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2012年5月創作発表46: THE IDOLM@STER アイドルマスター part7 (312) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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THE IDOLM@STER アイドルマスター part7


1 :11/09/21 〜 最終レス :12/05/05
アイドル育成シミュレーションゲーム「アイドルマスター」のスレです。
基本的になんでもありな感じで。
dat落ちしてしまったクロスSSスレとも暫定合流中です。クロス作品も
よろしければどうぞ。
前スレ
THE IDOLM@STER アイドルマスター part6
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1286371943/
過去スレ
THE IDOLM@STER アイドルマスター part5 (dat落ち)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1270993757/
THE IDOLM@STER アイドルマスター part4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1257120948/
THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1246267539/
THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1241275941/
THE IDOLM@STER アイドルマスター
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221366384/
アイドルマスタークロスSSスレ
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1228997816/
まとめサイト
THE IDOLM@STER 創作発表まとめWiki
ttp://www43.atwiki.jp/imassousaku

2 :
          ┏  ━ゝヽ''人∧━∧从━〆A!゚━━┓。
╋┓“〓┃  < ゝ\',冫。’  ,。、_,。、     △│,'´.ゝ'┃.      ●┃┃ ┃
┃┃_.━┛ヤ━━━━━━ .く/!j´⌒ヾゝ━━━━━━━━━━ ━┛ ・ ・
       ∇  ┠──Σ   ん'ィハハハj'〉 T冫そ '´; ┨'゚,。
          .。冫▽ ,゚' <   ゝ∩^ヮ゚ノ)   乙 /  ≧   ▽
        。 ┃ ◇ Σ  人`rォt、   、'’ │   て く
          ┠──ム┼. f'くん'i〉)   ’ 》┼刄、┨ ミo'’`
        。、゚`。、     i/    `し'   o。了 、'' × 个o
       ○  ┃    `、,~´+√   ▽ ' ,!ヽ◇ ノ 。o┃
           ┗〆━┷ Z,' /┷━'o/ヾ。┷+\━┛,゛;
話は聞かせてもらいました! つまり皆さんは私が大好きなんですね!!
公式サイト
ttp://www.idolmaster.jp/
【アイドル】★THE iDOLM@STERでエロパロ28★【マスター】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1315844040/
【デュオで】アイドルマスターで百合 その34【トリオで】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1314857234/
SSとか妄想とかを書き綴るスレ8 (したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/13954/1221389795/
アイマスUploader(一気投下したい人やイラストなどにご利用ください)
ttp://imas.ath.cx/~imas/cgi-bin/pages.html
マナー的ななにか
・エロ/百合/グロは専用スレがあります。そちらへどうぞ。
・投下宣言・終了宣言をすると親切。「これから投下します」「以上です」程度でも充分です。
・「鬱展開」「春閣下」「961美希」「ジュピター」などのデリケートな題材は、可能なら事前に提示しましょう。
・一行には最大全角128文字書けますが、比較的多数の人が1行あたり30〜50文字で手動改行
しています。ご参考まで。
・「アドバイスください」「批評バッチコイ」等と書き添えておくと、通常より厳し目の批評・指摘を
含んだ感想レスが投下されるようになります(実際んとこ書かんでも充分キツry)。熱く語り
合いたい方や技術向上に適しますが、転んでも泣かないこと。
・(注:読み手の皆さんへ)批評OKの作品が来ても大切なのは思いやりですよ、思いやりっ!

3 :
知っていると便利なSS執筆ひとくちメモ
このスレの1レスあたりの容量制限
・総容量4096バイト(全角約2000文字)
・改行数60行
・1行制限256バイト(全角128文字)
バイバイさるさん規制について
短時間での連続投下は10レスまで、11レス目はエラーが返され書き込めません。
アクセスしなおしてIDを変えるか、時間を置いて投下再開してください。
(検証したところ毎時0分に解除されるという噂はどうやら本当。タイミングはかるべし)
その他の連投規制
・さるさん回避してもtimecount/timeclose規制があります。「板内(他スレを含む)直近
 ○○レス内に、同一IDのレスは○○件まで」(setting.txtでは空欄なので実際の数値は
 現状不明)というもので、同一板で他所のスレがにぎわっていれば気にする必要は
 ありません。とは言え創発は過疎気味ですのであまり頼ってもいられませんが。
 上記のさるさん回避後合計12レスあたりで規制にかかった事例がありました。
・あちこちの板で一時騒がれた『忍法帖規制』は、創作発表板では解除となっています。

4 :
>>1乙。だけだと味気ないとは思いつつもなんもSS書けてないので
こんなクロスオーバーどうでしょう的なのを番組予告風に紹介してみる。
クロス相手は()内参照。
「765プロ事務の音無です。魔王エンジェルとの一件も終わり、
元々トップアイドルだった千早ちゃんとやる気を出した美希ちゃんを筆頭に
皆順調にランクアップしている……のはいいんですけど問題がありまして……
プロデューサーさん一人じゃとても手が回らなくなって来たんです。
何とかならないんですか社長。え? 新入社員として新しいプロデューサーが来る?
そういう事はもっと早く言って下さいよ。ちょっと私にも書類見せてください。
え〜と、名前は川村ヒデオ…………ってこの人、目つきが悪過ぎませんか〜?」
(Relations×戦闘城砦マスラヲorレイセン)
「如月千早です。高校に入学して早々に入ったばかりの合唱部を退部してしまった私の所へ、神楽坂響子と名乗る先輩がやってきました。
民族音楽研究会とは名ばかりの軽音部に私を入部させたいようですが、既に765プロに所属している事を理由に断らせていただきました。
もっとも、諦める気はなさそうです……一体、これから私の生活はどうなってしまうのでしょうか」
(さよならピアノソナタ)
「天ヶ瀬冬馬だ。こないだとあるパーティーに出席したんだが、向こうのセレブが
『やっぱり日本の若造はマトモにスーツも着られないんだな』
なんて言いやがった。見返してやろうとは思ったが何が悪いのか皆目見当もつかねえ。
そんな俺の所に声をかけてきた冴えないニイチャン。名前は織部悠。何でも普段はイタリアのナポリで仕立て屋やってるらしい。
丁度良い。向こうのセレブを黙らせられるくらいの一着、仕立ててもらおうじゃねえか」
(王様の仕立て屋)

「菊地真です。プロデューサーに教えられて行った金魚屋という古本屋さん。
そこは色んな漫画が沢山あって、あんまり大きい声じゃ言えないけどずっと探していた少女漫画も見つかったりして、
それ以来すっかり常連になったある日、店員の斯波さんから
『たまにはこんなのも読んでみない?』
そう言って渡された一冊の漫画。だけどどうしても僕はそれを読む事ができなくて……」
(金魚屋古書店)

「えーと、765プロでプロデューサーをやってます。ある日、事務所で朝礼をしてる最中に大きな地震があったと思ったら気を失って、いつの間にか皆見知らぬ所に居たんだ。
そこで出会ったロクサーヌという吟遊詩人とフィリーという妖精の話によれば、俺達は異世界に飛ばされてしまったらしい。
そして、この世界のどこかに在るどんな願いでも叶えるといわれる魔宝があれば元居た世界に帰れると言う事だった。
それじゃあ皆で団結して魔宝を探しに行こうと思ったら社長が、
『ここは、私と君で競争といかないかね?』
なんて言いだして、気がついたら黒井社長(何で居るんだ?)にさっき会ったばかりのカイル、レミットまで魔宝の争奪戦に加わってきたから大変だ。
5つのチームに分かれてしまったから人数も心もとないし、こうなったらまずは協力してくれる子を探さないとなぁ……」
(エターナルメロディ)

5 :
業務連絡ー。業務連絡ー。
前スレの作品保管庫へ収録しました。作者様方は確認、訂正願いします。

6 :
はいどーもレシPです。前スレ完走おめでとうございます。
雪歩と貴音で1本まいります。タイトルは 『赫(あか)い契印<Signature blood>』 。
・注意書き
世界観のベースはSP、貴音は961プロに所属しています。
ただ、他のアイドルは出てきませんし961の描写もありません。
本文5レスでまいります。でははじまりはじまり。

7 :
「萩原雪歩……可愛らしい娘」
「し……四条……さ、ん」
 四条さんの顔が私に迫って来ます。私はまるで体が痺れたみたいになっていて、指の
一本も動かせなくて、声を出すのも途切れ途切れで。
「さあ、心を落ち着けて」
「あ……」
 四条さんの唇が私の頬をかすめて、まっすぐ私ののどに向かって行って。そこから先は
視界の外のはずなのに、彼女の紅い唇が大きく開かれてそこから鋭いキバが覗くのが
どうしてか私にはわかって。それでも私は催眠術にでもかかったみたいに四条さんを
自然に受け入れて、首の右側にチクリとした痛みと、それから言い知れない快感みたいな
ものを感じて……。
「──はっ」
 そして、目が覚めました。
「……え、と」
 きょろきょろとあたりを見回してみます。なんの変哲もない、いつもの私の寝室でした。
「えーと、あ、そうか、昨日打ち上げで」
 連続ドラマのクランクアップがあって、最終回のゲストに出演してくれた四条さんも
参加して。私は大きなお仕事をやり遂げたことや四条さんと共演できた嬉しさとか興奮
とか、疲れもあってフラフラになっちゃって、それで家まで四条さんに送ってもらったん
です。タクシーの中で私はうとうとしてしまい、家に到着したと四条さんに揺り起こされる
までは記憶もなくって、恐縮しながらお別れしてシャワーも浴びずに眠ってしまって。
 そして、今です。
「……ふわあ」
 あまりに非現実的な、それでいてあまりに生々しい夢の感触に火照る頬を押さえました。
「わ、私、欲求不満なのかな」
 自分の口から出た言葉のはしたなさに、顔がもっと熱くなりました。欲求不満とはそもそも
私は何を欲しているというのでしょう。しかも四条さんにそ、そ、そんなことを、あわわ。
「はうぅ、私どうしちゃったんだろ」
 そう言えば夢の私たちはどんな姿だったのでしょう。ぼんやりした記憶ですがひょっと
して、は、はだ、はだ……っ。
「ひやああ、私ヘンな子だよぉ」
 ジリリリリ。
 そこで目覚まし時計が鳴りました。夢に驚いてセット時刻より早く起きてしまっていた
のです。
 ベッドの中で、取りあえずなにがどうしたのか考えてみます。
「……そっか、昨日のドラマ」
 寝ぼけていた頭が働きだして、ひとつ思い出しました。撮影が終わったドラマはオカルト
もので、主人公の私は自分で知らないうちに吸血鬼に血を吸われた女の子の役でした。
 心当たりもないまま次第に超人的な力を発揮するようになる肉体、周囲で蠢きはじめる
不穏な人影。やがてそれは近くの街で起きていた女子高生の連続失踪事件と不思議な
連携を見せはじめ……。
 クライマックスシーンを思い出しました。昨日のお仕事の最後に収録した場面です。
吸血鬼にされてしまったけれど、自分を吸血鬼にした親玉と戦う決心をした主人公が
謎の洋館へ向かい、そこで親玉――四条さん扮する太古のヴァンパイア――と対峙
する一連のカット。私の演じる主人公はそこでヴァンパイアを睨み返しますが、私は、
萩原雪歩は、四条さんの美しさと凛々しさに打ちのめされてしまったのでした。
 たぶん、私はあの場面で四条さんに何かを吸い取られてしまったのでしょう。それで
ゆうべの私はどこかおかしく、それで今の夢を見ることとなったのでしょう。
 それほど四条さんは美しく、なまめかしく、高貴だったのです。
 今日は朝からお仕事です。しかも四条さんと。そう思っただけでまた動悸が速まり
ますが、お仕事なら夢の記憶でいつまでも混乱している場合ではありません。まずは
シャワーを浴びて頭をはっきりさせようとバスルームへ向かい、洗面台の鏡を見て
びっくりしてしまいました。
「え……これ、って」
 首筋に、赤い跡。

8 :
 小さな赤い点が、私ののどについていました。それもふたつ。ちょうど。
 ちょうど、夢の中の四条さんが私にかみついた場所に。
「え、え、えええーっ?」
 さすがに騒ぎすぎだ、とお母さんに叱られてしまいました。
****
「お、おはよう……ございますぅ」
 そっと控え室のドアを開けて、おそるおそる声をかけてみます。今日の現場は二人
部屋で、ドレッサーの奥側のスツールでお化粧してるのは、もちろん。
「お早うございます、萩原雪歩。昨夜はよく眠れましたか?」
「お、おはようございます、四条さん」
 クールな外見ながら軽く微笑んでくれたのがわかりました。思わず、見とれてしまい
ます。
「……?なぜそこに立っているのです?入室なさい」
「は、はいっ」
 ドアのところで硬直してしまっていました。あわてて部屋に飛び込み、あいている
椅子に腰掛けます。
「昨夜までは芝居、本日は歌謡番組。アイドルと言う仕事もつくづく幅が広いもの
ですね」
「は、そっ、そうですねっ」
「その幅広い予定の中で萩原雪歩、あなたと続けてともにいられるのはある種の
運命を感じます。そうは思いませんか?」
「そ、そうですね」
 入室した時の様子で私が緊張していると判ったのでしょう、四条さんが気さくに話し
かけてくれているのに、私はと言えばどこかのバラエティ番組のお客さんみたいに
同じ相槌ばかり返してしまいます。四条さんはドレッサーに自分のお化粧道具を広げて
いて、つまりもう収録の準備を始めているのに、私はまだなにも出来ていないのを
思い出しました。またもや慌て気味に、バッグの中からファンデーションやリップなど
並べ始めます。収録時にはあらためてメイクさんが来てくれますが、リハーサル時に
すっぴんというわけにはいきません。
 昨日のお礼をまだ言っていなかった、とようやく頭が回り、話のきっかけを探ります。
「し……四条さんはあれからお帰りだったんですよね、わざわざ私のこと送ってくださって
ありがとうございました」
「問題ありません。あなたの家はわたくしの帰路の途上にありました」
「あ、そ、そうですか。でもタクシー代とか」
「事務所の予算内です。あなたが気にすることではありません」
「はあ……でっでもあんなに遅い時間になって」
「帰宅後はもう休むだけでした。十数分のズレなど誤差は少ないほうでしょう」
「そ、そうですね、すみません」
 困りました、さっきから全然会話が弾みません。私、こういうの得意ではないんです。
「えと、えと」
「萩原雪歩」
「ひゃいっ」
 困ってしまったところに、四条さんから話しかけられました。思わず声が裏返ります。
「ふふっ」
「?」
 笑った?四条さんが、笑い声を?
「萩原雪歩。わたくしは……かように恐ろしく見えますか?」
「ふえ……っ」
 びっくりして見つめ返してしまいました。目の前の四条さんは、私を見ながら優しげに
微笑んでいます。
「先日のCD収録からこちら、事務所が違うとは言えあなたとは大分打ち解けてきたか
に感じていたのですが」
「そ、そ、そんな!」

9 :
 その言葉に残念そうな響きがあったのに、さすがの私も気づきました。慌てて
打ち消します。
「ち、違うんです四条さん、私、四条さんと一緒にお仕事できたのが嬉しくて、えと、
嬉しすぎてかえってどんなふうにお相手したらいいかわからなくなってしまって!
その、私あんまり人付き合いとか得意じゃないから、こういうときどんなお話すれば
いいとか全然わからなくってぇ!」
「そうなのですか?」
「ふえええ、やっぱり私ダメダメです!せっかくお友達になれた四条さんを困らせる
ようなダメダメな子です!」
 いつものクセが出てしまいました。そう気づくには気づいたのですが、体が言うことを
ききません。手元のバッグを開くと、肌身離さず持ち歩いているスコップの柄が見えます。
「こんなダメダメでひんそーでひんにゅーでちんちくりんな私なんか、穴掘って」
「お待ちなさい」
「埋まっ……え?」
 声とともに、振り上げた手を取られました。力は入っていませんでしたが、あっけに
取られて相手を……四条さんを見つめ返します。
 四条さんがこちらを見つめていました。さっきの笑顔ではありませんがかといって
怒っている様子でもなく、ただ強い視線で私のことを見ています。まるで……。
 まるで、主人が従者を見るように。
「あなたを埋まらせるわけには行かないのです、萩原雪歩」
「し……じょう、さん」
 そう見えたのは一瞬で、彼女の表情はまた少し前の優しい微笑みに戻っていました。
「なにしろこれから番組収録、しかもあなたと共演なのですから」
「あ……あ、ごめんなさい、私、少し緊張しているみたいで」
「適度な緊張は集中力をもたらし、己の能力を最大限発揮するのに有用です。しかし、
過ぎたるは及ばざるが如しとも言いますよ」
 四条さんは私に歩み寄り、立ち尽くしていた私の手をあらためて取りました。
「心を落ち着けて、しかる後に本日の共演を大いに楽しみましょう、萩原雪歩」
「は、はい」
 不思議、です。
 四条さんに見つめられると、私の心はみるみる落ち着いてゆきました。
「まずはリハーサルです。ディレクター殿が入り順を変えると伝えてきました、わたくし
たちの出番まで10分とありませんよ?萩原雪歩」
「あ……はい、そうですか、急がなきゃですね」
 なんだか、四条さんと一緒ならどんなことでもできそうに思います。私は四条さんに
答え、準備を始めました。
****
 リハーサルは順調に終わり、いま私たちは二人の控え室で、本番の収録順を
待っています。
 当然ですがメイクも終わり、本番用の衣装に着替えています。さっきのジャージ
とは違います。
「萩原雪歩。どうしたのですか?また緊張が戻ってきたやに見受けますが」
「は……はうぅ」
 四条さんが私に近づいてきました。その右手をゆっくりと私の頬に添わせます。
「顔も紅潮していますね」
「ひゃう」
「おや、ますます。大丈夫ですか?萩原雪歩」
 だ、大丈夫じゃありません。だって、だって。
 今日の衣装は二人とも『ナイトメア・ブラッド』なんです。
 真っ赤なビキニスタイルの軽甲冑で、ブラやボトムのデザインなんか私がこれまで
着たどんな水着より面積が小さいんです。手足の先は軽いプラスチックの鎧で覆われて
いますが、肩やおなかや腿などは肌がむき出しで、この衣装は単にハダカでいるより
セクシーな感じが出るようにデザインされたのだと、いくら私でもわかります。

10 :
 二人でそんな裸同然の姿で、今日は『inferno』を歌うことになっていました。燃え盛る
情念の炎の中で手の届かぬ相手を想う歌を、小悪魔とかサキュバスとかそういう、
ディレクターさんの言葉をそのまま借りれば『テレビを見てる男子中高生が白目
むいて行っちまうような』――どこへ行ってしまうというのか少し怖く感じましたが――
大人な雰囲気でステージングを行なうのが今日の収録なのです。
 はっきり言えば、私の一番不得意なジャンルの演出なのです。
「し、四条さん。私、今日みたいなステージが苦手で」
「苦手?はて」
「私ってアピールとか自信がなくて、あ、もちろん歌もダンスも一生懸命レッスンして
ますけど、いくらやっても共演の人の足を引っ張ってしまうんです。真ちゃんや
事務所のみんなは『もっと自信を持てばいい』って言ってくれるんですけど、本番前は
どうしてもこんな風になっちゃうんですぅ」
たまらず、打ち明けてしまいました。こんなことを本番直前に言われたらいくら
四条さんでも呆れるんじゃ、そう思いながらでしたが、彼女の表情は不思議そうです。
「自信がない、と言うのですか?萩原雪歩」
「は、はいぃ」
「CDの時もあなたの歌には感動しましたし、少し趣きは違うでしょうが昨日の芝居にも
感銘を受けました。あれだけの実力を備えるあなたが自信を持てない、というのは
おかしくはありませんか」
「そ、そんなこと言ってもリテイクいっぱいしましたし、ドラマも監督さんに叱られ
どおしでしたし」
「先ほどのリハーサルでも、本日の曲目を歌唱といい踊りといい見事に披露していた
ではありませんか」
「リハーサルと本番は違うんですよう」
 売り言葉に買い言葉、みたいな感じになっているのは気づいていましたが、なにしろ
こうなると止まらないのです。まるで私の頭ではなく、口が勝手にいつものフレーズを
言い始めてしまうのです。
「はうぅ、私、わたしっ、やっぱりダメダメアイドルなんですぅ!せっかく優しくしてくれる
四条さんにまで迷惑かけて、こんなこと言ってるようじゃ収録だってきっと失敗
しちゃうに決まってますぅ!」
 四条さんに近寄られるのを避けていたため、私は部屋の隅に追いやられてしまって
いました。リハーサル前の騒動で壁に立てかけておいたスコップが、指の先に
触れました。
「こんなダメダメな私なんか穴掘って埋まってればいいんですぅ!」
 四条さんに背を向けてスコップを振り上げました。頭の中では『これでいいんだ』と
いう思いと『これでいいのかな』という疑問が渦巻いたまま、私の両手はスコップを
振り下ろそうと勝手に力を入れてゆきます。
 ……と。
「お待ちなさい」
 四条さんの声が──落ち着いた、それでいて厳然とした存在感をもって──響き、
私は動けなくなりました。
「待つのです。萩原雪歩」
 再び振り返ると、四条さんは今しがたの場所に立ったまま、強い視線で私を見つめて
います。
 その姿は今までの四条さんと寸分変わらず、でもそれでいてなにもかもが違う、
そんな雰囲気をまとっていました。
「……四、条、さん」
「萩原雪歩、わたくしの目を見なさい」
 そう告げる彼女の瞳が一瞬、妖しい色に輝きました。私はさっきの一言を最後に、
言葉も出せなくなってしまいます。呼吸をするのもやっとで、目の前で光と闇が明滅
します。
「萩原雪歩。汝は我に導かれし者。我が心のままに振る舞う者」
 四条さんが低い声で話し始めます。聞こえなくはありませんが、魔法の呪文でも
詠み唱えるような小さな声です。
「汝が務めは今宵の舞台。汝のなすはその舞踏、その歌謡」

