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2013年01月アニキャラ総合30: あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part317 (371)
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あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part317
- 1 :2012/12/01 〜 最終レス :2013/01/14
- もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1348671794/l50
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/
_ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
- 2 :
- 早ぇよw
- 3 :
- 保守
- 4 :
- 保守
- 5 :
- 補習
- 6 :
- 久々にまほらば読んで、青葉梢が召喚されて人格ごとにルーンが変わるっての想像したが…
戦争のあるところに梢ちゃんを送るなんて俺にはできないっっっ!
- 7 :
- こんばんは、23:45くらいから投下します。
- 8 :
- 「王女さま綺麗だったなー」
そこは地上を遥か下に眺めて、限りない大空を仰ぐ場所。
否、空の一部とも言うべき場所――
「もう女王様、でしょ」
「そうだった」
イザベラの訂正に対し、ジョゼットはてへっと片目を瞑りつつ舌をぺろっと出す。
イルククゥはシャルロットを含めた姉妹三人を乗せて、非常に穏やかに空を飛んでいた。
シャルロットは口の中に大量に詰め込んでいたものを、呑み込んでから聞く。
「そういえば二人はいつ来ていたの?」
「丁度今みたいにイルククゥに乗って、上空からちょっとね」
そうイザベラは答えると、三人の中で最も淑やかに料理を口に運ぶ。
「ホント学院も虚無の曜日だからって、その前後も休みにしてくれればいいのに」
ジョゼットは良くも悪くも普通であった。三人とも貴族の作法は皆等しく習っている。
されど事ここに至っては明確な個性が表れていた。
シャルロットは大食家であり常在戦場を心に置く為、量が多い上に食べるのも早い。
イザベラは元王族ということをいつも忘れぬ尊厳高さで、日々の所作全てに貴族らしさを見せる。
ジョゼットはその場の空気を読んで合わせる為に、今は肩肘張ることなく自由に食事を摂っていた。
黒髪のメイドに頼んで特別に食事を作ってもらって楽しむ、三人と一匹の雄大なランチタイム――
「そう、じゃあすぐに戻ったの?」
「ちょっとだけ家に寄ってすぐによ。折角だから皆でディナーでもしたかったけれど」
「姉さまは堅いよね、一日くらいサボっちゃえばよかったのに。シャルロットなんて何日休んだことか」
会話の合間にジョゼットは肉を放り投げると、イルククゥは飛行しながらも器用に口でキャッチして味わう。
「・・・・・・まぁ一時休学扱い。それに祝賀パーティに出席したから、どちらにしても当日夜は無理。父様も参加だし」
残念と言えば残念ではあるが、家族みんなで食事する機会などはいくらでもある。
学院から王都までの距離は近い。虚無の曜日になれば簡単に帰ることも出来る。
ましてジョゼットが召喚した風韻竜がいるのだから、往復は非常に速く快適に済む。
後はシャルルが首都警護任に詰めていない時と、ジョゼフの仕事が山積みになっていなければ揃い踏みだ。
「それにしても凄いわね、結婚式や戴冠式に参列するなんて」
アルビオンの現状も鑑みて、同盟と結婚と女王戴冠が続けて行われた。
現アルビオン王ジェームズ一世は、貴族派への睨みも含めて国に留まった。
また日程の関係上ロマリア教皇を迎えることもなかった。
本来の結婚式や戴冠式に比べれば慎ましやかではあったものの、それでもトリスタニアは大いに賑わった。
限られた人間のみが許される各式典を、出席者として間近で並べたことは貴重な体験であった。
「私の功績の殆どは、姉さんが貸してくれたスキルニルのおかげ」
「ねぇ〜、もう終わったんだから色々教えてくれないの?」
ジョゼットがシャルロットにせがむ。イザベラは察して直接は聞いてこないが魔道具を貸した手前、知りたくなくもない。
シャルロットも一段落したから問題ないだろうと、一応秘密厳守ということで話せる範囲を可能な限り大まかに語り始めた――
「――凄いわねシャルロット、あなた大活躍じゃないの」
「大袈裟、私のしたことなんて大したことない。スキルニルとキッドさん。あとブッチさんと父様が殆ど」
「行き過ぎた謙遜は美徳じゃないよシャルロット、わたし達の前ですることでもないし」
「・・・・・・ジョゼットに窘められるとは・・・・・・」
「ひどいな!!」
- 9 :
- 軽い漫才を終えて穏やかな表情を浮かべる。しかし僅かに憂いを帯びた表情。
「でも本当に・・・・・・大したことじゃないのよ」
作戦立案はスキルニルとミョズニトニルンあってのもの。存在を知っていれば簡単に思いつく。
『白炎』の首級も、地下水とデルフリンガーがあってのもの。自分は死んだようなものだった。
メンヌヴィルが残した王党派の名とて、残党セレスタンも知っていたからあくまで証拠の一つに留まった。
実際的な働きを為した、キッド、ブッチ、シャルル――そして明かせないがルイズ――に比べれば、さしたるものではない。
「いずれにせよ誇らしいことよ、姉としてね」
「妹としてね」
イザベラとジョゼットの見慣れた笑みに、シャルロットは帰ってきたんだなと実感する。
本当に・・・・・・生きていて良かったと。
「・・・・・・そういえば、ジョゼットにお願いがある」
「なぁに?」
「"始祖の香炉"を貸して欲しい」
「いいよ。なんで?」
食事を頬張りながらジョゼットは二つ返事で承諾するものの、理由は気になる。
「・・・・・・実は私、"虚無の担い手"――かも」
「へぇ〜・・・・・・へっ?」
「えっ・・・・・・?」
「私ばかりにガリアの遺産が集まって申し訳ない・・・・・・」
「そんなのはどうでもいいってば!! あんな使えないもんいくらでもあげるって!!」
「そっ・・・・・・そうよ、『虚無』と言ったの?」
シャルロットは普段から冗談らしい冗談も言わないし、唐突に荒唐無稽なことも言わない。
それゆえにイザベラとジョゼットの驚きは、至極当然なものであった。
ちょっと出張して帰ってきたら「虚無はじめました」みたいなカミングアウトされても困るというもの。
「とりあえずデルフリンガーが説明する――」
「おうよ姉っ子、妹っ子、久し振り」
「えぇ、話すのは久し振りね」
「うん、傍からよく見かけてはいるけどね」
「まあちっと思い出すことがあってな、オレぁ昔ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に使われてたんよ。
んでだな、虚無を使えるメイジの素養ってのが、実は相棒にかな〜り一致するんだな、これが」
ルイズとティファニアのことを言うわけにはいかず、予めデルフリンガーと口裏合わせていたことを二人に言う。
あくまで自分が虚無であるかも知れないという話であれば特に問題はない。
「まったまた〜。ってことは何? デル公は始祖に会ったことあるって?」
「薄っすらと覚えてる程度だ、なにせ大昔の記憶だかんな。またふとした時に思い出すかもわからん」
「でも・・・・・・うん、始祖云々は別として――シャルロットならありえるかも」
イザベラは思いのほかスムーズに受け入れる。
「まーシャルロットが優秀なのは知ってるし、おかしなコト多いけどさ。でもさ、『虚無』は伝説でしょ?
デル公の話以前にそもそも存在するわけ? 昔から一緒に育ってきたし、その・・・・・・言葉を信じたくなるのはわかるけどさ」
ジョゼットははっきりとではなく、濁すように言う。
一心同体とも言うべきデルフリンガーの言葉を無条件に信じて、最終的に落胆するような姿は見たくない。
「もちろん伯父様に確認済み」
「父上に?」
「そう――"虚無の担い手"は過去の歴史の中に、何人も存在していたらしい」
「へぇ〜、ん・・・・・・まぁ伯父さまがそう言うならいるんだ」
シャルロットは最後の一口を胃の中に流し込んでから告げる。
「まぁあくまで可能性に過ぎない。ただ目覚めるにはルビーと秘宝がいるらしい。それで――」
「うん、わかった。後で部屋に持ってく」
- 10 :
- そこでジョゼットは何かに気付いたように言う。
「ところでさ、シャルロットに虚無ってことはさ? もしかしてルイズもそうだったりして」
シャルロットはジョゼットの言葉にドキリとする。
本当にこの子は、時たま鋭く核心つくようなことを言ったりする。
「でも始祖ブリミルは一人なわけだから、何人も使い手が現れるものなのかしら?」
イザベラのもっともな疑問。シャルロットも思ったことだ。
言うわけにはいかないが、既にティファニアとルイズの二人がいる。
せめて分かたれた使い魔の数――即ち四人くらいは覚醒すると考えたい。
「わからない。けれ
ど可能性が少しでもあれば賭けたい」
ジョゼットとイザベラは微笑ましく――そして頼もしく見る。
これがいつものシャルロットだといった風に。
さらに三人は優雅に他愛もない話を続ける。
結婚式のあれこれ。戴冠式の様子。ウェールズはどんな人だったか。アルビオン土産はないのかなど。
昼休みが終わるまで・・・・・・ひっきりなしに語らい続けた。
†
――その男は御年42歳のトリステイン魔法学院の教師であり、学院内でも際立った異色を放つ者であった。
男、ジャン・コルベールの研究室は、学院の敷地内にひっそりと設けられている。
ある意味隔離されたその空間で、コルベールは日夜研究に励んでいた。
それはハルケギニアにおけるブリミル教の教義に照らし合わせるならば、異端とされるもの。
生徒達に慕われる教師ではあるが、同時に陰で変人呼ばわりされている所以であった。
今日も今日とて仕事を終えて研究室に籠もっていると、珍しくノックの音が響いた。
「こんばんは」
訪問者は生徒であった。学院内でも割かし有名な少女。
「おお、ミス・シャルロット。わざわざ夜にどうかしたのだね? 勉学のことかな?」
つい先日、ミス・ヴァリエール共々休学から復帰したばかりで、そう推察する。
「勉強の方は大丈夫です、別の話がありまして・・・・・・」
「ははは、確かに君には無用の心配だったか」
オスマン学院長より薄っすらと聞かされた話によれば、王家からの所用によるものらしい。
よって単位については考慮されているものの、彼女が休んでいた間の学業の遅れは自分で取り返すしかない。
補習代わりにでも何か聞きに来たのかと思ったが、相談だろうか。
悩める生徒の言葉に耳を傾けるのも、教師の重要な役目である。
「・・・・・・それにしても――」
シャルロットは話を切り出す前に、改めて研究室内を覗き見渡した。
ジョゼフの研究室よりも相当狭く、乱雑にも見えるが、それでも整理はされているようであった。
そして注目すべきはその端々に窺える研究内容と思しき物の数々。アカデミーであっても敬遠されるようなもの。
「"科学"・・・・・・ですか」
以前ならこの研究室内を見ても、疑問符を浮かべるだけであったろうシャルロットも今は違う。
昔から漂流者と漂流物がもたらしてきた"科学"。ハルケギニアの魔法とは一線を画す学問であり技術体系。
広義的な総称ではあるものの、ニュアンスとしてはそれで充分に伝わる。
特にワイルドバンチが召喚されてこっち、シャルロットは詳細な話を聞くに連れてより興味を大きく持つようになった。
元々魔法使えぬ身として選択の一つとしてはあったが、ハルケギニアでは発展せず入手も困難であった。
それゆえに知識として頭の中に存在していても、実際的には手が出せなかった。
- 11 :
- 「おぉ、流石にわかるかね!! ミスタ・キャシディやミスタ・キッドに色々聞いてね」
コルベールはテンションを上げる。
彼女ら――ミス・シャルロットととミス・ヴァリエールが召喚した二人の漂流者。
実際に彼らから聞く話は興味深いものであった。
「とかく鉄道というものに感銘を受けたのだ。それはなんと蒸気を使って車輪などを――」
「知っています」
「――う・・・・・・むぅ」
ピシャリと止められてコルベールは詰まる。無意識とはいえ熱が入り過ぎるのは悪い癖だった。
授業中にやらかしてしまうこともある為に、コルベールはその度に自己嫌悪に陥る。
「それで話というのはですね・・・・・・、『炎蛇』のコルベール――」
コルベールの心臓が大きく全身に響くように一度だけ高鳴った。
一度ついた二つ名が変わることなど早々ないし、二つ名自体は学院内でも知られている。
だが正直思い出したくもない二つ名であり、いきなり彼女が言い出したのことが引っ掛かった。
「・・・・・・私の伯父、ジョゼフを知っていますか?」
「・・・・・・いや?」
彼女がガリア王家の血筋ということは知っているし、その伯父ともなれば当然ガリアの血族。
ガリアが滅びていなければ、王冠を被っていた可能性もあるだろう。
いずれにせよそのような人物と面識ある記憶はなかった。
「そうですか、実は伯父はアカデミーに務めていまして・・・・・・」
コルベールは"アカデミー"の名に喉が渇くのを覚える。シャルロットの意図するのはどちらの意味なのかと。
この研究室を見てアカデミーに対し、何かしらのアクションを求めようとしているのか――。
もしくは20年前に、己がアカデミーの実験小隊に所属していたことを聞いているのか――。
