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(U^ω^)


1 :2012/11/01 〜 最終レス :2013/03/30
(U^ω^)アルトくんだお

2 :
( ^ω^)ゴミカスハートフル

3 :
きんもー

4 :
歌姫の最中、殿方は終わる。

5 :
意味不明なスレッド

6 :
わおーん

7 :
あるくん

8 :
頭がキンキンする。冷気で血が淀んでいる。
だからルナの思考は鈍くなっていた。
ボレアースに蹴飛ばされ、二つに割れた雪だるまの片割れをどうにかするべく
フリードは自分自身を氷の腕で吹っ飛ばす。
なんという元気だろうか。否、それは元気というものを超えている。
彼は術者である自分を気絶させて雪玉を消すつもりだったのだろう。
ルナはフリードの心意気に感化され、腰に下がったタクトに手をかける。
もう自分たちでなんとかするしかない。こうなったらわずかに残された魔力で、
足元の雪原に反転魔法をかけ、冷たさを熱さに変え穴を開けるしか…
しかしその表情は凍りつく。
幽霊の女の出現。続いて
>「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
なんとササミが首飾りに魔力を供給しはじめたのだ。
と同時に負ぶさってきたリリィが丸い物体になってころりと落ちる。
「ひっ!!」
ルナは生首が落ちてきたと思ってびっくりした。
しかしすぐに首飾りを外してササミから離れると、丸いものを拾い上げて反転魔法を流そうとする。
時間を捲き戻してリリィを再生するつもりなのだ。
でも魔力も少なく、まして時間に干渉するほどの力をルナはもっていない。
「なにこれ!どうなっちゃってるのよ。誰かなんとかして!!」
パニックになり金切り声をあげたが、その声は自分でも驚いてしまうほど小さい。
気道も肺も寒さで縮み上がっているのだ。声など出ないのだ。
そして目の前に現れた白いドレスの女が、「次はお前だ」とばかりにルナを指差す。
ルナは負けじと迫り来る雪玉を指差す。すると女は雪玉の排除を優先させ
女が出現させた壁は雪玉の軌道を変える事に成功する。
「た、たすかったっ!」
とりあえず雪玉という目の前の恐怖は去った。
だがササミの魔力を吸収した首飾りには亀裂が生じていた。
その僅かな隙間から無数の触手が溢れ出して来る。それは「蔦」だった。
蔦の主タナトストーンは、ボレアースをわざと神に戻し、純正の神気の吸収に成功すると
次に生徒たちの魔力に反応しざわざわと触手のように動きだす。

9 :
「我が世の春が来た!ハッハッハッハ、このときをどんなに待ち望んでいたことか。
母なる大地よ。小生は帰って来たぞっ!!」
蔦の中心から男の声がする。男はぼさぼさでこげ茶色の髪を振り乱し泣きながら叫んでいた。
古代ギリシア人のような出で立ちで背には翼。右手に持った大きな鎌で
自分の左手を突き刺していた。蔦が生えているのはその左手からだった。
背丈はササミより一回り大きいくらいだろうか。
まだ完全ではないがタナトストーンが復活したのだ。
「んんん、漲ってきた!少々黴臭かったがボレアースの荒々しい神の力。確かに頂戴した。
それとこの魔界の者の魔力は、じつに香しい味だったぞ。狂おしく酔ってしまいそうな味であった!
田舎神族と侮蔑した無礼はそれで帳消しとしよう!」
タナトストーンは左手をササミの腰にまわし、生えている蔦で体に絡み付けている。空は青空。
風で舞った粉雪が雪原に光の波を立てる。
「おおそうだ。魔界の小娘、もといササミさんよ。わが国の最初の民とならぬか?
小生はこの世界のすべての大地を田畑に変えたい。小生は農耕の神の力を持っている。
我が国の民となったあかつきには子々孫々永遠に飢えることはないであろう。どうだ小娘よ?
それと他の者たちもだ。農民となり小生を永遠に信仰し続けるのだ。悪い話ではあるまいが」
ルナはあわあわと立ちすくんでいた。ササミが捕まってしまっているからだ。
胸元には球体となってしまったリリィを抱きしめている。
どうしよう…、思考を働かせようとした次の瞬間、その体はひっくり返る。
「ルナさん!君もそうだ。農民となって大地とともに生きてはみぬか!?
それとも死んでその身を大地の肥やしと変えるか?さあどっちーーーーー!?」
問いかけのあと、クロノストーンは雪原を滑空する。
ボレアースのミイラとルナを結婚式のとき車の後ろにつける缶のようにして。
ササミは抱いたまま。球体となったリリィはルナが抱きしめたまま。
そして彼はフリードとエンカの前に降り立つのだ。
「逃がさんぞ。フリード君。君は小生を氷漬けにして海に沈めるとかなんとか言っていたが、
そんなことが出来るのかね?このタナトストーンを…もう一度封じられると思っているのかああああ!!?」
泣き声と混じったヒステリックな声をあげ、タナトストーンは右手にもった大鎌を振り下ろすのだった。

10 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、テオボルト君。それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注視していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は野菜農家の少年になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は真実でもあり、彼を油断させるためのものでもあった。
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「ほほー、考えてみれば、それは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
半眼でにこりと笑うクロノストーン。

11 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ほー、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注視していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は野菜農家の少年になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は真実でもあり、彼を油断させるためのものでもあった。
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「ほほー、考えてみれば、それは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
半眼でにこりと笑うクロノストーン。

12 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ほー、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注視していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は野菜農家の少年になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は真実でもあり、彼を油断させるためのものでもあった。
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「ふむ。考えてみれば、それは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
半眼で微笑するクロノストーン。

13 :
>>91
>「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
 エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
「…な、なんじゃとぉ。小虫がようほざいたわぁ」
ボレアースはよれよれと這い蹲っている。

>>92-93
ササミの石化ガスのおかげで、ルナはクロノストーンの拘束から抜け出した。
手に持っていた球体も、今は胸に抱きしめている。
お化けによって、リリィがどんな魔法をかけられたのか理解できないでいたルナは、
球体を割るとかそんな発想は出来ずにいた。
でも…球体の中から振動がするのに気付く。
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
「リリィ!?」
小さな声がする。ルナは球体をまじまじと見つめる。
穴や隙間、シールみたいなものがないか調べる。
「リリィ?どうなっちゃってるの?
怪我はない?大丈夫?私、どうしたらいいの?」
ルナはリリィの返事を待った。

14 :
>>91
>「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
 エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
「…な、なんじゃとぉ。小鳥がようほざいたわぁ」
ボレアースはよれよれと這い蹲っている。
思えばクロノストーンによって、ボレアースの運命も狂わされてしまったのだ。
封印しようとして呪いをかけられ、馬にされてしまったあと
彼は恥ずかしくて天界に戻れないでいた。なので山の奥にひっそりと暮らしていた。
それに年々と薄れてゆく人々の信仰心。年金暮らしの老人のように細々とした生活。
そこへ過去から現れた因縁の宿敵クロノストーン。
退治出来てなかったと皆が知ってしまえば、恥の上塗り。
何としてでもこのことは内密に処理しなければならないのだ。
>>92-93
ササミの石化ガスのおかげで、ルナはクロノストーンの拘束から抜け出した。
手に持っていた球体も、今は胸に抱きしめている。
お化けによって、リリィがどんな魔法をかけられたのか理解できないでいたルナは、
球体を割るとかそんな発想は出来ずにいた。
でも…球体の中から音がするのに気付く。
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
「リリィ!?」
小さな声がする。ルナは球体をまじまじと見つめる。
穴や隙間、シールみたいなものがないか調べる。
「リリィ?どうなっちゃってるの?
怪我はない?大丈夫?私、どうしたらいいの?」
ルナはリリィの返事を待った。

15 :
>>94
>「子孫断絶脚!!」
「ぐはーーーーっ!!」
悶絶。
>「いやこの人…いえ神……いや信仰を失った神は妖怪に堕ちるらしいから
 妖怪ですかね?とにかく敵なんですってば!!」
「否!小生は神である。それに敵か味方かは君の決めることかね?そうだよなあ、みんなー?
ハッハッハッハー!小生は、敵か味方か?さあどっちーーーー!!?」

16 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ほー、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注視していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は優しい野菜農家になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は彼なりの真実でもあり、エンカを油断させるためのものでもあった。

17 :
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「ふむ。考えてみれば、それは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
目を細め、微笑しているクロノストーン。
>>91
>「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
 エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
「…な、なんじゃとぉ。小鳥がようほざいたわぁ」
ボレアースはよれよれと這い蹲っている。
思えばクロノストーンによって、ボレアースの運命も狂わされてしまったのだ。
封印しようとして呪いをかけられ、馬にされてしまったあと
彼は恥ずかしくて天界に戻れないでいた。なので山の奥にひっそりと暮らしていた。
それに年々と薄れてゆく人々の信仰心。年金暮らしの老人のように細々とした生活。
そこへ過去から現れた因縁の宿敵クロノストーン。
退治出来てなかったと皆が知ってしまえば、恥の上塗り。
何としてでもこのことは内密に処理しなければならないのだ。

18 :
>>92-93
ササミの石化ガスのおかげで、ルナはクロノストーンの拘束から抜け出した。
手に持っていた球体も、今は胸に抱きしめている。
お化けによって、リリィがどんな魔法をかけられたのか理解できないでいたルナは、
球体を割るとかそんな発想は出来ずにいた。
でも…球体の中から音がするのに気付く。
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
「リリィ!?」
小さな声がする。ルナは球体をまじまじと見つめる。
穴や隙間、シールみたいなものがないか調べる。
「リリィ?どうなっちゃってるの?
怪我はない?大丈夫?私、どうしたらいいの?」
ルナはリリィの返事を待った。
>>94
>「子孫断絶脚!!」
「ぐはーーーーっ!!」
悶絶。
>「いやこの人…いえ神……いや信仰を失った神は妖怪に堕ちるらしいから
 妖怪ですかね?とにかく敵なんですってば!!」
「否!小生は神である。それに敵か味方かは君の決めることかね?そうだよなあ、みんなー?
ハッハッハッハー!小生は、敵か味方か?さあどっちーーーー!!?」

19 :
>「魔族に蘇らせてもらった穢れた神さんもだがね!
 あんたがやる事は自分を封印した張本人である神への復讐だがね!
 こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
 それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
「うぬぬぬ…」
クロノストーンは唸った。ササミの侮蔑の視線は彼にとって耐え難いものだった。
モノには順番がある。そう言い返したかったのだが、その前に神特有の矜持が立ちはだかる。
さらにテオドールに攻撃を受け放り投げてしまった大鎌との距離10メートル。
目の前にはテオドール。視線を移せば、猫神と交渉しているフリード。未知の力を秘めているエンカ。
学園との距離は50メートルはあるだろうか。校内には無数の魔力を感じる。
まず初めに、クロノストーンは大鎌を回収すべく大地を蹴る。
そこへ猪突してきたのはボレアース。
二神は衝突して、お互いにもんどりうって吹っ飛んだ。
「ぐほっ!」
腹部に衝撃を受けたタナトストーンの口から濡れた石が顔を出している。
「あれじゃ、あれが奴の本体の石ころじゃ!大昔にタナトスがゼウスと間違えて飲み込んだという石じゃ。
あれを何かに閉じ込めてしまえば奴をもう一度封印できるはずじゃ!」
ボレアースはもう半透明になっていたが、最後の力を振り絞って神の力を放つ。
すると、もよもよとした直径50センチくらいの霧のようなものが生まれた。
「その霧の玉に触れて願うのじゃ。冷気を生み出す道具ができようぞ。
それで石を氷結させるのじゃ。さすれば奴をもう一度封印することができるじゃろう」
そういい遺して、ボレアースは小さな雪の妖精になってしまった。

20 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ほー、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注目していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は優しい野菜農家になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は彼なりの真実でもあり、エンカを惑わすつもりでもあった。

21 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ふむ、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「その言葉に感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注目していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は優しい野菜農家になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は彼なりの真実でもあり、エンカを惑わすつもりでもあった。

22 :
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「おお、考えてみればそれは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
目を細め、微笑しているクロノストーン。
>>91
>「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
 エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
「…な、なんじゃとぉ。小鳥がようほざいたわぁ」
ボレアースはよれよれと這い蹲っている。
思えばクロノストーンによって、ボレアースの運命も狂わされてしまったのだ。
封印しようとして呪いをかけられ、馬にされてしまったあと
彼は恥ずかしくて天界に戻れないでいた。なので山の奥にひっそりと暮らしていた。
それに年々と薄れてゆく人々の信仰心。年金暮らしの老人のように細々とした生活。
そこへ過去から現れた因縁の宿敵クロノストーン。
退治出来てなかったと皆が知ってしまえば、恥の上塗り。
何としてでもこのことは内密に処理しなければならないのだ。
「ひょおおおお…」
ボレアースは最後の気力で立ち上がる。

23 :
>>92-93
ササミの石化ガスのおかげで、ルナはクロノストーンの拘束から抜け出した。
手に持っていた球体も、今は胸に抱きしめている。
お化けによって、リリィがどんな魔法をかけられたのか理解できないでいたルナは、
球体を割るとかそんな発想は出来ずにいた。
でも…球体の中から音がするのに気付く。
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
「リリィ!?」
小さな声がする。ルナは球体をまじまじと見つめる。
穴や隙間、シールみたいなものがないか調べる。
「リリィ、大丈夫?…かわいそう。
あのお化けがボールの中に閉じ込めちゃったのね。
ねえ、怪我はない?私、どうしたらいいの?あのお化けったらなんだってこんなこと…」
ルナは球体に耳をぴたっとつける。
>>94
>「子孫断絶脚!!」
「ぐはーーーーっ!!」
悶絶。吐血。虹の橋。
>「いやこの人…いえ神……いや信仰を失った神は妖怪に堕ちるらしいから
 妖怪ですかね?とにかく敵なんですってば!!」
「否!小生は神である。それに敵か味方かなど君の一存で決められることなのかね?
そうだよなあ、みんなー? ハッハッハッハー!
さあ、どっちだ?小生は敵か味方か?さあどっちーーーー!!?」
口から血を流しながら狂気の笑み。
こんなわけのわからない者が味方なわけがないだろう。

24 :
>「魔族に蘇らせてもらった穢れた神さんもだがね!
 あんたがやる事は自分を封印した張本人である神への復讐だがね!
 こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
 それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
「うぬぬぬ…」
クロノストーンは唸った。ササミの侮蔑の視線は彼にとって耐え難いものだった。
モノには順番がある。そう言い返したかったのだが、その前に神特有の矜持が立ちはだかる。
さらにテオドールに攻撃を受け放り投げてしまった大鎌との距離10メートル。
目の前にはテオドール。視線を移せば、猫神と交渉しているフリード。未知の力を秘めているエンカ。
学園との距離は50メートルはあるだろうか。校内には無数の魔力を感じる。
それを吸収できればさらなるパワーアップが可能なのだが。
そう逡巡した刹那
「クロノストーン!!」
ボレアースが死に物狂いで猪突して来るのが見えた。
唾棄し、クロノストーンは大鎌を回収すべく大地を蹴る。
そして二神は衝突。お互いにもんどりうって吹っ飛んだ。
「ぐほっ!」
腹部に衝撃を受けたタナトストーンの口から濡れた石が顔を出している。
「あ、あれじゃ、あれが奴の本体の石ころじゃ!大昔にタナトスがゼウスと間違えて飲み込んだという石じゃ。
あれを何かに閉じ込めてしまえば奴をもう一度封印できるはず!」
力を使い果たしたボレアースは、すでに半透明になっていたが、最後の力を振り絞って神の力を放つ。
すると、もよもよとした直径50センチくらいの霧のようなものが生まれた。
「その霧の玉に触れて願うのじゃ。さすれば冷気を生み出す道具を生み出すことができよう。
それで奴との戦いを優位にもってゆくのじゃ。…たのむ。たのんだぞ」
そう勝手なことをいい遺して、ボレアースは消えてしまった。

25 :
「むもももも!」
クロノストーンは、口から顔を出した石を手で押し込んで再び飲み込む。
その背後、学園の窓に映る小さな顔。保健室の窓から外をじっと見ている夢見石の少年。
だがそれは本筋と関係ない。ただ見ているだけなのだ。
「小生に従う者は、力をかせい!だが邪魔するものは大地の肥やしと変えてやろう!」
クロノストーンは翼を羽ばたかせた。
生じた小さな竜巻は邪魔するものを吹き飛ばすだろう。
と同時に天高く舞い上がった彼は、大地に突き刺さっている大鎌を取らんと舞い降りるのだ。

