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2012年3月なりきりネタ122: 【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!W【オリジナル】 (229) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!W【オリジナル】


1 :
前スレ
【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】  レス置き場
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1306687336/

過去スレ
『【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】 』
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1304255444/


避難所
遊撃左遷小隊レギオン!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1304254638/

まとめWiki
なな板TRPG広辞苑 - 遊撃左遷小隊レギオン!
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/483.html

2 :
>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
>「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』
>『あの立会いが終わった後に、感服したとか適当な口実で話しかけて酒場へ誘って、
>向こうがどこを拠点に活動するつもりかだけでも聞いておきましょう。
>出来れば「面識がない」と向こうにも装ってもらいたいところですが……』
『了解したぜ……つっても、俺そういう演技とか苦手なんだよなぁ』
唸る様にして思い悩んだかと思えば、その直後にファミアはチームの面々に指示を飛ばしていく。
その指示内容は安全を確保する事を前提としたものであり、勇猛であるとはいえないが、
人材という財を損ねない事を求められる指揮官として、優秀なものである事は確かであった。
フィンはそんなファミアの言葉に特に反論する様子も無く、
逆に関心したかの様に目を少しだけ見開くと、頷き同意の意を見せた。
また、先に奇しくもフィンと意見を違えたマテリアも、ファミアの意見やフィン自身に
別段不満は出さなかった。普通は対立する意見を出されればその相手に悪印象を覚えるものだが、
マテリアは逆にそれを許容する懐の大きさを見せ、抑えきれぬ自信を孕んだ言葉を念信により伝えてきた。
それはとても頼もしく力強い言葉であったが……その言葉を聴いたフィンは、
魚の小骨が喉に引っかかったかのような嫌な感覚を覚え、首をかしげる。
『んー……。なんか、今マテリアが言った言葉、どっかで聞いた事ある様な気がするんだよなぁ。
 ……確か、何年か前に読んだ英雄譚で、正体不明の敵に攻撃を仕掛けたエリート騎士が……』
首をかしげるが、何年も前に読んだ本の事など完全に覚えているわけも無い。
やがて思い出す事を諦めたのか、人差し指で頬を掻き……
>『はい、初対面を装って欲しい旨、伝えておきましたよー!それでは、私はそろそろ宿の確保とお買い物に行ってきますねっ!』
『って、すげーなマテリア! ははっ、了解したぜ!
 お前のお膳立て、無駄にはしねぇ!俺も全力で演技しながらクローディア達に接触してみせるぜっ!!』
直後に、マテリアが行った橋渡しを聞いたフィンは、驚きを全身で表現しかけ、
ハッとしたかの様に冷静を装い、言葉だけ快活にそう言うと一度ファミアの方に視線を向ける。
思い浮かべるのは、自身が幼い頃に家に仕えていたバトラーの言動。
「あー、ごほん……では、僭越ながらお嬢様の意を彼の者達に伝えさせて頂きます」
そう言うと背筋を「しゃん」と伸ばし、普通のバトラー以上に
バトラー然とした態度でクローディア達に近づいていく。
……こうして見ると、所何時ものフィンに戻ったかの様に見えるが、所詮は空元気。
それでもフィンは、いつもを装い状況を開始する。
『おうっ、祭りが始まったら色々食いまくろうぜ!』
ちなみに、スティレットの職業意識の無い台詞への返事を
忘れなかったのは、フィンが素で祭り等を好むからである。
―――――

3 :
パチ、パチ、パチ
丁寧過ぎる程に丁寧な拍手をしながら、クローディア達の元へと近づいて来たのは、
先ほどナーゼムが武の心得があるとした内の一人。バトラーであった。
「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」
オールバックに固められた蒼の髪。黒い使用人の衣装で身を固めたその青年は、
どこか憂いを秘めたかの様な笑みを浮かべ、やがて彼らまであと数歩という所まで
距離を詰めると、そこで一礼をしてみせる。
もしもバトラーの素性を知っている人間がいれば、この時点で別人だと判断しかねない程の別人っぷりである。
「失礼、自己紹介が遅れました。俺……ではなく、私は、えー……フィーンと申します。
 職業はバトラーです。この度は我が主であるお嬢様が皆様の演舞に感動なさり、
 是非にご挨拶をなさりたいと仰いましたので、お取次ぎをさせて頂きました。
 ではお嬢様。どうぞこの者たちにお言葉を」
しかし、所詮はフィンの演技である。無理矢理に使う敬語は怪しく、
妙な胡散臭ささえ感じさせる物に仕上がってしまっていた。
それでも……貴族の系譜という経験があったおかげか、執事の「よう」なものとしては振舞えていた。
【フィン、クローディア達と接触の後、ファミアをクローディア達の元へ誘導】

4 :
「(中々に、良い腕じゃないか。ダニーとやら)」
ふ、と小さく息を吐き出し、頬の汗を拭う。冬の寒さはとうに消し飛んだ。
小鳥が囀るような、外野の騒がしさも気にならない。
ただ――先程から感じている幾らかの『奇妙な視線』を除けば、だが。
7つか、8つか。明らかに一般人とは違うそれが自分達に向けられていると感じていた。
いやしかし、敵意は感じない。気にするまいか。
折角「盛り上がっている」ところなのだ。集中力を損なわれては困る。
「さあ、サイセンだ」
白い息を残し、三度その巨体に接近する。
小刻みに撃ち出されるダニーの拳を、ロンは足の裏で蹴って返す。
踊るように回る視界、現れては消える人々、そしてダニー。
そんな折、そろそろ決めようぜとダニーが観客に聞こえぬよう小声でそう言う。
ロンは黙って頷くが、はてと思考を一瞬止めた。どうやって「締め」ようかと。
再三言うが、ロンは(どんな見た目であれ)女性に手を出さない主義だ。倒すなどもっての他。
ならば、ここでは彼女に無理なく倒されるのが一番だろう。
「(カちはユズるぞ、ダニー)」
小声で返したその時、ナイスタイミングでクローディアからお達しが掛かる。
途端、ダニーの振りが大きくなった。ロンもそれに合わせて蹴りの数を増やす。
そして、決定的瞬間が訪れる。
小柄な体躯と柔軟性に徹底したロンのしなやかな蹴りが、見事ダニーに決まった。
てっきり避けると思っていたもので、ぎくりと一瞬動きを止めてしまった。
「あ……」
直後、圧迫感とともに視界が暗転。カウントダウンと歓声が聞こえる。
ダニーに下敷きにされ、自分の負けが確定したと理解したのは、ダニーに手を差しのべられてからだった。
その大きな手を掴むと、ダニーにならって観客に手を振る。
どうやら成功とみていいだろう。ほっと胸を撫でおろし、ダニーの腰辺りを肘で小突く。
「な、な、ダニーはツヨいんだな。ビックリしちまったよ。どこであんなタイジュツ、ナラったんだ?」
初対面の時とは一転、途端に人なつこい態度で接するロン。
パフォーマンスとはいえ、武術で打ち負かされた事、更にそれが女性であったことで、俄然興味がわいた様子。
無邪気に戯れる最中、拍手とともに一人の男が近づいてきた。
「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」
蒼い髪をオールバックに固め、憂いを帯びた笑みをたたえる執事姿の男。
ロンはその笑みの裏を、本能、或いは第六感に近いもので感じ取っていた。
この男、何かある、と。敵意でもなく悪意でもなく、うすら寒い何か。
男はフィーンという名らしいが、どうにも胡散臭い。敬語といい、動作といい、笑顔といい。
パフォーマンスの最中に感じた視線は彼らだろうか。
「………………………………」
ロンはダニーの後ろに隠れると、どんぐり目をきつくさせてフィンと後方のお嬢様を睨みつけた。
傍から見れば、知らない大人を見て人見知りする幼子にも見えることだろう。
【フィンさん達に疑心暗鬼】

5 :
北国特有の寒気をはらんだ風は、一触即発の張り詰めたそれへと変わる。
立役者は二人。一人はノイファも知る人物であるダニー。
>「レエイ家家長、ロン・レエイ――オしてマイる」
そしてもう一人はロンと名乗る、クローディア達と公園に現れた見慣れぬ装束の少年だった。
その凛とした名乗りを切欠に、思い思いの思案や喧騒に興じていた園内の視線が、一点へと集まる。
(一緒に来たといっても、仲間という雰囲気ではないの……かな?)
目を向けた人々の息を呑みこむ様子を余所に、唐突に始まった打撃戦を眺めながらノイファは思考。
例えばクローディアの機嫌を損なったとか、クローディアの虫の居所が悪かったとか、そういった類の犠牲者なのかも知れない。
可哀想に、とロンを眺める視線に生暖かい憐憫の色が混じる。
(それにしても、ダニーさんの強さは相変わらずですが、相手もかなりの技量のようですけど――)
圧倒的な筋量を背景に相手を圧し込もうとするダニーに対し、ロンの動きはまさに"流水"とでも表現すれば良いだろうか。
フィンですら手を焼いたダニーの重撃の悉くを、掴もうとした指の間から水が零れ落ちるが如く、するりとするりと回避している。
(――ああ、なるほど)
と、ここで、ノイファは先刻までの考えを振り払った。そう、二人は本気で対立しているわけではない。
ダニーの動きはウルタールでの時に比べれば幾分か大雑把だし、ロンの方も明らかに致命打を放つことを避けている。
何より、二人の表情には険しさが見て取れない。
つまり目の前で繰り広げられているのは一種の演舞ということなのだろう。
裏でクローディアも一枚噛んでいるとすれば、"宣伝"と言い換えても良さそうだ。
湖底窟で確かダニーが道場がどうとか言っていた気がするが、そのマネージメントでも始める算段なのだろうか。
>「アイレル女史、クローディアと彼らの関係をご存知なのですか? ――」
セフィリアからの念信を受け、知らない内に口許へ当てていた指を離した。
思いの他、思考に没頭していたようだ。
『ええ。用心棒とその雇用主、と言ったところです。ロンと名乗った少年も同様と考えて問題ないかと。
 確かに良くも悪くも目立つ方々ですから、見つけるのは容易でしょうけど。』
説明に苦笑が混じる。
個性的ということならば、まさにその代名詞とも言える遊撃課に比べても、なんら遜色はないに違いない。
『ですが、全員実力は本物ですよ。
 見ての通りあの二人は武術の達人ですし、ナーゼムさんは鼻が利きそうです。獣だけに。』
気配に人一倍敏感そうなのが三人。
生半可な尾行や監視では、瞬く間に見つかりそうなものなのだが――
>『彼らの足音と心音を覚えました。「聞き耳を立てる」くらいなら、いつでも出来ますよ』
――それはあっさりと解決した。
さらりと言ってのけたのは新入隊員のマテリア。
無論、誰でも出来ることではない。否、例え諜報術のエキスパートでも到底出来はしまい。
彼女にしか出来ない芸当だ。
『了解しました。それではクローディアさん達は、ファミアさんのチームにお任せするとして、
 こちらはこちらで行動に移るとしましょうか。』
そう告げて念信を締めくくると、ノイファは胸の前でぽんと、小さく拍手を叩き立ち上がる。

6 :
>『お、お祭りが夕方から始まるのでありますよね?――』
ベンチから腰を上げた瞬間を見計らったのように念信が届いた。
声の主はフランベルジェ。ノイファの口許がひくりと歪む。
先程、他の会話に混じってえらく不穏な言葉を口走ってくれたようだが、ノイファの耳はしっかりと捉えていた。
(…………お祭りで、騒ぐ?)
一体それは任務とどう関係するのだろう。
そもそも"バレない"ようにと伝えたのに、思いっきり目立ったら意味がないではないか。
楽しそうに遊んで、贅の限りを尽くして、若い娘の関心はいつだってそれだ。
大強襲からこっち、人が影に隅に帝都の端々に目を配り、悲劇の芽を摘むことに躍起になっていることなどお構い無しなのだ。
朝も夜も、どんな些細なことでさえも、出向いては空振りに終わり、デマと判っては胸を撫で下ろす。
東奔西走。小さなことからこつこつと。雨にも負けず嫁にも行けず――
(――はっ!?いやいや、そんなことはどうでも良いのですよ)
ぶんぶんと頭を振って、脱線しかけた思考を隅へ。
職業意識ゼロどころか、ややもすればマイナス方向一直線な叫びに、胸の裡に昏いものが芽生えかけはしたが、発想自体は悪くはない。
古来より木の葉を隠すなら森の中という通り、人がその身を隠すなら群衆に紛れてしまうのが一番良い。
それに、諜報術を修めたユーディなら拠点に籠もりっきりなどという愚を冒しはしまい。
不自然な行動は、それだけ人の噂に上ることになりかねないからだ。
『……目立つのは極力避けたほうが良いと思いますけれど。
 ですが相手もこの街に溶け込もうとする以上、夜祭りを避けるのは返って不自然でしょうし、出てくる可能性はゼロではありません。
 ですので、まあ、捜査ということでしたら十分意味はありますね。』
そして祭りといえば楽しむものだ。
顰め面で歩いていたのではそれこそ不自然極まりないだろう。
『本来の目的を見失わない程度に楽しむとしましょう。
 それでは、各自宿を手配した後、時間になり次第夜通りに集合ということで良いでしょうか?
 定期報告もその時ということで。』
ノイファは念信を終えると、ロンを押さえ込んだまま天に向けて指を突き刺すダニーに背を向け、公園を後にする。

7 :
「うっ……これは、大分ひどいものですねえ。」
鼻を突き刺す黴の匂いにノイファは眉をひそめる。
自分の宿の手配したその足で、管理員から聞いていた神殿を訪れたのだが、彼の言葉が嫌味でもなんでもなかったことを痛感していた。
どう贔屓目に見ても掘立小屋の、音だけはやたらと重厚な扉を開いて最初に出迎えてくれたのは、もうもうと沸き立つ埃。
人の手が入らなくなって随分と経っているようだ。
「はあ、なんと嘆かわしい。せめて出て行くならシンボルくらいは持ち出せば良いものを……。」
太陽神としては見る影もなく汚れ果てた聖像を見上げ嘆息。
果たして拭いた程度でどうにかなるものだろうか。
(まあでも、誰も居ないのは逆に都合が良いですけど)
実に不敬ではあるが、いざという時の第二の拠点として、だ。
その為に必要な物資は街に出た際にでも、少しずつ準備すれば問題ないだろう。
「まあ、その時が来なければ来ないで御の字ですからね、っと。」
ぷつりと髪の毛を数本引き抜き、扉に挟むと、ノイファは"夜通り"へ向け歩き出した。
【宿の手配を済ませ夜通りへ 】

8 :
寒風が吹きすさぶ公園で、視線を独り占めにする巨女と少年
私としても興味がない、といえば嘘になりますが今は撤収作業を優先しましょう
しかし、それでも強い人間を目端に捉えてしまうのは私も騎士の端くれだからでしょうか?
正直に言うと作業にあまり集中出来ない
それくらい、彼らの動きが美しかったのです
そう、申し合わせたように……
演武と言えばいいのでしょうか?
とはいえ、演武は精通したもの同士でないと美しくはありません
そう言う点から彼らの実力は推し量れるものです
さすが、私
コホン、失礼しました
>『ですが、全員実力は本物ですよ。
 見ての通りあの二人は武術の達人ですし、ナーゼムさんは鼻が利きそうです。獣だけに。』
「そうですね。今回は手合わせしたくありませんね。オフのときにでもゆっくりと戦ってみたいものです
でも、ナーゼムさんとは遠慮したいですね
怖いですから」
ぶるると身震いをしてしまいます
寒いからでしょうか? いいえ、ナーゼムさんの変身後の姿を思い出したからです
あの姿を思いだすと、今でも強烈な獣臭が鼻をつくような気がします
さて、アイレル女史がクローディアを、アルフートさんチームに任せるという念信に、了解と短く返信したところでこちらの準備も完了です
さっそく、調査開始です
>『お、お祭りが夕方から始まるのでありますよね?――』
と、私の出ばなをくじくようにスティレット先輩が祭りにユーディがやってくるはずだと
……ちょっと何を言っているのかわかりません
いえ、私は先輩と違って、優秀な成績で教導院を卒業しましたから
先輩がいったことを言語的に理解が出来なかったわけでも
文法がわからなかったわけでもありません
なぜ、この状況で祭りを楽しむ必要があるのか?
これにはなにか、そう、私のような常識に囚われた人間ではわからない、なにか別の秘策が……
アイレル女史はなんとなく肯定という雰囲気ですので、私がここで反対をするというのもおかしな話ですし……
………………
ッ!そうか!!そう言うことなんですね。先輩!!
私は数瞬、考えを巡らせるとある考えに思い至りました
『スティレット先輩が祭りで目立つ行動をすることで、ユーディを誘い出すということですね!
そのための囮に自らなると!さすが上位騎士です!私には思いつきもしませんでした!」
ふう、危なく先輩をただ祭りを楽しみたい馬鹿と思うところでした
まったく、早計という言葉は今の私のためにあるのでしょうね
『そうと決まれば善は急げです!!私も早速、宿の確保に向かいます!
先輩とご一緒したいと!思いますが
今の先輩の格好は正直、独創的すぎるのでいるだけで目立ってしまいます
隠密を重視する今回の任務的に私まで目立つわけにはいきません
大丈夫です、先輩!そこまで目立てばユーディも罠だと思うはずですよ!!」
私はそう言い残して、貧民街の雑踏に姿を隠しました

9 :
「私がこんな部屋で寝泊まりするって知ったら、お母様は卒倒してしまうでしょうね」
自虐的に笑みを浮かべながら、しばらくごやっかいになる部屋を見渡します
ヴィッセンさんの忠告を忠実に守った部屋です
外の貧民街特有のげひた喧噪は少々耳障りに感じます
窓の外に目をやると、少し離れた向いの通りにアイレル女史の掘建て小屋があります
なんともこの街の教会だとか、この寒空の街ではさしもの太陽神様のご威光もあまりないのでしょうか?
それともお金がこの街の神様なのか
貨幣経済は便利ですが、虚を操る危険も孕んでいますからね
なんて、難しいことを考えてしまいます
ここに来るまでに買っておいた武器をさりげなく、ベット脇の小机に置きます
まあ、武器と言ってもただのフォークなんですが
その他の持ち込んだ物はバックの中に入れっぱなしです
いつでも脱出出来るようにです
備えあれば嬉しいなです
さて、準備も整い、祭りに繰り出すことにしましょう
お祭りというものは話には聞いたことはありますが、実際に体験するのは初めてです
勝手もわからず、飛び込んだ私は、とりあえず屋台で売っていたカウカウ牛の串焼きと根菜シチューを買い
ぶらぶらしようと考えました
先輩がやってくるまでは周囲の言葉に耳を傾けるそれぐらいでいいでしょう
それにしてもこの肉は堅くて食べづらいです

10 :
毟り取られたセフィリアの

 

11 :
>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
 「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』
>『それと病院を、できれば何軒か確認しておいてください』
『病院…?あぁ、取り敢えず了解した』
ファミアからの指令に頷く。
さてどうするかと、周りを眺めながらしばらく思案する。
道路の形状、街の立ち方。
それを記憶していきながら、最良の場所を搾っていく。
>『あ、そうそう、スイさん。アルフートさん達の宿は私が取っておきますね。
 それなりに高級な宿を取るつもりですから、万が一後で探られても問題ないようにしたいですし』
『!それは助かる。感謝する』
マテリアの頼もしい言葉を聞いて、その件は彼女に任せることにした。
――――――
宿の確保も終わり、人混みに紛れながら道を進んでいく。
ちなみに宿の部屋もきちんと指示通りだ。
(ずいぶんとまた…賑やかだな)
そういえばスティレットが祭が何とかと、言っていなかっただろうか。
(人混みに紛れる可能性があるって事か…)
その事を頭の中に留めておいて、ポケットの中に詰め込んだ僅かな銀細工に手を触れた。
「その辺に情報屋が居ると思ったんだけどなぁ…あ、病院発見」
ぼそりと呟いて、病院の名前と位置を記憶してから酒場へ向う。
あぁ、酒呑むの久しぶりだとかそんなことをぼんやりと思いながら。
【宿確保、酒場へ】

12 :
子供ばっかだな

13 :
リットン調査舞台

14 :

ゲプッ

15 :
【スティレット】
スティレットが祭りへの参加を提案した途端、ノイファの身体が体感で二倍ぐらいに膨れ上がった気がした。
もちろん気のせいだったが、正体不明の圧力が彼女の頬を叩いて(イメージ)、意味不明な身震いが起こった。
剣の名門スティレットほどの武人家系ともなれば、もう本能レベルで相手の力量を感じ取れる。
それとこれとはまったく全然関係ないのだけれど、空の背中がとっても寂しかった。
>『……目立つのは極力避けたほうが良いと思いますけれど。
 ですが相手もこの街に溶け込もうとする以上、夜祭りを避けるのは返って不自然でしょうし、出てくる可能性はゼロではありません。
 ですので、まあ、捜査ということでしたら十分意味はありますね。』
それでもきちんと指揮下の意見を加味してくれるあたり、手放しに恐るべき人物ではないのだろう。
というか曲者ぞろいの遊撃課の中ではかなりの常識人である。課長よりかは優しくしてくれそうな。
>『スティレット先輩が祭りで目立つ行動をすることで、ユーディを誘い出すということですね!
  そのための囮に自らなると!さすが上位騎士です!私には思いつきもしませんでした!』
この後輩は後輩でスティレットの妄言をかなり、とても、もの凄く好意的に拡大解釈してくれたようだった。
さりげなく危険極まる囮役に祭り上げているあたりがなんとも腹黒さを醸しているが、スティレットにそこまで高度な感受性はない。
『え?え?……あ、そ、そうでありますよ! こう、こっかあんねいのために自ら矢面に立つという姿勢をでありますね!?』
なんとなくほめられたのが嬉しかったので調子よく話を合わせておいた。
自分の立場がかなり致命的な方向へ横滑りして行っていることに、やはり気付かぬスティレットである。
>『本来の目的を見失わない程度に楽しむとしましょう。
 それでは、各自宿を手配した後、時間になり次第夜通りに集合ということで良いでしょうか?定期報告もその時ということで。』
『了解であります!では!』
形だけは立派な了解の意を示して、スティレットは公園から姿を消した。
仲間のところを辞したあとで、困ったことになった。名門貴族たる彼女にとって、『宿をとる』という行為そのものが未経験だ。
実家にいた頃は諸々の雑務は全てお付きの者がこなしていたし、公務中は詰所が用意されている。
彼女の生活の全てが、他ならぬ他者の全力の支援の上に成り立っているが故に。
この孤立無援という状況は、どんな毒よりもスティレットの首を締めるものになり得る――!!
(……って、宿のとりかたがわからないぐらいでそれは流石に大げさすぎるであります!)
最悪、セフィリアあたりに同衾させてもらえばいいやと楽観的に考えながら、
すると早々にやることがなくなってしまったスティレットは、とにかく仲間と合流すべく夜通りの祭りへ向かう。

16 :
並み居る都市の中でもことさらに特殊な性質を備えるタニングラード。
当然そこで催される祭事というのも他と比べて些かに異なる様相を呈している。
例えば串焼きひとつとっても、自治会に定められた長さの、しかも先端は刺突できないよう鈎状に丸められた串だ。
外見だけ見れば、魚釣り用の釣り針にそっくりだ。ちょうどエサを取り付ける場所に肉やら野菜が刺さっているので特に。
屋台を組み立てたり物品を運ぶのに必須な作業用ゴーレムなど、腕を除いた上半身がまるまる取り外され、操縦基がむき出しだ。
ゴーレムの持つ『鎧』の性質を極力排除するための処置である。
刃物を規制されているが故に、屋台で供される食材は全て、その場での調理を禁止されている。せいぜいが炙って加熱する程度だ。
「アイレルどのやガルブレイズちゃんはどこでありますかね……」
焼いた鶏の腹を割いてその中に炒り玉子を詰めた『胎内回帰焼き』にかぶりつきながら往来を散策する。
道行く人は総じて牧歌的な表情をしており、平和そのものといった風情を満喫している。
タニングラードは多少窮屈ではあるが、それでも帝国一平和な街だ。
魔法や素手による暴力事件はちらほらあっても、多くの人を傷付けるような力をそもそも人々は持っていない。
どれだけ派手に暴れまわっても、自治会付けの従士隊がすぐさま駆けつけ鎮圧してくれる。
(あれっ? 武器の携行を許されないこの街で、じゃあここの治安維持組織は何を持って抑止力としているのでありますか……?)
従士隊や騎士団が法の番人足りえるのは、彼らが犯罪者よりも精強な戦闘集団であるからだ。
強制力なくして法律は働かない。『お上にしょっぴかれる』というリスクがあって初めてならず者は犯罪を思いとどまるのだ。
だがタニングラードにはその強制力の土台となる刃が存在しない。武器を持たぬ番人が、圧倒的多数の民衆を抑えられるはずもない。
では、どうやってここの従士隊は悪党を成敗しているのか――
「おっと、ごめんよっ」
慣れない思索にふけっているうち、後ろから誰かに追突された。
スティレットより若いであろう、まだ十代中旬といった具合の少女が、彼女の背中にぶつかって謝罪しながら駆けていく。
咄嗟に首から下げた水筒に手を伸ばしていた彼女は――こういう雑踏で最優先に守るべきものを守り損ねていた。
腰のポーチに入れてあったはずの財布がない。
「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」
大剣を振るう膂力を支える肺活量――常人より遥かに鍛えられた呼吸器から爆発させた叫びは、夜通りの一角を震撼させた。
ノイファやセフィリアが既に祭りへ着ていれば、今の叫びで状況を理解できるはずである。
いま、スリの少女は夜通りの人ごみを泳ぐようにすり抜けて富民街を縦断し、スラムの方へと走っていく最中である。
抜け道を知り尽くした少女をに追いつくには、外から来た彼女たちにとって困難を極めることだろう。
――常識的な手段で追いつこうとするならば。
【宿のとり方がわからず放浪。祭りの中で財布をスられる】

