2013年01月エロパロ266: 【獣人】亜人の少年少女の絡み11【獣化】 (266) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【獣人】亜人の少年少女の絡み11【獣化】


1 :2012/08/07 〜 最終レス :2013/01/05
このスレッドは、
   『"獣人"や"亜人"の雄と雌が絡み合う小説』
                    が主のスレッドです。
・ママーリand常時sage推奨。とりあえず獣のごとくのほほんと、Hはハゲシク。
・荒らし・煽り・板違い・基地外は完全スルーしましょう。
・特殊なシチュ(やおい・百合など)の場合は注意書きをつけて投下。好みじゃない場合はスルー。
・書きながら投下しない。
 (連載は可。キリのいいところまで纏めて。
  「ブラウザで1レスずつ直書き」や「反応を見つつ文節を小出し」等が駄目という意味)
メモ帳などに書き溜めてから投下しましょう。
・『投下します』『投下終ります』『続きます』など、宣言をしましょう。
・すぐに投下できる見通しがないのに「○○は有りですか?」と聞くのは禁止です。
・作品投下以外のコテ雑談、誘いうけ・馴れ合いは嫌われます。
・過去作品はエロパロ保管庫へ。
http://sslibrary.gozaru.jp/
+前スレ+
【獣人】亜人の少年少女の絡み9【獣化】(実際には10)
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1293283774/
+過去スレ+
【獣人】亜人の少年と亜人の少女の絡み【人外】
ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1061197075/
【獣人】亜人の少年少女の絡み2【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1098261474/
【獣人】亜人の少年少女の絡み3【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1118598070/
【獣人】亜人の少年少女の絡み4【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1152198523/
【獣人】亜人の少年少女の絡み5【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167835685/
【獣人】亜人の少年少女の絡み6【獣化】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197755665/
【獣人】亜人の少年少女の絡み7【獣化】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207906401/
【獣人】亜人の少年少女の絡み8【獣化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225275835/l50
【獣人】亜人の少年少女の絡み9【獣化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250959076

2 :
でだ。
根暗鬱・ちょい似非思想混じりモノの上、
前文にあたる設定パートだけしか出来てないけど、先に投稿してよろしいか?
この後の分はもうちょっと調整が必要なんで

3 :
うん、まあ、人はいないよなあ。

4 :
「…統制のとれなくなった共和軍は仲間割れを起こし、
あろうことか同じ艦船の中でまで同士討ちを始めました。」
 少女がそこまで読みあげると、教壇の女教師が話を切り出した。
「佐藤さんありがとう。さて、このように軍のトップがおらず、組織の私兵としてしまうと
組織自体の対立や私欲で動かす人が居た場合に、大きな混乱が起こってしまうわけです。
…同じ問題が少し前にもありましたね?」
 女教師の呼びかけにしたがって、生徒の幾人かが手を挙げた。
指名されたのは先に読み上げをしていた佐藤という少女、
「はい、旧日本自衛軍が、欧米の押しつけた文民統制を固持した衆ぐ政権により
戦略D兵器の投入を先送りにし続けました。」
 女教師は、優秀な生徒を持ったことを誇らしげに続ける。
「素晴らしい回答でした。そうですね、軍事が政権によって操られることがどれだけ危険か、
その良い証明でもあるわけです。そしてそれの反省から生まれた組織があります。…山崎さん、なんでしょう?」
 間を置かずに回答が返る。
「軍議院です。軍に所属していた人や、その御親族の方だけが参政権を持ちます。
専門家の集まりで、軍同様の階級があって機敏で、それと決議が一般の議会より優先されるので、
軍の行動を妨げる事がありません。」
 教科書通りの文面が戻り、再び満足げに頷いた女教師が称賛する。
「よく出来ました。…軍を一本化する事の大事さ関しては、みんなも良く知っていると思いますが、
20年前の戦争ではそれが出来ていませんでした。その結果が日本本土への侵攻を許してしまったのです。
皆さんの中にも、お祖父さんやお祖母さん、伯父さん、伯母さんを奪われたという人も居るでしょう。」
 女教師の呼びかけを受けて、生徒たちは顔を俯けたり、悔しそうな表情を作ったりと、さまざまな反応を見せた。
女教師も表情を曇らせる。
「私も、幾人かの親族と知人を…。」
 しかしそこでは止まらない。
「…先ほど佐藤さんが言いましたね、戦略D兵器の利用が遅れたと。
そうです、あの戦争は、既に完成していた、ABC以上のD、ディメンジョン兵器を用いていれば、
共和軍艦隊を迎え撃つことは可能でした。」
 快活そうな少女が、いきなり声を上げる
「E兵器に拘ったから!」
 最良の答えを返した少女へ柔らかな表情を向けると、女教師の顔は険しいものに切り替えられた
幾人かの生徒が、教師とは別の方をちらちらと盗み見る中、それを気にせず女教師は続ける。
「…戦犯達による政権は、旧時代のアメリカとの同盟を妄信し、
助けが来るまで防衛に徹するべきだといいました、そしてD兵器は危険だという嘘を放送し、
一方で、とても危険で、役に立たないE、つまりエビル兵器を後押ししたのです。」
 教師の言葉のうちの、“役立たず”という言葉を、生徒達は隣の生徒と嘲い合う。
ただ1人、少女は、表情を硬して俯き、もう1人、少年は、その少女の様子を窺っていた。
 と、俄かに学校全体が騒がしくなったかと思うと、チャイムが鳴った。
教室ごとの騒音は拡大してゆき、それに負けじと女教師が次回の授業の準備を呼び掛ける中でも、
少女、E4076-1美梨は少しの音もたてず、俯き続けた。

5 :
※余聞1
D兵器、ディメンジョンと表記されるものの正確には「時空間兵器」は、ABC兵器を超える大量破壊兵器。
D弾頭と呼ばれるシステムから空間を粘土のように捻じり、
大体球状の範囲の物体を、物質の剛性等をほとんど無視して、
ルービックキューブの柄のように、ぐっちゃぐちゃのモザイクにしてしまう兵器。
作中では危険性は(政治的圧力もあって)嘘だとされているが、実際には、
「(先ほども述べたルービックキューブのように)発動からの一定時間を経ると、
巻き込まれた範囲の物質が、発動時同様の挙動をしながら互いの元の座標に戻ろうとする」
という「揺り戻し現象」を引き起こす。空間兵器じゃないのです、“時”空間兵器なのです。
当然ながらそれに巻き込まれれば、時空間兵器発動と同様の被害が再度発生することになる。
例えば、巻き込まれた戦艦の廃鉄材を溶かして、電車の車体フレームを作ったとすれば、
そのフレームの鉄原子が、なんとか戦艦の形に戻ろうとして、時空間をミキシングして捻じれつつ、
他の残骸が多くある場所に近づこうと飛んでゆく、地面にめり込みえぐってゆく、なんて事が起こるわけですね。
電車の中に人間が乗ってたら、言うまでもありません。
また「揺り戻し現象」は複数回、起こり続けます。少しずつ規模は小さくなってゆきますが。
小さい事がじわじわ起こり続け、一定のラインを超えると一気に大きな反応を起こすので、
この時代の人間はまだ気付いてません。そもそもD兵器への非難自体、危険思想扱いです。

6 :
E兵器、「エビル兵器、邪悪兵器」は、規模こそ小さいもののD兵器より強力すぎて、また人間そのものを冒涜する兵器。
それは、ベースとなる人間に、遺伝子や薬剤による生命科学、ナノテクノロジーや機械構造による物理工学、
そしてそこに邪な魔法技術までをも組み込んで作りだされた、人造の悪魔。
旧自衛軍は、大陸の共産軍の侵攻と、米国の同盟無視を予見、
日本の孤立無援状態、戦力差・資源差から戦闘が破滅的な状態に陥ることが間違いないと考え、
また、戦略兵器の投入による国際関係の失墜も考慮してD兵器を禁じ、
既に試作されていたE兵器の増産と、兵士自体や国民レベルでの強化や、敵への恐怖を与える作戦を立案した。
一部の人間が持つ特殊なミトコンドリア「キックモーター」を利用することで、
普段は細胞に含まれているだけの微細小胞機械「セルマシン」を発動させ、
セルマシンが細胞を歪め、人間の体をわずかに変貌させ、同時にセルマシンが構築する多重の魔法陣が、
歪になってゆく人間の体という 生贄 を利用することで、連鎖的に莫大な魔力を生み出し
物理法則を超えた肉体の変形を可能にする。
そして半人半獣の姿になった人間という「魔」そのものは、この世のものではない戦闘力を発揮するのだ。
少数の試作型が日本各地の戦場に投入され、僅か100人未満のそれだけで、
戦線を日本海にまで押しだすまでの無茶苦茶な戦果を上げているのだが…
E兵器のイメージがとにかく不気味なのと、試作のは完全な機密任務で活躍は広くに知らされていない事、
さらにこれを用意していたためにD兵器を使わなかった、という戦後政権のプロパガンダにより悪者扱い。
自衛軍兵員や国民の適合者から志願を募ったり、前線で瀕の重傷を受けた兵を強引に肉体改造し、
生産を重ねて、戦争終結までに約17000人ほどがロールアウトしたのだが、
その多くが、ほぼ人権が剥奪されている、と言っていいほどの扱いを受けている。名字が使われないのが好例。
国を救うために人間を捨てたのに。
戦闘能力は脅威以外の何物でもなく、製造された全体の7割を占める汎戦闘種(主に肉食獣モチーフ)の
無装備の単体が肉弾だけで難なく高層ビルをなぎ倒せるだけの破壊力を持ち、
バイオケミカルによる汚染、核の直撃や、D兵器の炸裂にあっても、
魔法によるおぞましいまでの再生能力や、防御の加護が肉体を維持し続けるという
負けるはずのない兵器。人を超えたもの。だがどれだけ再生しても感じた苦痛は残るのだ。
現在は、リミッターの首輪を付ける事で、攻撃性能力をほぼ封印するよう法定されている。
(それでも大型の獣程度の膂力はあるだが)
当然の話なのだが、戦後政権が彼らを忌避したのは、この論外の能力のせい。
精神と互いに影響しあう「魔法」を体に宿らせた副作用として、
彼らが強い人間性をもっていることに着目した政府側は、
彼らはあまりにもオーバースペックであり、国民に僅かでも攻撃性を向けることは即、戮に繋がる事を利用、
国民という人間の盾が、彼らを取り囲んで虐め、監視し続ける形に仕向けたのだ。

7 :
ああ夜が明ける!途中までしか調整できねえええヽ(`Д´)ノ
エロパロ板でエロに全然絡まない駄文垂れ流しって何かの犯罪じゃないかな、もう。

8 :
バス道路から逸れた、整然と並ぶ木の間の道を、夕暮れの中、2人の影が歩いてゆく。
「クソっ、佐々木のババア。今更煽るような話に持ち込みやがって…」
毒付く少年の声、それから少し遅れて、
「…もう、やめた方がいいよ。せいちゃん。」
気に病むような少女の声。だが少年、東静一の怒りは収まらない。
「美梨、あんな嫌がらせされて、悔しいとか、あるだろっ…」
自分のための義憤だという事が分かっていても、美梨は黙ってしまう。
2人の家、いや塀もある屋敷は林の中に建っていた。
二十数年前までは立派な町があったそこは、気化爆弾によって灰燼だけの土地となった、
生き延びた人たちの中には、血の流れた場所に住もう、などという心や力を持っている人など残ってはおらず、
できるだけ遠くの、快適な都会地へ移っていった人たちの土地は、巡り巡って国が受け取った。
そして国は、その戦いで戦った兵士たちを厚遇し、人の住まなくなった土地に幾らかの手を入れて屋敷を建て贈った。
少し昔の感覚で言えば、嫌がらせ以外の何物でもないだろうに、そんな事はお構いなしに、
「昔の政治がどうとか、前の軍の姿勢がどうとか、美梨はエビルでもその後に生まれたのに
なんで悪いなんてことになるんだよ!」
「もうやめて。お願いだから!」
美梨の呼びかけは悲鳴に近かった。
「私はいいの。辛くても誰かを傷つけるわけじゃないもの。
お母さんや私の身元だって、おじさまが保証してくれてるのだから、酷い目に…あうことも、ないわ。」
話しかける途中で、そうではない同属のことが脳裏を掠めたのか、美梨は僅かに口ごもる。

9 :
美梨の母、E4076梨絵は、戦火に巻き込まれて重傷を負った、
治療の過程でE兵器適合が判明、自衛軍で手術を受け、汎戦闘種・狼型の形質を宿した。
しかし終戦後は、それは社会での枷となり、リミッターという物質の枷が重ねられるように付けられ、
そのまま戦後復興の際の労働力へと駆り立てられた。
獣化状態での身体能力でも負担となるほどの重労働と、終戦から時間が経つほどに広がるE兵器への偏見。
そんな中で唯一、彼女を庇ったのが父親となった男だった。
彼も戦地に出ていた1人で、E兵器に救われたことから、時代の流れに嫌悪感を感じていた。
互いの献身に触れるうちに、二人は結ばれ、梨絵は美梨を身篭った。
E兵器の配偶における女性というのは、妊娠しにくい、
強化された体の免疫が男性の精子のほとんどを排除してしまうためだ。
E兵器の男性は真逆で、精子の保存性が高く、高い確率で妊娠させることはできる。
だがミトコンドリアの形質は母からしか受け継がれない。
キックモーター特性を持たない母親からは、E兵器へと変じる能力を持たない子しか産まれず
機能しないセルマシンのほとんどは、そのまま細胞内で分解されてゆく。
それを踏まえ、政府はそのうちにE兵器は子孫を残さずに絶滅すると結論付けていた…
そして美梨が産まれた。
棘の付いた枷の中でも。幸福な家庭を作れると信じていた梨絵の元に、夫の悲報が届いた。
街中で暴行を受けていたE兵器の親子を庇い、
不壊の兵器に苛立つ暴漢の凶行を、普通の人間の身で受けてしまったのだ。
結局、暴漢は罪には問われなかった。
梨絵はいくつかの町を渡り歩いた。全てを与えてくれた人のいない場所にはいたくなかった。
美梨と、E兵器専用の強靭なドッグタグの中にしまわれた親子3人の写真だけは片時たりとも身から離さずにいた。
彼女を探している人物が現れたのは、そのような生活のなかで、まだ美梨が物心付く前のこと、
その男性、東氏は、梨絵の夫の元同僚で、力になることを約束してくれたのだった。
それはきっと、亡き夫の最後の導きだったと、梨絵は娘に教えている。
東氏の家には、E兵器にも変わらず接する、というよりむしろ素敵であると評する風変わりな奥さんと、
梨絵と同じように世の中にいられなくなったE兵器達、また彼らを不愉快に思わない人々が下働き、
というよりは共同生活をおくっており、そして東氏には、美梨と丁度同い年の男の子がいた。
男の子と女の子は、このときから家族になった。
母親から、人を守る人になりなさい、と言われて育った美梨は、人一倍で危ういまでの優しさを持つようになる。
だが同時に彼女の体は、やはり母親の形質を受け継ぎ、守護のために造られた破壊兵器、汎戦闘種・狼型が息づいていた。
そして10歳の時の検診が、首輪、Eリミッターを装着する、人ではない人生の始まり。

10 :
「せいちゃん…、政府の悪口を言ってるのが家以外の人に聞かれたら、おじさまがご苦労されるわ。
今でさえ、いい顔をしない町の人だって…。」
美梨の悲しそうな声を聞いて、静一の声もトーンダウンする。するが、止まらない。
「…でもさ、政治家はさ、軍議員を飼い犬にしたいから、参政権持ってる元軍人にバラマキしてんだぞ?
日本守ってたエビルの人たちだって、同じ軍人なのに、何で別になるんだよ…。」
父親の語ったE兵器に助けられた話から、その子供が素直に考えた、ごく自然な結論だった
だが優しい美梨の回答はない。理不尽さを感じても、E兵器がそれを社会に表現する方法はないことは
彼女自身の体で知っている。どう足掻いても兵器であり暴力なのだ。
静一は知らない。
美梨は定期健診で、E兵器としての指導を受けたことがある。
それはリミッターを僅か1%開放しての、自分の力を知覚することだった。
荒れ果てた訓練場、僅かに力を増した12歳の美梨の小さな手は、獣のそれへと形を変える、
おずおずと、構えた腕を振り下ろす。何が起こるとも思わなかった。
目標として無造作に置かれた廃車は、表現すらしがたい轟異音と共に原型を留めないまでにバラバラに引き裂かれ千切れ飛んだ。
前日にクッキーを作るときに使った、調理用のアルミホイルを引き裂くより力を込めたつもりはなかった。
無意識に腕と同じ獣の形になっていた脚は、小さな少女の体重を支えきれなくなり、床にペタリと座り込んだ。
以来、美梨は自分の力に恐怖を覚えた。それが親しい人に向いてしまったときの事を考えさせられる読本が配られた。
自分が事故を起こしてしまう悪夢が襲い、眠れなくなる日が続いた。
それが、説明では1%開放となっているリミッターが、実際には20%開放されており、
E兵器の少年少女が自分の力を大なり小なり誤解するように仕向ける教唆プログラムであることなど、彼女は知る由もない。
静一は、後を歩いているはずの美梨の方を見遣る、どこかで立ち止まってしまったのではないかと思うほど静かだった。
美梨はすぐ後ろだったが深く俯いてしまっていて、ただ、とても悲しそうであることだけしか見えなかった。
「美梨…。」
呼びかけても、彼女の表情は取り戻せる気配は無い。
それ以上は何もできることもなく、ただ、とぼとぼと歩き、2人は家に帰りついた。
夕食は親達と子供たちが1つのテーブルを囲むのが東家。
その中で、美梨はいつもどおりに食事を取っていた。親たちの話しかけに笑顔で答えていた。
それが、静一には余計に辛く思い、味も分からない、メニューも覚えられない夕食を無理やり腹に収め、
自分の部屋へ逃げ込むように篭ると、布団を敷いて、強引に眠りに付こうとした。
しばらくして隣の美梨の部屋から物音が聞こえ、彼女も早々に部屋に戻ったようだった。
最近は、彼女が服を脱ぐ、衣擦れの音が嫌にはっきり聞こえる。服を脱いだ美梨の体。
一瞬、頭を乗っ取った卑劣な想像とその原動力の思春期の性欲を何とか自己嫌悪に転換して、
後悔を抱えながら眠りに付いた。

11 :
今日はここまで、ごめんね。この次から濡れ場があるんだけど、
そこも煮詰めなおしてるんで、今は無理。
「後味最悪のラブラブ純愛が少しずつ捩れ壊れゆく強姦」路線、かな。

12 :
GJ!期待してまってるぞー!

13 :
>>1-11乙!
>>2から早速連載始まってるとは魂消たわ!
それに、読んでみて思ったんだが、内容もすげぇな。
かわうそルルカの作者様にせよ、>>1様にせよ、
どうしてこのスレはこんなハイレベルな連載陣に恵まれてるんだ!?
世界観が好み過ぎて二次創作書きたくなるレベル…

14 :
ごめん、獣人要素がまだない

15 :
第3次大戦があった。
それはアフリカ・南米・東南アジアの経済的台頭で、経済的に陰り、
というか破綻まっしぐらになった中華共和連邦(事情あって北朝鮮を取りこんじゃいました)。
国民の不満を逃がすために以前から流してた嫌日誘導と、
その最中で日本が自衛隊を自衛軍としたことで歯止めが利かなくなり、
振り上げた拳の落とし所を間違うと、政府そのものへの鬱積から転覆しかねない状況に陥ったため、
日本への武力誇示が必要になってしまった。
当時、経済的に好調になったアメリカが、日本から「債務返済しろ」という突き上げをくらって
煙たがっていたことを利用して、上層部同士で密約を交わし、
アメリカの南米の共産国家群への攻撃を黙認する、中連の日本への侵攻を黙認する、という条件のもとだ
共和軍は、中華共和国連邦の第1党の党軍。人民解放軍がベースで、
連邦政府高官の親戚縁者、要するにいい所のボンボンが身内人事で偉くなってゆく状態は相変わらず。
しかし、その状態を解決せずに、党が一枚岩じゃなかったのが致命的な事態を引き起こす。
連邦政府の米国と密約した側は、あくまでもナアナアの関係を維持したい派閥であり、
日本を適度に荒らし回って、国家体系をぶち壊しにした辺りで、米国が介入し
「同盟国に攻撃してもらっては困るね。あ、でも日本はもう統治力無くなってるね。
仕方ない、我が国が半分を管理しよう。残り半分は中連さんにお渡ししよう。」
という目論見だったのだが…
中連側の、自国至上主義で、アメリカとの密約に関わってない人達の関係者も、共和軍には多く
何も知らずに「普通に全部攻め落とせば良い、日本を全部手に入れる」と考えていた一派が
日本から飛び立った米国籍の避難民を載せた旅客機を撃墜したことで、問題が表出。
(これに関しては、日本がその直前にE兵器を投入したため、
 甚大な被害を被った共和軍将校が徹底的な反抗作戦にでたのが原因)
至上主義派閥は叱責を受けるも、親米談合派閥を弱腰であると反発、
戦争中にクーデターを起こす、という行動に出た。
その結果、艦船や基地内での主導権争いからくる同士討ちが相次ぐこととなった。
元々、小国日本などは片手間で落とせる、として大軍を動かしていなかった事もあってか、連邦内の軍同士で内戦が勃発。
更に東南アジア等の、連邦を煙たく思っていた諸国が、ここぞとばかりに連邦内に武器を密輸。
それらの武器がアメリカ製だったり連邦製だったりしたものだから、国家間問題は拗れに拗れ…
漁夫の利を得た日本が軍国主義を基礎に再興する一方で、連邦は崩壊。
煽りをくらって軍事制圧併合されてしまった近隣の小国があるかと思えば、
談合派閥を元とする国、至上主義派閥を元とする国、それらに抑えられていた中小派閥の連合、
古い血筋を持ち出してきた新興国、欧州等の支援を受けた少数民族の独立国等により
数年が経過して、5つほどの大国と、15ほどの小国が入り乱れることとなった。
また、同じ時代の戦いでD兵器が用いられた戦いがあった。
D兵器はエネルギーをばらまく核兵器と違い、与えるエネルギー次第で攻撃範囲が厳密に指定できる兵器だ。
サイズは小さくし辛いが、それでも大型トレーラーには積める。テロリストには何の問題もなかった。
それは、エルサレムで発動した。
彼らはためらわなかった、自分達の聖地は遺構が粉砕されてしまったのだから、もはやためらう理由が無いのだ。
爆心地を占拠し、隣り合っていた彼らの聖地へ向かうテロリスト達を、報復のD兵器の牙が襲った。
テロリストが用いた数十倍の威力のD兵器、そして報復に報復、
その武器は時代遅れな物と違って、何の汚染も残さないのだから。
敵も味方も使いたいだけ使えばいいとばかりに、聖地を時空間ごと切り刻んだ。何度も、何度も。

16 :
その後にどんな惨事が待ち受けるか、何も知らずに。


コピペミスで切れた(;´Д`)

17 :
強引な早寝が祟って、静一の眠りは夜更けに覚めた。強烈な月明かりが彼の顔を照らしたのも原因だが。
美梨に謝りたい。
夢の中から頭を覆っていたのはその事一つ。
だが、今は無理だ、ということは理性では分かっていた。
就寝した美梨の部屋に入ってはいけない、それは年頃の二人だからという理由が主ではなく、
彼女は、というよりはE兵器である彼らは、寝る時には裸か、それに近い装いをするからだ。
夢の中では様々な精神状態が誘発される。E兵器である体はそれにも鋭敏に反応し、起動を起こす。
仮に寝ぼけたとしても、リミッターによって破壊的な攻撃は防げるようにはしてあるのだが、
肉体自体の変形まで止められるわけではない。
朝に、膨れ上がった体で張り裂けた、あるいは鋭く伸びた爪牙で切り裂かれた寝巻を見たくなければ、ということだ。
強いて言えば、病知らずのE兵器の肉体は、それほど衣服に頼る必要はないのだから、
それほど大きな問題はなかった。
しかしその問題が、今、静一の前に立ちふさがっている。
布団から体を起こす。満月も近い月明かりのおかげで部屋の電気を付ける必要もなかった。
廊下へ通じる襖の前まで来て、行っては駄目だという気持ちと、一刻も早く謝らなければという気持ちがせめぎ合う。
掛け布団は使っているのだから、彼女は自分から隠すはずだ、
部屋に入った非礼は先に謝ればいい、と自分に言い聞かせて。
美梨の部屋の襖をわずかに開け、彼女が布団に包まれて眠っている事を確認した。
問題ない。襖とは逆に向いて横になっていて、二つに分けてまとめられた長い髪がこちらに向いている。
少なくとも、裸らしい裸を見てしまうことはなさそうだ。
意を決して部屋に飛び込む、後は謝るだけだ。布団越しに肩に手をかけ、
なるべく優しく揺り動かし、彼女の目が覚めるように促す。
だが、彼女は目覚めない、深い眠りのようだった。
問題なのは、外から受けた影響から体の重心が動き、横向きだった体はころりと転がり、
肩にかかっていた布団が引きずられ、斜めになった掛け布団の下から、
美梨の可愛らしい乳房が露わ
になってしまったことだ。月明かりが彼女の肌を真っ白く輝かせる。
静一はその事故にあって、見慣れた可愛らしい少女の顔と、
それに並んだ、見慣れない白く柔らかい曲線の体を、息も出来ずに眺めていた。

18 :

触りたい。
雄が動かす。
左の手が伸び、僅かに自制から躊躇って、女性に近づいている彼女の体の直上で腕が痙攣する。
触りたい!
手のひらの真ん中に、少女の尖った先端が触れる、止まらない、手のひらが暖かな感触に染まる。
押し過ぎた、慌てて力を抜くと、僅かに汗が乗った肌は優しく押し返し、手のひらに指に吸いつく。
何度目かの唾をごくりと飲み込む。体は雄の機能に突き動かされる。
このまま。
と、美梨が大きく息を吐いた。
静一の全身が跳ねあがり、飛び退く、だが、美梨は目を覚ましたわけではなかった。
これも静一が知らないことだが、E兵器達は夢現の変化により、体の内外からの圧迫感を感じることは珍しくない、
だから美梨は、眠りの中、自らの体に悪戯が及んでいるとは想いもしていない。
ただ、姿勢が変わって、重力のかかり方のかわった肺から、息を吐いただけだった。
美梨の布団のそばにひっくり返った静一の顔色は、月明かりの反射もあって酷い、
ここに来た原因の自責の念と、その時にあってもなお、卑劣な行為にでてしまった事が重なり、
いっそ自分の首を絞め千切りたいほどの罪悪感に駆られていた。
だが、手のひらに残る、あつさ。
動悸を抑えながら立ち上がり、よろよろとしながら美梨の部屋から出る。音をたてないように襖を閉める。
自分が辱められた事を、彼女が全く気付かないでいて欲しい。
邪に卑怯に願いながら、わずか数メートル先の自分の部屋まで戻る。
今すぐにでも後ろから辱怒に震える美梨が罵声を浴びせてくるのではないかと怯えながら。
そんなことは美梨は絶対にしない子だと分かっていても、
数分前の事で、二人の関係が今までとは決定的に変わってしまったように思えて、
そうであれば、違う別の事が起こってしまうのではないかという考えが頭を支配していた。
小さな頃は、二人は互いにケッコンしたいとも思っていた。
だがそれから成長するにつれて、結婚とはどういう関係かが解ってきて、おいそれと触れない関係になった。
だから親身な兄妹のような関係になるように留めていた。
しかし、手のひらに残るあつさは、子供心や、あえて遠ざけていた意識を強烈に突き付ける。
部屋に戻り、布団を被り、自業に唸る。
左の手のひらがあつい。
処理をすれば自己嫌悪はもっとひどくなると分かっていても雄の残り火は収まる気配はなかった。
ティッシュの中に随分追い出しても。
最後の滴を出し切る際、少年の体に添えてあったのは、あつい、とてもあつい左の手のひらだった。
意識はまだ収まる気配もなかったが、そこで体力の方が尽きた。
美梨が少しでも狼の力を表出させれば、その人の何十万倍もの嗅覚に汗と青臭さが絡み付くのは間違いないほどの醜態、
だが、それを気にする余裕もなかった。

19 :
翌朝、静一はいよいよ美梨と顔を合わせられなくなっていた。
寝汗を言い訳に風呂、便所、洗顔、食事、身支度、忘れ物の確認、
ありとあらゆる手段を用いて、彼女の行動と時間をずらし、広い屋敷の狭い生活範囲の中で逃げ回った。
通学には同じバスを使わなければならないにしても、元々隣り合って座るような習慣はない。
幸いにもバスの座席は十分に空いていて、美梨とは随分離れた場所に座ることができた。
視線を逸らす、逸らす、逸らす。余所余所しさは昨日の、夕方の、事があるので、
不審に思われないだろう、と願う。自分はどこまで卑怯なのかと目眩すら覚えた。
教室は一緒、父親が彼女の身元引受のために同じ学級という制度が憎らしい。
あらぬ方向を向き続け、ふらふらしたような状態で、教室の前にまでなんとか辿りついたところで、
僅かな異変に気付く。騒がしい。
1人の少年が下着一枚の半裸になっていた。名前までは知らない、別の学級の、E兵器。
彼の後ろには卑劣な笑みを浮かべた少年たちが群れて廊下をふさいでいた。
珍しい事ではなかった、若い嗜虐欲求を満たすには、反抗できず傷も付かない奴隷、E兵器は格好の玩具なのだから。
視線が他人と並行線を取り戻した静一の視界に、竦む美梨の背中があった。
その時、静一の中で、何かが外れた。
外す力になったのは前日からの義憤か、それとも昨晩の贖罪か、あるいはもっと別の物か、
ともかく、静一は、人垣を抜け、生徒たちがそれぞれの感情を持って遠巻きにしている空白地帯を横切る。
他の少年たちが僅かに後ずさる中、リーダー格の少年は、自分達の遊戯に邪魔が入ると察し、
不機嫌な表情を向けた。
「やめろ。」
静一は、その一言を吐き出してから、やっと息を吐けた。
悪童は鼻で笑う。
「何の風紀委員だ?おい。」
取り巻きたちが制止する、あいつは軍人の子だ、軍家相手は危ない、止めた方がいい、
だが悪童は一睨みで黙らせる。
「自分の所のイヌと遊んでやってるんだよ。俺は。」
その一言で、今までは別の学級とあって知らなかった事情、身元引受と分かり、やっと静一も話しやすくなった。
「E兵器は人間だ。法律で権利セイゲンの決まりがあるけど、玩具にしていいわけじゃない。身元引受人でもだ。」
教科書通りの回答しかできなかった事が悔しい。言い返される。
案の定、
「軍事、営利、その他の行動上は、民間人であってもE兵器どもへの命令権があんだよ。おら!取ってこい。」
投げられた上履きが静一を掠めて飛んでいき、生徒たちが場所を開けた廊下に落ちる
E兵器の少年は一瞬戸惑った後、駆けだす。
「イヌが二本足で走るんじゃねぇぞ!」
雷に打たれたように戦慄し、立ち止まった少年は、その場で両手を床に付き、
E兵器の時の行動を再現できるのだろうか、人の四つん這いではなく、獣の歩みで投げられた靴へ向かう
人の足の長さが邪魔になるので、酷く不安定でゆっくりとしか動けないようだったが。
静一からは彼の顔は見えなかったが、視界の片隅に美梨がいた。

20 :
悪童が笑う、
「ほら、イヌだろ?人間にはあんな気持ち悪い動き、できねぇよ?」
取り巻きたちも、幾分気色を取り戻してきたようだ。引きつったようだが笑い始める。
「おい、イヌなんだから手で持つなよ、口で咥えろ。」
悪童が続ける。
「バケモノを何匹も飼ってる家の人間だっけな?お前。よっぽどバケモノがお気に入りなんだろうな。」
少し、語りのトーンが変わった事を静一は感じた。攻撃の対象が自分に向いている。
「飼ってるイヌかネコにでも、毎晩お世話してもらってるから恩返しとか思っちまった口かい?」
事実にかすかに触れる、殴りかかりたい。多少なりとも父親には鍛えられている。
簡単な投げ技のコツがある。一度殴った相手が無暗に殴りかえしてくれば一発だ。
衝動が体の各所の筋をギシギシと鳴らす。
似た感覚が蘇る。昨晩、衝動のままに行動した悪事。衝動にがちりと歯止めがかかる。
と、食い止められた思考が反動で別の方向に回り始める、何故、連中は自分を攻撃し始めた?
別学級でもこの集団の暴力ぐらいは何かと目に耳に付く。何故、それが直接自分に向かない?
挑発だ、こちらから殴りかからせようとしている。
軍家の息子とはいえ、議員等でもない普通の家だ。多少発言権があっても、他人に殴りかかっていい権利はない。
むしろ家庭の責任問題にまで伸びかねない。
E兵器は文書の上では守られていても、実際には疎まれるもので、
それを庇っている父親に、下手な醜聞を付けるわけにはいかない。
何か、こちらからの挑発の方法はないか、強烈な、一発は
背後に向けて生徒群衆の奇声が向く。
目を逸らした隙に殴られる可能性があったが、静一はそちらを見てしまった。
どうやら、躊躇していたE兵器の少年が、ついに口で上履きを咥えてしまったようだった。
静一は顔をしかめる。美梨は、
瞬間、反撃が見えた。静一は声を上げる。
「おい、そこの犬!軍家の命令だ!その靴を俺に向かって投げろ!」
軍家の発言権は、一般のそれに勝る。そう教育されている子供たちだ、
周りの者が意図を掴めずにあっけに取られる中、少しの躊躇の後、E兵器の少年は上履きを口から離し、
命令通り、静一に向かって靴を投げた。
自分に当たれば「相手の飼い犬の躾の悪さ」を咎める事ができる。だが上手くいけば。
靴は上手く飛んでくれたので避けるのはそれほど難しい事ではなかった。
そのまま靴は飛び、静一を対角にしていた悪童、その顔に直撃した。
生徒の群れが息を詰めるような声を上げてざわめく。あまりに上手くいったので、静一もあっけに取られる。
悪童も何が起こったのかを把握できず、しかし次の瞬間、顔を怒りに染め、
怒声と共に、静一に殴りかかってきた。
あとは、簡単だった。
教師への説明も、軍家が侮辱を受けた、と言えばよかった。

21 :
ごめん、濡れ場詐欺。 orz
さんざん時間がかかっておいて、
このスレにおいて誰特な人間のオナニーとケンカだけっていう…
次回!次回こそは!

22 :
最近は作品投下が続くな。賑わっててすごくいい
いつまでもこうだといいんだが

23 :
はいフラグ入りました

24 :
難しい設定の話だとエロい展開に繋げにくいし、
作品の味を損ねそうならば無理して濡れ場を用意しなくてもいいと思うよ

25 :
改変入れた部分と濡れ場の切り出し部分の調整が上手くいかず、止まってます(;´Д`)

26 :
・試製戦闘種・蝗型、および同型改
E兵器全ての礎となった第一号。
E兵器開発計画の主要メンバーである若き天才科学者が、第一号を製造するに当たり、自らの体を供出。
初期技術においては結合させる生物の知能が高すぎると、精神融合による人格への悪影響の恐れがあったため、
単純な節足生物で、構造が発達しつつもシンプルな昆虫で、草食を主とし、
更に不安定要素となる大きな変態を行わない不完全変態である「蝗」が用いられた。
融合実験自体は成功したものの、初期の時点ではいわゆる「変身」に必要なだけの魔力連鎖発生が足りなかった。
その後、改造に改造を重ね、ついに完成の日を見る。
テストの一環として日本本土奪還作戦に投入され、山をも穿つと言われる蹴りを武器として、大きな戦果を上げたとされる。
戦場に出るときに必ず被っていた髑髏のモチーフが施されたフルフェイスと血染めのスカーフは、E兵器の代名詞となった。
同氏は、戦後のE兵器弾圧の流れと、数多くの人をその兵器に改造してきた事の苦悩を綴った手記を残し、
現在、行方不明となっている。
・試製工兵種・蜘蛛型
蝗型と並列開発されたE兵器。強靭な蜘蛛の糸を自在に操り、さまざまな環境に適応可能な工兵を目指したもの。
…結果は「THE - 平均点」。悪くはないんだが、兵器としてはそれほど。
戦後はE兵器の不遇な立場ながらも、レスキュー隊員として多くの人を助けるが、
当時の国内メディアではE兵器の活躍を載せるなど論外であり、メディアは専ら悪評ばかりを広めていた。
彼が評価されるのは幾分未来の話である。
その後の同型だが、女性の被験者で再適応を行った際、魔法技術のベースである発掘遺物と
高い同調性が確認され、その発掘遺物が神話通りの者であることが証明された。彼女こそ「アラクネ」であると。

27 :
・試製工作種・蝙蝠型
E兵器の初期のもの。初の哺乳類結合種でもあり、1体のみしか制作されていない。
被験者は自分こそが正義だと名乗る、しかし重犯罪者だった模様。
モチーフが選ばれたのは「魔術による生物兵器の代替兵器」というコンセプトが先にあり、
そこに東欧のヴァンパイアのイメージが重ねられた結果でもある。
完成なったそれは、まさしくそのホラームービーを再現しうる能力となった。
夜陰に紛れてレーダーにも掛かりもせず音もなく敵陣に辿り着いた彼は、気の毒な誰かを襲う。
伝説どおりに吸血(大きな代価となる魔術儀式である)を受けた者は、一定の潜伏期間の後に、
体内で蔓延するセルマシンの魔力欠乏から、感染者が知る限りの魔力補填儀式、すなわち吸血を衝動的に行う。
当然、連鎖的に感染は拡大してゆく。それが戦場で起こればどうなるかは想像を絶するだろう。
なお、通常感染者は酷くても精神錯乱と不完全な変身程度だが、
高度なE兵器適合体質の場合、オリジナル同等の変身能力だけでなく、別種の能力覚醒も考えうる、という。
実戦投入は行われたが、戦場に置いて犯罪行動(戦乱に乗じた犯罪者への私刑とのこと)から、外部操作による機能停止。
逮捕され、軍法によって刑判決を受け、E兵器をシンプルな手段でせる試製魔術兵器のテスト台とされたという。
彼を葬った事で、その兵器と呼ぶのも躊躇われる様な小さなナイフ、
しかし僅かにも罪ある者が握れば腕が焼け爛れるほどの強い魔力を宿す魔術兵器は、
「ホワイトアッシュ(白木)」と呼ばれるようになった。
…などともっともらしい話が語られているが、彼が実在したかは不明。都市伝説の類である。
・試製〜汎戦闘種・狼型
E兵器が基礎技術を確立し、満を持して作られた哺乳類結合種の汎戦闘種。
伝説の月夜に狂う狼男、ではなく、兵士に対し狼という本能や能力を与える目的の物で、
一般的なE兵器としての能力だけにとどまらず、嗅覚・聴覚等の補佐能力もまた強力なものとなった。
懸念されていた精神融合の部分に関しても、体系の中にある兵士としてはむしろ好影響となり、
E兵器のなかでは最も数多く生産されることとなった。

28 :
“悪漢をやり込めた”ことで、調子に乗っていたのは間違いなかった。
同じ道でも、先日とは打って変わって、静一の歩みは軽いものだった。
だがしかし、その後ろを歩く美梨は。
そして静一は、振り返ってしまった。林の中の道の暗がりにいる彼女を。
静一は理解できなかった。その微かな不機嫌を押しして、明るく努めて問いかける。
「なんだよ美梨…、なんで難しい顔してるんだ?」
問いに怯えるように一瞬俯いた美梨は、低く視線を迷わせた後で短く呼吸をし、
酷く苦しそうな顔で、そして口を開いた。
「…“静一さん”は、解決だと思われますか?」
最初は意図が掴めず、すこし考えてから、応える。
「あんなに派手に、軍法にもひっかかるような犯罪をやったんだから、
あいつはもうエビルと関わることすらできなくなるよ。」
社会にあるとしてもE兵器は軍に属する。それを軍家に害意を持つ者が利用するのは認められない。
それが子供であれば始動する立場の親にも責が行く。それぐらいのことは静一も知っていた。
だが、すぐに美梨が返した
「そうですね、確かに彼らは十分な報いを受けるとは思います。
でも、そうではないんです。」
完全に分からなくなった静一に向かって、続ける。
「あの後、先生たちの話し合いを聞いてしまったのですが、
あの命令をしていた人は最近、少し辛い事があったらしいのです。」
段々、不機嫌を隠せなくなった静一が、語気も強めに反論する。
「自分が嫌なことあったからって、エビルにひどい事をしてもいいっていうのかよ!」
悲しそうな顔で呼吸を整えた美梨、
「それは勿論悪い事です…。でも少しすれば元に戻ったと思います。」
不可解な回答に、静一は怒りを混ぜる。
「戻るって、またエビルをオモチャにするみたいな状態だろ、そんなのがいいわけないだろ!?」
美梨は、一度答えようとして、俯いて躊躇う、しかし
「そういうのは…、長く続かないと思います。親とか大人の人から咎められて、それでおしまいだと。
でも静一さんの行動で、戻らなくなってしまうかもしれないのです。二度と、元に。」
抑えきれなくなった静一が、美梨に駆け寄り、両肩に掴みかかる。
「平気!?酷い事をされて、させられて、苦しくても、悲しくても?それを元に戻す!?」
間近にした静一に目を伏せた美梨は、一言一言を苦しそうに
「…はい。私は、いじめられていた彼と、同じ型の、狼のE兵器です。」
「…え?」
何故それがここで話に含まれるのか、分からなかった。
「静一さん、あの後、彼を見ましたか…?」

29 :
「茫然として、酷く後悔した顔をしてました…、今すぐにでも消えてしまいたいような、そんな事を思っていたんだと思います。」
静一に理解は、出来ない。
一方で、美梨は、何かを心に決めたようだった。
「私たちは、狼、いえ、“犬”です。犬は、どのような飼い主でも、離されるのは最も辛いことです。」
嫌な響きに、少年は息を呑む。
「さっき、静一さんも彼を犬と呼んでいました。それが本来あるべき姿なんです。」
少女は強く言い切った。そして更に続ける。
「私はE兵器。あなたたちの道具で…。」
「やめろ!」
考えたくもなかった、親しい少女の直視できない一面を自身に語られることが許せず、
静一は遮るための叫びをあげた。
「美梨は…、そんな、悲しい事を言うなよ!ずっと、ずっと家族なのに!」
答える、兵器の娘。
「家族、ですよ。…でも、私は“人”では、ありません。首輪の中で命令どおりに生きるE兵器です。」
2人の距離は1メートルも離れていなかった、少女は思惑あってそこに壁を作ろうとした。
少年は、そこに壁などあって欲しくなかった。
首輪に囚われた大切な“人”を、取り戻さなくてはいけなかった静一は、無理に2人の間の歯車を回す。
「関係ないよ!大切な家族で、そばに居て欲しいんだ。」
まっすぐな気持ちをぶつければ、という思いは浅はか。
少女の悲しそうな顔は、より一層深くなった。
「一生、静一さんのそばに居させて頂きます。ですが、大切な人には、なれません。」
ずいぶん前から激しく打っていた心臓の音が、ひときわ重く、静一に響く。
彼女は自分の物になるということなのに、とても大切な何かが手に入らない。
自分の物にしたいのではない。彼女が、道具ではなく人間でいてくれれば。
他は何もかも否定されてもよかった。自暴自棄も手伝って、歯車を逆に回す。
「…美梨、おまえのエビルの、姿を見せてくれ。…バ、バケモノ、なんだろ?林の中でいいから!」
美梨は体を震わせる、予想外だったのだ。
「それは…、あの…、今は。」
そうだ、抵抗してくれ、聞けない命令もあると。
「できないだろ!?」
やった!これで…
「…すみません、服や靴が破れてしまいます。これは、おじさまから頂いた物です。」
…止まって、たまるか。次は、ええと。
「…ふ、服を脱げばいいだろう!」
後悔が強い鼓動を引き起こす。
少女が、この命令を聞いてしまうのは駄目だ。しかし。
「わかり…、ました。」
止めてくれ!と言いたかった。すぐにでも。
だが、命令を跳ね除けさせるのが今の目的なのに、覆す命令をしたら意味がないのじゃないか?
思考が酷く絡まって声も出せなくなった少年から少し離れ、
木陰に入った所で、少女は着衣を一つ一つ身から外して、丁寧に折りたたんでゆく。
すぐに、素肌の肩が晒される。昨晩見た、右の肩。その下の…乳房。

30 :
裸の少女が、林の中に立っていた。
いくらかの場所だけを腕で隠しただけの姿で、いかなる思いかも読み取れない面持ちで少年の方を見やる。
「あ、あう…あ、は、早く、エビルの姿!」
獣毛に覆われた獣の姿になれば、人の姿としての破廉恥さは薄れるはずだと思い、嫌な命令を重ねてしまう。
そこで少しの恥じらいの欠片を見せた少女の姿が、歪む。
両手、両足、両腕、両脚、先から毛が覆ってゆく。骨格も人と獣の間の形に捩れてゆく。
鋭い爪、長く尾が伸び、腹までを毛が包んだ所で、恥部は隠れ人目につかなくなる。少年は息を付く。
苦しくは無いのだろうかと気に出来る余裕も。
しかし首元は温かく飾った狼の毛は、少女の乳房の形や先端は隠さなかった。
頭髪は狼の銀、耳も獣のそれに置き換わり、獣毛が輪郭や頬を飾ってはいるものの、
顔自体は人のそれのままだった。静一の心臓は穏やかにならない。
「これで…、いいですか。」
姿を変えた美梨は、いつもどおりの声で、問いかける。
ああ、どうすればいい、これ以上の、絶対に抵抗してくることなど…。
理屈は、だんだんと崩れていた。静一はふらふらと獣の美梨に近づく。
欲情していたのかもしれない。彼女の裸に。
手に入れたかったのだろう。彼女の体だけでも。
何も言い訳できない。
裸に触られるのは、耐えたのだろうか、伸ばされた手を受け入れ、先ほどのように両肩を掴まれる。
「…こ、このまま、抱かせろ。」
吐き捨てるように、言う。もう、どうすれば。
「…かまいません…。」
逃げてほしい、嫌がってくれ。
木に押し付け、獣の娘を屈ませる。ベルトに手をかけて、いくらか手間取った後、
下半身につけた衣類を纏めて脱ぎ落とす。雄は既に機能していて、人の少年は恥と悔いを増す。
どうすればいい。
獣毛の足を押し広げる。持つ力なら人の力などではびくともしないはずなのに。
多くの場所は毛に覆われていても、生殖器と排泄器の部分は粘膜が覗いていた。
体を進め、広げた足の間に割ってはいる。体だけ見て、彼女の顔を見ないように。
何も抵抗されない。
体を固定するために、相手の腰に置いた右手を滑らせ、足の外側から手探りで内側に差し替える、
手が内腿に触れると毛の質が違う、柔らかく温かい。
止まれない。

31 :
腕に自分自身が当たり、次いで、手が少女の奥に届き、指で、探る。
そこは毛や肌とは違う、粘りついた。びくりと震えたのは、間もなく失う乙女ではなく、雄の方だった。
10と少しの年齢で得た、偏った知識しかなくとも、雄が後押しする。
穴が、ある、はず。
「…け、汚してやるからな。」
まるで欲を受け止めるだけの人形のように、美梨は体を開き続ける。
柔らかな毛に包まれたスリットの中、絡みつく粘膜の間を二本の指で探る、
人差し指は押し出されたが、延ばした中指の先が、ぬるりと滑る。
指に力を籠め、乱暴にもぐりこませる。胎内は、熱い。
痛くなるように、乱暴に、乱暴に掻く。美梨の体が撥ねた。
だが、そこまでだ。制止もされない。後はもう、残っていない。
美梨の膣内から指を引き抜いて、自由になった右手で雄を握り締める。
圧し掛かった。顔は肩のほうに食いつかせ、美梨の顔を見ずに済むように。
獣根を、美梨の体に押し付ける。先端の粘膜に彼女の腹の毛が絡み、少し痛い目を見た。
見えないので、少し苦労して、やっと探り当てる。美梨の粘膜。
突き込もうとした。だが、美梨の秘肉は受け入れず、押し返され、逸れる。
摩擦で、より雄の獣性が猛る。
もう一度、やはり駄目だ。押し当てるまではいっても跳ねる様にはぐれてしまった
次のは尻の排泄器の方へ、次のは粘液にはぐらかされてスリットをなぞる。
次も、その次も同じ、美梨のクレバスに従って押し出される。呼吸ばかり激しくなって、上手くいかない。
ただ、押し出された獣根が何がしかに触れるようで、美梨の体が震えるのは分かる。
美梨の入り口を指で検める、と、そもそも受け入れる角度が違う事にやっと気付いた。
自身は体を起こして、両脚を抱えるようにして美梨の体をを引きずり寄せ、
腐葉土の地面に完全に寝かせ、もう一度圧し掛かる。
もう、目的など忘れ、獣性に支配されていた。
押し当て、押し付ける、少し違うのがわかる。窪みに食い込んだ感覚がある。
粘膜と粘膜、潤滑する粘液が足りず、酷い痛みが走る。
と、恐ろしい、というような感覚が走った。
支えが無くなって、食い込む。先ほどの痛みのまま、男性器の粘膜が全て引き剥がれたのかと思った。
熱い。美梨の胎内に居た。
「は。ははっ。」
静一の頭の中に、自分の方がよっぽど獣だという感覚が湧き、
そして次の瞬間、本能にかき消される。

32 :
押し込んだ。美梨の股の、奥の奥まで。
獣根の鰓には、上方から少し固めの内組織が重量をもって圧し掛かり、粘つく誘惑と摩擦を与える。
それが彼女の子宮口だとは、知るはずもない。ただ快楽を求めて擦り付ける。
奥の奥、熱い粘膜の中に頭を埋めきり、そこから引き、鰓を粘膜に滑る子宮口と絡み付き誘う襞に吸い付かせる。
幾度かは、引いた勢いのまま膣口からはぐれ出た、淫猥に湿った音を立てて。
掻き出された粘液が、内股の柔毛を汚すが、気にも留めずに、また、肉襞を貫きに戻る。
静一は上半身の服も強引に脱ぎ捨てていた。肌が、彼女の毛皮と擦れる。
肌から滲み出た汗が、艶のある毛皮に染み込み、毛玉になるように絡ませ、べた付かせる。
逃げもしない、温かい体。
手のひらはいつの間にか、乳房をとらえていた。毛で手触りこそ違う。
とてもあつい。しかし同じものだと分かる。逃がすまいと乱暴に握り締める。
獣の少女はただ受け入れるまま、人の少年は強引にそれを貪る。
少年は欲楽に導かれて、それを味わうだけの単調な動きに囚われていった。
強い刺激のため、少女の体にぶつけ当て、擦りつけ、彼女に沈め込む。
男になったばかりとしてはよく堪えたほうだった。
その時には、完全に雄が体を動かした。腰は雌を捉えて深く食いついた。身動きはとれなくなる。
どこか管が弾けるのではないかと思うほどの量の半液体が、獣根を湿していた粘液を押し抜け、
それを受け取る外の器へと注がれる。幾度か脈動が続き、捻り出す。
だが、あともう一滴、出せずに留まってしまったような。
しかし、十分。いや、やり過ぎた。汚しきってしまった。
全身の筋肉が無理な動きをしたと悲鳴を上げ、思わず、呻き声を漏らした。
悔やむ気持ちが覆い始めた体を、ゆっくり離そうとした、その時
それまでは獣根を優しく包んでいた粘つく肉襞が激しく絡み付き、管の中に残った精液を搾り取った。
あわてて身を離すと、急激な抜き取りのためか、美梨の秘所からは多くの粘液も共に引きずり出され、
彼女の、白めの毛に覆われた尻と、その下にあった尾を、酷く汚した。
露になった白くべた付くその液体は、静一に、罪を告げていた。
美梨は静かに涙を流していた。
その涙に、どのような心が混じっているか、静一は気付けなかった。

33 :
というわけで、「静一くんの視点」編完了です。
調子が良けりゃ、「美梨ちゃんの視点と内心」編も上げられるんだけど、
今日明日に出来上がらなかった場合、ちょっと忙しくなるんで来月頭まで無理かもです。

34 :
>>33 GJ!
美梨タソかわいいけど、切ないな。このままずっと主従関係になってしまうのか

35 :
蝗と蜘蛛と蝙蝠は仮面ライダーのパロディ?
蜘蛛もスパイダーマンっぽいけど

36 :
パロディというか、オマージュなのか。ごめん、元ネタあんまりわからない
獣化→えっちの流れはよかったよ

37 :
前スレ落としてしまいました。
前スレの658さん、忠告読み飛ばしてしまいすみません。
完全にこちらの確認不足でした。

38 :
>>37
埋め乙です
保管庫はどこかにDAT上げて管理人さんに依頼すればいいのかな
やったことないのでわからないけど

39 :
新スレ移行しましたので、改めて注意書きなどを。
カワウソ族の女の子と、オオカミ族の青年の絡み。
性奴隷モノです。ジャンルに付き物の描写は一通りあると思うので、
苦手な人はトリップまたは「かわうそ」でNGを。
自然災害ネタがありますので震災などで強いトラウマのある方もご注意下さい。
プロローグ+第1話〜第6話は前スレに投下。>>1の保管庫に収録していただいてます。
(現在、4話までしか収録していただけてないようです。
 渋に改修版が全話ありますので、アカウントお持ちの方はどうぞ)
残り3話+エピローグですが、どこかにかなり過激?な描写が入る予定です。
投下開始時に想定していたより時間が取れなくなってしまったので、
間が開きながらの投下になりますが、お付き合いください。

ということで、かわうそルルカの生活 第七話です。
前回が一番・・・と言いつつ、今回も前半はキツい話になってしまったような気がします。
でも、きっと辛いことばかりじゃないよ!