11 :
 冷たくそして熱くもあるまなざしで、四条さんが私に……いえ、主人が従者に告げ
ました。
 そうなのです。私はいま理解しました。
 あの夢はきっと、夢ではなかったのです。ドラマと同じように、彼女は実際に宵闇の
住人で、私を送るときにきっと血の契約を交わしたのだと思います。
 私はそれを、単なる夢だと思い込んでいたのです。
「我とともに来よ、萩原雪歩。我とともに舞い歌い、三千世界の従僕を我等が足下に
集わせよ」
 私は彼女から目を離せません。
 だって、サーヴァントはマスターの命令に忠実であらねばならないのです。
 私は答えました。
「わかりました、マスター」
「……」
 マスターは少し不思議そうな顔をしましたが、ゆっくりと微笑んでくださいました。
「行けるのですね?」
「はい」
 確認、ではないのがわかります。命令なのです。
「ならば、まいりましょう」
「はい」
 マスターがマントを翻し、部屋を出ます。私もすぐ後を付き従いました。これからの
収録に対する不安はもう何ひとつありません。四条さん……マスターと共にであれば、
私はどこへでも征き、どんなことでも為すでしょう。
 そして、この日収録された番組は放送されるや否や視聴者に大評判となり、
音楽番組部門でこの四半期トップの瞬間視聴率を記録することとなったのです。
****
 翌朝、私はアラームの力を借りず目を覚ましました。日中はあまり得意では
ありませんが、人間の生活に溶け込むためには今までのサイクルを守らない
わけにはいきません。
 今日はマスターとの仕事もなく、通常の授業とレッスンがあるだけです。心に小さな
穴が空いているような気分ですが、仕方ありません。
 ゆっくり体を起こし、ベッドから抜け出しました。
 ふと携帯電話を見ると、着信ランプが点いていました。帰宅後はひどく疲労して
いて、すぐに寝入ってしまったので夜中の着信に気づかなかったようです。
 メールを開いてみると、四条さ……マスターからでした。
『昨夜はお疲れ様でした。本番直前には些か強い口調になってしまい、反省して
います。貴方が気にしていなければよいのですが。渡した薬の説明をし損じていた
ようなのでメールにて補足いたします』
 内容はこんな感じです。あと、この時期の虫刺されはたちが悪いと聞いているので
すぐ治療を、とも。メールを読みながら、昨日別れ際にマスターから頂いた塗り薬を
思い出しました。一見普通のかゆみ止めですが、きっと、これも……。
 とりあえずチューブから指に移し、首筋の跡に塗っておきます。洗面を済ませて、
リビングへ行くと、お母さんが朝食の支度をしていました。
「おはよう、お母さん」
 薬のせいでしょうか、かえってむず痒くなった首筋に指を当てながら、緑茶の用意を
始めようとするお母さんを制しました。
「あのねお母さん、うち、トマトジュースってある?うん、今朝はなんだかそういう気分
なんだ」
赫い契印 〜雪歩が中二病にかかったでござる〜

おわり

12 :
以上です。ありがとうございました。
ご覧のとおり中二ネタです。雪歩Pの皆様すいませんでした。
前スレ終盤の皆様楽しく読ませていただきました。
個人的には1行目で(ノ∀`) アチャーってなったけど美希のやつ面白かったです。
では今スレも元気出してまいりましょう。
投下準備している方がおられましたら、どうぞ重ねてご投稿ください。

13 :
>>7
……その気はないんだろうけど、お姫ちんも酷なことを……(遠い目)
クロスもOKとのことですが、例えばニコニコにある数多の架空戦記のように、
クロス先作品の一部のキャラが紳士化してるようなもの、というのは、やはりニコ動ならではの
ものであって、文章だと受け入れ辛いでしょうか?(一部キャラ崩壊しててもカッコいい作品、
というのがあったので)

14 :
やってみて反応を見ればいいんじゃないかな?
文章と動画の違いっていうか多分見ている層の問題なんだと思うけど本当に面白ければ
多少の悪ふざけくらいは許容するよ。俺は

15 :
>>12
ああー。この時の雪歩の行動を逐一記録に収めてしばらく経ったあとに上映会してえなー。
>>13
そこらへんをどこまで許容出来るかはもう読む人次第で変わるとしか言えないんで、とりあえず書いてみてはとしか言えないですハイ。

16 :
>>13
面白くなければ「面白くない」とはっきり言うのでそのつもりで。

17 :
こんな過疎スレで脅すなやw
と思ったけど、もともと面白くないものには面白くないと言うスレだった。

18 :
いや、「ここが気になった」とか「こうした方が良いのでは?」みたいなのはあるけど、
キッパリと「ツマンネ」ってのは滅多に無かったような。
そもそも面白くない(自分に合わない)と思ったらわざわざ感想書かないし。

19 :
前スレを美樹で調べれば……

20 :
投稿前の注意書き
エセ架空戦記風味のクロス序章。なのに今のところクロス先で登場するのはサブキャラ尽くしです。

21 :
夢は自分の深層意識の現れだと、いつだったかクラスメイトが雑誌片手に話していた。
 お姫様、アイドル、お嫁さん。この3つを自分は、女の子が幼い頃に思い描く願望の三種の神器、
みたいな感じで捉えている。
最初の一つは高貴な生まれに恵まれない限り選びようもないような肩書きだけど、後の2つは
自分の努力次第で掴みようもある。
なりようがないのだ。おとぎ話で出てくるような、ティアラや風船みたいにスカートの
膨らんだキラキラのドレスに身を包んだお姫様には。
だからこそ、少し呆気に取られてから気づいたのだ。夢なんだ、と。
 最初に気づいた時、見えたのは周囲を飛び交う蛍火の群れが醸す、天を射抜く猛々しさ、母のような
包容力を感じさせる大樹のふもとだった。
シンデレラ城のように子供の幻想の、綺麗な部分だけ切り取って城という形にしたのではない。人間の命数では
遠く及ばない年月を積み重ね、圧倒的な威容を放っている石の古城。眼下には、人種も様々な人達が暮らす
おとぎ話じみた街並み。
そこで、音無小鳥は暮らしている。
ただし、夢の中でなら叶えられると思っていたお姫様、なんてものではなくて。
城の隅っこで細々と、年代も様々な女性達と同様の、スカート丈が踝まで伸びたシックな制服を纏って働く、単なるメイドとして。
 トレーニングで酷使した喉を、室温まで戻したミネラルウォーターでゆっくりと潤す。
壁にかかった時計で時刻を確認すると、練習開始からもう二時間半は経過していた。それだけの時間を費やしても尚、覚えたての歌詞をメロディーラインに乗せるだけで手一杯で、
「曲」として物になるにはまだまだかかるだろうな、と思う。
(でも、仕方ないわよね)
今までは既存の曲での練習が中心だったから、練習量が膨大でも着実にステップアップしているという自信はあった。
けれど、この曲はまだ世の中の誰も知らない。自分が譜面を、歌詞を、そしてその全体の中のメッセージを丸ごと飲み込んで初めて完成し、ちゃんとした「歌」になっていく。
「こと・・・・・・音無君。調子はどうかね?」
「あっ・・・・・・高木さん!」
軽い数回のノックの後、ペットボトルの入ったビニール袋片手に入ってくる男性の顔を見て、それまでジッと譜面を見つめていた小鳥の顔がぱっ、と綻んだ。
 
「お忙しい中ありがとうございます!他のお仕事もあるんですから、ちょくちょく顔を出してくれなくたっていいのに・・・・・・」
「私は君の担当プロデューサーなんだよ?ステップアップしようとしている君の踏ん張りを見守らずして、書類仕事にばかりかまけてもいられないさ」
物心つかぬ内から『おじちゃん』、小学校からは『高木のおじさん』として小鳥の人生の大部分を家族同然に占めている彼は、今は彼自身が言ったように彼女のプロデューサーだ。
「しかし、この段階まで来るのには、長いようで短かったような・・・・・・君の歌が世界に広まる時が来るのかと思うと、感慨深いものだねぇ」
「・・・・・・ヤだなぁ、お年寄りみたいなこと言わないで下さいよ」
「そりゃ、最初は歌詞は一発で覚えられても譜面もロクに読めなかった君が、こうして自分のオリジナル楽曲を持つまでに来たんだよ?世の中はなるようになるものだなぁ、
とつくづく・・・・・・」
「高木さん、チョップの一発位かましてもいいですか?」
「はははは・・・・・・怖いぞ小鳥ちゃん」
声こそいつもの調子なものの、無意識に昔の呼び方を使っている辺りちょっと怖じ気を与えることは出来たらしい。ここら辺にしておくか、と思いつつ差し入れに貰ったジュースを
口に含む。
「でも、確かにおじさんの言う通りなんですよね。・・・・・・ほんの少し前まで、歌も踊りも学校通いの傍ら、友達と一緒にカラオケでやる位のものでしかなかったのに」
数ヶ月前からは想像もつかなかった。ビルの最上階にあるトレーニングルームの窓枠から見える、きゃらきゃらした笑顔で下校する制服姿の女の子達。
自分も確かにああいう輪の中でありふれた青春を謳歌する、ひとかどの存在でしかなかった。そう、母の一周忌を境に、目の前の彼からひとつの選択肢を提示されるまでは。
「おじさんの「ティンときた!」・・・っていうのが正しいかはまだわかりませんけど。でも、自分の曲を作ってもらってるってだけでもスゴいことだなぁ、と思うし」
それがそう遠くない未来に形となった時は、即ち『アイドル』音無小鳥としての自分を世に広める一歩となるということ。大衆がどれ程、この歌に心を傾けてくれるかは
わからないにしても。

22 :
「勿論、まだまだ頑張らなきゃいけないってことは、わかってるつもりです。おじさんにこんなに良くしてもらってるんですから、むしろこれからは今まで以上に気合いを
入れないと―――」
「―――『小鳥ちゃん』」
居住まいを正したような声で呼びかけられ、え。と顔を上げた時。
ツン、と節くれだった指先が彼女の額を小突いた。
「確かに、ここが君の目標に至る途中経過なのは確かだ。でも―――今この瞬間の成功も、確かに君自身の努力で勝ち得た掛け替えのないものだ。
『まだまだ』なんて言葉は抜きにして、それはちゃんと喜んでいい。先のことは、先のことだ」
―――この業界に身を投じてからの月日は、まだ決して長くはない。
でも、小鳥がオーディション等で見てきた他のアイドルやプロデューサー達は、例え合格しても顔のどこかに未来への焦りみたいなものが見えている人ばかりだった。
まだここじゃない。ゆくゆくは。そんな言葉が見え隠れしているような表情の人達。野心、というには大袈裟だけど、いつだって「トップアイドル」という今は見えない『先』の
展望を見据えている。
でも彼は、『次』とかいう言葉を滅多に口にはせず、小鳥の成功も失敗も、その都度自分のことのように分かち合ってくれる。厳しい表情も向けられることはあるけど、
それだけは変わらない。
「次もこの調子で」「次はこんな事のないように」。そういう言葉を滅多に口にはしない。
こういう柔らかさを知っているから、自分はこの人について行こう、賭けてみようと思ったんだ。
そして、そういうこの人だからここまで来て、こうして自分だけの歌を歌う段階まで来ている。
胸の前で握り締めていた拳を解き、そっと撫でてみる。決して速すぎるスピードではないけど、確かにいつも以上に高鳴っている鼓動。ジワ、と温かなさざ波が波打つような感触。
確かな歓喜と、期待感だった。
「・・・・・・本当に、私だけの曲、なんですね」
途切れ途切れ、噛みしめるようにして口に出した言葉は確かに現実だから。
―――だから、喜ぼう。こうして掴むことが出来た一歩を。
「大事に、していかなければね」
「はい。・・・・・・でも、何だか不思議ですね。これからステージも立つんだなぁ、って思うと凄くドキドキしてるけど、何だかこう、この曲を歌う時のこと考えると・・・・・・娘を
送り出すお父さんみたいな気持ちかも知れません」
「・・・・・・いや、それは正に私の役割という気もするんだが。・・・・・・おお、そうだ!」
ポン、と手を打って立ち上がった高木は、壁の時計をチラリと確認してから、
「そろそろ昼時だし、久々に何か食べにでも行かないか?勿論、私が奢るよ」
「え、ホントですか!?」
母が健在の頃は、誕生日やクリスマスといった祝い事で食事を共にしたりすることも多かった。しかしアイドルを目指すことになってからは、日々の忙しさの中でそんな余裕は露と
消えてしまって。
「まあ、給料日前だから大したものは奢ってやれないだろうが・・・・・・たるき亭のランチ辺りで手を打ってはくれないかね?」
売れっ子アイドルを何人も抱えている敏腕プロデューサーのお言葉は、果たして謙遜か本気なのか、ちょっとだけ苦笑する。でも、あそこのご飯はお袋の味、とまではいかなくとも、
スルッ、と心や舌に馴染みやすいので結構気に入っている。
しかし、その時空腹と共に脳裏を閃くものがあった。
「向こう側」で初めて目の前に出された時には一瞬、自分が『起きて』いるのかと疑いたくなった珍レシピ。
「・・・・・・マーボーカレーって知ってますか?」
「・・・・・・は?」
「あ。何でもないです、何でも。―――ところで、ステージの決め台詞とかあった方がいいと
思いますか?例えばですけど『私の歌を聴けぇ!』とか」
「……いや、単なる勘だがそれをやると何かに抵触しそうな気がするから、
やめておくことをお勧めするよ」

23 :
※注意書き追加
クロス先のキャラ(サブというか脇)に、私的解釈による多少改変要素あり。
「―――ごちそうさまでした!」
その言葉を手を合わせて呟く「今の」小鳥の目の前には、空っぽになった件の珍味ことマーボーカレーの膳が置かれている。
晴天の下、マットまで敷いてヒッソリとだが、城外れの森の川縁で食べるお昼も、キャンプかピクニック気分でまた乙な物だった。
王侯貴族や庶民に至るまで幅広く食されているというだけあり、成る程癖になる味だな、と食べる度に実感するーーーが。
(・・・・・・ここ、一体どういう世界観なんだろ)
「―――それで?その「高木のおじさん」と食事に行って、その先はどうなったのかしら?」
そんな彼女と『いつものように』相席している、蜂蜜色の髪と柔らかな美貌が特徴のその女性は、どこか期待に満ちた眼差しを投げかけながら問う。
「その先も何も。たるき亭―――あ、ご近所の定食屋さんなんですけど、そこで奢ってもらって、歌のことに関して色々話して、それでおしまい。ご期待に添えなくて残念でした。
・・・・・・ていうか、ホントにそういう人じゃないんですよ?そりゃ、プロデューサーとしての実績はすごいけどやっぱり親戚の親しいおじさんみたいな感じだし」
「あら、そうなの?・・・・・・残念ねぇ」
何故か不満げに唇を尖らせてから、彼女は自分のお昼であるざるそば(・・・)を口に運んだ。
「あなたの話を聞く限りだと、何だかその『プロデューサー』というのは白馬の王子様みたいな職業に聞こえるのだけど」
「い、いえいえそんな・・・・・・」
確かにアイドルとプロデューサーの結婚というドラマのような前例を耳にしたこともある。が、それと自分達とのことはまた別だ。
「待望だった歌い手としてのステップアップと来た日には、お次はやっぱりロマンスを期待してもいいじゃない」
「・・・お見合い進める仲人さんみたいですよ?」
ここでの小鳥は、身寄りも姓もなければ後ろ盾もない。高木という存在が身近にいる訳でもない、ただの城住みのメイドだ。
ただ、ここで過ごしている時は―――オリジナル曲発表を間近に控えた「向こう側」こそが、時折『夢』』なのではと思うこともあるけど。
「夢っていうのは願望の表れって言うじゃない。国の中のどこにいても連絡を取り合える通信機とか、遠くの出来事やお芝居まで映せる箱が普通に生活の中にあるなんて、突拍子もない
スケールの夢を見る位だもの。
それに、ちょっと位疲れた日常の中でロマンスを夢見たって罰は当たらないと思うけど」
あ、これ主人には内緒ね?とコロコロと笑う。ああ、そういえばどう見ても二十代半ばにしか見えないのに旦那さんも子供もいるとか話していたような―――と、漠然と思い出す。
不思議なものだった。天涯孤独なことは変わらないにしても、確かにアイドル活動中の『音無小鳥』と、こちらで母の顔も歌も知らない普通のメイドとして生きてきた小鳥。
その2つ分の「小鳥」が記憶にのし掛かってきたのは、丁度向こう側でアイドルを目指すことを決めた日だった気がする。
 
ある日突然異世界に飛ばされる、なんてイントロで始まる物語は、映画にしても小説にしても沢山存在している。だが、身一つで放り出されるような彼らよりも自分は遙かに幸運だ。
立ち位置もするべき仕事も、体がしっかりと覚えている。効率のいい仕事のこなし方、朝と晩のスケジュールまで。
そうして観察してみると、嫌でも気づかされるのはこの『世界』の異様さだ。
城及び城下町のそこかしこに潜む謎の料理人ワンダーシェフやいぬにん・ねこにん。更には今食したこのマーボーカレーなど、『音無小鳥』の観点からしてみればコメディリリーフ
みたいなものが散りばめられている。
「・・・・・・あっちの私も、多分そんな余裕ありませんから。アイドルの仕事にいっぱいいっぱいだし、そんな素敵な人が仮に現れたって上手くいくかどうか」
「自分の夢なんだもの。あなたが望むようにすれば、何だって出来る筈じゃない。掃除や料理に箒や火打ち石も要らないような、そんな生活出来ることなら、私だって
寝てる間だけでもしてみたいわぁ・・・・・・」
「・・・・・・いえ、箒は普通にちゃんと使われてますよ?」
何気に彼女が主婦であることを想起させる所帯じみた呟きに、その恩恵を何の疑問も持たず受けてきた小鳥としては少しばかり身を縮こませるばかりだ。
 いや、『音無小鳥』の過ごす世界の技術水準はそれ程、この世界の人からすれば羨ましいものなのだろうけど。

24 :
(↑一部打ち間違いに気づきました。正しくは『ねこにん・うさにん』でした)
「この際だから、こっちの世界でイイ人のひとりでも見つけてみたらどうかしら?小鳥ちゃんは奥手だから
そんなイメージ湧きにくいかも知れないけど・・・・・・」
「・・・・・・いや、そんなことは」
ハッキリ言うが数多くの少女漫画やハー●クインロマンスを愛読してきた小鳥の、A4ノートをびっしり埋め尽くす過激な妄想力はこんな物ではない。
「生活」だけをこうして夢の中の産物として話している分にはまだいいが、ノートの妄想をありのまま話したら絶対に引かれる、という悲しい自信はある。
「現にモテモテじゃない、ほら。騎士団にいる新顔だっていう、確か、グ―――」
「ここにいたか、黒き雛鳥よ!」
―――ああ、余計なネタフリなどしないでほしかった、出来ることなら。
何故なら一度存在を示唆したが最後、それは「彼ら」を呼ぶことと同義なのだから、ということを、最近の小鳥は頭痛と共に思い知っている。
 頭を抱えている小鳥の様子を知ってか知らずか、背後から正しく出没したその「影」は、尚も揚々と言い募る。
「どうした、道端でナイトレイドにでも出くわしたような顔をして」
「・・・・・・あの、グリッドさん?お腹が空いてるなら、生憎ですけどあの時みたいにグミは持ってませんよ?」
「人を意地汚い欠食児童のように言うな!
お前が定期集会に来ないものだから、こうして迎えに来たんろうが!」
「定期集会のことは初耳ですけど・・・・・・ていうか、何度も言いますけど、私はあなた達のチームに入るとか、そんなつもりは全っ然ありませんから!黒きなんとかって呼び方も
やめて下さい!」
・・・・・・ふと、こんな事態を作る一因となった二ヶ月程前の出来事がフィードバックする。
軽い買い物の帰り道、グーグーと腹を鳴らした飢餓状態で今にも天に召されそうな倒れた見知らぬ人と、彼らを取り囲む何体かのオタオタ(弱い部類だがモンスターという生物には
入るらしい)という場面。
多少無謀だったにせよ、その場にあった荷物をオタオタへと投げつけて、彼らを背負ってその場を離脱し、ついでに非常食用のグミをお裾分けした―――。と、そこで終わればただの
自分のことながらただの美談で済んだのだろう。
荷物をそのまま置き去りにしたことで多少侍女長からお小言は食らったものの、人としては間違いのない行動だった筈だ。ただ、不幸だったのは助けた相手が彼らだった、というだけで。
キョトンとして2人のやり取りを眺めていた女性は、やがて得心したように手をポン、と叩いて、
「・・・・・・ああそう、確か音速の奇行子のグリッド君だったかしら?」
「おぉ、見ない顔だがそこなご婦人よ、確かにその通り。見たことか小鳥!こうして漆黒の翼の高名も着々と広まっている今、栄えあるシングルナンバーの団員として名を連ねることが
出来るのは今だけなんだぞ!」
多分小鳥だけが気づいてるであろう、あてた字の違いはこの際指摘せず。
彼女は必死になって言い募る。
「あの時はたまたま上手くいって逃げられただけで、私にはそんな戦う力なんてないって言ってるでしょう!?
マトモな戦力を捜したいなら、普通に騎士団の友達に声でも掛ければいいじゃないですか!」
「ふっ、甘いな小鳥・・・!」
その無駄に艶のいい金髪をふぁさっ、とかき揚げて、グリッドは高々と胸を張る。
「俺にジョンやミリー以外の友達なんていると思うのか!」
・・・・・・うん、ここで涙してしまうのは失礼だろう。
その事実を認識してはいても、別段恥じている様子はないのだから。