26 :
>「よぉ、ルナちゃん。さっきまで具合が悪そうだったけどよぉ、大丈夫か〜?
 なんなら保健室まで連れて行ってやるぜ?」
「ん?んん?私はなんとかだいじょうぶなんだけど、リリィが…」
リリィの入ってる球体を耳に当てながら目だけでエンカを見る。
エンカが来てくれたのでルナはすこしホッとする。
>「なぁ、ルナちゃん。『北風と太陽』の話って知ってるか?
 北風がバイキングを育てたって話だ。…あー違ったかな?
 とにかくよぉ、こういう時は暖めてみたら問題が解決するんじゃねーかな?」
「え?北風と太陽の話って些細なことから北風と太陽が言い争いになって
結果まったく関係のない一人の旅人を虐待するという自然の神々の気まぐれさと
横暴さを描いた寓話でしょ?それがどうしたっていうのよ?」
ルナが目をぱちくりさせていると、エンカは球体をライターであぶり始めた。

27 :
ルナの問いかけに、球体の中のリリィは答える。
顔のない女のおばけには見覚えがないということ。
球体の内部が結構快適だということ。
それに学園からの救助が今もってないということ。
「そういえば…」とルナはいぶかしむ。
そこへ現れたのはエンカだった。エンカは顔の傷口から血を垂らしている。
でもエンカは自分のことなど省みずにルナの心配をしてくれた。
そのエンカの様子にリリィは驚いて…
>「ルナちゃん、エンカに、その怪我どうにかしろって言ってやってよ!」
「 そ、そうよね、止血しなきゃ!えっと、首を何かで縛ったらいいのかな?
あははダメよね。血は止まるけど呼吸も止まっちゃう…。じゃあ一緒に保健室にいく?」
そんなことを言っていると、エンカは北風と太陽の話をはじめた。
ルナがその話をなんか変と思っていると、ササミがさらに魔界に伝わる北風と太陽の話を付け足す。
「なにそれ…怪談?」
ルナの顔は青ざめた。悪魔はいったいどこからやってきたのだろう。
考えるルナ。するとエンカはルナの手から球体を取り出し炙り始める。
>「キャー止めて!燃える燃える燃えるううう!!」
「キャーやめてあげてーっ!!」
悲鳴をあげてルナがあわあわしていると球体が光りリリィが出てきた。
「ふぎゅ!」
下敷き。リリィに潰されて雪原に埋まるルナの顔。
>「それとササミちゃん、もしかして風邪引いてるんじゃないの?そんな薄着で・・・・・・。
 ルナちゃん、悪いけど私が貸したコート、ササミちゃんに渡してくれない?
>「だ、だいじょうぶ、だだだだが・・・ね。もうくさtt神も片付きそうやし、ずぐぬぅえっぷ」
「もうやせ我慢なんてしないの!はやくみんなで保健室にいこう!死んじゃうと悪いもん」
コートを脱いで、蹲っているササミに被せようとする。
しかしその前にコートが強風で吹き飛ばされる。続いてルナも。
「きゃああああ!おたすけえええ!!」
悲鳴をあげていると、空中にリリィとササミも舞っているのが見えた。


大鎌を取り戻さんがため、クロノストーンは跳躍、降下、眼下を仰ぐ。
農耕神の誘惑に、一度は友好的な態度を見せたエンカではあったが
少年はルナのもとへと去ってしまう。
(む、邪魔もしなければ、応援もしないということか。
それもよかろうが!さらばだエンカ君!)
>「よぉ、ルナちゃん。さっきまで具合が悪そうだったけどよぉ、大丈夫か〜?
 なんなら保健室まで連れて行ってやるぜ?」


間一髪竜巻を回避し雷撃を放つテオボルト。

28 :
ルナの問いかけに、球体の中のリリィは答える。
顔のない女のおばけには見覚えがないということ。
球体の内部が結構快適だということ。
それに学園からの救助が今もってないということ。
「そういえば…」とルナはいぶかしむ。
そこへ現れたのはエンカだった。エンカは顔の傷口から血を垂らしている。
でもエンカは自分のことなど省みずにルナの心配をしてくれた。
そのエンカの様子にリリィは驚いて…
>「ルナちゃん、エンカに、その怪我どうにかしろって言ってやってよ!」
「 そ、そうよね、止血しなきゃ!えっと、首を何かで縛ったらいいのかな?
うー…そんなのダメよね。血は止まるけど呼吸も止まっちゃう…。じゃあ一緒に保健室にいく?」
そんなことを言っていると、エンカは北風と太陽の話をはじめる。
ルナがその話をなんか変と思っていると、ササミがさらに魔界に伝わる北風と太陽の話を付け足す。
「なにそれ…怪談?」
ルナの顔は青ざめた。悪魔はいったいどこからやってきたのだろう。
考えるルナ。するとエンカはルナの手から球体を取り出し炙り始める。
>「キャー止めて!燃える燃える燃えるううう!!」
「キャーやめてあげてーっ!!」
悲鳴をあげてルナがあわあわしていると球体が光りリリィが出てきた。
「ふぎゅ!」
下敷き。リリィに潰されて雪原に埋まるルナの顔。
>「それとササミちゃん、もしかして風邪引いてるんじゃないの?そんな薄着で・・・・・・。
 ルナちゃん、悪いけど私が貸したコート、ササミちゃんに渡してくれない?
>「だ、だいじょうぶ、だだだだが・・・ね。もうくさtt神も片付きそうやし、ずぐぬぅえっぷ」
「もうやせ我慢なんてしないの!はやくみんなで保健室にいこう!死んじゃうと悪いもん」
コートを脱いで、蹲っているササミに被せようとする。
しかしその前にコートが強風で吹き飛ばされる。続いてルナも。
「きゃああああ!おたすけえええ!!」
悲鳴をあげていると、空中にリリィとササミも舞っているのが見えた。
これはやばい。

29 :
大鎌を取り戻さんがため、クロノストーンは飛翔、降下、眼下を仰ぐ。
農耕神の誘惑に、一度は友好的な態度を見せたエンカではあったが
少年はルナのもとへと去ってしまっていた。
(む、邪魔もしなければ、応援もしないということか。
それもよかろう!さらばだエンカ君!)
――風の音と一緒に少女たちの悲鳴が聞こえる。
飛翔するときに生み出していた竜巻は、リリィ、ササミ、ルナの三人を巻き込んでいた。
だがしかし間一髪竜巻を回避し雷撃を放つはテオボルト。
>「ええい、さっさと去ね! 『サンダー・ランス』!!」

「これが君の答えか!テオボルト君!!」
タナトストーンが大鎌の前に降り立つのと、
テオボルトの雷撃の槍が彼の腹部を貫くのは同時だった。
大股を開きながら左手を獲物に伸ばす。震える指先が柄に触れる。
だが腹部は弾ける様な音を立てて煙を上げている。
帯電した空気がちりちりと焦げた匂いを放っている。
「がは!!」
吐血とともに雪原に転がる石。
そう、クロノストーンは本体である石を吐き出したのだ。
「い、いやだ…封じられたくない。封じられたくなんかないよぉ。
あんな暗いところに一人っきりなんて、さみしいんだよぉ…」
クロノストーンはうつ伏せに倒れると、石に手を伸ばして呻いていた。

30 :
>「そんな事僕が知るものですか!とっとっと封印されておしまいなさい!!
 万能なるマナよ!雪と氷の力を僕に与えよ!!
 安らかなる永遠の眠りを!美しき氷の棺を!『フリージングコフィン』!!」
 
>「姉さんは何故かこの中で眠るのが好きみたいですが・・・・・・・
 本来は死者を収め埋葬するための魔法です
 さあ貴方をこの中に封印して差し上げますよ!」
「うう、くやしい…。ここまできて、こんな小さな美少年に封印されようとしているなんてよぉ〜!!」
クロノストーンは這い蹲ったまま大鎌を横に薙ぐ。
刹那、硬質な音がフィジルの空に鳴り響く。グレンのダブルクレッセントハーケンとクロノストーンの大鎌が衝突したのだ。
クロノストーンは左手一本で大鎌を振っていたのだが、猫と男の重量差は一目瞭然。
グレンは大きく後ろに体勢を崩した。その隙を見計らいクロノストーンは吐き出した石を懐に入れる。
腹部はすでに電撃の槍で焼け焦げてしまっていたため、そこ以外に安全な場所はないとふんだのだ。
だが目を離していたほんの一瞬、そのままグレンは後退しフリードとタッチ。パートナーと体を入れ替えていた。
>「フリージングサーベル!早い突きが躱せますか?セイセイセイセイセイセイヤァァァァァ!!」
 フリードは刃の無い鍔のみのサーベルに氷の刀身を生み出し、容赦なく突きを繰り出してくる。
>「それそれぇ〜ちゃんと避けないと凍っちゃいますよ〜」
「うっ、おおーっ!!」
瞠目。焦燥。一匹と一人の見事な連携。
完全に虚をつかれたクロノストーンの肩口にサーベルの突きが入った。
身を起こし、間合いをとるまでにさらに攻撃を受けた。
そして凍りつき氷結した胸の傷口から飛び散った血液が、雪のように煌き舞い散るのだった。
「楽しいかねフリード君。戦いは死を意識するから、生を実感できる。
君は今まで何度も強敵と戦って生き残って来たと言ったな。
見た目とは裏腹に幾度となく死線を潜り抜けてきた百戦の魔法剣士といったところか…。
……だがなぁ、おまえごときにゃこのクロノストーンは倒せねぇんだよぉっおお!!
よみがえった小生とこの大地の絆は誰にも断ち切ることはできんのだ!!誰にもなぁーっ!!」
雪原から何本もの蔦が噴出し、フィジルの生徒たちを拘束せんとする。
大地に突き刺さってクロノストーンに回収されるそのときまでずっと、
大鎌は雪の下に蔦を張り巡らせていたのだった。
「ハッ…ハッハッハー!」
よろめきながらクロノストーンは学園へ。
魔法障壁のようなものを蹴り破ると、次にガラスの大扉を握り拳固で叩き割る。
「ここに、魔力を持った者どもが沢山いた気配がしたのだが…」
玄関ホールに入ってみても静かだった。ふと廊下を見ると顔のない女が立っていたような気がした。
「おい、きさま…」
一歩踏み出すと足元に球体。クロノストーンは踏みつけて派手に転んでしまう。
「がは!!」
後頭部を床にしこたま打ちつけたあと、怒ったクロノストーンは球体を投げつけて校内に侵入。
兎に角傷を治さなければと、魔力を吸収すべく人、回復アイテムを求めて校内を徘徊しはじめた。
【雪原から時間稼ぎの蔦攻撃(触手)】
【クロノストーンは人間の魔力、回復アイテムを求めて校内へ】
【クロノストーンの負傷状況:右手の裂傷。腹部に火傷及び裂傷。胸部に複数の凍傷及び刺傷】

31 :
「ハッ…ハッハッハー!」
よろめきながらクロノストーン大鎌を振るう。
しかしそれはテオドールめがけてでもなく、フリードでもない。
己の心の臓をめがけ一突き。
「ガイアよ。母なる…ガイアよぉ…」
人にこれほどまでに辱めを受けたという情報は神の精神体に深いダメージを残していた。
このままでは封印されるまえに己が維持できないだろう。
心臓を貫いた大鎌から、クロノストーンの肉体は樹木そのものへと変化させてゆく。
大地に根をはり、葉を覆い茂らせて巨大な木へと。
リリィやササミ、おまけにルナはその木の枝をクッションとしてとらわれるかもしれない。
その枝にたわわに実っているのは甘い匂いのするおいしそうな果実。太古に滅んでしまった幻の果実。
一口食べてみたらわかるだろう。その美味しさがあなたたちを魅了することに。
ルナは緑の生い茂る枝の上で眠っていた。
口をもごもごと動かしている。果実を食べながら夢をみているようだ。
「おにいちゃん…そこにいたの。むにゃむにゃ…」
寝言と一緒に笑みがこぼれる。
葉擦れの音が声となってこの場にいる全生徒たちの頭に響いてくる。
みな自分だけは過ちをしないと信じながら業が業を生み、
悲しみが悲しみを生む輪から抜け出せない。
ここはすべてを断ち切る場所。
この子をみてごらん。彼女は生まれて初めて安らかな喜びを感じている。
――葉擦れの音が幻聴を誘う。
みなの頭に、それぞれ大切に思う人の声が届く。
「さあ、おたべ…。さあ…」
果実は美味しそうなその色と匂いであなた達を魅了している。
クロノストーンは太古の果実で悲しみを忘れさせて、
あなたたちを下僕に変えるつもりなのだ。

32 :
>「そんな事僕が知るものですか!とっとっと封印されておしまいなさい!!
 万能なるマナよ!雪と氷の力を僕に与えよ!!
 安らかなる永遠の眠りを!美しき氷の棺を!『フリージングコフィン』!!」
 
>「姉さんは何故かこの中で眠るのが好きみたいですが・・・・・・・
 本来は死者を収め埋葬するための魔法です
 さあ貴方をこの中に封印して差し上げますよ!」
「うう、くやしいぞ…。ここまできて、こんな小さな美少年に封印されようとしているとはなぁ〜!!」
クロノストーンは這い蹲ったまま大鎌を横に薙ぐ。
刹那、硬質な音がフィジルの空に鳴り響く。グレンのダブルクレッセントハーケンとクロノストーンの大鎌が衝突したのだ。
クロノストーンは左手一本で大鎌を振っていたのだが、猫と男の重量差は一目瞭然。
グレンは後ろに大きく体制を崩してしまう。だがそのまま後退するとフリードとタッチ。
パートナーと体を入れ替えることに成功。
>「フリージングサーベル!早い突きが躱せますか?セイセイセイセイセイセイヤァァァァァ!!」
 フリードは刃の無い鍔のみのサーベルに氷の刀身を生み出し、容赦なく突きを繰り出してくる。
>「それそれぇ〜ちゃんと避けないと凍っちゃいますよ〜」
「うっ、おおーっ!!」
瞠目。焦燥。一匹と一人の見事な連携。
完全に虚をつかれたクロノストーンの肩口にサーベルの突きが入った。
身を起こし、間合いをとるまでにさらに攻撃を受けた。
そして凍りつき氷結した胸の傷口から飛び散った血液が、雪のように煌き舞い散るのだった。
「やるじゃないかフリード君。君は今まで何度も強敵と戦って生き残って来たと言ったな。
見た目とは裏腹に幾度となく死線を潜り抜けてきた百戦の魔法剣士といったところか…。
……だがなぁ、おまえごときにゃこのクロノストーンは倒せねぇんだよぉっおお!!
よみがえった小生とこの大地の絆は誰にも断ち切ることはできんのだ!!誰にもなぁーっ!!」
雪原から何本もの蔦が噴出し、フィジルの生徒たちを拘束せんとする。
大地に突き刺さってクロノストーンに回収されるそのときまでずっと、
大鎌は雪の下に蔦を張り巡らせていたのだった。
しかし。
>「ド畜生がーっ!!こいつはメッチャ許せんよなーっ!!」
エンカが激昂し走って来る!その背後に少年を拘束せんとする無数の蔦をひきつれながら。
>「フリード!テオボルト!お前らは手をだすなーっ!
 このオッサンは、この俺が止めをさす!!」
「ハッハッハ!戦うと元気になるなエンカ君!それは死を意識して生を実感するからだ!!
だが悲しいことに君の運命は、決まっている!!そうだ、君は大きな木の下に埋めてやろう!
死んでしまった可愛いペットのようになぁ!」
力を振り絞って、石に手を伸ばす。
虚勢を張っていたものの、テオボルトやフリードに受けた傷は
>「さっきアンタに止めをさすって言ったな。スマン、ありゃ嘘だ」
「…な、なに!?」

33 :
>「そんな事僕が知るものですか!とっとっと封印されておしまいなさい!!
 万能なるマナよ!雪と氷の力を僕に与えよ!!
 安らかなる永遠の眠りを!美しき氷の棺を!『フリージングコフィン』!!」
 