40 :
     【7】 −水掻きのついた手−
 広場に射す陽の傾きが、一夜明けたことを物語っていた。
 随分と長い時間、気を失っていたようだ。
 ルルカを現実に引き戻したのは、お腹の中に感じるちくちくする感覚──、表面に小さなトゲが並
んだ猫科のペニスだった。三人組の黒豹の男たちがルルカを使用していた。
 ルルカを後ろから犯していた男は、意識の無いルルカをペニスで貫いたまま、体を洗うプールに浸
けようとしていた。目の前に、水面に映った牝獺の姿があった。きれいな乳房から上の鏡像は、あの
自分にそっくりな牝獺に見えた。驚いて水面を叩いたルルカの手の先で、像はめちゃくちゃに崩れて、
消えた。
「やっと目が覚めたか」
「鳴き声を聞かないとそそらないからな」
 ルルカは頭を水に突っ込まれるのをすんでのところで免れた。過去にも何度か同じようにされたこ
とがある。息が長く続く獺族とはいえ、意識を失った状態で水に浸けられては堪らない。
 またいつもの日常に帰ってきたんだ──。
 毒の副作用か、ぼんやりとした頭でルルカは記憶を辿った。毒針を打たれ、ジエルとウォレンに続
けて犯されたことは覚えている。ウォレンに口を塞がれ、苦しくなって……。その後、何があったの
だろう。ウォレンと何か言葉を交わしたような気がする。
(そうだ、おさかな……。あれ……?)
 ルルカは口元に手を当てた。あのとき感じたはずの不思議な味の食べ物──。口の中には、一切の
痕跡が無かった。
(思い出せない……、何も……)
 しっとりと甘い魚の味も、匂いも、ルルカの記憶には残っていなかった。舌先に感じたと思った噛
み砕かれたその食べ物の形も──。あれは夢か幻だったのだろうか。きっとそうに違いない。そもそ
も、ウォレンがルルカに魚を食べさせる理由が無いのだから。事実が無ければ、思い出せるはずもな
い。
 ウォレンは反抗した牝獺に制裁を加えると言った。ルルカは犯されながら何度も呼吸を止められ、
そのまま気を失ったのだろう。
(あれは……、私の願望が見せた、ただの夢──)
 薄っすらと血の匂いがした。意識の無い間に、殴られたのかもしれない。
(そうだね。私にはこんな匂いがお似合いなんだ──)


41 :
 ルルカを犯していた黒豹族の男は、一旦ルルカの中からペニスを引き抜き、その逆立ったトゲで膣
の粘膜を引っ掻き、ルルカに悲鳴を上げさせた。
「一回の使用で射精一回って決まりだよな。まだ出してないぞ」
 射精の時間が短く、精液の量も少ないことをコンプレックスにしているせいか、猫科の獣を祖先に
持つ一族は、時間をかけ、たっぷりと牝獣の体を弄んで楽しむことを好んだ。ざらざらした舌で牝獺
の性器や乳房を舐め回し、出し入れが出来る特殊な爪を持った手で体のあちこちを撫で回しつつ、と
きおり爪を食い込ませる。
 今ルルカを犯している男は、後ろから牝獺の小さな体をしっかりと抱き直してペニスを再び挿入す
ると、乳房を強く押し潰すようにして揉んだ。そして、乳首を指先で摘まみ上げると、意地悪にも、
そこにゆっくりと爪を立てる。
 ルルカは、あの牝獺の乳首を貫通していたリングのことを思い出し、ぞっとした。あれは夢ではな
い。毒針を打たれる前にルルカが見たこと、聞いたことは疑いようのない現実──。
 心臓がドクッと脈打ち、体を巡った血が、ぼんやりしていた頭を覚醒させる。ルルカははっきりと
見た。もう一頭の牝獺、ミルカの体に施された加工の痕。聞かされた、獺族の最期。自分があと八か
月ほどしか生きられないこと。ルルカはこれまで、人のを意識することはあっても、自分がこの世
から消えて無くなることについて、考えたこともなかった。それだけに、あの狼族の言葉は重く圧し
掛かる。
 ルルカは頭をぶるぶると振って、嫌なことを忘れようとした。昨日のあれは、これまでで最悪の"お
つとめ"になった。今、黒豹の男にペニスを挿入され、体のあちこちを弄ばれていると、馴鹿族に犯さ
れた恐怖が甦ってくる。自分と同じように彼らに凌辱されたミルカのことも、どうしても頭から振り
払えない。
 彼女を連れてきた狼が、馴鹿たちに語っていた。ルルカにそっくりなあの娘は、肉の市場に近い大
通りの端に繋がれているらしい。彼女がシエドラに捕らわれたとき、牝獺を補充する先がそこしか空
いていなかったからで、この器量なら広場に繋がれていてもおかしくない、と狼は自慢げに言った。
 広場ほどでないとはいえ、人通りの多い市場の近くでは、彼女の体が蝕まれるのにそう時間はかか
らなかっただろう。使い込まれて緩んだ体に活を入れるために加工が施されたとき、彼女を襲った恐
怖は想像を絶するものだったに違いない。
 ミルカを意識すればするほど、ルルカの体は敏感になっていくような気がした。乳首が固くなり、
猫科の爪が食い込む痛みがズキズキと響いた。痛みの中に、ルルカを興奮させる妖しい刺激があった。
この感覚を、あの娘はずっと感じ続けなければならないんだ──。
 ルルカは小さな手で顔を覆った。ミルカのことを思うと胸が苦しくなった。獺の手では決して外せ
ない金属のリング。あんなものを体にぶら下げて生きていくなんて。体の敏感な部分にかかる不気味
な重さを、ルルカは想像せずには居られない。特に股間に着けられたリングは──、直前にウォレン
の手で体を突き抜けるような快感を味わわされていただけに、永久に体に刺激を与え続けるリングの
存在は恐怖だ。
 ルルカは自分の空想に耐えられず、身を捩った。それは勢い、男のペニスを締め付ける動きになっ
てしまった。
「何だ? 反応が良くなったぞ……?」
 黒豹の男はそう言って、あろうことか、ルルカの陰核に爪を突き立てた。
 ルルカは悲鳴を上げ、再び気を失った。


42 :
 太いペニスが、お腹の中を擦り上げている。いつの間に別の男に変わっていたのだろう。それは草
食獣の逸物の感触だ。四つん這いの姿勢で犯されている。胸環の鎖を引き上げられ、起こされた顔を
周囲の景色に向けた。見慣れないテントと食べ物が積まれた陳列台が視界の片隅に映る。ここは、肉
の市場、ラムザ? だとすると、自分はルルカではない──。
 射精を終えた男が、離れていく。次に待っている者は誰も居なかった。
 首を曲げ、きれいな形の乳房を見る。お尻をついて股間を覗き込んだ。体のどこにも小さな金属の
環は嵌められていない。ルルカにそっくりの美しい牝獺の姿。ルルカの体と違うのは、陰核がはっき
りと分かるくらいに赤い肉の襞から飛び出しているところだけだ。自分は、"加工"される前のミルカ
なんだ、と思った。
 いつも行列を作っているはずの人たちが、遠巻きにして自分を見ているのは何故だろう?
 ミルカを指差し、ニヤニヤと笑っている者も居る。男たちの口は動いても、声は聞こえなかった。
音の無い世界にミルカは居た。獺槍を構えた豹頭の男が二人、灰色の衣装を着た狼が一人、ミルカに
近付いてくる。通訳のクズリは居ない。不安に包まれるミルカの前で、突然、何かの準備が始められ
た。
 石畳に開けられた穴に、木の柱が立てられた。横木が括り付けられ、十字の形になる。忌まわしい
記憶の中に同じものがあった。それは、儀式で子宮に狼の精液を流し込まれた牝獺を磔にした十字架
だ。永久に発情し続ける体に変化していく恐怖におののいたあの夜の──。
 股間の位置にあった正面に突き出した棒は用意されなかった。代わりに足を大きく開いて固定する
ための横木がもう一本、十字架の根本に据えられた。
 ミルカはあのときと同じように、十字架に磔にされた。ミルカがわずかに暴れることも許さないと
いったように、腕や足首だけでなく、両肩と太ももの付け根にも縄がかけられ、入念に縛り付けられ
る。
 濡れた布で乳房が丁寧に拭かれた。
 何故──?
 布で擦られた刺激に固くなった右の乳首を、豹頭の男が摘み上げた。男のもう一方の手には、鋭く
光る長い針が握られていた。ミルカがそれに気付いて驚く間もなく、その針の先は彼女の乳輪と毛皮
の境目を真横に貫いていた。
 音の無い世界では、彼女自身の悲鳴も聞こえなかった。ただ、叫んだ喉が張り裂けるように痛い。
 ミルカは自分が何をされているのか、理解できなかった。シエドラの住人は何のためにこのような
酷いことをするのか──。以前と比べて膣の締りが悪くなったと男たちが噂していたことなど、ミル
カは知らなかった。儀式が終わって以来、誰とも言葉を交わしたことが無いのだ。公用語を話せない
種族は憐れだ。何も知らされぬまま、ただ不安に怯えるしかない。
 針が引き抜かれるのと同時に、乳輪を突き抜けた穴に金属の棒が通される。乳輪の広がりよりも少
し短いくらいのその棒の両端に小さな金属の球が嵌められた。胸環を嵌められたときにも感じた、金
属が噛み合う不気味な衝撃。ミルカは、その装身具は二度と外せないのだろうと直観した。ちょうど
乳輪を指で摘み上げたような形に変形させるその道具は、男の手が触れなくても牝獺の乳首を常に刺
激する効果を持つ。
 痛みが和らぐと、すぐに乳首が固く勃ってくる。その乳首の根本に新たな針が近付けられるのを見
て、ミルカは絶望の呻きを上げた。抵抗を奪われた牝獺の乳首を、針は易々と貫通する。その穴に今
度はリング状の金属が嵌められる。右の乳房が惨めに飾られ、ミルカは神経を常に刺激し続けるその
装身具の不気味な重さに震える。右の乳房が飾られたなら、当然、左も──。ミルカは覚悟したが、
だからといって全身を引き裂くような痛みがさらに二度、身を襲うのを我慢できるものではなかった。
 股間が布で拭かれ、ミルカは『うそ、やめて』と口に出して叫んだ。自分でも分かっている。最近、
特にそこが大きく肥大して飛び出してきていたこと。
 男がニヤニヤしながら、指の先で光る小さな金属片を見せ付けた。それは円いプレートのようで、
中央に穴が開いている。その穴は、ミルカの陰核をほんのわずか締め付ける程度の大きさのものが選
ばれていた。プレートがミルカの飛び出した陰核に嵌められた。それはリングを通した陰核を常時刺
激するための仕掛けだった。
 絞り出された陰核はもう一つの心臓のようにずくずくと脈打った。悪趣味な男の一人が、ミルカの
頭を押し下げ、股間を覗き込ませる。陰核の根本、プレートすれすれの位置に、針の先がゆっくりと
近付けられるのが見えた──。


43 :
 『やめて!』と叫んだルルカは、自分がいつもの広場に居ることに気付いた。後ろから男がルルカ
を抱きかかえ、宙に体を浮かせている。腹に回された手と膣に押し込められたペニスで体が支えられ
ている。ルルカは気を失ったときと同じ恰好で犯されていた。囲んでいる男たちの毛皮が黒一色から
鮮やかな黄色と黒の斑点模様に変わっていることで、ルルカは自分を使っているグループが入れ替わ
っているのを知った。
(夢……だったの?)
 あの宿の広間で、ルルカははっきりと見た。狼に鎖を引かれたとき、目の前にあったミルカの無惨
な股間の様子──。金属のリングが突き通った陰核の根本に、確かに同じ銀色に光る小さなプレート
があった。ルルカは無意識にそれを見なかったことにしていたが、今見た夢がその存在を思い起こさ
せてしまった。シエドラの牝獺にとって、最も効果的な、そしてあまりにも恐ろしい"加工"の傷跡。
 プレートに絞り出された牝獺の陰核は、リングの重さで常に刺激され続けることになる。リングの
刺激ばかりではない、剥き出しにされた陰核は男たちの毛一本擦れるだけで敏感に反応してしまうだ
ろう。
 十字架から降ろされたミルカは足を閉じ合わせることができなくなっていたに違いない。足を閉じ
ようとすればあのプレートが陰核をさらに絞り出すことになる。恐ろしい仕掛けだ。彼女が常に足を
突っ張ったように開いていた訳が分かる。
 それにしても、ミルカの興奮の度合いは尋常ではなかった。体に嵌められたリングの効果か。ウォ
レンに股間の突起を触られたときに感じた息苦しいほどの強い快感。あれを常に感じさせられている
としたら、加工された牝獺がほとんど動けなくなるというあの狼の言葉は大袈裟ではない。
 ルルカの見た夢は、自分が目にしたことを基に記憶が勝手に創り上げた幻想に過ぎない。ただ、あ
まりにも真実味があった。ミルカの記憶がそのままルルカの中に流れ込んできたのではないかと思う
ほどだ。彼女とそっくりの姿であるルルカには、他人事ではない。想像の中と同じことが、いずれ
ルルカの身にも降りかかる。早くて半年後には……。
「こいつがこんな声で鳴くのは珍しいな」
「ああ、でもなかなかいい声だ」
 嘆くルルカをよそに、ルルカを犯す豹頭の男たちは世間話を始めた。猫科の男はよくこうして数人
でつるんで牝獺を使う。犯しつつも、牝獺の膣の感触から意識を逸らすように会話をして、なるべく
交尾を長引かせようとした。一人で来ないのは、行列の後ろから上がる「早く終わらせろ」という苦
情を人数頼みでかわすためだ。
「で、何の話をしてたっけ──?」
 男たちは、目の前の牝獺が自分たちの会話に耳を傾けているとは夢にも思わない。広場はいつも通
り行き交う人々で埋め尽くされている。群衆の中で、ルルカは孤独だった。
(そうだ、私はウォレンを怒らせて……。ウォレンは制裁だと言って──)
 ルルカは、毒針を打たれた後のことを思い出した。
(本当に独りになってしまった──)
 ルルカを犯している男は、背中からルルカの胸環を掴み、もう一方の手でルルカの腹部を支えてい
る。俯くと、呼吸に合わせて揺れる牝獺の可愛らしい乳房が目に入る。馴鹿族の男たちに殴り付けら
れた乳房は、前と変わらない形をしていた。よかった、とルルカは思った。でも、何かよかったとい
うのだろうか。
 ウォレンは、自分のこれをきれいな乳房と言ってくれた。見た目も、触り心地も、最高だと。ルルカ
は嬉しかった。ずっと胸環で押え付けられないように努力していた。
 何のためにそうしていたんだろう。母に大事にしなさいと言われたから?
 自分でもその形が好きだったから?
 母は言っていた。女の子の乳房は、大事な人にだけそっと見せるものなのだと。
 私は誰に見せたかったのだろう。見てもらいたかったのだろう。褒めてもらいたかったのだろう。
 それは、ウォレンにだったのかもしれない。彼はシエドラでただ一人、自分の言葉を聞いてくれる
人だったのだから。
 でも、もういい。私は独りでんでいくのだから──。


44 :
「──で、その"獺槍"なんだけど」
 男の口から出た、その恐ろしい言葉にルルカは飛び上がりそうになった。
「面白い話があるんだ。
 あれを誰が作ったのか、いつ作られたのか、分からないそうだ」
「へえ〜」
「世界中で数に限りがあるらしい。シエドラにあるのも三本だけだ。
 折れてしまったら、もう二度と同じものは作れない。
 ただの尖った金属に見えても、とても精巧にできている。
 特殊な研磨が施されていて、血を通す細かい溝もある。
 だから、ほとんど内臓を傷付けずに獺どもをひと突きにできるんだ」
「どうせすんだから、別にあの槍じゃなくてもいいってことにならないか」
「さあな……」
 彼らにとってはたわいもない話かもしれないが、ルルカにはそうではない。男の指が股間の突起に
触れて、ルルカは『ひっ』と小さく叫んだ。
「こいつ、前よりお豆がでっかくなってないか?」
「使っているうちにどの獺も飛び出てくるんだよ、そこは」
 豹族の男たちは、ルルカの陰核が大きくなったという話題を受けて、街の牝獺の性器の具合につい
て、品評を始めた。誰もが口を揃えて、ラムザの市場に居る牝獺が最高だと言う。
(ミルカのことだ……)
 ルルカは嫉妬を感じた。そんな評価をもらったところで、牝獺にとっていいことなど無いのに。
「この牝獺、前よりちょっと締まりが悪くなってないか?」
 ルルカは驚いて、男のペニスを強く締め付けた。
 性器が緩んでいるなんて評判が広まれば、ルルカにもあの恐ろしい加工が施される。
 そうなれば、二か月もしないうちに自分はぬ──。
 股間に力を込めた後、すぐにルルカは、しまったと思う。今ので言葉を理解できることがばれたの
ではないかと不安になった。気付かれていませんように──。緊張で息がどんどん荒くなった。
「いや、そんなことはないぜ」
 ルルカに挿入している男はそう言うと、しばらく絡みつくようなルルカの膣の感触を楽しんでから、
射精せずに引き抜いた。
「ほら、もう一分過ぎてるだろう。次はお前だ」
 豹族の男たちは、順番にルルカに挿入し、誰が最後まで射精を我慢できるか競っているようだ。手
の空いた男が、新たにルルカを抱いた男に話しかける。
「そういやお前さ、別の街に居たんだろ」
「それがどうしたのさ?」
「いやさ、他所での獺の扱いって見たことがなくてさ」
 獺槍に突かれて晒し者にされるに決まっているだろう、と問われた男は答えた。特殊な槍の先端は、
内臓をほとんど傷付けない。そのまま数日間生き長らえる獺の因は、衰弱か餓。失血は稀だ。
垂直に立てられた槍の上で、成す術の無い獺は、見世物にされる。
「そういや、こんなのがあったな。
 牡と牝の獺が捕えられたんだが、並べた槍が近過ぎたのか、
 二頭が手を繋いでしまってさ、離さないんだ。
 きっと夫婦だったんだろうな」


45 :
(それはいつの話なの?)
 夫婦、と聞いてルルカは思わず尋ねたくなった。この一年以内の話なら、自分の両親かもしれない
のだ。
「住人は大激怒さ。
 槍を離して、その後、二頭の性器を激しく責めた。
 ああ、獺は槍で突かれる前に丸裸にされるんだ。知ってるだろ?
 まず、刷毛のようなものを棒の先に付けて性器を刺激したんだ。
 牝獺ってのはすごいもんだな。そんな状況でも感じるのか、
 最後には淫水を撒き散らして喘いでた。
 獺って生来、交尾が好きなんだ」
 男は、ルルカの聞きたいことは全く語ってはくれなかった。
「牡の方は最初勃たなかったが、射精できたら精液を牝獺の膣に入れてやるって、
 通訳が言ったらさ、必になって射精したよ。
 空中で腰を激しく振ってな、刷毛にあそこを擦り付けてた。
 ちんちんだけじゃない、普段は見えない睾丸も飛び出てくるんだ」
「どうせぬのに、精液を牝獺に入れても仕方ないだろう」
「精液はそのまま地面に垂れ流しだったけどな」
(酷い……)
 獺槍に突かれた獺の運命は、ルルカがかつて聞かされていたものより、ずっと悲惨だった。父獺が
ルルカに語らなかった生命を繋ぐ神聖な部分への嗜虐的行為は、そのまま精神への冒涜となる。
「いい思いをした後は、思いつく限りの先の尖った物で体を突き刺されてさ、
 おっぱいも性器も……、狙い澄ましたように小さな陰核にもさ。
 血が穴という穴から噴き出して、それでもすぐにはねないんだ、獺は。
 牡の方は睾丸を叩き潰されていたな。
 そのうち飛び出たアレの先端から血の混じったドロッとしたものが垂れてきてさ、
 いやあ、残酷、残酷」
「そんなの見たのに、お前、よく勃つな」
「いや本当、シエドラに来てよかった。獺がこんな風に使えるなんて。
 槍で突いた牝も、みんな一発ずつヤればいいんだ」
(もうやめて……)
 ルルカにとって、その話は他人事ではなかった。言葉が通じることが知られたら、ルルカも獺槍に
刺されるのだとウォレンは言った。それ以上のことを彼は語らなかったが、すぐにはねない体を晒
し者にされることは間違いない。この男が語った獺に対する私刑は、どこでも普通に行われているこ
とかもしれない。
「ちょっと、不思議なんだ」
 男が最後に一言付け加えた。
「牝獺の方は、言葉が分かっているみたいだった」
「まさかぁ」
 ルルカは愕然とする。
(お母さん……? うそ、うそよ……)
 話の中に出てきた牝獺は、自分の母かもしれない。そして、もう一頭の牡は、父かもしれない。あ
の優しくて、誇り高い両親がそんな惨めな最期を迎えていたかもしれないなんて。
 二人は、自分を囮にして逃げた報いで、そんな目に遭ったのか──、ふとそう思って、ルルカは頭
を振った。
(お父さんとお母さんは、そんなことしないよ……)
 また両親を信じられなくなっている自分が悲しかった。


46 :
 母が公用語を話せたということは、母と自分以外にも公用語を習得した獺がどこかに居るというこ
とだ。ルルカはそう思うことにした。両親のことを心配してばかりも居られない。ルルカ自身にも重
い現実が圧し掛かっている。
 豹族の男たちが、全員、ルルカの中に射精を終えて離れていく。ルルカは地面にお尻をぺたりとつ
け、体を洗うのも忘れて俯いていた。しばらく誰も近寄ってこないことに気付き、周囲を見渡す。人
々が遠巻きにしている様子に、ルルカは驚いて身を起こした。まるで夢の中で見た、ミルカが"加工"
される直前の光景だった。しかし、怯えるルルカの前に現れたのは獺槍を携えた豹頭の執行人ではな
かった。
『ジエル……?』
 昨日の今日でまた彼に会うことになるとは思わなかった。
 ルルカは股間から豹たちの精液を垂らしたまま、恥部を晒す獺のポーズを取る。恥ずかしいが、体
を加工されるよりはずっとましである。
『何をされるの……? 私……』
 ジエルは、それには答えず、やれやれといった風に手のひらを返してみせる。
『お前は本当、分かんないやつだな。
 会話をしちゃだめだって言ってあるだろう。
 他の牝獺は俺たちに話しかけてきたりしないぞ』
『あ……、はい……』
 まあ、いいか、と彼は言った。
『どうせそこらに居る連中に獺語は聞き取れないんだ』
 牢に居たときによく会話をしていたからか、儀式のときの反抗的な態度からか、ジエルはルルカを
特別に思っているところがあるようだ。あるいは、広場の牝獺が長く生きられないことを知っている
からか。
『あの、ウォ……』
『なんだ?』
 ウォレンの名前を言いそうになって、思い止まる。さすがにルルカも、これまで以上に慎重になっ
ていた。
(私がウォレンの名前を知ってたらおかしくないかな。
 えっと、確かジエルが獺語の発音で「ウォレンの旦那」って言ってたよね)
『……あなたがウォレンって呼んでた人は来てないの?』
『今日は見かけないな』
『そう……』
『獺語で狼族の名前なんて覚えたって、何の意味もないぞ?』
 ルルカは落胆しつつも、心のどこかでほっとしていた。ウォレンに謝りたかった。ただ、その後の
彼との関係がどうなるか、確かめるのが怖かった。


47 :
 ジエルは抱えてきた荷物の包みを解き、何かの準備を始める。ルルカには『後で説明する』とだけ
言い、作業を続けた。
 石畳に柱が立てられるのを見て、ルルカの背筋が凍った。しかし、それは、牝獺を括り付ける十字
架にしてはあまりにも低い。短い獺族の股下よりも少し低いのだ。地面すれすれに括られる横木の方
がまだずっと長い。柱の頂点に、ルルカのよく知っているものが据え付けられた。
(これは……)
 表面に無数の突起が付いた、樹脂の塊。ジルフに言われて膣に出し入れしていたあの道具。それは、
獺の窯牢で最後に使っていた一番サイズの大きなものだったが、ウォレンのペニスに慣らされた身に
は随分と小さく見えた。
『ほら、ちんちんの代わりだ。下の口で咥えるんだ』
『下の……?』
『お○○こに決まってるだろ、ほら』
 ジエルがそう言って、ルルカの胸環を引いた。柱の真上に股間が来るように立たせ、しゃがめと命
令する。膣口に樹脂の性具が触れるのを感じて、ルルカの心臓はどくんと脈打った。体の奥からじわ
りと愛液が滲み出るのが分かる。相変わらずだった。ルルカの発情した体は、男たちの凌辱の手から
離れたときほど強く疼いた。
 突起だらけの性具を求めるようにルルカはゆっくり腰を下ろして、それを飲み込んだ。『ああっ』
と声が漏れる。懐かしい感触だった。牢の中で自慰にふけったときのことを思い出してしまう。生身
のペニスよりもルルカは感じてしまうのだ。
 体を洗っておけばよかった──。量は少ないとはいえ、最低でも三人分の猫科の男たちの精液がお
腹に溜まったままである。グジュグジュと音を立てて、精液と愛液の混ざった液体が漏れ出した。
 ジエルは完全に道具を膣に咥え込んだルルカの両足を掴んで開き、膝を立てさせて足首を横木に縛
り付けた。ルルカは大きく足を開いて地面に固定されてしまった。柱の先端の道具はちょうど子宮の
入り口の高さにあり、楽な姿勢を取ろうとすると、ルルカはその部分に体重を預けるしかない。
『うう……』
 もう妊娠することはできないと言われた子宮を意識させられ、ルルカは呻いた。
 ルルカを拘束したジエルは、しばらくそのまま立っていた。牝獺の裸の体を視線が舐め回す。ルル
カは今更なのに、乳房や飛び出した陰核、粘液でべとべとになった太股を見詰められ、恥ずかしさに
消え入りそうになる。
『見ないで……』
『そうは言ってもな、止められるものじゃない』
『そんなに獺族が憎いの……?』
 ルルカの問いに、ジエルはしばしの沈黙を挟んで、意外なことを言った。


48 :
『そりゃあ、お前が可愛いからに決まってるだろう』
『えっ?』
『皆に聞いて回ったわけじゃないが、少なくとも俺はそう思ってる。
 誰だって可愛い牝とよろしくやりたいのさ。憎いわけじゃない』
 そんな風にちょっと涙を滲ませてるところなど、最高だな、とジエルは言った。男たちにとって、
獺族は小柄で従順な生き物だ。毛皮はとびきり美しく、可愛らしい小さな頭に、形のいい乳房。そん
な体に不釣り合いな熟した果実のような性器。そういう牝が、いつでも牡を受け入れるとなれば、使
いたくなるのが当然だ──。
 ルルカは戸惑った。ジエルの言葉は、獺族が恨まれているから、自分も迫害され続けているのだと
いうルルカの認識と大きく食い違っていた。
『だったらどうしてあんなに酷いことをするの?』
『あんなって?
 ああ、リングを着けられた獺を見たんだな。それで暴れたのか』
 皆、過去の怨念に囚われているんだ、とジエルは言う。確かに儀式のときは、シエドラの民すべて
が獺族に対して憎しみの言葉を投げ掛けた。しかし、家畜の証を獺の体に刻んで、動物と変わらぬ身
分に落とすことで彼らは満足するのだ。獺の方は、人としての資質を剥ぎ取られ、獣の身に堕ちたか
らこそ、こうして生きることが許される。シエドラは長い時間をかけて獺をさず利用する方法を編
み出してきた。どうしてそれが始まったのか、今はもう誰も知らない。シエドラ以外では獺族は見付
け次第すことになっている理由がはっきりとは分からないように。
『皆、生まれたときからこうやって牝獺が繋がれたシエドラに暮らしている。
 当たり前すぎて、大昔から続いてる仕組みに誰も疑問を持たないんだ。
 いや、おかしいとは思ってもただ惰性のまま習慣を続けてるのさ。
 放っておきゃあ、おいしい思いもできるんだからな。
 獺槍の話を知っているか? あれは数に限りがあるそうだな。
 この世の全ての獺槍が折れて無くなるまで、お前たちへの迫害は続くのかもしれん。
 いや、それより先に獺族が滅ぶか……。
 そのときには、クズリ族の嫌な役目も終わるのさ──』
 ジエルの言葉は、ルルカに向けられているというより、彼の呟きに近いように聞こえた。獺族との
通訳を続けてきたクズリ族の彼には思うところがあるのだろう。
 ルルカは彼の声を聞きながら、ふと思い出した。これまでの牝獺に対する彼の気遣いにお礼を言わ
なければ。
『ジエル……』
『そうだ、俺はこんなことを言いに来たんじゃない』
 ルルカは途中まで出かかった言葉を飲み込んだ。彼の後ろに狼族の姿が見えたからだ。本来なら
クズリ族は牝獺に近付くことを許されていない。こうしてジエルが来ているということは、当然、彼
に指示を出した者が居る。通訳を必要としている狼族が居るということだ。
 ルルカは自分が、膣を串刺しにされた恥ずかしい恰好で拘束されていることを思い出した。


49 :
『お前に、というかお前たち獺全員にだが、悪い報せがある』
 ジエルは屈んで、ルルカの胸環に大きな丸い札をぶら下げた。
『……何て書いてあるの?』
『懲罰中。口を使うこと、だ』
『!?』
 口を──って?
『相手のモノに、歯を立てるな。決して傷を付けるな。
 血でも出たら、お前の歯は全部抜かれることになる』
 どういうこと──?
『鼻でなんとか息はできるはずだが、どうしても呼吸が苦しくなったら、
 相手の腕をトントンと二回叩くんだ。
 この場合に限っては触れることが許されている。
 時限は丸一日、明日のこの時間までだ。
 かなり辛いぞ。覚悟を決めるんだな』
 ジエルの大きな爪の付いた指を口に突っ込まれ、ルルカはようやく、口を使う、ということの意味
を知った。
『でも……、私はすでにお仕置きを受けているのに──』
 ウォレンがそれを遂行したと証明するために、第三者としてジエルが呼ばれたのではなかったのか。
『昨日のあれは、個人に対する制裁。これは連帯責任だ。
 誰かが掟に逆らえば、街の全ての獺に今一度、立場を思い知らせてやることになっている』
 ルルカは愕然とする。
『それじゃあ、私のせいで……』
『そうだ』
『動けない子だっているのに……』
『みんな同じだ。
 お前を含めた若い三頭以外は皆、何度も経験している。
 恨まれたりはしねえよ』
 ジエルはそう言ってくれたが、自分のせいで、シエドラに居る全ての牝獺に迷惑をかけてしまった
という事実はルルカの胸を締め付けた。悔やんでも悔やみきれない。かといって、このことをルルカ
が知っていても、あの場面で耐えられたかどうかは分からない。
 苦情が出ないように、シエドラに居る二十七頭の牝獺は三つのグループに分けられ、時間差を付け
て制裁を受けるという。今、ルルカの他に同じように膣を貫かれて身動きのできない牝獺が八頭、街
のどこかに居る。自分がその分も責めを受けるから、彼女たちを解放して欲しいと訴えるルルカを、
ジエルは軽く撥ねつけた。
「説明は終わったか?
 歯を立てたらどうなるかもな」
「へい、よく言って聞かせました」
 ジエルと入れ替わりに、ルルカの前に立ちはだかったのは、馴鹿族への"おつとめ"の最中に入って
きた、あの青い衣装の狼だった。言葉が通じないことを充分承知しているのだろうが、狼はルルカに、
こう言った。
「若いお前は、口は初めてなんだろう?
 最初の相手が狼族でよかったな。せめてもの慈悲だ──」
 どういう意味だろう──?
 その狼の態度は、初めて会ったときのウォレンとどこか似ていた。ただ、ルルカがもううっかりと
返事をしてしまうことはない。
 狼は腰の紐を緩め、ペニスを露出させた。ルルカはウォレンのときのようにそれを舐めさせられる
のかと思ったが、彼自身の手で鞘から剥き出された本体は見る見るうちに大きくなった。
「お前はあいつとよく似て可愛いからな」
(あいつって、ミルカのこと? 可愛い……?)
 ルルカは、ジエルが言っていたことが当を得ているのではないかと思った。男たちは牝獺が憎くて
責めるのではない。ただ、受け身で可愛らしいから興奮するのだと。
 まだこの先に待ち受ける苦悩を知らないルルカは、目の前に突き付けられたペニスをぼうっと見て
いた。ルルカは、このペニスがウォレンのものだったら、と思った。
(ああ、どうしてウォレンが来なかったんだろう──)


50 :
 ルルカの頭が、強い力で引き寄せられる。
 獺の小さな丸い頭を鷲掴みにして、狼はいきなりペニスをルルカの口に押し込んだ。
『んふっ……』
 狼は膝を突き、ルルカの体を前のめりにさせると、喉が水平になるようにしながら、さらに奥へ突
き入れる。硬いものが喉を押し広げ、ルルカは悲鳴を上げようにも声すら出せなくなる。
 息は、鼻を通してかろうじてできていた。ペニスの根本の瘤が、ルルカの頬を大きく膨らませると、
頭を微塵も動かせなくなった。普段こんな大きさのものを下の穴で受け入れているなんて──。子供
を産めない体にされてしまうのも、当然といえば当然だ。性器の内側の感覚はかなり鈍い。それは牝
が牡の行為を恐れないようにするための自然の摂理だ。口は膣に比べると遥かに敏感で、押し込まれ
る凶器の大きさ、固さ、表面を走る血管の一つ一つを感じ取ってしまう。
(怖い──)
 ルルカは涙をぽろぽろとこぼした。
 狼は、ルルカの喉の奥に射精を始める。ペニスはびくびくと跳ねるように上下に動き、ルルカの呼
吸を妨げる。ルルカが慌てて狼の腕を二度叩くと、彼は胸環を掴んで持ち上げ、呼吸がしやすいよう
にしてくれた。
 約束が守られていることに、ルルカは安堵した。しかしほっとするのもつかの間だった。狼の射精
は三十分以上続く。ルルカは延々と流し込まれる精液の量に怯えた。同じものがいつもは子宮に注が
れているのだ。
 狼がルルカの口からペニスを引き抜く頃には、ルルカの前に長い行列が出来ていた。獺の口を犯す
ことができる機会は滅多にない。一度試してみようと大勢が集まる。
 狼と入れ替わりに新たな男のペニスが口中に捻じ込まれ、狼が最初であることがせめてもの慈悲だ
という言葉の意味を知った。
 匂いが、味が──、膣では感じることのない強く嫌悪感を催す感覚がルルカを襲った。狼による口
虐は、性器が極端に大きいだけで、精液はほとんど無味無臭だった。それに比べ、他の種族はそれぞ
れ強い特徴を持っている。精液自体に強い臭いや、舌がピリピリするような刺激や苦みを持つ種族も
いる。クズリ族ほどではないが、性器の周辺に臭腺を持つ者もいる。そして、射精が始まれば動かな
い狼族と違い、多くの種族は牝獺の喉を膣に見立て、腰を使って擦り上げるのだ。
(ごめんなさい、ごめんなさい……)
 ルルカが暴れたせいで、同じ目に遭っている他の牝獺に申し訳なかった。リングを着けられた牝獺
は、自由の利かない体で、息苦しさのサインを上手く相手に伝えられるのだろうか。
(本当に、ごめんなさい……)
 いつか誰かの粗相で自分が罰を受けることになっても、決して恨むまいとルルカは誓った。
 男たちの行為を早く終わらせるには、舌で刺激をすればいいとルルカは本能的に気付いた。しかし、
ルルカが上手く舌を使えるようになると、その分、男たちの入れ替わりが早くなるだけだ。行列に並
ぶ人が減らない以上、無駄な努力だった。
 ルルカは絶望の中、きっかり二十四時間、休みなく、ひたすら口で奉仕を続けるしかない。
 いつもと違い、行為の合間に体を洗わせてもらうことはできなかった。膣を使う場合と違って男の
方はルルカに舐めてきれいにしてもらえるから、牝獺がどんなに汚れようと構わないのだ。
『もうしません、もうしませんから……。
 お願い……、許して──』
 口がペニスから解放される度に、ルルカは獺語で叫んだ。


51 :
 広場を囲む建物の輪郭が光り出し、朝が来たことを告げる。あと少し我慢すれば、この地獄も終わ
る──。ルルカの拘束は何度か解かれた。小便をさせるためと、お腹をパンパンに膨らませた精液を
吐き出させるためだ。日に五度の食事は、この制裁の間は与えられなかった。恐ろしいことに、それ
でもお腹は空かなかった。喉も乾かなかった。精液の大半が消化され、ルルカの体に吸収された証拠
だ。
 最後の男がルルカの口の中に精液を吐き出した後も、ルルカは大きく口を開けて次のペニスが押し
込まれるのを待った。意識は朦朧として、拘束が解かれていくのも認識できなかった。脇の下から差
し込まれた手がルルカの体を柱から引き抜き、水路の近くへ運ぶ。口の中に指が突っ込まれ、流し込
まれた大量の精液を水路に吐かせた。
 水差しの口が口元に押し当てられ、ルルカは混濁した意識のまま、母親の乳房に吸い付くようにし
て水を飲んだ。仰向けに寝かされ、誰かがルルカの口に指をかけ、開こうとする。まだ凌辱が続くの
かと恐れたルルカは、頭を大きく振って拒んだ。
「参ったな、こりゃ。通訳を連れてくるべきだった。
 怖がらなくていい。喉を診るだけだ──」
 ルルカはようやく、自分を取り囲んでいる数人の男が、ルルカを犯そうとしているのではないこと
に気付いた。
(……お医者さん?)
 丈夫な獺族にはそういう役割の者は居なかったが、シエドラに医者という職業があることをルルカ
は知っていた。何度か性器の様子を診られたことがある。ルルカは言葉が分からない振りをするため、
少しだけ抵抗をしてみせた。そして、仕方なく口を開く演技をした。
「裂傷などは無いようだね。奥が少し腫れてるようだが、すぐに治まるだろう」
 彼らが自分の健康を気遣っていることに、ルルカは驚く。消化器系を痛めれば、さしもの獺族も弱
ってしまう。だから、この特別な罰を与えるとき以外は口を性器代わりに使ってはいけない規則なの
だ。
「日付が変わるまで、ゆっくり休みなさい。
 いや、そう言っても分からないか……」
 医者の一人が、ルルカの胸の札を別のものに取り換え、そう言った。数人の医者は、ルルカの繋が
れた辺り一帯に縄で囲いを作り、誰も近寄らないようにして去って行った。
(え──?)
 ぽつんと取り残されたルルカは、しばらく呆然としていた。
 信じられない──。
 広場に繋がれて初めて、ルルカには半日近くの長い休憩時間が与えられたのだ。ルルカは近くの水
路で、精液でべとべとになった顔を洗い、ブルブルッと水を払う。そんな風にしたのは久し振りのこ
とだ。男たちの衣装を濡らさないように気を遣う必要が無いのだ。体を石畳にうーんと大きく伸ばし
てみる。誰も生意気だと言ってルルカを殴ったりしない。
(本当に、日付が変わるまで何をしててもいいんだ……)
 ルルカには不思議だった。ルルカは咎められるようなことをして、罰を受けたはずなのだ。それな
のに、こんな自由が与えられるなんて。自分以外の牝獺も、きっと自由な時間を満喫しているだろう。
しばらく悩んだルルカは、結論を出した。罰というものは、それなりに厳しくなくては意味がない。
ただ、それで獺を病気にでもさせたら、シエドラにとって損失になる。牝獺を利用するためのシエドラ
の制度は長い時間をかけて熟成されており、なるべく長く、なるべく有用に牝獺を使おうとしている
のだ。あの忌まわしい"加工"だって、悪意によるものではないのかもしれない。
 ジエルが言っていた通り、それはもうただの慣習でしかなく、牝獺が憎くて仕組まれているのでは
ないのだろう。あの断罪の儀式は、罪深き獺族がシエドラで生きることを許される儀式なのだ。だか
ら、こうして休息が与えられたのだ。
(でも、その慣習のために私たちの心はいつも押し潰されそうになってるんだけど──)


52 :
『体をきれいにしなくちゃ……』
 ルルカは長い時間、男たちの精液を洗い流さずに居たことを思い出す。昨日の猫科の男たち、その
前はウォレン、ジエルの精液も……。馴鹿族のそれも、流れ出た分以外は体の奥に残っている。さら
に前のアンテロープの男たちのものも──。ルルカは憂鬱になった。まだウォレンの精液だけなら、
我慢できたかもしれない。口を犯されることで、ルルカは狼族の精液が量が多いだけで味も匂いもし
ないことを知った。
(だからといって、ずっと洗わないでいるのは嫌だけど)
 ルルカは、疲れが残ってふらふらする体で立ち上がり、プールに近付いた。
(まだ……、血の匂いがする……)
 ふと、おかしいと思った。こんなに血の匂いがするなら、さっきの医者たちは大慌てになったはず
だ。
 何気なく胸環に手をやると、それが体にべったり貼り付いていることに気付く。
 血だ──!?
 ルルカは見慣れない量の血を見て、頭がくらくらした。胸環が当たる部分の毛皮に、大量の血が染
み込んでいる。顔を洗ったときにこぼれた水が、乾燥していた血を溶かしたのだ。慌てて環の裏を指
で探ったが、傷口も痛みもどこにもない。
 これはルルカ自身の血ではない。
 ならば──?
(まさか、そんな──、ウォレン!?)
 薄れていた記憶が、次第にはっきりとしてくる。
 ルルカは思い出した。
 ルルカはウォレンに口を塞がれて気を失ったのではない。彼は確かに、胃の中に隠してきた魚をル
ルカに食べさせてくれた。途端に、ルルカの口の中にあの魚の味や匂いが甦ってきた。
(そうだ、思い出したよ。ウォレンは魚を食べさせてくれた──)
 魚でお腹がいっぱいになり眠気に襲われたルルカの胸に、温かい感触が広がった。ルルカは最初、
眠りに落ちるときに体が温かくなる生理現象だと思った。だが、違った。それは、ウォレンの体から
滴った血の温かさだった。血はルルカの胸環と乳房を真っ赤に染めた。
「参ったな、少し興奮して傷口が開いてしまったらしい」
 ウォレンは「忘れろ」と言って、ルルカの鼻先に自分の鼻を押し付けた。
 ルルカが眠りに落ちたのは、その後だ。大量の血を見て気が遠くなったのかもしれない。
 あれは、ウォレンが馴鹿族の間に割り込んだときに負った傷だ。ルルカが気絶しているうちに、応
急手当をしていたようだが、相当深い傷だったらしい。馴鹿族が不思議なくらいに大人しくなってい
たのはウォレンに大怪我をさせたからだ。


53 :
(ウォレンは……、私を助けるためにあんなに血を流して……)
 どうしてこんな大事なことを忘れてたんだろう。ウォレンが忘れろと言ったから? その言葉が暗
示になってしまったのかもしれない。でも、思い出した。
 ウォレンは、あの恐ろしい凶器のような馴鹿族の角から、ルルカを守ってくれた。傷付きながら、
奪い返してくれたのだ。
 ルルカはあのとき、どうして止めてくれないのかとウォレンを責めたことを恥じた。
 お魚を食べさせてくれたのも夢なんかじゃなかった。この血の跡が何よりの証拠。もう一度食べさ
せてくれないだろうか。今度はもう忘れないから──。
(ウォレンが忘れろなんて言うから、本当に忘れてしまうところだったよ)
 ルルカはくすりと笑った。同時に、涙がじわっと染み出してくる。
『ウォレン、おっぱいは拭いてくれたみたいだけど、やることが大雑把だね。
 忘れろって言うくらいなら、環の裏まできちんと拭かなくちゃ──』
 ルルカは、目尻の涙を両手で拭った。そのまま頬に手を当てる。口元が緩むのを抑えらない。
 嬉しい──。
 ルルカは踊るように、プールに飛び込んだ。ぐるりぐるりと体を回転させ、汚れを洗い落とす。
ウォレンの血を流してしまうのは忍びなかったが、いつまでもその鉄臭い匂いを纏っているわけにも
いかなかった。
 体を垂直に水に浮かべて水面から顔を出す。獺族はそうやって水に浮いていることができる。その
姿勢のまま、指で性器を丁寧に洗った。指先のぬるぬるした感触が次第に無くなっていく。流れてい
く粘液の中にウォレンの精液も混ざっている。ウォレンの精液だけ残しておけたらいいのに……。
 プールを出たルルカは、陽に照らされた石畳でゴロゴロ転がって体を乾かす。
 気持ちよかった。仰向けになり、手足を広げ、陽の暖かさにまどろむ。
 冷静になってみれば、ウォレンは狼族の責務を果たしただけかもしれない。シエドラの資産を管理
する狼族は、牝獺を目の前でなせるわけにはいかないのだから。
 ルルカは夢を見た。
 夢の中で、ウォレンに抱かれていた。彼の厚い胸の毛がルルカの乳房を優しく撫でていた。
 ペニスを挿入し、とくんとくんと響く射精を続けながら、ウォレンはルルカの痺れた手足を優しく
揉んだ。
 こうすれば、早く毒が抜けるだろう。
 ルルカの小さな手を握って、ウォレンは言う。
 水掻きだ──、と。
 獺族の手と足には、指と指の間に張った膜のようなものがある。
「狼族にもあるんだ。
 ぬかるみに四肢を踏みしめるために、
 遠い時代の祖先が持っていたもの──。
 お前たちのは泳ぐためのもの──。
 不思議と、似ているだろう?」
 ゆっくりとウォレンの鼻先がルルカの鼻先に触れたところで、目が覚めた。本当にウォレンがそん
なことを言ったのか。どこまでが本当の記憶でどこからがルルカの願望が見せた夢なのか、分からな
い。
(それでも、嬉しいよ……)
 ウォレンが助けてくれたことは紛れもない事実だから。そして、夢の中のウォレンが言いたかった
のは、きっと、狼族も獺族もそんなに変わらない、ということだ。
『おててにみずかきのある子は、だあれ?
 それはかわうそです──』
 母から何度も聞かされた子守唄を思わず口にした。
(狼の手にも、本当に水掻きなんてあるのかな──?)


54 :
 陽が傾くと、医者たちが再びルルカの前に現れ、喉の具合を中心に、性器や肛門を丁寧に調べ、
「大丈夫、健康だ」と太鼓判を押した。決してぞんざいな扱いではなく、彼らは真剣にルルカの体調
を気遣っていた。胸環に掛かっていた牝獺が休息中であることを示す札は回収されたが、ルルカの調
子が悪ければ、まだしばらくそれは付けられていたのだろう。
 ルルカは彼らの行為に感謝した。シエドラに来てから、言葉を交わせない相手に対し、そんな気持
ちになったのは初めてのことだ。
 街に住む者たちはそれぞれ何らかの職を持ち、真剣にそれを務めている。ウォレンだって、きっと
そうだ。いつもふらふらとして遊んでいるように見えるけれど、狼族としての務めを果たしている。
牝獺をなせないように監督するのが狼族の役目の一つであることは確かで、ウォレンがルルカを気
遣うのは、そういった背景もあるのだろう。あのウォレンの優しさは、きっと自分だけに向けられる
ものではない。そう思っても、感謝しないわけにはいかなかった。
 ルルカは、そんなウォレンを怒らせてしまったのだ。
(ウォレン、わがままで、身の程知らずな獺でごめんなさい)
 ルルカは初めて、彼に対して素直な気持ちになっていた。
 ウォレンに次に会ったら……。
『まずは、ごめんなさいって言おう。
 そして、ありがとう、と──言うんだ』
 ルルカは、ウォレンの喜ぶ顔が見たいと思った。どうしたら彼に喜んでもらえるだろうか。それを
考えるだけで、幸せな気持ちが胸の中に広がった。


55 :
以上です。
次回、かわうそルルカの生活 第八話は、サブタイトル『獺の血』
シエドラを襲う災厄。
ルルカは密かに想いを寄せるようになった狼の本当の姿を知る。
そして、ルルカ自身の中に眠る獺族の本当の力にも気付くのだった。
「分かったよ、ウォレン。私、やってみる──」
みたいな感じでお送りします。お楽しみに。

56 :
いつも乙です。

57 :
新作キタコレ! 早く読まねば!

