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2012年2月レズ・百合萌え98: 【ガスト】アトリエシリーズで百合 3 (111)
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【ガスト】アトリエシリーズで百合 3
- 1 :11/12/26 〜 最終レス :12/02/08
- アトリエシリーズ全般で百合であればおk
語ってもよし、SS投下どんとこい!
まとめサイト
https://sites.google.com/site/atelieryurisure/home
前スレ
【ガスト】アトリエシリーズで百合 2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1311145951/
- 2 :
- ssって容量食うのね
なんにせよ乙です
- 3 :
- スレ立て乙
- 4 :
- SS投下します。
内容としてはトトミミなんだけど、実際に絡んでいるのはトトリ&ケイナ。
- 5 :
- はしたなくないよう控えめに、中の人に聞こえるようしっかりと。ケイナはアトリエのドアを、規則正しくノックした。
そのまましばらく待つ。返事は……ない。
現在メルルは町の外へお出かけ中。アトリエにはトトリが残っているはずだが、今は誰もいないようだ。
「失礼します。お部屋の掃除に来ました」
しかし一応の礼儀として、声をかけて中に入る。メルルがいない時でも、ケイナは定期的にアトリエの掃除に来ていた。アトリエが留守の時でも中に入っていいと、家主であるトトリの許可はあらかじめ得てある。
のだが、
「ひゃあっ!?」
「きゃっ!?」
アトリエに入った途端、素っ頓狂な声が響き、ケイナは小さな悲鳴を上げる。
「あ……ケ、ケイナちゃん?」
そこにいたのは、ソファに腰掛けていたトトリだった。
「トトリ様……ご在宅だったのですね。失礼しました」
「ううん、こっちこそ。驚かせてごめん」
ケイナがノックを忘れるような子ではないと分かっているので、トトリは自分に非があると素直に謝った。
「あの……ケイナちゃん」
「何でしょう?」
「……見た?」
「え?」
トトリは『何か』を後ろ手に隠しながら、ケイナの様子をうかがっている。
「何のことでしょうか?」
とぼけているのではなく、ケイナには本当に何のことなのか分からなかった。
「いや、その、何でもないよ! 見てないならそれでいいから」
「はあ……あの、何だかお顔が赤いようですが、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫大丈夫! 全然いつも通りだから! さてっ、お仕事再開しないと――」
その時、勢いよく立ち上がった拍子に、トトリが隠し持っていた『何か』が床に落ちた。
「……マント?」
ふわりと床に広がったのは、黒色基調のマントだった。
「わああっ、違うの! 何でもないの! ミミちゃんのお古のマントの匂いかいだりなんてしてないからーっ!」
「え」
「あ」
盛大な自爆をしたことに気付いたトトリは、さっきから赤くしていた顔をさらに真っ赤にする。
「それ、ミミ様の――」
「ち、違うの! これはそんな、そういうんじゃなくてね、アールズに出発する時ミミちゃんが道中冷えないようにってくれたのでね! だからそんな、そういう目的で持ってたんじゃなくてね! つい出来心というか、色々ガマンできなかったっていうか――」
「あの、ちょっと、落ち着いてくださいトトリ様」
「あうぅぅ……まさかケイナちゃんに見られるなんて〜」
「見てませんから。全部ご自分でばらしてますよ」
「でもっ、でもね! それもこれも全部ミミちゃんが悪いんだよ!」
「は、はあ……」
- 6 :
- 「私、ミミちゃんがアーランドから追いかけてきてくれるのずっと待ってたのに、半年も待たせるし、来たら来たで相変わらず素直になってくれないし!
その上最近は何だかメルルちゃんとばっかり仲良くしてる気がするし! 二人で内緒話とかしてるっぽいし!」
「あの、トトリ様……?」
「大体ミミちゃんは昔っからああなの! 私はずっとミミちゃんのこと思ってるのに、いつまで経ってもツンツンツンツンして、そこが可愛いとこでもあるんだけど、もう出会ってから何年も経つんだから、もっとこう――」
その後、数十分ほど、トトリから愚痴とものろけともつかないミミちゃんトークを聞かされ続けるケイナだった。
「えーと……ごめん。何か熱くなっちゃって」
「いえ、お気になさらず」
ひとしきりミミへの不満をぶちまけてすっきりしたトトリは、ようやく平常心に戻ってケイナに謝っていた。
「あの、ケイナちゃん。さっきのこと、ミミちゃんとメルルちゃんには――」
「内緒ですね。承知しました」
一切含みなくケイナがうなずくと、トトリはホッと胸をなで下ろした。
「でも、そんなに恥ずかしがることでもないと思いますけど」
「そ、そうかな?」
「ええ。メルルもたまに私の匂いかぎたがったりしますし」
もっともメルルの場合は衣類の残り香などとまどろっこしいことは言わず、ケイナ本人にソフトなタックルをかました後ダイレクトにくんかくんかしてくるが。
「うーん……でも、やっぱりミミちゃんに知られるのは、ちょっと……怒られちゃいそうだし」
「そうですか……むしろ喜びそうですけど」
「え?」
「いえ、何でも。それでは、アトリエのお掃除を始めますね」
「あ、邪魔しちゃってごめんね。私も手伝うよ」
「いえ、トトリ様はお仕事もあるでしょうから。こちらは私にお任せ下さい」
「そう? ……それじゃあ、お願いね」
仕事を再開するトトリの邪魔にならないよう、ケイナは掃除を始める。
(それにしても……)
トトリは先ほどの周章狼狽ぶりを微塵も感じさせず、調合に集中している。その後ろ姿を見ながら、ケイナは小さくため息をついた。
(素直になれないミミ様もミミ様ですけど、こちらはこちらで何と言いますか……)
「? ……ケイナちゃん、どうかした?」
「いえ、何でも。そうして調合をしていらっしゃる姿は、とても凛々しいと思いまして」
「え、そうかな? えへへ……ありがと」
照れるトトリに微笑み返しながら、不器用な二人の行く末を案じるケイナだった。
ちなみに後日、ミミがトトリのお古のリボン(アーランド時代、腰に付けてたやつ)を持っているのをメルルが目撃したとかしないとか。
おわり
- 7 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
タイミング悪くて災難なケイナだけど、あと一分遅ければ始まっていたので実は危機一髪だったというお話。
(何がとはあえて言わない)
設定資料集に、トトリはケイナにもっと打ち解けてもらいたいと思っている、とあったのがちょっと嬉しかった。
この二人の組み合わせは結構好きなのでまた機会があったら書きたい。
- 8 :
- 連投になって申し訳ないですが、SS投下します。
トトリエ時代のロロクー&トトミミ。そろそろトトミミ分が不足してきてやばい。
- 9 :
- 昼下がりのアーランド城門前。トトリとミミの二人が、冒険から帰ってきた。
「ふー、着いた。ミミちゃん、お疲れ様。助かったよ」
「これぐらい何でもないわよ」
いつも冒険に出るときはトトリも含めて三人ほどで挑むのだが、今回は近場で素材を採取するだけで、最初に護衛を頼んだミミが「それくらいなら私と二人きり――じゃなくて、私一人いれば護衛は十分でしょ」と言い、それならばと二人だけで冒険に出ていた。
事実、二人だけでも全く問題はなかった。冒険の最中、時折ミミが何か言いたげ(したげ?)にモジモジしていたが、トトリは全然まったく微塵も気付かなかった。
「ミミちゃん、この後何か予定ある?」
「別に無いけど」
「そう。それじゃあ、よかったらアトリエでお茶にしない?」
「え……!」
不意のお誘いに戸惑うミミ。たちまち頬が赤くなるが、無論のことそんな動揺をトトリに悟られるわけにはいかず、顔をそらして平静を装う。
「わ、私は、別にいいけど、その……ロロナさんに迷惑じゃないかしら」
「それなら大丈夫だよ。先生『いつでもお友達を連れておいで』って言ってるし」
「そう……それなら、まあ、付き合ってあげないこともないわよ」
「よかった! それじゃあ、行こっか」
「ちょっと、気をつけなさいよ。カゴの中いっぱいでしょうが」
「あ、そうだった」
カゴから溢れそうな素材に気がついたトトリは、慌てて歩調を緩める。
「ったく……ほら、持ってあげるから」
ミミはトトリのカゴを持って、とっとと歩き出す。
「ありがと、ミミちゃん」
「……」
ニッコリ笑ってお礼を言うトトリに、どう返していいか分からず、つい仏頂面になるミミだった。
二人並んで石畳の道をテクテク歩き、間もなくロロナのアトリエにたどり着いた。
「ただいま帰りましたー」
トトリがドアを開けて帰ってきたことを報告する。が、返事はない。
それもそのはず。
「あ……」
「どうしたのよ?」
「ミミちゃん、しー」
口の前に人差し指を立てて「静かに」のジェスチャーをするトトリ。ミミは黙ってアトリエに入り、中の様子をうかがう。
「? …………っ!?」
それを見たミミが、驚き目を丸くする。
静かにしろという意味は、なるほど分かった。ソファに横になって、このアトリエの主であるロロナがお昼寝をしていたのだ。
だがしかし、ミミを驚かせたのはそれよりも――
- 10 :
- (ちょ、ちょっとトトリ! この人達何やってるのよ!?)
(二人でお昼寝してるみたいだね)
(お昼寝って……)
ソファで寝ていたのはロロナだけではなく、もう一人……ギルドの受付嬢であるクーデリアもだった。ロロナがクーデリアをぎゅっと抱きしめるような形で。
(うるさくしちゃ悪いから、場所を変えよっか。イクセルさんのお店でいい?)
(いや、いいけど、それよりその……何であんた、そんな平然としてるのよ?)
(何でって……)
小さい子供ならともかく、妙齢の女性二人(片方は見かけ的に何というかアレだが)が、こんな風に仲睦まじげに眠っている図というのは、ミミにはいささか刺激が強かった。
(先生とクーデリアさんは親友だし、別に変じゃないでしょ。それに先生、たまに私のことも抱っこして寝るし)
「なっ!?」
聞き捨てならないことを聞いたミミが思わず大きな声を上げる。
と、
「ん……ん〜……誰〜……?」
ソファの上で身じろぎしながら、ロロナが声を上げた。
「あ、先生。起こしちゃいました?」
「あ〜トトリちゃんだ〜」
「ん……とっ、わわっ!?」
寝ぼけ眼のロロナが身を起こそうとして、一緒に寝ていたクーデリアが危うく床に落ちそうになったが、ぎりぎり体勢を立て直す。
「あぶな……」
「くーちゃんおはよー」
「おはよう……って、言ってる場合じゃないわよ! ちょっと小休止するつもりだったのにもうこんな時間……!」
「あ、ホントだ」
「だーっもうっ、あんたが一緒にお昼寝しようとか言うから!」
「えへへ……だってくーちゃん抱っこしてると、ものすごくよく寝られるから」
「私はあんたの抱き枕じゃないっつーの! ったくもう、いつまでも子供みたいなんだから……」
「でもクーデリアさんの方だって、先生と一緒に寝ることOKしたんですよね」
「ま、まあ、そりゃあ、一緒に寝るくらい親友として当然っていうか、私とロロナの仲だし、別にそんな気負うようなことでも………………………………ちょっ、あんた達二人、いつから?」
トトリとミミの存在にようやく気付いたクーデリアが、顔を引きつらせながら訊ねる。
「さっき帰ってきたところですけど」
「み、見てた?」
「え?」
「私とロロナが、い、一緒に寝てるの、見てたの!?」
「は、はい。見てましたけど」
「〜〜っっ!」
クーデリアの顔がたちまち茹で蛸のように真っ赤になる。
「だ、だ、誰にも言うんじゃないわよ! いい!?」
「え? あ、はい」
「本当よ! 絶対に口外厳禁だからね! じゃあ、私は仕事に戻るから!」
言うだけ言って、クーデリアは足早にアトリエから去っていった。
- 11 :
- 「……えーと」
「トトリちゃん、おかえり」
「あ、はい。ただいま」
「ミミちゃんも来てたんだ。いらっしゃい」
「お、おじゃましてます……」
ロロナもトトリも平然としているので、一人動揺していたミミも何とか平常心を取り戻そうと努力する。
(ひょっとして、泡食ってる私の方が変なのかしら……友達同士って、一緒に抱っこして寝たりするのが当たり前なの……?)