25 :
「あのは正に運命だった・・・・・・そう、お前がバスケットを投げつけ、風と共に舞い上がったその長いスカートの中の神秘の聖域を目に焼き付いた瞬げふぉっ!?」
世間的にはイケメンと呼べなくもない顔で清々しいほどアレな台詞を放つその鼻面に、空になったマーボーカレーの膳が炸裂した。
「そういう発言も程々にしてくれないと、いい加減こっちも実力行使に出ますよ!?」
「もう出ているだろうが、というか何が気に食わん!?自分だけ見られるのが嫌だというのなら、俺だって快く脱いでやる!なんならこの場で!」
本当、ここで誰かがシャープネスの呪文でもかけてくれれば、多分今の自分なら目の前の男を拳一つで星にしてしまえるのに。
膳を投げ捨て得物らしい得物のない小鳥は、うっすら本気でそう考えた。
「妥協してるような口調で堂々とセクハラ宣言しないで下さい!仕舞いには訴えますよ!?」
「とにかく、その時俺は確かに予知したんだ!お前が敢然と武器を奮うメイド騎士として、俺の背中を預け戦う図がっ!」
「そこで何でそんな未来図と直結するんですか!?メイドが好きならミリーさんに着てもらえばいいじゃないですか!」
「メイドだから誘うのではない!お前だから誘っているのだ!」
・・・・・・前述の余計な一言さえなければ、多少はグッとする台詞なのかも知れないが。
(・・・・・・ホント、どうしてこの人騎士団に入ったんだろう)
目の前の彼が他2名と共に騎士団内で自称している「漆黒の翼」。空腹だったとはいえ素人の小鳥に助けられている辺り実力の程は知れているというのに、その手綱を放された
荒馬の如き言動や奇行の数々は、騎士団のみならず城内でも悪目立ちしている。どう考えても、規律の厳しい騎士団向きの性質ではなかった。
「サインでも貰ってきてよ、マニアに売れそう」など、からかい混じりに小鳥に頼んでくる者もいる位だ。
こうしてうんざりする程付き纏われても尚、総合的に言うなら決して悪い人間達じゃない、とは思うのだが―――
「という訳で、長々と話したがここまでだ!ジョンやミリーもお前の来訪を心待ちにしているぞ!」
「だから嫌ですってば!それに今日は侍女長から直々に頼まれ事が―――って!」
ふと、自分で口にしたその事実にサァーッと血の気が引いていくのを覚えた。
首を猛烈な勢いで上空へと向ける。太陽は既に中天から僅かに西へと傾きだしている。
「・・・・・・そうだ、ブレッド・ブレッドへの買い出し!あそこのパン、昼のタイムセールにはすぐ売り切れちゃうから急がないといけないのに!」
王宮御用達、とまではいかずとも、使用人や兵士達には重用されている城下で評判のパン屋。昼を済ませたら直ちに向かうように、侍女長に念を押されるまでもなく、再三自分に
言い聞かせていた、というのに。慌てて隣の女性へと向き直り、丁寧に頭を下げてから、
「ごめんなさい!急ぎの用事があったの思い出しました、お話の続きでしたらまた今度で!」
「こら待たんか小鳥!リーダーたる俺への申し開きはないのかぐふぉぁっ!?」

26 :
突如、尚も食い下がるグリッドの頭に、突如として降りかかってくるコミカルな衝撃。
「ピコハン」と呼ばれる、モンスター相手だったら牽制程度にしかならないけれど、人間一人喪心させる分には充分なその術を放った「彼女」は、小鳥に対してあっけらかんと、
「モンスターのいそうな道はなるべく避けて通るようにね?いつかみたいに、誰かがタイミングよく助けてくれる保障はないんだから」
「―――度々すいませんメリルさん!今度運よくワンダーシェフの方とか見つけられたら、美味しいデザートでも教えてもらってご馳走しますっ!」
―――スカートをたくしあげ、走りながら思う。ナースキャップみたいな大きな帽子に白い法衣に杖を携えたスタイルを毎日のように見ているのに、どうも周囲が騒ぐような『王室仕えの腕利き
法術師』というよりも、普段他愛ない話に花を咲かせている時の、お姉さんや母親みたいな、フランクな印象が先行している。
しかし、さっきの手品じみた小技だけでなく、実際に奇跡のような光を放って、人を癒し守っている姿を、小鳥は現実として目の当たりにしている。
(・・・・・・実際メリルさんがいてくれなかったら、危なかったろうなぁ)
市街地での騎士団と盗賊団の乱戦の中、右往左往する自分を保護してくれた、という多少物騒な経緯で知り合ったのが、今はこうして茶飲み友達だ。いつの間にか、おいそれとは
話すまいと思っていた向こう側の話すら、スルリと喉からこぼしてしまう程。
けれど聖職者としてか一児の母としての包容力のなせる技なのか、下手をすれば距離を置かれかねないという自覚もある『音無小鳥』の物語を、彼女は笑顔で受け入れてくれる。
あっけらかんとしたその反応に、逆に小鳥が肩すかしを食らうほど。
・・・・・・まあ、あくまで「夢」と前置きして話したからかも知れないが。
 
行く手には青空と風。向こう側では多分滅多なことでは味わえない、混じり気のない清々しさを胸いっぱいに吸い込む。
デザートを振る舞うその時には、また話すことは増えているだろうか。

27 :
「・・・あら。回収ご苦労様です」
去りゆく小鳥の背中に手を振っていたメリル・アドネードは、スッと忍者の如き静謐さで現れた「彼」の様子にさして驚くこともなく、のんびりとした挨拶を交わす。
「・・・・・・手間をかけさせてすまない、メリル殿。何が定期集会なんだか。その前にまず隊の演習を優先させろというに」
子分の連中もしっかり参加してるぞ、と呟きながら、鎧のみならず人としての印象も無骨そうなその騎士―――マルス・ウルドールはよいしょと気絶中の部下をかつぎ上げる。
「それにしても、今去っていった少女がいつも騒いでいた『黒き雛鳥』、だったか?あれ程入れあげているようだからどんなキワモ―――変わり者かと思っていたんだが、
案外普通の娘で安心した。万が一にでも勧誘に屈しても、今以上の被害を城にもたらすことはなさそうだ」
「……そういえば、面白い話を結構聞いてるわね」
騎士団内で友人同士、大なり小なり徒党を組むこと自体は、反乱のような不穏なものでない限りさして問題ではない。
が、シンプルに規律違反を犯していないにしても、彼らこと『漆黒の翼』は騎士団における鼻つまみ者の代名詞だった。
ある時はモンスターの卵を複数食用と勘違いして持ち帰って城内で孵化させ、腕試しのつもりか知らないがsラ同然の手口で在野の冒険者並びに戦士達に喧嘩を売っては
敗れ去り。傍で見ている分には愉快だが、『監督』役を任されている身としては堪ったものではないのだろう。その見慣れた眉間にうっすらとだが、決して年輪に
寄るものではない皺が刻み込まれているようだった。
「この間など、暑さで頭でもやられたのかは知らないがメイド達の夏用制服を水着とエプロンなんてはしたない物にしようなどという呼びかけを行っていた位だぞ。
ナイレン殿が殴って止めなければ、最悪腹を切らせる事態にもなりかねなかった」
「やんちゃなのも考え物ねぇ、『盗んだバイクで走り出す』っていうならまだカッコいいんだけど」
「……何の話をしてる?」
「貴方の知らない、遠い世界のお話よ」
説明のつかないことだらけなのに、やけにリアルな手触りがある遠い世界。
歌で人々に夢や希望を届ける、その為に突き進むもう一人の『彼女』がいる世界。
「……一介の侍女とやけに親しげなようだったが、メリル殿。彼女とはどういう?」
「あら、侍女と法術師が仲良くしてはいけないなんて理屈はないでしょう?」
「いや、肩書きがどうという以前だろう。主婦同士の茶飲み友達にするには、まだ年代的に」
瞬間、マルスの使い古した肩当てが、見えざる疾風によってその三分の一を削られる。すぐ傍らの木をぶっすりと刺すスターメイスに冷や汗を垂らしながら、
彼は野太いながらもちょっと震える声音で、
「・・・・・・ま、曲がりなりにも一児の母ならば、もう少し控え目に行動してもいいような気がするのだが」
「あら、母ではあっても心はいつまでも乙女のつもりよ?」
・・・・・・アルザス殿も苦労するだろうな、などとため息混じりに呟くその様に、メリルは立て続けに釘を刺す。
「あなたにだけは言われたくないわね。・・・いくら任務があるからって、たまには家に帰ったらどうかしら。健気に待ってる可愛い奥さんから、何も聞いてないとでも思ってる?」
途端、マルスはわざとらしげに咳払いしてから、改めてグリッドを担ぎ直すと、少し先にある城門目指して「では、演習があるので」とそそくさと去っていった。
―――普通の、女の子。
(……そうであってほしい、けどね)
デザートをご馳走する、そうやって『また会う時』を約束していった彼女の笑顔を、言葉を。
嬉しく思う一方で、いつからか胸のどこかが痛む、微かな感触を覚えていた。
語り合う楽しさの分だけ増す、罪悪感や後ろめたさ。それらは多分、あの娘は知る由もないだろう。知らないままであってほしい。
最初に彼女に『接触』していった時は、こんな感情に見舞われることになるなんて思ってもみなかった。
娘や妹というには気恥ずかしいけれど、それでも法術師としてではない、メリル・アドネード個人としてあの少女への好ましさが増すにつれて、思う。
このままの日常が続いてくれるように。彼女が、自分が見て知っている『ただの』小鳥であってくれるように―――。
「……あ、そういえば」
ブレッド・ブレッド。その名を聞いて思い出すのは、自分の法衣の裾を握り締めて後ろにいることの多い一人娘の顔。
その人見知り矯正の一環として―――今朝がた件のパン屋への『おつかい』を頼んでいた、ということを、彼女は今更ながらに思い出した。

28 :
(あとがき)
アイマスSS初心者な割に、のっけから伏線だらけでキャラがちゃんと動かせてるか自分でも
怪しいこの頃です。動画でいうツクールゲーとかim@s架空戦記の路線を目指してはいるけれど、
のっけからメインが一人もいないという有様が肌に合わない方もいらっしゃるかも知れませんが、
気に入らなかったらスルーして下さい。『TOW』風と銘打ってはいますが、本格的な
世界観説明は次回になるかと…。

29 :
TOWを知らない人間からしてみれば、序章とはいえ出てくるアイマスキャラが小鳥一人。
それも彼女がメインの話で完結すればいいものを色々ほかの要素がくっついて敷居が上がってるような気がしなくもないです。
いっその事簡単な世界設定をはじめに書いちゃうのがいいかもしれないです。
(小鳥の目を通して現代日本とはあれが違うこれが違う、普通のファンタジーとはあれが違うこれが違う
 ってやるだけでもだいぶ違う気がします。法術師って事は回復魔法とかあるんですよね?
 ねこにん・うさにんと言われてもピンとこないです。)
でも小鳥さんの妄想癖が異世界経験につながっている辺りは結構面白いと思いました。

30 :
注:題名にティンと来ただけで僕は友達が少ないの内容は知りません。
非クロスです。
涼も上手い事、トップアイドルになって……
私がプロデュースしたかったわね。良く考えたら、『男の娘』アイドルとして……
小鳥さんに影響されて来たのかしら。気をつけないと。
「律子お姉ちゃん!」
あれ? 何で涼が目の前に?
「さっきから呼んでるのに、話聞いてた?」
素直に考え事をしていたと謝り、話を聞き直す。
「はぁ、細かい所は端折るけど僕に友達の作り方を教えて欲しいんだ」
……はい? 割と友達多そうなイメージなんだけど、いないの?
「学校とかにはいないの? ほら涼なら人気ありそうだし」
首を横に振る涼。
「アイドルになってしばらくは忙しかったし、有名になってからは『友達』には……」
ああ、なるほど。あれ?
「でも、アイドルになる前から、」
「告白されて縁切ったけど?」
……ああ、アイドル目指す原因は元友達なわけね。
「同僚は? 876プロは仲良しなイメージ強いけど」
少し間が開いて、暗い声が返ってくる。
「二人共、男だとバレてしばらくしてから『僕たち友達だよね?』って聞いたら、暗い顔して少し間を開けて肯定されたんだ。多分、だと思われてるんだよ」
理由違うと思うけど、まぁ指摘するのは野暮よね。
「話は聞かせて貰ったよ」
肩からタオルをかけた真が部屋に入って来た。
「涼、ボク達友達、いやもっと親しくなれるよね」
「真さん……」
「ところでボクは明日オフなんだけど、良かったら」
「はい、遊びに行きましょう」
「友達、だろ? 敬語はなしにしようぜ」
「分かりました。遊びに行こう、真」
「お、おう」
真の顔が心なしか赤いのは気にしちゃ駄目よね。うん、昔の涼の話を聞かれてたとか言う必要ないし。
……ちなみに、後日改めて『友達』の作り方を聞かれた際に、「律子お姉ちゃんと小鳥さんみたいに仲の良い友達が欲しいんだ」と言った涼はミニスカメイド服を着せて放り出したわ。

31 :
>30
小話としては面白かったです。
ただ、涼のセリフがいまいち引っかかるのと、真くんのセリフ回しが男前すぎる気がw。
#涼が男バレするルートってあったっけ? 自分からばらしたら男バレとは言わない気が。

32 :
>>30
面白かったけど涼って告白されても友達だって関係にすがりそうなイメージがあるねw
まぁ、そこんところはきっと各自のイメージの問題だと思うけど。

33 :
私の方がずっと前から好きだった。それこそ真ちゃんと彼女が出会う前からずっと、ずっと。
真ちゃんのためなら何だってするつもりだった。いえ、今でもそうです。
だから、教えて下さい。どうして隣にいるのが私ではないのですか?
例えば、母性溢れる人の運命の人になったのなら私は祝福出来たのかもしれません。
彼女は私とは違うから。
あるいは動物好きな人の隣なら、諦められたかもしれません。
彼女のようにはなれないから。
真ちゃんの隣に居たのはかわいくて、守ってあげたくなるようなか弱い感じの女の子でした。
おどおどと真ちゃんの胸を触る姿、目に焼き付いて離れません。
教えて下さい。私に何が足りないのですか?
私はなんだってします。彼女は何をしてくれたのですか?
私、彼女の名前も知りません。ですが、876プロ、この言葉だけで十分です。
穴を掘って埋めて来ます。
今日は美味しいお茶を淹れる事が出来なくてすみません。
明日は話をしながらお茶でも飲みましょう。ゆっくり、ゆっくりと。
お家に来て貰えれば良いな。事務所で淹れるのより美味しいお茶をたくさん、たくさん。それこそ、好きなだけご馳走できますから。
自信はありませんがお茶菓子や手料理も振る舞いたいな。
真ちゃん、今でも大好きですよ。
(加害者Y.H氏の日記より抜粋)

34 :
>>33
ぎゃおおおぉぉぉん!
僕とばっちりだよおっ!
おっつー。
雪歩ヤンデレは基本ですなあ。

35 :
>>34
どこでそんな基本が出来たんだか。
つか、雪歩。それ同族嫌悪だから。

36 :
流石にヤンデレ基本とかないわー…
苦手な方はスルー推奨って言う前置きもたまに見かけるけど
スルーの蓄積が住人離脱に繋がってる一面も多少は考えようぜ
過去スレでクロス合流したあたりからそんな感じするわ

37 :
ヤンデレ基本は自分は受け入れないなあ。ヤンデレとして使われやすい、なら同意せんでもないけど
全年齢板だよってことを別にすれば、書き手が書きたいものを書けばいいって思ってる
で、読み手は読んだなら言いたいこと言ってもよいだろって
ただ、受け入れがたいものを書いてる書き手は自分の書いたものはそういうものだって
自覚となにか言われるかもしれないって覚悟は持っておいた方がいいし
それ読んだ読み手も言いたいこと言えっていっても、配慮欠いた好き放題言っても
いいってことじゃないよねってわかっとけってとこ
きれいごとだけどね

38 :
ジャコビニ彗星の日
おかしな時間に目が覚めたのは、きっとゆうべのニュースのせいだろう。
今日は朝からスポーツバラエティの収録があるので、今から寝なおすには少し都合が悪い。
『今年は当たり年なんですよね、85年、98年と13年周期であるんですよ』
帰り際、タクシーの中のFM放送。プロデューサーは充分休めとメールをくれたけど。
りゅう座流星群。ラジオの締めにアナウンサーが、ドラゴンの涙と呼ぶ人もいる、と言っていた。
きっとその龍も、誰かを恋しがって泣くのだろう。
ドレッサーの椅子を窓際に運んで、いったん点けた部屋の明かりをまた消して。
部屋を探したらクイズ番組の賞品で貰ったオペラグラスが見つかった。
――プロデューサー、使いませんか?私には必要のないものですから。
――そう言うなよ。せっかく自分で手に入れた賞品だろ?
品物を譲り合った時に触れた、温かい指先を思い出した。……あの時はまだ、別にどうとも思っていなかったけれど。
プロデューサーは、さすがにこの時間は寝ているだろうか。それともまた、無理をして仕事をしているのだろうか。
担当タレントの多い彼は業務連絡をメールでするのがもっぱらで、電話で声を聞くのも少なくなっていた。
忙しいのはわかるけれど、こちらの気持ちも考えて欲しい。
……って、私の気持ち?
伝えてもいない恋心なんか、考えられる筈もない。自嘲と諦観の引き連れた笑みが貼りつく。
これから流星が見えるなら、それはきっと私が流したものなのだろう。暗い夜空を見上げながら思う。
アイドルを始めて、しばらくは芽も出ないで。プロデューサーに出会って、考え方を変えるコツを教わって。
真剣な顔ばかりじゃなくて、優しい表情で自分の歌を届けることができるようになって、私はそのことに気づいた。
遠い昔の記憶のような……「おねえちゃん、やったね」とはしゃぐ幼い面もちや、そんな私たちを包み込んでいた大人の笑顔。
身勝手なのかも知れないけれど、私を見つめて笑ってくれる、そんな笑顔を私は見たいのだ。
友人の瞳、同僚の笑顔、社長の表情。そして、プロデューサーの微笑む顔を見たいから、今の私は歌を歌っているのだ。
そんな笑顔を恋しくなって、こちらが涙を流すというのも、思えばおかしな話だろう。
ふうと小さく息をついて、再び顔を上げた時。
「……あ」
光の糸が、短く一筋。涙にしては明るくて、少し不思議に思ったその時。ドレッサーの上で、携帯が震えた。
『起きないで欲しい、けど』
妙なタイトルの下に目を走らせた。
『流れ星が見えた……って書いてから、いま何時なのか思い出したんだ。でもせっかく書いたんで、送ります』
「……ぷっ」
くすくす笑いがこみ上げた。やっぱり、こんな時間に起きていたなんて。
さっきの薄く描いた弧線は、涙の跡ではないようだ。だってまるで、眼鏡の奥で細くなった彼の目にそっくりだったから。
いきなり電話を返したら驚くだろうか。
それともメール返信で『また徹夜ですか?』と怒ってみせようか。
一生懸命考えて、結局『おはようございます』から書き出すことにした。
さっきの笑い目がもう一筋くらい見えないだろうか、と空を見上げる頃には、黒かった空はほの明るい蒼になっていた。
おわり

39 :
・アイドルマスター×テイルズオブザワールド、文章型の架空戦記を目指しているつもり
・現段階では小鳥さん(時間軸的)に10代オンリー
・シリーズのサブキャラ並びに原作メインキャラの幼少(名前は直接は出てませんが)が登場
・後にアイドル総出演の予定
・苦手な方はスルー推奨

40 :