「そ・・・・・・それがどうかしたのかね?」
「・・・・・・いえ、すみません」
シャルロットはふと気付いてまず謝った。
最近は高圧的な態度で相手を誘導し、時にその思考を追い詰めるようなやり取りやら駆け引きが少なからずあった。
別に責めるようなことは何一つないというのに、ついついそんな話し方になっていたことに反省する。
「端的に言います。『白炎』のメンヌヴィルを殺しました。――と、言えばわかりますよね」
コルベールの目が見開かれる。よくわかった――少女は20年前のことを知っていると。
先程『炎蛇』とわざわざ二つ名を言ったのもそういうことなのだと。
件の伯父とやらも、恐らくはその当時からいた研究員なのかも知れない。
かつてアカデミーの実践部隊として働いてた頃の・・・・・・決して忘れてはならないこと。
「『白炎』は『炎蛇』を執拗に探していたようですが、もう安心して下さい」
「君が・・・・・・どうやって?」
何よりも優先された疑問。コモン・マジックこそささやかながら使えるようになったばかりの生徒。
学院にいながらも、その残虐極まりない噂には聞いていたプロの歴戦傭兵を殺したなどと――。
「これです」
シャルロットはヒュパッとリボルバーを早抜いた。
実際に今、コルベールに見せたような腰位置での早撃ちなど、標的にはまともに当てられない。
ワイルドバンチの二人ならともかく、己には練度が圧倒的に足らない。
しかしそのアクションを見せるだけで充分だった。本当の技量なんてコルベールにはわからない。
そういうことが出来ると思わせておけば、それだけで説得力になる。
「連発式の銃、かね」
以前にワイルドバンチから見せてもらったことをコルベールは思い出す。
フーケ事件後に回収し、保管し直した『破壊の杖』はさらに凄いものだった。
――それよりもなんと哀しきかな。教え子がその手を血に染めたこと。そしてかくも簡単に命を奪ってしまえる凶器。
純粋にそのことを悲しんだ。一教師として、生徒がしてまった行為のことを。
- 12 :
- 「正当防衛ですのであしからず。殺人についても私なりに考えていますので・・・・・・――」
コルベールはゆっくりと息を吐く。諭すようなことは必要ない・・・・・・と。彼女は優秀な生徒だ。
彼女が考えていると言えば疑うことはない。それに――教え子の命が奪われるよりは良い。
それこそシャルロットが殺されていれば、悔やんでも悔み切れなかった。
メンヌヴィルを殺し損ねたこと、その後に関わることをしなかったのは、自分の落ち度なのだから。
「そう・・・・・・か、彼が死んだか」
感慨深く、心身に浸透させるかのように呟いた。
副長だった男。己の背を焼いた男。人生の転機のキッカケとなった男。
そして逃がしてしまったメンヌヴィルから逃げ続けた自分自身。思うところはいくらでもある。
「ミスタ・コルベール。貴方は何故アカデミーの部隊を辞めて教師になり、しかもこのような研究を?」
唐突な質問に心中で首を傾げるも、シャルロットの真剣な態度に、コルベールも真剣に答える。
「嫌気が差した。副長・・・・・・メンヌヴィルと正面から相対したことで、奇しくも思い直すことが出来たのだ。
命令変更の指令が少しでも遅れていれば、わたしは村を住む人々ごと焼き尽くしていたかも知れなかったのだ。
結局村を焼き、住民を危険に晒してしまった・・・・・・。殺しかけたのだ、多くの人に怪我をさせてしまった。
それは動かせない事実。わたしはそういう人間だった。・・・・・・ミス・シャルロット――『火』とはなにかね?」
「"情熱と破壊が『火』の本領"――と、友人はよく言いますね」
「・・・・・・ミス・キュルケか。そうだ、破壊と言えば『火』であり、『火』と言えば戦場だ」
コルベールは瞳を閉じる。その目蓋の裏では彼の中にある凄惨な情景が、いくつも浮かんでは消えていく。
汚れ仕事を担う部隊員として、数々の戦場を巡り、時には己が手で何だって燃やしてきた。
「だけどね、それだけが『火』の活用法だろうか? 『火』は破壊を司るだけではない。
確かに効率的に破壊するには『火』が一番かも知れない。しかしどんな"力"も使い方次第なのではと」
シャルロットも双眸を閉じた。そうだ、まさに『虚無』の系統もそうなのだ。
ルイズも言っていた。途方もなく"強力な力"。それをどうするのかは結局それを扱う者に委ねられる。
コルベールとシャルロットはそれぞれゆっくりと噛み締めた後に、目を開ける。
自責を胸に。夢を語るように、訴えかけるようにコルベールは続けた。
「だからわたしは『火』を他に役立てたい。人々の生活の糧となるように――。
その為に研究をしている。これは自分自身に課した償いとも言えるだろう」
「立派です。純粋に尊敬します。聞けて良かったです。私も戦が終結して、平和が戻った時――」
シャルロットは一拍、ゆっくりと溜めてから続いて紡ぐ。
「――その時には先生のように、この力をまた別の方向に・・・・・・より良く使いたいと切に思います」
コルベールの、我が身を省みて決意したその生き様にシャルロットは感動する。
その意志、そんな言葉こそ、シャルロットが心から聞きたかったこと。
「ミス・シャルロット。君は・・・・・・戦うのかね?」
「――大切なものを守る為に戦いますよ。よくあることだとはわかっていますが、だからって安っぽいとは思いません」
シャルロットのこちらの心情を見越した意思に、コルベールは深呼吸する。
未だかつてこれほどの優秀だった生徒はいない。一教師が言えることなど、既に全て承知の上。
もはや何も言うまいと。――そして一つ、コルベールの中で浮かんだ。
「そういえば君は、アンリエッタ女王陛下と知り合い・・・・・・なのかね?」
フーケ事件の折、さらに先だっての休学にもアンリエッタ女王陛下が関わっていたと噂には聞く。
「はい。一応アンリエッタ様にも、ウェールズ様にも、謁見程度であればスムーズに認められるくらいには」
「なんと、両王家ともか」
コルベールは少女が指に嵌めている"それ"を見た。
その上でトリステイン王家とアルビオン王家とも繋がりがある――
- 13 :
- (彼女であれば・・・・・・)
そしてコルベールは棚に厳重に掛けた『ロック』の魔法を解いて"指輪"を持ち出した。
その様子に首を傾げて眺めていたシャルロットも、すぐに"それ"が何なのかわかったようで呆然としている。
「"火のルビー"・・・・・・ですよね、どうして貴方が?」
シャルロットが持つ"土のルビー"。テファが持つ"風のルビー"。ルイズが持つ"水のルビー"。
立て続けに見てきたのだから、見間違う筈もなかった。
「20年前のダングルテールの真相を知っているかね?」
コルベールは当時のことを思い出す。火のルビーを語るのであれば避けては通れぬ話。
「真相・・・・・・ですか? 疫病の為に村ごと焼き払うというのが嘘の名目で、新教徒狩りが本当の目的だった。
それを当時裏仕事に長けた実験小隊が――ですよね。伯父と『白炎』のメンヌヴィル本人からも聞いています」
「副長も話したのか・・・・・・。まあいい、だが真相とはさらに深いのだ。
何故ダングルテールが、当時の新教徒狩りの標的となったのかということだ。
トリステインの片田舎であるその地方に、わざわざロマリアが圧力を掛けてまで・・・・・・――」
シャルロットは首を左右に振る。そこまでは聞いていない。
恐らく伯父ジョゼフは知っていたやも知れぬが、敢えて語らなかったことなのかも知れない。
改めて問われると確かに不思議な話だ。そこに何がしかの理由があるのは道理。
コルベールは頷くと話を続け、シャルロットは口を挟まず耳を傾ける。
「とある一人の女性が本当の目的だったのだ。彼女をRということが隠された目的。
名をヴィットーリア。その名と姿から察すれば恐らく――現教皇聖下の母君なのだろう。
彼女は"火のルビー"を持ち出した。新教徒として逃げた彼女を抹Rる為の殲滅指令だったのだ」
ロマリア皇国、教皇聖下。聖エイジス32世、ヴィットーリオ・セレヴァレ。
各国の王や女王達に勝るとも劣らずの見目麗しさ。さらにアンリエッタのように分け隔てなく接する人格。
確かな実力と支持をもって、若くして教皇まで昇り詰めた英才。
もしもその母たる人物が異教徒になっていたと言うのであれば、恐らく断崖を背に、逆風を乗り越えたに違いない。
元々ある才能に、血の滲むほどの努力を重ねて勝ち取ったものなのだろう。
新教徒を厳しく弾圧をしていた前教皇と違い、現教皇聖下は温和だとも聞いている。
「――後は知っての通り、事は途中で露見し、当時の関係者も失墜。命令中止の指令は間一髪間に合った。
副長とわたしの所為で村は焼いてしまった・・・・・・が、それでも誰も死ななかったのは奇跡であった。
そして原因となった彼女は己の所為だとして、混乱に乗じて行方を完全に消すことにしたのだ。
その時にわたしが手助けし、そして・・・・・・この"火のルビー"を彼女から受け取ったのだ」
「・・・・・・何故その方はルビーを?」
火のルビーを奪う理由があまりに不明瞭であった。
売り払う為でもなかったようでもある。密かに虚無覚醒の鍵たることを知っていたのだろうか。
コルベールはかぶりを振る。
「真意については語ってくれなかった。だが並々ならぬ決意を確かに感じた。だから預かっていたのだが――」
シャルロットは火のルビーをその手に渡される。
「新たに君の手に。今の話を考えた上で君が判断して欲しい。わたしは結局迷い続け、持ち続けてしまった・・・・・・」
今はどこにいるかわからない、既に亡くなっているやも知れぬ彼女の意思を尊重するのか――
それとも今の新たな教皇。彼女の息子の元へと、本来在るべき形に戻すべきなのか――
「ミス・シャルロット、君には人脈があり、何より元王家の人間だ。君が持ち続けてもいい。
トリステインとアルビオンの両王家、どちらかに預かってもらってもいい。
女王を通じるなどして、ロマリア教皇聖下へと返還するのも良いだろう。
いずれにしてもわたしがずっと隠し持ち続けるよりは相応しく、事情をも知る人間となった。
そして誰よりも・・・・・・最良の判断が出来る生徒だと、わたしは思っているよ」
- 14 :
- なるほど理屈はよくわかった。あらゆる点に於いて自由なのが、今の己の立場でもある。
(本当に・・・・・・)
――なんて因果なのだろうか。シャルロットは火のルビーを、土のルビーの隣に嵌めて見つめる。
土の隣に風、次に水、そして火までもがそれぞれ並んだ。
ルビーの所在を知るのも私一人・・・・・・――正確には地下水とデルフリンガーもであるが――
「責任をもってお預かりします」
始祖ブリミルの血から造られ、三人の子と一人の弟子に渡った由緒あるルビー。
6000年もの長きに渡って紛失すること、破壊されることもなく、受け継がれてきた貴重品。
とりあえず火のルビーははずして、一旦ポケットにしまっておく。
「ありがとう。・・・・・・過分な荷を背負わせてしまってすまない」
「いえそんなことは。ただ・・・・・・そこまで信頼なさってくれるとは」
「はは、わたしは教師だよ。生徒を見ていないなんてことはないさ」
軽く言ってのけるが、それもまたコルベールの人柄であり優秀さであった。
『炎蛇』と呼ばれた、何の感情もなく命令を忠実に実行する武人はもういない。
今目の前にいるのは温厚で、お人よしで、暴力の欠片もない人畜無害な教師の鑑だけだ。
ある意味で落ちこぼれな私を見て、評価してくれている先生だ。
「・・・・・・それじゃそろそろ失礼します。研究、応援してますよ」
「んむ、差し当たっては蒸気機関を理想的な形で完成させたいと思う。特に『火』を有効に利用出来ることだからね」
「――何か行き詰まれば言って下さい。伯父に口利きくらいは出来ますから」
「う〜ん、一応心に留めておくよ」
複雑な感情に苦笑いを浮かべたコルベールを残し、シャルロットは研究室を出ていった。
コルベールは知らず緊張して強張っていた体の力を抜いた。
話を聞いてもらったこと。ルビーを預かってもらったこと。
このような心地に身を委ねる資格は自分にはないかも知れないが、重圧から解放された気分を振り払うことは出来なかった。
†
(――言い損ねちゃったかな、一つだけ)
とはいえ、今のコルベールには言える筈もなかった。
あの研究室と研究内容。恐らくアカデミーでやれば相当なものになる。
誰かパトロンがいれば恐ろしい兵器も作れそうな予感すらある。
伯父ジョゼフには立場があるし隠れてやるにも制限がある。
だがほぼ無名のコルベールであれば秘密裏にやっても問題はないだろう。
とはいえコルベールの、破壊に使わないと臨む意志を汚すわけにはいかないし、似つかわしくない。
たとえ出資してくれる者がいたとしても、今はまだ時期ではないのだろうと思う。
シャルロットはポケットの中の火のルビーを握った。
(テファとルイズ・・・・・・他は不明)
二人の"虚無の担い手"。
(キッドさんとブッチさん・・・・・・残るは『ヴィンダールヴ』と"記されぬ何か")
二人の"虚無の使い魔"。
(香炉、祈祷書、オルゴール。・・・・・・後は円鏡だったか)
三つの"始祖の秘宝"
(ルイズの水、テファの風、私の土と、そして火)
四つの"始祖のルビー"。
まるで引き寄せられるように判明し、現出してきた始祖ブリミルゆかりの品々。
- 15 :
- (そういう時代なんかもな)
突然デルフリンガーが頭の中に語り掛けてくる。
(時代・・・・・・?)
("四の四"のことさ)
言われてすぐにピンッと来る。使い魔、秘宝、ルビー、そして恐らく担い手の数のことだろう。
(また何か思い出したの?)
(おう。本来バラバラだったものが、一度に集まるってのは"必要な時"なんよ)
(必要って何の?)