普通なら「んなこたぁない」とセルフツッコミを入れて終わるところだが、悲しいかなトトリと出会うまで友達らしい友達がいなかったミミは、比較対象を持たないが故に答えを出せなかった。
「それじゃあ、私お茶入れてくるね。先生も一緒にお茶しますよね」
「うん、お願い。戸棚にパイがあるから、それも出して。三人で食べよ」
「はーい」
トトリはいそいそとお茶の支度を始める。手持ち無沙汰なミミは、何気なくロロナの方を伺おうとして、バッチリ目があってしまった。
「ミミちゃん、どうかした?」
「あ……いえ、その……ロロナさん、さっきみたいなことって」
「さっきって?」
「だからその……クーデリアさんと、一緒に寝る、みたいなこと……いつもしてるんですか?」
「うん。割と」
「割とって……」
「私、結構どこでも寝られる方なんだけど、やっぱりくーちゃんと一緒なのが一番寝心地いいんだよね」
「そ、そうですか……」
「あ、でも、トトリちゃんを抱っこして寝るのも気持ち良いんだよ」
「!!」
その問題発言にミミの顔色が変わるが、ロロナは気付かず話を進める。
「最初のうちは恥ずかしがってたけど、最近は慣れてくれて、トトリちゃんがお休みしてるときは私も一緒にお休みすることも多いんだ」
「……」
もしも今のミミが何か効果音を背負うとしたら、間違いなく『ゴゴゴゴゴゴゴ……』という文字が浮かんでいただろう。つまりはまあ、そんな不穏なオーラを放っていた。
が、ロロナは気付いているのかいないのか。全く調子を乱さず話を続ける。
「くーちゃんはこう、あったかくてぷにぷにしてるんだけど、トトリちゃんはふわふわすべすべしてて肌触りが最高なんだよね」
「へー……そう、なんですか……」
淡々と頷くミミだが、その目の光がどことなく虚ろなのは気のせいだろうか。
「…………ミミちゃん、ひょっとして怒ってる?」
「っ!」
不意に、ロロナがミミの心情をズバリ突いてきた。
「な、何のことですか?」
「私がトトリちゃんを抱っこして寝てたこと、怒ってる? って聞いてるの」
「……何で私がそんなことで怒らなきゃいけないんですか」
「さー、何でだろうね?」
ロロナはにんまり笑みを浮かべている。その笑顔が、ミミには何もかも見透かされているようで居心地が悪い。
- 12 :
- 「じゃあ、今度ミミちゃんも、トトリちゃんにお願いしてみたらいいよ」
「はいっ!?」
唐突な話の展開に、ミミが素っ頓狂な声を上げる。
「な、何をですか!?」
「だから、一緒に寝ようって。トトリちゃんに」
「なっ、そっ、そんな、恥ずかしいこと、言えるわけ――」
「お待たせー」
トトリが三人分のお茶と切り分けたパイをお盆に乗せてやってきた。
「先生、さっきから何の話してるんですか?」
「ミミちゃんに、トトリちゃんと一緒に寝てみたらって言ってたの」
「ちょっ……ちがっ……」
ミミは慌てて弁解しようとするが、言葉がつっかえてしまう。
「え。ミミちゃん、私と一緒に寝たいの?」
「いやっ、それは、その……あの……」
「ミミちゃんがしたいなら……私は、いつでもいいけど」
「――っ!」
少し恥ずかしそうに、うつむき加減でそんなことを言われたミミは、
「わ、私ちょっと急用思い出したからっ! 失礼します!」
顔を真っ赤にしながら慌ただしくアトリエを出ていった。
「ミミちゃん……どうしたんだろ?」
「うーん……なんて言うか、本人の方にも乗り越えるハードルが多いみたいだね……」
「え?」
「ううん、何でもないよ。それよりお茶にしよっか」
「はい。一人分多くなっちゃいましたけど」
「じゃあ余ったのは私が食べるね」
トトリと二人でお茶を楽しみながら、心の中で、先達としてミミへの声援を送るロロナだった。
おわり
- 13 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
前スレに引き続きロロクー強化月間……のつもりだったけど今回はだいぶトトミミに偏ってしまった。
- 14 :
- GJ
年末にいいものが読めました
- 15 :
- ああ、よかった人がいた。
またしても連投気味にSS投下します。
今回はロロリエ時代のロロクー……なんだけど直接の絡みは薄いです。
- 16 :
- アーランドの職人通りを、クーデリアは歩いていた。その足が向かう先は、ここ最近ご無沙汰だったロロナのアトリエである。
(ロロナってば、忙しいのは分かるけど、ここんところくに顔も見せないんだから……たまにはひとこと言ってやんないと)
頭の中ではそんなことを思いながら、アトリエに向かう足取りは妙に軽い。久々にロロナに会えると思うと、体の方は正直になってしまうのだろう。
武器屋の前を過ぎ、ようやく目的地に到着。扉の前で何となく深呼吸をし、気合いを入れてクーデリアはアトリエに入った。
「ロロナー、ひさしぶ――」
「ではマスター、ホムは採取に行ってきます。可能な限りスケジュールを詰めなければ厳しい状況ですので、呼び戻すタイミングを誤らぬようお願いします」
「うぅ、苦労かけてごめんね……いってらっしゃい」
ドアの前に立つクーデリアの横を、少女型のホムンクルス――ホムがいつになく急いで出ていった。それを見送ったロロナは、アトリエの中で軽く項垂れている。
「ちょっとロロナ。何があったのよ?」
「あれ? くーちゃん、いつの間に」
「さっきからいたわよ」
先ほどアトリエを飛び出していったホムは、クーデリアがここに立っていることにも気付かなかったようだ。
「それがその……うっかり仕事受けすぎちゃって……最初のうちは何とかなるかなー、って思ってたけど、段々スケジュールがカツカツになってきて……」
今に至る、と。涙目なロロナに、クーデリアは呆れてため息をつく。
「全くあんたは……無理なら断ればいいじゃない」
「それは何か悪いし、最近ちょっと金欠気味ってのもあって……とにかく頑張ろうってことになって」
「ふぅん……」
それなら私が手伝ってあげても――と、クーデリアは言おうとしたのだが、
「それに、今はホムちゃんがいてくれるから。すっごく頼りになるからね」
「……」
続いたロロナの一言に、たちまち不機嫌オーラが吹き出してきた。
「ふーん、そう……そんなに頼りにしてるんだ」
「うん! ホムちゃんがいてくれるおかげで、とっても助かってるから」
「どうなのかしらねぇ……作ったのがあのアストリッドでしょ」
「う……確かに、師匠はちょっとぐーたら気味なところもあったりするかもだけど、ホムちゃんは本当に働きものなんだよ」
「…………」
ロロナがホムをフォローすればするほど、クーデリアの方はだんだんと不愉快な気分になってくる。
「採取でも調合でも頼りになるし、今じゃホムちゃん無しのアトリエなんて考えられないからね!」
そしてクーデリアの沸点は身長に比例――なんてことはないんだけど、低い。
「ああそう! 分かったわよ! そんなにホムが頼りになるんなら、あんた達だけでよろしくやってればいいでしょ!」
「え? え? くーちゃん?」
怒鳴り散らすや、クーデリアは呼び止める間もなくアトリエから出て行った。
「くーちゃん……何で怒るの……?」
- 17 :
-
「ったく……何よ。人がせっかく会いに行ったっていうのに……」
勢いでアトリエを飛び出したクーデリアは、ぶつぶつと不満をこぼしながら街を歩いていた。
「そもそもいの一番にロロナの力になってあげてたのは私だってのに、ホムンクルスなんかやたらと持ち上げたりして……最近はろくに街の外にも連れて行かないし。これじゃ私がいらないみ、た……い……」
自分で言っている内容を反芻して、クーデリアは黙り込んでしまう。
確かに、アトリエを任されたロロナにとって、当初、確実に頼りになる人間といえばクーデリアぐらいのものだった。
それが今ではどうだろう。
アトリエの外では、何人もの有能な人物がロロナに力を貸しているし、地道な努力が実を結んで街の人達からの信頼も得ている。
アトリエの中では、師匠のアストリッドが相変わらずなのは良いとして(良くない)、これまた有能なホムンクルスが助手に就いている。
クーデリアはあくまで客観的に、今の自分がロロナにとってどれだけ役に立っているかを考える。
錬金術の知識や技術に関して自分が力になれることは無い。
護衛としてはそこそこ役に立ってはいるはずだ。銃の扱いには自信があるし、最近は体力もついてきてそこいらにいる並のモンスターなら楽勝できる。
だがしかし、ステルクやジオといった本格的な戦闘技術を学んだ人間に比べれば確実に弱い。その他のメンツと比べても、せいぜいトントンといったところだ。
総合して考えるに……
(……私、ひょっとしてロロナから本当にいらない子扱いされつつある?)
クーデリアの顔から血の気が引いた。
(いや、でもまさかそんな……!)
確かにここ最近は採取にも誘ってくれないし、依頼だって顔を合わせた時に余裕があれば引き受けてくれる、といった感じだった。
「こ、このままじゃいけない……何とか……何とかしないと……」
焦燥感にかられたクーデリアは、歩調を早めながら考えに没頭する。如何にしてロロナから頼られる自分に立ち戻るかを。
「またエスティの所でロロナ宛ての依頼を出しておくとか……でもあれは匿名だし、あんまり多すぎても怪しまれるだろうし……うーん……こうなったら今からでも本格的な戦いの訓練を受けるとか……でもそんなことすると会える時間がものすごく減るだろうし……
いっそ思い切って私も錬金術の勉強を――ってダメだわ。この街だとロロナ以外で錬金術ができるのはあの女しかいないし、引き受けてくれるわけがないし私もあれを先生にするの嫌だし……」
小声でぶつぶつ呟きながら、クーデリアの足はふらふらと彷徨い、いつの間にか広場も大通りも抜けて、城門の前まで来てしまっていた。
「……何やってんだろ私……」
誰もいない城門前でしばし立ちつくしてから、クーデリアはため息をついた。
「今日はもう帰ろうかな……」
踵を返そうとしたその時、クーデリアの頭に一つ閃きが走った。
「……」
視線を城門の外へ向ける。いつもならロロナ達と一緒にくぐる門の、その先へ。
- 18 :
-
アーランド国有鉱山。坑道の中、灯火が作る陰影を縫うように、ホムは足早に歩いていた。
要所要所で素材を採取し、脇目もふらず次のポイントへ向かう。
時折モンスターの姿を確認すると、素早く身を隠してやり過ごすか、隙を突いて通り過ぎる。採取が目的なのだから、無駄な戦闘など一切しない。
ゴーストの群れを眼前にやり過ごし、ホムは小さく息をついた。付近に他のモンスターの気配が無いことを確認すると、素早く採取ポイントに取り付く。
(鉱石の量はこれだけあれば十分……フロジストンと燃える土は、出来ればもっと高品質なのが欲しいですが……)
可能な限り量と質とを揃えたいのは当たり前だが、今は時間も惜しい。その配分が難しいところだ。
極力モンスターとの接触を避けながら、ホムは鉱山の奥に急いだ。
ふと、進行方向から何かが聞こえた。ホムは足を止め、耳を澄ませる。
(鳴き声……おそらくドナーン)
かなりの数がこの先にいるようだ。ホムは坑道の作りを思い浮かべながら、迂回を検討する。
その時である。
(……銃声?)
