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2013年06月ニュー速VIP+249: 幽霊「うらめしや」 (150) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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幽霊「うらめしや」


1 :2013/06/14 〜 最終レス :2013/06/24
男「今までいろんな幽霊見てきたけどさ、そんなド直球に幽霊アピールされたのは初めてだよ」
幽霊「え、あ、え……なんかごめんなさい」
男「いや別にいいんだけどさ。茶目っ気があって好感持てるよ。でもいかんせん古いね。五十年くらいは前のセンスなんじゃない? 『うらめしや』ってさ」
幽霊「そうかな? わたしは、幽霊と言えばこれ、なんだけど」
男「若いのに。稀有な感性の持ち主だね。とりあえず上がってもいいかな? 自分の家とはいえ、玄関先に立たれると、ズカズカとは上がりづらい」
幽霊「あ、それは気づきませんで…………えっ? 自分の家?」
男「ああ、うん。今日からここに入居することになったんだ。よろしくね」
幽霊「うそ。そんないきなり」
男「キミにとってはいきなりかもしれないけど、でもま、いちいち先住の霊に確認取る大家もいないからね」
幽霊「それもそうだけど……」
男「まあ細かい話は中でしようよ。空っぽの部屋なんだろうけど、ここで立ち話よりはマシだよ」
幽霊「えと、それじゃあ、こちらへどうぞ……っていうのも変かな」
男「うん。今はもう僕の部屋だからね」

2 :
はいはい
表は蕎麦屋

3 :
男「うわあ、めちゃくちゃ綺麗にされてるなあ」
幽霊「わたしもそう思う。仕方ないことなんだけど」
男「これ、フローリングまで張り替えてるんじゃない? 何、切腹でもしたの?」
幽霊「そんな。怖くてできない」
男「こんな子でも自殺しちゃうんだもんな……どういう死に方したの?」
幽霊「えとね、ヘリウム自殺」
男「じゃあ比較的綺麗な死に様だったろうにね。これは過剰反応だなあ。まあオーナーからしてみれば、人が死んだ部屋ってのは気持ち悪くて仕方がないんだろうけど」
幽霊「申し訳ないことをしました……」
男「事故物件が妙に気合い入れてリフォームされるのはままあることなんだけどね。いや、それでも、この部屋はちょっとやり過ぎだよ。キミが気にすることじゃない」
幽霊「ありがとう」
男「なんか、のんびりした子だなあ。いや、嫌いじゃないんだけどね。むしろタイプ」
幽霊「あ、え、あの」
男「ごめん困らせて」

4 :
幽助「うらめしや」に見えた

5 :
男「霊ってのはさ、死んでから時間が経っていないやつの方が人慣れしてるんだ」
幽霊「逆じゃないんですか?」
男「うん。ほら、霊ってのは人にビビられたり気づかれなかったりすることで、霊っぽさを身に付けていくんだ。キミみたいに死んでから日が浅いやつは、死んだっていう実感が薄いからね」
幽霊「確かに。勉強になります」
男「いやこんな知識、普通の人生歩んでたら使うところもないんだけどね。まあキミは人生歩むのやめちゃった組ではあるけど」
幽霊「もしかして、あなたも幽霊?」
男「そう見える?」
幽霊「少し。普通にお話できるし、なんかいろいろと詳しいし」
男「残念ながら僕は生体だよ。こういうのに詳しいのは、仕事柄だね」
幽霊「お仕事? 霊媒師? 住職とか?」
男「いかにも霊を取り扱ってますって感じだね。いや、違うんだけど」
幽霊「じゃあなに?」
男「なに、と言われると答えづらいな。僕のやってる仕事は、世間一般には名前がついてないからね。そういう意味では仕事って言っていいのかも微妙なんだけど」
幽霊「どんなことしてるの?」
男「今まさに『仕事中』だよ。ここでこうしてることが僕の仕事」

6 :
幽霊「?」
男「ここはいわゆる『事故物件』ってやつだ。殺人事件があったり、自殺者が出たり」
幽霊「わたしのことだよね」
男「うん、そう。ここ202号室はまさに渦中の自殺現場。まともな神経をしてる人間なら、今後ここには絶対に住みたがらない」
幽霊「わたしでもいやだもん」
男「自殺者本人からその言葉を聞くのってなんかシュールだな。んでさ、知ってる? 『事故物件』には告知義務ってのが存在するんだ」
幽霊「あ、知ってる。ここで自殺あったんですよーってのを貸す前に言わなきゃいけないんだよね」
男「そうそう。賃貸人が賃借人に、事故物件を貸そうとする場合に必ず課される義務だ。違反するとひどい目に合う」
幽霊「どんな?」
男「まず行政処分を食らうね。仲介業者であれば、営業停止命令が出たりする。おまけに大体の場合、賠償責任まで負わされる」
幽霊「大変だあ」
男「そう、大変なんだ。事故物件となると借り手は激減するしね。それを言わずに置けないなんて、酷い制度だと思うよ……で、僕の仕事っていうのはそこに付け込む」
幽霊「つけこむの?」
男「かなり悪質にね」
幽霊「悪質かあ……」

7 :
男「こういう都市伝説を聞いたことはない? 『事故物件に一ヶ月だけ住むというアルバイトがある』ってやつ」
幽霊「聞いたことない」
男「そっか。つまりね、こういうこと。告知義務は『先代の人間が死んだ場合にのみ適用されるもの』であって、その後に誰かが住んでしまえば、
  それより後に住む人間には事故物件告知をしなくても良いよって理論」
幽霊「……?」
男「ごめん、わかりにくかったかな。要するに、いわくつきの部屋に誰かを雇って住まわせて、そこの告知義務を消しちゃおうって話」
幽霊「あー、なるほど。そういうアルバイト、あるの?」
男「いや、ない」
幽霊「えっ。ないんだ」
男「ないね。面白い都市伝説だけど、いろいろと矛盾がある。告知義務を消すだけが目的ならば、わざわざ人を雇うのは非効率的だってのがまず一点」
幽霊「非効率的?」
男「住人を一代稼ぐだけなら、わざわざ部屋に住まわせる必要はないんだ。形ばかりの契約を結べばいい。仲介業者のスタッフとか、大家の知人とか相手にさ」
幽霊「家賃はどうなるの?」
男「実際に金銭を授受しなくてもどうとでもなるよ。必要なのはあくまで、契約事実とその書類だからね」
幽霊「わあ、なんか難しい」
男「キミかわいいなあ。散々かわいがった後にぼろ雑巾のように打ち捨てたい」
幽霊「えっ」

8 :
男「それはまあ冗談として」
幽霊「冗談きつい。っていうか冗談がきつい」
男「さっきの話に戻すね。件の都市伝説が現代において成立しない理由がもう一つあるんだ」
幽霊「なあに?」
男「一代ほど代替わりしたくらいじゃ、告知義務は免除されないんだ。そもそも」
幽霊「えっ、じゃあ何代ならいいの?」
男「当然の疑問だね。何代くらいだと思う?」
幽霊「にじゅうはち?」
男「多いな! 建物が老朽化しちゃうよそれ。正解は『明確な決まりはない』だよ」
幽霊「なにそれずるい」
男「ごめんごめん。ええと、告知義務の有無はケースバイケースになるってことなんだ。というか、トラブって初めてその有無を判断することになる」
幽霊「トラブルって? 裁判とか?」
男「そういうこと。実際ね、昔はあったんだ。告知義務を逃れるために、名義だけの契約を結んでたっていう話。その頃は認められてたんだよ。一代変わってしまえば
  告知義務はなくなるって考え方がね」
幽霊「今はそうじゃないってこと?」
男「うん。あまりにそういう事例が横行しすぎたんだよね。で、よく揉めるようになった。判例はそういう小賢しい手法で告知義務を逃れることを良しとしなくなった」

