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2013年05月市況2243: 【メンタル】『The Mental Test』【息抜きコラム】 (217)
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【メンタル】『The Mental Test』【息抜きコラム】
- 1 :2013/02/21 〜 最終レス :2013/04/30
- 『The Mental Test』
強いメンタルのメカニズムを解き明かそうと、ある実験が行われました。
プロゴルファー、医者、ホラー作家、ギャンブラー、普通のサラリーマンの五人に特殊な映像を見せ、その反応を見る実験でした。ショッキングな映像を最後まで見続けた職業の方が、優れた強いメンタルを持っているという実験ルールでした。
最初に根を上げたのは医者の男でした。実験が開始されて半日ほど経過したとき、試験場所である個室のドアを勢いよく開けて飛び出してきました。
「君たち、正気か?こんなの実験と呼べる代物ではないよ!一刻も早く中止して、あのおぞましい光景をさっさと片付けるんだ!」
「おぞましい?何が見えたのですか、先生。普段あなたが外科手術で見ているものよりもっと怖いものですか?」
私は言いました。私もここで行われている実験映像の中身がどのようなものか知らなかったのです。
「愚かな……私が普段触れているものは、神の創造物であり、高貴なものなんだよ。付け加えるなら、オペのときは患者の命に集中しているんだ。気持ち悪くも何ともない!これで失礼させてもらうよ。もちろん、謝礼は結構だ」
「そうですか、それはとても残念です。ですがドクター、私はただ申しつけられてここにいるだけで、この実験の考案者ではありません。そのことだけは、どうかご理解いただけると……」
医者は唾を吐くように私に顔を向けたあと、すぐに踵を返していきました。
- 2 :
- 二人目の脱落者が別の個室から出てくるまで、そう時間はかかりませんでした。
「えっと、ギブアップはここでいいのかな?もう付き合ってられないよ。何ていうか、色々と自分とシンクロしちまって、これ以上見ていても悪影響にしかならないんだよね。まあ、見るだけだっら少し続けることはできるかもしれないけどさ」
若い男のギャンブラーが強がっているのは明白でした。手が震えて煙草に火をつけるのに幾度も失敗するのが見え見えでしたから。
「ちっ、ガス切れか、まあ、いいや。謝礼だけは受け取っておくぜ。そうそう!こんな悪趣味なことはこれっきりにしといた方がいいぜ。寝つきが悪くならぁ」
南部なまりでそう言い捨てると、男は謝礼の封筒を私からふんだくりました。その分厚さに男の顔がほころんだように見えましたが、すぐに戻すと苦虫を潰したような顔のまま立ち去っていきました。
- 3 :
- 三人目の脱落者は、日をまたいだ早朝に現れました。
落ちくぼんだ眼を爛々と光らせながら、中年女のホラー作家は私に言いました。
「こんなシチュエーションでここまで興奮するとはね……おかげで創作意欲が湧いてきましたよ。人の情念に訴えるホラーが書けそうだ、ひひひ」
私には一瞬、その中年女が白雪姫に出てくる老女に見えました。身の毛のよだつ魔女のようでした。
「そんなに刺激的な内容でしたか?実は私は中身を知らされていないんですよ。もしよかったら、どのようなものなのか教えていただけませんか」
「ひーっ、ひっひひひーーー!」
奇声を上げ両手を天高く突き上げると、腰を折り曲げて、正に老婆のような格好で走り出しました。止めるすべはなく、あっけにとられてしまいました。
すると、私の口から自然と言葉が漏れてきました。
- 4 :
- 「やはり世間ではアスリートと呼ばれる人種が、メンタルが強いんだな。プロゴルファーの人だよな、確か。それと……もう一人残ってるか……こっちはただのサラリーマンか。それじゃあ時間の問題だな」
自問自答がちにつぶやき、時計を見ました。実験開始から二日目で、二回目の15時を回ったところでした。
私はちょっとした睡魔に襲われ、それぞれの個室の中央に位置する監視椅子――と言っても、ただのパイプ椅子ですが――に座ったまま眠ってしまいました。
それから数時間経ったころでしょうか、私は男の声で目が覚めました。
- 5 :
- で?
- 6 :
- 「オーケー、ボーイ、君たちの勝ちだ。私はこのゲームをリタイアする。それで満足だろ?」
顔の間近で、黒人のプロゴルファーが私に話しかけていました。周辺は薄明りで照らされているだけでしたが、彼の眼にはっきりと光るものが見えました。
「ええ、リタイアはご自由ですが、どうしました?ゴルフで名を馳せたあなたでも耐え難いものでしたか?」
さすがにもう、答えが返ってくるとは期待しなくなっていましたが、つい同じような質問を投げかけてしまいました。
彼は、一生けん命に言葉を紡ぎ始めました。
- 7 :
- 「私に限らずプロゴルファーというものは、集中するとゾーンと呼ぶ特殊領域に入ることができる。耳を塞いだような状態で何も気になるなくなる――すなわち、邪念を一切合切取り払ることができるんだよ。それでも、それでもな……」
彼は言葉を詰まらせ、私の両肩を強くつかみ、揺さぶりはじめました。
「この実験がどういう意図かはしらんが、あれはいけないよ、ボーイ。
延々と見せつけられたら、どんな人間だって狂ってしまうよ。心の琴線が引きちぎられてしまう。それに、私は後悔しているんだ。もしかして私や他の被験者が早々にリタイヤしたら、この悪夢のような実験が早く終わったのではないかと」
- 8 :
- 憔悴しきっている彼に、事情を知らない私はさらりと答えました。
「たしかに、おっしゃる通りです。私はこの実験の監視をアルバイトで引き受けましたが、すべての被験者が個室のドアから出てきたら終了して構わない、と最初に言われましたので。でも、まだ続いてますよ。まだ残っている方が一人いるんです」
彼は私の言葉を聞くと大きく左右に首を振り、肩をポンと叩きました。そして足取りも重く私の前からゆっくりと消えていきました。
- 9 :
- で?
はよ
- 10 :
- 次の日も、また次の日も最後のサラリーマンはドアから出てきませんでした。
しびれを切らした私は、これ以上は割に合わないと判断し、ドアを開ける決意をしました。
実験中断と取られる可能性もあるので、まずは出て行った人たちの部屋から確認していきました。
部屋の中に入っても、特におかしいところはありませんでした。
小さな備付のベッドと机と椅子。そして――映像を映す巨大なモニターが部屋の中央に鎮座していました。
- 11 :
- 「ああ、電源が入っていないのか」
真っ暗いモニターに手を伸ばしました。
ぼんやりと少しづつ輪郭を描くように、トーストを紅茶に浸したときのようにじんわりと画面は映し出されていきました。はじめは、それが何か分かりませんでした。
ですが、何であるか理解できる頃になると、私の心臓は早鐘を打ち始めました。
すぐにその部屋を飛び出し、出てきていないサラリーマンの部屋のドアに向かいました。と言っても、サラリーマンがそこに入っているのを直接見たわけではなく、実験の主催者から聞き伝えられただけでしたが。
鉄の扉はとても重く、完全な防音効果の役目を果たしていました。
すぐには開きませんでしたが、渡されていた鍵でロックを外すとゆっくりと悲鳴のようなきしみを上げて開いていきました。
- 12 :
- で?
はよ
- 13 :
- そこは、さっき見た個室とは明らかに異なりました。
広い――。さっきの数百倍はあろうかという巨大な空間でした。
そこには、椅子に腰だけをくくりつけられた人間が――ざっと二百人はいました。
男性が圧倒的に多いようでしたが、中には女性やお年を召した方もいました。しかし、子供は一人もいませんでした。
首に社員証のホルダーを下げている方が多くいました。
- 14 :
- 両手は自由になっていて、数人の手には拳銃が握られていました。
正確に言うと、手に持っていない人の床には、拳銃がころげ落ちていました。
私は声を失いました。
個室にいた四人の方は、モニターでこの空間の様子を見ていたのです。
- 15 :
- で?
はよ
- 16 :
- 鼻につく異臭を我慢しながら、ホールの中央へ向かいました。
そこには、巨大モニターが据えられているのです。
革靴を脱ぎ捨てて靴下の状態にならないと、そこまではとても進めませんでした。
体育館のような床一面に、人間の血液がにぶちまけられているのですから。
全員が息絶えていることは、静まり返った空気から伝わってきました。
バランスを崩しながら歩く、私のペチャペチャという不気味な音だけがこだまします。
- 17 :
- 誰かから反応があったら書くというのはそういうメンタルテストってこと?
- 18 :
- で?
まーだー?
- 19 :
- 1です。 17さん、18さん、レスありがとうございました。
相場のちょっとした息抜きにお役に立てば、と書きつづった次第です。
月曜日に更新&完結の予定です。
今しばらくお付き合いいただけますと幸いです。
爆益あれ。
- 20 :
- おう たのしみにしとるよ
- 21 :
- もう疲れたから、ドル円Lで夏の参院選まで、寝かす。
それで、ロスカ食らうならしかたないとおもって仕込んですること無いのに
楽しみにしてたのにー
嫁も楽しみにしてたのにー
- 22 :
- 一般的に、高いリスクを許容できるほど強いメンタルの持ち主と言えて、
それは成功者の資質のひとつであると解釈されているが、
実は本当の成功者ほど低いリスクしか許容しないという暗喩かな?
月曜楽しみー!
- 23 :
- なんだよ休みか
- 24 :
- >>23
- 25 :
- 彼らは巨大モニターで何を見ていたのでしょうか。
そこには、大きな数字が左右に表示されていました。また、二つあるもう一方の巨大モニターには、棒グラフのようなものが表示されていました。
詳しい見方は分からなくても、それが何であるかを知るには充分でした。もっとも、その秘めたる恐ろしさまでは知る由もなかったのですが。
- 26 :
- それからどうやって家に帰ったのか、はっきりとは覚えていません。
眼前で繰り広げられた光景が強烈過ぎたせいで、記憶も途切れ途切れになっています。
それから数か月ほど経ったころでしょうか、ある宗教団体が機関誌にて「人間のパニック耐性を測るための心理実験」という記事を載せたそうです。
その苛烈な内容は女性週刊誌のスクープによってやり玉に挙げられ、それがきっかけで解散に追いやられたそうですが、まあ詳しい話は別の機会にでも。
かくいう私ですが、特にフラッシュバックに悩ませることもなく平穏な日々を過ごしています。
ですが不思議なことに、あの数日間に渡る、恐るべき実験が開始された日付については今でも鮮明に覚えています。
2008年9月15日――世間では、この日付からの一連の出来事をリーマン・ショックと呼んでいるそうです。
おしまい
- 27 :
- 1です。
相場に関係する、ちょっとした息抜きコラムを掲載するスレとなっています。
スタイル的には、ショートショートで(相場の片手間に)読める内容としています。
値動きが少なくて退屈なときや、お気に入りのスレの投稿がないときの暇つぶしにお立ち寄りいただければ幸いです。
次は、奇妙なメールが届いたお話です。
- 28 :
- 『The Strange Mail』
ある日、奇妙なメールが届きました。
と言ってもごくありふれた迷惑メールに見えなくもありません。
どこが奇妙なのかうまく言葉で言い表せない部分が、奇妙なのです。
「親愛なるあなたへ
私は株式市場における、特定銘柄の騰落を言い当てる事ができます。
その力を用いれば、必ず連戦連勝しあなたに莫大な利益をもたらすことができるでしょう。お金に興味はありませんか?