17 :
あれこれ言ってる間にタンホイザ陥落
10000人以上死亡

18 :
【クローディア】
クローディアの激励は、激励以上にパフォーマンスを佳境へ滑らせる合図となった。
公園内に集うオーディエンスたちもクライマックスの予兆を感じ、声援の雰囲気を昂らせていく――
後押しされるように、ロンの連撃速度が上がった。否それだけじゃない、傍目からして"有効打"の数が右肩上がりに増えていく!
「ダニーに大振りが目立ってきたわ! 疲れが出始めたのかしら!?」
「私にはなにか、彼女にも狙いがあるように見えますが……その前に判定勝ちしてしまいそうですね」
「あれだけの猛勢で、どの打撃ひとつとっても手打ちじゃないっていうのは、受ける側からしたら雪崩だわ――!」
体格差をものともしない――むしろ小回りのきく矮躯を有利に働かせつつあるロンのラッシュ。
ダニーの豪腕は素人目にこそ脅威に見えるが、その実武人の眼でようやくそれとわかる微小な"隙"を演出している。
どちらも大したエンターテイナーだ。一見さんにもわかりやすく派手で、見る人が見れば奥の深い、楽しい戦いだった。
「っ! ――やったっ!?」
一秒が十秒、十秒が十分に感じられる極限の打撃戦の中、やがて結末の一撃が放たれる。
鋭い弧を描いてさながら投石機の如く撃ち出されたロンのソバットが、その切っ先にダニーの顎を引っ掛けた。
全力疾走する猛牛の突進を受けたみたいにダニーの首から先がぐおんと揺れる。
黒目がピンボールのように眼窩の中で激しくバウンドした。
「き、決まったぁぁ――――ッ!!」
クローディアの熱のこもった叫びに観客たちがわっと呼応し、積雪も溶ける熱狂の渦中へ二人の格闘者を誘う。
勝負は決した――かに思われた。
だがその全てが、十重二十重の衆人環視を欺ききった二人の道化の妙演であることに誰一人気づかなかった。
そのときの心境をのちにクローディアはこう述懐している。
『常識的に考えて、顎を打ち抜かれて立てる奴なんていない……でもそれが、"常識的"な人間じゃなかったとしたら?
 あたしたちはすぐにそれを気付くべきだった。あの蹴りの一撃を、一発逆転の布石にするなんて芸当ができるとしたらそれは――』
一瞬にして沸騰した場内の空気を背に巻かせながら、蹴り足のフォロースルーへと移行するロン。
巨人を討伐せしめた少年の如き双眸に、終末の影が訪れる――ダニーがロンを巻き込む形で倒れこんできたのだ。
軸足の安定しない状況で逃げ場を防がれたロンに脱出する手段はなく、津波に呑まれるように芝生へと押し倒される。
観客の誰もが、気絶したダニーの最後の足掻きと認識した。意識を飛ばしてなお敵を離さぬ根性に快哉を叫ぶ者もいた。
「――違う!ダニーはまだ負けちゃいないのよっ!」
全ての視線が、ある一点へ集中していた。倒れ込んだダニーが、気絶したはずの彼女が掲げた腕。
その頂点で、ただ天を指し示し続ける指先を――。
ダニーの数えに合わせて、観客たちも一緒に声を張り上げる。指折り3つを数えたところでクローディアは硬貨を投げた。
カーン!と購入した手持ち鐘が雌雄の決着を響かせる。
「勝負ありっ! ダニーの勝ちよ!!」
今度こそ広場は歓声で充溢した。
両者の健闘を称える者、強い酒のグラスを空にする者、立ち上がり快哉を叫ぶ者、おひねりとばかりに紙幣で包んだ硬貨を投げる者。
芝生に散らばった金はナーゼムにきっちり回収させながら、クローディアはロンとダニーに手拭いと水を供して労った。
「ふたりともお疲れ様。見てみなさいこの大盛況!あんたたちのおかげで、明日から忙しくなりそうだわ……!」
戻ってきたナーゼムに一枚の羊皮紙を手渡した。
さっきのうちに彼女がしたためた原稿である。ナーゼムは広場の観衆へ向き直ると、獣の咆哮じみた大音声で朗上した。
「お集まりのみなさま、私共の興行お楽しみいただけましたでしょうか。語りの肴にでもしていただければ幸いです。
 さて、我々"クローディア総合商会"では物品に限らずあらゆる需要に融通いたします。
 ご要望があればご覧の通りの演武から、荷物持ち・家屋解体・鍛錬指導まで鍛えに鍛えたスタッフが全力を尽くさせて頂きます。
 また弊社では現在並行して、寄る時代の荒波を乗り切るべく体力づくり及び精神修養の指南を受け付けております。
 体力に自信のない方、強壮な肉体を手に入れたい方、とにかく身体を動かしたい方、いつでもお問い合わせお待ちしております」

19 :
パフォーマンスの余韻冷めやらぬうちに熱い鉄を打つ。
朗々と謳われる喧伝が風に乗って、オーディエンスの隅々まで行き渡った。
「まだ役所に申請出してないから、事業所構えるのもビラ撒くのもそれからだけどね」
タニングラードは行商人の街だ。
露店市については特に制限もないが、ここに根を張って事業を興すとなると別途に手続きが要る。
役所に出店許可を申請し、不動産事務所から土地と建物を借りて、商品を搬入するルートを確保する必要がある。
商材や店舗位置によっては商会ギルドや地元のマフィアにみかじめ料も支払わねばならないことだろう。
こなすべき雑務は山ほどあり、商売が軌道に乗るまでのこの時期がまさしく商人クローディアにとっての本領発揮となる。
ともあれ、宣伝としてはこの上ない結果を得られたのは率直に言って僥倖だ。
やはり遺才の選んだ人材に間違いはない――その確信以上に、上げまくったハードルをきっちり超えてくれる部下への感謝があった。
経営者であるクローディアにとり、自分のもとに集った頼もしい部下たちは原初の財産だ。
いつも資産運用に失敗する彼女であったが、こうなれば働きに相応しい棒給だけは借金してでも確保したくなるものである。
「さて、いい汗流したところであたしたちも引き上げましょうか。旅疲れもあることだし、ゆっくり食事でも――」
>「そのままの状態で聞いて下さい。クローディア・バルケ・メニアーチャさん」
不意に、どこからともなく知らない声が流れ込んできた。素早く視線を迷わすも、付近にそれらしい音源は見当たらない。
念信術式――あるいは遠隔地から音だけを転移させる類の魔術か。いずれにせよ正体不明の相手の"射程内"。
クローディアは表情を硬くした。それを見たナーゼムが眉根を寄せて訝しむ。おそらく彼には聞こえていないのだろう。
(まさか向こうから接触してきた――?)
先ほどナーゼムの話した、不自然な武人の一派。
『声』の主がその仲間という確証はないが、いくらなんでもここで第三勢力登場は話が出来過ぎている。
あたらしく商売を始める匂いを嗅ぎつけて、どの街にも大抵はいるごろつき共がみかじめでも要求しに来たか――
>「わたくし、遊撃課に所属するマテリア・ヴィッセンと申します。
 ここには、とある極秘任務を授かって来ているのですが……どうやら貴方と遊撃課には、深い縁があるようですね。
しかしクローディアのそんな予想も、マテリアと名乗った声の主の出した『遊撃課』というワードにまるきり覆された。
彼女は今度こそ息を呑む。遊撃課。その団体名がイメージとして結ぶ、とある男の死に様。
何故、彼らがここに? 言葉にできない問いは、きっとこれから知るために在るのだろう。
>「それはさておき……実は貴方に少し協力を願いたいのです。
  詳しい説明は、今からうちの課員が二人、貴方に接触を図りますので、そちらがします。
  一人は貴方と面識のある方ですが、どうか初対面を装って頂けますでしょうか」
>「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」
紹介通りに一人の男が、拍手しながら近づいてきた。
質の良い執事服に身を包み、髪を後ろに撫で付けているが――誰かと思えばフィン=パンプティである。
クローディアは思わず指摘しそうになり、マテリアから言われた言葉を思い出して、面識のあるであろうダニーとナーゼムに目配せ。
(一瞬誰だか分からなかったわ……雰囲気ぜんぜんちがうじゃない。なんていうか、ちょっとくたびれた?)
双子の兄ですと言われたら速攻で信じる。それぐらい、顔立ちは同じでも纏う気配がまるで違った。
ところどころ敬語が怪しいし変装にしては色々と詰めが甘いが、人はここまで変われるものかと場違いな感心をした。

20 :
>「失礼、自己紹介が遅れました。俺……ではなく、私は、えー……フィーンと申します。
  職業はバトラーです。この度は我が主であるお嬢様が皆様の演舞に感動なさり、
  是非にご挨拶をなさりたいと仰いましたので、お取次ぎをさせて頂きました。ではお嬢様。どうぞこの者たちにお言葉を」
恭しく迎え入れられたのは少女。
なんでもさる地方領主の娘である彼女は、物見遊山で辺境のタニングラードへ来たは良いものの早々に退屈していたらしい。
そこへこのようなエキサイティングな光景を眼にしたとくれば、これはもう遊ぶしかあるまいと。
「あっそ。出来過ぎってぐらいに幸先良いわ。いきなりパトロン候補さまの登場なんて」
当然、"出来過ぎ"なのだろう。マテリアの言を信じるならば彼ら遊撃課はクローディアへ『装って』接触してきた。
どうせ援助の話もその場限りの出任せだ。クローディアは不自然でない範囲に限って嫌味ったらしく皮肉を返した。
(遊撃課ね……帝都の公務機関がなんだってタニングラードくんだりまで……)
そこまで思考して、あほどと思った。
クローディアがこの街にやって来たそもそもの理由。不自然な金の動きを見せた従士隊。
国内の様々な問題に対処する治安維持機関である従士隊がタニングラードに注目しているということは、すなわち――
『この街で近く、何かがある』というなによりの証左ではないか。
「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」
展開していた機材やら荷物やらを部下三名に回収させながら、はたとクローディアはあることに気付く。
「まだ名乗ってなかったわね。あたしはクローディア。姓は捨てたわ、ただのクローディアって呼びなさいな。
 そしてあたしたちは――需要と供給の狭間を往く新時代の開拓者!クローディア総合商会! 呼ぶ時は『商会』で通じるわ。
 よろしくフィーン、お嬢様」
言外の色々を含めて、フィーンの手のひらをこれでもかと握った。
 * * * * * * 
誘われた酒場へ行くと、既に先客が二人いた。
見るからに頭の出来の残念そうな笑顔をふりまく娼婦と、商人のくせにどこぞの戦場でもくぐり抜けてきたような貫禄をもつ男。
まるで生活圏の被らない二人は、同じ酒場の別々のテーブルで個々にグラスを傾けているが――
(さっきの公園にいた二人ね)
ナーゼムが警鐘を鳴らした十人弱の男女、その中の二人だ。
おそらく『遊撃課』とやらのメンバーなのだろう。万が一の場合に逃げ場を塞がれないよう、入り口を背にして席に着く。
現在クローディアと同じテーブルに座るのは『商会』の4人とフィーン、それからその主。
数の上では優っているから、余程のことが無い限り逃げ損ねるということはないだろうが――。
「とりあえず生エール6つ。それからグローフ蟹の赤茹で、拡散棗の煎ったやつ、北海鮫の姿煮、ゼブル茸のソテー、
 アンダー・ライターの溶きココアももらおうかしら。あと濃い果汁に、仔牛の星降肉を炭火で炙って頂戴」
お品書きの高そうなメニューを片っ端からオーダーしながら、ダニーとロンにも注文を促す。
「尻込みすんじゃないわよ、あんたたちが百年かかってもお腹いっぱい食べられないような高級料理を狙いなさい!」

21 :
運ばれてきた蟹の甲羅を、先の丸いフォークでこじ開け中の味噌をすくう。
手先の器用な者なら素手で難なく開けるらしいが、そろばんしか弾いてこなかった彼女にはちと難題だ。
そも、本当に高級な店ならこんな茹でたてをドカンと皿に載せて持ってくるなどありえないのだが、文句は言うまい。
「……それで、あたしたちがどこに店を構えるつもりかって話だっけ?」
ココアのマグを空にしたクローディアはあくまで『装い』のまま質問に答えようとする。
ここに来るまでにダニーとロンには『遊撃課』の件を話していない。衆人の目のある場所で真相を口にするわけにはいかなかった。
フィンと面識があるダニーとナーゼムについてはアイコンタクトと、唇に人差し指を添えて余計なことを口走らないよう指示。
あとで本格的な説明が必要だろう。
「そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」
言って、クローディアはナーゼムから差し出された羊皮紙に再び筆を走らせた。
目だけを動かして周りの様子を確認し、『商会』の面子に書いた内容を見せてから、それを丸めてテーブルの上を滑らせた。
フィーンかファミアが受け取れば、羊皮紙に記されているのが地図などではないことがわかる。そこにはこう書いてあった――
『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』
クローディアの目配せで、尾行者の位置は伝わることだろう。
彼女の位置からちょうど3時の方向。宝石商に近い位置で、一人の男が新聞を読み耽っている。
年の頃40そこらといった、労働者風情の壮年男性である。くすんだ色のズボンに赤茶けたジャケット。
揉み革で造られた安物の鳥打帽の下で、ただならぬ気配の眼光が新聞越しにこちらを射抜いていた。
なんらかの魔術によって視線を隠蔽しつつ視野を確保――しかし肝心の尾行者独特の"匂い"を隠しきれていない。
超人的な感度を持つナーゼムの鼻をごまかせるものではなかった。
(街ですれ違った途端に踵を返して着いて来たのよね……)
昼間の公園にはいなかった男――ゆえに、新たなパトロン候補者ということはありえない。
遊撃課の一人かとも思ったが、やたら若年の多いかの集団にあってはあまりにも年齢が過ぎている。
ナーゼムにこっそり意見を聞いてみたが、やはり遊撃課のものとは匂いが違いすぎると言う。
少なくとも尾行用の魔術を修めている時点で単なる一般人ではないことは確かだった。
自分に尾行がついているとわかったとき、最も簡単な対処法は紛い物の情報を掴ませてやることだ。
素行調査なり、拠点調査なり、偽れるものはたくさんある。ガセネタで真実を覆い隠してしまうのだ。
だがこのやり方は、尾行が長期に渡った場合に偽装工作にも限界が来るというリスクを負う。
監視の目を意識しながら、普段の自分をまったく出せないというのは被尾行者にとって多大なストレスだ。
だから一定期間過ぎても尾行が離れなかったり、相手のそもそもの目的がわからない場合などは――
次の段階に進む必要がある。消極的な尾行対策から積極的な尾行対策へ。
すなわち、迎撃である。
(どこか人気の少ないところへ誘き寄せて締め上げて、目的を吐かせるか……)
ただし、この段階の一番のリスクは――『戦闘を行わなければならないということ』。
このタニングラードにあってそれは、滞在する間ずっと後ろ指さされることを覚悟しなければならない。
ましてや今から商売を始めようという『商会』にとって、最も危険な爆弾となりうる要因だ。
(あの尾行があっちのお仲間なら問題なし。もしも別の誰かなら――頼むわよ、遊撃課!)
【ホイホイ誘われ酒場へ。第三者からの尾行に気付く】

22 :
ホイホイついていっていいのかい?
GMのスレかよここ

23 :
レギオン兵3人ほど派遣

24 :
「わぁ〜……お酒!あれもこれも全部お酒だぁ〜!
 火竜燃酒に、エリクシル・ヴェジェタル……うわっ、マリファリキュルまで!
 すごいすごい!う〜ん、やっぱり来てよかったぁ〜!」
酒場の扉をくぐってすぐに、マテリアは思わず奥のカウンターに駆けた。
両眼を輝かせてカウンター奥のバックバー、酒棚を見渡す。
火竜の喉すら焼くと言われる火竜燃酒、『霊薬』の二つ名を冠する古来伝承の薬草酒、
果てはあまりの度数と含有成分によって幻覚症状を齎し、その中毒性から法規制された毒酒まである。
酒好きのマテリアはこれまた、半分ほど地が出つつも、頭の悪い娼婦を演じていた。
「流石は無法の楽園!堕落の最果て!あらゆるボトルが流れ着く町の異名は伊達じゃないですね〜!」
小躍りしながらはしゃぐ。
周りの客や店主が苦笑を零していた。
「お嬢ちゃん、アンタも結構な好き者だねえ」
「えへへ〜、じゃなきゃこんなむさ苦しい酒場に一人飛び込んだりしませんよぉ〜」
絶妙に頭の足りない失礼な発言を飛ばす。
声をかけた男の笑みがひきつって、苦味が増した。
そんな事はまるで気にした様子もなく、マテリアは最初の一杯と、適当な料理を注文する。
蒸留酒を、香草や柑橘類の皮、砂糖で調味した水で割ったものだ。
単純な作り方だが、だからこそ店特有の味が出る。
「それじゃ、いただきま〜す」
差し出されたグラスを早速傾けて一口。
「……あ、おいしい」
思わず呟いた。想像していたものとは違う、力強くも華やかな味わいだった。
嚥下してしまうのが惜しいと思えるくらい、舌が歓喜しているのを感じる。
つまみに頼んだ燻製肉も、複数の香辛料が適度な自己主張と共に、肉の旨みを引き立てている。
あまりの美味しさに、思わず皿の上に残った肉の本数を確認。財布の中身を思い出そうとしてしまう。
「これは……どうやらこの町を侮っていたみたいですね……!」
意図しない内に間抜けな娼婦の仮面が剥がれ落ちて、真剣味に満ちた表情で呟いた。
無法の楽園タニングラードと言うと、どうしても乱暴で大雑把な濃い味付けを連想する。
だがそれは大きな間違いだったとマテリアは今、思い知った。
タニングラードはその性質上、調理器具が不足していて、代わりに上質な食材が揃う。
故に美味しい料理を作るのなら、素材の味そのものを活かすのが一番なのだ。
また器具に制限があるからこそ、それを使わずに出来る事に力を注がざるを得ないのかもしれない。
「こうしてはいられませ……じゃなくて、こうしちゃいられないよぉ!すみませーん!
 この燻製もう一皿下さ〜い!それと『霊薬』も〜!」
そんなこんなで、
「あははは〜!まだまだいけますよぉ〜!次は黒猫樽の葡萄酒持って来て下さぁい!」
ファミアやフィン、クローディアが酒場に到着する頃には、立派な酔っぱらいが一人出来上がっていた。

25 :
とは言え――これでも一応マテリアはプロである。
同僚とクローディア達の足音を聞き付けると、混濁した瞳にすぐに理性の光が舞い戻った。
水を飲んで、カウンターに突っ伏す。寝たふりをしながら聞き耳を立てた。
彼女は両手を用いずとも、ある程度の音声操作と敏感な聴覚を発揮出来る。
狭い範囲ならば、足音や筆を走らせる音くらいならば聞き取れる。
遺才故の体質、だけが理由ではない。
彼女の喉の奥と耳の奥には、自分の骨を材料にしたリングが埋め込まれている。
筒状のものがマテリアルである彼女は、それで遺才を不完全にではあるが発揮出来るのだ。
リングは従軍時に埋め込まれたものだ。いわゆる、人体実験の成果だった。
マテリアが入軍したのは四年前――皇帝が今の代に変わる前の事だ。
前皇帝は侵略を好む人間だった。
その為ならば手段を選ばず、目的すら選ばず、地獄にさえ侵略の矛先を定めた男だった。
人体実験はその為の一環だ。マテリアルを人体と一体化させれば、常に遺才を発揮出来る兵士が出来上がるのではないか、と。
人を魔族に近づける実験――それはやがてより洗練されて形を変え、『降魔』や『赤眼』へと繋がる。
繋がるのだが、今となっては何の益体もない事だ。
マテリア自身、便利な実験を受けたものだ、くらいにしか思っていない。
もっとも彼女は戦闘向きの遺才ではなかった為に軽度の実験で済んだが、
実験を受けた者の中にはより凄惨な変貌を強いられた者もいるだろう。
その事については、考えても仕方が無いと、目を逸らしていた。
>「そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」
ともあれクローディアが、羊皮紙に筆を走らせる。
マテリアは聞き耳を立てた。
>『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』
『尾行、ですか』
念信器で声を発する。
筆談の内容をスイに知る術が無かった場合の為だ。
「……う、うぅ〜、頭痛いよぅ。お水……お水ぅ……」
続けて目を覚ましたふり。そして死に体を演じて冷水を注いだグラスに手を伸ばす。
「……吐きそう」
唐突に、小さく呟いた。周囲が俄かに騒然となる。
頭を抱える仕草に紛れさせて、右手を耳元へ。
皆が動揺を心音に反映させる中で、たった一人落ち着き払った心音の男がいた。
つまり、その男がプロだ。
口元を右手で抑える。嘔吐を堪える動作で遺才を発動。
「……尾行さんの心音、覚えましたよ。泳がせて、逆にあちらを尾行して、根城を突き止める事も可能だと思います。
 もちろん、それ以上の事も。どう対処するかはアルフートさんと、クローディアさんで決めて下さい」

26 :
マテリア穴って知ってる*?

