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2012年4月アニキャラ総合45: あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part309 (621)
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あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part309
- 1 :12/04/01 〜 最終レス :12/04/30
- もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part308
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1332234406/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/
_ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
- 2 :
- 刷れた手乙
- 3 :
- 50分目の2ゲットとはなw
- 4 :
- 新スレ乙です
- 5 :
- 新スレ乙です。
これからデュープリズムゼロ第十五話を投稿させて頂きます。
- 6 :
- 第十五話『ワルドのプロポーズ』
「止めて下さい!!死んでしまいます!!」
「痛い!!痛い!!」
「ありがとうございます。ありがとうございます!!」
すっかり日の暮れたラ・ロシェールへの街道沿いの崖の上に男達の悲痛な悲鳴と嬌声が響き渡る…
「ほら、ほらっ!だったら!素直に吐いて!!楽になりなさいよ!!何であたし達を襲ったのよ!?」
タバサ達と合流したミントは今先程捕らえた盗賊達を綺麗に横一列に並べ、自分達への襲撃について尋問を行っていた。
平手打ちにデュアルハーロウによる殴打、男の泣き所への容赦の無い蹴り…
既に何人かは泡を吹いて意識を手放していたり恍惚の表情でぼんやりとしていたりする。
「ハァ…ハァ…こいつら意外と口が堅いわね。」
ちょっと面白そうだからと言う理由でミントと同じく盗賊達を片っ端から平手でひっぱたいていたキュルケが盗賊の一人の顔をヒールで踏みながら顔を少し紅潮させ、舌で唇を艶やかになぞりながら呟いた…
そう……この少女達はドSなのである。
「ん?あれは…」
そんな盗賊達への尋問を男として直視出来ず周囲の警戒を行っていたギーシュは上空に見覚えのある幻獣を発見した。
それは紛れも無く自分達を放って先を進んでいたワルドのグリフォンだった。
「………あんた達一体何してるの?」
崖の上に降り立ったルイズが周囲の様子を見回してミントに訪ねる…何故キュルケ達が居るのかというよりもこの盗賊達の死屍累々の光景が余りに意味不明だ。
ギーシュも何故か内股で怯える子犬の様に縮こまってしまっている様に感じるし…
何が行われていたのかは何となく察しが付く為、ルイズは若干引いていた…平行世界では嬉々として恋人に鞭を振るっていた癖にである。
- 7 :
- 「襲撃を受けたのよ。明らかに待ち伏せしてたみたいだから万が一もあるしちょっと尋問してたの。」
不機嫌そうなミントの言にワルドの表情が一瞬強張る…それはこの凄惨な光景から男として感じ取る部分があったというだけでは無い。
「ミント君、それは結構な事だが我々は先を急ぐ身だ。唯の物取りなど捨て置こう。そしてそちらの二名の淑女は誰なのかね?」
「あら、素敵なお髭の貴族様、ねぇ情熱はご存じかしら?」
「ツェルプストー!!ワルド様から離れなさい!!」
早速キュルケがワルドの腕に抱きつき、その豊満な胸を押し当てそのキュルケを引きはがそうとルイズがヒステリックに叫んでワルドの身体はガクガクと揺さぶられた。
「二人ともルイズとギーシュの友達よ、朝出て行く所見られてて付いて来たみたい。
信用は十分に出来るしあたし達の馬も逃げちゃったからラ・ロシェールって街まではこの子の使い魔に送って貰う事にするわ。」
ミントはそんなワルドに気を遣う様子も無く、そう簡単に説明して暗がりにも関わらず本のページをめくり続けるタバサを指さす。
「どうやらその様だな…仕方あるまい。さぁ、先を急ごう。それとミス・ツェルプストー婚約者の前なので誤解を招きたくは無い。済まないが離れて頂けるか…」
言いながらワルドはやんわりとキュルケの身体を自分から引きはがすと全員に出発を促した…
「オッケー…分かったわ。でもその前に…」
ミントは出発を促すワルドに肯定してどす黒いオーラを放ちながら再びゆっくりと盗賊達の前に仁王立ちする。
「最後のチャンス位はあげないとね。」
纏うオーラに反して猫なで声でそう言って笑うミント。それだけで盗賊達の表情はまさに恐怖に染まって引きつってしまう…
「ちょっ…待って!!本当に唯の物取りでぶべっ!!」
「も、もう勘弁してほしいっす!俺達はラ・ロシェールで雇われただけなんす!アルビオンの貴族派の仮面を付けた男…」
隣の同僚が失神し、遂にミントの尋問に耐えられなくなり本当の事を白状し始めた男、しかしその男は証言の途中で言葉を永遠に失う事になる…
「ひぃっ!!」
悲鳴をあげたのはその盗賊の仲間達、見れば証言を始めた男の喉は鋭利な刃物で深く切りつけられた様にパックリと裂けていた。
ミントの目の前で血しぶきを上げて痙攣しながらドサリと崩れ落ちた男の死体の向こうには感情のこもらない様な冷徹な目をしてレイピア状の杖を構えたワルド。
- 8 :
- 「危ない所だったね、その男ナイフか何かを使って縄を抜けていた様だ。最もらしい話で君の注意を引いて隙を狙っていたのだろう…本当に危なかったね。」
確かにワルドの言う通り男を拘束していた縄も改めて確認すると鋭利な刃物に切断されている様にほどけてしまっている。
まるで男の喉を掻き切った鋭い風の刃で切ったかの様に…
「……………………必要は無かったんじゃないの?」
男の死体から目をそらし、ミントが不機嫌そうに言う…
「生かしておく理由もまた無いさ。彼等はどうせ縛り首になる。さて、後は憲兵の仕事だよ、そして僕たちは僕たちの仕事をしよう。
……………それとミント君、あんなやり方じゃ引き出した情報も信憑性に欠けてしまう、尋問から抜ける為にありもしない話を作るかも知れない…何よりあのような尋問など女性のする事では無いな。」
そう最もらしい事を言って半ば苦笑い気味に微笑むとワルドはその場の全員に出発を促しルイズと共にグリフォンで飛び立った…
ミントはそのワルドの背中を見つめ、先程の自分を説得して来た時と盗賊を殺害した時のワルドの目を思い返す…
(誰かに似てる目ね…何か嫌な感じ…誰だったかしら?)
漠然とした記憶を手繰りながらワルドから感じた奇妙な感覚にミントはモヤモヤとしたもの感じながらも考えていても仕方ないと気持ちを切り替え、タバサ達と一緒にシルフィードの背中に乗り込んだ…
多少トラブルには見舞われたが予定どおりもうじきラ・ロシェールにたどり着けるだろう…
ラ・ロシェールに辿り着いた一行は町の外の森にシルフィードを待機させ町一番の高級宿女神の杵邸のレストランにてルイズとワルドを除き食事と休息をとっていた。
因みにキュルケとタバサはついでとばかりに深く旅の目的は聞かずミント達に同行をしている。ミント達が無事この町を出るまでは観光でもしていくとはキュルケの談…
本来ならばルイズの婚約者であるワルドを誘惑してやろうと思っていたがキュルケはワルドにどこか酷く冷たい印象を受けてその興味をほぼ失っていたのだ。
「すまない、やはり船は明後日のスヴェルの夜までは出ないらしい。」
- 9 :
- アルビオンへの船の手配にルイズと共に行っていたワルドがミント、ギーシュ、キュルケ、タバサの四人の元に戻って来るとお手上げだといった様子で肩をすくませる。
「迂闊だったわ…明後日がスヴェルの夜だったなんて…」
本来ならばこのままアルビオンへの定期船に乗って進みたかったのだが空を漂うアルビオン大陸がトリステインに最も近づくのはスヴェルの夜であり、基本的にその前後は燃料である風石の無駄になる為飛行船は出る事はまず無い。
「間抜けな話よね〜…何の為にあたしとギーシュはあんなに急いで馬を走らせたのかしら。」
テーブルの上でへばるギーシュをちらりと見てミントはワルドに批難めいた視線を向けて嫌味をこぼす。
散々人を走らせておいた挙げ句の不手際の足止めである上、護衛の筈でありながら自分達が盗賊に襲われた時居なかった事も、その後の事もあってはっきりいってミントはワルドに対しての評価を大幅に下方修正していた。
「それについては僕からはを謝罪するしか無い。本当に申し訳ないとは思う。さて、部屋の割り振りだが三部屋を確保できたからね。僕とギーシュ君、ルイズとミント君、キュルケ君とタバサ君の組み合わせになるが構わないかな?」
テーブルの上に鍵束を置いてワルドがその場の全員に尋ねると全員「OK」という素直な返事を返した。
「ただルイズ、君とは後で二人きりでゆっくりと大事な話をしたい。後で僕の部屋に来てくれ。」
「…わ…分かったわ。」
そう言って真剣な表情でワルドはルイズを見つめる。ルイズはその台詞と真剣な眼差しに顔を真っ赤に染め、小さく返事をしてただ頷くと俯いてしまった。
ワルドとしてはルイズと同室が望ましかったがルイズの使い魔であるミントは仮にも女の子であり一応VIPだ。ここでギーシュと相部屋で…等と言えば全員からかなりの批判を受けるのは自明の理である。それはワルドとしては避けたかった。
それ以前にそんな提案をしていたらミントの跳び蹴りが炸裂していただろうが…
「それで…大事な話って何、ワルド?」
ルイズは約束通り一人でワルドの部屋を訪ね、テーブルを挟んで向かい合う様にしてワルドと再会を祝した乾杯を交わしワイングラスを傾ける…
「君と僕のことさ…そして君の使い魔の事もね。」
意味深な表情でワルドは言ってルイズに微笑むとまるで子供におとぎ話でも聞かせるかの様な語り口調で話を始めた。
- 10 :
- 「君は始祖ブリミルの物語を知っているね?」
ルイズはえぇ。と答えて話の続きを促す。
「かつて始祖は四人の使い魔と共に東の砂漠へと聖地を目指して旅立った。そう、四匹では無く、四人のだ。
僕は君の使い魔が人であると噂で聞いた時、果たしてそんな事があり得るのかと興味を抱いてね、様々な資料を調べ直したんだ。そして今日君の使い魔のミント殿下を実際に見て確信を抱いた…」
ワルドは一層熱のこもった視線でルイズを見つめる。
「彼女のルーン…あれは間違いなくガンダールブのルーン、かつての始祖の使い魔の一角を担った伝説の存在だよ。
ルイズ、君は道中僕に自分は魔法が未だ成功しない落ちこぼれだと言ったね?僕が保証しようルイズ。 使い魔がメイジの格を示すなら君には素晴らしい才能が眠っているはずだ!きっと始祖ブリミルの様に歴史に名を残すだろう。」
熱く語るワルドの様子にルイズは正直困惑していた。悲しいかなコンプレックスの塊であるルイズがここまで他人に褒められ、ここまでの期待を掛けられた事は無いのだから。
「でも私は…」
ワルドはここで一度困惑した様子のルイズが落ち着くのを待って手を取って再び話を再開する。
「ルイズ、この任務が終わったら結婚しよう。」
「えっ?」
「忙しさにかまけてずっと君を放っていた僕だが君を想う気持ちはずっとあの頃のままだ。
僕はこのまま魔法衛士隊の隊長だけに治まるつもりは無い、いずれは国さえも動かす様な力を手に入れるつもりだ。」
ワルドは言ってルイズの身体を当然の様に抱き寄せ、唇を寄せた。だが顔を真っ赤にしたルイズはワルドの口づけを拒む様に身体を強張らせたままだった…
「あ、あの!ワルド様…結婚のお話嬉しいのですがあまりに急な話で私……それに私はミントを元の世界に戻すという約束も果たさなくては…」
やっとの思い出絞り出した様に慌てて早口にまくし立てたルイズにワルドは少し困った様な表情を浮かべるとルイズの腰に廻していた手を放した。
「ハハッ…急がないよ、僕は…」
そう言って優しくルイズに微笑むワルドは内心歯がみした…
- 11 :
- ___女神の杵邸_修練場
ラ・ロシェールで一夜を過ごしたミントは翌朝朝一でワルドに呼び出されて女神の杵邸の中庭にある古い修練場に来ていた。
ワルドの用件はガンダールブとミントの魔法の力を実際に体験してみたいという事とアルビオンでの任務遂行の為の戦力の把握の為という名目での果たし合いだった。
そんな事は面倒くさいと普段のミントならば一蹴していただろうが思う所あってミントはワルドの誘いに乗る事とした。
既に一行は全員この場に居る。ルイズは話を聞いてこの場に来た時は何とかして果たし合いを止めようとしていたが当人達(主にワルド)に押し切られる形になっていた。
「無礼を承知しで任務を確実に成功させる為是非君の力を見せて欲しい。それじゃあ準備は良いかなミント君?」
ワルドは静かにレイピア状の杖を抜き、ミントにその切っ先を向けると一分の隙も無い戦士の風格を纏った。
対してミントはワルドに向き直ると臆した様子も無くデュアルハーロウを構えるといつもの様に力む事無く構えをとる。
「いつでも良いわ。レッツバトルってね!」
その緊張感に思い出すのはあの年中金欠の赤毛の武器職人の戦士ロッド、思い起こせばカローナの街に居た時は随分と世話になった。
「…始め。」
立ち会いとしてその場に居たタバサの合図で二人の戦いは火ぶたを切って落とされた…
結果だけを言えばそう時間も掛からず決着は付いた。
ミントのバルカンを巧みなステップで回避し、一瞬の隙を突いたワルドの放ったエアハンマーの直撃を受けたミントが高く積まれた空箱等に叩き付けられ所で周囲が待ったを掛けたのだ。
「子爵、いくら何でも女の子のミントに対してやり過ぎですわ。大丈夫ミント?」
魔法が直撃し頭を打ったのかその場にフラフラと倒れ込んだミントを膝枕で支えるキュルケがワルドを叱責する様に責め立てる。
「やり過ぎ…」
「子爵、僕も流石に味方内でこれはどうかと思います。」
そんなキュルケに便乗したのはタバサとギーシュ…
そんなに強烈な魔法では無かった筈なのだがワルドは三人にミントを不当に傷付けた大人げない鬼畜貴族の烙印を押されてしまった。その為思わずたじろぎルイズへと助けを求める様に視線を送る。
- 12 :
- 「ミント!!大丈夫!?酷いわワルド!!」
だがルイズは目を回したミントに駆け寄るとワルドを批難する様な怒気を含んだ視線を向けていた…
「ち、違うんだルイズ、僕はただ…」
ワルド自身ミントに戦いを挑んだ理由は表向きな物とは別にルイズの気を引く為に使い魔よりも自分の方が強く、あてになると示したかったからである。
それが今回完全に裏目に出てしまった…フーケを容易く捕らえたと聞き及んでいたにも関わらず予想を遙かに超えるワンサイドゲーム、これでは弱い者苛めだ。
「子爵…ここは私達でミントを介抱致します。あなたは一旦ここをお離れになってはいかがですか?お互い冷静になるまで、その方がお互いの為ですわ。」
キュルケの冷たい口調の提案にワルドは思わず唸る…
「分かった…済まない、ミント君が目を覚ましたら教えてくれ。」
今ここで空気を読まず、ルイズに自分の実力をアピール等してしまっては逆に嫌われるだけだろう。そこまで考えてワルドはミントの介抱をキュルケに頼むと足早に宿の外へと出て行った。
次いでルイズが宿の人間に水を用意させる為修練場からかけだしていく。
「行った?」
ここでついさっきまで意識を失っていたミントがなんの問題も無い様にぱっちりと目を開いてキュルケに訪ねる。
「行ったわよ。ていうか何でこんな芝居をうった訳?」
溜息混じりに答えたキュルケは特にミントが目覚めた事に疑問をもったりはしない。
何故ならばワルドから果たし合いの申し込みがあった後ミントはこの一連の流れを作る事を事前にキュルケ達にお願いしていたのだった。
「下手に勝ったりして王宮の人間なんて碌でもない奴らにあんまり目を付けられたくないのよ。」
ミントは悪巧みをする様に口元を歪めて言った。それは暗に本気ならば負ける通りは無いと言っている様でこの場に残った三人は思わず呆れてしまう。
「はぁ…全くワルド子爵には申し訳ない事をしてしまったね…」
(それにあんな目をした奴に手の内見せる程あたしはお人好しじゃ無いのよ…)
昨夜ミントはルイズからワルドにプロポ−ズされたという話を聞きベッドの中でワルドに感じた既視感の様な物の正体を思い出していた。
そもそもルイズ何かを望んで嫁に迎えよう等と正気とは思えない。必ず何か裏があるはずだ!!
