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2012年07月アニキャラ総合103: あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316 (394)
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あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316
- 1 :2012/09/27 〜 最終レス :2012/11/03
- もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part315
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1345905903/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/
_ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
- 2 :
- わっはっは!
よく乙だ>>1よ。
オレサマの強力な水中バレエを見て、思いきり笑ったあとは、魚も泳ぐ戦国風呂を味わうがよい!!
- 3 :
- >>2
このオレ様がおまえらのハナミズを飲みつくしてくれるわ!
- 4 :
- ふと思ったが、グルグルの草の精霊ならタバサママンとカトレア治せるかもしれんw
あの大地の治療って何気にどんな奇妙な症状でも時間かければ治せるようだし
んで、見かけは変だが恐らく大抵の魔法を無効化できる装備まで持ってる…
- 5 :
- 癌すら治す野菜が作れる工藤流念法なら一発だ
- 6 :
- どっち呼ぶんだよ 親父か息子か
- 7 :
- 今更だが絵はあるのに仮面ライダーWのクロスって無いんだな。映画終了基準だと無双になりそうな気がするけど
- 8 :
- 久々に書き込んだからミスした……。あとWはなくもなかった……
- 9 :
- 仮面ライダーはエタ的な意味で鬼門だからなあ
- 10 :
- クロス相手の知名度としては最高なんだけど、ひとつとしてまともに終わらないんだよなライダーは
ちゃんと終わりを考えて書けばいいのに
- 11 :
- 仮面ライダーよりも『仮面ライダーの敵』を呼んだほうが、短編としては面白くなるかも。
オーズのウヴァとか、能力が高いのに小物っぽかったですし、人の欲望を怪物に変える力なんて面白いじゃないですか。ゼロ魔世界だと欲望が強そうな人に事欠きませんし……タバサパパンとか。
……まあ、書く時間も能力も無いのが残念ですが。
- 12 :
- Wならメモリ回収終わったら終わりとかも出来そうなんだが。翔太郎だけが飛んじゃって
とりあえずギーシュは親子丼メモリでいいんじゃないかな
- 13 :
- おっと尻彦さんの悪口は
- 14 :
- オーズなら博士が飲み込んだメダルが
偶然つながったハルケにばら撒かれてジョゼフが紫メダルに
取り付かれたあたりにしてエイジを呼べば話しはつくりやすいんでね
ハルケならメダルがあってもごまかしはきくし
- 15 :
- タ・ト・バ! タ・ト・バ!! タ・ト・バ!!!
ル「今の歌、なに?」
?「歌は気にするな!」
- 16 :
- >>15
( ゚∀゚)o彡゜タ・バ・サ! タ・バ・サ!! タ・バ・サ!!!
に見えたw
- 17 :
- ジュリオ「だがオレのふとももは!いつの日か、必ずお前にヤング弁当食い放題だ」
- 18 :
- 仮面ライダーのクロスなら一番どの作品がゼロ魔の世界に合うんだろうね
あとは、どのキャラかな?
- 19 :
- 鷹!飛蝗!犀!
- 20 :
- >>18
響鬼さんとかどうよ?
スーパー1とか他のライダーみたいにメンテナンス要らないよ
しかもディスクアニマルで色々出来るぞ
シエスタは猛士の子孫でディスクアニマル創れる事にするとかで補充も出来るようにするとかさ
- 21 :
- >11
「ちとシャクだが、面白いぞ」といわせる使い魔か。
- 22 :
- >>18しかし変身するたび着てた服が燃えて無くなるという問題がw
- 23 :
- レス番間違えた。
>>20宛ね
- 24 :
- 相性的にはアギトやアマゾンじゃねえの
アギトはアンノウンをハルケの歴史に介在させてもいいし
アマゾンは野生児なのでキャラ的に絡ませやすい
- 25 :
- メンテナンスね。固定化で代用効かんかな
- 26 :
- Xライダーなんて明らかにバイオ系の改造人間じゃなくて
機械系の改造人間なのにズタボロにやられても簡単に自動で修復されるぞw
これのせいで同じ明らかな機械式のスーパー1が性能高くても虚弱に見えて困るwww
- 27 :
- ウィザードは完結さえしていればー
- 28 :
- >>27
放送終了の一年後に期待かな
今すぐ呼び出したいなら、オモシロ外人のケット・シーあたりをオススメw
- 29 :
- ケット・シーと聞いてFF7のほうを連想した
1号2号と出て来て最終的に10032号とかが出てきたりして
- 30 :
- コピーをする度に変異を繰り返し、9999番目の固体はもう原型をとどめていない・・・
というところまで妄想したがケットシーの「ケット」って確かキャット=猫のことだから
スペルはKじゃなくてCだと気づいた
- 31 :
- >>29
だが中の人はいい歳のおっさんやで〜
しかもロボット、でもケアルで回復できるからメンテフリー?
- 32 :
- 機械系の敵もケアルで回復出来る世界ですし
それより一晩寝て全回復出来るのが
- 33 :
- 何もなければ12:50くらいから「ウルトラ5番目の使い魔」代理投下いきます
- 34 :
- では始めます。
↓↓↓
- 35 :
- 第九十九話
第二部最終回
故郷への帰還! 砂漠に舞う神秘の雪
神秘群獣 スノースター 登場
「全速前進! ヨーソーローヨー!」
「燃やせ燃やせ! おーいもっと罐を焚け。もっと速く、もっと早く飛べ、進め進め! 鳥のように風のように」
「走れ走れ、おれたちの東方号、目指すはハルケギニア。待ってろ、我らのトリステイン王国よ!」
轟音を上げて真っ赤な石炭の炎をうねらせ、巨大な四基のプロペラを回転させるコルベール製水蒸気機関。
歌うように叫びながら、罐に石炭をくべる少年たちの表情は明るい。
砂漠の白色の大地に黒い影を投げかけ、東方号は一路西を目指して航行を続けていた。
「おーいギーシュ、石炭が足りないぞ! もっとじゃんじゃん持って来いよ」
「ぼくのワルキューレは人夫じゃないぞ。あーあ、せっかくの美しい造形がすすまみれになってしまった。こら! 火のメイジは
さぼるんじゃない。火力が落ちてるぞ」
「だからそのために石炭持って来いって言ってるんだよ。さすが、エルフの技術と魔法で作り直された罐は違うぜ。これだけ
ぼんぼん炊いてもちっとも壊れる気配がねえ」
「わかったよ。みんな、力を惜しむなよ。一刻も早くトリステインへ帰って姫さまに……いいや、女王陛下に我々の大殊勲を
ご報告申し上げるんだ!」
水精霊騎士隊の、割れんばかりの大歓声が東方号の機関室に響き渡った。
来るときは、何人が生きて戻れるかという悲壮な決意を固めていたからろくに笑う余裕もなかったが、帰りは意気揚々の極みである。
ギーシュたちはすっかり舞い上がり、今からすっかり英雄気分であった。
「やれやれ、うちの男どもときたら、女王陛下に拝謁がかなうとなると舞い上がっちゃって。その後が大変だってこと、わかってるのかしら?」
積荷のチェックをしていたモンモランシーが、広い艦内を通り抜けて響いてきた男子の歓声に呆れた声を出した。
「でも、やっとお国に帰れるんですよ。うれしいのは仕方ないんじゃないですか」
手伝っているティファニアも、鉄の壁に反響してうっとおしく響いてくる大声に苦笑いしながら答える。
船舶の仕事は、外からの補充要員が効かないためにひとりで複数個所を兼任するのが普通だ。増して、人手不足の
東方号に遊ばせておく頭数なんてあるわけがない。女生徒だろうと誰であろうと、立っている者は親でも使わせられる。
今、彼女たちは急いで積み込まれた物品のリストを作成しようと紙とペンを手に、倉庫の中を行ったり来たりしていた。
「まったく、いくらスペースがあるからって積み込みすぎよ。ほんとに、男のやることってのは適当なんだから!」
「まあまあ、またネフテスに行けるのがいつになるかなんてわからないんですし。それに、ルクシャナさんたちエルフの
皆さんの、トリステインでの生活道具もあるんですから」
「だからよ! あの女、最近調子に乗りすぎじゃない。正式にネフテス代表に選ばれたからって、我が世の春とばかりに
やりたい放題言いたい放題! ほんと腹立つっ!」
「あはは……」
雑用を押し付けられて、貴族らしからぬ仕事ばかりさせられているストレスもあって、モンモランシーは思いっきり怒鳴った。
ティファニアは、とても人目にはさらせない友達のそんな姿に乾いた笑いをするしかなかった。が、内心ではまたルクシャナが
トリステインにやってきてくれることや、エルフの仲間が増えることがうれしかった。以前は人に対してはどこかよそよそしくて、
他人行儀だったところがすっかり変わって、皆に自然と溶け込めるようになっている。
- 36 :
- トリステインに帰ったら、マチルダ姉さんに預けている子供たちに会いに行こう。みんな元気にしているだろうか、大仕事を
やり遂げた自分を早く見せてあげたい。そして、いつか隠れることなくハルケギニアでエルフが過ごせる世界を作る。それは
もう夢物語ではないのだ。
「コスモス、わたし、がんばるからね」
ペンダントにして首から下げている輝石を握り締め、ティファニアは誓った。
期待に胸を膨らませているのは少年たちだけではない。ティファニアも、自信という新しい力を手に入れて力強く前へ
足を踏み出そうとしている。皆が、この旅で得たものはそれぞれ形は違えど、誰しも大きかった。
故郷への帰還に沸く人間たち。彼らの無邪気な騒ぎはやむことはない。
一方で、未知の世界へと足を踏み入れようとしているエルフたちは、一室を与えられながらもうかない表情が続いていた。
「なにをみんな深刻そうな顔をしてるの? 全ネフテスの代表なんて名誉をもらったのに、蛮人の朝食は口に合わなかった?」
「ルクシャナ、君はいいかげん自分が特別なんだって自覚したまえよ。確かに、蛮人の中にもいい奴がいるんだってことは
わかってるよ。でも、彼らの国には我らを敵視する者のほうが圧倒的に多いだろう。正直、戦争に行くほうがまだ気楽だよ」
「まったく、あなたたち男はすーぐ深刻に考えるから、物事を悪いほうに持っていくのよ。あなたたちの半分も生きてない
子供たちがネフテスに乗り込んできたのに比べたら、楽なものだと思わない? アリィー、そんな意気地なしとは婚約解消して
人間の男でいいの探そうかなあ」
と、何度目になるか数えるのもめんどくさい挑発をルクシャナがして、それにアリィーが反応してむきになるという、このふたりの
間では定番のやり取りがおこなわれ、それを仲間のエルフたちは嘆息しながら見ていた。
「おれたちは人生の選択を誤ったんじゃないだろうか」
「言うなイドリス。どのみち、我らはアリィーの婚約者どのに命をゆだねるしかないんだ。しかし、実際彼女はすごいよ。もしも
彼女がいなかったとしたら、我らの歴史はアディールとともに終わっていたかもしれん」
アリィーの仲間たちは、ルクシャナの型破りな異端さを敬遠しながらも、彼女の実績を否定できない複雑な気分だった。
「それがわかってるなら、ちゃんと責任を自覚しなさいよ!」
「うわっ! ルクシャナ、いつの間に」
気づくと、怖い顔をしたルクシャナが彼らの後ろに立って睨んでいた。
「ヤプールみたいに世界規模で侵略してくる相手に国だの種族だの言ってられないの。いつまでもウルトラマンが来てくれるとは
限らないし、世界が一丸とならなきゃ大厄災の繰り返しなのよ。あなたたちにはほんとに危機感ってものが欠落してるわね。いーい?