27 :
>>3>>4>>11>>20-21>>25
ウルタールでの顛末に関してはファミアものちに上がってきた報告書に眼を通しています。
そこで語られる内容は結局のところ当事者以外には紙上の一幕でしかなく、誰かの流した血やこぼれた涙に現実感はありません。
故に、人相風体も近くで実物を見るまではどこかピンと来ないものがありました。
(確か……女性だったはず)
顔立ちは紛れも無くそうでしたが、そこから下は「皮膚の下に何がいるんですか?」と尋ねてしまいそうなほど
見事に隆起した筋肉の連なりでした。無論、ダニーのことです。
少し脇に視線をずらすとその後ろから顔だけ出しているロンと目が合いましたが、
そうして見ているファミアも、クローディア一行に声をかけるフィンの背後に隠れています。
奇矯な人間との初邂逅は慎重にするべきでしょう。
遊撃課もそういった人物の集まりという側面はありますが、ファミアの心の棚は大きめです。
>「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
> ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
> 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」
先にマテリアが話を通していたこともあって、こちらが「飲らないか」と言うより先に凄い勢いで状況がすっ飛んで行きます。
扉を吹き飛ばさんばかりに酒場へなだれ込んで、気がついたらオーダーを通しているところでした。
注文された料理は周辺からの人や物が集まるタニングラードならではと言える、文字通り『山海』の幸を集めたものです。
単純に値の張るものを頼みつつ、しかし味のかぶるものは外し、なおかつ高速。
ためらいも遠慮もないその姿勢はファミアの心胆を寒からしめるのに十分なものでした。
(この人、できる!――まさか……負けるッ!?)
そもそも何が勝ちかもわかりませんが、とりあえずそんな感じがしたのは事実です。
とはいえ張り合っても仕方がないので流されるままになっておくことにしましょう。
お金の出所を最後までたどれば行き着く先はどうせ国庫。
自分の懐は痛みません。体制側に与するというのは素敵なことですね。
それにしたって限度はありますが、借金抱えて「希望の船」に乗るようなことにはならないでしょう。
持ち盾を丸めたような、樽をそのまま縮小したような、
とにかくやたらと頑丈なジョッキがテーブルを叩き割らんばかりの勢いで供され、その後も次々皿が運ばれてきました。
「そういえば私、こういうお店って来た事ないです」
学生時代ぼっち気味だったファミアは、物珍しげに周囲を眺めながら完全に素が出た状態でぽつりと呟きました。
そうしながらも先刻別れた課員の姿を探していたのですが、はたから見れば立派にお上りさん継続中です。
二人とも既に店内にいることを確認してからエールのジョッキに手を伸ばして、ぐっと一呷り。
この白エールは北方産で、透明度のない淡い色あいと濃密で肌目細かな泡が見た目の特徴です。
冷涼な気候と魔力装置のおかげで保存のための熱処理をする必要がないので、
ほのかな甘味と鼻に抜けるリンゴのような香りも壊れることなくそのまま残っています。
「……苦い」
まあ、どれだけ能書きたれても飲み慣れていなければビールなんてそんなもんです。
「銘柄は任せるから、白を一杯持ってきて頂戴」
近くを通りかかった店員にそう声をかけてから卓に向き直り、
「そういえば名乗りもまだでしたわね。ファミアと申します」
カニとたはむる手を止めてココアのマグを空にするクローディアに、ファミアは自己紹介をしました。
>「……それで、あたしたちがどこに店を構えるつもりかって話だっけ?
> そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」
クローディアは人差し指で唇を拭ったあと、それに答えながら一筆。
差し出された紙には以下のような文面が記されていました。
『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』

28 :
顔を上げてクローディアを見ると、さも意味ありげな目配せ。
しかしファミアはそれを追って視線を向けることはしません。動きが露骨すぎて即座にバレそうだからです。
「尾行……ですか。課員ではないと思いますが」
ジョッキを両手で抱えて口元に当てて紙を覗き込みながら、卓についた一同にだけ聞こえる程度の声で呟きました。
音も口の動きも漏れてはいないでしょう。
尾行ということは、一行が入店した後に入ってきた人物であるということです。
視線の方向にはスイがいたはずですが、先に店にいたので勘違いされるとは考えづらく、他の課員は別所での任務中。
では一体何者か……
>『尾行、ですか』
考えるファミアの耳元で突如マテリアの声がしました。おもわず跳ね上がりかけた体を必死になって抑えます。
今回、念信器の場所が本当に耳のすぐ側なので心臓に悪いことこの上ありません。
>「……尾行さんの心音、覚えましたよ。泳がせて、逆にあちらを尾行して、根城を突き止める事も可能だと思います。
> もちろん、それ以上の事も。どう対処するかはアルフートさんと、クローディアさんで決めて下さい」
『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
 店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』
まずはマテリアへ念信。音で後を追えるのなら姿が見える必要はありません。
むしろ向こうからも見られない分、危険は減ると言えます。
もし追ってこないようならこっちではなくクローディア達のゴタゴタだということで綺麗さっぱり無視。
他人の面倒は他人に片付けてもらうのが筋というものですね。
『スイさん、私はまだ尾行者の姿を確認していないので特徴をお願いします。
 それから、ヴィッセンさんと組んで尾行に当たってください。
 ――万一何かあるようなら、ばれてもいいですから二人で飛んで逃げてください』
ついでスイへ指示を送ります。
「戦闘は避ける」。事前にさんざん釘を刺されたことです。
あれほど口を酸くして言われたからにはもちろんそれが第一義であるはずで、
ならば全力で避けるのが指揮官の務めというもの。自分が怖いからとかそういうのはありません。一切。一切。
さて後発二人の足はそれで確保できたとして、先発である自分たちは……
(私がハンプティさんを担いで逃げることになるのかな……)
単純な移動速度で言えばもちろんそうなるのでしょうが、
執事を抱えて跳ねまわる少女というのはなかなかシュールな絵面かも知れません。
そんなことを考えているところへ置かれる白エール。注文したのはワインのつもりだったのですが。
「ぁぅ」
動くにしても、これが開いてからということになりそうです。
自分で注文したものに手も付けずに辞するというのはいかにも不自然。
尾行者が見ている前で不振な行動は慎むべきでしょう。
――文句をつけて換えさせれば早く済む話なのですけれど。
まだ残っている一杯目と格闘しながら、ファミアはフィンへ声をかけます。
「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
このあとの予定をいささか聞えよがしに口にして、それからだいぶ舌に合わないエールを口にしました。
【とりあえず飲む】

29 :
「うーん……予想してたよりずっと大きなお祭りみたいですねえ。」
湯気の立つ蜂蜜酒を手の中で玩びながら、ノイファは白く息を吐いた。
次いで一啜り。嚥下した液体から沁み出す熱が、四肢に行き渡るのが心地良い。
通りのそこかしこに、発光と発熱を兼ねた蓄魔オーブが据えられてはいるものの、そこは流石に北の最果てタニングラード。
"夜通り"に人々が集いだし、日が落ち始めたこの時間帯ともなれば、肌を刺す冷気は昼の比ではない。
「さて、そろそろ集まる頃合だとは思いますが……っと。」
修道服の襟元を引き上げ、通りを見渡す。視界の端に捉えた未だ見慣れぬ格好をした同僚たちの姿。
赤くなった耳に手を当てる風を装い、耳飾りに偽装された念信器に指を伸ばす。
『そのままで大丈夫です。こちらで確認出来ました。』
同様に通りを眺めながら、串焼きに苦闘しているセフィリアと、蓄魔灯に背を預けるウィレムに声を飛ばす。
『もう暫くすればもっと大勢の人で賑わうのでしょうね。この通りも。
 まだフランベルジェさんの姿は見えませんが、その前に報告を済ませてしまいましょう。』
かじかむ口唇を暖めようと蜂蜜酒を一口。
ついでに再び通りを見回すが、やはり最後の一人であるフランベルジェの姿はない。
他の誰よりも、ともすればこの街で一番、目立つ格好をしている彼女なのだが、見える範囲の何処にも確認出来なかった。
 
『とは言っても、現状だと宿を何処にしたか、程度のものでしょうけどね。私は――』
"昼通り"にあるハンターズギルドの真向かい、『黄金の杯』亭。その一室がノイファの当面の拠点だ。
名前こそ何とも煌びやかだが、一階に酒場兼食堂、二階から宿泊施設といった、いたって在り来たりな旅の宿である。
そこにしたのは価格が手頃であったことがまず一つ。
もう一つは立地場所。
富裕層が居てもおかしくない場所ゆえに、ファミアたちのチームとコンタクトが取り易かろうという点。
そして何より決め手となったのは、帝都エストアリアに居を構える『銀の杯』亭の兄弟店であるという理由からだった。
『――あとは、同じく"昼通り"の端にあるルグス神殿……まあほとんど小屋なのですが、そこも拠点として使えそうです。
 調査の合間にでも手を入れて、いざという時のために籠もれるようにでもしておこうかと。』
一通りの情報交換を終え、手の中の蜂蜜酒も空になり、そろそろ祭りを見て回ろうかといった頃――唐突にそれは起きる。
>「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」
祭りの喧騒をつんざき、通り一面に響き渡る叫び。
声質で判断するなどという能力は持ち合わせてはいないが、この特徴的な口調はフランベルジェのものに間違いない。
「早速目立ってるようですねえ……。」
最早諦めたとばかりに呻くノイファの前を、人ごみから抜け出た少女が、走り抜けていった。

30 :
『ウィレム君――』
逡巡の後、ノイファはウィレムへと念信を通す。
手指は即座に腰のポーチへ。取り出すのは紅粉の詰まった瓶。
それを放り投げる。
『――加減して追ってください。』
瓶を掴んだウィレムが少女を追って走る。
この街を仕事場とするスリ相手では、普通に追いかけたのでは見失うのは必至。
ならば人並みを遥かに逸脱した脚で追跡するしかない。
化粧粉を渡したのは、後から追いかけるための目印としてだ。
少女が向かう先はにあるのはスラム街。
帝国領内で最も平和なタニングラードにおいて、唯一その限りではない無法地帯。
追っていった先で、更なる危険が待ち受けていることも十分にあり得る。
(果たしてこの行動が正しいかどうか……)
タニングラードでなければ諦めるという選択肢もあったろう。
だがここでは一切のバックアップが断たれている。
手持ちの軍資金をたった一日で全て無くしたとあっては、今後の任務に支障が出るどころの騒ぎではない。
『仕方ありませんが予定変更です。先行するウィレム君には紅粉を渡してありますから――』
少女が駆けていった方向とは真逆へ、ノイファは視線を配る。
スリ騒動を目の当たりにし、自分の懐は無事かとざわめく群集。その中にユーディも紛れているかもしれないのだ。
見えない敵の、凍えるような視線を意識して、ぞくりと背筋が震えた。
『――セフィリアさんとフランベルジェさんは目印を手がかりに二人の追跡を。
 私は……一応後方を確認しながら付いて行きます。』
畏怖を押し込め、汗で冷たくなった拳を強く握り、ノイファは指示を告げる。
【ミッション1:スリを追跡せよ】

31 :
いや、勝手に
ミッション始められても困る

32 :
興行後に物見高い子供達から筋肉を触っていいか問われたダニーは快諾して触らせる。
数年後に思春期を迎えて初めて触った異性の胸が自分の大胸筋だと思い出した時の
彼らの顔を想像すると彼女の胸は厚く、いや熱くなった。
>>「な、な、ダニーはツヨいんだな。ビックリしちまったよ。どこであんなタイジュツ、ナラったんだ?」
「・・・・・・・・・」
ダニーはそっちこそ随分タフじゃないか、と返し、昔あった近所の道場で習ったと答える。
折角歩み寄ってくれたのだ、余計なことを言って変に気を遣わせることもないだろう。
後はただ鍛錬するだけ、と無難に締めくくる。
そして社長に貰った水を頭からひっかぶり手ぬぐいでざっと拭く。
その時、人気もだいたい掃けた公園に、この街の者とは趣の異なる二人組がやって来た。
ロンはささっと彼女の後ろに隠れてしまったが、ダニーは逆に吹き出しそうになる。
誰を隠そう以前洞窟で合った男、フィンその人だった。今は雰囲気を落としているものの、
初対面のイメージが強すぎるせいか、執事姿に違和感を禁じ得ない。
クローディアから目で釘を刺されて黙るが、これは堪らなかった。
一応挨拶を返してダニーは再び笑いを噛みす。
笑いを沈める為になんとか考えをまとめようと意識を逸らす。
ノイファはクローディアの本家筋の人間に雇われた的なことを言っていたような気がする。
ということは後ろの少女がそうなんだろうか、とフィンが付き従っている人物に視線を移す。
そこで、思考が切り替わる。いや強制的に引き戻されたというべきか。
小柄で手に手袋ではなくミトンを付けた少女、それだけ。それだけの筈なのに、
一目で脅威だと直観する。下手をするとノイファよりも危険な何かがある。
>>「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」
こちらの緊張を他所に話がつくと、場所替えということで酒場に移動することになった。
そこではおごりを勝手に取り付けたクローディアはじゃんじゃん頼んでいく。
腹八分目とはなんだったのか。
ダニーはと言えば顎を摩りながらまずミルクを取った。彼女は酒とシガーと賭博はやらないのである。
そしてイカ墨のシュークリーム、キャラメルパフェ、灰麦のパンケーキ、白骨煎餅、
赤銅栗の甘露煮、青雷山コーヒーと注文する。

33 :
人のおごりということで、彼女は自分の懐やトレーニングのことを一時的に忘れて
ここぞとばかりに甘いものを頼んだ。この値段で下手すると常人の二日分の食費に
あたるのだから中々侮れない。
嗜好品を口に入れるのは実に久々なのでなんだかそわそわしてしまう。
店内に堅気でない人間がいることや、相手の所属が分らないなどの
問題もあったが大したことではない。要はその時に動けばいいのだから。
気持ちを切り替えると、早速所望したスイーツを頬張る。
注文がデザートのみという点では始めからクライマックスである。
返す返すもサイズ差が酷いので折角のシューも一口サイズに早変わりなのだが、
それでもダニーは幸せそうに食べている。
クセのある甘い芳香を楽しむ一方でチョコレートのような色のクリームを味わう。
酒呑みが甘いものを欲しがるせいか意外にも店の甘味は充実していた。
>「尾行……ですか。課員ではないと思いますが」
例の少女、ファミアの声がしたのでちらりと目を向けるが食事を続ける。
ダニーは尾行があったことには気づかなかった。帝都じゃないので
別段追われるような心当たりが無かったからである。
お鉢が回って来るまでは通常業務でいいはずだ、そう思った矢先、それは聞こえた。

>「……吐きそう」

その呟きに即座に振り返ると娼婦のような女、マテリアが呻いているのが見える。
演技かどうかが問題ではない。実際に吐くかどうかが問題である。
しばし様子を眺めていたが、吐かないようだと分かると皆食事を再開する。
危ないところだったと思いながら、ダニーも二つ目のシューを食べようとして、手を見る。
ーないー どこにいったかと思えば、ロンの顔にべっちゃりと張り付いている。
手からすっぽ抜けてしまったようだ。そこでダニーは・・・
「すいませんシュークリーム追加で」
謝罪の意を込めておかわりを二人分注文した。
【ごめんなさい】

34 :
レオナルド・オリリレーはどこだ?

35 :
串焼きの固さに、少なからずの苛立ちを覚えていますが、祭りの喧騒というものはなかなかに面白いものです
人々の表情が、この街に生きる人たちの逞しさを象徴しているようでした
街の人達のこのざわめき、笑い声、怒鳴り声、泣き声まで聞こえます
なかなかにバラエティーに富んでいて面白いです
ですから、この喧騒に耳を傾けてみようとおもいます
これも立派な情報収集です
なにげに重要な情報が掴めるかもしれません
ちょうどいいところに恰幅の良い壮年おじ様と、威勢の良い働き盛りの男性が、白い息をさながら機関車のように吐き出しながら話し込んだいます
ふむふむ、どうやら小麦のでき具合と価格差に話しているようです
南のとある村が大豊作で、安く買い叩ける、東のとある街では、周囲の村が凶作で麦が不足しているといった話です
働き盛りの人は直ぐに売りに行こうと主張しています
恰幅の良いおじ様は他の商人と結託して、価格を釣り上げてから売る方がいいと仰っています
不当な価格操作の疑いでしょっぴいてやろうかと思いましたが、任務とは関係ないので自重します
任務とは……関係ないですからね
これ以上、この話を聞く意味もないのでこの場を離れます
スープがすっかり冷めてしまいました
一気にお腹に流し込んで、新しくホットミルクでもいただきましょう
寒い日にはあれが一番です

『そのままで大丈夫です。こちらで確認出来ました。』
ちょうど、お髭が立派なおじいさんから、蜂蜜入りホットミルクを受け取ったとっていました
『宿は昼通りの安い宿ところを取りました。名前は錫の星亭です。カルチャーショックを受けました。人ってあんなところで寝れるのですね
ちなみに神殿が部屋から見える位置にあります』
と、事務的に返答したときに事件は起こりました
>「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」
まったくとんだトラブルメーカーです
完全なおのぼりさんじゃ、ないですか……
帝都住まいの私たちがおのぼりさんというのも、考えたらおかしな話ですが
鬼名持ちというのですからね……
私だって……
いえ、これも先輩が自ら囮になる作戦の第一弾ということでしょうか
ええ、そうに決まっています
ただ、遠目に見えるアイレル女史の眉間に凄まじいシワができているのは年齢によるものだからでしょうか?
管理職というのは気苦労が多いと聞きます
せめて、私は言うことを聞くようにしたいと思います
ウィレムがスリを追跡することになりました
彼以上の適任者はいないのだから、当然です
>『――セフィリアさんとフランベルジェさんは目印を手がかりに二人の追跡を。
 私は……一応後方を確認しながら付いて行きます。』
『了解です
すぐに捕まえます』

36 :
ウィレムにも念信を送っておきます
『ウィレム、聞こえますか?
あまり本気で追いかけてはいけません
どこでユーディに観られているかわかりません
わざわざ、手のうちを見せるようなことは、必要ないでしょう
あと、私のことは気にしないで下さい
たまたま遺才持ちがお節介を焼いた
そういうスタンスでいきましょう
よろしくお願いしますね』
さっそく追っていきましょうか……
おっと先輩にも念信を送っておきしょう
『先輩の財布を盗むなんて許せませんね
先輩もなりふり構わず、追って下さい。
囮になるには絶好のシチュエーションです
頑張りましょう』
では、今度こそ追跡することにしましょう
手にはちょうど串焼きの串が一本あります
折れば二本です
黙って追いかけます
目立ちたくありませんから
私は人の隙間を縫うように走ります
手加減を頼んだもののウィレムについていくのは至難の技です
化粧紅がなければ見失っているところです
スリもウィレムの追跡によく持ちます
まあ、こんな往来で捕まえるんだ訳にもいきませんが
『ウィレム、路地裏に追い込んで下さい
そこで捕まえましょう』
さすがウィレムです
すぐに路地裏に追い込んでくれました

37 :
エ公 ウィレム

38 :
堕天使2人による襲撃が!!

39 :
――――ロンだけが事態が飲み込めきれないまま。
クローディア一同は謎のお嬢様と執事のフィーンと共に酒場へ。
道すがらに話を整理し、どうやら彼女等はパトロンとして名乗り出た、ということ。
一応納得はしたが、ロンはそれでもファミアとフィーンに疑心の目を向ける。
それは酒場に着いても同じだった。ダニーの隣で縮こまり、一切口を聞こうとしない。
>「尻込みすんじゃないわよ、あんたたちが百年かかってもお腹いっぱい食べられないような高級料理を狙いなさい!」
クローディアが料理を次々オーダーし、あっという間にテーブルが賑やかになる。
酒場の薄暗い雰囲気もあってか、料理の数々が輝いているように見え、ロンの目が瞬く。
より逞しくバランスの取れた肉体を作るために、食事制限を掛けられていた彼にとって、
目の前の光景は夢のようにも思えたのだ。
「な、な!これゼンブタべていいのか!?ウソじゃないよな!?」
クローディア達が注文した先から、ロンの手が伸びる。
とにかく目をつけたものから食べる食べる、とにかく幸せそうに食べる。
しかし、酒類には一切手をつけていない。飲んだ事がないからだ。
隣ではダニーが美味しそうにスイーツを頬張っている。よそ見した隙を狙って少し戴いた。
>「銘柄は任せるから、白を一杯持ってきて頂戴」
「(おおっ、な、ナンかカッコイイ!)」
事も無げにワインを頼むファミアを見てどこかズレた感動を覚えるロン。
すかさずロンも手を上げ「オレにも!」と注文する。
まさか酒類を頼んだとも気付いておらず、クローディアとファミアの会話を流し聞き。
その時、一瞬奇妙な視線を感じ、反射的に店内へと視点を一周させる。
「キのせいか……?ナンかイマ、ダレかにミられてたような…………」
同じテーブルのメンバーにも聞こえるか分からない位の小さな声で一人呟く。
此処に来てから神経を尖らせ過ぎて、神経が過敏になっているのかもしれない。
首を捻るもそう思うことにし、頼んだ白エールを見もせずにグイッとひと飲み。
「かっ!けほっけほっ!」
酒に免疫のないロンには効果抜群だった。喉を駆け抜ける熱に、堪らず咽込む。
けほけほと喉を鳴らし、その時、べちゃりと頬っぺに冷たいクリームの感触。
「ヒイッ!?」
女より甲高い悲鳴があがる。
正体はダニーが取り落としたシュークリームだったようで、ロンの顔の半分が酷い有様となる。
酒とシュークリームのダブルパンチで茫然としている間に、ダニーがシュークリームの追加を頼む。
状況が飲み込めると同時に、ふつふつとみみっちい怒りが沸き上がって来た。
「……よくもやったな〜、ダニー!おカエしだっ!」
そう言うや否や、ロンは自分の飲みかけの白エールを引っ掴む。
シュークリームをぶつけられたお返しをぶっかけようとし、勢い余ってエールがすっぽんと手から抜け落ちる。
そしてエールが行き着く先には。
「あ。」
ばしゃあ。エールの中身が、見事にフィンへ頭からとかかる。
途端、サッとロンから表情が消え、たかと思えば赤かった顔色がみるみる青ざめる。
間違いなく、怒られる。そう判断したロンが取った行動は。
「ごっごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
床が抜け落ちそうな勢いのダイナミック土下座が繰り出されたのだった。
【ごめんなさいパート2】

40 :
スリの少女は冷たい石畳を底の薄い安物の靴で打ち、カツ、カツと独特の靴音を響かせながら人ごみを貫いていく。
彼女が縫っていく人の林、それを形成する祭りの客たちは、また馬鹿な観光客が犠牲になったと鼻を鳴らした。
夜通りはスラムから近いわけではないが、時間帯的に酔いどれも多くスリにとっては絶好の狩場なのだ。
自然体を装いながら、目だけを動かして通行人を品定めする者があったら、そいつは十中八九スリだ。
そしてこの少女も、そんなゴマンといる窃盗犯たちのうちの一人なのであった。
「へっへーーっ、今夜はチョロかったな!」
財布をあんなに無防備な状態にしておくなど、ギってくれと言っているようなものだ。
あんまりにもあからさまだから、同業者たちはむしろ警戒して手を出していなかったようだが、少女は違う。
スリの中でもカースト最下層に位置する"子供"である彼女にとり、獲物を選り好む余裕などないのだ。
「この重さ、金貨十枚は硬いな……久しぶりに、屋台でメシが食えるぞ」
疾走のペースを落とさずに、器用に口の閉じた財布を耳へ当てる。
ずっしりとした重みと硬貨同士の擦れ合う済んだ音で、ギったのが結構な高額であることを判断した。
これだけあれば、三月は"仕事"をしなくてすむ。『兄弟』たちにもまともな飯を食わせてやれる。
そうした皮算用の妄想は、不意に近づいてきた足音によって断ち切られた。
「…………はぁぁ!?」
少女を追う影があった。あらゆる抜け道と人波の掻き分け方を知り尽くしたプロのスリが全力で逃げているのにだ。
その追跡者――少女より3つほど年上程度の少年は、通行人に突き当たる度に迂回して、それでもこちらを見失わない。
どんなに遠回りでも距離を開けずに追い続けてくる。その不条理を実現するのは、冗談のような足の速さ。それだけだ。
「上等だ、んの野郎っ!ついてこれるもんなら――」
少女もペースを上げる。知りうる限りの近道を駆使し、スラムまでの道筋を短縮。
行商のテントを伝い、往来を進む牛車を飛び越え、婦人の股下をくぐり抜けて逃走。
ここまでやれば流石についてこれまいと振り返った。依然、少年は後ろを走っていた。
「まっず……スラムに入ってきちまう」
何か撒く手立てはないかと加速する視界に視線を彷徨わせて、スラムの入り口ちかくの路地にそれを見つけた。
路地から身体を半分だけ出して手招きしているのは、スリの少女よりもさらに年下の少年だった。
運の良いことに追跡者はそこの路地へと追い込もうという魂胆らしい。スラムに入る前に決着をつけたいのはお互い様というわけだ。
路地の手前まで差し掛かったところで少女は急制動。石畳を靴底が噛み付き、無理やりに身体の向きを転換する。
そのまま路地へと転がるように逃げ込んだ。
対する追っ手の少年は、またしても出鱈目な機動でほとんど速度を落とさずに路地裏へ。
人ごみのない路地での両者の速度は肉体の性能差がモロに出る。少女に逃げ切る機はない――
「今だ、やれっ!!」
追っ手が路地裏に入って最初の一歩を踏んだ瞬間、泥によって覆われていた術式陣が発動。
『吸着』の魔術によって足裏を地面と接着された追っ手の少年は、超高速のまま盛大にずっこけた。
げにおそろしきはその走破力。大人一人を掴んで離さぬ吸着力を持った陣にも関わらず、転んだ少年の足はそこから外れていた。
追っ手は態勢をすぐにでも立て直せる――だから、その前にダメ押しの一撃。路地裏で待機していた数人の子供たちが立ち上がった。
みんなで路地に積んであった酒瓶の木箱を地に伏す追っ手へこれでもかと投げつけ、完全に箱の山の下敷きにして制圧した。
「……なんだったんだ、おまえ。あのカモ女の仲間か?」
辛うじて息はできるように顔は出してやる。しかし返答はない。白目を剥いて気絶していた。
「フラウ、フラウ、こいつどうする?みぐるみはがす?はがしてぽい?」
路地裏にいた子供たちの一人がスリの少女に意見を仰ぐ。
フラウと呼ばれた少女は、うむんと唸った。