発砲の火薬音が、坑道の中に響いた。それに続くようにドナーンの鳴き声がさらに増える。
(誰かが戦闘をしている……しかし)
発砲音は断続的で撃っているのはおそらく一人。人が発しているであろう音はそれしかない。つまり。
「……一人」
誰かが孤軍でモンスターの群れを相手にしている。ホムは推測を付けると同時に走り出していた。
走っている最中も、銃声は続いている。反響する轟音に、ホムは思考を巡らせる。
(二連装の小型拳銃……発射間隔からして二丁……装填も手慣れている……しかしそれにしても一体多数というのは無茶)
前方にモンスターの影を確認したホムは、素早く呼吸を整えると同時に、護身用のアイテムを手に取った。
岩陰に身を隠したクーデリアは、素早く残弾を確認する。余裕が無いわけではないが、牽制や脅しに無駄弾を使えるほど潤沢でもない。
すぐ近くでドナーンの咆吼が聞こえる。既に三匹は倒していた。
音が立たないように空薬莢を捨てたクーデリアは、二丁のデリンジャーに新たな弾丸、計四発を込める。岩陰から僅かに身を乗り出して敵の姿を見る。
すぐ正面に一匹。向かって右に離れて一匹。
(……ここから正面のに二発浴びせて、飛び出して右のに二発、か)
普段ならあの程度のモンスター、苦戦することもない。たとえ一人であったとしても、問題ない。最初はそう過信していた。
だが、孤軍でモンスターの群れと対峙することが、どれほどプレッシャーになるのか、クーデリアはすぐに思い知らされた。
本来補い合うべき仲間がいないことが、どれだけ緊迫した状況を生むか。一体多数という戦闘がどれだけ危険なものか。
それを悟ったクーデリアは、即座に戦法を切り替えていた。正面から対峙することは避け、さながら暗者のように身を隠し、敵の隙を突いて撃ち、また隠れる。その繰り返しで敵の群れを駆逐していた。
深呼吸を一つ。二つ。
敵を撃つという、その一点に向かって、思考が研ぎ澄まされる。
氷のように静かに、心気が張りつめていく感覚。これは皆と一緒に戦っている時には味わえなかったものだ。クーデリアの口端に、乾いた笑みが湧いていた。
構える。
引き金を、
「っ……!」
引いた。二発の弾丸は過たず正面のドナーンの頭部に吸い込まれた。
(次っ!)
飛び出すと同時に発砲。右方にいたドナーンへ。一発は頭、一発は心臓部へ、見事に入った。
二匹のドナーンは、ほぼ同時に地へ伏した。
- 19 :
- 「ふう……」
銃口を下ろし、息をつく。周囲に敵の姿は見えない。
こちらの損傷はゼロ。それで敵を全滅できたのだから、上々だ。クーデリアは満足げに微笑みながら、デリンジャーの薬莢を落とし、薬室の状態を確認する。
「伏せてください」
「え?」
不意に聞こえた声に驚いた次の瞬間、小さな物体がクーデリアの頭上高くに放り投げられ、さらに次の瞬間、上方からクーデリアを狙っていたゴーストが作動したレヘルンによって凍りついていた。
クーデリアは一拍置いて、自分が油断し、危機にあったということ。それを誰かに助けられたということを理解した。
「お怪我はありませんか」
「あ、あんた……何でここに?」
現れたホムに、クーデリアが訊ねる。
「ホムはマスターの指示で錬金術の素材を採取しに来ました」
いつも通りの無表情で淡々と答えたホムは、反対にクーデリアに問う。
「あなたはここへ何をしにきたのですか? ただの散策にはいささか不向きな場所と思われます」
「う……」
クーデリアは気まずそうに目をそらす。
「何か言えないような事情でもあるのですか?」
「……別にそんな大したことじゃないわよ。ただ、その……退屈でしょうがなかったし、ロロナが何か忙しいみたいだし、ちょっと、錬金術の素材でも取ってきてあげようかと思って……」
「一人で、ですか?」
「そうよ」
「何故そのような無茶を」
「それは、その……一人でも何とかなると思って。あんただって、一人で来てるわけでしょ?」
「ホムは戦闘を極力避けます。万一のために十分な護身用のアイテムも持っています。あなたがしていることは無謀です」
「なっ……見くびらないでよ! ここのモンスターぐらいなら、一人だって平気よ! さっき証明――」
できてはいないことに気付いて、クーデリアの声が尻つぼみに小さくなる。先ほど一匹潜んでいるのに気付かず、油断していたのは事実である。
「……」
への字口になって黙り込むクーデリア。ホムはしばらくその様子を見つめてから、口を開いた。
「……失礼しました。そもそもホムがあなたの自由意思に関わる筋合いはありません」
「わ……分かったならいいのよ」
「しかしマスターの親友を危険な場所へ置き去りにしたなどということがあっては、マスターに顔向けできませんし、万一のことがあってはホムンクルスの名折れです」
「……何が言いたいわけ?」
「あなたに同行します。幸いにもお互いマスターのための素材集めということで、目的も共通です」
「なっ……頼んでないわよこっちは!」
「私も頼まれてはいませんので、断られても勝手について行かせてもらいます」
「〜っ」
暖簾に腕押しというか、何をどう言ってものらりくらりとかわされそうである。クーデリアはどうにもやりにくい感じに歯がみした。
「では、行きましょう。先導は――」
「私が行くわよ!」
怒鳴るように言い放つや、クーデリアはのっしのっしと歩き出した。
ホムは相変わらず無表情のまま、その後ろを歩いていく。
- 20 :
- お互い良い迷惑な流れだが、ホム単独での採取作業はクーデリアと二人での探索に変更となった。
ふくれっ面でスタスタ歩いていくクーデリアだが、一応目的である素材集めを忘れてはいない。採取できるポイントできちんと足を止める。そしてホムと二人、素材を拾い集める。
クーデリアが集めた分の素材を確認したホムは、数こそ少ないがなかなか良質なものが揃っているのに感心する。
「……どうかしたの?」
「あなたは、マスターのことが本当に好きなのですね」
「んなっ……!」
どストレートに思ったことを言うホム。クーデリアの顔がたちまち赤くなる。
「いきなり何言い出すのよ!」
「好きでもない人のために、わざわざ危険な場所に素材を取りに来たりはしないはずです」
「う……それはまあ、その……」
「話を蒸し返すようですが、だからこそ無茶なことはしないでください。あなたにもしものことがあれば、マスターはとても悲しみます」
「……」
「行きましょう。あまり遅くなっては、マスターが心配します」
「うん……」
二人はまた、坑道の薄闇を歩いていく。
歩きながら、クーデリアは冷静に考えていた。
ホムの言うことは正しい。
自分の力を過信していたことも、今のクーデリアは自覚できている。が、それを認めたくないから、ここに来たのだ。
しかし、そのためにロロナを悲しませるようなことになれば、本末転倒もいいところだ。現にさっき、そうなっていたかもしれない。
クーデリアは深呼吸を一つして、不意に足を止めた。それから、ホムに振り向いた。
「……ホム」
「何ですか?」
「一つ言うことを忘れてたわ……さっきは、助けてくれてありがとう」
「……どういたしまして」
頷いたホムは、少し微笑んでいた。……ような気がした。
- 21 :
-
「ただいま戻りました。遅くなってすみません」
「あ、ホムちゃんおかえり――って、何でくーちゃんも一緒?」
採取から帰ってきたホムの横に、何故か仏頂面したクーデリアが立っているのを見て、ロロナの目が点になる。
「何よ。私が一緒にいたら悪い?」
「悪くないけど……二人ともいつの間に友達になってたの?」
「べ、別に友達とかそういうんじゃなくて、ちょっと色々あったっていうか」
「色々って……」
「あ、変な意味じゃないからね!?」
「? 変な意味って?」
「っ……だーもうっ、とにかくこれ!」
怒ったように顔を赤くしながら、クーデリアは自前のカゴをロロナに差し出した。
「これって……錬金術の素材?」
「これはその、退屈だからちょっと、散歩がてら取りに行ってたのよ。別にロロナのためとかじゃないからね。ついでよ、ついで!」
(あれはグランドマスターが以前言っていたテンプレートのようなツンデレ台詞……把握しました)
採取してきた素材をコンテナに整理しながら、ホムはそんなことを思っていた。
「ありがとうくーちゃん! とっても助かるよ!」
「へ? あ……えっと、本当に?」
「もっちろん!」
満面の笑みでクーデリアに礼を言うロロナ。世辞や社交の類でないことは、長い付き合いのクーデリアにはすぐ分かる。
アクシデントはあったが、ロロナの役に立とうという目的は達成できたわけだ。クーデリアは安堵と満足で胸を満たしていた。
「じゃあさ、ロロナ。良かったらこれから――」
「ごめんくーちゃん。予定が押してるから、お仕事の続きに取りかかっていいかな?」
「え……あの、ロロナ、まだ忙しいの?」
「うん。材料はくーちゃんのおかげもあって十分集まったから、むしろこれからがピークだね」
「……じゃあ、また何日もアトリエに籠もりきり?」
「そうなるね」
「……」
クーデリアのこめかみが震える。理不尽な怒りだと自分でも分かっている。分かっているのだが……
「……じ……じゃあ、私はもう、行くわね。仕事、頑張りなさいよ」
「う……うん」
明らかに不機嫌を押しした表情のクーデリアを、ロロナは訝しく思いながら見送った。
帰り際、クーデリアは街の住民が共用している井戸の前に立った。周囲に人気が無いことを確認し、井戸の底に顔を向けて、息を一杯に吸い込み――
「……いい加減、仕事ばっかじゃなくて私にかまえロロナの馬鹿――っ!!」
たまりにたまった本音を、思いっきり吐き出した。
おわり
- 22 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
何でこんなに連投しまくってるかというと、まあコミケに行きたくても行けない鬱憤をSSにぶつけているというか何というか。
とりあえず姫始めSSまで突っ走ろうと思います。
あと今更だけど>>5のミミちゃんのマントは赤色だね。ちゃんと見直さないとね……o...rz
- 23 :
- なんかすごく心が晴れやかになった。
ロロクートトミミはいいのう
- 24 :
- SS投下します。
前スレ569-572、582-587、673-678、704-722のトトミミ新婚生活編の続きに当たりますが、今回はケイナ視点のお話です。
※メルルがかなりやさぐれています。むしろキャラ崩壊してます。あくまでギャグです。あしからずご了承下さい。
- 25 :
- アールズとアーランドの合併は滞りなく成立し、開拓のおかげで慌ただしかった日々もようやく終わり……と言いたいところですが、そう甘くはないのが世の常と申しますか。
私の主であり、一番の親友でもあるメルルは、アーランドから来た錬金術士トトリ様の弟子として五年間の開拓事業を乗り切り、錬金術士として、また人としても大きく成長されました。
今は手狭になった街はずれのアトリエを引き払い、元アールズ王城の中に新しいアトリエを作って、日々訪れる依頼に応えて、以前にも劣らぬ忙しい日々を送っています。
……ですが、最近少し、困ったことがありまして……。
「ケイナ〜……とりあえず今月分の依頼は終わったんだけど、何か他に来てるのあった?」
数日かかりきりだった調合を終えたメルルは、お世辞にも溌剌とは言えない様相です。
このところ仕事が立て込んでアトリエにこもりきりでしたから、せっかくの綺麗な御髪も乱れてしまって……ああ、嘆かわしい。あとで櫛を入れてさしあげないと。
「今来ている分はこれで全部ですよ」
「そう……それじゃあ、お茶入れてくれる? うんと濃いやつ」