かっこばかりつけて働かない男なんて最低よ。わかった!」
「わ、わかったわかった!」
ビダーシャルが来られないので、今回の実質的なリーダーとなっているルクシャナの威勢はすごかった。男たちも、これから
行く土地では右も左もわからないので、ルクシャナには頭が上がらない。
それぞれの思いを乗せて、東方号はひたはしる。
そして、その後部航空機格納庫にて、物語の主人公たる少年は愛機ゼロ戦を磨きながら思っていた。
「みんな張り切ってるなあ。よっしゃ、おれも気合いれてやるかっ! これからも頼むぜ、相棒!」
- 37 :
- 「なあ相棒、その相棒っておれっちのことだよな? そんな鉄の塊じゃねえよな。な、な?」
「女々しいぞデルフ。別に、相棒はひとりじゃないといけないってことはないだろ。こいつは日本人にとっちゃ特別な代物なんだよ。
年中背負われてるお前は先輩らしく後輩にゆずりやがれっ」
と、今回出番らしい出番がなかったデルフをからかいつつ、才人はボロ布でジュラルミンの機体を磨いている。
だけども、影の薄いことを気にするデルフの心配など、本当は無用なものであった。単に武器の扱いやすさでいえば、デルフより
いいものはいくらでもある。なんだかんだいっても、どちらも短くない付き合いの戦友として互いを信頼している。憎まれ口はいわば
愛情の裏返し、些少の悪意はコミュニケーションの手段なのである。
「なあデルフ」
「なんだい、相棒?」
「お前は、簡単に壊れてくれるなよ」
「どうかね。おれっちには寿命はねえが、物はいつか壊れてなくなるもんだ。そういうところは人間といっしょだな。だから、
大切にしてくれよね」
「はいはいわかったよ。ところで……刃物って研いでくと少しずつ減ってくよな」
「へっ? おま、何を。あっ、アーーーッ!」
万事がこんな調子のふたりである。からかって、からかわれて、どちらにとっても気楽な話し相手。
人間と剣なのだから、それ以上もそれ以下もない。才人にとっては気楽に話せる年上の相手、デルフにとっては長い人生で
久しぶりに出会えたおもしろい持ち主。それでいいのだから、無理に変えることはない。
いつか、この関係が壊れるのだとしても、それはそのときのこと。戦いの中に生きる者にとって、それは無価値な心配だ。
奇妙なコンビは、今日も変わらず、明日もそうだと願ってのんびりと語り合う。
やがて日は沈んで、砂漠にも夜がやってきた。
「ぶるるっ、やっぱり砂漠の夜はいちだんとこたえるな」
防空艦橋の露天で見張りをしている才人が、防寒の毛布の上からでも響いてくる寒風に身を凍えさせてつぶやいた。
すでに時刻は地球時間の午前一時をまわり、気温は零下へ達している。昼の灼熱と真逆の極寒を作り出すのが、
砂漠という不思議な世界なのである。
くるりと首を動かせば、下には黒く塗りつぶされた砂漠。地平線を挟んでその上には、名も知らぬ星星が無限の輝きを放つ
宇宙がどこまでも続いている。その大自然の芸術とさえいえる光景は、サハラに来てもう何度も見ているものの、いまだに
日本育ちの才人を圧倒してあまりあった。
「すげえな自然って、デジカメあったらぴゅーりっつぁ賞ってのも夢じゃ……って、おれの腕じゃ無駄か」
くだらない独り言を言って、才人はくすくすと笑った。ほんと、写真なんてもので伝えられることはたかが知れている。
どんなにうまく撮られたプロの写真でも、こうしてじかで見た感動には到底及ぶものではない。それはつまり、人間の技術なんて、
自然の前にはまだまだ遠く及ばないということだろう。
- 38 :
- 寒風に耐えながら交代時間を待つ才人。そこへ、ポットを片手にしたルイズがやってきた。
「寒そうね、テファが東方のお茶を淹れてくれたんだけど、飲むかしら?」
「うひょーっ! もちろん! ……熱っちーっ!」
熱湯で舌を焼いた才人は、ひいひい言いながら手のひらで舌をあおいで冷まし、ルイズは呆れた笑いを返した。
「あんた猫舌だったかしら? 慌てて飲むからそんなことになるのよ」
「だって、お茶なんて久しぶりだからうれしくってさ。ああ、このカフェインの芳醇な香りときたら」
「バカ?」
「うるせ、おれの国じゃ未成年飲酒禁止って言ったろ。おれんちでは飲み物は基本お茶だったんだよ。父さんはコーヒー党
だったんだけど、母さんが味噌汁にコーヒーは合わないって譲らなくてな」
「そう」
故郷の思い出話を始めた才人を、ルイズは暖かい眼差しで、自分も冷ました茶を飲みながら聞いていた。
「親父が紅茶なんて気取ったもの飲めるかなんて言うと、お袋はコーヒーなんて泥水よって、しょっちゅう張り合ってた。
おれはどーでもよくて一人でテレビ見ながらオレンジジュース飲んでたな。とにかく、うちの両親は普段はおとなしいくせに
飲み物に関しては妥協しなくてなあ。で、中立で緑茶を基本にしてたわけさ」
「あんたのお父さまとお母さまだもんね。愉快そうなご一家だわ」
「そういうこと、ほかにも焼酎とウィスキーはどっちがうまいかとか、酒の好みも全然合わねえの。で、呆れたことにおれに
意見を求めてくるんだな。で、おれは言ってやったよ。「そのグラスの中身がバーボンだろうが泥水だろうがおれには関係ない。
だって両方飲んだことないんだから」ってな」
「あははは! ほんと、あんたのご両親っておもしろいわね。まるで、魔法学院の日常みたいじゃない」
言葉の意味の半分以上はわからなくても、情景は簡単に想像できてルイズは笑った。
堅苦しい貴族の生活とはまったく違う、ささやかでもくだらなくても本音で語り合える家族。ルイズは、そこに優劣が存在するとは
思わなくても、そんなふうな触れ合いをおこなえる才人をうらやましいと思った。
「笑うなよ。そういえば魔法学院か、もうけっこう長い間まともに帰ってないけど……みんな、元気でやってるかな」
才人は、ハルケギニアでの家ともいえる魔法学院の風景と、お世話になった人たちのことを思い出した。
メイドや使用人の人たちは最初の頃、右も左もわからなかった自分にいろいろ気を使ってくれた。いつもうまい飯を食べさせてくれた
マルトー料理長、飛び入りで働き出したリュリュの作ってくれたデザートもどれも絶品だった。
それに、お茶といえばシエスタの淹れてくれたお茶もしばらく飲んでない。ここのところ、大事件が続いて学院でのんびりする
暇なんてまったくなかったから、すっかり疎遠になってしまっていた。元気のよさは人一倍で、少々押しが強すぎるところが
玉に瑕ではあるが悪い子ではなかった。
「なあ、トリステインでのいろいろが片付いたら、また学院が始まるんだよな。シエスタにいっぱい土産話もできたし、この自然の
美しさも、早く教えてやりたいぜ」
「ねえサイト……あんた、なにかというと自然がどうたらって言うけど、あんたの故郷には自然はないの?」
「ないことはないさ。むしろ、おれの国は自然の豊かなところだって言われてる。ただ、おれの世界は技術はすげえと思うけど、
エルフたちほど自然の扱いはうまくなくってな」
才人はルイズに、地球で起きた環境破壊や公害、それによって起きた問題などを噛み砕いて教えた。要は、人の住むところ、
物を作るところを確保するために山を崩し、見境なく毒を撒き散らして多くの人が苦しんだこと。今では多少はましになってきているが、
それでも世界には命ない荒野になってしまったところが山ほどあることなどを……
- 39 :
- しえん
- 40 :
- 何やってんの?
- 41 :
- 規制くらった?