41 :
「できれば"おじさん"に聞いてからのほうがいいんだけどな。
 ギった相手の仲間が追ってきたときの対処法なんて教えてもらってないし」
「ゆびをじゅんばんにおってなかまのいどころはかせるの?」
「どこで覚えたんだそんな知識……」
フラウを筆頭にした『路地裏の子供たち』は、みな眼も開く前からここに放り出された捨て子の成れの果てだ。
学がなく、故に街には戻れない。かといえばまだ幼い彼女たちに労働ができるわけもなく、スラムですら虐げられる始末だ。
大抵のものは受け入れるこのタニングラードにあってすら、どこにも行き場所をなくした子供たち。
路地裏で泥水を啜って生きるだけだった彼女たちに、生き残る術を教え言葉と字を学ばせた男がいる。
子供たちからは"おじさん"と呼ばれている、身元不明の中年男性だ。
「――って、仲間がいるってことは、追っ手がこいつだけとも限らねーじゃねえか!全員、散れ!迎え撃つぞ!!」
はたと気付いたフラウの号令によって子供たちが再び配置に戻る。
フラウ自身も自分の定位置へと潜り込んだ途端、路地裏の入り口からカモ女の声がした。
 * * * * * *
「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」
先行してスリを追ったウィレムを更に追っていたスティレット。
基本的に鈍足な彼女が辿り着いたときには、既に夜通りから見える範囲の路地裏に人影はなかった。
既にセフィリアやノイファも近くまで来ているはずだが、まさかみんなで仲良く路地裏に入るわけにもいかず散ったままだ。
路地裏の奥では何故か崩れた酒の空き箱がうず高く積もっており、その辺りだけ埃がもうもうと舞っているのが見えた。
「うーん。バリントンどのはどこへ消えたのでありましょうか。謎が謎呼ぶ大事件でありますね、正直興奮します」
注視すれば路地裏の入り口で発動を終えた術式陣の痕跡と、残留する魔力を発見できるはずだ。
もっともスティレットの場合、そもそもそういった思慮深さを期待するほうが見当違いなのであるが。
『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』
目線を合さず念信器へと言葉を入れると、スティレットは躊躇いなく踏み込んだ。
二歩、三歩、四歩、五歩目。踏み出した足へなにかが絡みついた。路地脇に放置されていた小汚いロープだ。
「はれっ――?」
あとは一瞬。足首をきっちり拘束したロープがひとりでに持ち上がり、捕まえられたスティレットも引っ張り上げられる。
ロープを操る初歩的な魔術トラップによって、当代最強の剣術使い――剣なき今はただの人――は逆さ吊りにされたのであった。
「いたたたたたたたたた汚い!汚い!臭い!」
ぎりぎりと足首を締め付けるロープ。滴ってくるのはずっと路地裏に放置されていたことで染み込んだ汚汁。
スティレット課員の献身的な自己犠牲によってこの路地裏がただの路地裏でないことはこれで明らかになった。
その上で彼女を助け、あるいは消えた財布とウィレムの所在を辿るのは、きっと簡単なことではないだろう。
【ウィレム失踪(箱の下敷き)。スティレット宙吊り。
 『路地裏の子供たち』……現在路地裏は厳戒迎撃態勢にあります。無策に踏み込めば子供たちの工夫をこらしたトラップ、
             あるいは子供たち自身の伏兵による挟撃があることでしょう。
 目標1、2ターン フラウ以外の全ての子供・トラップについてはNPC扱いとします。自由にでっちあげてください】

42 :
地面から次々子供型トラップが現れる

43 :
酒場に足を踏み入れた瞬間、一気に酒の匂いとむさ苦しい臭いがスイの周りを包む。
「安いの一杯頼む」
入り口に近いカウンターの席に座り、注文をした。
暫くするとマテリアの姿。
こちらがチビチビと呑んでいる間に、彼女はハイペースで呑み続け、一気に酔っ払いが出来上がった。
「ここまで一気に出来上がるのもすげぇな」
ぼそりと感想を呟き、再び入り口に意識を向ける。
そして、入ってきたのはクローディアの一行と、フィンとファミアだった。
彼らが席に着いたのを確認すると、再び周りに意識を飛ばした。
先程から、何かに見られているような気がしてならない。
>『尾行、ですか』
マテリアの声を聞いて、自然な動作であたりを見渡した。
それらしい姿も一応確認する。
マテリアの演義のおかげでさらに特定できた。
>『スイさん、私はまだ尾行者の姿を確認していないので特徴をお願いします。
 それから、ヴィッセンさんと組んで尾行に当たってください。
 ――万一何かあるようなら、ばれてもいいですから二人で飛んで逃げてください』
『了解した。これから特徴を挙げていく。服装はズボンと赤茶色っぽいジャケット、鳥打帽。新聞を所持。見た目は…ただのおっさん、ってとこだな』
ファミアの念信に応え、特徴を述べるとグラスを再び手に持ち、表の自分でも僅かながらに操れる異才を発動した。
風の目印をつくりだし、その男につける。
そして、マテリアに向かって念信を飛ばした。
『マテリア、動けるか?俺はいつでも良い。』
先程の演義が嫌にリアルだったため、心配になったスイは最後につけ足した。
『あ、あのな、無茶はするなよ。本当に気持ち悪かったら言ってくれ』

44 :
レギオン2世が
機会兵として復活

45 :
滞りなくレストランへのエスコートを済ました後。
現在、出された華美な料理に手も付けず、フィンはただただファミアの横に
無言で、或いは本当の執事の様に佇んでいた。
眼前の二人の少女達が繰り広げる会話こそ耳から脳へと届いているが、
自身の意識はその大半を別の「思い出」を繰り返し再生する事へと割かれている。
見えない敵との情報戦……そんな危険極まりない状況であるが、そんな中でさえ
こうやって少しでも「日常」を感じさせる場面になると、それは治り切らない傷の如く疼くのだ。
疼き、次いで思い出させるのだ。己の目の鼻の先で命を落とした一人の仲間の事を。
その思い出は更に古い傷跡と混ざり合い、無意識にさえフィンを責め苛んでいるのである。
そうして思うのだ。眼前のヒト達は、どうして仲間が死んだという事を、
まるで忘れてしまったかとでも言う様に容易く日常に回帰出来ているのかと。
木馬の玩具の様に繰り返されるその思考は、無限に繰り返され……
>『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』
「……!」
だが、クローディアが差し出してきたその情報を確認すると、
途端に思考の沼に沈んでいたフィンの意識は正常に戻った。
スイッチの様な瞬時の感情の切り替えは、ファミアとは別の意味で危険に敏感な
フィンならばこその不健全な芸当とい言えるだろう。
>『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
>店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』
優秀な事に、フィンが思索から現実に回帰するその僅かの間で、
ファミアとマテリアは互いに情報を交換し合い、次の行動への指示と指針の決定を行っていた。
この才能とは別の意味の能力は、何故ファミアがリーダーじみた立場に立たされたかを物語っていた。

46 :
>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
>何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
そうしてその素晴らしい能力のまま、ダニーやロンと共に極めて自然な言動(最も、ダニーとロンに関しては
演技ではなく「素」であるのだろうが)を取り、今後の行動をフィンへと伝える。
別席のスイとマテリアもファミアの意見に反対は無いらしく、状況を開始しようとするが
この段階で、フィンは現状に疑問を覚えていた。思考、というよりは直感的な部分で感じる違和感。
(……ん?そういや尾行って……なんで「今」の俺達に尾行が付けられてるんだ?
 いや、確かに目立つ行動はしてきたから注目されるのは判るけど、
 まだ『嗅ぎ回ってる』事を臭わせる行動は、起こしてないんじゃなかったか?)
現状は、何かがおかしい。だが、そのおかしさは致命的なものではない為、
フィンは思ったことを事を口に出そうとし……止めた。
ひょっとしたら、単なる物盗り狙いの現地民か何かかもしれないからだ。
その程度の相手に対して余計な動きをすれば、かえって怪しまれる。
それに、仮に相手が「遁鬼」であるのなら、尾行の臭いを嗅ぎ取らせるなどある訳が無い。
そう思い、口を閉じたのである。
替わりに口から出すのは、先ほどのファミアの問いに関する答え。
「おう……じゃなくて、はい。畏まりましたお嬢様。
 確かに、ギルドならばお嬢様をご満足させられる品もある事でしょう。
 ですが、ああいった場所は得てしてごろつきが多いものです。
 ですので、道中は絶対に私の側を離れないでくださいませ。
 近くにいらっしゃれば、どんな状況でもこのフィン……フィーンがお守り致しましょう」
慣れない敬語と共に、念話ではなく口頭でそう告げると、
フィンはファミアに向けてエスコートするかの様に手を差し出す。
そうしながら、クローディア達に視線を向ける。
「そうだ、クローディア……様、ダニー様、ロン様、ナーゼム様……えーと……」
そこで、一端の別れの挨拶を言おうとして言葉に詰まる。
このような会話には、慣れていないからだ。フィンは頭の中で必死に
かつて自分に仕えていた執事の言葉を思い返し……
「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
快活だが少し陰のある笑顔で、フィンはそう軟派男の様な発言をぶちかました。
当の本人に自覚は無いが……家族の様な付き合いの老紳士と、顔見知りであるというだけの快活な青年。
使う年齢と関係が変わるだけで、言葉の意味は変わるという見本例である。
【フィン:言われた通りに、ギルドにファミアの手を引いて向かおうとする。
     去り際に婉曲なセクハラ発言投下。尾行と聞いて奇妙な違和感を感じる】

47 :
物影を縫うように路地を抜け、また次の路地へ。
「追手の気配は……大丈夫ですかね。」
壁に付着した化粧粉を指で拭いつつ、ノイファは深く息を吐く。
併せた両手を口元へ。気が緩んだせいか、思い出したように襲ってくる寒さに体を震わせる。
もっとも理由はそれだけでもないだろう。既に"夜通り"の本筋から外れること数本。
露店の類も、人の流れも、めっきりと数を減じ、大通りでは整然と列を成していた蓄魔灯も片手に余る程度。
つまるところ少し前までと比べ、まるっきり熱源が不足しているのだ。
>「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」
先行して二人を追っていたフランベルジェの声に疑問符が混じる。
ウィレムに渡した瓶の分量から考えれば、紅粉が尽きたという可能性は少ない。
追跡中に落としたのでないならば、標的を捕まえたか、あるいは逆に捕まったか――
(――おそらく後者でしょうね)
そう中りをつけた理由は二つ。
件の路地裏があまりに静謐に過ぎることと、微かに漂う魔力の残滓。
任意発動の術式陣ならば、追走する相手だけを切り離すことも可能だろう。
(……向こうにも仲間が居ると考えた方が良さそうですね)
"術式"の確立以来、魔術行使の術理がいくら簡略化されたとは言え、やはりそれなりの集中は必須となる。
まして全力で走っている最中ともなれば、熟練の魔導師と言えども容易とはいかない。
スリの少女が熟達した術者である可能性を考えるよりは、協力者が居ると判断する方が合理的だ。
>『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』
念信器越しに響くフランベルジェの声。
普段の言動こそ多少ぬけてはいるものの、上位騎士であり当代"剣鬼"の称号すら継いでいる彼女だ。
こういった荒事に関しての洞察力は期待できるものがある、とノイファは踏んでいた。
『ええ、気をつけて。判っているとは思いますが――』
――罠に注意を。と最後まで言い終わるより先に、逆さ吊りになった"最強の剣士"がそこには居た。
歩数にして実に五歩。
途惑うことなく危地へ踏み込む様は、流石鬼銘の継承者と感銘すら覚えたのだが、どうやら誤っていたらしい。
(まさか無策だったなんて……)
ロープで吊るされじたばたと暴れる"剣鬼"を尻目に、ノイファはあからさまに肩を落とす。
とはいえ、相手もこちらの想像以上にしたたかなのは否めない。随分と統制された動きも見せている。
子供と思って侮ったのではフランベルジェの、もといウィレムの二の舞になりかねない。
二人が捕まった以上、最早引くわけにもいかなくなった。
『セフィリアさん聞こえますか?』
ノイファは念信器に指をかけ、セフィリアに声を通した。

48 :
「大丈夫ですか!?」
片足ごと空中に吊り上げられたフランベルジェの元へ、息を切らせて走り寄る。
「貴女の声が聞こえて、慌てて追いかけてきましたけど……一体どういう状況です、これ?」
予想していなかった出来事にどうしていいのか判らない風を装い、路地裏の所々へと視線を向ける。
フランベルジェを戒めているロープを皮切りに数箇所に罠。その他に数人の伏兵。
隠蔽は完璧とは言い難いものの、夜闇であることを加味すれば見つけることは実に困難だろう。
ここまで全てセフィリアに告げた作戦通りだ。
先ずノイファが突入して相手の目を惹き、その隙にフランベルジェを救出する。
手ぐすね引いて待っている相手を、逆にペテンにかけてやろうという、実に大人の汚さが滲み出た方法だった。
「ロープは解けそうもないですねえ……、切らないと駄目でしょうか。」
酒の空き瓶の破片を調達しようと奥へ視線を向ける。
ごくりと、喉が鳴る。ここから先はトラップと伏撃のオンパレードだ。どれだけ"気付いてない振りが出来るか"が勝負だ。
(あれは確か"吸着"だから駄目ですね。当然"吊り縄"も駄目。となれば……あの辺が無難かな)
目星をつけたトラップに向けて駆け寄る。
「きゃんっ!?」
踏み込んだ右足が、接地と同時に沈んだ。"陥没"の術式トラップだ。
不自然にならないようにつんのめり倒れ込む。事前に緩めておいたポーチから財布が零れた。
(……うわ!?随分とエグい道具を知っていますねえ)
腰を擦りながら立ち上がり、ちらと視線を脇へ向ける。
物影から二人。片方は角材、もう片方は中身の入った小ぶりのズタ袋を手に殴りかかってくるのが見えた。
「え、何、ちょっと待っ――」
両腕で顔を覆いながら、隙間から二人を覗き見た。連携は取れているが動きは素人に毛が生えた程度だ。
腰を沈め、重心をずらし、攻撃の勢いが乗り切る前に自分から当たりに行く。
相手には手応えを残しつつも、こちらは大してダメージを受けていない。
(五人、六人、七人……随分居ますねえ)
次々現れる伏兵の攻撃を冷静に――見た目には必死に――対処しながら、ノイファはじりじりと目指す位置に近づいていた。
空き箱が積み重なる路地裏の奥。フランベルジェが怪しいと指摘した場所だ。
子供達は獲物を追い詰めた、と思っているだろう。
だが実際は違う。一番困るのはウィレムを人質にされることだ。
だから最も怪しいこの場所を、何を置いても確保したかったのである。
後はセフィリアがフランベルジェを救出してくれていれば、反撃の準備が整う。
『――目的地に到着しましたよ。』
ノイファはゆっくりと、口端をつり上げた。
【空き箱前に(わざと)追い詰められました。】

49 :
パンパンパンパンパン!!!!!
銃を持った兵士みたいなのが
ジャンプしながら砲を連射してくる

50 :
そして勢い良く地雷原に突っ込み全員散った

51 :
何人死んだ?

52 :
尾行について『遊撃課』の面々に水を向けてみたところ、何がどう影響したのか酒場は騒然となった。
飲み過ぎた娼婦が吐き気を訴え、筋肉女が菓子をぶちまけ、貴族の従者が頭から酒を引っ被った次第で。
どうやらその騒ぎじみたやり取りの中で何らかの手を打ったらしく、『お嬢様』は席を立った。
>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
(場所を変えるの――?)
とりあえずこの場はお開きということだろう。
『お嬢様』も、クローディア率いる『商会』も別に暇を持て余しているというわけではない。
今日はもう日も暮れ始めているから仕事をするつもりもないが、片付けておきたい雑事もまだ残っている。
「オッケ。あたしたちも宿にしけこみましょ」
クローディアも席を立つ。この街にはしばらく滞在して商売をするつもりだから、いつまでも旅宿には泊まれまい。
どの道不動産を借りることになるのだから、いっそ住居兼事務所にしてしまうか。
いやまて、そうするとダニーはともかくロンやナーゼムと同衾することになってしまう。
社長と社員が同じ部屋で寝泊まりするというのも変な話だが、それ以前に男女比2:2で雑魚寝というのは……。
>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
そんなことを考えている傍からこの発言とくれば、クローディアは傾けたマグの中にココアを逆流せざるを得なかった。
言葉の意味を想像して一瞬で耳が熱くなる。クローディアとて年頃の少女なのだ、耳年増なきらいはあるが、恥らいもある。
「ばっっっっかじゃないのっ!?出会って一時間(という設定)でそういうこと言う?フツー!」
悲鳴じみた罵倒をひとしきり終えて、汗をかいた彼女は肩で息をしながらひとつ閃いた。
クリームまみれのロンと、半目でフィンを睨むナーゼムに振り返り、
「丁度良かったわ!あんたたち、この色ボケ執事が布団に入れてくれるそうだから今夜押しかけたげなさい。
 宿泊費も浮くし、スポンサー様と仲良くなれるし一石二鳥よ!」
テーブルに置いてあった箱から楊枝を取り出して一本口に咥えながら、クローディア達『商会』は酒の席を辞した。
 * * * * * * 
「なるほど、二重尾行ってわけ」
ハンターズギルドのほうに用事があるというフィンとその主人に同行して『商会』は昼通りを往く。
クローディアが向かおうとしている役所も同じ昼通りにあるため、途中までは一緒の道のりであった。
「相手も結構なやり手ですね。距離を保ちつつ、常に人混みの中から監視する――教科書通りの尾行術です」
ナーゼムが鼻を鳴らしながら分析した。
『尾行の男』は彼女たちが会計を済ませたタイミングで席を立った。
その後は尾行に気付かないふりをしていたので詳しい動きはわからないが、通りを進むうちに人混みに紛れて尾行の影があった。
間違いなくついてきている。総勢6人の男女を尾行する男の姿の更に背後に、娼婦と宝石商が見え隠れしていた。
尾行者をさらに尾行する二重尾行。大所帯ならではの離れ業である。
「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」
通りを行くうち、左右に派生した辻路にさしかかった。
ここを真っすぐ行けば昼通りの商業区。左に行けばハンターズギルドだ。後者に用のあるお嬢様一行とはここで別れる。
尾行は一人だけだから、別れれば必ずどちらか一方を追うことになる。
遊撃課のほうを追えばクローディア達は無関係、あちらの問題ということで解決を一任できるが――

53 :
「こっちに来たら……撒けると思う?ナーゼム」
「無理ではないでしょう。教科書通りとはいえ、我々の退店をすぐに追ってきたあたりに焦りが見えます。
 気配の隠し方も三流以下、状況変化への対応もお粗末……おそらく実戦経験が足りていないのではないかと」
「あら?あんたにしてはずいぶん辛口ね。なにか嫌なことあった?」
「……私は男と同衾する趣味はありません」
「そこ根に持ってるの!?」
クローディアは懐から銀貨を取り出した。磨かれた銀色の表面は、鏡のように景色を反射させる。
コインの形に切り取られた背後の景色――その中で、お嬢様とフィンの後ろ姿がハンターズギルドへ向かうのが見える。
少しコインを傾けて更に後方を見れば、尾行者が左右を見回して慌てる素振りを見せていた。
「迷ってる……?初めからどっちかを尾けてたわけじゃ、ないってこと?」
尾行者の焦りのみえる挙動は、別れた両者のどちらを追おうか決めあぐねている様そのもの。
つまり、『どちらも追おうとしていた』ということの証左に他ならない。
辻で別れた商会とお嬢様一行、両者には表面上『一緒に食事をした』程度の関係しかないのにだ。
どちらか一方ならともかく、ほぼ無関係の二組両方を追いかける理由にはとんと心当たりがなかった。
「あたしたち、ここへ来てなにか悪いことしたかしら――」
刹那、往来から悲鳴が上がった。
振り返れば、お嬢様一行の歩いていった先で、歩道に馬車が突っ込んでいた。
通行人の行き来するまっただ中である。当然、乗り上げた馬車に跳ね飛ばされた人もいた――
「あれ、フィンじゃないの!?」
見える範囲では、轢かれた通行人は執事風の男一人のようだった。
この距離でも間違いなく判別できる。フィンだ。すぐ傍に"お嬢様"が立ち竦んでいたからだ。
クローディアは血が凍るかと思った。フィンがいくら頑丈とはいえ、走行する馬車に跳ねられて無事な人類などいない。
ましてやマテリアルの持ち込みを禁じられたここタニングラードである。
「だ、誰か医術院を呼――」
言い切る前に、撥ねた馬車から人が出てきた。それも一人や二人ではない、十人以上がわらわらと。
路上に伏すフィンと、お嬢様を瞬く間に取り囲み、腕を掴んで二人共を馬車の中へと引き摺り込んでしまった。
医院を呼ぶよりも足があるなら直接向かったほうが早い。クローディアは馬車の乗り手の行動をそう解釈したが、
「あれ?医院はそっちじゃないわよ!?」
鞭を入れられた馬車引きのゴーレムは、案内で見た医術院のあるほうとはまったく別方向へ蹄を叩いた。
その場にいた通行人のすべてを置き去りにして、何事もなかったように馬車は駆けていく――
「可哀想に、あれはもう助からんだろうなあ」
商会一行の傍で一部始終を眺めていた老紳士がぼそりと零した。
どういうことかとクローディアが問うと、彼は首を横に振りながら答えた。
「最近、朝通りのあたりで観光客や、無用心な金持ちを狙った人攫いがあってな。
 往来を歩いているところに突然、馬車で傍に乗り付けて、有無を言わさず馬車の中に引き摺りこむんだ。
 護衛がついてる場合は、ああいうふうに馬車で撥ねして……死体も片付けていくから、跡も残らない」
その連中が昼通りにもやってきたんだろう、と老紳士は言った。
下手すれば自分がその標的になっていたかもしれないというのに、酷く他人事のような言い様だった。
「司直は何をしてるの!?ここも帝国領なら、従士隊がいるはずでしょう!」
「おいおい君、観光の人か?従士隊が動くわけないだろう。――『武器を使っていないんだから』」
「は――――!?」
まるで林檎が木から落ちるのがおかしいと喚く狂人を見るような目で見られた。
そして思い至る。タニングラードにおける絶対法はただ一つ。『武器を持たないこと』――

54 :
「武器さえ使わなければ、何をしても――何を奪っても、誰を傷つけても良いってわけ……?」
狂ってるわ、とクローディアは口の中で呟いた。
外の人はみんなそう言うな、と老紳士は肩を竦めた。
自由な商取引、法に縛られぬ生存権の代償――社会が秩序を保つために不可欠なルールが、ここではいくつも欠如している。
人類が裸で洞穴に暮らしていた時代に、法律が逆行しているのだ……!
「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」
二人へ一つずつ狼煙玉を押し付ける。
魔力を込めれば濃い煙が真っ直ぐ昇る、連絡用のアイテムだ。
念信器でもあれば都合が良かったが、民間には有線念信しか許可されていない。軍用のものと混線するおそれがあるからだ。
「あたしは医院に連絡つけるから」
馬車はいま、昼通りと朝通りとを連絡する辻へと爆走している。
 * * * * * *
なんてことだ。大失態だ。
ギルドへ垂れ込まれた情報から、いま街を騒がせている極悪誘拐集団『黒組』の次の標的が昼通りにあると知り、
これまた独自の情報網から黒組の好みそうなターゲットを見つけ出し、念のために尾けていたはずだった。
結果的には自分の見立ては大正解で、監視対象の片割れは見事に黒組によって拉致されたわけだが――
「捕まえられなきゃ意味ないだろお……!?」
あまりの情けなさに頭を抱えた。
辻のほうで別れた二組の、どちらを追おうか決めあぐねているところを襲撃されたのだ。
たとえ二択でも、片方についていけば良かった。確率は五分五分でも、動かないよりかはマシだ。
いつもいつも土壇場の判断を間違うのが怖くて、結論を先送りにして機会を逃してきた。
30年余りの人生、ずっとそうだった。
実家のコネで良い学校にだって行けたのに、職人にもなりたくて、結局どっちつかずの戦闘職になってしまった。
このままじゃいけないと一念発起して資格をとり、ハンターズギルドに再就職するも生来の優柔不断が再び災いしている始末。
あれほど真剣に学んで身につけた尾行術も、使い所を誤って気付かれているわけだし。
「だが……まだチャンスはあるっ!位置特定の術式はあまり得意じゃないけれど、フットワークには自信があるんだ。
 朝通りのほうに走っていったのはわかってるから、あとはじりじりと捜査網を狭めていって……」
地図を何度も確認しながらぼやく。
黒組は護衛はすがターゲットは絶対にさず傷付けず、身代金を絞りとるタイプの悪党だ。
時間的な猶予はある。だから今は、当面の問題を解決するところからやっていこう。
「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
 尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
 それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」
手に持っていた新聞紙を丸めて棒筒状にし、その上から『硬化』と『加重』の魔術をかける、
長さ一メートルほどの、鉄パイプより強力な棍棒となった新聞紙を構え、死角にいるであろう二人へ忠告する。
「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
 おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」
ウィットにはすべてわかっていた。
娼婦と宝石商の姿をした彼らが――おそらく黒組の一員だろう――が如何に巧妙に偽装しようとも看破していた。
卓越した観察眼と洞察眼、それから術式看破の才を持っているにもかかわらず、行動力のなさで割を食う男であった。
【ファミア・フィン→歩いているところをフィンが馬車に跳ねられる。ファミアごと馬車に連れ込まれて誘拐→『黒組』】
【ロン・ダニー→馬車を追うよう指示。全力疾走する馬車にどうやって追いつけというのかは不明】
【マテリア・スイ→尾行者のほうから勝負をしかけてきた!二重尾行はバレている模様。『黒組』と勘違いされている】