(わからん、そこまでは)
(全く・・・・・・ホント都合が良いんだか悪いんだかわからない記憶)
シャルロットは嘆息をつくと、火のルビーを空に掲げて覗き込む。
夜空の黒色を背景に、月明かりに照らされ、誘われ吸い込まれそうなほどの赤色が映える。
(ルイズが読んだ始祖の祈祷書からすると・・・・・・)
"聖地の奪還"――なのだろうか。わからないことだらけで、未だ霧は濃く先が見えない。
されど四の四。始祖の担い手も四人とくればなおのこと自分の可能性が出て来る。
その"必要な時"が来た時に、自分も否応なく関わらざるを得なくなるかも知れない。
――聖地。
始祖ブリミル降誕の地であり、エルフが住まう領域。
(そんなもの・・・・・・――)
もし仮に聖地の奪還が必要なのだとすれば、それは本当に必要なことなのだろうか。
確かにエルフは仇敵であり、サハラと呼ばれる土地は風石などの資源に恵まれている。
しかし人々は6000年もの間、今の土地で暮らしてきたのだ。血で血を洗う必要など、どこにあるというのか。
目下はオルテや黒王軍の方が遥かに問題であるし、そもそも同族間で相争ってきているのにさらにエルフとなど――
(何らかの大きな力で導かれているとしても・・・・・・)
もし今が"必要な時代"とやらで、始祖ブリミルが導いていたのだとしても。
(己の意思は己だけで決める)
もし私が"虚無の担い手"であれば、本当に何が必要かどうかは手前で判断する。
――思いも、力も、振り回されてはいけない。
――自身が責任をもって振るうものなのだと。
- 16 :
- 以上です、ではまた。
- 17 :
- たいへん遅れて申し訳ありません。予約がないようでしたら
2時10分頃より新作を投稿しようと思います。
- 18 :
- それではそろそろ始めます。
さて、その数日前のことである。
タルブでの侵攻が失敗に終わった、アルビオンのロンディニウム郊外の寺院。その一室。
「…ぐっ……! ここは…」
そこで怪我を負って、今まで寝ていたワルドは目を覚ました。起き上がろうとして、体の節々が痛むことに気付いた。
「そうか…俺は…奴に…」
その瞬間、苦い思い出が頭の中に蘇ってくる。無様な敗北。それも二度目だ。
腕が使えなかったとはいえ、風竜を使っての戦闘だったのに…あの男はそれももろともしなかった。
いや……自分の驕り、油断、それを的確に突かれたからこそああも惨敗したのである。
「――――くそっ!!!」
それを思い出して、ワルドは悔しさと怒りで顔を歪める。今でも鮮明に記憶の中に残っている、奴の憮然とした表情。
自分など、道を阻む敵としてすらも見ていない。それを教え込むかのような眼だった。
何をしても勝てない、越えられない、それをまざまざと見せつけられたようで、ワルドはかなり癪だったのだ。
「どうすれば…俺は奴を倒せるのだ……」
そんな折、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。そちらを振り向けば、フーケがスープの入った皿を持ってやって来た。
「もう起き上がったのかい? まああんまり無理すんじゃないよ。程度は軽いけど全身打撲だってさ」
そう言って、フーケはワルドの隣に腰を下ろす。スープの皿を手渡して、呆れるように言った。
「聞いたよ、アイツ相手に風竜を使っても勝てなかったそうじゃないか。初めて聞いたときは唖然としちゃったさ」
「関係ない、奴に比べればシシオ様の方が遥かに強い。あの方は、本当に別次元だ」
言い訳するかのように、ワルドは口を尖らせた。そしてここはどこかを、フーケに聞いた。
「アルビオンのロンディニウム郊外の寺院さ。覚えてないのかい? 『レキシントン』号含め軍艦は全滅。敗走して大失敗さ」
それを聞いて、ワルドは少しづつ思い出す。そうだ、あの時急に光が包まれたかと思うと、次の瞬間には、全てが焼き払われていた。
段々と記憶が戻ってきたワルドは、そこでハッとしたように、テーブルの上にあるペンダントを指さして言った。
「それ、取ってくれないか?」
「宝物ってわけ?」
「ないと落ち着かぬだけだ」
フーケは、どこか含み笑いをしながらもペンダントをワルドに渡した。その意味に感づいたワルドは、どこかもどかしそうな顔をした。
「見たのか?」
「だって、あんた意識がない間ずっとそれ握り締めているんだもの。気になるじゃない」
「…流石は盗賊だな」
ワルドの皮肉にも、フーケはどこ吹く風で身を乗り出す。すっかり興味津々と行った様子だった。
「ねえねえ、その美人さんは誰よ? 恋人なの?」
フーケが見たペンダントの中には、綺麗な女の人の顔が書かれていた。ワルドは苦々しい顔をしながらも答える。
「……母だ」
「母親ぁ? あんたそんな顔してR離れをしてなかったの?」
「今はもういない。どちらにしろ、貴様には関係あるまい」
「あのさ、貴様貴様って、何様よ」
丁度その時、ドアが再び開かれた。そこにはクロムウェルと、志々雄が立っていた。
ワルドは、相変わらず謹直な面持ちで頭を下げる。フーケもそれに習いながらも、ワルドと志々雄達を交互に見つめた。
第三十二幕 『動き出す野望 思わぬ事件』
『レキシントン』号の墜落に、大多数の空軍の撃墜。
アルビオンの野望は、初手から躓いたにも関わらず、しかし志々雄はまだまだ悠然とした表情をしており、
ワルドもまた、志々雄の余裕を信じきっているようだった。
ただの楽天家か? そんな考えが一瞬だけ、フーケの頭の中を過ぎった。ほんの、一瞬だけ…。
(それは…ないな…)
志々雄の不敵な笑み、あれは決して油断なんかじゃない。寧ろまだまだ余裕というものをフーケは感じたのだ。
- 19 :
- 「申し訳ありませぬ、シシオ様!!」
そんなフーケの隣では、ワルドが志々雄に向かって深く頭をたらしていた。
「汚名を晴らすと公言しておきながら、この体たらく……。今回の失態は全て私の責任です。ルイズ達の接近を許したのも、私の詰めの甘さ故に起こった出来事……」
ワルドは、本当に申し訳なさそうに語っていた。確かに、志々雄はルイズ達を一早く見抜き、砲撃するよう指示していた。
それを未然に防がれる原因を作ったのは、ワルドが剣心を侮っていたから起こったといえた。
しかし、志々雄は特段気にした風でもない。
「別にてめえだけのせいじゃないさ。奴の連れている『虚無』の力を見抜けなかったこの俺、志々雄真実の隙が、あの惨事を招いた、それだけの事だ」
「……『虚無』…ですと?」
『虚無』と聞いて、ワルドは顔を上げた。フーケもまた、驚いたように志々雄を見る。
「シシオ様、まだあれを『虚無』と決めつけるのはどうかと…」
横にいるクロムウェルが、不安げな表情をして呟く。確かに、不明瞭な事柄が多過ぎるあの現象を、あっさりと『虚無』と言い切ってしまうのはどうなのだと…。
それにワルドやフーケからしてみれば、『虚無』とは生き返ったウェールズの様に、生命を操る力の筈だ。あんな爆発を起こす代物もまた、『虚無』だとでも言うのか。
しかし、それに関してクロムウェルは、どこか怯えるような仕草で指輪を弄っていた。
「お前らもまた、『虚無』の事は知らねえんだろ? なのにどうしてそれを否定する? 『虚無』じゃねえってお前らが言うなら、あれはどう説明付ける気だ?」
その言葉に、ワルド達は口篭る。ある意味部外者である志々雄だからこそ、ズケズケと言える意見だった。
「では、僭越ながらシシオ様は、何故そうまでルイズが『虚無』の使い手と…?」
ワルドの疑問に、志々雄はさも当然とばかりに言い切った。
「決まってる、奴は抜刀斎をこの世界に呼び寄せたんだろ? ならそれだけで充分納得がいくじゃねえか」
「そ、それが理由なのですか…?」
困惑な表情を浮かべるクロムウェルだったが、志々雄はもはや絶対だと確信しているようだった。
「俺をこの地に召喚した奴も、『虚無』の使い手だと言ってやがった。今更一人や二人増えたところで、なんの不思議でもねえさ」
「え…? 今なんと…?」
「『虚無』の使い手が……もう既に…?」
衝撃的な事実を、志々雄はさらりと言い切った。あまりにも突飛過ぎて、フーケは若干話がついていけないほどだった。
「ましてや抜刀斎程の男を召喚するとなるなら、奴の実力も推して知るべしだ。それに実際、あの光を起こす前、奴が杖を振ったのを俺は見たんだぜ。
『虚無』かどうかの前に、あの光は最早奴が起こしたものだと考えるのが打倒だろう」
「それでは、これからシシオ様はどうすると…?」
ワルドが再び志々雄に質問した。すると志々雄は一転、獰猛な笑みをワルド等に向けた。
「決まっているだろ。俺の国盗りを遮る最大の障害。これがお前らにもはっきりしたわけだ。緋村抜刀斎とその虚無の担い手。ルイズとかいう小娘の首を、まず獲る」
首を親指で掻っ切る動作をして告げる志々雄に、今度はクロムウェルが進言する。
「でしたら、予てより私が計画した、あの策を起点にするのがよろしいかと」
クロムウェルはそう言って、後ろに控えているウェールズの方を向いた。相変わらず生きてはいるのだろうが、操られているかのように生気が無かった。
「ああ、それはてめえに任せるさ。俺は俺で、既に刺客は差し向けてある…『奴』をな」
「『奴』…、まさかシシオ様、あの男を……」
ワルドがハッとした様子で身を起こした。瞬間、痛みで顔が歪む。フーケが呆れたように手で支えるが、ワルドは気にすることは無かった。
「そういうことさ。ワルド、てめえは取り敢えず養生しな。怪我人動かしても邪魔なだけだ。完全に回復したと俺が判断したら、てめえにも任務をくれてやる」
そう言って、悔しさで顔を俯かせるワルドを尻目に、志々雄はその場を後にしようとした。ドアを閉める間際、最後にこう言い残して。
「悔しかったら這い上がってこい。所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱い奴は必要ねえ、俺たちが目指すのはそんな世界だ」
- 20 :
- 志々雄が去っていった扉を見つめながら、ワルドは仰向けにベットに転がった。その表情は、やはりというか悔しさで歪んでいた。
「ねえ、何であんたはシシオ様? についていこうと考えているのさ?」
「『聖地』奪還…それもあるが、あの方は…俺の知らない世界を見せてくれた」
そう言って、ワルドはスープを口に運びながら、ポツポツと語り始める。
「まだ俺が真っ当な軍人だった頃…ある過程であの方に俺は出会ってね。最初はメイジでもない相手に遅れを取る訳がないと、タカをくくって挑んだのさ。その結果が…」
「無様に負けた。ってわけかい?」
「それもある。だが、何より俺は焦がれたんだ」
ワルドは、昔を懐かしむような声で言った。
「今でも思い出せる…圧倒的な強さ、全てを薙ぎ払うような力、決して揺らぐことのない信念、弱者には一片の情もかけない容赦のなさ。
分かるか? 俺は惚れたんだ…シシオ様の全てにな。あの人は、力のない今の俺にとって、こうでありたい理想の存在なんだ」
熱弁するワルドを見て、相当入れ込んでるんだな、とフーケは思った。これはもう直ることはないだろう。
ワルドは、志々雄の忠義に命を懸けている様だった。
「けど、タルブでは完敗したそうじゃないの」
「一度の敗北がなんだ!! 現にシシオ様は、原因の究明をすぐに突き止め、行動を移しておられている。
あの男…抜刀斎とルイズさえ殺れば、後はどうにでもなるということなのだろう。
貴様はシシオ様の強さを直に見ていないからそのような口がきけるのだ!」
(こりゃあ重症だな…)
フーケはそう考えを改めた。しかしワルドは、そんな事関係ないように口惜しそうに呟いた。
「くそ! それなのに死人にまで仕事を取られるとは…まだまだ俺は無能なのか? 未熟なのか!? また『聖地』とシシオ様の野望が遠ざかったではないか!!!」
「成程、あんたは弱いなりに強く振舞おうとしていたんだね。それで悉く失敗しているんだろ?」
頭を抱えて項垂れるワルドを見て、フーケはどことなく和かな笑みをした。子供をあやすような、親の目のようだった。
「ま、とにかく今は身体を休めな。あんたが抱えていたものが何なのか、私は知らないけれど、たまにゃ休息も必要だよ」
そう言って、フーケはワルドの唇に向かって口づけしようとして、その瞬間、ワルドに押し戻された。
フーケは、一瞬ポカンとした様子だった。
「何だい、わたしじゃ物足りないってわけかい?」
「そうじゃない、ただ、『そんなこと』に現を抜かす暇があるなら、リハビリの一つでもやったほうが有意義なだけさ……来るべき時に備えてな」
ワルドは右腕の義手を眺めて言った。やがて起き上がって服を着替えると、そのまま体を動かしに外へと向かった。
「……バカ…」
開けられたままの扉の向こうを見ながら、フーケはポツリと呟いた。
- 21 :
- さて、場面は変わり、トリステイン魔法学院。
綺麗な夕焼け空の中、剣心とルイズは一緒に歩いていた。首にはペンダントをつけて、どことなく嬉しそうだった。
丁度授業が終わったその日、いつものように剣心は散歩をするようだったので、ルイズは剣心に付き合うことにしたのだ。
無論ルイズの心の中では、「身体を動かしたいだけであって、決して剣心と一緒に歩きたいわけじゃない」というような事を自分に言い聞かせていた。
「ケンシンさ…『虚無』についてどう思う?」
ふと、ルイズは剣心に向かって聞いた。ルイズの中では、ずっと相談したい事だったからだ。
「まあ、間近で見て確かに凄いとは思うでござるが…あの威力はそう何度も撃てるものではないのでござろう?」
「うん、まあ…ね」
剣心の言うとおりだった。事実ルイズは、あの後何度か『爆発』の呪文を試してみたのだが、それを悉く失敗していた。
どうしても最後まで詠唱しようとすると、その前に気絶してしまうのだ。
一度ルイズが、魔法には精神力が必要なこと、強力な魔法ほど消費する精神力も大きいということ、
精神力は休息を要して回復するということを、前に剣心に説明したことがあったのであるが、
その時剣心はこう言った。
「ならば『虚無』に使われる精神力というのも、それ相応に巨大で莫大なものではないのでござらんか?」
ルイズがあれ程の力を使えたのは、失敗ばかりした為でその分溜まっていたからこそ、つまりあれは、十六年間蓄えていた力が一気に開放されたからこそなのでは、と剣心は推測したのだ。
だから、今すぐにまた同じ威力の『爆発』を使おうとしても、その前に精神力が途切れてしまう。それは一晩二晩寝たぐらいでは容易に回復しないのであろう。ルイズはそれが不安だった。
もしまた、タルブの様な戦いが起こったら、自分はどこまで戦えるのかと…。
「でも…本当に分からないことばかり、詠唱を失敗しても魔法は使えるし…あれからコモンマジックが使えるようになったのはいいことなんだけど…『虚無』って、不思議なことばっかりね」
「まあ、ゆっくり見つけていけば良いでござるよ。あっちもそう簡単に、大軍を寄越したりはしないでござろう」
「うん、ありがと」
剣心のその言葉に、ルイズは頷いた。さて、そんな風に二人で歩いていた時だった。
「おやお二方、ご機嫌麗しゅう」
ふと急に、剣心たちに向かって声がかけられた。
振り向けば、薔薇の花をこれでもかと抱えながら、ギーシュが立っていたのだ。
「ギーシュ? あんた何その花?」
「決まっているじゃないか、これから僕はモンモランシーと仲直りをしに行くところなのさ!!」
「…あんたたち、まだ仲直りしてなかったの…?」
というより、まだ関係が続いていたことに対してルイズは驚きと呆れの入り混じった表情を見せた。
ギーシュも、あはは…と少し苦笑いしながらも、力強く言った。
「まあ…でもこれで見事に元通りの関係に戻ってみせるさ!! ではでは、僕はこれで失礼するよ。楽しい二人のひと時を、邪魔してはあれだからね!」
「なっ…ち…違うわよ!!」
変にどもった声を出しながら、ルイズは叫んだ。それを気にせずギーシュは足早に去っていった。
「何なのよアイツ……」
苦々しい顔をしながら呟くルイズをよそに、剣心は何やら気付いたように足元を見た。
そこには、どうやら落としたらしい、一本の薔薇があった。
「…落としたでござるかな?」
「放っておけばいいじゃん、只の薔薇の一つや二つ…」
しかし、剣心がよくよく見るとそれは、バラを型どった杖だった。一度剣心は直に手にとったことがあるので、すぐにピンと来た。どうやら間違えて杖の方を落としていったらしい。
これは届けないといけないだろうな…と剣心は思った。仕方なく、剣心はギーシュの向かっていった先を辿ろうとする。
それを見たルイズは、咎めるように呟く。
「いいじゃないの、そこまでしなくってもさ」
- 22 :
- 「けど放ってはおけないでござろう? 直ぐに届けて帰るだけでござる」
その剣心の言葉に、はぁ…とルイズは小さくため息をつく。こればっかりはルイズでもどうにもならなかった。
そこそこ一緒に暮らしているルイズも、大体彼の性格が分かっていた。だから止めても無駄なんだなというのはすぐ納得してしまったのだ。
「…分かったわ。まったくもう…とっとと片付けて帰りましょ」
「かたじけないでござるよ」
しかし、このいらない親切心が、まさかあのような悲劇を起こす事など、今は誰も思いもしなかった。
「月が綺麗だねえ、モンモランシー」
「そうね」
「でも、君の方がもっと美しいよモンモランシー。君の美貌の前では、月や水の精霊も裸足で逃げ出すんじゃないかな」
月夜の生えるモンモランシーの私室の中、ギーシュはひたすらにモンモランシーを褒め称えていた。
最初はモンモランシーも、ギーシュが乗り込んできたときは、さして取り合わすこともしなかった。ギーシュの浮気癖には、ほとほと愛想が尽きていたからだ。
ただそれでも、何度も「愛している」と連呼されていく内に、まあいいかな…と思ったりもしたのも事実だった。
元々それなりの付き合いで、ギーシュの性格は知っていたというのもあるし、こういう風に褒め称えられるのは、やっぱり悪い気はしなかったからだ。
「どうだい? この見目麗しい月夜を背景に、仲直りの乾杯でもしようじゃないか!」
そう言って、ここぞとばかりに小遣いはたいて買った高級なワインを、持っていた薔薇と一緒にモンモランシーに差し出した。
「あら、気が効くじゃないの」
薔薇の方へは見慣れたせいもあって、見向きもしなかったがそこまでしてくれるギーシュの姿を見て、モンモランシーも表情を和らげた。
「だろう? 僕はいつだって君の永久なる奉仕者なんだよモンモランシー」
そう言って、早速グラスを用意してそこにワインをついだ。二人分注ぎ込んだあと、ギーシュは大仰な身振りでワインを鳴らす。
「二人の永遠の愛に…」
そう言ってギーシュが杯を掲げた瞬間。
「あら、あそこに裸のお姫様が空飛んでる」
モンモランシーは、一旦ギーシュを制止すると、窓の方に指を指しておもむろに叫んだ。
「え、どこ? どこにいるんだい?」
今時子供でも引っ掛からないような冗談なのに、ギーシュはこれでもかと食いついた。
そんな彼を見て、モンモランシーは大きくため息をついた。何が永久の奉仕者よ、何が二人の永遠の愛よ、早速目移りしてるじゃない。
「やっぱりコレ使わなきゃ駄目ね……」
そうぼやいて、モンモランシーは袖から何やら小瓶を取り出した。
彼女はその『香水』の二つ名で呼ばれるとおり、香水や薬などを作るのが趣味だった。だが、段々と製作に熱を入れていく内に、
世間では公に作れない禁制の物にまで手を出すようになっていった。この小瓶もその一つ。
コツコツお金を貯めて、今日やっと完成した噂の秘薬『惚れ薬』。
あくまで効果を試すため…そう自分に言い聞かせながら、モンモランシーはギーシュのワインにそれを一滴垂らした。
「ねえ、どこにいるんだい!? モンモガフッ…!!?」
「ほらっ、とっとと乾杯するわよ!!!」
未だに食い入るように目を剥くギーシュをひっぱたいて、座席に座らせると、改めて二人はグラスを鳴らした。
「…乾杯」
そう言って、まずモンモランシーがワインを口に付ける。それに遅れて、ギーシュもグラスを傾けた。
「………」
ゆっくり、ゆっくりとモンモランシーにとってもどかしいような時間が流れていく。
やがて、グラスはギーシュの口元まで近づいていき、そして惚れ薬の混じったワインが、遂にギーシュの中へと入っていった。
(やった…後は私を見れば…)
しかし、そうは問屋が下ろさなかった。
「ちょっと失礼するでござるよ」
おもむろに扉を開けて、中から剣心とルイズがやってきたのだった。
- 23 :
- 「……………え……?」
永い、永い沈黙がこの部屋一室に流れ込んでいた。
モンモランシーは、ゆっくりと冷や汗を流した。嫌な予感で、全身に震えを起こす。
剣心達は、何事か理解できないまま、不思議な表情で立ち尽くしていた。
ギーシュは…というと…。
「ね、ねえ…ギーシュ…」
ギーシュは何故か、後ろにいる剣心の方向を向いたまま動かなかった。それにより、モンモランシーは悪寒がどんどん大きくなるのを感じる。
しばらくそうしたまま時間だけが流れていくと、おもむろにギーシュは立ち上がり…。
「ああ、何ということだ…今気がついたよ…本当の愛というものに…僕はなんて愚か者だったんだ…」
薔薇を取り出し、華麗なステップを踏みながらゆっくりと歩いていき…。
「ああ、始祖ブリミルよ…もし…もしこの愚かな僕に…もう一度チャンスを与えてくれるなら…今度こそ誓おう…ここに永遠の愛を育くもうと…」
そう言って、スッと薔薇を、剣心に向けて差し出した。
「僕の気持ち…受け取って欲しい」
「―――――――――――――!!!!?!!?!?!?!?!?!?!?!??!?」
その言葉を聞いて、剣心は全身の鳥肌がたった。緋色の長髪はこれでもかというほど跳ね上がり、目は思いっきり見開かれる。
その隙を狙って、ギーシュはおもむろに飛びつこうとしたが、直ぐに危険を察知した剣心の方が速かった。
「男に抱きつかれて喜ぶシュミなんてないでござる!!!」
いつしか師匠が言ってた台詞をそのまま流用しながら、ギーシュのダイブを素早く躱し、剣心はこれでもかという程に全力を挙げてその場から逃げ出した。
「ああっ、待ってくれ、僕には君しかいないんだあああああああああ!!!」
直ぐ様、後を追うかのようにギーシュが駆け出した。それに弾かれるように、モンモランシーが叫んで止めようとした。
「ちょっ…待ちなさいよギーシュっ……!!」
しかしその腕を、剛力の様なルイズの手が捕らえた。殺気を隠そうともしない、なにものも写さない。
まさに『虚無』のようなその瞳に、モンモランシーは戦慄を覚える。
「どういうことよ…説明しなさいよ…あんた知ってるんでしょ…何したのよ…」
ミシミシと腕を握る手を締め付けながら、ルイズは尋ねた。口調こそ変わってはいないが、それが逆に恐怖心を煽った。
腕の痛みを必死にこらえながらも、モンモランシーは呻くように叫ぶ。
「あっ…後で話すわよ!! それより追うわよ。このままじゃあんたの使い魔も危ないんじゃなくて…?」
「…絶対聞き出させるからね…逃げるんじゃないわよ」
ルイズの気迫満ち溢れる声に、モンモランシーは観念したように頷くと、二人は急いで剣心達の後を追った。
- 24 :
- 以上で、投稿の方を終了いたします。ここまで見て頂きありがとうございました。
それではまた来週に。
あと、遅らせながらドリフターズの人、お疲れ様でした。
- 25 :
- ホモォ
- 26 :
- 投下乙
ってかギーシュ×剣心とか誰得www
- 27 :
- 野獣と化したギーシュで草が生えちゃう。やばいやばい…
- 28 :
- えー、ギーシュが剣心をかばったせいで斬殺される流れ?
