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2012年6月ポケモン318: ポケモンカードSS (271)
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ポケモンカードSS
- 1 :11/08/23 〜 最終レス :12/06/27
- 代理
- 2 :
- >>1さん スレ立てありがとうございます! これから張り切って投下していきます!
プロローグ投下します!!
- 3 :
- 目覚めると、そこは闇の中だった。
視界はあるはずなのに、映し出されるのは無彩色を背景にした青の線だ。
無彩色を切り裂く青と白の組み合わせ。
これは電気の流れだろうか。
脳に流れ込み、この体を蝕んでいる。
全身を包むのは電気の熱ではなく、落雷後の冷気。
この冷たさは何だろうか。外的な冷たさではない。
まるで……。
孤独。
そう、孤独だ。
まるで自分の実体がなく、意思だけがそこにある。
叫んでも声にならない。
代わりに自分のものでない自分の笑い声が響く。
- 4 :
- ……止まれ!
枕を握りしめ、壁に叩きつける。
布が裂け、羽毛が周りに飛び散る。
今すぐ窓に向かって飛び込みたい気分だ。
心の衰えにも関わらず、肉体は気力に溢れ、まるで疲れない。
まるで自分の体ではないかのように。
もしくは自分の体ではないのかもしれない。
この肉体は……。
ふいに心がぼやけ、意思が薄れていくように感じた。
そして、青い光の中でそれは姿を見せた。
漆黒の両翼。
鋭く輝く眼。
獲物を前にした獣のような息づかい。
青一色の背景からゆっくりと滲み出てくる。
- 5 :
- 神々しく、禍々しい姿。
悪魔の叫びような鳴き声。
その全てを認識する間もなく、私の意識は散らばった。
※
……突如、この国を襲った嵐。
雷鳴と豪雨が人々の心を恐怖に駆り立てた。
轟然と震えてやまぬ森。
激流に削られる大地。
街を行き交う鉄は、火花を散らして雨の道をかけぬけていく。
そして悲鳴のような音を立てる風。
多くの災いの中−−。
強大な一つの災いは形を持ってそのうぶ声をあげたのである。
- 6 :
-
※
ポケモンカード。
その組みあわせから生まれる数々の力。
災い。そして救い。
この嵐は大いなる災いとそれに立ち向かうプレイヤーとの戦いの序曲にすぎなかった。
第1話に続く
- 7 :
- 完
- 8 :
- age
- 9 :
- >>7さん プロローグが終わり、ついに話が始まります!
第一話を投下します!
- 10 :
- 「ヒヒダルマのほのおのキバで攻撃!」
田村ヨモギが攻撃を宣言すると、対戦相手のキムタク似の少年はうめき声をあげた。
HPが0になったナゲキは気絶し、ヨモギが左手にある一枚のサイドカードをとる。
「やったぜ、優勝だ」
ヨモギがガッツポーズを作り歓喜の声をあげると、周りから感嘆の声があがった。
「やったじゃん、ヨモギ」
丸眼鏡の少年宍戸冬馬が親友に賞賛の声をかけると、ヨモギが得意気に笑い、
「オレとこいつらが簡単にやられるかっての、中盤はちょいやばかったけどな」
でっぷりとした体型をした店長が賞品のプロモカードをのせたカゴを先ほどまで勝負が行われていたテーブルにおいた。
「では、優勝の田村カズマさんには四枚のプロモカードが贈呈されます」
「サンキュー」といいながら、ヨモギがカゴから四枚のプロモカードが入ったバックをとっていった。
その他の参加者もプロモカードを受け取り、その場で開封しながらその内容に一喜一憂していた。
「ヨモギは何が入ってた?」
「オレは帰ったら開封するぜ、家に来るか?」
「そうさせて貰おうかな、ちなみにボクは七枚目のミネズミね」
- 11 :
- 「またかよー」
談笑しながら二人は店を出ていった。
田村宅に向かう途中……。
「あれ」
突如、宍戸が足を止める。
「どした、シシトウ」
ヨモギがあだ名で宍戸に問いかけた。
「なんか、誰かの悲鳴が聞こえなかった?」
「悲鳴?」
その時、路地裏から鈍く少年の声がこだました。
「聞こえた、間違えないよ」
「オレにも聞こえた。行ってみようぜ」
ヨモギとシシトウは来た道をバックし、声のもとへと向かった。
何があったのだろう。誰かが怪我でもしたのだろうか?
- 12 :
- ※
「ふざけてんのかてめぇ!」
巨体の男が大きく振りかぶって痩せ型の少年の顔面をはたくと辺りに破裂音がこだました。
「すい、ません……勘弁してく」
少年がかすれ声で懇願する。鼻から首まで血が垂れていた。
「お前、約束したよなぁ。勝ったほうが相手のデッキを頂くと」
「それはそっちが無理やり……」
バキョ!
ローキックをくらい、少年が悲痛な声をあげながら地面に倒れこんだ。
「お前もジャパニーズなら約束は守りな」
男はニヤリと笑いながら、少年のデッキをに手を伸ばす。
「そこまでだ!」
しかし、それを止めるように声がこだました。
路地裏に現れたヨモギは男に怒りの視線を向ける。
「お前、なんてことしてんだ」
- 13 :
- 「僕のデッキ……とられ……」
血まみれで寝転がった少年がうめく。
「惨すぎる……」
シシトウが少年の痛々しい姿に思わず声を漏らした。
「こいつのデッキをとったのか」
「奪ったわけじゃないぜ」
男が不敵な笑みを浮かべながら、少年のデッキをジャケットの懐に収めた。
「そいつとポケモンカードで勝負をしただけさ。勝ったほうが相手のデッキを手に入れるというルールでな」
「普通に勝負してこんなになるかよ!」
ボロ雑巾と化した少年を見ながらヨモギは声をふるわせた。
「デッキを返してやれ!」
「うるさい!」
男が足下のゴキブリを踏み潰して吠える。
- 14 :
- 「うっ……」
血走った目で威圧する男を見てヨモギは一歩退いた。
「無償で人のものを手に入れることができると思うなよ、小僧」
「やばいよ、ヨモギ」
シシトウがヨモギの肩を小突いて震えた声をあげた。
「たぶんこの人、能条っていう町内でカードのカツアゲしてるチームの人だよ」
「チーム?」
ヨモギも以前、聞いたことがある。無理やりポケモンカードで勝負を挑んで奪っていく集団が最近出没していると。
「下手にちょっかいを出したら、あの子みたいにされる。早く謝って逃げたほうがいい」
「……」
言葉を失い、ヨモギはうつむいた。
「聡明な友を持っているようだな」
すっかり脅えた様子の二人を見て能条が勝ち誇った顔を浮かべる。
「今から詫びれば一人あたり500円で見逃してやるぜ」
「……できねえ」
ヨモギが顔を呟いた。
- 15 :
- ここは小説投稿板じゃないんだが
- 16 :
- 「何だと?」
予想外の返答に能条が怪訝な顔をする。
「引き下がれるかよ、ここでオレが逃げたらアイツのデッキは戻ってこない」
「ヨモギ……」
シシトウが不安気な顔でヨモギを見る。
「悪りぃシシトウ、でもコレだけは譲れねえ。デッキはプレイヤーにとって親友も同然だからさ」
ヨモギが雑巾を見ながら神妙に云う。
「それはオレたちもアイツも同じなんだ」
「……」
ガチャン!
