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2013年08月ニュー速VIP+357: 勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」【2】 (381)
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勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」【2】
- 1 :2013/08/01 〜 最終レス :2013/08/16
- また512kを超えてしまったらしいですorz
勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1372895662/
の、続きです
- 2 :
- バタバタバタ……
盗賊「ん?」
領主「王様と弟王子様がいらっしゃっと聞きましてな」ハァ
盗賊「よう、久しぶりだな『前領主の息子』」
領主「……お久しぶりで御座います。国王の座に着かれてからは」
領主「こうして、顔を合わすのは初めてですな」
女(……誰かが話を伝えたか)ホッ
女「領主様、ご苦労様で御座います。王様と弟王子様が」
女「図書館へのご案内をご所望で……」
領主「そ、それは勿論……ですが、まずは我が屋敷へ……」
盗賊「その女にも散々言ったんだけどな。公式訪問じゃ無いし、時間も無いんだ」
盗賊「……とは言え、王として礼を欠く訳にもいかん」
弟王子「お母様……?」
盗賊「屋敷の位置は変わっていないのだろう?」
領主「え、ええ……それは、まあ」
盗賊「では、図書館へ行った後に必ず寄ると約束しよう」
領主「それほど……図書館に興味がおありで?」
盗賊「『次期国王』の勉強にはこれほど打って付けの場所も無いだろう?」
盗賊「『万人に開かれている』と聞いている。差し支えなければ案内して貰いたいな」
領主「……解りました。では私が参りましょう」
女「……では、私は下がります」
弟王子「一緒に行ってくれないのですか?」
領主「お、弟王子様の願いであれば、この者もお連れしますよ!」
女「! ……良いのですか」
弟王子「お約束、ですから」ニコ
領主(でかしたぞ、娘……!弟王子に気に入られたとは……!)
女(……お父様、解ってない……!共に行動するには、まずいのに……!)
盗賊「図書館はあれだったな。行くぞ」スタスタ
弟王子「はい、お母様」スタスタ
女「……お気をつけ下さい、『領主様』!」ヒソ
領主「移住叶わずとも、これはこれで結果的には喜ばしい事だろう!」ヒソ
領主「……余り話しかけるな。話は後で聞く」
キィ……
司書「ようこそ、いらっしゃいました……あ!」
盗賊「よーう!久しぶりだな!」
司書「盗賊さん! ……いえ、王様……!」
- 3 :
- 弟王子「お知り合い……ですか?」
司書「ええ……まだ、僕が港街に居る時に、何度か、ですが」
司書「お会いした事が、あります」
盗賊「元気そうで何よりだ……ちょっと見せて貰うぜ」
領主「…… ……」ムス
女「領主様……」
司書「ああ、領主様もご一緒ですか。では奥の扉の方までご案内致します」
盗賊「奥?」
司書「ええ、僕が港街の教会から持って来た本など」
司書「……その他、稀少な物は鍵付きの……」
領主「わ、私がご案内を……!」
盗賊「…… ……奥の扉、ね」
領主「……万人に開かれて居るとは言え、貴重な物は、その」
領主「まあ……盗難の危険など、ですな」
盗賊「……こいつが持ってきた本は、『少年』の書いた物だ」
領主「!」ビク
女「お ……領主様?」
盗賊「盗難などを防止する為に、司書だかを置いてんじゃないのか?」
領主「も、勿論……そうですが……」
盗賊「『世界一の図書館』の名が泣くな」
領主「…… ……」
盗賊「『少年』も望んで居ない」
領主「……し、しかし、ここは我が領土です!他国の王である貴女に……!」
盗賊「覚えているか、領主。少年との約束だ」
領主「…… ……」
盗賊「お前には『街を束ねるための長としてのある程度の権限』を与えた訳じゃ無い」
盗賊「……それにこの、我が国に移住を望んだこの女……」
領主「は、はい……?」
盗賊「闘技大会にて、対戦相手に会場外でとは言え、『侮蔑の言葉』を吐いたぞ?」
領主「な……!」
女「ち、違います!あれは、そういう意味では……!」
領主「あれほど、あの言葉は使うなと言ったであろう!」
- 4 :
- >>1乙
ワクワクテカテカ
- 5 :
- 楽しんでる
- 6 :
- 盗賊「お前には『街を束ねるための長としてのある程度の権限』を与えた訳じゃ無い」
↓
盗賊「お前には『街を束ねるための長としてのある程度の権限』を与えたに過ぎない」
訂正orz
- 7 :
- 弟王子「使うな……?」
領主「あ、いや、その……!」
女「ち、違います!私は……!領主様!」
盗賊「あの言葉とは何だ」
領主「いえ!使ってはいけないと、教える意味で使用しただけでしてな!」
領主「そ、それにこの女は少しばかり、その……」
盗賊「答えろ! ……あの言葉とは、何だ!」
領主「……れ、『劣等種』と言うのは、その……!禁じられた言葉である、と……!」
盗賊「『教育』の為に聞かせた、と言うのだな?」
領主「勿論です!歴史を教えるために、ですな!」
弟王子「この女さんに、ですか」
女「…… ……」ハァ
領主「ええ。そうです!この女は少し、その。頭が悪いと言うかなんと言うか……!」
弟王子「おかしいですね。女さんは確かに『劣等種』と言う言葉は初耳だと」
弟王子「僕に仰っておられました、が」
領主「な……!」
盗賊「…… ……何も変わらないな。この街は。と言うか……お前達は」
盗賊「この女は対戦相手に『出来損ない』と告げたそうだ」
領主「な……!だ、騙した、のですか!王ともあろう方が!」
弟王子「領主様。ボロを出したのはそちらですよ?」
弟王子「……何の為に移住を願われたのです」
女「……」
領主「……」
弟王子「領主様に近しい、血筋の方だと推測します」
弟王子「……あまり、邪推はしたくありませんが」
領主「い、いえ、その!」
弟王子「しかし、そうやって歴史をねじ曲げず」
弟王子「駄目なことは駄目だと、教えて行こうとするのは、素晴らしいことだと思います」
盗賊「弟王子?」
- 8 :
- 弟王子「ここを『世界一の図書館』の名を汚さない為にも」
弟王子「奥の扉の鍵を取っては頂けませんか」
領主「そ、それは……!」
弟王子「港街を、劣等種と不当に蔑まれた方達を解放した『少年』さんの貴重な」
弟王子「本を広く読んで頂くためにも、それが良いのではないのでしょうか」
弟王子「そうすれば、領主様。貴方のその『素晴らしい教育』ももっと確かな物になりますよ」
弟王子「ね、お母様?」
盗賊「そうだな。『少年』も喜ぶだろう」
領主「…… ……ッ」ギリギリッ
女「…… ……」
盗賊「何れ勇者も戻ってくる」
女「え!?」
盗賊「そりゃそうだろう?魔王を倒せば、彼は帰ってくるんだ」
領主「あの……噂は、本当だったのですか」
盗賊「アタシは信じてるよ。『勇者は必ず魔王を倒す』とね」
盗賊「で…… ……どうするんだ?」
領主「……わかりました。鍵は……外します」
盗賊「おい、聞いたか?」
司書「え、あ、あの……僕、ですか!?」
盗賊「そもそもお前が持ち出した物だろう?責任持って棚にしまえよ」
司書「あ……は、はい!」
盗賊「鍛冶師にも、伝えておく。うちの国にも、ココの図書館に興味を持つ奴は多い」
盗賊「帰ったら、街の皆にも知らせるよ」
女(逃げ道を断つつもりか……ッ この、女……ッ)
女(劣等種の分際で、出来損ないの分際で……ッ)
弟王子「そうですね。もっとこの街と、我が国の関係も有効になれば」
弟王子「その頃には、移住の話を認めることもでしましょう、お母様?」
盗賊「まあ……そうなるかもな」
弟王子「女さんも、是非また始まりの国に遊びに来て下さいね」
弟王子「お待ちしておりますよ」ニコ
盗賊(半分楽しんでるな、こいつ……)
- 9 :
- 領主「……奥の番人に鍵を外す様に告げろ。本を……並べ直せ」
司書「はい!」パタパタ
弟王子「あ、僕も読みたいです。お母様、良いですか?」
盗賊「ああ。その為に来たんだ」
弟王子「はい!」パタパタ
領主「……わ、私は失礼する!」
盗賊「後でそっちへ言って良いんだろ?」
領主「……!」
盗賊「存分に利用しろよ。『国王』が領主を訪ねて来た、となれば」
盗賊「お前達に取れば、『名誉』だとか言う、物になるんだろ」
領主「……ッ 女!」
女「……はい」
領主「後ほど、王様と弟王子様をお連れしろ!」スタスタ
女「…… ……」
盗賊「その『目』だよ、女」
女「……何、か」
盗賊「『劣等種』を蔑む目だ。アタシは山程見てきた」
女「…… ……」
盗賊「あんまり下らない事を企むな、と。領主にも伝えておけ」
女「……領主様とは、後でもう一度お会いになるのでしょう」
女「ご自分でお伝えになれば、如何です」
盗賊「会うと思うか?」
女「え?」
盗賊「もう一度、アタシと話す気になると思うか、って」
- 10 :
- 盗賊「お前だって、さっさと帰りたいと思っているだろう?」
女「……そんな、事は」
盗賊「そんな『目』をしていて、か」
女「…… ……領主様のご命令ですから」
盗賊「ああは言ったけど、どっちでも良いよ。どうせ領主には会うつもりだった」
盗賊「用事は済んじまったけどな」
女「……良い性格をしていらっしゃいます」
盗賊「『劣等種の癖に』か?」
女「……! ……し、失礼致します!」スタスタ!バタン!
タタタ
司書「王様、宜しければどうぞ?」
盗賊「ん?ああ……本の運び出し、手伝うか」
司書「えええ、いえいえいえ!とんでもない!」
盗賊「アタシは別に読まないからなぁ。弟王子置いていく訳には行かないから」
盗賊「暇だしさ」
司書「ですが……」
キィ、パタン
司書「あ……ようこそ、いらっしゃいました……」
盗賊「ほら、仕事してこいよ。やっといてやるから」
船長「……失礼するよ。えーっと、図書館ってここ?だよな」
司書「あ、はい……何の本をお探しです?」
盗賊(ん……? ……なんか見覚えのある……顔、否)
盗賊(……あんな年頃の娘はしらねぇよな)
- 11 :
- 船長「あー……加護、について?」
船長「詳しくってか、簡単に解る本を探してるんだが」
司書「加護に関してですか。ではそちらの緑の棚の……」
盗賊(まあ良い。さっさとかたづけちまうか)スタスタ
……
………
…………
ジジィ「……何でお前さんは降りなかった?」
剣士「余り目立つなと言ったのはお前だろうが」
ジジィ「だからって……な。俺の部屋に入り浸らなくても良い、だろうが」
剣士「好きに読んで良い、と言っただろう」ペラ
ジジィ「魔導の街には大きな図書館もあるだろうに」
剣士「……何時でも、行ける」
ジジィ「…… ……船を下りるつもり、か?」
剣士「俺が……『人間』で無いなら。何時までもこの船に乗っては居られない」
ジジィ「…… ……まァだ拘ってんのか」
剣士「それにもし、何かあったら……船長が居ない以上」
剣士「戦闘要員は必要だろう。お前が……ベッドから起き上がれない以上」
剣士「魔法に長けた者が他に居ない」
ジジィ「……人を、死にかけ、の様に……言うな」
剣士「……話し相手を欲してる訳じゃない。無理して構ってくれなくて良い」
ジジィ「言うに事欠いて、このガキは……」フゥ
剣士「……お前は、死ぬ、のか」
ジジィ「…… ……話し相手はいらないんじゃなかったのか」
- 12 :
- 剣士「俺も……何れ、死ぬんだろうか」
ジジィ「…… ……魔族も不死じゃ無い。まあ、お前が何者か」
ジジィ「俺には、分からんがな……」
剣士「俺には……『死』と言う物が解らない」
剣士「『生』もだ……どうやって産まれたのかも、解らない」
ジジィ「…… ……Rば終わり、だ。以上も以下もネェ」
ジジィ「産まれる時も、平等とは言えないモンだ」
剣士「……?」
ジジィ「安産だったり難産だったり……色々あるだろ」
ジジィ「五体満足だったり無かったり。加護一つ取ってもそうだ」
ジジィ「『優れた加護』なんてモンもある……お前の様に」
ジジィ「……『闇』を持って生まれてくる者も居る」
剣士「俺の加護は……闇、なのか?」
ジジィ「さあな。だが……その色。『紫』は何を連想する?」
ジジィ「そして、お前は……一つの属性に縛られない」
ジジィ「何処をどう取れば、平等だと言えるんだ」
剣士「…… ……」
ジジィ「その点、死ってのは誰にも等しい。死なない奴は居ない……多分な」
ジジィ「『死』を迎えれば、命を持っていた者は全て」
ジジィ「『無』になるのさ。肉塊と化し、世界に還る」
剣士「…… ……」
ジジィ「…… ……」
剣士「ジジィ?」
ジジィ「…… ……」スゥ
剣士(眠った、か……)フゥ
剣士(死は、平等…… ……果たして、そう……なのか?)
- 13 :
- 剣士(俺のこの身は朽ち……世界へ、還る)ズキ
剣士(……頭痛。また、か……)
剣士(俺は……魔王を倒さねばならん。だが……)ズキズキ
剣士(何故? ……世界には、勇者が居る。魔王を倒す為に、旅立った勇者が)
剣士(俺は金の瞳など持たん。勇者は……一人だ)
剣士(なのに、何故……俺は…… ……ここに、居る?)