- 29 :
- ホ、ホモォ・・・!!
┌(┌^o^)┐
- 30 :
- 木間市に塔が立つな
- 31 :
- のあしおのRがまたなんかやるみたいだな
リア充の祭典を撲滅ってお前結婚してるだろ
- 32 :
- すみません、誤爆しました。
- 33 :
- 誤爆…
爆撃獣グロイザーX10を召喚、出オチでしかねーな
- 34 :
- FF13の召喚獣の 戒律王ゾディアークを召喚してしまったら ハルゲギニア
は即 消滅したかも。
- 35 :
- そうかな
- 36 :
- 孤独のグルメの井之頭五郎で短編を投下します。
ニレスぐらいになると思います。
キャラクター的には原作に近いと思われます。
- 37 :
- ……とにかく腹が減っていた
俺は仕入れた輸入雑貨を置いておく倉庫で南千住に格安の物件があるというので
見に来たが予想を上回るボロさだった
その上隅田川が近いせいか品物に最悪の湿気が強くサビやカビがひどい
全くの無駄足だった
「あんた誰?」
おまけにどうやら俺はまたも路に迷ったらしい
目の前には見知らぬ学校の生徒達がいた
「ルイズったら『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してるわ」
「さすがはゼロのルイズだ!」
みんなマントに杖を持っているのはなぜだろう?
でもある種の美意識が感じられる…
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一回召喚させてください!」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やってるとおりだ…」
目の前の生徒が先生らしき人物に注意を受けているがこっちはそれどころじゃない
とにかくどこか店をさがさないと……
「ちょっとあんたどこに行くのよ!?」
まいったな…いったいどこに迷い込んでしまったんだ?
さっきから見慣れない景色が広がっている
イヤ…焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ
腹が減って死にそうなんだ
「見つけたわ!あんた儀式の途中で勝手に出歩かないでくれる!?」
くそっ、それにしても腹減ったなぁ
どこでもいいから“めし屋”はないのか?
「コラ!無視するな!!」
- 38 :
- しばらく歩いているとそれっぽい建物が見えてきたぞ
ええい!ここだ、入っちまえ
「どうされましたか?」
「何か腹に溜まる物を…」
「シチューしかないですけどいいですか?」
「じゃあそれで」
注文をしてしまうと少し気が楽になり店内を見回すゆとりが出てきた
しかし…さっきのウエイトレスの格好は凄かった
今流行りのメイドさんというヤツだろうか?
「はい、おまちどうさまです」
「ほー、うまそう……もぐ」
なんとも素朴な味のシチューだ
子供の頃、夏休みに田舎のおばあちゃんちで食べたお昼かな?
しばらく食事を楽しんでいるとさっきの生徒がやってきた
「まったくこんなところにいたのね、さっきから人の話を聞かずに勝手にうろちょろして!
さあ早く儀式を済ませるわよ!!」
生徒のあんまりな物言いに思わずカチンと来る
「人の食べてる前でそんなに怒鳴らなくたっていいでしょう
今日はもの凄くお腹が減っているはずなのに見てください!
これだけしか喉を通らなかった!!」
「ハァ?あんたそれ大方食べてるじゃない?」
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「それ以上いけない」
ウエイトレスの一言でふと我に返る
あーいかんなぁ…こんな…
いかん、いかん
「……お勘定」
「は、はい…えーと800円です」
「ごちそうさま」
「…ありがとうございます」
俺はゆったりと店をでる
腹ははち切れそうだ…食いすぎた
俺は数メートル歩いたところで店を振り返った
おそらく…俺はあの店には不釣り合いな客だったんだろうな…
ようやく明治通りに出た、タクシーが来れば乗ろう
来なければ歩いて地下鉄日比谷線の三ノ輪駅に出ればいい、そう思った
俺は得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた
- 39 :
- とりあえず今回は以上です。
後六話ほどストックはありますが、いずれまた。
- 40 :
- 投下乙
- 41 :
- 何故ハルケギニアで800円…?
まあ投下乙です
- 42 :
- >>33
なんでわざわざ爆撃獣の方なんだよw
- 43 :
- >>37>>38
投下乙・・・、明治通りって帰っちゃったじゃないかw
- 44 :
- 今日は土曜日だよ。
だからサタデーナイトフィーバーでもう一話投下しようと思います。
ゴローちゃんは飲めないけど、私は酒酔い運転です。
二話目、2レスほどお付き合いお願いします。
- 45 :
- 池袋のデパートに来たついでに飯を食おうかと思ったが凄い人だかりだった
うわぁ、そうか
休日の昼時にあたっちゃったかァ
デパートの中じゃどこも満員で並ぶようだ…
仕方ない、外に出て食べるか
そう考えていたら近くの親子連れの会話が聞こえてきた
「こりゃダメだ、屋上で焼きそばでも食べよう」
「わーい焼きそば、焼きそば」
なるほど、屋上か…
『チン』
なーんだ、気持ちいいじゃないか
目の前には開放感がある景色が広がっている
「なんでまたあんたがいるのよ!?」
「ルイズったらまたあの変なの呼び出してるわ!」
「今日も完璧なゼロだな!」
「うるさいわね!ってあいつったらもういなくなってる!?」
よしよしいいぞいいぞ、ここでなんか食べればいい
さあて、なにがいいかな…
「ん?あれはうどん…」
ふと見るとウエイトレスらしき人がうどんを運んでいた
「あてにはならないけどいい匂いだ、タマラナイ…さぬきうどんか」
うん、これにしよう
「すいません」
「あ、あなたは…」
「?うどんを食べたいんですけど」
「タルブの郷土料理うどんをご存じなんですね!?分かりました!」
「えーと、卵を入れたいから…月見…いや…えーと、月見おろしうどんで」
「はい!」
「うーん、おいしそうだ」
ほどなくしてやってきた月見おろしうどんを外のテラスで食べることにした
「いただきます」
『ズズーッ』
「うー…あったまる、これはいい……はふはふ…うん、うまいうまい」
ふーん…卵とおろしの効果っていうのがイマイチ分からないけど…
『ズル…ズズゥ』
うまいよな
あ……外でうどんなんか食べるのはいつ以来だろう?
『ズルズル…』
- 46 :
- うどんを食い終えた後もしばらくのんびりすることにした
それにしてもデパートの屋上って…変わらないんだなぁ
この雰囲気、下がすぐ駅だなんて信じられないよ
都会のエアポケットみたいだ
そうか…都会のぐしゃぐしゃから逃げたければ
ここに来ればいいんだな
ここでは青空がおかずだ
「ほー、サボテン…」
しばらく散策しているとサボテンが並んでいる一角が見えてきた
そういえばいつだったか、納品しに行った昔の流行作家が言ってたっけ
…………………………………
『シャボテンというのはね、人の来ないそれは淋しい砂漠に生えとるんです』
「やっと見つけた!もうあんたでも仕方ないから使い魔にしてあげるわ!」
『だから夜中にね、一人月の光の下でこいつを眺めとると』
「あんたに逃げられてからみんなに笑われて大変だったんだから!
おまけにあれ以降『サモン・サーヴァント』だって一度も成功しないし…」
『そういう砂漠の淋しさがこぉー伝わってくるんですよ、シャボテンからね……』
「ねえお願いよ!あんたが使い魔になってくれないといつまでたっても進級できないんだから…」
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
『そうすると日中の目の回るような忙しさもなんもかも忘れられるんです』
…………………………………
「すいません…このサボテンください」
「は、はいっ!」
- 47 :
- 例によってゴローちゃんは池袋のデパートに戻り、帰宅しました。
お付き合いいただきありがとうございました。
残り六話ですが、まあまたいつか。
- 48 :
- 残り七話じゃなくて?
- 49 :
- まとめサイトに登録するとしたら、何話かまとめて……かねえ?
一話ずつでは短すぎる感があるな
- 50 :
- ルイズは毎回アームロック決められるのかw
- 51 :
- ルイズかわいそすw
- 52 :
- これは痛すぎる…。ルイズは耐えられるのか?
- 53 :
- 短いのでもう残り全部投下します。
タイトルに話数を表示します。
全部で12〜15レスほど失礼しますね。
- 54 :
- 久しぶりの朝6時起きだった
赤羽に朝8時に納品とは雑貨の商人には少しキビシイ
海外買い付けに行く朝でもないのに…
しかも3階の店
エレベーターもなし、バイトもなし
腰にきた……というより腹にきた
腹の中がキレイにすっからかんだ
「9時半か…」
よし!車はここに置いといて、駅前で何かサッサッとかき込んでいこう
だけど……こんなに朝早くからやってる店なんかあるのかな?
そう思いながら歩いているとふと一軒の店に目がとまった
「ん?なんだこの店は……」
魅惑の妖精亭…もしかして酒場……?
バカな……今、朝の9時半だぞ
「いらっしゃ〜い」
「あのぉ……食事できますか?」
「もちろん!ウチはなんでも美味しいわよ!」
あ、おすすめメニューが書いてある
「タンシチューか……」
うん!これだ
「いらっしゃいませ〜、お飲み物はなんにされますか?」
「いや飲み物はいらない、えーと……表にあったタンシチューっていうのを」
「タンシチューってもういけますか?ミ・マドモワゼル!」
「んんんん〜〜〜〜!お客様申し訳ありませんけど、それまだなんです〜〜〜〜」
そう言いながら奥から出てきたのは妙にガタイの良い髭面のオカマだった
こんな朝っぱらからオカマバーがやってるなんてこれも赤羽カラーっていうのかな
まったくこの辺りの人は朝から盛んだ
まあそれはいいとしても目当てのメニューがないのは困ったぞ
正直店も雰囲気…というかオヤジがアレだし
ここはサッと食って別の店でドスンとなにか食うか…
「じゃあこの七面鳥ハムのサンドイッチで」
「んふぅ〜〜〜トレビアン!!オーダー!七面鳥ハムをパンで挟んだ料理ぃ〜〜!!」
「「「ミ・マドモワゼル!!」」」
……アレなのはオヤジだけじゃないみたいだ
「あらぁ〜〜?お兄さんいい体してるわね、何かやってたのぉ?」
「いや、そんな…」
いかん、ケツがムズムズしてきた…
「おまちどおさま」
うわ…サイズがデカいし中のハムもぶ厚いぞ
「いただきます」
噛むとハムの肉汁が口の中に広がってくる
一緒に挟んであるのはマスタードと何かの香草かな?
「もぐ……むぐ…」
うまいんだけどこれだけ厚いとアゴが疲れるなぁ
- 55 :
- 「あっ、またあんたね!」
前に何度か見かけた学生っぽい子が話しかけてきた
留学生かな?それにしても髪の毛がピンクって凄いな
「丁度良いわ、あんたに良い物見せてあげる…ほら、私の使い魔よ!」
留学生っぽい子の横にはパーカーを着たこれまた学生っぽい男の子が…
「あんたに逃げられてから何度も何度も『サモン・サーヴァント』失敗したけど
つい1週間前にやっと成功したんだから!」
何かのごっこ遊びだろうか?最近の子は分からないなぁ
とその時、隣にいた男の子が話しかけてきた
「あの、あなた日本人ですよね?どこから来たんですか!?」
「え?赤羽の駅前に車置いて歩いてきたんだけど?」
「本当ですか!?じゃあ帰る時途中までついて行っていいですか?」
えらく興奮してるがどういうことだろう?
そこにすかさずさっきの女の子が割って入る
「ちょっと、あんたは私の使い魔なのよ!なにご主人様に勝手に話進めてるのよ!」
「だってよぉ、この人について行ったら家に帰れそうなんだぜ?