9 :
男「前置きが長くなったね。要するに、そういう『住むだけのアルバイト』は存在しないってこと。そんなムシの良い求人はないんだ」
幽霊「世の中夢がないね」
男「だよね。でもさ、求人がないからって諦めるのはよくない」
幽霊「諦めるとかそういう問題じゃないんじゃ」
男「ここからが僕の仕事の話。告知義務に関して、仲介業者なんかは割と神経質でさ。しっかり調査と告知を徹底してる。こういうところに僕が入り込む隙間はない」
幽霊「隙間?」
男「ねらい目は、仲介業者を通さずに入居者を募ってる大家だね。できれば耄碌した爺さん婆さんあたりがいい。騙しやすいからね」
幽霊「騙しやすいって、あなた何してる人なの?」
男「僕はね、事故物件を抱える老人にこう言うんだ。『いくらかお金を貰えれば、告知義務のあるお部屋に僕が住みますよ』って。『そうすれば告知義務はなくなります』」
幽霊「え、それって嘘なんでしょ? なくならないんでしょ?」
男「なくならないとみなされることがほとんどだとは思う。でもほら、そこは物の言い方でなんとかね」
幽霊「なんとか……」

10 :
これは期待

11 :
男「裁判ってのは極端な話、『そこにどういう意思があったのか』を判断するためのものなんだよ」
幽霊「なんか曖昧」
男「その通り。曖昧なんだ裁判ってやつは。悪意か善意か……つまり、知ってたか知らなかったか。殺意があったのかなかったのか。故意か過失か。
  そういうものを判断する場だ。そういう場で筋の通る言い訳を用意してやる、ってのが僕のよく使う言い草かな。例えば
  『件の物件に実際に住んだやつがいて、なにも問題はなかった』……って感じ。こういう場合なら、告知義務違反には当たりませんよ、と」
幽霊「当たらないの?」
男「いや、当たるだろうね」
幽霊「ダメじゃん」
男「ダメダメだよ。でも実際にどうかはこの場合関係ない。そもそも、霊の存在を感知できるやつが、たまたま僕の住んでた物件に住むようになる確率なんて
  相当に低い。必然、幽霊騒動の後、裁判沙汰になる確率も低い。準天文学的数値だよ。要は、僕の言葉に大家さんが納得すればいいわけだ。
  大家さんは少しの金で、今後も賃貸収入を安定して得るきっかけを買う。僕は一時の宿と生活費を得ることができる。どちらもハッピーって寸法さ」
幽霊「どちらもハッピーなら、まあいいのかな」
男「うわ、まさかそこまで素直に納得されるとは思ってなかったよ」
幽霊「ん?」
男「ねえ、キミが自殺した理由当ててあげようか」
幽霊「そんなことできるの?」
男「悪い男に騙されたんだね。それもこっぴどく」

12 :
幽霊「えっ。すごい! どうしてわかるの?」
男「いや……なんというか、めちゃくちゃ騙されやすそうな子だと思ったから。でもジャストで正解だとは」
幽霊「わたしこれでもしっかりしてるよ?」
男「そうは見えないけど」
幽霊「単三電池と単四電池を一瞬で見分けるよ」
男「超優秀だね」
幽霊「ふふん」
男「いや得意げな顔しないで」
幽霊「あとね、四角い電池舐めるとビリっとするんだよ」
男「いやもはやなんの話なの。電池大好きか」
幽霊「別にそんなに好きじゃない」
男「だろうね。僕もそうだよ」

13 :
なんかわかんないけど期待

14 :
男「大体僕の生業については理解してもらえた?」
幽霊「詐欺師なんだってことはわかった」
男「心外だなあ」
幽霊「霊感商法? ってやつ?」
男「別に霊感を使って脅してはないよ。むしろ逆」
幽霊「と言うと?」
男「いろんな事故物件を股にかけてるとさ、もうそれはそれはたくさんの幽霊を見るんだけどね。僕はそれを全部見なかったことにしなきゃいけない」
幽霊「裁判で言い訳が立たなくなるから?」
男「簡単に言えばそういうこと。裁判に限らず、揉め事全般で不利になるからね。僕の役目は、実際にその物件に住んで
  『何事もなかったですよー』って報告を入れることだから」
幽霊「なんか大変そう」
男「そうでもないよ。半分趣味みたいなものだし」
幽霊「趣味なの? なにが趣味?」
男「幽霊に会うことがね」
幽霊「ふうん」

15 :
男「キミは下ネタとか大丈夫な人?」
幽霊「あんまり知識がなくて、よく馬鹿にされてた」
男「ああ、っぽいなあ。いかにもって感じだ。どんな風に馬鹿にされてたの?」
幽霊「んとね、R膜って、ほんとに膜があるんだと思ってた」
男「結構エグい話してるね女の子って」
幽霊「あと、テレビに出てきたウミガメ見ながら『この亀頭すっごい丸い!』ってはしゃいでたらお母さんに叩かれた」
男「食卓が凍りついただろうね」
幽霊「そんな感じ」
男「わかった。知識ないなりに意外と耐性はありそうだ」
幽霊「なんの話?」
男「僕の趣味嗜好の話だよ。僕はさ、幽霊にしか興奮しないんだ」
幽霊「性的に?」
男「性的に」
幽霊「きもい」
男「真顔で言わないでよ。結構傷つくよ」

16 :
パンツ、オッケーッス

17 :
男「そもそも幽霊萌えってのは古来よりある由緒正しい性癖なんだよ」
幽霊「きもい」
男「うわあ一点張りだ。ねえ聞いてよ今すぐキミをどうこうしようってわけじゃないんだからさ」
幽霊「いつかはどうこうするの?」
男「仲が深まってきたら憑依して欲しい。そんで、なんというか、一人でするのを手伝って欲しい」
幽霊「やばい。気持ち悪い」
男「いやまあ冗談だよ。歌川国芳やら葛飾北斎の名前くらいは聞いたことあるだろ? ああいう人たちの書く幽霊画の幽霊って決まって美人なんだよね」
幽霊「見たことあるかも」
男「美術の授業なんかで目にしたんじゃないかな。とにかく昔から、幽霊と言えば女。そして美人。だったわけ」
幽霊「うん」
男「実際、人間の顔面がピンキリであるのと同じように、幽霊の美貌もピンキリなんだけどさ。でも、幽霊に性的興奮を覚えるって話は昔からよくある」
幽霊「えっと……なにが言いたいの?」
男「僕はそんなにきもくないよってこと」
幽霊「うん、わかった。きもい」
男「わかってもらえなかったかあ」

18 :
男「ま、いいよ。どうせこれから一ヶ月一緒に暮らすんだから、徐々に打ち解けていこうよ」
幽霊「性癖カミングアウトされた後で、そんな爽やかに打ち解けようとか言われても」
男「いや、黙っておくのってフェアじゃないじゃん」
幽霊「でも、でもわたし、当面そういうつもりないし」
男「幽霊のくせに『当面』ときたか……そろそろ、死んだっていう自覚持とうよ」
幽霊「と言われても」
男「妙に活気があるんだよね、キミ。ほんとに死んでんのか疑わしいくらいだよ」
幽霊「死んでるのは死んでるんだと思う」
男「ちょっと触ってみていい?」
幽霊「え、あ……はい」
男「うん、普通にすり抜けるね。実体ないね。半透明だしね」
幽霊「なんでわざわざ胸のとこ触ったの」
男「半透明なだけの普通な人間という可能性もあったけど」
幽霊「なんでわざわざ胸のとこ触ったの」
男「まあ半透明な人間とか、見たことないんだけどね。その時点で普通じゃないね」
幽霊「なんでわざわざ胸のとこ触ったの」