58 :
あ、そうそう。海外の掲示板で、
ルルカとウォレンっぽいキャラデザのふたりの絡みが描かれた絵を発見したから置いとく
ttp://u18chan.com/uploads/data/13325/gray_by_bearpatrol_u18chan.jpg
どう考えてもふたりはこんなことしないだろうけどなwww
あと海外絵なので、自分の中のイメージを崩したくない人は『視聴厳禁』

59 :
ニホンカワウソが絶滅種に指定されたと聞いて
ニホンオオカミも絶滅してるし…
ルルカたんは生き残れますように
できればウォレンと一緒に

60 :
ニホンカワウソが絶滅種に指定されたってニュースを見て
書き込みに来たら先を越されてたw
ここに来てる人は、あのニュース見たらルルカ思いだすよな。

61 :
corruption of championのnagaの絵描いたの誰だろうな
うすしおあじとは少し違うか

62 :
保管庫管理人さま、収録ありがとうございます
いつもお疲れ様です

63 :
ルンファクの最新作に可愛いケモノがいるのな
しかも可愛いのが何とも
ズコーな要素が多いだけにこれは意外

64 :
>>63
耳しっぽ男はふたりいるけど、可愛いのなんていたっけ?
まあ自分は現在進行形でハマり倒してますが。

65 :
仲間にできる雑魚モンスターの事だけど違ったかな?
ハマり倒してますってなんかヘンなふうに読める

66 :
>>65
パァムキャットあたりかな。あれ仲間にすると“ケモナ”って名前になるw
あとはモコモコとか。
キツネ耳しっぽ男をキツネ獣人に脳内で置き換えて楽しんでます。
ケモノ抜きでもゲームとしておもしろい。

67 :
ケモノがいなさそうな作品でヒョッコリいるとなんかうれしい

68 :
ここって、小説じゃなくて夢日記とかも投稿していいのでしょうか?

69 :
>>68
夢小説じゃなくて夢日記???
テンプレ守ってたら何書いても咎められることはないと思うけど
関心無ければ基本スルーだからねこのスレ

70 :
>>69
先日見た夢が、このスレ向きな夢だと思ったのでまとめたものです。
出来が悪ければスルーして頂いて構いません。
スレ汚しになるかもしれませんが投下させて頂きたいと思います。

71 :
いや、実はな。この前、獣人ホストになる夢を見たのよ。
より正確に言うならば、ケモノの風俗店員?
お客さんの女の子も当然メスケモな。
実家に帰省中なのにそんな夢見たもんだから、起きて一番に夢精してないかと大慌てw
してなくて本当に助かった…。
寝起きのメモを小説みたいに書き直したものなので質は推して知るべしだが、
それでもよければご覧下さい。
以下、具体的な内容↓

72 :
俺は、夢の世界で草食系獣人だった。
職業は新人のホスト。今日が初仕事という感じ。
この世界でいうホストクラブとは、我々の言うホストクラブ(飲酒店)とは違う。
店に来た発情期の女性客に対して、性交渉の相手をしてあげることで発情を癒す店なのだ。
だからこの世界のホストは、医者的な立場に近い。
性職もとい、聖職と呼ばれている感じだろうかw
カラオケボックスのような見た目の店内。俺は裏方から待合室の客の様子を伺う。
どうやら初仕事のお客さんは、リアルな猫科の美人さん。
髪の毛が無いタイプのメスケモだと思ってもらえれば差支えない。
OLさんの顔が虎猫になったイメージかな。仕事帰りだと思われる。
胸はちょっと大きめで、クールビズではだけたスーツの襟元から上胸毛が覗いている。
俺は心の中で「やべぇ、惚れる」と呟いた。
で、いざ部屋の前に来て、磨りガラスのドア越しに準備をしていたら、
中から美人さんの自慰の音が聞こえてくるんですよ。
なんだか、待ちきれなくなってしまったみたいで。
客を待たせた時点で減給確定だったんだが、
俺は何故かそこでドアを開けず、放置プレイ続行してしまったw
下手に苦情が出たら地方のホストクラブに飛ばされるかなと若干不安だったよ。
ちなみに店内についてなんだが、裏方では全部の部屋をモニタリングしてて、
ギシギシアンアン音声まで聞こえてくるわけね。
俺はコンタクトレンズ型の角膜モニターを操作して、周囲の壁を透過させ、ドアの向こうを見るつもりが、操
作を誤って、他の周りの部屋の様子まで一緒に透けさせて見ちゃった。
もう入れたり出したり、噛みついたり舐めたり、たいへんな様相なのよ。他の部屋は。

73 :
で、目の前の部屋で自分を待つお客さんは、声を押しして必に股間をいじっているわけ。
俺もホストスーツの社会の窓を開けて確認すると、トランクスにすっかり黒いシミがついちゃっていた。
そんなこんなで、俺はついに部屋への突入を決意。
「ようこそいらっしゃいませ。*****(店名)へ」
クールな口調でホストみたいなこと言いながら、颯爽と彼女の隣に着席したところ、
閉め忘れてた社会の窓から俺の武器がドーンと出現。
美人さんも俺も、ぽかーん。
会話も進まず、おどおどしている間に、美人さんがクスクスと笑いだす。
実は、美人さんは「仕掛け人」で、俺が初仕事だと思っていたのは、研修だったらしい。
残念と肩を落とした所で目が覚めた。
そんな夢。もうカオス通り越してオカズになるレベルだった。
こんな夢あるんだな。ここのスレに通いつめていたおかげで見れた夢だと思うので
感謝の気持ちを伝えたくて、このような汚物投下に至ったわけだが。
いやもうほんとにすまんかった。しばらくROMるので大目に見てやって下さい。
あと他にも同様の夢をみた人とかいたらお話を聞きたいです。

74 :
あとあと問題になったときの為にトリップ残しときます。
ご迷惑おかけしました。お目汚し&スペース取ってもうしわけない…

75 :
うらやましす
熱帯夜の日に、身体中毛が生えて狼化的なものをしてめっちゃ暑かったのが一回ある
しかし俺は夢をあんま良く覚えてない人

76 :
獣人の探偵で何かハードボイルドに事件を解決する夢見たことあるな

77 :
俺も2回だけあったなぁ、獣化の夢
1度目は自室で左の脇?辺りを突くと獣化するっていう体質で、
思い切り突くとマズルが伸びて毛がわさわさ生えてるのが実感出来た、
けど中途半端で止まってもう一度、突こうと思ったらそこでおしまい。

78 :
>>76
それなんてホームズw

79 :
いま少し時間と予算をいただければ

80 :
最近の週刊少年ジャンプもそうだが、
メインの連載終わったら急に過疎化したりしそうで怖いな、このスレ

81 :
>>76>>78
ノハールもあったな
>>79
弁解は罪悪と(ry

82 :
獣人のハードボイルドものというとBlacksadとか

83 :
>>82
懐かしいタイトルが出てきたなw
理由は忘れたが、買えなかった覚えがある

84 :
獣人とは違うけど恐竜物で
「さらば、愛しき鉤爪」なんてのもあったな

85 :
鉤爪シリーズは3作目のクォリティが格段に落ちたのが残念だった

86 :
お久しぶりです。相変わらずスローペースで申し訳ないですが、
今回含めて残り3回!お付き合いください。
かわうそルルカの生活 第八話、できました。
注意事項は >>39 を参照。
物語もいよいよ佳境です。

87 :
     【8】 −獺の血−
 本当に昨日のウォレンはどうかしていた──。
 ルルカは石畳の上で大の字になって、すっかり暗くなった空を見上げた。街灯の光に邪魔をされ、
ぼやけてしまっているが、空には無数の星が輝いている。この空も、いつかウォレンが連れて行って
くれたあの高台から眺めれば、もっときれいに見えるのだろう。また連れて行ってくれないだろうか。
しかし、ウォレンともう一度言葉を交わすことができたとしても、ルルカから星を見たいと言い出す
のは気が引ける。
 確かにウォレンは血を流すほどの怪我を負いながら、ルルカを助けてくれた。獺族とダムのことを
調べてきてくれた。だが、それはきっと、シエドラの牝獺を目の前にした馴鹿族たちの行動を予測し
てのことだろう。ルルカを恐ろしい目に遭わせることを承知で"おつとめ"に連れ出したことへの埋め
合わせだったのではないか、とルルカは思う。それ以外は、いつも通りのウォレンだったではないか。
 意地悪を言ったり、時間をたっぷりかけて街を連れ回し、恥ずかしい思いをさせたり。いつものよ
うに四つ足で歩かせて、後ろからお尻の穴や濡れた性器を眺めていたウォレンを思い出し、ルルカは
口をとがらせた。
(男の人って、そんなに裸を見たいのかな……)
 ルルカ自身、自分の体が嫌いではなかった。灰褐色の毛並みも、可愛らしい乳房もそうだ。ただ、
男たちがわざわざ見たいと思うほど魅力があるものなのかは分からない。美しさで言えば、あのシェ
ス地区で会った狐族の女性の方がずっと魅力的なのではないかと思う。彼女は決して、人前で裸になっ
たりはしないだろうけれど。
 ジエルは、普段は隠されている女性の裸を見ると、男は欲情するのだと言っていた。欲情というの
はどういう心身の状態なのか、それを向けられる身には何とも想像し難いが、いつも自分を犯す男た
ちや、ルルカを前にした馴鹿族が見せた興奮のことを指しているのは理解できた。
(でも、私はいつだって裸だし、おっぱいも、ここも隠すことはできないのに……)
 ルルカは仰向けになったまま、自分の性器にそっと手を当てた。くちゅっと音がする。二度と止ま
らない恥ずかしい液体の湧出が今も続いていた。肉の襞が折り重なって花びらのように開き、中央に
はぽっかりと開いたままの膣口が内側の桃色の粘膜まで覗かせている。
 男たちに丸出しの性器を見られることには慣れていたのに、ウォレンに見られたときは何故だか恥
ずかしくなった。ウォレンにだけはこの性器を見られたくないと思った。それはきっと、彼がこんな
風に醜く歪められる前のルルカの性器を知っているからだ。彼こそがルルカの初めての相手だったの
だから──。
 ルルカはウォレンとの交尾を頭に思い浮かべた。お腹の中をいっぱいに満たす大きなペニス。儀式
のときに感じた激しい痛みはもうぼんやりとしか思い出せないが、自分の性器は、あのときウォレン
の形に合うように造り変えられてしまったのだと思う。ルルカは目を閉じるだけでウォレンの形をお
腹の中に感じることができた。それだけ何度も繰り返し、彼と交わってきた。間違いなく、この街で
一番多くの回数、ルルカが受け入れたのはウォレンだ。憂鬱に感じていたそれも、今ではさほど嫌悪
するものでもないと思えた。長くて穏やかな狼との交尾は、ルルカにとって安息の時間でもある──。

88 :
(え……? ちょっと待って)
 ウォレンはルルカはすぐにはなないと言った。青服の狼が告げた八か月というルルカの寿命を、
彼は自信ありげに否定した。もしかすると、それは彼自身、狼との交尾がルルカの体にもたらす効果
について気付いていたからかもしれない。
(まさか、ウォレンは私の体を休めるために……?)
 そんなわけはないよね、とルルカは頭を振った。それは単なる結果論であって、ウォレンも他の皆
と同じように、ルルカを犯したいだけなのだ。そう。そうに決まってる。
『だってウォレンはいつも調子のいいこと言って、私をがっかりさせてばかりで……』
 ルルカはそう小さく呟いて、ふふっと笑う。もう、自分ががっかりすることはないだろう。ウォレン
が見たいなら、いくらでも恥ずかしい裸を見てくれていい。ウォレンがしたいと思ったら、いつでも
自分の体を使ってくれればいい。がっかりさせてはいけないのは自分の方だ。ウォレンにはルルカに
そう要求する資格がある。ウォレンがあの馴鹿族の巨大な角を恐れていたら、きっと自分は今こうし
て生きてはいまい。
 言葉でお礼を言うだけでは足りないと思った。どうしたら彼に恩返しができるだろうか。小さな木
のお椀以外、何も持たない自分に──。
 交尾を受け入れることが一つの答えかもしれない。もっとも、ルルカが許そうと許すまいと、
ウォレンが自分の体を好き勝手に使うことはこれまで通りだろう。
『それじゃあ、恩返しにならないね……』
 そう呟いたルルカは、股間が妙に疼くのを感じた。いつにも増して息が荒くなる。性器から溢れる
蜜の量がどんどん増えてくることに気付くと、妙に恥ずかしくなって全身がかあっと熱くなった。
 ルルカは慌てて水に飛び込む。体を冷やせば、その疼きは少し治まることを、これまでの経験で知っ
ていた。
 男の人はどうして牝獺を使うんだろう──。
 水から上がって再び仰向けになったルルカは、その疑問を反芻した。半年前の儀式以来、途切れる
ことなく体を責め続けられていたルルカは初めて、そのことについてゆっくり考える時間を持ったの
だ。
 ルルカはずっと、男たちが獺族を恨んでいるのだと思っていた。常時その体を穢し続けることで罪
深き種族に反省を促しているのだと思った。だからルルカは獺族が犯した罪の正体を知りたかったの
だ。自分が受けている罰の重圧と釣り合う理由が無ければ納得できない。
 その思いは今、揺らいでいる。ジエルは、シエドラの住人が牝獺を使う理由は憎しみではないと言った。
『可愛い……から?』
 ウォレンも確か馴鹿族に向かってそんなことを言っていたように思う。ルルカはドキッとする。
ウォレンのことを考えただけで、何故だか頬が熱くなった。ウォレンの精液がお腹の中に吐き出され
ている錯覚が生まれる。ルルカはその感覚に身を任せた。そうしていると、何故だか分からないが、
優しい気持ちになってくる。
(男の人は、何故、精液を流し込もうとするんだろう?)
 ルルカは初めてそれを受け入れたとき、体の中に排泄されているのだと思った。精液を小便だと思っ
て恥辱に悶えた。そのときの印象がルルカの意識を縛っていた。だが、今はどうだろう。自分は
ウォレンの精液を拒絶するどころか、望んでいる。
 精液は、女性の体を穢すためのものではない──。
 そう考えると、合点がいった。きっと、同族の精液を受け入れることで、女性は子宮の中に新しい
生の結晶を得る──。
 考えてみたら、当たり前のことなのかもしれない。いや、一度そう思い当たったら、それ以外に無
いと思えるほど、筋が通っている。
(そうか……。
 だから苦しい思いをしても、女の人は男性を受け入れるんだ……?)
 ──苦しい?
 確かに、ルルカがいつも強制されている交尾は、小さな体の獺に果てしない苦痛を与えている。だ
が、街を歩く幸せそうな同じ種族の男女のペアからは、そんな苦悩を感じない。ルルカは、馴鹿族の
話を聞いたときに同じようなことを考えたのを思い出した。彼らは異種族のパートナーを持つと言う。
彼らの語るその性生活は、喜びに満ちたもののようだった。
 一生発情し続ける自分と違って、短い時間のことだから耐えられるのだろうか。そもそも、発情と
は何なのか。
 ルルカ自身が、牢の中で自分の性器を刺激していたとき感じた快感の正体は何?
 ウォレンに撫でてもらったとき気持ちよかったのは何故?
 ミルカが浮かべていた恍惚の表情の意味は──?


89 :
 ルルカははっとして身を起こした。
(そうか──)
 ルルカは性行為が本来、快感を伴うものであることに気付いた。これまで交尾に対して嫌悪感しか
なかったとはいえ、ルルカにも全く理解できないわけではない。
 それはおそらく女性にも、男性にも、どちらにも感じられるもののはずだ。ルルカは自分を使って
いるときの男たちの興奮を思い起こした。ルルカに精液を流し込むウォレンが荒い息を吐いていたの
を思い出した。おしっこをするときの淡い快感はルルカにも想像できる。射精に伴う快感は、おそら
くそれよりもずっと強いものに違いない。
(じゃあ、男の人たちは──、ウォレンは、
 私が牢の中でしていたようなことを、私の体を使ってしているんだね)
 そう思うと、何だか可笑しくなった。快感を得ようと必になっていた自分の姿をウォレンに重ね
た。怖かった、自分よりずっと体の大きな者たちが、急に可愛らしく思えてくる。汚らわしく感じて
いた精液に対する嫌悪も薄れる。女性の体から染み出る快楽の証でもある液体を、男性は激しい射精
という形で吐き出しているだけなのかもしれない。
『私……、ウォレンの精液なら、嫌じゃないかも……?』
 ルルカは気持ちが浮かれてくるのを感じた。交尾が本来、愛情を伴う行為なのであれば、ルルカは
自分のこの身ひとつでウォレンを喜ばせることができるかもしれない。
 今度は頬だけでなく、体中が熱くなった。股間が疼いて、また愛液が染み出してくる。ルルカは慌
ててプールに飛び込んだ。冷たい水の中を何度も宙返りする。
 おかしい──。体の疼きが止まらない?
 水から上がっても、性器がぬるぬるしていた。また仰向けになって大きく喘ぐ。ルルカは戸惑った。
いつも感じている疎ましい発情の疼きとは明らかに違う。これまで噛み合っていなかった心と体が、
同じものを求めていた。ウォレンと交尾がしたくてたまらない。ウォレンの力強い腕に抱かれたい。
彼の荒い呼吸と、射精の脈動をこの身に感じたい──。
 ルルカはこの瞬間になってようやく気付いた。
(そうだ、私はウォレンのことが好きなんだ。
 好きになってしまったんだ──)
 獺なんかに慕われても、ウォレンにとっては迷惑だろう。それでも、気持ちが抑えられない。今す
ぐにでもウォレンに会いたい。ルルカは石畳の上で体をくねらせる。足を大きく開いて、片手を股間
に添えた。指先が陰核に触れ、ルルカはどきっとした。可愛らしく飛び出したそこから、ウォレンに
触られたときのような、快感の波が生まれた。他の男たちに弄られたときの、神経を擦られるような
痛みは無い。もう一度触れてみると、先ほどのような強い感覚はもう生まれなかった。それでも、じ
んわりと気持ちよさが体に広がる。ルルカは夢中になって股間を撫でた。自分の手を、ウォレンの指
先に見立てていた。
 ウォレンにここを触ってほしい。ウォレンがここを優しく触ってくれたら──。
 足音を感じて、ルルカははっと体を起こした。
 尖った長い耳、細く突き出したマズル。一瞬、ウォレンかと思ったが、違った。痩せ型で背丈も狼
族ほどではない。砂漠のオアシスに住むアンテロープたちと似た砂のような色の毛皮に、布を巻き付
けたような衣装。彼は胡狼(ジャッカル)族の青年だ。ルルカは彼を知っている。手にぶら下げた大
きな木の桶──、牝獺の給餌係だ。
(見られた?)
 ウォレンを想って自慰に耽っていたルルカは、恥ずかしさに消え入りそうになった。
 縄の囲いを超えて近付く胡狼の男の姿に、ルルカは慌てて立ち上がり、両手を広げて牝獺の心得の
ポーズを取った。尻尾を大きく持ち上げると、肛門まで愛液でべとべとになっていた。心臓をどきど
きさせて俯くルルカの腕を、胡狼族の男が掴んだ。

90 :
(えっ?)
 男は、ふっと笑う。
「今は隠しててもいいんだぞ」
 言葉が通じないはずのルルカに理解できるように、彼はその小さな獺の手を手に取り、ルルカに胸
を覆わせる。
(えっ? えっ?)
 頭をポンポンと叩くように撫でる男に、ルルカは反射的に獺語で『ありがとう』と言っていた。
(ありがとう……。そう、ありがとう……なんだけど……?)
 突然優しい言葉をかけられてルルカは混乱していた。奴隷の扱いを受けていない自分に戸惑い、そ
して裸を晒すことが急に恥ずかしくなって体を丸めた。そんな風にしても大丈夫かと不安になりなが
ら、胸を両手で覆い、尾を腹に巻き込んで股間を隠した。
 視線から逃れるように後ろを向いたルルカに構わず、胡狼族の男は落ちていたルルカの食器を拾い
上げ、まだ湯気の出ているスープ状の食べ物をその木の椀に注いで、すぐに立ち去って行った。
 取り残されたルルカは一度隠した胸と性器から手を離せなくなっていた。そのまま寝転がって天を
仰ぐ。久し振りに触った自分の乳房──。自分の体なのに、本当に長い間触れていなかったように思
う。柔らかい。初めてオトナの服を着せてもらったあの日に触れた、母の乳房と同じだった。遠い記
憶を辿れば、幼い頃に顔を押し付けるようにして抱かれていたことまで思い出す。
『お母さん、ルルカは立派なオトナの獺になりました……』
 思わず呟いた。涙が滲んでくる。母に今の体を見てもらいたいと思った。でも、それは叶うはずも
ないことだ。大事な人にだけ見せるものだと言われた女の子の体──。母の代わりにそれを見てもら
うとしたら、この先、そう長くは生きられないルルカにとってその相手はウォレンしか居ない。
 ウォレンは許してくれるだろうか。もし、愛想を尽かされたままだったら……。
 ルルカは不安に包まれた。ルルカが一方的に想いを寄せるようになっただけで、ウォレンにとって
ルルカはシエドラに何頭も居る牝獺の一頭に過ぎないのだから。そう思うと、涙が次から次へと溢れ
てきた。自分が牝獺であることがこんなに悲しいなんて。
 ひとしきり泣いたルルカは、曲げた尾の先で乳房を隠しながら食事の器を手に取った。精液を飲ま
され続けた胃もすっかり元通りになり、食欲が戻っていた。ルルカは食べ物をゆっくり噛み締めなが
ら、さっきの青年にもっと真剣にありがとうを言うべきだったと思った。
(もちろん獺語で、だけど)
 彼もそうだし、ルルカの体調を診てくれた医者たちも、誰もルルカを蔑んだりしていなかった。そ
れが何だか嬉しい。
 食事はいつもよりずっと美味しく感じた。普段は必ず犯されながら食事を摂らねばならないのがシ
エドラの牝獺の規則だ。ルルカはその食材が混ぜこぜになった獺用の食べ物をゆっくり噛み締めて味
わった。
 食事を終え、ルルカは食器を手に取って何気なく眺める。木目のきれいな木の器、その椀の糸底の
円の中に、指先に感じる奇妙な凹凸がある──?
『え──?』
 ルルカは驚いて椀を裏返した。広場に繋がれたときに手渡されてから、一度もこんな風に見たこと
はなかった。
 そこには、にっこりと微笑んだ獺の顔が彫ってあった。
 それはきっと、この街の誰かが彫ってくれたものだ。切り出した木片を丁寧に磨き、時間をかけて
小さな獺の顔を彫り込んだのだ。シエドラに囚われた牝獺たちが、せめて寂しい思いをしないように
──。
 ルルカの目からまた、光るものがこぼれた。


91 :
 うとうとしていたルルカの胸の環が引かれた。鎖を誰かが掴んでいる。気付けばルルカを守ってい
た縄の囲いは取り除かれ、いつものような行列が建物沿いに広場の端まで伸びていた。日付が変わっ
たのだ。慌てて立ち上がったルルカは、胸と股間を手で押えていた。一度隠したものをまた見せるの
には勇気が要った。ルルカは恥ずかしさを堪えながら、乳房を突き出し、性器と肛門が同時に見える
挨拶のポーズを取る。
 男たちの様子は、まるでこの二日間の出来事が無かったかのように、いつもと変わらない。裸の牝
獺の体を吊り上げ、乳房と性器を観賞するのは、大きさも精液の量も並ならぬペニスを持つ馬族の男
だった。ルルカは牡獣の大きな手で頭を石畳に押し付けられ、体を横にした姿勢でいきなり犯された。
 短い足を片方だけ持ち上げられ、体をくの字に曲げられ、膣の横側を強く擦り上げられる。
「俺はやっぱお○んこの方が好きだよ」
「まあな」
 男はルルカの口を犯した者の中の一人だった。そう、本人を、ではないけれど覚えている。ルルカ
は色々な種族のペニスを口で咥えることで、自然とその形を記憶に刷り込まれていた。さほど感覚の
強くない膣の中に、以前は感じなかったペニスの形を感じている。街に居るそれぞれの種族の牡が、
どんなタイミングでどれだけの量を射精するのかも知ってしまった。だから、お腹の中に吐き出され
る精液の飛沫も、これまで以上にはっきりと感じた。その匂いや味までもが想像できてしまう。
 これまでのルルカならその変化を恐ろしいと思っていただろう。恥辱に打ち震え、嗚咽していただ
ろう。しかし、小さな木の椀に彫られた彫刻が心の支えになった。指先で触れると、そこに可愛らし
い獺の顔がある。
(私はもしかして、独りじゃないのかもしれない……。
 ずっと、独りなんかじゃなかったのかも──)
 その小さな彫刻は、絢爛な馴鹿族の陶器の装飾とは比べものにならないくらい質素であったけれど、
これほどルルカの心に沁みるものは無い。
 それはルルカのたった一つの持ち物であり、宝物だった。
 男たちも、きっとルルカが憎いわけではない。小さな獺の体から快楽を汲み上げようと必になっ
ているだけ。そう思うと、嫌な感じはしなくなった。内臓を押し上げられ、ときには子宮の中まで掻
き回される肉体への呵責はこれまでと同じものであっても、不思議と苦しさまで我慢できた。
(ウォレン……?)
 ルルカの使用が再開されてからあっという間に数日が経った。体に触れる爪の感覚が、好きになっ
た狼族の青年のものだと思って顔を起こしたルルカの前に居たのは、あの胡狼族の給餌係だった。
(えっ? 珍しい……よね)
 犬科の牡は、牝獺の使用時間が長くなるため、行列のできるところへは来ないものだ。案の定、列
の後ろから「早くしろ」との罵声が飛んだ。
「分かってるよ!」
 男は尻尾を立てて大きく膨らませて虚勢を張った。おそらく上半身に巻いたぶかぶかの布の下で背
中の毛もいっぱいに膨らませているのだろう。しかし、比較的背の低い彼の醸し出す迫力はウォレン
のそれに遠く呼ばない。
 男は、ルルカの乳房に手をゆっくり押し付けて、「うん、これだ」と呟いた。
「こないだ、手を重ねた上から感じたこの弾力が忘れられなくてさ」
(わざわざ確かめに来たの?)
 男はルルカの乳房を何度か揉んで、乳首を優しく摘み上げる。その手つきがなんとなく心地よかっ
た。ウォレンにもこんな風にしてもらえたら、と思うとルルカの乳首は固くなった。その乳首を指先
で捏ね回されるのが気持ちいい。
「いいな、お前のおっぱい、すごくいい」
 男は何でもすぐ口に出すタイプのようだった。自分の体を褒められるのはルルカにとって悪い気は
しない。後ろからまた罵声を浴びて、胡狼族の男はようやくルルカに挿入した。
(あっ……)
 普段より少し潤っているような気がするそこへ、犬科のペニスが捻じ込まれる。待ち焦がれていた
ウォレンと同じ形のもの。ただ、一回り以上小さいけれど。
 そうだ、とルルカは思った。この男との交尾で、ウォレンを喜ばせる練習ができるのではないかと。
 ルルカは自分を犯している男を観察してみる。挿入し切った後の男は、ほとんど体を動かさずに目
を細めて、はぁはぁと荒い息を吐いている。ルルカも息を荒げているが、それは発情の止まらない体
になってからずっとのことだ。男がもし激しい動きをしたならば、それに釣られてルルカの小さな体
はより多くの空気を求めて喘ぐことになるが、犬科の牡が相手ならそんな心配は無い。

92 :
 お腹の奥に男の精液が吐き出される度に、男はうっと軽く呻く。
(気持ちいい……んだよね?)
 ルルカは、例のリングを着けられた牝獺のあそこが痙攣したように動くと言われていたことを思い
出す。それが男の人たちにとって具合がいいらしい、ということも。では、その真似をしてみたら……?
 ルルカは、試しに股間にぎゅっと力を込めてみて、すぐに緩め、それを何度か繰り返した。狐族の
男が、驚いたような顔をする。
「なんだ? 急にいい感じになったじゃないか」
(えっ?)
 ルルカはどきっとした。男の言った内容に驚いたわけではない。男の声を聞いた瞬間、股間から淡
い快楽の波が湧き起こったからである。
 ルルカはもう一度、男のペニスをそっと膣で締め付けてみた。男の表情に反応がないので、もう一
度。そしてもう一度……。
「奥を突いて欲しいのか?」
 男はそう言って、ルルカの締め付けのタイミングに合わせるように、軽く腰を突き出し始めた。ル
ルカの体はゆっくりと揺さぶられた。
(なんだか、不思議な感じ……)
 男のペニスがぐっと体の奥に押し付けられる度、じんわりと快感が広がるのだ。ウォレンに体を撫
で回されたときほど強いものではないが、確かに気持ちいい。ルルカは、次第に自分の息が男と同じ
くらいに荒く吐き出されていることに気付く。リズムを合わせて、二つの肉体がお互いを刺激し合っ
ている……。
 胡狼族の男は、最後にブルッと体を震わせて、ひときわ激しい飛沫をルルカの体の奥に叩き付けた。
それが前立腺液を射出する犬科の牡の生理だということをルルカは知らないが、ウォレンのいつもの
終わり方と同じだと思い、頬が緩む。
(満足してくれた? 気持ちよかった……のかな?)
 はあっと大きく息を吐いて、男はルルカの体から離れた。
 身を起こしたルルカの頭に、男の手が載せられた。男はゆっくりとルルカの頭を撫でて言う。
「すごく良かった。ありがとう──」
 褒められた──。
 嬉しさに体が震えた。心臓がドキドキと鐘を打つように鳴った。
 この体験は、ルルカにとって天啓だった。ルルカが頑張ることで、相手の牡の快楽を高めることが
できる。それは延いてはこの身ひとつでウォレンを喜ばせることができるという事実だ。ルルカはこ
の新しい発見に夢中になった。
 牝獺は、交尾の最中、相手の体に触れてはいけないことになっている。ルルカは相手の動きに合わ
せて体を引いたり押し付けたりすることで、牡の期待に応えられるように努めた。種族ごとに交尾の
流儀には違いがある。ルルカはそれに合わせて自分の動きを変えるよう工夫した。猫科のトゲの生え
たペニスだけはどうにも苦手なままだったけれど。
 数日もしないうちに、男たちの態度が変わった。もう誰もルルカを殴らなかった。交尾の後、胡狼
の青年のように頭を撫でてくれる者も増えた。ルルカは驚いた。実に半年もの間、自分を苦しめてき
たものが、ちょっとした見方の違いで嬉しいことに変わるのだ。
 ジエルの言っていたことは正しいのかもしれない。誰も獺を憎み続けることはない。ルルカはシエ
ドラの一員になっていた。辛い役目だけれど、独りじゃない──。
 ルルカは男たちを受け入れるとき、自分からお尻を上げて誘うポーズを取るようにした。恥ずかし
いけれど、胸がどきどきした。男たちが喜んでいる様子が分かって、ルルカも嬉しくなる。
 牝獺たちが、最期に感謝の言葉を口にしてんでいくという話が、今では分かるような気がした。
 シエドラの住人は、誰もが何らかの仕事に従事している。それは、獺族が隠れ里の生活の中で、一
人一人役割を持っていたのと同じことだ。シエドラにおいて、ルルカたち牝獺の役割は、その小さな
体で街の男たちを癒すことなのだろう。
(ウォレンに早く会いたい……)
 ウォレンにこの発見を伝えたかった。ウォレンにも自分の体を楽しんでもらいたいと思った。
 ウォレンのことを想えば、それだけで性器が潤うのが分かった。
 獺は交尾中に相手の体に触れてはいけない。ウォレンのあの胸の立派な毛は眺めているだけでも
ルルカをうっとりさせる魅力があったが、もし触れることができたなら。ウォレンに体の奥を優しく
突かれながら、指先にあの長い毛を絡めたら、きっと素敵な思いに浸れるに違いない。
 ルルカの頭の中はウォレンとの交尾で一杯になった。しかし、待ち焦がれても自分では彼に会いに
行けない。シエドラの街の構造はルルカの頭の中に入っている。でも、ウォレンがどこに住んでいる
のかすら、ルルカは知らない。


93 :
(ウォレン、どうして来てくれないんだろう──)
 ルルカは突然、不安になった。あの魚を食べさせてくれた日から、もう一週間以上経っている。や
はり彼はルルカに怒っているのだろうか。愛想を尽かせてしまったのだろうか。彼が別の牝獺の体を
使っているのではないかと嫉妬しながら、自分が誰とも分からない男を彼に見立てていることに背徳
感を覚えた。
 ウォレンに会いたい──。そう思っても、鎖で繋がれた身分では、どうにもならなかった。
 そしてルルカはやがて、泥沼のような性の罠に堕ちていくことに気付くのだった。
 自ら積極的に牡を刺激する交尾のやり方は、激しく体力を消耗する。ルルカは以前より、蓄積した
疲労で短い眠りに落ちていることが多くなった。ウォレンに会えないまま、ひと月ほどが過ぎていた。
ルルカはペニスを体に受け入れたまま、夢うつつに男たちの会話を聞いていた。
「何だ、最近いいって聞いてたけど、もうお終いか」
「目を覚ましてるときしか良くないんじゃ、そろそろか」
「早く──されないかな」
 その男の言葉に、ルルカは驚いて目を開けた。はっきり聞き取れなかったのは、あまりにも恐ろし
い言葉を意識が拒絶したからだ。しかし、確かに耳には入っていた。
(うそよ……、そんなまさか……)
 男は、"加工"と言ったのだ。
 ルルカを囲んでいたのは、いつだったか彼女を輪姦した、五人組のアンテロープの男たちだった。
「もう旬が過ぎたってことさ。ただ、こういうのは珍しいな。
 普通は時間をかけてちょっとずつ良くなっていくんだ。
 この牝はいきなりだろ?
 後は坂道を転げ落ちるようなもんさ」
(そんな……)
 ルルカはパニックになった。秘密を隠し通すことに慣れ切った体は、平静を装っている。しかし、
心は引き裂かれそうだった。素晴らしいと思ったルルカの発見は、ルルカ自身を追い詰めるものだっ
たのだ。それでも一度男たちを喜ばせることを知ってしまった体は、アンテロープの男の動きに合わ
せて反応してしまう。膣を目一杯締め付け、侵入してくるペニスを押し留める。先端が子宮口に到達
するのと同時に力を緩め、一気に突き込ませる。
 太いアンテロープのペニスはルルカの内臓を子宮ごと押し上げた。ルルカの体は大きく跳ねる。確
かに男は強い快感を得るだろうが、こんなやり方ではルルカ自身の体が持たない。そのことに気付く
のが遅かった。
「おっ、まだ頑張るねえ、この牝」
 ルルカを犯している男は満足そうな呻きを上げながら言った。
「俺の見立てだと、あと一、二か月ってとこだね」
(何が……)
 男は指をルルカの乳首に当て、輪を作って見せる。その意味を悟って、ルルカは悲鳴を上げそうに
なった。
「賭けるか? あと何日でこの牝が"加工"されるか」
 アンテロープの男たちはルルカを順番に犯したうえで、ルルカの体に金属の環が通されるまでの日
数を予測した。ある者は最も短く、五十日だと言った。そして一番長く言った者でも、七十日という
のが彼らの見立てだった。予想を当てるのは経験豊富なことを自慢するのが目的だ。それゆえに、彼
らが的外れな数字を言うわけがない。
「思ったより早かったな。
 広場の牝でもこうなるには普通、もうちょっとかかる」
「色んな牝獺を使ったが、こんなに変化の激しいのは初めてだ」
 男たちから解放されたルルカは、水路へ駆け寄り、吐いた。
 ウォレンは、ルルカがすぐにはなないと言ってくれたが、それは彼自身がルルカを守ろうとして
くれていたからではなく、おそらく、他の牝獺と比べてルルカの感度が良くなかったからだ。
 加工まで長くて七十日、その後の硬直までの時間も、かつて広場に繋がれた牝獺よりも短いのだろ
う。八か月ほどと言われたルルカの寿命は、突然、半分になってしまった。しかし、ルルカが恐れた
のはではない。このままウォレンに会えないかもしれないことだ。
(ウォレンと何日会ってないの?
 以前は週に一度は来ていたのに……。
 あと……、四か月……、いや、三か月ほどで、私は……)


94 :
 さらにひと月が経った。ウォレンはルルカの前に現れず、ルルカの気はおかしくなりそうだった。
「少し緩くなったか?」
 自分を使う男の、何気ない呟きに怯えた。
 どうしてこんなことに──。
 ルルカの体は、彼女の思いをよそに、男の動きに反応し続けた。無理に止めようとしても、反応が
薄くなれば、男たちは狼族に牝獺を加工するように訴えるだろう。人々の言葉が分かるルルカだから、
このような事態に陥ってしまった。普通の獺ならば、ただ何も知らず状況に身を任せるだけで済んだ
のだ。少しずつ性に目覚め、シエドラでの自らの役目を悟り、そして感謝してんでいく。ルルカは
違う。迫るの恐怖に怯えなければならないのだ。
 ウォレンを喜ばせてあげたい。前より良くなったと誉めてもらいたい。頭を優しく撫でられたい。
ただ、それだけが望みなのに──。
 男たちはルルカの苦悩など露知らず、途切れることのない行列を作った。ルルカは錯乱していた。
子宮の奥まで貫くサイズのペニスの持ち主に犯されると、ルルカはウォレンに抱かれていると思い、
自ら腰を激しく揺すり、膣を必に締め付けた。『ウォレン、ウォレン』と何度もうわ言のように呟
くルルカの声を聞いて、男たちはいい声で鳴くようになったと感心した。
(ウォレン……、どうして来てくれないの──?)
 獺族の本当の悲しさとは、誰かを好きになってはいけないことなのだとルルカは思った。
 以前は締まりのいい膣のおかげでしばらくは子宮に押し留められていた精液が、男が体を離した瞬
間からだらだらと流れ出ていることに気付いたルルカは絶望した。膣が緩んできている──。
(もうだめ……、私……。ウォレン──)
 ルルカは立ち上がり、ふらふらと噴水に向かって歩き始めた。牝獺の異常な行動に気付いて周囲の
男たちはギョッとし、何事かと見守った。建物の壁に繋がれた長い鎖がピンと張り詰める。
『あなたに会う方法があるよ、ウォレン……』
 それは、「ウォレンに会わせて」と公用語で叫ぶことだ。たちまちルルカは取り押さえられ、毒針
が打たれて声を奪われるだろう。乳首と陰核に穴が開けられ金属の環を通されたルルカは膣と肛門を
間断なく犯される。ほんの一、二週間で全身が硬直し、槍で突きされるのだ。それまでに、ただ一
度でいい。ウォレンに抱いてもらえたら──。
(私はミルカのように動けなくなる。
 もうウォレンを喜ばせてあげることはできないかもしれない。
 ごめんなさいも言えない。助けてくれたお礼を言うことも……)


95 :
『ウォ……、
 ウォ……。』
 噴水の前に、ルルカを加工するために縛り付ける十字架の幻影が見えた。三つのリングを体にぶら
下げ、その強い刺激に足を閉じることが出来なくなって淫水を垂れ流して喘ぐルルカ自身の姿も──。
 そんな体になってもウォレンが現れなかったら?
 怖い──。もし、そこまでしてもウォレンが来てくれなかったら、と思うと、体が震えて声が出な
かった。
 まさか、ウォレンは獺に魚を食べさせたことがばれて追放されたのでは……?
(ああ、やっぱりだめ……)
 天を仰いだルルカの頬に落ちたのは、大粒の涙──ではなかった。
『……雨?』
 いつの間にか、空を雲が覆っていた。ざあっと音を立てて、大きな雨粒がシエドラの街に降り注い
だ。広場の中心にある噴水の噴き上げる高さが、いつもより高くなったような気がする。
 広場に居た人たちは、慌てて走り去っていく。ルルカの前に列を作っていた男たちも、無頓着な気
質の種族を除いて姿を消した。
(何故、皆慌てているの?)
 ラッドヤートに居た頃、ルルカは時々こうした雨に遭うこともあった。それは世界に残った数少な
い森林地帯に降るもので、平原に位置するシエドラではほぼ見ることはない。ルルカは、これがシエ
ドラに来て初めての雨だと気付いた。ここの住人はきっと、それより以前からずっと雨を見ていない
のだ。
(みんな、雨に慣れてないんだ……)
 シエドラの民の生活は雨とは無縁のものだった。降ったとしても通り雨程度のものだ。今、街を水
蒸気で煙らせる強い雨が、これまでのものと違うとは、この時点で誰も気付いていなかった。
 雨は少し弱くなったものの、止むことなく静かに振り続けた。街の住人は建物の中に閉じ籠り、必
要なときだけ布を被って外出するようになった。獺族のルルカにとって、雨は水の中に居るのと変わ
らない、心地よいものだ。ルルカは思わぬ休息を得ることになった。
 しばらくして、市場で見る日除けのテントが雨を凌ぐためにルルカの頭上に張られたが、雨の中、
わざわざやってきて牝獺を犯そうという者はほとんど居なかった。


96 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 街の中央、噴水広場のすぐ近くに集会所があった。平屋のその石の建物にはいくつもの部屋があり、
人々は何か相談事があるとそこへ集まった。普段は街を出歩かない狼族の姿がよく見られるのもここ
である。集会所の裏に慌てて張られた小さな雨除けのテントの傍に、若い牝獺が立って、雨を体に受
けていた。ここに繋がれて以来、凌辱にまみれてきた彼女に、激しく降り続く雨が思わぬ平穏をもた
らしていた。犯され続けて熱を持った体に雨の冷たさが心地よい。
 乾いているときはふかふかした手触りの獺の体は、水に濡れると黒くなり、しっとりとした質感に
変わる。体が濡れると、もう傷跡が薄れてきてもいいはずの卑猥なマークが、下腹部にはっきりと浮
かび上がった。今ではその焼き印が表しているものがよく分かる。そのすぐ下にある真っ赤な花びら
のように口を開いた自分の牝の性器そのものだ。にやにやと笑みを浮かべた男たちにその性器と焼き
印の痕を見比べられると、恥ずかしさが込み上げてくる。それは常に裸で過ごしていても、決して麻
痺することのない感覚だった。
(あの娘はどうしているだろう──)
 儀式の後、広場に残された一頭の牝獺。交尾を強要される日常からいっとき解放されて初めて、心
に余裕が生まれたのか、彼女はあの牝獺のことを思い出した。一緒に儀式を受けることになった見知
らぬ仲間。同じ境遇のあの牝獺は、自分と同じように怯えながら、それでも自分ともう一頭の牝獺を
守ろうとしてくれた。体を抱き寄せてくれたあの小さな手の優しさを忘れない。憎らしいクズリ族の
男に、毒針を打てと腕を差し出したあの勇気を──。いつかもし再会することがあれば、そんな機会
はおそらく来ないのだろうが、彼女にお礼を言いたいと思った。
 集会所の裏手から、どこへ続くのか分からないほどの長い石の階段が伸びていた。普段は犯されな
がら目の端に入れるだけだったその石段を見て、ふと思った。広場とこの集会所の間には、いくつか
の建物があるだけだ。
(あそこから広場が見えるかもしれない……)
 人目があるうちは考えもしなかった発想だ。牝獺たちを繋いでいる鎖は、プールで体を自由に洗え
るように非常に長く作られている。その牝獺の鎖も、階段を少し登れるくらいの長さがあった。
 恐る恐る石段を登り始めた牝獺は、人の声と足音に驚いて足を止めた。こんな雨の中を──?
 慌てて、帆布のテントの下に戻る。
 牝獺は建物の裏から、集会所に早足で入っていく人々の影を見守った。細長い尾を緊張させて駆け
つける豹族の男たち。体格に似あわぬ機敏さで雨の中を走る灰色の衣装を纏った狼族の男たち。その
中に、見慣れない赤い衣装を着けた狼族の姿があった。
 顔にまばらな灰色の毛が残っているものの、全身が白い毛並に変わりつつある初老の狼の姿に、牝
獺は、不思議な畏敬の念を覚えるのだった。


97 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 広間に十数人の狼族と豹族の男たちが集まっていた。白い毛の狼──狼族の族長が席に着くと、皆、
濡れた体を拭く手を止め、彼の言葉に耳を傾けた。
「水瓶を監視している者たちから、伝令が入った。
 このまま雨が降り続けば……」
 男たちの顔に動揺の色が浮かぶ。
「水瓶から溢れた水が、シエドラを襲うだろう──」
 族長は、大きな紙を木のテーブルに広げた。
「これは……?」
「少し前にウォレンが作って寄こしたものだ」
「ウォレンが?」
「シエドラ周辺の史跡を探索するのに人手が欲しいと言ってな」
 その紙には地図が描かれていた。シエドラと獺の水瓶を結ぶ広大な土地を俯瞰したものだ。
「皆も知ってると思うが、あの水瓶は太古に獺族が作ったものだ。
 シエドラとの間にも砂に埋もれた遺跡があるが、誰も関心を持たなかった。
 ウォレンは何故だか、それを調べると言い出した。
 そんな折の、この雨だ」
 獺の水瓶──巨大な治水ダムから、放射状に薄い線が描かれている。それはダムが大干ばつの発生
する以前の時代に作られたことを意味していた。水瓶から供される水はそれらの水路を通って、周辺
の平原に点在する集落へ運ばれるようになっていた。世界が乾き切った後、シエドラの民がその水路
を埋め、全ての水が自分たちの元へ流れるように変えたのだ。
「水が足りないときは、それで良い。
 ただ、こんな雨が来ようなど当時の人間には想像もつかなかっただろう。
 このままではまずいことになる。
 見ろ──」
 族長は、水瓶から一直線に伸びる三本の平行線を指した。
「これは?」
「中央の線が、今シエドラに水を運んでいる水路だ。
 それを挟む二本の線は、水路が引かれた周辺の土地が窪地になっていることを示している。
 水を溢れさせない構造らしいが……」
 族長の深刻な面持ちに、皆が首を傾げる。
「分からないか?
 水瓶から溢れた水を拡散させる水路は、我らシエドラの先人が埋めてしまった。
 下手をすれば、この窪地の幅いっぱいの大量の水がシエドラに押し寄せる……。
 そう、ウォレンが言っておった」
 事態を飲み込んだ男たちは騒然となる。
「水瓶の監視はどうなってる?」
「何かあっても、伝令では間に合わん」
 街を統治する狼族の男たちは、彼らの手足となって働く豹族を全員、集めるよう指示を出す。水瓶
からシエドラの間に通信係を立て、ランタンの光が届く距離で通信をリレーすることになり、集会は
解散となった。


98 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 街が騒がしくなった。いつの間にか体を丸めて寝ていたルルカは、足元の水路を流れる水が今にも
溢れそうになっていることに気付き、飛び起きた。これは、雨のせい──?
 人々が激しく降り続ける雨の中を駆けていく。何か荷物を詰め込んだ大きな袋を抱えている者も居
れば、着の身着のまま慌てて走っていく者も居る。方角を考えれば、皆、高台に登る石段の方へ逃げ
ているようだ。
「早く避難しろ」
「家を離れられない者は、建物の一番高いところへ上がるんだ」
「水瓶が溢れ始めたそうだ──」
 何故、人々が避難しているのか、ルルカにも状況が飲み込めてきた。石畳に突いた手のひらが水に
浸かっている。シエドラの街は浸水していた。おそらく、街の低いところは水没するだろう。この広
場だってそうだ。人の姿が消えると、ルルカは不安に包まれた。広場が水没しても、ルルカを繋ぐ鎖
は充分に長い。獺族にとって水はそんなに恐ろしいものではないし、息が続かなければ、建物の壁に
でもしがみ付けばなんとかなるだろう。ルルカはそれでいい。では、動けない牝獺は?
 体に金属リングを穿たれた牝獺は、満足に体を動かすことができなくなる。きっとまともに泳ぐこ
とは不可能だ。水が頭の高さを超えたら、彼女たちはんでしまうう。ルルカは、ミルカのことを想っ
た。広場の石畳に溢れた水は、すでにお尻を着けたルルカの尾の半分ほどを浸している。ミルカは街
のどこかで恐怖に怯え、震えているに違いない。
(牝獺は見捨てられたんだ──)
 ルルカは水に流されそうになっていた木のお椀を手に取り、ぎゅっと握り締めた。
(私たちも、この街の一員だって思えるようになったのに……)
『何だぁ? 噴水がえらく噴き出してやがるな』
『えっ? ジエル……?』
 突然声がした方を振り返り、ルルカは飛び上がりそうになった。ジエルのすぐ後ろに、ウォレンの
姿があったからだ。相変わらず、上半身を自慢げに露出させたウォレンの豊かな毛は、水に濡れて無
数の針のようになっていた。ルルカが驚いたのは、突然の再会であることばかりではない。ウォレン
は右手と左手、それぞれに胸環を掴んで牝獺の体をぶら下げていた。腕を曲げ、足を大きく開いたそ
の姿は、金属リングの"加工"を施された牝獺であることを示していた。
(ウォレン……。その娘たちを助けてくれるの?)
 両手が塞がっているウォレンの代わりに、鍵を受け取ったジエルがルルカの鎖を壁から外した。
『ウォレン殿から、お前に頼みがあるそうだ』
『……殿?』
『ああ、そうか。知らなくて当然だな。
 普段はこういう呼ばれ方を嫌う人だが、今はそんな事態じゃない。
 この人は、シエドラの治安を守る最高責任者だ』
『え──?』
 ルルカは待ち焦がれていた狼の顔を見る。いつもと同じウォレンだ。鋭い狼の目つきと裏腹に、調
子のいい言葉が飛び出してきそうな、懐かしい顔。
(ウォレンが……最高責任者?)
 ルルカは戸惑った。ウォレンも獺語の会話の内容を想像できるのか、照れるように顔を逸らす。
『時間が無いから、かいつまんで話すぞ。
 お前はあの人について行け』
『えっ?』
『ウォレン殿は、お前が牝獺の中で一番、この街の構造を知っていると言うんだ。
 俺にはとても信じられないが……、本当か?
 歩ける獺たちに、高台までの道を教えるんだ。できるな?』
『うん……、大丈夫……。だけど──』
『高台で、ジルフが牝獺を保護してくれる。
 俺は街の北側、お前はウォレン殿と一緒に南側を回るんだ』
(一緒に……)
 ジエルはルルカの鎖をウォレンに手渡し、代わりに加工されて動けない牝獺の身柄を引き受けた。
ジエルはすぐに高台への階段がある方へ走り去っていく。取り残されたルルカとウォレンは気まずそ
うに向き合った。