このメールに書いてある銘柄を、寄付に買うだけで構いません。
すぐに含み益になることでしょう。決済は、前場の引けで構いません――実に簡単でしょう?」
メールの末尾には、申し訳程度に新興市場の銘柄コードが1点添えられていました。
明日の朝一番に暴騰する銘柄だそうです。
読み終えたあと、私は思わず吹き出してしまいました。
絵に描いたような詐欺メールの典型であり、いわゆる有料予想の勧誘なのでしょうが、その手口があまりにもベタだったからです。
- 29 :
- ただ、やはりどこか奇妙です。銘柄を出し惜しみせず書いているだけで、どこにも情報商材サイトのURLが記載されていないのです。
『おや、これだとすぐに結果がばれてしまって、インチキ予想が成り立たなくなるんじゃないか?外れたときにどうやってごまかすのだろう』
私の専門はFXでしたが、昔は株のデイトレードもかじったことがあり――結果は暗澹たるものでしたが――その頃の記憶を手繰りはじめました。
『どれ、明日は為替の片手間にトレードツールで結果だけを確認してやるか。ちょっとした見ものだな、どれだけ赤っ恥を見せてくれるのやら』
株式投資の難しさを身をもって知っている私は、ほくそ笑みました。
しかし次の日、私の期待は裏切られる事になります。
- 30 :
- 9時の寄付き直後から、メールに記載されたJASDAQの一銘柄が急騰を始めたのです。
いくら上げ相場といえ、一直線にストップ高に張り付いた瞬間には目を見張りました。
正直、それを見て少しは興奮をしたと思います。ですが、それはトレーダーの性としてであり、すぐに平静を取り戻しました。
そして、今しがた行われたこのトリックについて思いを巡らせたのです。
10分ほどでひとつの考えに至りました。
『ああ、なるほど。所詮上げか下げかで結果が分かるものだし、大勢の人間にいくつもの予想メールを送っているんだな。それで、たまたま私のメールに記載していた銘柄が上がったと。ストップ高になったのは、単なる偶然のおまけでしょ』
そう、高をくくりました。それなら説明がつくし、検証も容易だと思いました。
なぜかと言えば、その日の夕方にまた次のメールが送られてきたからです。
明日以降も、見るだけ見ればその内化けの皮がはがれる――そうした、ある種うがった私の見識は、見当外れであると思い知らされる事になります。
なんと、それから10日間連続で当たり続けることになるのです。
寄り値よりも前場の引け値が高い、と言う現象が10連続……それも単一銘柄の指定で。
- 31 :
- 2×2×2×2×2×2×2×2×2×2=1024
単純計算で、1024人へメールを送り、その中の一人にならなくてはこの結果が得られないはずです。
さすがに、心中穏やかではありません。
どこからどうみてもインチキなメールなのですが、その予想に一度も乗らなかった自分に腹が立ったのです。なぜなら、指定銘柄の多くが低位株と呼ばれる価格の安いものばかりで、私の予算でも十分に実弾で試す事ができたのですから。
このとき、このメールの奇妙な点に気がつきました。
買うときの注意として、次の文言が添えられていたのです。
『指定銘柄を買うときは、3株や9株、または30株や90株、はたまた39株や390株という単位で建てるようにしてください。それが私の予想を見て購入した合図になりますので』
予想に乗るつもりがなかったときには気にならなかったものが、いざ買う気になると見えてくるものです。注意深く読み、10回見逃してきた自分を責めながら、次のメールを待ちました。
- 32 :
- 翌日から、狂喜乱舞の日々が続きました。
米国株が暴落した翌日でも、はたまた円高のゆり戻しがあった日でも、寄り天で市場が冷え込んだ日でさえもその銘柄たちは確実に上昇しました。
聖杯という言葉を軽々しく使う事はおこがましく、避けてきた私ですが、その魔法のような効果に当てはまる言葉は他には見つかりませんでした――これが聖杯である、と。
なんにせよ、寄りの成り買いがひたすら昇り竜の弧を描くのですから。
その狂気の宴の最中にも、私の疑念がするすると首をもたげてきます。
『こんなことでいったい何になるのだ?というより、どうやればこのような芸当ができるのだろう。たしかに、一株は安いから資産家であれば株価操作はできるレベルなのだろうが』
論理の糸を紡ぎあげるように、自分の納得できる自分用の答えを探しました。すると、ようやくそれらしきものが浮かび上がりました。
『もしかして、予想屋は自分の銘柄を私たちに買わせているだけに過ぎないのか?いわゆる証券会社がやるレーティングを地で行っていると。私たちはその買い推奨の言葉に引き付けられて購入し、それが提灯となって他の投資家を呼び寄せていると』
寄りで一斉に買う事が、それほど効果があるわけはないとも思いましたが、それをねじ伏せてでも自分を納得させました。そうでもしないと、このお祭りに阿呆となって参加する権利を失いそうでしたから。
ちょうど、40回目のメールを待っているときに異変が起きました。
いつもの時刻になっても、一向にメールが届かないのです。
- 33 :
- >>1
リーマンの話の意味が分からんのは、俺のせいなの?
結局どんな実験を何のためにやっててそして最後まで残ってた強者は結局誰なの
- 34 :
- 最愛の人にふられてストーカーになる変質者のように、その日を境に私は狂い始めました。
次の日も、また次の日も聖杯を記したメールが届かないのです。
私は、何度も確認しました。迷惑メールフォルダを漁り、それこそ裏までひっくり返すように、まんべんなくメールボックスの中を覗き込みます。それでも、届いていないものは、届いていないのです。
もちろん、発信者のメールアドレスに何度も問いかけました。
「すみません、いつも頂いていたあの神のような予想メールが、何かの手違いか、届いていないのです。もし、費用がかかるようでしたらある程度でしたらお支払いします。
どうかお助けください――あなたの信者より」
猫なで声よろしく、メール文面を書き連ねました。もちろん、高額な費用を求められたら、損得勘定をした上で検討しよう、という打算的な考えは持ち合わせていました。
結局のところ、私は全然稼ぎ足りなかったのです。確実にもうかるという欲望に抗う事はできませんでした。費用がかかっても、株数を増やしさえすればペイできると考えているのですから。
一日千秋の思いで待ち焦がれましたが、とうとう3ヶ月の間一切返事は届きませんでした。体中の体毛をかきむしりたいほどの衝動に駆られた私は、イソップ童話に出てくる酸っぱいブドウの話になぞらえ、自分をなだめました。
あの予想は、どうせこの後は外れていただろう、と。
そんな自己弁護も、たった一通のメールでもろくも崩れ去りました。
再びあの奇妙なメールが届いたのです。それを見たとき、私の指は大いに震え、まともにクリックができないほどでした。
- 35 :
- 「親愛なるあなたに
最近は、メールが送れなくてすいませんでした。ようやく集中治療室のベッドから這い出す事ができたので、これを書いています」
『集中治療室?入院していたのか!」
両目で文面をチャートの値動きを追うように高速で追っていきます。
高齢であることを意識させない文体で書き進められていましたが、どうしても私は白髪の似合う老人を思い浮かべてしまいました。もちろん資産家の、です。
「あなたが私の予想を信じ、お知らせした銘柄を購入してくれたことは分かっています。お伝えしたとおり、39株などで示してくれましたからね。
さて、あなたは気になっていることでしょう。どうして私がこんなことをしているか、ということについてです。上がる株が分かっているなら、自分だけで儲ければよいはず、きっとそんなことを考えている事でしょう」
私は思わずうなずきました。
まるでこちらの考えがすべて見透かされているようでした。それでも一向に構いませんでした。むしろ、メールの主との一体感が感じられ、嬉しいという感情が芽生えてきました。
「その疑問に関する答えは簡単です。私は相場から多くをいただきすぎたのです。話せば長くなるので割愛しますが、私は生まれてから一度も働いた事がありません。相場で生活をしてきたのです。
これしかないものですから、来る日も来る日も研究を重ねてまいりました。ある時に、秘中の秘とも言える銘柄選択法を見つけ出したのです。
やはり私は多くの人からお金をもらいすぎました。その見返りとして、家族はもちろん友人と呼べる人も私はつくることはできませんでした。もう、私の人生も終の時を迎えています。ですが、何も成し遂げた実感がないのです。
そうしたとき、いっそのこと私の人生の集大成ともいえる投資術で世の中の人に恩返しをしようと思ったのです。
ありがとう、私を信用してくれて。その気持ちを貰えるだけで私は十分だったし、そのために私はこれまで儲けたお金をすべて使おうと思ったのです」
私はここまで読むと、思わず涙ぐんでしまいました。
- 36 :
- 「きっとあなたは一財産築けた事でしょう。もう、お気づきでしょうが、ちゃんとカラクリがあるのです。
あなたに教えた銘柄を、私はあなたが購入した後に資産を用いて買い上げていたのです」
なるほど!私は思わずひざを叩いて大笑いました。
『それなら納得がいく!どうして低位株だったのかも、なぜ前場終了と言う短い期間だったのかも。そうか、いくら資金があるとはいえ、売りを浴びされないように繊細に、丁寧に相場を操作していたんだ」
頭が下がる思いでした。メールにはまだ続きがあります。
「1000人へメールした中で、あなただけが私にきちんと答えてくれたのです。私が求めていた世間の人たちとの関わりを。とても分かりやすい形で示してくれましたね」
このくだりは、はじめは理解できませんでした。ですが、私が購入した株数39が、サンキューという感謝の意を示す事について、巡り巡って思い至りました。全身の毛が感動でさざめきました。
「さて、本題に入りますが、今回、ある病で入院し生死をさまよいました。残念ですが、もう、銘柄をお教えすることも買い上げることもできません。取引する事自体ができないのです。
すなわち、私の長い相場人生も終焉を迎えると言う事です。先述した話に戻りますが、私には身内と呼べる者が一人もいないのです。そこで勝手ながら私の資産の受取人になって欲しいのです」
ここまで読むと、私の脈はアフリカの民族太鼓のようなビートを刻み始めました。のどが渇き、呼吸が荒くなっているのです。