19 :
期待age

20 :
面白い

21 :
幽霊「もうお嫁にいけないよ」
男「そんな状態でどこに嫁にいくつもりなの」
幽霊「誰にも触らせたことなかったのに」
男「えっ、そうなの?」
幽霊「うん……」
男「そんなにかわいいのに」
幽霊「なんなの。かわいい人間は誰かにR触られてなきゃいけないの」
男「キミくらいかわいくて、キミくらいの歳の頃なら、誰かにR触られたことがあるっていうのは、この世界の常識だよ」
幽霊「そんなの初めて聞いた」
男「なんかテンション上がってきた。もう一回触っていい?」
幽霊「やだ。もう死んで」
男「死んだ子に言われると興奮するなあ」
幽霊「一刻も早く逃げたい」
男「地縛霊だからそれもかなわないね。いいじゃん、どうせすり抜けるだけなんだし」
幽霊「すり抜けてるだけなのに、妙に興奮したあなたを見るのが気持ち悪いからいや」
男「こう、なんか、内部まで入ってる感がいいよね」
幽霊「死んで」

22 :
男「でもさ、ちょっとひっかかったことがあるんだけど」
幽霊「なあに?」
男「さっきも言ったけどさ、キミが死を選んだ原因ってさ、男絡みなんでしょ?」
幽霊「うん、そうだよ」
男「それなのに、R触られたことないわけ?」
幽霊「う……それはまあ、なんというか」
男「あ、わかった。EDだ」
幽霊「彼のことをそんな風に言わないで。EDじゃないし」
男「彼は、キミとRしようとしなかったわけ?」
幽霊「随分と突っ込んだことを聞く人だなあ……」
男「いいじゃん。僕くらい霊と対話できる人ってなかなかいないよ。会話できるだけでも、キミにとってはかなりありがたいことなんだよ」
幽霊「なんか押しつけがましい」
男「キミは幽霊歴浅いから実感ないだろうけどね。幽霊ってのは、それはそれは孤独なもんだよ。リフォーム業者の人とか、来たでしょ?」
幽霊「来た。全然気づかれなかった」
男「普通の人は気づかないよ。1000人いたら、990人は気づかない。残った10人のうち、こうして普通に会話できる人種は2人くらいかな」
幽霊「そんなに珍しい人なの? あなた」
男「うん。だからキミはもっと喜んだ方がいいよ。退屈な死後の生活に、思いがけず現れた貴重な話し相手だよ」
幽霊「死後の生活て……」

23 :
幽霊「彼は、わたしと、その……したがってはいたよ」
男「だろうね。こんな彼女がいたら、もうめちゃくちゃにしたいだろうね」
幽霊「幽霊にしか興奮しないんじゃなかったの?」
男「一般論だよ。当の僕はと言うと、全然Rには興味がない」
幽霊「あ、そうなんだ……えっと、わたしもそんな感じだったの」
男「へえ。性欲がなかったのかな」
幽霊「いや、そういうわけじゃ………普通にあったよ。でも、普通じゃないくらいに、なんか怖かったの」
男「ああ、まあ、初めては痛いっていうしね」
幽霊「裂けたらどうしよう、とか」
男「いやそういう心配はまずないと思うな……なんなの彼氏は黒人かなにかなの」
幽霊「でも彼はね、優しかったよ。『無理しなくていいんだよ』ってね、きらきらの笑顔でね」
男「胡散臭い野郎だ」
幽霊「そんなこと言わないで。それでね、わたしね、良い人だなあって思ってたの。男の子なんだから、ほんとはしたかったと思うの」
男「だろうね」
幽霊「大好きだったの。だからね、あの日はね、本当にびっくりした」

24 :
男「ああ、わかった。隠れて彼氏が浮気してたパターンだ」
幽霊「えっ」
男「『いきなり彼の家に行って驚かせちゃおう。るんるんるん』とか言って、いざ彼のアパートの部屋の前に立ってみたら
  喘ぎ声が聞こえてきて、信じられない心持ちでそっとドアを開けて中を覗いてみると、彼の上にまたがって嬌声を上げる女が一人」
幽霊「ねっ、ネタバレはやめてよ」
男「もうそれだけでもショックなのに、女はこう言うわけだ。『ねえ、良いの? 可愛い彼女がいるんじゃないの?』
  それに答える彼氏。『あいつは遊びだよ。ったく、ちょっと顔が良いからってお高く留まりやがって』『ふふ、ひどーい』
  『それよりもう一回しようぜ。あいつ、やらせてくれねえから溜まってんだよ』『いいわよ、ふふふ』」
幽霊「ちょ、待って待ってストップストップ」
男「なんなの興が乗ってきたところだったのに」
幽霊「もうわたしの心ずたずただよ。やめてよ死ぬほどのトラウマなんだから」
男「大体合ってた?」
幽霊「大体合ってたよ……なんなの恐いよこの人」
男「いや、もう正直、鉄板のよくあるパターンだしさ」
幽霊「人の自殺の理由を鉄板パターンとか言わないで」
男「ごめんごめん」

25 :
男「でもこうしてキミが幽霊になったってことは、未だ未練はあるわけだね」
幽霊「そうなのかなあ」
男「そうだよ。幽霊になるってことは想い残しがあるってことだから。そんな鮮烈な浮気現場を見てなお、キミは彼に未練があるんだね」
幽霊「う……だって、大好きだったし」
男「羨ましいね、そいつ。まあそいつのおかげでキミが幽霊になったって言うんだから、多少は感謝しないと」
幽霊「感謝?」
男「ほら、僕、幽霊にしか興奮しないし」
幽霊「なんかもう、あなたはひどい男だね」
男「当面、僕はキミが成仏できるかどうかを見守ることになるなあ」
幽霊「えっ。わたし成仏できるの?」
男「件の彼への未練でこの世にいるわけだからね。それが解消されれば当然成仏するよ」
幽霊「そうなんだ……」
男「もしかして怖い?」
幽霊「怖いっていうか不安っていうか。成仏ってなんなのかもわからないし」
男「それは僕にもわからないからねえ」
幽霊「そうなんだ」
男「だって、僕、生きてるしね」
幽霊「それもそうだね」

26 :
書き溜めてないのか
まあここはびっぷらだしゆっくりどうぞ

27 :
>>26
ごめんなさいコンビニ行ってました
書き溜めておらず、若干見切り発車気味に始めましたので
やたらとゆっくりになると思い、びっぷらのほうに立てさせていただきました
興味を持っていただけた方がいれば、気長に見てやってください

28 :
おう、たまに見るからそのうち更新してな

29 :
幽霊「その大きな荷物はなに?」
男「なんだと思う?」
幽霊「死体」
男「キミは僕をなんだと思ってるの。日用生活品だよ」
幽霊「日用生活品って?」
男「着替えとか、寝袋とか。ちょっと手の込んだお泊りセットだと思ってくれればいいよ」
幽霊「そんなもの、いつも持ち歩いてるの?」
男「いろんな物件を短期間で渡り歩く生活だからね。いちいちベッドとか布団とかそろえるのは都合悪いし」
幽霊「ヒッピーみたいな生活してるんだね」
男「一応自分の家があるから、彼らとはまた違った生き方だけどね」
幽霊「ご飯とかは?」
男「大体コンビニ」
幽霊「男の子って感じだあ」
男「そう?」