かつて実家の宮廷魔術師として国政から遺産管理、その他あらゆる面から妹マヤの側近として行動していた男『ドールマスター』
そう…ワルドから時折感じ取れる冷たく嫌な印象はデュープリズムを自らの使命の為に復活させようと主君であるマヤを裏切った彼から感じた物に非常に酷似していたのだった。
- 13 :
- これで十五話おしまいです。
ミントはかつてスターライトデュークに負けた時今回の様に相手の心の良心という隙をえぐりました。
個人的にはミントよりもマヤの方がぶっちぎりで可愛いと思ってます。
- 14 :
- 乙!
- 15 :
- 乙!
>そもそもルイズなんかを望んで嫁に云々
ミントひでえwww
- 16 :
- >>13
乙!スターライトデュークからスターライトワルドというものを連想してしまったwww
- 17 :
- 乙、次回は酒場襲われてキュルケとタバサ置いていくところかな
- 18 :
- これより使い魔は四代目12話 投下します。
- 19 :
- マルトーからの刺客とも言えそうなほど質量ともに(特に量が)圧倒的なデザートを見事完食した二人であったが、その代償として腹がどうにかなるまで食堂から動くに動けなくなってしまった。
そうなると、必然的に出来る事は雑談ぐらいしかなく、そうやって時間を潰していた。
「…実は先程お主の学友のギーシュとちょっと話す機会があってな。それで少し気になったのじゃが、どんな男なんじゃな?」
「唐突ねぇ…二つ名は『青銅』のギーシュ。土のドットよ」
「ドット?ドットとは?」
「まぁ、メイジの格というか、強さを表すものね。アレフガルドじゃどうかは知らないけど、こっちでは魔法は5つの系統に分かれているの。
で、それを幾つまで足せるかによって強さが決まるわ。一つならドット。で、ライン、トライアングル、スクウェアの順で強くなっていくの」
「ああ、そういえばシュブルーズがトライアングルとか言っておったわな。あの後の酷い騒ぎですっかり頭から抜け落ちていたわい」
「……」
「そんな顔をするでないわ。蒸し返して悪かったわい。難儀な娘じゃのぉ。で、続きは?」
むすっとした顔をしたルイズを軽くいなしてリュオが続きを促すと、
「…ま、まぁ良いわよ。えーと、ギーシュの話よね?その名の通り、青銅のゴーレムを操る事を得意にしているわね。アレはあれでも軍人の家系だからね。
見た目通りに軽い奴だけど、そういう修練は意外に真面目にやってるみたい」
「アレって…まぁええわぃ。ゴーレムをのぉ。それは凄い。ああ見えて相当にやる奴だったのか?」
「…?大げさな…ゴーレムなんてそう珍しくも無いじゃない」
「何じゃと?…ああそうか、ここではそうなのじゃな。いや、何でそんな事を言ったかというとじゃな…」
リュオにとって、ゴーレムといって真っ先に連想する物といえば曽祖父の竜王軍から城塞都市メルキドを護る為に、とある賢者が研究の末に作り上げたというあのゴーレムである。
その実力は凄まじく、さしもの竜王もまともに倒す事を諦め、魔法で混乱させてゴーレム自身にメルキドを破壊させる、という搦め手を使わざるを得なかった程だ。
そして、その目論見は半分成功し、半分失敗した。
確かに魔法は効いたが、それはゴーレムの行動が「メルキドに攻めてくる魔物を撃退する」から「城門に近付くものを撃退する」に変わっただけだった。
これ以降、メルキドの城門を通った者は人間、魔物の区別なく勇者アレフが現れるまで誰もいなかったのである。
そんな物を使役できるとなればリュオのギーシュに対する見方も丸きり変わろうというものであったが、どうもルイズの話を聞くに、違うようだ。
リュオの態度に怪訝そうな顔をするルイズに、リュオは簡潔にメルキドのゴーレムについて説明した。
「なるほどね。そういう話ならゴーレムを操ると聞いては驚くのも無理はないと思うけど、ギーシュのゴーレムじゃぁどう考えてもそこまで強くはないわね。
というか、本当にそんなゴーレムいるのかしら…噂に聞くフーケのゴーレムならやれるかしら。30メイルはあるという話だし…」
「まぁ、疑うのは無理も無いかも知れぬが本当の話じゃよ。ところで、そのフーケとは何ぞや?」
「ええ、最近巷を騒がす怪盗よ。神出鬼没、大胆不敵。闇にまぎれて人知れず盗み出したかと思えば、白昼堂々とゴーレムを操って押し入ったり、派手に暴れているらしいわ」
「ほぉ。そこまで派手にやって捕まっておらぬとは中々のやり手の様じゃな」
「全くだわ。勿論狙われるほうも色々手を打ってはいるみたいだけどそれを掻い潜って盗みを成功させるんだから相当なものよね。
きっと魔法だけでなく、頭も切れるんだと思うわ」
「そうじゃろうな。実力もあって頭も切れる。一番厄介な手合いじゃな…さて、ようやく動けそうになってきたわい、ルイズはどうじゃ?」
「そうね、これならどうにか…。じゃぁ、そろそろ始める?」
「おお。それでは倉庫に案内してもらおうか…うっぷ」
そうして何とか復活した二人が、ルイズを先頭にようやく倉庫を目指しのろのろと動き出した。
「ああ、変な事で時間を取ったわ。明るいうちに終わるかしら」
「なぁに、今度はわしもおる。そう悲観する事も無かろう」
「…だと良いんだけどね…また何かが起きそうで…」
そうこぼしたルイズの勘は実際正しかった。倉庫へ向かう途中で、二人は呼び止められた。
- 20 :
- 「あー、呼び止めて済まないが、ミスタリュオ。少し時間を戴けないだろうか。先程貴方が拾われた瓶の事なんだが…」
二人を呼び止めたのはギーシュであった。リュオは、手形と引っかき傷で赤く化粧されたギーシュの顔を見て、大体の事情を了解した。
「おや、ギーシュか。…ちょっと見ないうちに面白い顔になったな」
うぐ、と渋い顔をするギーシュに更に追い討ちをかけた。
「当ててやろうか。あのケティとかいう娘にやられたのじゃろう。しかしそりゃ自業自得というものじゃ」
「いや、ケティとの後にモンモランシーにも…って、そんな事はどうでもいいんだ。とにかく、その瓶を返して頂けないかと」
「おやおや?お主、先程自分の物ではないと言い切ったではないか」
「い、いやそれは…。勘違いしていたんだ、うん。だから返してはもらえないだろうか」
「本当にお主の物なら勿論返すぞ。返すが…どうもお主は嘘吐きのようじゃからなぁ、信用して良いかどうか…」
「そ、そこをどうか…。そ、そうだルイズ、君からも一言頼むよ」
「そう言われても私は事情を知らないから言い様が無いわよ。一体どういうことなのかしら?」
「い、いや、それはだね…」
言葉を濁すギーシュに代わり、リュオは食堂での一件を簡潔に語った。それを聞いたルイズの返事は実に簡潔だった。
「駄目」
「そ、そこを何とか頼むよ」
あっさり切り捨てられてすがるギーシュに、嫌そうにルイズは答えた。
「今の話だと、どう聞いてもあんたが嘘吐いたのが悪いんじゃないのよ。ついでに何で私が二股の片棒担がなきゃならないのよ」
「ふ、二股なんて事、僕はだね…」
痛いところを付かれてしどろもどろになるギーシュをルイズは冷徹に一瞥すると、
「とにかく、そんな理由じゃお断りよ。自分でリュオを説得して頂戴」
「…まぁ男なら口よりも態度で示してもらおうかの。というわけでルイズ、思わぬ形で人手が一人増えたぞ」
「え…?ああ!そういう事。それならいいわ。じゃぁギーシュ、ちょっとついて来てくれるかしら」
「な…何をさせようというんだい…?」
恐る恐る尋ねたギーシュに、にっこりと笑ってルイズは答えた。
「心配は要らないわ。教室を片付けるだけの簡単なお仕事です」
ギーシュがなかまにくわわった!
- 21 :
- 学院の一角に倉庫はあった。流石に学院本体の様な豪華な造りにはなっていないが、それでも普通の家よりはしっかりとした造りになっているあたり、ある意味徹底している。
中は当然真っ暗であったが。ルイズが指を鳴らすと壁につけられた魔法仕掛けの明かりが点灯し、作業には充分なだけの明るさになった。
「便利な物じゃな。部屋にあったのと同じ物かな?」
「多分ね。倉庫だから実用本位にはなっていると思うけど、まず原理は同じはずよ。
…さて、それにしても…」
「やれやれ、コルベールも言っておったが、本当に散らかっておるな。これでは何を探すにしても一苦労じゃわい」
三人は揃って溜息をついた。埃っぽい倉庫の中はお世辞にも片付いているとは言いがたかった。ある程度整理がついた区画が入り口付近に多少ある程度で、
大部分はあらゆる物が何の法則性も無く乱雑に積み上げてあるだけであった。それは奥に行くに従って段々酷くなるようである。
「正直、長居したくないわね。空気も悪いし。まぁ…倉庫だし仕方ないのかもね。それはそうと、まずは教壇よ。大きい物だしすぐに見つけられるとは思うけど」
「うむ、厄介事は手早く片付けるに限るな…と、これかな?後で備品の持ち出しの報告が必要にな
るのかな?」
「まぁ、それはミス・シュヴルーズかミス・ロングビルに言っておけば大丈夫でしょ。よし、じゃぁ、目指すは教室ね」
「うむ。邪魔になりそうな物があったら退けておいてくれ…というわけで、ほれ、お主の出番じゃぞ、ギーシュよ」
余りの乱雑ぶりに呆然としていたギーシュの反応は鈍かった。
「へ?あ、ああ。何をすれば良いのかな?」
「何を聞いておったんじゃ。この教壇を、教室まで持っていくんじゃよ。年寄りに肉体労働をさせるでないわ」
「わかったよ。ミスタ・リュオ。魔法を使っても構わない、よね?」
「ああ、別に構わんじゃろう」
「あれ、シュヴルーズは魔法を使うなと…」
「ルイズよ、それはお主に向けて言った言葉じゃろう?自発的に手伝いを申し出た友人思いの若者には言っておらんのじゃないかな?」
「ああ、確かにそうかもしれないけど…う〜ん…ま、いっか?」
ルイズは今一つ釈然としなかったが、無用に時間をかけたくない事もありここは妥協する事にした。
どうやらルイズが納得したらしい、と見て取ったギーシュは、
「じゃあ、構わないね」
そう言って教壇にレビテーションをかけた。魔法がその力を現し、教壇がふわりと浮き上がる。そのままルイズを先頭にして三人は出口を目指した。
リュオとルイズがまず道を作り、その後を教壇がフワフワと、そしてその後を教壇を操りながら指揮者の如くギーシュがついて行く、といった按配で倉庫から出て行った。
奇妙な事に、そのすぐ後で乱雑に物が積まれた一角からガタゴト音が鳴り出したのだが…
既に倉庫から出ていた三人がその事に気づく事は無かった。
- 22 :
- 教室に着いた三人は、早速後始末の残りに取り掛かった。リュオに加えて予想外の助っ人、ギーシュが加わった事もあり、リュオが言ったように作業は何とか明るいうちに終わった。
とはいえ、食堂で時間を取られた事もあり、既に日が沈み始めてはいたが。
「うむ。こんなものじゃろう。完璧だとは言わんが、これで充分じゃろ?」
「そうね。じゃぁ。これで終わりということで。ん〜、疲れたぁ〜」
「…やれやれ、仕方なかったとはいえ、貴族のやる事じゃぁないね。」
やっと後始末から解放されて伸びをするルイズ達だった。その表情には、やっと作業から解放されたという喜びが溢れている。
「何を言っておる。倉庫に戻るぞ」
「え…?あぁ、そうか…でも、もう日も暮れるし、明日にしない?」
「まぁそういうな。ちょっとだけじゃて。大して時間は取らん。それに、今の状態で夕食が入るか?わしゃまだ満腹じゃ」
「う…確かに…」
「じゃろ?腹ごなしの散歩のようなものじゃと思ってちと付き合うのじゃ。まぁ、散歩にしては空気が悪いがな。
ああ、ギーシュや、ご苦労じゃったな。ほれ。全く、最初から正直に言っておれば良いものを。今度は精々落とさぬようにすることじゃな」
そう言いながら、リュオは香水をギーシュに渡した。
「ああ、ありがとう。肝に銘じておくよ。…ところで、こんな時間にこれから倉庫で何をする気なのかな?」
「なあに、このルーンがな…どうも面白い意味がありそうなんでちょっと確かめてみようかと思ってな」
そういって、リュオはギーシュにルーンを見せた。
「…よく分からないがそれは何か面白そうだね。ついでだし、僕も一緒に行って良いかな?」
「わしは別に構わんぞ。では行くか」
倉庫に入るなり、三人は顔を見合わせた。
先ほどと変わらぬ倉庫である。相変わらず、雑然と物が置かれている。
だが。その一角、まるで地層の様に様々な物が積まれた区画の下の方が何やらガタゴトと揺れていた。そしてそこから…
「おい!出せ!出してくれって!」
そうわめく声が聞こえていたのだった。
- 23 :
- 今回はこれまでです。DQ1・2・3、DS版DQ6とプレイしていた事もありかなり間が開いてしまいました。
10も評判良さそうなんだけどこっちは… いいんだ、運が無いのは分かってるんだ…
- 24 :
- 投下乙!