「はい」
そう言われると思って、あらかじめお茶の支度はしておきました。一匙分茶葉を多くして、じっくり蒸らし、暖めておいたティーカップに注いで出来上がり。
「はい、どうぞメルル」
「あんがと……」
心底くたびれた様子のメルルは、受け取ったお茶にかなりの量のお砂糖を入れ、香りを楽しむ間もなくぐいっと飲み干します。せっかく私がメルルの好みも考えて茶葉を選んで、丁寧に入れてさしあげたのに、気付け薬か何かのように飲まれるのはちょっと……。
「ぷはぁ……あ゛ー……」
メルルってば、はしたない。天井を仰いで大きな息をついて……本当に疲れてますね。
「メルル、大丈夫ですか? 体調とか……」
「んー、まあ平気平気。トトリ先生の分まで私が気張らないとね」
元々このアトリエではメルルだけでなく、メルルの師匠であるトトリ様、それからトトリ様の師匠であるロロナ様、三人の錬金術士がいたのですが、現在ロロナ様はアーランドのご自分のアトリエに戻られています。
そしてトトリ様は……一年ほど前にご結婚、その後めでたく双子の女の子を出産され、現在は育児休暇を取られています。
「はー……でも、トトリ先生がうらやましいなぁ……私も結婚したいなぁ……」
「……」
「私も結婚したいなぁ」
二回言わないでください。しかも私の方をじっと見ながら。
「ケイナ」
「何ですか?」
「結婚して」
「ダメです」
「何でよー!? ケイナ私のこと嫌い?」
「好きですよ。でも、デジエ様とルーフェスさんのお許しが無い限りはダメです」
「許可なんて必要ないでしょ! 結婚は二人の問題なんだから! 私、ケイナ、好き! ケイナ、私、好き! 結婚、OK!」
「何でカタコトなんですか。ダメなものはダメです」
「じゃあ今からお父様とルーフェスを説得してくるから!」
- 26 :
- メルルがドタバタとアトリエを去っていきます。残った私がティーセットを片づけ、ついでに錬金術の機材の整理整頓を終えた頃、ドタバタと戻ってきたメルルが開口一番。
「ケイナ! 駆け落ちしよう!」
ここまで予想通りというか、いつも通りの流れです。
「どこへ駆け落ちするっていうんですか。それにアトリエのお仕事はどうするんですか」
「うぅ……」
しょんぼりと肩を落とすメルルですが、こればっかりはどうにも……。
「う゛ー……お父様とルーフェスの意地悪……ついでにケイナも意地悪……」
「いじけないでくださいメルル。結婚しなくたって、私はメルルといつまでも一緒のつもりですよ」
「いつまでも一緒なら結婚してくれてもいいじゃない!」
「ダメです」
「けちー!」
「はぁ……」
ふてくされるメルルに、私はつい、小さなため息をついてしまいます。
アールズ・アーランドで同性婚が正式に認められるようになってからすぐ、メルルは私にプロポーズというか何というか……ごく当たり前のように「結婚しよう」と言いだしました。
しかし当たり前のようにメルルの父である元国王のデジエ様、そして執事のルーフェスさんに反対されてそのお話は無しになりました。
それ以後、幾度と無くメルルはお二人を説得しようとしているのですが埒があかず……
「……そういえばさ、ライアス君に彼女ができたそうなんだけど、ケイナ知ってた?」
「ええ。それなら聞いてますよ。どんな人かは存じませんけど」
以前はお城の門番兼メルルの護衛役をしていたライアスさんは、現在はアーランド王国アールズ方面の守備隊に所属。なかなか責任のある立場を任されているそうです。
「フィリーさん経由の情報だと、国立図書館の司書さんで、ライアス君より二つ年下。ライアス君が図書館に調べ物しにきたのがきっかけで知り合ったそうなんだけど、どういう経緯で付き合うまでに至ったのかは現在調査中。
顔はトトリ先生とケイナを足してパメラさんで割った感じで、性格は大人しめなんだけど結構明るくて、家事が得意で気立ての良い良妻賢母タイプだって。
家族構成は両親とお兄さんの四人家族。お母さんは専業主婦、お父さんは製鉄工場の技術部長、お兄さんは国営印刷所の事務員。
五年前にお父さんが技師として招聘されたのをきっかけに家族そろってアールズに引っ越してきて、現在は職人通りに在住。家庭状況は極めて円満。……だそうだよ」
「はあ……何でそこまで詳しいんでしょうか、フィリーさんは」
「ここまでハッキリとした情報が出ている以上、やっぱり事実と考えるべきだよね」
「ええ。でもそれが何か……メルル? さっきから目がすわってるんですけど……あの、コンテナから何を」
「安心してケイナ。この対リア充殲滅用戦術兵器『ピースメーカー2nd〜解放への雄叫び〜』でイチコロだから」
「安心できませんよ! 何をイチコロする気なんですか!? その物騒すぎるアイテムをしまってください!」
「止めないで! 裏切り者のライアス君をこのまま捨て置くわけには――」
「さっきから馬鹿なやり取りが通路まで聞こえてるわけだが……誰が裏切り者だって?」
噂をすれば何とやら。タイミング良く(悪く?)ライアスさんご本人がアトリエにいらっしゃいました。
「出たなーライアス君! 爆発しろーっ!」
「久しぶりに会った途端、何で爆破宣言されなきゃならないんだよ」
「すみません、メルルは今ちょっと疲れてまして」
「そうか」
これだけで納得するあたり、ライアスさんもさすがにメルルの幼なじみなだけはありますよね。
- 27 :
- 「ライアスさんは、ルーフェスさんに定期報告ですか?」
「ああ。ついでにメルルの様子を見に来たんだが……相変わらずやさぐれてるのか」
「ええ、まあ……」
「やさぐれてなんかないもん! お父様とルーフェスが意地悪なのが悪いんだもん!」
「やれやれ……」
肩をすくめるライアスさん。気持ちは私も同じです。
「ていうかライアス君からもルーフェスに何とか言ってよ。私もケイナも同意してるのに、何で結婚しちゃダメなの」
「兄貴には兄貴の考えがあるんだろ。そもそもメルルが言ってダメなのに、俺の説得で兄貴が意見を変えるとは思えないしな。まあ、焦らず機会を待てばいいんじゃないか?」
「むー……何さ! 自分は彼女できたからって余裕ぶっちゃって!」
「彼女って……誰から聞いたんだよ、それ」
「フィリーさんとエスティさんとフアナさんとパメラさんとハゲルさんと街で井戸端会議してる奥様方その他諸々だよ」
「どんだけ情報広がってんだ!? ていうかエスティさんとハゲルのオッサンはアーランドに帰ってるはずだろ!?」
「色恋沙汰は万里を越えるってことね」
「格言っぽく言ってんじゃねえ!」
「で、ホントのところはどうなわけ? 今からケイナがカツ丼作るから、洗いざらい吐いちゃいなさい」
「刑事かお前は。今そんなこってりしたもん食いたくねえよ」
「ふうん……どうあってもシラを切るつもりね」
「シラを切るも何も……おい、メルル……コンテナから何を」
「まさかこれを使うことになるなんてね……この、対リア充絶滅用戦略兵器『十二連装式N/A弾頭搭載ミサイルランチャー〜アールズの夜明け〜』を……」
「どこと戦争する気だお前は!? それ確実に人を狙ったらダメな類の武器だろオイ!」
「うるさーいっ! ライアス君なんかに結婚したくても出来ない私の気持ちが分かるかーっ!」
「分からないけどとにかく落ち着け!」
「何さーっ! 同性同士でも結婚OKになったんだから、どうせならライアス君だって彼女じゃなくて彼氏作ればいいでしょーっ! そんでもってご自慢のパイルバンカーを後ろに突っ込んだり突っ込まれたりしちゃえばいいんだーっ!」
「あの、メルル……年頃の女性としてそういう発言はいかがなものかと」
「完全に錯乱状態だな……」
……最近のメルルはこんな調子で、結婚を許してもらえないせいですっかりやさぐれて、時々おかしなことを言い出すようになってしまいました。
「メルル。少しは落ち着きましたか」
「うん……」
ひとしきりライアスさんへの『リア充爆発しろ』シャウトを終えたメルルは、大きなため息をついてから、改めてライアスさんの方に向き直ります。
「それでライアス君。実際のところどうなの? 恋人できたの?」
「いや、それは、その……まだそんな関係じゃないっていうか」
「てことはやっぱり彼女らしき人がいるんだ。確定したね」
「あっ、てめ」
「別に隠すことないでしょ。彼女にウニ投げつけようってわけじゃないんだから」
「俺にはそれどころじゃない物騒なもんをぶち込もうとしたけどな」
「で、どんな子なの? 美人? 可愛い? 性格は?」
「どうでもいいだろそんなこと」
「どうでもよくないよ! 幼なじみとして、ライアス君がどんな子とお付き合いしてるのか気になるし。万が一にも良くない人に引っかかったりしてないか心配だし」
なるほど、それが本心ですか。やさぐれていても、やっぱりメルルはメルルですね。
「心配してくれるのはありがたいが……本当にまだそういう段階じゃねえから。なんていうか、その……今度、機会があったら紹介する。それでいいだろ。じゃあな」
長居をしては何を言わされるか分からないと思ったのか、ライアスさんはそそくさとアトリエを出ていってしまいました。
- 28 :
- 「ああ、行っちゃった。久しぶりに会ったんだから、もっとゆっくりしていけばいいのに」
「メルルがあんまり根掘り葉掘りと聞きたがるからですよ」
まあそれ以前に、危ないアイテムを振り回して咆え猛っていたのが主な原因な気もしますけど。
「さてと……私は少し休もううかな」
「そうですね。ここ最近はずっとお仕事続きでしたから」
「うん」
そう言ってメルルはソファに深く腰掛けました。
「……あ、ケイナ。悪いんだけど酒場に納品する分、フィリーさんのとこに持ってってくれる?」
「はい。かしこまりました」
「ついでに先生のとこに寄って、赤ちゃん達の様子も見てきてよ」
「分かりました」
並木通りの酒場で納品を終えた後、まっすぐトトリ様のお家に向かいます。トトリ様のお家も並木通りにあり、酒場からさほど遠くはありません。
歩いて数分のうちに見えてきたのですが……何だか中が騒がしいですね。トトリ様とは別の、聞き覚えのある声がします。
ともあれ、ドアの前で耳を澄ましていても意味がありません。
「失礼し――」
「だってトトリちゃんは私の弟子で私はトトリちゃんの師匠なんだから! 弟子の赤ちゃんの面倒を見るのは師匠として当然のことだもん!」
「いいえ! 私には伯母として姪っ子の面倒を見る義務があります! だからこの子達の世話は私が引き受けます!」
「独り占めなんてずるいよ! お姉さんはただでさえトトリちゃんのちっちゃかった頃を独り占めしてたくせに!」
「今はそんなこと関係ありません! 大体独り占めっていうなら、トトリちゃんが冒険者になってから長い間トトリちゃんのことをとってたのは先生じゃないですか!」
ベビーベッドのすぐそばで、不毛な言い争いをしているお二方……トトリ様の師匠であるロロナ様と、トトリ様の姉であるツェツィ様ですね。
「ケイナ。久しぶり」
「あ、ピアニャさんもいらしたのですね」
もう一人いらっしゃいました。この方はピアニャさん。アーランドから海を挟んで東の大陸で錬金術士として活躍されている、メルルと私共通の友人です。
「今日はツェツィとロロナと一緒に、トトリに会いに来たんだ」
「そうでしたか。ところでトトリ様達は?」
「それなんだけどね……ロロナとツェツィが『普段子育て大変だろうから、たまには夫婦水入らずで羽を伸ばしておいで』って言って、トトリ達は出かけてったの」
「なるほど」
「――で。そのあとどっちが赤ちゃんの面倒見るかで揉めてるの」
「それはまた……双子なんですから、手分けすればいいのに」
「ねー」