- 37 :
- 「もし、お受け取りいただけるのであれば、最後に私へ感謝のメッセージを送ってください。私の人生はお金にまみれたものであり、お金がすべてです。それを否定することは私の人生をすべて否定することにつながります。ですので、どうしてもお金で示して欲しいのです」
どういうことだ?私は息をつく間もなく読み進めます。
「私の口座に、あなたの誠意を示す金額を振り込んでいただけば幸いです。もっとも、金額はいくらでも構いませんし、信用できないようできなら、全て無視してください。私は言葉ではなく、態度で示す人と関わりたいのです。相場に人生を捧げた者ならきっと分かると思います。
ちなみに、私の資産は億単位です。それでも、去り行く老兵には無用の長物なのです。三途の川には、小銭と現世で袖をすりあせた人の信頼を持っていければよいのです。無理は言いません。ただ、あなたの気持ちひとつです。それでは」
あっけなく文面はそこで終わりました。末尾には銘柄ひとつと、口座番号が記されていました。
『ふう、どうしたものか……』
形ばかりのため息をつきましたが、私の心はすでに決まっていました。金額をどうするかについてです。知り合いと呼べる人間に声をかけ、390万円をかき集めました。
正直、騙している意識はありましたが、莫大な金額を手にしたら返せばよいのです。今の私にとっては、造作もない事です。
- 38 :
- 『それにしても、他の1000人の人たちは信じ切れなかったのか、そうだよな。私みたいにでツールを引っ張り出して検証するもの好きは少ないのかもしれない。みんな一笑に付したんだろうな』
つつがなく振込みを終え、翌日の相場に向かいました。
今回は信用二階建ての全力で望みます。何せ種明かしも聞いたし、失敗してもあの方の資産がころがりこんでくる算段ですから。顔のほころびを抑えることだけが唯一の手間でした。
奇妙な動きでした。何って、株のチャートです。私が新規に建ててから一切の動きがないのです。
そればかりか、みるみる下がっていくではありませんか。今までこんな動きは見た事ありません。
いや、こうした動きは以前に見覚えがあります。数年前に自力でトレードしていたときのあの動きです。買えば下がり、売ればそこから上がる、というやつです。
目の前がくらくらしてきました。全身の毛穴から何かが吹き出しているかのようです。仮に出ているとしたら、きっと生気や魂のたぐいでしょう。
まっさかさまに落ちるチャートを凝視したまま、自動ロスカットのアラーム音を聴きました。
椅子から転げ落ちる拍子にテレビのリモコンが押され、ニュースが流れ始めました。
「本日、巨額詐欺の疑いで男を指名手配しました。男は莫大な資産を相続させるというウソの触れ込みを元に、約1000人からメールで資金を集めていました。その被害総額は39億円に上る模様で……」
私の頭の中では、さきほどのアラーム音が繰り返しずっと鳴り響いていました。
おしまい
- 39 :
- >>38
解りやすいこれは、解りやすい。
そして面白い
でもリーマンの話の意味がわらなくてなんかむず痒い
邪道かもしれないけど解説プリーズ
- 40 :
- >>33さん
著者が説明するのは無粋ですが、一応。。
二百人が巨大な部屋で見せられていたのは、リーマンショックの値動きです。
中には、直接関係する社員がいたのかも知れません。
相場の荒波は、人間が立ち向かうにはあまりにも大きすぎるということです。
大小はあれ、大して差はない、と。
また、群集心理を利用して悪用しようとする輩には、格好の研究材料となりえるかもしれません。
相場に対して油断せず、真摯な思いで向きあう――著者はそんな自分への戒めを込めているのでしょう。
乱文、雑文失礼いたしました。
- 41 :
- >>40
ご説明ありがとうございました。
とても、ハイブローと言うか、高尚なお話ですね。
もうFXの方は今朝方一度利確して
後は100円近くは行くと勝手に決め込んで塩漬けにします。
よくよく考えれば損切りしなければ毎回回復してました。
それでロスカになれば潔く退場してひたいに汗を描いて働きます。
ですから、もうこちらのスレが自分にとって本スレです。
これからも面白いお話の執筆楽しみにしています。
- 42 :
- >>41さん
レスありがとうございました。利確もされたとのこと、おみごとですね。
おめでとうございます♪
少しでもレスをもらえるとやはり励みになります。
スレも特に荒れてないようですし、続けてみたいと思います。
それでは、また次回作でお会いすることにしましょう。
次回予告『江戸時代の米先物相場で見た幻影とは!』
- 43 :
- ちらっと覗いたけど息抜きにはちょうどいいですな
続編も期待します
- 44 :
- 月曜をワクワク心待ちにしてたのに。。
>>1-26の回は>>40の解説を聞いても納得できないぞっ。
∧_∧
⊂(#・ω・) どういうことだこれはー!
/ ノ∪
し―-J |l| |
人ペシッ!!
__
\ \
 ̄ ̄
- 45 :
- ↓2話目はこないだ晒しといた迷惑メール思い出した。>>1の正体は横山だなっw
18 三日月丸 ◆Zr7xGQEFxhNx 2013/02/13(水) 18:16:59.79 ID:gfv46/Sw
【一通目】送信元:info@msgree.jp
横山と申します。昨年急性ンパ球性白血病が見つかり現在、自宅で療養中です。\100,000,000(1億円)を超える資産を有効活用して頂く為ご連絡致しました。
昨年、急性リンパ球性白血病と医師に診断され余命が一年も無いと言う事を告げられました。入院手術という選択肢もありましたが、成功率10%以下という希望の無い数字に「自宅療養」という道を選び、今日に至ります。
20年以上不動産を扱う会社を経営してきた結果、1億円を超える資産を残す事が出来ましたが、身寄りのない私の遺産は国の管理となってしまうでしょう。
死後の事を考えるのは余りにも無意味ですが、命あるうちに、未来ある人へお力添えできればと思い、10数名の方々へお声をかけさせて頂き、それぞれ1700万円前後の支援をさせて頂いております。
自己満足かもしれませんが、どのような形ででも、最後まで懸命に生きた証を残したいのです。
1700万円まで無償で必ず支援させて頂く事をお約束致します。命あるうちに、少しでも人の役に立ちたいという私の最後の願いに、是非ご協力下さい。
最後になってしまいましたが、体調不良とはいえ、このような形でのご連絡となった失礼をお許しください。
love77_yokoyama_7.18@docomo.ne.jp
横山
ご興味の無い方は、大変恐縮ですがこちらまで『興味なし』とご返信ください。
yokoyama_jouto_stop@docomo.ne.jp
【二通目】送信元:info@msgree.jp
あまりにも唐突なお願いですので、ご信用頂けないのは最もな事だと思いますが、少しでも貴方のご理解と信用を得るため、まず連絡先をお伝えさせて頂きます。
「1億円を有効活用する為に1700万円前後の支援をさせて頂きたい」という先日の呼びかけにご返信頂いた方から協力を頂き、すでに7名の方へ合計8300万円の支援が完了しています。
総額1億円を超える資産を、療養中で自由に動く事のできない身とはいえメールのやり取りのみで、お配りするという行為は多少投げやりな印象も受けてしまうでしょうが、決して安易な思いつきではなく、私なりに必死に考えた上での結論です。
未来ある方へ微力でも支援する事ができれば、私は思い残すこと無く最後を迎える事ができます。
絶対にご迷惑はおかけ致しません。私の旅立ちに花を添えると思って1700万円を気持良く受け取って頂けないでしょうか?
love77_yokoyama_7.18@docomo.ne.jp
横山
ご興味の無い方は、大変恐縮ですがこちらまで『興味なし』とご返信ください。
yokoyama_jouto_stop@docomo.ne.jp
【三通目】送信元:info@msgree.jp
以前お話しさせて頂きました通り、私は医者から急性リンパ球性白血病と医師に診断され、余命が一年も無いと宣告されました。残り少ない人生を少しでも多くの方々のお役に立てるようにと、10数名の方々へ1700万円前後の現金を無償支援という形で資産の譲渡を行っております。
現在すでに7名の方へ合計8300万円のお渡しが完了致しましたので残りの支援金は1700万円です。
この件で貴方にご迷惑をおかけする事は決して致しませんし、現金を受け取って頂いた後は一切の連絡を行わない事をお約束します。
どうか1700万円を受け取り、最後に人の役に立ちたいという私の願いを叶えては頂けないでしょうか?
私に残された時間は多くありません。
良いお返事を頂けると信じ、命ある限りお待ちしております。
love77_yokoyama_7.18@docomo.ne.jp
横山
ご興味の無い方は、大変恐縮ですがこちらまで『興味なし』とご返信ください。
yokoyama_jouto_stop@docomo.ne.jp
生活保護でFX 犯罪?
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/livemarket2/1359965061/
- 46 :
- 三日月丸さん、レスありがとうございました。
まあまあ、肩の力をお抜きになって。。
1に相場、2に相場、暇つぶしでご利用くださいませ♪
もっとも、特定のポジや投資スタイルに肩入れするような(荒れる)文章は書きませんので
ご安心ください。
あくまでも刺身のツマのような位置づけを目指し、相場の持つ底なしのエンタメ性とは
くらぶべくもありませんが、少しでも楽しく感じていただければ、これに勝る喜びはありません。
爆益あれノシ
- 47 :
- >>45
なにこれ
- 48 :
- >>46
次回作楽しみにしてるよー!
>>47
晒しといたスレdat落ちしちゃったんだね。
最近俺の携帯に来た連続ものの迷惑メールだよ。調べたら去年くらいから出回ってるみたい。
一番最後は送信元同じなのに「懸賞金300万ご当選おめでとうございます!」とか全然別のネタに変わってたw
- 49 :
- 昨日の朝にイタリアの選挙の影響でロスカくらいFXの場から退場
も楽しみはこれしか無い
次回作楽しみにしてるよー
- 50 :
- あまりにもレンジで動かないから俺も小話考えちゃったw
読んで読んでー!
