2011年10月1期アニメ映画のび太の結婚披露宴
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のび太の結婚披露宴
- 1 :10/02/11 〜 最終レス :11/02/26
- 僕は二十五歳になった。二ヵ月後には結婚する。
ずっと憧れ続けてきた大好きなしずかちゃんと。
結婚が決まってから僕たちは色々な準備に追われていた。
彼女の両親への挨拶にはじまり、結婚式の式場やら、
引き出物やら、招待客、スピーチをお願いする人を決めていっていた。
僕は段取りが悪いのでほとんど彼女がしてくれた。引き出物はティファールだの
引き菓子は三笠とかなんとか正直僕はそういう耳慣れない言葉の羅列で
頭がパンクしていたけれど、もうあとは招待状をだすだけのところまできていた。
- 2 :
- まっさきに浮かぶ、ジャイアンだろ、スネ夫だろ、出木杉に、
小学校の担任の先生にと招待リストを挙げていく。
初め、パソコンでプリントしてくれるのですかと訊いたら、母さんが
これだけは手書きで書くものなのよと言った。式場の人にも確認すると
そうですねと言う。僕は結婚式の招待状の宛て名は手書きで書くことを初めて知った。
はっきり言うと僕の字は大人になってもうまくはない。それに未だに誤字がある。
そのことを伝えると、手書きをする係りがいますからと言われてほっとした。
しずかちゃん、彼女の分と共通の友人は彼女自身が書くということで僕の親戚と
僕の友人は係りの人に任せることにした。僕はリストを出して父さんと母さんに
確認してもらい、係りの人に渡した。そこではっと気づいた。
- 3 :
- 僕には絶対に出さなければならない人がいることに。こちらで全部ですねと
確認されて僕はあと一枚お願いしますと言おうとしたが出しても届かない
相手なので押し黙った。ぼくのあたふたした様子をしずかちゃんにみられた。
少し恥ずかしかったので口がきけなかった。
ドラえもんへの招待状。ぼくのいちばんのともだち。しん友のドラえもん。
- 4 :
- ドラえもんとは小学校の終わりと共にお別れをした。どんな理由だったか
そんなことは覚えてない。大事なことはドラえもんと別れのときがきたと
いうこと。そのとき大変なショックを受けたが、僕は受け入れる力を身に
つけていた。
僕は涙を流し、ドラえもんも涙を流していた。僕の身長は伸びていてドラえもんの
背をだいぶおいこしていた。初めてあったころは同じくらいだったのに、
いっしょにせいくらべした柱の傷やら、ずいぶん傷んで少し小さく見える
ランドセルをみかえすと確実に時間はすぎていることを実感した。
- 5 :
- 秘密道具もタイムマシンもない今、僕がドラえもんにあう方法はない。
けれど僕は自分の結婚式に少年時代の僕たちが来ることは知っている。
- 6 :
- だからもしかしたらドラえもんの方から僕に声をかけてくれるんじゃないかと
期待をしている。
ドラえもんは友情にあついやつだ。絶対声をかけてくれる。
- 7 :
- その瞬間を心が震えるほど待ち望んでいた。
- 8 :
- しかしながら僕は少年時代に自分の結婚式を見に来ていたときのことを
すっかり忘れていた。
- 9 :
- そんなことを考えている間にも招待状の出欠が返ってきていた。
それで席を決めることになった。
僕は主賓の友人席にドラえもんに座ってもらいたい、ドラえもんにスピーチを
お願いしたいと思いつつそれはかなわない現実をつきつけられた。
- 10 :
- そもそも招待状さえだせないのだ。すると一通のお便りが届いた。
- 11 :
- 東京都練馬区…うちの住所だ。宛名をみてもっとびっくりした。
「野比様方 ドラえもん 様」と書かれた招待状が僕としずかちゃんの連名で
届いたのだ。
送り主はわかっていた。
- 12 :
- 彼女は僕の気持ちをやはり一番理解してくれていた。けれどどうすることもできない。
僕はその招待状を机の上に置くと、押ししていた感情が吹き上げた。
「なぜキミはいないんだ、しずちゃんだってこんなに気にかけてくれているんだぞ」
と机をバンと叩いた。
顔に熱いものが伝った。喉の奥が震えるほど熱くなった。
それからゆっくり手を見ると真っ赤だった。それで少し気が治まった。
- 13 :
- 翌日僕は彼女に礼を言った。
「のび太さん、わたしにとってもドラちゃんは大事な」
「それ以上は言わなくていい、ありがとう」と言った。
僕はほかに来た返信ハガキにそれをまぜておいた。
- 14 :
- 後日顔合わせのとき一緒にいた母さんは返信ハガキをみていた。
「あら、ドラちゃんにも招待状を贈ってくれたのね。しずかさん。」