- 25 :
- 久々に4代目が来とる
乙
- 26 :
- これから第十六話投稿します。
- 27 :
- 第十六話『年増再び』
「くそぅ!!」
一人酒場でワインを一気に煽りワルドは毒づいて乱暴にテーブルにグラスを置く。
それというのも朝一番のミントとの立ち会いでワルドはルイズの目の前でミントに圧勝したのだ。だが、それが不味かった…
(異国の王族か何かは知らぬがガンダールブめ……)
御陰でルイズの心象はかなり悪くなってしまった。
これではまるで自分を悪役に仕立てる為の茶番だ。ただワルドの内心が荒れているのは何もその事だけでは無い。
ワルドは気づいていた。ミントがわざと自分に敗れた事も、自分に対して僅かながらにも警戒心(というよりは不信感)を抱いていると言う事も。
ワルドは自分の本当の目的とそれに関する様々な計画、そしてそれに対する障害となるであろう物に対しての対処を思い描いて思考に耽った。
自分のテーブルの後ろに微かに見える密談を行っている二人組のメイジの姿を捉えながら…
___女神の杵邸
滞在二日目、ワルドの御陰で無事船の手配も完了し、明日にはアルビオンに向けて出立すると言う事でミント達は全員揃って宿でゆっくりと身体を休めていた。
既にワルドは朝の決闘の件についてミントに改めて謝罪し一行は共にテーブルを囲いディナーを楽しんでいた。
だがここで一行に再び予定調和のトラブルが降りかかる。
宿の正面玄関が突然乱暴に開け放たれ、そこには弓矢や剣等で武装した大勢のゴロツキ傭兵が控えていたのだ。
ルイズ達と同じく宿に泊まっていた一般の客達から悲鳴が響く。
「居たぞ!!あいつ等だ!!」
一人のリーダー格らしき傭兵が声をあげる。傭兵達は周囲の客達に目を向ける事無くルイズ達を発見すると問答無用と言わんばかりに弓に番えた矢を放ち始めた。
「不味い!!全員伏せろ!!」
- 28 :
- 一番素早く反応したワルドが料理とお酒の乗った地面と一体化した石のテーブルの足を練金で崩し、弓矢に対する即席の盾とする。
タバサもワルドに倣い、本を片手に同じく盾を作り出す。その際ちゃっかり自分の好物であるハシバミ草のサラダだけはきちんと取り分ける。冷静な物である。
「どうする?明らかにあいつ等あたし達狙ってるわよ。」
テーブルの盾から半身を覗かせ、傭兵達の姿を確認してミントがワルドに訪ねる。
「僕たちを狙った刺客という訳か…しかし位置取りが不味いな。奴らはあそこから弓矢で慎重に攻めてくるつもりの様だ…魔法で応戦しようにもこちらの精神力を無駄に消費するのは避けたいんだがね。」
「確かに私の火でもあの石の扉の影に隠れられたら効果は薄いかもね。」
ワルドとキュルケが冷静に状況を確認してそれぞれ同じような結論を出す。
二人の攻撃魔法の特性上狭い屋内では使える魔法もある程度制約が掛かる上どうしても遮蔽物に効果を削がれてしまう。
「フフッならばここは僕にお任せを!!奴らを攪乱し隙を作ります、行けワルキューレ!!」
「ななな、何でも良いから早くしなさいよ!!」
と、ここでギーシュが薔薇の杖を高く翳し、舞い落ちた薔薇の花びらから取り敢えずワルキューレを二体練金する。
ルイズからの罵声と共にワルキューレは猛然と傭兵達の元に突撃していく。
途中何本もの弓矢を身体に打ち込まれるがゴーレムの最大の強みはそのタフさにある。あっという間に入り口まで到達したワルキューレに恐れをなしてか傭兵達は慌てて密集していた入り口から逃げ出していく。
「ハハハ見たか!!これが僕のワルキューレの力だ!!」
「やるじゃないギーシュ!!」
お気楽に高笑いを浮かべはしゃぐギーシュ、ルイズ、キュルケ。
しかし残りの面子はその様子が明らかにおかしいという気が付いていた。それは命が掛かった実戦の中で培われた経験からの物である。
ズ ド ン !!!
警戒状態が続く中ワルキューレが宿の外にまで歩を進ませると突如轟音を響かせ、上空から落ちてきた巨大な岩の塊がワルキューレを容易く粉砕した。
「ワルキューレ〜〜〜〜〜!!!!!」
響くギーシュの悲鳴。そしてワルキューレを粉砕した岩の塊は再び浮き上がる様に全員の視界から消えた。
- 29 :
- __外
「ふん、他愛無いね。」
自分の巨大ゴーレムの一撃で粉々に成ったワルキューレの残骸をみやり、フーケはゴーレムの肩の上でニヤリと笑う。
「油断はするな…それとくれぐれもヴァリエールの娘をなよ。」
そのフーケの隣に立つのは全身を黒のローブで包み、顔を真っ白な仮面で隠した男のメイジ。
それは昼間ワルドが食事をとっていた酒場にて密談を行っていた二人組のメイジだった。
ミント達の手で捉えられたフーケは監獄に収監され、そこでこの仮面のメイジに協力をするという条件で助け出されていた。
フーケはその条件を飲んで今ここに居る。まぁそれは協力を拒めばという脅迫じみた物であったからでもあるが…
と、ここでフーケが再び宿の入り口に視線を向けると、再び散開した傭兵達が弓を構えて集まり出す。
__室内
ワルキューレがやられた事で再び傭兵達が室内に弓矢を打ち込み始めた。
キュルケ、タバサ、ワルドもそれぞれ魔法で応戦するも傭兵達は対メイジ戦闘になれているのか魔法が来るそぶりがあれば直ぐに後退してしまう。
「これではじり貧だな。」
「そうね…ま、ここはこのミント様の出番かしらね。」
ワルドが歯がゆそうにぼやくのを聞いてここまで見につとめていたミントがおもむろに立ち上がる。。
「なんだ相棒?手があるのかよ?」
「まぁね〜、ああいう奴らをぶっ飛ばすのには言い魔法がね…」
そう言ったミントに対して全員の主に期待の視線が集まる中で鼻歌交じりにミントが狙いを付けてデュアルハーロウに纏われた黒い魔力を引き絞る。
「何それ?」
ルイズの間の抜けた様な問い…他にはそれを口に出した人物は居なかったが全員が同じ疑問をその珍妙な魔法に抱いていた。
デュアルハーロウから撃ち出されたのは大きさリンゴの二回り程の大きな黒い玉。
練金という訳でも無く完全に実体化したその不思議な質感を持つ黒い玉は連続して五つ程、ミントの黒い魔力の螺旋から生み出され地面をボールの様にゆっくりと撥ねながら傭兵の集団に接近していく。
例えばミントの世界の人間があの傭兵の集団の中に居たならばその人物は撥ねながら接近するその黒い玉から一目散に逃げ出していただろう。
- 30 :
- だがここには誰一人接近してくるその黒い玉の正体を知るものは居ない。
そんなゆっくりと撥ねるだけの玉に誰が警戒をするだろうか?ハルケギニアにはそもそも存在しえぬその魔法、傭兵達は誰もその黒い玉から逃げようとはしなかった。
黒色の魔法、タイプノーマル『ボム』
そして遂に一人の傭兵の身体にボムが接触する…
爆発。爆発。爆発。そして爆発。
圧倒的破壊力の爆発は大量の土煙を巻き上げて大勢の傭兵もろともに宿の出入り口を吹き飛ばし巨大な風穴を岩壁に作り上げた。
「何だいっ!!?爆発!?ヴァリエールのお嬢ちゃんか!?」
その突然の爆発の様子をゴーレムの肩の上から見ていたフーケは直ぐに警戒状態に移った。膠着状態だった状況はその爆発で一転する。
「いや、あれはその使い魔の仕業だ。どうやら爆弾の様な物を使った様だな…」
「ちっ、ミントか…」
仮面のメイジの伝えた情報にフーケは舌打ち混じりに歯がみする。
「……マチルダ、ここはお前に任せる、時間を稼いでここで奴らの注意を引いてくれればそれで良い。」
「あいよ…」
フーケが渋々といった様子で返事をすると仮面のメイジは霞の様に消え去った。
そして一陣の風が吹き抜け、視界を遮っていた土煙が徐々に晴れていく。
快晴の夜空は重なった二つの月明かりを遮る事は無い。フーケの視線の先には同じく自分を敵意を孕んだ瞳で不敵に睨み付けてくるミント達の姿があった。
「久しぶりだねぇ、会いたかったよミント!!」
「げっ…フーケ!!あんた監獄に入ってたんじゃ無かったの?」
「え?確か君達が捉えたはずだよね?」
「脱獄…」
ギーシュがここにフーケが居るという事実に首を捻るとタバサがそれ以外に無いという答えを簡潔に答えた。。
- 31 :
- 「あぁ、そうさ!だけど親切な人達がね、私みたいな美人はもっと世の中の為に働くべきだって助け出してくれたのさ。」
訪れたリベンジのチャンスにケラケラと笑いながらフーケは自信満々にミント達を見下ろす。
しかしミントは魔法でも武器でも無くもっと恐ろしい物でフーケに対して先制の一撃を加える。
「自分で美人なんて言ってんじゃ無いわよ!良いわ、手下共々ボコボコにして地獄巡りをさせてやるわ、このミント様にお礼参りなんて百万年早いのよこの『 年 増 !!!!! 』」
年増!!
年増!!
年増!!!!!
ミントが放ったその魔法の言葉が山彦となりリフレインする度フーケの胸には槍が突き立てられた様な衝撃が容赦無く襲いかかる。
「とっ…年…」
「ば、馬鹿ヤロー!!フーケの姉さんに何て事言いやがるんだ!!そりゃあ姉さんは四捨五入したら三十…」
ゴシャリッ!!!
叫んだ傭兵の一人がゴーレムの無慈悲な拳に叩きつぶされる。
(あぁ、あれは死んだわね…)
その始終を眺めていたルイズ達は何故か生きているという確信を抱きつつぼんやりとそんな事を思う…フォローするにも言いようがある。完全なとは言えないが十分なとばっちりだ…同情する。
「小娘が好き放題に言ってくれるじゃないか。 ミント……。地獄を見せてやるよ!
憤怒の表情で握りしめた拳を振るわせフーケは傭兵達を巻き込む事も構わずゴーレムを前進させる。
- 32 :
- メルキドのゴーレムってと
モンスター物語のゴーレム無双のインパクトは強すぎた。
最終的に、ラダトーム攻略のために用意したストーンマン百体をメルキドに差し向けても無傷で壊滅させちまった。
- 33 :
- 「来たな。だがあれをまともに相手はしていられない。諸君、この様な任務では最終的に半数が目的地に辿り着けば成功とされる。故にここは二手に分かれよう。」
傭兵の約半数が戦闘不能になったとはいえ、ゴーレムが本格的に攻撃に参加してきた事でワルドが全員にそう提案する。
すると遮蔽物が無くなった事で本格的に魔法で傭兵達を攻撃していたタバサが無言で自分、キュルケ、ギーシュを指さした。
「囮。」
指さされた二名は了解の意を込めて頷く。続いてタバサはワルド、ルイズ、ミントを指さす。
「裏口へ。」
「分かった、済まないが奴らの足止めを頼む。」
「任せたわ。」
「ちょっと!そんなの駄目よ!!危険だわ!」
ワルドとミントがタバサの提案を了承し、早速裏口に向かおうとするがそこでルイズが異を唱える。
「ハァ、あんたねぇ…」
ルイズの甘さに溜息をつくミント…だがここでルイズを説得したのはキュルケだった。
「冷静になりなさいよルイズ。
そもそも私とタバサはあんた達が何をしにアルビオンに行くのかも知らないんだからこれで良いのよ。
ほら、グズグズしてたら船があいつ等に押さえられちゃうわよ。」
「でも…」
それでも食い下がろうとするルイズにキュルケは一発デコピンを食らわせる。
「でもも何も無いの!!あんたには大切な役目があるんでしょう?それに前はフーケ相手に良いとこ無しだったからね。今回は私達にも活躍させなさいよ。ね、タバサ?」
キュルケの言葉に無言で頷いたタバサの瞳は『任せろ』と雄弁にルイズに語っている。
「行きたまえ、ルイズ。ここは僕たちに任せるんだ。」
「あんた達……頼むわねっ!!」
ルイズは走りだした。それを追いワルドとミントも振り返る事無く裏口から宿の外へと飛び出していく。
「逃がすか!!」
ルイズ達を追おうとフーケはゴーレムを操作しようとしたがそれは自分目掛けて飛んで来た炎の塊によって阻害された。
「ちっ、小娘共がよくも邪魔を…」
「よし、行ったわね…さて、ここからはこの微熱のステージよね。」
- 34 :
- キュルケは懐から取り出したルージュを唇に走らせて色っぽく笑う。既に傭兵は粗方片づいた。後はこちらを見下ろす巨大なゴーレムである。
ゴーレムの進行のせいで既にレストランは壁が崩れ、屋根も無い。最早外と区別が付かなくなっている。
「フフフ、燃えてくるね。だが、あの巨大なゴーレムをどうやって仕留めるかが問題だね。手はあるのかい?」
「まともには無理……だから」
言いながらタバサは魔法で作り出した高圧縮された水の塊をぶつけ、ゴーレムの足にぶつける。
と、タバサは続けざまそのまま水の塊を一気に凍りに変えてゴーレムの足首と膝ををピンポイントで完全に固定する。
「嫌がらせをする。徹底的に…」
そのタバサらしからぬ言葉にギーシュは一瞬唖然としてしまうがキュルケにはその意とする所は直ぐに伝わった。
「アハハ、良いわねそれ最高よタバサ!ギーシュ、ゴーレム使いの土メイジとして敵に一番やられたくない事教えなさいよ。」
ゴーレムの振り回した拳を軽やかにフライで回避して愉快そうにキュルケは笑う。どうやら自分の親友はここに来て新しい一面を見せてくれたようだ。
それがたまらなく嬉しい。
「あぁいいとも。だが、実技の授業で僕に実践しないでくれよ!!」
タバサのあの小悪魔の様な言い様、性格こそ全く違えどまるであの傍若無人で破天荒なミントの様では無いか…平然とそんな事を言うのだから末恐ろしい話だ。
だが、今はそれがまた一層頼もしく思えてギーシュは人生初の命がけの戦いの最中でありながら思わず苦笑いをこぼしていた。
『行くぞ(わよ)、年増!!』
「年増って言うな〜っっ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
- 35 :
- これで第十六話終了です。
しばらくは破壊されたZ世界を再生させるのに忙しくなりそうなので更新遅れるやもです。
一応途中投げにはしないつもりです。
物語の続きが見れない苦しみをデュープリズム本編をやりこんだ人間は知っているのだから…
- 36 :
- 乙です
- 37 :
- ついに年増コールキターーwww
あれ?後ろに誰k(グシャッ!)
ところでマチルダ姐さんって23歳じゃなかったっけ?
- 38 :
- 中世あたりの文明だから23でも行き遅れになるだろ
おや?外にゴーレムが・・・
- 39 :
- >>37
いちいち傭兵に年齢ばらしたとは思えんし、「四捨五入したら三十」は潰された奴の個人的印象だろう
- 40 :
- 人によって一回の投下量って全然違うけど、明確な基準ってあるのか?
一回で多くやるより、一回を少なく話数&投下回数稼ぎしたほうがいいのかな
- 41 :
- それなりの量ないと読む気すらしない俺みたいなのもいる
- 42 :
- 内容がいいなら気にならんな俺は
- 43 :
- 量より、どれだけ続くかだよね
- 44 :
- >>37-38
まあまあ、女は30過ぎてからがいちばんいいってガッチャマンも言ってるしさ
- 45 :
- >>35
乙です
そういや再世偏明日発売かー
クロウさん召喚面白いかもね。生身でも結構多芸だし、ルイズから借金背負ったりしてw
- 46 :
- デュープリズムの人、乙です!
