはいいコンビだねと大笑いをした。

47 :

先に上がるというシローと別れ二人になるとまたしばらく波待ちが続いた。そろそろ上がるか?という
少年にあと少しだけと華子は頼んだ。最初に乗った波の気持ち良さが忘れられずどうしてももう一本
乗りたかったのだ。
そんな華子の願いが通じたのかアウトからセットが入ってくるのが見えた。メインにいるサーファーたちも
一斉に動きだした。ワイド気味のセットでピークがはっきりしなかったがサイドでもブレイクしそうな
サイズで華子も波を追いかけるとテイクオフした。
スピードに乗り一気にフェイスを走り抜けた。パワーゾーンを外した華子は、カットバックして
戻りきれずにもたついているところに「おいどけ!」という怒鳴り声を浴びせられた。
背後からの怒声に驚いてバランスを崩しワイプアウトすると何かが当たった衝撃を感じた。
ボードが体を掠めたようだったが痛みはなかった。海面に上がると男のサーファーが自分のボードを
引き寄せてるのが見え、華子はようやく他のサーファーとぶつかったことに気がついた。
「テメー何やってんだ?」
「すいません」
「すいませんじゃねえよ。邪魔なんだよ。ルールも知らねえなら上がれ!」
華子は男に怒鳴られてもただ謝るしかなかった。
「なあ、あんた今わざと突っ込んだろ?」
気づくと少年がすぐ近くまで来ていた。
「なんだお前は?」
「こいつの連れだけど。確かにもたついてたこいつも悪いけど、そこに突っ込むのはやりすぎだぜ」
「もたついてる女を避けるほど暇じゃねえよ。ケガしなかっただけありがたいと思え」
「ふざけるな!」
今まで口喧嘩を何度もしてきたが少年がこれほど感情を露わにするのを初めて見た。
「なんだやるのか小僧?いいから上がれ」
喧嘩はやめてと言ったが、どうせ上がろうと思っていたところだからちょうどいいだろうと少年は言うと
ケガはないかと華子に聞いた。
「うん、だいじょうぶ。それより喧嘩はしないで」
「心配するな。喧嘩なんてしないから」

48 :

華子と少年が浜に上がると男はすでに仁王立ちになり二人を睨みつけていた。
華子の不安な表情に気づいたのか、浜に上がった二人を見つけた太郎が嬉しそうに尻尾を振っていたが
少年の視線の先にいる男を見ると小さく唸り声をあげた。
少年は男に向かって歩き出したが、男との距離がなくなりそのまま素通りすると駐車場へ向かった。
「おい!待て」
怒りで歪んだ男の顔を振り返ると少年が言った。
「俺たち上がるからさ、文句があるなら駐車場来いよ」
「ざけんじゃねえぞ小僧!」
男が太郎に掴みかかろうとした瞬間、華子の視界の隅をもの凄いスピードで走り抜ける太郎が見えた。
太郎の吠える声に驚いた男の動きが止まった。太郎は男に牙を剥きだし低い声で唸り威嚇している。
少年は太郎と華子を交互に見ると、行くぞと言い再び歩き出した。華子は小走りで前を歩く少年に
追いつくと少年の手を握った。少年はにっこり笑うと心配するなと言い軽く華子の手を握り返した。
華子は恐る恐る後ろを振り返ると太郎がまだ男を威嚇しておりその迫力で男は動けずにいた。
「太郎おいで」
声をかけると太郎は男を警戒しながら威嚇を解いて華子の足元に駆け寄った。
駐車場に戻りワーゲンバスにボードを積み込んでいると先程の男が華子たちを見つけ近づいてきた。
男に気づいた太郎がまた小さく唸り声を上げると、少年はストップ、ステイと太郎をなだめた。
太郎が大人しくしているのを見た男は、自分の板を差し出しながら言った。
「おい、板壊れちまったよ。どうしてくれる?」
「その程度なら自分で直せばいいだろ」
男のボードのレールに僅かなクラックが入っているのを見た少年は何事もなかったように言った。
「それにあの状況なら充分避けられたはずだ。それをしなかったあんたにも問題がある。たまたま
こいつがケガをしなかったからよかったが、"どうしてくれる?"じゃ済まないのはこっちの方だぜ」
少年は華子見ながら男に言った。華子は少年の怒りがまたぶり返しているのがわかり不安を感じて
少年と男に割って入った。