30 :
男「さて」
幽霊「……寝袋? え、もう寝るの?」
男「今日は疲れててさ。新しい物件に入居する初日は、やらなきゃいけないことがいっぱいあって」
幽霊「ふうん。大変だね」
男「あれ? もしかして寂しい? 一緒に寝たい?」
幽霊「死んで」
男「この短い時間のうちに、随分辛辣になったよね」
幽霊「というか、眠たくはならないの」
男「知ってるよ。でも意識は停止するだろ?」
幽霊「停止?」
男「幽霊相手に意識って言い方は正しいかわかんないけどさ」
幽霊「どういうこと?」
男「えっとさ、死んでから、時間の感覚ってなくなったでしょ?」
幽霊「あ、わかる気がする」
男「それを僕は、意識の停止って呼んでるんだ。幽霊ってのはどうも、一秒も百年も大して区別してないらしい」
幽霊「言われてみれば。なんでだろう。三か月前にあったことも、さっきのことも、同じように思い出せる」
男「意識から、時間の概念がなくなってるからじゃないかな。停止して、進まなくなった時間軸に、出来事がずっと堆積していく。
  ずっとずっと、同じ意識の上にね。僕はなんとなく、そう理解してる」

31 :
幽霊「なんか難しい」
男「ごめんね。僕も感覚として、どういうものなのか分かってないから。今まで会った幽霊たちの話を総合して、大体こんな感じじゃないかって
  推測をつけただけだからさ。観念的で分かりにくい説明にしかならないや」
幽霊「うん、いいけどね。あんまり興味はないし」
男「気持ちいいくらい切って捨てるね、キミは」
幽霊「あなたはずっと家にいるの?」
男「いいや、むしろ明日からは、日中家を空けることのほうが多いだろうね」
幽霊「なにするの?」
男「情報収集かな。事故物件の」
幽霊「お仕事ね」
男「そうそう。どっかの部屋で死人は出ていないか。その部屋の賃借形態はどんな感じか。ってのを調べまわるわけだね」
幽霊「そう聞くと探偵みたいだね」
男「似たようなもんかもね。こういう情報は、迅速に収集するのが肝なんだ」
幽霊「どうして?」
男「人が死んですぐ……つまり、事故物件を抱えて間もないオーナーを探さなきゃいけないからね。もたもたしてると、オーナーのほうも
  落ち着いてくる。『所有物件内で人が死んだ! やばいどうしよう!』っておろおろしてる状態の人間が、僕の標的だからさ」
幽霊「騙しやすいから?」
男「そういうこと」
幽霊「悪人だ」
男「なんとでもどうぞ。さ、今日は疲れたよ。おやすみ。愛しい人」
幽霊「愛しくもないし、人でもないよ」
男「違いないね」

一日目、終了

32 :
面白いよ
二日目も期待

33 :
面白いと聞いてやって来ましたw
今時間ねーから後でじっくり読んでみるよ

34 :
男の幽霊にも興奮するの?

35 :
今まで悪霊に遭遇したりしなかったんだろうか

36 :
二日目期待

37 :
三日目 AM.
男「ただいま」
幽霊「…………」
男「おーい」
幽霊「………あっ、えっ」
男「ただいま」
幽霊「おか、おかえり」
男「あー、疲れたあ」
幽霊「…………」
男「どうしたの?」
幽霊「いや、あの、帰ってくるの早いなって」
男「そうでもないよ」
幽霊「え、でも、あなたが出てったのって朝くらいでしょ?」
男「九時くらいだったかな」
幽霊「時計ないからよくわかんないけど、明るさ的にまだ昼前くらいじゃ」
男「うん、まあそうなんだけどね」
幽霊「……?」

38 :
男「ええと、昨日僕は帰らなかったんだ」
幽霊「え」
男「昨日の朝に出て、そのまま丸一日が過ぎて、それで今帰ってきた」
幽霊「うそ。だってわたし、ちょっとぼんやりしてただけなのに」
男「それがいわゆる意識停止だね」
幽霊「停止……」
男「一昨日、いや、キミにとってはついさっきでもあるのかな。僕が話したことは覚えてる?」
幽霊「なんとなくは」
男「幽霊の意識には一般的な時間という概念がない。例えるなら、キミの記憶は日記帳のようなものだ」
幽霊「日記帳?」
男「2034年七月二日の日記の横に、平然と2040年一月十二日の日記が書かれてる感じ」
幽霊「随分と日付が離れてるね」
男「極端なたとえだけどね。この日記の持ち主は、2034年七月二日以降、実のある日々を過ごさなかった。
  久しぶりに日記に書けるような出来事が起きたのは、2040年の一月十二日だ。その合間にあった期間は
  取るに足らないものだったから、日記には書かれなかった。両者の記録は、六年の隔たりがあるにも関わらず、同じ見開きの上に記される」
幽霊「それが今のわたしの状態?」
男「そういうことだね。僕が越してきた初日の日記が記されたあと、一日置いて、今キミは新たに日記をつけ始めた」

39 :
男「キミの意識は、出来事、イベントを堆積させていくだけだ。時間で繋がった連続性のある記憶を持つことはない」
幽霊「イベントって、具体的にはなに?」
男「僕もいまいちよくわかってないんだけどね」
幽霊「それでもいいから、教えて」
男「観測者理論って知ってる?」
幽霊「…………えっと、あれでしょ、あの」
男「知らないんだね」
幽霊「うん」
男「自然科学の分野で言う観測者理論と人文科学の分野で言うそれは、微妙に意味合いが違うんだけどね。今回は哲学的な意味合いでの観測者理論の話なんだけど」
幽霊「待って頭破裂しそう」
男「頑張って。出来るだけわかりやすく説明するから」
幽霊「おねがい」
男「ええとね、こういう考え方があるんだ。『あるモノが存在するためには、それが何者かによって観測されている必要がある』」
幽霊「R気? わたしをR気なの?」
男「いやもう死んでるから」

40 :
男「ええと、乱暴に言ってしまえば『誰からも見られてないものなんて存在しないのと同じだ!』ってこと」
幽霊「わあ、乱暴」
男「僕が今まで見てきた霊ってさ、大体これに当てはまるんだよ」
幽霊「見られていない幽霊は存在しないってこと?」
男「見られる見られないってよりは、他者と関わってるか関わっていないかってことかな」
幽霊「え、でも、幽霊を見ることができる人間なんてほんの一握りだって」
男「霊を霊として知覚できるってことなら、ほんの一握りだよ。でも、霊を霊と知らずに観測することは、実はだれにでもできる」
幽霊「そうなの?」
男「たとえば悪寒、空気に感じる違和感、後ろから視線を感じる、線香の匂いがした、何もない所でつまづいた、耳鳴りがする、他にもいろいろ」
幽霊「なるほど。じゃあイベントっていうのは」
男「『他者に観測されること』だね、推測でしかないけど。幽霊ってのは観測されてるときにしか存在しない」
幽霊「なんか不公平だなあ」
男「不公平?」
幽霊「だって生きてる人は、誰にも見られてなくても存在できるんだもん。幽霊はそれ、だめなんでしょ?」
男「生きてる人間は、意識がないときを覗いて常に観測されてるよ」
幽霊「そうなの? 誰に?」
男「自分に。『われ思う。ゆえに、われ有り』ってやつ」
幽霊「あー、なるほど」

41 :
男「幽霊ってのは、自分を観測者に据えることってできないみたいだね。なぜか」
幽霊「死んでるからかなあ」
男「そういう機能が備わってないってことなのかもしれない」
幽霊「やっぱり不完全な存在なんだね」
男「そうだね。そういう意味では、意識停止という呼称は不適当かもしれない」
幽霊「えっと、つまり、記憶が存在しないのはその間の意識が停止してるってことじゃなくて」
男「うん。そもそもその期間にキミ自身が存在してない可能性がある」
幽霊「やだ。なんかこわいよ」
男「いや、あくまで仮説だから。意識停止説を支持するも不存在説を支持するもキミの自由だよ」
幽霊「絶対、意識停止のほう。ちょっとぼんやりしてるだけだもん」
男「二十四時間以上のぼんやりが、ちょっと?」
幽霊「…………意地悪」
男「ごめんごめん。からかっただけだよ。どっちにしろ、僕には確かめようがない」
幽霊「そうなの?」
男「不存在説のほうは、特にね。『観測していない間に存在しない』ことを証明するためには、観測が不可欠だ。パラドクスもいいところだよ」
幽霊「ちょっと、安心した」
男「ちょろいね」
幽霊「えっ」