>「姉さんは何故かこの中で眠るのが好きみたいですが・・・・・・・
 本来は死者を収め埋葬するための魔法です
 さあ貴方をこの中に封印して差し上げますよ!」
「うう、くやしいぞ…。ここまできて、こんな小さな美少年に封印されようとしているとはなぁ〜!!」
クロノストーンは這い蹲ったまま大鎌を横に薙ぐ。
刹那、硬質な音がフィジルの空に鳴り響く。グレンのダブルクレッセントハーケンとクロノストーンの大鎌が衝突したのだ。
クロノストーンは左手一本で大鎌を振っていたのだが、猫と男の重量差は一目瞭然。
グレンは後ろに大きく体制を崩してしまう。だがそのまま後退するとフリードとタッチ。
パートナーと体を入れ替えることに成功。
>「フリージングサーベル!早い突きが躱せますか?セイセイセイセイセイセイヤァァァァァ!!」
 フリードは刃の無い鍔のみのサーベルに氷の刀身を生み出し、容赦なく突きを繰り出してくる。
>「それそれぇ〜ちゃんと避けないと凍っちゃいますよ〜」
「うっ、おおーっ!!」
瞠目。焦燥。一匹と一人の見事な連携。
完全に虚をつかれたクロノストーンの肩口にサーベルの突きが入った。
身を起こし、間合いをとるまでにさらに攻撃を受けた。
そして凍りつき氷結した胸の傷口から飛び散った血液が、雪のように煌き舞い散るのだった。
「やるじゃないかフリード君。君は今まで何度も強敵と戦って生き残って来たと言ったな。
見た目とは裏腹に幾度となく死線を潜り抜けてきた百戦の魔法剣士といったところか…。
……だがなぁ、おまえごときにゃこのクロノストーンは倒せねぇんだよぉっおお!!
よみがえった小生とこの大地の絆は誰にも断ち切ることはできんのだ!!誰にもなぁーっ!!」
雪原から何本もの蔦が噴出し、フィジルの生徒たちを拘束せんとする。
大地に突き刺さってクロノストーンに回収されるそのときまでずっと、
大鎌は雪の下に蔦を張り巡らせていたのだった。
しかし。
>「ド畜生がーっ!!こいつはメッチャ許せんよなーっ!!」
エンカが激昂し走って来る!その背後に少年を拘束せんとする無数の蔦をひきつれながら。
>「フリード!テオボルト!お前らは手をだすなーっ!
 このオッサンは、この俺が止めをさす!!」
「ハッハッハ!戦うと元気になるなエンカ君!それは死を意識して生を実感するからだ!!
だが悲しいことに君の運命は、決まっている!!そうだ、君は大きな木の下に埋めてやろう!
死んでしまった可愛いペットのようになぁ!」
そう叫ぶと、力を振り絞って石に手を伸ばす。
虚勢を張っていたものの、フリードやテオボルト、
要するに人にこれほどまでに辱めを受けたという情報は神の精神体に深いダメージを残していた。
このままでは封印されるまえに己が維持できないだろう。

34 :
>「さっきアンタに止めをさすって言ったな。スマン、ありゃ嘘だ」
>エンカは拾った石をクロノストーンが望むようにした。
>間もなくクロノストーンのお腹に収まる本体の石。
>そしてエンカはさらに、リリィからもらった薬草のシートをクロノストーンの傷口に当てがった。
>「俺はアンタに止めをささない!なぜなら、アンタは今から俺の仲間になるからだ!
>そして俺はアンタにお願いしたいと思っている。リリィ達を助けてくれと!」
「リリィ…あの少女か。魔力を奪う時、なぜかあたたかい力を感じた不思議な少女」
おもてを上げ天を見上げる。
竜巻は、ぐるぐると学園の少女三人を巻き上げ続けていた。
>「あんたに対する取引材料は何もない!ただのお願いだ!
 返事や質問は聞かないぜ〜?今はちょっとの時間も無駄にできねぇからよ〜。無駄無駄…」
「願い…」
人の祈りや願い。
久しく忘れていた感情がクロノストーンの心に芽生える。
エンカの純粋な思いが胸をくすぐる。
「ハッ…ハッハッハー!」
よろめきながらクロノストーン大鎌を振るう。
しかしそれはテオドールめがけてでもなく、フリードでもない。
己の心の臓をめがけ一突き。
「ガイアよ。母なる…ガイアよぉ…。小生に最後の力を……」
心臓を貫いた大鎌から、クロノストーンの肉体は樹木そのものへと変化させてゆく。
大地に根をはり、葉を覆い茂らせて巨大な木へと。
リリィやササミ、おまけにルナはその木の枝をクッションとして捉えることが出来るかもしれない。
その枝にたわわに実っているのは甘い匂いのするおいしそうな果実。太古に滅んでしまった幻の果実。
一口食べてみたらわかるだろう。その美味しさがあなたたちを魅了することに。

35 :
>「そんな事僕が知るものですか!とっとっと封印されておしまいなさい!!
 万能なるマナよ!雪と氷の力を僕に与えよ!!
 安らかなる永遠の眠りを!美しき氷の棺を!『フリージングコフィン』!!」
 
>「姉さんは何故かこの中で眠るのが好きみたいですが・・・・・・・
 本来は死者を収め埋葬するための魔法です
 さあ貴方をこの中に封印して差し上げますよ!」
「うう、くやしいぞ…。ここまできて、こんな小さな美少年に封印されようとしているとはなぁ〜!!」
クロノストーンは這い蹲ったまま大鎌を横に薙ぐ。
刹那、硬質な音がフィジルの空に鳴り響く。グレンのダブルクレッセントハーケンとクロノストーンの大鎌が衝突したのだ。
クロノストーンは左手一本で大鎌を振っていたのだが、猫と男の重量差は一目瞭然。
グレンは後ろに大きく体制を崩してしまう。だがそのまま後退するとフリードとタッチ。
パートナーと体を入れ替えることに成功。
>「フリージングサーベル!早い突きが躱せますか?セイセイセイセイセイセイヤァァァァァ!!」
 フリードは刃の無い鍔のみのサーベルに氷の刀身を生み出し、容赦なく突きを繰り出してくる。
>「それそれぇ〜ちゃんと避けないと凍っちゃいますよ〜」
「うっ、おおーっ!!」
瞠目。焦燥。一匹と一人の見事な連携。
完全に虚をつかれたクロノストーンの肩口にサーベルの突きが入った。
身を起こし、間合いをとるまでにさらに攻撃を受けた。
それは翼を凍らせ砕き、胸を幾度となく突き刺す。
そして傷口からは飛び散った血液が、雪のように煌き舞い散るのだった。
「くっ…やるじゃないかフリード君。君は今まで何度も強敵と戦って生き残って来たと言ったな。
見た目とは裏腹に幾度となく死線を潜り抜けてきた百戦の魔法剣士といったところか…。
……だがなぁ、おまえごときにゃこのクロノストーンは倒せねぇんだよぉっおお!!
よみがえった小生とこの大地の絆は誰にも断ち切ることはできんのだ!!誰にもなぁーっ!!」
雪原から何本もの蔦が噴出し、フィジルの生徒たちを拘束せんとする。
大地に突き刺さってクロノストーンに回収されるそのときまでずっと、
大鎌は雪の下に蔦を張り巡らせていたのだった。
しかし。
>「ド畜生がーっ!!こいつはメッチャ許せんよなーっ!!」
エンカが激昂し走って来る!その背後に少年を拘束せんとする無数の蔦をひきつれながら。
>「フリード!テオボルト!お前らは手をだすなーっ!
 このオッサンは、この俺が止めをさす!!」
「ハッハッハ!戦うと元気になるなエンカ君!それは死を意識して生を実感するからだ!!
だが悲しいことに君の運命は、決まっている!!そうだ、君は大きな木の下に埋めてやろう!
死んでしまった可愛いペットのようになぁ!」
そう叫ぶと、力を振り絞って石に手を伸ばす。
虚勢を張っていたものの、フリードやテオボルト、
要するに人にこれほどまでに辱めを受けたという情報は神の精神体に深いダメージを残していた。
このままでは封印されるまえに己が維持できないだろう。

36 :
――先に石を手にしたのはエンカだった。
クロノストーンはついに観念した。
>「さっきアンタに止めをさすって言ったな。スマン、ありゃ嘘だ」
>エンカは拾った石をクロノストーンが望むようにした。
「…!?」

>間もなくクロノストーンのお腹に収まる本体の石。
>そしてエンカはさらに、リリィからもらった薬草のシートをクロノストーンの傷口に当てがった。
>「俺はアンタに止めをささない!なぜなら、アンタは今から俺の仲間になるからだ!
>そして俺はアンタにお願いしたいと思っている。リリィ達を助けてくれと!」
「ああ、リリィ…あの少女か。魔力を奪う時、なぜかあたたかい力を感じた不思議な少女」
おもてを上げ天を見上げる。
竜巻は、ぐるぐると学園の少女三人を巻き上げ続けていた。
飛翔すれば何とか助けられるかもしれないが、
今の彼には砕け散った翼の根元しかなかった。
>「あんたに対する取引材料は何もない!ただのお願いだ!
 返事や質問は聞かないぜ〜?今はちょっとの時間も無駄にできねぇからよ〜。無駄無駄…」
「願い…」
人の祈りや願い。
久しく忘れていた感情がクロノストーンの心に芽生える。
エンカの純粋な思いが胸をくすぐる。
「ハッ…ハッハッハー!」
よろめきながらクロノストーン大鎌を振るう。
しかしそれはテオドールめがけてでもなく、フリードでもない。
己の心の臓をめがけ一突き。
「ガイアよ。母なる…ガイアよぉ…。小生に最後の力を……」
心臓を貫いた大鎌から、クロノストーンの肉体は樹木そのものへと変化させてゆく。
大地に根をはり、葉を覆い茂らせて巨大な木へと。
リリィやササミ、おまけにルナはその巨木の枝をクッションとして捉えることが出来るかもしれない。
その枝にたわわに実っているのは甘い匂いのするおいしそうな果実。太古に滅んでしまった幻の果実。
一口食べてみたらわかるだろう。その美味しさがあなたたちを魅了することに。

37 :
暗く寂しい場所、凍てついた時の中で、小生は絶望の鉄鎖に繋がれていた。
いつの日か、この獄鎖を引きちぎり、再び陽光を浴びる日が来ることをずっとずっと夢見てきたのだ。
だがそれも今日で終わる。
そうだ、エンカ君よ。君が小生を救ってくれたのだ。
人と神、進む道は違えど、君はともに歩むと誓ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。だから確信したかった。
君が認め合える人々の存在を。
もはや共に大地を耕すことは叶わぬ。
だが小生は、君の見える場所に常に立っていようと思う。
どんな風が吹き、恐怖で肩がすくんでも
小生はここから一歩も動かないであろう。

38 :
農耕の神が生み出した竜巻に巻き込まれながら、ルナは苦しんでいた。
風が強すぎて息が吸えないし、おまけに目も開けられない。
風の音も聴覚を遮断して不安感を煽る。
とても苦しい。苦しい時間は長く感じるものだ。
何分、何十分、過ぎたのだろう。
風が弱くなってゆく。それと同時に落下してゆく体。
薄く目を開けてみると、落ちてゆくリリィとササミが見えた。
「いやあああああああ!!」
ルナは絶叫し、ぜったい届かないはずの手を虚しく伸ばす。

39 :
農耕の神が生み出した竜巻に巻き込まれながら、ルナは苦しんでいた。
風が強すぎて息が吸えないし、おまけに目も開けられない。
風の音も聴覚を遮断して不安感を煽る。
とても苦しい。苦しい時間は長く感じるものだ。
何分、何十分、過ぎたのだろう。
風が弱くなってゆく。それと同時に落下してゆく体。
薄く目を開けてみると、落ちてゆくリリィとササミが見えた。
「いやあああああああ!!」
ルナは絶叫し、届かないはずの手を虚しく伸ばす。
リリィもササミも絶対失いたくないのだ。
繋がっている絆。生まれつつある絆。どちらも大切な絆。
「みんな、死んじゃっても、ずっとお友達でいようね〜」
諦念が胸を占める。
大人になったら子どもを産んで、リリィの子どもと仲良しにさせる夢も儚く散るのだ。
こんど生まれたらすごいナイスバディに生まれて、怖いものなしー、
みたいな人生だったらいいな。頭もよくて三カ国語くらい喋れるの…。
「…ははは」
微苦笑したあと、瞳を閉じて死が訪れるのを待つ。
全身を雪原に叩きつけられる衝撃を…。
でも…。
葉擦れの音が耳朶を叩く。
柔らかな新芽としなやかで弾力のある枝の群れが幾層にも重なり落下の衝撃を受け止めていく。
クロノストーンが巨木となってリリィやルナ、そしてササミを受け止めたのだ。

40 :
農耕の神が生み出した竜巻に巻き込まれながら、ルナは苦しんでいた。
風が強すぎて息が吸えないし、おまけに目も開けられない。
風の音も聴覚を遮断して不安感を煽る。
果たして、リリィとササミは無事なのだろうか。
不安で胸がいっぱいになる。とても苦しい。苦しい時間は長く感じるものだ。
何分、何十分、過ぎたのだろう。
風が弱くなってゆく。それと同時に落下してゆく体。
薄く目を開けてみると、眼下に落ちてゆくリリィとササミが見えた。
「いやあああああああ!!」
ルナは絶叫し、届かないはずの手を虚しく伸ばす。
リリィもササミも絶対失いたくない。
繋がっている絆。生まれつつある絆。どちらも大切な絆。
「みんな、死んじゃっても、ずっとお友達でいようね」
諦念が胸を占める。
大人になったら子どもを産んで、リリィの子どもと仲良しにさせる夢も儚く散るのだ。
こんど生まれたらすごいナイスバディに生まれて、怖いものなしー、
みたいな人生だったらいいな。頭もよくて三カ国語くらい喋れるの…。
「…ははは」
微苦笑したあと、瞳を閉じて死が訪れるのを待つ。
全身を雪原に叩きつけられる衝撃が訪れるのを…。
でも…。
葉擦れの音が耳朶を打つ。
柔らかな新芽としなやかで弾力のある枝の群れが幾層にも重なり落下の衝撃を受け止めていく。
クロノストーンが巨木となってリリィやルナ、そしてササミを受け止めたのだ。

41 :
が、いきおいは止まらない。
枝を掴むといういとまもなく、ルナはお尻から落っこちた。
強打したお尻や腿にぱきぱき音を立てて折れた小枝が突き刺さる。
「痛いっ、あいたたたた」
痛いということは生きているという証。なにか不思議な力が働いて、ルナは助かった。
今まで無かったはずの大木の枝がクッション代わりになり落下速度を軽減してくれたのだ。
少し離れた所では、足首に革紐を捲きつかせたササミが枝からぶら下がっているのが見えた。
その向こうにリリィも。最終的にはフリードが受け止めてくれたらしい。
ルナは胸を撫で下ろす。足をさすり怪我がないのを確かめる。
すると手に何か、くしゃっとした感触を感じた。
犬?疑問を感じて視線を落とす。その後、驚愕。
「えっ、誰!?」
尻餅をついたさいに、誰かを下敷きにしていたのだ。
そう、テオドールである。彼は雪に顔をつっぷしたまま動かない。
ルナはびくっとして立ち上がり…
「あの、もしもし?」
おそるおそる声をかけてみた。

42 :
>「……あれ?この場合、俺はどうやって地上に降りたらいいんだ?」
風がすさぶ。葉擦れの音が声となってエンカの耳に届く。
凍てついた時の中、暗く寂しい場所で、小生は絶望の鉄鎖に繋がれていた。
いつの日か、この獄鎖を引きちぎり、再び陽光を浴びる日が来ることをずっとずっと夢見てきたのだ。
だがそれも今日で終わる。
そうだ、エンカ君よ。君が小生を救ってくれたのだ。
人と神、進む道は違えど、君はともに歩むと誓ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。だから確信したかった。
君が認め合える人々の存在を。
だがもはや、共に大地を耕すことは叶わぬ。
小生はここに根を張り、君の見える場所に常に立っていようと思う。
どんな風が吹き、時の流れがこの身を朽ち果てさせても、小生はここから一歩も動かないであろう。
それが君と、小生との大切な絆だからだ。
エンカの頭上の枝から、羽の生えた種がくるくると落ちてくる。
その種はきっとエンカを地上に降ろしてくれることだろう。

43 :
>「……あれ?この場合、俺はどうやって地上に降りたらいいんだ?」
そのとき、風がすさぶ。葉擦れの音が声となってエンカたちの耳に届く。
『凍てついた時の中、暗く寂しい場所で、小生は絶望の鉄鎖に繋がれていた。
いつの日か、この獄鎖を引きちぎり、再び陽光を浴びる日が来ることをずっとずっと夢見てきたのだ。
だがそれも今日で終わる。
そうだ、エンカ君よ。君が小生を救ってくれたのだ。
人と神、進む道は違えど、君はともに歩むと誓ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。だから確信したかった。
君が認め合える人々の存在を。
だがかなしいことに、もはや君と共に大地を耕すことは叶わぬ。
それゆえに小生は、ここに根を張り、君の見える場所に常に立っていようと思う。
どんな風が吹き、時の流れがこの身を朽ち果てさせようとも、小生はここから一歩も動かないであろう。
それが君と、小生との大切な絆だからだ……』
エンカの頭上の枝から、羽の生えた種がくるくると落ちてくる。
その種はきっとエンカを地上に降ろしてくれることだろう。
ルナは大木を見上げながら目びさしをする。
「……さみしかった気持ちはわかるんだけど、わかるんだけど」
神様のわがままで皆が死にかけて、自己満足みたいな感じで終わるとか
もう、ただのいい迷惑。と言いかけてやめる。
「…ああもう!首飾りはなくなっちゃったし」