確かにトトリ様の赤ちゃんは、二人ともとても可愛くて、独り占めしたい気持ちは分からなくもないですが。
天使のように愛らしい赤ちゃん二人は、自分が争いの種になっていることも知らずスヤスヤと眠っています。近くでこれだけ騒がしくしていても平気なあたり、大した肝の据わりっぷりですね。
「……そろそろお止めした方がよいのでは?」
「そうだね」
頷いたピアニャさんは、言い争いを続ける二人に静かに近づき。
「ほい」
手に持っていた砂時計型のアイテムを作動させました。
「さ。これで大丈夫」
「え? あの、どうなってるんですか?」
さっきまで騒がしかったお二人が、途端に黙り込んで……というより、言い争いをしていたその姿勢のまま、完全に固まっていました。
「竜の砂時計で、あの二人の時間だけを停止させたんだよ。それよりケイナ、そろそろ赤ちゃん達がおなか空かせる頃だから、手伝ってくれる?」
「あ、はい」
さすがピアニャさんも向こうの大陸で奮闘されているだけあって、頼もしい錬金術士ですね。
- 29 :
- その後、私とピアニャさんで赤ちゃん二人にミルクを準備しました。タイミングよくおなかを空かせて泣き出した二人の赤ちゃんにミルクをあげている最中、砂時計の効果が切れて、
「ぴあちゃんとケイちゃんばっかりず〜る〜い〜! 私もだっこする〜!」
とロロナ様が言い出し、
「もうツェツィとケンカしないって約束する? ツェツィもロロナとケンカしない?」
とピアニャさんに言われて、二人仲良く良い返事をしていました。
「そういえばケイちゃんに会うのも結構久しぶりだね。メルルちゃんはどうしてるの?」
「相変わらずです。毎日アトリエで大忙しですよ」
「そっかー」
「トトリちゃんがお休みしてると、そうなるわよね……やっぱり赤ちゃん達は私が面倒を見て、トトリちゃんはお仕事に復帰した方がいいんじゃないかしら?」
「お姉さんってばそんなこと言って、赤ちゃん達とずっと一緒にいたいだけでしょ」
「う……だってだって! こんなに可愛らしいトトリちゃんの赤ちゃんなのに、アールズまで来ないと会えないなんて、あまりにも残酷じゃないですか!」
「トラベルゲートを使えば、簡単に会いに来られるのでは?」
「そういう問題じゃないのよケイナちゃん。私はいつでもすぐそばにいたいのよ。トトリちゃんが冒険者になった時も、アールズに行ってしまった時も、どれだけ辛かったか……」
「私が故郷に戻る時も、ツェツィすっごく騒いだもんねー……」
どことなく遠い目をするピアニャさん。話に聞いたところ、幼かった頃はずいぶんツェツィさんに猫可愛がりされていたそうです。
ピアニャさんとロロナ様、ツェツィ様に後の子守はお任せして、私はメルルの待つアトリエへ帰ってきました。お休み中のメルルのために、お菓子でも作ってさしあげましょうか。
――なんてことを考えていたのですが、
「ああケイナ! さっき急に大口の仕事がいくつか入っちゃって! 悪いんだけどトラベルゲート使ってアーランドのギルドに納品する分も配達頼める!?」
アトリエではメルルがいつにも増して忙しい様子でした。
「ええ、それは構いませんけど……本当に急なお仕事ですね」
「何かアーランドの方でまたロロナ先生がどっか行っちゃって連絡取れないんだって。アストリッドさんも相変わらず所在不明で、それでこっちのアトリエしか頼めるところがないとかで」
「えーと、それは……」
「あーもうっ、育児休暇のトトリ先生はともかくとして、せっかく元に戻ったロロナ先生は放浪癖まで戻っちゃうし、アストリッドさんは相変わらず自分のペースでしか仕事しないしおまけにホムちゃん達つれていっちゃうし、
ピアニャは向こうの大陸の仕事で忙しいし、ちむちゃん達はパメラさんのお店だし……だーっ! 人手が足りないーっ!」
名前を挙げられた錬金術士のうち半分は、現在並木通りで赤ちゃんのお世話をしています……とはさすがに言えませんでした。
「こうなったらケイナ! 今からでも錬金術士を目指さない!? 私が手取り足取り指導するよ!」
「結構です」
私はあくまでメルルのお世話係として、この道を行くと決めているんですから。
とにかく今はアーランドのギルドに向かわなくては。
「あ゛ーっ! この仕事終わったらお休み取って半日ぐらいケイナをもふもふしてやるーっ!」
勝手な予約をしないで下さい。……別に構いませんけど。
- 30 :
-
トラベルゲートを使ってアーランドにやって来た私は、急いで冒険者ギルドに向かいます。
「失礼します。アールズのアトリエから、依頼された品物を持ってきました」
「あら、ケイナじゃない。一人で来るなんて珍しいわね。メルルは?」
「お久しぶりです、クーデリア様」
アーランド冒険者ギルドの受付で、ギルドの責任者兼受付嬢であるクーデリア様に挨拶します。見かけは小さくて可愛らしいですけど、私より年上でとてもしっかりした方なんですよ。
「メルルは今、アールズのアトリエで急な仕事にかかりっきりです」
「あー……ロロナがまたどっかふらついてるからね。そのしわ寄せが行っちゃってるわけか。苦労かけるわね」
「いえ……それなんですが、その――」
私は現在アールズのトトリ様のお宅にロロナ様がいることを、かいつまんでクーデリア様に報告しました。
「あんの馬鹿たれーっ!」
怒鳴るや否や、クーデリア様は「これ借りるわよ!」と私が持っていたトラベルゲートを取って、ギルドの外に出て行ってしまいました。
あれが無いと私は帰れないのですが……と、不安になりましたが、十分も経たないうちにクーデリア様は戻ってこられました。半べそかいているロロナ様を連れて。
「うわーん、くーちゃんごめんってばーっ」
「私に謝る暇があったら、まず仕事に戻りなさい! 孫弟子があんたの分まで働いてんのよ!」
「うう……はぁい」
ロロナ様はすっかりうなだれて、その場を去って行かれました。
「悪かったわね。ロロナってば、出かける時はちゃんと私に行き先を教えろって言ってるのに、いっつも右の耳から左の耳へなんだから…………やっぱり一緒に暮らす件を真剣に考えるべきかしら……」
「クーデリア様、ロロナ様とご結婚なさるんですか?」
「へっ!?」
私が訊ねると、クーデリア様はとてもびっくりされていました。
「な、何で急にそんな話になるのよ!?」
「先ほど、一緒に暮らすと聞こえたので」
「……声、出してた?」
「ええ」
「〜〜っ!」
クーデリア様は顔を真っ赤にされました。こうして恥ずかしがっているご様子は、失礼かもしれませんけど、ずっと幼くて可愛く見えてしまいますね。
「べ、別にそんな、一緒に暮らすって言っても、イコール結婚ってわけじゃないわよ。そりゃまあ、同性婚がOKにはなったのは確かだけど、ロロナとはもうずっと昔からの付き合いだし、そんな今更……ふ、夫婦になるだなんて……柄じゃないわよ、そんなの」
「そうでしょうか? トトリ様達に負けないぐらい、お似合いのご夫婦だと思いますけど」
「っっ……と、年上をからかうんじゃないの! もう用事は済んだんだから、とっとと帰りなさいよ!」
「分かりました。それでは失礼します」
「あ、ちょっと。今の仕事を半分以上ロロナのアトリエに回すよう、メルルに伝えておいて。首に縄付けてでも完遂させるから」
「かしこまりました」
クーデリア様にお辞儀をして、私はギルドを後にし、アールズへ帰ります。
- 31 :
-
「はぁ〜……ロロナ先生が復帰したのはいいけど、それにしても忙しいなぁ〜……」
調合釜を一生懸命かき混ぜながら、メルルがため息をつきます。
「私もお手伝いしますから、頑張りましょう」
「うん……あ、そうだ。この仕事終わったらさ、久しぶりにどこか遊びに行かない?」
「ええ。いいですよ。どこに行きたいですか?」
「ウェディングドレス選び! それから式場の下見!」
「遊びじゃないでしょうそれは」
「ええー、いいじゃないのー。結婚してよー」
「お許しが出るまではダメです」
「お父様もルーフェスも絶対許してくれないじゃない! そんなの結婚したくないって言ってるのと同じだよ!」
「そうでもないですよ。きっと」
「え?」
メルルはキョトンとした顔で首をかしげますが、これ以上は言わずもがなですね。
「それより、今はお仕事に集中しましょう。終わったら、美味しいお弁当とお菓子を作りますから、久しぶりにピクニックにでも行きましょう」
「やった! そうと決まったら、とっとと終わらせないとね!」
気合い十分なメルルに、思わず笑みがこぼれます。
その調子で、これからも頑張ってくださいね……未来の旦那様。
- 32 :
-
日も落ちた頃――並木通りの酒場。
カウンター席に、二人の男が並んで腰掛けていた。ライアスとルーフェスの兄弟である。
「考えてみれば、兄貴とこうやって酒飲むのって初めてかもな」
「そうだな」
木製のジョッキを傾けながら、ルーフェスが相づちを打つ。
「……で、話というのは何だ?」
「ん? ああ……メルルとケイナのことなんだけど」
「ああ、そのことか」
それだけで、ルーフェスにはライアスが何を聞きたいのか察した様子だった。
「何で結婚させてやらないんだ? 同性でも結婚できるよう、法改正したんだろ」
「トトリ様のおかげで、同性婚の多発が少子化の一因となることはなくなったからな。デジエ様もジオ様も、その点に関して異論は無かった」
「だったら何でメルル達のことは反対なんだよ?」
「根本的に誤解しているな。デジエ様と私は、姫様とケイナの結婚に反対はしていない。ただ許可をしないだけだ」
「それって……ああ、そういうことか」
合点して頷くライアス。
「今はまだ、ってことだな?」
「そうだ」
ルーフェスも頷く。
「姫様はまだ、所帯を持つには早すぎる。ただそれだけのことだ」
「相変わらず厳しいな、兄貴は」
「当たり前のことだ。姫様にはもうしばらく社会の荒波に揉まれてもらわないとな」
ジョッキに半分ほど残ったビアを一気にあおり、ルーフェスが息をつく。
「もっとも、姫様はともかく、ケイナの方はその辺りには気付いていそうだがな……」
「メルルよりよっぽど聡いとこあるからな、あいつは」
「人のことよりもライアス、お前はどうなんだ」
「えっ……お、俺かよ。俺は別に……ていうか、そういうのは兄貴の方が先だろ。年上なんだから」
「現状、私は妻を娶る気はないからな。というわけでお前の話だ。せっかくの腰を据えて話せる機会だからな。件の交際相手について、じっくり聞かせてもらうとしよう」
「うう……メルル達のことを話すつもりだったのに、何でこうなるんだよ……」
おわり
- 33 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
トトミミの続きと銘打っておきながら、トトミミ不在ですみません。
トトミミで子育て編も挑戦してみたくはあるんですが、それだとどうしても子供の名前を出さざるを得ない(=オリジナル臭が強くなってしまう)ので、どうにもこうにも……。
細かいネタはあるんですけどね。
産後でお乳が張ってるトトリ先生にムラムラしちゃうミミちゃんとか。そして、連日子育てで疲れているトトリに無理させるわけには……と自重するミミちゃんだけど、それを分かっていながらあえてミミちゃんを挑発するトトリ先生とか。
それはさておき。
今年はお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。
- 34 :
- 乙
今年はアトリエSS豊作だったなぁ
- 35 :
- お古のマントをおくるみにして育った双子がミミちゃんの匂いと温もりを求め
ソファで読書しながらうとうとしているミミたんの懐に潜り込んで寝ているところを
観察するトトリちゃんの子育て編……?
