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2012年4月FF・ドラクエ279: もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら18泊目 (162) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら18泊目


1 :11/12/17 〜 最終レス :12/04/26
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。
・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。
前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら17泊目」
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1294636197/
PC版まとめ(更新停止)
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html
新まとめ「DQ宿スレ@PC&Mobile」
ttp://dqinn.roiex.net/
避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/40919/
ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/
お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

2 :
落ちて数日経っていたので勝手ながら立てました。

3 :
スレ立て乙!
そして◆DQ6If4sUjgさんも乙!

4 :
なんかどっかで聞いたような設定だなァ

5 :
スレ立て乙です!
さっそく投下させて頂きます。

6 :
前スレ>>358の続きです
「ひゃー!?」
うおぉっ!? 何だ何だ!?
絹を引き裂くような声に飛び起きる。
眠い目を擦りながら辺りを見回すと、ドアのすぐ近くで
婆さんが目を皿にしてこっちを指差しているのを見つけられた。
ジーナ婆さん……だよな。ってことは、下の世界に戻ってこられたのか。
「あんたたち!
泊めたと思ったらいなくなって、いったいどこにいってたのさ!」
腰を抜かしながらジーナ婆さんが叫ぶ。
あ、そうか。上の世界に行く時は体ごと移動しちゃうんだな。
「すみません、お騒がせしてしまって。大丈夫ですか?」
ボッツがベッドから降りて婆さんに歩み寄る。
俺はというと、ボッツの手伝いをするわけでもなく、婆さんの顔をガン見していた。
うーん、確かにあのジーナの面影がある。若い頃は美人だったんだなぁ。
「何じろじろ見てんだい。わしの顔がそんなに面白いかい?」
「あ、いえ。すみません」
とっさに謝ると、やれやれといった風にため息を吐かれた。おお、こわいこわい。
杖とボッツの手を借りながら、婆さんがよっこいせと立ち上がる。それだけでも重労働のようだった。
「ふう、ありがとうよ。あぁそうそう、朝食ができてるよ。
さっさと顔洗って……んん?」
ジーナ婆さんはそこまで言いかけて、
さっきのお返しというわけではないだろうが
俺たちをじろじろと見回し、それから首を傾げた。
「……あれ。いま気がついたけど、あんたたち、わしの夢に出てきた人にそっくりだの。
それに昨日までのあの辛い夢は見なくなったし……。
けど夢と違って、あの人は死に、わしはこの町に住みついたのさ」
そう言って寂しそうに首を振る婆さんの言葉に、俺はずんと胸を突かれた。
ああ、そうか。
そうだよ、上の世界はあくまで夢なんだ。
あのイリアとジーナは幸せになったかもしれないけど、
婆さんから見れば、恋人を失ってしまったという現実は変わらない。
ジーナ婆さんのイリアは帰ってこないんだ。
……俺たちのやったことに意味はあったんだろうか?
「おや?ところであんたが持ってるそのリング。
わしが若いころなくしたリングによく似ているねえ」
婆さんが隣に立つボッツの手を取り、
その指にはめられた指輪をまじまじと見つめた。
いやこれは、と弁明しようとするも口ごもるボッツに構わず、
婆さんは眉をしかめて凝視し続けたが、やがて顔を上げた。
「さて? 誰かにあげたんだったか……。
いやだよ。もうろくはしたくないものだねえ。ほっほっほ
陽気に笑うジーナ婆さんに、俺たちは曖昧な笑みを返すことしかできなかった。

7 :

さあどうしたもんかと考え始めたその時、がちゃりと扉が開いた。
ノックもなしに無礼な、と思ったのかどうかはわからないが、
婆さんは睨めつけるように振り返った。
「ごめんくださいよ。ここにジーナさんという……」
扉を開けたのはよぼよぼの爺さんだった。
渋い緑色の服を着て、婆さんと同じように杖をついている。
年齢はよくわからないが、婆さんと同じくらいだろう。多分。
ジーナ婆さんは扉のすぐそこに立っていたので、爺さんから見ると、
部屋に入ってばったり出くわす形になった。
みるみる間に爺さんの目が大きく見開かれ、なぜだか表情が喜色に染め上げられていく。
……あれ?何だろう。おかしいな。俺はあの爺さんとは初対面のはずだ。
なのにどうして、爺さんの笑顔に既視感を覚えるんだろう?
「ジーナ? ジーナだね!」
「誰だいあんた?」
突然現れた人間に呼び捨てにされたからか婆さんの声は刺々しい。
俺の位置からだと表情は見えないが、きっとじろりと睨みつけているんだろう。
しかしそれに気圧されるばかりか、爺さんは顔をくしゃくしゃにして喜んでみせた。
「おおっ、おおっ。しわくちゃでもよくわかる。やっぱりジーナだ!
わし……いやっ、オレだ! イリアだよ、ジーナ!」

         ナ ゝ   ナ ゝ /    十_"    ー;=‐         |! |!
          cト    cト /^、_ノ  | 、.__ つ  (.__    ̄ ̄ ̄ ̄   ・ ・
            ,. -─- 、._               ,. -─v─- 、._     _
            ,. ‐'´      `‐、        __, ‐'´           ヽ, ‐''´~   `´ ̄`‐、
       /           ヽ、_/)ノ   ≦         ヽ‐'´            `‐、
      /     / ̄~`'''‐- 、.._   ノ   ≦         ≦               ヽ
      i.    /          ̄l 7    1  イ/l/|ヘ ヽヘ ≦   , ,ヘ 、           i
      ,!ヘ. / ‐- 、._   u    |/      l |/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、l イ/l/|/ヽlヘト、      │
.      |〃、!ミ:   -─ゝ、    __ .l         レ二ヽ、 、__∠´_ |/ | ! |  | ヾ ヾヘト、    l
      !_ヒ;    L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /       riヽ_(:)_i  '_(:)_/ ! ‐;-、   、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
      /`゙i u       ´    ヽ  !        !{   ,!   `   ( } ' (:)〉  ´(.:)`i    |//ニ !
    _/:::::::!             ,,..ゝ!       ゙!   ヽ '      .゙!  7     ̄    | トy'/
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、    r'´~`''‐、  /        !、  ‐=ニ⊃    /!  `ヽ"    u    ;-‐i´
 !    \::::::::::::::ヽ   `ー─ ' /             ヽ  ‐-   / ヽ  ` ̄二)      /ヽト、
 i、     \:::::::::::::::..、  ~" /             ヽ.___,./  //ヽ、 ー

8 :

「イ、イリア!? あんた生きてたのかい? ほんとにイリアかい?」
「おうともよ! このオレがそうカンタンにくたばるかってんだ!」
ああ、その台詞は間違いなく。
それに印象的なあの笑顔。
「イリア!」
「ジーナ!」
杖が彼女の手から滑り落ち、がらん、と鳴る。
婆さんと爺さんはどちらともなく駆け寄り、抱擁を交わした。
そのままキスまでしてしまいそうな勢いだ。
「ホントはこの町に寄る気はなかったんだが、おかしな夢を見てな……」
「そうかい……。あんたも夢を……。ちょっと待っておくれよ」
夢? ジーナ婆さんと同じ夢だろうか?
婆さんは俺たちの方を振り返り、首から提げていたペンダントを外すと、
鎖ごとボッツに手渡した。途端にボッツが目を張り、
慌てて視線を婆さんと手の中のペンダントの間を往復させ始める。
いつもは凛々しい眉が今では困ったように八の字だ。
「あんたたち、これが必要なんだろ?
これがカガミのカギさ。さあ、持っておいき」
「ジーナさ―――」
何か言いかけるボッツを押し留め、婆さんは静かにかぶりを振った。
その手はイリア爺さんの手をしっかりと握っている。
「私にはイリアが戻ってきてくれた。もう形見はいらないのさ」
そう言って笑うジーナ婆さんは、
すっかり全部の荷物を下ろしたかのように穏やかだった。

9 :

教会の人たちに世話になったと告げ、
道具屋で準備を整えた後、俺たちはアモールの町を発った。
月鏡の塔に向かうためだ。
(私を夢から救ってくれたのもきっとあんたたちだね。
ありがとうよ。世話になったね。気をつけてゆくんだよ。
そのカギをつかえば月鏡の塔に入れる。
もし伝説が本当なら、そこにはラーの鏡というすごいお宝があるはずさ)
(もう少し若かったら、オレたちが行きたいところだがな。
オレたちの時代は終わった。今度はお前さんたちの番だ。気をつけていきなよ)
二人の言葉を思い出しながら、俺は黙々と歩を進める。
―――奇跡、とでも言うのだろうか。
俺たちが夢の世界でイリアを助けたことで、
現実のイリアはその夢に導かれるようにアモールの町を訪れ、
ジーナと再会を果たすことができた。
夢も現実世界に影響を与えることができるのだ。
俺たちのしたことは無駄じゃなかったんだ!
って言っても、俺はただボッツたちについていっただけだから、
正しくは“ボッツたちのしたことは”、なんだけどさ。
ため息が漏れる。
自分の無力さを痛感させられるわ、色々とグロいもの見せられるわ、
もう俺の人生どうなっちゃってんの?
赤がトラウマになりそうです。
「おい、何しょげてんだ? めでたいことが続いたってのによ」
人知れず卑屈になっていた俺の背中を、ハッサンがばんばんと叩いてきた。
やめて、朝食が出そうになるからマジやめて。
「いや……俺、何もできなかったし」
「何言ってんだ。イリアの手当てをしたのはお前だろ?」
「それはそうだけど、ミレーユに言われなかったらそれもできなかっただろうし……」
「タイチ。私、貴方は目の前で傷ついている人を見捨てられるような人じゃないと思うわ。
きっと誰に言われずとも、手当てしてくれていたんじゃないかしら」
ミレーユがわざわざ振り返ってそんなことを言ってくれる。
しかも優しい微笑み付きなもんだから、
俺の心臓はゴムボールのように勢いよく跳ねるはめになった。
やっべえ超不意打ち。もうこれだけでしばらく頑張れるわ。
「それにしても、ジーナさんたち、本当に仲が良かったわね」
「ああ。再会を手伝うことができて良かったよ」

10 :

先頭でファルシオンの手綱を牽いていたボッツも振り返る。
そうだな、あの洞窟で生き別れたっきり何十年も会えなかった上に、
ジーナ婆さんは恋人を自分の手にかけてしまったと思ってたんだ。
これから思う存分イチャイチャするんだろうなぁ。
まあ、老人ができるイチャイチャなんて限られてるけど、うん。
そのへん追求するのは野暮ってもんだな。
「でもよお。あの爺さんたち、伴侶は取らなかったのかね。
ジーナ婆さんなんてずうっと教会で下働きしてたらしいじゃねえか」
「馬鹿だなハッサン、それだけお互いを思い合ってたってことだろ。愛だよ、あ……」
俺が急に口を半開きにしたまま固まってしまったため、
三人が不思議そうに、あるいは心配そうに顔を覗き込んできた。
慌てて「何でもない」と弁解すると、とりあえずは納得したのか、三人は雑談に戻っていった。
どこかで聞いたことあると思ったら。
足を止め、すっかり小さくなってしまった町を振り返る。
―――アモール。スペインだかポルトガルだかで、“愛”って意味の言葉じゃないか。
これ以上ないくらい、あの町にぴったりな名前。
当てはまりすぎててちょっと怖いくらいだ。
何か俺の世界と関係あるんだろうか……? まあ何故か言葉が通じるくらいだし、なあ。
いいや面倒臭い、これ以上止まってると置いていかれちまう。
とっとと行こ―――ぐほおっ!?
「タイチてめえ、言うに事欠いて馬鹿とは何だ!」
「苦しい苦しい! いや、気づくの遅すぎね!?」
「なんだとお!」
ちょ、やめて絞めないで! ギブギブ!
完璧に絞めに来てるハッサンの腕に必死にタップするが、
じゃれてると思われてるのか猛攻はまったく弱まらない。
お願いだから気付いてハッサン!
人間が猛獣にじゃれられると大怪我するように、
お前の腕も冗談で人を絞めてもいいようにはできてね……え……。
「!! ハッサン、やりすぎよ!」
「え? あっ!」
「タ、タイチー!!」
呼びかけたり頬を叩いたり体を揺さぶったりと、
みんなの健闘とは裏原に、俺の意識は闇の中へと真っ逆さまに落ちていく。
ああ……目が覚めたら、ミレーユの膝枕の上だったらいい……なぁ……。
ぐふっ。
タイチ
レベル:5
HP:1/32
MP:13/13
装備:ブロンズナイフ
    くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり

11 :
アモールやっと終わった!
ちょっと長くなりすぎたので、次回からはテンポ良くを目指します。

12 :
おつ。
今回も面白かったよ。
実際のゲームでは伝えきれない、
細かい描写がほんと好きだわ。
ハッサンとのやりとりも相変わらずだしw
今回みたいなフリも楽しみだなぁ。

13 :
乙!
ええシーンや

14 :
>>6の続きです。
「ここが月鏡の塔か……」
みんな揃って塔を見上げるので、俺もそれに倣ってみる。
建築には詳しくないけど、しっかりと煉瓦が組まれてるし、頑丈って感じがするな。
天を突かんがばかり、というほどじゃないが、そこそこの高さだ。軽く五階はあるだろうか。
塔の外見は大雑把に言えば凹状になっていて、
その真ん中に……おい、なんか部屋がまるまる一個浮いてるぞ。いったいどうなってんだ。
何か四方から電撃みたいなのが走ってるけど、あれが支えてるのか?
「タイチ、お前の世界にある“ビル”って建物もこんな感じなのか?」
いや〜……もっと高いものもあるかな。あと部屋浮いてないし。
「この塔より高いのか!? っはぁ〜……」
呆れてるのか感心してるのかよくわからない声出すなよ。
反応に困っちゃうだろうが。
なんでハッサンがビルのことなんか知ってるのかというと、まあ答えはひとつしかない。
ここに来るまでの間、話の物種にと俺の世界について色々話してみたのだ。
ただ、電気やガスについての説明はどうにも難しい。
俺の世界の人間は魔法が使えない代わりに、
自然の力を応用するのが上手い、みたいなよくわからない説明しかできなかった。
ああでも、みんな興味津々で聞いてくれたのは嬉しかったな。
ただ、なんでかハッサンは建物の話しになると、ちょいちょい質問してきては
「か、勘違いしないでよねっ!別に建物になんか、全然まったく興味ないんだから!」
みたいな態度を取るんだよなぁ。モヒカンマッチョのツンデレとか誰得だよと言ってやりたい。多分通じないけど。
まあそれは置いといて。
固く閉ざされた扉にカギを差し入れ、そのままくるりと回す。
小さく錠が下りた音がした。
カギを抜き、そのまま取っ手を引いてみると、
大きな扉はそれまで黙り込んでいたのが嘘のように、あっさりと開いていった。
「この奥にラーの鏡が……。よし、行こう!」
少なくとも二十年以上侵入者はいなかったはずなのに、
塔の中は意外と埃っぽくなかった。
部屋の隅に蜘蛛の巣が張ってるくらいだ。
てっきり山のように積もってるものかと思ってたんだけど。
ってことは、つまり……。
「魔物が巣くっているかもしれないわね」
「へへっ、そうこなくっちゃ。あっさり手に入ってもつまんねえしな。なあ、タイチ?」
同意を求めてくるハッサンに、俺は「もちろんだ」と応えてみせた。
もちろん強がりだ。
何十年ぶりかの来客を、格好の獲物を、魔物たちは張り切って出迎えてくれるだろう。
髪の毛ひとつ残さず食い尽くそうと襲いかかってくるに違いない。
そう、手加減なんかしてくれるわけがないのだ。
……正直言うと、ラーの鏡とかどうでもいいから今すぐ帰りたいです。
なんで鏡が魔王倒すのに必要なんだよ。鏡が弱点なの?
実はすっげえ不細工なのに美形だと思い込んでて、
それを自覚させて憤死させる狙いなの?
ああもう、めちゃくちゃ怖い。