もしミントがいたらドールマスターの野心に気付いていただろうと言われてただけの事はあるな
ワルドの野心にも気付いたか……
そしてフーケがベル化してる……ww
- 47 :
- ドールマスター……ドールユーザー→ゴーレムマスターと連想した
つい最近ワイトキングに粉注ぎ込んでがっかりしたのは俺だけじゃあるまい
- 48 :
- >>44
昔の両津も似たようなこといってたな、脂の乗り切った30過ぎくらいのがいいと
あと枢斬暗屯子をいい女の例にあげたこともあったけど
- 49 :
- >>47
ドールマスター…久々津さん?
さえない眼鏡が召喚されたと思ったら手持ちのフィギュアが人間サイズになってなんでもこなす便利キャラだったとかいう展開で
フィギュア製作関係の道具と塗料さえ有れば何でもやれそうで怖いかもしれん
- 50 :
- エルフの反射って解除以外だと対策ないんだっけ?
- 51 :
- >>50
高速な重量のある物体で強引に突き破る。
原作だとFlakで抜けてるし。
- 52 :
- 反射はそこら辺の精霊さんに攻撃を防いでもらう魔法だから、
精霊さんの手に負えないくらい強力な攻撃や精霊さんが防げない系の攻撃は普通に通るはず
作中で防いだのは単純な攻撃魔法や肉弾攻撃のみで、精神系の攻撃が防げるかとかはわからないな
光や音、空気は遮断している様子が無いから有害な光線や音波、毒ガスなんかは通るかも…
- 53 :
- あとエクスプロージョンも反射では防げていない様子
ヨルムンガンドは装甲に焼き入れして物理的な防御力を増すことで耐えたが、反射で防いだわけではない
- 54 :
- つまり、零式防衛術なら突破できると
- 55 :
- 忘却も通りそうなんだよな、反射
- 56 :
- 夜分遅くになりますが、予約がなければ続きを投下しようかと思いますがよろしいですいか?
- 57 :
- 許可しよう
- 58 :
- Mission 23 <時空神の記憶> 後編
キュルケからの指摘にスパーダは軽く鼻を鳴らし、自嘲の笑みを浮かべていた。
果たして、この異世界の人間達はどこまで信じてくれるだろうか。このハルケギニア以外にも、彼らのような人間が住まう別の世界が存在するという事実を。
そして、その世界でかつて起きた出来事を、自分が起こした行動を全て信用してもらえるか。
スパーダが再び時空神像に手を触れると、砂時計から三度光が壁に放射され、新たな映像が映し出される。
ルイズ達の目に映りこんだのは、先の映像と同じく無数の悪魔達が大地や空を蹂躙する光景だった。
ただ、今回は先ほどのとは何かが違う。
翼を生やし、空を舞う悪魔達は魔界の禍々しい雰囲気がまるで感じられない、夕日が照り、赤々と焼けた夕焼けの空を飛び交っている。
大地を闊歩する悪魔達が足をつけているその地面は、瘴気や溶岩などを噴き出していた魔界の毒々しい大地とは異なり、草木が生えている肥沃で豊かなものであった。
そして、悪魔達が喰らっているのは弱肉強食の世界で互いに争い合っている同族ではない。
――きゃあああっ!
――助けてくれぇ!
――お母さぁぁん!!
――ぎゃああああっ!
燃え盛る炎の光景の中、幾多も響き渡る悲鳴と断末魔。そして、炎の中を悪魔達から逃げ惑う無数の人影。
それは紛れもなく、人間であった。
血に飢えた悪魔達は力のない人間達を容赦なくその爪牙で引き裂き、血肉を喰らっていく。
老いも若きも、男も女も、子供も大人も関係なく、ただひたすらに殺戮を続けていた。
「ひどい……」
あまりに惨く、残酷な光景にルイズは思わず顔を背けそうになった。
「魔界を統一した魔帝ムンドゥスは魔界とは別の次元に、人間達が住まう異世界が存在することを知っていた。かつての我が主はその異世界をかねてより侵略することを企てていた」
顔を顰めながらスパーダは語る。
「元々、魔界と異世界との間には分厚い壁のような境界が存在し、互いに干渉することはできない。だが、力のない悪魔達はその境界の極小さな隙間を潜って人間界を行き来することができる。
如何にムンドゥスと言えど、自分のような上級悪魔達が通れるほどの穴を力づくで無理矢理押し広げることは難しかった。だが……」
映像が変わると、そこには天高くそびえる巨大な塔とそれを崇めるように囲む何百人もの人間の姿が映っていた。
荒野の中に建てられているその塔は山よりも大きく、そして魔界のような禍々しさがありありと感じられていた。
その遥か頂上から、暗雲が広がる空に向けて赤い光が伸びている。
暗雲を突き破り、薄暗い空の中に大きな穴がぽっかりと開けられていた。
その穴を通って、無数の悪魔達が次々と大地へ降り立っている。
- 59 :
- 「ムンドゥスは下級悪魔達を上手く利用し、人間達を堕落させていった。堕落させられ、魔に魅入られた人間達は魔界と自分達の世界を繋ぐために塔を建てた。
それが、このテメンニグル――恐怖を生み出す土台≠ニ呼ばれたものだ」
映像に映る禍々しいテメンニグルの塔、そして飛び交う悪魔達にルイズ達は目を疑った。
人間が魔界の扉を開き、悪魔達を招くためにこんな物を作り出しただなんて、狂気としか思えない。
いや、その狂気へと駆り立て堕落させたのが、魔界から送り込まれた悪魔なのだろう。
人間達はまんまとムンドゥスに利用され、悪魔達が侵略するための道を開いてしまったのだ。
「これはいつの出来事?」
映像を見ていて僅かに顔を顰めていたタバサがスパーダに尋ねていた。
「今からおよそ千五百年以上も前のものだ」
「……そんな話は、ハルケギニアの歴史には残っていない」
普段から様々な本を読んでいる彼女は、たまにハルケギニアの古い歴史書に目を通すことがある。
始祖ブリミルがハルケギニアに降臨したのは六千年も昔だということだけは伝えられているが、今スパーダが話し、ここに映し出されている出来事はどこにも記録などされていないものだった。
だが、先ほど時空神像が見ていたらしい自分の姿を見せられた以上、これも神像が見届けたものなのだろう。
決して、この出来事が作り物であるとは思えない。
だが、ハルケギニアの歴史には過去に悪魔によって侵略されたという記録も残っていない。
これほどの出来事が起きたのであれば、歴史書に載せられていてもおかしくはないはず。
「あたしも聞いたことないわねぇ」
キュルケもタバサに同意し、他の者達も同様であった。
「どういうこと、スパーダ?」
「……それは当然だ。この出来事は、ハルケギニアで起きたものではない」
腕を組むスパーダが発した言葉に一同、目を丸くする。
「このハルケギニア以外にも、お前達のような人間達が住まう異世界が存在する。そこで起きたものだ。信じる、信じないかはお前達次第だが」
「い、異世界?」
ルイズは一瞬、その言葉が信じられなかった。ハルケギニアとは全く別で自分達と同じ人間が生きている世界が存在するだなんて。おとぎ話もいい所だ。
だが、スパーダが生まれた魔界という異世界が存在する以上、その話は信じざるを得なかった。
「あたしは信じるわよ。こんな凄いものを見せられちゃあね……」
キュルケが乾いた笑みを浮かべて未だ悪魔達が飛び交うテメンニグルの映像を見やった。
「……テメンニグルによって開けられた魔界の扉を通って、ムンドゥスは下級悪魔はもちろん上級悪魔達を次々と送り込んできた。
人間界に降臨した悪魔達、そして悪魔を崇拝する魔に魅入られた人間達はテメンニグルを拠点に各地へと侵攻し始めたのだ。
多くの人間達はそれに対抗したが、ほとんど劣勢だった」
「スパーダも……それに加わってたの?」
恐る恐る、ルイズが問いかける。
- 60 :
- スパーダがムンドゥスの右腕だったならば、彼もまた人間界侵略の尖兵として送り込まれたことになる。
ルイズはスパーダが他の悪魔達と同様、人間達を容赦なく手にする剣で斬り伏せていたのではないかと、不安であった。
スパーダはルイズの問いに対して、何も答えなかった。ただ腕を組んだまま目を瞑り、顔を僅かに伏せている。
その沈黙は、肯定を意味しているのか。それとも答えあぐねているのか。
ルイズはもちろん、一行はその沈黙が肯定でないことを願った。
と、突然スパーダがまた自嘲の笑みを浮かべていた。
「……私は、悪魔の中では異端だったのかもな」
――魔剣士スパーダ。何のつもりだ。
突如、響いた禍々しく凶暴そうな悪魔の声。
映像には長剣を肩に担いでいるスパーダが5メイルほどの大きさで、強靭な黒い体に頭頂部には角を一本生やしている獣人のような姿の悪魔と対峙していた。
その巨大な悪魔の他にも下級悪魔達もスパーダを取り囲んでいる。
だが、ルイズ達が目に入ったのはその巨大な悪魔でもスパーダを取り囲む悪魔達でもなかった。
周囲に転がる無数の悪魔達の亡骸、それらはスパーダ自身の足元にも転がっている。
悪魔達みんな、剣か何かで斬り捨てられたようだ。
――我らの目的はこの世界の制圧にある! 偉大なる我らが主を裏切る気か!?
怒りに燃える巨大な上級悪魔、暴閃獣<xオウルフは獰猛で凶悪な眼を赤く光らせながらスパーダに向かって吼える。
――裏切り者。
――逆賊め。
すると、周囲の悪魔たちも同様にスパーダに対する呪詛を口々に吐きかける。
スパーダはそんなことを同胞達に言われてもまるで気にしておらず、無表情のままベオウルフを睨みつけていた。
(あれ? このスパーダ……)
ルイズは映像に映るスパーダを見て、今までの映像のスパーダとは少し異なる印象に気づいていた。
前の映像のスパーダは悪魔らしく冷酷さに満ちた表情だった。だが、今のこのスパーダはこの場にいるスパーダほどではないが、その冷酷さが薄れているような気がした。
そして何より、悪魔達が口にした言葉が気になった。
(裏切り者? 逆賊?)
悪魔達が一斉に、スパーダに襲い掛かった。
スパーダは剣を大きく薙ぎ払うと、向かってきた悪魔達を次々と吹き飛ばしてしまっていた。
ベオウルフはスパーダの剣風を受けても堂々と立ち尽くし、怒りに燃え盛った瞳をスパーダに向け続けている。
――それが貴様の答えか。……逆賊、スパーダ!! 裏切り者は決して生かしてはおかん!!
- 61 :
- 荒々しい悪魔の咆哮を上げ、ベオウルフはスパーダに飛び掛った。
同時に雷鳴が弾けるような音と共にスパーダの姿が今までの人間の姿から、あの悪魔の姿へと変わっていた。
拳を振り上げるベオウルフに対し、スパーダも長剣を両手で構え、正面から迎え撃っていた。
「私は魔界の軍勢を裏切り、人間達を救うためにかつての同胞達と戦った」
その言葉にルイズ達は驚き、目を見張った。
スパーダが魔界を裏切った? しかも、同胞である悪魔達を全て敵に回して?