- 36 :
- >>33
GJ。ミミちゃんを挑発するトトリ先生とか俺得すぎるので、投下されるのを心待ちにすることにします。
今年もSS繁盛なスレになりますように。
- 37 :
- >>33
>トトミミで子育て編
と思ったら、トトリちゃんの中の人が女の子を出産したそうで…
それは兎も角、挑発するトトリちゃんと、葛藤の末に狼になるミミちゃん(その後自己嫌悪に)とか見てみたいな
- 38 :
- あけましておめでとうございます。
SS投下します。
トトリエ時代のトトミミ。
- 39 :
- 「ねえねえミミちゃん。『姫始め』って知ってる?」
「ぶっ……!?」
年が明けてから間もないある日のこと。アランヤ村のアトリエで、遊びに来ていたミミにトトリがそんなことを言い出した。
ソファに腰掛けていたミミは、思わずむせ返りそうになったが、どうにか堪える。
「い、いきなり何を言い出すのよあんたは!?」
「何って、別に……ただミミちゃんが知ってるかなーって思って」
「そ、そりゃ……知ってはいるけど……」
折しも年が明けてすぐのこの時期。二人っきりのアトリエでそんな話題を振られたら、ミミとしてはついつい変な方向に意識をしてしまう。
「ミミちゃん? 顔赤いけど、大丈夫?」
「――っ!」
トトリがぐいっと顔を近づけ、ミミのおでこに手を当てる。ミミの心音がたちまち跳ね上がる。
「熱はそんなに無いみたいだね」
「っ……ぁ……ぃ……」
「ん? ミミちゃんどうしたの?」
顔が近い。と、それだけ言いたいのだが、緊張しているミミは口をパクパク開くばかりだ。
「ミミちゃん?」
「ぁ、ぁ……あんたがっ、変なこと言い出すせいでしょ!?」
「へ?」
「あっ……」
しまった、と思った時にはもう遅い。これでは『姫始め』という単語に過剰反応しているのを告白したようなものだ。
「変なことって……姫始めのこと?」
「っ……そ、そうよ。何で急に、そんな……エ、エッチな話題、振ったりするのよ」
「姫始めって、元々外国の風習で――」
「ええ。要するに、新年になってから、初めて、その……」
「お米を軟らか〜く炊いた姫飯(ひめいい)っていうのを食べることでしょ」
「……え?」
予想外の話の流れに、目を丸くするミミ。トトリの方はというと、不思議そうに首をかしげている。
「それって何かエッチなの?」
「ちっ、違っ……何でもないわよ!」
「何が何でもないの?」
トトリはあくまで無邪気に、それでいて興味津々に訊ねてくる。
「だからもうっ……いいってば! 私の勘違いだったから!」
「勘違いって、何と?」
「聞くんじゃないわよ!」
「え〜、だって気になるんだもん」
「気にしなくていいから!」
「ふ〜ん……」
聞き出すのを諦めたのか、大人しくなったトトリに、ホッとするミミ。
「ミミちゃん」
「何? ……――っ!?」
油断大敵。一瞬の不意を突いて、トトリの唇がミミのそれを奪っていた。
「……教えてくれなきゃ、もっとエッチなことするよ?」
「なっ……ちょっ……」
もう一度キス。今度は深く、舌まで入れて。
「ん、っ、あ……ちょっ、トトリ、やめ……!」
「だーめ♪」
「んんっ!?」
身をよじって離れようとするミミだが、トトリからは逃げられない。
「ん……ミミちゃんのお口の中……とっても甘いね……んっ」
「あっ、ぁ……ん……っっ」
口づけを繰り返し、舌が絡み合って銀の糸を引く。
トトリの手のひらが、衣服ごしにミミの胸を触る。ミミはびくりと体を震わせた。
- 40 :
- 「ふふ……ミミちゃんてば、緊張してるの?」
「そ、そんなこと……ひゃうっ!?」
トトリの指がミミの下腹部に伸びて、熱く火照ったそこへふれる。
「あれ? ミミちゃんのここ、何だか湿ってるみたいだよ? キスしてるだけなのに、ね」
「あっ、う……ト、トトリぃ……それ以上は、だめ……」
「何がだめなのかな?」
「あっ、んっ……」
舌を絡ませながら、トトリの手がミミのホットパンツの中をまさぐる。潤んだそこに直接指を這わせると、ミミの口から声が漏れた。
「ひゃ、ん……」
「ミミちゃん……そろそろ観念して、何を勘違いしたのか教えてほしいな」
「そ、そんなのっ……っぁ」
ミミの首筋にトトリが唇を当て、吸い上げる。
「うふふ……ミミちゃんてば、新年早々すっごく目立つキスマークが付いちゃったね」
「〜〜っ」
「でも一つじゃ寂しいから、もっともっと付けてあげようかな」
「やっ、待って……!」
ミミの服をはだけさせ、露わになった胸元にトトリが唇を当て、舌を這わせる。
「やっ、あっ、あっ、んぁ……」
汗ばんだ肌にトトリの唇や指が愛撫を加えるたび、ミミの口から艶めかしい声が零れてくる。
上半身いっぱいにキスマークを付けられたミミは、息も絶え絶えといった様子だった。
「ミミちゃんったらそんなにエッチな声出して……ひょっとして、誘ってるのかな?」
「ちっ、違っ……そんな、わけ……やっ」
「うわぁ……さっきよりも濡れてるね」
ミミの上だけでなく下も脱がせて、トトリは割れ目に指を潜らせる。しばらくその感触を反応を楽しむと、濡れた指を離し、仰向けになったミミの下半身に顔を近付けた。
「ミミちゃん、足開いてくれなきゃよく見えないよ」
「い、いやよ、そんな……」
「だめ。開くの」
強引に両膝を開かせると、トトリは存分に潤んだそこへ口付けた。
「やっ、あんっ……ト、トトリ……そんなとこ……汚い、わよ……」
ミミは羞恥に顔を真っ赤にしているが、トトリはそんなことお構いなしだ。
「そんなことないよ。ミミちゃんのここ、すっごく綺麗だし、美味しいよ」
「――っ!」
目を背けるミミに構わず、こなたは割れ目にもう一度キス。それから舌を伸ばして中まで這わせ始めた。
「あっ、んっ、あ、ふぁ、あ……」
トトリの舌が、陰唇からクリトリスまで丹念に舐め回していく。ざわざわとわき上がってくるような快感に、ミミは声を漏らす。
「んっ、あ……トトリぃ……んんっ、あっ、あっ、あっ……あ――」
敏感なところを執拗に舐められていくうちに、ミミの中で何かが昂ぶっていく。やがて強い快感が全身を貫き、ミミはトトリの名前を強く叫びながら、激しく体を痙攣させた。
「……は……ぁ…………」
「ミミちゃん……イっちゃったね」
「〜っ!」
嬉しそうな笑みを浮かべるトトリに、ミミは恥ずかしいやら悔しいやらで、目を合わせられない。
「ねえ、ミミちゃん。そろそろ教えてほしいな……」
「あっ」
トトリの指が、達したばかりで敏感になっているそこにふれ、吐息が耳元にかかる。
「ミミちゃんは、何を勘違いしたのかな? 教えてくれるまで、今日は帰してあげないかも……♪」
天使のように無垢な笑みを浮かべながら、トトリはミミに覆い被さる。
そしてそのまま――そのまま――
- 41 :
-
「――はっ!?」
ミミは目を見開いた。自分はベッドで横になっている。目に映っているのは、アランヤ村滞在中にいつも利用している宿屋の天井。
「ゆ……夢……?」
体を起こし、口に呟いて確認したミミは、大きく安堵の息をついた。リアリティのある夢だったが、覚めてしまえば何と言うことはない。ただの夢だ。
だがしかし、
「……今日は……一月一日……」
年が明けて最初の日の朝。つまり、
「……な……なんて初夢を見てるのよ、私は……」
恥ずかしさと自己嫌悪に、ベッドの上で頭を抱えるミミだった。
ひどい初夢のおかげでトトリと顔を合わせ辛いミミだったが、今日会う約束をしていたので、やや重い足取りでアトリエにやってきた。
「ミミちゃんいらっしゃい。あけましておめでとう」
「え、ええ……」
当たり前のことだがトトリはいつも通り朗らかな様子だ。変に意識してしまっているのはミミだけである。
(落ち着きなさい……あれはただの夢なんだから)
小さく深呼吸をして、ミミは改めてトトリに向き合う。
「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いするわね、トトリ」
「……」
精一杯いつも通りを振る舞って新年の挨拶をしたのに、トトリは何か変なものでも見たようにキョトンとしている。
「どうしたのよ?」
「その……ミミちゃんが普通にお淑やかな挨拶するから」
「なっ……どういう意味よそれ!?」
「だってミミちゃんなら『今年こそ私が最強の冒険者になってみせるんだから、見てなさいよー!』とかそういう感じかと。確か去年もそんなだったし」
「ぐ……あんたねぇ……」
「あ、ウソウソ。ミミちゃんはいつもお淑やかだよね」
「わざとらしいわよ! まったく……」
腹は立ったが、概ね事実だから否定しようがない。しかしこのやり取りのおかげで、ミミはいつもの調子を取り戻すことができた。
(変に意識するのが馬鹿らしかったわね……所詮はただの夢なんだから)
落ち着いたミミは、トトリに促されるまま、奥のソファに腰掛けた。
「ねえねえミミちゃん」
お茶の支度をしながら、トトリが声をかけてくる。
「何よ?」
「『姫始め』って知ってる?」
おわり
- 42 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
>>37
昨夜SS投下した後でそれを知ってびっくりした。
そして旦那さんの想像図がミミちゃんか某扶桑の魔女になってしまう自分はもうダメだと思った。
- 43 :