- 42 :
- 「あんたの世界も、理想郷じゃないのね」
ルイズは、ハルケギニアよりもずっと優れているであろう才人の世界にも、だからこそハルケギニアにはない問題を抱えている
ことを認識して表情を曇らせた。
「コルベール先生は、進歩することが世の中をよくすることだって信じてるけど、これを知ったらどう思うかしら」
「だから、無闇に地球を真似してくれないでくれって頼んでる。コルベール先生はいい人だけど、他の人間はどうか知らないしな」
世界各国で環境保護を叫ばれているが、いまだに決定的なものはない。それどころか、自然保護を金儲けに利用しようとする
卑怯者もいる始末だ。ハルケギニアを地球の二の舞にしてはいけない。
一説では、地球上の人間がいなくなったら東京は百年かそこらでジャングルに戻るという。つまりは、自然保護だのなんだのと
偉そうに言ったところで、人間の文明なぞ地球規模の自然と時間の前ではたいしたものではない。人間がいなくなれば
適当な生物が取って代わるだけ、地球環境保護というものはあくまで『人間に都合のいい環境の保護』というものだということを
勘違いしてはならない。
美しい風景。しかし、この光景の中で人間は邪魔者でしかないのだろうか。
ふたりがそんなふうに物思いにふけっていると、そこに三人目の声が響いた。
「どうした? 先客がいたから気を使って帰ろうかと思ったが、ずいぶんと暗い様子じゃないか」
「あらまあお邪魔虫のご登場ね。副長殿、仕事はどうしたの?」
「心配するな、今は休憩時間だ。仮眠をとろうかと思ったが、うちのうるさい連中がサイトの手伝いに行けとうるさくてね」
やれやれとルイズは肩をすくめた。同時にミシェルも苦笑してみせる。銃士隊のおせっかい焼きも遠慮がなくなってきた。
実は、一週間前の戦いが終わった日、ルイズとミシェルで誓いを立てた夜からしばらく経って、ある日こんなことがあった。
アディールのあちこちから呼ばれ、誰もが忙しく駆け回っている頃。ある夕食会のこと。才人がいないときに、その一幕で、
ルイズとミシェルはすれ違いざまに視線を合わせた。
「……」
「……」
互いに視線のみを合わせて、一言も発することはなかった。いまやふたりは戦友であると同時にライバル同士、下手な馴れ合いを
するつもりはなかった。日常こそがふたりの戦場、そこは孤独で、何人にも邪魔されない聖戦の場……
と、思っていたのだが。
「副長! 我ら一同、全力を持って副長をサポートさせていただきます! あんなちんちくりんがどんなもんですか! 大丈夫です。
副長のほうが魅力じゃ全然上なんですから絶対勝てますって」
「ルイズ、話は聞いたわよ。いいこと、最近はばをきかせてきてるあの女どもに勝ち誇らせるなんて絶対あっちゃだめよ。わたしたちも
全力で応援するから、死んでもサイトをものにしなさいよね」
と、どこで気配を察したのかミシェルには例によって銃士隊一同。ルイズにはモンモランシーほか女生徒が応援団について、
当人たちの意思とはまったく関係なく全面抗争の様相を見せてきてしまった。結局、どの歳になろうと女子の最大の関心事は
他人の色恋沙汰ということなのか。
本人たちより外野が盛り上がるあたり、ありがた迷惑としか言いようがないのだが、もはや止めようがなさそうだった。
ルイズとミシェルは顔を見合わせあって、今度は仲良くため息をつきあった。
- 43 :
- 「はぁ……」
前途多難は覚悟していたが、こんな斜め上の方向から来るとは完全に想定外だった。今からこんな調子では、トリステインに
帰った後ではどこまで火の手が広がることやら。頭が痛くなってしょうがない……ただ、どちらが勝つことになろうと結婚式は
非常ににぎやかなものになるのだけは確実だろう。喜んでいいのか、悲しんでいいのやら。
そんな様子を、男子は遠巻きに眺めていたが、ギーシュは親友の多難を予感してせめて祈った。
「サイト、君は幸せなのか不幸なのか。正義の味方といえど、こればかりはウルトラマンもどうしようもしてくれないだろうしな。
せいぜいがんばりたまえよ。愚痴くらいは聞いてやるさ」
もっとも、そのウルトラマンの先人たちも恋や愛に悩んだのを彼らは知る由もない。どんな宇宙のどんな時代でも、男と女が
いる限り、惚れた腫れたの問題からは永遠に逃れることはできないようだ。
が、恋に関してはキュルケのようなタイプはともかくとして、大半の者がいざとなったら尻込みしてしまうものだ。ミシェルも
自分のそういう方面での臆病さを自覚しているので、尻を蹴っ飛ばしてくれる部下の存在に一面では感謝していた。
「思ったとおり凍えているようだな。これを飲め、あったまるぞ」
「あ、ありがとう」
ミシェルの持ってきた水筒の中身を注いだカップを、才人はルイズといっしょに受け取った。中身は無色無臭の液体で、
ルイズの持ってきたお茶のように熱くなかったことから、ふたりはそのまま口に運んだ。
ところが、口内に強烈なアルコールの味がしたかと思ったときには遅かった。喉を通った液体はそのまま喉を焼き、
吐き出す暇もなく飲み込んだ後で、ふたりは激しく咳き込んだ。
「こ、これ! 酒じゃないの!」
しかも度数は並でなく高かった。先日飲んだエルフの酒よりも強烈な刺激がして、口の中がしびれて痛い。しかし
ミシェルは悪びれるでもなく、いたずらっぽく笑って言った。
「火酒というやつだ。アルビオンでは冬季作戦用に常備していて、銃士隊でも冬場はこれを持ち歩く。まずいだろうが、
体は焚き火をしたりするよりもずっと温まるぞ」
「やってくれたわね。この、性悪女!」
「で、でも、確かに体はポカポカしてきたな。さすが、現場の知恵ってことか」
才人はしてやられたと思いながらも、さっきまでの凍える感覚が遠のいて、代わりに熱がこもってくるのを感じていた。
アルコールは体内の血流を活発にし、体温を上昇させる。それは寒冷地において暖房の代わりとなることは地球でも
実証されている。低体温症や凍傷防止にも効果があり、山岳救助犬がブランデーを首輪につけているのもこの一例であるし、
ロシア人がウォッカを飲むのも単なる嗜好の問題だけではない。
「飲みすぎるもよくないが、そういう奴のために火酒はわざと無味無臭に作ってある。軍の冬季訓練では、こいつだけで
寒さをしのぎながら一晩耐えるというのもある。そのうち、水精霊騎士隊の連中にもやらせてやろうかな」
「やめてあげてくださいよ。ギーシュたちなら、なにも考えずに酔いつぶれて、そのまま凍死コースまっしぐらしか思い浮かばない」
勇敢さはあっても狡猾さとか思慮ぶかさに欠けるトリステイン軍人の欠点を見事に受け継いでいるギーシュたちに、下手に
冬季訓練なんかさせたものなら、有名な八甲田山みたいに悲惨な末路が簡単に想像できてしまう。才人自身だって、
寒いのは大の苦手だ。
- 44 :
- とはいえ、一応は火酒は体温を一気に取り戻してくれた。さすがにそのまま飲むのはふたりとも耐えられないので、
ルイズのお茶で適当に薄めて口に運ぶと、酔う手前で寒さを忘れることが出来た。
「ところで、ふたりで深刻な顔をしてなにを話していたんだ?」
「たいしたことじゃないですよ」
才人は、さっきまでのルイズとの会話の内容を簡単に説明した。
「そうか、難しいものだな。しかし、言わせてもらうなら、あまり考えないほうがいいと思うぞ」
「なぜですか?」
思いもかけないミシェルの一言に、才人は思わず尋ね返した。
「今、それを考えたところでどうなるかってことさ。確かに、お前の言ってることは重要だろうけど、今それが必要なときじゃない。
サイト、お前はいい奴だけど、いい奴すぎるところがある。もっと、感情のままに素直に行動したほうがいい。初めて会ったときの
お前はうだうだ考え込むような、暗いやつじゃなかったぞ」
ぱんと肩を叩かれて、才人ははっとしたような気分になった。
言われてみたら、ここ最近はなにかと考え込むようなことが多かった気がする。世界の危機、それは間違いなく重大なこと
だけども、才人ひとりで考え込んだってどうにかなるわけがない。ハルケギニアと地球の未来についても同様だ。ひとりの
頭で出た考えなどは、ひとつが優れていても次々とやってくる問題にはすぐ対処できなくなる。
考えてくれる人ならたくさんいる。自分は、必要なときに意見をひとつ言えればそれでいい。サルは一匹のボス猿が群れを
支配するが、人間は助け合ってこそ人間たる意義がある。才人は、肩の荷が下りたようなさっぱりした気持ちになった。
「ありがとう。おかげで、気持ちが楽になった気がします」
「なんてことはないさ。姉が悩んでる弟を助けるのは当たり前のことだ……なんて、適当な名目を言えるように作ってくれた
姫さまには感謝だが、そろそろ必要ないな。サイト、わたしはお前の元気な顔が好きだ。それだけだよ」
にこりと笑顔を見せたミシェルに、才人は酒精とは違う意味で顔を赤くした。ルイズは、またこの女にポイント稼がせて
やっちゃったかと内心で舌打ったが、こればかりは年の功というやつかで真似できない。地球には、年上の女房は
なんとかということわざがあることをルイズは知る由もないが、なかなかに的を射ているといえよう。
星空の下、三人に増えた見張りはそれぞれ空と地上を見下ろした。
風の音だけがする世界は、地平線のかなたまでなにもなく、ひたすら同じ風景が続いている。このあたりはエルフの
生活圏内からもかなり離れていて、すでに村やオアシスの類もなく、国境警備のネフテス空軍の駐屯所が広範囲に
点在するにすぎない。
- 45 :
- しかし、見張りは欠かすわけにはいかない。行きのときのように、なんの前触れもなく怪獣の襲撃を受ける可能性は
常につきまとっている。東方号はどんな遠方からでも発見は容易なほどの巨大船だ。ほとんどが視力のいいことで共通する
鳥型の怪獣にとっては、見逃すわけもない目標と映るだろう。万一、バードンのような化け物クラスの相手に奇襲を受けたら
東方号とてひとたまりもない。
ただ、それは大幅に精神力を削る集中力と、なにより退屈に耐える根気がいる作業であった。寒風に耐えつつ、何もない
空間を凝視し続けるのは、時間の経ち方を遅く感じてしょうがない苦行である。才人は、最初のときこそルイズやミシェルと
たわいもない会話で気を紛らわせたが、すぐに無言になって虚空に目をやるだけの作業に戻ってしまった。