- 51 :
- 【相場師と悪魔】
大敗した相場師の前に悪魔が現れて言った。
「あなたに、あらゆる相場の値動きが手に取るように分かる
予知能力をあげよう。代価はあなたの魂。私と契約するかい?」
相場師は答えた。
「値動きを読む力なら既にあるんだ。俺の手法は完璧だよ、自信がある。
聖杯と呼んでもいい。今はたまたま負けているだけなんだ。」
それを聞いた悪魔は言った。
「それならばつまるところ、あなたはお金が欲しいのだからどんな大金でも
望みの金額をあげよう。代価はあなたの魂。私と契約するかい?」
相場師は答えた。
「よし、じゃあ100億、いや1,000億くれ。待て、望むだけくれるなら1兆だ!1兆くれるなら契約するぞ!」
「よろしい、契約は成立した。たった今、1兆の現金をある倉庫に
用意したのでその倉庫の地図と鍵を渡そう。お金はすべてあなたのものだよ。
ただし、あなたの死後、あなたの魂は私が頂く。」
そう言って悪魔は相場師に地図と鍵を渡すと姿を消した。
相場師は大喜びだった。
「現金で1兆持つ投資家なんて世界でも俺くらいだろう!
ついに俺は世界一のトレーダーになったんだ!もうこんな馬鹿げたギャンブルからは足を洗おう!」
そして1年後。1兆のほとんどを相場で失い、原資回復を目指す男の姿があった。
〜おしまい〜
- 52 :
- こわ
- 53 :
- 大規模規制で、書き込むのも一苦労ですね。。
そんな中、三日月丸さん投稿ありがとうございました。
ペーソス(悲哀)に富んだショートショートを楽しく読ませていただきました♪
さて、次回作ですがちょうど半分ぐらいできたところですかね。
小出しは、不評みたいでしたので出来上がりましたら、載せるようにしますね。
今しばらくお待ちくださいませ(本業の締め切りに追われていたりして。。)
- 54 :
- >>53
せっかくだから、作家名が「1」じゃちょっと味気ないし、
ペンネームじゃないけどなんかコテつけて欲しいな^^
次回作待ってるねー!
- 55 :
- >>1さんへ
相場関連のお話はあまり見ないのでとても面白く拝見してます。
感謝。
ただひとつ、ファンとして注文をつけさせていただくと、
>普通のサラリーマン
みたいな書き方をすると若干先が読めてしまうので、
そこを工夫すればさらにすばらしいものになると思います。
ではでは〜。(^_^)
- 56 :
- まだ?
- 57 :
- まんだ?
- 58 :
- きたか…!!
( ゚д゚ ) ガタッ
.r ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
基礎がこれ 頼んだ
- 59 :
- >>54さん
いいコテハンが浮かんだら、つけてみますね。今はまだ名もなき1でいておきます。
>>55さん
アドバイスありがとうございます。
すいません、遅くなって。。
さて、江戸のやつは長編になってきたので、並行して違うものを書いてみました。
SFタッチでアンドロイド(とFX)の物語です。それではー
- 60 :
- 『The Android』
(1)
人類の進化は、まったく不思議なものだ。もうそろそろ頭打ちかと思うと、まだ伸びしろがあり、逆にまだまだ進化しつづけると思うと、もう終わりと言わんばかりに停滞を始める。まるで相場における投資家たちの心の揺らぎのように、永遠にどちらか一方に定まることがない。
ただひとつ言える事は、未来に翻弄されつつもその未来に期待し、すがるのが人間なのだ。
――デヴィッド・コールフィールド博士『私たちはどこにいこうとするのか?』
私はそこまで読み終えると、羊皮紙であつらえられた分厚い表紙をパタリと閉じた。
この時代は、このずしりとくる百貨辞典風の書物の方が人気だ。懐古主義というらしい。
2050年になっても人類はさほど進化していない――少なくとも私にはそう思えた。
今日も今日とて、朝からFXに興じる自分がいる。平和な朝だ。まあ、扱う通貨が400種類ほどになり、経済大国一位、二位のインドルピー/中国人民元のスキャルピングがホットなことぐらいだろう、変わった点といえば。
下がったところで買い、上がったところで売る。自分の想定したレンジ内で、淡々とこの作業を繰り返していく。飽きる事はない。永遠にこの作業を繰り返したいくらいだ。ときに、値動きがこのレンジを越えることがある。
どうするかって? この時代でも色褪せることのない、普遍な作業を遂行する。損切りだ。そして、レンジをブレイクしていった値を追いかける。そしてまたレンジを形成しはじめたら、同じことを繰り返す。
損切りに痛みなど何も感じない。ただ受け入れるだけだ。
冷静なものだけがこの戦場で勝利できる。ひたすら冷徹ともいえる取引を行う者だけに美酒が振るまわれるのだ。
- 61 :
- (2)
原色のエナジードリンクを体に流し込み、小休止を取る。空中に浮かんだ薄っぺらい透明フィルムから、ニュースが流れてきた。この時代にアナウンサーと呼ばれる人間はいない。すべてアンドロイドの自動音声のみである。
『中央政府が推し進めているアンドロイド計画が次の実験段階に入りました。これにより、心を持ったアンドロイドが誕生すると言われていますが、果たして人類にとっての転換期となるのでしょうか。その動向が注目されます。さて、次のニュースです……』
「何が心を持ったアンドロイドだ、俺にとっては、今日来るメイドロイドの方がよっぽど重要だよ。別に感情なんかなくても誰も困りはしないってことに何で気づかないんだろう。精巧にできた音声アンプリファーと表情トランスミッターで、十分に感情は伝わるんだよ」
私も人並みに、メイドロイドと呼ばれるメイド仕様のアンドロイドを手に入れることに決めた。
これまで手に入れなかったのは金銭的な理由ではなく、単にアンドロイドというものに興味が持てなかったからだ。もっとも、人間に対してもこれといって特別な感情は沸かなかったのだが。
初期のメイドロイドは粗悪なものが多く、いわくつきの不良品が続出した。しかし、最近はすっかり技術が向上し外見も人間とまったく変わらない。遜色がないというより、人造物であるがゆえに、人間が束になってもかなわない代物だ。すなわち、絶世の美少女ばかりなのだ。
少しそわそわし始めた。届く時間を今か今かと待ちわびている自分がいた。相場ではこんな思いを感じた事すらない。胸に違和感を感じながらも、すぐにその状態は治まった。
すると、呼び鈴が鳴った。
- 62 :
- (3)
玄関のドアが音もなく両方に開くと、そこには一人の女性が立っていた。いや、本来であれば一体と呼ぶのが適切なのだろうが、そんな気は彼女を見たとたんに消失した。どこからどう見ても人間のそれなのだ。
肩まで伸びた黒髪。りんとした眉毛とすらりとした鼻筋。顔の面積の割りに大きな黒目がちの瞳。そして、人間の女性すべてが歯ぎしりするような均整のとれた黄金比の体つき。ふくよかに突き出た胸の輪郭は、薄いファー素材のセーター越しにもしっかりと見てとれた。
「こちらでいいのかしら。あなたがご主人様ね。私はメイドのイブよ、よろしくね」
私は面食らった。思ったよりもしっかりとした口調だったからだ。私はなんと言うか、もっとたどたどしい、いかにもどこか少し抜けている感じの女性を想像していたのだ。
「イブ? イブのブはフに点々かい? それともウに点々でヴかい? イヴ」
私は下唇を噛んで示してみせた。彼女はきょとんとした顔つきで目をぱちくりさせている。まあ、どちらでもいいだろう、今のは質問がよくなかった。
だが少なくとも外見は、"自分にとっての"美少女がオーダーできたのだ。まだ技術の進歩が追いついていないから、Webの購入画面に性格選択の項目がないのだろう。これでたったの1000万ルピーだ、お買い得としかいいようがない。
「どうぞ、こちらへ。まあ、ゆっくりくつろいでくれたまえ」
私はどう話していいか分からず、パイプをふかすひげの生えたご主人様のような口調になった。すると、今まで澄ましたよう顔を見せていた彼女が相好を崩した。
「そんなキャラなの、あなた。いいのよ、普段どうりにしてくれて。私のことは呼び捨てでいいわよ。それであなたの名前は?」
へぇ、笑うんだ。そう思った。メイドロイドの彼女の表情に、一瞬で引き込まれた。
ここではじめて私は、こちらから話すのが苦手なことに気づいた。今も彼女の声だけがしみ込んできて、肝心のその中身までは耳目に入ってこないのだ。
私からの返事がなくても、彼女はその彫刻のような口元に笑みをたたえながら、言葉をつむいでくれた。
「さあて、この一人暮らし全開の部屋を一変させましょうか」
- 63 :
- (4)
その日から文字通り生活が一変した。彼女は掃除、洗濯、食事はもとより、何から何まですべて完璧にこなした。何せこれまでに数百万回の機能改善をされているそうだ。こんなにも優秀だと知っていたら、もっと早くに頼むめばよかった、そう自分を恨んだ。
ちなみに、メイドロイドは夜のお相手をするタイプも発売されているのだが――と言うより、そちらの方が販売シェアの9割を占めている――私は、あえて純粋なメイドタイプを選んだ。
特別な理由があったわけではない、本能的なものだ。戦場で勝利と豊かさと引き換えに何かを失ってしまったんだろう、その位に考えていた。
それでも、風呂場で背中を流してもらう事ぐらいは頼んだ。あくまでも、それだけである――彼女の名誉のため、念のため付け加えておこう。
そんな平穏かつ、おそらくは幸せと呼称される日々が一年ほど続いた。
彼女と暮らし、彼女と過ごす。とてもゆっくりとした時間が流れた。彼女は(アンドロイドのくせに)体が凝り性のようで、よくマッサージをしてあげた。普段はツンとすました顔の彼女が、それにより色々と変化するのがとても楽しかった。
彼女には私が好きな本をすべて教えた。J.D.サリンジャーの《ライ麦畑でつかまえて》などを、彼女は好んで読んだ。少年が大人に変わる心理をはすっぱに切り取った作品だが、とても興味深かったようだ。
- 64 :
- (5)
そんな幸せな日々に暗い影が近づきつつあった。異変は徐々に忍び寄るもので、これというきっかけは特になかった。ただ、少しづつであるが損失が積み上がっていく。
相変わらず、損失に動じない点は変わらない。それでも勝てない日々が続く。誰かが空中フィルム越しにつぶやく。ルールが変わったんだろう、と。
いや、何も変わってはいない、少なくとも相場の規則性だけは。異変が起きているのは、私の方だった。今までは一切、一度たりとも感じた事のないチクリとする感覚だ。
失うのが怖い。金銭だけではない、漠然としたものが私の中に入り込んでくる。一度手に入れたものを失うことが怖くなったのだ。その結果、ここ最近はめっきり損切りを行っていない。
自分にとって、損失と呼べるものはなくなってしまったのだ。
相場で負けても、私にはイブがいる。そう思うようになった。彼女の代金の支払いもローンではなく一括で済ましているし、まだ資金も潤沢にある。
何だったら、今日ここで引退して、彼女と一緒にのんびり過ごす日々もいいかもしれない。なのに、なぜこんなにも焦燥を感じるのだろう。
私の人生において、心の平静さを失ったことはないはずだ、落ち着け。自分に言い聞かせる。
ふと思い至った。彼女は歳をとらないのだ。私はそう思うとまた負の連鎖に陥りそうだった。しかし、そこはよくできたもので、彼女を見返してみると一年前よりは明らかに年齢を重ねたように見えた。
人間と共に歩んでいくという設計思想なのだろう。でも何だろう、どこからか湧き出すこの感覚は……
彼女が、鏡越しに私に微笑みかけた。
「どうしたの? 相場で調子が悪いの? でも、それは逆に考えるといいことなのかもよ。あなたが進歩してるってことなのかも」
- 65 :
- (6)
妙な台詞だった。どうして、彼女はこんなにも気丈なのだろう。
不安に押しつぶされる事はないのだろうか? ん? 何だ、不安って? そもそも感情とは?