……
………
…………
神父「ただいま、戻りました」
少女「おかえりなさい、神父様! ……まあ!」
神父「どうしました?」
少女「埃だらけですよ!何なさってきたのですか!」
神父「ああ……いえ、鍛冶師の村の教会の、片付けを……ね」
神父「中々、あちら迄行けませんから、もう……」
少女「……私が変わりに、と……言えれば、良いのですけど」
神父「それは……」
少女「解って居ます……以前、神父様がお話し下さった話は……」
少女「ちゃんと、覚えています。理解して居ます」
神父「…… ……」
少女「新緑の髪に、湖の様に澄んだ、蒼い瞳をした美しい、人……」
少女「……エルフの、娘が……私を産んで……」
神父「…… ……」
少女「この、エルフの弓……お母様の形見、何ですよね」
神父「はい……最近、練習を頑張っている様ですね」
少女「ええ。何とか形になってきましたよ。力が弱い私でも」
少女「何とか、形になってきました」
- 14 :
- 神父「魔物の数は減り、その力も弱まっています」
神父「魔王が……勇者様に倒されたのだと、そんな噂もありますしね」
少女「……ですが、魔物は……居なくならない」
神父「……これは、私の勝手な推測ですが」
神父「多分……勇者様は、魔王を倒すには至らなかったのでしょう」
神父「ただ、恐らく……封印された。だから、一時的に……」
少女「…… ……」
神父「貴女には、エルフの血が半分。人の血が半分、流れているのでしょう」
少女「人寄りも成長のスピードが速く、だけど……人の子の特権である」
少女「回復魔法が使えるから、ですね」
神父「そうです。貴女は……私よりも遙かに長い時間を生きる」
神父「自分の身を守る術を持っておくのは、必要な事です」
少女「……はい。でも、私は……私は、ずっと神父様と……!」
神父「…… ……まだ、貴女がもう少し幼い頃。貴女の母の話をする少し前、にね」
少女「大きな命が、二つ……」
神父「……はい。あれは……多分、魔王と勇者だったのでしょう」
少女「でも……!あれが正しければ、魔王だけでは無く……!」
神父「ええ。勇者様も失われた、と言う事になりましょう」
神父「……ですが、魔王がまだ完全に……消え去っていないなら」
神父「いずれ、復活します。何れまた……世界を暗雲で覆うでしょう」
神父「そうすれば……きっと、勇者様も復活なさる……!」
少女「……で、でも……!」
神父「信じることは悪い事ではありません。私は信じます」
神父「そして、何時の日か、必ず……今度こそ、完全に……!」
神父「魔王を、倒してくれる、と……ッ」
少女「……『願えば、叶う』んです、よね」
神父「そうです…… ……そう、信じるのです」
- 15 :
- 少女「…… ……」
神父「貴女は、何か大きな運命を背負って産まれてきた様に」
神父「感じられてなりません……こうして、一緒に過ごしていると」
神父「……本当に、貴女の感じる力には驚かされます」
少女「神父様……」
神父「ああ、そうそう。おめでたい話を聞きましたよ」
少女「え?」
神父「足を患ってから、中々街の方まで行く機会が無かったので」
神父「少し前の話の様ですが……始まりの街のね」
神父「王子様が、ご結婚なさるのだそうです」
少女「まあ……! では、お世継ぎが産まれれば……」
神父「あ、いえいえ……ご結婚なさるのは次期国王では無い方の」
神父「王子様だそうですよ」
少女「え……そうなのですか?」
神父「ええ。あの国の王立騎士団のね」
神父「新しい騎士団長としての就任式と同時に」
神父「結婚式を挙げられる、のだとか」
少女「そうですか……世界も、このまま平和になっていけば……良い、のに」
神父「……推測に過ぎませんよ?」
少女「解ってます。それでも……」
神父「……そう、ですね」
神父「さて、では……此方も片付けて、食事にしましょうか」
少女「はい!」
神父「明日は、足りなくなった薬草の補充もお願いしますね」
少女「解りました。すぐに準備しますね」
……
………
…………
船長「……よう、ひさしぶりだな」
使用人「お元気そうで何よりです、船長さん」
船長「約束の花の苗、と……世界の情勢、だったな」
使用人「ええ。何か変わったことはありましたか?」
- 16 :
- 船長「最初にこっちが聞きたいね。アンタ……何か変わったのか?」
使用人「え?」
船長「……何時も寄越すあの緑の小鳥だ」
船長「今回は随分……長く船に居たぜ」
使用人「……え!?」
船長「つっても一日程度だけどな。うちの乗組員にくっついて離れなくてな」
使用人「海賊さんの一人に……ですか?」
船長「まあ……ちょっと訳ありの奴が居るんだが……」
船長(……剣士の素性は話す迄も無いか。興味を持たれても面倒だ)
船長「こっちがイカレてる、てか」トントン
使用人「頭……?」
船長「記憶喪失だとか言う奴を拾ったのさ。随分気に入ったみたいでな」
船長「結構な男前だ。アンタ……制作者の好みかと思ってね」
使用人「……意味がわかりませんが」
船長「力が強くなったとか、そんなんじゃネェのか?」
使用人「…… ……いえ、特に変わったこと等」
使用人(何時もはすぐに消えてしまうと……亡くなった船長さんも言っていた)
使用人(勇者様が魔王になったから……?何か、関係があるんだろうか)
使用人(しかし……船長さんに話す訳には……)
船長「まあ、良い。偶然なんだろう……否」
使用人「……?」
船長「……魔物が、極端に弱くなった。数も減ってる」
使用人「…… ……」
船長「世界中で『勇者が魔王を倒したんじゃないか』ってな噂が立っている」
使用人「…… ……」
船長「始まりの街では、闘技大会とやらも行われてたな」
使用人「闘技……大会?」
船長「ああ。全く、平和な世の中になったもんだよな」
使用人「それは……どういう……?」
- 17 :
- 船長「さあね。参加した訳じゃ無いから、何とも」
船長「まあ、王子様だとかが結婚しただのなんだの、茶番の意味もあったんじゃネェの?」
使用人「王子様が……ご結婚!?」
船長「ああ。世継ぎは弟の方なんだとさ。で、兄貴の方は騎士団長を継いだらしいぜ」
使用人「……そう、ですか。それは、いつ頃の……」
船長「あの街に寄った頃だから……一年近く前になるかな」
船長「そんなモンかネェ……アタシらには、魔王も勇者も関係ないっちゃ無いが」
船長「……平和な話ばっかりだ。喜ばないと行けないんだろうけどな」
使用人「そう……ですね」
船長「複雑かい?魔族の立場からすると」
使用人「……肯定した覚えはありませんよ?」
船長「まあ、良いさ……何かあれば又、適当に連絡くれよ」
船長「ぐるぐる世界回ってるからね。すぐに来れるとか限らないが」
使用人「あ……ええ。それは、勿論……」
船長「……世界は、待ってるみたいだぜ?」
使用人「え?」
船長「勇者の帰りを、さ」
使用人「…… ……」
船長「アンタに言っても仕方無いと思うけどな。だが……」
船長「……遺言なんだ」
使用人「遺……言?」
船長「ああ。ジジィ……『魔法使い』って名前だったか」
使用人「!」
船長「その糞ジジィがな。言ってたそうだ」
使用人「……何、をです」
船長「『世界が勇者の帰りを首を長くして待ってる筈だ』」
船長「『弱くなり、数も減ったのに、何故魔物は居なくならない?』と」
使用人「…… ……」
船長「それを、最果ての客に伝えろと」
使用人「…… ……そ、うですか」
- 18 :
- 船長「アタシは直接聞いた訳じゃない。だが……」
船長「……アンタは、どう思う?」
使用人「私、ですか……?」
船長「アンタとジジィが面識あるのか、どういう関係なのかは一切興味ねぇが」
船長「……何も無いなら、そんな言付け、しねぇだろ?」
船長「答えを伝えてやろうにも……本人はもう、居ないけどな」
使用人「あの……ま…… ……その、人は……」
船長「生前からの希望で、水葬にしたよ」
船長「…… ……で?」
使用人「……私にも、解りません。ですが」
使用人「『まだ、終わっていない』のでしょう……」
船長「…… ……海に向かって、伝えておくよ」
使用人「…… ……」
使用人「これ、今回の分です」ジャラ
船長「…… ……ああ」
使用人「貴重なお話、ありがとうございました」
船長「仕事、だ。 ……じゃあな」
使用人「はい。失礼致します」
カラカラカラ……
船長「…… ……」
剣士「おい」
船長「うわッ! ……び、吃驚した……!」
船長「何時から居たんだよ……」
剣士「馬車が動いたからな。降りてきた」
船長「…… ……」
剣士「……あの女は、なんて言ってた?」
船長「……『まだ終わっていないんだろう』だとさ」
- 19 :
- 剣士「『まだ、終わっていない』」
船長「……ジジィは、なんて言ってたんだ?」
剣士「お前に伝えた侭だ。お前が……港街と魔導の街に行っている間」
剣士「俺はジジィの部屋に入り浸っていた、からな」
船長「……」
剣士「ここへ向かうことは知っていただろう」
剣士「急に……あんな事を言った。そして、答えは最果ての女に聞け、と」
船長「……平和になったんじゃないのか?」
剣士「……」
船長「確かに、魔物は消えちゃ居ない。何より、あの女が魔族なら……」
船長「……魔王が倒されたのなら、あの女も消滅しないとおかしい」
船長「だけど……ッ」
剣士「……『終わっていない』のならば、仕方が無いのだろう」
船長「何一人で納得してるんだよ、お前は……!」
剣士「戻るぞ。次は何処に行くんだ?」
船長「……当てなんてネェよ。南にでも行ってみるか?」
剣士「南……何がある?」
船長「それを探すのも一興、て奴だ」
剣士「……決めるのはお前だ、船長」スタスタ
船長「何だよ、元気ねぇなぁ……」
船長(ジジィが死んでから……考え込む事が増えたな、あいつ)
船長(…… ……)ハァ。スタスタ
……
………
…………
- 20 :
- 魔王「そっか、結婚かぁ……」
使用人「年齢としては、不思議ではありませんからね」
后「奥さん、どんな人なのかなぁ」
魔王「盗賊にからかわれまくってるんだろうなぁ……」ハァ
魔導将軍「良いなぁ、結婚式とか」
側近「お前はウエディングドレスは無理でしょ……」
魔導将軍「ちょっと、どういう意味よ!」
ギャアギャア
后「……ん、ご馳走様」
使用人「どうされたのです、后様……食欲、ありませんか?」
后「何かちょっと気持ち悪くてね……」
魔王「大丈夫か?」
后「……ん。御免、先に休むね」スタスタ
パタン
魔導将軍「あら、后は?」
使用人「体調が悪い様で……後で、様子を見に行きます」
側近「お前と違って繊細なんだよ、后は」
魔導将軍「どういう意味よ!さっきからアンタって奴はぁ……ッ」
魔王「まあまあ……」
側近「だって仕方無いだろー!?背中にそんな羽ありゃ、お前……!」
魔導将軍「うふふ……驚かないでよ!?」バサッ ……シュゥン
使用人「まあ……!」
魔王「羽が……!」
側近「き、消えた!?」
- 21 :
- 魔導将軍「后と密かに特訓したのよ!」
側近「へぇ……!こりゃすげぇな!」
魔王「……ちょ、後ろ向いて……あ、けど……傷、残ってんな」
魔導将軍「……うん。一番最初に、無理矢理暴走押さえ込んだからね」
使用人「……」
側近「これはこれで勲章だよなぁ?」
魔導将軍「ん……使用人?」
使用人「あ……はい、何でしょう」
魔導将軍「……元気無いわね」
使用人「……仕方が無い事とは、言え。皆……先に……その」
使用人「逝ってしまう、のだな……と」
使用人「……申し訳御座いません」
魔王「謝る事じゃ無いだろう……その、なんて言ったら良いか、解らないが……」
使用人「……今なら、解る気がします」
側近「ん?」
使用人「……『魔王は勇者に滅ぼされる為の存在』なのかもしれないと」
使用人「仰った……紫の瞳の、魔王様のお気持ちが……」
魔導将軍「……複雑よね。何でそんな事言うのよ!って」
魔導将軍「責められない……わ」
側近「…… ……」
使用人「后様のご様子、見て参りますね」カタン、スタスタ
パタン
側近「元気ねぇなぁ……」
魔王「……紫の瞳の魔王も、その側近も」
魔王「魔法使い、って人だけで無く……今まで知り合った人達も」
魔王「……彼女は、皆……先に、亡くしてる、からな」
魔導将軍「…… ……」
- 22 :
- 魔王「……盗賊も、鍛冶師も……多分、王子ですら」
側近「転移石、とやらで……世界飛び回ってたんだろうしな」
魔導将軍「……これからは船長に任せきりになるのよね、情報収集」
魔王「それも……今の船長のお父さんの代の時ほど、詳細にはしれないんだ」
魔王「でも、それで良いのかもしれない」
側近「……徹底した不干渉、てのは、案外悪く無いと思えるよな」
魔王「だが……もし、俺に子供ができれば。それが、勇者なのなら」
魔王「……今度は、使用人が……俺の時の側近と同じ役目を負う、んだろう?」
側近「…… ……だ、よな」
魔導将軍「あ!」
側近「な、何だよ!?」
魔導将軍「后、食欲無かったんだよね?しんどいって……」
側近「あ、ああ……風邪でも引いたんじゃネェの?」
魔王「魔族って風邪引くのか?」
魔導将軍「どうしようも無い男達ね! ……覚えが無いとは言わないでしょ、魔王!」
魔王「へ?」
魔導将軍「后……子供が出来たんじゃ無いの!?」
魔王「!」
側近「……あ!」
……
………
…………
コンコン
使用人「后様、お加減如何です?」
后「あ……使用人……? うん」
后「さっきよりは、まし……」
使用人「入っても宜しいですか?」
- 23 :
- 后「うん……大丈夫」
カチャ
使用人「失礼します……ああ、先ほどより顔色は宜しいですね」
后「何だろうね……食べたら気持ち悪くて……」
使用人「……不躾なこと聞きますが、月の物は?」
后「え? ……あ……」
使用人「その……心当たりがあるのでしたら、ご懐妊、されたのでは?」
后「あ……か、ちゃん!?」
使用人「…… ……」
后「……ま、まだ決めつけるには早いよね!?」
使用人「ま、まあ、そうですが……」
后「でも……そうだね。否定は……出来ない、かも」
使用人「どちらにせよ、暫くは御安静に。お食事、余り召し上がっておられませんし」
使用人「何か食べたいものがありましたら、お持ちしますよ?」
パタパタパタ
后「ん?」
バタン!