55 :
路地に追い込んだところで私はウィレムを見失いました
幸いなことに化粧粉が続いていたのでそれを目標にしていくことにしましょう
路地裏は薄暗く、先へ進めば進むほど人影が少なくなっていきました
いつなにが飛び出してくるかわかったものではありません
私の貧相な体を狙ったところでどんな得があるというのでしょうか?
暴漢以外にも野犬やその他危険があるか注意深く、ゆっくりと進むことにしましょう
スティレット先輩がずんずんと果敢にも先へ先へと進んでいく
先輩が先へ進む以上、私は無理をして進む必要はないでしょう
自己犠牲の心を私も騎士として見習わなければなりません
>「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」
とある路地の前で止まる先輩
マーカーが終っているというのは話
ここが目的地? いえ、そういうわけでは無さそうです
もし捕まえたのであればウィレムがひょっこりと現れてもいいはずです
そうでないということは、ウィレムの身になにか危機が!
私はいてもたってもいられず飛び出しそうになりました
「ウィ……」
飛び出しそうになった言葉を喉の奥にむりやり押し戻します
しかし、ノイファ女史は動かない
いまは先輩に任せるべきだということなのですか……?
冷静になれ、冷静になるのセフィリア
>『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』
先輩に任せる
そう剣鬼である先輩のほうが私よりも適任にきまっている
適任に決まっていると信じている……
その信頼はものの5歩で砕かれました
>「いたたたたたたたたた汚い!汚い!臭い!」
路地の入り口で逆さ吊りになる当代最強の剣士
正直、失望しました
これで鬼というのは私は認められません!!
>『セフィリアさん聞こえますか?』
怒りが爆発しそうになったのところにアイレル女史のことばがちょうどいい冷却剤になりました
私怨は無用です。今は自分のなすべきことをするのみです
『はい、聞こえます
……了解です』
アイレル女史から語られる小生意気な子供達を騙し討ちにする作戦
まずは囮となったアイレル女史が子供達の気を引くというのです
そのあと私が先輩を救出するという手筈です
踏み込んでいく彼女を遠くから見送ります
襲いかかる子供達の攻撃を一般人的な対処かつダメージを最小限に抑えています
舌を巻くというのはこのことでしょう
どこかの先輩とは大違いです

56 :
アイレル女史が路地奥へと追いやれたとき(わざとではありますが)
いまは敵の子供達はアイレル女史しかみえてない
私の存在など想像もしていないでしょう
>『――目的地に到着しましたよ。』
では、私の出番です
私は静かに近づいて、スティレット先輩の横に立ちました
「ひどい格好ですね。すぐに解放しますね」
耳元に小声で、罵倒しそうになる気持ちをぐっと抑えて
手に持つ串で先輩を吊り上げてる縄を切ります
能力で強化された串とはいえ『切る』というのは簡単なことではないですが、ここは『グラスリッパー』の渾名を見せるところでしょう
串で横なぎに一閃、先輩はボチャリと汚水のたまった水たまりに着水しました
私を失望させた罰です
「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」
私が口の端をあげて、笑顔をみせます
手の早い子供が一人、ずさ袋も振りかぶって襲ってきます
なんと動作の粗雑なことでしょうか……申し訳ないですけど、見せしめになってもらいましょう
私はその男の子の頭の高さまで足をあげ横に振り抜きました
案の定、男の子は横に飛び、壁に叩き付けられました
「他に痛い目を見たい奴はかかってくるといい」
まずは恐怖を見せつけて相手の心を掌握します
恐怖で塗り固められた人間がすることは2通りです
その場から逃げ出すか、無駄に抵抗するかです
退路はありません
出口には私がいます
逆には箱とアイレル女史、前門の虎、後門の狼とはよく言ったものです
だから彼らが向かう先は私がいる路地の入り口
そこまでには罠がいっぱい、もう設置したことも覚えてないでしょうね
さぞ面白い光景が見れることでしょうね
さあ、子供達、運良く罠を抜けたら私の牙をご褒美にあげましょう
(私は先輩より有能なんです)
……子供相手に怨念返しとは、恥ずかしい限りです

57 :
面白くないどころか見てて不快感すら覚える

58 :
【黒組】
『黒組』は営利誘拐を目的に、タニングラードのならず者を集めた組織である。
ならず者と言ってもスラムを始めとした貧民層の人間が貧しさに耐え切れず突発的に走った犯罪者ではない。
タニングラードの『特異性』を利用するために他の街から移り住んできた筋金入りの悪人たちだ。
武器さえ使わなければいかなる犯罪も司直の眼を逃れられる。
工夫次第、がんばり次第でどれだけでも上を目指せるこの街の法律は、彼ら犯罪者にとって黄金郷のものだった。
「突然のご招待、その非礼をお許しいただきたい……。我々は貴女に危害を加えるものでは御座いません。
 貴女のお父様かお母様が我々の提示する条件を飲んで下さりさえすれば、貴女は即日自由の身です」
初めての昼通りでの『狩り』。無事に成功をおさめた仕事の獲物であるファミアに、『黒組』のリーダーは問う。
黒の礼服に黒い外套、黒のハットという黒尽くめの格好が、見事な紳士然とした調和を醸している壮年の男だ。
統一された黒の衣服に、白い肌と色の抜けた髪がコントラストとなって、薄暗い車内でも抜群の存在感をもっている。
ここは馬車の客車。貴族然とした瀟洒な内装と広々とした空間にはいま、リーダーとファミアしかいない。
「我々はこれより朝通りの事務所へと貴女をお連れいたします。
 そこにはソファがあり、ベッドがあり、温かい紅茶と美味しいお菓子、それから退屈のないよう読本なんかもお持ちします。
 貴女にはそちらでごゆるりとお寛ぎ頂きまして、取引が終わるまでの間、お待ちになっていただくことになります。
 ですので、今後についてなにもご心配召される必要は御座いません。そうお構えなさらずとも大丈夫ですぞ」
ワインはお飲みに?とリーダーはファミアへグラスを差し出した。
もう片方の手には西方の国からこの街へ運び込まれた有名な蒸留酒のボトルがある。
帝国内で流通させようと思えば金貨にして20は下らない逸品だ。関税を免除されたこの街では、半額以下で手に入る。
リーダーはボトルの中で揺れるワインの色に何を思い出したのか、ぽつりと呟いた。
「ああ、護衛の方がご心配ですかな?――残念ですが、我々は貴女以外のどんな犠牲も厭いません。
 全力で轢すべく突進し、事実それは成し遂げられました……ご覧になられないほうが良いでしょう。
 我々がやったこととはいえ、あまりに酷い姿です」
五体がきちんと繋がっているのが奇跡なほどに、馬車はしっかり護衛の身体の真芯を捉えていた。
部下が嫌がってろくに生死の確認もしていないが、よしんば生きていたとしてもあの怪我ではどのみち長くはないだろう。
現場には何も残さないのが彼らの流儀、護衛の死体も残さず回収して馬車の荷台に積んである。
「それでは貴女様のお名前、それから身柄を引き受けてくれる方への連絡先を教えていただけますかな――?」
 * * * * * *
「ったくよお、リーダーばっか女の子とお話してズリィーぜ。オレたちはあんな寒い場所にすし詰めだってのによゥ」
『黒組』構成メンバーの一人である盗賊風の男は、追跡の手がないか念の為の監視を申し付けられて詰車から出ていた。
この馬車は馬から始まって御者台、リーダーのいる客車、十数人の部下を待機させた詰車、荷台の順番で連結されている。
盗賊風の男は人後の護りを固めるために、詰車と荷台の間から顔を寒風に晒して後ろを確認していた。
「しかし、轢いちまった護衛もなかなか良い服着てたよな。ありゃ絹織か?もしかしたら装身具も良いのを持ってるかもな。
 リーダーは女のほうにご執心のようだし、護衛のほうからならちょっとばかしちょろまかしてもバレないだろう。
 この街じゃなんでも売れる。盗品でもな。絹織の執事服に装身具なら、売れば二束三文どころじゃないかもしらん」
連結部を伝って荷台に飛び移る。途端、凄まじい揺れに立っていられなくなった。
なんの緩衝措置もしていない鉄の車輪で石畳を走行すればこうなる。居住性を考慮に入れない荷台ならばなおさらだ。
「はいおじゃましますよっよ。お、いるいる、まだ生きてるかな?まあ生きてても喋れねーし、動けねーわな。
 この揺れじゃあ、止血もままならないだろうし、このまま楽にかせてやるのが人情ってもんか。
 お?なんだ、まだ若いガキじゃねえか……恨むなよ、少年っ!」
男は腰に差していた、呑地竜の骨を削って自作した杭を抜き放つ。
馬車の車輪止めに使うという名目で持ち歩いているものだ。その鋭利な先端を、フィンの喉元へ向けて打ち降ろした!

59 :
【黒組:ファミアに身元引受人を問う。部下の一人がフィンに止めを刺そうと杭を打ち下ろす】
【馬車には黒組の十数人の部下が同乗していますが、すべてNPC扱いでOKです】

60 :
そこに数発の凶弾が…!

61 :
>>57
多分戻れないところまで来てるんだろうな

62 :
ロンはフィンに酒を被せてしまってからというもの、
すっかり委縮しきり、ナーゼムとダニーの間で縮こまってしまっていた。
ダニーの頼んだシュークリームを咀嚼し終わった頃。お嬢様、もといファミアがフィンへ語りかける。
>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
>「オッケ。あたしたちも宿にしけこみましょ」
どうやら御開きのようだ。急いで残りのシュークリームを頬につめ、一気に飲み下す。
べったりと頬についたままのクリームを指で掬い舐め取る。汚いと窘められても止める様子はない。
>「そうだ、クローディア……様、ダニー様、ロン様、ナーゼム様……えーと……」
>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
>「ばっっっっかじゃないのっ!?出会って一時間(という設定)でそういうこと言う?フツー!」
快活な笑顔でしれっと爆弾発言を投下するフィン、それに対し林檎のように頬を紅潮させ罵るクローディア。
その場で(おそらく)言葉の意味を唯一理解できていないロンは、ダニーへと振り返る。
「なあダニー、ナンでクローディアはオコってるんだ?ヘヤのカギをアけてたらナニかあるのか?」
武道に明け暮れていたロンは、「そういった事」とはとんと縁が無い。
故に、クローディアが怒る理由も、ナーゼムの冷たい視線の意味もよく分かっていなかった。
また自分も、ダニーに対しとんでもない質問をしたということにも気づいていない。
よしんば説明されたとしても、難しい顔をして首を捻るだけに終わるだろうが。
唸り声を上げながらフィンの言葉の意味について考えていると、クローディアが振り返って言った。
>「丁度良かったわ!あんたたち、この色ボケ執事が布団に入れてくれるそうだから今夜押しかけたげなさい。
 宿泊費も浮くし、スポンサー様と仲良くなれるし一石二鳥よ!」
「え゛っ」
思わず変な声が出る。ロンはフィンに対し、すっかり苦手意識を持ってしまっていた。
いや、これを機に先の酒を被せた件について弁償を含めた謝罪をするチャンスかもしれないが……。
因みに、クローディアの言った意味も例に漏れず理解しておらず。
「それにしたって、ヒトリヨウのベッドにサンニンもハイるのはムズカしいとオモうんだけどな……」
全くズレたところにツッコミを入れるロンなのであった。
【昼通り】
ファミアとフィンはハンターズギルド、商会は役所を目指し、昼通りを練り歩く。
昼通りといえば、夜通りで会ったあの少年は迷わず自然公園に辿りつけたのだろうか。
酒場で飲んだエールのアルコールが体を巡るお陰か、頬が火照る。
>「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」
辻路に差しかかり、二人とはお別れだという。
そうだ、今の内に言っておかねばと、ロンはフィンになるべく笑顔で、明るい声で言った。
「そ、それじゃあ、またヨルにな!ハナしたいコトもあるし!」
結局、行く事にしたようである。邪な気持ちはなく、きちんと酒場での件の謝罪をし直すつもりでだ。
勿論、本人は誤解を招きかねない発言をしたとは露ほどにも思っていない。

63 :
役所へ向かう最中、ロンの意識は自然と後方へ向いていた。
「やっぱりツけられてるな……」
下手な尾行はロンの警戒心を更に強め、無意識に拳を作っていた。
何が目的なのか定かではないが、自分達に害を為すつもりならそれなりの迎撃するつもりでいた。
タニングラードが武力禁止の街とは知っているが、わが身の安全が一番だ。
クローディアの命令さえあれば、気付かれぬよう接近し、不慮の事故を装って鳩尾に一発でも入れるつもりでいた。
無邪気な子供を装って、辺りを見回す振りをし、尾行の目を探す。
そして、ハンターズギルドのある方、反対側の辻路へと目が向いた時。
突如、悲鳴。馬車が歩道に突っ込んだのだ。 馬車は歩道に居た一人の男を轢き、同時に甲高い悲鳴が上がる。
男が吹き飛ばされる瞬間、ロンは超越した動体視力をもってして、轢かれた男の正体を見ていた。
>「あれ、フィンじゃないの!?」
クローディアが声を上げる。信じたくはなかったが、言われると尚、その男はフィンだと信じざるを得なかった。
医者を呼べ、と言いかけたその時、馬車から人が出てくる。一人二人ではなく、十人以上はいる。
この時点で、ロンの本能が告げていた。今すぐ馬車を追え、でないと――。
お嬢様と執事を乗せた馬車は、見る見る去っていく。明らかに、病院がある方とは全く違う方向へ!
後方で老人とクローディアが口論していたが、耳に入らず、ロンの目は去り行く馬車を睨む。
>「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」
狼煙玉を受け取った瞬間、ロンは駆け出していた。
「そこのバシャ、マったぁーーーーーー!」
待てと言われて待つ馬鹿がいるわけがない。更に馬車は遠ざかる。
人間と馬車、差は歴然としている。だが追わなければ。
スポンサーを失くすのは惜しいし、何より――……目の前でまた誰かを失うのは嫌だった。
血の海に倒れ伏す家族と自分、轢かれたフィンとファミアが、重なってしまったのだ。
「チッ、このままじゃあのクソッタレバシャをトめられん!これモっててくれ!」
おもむろに、ロンは上着を投げ捨て、両手の人差し指で己の足――関節部分を突く。
その瞬間、一瞬だけだが――ロンの足全体を小さな紫電が走り抜けた。
「イくぞ!ゼッタイにトめてみせる!!」
ロンが再び駆けだす。明らかに人が出せる限界速度を超えた、弾丸のようなスピードで!
走るというよりは地を蹴って跳ぶ動作に近く、着地した場所に僅かな電流が走り、数瞬の後に消える。
これが、ロンの遺才――超高圧電撃『電龍』。
自身の体に存在する秘孔と呼ばれる場所に電流を流しこみ、脚部を強化したのだ。
走りの遺才ほどではないが、馬車に追いつくには充分だろう。
「我不放?、坏人!(逃がすか、悪漢め!)」
馬車は昼通りと朝通りを繋ぐ辻を爆走する。それに続くロン。道行く人からすればシュールな光景。
ロンは勝負に出た。強化した脚力で、地面がめり込むほどに地を蹴る。
パフォーマンスで見せた時よりも遥かに高く飛び上がり、馬車の上へと猫のように着地。
連絡用の狼煙玉を上げようとし、ふと思い立つ。
濃い煙を噴出するこの狼煙玉、狭い室内に放り込めばどうなるだろうか。
「(百聞は一見に如かず、だな)」
顔に似合わない黒い笑みを浮かべ、狼煙玉をぶちこむべく、それを持つ右手を振り上げた!
【お子様にセクハラ発言は意味をなしていない様子】
【遺才発動、脚部を強化し馬車に飛び乗る、狼煙玉を馬車に投げ入れての混乱を企む】

64 :
>『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
 店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』
>『マテリア、動けるか?俺はいつでも良い。』
『了解です。じゃあ、私は一足先に店を出ていますね』
都合八名が同時に店を出たりしたら、不自然なんてものではない。
マテリアは口元を抑えていた右手を離して、立ち上がった。
半死半生の体を装いつつ店主に代金を払って出口へ向かう。
>『あ、あのな、無茶はするなよ。本当に気持ち悪かったら言ってくれ』
『あはは、だ〜いじょうぶですよぉ。お仕事ですから、使い物にならなくなるまで飲んだりはしてませ……』
言い終える直前、足がふらついて柱にしたたかに頭をぶつけた。
鈍い音が店中に響いて同情の、或いは残念な奴を見るような視線がマテリアに集中する。
『……今のはアレですよ。敵を騙すならまず味方からって奴です。別につい飲み過ぎたって訳じゃないんですからね!』
酒で火照っているのか、羞恥心故か、はたまたそれすら演技なのか、
仄かに赤く染まった頬を両手で抑えて、捨て台詞を残しつつマテリアは店を出た。
途端に鋭い寒気が全身を包む。火照った体にはそれがかえって心地よく感じられた。
白い息を吐きながら、通りを歩く。
酒場からそう遠くない商店を冷やかして回りながら、ファミア達が出てくるのを待った。
――何故、ファミア達に尾行が付いているのか。
聞き覚えのない心音だったが、昼間のパフォーマンスの噂を後から聞きつけてきたのかもしれない。
はたまた危機意識の低そうな観光客、余所者を狙った誘拐目的か。
この状況で最悪なのは作戦内容が漏洩している場合だが、それなら尾行などと回りくどい真似はしないだろう。
どうあれ、判断材料が少な過ぎる。何を考えても憶測の域を出ない。
ならば諦めて、賢い愚者となるべきだ。尾行の正体を看破すれば、全て明らかになる。
その事だけを考えて、命令に忠実な兵士になるのだ。
そう結論づけて、巡らせていた思考を断ち切る。
露店の髪飾りが似合うかどうかを手鏡で確認する仕草を装い、酒場の入り口を確認した。
丁度ファミアとフィン、クローディア一行が店を出るのが見えた。すぐ後を追って、尾行者も店を出ていった。
銀貨三枚で髪飾りと堅木製の小物入れを買うと、マテリアは更に何かを買おうか悩んでみせる。
いかにも足りない頭で考え込んでいるように、右手を口元へ――遺才を発動。
「スイさん、私は音で奴を追います。直接追うのはお任せ出来ますか?」
別の髪飾りを手に取り、鏡で確かめる仕草で右手を耳元へ――超聴覚が発動する。
足音、心音、呼吸音、尾行者が発する全ての音を漏らさず聞き取り、視覚に頼らない尾行が可能となった。
尾行者はファミア達から常に一定の距離を保っている。
かと思いきや、不意に尾行者の足が止まった。同時に心音と呼吸が乱れる。
ファミア達とクローディア一行がそれぞれ別の道へ別れたのだ。
――どちらが尾行対象か、厳密には決めていなかったとでも言うのか。
となると判断基準は単純に『金持ちそうか否か』『余所者か否か』と言った辺りか。
これは誘拐犯の線が濃厚そうだ。
マテリアがそう判断して――はたと、フィンへと迫る凶暴な音に気が付いた。
ゴーレムの脚部が、車輪が、石畳を荒々しく叩く音。
猛烈な勢いで走る馬車がフィン目掛けて爆進している。
尾行者の音と思考に集中し過ぎて、気付くのが遅れた。
表情が凍り付くのを辛うじて堪えて、だが可及的速やかに右手を口元へ――

65 :
「ハンプティさん、後ろ!」
届けられたのはたった一言――直後に荒々しい衝突音が、遺才を介するまでもなく聞こえてきた。
マテリアの声は精々、フィンに一瞬間ほどの猶予しかもたらせなかっただろう。
失態だ、とマテリアは内心で歯噛みする。
フィンの心音はまだ聞こえている。
酷く乱れているが、静まってしまうよりかは遥かにマシだった。
負傷の程度は音だけでは分からない。
出血の有無や呼吸音を聞き続ければ推察は出来るが、フィンにばかり気を割いていては二重尾行が疎かになる。
なにより怪我がどれほどか分かったところで、彼女には処置のしようがない。
フィンの遺才がマテリアル無しでも彼の命を救ってくれるよう、祈るしかなかった。
>「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」
クローディアが指示を飛ばすのが聞こえた。
マテリアの遺才なら猛進する馬車の走行音を聞き取り、進路を追跡出来る。
案内役を買って出るべきだ。馬車を追う二人に声を飛ばそうとして、
>「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
  尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
  それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」
不意に通りに響き渡った叫び声に出鼻を挫かれた。
思わず息を呑む。
>「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
  おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」
二重尾行がバレていた。それどころか職業の偽装すら見抜かれている。
一体何故か、振る舞いや僅かな視線のやり取りから気付かれたのか。
或いは秘匿念信すら察知出来るほどの術才を男が持っていたのか――違う、今考えるべき事はそうではない。
この事態に対してどうすればいいか、だ。
マテリアは頭を軽く左右に振り、即座に思考の歯車を切り替えて、加速させる。
通りにはまだ大勢の人がいる。既に観衆の視線はマテリアに集まってしまっていた。
戦闘など論外だ。逃げたとしても噂が残る。あの娼婦と宝石商は身分を偽っているらしいと。
大多数の人間は下らないと一笑に付すだろう、しかし後々に致命傷へと繋がりかねない噂が。
だが、このウィットという男は、一つ勘違いをしている。
マテリア達は確かにウィットを尾行していたし、職業も偽っている。
けれども断じて誘拐犯ではない。
恐らくはその『誘拐犯』を追っている内に、怪しい人物――自分達を見つけて誤認したのだろうとマテリアは察する。
ならば、それを利用すればいい。
「……しょ、娼婦ってもしかして私の事ですかぁ?尾行だなんて、私、そんな事してませんよぉ〜」
周囲の視線を感じて始めて気付いたといった調子で、怯えた演技を始める。
それに交えて両手で口を抑えた。
「そう、ハズレだよ。ハズレもハズレ、大ハズレだ。尾行者はこの僕さ。
 まんまと正体を明かしてくれたね。おかげで、後は君を始末するだけだ」
声を飛ばす。ウィットの背後から、彼だけが聞こえる囁きを。

66 :
「いえいえ何を仰る。私こそが尾行者ですよ。そこのところ、誤解なきようお願いしますぞ」
「違うわ!私が尾行者よ!ふふん、まんまと騙されたようね!」
ウィットからすれば周囲の人間が発しているようにしか聞こえない声を、何度も放つ。
容疑者を増やす事が目的だ。ウィットが大勢に疑いの目を向ければ、その分マテリア達への客観的な疑念は薄まり、彼の言葉からは信憑性が失われる。
ようするにマテリアは情報撹乱をもって、ウィットを妄想癖で幻聴まで聞こえる異常者に仕立て上げるつもりなのだ。
「それに、誘拐犯だとか……意味が分かんないですよぉ……。
 なんで私がそんな恐ろしい事……そ、そもそも……私は今日ここに来たばかりなのに。
 そんなのあり得ないじゃないですかぁ……。せっかくお休み貰って旅行に来たのに、なんでこんな……う、うえぇん……」
跪き、いかにも訳が分からない恐怖に呑まれて、といった風体で泣き出した。
入国審査でも取り上げられる事のない、女の最大の武器を見せる。
同時に両手で顔を覆って、再び声を飛ばした。
「あーあー泣かせた。まったく罪な男だねお前さん、誘拐犯はこの俺だってのになぁ」
「いい加減嘘を吐くのはやめましょう。私が誘拐犯です。まあ、それも嘘ですけどね」
「もう皆誘拐犯って事でいいんじゃないかな?ほら、仲良くこいつを始末しようじゃないか」
変幻自在の音声で、刃が鞘の内側を滑る音を奏でる。
弓が限界まで引き絞られる音を。
背後から何者かが歩み寄ってくる音を。
ウィットが警戒する素振りを見せれば、それは異常者が一人相撲をしているようにしか見えない。
「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」
秘かに、視線をスイへと向けた。
ウィットがマテリアの目論見通りに異常者の振る舞いを見せたのなら、
スイは泣いている娼婦を守る為という大義名分の下に彼を打ちのめせる筈だ。
旅の宝石商ならば護身術の一つや二つ身に付けていても、不自然ではない。
遠慮なく戦う事が出来る。
「なんだか誤解があるみたいですけど……まずは大人しくなってもらいましょう。
 これ以上騒がれても面倒ですし、やっちゃって下さい」
泣き声から打って変わって平静極まる声色で、遺才を用いてスイへ秘かにそう告げた。
これで思惑通りにいけばそれでよし。
もしも余計に厄介な事を口走り出したら――その時は『口封じ』をするしかない。