『世界樹』と呼ばれて、この地に生きている限り何処からでも見えるその樹は、『あちら側』での言葉を借りるなら正しく神様仏様イエス様の化身だった。
ただ、あの世界と違うのは単純に心の拠り所、という意味でなく、『実際に』人の営みを、生活を支えているということだ。
 数千年だか数万年だかの太古の昔から、その樹が世界の隅々へと生み出し、浸透する見えざる神秘。その力あってこそ作物は実り、土を潤わせる雨雲が生み出され、
数千年に渡ってこの世界を支えてきた。
 その神秘の名を、この世界の人々はマナと呼ぶ。
世界樹の麓近くにあり、精霊やマナを信仰する聖職者達が数多く集っているという以外は、歴史の古さ以外に特筆すべきこともない辺境の小国家。小鳥が現在住まう
ヴォルフィアナなる地は、そういう国である。
この国を含めた「世界」の名前については―――まだ直に確かめる術がないので、暫定だが小鳥的には『夢世界』なる呼称で落ち着いている。(一時は中○国だの
セ○ィーロだのといった呼称も候補に入っていた)
交通には馬車(遙か遠くの先進国では、長距離での移動用に飛空艇なる科学の最先端じみた代物を用いたりもしているらしいが)、炊事には薪や炭、小川や井戸水という
その文明レベルにはまだ納得がいく。自然との調和、とでも言えばいいのか。向こう側の記憶が混じっても、別段不便さみたいなものを感じたことはないし、最近では
種火で火を起こす動作一つにしても、万一向こうで何かあったら役立ちそう、なんて思える位だ。―――が、
「・・・・・・何で食文化だけはこんなに進化してるのかしら・・・・・・?」
当たり前のように浸透している、さっきの自分の昼食を始めとした日本のコンビニや食堂でも見かけるようなラインナップが目立っている。いつか見た
ファンタジー小説の一幕にあったような、硬い保存用の塩漬け肉みたいな代物を恒常的に食べさせられるよりはマシだが、ヨーロッパの片田舎辺りにありそうな郷土料理っぽいものを
期待するのは間違いなんだろうか。
そう考えつつも、店内に溢れかえっているメロンパンやカレーパン、コンビニエンスストアではよく見かけていた調理パンの放つ芳香につい我を忘れていると、レジから
威勢のいい声が投げかけられる。
「はい、お待ちどうさま!運が良かったね、今日はこれで完売だよ」
「いつもありがとうございます、ブレッドさん」
丁寧に頭を下げてから紙袋の中身を確認すると、小鳥は「ん?」とばかりに眉をひそめた。城での調理用に用いられるバゲットや食パンの他に、一個だけ浮き彫りになった
アップルパイが見える。
「あの、このパイ―――」
頼んでませんけど、と戸惑い混じりに声を上げた時、しかしささやかに『城の人達には内緒だよ』と前置きされ、
「いや何、君にアドバイスを貰ったあのパンへのささやかなお礼だよ。お三時にでも食べてくれ」
―――あ、と思い出してつい苦味走った記憶が走る。
(……あれはアドバイスというか……)
―――ラピ○タパンは置いてないんですか?
『記憶』が目覚めプライベートで初めて店を訪れた時、思わず零れた第一声はそれだった。別に『向こう側』でだって食べられない訳ではなかったにせよ、
ファンタジーでの食の代名詞みたいなイメージがこびりついていたせいだ。
無論、怪訝な眼差しを向けられた際に瞬時に我に返り、彼女は己の発言をなかったことにしようとした。そこは料理人としての性だったのか、心なしか獲物を狙う
ハンターの目で詰め寄ってくる店主の気迫に勝つことは出来ず、とりあえず『田舎にあった名物レシピ』ということで教えてはみた。
……よもや、基本目玉焼きをトーストに載せただけのそれが、色とりどりの調理パンの数々に並んで人気商品に昇りつめるなど思いもしなかったが。
「あれのお陰で一時は傾きかけてた店が持ち直したからね。けど、何でわざわざ『目玉焼きトースト』なんて商品名に?
原名の方が君の故郷の名前も広まるんじゃないかと思うんだが……」
「いえいえいえ!お気遣いは結構ですので」
いくらここでの小鳥が孤児とはいえ、出身地を天空の都市だなんて偽って名作を冒涜する勇気はない。それ以上の追求を拒む勢いで、彼女は店を慌てて飛び出していく。

41 :
所々苔むした部分もあるのに、汚さみたいなものは感じさせない立ち並ぶ白い家々。
牧歌的な普段着で井戸端会議に興じる主婦もいれば、物騒な鎧や仰々しいローブに身を包んだ冒険者達といった人々が混在する大通り。
「あちら」でアイドルを目指すようになってから過ごすことの多くなった、けばけばというかゴテゴテした混沌の都会とは違う、
健やかな活気が溢れ返っているようだ。
大量のパンを詰め込んだ買い物籠の重量によろめきそうになりながら、城への家路へつこうとした時だった。
シャラ、というか細い音と共に、ブーツのつま先に何かが当たる気配がした。
「・・・・・・あれ?」
銀色の鎖に通された、元はペンダント状であったのだろうそれは、何てことはない一本の鍵だった。
「だった」というのは他でもなく、元は輪っかをなしていたであろうその鎖は、途中でぷっつりと切れていたからだ。
どこかの家の鍵だろうか―――何気なく拾い上げてみたその時に、不意に脳裏を掠める一つの記憶。
さっきの店の中、小鳥の一つ前でレジで並ぶ、王冠のような金色に輝いているサラサラの後ろ頭がやけに印象的だった女の子。右手で不器用に料金を払う一方、
もう片方の手が強く胸元で「何か」を握りしめていたようなちぐはぐな仕草が、やけに引っかかっていた。
(・・・・・・考えすぎ、かも知れないけど)
でもそれは、身をもって体験した覚えのある仕草だったようにも思う。
「向こう側」では母子家庭として育った小鳥があの少女と同じ年頃だった時分、ギュッと手にして放そうとしなかったもの。万が一にでも手放してしまえばオシマイだ、みたいな
思いこみが根付いていたアイテム。
確証はない。けれど―――そっと、手のひらの上で銀色にきらめいているその小さな鍵には、ささやかだがほのかな温度の余韻が残されているような気がして。
それを知覚した途端、足は城とは逆方向目指して反転していた。
こういう時、仕方のないことなのだろうけど交番のようなシステムを持つ施設がないことが悔やまれる。
「金髪の女の子ねぇ・・・・・・それだけだとちょっと。街の中は色んな髪の子もいるから」
聞き込みに応じてくれた、買い物籠をぶら下げ井戸端会議中のマダム達は困り顔でそう返答した。まあ確かに―――と、改めて周囲を振り返る。
自分のような黒髪の者もいれば、赤に茶、時には銀髪と様々な髪色の者達で入り交じっている街並みで、ロクに顔を見ていないその女の子を捜そうなんて途方ない無茶かも知れない。
「あなたも奇特ねぇ。そんなに気になるんなら、どこかのギルドに頼んで捜してもらったら?」
「い、いえ。流石にそこまでは・・・・・・」
『ギルド』は総合的に言うならば、規模は様々なれどこの世界における『何でも屋』の代名詞だ。ある程度腕の立つ冒険者達が組み合って、大きい依頼では魔物の巣窟から
貴重な資材を採取してきたり、小さなものでは街の失せ物捜しまで引き受けてくれるという。
が―――小さなギルドでもそれなりに依頼というものは値を張るというのに、買い物を終えてすかんぴんの今の小鳥に代金を支払える余裕はない。
「でも家の鍵なんて言われると、うちも確かに心配になってくるわねぇ。ちゃんと施錠してきたかしら・・・・・・」
「確かに。最近は一層よくない話も聞くしねぇ・・・・・・ほら覚えてる?こないだ地中から発掘されたあの・・・・・・古代文明の遺跡の話」
「あら、私が聞いた話じゃ、海賊アイフリードの遺したかつての愛船らしいけど?」
「何でもいいけど。そこに怪しい集団が紛れ込んでるから、今日騎士団の小隊が確保に乗り込んだって話聞いて―――」
話が横道に逸れだしたのを察して、小鳥はそろそろとカニのそれにも似た横歩きでその場を脱した。船なのに何で地中から?という微かな好奇心がなくはなかったが、
今はそんな場合ではない。
足を棒にする程聞き込みに励んだつもりはないが、うっすらと疲労を覚えてきた。そもそも侍女長から課せられた「門限」もある。
けど、さっきのあの子の仕草を覚えていて、この鍵を見つけてしまった今の小鳥は、そのまま城へ足を向けることがどうしても出来なくなっていた。 
余計なお節介だということはわかっている。
ちゃんと帰りを待っている家族は家にいて、鍵一つなくしたところで、あの子は特別困ることなんてないのかも知れない。
(―――でも)
こうなったら、多少叱られる覚悟をしてでもギリギリまで粘ってみようか―――そう考えて、街の中を改めて見回してみた時だった。

42 :
「―――だからさお嬢ちゃん、捜し物があるなら手伝うからよ、おじさん達に任せてみちゃくんねえか?」
困ったようなそれでいて柔らかい問いかけの声が、雑踏の中不思議なまでにスルリと耳へ入り込んできて―――顔を向けてみれば、一種
異様な光景が広がっていた。
(・・・・・・かごめかごめ?)
腰を屈めた甲冑姿の騎士達が、「何か」を中心に円をなしている姿は正しくそんな感じだった。3名、という取り合わせについ先程メリル夫人の手で
撃沈されたあの男の顔が過ぎってしまうが、幸いさっきのようなことはなく皆普通の男性だった。
「あー、だからンな顔すんなって・・・・・・なあ、俺そんなに怖そうな顔してる?」
「そうですね・・・・・・怖そうというより、笑顔に油断して近づいていったらかどわかされそうな怪しいおじさんみたいな顔はしてると思いますが」
「・・・・・・単純に怖いって言われた方がまだマシなんだが」
えらい言われように若干へこんだような調子で声を上げたのは、小鳥本人は面識はないがやはり見覚えがある顔、というか有名人だった。ただし、自分に付き纏っている
ストーカー予備軍とは別の、もっとプラス方面の意味でだが。
 ナイレン・フェドロック―――やや焼けた顔と、顎に走った傷跡が粗野な印象を与えるだけに、その下に纏った騎士甲冑が妙に浮いているその男は、騎士団に数ある一個小隊の
内一つを預かっている、と聞いたことがある。
しかし、何やら小さな子をあやすみたいなその口調を聞いていると―――
(迷子でも保護しようとしてる、とか?)
いやいやそんな場合じゃない―――と頭を切り替えて、再び少女の姿を捜そうと身を翻して。
「―――隊長っ!すいませんっ、取り逃がしましたっ!」
明後日の方向から、誰かのそんな切羽詰まったような悲鳴が届いた時、騎士達の顔つきのみならず街全体の空気がビリビリと張り詰めたような気がした。
え、と声のした方に首だけ向けてみれば、ギョロギョロと異様な圧力を視線で放つ、痩せこけた体躯を黒いローブに包んだ壮年の男達がのろのろと近づいてきている。
開け放した窓が閉められ、大人が近くを遊んでいた子供達の手を強引に引っ張る。そこまで来て、ようやく呆然と立っている他なかった小鳥も状況を察し―――
(に、逃げないと!)
戦闘とは無縁の日々を生きる者にとっては起こってほしくない「有事」、それが起こる時の気配というのを、街の人達は普段城勤めの小鳥よりも敏感に嗅ぎとれる。
しかし、小鳥がその場を離脱しようとするには、少々タイミングが悪すぎた。
「・・・・・・エアスラストォッ!」
くぐもった声と共に響いた叫びが辺りを揺るがした時、小鳥の腰回りが物凄い勢いで引っ張られる。
「舌ぁ噛むなよ、しっかり掴まってろ!」
―――どこに掴まれ、というのか。
いつ小鳥の存在を察知したのかは知らないが、すでに抜剣していたナイレン氏が小鳥を脇に抱え込み、石畳を削って遅い来る風の刃から身をかわす。
「―――ま、魔術っ!?」
ギリギリで鼻先を掠めていったそれに、思わずギョッとしてしまう。この世界において精霊との契約を持ってなされるその奇跡の技を使う魔術師達は、
単純な武力以外での魔物達への防衛手段が乏しいこの小国では貴重な戦力の筈なのだが、よもやこんな往来で騒ぎを起こすなんて。
「くそっ、目ぇ離すなっつったろ!トイレでも要求されたのか!?」
「そんなベタな失敗はやらかしませんよ!・・・・・・口惜しい話ですが、どうも術だけでなく、武道にも通じていたようで・・・!」
最初に報告してきた騎士は、何か一撃を貰ったのか、首の辺りを押さえてよろめきながら駆け寄ってくる。
 通りを駆けるナイレンの、その脚力がなすスピードに思わず酔いそうになっていた時、不意に目まぐるしくスライドしていた景色がストップした。
そのまま、フワリとばかりに地へ身体を下ろされる。大きく立てかけられた、居酒屋の立看板の傍で呆然と佇む小鳥の顔を見ないまま、
「終わるまではそこから動かないようにしてくれ。多分皆鍵閉めちまってて、建物の中に入れねえからな」
畳みかけるようにそう言ってから、再び術を詠唱しようとしている魔術師の男目掛けて突進する。

43 :
「―――あの船の神秘は貴様ら如きが言いようにしていいものではないわ!身の程を知れぇ!」
「ったく、不法侵入しといて往生際が悪ぃ―――あんなガラクタのことよりも、街をしっちゃかめっちゃかにしてくれた落とし前は、
裁判でキッチリつけてもらうから覚悟しとけ!?」
「ほざけぇっ!ライトニングッ!」
一瞬の閃光と共に降り注ぐまさに「青天の霹靂」に、遠目で見ている小鳥ですら思わず背筋が震えた。
「―――すいません、この子のこともお願い出来ますか!?」
乱戦の中、部下と思しき騎士の一人が、立看板に隠れていた小鳥に声をかける。見てみれば、カタカタと小さな背を震わせる、
小さな女の子を腕に抱えている。
「なるべく被害がそちらに及ばぬよう尽力しますので、それまでお願いします!」
「えっ、あのちょっ―――!」
小鳥の返事を待たずして、騎士はその腕から下ろすと、ナイレンらの後を追って「戦場」へと舞い戻る。思わず手を伸ばして
待ったをかけようとしたが、出来なかった。
―――少女を下ろすその腕から流れる、赤黒い液体を目の当たりにした瞬間、息が詰まったように声が出なくなる。
 本人が気づいていない筈もないのに、それでも当然のように血を流したままのその腕は、今度は剣を力強く振り抜き、駆けていく。
どくどくと、心臓が早鐘のように脈打つ。オーディションに臨む時にどうしても付き物の「それ」とは、比べ物にならない速度で。
(―――大丈夫よ、落ち着いて。だって―――)
その先に続きそうになった言葉に気づいた瞬間、戦闘の中緊張しきった小鳥の脳を、一瞬の自己嫌悪が支配する。
自分が嫌になるのは、こんな時だ。
それまで当たり前で愛おしいと思ってた筈のこの日常を―――「これはどうせ夢」と、切り捨ててしまいそうになる時だ。
陰りのようなものなど何も見えなくても、この『世界』は交通事故よりも高い確率で、下手すれば明日の朝陽を拝めない危険を孕んでいる。
小鳥のみならず、人々が当たり前のように受け入れている事実。でも『音無小鳥』を、少なくとも目に見える危険も何もなかった世界を
思い出してしまった今は―――
―――自己嫌悪の海に沈みそうだった彼女の意識を呼び戻したのは、目の前を吹き抜けた金色の風だった。
「―――えっ?」
正確には、金糸のような髪が目の前を過ぎっていった。そのことに―――傍で震えていた筈の少女が、やおら立ち上がって走り出し、通りへ
飛び出していった瞬間を目の当たりにした時、サァッ、と冗談抜きで血の気が引いた。
「まっ―――待ちなさい、何やってるの!?」
耳を鋭く打つ剣戟と、呪文による総攻撃の波に怯えている暇はなかった。走り出した後に、唐突によりにもよって道のど真ん中へ座り込んだ少女を
連れ戻すべく、小鳥は飛び出していく。
「ここは危ないの!すぐに戻らないと―――」
怪我じゃすまない―――そう続けようとしたその瞬間。
見てしまった。ぐったりと、四肢を路面に横たわらせた、野良と思しき子猫。その腹が無惨にもバッサリと裂け、内蔵すら覗かせている惨状を。
反射的に、今の状況を忘れて口を押さえる。
「い、癒しの力よ・・・・・・ファーストエイド!」
幼くも鈴の鳴るような声が呪文を紡ぐと同時に、拳一つ分の天上の光を集めたような輝きが、少女の小さな掌に宿る。
そうして初めて、目の前の女の子の顔をしっかりと認識した。

44 :
黄金の月を糸にしたような、儚い印象を覚える輝く金髪。恐怖に揺れながらも、強い意志を燃やしている蒼い瞳。真ん中で
分けられた前髪から覗くその白い額には、うっすらと玉の汗が浮かんでいた。
先程まで必死になって捜し回っていた「落とし主」がいる、という感動など介在する余地はなくて。
5、6歳程度にしか見えない彼女は、しかし目の前で尽き果てようとしている命を救わんと、必死になって尽力している。
―――頭を思い切り不意打ちで叩かれたようだった。
こんな幼い少女が、いつか見た法術という癒しの奇跡を用いていることではない。
少女は、震えながらもしっかりと見据えていたのだ。
雨あられと降り注ぐ魔術の恐怖から目を逸らさずに、炎や雷がすぐ間近で舞う状況の中でこの子猫を見つけ、そして飛び出していった。
小刻みに震える身体から確かに滲む恐怖。あの奇跡のような光を注いでも、子猫の傷はほんの少ししか塞がらない。
いくら法術といっても、やはり限界はあるのか。
普通の子供であれば目を背けても当然の筈の子猫の惨状を前にして、泣きそうな表情になりながらも、
それでも彼女は術をかけることをやめなかった。
「・・・・・・お願い、治ってっ・・・・・・!」
それは神か、それともこの世界の流儀ならば世界樹への祈りだったのか。震える手から灯る光は、絶える気配を見せない。
小鳥の視線が不意に、尚も戦い続ける騎士達の方へと向かう。
深手を負っても、逃げ遅れた人を避難させる者、倒れた仲間を介抱する者、発動する術にその身を晒しながらも飛び込む者達がいた。
躊躇わずに誰かを守るなんて、人の空想か漫画の中にしかいないと思っていた人達が、目の前にいる。
 その『現実』が、凝り固まってへばりついて、自分ではどうしようもないと思い込んでいた筈の澱を静かに吹き飛ばす。
気づけば、小鳥の手は、無駄な長さを誇る自分のスカートへと伸びていた。
ビィィッ、と裂かれる布が立てる耳障りな音によるものか、少女の目線がハッとこちらを映した。
「とりあえず、これ以上血が出ると危険だわ。今はこの子を連れて移動しましょう」
付け焼き刃の応急処置に過ぎないが、裂かれた腹部分に強引に布を巻き付ける。無論、この程度じゃ気休めにも
ならないだろうけど、せめて場所を移動させないと、これ以上は子猫どころか少女の身も危険だった。
「で、でも・・・・・・!」
「その子がこれ以上、呪文に巻き込まれるようなことになったら、今度こそ死んじゃうかも知れない。それでもいいの?」
直截的にも程がある、ともすれば恫喝するような勢いだったかも知れない。しかし少女は、ハッと我に返ったよう蒼い瞳を見開いた後、
しばし逡巡する様子を見せてから静かに頷いた。
少女と子猫を慎重に抱え上げ、さっきまで身を潜めていた立て看板へ視線を移す。
路地裏にでも身を移すべきか?いや―――
その数瞬の迷いの後、彼女らの後方から最悪のタイミングで次なる災禍が襲って来た。
「どけぇ、女!」
思いもかけず近い距離から降り懸かってきた声に振り返った時、頭から爪の先まで凍り付いたようだった。決死の形相で追い立ててくる騎士達を
振り切ったのであろう魔術師の一人が、血のように赤いドロドロした光を杖の先に纏わせて、突進してきている。
標的は考えるまでもない―――逃走経路の延長線上にいる、自分達だ。
しかし、鋭く息を呑む少女の気配を悟った瞬間、ほぼ反射的に、抱き上げる腕に力がこもる。
絶対放さない。避けられなくて、倒れてしまっても、せめて意識のある内は。

45 :
「―――疾風!」
勇ましくも清涼な声が大気に融け、風となったようだった。
わずかなブレや歪みもない、定められた道筋に沿っているかのように虚空を駆けるその軌道が閃くと同時に、
くぐもった呻き声が木霊する。
数秒前まで固めていた覚悟を思い切り霧散させ、小鳥は今の状況を冷静に反芻しようとした。
(―――あ、ありのまま今起こったことをryっていやいや!)
某奇妙な冒険ネタを引き合いに出すようなコミカルな状況ではないが、小鳥本人の心情としてはこんなものだった。
ただ、こっちに呪文を浴びせようとしていた人間の身体を、わずか数本の矢が「引っ張って」いった。
見事に袖口や裾―――体を掠めることなく、衣服のみを射抜いて、建物の壁へ画鋲みたいに人を縫い止めるという妙技を
目の当たりにして、小鳥と少女は揃って口を半開きにするより他ない。
 彼女らの困惑を余所にして、技を放った『射手』は、静かな足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
「・・・・・・怪我はありませんか?」
木製の弓を携えた救いの主は、驚いたことにまだ年端も―――といっても十歳前後ほどの少年のようだった。
褐色の肌と相反する透明な水色をした長い髪を肩先辺りまで垂らしているその少年は、
年不相応な落ち着きと気品を空気に纏って歩み寄ってくる。
「発動する前に取り押さえられてたと思っていましたが……そこにいる猫は、まさか今ので?」
「あ、いいえ、この子のは―――呪文のせいには違いないんですけど、もっと前の―――」
……確実に年齢は下の筈の相手に、無意識に敬語を用いていることに疑問を持つ間もなく小鳥が対応している時。
「―――コラコラ」
闖入者は、少年だけに留まらなかった。やんわりと諌めるようなしわがれた声と共に、長い白髪を高い位置で括った、如何にも好々爺といった雰囲気の老人が、
しかし隙のない足取りで現れてくる。
「森の獲物ならいざ知らず、まだ人に向けていいと許可した覚えはないぞ。まあ、相手は相手かも知れんがな」
「・・・・・・すいません、先生。つい、先走って飛び出してしまいました」
穏やかな口調のまま、しかしキッパリと窘められ、少年が小さく頭を下げる。見れば老人もまた、肩には矢筒を、背中に弓を掲げている。
察するに、師弟関係にあるのだろうか。
「まあ、致命傷を負わせていないのは由としておくがの。―――別嬪さんの前でいいトコを見せたかったか?」
不意にニヤ、とした視線を小鳥に馳せる老人に対し、少年は眉根を寄せた真剣な表情で弓を下ろしながら、
「先生、不謹慎ですよ」
―――その言葉の後、見えざる第二撃を放った。
「家庭あるご夫人を前にして、そういった発言は失礼かと思います」
ブロークンハートという言葉の意味が、本来とは違う趣で嫌という程伝わってくるようだった。
自分の格好を、頭の中微かに残された冷静などこかが徹底検証している。とりあえず一目で家事手伝いとまでは知れる、踝まで伸びているスカート丈の地味なワンピースに、
腰周りには白いエプロン。実際の年より結構上に見られてしまう、髪を纏め上げたシニョンカバー。ついでに言うと、メイドとしての執念だったのか肘にはしっかりと買い物籠が
ぶら下がっていて、そして何より腕には小さい女の子。
 ―――ご夫人=自分。
16歳である。決してまだチョメチョメとかいう擬音を入れるような年齢ではなく、更に言うなら義務教育を終えたばかりの年齢である。
そうだそれより子猫が治療を受けられる状態にしないとああそういえば鍵のことだってあったっていうか落とし主(多分)はすぐ傍にいるし―――
「お、お姉さん、お姉さん……?」
先程呪文の嵐の只中にあっても歪まなかった女の子の顔が、泣きそうな顔でこっちを見ている。何とか笑顔で答えようとするも、悪気のない矢を心にぶっ放された
今の小鳥は、それに気づける余裕がなく。
「……?先生、彼女はどうしたんでしょう」
「……わしゃー知らんぞ、この節穴が。乙女心をズタズタにしよってからに」
―――その後、少女の必死な呼びかけの末、小鳥が意識を取り戻すのはもうしばらく先のことだった。

