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2012年6月懐メロ洋楽172: ミニーに首ったけ (717) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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ミニーに首ったけ


1 :09/08/20 〜 最終レス :12/07/01
さあどうぞ!

2 :
「え〜!?明日帰るの?」
色んな話が弾んだあと、明日の朝出発することが告げられた。
「ごめんなさい…。」
「ううん…」
まどかは少し落胆するが、やさしい笑顔で首を振る。
(あなた達の所為じゃないもの。でも、あたし一人が帰れないのかあ…ちょっと淋しいな。)
淋しそうに下を向くまどかを見て、堪え切れずまなみが跳び付く。
びっくりして受け止めるまどかの胸の中でまなみは泣きだした。くるみも傍に来た。
まどかは二人を抱きしめ
(それじゃあ…)
「次会うのは日本でだね。」
ひかると同じ、こんな自分を想ってくれる大切な後輩。そして…『妹達』。
(ひかる…会いたいよ。)
複雑な心境になった。
まなみは元気を取り戻し
「じゃあ、まどかさん。お先に帰ります。待っています。」
そう告げるとお辞儀をして部屋を出て行った。
すぐドアが開き、くるみが顔だけ覗かせてニッコリ笑顔で
「待ってま〜す!」
パタン。
まどかにも笑顔が出た。
(そうね…早く帰んないと。)

3 :
姉妹が帰って2時間は経とうか…病室にて
(何やってんのかしら?もうお昼をとっくに過ぎたよ。
明日でしょ?帰るの。時間無いじゃん!)
まどかがイライラしている。
「何苛ついてるの?」
買い物から帰って来たママが呆れたように言う。慌てて言い返そうと紙とペンを取るが、ママは何でもお見通し。
さっさとキッチンに逃げて行った。
(んもう!)
ソファの上で、お行儀悪くあぐらをかいてみたり、点滴のスタンドを持って廊下に出てみたり…。
「ほら、飲んでごらんアロエのジュース。傷にいいかもよ。」
一度は(ふんっ)として見せるが、早く治れば早く会える。テーブルに置かれたジュースに手が伸びて…
「美味しい!」
思わず大きな声が出た。
(あれ?痛くない…)
目の前にママの勝ち誇った顔があった。
「どう?美味しい?」
「…知らない!」

4 :
トントン。
急に他所を向くM。背中が期待している。
「どうだい?M。」
(?!……)「は〜」
がっくりと溜め息をつくまどか。
(パパ?何でノックなんかすんのよ…家族でしょ!)
ママがからかう。
「今はね、ご機嫌お悪くしていらしてよ。」
「どうしたんだい?」
「何で…!!」
いきり立って振り向くまどかをKが覗いていた。
視線が合って二人とも赤くなった。
(あんたはノックしなさいよ!んもう。)
「お邪魔します…。」
「いや、彼と下で遇ったからね。」
「コーヒーどうぞ。じゃ、M、あたし達ちょっと出掛けるから。」
「あ、…うん。行ってらっしゃい。」
あらためてセッティングされると何とも具合悪い。恭介と向き合わせ。
チラリとKを見ると、買い物袋を持っている。
「Kクン、何?それ。」
「あ、…声出せるようになったんだね。なら、要らないかな。
傷にいいって聞いたから、いっぱい買っちゃった。」
アロエの束であった。

5 :
「どうするつもり?」
「うん、見よう見真似なんだけど、ジュースにしたら飲めるの
かなって…下ろし金もついでに買って来たんだけど。」
まどかはちょっと考えて、偶然を装う。
「ミキサーがあるよ。」
恭介が今からしようとすることに凄く興味が湧いてきた。
「はい。」
ママがさっき使っていたミキサーを用意してそこを退くまどか。
案の定、皮を剥かずにミキサーをかけ出した。
まどかは(やっぱり…)とクスクス笑って
「春日クン、汁が飛ぶと洋服に色が染つるよ。ほら。」
そう言って、以前まなみにしてやったようにママのエプロンを
恭介の首に掛けてやろうとして後ろから…
近づく…
その瞬間
(春日クン…)
まどかは想いをこらえ切れずに後ろから…
恭介の背中に……抱きついた。
(…!)
お互いの胸の鼓動を感じながら
二人の動きが止まる。
まどかの甘い香りと、肌の温もりと…
「あ、鮎川…」
「あ…ゴメン。
まだちょっと頭がフラフラしてるの…。
もうちょっと…
このままで…
いさせてくれる?」
「うん…。」
まどかは恭介の背中に頬をつけた。
二人だけの時間が静かに流れる。

6 :
「ごめんね、有難う。ちょっとソファで休むね。」
「うん。」
まどかはソファに腰を下ろすと、下を向いて少し微笑む。
(なんだか…スッキリした…。)
恭介はアロエをミキサーにかけながら今のシーンを思い出している。
あまりにもいつもの気丈なまどかとかけ離れた行為。
(鮎川…まだ万全じゃないのかなあ?それとも…)
出されたものはドロドロの緑の物体。
恭介は苦笑いを浮かべ
「飲んでみる?」
まどかはじ〜っと見つめて
「う〜ん、ちょっと厳しいかなぁ…あ、ヨーグルトに混ぜようよ。」
苦肉の提案。
食べ始める二人。
「うえ〜!なんだこれ、変な味…。鮎川は大丈夫なの?」
「うん…『好き』かな…。」
(だって、春日クンが初めて作ってくれた料理よ。
…『好き』に決まってるじゃない…。)
「へ〜こんなのが好きなんだね。」
不味そうに食べながら言う恭介を見て、
まどは恨めしそうにボソッと呟いた。
「ドンカン…」

7 :
食べ終わって、ほっと一息。
二人は窓際で夕暮れ近い街の景色を眺めている。
まどかは、あの夜の…どうしようもなく感じていた物足りなさが
今は満たされているのを感じていた。
「ねえ、明日帰るんでしょ?」
「知ってたの?」
「うん、昼に妹さん達が見舞いに来てくれて…。」
恭介は急にあらたまった物言いになる。
「お、俺…まだ鮎川に言わなくっちゃいけないことがあって、でも
まだ、自分の中で整理がついてなくって…。」
まどかはやさしい表情で恭介を見つめている。
「いいよ、無理しなくって。言いたくなったら聞いてあげるよ。
でもその時は…その時はさ、あたしも『知りたいこと』を訊くから。」
「う、うん。」