67 :
レギオン兵100名と
敵軍兵士たちが
撃ち合いをはじめた・・・・・・・・・・・・

68 :
もう少し大きければ赤子の湯浴みにすら使えそうなジョッキが、ようやく空になりました。
卓に付いている他の面々のジョッキや皿もそれぞれ中身が無くなっています。
消えた先が胃の中ではなく顔面だったり頭上だったりするのはこの際あまり気にしないほうが良いでしょう。
エールを浴びせかけられたフィンはというと意に介した風もなく、
髪をかき上げて水気を飛ばしつつ、いかにも執事然としてファミアに手を差し出します。
滴ってるのがお酒でもイケメンはイケメンなようです。
「うー」
ファミアは呻きながら手を重ねて、それを支えに椅子から滑り降りました。
お酒に弱い方ではないのですが、それにしても短時間で一気に飲み過ぎたようです。
忙しい時期柄、救急隊の方々に迷惑をかけないように気を付けたいものですね。
>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
> 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
>「それにしたって、ヒトリヨウのベッドにサンニンもハイるのはムズカしいとオモうんだけどな……」
「あー、それなら私もご一緒させてもらおうかなー……」
変な風に血の巡っている頭で飛び交っている言葉を捉えたファミアは、特に何を意識するでもなく口を滑らせました。
北国の、特に古い城館住まいなら、暖を取るために一つの寝台で寝ることは魔導機器の発達した今でもそう珍しくありません。
もちろん『そういう』のではない意味がこもっていることには全く思い当たっていない上での発言ですが。
クローディアが何やらわめきたてているものの、ファミアにはなんのことやらさっぱり。
店を出ると、湿った冷風が頬を撫でて、幾らかは酔いを覚ましてくれました。
払いを終えて出てきたフィンの手を握って昼通りを抜けてゆきます。
いくつめかの辻でクローディアが足を止めて、別れを告げました。
>「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」
「はーい、今夜お待ちしてます」
酒が抜けていないのかネジが抜けているのか、あるいは両方か。
まあ、どこに泊まるか実際には教えていないので実現する可能性もありませんけれど。
クローディア商会一行に手を振って別れを告げ、逆の手をフィンに引かれてハンターズギルドの方へと歩を進めていきます。
歩いている内に、完全に忘れ去っていた尾行者のことを思いだして、後続の二人へ確認しようと足を止めました。
次の瞬間、フィンが馬になっていました。
さっきまで自分の隣にいたのがフィンで、今隣りにいるのが馬なのだからそういうことでしょう。
少なくとも酔っぱらいにとっては実に自然な解釈です。
さて、ではまず課長に事の次第を報告した上でこの馬の処遇を考えなくてはなりません。
馬とチームを組んで任務を遂行するのは少々難しそうだからです。
ここからでは念信は届かないでしょうが、試すだけは試しておこうとした矢先、
脇に手が差し入れられてひょいと持ちあげられて、豪奢なキャリッジの中に放り込まれました。

69 :
>「突然のご招待、その非礼をお許しいただきたい……。我々は貴女に危害を加えるものでは御座いません。
> 貴女のお父様かお母様が我々の提示する条件を飲んで下さりさえすれば、貴女は即日自由の身です」
「あ、はい、ご丁寧にどうも」
客車の中には男が一人。状況が飲み込めないので、指し出されたワインを代わりに飲みながら話を聞きます。
>「ああ、護衛の方がご心配ですかな?――残念ですが、我々は貴女以外のどんな犠牲も厭いません。
> 全力で轢すべく突進し、事実それは成し遂げられました……ご覧になられないほうが良いでしょう。
> 我々がやったこととはいえ、あまりに酷い姿です」
そこまで話が及んで、ようやくフィンは馬になったわけではなかったのだと理解できました。
それから、やっと全体の状況が腑に落ちました。
どうも営利目的で誘拐されたようです。
(馬車は一台だった?この人以外には何人いた? ――だめだ、全っ然覚えてない……)
脳味噌を精神的にこねくり回してみてもなんにも出て来ませんでした。
覚えていないのはもうしょうがないので、目の前の事柄だけを整理します。
さしあたって車内にはファミアと人さらいの頭領だけ。ミトンはつけっぱなし。
(あ、いける)
それを認識したあとの半秒で、壁をぶち破って外へ飛び出してそのまま転がって衝撃を吸収しつつ
最終的には勢いを利用してすっと立ち上がり、何事もなかったように埃を払って歩み去るところまで明確にイメージ。
さっそく思い描いた軌道を身体にトレースさせるべく力を入れかけたところで、一つ忘れていることに気が付きます。
(ハンプティさんどうしよう!確かミンチよりもひどいって……)
若干記憶に混乱が生じていますが、おおむね間違ってはいないのでよしとしておいてください。
さて、フィンがマテリアルの持ち込みに成功していたかはファミアは確認していません。
仮にも隊を預かる身としてはやってはいけない初歩的なミスです。
こういう場合はとりあえず悪い方を想定して動くものですが、
そうなると一刻も早くフィンを医者に見せる必要があるという結論が導き出されます。
先に一人で脱出してから後でフィンを奪還するべきか、
連れて離脱すべきかと思い悩むファミアの目前で、馬車の窓から転がり込んでくるものが一つ。
それはファミアと男のちょうど真ん中辺りまで来て、ものすごい勢いで煙を吐き出し始めました。
言うまでもなくロンが投げ込んだ狼煙玉ですが、もちろんファミアはそんなことは知りません。
豪奢で広々とした車内、とは言うもののそれはあくまでも馬車としてはの話。ワルツが踊れるほどというわけではありません。
当然、即座に煙が充満します。
目と喉を焼く白煙の刺激に酔いも思考も吹っ飛んだファミアは、咳き込みながらもとにかく外気を吸おうと壁を一撃。
遺才で強化された腕力はたやすく壁を破り、勢いで車外に転がり出てしまいました。
そこで服が壁の穴に引っかかって、おかげで地面とのキスは避けられたものの、地上一インチの所で宙吊りに。
服の前後の裾を抑えなくてはいけないので両手は使えません。なので、よじ登るのはほぼ不可能。
こんな状況なんだし下着くらい見えても、という意見もあるでしょうが、尊厳も大事です。
しかしながら、後続の馬車に轢き潰される可能性があるので飛び降りるのも出来れば避けたいところ。
そこで少し横を向くと、連結部が見えます。
連結部を破壊する→後続の速度が落ちる→飛び降りても安全
「……えいっ!」
勝利の方程式を導き出したファミアは、ためらうことなくそこへ頭突きを繰り返しました。
【領域死守】

70 :
酒場からでると、店の中から鈍い音が聞こえた気がして振り返る。
>『……今のはアレですよ。敵を騙すならまず味方からって奴です。別につい飲み過ぎたって訳じゃないんですからね!』
いや、あきらかに飲み過ぎだろう、というツッコミは心の中で呟いておく。
別の店に入り、ファミア達が出てくるのを待った。
一応買い物でもしておくか、と思い店の奥にいた老婆に話しかけた。
「すまない。強度の強い糸などは無いだろうか?」
老婆が薦めてきた糸を購入し、尾行者が酒場から出てきたのを確認する。
>「スイさん、私は音で奴を追います。直接追うのはお任せ出来ますか?」
『了解した。』
足音と気配を消して走りだす。
裏路地に入り、勢いをつけて跳躍。
屋根の上に無事着地すると、人に見つからない道を通って尾行者を追った。
屋根の上にわざわざ登ったのは、いつでも異才が発動できる様にだ。
あのような人混みで発動しては大惨事になりかねない。
>「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
  尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
  それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」
「気付かれている時点でお前も…赤点?、とかいうやつだろ」
スイはそうぼそりと呟き、眺めた。
>「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
  おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」
そこまでは読み取れたのか、と感心する。
さて、どうしようか。
このままノコノコと出て行くにしても、頭の悪い自分は上手く受け答えが出来る気がしない。
>「……しょ、娼婦ってもしかして私の事ですかぁ?尾行だなんて、私、そんな事してませんよぉ〜」
ウィット、とか言っていた男の視線がマテリアに逸れた隙に地上に飛び下りる。
群集の後ろに着地し、様子を伺った。
何に惑わされているのか、キョロキョロと相手の視線が彷徨っていた。

71 :
>「それに、誘拐犯だとか……意味が分かんないですよぉ……。
 なんで私がそんな恐ろしい事……そ、そもそも……私は今日ここに来たばかりなのに。
 そんなのあり得ないじゃないですかぁ……。せっかくお休み貰って旅行に来たのに、なんでこんな……う、うえぇん……」
>「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」
マテリアの零した台詞にスイは反応した。
即座にマテリアの考えたことを理解し、ゆっくりと人混みを掻き分けながら、前へと進んだ。
>「なんだか誤解があるみたいですけど……まずは大人しくなってもらいましょう。
 これ以上騒がれても面倒ですし、やっちゃって下さい」
『これで動きやすくなった、感謝する。取り敢えず目立たないところに連れて行く、という方針で行こうと思う。』
そう念信を飛ばした後、一番前にと出る。
「おや、お嬢さんを泣かせるとは。」
そう言って、マテリアの手を取り、自分の後ろに隠すように出来るだけ優しく引っぱった。
安心させるように笑顔を向け、ウィットに向きなおる。
「女性は大切に扱う方ですよ?それをそんな武器を持って…。」
瞬時にウィットに近付き、手首を捻り上げる。
「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」
出来るだけ声音を大人しいトーンで言うが、よくよく見れば、棍棒のような武器には先程購入した糸が絡み付いている。
それは例え反撃に遭おうと、武器を奪うことを暗に告げていた。

72 :
>>71
カチャ…
ドボンドボン!!
(ゲリラがスイにジャンプしながら重力弾を撃ち続ける)

73 :
シュークリームを顔にぶちまけられたロンが怒ってエールを掴む。
やはり袖の下より直に言った方が早い、正直が一番だ。
そう思って見ていると、振り上げられたエールはすっぽ抜けるとフィンにかかり、ロンは只管謝り倒した。
しょんぼりした彼の様子を見ると流石に悪かったと謝ったが後の祭りだった。
まあそれはそれ、これはこれだ。一通り食べ終わった所で口を拭いていると、
話も終わったのか、ファミアの言葉にフィンが締めの言葉を注いだ。
>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
ダニーの中で晩飯のオーダーが決まった。僥倖である。
やはり寒いと人肌が恋しくなるものなのか。常夏の海岸は開放感に駆られ、
春と秋とは言わずもがなだ、これでは類人猿を笑えない。
まあそれはそれ、これはこれだ。折角のご好意、据え膳からのご相伴に預からない理由はない。
ダニーが疼く己の獣欲を窘める隣で、社長がぷりぷりと怒っている。
やはり刺激が強かったかと苦笑する。
>「なあダニー、ナンでクローディアはオコってるんだ?ヘヤのカギをアけてたらナニかあるのか?」
不意にロンが不思議そうな顔で聞いてくる。
「・・・・・・・・・」
"ナニ"があるんだろうなあ、とイントネーションを変えてダニー。
顔は向けずに視線は遠くを見つめたままだ。
幸い、顔を真っ赤にしたクローディアから文字通りのGOサインが出たことで最後の障害は消えた。
ナーゼムもロンも来る気配はない。残すはファミアだけだったが、
>「あー、それなら私もご一緒させてもらおうかなー……」
元気があって大変結構。今日は良き日だ。
上々の気分で酒場を後にすると、目的地へ向かい歩き出す。
これだけ良い事続きだとそろそろ邪魔が来るだろうと彼女は気を引き締める。
人生で禍福は概ね2対1と1対2の割合で繰り返す。となればもう来る頃だろう。
そして、途中でフィン達と離れてからすぐに往来から悲鳴が響き渡る。
来たかと身構えるが、予想外にも、巻き込まれたのはたった今別れたばかりの二人。
しかもフィンは轢かれ、ファミアは誘拐されてしまったらしい。

74 :
そっち方面かと内心毒づきながらダニーは周囲を見渡す。この騒動で動揺していない人間を
探そうかと考えたのだが、アテは外れた。有体に言えば多すぎたのだ。
はっきりと動揺するよそ者と、我関せずの現地人。舌打ちしながら向き直ると、
馬車はもうそこにはいなかった。
>「おいおい君、観光の人か?従士隊が動くわけないだろう。――『武器を使っていないんだから』」
>「武器さえ使わなければ、何をしても――何を奪っても、誰を傷つけても良いってわけ……?」
(・・・・・・)
俺向きの街だな、とダニーは思った。ありのままの暴力で蹂躙していいことは
今の会話でなんとなく分かった。あとは実戦するだけだ。
クローディアが馬車を追うよう、二人に狼煙玉を手渡す。
ダニーもこのまま食いっ逸れるのは御免だった。
「・・・」
そっちも気を付けろよ、とクローディアに警戒を促すとロンを追って彼女も駆ける。
相方は既に遠く離れており、急いで後に続く。むくつけき淑女は若き武芸者の
走る姿を思い出す。
不謹慎ではあるが、彼女は感心した。アレが彼の本気というものなのか。
少なくとも火傷の一つは期待できそうだ。無意識に、顔に獰猛な薄笑が浮かぶ。
今は目的を優先しなければいけないが、新たな欲求が僅かに首をもたげる。
ロンに遅れることしばし、周囲から人の気配が減り始める。
ダニーは走るというより跳ねると呼んだほうがしっくりくるような足の運びで追従した。
想像するなら肉食獣よりも草食獣に近い。
ようやく馬車を視界に捉え始めた時には、馬車の屋根から黒い煙が上がっているのが少しだけ見えた。
追いつくにはもう少しかかってしまうだろう。ダニーはどうするのがいいか思案する。
ふと目に映った、路上に落ちていた酒瓶を拾うと、おもむろに馬車の車輪に投げつけた。
勢い良く放たれたそれは荷台に当たりけたたましい音を立てて砕け散る。
追いつくより投げたほうが早い。そのことに気づいたダニーは距離を保ちながら、
その辺の石やら何やらを片っ端から馬車の車輪に投げつけ始めた。
【追っかけながら馬車に投擲】

75 :
後ろからsラが馬車とダニーにでっかい石を投石

76 :
>「貴女の声が聞こえて、慌てて追いかけてきましたけど……一体どういう状況です、これ?」
路地裏、先んじて罠にかかった『カモ女』を発見して、偶然そこを通りがかった修道女が入ってくる。
息を潜めて隠れ、一部始終を見守っていたフラウは密かに唇を舐めた。
今日はついてる。まるで友釣り漁か芋蔓の収穫だ。カモがカモを呼び寄せた!
「お、お財布盗られて……一緒に追いかけてくれたひとがこの向こうで行方ふめいに!」
>「ロープは解けそうもないですねえ……、切らないと駄目でしょうか。」
カモ女と修道女はロープ相手に四苦八苦、こちらの動向には目もくれない。
"おじさん"に教えてもらったハンドサインで、子供たちに支持を出す。
囲んでボコれ。
>「きゃんっ!?」
しかしフラウが号令をかけるまでもなく、修道女は路地裏の奥へと入って罠にかかった。
敷いておいた陣に一定の圧力がかかると、敷設した地面を陥没させるおじさん仕込みの術式だ。
子供たちの中でも最年長のフラウでさえ詳しい原理はわからない。ただ、言われたとおりに魔力を注いだ結果が目の前の"これ"だ。
(フラウ!あのシスターさいふおとした!)
(待て、まだ出るなっ!)
修道女のポーチから落ちた財布を見て、興奮を抑え切れなくなった子供たちの一部が物陰から飛び出した。
前もって打ち合わせたとおりに多方向から畳み掛けるような連撃。お手製の武器はスラムのゴミ箱から拾って作ったものだ。
子供の膂力とはいえ、角材や袋棍などで打撃されればたまったものじゃないシスターは、悲鳴を上げながら路地裏の奥へと逃げていく。
想定外だが結果オーライだ。修道女はどんどん、フラウ達のいる場所へと追い詰められていく。
後退を続ける靴の踵が、こつりと空箱を蹴った。行き止まりだ。
(あの箱の下、そういえばカモの仲間が埋まったままだったよな……)
(フラウ、おいつめたよ。しかける?)
(よしっ、全員かかれ――)
「あいたぁー!」
修道女のものとはまったく別の悲鳴が路地裏に木霊した。
みれば、逆さ吊りになっていたはずのカモ女のロープが切れ、頭から水たまりに突っ込んでいる。
ではなぜそんなことになっているかと言えば、ロープを斬った奴がすぐ傍にいたのだ――
>「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
 そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」
にぃ……、と強い笑みを見せるのは大道芸人風の女。
ただ笑っているだけなのに、発せられるプレッシャーが風のようにフラウ達の頬を打った。
否、具体的には女からの威圧ではない。その両手に握った串から発せられる『化物』染みた魔力の波濤である。
(な、なんだぁ、あいつ……いつの間に入ってきやがった……!?)
その威嚇に負けんと、修道女を追い詰める役だった子供の一人がズサ袋を振りかぶる。
瞬間、大道芸人から蹴り足が伸びてきた。一瞬でズサ袋の子供の顔面を痛打。鼻血をぶちまけながら路地裏を転がっていく。

77 :
「ライル!」
仲間が一撃で沈められた衝撃に、平然とそれを為した下手人への怒りが混じって、フラウは思わず物陰から飛び出していた。
幸いに見た目よりも怪我は浅いようだが、戦いの経験などそうはない子供たちにパニックを引き起こすには十分すぎた。
「「「うわああああああ!!!!」」」
駄目押しのこの一言で、辛うじて統率を保っていた子供たちの心が一気に決壊した。
死ぬのは嫌だ殴られるのは嫌だと、所詮"おじさん"のにわか仕込みでしかない子供たちに高潔な戦士の在り様を求めるのは酷だ。
実働部隊でない者も含め十数人にも及ぶ子供たちが我先にと路地裏から逃げ出そうとし――
「っ!馬鹿!そっちには罠が――」
フラウの忠告虚しく、落とし穴、吊り縄、トラバサミ、落とし籠、草結び……などなど。
――全員、自らの仕掛けた罠によって地面あるいは壁へと磔になってしまったのだった。
(くそ、なんでこんなことに……なんでみんな路地裏の奥に逃げないんだ?)
フラウは自分の逃げようとした方向へ目を遣って、気付く。
先ほど追い詰めたはずの修道女は、さっきまでの怯えた表情はどこへやら、したり顔でフラウの前に立ちはだかっていたのだ。
まさか、追い詰めたというのはこちらの勘違いて。初めからこうするのが狙いだったのか。
(ハメられた――!!)
なんという狡猾さ。チョロいと思ったことから全てが間違いだった。
劣勢の振りをして、着々と逃げ場を塞ぎ、状況の外堀を気付かれないよう埋めていく――
大人のやり方だ。
「お、大人って汚ねぇー……」
思わず呟いてしまったフラウの背後から、大道芸人の声が聞こえた。
>「他に痛い目を見たい奴はかかってくるといい」
「これが大人のやることかよーっ!?」
修道女はともかく。こっちの大道芸人がやったことと言えば、ガキ相手にマジ蹴り食らわせただけである。
先に手を出したのはこっちとはいえ、歯向かう子供に鼻血出すほどの本気キックで制圧するドヤ顔の大道芸人がそこにいた。
大人って汚い。
「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?
 別に子供蹴たぐるためってわけじゃないよな。子供蹴るためだけに路地裏に来る大人なんていないもんな。
 いや、いるにはいるけど……あんたらはそういう人種じゃないだろ?」
一人になったフラウは、いま、生き残るために何をすべきか必死で頭を回転させていた。
このままでは全員されるか。良くても顔面マジ蹴りは人生において本当に避けたいことの一つだ。
どうにかこの二人の制圧者を出し抜き、全員で逃げ出す算段をしなくちゃならない。
(あの大道芸人……両手の串だけ"色"が違うんだよな……)
フラウは、魔力の波長を"色"として捉える眼力を持っていた。
魔法を専門的に修めた魔法使いが、熟練の果てに区別のつく魔力の"空気感"とも言うべきものを、はっきり区別することができた。
これはフラウがこれまで会った人の中でも自分だけが持つ特別な才能であり、彼女はこれを駆使してこれまで生き残ってきた。
魔力の色を見れば、相手がどんな状態にあるかがだいたい分かる――油断しているタイミングを、正確に突ける。
ことこの大道芸人においては油断も隙もありゃしないが、代わりに魔力的な特異点が両手の中に見えた。

78 :
(あの串が何か、特別な武器なんだとしたら……奪えば勝てる!)
魔力を集中させている武器を取り落とさせられれば、相手は何が何でも拾いにいくだろう。
それは対峙する者にとって絶好の隙。不意を打てば必ず、有効打を入れられるだろう。
だとすれば問題は後ろ――鉄壁の"色"を誇る修道女。
乱れまくってるカモ女や、ムラのある芸人とは異なり、この女は恐ろしいまでに『揺らがない』。
まるでいつでもどうぞと言わんばかりの自信と余裕……それを裏付ける仲間への信頼と己への自負。
武人としてこれ以上ないほどに高く完成した色を持っていた。
「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
 ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」
状況を動かすためにフラウがとった戦術は、正直に全てを話すことだった。
現在彼女たちを縛っている逼迫した現状を、偽りなく話すことで、同情と動揺を誘ったのだ。
フラウは知っていた。大人はこういう話に弱いと。
"おじさん"がそうだったから。
「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
 正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」
言って、しまったと思った。こんなことまで話す必要なんかなかった。
こんな現実味のないプランを自慢気に話したところで、見立てが甘すぎると説教をくらうだけだ。
それでも、ちまちまスリをやった稼ぎで買える代物ではないことは確かなのだ。
「なにせ、商人の街タニングラードの裏名物……『白組』の盗品競り市に参加しなくちゃならないんだから!」
最後に語調を強めたのは、力む必要があったから。ここだ、と判断したフラウは思いっきり足を振り上げた。
靴に繋ぎ、足元から這わせていた"難視"の施術済みワイヤーが勢い良く引っ張られ、もう片方に繋いだ楔を抜き飛ばす。
すると空の木箱でつくられた山が、修道女のほうへ向かって一気に崩れ落ちてきた。
同時、フラウは路地裏の片隅に捨てられたロープを投げる。
ひゅるひゅると放物線を描いて伸びたロープは、芸人の傍の壁にべちゃりと当たり――壁に仕込んであった『吸着』が発動。
もともとトラップ用につくられた仕掛けをロープを介して遠隔起動したのだ。ロープが壁に吸着された。
「やれ、ビリー!」
大道芸人の傍で陥没術式に嵌っていた少年が、懐から瓶を取り出して地面に叩きつける。
途端、ミルクのように濃厚な煙がもうもうと上がって、大道芸人の視界を一寸先まで白く染め上げる。
この濃霧はおじさん謹製の特別調合煙幕で、人体に害はないかわりに視界保護の術式でも数秒は目眩ませる性能を持つ。
こちらの視界もゼロになるのがまったく致命的な難点だが、フラウは芸人の傍に吸着させたロープを目印に走る。
通常、煙幕に巻かれた人間がどのような行動をとるか――まず煙が毒であることを懸念して呼吸を止める。
その上で、煙から眼を保護しつつ視界を確保するために、『必ずどちらかの手で顔を覆う』。
大道芸人の立ち位置はすでに記憶済み、一寸先も見えない煙の向こうで、顔があるであろう位置へ向かって蹴りを打ち込んだ。
この年代の少女にしては肉付きの芳しくない細脚から、繰り出されるのは鞭のようなソバット。
当たったところで人体に与えるダメージはたかが知れているが、手に持つものを弾き飛ばすのに十分な威力を持っている。
うまくいけば、そのまま連撃をもって制圧するつもりだ。
【『路地裏の子供たち』全滅。 新情報→『白組』と呼ばれる盗品オークションが催されるらしい
 フラウ:ノイファに空き箱の雪崩を、セフィリアに煙幕からの武器をはたき落とす一撃を。スティレットは無視
 空き箱の山が崩れたのでウィレムは露出しています】

79 :
タニングラード陥落により
普通に100000人ぐらいのヒトがなだれ込んでる

80 :
このGMっての何なの?