15 :

月鏡の塔という名前に因んでるのか、
入って角を曲がったところの壁が、なんと鏡張りになっていた。
五メートルはあろうかという大きな鏡がそれぞれ柱を挟んで並んでいる。
うっへえ、顔負けだなこりゃ。
降りる階段が二つあったのでさっそく下に行ってみたはいいが、
ひとつは宝箱(鉄の胸当てだった)、もうひとつは行き止まり。
隠し扉がないかと壁を叩いてみたりもしたけれど、
進めそうなところはまったく見当たらなかった。
ざんねん!! おれたちのぼうけんは これで(ry
……なんて馬鹿言ってる場合じゃない。
使い道はよくわからないけど、俺たちにはラーの鏡が必要なんだ。
壁ぶっ壊してでも進まないと……。
それにしても、よくもまあこんなでっかい鏡用意したよなあ。
量産に成功してる俺の世界でも全身を映せる姿見は一万円くらいはするってのに。
どこの誰が建てたかは知らんが、
設置にはむちゃくちゃ金かかったんだろうことが容易に推測できる。
魔王倒せちゃう鏡だもんな、金かけるのもわからなくはない……か?
鏡越しに頭を悩ませてるボッツ、ハッサン、ミレーユが見える。
ちなみに立ち位置は、
|  鏡  |  鏡  |  鏡  |  鏡  |
 ボ
                俺
         ミ                 階段
    ハ
といった感じだ。
いやー、こうして並んで見ると、ほんと俺浮いてるわ。何この醤油顔、ふざけてるの?
「みんな、ちょっと来てくれ!」
全員がボッツの調べていた鏡の前に集まる。隠し扉でも見つけたんだろうか?
「この鏡、何か変じゃないか?」
「変って?」
「いや、どこがどう、とは言えないんだけど……」
困った顔で言い淀む。そう言われてもこっちが困るって。
……ん? あ、あれ?
俺は信じられない思いで目の前の鏡に手を伸ばした。
ほどなく鏡に届いたが、鏡の向こうにいるはずの自分と、指と指が触れ合うことはなかった。
鏡に映っているのは、ボッツ、ハッサン、ミレーユと、そして塔の内装。
……そこにあるはずの、俺の姿が、ない。
思わず右隣の鏡の前に駆け込めば、
日本人特有の掘りの浅い顔が視界に飛び込んできた。俺だ。
なんだこれ、いったいどうなってんだ?
「悪いな太一、この鏡三人用なんだ」ってか?

16 :

「どうやらこの鏡が鍵を握っているようね」
「行き止まりなだけに? なるほど、なかなか上手いこと言うな」
「そ、そうかしら? そんな上手くはないと思うけど……」
「この中に隠し部屋があるのかもしれないな。よし、調べてみるか」
ボッツが鏡の中の自分の顔をコンコンと叩いた。
ハッサンとミレーユのやりとりはスルーですか。
……ん? 今、鏡の中のボッツが仰け反ったような……。
「くっ! このまま大人しく引き返せばよいものを」
うわっ、喋った!?
「ばれては仕方がない! ここから先へは進ませぬぞっ!」
鏡の中のボッツ、ハッサン、ミレーユの表情が一変した。
本人とは似ても似つかない凶悪な顔つきだ。
「進ませぬぞっ!」だってえ?そんな勇ましく言ったって、
鏡を壊してしまえばこっちのも、の……おおぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!!?
 *ポイズンゾンビが あらわれた!
な、な、なんじゃこりゃあああああ!!
鏡から腕が生えて、ボッツの顔が鷲掴まれてるうううぅぅぅううう!?
紫色な上に、今にも腐り落ちそうなほどドロドロなその腕からはひどい腐臭が漂っている。
「ボッツ!」
ああっと、ボッツくんふっとばされたー!
「ちくしょう、こいつら!」
ハッサンの声にはっと振り返る。
ガッツが足りなかったボッツに気を取られている間に、
どうやらこちら側へ侵入を許してしまったようだ。
既に目の前には土気色の髪、紫色の肌をした三匹の化け物が迫っていた。
なるほど、こいつらが鏡の中で化けてたのか。
ふふん、惜しかったな。あと一匹いれば誤魔化せたかもしれなかったのに。
って、あ! こいつらアレか、まさかゾンビってやつか?
うわー、ジルやクリスたちはこんな化け物と戦ってたのか。
口がきけるぶん、こっちのゾンビの方が賢いみたいだけど。
「みんな! そいつらの後ろ……!」
何とか起き上がったボッツが叫ぶ。
その声に従い、ゾンビたちの後ろをよく見れば、
なんと、いつの間にかあれだけ大きかった鏡が消え失せていた。
その先には通路が広がっている。これは、つまり……。
「こいつらを倒せばいいってわけだな。いいね、実に単純明快だ」
「腐臭に混じって毒の臭いがするわ……。気をつけて行きましょう」
ハッサンがポキポキと指を鳴らし、ミレーユが構える。
後ろで金属の擦れる音がした。ボッツが剣を抜いたのだろう。
すー、はー。深呼吸をひとつ。臭いが我慢だ。
それに合わせるように、俺はゆっくりと、腰に携えていたブロンズナイフを抜いた。

17 :

怖い。恐ろしい。毒があるって?
いったいどんな毒なんだ。即効性だったりしないよな?
あいつらに噛まれたら俺もゾンビになっちゃうんじゃないか。
うっかりどこかを掴まれて、そこから溶けてぐずぐずになったりしたら。
ああ嫌だ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。恐怖で押し潰されてしまいそうだ。
――――なのに、どうしたことだろう。
胸が躍る。口元が緩むのを止められない。
血が沸々と煮えたぎり、全身の体温が上昇していくのがわかる。
体がわずかに震えていたが、それが恐怖からのものではないことは明白だった。
「マヌーサ!」
マヌーサ。確か、敵をまぼろしに包んでしまう呪文だったっけ。
ひとたび効いてしまえば、まぼろしに気を取られている敵を
一方的に攻撃できるという、なかなか凶悪な呪文だ。
ゾンビたちの眼前に霧がかかっていく。
効いたのは一匹だけだったようだけれど、それでも十分だ。
「タイチ! マヌーサがかかった奴は任せた……ぞっ!」
振り回される腕の群れを、
銅の剣でいなしながらボッツが言う。
以前の俺ならそれだけで怯んでしまいそうな台詞だ。
けれど、今なら言える。
強がりでも虚勢でもなく、心から。
「ああ、俺に任せろ!」
俺の啖呵を聞いていたかは知らないが、
マヌーサがかかったゾンビが頼りない足取りながらもこっちに突っ込んできた。
素早い! ゾンビのくせに生意気だ!
まぼろしの霧に包まれながらも俺の位置はわかるらしい。
腐っても魔物ってことか。
さあ、行くぞ。
両手で武器を握り、体の向きは相手に対してやや斜め。
脇は締めて、大きく足を開く。そのとき片足は必ず一歩後ろに。
……大丈夫だ、身体が覚えてる。
ゾンビが大きく腕を振り上げる。よくよく見れば爪は獣のように鋭く、
人間の柔らかい肉なんか容易く切り裂けてしまいそうだった。
馬鹿! 怯むな、俺! 思わず逃げ腰になってしまう自分を叱咤する。
一瞬でもあいつから目を離したら死ぬと思え。
喉笛を震わせながら振り下ろされた五本の指爪は、俺の頬を掠めつつも、空を切った。
まぼろしの俺を切り裂いてしまったゾンビはその手応えのなさにバランスを崩す。
背中がガラ空きだ!
「うおおおおおおおっ!!」

18 :

「脇が開いてる!肩も上がってるぞ、力みすぎるな!」
「オス!」
「片足は必ず後ろだ。軸足を意識しろ!」
「オス!!」
月鏡の塔に到着する二週間ほど前のことだ。
ハッサンに絞め落とされた後、三人の間で何かしらの会議が行われ、
その結果、しばらく俺を心身ともに鍛えることが決定したらしい。
目が覚めるとこれまた知らない天井で、
しかも知らない婆さんが顔を覗き込んできたもんだから、
年甲斐にもなく大騒ぎしてしまった。
まあ婆さんが杖で小突いてくれたおかげで、すぐ落ち着けたけど。コブができたぜチクショウ。
婆さんの名前はグランマーズ。
名前っつーか、そう呼ばれているらしい。
が、普通に呼ぶには長いためか、ハッサンは婆さんと呼んでいるようだ。
グランマーズは高名な夢占い師であり、ミレーユはボッツたちと出会うまで、
グランマーズの元で夢占い師の修行を受けていたとか何とか。
そこに半透明になったボッツたちと、
一緒に旅をすることになったとのことだった。
しかし、ボッツとハッサンによれば、ミレーユは初対面にも関わらず、
こっちのことを最初から知ってるような態度だったらしい。
居場所等はグランマーズの占いで知ったようだが、それにしても引っかかる部分が多いとか。
うーん、ミステリアス。
「隙あり!」
「おわっ!?」
バランスが足元から崩されて、俺の体は情けなくも尻から転倒した。
足払いに引っ掛かるとかないわー……いててて。
痛みに気を取られてる間に、空を切る音とそよ風が耳と頬を撫でた。
はっと目を開けると、俺の顔のど真ん中に木の棒を突き付けているボッツの姿。
くそ〜、また負けた!
ご覧の通り全然敵わなかったわけだが、
平和ボケした日本人には魔王討伐なんて向いてないんじゃないだろうか。
当たり前だけど、ただ型をやるより実戦の方がずっと難しい。
覚えた型を意識しつつ、相手のどこを攻撃したらいいかとか
考えながら動かなきゃいけないとかマジ無理ゲー。
だからって、ここで諦めたら置いていかれること間違い無し。
グランマーズと二人暮らしなんてまっぴらごめんだ。
あ、そうそう。占いと言えば、せっかくなのでどうしたら
元の世界に戻れるのか占ってもらった。
魔王を倒せば戻れる、なんて俺の直感と推測でしかない。
そんなのお約束な展開よりも、もっと楽な方法があるかもしれないじゃないか。
それで先生、どうなんですか!? うちの子は助かるんですか!?
「魔王を倒せば自ずと道は開ける……と出ておるぞ」
うん、お約束って大事だよね☆

19 :

そうして淡い希望を打ち砕かれたり、つら〜い修行を積んだりして、
二週間後、俺たちはやっとこさ月鏡の塔へとたどり着いたというわけだ。
「俺なんかのために魔王をほっといていいのか?」と尋ねると、
「確実に討伐するためだから」という答えが返ってきた。
確かに一理ある……が、申し訳ない気持ちになったのは言うまでもない。
その分修行には真剣に取り組ませていただいた。
たぶん俺の二十一年間で一番身を入れた出来事だったんじゃないだろうか。
この世界のため、ひいては自分が元の世界に帰るためなんだから、
一心不乱にならんでどうするって話なんだけど、さ。
眼前の敵めがけて、ブロンズナイフを振り上げる。
刃はゾンビの背中を下から上に撫でるように、しかし確実に切り裂いた。
一瞬遅れて緑色の体液が吹き出したが、そんなのにいちいち怯んではいられない。
返す刀で右肩の付け根を突き刺してやると、ゾンビは声にならない悲鳴を上げた。
よし、いける!この調子で……。
「この、人間風情がっ……調子に乗りおってえぇぇ!」
ゾンビがそう言い放った次の瞬間、
ナイフが手からすっぽ抜けたかと思うと、俺の足は地から離れていた。
や、や、やばい。顔ごと鷲掴まれた上に持ち上げられてるううううう!?
爪が頭とかに食い込んで超痛いんですけど!
それに腐臭と、何とも言い難い臭い―――ミレーユの言葉を借りれば、毒の臭いってやつだろうか―――が
混じったものがダイレクトに伝わってくる。鼻が曲がりそうだ。
後で食べよう後で食べようと思って、うっかり冷蔵庫の中で
腐らせてしまったサンマが思い出されるぜ。
あれはもったいなかったなぁ……。
って、そんなこと考えてる場合じゃねえええ!!
てめっ、離せこの野郎!触感どろどろしててキモいんだよ!
「よくもやってくれたな……最高の毒をプレゼントしてやるわい」
ゾンビは腐って崩れた顔で器用に笑ったかと思うと、
口を貝のように閉じ、頬をぷくうっと膨らませた。
ちょっ、これマジでやばいんじゃないか!? 離せっ、離せっつーの!
必死にもがいてみるが奴の腕はびくともしない。
腐ってるくせに人間並みに頑丈っておかしいだろ!
色々間違ってるよこのゾンビ!
抵抗する俺をあざ笑うように、無情にもゾンビの口は開かれていく。
いやに鮮やかな紫色の気体が俺めがけて吹きかけられ、俺の視界は紫一色に染められた。
――――紫色の気体がすっかり消えた頃、俺の身体は床に投げ出されていた。
「!! タイチーっ!!」
「ちくしょう! てめえら、どきやがれっ!!」
「どうじゃ、わしの毒は。人間の身にはさぞかしつらかろう」
「っせえ……ぜんっぜん、へいきら、っつの……」
平気なわけがない。
胸が焼けつくようだ。吐き気がする。
頭がくらくらして、立ち上がろうと足に力を入れようとしても言うことを聞かない。
舌が痺れてろれつが回らねえ。

20 :

「ふん、強がりを。まあよい、久々の獲物じゃ。
喰う前にちょいと弄ばせてもらおうかの」
ゾンビはそう言うと、憎々しげに右肩のナイフを抜き、後ろへと投げ捨てた。
床を転がる乾いた音が無情に響く。
声や物音から察するに、ボッツたちは他のゾンビどもの相手に手一杯のようだ。
つまり、助けは望めない。自分で何とかしないといけないんだ。
壁際までいけば、なんとか身体を起こすことができる……かもしれない。
俺は鉛のように重い腕を何とか動かし、
出来損ないのほふく前進で身体を運び始めた。
「おやおや、下手に動くと毒の回りが早くなるぞ?」
うるせえ、このドSゾンビ。
そう言われるとさっきよりも苦しくなってくるような気がしちゃうだろうが。
だけど、身体を起こせたところでどうする?
この状況を打破するには、いったいどうすればいい?
ナイフはあいつの背後、身体はろくに動いてくれやしない。
めまいがひどいけど、意識は考えごとができるくらいにはハッキリしている。
……ぐ、まずい。うまく呼吸できなくなってきた。
犬のように浅い呼吸になってしまう。
もうこうなったら、少しでも遠くへ逃げて時間を稼いで、
ボッツたちの助けを待つしか――――ぐえっ!?
「てめえっ……何、しやが……!」
地面を這う俺の背中にゾンビの足がめり込んでいる。
これじゃ、動くことすらままならないじゃねえか。
くそ、身体を押し潰される感覚が気持ち悪い。
ただでさえ呼吸しづらいっていうのに。
不服を唱える俺にゾンビは応えず、
ただ、ところどころ抜け落ちた歯列を見せて笑うのみだった。
あ、しっかり牙もあるのね。
「ぐっ!」
足をどけられたかと思うと、
蹴られた勢いで仰向けにさせられた。
今度は胸、ちょうど肺のあたりに足が押しつけられる。息、が……!
ぐりぐりと圧迫してくる足を何とか押し返そうとするが、
本格的に毒が回ってきたのか、ほとんど身体に力が入ってくれない。
今の俺じゃ、腕を上げることすら重労働だろう。
「まったく、マヌーサなどと小賢しい真似を。
貴様を殺した後、あの娘も嬲り殺しにしてやるわ」
「……ミ、レーユを……?」
「まだ喋る気力が残っていたか。
そうよ、あのような美しい娘にはなかなか出会えぬからな。
たっぷり遊んでやった後、大切に大切に躍り食いしてやろうぞ」
下卑た笑い声が上から降ってくる。
耳障りなその声に、鈍りはじめていた思考が冴えていくように感じた。
再び血が煮えたぎるようなあの感覚が戻ってくる。
けれど、それはさっきのような、自分の力を試せる高揚感からなんかじゃない。