99 :
「えっと、久し振りだね……、ウォレン……」
 ルルカは嬉しさに頬が緩むのを気付かれないように必になった。会いたかったとは言えない。獺
が狼を待ち焦がれるなんて、おかしなことだ。さらには好きになってしまっただなんて──。
「あの、ごめんなさい、私──」
 ウォレンはルルカの言葉を遮った。
「時間が無い。話は後だ。ジエルから事情は聞いたな?」
「う、うん」
「じゃあ、頼む。手伝ってくれ」
 ルルカは頷いて、鎖を引くウォレンについて走り出した。
(どうしてだろう、大変なことが起きているのに、胸がわくわくする……)
 ウォレンと一緒に居られることが嬉しかった。そして、彼の役に立てるということ。
 走りながら、ルルカはウォレンに声をかける。街にはもう人通りも無い。今なら存分に話ができる。
「自警団って、本当だったんだ」
「ああ」
「遊び人だなんて言って、ごめんなさい」
「そんなことを気にしてたのか?」
 ほんの少し言葉を交わしただけだったが、この短いやりとりで、ルルカはウォレンがもう彼女に対
して怒ってないことを知った。これまで抑揚が無く、感情を読み取れないと思っていた公用語の響き
から、ウォレンの気持ちが伝わってくる。
(ウォレン……、許してくれたの?)
 思わず、笑みがこぼれる。いつもの言葉足らずで強引なウォレン。そしてそれに振り回される自分。
この関係が心地良かった。これまでと違うのは、ルルカがウォレンに好意を寄せているということだ。
「でも、どうして……?」
(どうして助けてくれるの?)
 誰もが見捨てようとしていた牝獺を、ウォレンは──。
 彼の答えは、ルルカの気持ちを裏切らないものだった。
「誰も見捨てようとしていたわけじゃない。
 牝獺が溺れてんでもいいなんて、誰も思っちゃいない。
 これは狼族の仕事だからだ。待たせてすまなかったな」
「あの娘は……、ミルカは?」
「ミルカ?」
「あの……、青い服の狼が連れてた」
「そうか、ミルカっていうのか」
 ウォレンは、物事には順番があるんだ、と言った。街の住人を避難させることを優先したのは、獺
族は少々水に浸かっても命を落とすことはないからだ。動けない八頭の"加工"された牝獺は、すでに
ジルフの下に避難させているという。
「そうだ、みんなの食器を……」
 ルルカは手に握ったままだった木の椀を見せる。これは牝獺にとっては唯一の宝物だ。
「分かっている。ほら」
 ウォレンは腰に着けた袋に集めた食器を見せ、ルルカの食器も預かった。


100 :
 街の南側半分に居る牝獺を、ウォレンは次々に解放し、ルルカは彼女たちに道順を教えた。胸環か
ら完全に鎖を外して回収するウォレンに、ルルカは何故自分は鎖に繋がれたままなのかを問う。
「次にどこへ行くか、俺の指示を牝獺が理解できるのはおかしいだろう?
 誰が見ているか分からないんだ。注意しろ」
「あ……、うん、そうだね」
(やっぱりウォレンには何でもお見通しなんだね)
 ルルカはこの狼に抱き付きたくなる衝動を必に堪えた。
 十頭の牝獺を解放し、あちこち声を掛けながら街に残った少数の住人が建物の上階に避難している
ことを確かめたウォレンは、ルルカと共に高台へ向かった。
「そろそろいいだろう」
 ウォレンはルルカの胸環の鎖を外した。引きずる金属の重さが消え、ルルカは随分体が軽くなった
と感じた。
「ここからはもう、話しかけるな。
 何度も言うが、公用語が話せることは決して誰にも知られるな」
「うん、ウォレン」
 あと数段、石段を上がれば高台に着く。そこにはシエドラの牝獺が全員、集まっている。少しくら
い、会話をしても許されるだろう。どんな風に挨拶をしようか。ルルカはこの雨が獺族にとって恵み
の雨であると思った。ウォレンにも会えた。彼の本当の姿を知った。自分が好きになった狼は、ルル
カの心をこれまで以上に惹きつけて止まなかった。最初で最後かもしれないけれど、思わぬ天からの
贈り物だ──。今、この瞬間まで、ルルカはそう思っていた。
 背後で、ドーンという音がした。驚いて振り向いたウォレンとルルカの目に、恐ろしい高さまで噴
き上げた広場の噴水が見えた。ウォレンの表情が険しくなる。
「まずいな、あれは」
「どういうこと……?」
「浸水が始まる前に、噴水に変化はなかったか?」
「そういえば……」
「あの噴水は、危険を知らせるためのものだ。
 おそらく、水路と並行して地中に埋められた細い管を通して、
 水瓶から流れる水量の変化が事前に分かるようになっているんだ。
 水瓶が溢れたと聞いてから、雨の量は変わっていない。
 つまり、水瓶に何かあったということだ」
「何かって──」


101 :
 高台の広場からウォレンの姿を認めた数人の狼族と豹族の男が駆け寄ってくる。
「ウォレン殿、通信がっ」
「何が起きた?」
「ダムの上部が決壊して、大量の水が津波になってシエドラに向かっているとのことです」
「やはり、そうか」
 報告を受けたウォレンは街を北から南まで見渡した。ルルカも背を伸ばして眼下の光景を見る。街
を南北に貫く大通りは、今や川のようになっている。水深はさほど深くなく、建物の一階が浸水した
程度だろう。こうして見るとシエドラの街は、水瓶が溢れたとき、街全体が水路になって水を受け流
すように設計されているのだ。でも、どうして? ルルカは不思議に思った。この街は世界から水が
消え去った大干ばつの後に作られたのではないのか。
「……駄目だ」
 そう言ってウォレンが指差した先は、街の南端、シェス地区だ。
(あそこは……)
 ルルカはついさっき、シェス地区で何人もの人が建物の最上階に残っているのを見た。そして、思
い出した。石畳の色が違っていたこと。後の時代に作られた新しい建物──。
「水はあとどのくらいでシエドラに到達する?」
「おそらく、十分も無いかと……」
「まずいな。手の空いてる者は俺についてこい」
 ウォレンは駆け出した。狼と豹族の男たちが後に続く。ルルカも気付けば後を追っていた。ウォレン
ともう離れたくないと思った。
 ウォレンを先頭に、男たちは統率の取れた動きで走る。彼らがシエドラの自警団であり、ウォレン
がその長であることがルルカにも実感できる。ウォレンは石段を逸れ、最短距離を探るように建物の
屋上に飛び乗り、屋根伝いに走った。男たちもそれに従い、遅れまいとするルルカは四つ足になって
駆けた。体が軽い。鎖から解放された身に、こんな動きができるとは。ルルカは男たちの足元をかい
くぐり、先頭のウォレンに並んだ。
(ウォレンも気付いたんだね……)
 走りながらウォレンの顔を見上げたルルカの視線に気付き、ウォレンが頷く。
 一行の目の前にシェス地区が迫ったとき、轟音が響き渡った。
「遅かったか……」
 ルルカたちの目の前に、恐ろしい光景が広がった。街の北側から、建物の隙間を縫うように水が押
し寄せた。水は口を開けた龍のように、うねりながら街を飲み込んでいく。建物の屋上に立ち止った
ルルカたちの眼前にあった空間は、一瞬で荒れ狂う濁流に変わった。
「こんなことが……」
 目に入るほとんどの建物の一階から三階あたりまでが水に沈んでいた。先ほど、住人たちはすべて
さらに上階へ逃げていることをウォレンと確かめた。ただ、安心できるのはこの洪水を想定して作ら
れた古い建物だけだ。
「この街は、洪水を受け流すように造られている。
 ただ、あそこは違う。後からこの街に来た者が付け足した居住区だ」
 ウォレンの言葉を裏付けるように、水の流れはその新しい建物の石壁を削っていた。積まれた石の
ブロックが次々に弾け飛ぶのを見て、ルルカは顔を覆った。こんな恐ろしい水の姿は見たことがない。
(怖いよ……、ウォレン……)
 屋上へ逃げ出した人たちが、助けを求めて叫んでいるのが見える。その声は水の流れる轟音に掻き
消され、届かなかった。
「水はじきに引くだろう。だが、あの建物はそれまで持たない」
「では、彼らは……」
「助けられないのか?」
「どうやって? こんな水の中を──」


102 :
(水の中……?)
 ルルカは、すぐ傍に立つウォレンの視線が自分に向けられるのを感じた。ルルカがそれに気付いて
見上げると、彼は慌てて視線を逸らす。
 ウォレンが何を思ったのか、ルルカには分かった。同じことを自分も考えたのだ。あの人たちを助
ける方法が、一つだけ、ある。
(ウォレン、今、どうして私の顔を見たの?
 その手に持った鎖の束は何なの?
 言ってよ、あなたがどうしたいのか──)
 ウォレンが考えていることは明白だ。でも彼に言えるはずがない。それを実行したら、ルルカの秘
密を公にすることになるのだから。ルルカの体にのリングを嵌めることになる。でも、だったら、
助けを求めている人たちを見捨てるしかないのか?
 ルルカは、自分の小さな手を見つめた。
(これは、私にしかできないこと。そう、私なら、彼らを助けられる。
 そのことをどうやって皆に伝える?
 ジエルを呼びに行ってるうちに、みんなあの水に飲まれてしまう……。
 私が、言うしかないんだ。
 でも、怖い……。怖いよ。
 私は言葉を話せる獺として、生きることを許されない。されるんだ──。
 それでも……)
 知ってしまった。気付いてしまった。あの人たちを助ける方法を。
 ルルカは自分の胸をギュッと抱きしめた。
(皆を助けたら、代わりに私はぬ。ぬんだ……)
 背筋が凍る。これまでに無いほど強いの予感がルルカを襲う。
(ウォレン、私はどうしたらいいの……?)
 ルルカは鋭い目つきで崩れる建物を睨み付けるウォレンの手をそっと握った。そして、彼の指と指
の間にあるものを確かめる。指の付け根に残る小さな膜のようなもの。
(狼の……、水掻き──だ)
 ルルカの体の震えが、止まった。
「分かったよ、ウォレン。私、やってみる──」
 驚くウォレンに、ルルカは手のひらを広げて見せた。
「ウォレンは言ったよね。
 狼族の水掻きは遠い祖先が持っていたもの。
 そして、私のこの水掻きは、泳ぐためにある──。
 獺族だって、狼族だって……、
 いや、他のどの種族も、姿は違っても同じなんだよね」
 ルルカは大きく息を吸って、周囲に響き渡る声で言った。
「私にしかできないことなんでしょう?」
(ウォレン、あなたの水掻きは、きっとその大きな手で多くの人を救うためにある。
 だから、私はあなたの力になりたいの──)


103 :
 これだけが、小さな体の、獺の私にできることだとルルカは言った。
 有り得ない牝獺の申し出に、ウォレンは戸惑っていた。
「危険すぎる。それに……」
 何故、大勢の前で公用語を話してしまったのか──。
「あれほど言ったのに、どうして」
 いつも冷静で落ち着いていたウォレンの声がうわずって聞こえた。
 それはルルカにも充分、分かっている。狼族と豹族の男たちが見ている前でウォレンと言葉を交わ
してしまった。事態が落ち着けば、自分は喉に毒針を打たれ、声を奪われるだろう。乳房と性器を加
工され、動けない惨めな裸身を晒すことになるだろう。そして、体の穴という穴を犯され、最後は無
情な槍に突き刺されてぬのだ。
「獺がしゃべった……?」
「確かに聞いたぞ」
 場に居合わせた男たちの間にも動揺が走っていた。しかし、ルルカの気持ちは嘘のように晴れてい
る。迷いは無い。
「ごめんね、ウォレン。あなたの言い付けを守れなかった。
 もう、皆知ってしまったよ。私が公用語を話せること。
 でも、後悔はしてないから」
 ルルカの覚悟を受け止めたウォレンの決断は速かった。
「時間が無い。頼めるか?」
「うん、私はどうすればいいの?」
「鎖を全て錠で繋ぐ。水流の幅はゆうに超える長さになるはずだ。
 鎖を絡めて一人ずつ運ぶんだ。
 合図を決める。鎖を強く三回引いてすぐ水に飛び込め。
 そうしたら皆で引き上げる。お前が──」
 ウォレンは小柄な牝獺の頭を、大きな手でそっと撫でた。
「泳いで行くんだ」
 住人に説明する口上をウォレンから教わり、ルルカは真っ直ぐに走り出した。目の前に広がる濁流
に向かって、何の躊躇いもなくその小さな身を躍らせた。
 怖くなんか、ない──。
 激しい水の流れに目を開けていることはできなかった。厚い雨雲のせいで周囲は夕闇のように暗い。
視覚は元より頼りになどできない。ルルカの体は水中で翻弄されるようにぐるぐると回った。水流が
殴り付けるように体を押す。それでも、ルルカは恐れなかった。武者震いと共に、全身に血が巡り、
筋肉が熱を帯びる。獺の体が知っている。本能がルルカに告げる。ここが、獺の生きていた世界なの
だと。
 ルルカは獺の長いひげで水の流れを探る。水は均一な塊ではない。流れは複雑に絡み合う糸のよう
なものだ。その緩急の差をルルカは感じ取り、体をくねらせ、水流を縫うように進んだ。誰からも教
わっていないのに、体が自然に動いた。
(これが、獺の血なんだ──)
 水に沈みかけた建物の壁にしがみ付き、ルルカは水面に顔を出した。
(せっかく着いたのに……。これじゃだめなんだ)
 ルルカの小さな体は、濁流に流され、助けを求める人々の待つ建物よりずっと下流に流されていた。
鎖を三度引いて合図をすると、対岸のウォレンたちがルルカの体を引き戻した。
「大丈夫か?」
「やはり無理なんじゃ……」
「心配しないで。次は、きっとうまくいくから──」
 水に流されるのが分かっているなら、上流から飛び込めばいい。ルルカは建物を伝って走ると、再
び濁流に身を投げ込んだ。
 水流を受ける胸環の鎖の先で、ルルカが泳ぎやすいようにウォレンが鎖の長さを調整してくれてい
ることが分かる。ずっと自分を縛りつけていた鎖が、今はウォレンと繋がっていることを頼もしく感
じる。鎖の先にウォレンが居る、そのことがルルカに勇気を与えていた。


104 :
(今度はうまくいったよ……)
 水流から体を跳ね上げるようにして沈みかけた建物の壁に手を掛けたルルカは、その屋上に顔を出
し、ふっと息をついた。大きな帆布を被り、身を寄せ合う人々の姿が見えた。
「助けに来ました。自警団が来ています。
 一人ずつ、対岸から鎖で引き上げます」
 濁流の轟音に掻き消されそうになりながら、ルルカはありったけの声で叫んだ。しかし、帆布の下
でしゃがんでいる人たちは、互いに顔を見合わせているようだが、誰一人動こうとしなかった。
「お願い、私の言うことを聞いて。
 時間が無いの……」
 鎖の長さに思ったほど余裕が無く、ルルカはそれ以上彼らに近寄れない。
 ルルカがもう一度大きな声を張り上げても、返事は無かった。
(どうして──?)
 自分が獺だから、信用してもらえないのか。やはり人々の心の中に獺族に対する憎しみが残ってい
るのか。いや、単に言葉を話す獺を目の前にして戸惑っているのかもしれない。あるいは、恐ろしい
濁流に怯えるあまり、望みを捨ててしまったのか。引き上げると言われても、助かる保証は無い。最
初の一人になるということは、恐ろしく勇気の要るものなのだ。
 諦めるわけにはいかない。もう一度叫ぼうとしたルルカの目に、近寄る一人の女性の姿が映った。
美しい原色の繊維を散りばめた布を巻き付けたような民族衣装。赤茶色の美しい毛並の持ち主──。
「あなた、あのときの──」
 そう呟いたのは、あの"おつとめ"の日、ルルカに軽蔑の目を向けた狐族の女性だった。


105 :
次回、かわうそルルカの生活 第九話『ありがとう、そして』
ルルカの決断は、自分の寿命と引き換えに人々を救うことだった。
そんなルルカに、街を治める狼族と豹族は残酷な審判を下す。
『覚悟をしていたことなのに……。
 見返りを求めたわけではないのに……。
 どうして、涙が止まらないんだろう──』
次回でお話はひと段落します。その後、エピローグもありますので、
残り二話となります。お楽しみに。


106 :
早速拝読させていただいております!
8-6/18の上から五行目「狐族」は「胡狼族」の間違いでしょうか?

107 :
>>106
ご指摘ありがとうございます。
確かに「胡狼族」の誤りです。申し訳ありません。
ううっ、一か所気付いて直したのにまだあったとは・・・

108 :
盛り上がってきたあああああああ!!
これまで貼られていた伏線が回収されていく様は見事としか言いようがありませんでした。
待ち続けて、ついに訪れた時。『何だぁ? 噴水がえらく噴き出してやがるな』
という台詞に続く流れが圧巻でした。不覚にもPCの前で悶えてしまった。
話は前後しますが、胡狼族の男も本当に好感が持てる良い奴で……(嬉泣)
次回一区切りということですが、次回予告で先の展開が見え隠れしていて
もう次回が待ちきれなくなりました。巧みすぎる……!
これが噂に聞くレイニー止めってやつなのか……!?
連載をリアルタイムで拝読することができ、本当に良かったです。

109 :
おぉぉ、とうとう終盤ですかー
公用語しゃべれる事でやっぱり処刑なんだろうか…
ううう、幸せになって欲しいのに、ルルカたーん

110 :
寂しい・・・
誰かいませんか?

111 :
それじゃ書きかけのSSを一本
早めに全て上げられるよう頑張るのでどうか

112 :

【 1 】

 桜には花よりも若葉が多く目につき始めた春の終わり頃―――カルアンは村のものではないトラックを見つけて
メガネを直した。
 今にも止まりそうに徐行しながら村の中央広場を横断していくトラック。その荷台にはテーブルやら椅子の調度什器が
一杯に満載されていた。
「新しい人、越して来たのかな?」
 そんなトラックの荷から村の新たな住人来訪を予感したカルアンの脚は自然とそれを追う方へと進んだ。
 三毛猫のカルアンは、ここ西の森に住む少年である。
 この島には彼の住むここを含めて、東西南北にそれぞれ特色の変わった「森」が存在している。こう書いてしまうと
狭いような印象も受けるだろうが、この島全体は果てしなく広大で、場所によっては住人の確認すら出来ないような
未開の地も多い。
 その中においては、今カルアンが目撃したような「他所から移り渡ってくる者」などは本当に珍しいのだ。
 それゆえにトラックを追うカルアンの脚は自然と速くなっていった。
――誰が来るんだろう? どんな人がここに住むんだろう?
 呼吸の弾む胸の内は、そんな期待と不安とで満たされては鼓動を早くさせる。
 僅かに先行して走るその跡を、カルアンも見失なわまいと必に走って追うが――それでもついには地平線の彼方に沈み、
カルアンの視界から消え失せてしまうトラック。
――あぁ、もう見えなくなっちゃった。でもあの方向だと僕の家に近いかも。
 しかしながら村の地図を頭の中に思い出してはトラックの行き先を予想するカルアン。
 今も予想した通り、カルアンの家からそう遠くないそこに空き家となっている一軒家があるのを彼は知っていた。
 ゆえにあのトラックがそこへ到着していることを祈りながら、走るカルアンはさらに期待と息苦しさに胸を高鳴らせた。
 件の場所は村の外れにある小高い丘の上の一軒家である。
 走りながら見上げる視界の先に、徐々に地平からせり上がってくる家屋の屋根(あたま)が見え始めた。
 近づくほどにそれは大きくなり、やがては辿りついて家屋の全貌を見渡せるそこに――カルアンはあのトラックを見つけて
大きく息をついた。
「やっぱりここに居たッ」
 想いはつい言葉となって漏れた。
 そして見つめるそこに、カルアンは村では見慣れない人物の姿を発見する。
 それは一人の少女だった。
 さらにはその、自分達とは違う彼女の珍しい毛並みにカルアンはしばし見惚れる。

113 :

 黒の下地に銀のまだらが幾何学模様に並んだ少女の毛並み――村の誰のものとも違う短毛のそれは、まさに異国から来た
彼女の神秘(エキゾチック)さをカルアンに強く印象付けた。
 しかしその姿に見惚れたのは、けっして物珍しさからだけではない。純粋にカルアンは、少女の横顔を美しいと思ったのだ。
 そんな少女の横顔がこちらを向いた。
 切れ長目尻の大きな瞳が、その光彩いっぱいに瞳を煌めかせてこちらを見つめてくる視線に思わずカルアンも両肩を跳ね上がらせる。
 遠目とはいえ正面から彼女の面を確認してカルアンはさらに身動きが取れなくなった。
 高く、筋の通った鼻(マズル)に大きな耳とそこに先の瞳――そのパーツどれもがキラキラと光り輝いているように見えて
カルアンは息呼吸(いき)すら忘れたほどだ。こうなってしまっては捕食者に見据えられた獲物そのものである。
 それでもしかし、カルアンの胸に今満ちる想いはこれまでに感じたこともない昂揚とそして期待――今この一瞬の出会いを始まりに、
自分の新たな運命が時の歯車に組み込まれたのではないかと、後に思ったほどである。
 そんな一時、その視軸をカルアンに定めていた彼女ではあったが、やがてその顔いっぱいに笑顔を作ると、
「おーい、君ー。村(ここ)の人ーッ?」
 件の少女は両手に携えていた椅子の一脚を降ろし、カルアンへと手を振るのであった。
 その声に我へと返り、大きく息を吐き出すカルアン。
 そして改めて目の前の彼女へ視軸を定めると、
「そ、そうだよー。君はーッ?」
 カルアンもまた応え、そこまでの残りの距離を駆け寄るのであった。
 互いの鼻の形が確認できるほどにまで近づいて、改めてカルアンは彼女を観察する。
 遠目からでは大人びて見えた少女の印象も、こうしていざ至近距離で眺めると顔の所々に丸みがあって何ともあどけない。
年の頃も自分とそうは変わらないであろう様子がうかがえた。
「どうしたの? アタシの顔、なんかついてる?」
 そんな正面にしていた顔が二度瞬きをして小首をひねる様に、またしてもカルアンは我に返る。今日はずっとこんな感じだ。
「ご、ごめん。よそから来る人なんて珍しかったから。――ぼ、僕はカルアン。10歳。この先の、家に、住んでる」
 緊張からか、なんとも説明口調で自己紹介する自分を滑稽に思うも、どうにも舌が回らない。
 しかしそんな心配は無用で、目の前の少女はむしろそんなカルアンの誠実な様子に安堵して、今まで以上に柔和な笑顔を咲かせた。
「ふふ。アタシはチャコっていうんだ。12歳だよ。今日からここに住みます♪」
 先の自分をなぞって自己紹介をしてくれる彼女・チャコに、ようやくカルアンも緊張の糸が緩むのを感じた。
「ど、どこから来たの? なんでこんなにイスが?」
 そうなると自然とカルアンの口から言葉が出た。
 相手は女の子、ましてや初対面の相手である。質問攻めの不作法を頭の隅では理解しつつも、溢れだした言葉と想いは止まらない。
「へへー、なぜでしょう?」
 しかしながら一方で受け止めるチャコもまた、そんなカルアンを迷惑そうに思っている様子はなかった。むしろ見ず知らずの土地で、
こうして気さくに話し合える相手の出現に喜んでいるようにすら見えた。

114 :

「アタシね、南の森から来たんだ」
「南? 遠いの?」
「うん。すっごく遠いよ。このトラックで走り続けて一週間だもの」
 彼女チャコは南の森―――シネアダノンから来たのだと語った。
 シネアダノンそこは、この『森』の最南端に位置する場所であり、末端からはさらにいくつもの島嶼が海を挟んで存在するという
この世の果てとも言うべき場所である。
 種としてあまりにも違う彼女の毛並みの理由は、そのような訳があったのだ。
「じゃあそこの人達って、みんなチャコみたいな毛並みしてるの? 下地が黒くて、そして銀色でさ」
「模様は人それぞれだけど、大体はそんな感じかな? カルアンはふさふさで可愛いね。毛並みもさらさら」
 頭一つ背の高い彼女はそう言いながら背をまるめると、己の頬をカルアンの横顔にすりつけるのであった。
 そんなチャコからの抱擁にカルアンの毛並みはタンポポのよう逆立っては膨らむ。
 チャコの行動は何とも刺激的だ。彼女にとってのそれは当り前のあいさつのような気軽さであるがしかし、そのような風習のない
カルアンにとってのそれは『性的なアプローチ』以外のなにものでもない。
――甘い香りがする……チャコってチョコレートみたい……
 鼻先をくすぐる彼女の芳香にすっかりカルアンは骨抜きにされて、ピスピスと鼻を鳴らせては正体不明の脱力感に浸るのであった。
「なんでこんなにイスがあるのかは……なんでだと思う?」
 カルアンから離れ、再び会話を再開するチャコではあるが、要のカルアンは未だ先の余韻から抜けきっていない様子。
 再度チャコから名前を呼ばれ、カルアンは針で刺されたかのよう両肩を跳ねあがらせては我に返る。
「ご、ごめんッ。――な、なんの話だっけ?」
「もー。ボーっとしてー。――でね、『こんなにイスやテーブルがあるのは何故でしょうか?』って話♪」
 いたずらを仕込んだ子供のようなチャコの笑顔を前に、カルアンも口角から垂れてしまったヨダレを拭い拭いに考える。
 一人暮らしには多すぎる家財――これもまた、カルアンがチャコの引っ越しに関して抱いたミステリーの一つであった。
「もしかして、チャコ以外にも誰かいるの? お父さんとかお母さんとか」
「ブブー、アタシは独り身でーす」
 答えながらイスの一つをカルアンに持たせたかと思うと、チャコもまた新たなイスをトラックから降ろしそれを抱える。
「じゃあ、家具屋さんとか始めるの?」
「ん〜、おしい! 『お店を始める』って言うのは正解。じゃあ、何のお店でしょう?」
 先立って歩き出すチャコの後を追いながらカルアンは、彼女が住むであろう家屋の中へと進んでいく。
 玄関には向かわずにすぐ脇の中庭へとチャコは進んでいった。
 庭にはそこに面したウッドデッキのテラスがあり、サッシ窓の敷居をまたいでそこから上がると屋内には、フローリング張りにされた
10畳程度のリビングが設けられていた。 庭に面した開放的な造りのそこには、中庭から差し込む木漏れ日と風とが、なんとも
心寛げる空間をそこに作り出している。
 そんなリビングに両手にしていたイスを下ろすとチャコはカルアンへ振り返る。

115 :
 そして見つめる顔に思惑いっぱいの笑みを浮かべたかと思うと、
「アタシね、喫茶店やるの。ここで。この村で♪」
 チャコは自慢げに一連のミステリーの答えをカルアンへ告げるのであった。
「きっさてん……」
 一方のカルアンはそんなチャコの言葉をオウム返しに反復する。
 目を丸くして、依然として両手にしたイスをぶら下げたままのカルアンではあったが瞬きの次には、
「喫茶店やるのッ?」
 彼もまた興奮した様子で繰り返すのであった。
「そうだよー。っていうかこの村ってさ、アタシのお店以外に喫茶店とかってあるの?」
「ううん、ないよ。それどころかコーヒーだってろくに飲めない」
 ようやく抱えていたイスを下ろすとカルアンも鼻息荒くチャコにこたえる。
 そしてさらには、
「喫茶店ってさ、コーヒー出すんだよね? 紅茶は? ケーキも作るの?」
 今までの大人しげな雰囲気を一変させて目を輝かせるカルアンにチャコも多少面喰ったようではあった。
 そして何故にこうまでして『喫茶店』にカルアンが興奮してしまったのか――その答えこそは、
「僕ね、コーヒー大好きなの♪」
 そこにあった。
「カルアン、コーヒー好きなの?」
「うん、大好き。甘いのも苦いのも酸っぱいのも、みんな好き。おじいちゃんが好きで、僕もよく飲むんだよ」
 興奮冷めやらぬ様子でカルアンは語っていく。
 言うとおり祖父の影響からコーヒーに馴染みのあったカルアンにとって、『喫茶店』とはそれは特別なものであった。
 そもそもこの辺鄙な村においては、コーヒーを嗜む習慣自体がまず無い。もしそれを求めるならば、自分で豆を購入し、それを焙煎して
更には挽いてとそこまでしなければならないのだ。
 ゆえに気軽にコーヒーを楽しむことができる喫茶店の存在を祖父から聞かされた時には、幼カルアンも胸を高鳴らせたものであった。
 自分の手を煩わせることなく、専門家が入れたコーヒーをリラックスして楽しむことのできる場所――そんな夢にまで見た空間が、
今この村に誕生しようとしているのだ。その瞬間に立ち会えているかもしれないという興奮に、柄にもなく少年が高揚してしまうのも仕方が
ないといえた。
「へぇ〜、ここらへんじゃコーヒーってそんなに馴染みがないものなんだ? アタシがいた森じゃいつだってどこでだって飲めるものだったけど」
 そんなカルアンからの説明にようやくチャコも合点がいったという風にうなづいてみせる。
 そして何かに気付いたのか再び思惑めいた笑みを浮かべたかと思うと、
「ねぇ、コーヒー飲んでみたくない? 喫茶店のコーヒー♪」
 チャコはカルアンに顔を寄せると鹿爪ぶった様子でそんなことをささやく。
「ッ!? ほ、本当ッ!?」
 そんなチャコの言葉にカルアンが反応しないわけがない。予想通りの、否それ以上の反応で聞き返してくる様子に、更にチャコの笑顔は
明るさを増した。
「飲みたい! 喫茶店のコーヒー飲みたい。チャコのコーヒー飲みたいよッ」
 手前のイスの背もたれに両手を乗せて跳ね上がるカルアンを前に「ならば」とチャコも条件を付ける。
「じゃあ、引越しの手伝いしてもらってもいい? そしたら淹れてあげる」
 もはやそんな彼女の申し出にカルアンが断るなどするはずもなかった。
 二つ返事でそれを了解すると、カルアンはそこから飛び出してはトラックへと駆けていく。
「あらら。そうまでして張りきられるとアタシも心苦しいなあ」
 その様子に苦笑いをひとつ浮かべてチャコもそれに続くのであった。

116 :
【 2 】
 かくして二人で作業もすると、チャコの引越しは二時間とすこしばかりで終了してしまった。いかに『引越し』とはいえども、所詮は
チャコ一人分の調度と、この小さな店内に見合った什器が少しである。
 そして、イスとテーブルとが配置されたリビングの店内をカルアンは仁王立ちで見渡す。
 キッチンとを隔てるカウンターには脚長の丸椅子が四脚と、そしてリビング側には二脚の背もたれが対になったテーブルが三セット――
木目のフローリングに合わせて統一されたシックな調度の落ち着いた空間は、今までにカルアンが話に聴きそして妄想(ゆめ)に見てきた
『喫茶店』の姿まさにそれであった。
「喫茶店だぁ……」
 その眺めに瞼を蕩かせては満悦に浸るカルアン。
 そんな少年へと、
「お客さーん、お席におつきくださーい」
 背中から誰かの声。
 振り返ればそこには、いつの間にやら身に付けたスカートとも思しき前掛け(エプロン)姿のチャコ。いよいよもって本格的になってきた
そんな喫茶店の気配にカルアンの昴(たか)まりは止まるところを知らない。
「どこに座ればいいの?」
「どこでもいいよ。好きなところに座って、好きなようにくつろいで♪」
 キッチン越しにカウンターへ頬杖をつきながら応えるチャコを前に、「それでは」とカルアンもその前へ腰かける。
「コーヒー淹れるところ、見てもいい?」
「どーぞどーぞ。とはいっても、特別なことするわけじゃないから期待されるても困っちゃうけど」
 いいながらチャコは焙煎されたコーヒー豆の入ったガラス瓶を手元に引き寄せる。そこから慣れた手つきで計量スプーン2杯分の豆をすくい出すと、
それを手挽きミルのボウルの中へと放り、ハンドル根元のダイヤルつまみを捩じる。
――刃の間隔をけっこう詰めてる……細挽きだぁ。
 その行動の意味することを知るカルアンは、ただただ他人が興じる作法が面白くてたまらない。
 やがてハンドルノブに手をかけるとチャコは、「ふん」と鼻を鳴らしてその一回転目を強く扱ぎ出す。まだ豆が砕けていない最初の数回は、
重そうな手ごたえとともにゴリゴリと大きな音がミルから鳴る。しかしながらそれも最初だけ――徐々に手首のしなりが軽くなり、ハンドルの速度も
一定になる頃にはシャラシャラといった軽快な響きをミルは奏で始めた。
 そうして豆を挽き続けることしばし――手を止め小さく鼻を鳴らすと、チャコはミル本体の引き出しを開けて荒挽きしたコーヒー豆を取り出す。
 同時にその傍らにはいつの間に準備したのか綿製のネル袋がセットされた漏斗(ドリッパー)が用意されていて、その中へチャコは先の粉にした豆を
投入すると、返した引き出しの角を叩いては粉の一つ粒まで丁寧に落としていく。
「――これで一段落♪ お湯が沸くの少し待ってね。戸惑っちゃったからタイミングが合わなくて」
 そう言ってどこか恥ずかしそうに笑うチャコではあったが、それでもカルアンの眼に映る彼女の手際はそれは見事なものであった。
――おじいちゃんや僕がやってる動きとは全然違う。やっぱりすごいや……

117 :
 いかに年の近い少女とはいえ、そこはプロ。チャコの手並みにはただただ返事をするのも忘れて感心させられるばかりだ。
 しばししてチャコはコンロにかけられたポットの様子を目の端で確認すると、素早く火を消してコンロそこから引き上げる。
 その動きについカルアンもカウンターの中身を、チャコの手元を覗きこもうと背筋を伸ばす。
――沸騰させきらないで火を止めちゃった。豆も細挽きでこのお湯の温度ってことは、甘みとコクのコーヒー……ブルマンかモカ?
 ここまでのチャコの手際からそんなコーヒーの予想をして期待と、そして素人(オタク)特有の優越感に浸るカルアン。先に自分でも語ったよう、
祖父の影響から無類のコーヒー好きを自称するカルアンは、その知識にもそれなりの自信があった。
 今までにも手に入れられる範囲で様々な豆のコーヒーを飲んできたし、自分なりにブレンドを考えては、豆のひき方や湯の差し方までプロ顔負けに
研究している。――つもりである。
 だから今も、カルアンは彼女が入れるであろうコーヒーの種類を予想して一人悦に入っていたわけであったのだ。
 しかしながらそんな小僧っ子の鼻っ柱は、次の瞬間に折られることとなる。
 ゆっくりとチャコの手から傾けられたポットの湯が少量、粉の中央に細く置かれて一番香をかもしたその瞬間、それをわずかに嗅ぎ取ってカルアンは
目を丸くさせた。
「――え? な、なに? 何の匂い?」
 自分でも何を言っているのか解らなかった。彼女がコーヒーを淹れてくれていることは誰よりも理解しているはずなのに、カルアンはそれでも混乱した。
 あさはかにも答えを決め込んで構えていたカルアンを叩きのめした件の香りは、自分の良く知るコーヒーからは大きく掛け離れたものであったからだ。
――甘い……チョコレートみたい。
 その第一印象は、真っ先にそれを連想させた。
 柔らかく包み込むような甘さのそれではあるが、それでもドリップが進み更に香りが強く充満してくるとそれは徐々にコーヒーの輪郭を持ち始めるのだ。
 やがてはそんなカルアンの目の前に、
「はい。お待たせいたしました」
 白磁のカップに満たされたコーヒーが一杯、おごそかに差し出された。
 細く立ち上がる湯気の気道をふさぐようその上に顎を差し出すと、カルアンはそのコーヒーの香りを改めて鼻孔に充満させた。
――やっぱり甘い……でもすっぱさもあるような感じ。なんだろう? なんだろう……?
 その正体を見極めようと躍起になればなるほど、カルアンの頭の中の答えはぼやけていく。
 もはや香りだけでは何も分からないことを悟ると、ついにカルアンはカップを両手で持ち上げる。
 ゆっくりと口元へ運ぶカップが近づくほどにカルアンの期待と不安とは混然となって胸を高鳴らせる。今までにこんなにドキドキしたことなどなかった。
 そして運命の一口であるそれを口にふくみ、カルアンは大きく目を剥いた。
 一口目に伝わる印象は強い苦みとほのかな甘み――いかに自分の良く知る従来のコーヒー像から掛け離れた香りとはいえ、舌先に感じる味わいは
紛うかたなき『コーヒー』のそれである。
 しかしながらそんなコーヒーはカルアンが予想していた以上に深いものであった。
――ちょっとエスプレッソに似てる。だけど苦さが残らない……それどころか口に中に広がると甘くなる。
 念願の喫茶店でのコーヒーなのだ。落ち着いてそれを楽しもうと思っていたカルアンではあったが、気がつけばチャコのコーヒーに失心するあまり、
いつまでも両手に持ったカップを戻せずにいた。

118 :
 少しづつ飲み進んでいくと徐々に今度は、酸味の輪郭が浮き上がってその存在を主張してくる。そしてその酸味こそが、このコーヒーの特性であるべき
『甘み』をさらに印象付けているのだ。
 とはいえそれも、キリマンジャロのように耳の下に広がるような強い酸味ではなく、あくまでこのコーヒーの甘みに包まれたそれである。独立した味覚なのではなく、
いうなれば併存――この独特の甘みが持つ特性の一部とも言うべき酸味が、今カルアンを魅了している味わいの正体であった。
 それこそは、苦みの海原に一つ浮かぶ甘みの島……そしてそこには仄かに酸いた不思議な木の実が実っている―――そんな異世界の旅を満喫している
かのような夢想が、彼女のコーヒーを楽しむカルアンを包み込んでいた。
 そして夢からさめれば、目の間には空のカップが一つ。
 我へ返り改めてそれを確認すると、深く細くため息をついてようやくカルアンは手にしていたそれをソーサーに戻すのであった。
「んふふ。どうだったアタシの作ったコーヒーは?」
 コーヒーを入れる前と同じあの、カウンターに寄りかかり頬杖をついたチャコの笑顔を前にカルアンも口ごもる。
 今の心境を一言で言い表すならば、ただカルアンは感動していた。
 否、けっして一言などでは片づけられない様々な思いが胸に去来していたのだ。
 彼女のコーヒーに出会えたことへの感動と感謝、興奮、そして高揚――そのどれもを伝えたくて必に言葉を探すも、そのどれもが言葉にならずに
ただ想いばかりがカルアンの幼い頭の中を往来した。
 そしてようやく彼の口から紡がれた言葉は――
「すごく……美味しかったぁ」
 見栄も飾り気もない、そんなチープで素朴な言葉であった。
 しかしそれこそが、
「――えへへ♪ ありがとー」
 チャコがもっとも聞きたかった想い(ことば)であったのだ。
 しかし一度そうして想いが紡がれると、そこからは堰を切ったかのよう言葉がカルアンの口からあふれた。
「このコーヒーなぁに? 何の豆を使ってるの? 甘いのってチョコレート溶かしてるの?」
 こうなってはもはや相手のことなど慮ってなどいられない。ただ幼い好奇心は感じるがままに自己の疑問をチャコにぶつけるのであった。
 しかしながらそんなカルアンから発せられた疑問に――先程までの達成感に満ちていた笑顔(ひょうじょう)をチャコは一変させた。
『このコーヒーなぁに?』の問いをキョトンと受け止めると、あとは目を剥いたその表情のままカルアンを見つめてしまう。
 やがて、
「えっとぉ……あのさ、『コピ・ルアク』って知らない?」
 チャコはやや困惑気味に苦笑いを作ると、窺うかのようおずおずと尋ね返すのであった。
「コピ、ルアク? それが豆の名前?」
「じゃあ、『ジャコウネコ』はッ?」
「ジャコウ? ネコって猫のこと? 僕とかこの村の人はみんな三毛だよ」
「ありゃー……まいったなあ」
 ここまでのカルアンの反応を見れば彼がチャコの言う『コピ・ルアク』、しいては『ジャウコウネコ』を知らないであろうことは瞭然であった。
そしてなおも瞳を輝かせては今のコーヒーについて尋ねてくるカルアンとは対照的に困った様子のチャコ。

119 :
 やがてはしかし、
「ごめん。このコーヒーはね、企業秘密なの」
 チャコはそんな一言でカルアンの質問を一蹴した。
「どうして? 知りたいよー。だってこんなに美味しいのに」
「ごめんね、本当にごめんッ」
 憤慨するカルアンとは対照的にただチャコは申し訳なさそうに謝りながらもしかし――
「……だけどね、世の中には知らないことの方が良いってこともあるんだよ?」
「……? どういうこと?」
 意味ありげに呟くよう応える彼女の応答にただカルアンは首をひねるばかりであった。
 以降、どんなにカルアンが懇願して尋ねようとも彼女の口からあの『コピ・ルアク』に関する話は一片として話されることはなかった。
 結局はのらりくらりとはぐらかされ、当たり障りのない世間話をして夕方には帰路に就くカルアンではあった。
 夕焼けの紅――というよりはもう藍の比率が多い夜の帳の下、店から数歩を歩いてカルアンは再びそこを振り返る。
 僅かとなった斜陽を受けてきらめく円錐屋根の一軒家が、今日からチャコの喫茶店だ。
 そして立ち止り、完全に向き直ってはそれを望みカルアンも決意を新たにする。
 それこそは、
「ぜったいにあのコーヒーの秘密をつきとめてやるんだからねチャコ」
 それこそは胸の内に灯る探究の小さな炎――それを宿した今の少年の胸は躍りだしたくなるくらいに高揚して、事実そんな衝動を抑えきれなくなった
幼い体はうずうずと何度も膝を躍らせた。
 そして再び振り返りチャコの店へ背を向けると、カルアンは走り出す。
 今日という日があまりにも素晴らしくて、ついには居ても立ってもいられなくなった。
「誰かに話したい! すごく素敵なお店ができたんだ! すごく素敵なコーヒーが飲めるんだー!」
 ついには歌うよう叫び出して夕暮れの帰路を駆ける。
 少女チャコとそしてコピ・ルアクとの出会い――カルアンの物語が今、ゆっくりと動き出した。



120 :
つつつつついにきた! 待望のS(略)コーヒー!

121 :
うおおおおおお! ずっと待ってました!
このタイミングで投下して頂けるとは、なんとお礼を言ってよいやら…
心から感謝しつつ、拝読させていただきます! ありがとうございました!

122 :
(CM)
私の初恋の相手が入れてくれた始めてのコーヒー
それはコピ・ルアクで、私は10才でした。
その味は苦くてスウィーティーで、こんな素晴らしいコーヒーをもらえる私は、
きっと特別な存在なのだと感じました。
今では、私もおじいさん。孫娘にあげるのはもちろんヴェルタースオリジナル。
なぜなら、彼女もまた、特別な存在だからです。

123 :
>>122
何から作られているのか知っての発言か

124 :
>>123
S(略)コーヒー投下でテンションが上がってしまった。すまん。
ヴェルタースオリジナルは『コーヒーの実』の隠語ってことでよろ。

125 :
>>124
マジか!?
単なる商品名(あるいは関係者の名前)か何かだと思ってた

126 :
>>125
いや、単なる商品名だからw

127 :
[獣化]人間が人外に変身しちゃうスレ24[異形]
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1350565477/
関連スレの一つが新しくなったのでご報告まで

128 :
少しにぎやかになってきて嬉しい今日この頃

129 :
これも全て>>111さんのおかげです!

130 :
>>111
カルアンチャコ、面白いです!
続きがとても気になります。おかわり、期待してます

触発されて、土日丸ごと潰してルルカの続き、書き上げました。
何か空気読めてないみたいな感じになって申し訳ないですが、
こちらも早めに終わらせられるようにしたいと思います。
注意事項はいつもの >>39 を参照。


131 :
     【9】 −ありがとう、そして−
 決壊したダム──獺の水瓶から溢れた水はシエドラに押し寄せ、街を飲み込んだ。濁流は、肉食獣
が鋭い爪で獲物の体を抉るように、シェス地区にある石の建物の中腹を削っていた。
 足元の石のタイルが、建物に叩き付ける水に揺さ振られ、ぶるぶると震える。救助のために建物の
屋上まで泳ぎ着いたルルカは、呆然と立ち竦む。怖じ気づいたわけではない。思わぬ人物との再会に、
体が硬直して動かない。
 時間が無いのに──。
 逃げ出し寄り添う人たちの中から一人、ルルカの前に歩み出たのは、美しい原色の糸が織り込まれ
た布を纏った女性だった。厚い雲の下の夕闇ほどの暗さの中でも、はっきりと分かるその衣装に、
ルルカは見覚えがある。その衣装が霞むほどに美しい、赤い毛並の狐族の女性は、馴鹿族の宿へ向か
う道中でルルカに惨めな思いをさせたあの人物だ。
 どんな相手であっても、助けなければ……。そう思うルルカであったが、いざ言葉を掛けようとし
ても、声が出なかった。彼女にまた侮蔑の目を向けられるのではないかという恐れが心の中にあった。
ルルカはあのときと同じ、全裸に鎖の垂れた胸環と、下腹部の焼き印の痕も露わな姿で立っているの
だ。
 互いに身を硬くして見詰め合い、互いに掛ける言葉が見付からないもどかしさを抱える。そんな均
衡を先に崩したのは、狐族の女性の方だった。
「何故、あなたがここに──?」
 その問いに救われたような面持ちで「助けにきました」と答えるルルカに、女性は「違うの」と首
を振った。
「そういう意味で言ったんじゃなくて……」
 女性は膝をつき、ルルカの足元に顔を伏せて、わあっと泣き始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……。
 あなたには酷いことを言ってしまった。
 言葉が通じるなんて、知らなかったから──」
 緊張が一気に緩んだ。ルルカの心の中に有ったわだかまりも、あっさりと消え去っていく。
「そのことは……、もういいのに」
 ルルカも四つ足になって狐族の女性と顔を向き合わせ、泣かないでと言った。
「それより、急がないと」
「そうね。皆はあなたの姿を見て、獺が復讐に来たんじゃないかって言ってる。
 水に引き込まれてされるんじゃないか、って」
「そんなこと……」
 ルルカの呼び掛けに誰も答えなかったのは、そんな誤解からだったとは。ルルカは胸環にしっかり
と固定された鎖を見せ、自分がウォレンの指示で行動していること、ルルカが復讐などせずとも、あ
とわずかの時間でこの建物が粉々に砕けてしまうであろうことを必に訴えた。
「うん、分かってる。あなたがそんなことをするはずがない。
 だって……、私は知ってるの。言葉を話せる獺がどうなるか──」
 そう言われて、ルルカもはっと息を飲んだ。気持ちの高揚で意識の外に追いやっていたの恐怖が
甦る。ルルカは忘れようと頭を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。彼女らを助けら
れなければ、ルルカの決意は無駄になってしまう。
「私たちは皆、獺族に酷いことをしてきたのに」
「いいの。私もシエドラの一員なんだって、思えるようになったから」


132 :
 もう一度、時間が無いことを告げると、女性は自分が皆を説得すると言い、屋上に逃げている人た
ちをルルカの前に連れてきた。シェス地区を歩いたあの日、ルルカの頭を撫でた豹族の少年とその母
親、白髪が混じって全身が灰色になった黒豹族の老夫婦、角の先がすり減ったアンテロープの老夫婦、
そして年長のクズリ族の少年。全部で八人。
 ルルカは、ウォレンに言われている通り、女性と子供を優先して助けること、水を吸って重くなる
衣服は全て脱いでもらうことを伝えた。状況は十分に分かっているはずなのに、それでも皆、顔を見
合わせ、躊躇している。ルルカが泳いで来たといっても、轟音を立てて目の前を流れる水に飛び込ん
で本当に助かるのか、保証は無いのだ。
「ほら、みんな、彼女を困らせないで」
 焦るルルカの目の前で、狐族の女性が衣服を脱ぎ始めた。美しい裸身が露わになる。薄い赤茶色の
毛とはっきり境目の分かれた純白の腹部。雨水を吸う前のふわっとした豊かな胸毛とそのすぐ下にあ
る形の良い乳房に、ルルカは目を奪われた。
「きれい……」
 すっかり衣装を脱ぎ捨てた狐族の女性は、ルルカの頬を撫でてにっこりと笑う。
「あなたの体だって素敵よ。男たちが夢中になるのも分かる。
 そうね、私は獺たちに嫉妬を感じていたのかもしれない……」
 この後、どうすればいいのと彼女はルルカに問う。
「私を抱いて、二人の体に鎖を一周させたら強く握って」
 ルルカと狐族の女性は向き合って立った。背丈はやはり二倍近くの差があるが、獺族の特徴である
短い手足を除けば、胴の長さはそれほど大きく違わない。女性に抱き付くように手を伸ばしたルルカ
は、彼女の体が小さく震えていることに気付いた。
「お腹に子供がいるの。にたくない……」
 ルルカにだけ聞こえる声で、彼女は言った。
(子供──?)
 ルルカは体の芯が熱くなるのを感じた。手を伸ばして、女性の真っ白なお腹にそっと当てた。狐族
の美しい白い腹部が、少し膨らんでいる。
(ここに、新しい命が……)
 母からオトナの衣装をもらったあの日、感銘を受けた命の連鎖の具象が、今、目の前にある。その
ことにルルカの心は震えた。何があっても、これを絶やしてはいけないと思った。この命を救うこと
で、生命の連鎖の中に自分も身を置くことができる。自身は決して新たな命を宿すことの無い体だと
しても──。
(守らなきゃ……)
 そうすることで、ルルカはずっと憧れていた、生命の誕生の神秘に触れることができるような気が
した。
「必ず助けるから。私を信じて。私と……、ウォレンを!」
 鎖を三度、引いて合図を送ると、ルルカは女性と一緒に濁流へ身を投げ出した。
 戻るときはウォレンたちに引いてもらうだけといえばそうなのであるが、ルルカは水の流れを感じ、
なるべく抵抗を受けないよう尾で舵を取った。
 互いに強く抱き合い、ルルカの胸は狐の女性の胸に押し付けられていた。
(何で女性にはおっぱいがあるんだろう──?)
 命がかかってる場面だというのに、そんなことを考えている自分がおかしかった。陸上ではただ水
の気配を感じるくらいだった獺族の長いヒゲにも役割があった。女性の乳房が膨らんでいるのにも、
意味があるのだろう。乳首や股間の突起が敏感なのもきっと、そんな風に体が作られているからに違
いない。
 この世に意味が無いものなんてない。自分のこの命も、きっと──。
 そんなことを考えているうちに、気付けばウォレンの大きな腕がルルカと狐族の女性を引き上げて
いた。
「よくやった、ルルカ。あと何人居る?」
「残り七人だよ、任せて」
 ルルカの顎の下から掻き上げるように手を差し出し、ざっと撫でてくれるウォレンの大きな手の平
に頭を擦り付け、ルルカは再び、走り出す。


133 :
 子供を先に、というウォレンの言葉を伝えるルルカに、自分は遠くまで行けない者たちを援助する
ために残ったのだから最後でいいと言い張って聞かないクズリ族の少年を見て、嬉しくなる。異種族
同士が支え合うのがシエドラの流儀なら、自分もその一員になれると思った。
 いよいよ、その最後のクズリ族の少年の番になった。彼はルルカを前にして落ち着かない様子で顔
を逸らす。
「どうしたの? 怖い?」
 思春期のクズリの少年は、裸のルルカを抱くのが恥ずかしくて堪らないのだ。そのことに気付いた
ルルカは、優しい気持ちになって、ふふっと笑った。
「行くよ……」
 ルルカと少年が引き上げられた直後、背後で大きな音が響いた。側面を削り尽くされた建物は、
粉々に砕け、濁った水に沈み、押し流されていった。
(そうだ、ウォレンは……?)
 崩れる建物を呆然と眺めていたルルカは、救助した人たちを安全な場所へ運んで行ったと思われる
ウォレンの姿を探した。いつの間にか胸環の鎖が外されている。自由に歩いてもいいのだろうか?
 歩を進めようとしたルルカは、地面がぐらぐらと揺れているような感覚に囚われた。今居る建物が
揺れているのではない。足元が覚束ないのだ。数歩、ふらふらと歩いて、ルルカはぺたんと尻餅をつ
いた。
(体に力が入らない……)
 ほっと一息をついたと同時に、ルルカの身に疲労感が押し寄せていた。いくら水の中で暮らしてい
た種族の末裔とはいえ、激しい濁流の中を何度も泳いだのだ。限度を超えて酷使した肉体が悲鳴を上
げていた。鎖を掴み続けた指にもほとんど感覚が無かった。
 シェス地区を囲む高い建物の屋上は水流の中に浮かぶ島のようになっていた。そこに、騒ぎを聞き
つけた人々が集まってきている。雨は気付かぬうちに止んでいた。街の路地という路地を満杯に満た
している水も、じきに引くだろう。ルルカの居る建物の広い屋上に、木のやぐらが組まれ、暖を取る
ために火が点けられた。
 人と人の隙間に、ウォレンの姿が見えた。狼族の一人が、ウォレンに赤い上着を手渡そうとしてい
る。ウォレンは手を振って、このままがいいと言っているようだ。衣装の色は、狼族の階級を示すも
のだった。おそらくあの赤い衣装は、強い信頼を受ける地位にあるごく少数の者にだけ与えられるの
だろう。ウォレンは、自分の想像以上に素敵な男性だった。そのことが嬉しい。
『(ウォレン……、好きだよ)』
 思わず顔が熱くなるような恥ずかしい言葉。本人にはもちろんのこと、誰にも聞こえないように小
さな声で、それも獺語で呟くつもりだったのに、ルルカの口からは音が出ていなかった。
(あれ……?)
 こんなにも疲れてたんだ──。
 仰向けになって空を見上げる。手足をだらりと開いて、ルルカはしまったと思った。疲れた体は、
もう休ませてくれとでも言いたげに、ルルカの意思を拒絶する。しばらくこのままで回復を待たねば、
起き上がることすらできそうになかった。
 手足の感覚が無くなってくる。毒針を打たれたときの痺れるような感じとは違う。牝獺の体にいず
れ訪れるという硬直が起これば、こんな風になるのだろうか。ルルカは突然、不安に包まれた。そし
て、その不安は別の形で現実のものとなるのだった。


134 :
(ウォレン……?)
 気配を感じた。それは確かに想いを寄せる狼のものだ。彼が、仰向けになったまま動けないルルカ
の尾の近くに膝を突き、見下ろしているのが、毛皮の擦れる音で分かる。労いの言葉くらいは掛けて
もらえるだろうと期待したルルカは、ウォレンがいつまで経っても口を開こうとしないことを不審に
思う。不安になって動かない頭を必で持ち上げたルルカは、目に飛び込んできたものに驚いた。心
臓が破裂しそうなくらいに脈を打ち始める。
(ウォレン、どうして……!?)
 ウォレンは股間をはだけ、狼族特有の巨大なペニスを露出させていた。両腕でルルカの足を抱え、
引き寄せる。そして自由の利かないルルカの体に、その肉の槍をいきなり突き立てた。
 ルルカの喉から、ぐうっと押し潰されるような音が出る。連日の雨でほとんど犯されることのなかっ
た膣は締まりを取り戻しており、引き攣るような痛みが走った。子宮の入り口まであっさり到達した
ペニスの先端は、そのまま躊躇なく女性の象徴である器官を貫いた。胃を突き上げる衝撃がルルカを
襲う。ずっとルルカが望んでいたものが与えられようとしているのに、何かがおかしいと思った。
(どうして? どうして──?)
 何故、ウォレンは今ここでルルカを犯さなければならないのか?
 パチパチという薪の弾ける音が、ルルカの記憶を呼び覚ました。大きな火やぐらの前で裸にされ、
衆人環視の中、犯される自分──。これはあの断罪の儀式そのものだ。
 これは見せしめなのだ。大勢の前で、牝獺に立場を思い知らせるための。
 間違いない。最後の審判が下されたのだ。それも、ルルカが慕ってやまないウォレンの決断によっ
て──。
 ルルカの体の奥までペニスを突き入れ、ウォレンはゆっくりと腰を揺すった。ペニスの根本が大き
く球のように膨らんでくる。ルルカの体は狼の股間に繋ぎ止められてしまった。
(どうして?
 何をしようとしているの?
 ウォレン、答えて──)
 必で訴えようにも、声が出なかった。
 動きを止めたウォレンはルルカを抱きかかえた。体を抱え起こされ、ルルカの小さな頭は仰け反る。
周囲の様子が逆さまになった視界に映る。遠巻きにして見守るシエドラの住人たち。すぐ傍に立つ、
数人の豹族と狼族の男たち──。
 獺槍を手にした豹族の男が言った。
「ウォレン殿、体を起こして牝獺の腹をこちらへ向けて下さい。
 そのままでは処置ができません──」
 水に浮かんだ島のようになった建物の屋上の一つで何かが行われようとしていることに気付き、
人々が集まり始めた。ルルカたちを遠巻きに囲い、人垣ができる。仰向けになって狼にペニスを突き
込まれている牝獣が、逃げ遅れた人たちを救った獺であることに、誰もが気付いていた。彼女が公用
語を話せるという噂も、もう人づてに広まっていた。狼族と豹族が牝獺を取り囲む様子を見て、人々
はもう一つの断罪の儀式が行われようとしていることに気付いた。
 多くの人は知らない、ゆえに固唾を飲んで見守った。この世界に居てはいけない、言葉の通じる獺
がどういう処遇を受けるのか。その末路は──?