魔王「后!アイスクリーム持ってきた!」
使用人「魔王様!?」
后「魔王!」
魔王「それから、ほら、これ!お腹冷やすなよ!」
魔王「えっと、後は……!」
使用人「落ち着いて下さい、魔王様!」
- 24 :
- 后「……」クスクス
魔王「あああ、そうか!アイスは冷えるから駄目か!?」
使用人「落ち着いて下さい、てば!」
使用人「……その可能性に考えついたのは良しとして」
使用人「まだ、確定した訳じゃありませんから」
魔王「あ、ああ……え、そうなの!?」
使用人「あくまでも可能性、です」
魔王「俺、どうすりゃ良いの!?」
使用人「お静かに」
魔王「……はい」
后「普通で良いのよ、魔王。もしここに居るなら」ナデ
后「少しずつ、育っていくんだから。急いだってどうにもなってくれないよ」
魔王「お、おう!」
使用人「……まあ、とにかく、ゆっくりなさって下さい」ハァ
使用人「魔王様も来られましたし、私は下がりますね」スタスタ
カチャ、パタン
魔王「だ、大丈夫か!?」
后「だから……」クス
后「オロオロしたって、どうにもならないってば」
魔王「……そ、そう、だけど」
魔王「…… ……」
后「心配してくれるなら、もうちょっと嬉しそうな顔、してよ」
后「何を憂いてるのか、想像はつくけどね……」
魔王「……うん」
后「大丈夫……紫の瞳の魔王様の、お母さんみたいにはならないよ」
后「『母は強い』んだから。『願えば叶う』んでしょ?」
魔王「うん……そう、だよな」ギュ
后「……魔王が子供みたい」ナデ
- 25 :
- 魔王「俺が、普通に……『魔王』を倒してたらさ」
后「……」
魔王「始まりの街に戻って、お前と結婚して」
魔王「王子の奥さんとかと、一緒に飯食ったりさ」
魔王「お互いの子供同士、遊ばせたりさ」
魔王「…… ……してたのかもな」
后「寂しい?」
魔王「否定はしない。けど……喜ばなくちゃいけない」
后「…… ……うん」
魔王「俺とお前の子……『魔王』の子」
后「……」
魔王「……『魔王』の交代の儀式は、『親殺し』だ」
后「…… ……」
魔王「この子が……叶えてくれるかどうか、解らない。けど」
魔王「……『勇者』が産まれれば、美しい世界は守れるんだ」
后「過酷な運命を、押しつける事になるけどね」
魔王「……『腐った世界の腐った不条理』だっけ」
后「うん。断ち切って……くれると、良いね」
后「……これで妊娠してなかったら、笑い話も良いところだね」
魔王「さっき、『母』って言い切っただろ、お前。自分では解る……んじゃないのか?」
魔王「女、て奴はさ」
后「もしそうだったとしたって、まだ『新米お母さん』だよ」
后「……でも、うん。そうだね。出来てたら……良いな」
魔王「……これ、やるよ」チャリ
后「あ、これ……紫の瞳の魔王が、エルフの姫に買ったって言う……ペンダント」
- 26 :
- 用事すませてお風呂とご飯!
また明日、かな?
- 27 :
- おつかれ!
- 28 :
- お
いい感じ
- 29 :
- おはよう!
- 30 :
- 魔王「使用人が知人だっけ……始まりの街の、さ」
后「……うん。エルフの加護をこのペンダントに移した、んだよね」
魔王「エルフの姫様が……北の塔だっけ。子供守る為に」
魔王「力を解放したとか言ってたから、もう……ただのアクセサリーかもしれないけど」
魔王「何となく……お前と、子供の事守ってくれたら良いな」
后「……ありがとう」
魔王「着けてやるよ……はい」
后「ん」
魔王「……」ギュ
后「魔王?どうしたの……さっきから本当に子供みたい」
魔王「産まれる迄、どれぐらいなんだろうな」
后「え? ……あ、そっか。人と同じとは限らない、のか」
魔王「……使用人に聞いておけば良かったかな」
后「大丈夫だよ。一年かかろうが、十年かかろうが」
魔王「…… ……」
后「約束するよ。私はちゃんと、ずっと魔王の傍にいるから」
魔王「……ああ。約束、な。知ってるか?」
后「ん?」
魔王「『約束』は守らないといけないんだぜ」
后「当然でしょ。そうでないと、『約束』にならないんだから」
后「魔王だって、使用人との約束、守ったじゃない」
魔王「……盗賊とか、王子との約束は……守れない、けどな」
后「そうでもないよ」
魔王「え?」
后「……『勇者』は戻る。もし、この子が勇者なら……」
后「この子は……あの街に帰る」
魔王「…… ……そっか。そうだな」
……
………
…………
- 31 :
- 騎士「後はこの書類と……それから、此方にサインを」
盗賊「ん……」
弟王子「お母様、此方の書類は…… ……お母様?」
盗賊「あ? ……ああ、すまん。何か疲れてんのかな」
盗賊「……うとうとしてたな」
弟王子「お顔の色が……騎士!お母様を寝室へお連れして下さい!」
騎士「王様!? ……は、はい!」
盗賊「大丈夫だって……」
弟王子「そんな真っ青な顔して、何を言うんです!」
盗賊「王子の結婚式やら、騎士団長就任式やら……忙しくて疲れただけだ」
弟王子「だったら尚更です!」
騎士「王様、掴まって下さい……!」
弟王子「僕はお父様を呼んで参ります!」タタタ
盗賊「……悪い、ね」
騎士「王様……」
盗賊「……素直に、横になるわ……」
パタン。タタタ……
バタン!
弟王子「お父様! ……あ」
王子「おう、弟王子!久しぶりだな」
鍛冶師「こら、弟王子、ノックぐらい……」
弟王子「す、すみません!でも、お母様が……!」
鍛冶師「! 盗賊がどうした?」
弟王子「お顔の色が……随分しんどそうにされて。今寝室の方に……」
鍛冶師「お前も来なさい、王子」
王子「は、はい!」
……
………
…………
盗賊「…… ……」
医師「う、む……」
騎士「先生、王様は……」
バタン!
- 32 :
- 鍛冶師「盗賊!」
王子「お母様!」
医師「鍛冶師様、王子様も……」
弟王子「お、お母様は……!」
医師「……お静かに。今眠られましたよ」
医師「随分、無理をされていたのでしょう。疲労が溜まっていらっしゃる様で」
鍛冶師「……大丈夫、なんですか?」
弟王子「お母様……」
医師「……何とも、言えませんな」
王子「え!?」
医師「腹に……しこりが御座います。熱も……」
医師「体力次第、と言ったところでしょうか」
弟王子「そんな……!」
医師「……騎士は下がらせました。私も下がります」
医師「お側に、着いていてあげる方が宜しいかと」
王子「…… ……」クル、スタスタ
弟王子「兄さん?」
王子「女剣士を呼んでくる」
鍛冶師「…… ……」
弟王子「! ……そ、んな……お、お母様は大丈夫でしょう!?まだ……!」
王子「後で遅かった、では……手遅れだろう」パタン
医師「その方が良いと思います。では……私も失礼します」
パタン
弟王子「どうして……!今朝までは、元気にしていらっしゃったのに……!」
鍛冶師「……少し前からね、体調が優れないって、言ってたんだ」
- 33 :
- 鍛冶師「お前達には言うなって言われてたんだけど……」
弟王子「そ、んな……!いつから……!」
鍛冶師「……結婚式の前当たりからかな」
鍛冶師「張り切ってた反動で疲れたんだろうって言ってたけどね」
弟王子「……お母様……ッ」ポロポロ
鍛冶師「泣くんじゃない。一番辛いのは盗賊本人だ」
鍛冶師「……大丈夫だよ。盗賊は元気な人だ」
弟王子「…… ……ッ」ヒック
鍛冶師「それに、先走って悲しんだりしたら、勝手にRなって怒られるよ」
弟王子「……うぅ」ポロポロ
鍛冶師「…… ……」ギュ、ナデナデ
弟王子「お父様……ッ」
鍛冶師「何時までたっても子供みたいなんだから、もう……」
バタン!
王子「お母様、お父様!」
女剣士「盗賊……!」
弟王子「…… ……」ヒックヒック
女剣士「!? ……まさか……ッ」
鍛冶師「あ、ああ、いや……大丈夫だよ。びっくりしたんだよ、弟王子は……」
王子「……真っ青だ。お母様」
女剣士「……痩せたな、盗賊。私が……引退して、あの小屋に引っ越してから」
女剣士「まだ、それ程経っていないのに……」
鍛冶師「気の物ってのもあるよ。嬉しい反面、寂しい物でもあるのさ」
鍛冶師「子供の結婚に、騎士団長就任。でもそれは……」
鍛冶師「女剣士の引退も意味したんだ」
女剣士「…… ……そうだな。私も……肩の荷が下りたけれど」
女剣士「ほっとした反面、何かを奪われた様な気になった」
- 34 :
- 盗賊「……好き勝手、言いやがって……人、勝手にRな、よ」
王子「お母様!」
盗賊「…… ……王子まで居るのか」ハァ
盗賊「お前、仕事は…… ……ど、う……」
弟王子「お母様、お母様!」
盗賊「……? 泣いてんのか、何時までもガキみたいに、本当に……」
盗賊「お前は、『国王』だぞ、弟王子……しっかり、してくれ、よ……」
女剣士「…… ……盗賊」
盗賊「女剣士? ……ああ、もう、大袈裟……」クス
鍛冶師「君が大袈裟に真っ青になるからだ」ポロポロ
弟王子「お父様……ッ」
女剣士「シッ……」
弟王子「で、でも……」
女剣士「……静かに。見えてないんだ。だから……」
弟王子「!」
鍛冶師「盗賊、良く聞いてね。祈り女、赤ちゃんが出来たんだって」
弟王子「え!?」
王子「その報告に来てたんだ、お母様」
王子「つわりが酷くて、祈り女は家で寝てるけど」
王子「孫だぜ、孫! ……ちゃんと抱っこしてくれよ?」
盗賊「はは……ッ そうか、アタシ……おばあちゃんかぁ……」
鍛冶師「僕もおじいちゃんだ。だから……早く元気になるんだよ」
鍛冶師「色々と教えてあげないと」
盗賊「ん……そうだな……どっち似かな……」
弟王子「……おかあ、さま……ッ」
盗賊「泣くな、ば……お前は、もう……」
- 35 :
- 盗賊「鍛冶師……女剣士……」
鍛冶師「ん?」
女剣士「どうした?」
盗賊「『時間が無い』……今、弟王子……に」
盗賊「『王』……を、譲る」
鍛冶師「!」
弟王子「お母様!?」
盗賊「……『欠片』、だ。絶やす、訳には…… ……お前達が」
盗賊「証人だ……良いな……ッ」ゴホゴホッ
弟王子「お母様!僕にはまだ、無理です!僕には……ッ」
弟王子「もっと、ちゃんと……!」
王子「しっかりしろ、弟王子! ……お前はお母様の血を引いてる!」
王子「お母様の芯の強いところも、お父様の優しいところも、だ!」ポロポロ
王子「お母様の為にも、しっかりするんだ! ……俺も、ついてる」
王子「騎士団長として、しっかりとお前を守ってやるから!」
女剣士「……盗賊」
盗賊「はは……確かに、肩の荷……降りるな、これ」
女剣士「だろう? ……だからゆっくり休んで」
女剣士「私と一緒に、のんびりしよう。な?」
盗賊「隠居生活、か…… ……悪、く…… な ……」
鍛冶師「盗賊……!」
女剣士「……お茶の準備でも、してこよう」クル
弟王子「女剣士様!?」
女剣士「……偶には家族水入らず。ゆっくりしなさい」スタスタ、パタン
王子「俺も仕事に戻ります。お父様……後ほど」
弟王子「兄さん!」
王子「……お前も行くぞ。夫婦二人っきりなんて、滅多に無いんだ」
鍛冶師「何いってんの……子供が変な遠慮して」
- 36 :
- 弟王子「……僕も、書類、確認、し、て……ッき、ますッ」グスッ
盗賊「…… ……」
弟王子「僕、は……ッ王、ですから……ッ」
パタン
鍛冶師「……馬鹿な子達」ハァ
盗賊「優しい……な……」
鍛冶師「寂しいだろうに、盗賊」ナデ
盗賊「お前がいるから、ね……」
鍛冶師「…… ……盗賊」
盗賊「泣いてる、だろ……馬鹿」
盗賊「……勇者、戻った、ら……」
鍛冶師「ん?」
盗賊「『おかえり』って、伝えて、な…… ……」
鍛冶師「盗賊」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「……盗賊」
鍛冶師「…… ……」
鍛冶師「……おやすみ、盗賊」チュ
……
………
…………
王子「女剣士」タタタ
女剣士「……なんだ、追いかけてきたのか。任務に戻れよ、騎士団長」
王子「…… ……一つ、お願いがあります」
女剣士「何だ?」
王子「子供が産まれたら、名をつけて欲しいんだ」
- 37 :
- 女剣士「……すまん、そうだったな。おめでとう」
王子「ありがとう……その、駄目だろうか」
女剣士「祈り女は承知してるのか?」
王子「二人で決めた事だ」
女剣士「……私で、良いなら」
王子「ああ……ありがとう」
王子「……あの小屋へ戻るのか」
女剣士「ああ……もう、お前も立派にやってるし」
女剣士「何時までも老害が出しゃばる訳にはな」
王子「そんな歳でも、そんな……物でも無いだろう」
女剣士「まだまだ元気だが、身体は若い頃の様には、な」
王子「…… ……」
女剣士「そんな顔をするな……騎士達が不安に思う」
王子「……弟王子……否、国王の所に行く」
女剣士「うん。それが良いね」
王子「……では、失礼致します!」スタスタ
女剣士「…… ……」スタスタ
女剣士(盗賊…… ……まだ、若い。だが……もう、そんな歳だ)
女剣士(子が居て、孫が居て……)
女剣士(否。私はそれで良い……私は……)
女剣士(…… ……これだけ、魔物が弱くなり、数が減り)
女剣士(勇者の帰還を待つだけだ。もう……会えないとは解って居た)
女剣士(もう……居ないのだろうとも、解ってる)
女剣士(側近…… ……向こうでは、会えるのかな)
女剣士(早く……と、思う。けれど)
女剣士(……人生、上手くいかないな)
- 38 :
- ……
………
…………
弟王子「…… ……」トボトボ
騎士「あ、弟王子様……!王様は……!」
弟王子「ああ……さっきは、ありがとう」
騎士「いえ……ご容態は、如何ですか」
弟王子「…… ……」
トントン……カチャ
鍛冶師「弟王子……ああ、騎士もいたね」
騎士「鍛冶師様! ……王様は……!」
鍛冶師「……『王』はそこに居る」
弟王子「…… ……」
騎士「!? ……で、では……!」
鍛冶師「騎士を集めてくれ……葬儀の準備をしないとね」
弟王子「…… ……ッ」
鍛冶師「僕がちゃんとフォローするから。取り仕切るのは……」
鍛冶師「貴方だよ、『国王』」
国王「……はい、お父様。お母様のご意志、継がせて頂きます」
鍛冶師「……うん」
騎士「……王、様……ッ」
……
………
…………
領主「そうか!死んだか!」ガタン!