44 :
>「……あれ?この場合、俺はどうやって地上に降りたらいいんだ?」
エンカは降りれなくなっているらしい。
そのとき、風がすさぶ。葉擦れの音が声となってエンカたちの耳に届く。
『凍てついた時の中、暗く寂しい場所で、小生は絶望の鉄鎖に繋がれていた。
いつの日か、この獄鎖を引きちぎり、再び陽光を浴びる日が来ることをずっとずっと夢見てきたのだ。
だがそれも今日で終わる。
そうだ、エンカ君よ。君が小生を救ってくれたのだ。
人と神、進む道は違えど、君はともに歩むと誓ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。だから確信したかった。
君が認め合える人々の存在を。
だがかなしいことに、もはや君と共に大地を耕すことは叶わぬ。
それゆえに小生は、ここに根を張り、君の見える場所に常に立っていようと思う。
どんな風が吹き、時の流れがこの身を朽ち果てさせようとも、小生はここから一歩も動かないであろう。
それが君と、小生との大切な絆だからだ……』
エンカの頭上の枝から、羽の生えた種がくるくると落ちてくる。
その種はきっとエンカを地上に降ろしてくれることだろう。
ルナは大木を見上げながら目びさしをする。
「……さみしかった気持ちはわかるんだけど、わかるんだけど」
神様のわがままで皆が死にかけて、自己満足みたいな感じで終わるとか
もう、ただのいい迷惑。と言いかけてやめる。
「…ああもう!首飾りはなくなっちゃったし」
でも、良かった。ルナの大切に思う人たちは全員無事だったから。
そう、絆は守られた。みんなの力で、絆は守られたのだ。

45 :
農耕の神が生み出した竜巻に巻き込まれながら、ルナは苦しんでいた。
風が強すぎて息が吸えないし、おまけに目も開けられない。
風の音も聴覚を遮断して不安感を煽る。
果たして、リリィとササミは無事なのだろうか。
不安で胸がいっぱいになる。とても苦しい。苦しい時間は長く感じるものだ。
何分、何十分、過ぎたのだろう。
風が弱くなってゆく。それと同時に落下してゆく体。
薄く目を開けてみると、眼下に落ちてゆくリリィとササミが見えた。
「いやあああああああ!!」
ルナは絶叫し、届かないはずの手を虚しく伸ばす。
リリィもササミも絶対失いたくない。
繋がっている絆。生まれつつある絆。どちらも大切な絆。
でも、もう手遅れのようだ。
「みんな、死んじゃっても、ずっとお友達でいようね」
諦念の色も隠せずに、ルナは呟く。
大人になったら子どもを産んで、リリィの子どもと仲良しにさせる夢もここで儚く散るのだ。
こんど生まれたらすごいナイスバディに生まれて、怖いものなしー、
みたいな人生だったらいいな。頭もよくて三カ国語くらい喋れるの…。
「…ははは」
微苦笑したあと、瞳を閉じて死が訪れるのを待つ。
全身を雪原に叩きつけられる衝撃が訪れるのを…。
でも…。
葉擦れの音が耳朶を打つ。
柔らかな新芽としなやかで弾力のある枝の群れが幾層にも重なり落下の衝撃を受け止めていく。
クロノストーンが巨木となってリリィやルナ、そしてササミを受け止めたのだ。

46 :
が、いきおいは止まらない。
枝を掴むといういとまもなく、ルナはお尻から落っこちた。
強打したお尻や腿にぱきぱき音を立てて折れた小枝が突き刺さる。
「痛いっ、あいたたたた」
痛いということは生きているという証。なにか不思議な力が働いて、ルナは助かった。
今まで無かったはずの大木の枝がクッション代わりになり落下速度を軽減してくれたのだ。
少し離れた所では、足首に革紐を捲きつかせたササミが枝からぶら下がっているのが見えた。
その向こうにリリィも。最終的にはフリードが受け止めてくれたらしい。
ルナは胸を撫で下ろす。足をさすり怪我がないのを確かめる。
すると手に何か、くしゃっとした感触を感じた。
犬?疑問を感じて視線を落とす。その後、驚愕。
「えっ、誰!?」
尻餅をついたさいに、誰かを下敷きにしていたのだ。
そう、テオドールである。彼は雪に顔をつっぷしたまま動かない。
ルナはびくっとして立ち上がり…
「あの、もしもし?」
おそるおそる声をかけてみた。

47 :
>「……あれ?この場合、俺はどうやって地上に降りたらいいんだ?」
エンカは降りれなくなっているらしい。
そのとき、風がすさぶ。葉擦れの音が声となってエンカたちの耳に届く。
『凍てついた時の中、暗く寂しい場所で、小生は絶望の鉄鎖に繋がれていた。
いつの日か、この獄鎖を引きちぎり、再び陽光を浴びる日が来ることをずっとずっと夢見てきたのだ。
だがそれも今日で終わる。
そうだ、エンカ君よ。君が小生を救ってくれたのだ。
人と神、進む道は違えど、君はともに歩むと誓ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。だから確信したかった。
君が認め合える人々の存在を。
だがかなしいことに、もはや君と共に大地を耕すことは叶わぬ。
それゆえに小生は、ここに根を張り、君の見える場所に常に立っていようと思う。
どんな風が吹き、時の流れがこの身を朽ち果てさせようとも、小生はここから一歩も動かないであろう。
それが君と、小生との大切な絆だからだ……』
エンカの頭上の枝から、羽の生えた種がくるくると落ちてくる。
その種はきっとエンカを地上に降ろしてくれることだろう。
ルナは大木を見上げながら目びさしをする。
「……さみしかった気持ちはわかるんだけど、わかるんだけど」
神様のわがままで皆が死にかけて、自己満足みたいな感じで終わるとか
もう、ただのいい迷惑。と言いかけてやめる。
「…ああもう!首飾りはなくなっちゃったし」
でも、良かった。ルナの大切に思う人たちは全員無事だったから。
そう、絆は守られた。みんなの力で、絆は守られたのだ。
>意外!乗合馬車の正体はかぼちゃ!!
>さっきまで馬車の残骸があったはずの雪上にはバラバラになったかぼちゃが散乱していた
>「いくら経費削減のためだからって魔法でかぼちゃを馬車にしてたとは」
「かぼちゃ?それならパンプキンシチューでも作ってこれからみんなでパーティーね。
きっとぽかぽかに温まるから…って、ちょっと!男性陣はササミを助けてあげて!
枝に吊るされて、ハングドマンぢゃないんだから!」
ルナはレスの順番てきにテオドールに向かって話しかけた。すでにルナは元気を取り戻していた。
なぜならクロノストーンの呪縛から解き放たれている今は熱もない。ただ魔力を失っているだけ。
リリィのコートもちょうど近くに落ちていたので拾い上げ、リリィに手渡す。
ササミのことは任せて、自分はカボチャのかけらを拾い集めるのだった。

48 :
ここは図書国家、バニブルのとある庭園。
木立の奥、古木の後ろから、寄り添う二つの影がはみだしていた。
一人は男で一人は女。互いの背にためらいながら手を伸ばす。
女の腕は男の肩へ、男の腕は女の腰へ回され、女が軽くつま先立った。
顔と顔が近寄ってゆき、鼻先をずらして、唇が重なる。影がひとつになる。
「きゃわぁーっ!!」
口づけを目撃してしまった。
気づいたときにはスクルドの腰は抜けていた。
しかも他人ならいざ知らず、スクルドを可愛がってくれ、心から慕う姉と
最愛の夫との――口づけだ。
「うそ、これは何かのまちがいよ。どうしよう。
ハー君とウェル姉があんなことする仲だったなんて…」
ぐっと拳を握ったとたん、胸が妬けスクルドは泣きそうになった。
ハー君ことハーラルは近衛兵の長。ウェル姉ことウェルザンディは国家司書。
例えたら警視庁長官と、なんてら大臣のような関係なのだ。
たぶん。そう思う。スクルドには詳しいことはよくわからなかったが。
ふらふらになりながらスクルドはもう一度古木に視線を移す。
しかし、二人は立ち去ったあとのようだった。
(…どうしよう。……どうしよう)
疑念が頭から離れない。スクルドは魔法で動く魔導車に乗って庭園をあとにする。
後ろはもう大渋滞。スクルドは安全運転だから。
おまけに右折ができず、狭い場所にとめるのも苦手。公園の駐車スペースにひん曲げながら車をとめる。
「…はあ」
公園のベンチで噴水をみながら盛大なため息。

49 :
관의위

50 :
ここは図書国家、バニブルのとある庭園。
木立の奥、古木の後ろから、寄り添う二つの影がはみだしていた。
一人は男で一人は女。互いの背にためらいながら手を伸ばす。
女の腕は男の肩へ、男の腕は女の腰へ回され、女が軽くつま先立った。
顔と顔が近寄ってゆき、鼻先をずらして、唇が重なる。影がひとつになる。
「きゃわぁーっ!!」
口づけを目撃してしまった。
気づいたときにはヴァルルの腰は抜けていた。
しかも他人ならいざ知らず、最愛の夫と、ヴェルザンディ国家司書との
――口づけだ。
「うそよー!これは何かのまちがいよ。どうしよう。
ハー君と国家司書があんなことする仲だったなんて…」
ぐっと拳を握ったとたん、胸が妬けヴァルルは泣きそうになった。
ハー君ことハーラルは近衛兵の長。かたやウェルザンディは国家司書。
例えたら警視庁長官と、なんてら大臣のような関係なのだ。
たぶん。そう思う。ヴァルルには詳しいことはよくわからなかったが
でも、ふらふらになりながらもう一度古木に視線を移す。
しかし、すでに影はなかった。二人は立ち去ったあとのようだった。
(…どうしよう。……どうしよう)
疑念が頭から離れない。ヴァルルは魔法で動く魔導車に乗って庭園をあとにする。
そしてしばらくすると、クラクションの音が街中に鳴り響く。
振り返れば後ろは大渋滞。それはヴァルルが超安全運転だから。
おまけに右折ができず、狭い場所にとめるのも苦手。
だから公園の駐車スペースにひん曲げながら車をとめる。
「…はあ」
公園のベンチ。
しょんぼりしながらヴァルルは盛大なため息を吐いた。
まさかハーラルが浮気していたなんて…。
(いえ、ちょっとまって)
ヴァルルは立ち上がる。そして恋愛小説を思い出す。
悪い女から騙されるおろかな男のことを。
「きっと、ハー君はあの女に騙されてるんだわ!」

51 :
ここは図書国家、バニブルのとある庭園。
木立の奥、古木の後ろから、寄り添う二つの影がはみだしていた。
一人は男で一人は女。互いの背にためらいながら手を伸ばす。
女の腕は男の肩へ、男の腕は女の腰へ回され、女が軽くつま先立った。
顔と顔が近寄ってゆき、鼻先をずらして、唇が重なる。影がひとつになる。
「きゃわぁーっ!!」
口づけを目撃してしまった。
気づいたときにはヴァルルの腰は抜けていた。
しかも他人ならいざ知らず、最愛の夫と、ヴェルザンディ国家司書との
――口づけだ。
「うそよー!これは何かのまちがいよ。どうしよう。
ハー君と国家司書があんなことする仲だったなんて…」
ぐっと拳を握ったとたん、胸が妬けヴァルルは泣きそうになった。
ハー君ことハーラルは近衛兵の長。かたやウェルザンディは国家司書。
例えたら警視庁長官と、なんてら大臣のような関係なのだ。
たぶん。そう思う。ヴァルルには詳しいことはよくわからなかったが
でも、ふらふらになりながらもう一度古木に視線を移す。
しかし、すでに影はなかった。二人は立ち去ったあとのようだった。
(…どうしよう。……どうしよう)
疑念が頭から離れない。ヴァルルは魔法で動く魔導車に乗って庭園をあとにする。
そしてしばらくすると、クラクションの音が街中に鳴り響く。
振り返れば後ろは大渋滞。それはヴァルルが超安全運転だから。
おまけに右折ができず、狭い場所にとめるのも苦手。
だから公園の駐車スペースにひん曲げながら車をとめる。
――公園のベンチ。
「…はあ」
しょんぼりしながらヴァルルは盛大なため息を吐いた。
まさかハーラルが浮気していたなんて…。
(いえ、ちょっとまって)
ヴァルルは立ち上がる。そして恋愛小説を思い出す。
悪い女から騙されるおろかな男のことを。
「きっと、ハー君はあの女に騙されてるんだわ!
あの女狐め!尻尾を掴んで地獄の業火に叩き込んでやるわ!!」
こうしてヴァルーは、私立探偵の事務所の門を叩くのであった。

52 :
「断る!!」
「え?どうしてなの!?」
私立探偵の事務所の客室で、ヴァルーは探偵に怒鳴られていた。
「そんなん調査したらこっちの命がなくなるわ!」
私立探偵「スパイダー・ハマーダ」は関西弁でまくし立ててくる。
「じゃあ、自分で調査するので私を探偵にしてください!」
「なんでやねん!!」
ハマダーの怖い顔。まるで野犬。ブルドッグ。
ぶ厚い下くちびるを突き出してまるでヤクザ。
ヴァルーは負けじと頬を膨らませてみせた。
そのあと、部屋に押し入って、勝手に掃除を始める。
「ちょ、おま、なにしてんねん!!」
「みたらわかるでしょ。掃除です。もう私は今から探偵みならいです」
その時だった。扉が開いて、お客様がいらした。
「いらっしゃいませ」
ヴァルーは元気な声で挨拶をした。

53 :
野中は美術室の中央の椅子に座った。
海棠は神部の斜め後ろ。背後霊のように椅子に腰を下ろす。
モデル野中を目の前にした神部は、今、何を思っているのだろう。
海棠は視線を彼女の指先に移した。
鉛筆を持った神部の指が揺れている。迷っているのだろうか。
紙を走る鉛筆の音が弱弱しく、室内は驚くほど静かだ。
でもこの静寂が心地よいと海棠は思う。時のなかに埋没してゆく感覚。
それは、深い海の底に沈んでゆく感覚にも似ていた。
しばらくして――
>「僕は須佐野 命。月光館の生徒だが今日は前衛的絵画のモデルとして来たんだ。ヨロシク!
 多分今頃随分噂になってるだろうがまあアレだ、人の噂も75日!
 そんな事よりイヨカン隊員は絵がすごく上手いから色々書いてもらうといい」
月光館の生徒が現れた。名前は須佐野命。神部とは知り合いらしい。
海棠は会釈をして、それだけで終わりにしようとした。
でも、野中が余計なことをし始める。
彼女は椅子の背に寄りかかりながら背伸びをしたあと…
「ちょっと休憩。…てか貴女もモデルなの?私の名前は野中エミコ。
そっちのショートカットの子は海棠美帆。よろしくね〜」
バカ丸出し。人の紹介までしなくてもいい、と海棠は野中をねめつける。
そんな折、須佐野はとあるキャンバスを指差して
>「あれ、君には何に見える? 僕には天使を題材にした前衛的絵画に見えるんだが」
と言う。それに神部は
>「天使ですよ、本当に。私を助けてくれた。」
と返した。
「助けてくれた?」

54 :
野中は神部に勧められた椅子を自ら美術室の中央に持ってゆきそこに座った。
海棠は神部の斜め後ろ。背後霊のように椅子に腰を下ろす。
モデル野中を目の前にした神部は、今、何を思っているのだろう。
海棠は視線を彼女の指先に移した。
鉛筆を持った神部の指が揺れている。迷っているのだろうか。
紙を走る鉛筆の音が弱弱しく、室内は驚くほど静かだ。
でもこの静寂が心地よいと海棠は思う。時のなかに埋没してゆく感覚。
それは、深い海の底に沈んでゆく感覚にも似ていた。
しばらくして――
>「僕は須佐野 命。月光館の生徒だが今日は前衛的絵画のモデルとして来たんだ。ヨロシク!
 多分今頃随分噂になってるだろうがまあアレだ、人の噂も75日!
 そんな事よりイヨカン隊員は絵がすごく上手いから色々書いてもらうといい」
月光館の生徒が現れる。名前は須佐野命。神部とは知り合いらしい。
海棠は会釈をして、それだけで終わりにしようとした。
でも、野中が余計なことをし始める。
彼女は椅子の背に寄りかかりながら背伸びをしたあと…
「ちょっと休憩。…てか貴女もモデルなの?私の名前は野中エミコ。
そっちのショートカットの子は海棠美帆。よろしくね〜」
バカ丸出し。人の紹介までしなくてもいい、と海棠は野中をねめつける。
そんな折、須佐野はとあるキャンバスを指差して
>「あれ、君には何に見える? 僕には天使を題材にした前衛的絵画に見えるんだが」
と言う。それに神部は
>「天使ですよ、本当に。私を助けてくれた。」
と返した。
(助けてくれた?)その言葉がひっかかる。
>「…私は、この絵の物体をもう一度見たい。」
「……」
その願いはどことなく海棠と一緒だと思う。
天使に会いたい神部。ジョーカーに会いたい海棠。