21 :

「あの人に、手ぇ、出すな……絶対、指一本触れさせ……うっ!」
「ろくに動けぬ身体でよくもそんなことが言えたものよ。
しかし、ずいぶんと毒の回りが早いのう」
またもや持ち上げられる。
けれど今度は顔ではなく、首を掴まれていた。
苦しい。
息が。
「脆いものだ。加減を間違えたか、それとも貴様が弱いのか」
――――今、なんつった。
「もうよい、飽きた。死ぬが――――」
「…………えよ……」
「うん?」
「俺は……弱く、ねえ……!!」
ボッツが稽古つけてくれた俺を!
ハッサンがアドバイスしてくれた俺を!
ミレーユが呪文を教えてくれた俺を!
脆いとか、弱いとか、言うんじゃねええええええええええええええ!!!!
俺は痺れ始めていた腕を死ぬ気で掲げ、
手のひらをゾンビの首元めがけて突き出し、
あらん限りの声で叫んだ。
「ギラ!!!」
閃耀が走る。
帯状の炎がゾンビの首から上を包み込み、燃やし尽くさんと飲み込んでいく。
今にも首の骨を砕こうとしていた腕の束縛は
あっさりと解け、俺はどしゃりと硬い床へ墜落した。
ゾンビは塔のてっぺんにまで届くんじゃないかという絶叫をあげながら、
燃え上がる自分の顔を掻きむしる。
腐敗した肉体はよく燃えるのかは知らないが、
当然のごとく腕に燃え移り、更に苦痛を味わうこととなった。
霞む視界の中、頭と腕を失ったゾンビが崩れ落ち、
しばらくのたうち回った後に動かなくなったのが見えた。
へへっ、アンデッドが炎に弱いってのはお約束だよ、な……。
 *ポイズンゾンビを やっつけた!
タイチ
レベル:9(修行の成果)
HP:4/71
MP:20/24
装備:ブロンズナイフ
くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり

22 :
なぜか120分制限が無くなりました。忍法帖がレベルアップしたのかな?
>>12
ありがとうございます!
細かすぎて助長になってないかちょっと心配です。
ハッサン動かしやすくて、気をつけないと他の二人が空気になりがちですw
>>13
ありがとうございます!
アモールのイベントいいですよね〜。

23 :
>>18の場面転換がすごいわかりづらかったので、
保管庫の方で加筆しておきました。
「ここどうなってんの?」という方は一読して頂ければ。
投下したのよりはわかりやすくなってる……はず。

24 :
乙!
タイチの成長の仕方がリアルでいいね

25 :
おつおつ!

26 :
ほしゅ!

27 :
>>14の続きです。
意識が朦朧とする。指一本動かせない。
糸が切れた操り人形のよう、っていうのはこういうことを言うんだろうか。
俺は今、どこにいるんだ?
俺は今、目を開けてるのか?
俺は今、目を閉じてるのか?
俺は今、呼吸をしてるのか?
どこか遠くから音が聞こえてくる。どうやら聴覚は正常らしい。
ばたばたばた、と何かがなだれ込むような音がした後、
更に騒がしい、色とりどりの音が耳を刺激した。
肩のあたりを強く掴まれ、揺さぶられているのがわかる。
何だよ、もう。うるさいな……。
「おい、生きてるか!?」
「ミレーユ!」
「わかってるわ! キアリー! ベホイミ!」
「起きろ、タイチ!!」
あ―――?
「タイチ! よかった……」
「あぁ、おれ……、……ありゃ」
起き上がろうとするが上手くいかない。
二度目を試みようとしたところでミレーユが手を貸してくれ、
壁に背中を預ける形で身体を起こすことができた。
あの身体全部を蝕むような感覚が消えている。
両手を開いたり閉じたりするのに合わせて、
むーすぅんーでーひーらーいぃて、と口ずさんでみた。
まったく問題ない。
どうなってんだ……? さっきまであんなに苦しかったのに。
「キアリーよ。解毒の呪文」
ああ、そういえば……グランマーズの家で修行してた時に、
そういう呪文があるって教えてもらったっけ。便利な呪文もあるもんだ。
と、不意にミレーユが後ろを振り返った。
俺も釣られてそちらに目をやるが、そこには動かなくなったゾンビたち以外、何もいない。
「ミレーユ? どうしたんだ?」
「……いいえ、何でもないわ」
何だろう……まあいいか。
ああ、解毒の呪文かぁ。
俺の世界にもあれば、せっかくうまいもん食ったのに死んじゃう人もぐっと減るだろうに。
ほらあれ、なんだっけ。フグ……そう、フグ鯨とかさ。
あれ食うためなら死んでもいいって人いるみたいだし。
って、違う。あれは漫画の中の食い物じゃないか。
……俺、まだぼうっとしてるな。
霧を振り払うように頭を振ってみる。
晴れない。
決してミレーユを疑うわけじゃないけど、まだ毒が残ってるんじゃないだろうか。

28 :

「実は俺もあいつらの猛毒喰らっちまったんだけどよ。
まあ確かに苦しいし、体力削られたんだが……。
タイチみたいにいきなりぶっ倒れるとまではいかなかったんだよな」
同じ毒を受けたのに? この違いは何だ。アレルギー反応とかいうやつだろうか。
「考えられるとしたら……そうだな、タイチは別の世界から来ただろ?
だから俺たちと違って、耐性がないのかもしれない」
「……何度か喰らえば、俺も耐性つくかな?」
「だめよ、そんなことしちゃ。危ないわ」
「ま、毒なんて受けなきゃいい話さ。俺たちだってついてr……いや」
言いかけて、ハッサンは首を振る。
そしてやたら神妙な顔で俺に向き直ると、がばりと頭を下げた。
ちょちょちょちょっと、いきなりどうしたんだよ!?
「タイチ! すぐ助けに行けなくてすまなかった!」
「……本当にすまない。マヌーサがかかっていたとはいえ、
いきなり一匹を任せるなんて、俺もどうかしてたよ。俺かハッサンのどっちかがつくべきだった」
「ごめんなさい……」
なんてことだ。
ボッツはわざわざ立ち上がって深々と頭を下げ、ミレーユもしゅんと小さくなっている。
ハッサンなんてほぼ土下座に近い格好だ。
や、やめてくれよそういうの! 俺もちょっと興奮してて油断してたし!
逆上しちまったけど、あいつの言うとおり、俺が……弱かっただけの話なんだからさ。
これからもっと強くなれるように頑張るから、ボッツたちが気に病む必要はないから……
だから、顔を上げてくれよ。何か、その、困るだろ。
とにかくボッツ、お前座れ!きっちり90°のお礼なんかしてるとマジで王子に見えてきちゃうぞ!
「う……」
うん、やっぱりこいつを黙らせるには王子ネタだな。大人しく顔を上げて座りやがった。
続いて、ミレーユとハッサンも顔を上げてくれた。
ありがとう、なんて言われたけど、知ったこっちゃない。
だいたいお礼を言うのはこっちだっつうの。
それにしても――――俺はようやくはっきりしてきた頭をもたげ、右手を見下ろした。
ギラ。グランマーズの家で修行してた時、何とか覚えられたただひとつの呪文だ。
人によって覚えられる呪文は違うらしく、メラ、ヒャド、バギ、ギラと試してみて、
俺が素質ありと判断されたのがギラだった。
毎日精魂尽き果てるまで練習して、何とかモノにしたものの、
肝心の威力はまあまあ、といった感じだったはずだ。
「さっきのギラ、明らかに普通の威力じゃなかったよな?」
「火事場の馬鹿力ってやつかねえ」
「そうね……呪文の強さは、本人の資質によって
多少変動はするけれど、それほど大きく変化しないはずよ」
「やっぱさ、追い詰められたことで俺の隠された力が覚醒したとかじゃないかな」
「ふふ、どうかしら」
いーや、十分あり得る。
漫画とかなんかじゃお約束だしな。イヤボーンっていうんだっけ?
いやあ、俺もまさかイヤボーンする日が来るとはなぁ。中二心をくすぐられるなぁ。
「ったく、こいつ調子に乗ってやがるな。まあいいや、このまま少し休憩したら出発しようぜ」
「ああ」
ちょっ、何か冷たくない? もうちょっと乗ってきてもよくない?

29 :

こんにちは、あたしバーバラ! 花も恥じらう1〇歳よ。
……なんでそこ伏せるのかって?
やだっ、女の子の年齢追及するなんてモテないわよ!
……ホントはね、あたしにもわからないの。
気がついたら知らない町にいて、覚えてることといったら自分の名前くらい。
記憶喪失ってやつみたい。
なんでか体が透けてるせいで、誰に話しかけても気がついてもらえないし、
もうこれからどうしようって時に、ラーの鏡の噂を聞いたの。
その鏡、真実を映すんだって。
鏡にすら映らない今のあたしでも、もしかしたらラーの鏡になら映るかもしれない!
あわよくば身体を取り戻せるかも……。
そう思って、魔物から逃げつつ月鏡の塔へ向かったの。
んもう、なんであいつらにはあたしが見えるのかしら?
魔物になんか気づいてもらえたって全然嬉しくないわ!
そんなわけで、何とか目的の場所には無事辿り着けたんだけど……。
「!! タイチーっ!!」
「ちくしょう! てめえら、どきやがれっ!!」
どうも先客がいたみたいで、しかもここの主っぽい魔物と戦ってたの。
腐った死体をずっとずーっと強くしたようなのが三匹!
たとえ一匹でも、きっとあたし一人じゃ太刀打ちできなさそうな相手だったわ。
そいつらと戦ってたのは四人組のパーティだった。
四対三なんだから勝ち目は十分……そう思うでしょ?
だけど、一人で戦ってたらしい男の人は既に動けなくなってて、
今にもとどめを刺されそうになってた。
仲間の人たちは目の前の敵が邪魔で助けに入れそうもない。
あたしも頭が真っ白になっちゃって―――気がついた時には、もうメラを撃っちゃった後だった。
凝縮された小さな火の玉が着弾する寸前、
男の人の手から閃光がほとばしった。
ギラだって! あたしだってまだ覚えてないのに!
……忘れてるだけで、本当は使えるのかな?
ともかく、男の人が放ったギラは、なんとあたしのメラとまぜこぜになって――――
魔物の首から上と、腕をあっという間に焼き尽くしちゃった。
残りを片付けた仲間の人たちが男の人の元に駆け寄っていく。
……あ、キアリーかけてる。これであの男の人も助かるかな。
ようし……。
あたしは彼らの背後を足音が立たないようにそうっと走り抜けた。
大丈夫だよね。
たとえ気づかれても気のせいで片付けられる……はず。
「? ……」
「ミレーユ? どうしたんだ?」
「……いいえ、何でもないわ」
ほらね。
あの人たちの目的もあたしと同じ、ラーの鏡に決まってる。
先を越されたらおしまいだわ。急がなくっちゃ!

30 :

―――けれど、その十数分後。
あたしはまたもや途方に暮れていた。
もうっ、何なのこの塔は!
何だか作りがややこしいし、ちょっと歩いただけで魔物は出るし、もうやんなっちゃう!
あーあ、ちょっと休憩しようっと。
相変わらず何も映らない鏡の前に、あたしはぺたりと座り込んだ。
……それにしても、さっきのは何だったんだろう?
まさか一発であんな魔物を倒せちゃうなんて!
すごかったなぁ……思い出すだけで胸がドキドキしちゃう。
偶然なんかじゃなくて、もしも、もしもちゃんと使えるようになったら――――あ、だめ。
それにはまずこの体をどうにかしなくちゃいけないんだ。
はぁ……あたし、一生このままなのかなあ。
「ねえ、君」
「ひゃっ!?」
顔を上げると、ツンツン頭の男の子があたしを見下ろしていた。
え? え? 今、あたしに声をかけたの?
思わずきょろきょろと辺りを見回したけれど、
この場にはあたしと男の子を始めとした四人しかいない。って、いうことは……!
「あ、あたしが見えるの?」
「うん」
何のためらいも遠慮もなく、男の子は頷いた。
こっちを見てる。
返事をしてくれた。
――――あたし、あたし、人とお話してる!
どうしよう、飛び上がるくらい嬉しい!
意思の疎通ができる! 会話ができる!
たったこれだけのことがこんなに嬉しいなんて!
「やっと見つけたわ! あたしの姿が見える人を!
みんな見えないみたいで話しかけても返事もなくて……。ホント寂しかったわよ」
もうホント、寂しすぎて死にそうだったんだから。
でもこの人たち、どうしてあたしのことが見えるんだろう?
町中駆けずり回っても気づく人なんていなかったのに。
……あれ、なんで照れくさそうに笑ってるの?
「あの……手」
「えっ? ……あっ、ご、ごめんなさいっ!」
あたしったら、いつの間にか男の子の手を握っちゃってたみたい。
や、やだな、変な子だと思われてないかな。
あ、この人、よく見ると結構かっこいいかも……って、違う違う! わ、話題変えよう!

31 :

「ほ、ほらっ。鏡にもあたし映らないのよ。イヤになっちゃうよね」
そう言って、鏡の前で一回転してみせる。
男の子たちは向こうの景色が見えちゃってるあたしを見ても、
ちっとも驚く素振りを見せない。まるで見慣れてるという風に。
もしかして、あたし以外にも身体が透けちゃってる人って、結構いるのかな。
「でも人のウワサ話くらいは聞けたから、この塔のこと、ラーの鏡のこと知ったんだ。
ラーの鏡になら、あたし映るかもしれないって。
それでここまで来たけど、この塔ややこしくて、もうイヤって感じよね。
でもあなたたちに会えてよかったわ。上まで行くつもりでしょ。
あたしもついていこうっと!」
人と話すのは久しぶりだったせいか、会話できるってわかったとたん、
立て板に水を流すように一気にまくし立ててしまった。
男の子があっけに取られてるし、女の人も少しびっくりした顔であたしを見ている。
うう、しかたないじゃない。本当に久しぶりだったんだもん。
「おいおい、ずいぶん強引なヤツだな」
「何よ、いいじゃない。あたし、ずっと寂しかったんだから」
「まあそれには同情するけどよ……。どうするボッツ?」
「え、えーっと……」
「こんなところに一人残していくわけにはいかないわ。とにかく連れていきましょう」
「やった! ありがとう!」
いい人たちでよかった! ……っと、いけない。
「まだあたしの名前を言ってなかったね。バーバラっていうの」
「バーバラか。俺はボッツ」
「ハッサンだ」
「ミレーユよ。よろしくね」
「えっと……タイチ」
なるほどね。
ツンツン頭がボッツ、モヒカンの人がハッサン、女の人がミレーユ、それから……。
「あなた、タイチっていうのね。
さっきはどうなるかと思ったけど、元気になってよかったわね!」
「えっ?」
「……あ!」
いっけない、つい口が滑っちゃった。
でもまあいっか、別に隠すようなことでもないよね。
あたしは塔に着いた時に戦うみんなを見かけてたこと、タイチの手助けをしたことを正直に話した。
すると、神妙に聞いていたはずのボッツとハッサンとミレーユの顔がみるみる
「ああ、そういうことだったのか」といった納得の表情に変わり、タイチに視線を集中させた。
当の彼はがっくりと肩を落としている。
あれ? あたし、何かまずいこと言った?