135 :
 ウォレンの行為に動揺していたルルカは、豹族の言葉を聞いて自分の置かれた状況をはっきりと
悟った。悲しいほど冷静に、これからその身に起こる出来事を想像する。ウォレンはペニスを挿入し
たまま、ルルカの体を半回転させ、抱え起こすだろう。かつての儀式のとき、惨めな牝獺の姿を観衆
に晒すためにそうしたように。
 "加工"を施されるとき、十字架に磔にされるというのはルルカの想像に過ぎなかった。実際にはこ
んな風に犯され、性奴隷の身分であることを噛み締めさせられながら処置を受けるのがシエドラの牝
獺の定めなのかもしれない。ルルカのまぶたに、ミルカの姿が浮かんだ。あの青い衣装の狼に犯され
ながら、乳首と股間の突起に金属の装飾を施されていくミルカの姿が。
(ミルカ、私もあなたと同じ姿になるよ……)
 言葉を話せる獺に対してだけ、このような形が取られるのかもしれないが、そのことはルルカに
とってどうでもよかった。自分とそっくりな牝獺の存在が、ルルカの想像を鮮明なものにしていた。
 先ず、最初に喉に毒針が打たれ、声帯が潰される。そうなれば、もうウォレンの名前を呼ぶことも
できなくなる。ルルカは最後にその名を口にしようとしたが、疲れ切った喉からは、微かに空気が漏
れるだけだった。
 声を奪われた後は、敏感な部分への施術が行われる。乳首が先だろうか、陰核が先だろうか。いず
れにしても、これまで感じたことのない恐ろしい痛みが三度、ルルカの身を襲うのだ。
 怖い──。
 ルルカは目を閉じる。こうなることはルルカにも分かっていたはずだ。受け入れなければならない。
これがシエドラに生きる牝獺の定めであり、何よりウォレンの決断なのだから。
 当のウォレンは、ルルカの子宮の奥にペニスの先端を強く押し付けたまま、身動きを止めていた。
狼族のペニスは、多くの種族の中でもその大きさと形状で牝獺の体を完全に固定してしまうのに都合
がいい。この役目はウォレンでなくともよかったのだろう。だが、ウォレンは自らその役目を買って
出た。
 ウォレンの決断はルルカにとってあまりにも残酷だ。長く待ち焦がれた狼との交尾に、本来であれ
ばルルカは歓喜に包まれてもおかしくなかった。事実、肉体は無意識に反応し、ウォレンを包む膣の
粘膜はねっとりとした液体を染み出させている。そのことが一層、ルルカの胸を締め付けた。
(ウォレン、まだ射精はしないの?)
 いつもの交尾とは違って、ただルルカを貫くだけのウォレンの態度が物語っている。これは、ルルカ
に身分を思い知らせるための行為なのだ。身分を──。
「ウォレン殿……」
 豹族の男が、再びウォレンに催促する。無言のままのウォレンに痺れを切らしたように、無数の手
がルルカの体に伸びた。荒々しくルルカの灰褐色の毛皮の上を這い回る手が、ぱっくりと口を開いた
性器を模した焼き印の痕を擦り、ウォレンと結合している部分へ潜り込んでくる。男の指が、ルルカ
の陰核の大きさを確かめる。陰核の根本をほどよく締め付けるサイズの金属プレートを選ぶためだ。
ウォレンに貫かれ、数日振りの性の刺激に反応した体はルルカの意思とは独立した生き物であるかの
ように激しい興奮状態にあった。摘まれ、容赦の無い刺激に痛みを感じる陰核は、膨れ上がり、赤い
宝石のようになっているだろう。乳首も捏ね回されるようにして大きさが確かめられる。
 ルルカは呻いた。
(いよいよだ……)
 力なく横倒しになった顔が、ルルカを囲む群衆の方を向いていた。そっと目を開けたルルカの瞳に、
色とりどりの衣装を着たシエドラの住人の姿が映る。ルルカは自分が助けた人たちの姿を探したが、
見当たらなかった。せめて、彼らの無事を確かめておきたかったのに……。
 涙が次から次へと溢れ出してくる。
(覚悟をしていたことなのに……。
 見返りを求めたわけではないのに……。
 どうして、涙が止まらないんだろう──)
「ウォレン殿、準備はできています。そろそろ……」
 豹族の言葉が耳に届いたそのとき、ルルカはお腹の中まで揺さ振るような強い地響きを感じた。洪
水が生んだ濁流が、残った建物までも飲み込もうとしているのではないかと思った。


136 :
 体がふっと宙に浮いて、ルルカは今居る建物の天井が崩れたのかと思ったが、そうではなかった。
ウォレンがルルカを強く抱きかかえていた。
「ウォ……レン……?」
 ルルカのお腹の中にまで響いてくるのは、太古の野生獣の怒りそのもののようなウォレンの唸り声
だった。
「触るな!」
 首筋から背中にかけての毛の塊をこれまでにないほど激しく逆立て、ウォレンが叫んだ。
 ウォレンの剣幕に気圧され、ルルカを囲んでいた男たちが飛び退くように数歩、下がる。何が起き
たのか理解できない顔で、牝獺と狼の姿を眺める。戸惑っているのはルルカも同じだ。
「この牝獺に触るな。今、この娘に触れていいのは俺だけだ!」
 ウォレンが再び怒声を上げると、シエドラの治安を任された最高位のこの狼が本気で怒っているこ
とに畏れを感じた者たちは、取り囲む群衆の前まで後ずさった。獺槍を持っていた豹族の男は、思わ
ず落とした槍を拾おうともせず、おずおずと距離を取る。
 誰も近寄らないように周囲をひと睨みしたウォレンは背を曲げ、ルルカの小さな顔に鼻先を寄せた。
「すまない、またお前を怖がらせてしまった」
(えっ……?)
 どういうこと──?
 ウォレンの行動が示すのは、彼が今ここでルルカを裁く気はないということだ。言葉を話す牝獺を
処分しようとした者たちを、ウォレンは退けた。では、何故、ウォレンはこうしてルルカの体を貫い
ているのか。
「じゃあ、どうして……」
 ルルカは、声が出せることに気付いた。体力が少しずつ、回復してきている。ルルカはウォレンの
行為の意味を問いただした。断罪が目的で無いのなら、何故、皆の前でルルカを犯す必要があるのか。
「それは、お前が……、可愛いから……」
「えっ?」
 小声で答えたウォレンの言葉に、ルルカは戸惑う。
「お前だって、分かっているんだろう?
 これが、本来は好きな者同士がする行為だってこと──」
「え──、うん……」
 反射的に答えたルルカの頭の中は混乱していた。初めて見る、ウォレンの恥ずかしそうな表情。い
つも分からなかった狼族の表情が、何故だか見て取れる。無機質な響きの公用語に載せられた強い感
情の起伏が、今のルルカにははっきりと聞き取れる。
 好きな者同士が──、する行為──?
 ウォレンの言葉の意味を理解したルルカは、顔がかあっと熱くなるのを感じた。
(つまり、ウォレンが私のことを……?)
 突然のことにどういう反応をしていいか分からないまま呆然とするルルカを、ウォレンはさらに強
く抱き締めた。
「俺はあの儀式のとき、お前が他の牝獺を庇ったのを見た。
 毒針を打てと腕を差し出したのを見た。
 お前は──、
 素晴らしい女性だ。いや、獺族ってのは皆、そうなんだろう。
 獺が俺たちと変わらない心を持っているなど、誰も思っちゃいなかった。
 考えれば分かりそうなことなのにな。
 それでも、古くから続く慣習に逆らう道理が無かったんだ。
 お前が言葉を話せると知ったとき、俺は思った。
 お前なら、有事の際に獺たちを統率できる。俺の指示を伝えられる。
 だから、何度も街を連れ回した。
 その期待に、お前は応えてくれた。いや、それ以上に……」


137 :
「俺は──」
 ウォレンは体を起こし、今度はルルカにではなく、取り巻く人々に呼び掛ける。
「シエドラ周辺の獺族の史跡を調べている。
 そこに、彼らと共存する道が示されていると思うからだ。
 この牝獺は、シエドラの仲間を洪水から救ってくれた。
 それでもお前たちがこの娘を許さないというのなら、
 言葉を話す獺の存在が認められないというのなら……」
 ウォレンは大きな胸にいっぱいの空気を吸い込むと、ひときわ大きな声で宣言した。
「今ここで、俺の体ごと、この娘を槍で貫くがいい。
 こいつを一人だけ、なせたりはしない──」
 人々の間に動揺が走るのが、空気を伝ってルルカにも感じられた。誰もが耳を疑いながらも、かね
てより信頼してやまないウォレンに逆らうことできずにいた。ただ、無言で立ち尽くすばかりだ。
「これでしばらくは邪魔をするものは居ないだろう」
 ウォレンが気を回すまでもなく、すでにルルカは周囲の様子を意識していなかった。自分を抱く狼
のことしか目に入らなくなっていた。
(ウォレンが私を──? そんな、まさか……)
 今、耳にしていることは、夢なのではないだろうかと思った。
 観衆たちと同じようにウォレンの宣告に戸惑うルルカの頭をゆっくりと撫で、彼は優しい声でルルカ
に語りかける。
「星を見に行ったときのことを覚えているか?」
 ルルカはどきっとする。異種族との交尾の中で初めて感じた淡い快楽を思い出した。
「シエドラの街並みを見下ろすお前の横顔があまりにも可愛くて、
 俺は欲望を抑えられなかった。
 体を重ねる度にお前のことが好きになった。
 広場に繋がれたお前を、なせたくないと思った。
 だから、何度も連れ出した。
 狼族との交尾なら、お前は体を休めることができるからな……」
(うん、知ってたよ……)
 ルルカは、ウォレンが今こうしていることの理由に気付いた。ウォレンの口からもはっきりと聞い
た。彼が自分を好きなのだと──。
 こんな状況なのに自分を抱きたいと思ってくれたこと、それは嬉しいことのはずだ。
 嬉しい──?
 意識したとたんに体が熱くなる。そう、嬉しい。本当に。
(私だって、ウォレンのことが好きだから)
 あまりの嬉しさに涙が溢れてくる。ルルカは改めて、膣の入り口から子宮の奥までしっかりと満た
し、小さく震えるように脈動するウォレンの分身をはっきりと体内に感じ、熱を帯び始めた性器で優
しく締め付けた。
「ずっと守ってくれてたんだね、ウォレン。
 ありがとう」
 本当は気付いてた。だけど、自分は獺だからと否定し続けていた。
 お礼を言わなければと思っていた。
 やっと言えたよ──。


138 :
 顔を見上げようとして身を捩るルルカに気付き、ウォレンが腕を伸ばすと、その手に体を預けてい
たルルカは、彼の豊かな毛に包まれた大きな胸に向き合う姿勢になった。すでに乾き始め、ふかふか
になった灰色の被毛。体が動く。疲れが徐々に癒えてきている。ルルカは思わずウォレンの胸に手を
伸ばそうとして、引っ込めた。憧れていた彼の毛並。しかし、シエドラの牝獺は、交尾をしている相
手の体に触れてはならないという掟が、ルルカを躊躇わせる。
「どうした?」
 ウォレンが優しく問いかける。
「触っても……、いいの?」
「ああ、触っていいんだ」
 言われるままに、ルルカは手を伸ばし、柔らかい綿のような毛にてのひらを埋める。そして自分か
ら、ウォレンの体にぎゅっと抱き付いた。ルルカは、初めてのときに一度だけ、こうしてウォレンに
抱き付いたことがあったのを思い出す。あのときと違って、彼の体に爪を突き立てることはなかった。
優しく体を支えてもらっているのだ。
 ウォレンは少し腰を浮かすと、狼族特有のブラシのような尻尾を巻き込んで、ルルカのお尻をそっ
と包んだ。ウォレンの尾に、ルルカは自分の尻尾を絡ませる。
「こんな風にお前と交尾をしてみたいと思ってた」
「私も……」
 ルルカはウォレンの長い胸の毛に指先を絡めた。同時に、ウォレンの射精が始まる。お腹の奥を優
しく叩くような脈動にルルカはうっとりとする。異種族の自分の体に精を注ぎ込んでくれることが嬉
しくて堪らない。
「ウォレン、ありがとう。こんな私に……」
 ルルカの中に強い感情が渦巻く。
(ありがとう、うれしい、気持ちいい、好き……、大好き、そして──)
 胸の奥から言葉が込み上げてくる。きっとこのときのために、母がルルカに教えてくれたのだと思
う。一番大切な感情を表す言葉、それをウォレンに言いたくて堪らない。
「ウォレン──、愛してる」
 小さな獺からの大きな告白に、狼は間髪を入れず、応える。
「俺もだ」
 ウォレンはそう言って、愛しい牝の獺に顔を寄せる。
 二頭の獣は、そうすることが自然であるように、互いの口を近付けた。
 舌と舌がそっと触れる。温かい感触と、ぞくぞくするような快感が体を貫く。
 教わらなくても分かる。その言葉が、こうして体を合わせ繋がること──交尾という行為そのもの
を表す言葉を兼ねていること。
 ルルカとウォレンは、初めて本当に愛し合っていた。
(気持ちいい……。ウォレン……)
 ルルカはウォレンの体にゆっくり腰を押し付け、ときおりぶるっと体を震わせた。街の男たちを喜
ばそうとしていたときのように、ウォレンのペニスを刺激する。ただ、それはルルカが意図的にやろ
うとしているのではなく、体が勝手に動いてしまうのだ。股間の突起がウォレンの体に触れると、痺
れるような快感が体中に広がる。久し振りに感じる、交尾の歓喜。ウォレンとの交尾の中でだけ感じ
ていたそれは、いつもよりずっと激しくルルカを突き動かす。
 いつだったか獺の窯牢の中で予感した、快楽の先にあるもっと強い感覚がすぐ近くに、手の届きそ
うなところにあるような気がした。ルルカはウォレンに抱き付いたまま、激しく喘いだ。その感覚に
どうしたら辿り着けるのか分からない。もどかしさがルルカを包む。ウォレンはそんなルルカの様子
に気付いたようだった。
「どうした、ルルカ? イッてもいいんだぞ」
「……行くって? どこへ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
 生まれてから一度も性感の極みを迎えたことのないルルカには、ウォレンの言葉が何を意味してい
るのか分からないのだ。


139 :
「そうだ、これはお前に失礼だったな」
 ウォレンはそう言って、腰を宙に浮かすと、下半身を纏う衣装を器用に脱ぎ捨てる。
「え……?」
「これで、同じ姿だ」
 ルルカはウォレンと体が繋がっているあたりに目を落として、ドキッとした。二人は完全な裸で抱
き合っている……。ウォレンが伝えたいことが分かって、ルルカの胸は熱くなった。これまで恐ろし
いと思っていた、獺族の自分よりもずっと大きな異種族の体。今は怖いと思わない。愛されているこ
とを知った今では、その大きな体格の力強さと優しさに、ただ惹かれた。
 そしてウォレンは、こんな獺の自分と対等だと言ってくれているのだ。
 嬉しい──。
 ルルカは、おねだりをするように腰を揺さ振った。人目を憚らず、小鳥のような可愛らしい獺の声
で喘いだ。
「ああ、ウォレン、私……、恥ずかしい……」
 でも、昇り詰めたい。そのためにどうしていいのか分からない。
「恥ずかしがることなんてない。
 お前の体は、喜びを感じるようにできているのだから──」
 そのウォレンの言葉が合図になったかのように、「それ」はルルカの体の奥から湧き起った。股間
の突起に感じていた快感が油を注がれた火のように強くなり、そのまま全身に広がっていく。頭の先
から足の先、尻尾の先端まで強い感覚に包まれ、頭が真っ白になる。ルルカの性器はすでに奥まで押
し込められたウォレンの体をさらに深く迎え入れようと、脈動する。
(ああ、ウォレン、ウォレン……)
 背中を仰け反らせ、尾をぴんと張り詰めたルルカは、そのまま気を失ったかと思った。実際にはほ
んの短い時間、あまりに強い快感に我を忘れていたようだ。涙が次々に溢れ出た。嬉しくて堪らない。
全身が喜びに満ち溢れている。やっと感じることができた、快楽の先にあるその強い感覚。これが
ウォレンの言う「イク」ということなのだろう。一人では得られなかった。ウォレンと二人で初めて、
到達できた。二人だから──。
 意識が戻った後も、まだびくびくと痙攣を続けているルルカの性器に刺激されているのか、ウォレン
が吐き出す精液も、いつもよりずっと激しいように感じる。
(ウォレンも気持ちいいの? 嬉しいよ……)
 そう思った次の瞬間には、ルルカは再び絶頂を迎えていた。快楽の波が過ぎ去ると、ルルカは
ウォレンが変わらず優しく抱き続けてくれていることに気付く。その手の温もりを感じて、またルルカ
は身を仰け反らせる。ウォレンの手が、ルルカの頭をそっと包む。慈しむように背中を優しく掻く。
滑らかな尾を、楽器を奏でるように撫でる。その度に、ルルカは何度も何度も絶頂を迎えるのだった。
 長い交尾の時間が終盤に近付く頃、狼族の長い射精を体に受け続け、すでに体力を消耗していた
ルルカは、息も絶え絶えな様相でウォレンにしがみ付いていた。腕の中で小さく身を震わせるルルカ
を優しく抱きながら、ウォレンは最後の前立腺液をルルカの体の奥に流し込んだ。
 ウォレンが肩を喘がせるルルカの体をそっと降ろして立たせると、二人を取り囲む群衆の中から、
拍手が起こった。小さな拍手の音は連鎖をするように広がり、やがて周囲を包む大音響となる。その
音が鳴りやむまでルルカは呆然と立ち尽くしていた。
「ウォレン、これって……」
「まあ、落ち着くところに落ち着いた、という感じだな」
「それじゃあ、ウォレンはこうなることが分かってて……?」
「最悪の結果だってあり得たさ。覚悟はしていた。
 誰も、自分の中の常識を覆すには相当な勇気が要るものだからな」
 ジエルも言っていた。シエドラの住人を縛っているのは、古くからの慣習だと。ルルカもその呪縛
に囚われていた。狼が獺を好きになるはずが無いと。ウォレンが自分に好意を寄せているかもしれな
いことなど、想像もしなかったのだから。
 今はとても素直な気持ちで言える。誰にも憚ることはない。この獺と狼が互いを好きであるという
こと。愛し合っているということを──。
 ルルカは自分の股間に手を当て、膣の入り口がしっかりと閉じて、ウォレンの精液を一滴も漏らさ
ず体内に留めていることを確認して、また嬉しくなった。このまま、彼の流し込んでくれた愛の証は、
自分の体に染み渡り、同化していく。そのことが無性に嬉しかった。


140 :
「ウォレン殿、族長がお呼びです」
 灰色服の狼族の男がまた、ウォレンの正装である赤い衣装を差し出している。ルルカが、ウォレン
の精液によって大きく膨らまされた自分のお腹を見詰め、想いに耽っている間に、ウォレンはズボン
を身に着けていた。ただ、上半身はいつもの通り、自慢の毛並を露出させたままだ。
「ウォレン殿……、お願いですから、族長の前では上着を着てください……」
 そう言いながら、狼族の男はルルカにちらちらと視線を送っては、気まずそうに目を逸らす。
(え……、そうだ。私は裸で──)
 ルルカは慌てて尻尾を股の間から巻き込むと、股間と胸をしっかり隠して体を丸めた。もう自分は
性の玩具などではなく、シエドラの人間として扱われているのだと意識した途端、裸で居ることが恥
ずかしくなった。
 ウォレンが男の手から赤い上着を受け取り、呆気にとられる男を横目に、それをルルカに着せる。
「ウォレン、これ……」
「似合ってるぞ」
 袖の無いその衣装はルルカの体を首から足元までしっかり包むサイズだ。
「お前たちも皆、服を脱げ」
 ウォレンは近くの狼族に命令する。
「ジルフの所へ行って、獺の娘たちにその服を着せてやるんだ」
 男たちはウォレンの指示に素直に従い、走り去っていく。
 一人、残ったのは、青い衣装を着けた狼だ。それはルルカもよく知った顔だ。
「ウォレン、お前ってやつは……」
「ユアンか、お前の分も代弁してやったぞ」
「それは……」
 ユアンと呼ばれた青い服の狼は、ウォレンの言葉を聞いて目を見開いた。そして、ルルカに視線を
投げかける。何かを言いたげな目で、口をぱくぱくさせる。
(この人は……、もしかして?)
 会話の調子から、二人が親しい関係であることが分かる。そして、似た者同士であることも想像が
付いた。
「気付かないと思ったか? いや、この物言いはおかしいな。
 気付かれてはいけなかった。
 狼が獺を庇っているなんてことが知れたら、俺たちだけじゃなく、
 相手の獺の娘にも制裁が及ぶだろう。
 だから、本当は好きで堪らない相手に辛い思いもさせてきた。
 俺も、お前も。
 同じ隠し事をしている者だけに分かる匂い、ってことさ」
「俺はどうしたら……」
「高台であの娘が待っているぞ。早く行ってやれ。
 そして、あの忌まわしいリングを外してやるんだ」
「あ、ああ……」
 走り去ろうとするユアンの背中に、ルルカは声をかける。
「あの娘は"ミルカ"っていうの。
 名前を呼んであげて──」
 ミルカは公用語で自分の名前がどういう発音になるのか知らない。それでも、きっと伝わるはずだ。
(だって、ミルカにとってもあの狼は……)


141 :
 ユアンの後ろ姿を見送ったルルカは、ふと不安になった。
 これからどうしよう──?
 ずっと繋がれていたルルカには、この先どうやってシエドラで暮らしていくのか、まだ想像が付か
ない。ウォレンと顔を見合わせる。ウォレンは服の上から、ルルカの胸に手を当てる。
「お前がいつも乳房の形が崩れるのを気にしていたのは知っている。
 いずれ、この環も外してやりたいな。
 もっとも、俺たちが赦された先の話だが」
「赦される?」
「まだ俺たちは命を長らえたってだけだ。
 これから獺族がどうなるか。俺の処分がどうなるか。
 全て、族長が判断することだ。それが狼族の規律なんだ。
 他の国や民族との協定の問題もある。シエドラだけの話に留まらない。
 前途多難といったところだが、まずは何より、この壊れた街の復興だな。
 獺族の協力も必要だろう。力を貸してくれるか?」
 ルルカは、大きな声で、「うん」と答える。
「それはそうと、今日のところはどうしたものか」
 族長の下へ出頭しなければならないウォレンは、ルルカの身柄をどこに預けるか、頭を悩ませてい
るようだった。ひとまずジルフと一緒に居る牝獺のところへ行け、とウォレンが言ったとき、もう一
人のクズリ族の男、ジエルが駆け寄ってきた。
「こんな所に居たのか。えっと……」
「私は、ルルカっていうの」
 ジエルが言葉を詰まらせた訳を悟って、ルルカはすぐさま答えた。シエドラで一番長い付き合いに
なるのに、まだ彼に名前を言えてなかった。
「ああ、ルルカ。息子から話を聞いたんだ」
「息子って……?」
「お前が助けてくれたんじゃないか。息子の命の恩人だ」
「えっ?」
 ルルカは驚いた。あのクズリ族の少年が、ジエルの息子だったなんて。ジエルは街の反対側、ラムザ
の市場の方に住んでいると思っていたから、想像もしなかった。実際、ジエルは仕事場である肉の市
場の近くに住居を持ち、息子とは離れて暮らしていたという。
「礼を言うぞ、ルルカ。そして、お前の勇気を称えたい」
 背丈があまりにも違うため、ジエルはほとんど跪くようにしてルルカに抱き付いた。ルルカもその
大きなクズリ族の体を抱き返す。
「私の方こそ、あなたにずっとお礼を言いたかった」
「ん? 俺が何か……したか?」
 ジエルは、ルルカを自分の家に招待したいとウォレンに申し出た。
「この娘に魚をいっぱい食べさせてやりたいんだ」
 水が引いた後の街は、荒れ果てていた。市場のテントは全て流されていた。石畳が剥がれ、シエドラ
全体を網の目のように結ぶ地下水路が露出している。石畳の残骸が瓦礫となり、足の踏み場を選ぶの
に困るほどだ。ただ、古くからある頑強な建物は、何事もなかったかのような外観で聳え立っていた。
それでも、浸水した階で生活できるように片付けるには相当な労力が要るだろう。
 ジエルは、彼の母──クズリ族の少年の祖母が住む家にルルカを誘った。そこはシエドラを南北に
結ぶ回廊へ続く斜面に在り、水害を免れていた。
 三人のクズリ族と獺一人で囲む食卓。木のテーブルと木の椅子。ルルカにとってこんな食事風景は
初めてだ。ルルカの前に、魚料理が運ばれてくる。最初は姿焼きだった。ルルカは初めて、魚という
生き物の形を知った。それがジエルの気遣いだということも分かる。
「美味しい……」
 次から次へと出てくる料理を、ルルカは夢中になってお腹に収めた。獺族の旺盛な食欲に、クズリ
族の少年とその祖母は目を丸くする。
「魚料理が何でもこんな風に美味いと思ってもらっちゃ困る。
 俺の腕がいいんだからな」
 ジエルは大はしゃぎで、「明日から街中の獺に魚料理を配るんだ」と言った。


142 :
 日が暮れ、ルルカは寝室の一つを与えられた。隠れ里の住居よりずっと広いと思っていた地下牢の
部屋よりも更に広いその部屋には、ルルカの見たことが無かったテーブルやカーテン、細々とした調
度品が備え付けられている。
 嵐が過ぎて空は嘘のように晴れ渡り、眩しいほどの月明かりが部屋に射し込んでいた。
 ベッドの代わりに、天井から数本の縄で吊るされた弾力のある布が用意されていた。それはクズリ
族の伝統的な寝台で、獺族も同じようにして寝ていたのではないかという説があることを、ジエルは
教えてくれた。
 寝台の布に包まれると、ルルカは母に抱かれ、揺られていたときのことを思い出す。それはまだ
ルルカが小さい頃の引っ越しの記憶──。
 夜中に、ルルカはふと目を覚ます。
 老クズリ──ジエルの母が、起こしてしまったのね、とルルカに謝った。
「獺族はすぐお腹が空くんでしょう?
 眠れなかったら、これを食べなさい」
 彼女はテーブルに籠を置いて部屋を出ていった。
(キイチゴの匂いだ……)
 ハンモックに揺られながら、月明かりに照らされたキイチゴの籠を見たルルカは、慌てて飛び起き
る。
「どうしてこれが……?」
 テーブルに駆け寄ったルルカは、果実が床に転がり落ちるのも構わず、籠を手に取る。
 シエドラの調度品とは思えない不格好な、それでいて温かみのある手作りの籠。
 間違いない、この形と手触りは、母が蔓を編んで作った籠だ。
(ジエルが拾っておいてくれたんだ……)
 いつだったか、ジエルの言った言葉が、ずっとルルカの胸の奥に突き刺さっていた。ルルカの両親
が、彼女を囮にして逃げたということ。それが真実なのか、ずっとルルカを悩ませてきた。これは彼
がそうしてルルカを苦しめたことへの埋め合わせなのかもしれない。いや、通訳として牝獺たちを見
詰め続け、やるせない思いを重ねてきたクズリ族の彼こそ、いつかこんな日が来ることを待ち望んで
いたのではないだろうか。
 籠に鼻を押し当てると、微かに感じる母の匂い。永遠に失われたと思っていた家族とルルカを結び
付けるものが、今、この手の中に還ってきた。籠を胸に当て抱き締めると、ずっと思い出せなかった、
思い出すのを恐れていたあの日の情景が浮かび上がってくる。
『ルルカ、キイチゴを採ってきて欲しいの。
 特別に、料理をしようと思うから』
『……料理って?』
『そうね、普段はしないから、分からないわよね。
 お菓子を作ってあげる。
 もうすぐあなたの、誕生日だから──』
『……お菓子って?』
 ルルカの脱いだ飾り布と引き換えに、籠を渡してくれる母。
『それは、帰ってきてからのお楽しみ』
 母は──、
 記憶の中の母は、優しく微笑んでいた。


143 :
以上です。
次回、かわうそルルカの生活 エピローグ『いっしょに暮らそう』
獺たちの悲劇の終焉は、新たな時代の幕開け──。
獺族の語り部ミルカと狼族の族長によって明かされる、
シエドラの歴史と二つの種族の悲しい過去。
いよいよ次が最終回となります。
そして、ごめんなさい。最初に言ってた「かなり過激?な描写」が
入るのは実はこの最終回です。
読むのを躊躇する人も居るかもしれませんが、
できれば、最後までお付き合いください。

144 :
リアルタイム投下乙です。
今エロパロで初めて感動してる・・・

145 :
ルル神様まで降臨なされた・・・だと・・・!?
早速読まねば・・・!!
スレの流れを変えた>>111様は神認定だな

146 :
うおおおおおおおおおおおいよいよ最終回か!
読んでて凄いハラハラしたー
どんな風な結末なのか物凄い楽しみです

147 :
ルルカたんんんんんんん!!!!!
あああああ助かってよかった!!本当よかった!!!!!!
でも最後まで油断ならんかもなw
次回でとうとう最終回ですか
楽しみ半分、終わってしまうのが残念半分
でも期待しています

148 :
これは大団円の予感・・・!
かと思いきや予告が若干不穏だぞ!?
まだ、まだ安心するには早すぎるというのか・・・!!
>そして、ごめんなさい。最初に言ってた「かなり過激?な描写」が
>入るのは実はこの最終回です。
な、なんだってーーー!?

149 :
仕事が忙しくなって続き書けなくて申し訳ないので
モフモフ冬毛について語ろう

150 :
最近寒くなってきましたもんね。
先日手芸の店にいったら、リアルな毛皮が売られてた。
人工らしいのだが、ほとんど見分けがつかなかったよ。

151 :
もふもふしたい

152 :
もふもふになりたい

153 :
冬はもふもふに限る

154 :
α「寒いから、今夜はモフ鍋よ〜」
Ω「な、なんだってー!!」

155 :
『モフ鍋』(もふなべ、2012年)は、日本のランツ・フカフカによる中編小説。
ある朝目覚めると巨大なモフになっていた男と、その家族の顛末を描く心温まる物語。
フカフカの作品の中ではもっともよく知られている小説であり、
発売当時は、作中のモフ鍋(鍋と言っても料理ではない)の描写の素晴らしさから、
若年層を中心に“モフ鍋ごっこ”が大流行。社会現象と化した。
このことが第三次ベビーブームの引き金となったとも言われている。
最終的にみんながモフになるラストシーンは圧巻。
Die VerwandlungをGoogle翻訳にかけたらちょっとほんわかした。
ttp://translate.google.co.jp/#de/ja/

156 :
つまりおいしいのか
うまそうだな

157 :
>>155
が秀逸すぎてついageちゃう

158 :
かわうそルルカの生活、エピローグ・・・なんですが、
すみません、かなりの長さになってしまいそうなので、
二回に分けて投下します。
後半は連休中に頑張って仕上げます。
注意事項は >>39 を参照。
では・・・

159 :
     【エピローグ】 −いっしょに暮らそう−
『食糧も、家財道具も全て捨てなさい。早く』
『でも、これではルルカが戻ってきたときに……。
 あの娘はまだ何も知らないもの」
『追っ手に手掛かりを与えてはならない。
 ここにどれだけの獺が住んでいて、どんな生活をしていたか。
 娘を助けたいのなら──』
 獺族の集落は騒然としていた。家屋から家屋へ張り巡らされた鳴子の音が響く。その音は、異種族
の耳には枝が風に打ち鳴らされるような音にしか聞こえないだろう。しかし、獺族にとっては非常事
態を告げるものだ。
 獺狩りの部隊が近付いている──。
 どうしてこんなに接近されるまで気付かなかったのか、悔やんだところでもう遅かった。季節が獺
狩りの行われる時期と大きく外れていることもあるが、この土地へ移ってからの長い期間、異種族の
姿を見掛けることが無かった。獺狩りが行われる周期が間延びしているように思っていたことも慢心
に繋がったのか。いずれにせよ、事態は急を告げていた。これまでにない恐怖と焦りが獺族の隠れ里
を包んでいた。見張りの者が、二つの獺狩りの隊が同時に別の方角から現れたことを伝えたからだ。
 樹上に張り巡らされていた網を結ぶ紐が切られると、溜めてあった大量の落ち葉が、家屋の屋根に
降り注ぎ、住居の形を覆い隠す。それぞれの家の中央にある大きな井戸の蓋が開けられた。それは集
落が出来上がった後に長い時間をかけて掘られた、地下水脈に直結する深い穴だ。ここに落とした物
は深く地の底へ吸い込まれ、二度と戻ってくることはない。
 ルルカの父は家の中にあるものを片っ端から井戸へ放り込んだ。布に包まれた折れた獺槍も投げ込
まれた。残っているのは、母獺が大事に抱えている──ルルカが置いていった飾り布だけだ。
『それも早く捨てなさい』
『これは、ルルカが帰ってきたら……』
 父獺はふぅーっと溜息をついた。
『分かった。ただ、そうして持っていていいのは逃げる直前までだよ』
 父獺は、鳴子を使って合図を送る。
『皆に順に逃げるよう伝えた。男女一組ずつ、時間差を付ける。
 私たちが最後だ』
 母獺は『えっ』と思わず口にする。それが獺族の掟だと思い出してはみるが、現実に直面するとや
はり動揺を隠せない。
『私たちはもう子を産み、育てた。だから、彼らには譲らねばならんのだ。
 命を繋ぐため、誰かが犠牲になる。
 獺族はずっとこうしてきたのだから』
『でも、あなたは──』
『ルルカも助かるかどうか分からない。
 少しでも可能性を残すのが私たちにできることだ。
 だから生活の跡を全て消さねばならん。分かったね?』
 母獺は夫の言葉に頷いた。
 飾り布を捨てなさい、と父獺は最後にもう一度念を押した。他の獺たちが逃げ切ったことを確認し
て、彼は妻に北東へ逃げるように言った。南北から迫る獺狩りの隊に対し、直角に逃げないのは、自
分たちが囮になるためだということを母獺は悟った。
『私はまだ少しすることがある。先に逃げなさい』
 ルルカの父は、そう言って建物の奥へ姿を消した。

160 :
 母獺は一人、森の中を逃げる。
 北東へ、真っ直ぐ──。
 その方角へ歩を進めると、ほどなくして森を抜ける。丘陵を覆う草の斜面を前にして、母獺はぶるっ
と身を震わせた。ここから先は身を隠せる樹木などは無い。音を立てぬよう、ゆっくりと草を掻き分
けて進まなければならない。
 母獺は二本の足で立ち上がって歩いていた。草の丈はぎりぎりで獺の頭を隠すほどの高さはあるが、
来た道から追われれば、坂の上から丸見えになるだろう。それでも四つ足になって姿勢を低くするこ
とはできなかった。彼女の両腕には、ルルカの飾り布がしっかりと抱えられていたからだ。
 母獺自身も、自分の飾り布を纏ったままだ。囮になるのなら、他の者より自分は目立つ姿でなけれ
ばならない。夫は覚悟を決めている。自分も倣わなければならない。しかし、助からないと心の片隅
では確信しているのに、生き延びて手渡すために、ルルカの飾り布を持って逃げることは矛盾してい
た。
(だって、捨てられない……。
 捨てたら二度とあの娘に会えなくなる気がするの。
 でも、いずれにしても会えない……、私は……、ああ……)
 母獺は混乱していた。近くで起きた物音に驚き、思わず駆け出す。周囲でガサガサと音がする度、
母獺は逃れるように向きを変えて走った。きっと空耳に違いないと思った。飾り布を抱えていては耳
を塞ぐこともできない。物音は、複数の足が草を踏み分けるザクザクという激しい音に変わる。
 目の前が開けた。母獺は草むらを飛び出し、身を隠すものもない広場に追い出されていた。大きな
馬の背に跨った獅子の頭を持つ男に睨まれ、母獺は立ち竦む。すぐに周囲を異種族の男たちが囲んだ。
 ついに捕まってしまった。獺狩りに──。
 細身の男たちに交じって、一人だけ見上げるほどの巨体の持ち主が居た。その男が、手に持った銀
色の槍の先端を母獺に突き付ける。
『裸になれ』
 震え上がると同時に、その男の口から発せられた言葉に驚く。
『獺語を──?』
『クズリ族だ。獺どもは忘れてしまったか?
 通訳ができるのは俺たちだけだってことを』
『知らなかった……』
 異種族に獺語を扱える者が居ることは何の救いにもならない。運命は変えようがないのだと、ルルカ
の母は知った。
 喉元に突き付けられているのは、あの獺槍だ。母獺は命ぜられるままに服を脱いだ。
 美しい乳房が露わになると、周囲から「おおっ」とどよめきの声が上がった。薄灰色の産毛に包ま
れた乳房の頂点で、桃色の乳首が恐怖から来る緊張で固く尖っている。
『足を少し開いて立つんだ。手は背中に回すようにして胸を突き出せ。
 尾は目一杯上げるんだ。恥ずかしい穴が全て見えるようにな』
 母獺は着衣を全て脱ぎ捨てると、クズリ族の男の指示に素直に従った。視線を身に受けながら取る
ポーズが、獺にどれほどの屈辱を与えるか、取り囲む男たちはよく知っている。尾をしっかり地面に
着けなければ二足では体をうまく支えられない獺にとって、その不安定な立ち姿は抵抗する気力も、
尊厳も奪ってしまうものだ。
『小便をするんだ。大きいほうも溜まっているのなら出しておけ。
 槍の上に掲げてからぶち撒けられてはたまらんからな』
『そんな……、ああっ!』
 槍の先が、母獺の右の乳房を刺していた。針のように細く研ぎ澄まされたその槍の先端は、何の抵
抗もなく皮膚を突き破り、激痛を与える。どうせされるからと覚悟を決めることはできなかった。
痛みと恐怖に屈したルルカの母は、肛門と性器を晒したそのままの姿で排泄を始めた。
(ああ……)
 見られてしまった。胸を突き出し、乳房を小さく震わせながら、全裸で排尿する姿。慎ましい女性
器も肛門を露わにして人目を憚らず排泄する。これではまるで獣と同じだ。

161 :
「きれいなもんだな、獺の性器ってやつは」
「肛門も小さな花みたいだ」
 男たちが母獺を取り囲み、遠慮なく小突き始めた。
「す前に犯してやるか」
「体の大きさが違う。入らないだろう」
「シエドラって街では牝獺を交尾用に馴らしてるっていうぜ」
 牝獺の乳房から流れる血に興奮してか、男たちは目をぎらぎらさせている。ざらざらした猫科の舌
で血を舐め、獺を怯えさせる者もいる。
(やれやれ……)
 クズリ族の男は、後ろで馬に跨ったままの獅子族の男を振り返る。
(このまま好きにさせるのかい?)
 獅子族の男が指揮を取る今回の獺狩りの部隊を構成するのは、彼と自分を除いては豹族の男ばかり
だ。こういうときは歯止めがかからない。獲物を弄ぶ猫科狩猟獣を祖先に持つ者の血がそうさせるの
か。獅子族の隊長は公正な男と聞いていたが、それを制止しようとはしなかった。
 再び、憐れな牝獺に目を向ける。
(こいつがどんなされ方をしようが、知ったことじゃないが……。
 いや、俺は……)
 獺たちを無駄に苦しめる行為に加担することはもちろん、看過することにもいい加減、うんざりし
ていた。しかし、クズリ族の立場では彼らに意見することもできない。
 この美しい毛並の小柄な可愛らしい種族が本当に悪魔のような行いをしたのだろうか。クズリ族の
男は獺狩りに同行し、獺たちが何度も庇い合う様子を見てきた。潔さと強い絆を感じさせる彼らの行
動。抵抗しないという信念。この世界に暮らす全ての種族が合意の下、獺族を滅ぼそうとしている。
それは本当に正しいことだと言えるのか。
「小さなお○○こだな」
「広げりゃなんとか入るか?」
 男の一人が牝獺の性器を指で開いて、桃色の粘膜を曝け出す。ルルカを産んだとはいえ、まだ若い
母獺の性器は瑞々しく、慎ましい形状の小さな口を開いて見る者を感心させる。美しいとも思えるそ
の様相は、とても出産を経験しているようには見えない。
 男はその部分を広げておいて、人差し指を立てると膣へ一気に捻じ込んだ。悲鳴を上げて身を捩る
牝獺の体を押えようと、別の男が後ろから乳房を鷲掴みにする。
「何をやってるんだ」
 さすがに見かねたクズリ族の男が声をかける。思わず牝獺に向けて槍を構えてしまう。いっそ楽に
してやった方が──。
 牝獺の怯えた目が槍の先端にそっと向けられるのを見て、男は躊躇する。この場で槍に突き刺せば、
街へ連れ帰るまでの数日のうちにんでしまうかもしれない。獺狩りの隊長である獅子族の男は、ま
ず生け捕りにしろと言うだろう。
「いいだろ、どうせしてしまうんだ」
 豹族の男たちは、クズリ族を見下すような視線を向ける。図体ばかり大きいくせに、他種族へ媚び
へつらうだけの連中であると、彼らは思っているのだ。
 クズリ族の男は、そんな彼らの態度には慣れ切っていた。それより、男たちの言葉に反応するかの
ように、槍の先を向けられるより激しく怯えた表情を見せる牝獺の反応を訝しく思う。
(この牝……、まさか?)