49 :

「板壊しちゃってごめんなさい。わたしまだ下手だから気がつかなくて・・・」
「なあ華子、こいつの板が壊れてるってことはおまえの板もたぶんいってるぞ」
少年は割って入った華子にもう謝る必要はないというと逆に男を睨みつけた。
「まったくいちいちムカツク小僧だな。まあいいや修理代置いてけ。それでチャラにしてやる」
にやついた顔で金を要求する男を見た少年は、こいつは常習犯だと確信した。
「あんた馬鹿か?この状況で金なんか出すわけないだろ。こんなセコイ小遣い稼ぎはやめて
地道にバイトでもしたほうがいいぜ。サーファーがあんたみたいなクズばかりだと思われるのも困りもんだからな」
男の表情が凍りつき見る見る怒りで赤くなると少年に殴りかかってきた。男の拳が少年の顔を殴打した。
殴られた少年は尻餅をついて切れた口元を手で拭いながら、今にも男に飛びかかろうとしている太郎に
ステイ!と強い口調で押さえた。
烈火のごとく吠える太郎に怯み男はそれ以上手が出せないでいる。華子は少年を庇うようにしゃがみこむと
男を見上げて睨みつけた。
「おい、何をしてる!」
華子たちの後ろから違う男の声がした。振り返ると先程別れたシローが立っていた。
シローは少年に近づくと傷の具合を見て大丈夫か?と言い、相手の男に向かい合うと事の成り行きを聞いた。
「何を揉めてるんだ?この二人は俺の知り合いだ。
この前、ビジターとの暴力沙汰は御法度だと言わなかったか?」
「先輩、俺だってこんな小僧殴りたかないですよ。こいつは口で言ってもわからないやつみたいなんでね」
シローと男は顔見知りらしいが、友好的な関係ではないと華子はすぐに感じた。
「シローさん、わたしがその人の邪魔をしてぶつかっちゃったんです」
華子はとにかくこの場を早く収めなければならないと思った。
「そうなの?それでなぜ彼が殴られているんだい?」
「あの・・・その人がボードの修理代出せって。そしたら逆に彼が怒って・・・」
シローは全て合点がいったという顔になり、ここは任せて君たちはもう行きなさいと言った。
「先輩、勝手に仕切るのカンベンしてよ。実際被害被ってるの俺なんだからさ」
男はシローの後輩らしいが、そのぞんざいな口振りにはあきらかに敵意が込められている。

50 :

気がつくと騒ぎを聞きつけたローカルらしいサーファーたちが集まり始めていた。
華子は遠巻きにこちらを窺うサーファーたちの刺すような視線を受けながら、みんな男側の人間だとわかり
絶望的な気分になった。
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
頼みのシローと男の睨み合いが続くなか、ふいに空気が変わるのがわかった。
「うぉい、何やってんだおめーら」
「あ、サブローさん、ちわっす」
二人を取り巻いていた男たちが口々に挨拶をしている。シローもおずおずと挨拶すると、
サブローと呼ばれた男は華子から少年へと鋭い視線を巡らせた。
見るからに地元のボスという風貌のサブローに睨まれた華子は、シローも頭が上がらない存在だと
いうことがわかりさらに悪い状況に陥ったことを知った。
するとサブローの登場でシローと睨み合っていた男の顔がぱっと明るくなり、子供が親の庇護を
求めるかのように揉め事の経緯を自分の都合のいいように嘘も織り交ぜて説明して聞かせた。
華子はその勝手な言い分を聞いて反論しようとすると、そっとシローに手を添えられ止められた。
サブローはあまり興味なさそうに話を聞きながらワーゲンバスに目を止めると車の周りを歩き始めた。
「サブローさん、そういうわけなんっすよ。サブローさんも普段から余所者はきっちり教育しろって
言ってるじゃないですか?」
「うぉい」
変な唸り声を出しワーゲンバスを一周したサブローは華子と少年の前に来ると、伏せっている太郎を
見つけ頭を撫でながらぶつぶつと小さな声で呟いた。
「久しぶりだなワン公」
驚いたことに尻尾を振っている。太郎はこの男を知っているのだろうか?
そんな疑問を抱いているとサブローは少年の顎を掴み殴られた傷痕を見つけると男を振り返り
お前がやったのかと聞いた。
「いや、その小僧が生意気でいうこと聞かなかったもんでつい・・・」
サブローに睨まれた男の語尾は消え入るように小さくなった。