32 :

「マジで? 俺の隠された実力とかじゃないの?」
「なんていうか……気を落とさないで、タイチ」
「わっはっは! そんなこったろうと思ったぜ!」
「くっそ〜……なんだよ、喜んで損した!」
ああ、そういうこと。勘違いしちゃったのね。
ふふふ、なんかこの人面白いなぁ。
あのメラとギラの練習、お願いすれば付き合ってくれるかも。
「それはそうと、バーバラ。
あなたもきっと上の世界から来たのよね? 戻り方はわかる?」
「え、えっと……あたし……
どうしてこんなことになったか、なんにも思い出せなくて……」
「まあ……そうだったのね。つらかったでしょう」
ミレーユが優しく肩を撫でてくれる。うん……。ホント寂しかったよ。
あれ、何だか急に静かになったような。
ふと顔を上げると、みんな揃って眉を八の字に下げていた。
ミレーユは柔らかく微笑んでくれてるけど、
ボッツはうつむいちゃってるし、ハッサンは気まずそうに頬をかいてるし、
タイチは何だか落ち着かなさそうにしてるし……。
あ、やだ! あたしが変な話しちゃったから!
「あ、ごめん。邪魔をしちゃったね。さあ、しゅっぱーつ!」
わざと明るい声をあげて、パーティの先に立って歩き出してみる。
すると、みんなの足音がどたどたと音を立てて慌てて追いかけてきた。
背後から「ひとりで行くなよ!」と咎める声が聞こえてきたけど、
それには責める調子はまったく無くて、むしろ親しみを感じた。
えへへっ、一緒に歩く人がいるっていいなあ!

33 :
あー、もうっ! ホントにここの塔、ややこしいったらありゃしない!
目には見えないのに鏡には映ってる階段とか、
鏡の前から移動したら割れちゃう水晶玉とかはまだいいわよ。
でも、塔って普通登るものでしょ? お宝っていったら普通一番上にあるものでしょ?
なのに部屋が降ってくるなんて! めちゃくちゃにも程があるわ。
タイチもあたしと同じ心境なのか、顔が引きつってしまっている。
「ファンタジーもここまで極まると……」とか何とかぶつぶつ言ってるけど、ファンタジーって何かしら?
まあいいや、きっとあの部屋にラーの鏡があるのよねっ!
逸る心に急かされながら下まで降りて、扉も何もない、小さな部屋に足を踏み入れる。
他の部屋となんら変わらない内装。
けれど、小さな階段を視線だけで登ってみると、
人の顔より一回り大きいくらいの大きさの鏡が奉られていたのを見つけることができた。
「あったわ! これがラーの鏡よね!」
横取りされるはずもないのに、
あたしは誰よりも早く階段を駆け上り、ラーの鏡の前に陣取った。
楕円型の鏡の周りには金の装飾が施されていて、
細かい模様を見ているだけで目がチカチカしちゃいそう。
備え付けられている燭台の炎の灯りに照らされて光るラーの鏡は、
目的を忘れて見とれちゃいそうになるほどきれいだった。
ああ、ドキドキする。……もし映らなかったらどうしよう。
ううん、大丈夫!これは真実を映す鏡なんだもの。
あたしは恐る恐る膝を曲げ、ラーの鏡を覗き込んでみた。
すると――――
「……映る! 映るわ! この鏡には あたしの姿が映るよ! 思った通りだわ」
鏡の中には、オレンジ色の髪の毛をひとつに束ねた女の子――――
あたしの姿がしっかりと映り込んでいた!
ああ、よかったぁ! これであたし……、…………。
「…………でもそれだけよね。
この鏡にだけ映ったって、みんなにはあたしの姿が見えないまま……」
ラーの鏡はあたしの姿を映すだけで、それ以上は何もしてくれない。
あたしの身体の色を取り戻してはくれない。
うつむくと、縛ってる髪が流れて頬に触れた。
あたしは喋れる。痛みも感じる。喉も渇くし、お腹が空けば物だって食べられる。
あたしは今ここに、しっかりと生きている。
なのにどうしてみんなには見えないんだろう。
おかしいよ、こんなの。わけわかんないよ。
ボッツたちに気づいてもらえたのはすごく嬉しかった。
けど、あたし、もっとたくさんの人とお話したい。
鏡にすら映らない、誰にも相手にされない生活なんてイヤ。
そう思うのは贅沢なのかな……?
「バーバラ」
ボッツ? なに……きゃっ! つ、冷たいっ! 何するのよおっ!
……え? 何これ? あたしの身体、きらきら光ってる!? やだ、まぶしっ……。
思わず手で目を覆おうとしたけれど、全身が光ってるんだから意味がない。
それならば、と目を閉じる。それでもまぶたの裏が明るかった。
少ししてから、そうっと目を開けると……カラシ色の手袋が見えた。あたしのだ。
えっ? えっ? まさか!

34 :

ぱっと右手を掲げてみる。
向こうの景色が見えない――――あたし、透けてない!
ボッツたちを振り返ると、みんなニコニコと笑顔を浮かべていた。
もしかして、さっきふりかけられた水って……!
「こんなことできるなら、もっと早くしてくれたらよかったのに。意地悪ね」
「ごめん。俺も、ラーの鏡に映るのかちょっと興味あったからさ」
「もうっ! ……でもよかった。これで誰とでもお話ができるわ。
さて……と。じゃあ、あたしはこれで」
目的達成! もうこんなめちゃくちゃな塔には用は無いわ!
あたしは階段を一段飛ばしで駆け下り、みんなの間を縫って部屋の外に出た。
そうよ、一秒でも早くここを出て……、……あれ?
……と思ったけど、あたしこれからどうしたらいいのかしら?
記憶がないんだから、どこに帰ればいいのかわからない。
どうしてこんな目に遭うはめになったのか、そもそも自分が何者かもわからないのよね。
あたしはくるりと振り返り、こっちをぽかんと見ていたボッツたちをじーっと見つめてみた。
「う〜ん……。見たところ、あなたたち悪い人じゃなさそうよね」
ハッサンはぱっと見ちょっと怖そうだけど結構頼れるし、ミレーユはすっごく優しい。
タイチは普通の人って感じ。けど、ちょっと不思議な雰囲気よね。
ボッツは……えへへ。
「そうね。しばらくはあなたたちについて行くことにするわ。いいでしょ?」
「ええ? ずいぶん強引なヤツだな。まっ、俺も人のことを言えないけどな。
どうするボッツ? この娘を連れていくかい?」
「まあ……いいんじゃないかな。ここで会えたのも何かの縁だし」
「そうこなくっちゃ!今日からはあたしも仲間よ。よろしくねっ」
ひとりひとりと握手を交わす。
ボッツの時だけちょっと緊張しちゃったのはヒミツだよ。
ハッサンの言う通り、ちょっと強引なやり方で
仲間になっちゃったけど、まあこういうのもアリよね?
ボッツたちがいなかったら、きっとあたし、まだ半透明のままだったもの。
恩返ししなくっちゃね!
 *バーバラが仲間にくわわった!
タイチ
レベル:9
HP:60/71
MP:20/24
装備:ブロンズナイフ
    くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり
「……今回、俺のステータスいらなくね?」
そうかも。

35 :
連投だけど気にしない!
バーバラ視点難しい。可愛く書けてるといいんですが。
>>24
ヘタレですが何とか成長できました。
ありがとうございます!
>>25
ありがとうございますっ!

36 :
乙!!
バーバラ良い感じだ

37 :
乙です!
視点が変わりましたねーこれからも楽しみにしてます!

38 :
保守

39 :
>>タイチの人
おつ!
バーバラktkr
視点変わるのも面白いもんだね。
タイチの(´・ω・`)具合ワロタwww

40 :
このスレに来なくなって2年以上経ったけど、ふいに思い出して来てみた。
タカハシさんがいてビックリした。
色んな物語は元気にしてるんだろうか。

41 :
>>40
最近はめっきり投下が減ってしまったね
やっぱり規制のせいなのかな

42 :
ちょっと早いが
作家の皆様、今年も楽しませてくれてありがとう
来年も楽しみにしています

43 :

タイチ「よっ! あけましておめでとう!」
ミレーユ「え? おめでとう? 何かあったかしら」キョトン
タイチ「あ、こっちじゃ言わないのか。ほら、今日から新しい年なんだろ?
    その挨拶だよ。無事新年を迎えられてめでたいなー、ってこと」
ミレーユ「まあ、素敵ね。それじゃあ……ふふ、あけましておめでとう」
ボッツ「じゃあ俺も。あけましておめでとう」
バーバラ「あたしもあたしも! あけましておめでとーっ!」ピョンピョン
ハッサン「あけましておめでとう。……何か、照れ臭いなぁこれ」ポリポリ
タイチ「でも悪い気はしないだろ。
     じゃあ年も明けたことだし……ボッツ、お年玉くれ!」
ボッツ「おとしだま……? なんだいそれ?」
タイチ「お年玉も無いのかよー! しかたないな、特別に教えてやろう」フンス
タイチ「いいか? お年玉っていうのはだなぁ、目上の人が目下の人にやる
    額のでかい小遣い……まあボーナスみたいなもんだ」
ハッサン「小遣い? 金をやるってことか」
タイチ「そう! 去年はお疲れ様、今年も頑張ってくれっていう
     労いと激励の気持ちがこもってるんだぜ」
タイチ「な、ボッツ! そういうことだからさぁ」
ボッツ「ええっ? それならむしろタイチが俺にくれなくちゃ!
    タイチ、俺より四つも年上だろ。そうは見えないけど」フッ
タイチ「人が気にしてることを……。
    お前リーダーなんだから俺より目上だろー!
    大体な、それを言ったら一番年上のミレーユが」
ミレーユ「年齢の話しはやめてくれないかしら」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「「すみませんでしたー!!」」ズザアァァ
いつもとは趣向を変えてSS形式で。
今年もよろしくお願いします。

44 :
あけおめ乙です。
たまにはこんなのも良いねw
オチがミレーユとはおもわなんだw
今年も続きを楽しみに待ってます!

45 :
こんな新年ネタがw
乙です

46 :
ほしゅう

47 :
>>27の続きです
いちから呪文を覚えるには、精神を集中し、イメージを練り上げる必要がある。
例えばギラだったら、自分の手からまばゆい炎が出て、敵を駆逐する……
そんな感じのイメージを強く強くイメージしなきゃいけない。
この世界の人間が呪文を覚えるのはそう難しいことじゃない。
多分それは、呪文が当然のごとく存在する世界で生まれ育ったからだ。
子供の頃から呪文を見てきたのだから、いざ自分が使う時となれば、
それをイメージするのは容易いに違いない。
よって、俺が呪文をなかなか習得できなかったのは決して才能が無いとかじゃなく、
「魔法なんて使えるのは映画やゲームの中だけ」という先入観や、そう考えるに至った環境からなのだ。
そう、俺より年下の女の子が何回か戦いを重ねただけで、
あっさりギラを覚えたとしても、それはしかたがないことなのだ。
……しかたないよな? な? そうだよな?
「せーのっ」
「メラ!」
「ギラ!」
5メートルほど離れた、枝で作られた的に向かって手を翳す。
閃光が走り、的はあっという間になめるような炎に飲み込まれた。
間髪入れずにぶつかってきた火球がそれを更に燃え上がらせる。
……が、それはギラとメラが続けざまにヒットしたというだけで、思ったような威力は得られなかった。
「今のタイミングでもだめかぁ」
「もう少しギラを遅らせてみるか?」
「うーん……」
バーバラは腰に手を当てて口を尖らせた。
片足で地面をリズミカルに叩き、若干苛立たしい様子で炭と化した的を睨みつけている。
それだけでまた燃え上がるんじゃないかってくらいの睨みようだ。
「いいわ、一回休憩しましょ! ちょっと疲れちゃった」
的を熱視線から解放し、木陰に座り込む。意外と諦め早いな。
まあいいや、俺も少し疲れたし。お隣失礼しますよっと。
俺とバーバラは今、馬車馬ファルシオンと共に絶賛留守番中である。
ええとだな、最近色々ありすぎて説明がめんどくさいんだが……。
とりあえず三行で説明しよう。
・ラーの鏡で王様性転換
・「わしは……魔王ムドーだったのじゃ!」デーデデデー
・ゲント族さん船貸して←イマココ
……全然わからない?
しかたないな、それじゃあ上から順を追って説明しよう。適当に端折りつつな。

48 :

・王様性転換について
ラーの鏡を手に入れた後、俺たちはさっそく“上の世界”のレイドック城へと向かった。
ボッツとハッサンはそこで兵士として働いていて、王の命令で鏡を探してたとか何とか。
で、王に鏡を献上したはいいんだが……大臣やソルディ兵士長(ボッツたちの上司な)、
そして俺たちの前で、王は高貴なドレスを身に纏った中年女性へと姿を変えてしまったのだ。
女性は自らをシェーラと名乗り、王はどこへ行ったのかと大慌てで尋ねる大臣にこう答えた。
「王はムドーの城にいます。
ムドーのところへ行けばすべてが明らかになるはず。
さあ行きましょう」
……ずいぶん要約したけど、何が行きましょうだよって感じだよな。
わけがわかんないまま、俺たちは決戦の地へと赴くことになった。
・「わしは……魔王ムドーだったのじゃ!」について
いやぁ、城の攻略も大変だったし、ムドーとの戦いもすごかった。
見せられなかったのが残念だぜ。
全員力を合わせて必死に戦って戦って戦って……ついにムドーに膝をつかせることができた。
が、あの野郎。
捨て台詞を残してどこかへと姿をくらまそうとしやがったんだ。
「今よっ! さあボッツ、ラーの鏡を!」
シェーラに言われるままに鏡を向けると――――
ムドーはこれまた高貴な服に身を包み、白い頭に大きな冠を乗せた男性へと変身してしまった。
いや、元に戻った、というべきなのかもしれない。
言葉通り、レイドック王はムドー城にいた。
それどころか魔王ムドーとなって夢の世界を支配しようとしていたのだから驚きだ。
もちろん、王本人にはその自覚はない。
何せ、シェーラ……王妃に言われて初めて「そういえばわしムドーだったかも」って言ったくらいだからなぁ。
そういえば、俺たちを指して「この者たちは夢の世界の住人じゃろう」とも言ったな。
夢の世界の存在はあまり知れ渡ってないかと思ってたんだが、
やっぱ国のトップともなると、それくらいは知ってるもんなんだな。
王と王妃は、遅れて来たソルディ兵士長と兵士たちとともにそのまま城に帰っていった。
俺たちも「帰ったら褒美を取らそうぞ」なんて言葉に釣られてほいほい戻ったはいいんだが、
王の間にはそわそわと落ち着かない様子の大臣しかいなかった。
なんと、俺たちより先にムドーの島から出たはずの王たちがまだ帰ってないらしい。
「褒美をやるとか言っておいて」とハッサンが口を尖らせた時、バーバラがぴょんと飛び跳ねた。
「わかったわ! あの時、王さまは城に来いって言ったわよねっ。
あれは別に嘘じゃないんだよ。だから城に行けばいいのよ!
ねっ、ボッツ。もうわかったでしょ?」
結果から言うと、バーバラの読み通り、王と王妃は下のレイドックにいた。まったく紛らわしい。
で、門番の前まで来たはいいんだが、
そこで「ニセ王子一行許すまじ!」とばかりに牢屋にブチ込まれてしまった。
何でもボッツが行方不明になっているレイドック王子に似ているとかで(そういえば王様もそんなこと言ってたな)、
ちょっとふざけて成り済ましてみたら意外とすんなり信じられてしまい、
城の中だけでなく玉座の間まで通されてしまったことがあったらしい。
しかも、その後すぐニセ者だとバレてつまみ出されたというオチ付きだ。
お前ら何やってんだよ……。
まあ何だ、ボッツが王子ネタに弱いのはこれが原因だったんだな。

49 :

誤解はすぐに解け、俺たちはそう時間が経たないうちに解放してもらえた。
懲役15分ってところだろうか。
鉄格子越しの景色はなかなか新鮮だったが、できれば今後はごめん被りたい。
んで、そのまま玉座の間へと通され、そこでようやく、王から事のあらましを聞くことができた。
王の言葉によるとこうだ。
「あの日、わしは魔王ムドーとの決戦に臨み、船でヤツの居城へと向った。
しかし突然不思議な空間が出現して……。
その後、どうやって城まで戻ってきたのか覚えてはおらぬ。
気づいた時、わしは……わしは……」