時折、火酒や茶で寒さを紛らわせ、目を凝らし続けるだけの時間が無限のように過ぎていく。
そんなとき才人の目に、東方号の前方に低く垂れ込める巨大な雲塊が映りこんできて、彼は伝声管に向けて叫んだ。
「艦橋、進路方向に雷雲を発見! 避けられたし、どうぞ!」
「了解した。高度を上げてやりすごす。今よりさらに冷えるから気をつけたまえ」
コルベールの声が聞こえてきてから少したって、東方号は上げ舵をとって艦首を空に向けた。
ぐんぐんと、プロペラ出力にものを言わせて上昇していく東方号。前方に壁のように立ちふさがる黒雲に挑戦するかのごとく、
その頭上をとった東方号が水平飛行に戻ったとき、そこには海が広がっていた。
「うわぁ……」
「これは、まるで神の世界だ」
感嘆し、つぶやきの声が風に流れていく。
高く飛び上がり、雲の上の世界に出た東方号を待っていたのは、一面の雲に埋め尽くされた光景だった。
すべての方向を見渡しても、下界に広がるのは雲のみ。その雲が月光を反射して明るく輝き、まるで海のようにうねりながら
どこまでも広がっていた。
「空の上の、海……ね」
それは、まさしく雲海。神話の世界で、神や天使が歩くとされる天上界の風景を、そのままここに再現したような幻想的な世界。
東方号は、その海の上をゆっくりと航海している。
「船乗りの間では、幸運の印として語り継がれているそうだが、これほどまでとはな」
ミシェルも圧倒されたようにつぶやいた。
この星の赤と青の月光は、それを浴びる雲海にえもいわれぬ彩を加えて、反射光は真昼のように明るく雲上を照らしている。
さらに、雲上なので頭の上にはさえぎるものはなにもなく、ふたつの月が輝く大宇宙が広がっていた。
まさに、ハルケギニアならではの大絶景。地球ではありえない自然の大芸術に、才人だけでなくルイズやミシェル、そのとき
起きていた面々すべてが圧倒されて息を呑んだ。
- 46 :
- 「ミス・エレオノール、すまないが全員を起こしてくれないか」
艦橋で、眼鏡のくもりをふき取ってかけなおしたコルベールが言った。エレオノールもうなづいて、手すきのものは甲板に
上がるようにと艦内に伝える。
寝ぼけ眼をこすったギーシュたち、なにごとかと身構えた銃士隊が甲板に上がってくる。
寒風が目を覚まし、次いで眼に入ってきたのは、この世のものとは思えない美しい光景。その絶景には、エルフたちすら目を見張った。
「おい、こりゃあ……」
「きれい、おとぎ話の世界みたい」
魔法でも、科学でも作り出すことは不可能な光の世界。東方号は、その大いなる海の上を粛々と進んでいく。
「この船に乗った、すべての人たちへ」
コルベールの声が魔法で増幅されて甲板に響いた。ギーシュたち男子や、ティファニアやモンモランシーら女子たち、
ルクシャナたちエルフたちや銃士隊も思わず月明かりに輝く艦橋を見上げた。
「この船に乗った、すべての人たちへ。突然呼び出してすまない……しかし、その理由はもうわかってもらえたと思う。諸君、
我々のこの世界は美しい。しかし、ヤプールの跳梁を許せば、この美しい世界は汚されて、二度と元には戻らなくなって
しまうだろう……諸君、君たちは、それぞれに戦う理由を胸に秘めていることと思う。それでも、君たちは皆、この美しくて
かけがえのない世界に守られて生きているのだということを、忘れないでほしい」
コルベールの願いは、人間とエルフたちの胸に刻まれた。
我々が、なにげなく生きているこの世界は、こんなにも儚く美しい。自分たちは、この世界を守らなくてはならない義務がある。
名誉とか、意地とか、そんなものと引き換えにはできない、あって当たり前だが大切なもの。これを、ヤプールなどに、絶対に渡してはいけない。
決意を新たにする若者たち。彼らの瞳は、今は曇りなく前を見据えている。
だが、世界を背負っても、その手に掴みたいものも確かにあった。
コルベールの言葉を聞き、身の引き締まる想いをした才人は、その想いをルイズに伝えようとした。
「先生、いいこと言うぜ。なあルイズ、おれたちはなにがあってもこの世界を……っと!?」
才人の言葉は、右腕に抱きついてきたルイズにさえぎられた。なんのつもりかと問い返す暇もなく、ルイズは才人をきっと鋭い
目つきで見上げて、こう告げた。
「サイト、あんたの志の高さは大切だと思うわ。でもね、それって進んで危険に突っ込んでいくってことよね? たとえ世界が
救えても、あんたがいない世界なんてわたしにはなんの意味もないわ。あんたのぶんまで生きてやろうなんて思わない。
あんたが天国に行くならわたしも行く。覚えておきなさい」
「ルイズ……」
説得する余地など欠片もない、命をかけたルイズの意志の固さは才人の言葉を凍らせた。
するとミシェルも。
「そうだな。わたしも今さらサイトのいない世界で生きたいとは思わないな……なあサイト、お前が自分より世界を大切に
思っているように、世界よりお前を愛している女が少なくともふたりいることを、覚えておけ」
誰よりもなによりも、あなただけを愛する。それは利己的だが、逆に宇宙でもっとも尊い利己心であろう。
- 47 :
- 愛とは決して、一言で語りつくせるような単純なものではない。けれど、ひとつだけ確かなことがあるとしたら、愛とは
理屈ではないということだろう。
「サイト、今なら何度でも言える。好きだよ、わたしはお前といっしょのときに一番幸せになれる」
ミシェルはそう言うと、才人の左半身にぴったりと体を寄せて抱きしめた。
「ひ、え!? ミ、ミシェルさ!」
「酒の勢いだ。気にするな」
そんなことを言われたって、鎧にまとっていてもトップモデルなみにスタイルのいい彼女に密着されたら、健康な男子が
なにも感じないわけがない。さらに、甘えた表情を見せられると、大人の魅力と少女の弱弱しさが絶妙な割合で合わさっていて、
庇護欲まで感じるようになってしまう。
目を白黒、顔を赤くしてうろたえる才人。口からは、あわわなどと頼りない言葉しか漏れてこないところから、相変わらず
女性に対する免疫はたいして進歩していないことがうかがえる。
「ちょっとサイトぉ!」
もちろん、ライバルにここまでされてルイズも黙っているはずがない。ただし、可愛いという点では右に出る者はいないルイズは、
女性的魅力という面に関しては同年代の女性たちから圧倒的に引き離されているのは周知のことである。彼女の名誉のために
細かいことは避けても、世の中には向き不向きというものがあることを自覚すべきであった。
「おいおい、サイトたち、またやってるよ」
気配をかぎつけたのか、甲板からギーシュたちが見上げて笑っていた。彼らのあいだでは、もうこの三人のことはなかば名物に
なってしまってきている。
「あんた! いいかげん離れなさいよ、仕事しなさい!」
「寒いんだ。もう少し、ぬくもっていたい」
不肖の弟子を見るようなギーシュ、うらやましい奴だなと他人事のように言うギムリやレイナール。仲がよくてうらやましいですと
言うティファニアはややずれている。そして、ルクシャナに「いい男ってのは見てくれじゃないのよ」と言われて、困惑するアリィーを
情けなさそうに見るエルフの騎士仲間たちと、才人は心ならずも笑いを振りまいていた。
ルイズとミシェルに熱烈に迫られて、うろたえるしかできない才人。全世界の平和を守るという志も、この相手にはまったく形無しだった。
〔もうこうなったら、怪獣でも超獣でも宇宙人でもいいから出てきてくれぇーっ!〕
しまいには、正義の味方としてあるまじきことまで考えてしまう始末である。
だが、意地悪な運命の女神様もさすがに勘弁してやろうと思ったのか、才人の願いは少々形を変えて叶えられることになった。
将来の嫁候補ふたりに挟まれてもだえる才人の視界に、ふと映りこんできた白い小さなもの。
「ん……? お、おぉ! おい、まわりを見てみろよ!」
「なによ? え、わぁ!」
「これは……雪、雪か」
なんと、いつのまにか東方号のまわりを、純白にきらきらと輝く雪が舞っていた。
そう、それこそ春の桜の木の下を歩くように、手を伸ばせば届くようなところを無数に舞っているそれは、月光を浴びて
ダイヤモンドダストのように神秘的な光を東方号に降らせていた。
「きれい……宝石の海みたい」
「なんだこりゃ……すっげえ……」
女性も男性も、驚き疲れるほどに美しすぎる光景に、目も心も奪われて見とれた。
しかし、ここは雲の上、普通に考えて雪があるわけはない。おまけに、雪は上から降るのではなく、眼下の雲から空へと
舞い上がろうとしている。
ティファニアは、たまたま近くに寄ってきた雪の欠片をじっと見つめた。
- 48 :
- 「これ、雪じゃない。生き物だわ」
なんと、雪に見えたひとつひとつの結晶は、すべてが小さな純白の生物だったのだ。
蛍のように、光りながら東方号のまわりを舞う小さな不思議な生き物たち。その輝きを見て、ルクシャナははっとしてつぶやいた。
「これ、スノースターだわ」
「なんだい? それは」
「古い文献で読んだことがあるの。見たものに幸運をもたらすって言う、空に向かって降る雪があるって。ほとんど迷信だと思ってたけど、
実在したんだわ。すごい!」
興奮するルクシャナの前で、スノースターは雲から現れては空に向かってゆっくりと飛んでいく。
伝説を目の当たりにしているという充足感、そしてなによりも筆舌に尽くせない美しさに、人もエルフも問わずに見とれ続けた。
「伝説の、空に降る雪か。おれたちは、本当についてるのかもしれないな」
「そうかもしれないわね。そういえば、スノースターに願いを託せばかなうって言い伝えがあるそうよ。蛮人の伝承だけど、試してみる?」
ルクシャナの一言に、少年少女たちはわっと空に向かって手を合わせて祈りのポーズをとった。
願い事はそれぞれなんなのか、人には誰だって未来への希望があるだろう。一部の考えがあけすけな者たちを除けば、
それらの内容を明かすのは無粋であろうけれども、祈りそのものは誰もが無邪気であった。
少年少女、大人たちにエルフたち。誰もが世界に抱かれて、明日への希望を胸に秘めて生きている。
そして、スノースターの輝きの中で、才人たちも、ひとつずつ願いをかけていた。
「なあ、ふたりとも。どんな願いをかけたんだ?」
「世界平和」
「同じく」
百パーセント嘘だとわかる答えをミシェルとルイズは返した。