一度家に帰って母さんとか学校の友達に会いたいよ!」
「ダメよ!離ればなれになっちゃうじゃない!」
「たまに遊びに来てやるから大丈夫だって」
「この犬は何を言ってるのかしら?たまに遊びに来る使い魔がどこにいるのよ!」
友達を家来扱いするのは感心できないな、それに人の食事の邪魔もしてるし
ちょっとお灸を据えてやるか
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「友達を家来扱いするんじゃない!」
「ぐぉおおおおお!!」
その後、こちらがサンドイッチを平らげる頃には無事2人の折り合いもついたらしく
俺とその男の子は店を後にした
駅前に帰る道すがら、男の子は回りの景色を見ながらやけにテンションが高い様子だが
こっちはさっきの店のオヤジとボリューム満点のサンドイッチの事で頭も腹もいっぱいだ
赤羽の駅で男の子と別れて停めてある車のところへむかう
ああ……腹がいっぱいだ
運転しながら眠くならなきゃいいが
「ふう」
帰ったらシャワーを浴びてひと眠りだ
……あのオヤジが夢の中に出てくるかもしれないな
※その後男の子は一人でハルケギニアに戻ることはできませんでした
- 56 :
- 今日は浅草の上客のところへ頼まれていた品物を納めにいっていた
「ミスタ・イノガシラは一滴も飲めないんでしたよね?
せっかく素敵なクリスタルグラスを売ったりしてるのに」
「ええ、前世によほど酒で痛い目にあった者がいたとみえて…」
「まぁ…それじゃ甘いものはお好き?」
「ええ、まあどちらかというと」
「そう……ウチの娘も甘いものが好きなのよ」
「娘さん?」
「もうすぐ嫁ぐんですの。家のため、そして本人のためとはいえ
望まない結婚を受け入れる娘が不憫ですわ…」
「ほう……」
個人輸入業者にとって個人の顧客は好みもわかるし
高値で買ってもらえるので大切なのだが
正直いって3時間も話し込まれるとヘキエキする
俺はまたも空腹を抱えて歩いている
しかし…少し気になっていた
といってもさっきの話ではなく、そこにいた鳥の骨のような中年のことがである
一瞥しただけだけだが、あの風貌を見た途端鳥肉が食いたくてたまらなくなった
いつしか俺の目は鳥を食わせる店を物色していた
どうせなら焼鳥や鳥鍋のようなありきたりなものじゃなくて
少し変わったものが食べたい
「ん?鳥づくしの店マザリーニ…?」
鴨、アカイライ、ホロホロ鳥…へぇいろいろあるなぁ
いいじゃないか、ここにしよう
「いらっしゃい」
「色んな鳥を少しずつ食べたいんですけど」
「じゃあおまかせコースでいいです?」
「はい」
「おまちどうさま、ガルーダのフルーツソースです」
ガルーダ?聞いたことない鳥だな…
「いただきます」
うん!うまい、肉に甘いソースが意外と合うぞ
肉の味は……鶏とは微妙に違うのかなぁ
- 57 :
- 「あの、もし?」
次の料理を待っている時
ほっかむりをした怪しげな人間が話しかけてきた
「ミスタ・イノガシラ、あなたにお願いがあります!
何も言わずにこの手紙をアルビオン王国の皇太子・ウェールズに届けて欲しいのです!」
「いや、あの…」
「仰りたいことはわかります!
本来ならこういう事を赤の他人であるあなた様に頼むべきではありません!
でも、こういうことが頼める私の親友は今使い魔の召喚で手を離せないらしいのです!
それにミスタ・イノガシラは東方の珍しい品も買い付けに行くほど旅慣れしておられる様子!
そんなあなた様ならきっとアルビオンへも易々と潜入出来ましょう……」
声からしてどうやら若い女の子らしいが
さっきから一方的に捲し立てて来ておちおち食事も出来ない
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「そんなに大事なことなら家族に相談するんだ!」
「姫殿下、こんな所におられましたか!」
そう言って店に入ってきたのは浅草の上客のところにいた鳥の骨だった
ということは俺は客の娘を締め上げてしまったのか……
うーん、いかんなぁ…
「マ、マザリーニ!?」
「姫様が抜け出されたせいでお城は大騒ぎ!
その手紙の事もあわせてしっかりお話を聞かせてもらいますぞ!」
「…どうして手紙のことを」
「あれだけ声高らかに語られたら店の外まで丸聞こえです
自分に酔う前に回りを気にするべきでしたな」
「うう……焦るあまりに魔法をかけ忘れましたわ…」
その後客の娘さんは鳥ガラに連れられて家に帰っていった
娘さんを締め上げたことも「少しぐらいはお灸を据えないと」と許してくれたからよかった
食事を終えて店を出る
様々な鳥が凝った料理で出てきてうまかったが
やはり自分には熱々のご飯に甘辛いタレで焼いた焼き鳥を乗せてかっこむ方が性に合ってるようだ
俺ってつくづく酒の飲めない日本人だな
- 58 :
- 今回は新規開拓のために大阪に来ていた
「いやー、イノガシラくんの食べ物に関する話は面白いねぇ〜
時間を忘れてついつい話し込んでしまったよ!」
「いや…そんな……」
「それじゃ最後に今の時期にオススメの食べ物でも聞かせてくれたまえ」
「そうですね……今の時期なら鮟キモかなぁ」
「アンキモ?それは何なのかね?」
「魚の鮟鱇のキモのことです、普通は酒の肴ですが白いご飯とも合うんですよ」
「ほう、アンコウ……いったいどんな魚なんだい?」
「うーん、丸くて水の入った袋みたいな感じかなぁ」
「ほほーう、そりゃおもしろい魚だ!今度是非食べてみないとな!」
「いい天気だなぁ」
まるでジョゼフ氏との取引を象徴しているような天気だ
こんなにあっさり、しかも大口の注文が取れるとは思いもよらなかった
大阪もいいな…
今日はこの辺をブラブラして
なにか大阪らしいもんをちょこっと食べてホテルに戻ろう
道頓堀に沿って繁華街を歩く
過剰だ…この国、いやこの街では何もかもが過剰すぎる
大阪ってこんな街だっけ?
…でもなんかみんな…楽しそうだな
おやここは…
また変な小路に入っちゃったな
一種のミステリーゾーンといったところか…
しばらく歩いていると変な店があった
「はしばみ草専門店?」
はしばみ草ってなんだろう?
こっちの方の野菜かな?
取りあえずおもしろそうだから入ってみるかな
- 59 :
- 「…いらっしゃい」
何だか懐かしい店だな…
学生の頃にこういう店に入ったことがあるような気がする
ただ表の賑わいの割に客がいないのが気になるが…
「ご注文は?」
「あ…えーと、このはしばみ草のサラダとはしばみ草とベーコンのサンドイッチを…」
「はい」
薄暗い店の中、ここだけが時間の流れが止まっているかのようだ
ふと顔を上げると店の奥のカウンターに座ってる客が目につく
メガネをかけた小柄な女の子だ、制服を着てるから学生かな?
女の子は本を読みながら黙々とサラダを食べている
あんな食べ方して味がわかるのだろうか…
「お待たせしました」
きたきた、はしばみ草とやらは一体どんな味だろうか?
「いただきます」
まずはサラダからだ
「もぐ……うっ…」
……苦い、それも強烈な苦さだ
口の中が苦みで覆われていく
ということはサンドイッチも…
「…苦い」
火を通している分サラダよりは若干マシだが、それでも苦みはかなりのモノだ
とてもじゃないが全部食べられそうにない
このまま残してしまおうか?
でもそれじゃいくら何でももったいないしなぁ…
もう少しだけ食べようかな
「あれ?」
しばらく食べているうちに不思議なことが起こった
あれだけ苦くて苦痛だった味が妙に後を引くように感じてきたのだ
「……うまい?」
癖になる苦さというのだろうか?一口食べて広がった苦さが引くとまた次が食べたくなる
そのうち苦みに慣れてくるとそれ以外の味もしてきてますます後を引く
こうなってくると後は早い
あっという間にサラダとサンドイッチを平らげてしまった
うーん…全然物足りんぞ
よし!
「スイマセ──ンッ」
「ハイ」
「追加ではしばみ草と角羊のシチューください!大盛りでね!!」
※1週間後、ジョゼフ氏は鮟キモと間違えて河豚のキモを食べたため死亡しました
(『丸くて水の入った袋みたいな感じ』の魚を探させたら鮟鱇ではなく河豚が来たため)
- 60 :
- 仕事で石神井公園の近くまで来ていた
「都内にしちゃ…すごい豪邸だったな」
公園を南に見下ろすように…
ホントいい場所にちゃんといい家が建っているんだな
ついでなので公園の中を散策する
「……そうか、世間は日曜日なんだよなぁ」
こりゃ井之頭公園や代々木公園とはまるで違う雰囲気だ
やっぱりどこの駅からも遠いし、近くに大きな繁華街がないせいかな?
来ている客層が違うよ、年齢層もファッションも
「えーと…たしかこの辺に古い休憩所みたいなのがあった筈なんだが」
……もう15年も前のことだからなあ
「あっ、あんたは!?」
いつぞやあったピンクの髪の女の子だ、こんな偶然もあるもんなんだな
「やっと見つけたわ!えーと…
我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
「え…」
急にどうしたんだろう?
「よし!後はキスだけね、んー…」
急にピンク髪の女の子がキスをしにきた
「ちょっとやめなさい!」
「そっちこそおとなしくしなさいよ!後キスすればコントラクト・サーヴァントの完成なんだから!」
こりゃいかんな…
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、き…キスぅ〜〜〜〜〜〜」
「キスはヤケクソでするもんじゃない!」
女の子はそれからしばらくはジタバタしてたが、ようやく落ち着いてきたので手を放す
「うぅ…」
ん?
「グス…ヒック…何よ、あれから何回もサモン・サーヴァントしたのに全然うまくいかないし
たまにタイミング良くミミズとか蟻とかがいてコントラクト・サーヴァントしても失敗するし
あんたのせいで最悪なんだから……ウェ〜〜〜〜〜ン!」
まいったなぁ…
「落ちつけよ、何かあったかいものでも食べながらゆっくり話そう」
「グス…こんな時に落ち着いて食べるなんて……(ぐぅ〜)」
「ほら行こう」
「……うん…」
「どこ行くのよ?」
「この先に休憩所があるはずなんだ」
「?学院の中に休憩所なんてあるはずないわ…」
「大丈夫だよ……あ!あったあった、ここだあ」
「え…ここどこ?」
その休憩所は昔とちっとも変わってなかった
なんだかとぼけた空間が広がっている
「喉が渇いてないかい?お…珍しいな、フルーツ牛Rか……銭湯でよく飲んだやつだ」
「フルーツ牛R?」
「へぇ〜チェリオか、懐かしいな…まだ売っていたのか」
「何それ?」
「飲んでみるかい?」
- 61 :
- 『ピッ……ガコン』
「ごく……このワザとらしいメロン味!小学校の時、映画館でよく飲んだなぁ」
「…薬くさいわ」
女の子は顔をしかめてそう言った
今どきの子はこんなの飲まないんだろうな…
「ほら、ここに座ろう」
そのまま飲みかけのメロンソーダを持って休憩室の座敷にすわる
「いい気持ちだろう?いい風が通るし緑もいっぱいだ」
「…………」
座敷に座った女の子は特に話すでもなくジッとしている
「あ!スイマセン、おでん下さい」
「ハイ」
そのやりとりを不思議そうに見つめる女の子
留学生のようだし、もしかしたらおでんを知らないかもしれないな
しばらくしておでんがやってくる
「お待ちどおさま」
「あ、どうも」
「これがおでん?」
「そうだよ、早速食べよう」
「どうやって食べるの?」
そうか…この子は箸が使えないんだ
「適当に切り分けるからこの棒に突き刺して食べればいい」
「変な食べ方ね……ハフ…」
「どうだい?」
「…おいしい」
「よかった、じゃあこっちもいただこうか……はふ……うーん、美味しい
しかし…おでんとメロンソーダってのは色彩的に最悪の組み合わせだな」
「…ごくっ……味もよ」
「いやー、失敗したなぁ」
「……クスッ…」
回りの席では親子連れや老夫婦が思い思いにくつろいでいる
そんな中を外国の少女といるなんて不思議な感じだ
でもなんでだろう…このとろんとした雰囲気
ずっとここにいたいような居心地の良さ
- 62 :
- 「……はぁ、私ったらなんであんなに焦っていたのかしら…」
よかった、落ち着いたみたいだ
「そろそろ帰ろうか?」
「でも帰り方が分からないわ」
「さっき君がいた公園の入口あたりまで連れて行ってあげるから大丈夫」
「あっ、ルイズったらどこに行ってたのよ?」
「…キュルケ?」
「急にいなくなったからみんなで探してたんだからね!」
「えーと…この前のあいつにたまたま合ってよく分からないところに行ってたんだけど…」
「あいつ?」
「ほら、すぐ後ろにいるでしょ?」
「……誰もいない」
「何言ってるのタバサ……あれ?いない…」
「やだ、あんたサモン・サーヴァントのやりすぎで頭おかしくなったんじゃないの?」
「…でもさっきのビンがあるし、……?」
「相当重傷のようね」
…………………………………
あの子と別れた後、俺はバス停に向かって歩いていた
なんだか少し眠い
このままだとバスの中で寝てしまいそうだ
それぐらいさっきの時間がマッタリとしていたのだろう
今度はあの休憩所に一人で行ってみたいなあ
- 63 :
- 「16E……16E……と、ここか」
俺は今、新幹線の車内にいる
また大阪での仕事が出来たのだ
「えーと向こうには7時か」
横を見るとまだ発車してないのに弁当を食べている人がいる
どうしてああせっかちなんだろう
せめて列車が動きはじめてから食べればいいのに………
俺は少なくとも新横浜を過ぎてからだな
せこい出張でも少しは旅気分を味わいたいじゃないか
『トルルルルル…』
新幹線が定刻通り動き出す
ほどなくして隣の席に誰かが来たようだ
「え………?」
……………………
今日は虚無の曜日だったのでトリステインに出ていた
朝が早かったので少し眠いが、そのおかげでもう用事は済んだし、どうやら早く帰れそうだ
「この馬車に積んで頂戴」
街入り口付近の駅で荷物を馬車に積んでもらう
いつもは馬を使うのだけど、今回は荷物が多くなる予定だったから馬車で来ていたのだ
準備も終わり馬車に乗り込む、すると…
「え………?」
馬車の中にあいつがいた
「あ…君は……。もしかしてここの席?」
「はぁ………まあいいわ、座るわね」
なんだか馬車の内装がおかしい気もするけど、いい加減こんな状況には慣れてしまった
そして馬車はそのまま動きはじめる
- 64 :
- 「奇遇だね、君はどこに行くの?」
「私は学院に帰るの、あんたは?」
「出張だよ、大阪で商談があるんだ」
「へぇー、あんた商人だったのね」
しばらくするとあいつが何かを準備し始める
「何それ?」
「弁当だよ、シューマイをジェットで暖めるらしいんだ」
またワケの分からないことをいいながら
あいつはお弁当?の箱からヒモを引っ張った
『シュウウゥ…』
箱から湯気が出ている
火の秘薬でも使っているのかしら?