50 :

「魔王ムドーだったのじゃ!」デーデデデー



51 :

上の世界は夢の世界。
レイドック王やムドーは王妃と王が見ていた夢だった。
ボッツいわく、以前訪れた下のレイドック城では、
二人は一年以上眠りから覚めない病に蝕まれていたらしい。
点滴もないだろうに栄養はどうしてたんだ?とか一年以上寝てたにしては二人とも元気すぎるとか
色々つっこみたかったが、あえて堪えた。誰か褒めてほしい。
……まあ何だ、ファンタジーだしな。
こうして、俺たちの疑問は無事氷解した……けど、褒美は未だに頂いてないし、
どうも誰かを忘れてるような気がしてならないんだよな。
まあいいや、次行こう次!
・ゲント族さん船貸して
夢の世界のムドーは倒したが、現実世界のムドーは未だ健在だ。
放っておくわけにもいかないし、王に頼まれたのもあって、再びムドー討伐へ向かうことになった。
が、城にもう船はないらしい。
「私冒険者だけど、船が一隻しかない国って……」とか、
「王がムドー討伐に使った船は?」とか思わなくもなかったが、無いものはしょうがない。
山奥にひっそりと暮らしているゲント族の村を訪ね、
神の船とかいう船を貸してもらえないかと頼むことになった。
ゲント族は神の使いを自称しているらしい。
全員中二病の村とか一周回って逆に面白そうじゃね?と、密かに楽しみにしてたんだが――――
「村に着いたけれど、あんまり大人数で押しかけたら迷惑かしらね……」
「あっ、じゃぁあたしとタイチは留守番してるよ!」
オンドゥルルラギッタンディスカー!!(0w0;)
いやこれは語弊だ。別に裏切られちゃいない。
が、こうも言いたくなる俺の気持ちも汲み取ってほしい。
なんで勝手に俺の留守番まで決めてるんだよ! お前そこは普通にグッパだろ!
という必死すぎる抗議も虚しく、ボッツたちはさっさと村に入っていってしまった。
なんと仲間甲斐のない奴らだ。やり場のない怒りは当然残ったバーバラに向けられる。
っていうかこいつが原因だ。
「えへへ、ごめんね。……実はね、ちょっと相談したいことがあるんだ」
「……相談?」
――――で、今に至る、と。ちょっと長くなっちゃったな。
相談っていうのは、月鏡の塔でゾンビ相手に物凄い威力を発揮した、
あのギラとメラの合わせ技を何とかモノにしたいから協力してくれ、とのことだった。
確かにあれを扱えるようになれば、ムドー相手にかなり有利に戦えるかもしれない。
そう思って的相手に練習を始めたはいいんだが、成功の目は一向に見えてこない。
何がいけないのかさっぱりわからん。やっぱタイミングか……?
「なあバーバラ。あれは一種の奇跡みたいなもんでさ、
同じ状況にでもならなきゃ再現できないんじゃないか?」
「うーん……確かに。一理あるかも」
「だろ? だからもうあきらm……」
「よし、やってみよう! えーっと、このへんに腐った死体いないかな?」
「できるか馬鹿!」
「えー」
「えー」じゃないっつうの……はあ。

52 :

ボッツたち、許可もらえたかな。
まあ王様の紹介状もあることだし、今頃長老的な人が快諾してくれてるだろう、多分。
……っていうかさ、バーバラ。ギラとギラじゃダメなのか?
そっちの方がずっと強いと思うんだけど。
「それもいいけど、あたしはあのギラとメラを出せるようになりたいの」
何なんだそのこだわりは……。
俺はくしゃくしゃと頭を掻くと、バーバラから視線を外し、
ひたすら草を食すファルシオンの傍らへと腰を下ろした。
うお、改めて見るとこいつデケえ。
馬とこんなに身近な生活を送ることになるとは、
向こうにいた時はまったく考えられなかったな、とぼんやりと思う。
この世界に来てから一ヶ月以上が経った。
電気もガスも水道もない不便な生活にも何とか慣れてきたし、
しばしば強いられる野宿もキャンプと思えば楽しめる。
グロテスクとバイオレンス溢れる戦いにもだいぶ慣れてきた。
もちろんボッツたちにはまだまだかなわないが、そこそこ戦えるようにはなってきたと思う。
あまり肌触りの良くない服、その上に着る防具や武器のずっしりとした重さには……まだちょっと慣れない。
でも、もうちょっとだ。魔王ムドーを倒せば元の世界に戻ることができる。
一抹の寂しさがよぎるものの、喜びの方が大きいのは事実だ。
父さんと母さん、心配してんだろうなぁ。
あの二人は心配性すぎて、かえってこっちが心配になるんだよな。
大学合格をきっかけに一人暮らしするって決めた時もずいぶん反対されたっけ。
せめて一言「無事だよ」って連絡できたらいいんだが。
あ、勇とかどうしてんだろ。
俺がいないから生活費半減しちまってるよな、今月からきっついだろうなぁ。
心配通り越してすっげえ怒ってそうだし、帰ったら何かおごってやるとするか。
たまには兄貴っぽいことしてやらないと、あいつ俺が兄だってこと忘れそうだからな。
「ねえタイチ。あなたって、他の世界から来たのよね?」
「何だよ藪から棒に。まだ疑ってるのか?」
「ううん、そうじゃなくて」
バーバラにももちろん俺の事情を話した。
冗談だと思ったのか最初は相手にしてくれなかったが、
こっちの常識や生活に不慣れな様子を見て、ようやく信じる気になってくれた。
彼女曰く、「雰囲気が何か一人だけ違うし、これが演技だったらクサすぎ」とのことらしい。
「タイチの世界には魔物がいないのよね」
「うん、まあ」
「いいなあ、平和じゃない」
「う……ん。まあ、そこそこ平和……かな」
煮え切らない答え方をしてしまう。
確かに魔物なんて厄介な奴らはいないけれど、
その代わり、あっちは人間同士での争いが絶えない。
魔王という共通の敵がいて、そいつを倒すために団結してるこの世界の方が
人間としては理想の形に近いんじゃないだろうか。
そもそも、恐らくこっちでは珍しいはずの黄色人種である俺を見ても、
誰も何も言ってこない。視線すらよこさない。「雰囲気が何か違う」で済まされてしまう。
人の見た目なんて細かいこと、こっちの人たちは気にしないんだ。
宗教の違いとか人種がどうだとかで戦争してる俺の世界があほらしく思えてくる。
帰ったら何か平和活動でもしようか、なんて。できてもせいぜい募金くらいだけど。

53 :

「もちろん呪文もないのよね。なんか考えられない」
「ないけど、科学っていう技術が発展してるよ。
蛇口をひねるといくらでも水が出てきたり、ランプがなくても家中を明るくできたりさ」
「へえ! カガク? って、便利なのね」
たどたどしい発音が何だか新鮮で可笑しくて、つい笑い声がこぼれてしまう。
あ、やばい。これ怒られるか?
そう思って身体を縮こまらせたが、いくら待っても叱責は飛んでこなかった。
あれ? ミレーユならともかく、バーバラなら絶対怒ると思ったんだけどな。
恐る恐る振り返ってみると、バーバラは自分の小さな手をじっと見つめていた。
「呪文のない世界かぁ……。
もしあたしがタイチの世界に飛んでっちゃったら、きっとなんにもできないね」
これだけがとりえだもの。
声は届かなかったが、彼女の唇はそう動いたように見えた。
バーバラは呪文への執着が強い気がする。
腕力は俺よりないけど(当たり前か)呪文の扱いは仲間の中でもピカイチだ。
バーバラが入って戦いがすごく楽になったし、今のままでも十分強いのに、彼女は修練に余念がない。
まるで、それが自分の存在意義だとでも言うような。
やっぱり記憶がないからだろうか。
帰りたくとも帰れないという意味では同じだけど、
俺と違うのは、バーバラは帰るべき場所がわからないという点だ。
もしパーティーに追いつけなくなり、足を引っ張るようになって、戦力外通告されてしまったら。
そう考えているのかもしれない。ま、そんなことありえないけどな。
天真爛漫なバーバラはそれだけで空気を和ませるし、
パーティーの潤滑油になってくれる。(別に仲が悪いわけじゃないけど)
上の世界のムドー城へ乗り込む前、
否が応にもピリピリしてしまっていた俺たちの空気をほどいてくれたのもバーバラだ。
そもそも、ボク異世界から来たんですーアハハーなんてのたまった怪しさ爆発の俺を
仲間に引き込んでくれたボッツが、弱いってだけの理由でハイさよなら、なんてことするわけがない。
まずリストラされるなら俺だしな!HAHAHA!
だから気にするな、と俺は言わない。
何故ならば、それを言うのは俺の役割じゃないからだ。
「なあバーバラ。お前、ボッツのこと好きだろ」
「えっ!? い、い、い、いきなり何言ってるのよ!?」
「あ〜、やっぱりな」
「……っ!」
ふぉっふぉっふぉ、初い奴よのう。
そこまで顔真っ赤にしてちゃ言い逃れはできないぜ。
まあ何だ、普段のバーバラ見てたらまるわかりだよ。
しょっちゅうチラチラ見てるし、ボッツと話す時やたら嬉しそうだし、意識してるのバレバレだっつの。
「あたし……そんなにわかりやすい?」
「うん。ミレーユとかはとっくに気づいてるだろうな」
「そ、そっか……。あ、やだ!ボッツに気づかれてたらどうしよう!」
いや、それはない。
ボッツは記憶力が抜群な上に勘も働くくせに、色恋沙汰や女心には疎いからだ。
きっと、いや絶対、バーバラのほのかな恋心にはミジンコほども気づいちゃいないだろう。
が、俺はそのことをバーバラに伝える気は全く無い。
なんでかって?
その方が面白そうだからだよ、言わせんな恥ずかしい。

54 :

そう、バーバラはボッツに惚れている。
だから「たとえ呪文が使えなくても、君は大切な仲間だ」みたいな台詞は
俺なんかより、ボッツに言われた方がずっとずっと嬉しいに違いない。
あいつはそのへん気が利くからな。
俺がちょいっとリークしてやれば、バーバラを慰めようと動くはずだ。
上手くいけば二人の距離も縮まるし、バーバラの悩みも解消されるしで万々歳!
我ながら完璧な計画だ。さて、問題はこれをいつ実行するかだが……。
ぶるるるん。
空気を震わせる鼻息が俺を現実に引き戻す。
ふと見ると、もさもさと草を食んでいたはずのファルシオンが、怯えたようにじりじりと後退りしていた。
おもむろに立ち上がるバーバラとアイコンタクトを交わし、腰に携えた鋼の剣に手をかける。
ファルシオンがこういう反応を見せた時は―――
「! バーバラ!!」
「きゃっ!?」
細い肩を引っ掴んで倒れ込み、そのまま草の上をゴロゴロと転げ回る。
一瞬遅れて、背中に燃えるような熱さを感じた。……いや、“ような”じゃない。
素早く起き上がり、バーバラを背後にかばうようにして立ち上がる。
先程までバーバラが座っていた木陰は真っ黒焦げになっていた。ナイス俺!ナイス飛びかかり!
ああちくしょう、こんな時に魔物のお出ましだ。
神様仏様、どうかダークホビット四匹とかじゃありませんように。
あいつらの異様なまでのガードの硬さマジ厄介なんだよ!
茂みが盛大に鳴り、そいつがおもむろに姿を現す。
俺の祈りが通じたのか、魔物はたったの一匹だけだった。
ふわふわと空に浮かぶそいつは、まるで青空を泳ぐ雲のようだった。
ただし、色は白でも黒でも灰色でもなく、薄い橙色。おまけに目と口までついてやがる。
なんだこの生き物……。
まあ魔物が妙ちきりんなのは今に始まったことじゃないか。
よし、バーバラ! 先手必勝だ!
「うん! せーのっ、メラ!」
「ギラ!」
火の玉と帯状の炎が魔物を飲み込まんと突っ走っていく。
相変わらずの失敗作だが、これだけでも結構なダメージになるはずだ。
間近に迫る二つの炎をそいつは避けようともしない。
それどころか受け止めようと大口を開けて待ち構えていやがる。
あえて受け止めようってか?面白い、口ん中火傷して口内炎が悪化しても知らねえからな!
想像しただけで超痛えぞこれ!
…………ん? 口?
ばくん。もぐもぐ、ごっくん。
おいいいいいいいいいい!!!
何飲み込んじゃってくれてんのおおおおおお!!?

55 :

「嘘っ……!?」
「おいおいおいおい冗談じゃねえぞ! くっそ、もう一回……!」
「だめ! また食べられるだけだよ。武器で戦おう!」
くそっ、仕方ないか。俺は渋々鋼の剣を抜いた。
ずしりとした重みが両手に負荷をかける。
できれば武器って使いたくないんだよな。
傷つける相手の手応えが直に伝わってくるから。
……ああ、こんな甘いこと言ってたら、またハッサンに怒られる。
でもいいんだ、もう少しで帰れるんだから!
「ルカニ!」
青い光が魔物を包む。
ルカニは相手の肉体を一時的に柔らかくし、攻撃を通しやすくする呪文だ。
傍目には効いてるのか効いてないのかさっぱりわからないが、当の術者には判断がつくらしい。
バーバラはしてやったりと不敵な笑みを浮かべた。
「効いたわ!」
「よっしゃあ、行くぞ!」
 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!
 *バーバラの こうげき!
   ヒートギズモに 5の ダメージ!
 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!
こ、こ、この雲野郎! ちょこまかちょこまかと!
ニタニタ笑ってんじゃねえよ! 何その顔ふざけてるの!?
おら、次行くぞ!
 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!