空気を遮るように能条が転がっていたビンを叩き割った。
「ならどうする。素手で俺様に立ち向かうのか?」
いくらニ対一とはいえ、小柄な少年二人と身長190cmほどの能条では生身の喧嘩をしたところで話にならない。
まさに絶対絶命の状況。
「ちくしょう……」
ヨモギが悔しそうに呟く。
- 17 :
- 「ここまで俺様をコケにしてただで済むと思うなよ」
能条が指と首をゴキゴキと鳴らしながら、一歩前に出る。
「待って!」
その時、シシトウの声が割って入った。
「あなたもポケカのプレイヤーなんだ。勝負はカードで付けたらどうですか」
「カードでだと?」
能条が話に引かれたように。威嚇の動作を止める。
「そうだ! 暴力を使ってカードを取るのも対戦の腕がへぼいからなんじゃないのか」
ヨモギが強気で挑発する。
状況を打開する策が見つかったかも知れない。
「まさかこの俺がそんな言葉を投げかけられるとはな」
能条が地面に散らばった紺色のビンの破片を足で砕く。
「そこまでいうのは俺様と戦う覚悟があってのことだろうな」
問いかけに対してヨモギは自信にあふれた笑みを浮かべながら、
「当たり前だろ!」
- 18 :
- 「オレが勝ったら、あいつのデッキを返せよ」
「いいだろう、俺様が勝ったらお前のデッキを……そして」
能条がシシトウを指差す。
「そこの眼鏡小僧のデッキを頂く」
「なっ、2:1賭けなんて不公平じゃねえか」
「なら俺様は自分のデッキを賭ける。これで対等だろう」
負けたら、自分だけでなく友のデッキまでとられる……。
「いいよ、ヨモギ」
シシトウは頷き、笑みを見せた。
「シシトウ……。ああ、任せとけ!」
能条が背後のボロ雑巾少年が倒れた辺りにテーブルに目を向ける。テーブルの上にはプレイマットが雑にかけられ、能条のものらしきカードとダメージカウンターが散らばっていた。
能条がテーブルの椅子に座る。ヨモギも向かいあうようにテーブルについた。
ヨモギがケースから取り出した自分のデッキを見つめる。
「大丈夫だ。お前らがついてるからな」
ヨモギと能条は互いに自分のデッキをシャッフルし始めた。
- 19 :
- 互いにデッキを切り終わると、デッキからカードを7枚ドローする。
まずはこの7枚中から、必ず一枚はたねポケモンをバトル場に裏側でセットしなければならない。
「よし、オレはこの2匹だ」
ヨモギはバトル場とベンチに一枚ずつカードを置いた。
「俺様はこのカードだ」
能条がかバトル場にカードを一枚置き、ニヤリと笑う。
「小僧、サイドカードは三枚でいいな」
「好きにしな、速攻でぶっ倒してやるからな」
能条とヨモギは山札から三枚引き、左手のスペースに置く
サイドカードは相手のポケモンを気絶させる度に手札に加えることができ、先に全てのサイドカードをとったプレイヤーは勝利することができる。
ジャンケンに勝利した能条が先攻となった。
「さあ、バトルスタートだぜ!」
ヨモギの声と共に伏せられたカードが表になる。
- 20 :
- ハラハラしますな
- 21 :
- ヨモギのバトル場にはクイタラン90/90、ベンチにはオドシシ70/70。
対して能条はバトル場にケンタロス90/90一匹。持ち主に似て獰猛そうなポケモンだ。
「俺様の番だな、デッキからカードをドロー」
引いたカードを確認し、能条はふてぶてしく笑う。
何かいいカードでも引いたのか……?
乱暴でありかつ、掴みどころのない能条の性格はただならぬ威圧感を放っている。
下手に取り込まれないようしなければならない。
「俺様はグッズ、『エネルギー交換装置』を発動する」
「いきなりエネルギーのサーチか」
手札のエネルギーとデッキのエネルギーを入れ替えるグッズ。ポケモンがワザを使うにはそれに応じたタイプのエネルギーをつけなければならないため、三種以上のタイプを扱うデッキならば重宝するカードだ。
しかし、能条の場のケンタロスは基本的にどんな種類のエネルギーでもワザを扱うことができる無色タイプのポケモン。エネルギーを交換する利点は恐らくアレだろう。
「手札の闘エネルギーを山札に戻し、デッキからダブル無色エネルギーを手札に加える」
やはり。ヨモギの予想は当たっていたダブル無色エネルギーだ。
能条はデッキをきり、使用したグッズカードをトラッシュに置いた。
「ケンタロスにダブル無色エネルギーをつけさせてもらう」
- 22 :
- 「ダブル無色エネルギーはその名の通り、1枚で無色エネルギー2枚ぶんとしつ扱う」
「そんなこと知ってるっての!」
能条の言った通りダブル無色エネルギーを使えば、1ターン目からエネルギー2つぶんの強力なワザを使うことができる。
初手から痛手を負いたくないところだが……。
「それではケンタロスのワザ、レッドブルを食らうがいい!」
無無 レッドブル 30×
コインを3回投げ、オモテ×30ダメージ。このポケモンをこんらんにする。
「3回コインを投げ、オモテの数かける30ダメージを与える」
「何だって!?」
シシトウがいささかオーバーなアクションで驚く。しかし無理もないだろう、初手で相手に与えられるダメージは10〜30であるのに対してケンタロスは最高90ダメージの打点を出せるのだ。
しかし、それは……
「一回目、オモテだ」
オモテが全てが出たときであり……
「二回目もオモテだ!」
「そんなに都合よくコインがオモテになるわけが」
「三回目、オモテ!」
「えっ」
- 23 :
- ヨモギが絶句する。なんとこんな時に限って三回連続のオモテを出されてしまった。
「90のダメージ! これでクイタランは気絶だ」
90のダメージをくらったクイタランはHPを0にされ、気絶してしまった。
これに能条はサイドカードをとり、残りのサイドは2枚となる。
「レッドブルの効果でケンタロスはこんらんし、俺様の番は終了だ」
能条はケンタロスのカードを逆さにした。
「よ、ヨモギ……」
さっきまで勝ちを信じると云ったシシトウも顔をひきつらせていた。初手からいきなり苦しい状況だ。
「先手を取られちまったか……」
しかし、ため息をつきながらもヨモギは笑みを浮かべていた。
強力な先制攻撃。とんでもないリスクがかかった勝負。
……面白い。
「この状況をひっくり返してやるぜ! ドロー!」
- 24 :
- ヨモギは勢い良くデッキからカードを引いた。
第1話 終わり
- 25 :
- 閲覧してくれた皆さん。本当にありがとうございます!
>>15さん ここはポケモン板です!
>>20さん 白熱の戦いは二話に続きます!
- 26 :
- 続いて第2話投下です!
- 27 :
- 互いのデッキか賭けたヨモギと能条のポケモンカードバトル。
開始してすぐにヨモギは自分のポケモンを一匹気絶させられてしまうが、まだまだ勝機はある。一気に逆転をしたいところだが……。
「オレはオドシシに炎エネルギーをつけて、なかまをよぶを使う」
なかまをよぶ 無
自分の山札のたねポケモンを2枚まで、ベンチに出す。 そして山札を切る。
「デッキから、ダルマッカとポカブをベンチに出すぜ!」
山札からダルマッカ70/70とポカブ70/70をベンチに出すと、ヨモギはデッキをシャッフルした。
「一気にたねポケモンを揃えたやがったか」
炎ポケモン……特にヨモギのデッキのポケモンは比較的HPが高い。
ケンタロスの火力がいくら高くとも攻撃を受けきれば反撃のチャンスは必ずある。
「では俺様の番だ」
能条はドローしたカードを見て不敵な微笑を浮かべた。
「ベンチにゴビットを出す」
能条のベンチに闘タイプのポケモン、ゴビットが出された。HPは80とたねポケモンにしては中々の数値だ。
- 28 :
- 「ゴビットに闘エネルギーをつけ、俺はグッズカード『プラスパワー』を使用! この番の間、ケンタロスのワザの威力は+10される」
「ちっ……!」
ヨモギが舌打ちした。このカードゲームを知っているものなら、威力が10増えることがどれほど大きいかはわかるだろう。
特にオドシシの体力のことを考えれば……。
「これでレッドブルのコイントスが二回成功しても、オドシシは倒れるぜ」
「だけどお前のケンタロスはこんらんしてるぜ」
こんらん状態のポケモンは攻撃時にコイントスをし、オモテを出さなければ攻撃に成功しない。もしもウラが出れば自身に30ダメージを受けてしまう。
「残念だったな小僧。手札のなんでもなおしを発動し、ケンタロスの状態異常を回復させてもらう」
能条が逆さになったケンタロスを正しい向きに直す。
「そして、ケンタロスのレッドブル!」
能条のコイントスを固唾を飲んで凝視する。
1回目、オモテ。
「くそ……」
思わず声が出る。あと一度オモテが出ればオドシシは気絶してしまう。