私は戸惑い始め、何かのスイッチが切り替わるように表情が自然と切り替わった。すると彼女はそれに呼応するかのようにすっくと立ち上がり、そして言った。
「もしかして、私を切るつもり? もちろんそれでも構わないの。ただ、あなたが思っている以上に事態は深刻なの。それだけは分かって、私はあなたの味方なの」
両手を広げて、彼女は声を上げた。とても豊かな感情表現に見えた。
「いや、そうじゃないんだ、イブ。分かってくれ、君を切るとか失うとかそういうことじゃないんだ。そうさ、自分でもよく分かっている。ただ、今気づいたんだ、俺には……」
そんな言葉の一切をさえぎるようにイブは背中を向け、一度だけこちらに笑顔を向けると、ゆっくりとドアから出ていった。
私は放心状態のまま、ソファに座り込んだ。無意識のままスクリーンフィルムをオンにすると、いつものニュースが流れ出した。
「中央政府主導のアンドロイド計画に対して、民間団体から抗議の声が噴出しています。一部の組織においてはテロを辞さない暴徒と化し、アンドロイドへの破壊/殺戮行為を行っています。
繰り返します、彼らはアンドロイドが人類を滅ぼすというスローガンを掲げ、大規模な殺戮行為を大々的に展開しています。ご注意くださ……ガガッ」
スクリーンに顔半分を黒い布で覆った、数人の男たちの映像が飛び込んできた。手には銃を持ち、パイプのようなものでスタジオの機器をめった打ちにしている。数分にも満たないうちにアナウンサーの自動ボットは無残に破壊し尽くされた。
「イブ! 彼女が危ない!」
- 66 :
- (7)
人類の歴史においてショッキングな事件や出来事は、ある種、進化の一端を担ったと言えるだろう。私たち人類は危機にさらされる度に進化してそれを乗り越えてきたと、分厚い愛読書が教えてくれた。
私は何かにせき立てられるようにして、表に飛び出した。
おぞましい光景だった。ハードカバーの美術書で見たゲルニカのような光景が眼前で繰り広げられていた。彼ら、いや人とは思えぬ暴徒がたけり狂っていた。
不思議な事にこのアンドロイド狩りにおいては、奴ら独自の判別方法があるのだろう――無差別に殺しているわけではなさそうだった。
狙いを定め、アンドロイドに分類される者だけをレールガンで打ち抜いていく。
アンドロイドたちは青白い光を宙に放電すると、ぴくりとも動かなくなる。中には物理的に破壊され、体の部位があちこち転げ落ちている者までいた。
私はこれまでに感じことのない、すべての感情が入り混じっていくのを覚えた。それは怒りが大半を占めるのだが、奇妙な事に大きな壁を越えるような清々しい感情も含まれていた。
また、この光景に対する感嘆の感情も芽生えていた。半数ほどの人数がアンドロイドであり、ここまで、私たちの生活にアンドロイドたちが浸透していたことに驚愕したのだ。
次の刹那……
グサリッ
背中に何かがめりこんだ。鋭利な刃物。冷たく、確固たる意思を持った突き立て方。殺意といって差し支えないだろう。背中に電流が走る。呼吸をするのが苦しくなり、このまま消えてなくなると思った。
さっきまでの希望的観測はきっと裏切られたのだろう。この無差別なテロリストたちは、もう誰も止められない、アンドロイドだけでは飽き足らずに自分たちで殺し合いを始め、最後の一人になるまで止めないのだ。
私はどこかでそんな体験をしていなかっただろうか。油断すると、背中から刺される世界。これ以上、刺すのも刺されるのもごめんだ、そう思った。
ふとまぶたに浮かんだのは、イブの笑顔だった。彼女を助けなくてはならない。あるいは、彼女はすでにやられてしまったのか。
背中に手を回し薄れいく意識の中で、背後にいた人物をつかんだ。そしてゆっくりと仰向けに倒れながら、そいつの顔を見た。イブだった。
- 67 :
- (8)
私は全方位を真っ白い壁に囲まれた場所にいた。顔に当たる照明がまぶしく感じられたが苦痛ではなかった。
白い防護服で全身を覆った数名の男たちが、手際よく私の体の内部に手を入れていく。彼らが医者であることを理解するまでに、多少の時間を要した。
「それにしても、運がいい。急所を免れたのは」と細身の男が言う。
「まったくですね、それに政府の潤沢な資金援助のおかげで、パーツはいくらでも揃っている、と。これなら何とか助かるんじゃないでしょうか」と、同じく細身の男が答える。
「当たり前だ、私たちアンドロイドの運命を変える、偉大なる一歩なんだぞ彼は。何としても生かさなくては」
目が徐々に慣れてくると、周囲のものや距離関係がはっきりと分かった。
私は手術台のようなものに乗せられ、体の内部がむき出しになっている。しかし、怖くはなかった。右斜め上空のガラス張りの空間に、イブの姿が見えるのだ。
その横には、白衣をまとった外国籍の中年男が見えた。
「聞こえるか? あー、そのままでいい。そのままで聞いてくれれば問題ない。君にもしものことがあっては困るからな。今ここで、すべてを知らせる方が君の励みになると思ってな」
スピーカーを通じてその手術室全体に響く声の主が、イブの横の中年男のものであることはすぐに感じ取れた。よほど偉いのか、先ほどまでおしゃべりをしていた医者らしき男たちの会話がぴたりと止んだ。
「イブの機転のおかげで、君の部位損傷は最小限に抑える事ができたのだよ。何でも、君を刺したテロリストを一撃で倒し、突き立てられたナイフをそのまま保全することで、電流の放出を最小限に抑えてくれたんだそうだ。
ほら、君も見ただろう。アンドロイドは、血の代わりに青白い電流を放出するんだよ。流れ過ぎると漏電よろしく、失血死に至る」
何を言っている?
- 68 :
- (9)
遠いガラス越しに、イブの姿が見える。いつものように口元にはあの優しい笑みを浮かべてくれているのだろうか、目がかすんでそこまでは見えなかった。彼女が俺を助けてくれたのか……
ふと私は、イブとの別れ際に飲み込んだ言葉を思い出した。
「そうだ、俺には……」とイブに向かってつぶやいた。
「これまで生きてきた記憶が、まったくないんだ」
そう吐き出したとき、まるでジグソーパズルの最後の一片がはまるように、すべてが私の中で完結した。
異世界とも思える距離からの交信が、私の耳に届く。
「ようやく気づいてくれたかい、そうとも君は政府が開発を進めていた感情を持つアンドロイドの被検体なのだよ。私は平たく言えば、君たちアンドロイドの生みの親だ」
男は上空から流暢に続ける。
「いいかい、私が何のために君たちを開発したと思う? 博士と呼ばれるこの私が……
簡単なことだ、最初は金儲けのためだよ。資本主義経済下においては、何事もお金が最大の動機になる。そうさ、当時の私はトレードで大きな損失を抱えていたせいで、その方法が最も合理的だったのだよ。
はじめは実に簡素なものだった。人間のかたちなどとは程遠いトレード専用のロボットさ。それでも君たちは恐るべきことに、すぐに人間を凌駕した。感情を一切排した、いわゆる最強のメンタルを持つトレーダーだったからね」
積年の思いを伝えるかのようだった。
- 69 :
- (10)
「その成果のおかげで私は政府に入閣し、アンドロイド研究の第一人者となった。しかし、人間とはげに恐ろしきもので、欲を出したら底なしのようでね。政府の連中も最初だけで、すぐに私の財産やら収入源やらを根こそぎ奪い始めたんだ。
無論、私も抵抗を試みたが、どだい無理な話しだったよ、彼らに立ち向かうなんてね。
それでも、私はアンドロイド開発は進めた。儲けがなくても、そこに何らかの希望を見出したんだよ。しかし、私への風当たりは強くなるばかりだった。
あるときから、人類保護運動者のやつらがシュプレヒコールを叫んで徒党を組み始め、私たち開発者を標的にしはじめたんだ。ニュースで見て知っているだろ?