息子「はい。明日、盛大な葬儀が行われるそうですよ」
領主「……盗賊の奴、やっとくたばったか……!」
女「弟王子が国王になるのね」
息子「鍛冶師の選んだ相手と、来年にでも結婚するそうですよ」
息子「……残念だったな、女」
女「国王と言えど劣等種。お父様が諦めてくれて良かったわよ」
領主「女!元はと言えばお前があんな失態を犯すからだろうが!」
息子「情けないな、全く」
- 39 :
- 女「何よ!お兄様だって結局、勇者のパーティーに」
女「用意した傭兵を入れ損ねたんでしょ!?」
息子「し、仕方無いだろう! ……糞、こんな事ならあの時」
息子「無理にでも僧侶を……!」
領主「やめないか! ……勇者も、まだ戻っては来ない」
女「魔物は弱くなってるじゃない。最近は平和な物よ」
女「……倒しちゃったんでしょ、勇者が。何れ戻るわよ」ハァ
女「始まりの街にね!」
領主「魔物は居なくはなっていないんだぞ?」ニヤ
息子「だから……魔王が倒れたから、だろ?勇者が……」
領主「魔物の弱体化が始まって、随分経つ。始まりの街の国王は」
領主「勇者の帰還をもって、魔王の消滅を宣言するつもりだろうが……」
領主「……魔王が消滅したのなら、魔物も消え去らねばおかしいだろう」
女「……でも」
息子「で、また勇者が……勇者と呼ばれる者が現れたら」
息子「今度こそ、て言いたいのか? ……冗談じゃないぞ!」
息子「何時になるかも解らない、そんな話……!」
領主「阿呆、そうでは無い」
領主「……勇者と言えど、たかだか人間だ」
領主「お前達がまだ産まれる前だ……俺の父がこの街の領主だった頃」
女「また『劣等種』って言葉があった頃の話?」
女「過去の栄光にすがったって仕方無いでしょう、お父様!」
女「……『少年』とやらに、煮え湯を飲まされたって……!」
領主「良いから、聞け。あの時、前領主……父に協力していた人物が」
息子「『魔導将軍』だろ。冷酷なサディスト」
息子「娼館の女達を……って、何度も聞いたって!」
領主「聞けと言っただろう! ……その『魔導将軍』は『魔族』だ」
息子「!?」
女「え……!?」
- 40 :
- 領主「彼曰く、今の魔王は不抜けた王だと。故に反旗を翻すために」
領主「……我らに協力を申し出たのだ」
息子「だけど……『少年』とやらにあっさりやられたのだろう?」
領主「……紫の瞳をしていた。その『少年』はな」
女「紫の瞳!?」
息子「……見たのか!?」
領主「ああ……あの時は強硬手段には出られなかったが」
領主「……盗賊が居ない今、気にする事も無い」
息子「紫……何の加護を持つ、んだ?」
領主「盗賊に近しい者ならば知っているだろう」
女「鍛冶師?」
領主「……前騎士団長は、引退し森の奥の小屋に隠居しているらしい」
息子「しかし、あいつは……」
領主「『強かった』だ。若さも強さも美しさも……もう、衰え行くのみだ」
領主「それに、あの女は魔法は使えない」
息子「…… ……知っている、のか?」
領主「鍛冶師も女剣士も……あの場……少年に煮え湯を飲まされた」
領主「あの場所には居なかった。盗賊を守る様にくっついていたんだ」
領主「可能性は高いだろう」
女「子供はどうなのよ」
領主「……盗賊が話したかどうかの保証は無い。上に、今では『国王』と」
領主「『騎士団長』だ…… ……手を出すにはリスクも高いだろう」
息子「……隠居の身なら、まだ……やりやすいな」
領主「そういう事だ」
- 41 :
- 息子「でも……もしその『少年』が魔族だったとして、だ」
息子「どうするって言うんだよ……弟王子が事実を知らされていなければ」
息子「あまり意味は無いぞ」
領主「そうでは無い」ニヤ
女「じゃあ何よ。お兄様の言う通りよ」
女「協力してくれる魔族を探す、なんて途方も無い話じゃないの」
領主「……我が家のルーツはな、『最果ての地』にあるのだ」
息子「え……!?」
領主「あそこは古くから、魔物の住む大陸だと言われている」
領主「紫の雲が立ちこめ、陽の光の届かない鬱蒼とした場所だ」
領主「……そして、我らの祖先は、あの土地に住まうことを許された」
領主「唯一の人間……『選ばれた民』なのだ」
女「……」
息子「……」
領主「魔族達の大戦があった昔、戦火を逃れ大陸を脱出した」
領主「姉弟が、この家の祖先だ」
息子「……魔族、では無いのか?」
領主「『選ばれた民』だと言っただろう」
領主「優れた加護を持って生まれる、特別な人間なのだ。我らは」
女「……だから、ってどうするのよ。そんな、昔話……」
領主「『少年』の所為で頓挫したが……この街で」
領主「私設軍隊を作ると言う話があったのだ。その協力者が」
領主「……『魔導将軍』だ」
息子「私設軍隊……!」
領主「そうだ。もし……魔王が復活すれば」
領主「……我らは、魔王軍に着く」
女「!」
- 42 :
- 領主「……まずは始まりの街に移住を認めさせるぞ」
領主「図書館の件もある……次は此方の用件を飲んで貰おう」
息子「……弟王子も中々頭が切れると聞くけど」
領主「盗賊程の器はあるまい。頭が良いだけでは……王にはなれん」
女「鍛冶師が居なくなればな……もう少しやりやすいんだろうけど」
息子「女剣士も、だな……隠居中の婆一人ぐらい……」
領主「……『少年』の話を聞き出せ。『ついで』に殺しても構わん」
女「ついで、がメインじゃないの」クス
息子「手配しよう……あの傭兵達を使うか」
女「今度はしくじらないでよ」
息子「お前にだけは言われたくないね!」スタスタ
パタン
領主「……」
女「随分嬉しそうね」
領主「喜ばずに居られるか……やっと死んだんだぞ!」
女「…… ……」
女(我が家のルーツが、最果ての街……)
女(……少し、調べてみようかしら)
- 43 :
- おむかえー
- 44 :
- ……
………
…………
船長「あっちぃ!」
剣士「……煩い」
船長「だってよ、信じられるか!?なんだよ、この暑さ……!」
剣士「喚けば余計に暑くなるだけだと思うがな」
船長「……お前、良くそんな恰好していられるな……」
剣士「目立つのは厭だ……ん……」スタスタ
船長「あ、おい……!チッ」スタスタ
剣士(……ッ これ、は……!)
船長「何だよ、お前……石の女なんて色っぽくも何とも無いだろ」ハァ
剣士「…… ……」
船長「おい、剣士…… ……」
剣士(…… ……こ、の像……この、顔……ッ)ズキッ
船長「……確かに、綺麗な顔してるな。人間じゃ無いみたいだ」
剣士「……人間、じゃ無い?」ズキズキ
船長「まあ、そりゃ作りモンだからな。どんな理想を込めて掘ったんだか」
船長「それにしても等身大ってな……すげぇな」
おばさん「綺麗だろう?その女の人」
剣士「……? あ、ああ……これは、誰かの像、なのか?」
船長「剣士?」
おばさん「さあねぇ……村長さんが急に買ってきてね」
船長「随分メルヘンチックな村長だな」
船長「噴水に花畑に綺麗な女……ね。まるで御伽噺の世界だな、ここだけ見ると」
剣士「……モデルは、いるのか」
おばさん「さあ、そこまでは……気になるなら村長さんに聞いてみたらどうだい?」
おばさん「まあ、譲ってはくれないと思うけどね」
剣士「……否、そういう訳では」
船長「しっかしまあ、本当に……人間離れしてんなぁ、この顔」
船長「マジで御伽噺のお姫様、だな」
おばさん「ああ、そうそう。何でもエルフの像だとか言ってたね」
剣士「エルフ……」ズキッ
剣士(エルフ…… ……姫…… ……何だ?)
- 45 :
- 剣士(……知ってる、んだろうか。俺は……エルフに、知り合い?否……)
剣士「エルフ、と言うのは……存在するのか?」
船長「んなモン、それこそ御伽噺の中のお話、じゃ無いのかよ」
おばさん「昔は、エルフの森、なんて物があるとか言われてたらしいよ?」
おばさん「……ま、それもこれを買ってきた村長の受け売りだけどね」
船長「余程好きなんだな、村長」
おばさん「『地上であり、地上で無い、この世の物とは思えない程の楽園』だって話だ」
おばさん「天国みたいだよね、まるで」アハハ
剣士「…… ……」
船長「おい、剣士……行ってみるか?村長んとこ」
剣士「……否。良い……すまんが、船に戻ろう。気分が……悪い」
おばさん「おやおや、大丈夫かい……でもアンタ、そりゃそんなマント頭から」
おばさん「被ってりゃ気分悪くもなるよ……この暑い中」
船長「あー……そうだよな。まあ、ちょっと連れてくわ。ありがとな、おばさん」
剣士「…… ……」
船長「どうしたんだよ。大丈夫か?」
剣士「……ああ」
剣士(……エルフ。何だ…… ……エルフ。引っかかる……)
剣士(何か……知ってるんだ。俺は…… ……!)
……
………
…………
海賊「何かぐったりしてましたよ、剣士」
船長「……ああ。何か思い出しそうなんだろ」
船長「そういうときは、決まって、ああ、だ。あいつは……」フゥ
- 46 :
- おひるごはん!