- 29 :
- 2回目……ウラ。
「よしっ」
ヨモギが小さくガッツポーズをつくる。これで結果は3回目のコイントスに委ねられた。
そして3回目、能条の指から弾かれたコインは回転しながら緑色のプレイマットに落ちる。
コインの向きは……。
「くそ、ウラか!」
能条が悔しそうな声を上げた。
「よし、これでレッドブルの威力は40だ!」
オドシシのHPは30まで削られたが、このターンはしのげた。次の番に巻き返せる。
「ドロー!」
引いたカードを見る……それはこの場を巻き返すことが出来る、まさに逆転のカードだった。
「俺はサポートカード『ウツギ博士の育てかた』を使用するぜ!」
ヨモギが使用したカードをプレイマットのサポートのスペースに置いた。
- 30 :
- サポートは自分の番に一度しか使用できない代わりにいずれも強力な効果を持っている。たとえば、デッキから手札にカードを加えるようなカードはサポートであることが多い。
ウツギ博士の育てかたは強力なカードサーチの力を持っている。サイドカードになっていない限りは、この場を打開できるカードをデッキから持ってくることができるはずだ。
「このカードの効果でデッキの進化ポケモン一枚をもってくることができる」
山札の中を見る。必要なカードは……見つかった。
「オレは手札にヒヒダルマを加え、ベンチのダルマッカを進化させる!」
ベンチのダルマッカの上にヒヒダルマをのせる。HPは120。たねポケモンとは比べものにならない力をもったカードだ。
「さらにグッズのポケモンいれかえでバトル場のオドシシとベンチのヒヒダルマを入れ替えるぜ」
傷ついたオドシシをベンチに戻し、ヒヒダルマをバトル場に立たせる……これで準備はできた。
「進化ポケモンとはいえ、エネルギーがついていないポケモンをバトル場に出すとはな」
「壁にするつもりか」と能条がせせら笑う。
「どうかな。オレは手札のダブル無色エネルギーをヒヒダルマにつけ、エネルギーつけかえを発動!」
「何っ!?」
能条が初めて驚きの顔を見せた。
「オドシシについた炎エネルギーをヒヒダルマに付け替える」
これでヒヒダルマにはエネルギーが3つ。高威力のワザを使うことが出来る。
- 31 :
- 「ヒヒダルマのワザ、あばれるを使う!」
炎無無 あばれる 70+
コインを1回投げオモテなら、20ダメージを追加。ウラなら、このポケモンにも20ダメージ。
ヨモギが弾いたコインは……オモテとなった。
「吹き飛べ! ケンタロスに90ダメージだ」
ヒヒダルマの強力な一撃により一気にケンタロスは気絶する。
ヨモギがサイドカードを手札に加え……残り二枚。能条に並んだ。
「やった、状況が逆転した」
シシトウが歓喜の声を上げると、
「黙れ!」
能条の一喝にシシトウは口を塞ぐ。
「小僧と思ってなめすぎたか……だが、勝負はまだついていない」
「ああ、次はお前の番だぜ」
ヨモギが平静に言い放つ。
勝負は波に乗り始めた。能条の威圧におびえてはいられない。
- 32 :
- 「俺様の番だ、ドロー!」
劣勢に逆らうかのように能条は力強くドローする。
「踏み潰す……。ゴビットに闘エネルギーを装着」
ケンタロスに代わってバトル場に現れたゴビットに二枚目の闘エネルギーがつけられた。
「そして、ばくれつパンチを使用する!」
闘無 ばくれつパンチ 20+
コインを1回投げオモテなら、20ダメージを追加し、相手のバトルポケモンを
こんらんにする。
「コイントスだ!」
今回のバトルで既に何回も行われたコイントス。
能条の意地に応えたかのようにオモテがでた。
「狂え狂え! ヒヒダルマは40ダメージと共にこんらん状態になる」
「くそ……」
逆転の要であるヒヒダルマがこんらんで動きにくくなってしまった。
しかし、HP80のゴビットを倒せば能条のポケモンはいなくなり、自分の勝利だ。
依然、こちらが優勢であることには変わりない。
- 33 :
- 「ドロー!」
引いたカードは……プラスパワー。これを使えばヒヒダルマのあばれるでゴビットを確実に気絶させることが出来る。
だがヒヒダルマはこんらんしているため、ワザが必ず通るとは限らない。ここは一度ヒヒダルマをベンチに逃がすのも手だろうか? いや……
「オレはプラスパワーを発動する!」
ここは引いてはいけない。もし能条が次の手をうってくれば勝負に出なかったことを引きずるだろう。
「小僧め……厄介なカードを」
能条が歯をきしませる。
「だが、ヒヒダルマはこんらんしている。なんでもなおしでも使わなければ攻撃が必ず通るとは限らんぜ」
「そんなもんはオレのデッキに入ってねえ」
ヨモギがコインを手に持った。
「確率50%に賭ける! ヒヒダルマのあばれる攻撃だ!」
ヨモギの指からコインが放たれる。
オモテなら勝ちだ。
コインはプレイマットの上に着地し……。
「あっ!」
ウラとなっていた。
- 34 :
- 「そんな……」
シシトウが声を落とす。勝ちのチャンスがおじゃんになってしまった。
ヒヒダルマは30ダメージを受け、残りHPは50/120となってしまう。
「今のチャンスをものにできなかったようだな」
「別にお前が優勢になったわけでもないだろ」
「いや、勝利の最高神は俺様を選んでいる。ドローだ」
先ほどとうってかわった冷静なドロー。能条はもはや自分の勝利が決まったかのような余裕ある表情になっている。
「俺はポケモン通信を使用する。手札のドンファンをデッキに戻し、デッキからゴルーグを手札へ加え……ゴビットを進化!」
能条が手札に加えたゴルーグ130/130をゴビットの上に重ねる。
ゴーレムを模した巨大なその姿はヨモギの勝利を阻む壁のように見えた。
「闘エネルギーをゴルーグにつけ、ヒヒダルマにアームハンマーだ!」
闘闘無 アームハンマー 60
相手の山札を上から1枚トラッシュする。
「くそ……ヒヒダルマが」
残りHP50のヒヒダルマは気絶し、能条の残りサイドは一枚。ヒヒダルマの代わりにバトル場にでるポカブはエネルギーのついてない貧弱なたねポケモンでとてもゴルーグにはかないそうにない。
先ほど以上に絶望的状況だ。
- 35 :
- 「小僧、もう勝ちの目はない。降参したらどうだ」
勝ちを確信したのか、能条が挑発の声を投げかけた。
「降参? なにふざけたこと言ってるんだ」
この勝負には自分、親友、そしてどこの誰かも知らない少年の大事なデッキが賭けられている。
それに……。
「こんなワクワクする勝負を途中で投げだせるかよ!」
逆境を楽しむようにヨモギが笑みを浮かべながらドローする。
周りに静寂が走り、ヨモギが引いたカードをゆっくり確認する。
「……来たぜ」
引いたカードは自分の信用する切り札。
「オレは手札から、ふしぎなアメを使用する!」
「ふしぎなアメだと」
能条が一気に顔色を変えた。
ポケモンカードのプレイヤーなら誰もが知る強力なグッズ。そして同時に強力なポケモンが現れることを示唆するカードでもある。
- 36 :
- 「ふしぎなアメの効果で、自分の場のポケモンを一進化飛ばして進化させる」
瞬時にたねポケモンをニ進化ポケモンに変化させる効果。これがヨモギが掴んだ逆転の糸口だった。
「最終進化、エンブオー!」
ヨモギは手札のエンブオー150/150をポカブの上に重ねる。
「ヨモギの切り札だ!」
シシトウが歓喜の声を上げた。
「おのれ……」
高いパワーと強力な特性を持ったニ進化ポケモンが突如現れたことに能条も怯んだ様子を見せる。
「だがエンブオーが攻撃するには4枚の炎エネルギーが要る。残り三枚のお前の手札でどう逆転しようというんだ」
「なら、手札に加えればいいだけさ」
「何?」
「サポート、インタビュアーの質問! 山札を上から8枚を見て、その中のエネルギーを好きなだけ手札に加える」
デッキからカードを8枚引く。デッキがヨモギの気持ちにこたえるように中には炎エネルギーが4つ混ざっていた。
「4枚のエネルギーを手札に加え、エンブオーの特性を発動!」
ヨモギが4枚の炎エネルギーを全てエンブオーに装着した。
「れっからんぶ。自分の番に何度でも炎エネルギーをつけることができる……さあ、いくぜ」
- 37 :
- 「ヒートスタンプでゴルーグに攻撃!」
炎炎無無 ヒートスタンプ 80
ゴルーグのHPは80減らされ、残り50。あと一度の攻撃で倒すことができる。
「くっ……」
能条が苦い顔でドローした。
「貴様のような小僧にここまで俺が追いつめられるとはな……だが勝つのは俺様だ。ジャッジマンを発動!」
サポートのスペースに能条がカードを叩きつける。
「互いのプレイヤーは手札を全てデッキに戻し、カードを4枚ドローする」