81 :

(がっ、ぎっ……熱……痛……っ……)
赤銅色に暗く輝く火鉢の針を全身に押し付けられでもすれば、これ程の痛みになるのだろうか。
眼前に広がる色は黒。瞼を開く力すら残っておらず、
情報として脳が認識するのは、触覚が伝える、災禍の様に全身を蝕む痛みと呼ぶも生温い激痛。
そして味覚が伝達する口腔一杯に広がった生暖かい吐き気を催す鉄の味のみ。
痛みによって途切れがちになる意識の中フィンは、それでも自分の身に何が起きたのかを把握しようとする。
あの酒場での会談の後、フィンは宿泊関係で何故か赤面し激昂するクローディアやロン、ダニー達と別れ、
酔ったファミアをギルドへと案内する為にその手を引いて歩いていた。
そこまではいい。日常の一環である。
問題はその後……
(ぐあ……あ、ああ。そう、だ。何かが……馬車が、ぶつか、てきて……ぐうっ……)
>「ハンプティさん、後ろ!」
その通りだ。あの瞬間、マテリアの言葉が聞こえた直後。
瞳を後ろへと向けたフィンの間近に、確かに馬車が迫っていた。
事故というレベルではない。致死の速度で、もはや回避不能な地点に馬車が迫っていた。
……ナーゼムやダニーを相手取った経験も有るフィンだ。
マテリアルを持ち込めていたのなら、あの程度の馬車は容易く回避や防御をして見せた事だろう。
だが、その時のフィンは生憎ながらマテリアルを持っていなかった。
執事服へと着替える際に不自然すぎるので、身に付ける事が叶わなかったのだ。
自業自得……といえばそうなのだろう。
徒手空拳でもsラ程度なら撃退できると、
この街を舐めてかかっていたという事も少なからず原因の一つとしてあるに違いない。
かくしてフィンは、為す術も無く暴凶の馬車に轢かれた。
マテリアの言葉により生まれた僅かの時間に出来た行動といえば、
轢かれる寸前に横に居たファミア。彼女が巻き込まれない様に握っていた手を離し、
その身体を軽く押す事くらいだった。
(……そう、か。ファミアは無事、だった、よな……良かっ、たぜ……)
そこまで思い返すと、フィンは状況が全く好転していないにも関わらず、
血まみれの口の端を少し上げて僅かな安堵を見せる。
そうして、咳き込み、肺から僅かしかない空気と共に血の塊を吐き出す。
……
今現在、フィンがこうして生きているのは奇跡としか言い様が無かった。
恐らく骨の数本は砕け、臓器の一部も傷ついている。左手には感覚が無い。
――――だが、それでも生きている。
馬車に轢かれて生きているという、本来は在りえない事が起きたのだ。
だから

82 :
>「はいおじゃましますよっよ。お、いるいる、まだ生きてるかな?まあ生きてても喋れねーし、動けねーわな。
>この揺れじゃあ、止血もままならないだろうし、このまま楽にかせてやるのが人情ってもんか。
>お?なんだ、まだ若いガキじゃねえか……恨むなよ、少年っ!」
(……なん、だよそれ……そんなの、認められ、っか)
奇跡を持ってしても自身が死ぬという現実が変わらないという事。
自分をすであろう相手が悪人であり、恐らくはファミアも危険な目に合っているという事。
(ふ、ざけ……な。俺は、守る、んだ……っ)
そんな運命を知って尚、自身ではなく仲間を助けたいと思い、
継ぎ接ぎの意識の中動かぬ手を伸ばそうとしたのは、いっそ薄気味悪く、欲深すぎる選択だというべきだろう。
故にその先を求めるというのなら
奇跡より先の運命を捻じ曲げる力を望むなら
それを齎す物は神や人ではなく――――
そして、折れたフィンの左腕が黒く染まっていく。
皮膚の表面を艶の無い黒い鎧の様な何かが覆っていき、それは肩までを侵食をする。
それは、以前大切な仲間を奪われた洞窟でフィンの身に起きた現象と同じであった。
ダニーに「気」を注がれた時に発言した謎の力。
今度は肩口までを、まるで何かの呪いの様に覆ったその「黒」は、
動かない筈の左手を「無意識」に無理矢理動かす。
黒い外甲ともいうべき表皮と呑地竜の骨で出来た杭が衝突し、くぐもった衝突音が聞こえる。
直後に外甲が杭に与えた衝撃。そして直後に衝撃の浸透箇所から何かを「奪われた」かの様に
杭はボロボロと自壊を初め――――
そこで、とうとうフィン=ハンプティは意識を失った。
その僅か数秒後に、何者かの手によって馬車内を煙が覆った。
更に、まるで魔法による狙撃でも受けたかの様な、車輪から伝道する馬車の揺れが発生する。
しかしその事を気を失ったフィンが今知る事は無い。
血を流し、浅い呼吸のまま次の場面を迎える事となるであろう。
【フィン:自意識とは関係なく、気(?)の力発動。杭を砕き留めは免れる。
     しかし、失血と痛みのあわせ技によって気絶しました。
     基本的に次のターンの時系列によっては気絶したままという事で
     飛ばして貰っても大丈夫です】

83 :
休んでもいいんじゃよー

84 :
>「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
  そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」
路地裏に凛とした声が響き渡る。
さながら獲物を前にした狂戦士の如く、一心不乱に得物を振り下ろしていた子供達も、ぴたりと動作を止め声の方を振り返る。
声の主は確認するまでもない。
フランベルジェを救出したセフィリアが、次の標的として路地裏の子供達に狙いを定めたのだ。
(ああ、そっか。私は彼女の実力を知ってますけども――)
更なる追っ手の登場に一時は動揺を見せた子供達だが、同年代の女性と比較しても小柄な部類のセフィリアを見て組し易しと判断したのだろう。
あるいは余裕の笑みを見せつけるセフィリアへの単純な反発心からか、とにもかくにも子供の内一人が凶器を振りかぶり突進し――
(――うわっ、痛そう……。まあ自業自得ですけど)
流麗な弧を描いたハイキックを、顔面で受け止め壁に磔に。
水を打ったように静まり返った路地裏に、誰かが息を呑み込む音が妙に生々しく響く。
>「「「うわああああああ!!!!」」」
そこから先はまさに総崩れだった。
思い思いの悲鳴を口に、我先にと子供達が逃げ惑う。
死にたくない、殴られたくない、捕まりたくない。
それぞれが上げる絶叫は、彼ら自身が過去に体験したり目の当たりにしてきた中で、最も悲惨な出来事なのだろう。
そんな目にだけは絶対遭いたくないと死に物狂いで逃走を計っているのだ。
まだ幼い子も見受けられるのにと、純粋に胸が痛んだ。
(……ふむ、あの娘だけ混乱してない)
それはそれとして。
積み上がった空き箱の前、逃げ道を塞ぐように睨みを利かせたノイファは、一人だけ様子の違う少女を見つけていた。
フランベルジェの財布を掏った実行犯。おそらく子供達のリーダー格でもあるのだろう。
自分達で仕掛けた罠に、仲間が次々嵌っていくことに業を煮やしたのか、自ら逃げ道を指し示し――そして視線が交差した。
ひらひらと手を振ってみる。笑顔で。
>「お、大人って汚ねぇー……」
あからさまに肩を落として呟く少女。良い薬になったことだろう。
>「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?――」
「ええ、もちろん子供を蹴るために来たわけじゃあありませんとも。
 ただ――スリを蹴っ飛ばしに馳せ参じたら、偶然それが子供だったというとだけです。」
頬に手を添え、にこりと笑いながら、ノイファは試すように少女を見下ろす。

85 :
>「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
  ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」
(まるで諦めてない、って感じですねえ)
こちらの背後を二回。セフィリアの方へ四回。周囲をくまなく数度。
目の前で今まさに命乞いの真っ最中である少女が、その双眸を鋭くした回数だ。
中でも気になったのは、少女の眼がセフィリアへと向けられた瞬間。
首の傾きと下がった目線。機嫌を伺うなら顔を仰ぐだろうし、隙を突くのなら四肢に注意を向けるはず。
にも関わらず、少女が注視しているのはセフィリアが両手に携える"串"。
傍からすれば半ばでへし折れただけの残骸に過ぎないそれを、驚くでもなく、訝しむでもなく、ひたすらじっと見据えていた。
(まさか"視えている"……なあんてことも無いのでしょうけど)
極々稀ではあるが、魔力を視覚で捉えることが出来る者が居るらしい。
そして遺才も個々が受け継いだ"魔"の因子を源としている以上、大別してしまえば魔力には違いない。
だからもし仮に、魔力を視る事が出来る者ならば遺才の発動を視認することは可能だろう。
しかしそれは、気の遠くなるような魔術の研鑽の果てに、ようやく辿り着けるかどうかという境地だ。
当然、ノイファもそんな芸当は不可能である。
>「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
  正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」
おそらく、少女もこちらが値踏みしていることに、薄々勘付いているのだろう。
重大事を包み隠さず話したのは、下手な言い訳を重ねるよりその方が効果が高いと判っているから。
「……信じましょう――」
はあ、とノイファは腕を組んで嘆息。
少女の瞳は微塵も揺るがない。つまり彼女の言葉に嘘はない。
内心で聞くんじゃなかったと思ったが、もう遅い。聞いた上で無視出来る性分でもなかった。
「――信じてあげますけどね、幾らなんでも計画が杜撰に過ぎやしませんか……。」
今も昔も賭博で大儲けというのは、持たざる者が夢見てやまない、一発逆転の代名詞のようなものだ。
だが誰もが成功するわけではない。失敗する者の方が圧倒的に多いだろう。
とはいえ何の後ろ盾も持たない子供達が、大金を手に入れる方法など、そうそう有るものではない。
「と言うか必要額が分からなくて、なるべくたくさんのお金が必要って……一体どういうことです?」
大人として最大限の譲歩を見せ、少女に問いかける。
それこそが、油断だった――
>「なにせ、商人の街タニングラードの裏名物……『白組』の盗品競り市に参加しなくちゃならないんだから!」
――返って来たのは先程の問いに対する返答と、水面下で仕掛けられていた反撃の仕掛けだった。

86 :
少女の脚が振り上がる。
(あれは……杭?)
靴の先から伸びるワイヤーと、その端につながった楔。
ガコン、と何かが抜け落ちるような、くぐもった音が背後で響く。
「……子供ってズルい――」
二つの状況から予測をたて、呟きと同時に覚悟を決め、恐る恐る後方を振り返る。
先程までそこにあったのは、重なり、積み上がった空の木箱。
「――と言うか、明らかに手打ちの雰囲気ではなかったでしたか!?」
それらが、ノイファの恨みがましい悲鳴に呼応するように、一斉に崩落。
雪崩のように次々と落下してきたのだ。
(あとで絶対におしおきします!)
実に大人気ない決意を胸に秘め、ノイファは即座に思考を切り替える。
落ちてくる箱の全てが、直撃する軌道ではない。
そして自分目掛けて落ちてくる物も、全てが同時に襲い掛かって来るわけでもないのだ。
(先ず最初は――あれですね)
腰を落とし、箱の縁に沿って腕を滑り込ませる。
同時に腕とは逆の脚を軸に、全身を捻って、差し込んだ腕を外へと開いて弾き出す。
見た目のインパクトこそあるが、所詮は空の箱だ。軽く、脆い。
タイミングと勢いさえそれなりに合わせてやれば容易に対処できる。
(まあ、それに一度見てますからね)
場所はウルタール湖。降って来たのは水流と岩石。
その時に眼に焼き付けたフィン=ハンプティの動作。
寸分違わず再現することは到底適わないが、この程度の障害が相手ならば、彼の真似事で十分だった。
頭の中で思いだし、描いた、フィンの動きに追従し、続く空き箱も迎撃していく。
「これで最後っ!」
後ろに引いた軸足を途中で切り替え、半身になった上体をさらに捻る。それを追う様に下半身も。
最後の箱目掛けて、回し蹴りを叩き込む。
飛んでいった空き箱が、崩れず残っていた空き箱の山の底部に突き刺さり――
「――あ。」
下敷きになっていたウィレムもろとも吹き飛ばした。
『あー……、ウィレム君も発見。確保しました。』
フィニッシュの体勢のまま、ノイファは取り合えずセフィリアへ念信を飛ばすのだった。
【ウィレム発見→確保。】

87 :
ウィットは慎重に、打倒すべき悪徳の誘拐犯たちを検分した。
魔術というものが戦いに使われるようになってからこっち、近接戦闘者は常に留意せねばならない2つの事項がある。
狙撃と幻術だ。こちらの意識の届かない場所から攻性魔術を撃たれれば為す術ないし、幻術は言わずもがな。
優れた魔術師が仲間にいればそれら脅威に対する防御魔術の加護を受けられるが、ウィットはただの駆け出しハンターだ。
前の勤め先では常に後衛へ警戒と防護を任せられたが、単身の今ではそうも行かない。ハンターの本分は戦闘ではないのだ。
故に、啖呵を切ったばかりのウィットが攻めあぐねているのは無理からぬことであった。
(だから後の先を獲るために、向こうから攻めてもらおうと挑発したんだが……空振ったかな)
宝石商は棒立ちのまま不動の構え。まるで他人事のように覚めた眼でこちらを注視している。
娼婦に至ってはあらぬ疑いをかけられたと狼狽え始めたときたものだ。
(いや!僕の慧眼に間違いはない!この一ヶ月、ハンターになるため死に物狂いで頑張ったんだ……。
 あの娼婦と宝石商は間違いなくあの金持ちたちを尾行する僕を尾行していた。おそらく、仲間の"仕事"を助けるために!)
最近タニングラードを騒がせている『黒組』について、ウィットは並々ならぬ正義感と狭義心でことにあたっていた。
彼らの手口は悪虐非道、人を人とも思わぬ残虐さと、確固たる目的意識によって統率された精強さを兼ね備えている。
スラム付近で突発的に起きる犯罪ではない。綿密に計画されて及んでいる悪智だ。
ギルドに集った情報によれば、『黒組』は人質をオークションにかけ、その競りに身元引受人を参加させることで、
身代金を吊り上げているらしい。まったく悪党の考える事は破滅的に天才的だ。
(……それに、この街で平和を護れるのは僕たちみたいなハンターだけなんだ)
この街には司法機関として、帝国から派遣された従士隊が駐在している。
しかし彼らはあくまで『法を司る者たち』。担うべき法律の存在しないこの街にあっては飾り物にしかならない。
だがハンターは違う。金銭報酬で何でも請け負うハンターズギルドは、市民からの篤志で治安維持のための予算を捻出している。
ギルド所属のウィットがギルドからの援護を受けて活動できるのも、市民の中に僅かでも平和を望む声があるからだ。
(助けを求める声が聞こえる限り!僕はこの身を正義に捧げる!!それが僕の第二の人生!!!)
――>「まんまと正体を明かしてくれたね。おかげで、後は君を始末するだけだ」
しかし聞こえてきたのは助けを求める声ではなかった。
重なるように、鈴の音が反射するように、事故を見物しに集まり始めた民衆の中から声の礫を投げられる。
>「いえいえ何を仰る。私こそが >「違うわ!私が尾行者よ! >「あーあー泣かせた。まったく罪な男だね
>「いい加減嘘を吐くのはやめましょう。私が誘拐犯です。 >ほら、仲良くこいつを始末しようじゃないか」
「な、な、なんだ? みんな一体、何を言ってるんだ……!?」
全方位から飛んでくる音は、我こそが誘拐犯だと自称する声。
ウィットは風見鶏のように首を何度も回し、しかし声の発生源を見つけることができない。
>「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」
「ぼ、僕がか……!?」
確かに棍棒を持って通りで意味不明なことをわめきたてる中年男性がいたら、怖いかも知れない。
しかしウィットはハンターなのだ。護るべきものを護っている者に対して、一体何ゆえこのような衆声が飛ぶ?
幻術を疑い、首から下げた禍断ちの加護術具を見ても、何の反応も示さない。
帝都の『エクステリア』から直接仕入れた最高級品だ、この期に及んで誤作動とは考えづらい。

88 :
>「おや、お嬢さんを泣かせるとは。」
宝石商だ。呻く娼婦を背に隠して、狭義心を込めた眼でこちらを見る。
やめろ、どうして僕にそんな眼ができる。僕は正義で。お前らは悪じゃないか。
>「女性は大切に扱う方ですよ?それをそんな武器を持って…。」
魔力を伴う風がウィットの頬を叩いた。
一瞬だ。瞬きすら追いつかない速度で、宝石商が目の前に現れた。右腕を捕まれ、捩じ上げられる。
>「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」
「呼んで、来ると思うか……? 従士隊はこの街の人を守らない! お前らが起こしたあの馬車の事故を見たろ!
 あんなに堂々と誘拐が起きているのに、誰も司直を呼ぼうとしない。諦めきった顔で後片付けをするだけだ。
 武器さえ持っていなければ何をしても咎められない、ここはそういう街なんだ! そして僕の持つこれは『ただの新聞紙』……」
ウィットは腕を捩じ上げられたまま、握った新聞紙を手の中で弾く。
丸められていた新聞が広がり、『硬化』の術式を保ったまま一枚の紙となった。
その過程でなにか糸のようなものが紙上にきらりと光ったが、紙に張り付いていたところで今からやることには影響しない。
「――武器じゃないから、何したっていいんだ!!」
広げることで現れた新聞の紙面には、ニュースが書いていなかった。
代わりに紙面を彩るインクの羅列は、術式として呪文をしたためた、『術式陣』――
描いてあるのは、粘着術式だった。
「そしてッ!『女性を大切に扱う』という点については僕も同意見だッ!
 だがお前は女性じゃない――――遠慮無くーーーーっ!!」
粘着紙ごと五指で鷲掴みにするようにして、宝石商の顔面へと紙を押し付けた。
魔力によって生み出された粘着性は皮膚に強く食らいつき、ちょっとやそっとの力じゃ簡単に剥がれないだろう。
破るなどして破壊しようにも『硬化』の術式が生きているのでこれも容易には為し得ない。
さりとて、気にせず放っておくこともできないだろう。宝石商の鼻と口は、隙間なく粘着紙によって封じられている。
ニ三分も放置すれば、窒息――どんなに鍛えていても抗えぬ死がやってくる。
「そして僕は一瞬で距離を詰められるような強者とまともにやりあうつもりはないので、逃げる!」
捨て台詞を残して、ウィットはハンターズギルド方面の人混みへと飛び込んだ。
粘着紙には、『位置送信』の術式もバレないように巧妙に施術してある。
一旦ハンターズギルドまで逃げ帰って、そこから増援を呼んで囲んでボコる方針だ。
逃げる途中で娼婦だけでも確保すべきかと思ったが、今のウィットと同様既に人混みに紛れていたので、諦めた。
この歳で前職を辞め突発的にハンターになったウィットは、とても諦めの良い人物だった。
【マテリアの奇策にビビる。スイの顔面に粘着術付きの新聞紙を貼りつけてハンターズギルド方面へ逃亡】
【粘着紙は『硬化』しており、破って破壊することは困難。剥がすのにも尋常じゃない力が要り、髪の毛も無事じゃすまない。
 また発信機の役割を持つ術式も施されており、放置していればギルドからの増援が来る】

89 :
>「これが大人のやることかよーっ!?」
路地裏に少女の声が悲鳴にも似た絶叫が響きます
さぞかし私のことを悪者と思っていることでしょう
それでも構いません。弱い者からお金を奪うような子達に慈悲は不要です
……ええ、ただのいいわけです。こういった子供達を作らないようにするのが貴族だというのに私は無力です
弱き者で自分の憂さを晴らす、私は最低です
でも、最低の人間でも任務ぐらいはやり遂げてみせます
次々と罠にかかっていく子供達を見ている私はどんな顔をしているのでしょうか?
悲しい顔でしょうか?怒りに満ちた顔でしょうか?それとも……
笑っているのでしょうか?
先ほどまではこの子供達をどう料理しようかと思っていましたが、いまは……なんでしょう?
早くウィレムと先輩を救出して脱出したいです
>「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?
「当たり前だろ?さすがの私も見ず知らずの人たちを助けたりはしないよ。ここに来るときの馬車が一緒だったんだ
それに私は助けられる自身があった。まあ、あんた達には不幸な偶然が重なっちまったって訳だ」
アイレル女史もそこまで深いことを言ってないので嘘の情報を言ってみましたが
白々しい、なんと見え透いた嘘をついているのでしょうか
信じてくれるかは賭けですね。分は良くないと思いますから期待はしませんが
>「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
 ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」
「有り金全部置いていきな。そうすればお考えてやってもいい」
どうして、この子はキョロキョロしているのでしょうか?
逃げ道でも探しているのでしょうか?
気になりますが、優位なのはこちらです。所詮は子供、これ以上なにが出来るというのでしょうか?
「てめぇ!なに、じろじろ見てやがる!」
それにやたらと私を見て来ます。
気になります、非常に気になります
もしやなにか秘策があるのでしょうか?
たしかにこれほど罠を張り巡らせる子供達です、他になにかあってもおかしくはありません
警戒するにこしたことはありません

90 :
>「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
 正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」
>「……信じましょう――」
アイレル女史はまるで聖職者のように語りかけます
いや、聖職者なんでしたか……
「よかったな、ガキ共信じてくれるってよ」
私はこれ以上口は出さずにアイレル女史と彼女達とのやりとりを口出しをしないでおきましょう
なんでも盗品市と言うものが開かれるようです。あとで課長に報告するべきでしょう
などと話を聞いている私は馬鹿です
ええ、ここで私は警戒しておくベキでした。彼女の一挙手一投足にもっと注意を払うべきでした
少女が足を振り上げる
なぜ?そう思ったときには箱がアイレル女史を空き箱が雪崩となって襲います
しかし、私は動きません。いえ、動けないといったほうが正しいでしょう
私の横をロープが通り、そばの壁に張り付いたからです。とっさにそちらに身構えますがなにも起こりません
しまった!ブラフです。再び少女の方に向き直すと白い煙が巻き起こります
ここで私は後ろの広い路地にでも逃げればいいのかもしれませんがそんな機転の聞いたことは出来ずに
息を止め、目を保護するという本能丸出しの行動をとってしまいました
そして、手を襲う鈍痛、こぼれ落ちる串
体がぐんっと重くなります
いまの私は体の大きさも相まって、非常に貧弱です
騎士としてはですが、それでも一般女性よりもちょっとだけ強い程度でしょう
こんな大勢のストレートチルドレンには敵うことはないでしょうね
ああ、能力が使えない私はなんと無力なんでしょうか
なんて、走馬灯のように考えが右往左往しています
あとは野となれ山となれ
>『あー……、ウィレム君も発見。確保しました。』
『それはよかったです。こちらは煙幕で視界が……』
私の言葉はそこで途切れました

91 :
(私はそこで果てました)