55 :
>「主治医は、もう一人の自分…『カゲ』、と言っていたけれど、先日、ほぼ同じ意味の『シャドウ』という言葉を聞いた。
 その子なら何か分かるんじゃないかって思って探しているの。
 今はまだ、久我浜清恵と言う名しか分からない。しかも今日は学校に来ていないみたいで、八方塞がりなんだけどね。」
「もう一人の自分…」
海棠は思い出す。あの時ジョーカーが言った言葉を。
『おまえはペルソナの力を手に入れた。それはおまえに影のように付き従う、もう一人の自我。
おまえに新たなる力を与えてくれるだろう』
影。もう一人の自我。
何かが細い糸で、繋がっているように思える。
もしかしたら、この糸を手繰ってゆけば、
ジョーカーのもとへ行けるかもしれない。
しかし肝心要の久我浜清恵の情報を海棠は知らない。
まさに神部の語るとおりの八方塞がり。

56 :
>「主治医は、もう一人の自分…『カゲ』、と言っていたけれど、先日、ほぼ同じ意味の『シャドウ』という言葉を聞いた。
 その子なら何か分かるんじゃないかって思って探しているの。
 今はまだ、久我浜清恵と言う名しか分からない。しかも今日は学校に来ていないみたいで、八方塞がりなんだけどね。」
「もう一人の自分…」
海棠は思い出す。あの時ジョーカーが言った言葉を。
『おまえはペルソナの力を手に入れた。それはおまえに影のように付き従う、もう一人の自我。
おまえに新たなる力を与えてくれるだろう』
影。もう一人の自我。
何かが細い糸で、繋がっているように思える。
もしかしたら、この糸を手繰ってゆけば、
ジョーカーのもとへ行けるかもしれない。
しかし神部も言っている通り、肝心要の久我浜清恵の情報を海棠は知らない。
まさに八方塞がり。

57 :
>「主治医は、もう一人の自分…『カゲ』、と言っていたけれど、先日、ほぼ同じ意味の『シャドウ』という言葉を聞いた。
 その子なら何か分かるんじゃないかって思って探しているの。
 今はまだ、久我浜清恵と言う名しか分からない。しかも今日は学校に来ていないみたいで、八方塞がりなんだけどね。」
「もう一人の自分…」
海棠は思い出す。あの時ジョーカーが言った言葉を。
『おまえはペルソナの力を手に入れた。それはおまえに影のように付き従う、もう一人の自我。
おまえに新たなる力を与えてくれるだろう』
影。もう一人の自我。
何かが細い糸で、繋がっているように思える。
もしかしたら、この糸を手繰ってゆけば、
ジョーカーのもとへ行けるかもしれない。
しかし神部も言っている通り、肝心要の久我浜清恵の情報を海棠は知らない。
久我浜が登校してくるのを何日も待っていよう。
海棠が、そんな消極的な決意を固めようとしていたその時だった。
「久我浜さんならこの前の夜、見た子がいたわ。男とどっかに歩いていったって。
でもね変なの。そっちのほうは寂れてて何にもないはずなのよ。はっきり言っちゃったらホテルも何にもないの。
あるのは廃工場だけ。それもお化けが出るって有名なの。まさかこんな寒い季節に肝試しなんておかしいよね」
どこで手に入れた情報なのか、野中エミコが得意そうに語ってくる。
海棠は野中のその態度に目を見開いて…
「廃工場に男と一緒に歩いて行って今日も学校に来ていないってそれって事件でしょ!?
はやく警察に連絡しないとっ。それか親か先生に連絡して…」
小さく叫びあがる。
「え、そう〜?もし違ったらどうするの?余計なお世話して久我浜さんに大迷惑をかけちゃうかもよ?
もしもそうなっちゃったら私なら悲惨ね」
海棠はしばらく沈黙。正直に言って自分には判断出来なかった。
かすかな希望として、明日になったら久我浜が何事も無く登校してくることを祈るのみ。
「……ごめんなさい」
そういい残して海棠は学校をあとにする。
見えかけた細い糸はどこか遠くへ消えかけていた。

58 :
>「主治医は、もう一人の自分…『カゲ』、と言っていたけれど、先日、ほぼ同じ意味の『シャドウ』という言葉を聞いた。
 その子なら何か分かるんじゃないかって思って探しているの。
 今はまだ、久我浜清恵と言う名しか分からない。しかも今日は学校に来ていないみたいで、八方塞がりなんだけどね。」
「もう一人の自分…」
海棠は思い出す。あの時ジョーカーが言った言葉を。
『おまえはペルソナの力を手に入れた。それはおまえに影のように付き従う、もう一人の自我。
おまえに新たなる力を与えてくれるだろう』
影。もう一人の自我。
何かが細い糸で、繋がっているように思える。
もしかしたら、この糸を手繰ってゆけば、
ジョーカーのもとへ行けるかもしれない。
しかし神部も言っている通り、肝心要の久我浜清恵の情報を海棠は知らない。
久我浜が登校してくるのを何日も待っていよう。
海棠が、そんな消極的な決意を固めようとしていたその時だった。
「久我浜さんならこの前の夜、見た子がいたわ。男とどっかに歩いていったって。
でもね変なの。そっちのほうは寂れてて何にもないはずなのよ。はっきり言っちゃったらホテルも何にもないの。
あるのは廃工場だけ。それもお化けが出るって有名なところ。まさかこんな寒い季節に肝試しなんておかしいよね」
どこで手に入れた情報なのか、野中エミコが得意そうに語ってくる。
海棠は野中のその態度に目を見開いて…
「廃工場に男と一緒に歩いて行って今日も学校に来ていないってそれって事件でしょ!?
はやく警察に連絡しないとっ。それか親か先生に連絡して…」
思わず椅子から立ち上がってしまう。
「え、そう〜?もし違ったらどうするの?余計なお世話して久我浜さんに大迷惑をかけちゃうかもよ?
もしもそうなっちゃったら私なら悲惨ね」
海棠はしばらく沈黙。正直に言って自分には判断出来なかった。
かすかな希望は、明日になり、久我浜が何事も無く登校してくることだけだった。
「……ごめんなさい」
そういい残して皆に背を向ける海棠。
見えかけた細い糸はどこか遠くへ消えかけていた。

59 :
>「主治医は、もう一人の自分…『カゲ』、と言っていたけれど、先日、ほぼ同じ意味の『シャドウ』という言葉を聞いた。
 その子なら何か分かるんじゃないかって思って探しているの。
 今はまだ、久我浜清恵と言う名しか分からない。しかも今日は学校に来ていないみたいで、八方塞がりなんだけどね。」
「もう一人の自分…」
海棠は思い出す。あの時ジョーカーが言った言葉を。
『おまえはペルソナの力を手に入れた。それはおまえに影のように付き従う、もう一人の自我。
おまえに新たなる力を与えてくれるだろう』
影。もう一人の自我。
何かが細い糸で、繋がっているように思える。
もしかしたら、この糸を手繰ってゆけば、
ジョーカーのもとへ行けるかもしれない。
しかし神部も言っている通り、肝心要の久我浜清恵の情報を海棠は知らない。
それならば仕方ない。久我浜が登校してくるのを何日も待っていよう。
海棠が、そんな消極的な決意を固めようとしていたその時だった。
「久我浜さんならこの前の夜、見た子がいたわ。男とどっかに歩いていったって。
でもね変なの。そっちのほうは寂れてて何にもないはずなのよ。はっきり言っちゃったらホテルも何にもないの。
あるのは廃工場だけ。それもお化けが出るって有名なところ。まさかこんな寒い季節に肝試しなんておかしいよね」
どこで手に入れた情報なのか、野中エミコが得意そうに語ってくる。
海棠は野中のその態度に目を見開いて…
「廃工場に男と一緒に歩いて行って今日も学校に来ていないってそれって事件でしょ!?
はやく警察に連絡しないとっ。それか親か先生に連絡して…」
思わず椅子から立ち上がってしまう。
「え、そう〜?もし違ったらどうするの?余計なお世話して久我浜さんに大迷惑をかけちゃうかもよ?
もしもそうなっちゃったら私なら悲惨ね」
海棠はしばらく沈黙。正直に言って自分には判断出来なかった。
かすかな希望は、明日になり、久我浜が何事も無く登校してくることだけだった。
「……ごめんなさい」
そういい残して海棠は皆に背を向ける。
見えかけた細い糸はどこか遠くへ消えかけていた。

60 :
「あまい果実の香り…。狂ってしまいそうだね」
大樹の枝に美しい少年が座っている。そう、夢見石の少年である。
彼は大樹の洞に鎮座しているひび割れた石をそっと取り出すと、瞳を閉じてキスをする。
すると石は蜃気楼のように溶けて少年の柔らかい唇に吸い込まれるようにきえてしまった。
「かなしいキスだよ。石の想いは僕の心のうちに。そして神の残留思念は天に還った。
今や古代樹の種の化石はその夢を叶え、フィジルの地に新たなる名所を生み出している。
僕たちは小石を蹴るけれど、小石もまた、僕たちを投げ飛ばしているのさ。
小石からみた現実を、僕たちは学ばなければいけないね……」
その時だ。エンカの強烈な蹴りが大樹を揺らす。
夢見石の少年は体勢を崩して無数の果実と一緒にエンカの背後へと落下。
その体を半分ほど雪に埋没させるのだった。
「僕は、小石だったらよかったよ…」
哀切な眼差しで、少年はエンカの背後を見つめる。
その瞳の奥にクロノストーンの輝きを孕ませながら。

>「あ、そういえば私のカバンは?」
「あ、これかも」とルナ。
カボチャの欠片を拾いながら偶然見つけたテオボルトの鞄。
よいしょと拾い上げ彼に手渡した。
「体、冷えちゃっただろうし、カボチャのシチューを食べて皆で暖まったらいいじゃん。
みんな貴方のこと知りたがってる。それにもともと今日はパーティーの日なんだから」
そう言ってルナは小さく笑った。エンカも果実をほお張りながら元気そうだし、フリードたちも無事。
もちろんササミは殺したって死なない。ルナはそんな変な信頼感を胸に抱き始めていた。
「でも、エンカ君ったらそんな変な果物を美味しそうにほお張っちゃって、
パーティーの前にお腹がいっぱいになっちゃったらどうするの?」
小首を傾げるルナ。続けてリリィに視線を移し…
「ごめんねリリィ。今日もみんなを変なことに巻き込んじゃって。
このお礼は必ず返すから許してね」
そんな言葉を口にする。
リリィがルナに気を使って、湿ったコートを羽織っていることには気が付いていない。
ただそんな優しいお友達が、墜落死を免れたことに、ただただ安堵しているだけだった。

61 :
灰白色の壁で囲われた病室と長い廊下が、今の須藤が生きるすべての世界だった。
廊下の突き当たりには守衛室。その突き当りの脇にはエレベーター。
白いスリップドレスの裾をひるがえし、リノリウムの冷たい床を素足でぺたぺた踏んで、
須藤は今日も病院内を散歩。廊下の途中には他にも病室のドアが並んでいたが
誰がいるのかはわからない。
「…いん…らけち」
呟いた彼女の声は妙に平板だった。
今日は一人でごはんをあげよう。
軽くステップして踵を返し、守衛室に併設された給湯室に足を向ける。
電気コンロと小さなシンクがついているだけの簡易キッチンと大きな棚で占拠された細長い空間。
「ちょっと待ってて」
壁にむかって囁き声をかけ、一旦その場を離れて、
爪先立ちで棚の上のほうにしまってある紙袋を一つ取る。
その中身は、守衛が内緒で調達して来てくれるポテトチップスだ。
「いただきまぁす♪」
そう言うと、須藤はぱりぱりとポテトチップスを食べ始め、
あっという間に平らげたあとに盛大なため息。
空っぽになったポテトチップスの袋に未練がましく視線を送りながら。
「こんなに美味しいものを自由に食べられないなんて何て不自由なの。
それにこんなところにいたって私の病気はよくならないと思う…。
日に日に痣だって大きくなってゆくし……」
悔しさで涙が込み上げてきた。
今まで願ったことはすべて叶えられてきたというのに今の自分は闇の中にいる。
いったいこの先どうなってしまうのだろう。どうしたらいいのだろう。
そう思うと目眩がして意識が遠のきそうになってしまう。
「そうよ…携帯。携帯があれば。また昔の自分に戻れるかも……」
須藤竜子は哀切な眼差しのまま、廊下を徘徊するのだった。

62 :
神部衣世、須佐野命のもとから早々に立ち去ってしまった海棠美帆は
どうして逃げてしまったのだろう、と後になってから後悔していた。
――極端な引っ込み思案。自分から行動を起こすことへの恐怖。
そのくせ、ジョーカーに対しては冷やかしのような態度をとってしまい
彼が願いを叶えてくれるという申し出を断ってしまっている。
変わってしまうことへの恐怖。天邪鬼。情けない。
海棠は電車から降りると、灰色の四角い口をぽっかりと開けている地下鉄の出口を見上げる。
(雨…)微かな雨音が、階段の壁に反響している。
これからどうしようかと途方に暮れながら濃灰色に濡れた足元の舗装階段に視線を落とす。
割り切れない気分のまま空を見上げる。
「はあ…」
ため息を吐いた。すると突然、携帯が鳴り出した。
久々に聞く呼び出し音。海棠はバッグから携帯をつかみ出しディスプレイに示されている発信者ナンバーを確認する。
もしかするとジョーカーかも知れない。だったらどうすればいい?
この電話にでたらどうなる……。
しかし発信元は知らない番号だった。
海棠は少し安心して通話ボタンを押した。
「海棠美帆さんだね?」
聞き覚えの無い男の声。
「あなたは?」
「名乗るほどの者ではないが、トーラスとでも言っておこうか。プリンス・トーラス」
変な電話だ。悪戯だろうか。切ろうとした海棠に、トーラスと名乗る男は素早く言った。
「切らないでくれよ。仮面党からの呼び出しだ。今すぐにクラブ・ゾディアックに来い。
奥にメンバーしか入れない扉がある。君が来たらわかるようにしておく。その扉から三階に上がれ。
VIPルームで待っている」
「ちょっと待って…いったい…」
一方的に喋って、電話は切れた。

63 :
悪戯?いや、電話の声は確かに「ジョーカー」と言った。
半信半疑だったが、海棠はクラブ・ゾディアックに向かった。
トーラスが言った通り、VIPルームへの扉は店の奥の目立たない場所にあった。
黒い服の男が扉のそばに立っていたが、海棠の顔を見ると何も言わずに開けてくれた。
廊下は赤い照明に照らされている。扉一枚隔てているだけなのに、フロアの喧騒がまるで届かない。
ややこしく曲がりくねった廊下を通って階段を上る。
三階の一番奥、重厚な扉を開いた瞬間、海棠は立ちすくんだ。
真紅の絨毯に革張りのソファ、大理石のテーブル。どこかの会社の重役室のようだ。
部屋には一人の人物。ソファにどっかりと腰を下ろしている。
黒いシャツに派手なネクタイの男。
「ようこそレイディ・スコルピオン。待っていたよ」
その声には聞き覚えがあった。電話をかけてきたトーラスだ。
しかし肝心のジョーカーがいない。騙されたと思った海棠の表情を読んだのかトーラスが言った。
「俺はジョーカー様に使える仮面党幹部だ。ジョーカー様はここにはいらっしゃらない。
あの方は滅多に人前に姿を現さない。よほどのことがない限り、仮面党の任務は我々で執り行う。
これまでは二人きりだったが……海棠美帆、君が三人目となる」
トーラスは上機嫌らしく笑顔を海棠に向けてきた。
「これで三つの星座が揃ったというわけだ。のこりはあと一つ。歓迎する蠍座のレイディ」
蠍座。あのとき確かに声を聞いた。蠍の星座を背負う者…と。海棠は蠍座の生まれだ。
「ともあれ、君は仮面党幹部としてジョーカー様に選ばれた。
今さら逃げ出すことはできないぞ。君はジョーカー様に理想を叶えてもらい、
その代償として忠誠をささげることを誓ったのだからね」
何も叶えてもらった覚えはない。海棠は自分には夢などないとはっきり言った。
それはジョーカーも承知しているはずだ。
「あの、仮面党の目的っていったい…」
「イン・ラケチの成就。イン・ラケチはマヤ語で『私は、もう一人のあなた』を意味する言葉だ。
そういう名前の幻の書物があるのさ。出版はされてないがね。イデアル・エナジーを集めて
人類を新たなる段階に進化させる。……それが仮面党の目的だ。
とりあえず、君にはこれを与えよう」
トーラスが差し出した掌の上に、手品のように青い物体が現れた。
海棠は息を呑んだ。それは青く透き通った髑髏だった。