能条とヨモギは手札をデッキに戻して、山札を切ると、カードを4枚引いた。
「俺はモーモーミルクを発動する。二回コイントスをし、オモテが出た数の30倍ゴルーグの体力を回復させる」
「ここに来て回復グッズか……」
ゴルーグの残り体力は50。二回オモテが出ればヒートスタンプでゴルーグを倒すことが倒すことができなくなってしまう。
……そしてコインが放たれ、
ウラを向いた。
- 38 :
- 二回目はオモテだったものの、ゴルーグの残り体力は80。ヒートスタンプで倒せる範囲だ。
しかし能条は焦りつつも落胆した様子がない。
「まだだ! 俺は2枚目のモーモーミルクを使用!」
「なにい!?」
再び、コイントスがはじまり……結果は2連続のオモテとなる。
「これで、ゴルーグは完全回復する」
全てのダメージカウンターが取り除かれ、ゴルーグのHPは130となった。
「闘エネルギーをつけ、ゴルーグの技ハリケーンパンチを使用する!」
闘闘無無 ハリケーンパンチ 50×
コインを4回投げオモテの数×50ダメージ。
「エンブオーのHPは150……オモテが3回出れば俺の勝ちだ!」
能条がコイントスをしていく。
1回目ウラ。2回目オモテ。
3回目、オモテ。
「くそ……!」
そして命運を決める四回目のコイントス。
- 39 :
- 結果は……ウラ。
「よし、耐えた」
「しかしエンブオー残りHPは50。次の番のアームハンマーで勝負は決まりだ」
「ヨモギ、デッキに回復系のグッズは手札にある?」
シシトウが恐る恐る聞く。
「デッキに入れてさえない」
「ええっ!?」
「まじでヤバい状況だ」
今の手札ではゴルーグを倒すことは到底できない。
何にせよ、次のドローで勝負が決まるだろう。
「いくぜ、これが最後のドローだ!」
ヨモギがデッキの上に手をかける。
一枚……この状況をひっくり返すカードがデッキに眠っているはずだ。
先ほどデッキの中で確認することができたため、サイドカードにないことは間違いない。残りデッキ枚数が30枚程度という考えると次ドロー出来る確率は3%あたり……。
- 40 :
- 100人に3人……。
あまりに現実的すぎる数値だ。
「ドロー!」
ヨモギは勢いよくドローし、カードを確認する。
「……来たぜ、逆転のカードがな」
「なに……?」
「サポートカード『からておう』。自分のサイドが相手より少ないとき、この番のワザの威力を40上昇させる」
「この局面でからておうを引いたか、だがそれではゴルーグはHPを10残し、耐えきるぞ」
「ああ、でも……。
だからポケモンカードで10ダメージは重要だ」
ヨモギがニヤリと笑う。
劣勢を楽しむ笑いでなく……勝利の笑みだ。
「まさか……」
「そのまさかだ。グッズカード『ジャンクアーム』!」
- 41 :
- 「手札を二枚捨てて、トラッシュのプラスパワーを手札に戻す」
「くっ……」
「くらえ! プラスパワーを発動し、エンブオーのヒートスタンプを使う!」
からておうとプラスパワーにより威力が130に達したヒートスタンプでゴルーグは一撃で気絶する。能条のポケモンが全て気絶したことによりヨモギの勝利が決まった。
「よっしゃあ!」
ヨモギがガッツポーズを作り、歓喜の声を上げるとシシトウが胸をなで下ろした。
倒れた少年は既に気を失っていたようだったが、ホッとした表情のように見える。
「くそが!」
バキャッ!
能条がテーブルを拳で叩き割り、体を震わせる。
「……約束は守る。もってけ」
能条は少年のデッキが入ったケースをテーブルの残骸の上に投げ置いた。
そして、その場を避けるように路地裏を去っていく。
- 42 :
- カード取り戻せたみたいでよかったです!
http://yy33.kakiko.com/test/read.cgi/pokedun/1130064589/l50
ここにSS仲間?がいます
よければ来てください
- 43 :
- 「待てよ、能条」
ヨモギが能条のもとに駆け寄る。
「なんだうっとうしい」
「忘れ物だぜ」
ヨモギがカードの束を能条に手渡した。
「……こいつは」
能条が言葉を失う。束の先頭に見えるのはゴビットのカード。
「お前、強ぇよ。また楽しい勝負をしようぜ」
苦戦したものの、面白い戦いだった。
この気持ちに偽りはない。
「ふん、バカな奴め」
能条は一瞥するとデッキを懐にしまい、その場を後にした。
「あいつのデッキを返して良かったの?」
去り行く能条を見届けるとシシトウが問いかけた。
「まあ、いいじゃねえか。勝負で奪ったデッキなんてどうせ使う気しないしさ。それよか、あいつをオレん家まで担いでってやろうぜ」
ヨモギはずっと倒れっぱなしの少年に目を配る。
- 44 :
- ※
――田村ヨモギの勝負を見届けると、双眼鏡から目を離した。
ビルの屋上に吹き抜ける風が目に染みる。
あの大男の凶行を止めようとした矢先にヨモギが現れ、勝負を見せてくれるとは全く幸運としかいいようがなかった。
連中の目がある可能性もないとは言えないためそうそう明るみに動きたくはない。それに恐らく、あの男は奴らにどこかしら関係があるようだ。
……そう、自分の居場所は出来るだけ隠さねばならない。
この役目を果たすために。
第2話 終わり
- 45 :
- ◆今日の最強カードはこれだ!
エンブオー HP:150 炎 二進化
特性
れっからんぶ
自分の手札から炎エネルギーを1枚選び、自分のポケモンにつける。この特性は、自分の番に何回でも使える。
炎炎無無 ヒートスタンプ 80
弱点:水×2 抵抗:− 逃げる:無無無無
- 46 :
- >>42さん 素晴らしい廃墟掲示板ですね!気に入りました!!
- 47 :
- 糞小説終了
- 48 :
- あげぽよ
- 49 :
- からの
- 50 :
- 大団円
- 51 :
- >>47さん 終了が終わり、開始がはじまります!
>>49さん 物語はまだ序章です!
三話投下です!
- 52 :
- 秋半ばの土曜日。
ヨモギとシシトウはいつもの店で対戦していた。
「よし、クイタランのやきつくす! モロバレル気絶気絶!」
「ああ……、せっかく立てたのに」
シシトウが口をとがらせる。
場はヨモギの優勢。しかし、シシトウの手札は10枚近くで勝負はまだまだ分からない。
緊迫の一瞬……。
チャリーン
それを遮るように入店の鐘がなった。
「いらっしゃ……い、ませ」
店に入ってきた客の姿を見た途端、店長の声のトーンが落ちていった。
――2m前後ありそうな身の丈。肩まで出た服から露出したはちきれんばかりの筋肉。
そして目の周りを覆い隠す金属製の仮面。
明らかに怪しい風貌の男だ。
「なんだ、ありゃ」
ヨモギが思わず声をもらす。
- 53 :
- その言葉が聞こえたのか、仮面男はヨモギに目を合わせてきた。
無言でヨモギとシシトウのテーブルまで歩いてくる。
「げ、来た……」
シシトウが露骨に嫌そうに囁く。
「よう、オレらに用か」
「……田村ヨモギ」
仮面の男が低い澄んだ声で、
「アゲインスターズの能条に勝利したようだな」
能条……一週間ほど路地裏で戦ったやり手のプレイヤーの姿が頭をよぎった。
「おう、まあな」
ヨモギが素っ気なく答えると、男は仮面から露出した口で小さく笑う。
「手合わせ願いたい」
「なーんだ、オレと戦いにきたのか」
ヨモギは仮面男を警戒するような姿勢をといた。
「じゃあ、この勝負が終わるまで待っててくれよ」
ヨモギがテーブルの下から、自分の右隣に椅子を引き出した。
- 54 :
- 仮面の下からスルドい目をギラらせ、男が店内を見渡す。そのまま口をつぐませテーブルから離れた。
「おい、勝負は?」
返事はなく、男は逞しい背を見せながら店を後にした。
「時間がおしてたなら言えばいいのになあ」
眉をひそめて男を見送るヨモギ。リラックスするように椅子にもたれかかった。
「そういえば能条がヨモギと戦ったって知ってたよ」
ドローしたカードと手札を確認しながら、シシトウが呟く。
「ああ。ベイスターがどうとか変なこと言ってな」
「もしかしたら能条の関係者かもしれない……ね」
「つまり、あいつの仲間で、弔い勝負をオレに仕掛けようってわけか。上等だ!」
ヨモギが意気揚々とカードを引いた。
「まだこっちの番だよ」
「あ、わりい」
- 55 :
-
※
シシトウが親の買い出しに付き添わねばならないため、今日は早めに勝負に区切りがついた。
時刻はまだ2時過ぎ。せっかくの暇にヨモギは自宅でデッキの点検をしていた。
(やっぱり、パンチが足りないよなあ)
ポケモンの展開力や、エネルギー加速に優れているものの、ヨモギ自身もデッキのパワー力に悩んでいた。
(いっそのこと、空手王は四枚入れるか?)