が、才人もここまできてふたりの考えが読めないほどバカではない。聞いてみたのは一応で、少々うぬぼれかもしれないが
少しいたずらっけを出してみようかと思った。
「で、サイトはなにをお願いしたの?」
「ん? かわいいお嫁さん」
ただ、これは少々悪ノリが過ぎたようだ。ふたりそろって後頭部を、「調子に乗るな!」とこづかれてしまった。
「あいてて」と、殴られた箇所を押さえて顔を上げる才人。今頃になって自分の発言の失敗を悟り、こういうところが日本で
自分がもてなかった原因なのだろうなとあらためて反省する。
「間違えた。おれも世界平和」
「しらじらしい。わたしより可愛い女の子がほかにいるわけないでしょ、冗談にしたって笑えないわ」
才人は、それは自意識過剰だろと思ったが、さすがに地雷を二回連続で踏んだりはしない。ぐっと口を抑えて、我慢した。
でも、才人はうそはついていなかった。本当は、願い事はいろいろあって決められなかったから、一番基本に戻ることにした。
世界の平和がなければみんなの幸せもない。けど、かわいいお嫁さんがほしいというのも本音ではあるところが、才人の
才人らしさであろうか。
しかし、このままふたりにやられっぱなしで終わるのは、男としてどうにも我慢できない。
そろそろと、ルイズとミシェルの背中から肩に手を伸ばして。
「よーし……それっ!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
なんと、才人はふたりの首に手を回して自分のところに引き寄せた。すかさず、三人の顔が密着しそうなほど近づいて、
ルイズとミシェルの顔がみるみる紅に染まっていく。
- 49 :
- 「サ、サイ!?」
「お、お前。なんの!」
「あー、さっき飲んだ酒が今になって回ってきたなあ。こりゃ、明日にはなにも覚えてないかもしれねーな。というわけで……
言いたいことをズバッと言うぞ」
ごくりと、ふたりがつばを飲み込む音が聞こえた。
「うんっ! まだ愛してるとは言えないけど、おれはルイズもミシェルも大好きだ! この戦いが終わるときまでには、
おれも必ず答えを出す。そのときにもし、まだおれのことが好きだったら……おれと結婚してくれ!」
「なっ!」
「へうっ!?」
いきなりの、嫁になってくれ宣言は、それまで主導権を握っていたふたりの意表を完全についた。
そして最後に才人は、酒の勢いだとなかば自分に言い聞かせて、ふたりの頬に一回ずつ唇をつけた。
「ひぅ! サ、サイトトトト」
「あ、あわわわわわわ」
「ははっ、そういえばおれのほうからキスしたのは初めてだったかな。ようしっ、じゃあ後は……さらばっ!」
この後、照れ隠しと逆ギレしたふたりがどういう行動に出るかが容易に想像できたため、才人はふたりを離すと即座に逃げ出した。
なお、結論から言えば、このときの才人の読みは完全に当たっていた。
「サイトぉぉぉぉぉっ!」
「よーしっ! なにはともあれ一発殴らせろ! 安心しろ、一発ですませてやるから!」
「はーっはっはっは! 今日だけは死ぬ気で逃げ切らせてもらうぜぇーっ!」
不器用で未熟な愛の表現。悩み、苦しみ、それでも若者たちは毎日を明るく楽しく生きようとする。
艦橋からあっというまに甲板に降り、おっかけっこをする才人たちを見て、ギーシュたちはおかしそうに笑った。
「がんばれサイト! 男の意地を見せろぉ!」
「ルイズがんばれ! バカな男に女の怖さを教えてやるのよ」
「副長ファイト! 気絶させて部屋に連れ込んでしまえば勝利ですよ!」
陳腐でこっけいな光景。しかし、人から見れば笑われるようなことでも、彼らはいっしょうけんめい前を見て生きている。
逃げる才人に、追うルイズとミシェル。不器用な三人はなかなか進歩しないが、少なくとも今日、彼らは一歩未来へと進みだした。
はてさて、将来才人の隣でウェディングドレスを着るのは誰か? 未来は無限の可能性を見せて、誰にも答えようとはしない。
そして、彼らを静かに見守る者がもうひとり。
ウルトラマンA、北斗星冶は才人とルイズの心の中から、彼らの姿に自分の若いころを重ねていた。
〔そうだ、笑顔を忘れるなよ。子供は元気が一番だ!〕
北斗は、エースと一体化する前から子供好きだった。TACに入隊した後も、子供と触れ合うことは多かったし、孤児院に
顔を出したこともよくあった。
子供が笑えないことほど悲しいことはない。エースは、北斗はそれぞれ孤児だったから、その悲しみをよく知っていた。
でも、才人とルイズは悩み、苦しみはしても、最後には笑って終わらせる。笑顔を忘れず、まわりにも笑顔を振りまく。
〔君たちなら、ヤプールにも決して負けまい。そして、いつかきっと必ず、戦いを終わらせられるだろう〕
すべてに決着がつく日は、恐らく遠くはない。それまで、想像を絶する苦難が何度も立ちふさがってくるだろうが、彼らならば
きっとそれらも乗り越えていけるはずだ。
明日の戦いに備え、今日はひとときとはいえ平和を楽しむ。
笑いながら走っていく才人たち。それを見守る人たちの笑い声が、寒空を暖めていく。
空のかなたへと去っていくスノースターの輝きに照らされて、東方号は西へ西へと飛んでいく。
双月に見守られた、宝石のように輝く星。それをもっとも美しく輝かせる光は、確かに今ここにあった。
第三部へ……
- 50 :
- 紫煙
- 51 :
- 以上です。
第二部、とうとう終結しました。
いろいろと詰め込みすぎたような感がありますが、とりあえず書きたいことは書ききったつもりです。
長かった。ずっと読み続けてくださった方々、ありがとうございました。
特にラストは悩みました。ゼロ魔ですからラブコメ要素は欠かせないのですけど、原作とぜんぜん違う組み合わせと関係ですからね。
「ルイズもミシェルもおれの嫁になるのだぁーっ」
というのも本気で考えましたが、才人のキャラと合わないのでやめました。それにウルトラヒーローにあまりドロドロした恋愛はまぜたくなかったので……
いえ、ティガ劇場版は見ましたよ。でも、南原隊員のほうが好きなもので、「ウルトラの父と花嫁がきた」は私の中でベストです。
才人の嫁に誰をするのかは未定です。これについては、原作を尊重しつつ、あくまでパラレルワールドということでいきたいと思いますが、
たぶん私も書くまでは悩み続けるでしょうね。
スノースターが現れたのは、たまたま下にアルケラがいたからです。理屈付けすることもできたのですが、テンポ悪くなるのでここでは奇跡としてください。
では、次は第三部ですが、正真正銘これで完結編にするつもりです。
ハルケギニアに巣食う悪の勢力、そしてヤプールとの最終決戦。ウルトラ兄弟、平成ウルトラマンたちの活躍。
まだ残してある謎や、伏線も回収しつくして終わらせます。
それで、プロットの再構成や、書き溜めをしなくてはならないので、一ヶ月ほど充電期間をいただきます。
11月には帰ってくるつもりですので、それまでしばしさようなら。これからも、ひとりでも多くの人に楽しんでいただけるように切磋琢磨してまいります。
最後に、これまで支援してくださった方、代理投下してくださった方、まとめwikiに登録してくださった方、応援してくださった方々に心よりお礼を申し上げます。
以上です。代理投下お願いします。
--------------------------------------------------------------------------------
以上代理終了
- 52 :
- 作者及び代理の人乙
- 53 :
- 最近になって少しずつ知り始めたホライゾンから召喚されるなら
点蔵とか二代とかが戦闘系として、喜美とかベルさんとかが補助系として面白そうかな
- 54 :
- 乙
VAVA…
- 55 :
- コスモスも出た以上、代表的なウルトラマンはほとんど登場したことになるなあ
ゼロは時系列的にムリとして、マックスやグレートパワード、ゼアスやナイスはギャグトラマンだからどうかね
- 56 :
- ドシリアスなノアさん(ネクサス・ザネクスト)がいるじゃないか
- 57 :
- シリアスというか、なんでコスモスの後にあんなもん作ったのやら
- 58 :
- >>57
コスモスの後だからこそ、問答無用でRにはあんな凶悪生物どもじゃないといけなかったんだよ
普通の怪獣や宇宙人と違って同情の余地ゼロの強烈なヤツでないと
- 59 :
- 確かにスペースビーストはBETAじみたグロさと凶悪さがあったな
グロテスクな口の中に人が放り込まれるシーンなんか、子供に見せたらトラウマもんだろと思った
- 60 :
- みんなのトラウマ
ペドレオン&ノスフェル
無能王&教皇がかなり臭い感じだけどな
まあダークザギさんに出てこられると
ヤプールの立場がなあ
- 61 :
- ネット紳士のザギさんなら並行世界でゼロ魔のことも詳しく知っていそう。
- 62 :
-
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説10巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック1巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスタ!!タバサぁああああああ!!!ティファニアぁあああ!!
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
- 63 :
- >>62
老人に化けたヤプールの虜にされた子供たちがそんなふうに狂わされたっけな。
カルト宗教と萌えは紙一重、オリオン星人の話はシンナー吸引に見えるし、Aはリアルに怖い話が多い。
- 64 :
- 投下してもいいよ?
- 65 :
- 週末には投下できそう
- 66 :
- テファに召喚されウェストウッド村で生活する事になるジャギ様。
世紀末とは無縁の村で農民生活をしつつ、時折イタズラしてくる子供達にノリノリでリアクションを返すとか…
ジャギ「俺の名を言ってみろぉ!!」
村の子供1「ジードォ!!」
村の子供2「ジャッカル!!」
ジャギ「何ぁ故だっ!?」
- 67 :
- テファに召喚された奥森かずいというネタが一瞬過ぎった。過ぎっただけだが。
- 68 :
- 原作版ルイズがアニメ版ルイズを召喚する…ってネタはこのスレ的に認められるのかね?