奴ら上の連中は自分の居場所がリスキーだと分かったとたんに、逃げ出しやがった、全責任を私に押し付けてね。トレーダーの言葉を借りるなら、私はロスカットされたんだよ」
手術台の上に、博士の声は降り注がれた。
「そこから私は奴ら、ひいては人類に対する復讐を始めたんだ。アンドロイドだけさ、私の味方は。それとごく一部の私が世話をした人間たち。
こう見えても、孤児院の寄付もしていたんだ。トレードで稼いだお金をつぎ込んでね。そこにいる医師たちも、半分はアンドロイドで半分は私が目をかけた人間だ。有能な人材に育ってくれて私は嬉しく思っているよ」
白衣の医師たちは手を止め、見上げるとうやうやしくお辞儀をした。
「さて、私の復讐とは何であるか説明しよう。愚かな人間にアンドロイドが取って代わる事だよ。もちろん、全てとは言わないが、そうだな半数以上にはお引取り願いたいと思っている。
そのためには、アンドロイドが人間以上の知性を持つ事が必要だ。爆発的な進化を遂げてね。そのためには、トレードには無駄だった感情が必要だったんだよ。
進化には強烈なブレイクスルーが必要だ。基盤を変えるほどのエネルギーだ。私はもう引退してしまったが、君が毎日行ってる投資でたとえるなら、ブレイクアウトがそれに当たる。
それがないと、いつまでも同じ範囲にとどまって進化なんてありゃしない。いわばそのブレイクスルーが、紛れもない君のイブに対する感情だったってわけだ。ある種、全アンドロイドの感情を代弁したようなものだな」
こちらからイブの表情が分からないのがもどかしかった。
- 70 :
- (11)
「さて、どこで人間と同じ感情が芽生えたと判断するかって? それは君自身が一番分かっているはずだろう。イブを失いかけたときに芽生えた感情。いとおしいと思う感情、すなわち、愛だよ。私たち、人間がいうところのね」
私は博士の演説に聞き入りながら、少し首を曲げて自分の腹を覗き込んだ。そこには、複雑な回路がむき出しにされ、赤や青のコードをペンチのような器具で修復されていた。機械仕掛けの体を眺め、それでも、一縷の感情が残っているのを感じた。
これを愛と呼ぶのだろうか。確証はないが、それはほのかに暖かく、春に芽吹く野花のような、大空へ向かう真っ直ぐな思いだった。
「ただ、君たちの前途は多難だ。イブの正体にもう気づいているだろう。聡明な君なら」
その問いかけには、すでに答えを見出していた。あの大勢のテロリストたちに見抜かれず行動できたこと、一緒に暮らした日々において、少しづつ歳を重ねていったこと――
上空のガラスを両手で叩き、こちらに合図している彼女が見えた。言葉は聞こえないが、口を動かしているように見えた。
『ま・た・いっしょに』そう言う彼女の方が人間だったのだ。
照れくささと愛情が入り混じったのか、私の体内で電流が放出されたらしく、修復中の医師たちが少し飛びのいた。
「見せてくれたまえ、アンドロイドと人間の奇跡と進化を。そしてこれからの希望の道を示して欲しい。私自身は、おそらくそれを見ることはできないと思う。これからあのテロリストたちの元に出向いて、刺し違えるつもりだ。
それが君たちへの手向けであり、生み出した私のせめてもの罪滅ぼしだ。これ以上、この馬鹿げた争いを続けさせる訳にはいかないからな。よろしく頼んだよ、君。私が大切に育てたイブを!」
博士はあらん限りの声で強く言った。目には涙が溢れていた。
それはイブも同じだった。
「最後になるが、君の生い立ちも説明しておくよ。実は五年前ほど前に完成したんだよ、君は。だから、もちろんそれ以前の記憶はない。
君はある程度の成長した姿をまとってこの世に生まれてきたんだ。さようなら、わが息子よ」
博士は、荘厳な面持ちで最後の言葉を投げかけた。人類しか持ち合わせていない、自己犠牲を覚悟したときに見せる、その優しいまなざしで。
「私の名は……デヴィッド・コールフィールド。そして、君の名は……そうだな、私の最後の特権として名付けさせてもらおうか」
ひと呼吸置いてから――。アダム、そっと言った。
Fin
- 71 :
- 全米が泣いた!
- 72 :
- 良い話ニダ
- 73 :
- 読むのにちょうどいい長さ
うちにある短編小説集より面白いよ
これホントに自分で書いてる??
どこからネタ引ぱってっくるの?
ホントにオリジナルなら携帯小説とかで一話ダウンロード30円ぐらいなら払えるレベル
- 74 :
- 息抜きにはちょうどいい長さだよね
気長に次も期待してます
- 75 :
- >>71-74さん
光栄なお言葉ありがとうございました。
とても励みになります。
物語については完全オリジナルで、すべて私一人で書き上げています。
一般的な作家さんと同じように、プロットなどを構想してはいますが、短いのが幸便で
頭の中で仕上げています。
次回のものは、今回よりは長くなる予定です。
拙文ですが、またお楽しみいただけますと幸いです。
- 76 :
- 新作、大傑作じゃん!しかも超大作!
最後なぜか目から汗が。。
また楽しみにしてるからねー!
- 77 :
- 次まだぁ〜ハヨー
- 78 :
- なかなか深い。
良スレですね。
- 79 :
- 週刊?
- 80 :
- まだまだまだまだまだまだまだまだmfだmなdファまだまだまだまだmあだまだまだまだまだまだまだまふぁ、まふぁ
- 81 :
- 長編の方が、なかなかボリュームが増してしまい、その(自分への)息抜きとして短編を書くというサイクルになっています。
短編の方は、ほぼ完成かと思われますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。
※短編と言っても、Androidより少し長くなっていますね。ちなみに長編は、倍以上の長さです、気長にお待ちくださいませ。
- 82 :
- 完成したテキスト原稿を、何と転送し忘れてしまった。。
何ということでしょう、更新が月曜日以降になるフラグが立ってしまいました。無念。
- 83 :
- おーいおーいおーい
土日FX休みの発刊じゃなかったの!!!!!!?
頼むよ先生
締め切り守ってよーがっかりだよ
- 84 :
- >>83さん
ご期待を裏切る形となってしまい、誠に申し訳ございません。
ささやかな楽しみをご提供するつもりが、失望させてしまっては本末転倒です。。
今のところ、月に1、2回不定期更新ができればと考えています。
春を待つ13円ランドLのように、あるいは万年放置の優待狙い株のように、
のんびりと忘れた頃にこのスレをのぞいていただけるとありがたく思います。
とは言え、二作ほどのストックはあり赤字校正中でございます。
大きな指標を控えた、嵐の前の静けさなのかもしれませんね。。
- 85 :
- 待つ!
- 86 :
- 大変お待たせいたしました。
今回は、1880年代の金取引の物語です。
- 87 :
- 『The Silent』
(1)
――1880年代の誇り高き炭鉱夫たちへ。
――そして、ヘレン・アダムス・ケラー女史に捧ぐ。
少女は闇の中にいた。
彼女は生まれつき光を知らない。そればかりか草花、人や動物、あらゆる物質――そしてお金。そのどれをも見たことがない。生まれつき目が見えないのだ。
神は視力と引き換えに、彼女にたくさんの愛情を与えた。
周囲の温かい愛情に育まれ、幸福な家族の一員として彼女はすくすくと成長した。知性と機知に富んだ、はつらつとした少女になった。水晶のように透き通る肌とはちみつのようにつややかな唇。そして、生まれたての仔馬の尾のように繊細なブロンド。
しかし、開かれることない両方のまぶただけが、その美少女に不釣り合いだった。
どうやって世界を認識するのだろう? どうやって人を理解するのだろう?
彼女は、そんな大通りを行きかう衆人たちの好奇の目によどみなく答える。
「ありがとう、ご親切に。すみません、手を握らせていただけませんか? 感謝の気持ちを伝えたいので」
幼い小さな両手で、しっかりと大人たちの手を握り返す。そして手のひらに「Thanks」のスペルを丁寧になぞっていく。筆談の途中で、泣き崩れてしまう大人たちも多くいた。
健気な少女の未来を案じると、不憫でたまらなくなる。だが、肝心の当人はと言うと世界への好奇心と希望で満ち溢れていた。
だって見ることのできない世界が、そこにあるんですもの。何て不思議なんでしょう。いつか絶対に見てやるんだから――叶わぬ夢なんてないわ。
- 88 :
- (2)
私は闇の中で育った。
と言っても、決して目が不自由なわけではない。健常な位だ。視力に事欠かない代わりに、この世の苦しさを直視せざるを得なかった。
父親の職業は、ただの酒飲みだった。この時代の新聞は、カリフォルニアに端を欲したゴールドラッシュの話題で持ちきりだった。ご多分に漏れず、父親もその熱気に当てられたひとりだった。
散財したあげく、一年かけてようやく持ち帰ったものは泥の固まりだけだった。
その間に母親は病死した。夢破れて帰郷した父親は、日がな酒を浴びることしかできなかかった。
「ちきしょう、金がなければこの世は生き地獄だ。こんなくそ野郎、とっととくたばっちまえばいいんだ」
それから半年も経たないうちに、私の願いは叶うこととなる。アル中で最後を終えた男の簡素な埋葬だけ済ませると、私は家を出た。彼の骨はすかすかで、まるで小動物の骨のようだった。
家を出た私は路地裏の生活を持ち前のずる賢さで生き抜き、気づくといっぱしのギャングと呼ばれる人間になっていた。
「へえ、世の中は未だにゴールドラッシュの話題で持ちきりかよ。けったくそ悪い、クソ親父を思い出しちまう。
次はどこだって……オーストラリア? ニュージーランド? まさかアフリカってことはないよな」
あれほど忌み嫌った父親と同様に、金銭に苦しめられている自分に腹が立つ。経済格差は広がる一方で、搾取の枠組みが十分にできあがっているのだろう。
しかし、そんな私にも千載一遇のチャンスがやってきた。きっかけは、この町一帯を取り仕切るマフィア――ギルティ――の若手幹部からもたらされた。
「おい、町の北に金の取引所があるの知ってるか。実は上等の混ぜ物が入ってよ。もしよかったら、お前あそこでさばいてきてくんねえか。なんならうちのマフィアに入る話、進めてやってもいいぜ」
私は自分からマフィア連中に仲間入りしたいなどと、話した事などない。どちらかと言えば、このくさい息を吹きかける連中を親父同様に、軽蔑していた。
だが、彼らの庇護があるに越した事はない。ただでさえ住みにくい町なのだ。マフィアうんぬんよりもその金取引という場所に興味があった。あいつが結局たどり着けなかった場所なのだ。
足を一歩踏み入れた途端、すぐに場違いだと思い知らされた。瀟洒な赤茶色のレンガ造りでつくられた取引所は、路地裏とは別世界だった。
足首まで埋まりそうなじゅうたんと、吹き抜けの最上部に取り付けられたシャンデリア。待合い席の下に伏せている犬の、光沢ある皮装具を見るだけでため息が出そうだった。
- 89 :
- (3)
はじめてであっても、どこに行けばよいのかはすぐに分かった。入り口から一直線に進んだ場所にいくつかのテーブルが置かれ、それぞれに人垣ができているのだ。中でもとりわけ人数が多い集団へ足を向けた。
そこは袋の山だった。皮袋や麻袋、ありとあらゆる袋の種類が並べられ、中から黄金に輝く石粒が顔をのぞかせていた。炭鉱夫たちが人生をかけて採掘した努力の賜物であり、結晶だ。あいにく、自分の親父は何もつかめなかったのだが。