8 :
まどかは覗き込むように恭介に顔を近づけ
「ところでさあ、来年どうするの?」
「うん…自分の限界を、取り敢えず高校生としての限界に…」
「で?」
「K大を受験してみようかと…。」
「へ〜…凄いね。」
「へ?驚かないの?」
「別に。春日クンがしたいことを応援するだけ。」
「無謀って言われると思ってたんだけど…鮎川はどうするの?」
「前言ったじゃない。忘れたの?誰でしたっけ?頼んだの。」
「でも、鮎川の才能だったら芸大かなあって…」
「勝手に決めつけないでよ。あたしは自分のしたいようにするから。」
まどかは『一緒に行こう。』という言葉を待っている。
(あの時言ってくれたじゃない。何で尻込みするの?)
相変わらずの優柔不断さに少し怒るまどか。
「と、取り敢えず、中途半端になったけど、夏季講習…
第二期から一緒に受けようよ。ね?」
「…うん!」
ソッポを向いてたまどかに笑顔が戻った。

9 :
「ほら!あそこ!」
「何?」
「Double Rainbow!」
「あっ!ホントだ。」
まどかの指さす方向に二重の虹が出ていた。夕暮れに近い
オレンジ色の空にかかっている。
「何してるの?」
「お願い事。春日クン、ここじゃ、あれに出会うとみんな
お願い事するのよ。」
「へ〜、じゃあ俺も…」
(春日クンとずっと・・・。)
(鮎川と一緒の大学に…そして…。)
トントン。
「ただいまあ。」
二人は慌てて離れた。

10 :
「じ、じゃあ、俺失礼するから…。」
「う、うん…。」
「春日クン、どうかね?一緒にディナーでも。」
「あ、有難うございます。でも、僕、明日帰国するから…」
「え?帰っちゃうの?あんたもまさか…」
ママは慌ててまどかを見た。
まどかは点滴を見上げて
「帰れる訳ないじゃない。」
ぼそっと呟いた。
「じゃあ、エレベーターのとこまで送るから。」
まどかは点滴スタンドを押しながらエレベーターの前まで見送る。
エレベーターのドアが開く瞬間、ひょいとまどかも乗り込んだ。
「あれ?いいよ、ここで。」
「いいじゃない、玄関まで。いいでしょ?」
まどかは点滴スタンドを持って奥に移動した。
「ねえ、何お願いしたの?」
「鮎川と同じことだと思ってる。」
「へ〜そうなんだ。」
「鮎川は?」
「さあ。」
よそ見をしてとぼける。

11 :
途中の階で人が乗ってくる。医療従事者や見舞客、みんなでかい!
奥に押される二人。
まどかはスタンドごと隅に押しやられ、恭介はまどかを守る様に
その隅の空間を確保する位置に立った。
両手を広げてまどかに背を向ける様にエレベータの壁に手を付いている。
すると、まどかは恭介の片腕をつかんで下ろし、自分の腕を絡ませた。
(え?)
まどかはまわりの視線も気にせず、彼の腕に抱きつく。
色っぽい眼差しで、恭介に顔を近づけ
「支えてくれる?」
「あ…う、うん…。」
エレベーターがロビーに着くほんのわずかな時間
まどかは目を閉じて、恭介の肩に頬を寄せた。
恭介はまどかの大胆な攻撃に、体を強張らせるのが精一杯…。
エレベータが開くと、恭介は
「大丈夫?心配なんだけど。」
「体力的にまだかなあ…」
まどかはちょっと嘘をついた。
「点滴は今日までなんだ…ホントは明日(一緒に)帰りたいんだけど
…やっぱり、親孝行しないとね。こんな娘でも可愛いらしいから。」

12 :
点滴さえなかったら全く普通に見える。
「ねえ、外に出てみたいんだけど…時間無いかなあ、ダメ?」
「点滴したままじゃ…ねえ、車椅子借りようか?」
「え〜!要らないよ。」
「でも、それ(スタンド)押しながらってのは、外歩きにくいよね?」
まどかはちょっと考え
(それもいいかなあ…)
受付で車椅子を借りてまどかを乗せる。
玄関を抜けると、一気にハワイ特有の甘い香りと市街の喧騒が。
「うわ〜!やっぱり外は気持ちいい!」
恭介は夕暮れに染まった病院の庭へ、車椅子をゆっくり押して出た。
小鳥たちのさえずりが二人を包む。
「3日ぶり?」
「うん。…春日クン、暑くない?」
ハワイは真っ盛りの夏。夕暮れでもかなり暑い。
久しぶりの外と…そして何より恭介に介抱されているのがたまらなく嬉しい。
まどかはオレンジ色に輝くビル街を眺めながら、ちょっと呟いてみた。
「ねえ…もしさあ、もし…あたしがこのままになっちゃったら…」
「俺でよければ、ずっと押すよ。」
「……!」
視線は外さなかったけど、恭介が優しい顔で応えているのは見なくても解る。
「へ〜、言ってくれるじゃん!」
抑え気味の声で、見栄を切りつつも
彼の言葉の温もりを背中越しに受け止めた。
(有難う…)

13 :
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
車椅子を受付に返し、エレベーターのところまでついて行く。
「もういいよ。ごめんね、反って迷惑かけちゃった。」
「いや…じゃあ、日本で待ってるから。」
まどかは思い切って切り出す。
「あのさ、…ひかるのことなんだけど…」
「え?」
まどかはちょっと躊躇って
「あの娘…本気だし、一途だから…」
「うん…」
エレベーターの扉が開く。
まどかは恭介を見上げ、扉が閉まる寸前に
「(これ以上)傷つけたくないの。」
他の乗客に押されて奥に行く。
「あっ…」
扉が閉まった。
(ええ?鮎川、どういうつもり?)