「…………」
「…………」
「( ´,_ゝ`)プッw」
oi
misu
ミス
おい。笑ったな?今笑ったな?
「野郎!ぶっ殺してやらあああぁぁぁ!!」

56 :

今度こそ一撃を加えてやろうと俺は剣を振りかぶる。
勝利の女神は微笑まずとも、こっちを振り向いてくれたらしい。
ど真ん中とはいかなかったが、雲野郎の端っこに刃を食い込ませることに成功した。
ルカニのおかげでまるで絹豆腐を切るような感触だ。
骨や筋肉があるようには見えないから今更驚いたりはしない。
あーあ、魔物が全部こいつみたいな身体だったらいいのに。
ぼとり、と肉片(雲片?)が土に落ち、雲野郎は機嫌を損ねた子供よろしく、ぷくうっと頬を膨らませた。
なんだなんだ?
お前がそんなんやっても全然可愛くな――――
「あっつうううううううぅぅぅううううう!!?」
「タイチ!?」
こ、こ、こいつ! 火ぃ吹きやがった!
いやまあさっき食ってたし焦げた木陰を見ればそれくらい俺でも予想できるけど!
このバカ野郎、山火事になったらどうすんだよっ!?
「それに関しては、あたしたち人のこと言えないんじゃないかな……」
そうでした。テヘペロ☆
何とか直撃は免れたけど、左腕がやられちまった。
熱い熱い熱い。今すぐ冷たい水が欲しい。
俺もバーバラもホイミ系の呪文は使えない。薬草やアモールの水は……
ああ! 移動中、馬車の中で暇だから持ち物を整理しようと思って
全部ふくろの中に突っ込んじまったんだった! ああもう、俺のバカ!
「バーバラ!薬草かアモールの水持ってないか?」
「ごめん、ここに来る前に全部……」
「よしわかった。俺があいつを引き付けるから、ふくろから持ってきてくれ!」
「……わかった!」
俺は剣を握り直す。
ああくそ、腕が痛い。焼けるように熱い。いや実際に焼けてんだけど。
それにしたって、お湯を注いだばかりのカップ麺を
うっかり足にこぼした時だってこんなに熱くなかったぞ。
馬車の方向へと駆けていくバーバラを雲野郎は追い掛けようともしない。
大きく息を吸い込み始めたってくらいだ。なんだなんだァ、深呼吸ですかァ?
……って、あれ? 何か少しずつ大きくなっていってるような……。
あ、ちょっ、何かやばくね?
これ俺だけじゃなくバーバラも巻き込まれるんじゃね?
なんて考えているうちに、雲野郎は徐々に膨らんでいってるわけで。
…………。
ええい、こうなりゃ特攻だ!届けマイスティールソード!
不意に、風が頬を撫でた。突風というほどじゃない。
けれど草木を揺らすには十分すぎるくらい強い風だった。
風はやがて螺旋を描き、小さな竜巻となって雲野郎に襲いかかった。
木の葉を舞い上げる竜巻にあっという間に吸い込まれ、雲野郎は為す術もなく全身を切り刻まれていく。
やがて跡形もなくなるくらいに細かくしてしまうと、
小さな竜巻はゆっくりと螺旋をほどき、空気に溶けていった。

57 :

……何だったんだ、今の。
あ、もしかしてバーバラか?
追い詰められた戦いの中で秘められた魔力が奇跡を起こしたとかそういう!
そう考えてバーバラを振り返ったが、彼女は俺と同じようにぽかんと口を開けていた。
だよな、違うよな。後ろ向いてたもんな。
がさ……。
背後にて茂みが鳴った。
新手か!? 俺とバーバラは身構え、音を追い掛けるようにして素早く上体を捻る。
「このあたりでヒートギズモが出るとは……。珍しいですね」
しかしそこにいたのは、どこからどう見ても人間だった。
しかも見たところ、バーバラより年下の男の子だ。
二股に分かれた山吹色の大きな帽子を被っている。
着ているローブもこれまた全体的に山吹色だった。好きなのか? その色。
それに、自分と同じくらいの長さの杖を持ってるけど、邪魔にならないんだろうか。
って、そんなことよりも!
「ねえ! さっきのバギ、あなたが撃ったの?」
「ええ。お節介だったでしょうか」
「いや助かったよ! ありがとう!
メラもギラも効かないし、攻撃は当たらないしでもうどうなるかと」
「タイチ、剣向いてないんじゃない?」
「ぐぬぬ」
何も言い返せない。
重いんだよな、剣。絶対使いこなせてないよな。
ため息を吐きながら、結局活躍できずじまいだった鋼の剣を鞘に戻す。
やっぱり俺にはブロンズナイフがお似合いなのか……。
ん? 何見てんだ少年。大の男が女の子に言い負かされてる図がそんなに面白いか!?
っていうか何ひとりでこんなとこうろついてんだ?
いくら呪文が使えるったって、子供だけじゃ危ないだろ? ああん!?
「お怪我をされてますね。先程の魔物に?」
「ぁ……ああ」
目ざといなぁおい。
じりじりと痛む左腕をちらりと見ると、割とひどいことになっていた。
ああ、やばい……見るんじゃなかった。
「うえ……ちょ、ちょっと火傷したくらいだって。大丈夫大丈夫」
「ふむ」
少年は漫画やらでよく見るように、眼鏡をくいっと持ち上げた。
そう! こいつ、眼鏡をかけてるんだよ! この世界にも眼鏡なんてあったんだな。
テレビもパソコンも無いんだから目が悪くなる要素なんて無いと思うんだが。
あ、でも本とか読むか。
「見せてください。良ければ治療しましょう」
「いいよ、これくらい薬草で治るし。バーバラ、頼む」
「あ、うん」
いやー、俺も強くなったもんだ。
もしもこの世界に来て間もない頃にこんな怪我してたら、
ぴーぴー泣きわめいてたかもしれないな。うんうん、慣れって素晴らしい。
う、いてて。

58 :

「それには及びません。失礼」
少年は俺の左腕を取り、右手に持っていた杖をかざした。
杖の先端から淡い光が漏れだし、俺の腕を包んでいく。
うおぉ、なんだこれ! 超あったけえ!
光が消える頃、腕の火傷は嘘のように治っていた。痛みもひいている。
ホイミ……じゃないよな。唱えてないし。
「え〜っ! 何今の!?
まさかあなた、詠唱なしで呪文が使えるの?」
「いいえ、今のはこの杖の力です。
ああして使うと、ベホイミと同じような効果を発揮できるのですよ」
へえ〜! いいなぁそれ。
ベホイミっていったら、ホイミより大きな傷を治せるアレじゃないか。
薬草代浮くし便利だし、いいことずくめじゃん。それって何度でも使えたりするのか?
「……」
睨まれた。
眼鏡越しのそれは、まだ幼さを残してはいるものの、
俺を萎縮させるには十分な鋭さだった。
ごごご、ごめん! 火傷を治してくれた礼も言わずにこんなこと聞いて!
ちょっと失礼すぎたよなっ!
「ああいえ、お気になさらず! 私の方こそすみません。
こんなことで平静を乱してしまうとは……。まだまだ修行が足りませんね」
少年は申し訳なさそうに微笑んだかと思うと、地面に突き立てた杖をまっすぐに見つめた。
その眼差しはさっきと打って変わって柔らかい。
「このゲントの杖は、神の祝福を受けています。
私が信仰心を失わない限り、癒しの力も失われることはないでしょう」
つまり何度でも使えると。
それにしても神様ねえ。俺は残念ながら無宗教だけど、この世界には神様とかいてもおかしくないよな。
俺も少年みたいに信心深くなれば、ゲントの杖に授けたような不思議パワーで
元の世界に戻してくれたりするかなあ。
……ん? “ゲント”の杖?
バーバラも時を同じくして気づいたのか、ずいっと身を乗り出した。
オレンジ色のポニーテールがふわりと揺れる。
「ゲントって、あなたもしかして……」
「ああ、申し遅れました。私はチャモロ。この村を守るゲント族の戦士です」
どうぞお見知りおきを、と、子供にしては丁寧すぎる口調で、少年―――チャモロは深々と頭を下げた。
タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はがねのつるぎ
    てつのむねあて
    けがわのフード
特技:とびかかり

59 :
今のペースだといつ完結できるかわからないので、
ちょこちょこイベントはカットしていくつもりです。
でもムドー(上)まるまるカットはやりすぎだったかも。
皆様、いつも感想ありがとうございます。
ご期待に添えられるよう頑張りますです。

60 :
おつチャモロ!

61 :
ほっしゅ

62 :
また活気が戻りますように…ほしゅ。

63 :
保守

64 :
「この場所」
「おじさん、そんなところに突っ立って何をしているの」
「うん、この場所はおじさんが若いころお世話になった場所なんだよ」
私の答えに満足した様子ではないが「ふうん」と、子供はどこかへ走って行く。
静かになった宿屋の一室で大きく深呼吸をし、荷をほどき年季の入った衣類を綺麗に畳む。
今日この世界から居なくなる事に対しての礼儀だと思ったからだ。
どれほどの時間をこの世界で過ごしただろう。
最初は当たり前だが若く力もあり、気力も充実していたように思う。
この部屋を飛び出して多くの事を経験し、や別れもたくさんあった。
生き死にが元の世界よりずっと身近で、魔物をなぎ倒す武器や身を守る防具といったものも身に着けている。
また国同士の争いも頻繁に起こり、そこに入り込んでくる魔物の長である魔王などという存在もあった。
救世主である勇者とその一行によって魔王は打ち倒され平和にはなったが、魔物は依然として野を這い回っている。
魔王がいなくなったというのに魔物というのはどうも、この世界では日常的にそこに在るものらしい。

65 :
私自身と言えば、この宿屋を飛び出し世界を回り必死に元の世界へ戻る方法を探し歩いたが見つからず、
いつか恋をして小さな村の娘と結婚し居を構え、子供も出来その子も人並みに育ってくれた。
今にして思えばボロを纏ったみすぼらしい青年についてよく我慢をし、よく私を支えてくれたと思う。
そのおかげで村に無かった宿屋を経営する事も出来たし、息子は近い村や町に出向き私の宿屋を宣伝してくれる。
宿屋の経営をしようと考えたのは、結婚したのだからどこかの土地に落ち着かなくてはいけないという気持ちと、
目覚めた宿屋では途方にくれながらも宿の主人に気に入られしばらく働かせてもらい、その経験による自信もあった。
何より一番なのは私の中で宿屋の存在という物が考える以上に大きかったのだろう。
魔王軍に怯える日々で客足が遠のいた苦労もありはしたが、ともかく私はこの世界の住人としてはとても幸せだった。
妻と息子に宿を頼み私は二三年ごとにこうして家から離れた宿屋を訪れる。
このベッドで眠れば元の世界へ戻れるのではないかと思えて仕方がないからだ。
あれから数十年──すっかり歳をとり世間的には初老となった今もその思いを断ち切れない。
これほどに馴染んだ世界なのだからもう故郷だと言う自分の気持ちに嘘はないが、ふとした瞬間に本当の故郷が恋しく思われる。
もちろんこんな事、誰にだって話したことはなく家族だって私はこの世界の滅んだ村の生き残りだと告げてある。
聞こえていた子供たちの遊ぶ声や荷車や人の活気も感じられなくなってきている。
宿の主人に挨拶をしたかったが少し前に老衰で亡くなったと、馴染みのない今の主人が教えてくれた。
そう、どこにいたって歳は進んでしまい別の故郷を持つ私だってそれは例外ではない。
急がなければならない。

66 :
すっかり夜も更け眠気がウトウトとさせるようになってきた。
この手記は、実のところもう何年も同じものをその時に合わせて修正し使っている。
もし私の目覚めが元の世界であった場合、残した家族にこの手記によって事実を伝えるためだ。
どこへ出かけているのかは何十年と繰り返し皆知っているのだから、帰りが遅ければこの宿屋を訪ねるだろう。
永い夢のようにも思えるが、すべては私の数十年であり人生だった。
どういう形で元の世界へ帰るのかはわからないが、その点に関しての不安はまるで無い。
妻と息子へ
すまない。
嘘をついていたわけではなく、私は事実を伝えるのが恐ろしかった。
口に出し言葉にしてしまえば本当ではなくなるような気もしていた。
軽薄だと思うだろう。だが私の持つお前たちへの気持ちは本物だ。
二人と離ればなれになってしまうのは本当に悲しく寂しい。
けれどどうしてもこの思いを捨てる事が出来なかった。
どうか、家族で築いた宿屋を今後も旅人に温かく提供してほしい。
私は幸せだった。
けれどその幸せを完全にするには、元の世界へ帰らなければならなかったんだ。
いままで本当にありがとう。
さようなら。

67 :
以上です。
ひどく微妙で投稿を悩みましたが、保守を兼ねて。

68 :
>>67
タカハシ氏乙
この後主人公は元の世界で目を覚ます。
何もかもあの日のまま。体も若い。
異世界で過ごした数十年はまるで無かったかのように。
というオチを妄想した。
新スタートレック
「超時空惑星カターン」より

69 :
>>68
おはようございます、ありがとうございます。
実はTNGの「超時空惑星カターン(英題:The Inner Light)」にすごく感化され、
以前の物語を書いている最中に書き溜めてあったものです。
終わり方までそっくりだったので投稿する時に修正してしまいました。
あれはいいエピソードですよね。
ぜひもっと知られてほしいものです。

70 :
保守

71 :
ほしゅ

72 :
ホホホ

73 :
>>47の続きです
村の外は危ないってんで、チャモロに連れられて、俺とバーバラはゲントの村入りした。
どこかから牛の鳴き声が聞こえてくる。
良く言えば牧歌的、身も蓋も無い言い方をすれば田舎って感じだ。
レイドックが結構大きな町から尚更そう感じる。
ただし、村を入ってすぐ目に入る、あの建物を除けば。
神殿ってやつだろうか。外で待機してる時にもちらちら見えてたけど、やたらでかいな。
中で神様でも奉られてるんだろうか。穏やかな雰囲気の村にはあんまりそぐわない建物だ。
何だか気になったのでチャモロに聞いてみると、
あそこには関係者以外は長老の許可がないと入れないらしい。なるほど、
扉の前には一人の男が門番のように立っていた。
あ、そうそう。ファルシオンだけど、村の入口に繋いできた。
村はチャモロが結界を張ってるから、とりあえず一歩入っとけばとりあえずは安全らしい。すげえなオイ。
互いに自己紹介を終えると(といっても名前だけだけど)、チャモロが何故村に来たのか尋ねてきた。
ゲントの村には医者も匙を投げるような重い病気を患った人が多くやってくるらしい。
で、俺たちはそういう風には見えない。
何か別の目的があるように思えてならない、と。こいつ鋭いな!
「そうなのよ!私たち、レイドックの王様からムドー討伐を頼まれてるの。
でもムドーの島には行くのには船が必要なのよね。
それで、この村にあるっていう神の船を貸してもらえないか、ここの長老様に頼みに来たの。
まあ、私たちは留守番なんだけど!」
「いや、そこ偉そうにするところじゃないから」
思わず突っ込んでしまった。あとなんでそんな鼻息荒いんだよ。
ん? あれ、チャモロさん? 何かまた顔険しくなってません?
「神の船を、ですか?」
「ああ。あるんだろ? 船。あれ……あるよな?」
自分で言いながら不安になってしまった。
よく考えてみれば、こんな山奥の村に船があるっていうのも変な話だ。
ネーミングからして漁船じゃなそうだし、大体この村から海ってだいぶ離れてるし。
一応水平線はちらっと見えるけど……。
「レイドック王がお目覚めになられたのですね。
そしてそれを皮切りに、再びムドー討伐に乗り出した、と……。
なるほど、事情はわかりました。しかし、神の船をお貸しするわけにはいきません」
「えっ? あの……ムドー、知ってる……よね?」
「魔王ムドーでしょう? もちろん知っていますよ」

74 :

   、ミ川川川彡                 ,ィr彡'";;;;;;;;;;;;;;;
  ミ       彡              ,.ィi彡',.=从i、;;;;;;;;;;;;
 三  ギ  そ  三            ,ィ/イ,r'" .i!li,il i、ミ',:;;;;
 三.  ャ  れ  三    ,. -‐==- 、, /!li/'/ 俺 l'' l', ',ヾ,ヽ;
 三  グ  は  三  ,,__-=ニ三三ニヾヽl!/,_ ,_i 、,,.ィ'=-、_ヾヾ
 三  で       三,. ‐ニ三=,==‐ ''' `‐゛j,ェツ''''ー=5r‐ォ、, ヽ
 三.   言  ひ  三  .,,__/      . ,' ン′    ̄
 三   っ  ょ  三   / バ         i l,
 三.  て   っ  三  ノ ..::.:... ,_  i    !  `´'      J
 三   る  と  三  iェァメ`'7rェ、,ー'    i }エ=、
  三   の   し  三 ノ "'    ̄     ! '';;;;;;;
  三   か  て  三. iヽ,_ン     J   l
  三  !?    三  !し=、 ヽ         i         ,.
   彡      ミ   ! "'' `'′      ヽ、,,__,,..,_ィ,..r,',",
    彡川川川ミ.   l        _, ,   | ` ー、≡=,ン _,,,
              ヽ、 _,,,,,ィニ三"'"  ,,.'ヘ rー‐ ''''''"
                `, i'''ニ'" ,. -‐'"   `/
               ヽ !  i´       /
               ノレ'ー'!      / O

75 :