46 :
(あとがき)
規制に巻き込まれて、代行スレにお願いしました。投稿直後での出来事だったので、
微妙に凹んでおります(orz)
結構な長編を予定している上にアイドル達登場までは時間が掛かりそうですが、
一人でもこの拙作を楽しんで下さる方がいれば幸いです。

47 :
以上代行でした

48 :
>>46 文章もしっかりしてるし、普通のクロスSSとして見れば十分面白いんですが
(私はすんなり読めました)
アイマスのSSとして見た場合、上でも出ている意見だけどやっぱりアイマスから若小鳥さんしか出ていないというのはネックになっている気がします。
まだ序章だからというのもあるのでしょうが、じゃあその序章が終わって他のキャラが出てくるまでにどれぐらいかかるのだろうってな疑問と言うか不安が少々。
ちなみに私はTOW未プレイなもんでこんな感想になってしまうんですが、両方知っている人ならどんな感想になるのか少し気になったり。
ホントにどーでもいー事だけど、代行の人のIDが惜しい(エックスバックス……)

49 :
>>38
表現が『涙』から別の物へにシフトしていく流れが、ジワッときました。
メールの表現の中で、うっかりしてるけど何か温かいPの雰囲気もいいと思います。
あと、蛇足ですが眼鏡してるPというと咄嗟にアニマスのPが連想されます。

50 :
あーテステス。掌編投下します。

51 :
765プロの事務所にはアコースティックギターが一本だけ置いてある。
メーカーなんて全然わからない、安物なのか稀少な物なのかの判別さえつかない古ぼけたギター。
時々、双海姉妹や春香が適当にかき鳴らしたりして律子に呆れられたり怒られたりしている。
そんなギターだがしっかりと定期的なメンテナンスはされていて、
それはつまり社内にギターが弾ける人物が居るという事の証明に他ならないのだが、誰もその人物を探そうとはしない。
あるいは知っている人は知っているのかも知れないが、本人が言わないのなら別にそれで良いという事なのかもしれない。

「只今戻りました」
誰も居ない事務所に声をかけながら手探りで電気を点ける。
歌番組の収録が終わり、スタジオから戻ってきた如月千早とその担当プロデューサーである。
スタジオからそのまま直帰でも構わないようにスケジュールを組んでいたが、少しだけ予定を変えてここへ戻ってきた。
あることをするために。
彼がごく当たり前のようにギターを持って手近な椅子に座れば、千早はその正面に位置を取る。
幾度となく繰り返されたように。
話は暫く前に遡る。

52 :
千早は事務所のソファで目を覚ました。
いつもの通り自宅に帰るのを少しでも遅らせようと事務所で時間をつぶしていたが、いつの間にか眠っていたらしい。
電気はついたままで書置きも無い。大方、小鳥さんが買出しにでも出かけたのだろう。
起こしてくれなかった薄情さを責めるべきか、居眠りをするアイドル一人残して出かけた無用心さを責めるべきか。
完全には目覚めきらない頭でそんな事を考えている時、それに気づいた。
ギターの音が聞こえる。適当な音の羅列ではなく確かな旋律として。
これは何の曲だったろうか。随分前に時代劇で使われていたような覚えがある。
果たして弾いているのは誰だろうか。誘われるようにして音の出所へと歩みを進める。
元々小さな事務所だ。すぐにそこへとたどり着いた。立て付けのあまりよろしくないドアを開ける。
「プロデューサー……?」
「ありゃ、バレちゃったか」
全く予想もしていなかった人物の登場に少し思考が止まる。
「ギター、弾けたんですね」
「まあ、それなりにな」
言葉を交わす事で徐々に頭が働き始める。それと同時に、浮かんできた疑問と僅かな憤りをぶつけてみる。
「どうして言ってくれなかったんですか」
「いやだって、その道のプロとさんざ仕事してる人間前にして俺弾けるんですって言うのは中々照れくさいじゃないか」
どこまで本気か解らないが一応の理由に納得はしたものの、今まで秘密にされていた事に対する不満は残る。
どうにかして溜飲を下げようかと思案し、程なくして一つの考えが浮かんだ。
「わかりました。今ここで何か一曲弾いてください。それでこの件は不問にしてあげます」
「承知。何かリクエストは?」
「私の知らない曲をお願いします」
この一件以来、いつからか二人だけの時には小さな演奏会をするようになっていた。
歌詞の無いインストゥルメンタルの時もあれば、千早が歌う時もあり、ごく稀にプロデューサー本人が歌う時もあった。

53 :
ギターを手に取りチューニングを始める。
通常は5弦のA音から合わせる事が多いが、彼の場合はまず3弦G音を最初に合わせ、その後、3→2→1、4→5→6弦と中心から端に向けて合わせていく。詳しい説明は省くが、僅かな音程のズレを全体に分散させるという事だった。
以前、何故そうするのかとその理由を聞いてみた事があったが、その時は
「好きなギタリストがこの方法でやっててな、それからずっと真似してるんだ」
そう苦笑まじりに言っていた。
チューニングも終わり、幾つかのコードを鳴らして具合を確かめる。
僅かに長く目を閉じて、軽い深呼吸。
始まりは柔らかなアルオペジオから。
徐々にコードストロークが強くなる。
もう一度冒頭のアルペジオ。
高音弦を使った切なさの混じるフレーズ。
澄んだ音色のハーモニクスをアクセントにして。
ピックを使わずに指で奏でられる弦の響きは何処までも優しい。
そして、2分半程の短い曲が終わる。
演奏が終わった後も二人は何も喋らなかった。一言でも発してしまえば、音の余韻が消えてしまいそうに思えた。
ようやく、千早が
「なんという曲ですか」
とだけ口にする。
「……A Song For Life」
A Song For Life。人生の歌。
しばらくその言葉の意味を自分の中で反芻する。
ふと、一つの疑問が言葉となって出る。あるいは不安かもしれない。
「……いつか歌える時が来るでしょうか。私の人生と言えるような歌が」
「んー……無責任に出来るとは言えないからなぁ……ああでも」
「でも?」
「今まで生きてきた時間だけじゃなく、これから生きていく時間も含めて人生じゃないかなって。なんとなく今そう思った」
これから。
自分はまだ10代で時間はある筈なのに。そんな当たり前のことを思い出す。
ずっと余裕の無いままに、今まで考える事の無かった遠い未来に思いを馳せる。
1年後。
5年後。
10年後。
さらにその先まで。
やがて、千早は一つの願いを口にする。
「……私にギターを教えて下さい。曲も詩も自分で作る事が出来るように」

────私が、私の歌を歌えるように────

54 :
以上投下終了。
>>51にタイトル入れ忘れ。
A Song For Lifeという曲はアメリカのギタリスト、
エリック・ジョンソンのSeven Worldsというアルバムに収録されています。
ちなみに劇中でPがやってるチューニングもこの人のやり方。
まともなSS書くのはほとんど初めてみたいなものなんで、色々反省点もありますが少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
それではこれにて失礼。

55 :
綺麗な話GJ
&すみません1レスネタに使います。
アメリカンジョーク風ネタ
ある時、オフの千早に誘われ、街を歩いていたら、見知った胸の大きな女性に手を振られた。
不機嫌な顔をする千早に彼女とは仕事の関係である事を伝えると不承不承ながら頷き、胸を大きくしてくれと言われたから休憩した。
またある時、オフの真に誘われ、街を歩いていたら、見知った可愛らしい女性に手を降られた。
不機嫌な顔をする真に彼女とは仕事の関係である事を伝えると、ボクにも女らしいところがあるのだと休憩させられた。
そしてある時、オフの律子に誘われ、街を歩いていたら例の二人に手を降られた。
不機嫌な顔をする律子に彼女とは仕事の関係である事を伝えると、領収書は出すなと怒られた。

56 :
「涼って、初めて会った気がしないの」
オーディションが終わり、765プロの美希さんに妙な事を言われた。
ナンパで良く聞かされた台詞だけど……うう、言ってて悲しくなって来た。
「どういう事ですか」
少し考えて、美希さんは手を叩いた。
「765プロに似たような人がいるの。紹介するの」
そう言われて手を引かれる。
多分、律子お姉ちゃんだよね。まぁ、笑っていとこですって言えば良いよね。
「真くん、いるの?」
事務所に入るなり、真さんを呼ぶ美希さん。……真さんに似てるってこと?
美希さん、オーラとか見えそうなタイプの人だし、そう言われると嬉しいな。
真さんの王子様役は僕もときめき……いや、真さん女の子だから。何か違うから!
「どうしたの?」
真さんを見るなり頷く。
「うん、真くんを女の子にしたらこんな感じかなって娘見つけたから紹介するの」
その後、二人で愚痴を零し合った。ついでに律子お姉ちゃんに美希さんの事をお願いして来た。

57 :
レシPの来週のアイドルマスターは『絵理の貯金宣言』『真の中の人がやばい』
『翔太風邪ひいた』の3本です。
ttp://shindanmaker.com/160209
……だそうなので、書いてみました。
各1レスお借りします。んっがっぐっぐ。

58 :
「サイネリア、私、貯金、始めようと思う……?」
 その朝、いつものチャット中に絵理センパイがこう言った。
「……貯金って、あの、お金を貯める貯金、ですか?なんでまたいきなり」
 素直にそう言葉が出た。だって、あの水谷絵理だ。ぶっちゃけ金に困っている筈がない。
「ちょっと買いたいもの、あって」
「なに買おうって言うんですか。宇宙ロケットとか無人島とか?それともチョーでかい豪邸?
高級車・運転手付き、あと執事も」
「執事はちょっと魅力あり?」
「デスヨネ」
 理由は不明だがセンパイはわざわざそのために古風なブタの貯金箱を手に入れ、お金は
例えばご両親からのお駄賃だったり、お遣いのついでに社長からお釣りを貰ったりするという。
「……昭和時代の小学生デスか」
 アタシはチャットを閉じた後、そんな風につぶやいた。
 それから数ヶ月、センパイは驚くほどよくやった。上の諸条件は全て守り、たまに見せてもらう
貯金箱は着実に重くなっていった。絵理センパイが親やら事務所社長、あげく同僚やロンゲ、
アタシにまでお駄賃をせびるのはどうかとも思ったが、なにしろ当人が楽しそうなのだ。
 そしてある日センパイに呼び出されたアタシは、いつの間にやら金髪ツインテの装飾を施され、
会議テーブルの上で小さな座布団に鎮座した貯金ブタと対面することとなったのだった。
「こ……こちらはドナタで……?」
「サイネリア。似てる?」
「そらリアルアイドルのお歴々ほどスタイルに自信はないですが、いきなりブタ扱いとか」
「そういう意味じゃない、ごめん。これ、サイネリアのためだったから」
 そう言ってセンパイが、笑った。花が咲くようににっこりと。
「少し早いけど、お誕生日おめでとう、サイネリア」
「絵理はね、鈴木さん。自分でお金を貯めて、あなたにプレゼントをしたかったんですって」
 会議室の後ろで控えていたロンゲが補足した。トップアイドル・水谷絵理ではなく、ネット活動を
していたELLIEのころのようにこつこつ資金をためる行為を再現したかったのだそうだ。
「せ……センパイが?ア、アタシっ……なんかの、ために……?」
「うん。じゃ、さっそく?」
「え」
 センパイは笑顔ででかいトンカチを振り上げ、貯金ブタにためらいもなく振り下ろした。
 がっしゃーん。ド派手な音を立てて、ブタの破片と小銭が舞った。
「みょげええええっ!?アタシが、いやブタが、じゃなくてちょ、ちょ、えええっ?」
「あ、ここちょっと割れ残ってる」
 がしゃんがしゃん、がしゃしゃしゃ。
「ちょwwセンパイwww」
 ……要するに。
 要するにセンパイは誕生日プレゼントというより、『目標を決めてこつこつ貯めた貯金箱を割り砕く
快感』、を得たかったということらしい。確かに、実際に貯金箱を割る人間は多くない。もったいないし
危ないし、なぜかアタシがやっているが破片と小銭をより分けるのがなにより大変だ。
「思ったより、貯まらなかった?」
 より分けたコインを積み上げながら、嬉しそうにセンパイが言った。
「でも、お茶代くらいにはなりそう。あとで一緒に行こ、サイネリア?」
「よ、よろこんでっ!」
「まったく、破片が目にでも入ったら大変だったわよ。絵理、こんなことはもうやめてね」
「でも、次の貯金ブタももう買ってある」
「ど、どうしてっ?」
「ざっと半年したら、今度は尾崎さんの誕生日?」
「え……絵理……っ」
「こらロンゲ、さっきこんなんやめって言ってなかったか?」
「鈴木さんは黙ってなさい」
 そのあと、3人でファミレスに行ってささやかに誕生日を祝ってもらった。足りない分はロンゲが
出してくれた。
 しかたない。貸しを作るのも嫌だし、半年後にはこいつも祝ってやるか。
 そんなことを思いながら、アタシはちっちゃなケーキに刺さったロウソクの火を吹き消した。
/おわり

59 :
「雪歩、『中の人』ってなんのことか知ってる?」
「えええ!どどど、どうして私にそんなことをっ」
 ある日の午後、事務室で仕事までの時間待ちをしていた真が、顔を出した雪歩に訊ねた。
「え?いや、いま『喋ったー』見てたらフォローしてる人がそんな話を。どうかしたの?」
「あ、そ、そうなんだ。あはは、急に不思議な言葉が出たから驚いちゃった。どんな話なの?」
 真が雪歩に示した液晶画面には、ある少女漫画がアニメ化するという話題が続いていた。
「主人公の子、ボクすっごい憧れちゃってるんだよねー。で、この人が『中の人がヤバイ』って
書いて、他のフォロワーさんとケンカ始めて」
「あ、なるほど。……ふうん、これだと多分、アニメで声を当てる声優さんのことかなぁ」
「やっぱりそれでいいのか」
 小さな文字列を大雑把に追うと、その声優は最近他の芸能人と交際していることが発覚した
人物で、「好きだったのに裏切られた気分だ」「ファンなら幸せになるよう祝福するべきだ」「この
アニメ化のための話題づくりではないか」などと言い争いが始まっているところらしい。
「この人の参加してるアニメや映画、いくつか知ってるよ。でもそれとこれとは別なんじゃないかな」
「声優さんも今は音楽CD出したりライブやったりするし、私たちアイドルと活動内容は変わらない
よね。ファンの人はやっぱり、好きな人に恋人ができたらショックなんじゃないかなぁ」
「ううーん。ファンの人がいっぱい増えると嬉しいけど、考え方は色々あるんだろうな」
「仕方ない……って言ったらいけないんだろうけど、でも、私たちが会ったこともない人たちが、
私たちを見てくれているっていうこと、大切に考えなくちゃね」
 765プロでも時々『勉強会』と称してお金のことや法律、芸能人としての心構えなどをレクチャー
されることがある。特に恋愛ごとに関しては何度も出てくる『タブー』のひとつだ。
 異性との恋愛など、男性に近づくことも出来ない雪歩にとってはむしろホラーじみた話ですら
あるが、真としては釈然としない部分が大きいようだった。デビュー前は普通の女子高生だった
のだ、無理もない話かもしれない。
「雪歩は好きな人って、いる?」
「ええ?そ、そんなの無理だようっ」
「あ、そか、だよね、ゴメン」
 いきなり聞かれて面食らう。真も軽い質問のつもりだったようだ。
 実は気になる人物はいないわけではないが、……今のままではどうしようもあるまい。ふと
チャンスだと思い、彼女に聞き返してみた。
「あの……」
「うん?」
 こちらに向ける瞳に、思い切って口を開く。
「ま、真ちゃんは、いないの……?好きな人、とか」
「……っ」
 彼女の動きが止まった。目が泳いだ。頬が上気して、やがてたどたどしく両手をぱたぱたと振った。
「い、い、い……っ、あ、あははは、いないよそんな、もちろん、まさか、あはは、あは」
「……そ、そうだよね、ふふ、うふふふふ」
 一緒になってしどろもどろに笑いながら、あっ、と思った。これは……これが……恋する乙女、
というものか。
「おーい真、そろそろ時間……お、雪歩も来てたのか」
 突然ドアが開き、プロデューサーが顔を出した。これから真の営業に付き添うようだ。
「あ、おはようござ――」
「うひゃあっ?」
 雪歩の横で、真が素っ頓狂な声を上げた。
「……どうかしたのか?真」
「な、なっ、なんでもありませんプロデューサー!し、仕事ですか仕事ですよね、ボクちょっと
準備してきますっ」
「ああ、頼む……な」
 風切るごときスピードで部屋を出てゆく真を目で追いながら、プロデューサーは訊ねる。
「雪歩、なんかあったのか?いま」
「さあ」
 と、口では答えたが、雪歩は軽いめまいを覚えていた。これは、大変だ。どう見てもあからさま
ではないか。
 雪歩は今、先ほどの液晶画面で争っていた者たちの気持ちがわかったような気がした。
/おわり

60 :
「っくしっ!くしょんっ!」
 ふぁ、しまった。予感はしたけど、止めることができなかった。打ち合わせが終わって、社長の
いなくなった夕方の会議室で、時間つぶしの雑談をしていたときのこと。
「おいおい、カゼか?そんな寒そうなカッコしてっから」
「ここんとこ寒い日が多かったからねえ。オコサマにはこたえたかい」
 冬馬くんと北斗くんが、ここぞとばかりにニヤニヤ笑いを浮かべた。
「ふんだ、きっとかわいいファンの子が僕の噂でもしてるんだよ」
「くしゃみ二つは悪い噂だって言うねェ」
「二人でいい噂してくれてるのかもよ?」
 憎まれ口をきいてみるものの、出てしまったものは引っ込められない。黒井社長がいたら
同じく、自己管理がなってないと言われちゃうだろう。
 確かに、ここのところは忙しかった。もともと予定されていたツアーの仕上げ期間だったし、
狙っていたとは言え新曲のCDがバカ売れでテレビの飛び込みが3件も入ってしまったのだ。
2件は断れそうだったのに、共演者の名前を聞いて社長の目の色が変わっちゃった。
『765プロだと!?よかろう、お前たち、連中を完膚なきまでに叩き潰して来るのだ!』
 言うはやすし、だよ。あそこのアイドルはいま、流れに乗ってる。だいたいフェスティバルでも
ないのに戦って勝って来いとか、ねえ。
「とにかく、俺たちにうつさないでくれよ?」
「だな。足手まといになるんじゃないぜ、ボーヤ」
「冬馬くん北斗くん、僕のカゼがうつるんなら二人もその程度ってことなんじゃないの?」
「ざけんじゃねえ!俺が風邪ごときに負けるか」
 こう言うときにつっかかって来るのは冬馬くん、鼻で笑うのは北斗くん。
「いいか翔太、とにかく俺たちや事務所に迷惑かけるなよ。なんぴとたりとも俺たちを脅かすことは
できない。それが765プロだろうと他の事務所だろうと、風邪や雷や交通事故であろうとも!」
「冬馬くん後半おかしい。自然現象と不可抗力入ってる」
「うるせえ、そのくらいの心構えでいろって話だよ」
「冬馬くん、雷こわいの?」
「こわいわけあるかっ!」
 冬馬くんの演説はきりがないので混ぜっ返した。実際のところ、僕より二人の方が疲れている
はず。どっちも他人の前でカッコ悪いとこ見せるの嫌いだから絶対認めないだろうけど、冬馬くんは
人一倍練習してるし北斗くんは今回のツアーでは演出に参画してる。
 だから、僕は僕で二人には離れていて欲しかった。
「まあいいや。今日は夜まで仕事ないんでしょ?僕、ここで一休みしてから合流するから、二人とも
先に行っててよ」
「医者に行った方がいいんじゃないのか?」
「またまた。誰かに見られたらあらぬ噂立てられるでしょ?そもそもそんなにひどくないって」
「まーアレよ、それだけ言い返せりゃ上等でないの。冬馬、行こうぜ」
「ん、ああ」
 まあ、実際このくらいの不調は不調のうちに入らない。夏休みのツアー中なんか体温が基本的に
38度から下がらなかったし、口には出さなかったけどあの二人も似たようなものだった。鞄を引き寄せ、
持ち歩いている風邪薬を栄養ドリンクで飲み下して、1時間くらいは眠れるだろうと椅子を回した時。
「……翔太、まだいるか?」
 ノックとともに、入ってきたのは冬馬くん。
「忘れ物?」
「まあな」
 そう言いつつ、なにかを探すでもなくどかりと椅子に座り込んで、そっぽを向いたまま黙ってる。
「なんなの?僕、寝ておきたいんだけど」
「ああ、気になるか、すまねえ」
 ようやく動き始め、ポケットをまさぐる。出てきたのは小さな包み。
「やるよ。俺が使ってる漢方だ」
 それだけ言って、出て行ってしまった。
「……ぷっ」
 思わず、吹き出す。
 かわいいとこあるよね、冬馬くん。誰かに言ったらたぶん怒るから、秘密にしておくけど。
 そのあと北斗くんも栄養ドリンク買って戻ってきたから、その二つは収録後に使うことにした。
 ね。こんなんじゃ、風邪なんかひいていられないよね。
/おわり

61 :
以上でございます。突然失礼いたしました。
※追記:夕方再診断したら結果が変わってしまいました。どーしろとwww
>>54
いいお話ありがとうございます。秋の夜長にほっこりしますね。
原曲を知らないのですが、千早は歌を歌いたいがために楽器を嗜んだりすることがあるのではないか、と
考えたことがあります。シンガーソングライター・如月千早は素敵な未来のひとつだと思います。
>>55
女心は難しいっつう話でしょうかね。
とりあえずこの男、食いすぎであるw
>>56
美希はオーラとか見えない、というか見ないタイプだけれど、そういうのと無関係に人の痛いとこr違った
真実を見抜く才能を持っているのですw
涼と真は悩んでるままでも、本来の性別を発揮したあとでもいいカップルだと思いますですハイ。
ではまた。
来週もまた、見てくださいね!