14 :
(まさか、自分は身を引くっていうこと?ひかるちゃんを…ひかるちゃんを
大切にして欲しいってこと?そ、そんなぁ…。)
恭介はこのハワイの日々を思い返した。
まどかは随分自分の気持ちを伝えてくれてたはずなのに
それで十分スッキリしてしまったってこと?
これで思い残すことなく、自分をひかるに譲れるとでも?
帰る間際になって、恭介はかなりのショックを受けて…」
茫然自失となって、バス停に向かう足取りが重い。
しかし、恭介は勘違いしている。
まどかは今この瞬間に自分と恭介の気持ちに間違いが無いことを確信した。
しかし…ひかるのことを考えると、どうしても揺れる気持ちを
恭介に支えて欲しいから…伝えたかった。
(ひかるを深く傷つける前に…『はっきりさせて欲しい。』
 どうしたって傷つけるのは解っている。だから…)
そんなまどかの気持ちを誤解したまま
恭介はホテルに帰っても家族との会話は全て上の空。
(ひょっとして…俺、ふられた?そ、そんなぁ…違うよなあ…)
訳が解らなくなって、ぶつぶつ独り言を呟きながら荷造りをしている。
(まどかさんと何かあったのかしら?)
まなみが心配そうに見ていた。

15 :
まどかは病室に戻ると
「ねえ、明日点滴外して貰えるのよねえ…明日帰っちゃダメ?」
「……」
呆れるパパとママ。
「お口の中は大丈夫なの?」
「うん、まだ食べるとちょっと沁みるけど…。」
「まどか、せっかくだから後数日一緒に過ごさないかい?
 パパも久し振りだし。何でも好きなもの買ってあげるから。」
「ううん、別に欲しいものは無いし。あ、そう言えばマリーさんには
 会って帰りたいかなあ…。」
3人は病院の食堂で食事を摂る。
とても総合病院とは思えないホテル並みの内観。
「うわ〜、美味しそう!」
まどかは食べられそうな分だけ少しずつ摘んで頬張る。
「ちょっと糸が触るけど、でも食べられるや。美味しい!」
恨めしげに点滴を見上げ、胸のラインをちょっと引っ張ってみた。
「痛〜い!」
点滴の挿入部は、抜けてしまわない様に糸で皮膚に固定されている。

16 :
娘のあまりの無謀さに、両親は呆れている。
「ちょっとは大人しくしてなさい!んもう。」
「だって〜、煩わしいったらありゃしない…。」
ママはスパゲティを頬張りながら
「『おてんばさん』にはちょうどいいのよ。」
「誰が!」
夕刻、主治医が病室を訪ね、口腔内を診察。縫合創が癒着していることと
炎症は起きていないことが確認される。今朝の採血データも問題ない。
まどかは点滴を外したいと願い、主治医はOKサインで応えた。
すぐに看護師が呼ばれ、あっという間に点滴のラインが抜去される。
まどかは思いっきり伸びをした。
「ねえ、ママたち、こっちに来て全然遊んで無いでしょう?遊んできたら?
あたしは今夜、日本の友達に電話したりするから…もう帰っていいよ。」

17 :
まるでもう必要無いような言い方がママの癇に障った。
「あんた、まさか本気で明日帰るなんて言うんじゃないでしょうね?」
ちょっと睨むママに
「しないよ。あたしだって家族でゆっくりしたいし…。」
少し照れたように答える。
「…ごめんね、まどか。疑って…。」
「嫌な言い方してごめんなさい。あたしは大人しくしてるから。」
「それじゃママ、久しぶりにハワイでデートしようよ。」
パパは少し怪訝な表情のママにウインクをした。

18 :
娘の反抗期はまだほんの少し続いている。
下手に逆なでしない方が賢明とパパは判断しママを促した。
ママもやれやれといった表情でバッグを取り上げ
「じゃあ、また『明日』ね、まどか。」
「うん…。」
二人は病室を後にし、主治医の元へあらためて挨拶と、明日には退院
する旨伝えに行った。
まどかは早めにシャワーを浴びた。今まで気にしなければいけなかった
点滴が外れたことで、思い通りに動ける自由を味わう。

19 :
ひかる宅にて。
「はい、檜山です。」
「ひかる…。」
「まどかさん!まどかさんでしょ?」
「ごめん…心配掛けて。」
「な、何言ってるんですか!」
その後、ひかるは涙でしゃべれなくなった。
まどかはハワイの最後を台無しにしてしまったことを詫びた。
ひかるに誤解されない様に経緯を話す。
「そうだったんですか…『偶然』だったんですね。
でも良かった。先輩もまどかさんも無事で。」
「うん…
(ちょっと『偶然じゃなかった部分』もあるんだけど…)
…有難う。あたしはもう少しこっちに居るから。」
「先輩は?」
「さあ?もうすぐ帰るんじゃないかなあ…。」
まどかは嘘をついた。自分と恭介が『いい感じ』になっていることは
さすがに言えない。
二人だけの時間もたくさん持てた。
でも…そのことが、まどかに気兼ねさせてしまう。

20 :
「じゃあ、帰ったら連絡するね。」
まどかは電話を切って、今度はあかねに電話する。
「まどか〜!もう、心配したんだから!」
「ごめん。帰ったら特製パスタ奢るから。」
「じゃ、許す。でも、ホント……」
声を詰まらせるあかね。しばらく沈黙が流れた。
まどかにも伝わっている。
「早く帰っておいでよ。」
「うん。有難う。」
まどかも少し涙ぐむ。しばらく他愛もない会話を続け、
急に話が変わった。
「ところでさあ、『早川みつる』、こっちで凄い株上げてるよ。
帰国してから、もう毎日ヤツのニュースばっか。
 でもね、愛人騒動にも巻き込まれてて、何なんだろうね?」
「うん、悪いヤツじゃないんだろうけど、何かねえ…。」
二人は笑い出した。帰ったら会う約束をして電話を切った。

21 :
?? これは作者様?ですよね〜?
ハンドルつけるとトラブルので、は・じ・め・て! 名無しで。
もー完全に消えたのかと心配しました。
荒れないように、ここは別端末にてこそっとのぞきます。
ではROMに戻ります。

22 :
respect様、おひさですー!
わたしも「こそっと」のぞいてま〜す。
ではでは。

23 :
originalさんも元気そうで、よかった。
peace of mind ってとこです。

24 :
一方ひかるは
(まどかさんも先輩も…『偶然』だとしても…求め合ってるから
 『偶然』の回数が多くなるんじゃないのかなあ?そんなあ…)
ひかるはベッドに転がり、3人の写真を眺めた。
(じゃあ…今までの先輩とあたしの関係は何だったの?)
思い起こすに、この3年間、なんにも無かった。
自分がベタベタ甘えて、恭介は優しく受け止めてくれていた。
二人っきりのデートだって何度もしたのに…
でも、恭介からのアプローチは…無かった。
(やっぱり…まどかさんの方がいいのかなあ…)
ひかるはアルバムを引っ張り出し、ベッドの上で眺める。
中学1年の頃から、やはり3人一緒の写真が多い。
でも自分と恭介の2ショットもたくさんある。
ベッドから起きて鏡に向かい、まどかの写真を見ながら
(うん、負けてない!頑張ろう!)