- 47 :
- 船長「…… ……」
船長(ジジィが死んでから、考え込む事が増えた)
船長(……人の所為にする気は、ねぇけど)
船長(…… ……)ハァ
海賊「もう降りないんですかい」
船長「あいつがあんな調子じゃナァ……お前ら、ゆっくりしてこいよ」
船長「こう、平和になっちゃ、な……急いでやる様な事もネェしなぁ」
海賊「小鳥も来ませんね、最近」
船長「……まあ、な」
船長(『魔王を倒す』……か)
船長(……でも、魔物はまだ居る。あの最果ての女も生きてた)
船長(……『まだ終わっていない』、か)
船長(……本当に、違う世界で……生きてんだな、あいつは)
海賊「次は何処行くんです?」
船長「どっか行きたい所あるか?」
海賊「……そうっすねぇ……これといって」
船長「平和、か…… ……喜ばないと行けないんだろうが」
船長「退屈だね、全く」フワァ……
……
………
…………
コンコン
女剣士「……はい」
王子「失礼致します、女剣士様」
女剣士「どうぞ」
王子「騎士は表で待て!気を抜くなよ」
騎士「はッ」
カチャ、パタン
王子「具合はどう?」
- 48 :
- 女剣士「気にする程じゃない……ただの風邪だ」
女剣士「それより、そっちは?」
王子「……うん」
女剣士「…… ……締まりの無い顔だなぁ」
王子「可愛いんだよ、信じられないくらい!」
王子「…… ……祈り女に似てくれてたら、もっと可愛かったんだけど」
女剣士「吃驚するぐらいお前に似てたな」ハハ
王子「偶には会いに来てくれよ。国王もお父様も、会いたがってたよ」
女剣士「そうしたいのは山々なんだがな」
王子「……皆、喜ぶよ。お母様だって……」
女剣士「もう、一年……か」
王子「もう少し経ってるよ……それに、例の件もある」
女剣士「解ったのか?」
王子「多分、魔導の街の奴らだろう。あいつら、お母様が亡くなったからって……!」
女剣士「確証は?」
王子「実際にこの街に来てるのは傭兵の類の様だな」
女剣士「……まあ、流石に馬鹿では無いだろうしな」
王子「移住を認めろと煩いけれど……今は、受け入れ自体をしていないからな」
王子「島自体……大きい訳じゃ無いし」
女剣士「でも、新しい街が出来たのだろう?」
王子「街って程大きい訳じゃ無い……お母様が生きていた頃は」
王子「お母様もお父様も……反対してたけれど」
女剣士「そもそもの住民も増えてきたとあれば……何時までも、な」
王子「ああ。あの丘の裾当たりだ……墓がある、んだよな?」
女剣士「……ああ」
王子「俺ははっきりとは知らないんだ。お父様も……」
王子「お母様の、古い知人の墓があるとしか教えてくれないし」
女剣士「私もな……それ程よく知る人物じゃ無いんだ」
女剣士「……言葉は悪いが、そっとしておきたい、踏み荒らされたく無い、と」
女剣士「そういう気持ちは……解らなくも無い」
- 49 :
- 女剣士「それに、弟王子……現国王にそれを押しつけるのも酷な話だろう」
女剣士「国王にしてみれば、何より……今、そして、未来の方が大切だ」
王子「……街が出来るのならば、受け入れも出来るだろうというのが」
王子「魔導の街の人達の言い分だ。解らなくは無い……が」
王子「自分の所の街の移住制限を撤廃しない限り、認められないと」
王子「……国王は突っぱねてはいる、がな」
女剣士「そっちは……子供はまだなのか」
王子「ああ……中々出来ない、と言っていた」
王子「お父様は……うちの子……『戦士』にめろめろだし、次は女の子、とか言ってるけど」
王子「……祈り女も、それ程身体が強い訳じゃないからな」
女剣士「国王の子、となれば世継ぎだしな……複雑だろうな」
王子「……話を戻す。女剣士……」
女剣士「ん?」
王子「城に戻る訳には……いかないのか?」
女剣士「…… ……」
王子「どう考えても、あの傭兵達はこの場所を狙ってる。この……小屋」
王子「多分、女剣士を狙ってるんだ」
女剣士「……私を狙ってどうするんだ、本当に。前も言ったが……」
女剣士「私はもう、騎士団の人間でも何でも無いんだぞ?」
王子「あいつらの目的までは解らないけど……」
- 50 :
- 女剣士「それに、此処への道は閉鎖する事が決定したんだろう」
女剣士「城の裏庭からしか入れない様に道を崩すと言っていたじゃないか」
王子「……ああ。明日から着工するんだ。だから!」
王子「だから……今日は騎士を連れて来たんだ。女剣士を、城へ連れて行こうと」
王子「……そう、思ってさ」
女剣士「封鎖してしまえば問題無いだろう」
王子「工事期間中は隙だらけになるだろう!」
女剣士「……私は、此処を離れたくないんだ。解ってくれ、王子」
王子「側近様が……居たから、か」
女剣士「…… ……」
王子「あの人は……勇者が旅立たれてすぐに行方を眩ませてしまった」
王子「……もう、何年も前だ、女剣士」
王子「言いたくは無いけど、あの人は、もう帰っては……!」
女剣士「世の中に絶対、は無いんだよ、王子」
女剣士「……私はずっと側近を待ってた。今も待ってる」
女剣士「多分、死ぬまでずっと」
王子「女剣士……」
女剣士「もう慣れてしまったよ。それに……充分、満足もした」
女剣士「盗賊も鍛冶師も守れた。お前という立派な跡継ぎも育てたし」
女剣士「……勇者と側近が居なくなる迄も、役に立てた……と思ってる」
女剣士「烏滸がましいかもしれないけど」クス
王子「そんな事ない!」
女剣士「驕るなと教え続けたのは私なのにな」
王子「……女剣士は……ッ」
女剣士「だから、な?引退した今、ここでのんびり……待っているだけに」
女剣士「専念したいのさ。工事が終わってしまえば、又」
女剣士「お前は会いに来てくれるのだろう?」
王子「……ッ 当たり前、だ……!」
女剣士「もう、お前しか来れなくなるな。此処には……」
王子「……もう一度だけ、聞く。城には……戻ってはくれない、んだな?」
- 51 :
- 3世代に渡る戦いかぁ………
- 52 :
- 女剣士「ああ 魔導の街の手の者が私を狙っているのなら尚更だ」
女剣士「道を閉ざし、警備を強化しなさい。そして」
女剣士「……この小屋の事は、お前の心の中だけに留めておけ、騎士団長」
王子「…… ……はい……ッ」
女剣士「お前も、弟王子の事言えないよね。泣き虫」クス
女剣士「お父さんになっただろうに」
王子「これだけ……約束してくれ。何時でも良いから」
王子「戦士に会いに来てやってくれ。祈り女にも」
王子「折角、女剣士が名をつけてくれたんだ。だから……」
女剣士「うん。約束する」
王子「……長々と済まなかった」
女剣士「否……ありがとう。騎士にもご苦労さん、と伝えて置いてくれ」
王子「ああ……じゃあ、又」
カチャ、パタン
王子「…… ……」
騎士「お……お一人、ですか、騎士団長様」
王子「ああ……戻るぞ……ん?」
騎士「何です……あ」
王子「……流れ星……こんな時間に?」
騎士「明るいのに……随分ハッキリ見えましたね」
王子「ああ……北の方に落ちて行ったな」
王子「……まあ、良い。行くぞ!」
騎士「は……ッ」
……
………
…………
少女「んーと……これと、これ」プチ、プチ
少女「それから…… ……」ドクンッ
少女(!?)ドキドキ
- 53 :
- 少女「え ……な、に、これ……ッ !?」
少女(胸が……ッ ドキドキ、する……ッ)
少女(何、かが……ッ あ、ああッ)ガクッ
少女(流れ込んで、来る……!? 立っていられない……ッ震え、が……!)
少女(これは……ッ 『歓喜』『悲しみ』……!?)
少女(知ってる……私は、これを知ってる……!?)
少女(二つ……大きな光と闇が失われた……あの時の……否!)
少女(……『違う』……ッ)
少女(これは……な、に……!)ハァ、ハァ……ッ
少女「あ……!?」
少女(北の空に…… ……流れ、星?)
少女(まだ…… ……日暮れ前、なのに……? とても、明るい……)
少女「…… ……あ、か……帰らなくちゃ……ッ」
少女(何だろう……凄く、寂しい……ッ)
少女(神父様……ッ)タタタ
……
………
…………
魔王「…… ……」ウロウロ
側近「……落ち着けよ、鬱陶しい」ウロウロ
魔王「だ、黙れよ側近!これが落ち着いてられるか!」ウロウロ
側近「お前がそこで動き回ったって、すぐに出てくる訳じゃないだろ……ったく」ウロウロ
魔王「じゃあお前も落ち着けよ」ウロウロ
側近「うっせぇな!これが落ち着いてられるか!」ウロウロ
魔王「うわ理不尽」
オギャア……ッ
魔王「産まれた!」
側近「産まれた!」
- 54 :
- バタン!
使用人「魔王様、側近様! ……お生まれになりました。可愛い男の子です!」
魔王「そ、そうか……でかした!でかしたぞ后!」
側近「で、后は?」
使用人「母子共に健康ですよ」ニコ
使用人「さ、どうぞお二人とも……魔王様、だっこして上げて下さい」
キィ
后「あ、魔王……ふふ、産まれたよ」
魔王「ああ……頑張ったな」
側近「うわ、お前そっくり……もうちょっと后に似れば良かったのに……」
后「…… ……」
魔王「……どうした?」
后「魔王、手……」
魔王「手? ……なんだ、繋ぎたいのか」ギュ
后「や、うん、嬉しいけどそうじゃ無くて……赤ちゃんの手、右の手の平……見て?」
魔王「小さいな、潰しそうだ……っと」
魔王「…… ……」
側近「…… ……」
后「『予想通りだったね』」
魔王「ああ、そうだな……そうか……そう、か……」
后「……『少ししたら』」
魔王「……ああ」
后「『落ち着いたら』、出て行くね」
側近「『どれぐらいだ?』」
后「……『ギリギリ』は避けたいんだ」
魔王「『俺は覚えてた』からな」
側近「……ッ くそ、すまん! ……覚悟してた筈、なんだが」
后「もしかしたらって思ったけど……やっぱり『同じだった』ね」
魔王「仕方無い……おい側近、俺は一ヶ月、后とチビと部屋に篭もる」
側近「は!? ……ああ、はいはいはい!その間は俺に執務丸投げね!」
后「ごめんね、側近」
側近「謝るなよ、后 ……こいつが仕事するとか言ったって、どうせ俺がふん縛って后の部屋に放りこむだけだし」
魔王「何ソレ酷い」
側近「……覚悟はできてるっての」
魔王「で……チビの名前は?」
后「……あれしかないでしょ」
側近「あれしかないな」
魔王「そうか……そうだな。よし!チビ、今日からお前の名前は……!」
魔王「お前の名前は『勇者』だ!」
- 55 :
- ……
………
…………
コンコン
女剣士「…… ……?」
コンコン
女剣士「だ…… ……」
女剣士(誰だ、と言うのもおかしいか)
女剣士(この小屋へ来る道は閉ざされたはず)
女剣士(……『工事中は隙だらけ』だったかな)
コンコン
女剣士「……」チャキ
女剣士(動くと良いがな……)グッ
ゴン! ……ガタガタガタッ
女剣士「ドアを壊されるのは御免だ……無茶はやめて貰おう」
傭兵「……やはり中に居るぞ!」
女剣士(2、3……もう少し居るな)
女剣士(…… ……惜しい命では無い、否)
女剣士(死ぬまで、此処で待つと……!)
傭兵「観念して出てこい。素直に言う事を聞くなら」
傭兵「命だけは助けてやるぜ」
女剣士「……見事に悪役の台詞だな。何の用だ」
傭兵「ちょっとばかし聞きたい事があってな」
女剣士「此処への立ち入りは禁止されている」
女剣士「騎士団の許可はあるのか?」
傭兵「あっはっは!お前阿呆じゃないのか!?」
女剣士(まあ、そりゃそうだな。間抜けな質問だ)
- 56 :
- 女剣士(出来れば、お前を……此処で待っていたかった。側近……ッ)
カチャ
傭兵「ほーぅ。老けたとは言え、まだまだ良い女じゃ無いか。ナァ?」
女剣士「さっさと用件を言え」
女剣士(四人、か……行けるか)
傭兵「物騒なモン離して欲しいね。お話に来ただけなんだがな」
女剣士「そっくりそのまま返すよ……物騒なのはどっちだ」
傭兵「ちょっと聞きたいだけなんだって……『少年』って奴の事を、な?」
女剣士「……誰だそれは」
傭兵「しらばっくれるとは、頂けないねぇ?」
傭兵「……おい、女一人だ。やっちまうぞ!」ガシッ
女剣士「な……ッ」
傭兵「Rのは後でも出来るだろ……厭でも喋らせてやる」
傭兵「おい、足押さえろ!」
女剣士「は、なせ……ッ」
傭兵「腐っても女だろ……まあ、取りあえず楽しませて貰うぜ?」
傭兵「男に縁が無かったそうじゃネェか……そのうち、良くなってきて」
傭兵「自分から喋る様に……」
ガルルルル……ッ
女剣士「!?」
傭兵「おい、何だ変な声…… ……ひ、ィ!?」
女剣士(……ま、もの……ッ こんな所に!?)
傭兵「うわあああああああああああッ」
女剣士「の……ッ 退け……ッ」ドン!
ガアアアアアアアアアア!バキ、ガブ……ッ グチャ……ッ
女剣士「……ッ」
ギャアアアアアアア!
ウワアアアアアアアアアアアアア!
- 57 :
- 女剣士(……飢えている、のか……ッ 血の匂い、が……ッ)
がルル……グゥウ……ッ
女剣士(血走った目……正気じゃ無い、な)
女剣士(何故だ!? 魔物は……否)
女剣士(……ッ この種の魔物は、これほど凶暴では……ッ)
女剣士「……!」ブゥン
ギャアアアアアアア! ……ガァ……ッ
女剣士「糞、仕留め損ねた、か……ッ」
女剣士(思う様に、身体が動かない……ッ)ギュッ
女剣士(もう一度……!)
ガアアアアアアアア!
女剣士「あ、ァ……ッ」
女剣士(腕を噛まれ……ッ 糞ッ)ブゥン!
女剣士「ああアアアアアアアアア!」
ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!