映像は次々と変わっていき、どの映像もスパーダが悪魔達を相手に己の剣を振るって一人で戦う勇ましい姿だった。
人間の姿の時であれば悪魔の姿で戦うこともあり、猛々しい剣技以外にも拳から発する赤い光弾を連射し、悪魔達を撃ち抜く。
剣を突き立て、悪魔達が蠢く大地に着地した途端、巨大な衝撃波が何万もの悪魔の軍勢を一瞬にして全滅させていた。
時に見るからに強靭そうな上級悪魔達と戦う姿もあったが、どの悪魔達を相手にしてもスパーダは一歩も引かない戦いぶりを見せていた。
そして、多くの場面でスパーダは悪魔に襲われる人間達を守るようにして戦っている。
時に人間の戦士がスパーダに加勢し、共に悪魔を相手に攻防を繰り広げていた。
「正直、私も同胞達はできるだけ魔界に追い返そうと努力はした。そのまま斬り捨ててしまった者達も多かったがな」
やがて、さらに映像が別のものに切り替わった。
暗雲が広がる空、どこまでも続く血の池、無残に転がる瓦礫の山、そしておぞましい姿をした鎌を手にする悪魔達。それを容赦なく斬り伏せていくスパーダ。
(これは、あの時の……)
ルイズはその場面に覚えがあった。
これは以前に夢で目にした光景。恐らく、魔界での出来事だ。
確か、あの悪魔達を倒した後に……。
「どうしたの、ルイズ?」
ルイズが青ざめた表情で映像から目を背けだしたのを見てキュルケが声をかけた。
「どうしたんだい、ルイズ。しっかりしたま――」
まるで発作を起こしたように呼吸と声を震わせるルイズの様子に心配したギーシュだったが、映像に映った物を目にして言葉を失った。
スパーダが見上げる暗雲の空に浮かび上がる、稲光を散らしながら不気味に光る三つの光。
目のように睨んでいるその光に、ルイズやギーシュはおろか他の者達も底知れぬ恐怖を感じていた。
ただの映像に過ぎないのに、この威圧感は何なのだ? どうして、ここまで恐怖を感じてしまうのだろう。
タバサでさえ、表情には出さないもののその三つ目の光に心の底から恐怖を味わっていた。……四年前、自分が初めて任務へと駆り出された時以上の恐怖だった。
- 62 :
- 「私は魔界の軍勢に抗う人間達の協力を得て、テメンニグルを封じることに成功した」
テメンニグルを封じる際、スパーダは穢れなき巫女≠ニ呼ばれていた人間の女性の血と自分の血を用いて塔を地中深くに沈めて封印した。
その際、ベオウルフの他、スパーダが直接従えていた上級悪魔なども共に塔の中へ幽閉したのである。
そして、自分の力は人間界に留まるには大きすぎたため、魔界の深淵へと封じてきた。
「そして、かつての我が主、魔帝ムンドゥスを魔界の深淵に封じるべく戦いを挑んだ」
映像のスパーダが長剣を手にして三つ目の光――魔帝ムンドゥスに向かって駆け出した。
あの夢で、ルイズは必死にスパーダを呼び止めた。絶対に戦いを挑んではいけない、勝てるわけがないと精神が警鐘を鳴らしていたからだ。
だが、スパーダは決して止まらなかった。
その姿を彼本来の悪魔の姿へと戻し、手にする剣もまた今までとはまるで違う、禍々しく巨大な異形の剣へと変えて。
そこで映像が終わり、時空神像からの光も消え失せていた。
魔界、悪魔、そして魔帝ムンドゥスの恐ろしさを存分に味わったルイズ達は憔悴し切った様子で、スパーダを振り返っていた。
「私のことは、大まかに説明するとこのようなものだ。お前達が見た通り、私は人間達に味方した裏切り者だ」
「……でも、どうして悪魔のスパーダが人間を?」
誰もが最も不思議に思う疑問。悪魔であるスパーダが自分よりも力の弱い人間を守ろうとしたのだろう。
「……先ほども言ったように、私は悪魔の中では異端だったのかもしれん。私はどうにも他の悪魔達のように無意味な殺戮も、弱者を虐げるのも良しとはしなかった」
スパーダは自嘲の笑みを崩さぬまま言った。
「それに我が主にも少々不満があったからな」
「不満?」
「我が主は、あまりにも残酷で無慈悲だった。主はたとえ自分の腹心であろうと、戦力にならないと分かればすぐに切り捨てる。……あそこまで悪魔らしい悪魔もいない」
かつて魔界で起きた三大勢力の戦いで、ムンドゥスの腹心が他の悪魔の勢力の悪魔に幾度も敗北した時、たとえ忠臣であろうと容赦なく自らの手で消し去る。
ムンドゥスにとっては、他の悪魔達も自分の手駒に過ぎない。役に立たなくなった手駒はこれ以上、自分の手にあっても邪魔なだけ。
ならば、早々に消えてもらった方が都合が良い。
スパーダはムンドゥスの右腕として仕える中で、その光景を何度も目にしてきた。
その度にスパーダの心は痛んだ。主にとっては駒でも、スパーダにとっては仲間だったのだから。
スパーダが珍しく意気消沈している様子を見て、ルイズ達は初めてスパーダの心の一部を垣間見たような気がしていた。
たとえ悪魔でも、スパーダのように他者を思いやる慈しみの心を持っている悪魔がいるなんて意外だ。
- 63 :
- スパーダが珍しく意気消沈している様子を見て、ルイズ達は初めてスパーダの心の一部を垣間見たような気がしていた。
たとえ悪魔でも、スパーダのように他者を思いやる慈しみの心を持っている悪魔がいるなんて意外だ。
「私も他の悪魔達と同様に、主の命を受けて人間界へと送り込まれた。人間達は悪魔達の攻撃を受け、次々とその命を奪われていった。
……私は見ているだけで加わりはしなかったが、それを見続けているとどうにも心が痛んだものだ」
そして、その心は同胞だけではない。全く別の力のない種族である人間達にさえも向けられていたのだ。
「確かに、人間は単純な力だけならば我らよりも劣るかもしれん。事実、多くの人間が抗うことはできなかった。
だが、人間達は我らには無いものを持っていることを知った。私は……それに惹かれた」
「人間にあって、悪魔にないもの?」
「それは、何なんだい?」
ルイズとギーシュが問いただし、他の者達も強く興味を持ってスパーダの答えを待った。
スパーダは自嘲の笑みを消し、真剣な顔になるとルイズ達を見回しながら自分の胸を拳で叩いた。
「心≠セ」
「心?」
「力≠制し、他者を虐げることしか能がない我らとは違い、人間には心≠ニいうものがある。
他者を思いやり、愛する者を守るために心を奮わせることで人間は思いもよらぬ力を発揮する。時に心が生み出し、爆発させた力は我ら悪魔をも凌駕した。
私は、人間の愛≠、そして人間の可能性というものを思い知らされた……」
スパーダは人間が発揮した、心≠フ力を思い起こした。
悪魔に襲われる家族や恋人を命がけで守るために戦った人間。そして、悪魔に愛する者の命を奪われた者達。
彼らは愛する者を思う心を爆発させ、単純な力だけならば上を行く悪魔達を逆に倒したことがあった。時には、上級悪魔でさえも人間の心の力に敗れ去ることもあったのだ。
その時に目にした人間の可能性、自分達悪魔にはない心≠ェ発揮する力、そして愛する者のために流した涙……。
「あれを見せられては、私も魔界と決別するしかなかった」
自嘲しつつ、どこか嬉しそうに笑っているスパーダにルイズ達は呆気に取られた。
一人の悪魔が人間の心≠、愛≠知り、人間のために故郷と決別する。まるでおとぎ話のような話である。
だが、ルイズはこれまでのスパーダとの交流を思い返していた。
- 64 :
- スパーダはつっけんどんながらも、魔法に失敗してばかりいる自分を気にかけてくれた。そして、自分の失敗を新しいものにするという方向へと導いてくれた。
そして、何千年にも渡って培ってきたのであろう魔の剣技で自分達を守ってくれた。あの勇ましい姿は、決して忘れられない。
ギーシュもまた、スパーダと剣を通して彼の厳しくも父親のような包容力に惹かれていた。
タバサは以前、スパーダが悪魔の巣窟と化した屋敷からメイドのシエスタを助け出した時のことを思い返した。
悪魔の血と力を宿す己を恐れていたシエスタを、スパーダは人間であると諭していた。
――Devils Never Cry.(悪魔は泣かない)
その言葉を口にして。
「私は何とか、ムンドゥスと魔界を封じることができた。全てを終えた後、私は人間界に留まり、人間達を見守っていた。
フォルトゥナの土地を治めていたのは、それから数百年も後のことだ。もっとも、知っての通り今の私はただの没落貴族だが」
スパーダはかつての主を、故郷を裏切り人間達を守るために戦った。そして、同胞達を魔界へと追い返し、挙句の果てにはムンドゥスさえも封印してしまったのだ。
あまりにも凄まじい偉業だった。その異世界ではきっと、スパーダの活躍は始祖ブリミルのように伝説として語り継がれているのだろう。
「……それで、どうするのだ。ミス・ヴァリエール?」
「え、どうするっ……って」
突然、自分に話を振ってきたスパーダにルイズは困惑した。
「私はこのように悪魔だ。だが、始祖ブリミルという奴の残した教義では私のような悪魔は忌み嫌われるはずだろう。
私をこれまでのようにパートナーとしてここに置き、もしも私が悪魔であることが他の者に知られれば君とてただでは済むまい」
「そ、それは……」
確かに、悪魔を使い魔にしただなんて知られればとんでもないことになる。
そして、自分は周囲から馬鹿にされる所か、悪魔を召喚した忌まわしいメイジとして虐げられるかもしれない。下手をすれば実家の家族からも……。
如何にスパーダが人間のために命がけで戦った正義の悪魔だとしても、人が本能的に恐れる悪魔そのものであることに変わりはないのだ。
「君が私を拒むのであれば、私は早々にこのルーンを排除してここを去る」
そう言い、スパーダは閻魔刀を手にして扉に向かって歩き出した。ルイズは慌ててスパーダの背中に声をかける。
「ス、スパーダ」
「しばらく時間をやろう。ゆっくり考えると良い」
パタン、と扉が閉められ、スパーダは部屋を後にしていた。
- 65 :
- (スパーダが、いなくなる? あたしの元から……)
そう考えると、ルイズの心は痛んだ。
スパーダは大切で頼もしいパートナーだ。彼がこれからパートナーとしていてくれるならば、あれだけ心強い者は他にいない。
だが、彼は悪魔だ。彼がこれからもパートナーとして自分と共にいてくれるのはあまりにリスクが大き過ぎるのだ。
そして、その決断を下すのは彼のパートナーである自分に他ならない。誰にも、相談できることではない。
「まさか、ダーリンにあんな過去があっただなんてねぇ」
ルイズが決断に悩む中、キュルケがあっけらかんとした様子で言った。
あまりにも平然とした態度にルイズは当惑する。
「キュルケ、あんたスパーダが悪魔だって知って何とも思わないの?」
「それはもちろん驚いたわ。でも、ダーリンはいわば正義のヒーローよ。あれこそ、まさしくイーヴァルディの勇者と呼んでも過言じゃないわ」
「イーヴァルディの、勇者……」
ぴくりと、タバサが反応する。
始祖ブリミルの加護を受けた勇者が剣と槍を用いて龍や悪魔、亜人や怪物など様々な敵を倒すという物語。
タバサも幼い頃、よく愛読していたものだ。
「とにかく、あたしはダーリンを信じるわ。人間の愛を知って正義に目覚めるなんて、こんなにロマンチックなことはないもの」
そう言うと、キュルケは部屋を後にしようとする。タバサもその後を付いていった。
「僕もキュルケと同じだよ。彼は決して悪魔じゃない。紛れも無く人間だよ、あれは」
ギーシュは何故か満足した様子で部屋を後にしていった。
「ギーシュ! 何でアンタがルイズの部屋から出てくんのよ!!」
「モ、モンモランシー! いや、これは……うわあああっ!!」
その直後、部屋の外でそのようなわめき声が響いてくるのが聞こえていた。
ロングビルは何も言わずに窓からレビテーションの魔法で飛び降り、外へと出て行ってしまった。
一人部屋に残されたルイズはベッドに突っ伏し、悩み続けた。
これまでと同じようにスパーダと共にいるか。それとも彼と別れるか。
そのどちらを選択しても、自分に待つのは決して楽にはならない現実だ。
絶対に、後悔しない選択をしなければならない。
※今回はこれでお終いです。
スパーダの動機についてですが、これは小説版4や1の解体新書などで挙げられているものをベースにしています。
- 66 :
- スパーダの人乙
ギーシュェ・・・
- 67 :
- ウルトラセブンを召喚するなら身が軽いタバサとかのほうがいいかな
ミクロ化してオルレアン夫人の体内に入って治療なんとか
- 68 :
- 黒ミニイカ娘を召喚
オーク鬼退治で食べられたと思いきや、体の中で大暴れ。ってどこの一寸法師やねん
- 69 :
- スカイリムのルイズいやルイスを召喚しようぜ
召喚のショックで分裂するルイス
ギーシュと決闘が終わると増えてるルイス
ワルドとの決闘後に増えてるルイス
- 70 :
- >>69
ヴェルダンデが助けに来たら既に半身地面に埋まっているルイス
- 71 :
- ミクロマン召喚でもすればー
- 72 :
- 23時すぎから投下予定
- 73 :
- 第4話投下します
第4話『零』
教室に入れば、いつものようにルイズに罵詈雑言が投げかけられる。
罵倒する声が小さいのが、いつもとの違い。
ルイズの隣に座るアセルスが原因だろう。
その事に気を良くしながらも、心に引っかかるのは自分が魔法を使えない事。
ルイズは今朝は夢見が悪く、早起きしたこともあって外に出ていた。
契約の魔法に成功したことで魔法が使えるようになったのではとわずかな期待を持って。
最も、希望はいつも通り魔法が失敗した為に打ち砕かれた。
ルイズが朝に洗濯物を運んだのは、失敗による汚れのついた服を隠すためである。
強大な使い魔を呼んでおきながら、自分は何一つ魔法が使えないまま。
素晴らしい使い魔さえ呼べば『ゼロ』ではなくなると思っていた自分の浅はかさ。
結局、魔法を使えなければ『ゼロ』のままではないか。
ルイズが自己嫌悪で憂鬱になったところに教師がやってきた。
授業が始まる。
ミス・シュヴルーズと名乗る教師は今年からの担任だ。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ」
教室を見回すシュヴルーズの視線が、ルイズとアセルスを捕らえる。
「ず、随分と変わっ……いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」
空気を読めない失言に、生徒達から非難の視線がシュヴルーズに向けられる。
昨日アセルスによって被害を受けた太り気味の少年にいたっては、脂汗を大量に流している。
- 74 :
- 教師であるシュヴルーズは誤魔化すように授業を始めた。
アセルスは授業に興味がなかったために、ルイズを横目で眺めている。
何度も読み返したのであろう手垢まみれの教科書、熱心にメモを取る様子。
勤勉な生徒である事は間違いない。
にも関わらず魔法が使えないというのは何故だ?
ここが学校ならば、教師達は失敗の原因を指摘しないのか?
「……土系統呪文の中でも、錬金は土のメイジの力量を測る最も分かりやすい手段と言えるでしょう」
シュヴルーズが呪文を唱えると、小石は金色に形を変える。
「ご、ゴールドですか!?」
輝きを見たキュルケが身を乗り出す。
「いえ、これは真鍮です。金への練成はスクウェアでなければ難しいでしょう。
わたしは……トライアングルですから」
勿体振って答えるシュヴルーズ。
続いて、生徒の中から一人に錬金をさせるために候補者を選ぶ。
「それでは……ミス・ヴァリエール。貴女にも錬金をやってもらいましょう」
シュヴルーズの指名に教室内がざわめく。
アセルスは蔑んでの行動かと思ったが、生徒達は本気で警戒している。
「ミス・シュヴルーズ、危険です!」
キュルケの警告に周りが同意する。
危険の意味が理解できていないのは教室に二人。
使い魔であるアセルスと教師であるシュヴルーズである。
「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」
錬金で失敗したところで精々不完全な金属になるか石のままである。
土のトライアングルだけあり、シュヴルーズの錬金への認識は正しい。
危険というのもルイズをからかう為の言葉としか思っていなかった。
- 75 :
- 「……やります!」
長考の後、ルイズは立ち上がった。
アセルスに魔法が失敗する様を見られるかもしれない不安はある。
だからといって逃げるのはルイズのプライドが許さない。
ルイズが教壇へ向かうと、周りの生徒達は急いで机の下に隠れた。
中には教室から逃げ出す生徒まで現れる始末。
途中キュルケが止めるよう懇願するも逆効果でしかない。
石の前に立つと、集中して呪文を唱えようとする。
「錬金!」
呪文と同時に、教室は爆発により木っ端微塵に吹き飛んだ。
-------
──爆破された教室に残されたのはルイズとアセルスの二人のみ。
ルイズは教室の片付けを命じられ、アセルスはそんな彼女を手伝っていた。
教室内は静寂に包まれている。
先に沈黙を破ったのはルイズだった。
「なんでよ……」
蚊の鳴くような声だったが、アセルスの耳に届いていた。
「なんで、何も言わないのよ……」
アセルスには彼女の言いたい事が分からない。
「見たでしょ!?私は魔法が使えないのよ!どんな魔法でも使えば爆発する!!」
身体を怒りで震わせてアセルスに叫ぶ。
一度堰を切った感情は止まる事なく、流れ続ける。
「貴女は妖魔の君なのに!強力な魔法が使えるのに!
なんで私なんかに従うのよ!?同情でもしてるつもりなの!?
無様だと思っているんでしょう!自分を呼んだ奴がこんな魔法も使えない落ち零れメイジだなんて!!
涼しい顔して腹の中で笑っているんでしょう!!」
支離滅裂な物言い。
ルイズにはもう彼女が妖魔である事も王族である事にも気遣う余裕はない。
憤りはアセルスに向けてのものなのか、自分自身へなのかルイズ自身にも不明だった。
沈黙を貫いていたアセルスが口を開く。
- 76 :
- 「……君は自分が嫌いなんだね」
アセルスの声色はどこか儚い。
「好きになれる訳ないわよ!こんな……こんな……『ゼロ』なんか……」
俯いて涙を零す。
──認めてしまった。
自分が何一つ出来ない『ゼロ』であることを。
いや、本当はずっと前から分かっていた。
自分が魔法で出来たことといえば、使い魔を呼び出したのみ。
サモン・サーヴァントで呼ばれたのが、強大な使い魔だった事はルイズを却って追い詰めた。
アセルスの両手がルイズの頬を優しく包む。
俯いたまま泣きじゃくるルイズの顔をゆっくり上げ、眼を逸らさせないようにする。
「ごめんなさい、私は一つ嘘をついていた」
アセルスは左手で剣を鞘から取り出すと、自分の右手に突き刺した。
「な、何してるのよ!」
右手からは血が滴り落ちた様子を見て、慌ててルイズはその手を握る。
急いで治療室に連れて行こうとするルイズを制止して、アセルスは剣を右手から引き抜く。
「妖魔の血は青いわ」
「え……でも」
アセルスの手を握ったことで、ルイズの手にも血が付着している。
血は赤と青が均等に混ざったような色鮮やかな紫。
少し悲しそうな表情を浮かべたアセルスが次の言葉を紡ぐ。
「私は元々人間、妖魔の血を受けて半妖として蘇った。
半分人間、半分妖魔というこの世でたった一人の中途半端な存在になった」
アセルスの台詞だけが二人っきりの教室に響いた。
- 77 :
- 教室の片付けを終わらせ、昼食には間に合った。
アセルスは食堂ではなく、メイドに頼んでいた洗濯が終わったので服を着替えに行っている。
スカートが着慣れずに落ちつかないらしい。
ルイズは食事にも手をつけず、考え事をしていた。
アセルスから聞いたのは、荒唐無稽な御伽噺にすら思える物語。
しかし、今朝見た夢が事実だと確信させた。
夢は一種の感覚の共有ではないかとルイズは仮説を立てていたが、裏付ける証拠は無い。
アセルスは世界でただ一人の存在、半妖。
人間からも妖魔からも忌み嫌われていた中途半端な存在。
この話を聞いたとき、貴族にも平民にも馬鹿にされ続けている自分と重なった。
だから、ルイズは彼女に答えを求めた。
如何にして周囲の敵意を乗り越えたのか?