25 :
まどかは姉にも電話した。
「お姉ちゃん、ごめんね。」
「ママ怒ってなかった?」
「ううん、逆に優しかったかなあ?」
「で、ママは?」
「パパとデート中。」
「へ〜!仲のよろしいこと。」
「ほ〜んと。」
「まどか、あんた女らしくしてなきゃ。彼に嫌われるよ。」
「…え?!な、何言ってんの?」
慌てるまどかに釘を刺すように
「ぜーんぶママから聞いてるよ。と、に、か、く、女の子らしくね。」
「うん…。」
連絡が一段落する。まどかはママの作り置きの方じゃない、
とっておきの物体をヨーグルトに混ぜて食べた。
(まあ、大人の味にしては…ちょっと青臭いかなあ。でも…)
「ふっ」と笑って食べ続けた。
「『傷つけたくない』かあ…あたしって自分勝手だよね…。」
スプーンが止まった。

26 :
ぼんやりと夜景を眺めながら考える。
(今更…どうしたって傷つくよ…)
「帰ってからが正念場だなあ。」
まどかは自分のことだけを考えようと努めるが…
ひかるも大切な『妹』…悲しむ姿は見たくない。
(何よ!決着はつけたはずでしょ?)
また揺れ出した。
こんな時は、アルコールでごまかすのが一番なのだが
さすがに今日ばかりは…。
(眠られないじゃない!…春日クン今頃何やってるのかなあ?)
一方恭介も眠られないでいた。
(鮎川って「きまぐれ」なとこあるし…
でも、それでいて すごく深いところで悩んでたりするし…)
一番考えたくない所に踏み込んでしまう。
(俺が…俺が決めても…鮎川が引くかも知れない…。
鮎川にとっては、 ひかるちゃんの存在って大きいんだろうし)
『傷つけたくない』
何度も反芻しながら二人はまどろみへと落ちて行った。

27 :
翌朝、恭介は帰国の途へと向かう。
出来るなら、まどかにもう一度確認したかった。
(でも…鮎川のことだから、もう決めたのかも…。)
引きずる想いを残し搭乗する。
一方、病室では
「お世話になりました。」
家族で主治医と看護師達に挨拶する。
早川みつるには、父が事務所を通じてお礼をしておいた。
先方も、世界的な音楽家から直々の連絡に恐縮している。
「ねえ、まどか、ちょっとアラモアナでショッピング付き合ってよ。」
「そうねえ、じゃあ、あたしも気分転換に服でも見ようかなあ。」
家族は車で移動し、のんびりとしたお昼を過ごした。
ショッピングセンター3階のオープンカフェレストランで
(今頃、飛行機の中よねえ…いくら不思議クンでも現れないか…。)
「あのね、言い出しにくいんだけど…やっぱり明日帰るね。」

28 :
「……!!」
パパとママは顔を見合わせる。
「今日退院したばかりじゃないか。もうちょっとゆっくり…」
「したじゃない。夏季講習があるんだあ。早く勉強しないと。」
「あんたの口から『勉強』って言葉を聞くとは思わなかったわ。」
「だって、来年受験よ。うかうかしてちゃ…」
わざと『どうしよう?』と困ったポーズを取るまどか。
見破られていようがお構いなし。正面突破を図る。
もちろん、二人とも娘の魂胆などお見通し。
しかし、言い出したら聞かない頑固な性分も分かっている。
「でも、チケットが取れないだろう?」
「そこよ、パパ。お願い!」
拝む娘に甘くなってしまう。
「やれやれ…」
「あなたったら、まどかには甘いんだから。」
「じゃあ、夕飯は豪勢に行くか。ちょっと知り合いに頼んでくる。」
パパが席を立つや、いきなりママが切り出す。
「ねえ、まどか。…春日さんとお付き合いしてるの?」
「え?…そ、そんなこと、関係ないでしょう?」
真っ赤になってよそを向く。

29 :
(やっぱりそうなんだ。)
「でもね、あなたのことがいつも心配なのよ、ママは。」
まどかはちょっと考えた。
ここのところ恭介のことで悩んでいるのは事実。
ママのやさしい笑顔を見ると、『彼』のことを話してみたくなった。
意地っ張りのつっかえ棒が呆気なく外れる。
「春日クンは…ママが心配するような人じゃないよ…。
どちらかと言うと、あたしの方が迷惑掛けてるかしら。」
「ふ〜ん…」
まどかの顔を見つめて聞いていたママが、急に核心に迫った。
「ごめんね、いきなり聞くけど……好きなの?」
(…え!?)

30 :
しばし沈黙が流れ、喧噪だけが通り過ぎる。
まどかは恥ずかしそうに白状し始めた。
「…うん。あ、でも分かんない。あたしの気持は…思うんだけど…。」
まどかは言い淀んでしまう。
「そうなんだ…。」
「うん。いろいろあるんだぁ…いろいろと…。」
ストローでアイスコーヒーの氷を回しながら、
ぼんやりと人通りを眺める。
恭介のことを今まで誰にも相談したことが無い。
それは自分の気持ちが解らなかったから。
でも…今は違う!ただ、どうしたらいいのかが解らない。

31 :
ふっと、ママを見て
「ねえ、ママの初恋って…。」
「何度も言ったでしょ?パパだって。」
まどかは顔を近づけ、小声で訊く。
「純愛路線?」
「そうねえ…まどかほどじゃなかったけど…
ママもパパを随分困らせてたかなあ?ず〜っと好きじゃない振りしてね。」
(うわっ…!一緒じゃん。)
遠くで電話をしているパパを見て手を振るママ。
「オドオドするパパを随分困らせたかなあ?
でもね、一生懸命なパパのこと、誰よりも見てたわよ。」

32 :
「もういいよ。分かった分かった。」
まどかは相談したつもりが、反ってのろけられて当てが外れた。
それでもママは素直な娘に『女』としてのアドバイス。
「ママね、一緒に居て、まどかが心から嬉しく感じるお相手なら、
離す手はないと思うわよ。」
「それはそうだなんだけど…」
「春日さんはまどかのこと、どう思っていらっしゃるのかしら?」
「多分…。」
まどかは赤くなってグラスに視線を下ろす。
「ママね、あなたたちを見てると、私達の若い頃を思い出すのよのねえ…
 『応援するから』さ、恐れずに自分を信じて進んでみたら?」
「でも、そのせいで…そのせいで誰かを傷つけることになったら?」
ママはちょっと考えた。
(三角関係なの?だから悩んでるんだ…。)