162 :
「待て」
 獅子族の男が、ようやく口を開いた。しかし、豹の男たちの行為を見かねてのことではない。
「西へ向かわせた連中が戻ってきた」
 ガサガサと音を立て、草むらから数人の豹族の男たちが姿を現す。先頭の男が手にぶら下げて掲げ
る、獺の姿──、汚れた衣服、ぐったりとして生気もなく、ボロ切れのようになって揺られるその姿
を見て、母獺は悲鳴を上げた。
 夫だ──。
「馬はどうした?」
「こいつが飛び出してきたんだ。この獺の腹を馬が踏んで転倒した。
 馬は骨折して、安楽させるのに手間取った」
 広場に居た男たちは落胆の溜息を漏らす。馬を失っては帰りの道のりで自分たちが荷を運ばなけれ
ばならないからだ。
「獺は普通、抵抗しないものだろう?
 いったい、何故──」
 母獺には、その理由が分かっていた。
 夫は──、後から逃げると言いながら、自分とは全く別の方角へ、ルルカがキイチゴを摘みに行っ
た山の方へ向かったのだ。獺狩りの隊がルルカの居る方角へ向かうのに気付いた夫は、先回りをして、
彼らの駆る馬の前に身を投げ出した。ルルカを守るために。そして、仲間たちがなるべく遠くへ逃げ
られるよう、時間を稼ぐために──。
「服を脱がせろ」
「牡じゃなあ、あまり乗り気がしないな」
「俺は嫌だよ。腹が裂けて中身が飛び出してるんじゃないか」
「服に血が滲んでないから大丈夫だろう。ただ、虫の息であることに変わりない」
 ルルカの父の衣服が剥ぎ取られ、地面に投げ出された。ごろりと体が回転して仰向けになる。男が
言うように父獺に外傷はなかったが、意識も完全に失っている。遠目にはほとんど息をしていないよ
うに見えた。
(こいつら、夫婦だな。そしてあれは──)
 牡の獺を見た牝獺の様子から、クズリ族の男は見当を付ける。そして、おかしなことに気付いてし
まった。飾り布が二つある。牝獺が脱ぎ捨てた衣装は、一人分とは思えない。獺族の女性だけが身に
着ける、綺麗な薄い布の束が二つ、あるのだ。
(……娘が、いるのか?)
 彼にも分かる。牡獺が、暴力に対し抵抗しないことを信条とする獺族にあるまじき行動を起こした
意味。身を投げ打ってまで守ろうとしたものの存在が。
 彼の想像通り、目の前に居る牝獺が公用語を理解しているなら、聞き取れるだけでなく公用語を話
せるのだとしたら、まずいことになる。
(彼女を待つのは尋問、いや、より辛い拷問か──)
 どうする?
 獺族をあからさまに庇うことはできないが、なんとか犠牲をこの二頭の獺だけに止まらせてやりた
い。そんな温情がクズリの男の中に沸き起こる。しかし、その想いは、獅子族の男の言葉によって断
ち切られるのだ。

163 :
「それは、何だ?
 その布は獺の牝だけが身に着けるものだろう。
 何故、二つあるんだ?」
 獅子族の隊長は、クズリの男に牝獺を問い質すよう命じた。クズリがそのままの言葉を獺語に置き
換えて伝えたが、母獺は小さく首を横に振るばかりだ。
「何度聞いても答えるとは思えませんぜ?」
 たとえ激しく痛めつけたとしても、と獅子族の男に告げるが、彼は追及の手を緩める気はなさそう
だった。獺に仲間が居るのだとしたら、まだそう遠くへは逃げていないと考えているのだ。この隊が
携える四本の槍すべてに獺の血を吸わせなければ気が済まないのか。
「仲間がいるのか?」
 獅子の男は、牝獺を真っ直ぐに見詰め、呟くように言った。鋭い視線に射竦められ、牝獺がぶるっ
と身を震わせるのを見て、クズリは慌てて通訳する。
『他に仲間が居るのか、聞いている』
(何をやっているんだ。俺が通訳をするまで堪えろ。
 お前が公用語を聞き取れることがばれてしまうぞ)
 間抜けな豹族どもだけなら誤魔化し切れたかもしれないが、この大きな鬣の獅子族の隊長は、恐ろ
しく勘のいい男のようだ。既にこの牝獺の秘密に気付いているのかもしれない。
「その布……、娘がいるんじゃないのか?」
 獅子の男は、あえて牝獺に直接語りかけるように言葉を発した。
 母獺は窮地に追い込まれたことを悟っていた。公用語を話せるという秘密を隠し通すと心に決めた
わけではない彼女は、耳に入る言葉から生じる心象を直ぐに態度に表してしまう。
 異種族の交わす言葉を理解できるということ、それはこんなにも恐ろしいことだったのか。
(私は、ルルカにも過酷な運命を背負わせてしまったのかもしれない……)
 母獺はまた、夫の言いつけを守らなかったことを後悔していた。どうして言われた通り、ルルカの
飾り布を捨てて来なかったのか。自分の迂闊な行いのために、夫の命を賭した覚悟を無駄にしてしまっ
た。異種族の者たちに娘の存在が知られたら──、彼らは執拗に娘を追うだろう。キイチゴの籠を抱
えて大喜びで戻ってくるルルカの姿が目に浮かんだ。何も知らない娘はあっとい間に捕まってしまう
だろう。
(私がルルカを守らなければならなかった。
 逃げ切れる可能性より、捕まることを考えなければならなかったのに……)
『ほら、答えろってんだ』
 クズリの男は大げさに槍を振りかざして見せる。しかし、このままでは埒が明かない。猫科の種族
は執拗だ。いずれは真実が暴かれてしまうだろう。牝獺はされない程度に体を切り刻まれ、激しい
後悔に苛まれ、悲嘆に暮れながら、娘の居場所を吐いてしまうだろう。
(何故、俺は必にこいつらを庇おうとしているんだ……?)
 いつの間にか、獺族に対して親身になっている自分がおかしくなる。どうあがいたところで、少な
くとも、この牝獺はされるんだ──。そう考えた瞬間、クズリ族の男は、この牝獺が守ろうとして
いる者の存在を隠し通す方法を思い付いてしまった。
 それはこの母獺に、恐ろしく過酷な試練を与えるものだった。

164 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
「それじゃあ、服を脱いでこっちに上がって」
 狐族の女性がルルカに声をかけ、大きな布を手渡す。白いシーツに包まれた幅の広い平らなベッド
の上で、彼女は上半身裸で、腰に布を巻き付けている。ルルカにも同じ姿になるように言っているの
だ。
「うん、カリン」
 カリンというのが、この狐族の女性の名前だった。洪水の後、何度も会っている。今ではすっかり
気の許せる相手だ。
 体にぴったりとついた獺族の衣装をゆっくり肩からお腹のあたりまで下ろす。ルルカは懐かしい気
持ちになった。小さかった頃の自分を抱いていた母が、こんな風におっぱいが外に出る服を着ていた
ような気がする。あれは子育て用の衣装だったのかもしれない。
 カリンから受け取った布を腰に巻き、衣装から足と尾を抜いて脱ぎ去った。女性同士、裸になるの
は恥ずかしくはないが、下腹部の焼き印の痕を見られるのだけはやはり気後れする。ルルカはベッド
に上がり、カリンと向き合った。
「獺の体って、本当にきれいで可愛いのね」
「ありがとう。あなたの毛並も美しくって、羨ましいよ」
 こうして話ができるようになって本当に良かった、とカリンは言った。ルルカを見詰める彼女の視
線は、親しみを感じさせるものだ。優しく微笑む彼女につられ、ルルカもにっこりと笑う。
「それはまだ外せないの?」
 カリンはルルカの乳房の上を押さえ付けるように嵌められた銀色の環を指差す。
「加工できる職人を他所の国から連れてくるんだって。
 獺族には金属を扱う技術は引き継がれているけれど、
 実際に加工をするには熟練した腕の持ち主でないと危険だ、って」
「そう……」
 カリンに手招きされ、ルルカは彼女にさらに身を寄せる。
「見てもいいかな」
「うん……」
 カリンはルルカに仰向けに寝そべるように促した。腰に巻かれた布の裾がそっと捲り上げられる。
ルルカのつるんとした股間が露わになる。
「本当にごめんなさい。私の言葉であなたがどれだけ悲しい思いをしたか。
 考えれば分かったのに。あなたが望んであんな姿になったんじゃないってこと……」
「もういいの。今はこんなふうだから」
 ルルカも自分の股間を覗き込む。そこにあるのは、赤く腫れ上がり、淫らな粘液を垂れ流すだらし
なく開いた膣口ではなく、シエドラに連れてこられたばかりの頃と変わらない、滑らかな毛皮の隙間
にそっと覗く慎ましい桃色の陰裂だ。
(二度と元には戻らないと思っていたのに……)
 信じられないほどの変化だった。今は発情の疼きもほとんど無い。体は完全に以前のままに戻った
わけではなく、日に何度も水に浸かって体を冷やさなければ、ほんの半日ほどでまた発情してしまう。
それが狼族の精を体の奥に受けた牝獺の宿命ではあったが、多少の制約があるとはいえ、普通に生活
が送れるようになった。そのことは驚きであり、喜びでもある。
「本当によかった」とカリンは涙ぐむ。彼女が親身になってくれていることが、ルルカには堪らなく
嬉しい。

165 :
「あなたのも、見せてもらえる……かな?」
「もちろん。そのために来たんでしょう?」
 カリンはすらりと長い狐族の足を開いて、布で隠していた部分がルルカに見えるようにした。狐族
の女性器にルルカはそっと手を伸ばす。体の大きさに比例してルルカのものよりも大きなその桃色の
肉の裂け目は、純白の毛皮に包まれ、慎ましい表情を覗かせている。指をそっと当てると、まだ少し
赤みが残っている桃色の粘膜が口を開く。
「きれい……」
 その形容は適切ではないような気もした。男が見れば劣情を催すような艶めかしい形でもある。た
だ、数日前に見た彼女のその部分の様相とは、まるで別物であることに感嘆するルルカの頭に浮かん
だ言葉がそれだ。
 ルルカはそこがどのような役割の器官であるか、もう充分すぎるほどに知っている。だから、大き
な仕事を終え、何事もなかったかのような姿を取り戻した彼女の「女の子の大事なところ」を美しい
と思ったのだ。
 今、ルルカたちが居るのは狐族の産院の一室だ。
 ルルカが洪水からカリンを助けたときには、彼女は出産を一か月後に控えた体だった。お腹の中で
大きくなるまで子供を育てる草食の種族と違い、狐族は赤子が比較的未熟な状態で出産する。だから、
予定日が近付いた頃になってようやくお腹の大きさが目立つようになった。
 狐族は血縁者の女性だけがお産に付き合う慣習を持っていたが、たっての願いでルルカはその場に
居合わせることを許された。
 産院のベッドに仰向けに寝た裸のカリンは上半身をシーツに覆われ、下半身を産まれたままの姿に
曝け出していた。出産を控えたカリンの性器は赤くなって大きく腫れ上がっていた。広場に繋がれて
いた頃のルルカの性器のように蜜を溢れさせてはいないが、見た目にはとても痛々しい。
 ルルカが部屋に招き入れられたときにはすでに陣痛が始まっており、カリンはベッドに水平に渡さ
れた体を固定する棒にしがみつき、身を捩って呻いていた。狐族は安産だと聞いていたが、カリンの
興奮は激しく、ルルカは息を呑む。
「もう、産まれますよ」
 産道が口を開く。真っ赤な粘膜の中心に黒い円が広がり、奥から白い膜に包まれた塊が押し出され
てくる。カリンに付き添う女性の手が産道から飛び出したその塊を受け止め、膜をそっと裂く。羊水
が噴き出し、シーツに広がっていく。膜の中から、全身がまっ黒の狐族の赤子が姿を現した。
 腹部から伸びる紐は、母狐の産道に吸い込まれており、それが母と子の命を繋いでいたものだと
ルルカにも分かった。臍の緒は女性の手で切られ、傷口が糸で縛られる。女性は濡れた布で子狐の体
を丁寧に拭いてやり、鼻の穴に溜まっている羊水をそっと口で吸い取る。
 子狐が、キュウっという産声を上げた。
 ルルカは溜めていた息を吐く。思わず握り締めていた手のひらが痛い。
(これが新しい命の誕生の瞬間なんだ──)
「予定ではもう一人、産まれるんですが……」
 お産を手伝っていた女性が、ルルカに言った。
「狐族の女性は出産のとき、気が立って我を忘れたりするものです。
 こうして異種族の者を出産に立ち会わせるなど、異例のことなんですよ。
 カリンはあなたのことを思って、正気を保とうと頑張ったと思います。
 でも、そろそろ限界。落ち着かせてあげないと」
 この時点で、ルルカは産室を立ち去らねばならなかった。
「ごめんなさい。ありがとうってカリンに伝えて。
 それと、あなたにも。ありがとう」
「あなたも、いつか可愛い赤ちゃんが産めると思うわ」
「え……、うん……」
 このカリンの付き添いの女性は知らないのだ。シエドラの牝獺が子供を産めない体であることを──。
ルルカはそのことについて、もう嘆くまいと心に決めていた。そのことで誰を責めることもしないと
自身に誓っていた。
 数日したらまた来て、と女性は言った。そのときにはカリンと二人きりで会えるから、と。

166 :
 ルルカは再び産院を訪れ、こうしてカリンと向かい合っている。
 カリンの性器は、腫れもすっかり引いて、子供を産み落としたと思えないほど、慎ましく閉じてい
た。
「すごいよね、私たちの体って……」
 ルルカは思わず口にした。
「そうね、ふふ……」
 お互いに性器を見せ合っている構図のおかしさに気付いて、思わず笑いが漏れる。
「お乳を与えるところも見て行って」
「お乳……?」
「そうか、知らないのね。
 母親がどうやって子供をお腹を満たしてあげるのか」
 カリンは自分の乳房に手を当て、二つの指で乳首を挟むようにしながら、そっと押し潰した。乳首
の先端からクリーム色の液体が滲み出るのを見て、ルルカは驚く。カリンは乳房を手のひらでゆっく
りと握り、数本の細い糸のような軌跡を描く母乳を繁吹かせる。甘い匂いが部屋に広がった。この匂
いを、ルルカは知っている。遥か遠い記憶の中にある母の優しい匂い──。
「生まれたばかりの子はまだ、形のあるものは食べられないの。
 だからこうして母親が乳を与えるのよ。
 出産を迎えた母親の体からは、こうしてお乳が出るの」
 乳の匂いを小さな鼻で捉えたのか、子狐たちが目を覚まし、キュウキュウと鳴き始めた。ベッドの
傍らに置かれた揺り籠の中で眠っていた子狐の一人を抱え上げる。
 カリンは小さな黒い毛玉を胸に抱いた。ルルカが初めて見たときより、ひと回り以上大きく育って
いる。
 ルルカは自分の乳房に手を当てる。女性の持つその大きな二つの膨らみがどういう意味を持つのか、
ルルカは今初めて知った。
(そうか……、私もお母さんにこうやって育ててもらったんだ……。
 お母さんがここを大事にしなさいって言ってた意味、分かるよ)
 自分の胸元に向けられる真剣なルルカの眼差しを感じて、カリンは子狐をそっと乳房から離すと、
ルルカに差し出した。
「あなたが救ってくれた命よ。抱いてあげて。
 お乳は出ないと思うけど……」
「いいの?」
 カリンは頷いて、ルルカに子狐を預けると、自分はもう一人の子狐を抱き上げた。
「こうやってしっかりお尻を抱えてあげて。
 手は動かせるようにしてあげるの」
 ルルカはカリンがするように、見真似で子狐を抱く。真っ黒な体に母親に比べまばらに生えた毛。
目を閉じた小さく震える可愛らしい毛玉は、見た目よりずっと重く感じられた。それは、命の重さだ。
 小さな小さな手のひらが、ルルカの乳房を押した。温かい舌の感触。小さな小さな舌がルルカの乳
首に巻きつくように絡み、柔らかい唇が包む。
「あ……」
 キュッキュッと断続的に締め付けるような感触。痛いような、気持ちいいような不思議な感じがす
る。子狐が、その小さな体から想像できないほどの強い力で、ルルカの乳首を吸っているのだ。その
心地よい刺激に誘われ、優しい気持ちが胸の奥から溢れ、全身に広がる。
 涙が、つうっと頬を流れた。

167 :
「ルルカ、泣かないで。
 私、余計なことをしてしまったかしら……」
「ううん、嬉しいの──」
 長い間知りたかったこと。どうやって命の連鎖が続いていくのか、ルルカはようやくその全てを知っ
た。
 そして、子供を産めない体の自分でも、それに手を貸すことならできることを知り、嬉しくなった。
カリンと出会って、命が誕生する瞬間に立ち会うことができた。シエドラを襲った災厄から、小さな
命の火を守ることができた。それが誇らしい。自分を頼る小さな命が愛おしい。
 お乳が出なくてごめんね、とルルカは子狐の頭を撫でた。
 カリンは自分の乳でお腹がいっぱいになった子狐をルルカに渡し、ルルカの乳房に吸い付いていた
方の子に乳を与え始める。ルルカの腕の中で、子狐は小さな寝息を立て始めた。眠りに落ちた子狐の
体がほぅっと温かくなるのが感じられる。小さな鼓動が手に伝わる。
 目を閉じて、ルルカは乳房に感じた子狐の口の感触を何度も思い返した。
 女性の体にある三つの突起が、それぞれ何のためにあるのか、ルルカには分かった気がする。胸に
ある二つのそれは、母親が我が子の命の存在を感じるため、愛情を傾けるためにある。
 そして、性器の頂点にある小さな突起は──、おそらくきっと、交尾の際に愛をいっそう強く感じ
るためにあるのだ。
(ウォレン──)
 ルルカは愛しい狼族の青年の姿を思い浮かべた。
 獺の水瓶が溢れたあの日、取り巻く群衆の存在も忘れるほど激しく愛し合ったことを思い出す。そ
れだけで、軽い興奮に包まれた。快楽の先にある強い感覚。ウォレンが与えてくれるもの。ルルカは
もう一度それを感じてみたいと思った。しかしあれ以来、ウォレンには一度も抱かれていないのだ。
 牝獺たちは性奴隷の立場から解放された。すぐに彼女たちの体を元通りにする方法が検討され、結
局、体を冷やすことが一番だという結論になった。シエドラには水が溢れている。洪水の折に流され
た石畳の多くはそのままにされており、街中に水路が顔を覗かせている。獺たちはいつでも水を浴び
ることができるようになった。
 体が元通りになる喜びを一度知ると、他の獺がそうであるように、再び発情してしまうことをルルカ
も恐れるようになる。
 牝獺たちには全員、仕事が与えられた。迫害され逃げ続けていた獺族は小さな集団に分断されなが
らも、かつて自分たちが持っていた技術や知識を代々口伝により伝えてきていた。獺たちの持つ知識
が、驚くべきことに現在のシエドラの生活の水準を遥かに上回るものだと判ると、牝獺たちは引く手
あまたとなった。クズリ族のジルフとルルカは通訳のために走り回った。老クズリのジルフはまた、
一日に一度、牝獺を集めて公用語の教室を開き、それをルルカも手伝った。
 ウォレンの方はと言えば、シエドラ復興の指揮を執るため奔走していた。ときおり、短い時間では
あるが、顔を合わせることもある。彼はほとんど寝てないのではないかと思う。会うなりいきなり
「すまない」と言って横になり、ほんのしばらくの間深い眠りに落ちるウォレンの大きな頭を、ルルカ
は膝の上に乗せ、覆い被さるようにして抱いた。
 ルルカはウォレンのことが好きで好きで堪らなくなる。ウォレンはきっと我慢している。男の人の
生理はなんとなく理解できるようになった。本当はルルカと交尾がしたくて仕方ないはずなのだ。分
かってる。彼はルルカに気を遣って、交尾のことなど頭にない振りを続けているのだ。それも充分、
分かっている。
(ねえ、あなたが一言、したいと言ってくれたら……、
 私はいつでも応えられるよ)
 
 半日、水に浸からないで過ごせばいいのだ。それだけで、自分はまたあの愛しい狼の精を受け入れ
られる体になる。
 そのことを自分から言い出さないのは卑怯なのかな、とルルカは思う。

168 :
「何か、悩み事でもあるの?」
「えっ、いや……」
 表情を曇らせていたルルカの顔を、カリンが覗き込んでいた。
「私に協力できることがあったら何でも言って。
 きっとあなたの力になれるから」
 カリンの言葉で思い出す。そうなのだ。ルルカにはまだ他に心配事がある。こうして獺族は、シエ
ドラでの生活を始めたとはいえ、それは成り行きによるものだ。ウォレンが言っていた狼族の族長に
よる審判を、ルルカたちはまだ受けていない。
 たとえ狼族が認めたとしても、他の国や部族が、獺との共存を拒んだら?
 そうなったとき、シエドラは彼らの圧力から逃れるため、獺たちの命を差し出してしまうかもしれ
ない。
「心配しないで、ルルカ。いざとなったら狐族が黙っていないからね」
 狐族は賢くて気がよく回る。シエドラに運び込まれる全ての食糧や物資の流通管理を握っているの
は狐族なのだ。狼族がどんな決定をしようとも、カリンは必ず獺たちを守ると約束してくれた。
 ──そろそろ水を浴びなくては、とルルカは思った。カリンの居る産院を後にして、ルルカは大通
りを歩いていた。これまで石畳の裏を流れていた用水路が剥き出しにになっており、そこを泳ぐ牝獺
が、ルルカにこんにちはと声をかける。ルルカもそこに飛び込んで泳げば速く移動できるのに、何故
だかそうしようという気になれなかった。
 どこからか獺族が使っていたという植物の繊維が調達され、獺族の衣装が再現された。薄い布はぴっ
たりと体に吸い付くようで、乾けば暖かく、水中では存在を感じさせないほどに自在に伸び縮みする。
ルルカもその衣装を身に着けていた。そのまま水に飛び込めば気持ちいいだろうと思う。でも──。
『おーい』と、後ろから声がする。
 振り向くと、老クズリのジルフがルルカを追い掛けてきていた。
『お前が歩いていてよかった。水の中ならとても追い付けない』
 ジルフは足元の水路を指して言った。
『不思議じゃな、これはまるで獺専用の道のようではないか』
 不思議なのはジルフの行動も同じだとルルカは思った。彼が息を切らせて走っている姿を初めて見
た。公用語の教室を始める時間にはまだ早い。何の用だろう?
『お前たち獺が、公用語を喋りやすくなる方法を調べてきた。
 だが、残念ながら、今日の教室は休講じゃ。
 そのことを伝えに来た』
『何かあったの?』
『ラムザの近くで、地下に施設が隠されているのが見付かった。
 地表で陽に温められた水と地下を通る冷たい水を使って動力を得る装置らしい。
 獺の水車と呼ばれる獺族の遺産じゃ。
 どうしてそんなものがシエドラの街の下にあるのか……』
『獺の……?』
 ジルフはそういった装置について知っている牝獺が居ないか探し回っているのだという。通訳が足
りないから後で手を貸してほしい、とジルフは言った。
『そうだ、もう一つ伝えることがある。
 狼族の族長が、お前を呼んでいる──』

169 :
以上です。

170 :
うおお!お疲れさまです!
ルルカちゃん良かったぁ、と思いきやまだなにか…?
最後回まで気が抜けません!

171 :
これはこれは・・・
こんな素晴らしいものを投稿当日中に拝読できるとは何という僥倖。
ありがとうございました!
長かったようであっという間だったルルカとの日々も次回でおしまい。
そう思うと悲しくもあり、良くも悪くも結末を迎えてくれることに嬉しくもあり・・・
私も同じ物書きとして(私など足元にも及びませんが)q6hKEmO86Uさんの作品を
越えられるくらいの世界を、物語を、描写していきたいと思います。
q6hKEmO86Uさん、次回作の構想などはおありでしょうか?
もしも公式HPやブログなどを開設された折には是非告知して下さい。
よろしくおねがいいたします!

172 :
かわうそルルカの生活、最終話を投下します。
注意事項は >>39 を参照。
予告通り、今回、過激な描写が入ります。
ここまで読んで下さった方なら大丈夫かと思いますが、
一応、ご注意を。
では・・・

173 :
     【エピローグ(後編)】 −いっしょに暮らそう−
 その建物はルルカが繋がれていた広場の東側、シエドラの本当の中心に位置していた。低い円柱の
ような形をした建物の一階には陽の光を屋内に導く窓だけがある。建物内部はすり鉢状になっており、
同心円を描く石段を降りたひんやりとした地階が、ルルカの呼ばれた場所だ。
 建物の入り口で番をしていた狼族の男から、ここは住人・種族間の問題を協議したり、罪人を裁い
たりする場所なのだと聞き、ルルカは身震いした。
 小さな窓から射す光が集まる建物の中心部に、数人の人影があった。ずんぐりした体型のクズリ族
の姿。赤い衣装を着けた二人の狼族。そして、もう一人、獺族の姿──。
(ウォレン、ジエル……、そしてあの娘は……)
 それはずっと姿を見掛けず心配していた、ミルカだった。
(どうして彼女がここに?)
 四人に近付いたルルカは、中央に立つ狼族と顔を合わせ、その場で足を止めた。ところどころに灰
色の毛が混じった白い毛並を風になびく炎のようにひらめかせるその初老の男の、吸い込まれるよう
な真紅の瞳にルルカは射竦められた。初めて会うルルカにも、彼が狼族の族長であることが分かった。
 彼の心ひとつで、獺族の運命は決まる──。
 怯えるルルカにウォレンが声をかける。
「そんなに緊張するな、ルルカ」
「ウォレン……、私たちはどうなるの?」
「俺もここに呼ばれてきたばかりなんだ」
「そう……」
 ウォレンの大きな手が頭を撫でると、ルルカの不安は消し飛んでいた。何があっても、きっと
ウォレンは自分の力になってくれる。安心すると同時に、頬がかっと熱くなる。ウォレンとこうして
会えるだけで嬉しい。窮屈そうな赤い正装を身に着けたウォレンを見るのは久し振りのことだ。ルルカ
は少し可笑しくなった。畏まった姿が、彼には似合わない。
 ミルカと視線が合う。彼女も『大丈夫よ』と言って微笑んだ。
「獺の娘、ルルカよ──」
 族長の低く力強い声が、地下の広間に響き渡る。ルルカは姿勢を正してその声に耳を傾ける。いよ
いよ、審判が下される──。
「ラッドヤートという言葉を知っているか?」
「……えっ?」
 族長の意外な言葉にルルカは戸惑った。初めは何の事だか分からなかったが、すぐにそれが獺族の
言葉の綴りをそのまま公用語の発音に置き換えたものだと気付く。
「それは、"誰のものでもない土地"っていう意味で……」
「そうだ。獺語のその言葉は、公用語の中に受け継がれ、
 いつしか、多くの種族が集まる解放区を指すようになった」
「それって……」
 族長とルルカの会話を、ジエルの翻訳を通じて聞いていたミルカが口を挟む。
『ここ、シエドラも、かつてラッドヤートと呼ばれていたのよ』
『どういうこと……?』
 幻の街、レドラの名前を聞いたことがあるだろう、と族長は言った。
「二つの街を、獺族は第一のラッドヤート、第二のラッドヤートと呼んでいた。
 それが、レ=ドラ、シエ=ドラという街の名の由来だ。
 分かるか?
 この二つの街は、獺族が建造し、異種族たちに解放したものだったのだ。
 そして、シエドラは、獺族が我ら狼族に贈ったものなのだよ──」

174 :
 獺族は始めにレドラの街を造った。獺族が持つ技術の全てを注ぎ込んだ街は、人々の生活を大きく
改善するものだった。しかし、水事情の良くないレドラの街は、獺たち自身が住むには適さなかった。
その反省も踏まえ、彼らは新しく造る都市をひとつの種族に特化した設計にする実験を始めた。巨大
なダムを建造し、水を確保すると、獺族が都市の機能を管理するための水路と、共存する種族の居住
区を兼ね備えた都市をデザインした。
「今の街の様子はよく知っているだろう。
 流されてしまった石畳の一部は、最初から有ったものではない。
 網の目のように街を張り巡らされた獺たちの泳ぐ道、
 これが本来のシエドラの姿だ。
 そして獺族は本来、賢く、気高く、そして慈愛に満ちた種族なのだよ」
 本当に……?
 自らを卑しい存在と思い込まされてきたルルカには、すぐには信じられなかった。族長の言葉を咀
嚼しながら、父が言っていたことを思い出す。追われる身であっても、誇りを忘れてはいけない、と。
(あれは嘘でも虚勢でもなかったんだ)
 儀式によって剥ぎ取られた獺族の尊厳が次第に取り戻されてくるように感じる。同時に、疑問が次
から次へと湧いてきた。
 では、何故、獺族は追われていたのか。何故、シエドラを除く多くの国の者たちは獺を見つけ次第
にすのか。大干ばつ以前の時代、獺族が世界を支配し、圧政を敷いていたという言い伝えはどこか
ら生じたのか。レドラの街は、何故、消えたのか──。
 ウォレンも、自分が調べていた以上のことを族長が知っていることに納得がいかない様子だ。
「改めて、事情を説明しよう。こちらはミルカ。獺族の語り部だ」
(そうか、族長は、私が彼女と面識があることを知らないんだ。
 それはともかく、語り部……って?)
『私が母から受け継いだのが、この役目なの。あなたが公用語を話すように──。
 私は古い獺族の伝承を語り継ぐ者。
 それは、断片的な歴史の記憶であったり、詩や諺であったり……、
 はっきりとした形のものではないけれど、
 そこにはきっと真実が隠されている』
「狼族の族長にも、暗号のような形で封印された歴史が語り継がれておる。
 儂は、あの洪水から一か月ほど、このミルカの協力を得て、
 シエドラの……、二つの種族の隠された歴史を紐解いていったのだ」
 ジエルが横から、えへんと咳払いをする。
「そうだ。ジエルにも手間をかけさせた。おかげで全てが繋がったよ。
 ルルカ、そしてウォレン──、
 これから話すことには、憶測も含まれている。ただ、真実はそう遠くないはずだ。
 多くは我々の胸にしまっておかねばならない。
 世界を巻き込んでしまった、狼族と獺族の悲しい歴史の話だ」
 狼族の族長はそう言って、滔々と語り始めた。

175 :
 第二のラッドヤート、シエ=ドラの建造は、二つの種族が協力して行った。指揮を執ったのは、獺族
の姫と、狼族の若い族長候補の青年だった。多くの人が早く幸せな生活を手に入れられるよう、寸暇
も惜しんで建造の計画や課題について語り合うようになった二人は、同じ屋根の下に寝泊まりするよ
うになり、やがて、禁断の恋に落ちた。愛し合う二人が、体を重ねるようになるまで時間はかからな
かった。
 獺の姫は少しずつ体を慣らし、ついに狼族の青年の精を子宮の奥に受け入れた。彼女らは知らなかっ
た。狼族の精が獺の女性の体にもたらす変化を。そしてその、異種族に決して知られてはいけない獺
族の秘密を守るために、暗躍する者たちの存在を。
 生来、温厚で慈愛に満ちた獺族はまた、闇の部分も抱えていた。犬科の種族、中でも特に効果のあ
る狼族の精を身に受けると発情し続ける体になる──、そのことは獺族が異種族と交流をするうえで
の足枷になっていた。かつてそのことに気付いた者は、体格の劣る獺族が性の奴隷の身分に堕ちるこ
とを恐れ、秘密を知った者を暗する部隊を組織した。暗部隊は姫が誕生するずっと以前から存在
し、長い歴史の中で多くの異種族を、そして不幸にも肉体が変化してしまった同胞の女性をも、誰に
も気付かれぬよう葬ってきたのだ。
 このときも彼らは同じことをした。
 愛する者が突然姿を消したことに、獺族の姫は嘆き悲しんだ。暗部隊は困難に直面する。これま
でと事情が違ったのは、獺の姫まで口を封じるわけにはいかなかったこと。そして、暗されたのが
狼族の次期族長候補だったことだ。狼族は彼のの真相を追及する手を緩めなかった。
 一方、獺の姫は、青年を手に掛けたのが獺族だったことを知る。
 彼女は贖罪のため、単身、狼族の族長の下へ出向いた。そして、暗部隊の構成員の名を狼族に知
らせると同時に、自らの身柄を差し出したのだ。
 狼族は、報復のために獺族の姫を捕えた。族長とその配下の者たちはすぐ、獺族の秘密に気付く。
生まれたままの姿に剥かれた姫の体は発情し、股間から愛液を滴らせていたからだ。そのことを彼ら
は公表しなかった。ただ、その日、十数人の獺族と獺の姫がシエドラから姿を消した。獺族は必至に
姫を探したが、手掛かりは無かった。二つの種族は表向き取り繕いながら、シエドラの建造を進めて
いった。
 やがて獺族の捜索部隊が、姫の居場所を突き止める。姫は、シエドラから遠く離れたレドラの街に
運び込まれていた。
 獺たちが姫を発見したとき、首輪を嵌められた裸の姫の体には、あちこち金属の装飾による"加工"
が施されていた。レドラの住人は彼女を昼夜問わず凌辱し、性奴隷の価値を高めるべく、あらゆる実
験をその牝獺の身に行っていた。獺たちの目の前で、姫の体は硬直を始めた──。
「──そして、憎悪に駆られた獺族は、レドラの街を一夜にして滅ぼした。
 自分たちが設計した街だ。容易いことだったろう。
 他種族に蹂躙されることを避けるため、暗部隊を失った獺族が選んだのは、
 すべての種族を監視下に置くことだ。
 彼らは水路で世界を分断し、統治した。
 その後の大干ばつが起こるまでは、な」
 族長は語り終えて、そっと目を伏せた。

176 :
(これが、ずっと私が知りたかった真実──)
 呆然とするルルカに向かい、今度はミルカが口を開く。
『抵抗してはいけない。咎は受け入れなければならない。
 犯した罪を忘れぬこと。それが私たちの償い。
 けれど、絶望してはならない……』
『えっ? それは……』
 かつて父から聞かされた、言い伝えの言葉。
『獺族の姫の残した言葉よ。
 レドラで救出された彼女は、その後、獺たちの必至の介護で、
 なんとか言葉を話せるくらいまでは回復したの。
 彼女は武器を捨てることを獺たちに呼びかけた。
 そして、森で隠れ住む生き方を選んだの』
『ちょっと待って、それじゃあ、先ほどの族長の話と違うんじゃない?』
『そう。他種族を制圧したのは、姫に従わなかった強硬派の者たち。
 姫に賛同した者は、獺槍を全て集めて、狼族に差し出した』
『獺槍……?』
『あれは、元は獺族にしか作れない、獺族のための武器なの。
 そして、当時最も傷力の高い武器でもあった。
 その後、狼族を中心とした異種族の抵抗勢力と、
 彼らを鎮圧しようとする獺族の間で長い年月、争いが続けられた。
 やがて大干ばつが訪れ、平野の獺族が滅ぼされると、
 森へ移住した獺たちをも追い詰め、すようになったの』
『私たちは、争いを望まなかった、獺の姫の子孫……。
 そういうことだったのね』
『そう、ルルカ姫の──』
『……えっ!?』
 ミルカの口から飛び出た獺族の姫の名に、ルルカは驚いた。自分と同じ名前の、遥か昔に狼族の青
年を愛した獺族の娘。
「驚いたか?」とジエルの通訳を聞いていた狼族の族長が言う。
「言い伝えにある獺族の姫の名前が、お前と同じであることに。
 これは運命だったのかもしれん。
 あるいは、愛し合った二人の魂が生まれ変わり、お前たちに……」
 ルルカは、族長の口元に手のひらを向け、ううん、と首を振る。
「そうかもしれないけど、きっと、そうじゃない。
 私はただ、この素敵な狼のことが好きになっただけ。
 ルルカ姫だって、きっとそうして、
 お互いのことを少しずつ好きになって、
 ある日、本当の気持ちを口にすることができた。
 それだけだと思います」
(だって、私のウォレンに対する気持ちは、
 誰かに決められていたものなんかじゃない──)

177 :
「そうか……。そうだな、それでいい」
 族長は満足したように頷いた。
「獺族との戦争で廃墟となっていたシエドラに、狼族は戻ってきた。
 そしてここを、交易の街として復興させた。
 儂の何代も、何十代も前になる族長は、シエドラに、
 いつか獺族を迎え入れようと考えたのかもしれん。
 それが今では不可解な戒律として引き継がれている。
 ほとんど食べられることのない魚が毎日水揚げされ、市場に並べられる。
 獺族の特殊な衣服を作るための繊維が採れる植物が、今も栽培されている。
 あの植物は、獺族を追い詰めるために世界中から焼き払われたはずなのだ。
 シエドラは牝の獺に限って、さず受け入れた。
 獺族の血を絶やさないよう、保護するのが目的だったのかもしれん。
 ただ、建前上、彼女らを鎖に繋ぐしかなかった。
 それがいつしか歪められ、お前たちを苦しめる今の制度に変わっていったのだろう。
 許して欲しい──」
 族長が合図をすると、灰色の衣装を着けた狼が何かを運んできて、ルルカとミルカに手渡す。それ
は透き通るような薄い帯状の布だった。
「これは──」
「本来の製法を知る獺に聞いて作らせてみた。"飾り布"だ」
 二人の獺は衣装の上にそれを纏ってみる。狼族から贈られたその飾り布には、彼らの衣装に使われ
る原色の繊維が織り込まれている。ルルカの布には赤の。ミルカには青の──。
 族長は二人に向かい、宣言する。
「改めて、我らシエドラは、獺族をここに迎え入れる。
 おかえり、ルルカ。
 おかえり、ミルカ。
 そして、全ての獺たち。
 今、誓おう。たとえ他の国、他の種族が獺族との共存を認めなくとも、
 迫害を続けようとも、
 狼族はお前たち獺を、命に代えて守ることを──」
 まだ夢の中に居るようだった。ルルカには今聞いてきたことがすぐには信じられない。ただ、獺族
がこのシエドラで生活することが許されたのだけは確かだ。
 族長を残し、ルルカたちは建物を後にする。ジエルは用事があると言う。何でも、胡狼族の青年と
魚料理の店を開く準備をしているらしい。
「なんだよ、驚かせようと思ってたのにさ」
 去り際にウォレンにそのことをばらされたジエルが混ぜ返す。
「ウォレンの旦那も、早く跡を継げばいいのに。
 そうすりゃ、もっと早く獺たちを解放してやれたかもしれないのにさ」
『跡を継ぐって?』
『狼族の赤い衣装は二人しか着られないんだ。族長と、その跡継ぎ。
 生まれ変わりがどうとかはともかく、この人は次の族長に選ばれてるのさ。
 ふらふらと遊んでばかりで、あの爺さんにはいつも小言を言われてるけどな』
『なんだ、遊び人っていうのも本当のことなんだ……』
「都合のいいように言葉を使い分けるんじゃないぞ、お前たち」

178 :
 くすくすと笑うルルカにミルカが顔を寄せる。
『やっと、普通にお話ができるね、ルルカ』
 見詰め合って、改めて互いの姿がそっくりであることに驚く。違うのは飾り布の色だけだ。ルルカ
は彼女と裸同士で会ったときのことを思い出す。乳房もきれいな同じ形をしていた。服を脱いでしま
えば、誰にも見分けが付かないだろう。
『そっくりね、私たち』
『うん。あの……、リングの跡は大丈夫なの?』
『不思議ね、もう穴はほとんど塞がってるの』
『そう……』
 それ以上の言葉が出てこなかった。自分より辛い思いをしてきた彼女にかける言葉が思い付かない。
 塞ぎ込むような素振りを見せるルルカを、ミルカは逆に元気付けようとする。
『これからどうしていいのか不安なのは、私も同じ。
 突然、生き方が変わってしまったんだものね』
『うん……』
 ルルカの不安は、ミルカが考えているものとは少し違う。いざ、シエドラで暮らすことが正式に認
められると、心を決められない。この先自分は、ウォレンとどう付き合っていくのか。
(ウォレンが族長候補だったなんて……。
 私なんかが好きになってよかったのかな……?)
 ウォレンのことを想えば想うほど、ルルカは不安になる。族長とミルカが語った獺族の過去も、に
わかには信じ難い。
『さっきの話は、言い伝えを繋いで解釈したものなんでしょう?
 本当に私たちは、他の種族と一緒に生活していたのかな……』
 そのことなら、とミルカは言った。
『確かめてみたいの。ルルカ、協力して』
『何を?』
『聞いたことあるでしょう?
 "おててにみずかきのある子は、だあれ"』
 懐かしい響きだった。母に抱かれて何度も聞いた。同じ歌をミルカも知っていたことに嬉しくなる。
『獺の子守唄ね』
『これは、子守唄じゃないのよ』
『えっ?』

179 :
『公用語で、彼に言ってみて』
 ミルカはウォレンを指差した。ウォレンがこれを知っているはずがない、そう思いながらも、ルルカ
はミルカに促されるまま、聞いてみる。ウォレンは、間髪を入れずに答えた。
「"それは、おおかみです"だろ?
 その歌が、どうかしたか?」
 ルルカは驚いて、ミルカを振り返る。
『ね?』
『どういうこと?』
『これはね──』
 ミルカは説明する。この歌は獺の子守唄ではない。子供たちが遊ぶときに歌うものだという。獺族
と狼族の間に悲劇が生まれる以前の時代、街では獺族も含め色んな種族の子供が一緒に遊んでいた。
歌はひとつの種族につき、ふたつの特徴を語る。どの種族も、必ずひとつずつ共通点を持っている、
だから仲良くしよう、というのが、歌詞の持つ意味だ。
『彼は今ね、私たちが同じ場所で生活していたことを証明してくれたのよ』
『でも、獺の子は言葉が通じないんじゃ……?』
『そうでもないの。公用語には、その昔、略式言語という形式があったの。
 声帯の未発達な子供や獺族でも発音できるように音を置き換えたものよ。
 大干ばつの後、異種族たちは獺を孤立させるためにそれを使うことを禁じたの』
『そういえば、ジルフがそんなことを言ってたよ。
 獺族でも公用語を喋りやすくする方法があるって……』
『ルルカ姫が生きていた時代は、獺も狼も、普通に会話をしていたのかもしれないね』
 そうかあ、とルルカは思った。
 ルルカは、シェス地区で見た異種族の子供たちに交ざって、獺の子が遊ぶ姿を想像した。それはと
ても素敵な光景だと思う。
『ルルカ姫の残した言葉には、続きがあるの。
 ──けれど、絶望してはならない。
 いつか分かり合える日が来ます。
 私たちはかつて、共に暮らしていたのだから──』
「何の話をしているんだ?
 俺にも分かるようにしてくれよ」
『ごめんなさい、聞き取る方はけっこうできるようになったけど、
 私はまだ公用語が話せないから……』
 ミルカは蚊帳の外にされてふて腐れた様子のウォレンを見て、くすくすと笑った。

180 :
『もうひとつ、ルルカに知らせておきたいことがあるの。
 私……、母親になる──』
『え……?』
 母親って──そう言ったの?
 ルルカは耳を疑った。シエドラに捕らわれた牝獺は子供を産めない体にされてしまっている。それ
が揺るぎない現実ではなかったのか。
『さっき話したでしょう?
 森に隠れ住むようになった私たちは"ルルカ姫の子孫"だ、って。
 ルルカ姫は自分では歩くこともできない体で、それでも子供が産めるまで回復したのよ。
 ユアンがこの話を聞いて、私に言ったの。
 覚悟はあるか……って』
『覚悟?』
『私たちの子宮の入り口は緩んでしまってもう閉じることはない。
 でも、子を身籠った後、そこを糸で縫い合わせるの。
 そうすれば、お腹の子が成長しても流産をしなくて済む、って』
『縫うって……? 痛くないの?』
 ルルカは、母が裁縫に使っていた針と糸を想像し、身震いした。
『お腹の奥にはあまり痛覚は無いのよ』
『本当に、そんなことができるの?』
『ユアンは獣医さんだからね。シエドラのすべての家畜を管理する責任者なの。
 これは、家畜の繁殖に使う技術だって。
 だからって、私たちに使っていけないことはないでしょう?
 私は彼の問いに頷いたの。
 怖いけれど……、何度も涙を流すことになるかもしれないけど、
 可能性があるなら、諦めたくない。
 新しい命を生み出すだけじゃない。私は皆の希望を創るの……。
 ルルカ、あなたもきっと……お母さん……に……なれる──』
『私……も……?』
 ミルカの言葉は、次第に感極まったようになり、途切れ途切れになった。ルルカの声も、うまく声
にならない。信じられない──。カリンが見せてくれた、あの素敵な命を紡ぐ営みを自分の体で──。
 ルルカとミルカは崩れるように体を寄せ合い、そのまま強く抱き合った。二人はわあっと声を上げ
て泣いた。
 怖かった──。
 長い隷従の生活と、災害を乗り越えてからも続く忙しさに追われ、ずっと張り詰めていたものが解
け、積り積もっていた感情が噴き出してくる。同じ姿の相手を前に、もう弱さを見せてもいいんだと
思った二人は、若い女の子の獺らしさを取り戻したかのように、思いっきり泣いた。
 こんな日が来るとは思ってもいなかった。一度はをも覚悟した。
 幸せすぎて涙が次々に溢れてくる。
 子供を産むことだってできるのだ。焼き印の跡も、治療すればほとんど分からなくなるかもしれな
い。元通り、いや、それ以上の生活を手にすることになった。シエドラという新しい故郷と、理解し
合えた多くの人たち。
 ルルカとミルカは、これまで耐えてきた苦難の日々から、今ようやく解き放たれたことを実感して
いた。胸に溜まっていたものが、一斉に噴き出し、涙と共に流れ去っていく。
 ひとしきり泣いた二人は、抱き合ったまま、今度は湧き起る喜びを噛み締め合うのだった。
『ねえミルカ。子宮を縫うって……、あの人……、ユアンがしてくれるの?』
 何気なく思ったことを口にしたルルカは、その意味に気付いてどきっとする。
(ミルカは……、好きな人にお腹の中を触られるんだ……)
 ルルカの質問に恥ずかしそうに体を震わせるミルカは、小さな声で『うん』と答える。
(そうか、だから、ミルカは決心したんだね)

181 :
 羨ましいと思った。幸せそうな表情を浮かべるミルカに、ルルカはさらに聞いた。
『ユアンとはよく会ってるの?』
『それは……』
 ミルカはしばらく口ごもっていたかと思うと、頬に手を当て、恥ずかしそうに言った。
『一緒に住んでるの。
 毎日、抱いてもらってる……。
 その……、妊娠したら当然、できなくなるし……』
『毎日!?』
『でも……、獺の夫婦になるひとのこともきっと好きになれる……。
 おかしいかな?』
 それまでの態度から一変して不安な表情を浮かべるミルカに、ルルカは『ううん』と首を振ってみ
せる。
 そうか──。
 悩むことなんて無かったんだ。
 ルルカは馴鹿族のことを思い出した。彼らは異種族と共存し、愛を交し合っているという。そんな
生き方があってもいいのだ。
『おかしくないよ、ミルカ。
 とても素敵なことだと思う──』
 ルルカは決心した。ウォレンに気持ちを伝えよう。
「さっきから泣いたり笑ったり……、
 いったい何の話をしているんだ?」
 突然声をかけられ、ルルカは振り向く。
「ウォレン、あのね、私──」
「そういうのは、女の子の方から言うもんじゃないな」
 ルルカの言葉を遮るように、ウォレンは言った。
「俺の家に来ないか。働き詰めでしばらく帰ってないんだが、少し体を休めなきゃな。
 やたらと広いばかりの家だ。一人で居るのも落ち着かない」
「え……、う、うん……」
 ウォレンは片目を閉じてみせる。
 まだ、何も言ってないのに──。
(ウォレン、私たちが話していたこと、あなたにはすべて分かっているんでしょう?
 ウォレン──、大好き)
 ウォレンはルルカの背中とお尻を抱えるように抱き上げる。
「お屋敷にお連れしましょうか、お姫様」
「お姫様、じゃないよ……」
「そうだったな」
 ウォレンの大きな力強い手にルルカは体を預けた。しばらく水に浸かっていなかった体が反応し、
途端に火の付いたように熱くなる。
 ルルカは獺族の小さな手でウォレンに抱き付き、今度は自分の番だとばかりに、告げる。
「ウォレン……、いっしょに暮らそう──」
 ウォレンの胸に顔をうずめ、ルルカはこれからのことを思う。この後ルルカは、二人が長い年月を
過ごすことになる場所で、生まれたままの姿でウォレンに抱かれるのだろう。何度も愛し合うことだ
ろう。
 いつか行方の知れない両親がシエドラの存在を知り、ルルカの前に現れたとき、ルルカは胸を張っ
てこの素敵な狼を父と母に紹介するだろう。
(そして、皆で一緒に暮らすんだ──)
 そんな日がきっと来るのだと、ルルカは信じた。

182 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 目の前は血の海だった──。
 仰向けに倒れた牝獺が、全身をヒクヒクと痙攣させている。クズリ族の男は、自分のふとした思い
付きが招いた結果に身が凍る思いをしていた。
「近くに娘がいるんじゃないのか?」
 獅子族の男がもう一度、牝獺に向かって問う。クズリはもうそれを慌てて翻訳しようとはせず、こ
う言った。
「そのことなら、手っ取り早く判る方法がある」
「どういうことだ? 話せ」
「この牝獺の腹を裂いて、子宮を調べる。
 直接触れば、子を産んだか産んでないか、いつ頃産んだのか……、
 代々、獺狩りの通訳をしてきた俺たちクズリ族には、判る」
「ふむ……、なるほど──」
 クズリは、男が思案をしているうちに片を付けようとルルカの母の方を振り返った。
(聞こえていただろう? そして、俺が何をしようとしているか、理解したな?
 お前が今ここで命を差し出せば、俺が娘を助けてやる。
 居なかったことにしてやる。
 そして、お前自身がこれ以上、苦しむことも──)
 クズリ族の男は、腰に着けていた小刀を抜いて構えた。状況を見て豹族の男たちは牝獺から離れて
いく。
(さて、上手くやれよ。
 恐怖に耐え切れなくなって公用語を喋ってしまえば終りだからな)
 牝獺に真意を伝えることはできない。獺語の会話であっても、この恐ろしく勘のいい獅子族の男に
は悟られてしまうだろう。不自然なやりとりはできない。演技をし通すしかない。
『もう、何も答えなくていい。
 俺が決める。
 お前に仲間が居るのか、いや、お前たちが夫婦だとして、
 子供が居るのかどうか、俺が判断してあの男に伝える』
 牝獺はその言葉の意図を汲み取ったのか、何も言わず目を閉じた。
(そうだ、覚悟を決めろ)
 まずはひと思いに喉を裂いて、恐怖から解放してやる。それから、腹を──。
「待て」
 クズリが牝獺を押え付けようとしたとき、獅子族の男が制止した。
「腹を裂くのは、その牝獺自身にやらせるんだ」
「……なんだと?」

183 :
 なんてことを考えるんだ、この男は──。
 クズリは、その発想の恐ろしさに身震いした。思わぬ方向に事態が転がっていく。自分の提案が、
牝獺にさらに過酷な試練を与えることになってしまった。助け舟を出したつもりが、拷問の手段に変
わってしまった。
(馬鹿を言うな。自分で自分の腹を裂くことなどできるものか)
 獅子族の男が何を考えているのか、掴めない。
 肉食獣の冷たい眼光が、牝獺に真っ直ぐ、突き刺さっていた。猫科の一族の祖先は、戯れに獲物を
嬲りす性質を持っていたと言う。捕えた獲物にとどめを刺さず、解放して再び捕え、弄ぶ。それは、
狩りの腕を磨くための習性らしいが、そういった血が、今の彼らにも引き継がれているのか。
「腹を裂け!」と、豹族の男たちが興奮して囃し立てた。
 牡の獺のせいで馬をなせることになり、獺狩りの隊の士気は落ちていた。獅子の男は彼らを鼓舞
しようと考えたのか。仲間の居場所を聞き出すことはもうどうでもよく、腹いせに牝獺を惨しよう
というのか。あるいは、牝獺が公用語を聞き取れると確信したうえで、恐怖を突き付け、口を割らせ
ようとしているのか。
 クズリ族の男は混乱しながら、震える手で牝獺に小刀を差し出す。
『この刃物で……、自分の腹を裂け──』
 そう、言うしかなかった。手のひらにじっとりと汗が滲み出る。彼らを騙そうとしたことが知れた
ら、自分の身も危ういかもしれない。
 獅子の男は、獺族に同情する恥知らずなクズリの欺瞞を暴き、この場で始末しようと考えているの
ではないか。
(だったらどうする──?)
 小刀と槍でこの人数を相手に戦うか。そんなことをすれば、自分は帰る場所を失う。見知らぬ獺の
娘を守るために、そこまでする意味があるのか。
 戸惑うクズリ族の男を、獅子族の言葉以上に驚かせたのは、牝獺の行動だった。
『あなたのことを信じます。だから、どうか──』
 牝獺はそう言って、クズリの手から小刀を受け取ると、両手で柄を握り締め、剥き出しの性器の少
し上あたりに突き立てた。刃物は恥骨の上を滑った後、牝獺の下腹部に深く突き刺さる。牝獺は、そ
れをひと息に臍の下まで引き上げた。
 血が吹き出し、周囲を赤く染めていく。
 牝獺の体はゆっくりと仰向けに倒れた。

184 :
(この牝獺、やり遂げやがった……)
 思わず抱き起し、まだ腹に刺さったままの小刀を取り払う。縦に裂かれた傷口から、腹圧で腸が飛
び出してくる。凄惨な場面だった。
 呆然としているわけにはいかなかった。この後のことを自分がしくじったら、牝獺の覚悟が台無し
になってしまう。あたかもやり慣れた作業のように振る舞わなければならない。
 クズリは覚悟を決め、大きな爪の付いた手を獺の下腹部に押し込み、内臓を探る。腸を掻き分ける
と、手応えがあった。
 傷口の下に見える小さな獺の性器から続いている弾力のある細長い器官、これがおそらくこの牝獺
の子宮だ。
 子を身籠っていない今のその器官は、小さく、儚いものに思えた。触れてはいけないものに触れて
いる。神聖なものを冒していることに、畏れを感じた。
 牝獺は果たして、こんな馬鹿げた提案をした自分を、恨みの籠った目で睨んでいるのだろうか。
クズリ族の男は、恐る恐る確かめる。
(仕方がないだろう。いずれにしてもお前はぬのだから)
 クズリの視線を感じて、牝獺はそっと目を閉じ、微笑んでみせた。
 凄まじい覚悟だ。よく意識を保っていられるものだ。こんな小さな体で、よく恐怖と激痛に耐えて
いるものだ。
 それは、子供を想う気持ちの強さゆえか──。
「どうだ?」
 獅子族の男の声に我に返ったクズリは、手を牝獺の腹から引き抜く。
 せめて傷口を閉じてやろうと、飛び出した内臓を押し込もうとするが、そうするそばから肉の塊が
押し出されてくる。
(こいつはもう助からない。確実にぬ──)
 いつまでもこうしているわけにはいかない。クズリ族の男は手を止め、振り返った。
「この獺は、一度も子供を産んだことはないようだ」
「間違いないな?」
「……俺には判るって言っただろう?」
「そうか、ならばこれ以上、狩りを続けることもない」
 クズリは、獅子族の男があっさりと引いたことに拍子抜けする。
 馬を失っては逃げた獺を追うのにも苦労するだろう。さっさと切り上げて国に戻ろうと考えたのか。
それとも、この男も自分と同じことを考えていたのか──?
 そうだ、試したのだ。そして、知っていた。牝獺がこういう行動を取ることを。命を差し出せば、
代わりに仲間を見逃してやる──、そういう駆け引きを、彼も牝獺に持ち掛けていたのだ。
 ただ、そのことを口に出すことはできなかった。
 獺族は見付け次第、す。同情など寄せてはいけない。
 誰もが当たり前に思っている古い仕来りに異を唱えることは、恐ろしく勇気の要るものなのだ。
(俺たちは、いつまでこんなことを続けるのだろう?)
 牝獺は何かを言おうとしているようだが、喉がヒューヒューと音を立てるだけで、声にはならず、
やがてぐったりと身を横たえ、動かなくなった。この牝獺が公用語を聞き取れるのは間違いない。さ
らに話すこともできたのか、最後に聞いてみたかったが、それは叶わないようだ。
 クズリの男は、近くに裸で転がされていた牝獺の夫の体も、すでに冷たくなっていることを確かめ
た。

185 :
 豹族の一人が、獅子の男に話し掛ける。
「クズリ族ってのは、通訳くらいしか能がないものと思ってましたが、すごいものですね」
 そう言って、便利な能力だ、と感心した。狩りのために何日もかけて辺境まで来ている。早く帰り
たいと思う彼らに、先ほどのクズリの診断は有難いものだっただろう。
 だが、と獅子の男は首を振り、小声で呟く。
「子宮を触ったところで、出産したことがあるかなど、判るわけがないだろう」
「は……、今、何と?」
 獅子族の男は、ほっと安堵の息を吐いた。
 牝獺が覚悟を決めなかったら、あのクズリの男はどうしていただろうか。
(お前たちは見下しているが、クズリ族が本気になればおそらく、
 我々全員が束になろうとも敵う相手ではないのだぞ……)
 聞いたことがある。かつてクズリ族は、獺たちと協調関係にあった。水辺でしかその能力を発揮で
きない獺族に代わって戦闘行為を行う彼らは"陸の獺"と呼ばれ、恐れられたという。獺族が世界を分
断し圧政を敷いた時代、彼らは獺族に従う者と、異種族の連合に協力する者に分かれた。クズリ族は
同胞で激しいし合いを繰り広げることになった。それは彼ら自身が記憶を封印したほどの、恐ろし
く悲しい歴史だ。
 平野の獺族が滅ぼされた後、生き残ったクズリ族は仲間が獺に与したという負い目から、他種族に
従属する今の生き方を選んだのだという。
(それはともかく……)
 獅子族の男が、貴族階級の持ち回りで獺狩りの指揮を執ったのはこれが初めてではない。獺をす
度に、強い罪悪感に苛まれてきた。
 あのような気高い精神を持った種族がいったい過去に何をしたというのだろう。
 誰も覚えていないのに、いつまでこんなことを繰り返すのか──。
「獺の体は、一応、槍に刺して持ち帰りますか?」
 豹族の問いに、獅子の男は答えなかった。
「……平野に下れば、それなりの流れの川があるだろう」
「は? 川……、ですか?」
「シエドラの水瓶に続く河川の一つだ。
 ここは彼らの領土に近い──」

186 :
 冷たい水に体を浸され、意識が戻る。
(水……? 川……なの?
 そう……、還ってきたのね。私たちの遠い──)
 まだ、母獺はかろうじて息をしていた。裂けた腹にはもう感覚も何もない。夫の長い、密に生えた
ヒゲが顔に触れる。誰かが牡獺の腕で牝獺を包ませ、抱き合わせ、水に浸けていた。二頭の獺の体を
しっかりと結ぶ二本の布帯の端が、水流にゆらゆらと揺れた。
 水葬──、というのだろうか。当人たちにも忘れ去られていた、獺族の風習だ。
 母獺の目から零れ落ちた涙が、川の水に溶け込んでいく。ずっと、自分たちは獺槍に突き刺された
惨めな姿でんでいくものと思っていた。天寿を全うすることは望めない。獺たちは命を繋ぐため、
誰かのため、囮になってぬのが常なのだ。
 それが、どうだろうか。
 信じられないことに、この獺狩りの隊は、彼女らの尊厳を認めてくれた。母獺はこのように弔って
もらえることに感謝した。
 彼女は夫に語りかける。声は出ていない。口はまったく動かない。それでも、心の中で言った。
ルルカはきっと生き延びてくれますよ、と。
(何も心配することはない。
 そう、何も──)
 ルルカは優しく、芯の強い子だ。まだ若い娘には、教えられなかったことも沢山ある。自分や仲間
の命を守る方法、獺族の男女がどのように愛を交わすのか、そしてどのように子を産み、育てていく
のか──。心残りはある。だが、大切なことは全て伝えたはずだ。それはルルカの中に息づいている。
 長く続いた哀しい時代が、終わろうとしているのかもしれません。
 あの子は優しい子。私たちの自慢の娘ですもの──。
 いつかきっと、獺と他の種族との心を繋いでくれる──。
 夫が頷いたように見えた。母獺は、にっこりと微笑む。そして、目を閉じ、再び呼吸をすることは
なかった。
 川面に浮かべられた獺の体を支えていた者が手を離すと、その小さな獣の体は軽く沈み、水流に押
されるように動き出す。二頭の獺の亡き骸は、まるで戯れるかのように絡み合い、ぐるりぐるりと水
の中を踊りながら流れていった──。

   かわうそルルカの生活 −完−

187 :
これで、かわうそルルカのお話は終わりです。
長らくお付き合い頂き、ありがとうございました。
元は震災の直後に応援の気持ちを込めて書き始めたものです
(それで凌辱かよ、って突っ込みは置いといて)。
災害ネタということですぐに公開するのを躊躇い、寝かせていました。
初めは二週毎に一話のペースを考えていたのですが、実生活の方が…。
長々とスレを占有する形になってしまったことをお詫びします。
楽しんで頂けてたら幸いです。
いくつかご質問のあった件
>作品構想のきっかけ
水害から人々を救う→カワウソという単純な発想です。
パートナーを狼にしたのは、水掻きと吐き戻しのエピソードを
入れたかったから。
タイトルは「か○うそタルカ」という動物文学の名作への
リスペクトですが、中身は全く関連ありません
>公式HPやブログなど
pixivに保管庫あります。手直ししてあるので、読み返したい方が
おられたら、どうぞ
>なんとなく狼×兎の時間割を思い出したけど、同じ作者さん?
文体かなり変わったはずなのに…なぜバレたし!?!?
以上、ありがとうございました

188 :
うおおおおお! うわああああああ!(心の叫び)
お礼を言うのはこちらの方です。本当に長い間ありがとうございました!
用意したティッシュで涙を拭く作品とはまさにこのことか! と毎回思っていました!
「かわ◎そタルカ」・・・!? 元ネタがあったとは!(不勉強ですみません)
pixivの方も拝見させていただきますね!
それではまたいつか! 先生の次回作をお待ちしております!