「もう人間としては生きられないならば、妖魔として生きるだけ。
そのために、私を血を与えた妖魔との決着をつけに城へと戻ったわ」
アセルスの瞳に黒い感情が揺らめいたのをルイズは確かに見た。
「他の妖魔も人間も全て屈服させるだけの力……私にはそれだけの力がある」
ルイズはアセルスの解決策に絶望した。
「……私にそんな力なんてないわ」
魔法が使えないから『ゼロ』だと馬鹿にされているのだ。
この世界における力とは魔法。
貴族が特権階級となっているのも、平民には使えない魔法を使える為なのだから。
「いいえ、力ならあるわ。ただ気付いていないだけ……」
アセルスの声はルイズの心の奥底に眠っていた仄暗いモノを揺り動かす。
「己の苦悩を周りの世界にまき散らしてしまえばいい。
欲望のまま、君を馬鹿にするものを足元にひれ伏せさせるんだ」
16年間、他人からの悪意を受けて塗り固められた黒い感情を……
- 78 :
- 「ルイズ!」
名前を呼ばれ、意識が食堂に戻る。
いつの間にか隣にキュルケが座っていたのを気がついた。
「何よ?ツェルプストー」
「何よじゃないわよ、さっきからボーっとして」
思考の渦に飲み込まれていたルイズは全く気がつかなかったが、キュルケは先ほどから呼びかけていた。
「別に大した事じゃないわ、考え事してただけ」
ルイズの返答に納得したキュルケが頷く。
「ああ、また派手に教室を爆発させてたわね」
いつものからかうような表情を浮かべるキュルケ。
彼女は知らない。
軽い冗談のつもりである言葉が、ルイズにある負の面を刺激し続けている事に。
『己の苦悩を周りの世界にまき散らしてしまえばいい』
アセルスの言葉が脳裏に浮かぶ。
それを抑制しているのはルイズが持つ貴族としての誇り。
しかし、膨らみ続ける感情が破裂するのは時間の問題だと気付いていない。
-------
ルイズが昼食を取っている頃、アセルスは一人のメイドを連れて着替えを行っていた。
メイドの名はシエスタ。
彼女は妖魔の君だと説明を受けていた為、アセルスへの対応は細心の注意を払う。
アセルスが着替えるために服を脱ぐと、シエスタは緊張も忘れて見惚れてしまった。
女性相手だと言うのに、アセルスのしなやかな裸体は妖しい魅力に溢れている。
「どうしたの?」
アセルスに声を掛けられて、正気に戻る。
「あ、いえ申し訳ありません!何でもないです」
慌てて頭を振るシエスタを見て、様子がおかしい理由は自分にあることを気付いた。
アセルスは魅惑の君と呼ばれるオルロワージュの血を受け継いだ為に、女性に対して虜化妖力が働く。
彼女も妖力に惹かれたのだろう。
- 79 :
- そこでアセルスはルイズに虜化妖力が効いていないと気がついた。
アセルスの近くにいる以上は妖力に惹かれてもおかしくないはずだ。
虜化妖力が通用しないのは同等の力を持つか、精神力を強く持ち続けている場合のどちらか。
精神を強く持つのは何も前向きな感情によるものばかりではない。
ルイズのように他人の悪意を受け続ける事で、負の感情に囚われている場合にも当てはまる。
ふと、アセルスはシエスタがルイズに対して悪意を向けていなかったのを思い出す。
魔法が使えない為にルイズに対して使用人という立場の者。
平民ですら彼女を蔑む事実をアセルスは夢で見た。
だが、シエスタには悪意がない。
ルイズの前で目を輝かせた姿は彼女を尊敬すらしていると言っても過言ではないだろう。
「ねえ」
「は、はい」
シエスタの心臓の鼓動が一気に高まる。
「貴女、ルイズに恩か何かあるの?」
「はい。私は以前ルイズ様に一生掛けても返せない恩寵を頂きました」
シエスタはアセルスにかつての出来事を語り出した。
-------
──今から、半年ほど前。
シエスタは夜遅く仕事をしていた最中、階段から足を踏み外して全身を叩きつけてしまった。
助けを呼ぼうにも、怪我で声を上げる事すらできない。
意識はあったものの、身体を動かそうとすれば激痛に襲われる。
見れば右腕はあらぬ方向に曲がっており、足も折れている事が自覚できた。
シエスタが痛みと孤独に押し潰されそうになる中、人影が近づく。
魔法の練習で外に出ていたルイズは倒れているシエスタに気付いたのだ。
「ねえ、大丈夫!?」
慌てた様子で声をかけられ歓喜の表情を浮かべるシエスタだったが、
彼女が『ゼロ』と呼ばれるメイジであることに気がつく。
- 80 :
- シエスタは陰口へ積極的に参加しないまでも、周りに話を合わせた事はある。
その際に彼女を悪く言ったのも一度や二度ではない。
自分が悪口を言っていたメイドだと気付かれていたら……と思うとシエスタは絶望した。
貴族が平民を、まして暴言を吐くような平民を相手に助ける事などありえない。
故郷に残した家族の事が走馬灯の様によぎり、シエスタは意識を失っていた。
──シエスタが次に目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
多少の痛みは残っているものの、体を動かせないほどではない。
助かったのだと安堵すると、後ろから声を掛けられる。
「起きたみたいですね」
シエスタが意識を取り戻したことで、治療を行っていた老婆のメイジが診断を行う。
「まだ身体は痛むかもしれないけどもう心配ないでしょう」
怪我が治った事を確認するとシエスタに告げた。
「あ、ありがとうございます」
「お礼なら私じゃなくてミス・ヴァリエールにしてあげなさい。
秘薬の代金を出したのは彼女ですから」
そう言い残して立ち去る老婆。
彼女の言葉でシエスタはようやく気付く。
重傷を治療するなら黄金並に高価な水の秘薬が必須だと。
思わず青ざめると、老婆との入れ替わりでルイズがやってきた。
「あ、あのミス・ヴァリエール!危ないところを助けていただきありがとうございます!」
お礼を言えたもののシエスタはこの後、どうしていいか分からずにいた。
一平民であるシエスタには治療費を払う手段はない。
「ねえ、シエスタ。貴女は平民で私は貴族だって事は知っているわよね?」
「は、はい……」
ルイズの言葉を聞いたシエスタに最悪の想定が浮かぶ。
借金と言う形を取れば、暴利を貪られて一生奴隷扱いという可能性もある。
奴隷制度自体はハルゲニアにおいても、とっくに廃止されている。
最も平民と貴族という階級差がある以上、奴隷の様な扱いを受ける平民の話は珍しいものでもない。
やはり貴族とはそういうものなのだと、シエスタは暗鬱としていた。
しかし、次にルイズの口から出てきた言葉はシエスタの予想を遥かに超えるものだった。
- 81 :
- 「だから心配しないで、治療費なら払う必要はないわ」
「え?」
シエスタは思わず間の抜けた返事を返す。
「困っている平民を助けるのは貴族の責務よ。
まして重傷を負った者を見捨てるなんて人として恥ずべき行いでしょう」
ルイズの言葉は確かに貴族として本来の義務である。
貴族は自らの領民を保護し、代わりに平民は労働力を提供する。
だが、そんな建前を律儀に守る者はいない。
貴族は金と権力を貪り、平民はそんな貴族のご機嫌取りを行い、気分を損ねたものは処刑される。
平民が事故で死のうが言いがかりで処刑されようが、気にする酔狂な貴族なんてものは存在しない。
シエスタを含めた、平民が持つ身分への認識。
それが今目の前の少女によって、あっさり打ち崩された。
「……ヴァリエール様」
「何?」
突然かしこまったシエスタを見て困惑している。
そんな彼女に構わず、ただシエスタは地面に両膝と頭をつけた。
祖父から教わった、相手へ最上級の敬意を示す姿勢。
シエスタが一般的な思想を持つ平民ならば、自らの行いを暴露しようとはしなかっただろう。
「私はヴァリエール様のように高潔なお方の施しを受けるに値する人間ではありません」
ただ、シエスタは自分が許せなかった。
「私は身分の差も省みず、ヴァリエール様を不当に評価しておりました。
魔法も使えないのに、家柄だけで貴族を名乗っていると」
これほど誰よりも貴族であろうとする少女に対して、周りに流されるままに彼女の陰口を叩いてしまった事を。
命を助けてもらうご懇情を賜りながら、感謝もなしに自分本位な思い込みで彼女に失望した己の卑小さ。
ただ自分に許されるのは頭を垂れ、地に伏せる事のみ。
- 82 :
- 「知っているわ」
シエスタが驚愕で思わず、ルイズの顔を見上げる。
「貴女の黒髪は目立つもの。
気にしてないわよ、別に中傷してたのは貴女だけって訳じゃないんだから」
自嘲気味にルイズは笑う。
シエスタは涙が止まらなかった。
彼女は自分が陰口を叩いた平民だと知りながら、怪我をしていたと言う理由だけで助けてくれたのだ。
シエスタが『初めて見た』の貴族の姿は何より尊かった。
「ヴァリエール様……この受けた大恩、私には返す手段がありません。
せめて貴女に生涯仕える事で、僅かですが返させて下さい」
涙を拭うことなく彼女の手を強く握り締め、再びシエスタは頭を伏せる。
「貴女の名前は?」
「シエスタといいます」
名前を聞いて、ルイズは少し思慮する。
ルイズにとっては、仕える平民にも誹謗されるのなんて日常茶飯事だった。
しかし、本人を前にすれば取り繕う為の方便を口にする。
魔法が使えないとはいえ、貴族相手に侮辱すれば処罰を受けるのは子供でも理解できるから。
このメイドは自らへの罰を覚悟で侮辱の非礼を詫びたのだ。
その上で、魔法も使えない自分に仕えさせて欲しいと懇願している。
「分かったわ、シエスタ。
貴女が私に仕えてくれるというなら、まず顔を上げて頂戴」
ルイズの言葉通りにシエスタは顔を上げる。
「それと私の事は名前で呼ぶ事、いいわね?」
ルイズが学院に来て初めて見せる笑顔。
その表情にシエスタは心奪われた。
- 83 :
- こうしてシエスタはルイズの専属メイドとなった。
ただ学院で専属メイドを取る形になれば、周囲がとやかく言うのは容易に想像できる。
なのでルイズが学院にいる間、シエスタは学院メイドとして働きながら仕える様に命じた。
ルイズの提案にシエスタは一も二もなく頷き、今に至る。
「私は本物の貴族というものをルイズ様に出会って、初めて知ったのです」
嬉しそうにルイズとのを語るシエスタを見て、思わずアセルスはジーナの姿を重ねた。
ジーナと話したのは他愛のない話題ばかりだった。
それでも彼女との会話は息の詰まるような針の城で、
妖魔になった現実を受け入れられずにいた自分にどれだけ心の支えになった事か。
きっとルイズにとっても同じなのだろう。
なぜなら夢では彼女の笑顔を見ることは一度もなかったのだから。
外が騒がしいことに気付いたシエスタが様子を見に、部屋を出て行く。
アセルスもルイズの元へ向かおうとすると、シエスタが血相を変えて戻ってきた。
「ルイズ様が!ミスタ・グラモンと決闘しているそうです!!」
- 84 :
- さるの所為で遅くなりましたが第4話の投下は以上です
せっかくなんで決闘イベントの展開も微妙に変える予定
- 85 :
- アセルスの人も、スパーダの人も投下乙でした。
ところで、4に小説なんてあったの? ゲームしかやったことないけど。
- 86 :
- 4年ほど前このスレでスタースクリーム召喚を書いていた者です。
更新は途中で頓挫してしまいましたが、その内の小ネタとしてwikiにあるスタースクリーム多重召喚を、
今回続編というかリメイクという形で書き直しました。4時40分頃から投下します。
忍法帳のレベルがアレなので早々避難所にいくかもしれませんが。
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1人の少女が、森の中を走っている。
蒼く、長い髪を靡かせ、木々の合間を跳び跳ねるように走っている。
だがその表情は、森林浴を楽しんでいるといった綻びに見えない。
なめし皮で縫われた服には、いたる所に汚れや傷跡がある。手には、不格好な大きな杖が握られている。
そうした非穏和的を窺わせる格好の少女は、背後から迫る巨大な追跡者の息遣いを肌に感じていた。
追跡者が咆哮する。鳥の発するものに似ているが、それにしては足音が重い。尻尾を引き摺る音も聞こえる。
大木をなぎ倒し、追跡者はその姿を現した。
それは、赤黒い鱗に包まれている。鋭い嘴が少女の背中を貫こうとする。
熊の様な大きな腕が少女の身体を捕らえようとする。蛇に酷似した、いや蛇の生体そのものの尻尾が、少女を威嚇する。
胴体には、無数の動物の頭、獣の類から果ては人間のものが浮き上がっており、それらが悲痛な呻き声を上げていた。
人間のエゴが生み出し、誰からも誕生を祝福されることなく、誰からも愛されることなく、
ここファンガスの森で、本能に従い殺戮を繰り返すだけの余生を過ごすそれを、キメラドラゴンといった。
蒼い髪の少女は、その餌となる哀れな犠牲者の1人に過ぎない、筈だった。
少女は、キメラドラゴンの一撃を飛翔して避けた。獲物の規定外の動きにキメラドラゴンは叫んだ。人間の女性のものに似ている。
彼女は着地すると、目標を見失ったキメラドラゴンに杖を向け、詠唱を開始した。
――ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウェンデ――
杖の先に、巨大な氷の塊が形成される。少女の居場所に気付いたキメラドラゴンは、突進する。
複数ある頭の内のひとつ、先程の女性の叫びの元と思しき、幼い人間の頭を膨張させ、大きく口を開いた。
だが、スペルを完成させた少女は揺らぎ無く、キメラドラゴンに対し「ジャベリン」を放つ。この瞬間、勝敗は決定した。
氷の塊はキメラドラゴンの頭を貫き、苦しみすら与えることなく、その作られた命を散らせた。
頭を欠いた巨大な肉の塊が、滑るように少女の目前に倒れる。
少女は、その死を、勝利を喜ぶことなく、死後硬直しているキメラドラゴンの残骸から、赤黒い鱗を1枚もぎ取る。
その表情は、そもそも感情のそれを欠落しているかのように冷たい。
それから、今しがた走ってきた方角へ、足を急がせた。
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数分ほど駆けた先、誰かが大木に凭れ掛るように蹲っているのが見える。真っ赤な血で染まった、人間の、若い女性だ。
束ねた長く黒い髪を右肩に垂らし、素肌は日に焼け、女性ながら鍛えられた身体。
どこか野生的だが端整な顔立ちは、しかし住む環境が違えば麗人として通っていたであろう。
少女はその女性の元に掛け寄った。
「ジル、確認してきたわ! キメラドラゴンはあなたの矢で息絶えたよ! 勝ったんだよ!」
ようやく、少女の顔に感情による変化が浮かんだ。だがそれは言葉の調子と裏腹に、悲しげなものだった。
ジルと呼ばれた女性の腹部には、衣服を破って大きな傷がある。負ってからまだ時間が経過していないため、出血が続いている。