51 :

「俺も暴力沙汰は起こすなと言ったはずだ。まあいい。おめーの板はハチローのショップにでも
放り込んどけ。それでいいな?」
シローも頭が上がらないサブローを味方につけたと思っていた男は、不満そうに何か言おうとしたが、
男が口を開く前に騒ぎを聞きつけた仲間らしい男がいきなりその男の頭を殴りつけた。
「ぐは!」
男はうずくまり頭を押さえて動けないでいる。
「サブローさん、すいませんでした」
「おお、ハチローか。こいつの板おめーのとこでちっと直してやれ」
「わかりました。俺もこいつには騒ぎを起こすなって言ってたんですが」
ハチローは仲間に男を連れていくように言った。シローにも詫びているようで、華子と少年には
すまなかったね、と謝った。
「君の板も壊れてるんじゃない?だったらうちのショップで見てあげるよ」
ハチローは華子に言うと、少年が傷にはなったがリペアするほどではないとハチローに礼を言った。
事態は収拾したようだが、華子には何が起こったのかよくわからず太郎の頭を撫でているサブローを見た。
サブローは太郎から離れると凄みのある顔で笑うと少年に向かって言った。
「おい坊主、親父さん・・・イチローさんは元気かい?」

52 :
ハチロー、シローサブロー、イチロー・・・○○ローがスキネw

53 :
(*´Д`)続きカモン

54 :
おそ松くん
で、いいぢゃん( ̄▽ ̄;)一郎、次郎、三郎・・・

55 :
ジロー、ロクロー、シチロー、クロー、ジュウロウ、トイチロー、トジロー
トサブロー、トシロー、トゴロー、トロクロー、トシチロー、トハチロー、
トクロー、ニトロー、ニトイチロー・・・疲れた

56 :

「ねえ大丈夫?痛くない?」
華子は心配そうに少年の顔を覗き込んだ。少年は大したことはないと言ったが殴られた口元に
触ると顔を歪めた。
サブローやシローたちローカルも帰り駐車場には華子と少年が乗るワーゲンバスが一台停まって
いるだけだった。太郎はお座りをしてじっと海を見つめていた。
昼間の灼けるような太陽は消えかけ辺りは真っ赤に染まりながら、夜の訪れを告げる藍色の
グラデーションが徐々に押し寄せていた。
昼間の揉め事で、サブローに父親のことを聞かれた少年は一瞬何を言われているのかわからず
ただ頷くことしかできなかったが、その意味を理解すると親父のことを知っているのかと尋ねた。
「このバス、まだ生きてたんだな」
サブローは少年の質問には答えず、ワーゲンバスのボディにペイントされた「ICHIRO'S FACTORY」
という消えかけたローマ字を懐かしそうに眺めた。
「これを見たときもしやと思ってな。おまけにあのワン公だ。それにお前はイチローさんによく似ている」
サブローは、お前の親父には恩があるとだけ言った。
そしてまたここでサーフィンをするときは自分に連絡をよこせと。
「次は俺と一緒に波乗りをしよう」
サブローはイチローにどんな恩があるのだろうか。華子は帰ったら少年の父に聞いてみようと思ったが、
イチローもまたその理由は話してはくれないような気がした。
しだいに暮れていく海を見ながら今夜はどこに泊まるのか少年に聞いた。ここからそれほど遠くない
場所にモーターキャンプ場があり、今夜はそこでキャンプを張ると少年は言った。

57 :