64 :
神部衣世、須佐野命のもとから早々に立ち去ってしまった海棠美帆は
どうして逃げてしまったのだろう、と後になってから後悔していた。
――極端な引っ込み思案。自分から行動を起こすことへの恐怖。
そのくせ、ジョーカーに対しては冷やかしのような態度をとってしまい
彼が願いを叶えてくれるという申し出を断ってしまっている。
変わってしまうことへの恐怖。天邪鬼。情けない。
海棠は電車から降りると、灰色の四角い口をぽっかりと開けている地下鉄の出口を見上げる。
(雨…)微かな雨音が、階段の壁に反響している。
これからどうしようかと途方に暮れながら濃灰色に濡れた足元の舗装階段に視線を落とす。
割り切れない気分のまま空を見上げる。
「はあ…」
ため息を吐いた。すると突然、携帯が鳴り出した。
久々に聞く呼び出し音。海棠はバッグから携帯をつかみ出しディスプレイに示されている発信者ナンバーを確認する。
もしかするとジョーカーかも知れない。だったらどうすればいい?
この電話にでたらどうなる……。
しかし発信元は知らない番号だった。
海棠は少し安心して通話ボタンを押した。
「海棠美帆さんだね?」
聞き覚えの無い男の声。
「あなたは?」
「名乗るほどの者ではないが、トーラスとでも言っておこうか。プリンス・トーラス」
変な電話だ。悪戯だろうか。切ろうとした海棠に、トーラスと名乗る男は素早く言った。
「切らないでくれよ。ジョーカー様からの呼び出しだ。今すぐにクラブ・ゾディアックに来い。
奥にメンバーしか入れない扉がある。君が来たらわかるようにしておく。その扉から三階に上がれ。
VIPルームで待っている」
「ちょっと待って…いったい何なの…」
一方的に喋って、電話は切れた。

65 :
「水の水晶髑髏だ。蠍座は水のエレメントに属する星座。
君はこの髑髏を、イデアルエナジーで満たせ。それがジョーカー様のお望みだ」
押し付けられるように海棠は髑髏を受け取った。
見かけの印象より軽い。ひんやりとした手に吸い付くような感触があった。
「君の最初の仕事は廃工場に行き、大型のシャドウからエナジーを奪うことだ」
「……シャドウ?」
「一日と一日の狭間の時間。影時間に現れるエネルギー体のようなもの、とでも説明しておこう。
それは満月の夜、午前0時に現れる。今回はジョーカー様の望龍術によって、
発生地点を前もって予測することが出来た。君にはそれを退治してその屍からエネルギーを奪ってもらいたいのだ」
「……あの、でも」
いきなりそんなことができるわけがない。ありえない。
海棠は俯いたまま、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
しかしトーラスは黙ったまま、拳銃を突き出し…
「君も影人間の噂を知っているだろ?奴らが暴れだすことによって影人間が増加してしまうのだ。
君にはシャドウを倒す力がある。協力してくれないか?」
影人間のことなら海棠も知っている。最近、増えだした無気力な人たち。
魂を奪われてしまったような生きる屍。それにシャドウを倒す力。
トーラスはきっとペルソナのことを言っているのだろう。
海棠はしぶしぶ、トーラスの差し出している拳銃を受け取った。
「それはコルト・ポニー。その弾丸には魔の力が宿っている。
シャドウや魔物に効果的にダメージを与えることができるだろう。
そして勘違いして欲しくはないのだが、君はそれと似た形の召喚器を以前に預かっているはずだ。
それで君の人格を一時的に破壊することによって安定したペルソナを引き出すことができるはず」
ここまで話されて、海棠は呆れるのを通り越して笑いが込み上げてきた。
あまりにも現実離れした話に、そんなことが本当にありえるものなら逆に起こってほしい。
今の自分を取り囲む現実からふざけた世界にいけるものなら行ってみたい。
そう、あのジョーカーに電話した時と同じ。できるものならやって欲しい。そんな投げやりの感覚。
「わかりました。やってみます。今日の深夜零時。廃工場ですね」
ほの暗い笑顔でトーラスを見つめる。その仮面のような表情にトーラスは息を呑むのだった。
「た、たのんだぞ。レディ・スコルピオン」

66 :
夢見石の少年は保険医の説明を聞いても無表情。
ササミの体の変化を、じっと見ていても見ているだけで何かを感じとっているわけでもない。
所謂スイッチがOFFの状態。
>「おも、おも・・・・・おもちかえりしましょーがくえんに。
 少年、フリード君、テオ君、誰でもいいよ、私じゃちょっとおぼつかないから、手が空いてる人、エンカを手伝ってー」
リリィは上手くごまかしながら皆に頼みごと。
「いえっさーリリィタイチョ。おもちかえろけーしょん」
そう言ってエンカのひこずっているカボチャの破片に超強力なゴムをくくりつけて引っ張り始める夢見石の少年。
ササミは可愛らしくカボチャの皮に寝ている。まるで三日月のハンモック。
グレンも手伝おうとしたけどサイズ的に無理と断られていた。でもそれでよかったのだ。
ゴムがぶちきれて大惨事になるのはそれはまた別のお話。
いっぽう、時と場所が変わってパーティー会場。
ルナはテオボルトに約束通りパンプキンシチューをご馳走していた。
「お口に合うといいですけど……」
ルナの心配そうな顔。テオボルトに対しては遠慮もあるのか口数も少ない。
こういうときにリリィがいたら上手く緩和してくれるのに…。
そう思いながら向かいの席に視線を流すとフリードが
「ブランディ持ってきてください一番強いやつ」とか無茶なこと言っている。

「未成年でしょ?だめよ〜」
ルナはペロっと舌を出して、
「みなさまどうかご歓談ください」と言い残して保健室へ。
それを聞いて、ちゃっかりパーティーに参加していた夢見石の少年はフリードのほっぺを指でぐりぐり。
そう、彼はリリィにされたことをマネしているのだった。
廊下からルナの鼻歌が聞こえてくる。
両手で持つはトレイ。その上には三皿のパンプキンシチュー。
保健室でササミを看病しているであろうリリィとエンカに
あったかいパンプキンシチューが届くのはまた別のお話。

67 :
普通に真面目に焼肉定食って答えたのって超はずかしい。
ふと思い出したヴァルンは六階で顔から火を吹いていた。
すべるってわかってて悪魔の書はパスしたのだ。
「きー!くやしい!」
地団駄を踏んでいると声が聞こえる。
>『ほウ 案外 するドい のだ ナ。
 待つ ゾ アマテらス の 子。 そし テ ファフニール げおルギウす ノ 子。
 来た レば 我 汝ら ニ 与え ン。 知 を 叡智 ヲ 真 ジツ を』
「なによこれ〜。私には関係ないよっ。耳を澄まして損しちゃったよ〜!」
ヴァルンは損した気持ちになる。
すると上からさっそくゲッツとフォルテが降りてくる。
「もー!おそいよ〜!なにしてたの!?」
>「フォルテ君、ここよ〜」
>「騙されないで。そいつはモンスターが化けた偽物よ!」
「ええ!?私が本物のヴァルンだよ!」
ヴァルンの偽者に気付いたヴァルンは驚愕する。
偽者の顔のクオリティーが低すぎるのだ。はっきり言ってブス。
それなのにフォルテが普通に騙されていることにも腹が立った。
「フォルテ君!それは私の偽者よ!わからないの?明らかにブスじゃないの!!」
指をさして怒鳴りつけた先には三人のフォルテがいた。
それにあろうことかゲッツも三人いる。
そこへ現れるのはまた悪魔の書。
『見つヶ出せ!!真実ノ扉ヲ!!君たちの質問できる数は二つであるッ!!』
目の前に扉が二つある。片方は地下七階。もう片方は地獄谷温泉へと続いている。
扉にそう書いてある。どうやらゲッツとフォルテは
正直な偽者のフォルテとゲッツとヴァルン。嘘吐きの偽者のフォルテとゲッツとヴァルン。
本物のフォルテとゲッツとヴァルンに同時に質問を二つして、七階への道を探り出さなくてはならないらしい。

68 :
海棠美帆は廃工場の下見をすることにした。その場所はすぐにわかった。
有刺鉄線で周囲を囲われているが管理が杜撰らしく所々破れ目がある。
だから敷地内に入るのは容易だった。
(エミコの話じゃ幽霊が出るって話だったけど、シャドウとなにか関係があるのかしら…。
行方不明になってしまった久我浜さんも……)
人気のない建物のなかは、ひっそりとして肌寒い。
足音だけが高い天井にうつろに反響している。
窓は幾つかあるが、いずれも小さく、通路は暗かった。
だから、自宅から持ってきた懐中電灯の明かりだけが頼みの綱。
唾を一つ飲み込み鉄扉を開けて奥に進む。電灯の明かりで闇を照らす。
意外にも工場の奥は広かった。放置されたままの機材。
床には煙草と花火の残骸。やんちゃな中高生たちが侵入したことがあるのだろうか。
反対側の壁は遠すぎて電灯の光は届かなかった。
(……こんなところで、戦わなきゃならないなんて)
ありえない。肩を落とす海棠。
頭を振って不安を打ち消し、歩き出そうとした時、空気が震えた。
音は聞こえない。何者かが声にならない叫び声を発したような波動。
懐中電灯を前方に向ける。素早く前後左右に動かしたが、
視界に入ったのは積み上げられたコンテナだけだった。
「誰か、…いるの?」
もしかして須佐野、神部?そう思ったが返事はない。
トーラスの話では大型のシャドウの出現時間は午前零時。
まだ時間はあるはずなのに。

69 :
海棠美帆は廃工場の下見をすることにした。その場所はすぐにわかった。
有刺鉄線で周囲を囲われているが管理が杜撰らしく所々破れ目がある。
だから敷地内に入るのは容易だった。
(エミコの話じゃ幽霊が出るって話だったけど、シャドウとなにか関係があるのかしら…。
行方不明になってしまった久我浜さんも……)
人気のない建物のなかは、ひっそりとして肌寒い。
足音だけが高い天井にうつろに反響している。
窓は幾つかあるが、いずれも小さく、通路は暗かった。
だから、自宅から持ってきた懐中電灯の明かりだけが頼みの綱。
唾を一つ飲み込み鉄扉を開けて奥に進む。電灯の明かりで闇を照らす。
意外にも工場の奥は広かった。放置されたままの機材。
床には煙草と花火の残骸。やんちゃな中高生たちが侵入したことがあるのだろうか。
反対側の壁は遠すぎて電灯の光は届かなかった。
(……こんなところで、戦わなきゃならないなんて)
ありえない、と肩を落とす海棠。
頭を振って不安を打ち消し、歩き出そうとした時、空気が震えた。
音は聞こえない。何者かが声にならない叫び声を発したような波動。
懐中電灯を前方に向ける。素早く前後左右に動かしたが、
視界に入ったのは積み上げられたコンテナだけだった。
「誰か、…いるの?」
もしかして須佐野、神部?そう思ったが返事はない。
トーラスの話では大型のシャドウの出現時間は午前零時。
まだ時間はあるはずなのに、嫌な気配がする。

70 :
海棠美帆は廃工場の下見をすることにした。その場所はすぐにわかった。
有刺鉄線で周囲を囲われているが管理が杜撰らしく所々破れ目がある。
だから敷地内に入るのは容易だった。
(エミコの話じゃ幽霊が出るって話だったけど、シャドウとなにか関係があるのかしら…。
行方不明になってしまった久我浜さんも……)
人気のない建物のなかは、ひっそりとして肌寒い。
足音だけが高い天井にうつろに反響している。
窓は幾つかあるが、いずれも小さく、通路は暗かった。
だから、自宅から持ってきた懐中電灯の明かりだけが頼みの綱。
唾を一つ飲み込み鉄扉を開けて奥に進む。電灯の明かりで闇を照らす。
意外にも工場の奥は広かった。放置されたままの機材。
床には煙草と花火の残骸。やんちゃな中高生たちが侵入したことがあるのだろうか。
反対側の壁は遠すぎて電灯の光は届かなかった。
(……こんなところで、戦わなきゃならないなんて)
ありえない、と肩を落とす海棠。
頭を振って不安を打ち消し、歩き出そうとした時、空気が震えた。
音は聞こえない。何者かが声にならない叫び声を発したような波動。
懐中電灯を前方に向ける。素早く前後左右に動かしたが、
視界に入ったのは積み上げられたコンテナだけだった。
「誰か、…いるの?」
もしかして須佐野、神部?そう思ったが返事はなかった。
トーラスの話では大型のシャドウの出現時間は午前零時。
まだ時間はあるはずなのに、嫌な気配がする。

71 :
(私は何をやってるんだろ…)
ただ、ジョーカーに会いたいだけ?
望んでいた学校にも進学できなくて、仕方なく入学した学校ではいじめられて。

72 :
神部と須佐野は工場の最奥に進んでいた。長い廊下を恐る恐るゆっくりと。
彼女たちが突き当りを何度か左に曲がると、その奥には鉄扉。
鉄扉を開けると錆びた鉄の臭いに混じって、かすかな腐臭が漂っていた。
おまけに瘴気も立ち込めている。視界に捉えたものが歪んで見えるほどの。
構内はただっぴろく、無数のコンテナが横たわっているのが見えるだろう。
右手手前には金属の手摺と地下への階段。左手奥には二階へと続く階段が見える。
そしてフロアの最奥には小さな光。海棠美帆の懐中電灯の光だ。
ここで、一旦帰宅した海棠と、工場内を数十分歩き回っていた須佐野と神部は
互い違いの入り口から同フロアにたどり着くこととなる。
>「おーい、誰かいるか〜?」
声に反応したかのように、かすかな物音がした。
二人の背後からだ。ガチャガチャと何かを打ち合わせるような音。
低い呻き声。笑い声。不気味な音が重なりあって響いている。
神部と須佐野は更にフロアの奥に進むしかないだろう。
すると頭上から、空気を切り裂くような甲高い叫びが響く。
同時に何もなかったはずの空中に凝縮された影が出現する。
それは仮面を中心として、巨大な振り子と剥きだしの歯車を体とした巨大な化け物だった。
あろうことか振り子の重り部分は鋭い鎌で出来ており、どことなくギロチンを想起させる。
ゴーン!ゴーン!
鐘の音が響いた。
回転していた仮面がぴたりと止まり神部と須佐野を捉える。
化け物が突進してくる。
それは背後の壁と鉄扉に激しく衝突。
――敵はアサルトダイブを使用したのだ!
壁を破壊して、瓦礫の下となった大型のシャドウは、
歯車を回転させながら体勢を戻さんとしている。

73 :
海棠美帆は廃工場の下見をすることにした。その場所はすぐにわかった。
有刺鉄線で周囲を囲われているが管理が杜撰らしく所々破れ目がある。
だから敷地内に入るのは容易だった。
(エミコの話じゃ幽霊が出るって話だったけど、シャドウとなにか関係があるのかしら…。
行方不明になってしまった久我浜さんも……)
人気のない建物のなかは、ひっそりとして肌寒い。
足音だけが高い天井にうつろに反響している。
窓は幾つかあるが、いずれも小さく、通路は暗かった。
だから、自宅から持ってきた懐中電灯の明かりだけが頼みの綱。
唾を一つ飲み込み鉄扉を開けて奥に進む。電灯の明かりで闇を照らす。
意外にも工場の奥は広かった。放置されたままの機材。
床には煙草と花火の残骸。やんちゃな中高生たちが侵入した痕跡だろうか。
反対側の壁は遠すぎて電灯の光は届かなかった。
(……もう、こんなところで戦わなきゃならないなんて)
ありえない、と肩を落とす海棠。
頭を振って不安を打ち消し、歩き出そうとしたその時、空気が震えた。
音は聞こえない。何者かが声にならない叫び声を発したような波動。
懐中電灯を前方に向ける。素早く前後左右に動かしたが、
視界に入ったのは積み上げられたコンテナだけだった。
「誰か、…いるの?」
もしかして須佐野、神部?そう思ったが海棠の声が小さすぎて返事はなかった。
トーラスの話では大型のシャドウの出現時間は午前零時。
まだ時間はあるはずなのに、嫌な気配がする。

74 :
神部と須佐野は工場の最奥に進んでいた。長い廊下を恐る恐るゆっくりと。
彼女たちが突き当りを何度か左に曲がると、その奥には鉄扉。
鉄扉を開けると錆びた鉄の臭いに混じって、かすかな腐臭が漂っていた。
おまけに瘴気も立ち込めている。視界に捉えたものが歪んで見えるほどの。
構内はただっぴろく、無数のコンテナが横たわっているのが見えるだろう。
右手手前には金属の手摺と地下への階段。左手奥には二階へと続く階段が見える。
そしてフロアの最奥には小さな光。海棠美帆の懐中電灯の光だ。
ここで、一旦帰宅した海棠と、工場内を数十分歩き回っていた須佐野と神部は
互い違いの入り口から同フロアにたどり着くこととなる。
>「おーい、誰かいるか〜?」
声に反応したかのように、かすかな物音がした。
二人の背後からだ。ガチャガチャと何かを打ち合わせるような音。
低い呻き声。笑い声。不気味な音が重なりあって響いている。
神部と須佐野は更にフロアの奥に進むしかないだろう。
すると頭上から、空気を切り裂くような甲高い叫びが響く。
同時に何もなかったはずの空中に凝縮された影が出現する。
それは仮面を中心として、巨大な振り子と剥きだしの歯車を体とした巨大な機械仕掛けの化け物だった。
あろうことか振り子の重り部分は鋭い鎌で出来ており、どことなくギロチンを想起させる。
ゴーン!ゴーン!
鐘の音が響く。
回転していた仮面がぴたりと止まり神部と須佐野を捉える。
化け物が突進してくる。
それは背後の壁と鉄扉に激しく衝突。
――なんと敵はアサルトダイブを使用したのだ!
壁を破壊して、瓦礫の下となった大型のシャドウは、
歯車を回転させながら体勢を戻さんとしている。