「あらー?」
そんなヨモギの思考を野太い声が遮った。
「ヨモギ、帰ってたならいやーええじゃない」
「おう、母ちゃん」
……母だ。ちょうど今年40で、いつもはパートをやっている。
息子が思うのも何だが、パグに激似だ。
「さっき、あんたの友達がきとったよ」
「友達? どんな奴だった?」
「体が電柱ぐらい大きくて、変なお面つけてる子だけど……」
- 56 :
- 電柱はいきすぎな表現だが、仮面を付けた知り合いは一人しかいない。
「あいつか……家まで調べあげるなんて気合い入ってるなあ」
「これをあんたに渡せってさ」
そういいながら、母はエプロンのポケットから茶封筒を取り出す。
「封筒……って、万札でも入ってんのかな」
母が部屋を出た後、封筒の中身を取り出したところ、ボールペンで丁寧に書かれた手紙が出てきた。
今日23時、最強
のデッキと白陽神
社に参られたし
〜Kの男より〜
「これは、挑戦状って奴か?」
最強のデッキと……相手が自分と全力で戦いたがっているのは間違いないようだ。
「よーし、いっちょ受けてやるか」
手紙を引き裂いてゴミ箱に捨てると、ヨモギはデッキ調整を再開し始めた。
- 57 :
-
※
私はあたりを見渡して、人の姿がないことを確認した。
しばし当然といえる。以前からこの神社の堀には溺死した幼児の霊が出ると言われ、夜はおろか昼も人が寄り付かない。
それを踏まえた上で、ここを対戦の舞台に選んだのだ。
風が目に差し込む。秋の夜風は冷たさと共に気持ち良さがある。ざわめく木々も心に安らぎを与えてくれる。
彼……田村ヨモギはやってくるだろうか。
喧嘩は売られずとも必ず買うような男だ。特別な理由がない限り、挑戦を受けないことはないだろう。
あるとすれば、母に手紙を読まれて咎められるか。
もしくは家を抜け出すところを捕らえられるといったところか。
今日来なかった場合は手数だがまた同じ手順を踏まなくてはならない……。
できるだけ、表だった行動は好かないが、ある程度の危険
を犯してでも、直接勝負して語りたいと思うのがポケカプレイヤーの信念という奴だろう。
ポケカプレイヤーの信念。
我ながら気取ったような馬鹿馬鹿しい言葉に笑みがこぼれる。
- 58 :
- ts
- 59 :
- 信念など関係なく、田村ヨモギが本当にあのカードを持つに相応しいかを見極めるためにも直接の対戦は必要だろう。
「奴」を倒すほどのプレイヤーに成長してもらわねばならない人物なのだから。
……そうは思えど。
やはりポケモンカードゲームバトルの前は血が騒ぐのは否定できない。
気づけば風が止み、神社は静寂に包まれた。
そしてここまで続く石の階段を踏む音が聞こえた。
※
迷惑な挑戦者もいたものだと、ヨモギは神社への階段を上がりながら感じた。
結果的に何とか誰にも気づかれず家を出ることができたのは良かったが、少々手間取ってしまった。
約束の11時丁度はオーバーしている。あのKの男が帰っていたら、とんだ無駄足だ。
さらにここは悪霊が出ると有名な神社。現れないという保証はない。
少々恐ろしくなり、階段を駆け上がっていく。
- 60 :
- (呪い殺されたら、あいつを呪ってやる!)
そもそも、こんな夜中に呼び出すなど青少年の健康をまるで度外視している。
こんな危険な場所に呼び出しておいて、来ていないなんてことは許されない。
しかし、そんな不安も無駄に終わった。
長い階段を登り終わったすぐ先にあの仮面の男は確かにいた。
神社の電灯に照らされ、仮面は不気味に輝いている。
「来たか……臆病風にふかれたかとでも思ったぞ」
口元でニヤリと笑いながら、仮面の男が低い声で言う。
「馬鹿いうな。お前を倒す最強のデッキを調整してたんだ」
「早速、勝負に移るとしよう」
仮面の男が賽銭箱の上にプレイマットを敷く。少々バチあたりではないか。
対戦テーブルと化した賽銭箱を挟んで二人は向かいあった。
「対戦はサイド三枚のスタンダードデッキでの勝負。異存はないな?」
「ああ、さっさとおっぱじめようぜ」
- 61 :
- 仮面の男がベルトにつけたケースからデッキをとりだすと、ヨモギも右ポケットから山札を出してシャッフルを始める。
能条との関係。夜中に自分と闘う理由。奇妙な仮面。聞きたいことは沢山あったが、まずは対戦をすることにした。
ポケカプレイヤーは闘うことで互いを知っていくものだ。バトルの中で聞き出していけばいい。
互いに7枚ずつ引いたカードから、ヨモギは2体、仮面の男は1体、場にポケモンを裏側でセットした。
じゃんけんによって先攻は仮面の男に決まり、
「バトルスタートだぜ!」
ヨモギの声と共に裏側のポケモンがオープンされる。
ヨモギのバトル場にはダルマッカ、ベンチにポカブ。対する仮面の男はバトル場には……。
「ボルトロス!」
雷神の姿を模した電気ポケモン、ボルトロス。強力だが、かなりのレアカードでヨモギも実物は過去に一度しか見たことがなかった。
「こいつは面白くなって来たぜ……」
男は特に返答せず、カードをドローした。
- 62 :
- 手札とドローカードを凝視すると、
「ボルトロスに雷エネルギーをつけ、じゅうでんを使用する」
無 じゅうでん
自分の山札から雷エネルギーを1枚選び、このポケモンにつける。そして山札を切る。
2枚目の雷エネルギーをボルトロスに装着すると、仮面の男はデッキをきった。
(1ターン目からエネルギー加速か……)
自身のエネルギーを増やして威力の高いワザを素早く繰り出すのがボルトロスの恐ろしさだ。
単純な殴り合いではこちらのポケモンは一気に片付けられてしまうだろう。
「オレの番だ。いくぜ」
引いたカードを見て、ヨモギはよしと呟く。
「ダルマッカ80/80にダブル無色エネをつけて、ぶちかますだ!」
無無 ぶちかます 20
110のボルトロスのHPは90まで減る。致命傷には程遠いが、ヒヒダルマで倒せる範囲にすることができた。
- 63 :
- しかし、今一番に繰り出すべきポケモンはヒヒダルマではない……。
ヨモギは手札の一枚のカードをふと見た。
「その仮面がぶっ飛ぶほど驚くことになるぜ」
「それは楽しみだ」
仮面の男は薄く笑いながらカードを引く。
「では、手札からサポーターカード『ポケモンコレクター』を使用させてもらう」
山札もたねポケモンを3枚までサーチするカードだ。一気に場を固めるつもりだろうか。
「サンダー、シェイミ……」
男は山札を探り、手札に加えるカードを選び出していく。
「そして、トルネロスを手札を加える」
(トルネロスまで持ってんのかよ……)
風神を模した、ボルトロスと対をなす。これまたかなりのレアカードだ。
「ベンチにトルネロスとサンダーを出す」
強力な大型たねポケモンがさらに2体並べられた。
どれも姿だけでも、かなりの貫禄を持っている。
- 64 :
- バトル強化デッキレシゼクW無色入っててTUEEEEE
- 65 :
- 「へん、大型ポケモンを並べてもエネルギーを貼れなきゃ、ただの壁だぜ?」
見かけで怯んではいけないとヨモギが挑発する。
「……攻撃の策はできあがっているということか」
「ああ、もろちんな」
手札のうち一枚のカード。そう、これを使って一気に畳みかけられるはずだ。
「では、私はポケモンキャッチャーを発動する」
「なに!」
グッズによって、ベンチのポカブとバトル場のダルマッカが強制的に入れ替えられる。
「ボルトロスに雷エネルギーとディフェンダーを装着し、ディザスターボルトで攻撃する!」
−
雷雷無 ディザスターボルト 80
このポケモンについているエネルギーを1個選び、トラッシュする。
70あったポカブの体力は全て削られ、仮面の男が最初のサイドカードをとった。
- 66 :
- (くそ、作戦を見抜かれてたか)
グッズでエンブオーを山札から探り出し、ふしぎなアメで一気にポカブを進化させてゴリ押しする。
頭に描いた筋書きを一気に潰されてしまった。
「エネルギー加速ができなければ、貴様のデッキは機能しないだろう」
仮面の男が言う。やはり戦法を見抜いていたようだ。
「ちぇ、オレの戦法知ってたのかよ」
「でも」とヨモギが言葉を続ける。
「やっぱ筋書き通りに行っちゃあ、バトルは面白くないよな」
夜中にここまで出てきた後悔はなくなっていた。
好奇心をそそられるカードと相手とバトルが目の前にある。
「オレの番だ!」
ドローし、引いたカードを確認する。
よし……この状況を打開してみせる。
「チェレン使うぜ」
サポーターゾーンにカードをおき、山札からカードを3枚ドローする。
- 67 :