しかも嗅いだことのないにおいまでしてきた
「うわあ…まいったなぁ、こりゃあ」
「凄いにおいがするわよ?」
「失敗したなあ……匂いのことは考えてなかったよ……」
しばらくして湯気がおさまると、あいつはそれを食べ始めた
「どうなのそれ?」
「うん…うまい、確かにうまいんだけど……これはどこまでいってもシューマイだな」
なんだかよく分からない
「それにしてもあんたってあった時はいつも何か食べてるわね」
「まぁ…仕事であちこち行き来してるから、メシぐらいはうまいもの食べて楽しみたいしなあ」
「楽しみ…?そのわりに失敗してるじゃない」
「その時々で自分が何を食べれば幸せか考えて、それを実行するのが楽しいんだ
たまに失敗もするけどそれも楽しみのうちさ」
ますます分からない、失敗するのが楽しいだなんて…
「変わってるわね…」
「よくそういう風に言われるなあ、
まあ学生時代の同窓会に行っても行商人みたいなのしてるのは俺ぐらいだしね」
「何で行商人なんかしてるの?」
「人には向き不向きがあるからなぁ… 俺にはサラリーマンは無理だよ」
「向き不向き…」
後半はよく分からなかったけど何故かその言葉が印象に残った
「ごく…ごく…ごく……ふう、うまかった」
どうやら食べ終わったみたいだ
「それにしても口の中がシューマイだ……あの、ちょっと通してくれる?」
そう言うとあいつはおもむろに席を立って私の前を横切る
「どうしたの?」
「もうひと缶お茶が欲しいから買ってくるよ」
そして馬車の扉に手をかけて…
「…え?」
そのまま馬車の外に消えてしまった
春の『サモン・サーヴァント』であいつに出会って以来、不思議なことの連続だ
今まではただの失敗だと思っていたけれど…
もしかしたら……これも何か意味があるのかもしれない
一人残された馬車の中で、私はそう思い始めていた
- 65 :
- あれから数年がたった
トリステインの魔法学院をどうにか卒業できた私は
父の元でヴァリエール家の領地管理の手伝いをしている
相変わらず魔法はからっきしだけど、領地管理には魔法では解決できない仕事が山ほどあるので
私は結構忙しい毎日を送っていた
今日も領地内の橋の架け替え申請のために朝からトリステインに来ているのだが
役人の手際が悪かったせいですっかり遅くなってしまった
そろそろお昼過ぎだ
お腹が空いた私は昼食を取る店を探していた
市内にあるヴァリエール家の別邸に帰れば昼食ぐらいいくらでも食べられるのだが
トリステインに来た時は街の中で適当に店を見つけて食べるのが私の習慣になっている
毎日家や晩餐会で堅苦しい食事をしているから
たまに食べるざっけない市井の食べ物がとてもおいしいのだ
入る店が決められずにブルドンネ街をウロウロする
通りのあちこちに聖戦のための義勇軍募集の掲示があった
「いつまで続くのかしら…」
聖地奪還のための戦争がもう何年もダラダラと続いている
学院の元同級生も結構な人数が参加していた
持ち前の魔法の才能で大活躍している者もいれば中には戦死した者もいる
当然魔法の使えない私なんかに出る幕は無いけれど
もし私に凄い魔法の才能があったらどうなっていたのだろう?
そんなバカなことを考えながら私は大通りを歩いていた
いい加減お腹が空いてきたから4つ角にある一軒のお店に入る
「……しゃい、おい!」
「あ…イラッシャイマセー」
小さい店だ、2人でやってるみたいだった
店の内装も店員たちも凄く変わってるわね…
- 66 :
- 「ホラ!石鹸の泡のついたコップで水を出しちゃダメだろ!?」
「ハイ、スイマセン」
「それとお前、50分になったら表の看板引っ込めろって言っただろ?」
「あ…スイマセン」
「ったく、いちいちそこで時計見なくたっていいだろ」
「ハイ、スイマセン」
揉めてるなぁ
「出直した方がいいのかしら?」
「あ、いえ…いいんですよまだ、ハイお水」
「そう?ええとじゃあ」
「大山ハンバーグランチが当店のオススメですが」
「お願いするわ」
「ハイ、ランチワン入ります」
「看板入れてきます」
「おい待てよ、今こっちが上がるから」
「ア、ハ…ハイ、スイマセン」
「2人しかいねえんだから考えろよ、ちょっとは」
「ハイ」
「バカ、それはジャンボ焼きの皿だろ
いつになったら覚えるんだ!?とにもォ…」
「スイマセン」
年配の方が若い人を叱りとばしている
師匠と弟子なのかしら?
「お待たせしました」
しばらくして料理が来た
色々な料理が一つの器にまとめて出されるのが庶民的で良い
目玉焼きとステーキとパスタとニンジン
この棒状の付け合わせはなんだろう?
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今日もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
習慣となっているお祈りを小声で済ませてさっそく食べることにしよう
「はふ……もぐもぐ…」
ステーキだと思ってた物はどうも肉を細かく切ってから固めて焼いた物のようだ
それに棒状のはポテトらしい、どちらもなかなかいける
「次は……」
このお皿に盛られた白いものはなんだろう?
横の器に入ってる暖かくて茶色いソース?をかけて食べるのかしら?
「うーん、ベチャベチャになったわね…」
でも味は悪くない
庶民の食べ物には時々見たこともない物があるから楽しい
「こういう楽しみを教えてくれたあいつに感謝しなくちゃね…」
とはいうものの、あいつとは学生時代に学院へ向かう馬車の中で合ったのが最後だ
どこにいるのだろう?
- 67 :
- 「お前どうして言わないんだよ、そう言うことを!注文とれないだろ!?」
「スイマセン、スイマセン」
厨房ではまた若い人が怒られていた
「平賀さんよォ、前はどうやってたか知らないけどさ
ここじゃそんなテンポじゃやっていけねぇんだよ」
「ハイ、スイマセン」
そろそろいい加減にして欲しい
「人の食べてる前でそんなに怒鳴らなくたっていいでしょ
今日はもの凄くお腹が減っているはずなのに見なさい!
これだけしか喉を通らなかったわ!!」
「なんだァ?あんた大方食ってるじゃねえか!?」
『ボム!』
「がああああ!熱っイイ、あ…アフロ〜〜〜〜〜〜」
生意気な男の頭でワザと魔法を失敗させてやる
「もう一発いこうかしら?」
「あ…やめて!それ以上はいけない」
店を出て大通りを歩いていた
「はぁ」
それにしてもさっきの若い店員の顔、どこかで……
私は得体の知れない奇妙な既視感を味わっていた
ゼロのグルメ 完
- 68 :
- 以上で終わりです。
合間にさるさん喰らって中断してすみませんでした。
ドラマもいいけど原作もいいよね、という気持ちを共有していただければありがたいと思います。
それでは今度は、松重「ゴロー」豊で会いましょう。
- 69 :
- 乙でした。
こういった終わり方もいいなと思った
- 70 :
- >>「なんだァ?あんた大方食ってるじゃねえか!?」
ワロタ
乙
- 71 :
- 転載乙でした
- 72 :
- ニンジンいらないよ
なぜかこれが浮かんだ
- 73 :
- 夜分遅くになりますが、0:30頃より続きの投下を行いたいと思います。
- 74 :
- Mission 37 <破壊者、降臨> 前編
かつて、魔界では巨大な戦乱が勃発した。
弱肉強食の世界で生きる悪魔達にとっては力こそが全て。力ある者こそが全てを支配する資格を持つ。
己より力無き者達を跪かせ従わせる闇の王達は、乱世に満ちた闇の世界そのものすら統べようとした。
力ある悪魔達は幾多の勢力に分かれて互いに覇権を争った。より強い力を持つ勢力は他の勢力を打ち破り、己の下へと加え、さらに力を伸ばしていく。
全てを支配する野心を胸に、幾千年にも渡って続けられた熾烈な争乱。
その中心にあったのが、羅王≠ニ呼ばれし魔の支配者が率いる軍勢。
幾万をも超える圧倒的な手勢を放ち、勢力の長でありながら自ら戦線に立ち、全てを破壊し尽す修羅の王。
ある意味、最も悪魔らしい蛮勇さに満ちたその王は、力と力をぶつけ合い、容赦なく敵を討ち滅ぼさんとす。
戦いに策など不要。いかなる小細工を仕掛けようが圧倒的な力を持って策もろとも敵を捻じ伏せるのみ。
それでも羅王≠ヘ惜しくも闇の世界を統べることはできなかった。
手勢を失い、敗北した修羅の王は雪辱を果たさんと長きに渡って力を蓄え続け、新たなる手勢を集め続けた。
1500年以上も昔、かつて肩を並べた魔帝≠フ勢力が人間界を攻め入るのに失敗した後も力が完全になるまでひたすら静かに待ち続けたのだ。
無様に敗北した魔帝≠ノ代わり、人間界を我が物とするために。
そこで思わぬ事態が起きた。
生意気にも悪魔を従えていたという人間の魔術師。その魔術師の手によって羅王≠ヘ強制的に人間界へと呼び出された。
力なき者に従う道理などない。羅王≠ヘ己を従えようとするその魔術師を始末しようとした。
だが、ここでも羅王≠ノとっては予想打にしない出来事があった。
かつて魔帝≠フ勢力に属し、何を血迷ったか人間界侵攻を阻止した逆賊、魔剣士≠ェ挑んできたのだ。
互いに力はかつての戦乱の時より衰えていた。だが、魔剣士≠ヘ剣の力を持って羅王≠フ力を切り離し、魔界へと追い返した。
力を失った羅王≠ヘさらに長き時をかけて新たな力を蓄えることを強いられた。
ところが、今度は羅王≠ノとって嬉しい誤算が起きた。
閉ざされた空間で新たに見出した異世界。人間界とよく似ていたが、その環境は人間界とは明らかに異なる。
だが、その異世界から流れ込んでくる膨大な力の奔流。それは羅王≠フ糧となり、失ったはずの力が僅かな時で蘇りつつあった。
まだ他の勢力が手を出していないその世界を制するため、羅王≠ヘ不本意ではあったが策によって力なき人間達を利用した。
全軍を一気に侵攻させる出口を作るため、争いの火種を撒くことで魔界との境の安定を乱したのだ。
そして、全ての準備は整った。
後は、異世界の自然現象により魔界との境界が極限まで薄らぐのを待つのみ。
修羅の王が率いる幾万もの血に飢えた兵達と共に、今か今かと待ち続ける。
その時こそ、羅王℃ゥら壁を突き破り全軍を侵攻させる。脆弱な人間共を消し去るなど容易い。
暗黒の闇が太陽を喰らう時こそ、羅王≠ヘ現世へと降臨するのだ。
- 75 :
- スパーダが地獄門を通り、魔界へと向かってから、丸一日が過ぎようとしている。
魔界から流れ込んでくる瘴気から出来るだけ遠ざかるためにルイズ達は広場の入り口辺りでタバサのシルフィードと共に待機している。
その間、地獄門に開けられた次元の裂け目からは時折下級の悪魔が這い出てきたのでスパーダに留守を任されたネヴァンが容赦なく己の稲妻で仕留めていたのだ。
ルイズも自分のバースト(炸裂)≠フ練習のため一緒になって悪魔達に爆発をぶつけ続けていたのだが、途中でキュルケによって止められてしまった。
「これから戦争が起きるかもしれないんだから、力を温存しておきなさいよ」と諌められて。
レコン・キスタ、そして魔界の侵攻がもうすぐ始まるというのに消耗してしまっては今後の戦いに支障が出てしまう。
キュルケもタバサもスパーダが戻ってくるまでは無駄に魔法を使って精神力を消耗させるわけにはいかないため、ただひたすら大人しく待ち続けるしかなかった。
ルイズとしては、「お前の力など取るに足らない」と言わんばかりに力を見せつけてくるネヴァンに身を震わせる悔しさを感じていたのだ。
そこにタバサが「挑発に乗ったら負け」と、一言を添えたためにようやくルイズも引き下がっていったのである。
以前はその挑発に乗ってしまったがために半殺しにされたことを思い出したのだ。腹立たしいが、これ以上ネヴァンの挑発に乗っても良いことは何もない。
ルイズはスパーダが戻ってくるまでは我慢して、キュルケ達と一緒にじっと待つことに決めた。ネヴァンのことも無視することにする。
地獄門を通り、魔界へと向かったスパーダのことが心配であったが、彼は伝説の魔剣士と呼ばれた屈強な悪魔だ。並大抵の悪魔なんかより故郷を渡り歩くなど容易いものだろう。
たとえ魔界の悪魔達が襲い掛かってきても、スパーダにとっては敵ではないはずだ。
必ず自分達の元へ戻ってきてくれるとルイズは自然に信じていた。故に安心して、スパーダが魔界から帰還するのを待ち続けていたのだが……。
(まだ帰ってこないわ……何やってるのよ、もう……)
膝を抱えながら座り込み、じっと地獄門の穴を睨み続けていたルイズは未だスパーダが戻ってこないためにやきもきしていた。
魔界がどれだけの広さかは分からないが、スパーダにとっては庭みたいなもののはずだ。自分の故郷で迷うなんてことはまずあり得ない。
あの次元の裂け目を覗き込んで様子を窺ってみたいと考えていたが、魔界から流れ込んでくる瘴気をまともに浴びればただでは済まないだろうからそれはやめておいた。
そうしてルイズがスパーダのことを心配し続けていたその時。
「何かしら?」
ふと空を見上げると、遠目に無数の影がゆっくりと飛んでくるのが窺えた。
立ち上がったルイズは額に手を当て、その影が何なのかを確かめるべくじっと凝視する。
影はぐんぐん近づいてくるにつれて大きくなり形もはっきりと判別できるようになり、やがてそれらが七隻ほどの艦隊であると認識することができた。
それもただの船舶ではない。どれもトリステインの紋章を付けた、全長50メイル以上にもなる軍艦だ。
「あれって、トリステインの艦隊でしょ? メルカトール号とかいうのも見えるわね」
退屈凌ぎに化粧をしていたキュルケが差したのは、先頭を飛んでいる他のより一回りは大きい軍艦である。
その艦隊はルイズ達がいる広場の真上、およそ1000メイルの高さを静かに航行していく。
- 76 :
- 「そういえば今日は、トリステインの艦隊がアルビオンの政府からの親善艦隊を出迎えるって聞いてるけど……」
頭上を通り過ぎていく艦隊を見送りながら、ルイズは顔を顰め憮然としていた。
魔界の悪魔達が裏で手を引いているとはいえ、王殺しという恥知らずな所業を行った連中を賓客として歓迎しなければならないとは……たまったものではない。
いくら公的には不可侵条約を結んでいるとしても狡猾な悪魔達と手を組んでいる以上、汚い手段を用いて条約を破り、戦争を仕掛けてくるに違いないのだ。
「親善訪問ねぇ。まるっきり何かを仕掛けてくる気満々ね」
「ねぇ、キュルケ。あんた達の国とはとりあえず軍事同盟を結んでるんだから、レコン・キスタが宣戦布告をしてきたら当然参戦してくれるんでしょう?」
ルイズからの問いに対し、キュルケは何とも言えない微妙な表情を浮かべて唸りだす。
「うぅ〜ん……まあ、するにはするでしょうけど。正直言って、ゲルマニアも悪魔との戦いなんてまともに経験したことないものね。
レコン・キスタだけならまだ遅れを取ることはなかったでしょうけど、悪魔の軍勢も相手をするとなると厳しいでしょうね。やっぱり、ダーリンの力も借りないと」
ハルケギニアにとっては未知の敵でしかない悪魔と対抗するには、その悪魔達のことを熟知している伝説の魔剣士、スパーダの力が必要なのだ。
人間達の力だけではとてもではないが、勝ち目が無いことをキュルケは察していたのだろう。
「いつになったら戻ってくるのよ……自分の故郷なんだから、パッパと行ってさっさと戻ってきても良いのに……」
地獄門の次元の裂け目を睨みながらルイズは焦燥を募らせる。
「明日の日食までにはまだ時間があるんだし、焦らずに待ちましょうよ。その間に何か起きても、あたし達でできることをやればいい訳だし。
ダーリンが戻ってきたら、彼の力になれるようにがんばらないとね」
「当然じゃない。あたしはスパーダのパートナーなんだから」
「……ふふふっ」
「な、何よ」
突然キュルケがルイズの顔を横目で眺めながら楽しげに笑い出したために戸惑った。
「まさか、いがみ合ってたあたし達がこれから肩を並べて戦うことになるなんてね。ご先祖様が聞いたら、何て言うのかしら」
「こ、今回だけなんだからね! 全部終わったら、またあたしとあんたは敵同士なんだから!」
恥ずかしそうに顔を僅かに紅潮させながら顰めるルイズ。
本来ならばヴァリエール家先祖代々の仇敵であるツェルプストーと肩を並べて戦うなんてご先祖や実家の家族が聞いたら嘆いてしまうことだろうが、
今はハルケギニアそのものが危機に立たされている時なのだ。この世界を生きる者達の力を団結させなければ悪魔達には決して勝てない。
「はいはい。それまでの間はお互い生き残れるようにがんばりましょ。ヴァリエール」
こんな時でも本当に素直になれないルイズを、キュルケは素直に己の気持ちを露にしながら優しく肩を叩いていた。
ルイズはぶすっと剥れたまま、キュルケから顔を背けていた。未だその顔は気恥ずかしさで真っ赤に染まったままだった。
「タバサも絶対に死んだりしちゃ駄目よ?」
そんな二人の横で、黙々と本を読み続けているタバサの頭を撫でつつ真顔でキュルケは言う。
当のタバサもその言葉に、分かっていると言いたげにはっきりと頷いていた。
隣では、いつの間にかタバサの姿を写し取っていたドッペルゲンガーが全く同じ姿勢で、全く同じ動作を行っている。
自分の母親を救うという目的があるタバサにとってはこれから起きるであろうレコン・キスタと悪魔達の侵攻は大量のレッドオーブを集めるまたとない好機なのである。
それに悪魔達との戦いによって己の力をさらに磨き上げることができるため、まさに一石二鳥だ。
- 77 :
-
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
辺りの空気を震わせてしまうほどのその轟音は、ラ・ロシェールの方角から届いているものだった。
これから正午になろうという昼時。故郷のタルブで休暇を過ごしているシエスタは弟達と共に草原に出てきて、轟音が聞こえてきたラ・ロシェールの方角を眺めていた。
見晴らしの良いこのタルブの草原からだと、すぐ近くのラ・ロシェールの上空に浮かんでいる何隻もの軍艦を目にすることができる。
つい今しがた雲の中から静かに降下し十数隻もの軍艦を引き連れて現れた、一際大きな軍艦が礼砲を放ったのである。
「お姉ちゃん。何の音なの?」
「あれは礼砲といって、アルビオンからのお客様をああして迎えているのよ」
幼い弟や妹達が少々不安そうにしているが、シエスタは姉らしく振る舞いながら肩を抱いて宥めていた。
つい先刻には何隻ものトリステインの軍艦がこのタルブの上空を通り過ぎていったのをシエスタは目にしている。
アンリエッタ姫殿下の婚儀を祝うアルビオンからの親善訪問を歓迎するためにラ・ロシェールに停泊しているのだろうと察することができた。
アルビオンとは不可侵条約を結んだという触れはシエスタはもちろん、この村の人達もタルブの領主を通して聞き及んでいる。
故に戦争が起きることはないだろうと誰もが思っていた。
(……何だろう。この嫌な感じ……)
アルビオンの艦隊が姿を現してからというものの、シエスタは言い知れぬ不安と胸騒ぎが湧き上がっていた。
何か良くないことがこれから起ころうとしている。それが何なのかは分からない。
だが、悪魔の血と本能が目覚めていたシエスタは得体の知れない不穏な雰囲気をその身で感じ取っていたのだ。
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
今度はトリステイン側の艦隊から礼砲が放たれている。
ただの空砲にすぎないとはいえ、ああして軍艦同士が大砲を鳴らしているのを眺めているとまるで本当に戦争をしているのではと思えてしまう。
のどかな農村であるタルブにとっては、そもそも軍艦が近郊を飛んでいるという光景自体が異様なのだ。
礼砲が鳴る度に幼い弟や妹達の不安も大きくなっているのが分かる。
「さあ、家へ戻りましょう」
弟妹達をこれ以上心配させまいとシエスタは己の不安を隠しつつ一行を連れて自分達の生家へと戻ろうと村の中へ入っていく。
他の村人達も礼砲が鳴り響いたことに驚いている様子で、仕事を中断し立ち止まって空を見上げていた。
「お姉ちゃん、見て!」
「お船が……」
村の広場までやってきた所で弟妹達が空を振り返って驚きだし、声を上げていた。
――ボウゥンッ……!!