女剣士「…… ……」ハァ、ハァ
女剣士(……痺れて、感覚が無い)
女剣士(どうにか……やった、か)ズルズル……ベチャ
女剣士(左腕で……良かった。まだ、剣が握れる、か)
女剣士(……否、出血が多い…… ……こ、の…… ……まま、では……)
女剣士(…… ……)カクン
- 58 :
- ……
………
…………
コンコン
后「はぁい」
使用人「失礼します、お茶をお持ちしました」
后「……寝ちゃったから、そっとね」
使用人「……お加減、如何です?」カチャ
后「同じ顔で、同じ恰好して寝てる」フフ
使用人「……相変わらず、ですか」
后「赤ちゃんって傍に居ると眠くなる……よね」
使用人「それは解らなくも無いですけど……」チラ
后「……大丈夫。まだ、ね」
使用人「…… ……」
后「魔導将軍と、側近は?」
使用人「すぐいらっしゃいますよ」
使用人「……お気持ち、変わられない、のですね」
后「うん……多分ね、あんまり時間無いと思う」
使用人「…… ……やはり、魔王様は……」
后「段々、眠る時間……長くなってるね」
使用人「…… ……」
后「紫の瞳の魔王も、そうだった?」
使用人「少し違いますからね……一概に比べる事は……」
后「……でも、多分……魔王も、同じように」
后「何れ、目を覚まさなくなるんだろうね」
使用人「…… ……」
カチャ
魔導将軍「おまたせーッ ……っと」
側近「騒ぐなっての」
- 59 :
- 后「ぐっすり寝てるから起きないと思うけどね」
魔導将軍「どっちが?」
后「どっちも、かな」
側近「……で、何だよ。改まって」
后「本当はさ……魔王が、目を覚まさなくなるまで、って思ってたけど」
后「……私も、随分体力回復したし、そろそろ……行こうかな、って」
使用人「…… ……」
魔導将軍「まだ一ヶ月よ!?」
魔導将軍「早すぎるでしょ……ッ」
后「……私、回復魔法使えなくなっちゃったんだ」
使用人「え!?」
側近「どういう……事だ!?」
后「勇者は、人間……だよ。『勇者』……金の瞳をして、産まれてきた」
魔導将軍「……手に、あの文様もあったわね」
后「うん。産まれる迄、魔王と話してたんだ」
后「『魔王』になる前には……あんな物なかった」
后「でも、紫の瞳の魔王と対峙した時、あの痣からは……光が溢れてた」
側近「……勇者の手のひらの痣、光ってたよな。産まれた時から」
后「うん……話してた通りになったんだ。って、事は」
后「多分、魔王も……何れ、眠ってしまって」
后「そうして、繰り返すんだろうって」
魔導将軍「『魔王の世代交代は親殺し』ね」
- 60 :
- 使用人「しかし……后様が回復魔法を使えなくなると言うのは……ッ」
后「うん、それでね?魔王は……まだ、さ。金の瞳をしてるじゃない」
后「その……光の残照?が、さ……勇者の成長と共に……奪われていくなら」
使用人「!」
后「私も同じじゃ無いと、おかしく無い?」
使用人「…… ……そ、うか……」
側近「使用人?」
使用人「……紫の瞳の魔王様のお母様は、魔でしか無い故に、全てを」
使用人「『強大な力を持つ次期魔王』に、奪われて……身を、崩した」
使用人「……エルフの姫様も、同じ運命であったのでしょう」
魔導将軍「……?」
使用人「『元人間』の紫の魔王の側近様は……目を与えられ、奪われても」
使用人「生きていた……同じ過程であろうのに、何故違うのかと……」
側近「……『元人間』の部分が、その二人との差違と言ってたな」
使用人「はい。そして、后様……」
后「うん」
使用人「……貴女も、元人間です。その……『人間』であった部分を勇者様に」
使用人「奪われたのだとしても『魔の部分』が残ります」
魔導将軍「……だから、生きている?だから……回復魔法が使えなくなった?」
后「そう……私も、同じ事考えてたのよ」
后「力、強くなってるもの。『母は強い』も間違いじゃ無いとは思うけど」
使用人「……魔王様の人間の部分と、后様のと……その、『光』の部分を」
使用人「併せ持たれて……お二人から、奪い産まれて来られた……」
后「うん、仮説よ?だけど……そうであるなら、さ」
后「今度こそ……と、思うじゃない?」
魔導将軍「……腐った世界の腐った不条理を断ち切る?」
后「うん……金の瞳だけでも他にはあり得ないけれど」
后「……この、手のひらから溢れ出る光……これこそ、『勇者の印』だと思うの」
- 61 :
- 側近「……だけど、すっきりしネェな」
魔導将軍「え?」
側近「だってよ、まだまだ謎だらけだぜ?」
側近「后が何で前と同じにならなかったのか、てのは……成る程って」
側近「話聞いてりゃ、そりゃ納得出来なくもネェけど」
側近「……『欠片』は?『特異点』は?」
側近「……なんか、他にもまだあっただろ」
后「それも踏まえてさ……私が行こうと思ったの」
使用人「え……?」
后「貴女は『知を受け継ぐ物』なんでしょ?」
后「もし……この子達で終わらなかった場合」
后「貴女は、また誰かに受け継がせて行かなきゃいけないの」
使用人「…… ……」
后「それに……まさか、全部話す訳にはいかないじゃない」
后「『貴方はこれから勇者として魔王を倒す旅に出るけど』」
后「『もしかしたら、魔王になるかもしれないの』って」
后「最初から、言えないでしょ?」
魔導将軍「……ま、そりゃそうね」
后「だから、私が傍に居ればそれとなーく、フォロー出来るかもしれないし」
后「魔王が暴れ出したって、私と、側近と、魔導将軍が居れば」
后「前よりももっと、長く押さえていられる」
魔導将軍「……」
側近「……」
后「今解り得ない謎は、この子達が探って、見つけるんだよ」
后「その手助けは、私達が命一杯やれば良い」
- 62 :
- 側近「そりゃそうだけど、あっちこっち、飛び回れる訳でも……」
后「魔導将軍には翼があるでしょ?」
魔導将軍「……さらっと言ったわね、アンタ」
后「後ね……」シュゥン!
使用人「!?」
側近「消えた!?」
魔導将軍「……后!?」
使用人(これは……転移魔法!? ……ま、さか……!)
シュゥン……
后「……ね。これなら、私……勇者を抱えて、始まりの街に行ける」
使用人(……そ、んな……ッ)
后「魔法なんて、使いようよ」
側近「……ま、じ……かよ……」
后「……魔王は、覚えてた。この城の事も、使用人の事も」
后「それが良いのか否か……私には解らない。けど……」
側近「まあ……二人で決めた事なら、良いんじゃネェの」
魔導将軍「どうせ、言ったって聞かないでしょ」
使用人「…… ……」
后「うん、まあね……それに、魔王の分まで」
后「この子……勇者、愛してあげなきゃ」
- 63 :
- 魔王「ん…… ……ん」
后「魔王、起きた?」
魔王「おう…… ……あれ、后、どこだ?」
魔導将軍「え?」
魔王「…… ……真っ暗だ。明かり、つけてくれ」
使用人「!」
側近「『勇者の成長に伴って』か」
魔王「何だ、皆居るのか……何やって…… ……!」
魔王「…… ……俺の目が、見えてない、のか」
后「もう、そろそろ、かな」
魔王「…… ……」
使用人「魔王様……」
魔王「……紫の目の魔王の側近も、こんな気持ちだったのかな」
魔王「…… ……切ないな。もう……后も、勇者も俺の意思で抱けないのか」
魔導将軍「魔王…… ……ッ」
側近「……ッ」
魔王「なあ、俺の目……まだ、金か?」
使用人「魔王様……ッ」
后「大丈夫だよ。変わらない。綺麗な、金」
魔王「そうか……じゃあ、使用人」
使用人「はい」
魔王「準備をしてやってくれ。もし……勇者に何かあれば」
魔王「困るから……」
使用人「わかり……ま、した……ッ」タタタ
- 64 :
- 魔導将軍「…… ……」
魔王「また……夢を、見てた」
后「夢?」
魔王「……俺にそっくりな、金の髪に金の瞳の、さ」
魔導将軍「少なくとも、勇者じゃ無いわね。勇者の髪は黒いもの」
側近「そういえばこれ、誰に似たんだかな」
魔王「……紫の瞳の魔王?」
魔導将軍「……洒落になって無いわ」
魔王「奴は……俺だ。不思議じゃ無いさ」
后「……どんな夢だったの」
魔王「前とあんまり変わらなかったな。『知る事を拒否するな』」
側近「意味が……ある、んだろうなぁ、多分」
魔王「……『選択を誤るな』」
魔導将軍「プレッシャーよね、正直」
魔王「それから……『繰り返すな』」
后「繰り返すな? ……この子で、最後にしろって事、かしら」
魔王「……どうだかな。たかが夢……なんだが」
側近「お前が一番、そうは思ってないだろうが」
魔王「…… ……」
パタン
使用人「お待たせ致しました」
魔導将軍「あら、おくるみ? ……綺麗な布ね」
側近「ん?どこかで見た事……あ!」
后「あのカーテンと同じね」
使用人「……極上の布に、保護の魔法をかけてあるのです」
- 65 :
- 使用人「極上の、選ばれた命から取れる、選ばれた絹糸で織った物であれば」
使用人「……私の、緑の加護の魔法も、効果が高まるんです」
魔導将軍「魔法かけた、って言ってたわね、そういえば」
使用人「何かの時の為にと、おいてあったので……作らせて貰いました」
使用人「……宜しければ、お使い下さい」
后「ありがとう……!嬉しい」ギュ
側近「……もう、行くのか?」
后「……未練がましいけど、明日の夜にする」
后「場所は、魔王に大体聞いてるし」
使用人「では……今日は、豪華な食事に致しましょうか」
使用人「腕を……奮います」
魔導将軍「手伝うわ!」
側近「俺も……なんか落ち着かネェ」
魔導将軍「お皿割らないでよ!」
側近「阿呆!」
パタン
后「……魔王?」
魔王「…… ……」スゥ
后(寝ちゃった、か…… ……)
后(…… ……魔王)チュ
后「すぐ、戻ってくるから……待っててね」
……
………
…………
船長「剣士、空だ……!」
剣士(……翼の敵には……風、か)グッ
ギャアアアアアアアアア!
- 66 :
- 船長「お見事……お前が一人いれば、この船は安全だな」
剣士「……働かせ過ぎだ」
船長「働かざる者食うべからず、だぜ」
剣士「まあ……そうだな」
剣士(拾われて、共をして……随分経った)
剣士(……潮時、だろうな)
剣士「船長」
船長「ん? ……もうすぐだ。もうすぐ港街に着くぜ」
船長「全く……急に魔物が強くなりやがって」
船長「何だってんだよなぁ……」ブツブツ
剣士「……すまん、話したい事が」
船長「今か?」
剣士「できれば」
船長「……良いだろう。オイ!お前ら!着港まで気抜くなよ!」
船長「団旗を降ろして、商船を装うのも忘れるな!」
アイアイサー!