- 「ベンチにガーディを出して、こいつにどうぐカード『がくしゅうそうち』を持たせる」
がくしゅうそうちの効果で、バトル場で気絶したポケモンの基本エネルギーを持たせたポケモンに一つ引き継げる。後続のポケモンはこれで確保できた。
「ダルマッカをヒヒダルマに進化させて、炎エネルギーをつけるぜ」
貧弱なダルマッカ80/80が高火力高耐久力のヒヒダルマ120/120に変貌する。
ガーディが育つまでは、ヒヒダルマに「文字通り」大暴れして相手に大きなダメージを与えてもらわねばならない。
「いけっ、あばれるだ!」
炎炎無 あばれる 70+
コインを1回投げオモテなら、20ダメージを追加。ウラなら、このポケモンにも20ダメージ。
ヨモギが弾いたコインは、オモテを向けてプレイマットに落ちた。
「ボルトロスに90ダメージ!」
「だが、ディフェンダーの効果でダメージは20軽減される」
ボルトロスはHPを20残して何とか場にとどまった。
- 68 :
- 「よし、次の攻撃でボルトロスにトドメだ」
「それはどうかな」
仮面の男がニヤリと笑う。
「どういうことだ?」
「その程度の攻撃では俺のサイドは削れんということだ。田村ヨモギ!」
今までになく張り上げた声をあげて、仮面の男がカードを引く。
「ボルトロスをベンチに逃がし、トルネロスを出陣させる」
傷ついたボルトロスがベンチに帰り、ボルトロスと並ぶ大型ポケモン、トルネロスがバトル場に現れた。
「次はトルネロスか……面白え」
再び風が吹き始め神社の木々がざわめく。
新たな敵にヨモギは笑みを浮かべた。
第3話 終わり
- 69 :
- ◆今日の最強カードはこれだ!
ボルトロス HP:110 雷 たね
無 じゅうでん
自分の山札から雷エネルギーを1枚選び、このポケモンにつける。 そして山札を切る。
−
雷雷無 ディザスターボルト 80
このポケモンについているエネルギーを1個選び、トラッシュする。
弱点:闘×2 抵抗:− 逃げる:無
- 70 :
- 支援をくれた皆さんに感謝です!
>>58 tajiri
satoshi ポケモン界の神ですね!
>>64 N、アララギ博士、ニコタマ 絶賛暴落中です!
>>68
誤記訂正
×その程度の攻撃では俺のサイドは削れん〜
○その程度の攻撃では俺からサイドは奪えん〜
相手から削るカードゲームの多いこと……
- 71 :
- 第4話投下します!
- 72 :
- 新たに仮面の男のバトル場に現れた大型ポケモン、トルネロス110/110。
そしてこのポケモンが呼んだかのように真夜中の神社に風が吹きぬけはじめた。
状況的には攻撃の準備が整い、ポケモンの体力に余力があるヨモギが有利だろうか。
しかしサイドはあちらの方が一枚少なく、強力なポケモンが並んでいるため油断はできない。
「エネルギーつけかえをつかい、ボルトロスの雷エネルギーを1つトルネロスに移す」
これでついているエネルギーが全て無くなりボルトロスはワザを使うことはできなくなったが、トルネロスにエネルギー加速がなされた。
さらに仮面の男はサポートカード「ベル」で手札を6枚に増やす。
「そして手札を2枚トラッシュし、ジャンクアームを使用する」
「くそ、まさか……」
ヨモギの表情が歪む。
「私はトラッシュのポケモンキャッチャーを再び使用」
ベンチで後続として待機していたガーディがバトル場まで引きずりだされた。
「ダブル無色エネルギーをトルネロスに装着し、ガーディにぼうふうで攻撃だ!」
無無無 ぼうふう 80
このポケモンについている基本エネルギーを1個選び、ベンチポケモンにつけ替える。
- 73 :
- ガーディも先ほどポカブと同じく一撃でダウンし、仮面の男のサイドは一枚を残すのみとなった。
「ぼうふうの追加効果で雷エネルギー1枚をトルネロスからボルトロスへ移す」
相手に高い威力の攻撃を与えつつ、後続をたてていく。それだけでなく相手の後続を潰していくことで相手に容赦ない攻撃を与える。
この男はバトル場のポケモン同士で殴りあわせるようなことをしない。これでは強力なカードでぶつかり合うことなく、やられてしまうでないか。
「逃げの戦いかただな。バトル場のポケモンにぶつかってこいよ」
「これが私の戦いかただ。貴様に都合のいいバトルをする気はない」
「へん、こんなスゴいポケモン使ってる癖に。拍子抜けだぜ」
「……フッ」
男が笑う。
今までの奇妙な笑いとは違う呆れたような感情が入り混じった笑いだ。
「こちらこそ、貴様には失望したぞ。ヨモギ」
「なんだと!」
「自分が不利なれば相手の戦法に不平をいうのが貴様のバトルか?
どんな相手にも全力で尽くすのが、お前だと俺は聞いたのだがな」
「……一体、オレの何を知ってやがる」
- 74 :
- 「お前のバトルを見せてみろ。どんな窮地も、わずかな可能性に無謀に挑む姿をな」
「こっちの質問を無視してペラペラと当てずっぽうなこと言うな。オレはいつだって全力だぜ!」
ヨモギが山札の上のカードを勢いよく引く。
「そこまでいうなら、オレの果敢な勝負を見せてやるさ。ベンチにヒトモシを出し……プラスパワーを発動!」
「プラスパワーだと?」
仮面の男は驚いたような声をあげる。
当然だろう。ほとんど意味がない行いなのだ……これだけでは。
「ベルで手札が6枚になるようドローする」
あらたにドローした4枚のカードを見る。狙ったカードは……あった。
「ヘビーボールとチャオブーをトラッシュして、ジャンクアームを使う!」
ベルからジャンクアームの使用。先ほど仮面の男がした動作と全く同じだ。だが……
「てめーが2連続の逃げなら、オレは二乗の攻めだ。トラッシュのプラスパワーを回収!」
「ほう、なるほどな」
仮面の男が感心したように言う。
- 75 :
- 「そして二回目のプラスパワーを使う!」
これでこの番の間、ポケモンのワザダメージは20アップ。
ヒヒダルマのあばれるが成功すれば110ダメージでトルネロスは一撃でダウンする。
「しかし、そう都合良くオモテが出るとは限らんぞ」
「二分の一でビビってられるかよ! ここで行かなきゃ勝てやしねえぜ!」
ヨモギの気迫こもった言葉をうけると仮面の男はニヤリと笑った。
「ならば、来るがいい」
「お言葉に甘えて行かせてもらうぜ。あばれるだ!」
手のひらから放たれたコインは夜空を背景に舞い上がる。
高速回転しながら点滅するように電灯の光を反射し、プレイマットに着地した。
「……失敗、か」
コインはウラを向いていた。ヨモギが舌をうつ。
トルネロスは体力を20残して場にとどまる。かたやヒヒダルマは反動で残りHP100/120となった。
- 76 :
- 「まあいいや。簡単に倒せても張り合いないからな」
ヨモギが意気揚々と言う。
「まだ勝負を捨てていない。か」
仮面の男はカードを引くと、
「サポートカード『オーキド博士の新理論』!」
残り二枚の手札をデッキに加えてシャッフルした。
(ここで手札増強か。やべえかもな)
2枚目のポケモンキャッチャーを使われればヒトモシがやられて自分の敗北となる。だがこのターンさえ乗り切れば勝利は見えてくるはずだ。
「トルネロスに雷エネルギーを装着。ワザ、ぼうふうで攻撃する!」
ヒヒダルマの残りHPは20。次の攻撃には耐えられそうにない。
「さらにぼうふうの効果を使用。雷エネルギーをボルトロスに付け替える」
さらにベンチのボルトロスの攻撃準備が整った。ほのおのキバでトルネロスを倒しても、ヒヒダルマはディザスターボルトの餌食となるだろう。
「この番で決めるしかないってことか。いくぜ!」
ヨモギは力強くカードを引いた。
- 77 :
- >>75
プラスパワーって自分ポケモンへのダメージも追加するから、ヒヒダルマ反動で残り80になってトルネのぼうふうで終了じゃね
- 78 :
- 「……よし」
引いたカードを見てヨモギが不適な笑みを浮かべる。
「『ウツギはかせの育てかた』で1進化または2進化ポケモンを一枚手札に加える」
トルネロスとボルトロスを倒せる必殺の切り札。
そのカードは山札の中で眠っていた。
「オレが選ぶのはシャンデラ120/120!」
「この場でニ進化ポケモンをサーチだと? もしや……」
「そのまさかだ! グッズカードふしぎなアメ!」
ヒトモシは1進化とばし、一気に最終進化系のシャンデラとなる。
「ダブル無色エネをトラッシュしてヒヒダルマをベンチに逃がすぜ」
ヒヒダルマはベンチに引き戻され、入れ替わりにシャンデラがバトル場に現れた。
「シャンデラに炎エネルギーをつけ、はじけるほのおで攻撃!