礼砲とは全く違う爆発音が轟いたのを耳にし、シエスタも思わず振り返る。
そこには思いもしなかった光景が視界に飛び込み、さらにシエスタの目は愕然と大きく見開かれていた。
トリステインの艦隊が出迎えていた十数隻ものアルビオンの軍艦の中の一隻が激しく炎を吹き上げながら墜落していくではないか。
沈むように落ちていった軍艦は地上に激突する前に空中で更に爆発を起こし、四散した。残骸が燃え盛る炎と共に地上へと降り注いでいく。
その光景を見届けた村人達は騒然とし始め、手をつけていた仕事をやめてみんな家の中へと逃げるように戻っていった。
- 78 :
- 「何が起きているの? お姉ちゃん」
弟妹達がシエスタにしがみついてきたが、当の本人は顔を真っ青にしたまま空を見上げ続けていた。
(来る――。……あの、悪魔達が)
あいつらは、もうすぐ近くにいる。
心臓が激しく高鳴っている。
呼吸が、いつもより速くなり、息苦しくなる。
シエスタの身に宿る悪魔の血と本能が、血に飢えた魔の住人達の気配を、殺気を感じ取っていた。
がくがくと足を、手を、肩を、唇を震わせている姉の姿に弟妹達はさらに不安になる。
「シエスタ。何をやっているんだ」
恐怖と緊張で体を硬直させ、動けないでいるシエスタとその弟妹達の元に、彼女達の父親が駆け寄ってくる。
他の村人が家の中に避難しているのに自分の子供達だけがまだ外をうろついているのを見て、連れ戻しに来たのだ。
「お前達も、外は危ないから家の中に入りなさい。シエスタ、お前も早く……」
父は幼い子供達を促しながら、長女であるシエスタにも声をかけようとしたが……。
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
三度響き渡る激しい轟音。そこから一行の目に映っていたのは、恐るべき光景であった。
アルビオンの軍艦がトリステインの艦隊に向けて次々と砲撃を始めたのである。トリステインの艦隊はなすがままに砲弾を受け続け、船体から炎が吹き上がっていた。
中でも雲と見まごうばかりの一際巨大なアルビオンの軍艦から放たれる砲撃は容赦なくトリステインの軍艦を襲っていた。
ほとんど一方的な砲撃は続き、数分と経たぬ内にトリステインの軍艦が次々と撃沈されていく。
あまりにも信じられない光景を見届けていたシエスタ達は、その場から動くことができずに硬直していた。
唖然とする父は我が目を疑い、未だ地上へと落ちていくトリステインの軍艦を凝視している。
「馬鹿な。アルビオンとは不可侵条約を結んでいたはずじゃないか」
だが実際に目の前ではアルビオンの軍艦が砲撃を加え、トリステインの軍艦を撃沈していったのだ。
それにいつの間にか軍艦の周囲を飛び交っている無数の小さな影……あれはドラゴンだろうか? 遠目すぎてよく分からない。
その影がまるで鳥が集団で獲物に襲い掛かるかのように残ったトリステインの軍艦を取り囲んでいく。
「はやく……」
突然、がくんとその場で崩れ落ち蹲りだしたシエスタが己の肩を抱きながらがくがくと震えだした。
全身からどっと冷や汗を溢れ出させ、苦しそうに喘ぐような荒い息を漏らしている。
「みんなを、避難させなきゃ……」
戦慄に震えた声で、シエスタは喉の奥から声を絞り出す。
「シエスタ? どうしたんだ?」
「お姉ちゃん? 大丈夫?」
「しっかりして」
「森に……南の、森に、みんなを……」
家族達が心配する中、途切れ途切れで言葉を紡ぎだし続けるシエスタ。
その森には、先日スパーダ達を案内した聖碑≠フ遺跡がある。
「はやく、しないと……悪魔が……」
シエスタの身に流れる悪魔の血と本能は、曽祖父にして中級悪魔であるブラッドから引き継がれたもの。
人間の血も共に宿しているシエスタにとっては、そのおぞましい感覚はあまりにも刺激が強すぎるのであった。
そうしてシエスタが恐怖と戦慄に震え、家族達が困惑する中、トリステインの艦隊を全滅させたアルビオンの艦隊はラ・ロシェールからこのタルブへと近づいてくる。
空を飛び交う、無数の異形の大群と共に。
- 79 :
-
ものの数分で、アルビオン艦隊は国賓歓迎のために出向いていたトリステインの艦隊を全滅させていた。
レコン・キスタの更なる侵略の筋書きはこうだ。
本来、数日後に執り行われるはずであったトリステイン王女アンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式の親善訪問と称し、だまし討ちを仕掛ける。
その手段は至って単純で、そしてあまりにも卑劣なものである。
親善艦隊を出迎えてきたトリステインからの礼砲と同時に、自軍艦隊の一隻であるホバート号に火を点けて放棄することで撃沈したように見せかける。
アルビオン艦隊はそれをトリステイン艦隊が砲撃を加えたと見なし、自衛のためと称して応戦を名目にした攻撃を行う。
そうすることでアルビオンはトリステインに対して合法的に宣戦布告ができ、不可侵条約を信じて戦闘の準備が整っていないトリステイン艦隊をなぶり殺しにできるというわけだ。
その奇襲作戦を指揮していたのはレキシントン号の艦長、サー・ヘンリー・ボーウッドであった。
彼としてはこんな汚い手段で他国を蹂躙するなど反吐が出るものであったが、所詮軍人でしかない自分にはその策を実行するしかない。
(あの悪魔め……)
心の中で、ボーウッドは自分にこの破廉恥な策を命じたクロムウェルに対して毒づいていた。
旗艦である『ロイヤル・ソヴリン号』――今では『レキシントン号』の上では、「アルビオン万歳!」「神聖皇帝クロムウェル万歳!」という兵士達の唱和があちこちで上がっている。
その中には神聖アルビオン共和国皇帝、オリバー・クロムウェルの信任厚いことで知られる艦隊司令長官にして貴族議会の議員、サー・ジョンストンの姿もあった。
(戦闘行動中に万歳とは……)
後甲板で、つい今しがた墜落していったトリステインの艦隊を悼むように見つめていたボーウッドは肩越しに冷たい視線を送りながら眉をひそめた。
かつて空軍が王立であった頃はあのようなことをする輩などいなかったというのに。
――ケエエエッ……!
――ブウウウゥゥンッ……。
風に乗って届いてきた不快な奇声や羽音を耳にしたボーウッドは、忌々しそうに左舷から眺めることができる空域を睨んでいた。
一面に広がる大空の中を、拠点制圧のために飛び上がった竜騎士達のドラゴンと共に無数の影が飛び交っている。
奇襲作戦の開始から数分と経たぬうちにどこからともなく姿を現した、異形の怪物達。
赤い体に鳥のように羽ばたく奴らはトリステインの艦隊に容赦なく襲い掛かり、死肉を喰らうハゲタカのごとく群がっていったのだ。
今も奴らは先ほど爆沈させたメルカトール号から吹き飛ばされてきた艦長らしき者の体に群がり、空中でその身を啄ばんでいた。
青い体をしている巨大なハエみたいな怪物に至っては、空中に投げ出された兵達の亡骸を四肢や頭などをわざわざ引き千切ってからムシャムシャと喰らっていく。
あまりに凄惨な光景に、ボーウッドは思わず目を背けたくなる。同じような光景が空域のあちこちで見られた。
……こんな悪魔のような奴らと、これからトリステインに攻撃を仕掛けねばならぬとは。ボーウッドの心中はいつまでも複雑な気分であった。
「艦長。実に見事な指揮であったな。これで私は閣下より預かった兵を無事、トリステインに下ろすことができる」
(クロムウェルの腰ぎんちゃくめ)
近づいてきたジョンストンが心から満足した様子で話しかけてきたが、ボーウッドは心の中で名ばかりの司令官に過ぎない男を吐き捨てていた。
つい先ほどまでは兵の士気が下がる、などと抜かして軍艦を近づけさせることにさえ怯えていた男が一転して有頂天になっている。
この男は空を飛び交う異形の怪物達を何食わぬ顔で見ているだけであった。それがまるで自分達のために動いてくれるガーゴイルなのだと思い込んでいるように。
「私は与えられた命令を実行したまでだ」
冷たく答えたボーウッドはこれから制圧の拠点とするタルブの草原へと降下する命令を冷徹にかつ迅速に命じていく。
- 80 :
-
礼砲のものではない爆音が轟いた時、ルイズ達はそれが異変が起きた証明であると受け取っていた。
すぐにタバサのシルフィードに乗り込み、空に舞い上がるとそこには恐ろしい光景が広がっていたのだ。
アルビオンの親善艦隊がトリステインの艦隊に砲撃を加え、次々と撃沈していったのである。それはあまりにも一方的すぎる攻撃で、トリステイン側はなす術なく全滅させられてしまった。
ルイズ達はシルフィードの上で虐殺にも等しいその光景をただ見ているだけしかなかった。
「やっぱり、案の定というわけね」
キュルケが呆れたように肩を竦める。予想はしていたとはいえ、こうも堂々とやられると脱帽してしまう。
「どうしてよ! 日食は明日だっていうのに、話が違うじゃない!」
トリステイン艦隊を全滅させたアルビオン艦隊を睨んでルイズは憤慨した。
奴らは裏で糸を引いている悪魔達と同調してトリステインに戦争を仕掛けてこようとしていたはずだった。
それなのに現実は見ての通り、レコン・キスタは全く違うタイミングで攻撃してきたのだ。おまけに見れば、悪魔達の姿もある。
スパーダの日食に攻めてくるという読みは外れた。このままではトリステインは奴らに蹂躙されてしまう。
「違う。あれは主力じゃない」
タバサは空を飛び交う悪魔達を観察して呟いた。
確かに悪魔達の姿はあれどもその数は100にも満たない。竜騎士達より数が多いとはいえ、悪魔の軍勢が攻めてくるにしてはあまりにも少なすぎる。
おまけにどれもが格も高くない下級悪魔達ばかりである。
恐らく、裏で暗躍している悪魔がレコン・キスタに貸し与えている軍勢の一部なのだろう。
「でも、ダーリンが戻ってくる前に仕掛けてくるのはさすがに予想外だったわね……」
「どうするのよ!? このままあいつらを黙って見過ごすって言うの!?」
「落ち着きなさいよ。あたし達じゃあの艦隊をまともに相手になんかできないわ」
「じゃあ、どうするって言うのよ」
困惑するルイズに、キュルケはくいっ顎でタルブの草原を指し示す。
見ればタルブの村から次々と村人達が逃げ出し、地獄門がある南の森の方へ向かおうとしているのが窺えた。
タルブの草原にアルビオンの艦隊が降下してくると、次々に地面に錨を下ろしていく。どうやらここを侵攻の拠点とするようだ。
その艦隊から次々と竜騎士や悪魔達がタルブの村目掛けて飛来していく。本隊上陸の準備としてつゆ払いをするらしい。実に手際の良いことである。
村にはまだ逃げ延びていない者達がいるのだ。このままでは戦う力のない農民でしかない彼らが奴らの餌食になってしまう。
そして、その中には学院のメイドであるシエスタの存在もある……。
「今、あたし達にできるのは彼らが無事に森まで逃げられるのを手伝うことよ」
キュルケが杖を構え、タバサはシルフィードに村の上空へと近づくように命じる。
(あたし達がやること……)
ルイズは草原を必死に逃げ惑うタルブの村人達を見て、己の胸の内を徐々に熱くさせていった。
魔法を使えることが貴族ではない。敵に後を見せず立ち向かう者こそが、真の貴族である。それがルイズの貴族としてのポリシーだ。
だが、ただ戦うだけならば平民の戦士にだってできること。では、貴族の使命とは何か?