42 :
宇宙も観測する人がいたから存在が確認できたんだよね

43 :
男「とりあえず僕の『よくわからない解説』はこれでおしまい。徹夜で色々回ってたから、さすがに眠いよ。僕はちょっと寝るね」
幽霊「…………寝ちゃうの?」
男「お、どうしたの。寂しいの? 今日こそ一緒に寝る? 重なり合って折り重なって寝ちゃう?」
幽霊「ばか。そうじゃなくて」
男「そうじゃなくて?」
幽霊「えと………あなたが寝てる間って、わたしは誰にも『観測』されてないよね……?」
男「あー」
幽霊「わたしはその間、いないかもしれないんだよね?」
男「怖がるな、っていうほうが無理かもだけどさ」
幽霊「むり」
男「こう考えたらどうかな」
幽霊「?」
男「キミが意識あるうちは、絶対に誰かが傍にいる。そうじゃないときキミは寝てるだけ。ね、こんなに心強いことってそうないよ」
幽霊「でも、でも」
男「生きてる人間だって、それほどまでに誰かといることなんてないよ。キミはキミである瞬間に、いつも誰かと一緒にいるんだ」
幽霊「…………」
男「当面は、僕がずっと一緒だね。離れたくっても離れらんないよ?」
幽霊「…………うん」
男「元気でた?」
幽霊「………きもい」
男「うわひでえ」

44 :
三日目PM.
男「よく寝た……」
幽霊「おはよう」
男「おはようって時間じゃないけどね。うわ、日付変わりそう」
幽霊「不規則な生活だ」
男「ああ……腹減った……」
幽霊「食生活も不規則そう」
男「うん、不規則。カップめんでも食べる」
幽霊「お湯は?」
男「給湯器なかったっけ」
幽霊「カップめん作れるほど熱いの出たっけ」
男「いけるいける。夏だし」
幽霊「男の子だなあ」
男「ねえ女の子」
幽霊「なあに?」
男「ちゅーしてよ」
幽霊「え、なんで」
男「真顔で問い返されるとは思わなかったなあ」

45 :
幽霊「やだよちゅーとか」
男「おはようのやつだよ」
幽霊「やつだよ、と言われても。しないよ」
男「軽いやつでいいから」
幽霊「死んで」
男「そろそろ癖になりそうだよマジで」
幽霊「超きもい」
男「ついに超がついたかあ」
幽霊「早くお湯注いできなよ」
男「はいはい」

46 :
げんふうけいの人っぽいね
おもしろいです

47 :
幽霊「おいしそう」
男「うん、うまいよ」
幽霊「ずるい」
男「いやそう言われても。キミ食事とか必要ないじゃん」
幽霊「目に毒な気がする。生前の感覚が蘇ってる気がする」
男「適当言ってるよね」
幽霊「うん」
男「じゃあさ、食べる真似してみれば?」
幽霊「ま、真似?」
男「うん、ほら。あーん」
幽霊「…………」
男「だめだめ。顔近づけてるだけじゃんそれ。ちゃんとすすって」
幽霊「そ、そんなこと言われても」
男「ほら、ずるずるずるーって言いながら。ほら」
幽霊「ず、ずるずるー」
男「ずずずずずるー」
幽霊「ずるー」
男「…………あー、超おもしろいこれ」
幽霊「なにこれ超死にたい」
男「死んでるから」

48 :
男「そう言えばキミってさ」
幽霊「うん」
男「浮かないの?」
幽霊「えっ」
男「幽霊なのに」
幽霊「言ってる意味がよくわかんない」
男「ああ、やっぱり知らないんだ」
幽霊「浮けるの? わたし浮けるの?」
男「せっかく霊体なんだからさ。そんなちまちま二足歩行してないで、ふわふわ浮かびなよ」
幽霊「えっ、でも、そんないきなり浮けって言われてもどうしたらいいか」
男「聞いた話によると、大事なのはやっぱり心もちらしいよ」
幽霊「心もち?」
男「なんていうか、こう、浮くぞ! みたいなね」
幽霊「浮くぞ! かあ」
男「浮け! っていう感じのね」
幽霊「難しそう」
男「ちょっとやってみなよ」
幽霊「う、うん」

49 :
幽霊「…………」
男「…………」
幽霊「…………」
男「がんばれー」
幽霊「うん……」
男「良い感じだよ。多分」
幽霊「そうかな……」
男「もっと気持ちを強く持ってー」
幽霊「…………」
男「…………」
幽霊「……………浮けっ」
男「!」
幽霊「浮けっ……浮けっ………」
男「………っ……!」
幽霊「…………今笑ったでしょ」
男「いや……ごめん………」

50 :
幽霊「その笑みを見て察したよ」
男「まさか鵜呑みにするとは思わなかったんだ」
幽霊「わたし馬鹿みたいじゃん」
男「いや、大丈夫。めっちゃかわいかったよ」
幽霊「浮けっ、とか言っちゃったじゃん」
男「最高にキュートだったよ」
幽霊「浮かないんだね?」
男「……まあ」
幽霊「ほんとは浮かないんだよね?」
男「ごめんなさい」
幽霊「呪い殺してやる」
男「ああ、それもいいな」
幽霊「価値観屈折しすぎ」

三日目、終了

51 :
これは支援せざるを得ない

52 :
おもしろいよー、がんばって

53 :
余裕でブクマした

54 :
やっべーおもしれー

55 :
糞スレと思って開いたら非常におもしろいでござる

56 :
意識停止説と不存在説が面白いな。
部屋に幽子ちゃん? 霊子ちゃんの興味ある番組をつけたままのテレビをおいて、
男が三日ぐらい帰らなかったら、どうなるんやろ?

57 :
げんふうけいなら名前付けない

58 :
続きはよ!
気になってでかけれないわ!

59 :
>>57
げんふうけいなら、周りの描写があります。

60 :
うおー支援

61 :
おもろいですよ?

62 :
>>1の話しは面白いけど事故物件を渡り住んでるのが本当としたら殺されたりして怨みをもって死んじゃて悪霊の地縛霊のいる事故物件だとここのスレの女の幽霊みたいな会話になるのか?悪霊だと会話にならないと思うし殺されそうなんだけど

63 :
>>62
創作と現実の区別はつきますか?

64 :
>>63
憑けないからだろうに……男に。

65 :
いいねこれ

66 :
面白い!支援!