炎 はじけるほのお 30
相手のベンチポケモンを2匹選び、そのポケモンにも、それぞれ30ダメージ。 [ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
- 79 :
- トルネロスは残りわずかな体力を削られ気絶する。
「加えて相手へのベンチポケモンニ体に30ずつダメージ……か」
男が仮面押さえながら呻いた。
「ああ、これでボルトロスも気絶だ!」
HP20のボルトロスは拡散ダメージで体力を失い、サンダーの残り体力は90/120となる。
ヨモギは一気にニ枚のサイドを得た。
「これでサイドは一対一。勝負はまだ分からないぜ」
「……よもやここまで追い詰められるとはな」
仮面の男は力強く山札のカードを引いた。「だが勝つのは私だ!」
男は引いたカードを仮面の下の鋭い目で凝視する。
「サポートカード、『デント』を使用!」
雷エネルギー三枚が男の山札から手札へ加えられる。
- 80 :
- (ここでエネルギー補給か)
他に手札を稼ぐサポートがないなら特に不思議ではない。
だが、何やら嫌な予感がする。
「パチリスをベンチに出す」
屈強な仮面の男に似合わぬリス型のポケモンが新たに現れる。
「そしてパチリスのポケパワーじこはつでん!」
ポケパワー じこはつでん
自分の番に、このカードを手札からベンチに出したとき、1回使える。 自分の手札のエネルギーを2枚まで、このポケモンにつける。
「パチリスに手札の雷エネルギーを二枚、装着」
「今更そんな小さいポケモンを出してどうするつもりだ」
「この勝負をこの番で終わらせるということだ」
「なんだと!?」
シャンデラのHPは残り100以上ある。これをエネルギーがろくにない状況から一気に減らそうというのか。
- 81 :
- 「『レベルボール』で山札からHP90以下のポケモンを手札に加える」
仮面の男はデッキから一枚のカードを探り出した。
「私はHP70のシェイミを選択!」
「……まさか」
ヨモギが顔をしかめる。
「ベンチへ出すと共にポケパワーが発動する」
ポケパワー しゅくふくのかぜ
自分の番に、このカードを手札からベンチに出したとき、1回使える。 自分のポケモンについているエネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけ替える。
「サンダーに移し替えるのはパチリスについた二枚の雷エネルギーだ」
パチリスについた二枚の雷エネルギーが移され、さらに手札からもう一枚雷エネルギーがサンダーにつけられる。
「くそ……」
「これで終わりだ。でんじスパークでベンチのヒヒダルマに攻撃!」
雷無無 でんじスパーク
相手のポケモンを1匹選び、50ダメージ。 [ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
- 82 :
- パチシェイミwww
- 83 :
- ベンチのヒヒダルマが気絶したことにより仮面の男は最後のサイドを手に入れた。
「ぐおお、負けたぜ!」
ヨモギが声をあげる。
「しかし想像以上に楽しませてもらった」
「ああ。すげえ燃える勝負だったぜ」
「で」とヨモギが言葉を続けた。
「結局、お前は何者なんだ? こんな夜中に呼び出したり色々おかしいぜ」
「……理由はいずれ分かる」
男はポケットから一枚のカードを差し出した。
「このカードを受けとれ」
「ん……?」
差し出されたカードは炎タイプのポケモンだった。
青い瞳をもった白い姿。そして高い威力の技を持っている。
- 84 :
- 仮面の男はデッキをしまうと、
「一週間後の17時に羽堂ビルでポケモンカードゲームの大会がある。強敵に会いたくばそこへ向かうがいい」
「羽堂ビル?」
港付近のビルがそのような名前だった覚えがある。しかしあそこはヨモギが物心つくころには廃墟となっていたはずだ。
「私はキプロス。いずれまた会うことになるだろう」
そう告げると、仮面の男はヨモギの引き止める声にも応じず、神社近くの森へと消えていった。
「まったく、おかしな野郎だ」
ヨモギは口をとがらせながら、先ほどキプロスから渡されたカードに目をやった。
――レシラム。
聞いたこともなかったが強力な能力を持ったカードだ。
なぜあの男が自分にこのカードを渡したか。
一週間後に開かれるらしい大会は何かの手がかりになりそうだ。
(羽堂ビルか……よし)
神社に吹いていた風がやみ、周りは静寂に包まれる。
しかし先ほどの恐怖心は既にヨモギの頭の中になかった。
第4話 終わり
- 85 :
- ◆今日の最強カードはこれだ!
シェイミ HP:70 草 たね
ポケパワー
しゅくふくのかぜ
自分の番に、このカードを手札からベンチに出したとき、1回使える。 自分のポケモンについているエネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけ替える。
草無 エナジーブルーム 30
エネルギーがついている自分のポケモン全員のHPを、それぞれ
「30」ずつ回復する。
弱点:炎×2 抵抗:闘−20 逃げる:無
- 86 :
- >>77さん oh..こっそりディフェンダーを使ってたことにしておきます!
>>82さん 強敵はいつだって外道戦法なのです!
- 87 :
- かずたかさん
お疲れ様です
これは第何話ぐらいまで予定してますか
長編ですかね?
- 88 :
- >>87さん 長編です! 話数は決めてません、頭の中に書かれた大まかな筋書きに沿って執筆しています!
第5話投下します!