33 :
「まどか、他にもお付き合いしてる人居るの?」
そっちの三角関係ではない。
「居る訳ないでしょ!」
ちょっとムキになるまどか。
「じゃあ、割り込んじゃったの?」
「…結果、そうなるのかなあ…。でも…」
また言い淀んでしまう。
ママは娘が無理に割り込むようなタイプじゃないことは承知している。
(まどかのことだから、どうせ意地っ張りが禍してタイミングを
 逃してこじれてしまったってところかしら?あたしに似て…
 素直じゃないし。)
「ママはあなたが本当は優しい娘なのは分かってる。でもね、
 優しくすることが幸せにするとは限らないわよ。」
「え?」
「まどかは身を引く気なの?それで春日さんは幸せ?まどかは?」
「……」

34 :
「その方のために身を引くのって、一見通りはいいけど…」
まどかは両手のひらで暴走気味のママを制しながら
「わかってる…わかってるって。」
視線を通りに移し
(避けて通れないのかな…)
日差しに照らされたフロアの人通りを眺めながらぼんやりと考えた。
(『傷つけたくない』かあ…)
「ねえ、あたしマリーさんの所に寄るから。」
「じゃあ、一緒に行かない?パパも挨拶しておきたいって言ってたから。」
「え〜?ついて来るの?」
まどかは両腕で頬杖をついたままママを見つめている。
(子離れしてよ、んもう。)
単にママがマリーに会いたいだけであった。

35 :
マリーは午後の部が終わって、後片付けをしていた。
「マリーさん!」
「あら!まどか!お母さんも。」
「その節は大変お世話になりました。まどかの父です。」
挨拶の後、しばらく4人の歓談が続く。
「えー!明日発つの?」
マリーも驚いた。
「もう、この子は言い出したら聞かなくって…」
こぼすママに、パパが今夜のディナーを提案するが
「ごめんなさい。今夜、出なければならないショーがあるんです。」
「どこであるんですか?」
まどかが尋ねる。
「クヒオビーチのステージよ。」
家族はディナーの前に観に行く旨伝え、一旦別れた。
「じゃあ、マリーさん、楽しみにしてます。」
「See Ya!」

36 :
夕暮近くなり、ビーチの松明に炎がともる。
タヒチアンダンスにマリーが出ている。ステージからまどかを見つけ
笑顔で手を振る。激しいファイアーダンスや子供たちのフラショーがあり
最後は観客を上げて一緒にフラ。
マリーは真っすぐにまどかの所に誘いに行き、まどかとママが上がった。
ママはマリーと顔を見合わせ楽しそう。時々舞台下のパパに手を振っている。
まどかは…濃紺へと、そのグラディエーションを変化させていく水平線を
見つめている内に、この数日の出来事がフラッシュバックしてきた。
(春日クンの前で踊ったあたし。
春日クンの頬を叩いたのはこのビーチ?
そして…抱きしめた…)

37 :
瞬間、まどかは強烈なめまいを覚える。
手も足も動きを止め、海を眺めながら放心したように立ちつくした。
マリーが気づき、慌ててステージの袖に連れて行き座らせる。
「大丈夫?」
ママもパパもやって来た。
「ごめんなさい…まだ無理なのかなあ?」
少し笑顔ながら、まどかの両目は涙であふれていた。
「大丈夫なの?無理してるんじゃない?」
まどかの性分を知っているママは焦るが、まどかは
「ううん…違うの…違うんだ…。」
そう言ったっきり黙ってしまった。

38 :
まどかにも解らない。
悲しい訳でもないのに、
なぜ自分が涙を流しているのか…?
実は…
恭介が乱した時間の歪みにさらわれそうになったのが原因。
この場所こそが歪みを生んだ場所。
もう一方の当事者であるまどかがやって来て
恭介を想う気持ちが、再び歪みを起こそうとした。
まどかに歪みを起こす力はないはずなのに…。
まどかは2度目の不思議な体験に感動している。
…今度は戸惑うことなく受け入れようとしていた。

39 :
「ごめんなさい。海を見てたら感動してきちゃって。」
まどかは涙を拭き立ち上がるや
「ねえ、マリーさんも一緒にディナーしましょう?」
そう言ってマリーの手を取った。
「いいの?大丈夫?」
「ええ!マリーさんと居ると元気を貰える気がするの。」
「う〜ん…じゃあ、ちょっと待っててくれる?」
ホテルのラウンジで
待ち合わせの場所に、マリーとボブ、ロイも現れた。
まどか達は感激し、当時のお礼を改めてした。
レストランに入るや、それぞれが好き勝手に注文し、
「カンパ〜イ!」
の合図で宴が始まった。
みんなはいろんな話で盛り上がっている。

40 :
今夜はまどかの快気祝い。
主役も楽しそうに笑っている。
頃合いを見計らって、マリーがまどかを窓際に誘う。
「ねえ、明日10時までにチェックインすればいいんでしょう?」
「ええ。」
「じゃあさあ、朝凄く早いんだけど、まどかに見せたい景色があるんだ。
 ホノルル空港までは私が送ってあげるから、明日朝見に行かない?」
「いいんですか?あたしはすごく行きたいけど…マリーさんお仕事が。」
「それはいいのよ。でも、まどかのパパとママが…」
「大丈夫です、こんなのいつものことだし。」
二人をみると、かなりご機嫌になっている。
(チャンス!)
まどかは二人の元へ行くや、すぐに交渉し、了解を取り付けた。
そして、ニコニコしながらマリーの元へ戻って来る。
「マリーさん、明日何時にどこで待ってたらいいんですか?」
宴は続いたが、マリーとまどかは一足先に退散した。

41 :
翌朝
まだ暗い朝5時半。
マリーはまどかのコンドの玄関まで迎えに来てくれた。
「有難うございます!」
「さあ、乗って!朝ごはんはあっちで食べよう。作ってきたから。」
まどかは帰りのスーツケースをワゴンの後ろに積みながら
「ボブやお子さんたちに悪いことしちゃったかなあ?」
「うちはね、祖父母と同居してるし、朝は作ってあるものを各自が
自分の時間に適当に食べるのよ。私の周りもそんな風。まどかの家は?」
「うちはパパとお姉ちゃんはよく一緒に食べてたけど、あたしとママは
 割と自由ですよ。習慣というより『きまぐれ』だから、ママもあたしも。」
他愛もない会話をしている内に、車は渓谷伝いに山奥に入って行く。
そして、霧が立ち込める頂上を越えると大海原と険しい峰々が視界に入る。
「さあ、着いたわよ。ここからは馬で行くの。」
現地の知人が二人をさらに山の麓へとガイドする。そして…
「うわ〜!!」
二人は馬上で声を上げた。
馬たちが少し驚く。