内臓の欠片もかなり失っているはずだ。水魔法による治療をも意味と為さない、深い損傷だった。
だが、ジルの眼にはまだ光が灯っていた。重く、口を開く。
「シャルロット……逃げろって言ったじゃないか……本当かい?」
「えぇ! ほら、奴の鱗だよ。間違いないでしょう!?」
蒼い髪の少女――シャルロットは、勝利の証拠たる鱗をジルに見せると、もうそれ以上喋らないで、と言う。
だが、ジルはキメラドラゴンから受けた致命傷で、もうどれだけ足掻いても助からないのを悟っているのか、発言を続けた。
「わるいんだけど、さ……。私を‘日溜り’へ、連れてってもらえない、かな」
「ジル……」
シャルロットはジルに肩を貸し、ゆっくりと歩みだした。
魔法の力は消費し切ったため、フライの魔法による飛行も出来ない。
ジルの傷口には満足な処置すらなされていないため、鮮血が絶え間なく流れた。
だがその眼には、まだ光が宿っている。
――シャルロットは、ガリア王国オルレアン大公の愛娘として、幸せに暮らし、愛情いっぱいに育てられた。
優しく可愛らしく、優秀な彼女の成長を、家族だけでなく国民の誰しもが心から祝福してくれた。
しかし、王国の冠を巡る、人間のみが持ち合わせる暗闇に捕捉され、彼女は僅かな時間で大切な人々を失う。
先達て、祖父の崩御……この死については、彼女自らの目で見たのではないため、実感こそ湧き難かったものの、深い悲しみを刻む。
ガリア国の内政が、音を立てて崩れるのを幼いながら理解した。そしてこの1人の国王の死が、潜伏していた影を暗闇に変貌させる。
暗闇は、父オルレアンを永遠の闇に連れ去った。
黒い蝕みは浸透を続け、母親と、遂にシャルロット当人に及んだ。
母はシャルロットを庇い、死別こそ免れたものの、その蒼い目からは光が失われる。
以降、光の無いうつろな目をした母親は、シャルロットを娘として認識しなくなった。
暗闇は、従姉妹であるイザベラにも影を覆う。幸いにも彼女の目に光は灯されたままだったが、心は闇に支配されてしまう。
せいぜい幼年期の悪戯程度に収まっていたシャルロットへの対抗意思が、明確に敵意へと変貌していた。
イザベラに憑依した闇は、シャルロットを「ファンガスの森」へといざなった。
闇に翻弄された揚句、キメラドラゴン討伐という名目の死刑を下され、森を徘徊していたシャルロットに、光が訪れる。
森に巣くうキメラ撲滅を果たさんとする、ジルとのだ。シャルロットが久しく触れた、無垢な光を宿した目の持ち主。
ジルはその光で、闇から逃げるも力尽きかけたシャルロットに、おぼろげながら道標を示してくれた。
しかし……その光も、かのキメラドラゴンによって、今まさに尽きようとしている。
ジルの咳き込みの回数が減ってくる。シャルロットは‘日溜り’へ急いだ。
ファンガスの森での滞留期間、シャルロットとジルは、ジルが‘日溜り’と呼ぶその場所を活動拠点にしていた。
そこは、洞窟内でなく、そもそも本来、外敵の襲来から身を守るに適した場所ではない。
森の中に忽然と存在する開けた草原で、周りを囲んだ木々の間から日照りが差し込む、明るい空間だった。
だがそこは、ファンガスの森において、キメラ達の侵入を許さない唯一の地帯。
怪物達がそこを拒む起因は‘日溜り’の面積の半分を占めるように鎮座する、あまりにも大きな‘鉄塊’の存在にあった。
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鉄塊は、何かしらの動物の形を模している。が、既知の生命の形状からは、あまりにもかけ離れていた。
胴体よりも大きい手足。身体に比例してやや小さな頭。歪ですらある。
全身に黄土色が塗られている。身体側面片方に、何故だか犬の絵が印しつけられている。人の手が加えられていたのは間違いない。
脚部には、黒い車輪がいくつか付けられている。柔らかくも弾力あるそれは、ハルケギニアではありえない技術で開発された代物だ。
背面からは長い尻尾がだらんと垂れ、その端に鋭い8本もの爪が生えている。
触れればこちらが怪我をしてしまいそうな……暴力的な象徴を、全身にびっしりと有していた。
今にも動きだしそうなその鉄塊だが、目に光は無かった。手足をハの字に広げ、頭を垂れて佇んでいる。異質な人形の様だ。
だがジルによれば、それは間違いなく生命体で、生前はその目方の重量さからは考えられないほど身軽に跳ねていたという。
全身には、そこから動かなくなって幾積年を窺わせる蔦や、鳥の糞から生えた植物が覆われている。
そして――その鉄塊の他に、人間の白骨が数体あった。鉄塊の巨体に寄り添うように。
白骨は、傷んではいるが原型は保たれており、この場所が如何に侵入者を遠ざけていたかを窺い知ることができる。
野外に放置されていることによる風化も、鉄塊が壁となり防いでいたのだろう。
数は3人分確認できる。下半身の欠落した大人のものと、肋骨の欠けた、形状からして大人の女性のもの。
それと、その2つの白骨死体に挟まれるかのように、頭の欠落した小さな女の子の骸があった。
1つの巨大な鉄塊と、3つの亡骸が共に眠る、温かく、奇妙な場所。それが、‘日溜り’だった。
――日溜りに辿り着いた2人。
ジルはシャルロットの元を離れると、最後の力を振り絞り、よろよろと亡骸達の元へ歩む。
シャルロットは、その姿を直視出来なかった。目をそらし風の音を聞いた。ジルが、骸の前で仰向けに倒れた。
彼女の視線の先には、鉄塊の大きな頭があった。光の消えた2つの空洞で、あたかもジルの顔を窺っているに見える。
ジルは吐血しつつ、鉄塊に投げかけるように、か細く声を上げた。
「今まで……本当に、ありがとう。最初は、あんたの顔を見たとき、随分おっかない、面構えだな、と思ったもんだよ。
だけどあんたは、ここでずっとあたしの、家族を守って、くれた」
ジルは数年前、猟人一家である家族と、この森に移住した。屋敷を建て、狩りをしながら生計を立てていた。
ファンガスの森は、魔法学者が取組んでいたキメラの研究が失敗し、研究塔を中核に放棄、封鎖された禁断の場所だ。
誰も近寄らない、近付けない、そんな化物の無法地帯に、ジルの家族は獲物を求め、敢てこの地に住み着いたのである。
森には先客がいた。
競争相手ともいう。巨大な鉄塊だ。一家と目的が同じなのか、森で獲物を狩る光景に何度か遭遇したという。
ジル達は当初、誰かが送り込んだ大型ガーゴイルであろうと考えた。
しかし幾度かの接近で、それが明らかに自我を持つ生き物だと判った。生死と密接に関わる猟人だからこそ、そう判別できたのだ。
未知の知的生命体である鉄塊は、ジル達に歩み寄ることはなかったが、その鋭い爪を向けてくることも無かった。
月日が経ち、猟人暮らしに嫌気がさしたジルは、屋敷を抜け出し、逃げるように単身街へ出稼ぎに。だが、長続きはしなかった。
森に帰った彼女が見たものは、荒らされた屋敷だった。鉄塊の仕業かと頭を過らせたが、屋敷内に散らばった動物の羽毛から、
キメラ達の猛攻だと判った。それも、ある程度知恵のあるキメラがいたようで、計画的な攻撃らしかった。
血相を変えたジルが森の中を彷徨い、辿り着いたのが、後々‘日溜り’となるこの場所だった。
家族と鉄塊は、一緒にそこにいた。共に、こと切れていた。周りにはキメラ群の死骸も散らばっていた。
相討ちだったらしい。3人の家族は、身体の一部を喰われていた。
鉄塊には一見外傷は認められなかったが、急所を突かれたのやもしれない。
その惨状は、最後まで戦った両親、鉄塊、そして妹の勇気を物語っていた。
「幼い妹まで戦ったんだ。あんたも、力を貸してくれたんだよね。なのにあたしは……」
キメラの死骸だけを排除し、家族の死体は放置した。家族をあくまでそこに居させたい、常人には理解し難いジルの我儘だった。
細菌が死体を骨だけにする過程における腐臭も、蛆が腐肉に湧く惨状たる光景も、気にならなかった。
ジルは、残るキメラの撲滅を決意し、数年の間たった1人で戦い続けた。そして数週間前シャルロットとめぐりあい、今に至る。
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シャルロットは、目をそらすのをやめた。ジルの身にそっと寄り添い、苦痛から絞り出されるような彼女の声に耳を傾けた。
「父と母は、屋敷での襲撃で、全滅を避けた。あんたは、死んでからも、そのでっかいからだで、
キメラたちをふるえあがらせた。親玉のキメラドラゴンですら、だよ。すごいよね……」
ジルの声が、徐々に小さくなる。
「妹は、シャルロット、あんたとそう、かわらない歳だった」
消えかけた瞳の光の見据える先が、鉄塊からシャルロットへ移る。シャルロットは、ジルの血だらけの手を強く握った。
その手は、冷たかった。
「いいかい、あんたは、生きている。あたしみたいに、自分で閉ざしちゃだめだよ――」
光が、あっけなく、静かに消滅した。瞼こそ開いていれど、ジルはもう何も見ていない。
シャルロットはジル、だったものを揺さぶった。
「消えちゃ駄目……」
瞬間、シャルロットは暗闇の襲来を察知した。彼女の足元に、闇が触手となって絡みつく。肢体を弄る様に、闇が這い寄る。
飲まれる。この暗闇に、幽閉される。
キメラドラゴンとの決戦で、ジルが深手を負わされた直後、シャルロットは光を失いたくない一心で「ジャベリン」を放った。
結果、キメラドラゴンは確かに倒した。だが、キメラドラゴンの存在そのものは、暗闇では無かった。
かわいそうな醜い不幸の集合体を、殺しただけに過ぎなかったのだ。
ジルの亡骸の手を握ったまま、シャルロットは眠ろうとした。ジルの遺した言葉も、無視しようとした。
この闇の先に、父が待っているかもしれない。優しい父が、出迎えて優しく包容してくれるかもしれない。
いっそのこと、楽になってしまおう。シャルロットは、身を投じるかのように瞼を閉じた。
その時――
風が吹いた。森がざわめき、取り囲んだ木々が揺れた。そして、太陽の射光が‘日溜まり’をより明るくする。
鉄塊が日光による反熱を発した。ジルの黒髪が、生前のように靡いた。
そしてシャルロットは、光を見た。
その光は、ほんの僅かなだけ煌めくと、すぐに消えてしまった。だがそれは確かに、光だった。
幾分、体を硬直させる。身体をぴくりとも動かさない合間、心の中であらゆる心境と葛藤を乱舞させた後、1つの結束に考え至った。
彼女はゆっくり立ち上がる。長く蒼い髪が揺れる。腰に備え付けている用具入れから、キメラドラゴンの赤黒い鱗を取り出した。
鋭い鱗を使い、髪を切り落とした。切られた髪は風に乗って森の中へ消える。少年の様な、短髪になった。
ジルの抜け殻を見る。土葬はしなかった。家族と、風変りな戦友と、土に埋めず一緒に寄り添わせる事にした。
きっとジルが、そう願ったように。
シャルロットは、血糊で真っ赤に染まったジルの左手の甲に触れ、祈った。そして、日溜まりを後にした。
キメラドラゴンの鱗と爪を手に、イザベラの元へ戻ったシャルロットは、その名の破棄を命じられる。
そして替わりに、幸せだった頃に母から買ってもらった、素朴な人形の名前を、自らの新しい名とした。
タバサ。
タバサは、生存こそすれど心を何処かに置いてきた母を見つめ、誓った。
明るさを封じた。感情を抑えた。寡黙を、自分自身に約束した。
魔力を、怒りを、それに暗闇を味方につけた。
失われた光を探しあて、もう再び照らすために――。
スタースクリームだらけ
リベンジ・オブ・ザ・ディセプティコン 第1幕 前編
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――時は数年、流れる。物語は、ハルケギニアの諸国の一つ、トリステインへ。
とある夜。
トリスタニアの街が、オレンジ色に染まっている。朝焼けや日暮れの黄昏によるものではない。
街の外れにある林が、熱気と灰を下町に降り注ぎながら、濛々と燃えている。
火柱の合間に黒い影が複数見える。人型だが人間のそれでは無い。オークなどの亜人ですらない。それは回りの木々よりも背が高い。
何体かが、街への境界線に踏み入れ、鋼鉄でできた腕で、建物をいとも簡単に叩き潰す。
黒い影だった巨人たちの姿が、炎と月光に映し出される。鎧を身に纏い、剣を装備している。
ヨルムンガント。
無慈悲で大柄な、鉄の人形。
逃げ惑うトリスタニアの人々が今現在その名を知る由はない。
その巨人達の差し金が、隣国ガリア王国であるという事実は尚更だ。
人々が出来ることと言えば、貴族も平民も関係なく、一切合財を手に、悲鳴をあげながら遁走するのみである。
勿論、抵抗する者もある。トリステイン王軍を始めとし、魔法衛士隊、銃士隊が一団となって戦っていた。
だがヨルムンガントの進攻だけが、襲撃者による攻撃ではなかった。
巨人達の後方から、人間の頭1つ分ほどの火炎玉が引切り無しに飛来、街の破壊に拍車をかけている。
王軍達は、その火炎玉を回避したり防御魔法で守りに徹するだけでも手一杯であった。
銃士隊は、鎮火や住民達の避難誘導にあたっているが、人々は恐怖からか自我を失い恐慌、安全圏への移動すら困難だ。
敵襲そのものより、むしろこの人間の感情による衝突が、状況の悪化を促していた。
銃士隊隊長アニエスは、混沌と化したブルドンネ街大通りで、声を嗄らしながらも指揮をしている。
ひとまずここで住民達を落ち着かせ、足並みを揃えてから、街で一番守りの堅い王城敷地へ避難、
城の裏側からの退路で街の外へ逃げさせるという算段だ。だが、やはり混乱は収まらない。
大通りの店のそこかしこで、喧嘩沙汰が起きている。火事場泥棒でも現れたのだろう。
火柱と火炎攻撃の熱、そして大勢の人間からなる密集温度により、アニエスの体内からみるみる水分が失われる。
普段から体力作りに勤しんでいる、さしもの軍人アニエスも、危うく膝をつきそうになったその時、数体の幻獣が現れた。
グリフォンだ。そして、幻獣に跨りし黒マントの男達は、魔法衛士隊である。
アニエスは、衛士隊の先頭に位置する男を見つけると、萎れかけた身体に活を入れ、走り寄った。
「ワルド隊長! 戦局は!?」
「芳しくない。レドウタブール号は出航するようだが、至急の増援とは見込めんな」
「ですがあの大型ガーゴイルはそこまで接近しています、猶予はありません」
その時、ヨルムンガントが何かを圧し折る音が聞こえた。
住民達が悲鳴を上げる。
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ワルドは、進行を続けるヨルムンガント達に憤怒の視線を送りつつも、感情を抑えてこれからの一計をアニエスに伝える。
「やむを得ん、逃げに徹する。我々はこれより退路の確保に移る。敵は一方からしか進攻していないから、時間はかからん筈だ」