オートキャンプ場に着くとまだシーズン前のためか数組のキャンパーがいるだけだった。
華子と少年はキャンプ場の簡易シャワーを浴びると夕食のメニューで喧嘩することになった。
少年がクーラーボックスからパックのライスとレトルトカレーを取り出すのを見た華子は、
キャンプ場と聞いてすっかりバーベキューでもするものだと思い込んでいたからだった。
「あのな、いいか?俺たちはサーフトリップに来てるんだ。キャンプに来たわけじゃないんだぜ」
「でもせっかくキャンプ場にいるのに。お肉食べたいお」
「っていうか肉なんて積んでないし。肉食いたいなら明日どっかのファミレスでも行けばいいだろ?」
「そうじゃなくて。キャンプ場で食べたいんだもん」
華子たちのやり取りを聞いていたのか隣りにいたグループの女が笑いを堪えながら二人に近づいてきた。
「ねえ、よかったらこっちで一緒にどう?それからそのワンちゃんも」
「えーいいんですか?」
華子は少年が何かをいう前に腕を引っぱり太郎にも手招きすると隣のグループに合流した。
少年もすいませんと言いながらバーベキューの輪に加わった。
食事を終えるとキャンプ場の中心にある焚き火のスペースにそれぞれのグループが集まっていた。
華子と少年もそのスペースに座り、一緒にバーベキューをしたグループに混ざり酒を飲んでいた。
「ふうん、二人でサーフィン旅行か。なんか素敵じゃない」
華子たちに声をかけた女が言った。
「ところであなた、その顔どうしたの?」
すっかり紫色の痣に変わっている少年の顔を見て女が聞くと少年はちょっとサーフィンでやっちゃって、
と誤魔化した。
時間が経つにつれ焚き火の周りには思い思いの時間が流れていた。どこかのグループの男がギターを
持ち出しレゲエの旋律を奏でている。
酔っているのか少年は気持ち良さそうにリズムを取っていたかと思うとふいに華子を抱き寄せた。
華子はどきっとして少年を見ると、少年はおかまいなしに華子の背中にまわした指でリズムを取り
続けていた。華子は少年に体を預けると横で眠っている太郎の頭をそっと撫でた。

58 :

焚き火がしだいに小さくなり、今夜の宴が終わりを告げるとそれぞれのグループが火の後片付けを始めた。
華子も片付けに参加していると、少年は太郎を連れて先に行ってると言うとワーゲンバスに引きあげた。
すべて片付けが終わってしまうとキャンプ場はさっきまでいた場所とは思えないほど違う世界に変わった
ように思えた。
それはまるで訪れては去っていく夏のようないい知れない寂しさに似ていた。
華子は不意にどうしようもない孤独に包まれ、さっきまで少年に肩を抱かれていた温もりを思い出した。
しんっと暗く静まり帰ったグランドを一人歩きワーゲンバスに戻ると少年はすでにバスの後部スペースで
寝袋にくるまっている。太郎もキャンピングシートに寝そべり眠っていた。
開け放されたドアからバスに乗り込み、少年の横に寝袋をひいてもよほど疲れているのかまったく
起きる気配がなかった。
華子は横から少年の寝顔を覗き込むと口の横にできた紫色の痣に触れてみた。まだ少し熱を持っている
ようだ。
華子はその傷跡にそっと唇を当てた。少年の熱が華子の唇にも伝わってくる。
そして顔を少し逸らすと熱を帯びた口元とは対照的にひんやりとした少年の唇に触れた。
ほんの数秒の間少年とキスを交わすと顔を離した。華子は少年を見つめ、おやすみと小さく呟くと
寝袋にくるまった。
目を閉じると漆黒の闇が頭の中に流れ込んできた。華子はすぐに眠りの淵へとたどり着き
やがて深くゆっくりと落ちていくのがわかった。

59 :
前スレではココまで読んだ。
新作君乙!

60 :
>>59
次回作は前作以上に期待していいんすね?
と、プレッシャーをかけてみる。

61 :
>>55


ゴクロー( ̄▽ ̄;)!

62 :
ハゲ

63 :