「いやいやいや、何言ってるんだよ。だったら貸してくれたっていいじゃないか」
「そうよ!王様の紹介状だってあるんだからね」
「それでもお貸しできません。御祖父さm……いえ、長老様もきっと同じ答えでしょう」
あ、今おじいさまって言いかけた。
チャモロってもしかしなくとも長老の孫なのか?
だったら話は早い。こいつを説得させれば、芋づる式に長老も懐柔できるかも!
「そんなつれないこと言わないでさ〜、頼むよ」
「だめです」
「もうっ、どうしてよ!」
焦れたバーバラが語調を強くする。
待て待てバーバラ、機嫌を損ねたらダメだ。ここは辛抱強くだな……。
「神の船は、神から私たちゲント族へと授けられた神聖なもの。
ゲント族以外の方にそう易々とお貸しすることはできないのです」
――――ご存知のように、俺は元の世界に戻るために魔王討伐に参加している。
ボッツたちのように、世界を救うとか平和を取り戻すとか、
そういう崇高な目的とは掛け離れた……まあ言わばエゴなわけだ。
元の世界に戻った後のこの世界なんて知ったこっちゃない、みたいに捉えられても仕方ない。
「お前さぁ、何言っちゃってんの?」
だけど、こんなんでも一応正義感は人並みに持ち合わせてるつもりなわけで。
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--------------------------
--------------
ゲントの村と同じような山奥の生まれとは思えぬ、
精悍な顔つきをした青年ボッツは、目の前の老人をじっと見つめた。
頭は既に禿げ上がり、腰もすっかり曲がっている。
顔や手に何本も深く深く刻まれたシワは彼が生きてきた時間の長さをそのまま表しているようだ。
けれど、さすが神の使いと呼ばれるゲント族の長老を務めるだけはあるということか。
こうして向かい合うだけでも僅かではあるがプレッシャーを与えられているのを感じる。
それに負けぬよう、ボッツは己の両足にぐっと力を込めた。
「……それでは、どうしても神の船は貸してはいただけないと?」
「たとえ王の頼みでも、ゲントでもないそなたたちにおいそれと船を貸すわけにはいかぬ」
「そんな……」
ボッツの隣に立つミレーユが小さく落胆の声を上げた。
強面のハッサンがずいと前に進み出る。
普通の老人ならばそれだけで竦み上がってしまいそうだったが、
長老は静かに彼を見上げるだけだった。
「そこを何とかお願いできねえかなぁ。王の快気祝いってことでさ」
「それとこれとは話が別じゃよ。さあ、もう用は済んだじゃろう。
無駄足をさせて悪かったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

76 :

もはや話を聞く気はないらしい。
どうしようもなくなった彼等は顔を見合わせた。
例えば、ここで長老の首に刃をつきつければ、村の奥にある神殿の扉は開かれるかもしれない。
いや、この老人のことだ。脅かされるくらいならばと自分から命を絶つかもしれない。
それに、もしもその方法で船を手に入れ魔王を倒せたとしても、
ゲント族とレイドックとの間には深い遺恨が残るだろう。
それではいけないのだ。
自分たちはレイドック国の代表としてこの村に来ているとは言っても過言ではないのだから。
「今日のところは引き上げます」
―――彼等は一度引き返し、王の判断を仰ぐことにした。
「何度来たところで、わしの考えは変わらんよ」
「……失礼します」
村の外に残してきた仲間たちはどんな顔をするだろうか。
二人への弁解(も何もないのだが)を考えながら、ボッツはドアノブを握ろうとして、その手を止めた。
もう一度説得を試みようと思い止まったわけではない。
開けようとしたドアが目の前で勢い良く開いたからだ。
「長老さ……わっぷ!」
ドアが開いた先から年端もいかぬ少年が飛び出してきた。
まっすぐに突っ込んできたために、少年はボッツのちょうど太股のあたりに顔が埋まってしまっている。
少年は慌てて後ろに飛びのき、申し訳なさそうにボッツを見上げた。
「あ!ご、ごめんなさいっ!」
「いや、こちらこそ。怪我はないかい?」
「う、うん。大丈夫」
「……いったいどうしたのじゃ。騒々しい」
「あっ、そうだった!長老さま、大変なんだ!チャモロさまが……」
その時、今まで石のようであった長老の表情が微かに揺れ動くのを、確かにボッツは見た。
チャモロ。
彼の身内なのだろうか?
長老の胸中を知ってか知らずか、少年は焦らすように一拍置いてから、ようやく続きを吐き出した。
「チャモロさまが村の外から来た人とケンカしてるんだ!
みんな外に出てきて集まってるよっ!」
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--------------------------
--------------
「俺はさあ。魔王がどこどこの国を滅ぼしたーとか、
魔物によって年に何人が亡くなってるとか、そういった具体的な被害は知らないけどさ。
でもさ、みんなできれば魔王にはいなくなってほしいって考えてるわけじゃん。世界中が迷惑してるわけじゃん。
そんな時に、ゲント族じゃないからーとか言って渋るのは、ちょっとおかしいんじゃないかなあって思うんだけど」
「……レイドックともなれば、船の一隻くらい所持しているでしょう。そちらを使えばよろしいのでは?」
「使えないから来てるんだって」

77 :

俺マジレス乙wwwww ……ああもう、融通きかねえなぁこいつ。
アモールの宿屋で地図を見ながら眉を下げていたあの人のことが思い出される。
魔王さえいなきゃもっと商売ができるのに、とぼやいてたおっさんだ。
おっさんにも生活がある。もしかしたら養わなきゃならない家族もいるかもしれない。
何も直接的に脅かされてる人ばっかりじゃない。
きっとおっさんみたいに迷惑を被ってる人は多いだろう。
被害はなくとも、いずれ自分の身に降り懸かるかもしれない不安を囁き、
怯えている人たちがレイドックにはたくさんいた。
だから、わけのわからん理屈をこねて船は貸さないの一点張りを崩さないチャモロに俺は怒りを感じるのだ。
「チャモロ、目の前で誰かが魔物に殺されそうになってたらどうするよ」
「もちろんお助けしますよ」
「そうだよな、俺たちだってさっき助けてもらったし。
そのことは本当に感謝してるよ。改めてありがとう」
「ええ……」
ピリピリしてきた雰囲気のなか(俺のせいなんだけど)、礼を言ってくる真意を掴みかねているらしい。
チャモロの視線には疑念がこもっていた。
「考えてみてほしいんだけど、たった今どこかで魔物に襲われてる人がいるかもしれないよな。
で、魔物っていうのは魔王の手下だろ? つまりさ……」
「つまり、魔王討伐に向かうあなたたちに船を貸さないのは、
魔物に脅かされる人々を見捨てることと同義だと。そうおっしゃりたいのですか?」
頷く。
そうだよ、俺の言いたいのはそういうことさ。
「そのことについてはご安心ください。
私たちだって、魔王を前にして手を拱いているだけではありません。
今はまだその時ではないというだけなのです」
「その時? それっていつなの?」
「神から命を受けた伝説の勇者殿が現れた時です。
その時こそ私たちは勇者殿に力を貸すべく、神の船を下ろすでしょう」
は?
……は?
「ごめん、よく聞こえなかった。もっかい言ってくれる」
「ですから、神から命を受けた勇者殿が――――」
聞き間違いじゃなかった。こいつマジかよ。
ああ、あの目は本気だ。冗談なんかじゃない、心の底からあんなこと言ってやがるんだ。
失望、落胆、怒り。様々な感情が入り混じっていく。
ああ、脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだ。
頭を抱えそうになるのを堪え、俺は喉の奥から声を搾り出した。
「なあ、それマジで言ってんの」
「マジ?」
「本気で言ってんのかって」
「ええ、もちろん。私たちゲント族は古来から」
「ばっかじゃねえの」
「……え?」
「いるわけねえだろ。神なんか」

78 :

チャモロが目を見開き、俺たちのやりとりを見守っていた村人たちがどよめきはじめた。
知ったこっちゃない。こっちはてめえらのアホくささに全身の血が沸騰しそうなんだよ。
確かにさあ、魔法やら夢の世界やら真実を映す鏡やら、
非現実なことばっか起こるこの世界になら、マジで神様いるかもしれないなーアハハなんて思ったよ。
でも、それは“かもしれない”ってだけで、本当にいるかどうかってなると話は別になってくるんだよ。
「何を……。ふざけているのですか?」
「ふざけてんのはそっちだろ。
神とか勇者とか、いるかもわかんねえものを待ってるとかアホだろ。アホの極みだ!」
「なんということを……」
「タイチ、言い過ぎだよ! もうやめよう? ね?」
後ろからバーバラが服の端っこをくいくい引っ張ってくる。
女の子にしてほしいことベストテンに食い込む仕草だったが、
それに感動する余裕なんてあるはずもなく。
「本当に神がいるとして。世界に魔物がはびこってるのはなんでだ?
いくら倒してもいなくならないのは?」
「魔王が彼等を作りだし、世に放っているからです。神とは関係ありません」
「関係あるだろ。魔王も魔物も神が全部倒せばいいじゃねえか。神なんだからできるだろ」
「いいえ、これは神が私たちに与えたもうた試練です。
御自分に頼り切っていては人は成長できないとお考えなのでしょう」
「そのために多くの人が死んでもいいっていうのか? そんな神、俺は信じたくない」
暴論だ。自分でもわかってる。
でもこいつを問い詰めないことには、この怒りは収まりそうにない。
本当に神がいるなら。
テレビで宗教問題が取り上げられたり、学校で宗教が何たるかを学んだたびに考えていたことだ。
本当に神がいるなら、なんで戦争はなくならない? なんで毎秒何人もの人が死んでる?
なんで世界には恵まれてる人の方が少ないんだよ。
みんな、どんな気持ちで神なんか信仰してるんだ。
「伝説の勇者だってそうだ。“伝説”なんて、言い替えれば“噂”と大差ないだろ。
そいつが本当にいるって証拠はあるのか? ここに来るって根拠は?」
「やめてください! それ以上神を愚弄することは許しません」
語調を強め、チャモロが睨み付けてくる。
ゲントの杖について根掘り葉掘り尋ねた俺を咎めた時のものではなく、
怒りに心が波立っているようだった。
けれど、周りでどよめく村人たちの目を気にしてか、声を荒げるようなことはしない。
必要以上に俺を責める気もないらしい。
目を閉じ、咳払いをひとつ。再び俺を見上げた時には、茶色の瞳から怒りの色は消えていた。
いや、隠してるのか。
「……こんな世の中です。不安ゆえに神を疑いたくなるお気持ちはわかります。ですが、どうか落ち着いてください」
「質問に答えてくれよ」
「神はいつも私たちを見ています。信じていれば、いつか必ず報われる時が来るでしょう」

79 :

            い
  こ
                          つ




80 :

「――――ふざけんな!! そんなの嘘っぱちだ!! だったらなんであいつは、勇は」
……勇?
なんでここで勇の名前が、
「タイチ!!」
肩のあたりを強く掴まれる。反動で身体が揺れて、俺は現実に引き戻された。
鼻を掠める花に似た香りに顔を上げると、
ミレーユが悲しいような困ったような顔でこっちを見つめていた。
……いや待て、ミレーユ? おいおい、ボッツとハッサンまでいるじゃないか。
なんで三人ともここに? 長老と話してたんじゃ?
俺の疑問には答えず、ボッツはチャモロ、そしていつの間にか彼の隣に佇んでいたじいさんを振り返った。
「すみません、彼は僕たちの連れです。大変失礼致しました」
「や、こちらこそ申し訳ない。孫が無礼を働いたようじゃ」
「御祖父様、私は……」
「チャモロ。お前は最近目覚ましく力をつけてきてはいるが、心の方はまだまだのようじゃのう」
「……申し訳ありません」
おじいさま。
ということは、このじいさんがここの長老か。
きっと騒ぎを聞きつけて話の途中で出てきたんだろう。
……ああ、血の気が引いた気分だ。
ここにはあくまで船を貸してもらおうと頼みに来たのに、お偉いさんの身内と騒ぎを起こすなんて。
俺ってば何やらかしてんだ。留守番もまともにできねえのか。
しかもボッツに謝らせるとか……。これじゃあまるで、親に頭下げさせてる悪ガキだ。
「その……すみませんでした!
つい熱くなって、失礼なことばかり言ってしまって……お騒がせして本当にすみません」
「気にされるでない。孫が迷惑をかけたのう」
「いやそんな、こちらこそ……」
「そなたの気持ちもわかるぞい、若いの。
確かに魔物に大切なものを奪われた者からすれば、わしらは薄情者に見えるかもしれん」
そんなところから聞かれてたのか。
チャモロが何か言いたげに長老を見たが、結局口をつぐんだ。
今は口出しすべきじゃないと思ったんだろうか。
視界の外の葛藤を知って知らずか、長老は話を続けた。表情は穏やかだが、どこか険しい。
「じゃがな。たとえ正論だとしても、そなたのやったことは正義感の押しつけじゃ。
どんなに馬鹿げていると言われようが、わしらにも譲れないものがある。
それは誰の中にも存在し、おいそれと他人が口出しできるものではありゃせん。ゆめゆめ、忘れないことじゃ」
「……はい。すみません」
押し売り、か。言えてるかもしれない。
きっと何かしらの神を心から信仰している人は、たとえ恵まれていなくとも、
死ぬその時になって神を恨んだり存在を疑問視したりしない。
神にもらった命を神に返すだけと考えるからだ。
外部の人間が勝手に「かわいそうだ」と哀れむだけならいい。
けれど、それは彼らの中の神を否定してまで貫くものかと言えば、きっとそうじゃないんだろう。

81 :

……わからない、わからないな。
それでも俺は、今もどこかで失われつつある命に目をつぶって、
いるかもわからない神やら勇者やらを待つ気にはなれない。
待てるこの人たちを理解できない。
あーくそっ!こんなことになるなら宗教学の授業真面目に受けとくんだった!
全授業出席だけで単位もらえるっていうからノートもプリントも真っ白だよチクショウ!
「長老様。とにかく、僕たちは一度レイドックに戻ります」
「そうじゃな。お互い頭を冷やした方がいいじゃろう」
「ええ。……みんな、行こう」
踵を返し、村の出口へと歩き始めたボッツたちの後ろをとぼとぼついていく。
はあ。あとでみんなに謝らないとな。止めてくれてたバーバラにも悪いことしちまった。
俺のせいでこの村での印象悪くなっただろうし、
これが原因で船借りられなくなったりでもしたら責任重大だ。
たとえ長老が折れて船を貸してくれることになっても、村の人たちには反対されそうだなあ。
ほら、俺たち……っていうか俺を見る村の人たちの視線超痛いもん。びしびし刺さってるもん。
いや自業自得なんだけどさ。
俺、なんであんなに熱くなってたんだろう。
問い詰めるのはいいとして、もうちょっと冷静に、相手を傷つけずにできなかったもんか。
あーあ、この世界に来てからあんな冷たい目で見られるの初めてだよ。
何かぴくりとも動かないし、目どころか身体も氷みた――――
「え?」
歩みを止めて、俺は馬鹿みたいに辺りをきょろきょろと見渡した。
村を吹き渡っていた爽やかな風が止まっている。
草木が風に吹かれたままの形で止まっている。
前を歩いていたボッツたちが踵を半端に上げたまま止まっている。
こちらを見て何やら囁き合っていたおばさんたちの口が止まっている。
なんだこれ……。まさか、時間が止まってる……!?
いったい何が起きてるんだ?
神とかいるわけねえだろバロッシュwwwとか言ったから罰が当たったのか?
それともあれか、スタンド攻撃受けてるのか? 五秒後にオラオラされるのか?
スタンド使い同士は引かれ合うのか?
――――チャモロ、チャモロよ。私の声が聞こえますね。
おわああああああっ!!?
どこか遠くから響くような、けれど頭の中から聞こえるようなその声に、俺は身体を強張らせた。
もう俺、さっきから驚きの連続でちびりそうなんですけど。
っていうかチャモロ? なんでチャモロ?
振り返れば、少し離れたところにチャモロがつっ立っていた。
何故かぼけっと明後日の方向を見上げている。

82 :

