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2012年5月801508: 『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』4bro. (354) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』4bro.


1 :10/04/10 〜 最終レス :12/03/29
どうぞ。
過去スレ
『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』3bro.
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1198737122/
『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』2bro.
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1175373655/
『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1131293225/
萌え兄弟∞oI まとめサイト(職人さんの投下まとめ)
ttp://wiki.livedoor.jp/anikilove/
『バッキャロォー兄貴イィ…何しやが…っくあぁッ!』まとめサイト(スレ過去ログ)
ttp://brothers.nobody.jp/
※このスレは兄×弟について語るスレです
弟攻派の方はこちらへどうぞ
兄弟モノで801<6>
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1248942425/
『コレが欲しいんだろ…? 兄貴』
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/pinknanmin/1260168916/

2 :
>>1
おつ

3 :
>>1
即回避も兼ねて
恋の始まりがいつだったかなんてはっきりとは覚えていない。
ただ、これが恋だと気付いた瞬間は今でもはっきり覚えている。
俺が高校入学を控えた春休み、弟は小学校入学を控えていた。忙しい両親に代わり、少し遠出をしてとあるテーマパークへと
弟を連れて行った。春休みだけあって、人混みに揉まれて弟とはぐれてしまったが、幸いさして
時間をかけず見つけ出すことができた。俺に気付いた弟は、しがみつくように抱きついてきて…
年が離れていたからか、共働きの両親に代わって本当に小さい頃から面倒を見ていたからか、弟はよく俺になついた。
こぼれ落ちそうな黒目がちの瞳は、いつでも無垢で打算のない好意と尊敬を、その幼く舌っ足らずな言葉よりも雄弁に
語ってくれた。それは他の何よりも、俺の心を兎に角いっぱいに満たしてくれるモノだった。
下から俺を見上げる弟の瞳は涙でいっぱいで、いつも以上にこぼれ落ちそうに見えた。いつもの無垢で打算のない好意と
尊敬をたたえながら、そして…そして俺を失うことへの恐怖と、俺と共にあるという幸福感を深く鮮やかに煌めかせながら。
その瞬間、今まで『俺の心を兎に角いっぱいに満たしてくれるモノ』が何だったのか、唐突に理解してしまったのだった。

4 :
いちおつ!しかし一度新スレも落ちたし、これはパート3で終了かなーとも思ってた
>>3
庇護欲と依存は兄弟モノの王道かつ萌えポイントだよね
保守のため何かリクエストあれば書きます

5 :
ついでに弟編
恋の始まりがいつだったかなんてはっきりとは覚えていない。
ただ、これが恋だと気付いた瞬間は今でもはっきり覚えている。
俺が小学校入学を控えた春休み、兄貴は高校校入学を控えていた。忙しい両親に代わり、少し遠出をしてとあるテーマパークへと
俺を連れて行ってくれた。春休みだけあって、人混みに揉まれて兄貴とはぐれてしまったが、幸いさして時間をかけず
兄貴は俺を見つけてくれた。俺は、しがみつくように兄貴に抱きついて…
俺の物心ついてからの記憶には、いつでも兄貴がそこにいる。あらゆる思い出が、全てが兄貴へと繋がっている。
10も年の離れた言葉もろくに喋れないような子供にも、兄貴は根気よく付き合って、よく面倒を見てくれた。
兄貴はいつでも優しくて、特に目線をわざわざ合わせて頭をクシャクシャと撫でてくれるのが俺は大好きだった。
兄貴は幼い俺の世界の全てだった。
抑えきれない涙を兄貴はハンカチで拭ってくれた。そしていつもと同じように頭をクシャクシャと撫でてくれた。ただ…ただ、ギュッと
俺を抱きしめて、いつものようには目線を合わせてはくれなかった。俺は何故か胸が苦しくて、なかなか涙が止まらなかった。
それが『幼い俺の世界の全て』に対する「切ない」という感情だと知るまでには、もう少し月日が必要だったけれど。

6 :
>>4
そうそう、文字通り四六時中一緒にいるから、まさに他人が割って入れない濃密さがいいな、と…
即興で書いてみたものの、一応現在兄27弟17で、兄はぬまで自分を抑える気満々だけど、血気盛んな(?)弟の方が
我慢出来ずに行動に出ようとしている、というイメージが頭から離れない…ので、もしよろしければそんな感じでリク
お願いできると全オレが涙するんですが…どうですか?

7 :
>>1おつ。
>>3も乙!萌えた

8 :
>>1お兄ちゃんありがとー!
前スレのフットボール兄の話、続き待ってる。全裸で

9 :
>>8弟よ、裸になるのは兄ちゃんの前だけにしような。

10 :
>>1
ここがなくなるのは寂しいので

11 :
>>9
靴下は履いてるから大丈夫だよ!
春とはいえ、まだまだ薄寒いからね!

12 :
おしおきが必要なようだな

13 :
え、ちょっ…まっ待てよ兄貴
やめ……んはぁっ…あぁっ…

14 :
>>6
では一線を超えたとこまでリクエストします!
弟×兄になるようでしたらもう一つのスレに投下してください。

15 :
保守

16 :
即回避って今はどれ位レスすればいいんだろ?
「兄貴、辞書貸し…何やってんの…?」
扉を開けた途端目に入ったのはベッドに積まれて散らばっている写真とそれを前にして考え込んでいる兄。
高校時代、三年連続「遊びでもいいから一度お付き合いしてみたい男」No.1に選ばれた、才色兼備な我が兄の見惚れるような
憂い顔が気になったわけではない。一つ屋根の下でずっと暮らしているのだ、今更同性の兄弟の見た目なんぞ気にするような
繊細さなど俺にはない。
問題は彼を悩ませているとおぼしき写真の方だ。
「いや、もうすぐお前の誕生日だろ?この一年のメモリアルアルバムの構成をそろそろ練ろうかと」
乱雑に積まれた写真の共通点、それは必ず(本当に小さくても)俺が写っていることだ。
「…はぁ、もういい加減お互いイイ年こいてんだからやめろよそーゆーのはぁ…」
「何を言う兄の一年に一度の楽しみを!お兄ちゃんはお前をそんな子に育てた覚えはありません!」
写真から顔を上げて、こちらに拗ねたような表情をしてみせるが、言っていることはアホ以外の何物でもないと思う。
「うわ、なんで俺が買ってもいない修学旅行の写真とかあるわけ?この人ストーカーです助けておまわりさーん」
兄の言うことは軽く無視し、無表情かつ棒読みでそんなことを言ってみる。学年の違う女子たちにまで写真が出回ったという
兄とは違い、俺の写真を好んで手に入れようとする人間など皆無だ。
ただし、目の前のアホを除く。
「うん?それはなー、お前のクラスの子達が家に来たことあっただろ?その時頼んだ分。いやー言ってみるもんだねー
てか誰がストーカーだコラせめてブラコンと言えコラ」
学歴が高くても頭が残念な人間っているよね、などと少し思考を飛ばしてしまう。兄と違い、自分は兄絡みでもない限り
女子と縁などなく、彼女イナイ歴=年齢を順調に更新中だ。
兄にニッコリされながらお茶を勧められて頬を染めていた、『噂のイケメン』目当ての女子共にこのアホの姿を見せてやりたい。
決して僻みでも何でもなく。

17 :
軽く頭痛がしそうな俺を尻目に兄は楽しそうに写真を仕分けていく。俺の誕生日毎に編集される『メモリアルアルバム』とやらも
今年で6冊目だ。きっかけは高校入学祝いにと親父が兄に買い与えた一眼レフ。余程性に合ったのか、兄は賞を獲るほどの
腕前となり、大学卒業後はソッチ方面に進むことに決めたらしい。最高学府に進んでおきながら流石に自由過ぎるだろと思う。
もちろんこれも決して僻みではない。
「やっぱり俺とお前のツーショットで最初と最後は飾らないとな〜…」
気付けば兄がこちらを窺うように見ている。さっきの台詞を翻訳すると『最後のページ用のツーショットを今撮りたい』ということだ。
多分。
「…で、何を用意してるんだ、あんたは」
「いや、思ったよりバイト代が入ってね?新しいの買ったんだよアハハハ」
多分じゃなくてまんまだった。アハハハじゃねぇよ何いそいそとカメラと三脚持ち出してきてんだよ、と言いたい気持ちをグッと堪えた。
言っても言わなくても結果は変わらないからだ。
「うーん、やっぱ部屋だと狭いなーあーでも部屋じゃないとなー…あ!そこの椅子もうちょっと引いて、そう、んでそこに座って」
何やらブツブツ言いながらカメラを調節し、俺に指示を出し始める。こうなるとイメージ通り撮り終えるまで兄は諦めない。
最初に賞を獲った写真――二人で手を繋いで、夕焼けに染まったその影を撮ったのだ――からずっとこうだ。
「っと、これでよし!」
どうやらセッティングできたらしい。兄が俺の座っている椅子の後ろへと回りこみ、両肩に手をかけてきた。
実を言えば俺は兄と一緒に写真に写るのがあまり好きではない。子供の頃から、いつでも周りの視線は中身も外見も
上出来な兄のもので、俺はその引き立て役だからだ。
思わず憮然とした顔になるのも仕方ないだろう。
「ほーら、笑って笑って!」
腰を落とし、嬉しそうな兄の顔が俺の横に並ぶ。何がそんなに嬉しいんだか…とその顔を見ていたら、そのまま顔が
こちらを向き、近付いてきて…

18 :
「………」
フラッシュにも気付かなかった。
意識が感覚と一緒になった時には既に兄はカメラの元にいて、「おぉっ!」とか「一発撮りで完璧!」とか言いながら
データをチェックしていた。
やっと我に返った時は、自分の部屋にいた。どうやら兄の部屋をそのまま辞してきたらしい。あまり記憶がはっきりしない。
「あ…辞書借りてない」
ふと当初の目的を思い出し、一人ごちた自分の口元に指が触れた瞬間…絶句したまま自分の全身が真っ赤に染まったのが
分かった。
ベッドの下に隠すように仕舞ってある、あの夕焼けに染まった二人の影の写真のように。

19 :
「お子様には刺激が強過ぎたかな?」
黙って部屋を出ていった弟が、そのまま自分の部屋へと戻っていったのを音で確認し、フッと苦笑混じりに呟く。
手元のカメラには驚きのあまり…と言わんばかりに目を見開き、為すがままに俺に口付けられている弟とのツーショットが表示されている。
思い込みとでも言おうか、弟は何故か自分の価値を過小評価しがちだ。身長こそ標準よりやや低いが、均整の取れた身体つきも、
繊細に整った綺麗な顔つきも、俺とは似ても似つかないけれど十分人目を引く。頭も決して悪くなく、俺の母校でもある
進学校でも上の中辺りの成績だ。
それなのにいつまでも兄である俺に劣等感を抱き続けている。
「ま、自業自得というか、俺もガキだったんだよなー」
俺は弟を愛した。それこそ他人から弟を隠し、弟から他人を隠す程に。弟に他人の興味が向くことのないよう、そんな素振りを
見せる者は悉く俺に目が向くよう仕向けた。そうやって俺に囲われた世界で俺だけを見て生きてきたから、弟は自分に
向けられる視線に鈍い。
かつて家にやってきていた女の子達が、よもや俺をダシに自分に近づこうとしていたことなど気付きもしていないだろう。
そして俺の牽制にも気付かない。今までずっとそう仕向けてきたのだから。
ベッドに置いたままの写真に目を写す。ほとんど俺が撮ったものだ。だが世間に発表するつもりは一生ない。勿体なくて、
他人に見せる気にはなれない。
だからこその『メモリアルアルバム』だ。
そして次の7冊目へと繋がる第一歩が、今まさに手元にある。
「あいつアレでかなりのツンデレだからなー7冊目はいよいよデレのターンだよな、うん」
そのためには間髪入れず動揺している隙をつかなくては。
堪えきれない笑みを浮かべ、俺は辞書を手に取った。
一見アホだけど実は策士な兄×ツンデレな弟
のつもりなんだが…ツンデレ難しい。

20 :
うおお萌えた
弟のデレのターンを全裸待機

21 :
バカヤロウ危うく萌えぬところだわ!