- 89 :
- 「羽堂ビルで大会?」
シシトウが目を丸くして言う。
「おう、来週の土曜日にあるらしい」
……キプロスとの勝負から一夜明けた日曜日。
ヨモギの提案で、二人は気分転換に隣町のカード店へと向かって歩いていた。
「でも、あのビル今は使われないよね。たとえ非公式大会でもあんな所を選ぶかな」
「きっと人には知られちゃいけないような秘密の大会だぜ」
「楽しみだ」と、ヨモギが笑う。
「秘密の大会なのに、ボクにバラしてるしゃん……」
「おう、ついたぜ」
シシトウの指摘をスルーし、ヨモギが店の看板を指差した。
- 90 :
- 「おう、やってるやってる」
広い店内には10卓以上のテーブルが置かれており、元気溢れる少年から脂ぎった大人まで、様々な人々がカードゲームを楽しんでいた。
「すごいなー。こんな店があったなんて」
棚に並んだレアカードを見ながらシシトウが感心したように言う。
「いつもの店とは比べものにならないだろ? いろんなポケカプレイヤーがいて面白いんだよなあ」
「へぇ……」
「早速、誰かと勝負するとするか」
ヨモギが辺りのテーブルを見回すと、一人の少年が目についた。
ほとんどの客がテーブルで対戦していた中、ただぼんやりと立ちながらポケカの対戦を眺めている。
ヨモギが「おーい」と声をかけ、少年に近付いていく。
ふいに気づいたように少年は顔をあげた。
「ポケカプレイヤーかい?」
「ああ、そうだ……。君らは?」
ヨモギとシシトウは軽く自己紹介を済ませた。
- 91 :
- 「田村と宍戸か。僕は櫂雪村」
雪村はさわやかに笑む。色が白く、目鼻立ちも整った、なかなかの美少年だ。
「で、雪村。相手がいないならオレたちとバトらない?」
「悪いな。対戦はあまり得意じゃない」
あっさりとした切り返しにヨモギは不服そうな様子で、
「何言ってんだよ。得意じゃなきゃ、たくさん勝負して強くなるのさ!」
「ヨモギ。やらないって人を無理やりやらせるのは良くないんじゃない?」
シシトウが呆れたようにヨモギをなだめる。
「でも、せっかく隣町まできたんだから、普段合わないような奴とも戦いたいじゃねーか」
ヨモギは口をとがらせた。
「なら、あっちのテーブルになかなか強そうな奴がいるぜ」
雪村が指差した先では、ギャラリーの中で二人の男が対戦していた。
キムタク似の少年と、やせ型のキツネ面をした男がテーブルごしに向かい合っている。
- 92 :
- 「ホイーガのベノムショック!」
男の攻撃宣言と共にキムタク少年の狼狽が響き渡った。
「この俺が……負けた」
「この店の優勝者も大したことないねえ」
呆然とするキムタク少年を尻目に男はつんざく声で笑い始める。
「へえ、あの糸みたいな目した奴やるなあ」
ヨモギが感心したように呟く。
「さあ、この脛木骨男と次に戦うのは誰だい?」
脛木がニヤニヤしながら首を動かす。
「よし、オレだ!」
ヨモギが手をあげてわめくと、周りの目が一気に集まった。
「それは、この僕がアゲインスターズだと知っての挑戦だね」
「ベイスターズだろうが、ジャイアンツだろうが、強い奴と会ったら挑むっきゃないぜ」
堂々としたヨモギの態度に脛木が眉をひそめた。
- 93 :
- 「生意気なヤツめ……ギャラリーの前でボコボコにして、大恥かかせてやる」
「やれるもんならやってみろ!」
いまだに呆然としているキムタク少年を押しのけ、ヨモギがイスにつく。
互いにデッキを用意し、シャッフルし
始めた。
「自信満々だけど、田村の実力の程はどーなんだ」
「強いんじゃ、ないかな?」
雪村の問いかけにシシトウはあいまいに答えた。
「ねえ櫂くん、あの脛木が言ってたアゲインスターズって何なの?」
雪村はシシトウからの質問に少し驚いた様子で、
「アゲインスターズは最近このあたりに出まわってる、ポケモンカードゲームのプレイヤーたちのことだ。知らなかったのか?」
「うーん、聞いたことはあるような気がする。あんまり良くないイメージだけど」
「ああ、奴らはただ対戦するだけじゃない。特別な条件の下で戦うからな」
「特別な条件?」
- 94 :
- 脛木で検索するとスネ夫が出るwww
- 95 :
- 「勝敗に互いのカードを賭けんだよ」
シシトウが顔をハッとさせる。
「どうかしたか?」
「え……いや。そんなことをしていたら戦っているうちにカードが無くなっていくと思うんだけど」
「負けてもカードの一枚や二枚はすぐに補えるさ。
何より、アゲインスターズは少数精鋭でメンバー全員の実力が高い。そこらのボンクラじゃまず勝てないだろうね」
「そんな相手にヨモギは大丈夫かな」
「んー……。まあ、まずはお手並み拝見とさせてもらうか」
雪村は気楽そうに、カードをカットするヨモギたちを見つめた。
デッキを切り終えると両者は山札から7枚ドローした。
ヨモギと脛木は互いに一枚ずつ、たねポケモンをセットする。
「よーし、じゃんけんだ」
「必要ないね。先攻は君に譲ってあげよう」
「えー……。まあ、お言葉に甘えさせてもらうか」
ヨモギが不満げに手を引っ込めた。
- 96 :
- 「いくぜ、バトルスタートだ!」
ヨモギの声と共に、伏せられたポケモンがその姿を見せる。
ヨモギはメラルバ70/70。対する脛木は草タイプのマスキッパ80/80。互いにポケモンはバトル場に一匹のみだ。
(草タイプか。相性的にはこっちが有利だな)
サイドカードは3枚。なるべく相手の体制が整う前にたたみかけたい。
ヨモギがカードをドローする。
「ポカブを出すぜ」
ベンチにヨモギの愛用カードの一つポカブ70/70が置かれる。
「炎デッキか。パワーと体力しか見ていないような構成だな」
脛木がヨモギの場を見ながら、半笑いで挑発した。
「いまのうちに笑ってきな!」
メラルバに炎エネルギーがつけられ、攻撃体制に入る。
「ひのこで攻撃!」
炎 ひのこ 20
コインを1回投げウラなら、このポケモンについているエネルギーを1個選び、トラッシュする。
- 97 :
- ヨモギが投げたコインはオモテを向き、メラルバのエネルギーはキープされた。
「炎はマスキッパの弱点だ。二倍の40ダメージを受けてもらうぜ!」
ダメカンを4つ乗せられ、マスキッパの体力は一気に半分まで削られる。
「さてと、お前の番だぜ」
「へん。図にあがるなよ」
カードを引くと、脛木は舌を打った。
「たねが足りないなあ。チェレンを使うよ」
サポートで山札から新たに三枚ひき、「よし」と脛木がニヤける。
「ロゼリアとフシデを繰り出す」
両手に大きな赤と青の花を持つロゼリアと超タイプのムカデポケモンフシデがベンチに置かれた。
「おう、一気に2匹きたか」
そうこなくては面白くないとヨモギが笑みを浮かべる。
「ムカつく笑い方だね。マスキッパのはきだす攻撃!」
草エネルギーをつけられたマスキッパの攻撃でメラルバの体力が20削られ、残り体力50/70となった。
- 98 :
- 「この程度、痛くもかゆくもねえぜ!」
ヨモギは素早くカードを引き、手札を確認する。
……攻める手立ては整った。
脛木の枝のような体を焼き尽くすカードがきたのだ。
「サポート『エンジニアの調整』! 手札の炎エネルギーを捨てて4枚カードを引くぜ」
手札が補充され、戦いの手が潤う。しかしエンジニアの調整の使用理由はこれだけではない。
「ベンチにダルマッカを出して、こいつに炎エネルギーをつける」
「出したばかりのたねにエネルギー……。メラルバはマスキッパを倒した後、置物にするつもりか?」
「ところがどっこいだぜ。メラルバをウルガモス90/110に進化させる!」
脛木が「何」と声を漏らす。
ウルガモスが立った。ここからは速攻で脛木を追い詰めていける。
「脛木、オレのデッキはただパワーが強いポケモンを入れただけデッキじゃねえぜ! カード同士の繋がりでさらなるパワーを引き出すデッキだ」
「ちっ……」
「ウルガモスの攻撃! ほのおのまい!」
炎 ほのおのまい 30
自分のトラッシュから基本エネルギーを1枚選び、自分のポケモンにつける。
- 99 :
- 60ダメージをうけたマスキッパは気絶し、ヨモギが最初のサイドカードをとった。
「ほのおのまいの効果! トラッシュの炎エネルギーをダルマッカにつける」
ダルマッカに二つ目のエネルギーがつけられると、ギャラリーからどよめきが起こり始めた。
「やった。先制した!」
シシトウがヨモギの優勢に嬉しがる。
「やるじゃねえか、田村」
と、雪村もヨモギへの見方を見直したようだ。
「脛木の場にはエネルギーがないたね二匹。このまま行けば、ヨモギの勝ちだ」
「しかしアイツもアゲインスターズを自称している以上、一方的に負けるわけにはいかないさ」
脛木の様子を見つめながら、「ここで切り返してくるな」と雪村が呟いた。
「くそ、僕にかかせやがって!」
脛木はフシデをバトル場に出すと叫ぶようにドローした。
「くく、君の優勢など。所詮はまやかしさ」
「なんだと?」
追い詰められているはずなのに、妙に余裕のある脛木の声。
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