92 :
働け!クズ
ウィレムは叫んだ

93 :
>「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」
スイは僅か一瞬でウィットとの距離を詰め、手にした糸を鈍器と化した新聞紙に絡めた。
後はほんの少し力を込めるだけで武装を解除出来る。
ただ純粋に、動作が恐ろしく速い。単純だからこそ実力が明白になる、流石の手並みだった。
>「呼んで、来ると思うか……? 従士隊はこの街の人を守らない! お前らが起こしたあの馬車の事故を見たろ!
ウィットの言葉を聞いている内に、マテリアはこの都市の仕組みが見えてきた。
『武器』でなければ、なんであろうと『凶器』にしてもいい。
術式も攻性のものでなければ、人の傷に用いても咎められない。
それはつまり――弱くて、善良で、無知な人々ほど、この町で悪に虐げられる運命にあるという事だ。
マテリアは腹の底で静かに、しかし激しい炎が燃え上がるのを感じた。
怒りだ。その中でも特に、義憤と呼ばれる感情だ。
上司の横流しを知った時に覚えたものと全く変わらない。
自分よりも弱い者達を食い物にするだなんて、許せない。
助けてあげたい。思い上がった悪党共を灰も残さず燃やし尽くしてやりたい。
そういった思いを秘めた、獰猛な炎だ。
>「そしてッ!『女性を大切に扱う』という点については僕も同意見だッ!
  だがお前は女性じゃない――――遠慮無くーーーーっ!!」
ウィットの叫びが、マテリアの意識を思考の海原から現実へと呼び戻す。
凶器を糸で絡め取られたウィットは、あえて己からそれを手放した。
或いは元々そのつもりだったのか――広げた新聞紙をスイの顔面に押し付ける。
『硬化』と『粘着』の術式が秘められていた紙は、スイの顔に貼り付いて剥がれない。
そして、
>「そして僕は一瞬で距離を詰められるような強者とまともにやりあうつもりはないので、逃げる!」
ウィットは身を翻すと、一目散に逃げ出した。
(……いや、あの、この状況ならかなり有利に立ち回れるんじゃ?)
マテリアが思わず内心で突っ込みを入れた。
少なくともスイが『一介の宝石商』を演じている間は、視界を封じられたまま戦う事は困難を極める。
視覚を封じられたままで戦うのは、いくらなんでも商人の護身術の域を逸している。
そう考えれば――ウィットは慎重なのか、臆病なのか、それとも単に意志薄弱なのか――とにかく逃げ出してくれた事は好都合だった。
が、手放しに喜んでいる暇はない。
わざわざ「まともじゃない手段を仕掛けてくる」と宣言してくれたのだ。
可及的速やかに体勢を整え、ウィットを追撃しなくてはならない。
「あの……だ、大丈夫ですかぁ?もしかして、これが剥がれないんですかぁ?」
おずおずとスイに歩み寄り、粘着紙に手を伸ばした。
「ぬぐぐ、てりゃ〜!……あ、駄目ですこれ!なんかこれ以上引っ張ったら取り返しがつかない事になる気がしますよぉ……」
力任せに引っ張るふりをして、紙に記された術式を読み取る。
とぼけた娼婦を演じてはいるが、というか若干それが素のように思われつつある気がするが、
なんだかんだでマテリアは優秀な元軍人、情報通信兵である。
教導院を優れた成績で卒業しているし、術式を読み取り、干渉する技術にも長けている。

94 :
(『硬化』と『粘着』、それともう一つ何か……恐らくは『位置特定』系の術式。
 スイさんが窒息するまでに『硬化』か『粘着』を無効化する事は、可能です。
 どちらかを無効化すれば『位置特定』も意味を成さなくなります……けど)
今のマテリアはあくまで間抜けな娼婦だ。
日常生活に使う『発火』の術式すら時折暴発させそうなイメージを振り撒いている彼女が、
この術式を解除してしまう訳にはいかない。
まだ姿も見えていない敵に、ほんの少しでも疑念を抱かれるような事は出来る限り避けたい。
なんとかして、それ以外の手段で粘着紙をどうにかする必要があった。
考えろ、考えろ、考えろ――ひたすら自分に言い聞かせる。
術式自体を分解する事は、それ以外にスイを救えない時に使う。最後の手段だ。
ならばどうする――もっと単純に、粘着紙そのものを破壊してしまえばどうだ。
紙が秘めた術式『硬化』と『粘着』、どちらも生半可な力では剥がせないほど強力だ。
それらに加えて『位置特定』の術式まで込められている。
三つの術式は結構な量の魔力を必要としている筈だ。
たった一枚の紙に込められる魔力量を考えれば、これ以上の術式が機能しているとは考え難い。
「その紙切れ、相当術式を詰め込んである!『防火』や『防水』までは、魔力のリソースが回ってないんじゃないのか!」
右手を口元へ――遺才を用いて観衆の中から声を響かせる。
いかにも見かねた誰かが助け船を出してくれた風を装い、自作自演のヒントを得た。
「え?え?『防火』と『防水』……じゃあ、えっと、つまりぃ……燃やせばいいんですよね!?
 分かりました……ちょっと熱いかもしれませんけど、我慢して下さいねぇ!」
それでもまだ動転した演技を続け、指先に暴発気味の『発火』を灯す。
そしてスイの顔へと暴れ回る灯火を近付けて――
「だぁあ待て待て!おい誰か水持って来い!あの兄ちゃんが色々と焼け野原になっちまう!」
見かねた観衆がマテリアを制止した。
誰からも制止が掛からなければ再度遺才を用いるつもりだったが、手間が省けた。
そうして慌てふためくばかりの体を晒す彼女に、なみなみと水を満たした桶が届けられる。
「あ、ありがとうございます〜!それじゃ、ちょっと寒いかもしれませんけどぉ……てりゃ〜!」
城壁の中とは言え極北の夜にずぶ濡れにされるスイに詫びを入れつつ、
マテリアは気合の一声と共に桶の水をぶち撒けた。
これで粘着紙がふやけるなり、インクが滲むなりすれば術式は無効化される。
スイは無事解放されて、ウィットを追う事が出来るだろう。
『大丈夫ですか?早速で申し訳ないんですけど、奴を追って下さい。
 私は音で奴を追跡して、先回り出来るようにナビゲートします』
念信器でそう告げると、マテリアは動転して怯えた状態の演技を続ける。
周囲の一般人に保護されて毛布と温かい蜜湯を与えてもらうと、落ち着きなく髪を弄る仕草で超聴力を。
蜜湯を口に運ぶ動作で自在音声を発動した。
【水を浴びせて粘着紙をふやけさせ、インクを滲ませて術式を無効化。
 スイにウィットを追うように依頼。遺才を使って追跡を援護】

95 :
「な、なんだぁ?突然、少年の左肩から先が黒い鱗みたいなのに覆われて、俺の杭を阻んだだとぉ?
 一体どうなってやがるんだ?呑地竜の種族特性によって、石畳をもぶち抜くようなシロモノだぞ、この杭は!
 それをこうも容易く砕くとは、この鱗、少なくとも竜種よりも凶悪な"何か"を宿しているってことだ!」
『黒組』の下っ端は、砕かれた己の獲物と気絶したフィンを交互に見て驚愕した。
同時、客車の方から詰車を通って荷台にまで濃い煙が伝わってきた。
本来狼煙に使うべきものを密閉空間で使用したのだから当然といえば当然だが、燻された盗賊たちの阿鼻叫喚が聞こえてくる。
「て、敵襲か!?」
咄嗟に盾にするべくフィンの襟を掴む。
煙の出所、詰車の方を注意深く睨みながら、荷台から適当な棒を見繕って装備。
五秒待っても、十秒待っても、詰車の方から誰かが出てくる様子はない。
どうせ同僚たちの誰かがおふざけで煙玉でも暴発させたのだろうと判断して、一安心。
直後、荷台の屋根を突き破って振ってきた酒瓶(中身入り)が頭に直撃して、下っ端は昏倒した。
意識を失ったフィンの上に倒れこむようにして動かなくなった。
 * * * * * * 
「ごほっ!げほっ!――ご、ご安心を、如何なる暴力からでも、ごほ、必ず貴女を護り果せてみせますごほっ」
リーダーは噎せながらもファミアを落ち着かせようと最大限の平静を装っていた。
こういうとき、大人が真っ先に冷静にならねば子供はますます不安になるばかりだというのが彼の信条である。
『黒組』は誘拐・窃盗のプロたちであり、暴力集団ではないのだ。
副次的に人をすことはあっても、無関係の者を傷付けたりましてや商品を手荒に扱うなどというのは美学に反する。
「誰か、誰か外の様子を――」
依然としてトップスピードで走り続ける馬車。
突如として投げ入れられた煙玉はまったく衰えることなく煙を吐き出し続け、客車の中を真っ白に染め続ける。
煙は換気窓を伝って詰車の方にも流れていき、数十名の部下たちが猛烈に咽まくっているのを扉越しに聞いた。
「リーダー、げほ、何がありやした」
詰車の扉が勢い良く開かれ、部下が顔を出す。
よく訓練された賊たちだ。自分たちの安全よりもまず、頭領と商品の無事を確認しに来た。
リーダーは思い出す。狼煙が入る前、客車がいきなり少し沈んだことを――まるで人一人分の重さが乗ったみたいに。
「上、上に誰か居る。そいつが狼煙を投げ入れた!」
部下は上を見上げて、
「了解しやした。おい、おい、誰か屋根の上に登って見てこい!」
「冗談だろ、今走ってる最中だぞ馬車!どうやって飛び乗ったんだよ!」
「つか、見てくるにしても馬車停めねーとロクに登れねえぞ」
「いっそ部屋の中から屋根ごとぶち抜いてせばいいんじゃねえか?」
「ぶち抜く武器がねえだろ。槍かなんかありゃ話は別なんだけどな」
しかしここは刀狩りの街タニングラード。
木製の屋根を貫通するほどの長さを持った刃物など、もとから規制対象だ。
車輪止めの杭なら屋根を貫けるかもしれないが、しかしそれでも上の者をすには長さが足りない。
まったく考えられた奇襲方法だった。
高速走行中の馬車に飛び乗るという難題さえクリアすれば、相手の攻撃を完封して一方的に行動できる。
「いや、それより!まず換気――――」
そのとき、砂場で機雷を炸裂させたようなくぐもった破壊音が響いた。
するとたちまち部屋に充満していた煙がどこへともなく流れ出ていき、新鮮で透明な空気に満たされていく。
やっとまともに空気が吸えるようになって黒組たちは一安心、一体誰がこんな気の利く換気をしてくれたのか――

96 :
「穴空いてんじゃねーか!!」
部下が頓狂な声を上げた。
客車の土手っ腹に、人一人ぐらいらくらく通れるほどの風穴がぶち抜かれていた。
そして今更ながら『商品』がいないことに気付く。まさかあんな華奢な少女ひとりに大穴穿つ力などあるわけもない。
屋根上の奇襲者の存在も含め、盗賊たちに合点が行った。
「仲間が助けに来たのか――!」
護衛はきっちりったはずだったが、離れたところに仲間や別の護衛がいたのかも知れない。
それにしたって全力疾走する馬車に追いついて攻撃を加えるなど前代未聞だが――
「クソッ、馬車停めろ、降りて捜すぞ!」
ここまでやっておいてくたびれ儲けなんてことになったら、『上』にどう報告していいか分からない。
ただでさえ最近はハンターズギルドが嗅ぎまわっているらしいのだ。
司直ではないハンター達には捜査権も逮捕権もないし、咎人探しの本職である従士隊に比べれば捜査網も薄い。
しかしもとよりここは帝国法から切り離された街。被害者や大衆がどんな報復をしてくるかわかったものじゃない。
ハンターによってアジトや馬車の特徴が割り出され、報道されたら、こんな絶好の狩場を手放すことになってしまう。
だから一回一回の仕事に全力投球することが大事。
節度をもって、節操を守り、適度なタイミングで誘拐し、その儲けを大切に使う――
犯罪者がこの業界で長くやっていくためには、色々と気を使わねばならないことが盛りだくさんなのだ。
(それに、『納期』に遅れるのはもっと問題だ――)
部下の一人が御者に馬車を止めるよう指示するため、大穴とは反対側の窓を開けたそのとき。
大穴の方から鉄槌を振り下ろしたような轟音が鳴り響いた。
「ぬわああああ!なんかいきなり御者席との接合部が吹っ飛んでーー!?」
部下の悲鳴。
何事かと大穴から顔を出せば、服が引っかかって馬車の側面に宙吊りになった人質の少女の姿。
その頭突きが、車両の連結部を粉砕した直後であった。
「な、な、な……」
連結部は鉄製である。
人間の頭蓋骨が鉄より硬いなどと聞いたことはないし、仮にそうであっても一体どんな背筋してんだコイツ、といった次第。
それよりもなによりも、こんなトップスピードが出た状態で御者から切り離されたりなんてしたら、
「ナニしてくれてんだてめえええええええええ!?」
……もはや、リーダーは紳士然など保っていられなかった。
列車というものは、先端の車両が牽引するからこそ、慣性の重心が前を向くことで真っ直ぐに進める仕組みなのだ。
動力部が切り離された今、列車の重心は一番人の載っている詰車――真ん中である。
すると重心のない部分はどうなるか。路上の小石なんかで簡単に車輪の向きが変わり、方向を制御できなくなる。
ましてやこの速度だ。舵を失った船が海原でどういう進路を辿るかは、ご想像に難くない。
「制動器!ありったけ回せ、まだこの向きならどこにもぶつからずに減速でき――」
そこへ、駄目押しのように鈍い衝撃が連続した。
車両の側面を乱打するように、重いものがぶつかる無数の衝撃。対艦砲の斉射を浴びた気分だった。
「砲撃だと――!?」
そんな馬鹿な、こんな街中でどうやって。
刀剣の持ち込みを禁ずるタニングラードが砲を見逃すはずもない。
高速で走行する馬車に当てられる技量も技量だが、そんな砲と撃ち手を複数人、予め用意しておけるのか。
逃走ルートや街の構造を知り尽くしていないとできない芸当だ。

97 :
――実際のところ、無数の砲による斉射と思われた攻撃は、たった一人の無手の『天才』によるものだったのだが。
あくまで『常識』の範疇にいるリーダーにそれを知るすべなどあるはずもなかった。
「やべえぞリーダー!今の砲撃で向きが変わった――!しかも車輪の一部がイカれて、横転しかかってる!!」
言われてみれば客車は大穴とは逆方向に既に傾き始めていた。
リーダーは穴に飛びつき、ぶら下がる少女へと手を伸ばす。傾いたのが逆向きで良かった――
「つ、掴まれ!早く客車の中に!!」
大事な商品である。
今更傷付けないとか美学とかそんなものはどうでもよかったが、納品時に価値が下がるのだけは困る。
なにせ値をつけるのは入札者、難癖を付ける隙を与えるのだけは絶対にしたくない。
ただでさえ『白組』の盗品市は、鎬を削りあう同業者たちが山ほどいるのだ。
もはや馬車ですらないただの高速移動する車輪付き箱となり果てた列車の中。
穴から見える寒空の下には、横滑りする馬車がこれから激突するであろう真っ白の壁が小さく見えた。
「まずい、このままじゃ役場にぶつかるぞ!!」
朝通りのつき当たりに聳える白磁の巨影、白煉瓦を重ねて建てられた街役場である。
普通の都市と違い独立自治領であるタニングラードの役場はちょっとした国立庁舎なみに大きい。
なにせここで"国家"を運営するのに必要な書類仕事を全て請け負うのだから、夜になっても人足は絶える気配もない。
馬車改め列車がぶつかれば、乗客はもちろんのこと、レンガ造りなど容易く突き破って大量の殉職者を出すことになるだろう。
「だ、誰かっ!こいつを止めてくれ――!!」
 * * * * * * 
「撃ち方止めっ!ダニー!」
医術院を手配した後、即座に適当な貸し馬車を『買って』、クローディアとナーゼムがダニーのもとへ駆けつけた。
ダニーの放った投石の乱打が馬車を横転させかかっているとこまで見て、慌てて止めに入った次第である。
まさかクローディアも、石がぶつかっただけで馬車が舵を狂わすとは思わなかったので面食らった。
「なんか危ういわ、あの馬車――って、馬どこよ! 御者台なしで走ってない!?」
賭けるダニーと並走しながら(この場合馬車と並走できるダニーを疑うほうが正しい)、単眼鏡で様子を確認する。
何故か客車に空いた大穴からまろび出ている『お嬢様』を、中の人が回収するところだった。
客車の上にはロンもいる。もっとも屋根は既に傾き始めているから、放り出されるのも時間の問題だろう。
「まずいわ、役場に向かって一直線……あのまま行ったら大惨事ね」
ロンの身体能力ならぶつかる前にファミアを連れて脱出できるだろうが、ロンは真面目な男だ、本人がそれを許すまい。
フィンの安否も気がかりだ。もしも生きているなら、やはり見しにはできないというのがクローディアの本音。
しかし立場的に言うと、既に大赤字だ。ダニーもロンもクローディアが金で雇った部下である。
彼らに司令を出せば出すほど彼女の遺才魔術によって自動的に金銭が引き落とされる仕組みになっている。
経営の基本概念は投資と回収だ。収益を見越して金を使わねばすぐに資金は底をつく。
これ以上一銭にもならない仕事を続ければ、クローディアの多くないポケットマネーじゃ賄い切れない。
そこから先は、店の金に手を付けなければならなくなる。
これからタニングラードで名を馳せるための、ひいては全てを買い戻す、大事な夢の軍資金に。
「――会社の書類提出が遅れるわ。ダニー、社長命令よ!あれ、どうにかしなさい!」
どうしても彼女は非情に徹することができなかった。
もっともらしい社用をでっち上げて、クローディアは身銭を切った。
【馬車→自走式棺桶に。このまま行けば横転からの役場激突で大惨事に】

98 :
――『帝国騎士団』について、ここで僅筆ながら説明しよう。
騎士とは称号であり名誉職である。
戦場の主役が馬と槍だった頃の名残で、それらがゴーレムと兵士にとり変わった後も、『武』の象徴として重用されたる職分だ。
帝国では古くから『遺才』という概念の関係上、血の尊い貴族が戦場でも実権を握っていた。
良き眷属の血を持つものは、より良き血の持ち主と交わり、『家系』としての強さを伸ばしていく。
ゆえに雑種から突然変異的に発現でもしない限り、多くの遺才は貴族によって独占されていた。
必然的に、名家の世継ぎから下の就職先として多くの貴族を擁する帝国騎士団は、帝都最強の戦闘集団に違いなかった。
旧態然とした剣や盾の戦術は、正規軍のゴーレムや飛翔機雷に瞬間火力でこそ劣るものの、白兵戦では掛け値なく一騎当千。
騎士団から将校として軍に出向する者も多くいるため、実質的に帝国の戦力の要は彼ら帝国騎士団が握っているのである。
騎士団には明確な縦社会の関係がない。騎士とは本来雑兵を束ねる戦場の将であり、言ってみれば全員がリーダーだからだ。
代わりに上位騎士・下位騎士というランク付けがあり、上位は下位に優先するという形で上意下達を暫定的に形成している。
上位騎士にもなれば貴族としては出世の最高到達点。軍の将官級や従士隊の部長クラスと同等の実力があると見なされるほどなのだ。
つまり、何が言いたいかというと――
フランベルジェ=スティレット上位騎士は、腐っても上位騎士だということである。
(ガルブレイズちゃん――!)
頭を泥水の中に突っ込みもがいていたスティレットがようやく顔の汚水を拭いとって見上げた先。
路地内に立ち込めた白色の濃霧と、駆ける少女、その蹴りによって得物をとり落としたセフィリアの姿。
そして追撃をかけるように、セフィリアの顎を打ちぬくような軌道で上段の蹴り足が少女から発射されていた。
止めようにも間に合わない。スティレットは膝をついたままで、彼女とセフィリアは3メートル近く離れている。
どんなに素早く踏み込んだとしても、蹴りの着弾は免れまい――ならば。
スティレットのとった行動は至極単純。首から下げていた水筒の蓋を握って捻り、それから、
「――ぅわんっ!!」
人としての尊厳とかプライドとかそういうのを丸ごとうっちゃった感じの一吠えを少女の横面へ浴びせた。
するとたちまち、卵の殻がひとりでに向けていくように真っ白の濃霧がスティレットの顔あたりから晴れていく。
――否、『煙幕』を"破壊"したのだ。スティレットの砲声に震わされた大気が粉砕されていく。
スティレットが『館崩し』のような長大剣を使う理由は、見た目の派手さを気に入ったという個人的事情を除けば2つある。
刃に触れたものを破壊するという崩剣の特質上、刃の届く範囲は広い方が有利だ。
そして得物は重くて硬質な方が良い。斬撃時に破壊対象の内部へと伝わっていく『反響』を媒介にして遺才を発動させるからだ。
剣の眷属ゆえに館崩しは剣でなきゃ意味が無いが、その本質はどちらかと言えば『剣の形をした音叉』なのである。
――となれば逆説、『崩剣』とは斬撃でなくとも発動する。
剣さえ手元にあり、己の姿を剣祖の魔族に似せることができれば、あとは拳なり声なりで反響を生み出せば良い。
身の丈ほどもある大剣を振り回す膂力を裏付ける、スティレットの驚異的な肺活量はそれを可能にした。
石や鉄なんかの個体を震わせるまではいかないが、『煙』や『空気』程度ならば余裕である。
「っつあ――!?」
完全な不意打ちで砲声を浴びせられた少女の身体がぐらつき、蹴りはセフィリアの前髪を刈って逸れていく。
震わせた大気が『破壊』され、生まれた真空によって鼓膜が異調をきたし平衡感覚を狂わされたのだ。
生まれた隙の逃す上位騎士様ではない。
「たあああああ!」
跳ね起きたスティレットは少女に肩からぶち当たり、身を挺するようにしてセフィリアの安全を確保。
相手が格闘術に熟達していればいるほど、蹴りでも拳でも威力の最も高くなる間合いを死守したがるものだ。
だから格闘を主体にする敵と対峙する際は、彼我の間に何か挟みこんで間合いを狂わせてやれば防御は容易い。
この場合、挟みこむのは自分の身体。5年と持たずに退学した教導院で、耳に黴が生えるまで習った護身術だ。

99 :
(たしか彼女は、両手に何か持ってないと元気がなくなる感じの人でありましたね……!)
「ガルブレイズちゃん、これを!」
スティレットはずっと羽織っていた民族衣装の外套から極彩色の尾羽根を二枚もぎり、セフィリアの両手に握らせた。
そして振り返り、敵を見る。先ほど体当たりにて跳ね飛ばした少女は、こちらと別方向を交互に見て冷や汗を掻いている。
「あーくそ、カモ女も仲間だったのかよ……さっき助けた後も素っ気ない感じだったのは演技か?まんまと騙されたぜ……」
「か、カモってなんでありますか……!?いつの間にそんなあだ名が!」
「アンタみてーな財布ギってくださいと言わんばかりの隙だらけの奴は、カモみてーに捕まえやすいなって意味だよ」
「だからカモってなんでありますかーー!?」
「え? 鳥の種類から説明しなきゃなんねーの!?」
少女が見る視線の先。
崩れきった箱山の中で、ノイファが蹴り足をぷらぷらさせながら所在なさげにしていた。
位置関係的に蹴り飛ばしたものであろう散らばる箱の下では、目を回して気絶しているウィレムの姿がある。
目立った外傷はないようだったが、真新しい打撃の跡がくっきりと残っていた。
「あーっ!バリントンどの、一体誰がこんな酷いことを……」
「いや、トドメ刺したのははあたしたちじゃねえよ!?」
ともあれ、セフィリア・ノイファ両課員の八面六臂の活躍により、路地裏に巣食う子供たちの謀略(あさぢえ)は露と化した。
主力である子供たちは悉く自らの罠で自爆し壁と床の模様となり、人質であるウィレムと共に彼女たちの拠点は制圧された。
少女は諸手を上げて、降伏のポーズをとった。
「降参だ。盗ったものは返す、仲間を放してやってくれ……そんでこっからは」
頭の上に手を置いたまま、少女は傍に転がる木箱へ腰を落とした。
「――アンタたちの腕を見込んで、ビジネスの話をしたい」
 * * * * * * 
部隊が全滅し、拠点が制圧された。
相手の隙に付け入って強引に突破しようとしたが、それも完全に眼中になかった伏兵の存在によって阻まれた。
――"おじさん"の教えによるならば、壊滅的な敗北だ。ならば降伏して首を差し出す他に仲間の助命を乞う手はない。
だがフラウは死にたくなかった。路地裏の泥を啜って飢えを凌ぐような生活から、ようやく人並みに生きれるようになったのだ。
フラウはこの歳の浮浪児にしては珍しく、『花売り』の仕事をしていなかった。他の仲間たちも同様だ。
"おじさん"が読み書きを教えてくれたおかげで代筆や新聞配達などできる仕事の幅が増え、
少なくとも路上で生きる分には十分な糧を得られるようにになったからだ。
だから彼女たちが生きていくためにスリ稼業に身を落とす必要はこれといってなかった。
生きていく以外の用事に、彼女たちは金が必要だったのである。
「あたしたちの十重二十重の罠を初見で見切って、かつそれを逆手に取る……ハンパな経験じゃできないことだ。
 少なくとも、シスターや大道芸人やよくわからん女が持ってるような経験じゃねーのは確かだ」
無抵抗をジェスチャーで示しながら、フラウはゆっくりと三名を見回す。
修道女は先程『信じる』と言ってくれた。まだ子供の悪戯としてげんこつ程度で許してくれる可能性はあるだろう。
問題は大道芸人の方だ。さっきのやりとりでも明らかにガラ悪い感じだったし、思いっきり蹴っちゃったし……。
大道芸人は修道女に対して一目置いてるみたいだが、後でこっそりサクっとられる気がしてとても怖い。
だから、敢えてここは下手に出ない。あくまで対等な立場であることをアピールすべきである。
「しかもアンタらは見た目全然統率感ねえのに、グルで、息はピッタリあってた。つまり、一朝一夕の馬車友じゃねえ。
 すげー戦闘技術を持った集団が、なんでか身分を偽って、この街に居る……それってめちゃくちゃきな臭いよな?」

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