22 :
デレのターン?
何でこんな状況になってるんだ…
「お、トンボはっけーん」などと言いながら兄はカメラを構えている。イケメンというのは何をやっても様になるものだと思っていると、
その顔が突然こちらを向く。
「あっちの橋の方まで行ってみるか?」
「あ…う、うん…」
『あ…う、うん…』って何だそりゃギャー!!と、内心はなんだか大変なことになっているのに思わず俯いてしまう。しかも顔が熱い。
さっきから俺は『あ』か『うん』しか口にしていない気がする。正直自分がキモイ…深呼吸だ、冷静になれ!と心の中で叫ぶ。
「ょうっし、じゃ、行くかー」
深呼吸をしようとした矢先、兄に手を引っ張られて息が詰まる。その手を振り払うでもなく俯いたまま連れられて歩くとか、
ますます赤くなる顔とか、もう何が何やらよく分からない。
部屋で一人赤くなっていたら、突然兄が現れた。借り損ねた辞書を片手に。
驚きと羞恥と…まぁ諸々で、ろくな反応を返せない俺はあれよあれよという間に散歩に連れ出されてしまった。
そして現在に至るワケだが…
引っ張られながら(足が上手く前に出ないので本当に引っ張られている形だ)兄の表情を窺い見ると、溢れんばかりの笑顔だ。
明らかに成人男性である兄が高校生の俺の手を引いて歩くのはどう見ても奇異なのだが、幸い人気がない道だったのと、
擦れ違う人が兄の笑顔の方に気を取られているので変な目で見られることはない。それはまぁいい、いやいや良くねぇよ
そもそもこんなことになってるのは全部コイツのせいじゃないか?と思うとなんかムカついてきた。
「ん?どうした?」
それまで大人しく引っ張られていた手をクッと自分の方へと引いたことで兄が立ち止まる。こちらを見るその顔は相変わらず
ムカツクくらいのいい笑顔だ。
「…どういうつもりだよ」
「あ?何が?」
「何が?じゃねぇよ!俺にいきなりキ、…キス…するとか!!」

23 :
ムカついた勢いのまま声が大きくなってしまったが、『キス』だけは囁くような小声になってしまった。しかも兄の顔を見ることが
出来ず、また俯いてしまう。心の中では『なにこれキモイ!グァーッ!』とか悶絶しながら大絶叫だ。
兄がこちらをじっと見ているのが分かる。なのに何も言わないから顔を上げることもできない。俺は何もやっていないのに、
俺の方がいたたまれなくなっていくのはどうしてなのか。
「兄貴はそりゃモテるからあんなの普通なのかもだけど、俺はそういうの慣れてないし…てか男の、しかも血の繋がった弟に…とか
ホモか、てか変態かお前はっ!」
耐え切れなくなって、何とかそんなことを言ってみる。緊張し過ぎて頭がクラクラしてきた。
「あー…まぁ変態は置いといてだな、ホモは微妙に違うかも?俺、お前以外の男に欲情したりしないし」
変態は置いといていいのかこの変態。いや、今問題なのはそこではなく。
「よ…よくじょ…はぁあ??何言って…」
「お兄ちゃんはちゃーんと分かってるから大丈夫だ」
思わずすっ頓狂な声を上げた俺を遮りながら、兄がニッコリと、効果音が付きそうな笑顔でそんなことを言う。そして徐に
地面に向けてシャッターを切った。
「最近は小型でも上手く撮れるねぇ」
テンパってて気付かなかったが、辺りは秋特有の夕焼けに染まっていた。兄の手元のデジカメには、あの写真とよく似た構図のモノが
表示されているはずだ。あの――
「あの写真な、お前ベッドの下に隠してるんだろ?」
…今、日本語じゃない言葉が聞こえたような気が…
「てか、俺の写真が載った雑誌とか、全部ベッド下だろ?」
言ってくれればタダでやったのにわざわざ買わんでも、とかなんとか苦笑しながら続けている…が…
「な…何でお前知ってんの…?」
しまったこれでは完全肯定だ、と思ったがもう遅い。震える声で絞り出した言葉は、口の中に戻ってはくれない。

24 :
「いやー、母さんがな?エロ本チェックのために掃除してんの。知らなかった?」
知らねぇし何やってんだお袋っ!!と思うが声が出ない。今すぐ地面に埋まりたい気分とはこれか…。
「似た者兄弟でつまらないってさ、『あんた達本当に仲いいのねぇ』って愚痴こぼされて」
「似た者…って全然似てねぇだろ…」
何とかそれだけ吐き出した。似てないせいで、今まで俺がどんなに。どれだけ。
「それがなー、俺も母さんに同じことやられてるわけよ。で、俺の方にはお前のお宝写真がな。これでもかと」
…『お宝写真』って何だソレは。と思ったら一気に脱力した。兄は変態なだけでなくアホのコだったのを思い出した。
「で、俺はお前をそういう意味で好きなワケ。で、分かってても一応返事は欲しいなーと思うわけですよ」
繋がったままの手をいきなり引かれて、兄の顔がグッと近付く。あれだけ笑顔だったのに、いつの間にか真顔になっていた。
「俺をお前みたいな変態と一緒にするな、バーカ」
似てないせいで、今まで…どんなに憧れて、どれだけ好きだったかなんて分かりもしないくせに。
そう言ってやるのも癪だったので、言葉の代わりに唇をくれてやった。

25 :
「桜散っちゃったなー」
「寒かったし今年はもった方だろ、散々写真も撮っただろうが」
「桜に浚われるかと思って…を実践できて楽しかったな〜」
「…何でこんなアホが兄貴なんだかなー時々マジで泣けてくる」
毎年この時期になると交わされる会話だ。ただ、去年までと違うのは…
「おー、そりゃ大変だ、お兄ちゃんが慰めてやろう〜」
「ばっ…!さっき散々ヤったじゃねーか!寄るな触るな舐めるなー!!…っぁ!」
弟はデレてなくても充分エロ可愛い、という俺の認識だと思う。
文体が多少変わってしまったかも。朝チュンしか書けなくてスマソ。謝罪はするが反省はしない、賠償は(ry
そしてツンデレが迷子です。どこ行った、ツンデレ…

26 :
ッヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
髪が!髪がぁぁぁぁぁぁ!!!

27 :
すごく萌えた!
GJ!
そして>>26のテンションの高さに吹いたw

28 :
弟のターン!!!
萌え尽きたよ、GJ!

29 :
【保守投下】
調律の道具をステージに広げて、兄さんは辺りを見回した。
「よし。じゃあ取り敢えず何か弾いてみて。響きの確認するから。」
兄さんはメモを手に客席へと降りていく。暗がりに小さな衣擦れの音だけが響く。僕は椅子に座り、こほんと咳払いをした。
「兄さん、何がいいかな。」
「何でもいいよ。でもそうだな、シューマンかショパンなんていいんじゃないか。今年は記念の年だし。」
兄さんは客席の一つに座り、ヒラヒラと手を振った。いつもの合図だ。僕はおもむろに鍵盤に指を置き、ゆっくりと走らせはじめた。
元々評判のいいホールだ、空気に溶け込むように音が響く。少し指が悴んだように感じた。
本当に極僅かな違和感。別に筋を痛めたというようなことではない。
恥ずかしいことだけれど、緊張から来るものだろう。

30 :
今までコンクールや共演者とのコンサートはいくらか出たことはあるけれど、ソロリサイタルは初めてだから。
もちろん実力のこともあった。けれど僕はそれともう一つ、ソロデビューに条件をつけていた。
いや、賭けをした、とでも言うのかな。その条件、願いが叶えば、きっとデビューも上手くいくと信じていたんだ。
さりげなく客席へ視線を投げる。兄さんはもう二階に移動していた。目を閉じて少し音を聞いた後、ふと思い付いたようにメモにペンで何かを書き記す。
最後の仕上げの下準備だ。仕事をしている時の兄さんは、いつも以上に格好いい。
穏やかでいて凜とした眼差しは僕の心を震わせるのだ。

31 :
「もう大丈夫だよ。ありがとう。」
いつもの合図で僕は演奏を止める。
「昨日来てすぐとは全然違うね。凄く滑らかに応えてくれるようになってるよ、兄さん。」
「それなりに骨を折ったからね。ただ微調整は必要だから。リハーサルは午後からになるから、そのつもりで。それから。」
いきなり兄さんは僕の手をとった。
兄さんの手にはいくつものまめがある。兄さんは大学に通い始める前から腕の良い調律師さんについて色々な所を
回っていた。道具の入った重い鞄を大事に運び、何時間もその人の側で音を聴き、技を見、心を学んでいた。
そして暇さえあれば何時間だってピアノに向かい続けた。

32 :
その時僕はとてもとても寂しかった。けれど兄さんの活き活きとした顔がとても好きだった。
今だってほら、兄さんの顔はキラキラ輝いている。僕の、大好きな、顔。
「少し緊張してるだろ。」
「…やっぱりわかった?」
「ああ。音が震えてる。」
僕の大好きな兄さんには隠し事なんてできないんだ。恥ずかしいけれど、ほんの少しだけ嬉しい。
「……ちょっと心配なんだ。上手くできるかなって。」
こんな風に弱音を吐いてしまうのは、兄さんの前だけだ。
穏やかに見えるこの世界も、やっぱり張りつめたものがあって。僕は何度も挫けそうになった。
僕は一人では歩けない弱虫だから、何度も泣いてしまった。だけど。
「大丈夫だよ。私がついているから。」
だけど兄さんはその度僕を救ってくれた。兄さんはいつも僕に強さをくれた。
だから、だからこそ今日僕は決めたんだ。
「うん。必ず成功させてみせるから。」
「さすが。それでこそ私の弟だ。」
兄さんに相応しい人間になるって。絶対にピアニストとして成功するって。

33 :
「初めての共同作業だ。きっと最高の思い出になるよ。」
「…うん。頑張る。」
兄さんが調律したピアノで、僕が演奏する。僕らの絆が旋律になる。
ソロデビューすると決めたとき、一つだけ賭けをした。
兄さんにきちんと自分の気持ちを伝えよう。もし兄さんが受け入れてくれたのなら、きっと僕は成功できる。
そんな自分勝手な賭けをした。
結局賭けは失敗した。だって僕が告白する前に、兄さんの方から告白してきたんだから。
「さて、名手に恥をかかせないように頑張らないとな。」
そう笑って兄さんは定規を手にする。 兄さんが調律師として働くことになった日に、僕がプレゼントしたものだ。
それ以来、その定規は留学やレッスン、コンクール等でですれ違い気味の僕の代わりに、いつも兄さんの側にいてくれる。
それがちょっぴり嬉しかった。
「おっと、忘れてた。」
何かを思い出したように、兄さんは僕に向き直る。何かな、と首をかしげた僕を兄さんは笑って抱きしめた。
いきなりのことで、思わずびっくりしてしまう。
「リラックスのおまじないだよ。」
始め何のことだかさっぱりだった僕を、兄さんはゆっくりと離した。それからゆっくりと――キスをした。
「に…さん…」
言葉にならない僕を、兄さんはまた優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫。ステージの上でも、私はいつも一緒だから。だから私が大好きなお前の、大好きな音を聞かせておくれ。」
ほんの少し兄さんの頬は紅くなっていた。それからその何百倍、僕は自分の頬を紅くした。
しばらく沈黙が続いて、時間が流れた。そして漸く僕は兄さんに答えることができた。
「もちろんだよ、兄さん。」

34 :
>>33乙!
落ちないように念のためあげ

35 :
>>33乙!!!
全裸待機&支援あげ

36 :
久々に来てみたら保守祭りに全力で禿げ萌えたage

37 :
規制解除されたので投下。
ベッドの上で目が覚めると、僕は温かい何かに包まれていた。視線を上げると、そこには兄の顔があった。
温かいと思ったのは、兄の腕だったらしい。目が合い、心臓が跳ねる。
「…大丈夫か?」
「……うん。」
そう言って、僕は俯いた。自分の胸元が見える。所々、いくつか赤い痕がついていた。…昨日兄がつけた
ものだ。何となく居たたまれない気持ちになって、体を固くする。
沈黙の後兄はベッドを抜け出し、台所へ向かっていった。僕も近くにあったシャツを羽織り、簡単に前を
合わせてからバスルームに向かう。熱目のシャワーを浴びて、体にある昨晩の名残を洗い流した。
昨日は突然のことで驚いたけれど、兄は乱暴はしなかったから体はそれほど辛くはない。僕も始めこそ
抵抗らしきものをしたけれど、それは所詮形だけ。兄との行為をすぐに受け入れ、求めてしまっていた。
だから辛い訳などないのだ。わずかに残る痛みや違和感に少しの罪悪感を感じるものの、心の奥底では
喜びにも似た感情が確かにあった。自己嫌悪に陥るもののそれすら希薄で、自分でも呆れてしまう。体が
温まるにつれて、頭の回転がゆっくりになる。
(…僕は兄さんと……じゃあ兄さんは僕をどう思って、あんなこと………)
現実的過ぎる恐れと、掴み所の無い疑問、そしてご都合主義な期待が頭の坩堝で煮込まれていく。絶望も
歓喜も全て融け合い、体を流れていく。
(…気持ちいいな…あったかい……)
微かな眠気に瞳を閉じる。降り注ぐ雫の感触と、温かさが心地良かった。