- 69 :
- >>68
すでにあったような気がするが。
- 70 :
- 原作ルイズがアニメルイズを召喚すると同時にマンガルイズが原作ルイズを召喚し、
さらにアニメルイズがマンガルイズを召喚していて綺麗に入れ替わるんですねわかります
- 71 :
- 原作版は桃色がかった金髪で、アニメ版はドピンクで、漫画版は白黒なのか
- 72 :
- 原作→かわいい
アニメ→かわいい
漫画→かわいくない
- 73 :
- >>67
ルイズに召喚されるのは梧桐勢十郎か
- 74 :
- 避難所に無重力巫女の投稿が来ていたので、0時10分頃から代わりに投稿しようと思います
- 75 :
- では始めます
日暮れの時が迫りつつあるチクトンネ街。
その一角でルイズと魔理沙の二人は、予想だにしていなかった相手と鉢合わせになっていた。
花も恥じらう美女の姿をしたその者は異国情緒漂う白い導師服に身を包んでおり、周囲に場違いな雰囲気を放っている。
彼女の名は八雲紫。霊夢と魔理沙の故郷である幻想郷の創造者で境界を操る程度の大妖怪だ。
「久しぶりね二人とも、元気にしてたかしら?」
まるで故郷で旧友と再会したかのような気軽さでもって、紫は目の前にいる二人へ話しかける。
本来ならこのハルケギニアにいないであろう彼女を前にして、ルイズは恐る恐るといった感じで返事をする。
「ユカリ…一体何の用かしら」
「別にコレといった用事はありませんけど、アレといった用事で少し足を運んでみただけですわ」
まるで尋問のようなルイズの質問を、暖かい笑みを浮かべる紫はワケのわからない言葉で返した。
ルイズ自身後ろにいる魔理沙や今この場にいない霊夢とは違って付き合いが短いせいか、その言葉の本質をすぐには見出せない。
しかし、あまりにも深く考えすぎるとこの妖怪の手中に嵌ってしまうようが気がするので、敢えて考えないようにしていた。
そしてここ最近、霊夢や魔理沙にデルフと言った厄介すぎる連中と同居し始めた所為かルイズ自身の沸点は少しだけ高くなっている。
おかげで、ある程度ワケのわからない事を聞いても言われてもあまり怒る気にはなれなくなっていた。
「じゃあ言うけど、アンタの言うアレといった用事は…霊夢の事よね?」
一月前なら不機嫌になっていたであろうルイズは冷静な表情と気持ちでもって、二度目の質問を投げかけてみる。
思いのほか怒らなかったことに、紫は「あらあら?」と不思議そうなモノを見る目で首を傾げた。
「流石にあの二人と暮らしていると、一々怒るのにも飽きてしまったのかしら?」
以前彼女に杖を突きつけられた紫はそんな事を言いつつ自身の右足をスッと動かし、一歩前へ進み出る。
飾り気はないものの綺麗に手入れされた黒のロングブーツの底が石造りの地面を軽く叩き、景気の良さそうな音が周囲に響く。
街の喧騒と比べればあまりにも儚すぎるそれは、あっという間に聞こえなくなってしまう。
ただ単に生まれ、何も生み出さずに消えた音の事を気にする者はおらず、その一人であるルイズが返事をする。
「言っておくけど、これでも結構我慢してる方なのよ。そういう風には見えないのかしら?」
怒るのに飽きたという紫の言葉に対して返された彼女の言葉には、僅かではあるが怒りの念が滲み出ていた。
その念から並の妖怪を退ける何かも出ていたのか、紫はヤレヤレと言わんばかりに肩を竦める。
「その様子だと色々あったようですわね。私から見れば、まずまずといった所ね」
何がまずまずといった所なのかは知らないが、それでもルイズは突っ込まない。
地面に腰を下ろしている魔理沙とは違いジッと佇んで身構えており、その姿は人見知りの激しい猫そのもの。
正に動かざること山の如しな今のルイズの態度につまらない何かを感じてしまったのか、紫はフゥとため息をついた。
「…何よそのため息?アタシは何もしてないんだけど」
しかし偶然にも、残念なモノを見た時の様な反応がルイズの癪に障ったらしい。
思わず顔を顰めた彼女を目にして、咄嗟に右手で口元を隠した紫は目を細め「ふふふ」と小さな声で笑う。
「別に何もありませんわ。ただ、目の前の貴女が水で固めただけの砂の城だとわかって安心しただけですのよ」
「は…?砂の城…?…水で固めた…どういう意味よ」
先程のため息とは一変して楽しそうな雰囲気漂う彼女の言葉が、またしてもルイズの耳に入る。
言葉の意味がよく分かっていないルイズの怪訝な様子に、笑顔を浮かべる紫自身がその答えを告げた。
- 76 :
- 「水で固めた砂の城は中々崩れないけど、その気になれば赤子の手足でも簡単に壊れてしまうものよ」
「つまり?それと私に何の関係があるっていうの?」
これが最後の質問だと言いたげな嫌悪感を放ち始めたルイズに、紫はトドメの一言を放つ。
「今の様に突けば突くほど、面白いくらいに反応を見せてくれるわね。貴女という人は」
「な――――……あ!」
叩いて蹴って崩れてしまう、砂の城みたいにね。最後にそう付け加えて彼女はその口を閉じる。
それを聞くまで何を言われているのか理解できなかったルイズは、今になって気づいてしまった。
自分が今の今まで、言葉を使ってからかわれていたという事に。
からかわれないようにと自然に気を付けていたのにも拘らず、気づかぬ間に彼女のペースに嵌っていたのである。
それを理解したと同時に沸々と心の底から小さな怒りがゆっくりと湧きあがり、ついでその両手がゆっくりと震え始めた。
「あらら、思ってたよりも随分溜まってたのかしら。手が震えていますわね」
そして追い打ちともいえるその一言に、ルイズの怒りがその一部をさらけ出してしまう。
「よ、余計なお世話よ!」
今まで頑なに閉じていた口を開けてそう叫んだ彼女は、慣れた動きで腰にさした杖を手に取った。
幼少の頃から使ってきたソレの先端が、風を切る音とともに紫の方へと向ける。
何の迷いもなく向けたそれはしかし、持ち主の手が震えている所為かそれと連動するかのように小刻みに動いている。
だがその震えは恐怖からくるものではなく、怒りからくるものであった。
そんな時であった、ルイズの後ろから魔理沙の声が聞こえてきたのは。
「お、何だ何だ?今から派手で面白そうなモノが見れる気がするな」
今まで黙っていた魔理沙が杖を抜いたルイズを見て、興味津々と言いたげな表情でもって呟く。
その姿はまるで、路上で行われる大道芸を見れることにドキドキしている子供そのものである。
彼女の声に気づいてか、ルイズと対峙する羽目になった紫はその視線を魔理沙の方へと向けた。
「今から私が大変な目に遭いそうだというのに、随分したたかにしているわねぇ」
「何を今更。お前ならあのインチキじみたスキマでどうとでもなるだろう」
「あらひどい、まるで私のスキマが何でも出来るみたいじゃないの?」
「そうか?私が見てきたものだと並大抵の事はできたような気はするが?」
そんな二人の会話をしている間にも、怒り心頭となってしまったルイズは詠唱を行っていく。
鋭く細めた両目でもって自分を睨みつけてくる彼女に対して、紫は至極冷静であった。
まるでずっと遠くで大暴れしているハリケーンを見つめるかのような、物見遊山な雰囲気がある。
一方の魔理沙も山の時の様にルイズを止めることなく、その場に腰を下ろしたままルイズの詠唱を見物している。
霊夢を探してここまで走ってきて疲れていた事もあるが、別に紫とは特別親しい間柄でもない。
何より、ルイズの使う魔法を拝めるチャンスがようやく舞い込んできたのだ。
この三つの理由のおかげで魔理沙は立ち上がる事もなく、楽しそうにルイズの背中を見つめている。
そして詠唱を終えたルイズはというと、震えが止まった右手で握る杖を振り上げ…
「エア・ハンマー!」
と覇気のある声でそう叫び、勢いよく振り下ろした。
瞬間、紫とルイズの間でパッと閃光が走り―――爆発が起きた。
- 77 :
- 本来なら風で出来た不可視の鎚となるはずだった魔法は、周囲を巻き込む衝撃波と煙幕に変わったのである。
爆発の威力自体はそれほど無かったが、それを引き起こした張本人とその後ろにいた魔理沙にとって只事ではなかった。
「うわ、な…うぅっ!?」
全く予想していなかった事態に直面した彼女は、ルイズの近くにいた為かモロにその衝撃波を喰らってしまう。
灰色の煙幕と共にやっきてたソレに、魔理沙は思わず左腕で顔を隠して凌ごうとする。
着ている服や右手に持っていた帽子がバタバタと揺れ、露出した肌を容赦なく撫でて通り過ぎていく。
それから五秒ほどして衝撃波も無くなり、周囲には煙だけが不気味に漂っている。
「あ〜、アレか。空気を叩いて爆発させた……のか?」
薄くなっていく煙の中で魔理沙は冗談交じりにそう呟いて立ち上がり、ルイズの方へと目を向ける。
爆発の威力自体はさほど大したものではなかったおかげで、彼女が被った被害は微々たるものであった。
服やマントに破けた所は無く、自慢のピンクブロンドや白い肌にも傷一つ付いていない。
もっとも魔理沙より至近距離にいた為か所々煤けており、まるで工場の煙突から出る黒煙の中を通って来たかのような姿だ。
「ケホ…ケホッ!」
そしてルイズはというとつい煙を吸ってしまったのか、左手で口を押えて咳き込んでいる。
咳き込む彼女の後姿を見つめていた時、魔理沙はふと紫の事が気になった。
スッと頭だけを動かしてあの大妖怪が立っていた場所を見てみると、案の定その姿は消えている。
最初からそこに存在して無かったかのように、何の痕跡すらも残さず。
「ケホッコホッ……あれ?ユカリの奴は何処に行ったのよ」
魔理沙に続くかのように咳が止まったルイズも気づき、煤けた出で立ちのまま目を丸くする。
ついカッとなって唱えてしまったし「エア・ハンマー」は見事に失敗し、爆発魔法へと変異したのだ。
ここ最近、授業でも日常でも魔法を使っていなかった事もあってかルイズ自身も驚いてしまい、咳き込んでしまった。
「まさかあの爆発で木端微塵…って事はないわね」
杖を持っていない方の手で顔についた煤を拭きながら、そんな事を呟く。