42 :
目の前から海を背景に急峻に立ち上がる山の頂は雲に隠れ、急いで流れる
雲の隙間から、まるで後光のように幾筋もの朝日が降り注ぐ。
そこは辺り一面遮るものがなく、朝露に濡れた草木が密生しており
海から山へと駆け上がる風に揺れて光りかがやく。
全てが神々しく、二人は息を飲んだ。
そして、馬から降りるとあらためて雄大な景色を眺める。
「ねえ、まどか。神様って信じる?」
「分らない…分らないけど…」
「うちはね、親の代からクリスチャンだから、まあ一応ね。でもね、
 聖書のような字面ではない、本当に自分は生かされているんだなあって
思う瞬間があるの。今なんか、当にそう!で、思うの、『二度とない
人生だから、自分に素直に生きよう』って。」
まどかにマリーの気持ちが通じている。

43 :
この風と空気と、瑞々しい草木の香りを思いっきり吸い込んで、
そして体全身に朝日を浴びたら自然と心のリセットが出来た。
(あたしはあたしの運命に従って生きるだけ。後悔はしない。)
二人は顔を見合せて、どちらからともなく笑顔になり
「有難う!」
大きな声がはずんで出た。
まどかはその場でクルクルと回って、風と香りと光を一身に浴びた。
マリーはまどかが何かに苦しんでいることを察していた。
だから、自分がそうするように、まどかにもここに来て、自分に
素直になれる気分を味合せてあげたかった。
そして、それは成功した。

44 :
帰りの車中では、マリーのCDに合わせ二人が楽しげに歌っている。
どちらからともなく、メインボーカルやコーラスの部分を歌い分け
アイコンタクトで歌っている。
車はハイウエイに乗ると左手に海と街並み、右手に山並みを眺めながら
軽快に空港までを飛ばして行った。
ホノルル空港に着いた時には、日差しは照りつけているのだが、
シャワーのような小雨が降っている。
まどかはスーツケースを降ろすと空を見上げた。
虹が輝いて見える。
(気持ちいい。)
マリーは歩み寄ると、いきなりまどかを抱きしめた。
「またおいでね、待ってるから。」
「はい。」
「See Ya!」
まどかはチェックインを済ませる。
(うわあ!ビジネスクラスじゃない。)
自分の身分で座る席じゃない。
パパの贈り物だが、ちょっと迷惑。
「しょうがないなあ…。」
まどかはマスターへのお土産を選んだ後、空港内のカフェで時間を潰した。
(帰ったら決着を着けることになるのかな…)

45 :
日本では
「ねえ、おにいちゃん、ひかるちゃんに電話したら?」
くるみの催促に電話をする恭介。
「はい、桧山です。」
「あ、ひかるちゃん?俺、春日。」
「あ!先輩…先輩!帰ったんですか?いつ帰ったんですか?」
「うん、さっき着いたばっかりで。今成田からなんだけど。」
「まどかさんは?」
「まだ居るようなこと言ってたけど…」
恭介の胸が疼いた。
「家に着いたらまた連絡するから。」
「はい…待ってます。」
ひかるはしおらしく返事をする。
恭介は疼く胸に訊ねる。
(鮎川の気持ちが知りたい…)

46 :
春日一家がタクシーで到着すると、マンションの下にひかるが待っていた。
街灯に照らされた姿は、ハワイの時よりちょっと大人っぽく見える。
(ひかるちゃん…)
ひかるは恭介を見るとすぐに駆け寄ってきた。
いつものような屈託のない笑顔はどこにも見られない。
「お帰りなさい。」
「ひかるちゃん、待ってたの?」
ひかるはこくりと頷いた。
家族はひかるも促しながらとにかく部屋へ上がる。
久しぶりの我が家に、春日一家の表情が崩れた。
隆が開口一番
「いや〜、疲れたなあ!」
言うや、姉妹が声を揃える。
「うんうん!」
疲れていても、まなみは気を利かせる。
「お父さん、お兄ちゃん、お茶入れようか?あ、ひかるちゃんはコーヒーね。」
「あ、あたしはいいよ。」
慌ただしく隆と恭介はスーツケースを部屋の奥に運び込む。
それぞれの急用が済むと、みんなは自然とリビングに集まった。
今回のハワイ旅行、大変な騒動に巻き込まれたことでみんなの話が尽きない。

47 :
「ほんっと、大変だったね。」
兄を見ながら呆れたように言うまなみに慌てて言い返す恭介。
「おいおい、俺のせいじゃないだろぉ〜。」
すかさず、ひかるは用意していた言葉を、さも思い出したように言う。
「まどかさんから電話があったんですけど、大丈夫だからって…」
そう言いながら恭介の顔を見た。
恭介はそんな視線に『意味』を感じながら、なんともやるせない気分で
「うん、大丈夫そうだったよ。」
手短に述べて笑みを作った。
(せんぱい、元気無い…)

48 :
大好きだからこそ敏感に感じる。
今までは、まどかのことについてスイッチをONにしていなかっただけ。
入れてしまえばすぐ分かる。
(まどかさんのこと気になるんでしょ!)
「先輩、ちょっといいですか?」
そう言うと、恭介の部屋へ向かった。
(へ?)
どうしたらいいのか分らず後についていく恭介。
隆はさっさとバスルームに行きシャワーを浴びている。
くるみとまなみは顔を見合わせる。
(ひかるちゃん、どうしたんだろう?)
恭介が部屋の明かりを点けようとすると、ひかるは
「点けないで。」
恭介の手の上から自分の手を被せた。

49 :
ひかるはギョッとしている恭介から離れ、恭介の机の方に向かった。
そして、机を手でなぞりながら窓の外の夜景を眺めている。
「ひかるちゃん、どうし」
遮るように
「先輩…。あたし、先輩に…もしものことがあったら生きていけません。」
振り向いた彼女の顔は…
ドキッとするほど美しく…
でも、どこか悲し気。
泣くでもなく、騒ぐでもなく…冷静に想いを伝えて来る。
いつもとは全く違う雰囲気。
「先輩…あたしのこと好きじゃないんでしょ?」
(な、なんで!)