75 :
瞬間、世界は光に埋もれた。
リュジーは眩む目を微かに開きながら、目の前の光景に声を失う。
浄化の光。神域の世界。
光に呑まれた呪怨の大群は一瞬にしてその身を蒸発させ欠片すら残さない。
これが多重世界を駆け抜ける永久闘争存在の武器の一つ、
――穢れなき威光!
凄まじい威力だ。それは大量の呪怨を呑みこんだのち
徐々に姿を細め、幻のように音もなく消えた。
「…すげーぜ。あいつ」
放心状態で闘争存在を見つめる。
これで終わったのだと胸を撫で下ろすリュジー。
しかし――
佐伯伽椰子の分霊が縋るようにリュジーの腰にしがみ付いてくる。
爪を立てて、腰に食い込む細い指。
伽椰子は最後の悪あがきでその場にいる者を暗黒空間にに引きずり込もうとしているのだ。
「てめーこらー!しつこい女はうぜーんだよ!!」
リュジーは彼女の喉を掻き切ろうと短剣をふりあげる。
同時に目を瞠る。短剣を持つ右手が停止する。
大きく見開いたリュジーの目に映るは血の涙を流す佐伯伽椰子。
>「超重獄、昇天の間」
さらに伽椰子の霊体を押しつぶすかのような攻撃が加わる。
同時に永久闘争存在の攻撃。伽椰子本体へと逆流する光の奔流。
伽椰子は呻き声をあげながら悶絶している。
「…あああぁ。た、たすけてぇ」
「ば、ばかやろう!てめーは今まで何人もの人間を殺してきたってんだよ!!
今さら命乞いかよ。潔くあの世にいきやがれ!!」
「…あああああああああ!!」

76 :
「ちっきしょう!!」
短刀を振り下ろす。――斬断。
二つの影は押し倒されるように地面へ。
「くぅん」
猟犬が短く啼く。
仰向けに倒れたリュジーの腹の上には一人の女。
長く美しい黒髪。紅い唇。白い肌。女が生まれ持つ美しい生の色。
――佐伯伽椰子。
彼女は無言でリュジーの顔を見つめていた。
分霊であった彼女と本体とを繋ぐ魂の通路は
リュジーの短刀によって切断されていた。
「おい糞娘。たすけてやったぜ。どうだい今の気分はよ。
おめーが今まで問答無用でやってきたことを、闘争存在はやったまでなんだよ。
因果応報なんだぜ。わかるか?理由もなく殺されちまう気分をよ」
「………」
リュジーの体の上で佐伯伽椰子は目を虚ろにしていた。
そして倒れこむようにして、抱きつくのだった。
でもその体はいつの間にか縮んでいる。そう、まるでRのように。
「ちょ、やめやがれ。くすぐってえ!」
起き上がって離そうとするがRはその手を離さない。
しまった。あのまま成仏させておけばよかった。そう思ったのも後の祭り。
さて、どうしようか。リュジーはRを前に座らせ猟犬に跨った。
と、キーと変な声がして肩にR夢くんが飛び乗ってくる。
かくして猟犬とR、おまけにR夢くんをひきつれたヤクザの冒険が今、幕を開けるのだった。

77 :
某日。フィジル魔法学園。
魔法科の先生に連れられて、ルナは中庭に来ていた。
先生はとても真剣な顔をしていて、なんだか怖い。
ルナがどきどきしていると、先生は花壇に立っている天使の像の頭の上に林檎を置いた。
美味しそうに熟れた林檎。
でもそれは少しずつ小さくなって青くなってゆく。
そう、若返っているのだ。
それをじっと見ていたルナだったが、
先生がなぜそれをルナに見せたのか、その意味はわからない。
「この天使の石像は、百年前に作られたものなのですよ」
「へー、そうなんですか。そうは見えないです。白くってとても綺麗な色をしていますから…」
首をかしげたまま、ルナは天使の白い頭を撫でようとした。
すると先生が「だめです!」とルナの手を強く握り締める。
「まだ気がつきませんか?この石像はあなたの逆転魔法の影響で時が逆流してしまっているのですよ!」

78 :
鳥居呪音は、レン・ジャンのことを自分と似てると思った。
戦争ですべてを失ったレン。時の流れによってすべてを失ってゆく鳥居。
まるで同じものの表と裏。ただ問題は、何を奪うかだけの話なのだろう。
命まるごとすべてを奪いたいレンに、芸事で他人を魅了し、その心を奪いたい鳥居。
どちらも己の孤独に対する復讐ともいえる。
ただ鳥居が気にかかったのは、レンの失ったものがあまりにも大きすぎたのだということ。
そう、彼の心が粉々に破壊されてしまうほどに、思いでは切なく、その心を深く傷つけたのだ。
でもそうだとしたなら、レン・ジャンは己の行為に恥じるべきなのだ。
父や母や友にたいして。なぜなら彼は、自分で自分を破壊してしまっているのだから。
心に狂わしいほどの愛を抱いたまま、愛する者の思い出ごと自分を。
はたして彼らはジャンにそうなって欲しいと望んだのだろうか。
(……くっ、なんだかやり場のない怒りが込み上げてきます。
にしても日本人の女ってやっぱり倉橋さんなのでしょうか。
…亡国士団っていったい。それに彼は不死の遺宝なんて知ってませんでした!)
鳥居は、キーと地団駄を踏みたい気分になる。べつに分からなくてもよいことなのかもしれないが
やっぱりわからないと気持ち悪いのだ。裏で何かが起きている、もしくはすべての謎は一つに繋がっている
と勘繰ってしまうのは人間の悪い癖なのだろうか。
まるで、神様がいると信じ込んでいる人間のご都合主義のように。

79 :
鳥居呪音は、レン・ジャンのことを自分と似てると思った。
戦争ですべてを失ったレン。時の流れによってすべてを失ってゆく鳥居。
まるで同じものの表と裏。ただ問題は、何を奪うかだけの話なのだろう。
命まるごとすべてを奪いたいレンに、芸事で他人を魅了し、その心を奪いたい鳥居。
どちらも己の孤独に対する復讐ともいえる。
ただ鳥居が気にかかったのは、レンの失ったものがあまりにも大きすぎたのだということ。
そう、彼の心が粉々に破壊されてしまうほどに、思いでは切なく、その心を深く傷つけたのだ。
でもそうだとしたなら、レン・ジャンは己の行為に恥じるべきだ。
父や母や友にたいして贖罪するべきなのだ。
なぜなら彼は、自分で自分を破壊してしまっているのだから。
心に狂わしいほどの愛を抱いたまま、愛する者の思い出ごと自分を。
だから鳥居は問うてみたかった。
はたして彼らが、ジャンにそうなって欲しいと望んだのかと。
(……くっ、なんだかやり場のない怒りが込み上げてきます。
にしても日本人の女ってやっぱり倉橋さんなのでしょうか。
…亡国士団っていったい。それに彼は不死の遺宝なんて知ってませんでした!)
鳥居は、キーと地団駄を踏みたい気分になる。べつに分からなくてもよいことなのかもしれないが
やっぱりわからないと気持ち悪い。裏で何かが起きている、もしくはすべての謎は一つに繋がっている
と勘繰ってしまうのは人間の悪い癖なのだろう。
まるで、神様がいると信じ込んでいる人間のご都合主義のようなもの。

80 :
鳥居呪音は、レン・ジャンのことを自分と似てると思った。
戦争ですべてを失ったレン。時の流れによってすべてを失ってゆく鳥居。
まるで同じものの表と裏。ただ問題は、何を奪うかだけの話なのだろう。
命まるごとすべてを奪いたいレンに、芸事で他人を魅了し、その心を奪いたい鳥居。
どちらも己の孤独に対する復讐ともいえる。
ただ鳥居が気にかかったのは、レンの失ったものがあまりにも大きすぎたのだということ。
そう、彼の心が粉々に破壊されてしまうほどに、思いでは切なく、その心を深く傷つけたのだ。
でもそうだとしたなら、レン・ジャンは己の行為に恥じるべきだ。
父や母や友にたいして贖罪するべきなのだ。
なぜなら彼は、自分で自分を破壊してしまっているのだから。
心に狂わしいほどの愛を抱いたまま、愛する者の思い出ごと自分を。
だから鳥居は問うてみたかった。
はたして彼らが、ジャンにそうなって欲しいと望んだのかと。
(……くっ、なんだかやり場のない怒りが込み上げてきます。
にしても日本人の女ってやっぱり倉橋さんなのでしょうか。
…亡国士団っていったい。それに彼は不死の遺宝なんて知ってませんでした!)
鳥居は、キーと地団駄を踏みたい気分になる。べつに分からなくてもよいことなのかもしれないが
やっぱりわからないと気持ち悪い。裏で何かが起きている、もしくはすべての謎は一つに繋がっている
と勘繰ってしまうのは人間の悪い癖なのだろう。
まるで、神様がいると信じ込んでいる人間のご都合主義のようなもの。
>「話は終わりだ。殺技の見物料としては、もう十分だろう?
 さあ怒れよ。俺を憎み、軽蔑しろ。それすらも、俺はお前達から奪ってやろう」
「奪う?」
鳥居は小さく聞き返した。すると男が構えを取った。
鳥居も身構える。その瞳は零下の怒りを湛えている。
だが怒りだけではなかった。声にならぬ慟哭が響く。
殺気が空気を染め上げてゆく。
しかし次の瞬間、鳥居は男に吸い寄せられた。その前に閃いたのは銀光。
なんと彼は距離を斬り詰めたのだ。
「マリーさん、蹴ってぇ!!」
咄嗟の出来事に鳥居は、マリー側に二本の足を思いっきり突き出す。
マリーが足をだしてくれたら二人はお互いにジャンを弧の中心として飛び逃げることが出来るはず。
それが叶わなくても鳥居の蹴りがマリーの尻にでも当たれば、お互いに反発して間合いをあけることが出来るはずだ。
そして鳥居は少し離れた地面にころりと転がり、ぺぺっと砂を吐いたあと
「そんなに奪いたい気持ちが強いんでしたら、あなたにとってもっとも大切なものを、
お父さんとかお友達の代わりになるものを、どこからか奪ってきたらいいじゃないですかっ!!
それすらもできない臆病者が、僕の心から怒りを奪うことは出来ません!」
そう言ってねめつける。その大切なものは自分にとって何なのだろうと失念するのはあとのこと。
怒りに身を任せ屋根に跳躍すると、移動しながら瓦をジャンに投げつける。つかず離れず次々と。

81 :
>「鼻ァ良いからよ、手っ取り早いだろォが。
 あと、暴力は振るうし、物ぶっ壊すけど盗みはしねェ主義でな。
 お前さんに手を出すつもりはさんさらねェよ。人妻とか興味さんさらねェし」
「うん。それはよかったよ。私はハー君だけのもの。
でもね。ゲッツはずっとお友達だから、心配しないで」
>「自慢げにいう事じゃねえよ!?
 ってかRあれば何でもいいんじゃなかったのかよ!」
「えー…。じゃあRがついてたら掃除機や冷蔵庫でもいいってこと?それって超へんたいじゃん」
>「もともと、アインオブソウルの封印場だった。が」
>「中央図書館と言う場からして、進入してしまい行方をくらます奴らが多くなった。」
>「故に、ここをプライベート場みたいにした。」
>「こんな説明で分かるか?お三方」
>「ちょい待て、マジでプライベート図書館なの!?」
>『ソうだナ』『ここニ』『来た』『生物』『ハ我ら』『ノ』『観測ノ』『上でハ』
「うそよ!ハー君は騙されてるだけなんだから!!」
そう思わないと、ヴァルンの胸は張り裂けてしまいそうだった。
そして振動。轟音。それに焦燥の色を隠せないヴァルン。
音のした方角に駆け、目を瞠る。
行き着いた先には国家司書とハーラルがいた。
「ハー君……! 目を覚まして!」
祈るような気持ち。
どうやらハーラルは操られている。
>「ヴァルンちゃん、ハー君は必ず引き戻してやる。でも最後の決め手は君自身だ。頼んだよ!
 導師様、ゲッツ! オレの呪歌が効くまで時間をかせいでくれ! くれぐれもRな!」
「フォルテくん……。ありがとう…」
>「世界の弥終 無くした翼探して 霧深い道 彷徨い続けるの
 撒かれた時の捻子 薄暮の月に溶かし込む 水面から透明な朝へ
 悲しみの向うへ 風を連れてゆくのさ いつか夢見た銀の波 輝く音色の波に乗って翔け出せ
 Purification舞い上がれ 空の海を越えて Purification純化する愛は永久に神秘の歌奏でるの――」

82 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の顔を撫でる。
そう、今まさに戦いの火蓋がきっておろされたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方に疾駆。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
(今、逃げたら、神部さんが殺されちゃう)
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返していた。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿と
剣を掲げシャドウに挑まんとするスサノの姿が映っていた。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。引き金に手をかける。
その時だった。
スサノを向いたシャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、一人の学ランが駆け抜けて、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かって叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。

83 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに戦いの火蓋がきっておろされたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
(今、逃げたら、神部さんが殺されちゃう)
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返していた。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿と
剣を掲げシャドウに挑まんとするスサノの姿が映っていた。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。引き金に手をかける。
その時だった。
シャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、人影が駆け抜けて、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かって叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウとは言うと、中務の術により正気を失っているようだ。

84 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさにペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきっておろされたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたいのも助けを呼びたいのも同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返す。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿と、剣を掲げシャドウに挑まんとするスサノの姿が映っていた。
このままでは二人は死んでしまうだろう。すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたらこの化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
ひとりごちて、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。引き金に手をかける。
その時だった。
シャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、人影が駆け抜けて、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かって叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務の術により正気を失っているようだ。

85 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさにペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきっておろされたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返す。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。引き金に指をかける。
その時だった。
シャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、人影が駆け抜け、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているようだ。

86 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさにペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきっておろされたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返す。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
その時だった。
シャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、人影が駆け抜け、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているようだ。

87 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに、ペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきられたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は小さく呼吸を繰り返す。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
その時だった。
シャドウが横薙ぎの風に叩かれて吹き飛ばされる。
転倒したシャドウに向けて、人影が駆け抜け、倒れるシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
全力で鼻っ面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているようだ。

88 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに、ペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきられたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は召喚器を握ったまま。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
――ガワン!突如金属音。目を瞠る海棠。
シャドウは横薙ぎの風に叩かれ吹き飛ばされていた。
続けざま人影が駆け抜け、倒れたシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
シャドウの無表情な仮面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているようだ。
――好機到来だ。

89 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに、ペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきられたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は召喚器を握ったまま。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
――ガワン!突如金属音。目を瞠る海棠。
シャドウは横薙ぎの風に叩かれ吹き飛ばされていた。
続けざま人影が駆け抜け、倒れたシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
シャドウの無表情な仮面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。
そしていっぽうのシャドウはと言うと、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているようだ。
彼が、いったい何者なのかと詮索するのは後。今はこの好機を逃すわけにはいかない。

90 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに、ペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきられたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は召喚器を握ったまま。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
――ガワン!突如金属音。目を瞠る海棠。
シャドウは横薙ぎの風に叩かれ吹き飛ばされていた。
続けざま人影が駆け抜け、倒れたシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
シャドウの無表情な仮面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。当然海棠は、彼を詮索するのは後まわし。
なぜならシャドウは、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているからだ。
この好機を絶対に逃すわけにはいかない。