寝返りをうつと隣で寝ていたはずの少年が消えていることに気づいた。夜はすでに明けており
外にはうっすらとミルク色の靄がかかっていた。
華子は少年の姿を探すと太郎もいないことに気づいた。どこか散歩に出かけたのだろうか。
外に降り立つとひんやりとした空気に一瞬身震いしてパーカーを羽織ると辺りを見回した。
昨日はこのキャンプ場に着いたのが夜だったので気がつかなかったが、周辺には低い山が連なり
高度も多少はありそうだった。
キャンプ場の奥まで歩くと柵が作られておりその先には鬱蒼とした森が広がっていた。
そして木々の間からは朝日を浴びた海が遠くに見渡せた。
「ワンッ」
海を眺めていると太郎が駆け寄って華子にじゃれついた。
「太郎、おはよう。ご主人はどこにいるの?」
太郎の頭を撫でながら聞くと朝靄の中から少年が姿をあらわした。
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。わたし寝袋で寝たの初めてだけど割と快適だったよ」
「そうか。それより美味い水を汲んできた。朝飯にしよう」
森の先には清流があるらしい。少年は水が入ったポリタンクを持ち上げ華子に言った。
キャンプ場の炊事場に着くと、少年は飯ごうで湯を沸かしコーヒーを入れて、レタスにトマト、
ハム、チーズを豪快に挟んだサンドイッチを手早く作った。華子はその間に太郎にドックフードと
汲んできた水を与えた。
「ねえ、傷の具合はどう?」
食事を済ませ二杯目のコーヒーを飲みながら、痣が残る少年の顔を見ると華子は言った。
「もう痛みはほとんどないから大丈夫だよ」
「そう、よかった。わたしのせいでゴメンね」
「別に華子のせいじゃないよ。どちらにしろあの男は俺たちに絡む機会を狙ってたんだから」
「うん」

64 :

華子は頷くと会話を変えるように聞いた。
「ねえ、これからわたしたちはどこへ向かうの?」
「もしかして昨日のことで懲りた?」
少し不安そうな華子を見ると逆に少年が質問した。
「そういうわけじゃないけど。少しだけ恐いって思っただけだよ」
「そうか、でも安心しろ。昨日のポイントは特殊な方だから。
これから俺たちが向かうのは海岸線が何百キロも続くオープンな場所がほとんどだよ」
トリップでは良くも悪くもいろんなことが起こるから時にはナーバスになっても仕方がない。
でも俺たちはそういう旅をしてるんだから、どうしても無理だというなら今から帰ってもいいと少年は言った。
華子はトリップに出てから少年と太郎との過ごした時間を思い出してみた。すでに華子にとっては
かけがえのない記憶として脳裡に焼きついている。そしてその記憶の中からふと少年の言葉を思い出した。
「行った者にしかわからない」
そうなんだ、わたしは前に進みたい。その結果何が待ち受けていてもしても。
華子は自らの意志を確認すると少年に向かって行った。
「行くよ。前に進もう」

65 :
皆さま、こんばんわ。
前スレからおつき合いいただきありがとうございます。新作野郎です。
そろそろ終章に入ろうかと思いますのでもう少しおつき合いください。
進行は遅いのですが実は最近いつもこのストーリーばかり考えてます。
>>リリーさん
いつもありがとうございます。

66 :
あー!「言った」が「行った」になっているorz

67 :
ok!
lets go!
by real and slow and fan

68 :
最終章に期待!行った者にしかわからない世界に連れてイケ!

69 :
なるほど。行った者しか分からないか・・・。
いい響きだね!どんな世界が待っているのか、感情をそそられるね。
この後の展開も、明日の波同様に楽しみにするよw

70 :

natural is spiritual
it`s
so
beutiful
and
naturalmusic
so!
wavesound
no music no surf

71 :
>>65 いやいや、こちらこそ楽しみに読ませてもらっています。ありがとう。
「行った者にしかわからない」 ですか。いいフレーズですね。
完結するまで黙ってROMってようとしましたが、カキコしちゃってすいませんw
つか、今度書いている話は「潮のエッセンス」つーのが少なくて・・・・・
マズイかな〜?w
終章かんばって下さい。マッタリ読みます。

72 :
早く次は〜

73 :
thanks by age

74 :
保守

75 :