38 :
マジで俺は何してんだ。出来ることなら頭カチ割って本気でにたい。仕事場のプレス機にでも飛び込むか。
頭を抱えて、俺は真剣に悩んだ。いくら酒に酔ってたからって弟とヤっちまうなんて。あのクソ親父ですら、
飲んだくれだったが酒の勢いでお袋以外の女と寝たことはなかった。それじゃあ俺は親父以下か。なんてこった。
しかも最悪なのは、こんな最低なことしたくせに、罪悪感っつーか、後悔みたいなモンの中に、妙にスッキリ
した感情があることだ。何晴れ晴れとしてんだ。クソッタレ。逃げるように入ったキッチンで、俺は頭を抱えた。
これからどうしたらいいのかわからねえ。謝ればいいのか?
『ファックして悪いな。アレはジョークだ』
ってか?絶対無理だ。あんだけ盛って、ハイエナみたいに貪って、どの面さげて言うんだよ。
(ダメだ…とりあえずコーヒーを……)
戸棚や冷蔵庫を探してみるが、インスタントはなく、豆の入ったキャニスターとコーヒーメーカーはあるものの、
今度はミルが見つからない。仕方なく冷蔵庫の牛乳をあっためて飲むことにする。牛乳もあんまり量はないが、
何にも無いよりはましだ。ついでに弟の分も入れつつ、改めてテメエのしでかしたことの大きさに深い溜め息をつく。
もう弟と別れたくない。そう思ってた癖に、それをぶち壊すようなことを俺はしたんだ。さっきこそ弟は何にも
言わなかったが、本当はどう思ってんだろう。
すりガラス越しみたいな記憶のフィルムを巻き戻して、昨日のことを思い出す。多分殴ったり蹴ったりはしてない。
だって弟は殆んど暴れてなかったし……ん?何でだ?普通兄貴にヤられるってなったら抵抗するだろ?いやまあ、
普通そんなことにはならないけど…それに途中くらいから向こうから……いやいや。弟のことだからこんな馬鹿
兄貴にも逆らえないとか考えてたんじゃ……いやまさか、でもああ違う――学がない頭で考えてもドツボに
嵌まるばっかだ。
「クッソー…どーしろってんだよ……」
俺は堪らず床にしゃがみこんだ。

39 :
「…?」
僕がバスルームから戻ると、兄は背中を丸めて座り込んでいた。気分でも悪いんだろうか。声をかけようか
迷っていると、気配に気付いたらしい兄がこちらを見た。目が合うと兄はギクリと体を強張らせ、重たそうに
腰を上げた。それから頭を掻いて、そそくさとバスルームの方に歩いていってしまう。残念な気持ち半分、
ホッとした気持ち半分。僕は深いため息をついた。
日の射す方を見れば、テーブルとその上にのったカップが2つ目に入る。そこから漂ってくる甘い香りは、
馴染み深いホットミルクだった。そこから更に視線をスライドさせると、コーヒーメーカーと豆がある。
(…兄さん、カフェ・オレでも飲みたかったのかな……)
僕はノロノロと窓辺に向かうと、歯を代えるために分解してあったミルを組み立てて、豆を挽いた。
(ネルで淹れよかな…でも、急がないと兄さんが出てきちゃうか……)
コーヒーメーカーに水と多目の豆をセットして、スイッチを入れる。暫くするとぽた、ぽたと黒い雫が
落ちて、みるみる内にコーヒーが溜まっていった。
(…いい匂いだなあ……)
さっきまでぐるぐると渦巻いていた感情が熱で靄になって、頭に立ち込めていた。とりとめのない考え
ばかりが頭を巡る。ぼーっと立って、どうでもいいことばかり考えてしまうのは、今の僕には具合が良かった。
あのままたくさんのことを考え続けていたら、参ってしまいそうだったからだ。
気付けばコーヒーが全て落ち、湯気をたてていた。静かに波打つコーヒーが入ったサーバーを取り、テーブルの
マグカップの所に向かう。2つのマグカップに注がれたミルクは少し冷めかけていた。
昔兄が良く作ってくれていたホットミルク。兄はおやつの時間に作ってくれたり、それを持って色々な所に
連れていってくれたりした。温かくてちょっと甘いそれは、僕の大好物だった。懐かしい幸せな記憶の一部だ。
感傷に浸りながら、兄のマグカップを手に取り、コーヒーを注いだ。優しい白が、少しずつ茶色になっていく。

40 :
甘い香りに、苦い香りが混ざって、鼻孔をくすぐった。懐かしい色が、香りが、みるみる変わっていく。
慣れ親しんだものが、少しずつ変わっていく。どんどん元の色が、香りが、すっかり違うものになってしまう。
(僕と兄さんは、もう前と同じようにはいられないのかな……)
ふとそんなことを考えた。もう兄とは一緒に笑ったり、話したりできないかもしれない。そう思った。
その時、つ、と涙が零れた。
海に行こうって言い出したのは俺だった。会社に電話をすると、事務のばあさんが
「あんたもどうせ休みだろ。今日は現場から社長から、うちの孫まで男どもは全滅だよ!まったく、どうして
男ってのはそこまでフットボールが好きかねぇ!マグパイズが落ちたってだけで、ニューカッスル中の男連中が
最後の審判でも始まったみたいな顔してるよ!」
てな調子で一方的に捲し立てて、ガチャンと電話を切りやがった。ありがたいんだかムカつくんだか、よく
わからねえが休みはゲットできた。その後弟も同じように電話をかけて、休みの連絡をしてたから、今日は
二人ともオフらしいってことがわかった。
電話の後、弟が準備してくれた朝飯を黙々と食った。時々ちらっと弟の顔を盗み見てみるが、疲れてるような、
ぼーっとしてるような、そんな感じの顔をしていて、いつもの弟とはまるで違ってる。原因はやっぱり俺だろう。
どうしたらいいんだ。そう考えたとき、昨日の夢がぽんっ、と頭に浮かんできた。
そうだ。弟は海が好きだった。
なら、海に連れていってやれば弟は少しは元気を出せるかもしれない。我ながら安直だと思った。でも今の
俺にできることはそれしかねえんだ。恐る恐る海に行くかとオファーを出すと、弟はカフェオレを飲みながら呟くみたいに
「…うん。」
とだけ答えた。やっぱり弟はよそよそしいというか、上の空というか…。やっぱりもうダメなのかもしれない。
…いや、そんな風に諦められねえ。弟が好きだって気持ちはどうしようもない。たとえ弟を傷つけちまった
としても、弟にボロクソに言われたとしても、それでも俺は弟と一緒にいたいんだ。

41 :
ホント、最低だな。さっきまであんなに公開だの自己嫌悪だのしてたくせに、今はその化けの皮が剥がれて
自分勝手なこと考えてやがる。まんま、エゴの塊だ。クソっ。
飯を食い終わってから、俺達は近くのバス停から海岸行きのバスに乗った。空はお馴染みの曇り空。だけど
俺がいつも通ってるドブの親玉みたいな臭い港じゃなく、灰色でも開けた、あの思い出の海岸に行けば何か
変わるかもしれない。そんな馬鹿らしい期待を胸に、俺は弟とバスに乗り込んだ。弟は俯き気味に真ん中の
席へと歩いて行った。俺はどうしようか悩んだ挙げ句、弟が座った席の側に刺さってるポールに寄っかかる
ことにする。
バスに揺られている間、時々弟の方をチラチラと盗み見した。
「兄さん。」
ずっと黙ってた弟が突然俺を呼ぶ。俺はギョッとして肩をいからせた。
「――昨日、僕のこと、間違えた?」
間をおいて弟は続けた。
「その……女の、人と。」
俺ははっとした。そうだ。勘違いしたって言っちまえば、あれは間違いだったって言っちまえばいいんだ。
そうすりゃいい。そう誤魔化して、自分を騙しちまえば、また前みたいな関係に戻れるチャンスがあるかも
しれない。ぐるぐる頭ン中で悩んだ挙げ句、俺はやっとの思いで口を開ける。
「いいや。」
ああ、クソッタレ。
「お前だって、わかってた。」
なんてこった。最悪だ。サンデー・ミラーよろしく、適当でいい加減なこと言えばいいのに。何でこんな時
ばっか、馬鹿正直に話しちまうんだ。
これでもう後戻りできない。もう二度と『前みたいに』なんてなれない。俺のヘドが出そうな『告白』を
聴いたせいか、弟が溜め息をついたのがわかった。それから弟は小さく
「そう。」
とだけ呟いた。それっきり、弟は黙りこくっちまった。それが何を意味してるか分からない。俺はこっそり、
弟の方を見た。
弟はずっと窓の外を見ている。弟の目に何が映ってるのか。俺にはさっぱりわからなかった。

42 :
しばらくして、車窓から僕ら家族が住んでいた街が見えてきた。久しぶりに見た街は、昔とは随分変わって
しまっている。兄や近所の子とボール遊びをした空き地には真新しい家が建ち、兄とお菓子を買いに行った
アイリーンおばさんの店はセインズベリーになっていた。ただ、皆で背比べの印を刻んだ街路樹や、『ホーン
デット・イン』と呼んでいた古びた安宿は昔のまま、ひっそりと街に佇んでいた。
見知らぬ、けれど懐かしい街に、僕は少しだけ瞳を潤ませる。
『お前だって、わかってた。』
兄は確かにそう言った。それはきっと、僕と兄がもう前のような『兄弟』ではいないということを意味して
いるんだろう。兄は兄であり、もう兄ではない。そしてきっと兄にとって僕は弟であり、弟ではないのだろう。
(僕たちはどうなるんだろう。)
建物がまばらになってきた。道行く人も殆んどいない。
「ウィートリー・パーク!」
運転手がぶっきらぼうに声を張り上げる。僕は反射的に顔をバスの中に向けた。すると偶然にも兄と目が
あった。心臓がドキリ、と鳴る。兄も驚いたような顔をしていたけれど、すぐに目を逸らされてしまう。
「…降りる。」
「…うん。」
それだけ言うと、兄は先に降り口へと歩いていく。僕もそれを追い、のろのろと歩いていった。 空は
晴れそうで晴れない、もどかしい天気のままだ。
(まるで今の僕みたいだ。)
小さな溜め息をつき、僕は兄の背中を追いかける。時折兄がこちらに振り向くのは、僕を気づかってくれての
ことだろうか。僕はつい俯いてしまう。足元の歩道には、段々砂が目立ちはじめてきている。もうすぐ砂浜だ。
懐かしい潮の香りが強くなる。

43 :
ふと、昔を思い出す。僕と兄は海に何度か来たことがあった。家から遠いので、頻繁には来れなかったけれど、
海は僕らのお気に入りの場所だった。海に着いてすることはその日によってまちまちだ。砂でお城を作ったり、
流木や藻屑を宝物と称して集めたり。砂浜をホワイトボードに、兄のフットボール戦術講座――その時兄は
味方はきれいな石や貝殻で置き、相手はゴミや木切れで置いていた――がはじまることもあった。
そういえば一度だけ、兄が大好きなニューカッスルの選手がロードワークをしている所に出くわしたっけ。
選手も子どもだから快く相手をしてくれ、確か頭まで撫でてくれたような気がする。
海は僕らのお気に入りだった。
兄が立ち止まる気配がした。それに合わせて僕も足を止める。いつの間にか地面は砂になっていた。
ざあ、ざあと波の音がする。不思議と安らぎを覚える音だ。自然に顔が音の方へと向く。そこにあったのは、
灰色で境がわからなくなった空、海、砂浜。そして兄の背中。どれも嫌になるくらいの雲のせいで、くす
きっている。はっきりしない、霞んだ灰。それがとても重たく僕にのし掛かる。僕らのお気に入りの海の
はずなのに。海は僕に微笑んではくれない。おまけにその風景はどこからか溢れてくる水で更に歪んだ。
(――こんなの海じゃない。あの時の海じゃない。)
何度も頭の中で呟いた。世界は昔とは変わってしまった。いつから変わったんだろう。それはわからない。
けれど世界は確実に変わってしまった。見覚えのある、見知らぬ世界に。きっともう戻らない。
(僕はどうしたらいいんだろう。)
水で揺らぐ視界に、兄が見えた。ゆらゆらと滲む兄は、どんな顔をしているだろう。その顔も、見知らぬ
ものに変わってしまっているんだろうか。このまま、何もしないでただこのに佇んでいたら、僕と兄は
今みたいに曖昧なままで、そして砂浜の絵みたいにいつの間にか僕らの関係は消え去ってしまうだろう。
(僕は…僕はどうしたいんだろう……)
こんな淀んだ、灰色の世界でも色褪せず、はっきりとわかるたった一つのもの。