手元の混ぜ物と見比べてみる――。大きさから輝きまで、何から何まで異なるように見えた。息苦しくなった。他の袋を見渡すと、そちらはそちらでまったく違うタイプに映る。
どうやらそれぞれの石は違う表情を見せるらしく、少し安心した。それでも今持ち込んだ砂金の混ぜ物が、他と比べて一段も二段も見劣りする事に変わりはなかった。
「はい、次の方どうぞ」
心臓が止まる。
砂金と紙幣を交換する取引は、一に検査、二に検査である。私のように不純物を混ぜ込んでくる者が後を絶たない。それで商品を白日の下にさらし、計量や肉眼の鑑定により検査するのだ。あの息のくさいマフィアの台詞が脳裏に蘇る。
「検査って言っても、対した道具は開発されてないんだよ。所詮、金は天からの授かりものなんだからな。完璧に見分けられるってんなら、人の手で金ができちまうだろ。作りだすことができないってことは、人間じゃあ大して見分けがつかねえってことにならあ」
納得も釈然もしなかったが、一理あった――おそらく検査が不完全なものであろう、という読みにおいては。しかし、そんな浅はかな読みは見事に裏切られる事になる。
比較的空いている他のシマを見やると、最新型の測量器に加え、ルーペで入念にチェックしている姿が見えた。これでは手持ちの粗悪品など一発で見破られてしまう。
それでも、いいか。自暴自棄になる自分がいた。どうせここで騙せ通せたとして、得をするのはあいつらだ。それなら別に失敗に終わっても構いはしない、そう腹をくくった。
- 90 :
- (4)
一番人気のシマは変わっていて、どこか奇妙だった。ほかのシマ同様にひととおりの検査道具はそろっているのだが、ほとんど活用していない。そればかりか、中央の商談/取引テーブルの近くに少女が立っているではないか。
うわの空のままテーブルへ進み、手持ちの二つの大小の袋を大理石の台座に置く。
自分と同じか少し若い――吸い込まれるような美少女がそこに立っている。
なぜか伏目がちにしているな、よし、そのままこっちを向いて見やがれ。
私は少女の顔を覗き込もうと、間近まで寄った。
「君、そんなに近づかないでくれ。そう、一定の距離を保って。まったく、ここははじめてかい? 早く品物をそのテーブルの上に載せて! そうしたらどちらか一方の手をその子の前にだすんだ。おい、聞いてるのか?」
いかにも取引所の人間らしい、制服姿の男がそう注意してきた。上流階級の間ではとうに廃れた、古いかたちのちょびひげをたくわえている。
言葉はろくに入ってこなかったが、言われるままに麻袋を置き、そして少女の前に右手を差し出した。
「新米、よく聞け。本来ならお前みたいなやつは足を踏み入れられないところなんだが……まあいい。その子はヘイウッド家のご令嬢様で、目が不自由な代わりに人の心が読める。
手に残る汗のかき方、流れる脈の動き、皮膚から伝わる神経のほとばしり。それらを総合した結果、ウソはすべて見抜かれるから覚悟しておけ。安っぽい混ぜ物なんて持ち込んだ日には、たちどころにな。何度もいうがお前みたいなやつは名門ヘイウッド家の……」
ちょびひげ男の講釈が続いたが、その間私の頭の中はひとつの事で埋め尽くされていた。
目が見えない? いつから? こんな端正な顔立ちの子なのに? きっと俺みたいに悪い事は何ひとつしていないだろう、それなのに?
- 91 :
- (5)
ひとつ分かったことがある、このシマの人気の秘密だ。彼女が認めた人間と商品には高額の対価が支払わる。一方で彼女がまがい物と判断したときには、よそのシマでも一切取引に応じてくれなくなる。絶大な信頼感と、それに見合うハイリターンが魅力だったのだ。
私の前の客は彼女に見破られていた。彼女が動きを止め首を横に振った瞬間に取引はご破算になっていた。
私の右手を小さな細い指がたどってくる。汚らしい男どもが逆上などして力を入れたらいっぺんにへし折られそうな、しなやかで細い指だった。
彼女の動きが止まった。私の心臓が、彼女の両の手に直接握られているようだった。
彼女がこのまま首を横に振ったら、きっと気を失ってしまうだろう。
自分の持ってきた砂金を改めてみやる。もうその頃には、とうてい金には見えなくなっていた。ただの泥と石ころにしか見えない――私は気が遠くなった。
ひげ男の背後から、すっともう一人の男が現れた。黒のベルベットのコートに、宝石をあしらったカフスボタン。深々と被ったシルクの帽子がその高い身分を象徴している。
「どうだい、サラ。疲れたら休憩してもいいんだよ。なあに、金は逃げやしないさ。上質な金ならね」
彼女の父親とおぼしき男はそういった。おそらく皮肉が混じっていたのだろうが、私は一切気が付かなかった。そんな余裕などなかった。彼が示したとおり、今すぐ逃げ出したかったのだ。
「お父様、今お戻りになったの? それがね、何か変なの。この方はいつもと違うの、全然違うの」
全然違う、か……万事休す。
「そうかい、お前は何て賢い子なんだ。その前にいるお客様はね、うんと若いんだ。ちょうどサラと同じくらいか、少し年長に見える。君、いくつなんだい?」
紳士が話しかける。私は、18ですと答えた。
「そうか、それならうちの子より少しだけ上だね。そんな子がここに来るなんてとても珍しいことだ。今日は親御さんのお使いかい?」
私は口ごもった。このみすぼらしいまがい物を前にして、顔から火が出そうだった。同じフェイクにしてももっとましなものをよこせと、二つの袋を渡した男と自分の運命を呪った。
- 92 :
- (6)
「ちょっと、自分の袋を持ってみてくれる?」
少女が話しかけた。顔の角度はさっきと変わらず下向きのままだ。きっと私の顔の位置が分からないのだろう。
私は言われた通り、持ち込んだ大きな方の袋を左手につかんだ。しばらくして、小さい方の袋を持つ。それを何度か交互に繰り返した。
脇の下のびっしょりとした汗を見るだけでも、簡単に私のたくらむウソは見抜かれると思った。
「今持っている、小さい袋の方は大丈夫だわ。大きい方の袋は……"見なかったことに"しておくわ」
娘の小粋な冗談に、取引所の主役である父親は苦笑いした。
「よし、商談成立だ。この小さい袋の砂金はすべて買い取らせてもらおう。ちょっとしたひと財産になるかもな、君」
そう紳士が発すると、制服の男は苦々しい表情でこちらを見下ろす。
私は軽くお辞儀をして二十枚ほどの高額紙幣を受け取ると、その場をすぐに立ち去ろうとした。
すると後ろから呼び止められた。心臓が止まりかけるのは、本日何度目だろう。
「ああ、君。この大きな袋の方は持って帰ってくれないか。それと、ひとつお願い事があるのだが……」
私は外に出て薄汚れた路地裏の空気を吸った途端、ようやく頭が晴れていくのを感じた。本来、混ぜ物というからには、あの二つの袋の中身を混ぜなければいけなかったのだ。
粗悪品によってカサを増し、その分の紙幣をだまし取るのだ。
しかし、どうにも粗悪品の粗さが際立った。もし一緒にしてしまっていたら、すべての買い取りを拒否されたことだろう。
ワインの樽に、一滴の泥水を入れてもばれないと考えるのだろうが、今回は泥水の樽の中にグラス一杯のワインを注ぐような話なのだ。
マフィアの男は頬の傷をすごませながら、烈火のごとく私を責め立てた。
「馬鹿野郎、たった"twenty"にしかならなかっただと! ちゃんとうまく混ぜたのかお前、こんなんじゃあ、お前の取り分はないぜ。元の砂金分にもなりゃしねえ」
そう言ってすべてのお金を私から取り上げると、せせら笑ってみせた。彼らの狙いは使い物にならないフェイクを渡し、こちらに負い目を感じさせることだった。
そうすれば、すべてを取り上げても文句のひとつも言えない寸法だ。まさか、私が混ぜることにすら気づかなかった間抜けとは、彼らでも思い巡るまい。
つまるところ、マフィアにとって自分はただの道具のひとつでしかないのだ。使えなければ捨てられる運命なのだ。
- 93 :
- (7)
普段の私なら、男に襲いかかり腕をかみちぎってでも自分の分け前を主張したことだろう。その証拠に、男は警戒心をあらわにしてこちらの様子をうかがっている。私の路地裏での評判を耳にしたことがあるのだ。しかし、私は奴の予想とは異なる行動をした。
群れを追われるライオンのように、その場からよろめきながら逃げ去ったのだ。
後ろから追い打ちをかけるような、今後抵抗する気持ちを芽生えさせないようなスラングが飛んでくる。これは、私の脅威を少なからず感じている証しだろう。弱いものほど何とやら、である。
私が振り返ったら、男はさぞかし驚いたと思う。真夏の氷菓子のように溶けかかった笑みを浮かべていたのだから。
笑みの理由は二つあった。
手渡した二十枚の紙幣を、すべて贋札とすり替えてやったことがひとつ目。路地裏のブラックマーケットの品は、こんな時でも役立つのだ。
もうひとつは、あの紳士に小声で耳打ちされたこと。そこには今の泥沼の生活から抜け出すチャンスが眠っているはずだ。そう考えると、体が火照ってきた。
《君、もしよかったら今度うちに遊びにこないか。うちの娘の友達になって欲しいんだよ。この通り、この子は目が不自由な上になかなか気が強くてね。
同年代の女の子じゃ手を焼いてしまうんだ。ただの話し相手になってくれるだけでも構わない。もちろん、報酬は弾ませてもらおう》
- 94 :
- (8)
ヘイウッド家の屋敷は、広大という表現では手に余った。ゆうに500エーカーは超えると思われるその敷地にはよく手入れされた植林が広がり、使用人専用の邸宅とその子供達向けの公園があり、さらに奥には湖も見えた。
曲がりくねった道を散策し、正門にたどりつくころには、時計の針が一周するほどだった。ドア係の使用人に要件を語ったが、私の身なりから判断したのか中に通されるまでに気の遠くなるような時間を要した。
中に入ってから、あの取引所の数倍も豪勢な屋敷のつくりに圧倒された。しかしそれも束の間で、ほどなくしてあの少女――たしか、サラと呼ばれていた――が姿を現した。数十段はあろうかという、ペルシャじゅうたんを引いた階段を、ゆっくりと歩いてこちらへ向かってくる。
大勢いると思われた使用人は、ひとりも近くにいない。きっとそういう方針なのだろう。彼女は一人で何でもできる――ハンディがあると思うことは間違っている、と。
まったく手すりにつかまらない優雅な所作の端々に、彼女の自尊心すら感じた。
「手を出してくださる?」
第一声がそれだった。私は少しためらったが、素直に応じた。今日はやましいことは何もない。
「あの取引所にいた……男の子でしょ。あの心拍音は今でも覚えているわ。まるでメトロノームの針が振り切れちゃったみたいだったのよ。カチ、カチって音が心臓から聞こえてきちゃいそうなぐらい。お父様に呼ばれたのかしら?」
まじまじと彼女の顔を見つめる。今日は、私の方へ顔を向けてくれた。その少しとがったあごの輪郭も、あらためて見るとやはり美しかった。心の戸惑いを手の平を通じて読み取られてしまいそうだった。私はすっと手を引いた。
サラは、気にも留めない様子で話を続けた。
「これまでお父様が連れてくるのは、いつも女の子ばっかりでいやんなっちゃう。私ぐらいの歳の子なんて、みんなお人形さん遊びにしか興味がないのよ。笑っちゃうでしょ、私は何も見えやしないのによ。どうかしてるわ。
そんなことより私は冒険がしたいの。心躍る冒険が。もちろん、山に登りたいとかそんなんじゃないわ。心を通わせ一緒に興奮できる、そんなスリルを味わってみたいの。お話だけなら、どこにでも自由に行けるでしょ」
それなら自分は適任だ――そう思った。
この世の裏の部分も含めて、酸いも甘いも教えてあげることができる。
でも、いささか刺激が強すぎやしないだろうか?