<第三章> 「別離編」
新しいポイントに移動してからすでに一週間が過ぎていた。
そこは長い海岸線にポイントが点在しており、毎日サーフィンをしながら少しずつ移動を繰り返した。
地元の海からどんどん離れ華子はなんと遠くまで来たものだろうと思った。そしてトリップに出てから
随分長い時間が過ぎたような気がした。
三日前に気象庁から梅雨明け宣言が出されたが、その途端天気は悪くなりはっきりしない空模様が数日
続いており波の方もいまひとつサイズが上がらず、風が入るとすぐにジャンクなコンディションになった。
今朝も海岸前の駐車場でワーゲンバスの中で目覚めると雨の降っている音が聞こえた。
時計を見ると午前五時になるところだった。少年はすでに海に向ったらしく、いつ入れ替わったのか隣りには
太郎が眠っていた。
華子は起きあがり傘を差して外に降り立つと、強い風と一緒に雨が吹きつけすぐに足元がびしょ濡れになった。
昨日から吹き続けている風はいまだに止まない。海に向かって歩き出すと太郎もワーゲンバスから飛び降りて
ついてくる。欠伸をしながら前足を突っ張って伸びをすると華子に追いつくように走り寄った。
空は鉛色の雲に覆われ辺りはまだ少し薄暗かったが、泡だつ海の白さだけが際だって見えた。
アウトを見ると辛うじて乗れそうなブレイクがいくつかあったがそれもすぐに崩れあっという間にスープに変わった。
太郎と並んで少年の姿を探したが、華子には数人しか入っていないサーファー中から少年を見分ける
ことができなかった。しかし太郎には少年が見えているのかオンショアが吹きつける海に向かって数回吠えた。
風と波が打ち寄せる音しか聞こえなかった。華子は一瞬、目前に広がる荒れた海が世界のすべてのように感じた。
太郎を傘の中に入れてしゃがみ込むとしばらく海を眺めていた。
これじゃあアウトへ出られない。それにあの速いブレイクでは乗ることはできないだろうと華子は思った。
もう少し風が弱くなったら入ろう。そう決めると太郎を連れて駐車場に引き返しワーゲンバスに戻った。

76 :

太郎をタオルで拭いてやりワーゲンバスに乗せると、振り返って再び海を見たがやはり少年の姿は見えなかった。
気がつくといつの間にか眠ってしまったらしい。太郎が動き回り踏みつけられて目が覚めた。
「もう踏まないでよ太郎ぉ〜」
華子はむっくり起き上がりワーゲンバスのドアを開けると太郎が外へ飛び出して行った。
辺りを見回すと雨はすでに止んでおりうっすらと太陽が出ている。
太郎の走っていく先を視線で追うと少年が海から上がり砂浜を歩いてくるところだった。
華子はクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出すとタオルと一緒に少年に渡した。
少年はスポーツドリンクを一気に半分程飲み干すとタオルで頭をごしごしと拭いた。
「ねえ、こんな波で乗れるの?」
少年が人心地ついたのを見ると華子は聞いた。
「うーん、あんまり乗れないな」
「そうだよね。わたし、出られそうもなかったから入らなかった」
「それが正解だな。でもこんな波でもそれなりに練習になるんだ」
「どんな練習?」
「根性つける練習、とか」
「ほんとに?」
「嘘」
少年は真剣に聞く華子を見ると大笑いしたが、華子が怒り出す気配を察知して慌ててつけ加えた。
「でも根性つけるというのはまんざら嘘じゃない。海は良い波のときの方が少ないからな」
波が良いときに乗れるのはある意味当然で、上手いサーファーほどコンディションが悪くてもそれなりに
乗りこなすものだと少年は言った。

77 :

「今日は夕方から風が変わる予報が出てるからそれまで町に出よう」
飲料水や食料がそろそろ無くなりかけていたので買い物も兼ねて近くの町まで行くことになった。
太郎にドックフードを与えると、近くのファミリーレストランに入りモーニングセットを頼むと町の商店が
営業を始めそうな時間まで粘ることにした。
窓際のボックス席に座りコーヒーを飲んでいると駐車場のワーゲンバスに繋がれた太郎が大人しくお座りを
しているのが見えた。
「ねえ、やっぱり将来はプロを目指すの?」
華子はモーニングセットが運ばれて無言で食べている少年に聞いた。それはトリップに出てからサーフィンに
対する少年の真剣さを目の当たりにして思ったことだった。
「そうだなあ、以前はそう思ってたけど親父に言われたんだ」
「なんて?」
「二番目に好きなことを仕事にしろって」
「一番目じゃ駄目ってこと?」
「うん、親父は昔シェーパーだったんだけど、事情はよく知らないが嫌気が差して辞めたらしい。
それで今は小さな出版社を経営している。サーフィンとは何の関係もない本を作ってるんだ」
「一番好きなことを仕事にすると純粋に楽しめないってことなのかもね」
華子はなんとなく少年の父親が言いたいことがわかる気がした。
「でもそれは俺の場合だからお前は好きにしろって親父は言っているけどね」
「じゃあまだ決めてるわけじゃないんだ?」
「プロは無理かもしれないけど、大学を出たらやっぱりサーフィンに近いところで生きていきたいとは思ってる」
少年は迷いのない眼差しで華子を見ると答えた。そして、ふと常々疑問に思っていたことを口にした。
「なあ華子、今まで聞いたことなかったけどお前って何してる人間なんだ?」

78 :
what are you job?
no!
I`m not get a job!
because
let`s enjoy surf

79 :
やば!