44 :
(――兄さんと一緒にいたいよ――)
強く強く心を捕える想いで、胸は張り裂けそうになる。兄と海で遊んでいたあの頃も、兄と離れて暮らして
いたあの頃も、そして今この瞬間も。いつだって僕はそう願っていた。
「にい、さん……」
それはとても勇気のいることで、恐ろしいことだった。
だけどこのどこまでも煮えきらない灰色の世界には耐えられなかった。そこにいれば必ず後悔するのだと
確信していた。そしてこの世界から逃れる術は、どう足掻いてもこれしかないのだと僕には思われた。
「兄さん、僕は……」
抜け出した先が、どれ程残酷な結末だろうと、僕にはこうする他ないのだ。
「僕は、兄さんが好きなんだ。」
眼前の空と海は相変わらずくすんでいた。風も変わらず冷たく吹き付ける。ただその中で、兄だけが
ゆっくりとこちらへと振り返った。

45 :
やっとまともに見た弟は変な顔だった。泣くのか笑うのか、それとも怒るのかよくわからねえ。ただ目
だけは真っ直ぐこっちを見てて、どうにか笑おうってひきつった顔をしてた。そんな弟から俺も目が逸らせ
ない。
「ごめん…でも、でも僕兄さんが大好きで…ずっと…昨日だって、僕は嬉しくて……」
声は震えていた。弟は時々つっかえながら、俺に話してくれた。
「ずっと前から、多分、その…あははは、ごめんなさい、上手く言えない……。で、でも本当にずっと、
兄さんが好きだったんだよ、僕は…」
弟の顔が、くしゃっと歪んだ。どんな顔かっていわれても上手く説明できない。けどスペンサーだか、
ワーズワースだか、どんな桂冠詩人を連れてきたってきっとこの顔を上手く説明なんて出来やしねえんだ。
一つ一つ弟が溢す言葉がみぞおちの辺りに熱い塊になって貯まってく。大事な大事な言葉が、これでもかって
くらいに。
「僕は……兄さんとずっと一緒にいたいよ…」
まるで俺の頭ん中を覗かれたみたいだった。いや、俺の腹の底にあったもんが弟の口から溢れてきたのかと
思うくらい、弟から出てきた言葉は俺の想ってることとそっくりだった。笑っちまうよな。おんなじような
こと考えてるだなんて。不安とか葛藤とかはどこかに飛んでいっちまった。あんまりおかしくて、嬉しくて
泣けてくる。情けねえな。

46 :
でも泣いてなんかいられねえ。チキンな俺には言えなかったことを弟が言ってのけた。けど俺の経験から
言うと、弟は“ザ・アイロン・レディ”マーガレットとは違う。こんなことをぶちまけても、平然となんて
してられるわけがねえ。
「に、にい…さ…んっ……」
ほら、声なんて震えまくってる。顔だって赤くなったり青くなったりしてる。そりゃそうだ。テメエの
気持ちすら言えないようなチキンの俺だったら、鼻水だの涎だの流して泣いてるシチュエーションだからな。
こういうときはどうしたら良いか、俺はよくわかってる。そう、わかってるんだ。
(弟ばっかに助けてもらってちゃ締まらねえよな。)
俺はおもいっきり虚勢を張って、いかにも余裕があるって感じで兄貴面した。それで、もう限界って
感じの弟をぎゅうっと抱き締めてやる。弟は体を強張らせてたけど気にしない。だって俺はもうガキじゃ
ねえんだ。そりゃ、ご立派な紳士とは言えないだろうが、ちゃんと自分の道は自分で歩ける。だからちゃんと
真っ直ぐ、俺は俺と弟の気持ちに向き合ってやるんだ。
真っ直ぐ、もう諦めたりなんかしないで、弟に答えてやるんだ。
二、三回ゆっくり深呼吸する。それから体を離して弟と向き合った。弟は眼に涙を滲ませていて、それが
何となく昔別れた時とダブって見えた。だけど今度は違う。
今度こそ、ハッピーエンドだ。

47 :
「――俺だってお前のこと好きに決まってるじゃねえか。」
俺はありったけの笑顔で言ってやった。弟の不安をぶっ飛ばしてやれるきらい、馬鹿みたいに笑った。
(なんかズルい気もするけどなあ。)
さっきまでオドオドしてた自分が情けなかったり恥ずかしかったりもするが、この際無視だ。
「…兄さん……」
弟はそう言うとゆっくり笑った。やっぱり弟には、笑顔が似合う。それを見た俺はもう一度弟を抱き締めた。
小さな振動が胸から響いてくる。
「悪ぃ、携帯だ。」
最悪のタイミングだ。仕方なく携帯を取り出して画面を見ると、『バカオヤジ』とかいてある。本当に空気の
読めないダメ親父だな。そういや昨日マグパイズが負けたんだ。相当キレてるか、荒んでるかしてるんだろう。
まあ、パブで“歯医者の椅子”をやった挙げ句弟とあんなことになった俺が言えた義理じゃねえが。
「何だよこんな時に馬鹿親父!」
『ババババカヤローが!なん、何でアアアストンヴィラ駅がねえんだクククソッタレ!!ヴィ、ヴィラの
ホームがねえだと、ふ、ふざ、ふざけやがって!!!』
「ふざけてんのはそっちだクソ親父!また昼間っから飲んだくれやがって!ガナーズがアーセナルにあるか?
ねえだろーがこの間抜け!ガナーズはロンドン、ヴィラはバーミンガムにあるんだよ!タコ!!」
案の定親父はべろんべろんに酔っていた。全くお袋は別れて正解だ。あんまりデカイ声で、堪らず耳を
受話器から離す。が、離れてもまだはっきり聞こえるダミ声に、俺は深いため息をつく。
「父さん、どうしたの…?」
弟が心配そうにこっちを覗いてきた。俺はそれを見て苦笑いした。
「ああ、何か酔っぱらってアストン・ヴィラのホームがどうとか言って――」
そこまで言って俺ははっとした。それから急いで携帯に耳を当てた。
「おい馬鹿親父!!今どこにいる!?」
『だ、大丈夫だ馬鹿息子!泣くな!マグマグマグバイズは不滅だ!今俺はホームだ!マグパイズを
ボコしたヴィ、ヴィラなんざ父ちゃんがギ、ギギタギタにしてやる!!!』

48 :
そこまで言うと電話はブチッと切れちまった。一気に血の気が引くが、ぼーっとなんてしてられない。
弟の腕を掴むと俺は元来た道をダッシュで戻る。
「に、兄さん?!どうしたのいきなり!?」
「駅だ!あの馬鹿親父汽車でヴィラ・パークに行く気だぞ!昨日ヴィラがマグパイズを負かしたから、
殴り込む気だ!!」
「え…う、嘘だよね?」
「前科4犯だ!サンダーランドの時はマジで留置場にぶちこまれかけた!!」
「そ、そうなんだ…」
走りながら俺はあんな酔っぱらってたらバーミンガムどころか、訳のわからないとこに行っちまうんじゃ
ないかとか、警官にまた頭を下げるだけで済めばいいななんてことを考えてた。
ああ、もう最悪だ。その時ぷっと弟が吹き出した。
「本当、ニューカッスル負けちゃって残念だったね。くすくす…」
弟はのんきに笑った。
「まあな!リーグ戦でもジャイアント・キリングが重なっただけさ!けどマグパイズは光り物が大好きだ!
ビッグイヤーでもなんでも、すぐかき集めるさ!」
弟がけらけらと笑った。ふと上を見上げれば、雲の間から青い空が見えて、そこから鳥が飛び出してきた。
(あの鳥、雲が化けたかな。)
そんな下らないことを考えながら、俺と弟は砂浜を走った。

49 :
以上、長々と失礼しました。
ちなみに先日ニューカッスルの昇格が決まりました。
もしよければ祝ってやってください。

50 :
>>37_48
キタワァァァァ!前スレから待ってたよ!
ハッピーエンドでよかった!
無知な自分には分らないキーワードも多いけど、嫌味には感じない。
ちゃんとした下敷きがあっての設定だなという感じで。
フットボール全然知らないけど昇格おめでとう!(笑)
乙でした!姐さんの新作楽しみにしてる!

51 :
なんか突然どこからともなく電波が飛んできた。
普段ROM専で文章なんて書けないから台詞にしてみた。
―幼少期―
弟「兄ちゃん兄ちゃん、今日は何して遊ぶの?」
兄「今日はなー、なんと!おままごとだぁー!」
弟「おままごと?僕たち男の子なのに?」
兄「わかってないな弟よ。男っていうのはいつか家族を持つものなんだ。
  そして家族を持ったら、男はその家族を守る『お父さん』にならなくちゃいけないんだぞ!
  守るには強くなくちゃいけない。だからおままごとはその秘密特訓なんだよ。」
弟「秘密特訓!?すごい、マジカル戦隊みたいだ。」
兄「じゃあ俺がお父さんをやるから、お前はお母さんをやれ。」
弟「え、だってそれじゃあ僕戦えないよ?」
兄「『お父さん』が『お母さん』を守るからいーんだよ。」
弟「でも僕男だよ?ママにはなれないよ。」
兄「あ…そっか……。んー、じゃあ『お嫁さん』だ!」
弟「およめ、さん?」
兄「おう、お嫁さん。お前は今日から俺のお嫁さんだからな!」
弟「(オヨメサンって何だかよくわからないけど…まぁいっか。)うん、わかった!」

52 :
上の続きです
 ―成長後―
弟「…今思えば、あの時から俺は女役だったのか…。はぁー」
兄「どうした弟よ、長い溜息なんかついて。」
弟「いや、何でもない待てどこ触ってやがるこのクソ兄貴。」
兄「いだだだだっ!抓らなくたっていいじゃん。あーあ、昔は可愛かったのになー。」
弟「……(その言葉そっくりそのまま返してやる)いい加減その手をどけろ。」
兄「とか言いつつ体は素直だよなー、俺のオ・ヨ・メ・サ・ン?」
弟「!!ってめ、人の心の内を勝手に読むな!」
兄「だってお前わかりやすいんだもん。」
弟「くそっ…」
兄「で、どうする?ベッド行く?」
弟「っねクソ馬鹿アホ兄貴ぃーーーー!!!」
(※マジカル戦隊は勝手にでっち上げた戦隊です。)
誰だよこんな電波飛ばした奴けしからんもっとやれ
いまいち伝わりにくい萌えでごめんよ(・ω・`
幼少期からの因果関係(?)を現在まで引きずっているような
そんな甘々兄弟が好きなんだorzくそ、文才ほしい…

53 :
>>37-48
待ってました!こんな夜中に正座して読んじゃったよ。
大団円にシヤワセになりながら、この兄と弟(と個人的に父ちゃん)に
もう会えないかと思うと寂しいくらいだ。
また書いてくれるの楽しみに待ってるよ!
あとニューカッスルのプレミア昇格おめでたう。
明日の夜は便乗してギネスで祝杯をあげるぜ。

54 :
>>37-48
親父ww最後にいい仕事したな!www
ニューカッスル兄弟の明日に幸あれ!!