と母さんが言った。僕ははっとしてそれをとりあげようとしたら母さんは続けた。
- 15 :
- 「ドラちゃんはね、家族じゃない。だから招待状は必要ないのよ。
それから披露宴の席もパパとわたしの家族席に座ってもらえばいいのよ。
家族にスピーチは頼まないでしょ。」
と白髪としわの増えた顔でにっこり笑った。
- 16 :
- 今までみたどんな表情よりも優しかった。
- 17 :
- 僕は救われた。しずかちゃんもほっとした顔をしていた。
- 18 :
- 僕は母さんの言葉で結婚式まで安心しきっていた。
そしてくる今日。僕はうっかりしていた。
今日が結婚前夜であることに。そして僕はさらにうっかりしていた。
今日、ドラえもんがくることを忘れてしまっていた。
ドラえもんも一日勘違いしてやってきたということを。
- 19 :
- 僕は結婚式なのに朝寝坊したと思い込み、式場でしずかちゃんがひとりで
恥をかいていないかとか遅刻していいわけのしようのなさで
ドラえもんのことが吹っ飛んでいた。
そしてそのまま夜を迎えていた。夜になって思い出したのだ。
ドラえもんと会える千載一遇のチャンスを逃してしまったことに。
- 20 :
-
翌日家族席にはドラえもんはいなかった。
- 21 :
- 式を終えると披露宴。新郎新婦の入場。小学校のときの先生が感動的なスピーチを
してくれた。
どんどん式はすすんでいった。ふたりで決めた料理や僕たちを祝福してくれる人々が
ならんでいた。
互いの両親に花束を渡したとき僕ははっと目を疑った。
- 22 :
-
家族席の袖で丸い大きな頭の影を。
「ドラえもん!」僕は声に出しそうなのを必死で堪えた。
- 23 :
-
その影は口をもぐもぐするのをとめるとしーっとまんまるい手を少し上げて
僕を制止した。それはドラえもんにしかみえなかった。
しかしそれは影にすぎなかった。だからすーっと消えていった。
僕はもうあまり大きな期待はしなくなった。あんなのは幻影だ。
- 24 :
- 式場を見渡すと
「のび太、しずかちゃんおめでとう」という声が聴こえる。
僕はみんなが祝福してくれるこの式に集中した。
僕は大いに笑い、時にしずかちゃんが涙ぐみ、両親は目を細めている。
しずかちゃんのご両親はもっと目を細めている。
- 25 :
- 僕は少年時代にしずかちゃんの家にこっそりドラえもんといったことを
思い出していた。あの夜はしずかちゃんは真珠のネックレスをもらっていた。
あれは真珠製造機で失くした真珠を作ったんだけれど結局しずかちゃんは
自分自身の力で全部の真珠を見つけ出した。それをしずかちゃんのお母さんが
見つけてきた分の真珠をしずかちゃんにあげたこと。
しずかちゃんのお父さんが語るしずかちゃんが産まれた瞬間からの結婚前夜までの
愛情あふれる言葉を。そして僕を選んだことを間違ってないといってくれたことを。
- 26 :
-
僕は誓った。ここにいる人たちの、信頼だけは裏切らないと。
- 27 :
-
式が最後まで滞りなく進み、終わりのほうで引き菓子の三笠というお菓子が
運ばれてきた。
三笠とはドラえもんの大好物のドラ焼きだった。
- 28 :
-
僕はしずかちゃんが「三笠」でいいわよねといったとき生返事でうんと言ったの
だけれどそれがドラ焼きだったとは知らなかったのだ。
寿という焼印がしっかりおされていた。しずかちゃんは係りの人にそっと
耳打ちされていたのを僕にこっそり言った。
- 29 :
- 「のび太さんね、ちょっと言いづらいんだけど、みんなに配る三笠が
一個だけ足りないのよ。余分にも用意していたのにですって。」
あのときの影を思い出した。僕はあれが幻から確信へとかわった。
- 30 :
-
「それはきっとドラえもんさ。」
- 31 :
-
僕はずっと声に出さなかった名前をだして笑っていた。
式の最後でジャイアンとスネ夫が
「披露宴の席次表見たぞ。ドラえもんが来るなら言えよな。」
「本当に薄情だぞ、のび太。全然会えなかったじゃないか。」
といって席次を押し付けてきた。
披露宴の席次表にはドラえもんと書かれていた。
「ああ、ドラえもんはちょっとだけ顔を出してくれたんだ、本当にこっそりとね。」
僕は二人の変わらぬ友情と照れ屋で情に厚くて食いしん坊の影に感謝した。
そして式をまかせきりの僕の代わりにドラえもんと言う名前を残してくれていた
僕の奥さんにも。
- 32 :
-
おしまい
- 33 :
- いい話だがブログでやれよアホ
- 34 :11/02/26
- >>1
たまたま来た板で、偶然に見つけたこのスレ。
良い話だな。
感動したからあげとくよ。
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