あの爆発が大したものではないと彼女自身も理解できるほど、思考に冷静さが戻っていく。
(ムシャクシャしてやった…ってのはこういう事なのかしら)
死んだとは思えないが先程まで自分をからかってきた相手が目の前から消えたことに、怒りという名の刀身が鞘に収まる気がした。
それを体の内側で感じていた時であった、上の方から紫の声が聞こえてきたのは。
「結構な爆発でしたわね。ちょっと驚いてしまいましたわ」
ルイズと魔理沙がそれに反応して頭上を見上げた瞬間、目の前の空間に横一文字の線が現れた。
まるで先端が少し太めの羽ペンで引いたかのようなソレが、ジッと空中で静止している。
現実とは思えない光景を目にしたルイズはハッとした表情を浮かべ、その場から数歩後ろへ下がった。
下がる間にも頭上からは尚も紫の声が聞こえてくる。人ならざる者の妖美なる声が。
「何もない所から爆発の力を引き出す程の魔力、中々の代物ね」
その言葉と共に細い線の真ん中が突如パカッと開き、中から一本の手が飛び出してくる。
ついで、二本目の手も同時に飛び出して来たかと思うとそのまま上半身まで抜け出てきた。
ルイズや魔理沙とは違いその服に傷や煤は付いておらず、新品同然といっても過言ではないだろう。
「でも未だ扱いきれてないせいか、コントロールはイマイチといった感じかしら?」
空中に出来た一本の線――スキマから上半身を出している紫は、後退るルイズへとその目を向ける。
- 78 :
- 「正に癇癪玉と言って良い様な貴女を、今の霊夢がいる場所へ行かせるのは危険極まりないわ」
眼下の少女へ向けてその言葉を放った紫は、不敵な笑みを浮かべていた。
この言葉の後に彼女がどのような事を喋り、どのような行動を移すのか予想するかの様に。
自分の最大の敵は、自分自身である。
その言葉をどこで知ったのか、霊夢自身あまり覚えていない。
自身が何時の頃にどのような経緯で、そしてどんな媒体から得たのか。それすら忘れてしまっている。
物心ついた時には既に、頭の中に入っていた様々な知識の中の一つとしてこの言葉がこっそりと入っていたのだ。
しかし。そんな言葉に拘るような性格をしていない彼女にとって、あまり役に立つ知識ではなかった。
彼女が日々考える事は今日一日をどのようにして過ごそうか、何で神社にまともな人間が参拝しに来ないのか。
幻想郷の平和を維持する博麗の巫女にしてはあまりにもふしだらな事を、お茶を飲みつつ暢気に考えているのが霊夢であった。
だが…今日に限って、彼女の脳内に一つの言葉が浮かんでいる。
自分を見つめ直し、生き方を変えようともしない博麗霊夢には似つかわしくないその言葉が。
「自分の敵は自分…ねぇ」
トリスタニアの繁華街から少し離れた公園の中。
ルーンが刻まれた左手が不自然に光っている霊夢はひとり呟きながらも、四メイル先で佇む゛もう一人の自分゛を睨みつけている。
不機嫌さを隠そうともしない彼女の視線の先には、文字通り二人目の゛レイム゛がいたのだ。
紅白の服や白い袖に赤いリボン。肌や髪の色にその顔立ちや瞳の色に青白く光るその左手まで。
まるで鏡に映りこんだ自分自身のように、生き写しやそっくりさんというレベルでは済まないその姿。
その全てが全く同じ過ぎるあまり、不気味な印象を周囲に漂わせている。
最も、周囲には霊夢以外の人はいないので大した意味は無いのだが。
だが…その印象を感じている唯一の人間である霊夢にとって、目の前のレイムは非常に苛立たしい存在であった。
ルイズによってこのハルケギニアに召喚されて以降、彼女は色々な相手と戦ってきた。
学院の生徒から魔法使いの騎士といった人間や、野犬から得体の知れない合成生物。
そして人間などあっという間に踏み潰せる巨大なゴーレムまでその種類は幅広く、そして一応は勝利している。
それ等を相手にしていた時の彼女は、今よりも大分落ち着いていたし冷静であった。
常に自分がどう動けばいいのか考慮し、相手がどの様な手を打ってきても対処できるよう構えておく。
幻想郷で度々起こる異変を解決し、時には凶暴な妖怪と戦う博麗の巫女にとってそれは当たり前の事。
我を忘れて攻撃すれば致命傷を喰らいかねないし、逆に相手が冷静ならば罠に嵌ってしまう可能性もある。
歴代の巫女と比べて一番ヒドイと評される彼女であっても、戦いの時は常に冷静であれと心がけている。
どのような相手を前にしてもペースを崩さず落ち着いた気持ちで対応し、自分のペースを忘れずに戦ってきた。
しかし、今目の前で佇む相手はこれまで目にしてきたどんな相手よりも、腹立たしい気持ちを感じていた。
- 79 :
- まるで鏡に映った自分が自分とは違う意思を持ったようなソイツに、今の霊夢は憤っている。
他人には決して分からないであろう、自分がしないような事をしているもう一人の自分を見るようなある種の不快感。
例えるならば禁酒を始めた自分の目の前に突如、酒を嗜むもう一人の自分が現れた…と言えば良いだろうか。
普通ならば決して有り得ないであろうが、今の霊夢が直面している状況は正にそれであった。
自分と似た姿を持ちながら、自分とは絶対的に違う何かを含んだ歪な存在。
そんな存在を前にして珍しくも、霊夢は自身の体から拒絶にも近い嫌悪感を放っていた。
こんなモノを目にするのは不快だ。今すぐ消し去ってやりたい―――という意思と共に。
「何処の馬鹿が仕組んだのかは知らないけど…悪趣味にも程があるわね」
ただいま不機嫌キャンペーン中の彼女はそんな事を呟きながら、右手をゆっくりと頭上に掲げていく。
まるで届きもしない太陽を掴もうとするかのような右手は、三枚のお札を握り締めている。
そして一度目を瞑って軽く深呼吸したのち、その手を勢いよく振り下ろす。
瞬間。握っていたお札が手から離れたと同時に、まるで自我を持ったかのように偽者へと突撃した。
風を切る音を出しつつ迫りくる紙切れに対し身構えた偽者は、左手をスッと胸の前まで上げる。
奇妙な事にその左手は青い光に包まれており、誰が一見しても異常だという言葉を漏らすほかないだろう。
まるで鬼火のように妖しい光を放っているソレでもって、もう一人の霊夢は迫りくるお札を受け止めようとしているのだろうか?
遅くもなくかといって速くもないお札は、四メイルの距離を僅か三秒の時間を使って通過し、偽者の方へと突っ込む。
当たれば二度目の直撃になるであろうその攻撃に対し、偽者は青く光る左手を振った。
まるで水平チョップのようにして振られた光りの尾を引くその手は、飛んできたお札と見事衝突する。
先程ならそのまま左手に貼りつき、妖怪や幽霊が苦手な゛ありがたい言葉゛が籠った霊力を周囲にばら撒いていたそのお札。
しかし…
そのお札以上に不可思議な光を放つ左手の前では、単なる長方形の紙も同然であった。
水平チョップの要領で振られた偽者の左手が、霊夢の投げつけたお札と衝突した瞬間。
霊力の籠った゛ありがたい言葉゛が書かれた三枚の紙は、いとも容易く引き裂かれたのである。
まるで障子に張られた薄い紙を子供がイタズラで破くように、たった一瞬で紙屑と化す。
邪気を払う霊力や゛ありがたい言葉゛も、単なる紙くずに付与されていては何の意味もない。
文字通り力を奪われた元三枚のお札は塵紙となって、偽者の前でヒラヒラと地面へと舞い落ちる。
それを見ていた霊夢は軽い溜め息をついてから、服と別離した左袖の中へと右手を伸ばす。
「何でアンタの左手が光ってるのか大体分かったけど、私の方の原因が分からないのはどうも癪に来るわね」
対峙してからまだまだ五分も経ってもいないが、相手の攻撃方法(?)が何なのか霊夢は既に理解していた。
彼女の偽物の左手は濃密な霊力に包まれており、青白い光となって目視できている。
そして余りにも力が濃いせいか盾と矛…つまりは攻防一体の武器と化してしまっているのだ。
- 80 :
- (あんなに強いと、そりゃお札も破れるわな)
左手がそのまま武器となっている自分の偽物に対し、心底面倒だと言いたげな霊夢は心の中で呟く。
先程は成功した自分の攻撃が防がれたのにも関わらず、その体からは新たに余裕の雰囲気が伺える。
相手の攻撃方法がある程度分かった以上、対処法はあっという間に思い浮かべられるのだから。
まだ手札が残っている可能性は否定できないものの、その手札を出す前に潰すのだから問題は無い。
不快な程に瓜二つな偽物をどのように対処するか既に考えた霊夢は、それを実行する前に一つだけ聞きたい事があった。
彼女は知りたかったのだ。自分をここまで導いた゛何か゛の正体を。
折角の休日だからとルイズや魔理沙と一緒に街へ赴いた今日という日。
サプライズのつもりで買ってもらった服の事について、街中のレストランで話をしていたのがついさっきの事。
素直になれないルイズに自分の意見を述べようとしたところで、思わぬ横槍が入ったのだ。
突然周りの音が聞こえなくなり、それに便乗するかのように光り出す左手。
この世界で伝説と呼ばれた使い魔のルーンが刻まれたその手は、今もなお輝いている。
そして自分の身に降りかかった出来事を冷静に対処しようとしたところで、妨害が入ったのである。
音が聞こえなくなった耳に入ってくる、博麗霊夢自身の声。
口からではなく自分の周りから聞こえてきたその声に、あの時の彼女は驚いた。
更に追い打ちをかけるかの如く現れた謎の女性と、「奴を追え」というノイズが混じった謎の声。
博麗の巫女である自分とよく似たその女性は霞の様に消え去り、ノイズ混じりの声は男性とも女性でもなかった。
その声に導かれるかのようにここまでやってきた霊夢は、自身と全く同じ姿をした存在と対峙している。
ブルドンネ街のレストランからここに来るまでの原因となった謎多き出来事、そして辿り着いた先にいたもう一人の自分。
あまりにも不可解過ぎる出来事の真実から正しい答えを探すことは、非常に困難であろう。
しかし霊夢は、その答えを自分の偽者へと聞こうとしていた。
ここまで自分を連れて来たのはお前か?それとも別の誰かなのか?