船長「良し……部屋で良いか」スタスタ
剣士「ああ」 スタスタ
カチャ、パタン
剣士「……」
船長「降りるのか」
剣士「……ああ」
船長「気にして……るのか」
剣士「気付いてたか……は、愚問だな」
船長「当たり前だ。何年一緒に居ると思ってる」
剣士「……」
船長「……お前の見た目が変わらないのも、加護に捕らわれずに魔法を使えるのも」
船長「誰も、何も気にしない。お前が何者だろうと、お前はお前だ」
剣士「……ありがとう」
船長「陸に上がれば生き難いぜ」
剣士「……解ってる」
船長「一所には留まれない」
剣士「ああ……」
- 67 :
- 船長「『前に言っていたな。お前は……魔王を倒すんだ、って』」
剣士「『……急に魔物が強くなった事には、理由があるはずだ』」
船長「『魔王が復活した、か……行く先々で噂になってたな』」
剣士「……俺は、人では無いだろう。だとすると……『何故かは解らない』」
剣士「『だが……消えないんだ。魔王を倒さなくてはいけない、と言うのが』」
船長「『お前はお前だ。志が一緒なら、良いんじゃネェの?』」
船長「勇者ってのは、そんな器量の狭い存在じゃネェと思うけどな」
剣士「……」
船長「特別、なんだろう?光に選ばれた勇者、ってのは」
剣士「……だろう、な」
船長「降りて……どうする」
剣士「……『復活した魔王を倒す為に、勇者を探し出す』」
船長「『産まれたばかりならどうする?』」
剣士「恐らく……俺は、それまで生きているだろう。この……姿の侭」
船長「確証はあるのか? ……思い出した、のか」
剣士「……否。何も」
剣士「だが……俺は、魔王を倒さなければ行けないらしい」
船長「……そう、か」
剣士「……ああ。魔導の街とやらに、行ってみようと思う」
船長「わかった……下船を許可する」
剣士「あっさりだな」
船長「引き留めると思ったか?」
剣士「……少し」
船長「寂しいか?」
剣士「……」
船長「ハハッ 良いさ……お前は、違う世界で生きてる。それは……解ってた」
剣士「お前の事は……忘れない」
船長「ありがたいね。だが……アタシは過去に拘る生き方はできねぇんだ」
剣士「……忘れてくれて構わん」
船長「……甲板へ行け。挨拶は忘れるなよ」
剣士「ああ……解ってる」
船長「下らネェ死に方はすんなよ」
剣士「……無論だ」パタン
船長「……下らネェな」ポロポロポロ
船長「死ぬなよ、剣士。アタシに……魔物の居ない平和な世界の海を渡らせてくれよ」
- 68 :
- 剣士「……世話になったな」
海賊「気にすんな……お前なら何時でも歓迎だぜ?」
海賊「行く当てが無くなれば、何時でも戻れよ……じゃあな」
剣士「……ああ」
ポーゥ…… ……
剣士(……船が、離れていく)
剣士(港街……か。まずは情報を集めるべきか)
剣士(『産まれたばかりなら』か……)
剣士(……時間は、ある。時間だけは……たっぷりと)
剣士(図書館は魔導の街……ここからはもう一度、船に乗るのか)
剣士(……暫くは、此処に宿を取るか)
……
………
…………
少女「神父様、薬草集まりましたよ」キィ、パタン
神父「……ああ、お帰りなさい……すみません。その机の上に」
少女「はい……すぐ、お食事にしますね」
神父「……その前に」
少女「……はい?」
神父「話しておきたい事があります」
少女「無理、なさらないで下さい…神父様、お顔の色が……」
神父「では、なおさらです………貴女を、森の中の川の傍で拾って」
神父「……もう、随分経ちました」
少女「はい……」
神父「私は……老い、もう歩く事も侭成りません」
神父「貴女は……人では無い。今の姿は……未だ、少女のそれです」
少女「……はい」
神父「気付いていました……よね」
- 69 :
- 少女「……」
神父「モンスターが、力をつけ始めています」
少女「……はい」
神父「以前、貴女が言いましたね……あの日を、境に」
神父「とても輝かしい光が産まれた。この世の全ての光の祝福を受けるべき、命が産まれたようだ……と」
少女「……はい。まだ私が幼い頃に感じた……命の灯火の消失の時と、同じように……感じました」
少女「ですが……」
神父「……貴女は、悲しそうな顔で続けてこう言った……」
神父「至上の喜びの様で居て、とても寂しく悲しいと」
少女「……あの時、神父様は……何も教えてくれませんでした」
少女「自分には感じる事はできないから、と」
神父「はい」
少女「……どうして、と。今、お聞きしてもよろしいですか…?」
神父「その前に……おさらいしましょう」
少女「……?」
神父「貴女が自分の目で本を読み、感じ、考える事ができるようになった頃」
神父「私は、貴女のお母様の事を初めて話しました」
神父「ショックを受けるだろうとは思いましたが……何れは知らねばならぬ事です」
神父「貴女が、私を父の様に慕ってくれている事は分かっています」
神父「私も、娘の様に……貴女が、可愛い」
神父「ですが……貴女は、エルフの娘」
神父「人の子よりも遙かに永い時を生きる貴女は……いつか己の姿に、私と……人と違う者であることを」
神父「……感じ、知るのですから」
少女「ハイ……」
神父「貴女の母であろうエルフは、産まれたばかりの貴女と、エルフの弓をこの世に遺しました」
神父「それは……きっと意味のあることなのだと思います」
神父「私の教えは、幼い貴女には辛かった事でしょう」
神父「毎日のお祈りも、古書を読み解く事も、薬草の扱いも……」
神父「なのに貴女は、文句一つ言わず、素直に従事してくれた」
神父「今では、初歩的な回復魔法も身につけ、あまつさえ、弓の才能までも開花させた……」
神父「エルフの血を引くというだけでなく、貴女自身のがんばり、努力の賜です」
神父「もし、何時ぞや……くじける事があっても」
神父「血を、知を……誇り、胸を張って前に進もうとして、下さい」
少女「……ハイ」グス
- 70 :
- 神父「泣き虫なところは……幼い頃の侭ですね」クス
神父「泣くことなど、無いでしょうに……」
少女「……ッ は、ぃ…です、が……」
神父「私の……命の火はもう……そんなに、小さいですか?」
少女「!!」ビク
神父「……ふふ、素直さも貴女の良いところですよ」
神父「貴女は……ハーフエルフ。その正体を知られると……」
神父「危険な目に遭うこともあるでしょう……なるべく、人には知られない様に……なさい」
少女「神父様……! わ、私は、ずっとここに……ここに、居ます!」
神父「それは、なりません」
神父「私が土に還ったら……貴女は、ここを旅立ちなさい」
少女「神父様!」
神父「私には感じる事はできません。ですが……世界には、この美しい大地のどこかに」
神父「きっと……貴女を必要とする、人が居ます。から……」
少女「……」グス……ヒック
神父「なるべく、街を転々となさい。一所に長く留まらぬ様……」
神父「なるべく、人に奇異の目を向けられぬ様……貴女が、危険な目に遭わない様に」
神父「自分自身で、回避してください」
少女「……ッ」グス、ポロポロポロ
神父「さっきの質問に、応えましょう……あの時、答えなかったのは」
神父「簡単です……答えられなかった、からですよ」
少女「……神父様」
神父「何度も、言いますが……私は感じる事はできません」
神父「貴女のその感情は貴女だけのもの」
神父「貴女が今まで見て、知り感じたもの……今から、そうするであろうもの」
神父「一つ一つを大事にし……自分で、答えを見つけなさい。見つけて……下さい」ゴホッ
少女「神父様! …もう、もう良いです!もう良いですから……しゃべらないで!」
神父「大丈夫です………私は神に仕える者…死は……いえ、怖くないと言えば嘘でしょうね」
神父「ですが……この暖かい大地、澄み渡る空……そういう、モノ一つになれるのです」
神父「……寂しくは、ありません。だから、貴女も……そんなに泣かないで」
少女「……神父様、嫌です……ッ」ギュッ
- 71 :
- 神父「ごめんなさい……そうして抱きしめられても」
神父「貴女の髪を撫でる腕は、上がらないんです……」
神父「……良く聞きなさい」
神父「貴女が感じた、輝かしい命の誕生……それは、多分」
神父「『貴女が必要とし、貴女を必要とするだろう物です』」
少女「私……を?」
神父「そうです……『魔物がまた強くなった……魔王が、復活したのなら』」
神父「光に導かれし、運命の子……『勇者様も又……』」
神父「貴女が、例え……勇者様と共にあらずとも」
神父「その光を……視界に写し、心に焼き付ける事は……」
神父「貴女にとって……プラスになるでしょう」ゼィゼィ
少女「神父様!神父様! いやああああ!」
神父「すぐに、で……無くて良い……何時か」
神父「ここを離れ、貴女の旅に……出るのです……」
神父「『僧侶』……私の……む、す……」スゥ……
僧侶「神父様!嫌です!いや………ッ あ……ッ」
神父「……」
僧侶(……神父様の、命の、炎が………きえ………)
僧侶「神父様ぁぁぁぁぁ!」ウワアアアン
僧侶「……一人は、嫌、で………す……」
- 72 :
- ……
………
…………
女剣士「……ッ」ハッ
王子「女剣士!目が覚めたか……ッ」
女剣士「……わ、たし…… は……?」
女剣士(生きて……る……ッウゥッ)ズキッ
国王「良かった……ッ ああ、急に動いては駄目ですよ!」
国王「……随分、長い間、眠っていたのですから」
女剣士「私は……どう、なった……」
女剣士(腕……動く。左は……ッ痛……ッ)
王子「……出血がひどかったんだ。左腕は……傷も深かったし」
女剣士(……腕が、無い)
王子「……左腕を諦めなければ、命は無かった」
女剣士「…… ……そう、か」
王子「獣の咆哮が聞こえて、慌てて見に行ったら……食い散らかされて」
王子「性別も解らない何人かの……死体と」
王子「女剣士が倒れていた……血の気が引いたよ。貴女まで殺されたのかと……!」
女剣士「……三人、だ。男が三人……『少年』の事を話せ、と」
国王「『少年』……聞いた事はあります。港街を救ったという『勇者』ですね」
女剣士「……否、私も……はっきりは知らないんだ。何が何だか解らない」
王子「…… ……お父様なら、ご存じかもしれないが」
女剣士(この二人には詳しくは……話しては居ないのだな)
女剣士(私も……全てを知ってる訳じゃない)
女剣士(……もう、盗賊も居ない)
女剣士「鍛冶師は……?」
王子「今日はもう休まれた……今は、夜中なんだ」
女剣士「…… ……そうか。それにしては……騒がしいな」
国王「……ごめんなさい、僕はこれで。後はお願いします、兄さん」
王子「ああ……」
スタスタ、パタン
- 73 :
- 女剣士「…… ……」
王子「…… ……女剣士」
女剣士「ん……?」
王子「……『勇者』帰って来た、んだ。騒がしいのは……その所為、だ」
女剣士「え……!? じゃあ……ッ」
女剣士「…… ……え?」
女剣士(帰って来た……魔王を倒して、か?)
女剣士(否……ならば、あの魔物は……なんだ!?)
女剣士(随分と凶暴だった。正気を失っている様にも、見えた)
女剣士(……魔王を倒した、のならば、何故……!?)
王子「……疑問は、多分俺達と同じ物だと思う」
女剣士「魔王を……勇者は、魔王を倒したのだろう?」
女剣士「……否、しかし……ッ」
王子「『勇者』は……母親と名乗る女に連れられてきた、赤ん坊だ」
女剣士「!?」
王子「黒の髪に金の瞳……そして、手のひらに光輝く」
王子「剣の文様……『勇者の印』を持っている、と」
女剣士「勇者の……印!?」
王子「……瞳の色は偽れない。それに、あの剣の文様……」チャキ
王子「この国の……この、剣に飾られた……この剣の刻印と同じなんだ」
女剣士「…… ……な、ん……」
王子「皆……混乱してるよ。俺も、国王も……」
女剣士「…… ……」
王子「……女の言い分は、こうだ」
王子「『この子は光に導かれし、運命の子、勇者である。そして、己の息子である』」
王子「『それ以外の一切を聞かず、この国に住まわせて欲しい』」
王子「『そして16迄育てし後、勇者として旅立たせて欲しい』……と」
- 74 :
- おでかけ!
また明日かなー?
- 75 :
- おっつかれー!
- 76 :
- おつ!!
期待して待ってる
にしても
初期のメンバーが居なくなるのは寂しいのぉ
- 77 :
- 中途半端なタイミングだけどこれ以上世代を跨ぐと
色々無理があるからぺたーんしとく。
真面目な話、封印の間に準備だけはしてあったんだろうなと。
ttp://s-up.info/view/201201/101490.png
ttp://s-up.info/view/201201/101491.png
ttp://s-up.info/view/201201/101492.png
魔王城の敷居を跨いだ人たち(招かれざる客を含む)
ttp://s-up.info/view/201201/101494.png
毎日楽しい読み物をありがとう。
- 78 :
- >>77
おー!待ってた!!
毎度思うけど黒と白の使い方がうまいよねー
- 79 :
- おはよおおおお!
>>77
本当にいつもありがとおおお!
眼鏡のオールバックが好みすぎてコーヒー噴き出したwww
保存した!
今日も頑張る!