「ようし、甘やかされて育ったお嬢さん聞いて驚くな、俺の生まれは……」
- 95 :
- (9)
そこからきらめくような日々が、回転木馬のように流れていった。見慣れた街並みでさえ、品薄が半年先まで続く人気の絵の具"ファーバー・カステル"で彩られたように見えた。
自分の心ひとつで世界の見え方は一変する。カラフルでダイナミックな世界がそこにあった。私は夢中になって、彼女に自分に見えている世界を説明した。
町一番の人気ベーカリー"ココ・ロッソ"で食事を取り、貿易船でごった返す運河で潮の匂いを大きく吸い込んだ。
パレードが行われている大通りに出向いてはその喧騒を感じ、赤鼻のピエロから頂戴した白い風船をサラに持たせた。同じく白いレースの服によく似合っていた。
彼女は好奇心の塊だった。
「ねえ、私ジパングと呼ばれる国に行ってみたい。黄金の国って呼ばれてるの。もし行けたのなら、あなたの言葉で世界を教えてくれる? うんと丁寧に」
「ああいいよ。お安い御用さ、お嬢さん」
「きっとよ、約束ね」
「ああ、約束だ」
やがて数か月が過ぎる頃、心地よい草原が広がる巨木の下で、お互いにはじめての体験もした。すべてが新鮮な驚きに満ち溢れ、この世界が幸福で充満している、そう思えた。
そんな私の耳に不穏なうわさが流れ伝わってきた。
《誰かがギルティの幹部に贋札をつかませたらしいぜ、メンツ丸つぶれだなそりゃ》
《今は復讐のタイミングを謀ってるらしい、そいつはきっと魚の餌になっちまうな》
有頂天だった私に、そのゴシップは冷や水を浴びせかけた。それでもこの生活を捨てる気は毛頭ない。父親から十分すぎるほどの額をもらっているのだ。
危険が迫っているにも関わらず、金欲という小さな種が私の中で確実に萌芽しはじめていた。
「なあ、サラ。俺を男にしちゃくれないか」
そんな言葉が口をついた。彼女は、草原の上で甘い声で反応した。
「どういうこと? もう十分に立派な男性じゃない」
大人の女性が言うようなジョークに、私も気をよくした。
「取引所の隣に、さらに大きな建物ができたっていうじゃないか。俺、あそこで一勝負してみたいんだ」
彼女は眉をひそめたが、私の情熱にほだされて説得に応じた。そもそも冒険したいと言いはじめたのは、彼女の方なのだ。
- 96 :
- (10)
屋根に巨大な釣鐘をしつらえたその教会のような建物は、二人を招き入れるように吸い寄せた。中では大勢の人がひしめきあい、大声で何事かをがなりあっていた。
ローマ闘技場をほうふつとさせる、その勢いある掛け声は"Bid!"と"Ask!"と聞こえた。
隣の取引所で交換された金が加工されてのべ棒になる。ここでは、その現物を取引しているのだ。仲買人や地元の名士、さらには観光客までが金を物色する姿が見られた。
皆一様に掛け声とともに、走り書きをしたメモを立会人と呼ばれる者に渡す。
黒板に書かれた数字が手早く何度も書き直され、金の価格が吊り上っていく。
かと思えば一気に書き換えられ、そこには無残な数字が転がっている。悲鳴と感嘆が混ざり合い、絶妙な交響曲に聞こえてくる。
「サラ、ここにいる全員と握手することはできるかい?」戦いの幕が切って落とされた。
思ったよりも簡単にことは運んだ。彼女は場内をよろめきながら、手洗い所を探してるかのように彷徨った。何人もの手が差し伸べられ、中にはうかつにも注文内容を書き記したメモを、彼女の手の中に忘れてしまう者もいる始末だった。
「どうだい、子猫ちゃん。市場の空気は、買いなのかい、それとも売りなのかい」耳元でささやく。
長い沈黙が流れ、彼女が思考を織り上げていく。
「待って、ひとり大きな決断を抱えている人がいたわ。手の平が冷たい汗でびっしょりだったもの。まるで鉄の塊を持ち続けていたような、冷たい手……きっとその人の動き次第で市場が左右されるわ」
彼女の声は耳に入ってこなかった。遠くに見覚えのある男の姿が見えるのだ。
《あいつだ、ギルティのあの野郎だ、まずいな、こっちを見てる》
蛇が獲物を狙うような目で、私をねぶりつけている。贋札の件を根に持っているのは間違いない。だがどうする? ここから逃げ出したとしてもいずれはやつらに捕まっちまう。
こんなちっぽけな国にいるのでは、遅かれ早かれ末路は変わらないのだ。
ここで一勝負して、広大な世界へ逃げ切るしかない――そう判断した。彼女にもそんな思いが伝わったようだった。強く私の手を握り返してきた。
「買い、よ」
「よし、分かった。金額は? どうする、手持ちがあるかい」
「大丈夫。私を誰の娘だと思ってるの? この取引ももちろん経験があるわ。5000枚、成買って書いてちょうだい」毅然とした王女のような口調だった。
私は耳を疑った。単位についてはよく分からないが、それが途方もない金額であることは確かだった。先ほど手の中に残っていた他人のメモには、人生のすべてである全財産を賭ける――100枚、と書いてあったからだ。
- 97 :
- 読んだ!
もう読んだ!
続きまだ?
>自分の心ひとつで世界の見え方は一変する
このセリフ気に入った!俺の座右銘にするわ
で、まだ?
- 98 :
- >自分の心ひとつで世界の見え方は一変する
ふふーん、ジョジョぽくってやっぱいいなこのいセリフ
- 99 :
- (11)
地獄への片道切符が手渡された。私たちの注文で一気に値が跳ね上がり、市場が高騰した。一気呵成の援軍も現れたかに見えた。私たちは手を取り合って値動きを注視し、喜び合った。しかし、三十分を過ぎたあたりで状況が一変する。
マフィアの男が立ち会い人にすり寄ったかと思うと、黒板の数字が大きく書き換えられた。桁を間違えたかと思うほどの数字がそこに書き込まれた。落胆の溜息があちこちから漏れ、急速に価格を押し下げていく。
みるみるうちに、私たちの買値まで下がり……そこを一気に下に突き破った。
「まずい、サラ。ここに敵が混じっているんだ。これ以上はいつもの予想どおりにはいかないよ。それに……」
その思いつきが口をついたとき、私はぎくりとした。冷たい手……その男の手には何が握られていたのだろう。おそらくは黒い鉄の塊、すなわち私をRための拳銃ではないのか。
「すまない、さっきの手が冷たい奴がいた方向を教えてくれないか」私は動揺を隠せなかった。
彼女がゆっくりと指し示した先はマフィアの少し横で、そこには不敵な笑みを浮かべるメキシコ人が突っ立っていた。テンガロンハットをかぶり、落ちくぼんだ目を不自然に隠している。観光客に見えなくもないが、おそらく……私を狙った殺し屋だろう。
マフィアはいつでも入念で、汚いことを平気で行う。自分たちの手を汚すことなく、目的を達成することができるのだ。それに弱者はいつも翻弄され、食い物にされちまう。
妄想に駆られる私に、サラが声をかける。
「大丈夫、私を信じて……必ず上がるはずだから……必ず、お願い……」彼女の口調の変化から、自信を失っているのは明らかだった。
市場の終了時刻が迫る。あと五分で十五時を迎え、今日の取引が終了する。もしそこで反対売買による決済ができなければ、現金を差し入れなければならない。当然持ち合わせがあるわけではないので、彼女の父親にばれてしまうだろう。
そのことはすなわち、二人の終焉を意味していた。
四分……三分……二……一
ゆっくりと、メキシコ人の男が近づいてきた。こちらの死期が近づいているのを見抜いているのだろう。男が死神に見えてきた。テンガロンハットの死神か、そいつはおあつらえ向きだな……そう自嘲気味につぶやいた。
男は私たちの直前でくるりと向きを変えると、立ち合い人の元へ向かいメモを手渡した。メモを読み上げる男の口が上ずってしまい、ほとんど聞き取れないほどだった。
「こ……ここに出ているもの……す、すべて……か、買いでっ!」
どっと歓声が沸き起こった。よどみを突き破る土石流のような歓声で、足を鳴らす者たちで地鳴りが起きるほどだった。
「た、助かった……」
全身の力が抜けたようになり、へなへなとその場に座り込んでしまった。
メキシコ男が、近寄ってきた。たどたどしい英語で話しかけてくる。
「こんなに安く金が買えるなんて驚きだよ。君たちが値を吊り上げた時には、もう帰ろうかと思ったんだがね。待っててよかったよ。国に帰ったらおそらくこの三倍の値段でさばけると思う。君たちもたんまりと儲けたんだろう。グッドラック」
屈託のない笑顔で、そう言った。チャンピオンベルトのように大きな金属製のバックルをやたらと気にしながら。きっとメキシコではボクシングをモチーフにしたファッションが流行しているのだろう。
すると遠方でマフィアの男が、別の男たちに両側から抱えられていく姿が見えた。理由はどうあれ、組織に甚大な損害を与えたのだ。おそらくはただでは済むまい。
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