50 :
言い当てられた心を誤魔化すように慌てる恭介。
「そ、そんなこと…」
「まどかさんより好きじゃないんでしょ?」
恭介の目を見つめながら、言葉をかぶせてくる。
「鮎川は関係ないよ。」
思わず視線を逸らし、捨て台詞を吐くものの
「でも、この間といい、今回といい、先輩とまどかさん、
あたしの知らないところで逢ってるじゃないですか?」
(この間?)
たたみかけられ、たじろぐ恭介に対し、一方のひかるは
自分の発する言葉の意味に自分自身驚きながらも、
不思議と落ち着いていられた。
だって、訊いていることは至って当然のこと、筋が通っていること、
いずれはちゃんとしなければいけないこと…
つまり、ひかるは自分に対する『恭介の本心』が知りたい訳で…
しかし、それこそが優柔不断な彼にとって一番答え辛いものであった。
だから…、だからこそ、3人の関係が今ここに至っている訳でもあり。

51 :
恭介はため息交じりに
「鮎川がオレに興味が無いって。」
また捨て台詞を吐いたが、それを聞くやすぐに
「じゃあ、先輩はどうなんですか?あたしは先輩の…
ホントの気持ちが知りたいんです!」
自分の気持ちをまどかの気持ちにすり替えようとしたズルい恭介を逃がさない。
恭介は答えられずに、よそを向くしかなかった。そんな恭介を見て
「あたしは…あたしは、はっきり言えます。
 先輩のことが『好きです』って。」

52 :
彼女は肝心なことには大胆でいられる度胸の持ち主であった。
今日のひかるは、今まで心の中に留めていた気持ちを言葉にする。
「あたし、今日から部活の合宿なんです。でも、先輩に会いたくて
 抜けて来たんです。どうしてもはっきりさせたくって…」
「だから、ひかるちゃん、それは…」
「いいんですよ、無理しなくって。でも…でもあたしの気持ちは
ずっと変わらない…。」
ひかるは恭介の傍に来て見つめた。
「先輩今日は疲れてるでしょう?ゆっくり疲れを取って、明日から
 受験勉強…」
突然…!
恭介の唇にひかるのそれが重なる。
「…頑張って下さい。」

53 :
ひかるはそのまま暗い部屋から出て行った。
まなみとくるみが部屋の近くに居たが、二人に「おやすみ」と伝え
そのまま真っすぐ玄関を出て行く。
静かにドアが閉まった。
二人は心配になって覗き込むと、暗い部屋で目を見開いたまま
壁にもたれかかる恭介を見つけた。
「お兄ちゃん、ひかるちゃん…?」
瞬間、我にかえって
「何でもないから。」
恭介はドアを閉めた。
「どうしよう…」
いつもと違う、冷静で美しいひかるに惑わされている『ほんの瞬間』、
不意打ちをくらった。
喜びよりも情けなさが先に立つ。
恭介は心底やるせない気分になった。

54 :
ずっと引いてきたつもりでいた一線が、たった今崩された。
まどかの自分への想いは遠ざかったのだろうか?
どうにでもなれというやけっぱちな気持ちと、どこかで『まだ…』
と思う心残りな気持ちにの狭間で悲しくなってくる。
もし後者なら、これは不義理である。
前者なら?…妙な打算が働く。
『先輩の…ホントの気持ちが知りたいんです!』
恭介の心にひかるの言葉が深く突き刺さった。

55 :
翌日
恭介はパンフレットに添付してある申込書に記入する。
「よし!」
(俺は俺、鮎川は鮎川。ひかるちゃんは合宿だから当分会わなくて済むし…)
取り敢えず目の前の目標に気持ちを奮い立たせ予備校の受付に向かう。
手続きを済ませると、当日より講義参加となりかなり慌てている。
「さっぱりわかんね…」
落ち込む恭介の後ろから
「よお!浪人生!」
「小松、八田も…まだ違うわい!」
「じゃあ、何でそんなに焼けてるのかなあ?ワイハにでも行ったとか?」
「さあね。ところでお前たちも講習受けてるの?」
「君より早くからエンジン掛けてるよ。で、鮎川は?」
「知らないよ。」
「今学校でみんな話題にしてるぜ。『お嬢様、早川追っかけ』って。」
「ホントかよ?学校は何て言ってるの?」
「相変わらず、御両親からの圧力に、今回も見て見ぬ振りらしいぜ。」
実際は母親が事の詳細を報告し、改めて娘共々謝罪に伺うと伝えていた。
学校は本校の生徒がハワイで事件に巻き込まれただけで、観光地を深夜に
出歩いた以外の過失は無い故、お咎め無しということであった。
(実は飲酒もあるのだが…)

56 :
夕方の講義が終了し、予備校一階フロアでたむろする3人。
「で、ホントのところはどうなんだよ?お前『たち』がワイハに居たことは
 知ってるんだぜ。吐けよ。」
(うっ…)
「…ああ、その通り。遊んでま、し、た!
でも、鮎川の名誉のために言っとくが、追っかけなんかするか!」
「だから、知ってるっつーの!そんな奴じゃないことも。
俺達が知りたいのはだなあ、お前と鮎川の……あゆ…?」
(…げっ!)
「何よ!あたしがどうかしたの?」
「あ、鮎川…様。」
小松と八田が絶句する。
恭介の真後ろにジーンズ姿のまどかが立っていた。

57 :
ろむすらデキナイか?

58 :
ちょっとこっちも覗いてみたが、
随分の間止まったままだなぁ。
そもそも、此処のスレ主って、誰だよ?

59 :
なんじゃ?此処は!ミニ−リパ−トンスレじゃないのか?
なんか気色悪いの〜〜〜〜〜!

60 :
ミニ−リパ−トンいいよね

61 :
5オクターブの妖精ミニーは天使になった。
自らの死を悟って作ったラストアルバムは泣けるぞ。

62 :
ここの擦れヌシは?

63 :
ミニーリパートン、マービンゲイ、そしてマイケル・・
若くして星になった。

64 :
元祖気づくかな?
ここなら構わんだろう。
そんな曲聴きながらチャリ通しているお前の姿を妄想するぜ。
お返しに、オレのお勧めは
EbrahimのFamily treeとJ DaveyのSlooowだ。
ハワイに持っていけ。

65 :
ドクターさんでしょうか?
あったかい曲とちょっとな曲
どっちも素敵なメロディーです〜!
早速ウォークマンに入れますね。
有難うございました。

66 :
素敵な曲を有難う!