67 :
C

68 :
六日目 P.M.
男「ごめんてば。からかい過ぎたのは謝るからさ」
幽霊「知らない」
男「うわあ。そういうセリフ言いながらそっぽ向かれるの、すごくいいね」
幽霊「…………」
男「あんまり見つめないでくれる?」
幽霊「にらんでるんだけど」
男「かわいいね」
幽霊「ああ、もう」
男「悪気はないんだけどね。でもさ、ここ数日出がけに見送ってくれるときのキミの顔って本当に最高なんだもん」
幽霊「まだ言う」
男「もうこの世の終わりを見たかのようなさ、そういう顔なんだよね。正直言って、かなり後ろ髪ひかれるよ。ちょっとからかいたくなっても無理はないと思わない?」
幽霊「別に、あなたが恋しくてそんな顔してるんじゃないもん。そんなのわかってるでしょ?」
男「そうは言ってもね。男としては、好きな子はいじめたくなるもんだからさ」
幽霊「あなたって、友達少ないでしょう?」
男「うわ、つら」

69 :
幽霊「わたしをからかってる暇があったら、さっさとご飯食べちゃいなよ。麺、伸びるよ」
男「気遣いありがとう。でも僕はね、伸びてでろでろになったぐらいのラーメンが好きなんだ。だから大丈夫だよ」
幽霊「ゲテモノ食い」
男「そこまでかな……というか、もうちょっとこっち来て座りなよ。遠巻きに見られてると、なんか物悲しいよ」
幽霊「むやみやたらに触らない?」
男「それは約束できないけど」
幽霊「約束してよ」
男「言いつつ寄って来てくれるあたり、キミはねこみたいだね」
幽霊「ねこすき」
男「僕のことは?」
幽霊「別に」
男「毅然とした態度だね」
幽霊「ねこね、昔飼ってたの」
男「へえ」
幽霊「だからすきなの」
男「じゃあもし、キミが昔飼ってたのがニューギニアヒメテングフルーツコウモリだったら、今のキミはニューギニアヒメテングフルーツコウモリをこよなく愛する女の子になってたわけだ」
幽霊「そんなコウモリいるんだね」
男「いるよ。主な生息地はニューギニア」
幽霊「さすがになんとなくわかるよ」

70 :
幽霊「こんな風になっちゃったから思い出すんだけど」
男「なに?」
幽霊「ねこって、ときどき、なにもない空間を目で追ってるんだよね。じっと。ずっと」
男「ああ、よく聞くね」
幽霊「あれってやっぱり幽霊が見えてるのかな」
男「いいや、そんなことはない」
幽霊「えっ、そうなの?」
男「ねこの視力ってのはそんなに良くない。というか悪いね。だけどそれゆえに、ねこの聴覚には飛び抜けたものがある」
幽霊「耳?」
男「そう。耳が良いんだ。犬もなかなか耳がいいんだけど、ねこのほうがずっといい。可聴音域も、人間より遥かに広い」
幽霊「超音波とかも聞こえるの?」
男「らしいね。ねこが何もない空間を追っているのは、見てるんじゃない。聞いてるんだ。人間には絶対に聞こえない音を聞いてるだけだよ」
幽霊「長年の疑問が今解けたよ」
男「ただね、その音が何に由来してるかまではわかんないからさ。もしかしたら、幽霊の声なのかもね」
幽霊「そういう考え方もできるのかあ」

71 :
男「でもあえてこれは言わせてもらうね」
幽霊「?」
男「自分を知覚できる存在が、実はたくさんいるのかも。なんて考えは捨てたほうがいい」
幽霊「………」
男「やっぱり、図星だった?」
幽霊「……うん」
男「僕が出かける直前に、キミが不安げな顔をする気持ちはわかる気がする」
幽霊「わかるの?」
男「わからない。わかる気がするだけだよ。僕は生きてるし、キミは死んでる。キミは生きてたこともある。キミのほうが経験豊富だ。だから僕には、キミの気持ちがわからない」
幽霊「こわい」
男「諦めて。どうしようもないから」
幽霊「わたしは、存在してるのかな。してないのかな。意識がないっていうのは、どういうことなのかな」
男「ごめんね。僕にはわからない」

72 :
幽霊「こんな風になるなら……」
男「死ななければよかった?」
幽霊「………わかんない」
男「キミが死に際になにを思ったのかとか、そんなこと詳細には知らないけどさ」
幽霊「……?」
男「いやあ、面白いよね。笑いが出るよね」
幽霊「全然、笑えないよ」
男「や、笑える。キミさ、なんで、当たり前のように、存在しようとしてるんだよ」
幽霊「………」
男「甘えてるというか、ふざけてるというか。自分で命を捨てといて、意識を消し去ろうとしておいて、それなのに今は、自分の存在が不安定なことにひどく怯えてる」
幽霊「……おこってる?」
男「ううん、全然。面白がってる。今こうしてキミが葛藤していることが、僕にはとても興味深いんだ」
幽霊「えっと………………ごめんなさい」
男「怒ってないってば。キミの命はキミの自由にしたらいい。それに、キミのようなことを言う幽霊は、初めてじゃない」
幽霊「そうなの?」
男「うん。でも、そのときはここまで興味をひかれなかったなあ」
幽霊「なんで?」
男「なんでだろ。多分、その幽霊が四十がらみのおっさんだったからじゃないかな」
幽霊「……それ、関係ある?」
男「そりゃあね。僕だって人間だし、自分の存在に不安を感じるおっさんよりは、自分の存在に不安を感じるかわいい女の子のほうに興味が沸く」

73 :
幽霊「聞かせてほしいな」
男「なにを?」
幽霊「あなたの、幽霊の話。いろんな幽霊に会ってきたんでしょ?」
男「ああ、まあいろいろいたね」
幽霊「どんな幽霊がいたのかって、ちょっと興味があるの」
男「ああ、それはいいけど、そうだなあ……面白い話をしようとなると、ちょっと下品な話になるかも」
幽霊「幽霊相手に?」
男「幽霊相手に。ま、いいか。下ネタはいけるクチだったもんねキミ。実は僕バイセクシャルなんだけど」
幽霊「えっ」
男「そんなに驚く?」
幽霊「だって、あなた、幽霊にしか興奮しないって」
男「それは嘘じゃないよ。幽霊であれば、男でも女でも関係ないって話。ああ、でも、どっちかっていうと女の子のほうが好きだけどね」
幽霊「そうなんだ……」
男「で、さっき出てきた四十がらみの男の話だ。この幽霊がね、同性愛者だったわけ」
幽霊「話がよからぬ方向に」

74 :
わお

75 :
男「ある程度年配のゲイは、若い男が好きって人が多いんだ。ハッテン場っていったことある?」
幽霊「な、ないよ!」
男「まあそうだろうね。僕は一度だけ行ったことがある。あくまで興味本位でさ。黒い噂の絶えない、治安の悪いポルノ劇場でね。生身の人間には興味ないけど、
  人が何人か死んでてもおかしくないような荒れ具合だって話だったから、強姦殺人にでも遭った幽霊がいないかなって思ったんだ」
幽霊「幽霊見つかった?」
男「いいや。とてもじゃないけど、それどころじゃなかったよ。場末のポルノ劇場なんて、ガラガラだろうとタカをくくってたんだ。とんでもないね。
  座席数の五倍は人がいたんじゃないかな。まるで満員電車みたいだった。もぎりのおばさんが気だるそうに言うんだよ。「スリに気を付けてね」ってさ。
  冗談じゃないと思ったね。スリなんか気にしてる余裕はなかったよ。劇場でひしめき合ってる男たちのなかで、明らかに僕は最年少だった。
  ぐるりと見回した感じ、僕の次に若い人でも四十は絶対に下らない感じだったかな。入口から入ってきた僕に、劇場内の男どもが一斉に視線を向けるんだけどさ、
  その視線のまがまがしいこと。僕の容姿偏差値なんてまったくもって関係ない。二十歳そこそこだってだけで、その場にいたほとんどの人間が僕を標的に定めたよ」
幽霊「や、やられちゃったの……?」
男「どう思う?」
幽霊「…………」
男「そんな顔しないで。さすがに恐れおののいて三分も経たないうちに逃げ出したよ。その間に身体をまさぐられた数は10じゃきかなかったけどね」
幽霊「よかったねえ……」
男「うん。あれはさすがに震えたね。幽霊にも物怖じしない僕が言うんだから相当だよ。スクリーンのなかのカメラ人間を見てちょっと安心したくらいだ」
幽霊「カメラ人間って?」
男「ほらあれだよ。『劇場内での撮影は犯罪です』ってやつ。頭がビデオカメラの人がダンス踊る映像があるだろ?」
幽霊「ああ、あれ。なんで安心?」
男「あまりに非日常的な空間と状況だったからさ。なんかあのカメラ人間見て『良かった知ってる人がいる』って思っちゃったんだよね」
幽霊「せっ、切羽つまりすぎ」
男「いや、笑ってるけどさ。それくらい恐怖してたんだよ僕」