55 :
>>51-52
いいねいいね!
兄弟カプならではの、幼少時の歪んだ刷り込みっていうかw
弟にやがておませな女の子の友達が出来て、「私は××くん(弟)のお嫁さんね!」とか言われるんだけど
「だめ!ぼくはお兄ちゃんのお嫁さんだもん!」とか必に言ってたらいいな。
「お嫁さん」の存在を理解したときの弟の混乱っぷりを思うとさらに萌えるw
勝手に便乗すみません

56 :
兄×弟の話を書いているんだかジャンルが創作戦国
どうしようかとwww

57 :
連続スマソ
戦国の兄×弟、書き終えたら小説投下場に投下する予定

58 :
前スレでリクのあった病弱兄×弟です。ちなみに他のレスであった四兄弟ものになってます。
庭の梅は盛りを過ぎ、桃の蕾が綻びはじめている。だが依然寒さは厳しく、身を切るようだ。
小四郎は時折、十能の焼けた炭に手を翳しながら道を急ぐ。目当ての離れに着けば、微かに湯が沸き立つ
音がした。
「龍太郎兄様、遅くなりました。」
小四郎の声に龍太郎は床より身を起こし、微笑んで応える。龍太郎は三十路前の男にしては華奢で透ける
ほど白い肌をしていた。桜色の頬をし、柔らかく健康そうな肉付きをした小四郎とは、一回り離れている
とは言え、兄弟とは思えないほど違った印象を受けた。
「兄は急がずともよいと言ったのに。外は冷えたろう。」
「今日はお話があると仰ったではないですか。それに小四郎は冬が大好きです。寒さなどこれっぽっちも
堪えてはおりませぬ。」
小四郎は努めて明るく言った。龍太郎もそれを感じとり、小さく笑う。兄の笑みに喜びを覚え、小四郎の
胸は踊った。兄の傍らにある火鉢に、新しい炭を置きながら小四郎は言う。
「他の手炙りにもすぐ炭を継ぎます。後少し、お待ち下さい。」
ぱたぱたと小四郎の駆ける音がし、気配も部屋の隅に移って行く。
「わしは茶でも淹れるか。」
そう言うと龍太郎は枕元にある茶櫃を開けた。早くはないが、慣れた手付きで支度をし、弟を待つ。
また小四郎も火鉢にせっせと炭を継いで回った。この優しい長兄との一時が小四郎何よりの愉しみであり、
早く兄の傍へ行きたいと小四郎は思った。四隅にある火鉢に炭を継ぎ終わり、龍太郎の方へ振り返った
その時である。小四郎の目に、龍太郎が火鉢の鉄瓶に手を伸ばしているところが飛び込んできた。
「龍太郎兄様!」
十能と火箸が落ちる音がし、龍太郎の手は冷たい何かに捕まれた。
「小四郎?」驚いた龍太郎はそっと名を呼んだ。名の主は龍太郎の腕にすがりながら身体を強張らせていた。
「小四郎。」
龍太郎はもう一度弟の名を呼び、小四郎に語りかける。
「小四郎、どうした。今どうなっておるか、兄に教えてくれぬか。」
「……申し訳ありません。その、瓶が少し、五徳からずれておりましたので、つい…」
消え入るような声で小四郎は答えた。同時に少しずつ身体の力が抜けてゆく。龍太郎は苦笑し、小四郎の
頭を撫でてやる。

59 :
「そうか。小四郎は兄が火傷をすると心配してくれたか。わしの目の代わりになってくれたのだな。
小四郎よ、わしは嬉しいぞ。」
その言葉に小四郎はほっと息を吐く。
龍太郎は盲だ。小四郎が十の頃、幾晩か熱で魘された挙げ句、光を失った。その時のことを小四郎は
よく覚えている。 歳の離れた龍太郎は、小四郎の憧れだった。次兄の総次郎や、その下の誠三郎のことも
当然好きではあったが、龍太郎は別格であった。部屋で物静かに本を読んでいる龍太郎はどんな事でも
知っていた。洋の東西、古今を問わず、龍太郎はたくさんの国やその物語を知っていたのだ。そして
龍太郎はそれらを、それはそれは生き生きと、まるで眼前で見てきたかのように語ってくれる。小四郎は
それが堪らなく好きだった。そして龍太郎は話の終わりに必ずこう言うのだ。
「いつかこの目で、耳で、見聞きしたいものだ。そうは思わんか、小四郎。」
これに小四郎も必ずこう答えた。
「はい、兄様。小四郎もそう思います。いつか一緒に行きましょう!」
そうして二人は幸せを噛み締めた。そんなある日のことである。いつものように小四郎と遊んだ後、
龍太郎は少し疲れたと臥せった。そしてその晩には龍太郎は高熱に見舞われた。直ぐ様医者が呼ばれ、
龍太郎は離れに移された。昔から病気がちだったが、今回ばかりは危ういと家中が騒然となったのだ。
父は総次郎と誠三郎、そして小四郎に決して兄に会ってはならないと厳命した。
「いやです、いやです!小四郎は龍太郎兄様のところに行きたい!」
「小四郎、わがままを言うな!わしらと一緒にここにおるのだ!」
「総兄よ、怒鳴るな。可哀想に、小四郎が怯えておる。」
次兄の腕に抱かれながら、小四郎はわんわんと泣いた。大好きな龍太郎が辛い目に遭っているというのに、
傍に行くことすら許されないとは。歯痒さと寂しさで幼い胸は張り裂けそうだった。
漸く会うことを許された時、小四郎は一目散に龍太郎の元に飛んでいった。
「龍太郎兄様!」
喜びと不安がない交ぜになった小四郎が部屋に飛び込むと、龍太郎が儚げに微笑んだ。

60 :
「小四郎か。心配をかけてすなまんだな。」
久しい兄の笑顔に、小四郎は安堵した。だが同時に胸騒ぎを覚えた。何故兄はこんなに悲しそうに笑うのか。
何故兄はこちらを真っ直ぐ見ないのか。答えは直ぐにわかった。龍太郎の口から、それが告げられたのだ。
「小四郎よ。兄はな、もう目が瞑れてしまったのじゃ。」
小四郎は頭を殴られたように感じた。龍太郎が何を言ったかわからなかった。
だが今、とんでもないことが起こっているのだということだけは、はっきりわかったてしまっのだ。
「すまんな、小四郎。もう、本を読んでやれぬ。」
ぽつりと呟く声が悲しかった。
「火より生まれる鳥も、北国にかかる虹の幄も、もう見れぬ。」
そんな悲しい声は聞きたくなかった。
「兄様!」
小四郎は声を張り上げた。もう痛々しい声は聞きたくなかった。龍太郎は小四郎らしからぬ声に、顔を
上げ、いぶかしむ。
「兄様が見えないのなら、小四郎が兄様の目になります。兄様の目になって、本も読みます。虹の幄も
見ます。だから、だから、兄様。そんな悲しいことを言わないで下さい。小四郎は、小四郎はずっと
兄様の傍にいますから。だから兄様、泣かないで下さい。」
いつの間にか小四郎は泣いていた。泣いて、龍太郎を抱き締めていた。龍太郎は始めこそ驚いていたが、
次第に弟の優しさが、触れた部分からじんわりと染み込んできたように感ぜられ、酷く落ち着いた。
「小四郎、ありがとう、小四郎。」
龍太郎は小四郎を優しく抱いた。暫くして総次郎と誠三郎が来たときも、二人はひしと抱き合い、
離れなかった。

61 :
龍太郎は器用で慎重な人間だ。例え盲と言えど、鉄瓶が僅かにずれたくらいで大事に至るようなことは
ないと、小四郎も重々承知している。出過ぎた真似をしたかとも思ったが、そんな不安を吹き飛ばして
くれる、龍太郎の然り気無い心遣いが嬉しかった。気を取り直し、小四郎は兄に向き直る。
「龍太郎兄様、お茶は小四郎にお任せ下さい。きっと上手に淹れてみせます。」
「おお、そうか。ではわしは十能の始末をしようかのう。くくく。」
意地悪く笑う龍太郎に、小四郎は慌てた。
「そ、そちらも小四郎がいたします。も、もう少しお待ち下さい。」
「よいよい。わしが茶を淹れる。お前はそちらを片付けておくれ。」
可愛い末弟を、龍太郎は心からいとおしいと思った。恵まれた家に生まれたとは言え、生まれてから多くの
困難が龍太郎を襲った。恐らくは人生の殆んどを床に臥せって過ごしたろう。光も失い、薬も欠かせない。
その身の上を不憫だと言うものもいた。だが龍太郎はそうは思わない。この無垢でひたすら自分を慕って
くれる弟がいるだけで、この生は無上のものだと信ぜられる。
「小四郎、茶が入ったぞ。」
「ありがとうございます、こちらも終わりました。」
小四郎は龍太郎の横に腰を下ろすと、湯呑みを受け取り、こくこくと喉を鳴らす。その音を龍太郎は
目を細めて聞いた。そうしてそのまま二人は時を忘れて談笑した。庭の花のことや、新しく仕立てた
着物のことなど、他愛もないことばかり。思い付くまま、ただひたすら話をした。その話も一段落つけば、
今度は本を見繕って二人で読んだ。小四郎が朗読し、龍太郎はそれに耳を傾ける。時折龍太郎が
講釈じみた物言いを挟めば、小四郎は目をきらきらと輝かせながら聞き入った。殆んど毎日のように繰り
返す、穏やかな時間。それが二人にはこの上なく心地よいものとなっていた。
そうこうしているうちに、日はとっぷりと暮れていた。いつものように女中が夕食を持って来る。
もうそんな時間かと二人は笑い、誠三郎が買ってきた舶来のランプに火を入れた。

62 :
「そう言えば龍太郎兄様。今日は何かお話があると仰っていましたが、小四郎に何のお話ですか?」
ランプの螺子を調節しながら、小四郎は改めて龍太郎を見た。小四郎の真っ直ぐな声に、龍太郎は刹那息を
飲む。それを敏感に感じ取った小四郎は小首を傾げ、少し口を尖らせた。
「今日は総次郎兄様も変な顔をしておいででした。誠三郎兄様も帰ってきたと思ったら直ぐにお出に
なられて。母様もまだお戻りにならないし、どうしたのでしょう。」
ねえ兄様と小四郎がいいかけたその時、その唇は龍太郎のそれで塞がれた。眼が零れるほど見開かれた目は、
龍太郎の表情を捉えられない。混乱の中、小四郎はぐっと龍太郎の浴衣を握りしめた。唇を重ねたのは
初めてではない。他言こそしてはいないが、龍太郎と小四郎は兄弟という以上の絆で結ばれていた。
接吻も、また契りも幾度か交わしていた。だか龍太郎はいつも過ぎるほどに小四郎を労り、触れてきた。
だからこのように有無を言わさず、突然唇を奪うなどなかったことだ。
「に、兄様…?」
戸惑いながら問いかける小四郎に、龍太郎はそっと覆い被さった。龍太郎の表情はやはりよく見えない。
そのまま龍太郎は小四郎の衣をはだけさせ、現れた白磁を吸った。勿論小四郎はそれを拒まない。
拒まないが、龍太郎の変化に胸騒ぎを覚えた。
「嫌か、小四郎。」
自嘲を含んだような声に、小四郎は頭を振り答えた。何かが違うと、小四郎は思った。ただ何が違うのか
まではわからなかった。

63 :
いつもより乱暴な交わりに、小四郎は微かに混乱を覚えていた。乱暴と言えど所詮は病人の力である。
痛みは殆んど無く、また抗えば容易くその手から逃れられるだろう。しかし龍太郎を心から慕う小四郎に、
そのようなことが出来る訳がなかった。穏やかな兄らしくないと、小四郎は涙が滲む。
「のう小四郎。」
抑えられた声が響く。
「わしは憐れだろう。」
思いもかけない言葉に小四郎は戦慄する。その様子に龍太郎の口許が歪に線を描いた。
「同情などせず、こんな目暗の穀潰し、早々に見棄ててやればよかったのだ。」
日頃心の片隅で吐いていた毒が、ふいに漏れた。
自分は幸せだと龍太郎は思っている。しかし時折ふと、例えば虫の音も風の音もない夜、その毒は龍太郎の
心に湧くのだ。それを周りにこぼしたことはない。だが今日は違った。最愛の弟を組敷きながら、その毒を
見せてしまった。それに龍太郎自身も驚いたが、小四郎は更に愕然としていた。
「どうして……」
哀れなほど震える声が龍太郎の鼓膜へと伝わる。
「どうして、そんな、酷いことを、いうのです?」
しゃくりをあげ、小四郎は恨めしそうに、悲しそうに訴える。龍太郎がその頬に触れてやると、指先は
温かい露で濡れた。
「小四郎はそんなこと、これっぽっちだって、思わないのに…兄様は、小四郎がそう思ってると、思って、
いらっしゃるの、ですか?兄様、小四郎は、小四郎は兄様が、龍太郎兄様が、大好きで大好きで、
堪らないのになのに…ごめんなさい、兄様、、兄様、大好きです…」
幼子のように泣きじゃくる小四郎は、何度も龍太郎をごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。そして
何度も好きだと繰り返す。
何かがおかしい。兄は何か大切なことを自分に隠しているのではないか。不安と恐怖で小さな胸が押し
潰されそうになる。しかし小四郎に出来ることはごめんなさい、好きだと喘ぎながら、龍太郎にすがる
ことだけだ。その姿は目の見えないはずの龍太郎の瞳にすら映るほど、余りに痛々しく健気だった。
龍太郎は小四郎の肌の、涙の温もりを感じながらふっと笑った。そうだ、自分は小四郎の無垢で美しい心に
惹かれ、愛していたのだと思い出した。
この子がいてくれたから、自分の生に未練はないのだと。