「心得た、我々はここでの待機、誘導を継続します」
ワルドは頷くと、さっそうと持ち場へと向かうが、やはりその顔には疲労を見せていた。
誰もがへたばり果てていた。気づけば喧嘩は収まっており、皆地面へ座り込み、ある者は憤慨し、ある者は泣きじゃくっている。
しかしヨルムンガントは疲れを知らない。20メイルもの巨躯をゆっくり、確実に歩ませていた。
途中、トリステイン側の土系統のメイジによって作り出されたゴーレムが何体か戦いを挑んだが、ものの無残に土くれに還った。
味方のゴーレムが崩れる度、人々からは落胆の声が漏れた。
アニエスは、部下達の士気具合を見る。彼女達銃士隊は、魔力はなくとも命果てるその時まで戦う気概を持つ。
女王アンリエッタからの、住民を守れという使命には、銃士隊として、人間としてやり遂げるつもりだ。
だがそんな彼女達も、顔を火照らせ、身体の節々の悲痛に耐えている。崩壊も時間の問題か。
ふと、アニエスは夜空を見上げる。
地上での喧騒が嘘であるかのように、星は音もなく光り輝き、
2つの月は神秘的な存在感を示し、平常的でありつつも幻想な夜空を彩っていた。
アニエスは、その壮大な空虚さを前に、ほんの一瞬だけ頭をからっぽにする。
故郷が猛火に包まれたあの日も、夜空はこうも静かだったのだろうか。
星の光とはこんなにも力強く、綺麗だったのか。この半生で、綺麗、と感じたことはあまりなかったな。と、独白までこぼす。
が、瞬時にそれは現実へと引き戻された。視界に入った、火災による煙や粉塵、そして……
音をたててこちらに飛来してくる、5つの、巨大な飛行物体によって。
アニエスは、目を見開いた。どれも大きさは15メイル前後でほぼ均一だが、色や形はそれぞれやや異なる。
その物体たちは、グリフォンや竜といった空飛ぶ獣ではない。人工物でできている。
が、フネでも無い。木製ではありえない照りを放ち、鋼鉄製だと判るに加え、明らかに飛行速度が違っていた。
言うなれば、大きな機械仕掛けの鳥、といったところか。
現在のハルケギニアに、あの5つの飛行物体以外、音速を超える存在はない。
アニエスは、空を見上げながら、先程ワルドとやり取りした時以上に、活力を引き戻した。
「来てくれたか!」
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5機の物体は、赤と白の色彩が施された派手な飛行機械を先頭に、V字の編隊を組んで飛んでいる。
ややあって、後方の2機が、派手な音と共にその姿を変形させた。
機械仕掛けの鳥から打って変わり、さしずめ、背中から翼の生えた巨大な鉄の人間、とでもいうべき形状へと成ったその2体は、
編隊から離れ、戦場へ降下を開始した。空気抵抗による轟音が鳴ったかと思うと、
2体の巨人は着地と同時に脚部をフルスイングさせ、それぞれヨルムンガント達に強烈な回し蹴りをお見舞いする。
落下速度と重力の掛け合いで、両者とも見事にヨルムンガントを仰向けに倒させた。
2体の内、紅の体躯の持ち主が、左腕に備え付けられた巨大なスティックを、倒れたヨルムンガントの1体に押さえつけ動きを封じる。
すかさず背中の左翼を外し、右手に握りその形状を大剣へと変え、ヨルムンガントの胸部に突き刺した。装甲に亀裂が入る。
それでも尚抵抗するヨルムンガントは、スティックを掴み、へし折ってしまう。
だが紅の巨人はそれに動揺もせず、胸部に突き刺した大剣をひき抜き、逆手に構えなおし、勢いよくヨルムンガントの首に振りおろす。
大剣の刃が発光する。ヨルムンガントの頭部は鈍い音を立てて胴体から離れ、ようやく完全に動きを停止させた。
紅の巨人は、赤い光を放つ大剣を握りなおし、残るヨルムンガント達を睨みつける。その隣に、もう片方の巨人が近寄った。
『なかなかやるねぇ、アルちゃんよ!』
『思いのほか頑丈だ。油断するな』
2体の巨人が、会話によるやり取りをする。声質は似ているが、口調はまるで違う。
アルちゃん、と呼ばれた先程剣舞を披露した紅の巨人の動きには、無駄がなかった。
変身、降下と同時に剣とスティックを装備、敵に一撃を加えたかと思えば、有利な攻撃部位を見抜き撃破する。
この一連の流れを称賛した側の巨人は――土色に近い赤と、薄い紫色に身体を染めている。
その顔立ちは、人間でいうところの顎が非常に尖っており、ある意味で印象に残りやすい。
片や紅の巨人が端整とも言える白面の顔つきであるに対し、こちらはとても個性的とでも言おうか。
一見てんで色姿形の異なる2体だが、機械の鳥から変化しただけあってか、背中に巨大な翼を付けていたり、
肩や足元に噴射口があったりと、飛翔のための必要部位が身体にあるという共通点が見て取れる。
そんな2体の襲来を前に、ヨルムンガント達は動揺したかのように、その場から数歩後退した。
『ほほう、このイケメンのイケメンによるイケメンすぎる登場に、奴ら怯んでいるようだ!』
『体制を立て直しただけだろう、空気を読め空気を。しかしこいつら何者だ……?』
やや緊張感に欠ける会話をしながらも、2体は戦闘態勢をとり、ヨルムンガント達を牽制する。
身の丈10メイル弱の彼らはヨルムンガントの体格をひと回りほど下るが、その程度の差は意に介していない威風堂々ぶりだ。
大通りで絶望に暮れていた住民達から、歓喜の声が上がる。その間、アニエスは負傷した仲間を背負い、
副隊長ミシェルに指揮の継続を任せると、街道から離れ、逃げ遅れた住民の一時避難場所である広場へ移る。
そこは戦いの光景が間近で目視できる程の位置にあるため、大通りよりもさらに危険である。
大怪我を負って歩けない兵や住民が大勢いる。彼らを一刻も早く医者のいる安全圏へ移動させたいと焦るアニエスの前に、
2つの巨大な物体が飛来した。あの戦っている2体とはまた別のものだ。
赤白の物体と、黒い物体は、変身はせず、機械仕掛けの鳥――飛行機の形態のまま、広場の端に着地する。
それぞれ機首に備え付けられている透明な蓋――つまるところのキャノピーが開き、2人ずつ、合計4人の少年少女が降りてくる。
内3人はフライの魔法でふわりと地面に降り立つが、残る1人は重力に身を任せて落下してしまった。
赤と白の物体、先程のV字編隊の先頭にいたもの、が高らかに大笑いをした。
落下した少女は、痛みに耐え、ピンクの髪に付いた砂を払うと、その大笑いに対し怒鳴りつける。
ルイズである。一通り罵詈雑言を飛ばした後、アニエスへ振り向く。
「アニエス、救援に来たわよ!」
「すまない。想定だにしていなかった敵だ、かなりの被害が出ている」
アニエスが、背後の怪我人達のほうへ顔をチラと向ける。ルイズは水を取り出し、彼らの傷口を診る。
残る3人、ギーシュ、キュルケ、モンモランシーも駆け寄り、まずは出来る限りの応急処置を開始した。
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手当てをしながら、キュルケがアニエスに言う。
「ビーツーとリーダーさんで、皆を運びましょう。急がないと」
「そうしてもらえるのは助かるが、手数が減ってしまう。彼らに勝算はあるのか?」
「心配いらないわよ。ねぇビーツー!」
『そうね。敵の数は知れているわ、残る3人でも征しえる筈よ』
黒い物体側が女性口調で……だが男性の声で、キュルケに答え、そのまま変身を開始した。
透明だったキャノピーが黄色に発光し、2本の脚を展開すると、上半身部分を回転させながらむくりと起き上がる。
背面に折りたたんでいたと思しき2本の腕を露出させ、頭を出し、それは人型へと成った。
マスク状の口元に、光る冷たい眼が、その顔の表情を他の者に窺わせない。
彼女は……いや彼は、人々を見下ろしてから、すぐ間近で繰り広げられている戦いを見据えた。
すると――
『ちょっと待てよ、なんでこの俺様が難民救助船みてぇなマネをしなくちゃならねぇんだ!?』
赤白の飛行機がそう喚き、こちらの方も変身を開始する。
独特の機械音を唸らせながらの変形プロセスは、先の3体の変身と比べ明らかに物理的な無茶があった。
例えるならば、粘土をこねて形を造るように、その手足はどうやって生えたのか、その色はいつのまに塗りつぶしたのか、
と問いただしたくなるような、説明しがたい変化であった。兎にも角にも、それは巨人へと成った。
黒い頭部からは赤い眼光を放つ。二の腕と脚部は白色、胴体と腰は赤色、前腕と拳と足元は青色で、目に悪い程カラフルな配色だ。
人型に成ったと同時に、ルイズと痴話喧嘩を始めた。
「わがまま言ってんじゃないわよ! 今どーゆー状況か判ってんの!?」
『我儘ぁ? 戦術上、俺が残って戦いを指揮するのが一番得策に決まってるでしょう!』
「とか言っていつもドジこくのがアンタじゃない! タルブの時だって……」
『やってみなきゃわからんでしょうが! その臆し具合があなたの悪い所だってんです!』
「言わせておけば……っ!」
「ちょっと、ルイズ! リーダー! 漫才やってる場合!?
アルと役目を替わらせましょう、それなら文句ないわよね、リーダー?」
モンモランシーが喧嘩を仲裁し、呆れ顔で提案をした。赤白の巨人は、いてもたってもいられない挙動をしている。
黒い巨人も、やれやれと言いたげな素振りで赤白の巨人の肩を叩く。
『仕方ないわね。リーダー、ひと暴れしてきてちょうだい』
『へっへっ! 俺様がいないと始まらないってな!』
赤白の巨人が、意気揚々と戦場へ駆けだす。振動が辺りに響く。
ルイズはまだ怒鳴っているが、ギーシュが皆の手当てが優先だと制した。
先程よりリーダーと呼ばれる巨人は、走りながら大声で叫ぶ。
『スタースクリーム軍団!! あのポンコツどもを蹴散らすぞ、この俺に続けぇーっ!!』
地上での戦いは続く。その上空、星が輝く夜空で、救援隊のうち残る最後の飛行機が旋回しながら飛んでいた。
それは、色彩は灰色でなされやや地味だが、形状は‘空を飛ぶ’ことに鋭意され流線形を描いている。
よって飛行速度は他を頭一つ抜き、風を切って飛ぶ姿もブレが無く、より洗礼されているように見える。
そして、他と同じように意志を持つその飛行物体は、内なる怒りを少しずつ漏らしてもいた――
……ヒトに都合良くあしらわれ……他愛なく触れ合い……人命を優先する……これではまるで……
搭乗者たるタバサは、黙って、眼下の戦局を見計らっていた。
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スタースクリーム。
同じ名前、同じ巨大金属生命体、同じく飛行機への変形を可能とする特徴でありながら、互いの存在する時系列が異なるためか
それまで接点の無かった彼らが一堂に会したのは、異世界ハルケギニア・トリステイン学院での召喚の儀式においてであった。
5人の少年少女に召喚された、5体のスタースクリーム。
ルイズに召喚された、赤と白のスタースクリーム。
順番でいえば儀式の一番最後に召喚されたのだが、ニューリーダー病とでも言うか、常に集団の上に立ちたいという性格からか、
傲慢で、よく威張り散らしており、仕方なくか何時しか「リーダー」と称されるようになった。
実際の所、それを面白く思っていない他のスタースクリームもいるが、便宜上この名義を通している。
アクの強いスタースクリーム達を統率するには、一番アクの強いスタースクリームが必然となるのだ。
戦いにおいてもそれなりの指揮力を見せるため、なんだかんだでリーダーとしてのポジションに準ずるのは妥当なのかもしれない。
使い主ルイズとは四六時中喧嘩をしているが、存外相性のいいあたり、喧嘩するほどなんとやらを体現している。
尤も、喧嘩の最終局面では毎度ルイズの虚無の爆発が発動するため、結局頭は上がらない様であるが。
キュルケにより召喚された、黒いスタースクリーム。
「ビーツー」という愛称は、割に紆余曲折をもってして生み出された。
彼女……ではなく彼が元の世界で勃発した戦争は、第三者側から「第二次ビーストウォーズ」と俗称されており、
それを取って召喚当初「BWU」としていたが、アルファベット英単語はハルケギニアで通じる言語ではない。
そこで「ビー・ビー」としたが、それはかのじ……彼にとって愛着ある部下の名前と同じだったので、
さらに形を変えて現在の「ビーツー」に落ち着いた。戦いでは参謀、言うなれば軍師を務めている。
ユーモラスのある一方、物事を冷徹に判断でき、機転も利く、かの……彼には適材適所といえるだろう。
キュルケとは、仲の良い何でも言い合える友人同士という関係が出来上がっている。
モンモランシーに召喚されし、紅のスタースクリーム。
彼がいなければ、現在のスタースクリーム達と召喚者達との主従関係はあり得なかったと断言できる。
元の世界では、基本的に人間を敵かゴミかと認識していたスタースクリーム達の中で、
結果的にではあれど、人間に歩み寄ろうとしていたのが彼であった。
彼の思考と判断、また、そもそも人間をあまり知らないビーツーの興味本位からくる協力もあって、今の状況に落ち着いている。
スタースクリーム達の中では屈指の勇気と度胸と求心力を持ち、戦いでは前線での斬り込み役を任されている。
したたかでもある彼とモンモランシーとの仲は、誰も心配するまでもなかった。
モンモランシーは、彼を「アル」と呼んでいる。由来は「アルマダ」からのようだが、
そもそも何故その単語なのかはよく解らないとかなんとか。
ギーシュが召喚したスタースクリームは……、ある意味彼が一番特徴を掴み難い。
何故なら、彼は召喚された時から、数回ほど姿をコロコロ変えているのだから。
緑色の蜂の姿に変装してみたり、ある時は幽霊だったり、6人位に分身したり、首から頭だけだったり、そして顎が長い。
朝から晩まで「俺はイケメンだ!」とやたら強調している、性格からしてよくわからない奴である。
しかしその破天荒さがかえってギーシュとの波長の調和を生んだようで、2人して調子に乗る彼らを、
人々は「ナルシスティオン」などと呼んでいたりする。本人達もまんざらでは無いらしい。
彼自身の通称は「ナルシィ」。コンビ名と同様、ナルシスト、と掛けている。アゴと言ったら怒る。
『イケメンの俺様から突然クイズだ!! ここまで何回‘スタースクリーム’の名前が出たかな!? 数えるがいい暇人ども!』
こういう奴である。
そして最後の1体、タバサのスタースクリームについては――
ヨルムンガント達との戦いを勝利で終え、その後日での光景で語ることとなる――
- 96 :
- 以上です。終わりは見えてるのでぼちぼち投下できたらと。
- 97 :
- 過疎ってる?
- 98 :
- 雑談は前スレでやってるよ
- 99 :
- おつおつw
イケメンビーム期待w
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