- 81 :
- 既に、その答えはルイズには見えていた。
それは、民をこの手で守りぬくこと。それが貴族の果たすべき使命なのだ。
公爵である実家の父だって、領民の安全を守ることを何より優先していたのだから。
スパーダもフォルトゥナの領主であった時はもちろん、今だって人間達を守るために戦っていたのだ。
きっとアンリエッタ王女も、民の危機を知れば彼らを救い、守るために行動するだろう。
ならば、自分だって……。
杖を引き抜いたルイズは迫り来るレコン・キスタと悪魔達に向かって吠える。
「かかってきなさいよ! レコン・キスタ! あんた達にこれ以上、好き勝手なんかさせないんだからね!!」
その叫びと同時に、竜騎士達と共に飛来してきた血に飢えた悪魔達がシルフィードに向けて一斉に突っ込んできた。
竜に乗り、空を飛び交う三人のメイジ達は、襲い来る敵を迎え撃たんと杖を振るわんとする。
あまりにも張り切りすぎて興奮していた彼女は、指に嵌めている水のルビーが光っていることに気づいていなかった。
王都トリスタニア、トリステインの王宮に国賓歓迎のための艦隊が全滅したという報せが届いたのはそれからすぐのことである。
さらに同時にアルビオンより宣戦布告が届けられたことにより、王宮は騒然となり混乱は熾烈を極めていた。
それまでゲルマニア皇帝との結婚式の準備で忙しかったのが急変し、即座に大臣や将軍達が集められて突然のアルビオンからの宣戦布告に対する会議が開かれた。
会議室には宰相マザリーニ枢機卿、そして上座にはこれからゲルマニアへ行こうとしていた王女アンリエッタとその母である太后マリアンヌの姿もあった。
アンリエッタは本縫いが縫い終わった純白のウェディングドレスに身を包んでいるのだが、この状況でその姿を気に留めるものなど誰もいない。
「まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ!」
「いや、ゲルマニアより軍を派遣するよう要請すべきだ! 何のために彼らと同盟を結んだのだ!」
「そのように事を荒立てていかん。偶然の事故が生んだ誤解なのですぞ? 今ならまだ誤解を解くことができるかもしれん」
「ええい! 残りの艦を全てかき集めるのだ! 数でかかればアルビオンの艦隊と言えど何とかなる!」
だが、この卓上で続けられているのは会議とは思えぬ不毛な議論による怒号、それによりもたらされる紛糾のみであった。
有力貴族達の意見は一向にまとまる気配を見せない。
アンリエッタは貴族達のあまりに見苦しい姿に呆然としていた。マザリーニもマリアンヌも、卓上で繰り広げられる彼らの不毛な言い争いに頭を痛めるばかり。
とは言っても、彼女達ですら結論を出しかねている状況であった。
マザリーニはできることなら外交による解決を望んでいた。どんなに努力をしようといずれこうなると分かってはいたものの、負ける戦などしたくはないのである。
マリアンヌは心の中でこの現状を憂いていた。
彼らがこうも混乱を極めているのは、彼らを導く指導者がいないからに他ならない。
だが、自分は女王などではない。亡き夫である先王を偲んで王妃としての立場を貫き、即位することはなかった。
故に紛糾する彼らを正す資格も力もない。夫や先々の王であった父・フィリップ三世ならばすぐにでもこの混乱を収拾できたであろう。
マリアンヌは今になって後悔する。国は指導者なくしては決して機能しない。その指導者を長きに渡って失っていたがためにこのような事態に陥ったことに。
そして、何もかもが遅すぎたことに。
- 82 :
-
「やはりゲルマニアに軍の派遣を要請しましょう!」
「いや、アルビオンに特使を派遣すべきだ! こちらから手を出せばそれこそ全面戦争の口実を与えることになる!」
そうこうしている内に昼が過ぎていたが、未だ会議室では不毛な議論が怒号と共に繰り返されていた。
その間にも様々な報せが会議室へと届けられてくる。
アルビオン艦隊はタルブの草原に降下して占領行動へと移ったこと。
タルブ領主、アストン伯の軍勢が交戦を始めたこと。
……数え切れない報告が次々と舞い込んでくる。そして、その報告が届く度に貴族達の混乱はさらに激しくなっていく。
もはや、会議としての機能さえ果たしていないのではないかと思うくらいに貴族達は卓上で無意味な論争を続けていた。
(ウェールズ様……)
怒号が鳴り止まぬ中、アンリエッタは己の指に嵌められた風のルビーを握り締める。
生きているのか死んでいるのかすら分からない、愛している人が勇敢に戦い続けていたのであれば、自分もまた勇敢に生きてみよう。
ルイズからこの指輪を託された時、そう誓ったのではないのか?
今、自分に何ができるのか。アンリエッタ醜い争いを続ける貴族達を視界に捉えぬようそっと目を伏せ、考える。
「急報です! 所属不明の風竜が戦闘区域に乱入! 敵軍と交戦している模様!」
何度目かも分からぬ急報が届いた時、貴族達は議論を中断してその報せに耳を傾けていた。
だが、彼らは訳が分からないといった様子で顔を顰めだす。
「どこのどいつだ! 余計な真似をしおって!」
急使は戸惑いつつも届けられた報告を淡々と読み上げていく。
「偵察に向かった竜騎士によると風竜に乗っていたのは三人組のメイジで、先日この王宮に参られた魔法学院の生徒だとのことです」
魔法学院の生徒――その単語を聞いた途端、アンリエッタは目を見開いていた。
思わず席から立ち上がりかけるほどの衝動に駆られたが、かろうじて抑えこむ。
魔法学院の生徒……風竜……そして、この王宮へと最近訪れたことのある者達。
たったそれだけで、アンリエッタはその三人組のメイジの詳細を理解することができていた。
(あなたなの? ルイズ……)
自分があまりにも無茶な願いを命じてしまった、幼き日からの友人。
彼女は仲間達と共にアルビオンで任務を果たし、生きて戻ってきてこの風のルビーを託してくれた。
その彼女が、今度はこの国を守るために戦っている?
無二の親友が今起こしている行動に、アンリエッタは心打たれていた。
貴族として、王族として君臨する者が今すべきことは何なのか。
アンリエッタはようやく、今自分が行えることが何であるかを見出すことができた。
(ありがとう。ルイズ……)
そして、心の底より無二の親友に感謝する。それはあまりにも単純なことであり、何も難しいことではなかったのだ。
「だからどうした! そんな者達のことなど、どうでも良いことだ!」
「今はこの事態の収拾をつけることが先決なのだぞ!」
だが、貴族達はルイズ達が懸命に行っている活動に関心すら抱かずに吐き捨てていた。
- 83 :
-
貴族として、王族としての役目を軽んじ踏みにじるその発言に、ついにアンリエッタは憤慨した。
「いい加減になさい!」
大きく深呼吸して立ち上がり、アンリエッタはあらん限りの声量で威厳に満ちた声を張り上げる。
会議室に響き渡る王女の一喝に、それまで騒然としていた貴族達は面食らったようにアンリエッタへと一斉に視線を注いでいた。
それまでこのトリステイン王国の象徴的存在にして、飾りの姫としてか見えなかった愛らしい姿が一変してしまっていることに貴族達は唖然としていた。
「姫殿下?」
「アンリエッタ……」
同様に、隣に控えているマザリーニやマリアンヌさえ彼女の姿に動揺している。
「あなた方は恥ずかしくないのですか? 先ほどから聞いていれば、世迷い言も甚だしい……。国土が敵に侵されているこの状況で同盟だ、特使がなんだと騒ぐ前にやるべきことがあるでしょう?」
貴族達の一部はひそひそと声を潜めて囁き合う。これからゲルマニアに嫁ぐはずだった飾りの姫が、熱くなっていきなり何を言い出すのかと。
アンリエッタは卓上を叩き、大声で叫ぶ。
「わたくし達がこうしている間にも、民の血が流されているのです! 彼らを守ることが、我ら貴族の……王族の務めではないのですか!」
その言葉に貴族達は黙り込む。マザリーニもマリアンヌもアンリエッタの発した言葉が胸に響いていた。
アンリエッタはつい先ほど、無二の親友の行動を蔑んだ貴族の一人を睨みつけた。
王女の射抜くような視線に、彼はびくりと竦み上がる。
「あなたは言いましたね? 魔法学院の生徒達のことなどどうでも良いことだと。彼らは本来、騎士はおろか軍人でさえありません。
ですがそのような者達でさえ国を、民を守るために戦ってくれているのですよ? その行動が、どうでも良いというのですか?」
「い、いえ……姫様……」
冷め切った視線と声でアンリエッタはそのまま言葉を続ける。それはかつて、ルイズの使い魔を務めている異国の貴族が自分に対して向けたものと同じであった。
「あなた達は怖いのでしょう? 敗戦後に責任を取らされることが。反撃の計画者になりたくない、このまま恭順して命を永らえたい。だから民のことなどどうでも良い。そう言うのですね?
……わたしは決して屈しません! 戦わずして、民を守れずに敵に降伏するなど、貴族の誇りを捨てるようなもの。死も同然です!」
決意に満ちた表情で、アンリエッタはかぶっていたヴェールを払い捨てた。
「そんなに怖いのであれば、いつまでもそこで論議を続けていなさい!」
「姫殿下!」
二人に一礼したアンリエッタはそのまま会議室を飛び出していく。貴族達は慌ててアンリエッタを押し留めようとする。
「お待ちを」
そこにかかる、宰相マザリーニの一声。
貴族達もアンリエッタも、その声に振り返っていた。
「姫様だけを行かせたとあっては末代までの恥。私もお供をしましょうぞ」
アンリエッタに歩み寄ったマザリーニはその前で跪く。
全ては姫の言う通りであった。既に彼が望んでいた外交的解決の努力は水の泡となっている。これ以上、論議を重ねるだけ無駄なこと。
今、やるべきことはただ一つ。それはあまりにも単純であり簡単な行動であることを失念していた。
マザリーニの言葉に、アンリエッタは強く頷く。そして、上座に控えたままの母へ笑顔と共に視線を向けた。
マリアンヌは愛する娘の指導者らしい勇ましい姿に心から満足し、微笑みながら頷きを返していた。
※今回はこれでおしまいです。
空を飛べるルイズ達でも簡単に倒せそうな雑魚悪魔があれくらいしか思いつきませんでした。ご了承ください。
- 84 :
- 以前ケイン&リンチ召還を埋めネタで書いたんだけど
短いけど新作できたんで投下するで。
- 85 :
- 第1話 ”Drop the weapon. nice and slow.”
「…ミスタ・コルベール、どうしたらいいのでしょう…。」
「…私に聞かれましても。」
医務室でミス・ヴァリエールと私は二人して頭を抱えていた。
頭痛の種は他でもない、目の前のベッドで横たわる、彼女が召還した2人の中年男性である。
召還された際は、体中に重度の火傷に無数の切り傷を負っていた2人だが、現在はミス・モンモランシーによる治療を受け、
当直医から「命に別状なし」と診断された。それでもなお首から胴体にかけて残る痕が痛々しい。
現在中年2人は鎮静の魔法をかけられ、医務室のベッドで眠っている。
「ミス・ヴァリエール、その、これは儀式の一つですので変更などは認められないのはお分かりですよね?」
「え…ええ、承知しておりますわ。」
「ですので、貴女にはこれから使い魔と”契約”をしていただくことになるのですが…。」
「しょ…承知しておりますわ。」
「そこで…どちらの使い魔と契約なさるのですか?」
「………。」
彼女は頭を抱えて、再び悩み出した。
一度のサモン・サーヴァントで2体の使い魔を召還する…しかもその使い魔は見たところ平民である。
前代未聞。悩むのもムリはないが、早く契約を済ませてくれないと授業単位の認定も出来ないので、
こうやって、5分おきに”契約”を済ませるように急かしているのだ。
…ちなみに、2人がここに運ばれてからというもの、かれこれ50分は経っている。
「…では、彼らが目を覚ましてから、よく相談した上で契約を行ってください。よろしいですね?」
「…はい。」
「時間的にそろそろでしょうし、私もそれまでここで待っていますから。」
「お手数おかけします…。」
鎮静の効果もまもなく切れる頃だと思ったので、今しばらく医務室で待つことにした。
- 86 :
- 「…う〜む。」
手持ちぶさたな私は、2人が横たわっているベッドの間にある机の上に置かれた荷物を見てみることにした。
といっても大半の物は丸焦げになっているため、無事な物は茶革の手帳と財布、大小様々な黒鉄の箱に収められた金色の棒、
手巻き煙草の入った箱に、画期的な携帯式の発火装置。
さきほどいじり回していた際に間違って火を付けてしまい、指を火傷しそうになった。
「おお!、なるほどこれで煙草に火を…。それにしてもこれは一体…。」
これとは2人が肌身離さず持っていた妙な形をしたメイジ殺しのようなモノ。
この中年2人はいったい何者なのだろうか。
2人が召還された際、持っていた物の中にそのメイジ殺しのようなモノがあることから平民の傭兵ではないかと思ったが、
あのメイジ殺しは近隣諸国で製造されているものとは思えない。
第一、本当にメイジ殺しなのかも疑問である。そうだとしても、どこで手に入れたのか。
そしてあの意匠…とても興味がそそられるフォルムである。
「…ちょっとだけ触ってみよう。」
くれぐれも引き金(とおぼしき部分)には触れないように、彼らの持っていた4つのメイジ殺しのうち1つを手に取ってみた。
その全長は1メイルほどで、重量もなかなかにある。上部には偵察用か、望遠鏡が付いていた。
以前、研究用にトリスティンにおける最新の火打石銃を取り寄せたことがあるが、どうもそれとは構造からして異なっているらしい。
さて、別の物も観察してみるかと、机にメイジ殺しを置いたところでふと気がついた。
「…むむ?」
机には4丁のメイジ殺しが置かれていたはずだが、1つ目の観察を終えて机に向き直ってみたら1丁無くなっているのだ。
落としたかなと思い、下に視線を移すとそれはすぐに見つかった。
寝ていた中年の1人はどうやら起きていたらしく、手にそのメイジ殺しは握られていた。
その銃口の奥には、弾丸の頭の部分がぼんやりと見えた。
「ゆっくり銃を置け。」
その声に私は戦慄した。
- 87 :
- やっぱみじけえなコレ
また今度続き書くかもしれないです
- 88 :
- 乙っす
- 89 :
- ときめきメモリアル・葉鍵SSのキャラクターの名前をメモ帳で
エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、初恋ばれんたいん スペシャル、Canvasのキャラクターの名前で変えながら
SSを読んだがいくつのSSは意外におもしろい
- 90 :
- 新作乙です
- 91 :
- http://i.imgur.com/fRJEf.jpg
- 92 :
- パパーダ乙
- 93 :
- >>87
乙乙
- 94 :
- ゼロのグルメ乙!
面白かったわw
- 95 :
- 乙〜
- 96 :
- サイヤの人来ないな、、、
- 97 :
- ドラゴンボールのキャラはたいてい一発ネタになりそうだけど呼んでおもしろそうなのはブウとか16号とかかな
バーダックはテファのとこに呼べばなんとか、桃白白はジョゼフのとこ
悟空は少年時代なら強いことは強いけどギリギリバランスブレイカーにならなくてすむかも
- 98 :
- メルル王女とルイズのコラボなんてどう?
- 99 :
- >>97
少年時代でも、亀仙流弟子入り後はダメだと思うが。
亀仙人自体が月を破壊できるチートキャラであっという間にそれ以上に成長してしまう。
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