91 :
すさまじい破壊音。同時に埃っぽい風が海棠の全身を撫でる。
そう、今まさに、ペルソナ使いたちと大型のシャドウとの戦いの火蓋がきられたのだ。
海棠美帆は唇を噛んだあと、前方にゆっくりと歩む。
その後驚愕。向こうから走ってくるのはスサノミコト。
その後ろには、脹脛から大量の血を流しながら一人、シャドウと奮戦している神部衣世。
(そっか、二人を巻き込んじゃったんだ…)
二人に危険を伝えておけばよかった。そう思っても後の祭りだ。
それ以前に海棠は、二人の携帯番号を知らない。
後悔先に立たず。あとから気付いたって意味がない。
海棠は震える手で、ウエストポーチから召喚器を取り出す。
>「そんな所に突っ立ってないで早く逃げよう! 助けを呼ぶぞ……!」
逃げたい、助けを呼びたい、それは海棠も同じ気持ちだった。でも今逃げたら神部は……。
スサノの声も上の空で、海棠は召喚器を握ったまま。
その瞳には鉄パイプを失い狼狽している神部の姿が映っている。
なんとかしないと。そう思った矢先、今度はスサノが剣を掲げ、シャドウに挑まんとしていた。
その姿に海棠は戦慄する。このままでは二人は死んでしまうだろう。
すると頭のなかに言葉が浮かび上がる。
かつて自分がジョーカーに言い放った言葉が…。
(私は何もかもが終わるまで、ぼーっと見ていたい。ただそれだけ)
だとしたら、この化け物が終わりの始まりだとしたら、終わると言うことはそんなに生温いことではないのだ。
「いったいなんなのよ、ジョーカーはっ。こんな仕事を私に押し付けるなんて!」
独語して、生唾を飲み込む。
自分にペルソナという不思議な力があるのなら、今使わなければ。
召喚器をコメカミに向けて構える。――でも少し怖かった。
自分の心の奥底に眠る、慟哭の主の正体はいったいなんなのだろう。
――ガワン!突如金属音。目を瞠る海棠。
シャドウは横薙ぎの風に叩かれ吹き飛ばされていた。
続けざま人影が駆け抜け、倒れたシャドウの鼻っ面に蹴りを叩き込む。
シャドウの無表情な仮面に靴底を叩き込みながら、どう見ても不良の男は、三人に向かってこう叫ぶ。
>「戦えねぇとか、度胸ねェとか、役に立たねぇ奴はさっさと引っ込め!
 なんかできるやつはそこらの廃材でも鉄パイプでも持つなり、石投げるなりしてくんね!?
 ちょいと、俺一人じゃどーしようもねェからよぉ!! だァ……ッ、デビルタッチ!」
オールバックのメガネは春日高校の生徒らしい。それもペルソナ使い。
牛の頭蓋を被った和服の男を傍らに従えている。当然、彼を詮索するのは後まわし。
なぜならシャドウは、中務のペルソナ、クダンの術により正気を失っているからだ。
この好機を絶対に逃すわけにはいかない。

92 :
>「鳥居ッ!それでは大切な人を奪われた人間はどうなる!
  大切な人から引き剥がされた人間の意思はどうなる!そんな卑しい理屈は投げ捨てろ!」
マリーは鳥居を一喝する。そんな卑しい理屈は投げ捨てろ、と言う。
それゆえに、鳥居にはわからなくなる。
フェイ老人は愛する子どもたちを守るために自分たちの命を奪おうとした。
マリーも苦しむ人を守るために命を奪う。
皆、奪うことによって満たされようとしている。
>「代わり……代わりか!面白い事を言うな吸血鬼!
 お前には親の代わりが、友の代わりがあると言うのか!」
嘲笑するかのように叫ぶジャン。彼の言う通りだ。大切なものに代わりなんてない。
しかし、それでは自分は死ぬまで不幸であるということを認めてしまうことになる。
それでは悲しすぎるのだ。自分自身が。瓦を投げつける腕に自然と力がこもる。
だが無情にも、ジャン目掛け飛んでゆく瓦は硬質な音を立てて白壁に散華する。
>「俺にはそんなものはいない。皆の代わりなど、この世のどこにもな。
 ……あぁ、そうか。お前達は確か、血を吸えば誰もかもを血族に出来るんだったな。
 なるほどな、流石は吸血鬼。たかが殺人鬼の俺では、到底及ばぬ思考を持っている」
「バカにして。僕にとって血族はそんなにはしたないものじゃないんです!」
鳥居はジャンの引き寄せる力を警戒しながら距離をとり続けている。
おまけに瓦の投擲。しかし、ジャンの動きに手抜かりはなかった。
軽妙な動きでマリーを遮断物と変えてしまっていた。
「…くく!」
これでは拉致があかない。鳥居にはこれと言った決定力もない。
勝敗を決するにはやはり双條マリーによる必殺の一撃しかないようだ。
ならばどうするか。鳥居はあかねに視線を移す。
>「あかね!何かサポートをしてくれ、私と鳥居だけじゃ無理だ」
それはマリーも察していたらしい。あかねに援護を要請。
だがあかねは完全に浮き足立っている様子。何か具体的に指示をしないと…。
そう思った次の瞬間、鳥居は宙に浮いていた。
(しまりました!)
何もない空中。距離は多めにとっていたつもりが、
ジャンは二つの距離を斬り詰め、その刃圏に鳥居をおさめていた。

93 :
>「鳥居ッ!それでは大切な人を奪われた人間はどうなる!
  大切な人から引き剥がされた人間の意思はどうなる!そんな卑しい理屈は投げ捨てろ!」
マリーは鳥居を一喝する。そんな卑しい理屈は投げ捨てろ、と言う。
それゆえに、鳥居にはわからなくなる。
フェイ老人は愛する子どもたちを守るために自分たちの命を奪おうとした。
マリーも苦しむ人を守るために命を奪う。
皆、奪うことによって満たされようとしている。
>「代わり……代わりか!面白い事を言うな吸血鬼!
 お前には親の代わりが、友の代わりがあると言うのか!」
嘲笑するかのように叫ぶジャン。彼の言うことにも一理ある。大切なものに代わりなんてない。
しかし、それでは自分は死ぬまで不幸であるということを認めてしまうことになる。
それでは悲しすぎるのだ。自分自身が。鳥居は見つけてみたいのだ。孤独から救われる方法を。
瓦を投げつける腕に自然と力がこもる。
だが無情にも、ジャン目掛け飛んでゆく瓦は硬質な音を立てて白壁に散華するのみ。
>「俺にはそんなものはいない。皆の代わりなど、この世のどこにもな。
 ……あぁ、そうか。お前達は確か、血を吸えば誰もかもを血族に出来るんだったな。
 なるほどな、流石は吸血鬼。たかが殺人鬼の俺では、到底及ばぬ思考を持っている」
「バカにして。僕にとって血族はそんなにはしたないものじゃないんです!」
鳥居はジャンの引き寄せる力を警戒しながら距離をとり続けている。
おまけに瓦の投擲。しかし、ジャンの動きに手抜かりはなかった。
軽妙な動きでマリーを遮断物と変えてしまっていた。
「…くく!」
これでは拉致があかない。鳥居にはこれと言った決め手もない。
勝敗を決するにはやはり双條マリーによる必殺の一撃しかないようだ。
ならばどうするか。鳥居はあかねに視線を移す。
>「あかね!何かサポートをしてくれ、私と鳥居だけじゃ無理だ」
それはマリーも察していたらしい。あかねに援護を要請。
だが彼女は完全に浮き足立っている様子。何か具体的に指示をしないと…。
そう思った次の瞬間、鳥居は宙に浮いていた。
(しまりました!)
何もない空中。距離は多めにとっていたつもりが、
ジャンは二つの距離を斬り詰め、その刃圏に鳥居をおさめていた。

94 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえて力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」

95 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえながら力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」
あかねの状態は普通ではない。もちろんあれだけの出血で術を使うのは自殺行為。
それは素人の鳥居でもわかること。……胸がしめつけられる。
いつもこんなふうに、鳥居は人が死んでゆくのをみてきた。
ふたたび失われてしまうことへの恐怖。苛立ちが蘇る。
(おかあさん…たすけてよ…。ぼく、くるしいよ。
だって、みんなぼくをひとりぼっちにしていなくなっちゃうんだよ……)
すでにこの世にはいない母に哀願する。当然、返答などなかった。
この世では与えられたものは必ず何かに奪われてしまう。
だがそれに逆らい、鳥居を病魔からまもるため、彼を不死に変えたのが鳥居の母親だった。
つまり鳥居の永遠の孤独の元凶は母親の愛。
鳥居はジャンを見据える。先ほどジャンは、鳥居に代わりのものなどあるのかと問うた。
あるとしたら今まわりにいる人たち。日本にいるサーカスの団員たち。それとお客さま。

96 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえながら力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」
あかねの状態は普通ではない。もちろんあれだけの出血で術を使うのは自殺行為。
それは素人の鳥居でもわかること。……胸がしめつけられる。
いつもこんなふうに、鳥居は人が死んでゆくのをみてきた。
ふたたび失われてしまうことへの恐怖。苛立ちが蘇る。
(おかあさん…たすけてよ…。ぼく、くるしいよ。
だって、みんなぼくをひとりぼっちにしていなくなっちゃうんだよ……)
すでにこの世にはいない母に哀願する。当然、返答などなかった。
この世では与えられたものは必ず何かに奪われてしまう。
だがそれに逆らい、鳥居を病魔からまもるため、彼を不死に変えたのが鳥居の母親だった。
つまり鳥居の永遠の孤独の元凶は母親の愛。それなのに今だ鳥居は母親を慕っていたのだ。
鳥居はジャンを見据える。先ほどジャンは、鳥居に代わりのものなどあるのかと問うた。
鳥居もそんなものはない、探している途中。と思っていた。
だが、それは近くにあったのだ。ただ近すぎて気付かなかっただけ。
そう絆だ。今まわりにいる人たちとの絆。
それに日本にいるサーカスの団員たち。それとお客さま。たくさんの笑顔。
鳥居は今頃になってマリーの言っていることがわかったのだ。
「……笑ってますか?あなたの心のなかで、大切に思っていた人は」
小さな鳥居の体から蒸気が噴出する。血の蒸気が。
それは血臭とともに霧状となって鳥居の周囲、ジャンの周囲を包み込んでゆく。
なんと傷口から血が蒸発しているのだ。炎の神気の力で。
神気は万物の元となる気。鳥居は神の気と魔の気の二つを一つの体に内在させていたのだ。

97 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえながら力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」
あかねの状態は普通ではない。もちろんあれだけの出血で術を使うのは自殺行為。
それは素人の鳥居でもわかること。……胸がしめつけられる。
いつもこんなふうに、鳥居は人が死んでゆくのをみてきた。
ふたたび失われてしまうことへの恐怖。苛立ちが蘇る。
(おかあさん…たすけてよ…。ぼく、くるしいよ。
だって、みんなぼくをひとりぼっちにしていなくなっちゃうんだよ……)
すでにこの世にはいない母に哀願する。当然、返答などなかった。
この世では与えられたものは必ず何かに奪われてしまう。
だがそれに逆らい、鳥居を病魔からまもるため、彼を不死に変えたのが鳥居の母親だった。
つまり鳥居の永遠の孤独の元凶は母親の愛。それなのに今だ鳥居は母親を慕っているのだ。
鳥居はジャンを見据える。先ほどジャンは、鳥居に代わりのものなどあるのかと問うた。
鳥居もそんなものはない、探している途中。と思っていた。
だが、それは近くにあったのだ。ただ近すぎて気付かなかっただけ。
そう絆だ。今まわりにいる人たちとの絆。
それに日本にいるサーカスの団員たち。それとお客さま。たくさんの笑顔。
鳥居は今頃になってマリーの言っていることがわかったのだ。
「……ジャン。あなたのその笑顔は醜いですよ。惨めになりませんか?人を傷つけて笑っている自分が。
それに思い起こしてみてください。あなたが大切に思っていた人たちを。彼らは笑ってますか?あなたの心のなかで」
小さな鳥居の体から蒸気が噴出する。血の蒸気が。
それは血臭とともに霧状となって鳥居の周囲、ジャンの周囲を包み込んでゆく。
なんと傷口から血が蒸発しているのだ。炎の神気の力で。
神気は万物の元となる気。鳥居は神の気と魔の気の二つを一つの体に内在させていたのだ。

98 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえながら力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」
あかねの状態は普通ではない。もちろんあれだけの出血で術を使うのは自殺行為。
それは素人の鳥居でもわかること。……胸がしめつけられる。
いつもこんなふうに、鳥居は人が死んでゆくのをみてきた。
ふたたび失われてしまうことへの恐怖。苛立ちが蘇る。
(おかあさん…たすけてよ…。ぼく、くるしいよ。
だって、みんなぼくをひとりぼっちにしていなくなっちゃうんだよ……)
すでにこの世にはいない母に哀願する。当然、返答などなかった。
この世では与えられたものは必ず何かに奪われてしまう。
だがそれに逆らい、鳥居を病魔からまもるため、彼を不死に変えたのが鳥居の母親だった。
つまり鳥居の永遠の孤独の元凶は母親の愛。それなのに今だ鳥居は母親を慕っているのだ。
鳥居はジャンを見据える。先ほどジャンは、鳥居に代わりのものなどあるのかと問うた。
鳥居もそんなものはない、探している途中。と思っていた。
だが、それは近くにあったのだ。ただ近すぎて気付かなかっただけ。
そう絆だ。今まわりにいる人たちとの絆。
それに日本にいるサーカスの団員たち。それとお客さま。たくさんの笑顔。
鳥居は今頃になってマリーの言っていることがわかったのだ。
「……ジャン。あなたのその笑顔は醜いですよ。惨めになりませんか?人を傷つけて笑っている自分が。
それに思い起こしてみてください。あなたが大切に思っていた人たちを。彼らは笑ってますか?あなたの心のなかで」
小さな鳥居の体から蒸気が噴出する。血の蒸気が。
それは血臭とともに霧状となって鳥居の周囲、ジャンの周囲を包み込んでゆく。
なんと傷口から血が蒸発しているのだ。炎の神気の力で。
神気は万物の元となる気。鳥居は神の気と魔の気の二つを一つの体に内在させていたのだ。
「僕はずっと見ていたいんです。みんなの笑顔を!!」
【周辺に血の霧を発生させました】

99 :
>「さあ、今度はどう躱すつもりだ?」
眼下で嬉々とした表情を見せるジャンはまるで鯱。
鳥居はというとまるで海上に跳ね上げられたペンギンだ。
この男は本当に殺戮を楽しんでいる。鳥居は歯噛みしながらその場で回転。
僧房に隠されていた部屋からいただいてきた中国風の黒マントを脱ぎ捨てると
それを彼の視界に被せ思いっきり両の手で張り手。
視界の遮断と空気抵抗による落下速度の軽減で、
ジャンの剣撃の確実性を奪い、深く自分の肉体を切断することを防いでみせる。
「うくく…」
だがジャンの剣は完全に避けきれていなかった。鳥居は地面に転がった。
脇腹を抉られたために大量の血が流れ出してしまっている。
再生するまでには数分時間がかかってしまうようだ。
しかしそれよりもなによりも、鳥居の視界に飛び込んだものは胸に短刀を受けたアカネの姿。
「…あかねさん」
脇腹を押さえながら力なく立ち上がる。鳥居は今ごろになって気付く。
あかねも奪われてはいけないものの一つということに。
「動いちゃ、ダメです」
あかねの状態は普通ではない。もちろんあれだけの出血で術を使うのは自殺行為。
それは素人の鳥居でもわかること。……胸がしめつけられる。
いつもこんなふうに、鳥居は人が死んでゆくのをみてきた。
ふたたび失われてしまうことへの恐怖。苛立ちが蘇る。
(おかあさん…たすけてよ…。ぼく、くるしいよ。
だって、みんなぼくをひとりぼっちにしていなくなっちゃうんだから……)
すでにこの世にはいない母に哀願する。当然、返答などなかった。
この世では与えられたものは必ず何かに奪われてしまう。
だがそれに逆らい、鳥居を病魔からまもるため、彼を不死に変えたのが鳥居の母親だった。
つまり鳥居の永遠の孤独の元凶は母親の愛。それなのに今だ鳥居は母親を慕っているのだ。
鳥居はジャンを見据える。先ほどジャンは、鳥居に代わりのものなどあるのかと問うた。
鳥居もそんなものはない、探している途中。と思っていた。
だが、それは近くにあったのだ。ただ近すぎて気付かなかっただけ。
そう絆だ。今まわりにいる人たちとの絆。
それに日本にいるサーカスの団員たち。それとお客さま。たくさんの笑顔。
鳥居は今頃になってマリーの言っていることがわかったのだ。
「……ジャン。あなたのその笑顔は醜いです。惨めになりませんか?人を傷つけて笑っている自分が。
それに思い起こしてみてください。あなたが大切に思っていた人たちを。彼らは笑ってますか?あなたの心のなかで」
ふと見ると、鳥居の体から蒸気が噴出している。血の蒸気が傷口から。 そう、炎の神気がよみがえりつつあったのだ。
神気は万物の元となる気。鳥居は神の気と魔の気の二つを一つの体に内在させていたのだ。
(これって…)自身から立ち上る蒸気に鳥居はあることを思いつく。
だから自分の体を爪で撫でるように引き裂いた。とともに内側から湧き出る神気が血液を蒸発させる。
それは血臭とともに霧状となって鳥居の周囲、ジャンの周囲を包み込んでゆくことだろう。
鳥居はジャンの視界を奪うつもりだった。
「マリーさん、僕、わかりました。僕はずっと見ていたいんです。みんなの笑顔を!!」
【周辺に血の霧を発生させつつあります】

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