62 :
>>61
ヒント:
×『プロデューサーの仕事』の関係
○『出会った二人の仕事』の関係

63 :
>>62
了解したw頭悪くってすまん
解説のお手間を取らせ申し訳ないwww

64 :
>>62
ひどい詐欺を見たwww(褒め言葉
種明かししてもらって二度楽しめたのはお得な感じです

65 :
アメリカンジョーク第二段
涼がライブで仕事中に大けがをして、病院にかつぎこまれた。そして数日間昏睡状態の後、やっと目覚めた。
「ここは…?」
「病院ですよ。意識が戻ったばかりで早速ですが、あなたにいい知らせと悪い知らせを伝えないといけないんです。まず、あなたはもう仕事ができない身体になってしまいました」
「えっ。そうですか。仕事ができない身体に…」
涼はつぶやき、そして言った。
「…で、悪い知らせの方は?」

66 :
あーテステス。トリップってこれで良いのかな?

67 :
管理人じゃない人の業務連絡ー、業務連絡ー。
まとめwikiの作者別の項目ある程度追加しました。
とりあえず過去ログ読んで
・複数作投下した方
・コテ、トリを名乗った方
のページを作ったつもりですが、確認はしたものの不安です。
・間違いを発見した
・この作品も俺が書いた
・俺のページも作ってくれ
等の時は教えて下さい。てゆーかチェックお願いします。
全ての作者諸氏のページにコメント欄付けてあります。
あの時書けなかった過去作への感想、又は規制に巻き込まれた作者様からの連絡先等にどうぞ。
トップページにも書きましたが誹謗中傷、荒らしコメントは当然NGです。
>>20様、>>55様、
コテでもトリップだけでも名乗って頂ければページ製作します。
特に>>20様は現在規制に巻き込まれているとの事なのでコメント欄を上記のようにも使えるかと。

68 :
>>67
こんばんは>>55です。一応、アメリカンジョークは読む人選ぶのでトリなしで書いてましたが先日、同一IDなのを忘れて書き込みました(苦笑)
とりあえず、アメリカンジョーク系はこちらのトリで名乗ります。
追記:ページ数に難ありなら◆G7K5eVJFx2も私なのでまとめて下さっても結構です。
当方、携帯なので編集出来ずお手数・ご迷惑おかけします。

69 :
>>67
>>20です。
とりあえず、今のところは書き込めるようにはなったのでご報告をかねて、
上記の名前で名乗らせて頂きます。
あんまり編集には詳しくない為、お手数おかけします。

70 :
>>69
トリは名前欄に#文字列ですね。
例えば#涼くん
なら私の名前欄みたいになります。

71 :
>>67
前スレ無題371並びに黒い鳥も私の作ですね。
無題371の『みき』の訂正ありがとうございました。

72 :
>>70
>>20です、ご指摘ありがとうございます。
ちょっとトリについて勘違いしていたようです(汗)、↑のような感じでいいでしょうかね?

73 :
「芯の強い娘を最後まで折ってこそ紳士だろう」
ああ、またプロデューサーが変な事を言ってます。誰か、止めて、
「それは、違う」
真ちゃん。しっかり止めてね。凄く嫌な予感がするから。
「プロデューサー、真の紳士たるもの……」
そうそう、紅茶を嗜むとかレディファーストとか……
真ちゃんとお茶会とか、憧れるなぁ、
「気の弱い娘に攻められて、否、攻めさせてこそだ!」
って、え、ええ? ……白い歯が嫌に眩しいよ、真ちゃん。真ちゃんも遠い人だったの!?
ねぇ、真ちゃん。格好良くて、王子様みたいなあなたはどこに行ったの?
私の中の真ちゃんは答えてくれない。いつもと変わらない笑顔を向けてくれるだけ。
「「雪歩!」」
二人に、呼ばれ現実に戻される。小鳥さんがちょっと羨ましい。戻らないで済むから。
「は、はい」
弱々しく口を開く。願わくば、
「「雪歩はどっちが正しいと思う?」」
どちらの箱にせよ、その中に希望が僅かでも残っていますように。
あるいは、被害者が私ではありませんように。

74 :
>>73
今週のアニマスにおいて別ベクトルで遠い人になっていた雪歩を思って、ついニヤニヤしました(笑)
あと、需要があるかわからない長編を投下しようと思います。今回で一応序章は終わりです。

75 :
―――某日。レッスン帰りに立ち寄った喫茶店にて、「音無」小鳥はクリームソーダに突き刺さったスプーンをかき回して、向かい合った席で顔を抑えながら小刻みに肩を震わせている担当プロデューサーの姿に少しばかり頬を膨らませた。
「・・・・・・そ、それでその・・・・・・どうしたんだね?」
「―――どうするもこうするも」
心なしか、ストローをくわえた唇に思いの外強い力がこもり、思わずズッ、と音を立ててしまう。
「その後は騎士の人達が手伝ってくれて、お城勤めの法術師や街の獣医の方々に連絡つけてくれましたから、子猫は何とか無事でした。今じゃさっき話したミントちゃんが引き取り手を捜してくれてるって話です」
「い、いやそうじゃなくて・・・・・・その助けてくれた男の子というのは・・・・・・」
「・・・・・・神妙な顔で謝られちゃいましたけど何か?」
事実を知り、茶化すこともなく、生真面目な態度で謝辞を告げてきたあの表情には、一層こちらをやりきれない思いをさせられた。
過去の出来事となってそれなりに日にちは経っている。が、こうして改めて具体的に口にしてしまうと、その時の感情まで鮮烈に蘇ってしまうようだった。
「しかしまあ、災難だったな君も。勇者は無理でもせめて魔法使いだったら良かったのに」
「そうですね・・・まあ、街の外を出歩かない限りは滅多にあることでもないんですけど」
そもそも、盗賊及び魔物の襲撃だったらまだしも、「魔術師」があんな街中で騒ぎを起こす、なんてことは初めてだった。
「後で騎士さんの一人がこっそり教えてくれたんですけど・・・・・・街の近くで発掘された妙な船に侵入したとかで、
引っ立ててる最中だったらしいんですよね」
実物を目にしたことはないのだが、向こう側における伝説の大海賊アイフリードが駆けていたという巨大船―――バンエルティア号。
一部では海の空をもひとっ飛び出来る神秘の船、だなんて妙な伝承もあるが、何せ海から引き揚げられたのでなく地中から発掘されたのだ。
アイフリードの所有物かどうかも怪しいなどと言われてはいたが、実際にそれを信じて潜り込むような者まで現れたとなっては多少信憑性は高まった。
「王様含めて臣下の方々も観光スポットに出来れば、位にしか考えてなかったそうなんですけど。・・・・・・ああいう人達が
現れた以上は正式にどこかの研究機関とかに調査を依頼するかも知れないって言ってました」
―――まあ、どちらにせよ今の小鳥には縁のない話だが。
「ふむ、まあその船のことはともかくとして・・・無事で何よりだよ、小鳥君」
しみじみと頷いてコーヒーを口に傾ける高木は、心なしか本当に安堵した様子すら見せていた。思わず茶化すように手を振ってから、
「―――や、やだなぁ高木さん。あくまで夢の中の話なんですよ?」
「・・・まあ、現実的に考えれば、その表現が似つかわしいんだろうな」
正直小鳥としては、話をしていて今の今まで、高木が一度も口を挟むことなく、真摯な様子で話に耳を傾けている姿が意外に思えた。
「あくまで私の主観なんだが・・・・・・眠る時に見る夢というのはえてして形がない。意味のない光景が続いたり、非現実的な幸福や残酷なものだったりする時もある」
黒い沼のようなコーヒーにミルクを注ぎ、一瞬だがそこに作られた螺旋に見入られた。白い糸のような道筋が見る見る内に溶けて、コーヒーの一部になっていく。
「でも、君の今の顔を見ながら話を聞いていると、何というか夢に聞こえないんだ。
真に迫っているというか、それこそ「もう一つの人生」を生きているみたいに感じるよ」
「あ、あははは・・・・・・」
―――現代の感覚に無理矢理当てはめると、「そう見えるのは少しマズいのでは」、と脳のちょっと
冷めた部分が警鐘を鳴らしていた。相手が鷹揚な高木だからいいようなものの、こっちでは尚更話す相手を選ばなければ。
もう一つの人生。目に見えて素晴らしかったりするものでもないけど、こっちの「音無小鳥」とは決して重ならない道を思う。
「・・・・・・しかし、そんな大分前からそのような不思議体験をしているとは思っていなかったよ。どうして急に話してくれる気になったんだい?」
「・・・・・・本当、どうしてでしょうねえ」
自分でも魔が差した、としか言いようがなかった。向こうでそれこそ九死に一生を得て、何か感じ入ることでもあったんだろうか―――
自分の心なのに、気づけばこっちでスルリとあの出来事をこぼしていたことが、信じられなかった。でも、あそこでメリルに茶飲み話として話していた時のような感覚ともかみ合わない。

76 :
「・・・・・・こっちでも、誰かに知っていてほしいって、思ったからかも知れません」
窓際席のガラスに映る自分の姿を改めて眺めてみる。あのお団子から解放された髪が、解放されて白いブラウスの背中になびいている。
スカート丈だって、こけるような心配もない膝より少し位の長さ。
とりあえず、年相応の女の子の顔。まだまだ眼鏡も帽子も必要なんてなさそうな、駆け出しアイドルの顔。
ここでは激流のように目まぐるしい業界を、ふるい落とされぬよう駆け上がろうともがくことの、その息苦しさはやはりある。
でも、少なくともいつ何時命を失うかという心配なんて無用だ。
小鳥のように、何かの「逃げ道」を作って逃避しようなんて人は誰もいなかった、それでいて自分に出来ることをしようと必死だった。
そんな場合じゃなかった筈なのに、思えばその光景が途方もなく眩しくて、尊いもののように思えたのだろうか。
けどそんな鮮やかな思い出は、この世界で起こったことじゃない。文字通りだけど、今は小鳥の頭の中にしかないものだから。
「ちゃんと覚えていたいって思ったのかも知れません。こっちで誰かに『こういうこと』があったよ、って伝えて、
私以外にもあの世界のことを知ってる人がこっちにもいてくれれば・・・・・・勝手な話だけど、ちょっと安心するような気がして」
朝起きて出社して、みっしりと課せられたトレーニングに打ち込んで、スケジュールが空いていれば学校へ行って友達と歓談して。
―――夜寝る前になるまで、あの世界のことを思い出せない日もある、ということが急に怖くなった。忘れようとして忘れるんじゃなく、それこそ波にさらわれる位の呆気なさであの場所の思い出がかき消えてしまいそうな、そんな気配が。
「茶飲み話の種でもいいから、『そういえば前言ってた夢は最近どう?』とか、そういうこと言ってくれる人がいるって思えば。
少なくとも、本当に忘れる心配はないんじゃないかって」
そして、話す相手として思い浮かんだのは誰でもなく、目の前のこの人だった。
「・・・・・・おかしいでしょうか。別にあそこで、目に見えて特別嬉しいこととか幸せなことが起こった訳でもないのに」
「良いとか悪いでカテゴライズするような問題でも、ないような気もするがね」
思いの外サラリと返答してくる彼は、角砂糖をとぷん、とコーヒーに追加してから、
ティースプーンで水面をひっかき回す。節くれ立った指先とは裏腹の、仲々優雅な仕草だった。
「無理に意味を求めなくてもいいじゃないか。少なくとも私は嬉しいよ。もう一つの君の顔っていうものを知るっていう楽しみが増えて」
「・・・・・・楽しかったですか?」
目に見えて愉快な部分があったといえば、漆黒の翼やあの少年の無自覚の言の刃の件ぐらいしかなかった気がするが。
「というか、少しだけ羨ましいという気もするよ。誰だって、別の人生を歩んでいる自分を「想像」することは出来ても、
本当に体験するなんて普通は叶わないものさ」
「・・・・・・高木さんも、憧れたことがあったんですか?そういうこと」
様々な少女達をきらめくステージへと導き支えるその役割が、パズルのピースみたいにぴったりと当てはまるような人なのに。
成功しているいっぱしの「大人」としての、完成されたイメージしか思い浮かばなくても、
そんな十代の若者のような夢想をしてみることもあるのか。
「今の仕事は勿論やり甲斐を感じてはいるが、私だって人間だ。かつては銀河烈風隊局長になりたいといったような、
誇大妄想みたいな肩書きに憧れる時分もあったさ」
気のせいだろうか。そちらの方が小鳥の見ている夢よりももっとリアリティが高い気がしたが、敢えてツッコまずにおいた。
「だから、気が向いたら『次』の話も聞かせてもらえると、私としてもいい気分転換になるしね」
―――多分、八割方本気なんだろう。おべっかを使ってこういうことを言うほど甘い人じゃないこと位はわかっているつもりだ。
でも、あんな一大事みたいなのは多分、向こう側でも早々起こりはしない。彼が待ち望む『次』に、
メイドとしての仕事以外で語れることなどあるだろうか。
窓越しに、ビルとビルの間の狭い空に浮かぶ、心細げな真昼の月を見上げる。
今日も夜が来る。小鳥が、もう一人の「自分」が城のベッドで目を覚ます時間が。

77 :
トントン、と肩を叩かれて、反射的に振り向けば頬に当たる人差し指の感触。
典型的過ぎて言葉もない。
「―――よ、お嬢ちゃん!あれから大丈夫だったか?」
―――洗濯物のシーツをいそいそと運んでいる小鳥に、日本でも久しく
お目にかかることがないレトロないたずらを仕掛けてきた当の本人は、年に似合わぬ
子供のような表情で片手を上げて挨拶してくる。
「あ、ナイレンさん!・・・・・・そ、その節はどうもお世話になりまして」
「あーいいっていいって。・・・・・・とりあえず、そんなにバリバリ仕事こなしてる位なら、
まあ大丈夫なことは大丈夫みてえだな」
心なしかホッと肩を撫で下ろす仕草は、鷹揚なようでその実真摯な感じがした。
こういう辺りが部下からの信望が強い所以なのかも知れない。
「あの、私よりもナイレンさん達の方がよっぽど大変そうに見えたんですけど・・・・・・他の騎士の方達は?」
「ああ。まああの後城に戻って治療受けたからな、みんなケロッと任務に戻ってるよ。
・・・・・・上からはこってり絞られたがな」
一瞬眉をひそめたのも束の間、「ああ・・・」とその理由に思い至った。確かに昨日の出来事は、向こうで言うなら現職刑事が連行中の
被疑者を取り逃がした、という失態でもあるのだ。
「まあ、いくつか公共物が壊れた以外に人的被害がないってことと、相手が魔術師連中だったってことで、
始末書程度で済んでるけどな」
と言う割に、キセルを加えているその顔は少々苦々しいものがある。頭の中で疑問符を浮かべていると、
隣で書類を運んでいた部下が口を挟んできた。
「本当、殿下が取りなしてくれて助かりましたよね。正直市街地で魔術師と乱戦なんて、
始末書どころじゃどっかに左遷かと―――」
「オイこら!」
騎士はその叱責及び、キョトンとした小鳥の様子に気づくと、失言でしたとばかりに口を押さえる。
(・・・電化?)
が、今の小鳥にとっては馴染みの薄い単語は、そんな風にしか変換出来ない。
そんな彼女の様子に気づいているのかいないのか、あからさまにゴホンと咳払いしてから、
「そ、そそそーだお嬢ちゃん!あのチビスケのことなんだけどよ、あれからどうした?」
「チビ・・・・・・って、あの子猫のことですか?」
持ち直していることは確認済みだが、それ以降はあの小さな法術師こと
ミント嬢―――というかメリル夫人預かりとなっているので、詳しくわからない。
「いい引き取り手が見つかるといいんですけどね・・・・・・」
「ま、悪い様にはしないと思うぜ。まあ俺が引き取ってやれるならやりたかったが・・・」
常日頃から通常の任務に加え、近々徴用される予定の軍用犬を世話しているナイレンである。彼に限らず、
何かと多忙な城勤めの人間にはプライベートで猫を飼う余裕があるとは思えない。すると、一瞬脳裏に閃くものがあった。自分よりも小さいその指先が放った矢の、玄人を思わせる程まっすぐな軌跡。
「・・・・・・あの時の男の子とかはどうなんでしょう?」
自分に対する悪気ないあの一言は置いておいて、二言三言話しただけだが幼いながらに誠実そうな人となりのような気がした。そんな気持ちでつい軽く提案してみる。
「あの時ちょっと話し込んでたみたいだし、お知り合い・・・・・・なんじゃないんですか?」
「あー、いやお知り合いっつーか・・・・・・」
気まずげに頬を掻きながら、妙に何かを言いあぐねているような彼らの様子に気づく。
明らかに、触れてほしくない部分に触れてしまったのだろうか―――その時、何気なく
脳裏を過ぎった思いつきをポロッと口にしてしまう。
「ひょっとして、ナイレン隊長のお子さんとか?」
刹那、がっくりと肩を外すそのコミカルなアクションで、かなり確信に近いものだったそれが外れだったことを悟った。
「・・・・・・あのな嬢ちゃん。俺としてもあっちにしてみても、それはちょっと笑えない想像なんだが」
「あ、す、すいません!・・・・・・年齢的にはピッタリかな、とか考えちゃって」
「・・・・・・そりゃ俺はトシもトシだが、カミさんもいた覚えもねえのにあんなデカイ子供は・・・・・・」
「・・・・・・重ね重ね申し訳ありません・・・・・・」