189 :
祝、完結

190 :
お手てに水かきのある子は、だあれ?
それは、おおかみです
のところで号泣しました
長期執筆お疲れさまでした
ありがとう

191 :
完結乙!
>狼×兎の時間割
あの作者さんだったのか!

192 :
残酷だけど余韻の残る終わり方でとても良かった
満足…というのとは違うけど満たされたって感じがしたよ
長期間に渡って投下お疲れ様!!
また味のあるお話期待しちゃっていいかな

193 :
抜くことに罪悪感を感じるぜ……
乙乙さらに乙

194 :
乙乙!ありがとう!

195 :
完結乙!!ルルカたんのご両親は残念だったけど
命に代えて守ったルルカたんが助かって幸せになったのは良かった
狼と兎の学園SSも号泣した覚えがあるぜw
チキショウ今回も泣かせやがって

196 :
ラッドヤートって何だっけ? という人は一話から復習だ!
読み返せば読み返すほど深みが増す。すごい作品だなぁ…

197 :
コメント、ご感想、ありがとうございます>ALL
ところで、狼×兎は、最後、ニンジン入れっぱなしで終わってることに
気付かれてましたか?
ルルカも、そういうおふざけではありませんが、色々と細かい
仕込みがありますので、時間があるときにでも読み返してやって
ください。
ではでは。

198 :
左下の猫がちょっと可愛い件。
ttp://www.pixiv.net/novel/contest/boxairss.php
誰か応募した方いませんか?

199 :
以前に載せました物の続きを貼ります。
後半(【7】以降)にスカトロ表現がありますので苦手な方はご注意ください。

200 :
【 3 】
「すごいんだよッ? コーヒーなのにね、チョコレートみたいな匂いがするんだ」
 説明のひとつひとつに大きく手振り身振りを添えてはカルアンは今日の出来事を、さらには自分の中の感動と衝撃とを伝えようとする。そしてそんなカルアンを前に、
「ほほう、チョコレートみたいな香りのコーヒーかい」
 彼の祖父は好々爺然とした笑みを浮かべた。
 場所はカルアン宅――夕食後の話である。
「そういう言うコーヒーも無いことはないぞ。グァテマラも種類によってそんな香りがする」
 言いながら祖父もまたメガネを直して小さくうなづく。中肉中背で温和な雰囲気の祖父は、カルアンを成長させてそのまま老けさせたかのよう和やかだ。
 そんな似た者同士ゆえか、カルアンは幼少の砌から祖父とは相性が良かった。件のコーヒー好きになったきっかけもこの祖父であったし、同年代の子供がいないこの村においては
祖父こそが親友であり、そして出稼ぎに出ている両親の代わりともいうべき存在であった。カルアンの最も信頼できる大人である。
 そんな祖父にカルアンは今日出会った少女チャコのことを、そして新しくできた喫茶店とそこで知ったあの不思議なコーヒーについて語ったのであった。
「そうなの? でもね、僕すごく驚いたんだ。だって本当にチョコだったんだもん」
 興奮から立ち上がり語り続けていたカルアンはやがて、祖父の傍らに移動しその膝の上に乗り上がる。
 そこから振り向くよう首をひねっては祖父を見上げ、カルアンはそんなコーヒーの説明をしていく。
 そして、
「それでね、そのコーヒーについてチャコったら何も教えてくれないんだよ? 名前はね、『コピ・ルアク』っていうんだ」
「コピ・ルアク……かい?」
 ついにカルアンの口からそのコーヒーの名が紡がれた瞬間、祖父は思わず言葉を失った。
 見上げるその表情は驚いたよう瞳を開いてはせわしなく瞬きをするあの、チャコの表情と同じものであった。
「もしかして、そのコーヒー知ってるのッ?」
 そんな表情に『もしや』とその一瞬、カルアンの期待も高まる。もし祖父がそれについて知っているのならば、カルアンの疑問はすべて晴らされるのだ。
 そうして振り返り、祖父の膝の上を完全にまたいでは胸へすがるカルアンを前に、
「あー……いや、聞いたことがないのぉ」
 我に返ったのか祖父は、絡ませていた視線を宙に泳がせてはあごひげを弄んだ。
「本当? 本当に知らないのぉ?」
「世界は広いぞ、カルアン。わしの知らないコーヒーくらい、この世にはごまんとあるて」
 そうして言い諭す祖父の言葉にカルアンもため息をつく。同時に祖父もまた、この追及が止んだことに小さく嘆息を漏らす。
「しかし、そのコーヒーも気になるのぉ。カルアンや、明日はわしもそこに招待してやくれんかね?」
「もちろん! そのつもりで今も話してたんだ。一緒に行こうねー♪」
「ふむふむ。それにしてもコピ・ルアクか……」
 かくして翌日の昼下がり、カルアンは祖父の手を引いて再びチャコの店を訪れるのであった。
 昨日同様、中庭から家屋のベランダへ入るとそこにはゆったりと豆を挽いているチャコの姿。
「チャコー、こんにちわー♪」
 それを確認して嬉しい気持ち一杯の元気な挨拶をするカルアンに気付き、
「あら、こんにちは。今日も来てくれたの?」
 チャコもまた豆を挽く手を止めて、カルアンへと笑顔を返した。

201 :
「うん、こんにちは。どう? あれからお客さん来た?」
 挨拶もそこそこにカウンター席に座りチャコの前へ陣取ると、カルアンは期待した様子でそんなことをたずねる。
「ううん、全然だよー。今日だって、君がお客さんの第一号」
 言いながら笑うチャコとは対照的に、あからさまなまでに落胆の表情を浮かべるカルアン。とはいえしかし、看板も出していない昨日今日出来た喫茶店の存在など他の村人が知ろうはずもないことと説明を受け、カルアンも前向きに気持ちを奮い立たせるのであった。
 そんな世間話の傍ら、
「あら、そちらの人は?」
 カルアンの背後で、店内の様子を目を細めて見まわしている祖父の存在に気付きチャコは声をかける。
「はじめまして、お嬢さん。こちらのカルアンの祖父でアルクルといいます。大変美味しいコーヒーが飲めると聞いてやってきました」
 ハットを取り、和やかに挨拶する祖父にチャコにも自然と微笑みが漏れる。こういった他人を和やかにさせてしまう雰囲気はカルアンとよく似ている。
「はじめまして、アルクルさん。そう言われちゃうとなんか緊張しちゃうな」
「いつも通りに淹れてください。『コピ・ルアク』が飲めると聞いて、昨日は寝付けませんでしたよ」
 いいながらカルアンの隣に座る祖父を前に、チャコはその一瞬、驚いたよう眼を開いて彼を凝視する。その表情は奇しくも昨日、『コピ・ルアク』を知らないといったカルアンに見せた表情を同じものであった。
 とはいえしかしその心境は、今と昨日とでは全く逆である。
「えーっと……もしかして、知ってます? アタシのコーヒーのこと」
「とても美味しいと聞いています」
 チャコの鹿爪ぶった質問に対して、さらに思惑めいた答えを返す祖父。
 しかしながら、こうとしか返しようがないのだ。
 実際のところ、この祖父は彼女の出すコーヒー『コピ・ルアク』のことを知っている。それゆえにチャコが、何も知らないカルアンに対して秘密を貫いたことまでも。
 だからこそ、この返事であったのだ。
 カルアンを前に自身がコピ・ルアクについて知っていたことを悟られまいよう秘匿するのと同時に、一方でチャコには全てを知りながら受け入れることを示すための、祖父なりの配慮であった。
「アルクルさん……」
 チャコはそんな好々爺と、何も知らないカルアンとを見つめる。
 そしてそれを知ったからこそ、
「――今日はありがとうございます。精一杯、淹れさせていただきますね」
 チャコは今日一番の笑顔を光らせるのであった。
 かくして昨日同様に挽きたての豆をネルにセットしてドリップを始めるチャコ。
 粉の中央で細かに円を描いて湯を刺していくと、粉は美しく均等な丸みを帯びて膨張し、ハンバーグ状のきめ細やかなドームをネルの上に作り出す。
「ふわー……この匂いだよ、おじいちゃん。でも昨日よりももっといい匂いだあ」
「ふむ、これ確かに。胸の奥底が暖かくなるような良い香りだ」
 膨らみ豊かなドームは鮮度の良さの証拠である。カルアンの言うよう、昨日以上にチャコのコーヒーは豊潤なその香りを店内に漂わせた。
 蒸らしの工程を経ると完成も間近だ。
 ドームがしぼみ、その中で滞留していた湯が落ち切る状況を見極めて、チャコは最後の注湯をする。淹れ初めとは違い、注湯の軌道をブラさぬよう粉の中央へストレートに湯を差しては、きめ細やかな泡が立つよう慎重にドリップをしていく。
 そしてネルの下に設えられたガラス製のサーバーに、カップ二杯分のコーヒーが抽出されたのを見極めると、チャコはドリッパーをそこから外し、温めておいたカップへと淹れたてのコーヒーを分けていった。

202 :
 そうして―――
「どうぞ。今日一番の、一杯です」
 チャコは慇懃にそのコーヒーを差し出すのであった。
 出されるそれを、カルアンを祖父の二人は静かに口元に運ぶ。そして一口目を口中に含み、
「んむ? すごい……昨日のよりもずっと美味しい」
「ほぉー……これはぁ」
 カルアンと祖父は揃って感嘆の声を上げた。
 二人を驚かせたものはまず、その香り――鮮烈に鼻の奥底を通り抜ける香りは、件のチョコレートのそれではあるのだが、けっして駄菓子めいた幼稚なものではない。香りの甘さの奥深くにはしっかりと豆自体の香味が、
チャコのコーヒーの甘さを支えている。
 そしてその奥底に僅かな酸いの風味を感じた瞬間、かの酸味は得も言えぬコクとなって喉の奥に広がり、そんな味の輪郭をはっきりとさせた。
 酸味が広がるほどに甘味とチョコレートの香りとは舌全体に広がり、そしてその味わいを確認すると、今度は酸味とそれに準ずる香りとが新たに喉の奥で発生しては、飲む者へ味の変化を楽しませてくれるのだ。
 その味わいはさながら協奏曲(コンチェルト)である。
 チョコレートの香りと苦みとが織りなすソナタを基調として、そこに酸味や甘味といった味わいの楽章が重なり、終には再び甘い香りの再現において幕を閉じる――今日の日に淹れられたチャコのコーヒーは、もはや
飲み物の域を超越した感動と夢想とを二人へ魅せてくれたのであった。
 そんな一時の夢を飲みほし、終始掌に持ち続けていたカップをソーサーへ戻すとしばし――祖父は大きくため息をついては余韻に浸る。そしてその隣では、昨日以上に興奮した様子で祖父とチャコとを交互に見やるカルアン。
「すごいよ、チャコ。昨日よりもずっと美味しい。どうして? 豆替えたの?」
「んふふー、そう言われると恥ずかしいなあ。今日のはね、炒りたての本当に新鮮なやつだったの。でも嬉しいな、そんな味の違いに気付いてくれるなんて」
 カルアンに応えながらも、チャコはちらりと目の端で祖父の様子もうかがう。むしろ今日のチャコの興味は、この祖父にこそあったからだ。
 それに気付いてか祖父もまた顔を上げると柔和な笑顔で礼をひとつ。
「たいへん美味しかった。お世辞なんかではなくね」
「本当ですか? ありがとうございます。……少しほっとしました」
 祖父のそんな言葉に安堵で胸をなでおろすチャコ。そんな彼女を前に祖父はなおも続ける。
「このコーヒーは、あなたが『作って』いるのですよね?」
 そんな質問に、チャコも依然として笑顔のまま小さくため息をつく。
「……そうです。豆を選んで、そこから全部アタシが『作り』ます」
「そうですか。昨日うちのカルアンからも聞いたと思いますが、このあたりにはコーヒーを飲むという習慣がありません。それゆえに、あなたのお店とそしてコーヒーは好奇の目にさらされてしまうことになるやもしれません」
「…………」
 続けられる祖父の言葉にチャコは僅かに表情を伏せ視軸をずらす。
 いま祖父がチャコに対して告げてくれている忠告は、まさに彼女の不安を的確に言い表せたものであったからだ。
 しかし、
「それでも、私はあなたにコーヒー作りを辞めないでもらいたい」
 祖父はその締め括りにハッキリと告げた。
「このコピ・ルアクは、私が今までに飲んできたものの中でも最高の味でした。あなたの優しい人柄が伝わるような素晴らしいコーヒーでしたよ」
 そんな祖父の言葉に息をのむと、チャコはその頭(こうべ)を上げて彼を直視する。
「アルクルさん」
「きっとこのコーヒーと、そしてあなたの素晴らしさはみんなに理解されるはずです。それまではどうか頑張ってくださいな」
 半ば一方的に告げると祖父は立ち上がり、カウンターに置いていたハットをかぶり直す。

203 :
「カルアン、今日は素敵な喫茶店に招待してくれてありがとう。おじいちゃんは用事があるから先に行くけど、お前はゆっくりしておゆき」
 そしてカルアンに対しても一言添えると、祖父はチャコの店を後にしてゆくであった。
 しばしその後ろ姿を見送りながら小さくため息をつくチャコ。
「素敵な人ね。あなたのおじいちゃんって」
 視線は依然として彼の消えたドアのそこへと向けられている。
 そして大きくうなづいてそれを振り切ると、
「やる気出てきたーッ。カルアン、アタシ頑張るよ」
 チャコは今まで以上にまぶしい笑顔を咲かせるのであった。
「突然だけど、今日はケーキも焼いてみたんだ。カルアン、味見してくれない?」
「いいの? いくらでも大丈夫だよ、僕♪」
 かくして、気持ちも新たに経営意欲を燃やすチャコ。
 この村での喫茶店が始まったことを、チャコは改めて実感するのであった。

204 :
【 4 】
 チャコと出会ってから一週間が過ぎた。
 その間カルアンは足繁く彼女の店に通ってはそのコーヒーの秘密を解明しようと躍起になるも、もはや自分の知識ではチャコのコーヒーの解明は出来ないことに彼もまた気付きはじめていた。
 ならば直接チャコの口からそれを聞き出せないものかと、あの手この手と話題を振っては聞き出そうとするも、やはり彼女の口からそれが語られることはない。それどころかチャコが話す、
他の森の話があまりにも楽しくてついカルアンも本来の目的を忘れて彼女の話に没頭してしまうのである。
 そうして煩悶とすること一週間――ついにカルアンは、最後の手段に出ることを決意する。
 それこそは、彼女チャコの生活を盗み見ることで例のコーヒーの秘密を探ろうとすることであった。
 とはいえその行為に罪悪感が無かったわけではない。
 否、素直な心の内を吐露するならば、いま早朝の朝霧の中を歩いているこの瞬間もなお、そんな葛藤は自分の心の中で押し合いへしあいをしている。
 それでもカルアンはそれを振り切った。それほどまでにチャコのコーヒーはカルアンを魅了してやまなかったからだ。
「せめて、バレないようにやるから……許して、チャコ」
 歩みを止めて立ち止まると、カルアンは靄にかすむチャコの家影に両掌を合わせては祈りをささげるのであった。
 かくして彼女の家に到着するカルアン。
 時刻は午前5時――夏前の今ではすでに日も高く、いまひとつ『忍んでいる』といった実感がわかない。それでも早朝ということもあってか周囲にカルアン以外の人影はなく、またこの時間帯に
発生する朝霧のおかげで、カルアンは誰の目に止まることもなく彼女の家まで辿り着くことが出来た。
「もう起きちゃってるかなぁ?」
 あれほどまでに秘密にする謎のコーヒーなのだ。
 早朝、あるいは深夜にこっそりと豆の仕込みを始めているのやもしれないという期待を胸に家屋の裏手へと回りこむカルアン。
 件の場所には彼女のトラックが停められていて、そこの荷台に上るとちょうどキッチンの小窓にカルアンの視線は届くことが出来た。
 いつも通っている店内側の反対に位置するそこが、ちょうどキッチンの裏手になる。そこから内部の様子がうかがえないものかとカルアンは考えたのだ。
 そして物音立てぬよう、慎重にそこから覗きこむキッチンの内部――しかしながら静まり返ったそこに人の気配は無い。
「あれ? まだ起きてないの?」
 すっかり肩すかしをうけて後ろ頭を掻くカルアン。とはいえ、勝手に期待していたのは自分であるわけだが。
「寝てるのかなぁ? チャコの部屋ってどこだろ」
 ならばとトラックから降り、さらにカルアンは家の外壁に沿って歩き出す。
 件のキッチン裏を過ぎて少し歩くと、今までにない大きな窓に辿り着く。
 もしかしてと思い、屈みこんで近づいてはゆっくりと窓を覗き込むカルアンのすぐ目の前に――誰でもないチャコの顔があった。
 その突然の出現にカルアンは、心臓が喉からあふれるのではないと思わんばかりに驚いて首を引っ込める。
――ち、チャコがいた……! すぐそこに! バレちゃった……!
 思わず鼻頭(マズル)と口元を両手で覆っては、息を止めるカルアンではあったが……いつまで経っても周囲は早朝の静けさのままである。
 その様子にいぶかしみ、カルアンは再びあの窓を外から覗き込む。
 耳を伏せ鼻先の立てて、恐る恐る覗きこむそこには――誰でもないチャコの寝顔があった。
 なんてことはない。たまたま彼女の横たわるベッドが窓際に設置されていたというだけであったのだ。
 まだバレてはいなかった。それどころか依然として彼女もまだ夢の中である。
 そのことにカルアンは安堵する。
 しかしながらカルアンの受難はまだ尽きない。
 こともあろうか、今度はそんなチャコの寝姿から目が離せなくなってしまった。

205 :
 目鼻立ちの整ったチャコの寝顔は僅かに微笑んでいるかのよう穏やかで、それを見守るカルアンは吸いこまれるかのように見惚れた。
 また夏先という時節もあってか素肌の上に寝巻のシャツを一枚羽織っただけの胸元は露わに開き、右を下にする姿勢と相成っては凝縮された豊満な胸の谷間が惜しげもなくカルアンの前に晒されているのだ。
――な、なにこれ? 頭がクラクラする……チャコすごく綺麗……
 そんなチャコを前に昂鳴る胸の鼓動へめまいを覚えては、カルアンはそれを振り切り、窓の下に座りこんだ。
 そこにてようやく深く息をつき、我に返るカルアン。
――まだドキドキしてるー……。なんだろう、こんな風にチャコが見えるなんて……?
 まだ二次性徴すら迎えていない少年には、いま自身に起きている心の在り様――さらには肉体の変化の理由など理解出来ない。ただただ、チャコの寝姿に見惚れては煩悶とし罪悪感に苛まれるばかりである。
 と、そんな折――窓の向こうでベッドの軋む音とチャコの起き上がる気配を察し、カルアンは両肩を跳ねあがらせた。
 地面に這いつくばってさらに姿勢を低くすると、自分の存在を察知されないよう息をしてその場をしのぐ。
 しばしして家の中からは彼女チャコがベッドから降りて別な部屋へと移動していくであろう足音――その様子に恐る恐る頭を上げて室内を覗き込むと、そこには寝室から去りゆく瞬間の後ろ姿と尻尾が見えた。
「ついに動いた……ッ。キッチンかな?」
 それを確認し、カルアンも来た道を返る。
 キッチン裏まで再び戻ると、物音をたてぬようトラックの荷台へと登り、そこから厨房の小窓を覗き込むのであった。
 そしてカルアンの視界にはついにキッチンへと現れるチャコ姿が……!
――やっと……やっとあのコーヒーの秘密が分かるんだ!
 そんな過度の期待を胸にそれを見守るカルアンとは対照的に、アクビながらに水道の蛇口をひねりグラス満たした水を飲むチャコの姿は悲しくなるほど現実的で呆気ない。
 その後もチャコの一挙手一投足に反応しては彼女のコーヒーの秘密解明に期待するカルアンではあったが――結局チャコはというと、なんてことのない朝食の準備をしてそそくさと喫食の店内へと歩き去ってしまうのであった。
 その一連の行動を見届け、
「…………ッはぁ〜」
 カルアンは落胆に頭を垂れては深くため息をついた。
 早朝から張りこんでその結果がこれではあんまりすぎる。
 とはいえしかしカルアンもすぐに気を取り直す。
「まだ終わったわけじゃない。もしかしたら、これから何かあるのかもしれないんだ。諦めないぞ」
 意欲も新たに、再び探究心を燃やすカルアン。
 少年の長い一日が幕を開けた。

206 :
【 5 】
 カルアンが監視するチャコの一日それは、なんとも緩慢でそして平和なものであった。
 朝食を終えて食器を洗うとチャコは、いつものあのエプロンを身につけては店内の掃除を始める。埃を払い床を掃き清め、念入りにモップ掛けをして店内とさらにはテラスに至るまでを念入りに掃除するのだ。
 その後は食器磨きを少々。午前中に店を訪れることの多いカルアンは、よくこの作業中のチャコを目の当たりにしていた。それが今日はグラスである。
――えらいなぁ、チャコ。毎日掃除と食器磨きやってるんだ。
 そんな彼女の真摯な経営態度に思わず感心してしまうカルアン。
 と、そんな折――
『――はぁ。今日は、カルアン来ないのかなぁ?』
 ふとグラスを磨いていた手を止めたかと思うと、チャコはそんなことを独りごちて鼻を鳴らす。そんなチャコの呟きに、思わずカルアンは胸を抑える。
 その一瞬、気のせいなどではなく胸が熱くなった。なぜかとてもそんなチャコの一言が嬉しかったのだ。
 チャコが日頃から自分のことを考えていてくれたことが、初心(うぶ)な少年の心を激しく駆り立ててやまなかった。
――チャコ……僕だって、僕だって今すぐ会いに行きたいよ!
 そんな声にならぬ叫びを胸の内で吠え猛ては、恋情に眉元をしかめた熱い視線をチャコに投げかける。
 それでもしかし、カルアンは行けない。
 なぜならば今は彼女のコーヒーの秘密を探る為にこうして朝から潜んでいるのだ。ここで飛び出して行ってしまっては、今までの行為――さらにはその熱意がすべて台無しになってしまう。
 ……とはいえしかし、それも建前。
 実際のところカルアンは、自分でも気付かずに意固地になっていただけだった。
 頭ではもう彼女のコーヒーの秘密などどうでもよくなっている一方でしかし、心では一度決めたことをやり通すというつまらない意地が働いて、今のカルアンを素直にさせないでいる。
 ゆえにチャコの前に出ていけないカルアンは独り、そんな葛藤に身悶えては煩悶とするばかりであった。
 かくして昼過ぎになり、昼食の準備を始めるチャコ。
 今度は朝と違いキッチンでそれを摂る様子に、カルアンも持参していたサンドイッチを取り出してはそれに相伴することにした。
 と、あることに気付く。それはチャコの食事の内容であった。
 彼女の目の前にはスープ皿に盛られた赤い果実が一山――それが浸る程度にミルクをそこへ入れると、チャコはそれを食べ始めるのであった。
 食事の内容はそれだけである。そしてそれは、朝食ともまったく同じメニューであったことを思い出してカルアンは首をひねった。
「フレークでもないし、あの赤い実って何なんだろう? 色の感じから果物かなぁ」
 時折り唇をいの字に噛み締めるチャコの口元からは、あの赤い実にはそこそこの歯応えがあるようにも見受けられた。
 結局のところ、チャコの食べていたものの正体も分からないまま二人の昼食は終わる。
 午後になり、微塵として来訪者の気配もないチャコとカルアンの時間は、さらに緩慢と流れた。
 キッチンからカウンター席に頬杖をついては店内と、さらにはテラスから中庭の様子を眺めるチャコが大きく欠伸をするたびに、それを見守るカルアンもまた眠気をこらえて欠伸を重ねるのであった。
――なぁに〜? 一向に動かないじゃん、チャコ。何かやってよぉ……。
 覗き見をしている身勝手を棚にあげてわがままを言うカルアンは、手持無沙汰も相成ってトイレに立つ。
 裏口に広がる雑木林のさらに奥へと入っていくと、そこな藪の一角で小用を足しながら、
「そういえばチャコって……今日はまだトイレに行ってないなぁ」
 ふとそのことに気付く。
 思い返してみれば朝起きてから今までに至るまで、カルアンはチャコの姿を見失ったことなどは無かった。つまりそれは本日、彼女が一度たりとて排泄をしていないことを示している。
 しかしながらすぐにその疑問などは霧散して、そんなことを思いついたことさえカルアンは忘れてしまうのだった。
 チャコの排泄の有無など、彼女のコーヒーの秘密などにはもっとも関係のないことである。……はずであった。
 それゆえ後に、カルアンは今日までの人生最大の衝撃をこの日体験することとなる。

207 :
☆       ☆       ☆
 その事件が起きたのは、陽もすっかり暮れてようやくチャコが店仕舞いをした直後のことであった。
 テラスに出していたテーブルと椅子とを店内へ運び込むと、チャコはサッシの引き戸を閉じて戸締りをする。
「はぁ〜……終わった〜。長かったなぁ」
 その様子を見届けて大きく伸びをするカルアンとシンクロして、奇しくもチャコもまた両腕を上げては胸をそらし、大きくため息をついた。
 懐を探り懐中時計を確認すればすでに時間は午後七時を回っている。
「結局なにも分からなかったなぁ……今日は出直そう」
 慣れぬ監視に疲弊しきっていたこともあり、今日の収穫は諦めて帰宅を考えたその時であった。
 ふと見下ろすキッチン内のチャコに不穏な動きを発見してカルアンは目を凝らした。
 自分一人だというのにしきりに周囲を気にしては何度も戸締りを確認しに店内とキッチンとを往復するチャコ――特に窓をカーテンで遮り、執拗に外部からの目を気にするようなその仕草にカルアンもメガネのずれを直しては注目する。
「ん? もしかして……もしかして?」
 そう。チャコのコーヒー作りの秘密がわかる瞬間が突如として訪れた――それを予期したカルアンの胸はその音が喉から外に漏れるのではないかと思うほどに大きく高鳴る。
 そしてそんなカルアンの期待はしかし――おおよそ最悪の形で叶えられることとなる。
 あいにくにも覗き見されているキッチン小窓の角に気づかぬチャコは、黙々とその準備を進めていく。
――豆はなにを使うのかな? 焙煎に秘密が? それともその前にもっとなにか特別なことしてるの? 早く見せてよチャコ……!
 覗き見る小窓のガラスが曇るほどに鼻先を押し付けては目下のチャコの一挙手一投足を凝視するカルアン。そしてその視線の先には、サラダを盛り付けるような大皿を両手に調理台の前に立つチャコ。
 そして次の瞬間、カルアンはチャコの取った意外な行動にくぎ付けとなる。
 大皿を調理台の上に置いたチャコは、こともあろうか自身もまたその上へと登ってしまうのであった。
――え? なに? 台の上に乗っちゃうってどういうこと?
 どう想像を巡らせてもチャコの行動の意味が理解できないカルアン。
 更には前掛けの裾をめくり屈みこむと、チャコは大皿の上へ尻を誘導する。膝を折りたたみ、つま先を立てて股ぐらを開くその姿勢は、野外にて排泄を行う際のそれに良く似ていた。
 足を畳むことで凝縮されたチャコの下半身は肉厚を増して、尻の石づきと股間のクレバスを形成する恥丘とが盛り上がる。そんな突然の光景を前に、見守るカルアンの頭の中はかつてない興奮で真っ白に曇った。
――本当に……本当に何をするのチャコ!? 分からないよ! 分からないよ!!
 今にも弾けて胸の内を破りそうになる鼓動に眩暈を感じながらそれを凝視するカルアン。その前で四つに折りたたんだ布巾を股間に当てるチャコ。
 そして、
『んッ……んんッ………!』
 一呼吸した後、吐く息を胸に止めてチャコは息ばむ。
 腹部が締り、股間に当てた布巾には薄く色が滲む。そして貝の呼吸管のようせり出してきた肛門が臀部の影の中央から頭をのぞかせた瞬間――チャコは大皿の上に排泄をした。
 そんな光景を前にその一瞬、カルアンは引きつけるように一度痙攣した。
 もはや何も考えられない。目の前で繰り広げられる見知ったチャコの痴態……肛門は虫の腹部のよう波打っては便を送り出し、括約筋の疲労とともにその口を閉じては便を断ち切る。
 そうしてチャコは皿の上へと黄褐色の便を三切れひりきってその行為を終えた。
 股間に当てていた布巾で尻を拭き清め、調理台から降りるチャコ。その後はトングを使い便をほぐしだす光景に、
「はぁはぁ………んぐッ!」
 こみ上げる嘔吐感に我に返り口元を押さえるカルアン。

208 :
 マズルを両手で覆っては必になって食道に競り上がってくる内容物を抑えこむ。苦しみから瞳をきつく閉じては眉元をしかめるカルアンはしかし、それでもチャコの行為から目が離せない。
 便をほぐす彼女の手元はどこまでも迷いなく淀みない。そしてその行為が自分の便の中からある特定の物体を選り分けるための作業であることにカルアンは気付く。
 便の中に埋もれたトングの先に何やら豆のような白い物体がつまみ取られていた。大麦のよう中央に溝の入った楕円のその形――それこそは紛れもない、焙煎前のコーヒー生豆であった。
 それらをひとつづつ、形の割れているものと選別しながら除けては別皿の上へと取り分けていくチャコ。しばしその作業を続けると、皿の上にはカップ三杯ほどの生豆が盛りつけられていた。
 その作業を終えると形の整わなかった豆とともに大皿の上の便をゴミ袋へと投下して、上から幾重にも袋を重ねては厳重に縛り密封する。そして形の整った生豆をシンクへと運ぶと、チャコはひねった蛇口から勢いよく水流を当ててそれを洗い始めるのであった。
 一粒一粒を親指の腹で揉むように濯ぎ、さらにはセンターの割れの中へは爪を立てて念入りに洗っていく。
 そんな光景を見ながらもカルアンはまだ、
――違うよね……違うよねチャコッ? そんなのが、君のコーヒーの秘密なんかじゃないよねッ!?
 祈るよう縋るよう、割れ鐘のごとく鳴り響く頭痛の中で願い続ける。
 やがては洗ったそれをザルにあけるとタオルで包みこむよう丁寧に水切りし、チャコはシンク下の棚から柄のついた金笊と川手袋とを取り出した。
 半月に蓋の開閉が可能な金笊は、コーヒー豆を焙煎する際に使う器具ある。その中へ先の豆を入れると金笊のふたを閉じ、そこをクリップで固定してチャコはコンロの火へとかける。
 弱火でじっくりと加熱しながら笊を揺するとやがて、水分の無くなり始めた豆からは薄皮(チャプ)の脱皮を始める破裂音。そこからさらに根気よく揺すり続けると、次第に豆は褐色に色付きだしてはピチピチと二回目の破裂(はぜ)と共に強く香りを発せ始める。
 たちどころにキッチンに充満する香ばしいそれ。そして件の覗きこむ小窓からも漏れてきたそれが鼻孔をくすぐった瞬間、カルアンはチャコのコーヒーの秘密を全て把握してしまうのであった。
 あれほどまでにカルアンを魅了したあのコーヒーの正体――それこそは、チャコの排泄物に他ならなかった。
「う……うわぁ………」
 強いめまいと共に後ずさると、腰砕けた足元はもつれてカルアンは大きくトラック荷台に尻もちをついた。
 その大きな音に驚いて顔を上げるチャコ。一方で這うように荷台そこから降りては震える足で走りだすカルアン。
 もはや転倒の際にメガネを振り落としてしまったことすら意に介さず、カルアンは逃げるように帰路を走る。
「はぁはぁはぁ……ッ」
 秘密を知ってしまったことによる恐怖と嫌悪、
「あぁ………あぁッ!」
 裏切られたことへの愁嘆に重ねて自己嫌悪―――胸中に満ちるありとあらゆる想いに我を見失いながら走るカルアンは
「うわぁぁぁあああああああッ!!」
 いつしか声を上げて泣き出していた。
 その一方で、
「誰? 誰かいるの?」
 裏口から表へと出たチャコは音がしたトラックの周辺を見渡す。
 そんな荷台の一角に、月明かりを反射(かえ)して煌めく何かを見つけチャコはその上へと上がる。そしてそれの見失わぬよう凝視しながら屈みこみ、手にしたそれを確認して息を飲んだ。
 そこにあったものは――
「あ………これって」
 一個のメガネ。ラウンド型のそれは、誰でもないカルアンがいつもしているものであった。
 その発見と同時に悟る。
「……ついに……ついにこの時が来ちゃったか」
 カルアンに自分のコーヒーの秘密が露見してしまったことを。
 言いようのない虚脱と喪失感に苛まれ、チャコは拾い上げたカルアンのメガネを胸に苦悶にしかめた顔を空へ向ける。
 空には猫の瞳のような新月がひとつ―――涙のようにチャコへと月光を振り煌めかせるばかりであった。

209 :
【 6 】
 落下の悪夢から目覚めた時のよう、カルアンは突如覚醒した。
 依然として仰向けに寝たまま、しばし見開いた眼(まなこ)を動かしては周囲を確認する。
 窓から差し込む朝陽と小鳥のさえずり、そして横たわるベッドの感触を再認識すると、
「はぁー………」
 そこが自分の部屋であることを理解し、カルアンは深くため息をついては再び瞼を閉じるのであった。
 昨夜の驚愕の事実――目が覚めた時にすべて夢であったことを望んだカルアンではあったが、着の身着のままで寝ている今の自分の恰好は、昨日チャコの家を訪れていたものと同じ服(もの)である。
 非常にも全ては現実であった。
 右へ寝がえりを打つと、今度は昨日の事実をどう受け止めるべきか考える。
 己の排泄物から取り出した豆でコーヒーを淹れていたチャコ……それこそがあの魅惑の飲み物の正体である事実は、到底受け入れられるようなものではない。
 しかしながら、そうではないはずなのにカルアンは悩んでいる。
 それほどまでに彼女のコーヒーが魅力的であると同時に、はたして愉快犯的にあのような悪戯をするような人物に、あれだけの豊穣で素晴らしいコーヒーが淹れられるものなのかとカルアンは思うのだ。
 コーヒーにはその淹れた人間の人格が反映されるという。常々祖父がカルアンに語りかける言葉ではあるが、その通りにチャコの淹れてくれたコーヒーは、飲む者を包み込んでくれるかのようなそんな彼女の人柄が知れてくるなんとも暖かいものであった。
「なにが正しいの………?」
 再び仰向けに戻り、見上げる天井へ答えなど返ってこようはずもないそんな問いを投げかけたその時であった。
 控え目なノックが二度、部屋のドアを打ち鳴らした。
 ゆっくりと間を保って、中のカルアンを窺うように鳴らされるそれは祖父のものだ。
「ん? なぁにー?」
 それを知るから寝たままの不作法でカルアンもそれに応える。
 しかしながらそれに対して返された祖父の言葉に、
「起きてるかいカルアン? チャコさんが見えてるぞ」
「ッ!? ち、チャコが!?」
 カルアンはバネ仕掛けのよう跳ね起きた。
 はたくよう髪や耳を整えては訳もなく胸元の埃を払ったりと慌てふためくカルアンは、今になって自分がいつものメガネをかけていないことに気付いた。
「あ、あれ? メガネ……アレ無いと見えないのにぃ」
 眠る時にはいつもベッドのまくら元へ畳んで置いてあるはずのそれが、今日はどこを探しても見当たらない。
 やがては枕やシーツをめくってと大々的に探し出すカルアンの背後で静かに部屋のドアが開く気配がした。
「ちょっと待ってー。メガネが無いんだよう」
 依然としてそれを探すことに熱心しているカルアンは、背後にいるであろう祖父へそんな言葉を投げかける。
 しかしながらそこから返ってきたものは、
「やっぱりコレ、カルアンのだったのね」
 高く弾むような瑞々しい声――その響きに一度引きつけて硬直し、油の切れたゼンマイのよう首を振りかえらせるそこには、
「おはようカルアン。はいコレ♪」
 自分へとメガネを差し出しながら笑顔のチャコ。
 そんな彼女を確認し、そして再び昨日の光景が脳裡に再生されて今重なった瞬間、
「う、うわぁぁぁ!」
 情けない声を出して跳ね上がると、カルアンは尻からベッドに着地した。

210 :
 そんなカルアンを前に微笑むと、近くからイスの一脚を引きよせてベッドの傍らに座るチャコ。
 しばしそのまま、二人は沈黙して過ごす。
 混乱のあまり何も考えられなくなっているカルアンと、一方で昨日の弁明に何から話したらいいものか思案にくれて話しだせないチャコのそんな二人。
 やがて、
「……そのメガネね、昨日アタシのトラックの上で見つけたの」
 チャコが静かに話しだした。
「アタシがコーヒーの仕込みをしてる時に物音がして、それを確認しに行った時にこれを見つけたんだ」
 その言葉にカルアンは息を飲む。緊張と罪悪感からうつむいたまま固まってしまっている彼は、顔を上げてまともにチャコを見ることすらできない。
 そんなカルアンを前にチャコは尋ねる。
「カルアン、アタシがコーヒーを作り出すところを……あなたは見たの?」
 核心に触れるその質問を前にカルアンは息を止める。
 なんとかして取り繕わなければと思った。
 昨日自分でも振り返った通り、親しい人の生活を覗き見るなどは最低の行為だ。それをしていたことをチャコに悟られる事がカルアンは怖かった。
 なんとしてもこの場はシラを貫き通さなければならない。
 しかし――
「ん……うッ……あ………ッ」
 言葉が出てこない。何も考えられない。そして斯様な沈黙は、遺憾にも己の不義を証明してしまうのだった。
 そんなカルアンを前に、
「そう。――あーあ、バレちゃったかぁ」
 一変してチャコは声のトーンを一段高くさせてはうなづく。
「気持ち悪い思いさせちゃってごめんね。騙すつもりは無かったんだ」
 そうしてチャコは自分のこと、さらにはあのコーヒーのことについて話し始めた。
「最初はね、自分でもおかしいだなんて思ってなかったの。アタシの居た森じゃコーヒーって言うのはこうやって作るものだったし、みんなそうだと思ってた」
 彼女の種である『ジャコウネコ』は、食したコーヒー生豆へ腸内の消化酵素や内在菌の働きによって、独自の発酵と香味を加えることが出来る体質的特徴を持っている。
 それゆえにチャコ達種族だけが暮らす集落においては異例なことでもなかったその精製法も、こと外界(そと)における反応はおおむね昨日カルアンが見せたもの同じであった。
 最初の異変に気付いたのは故郷からだいぶ北上したとある村でのことであった。
 独り立ちをして立ち寄った一番最初の集落であった。
 そこにおいて念願の自分の店を開いたチャコも、それは最初は歓迎された。
 彼女の作る香り芳しいコーヒーは評判となり、村の誰もがそれを褒め称えては彼女の店を訪れた。
 バリスタとしてこれほどまでに仕事冥利に尽きることは無い。やがて当然のようこのコーヒーについての質問が出たその時、彼女は屈託なくこのコピ・ルアクの説明をしてしまう。
「あの時の光景は、いまも忘れられないわ……」
 話を聞いていた一人が見る間に青ざめて嘔吐するのを皮切りに、店内の客達はことごとく彼女のコーヒーを吐き散らした。
 そして次の瞬間には口汚く彼女を非難したのだ。

211 :
 とはいえそれも仕方のないこと。その村においては、排泄物から食料を摂るなどといった習慣などは無いのだ。それゆえに村人達はチャコが悪意を持って自分達をからかっていたのだと曲解し――結果チャコはそこを追い出されたことになった。
 この時初めて彼女は『世界』というものを知った。
 今までは閉鎖的な空間であった『自分の村』だけが彼女の世界であった。しかし斯様にして非難されてチャコは、皮肉にも自分という種の在り方とそして他人と言う種との垣根というもの理解した。
 この瞬間、彼女の独り立ちは本当の意味を持つこととなる。
 以来、カルアンのいるこの村へたどり着くまでの彼女の旅路はそれは過酷なものであった。
 なまじ目鼻立ちが整ったチャコとそして魅惑のコーヒーである。
 訪れた先において彼女とそのコーヒーはたちどころに評判となるがしかし、やはり最後には悲劇を以て終わりとなった。
 チャコもそうなることを理解していたから、ことさらそれを隠しそして誤魔化そうと躍起になるも――最後は今回のカルアンのよう、その秘密を覗かれて、そこを去らざるを得なくなってしまうのだった。
 そんな旅の繰り返しに幾度となく故郷に逃げ帰ろうかと彼女は悩んだ。それでもしかし、
「だけどね、もしかしたらこんなアタシでも受け入れてくれる場所や人達がいるんじゃないかなって思ったんだ」
 チャコは種族(じぶん)自身と、そしてそこに伝わるコーヒーに誇りを持っていた。
 恥じるべきことは無いのだ。必ずや理解してくれる者が現れてくる――そんな祈るような想いで訪れたのがこの村であり、そしてそこで出会ったのが誰でもないカルアン達であった。
「だからさ、アルクルさんの言葉がすごく嬉しかったの。今度こそここで頑張ろうってアタシ決めたんだ」
「…………」
 己の過去を明かし、そして胸の内を語りかけ続けてくるチャコを前にしかし、カルアンは彼女の顔を見ることすらできない。ただその視線は彼女の膝元に置かれた握りこぶしを凝視したまま上げられないでいた。
――何か言わなきゃ……何か言わなきゃ……!
 必にカルアンもまた、何か彼女の語りかけに対して反応を示そうと躍起になる。しかしながら思うほどに思考は空転し、意識は縺れとりとめなくなっていく。
 かくして一言として言葉が返せないまま、
「だけど、ごめんね。嫌な思い、したよね?」
 それを待つ前に、チャコが静かに席を立った。
「アタシには謝ることしかできない。だけど……だけどね、これだけは言いたいの」
 春雷のよう頭の上から響いてくるチャコの少し震えた声――
「アタシのことは忘れてくれても、このコーヒーだけは覚えていて。アタシのお母さんの、そのまたお母さん達がずっと伝えてきてくれた、素晴らしいコーヒーなの。だから、お願い」
 消え入りそうに語尾が滲んで途絶えたかと思うと、その瞬間にはチャコはカルアンの部屋を出て行くのであった。
「ッ――、チャコ!」
 その様子にようやくカルアンも顔を上げるも――すでにそこにチャコの姿は無い。
 誰も居なくなった静寂の朝の光景に、カルアンも力が抜けて大きくため息をつく。緊張のあまり呼吸すらもがおざなりになっていた。
 そうして独りになり、先程までのチャコの言葉のひとつひとつをカルアンは思い出していく。
 行く先々で忌み嫌われたチャコとコーヒー……それでもそんな種(じぶん)とコーヒーに誇りをもっていたチャコ……最後には自分(カルアン)のせいで傷つけられたにも関わらず、チャコはあのコピ・ルアクを嫌いにならないでほしいと訴えた。
 同時に思い出す。それはチャコの両手。
 声の上辺は明るく装っていた彼女も、膝の上にそろえた両手は拳の色が白くなるほどに強く握りしめていた。
「……悲しみを、耐えていたんだ」
 それに気付いた瞬間、

212 :
「僕は……僕は、なんてことをッ………あぁ!」
 カルアンは己が取り返しのつかない罪を犯したことに今ようやく気付いたのであった。
 身勝手にもチャコの私生活を覗き、さらにはその秘密を暴き、ついにはチャコを傷つけてしまった。
 非難されるべきは自分だ。謝らなければならないのは自分だったのだ。
 そのことにいま気付いた。
 それでもしかし、カルアンはチャコの跡を追えなかった。
 己の犯した罪に慄くあまり、ただカルアンは震え、そして涙を零すばかりであった。
「ごめんよ……ごめんよ、チャコ……ごめんよぉ」
 ベッドへと突っ伏すと、すがるようシーツを握りしめては声の限りにそれを繰り返しては涙するカルアン。
 幼く弱いカルアンはただ、届くことのない謝罪をチャコに捧げ続けるばかりであった。

.