80 :
華子は・・・

81 :
かってに2なんか立てやがってぇーww
ただじゃぁーすまんぞ!

82 :
あげんなゴラァー
しにてぇかかす

83 :

テメー誰や??? おお??
誰の許可でやってんだ???
なぁーにが新作野朗だ?? 糞め!

84 :
何怒ってんだ?
許可が必要なのか?
教えてくれ

85 :
小林。。って誰よ、テメーは誰の許可もらってンのか!このタコ!
海で会ったら沈めて締めちまうぞ!この糞野郎!テメーは来るんじゃねーぞ!
プッぞ!

86 :
仕事をいかにサボるかと言う事です。

87 :

「それ仕事が何かってこと?」
華子は少し考えると少年に聞き返した。
「まあそういうことかな」
「」
「・・・マジかよ?」
「そんなわけないじゃん」
華子は少年が驚くのを見て笑い声を上げながら否定したが、すぐに表情が消えると素っ気なく言った。
「今は何もしてないよ」
「何も?」
「うん」
少年は話の続きを待ったが、華子はそれ以上何も言うつもりがないようだった。
「別に話したくなかったらいいけど、じゃあ以前は?」
華子は一瞬躊躇ったが視線を上げて少年を見た。
「絵の勉強。今でも一応学生だけどね」
少年はそれ以上聞くことが思いつかず黙っていると華子のほうから口を開いた。
「なんかね、いろいろあって何もかも嫌になっちゃったの。ほんとは辞めようと思ったけど
周りがとりあえず休学にしろっていうから籍だけ残してあるんだ」
「そうか」
少年は華子が美大生だったという意外な素性に少し驚いたが、まったく自分の知らない世界だったので
ただ相槌を打つことしかできなかった。華子に一体何があったのだろうか。ほんの一瞬考えてみたが
そんなことはわかるはずもなく、本人が話さないのなら聞く必要もないと思った。
「そろそろ町に出てみるか」
話を打ち切るように少年は言った。
外に出ると雨雲は完全に抜けて真っ青な空が広がっていた。太郎がワーゲンバスの影にうずくまっていたが
華子と少年の姿を見つけるとむっくりと起きあがり尻尾を振った。
少年は地図を広げて今いる場所を確認するとこの辺りかなと、これから向かう場所を指さして華子に地図を
渡しワーゲンバスのエンジンをかけた。

88 :

海沿いのファミリーレストランから市街地へ向けて走り出したはずだが、いつまでたっても田んぼと工場の
四角い建物ばかりが見える退屈な風景が続いた。高い建造物がまったくなかったので、いつの間にか沸き上
がった積乱雲が道路の真正面に見える。陽射しは急に強くなりアスファルトから立ち上った陽炎が遠くの
景色をゆらゆらと歪ませていた。
「ねえ、本当にこっちであってる?」
華子は地図を睨みながら少年に聞いた。
「なんだよナビは華子なんだから。こっちでいいんだろ?」
「えーわかんないよ」
「しょうがねーな。ちょっと地図かしてみ」
少年は正面を向きながら手を差し出すと地図を受け取り、器用にチラチラと見ると再び華子に地図を
放り返した。
「大丈夫、あってるよ」
しばらく走ると次第に住宅が増え、ぽつりぽつりと商店が姿を現わし商業地らしい場所に近づいて
いるのがわかった。
「おっ、あれだな」
少年はテレビCMで流れている大型ショッピングセンターの看板を見つけると言った。
「あそこで何でも揃いそうだな」
「駄目よ」
即座に華子は否定した。
「何で駄目なんだよ?」
「面白くないもん」
「はあ?」
「だって、せっかく知らない場所に来てるのにあんなところで買い物しても面白くないでしょう?」
ショッピングセンターがあるということは必ず商店街もあるはずだからそこで買い物をしようと華子は言った。
少年は文句を言いながらもしばらく周辺をワーゲンバスで走り、昔ながらの商店街を見つけるとワーゲンバスを停めた。
華子はワーゲンバスから太郎を降ろすとリードをつけて少年と一緒に歩き始めた。