- あー……>>40に一カ所別作品のキャラの名前が入ってるのは見なかったことにしてください。
以前に他所で書いたSSの一部を流用した名残です……新年早々見苦しいことしてすみません……o...rz
- 44 :
- SS投下します。
今回はロロクー。時代はロロナ〜トトリ間ぐらいなイメージで。
- 45 :
- 「ねえねえくーちゃん。『姫始め』って知ってる?」
「ええ。外国の風習で、年の初めにお米を柔らかく炊いた姫飯(ひめいい)を食べることでしょ」
年が明けてすぐのある日のこと。アトリエに来ていたクーデリアは、ロロナの唐突な質問に淡々と答えていた。
「へー。そういう意味もあるんだ」
「そういう意味もって……他にどういう意味があるのよ?」
「くーちゃん知らないの?」
「何のこと?」
「あのね……」
並んでソファに座っていたロロナが、内緒話をするように、クーデリアの耳元に顔を近づける。
「ひゃっ……ちょっと、こそばゆいわよ!」
「あ、ごめん」
ロロナの吐息が耳たぶにかかり、クーデリアはつい変な声を上げてしまった。
「あのね、姫始めってね、年の初めに――ヒソヒソ」
「……!」
囁き声でのロロナの説明を聞いたクーデリアは、たちまち頬を赤くする。
「何よそれ? ホントなの?」
「うん。むしろこっちの意味の方が有名だと思うんだけど」
「ふ、ふーん……そうなんだ」
「……」
「…………」
二人の間に、少し妙な沈黙が降りる。
「くーちゃん」
「なっ……何?」
ただ呼びかけられただけで過剰に反応してしまうクーデリアに、ロロナは首をかしげる。
「お茶のおかわりどう? ……って聞こうとしたんだけど、どうかした?」
「あ……そう。いただくわ」
「はーい」
ロロナはいそいそとお茶のおかわりを用意し始める。
誰に似たのか(多分師匠)、最近になって時折ふらっと姿を消してしまう放浪癖のついてしまったロロナだが、年末年始ぐらいはなるべくアーランドに帰ってきて、両親や顔馴染みの面々、そして一番の親友であるクーデリアと顔を合わせるようにしていた。
「それでくーちゃん、さっきの話なんだけど」
「話って?」
「姫始めのこと」
「ぶはっ……!?」
クーデリアは飲みかけていたお茶を吹き出してしまう。
「くーちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……って、それより何よ? 姫始めの話って? さっきのはただの世間話でしょ」
「んー……まあ、そうなんだけど」
ロロナは何気なくクーデリアとの距離を詰めてきた。
- 46 :
- 「くーちゃん……」
「な……何よ?」
「くーちゃんと姫始めしていい?」
「っ!!」
ドが付くほどストレートな要求に、クーデリアの顔がたちまち火がついたように真っ赤になる。
「あ、あ、あんたねぇ!」
「あぅ……くーちゃんが怒った……やっぱりだめ?」
「だ、だめだなんて言ってないでしょ……でも、その……もっとこう、オブラートに包みなさいよ!」
「え? えーと……くーちゃんをオブラートに包んでいい?」
「包むな馬鹿! そういう意味じゃないわよ!」
「じゃあどういう意味?」
「だからその……姫始め……するにしても、もうちょっと、雰囲気を出してほしいっていうか……」
「くーちゃん」
「何? ……!」
顔を上げたクーデリアに、ロロナが優しく唇を重ねていた。
「くーちゃん……これじゃだめ?」
「……」
恥ずかしそうに目をそらしながら、クーデリアは首を小さく横に振る。だめじゃない、と理解したロロナは、もう一度クーデリアに口づけた。
「ん……」
最初は軽めに。二度目は少し深く。ロロナの舌がクーデリアの中に入っていく。
クーデリアの縮こまった舌を、ロロナの舌先がつっつき、解きほぐす。
「ぁ……んっ……ロロナ……」
「くーちゃん、可愛い……んん」
キスをしたまま、ロロナはクーデリアの胸に手を伸ばす。慣れた手つきで服をはだけさせると、小ぶりな乳房を手のひらで包んだ。
「くーちゃんのおっぱい、ちっちゃくて可愛いよ」
「……っ、ちっちゃくて悪かったわね」
「全然悪くないよ。ほら」
「あっ」
ロロナの手に少し力が籠もる。クーデリアの口から思わず声が漏れた。
「相変わらず感じやすいんだね」
「〜っ」
恥ずかしさと悔しさが入り交じった目をしたクーデリアは、負けじとロロナのスカートの中に手を伸ばしてきた。下着越しにそこへふれると、濡れているのがよく分かった。
「やっ……くーちゃん」
「いやらしいわね……キスしてるだけでこんなにして……」
「はっ……あっ、ん……」
そのまま指先で強くこすると、ロロナが押ししたような声を漏らす。
「あんただって、人のこと言えないぐらい感じやすいじゃない」
「そんなこと……ないよ……くーちゃんだから、だもん……んっ」
もう一度唇を重ねる。舌を絡ませながら、お互いの指がお互いの大切なところに伸びる。熱く湿ったそこへ、細い指が潜り込む。
「くーちゃん……好き……大好きぃ……!」
「んっ……ロロナ……ぁ……私も……」
唇と舌と指とで繋がった二人は、甘い囁きを交わしながら、強く体を重ね、音が立つほど激しく愛撫しあう。
「あっ、あっ……くーちゃんっ……私、もう、もう……!」
「ロロナっ……ロロナっ……あ、っ――」
やがて、二人の体の中を、大きな何かが弾けるような感覚が走った。
「……はぁ……くーちゃん……イっちゃったね……」
「はぁ……はぁ……」
行為の余韻も覚めず、息を荒げているクーデリアに、ロロナはそっとキスをする。
「……続きは脱いでからしよっか」
「……まだやるんだ」
「だって姫始めは一回だけとは決まってないし」
「……ったく」
やれやれ、と言いたげな表情をしながら、ロロナのキスを受け入れるクーデリアだった。
- 47 :
- すでに日は落ちている。
「くーちゃん、晩ご飯食べていくでしょ」
「ええ。いただくわ」
ことが終わって格好を整えて、いつも通りに戻った二人は、どことなく晴れ晴れとした表情だった。
「今夜は何にしよっかなぁ……久しぶりにキノコ尽くしとかがいいかなぁ」
「それでしたら、調理はホムにお任せ下さい」
「そう? それじゃあお願いね。ホムちゃん」
「はい」
「それじゃあ、くーちゃん、ご飯はホムちゃんが作ってくれるから…………え?」
目を丸くしてロロナが先ほど自分が会話していた方向へ振り向くと、そこには少女型のホムンクルス――ホムが立っていた。
「ホ、ホムちゃん!? 何でここにー!?」
「確認します。マスターのその一連の言動は『ノリツッコミ』と呼ばれるもので間違いないでしょうか?」
「この子の場合は天然よ。ていうかそれより、あんた、いつからここに……?」
クーデリアが「まさか……?」と背中に冷や汗を流しながら訊ねる。
「つい先ほどです。グランドマスターから『正月ぐらいロロナも帰っているだろうから、たまには様子でも見てこい』と言われてやってきました」
平然と答えるホムに、ロロナとクーデリアはホッと胸をなで下ろす。
「本当はお昼過ぎに到着していたのですが」
「「……え?」」
続くホムの言葉に、ロロナ達の表情が固まる。
「グランドマスターから『そういえば時期的に姫始めの真っ最中かもしれんなぁ。そのときは気を遣って終わるまで待ってやれ。親しき仲にも礼儀あり、だな。ハッハッハ』と言われていたので、その通り実行いたしました」
「―――○×△っ!!」
耳まで真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げるクーデリア。
「えっと、じゃあ、ホムちゃん、さっきの……見てたの?」
「さっきの、というのがマスター達の性行為を指すのでしたら、はい、見ました」
「えぇぇ!?」
さすがにロロナの顔も真っ赤になる。
「日が沈む前に終わるだろうと思っていましたが、まさか五回戦までいくとは、ホムの予想外――」
「ちょっ……ホームーちゃーん!!」
詰めの甘い気遣いは気遣いじゃない。
アストリッドとホムに強くそう訴えたい、そんなロロナのお正月だった。
おわり
- 48 :
- 以上。読んでくれた人、ありがとう。
昨年末からのSS連投はここまでです。
駆け足で執筆投下してお見苦しい点も多く、失礼いたしました。
新作の情報等まだ不明ですが、今年もアトリエシリーズの百合が盛り上がりますように。
- 49 :
- GJ
- 50 :
- 俺は今素晴らしいロロクーを見た、GJ
- 51 :
- GJ。ほむちゃんいい仕事してるw
- 52 :
- ホムのオチ最高w
お疲れ様でした!
- 53 :
- 自分が子育て書いたとき、たしかに名前つけるとオリジナルになっちゃうから
お姉ちゃん、妹ちゃんって呼ばせてたな。それで書いてくれ頼む
- 54 :
- GJ!
- 55 :
- これはいいホムwww
- 56 :
- 年始からいいもの見せてもらいました!
乙です!
- 57 :
- ちょっと質問なんだけどさ、ここに投稿したSSって、本人なら例えばPixivにも投稿してもいいのかね?
イマイチローカルルールには詳しくなくて……
- 58 :
- 別に自由だよ
- 59 :
- >>59
Thanks。
なら、前スレに投下した奴の続きでも書いてみるかな……
- 60 :
- SS投下します。
続きものなんで、おkの方のみ見てやって下せっ!