もしかして、あいつは止まってない……?
「おい、チャm―――」
一歩踏み出したその時、青いペンキを流し入れたみたいに雲一つない空に、一筋の光が降った。
光はまるで目には見えない水面にぶつかったように跳ね上がったかと思うと、
きらきらと輝きながら何かの形を縁取っていく。
……やがて現れたそれは、俺には髪の長い女に見えた。
――――この者たちを帰してはなりません。この者たちと共に神の船でムドーの島に向かうのです……。
身体を通り抜けて、心ごと優しく包み込んでくれるような暖かな声。
圧倒されるがままの俺やチャモロが返事する間もなく、
女の姿は蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ、やがてそのまま消えてしまった。
けれど、かき消えてしまう寸前。
チャモロを見下ろしていたはずの女が俺の方を見て――――にっこりと、微笑みかけたような気がした。
風が髪をもてあそび、頬をくすぐる。
葉と葉が擦れる音が、村の人たちの囁き合いが聞こえてくる。……どうやら戻ってきたらしい。
いや、別にどこにも行っちゃいないんだから、戻ってきたって表現はおかしいか。
何だったんだ、さっきの。
今まで色々非現実は経験してきたけど、その中でも一番ぶっ飛んでたな。
……まさかとは思うけど。さっきのって、いわゆるかm――――
「皆さん、待ってください!」
某トンガリ頭の弁護士よろしく、チャモロが声を張り上げた。
なんだなんだとボッツたちが振り返り、村の人たちも一斉にチャモロへ視線を集中させる。
待てチャモロ。お前が何を言いたいかはわかる。
けど、お前それでいいのか。隣でハテナを浮かべている長老を泣かすことにならないか。
「ど、どうしたのじゃ、チャモロ?」
「御祖父様。この人たちに船を貸すことにしましょう。私も共に行きます」
「えっ」
「「「「えっ」」」」
あー……。
「今、神の声が聞こえたのです。彼らと共に神の船に乗り、ムドーの島へ向かえと」
「す、すると、この者たちが伝説の勇者だと……!?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
しかし、神に授かりし船の封印を解くことがどんな結果をもたらすのか……。
この先世界はどうなってゆくのかをこの目で確かめたいと思います」
「なにそれこわい」
「さあ皆さん、行きましょう。私についてきてください」

83 :

やる気に満ち溢れた笑顔を浮かべて、チャモロは足取りも軽く
例の神殿へとさっさと歩き出していってしまった。
当然ながら、周りの人間は全員(゚Д゚ )ポカーン状態である。
これにはさすがの俺も思わず苦笑い。
あのー、チャモロ……。俺が言えることじゃないんだけどさ。
なんつうか、その……空気読めよ!
せめて「今日はもう遅いですから」とか言って一晩泊まらせて、
翌朝にでも「夢でお告げが〜」とかいう感じにしてやってくれよ! 長老の立つ瀬がないだろ!
手のひら返しっぷりがひどすぎていっそ清々しいくらいだよ!
さっきの俺たちの論争はなんだったんだよ……。
ああヤバイ、なんか涙出てきた。
「なんで……なんでそんな台無しにするようなこと言うかなあ。
わし、さっきめっちゃかっこいいことゆってたじゃん……。あの若者も心を改めた感じだったじゃん……」
長老にいたっては肩を落として何やらブツブツ言っている。
まあそりゃ、愚痴りたくもなるよな……。一瞬で心変わりだもんな。
がっくりと落とした肩をぷるぷる震わせたかと思うと、長老はガバッと顔を上げ、大声で叫んだ。
杖をついた年寄りのものとはとても思えない、張りのある声だ。
「よいかチャモロ! ムドーを倒してくるまで帰ってくることは許さんからな!!」
「はい! 御祖父様!」
……うん、いい返事だ。
タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はがねのつるぎ
    てつのむねあて
    けがわのフード
特技:とびかかり

84 :
どうもお久しぶりです。今回はどうにも難産でした。
読んでくださっている方の中で、何かしら宗教を信仰されてる方っていらしたりするでしょうか。
決して宗教を否定しているわけではないので、ご容赦頂ければ幸いです。
>>60
ありがとうございチャモロ!

85 :
>>タカハシ氏
ごぶさた乙!
こういう後日談的なお話は大好物だよ。
個人的には、このおっちゃんは今回も帰れなくてまた同じことを…
ってな妄想をしてしまうなw

86 :
>>タイチの人
乙チャモロ!
タイチのああいう熱いところがたまらんのう。
ボッツ視点も新鮮で良いね!
6は仲間が多くて書き分けが大変そうだなぁ。
長老wwwドンマイwww

87 :
船を借りるのにそんなことがあったとは
78のタイチさんの気持ち、ほんとよくわかります
神が本当におわすなら、こんなむごいことお許しになるはずがないっていつもおもいます
でも、長老さんの言うことももっともなんですよね
相手の信じる神を否定して、それがひどくなるとエルサレムを奪い合う宗教戦争になってしまいますから
チャモロさんはきっとまっすぐな青年なのでしょうね
まっすぐすぎてストレートに手のひらをかえしてしまいました(笑
さんざんネ申を否定していたタイチさんにもルビスの御加護はありそうです
今後が楽しみです^^

88 :
そしてタカハシさんショートストーリーもいいですね^^
おっちゃんには、今の家族を大事にしてほしいな・・・とはおもいます
戻れなくていい、というか、戻れない方がいいんじゃないかって思うほどに
DQ世界にいっても、歳をとるというのは、その世界の住人にしてみればあたりまえですが、なんか斬新でした

89 :
ほす

90 :
保守します

91 :
ぬるぽ

92 :
「うわああああああああああああああ!!!!」
俺は自ら放った絶叫の煩さに目を覚ました。
どれだけ汗をかいたのか。体にベトリとシャツが纏わり着いていた。ひどく怖い夢を見ていたらしい。
しかしその余りにも悲鳴にも似た、男が上げる様なものでない叫び声の所為で内容はもう思い出せない。
「はあ、はあ…」
俺は汗の不快さから堪らずに半身を起こした。
真っ暗だ。まだ夜中のようだ。何時だろうか。
俺の叫び声を聞いて1階で寝ている家族が起きてくるかもしれない。情けない。
何と言い訳したらいいかと考えながらいつもベッドの上に置いてある携帯電話で時刻を確認しようと手を伸ばす。
「……?」
何かがおかしい。
いくら手を伸ばそうとも、ベッドから外れた手が宙を掻く。何も無い。壁にもあたらない。
そういえばベッドの感じがいつもと違う。枕。シーツの感触。
……どこだここ。
視界は何も見えない。俺は昨日どこで寝た?
どう思いだしてみても、やはり自室以外にありえない。
明りは?電気。携帯の照明で…って無いんだった。
真っ暗闇の中、俺はベッドからおそるおそると足を落とした。
右足のつま先、親指の平辺り。その先端が床にほんの少し触れた瞬間――。
そこから輪が広がる様にして一瞬にして暗闇がはじけていった。真っ黒から真っ白に。真夜中からの急転直下。
俺は急激な眩しさに耐えられずに目を閉じた。何が起こったんだ。
「お待ちしておりましたわ。勇者様」
声に驚き俺はその方へ眩しさを堪えながら無理やりに目を開く。

93 :

なんだ。誰なんだ。おかしなシルエットだ。人間に角が生えている様に見える。
「おはようございます」
挨拶をしてきたので俺は見えないままに挨拶を返した。どうやら声から察するに少女のようだ。
その柔らかい声に少し安堵しつつ、次第に目が慣れ視界が晴れていくのを待った。
……どうやら角に見えたそれは帽子の様だ。色は黒。つばは広く円錐状に長く伸び先が折れ曲がっている。
魔法使いなんかが被るとんがり帽子って奴だ。
…帽子だけじゃない。全身を覆い隠す様なマントも、服も、靴も、全てがどこかでみたような魔法使いの格好だった。
肩まで伸びた赤い髪と輝く様な同色の瞳がその格好も相まってどこか別世界の住人の様に見えた。
「誰だ?」
と、俺は聞くしかなかった。
回りの景色も意味不明。足もとの石床に魔法陣が描かれている。蝋燭。水晶、妙な色の液体の入った小瓶の数々。
「よかった。言葉は通じるようね。私の名前はベティ。あなたを召喚した魔法使いなの」
彼女はそう答え、帽子を取った。顔だけを見るとショートボブの普通の10代半ばの少女に見える。
「魔法…使い?」
俺は依然呆然としたままに聞き返すと、彼女は大きな赤色の瞳をパチクリとさせた。
「そう。魔法使い、ん?もしかして知らない?あなたの世界にはいなかったのかしら」
「いや…、架空の生き物だ…。魔法なんてものは存在しない」
次第に状況が整理つきつつあった。しかし誰が別世界の存在をすぐ様受け入れられるだろうか。無理だ。嘘だ。
「あるわよ。ほら」
彼女は片方の手のひらを上に向けると全く表情も変えずに何てこともないようにそこに火の球を出現させた。
手の平の上で火が宙に浮いてゆらゆらと燃えている。
ありえない。何故突然に火を出せたんだ。浮いたままに留まる筈がない。

94 :
うわっ。書きこみ出来た
ちょっと書きためしてくる

95 :
支援!

96 :

「…分かった。信じる」
信じられないが。魔法が存在している。魔法使いがいる。何故だ。どうなってる。
「ありがとう」と彼女が手を下ろすと同時に燃えていた火球もロウソクの火が消える様にフッと消滅した。
その様を俺はずっと間抜け面の様に口を開けたまま見ていたことに気付き、口を閉じ唾を飲み込んだ。
先程の暗闇からの急激な眩しさも、この少女の仕業ということなのだろうか。魔法で。俺は召喚されたのか。異世界に?
「――で、そろそろ名前教えてくれるかな」
そう言われ、俺は「アキヒト」と、ぼそりと名乗った。
「ア、キ、ヒ、ト?」と再度怪訝に尋ねられ「ああ」と頷いた。
異なる国や別世界の人間の名前が変わってるのは当たり前と言えば当たり前だが……。
「そう。よろしくね」と彼女は笑顔を見せ右手を差し出してきた。握手を求める手だろうか。
「その前に、俺を召喚したって言ったよな。何故俺なんだ」
手を取らずに聞き返した。その手は宙を彷徨いもう片手に持っていたとんがり帽子を掴み、そして再び頭にのせた。
「あなたが、最も勇者に相応しいから」
彼女は深く被った帽子の下から瞳を覗かせそう答えた。どこか悲しげな表情に見えたのは気のせいだろうか。
「勇者?何言ってる。ありえないな」
俺は自分の体を見た。
仮にここが本当に異世界だとして、それでも俺の体は、日本男児の高校1年の平均をやや下回るものに変わりは無かった。
普通以下。何が出来る。何か出来る様になるとでも言うのか。
「突然無理なお願いを言っているのは分かっているわ。でもお願い。あなたしかいないの」
彼女はやはり悲しげな目で言った。懇願しているかの様だ。
なんなんだこの状況……。
「正直全く理解できないな。勇者が必要だと言うがこの世界にはいないのか?魔法使いがいるんなら勇者だって…」
「死んだの」
「な…」
死んだ。勇者が、死んだ…?
「……蘇らせる魔法は無いのか」
聞いてから意味の無い言葉だったと気がつく。生き返らせられないからそのままだと分かりきっていた。
彼女は首を振り、語り始めた。
1年前、勇者と呼ばれた人間が魔王に闘いを挑んだ。
その勇者は絶対的な力を持ち、魔法という不思議な力があるこの世界において人並み外れた強さだったらしい。
誰もがその強さを疑わず勇者は勇者と呼ばれ、必ずや魔王を打倒してくれるものと信じていた。
だが、負けた。
魔王はそれ以上の力を持っていた。
もう、この世界を救える人間は存在しない。
世界中の戦士や魔法使いを何百人集めようが、その勇者たった一人の力にすら及ばないのだから。
人々は、諦めた。
ただ、願うしかなかった。勇者が再び現れることを。

97 :

「俺にそんな力、ある筈がない」
話を聞いていた俺は、先程彼女が俺に向けて「勇者」と言ったことに少し苛立ちを覚えていた。
そのまま鵜呑みにしてしまうわけにはいかない。
「あるわよ。きっとあるわ。信じて。精霊ルビス様によってあなたは導かれたのだから」
彼女はすがる様な目をしていた。俺は思わず目を反らす。
「精霊?信じるも何も…俺には知らないことだ。俺には俺の生活があったんだ。それを勝手に…」
「それについては謝るわ。本当にごめんなさい」
彼女は深々と頭を下げた。それから頭をなかなか上げようとしない。どうしろってんだ。
「…別に。いいけど。よくねーけど。生活つっても抜けだしたい程に退屈な日々だったしな。それに、キミが選んだ訳じゃないんだろ」
ようやく頭を上げたのを見て俺は尋ねた。
「本当にここが俺の知らない世界だってんならまず世界を見せてくれよ。話だけ聞いてもまだ半信半疑だから」
「うん、そうね。わかったわ…。でもその前に」
彼女はマントの下に着ていたベアトップ型の緑色のワンピースの腰に、結び付けていた小さな袋から何かを取り出した。
「その格好じゃあ街は歩けないものね。とりあえず今こんなものしかないけど」
と、何やら着るものを取り出した。
俺は折りたたまれたそれを受け取り広げて見た。青色の厚手生地の旅人の服のようだ。
「あとこれも」
「な、剣かよ。本物か?つーか今どこからこれを取り出したんだ」
刃渡り1メートルくらいあろうかという長さの鞘を抜いてみると、銀色に光る刀身が現れた。両刃の西洋の剣。重い。
「勿論本物。まあ安物だけどね。ああ。あと、この袋のことね?魔法で袋の中が広げてあるから」
「……はあん。なるほど」
袋の中を覗いて見るが全く理解できない。四次元ポケット的なものだろうと自分を納得させる。
「この剣は俺が使う為に?」
「もちろん。勇者は剣で戦うものでしょ」
「……まじかよ」
目の前の少女の瞳は俺を本気で勇者だと信じて、これっぽちも疑ってないように見えた。
「それじゃ、先に部屋出て待ってるから着替えてきてね」
「………ああ、あの、ちょっと待ってくれ」
少し迷った後、俺は彼女を呼び止め振り向いたところへ手を差し出した。
「さっきはごめん。ってもまだ何が何だかわからないけど」
小さく頭を下げた。まるでさっきと逆の立場になっていた。そのことに彼女も気付いたのか少し笑ってから握手をした。
「ううん。私のほうこそ。じゃあ改めてよろしくお願いしますね。ええと、アフィリイトさん…だったっけ」
「アキヒト。さん付けも敬語もいらない」
「そう、ごめんごめん。アキヒトね。よろしく」
「よろしく」

98 :
女魔法使いと旅がしたい
そう思って書いてみた。他書き手さんを待つ暇つぶし程度に読んでいただければ

99 :

第2話 「中世と、俺」
鮮明に俺の眼へと飛び込んでくる景色に俺はしばらく呆気に取られていた。
中世時代の街。
石畳の道路。石とレンガの家。アーチ状の窓、柱。
それらが迷路の様に狭々とくっ付き入り組み、まるで俺をこの異世界へと迷い込ませるようだった。
半分は予想通りの景色だったがもう半分はそれ以上にリアル過ぎて感想の言葉さえ見つからない。
髪も目も肌も違う色した人々が行きかい。格好も様々。鉄製の鎧を身に付けた戦士の様な者が普通に俺の前を通り過ぎていく。
「魔王は街には攻めてこないのか」
俺の隣を並んで歩く頭一つ分程背の低い魔法使いの格好をした少女にそう聞いた。
少女の名はベティ。年はまだ聞いていない。幼さの残るその顔から察するにおそらく十代半ば。俺とそう変わらなそうだ。
とんがり帽子から溢れ出ているややボリュームのあるショートボブの赤い髪がさらに子供っぽく見せているのかもしれない。
「今のところはね…。でもあの時、魔王の住む城に攻め入った時の報復なのか、それからすぐに一つの街が壊滅させられたわ。」
悔しさを滲ませベティはそう言った。
「だから…、私たち人間は下手に魔王に手出ししない方向を考えたの。勇者が現れるまで」
……ならばそのまま互いに平穏に暮らせないのか、と一瞬頭で思ったが聞けなかった。地球じゃ人間同士でさえも争いを起こしている。

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