89 :

「なんかタイムスリップしたみたいだな」
八メートル道路に面して立ち並ぶ古い商店を見渡すと少年が言った。
「でもなんか新鮮じゃない?」
「まあな」
歩道の上には小さなアーケードがあり町名のあとに「銀座」という文字が記されていた。
少年はその看板を見ると苦笑した。
まだ時間が早いせいなのか人の姿は全く見えず、それはまるで映画のセットのような不思議な印象を与えた。
「とりあえず一通り見てみようよ」
華子は太郎のリード引きながら嬉しそうに先を歩いた。
どこの店も開いているのだが店員の姿すら見えなかった。華子は昔読んだSF小説を思い出した。
それは宇宙人にさらわれて町の人間がみんな同時に消えてしまうというストーリーで、
少し不安になったが店内に入り声をかけると店主が出てきたので馬鹿らしいとは思いながらもほっとした気分になった。
それぞれの商店で買い物をすると、観光地でもない小さな町で犬を連れた若いカップルが珍しいのか
必ずどこから来たのかと聞かれた。華子が場所を言うと、
“ほぅそら遠くから来たねえ”と大体似たような反応が返ってきた。
「ねえあのお店行こうよ」
華子が指さした先には一軒の雑貨屋らしき店があった。店頭には麦わら帽子がいくつも吊り下がっている。
華子は麦わら帽子をひとつ手に取ると少年の頭に乗せた。
「ふふ、なんか似合うよ」
「そうか?まあ俺は何でも似合うけどな」
少年はウインドウに映る姿を見ながらまんざらでもないように言った。
「うん、ほんとに似合うよ」
「なんだよ、突っ込めよ」
少年は逆に照れながら言うと、視線を移し女物の少し小さめの麦わら帽子を見つけると華子の頭にポンと乗せた。
「華子もなかなか似合うぜ」
「えー麦わら帽子が似合うって言われてもなんか嬉しくない」
華子は不満そうに言った。
しかし頭の小さいショートカットの華子には麦わら帽子がよく似合っていると少年は思った。
そんな二人のやりとりをお座りをしている太郎が静かに見つめていた。

90 :
>>78
It's so nice of you.
Thank you for your feedback.

91 :
ガンガレ!新作野郎!いつも楽しみにチェックしてる香具師がいるぞ。!
          by湘南野郎。

92 :
新製品の使い心地はいかがでしょうか?

93 :
モンゴリw
 
おまえも>>85に何か言ってやれ!

94 :
モンゴリさん今日は風邪で寝てるわよ

95 :
なんかちっちぇえ事に粘着してるアフォがいるな・・2チャンローカルかw

96 :
アイス喰って休憩ww
昼ねw
夕方から波乗り
毎日そればっかw

97 :
日本からも「頑張れ」−。判定で敗れたランダエタの母国ベネズエラの首都カラカスにある日本大使館には
3日朝(日本時間同日夜)までに、日本人から1000通もの“おわび”電子メールが送られたことが分かった。
大使館の広報文化担当者によると、「100%」がランダエタを称賛し、判定を謝罪する内容のものだったという。
 日本人は、やはり“恥を知る”国民だった。大使館のホームページ(HP)を通じて、ランダエタあてに
寄せられたメールは、HP開設以来、ひとつの出来事に関するものでは最多の大反響。すべてが
「試合はあなたの方が勝っていた」とするもので、「ランダエタ選手の紳士的な態度、ファイティングスピリットは
素晴らしかったという中身ばかり」(担当者)だった。
2日の同国国営通信が「日本の観客はランダエタの勝ちだと思った」と報じるなど、ベネズエラ国内でも判定に
疑問を投げかける報道は多い。ただ、大使館への抗議などはなく落ち着いているといい、「日本を嫌ってほしくない」と、
国民感情を考慮した日本人が敏感に反応した形となった。
 メールの中には「もう一度、日本で試合をしてほしい」というラブコールも。
大使館は「ファンレターのようなもの」と判断し、帰国次第、手渡す予定でいる。ベルトは奪えなかったランダエタだが、
日本で得たものは大きかったようだ。

98 :
ランダエタ万歳!

99 :
ねえ数字の前の>>←この記号の書き方をまた教えて、すまんっ

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