そして、お前をけしかけたのは誰なのか…ということも。
「アンタ。一体何の目的があってやってきたのかしら?…っていうか、何で私の姿をしてるのよ」
右手を左袖の中に入れたまま投げかけた霊夢の質問に対し、意外にも偽者は反応する。
しかし…それは言葉としてではなく、首を横に振るだけであった。
言葉が無くとも相手の言いたい事が理解できたのか、霊夢は澄ました表情で肩をすくめる。
「まぁ、簡単に言うワケ無いわよね…。何となくそんな気がしてるから期待もしちゃいなかったけど」
ここぞと言わんばかりに、彼女は自分と同じ姿をした存在へ嫌味な言葉を容赦なく投げかける。
もしもこの光景を第三者が見ていたら、とても奇妙な光景だと思う事は間違いないだろう。
しかし。偽物であっても霊夢の姿をしていた所為か、一方的に文句を言われるのはキライだったらしい。
本物が呆れた表情で毒づいてから数秒後、偽物がゆっくりとその口を開けて呟いた。
「―――…いわ」
「………ん?何よ?岩?」
虫の羽音程小さくはないソレに本物が気づくのには、数秒ほどの時間を要した。
自分の文句より小さすぎる偽者の声に気づいた霊夢は、怪訝な表情を浮かべる。
もしかしたら何か思い出しかのと勝手に思い、右手を左袖の中に入れたまま次の言葉を待ってみる事にする。
二度目の言葉は、霊夢が予想していた範囲内の時間で偽者の口から出てきた。
ただし、それを耳に入れたと同時にまたも自分の期待を裏切られたと勝手に落胆することとなったが。
- 81 :
- 「…わからないわ。何もかも」
まるで自分自身に言い聞かせるかのような言い方に、霊夢はまたもため息をつきたくなった。
今までこの世界で戦ってきた敵と比べて変わっていたから何か知っているかと思ったが、それは過剰評価だったらしい。
「あっ、そう。じゃあ言いたいことはそれだけ?他に言いたい事があるのなら手短に述べなさい」
もうすぐ夕食の時間だから。最後にそう付け加えて、左袖の中に入っていた右手をスッと引き抜いた。
服と別離している袖の中から出てきた右手は、四本の細い針をしっかりと掴んでいる。
裁縫や針治療に使うとも思えない程の長さを持つそれを、霊夢やその周りにいる者たちは「退魔針」や「封魔針」と呼ぶ。
その名の通り妖怪退治などで使う武器の一つで、妖怪だけではなく実体を持たぬ幽霊相手にも一応刺すことは出来る。
他にも普通の人間や動物相手なら普通に凶悪な武器として使えるのでお札より幾らか便利なのは確かだ。
唯一の欠点を挙げれば、お札と違って使った後の手入れが面倒な事と補充しにくいという事だけだろうか。
つまり二つの短所にさえ目を瞑れるのなら、非常に使い勝手のいい武器なのだ。
「本当にわからないのよ…。自分が誰で、アンタがどんな名前なのかも……」
霊夢が手にした針の方へ目を動かしつつも、偽者は独り言を呟いている。
身構えた体勢のままじっと相手の武器を見つめる姿は、正に戦士そのものと言ったところか。
いつでも戦えるという偽者とは対照的に、一方の本物はこれから戦うという意思を見せていない様に見えた。
まるで街角に佇む暇な若者のように、一見すれば体の力を抜いているかのような雰囲気が伺える。
こうして見比べてみると、本物夜も偽者の方が強そうに見えるのは火を見るよりも明らかだろう。
しかし本物である霊夢の体からは外見とは真逆である怒りの気配を放っており、近寄り難い雰囲気を漂わしている。
一方の偽者も並々ならぬ雰囲気をまき散らしており、一触即発としか言いようのない状況。
どちらか一方が攻撃を始めてしまえば取り返しのつかない、所謂冷戦状態と言っても過言ではないだろう
「でも、自分の中にある゛怒り゛が導くままにここへ来て――――…私と瓜二つのアンタと出会った」
「瓜二つって言いたいのはコッチの方なんですけど、それはどうなのかしらねぇ?」
まるで劇に出てくる役者のセリフみたいな言葉に突っ込みを入れながら、霊夢は針を持つ手に力を入れた。
既に針全体の霊力は通っており、このまま投げて命中すれば致命傷を与えられる。
仮に相手が普通の人間だったのならば、単に刺さるだけだがそれでも接近して一撃を与える事はできるだろう。
- 82 :
- (どっちにしろ早く片付けないと。…全く、何だって今日はこんなにも面倒事が多いのかしら)
霊夢は心中で愚痴を漏らしながらも、ここに来る羽目となった原因は何だったのか考えていた。
突然耳が聞こえなくなった事に、今まで光らなかったルーンが突如として光った事。
自分の声が自分の耳に入ってきた事や、博麗の巫女みたいな姿をした女性の幻影まで見てしまった事。
そして男とも女とも断定できない、ノイズ混じりの声が聞こえてきた事を思い出したところで、霊夢はふと思い出す。
女性の姿が掻き消えて少なからず動揺していた時、あの声が聞こえてきた。
その後、まるで声に導かれるようにしてここまでやってきたのである。
そこまで思い出し終えた時だ。霊夢の脳内で一つの結論ができあがったのは。
(もしかして…あの声の主が、私をここまで連れてきた張本人?とすると、ソイツが…)
―――――幻想郷に未曾有の異変をもたらしたっていう、黒幕なのかしら?
霊夢がその様な結論を下した直後であった、彼女の偽者が突如地面を蹴って跳躍したのは。
地面を覆う雑草を幾つか吹き飛ばし、飛蝗の様に跳びあがったレイムを霊夢はハッとした表情で見上げる。
彼女と同じ姿をした偽者は霊力で光る左手を振り上げた姿勢のまま、本物の方へと落ちて行く。
もしもこのままジッとしていれば振り下ろし左手に脳天をチョップされてしまうだろうが、それを受け入れる霊夢ではなかった。
「人が考え事してる最中に攻撃してくるなんて、とても出来の酷い偽者ね!」
こちらへ向かって落ちてくる偽者へ他人ごとではない言葉を投げかけつつ、霊夢は右手に持った針を投げつける。
襲いかかってくる相手が何なのか、一体何が目的なのかも未だわからない。その相手が何もわからないと言っているのと同じように。
ただ一つ。自分を殺しに掛かってきている事は確かだと、絶対的な確信を得ることは出来た。
夕刻の時が間近に迫りつつあるトリスタニアの一角。
歴史と伝統で飾られた街から離れてしまった公園で、戦いがはじまった。
以上で、第五十九話の投下を終了します。今回は前三話比べて短め。
今月は残暑から来る気怠さと仕事の疲れというダブルコンボで執筆に力入らずのひと月でした。
しかし、これからどんどん寒くなっていくので頑張って執筆を続けていきます。
では今月はこれにて、また来月にお会いしましょう。
以上で代理投稿の方、終了します。
- 83 :
- 乙
- 84 :
- >>7で言ってたWの絵ってどこで見れる?
- 85 :
- るろうに剣心が熱い!
ゼロ戦について、もし仮に、その時代背景も読み取れるとすれば
「黒船来航から100年もせずにアメリカと戦争するなんて・・・」
という展開になるのだろうか?
- 86 :
- アンドロメダを召喚
「ポワチエ将軍、前方にアルビオン艦隊主力を確認しました」
「全艦マルチ隊形をとれ」
- 87 :
- アンドロメダなんて呼んだらどこからとも無くフェニックスまでやってくるで
- 88 :
- 対抗してプレアデスを召喚
「アルビオン大陸を背にしろ。そうすれば奴らも撃ってはこれまい」
- 89 :
- >>87
フェニックス一輝さんか
あの人ルイズより年下なんだぜ 嘘みたい
声優つながりでパタリロのプラズマX・・・整備する人が居ないか
- 90 :
- >>89
かなり頑丈(深海や宇宙でも問題なく活動できる)だから少々無理させても問題ないだろうけど
エネルギーの補充がかなり特殊だったような
- 91 :
- >>89
沙織お嬢さんを喚んだ日には年齢と胸の関係的意味でルイズぶちキレるな
- 92 :
- 神オーラとプレッシャー垂れ流しの女神相手にぶちキレる余裕あるのか
- 93 :
- 間違いなく発生するだろう事がひとつある
マルコメ「俺が馬になります!!」
- 94 :
- いつも思うがルイズの使い魔には才人よりマリコルのほうが適任だったのではあるまいかな
- 95 :
- 原作読んでる?
- 96 :
- こうしてみると特に原作初期のルイズって普通にイヤな奴で魔法以外は基本他の貴族連中と同じ穴の狢だよな
サイトにはことあるごとにヘイミンガー、ゲルマニア人と見ればヤバンジンガー、中盤もサイトの記憶を消されればシソガー、セイセンガー
ゼロの使い魔って女の子とキャッキャウフフするハーレムラノベってだけじゃなくルイズの成長の物語かもな
- 97 :
- マリコルの底無しのMには驚嘆すら覚える。
ルイズは底辺から山あり谷ありで登っていくタイプ。
- 98 :
- 沙織お嬢さんが女王となり君臨するとかw
聖帝サウザーとは異なる人物表現だが、本質は大差ないとか?
(いや、そうなるとギャグ要素のある物語っぽいなw)
- 99 :
- つーかあのお嬢さんって戦闘能力どのくらいなんだろ?
冥王編クライマックスで身に纏ってた神衣みたいなの着てれば
大抵の魔法は効かなさそうだが
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