78 :
流石に邪推し過ぎたか、とつい萎縮して頭を下げると、隣の騎士が茶化すように、
「まあ、隊長の場合普通の家庭から縁遠い感じはありますけど、うっかり一夜の過ちでってパターンなら有り得ますよね」
「てめぇ・・・・・・回復早々また医務室送りになりたいか?」
おどけててるのか本気なのか判断のつきにくい表情で、手甲に包まれた拳をアピールする上司に部下は苦笑いを返しつつ、
「ああ、そうだ。―――小鳥ちゃん」
「はい?」
「・・・・・・今後、万が一あの少年に会うようなことがあっても、迂闊に今言ったみたいなことはおいそれと口走らない方がいいよ」
唇こそつり上がってはいたけれど、諭して聞かせるその口調と目は真剣そのものだった。
(・・・・・・ああいう言い方をするってことは、やんごとない身分の人ってことなのかな)
濁すような言い方ではあったが、実際部下の言い方や、あの時の少年の纏っていた不躾だが「血統書付き」のような
洗練された印象。突拍子もないけど、不思議と確証があるような気がした。
夕食用のハーブをぶちぶちと菜園で摘み、あらかたのノルマを終えてからうーんと腕を伸ばす。想像通りなら、猫の世話なんて
ご近所さんのように頼める相手ではなさそうだ。
 ナイレンらにも言ったことではあるが、現在子猫はメリル夫人預かりとなっている。といっても今はスケジュールが少し
空いていて家で世話を出来る時間があるだけで、いつまでも飼っている訳にもいかないそうだ。
―――飼えるものなら飼いたいんだけどね。
あの日出会った子猫の恩人こと、驚くタイミングを掴みそこねたがメリルの一人娘であるミントというあの女の子とは、鍵を
渡して以降ロクに会話もしていない。母親の後ろ姿からこちらをオドオドと見つめてくる姿は、あの鉄火場へ飛び出していった時の勢いが
嘘みたいな程いたいけというか、頼りなさげだった。
―――ごめんね、人見知りする子だから・・・・・・
拒絶、という訳ではないにしても、何度笑顔で話しかけてみてもビクついた顔で後ずさりされ、傷つかなかったといえば若干嘘になる。
が、それは置いておいて、会う都度に少しばかり伝わってくる、物言いたげな視線が少し気にかかってもいた。
(・・・聞きたいことでもあるの?って言って答えてくれる訳でもなさそうだしなぁ)
向こうも同じという家族でもないけれど、自分も小さい頃はあんな感じだった気がする。大人達に話しかけられても、それが例え
気安い笑顔であれ降りかかる言葉が異国の言葉のように思えて、萎縮して母の後ろをくっついた頃。そう思うと、無闇に
距離を詰めようとするのは酷のようにも感じた。
カゴに置かれたハーブの数々を確認する。言い渡されたノルマとしては充分だろう、そう考えてよいしょ、とばかりに屈んでいた腰を上げる。
ハーブの数々を布袋に入れ、開け口の先端を絞り上げながら見上げた空はもう、儚い赤に揺らめいている。
(・・・・・・もうおじさんに報告出来ることなんてないかもなぁ)
けど、世の中そういうものかと身を翻した瞬間―――
鳥達のさえずりと擦れ合う葉が醸す自然の音に混じって、にぁ、と。
甘く頼りなげな鳴き声が微かに、しかしこちらの耳目掛けて飛び込んでくるような存在感を以て飛び込んできた。
「え?」
と、間の抜けた呟きと同時に、ハーブの詰まった布袋を茶色い「何か」が警戒する間もなくかっさらっていく。
シタッ、と俊敏かつ華麗に地に降り立ち、布袋を抱えたその姿を見て「あ」、と思う。
今は鮮血ではなく、土埃や葉っぱにまみれたふわふわの茶色い毛並み。萎れるように折れていたあの時とは違い、ピンと三角に立った両の耳。
直感に近いものが降って湧いた。あの子だ。
「ちょっ―――!」
その細い目はこちらを見据えたかと思うと、ハーブ袋をくわえたそのままで、ぷいっ、と鮮やかに小さな身を
翻して再び茂みの向こうへ消えていく。
「・・・・・・ま、待ちなさい!」
―――魚を取られるならいざ知らず、ハーブを取られるとはどうなんだと思いながら、猫の背を追いかけて駆けだしていく。
あの時の猫かどうかとかハーブのことを抜きにしても、向かった先は魔物も潜んでいることもある森林地帯だ。城下の街角とは訳が違う。
オタオタレベルの魔物であっても、自分とは違い子猫の体躯では万が一遭遇したらひとたまりもないだろう。
 

79 :
乱雑に伸びた木々の間を文字通り潜り抜けるように、小さな背を見失わないよう追いかける。魔物の気配は窺えないが、
最近何かと走ってばかりいるな―――と、呑気に思う一方で、痛い位に伸ばした指先が、徐々に猫との距離を詰めていく。
木々の気配が段々と少なくなり、行く手に光が差す気配にも気づかぬまま、
「―――つかまえっ、たぁ!」
走りながらも一気に大股でジャンプして距離を詰めた後、一気に近づいた猫の体を強引に懐へ抱え込む。
尚暴れているが、猫及びハーブがとりあえず無事であることを確認して、胸を撫で下ろすと―――
目の前を、燃えているのか光っているのかわからない、小さな「色」が舞っていた。
「それ」が花びらと気づいて広がった視界で映るものを確認した瞬間―――
海以外にも空の色を映すものがある。その景色を見て小鳥が感じたのは正にそれだった。
向こうもこちらを覚えていたのか、一瞬意外そうな表情で、名残り惜しげになくなりそうなブルー、目にも鮮やかでありながらも
頼りなげに混ざり合う緋とピンクのグラデーションの更に下で、深く溶けそうな紫色が沈んでいる。
そして、目の前で広がっている花畑もまた、何の偶然かその複雑な空模様をはめ込んだように、どこか半端に融け合った水彩画の絵の具のような、
しかし不思議と目に心地よい彩りを放っていた。花々の輪郭に、うっすらと蛍火のような淡い光が宿っているようだった。
綺麗だと、その一言で済ませてしまうのは簡単かも知れない。ただ、一瞬猫を囲い込む両腕の力が緩まりそうになる程、その光景は鮮烈だった。
本当に唐突な思いつきだった。けれど一端思いついてしまった以上は、なかったことにする気にも出来なくて、何気なくキョロキョロと辺りを見回す。
人の気配はない。
「・・・・・・うん、よし!」
息を深く吸い込みながら、頭に手を伸ばし、纏め上げられていた髪が広がる。
「・・・・・・猫さん、どこー?」
ガサガサと、文字通り草の根を分けて捜索を開始してから、かれこれ一時間程だろうか。
家と今の場所との距離を考えると、門限もそろそろギリギリだ。父と母が心配するかも知れない。
―――来てほしかったようなほしくなかったような、「引き取り手」が名乗りを上げてきたのは今朝のことだった。
里心がつかないようにと名前をつけることも禁じられ、「猫さん」と呼び続けたあの子は、これから
よその家で暮らすようになって、きっと自分のことなんて忘れてしまうだろう。
ならせめて、お気に入りの「あの場所」へと連れて行く位はしてやりたかった。
―――いや、思い出がほしいのは、自分の方だったのだろうけど。
(猫さん、ごめんなさい)
目を離してしまったことは悔やんでも悔やみきれないが、とにかく今は捜すしかない。自分は『あそこ』まで
たどり着くまでの、魔物との遭遇を回避出来るルートを熟知しているが、あの子はそうじゃないのだから。
暗くなる空の向こう側で、夕陽を背負った城が見える。城の影が見えなくなったら、自分も帰り道を見失ってしまうけど―――と、思った時。
最早小さい尖塔のシルエットしか見えない城の向こう側に見出したのは、子猫と知り合った
あの日にお世話になった、母と『お友達』だという黒い髪の女の人の顔だった。
「・・・・・・あの人、元気かなぁ」
鍵をなくしたことに気づいた時には、本当に途方にくれた。
ミントの家は城下ではなく、城壁の外にポツンと立った一軒家だ。天文学者の父が「星を見る」為の絶好の
ポイントであるということから選んだ立地だが、「あの日」―――そんな我が家は折しも両親共に不在だった。
だからこそ、その時鍵はなくてはならない重要アイテムだった。
母曰く「対策」を施しているというだけあって、今まで家の近くで遭遇したことはないけれど、魔物だって生息している。
そんな状況下で家を開ける為の鍵を持たないということがどれ程心許ないか―――だから、あの騒動の後で
ハイ、と捜し求めていたものを手渡された時は、本当に安堵でくずおれた。
呪文から庇おうとしてくれたこともそうだったが、お礼はしっかり言わないと―――母に言い含められるまでもなく、
自分でわかっている筈なのに。
これまで何度顔を合わせても、ついつい尻込みしてしまう。

80 :
「・・・鍵を拾ってくれて、ありがとうございました」
顔を合わせている時はどう絞り出そうとしても出せなかったのに、誰も見ていない今だけはひゅるりと声を出せる。
 父と母以外の大人が、「大きい人」が自分を見ていると思うと、背筋が強ばるのはどうしてなんだろう。あの女性も、
助けてくれた騎士の人達も、皆優しい人だということはわかるのに。
―――思考が横道に逸れていたことに気づき、慌てて首を振る。今はあの子を捜さなくては―――決意も新たに、
一歩大股で踏み出した時だった。
ヒュカッ、と乾いているが鋭い音が耳を打った。
「ひゃうっ!?」
反射的に肩を戦慄かせると同時に、背中がそっくり返って地面に尻餅をついてしまう。
鈍い痛みに涙目になっていると、ガサガサと近くの茂みを分けて現れる人影があった。
「・・・・・・大丈夫かい?―――と」
父を思わせるような穏やかな声音でこちらを出迎える、矢筒を背負ったその少年は見覚えのある顔だった。
あの慌ただしい状況下の中、自分達を助けた後で騎士達と気難しげな顔で話し込んでいた―――
「君は、あの時の―――」
「・・・・・・ええと、「デンカ」さん、ですか?」
記憶の中の呼称をそのまま口にしたら、一瞬だがその表情が鋭く強ばる。が、キョトンとしたミントの表情をしばし見つめてから苦笑混じりに、
「・・・・・・騎士の人達がそう呼んでいたからかい?」
「は、はい。お名前じゃないんですか?」
「あだ名のようなものだよ。私の名前はデンカじゃない、ウッドロウだ」
手を差し出してくる少年―――ウッドロウは、思いの外強い力で座り込んでいたミントを引き上げてくれた。
「驚かせて済まなかった。・・・・・・弓の丁度修練をしていたところだったんだ」
チラ、と視線を馳せた先には、何本もの矢が突き刺さった丸い的がぶら下がった木があった。
「ところで、君はどうしてこんな所に?・・・私も言えた義理ではないが、早く帰らないとご両親が心配する」
やんわりとした口調で諫めてくる彼に対し、ミントは本来の目的を思い出して、
「あ、あの―――」
猫さんを見ませんでしたか―――と、続けようとした彼女の声は、そこで途切れた。
自分の五感が感じ取ったその違和感を、彼女は一瞬気のせいかとも思った。
けれど数秒と経たないその内に、自分の直感が正しかったことを悟る。
半ば「庭」のように知り尽くしているこの森の中で、確かに今までの記憶にない何かが遠く、何処かから木霊していた。
むずがゆいような鳥や虫の鳴き声に、微かに混じるもの。
唐突に黙り込んでしまった彼女の様子を訝しみ、ウッドロウが視線を合わせるように屈み込み、
「どうかしたのか―――」
「何か、聞こえてきます」
彼女には珍しい、断定の響きを以て断言した時、その「音」―――いや、声は、彼女の言を証明するように、一層存在感を増して耳に飛び込んでくる。
「・・・・・・魔物の声、ではなさそうだね」
同じく声を感じ取ったのか、彼もまた目を閉ざし耳に手を当てて、森に染み渡る音に神経を研ぎ澄ましているようだった。
確かに、断片的にしか伝わってこないその声は、魔物の類がいなないている、というには殺気のような物騒な気配は感じられず、けれど耳の
入り口から体の中を真っ直ぐに駆け抜けていくその気配。
迷った後、子供達は示し合わせるまでもなく、好奇心に従って足を踏み出していた。
「声」のする方へと。
その声―――歌が、当初ミントの目指していた「お気に入りの場所」への道筋から響いてくることに
気づいたのは、途中からのことだった。
それ程盛大に絞り上げられている訳でもないのに、高く空へと突き抜けるその声の主は、彩り鮮やかな花畑の中でただ一人、光景に黒点を作るように立っている。

81 :
その空と花々が織り成す夢のような絶景も、ミントが捜していた小さな友のことも、その時は頭から吹き飛んでいた。
少しばかり警戒して、自分を守るように前に立っていたウッドロウも、呆けたようなその顔が年相応にいたいけな感じに見えている。
もうすぐ全てが夜闇に沈もうとしている中で、「彼女」のシルエットは2人の視界にハッキリと映し出されていた。
お団子状態から解放され、深緑の木陰を思わせる豊かな黒髪が風になびき、幼い印象が強くなった横顔。真っ黒いメイド服の輪郭すら
夕闇に溶けることなく、どこかきらきらと小さな星の砂みたいに瞬いて見えて。
 そして何より、伴奏など一つとしてない中で、人の肉声がこんなにも素晴らしい楽器になるということを、初めて知った。
その声も、紡がれる言葉も、全てが今映っている世界の美しさを、飾ることなく素直に表している。
胸の内に、矛盾した2つの感情がせめぎ合っているようだった。眠れない夜、母が入れてくれたホットミルクを飲んだ時の凪いだような幸福感と、
父に手を連れられていった祭りに心を弾ませた高揚の感触。
 いつか使わなくなっていた、「もう少し」という言葉がまた口をついて出そうになっていた。子猫のことを惜しんだ時でさえ、
両親を困らせまいと決して使おうとしなかった言葉が。
横に並び立つ少年もまた、褐色の肌の上からはわかりにくいけれど、心なしかその横顔は上気していて、隣で握られた拳にも力がこもっているように見えた。
―――空がすっかり濃紺に塗りつぶされるまで、彼女の歌は2人をその場へ縫い止めていた。
―――何年ぶりだろうか。ステージでもカラオケボックスでもない、全くの無人の場所で、思い切り歌うなんて。
熱にうかされたように歌っている間、縁起でもない話だが走馬燈みたいに、「この世界」の思い出が鮮やかな彩りと共に、頭に映り込んでいた気がした。
それこそ、絶景への感動だけじゃなく思い出まで一緒に歌になったみたいに。
はぁ、と吸い込んだ息を吐き出し、ゆるゆると花畑に腰を下ろす。
(こっちじゃボイストレーニングもロクにしてない筈なのに)
掠れることも音程がズレることもなく、するすると声は歌を奏でてくれた。
足下でさっきの子猫が姿を消していることには一応気づいていたが、まあ問題はない。ハーブはしっかり確保している。
全き黒い夜空を眺めて思う。自分の記憶をカメラで写せたら、高木にもあの歌いだしたくなる位の美しさを、手土産に出来たかもしれないのに。
美しいもの。ストレートにそう言い表すしかないものが飛び込んできた時、躊躇うことなく歌い出した自分にも驚いたが―――
どうしてこの世界の自分は、今まで歌を「知らず」にいられたんだろう。向こうでの記憶があっても尚。一度声を張り上げたが最後、
歌は最早自分の四肢か五感のように切り離せないものになっていたのに。
世界と自分と歌しかないような、さっきまでのひと時の中で思い返すのは、「向こう」での母との思い出だった。
人目よりも、上手く歌えるかよりも、ただ母と一緒に歌うことが楽しみで、何よりの喜びだった記憶。
 アイドルでもないひとかどのメイドであっても、この世界の自分も歌えた。その事実に、遅ればせながら安堵して、喜んでいる自分に気づく。
もう、「向こう」の自分になる時は近づいている。やっぱり取り立てて「何か」が起こった訳でもなかったけれど。
(やっぱり、この世界は好きだと思います)
素晴らしいがあった訳でもないけど、歌い終えた瞬間素直にそう思えた。
闇に沈み、少しばかり彩りの失せた花畑を見回し、
「時々は使わせてもらおっかな」
きっとこうなった以上、この世界でも自分はまた歌わずにはいられないだろう。ただ、それと人に見られることとはまた別だが。
アイドルを目指している身としては関心出来ないだろうが、やっぱり人目を意識しだすと恥ずかしさは拭えない。
パンパンとスカートの花びらを払って立ち上がり、何気なく横を向いた時―――
全身を嫌な意味での電撃が駆け抜けた。

82 :
先程自分が飛び出してきた木々のすぐ傍だった。二対の、見覚えのある子供達の瞳が、これでもかという程見開かれて自分を見つめている。
見られていた、というか、聴かれていた。
歌い終わった瞬間に通りかかっただけなら、文字通りあんな別世界の人間でも眺めているような眼差しを向けたりしない。
雪の中に手を突っ込んだ時にも似た霜焼けみたいな熱が、頬のみならず耳まで駆け抜けていくのを感じる。
(―――いぃぃやぁぁぁ!?)
「あ、あのあの!違うの、これは!」
ブンブンと両手を盛大に振って、半べそ状態で必死に抗弁を試みる。視線に気づかずさっきまでの自分を思うと
盛大にケリを入れてやりたい気分に陥った。
曲がりなりにもアイドル活動中の向こう側でならまだしも、聖歌隊にも楽団にも入っていない一介のメイドがひとりきり―――しかもノリノリで
広い場所で歌っていたなんて光景は、無垢な子供らの瞳にどう映ったかと思うと恥ずかしさで゙死にそうだ。
「ま、魔が差したっていうか、今のは私であって私じゃなかったの!だからお願い、見なかったことに―――」
子供達の自分を見つめる表情にも気づく余裕などないまま、小鳥は羞恥のあまり更に言い募る。彼らとの間合いが、それこそ
自分との心の距離を表しているんじゃないかという自嘲めいた妄想にかられた時、返ってきたのは静かな声だった。
「・・・・・・見なかったことになんて、出来ません」
強い意志を以てきっぱりと告げてきた少年は、スッと歩み出て、こちらへ徐々に近づいてくる。その表情に、呆れや侮蔑の色はない。
「先日失礼なことを利いた口で今更何を、と思うかも知れません。けれど、あなたの歌は決して恥ずかしくなどない」
強い口調で告げてくる少年の顔は、それこそ小鳥がさっきまでの己を恥じるような言動を許さない、とほのめかすような真摯さを含んでいて。
たじろぐ彼女に追い打ちをかけるように、ポスン、とスカートの辺りに軽い感触があたる。
え、と思った時には、紅潮した顔でこちらを見上げる金髪の少女が、小鳥のスカートの裾を握りしめて畳みかけてくる。
「鍵、ありがとうございました!え、ええと、ぬすみぎき?とか、そういうつもりじゃなかったけど、でも」
「え、あ、あの」
人見知りを体現していた筈のあの子犬のような佇まいが消え失せたみたいに、少女はマシンガンの如き勢いで
小鳥のスカートの裾をしっかりと掴んで、畳みかけるように言葉を連ねてくる。
「あの、お歌、とってもとっても素敵で、聴いたことなくて、その、お名前」
「・・・え?」
―――聴いたことがなくて当たり前だ。この世界で歌といえば教会の賛美歌ぐらいなもので、向こう側ではありふれているとはいえ
さっきの歌はまさに「異世界の歌」なのだから。
そう思って、軽い気持ちで答えようとする。
「あの、あれは『花』、っていう歌なんだけど―――」
ブンブンと金色の髪を必死に振り乱して、否定の意を表する少女。
「―――違います!お歌のこともそうだけど、そうじゃなくて!」
その時、自分を見上げる少女の顔に、ふっと霞みたいな既視感が過ぎった。
歌っている母を、まばゆいものに触れているような気持ちで見上げた時の、幼かった自分の顔はきっとこんな風だったかも知れない。
「私、ミント・アドネードです!お姉さんのお名前、教えてください!」
さっきまでの情けなさにも似た羞恥は、その無垢な叫びでたちまち遠のいていく。だが、一拍置いた後に、また頬は熱くなる。
こちらを見つめる2人の目が、混じり気なしの輝きでこちらを見つめる姿に、狼狽しつつも確かに喜んでいる自分がいて、そのことに呆れてしまう。
面映ゆさの中で、一つ高木に報告出来ることが増えそうだと、思考の片隅でそんなことを思った。
―――それが、ほんのひと時の幸福な日々の始まりにして、やがて訪れる「喪失」へと踏み出していく一歩だなどとその時は知らずに。
小鳥は、笑って自分の名を告げた。

83 :

―――積み上がったA4プリントの山をぼんやりと視認した時、ぼんやりとした思考の中で真っ先に思ったのは口元に
よだれでも垂れていないか、という懸案だった。
口で言うだけなら漫画みたいだけど、実際にやらかしてしまって手書き書類のインクを滲ませた時は、後輩事務員にしてアイドル候補生たる
少女の柳眉をこれでもかという位つり上がらせてしまったから。
何か、長い夢でも見ていたのだろうか。内容はそれこそ、霞がかったみたいに思い出せないけれど。
ポーチから取り出したコンパクトで、久々の徹夜明けで顔がどのような有様になっているかを恐る恐るチェックする。
肩で切り揃えた髪には多少の寝癖はついているが、手櫛でまだ何とかなるだろう。頭のヘアバンドにインカム、ついでに口元の黒子までもを
チェックしてから、ホッとため息をつく。とりあえず、人前に出られないような惨状ではない。
壁にかけられた時計を確認すると、もう間もなく皆の出社時刻だった。
「・・・・・・顔でも洗って、お化粧直ししとかないとね。・・・・・・あっ!亜美ちゃん達ったら、お菓子は家に持ち帰るように言ったのに・・・」
「未完の幼きビジュアルクイーン」の指定席となった来客用ソファ前のテーブルで、まだ中身のあるベックリコの
派手派手しい紙袋がが放られているのを見て顔をしかめる。
そして、ガムテ張りされた「765」の社名が影を作っている窓をガラガラと開け、朝の空気を思い切り吸い込む。いつから、と
決めた訳でもないけれど、徹夜明けにおける恒例の作業だった。
「・・・・・・さて、今日も一日頑張りますか」
あと少し経てば、今はだだっ広く錯覚してしまうオフィス内も、息つく間もない程騒がしくなるだろう。
 シャワー代わりに朝陽を浴びて、ひとしきりリフレッシュした後―――
透明度の低いガラスの向こうに、ゆら、とたなびく長い髪が見えた気がした。
「―――え?」
反射的に瞼を擦ってガラスを見直した時、当たり前だがそこには髪を短く切り揃えた自分の姿しか映ってはいない。「音無小鳥」の姿しか。
(・・・・・・伸ばさなくなって、どれ位経ったっけ)
アイドルを断念してからずっと、今の髪型を通していることに深い意味はない、と思う。ただ、ここへの就職を決意した時に、
『舞台裏』の人間にとっては長い髪よりこっちの方が融通が利く、と思っただけで―――
 ぼんやりとそんな風に考えていた時、デスクに置いた自分の携帯が軽やかに着信音をでる。
慌てて手に取ったそれの着信画面には、自分のかつてのプロデューサーにして現上司の名前。
「―――あ、もしもし社長ですか?珍しいですねこんな朝早くに―――」
そうして話し込んでいる内に、さっきまでのぼんやりとした逡巡は消え去り、たちまち事務員としての日常を取り戻していく。
ただ、差し込んでくる金色の朝陽が、不意に「あの子」の髪のようだ―――などと、一瞬過ぎった感想も、忙しさの中で存在ごと消えていき。
―――嘘のように突拍子ない光と緑の世界を。確かにあった筈のもう一つの思い出を、忘れたことすら忘れたまま、彼女は今日もアイドル達を笑顔で出迎える。
再び始まりの日がやって来る、その日まで。
(あとがき)
投下終了、レスの都合によりあとがきという名の言い訳も投稿させて頂きます。
一応次回からは時間軸が現在に戻りアイドル達も活躍する予定ですが、様々な方が言うようにテイルズサイドを知ってる人にとって
どういう感じになっているのかが気になってもいます。
TOWというお祭りの特性上、シリーズキャラも越境させて登場させてしまってますが、今のところテイルズファンの読者様は
いらっしゃらないようで、動かし方がこれでいいのかと試行錯誤する今日この頃でもあり……いっそ物は試しと別の投稿所とかで
挑戦してみようかと、魔が差した考えに襲われたりもしています。