76 :
登場人物を誰に変換しよう

77 :
よ!まってました

78 :
男「話が若干逸れたね。戻そう」
幽霊「うん」
男「しばらく同居することになったそのおっさんがね、これまた性欲旺盛でさ。ここぞとばかりに僕に性的欲求をぶつけてくるんだ」
幽霊「幽霊が? 人間のあなたに?」
男「そうそう。もちろん、肉体的な接触はもてないからさ。その方法は限られてるんだけど……話して大丈夫?」
幽霊「………たぶん」
男「僕はさ、その、最初にキミに言ったけどさ、『憑依してもらってRーする』ってのが一般的な幽霊との性的交渉だと思ってたんだ」
幽霊「憑依って、そんな簡単にできるの?」
男「まあいろいろと条件はあるけど、できなくはないって感じかな」
幽霊「へえ」
男「それでまあ僕としては、いやいやだったけど、まあ一緒に生活していく上で関係は円滑にしておきたいとも思ってたからさ、憑依してもいいですよって言ってやったんだ。そのおっさんにね」
幽霊「いやいやなの? バイだから別にいいんじゃ」
男「マイナーな性的嗜好にだって、選択の意思はあるよ。少なくとも僕は、おっさんの相手はしたくないしおばさんも同様だよ」
幽霊「言われてみれば、そういうものなのかな」
男「そうだよ。だからまあ、やぶさかではあるけどおっさんの相手をしてやろうと思ってそう言ったのにさ。『そういうのはいい』って言うんだよ。おっさん」
幽霊「えっ。紳士的だ」
男「紳士的なもんか。おっさんは代わりにこんな要求をしてきたね。『キミが自分でしているところを近くで見ていたいんだ』って。『それが一番興奮する』とかでさ」
幽霊「うわあ」
男「ほんとうわあだよ。これがまあ、きついのなんのって。おっさんに至近距離で見つめながら自分のナニを擦るんだ。早いとこ終わらせたいってのに、どうしても
  目の前におっさんがちらつくからなかなか射精できない。次第におっさんは興奮してきてはあはあ言い始めるしさ。正座でだよ? でもそれはまだマシなほうで、
  最高にノッてくると、おっさん、僕の唇あたりをべろべろとなめまわし始めるんだ。もちろん匂いも感触もしないけど、でもそれって、もうそういう問題じゃないだろ?」
幽霊「かける言葉が見つからないよ」
男「ようやくイケたと思ったら、間髪入れずに『もうちょっと頼む』だからね。目の前が真っ暗になるよ、そういう瞬間って」

79 :
幽霊「あなたが、想像以上に壮絶な人生を歩んでてわたしは何も言えない」
男「いや、でもそのおっさんも、人柄はほんとに良い人だったんだ」
幽霊「今さらフォロー入っても説得力ない……」
男「マジでマジで。どっかでかい企業の、結構良い立場の人でさ。人事だったかな。『お前もこんな阿漕な生業やってないで、まともに就職したらどうだ』とか言ってくるんだよ」
幽霊「それには超同感できるけど」
男「ほんとに心配してくれてるのがひしひしと伝わってきてさ、もう苦笑いしかでなかったね。『今の人事部長の夢枕に立ってやるから、うちの会社を受けなさい』とかね。
  できもしないってこっちはわかってるし、むこうもほとんど冗談なんだけどさ。いや、でも良い人だったよ」
幽霊「そっちの話から入ってくれれば、良い話として認識したんだけどね……」
男「そっか。そりゃ失敗したかも」
幽霊「あのさ」
男「ん?」
幽霊「その人って、今、どうしてるの?」
男「おっさん?」
幽霊「うん」
男「さあねえ」
幽霊「わかんないの?」
男「多分、元気に幽霊やってんじゃないかな。ふわふわ浮かんでさ」
幽霊「えっ、その人は浮けるの?」
男「いいや。嘘」
幽霊「……もう」
六日目、終了

80 :
遅筆ですみません
完結するのにまだかかると思いますが、たまに覗いて読んでいただけたら幸いです
面白いと言ってくれる人がいるのが励みになります
嬉しいです、ありがとうございます
最近たまに言われるのでことわっておきます
げんふうけいの人ではありません
なんかごめんなさい

81 :
>>80
怖いスレみてきた帰りなのですごく和みました
面白いので無理せずがんばってください

82 :
四コマ漫画みたいでおもしろい
続き楽しみにしてるわ

83 :
日々の楽しみにする!
支援!

84 :
面白い

85 :
保守

86 :
初日から見てるよー
離婚協議中だが、現実逃避にありがたい。
ほしゅう

87 :
おもいわw

88 :
七日目 P.M.
男「たらいまあ」
幽霊「おか……たらいま?」
男「ああ、家に待ってくれてる人がいるのっていいねえ」
幽霊「別に待ってないよ」
男「あー、そうかあ。あー……」
幽霊「?」
男「寂しかったでしょ。僕がいない間になにしっ、なにしてたあ?」
幽霊「わたしの感覚としては、あなたさっき出ていったばっかりだよ。知ってるでしょ」
男「ああ、そうだったそうだった……あははははは」
幽霊「顔赤い……酔ってる?」
男「かもねえ」
幽霊「酔ってる」
男「でもまだ飲むよ。発泡酒買ってきたあはははは」
幽霊「めんどくさそう……歩ける?」
男「大丈夫大丈夫う」

89 :
幽霊「外で飲んできたの? どれくらい飲んだの?」
男「駅前の立ち飲み屋で二杯ほど」
幽霊「二杯……ウィスキーでも飲んだ?」
男「やあ。ビールだけど」
幽霊「なるほど。弱いんだね」
男「キミは、お酒はすき?」
幽霊「すき」
男「かんぱーい」
幽霊「飲めないし」
男「ああ、不味いなあ」
幽霊「お酒嫌いなの?」
男「あんまり好きじゃない」
幽霊「だと思った。ココアでも飲むみたいに、ビール啜るんだもん」
男「でも飲まなきゃねえやってらんねー」
幽霊「友達になんか言われたの? まともに働け、とか?」
男「友達いないって言わなかったっけ」
幽霊「え、じゃあ外で飲んだのって、一人で?」
男「悪いか」
幽霊「悪くはないけど」
男「やあ、もう、今朝キミと別れて扉を閉めた後のことだよ」
幽霊「ん?」

90 :
男「ええとね……お隣さんにあったんだ」
幽霊「お隣さん? どんな人だっけ?」
男「なんかやけにチャラい髪の毛した優男だったよ。見た目に似合わず慇懃な話し方だったな」
幽霊「え。そんな人知らない。わたしが死んだ後に越してきたのかな」
男「じゃないかな。多分、通り沿いにある美容学校に通うために家を出て来たんじゃないかな。いかにも高校出たてですって感じのオシャレさだった」
幽霊「なにそれ」
男「垢抜け方がね、尋常じゃないんだよ。いかにも肩肘張ってるって感じ。こんな地方都市に出てくるくらいで大袈裟な」
幽霊「逆恨みっぽいなあ。普通にオシャレなひとなんじゃないの」
男「逆恨みもするさ。今朝方、僕と彼は家を出るタイミングがちょうど同じでさ。視線が合ったんだ。僕を見て、彼、なんて言ったと思う?」
幽霊「……いや、わかんないけど」
男「『どうも、おはようございます』って挨拶してきたんだ。ご丁寧に、腰を30度きっちり折り曲げながらさ」
幽霊「めちゃくちゃ普通だね。そしてめちゃくちゃ良い子だね」
男「ああ、それはもう爽やかだったよ。お隣さんといい関係でありたいっていうのが、顔に張り付いてた。大して興味もないだろうに、世間話なんか振ってくれちゃってさ」
幽霊「なんて?」
男「『見送ってくれる人がいるんですね。羨ましいです。彼女さんと住んでるんですか?』」
幽霊「…………?」
男「ああ、勘違いしないでね。別に彼はキミの姿を見とめてたわけじゃないみたいだ。玄関先でキミと話していた僕の声を聞いて、そう判断したらしい」
幽霊「独り言に聞こえなかったのかな。わたしの声は聞こえてないってことでしょう? それ」
男「所詮ドア越しに聞こえてた声だし、ずっと聞き耳を立ててたわけでもないだろうからね」
幽霊「ふうん。で、なんて応えたの?」
男「応えなかった」
幽霊「え」