ミミとトトリの話。メルル時代のいつか。
- 61 :
- 『ガラスの花』 第一話
――――ぽつん
何かが頬に当たる感じがした。雨だろうか。
たちどまり力の無い仕草で、ゆっくりと首を上に向ける。
振り仰ぐようにして空模様を見ると、どこまでも続く灰色が広がっていた。
周りを歩く人々も雨が本降りになる前にと、各々急ぎ足でどこかへ向かって行く。
あぁ、これは……すぐに酷い雨になるわね。
- 62 :
- 冒険者として養った勘と洞察力は、こんな時すらも働く。
命のやりとりを行う場で、自分の状態がどのようなものであれ常に冷静に状況判断が出来てこその一流冒険者だ。
もちろん普段から心がけなければそんな技は身につかない。
シュヴァルツラングの名に恥じぬ一流冒険者となるべく磨いて来た技。
あの子と一緒に―――培ってきた技だ。
- 63 :
- 今は、だめだ。
何がダメなのかは自分でもよく分かっていない。
ただ、今はまだダメなのだ。
私はどこで間違えたのかな。
浮かんだ疑問は心の中で淀んだまま消えはしなかった。
◆
それは理解していた事だった。
- 64 :
- 初めて告白したあの時。
あふれ出る想いをこらえる事が出来なくて。
他の誰よりも自分が近くに居たくて。誰かに渡すなんて許せなくて。
そしてあの子も、少しくらい私の事を――なんて夢も見ていた。
しかしそんなのは都合の良い夢でしかなかった。
私が決定的な言葉を口にした時、それを一瞬で悟った。答えを聞くまでもなかった。
- 65 :
- トトリの戸惑った視線を見れば、否が応でも理解せざるを得なかった。
トトリと私は相容れぬのだと分かったその時に『冗談よ』と一言言えたらよかったのかもしれない。
そうしたらあの子だって『本気に見えたよ、もう!』なんて怒って
『本気にするほうが悪いのよ』なんて私も返して。
そうして二人で笑いあっただろう。
- 66 :
- 今までもこれからも、一番の友達としてトトリのそばに居続ける事が出来たのかもしれない。
でも私は言えなかった。この想いを嘘でも冗談なんかにしたくなかった。
けれど最愛の人を潔く諦めきれるほど、出来た人間でもない。
だから、優しいあの子を困らせると分かっていたけれど、ある提案をした。
- 67 :
- 『三月付き合ってみて、それでトトリの答えを聞かせて。私との関係をよく考えてみて欲しいの』と。
あの子はそれに頷いてくれた。
とりあえず出来た猶予期間。
私はいつも通りを心掛けた。特に何かした訳じゃない。
いつも通りに近場で冒険にいって、錬金術の材料を集めたり依頼を引き受けたり、
本当に日常を送るばかりだった。
- 68 :
- というよりもトトリも私も忙しくて、普段の生活をするのが精いっぱいだったと言うのが本音だ。
でもトトリが私の事を意識してるのは感じてた。
なんとなく会話がぎくしゃくする。
あれほど多かったスキンシップもなりを潜めていた。
二人で話している時など、目線をなかなか合わそうとしなかったのだ。
でもそれは仕方ないと思っていた。
- 69 :
- だって友達から告白されれば誰だってそうなると思うし。
それでもトトリは笑っていたし、普通に見えた。
三月後に何を言われるか、分かってはいた。
少なくともその時はわかった気持ちになっていた、というのが正しいかもしれないけれど。
きっとあんな提案をしようがしまいが、トトリの答えは変わらないだろうと思っていた。
- 70 :
- それでもトトリが私の事を考えてくれている時間が増えるのは、少しだけ嬉しかったりした。
我ながら単純だと思うが、仮初のものとはいえ、
トトリと付き合っているという事実に幸せを感じていたのだと思う。
だけど終わりは思いのほか早くやってくる。
あの告白の日から、一月後。
トトリは思いつめた顔をして私と相対する。
- 71 :
- 『……ごめん、ミミちゃん。私、やっぱり……無理だよ』
そんな風な出だしからの決別の言葉は、またたく間に私の頭を真っ白に染め上げた。
とつとつと話すトトリの言葉が耳をすり抜けていく。
トトリの話を聞く私に分かったのは、自分の愚かさだけだった。
トトリは笑顔の下で日々悩んでいたのだ。
好きになってくれた事は素直にうれしい。
- 72 :
- でも私の事を好きになれる気がしないのに、恋人としてそばにいていいのか。
余計な希望を持たせていいのか。
隣に居て笑っていていいのか。
そんな悩みは私の事を騙しているような、耐えがたい罪悪感を生む。
その罪悪感にのまれそうになっても、人に相談する訳にはいかないから、
一人で悩み続けていた。
- 73 :
- 泣きそうになりながら話し続けるトトリの姿から、
私と想いは違うけど私を大切に思ってくれている気持ちが伝わってきた。
泣きそうなのは自分の悩みが辛かったからではない。
トトリ自身が発する言葉で私が傷つくのが苦しいのだろう。
私の想いを否定する言葉を吐かねばならないのが、たまらなく辛いのだろう。
- 74 :
- 本当に優しい子。
そうとも。そんな優しいトトリに私は魅かれたのだから。
同時に、そんな最愛の人の顔を酷く歪めているのは紛れもなく、私のせいだった。
しばらくの平穏な時間と引き換えに、私はトトリに負担をしいたのだ。
だから、決断した。
私の想いがトトリにとって重荷にしかならないのなら。
この想いをこれから先永久に封印する事を。
- 75 :
- ◆
ぼつ、ぽつぽつ―――ざぁあああ
ぼぅ、としていたらしい。
本格的に降り出した雨が、回想を遮った。
気づけば通りにはあまり人が歩いておらず、僅かにいる人も皆、傘をさし道を急いでいる。
道にとどまりぼんやりと立ち止まっているのは私だけだった。
降りしきる雨粒が全身をくまなく濡らしていく。
- 76 :
- 不思議と寒さは感じない。
寒さを感じる器官など初めから存在しないかのようだ。
感じるのは濡れているという事実だけ。
いや、それも視覚から入ってくる情報がそう頭の中に伝えているだけなのか。
まるで、自分が自分では無いような、大切な半身を失ったような虚無感。
ゆっくりと歩きだす。
もはや土を踏みしめている感覚すら危うい。
- 77 :
- 私はどこに居るんだろう。どこに向かっているんだろう。もう、よく分からない。
考えたくなくて、思考を放棄した。
しかし足は前に進んで行く。
景色は流れる。
降りしきる雨が頬を流れ落ちる。
ふと気付くと、借りている宿屋の室内に立っていた。
いつのまに帰ってきたのだろう。
- 78 :
- びしょびしょの自分の体をみると、相当長い時間外に居たようだが、記憶は曖昧だ。
ぽたぽたと水が床に落ちる。
服の端から髪の毛からとめどなく水が垂れている。
このままでは床がびしょぬれになってしまう。
こういう時、何をすればいいんだっけ…?
まともに動かない頭とは裏腹に、手が荷物をあさり始める。
- 79 :
- 動き始めた自分の体を見て、あぁ、私はタオルを探しているのかと思う。
無造作に動く手を、はるか遠くから見るように眺め続ける。
冷えてしまったように頭は働かない。
動きを止めた心はその場にとどまり続ける。動き出す事など無いかのように。
ふと、手が止まる。
目に入ったのは、花。
小さな瓶に入ったドライフラワー。
- 80 :
- 荷物の中から顔をのぞかせたそれに、目を奪われる。
どくん。
心臓が動く音が聞こえた。
震える手がゆっくりと、小瓶をつかむ。
そっと持ち上げて顔の前にもってくる。
『はい、これあげるよ! 材料が余ったからメルルちゃんと作ったんだ!』
波紋が一つ。
- 81 :
- 『メルルちゃんはケイナちゃんにあげるんだって。私は日ごろの感謝もこめてミミちゃんに!』
波紋が二つ、三つ。
『え? ううん、いいの!ミミちゃんの喜ぶ顔が見たかっただけだから』
揺れる心のしぶきが思い出させる。
もう戻らない温かな日常を。
叶わなかった想いを。
そして、これをくれたのは誰だったかを。
- 82 :
- 「…………トト、リ」
呟いたその声とともに、水が頬を伝う。
ぽたん、と持っていた小瓶に水がかかる。
「――――あ」
あぁ、私は泣いているのか。
いけない。自分の涙なんかでトトリからのプレゼントを汚してはいけない。
だから、はやくこの小瓶をしまわなきゃ。
もしくは泣きやまなきゃ。
- 83 :
- だって分かっていた結論を、再び目の前につきだされただけじゃない。
今更落ち込んでどうするのよ。
さぁ、小瓶をしまって泣きやんで、体をふくのよ、ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング。
「あ……れ?」
かくん、と膝が落ちる。
壊れたように流れ始めた涙は、次々に小瓶に降りかかる。
- 84 :
- 「あ、ははは、なにやってるのよ、私は……。早く……動かなきゃ」
ひび割れたように響く自分の声が、室内に溶け込む。
足に力は入らず、ピクリとも動かない。
「あ……あ…ぅ……」
ぼろぼろとこぼれる雫にもはや抗う術などない。
落ちる雫は小瓶にはじかれ、中の花には届かない。
- 85 :
- それはまるで―――――私の想いのような。
そう思い当った時に、決壊した。
「う、うぁあああああああ!」
振りしぼるような叫び声が喉の奥から発される。
小瓶を胸に抱きかかえるようにして、私は泣き叫ぶ。
- 86 :
- 振りしぼるような叫び声が喉の奥から発される。
小瓶を胸に抱きかかえるようにして、私は泣き叫ぶ。
叫んだ声は降り注ぐ雨音にかき消され、あの子のもとに届く事はない。
だからあの子がこの声をききつけ心配する事はない。
だから、今は。
届かなかった想いの切なさを、涙に変えさせて下さい。
続く
- 87 :
- 以上第一話でした。なげえよ!終わりが見えない!
読んでくれた人ありがとう。次はいつだか分らんが完結目指すよ。
続きものの投下がダメだったりしたら一言下され。
- 88 :
- 続きもの全然大丈夫です
これは先が気になる類のものだぞ・・・面白かったので期待してる
- 89 :
- ぜひ続けて
っていうかここでやめられたら生しすぎる
でも二人を幸せにしたげてね
- 90 :
- 続きが気になる
ミミちゃんが暗黒面に堕ちないか心配だな
- 91 :
- >>88 >>89 >>90
続きものおkと聞いてほっと一息。皆さん、あざすっ。
遅筆だから、相当気長に待ってくれると嬉しいんだ。
- 92 :
- まとめサイトの管理人て生きてるー?
- 93 :
- ほす
- 94 :
- 前スレでロロリオss投下させていただいた者です。
今回もロロリオssが出来上がったので、投下させていただきます。
ちょっと長いので、もしかしたら規制に引っ掛かるかもしれません。
設定は、リオネラEDの後の世界です。
タイトルは「二人のアトリエ〜ロロナとリオネラ〜」
- 95 :
- すいません、ここに直接投下させていただこうと思ったのですが、思ったより忍法帖システムがやっかいすぎて…。
なので、ピクシブに投稿したのを載せさせていただきます。
ttp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=782956
よろしければ一見ください。
- 96 :
- >>95
GJ! ターン制ワロタ
pixivって小説も投稿できるんだな
- 97 :
- 「メルル、ちょっと相談があるんだけど……」
「何ですかミミさん? 相談って」
「もうすぐ……アレがあるじゃない」
「アレって何ですか?」
「だから、その……二月だし……もうすぐ、バ……バレ……バレンタ――……〜っ、二月の十四日があるでしょ!」
「あと二文字ぐらい頑張りましょうよ……どれだけバレンタイン恥ずかしがってるんですか」
「う、うるさいわね。それよりその、あんたが今、口にした浮かれた行事のことよ」
「バレンタインがどうしたんです?」
「私個人としては、別にそんな、何とも思ってない日なんだけど……トトリはこういうの好きらしくて、何ていうかその……毎年、かなり凝ったチョコをくれたりするのよね」
「……ツンデレ王国の言葉では"のろけ"を"相談"って言うんですか?」
「最後まで聞きなさい。あくまで私としてはこの行事に大した興味は無いんだけど、いつも貰ってばかりじゃ悪いし、今年は、こっちからトトリにあげようと思って」
「なるほど、いいですね。先生きっと喜びますよ」
「それで相談っていうのは、どんなチョコを送ったらトトリが一番喜んでくれるかっていうことなんだけど」
「ミミさんの体に生チョコをトッピングして『私を食べて』ってやればいいんじゃないですか?」
「張り倒すわよ! いいわけないでしょそんなの!」
「冗談ですってば。それじゃあ先生に、どんなチョコを貰ったら嬉しいか聞いてみますね」
「分かってるでしょうけど――」
「ミミさんの名前は出さないように、ですよね」
「そういえばトトリ先生、もうすぐバレンタインですね」
「そうだね。メルルちゃんはケイナちゃんにチョコ貰ったりするの?」
「はい。先生は?」
「私はどっちかというと、上げる方かな」
「そうなんですか。ちなみに先生は貰うとしたら、どんなチョコが嬉しいですか?」
「う〜ん……前にロロナ先生が作ってくれたチョコパイとか、すごく美味しくて嬉しかったなー。あと、お姉ちゃんがくれた手作りのチョコクッキーとかも嬉しかったし……」
「ふむふむ……」
「あ、そうだ」
「何です?」
「もしもミミちゃんに貰えるなら、ミミちゃんの体に生チョコをトッピングして『私を食べて』ってやってほしいなぁ」
「あ。いいんだそれで」
- 98 :
- あ、終わりなのかGJ!
ミミちゃんはどういうチョコをあげるんですかねえw
- 99 :
- SS投下します。
カップリングはメルケイ&ミミトトetc…。
前半から男衆の出番が多いですが、ちゃんと百合ですのでご安心を。
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