64 :
「小四郎、小四郎。悪かった。兄が意地悪を言ったな。すまんこの通りだ、悪い兄を許しておくれ。
もう泣き止んでおくれ。」
龍太郎は優しく小四郎を抱き締め、よしよしと頭を撫でてやる。小四郎は龍太郎にしがみつき、なおも
ごめんなさい、好きだと繰り返した。
さわさわと庭の木が揺れる音がする。いつの間にか母屋からこぼれる音も消えていた。
それを感じ、龍太郎はもう真夜中か、と思った。
明け方、漸く泣き止んだ小四郎は微睡みの中にいた。華奢だが心地よい龍太郎の胸の中で瞼を閉じている。
いつもは睦み合の後すぐに眠りにつく龍太郎は、何故か未だに優しく微笑みながら小四郎をあやしていた。
「のう小四郎。」
龍太郎は見えない目を小四郎へと向け、静かに語る。
「わしはもうすぐぬらしい。」
ぴくりと小四郎の眦が震えた。
「年は越せぬだろうと言われた。」
淡々と語る龍太郎は、酷く落ち着いた目をしていた。それを見た小四郎の瞳には澄んだ雫が浮かぶ。
「小四郎よ。」
いつものように、龍太郎は穏やかに想い人の名を呼んだ。
「最後までいてくれるか。わしと一緒に。」
それはしじまに輝く月のような笑みだった。小四郎は揺れるその顔を美しいと思った。
そしてそっと瞼を下ろす。
「はい。小四郎はいつまでもおります。兄様と一緒に。」
小四郎の頬につうと、また涙が流れた。

65 :
>>58
。・゚・(ノД`)・゚・。
ありがとうございます!!泣けた!切ねぇ〜。
兄様がぬぬサギで末っ子といつまでも幸せに暮らすといいよ!

66 :
そうだ!詐欺って偽称して末長く幸せに過ごすといいよ!!
全力で支持するよ!!

67 :
調子に乗って2つ目。長男×四男←次男。
珍しく総次郎は弟の誠三郎と喧嘩をした。
「そんな顔して生きとるのなら、首でもくくってんでしまえ!」
激昂した誠三郎は総次郎を突飛ばしてどこかに行ってしまった。その後総次郎は父と母にたしなめられ、
もっと自覚を持ちなさいと釘を刺された。きっかけなど忘れるくらい些細なことだった。何故誠三郎が
そこまで怒ったのかわからない。だが両親の言うことは最もだと総次郎は考えた。
しかしわかっていてもやはり総次郎はひどく沈んだ気持ちになった。そんな総次郎が縁側を歩いていると、
底抜けに明るい声がした。
「そおじろおにいさま!」
庭に目をやるとよたよたと末弟小四郎が歩いてくるのが見えた。土と木の葉にまみれた顔はにこにこと
笑っており、こっちに寄ってくる。笑うことは苦手であるが、仏頂面をしていては幼い弟は嫌がるだろう。
兄としては、嘘でも笑ってやらねば。総次郎は仕方なく笑う。
「あのね、あのね、こしろう、いっぱいどんぐりひろいました。それでね、しいのみもひろったの。」
のんきなものだと総次郎は思う。自分もこんな風に気楽にいられたらと呆れ半分で小四郎を見た。
しかし小四郎はそんな兄の気など知らず、人懐っこく笑っている。すると小四郎はおもむろに木の実を
縁側に置き、その中からいくつか実を拾い集め、得意そうにそれを兄へと差し出した。
「ねえねえ、にいさま。こしろうね、これ、にいさまにあげます!」
小さな手にいっぱいの木の実が総次郎の前にあった。何ということはない、土にまみれたただの木の実だ。
「それからね、これそうじろおにいさまだけにあげます。ほかのにいさまには ぜったいないしょね。」
そう渡されたものは艶々とした栗だった。きょとんとする総次郎に、小四郎は得意満面に言う。
「くりね、いっこだけみつかりました。そうじろおにいさまだけにあげます。いっこだけだから、ないしょ、ないしょね。」
小四郎は可愛らしく口に人差し指を押し当てて笑った。屈託なく兄に、総次郎に喜んで貰いたいという
生の心からの笑顔。総次郎はそれを憧憬とも、歓喜ともとれる心で見た。
「……ありがとう、小四郎。」
総次郎はくすりと笑う。ついうっかり零れた、誠の笑顔だった。

68 :
総次郎は家の次子であった。しかし嫡男である龍太郎は昔から体が弱く、長くは生きられないと殆んどの
者が思っていた。そのような中である。建前では皆龍太郎を長子としてはいるものの、実のところ総次郎に
世継ぎとしての期待を寄せていた。賢明な総次郎はそれを早くから悟り、自らを律し、家長たるに相応しい
者として生きてきた。 そして皆もそんな総次郎を頼もしく思い、大切に大切に扱っていた。
総次郎が欲しいものは何でもすぐに揃えられ、望むことは最大限叶えられた。決して総次郎は度を越した
我が儘を言わなかったが、それ故かえって周りの者が総次郎をちやほやしていた節がある。
しかし総次郎には一つだけ思い通りにならないことがあった。
末の弟、小四郎のことである。
ひらひらと舞う蝶々のように、軽やかに庭を横切る小四郎の姿が目に入る。まだ五つになったばかりの
小四郎の顔はあどけなく、向日葵のように明るかった。その顔は、見た者まで破顔してしまいそうな程、
喜びに満ちていた。そんな小四郎を微笑ましく思うのは、総次郎とて例外ではない。
「小四郎!」
総次郎は弟を呼び止めた。
「あ、総次郎兄様!」
縁側に兄を認めた小四郎は小鹿のように跳ねてそちらに駆け寄る。その手には小さな風呂敷包みが抱え
られていた。
「こんにちはっ、総次郎兄様っ。」
「今日も変わりないか。」
「はいっ。小四郎は今日も元気ですっ。」
下の弟の舌足らずの喋り方に、総次郎は思わず口許を綻ばせる。ぎこちなくはあるが、心からの笑みだ。
誠三郎がよくするように、小四郎の頭でも撫でてやろうかとも思ったが、僅かな躊躇いが邪魔をした。
「今日はどうした、書の手習いの日ではないのか。」
「今日は先生がお里に帰られる日で、お休みになったのです。小四郎は今日はお休みです。」

69 :
嬉しいのか、小四郎は頬を赤く染めて笑う。無邪気で純粋なその笑顔が総次郎は好きだった。
総次郎の回りは皆総次郎自身でなく、世継ぎとして総次郎を見る。その目は総次郎には酷く不愉快に
感ぜられた。そしていつからか総次郎は己を他人に見せなくなった。その方が胸を煩わされることもない。
総次郎はそう考えたのだ。だがそんな総次郎の思惑とは裏腹に、小四郎は総次郎のもとに人懐っこく寄ってきては笑いかける。
はじめこそ総次郎も戸惑っていたが、飽きもせず総次郎の元に来る小四郎が次第に愛しく思え、今では
かけがえのない存在になっている。
「ならば小四郎。今日は私が遊んでやろうか。」
総次郎は慣れない笑顔を作り、小四郎に言った。総次郎から遊んでやろうなどと言うことは滅多に無い。
だが今日は何とはなしに、そういう気分であった。小四郎は喜んで頷くだろうと、総次郎は思った。
しかし小四郎は困ったように眉をたわめる。
「どうした小四郎。」
不思議に思いそう声をかけると、小四郎は総次郎と目を合わそうしないまま小さく答えた。
「今日小四郎は、龍太郎兄様と遊ぶお約束をしてるのです……」
刹那総次郎の時が止まる。
また「龍太郎兄様」か。
そう思った。
この幼い弟は事あるごとに一番上の兄、龍太郎のことを持ち出すのだ。龍太郎は小四郎が生まれる少し
前から、一人屋敷の隅の部屋で過ごしている。新しい弟も生まれ忙しくなるだろう、家人の手をできるだけ
煩わせたくない、と自らそこにに移ったのだ。龍太郎が居間にいれば何かと気を張りがちだった家の者も、
龍太郎が人の少ない端の部屋で過ごせば龍太郎の姿が見えない分、嫌でも気が楽になる。文字通り距離を
置くことで、家の中で龍太郎の存在は皆意識はしてはいるものの、確実に希薄となっていた。それは
総次郎とて例外ではなく、何事かあれば兄を立てようと努めているが、ふとした瞬間、最早自分が長子で
あるがごとく振る舞っていることに気付くときがある。龍太郎はそんな家人を責めるでもなく、寧ろそれを
良しとしているきらいすらあった。兄はいつか朝露のごとく、ふっと消えてしまうのではないか。
そして兄自身それを望んでいるのではないか。そう総次郎は感じてさえしまう。そしてそれに総次郎は
時に側隠の情を覚え、時に辛気臭さを覚えるのだ。

70 :
しかし小四郎は違う。そんなことは気にもとめず龍太郎を慕い、なついている。笑顔を振り撒き、真っ直ぐ
龍太郎の心へと飛び込んでいくのだ。暇があれば龍太郎の元に遊びに行き、わからないことがあれば
龍太郎に聞きに行く。勿論小四郎は総次郎の元にもしばしばやって来る。屈託なく微笑み、慕ってくれる。
しかし小四郎が龍太郎に向ける視線が、総次郎に向けられるそれとは違っていることに総次郎は
気付いていた。
何がきっかけだったかのかなどわからない。何が違うのかすらわからない。だが小四郎が龍太郎に向ける
視線は確かに温かく、特別なものであった。
何故その視線の先にいるのが自分ではないのか。総次郎はそう苦く思った。
「――駄目だ。」
総次郎は無意識に低い声で呟いていた。
「え…?」
「行ってはならぬ。」
自らも気付かぬうちに、総次郎は小四郎の腕を掴み、睨み付けていた。小四郎はただただ驚くことしか
できない。
「お前は今日、私といるのだ。」
「で、でも総次郎兄様、小四郎は…」
「兄の言うことが聞けぬのか!」
いつもは無口な総次郎だけに、小四郎は荒げられた声に小四郎はすっかり怯えてしまう。まして総次郎は
小四郎より九つも上である。小四郎にとっては総次郎も大人であり、大の男に睨まれれば、五つの男童に
どうすることができようか。小四郎は堪らず手にしていた包みを落としてしまう。
「にい、にいさまぁ…」
小四郎の眦に涙が浮かぶ。しかし総次郎はそれに気付くことができなかった。
「小四郎?」
突然の声に、総次郎と小四郎は顔を声の主へと向ける。
「兄上…」
そこにいたのは龍太郎だった。白い寝間着に薄墨の着物を肩に羽織り、のろのろと歩いてくる。滅多に部屋
から出てこない龍太郎が、わざわざ来るとは。総次郎は僅かに目を見開いた。