91 :
男「いや、正確に言えば、上手く言葉が出なかった。ほら、僕ってコミュ症だからさあ。あはははは」
幽霊「とてもそういう風には見えないんだけど」
男「マジなんだよこれが。近年は特に拍車がかかってる。仕事以外で生身の人間と言葉を交わすことはほとんどないしね」
幽霊「よくそんなんで人を騙せるね……」
男「仕事のときは別だよ。それにほら、上手いこと騙せないと唯一の話し相手である幽霊に出会うこともできない」
幽霊「っていうか、お隣さんのこと、無視したの? 気まずいよねそれ」
男「二人並んで階段降りるときの空気は重かったね。ああ、もう、軽々しく話しかけてくんじゃねっつの」
幽霊「クダ巻いてるなあ。どう見ても悪いのはあなたでしょ」
男「いや、最終的にはがんばって僕も返事したよ。ぼそぼそとしか喋れなかったけど」
幽霊「あ、そうなんだ。なんて?」
男「一人暮らしなんです。って」
幽霊「…………うわあ」
男「もうね、あれなら、ずっと黙ってた方がましだったよ。くそ」
幽霊「一人暮らしなのに、あんなにはっきりと何かに向かって喋ってるんだもんね」
男「一瞬で向こうは心を決めたみたいだったね。あの男が『あ、この人とは関わらないほうがいいな』って察したのを、僕は察したね。間違っちゃないんだけどさ」
幽霊「もっとうまくごまかせばよかったのに」
男「無茶言わないでよ。生者と世間話をするってだけでもいっぱいいっぱいなんだ。テンパってて、脳みそのどの部分にも余裕はなかった」

92 :
幽霊「落ち込んでるのかな。ヤケ酒?」
男「励ましてくれる?」
幽霊「酔っ払いがうざいので、できることならそうしてあげたいけども」
男「ああ、それならさ。小さいころ、落ち込んだ時にやってもらってたおまじないをして欲しい」
幽霊「おまじない?」
男「そう。結構簡単なやつだから」
幽霊「どうすればいいの?」
男「おでことおでこをくっつけるんだ」
幽霊「ええ……」
男「だめ? おでこだけだよ」
幽霊「……おでこだけだよ?」
男「おでこだけだ」
幽霊「…………」
男「はい」
幽霊「すり抜けるから………難しい…………」
男「もうちょっと後ろかな……うん、そう」
幽霊「………ん」
男「…………」
幽霊「…………」
男「…………」
幽霊「…………!!」

93 :
男「……あははははは!!」
幽霊「キスしたあ!!」
男「ああ、うん、したね」
幽霊「おでこだけって言ったのに!!」
男「騙される方が……悪くないね。騙す方が悪い」
幽霊「ああもう!! うそつき!! うそばっか!!」
男「そんなにいやだった?」
幽霊「すっごく!!」
男「大丈夫。霊体だから。触れてないから」
幽霊「気持ちの問題なの!」
男「そっかそっか。ごめんね。酔ってるから。許してね」
幽霊「おまじないじゃなかったの?」
男「そんなの、嘘に決まってる」
幽霊「ああもう、ばか!」

94 :
男「知ってる? 幽霊も、赤面するんだよ」
幽霊「またうそ」
男「いいや。これは本当。貧血で顔面蒼白になることはないのに、恥ずかしくて顔が赤くなることはあるんだ」
幽霊「…………」
男「きみ、今、真っ赤だよ」
幽霊「そりゃあ、あんなのされたら誰だって」
男「不思議だよね。血なんて、通ってないはずなのにさ」
幽霊「ん……まあ、たしかに。というか、ほんとにわたし、赤いの?」
男「うん。顔が赤くなるのは、感情の問題だ。貧血は身体の問題。だからかな。顔が赤くなるのは、感情の象徴の一つなんだ、きっと。幽霊はフィジカルな存在じゃなくて、メンタルな存在だから」
幽霊「知らないよ。そんなの」
男「そうだね。うん、悪かったよ」
幽霊「あのさ」
男「ん?」
幽霊「どうして、友達いないの? どうして、幽霊にこだわるの?」

95 :
男「幽霊が見えるからね」
幽霊「霊が見える人はみんな、あなたみたいに、生きてる人と疎遠なの?」
男「痛い所をつくなあ。うん、実は、そういうわけでもない」
幽霊「あなただけが特殊なんだね」
男「特殊なんていうほどでもないけどね。ちょっと、生き方を間違えた」
幽霊「生き方?」
男「生まれ持って霊が見える人間てのは、そういう能力があるってだけで、別に性格に問題があったりするわけじゃあない」
幽霊「あなたは相当変なひとだけど」
男「強い霊感を持って生まれた人間はみんな、主に幼少期、多かれ少なかれ、不気味な子供だという扱いを受ける。通過儀礼みたいなもんだね」
幽霊「他の人には見えないものが見えるんだもんね」
男「そういうこと。生まれたときから当たり前に見えるものだからさ、最初は、他人がそれに気づかないというのが不思議でしょうがない。不思議というか、理解できない。
  でも大抵の霊感持ち人間は、物心がつく頃気づく。『どうやら、僕たちに見えているコレについては、気づかないフリをして過ごしたほうが良さそうだぞ』ってね。
  『そうしなければ、僕は周囲に溶け込むことができないばかりか、つまはじきものにされてしまう』」
幽霊「なんか、悲しいね」
男「しょうがない話ではあるけどね。ええと、それでさ、こういう背景があるから、霊感持ちの人間て言うのはむしろ、コミュニケーションに長けた人間が多いんだ。
  幼い頃に、他人の顔色を窺うことを強制させられるからね。他人に同調してみせる力とか、空気を読む力は人一倍にある。僕のような人間とは、正反対のやつがほとんどだよ」
幽霊「それじゃあどうしてあなたは、そうならなかったの?」
男「そりゃもちろん、物心がつくころに、周囲との折り合いを上手くつけなかったからさ。僕は自分の見えているものを隠そうとしなかった。別に能力を誇示していたわけじゃないけどね」
幽霊「どうして隠さなかったの?」
男「隠せなかったんだ。ここからは、少し恥ずかしい話になる。僕の初恋の話だ」
幽霊「恥ずかしいの?」
男「当人としては、恋の話なんて、どうあっても恥ずかしい。箸が落ちても恥ずかしい。耳が疲れてはないかな? そろそろ日付も変わるけど」
幽霊「だいじょうぶだよ。幽霊だしね。むしろ、聞きたい」
男「それじゃあ酔いが廻った宵に相応しい、恋の話をしよう。僕がまだ小学校に上がる前の話だ」

七日目、終了

96 :
いいテンポだ
期待

97 :
寿命を売ったの人かな
あれ好きだった

98 :
>>97
この人じゃないって言ってるぞ。上の方だ

99 :
師匠っぽくて好きだなこの空気

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