84 :
・アイドルマスター×テイルズオブザワールド、文章型の架空戦記を目指しているつもり
・現段階では小鳥さん(時間軸的)に10代オンリー
・シリーズのサブキャラ並びに原作メインキャラの幼少(名前は直接は出てませんが)が登場
・後にアイドル総出演の予定
・苦手な方はスルー推奨
↑という注意書い兼前書きをうっかり忘れてしまっていました。
気分を害されてしまった方はすいません……

85 :
>>55 綺麗と言ってもらえると嬉しいです。
無駄の無い文章を目指したつもりですが、ただの描写不足になってやしないかと不安だったもので。
>>58 笑顔で貯金箱を割る絵理を想像して和んだ。
半年後は尾崎さんが自分を模した貯金箱が割られるのを見てまた複雑な顔をするんだろーなー。
>>59 またビミョーに時事ネタですねー。
4月1日に結婚しましたとツイートしたあずささんの中の人を思い出して思わず目頭が熱く……
それにしてもこの二人解りやす過ぎである。
>>60 何気にジュピター物はこのスレで初めてかしら。
そらあんな二の腕と腹丸出しの衣装なら体調も崩すわな。(ナイトメアブラッドから目を逸らしながら)
そして多分冬馬は風邪ひかないような気がする。
>>61 感想ありがとうございます。
意地の悪い質問ですが、千早に対して「曲も歌詞も他人が作った物を自分の歌と言えるの?」
と言った時にどうするだろうかというのが結構前から頭の中にありまして……
それとは別に、歌を歌っていくのならいずれ自分で作りたいと言う欲求は出てくるだろうなとか
そういったものとタイトルとか曲の雰囲気とかと色々混ざり合って出来たのがコレです。
ちなみに原曲ttp://www.youtube.com/watch?v=cr-pNH9iaEA
>>83 少し上から目線になってしまうかもしれませんが、歌のシーンが出てきて、ああ、ようやくアイマスらしくなってきたなぁ。と思いました。
序章終わりとの事なので、これから誰が出てくるのかなと気にはなっている身としては続けて欲しいですね。
うまく感想を書けるかどうかはちと自信無いのですが。
なにぶんテイルズシリーズはPSで出た3つしかプレイしてないし、随分と昔で記憶もあやふやなもので。
そしてなんとなく浮かんだワンシーン。
小鳥「ホ、ホラ、私ユニコーンには会えないから……」
一同「……………………」
小鳥「スイマセン嘘つきました……」
ここから業務連絡ー。
>>73まで保管庫に収録しました。作者別のページも作成。
ところで、保管庫ってどのぐらいのペースで収録すればいいんだろう……

86 :
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
SS予定は無いのでしょうか?

87 :
どこの誤爆か知らないけどエーベルージュって懐かしいなww
アンヘル族なアイドルとか面白そう。ちょうど金髪に翠眼てのもいるし。

88 :
>>86は誤爆っつーか、SS関連のスレに時々現れるマルチ(notロボ)だかスクリプトなのよ
以前と少し内容変わってるみたいだけど。

89 :
それはそれはw
変わったこと考える人もいるみたいですね。しかも私が知ってる作品が大半ってことは同年代なのかな?
もうちょっとまともな事に労力を回せばいいのにとか思うんですが

90 :
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/101-200

91 :
つまり初代Pの葬式から始まるアイマス2……うんダメだこりゃ

92 :
「私は愛が人をとは思いませんよ。だって、愛と言うのは誰かを心から信じ、許すことです。違いますか?」
絵理ちゃんのアガリ性対策になればと事務所の一角を借りてディスカッションをしている。
お題はサイネリアさんから直前にメールして貰った。今のところ、ディスカッションの勝率は半々。地力の差を考えるとせめて七割は勝って欲しいところだけど。
「その点は肯定?」
その言葉を受け、言葉を返す。
「それならば、簡単です。人をのは『愛』ではなく、『独占欲』または『嫉妬心』です。共にあることが多いために間違えられますが、『愛』とその二つは必ずしも一つではありません。いかがですか?」
手加減はしない。練習にならないから。感情はなしに理論をぶつける。
「涼さんは、一つ失念してる?」
頷き、先を促す。
「確かにその定義ならば『愛』は『他人』を事はない?
だけど、『人』は『他人』だけではない?」
しまったと顔に出してしまった。ディスカッションではリアクションも理論を正しく見せるポイントだ。
歌を上手く聴かせるためのダンスやヴィジュアルのように。
「そう、『愛』はその想いが故に『自分』を?
あの人が幸せなら、と『自己』を消し、必要ならと与え『財産』を失う?
残るのは空っぽの『自分』。それは『愛』に殺されていると言える?」
二の句が告げない。
「……絵理の勝ちね」
ジャッジ役の尾崎さんが判定を下す。
「絵理は涼の意見を肯定した上で別の形の『愛は人を』事を提示したのに対し、涼は否定出来なかった」
贔屓なしで絵理ちゃんの勝ちだ。僕相手なら意見を交わせる程度には慣れて来たかな。
「今度は愛辺りに相手をお願いしようかしら」
「愛ちゃん、ディスカッション苦手そうですけど?」
「強い弱いじゃなくて、感情相手に冷静なまま意見出来るようになって欲しいのよ……まだ遠いけどね」
なるほど、ディスカッションのルールを理解している僕じゃ駄目な訳か。

93 :
そういえば、今日は事務所が静かだと思ったら、愛ちゃんがいなかったのか。
愛ちゃんと絵理ちゃん……ディスカッションになるのかな?
絵理ちゃんと帰っていると絵理ちゃんの携帯が鳴った。
微かに聞こえた『先輩』と言う言葉から、相手がサイネリアさんであることが分かる。
絵理ちゃんは話を切り上げると、こちらを向いて言葉を発した。
「『愛』は、」
ディスカッションの反省をしながら帰るのは通例で絵理ちゃんが言えなかった事を聞く事が多い。
脈絡はないがそうなのかと思い耳を傾けた。
「『狂気』に変わる? 与え続けられる程人は強くない?」
肯定する必要さえなかったのか。落ち着けば変わった『ソレ』を『愛』と呼ぶかで勝負出きるけど。
「だから、答えて? 涼さんが好きなのは『愛』? それとも私?」
決定的なズレを感じた。そして感じた後では、間に合わない事にも気づいた。
上着をまくり、白い肌を晒した絵理ちゃん。そこには痛々しい痣があった。
「どうしたの?」
流れから愛ちゃんが原因なのは分かる。
だけど、その現実から逃げてる、どうしろと言うのだ?
二人が僕の事を好きだった、それは理解出来た。
なぜ、僕を取り合うのか、分からない。僕より格好いい人は沢山いるのに。
「涼さんを返してと、言われた? 少し家でお仕置きしてる。
愛が大切なら、来る?」
事態の把握に失敗した。状況が理解仕切れない。
「愛は狂気へ、それから凶器にもなる?
想いが強いから」
抱き付かれ、耳元で囁かれる。
「私の想いも負けてない?」
そう言った絵理ちゃんの瞳は、確かに狂気に染まっていた。

94 :
アニメ11話、春香と千早が入ったスーパーでベン・トーの連中と遭遇してたらどうだろうとか言ってみる。
以下妄想。
「そうだ、お弁当コーナー行こうよ」
「え? でももう閉店間際よ?」
「だからだよ。お弁当は残しておけないから売れ残ったのは半額になるの。お買い得だよ」
「そう。じゃあ行ってみましょうか」
────そうして向かったお弁当コーナーは、戦場でした────
「え……何コレ……?」
「春香……流石にこれは……」
「ああ、お嬢ちゃん達は知らないのかい?」
「貴方は……」
「なぁに。名も無い狼の一人さ」
「狼……?」
────そうして、私達は『狼』と呼ばれる人たちのことを知ったのです────
春香は後に述懐する。
────あの時、私が千早ちゃんの様子に気づいていればあんな事にはならなかったのかもしれません────
そんな事があってから徐々に千早ちゃんの様子は変わっていきました。
仕事やレッスンは真面目にしてるし、何処がおかしいという訳でもありません。
ただ時々、闘気みたいなもの(自分で言っててもマンガみたいですが)を滲ませるようになりました。
そしてある日私は見てしまったのです。千早ちゃんがスーパーのビニール袋から半額シールの張られたお弁当を取り出す所を。
「千早ちゃん……それ……」
「ああ春香。バレちゃったわね」
「私達アイドルなんだよ!?」
「大丈夫よ。仕事の無い時しか行っていないから」
「ケガでもしたら」
「だから手じゃなく足を使うようにしているわ」
「ちゃんとお給料もらってるじゃない」
「春香。これは私のプライドの問題よ。ただの自己満足でしかないの」
────駄目だこいつ。早く何とかしないと────
ギャグ作品だと、千早って真面目さゆえに間違った方向にも全力疾走するよなーとか思ってたら浮かんできた。
以下さらに番外っぽいもの。
「まさか千早が狼になるとは思わなかったぞ」
「噂を聞いてると二つ名が付くのも時間の問題みたいだしね。それより響は大丈夫? 結構久しぶりみたいだけど」
「帰りを待ってるハム蔵達の事を思えばなんくるないさー。そういう真も怪我の心配とか大丈夫か? 格闘技は空手の黒帯取った所で止めたって聞いてるぞ」
「別に平気だよ。『空手は』初段っていうだけだから」
「成程。よーしそれじゃあ……」
「「行くとしますか」」

95 :
>>92
「うわぁ〜ん!! 絵理さん、えぇぇぇりぃぃぃぃさぁぁぁぁんん!!!」
がっくんがっくんがっくんがっくん
「愛ちゃんやめて! 絵理ちゃんホントに死んじゃうから!」
・・・タイトルからこんなんしか思い浮かばんかった

96 :
 暗い舞台に真上から、まばゆい光が降り注いだ。
 ざわ、とどよめく客席に、あれ誰だ、とか、えっまさか、みたいなひそひそ声が聞こえてくる。まずは静かに、お辞儀とともに一言。
「本日は星井美希のコンサートにお越しくださり、ありがとうございます」
 私の声には特徴がある。知ってる人なら間違えないくらい。案の定、気づいた人がいた。
「伊織ちゃん!」
「いーおりーん!」
 舞台上の正体を知った会場の空気が一変する。そこからゆっくり、十まで数えた。
 そろそろいいかなとあたりをつけて、マイクを構えて息を吸う。ゆっくりとした動きで指を開いた右手を、真上に向ける。
「さぁてっ!」
 しん。私の一喝で、観客が息を潜めた。
「美希のために来てくださったファンのみんなに……」
 五本指を右端の観客に移動。そこから呼吸に合わせて、反対端のファンまで順繰りにたぐりよせてゆく。本日お越しのお歴々、ってわけ。
「大事なお知らせがあります。一部音響設備の調整のため、ライブの開演を30分遅らせることになったの」
 ええっ、と今度はがっかりしたような声。
 本当は、機材ではない。トラブっていたのは、美希本人だった。
 ──39度超えてるじゃない!どうしてこんなになるまで黙ってるのよ!
 ──だって、ファンのみんながぁ。
 ──アンタが倒れちゃったらそのファンはもっとショックでしょうがっ。
 ──だって、だってー。
 あの時のMCが効いたらしい。コンサート直後からオファーが殺到し、美希は今日までほぼ休まず仕事をしていた。
 プロデューサーはずいぶんセーブさせようとしたそうだけれど、美希本人がやりたいと言って聞かなかったのだ。
「でもね、安心して。幸いこのマイクや、他の機材もいくつか生きてるから」
 今、美希は控え室で寝ている。というか、寝ろって命令してきた。
 毛布でぐるぐる巻きにして、エネルギーゼリーをくわえさせて、ついでに差し入れのおにぎりを持たせて、出番までに熱を下げろと言ってやったのだ。
「この水瀬伊織ちゃんが、世界一贅沢な前座をやってあげるからねっ!」
 どお、おっ。ファンの歓声は見えない音圧になって、私の立っているステージまで押し寄せてくる。
 ぞく、ぞくぞくっ。
 体の奥に震えが走る。
 『美希を見に来たんだから伊織なんか引っ込め』なんて言われたらどうしよう……ともちょっとだけ思ったけど、どうやら一安心。まだまだ美希には負けないでいられそう。
 怒涛のコールに圧し負けないよう、肺いっぱいに空気と気合を溜め込む。
「いい、アンタたち!開演までにちゃあんと会場あっためとかなかったら、美希ががっかりするかもよ?」
 言葉を切る度に、観客の声圧が上がってゆく。美希は、いいファンに恵まれてる。
「ぬっるいコールなんかしたら、あの子はステージだって寝ちゃうわよ!」
 私たちのため、なんて言葉通りの働きではなかったと、プロデューサーから聞いていた。あの時の美希は結局、決まった誰かじゃなく765プロ全体のために、キラキラ輝くステージを作り上げたのだ。
「美希がハジけられるように、いいわねみんな!」
 そんな子に全部やらせっぱなしじゃ、私の名前がすたるじゃない。
 だいたい、借りっ放しというのは性に合わないのだ。ここで勘定を御破算にして、明日から正々堂々と競い合うのが……ライバルだし、ともだちでしょ?
「さあ、お立ち合いよ!伝説の星井美希の!伝説のファーストソロコンサートの!これまた伝説の前座ショー!」
 割れんばかりの歓声の渦に、伴奏が飲み込まれてゆく。この熱気では無理もない、でもそれでいい。
「とくとその眼に!焼き付けなさぁいっ!」
 私の歌が、この渦を握っちゃえばいいんだからねっ!
 翌日は竜宮小町の収録があって、オフをとった美希がお礼と応援に顔を出してくれた。
「どうしてこんなになるまで黙ってるのーっ」
「うるさいわね、あんたと違って微熱の範囲内よ」
「デコちゃんが倒れちゃったらファンのみんながショックなんだよおっ」
「倒れてないし今からしっかり仕事してくるわよっ!」
 昨日のアレで風邪をうつされた。元気になった美希はここぞとばかり、うれしそうに攻め立てる。
「うふふぅ。ねーデコちゃん」
「デコってゆーな」
「ミキ、デコちゃんたちの前座やってこよっか?」
「〜〜〜〜っ!」
 ニヤニヤしながら見守るあずさと亜美の前で私は、さっき咥えさせられたエネルギーゼリーのパックを、美希に思いっきり投げつけた。
おわり

97 :
デコちゃんもミキミキもかわいい

98 :
「なきごえ・ほえる・たいあたり・とっしん?」
「確かにそんな感じかも」
ふと、僕らのイメージカラーの話をしていた時にそういえば、昔流行ったあのゲームの三色だねという流れになった。
で、今絵理ちゃんが言ったのは愛ちゃんがそのゲームに出てきたら使えそうなわざだ。
「ううーなんか馬鹿にされてる気がします」
うっ、見事にノーマルタイプのわざに偏っちゃったからなぁ。
「マシな方。涼さんは、がまん・こらえる・まもる・みずでっぽう」
「……うわぁ」
「いやまもるはおかしくない?」
「それを言ったら私のもほえるはおかしいですよ!」
「で、絵理ちゃんは?」
みずでっぽうに突っ込んだら負けるからとりあえず流そう。
「なみのり・からにこもる・でんじは・つるぎのまい?」
踊ってみても無駄、というか僕らに比べると強くないかな。
……あれ? このわざだと。
愛ちゃんが僕に勝って、僕が絵理ちゃんに勝って、絵理ちゃんが愛ちゃんに勝つ?
愛ちゃんのたいあたりは防ぎきれない。なみのりだけだとPPが足りない。威力差でごり押しの試合展開が見えた。
「やってみる?」
考えてるのがバレたのか声がかかる。って、うわパソコンで用意してある……というか、違法だよね?
しかも、絵は僕らのグラビアだし。
ちなみに絵理ちゃんに負けました。
つるぎのまいやからにこもるを使われるとは思わなかった……
逆に愛ちゃんにはがまんが決まって勝てた。現実も2ターン後に良いことあればいいけど……
なきごえを上げる愛ちゃんに『みずでっぽう』……いや、股の間がムズムズしちゃマズい。マニアックすぎるよ。
今は絵理ちゃん対愛ちゃんが対戦中。画面を見ると……
絵理ちゃん、なみのりしようよ。でんじはからのからにこもるとかしてないでさ!
愛ちゃんがかわいそうだよ!

99 :
「あら、教会ね」
「ほんとだ、たまに通る道だが、気づかなかったな。これは……へえ、カトリックの教会か、
あまり見ないよな」
「ふうん……ちょうどいいわ、寄っていきましょう」
「えっ?」
 収録帰りの道すがら、小さな教会を見つけた。伊織は手馴れた風に門をくぐり、前庭の
マリア像に一礼して聖堂へ入ってゆく。今の時間は人がいないようだが、俺も
見よう見まねで後ろをついていった。
「伊織、クリスチャンだったっけ?」
「違うわよ、知り合いには多いけどね」
 立派な木の扉を開け、また一礼。無人だが灯がともり、一種独特な雰囲気に呑まれた。
伊織は中央の祭壇に向かってすたすたと歩を進め、真ん中あたりの席に着く。隣に
腰掛けて見ていると、やがて低く指を組んで目を閉じた。
 要するにこの教会に、お祈りをするために立ち寄ったようだ。わけが解らないが止め立て
する状況ではないし、俺もここにいるとなんとなく清らかな気持ちになってくる。同じように
手を合わせて目をつぶり、少し考えて765プロの繁栄とアイドルたちの成功を祈った。
「ありがと、もういいわ」
 数十秒ほどだろうか。伊織の用がすんだようだ。ゆっくり立ち上がる彼女に問いかけた。
「なあ伊織。今のは?」
「今日は11月2日よね。カトリックでは『万霊節』って言うの」
「『万聖節』なら聞いたことがあるぞ。ハロウィンのことだよな」
「ちょっと違うわね、まあ私もたまたま知ってるだけだけど」
 伊織によると、万聖節は全世界の聖者のための日だそうだ。過去と未来の全ての聖人の
記念日。
「信教のために人生を捧げた人たちのために、信者が祈りを捧げる日なの。まあ、
キリスト教って1年中なにかしらの記念日で、そのたびにミサをしてるみたいだけどね」
「はは、それが仕事だもんな」
「英語では『オール・ハロウズ』、全ての聖なる者の日っていうわけ。ハロウィンは、その
イヴのことよ」
「ハロウズ・イヴって意味だったのか。それで、『万霊節』は?」
「万聖節の翌日、今日。この日は全ての死者のために祈りを捧げる日なのよね」
「全ての死者……ね」
「生きてる人たちが死んだ人たちのために祈ると、その人たちが天国で救われる日が早く
なるんですって」
 思えば今年は、ずいぶん人が死んだ。よき者もそうとはゆかぬ者も、日本でも世界でも。
生きるものはいつか死ぬとは言え、これを実感させられた年であったとも言える。
「今朝出がけに、パパが教会に寄るって言ってたの。あの人も信心深い方ではないけど、
さすがに今年は神様に注文つけたかったみたいね」
 あ、と思った。伊織の父親と、その無二の親友のことを。
「なんだよ、ずるいぞ伊織、先に言ってくれよ」
「あんたのことだから『宝くじが当たりますように』とかお願いしてたんじゃないの?にひひっ」
「失礼な。あたらずとも遠からずくらいにはなってたさ」
「どうだか」
「ま、確かに祈り足りなかった。ちょっと待っててくれ、追加で『そっちの事務所に合流する
のはだいぶ先になると思うから、スカウトはほどほどにしておいてください』って言ってくる」
「……頼むわね」
 ドアをくぐる伊織を背中で見送り、もう一度中央の祭壇に目をやった。大きな十字架に、
神の御使いどのがよりそっている。
 今開いた戸口から、庭の金木犀が強く香る。
 伊織の父の親友、伊織をこの世界へ導いてくれた人物、俺をこの事務所へ迎えてくれた人物。
 もう一度、指を合わせて目を閉じて、彼と全ての死者たちの幸せを、俺は改めて祈った。
おわり

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