71 :
「…兄上、どうかなさいましたか。」
「いや…小四郎が中々来ぬ故…」
「龍太郎兄様!お外に出ても大丈夫なのですか?」
総次郎が手の力を緩めたこともあり、小四郎は一目散に龍太郎の元へと駆け寄る。少し息の上がった
龍太郎もそれに応え、しゃがみこんで小四郎の視線に合わせてやった。小四郎の怯えの眼差しは消え去り、
ただただ龍太郎を心配そうに見やっていた。
それを見た総次郎は何故か胸の辺りに痛みを感じる。つい顔が歪みそうになったが、息を飲み込んで耐えた。
その痛みは恐らく誰にも悟られぬだろうと総次郎は思った。それは多くの人間には、確かに察知できぬ程
微かな違いだ。だが龍太郎は弟の様子を察したようだった。はじめ驚き、多少の混乱をしていた龍太郎は
何かを悟り、小四郎をそっと剥がして言った。
「小四郎よ、今日わしは気分が優れぬ。遊ぶのはやめじゃ。」
「お加減が悪いのですか?お医者様に来てもらいますか?」
「よいよい、一眠りもすれば治ろう。気にするな。それより総次よ。」
龍太郎はもう一人の弟に向き直る。一瞬身を固くしたが、総次郎は兄の目をはっきり見た。鋭利といった
形容とは無縁の穏やかな瞳には、春の日差しが映っている。
「総次、今日は小四郎と遊んでやってはくれぬか。」
瞳を柔らかく細め、龍太郎は総次郎に言った。
見透かされた。
総次郎は思った。自分の醜く稚拙な妬みを見抜かれたと思ったのだ。
「でも……」
「どうした小四郎。小四郎は総次が嫌いか?」
からかいを含んだ龍太郎の問いに、小四郎は頭をブンブンと振り否定をした。
「小四郎は総次郎兄様が好きです。でも、小四郎はさっき……」
そこまで言って小四郎はちらりとを見た。申し訳なさ気に肩を竦めている。
「…さっき小四郎は総次郎兄の言うことを聞かなかったのです……。総次郎兄様は龍太郎兄様の所に
行っちゃいけないっておっしゃったのに……」
龍太郎は少しばかり目を見開いたが、すぐに目を細めた。

72 :
「ああ。きっと総次はわしのことを案じてくれたのじゃ。のう、総次。」
何を馬鹿な。総次郎は憤った。自分は兄の様子など知らなかったし、そもそも本当に宿痾が疼くのなら、
龍太郎はこんな風に歩くことすらしないはずだ。自分は純然たる嫉みから小四郎を引き留めたのだ。
「総兄はすげなく見えて、存外甚助じゃのう。」
弟の誠三郎がかつて言った片言が脳裏を過る。まだいくつにもならない小四郎のことで、これ程に心掻き
乱されるとはなんたることか。そしてか弱い兄に心根を見抜かれ、庇ってもらうとは。総次郎は恥じ、
唇を一文字に結ぶ。
「小四郎。兄御に謝ってこい。きっと許してくれよう。」
龍太郎の諫めに小四郎は素直に頷いた。
「総次郎兄様、小四郎は悪い子でした。ごめんなさい。……また、小四郎と遊んでくれますか?」
ぺこりと頭を下げる小四郎に、違うのだと言ってやりたかった。しかし兄を見やれば先程と変わらぬ、
春の光を帯びた瞳をこちらによこしていた。総次郎は眼を伏せる。
「……よい。」
それが精一杯だった。だが小四郎は、それはそれは嬉しそうに破顔し、喜んだ。
「ありがとうございます!総次郎兄様!」
「良かったな、小四郎。さて、わしはもう行く。」
「…お加減が優れないのでしたら、志乃か加代を遣りましょうか。」
「構うな。二人も忙しかろう。では総次、頼んだぞ。」
龍太郎は衣をはためかせながら離れへと歩いて行った。
「龍太郎兄様、お大事にしてくださいね!」
そう言う小四郎の瞳を失望が掠めた。それは龍太郎や総次郎は愚か、小四郎自身すら気付くことがないほど
微かで一瞬のことであった。龍太郎を見送った後、小四郎は先程落とした包みを拾い縁側に置くと、
総次郎に向き直る。

73 :
「総次郎兄様、今日はと何をして遊んでくれますか?」
にこにこと笑いながら小四郎は問うた。その曇りのない表情は総次郎が一等好きなものだ。こんな時
ですら、総次郎にはこの笑顔が堪らなく眩しく見えた。
「お前は何がしたい。…兄上とは何をする約束をした。」
「それが、小四郎にはわからないのです。言われた通り、材料は持ってきたのですが、小四郎は何を
するための材料かさっぱりです。」
そう小四郎が風呂敷包みを開けて見せると、筆と紙、杯洗、そして蜜柑が二つ現れた。これはもしや、
と総次郎は思った。
「炙り出しか…これならば私も知っている。まずは柑子を搾らねばならないな。来なさい。」
「本当!?やったあ!」
いきなり小四郎は総次郎に抱きついた。突然のことに総次郎は驚く。触れ合った部分から温もりが伝わる。
日の熱が身体に染み渡るようで心地好かった。
気持ちが安らぐのを感じた。このまま離したくないと感じた。
そしてそう感じる自分を、心底嫌悪した。

74 :
電報が寮に届いてすぐ、総次郎は汽車に飛び乗った。
兄の危篤を報せに、総次郎は顔にこそ出さないが、内心酷く焦燥していた。そう遠くない日に、こんな
ことが起こるとは分かっていたが、いざこうなると取り乱してしまいそうになる。医者曰く、今度こそ
厳しかろう、とのことらしい。洋行の支度と称して遊び呆けていた誠三郎にも報せは行ったという。
道中総次郎は眼を閉じ、とりとめもない思案に暮れた。
龍太郎は長くに渡って大病を患っている。そのせいか龍太郎は生きることに淡白になってしまっていた。
まるで山の隠者のように、世を儚んでいるように見えた。既に龍太郎は生きることに執着を失っている
のではとすら考えたこともある。
ただ――ただ、小四郎と一緒にいるときだけは――龍太郎は一人の青年に戻り気力に満ちていた。
小四郎はいつも龍太郎にくっついていた。何やら二人で本を読んだり、写真を広げたり、時折庭に出たり
しては話し込んでいた。二人とも眩しいくらいの笑顔で、総次郎は近づくことなどできはしないと思った
程だ。総次郎が二人を見て立ち竦んでいていると、小四郎はしばしばそれに気付き総次郎の元にやって来た。
総次郎兄様、一緒に遊びましょうと笑いかける。その笑顔は胸を締め付けるほどにいとおしい。
しかしそれは、先程龍太郎に見せた笑顔とはどうしても違うもので、その事実が総次郎を苦しめた。
だが、もし。もし龍太郎がいなくなれば。
――小四郎は自分を求め、龍太郎へ向ける眼差しを自分に向けてくれるのではないか。
(――兄上が危篤だというのに。私は何と業が深いのだろう。)
己の浅ましさを恥じ、総次郎は唇を噛む。向こうから車掌がやってきた。次の駅の名を知らせながら、
ゆっくりと車輌を歩いていく。車掌の呼ぶその駅の名は、懐かしいものだった。

75 :
家につくと既に誠三郎がいた。誠三郎は玄関までやって来て、神妙な顔で総次郎に言った。
「親父が龍兄のことで話があると。親父の部屋に来いとゆうておった。」
総次郎はそのまま誠三郎と父の部屋へと足を運んだ。途中幾人かとすれ違ったが、一人として明るい顔を
しているものはいなかった。父の部屋に入ると、そこには父を前に顔を真っ青にした小四郎が危座していた。
父の話は殆んど耳を通りすぎ、頭には残らない。総次郎がちらりと回りを見回した。誠三郎はやや口を
尖らせ、苦らせている。また小四郎は瞬きもせず、ぽたぽたと畳に涙を落としている。その姿はあまりに
労しかった。
小一時間もして父の話が終わると、小四郎は堰を切ったようにわんわんと泣き出した。
「いやです!いやです!小四郎は龍太郎兄様のところに行きたい!」
先程父に聞いた龍太郎の様子と、龍太郎の処に行くなと言い付けられたことが衝撃的だったのだろう。
小四郎は今までにないほど取り乱し、混乱していた。総次郎は暴れる小四郎を抱き止め、行ってはならぬと
厳しく戒めた。優しく宥めてやりたい。慰め、励ましてやりたいと総次郎は思う。
しかしあまりに不器用な総次郎は気のきいた言葉などかけてやれず、ただ抱き締める腕に力を入れること
くらいしかできなかった。
それを見かねた誠三郎が泣きじゃくる小四郎の頭を撫で、あやしてやる。
「小四郎、落ち着け。今一番辛いは龍兄じゃ。小四郎まで泣いておっては龍兄は余計辛かろうて。小四郎は
龍兄がいらん心配をせんでも良いよう、いい子にしとるんじゃ。」
「ひくっ、ひっく、で、でも……」
「なんじゃ。小四郎は龍兄が嫌いか。龍兄に心配をかけたいか。」
小四郎は否と頭を振り答えた。
「よしよし。ならばわしや総兄と一緒におるんじゃ。龍兄のところは、元気になってからいこうな。」
誠三郎の言葉で漸く落ち着いた小四郎は、まだぐずりながらも大人しく総次郎の腕に顔を埋めた。
「総次郎兄様…ごめんなさい…小四郎、いい子にします……」
「………………」
健気なまでに龍太郎を思う小四郎を、総次郎は酷く悲しい眼で見ていた。小四郎は自分ではなく、龍太郎を
求めてやまないのだ。
「龍太郎兄様……」
その事実は、総次郎にとても重くのし掛かってきた。

76 :
夜も更け、辺りにはしじまが広がるばかり。いや、風にかき消されそうなほど、微かな吐息が聞こえてくる。
離れから聞こえるそれは、空虚な洞穴から吹く不気味な息吹きのように感ぜられた。
もうすぐぬのか、と息吹きの主は思った。まともに酸素は脳に回らず、思考も霞んでいる。特別な
感慨はなく、ただ漸くこの日が来たかと妙に冷静に考える自分がいた。
周りに苦労をかけるだけの人生だったと、自蔑する。
「兄上。」
澄んだ声がした。龍太郎にはそれが総次郎のものだとすぐにわかった。瞼を持ち上げ、視線をさ迷わせたが、
何故か辺りが見えない。だが確かにそれは総次郎の声だった。
「兄上、聞こえますか。わかりますか。」
見舞いも禁じられていた総次郎だが、医者が席を外したのを見計らい、龍太郎の元にやってきたのだ。
そんな総次郎の問いに応えるべく、龍太郎は眼を声のする方へと向けてやる。
「総、次……」
「兄上。しっかりなさってください。」
龍太郎の枕元に座りながら、はっきりとした力強い声で総次郎は言った。その瞳には覚悟めいた色が
浮かんでいる。
「まだです。まだんではなりません、兄上。」
聞き飽きた言葉に、龍太郎は弱々しく微笑む。自分がいなくなれば、この弟も妙な気遣いなどせずに
済むようになるだろう。そんなことを考えた。龍太郎はそれほどまでに生への執着が希薄になっていた。
「そ、じ…後は…ふふ、任せる、ぞ……」
「いいえ。駄目です。兄上、貴方はまだ生きなくてはならないのです。」
真っ直ぐに、きっぱりと総次郎は言い切った。
「兄上は小四郎をどうするおつもりか。あれは兄上を心の底から慕うているのです。それを、兄上は
捨てて逝かれるおつもりか。」
一度口にしてしまえば、後は一気に溢れ出た。総次郎は想いを龍太郎にぶつける。

77 :
支援がいるかな?

78 :
「兄上を労らない私を薄情だとお思いでしょうが、それで結構。恨んでいただいて構いません。ただ、
小四郎だけは泣かせないで戴きたい。」
己の一言一言が自身の胸を抉るようだった。小四郎がいかに龍太郎を想っているか。それを語る度、
喉の奥が狭められるような息苦しさを感じた。しかし総次郎は話すことをやめなかった。諦観に身を
置き、ただ迎えが来るのを待ち続けている兄に、これだけは伝えなくてはならなかった。
「あれがどれ程貴方好いているか、兄上の方が余程ご存知でしょう。どうかあの子を置き去りに
しないでやってください。後生ですから、生きて小四郎と一緒にいてやってください。あの子の中には
兄上しかいないのです。私では」
喉が狭まり、酷い痛みがした。苦しさで吐き気すらした。しかし総次郎は全て捩じ伏せ、最後に言った。
「私では、駄目なのです。兄上でなくては、駄目なのです。」
ぼうっとする頭で、龍太郎は総次郎の声を聞いた。わかったことは総次郎の悲しげな声と、小四郎の
名前だけだ。
「そう、じ……こ…しろ…」
一筋の露が龍太郎の頬を伝う。
しかし総次郎がそれを見ることはなかった。全てを吐き出し、総次郎は眼を瞑っていた。これで役目は
終えたはずだ。後は龍太郎に任せる他ない。総次郎は息を整え、ゆっくりと部屋を出た。
「やや、若様。何故こちらにいらっしゃいます。誰も入ってはなりません、なりませんぞ。」
外に出ると、何かを煎じたらしい液体を持った医者とすれ違った。先程はどうやらこの為に出ていった
らしい。
「わかっている。後は頼むぞ。」
総次郎はそれだけ言い捨て、母屋へと戻る。途中ふと空を見上げると、美しい月が浮かんでいた。
その月は不思議に、まるで水面に写る月影の如くゆらゆら、ゆらゆら、と揺れていた。

79 :
規制に引っかかってしまい、ご迷惑おかけしました。
感想くださった方、ありがとうございます。
やっぱり感想いただけると凄く嬉しいです。
また妄想が始まったら投下させてください。

80 :
>>79
すごく感動しました!
素敵なお話を、どうもありがとうございます。
続きを、楽しみにしています。

81 :
>>79
静かで綺麗な文体と緻密な心情描写と魅力的な兄弟にひたすらGJ!