67 :
何度読んでも分からない。
大好きなひとに暴力を振るわれるって‥
大好きなひとに暴力を振るうって‥

68 :
>元祖
なんかお勧めない?

69 :
ドクターさんですか?
ひょっとして、ラビンスレで嫌なこと書き込みしてませんか?

70 :
ヒント。
俺が書くのは昼休み。全くじゃないがROM専。

71 :
おばちゃんに教えてもらった
JADEの DONT WALK AWAY
スッゴくレトロだけど
オジサマにはオススメかもです〜。

72 :
あっ、間違いました〜!
JADE→JEDAです〜。
書いてるそばから速攻突っ込みが〜!

73 :
お前、どういう頭してんだよ?ちなみに、それ知ってるし。
おじさまとは言ってくれるじゃねーか!まあ、そうだけどよ。
で、他のおススメはないのか?

74 :
ADELEの RIGHT AS RAINなんてどうかしら?
これも最近のチャリ通のお供です〜。

75 :
おー!!これはいい!!
てっきりAMY WINEHOUSEかと思ったぜ。ありがと!
ところで、お前のスレ急展開してるの見たか?

76 :
アク禁らしいからお返しはいい。
俺が新しく仕込んだ曲だが聴いてみてくれ。
気に入るかな?
Big Sean Almost Wrote Youa Love Song (Feat. Suai)
Funky DL The Music feat Sienna

77 :
ドクターさん、お礼が遅れてごめんなさい。
また後でお気に入りをアップしま〜す。

78 :
アクセス禁止解けてるうちにお返ししま〜す。
最近見つけた素人さんがカバーしてる曲です。
その娘、歌もギターもすっごく上手なんだけど
お茶目で、まるであかねちゃんみたい。
彼女が奏でる曲を調べたんですけど
これがレトロでロマンチックな曲で
今はあたしのお気に入りです。
1972年のヒット曲らしいんですけど
有名な曲なんでしょうか、多くの最近のブログでも
紹介されてます。
ドクターさん知ってるかな?
TOOD RUNDGREN のI SAW THE LIGHT って曲です。
ご存知なければ、是非聴いてみて下さいね!

79 :
知ってるし、CDも持ってるぞ。(最近聴いてないが)
PharcydeのPassing me By(DJ Jazzy)聴いてみな。
Patrice RushenのRemnd meのカバー曲だ。
まあ、元歌が名曲過ぎてカバー曲多いが。

80 :
元祖〜!ネタくれ〜!

81 :
ドクターさんでしょ?
あたしはおばちゃんの影響かしら、レトロが好きで
見つけましたー!
CELETIAの ARE U READY?って曲
20年近く前の曲なんですけど、甘くって、ちっとも古さを感じません。
な〜んか、まどかちゃんが恭介クンを誘ってるみたいで
可愛い曲ですよ。
よかったら是非聴いてみてくださいな。
それはそうと、ラビンスレ、本当に終わったのかしら?
それはショックです!
是非再開してほしいモノデス。

82 :
女の子が聴くような曲だな・・・甘すぎるよ、オレには。
もう少し新しいヤツを教えてくれ。
オレのお勧め、TerriWalker So Hardなんかどうだ?

83 :
あっち見たか?

84 :
いつもお二人には感謝してます。
ステキな曲の情報有り難うございます。
学生の元祖さんが古い曲の紹介で
ドクターさんが新しい曲の紹介って図式が
面白いですね。

85 :
で、作者のお薦めは?
まどかはOld-Schoolらしいが。

86 :
Mary J BligeのAll night longやMy Love(remix)なんか
まどかさんのイメージを重ねて聴いてます。
でも、お二人が紹介して下さる曲もお気に入りですよ!

87 :
ミニー・ザ・ムーチャー?

88 :
JOSLYN のUSED TOって知ってますか?
これも最近仕入れた曲で、
閉店後のアバカブでまどかちゃんがギター奏でて
恭介クンのまえで歌ってるイメージがあるんですよね〜。
お店の照明落として
カウンターの上の暖かいライトの下‥
ドクターさんは気に入るかしら?

89 :
お〜!!気に入ったぞ!
これ、通勤の車中でヘビーローテーション決定だな。
いつもありがとな!!

90 :
喜んで下さって嬉しいです〜。
ドクターさんはハウスなんさお好きですか?
たまたまお友達と一緒に行ったクラブで
かかってた曲です。
CENTRAL AVENUE のFOR ONLY YOUっていう曲
RUBEN ALVAREZ REMIXバージョンです。
かっこいいDJのお姉さんに教えてもらいました。
まどかちゃんみたいに綺麗な人で、憧れます〜!
ヨウツベにあるから
是非聴いてみてくださいな。

91 :
元祖、あっちはおもしろくもない展開になってるぜ!

92 :
最近顔見せないけど、おススメないか?

93 :
悲しいです〜!
何故いきなり「完」になっちゃうんでしょうか?
って、ここでコボシてもしょうがないですよねぇ・・・・

94 :
そう荒れるなって。すぐ再開するって言ってるんだから心配しなくていいんじゃね?
ただどんな話もいずれは終焉を迎えるってところは人の寿命と同じだよ。

95 :
レス有り難うございます。
そうですね、じき再開って言われてるから信じて待つしかないですよね。
でも、一ヶ月開きが普通の作品だから
一体何時まで待てばいいのやら・・・・
ところで、CJ HILTONのSO FRESH FT NASはどうでしょう?
カッコイイですよ。
あたしはどうしてもまどかちゃんをイメージして聴いてしまいます。
ちょっと投げやりな彼女、恭介クンもあかねちゃんも近づけない。

96 :
少しは元気になったか?
しかしお前、趣味いいな。
お返しに
Raphael Saadiqの 'movin' down the line
な〜んてのはどうだ?

97 :
スッゴクいいです〜♪
作者様は聴かれましたかぁ?
と、誘ってみちゃいます〜〜。

98 :
どうせ当分の間アップされないんだろうなあって思ったら
寂しくなってしまいます。
まあ、今はボスに与えられた課題をクリアするのに必死で
それどころじゃないんですけど。
後輩と顔合わせる度
「ハワイは楽しかったね〜」ってため息ついてます〜。
ドクターさんに教えて貰った曲
チャリ通のお供です!
いつも有り難うございます。

99 :
専攻何か知らんが、お前院出てどうするの?
念のため言っとくが、お水はやめとけよ。

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