213 :
【 7 】
 チャコと別れたあの朝以来、カルアンは抜け殻と化していた。
 ただ植物のよう虚無の日常を送るカルアンの中には、つねにチャコのことがあった。
 初めて出会った時のことはもとより、魅惑のコーヒーの体験や二人きりの喫茶店で話したお互いの話、さらにはあの衝撃の夜とそして涙の朝――そんな彼女との想い出を繰り返すごとに、徐々にカルアンの空の躯(うつわ)にはチャコへの想いが満たされていった。
 ゆえにいつも朝に目覚める時、「今日こそは」とチャコへ会いに行く覚悟を心に決めるカルアンではあったが、結局は尻込んで寝室と玄関とを右往左往するうちに一日が終わるという日々を過ごしていた。
 そんな妄想と無為とに行き来するうちに一週間が過ぎた。
 今更どのような面を下げて会いに行けというのか――時が経るにつれてその思いは日々膨らんでカルアンを苦しめる。
 しまいには、一体いまの自分は彼女の何に対して思い悩んでいるのかすら分からなくなっていた。
 それこそはあのコーヒーの正体への恐怖なのか、それともチャコへの仕打ちに対する罪悪感なのか、それともはたまた自己嫌悪か……ただ姿の見えない正体不明のそれにおびえているうちに一週間も過ぎてしまったのだった。
「カルアン、大丈夫かい?」
 そんなおり祖父からの声に我へと返る。
 目の前には食後のコーヒーを差し出しながら、小首をかしげて自分を覗きこんできている祖父の怪訝な表情(かお)。
「う、ううん! な、なんでもないよッ!」
 そんな祖父の問いにその一瞬両肩を跳ねあがらせると、カルアンはそれを誤魔化すようコーヒーを煽っては舌を焼いた。
「それならいいんだが。なんだか最近元気が無いように思えたからね」
 カルアンの不穏に気付きながらも愛と信頼ゆえに静観を決める祖父は、話題を変えようと世間話を切りだす。
 しかしそれこそが、
「そういえば最近チャコさんの店が開いて無いようだが、なにか聞いていないかいカルアン?」
「ッ―――!?」
 直球でカルアンの心をえぐった。
「やってない? やってないの? チャコ、お店休んでるのッ!?」
「これ。なんだね、行儀の悪い」
 両手をテーブルに突いて、その上へ乗り出さん勢いで迫るカルアンを嗜めながら、祖父もその経緯を話しだす。
「一週間程くらい前になるかな? ほら、チャコさんがお前に会いに来たあの日くらいからだよ。それくらいから店を開けている気配が無いんだよ」
「…………」
「それだけじゃない。どうもコーヒーも淹れてないみたいでね。いつも店の有無に拘らず、昼過ぎには良い匂いがしてたもんだったが、最近は全くと言っていいほどそれが無い」
「……………………」
 祖父の話を聞きながらカルアンの表情から生気が消えていく。瞳が濁り、鼻先が乾いていくその様子についには祖父も見かねて、
「何かあったのかい? カルアン」
 一言、救いの言葉を投げかけた。
 そしてそれを受けて、
「ッ………おじいちゃん、あのね」
 涙をいっぱいに溜めた瞳の顔を上げると、堰を切ったかのようカルアンは今までのことを打ち明けるのであった。
 チャコのコピ・ルアクの正体を知ってしまったこと、その為に最低の行為をしてしまった後悔と苦悩、そして涙のチャコを見送ったあの朝の事件――。
 幼さゆえに支離滅裂にそれらを説明するカルアンの話を祖父は静かに聞いた。

214 :
 そして全てを語り終え、あとはただ泣きじゃくるばかりの孫を前に、
「カルアン、聞きなさい」
 祖父は出来うる限り抑揚ない声音で以てその名を呼んだ。
 それに反応して顔を上げるカルアンへと咳払いをひとつ。
「人というものはね、それは複雑に出来ている。心も体も複雑ならば、それが千差万別みんな違うというのだから、ややこしいことこの上ないな」
 だからこそ、と言葉を続ける。
「一度悩みを抱え込むと、いつまで経っても答えが見えない時がある。『分かる・分からない』の範疇ではなくて、『見えなく』なってしまうんだな。そういう時はね、もっとも根源的なことを思い出すようにしなさい」
「こんげんてき、なこと?」
「根っこの部分のことさ。カルアンはチャコさんのことで悩んでいるね? じゃあ、カルアンはチャコさんのことをどう思っているんだい? 好きかな? 嫌いかな?」
 チャコを好きか否か――そんな祖父の問い。
 しかしそれを受け入れた瞬間に、カルアンは大悟に達してしまった。
 チャコとの別れを果たしたあの朝から抱えていた全ての悩み・疑問・嫌悪が全て消し飛んで、ただひとつの答えが導き出される。
 カルアンは、
「僕は……チャコが、好きだ」
 チャコを愛していた。そのことに気付いた。
 愛していたが故にあのコーヒーの秘密を知った時、自分の中の幻想が砕かれ衝撃を受けたのだ。
 愛していたが故に彼女を裏切る行為をした自分に自己嫌悪し、愛していたが故に彼女を傷つけたことを今日まで苦悩していたのだった。
 そして今、愛しているからこそカルアンはチャコへの想いと、そして自分自身の気持ちに決着をつけることが出来た。
「謝らなきゃ! 僕、すぐに謝らなきゃ!」
 誰に言うでもなく叫んで立ちあがると、駆けだしてはカルアンは祖父との朝食の席を後にする。
 玄関を飛び出し、慣性に上半身を引っ張られながらもカーブをとるカルアン。
 チャコの店までは自分の家から一直線だ。
 決して遠くは無いその道を走りながらカルアンは初めてチャコのトラックを追いかけた日のことを思い出す。
 あの時はここへやってきたチャコを迎えるために走った。しかし今は、去り行かんとしているかもしれない彼女を留める為に走っている。
 チャコは以前にも、コピ・ルアクの秘密を知られたがゆえに住処を転々としたと言っていた――ならば、もしかしたら今回もまたそうなのかもしれない。あるいはすでに、もう居なくなっているのかもしれない。
 そんな恐怖が思わずカルアンの両足を縺れさせる。
 それでもしかしカルアンは粗ぶる呼吸(いき)を飲み下し、ただチャコがまだ居てくれていることを信じて走り続けた。
 やがて地平の先から見えてくるチャコの店。中庭の垣根を飛び越えると、カルアンは走ってきた勢いそのままに、体当たりをするようドアに体を預けそこを開けた。
「チャコー!」
 その名を叫び、店内を見渡す。
 窓のカーテンが閉められて遮光された薄暗い店内に人の気配は無い。それどころか、綺麗に掃除されて家具や調度の上に埃よけのシーツがかぶせられたその光景は、まさに引越しが行われたかのような有様である。
 それを目の前にしてカルアンの背筋が粟立つ。込み上がる涙と予感とを抑えながらもしかし、カルアンはさらに家の奥へと、彼女の寝室へと進んでいく。

215 :
「チャコッ? チャコぉ?」
 彼女が寝ていた寝室に到着するも、やはりそこにもチャコの姿は無い。
 シワ一つなく畳まれたシーツのベッドと綺麗に掃除された室内の様子がさらにカルアンの不安を掻き立てる。
――違うよね? そんなことないよね? 絶対に何処にも行ってないよね?
 祈るよう縋るようにカルアンは、最後の確認をすべく店へと戻る。そしてキッチンを通り抜け裏口の前に立つと、そこのドアノブを握ったまましばし彼は動きを止めた。
 不整脈を抑えるよう浅くか細く息をしながらノブを握る右手に力を入れる。
 ここから通じる家屋の裏手には彼女のトラックがあるはずである。
 それこそが最後の答えなのだ。
 もしそれが無かった時――それこそはカルアンとチャコの本当の別れを意味するのである。
 やがては心を決め、深く吸い込んだ息を胸に留めるとカルアンは力強くドアを押し開いた。
 そこに広がる光景――目の前に、
 トラックは無かった。
「あぁ…………」
 震えた。
 うなじから発生したそれは悪寒にも似た波を以て背筋を滑り全身へと伝播する。
 トラック一台分の空間があいたそこには夏を前に生い茂り始めた雑草がさらさらと風に踊っては笹鳴りを奏でている。
 それを前にしたまま、やがては尻からその場へとへたり込むカルアン。
 しかめた眉元の表情はそのままに、見開いた瞳に貯まった涙はやがて胸を膝をと問わずにあふれだし、カルアンを濡らした。
「……ごめんなさい、チャコ」
 依然としてトラックの無いそこを見つめたままカルアンは呟くようその名を口にする。
「僕は、ひどいことをしちゃった……君を覗いて傷つけて、それだけじゃなくて、あの朝だって傷つけた」
 紡がれる己の言葉に堰の切られた涙はさらにあふれて床に弾ける。
「謝りたいよ、君に……ちゃんと、ごめんなさいって言いたいよ」
 声が震え、涙をいっぱいに湛えた瞳をまばたきに押し切った瞬間、
「ごめんなさい! ごめんなさい、チャコー!」
 ついにカルアンは声を上げて泣き出した。
 一度あふれた想いと涙は止まらない。
「僕が悪かったんだ! だから帰って来て!! 帰って来てよ、チャコ!!」
 ついにはその場へと突っ伏して、声の限りに泣くじゃくるカルアン。
 しかしそのその時であった。
 そんな背中に、
「じゃ、許してあげようかな?」
 不意なその声。

216 :
 それに驚いてカルアンは弾かれたよう、伏せていた頭を上げる。
 その様子にさらにくすくすと小さな笑い声が起きている背中の気配にカルアンは胸の高鳴りを覚えていた。
 そしてゆっくりと振り返るそこには――
 振り返ったそこには――――
「勝手に家に入ってきたと思ったら、なぁに? 泣き虫さん♪」
 前かがみに自分を見つめながら悪戯っぽい笑顔を浮かべるチャコが、そこには居た。
 いつか見たシャツ一枚の寝間着姿の彼女。
「チ………チャコぉ!」
 それを確認し、ようやくチャコの存在を実感できたと同時――カルアンは翔ぶように立ちあがり、振りかえり様にチャコを抱きしめていた。
「チャコ、チャコぉ……ごめんなさい、ごめんなさいッ。あぁ……ごめんなさい」
「うんうん。よしよし」
 しばしそうして謝り続けるカルアンを抱いてやりながら、チャコも一週間ぶりであった邂逅を堪能する。
 そうして気持ちが落ち着くと、
「でもさぁ、トラックはどうしたの?」
 カルアンはべそをかきかきその疑問をチャコへと問い尋ねる。
「トラックの方は整備に出したの。もうずいぶんと乗り続けてたからね。でもまだ昨日の話よ?」
「すごく驚いた。もう絶対に出て行っちゃったんだって思ったんだ。お店だって休んでたって聞いてたから」
「あぁ……お店の方はねぇ―――」
 軽快に話していた語尾をチャコは意図的に曇らせては視線を宙に泳がせる。
「なんっていうか……出すものが無いっていうか、出るモノが出ないっていうか……うん。まぁそのね――――」
 そうして少し間をおいて、
「便秘なの」
 チャコは恥ずかしそうにその告白をして、あとは笑って誤魔化してみせた。
 その答えを前にもはや動揺するカルアンではない。すでにそれへ対する悩みは克服している。だからこそ、
「おなかの調子悪いの? 大丈夫?」
 そんな気遣いの言葉をひとつ。
「うん、大丈夫。いままでもね、けっこうあるんだコレ。食生活が食生活だからさ」
「コーヒー豆、食べてるんだよね? 他には何を食べてるの?」
「他には何もないよ。あとはミルクとお水、それとコーヒーくらいかな」
 そして返されるチャコの答えにカルアンは驚きから目を剥いた。
「そ、それだけ? 肉は? 野菜は? 体に悪いよ」
 当然のごとくそれを心配するカルアンではあったがそれに対して「大丈夫だよ」とやんわりチャコは言い諭す。
「アタシ達ジャコウネコはね、それだけで十分に栄養が取れるの。うちのおばあちゃんなんて同じもの食べてるけど80歳越えたってまだ元気なんだから」
 とはいえ、通じの悪さばかりは手を焼いているのだと付け加えてチャコはまた笑った。
 種の特異性により栄養摂取の面では問題が無い食事も、ことさら『通じ』に関しては話がまた違ってくる。どうしても食物繊維が摂れない関係からも、こうした便秘との戦いはもはや避けられない宿命(さだめ)ではあるのだ。

217 :
「ウンチが……出づらいの?」
「うん。――とはいえ、今回の一週間モノは初めてかな? 基本的に豆が未消化で出てくるからそれが詰まっちゃってたりもするんだよね〜」
「……ご飯だって、色んな美味しいものがあるのに食べられないの?」
「そうね。だけどさ別に辛いとは思ってないよ、アタシ」
 カルアンの心配そうな表情(かお)を変えてやろうとチャコはことさらおどけては明るく振舞った。
「だって、カルアンやみんなにはアタシの作ったコーヒーを飲んでもらいたいもん。美味しいコーヒーを飲んでもらいたいもの」
 そしてそう応えてみせては心からの笑顔を咲かせるチャコを前に、カルアンは一度でも愉快犯的にチャコがあのコーヒーを振舞っていたのだと疑ったことを恥じた。それどころかチャコは、我が身を呈してまでコーヒー作りに情熱を注いでいたのだ。
 全てはそれを飲む自分(カルアン)の為に。
 それを理解すると、チャコの身を案じると同時にカルアンはたまらなくチャコのことが愛しくなるのであった。
「ありがとう、チャコ。僕、嬉しいよ。そんなチャコの気持ち一杯のコーヒーを飲めるんだから」
 改めてその感謝と共に、カルアンはそっと掌をチャコのおなかに当てる。
「はやく元気になって……」
 祈るようそこをさすり、そして改めてチャコを見上げると、
「チャコ、大好きだよ。君の全てが好きだ」
 カルアンはその気持ちをまっすぐに伝えるのであった。
「あ………う、うん」
 それを受け止めて、ついらしくもなく戸惑っては視線を振り切ってしまうチャコ。
 とはいえ嬉しかった。
 今日まで否定され続けてきた自分をようやく今、受け入れてくれる人が現れたのだ。それが嬉しいような恥ずかしいような――そんな実感が遅れて心に到達したその瞬間であった。
「――んッ? あ、あれ? なにこれ……すごいの来たッ」
 突き上げる様な腹痛が下腹部にうねると同時、チャコは腰を引いてカルアンにすがりつく。
 激しい便意が突如としてチャコを襲ったのだ。
 しかもその勢いたるや今までに感じたこともないような衝撃であった。思わずチャコはカルアンにしがみついたまま膝を折ると、その場にうずくまって動けなくなってしまう。
「わ、わわ? ど、そうしたの? どうしたのチャコ?」
 一方のカルアンは焦るばかり。腕の中にそんなチャコを抱いたまま右往左往としてしまうが、
「ん、くッ……だ、大丈夫だよ、カルアン。そこらへんにお皿ないかな……?」
 チャコも息絶え絶えにフォローを入れる。
 そんなチャコの言葉にようやくカルアンも豆の排出があるのだと気づく。
「あ……そ、そうか。お豆、出るんだね。えっと――こ、これはどう?」
「うん、いいと思う。ありがとね。じゃあ床に置いてもらえるかな」
 おあつらえ向きにキッチンの上に出されていた大皿の一枚を取ると、言われるままにそれを床に置く。
 それを自分の元へ引き寄せては尻の下に誘導するチャコ。
 前に揃えていた両膝を開き股間をあらわにするよう姿勢を直すと、いよいよもってチャコは排泄の仕草に体位を変えた。
――うわぁ……チャコの大事なところが丸見えだぁ……。
 それを正面から目の当たりにして、思わず生唾を飲み込むカルアン。

218 :
 以前の遠くから覗き見ていた時と違い、今度はチャコの体温と息使いとか感じられる目の前に居るからだ。
 卵のように無垢な姿をさらした恥丘の中を走る膣口のスリット――その眺めは何処までも愛しくカルアンの目には映る。
 しかしながら我に返るカルアン。
「――あ、ごめんね。じゃあ僕、向こうに行ってるから」
 腕に中のチャコから離れ、気まずそうに愛想笑いで取り繕うとその場を離れようとする。
 もう覗き見をしていた自分ではないのだ。あの時のような罪悪感などまた抱え込みたくは無い。同時に、これがチャコにとっては神聖な行為であることもまた知ったからこそ、カルアンはそんな彼女の営みを邪魔したくはなかった。
 そうして離れようとするカルアンではあったがしかし――その瞬間、すがっていたチャコの掌に力が込もると、彼女の手は強くカルアンを引きとめる。
 そんな力に驚いて視線を向けるその先には、
「……お願い、カルアン。ここにいて」
 自分を見つめてくるチャコのすがる様な眼差しがあった。
 その視線を受けてなおさらに胸の鼓動は高鳴りを大きくさせる。
「で、でもさぁ……その、やりづらくない? なんっていうか、僕のせいで恥ずかしい思いをさせちゃうみたいな気がして」
「うん……恥ずかしいのも本当。でもね、それでもカルアンには見ててほしいの」
 すがるチャコの瞳が涙で潤んだ。
「カルアンは、初めての人なの。こんなアタシの秘密を受け入れてくれて、それでいてこうしてそばにいてくれる……初めての人なの」
「チャコ……」
「だからお願い。アタシのコーヒーを作るところを最後まで見ていて」
 いかにコピ・ルアクの性質上とはいえ、それでも他人の目の前で排泄に及ぶことの羞恥それは、一般人の感覚と変わらない。
 それでもチャコは、そんな自分の全てをカルアンに見届けてほしいと願った。
 チャコを愛するカルアン同様に彼女もまた、知らずにカルアンへと惹かれ始めていたのだ。
 それを受けて、
「わ、わかった。わかったよ、チャコ。僕なんかで良ければ……そばにいるよ」
 カルアンも緊張した面持ちでうなずくと不器用に笑顔を作る。
 そうして膝を地に着きチャコと視線を同じにすると、そっとカルアンはチャコを抱きしめた。
「あぁ……カルアン」
 そんなカルアンからの抱擁に、チャコもその肩口へ横顔を預けてはより互いの体を密着させる。
 かくして、
「はぁはぁ……ん、出そう。出そうだよ、カルアン」
 カルアンの腕の中、腹部にうねるような鈍痛を感じながら息ばんでいくチャコ。
 そうして呼吸を止め、ひときわ強く力んだその瞬間、撹拌した液体を絞り出すかのような水音が静寂のキッチンに響く。
 僅かに開き始めた肛門の間口とその奥にて栓となっているであろう便との間を通り抜けた空気がそんな音を奏でるのだ。
 細く長く尾を引いて響き続けるそれが、やがては消えいるよう鳴りやんだその次には、
「ん、くぅ……! 硬いよぉ……大っきいよぉ……!」
 今度はみちりみちりと肉を裂くかのような音が響きだす。

219 :
 背の峰越しに見下ろすチャコの臀部からは褐色に変色した便が一切れ、直腸を体外へと引きずり出しながら排出されている様子が見て取れた。
「だ、大丈夫? すっごい大きさだよ、チャコ? お尻、壊れちゃうよッ」
「う、うん……こんなの初めてだよぉ。岩とか石をおなかの中から出してる感じ……」
「一回、切ることとかは出来ないの?」
「無理っぽい……やろうとしてるんだけど、お尻が広がりきっちゃってて力がこめられないの」
 言う通りかの便が今現在通過をしているチャコの肛門たるや真円に広がりきって、本来ある淵の盛り上がりすらなだらかに引き延ばしているほどである。
 そしてそんな強敵を前に、
「はぁはぁ……だ、だめぇ……もう自分の力じゃ出せない」
 チャコは早々に力尽きてはカルアンにもたれる。
「そ、そんなぁ。このままじゃ本当にお尻が裂けちゃうよッ」
 それを受けて動揺してしまうカルアン。
 しかしながらそんなカルアンの言葉通り、いつまでもチャコの柔らかな肛門がその拡張に耐えられようはずもない。このまま裂けてしまうのだって時間の問題に思えた。
――どうにかしなきゃ……僕がチャコを助けなきゃ!
 混乱の極みにありつつもしかし、この場に居合わせた責任感からチャコの救出を心に決めるカルアン。
 そして彼の取った行動は――
「チャコ、いったん離れて。そしたら四つん這いになってよ」
 カルアンは一度チャコから離れると、両掌を床に着かせる姿勢に彼女を誘導する。
「ん、くッ……はぁはぁ、これでどうするのぉカルアン?」
「大丈夫だよ。僕に任せて」
 言われるがままにその体勢で見上げてくるチャコを前に笑顔を見せて元気づけると、カルアンはその背後へと回りこんだ?
「な、なぁに? 本当になにするのッ?」
 四つん這いに突きだす尻の真後ろへと回りこんでしまうカルアンを、チャコも振り返って追っては不安そうに尋ねる。
「大丈夫だから……力抜いててね、チャコ」
 そして完全に背後へと回り込み、そこの前に屈みこむと――カルアンは排泄途中であったチャコの便に指々を添わせ、それを握りしめてしまうのだった。
「ひッ!? な、なぁに? なにしてるのカルアンッ?」
 当然のよう、便越しに直腸へと伝わってくるカルアンの手の動きに反応して声を上げるチャコ。
 とはいえ、掌を上にして掬うように便へ触れるカルアンの右手はどこまでも慎重で、そこからはチャコを気遣う優しさと愛情とが感じ取れた。
「アタシのウンチに触ってるのッ? ダメだよ、汚いよ! だめぇ!!」
 そんなカルアンの愛を感じるからこそ、なおさらに羞恥に耐えかねては涙するチャコ。
 しかし、
「チャコのなら――僕、平気だよ」
 カルアンも応える。

220 :
「決めたんだ。僕、チャコを支えようって決めたんだ。だからチャコも僕を受け入れて」
「カルアン……」
「一緒にがんばろうよ。ふたりならさ、きっと何でも出来るよ」
 幼さゆえかカルアン自身は意識すらしていないことなのかもしれないが、そんな深い慈愛を感じさせる彼の言葉は、なんとも深くチャコの心に届いていた。
 村を出て以来、表面的な人との触れ合いこそあれど、真に心を通じ合わせた相手は本当に今のカルアンだけである。
 そんなカルアンが今、自分に救いの手を差し伸べてくれているという状況がチャコには本当に嬉しかった。
「………アタシ、ここに来て良かった。……カルアンに会えて、本当に良かった」
「ん? 何か言った、チャコ? 痛いの?」
「ううん。なんでもないよ」
 訪ねてくるカルアンに対しチャコも笑顔を返す。
「じゃあカルアン……その、お願いしちゃってもいい?」
「もちろんだよ。――じゃあゆっくり引き抜くから、チャコも無理せずに出していって」
「わかった。がんばるね、アタシ」
 カルアンからの励ましにチャコも再び括約筋へ神経を集中させる。広がりきった肛門の淵がその一瞬縮まって便を締める感触にカルアンも生唾を飲む。
 そうしてチャコが再び息ばむ気配に合わせ、カルアンもまた手に添えた便を静かに引きぬいていく。
 ゆっくりとではあるが、途端に今まで進行の無かった便はスムーズにチャコの直腸(なか)から排出を始める。
「ん、んん……あぁ……擦れる……お尻に中で、擦れるよぉ」
 その便が直腸を摩擦する感覚に声を上げるチャコ。
 硬度を保った物体が肛門から引き抜かれる時に感じられる摩擦感は、今までの排便時に感じていた感覚とはまるで違ったものである。
 しかも今肛門に集中しているそれはけっして痛みだけではない。うなじが粟立つような違和感を覚えつつもしかし、逆にそれがクセになる様な不思議な快感もまた併せていた。
――なにこれぇ……いつものウンチと違うよぉ。カルアンが手伝ってくれてるから?
 ちらりと背中越しに一瞥くれれば、そこには真剣なまなざしで自分の臀部と対峙しているカルアンの表情。その真面目な面持ちと今の状況とのギャップに思わず噴き出しそうになるも、同時に興奮してもいた。
 そんななか、チャコの意識は再び新たな刺激によってかき乱される。
「んッ……!? んくぅ、痛ぁい!」
「え? え? どうしたの、チャコッ!?」
 突然のその声に驚いては混乱するカルアン。
 チャコの悲鳴の理由それこそは――
「んうぅ……ウンチの中に……ウンチの表面に、硬いのが混じってる……」
 息絶え絶えに伝えてくるそれを聞いてアナルに目を凝らせば、そこには便の表面に一部浮きだした未消化のコーヒー豆がチャコの拡張された肛門の淵を歪めていた。
 ただでさえ限界のそこにこの豆の感触とあってはチャコもたまったものではない。
 ただ痛みに耐えては床に額をこすりつけて耐えるチャコであったが、そんな痛みとはまた別の感覚が新たに発生したことに反応する。
 件の豆の突出部を肛門越しにマッサージしてくれているようなその感覚――なにか油でも付けているのか、ぬめりを帯びては包み込むように暖かく揉みほぐしてくれるそれに、チャコの痛みは途端に和らいでいく。
――痛くない、っていうか気持ちいいかも……ありがとうね、カルアン。
 それに促されて再び下腹に力を込めると、あの突出部分もするりと通過してチャコは安堵のため息をつく。

221 :
「ふぅ……ありがとー、カルアン。マッサージしてくれたから、痛くなく出せたよ」
 そしてその礼をいうべく振り返ったチャコは、そこに確認した光景に瞳を見開く。
 そこにあったものは――自分の肛門そこへと舌を這わせているカルアンの姿だったからだ。
「えッ――ちょっと、なにしてるのカルアンッ?」
 当然のごとくそれに気付いて声を上げるチャコにカルアンも顔を上げる。
「あ……ごめん。こうしか思いつかなくて」
 その声と視線を受けて顔を上げると、申し訳なげに謝るカルアン。
 先程肛門へ感じたぬめりと温かさとは、カルアンの舌先によって施されたマッサージであったのだ。
「だ、ダメだよカルアン。お豆の方はちゃんと洗って焙煎してあるけど、そのぉ……その、ウンチの方は……ウンチ以外の何物でもないんだから……」
 排泄物の名を口にし、改めてカルアンから為されたマッサージを意識して恥ずかしくなってしまうチャコ。
「ごめん、本当にごめん。気分、悪くしちゃった? でもね……」
 再度謝りつつもしかし、
「でも、僕にはこうするしか思いつかなくて」
 カルアンはまっすぐにチャコを見つめる。
「最初は油か何か使おうかとも思ったんだけど、でもそれじゃせっかくお豆だけ食べ続けてこのコーヒーを作ったチャコの一週間が無駄になっちゃうような気がしたんだ」
 けっして遊びではないチャコの真剣なコーヒー作りを知ったからこそカルアンは、今の痛みに耐えるチャコの行為を無駄にはしたくなかった。
 そしてどうにかして彼女のサポートを出来ないものかと考えた時に思い至ったがこのマッサージ法だったのである。
「少しでも優しくマッサージしてあげたかったんだ。そう考えたらお口でするのしか思いつかなくてさ。……ウンチには、触れないようにしたよ? 」
「……もう、バカね。汚いとかって、思わなかったの?」
 改めてチャコからその質問を受けてカルアンはその一瞬、きょとんと眼を丸くする。
 そしてその顔いっぱいに笑顔を戻したかと思うと、
「あはは、そういやそうだったね。好きなチャコのお尻だったから、そんなこと思いもしなかった」
 そう言って笑うカルアンとは裏腹に、チャコはへその奥底がきゅっと締まる様な感覚を覚えた。
 それはけっして便意ではない。それとはもっと何か別の感覚――それを受けて体は如実にその反応をチャコに現わせていた。
――なにこれ? すごくドキドキするよ……それにおしっこみたいなのが止まらない……。
 膣からあふれ出してきた尿とは違う何かが、股ぐらを露となって筋に伝う。
 いま肛門を限界までに広げている痛みも、カルアンと一緒なのだと意識するとそれすらもが痛みには感じられなくなっていた。――否、それはある種の快感に近い。
――もっとされたい……カルアンに色んなことしてもらいたい……。
 そう考えれば考えるほどに胸の鼓動は大きくなってチャコを興奮させていく。
 やがて、
「カルアン……もっとして。アタシも頑張ってウンチ出すから、もっとマッサージして」
 動物の子供が甘えるように尻根を突き上げるチャコに対しカルアンも表情を明るくさせる。
「わかった。僕も頑張るから、チャコも頑張ってね」
 チャコの許しを得、改めてアナルへの愛撫に専念するカルアン。

222 :
 それに合わせてチャコも力むと、今度は数個の豆がその表面に突出して肛門の淵を歪める。
 豆に盛り上がった肛門の淵を、その上からキスするように唇でついばみさらには口の中で包み込むよう舐めては愛撫する。その間も、他の盛り上がりに関しては人差し指の腹で撫でるよう揉みほぐしてマッサージするなど、カルアンの気遣いには余念がない。
「んうぅー……! あうん、すごいよぉ……カルアン、もっとぉッ」
 それを受けてさらにチャコは昂ぶっていく。
 もはや先程までのように痛みへおびえながらの遅々とした排泄ではなく、より直腸と肛門との摩擦を得ようと、力の限りに息ばんではそれの通過を促していった。
 そうして排泄物の筒身がカルアンの手の平以上もひり出された頃、チャコの状況にも変化が現れた。
「ん? あれ? 手ごたえが変わった。もう少しだよチャコッ」
 今まで棒となって動かなかった排泄物の頭が、体外において振れるようになったのだ。その手応えの変化に手にしたそれをこねるカルアンの動きに、
「んぐぅー!」
 チャコはその背をのけぞらせて声を上げた。
 排泄物の尾が振れることで、直腸内に残っていたそれの頭が腸壁をえぐったからである。
 それによって生じる快感のあまりの激しさにチャコは動物のような声を出しては喘ぎ身悶える。
「う、うわッ? ごめんなさい! 痛かった? 痛かったチャコッ?」
 そんな突然の反応に驚いて手を離すカルアンであったが、一方のチャコは――
「だ、だい丈夫ぅ……カルアン、もっと……もっとこねって……」
 息絶え絶えに床へ横顔を押しつけながら、チャコは快感に震えた声で先程の行為の続きを求める。
「で、でも……大丈夫なの? 多分だけど、これって最後の部分に豆が集中してるのか先っぽが大きく丸まっちゃってるよ……」
「先っぽ……大きくなってるの?」
 その状況を前にカルアンとチャコが胸に抱く感情はそれぞれに違っていた。
 さらなる拡張によってその肛門が張り切れてしまわないか不安になるカルアンと、一方では今以上の拡張と快感を期待してしまうチャコ。
「じゃあ……ゆっくり抜いてもらえる? カルアン……」
 そしてチャコのおねだりにカルアンは両肩を跳ねがらせるも、
「そ、そうだね。抜かなきゃいけないんだもんね。――僕も頑張る」
 斯様な温度差の違いにも気付かずに、健気にもカルアンは言われた通りにチャコのアナルそこから抜き出しにかかった。
 今まで以上に慎重に引き抜きだすが案の定、先端の詰まりによって進行は行き止まる。しかしながら、
「んッ……くぅぅ……ふぅん………!」
 それによって体外へと直腸が引きずり出される感触にくぐもった声を上げるチャコ。期待通りの痛みと快感とがそこにはあった。
 そんなチャコの『お楽しみ』には気づいていないカルアンはというと対照的に必である。
 これ以上は抜けようにないそれに、しばしその尾を旋回させては躍起になるも、やがては今のままではどうあがいても状況が好転しないことに気付く。
 そして、
「チャコ……少し、ムチャなことするよ? 痛かったら言ってね」
 カルアンも最後の手段とばかりにそれを握り直す。

223 :
「…………えー?」
 一方で快感の余韻からすっかり蕩けて放心状態に生返事で応えてはそれに振り返るチャコ。そして次の瞬間、そんなチャコの意識は一気に覚醒へと導かれる。
 カルアンの掌は――こともあろうかチャコのそれをまた体内へと押し戻し始めたのであった。
「んぐぅッ!? な、なぁにッ? んぅうぅぅー!!」
 引き抜かれていた時とはまるで違うその感触。再び下腹に圧迫感が広がるそれに息を押ししては身悶えるチャコ。
 背筋は総粟立ち、胃にまで到達するのではないかと錯覚するほどにかのそれは硬く重くチャコの腹部を突きえぐるのであった。
 やがては中頃までそれを押し戻すとその手を止めるカルアン。
「あ、あぁ……おぉッ。……か、カルアン、なぁにコレぇ……?」
「ごめんね、チャコ。あのままじゃどうやっても抜けないんだ」
 訪ねてくるチャコへ本当に申し訳なさそうに謝るカルアン。
「いっそ勢いをつけて引き抜こうと思うんだ」
「い、勢いをつけて……引き抜く?」
「う、うん。チャコのお尻もずいぶん慣れて柔らかくなったから、この最後のでっぱりのところまではけっこうスムーズに行き来が出来ると思う。だから、ここから勢いをつけて一気に抜こうと思うんだけど……ダメかな?」
「…………」
 その申し出に対して、なにを思っているのか黙りこくっては返事をしないチャコ。
 無茶な計画を打ち明けているのはカルアンとて百も承知だ。それゆえに顔を伏せては上目遣いでチャコの反応をうかがう。
 しかしながら、今チャコの頭の中を占めている考えそれは、
――ゆっくり抜くだけでもすごかったのに、出し入れなんてしたらどうなっちゃうんだろう……ッ?
 そんな新たな期待と興奮であった。
 そして改めてカルアンへ振りかえったと思うと、
「……いいよ。思いっ切り、やって」
 チャコは興奮から震える声でそれにうなづいた。
「チャコ……」(――そんなに怖がってるのに、なんて勇気のある女の子なんだろう。)
 一方でそんなチャコの様子に勘違いも甚だしい感動を覚えるカルアン。しかしながら、ともあれ二人の覚悟も決まった。
「じゃあ、いくよ? 無理そうだったらいつでも言って」
「う、うん……早く……はやくぅ……ッ」
 改めてチャコのそれを握り直し次の瞬間――カルアンは力一杯に引き抜いた。
「ひぃ……――――」
 先太りのそれを管内一杯に飲み込んだ直腸がそれに引きずられ、そして先太りの先端が肛門にぶち当たっては押し止められるその衝撃に、
「お゛ぉぉおおぉぉぉ―――ッ!!」
 チャコは半月のごとく背を反り返らせては、屠される獣のような声を上げた。
「お、んおぉおおおお………す、しゅごい………すごいぃぃぃ……!」
 その一抜きだけで今までにないオルガスムスに導かれてしまったチャコはただ、今も痛みとなって肛門に残る余韻へ垂涎としながら震えるばかり。

224 :
 しかし依然としてチャコのそれは直腸内に残り続けたままである。そしてカルアンもまたその手を休めない。
「少し出てきたかな? もう一回いくよ、チャコ」
「……ふ、ふえ? い、イクの? も、いっかい……?」
 放心として定まらぬチャコをよそにカルアンはまたしてもそれを押し籠めたかと思うと――第二撃目となる引き抜きを敢行した。
「ふぐぅぅうぅーッ!」
 予期せぬそれに再び声を押ししてはその衝撃に耐えるチャコ。
 しかも今回はそれで終わりではない。
「やっぱり少しづつ抜け始めてる。チャコ、連続で行くからねッ」
 今度は連続した動きを以て、カルアンはその出し入れを始めた。
 押しこむと引き出すの動作がひとつひとつで終了していた先程までの責めとは違い、今の連続した動きには感覚の休まる暇がない。
 一発のインパクトは薄くとも、絶えずして刺激を与えてくれるこのピストンには直腸とアナルとがしびれてくるような快感があった。
 それに加えてさらには、カルアンの舌による愛撫も加わる。
 今まで以上に潤滑を必要と感じた彼からの気遣いは、そんなプレイ的な快感以上に、包み込むような優しさと愛を以てチャコを癒してくれるようであった。
――すごい……すごい、気持ちいいッ。幸せ……幸せだよぉ、アタシ……!
 その快感と衝撃の中で、チャコは今までにないオルガスムスの波が体に押し寄せてくるのを予感していた。
 先程までの一気に体と頭を駆け抜けていくような激しいものではなく、心的な満足や多幸感をともなったそれは、チャコに生きていることの幸福を考えさせるほどである。
 そしてそんな想いは、
「あ、あぁ……すき……カルアン、大好きだよぉッ」
 ついには声となってチャコから漏れる。
「ッ! チャコ……」
 それを受けて顔を上げるカルアン。
「僕も、僕も好きだ! 今日までのチャコも、これからのチャコも大好きだ!」
 カルアンもまた応えた。
 その気持ちの限りにピストンする手首にも想いの強さと、さらには愛を込めた気遣いのしなやかさが剛柔を織りなしてチャコを愛撫していく。
 やがて、
「カルアン……あぁ、カルアンッ」
「チャコ……チャコぉ!」
 そんな二人の心が通じ合い、さらには感情と体の波長が重なった瞬間――
「んうぅぅーッ、カルアン! カルアーンッッ!!」
 ひときわ強く体を硬直させ、チャコはこの日最大の絶頂を迎えた。
 体に籠る力、疲労、さらには今日まで虐げられてきた辛苦の記憶とトラウマ、そしてこんな自分であったがゆえに愛することへの負い目を感じていた禁忌感(タブー)―――それらすべてが今、カルアンの手によって解放されていた。
 そんな快感の余韻の合間、僅かに体の筋肉が緩むのと同時に、ついにチャコの直腸から解放される排泄物。

225 :
 今まで栓となっていたそれが外れると同時に、
「お、おぉッ? んうぅぅぅ〜ッッ! 出るぅ! ウンチッ……すごいッ……おぉ!」
 腸内に蓄積されていた排泄物が一度に流動を始めた。
 件の物とは違い、小腸の奥にて水分と軟度を保っていた便は一切遮られることなくチャコの広げられた肛門を通過して体外へと排出されていく。
 事前に置いていた床の皿の上に乗るやたちどころにとぐろを巻いて盛られていくその勢いたるや、一匹の長い蛇がチャコの腹の中からはいずり出てきているかのような眺めですらある。
「あッ……お゛ぉッ……んおぉッ……!」
 やがては一度としてひり切ることなくそのすべてを出し終えると、その快感と苦しみから上目に瞳を剥いては脱力し、チャコは一切の支えを無くし前のめりに倒れ込むのであった。
 そんなチャコを――
「――あぶないッ」
 寸でのところでカルアンが抱きとめる。
 抱き合う二人は精も根も尽き果てて、ただ互いに寄り添うしか出来ない。
 言葉もなければ動きもない――それでもしかし、すがる両手とそれを受け止める両腕からは、けっして言葉では言い表せられない信頼とそして愛とが二人を繋いでいた。
 そんな幸福にしばし二人は沈黙を以て浸る。
 長かった二人の一週間が今、ようやく終わりを迎えていた。

.

226 :
【 8 】
 チャコの喫茶店のカウンターにカルアンは座っている――。
 瞳をつむればそこには、徐々に湯の立つポットの共鳴とおごそかなチャコの点前の音が心地よくその場に満ちていた。
 奏でるように豆を挽き、踊るようそこへ湯を差す――そうして優しさと愛にあふれた香りが充満するとカルアンは静かに瞳を開く。
 目の前には、
「はい。おまたせ」
 チャコの、柔らかな笑顔があった。
 この世で一番好きな人の笑顔がカルアンの瞳(せかい)に満ちていた。
「なんか、久しぶりだね」
 ついそのことが恥ずかしくなってしまい、そんなことを言うカルアン。
「ふふ、そうねー。なんか、恥ずかしいね」
 それに対してチャコまた同じ心持で応える。
 それでもしかしこの瞬間――好きな人と好きな物だけの空間に二人は、今までに感じたことのない幸せと温もりを感じていた。
 そして目の前にはチャコのコーヒー。おごそかに両手でカップを持ち上げると、一週間ぶりとなるそれをカルアンは口元へ運んだ。
 一口含むとたちどころに、香りと味わいの柔らかさが口中に広がった。
 チャコのコピ・ルアクは苦みと酸味が調和する部類のコーヒーであり、それゆえに一口目には刺激的な印象を受けるのであるが――今日のそれは違っていた。
 甘味と相成ったほろ苦さがやんわりと頬や舌の根に染みわたると、次いでそこを撫でるような酸味の波が口の中全体を包み込んでくれる。
従来のコピ・ルアクの個性を謳いつつもしかし、新たな優しさの面もまた香わせる今日の一杯はまさに今のチャコを現わせているかのような幸せな味であった。
 やがてそれを飲み干し、
「すごく……美味しいや」
 初めて飲んだ時と同じ感想をカルアンは口にする。もはや、そうとしか言い表せられようのない一杯がそこにはあった。
「へへー♪ なんせ今回は初の一週間物だからね」
 それを受けて恥ずかしげに、それでも誇らしげに笑って見せるチャコ。
「うん。――でもね、それだけじゃないと思うんだ」
 そんなチャコに頷きつつもカルアンはカウンター越しからキッチンの彼女を見上げる。
「こんなに君のコーヒーがおしいのはきっと……僕がチャコのこと大好きだって気付いたからだと思うよ」
 まっすぐに見つめられて告げられるそんなカルアンの言葉にチャコは息をのんで体を硬くする。
 それでも今この瞬間は恥ずかしさより嬉しさが勝った。
 だからチャコもそれに応える。
「それは、アタシだって同じだよ。大好きなカルアンに飲んでもらおうと思って淹れたんだもん」
「チャコ……」
「ねぇ、カルアン。今日はさ、コーヒー以外のメニューもあるんだけど……それも貰ってくれる?」
「ん? いいよ。なぁに? ケーキ?」
「ふふふ、もっといいものだよ。アタシのとっておき」
 その鹿爪ぶった言い回しに首をひねるカルアンへチャコは瞳を閉じるようお願いする。

227 :
 そうして目を閉じて、カウンターのチャコを見上げるようなカルアンの唇を――チャコはそっと奪った。
 小首をかしげて触れ合う程度の優しいキス。
 彼女の鼻と唇の柔らかさを同じ場所で感じてカルアンは目を開く。
 そんな目の前にははにかんだ様子のチャコ。
「ファーストキス、だよ? 大切な人の為に……あなたの為にとっておいたヤツ」
 そういって幸せそうに微笑むチャコを、カルアンは胸かきむしらんばかりに愛しく思った。
 そして、
「僕も、初めてだよ。そして――その人がチャコで良かった」
 カルアンもまた微笑むと、そんな二人の距離は自然と近くなっていった。
 互いに身を乗り出して、再び二人はテーゼを交わす。

 カルアンとチャコの不思議なコーヒーをめぐる物語――切なくて幼いそんな二人のキスは、甘くてほろ苦いチョコレートの味がした。




【 おしまい 】
.

228 :
これにて終了です。
また何か書いたら持ってきます。

229 :
たった今書きこまれている!!
これはすぐに読まねば!!
S(略)コーヒーついにキターーーー!!

230 :
いままでスカト◇という分野を全く知らなかった私にとって、
これは全く新しい体験だった。
コピ・ルアク+スカト◇という斬新かつ大胆なアイデア、かつ
それを魅力的に表現し切る、十分な心理描写と情景描写。
本当にすごい。気が付くと私の中にあったスカト◇への偏見は消え、
むしろそれこそが真に互いを信頼する行為なのだとすら思えてくる(笑)
「受容」からの「激しい便意」。そして・・・
チャコ、カルアンと末永くお幸せに・・・!
なお、この台詞↓がきた時、私は外人4コマのポーズ取ってしまったw
「……お願い、カルアン。ここにいて」

231 :
>>229-230
読んでいただけたうえに嬉しい感想までありがとうございます。書いた甲斐がありました
スカト□のイメージをどれだけソフトで柔らかく伝えられるかを意識して書いただけに
そう言っていただけると本当に嬉しく思います
カルアンもチャコも幸せにやっていけると思います。今後は豆の取り出しのたびに
必要もなくアナル舐めをおねだりしてくるような毎日かと……

232 :
>>199
コーヒーのおかわり、堪能しました。
想像以上の展開に驚愕。人間じゃ有り得ないような
獣人キャラならではのプレイっていいですね。
濡れちゃうチャコさん可愛いっ!
カルアン、もうちょっと大きくなったらあっちの方にも
興味持ってもらいたいぞ。
ごちそうさまでした。

233 :
おじいさんがくれた、初めてのスカト□
それはカルアンチャコで私は**歳でした
そのSSは甘くてクリーミーで、私は特別な存在だと漢字マスター
今では私がおじいさん
私があげるのがもちろんカルアンチャコ
なぜなら彼もまた特別な存在だからです

234 :
そういえばカルアンのおじいさんが良い人すぎ惚れた。
ちょっとヴェルタースの爺さん思い出したw

235 :
嬉しいご感想などありがとうございます。
>>232
楽しんでいただけたようで良かったです。
二人のエッチ(本番)に関しては、あくどいかなと思って今回は省きましたが、有ったようが良かったでしょうか?
もしお望みでしたら書きます。純愛でも、スカトロ山盛りの思いっきり変態なやつでも。
>>233
読んでいただいてありがとうございました。スカトロどうでしたでしょう?
今回は『臭い』に関する描写をとことん省いたので、読み当たりもソフトな感じになったと思います。
もし大丈夫なようでしたら次回はもっとえげつないの書きます。
>>234
キャラへの感想なんて、本当にありがとうございます。嬉しいです。
おじいちゃんに関しては、推敲の段階ではこれの4割増しで良い男でした。
でもあんまりじいちゃんが輝き過ぎるとチャコが、カルアンじゃなく彼に惚れちゃうので今回くらいに落ち着かせて
あります。
イメージ的にはヴェルタースのおじいちゃんのイメージに近いですよ。

236 :
犬「信号青だから信号渡れるね!」のガイドラインを読んだ後
カルアンチャコを読んだら、謎の電波を受信してしまった(ガクブル
「舐めるの!?これ、舐めるの!?ねぇ!肛門!肛門舐める!?」
「あぁ、舐めるよ」
「本当!?大丈夫なの!?不潔じゃない!?」
「あぁ、ウンチには触れないから大丈夫だよ」
「そうかぁ!私便秘だから!便秘だから肛門通らないから!」
「そうだね。通らないね」
「うん!でも大丈夫なんだ!そうなんだぁ!じゃぁ頑張っていいんだよね!」
「そうだよ。頑張ってウンチ出していいんだよ」
「よかったぁ!じゃぁ頑張ろうね!ウンチ出そう!」
「うん、頑張ろうね」
「あぁ!肛門舐めたから肛門通れるね!ね、カルアン!」
「うん。前見てていいよ。おじいちゃん」
「あぁーカルアンと私は今赤信号を渡っているよー!気をつけようねぇー!」

237 :
>>235
前もって謝ります。本当に申し訳ございませんでしたorz

238 :
スカトロって聞いて読めるか不安だったけど描写がマイルドで読みやすかった
>>236
チャコじゃなくておじいちゃんなのかよw

239 :
読みやすいし面白かった
作者さんGJ!!

240 :
>>236
相手がおじいちゃんと分かった時点で腹筋が崩壊したw
>>238
無事に読み通せていただけてホッとしました。
楽しんでいただけましたか?
>>239
お褒めの言葉、本当にありがとうございます。
次回もまた何か書いたら持ってきます。

241 :
良い味だしてるおじいちゃん
コピ・ルアクの詳細をどこで知ったんだろう?とか妄想
若い頃になにがしかの出会いが・・・?

242 :
なぜにおじいちゃんがそこまで人気に……!?
まったく予想していないキャラだけに何も考えてません。
冒険家とか、超一流企業の会長さんとか……

243 :
>>242
てっきりおじいちゃんの設定も固まっているものとばかり思っておりました。
そのくらいキャラ立ちしていたかな。
あと、主人公を導く位置にいることも好感度高い理由かもしれません?
ここまで来ると、個人的にはおじいちゃんの過去話とかも読んでみたくなりますw

244 :
指輪物語でいうビルボ的な立ち位置で

245 :
ビルボw壮大な話になりそうだなw

246 :
>>243-245
もうどうしたらいいものやらw
カルアンとチャコのエッチな続編じゃダメですか?
でもそこまで読みこんでくださってるなんてすごく嬉しいです。
本当にありがとうございます

247 :
スレチかもしれないけど
雄獣エロSSまとめがだいぶ前から繋がらなくなってるけど
移転とかしたの?

248 :
大分前に閉鎖した筈
理由は知らんけど虎と触手の奴は好きだったな

249 :
>>248
読んだ事あるようないような…
あらすじどんなのだったっけ?

250 :
>>249
う〜ん虎が成人する話だった気がする

251 :
>>248
247じゃないけど、マジか?
なんか切ないなそういうの聞くと・・・・

252 :
閉鎖前に未読のものを含めて全コピしておけばなぁ・・・
と後悔してもあとの祭りですね^^;

253 :
どうぶつの森は美味しそうな住民が多いな
腹減ってきた

254 :
>>252
まったくだ
どこのメーカーでもいいから、早いとこオナホが仕込めるくらいの大きさのぬいぐるみを出してほしいもんだな

255 :
推定体長180センチ体重70キロの脱走ライオンを石川県で捕獲
このニュースに釣られた。完全に釣られた・・・

256 :
ライオンにしちゃ軽いとは思わなかったのかよw

257 :
>>253
うちの村は鳥が5匹に豚が二匹…
腹が減る。

258 :
ウルトラブックのライオン獣人が可愛い
最初のスーツスタイルも良かったけど、今のウェイター姿もいいな
しっぽピコピコ

259 :
年末なのでスレ民が増えるかと思ったが、そんなことはなかったぜ!w

260 :
某祭典だからさ

261 :
今年は投下は少なかったけど粒はそろってたと思う
お気に入りが多かった

262 :
お気に入りどころか、殿堂入りレベルだった!
圧倒的な描写力と世界設定、きらりと光るストーリーを備えた、
最高の連載陣だったぜ! 本当にありがとう! そして、お疲れ様でした!
来年はあまり期待し過ぎないで待ちたいと思う。
今年の連載陣を越える作品は滅多にあるものではない。
新人さんも肩の力を抜いて投稿できるような場であってほしいと思うよ。
・・・かく言う俺も新人みたいなもんだがなw

263 :
あけましておめでとうございます
今年も何か書いたら持ってくるのでよろしくお願いします

264 :
あけましておめでとうございます!
今年はしっかり書くぞー!

265 :
新しいの一本書いてるんだが、グロ(リョナ)てここはOKですか?
されたり四肢欠損とかそんなハードな内容は無いけどいろいろ苛められちゃうようなの……

266 :2013/01/05
>>265
注意書きさえあれば問題ないかと!
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