82 :
切ナス…
龍太郎兄ちゃんんでほしくないがんだらこの上なく美しい話になりそうだ…
マジで続き待ってる!

83 :
兄ちゃんんじゃやだー!!
GJでした

84 :
多兄弟もいいけど、2人兄弟の話も読みたい

85 :
兄貴・・・俺の○○全部あげるから・・・元の兄貴に戻って・・・!
みたいな兄×弟モノが読みたいです

86 :
弟「兄ちゃん、ただいまー!」
兄「おう。おかえり」
弟「さてと、わっふるわっふる…あれっ?」
兄「どうした?」
弟「兄ちゃん、ここにあったわっふる知らない?」
兄「あぁアレな。うまかったぞ」
弟「そ、そんな…!楽しみにしてたのに…わっふる…グスッ」
兄「お前のだったのか…悪い。こんど腹いっぱい食わしてやるから」
弟「ほんと?やったー!兄ちゃん大好き!わっふるわっふる〜♪」

87 :
〜〜川原でBBQ中〜〜
兄「ぐぉるああああぁぁぁぁっ!!!このバカ犬俺の肉返せやあ!!!!」
犬「わんわん」
父「ひいいいいい〜!息子がキレたあ〜!!」
母「あらあらうふふ。」
弟「兄貴さあ…俺の肉全部やるからいつもの兄貴に戻れよ。」
兄「あぁっ?!…仕方ねえな、もぐもぐ。」
犬「わんわんわん」
こんなかんじ?>全部あげる

88 :
かわいいww
なにこのほのぼの家族

89 :
力゙タ力て映画見て妄想が爆発しまつた。
俺が生まれたのは医療ミスだったらしい。人工受精をするとき、試験管の中でイレギュラーが起きたか、
それともそれ以前に手違いが起きたか。
詳しいことなんて分かりゃしないが、とにかく妊娠後の検査でハハオヤの腹の中には『不適格』な
遺伝子を持ったイキモノが巣食っていたらしい。母体の関係でそのイキモノは堕ろされることすら出来なくて、
絶望と悲嘆の中で産声をあげた。
そのイキモノこそ俺だ。
俺はすぐに棄てられた。
スラムの養護院。そこが俺の棲家で、例えば街を歩いたときランダムで選んだ家の全てや、例えば駅で電車を待つ人間の全て。
そのどれにも黴が生えて、気持ち悪い空気が漂ったような場所だった。
まだガキだった頃は自分の素性なんて知らなかったし、 とにかく毎日を生きることだけで精一杯だった。
オヤやカゾクが何かなんて知る暇も、考える余裕もなくてさ。
だから俺は一生この黴だらけの世界で生きていくんだと信じてた。
黴にまみれて、段々腐って、俺の原型なんてわかりませんよってくらいぐずぐずになってんでいくんだ。
『適格者』の学者が何遍だって繰り返し言ってきたように、不適格な俺のに方は遺伝子レベルでそう決まってたんだ。
それなのに、あいつはやってきた。

90 :
夜六時を過ぎた。外はけばけばしい光が灯りはじめている。
窓の外に広がる街には出たことがない。だけどどうせ出たところでいいことなんて起きるわけがないんだ。
いくら俺が『不適格』だからって、のこのこ出ていくほどバカじゃない。もちろんされたりなんかしやしない。
あいつはちゃんと『飼育許可』をとってるらしいから、逃げ出したところで強制送還されるだけだ。
あんまりにもご丁寧すぎて、涙が出そうだ。
ごちゃごちゃした頭を宥めるために、黙って不味い煙草を肺深く吸い込む。
何度もやめろと言われたけれど、遺伝子検査での推定寿命は35歳。肺疾患発症確率は95%。
吸おうが吸うまいが、すぐに肺がダメになってぬ運命だ。
イライラをぶつけるように毒の煙を吸い続ける。
七時前。
玄関からベルが何回も鳴らされるのが聞こえた。
無駄な努力の後、やっとロックが解除される音がした。
あいつだ。少し早い足音がこっちにやってくる。それがムカついて、俺は身構えた。
がちゃりと音がして目の前のドアが開く。
そこにはいつものように眉間に皺がよった、間抜け面したあいつがいた。
馬鹿馬鹿しいことに、あいつは俺を見るといつも目を細めてほっと息を吐く。

91 :
「ただいま。」
俺は答えない。答える義理なんかないからだ。
「食事は済んだか?」
俺は黙ったまま。 全く、あいつは本当に『適格者』なんだろうか。
俺があいつが言うことに答えるなんて殆んどないのに、あいつはしょっちゅう話しかけてくる。
学習能力がないんだ。しかも元々ネクラのツンボの癖に、無理して話しかけてくるんだ。
まだ行きずりの人間に喚き続けるバカ犬の方が賢い。
「ラザニアとローストチキン。嫌いか?」
手に下げた袋を持ち上げながらあいつはまだ話しかけてきた。
あいつとは丁度三年前にあった。軍か警察か、ともかく俺達は権力をもってます、下手に逆らうんじゃないぞって
オーラをバンバン出してる嫌な制服を着た人間がトリオで施設に来た。
指から採血されて、データベースのプロフィールを照会されたと思ったら
「確認が終わりました。どうぞ。手続き完了の通知は後日発送されます。」
って一人の男に俺は引き渡された。その男は俺の兄貴だと名乗った。
「ずっと会いたかった。ずっと、ずっと。遅くなってごめん。」
俺を抱き締め、泣きながらそいつはそういったんだ。俺は黙ってた。
訳がわからなかったからだ。
それから見たこともないようなキレイで立派な家に連れていかれて、今日からここが家だと言われた。
それから見たこともないようなピカピカで洒落た服をならべられて、気に入ったものを着ろと言われた。
それから見たこともないような豪華でうまそうな飯を出されて、好きなだけ食べるように言われた。
それから、今日から俺は
俺とあいつは家族だと言われた。

92 :
八時半。
俺がうたた寝をしてるうちに、あいつはシャワーを浴びているようだった。
その隙に俺は冷めた飯を食うためリビングに向かう。
俺はあいつと違ってフォークだナイフだの使い方なんて知らない。
スプーンで口に流し込んで、フォークで刺したもんは食い千切る。
そんな風に食えばいいんだ。
テーブルに向かうと、皿の横に紙が落ちている。カラフルなそれは郊外にあるテーマパークのパンフレットだった。
にやけた、服なんて生意気にも着ている動物達が胡散臭げに一緒に遊ぼうよなんてポーズを取っている。
小さな頃、テレビかなんかでCMを見た記憶があるが、『適格者』のエリアにある遊園地なんて行けるはずもなくて。
ひらひらのドレスを着たプリンセスや、乗った奴らがバカみたく笑ってるアトラクションなんて、絶対に縁のないものだった。
「明日にでも行かないか。」
驚いて顔を上げると、そこにはあいつがいた。時計を見ればもう九時をまわっている。
「チケットが、あるんだ。その。買ったんだ、二枚。」
捏ね回しすぎて、ひきつった笑顔を顔に貼り付けて、あいつが言った。
突然すぎて、俺は身構えることもできない。
「行こう。いや、一緒に行ってくれないか。」
途切れ途切れの声に、心臓がドンッ、ドンッて身体の中を殴るみたいに暴れまくってる。
聞きたくないのに、どうしても身体が、足が動かない。

93 :
「ずっと、お前に会いたかった。やっと、お前と一緒になれた。だから、今度はお前と、幸せになりたい。」
こいつの話を聞いたらだめだ。そう声がした。
耳の中で何度も何度も。
聞いたらだめだ。聞いたらだめだ。
そうこだました。
「本当に愛してるんだ。お前を。ずっと一緒にいたい。」
「うるさい!!!!」
頭がおかしくなった。そんな言葉聞きたくないのに、そんな眼で見られたくないのに。
気づけば勝手に口が動いてた。
「俺に構うな!!何で拾った!何で飼った!!同情なんてまっぴらだ!!」
「飼うなんて言うな、同情なんかでもない。」
「うるさいうるさい!!くそったれ!!!俺に近づくな!!お前なんて信じないぞ!!!」
「落ち着け、私はお前を裏切らない。話を聞いてくれ。」
「嫌だね!誰が信じるか!!ガキの頃ずっと願って、祈って、もがいて、足掻いてそれでも手に入らなかった!!!
立派な家も!きれいな服も!腹一杯の飯も!カゾクも!!
抱き締めてくれる腕も!!!
全部手に入らなかった!!全部!全部!!全部!!!」
「もう大丈夫なんだ、大丈夫だから。」

94 :
「うるさいって言ってんだよ!!!何したって手に入らなかったもんが、ある日突然脈絡なしに目の前に出されて!!
ほら好きなだけどうぞだなんて!!あっけなく全部手が届くとこに出されて!!!
そんなの信じられるわけないだろうが!!!!」
「もういい、もういいから。泣かないで。すまなかった。」
動けないままの俺をあいつは、初めて会ったときみたく抱き締めた。
俺は泣きわめきながらそいつを殴って、逃げ出してやろうとしたが『不適格』の抵抗なんて
『適格者』にとっては蟻に噛まれたくらいにしか感じないのか、びくともしなかった。
「信じないっ…信じ…られるかっ…お前なんかっ……」
「すまなかった。本当に、すまない。でも、愛してるんだ。ずっと、ずっと。」
あんまり強く抱き締められて、息ができなくなる。段々意識が遠退いてくる。
このまま気絶して、もう二度と目が覚めなかったらどれだけ幸せだろう。
目の前いっぱいの幸せに、怖くて怖くて触れない苦しい毎日を過ごさずにいられたら。
気絶する瞬間、何かが聞こえた。鼻を啜るような、しゃくりをしてるような息使い。
あいつのものだ。
これじゃまるであいつが泣いてるみたいだ。
そんなわけあるはずないのに。

95 :
これは、萌えというか切ない…GJ

96 :
ガタカはいい映画だよね。その世界観でSS読めるなんて思ってなかった。
ありがとう、そしてGJ!ぜひ続きもお願いします。

97 :
切ないけどすげー萌えた!
ハッピーエンドな続きを期待してます

98 :
兄弟ほっしゅ

99 :
どうせだから萌える兄弟設定について語ろうぜ。
ヘタレ兄×ツン気味弟が最近のブーム。
兄は弟大好きで大好きでたまらないんだけど、ヘタレなのでとても弟に手が出せない。
弟は兄大好きで大好きで、でもはっきりしてくれない兄にやきもきしてる。
弟は積極的に兄にアプローチしまくるもことごとく兄のヘタレっぷりの前に失敗ばかり。
そしてそんなこんなの毎日についに弟が痺れを切らし、ある晩兄を押し倒す。
エロエロエッサイムなムードや仕草で弟は兄を煽りまくり、兄も辛抱たまらんエロエロエアザラクな状態に。
兄ビクビクしながらも本能赴くままに弟をめちゃくちゃかわいがり(性的な意味で)
弟初めはちょっぴり余裕があったがすぐにトロトロになり、想像以上の快楽に恐怖し混乱してしまう。
だが兄は「ここ気持ちいい?」「すごい締め付けてる。痛い?やめようか?」「どうしたの?ここコリコリすると
辛い?中がビクビクしてる。こっちの方が気持ちいい?それともここ?ねえ、教えて。」と天然な言葉責め
しまくりで弟感じまくりイキまくり。
結局二人は弟が失神するまでセクロスしまくり、翌朝弟は昨日乱れまくった恥ずかしさのあまり兄に八つ当たり。
兄は五体倒置ばりの平謝り。
「ごめんね、ごめんね、ちゃんと中に出したのはきれいにして責任とるから!」と兄は善意の申し出。
「なっ…!いいってば!バカ兄貴!やめ…ひうっ!」てな感じで弟抗議するもバスルームで第二
ラウンド突入…
てな感じの設定で毎日米がうまいうまい。

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