- 80 :
- 女剣士「金の瞳をしているのなら……間違いは無いのだろう」
女剣士「だが……『一切を聞かず』か」
王子「ああ……あの赤ん坊が『勇者』には間違いは無い」
王子「……その『勇者の印』とやらからも」
王子「光が、あふれ出しているし……疑い様は無いんだ」
女剣士「それで……今はどこに居るんだ?」
王子「空き部屋に待たしてあるよ。国王と考えあぐねている所に」
王子「貴女が目を覚ます様だと、医師が飛んできたからね」
女剣士「…… ……」
王子「……正直、俺もあいつも、助言が欲しかった、んだ」
女剣士「決めるのはお前達だよ」
王子「うん……」
女剣士「正確には『国王』だな……気持ちは解る。だけど」
女剣士「私達は見守る事しか出来ない。未来はお前達が紡ぎ、守っていく物だ」
女剣士「勿論フォローは出来るけれど……でも」
女剣士「私には……何も言えない、この件については……」
王子「…… ……」
女剣士「鍛冶師なら何か良い案を出してくれるかもしれないけど」
女剣士「……でも、同じ事しか……言わないんじゃ無いかな、彼も」
王子「ああ……国王は起こしに行こうかと言ってたんだが……」
王子「何時までも、頼ってばかりは居られないよな」
女剣士「……そうだな」
王子「今日はもう遅い。城の空き部屋に泊める事を提案しようかと思う」
王子「彼女たちが何であれ……まさか女子供を放り出す訳にも行かないしな」
女剣士「うん。そうだな」
- 81 :
- 王子「御免、目が覚めたばかりなのにこんな事……」
女剣士「否……」
王子「女剣士も、ゆっくり寝てくれ。これからの事は明日相談しよう」
女剣士「ああ……祈り女と戦士の事も明日、教えてくれよ」
王子「……ありがとう」
スタスタ、パタン
女剣士(……どれ程眠っていたのか、解らんが……)
女剣士(……まだ、生きてる。まだ会えない)
女剣士(だけど……ほっとしている自分が居る)
女剣士(私……まだ死にたく無いんだな。生きてて良いんだ……)
女剣士(側近…… ……)スゥ
……
………
…………
国王「……やはり、詳細は何も語っては頂けないのですね」
后「申し訳ありません」
国王「…… ……」
后「嘘偽りは申しておりません。この子は確かに……勇者です」
后「……魔物が強くなり、魔王の復活が耳に届いております」
国王「…… ……」
后「そんな時に生を受けたこの子は……以前、ここから旅立たれたと言う」
后「勇者様の生まれ変わりかもしれないと、お連れした次第です」
国王「…… ……」
国王(生まれ変わり……では、勇者は、死んだ、と言う事、なんでしょうか)
コンコン
国王「どなたです?」
王子「私です」
国王「騎士団長か……入って下さい」
- 82 :
- 后(……騎士団長……王子様、ね)
后(……さっき、驚いてたな。当たり前か)
后(勇者は……魔王と同じ顔をしているもの)
カチャ
王子「失礼致します」
后「…… ……」
王子「国王、お部屋の準備をさせています」
王子「今日はもう遅い。お泊まり頂いては……」
国王「……うん、そうだね。何だかバタバタしてしまって申し訳無い」
后「いえ……ありがとうございます」
王子「ご案内致します。明日、相談致しましょう」
后「はい」
王子「……では、こちらへ」
后(懐かしいな。それ程……時間経ってないのに)
后(……さて、どうしようかな。ずっと城に居る訳にはいかない)
后(私の姿は……16年程度じゃ変わらない)
后(やっぱり……あそこかなぁ……)
……
………
…………
女の子「と、び、ら ……を、ひらく……に、は?」
コンコン、カチャ
母親「準備出来た?もうすぐ出るわよ?」
女の子「あ、まま!うん、だいじょうぶ!」
母親「また本読んでたの……お勉強熱心ね」スタスタ、ナデナデ
女の子「えへへ……ぱぱは?」
母親「パパも準備出来て、もう待ってるわよ」
母親「港街で買って貰う物、考えた?」ダキ。スタスタ
女の子「うん!きれいなおひめさまのほんがほしい!」
母親「本当に好きなのね」クスクス
母親「貴方、お待たせ」
父親「ん、では行こうか」
父親「『魔法使い』、船の中では大人しくしているんだよ?」
魔法使い「うん!ぱぱ!」
- 83 :
- ……
………
…………
僧侶(街の人の話では……勇者様は、始まりの街にいらっしゃる……)
僧侶(『前勇者』も、その街から旅立たれたとか……)
僧侶(……16歳になったら、って言ってたかな)
僧侶(けど、それまで……ずっとこの街にはいられない)
僧侶(かといって、はじまりの街に今から滞在する訳にも……)
僧侶(……)
僧侶(仕方ない……港に近い町なら、人の出入りも激しいでしょうし)
僧侶(しばらくは、ここに……)
僧侶(それから……2.3年ごとに)
僧侶(……だったら、多分大丈夫……よね)
僧侶(まずは、教会探さないと……)
僧侶(働かなきゃ)
僧侶「えっと……」キョロキョロ
僧侶「あ……すみません、そこの……えっと、お嬢さん」
魔法使い「え?わたし? …なぁに、おねえちゃん」
僧侶「私……今日この町に来たばかりで。教会を探しているんですが……」
僧侶「知ってます?」
魔法使い「ええ、しってるわ。そこのほそいみちを」
魔法使い「おかのほうにあがっていったらあるわよ」
僧侶「ああ!そうですか……ありがとう!」
魔法使い「……おねえちゃんは、えっと…かみにつかえるおしごと、とかいう…ひと?」
僧侶「ええ、そうです。よく知ってますね」ニコ
魔法使い「かいふくまほうがじょうずなのよね!」
魔法使い「わたしもね、おおきくなったら」
魔法使い「いっぱいまほうおぼえたいの!」
僧侶「そうですか……頑張って下さいね」
- 84 :
- 魔法使い「そう!わたしのぱぱとままは、とってもつよいまほうがつかえるの!」
魔法使い「私も、ぱぱとままみたいになるんだ!」
僧侶「……素晴らしい夢をお持ちですね。くじけないように……頑張ってくださいね」
僧侶(父……母。 ……ああ、神父様、私は……ッ)
魔法使い「……おねえちゃん、どうしたの?どこかいたいの?」
僧侶「え?」
魔法使い「なんか……なきそうなかお、してる」
僧侶「あ、ああ……いいえ。大丈夫です。何でもありませんよ」
僧侶「修行の辛さを、ちょっと……思い出しただけです」
魔法使い「う……やっぱり、つらいのね」
僧侶「ああああ、いえ、でも、あの! ……夢に向かって、頑張れば……きっと、叶いますよ」アタマポン
魔法使い「……うん!わたし、がんばる!」ニコ
僧侶「……あ、あれ…そういえば、お一人ですか?」
魔法使い「ううん、ぱぱとままは、あそこのどうぐやさん?で……あ、きた!」
僧侶「ああ……良かったです。貴女はこの町に住んでいらっしゃるんですか?」
魔法使い「ううん、これからふねにのって、『まどうのまち』までかえるの」
魔法使い「ここはコウエキがサカンだから……なんとか?」
僧侶「そうですか……では、旅の無事をお祈りしていますね」
僧侶「ありがとうございました、お嬢さん」
母親「魔法使い!帰るわよ!」
魔法使い「はーい、まま!おねえちゃん、ばいばい!」
僧侶「ええ、さようなら……ありがとうございました」
- 85 :
- 僧侶(細い道を、丘の上に……ああ、これかな)スタスタ
僧侶(……ああ、屋根が見えた)
僧侶(小さな、可愛い教会。可愛らしい……)コンコン
僧侶「…… ……あれ?」コンコン
僧侶(え…… む、無人なのかな……)
僧侶(よく見れば、随分古いみたいだし……えええ)
女神官「……あら、お客様?」
僧侶「きゃ!」
女神官「ああ……驚かせちゃったかしら……ご免なさい」
僧侶「あ、ああ……い、いえ。大丈夫です……」
女神官「ようこそ教会へ……と言っても」
女神官「……古いし、ボロボロでしょう?」
女神官「最近では訪ねてくる方も減ってしまいましてね」
女神官「修繕も中々……」
僧侶「お一人……ですか?」
女神官「ええ……昔は何人か、神官が居たのですけどね」
女神官「……此処を作られた神父様がお亡くなりになってから」
女神官「皆、離れてしまって……あ、ごめんなさい」
女神官「どうぞ、宜しければ中に。お茶ぐらい、入れさせて頂きますよ」
僧侶「あ……ありがとうございます!」
僧侶(上品で……優しそうな、老婦人)
僧侶(……此処に、居られれば良いな)
- 86 :
- 女神官「貴女は……旅の方?」カチャ……スタスタ
僧侶「お邪魔します……あ、ええ。そうです」
僧侶「……修行をしたくて。その……教会を探していまして」
女神官「まあ……!良く此処を見つけましたね」
僧侶「親切で……可愛いお嬢ちゃんが教えて下さいました」
女神官「そうですか……これも、神のお導きかもしれませんね」
僧侶「あ……」
女神官「どうぞ……どうされました?」
僧侶「わ、良い香り……あ、いえ。あの……」
僧侶「窓の外の……あれは、お墓、ですか?」
女神官「ああ、ええ……神父様のお墓です」
僧侶「此処を作られた、方ですか?」
女神官「ええ……ご立派で、敬虔な方でしたよ」
女神官「心の拠り所にと、この街が出来た時に、此処を立てられて」
僧侶「……あの!」
女神官「はい?」
僧侶「私を……ここで……その、置いて頂けないでしょうか?」
女神官「まあ……」
僧侶「まだまだ未熟ですが……」
女神官「…… ……」
僧侶「あ、あの……だ、駄目ですか?」
女神官「ああ、御免なさい、嬉しくて……」
僧侶「え?」
女神官「……私の代で、この教会を潰してしまうのだと」
女神官「諦めていた物ですから……」
- 87 :
- 僧侶(ああああ、どうしよう……私、そんな長くは……)
女神官「あ……ご、ご免なさい!看取れと言っている訳では無いんですよ!?」
女神官「少しの間でも良いんですよ、勿論」
女神官「……又誰かと、此処で過ごせると言うのは、嬉しい事です」
僧侶「…… ……申し訳ありません」
女神官「誤らないで下さい……あ、えっと……」
僧侶「あ!ご免なさい……僧侶と申します」
女神官「私は女神官です…… ……神は来る物を拒む事は致しません」
女神官「どうぞ、好きなだけ……此処に居て下さいな」
女神官「それ程多くは……お出しできませんが。奥に小さいですけど」
女神官「お部屋も御座います」
僧侶「ありがとうございます!」
女神官「お礼を言うのは此方の方ですよ」
女神官「……これで、寂しくありません」
僧侶「女神官様……」
女神官「では、早速ですが……裏庭のお掃除、手伝って頂けます?」
僧侶「はい!」
……
………
…………
女剣士「……あの小屋へ!?」
鍛冶師「ああ……『人目に付くのは避けたい』んだってさ」
女剣士「……国王が許したのなら仕方無いが、しかし……あそこは……」
鍛冶師「綺麗に掃除はしたよ。血がついたのは外側だけだし……」
鍛冶師「……一応、説明はしたらしいけどね」
女剣士「……凄惨だったらしいな」
鍛冶師「本当に……君まで失ってしまったかと」
鍛冶師「……心臓が止まりそうだったんだからね、僕は」ハァ
- 88 :
- 女剣士「首謀者は……わかったのか?」
鍛冶師「雇われの傭兵だった……と言う所まではね」
鍛冶師「『少年』の事を教えろと言っていた事も含め、魔導の街の人……」
鍛冶師「多分、領主だろうとは思うけれど」
女剣士「証拠が無い、か」
鍛冶師「……ああ」
女剣士「しかし……今頃になって何故……?」
女剣士「少年は港街の勇者様、だろう……本物の勇者の存在を知ってしまった今」
女剣士「……紫の瞳の魔王の話題など、もう……逆に、忘れ去られても」
女剣士「おかしく無いだろうに」
鍛冶師「今の魔導の街の領主は……あの時、『少年』を見てる」
鍛冶師「彼が魔王だと……は、流石に知らないだろうと思うけど」
鍛冶師「……『魔導将軍』の件もあるし、魔族だと思ってもおかしくは無い」
女剣士「…… ……紫、だしな、瞳」
鍛冶師「前領主が、『魔導将軍』の正体を魔族だと知っていた、と仮定すると」
鍛冶師「……『少年』の正体を探って、弱みでも握ろうと思った、のかもね」
女剣士「棚上げじゃ無いか!」
鍛冶師「矛盾はするけどね。真相は分からないけど……盗賊が居なくなった今」
鍛冶師「新しい国王は……やりやすいだろうと、取ったのかもね」
女剣士「それで……私、か。どちらかと言えば『少年』の話はついでなのかもな」
鍛冶師「そうなのか?」
女剣士「……盗賊達を、この街を目の敵にしているなら」
女剣士「欲しい情報であることに変わりは無いだろうが……」
女剣士「腹いせ、が無かったとは言えないんじゃないか?」
鍛冶師「……ああ、成る程ね」
女剣士「現状は……どうなんだ?」
鍛冶師「ん?」
- 89 :
- >>77
ずっと待ってた!!!
できたらキャラごとの一枚絵とかあったらいいなーとかなんとか
- 90 :
- 女剣士「魔導の街の動向、かな」
鍛冶師「……これと言って、今の所何も」
鍛冶師「逆に……不気味なぐらいだよ。この国への移住の件とか」
鍛冶師「ぴたっと止んだからね……何か企んでるんじゃ無きゃ良いけどさ」
女剣士「…… ……」
鍛冶師「随分話が逸れたな……えっと」
女剣士「あ、御免……勇者と、その母……だな」
鍛冶師「ああ、そうだそうだ。あの娘も……謎が多いな」
女剣士「『一切を聞くな』?」
鍛冶師「うん……確かに、『勇者』に違いは無いと思う」
鍛冶師「金の瞳をしているし、手に……『勇者の印』だとかね」
鍛冶師「あんなもの、偽れないんだろう。それは……信じるに値する」
鍛冶師「……だけど、さ」
女剣士「…… ……」
鍛冶師「『この子は、勇者様の生まれ変わりだ』と……言ったそうだ」
女剣士「生まれ変わり!?」
鍛冶師「……僕は見ていないけれど、言われてみれば……『金の瞳と金の髪の勇者』に」
鍛冶師「似ている、と言うんだよ」
女剣士「……先入観をさっ引いても?」
鍛冶師「そこまではね……だけど……もし、本当に生まれ変わりだとするのなら」
鍛冶師「…… ……」
女剣士「……死んだ、か。相打ちに……なった、のか?」
鍛冶師「……本当の所は解らない。解らないけど……」
女剣士「…… ……」
- 91 :
- つC
- 92 :
- 鍛冶師「……僕たちがまだ生きているのは、国王達を含め導いて行くため」
鍛冶師「何だろう、けどさ……」
女剣士「見守るぐらいしか出来る事は無い。手も口も……」
鍛冶師「うん。出すべきでは無いよな」
女剣士「……もう、小屋へ?」
鍛冶師「ああ……王子が送っていくと言っていた」
鍛冶師「騎士団長の彼が一番安心だろう。あんな事もあった後だし」
鍛冶師「この城の中庭を抜けていくしか、小屋へたどり着く道は無い」
女剣士「騎士達にも知らせてないのか」
鍛冶師「の方が……良いだろう、って。国王がな」
女剣士「……そう、だな」
鍛冶師「君も、もう諦めてこの部屋で過ごしてくれ」
女剣士「……そうだ。此処はどこ……なんだ?」
鍛冶師「昔の王子達の部屋だ」
女剣士「そうか……ありがとう」
鍛冶師「……後ね、南の島から、騎士団を撤退させるそうだ」
女剣士「え!?」
鍛冶師「結局……あの鉱石、使い道が無いんだよ」
鍛冶師「盗賊が広めた魔石も、今ではもう魔除けの石ぐらいしか残ってない」
鍛冶師「魔法剣、なんて文化も……もう……」
女剣士「……変わっていくんだな」
鍛冶師「……うん。嬉しいけど、やっぱり寂しいよね」
女剣士「仕方が無いよ。私達は……あの子達が作る未来を」
女剣士「見守るだけ。それで……良いんだよ」
鍛冶師「……新しい勇者が産まれて、今度こそ復活した魔王を……ん?」
女剣士「え?」
鍛冶師「…… ……『復活した魔王』って」
女剣士「!!」
鍛冶師「誰……だ!?」
- 93 :
- ……
………
…………
領主「おお!大きくなったな、魔法使い!」
魔法使い「おじいさま!」ギュ
母親「久しぶりね、お父様」
父親「お加減は如何です?」
領主「お前達も久しいな……ああ、もう大丈夫だ」
領主「しかし……不甲斐ないな。まさか倒れてしまうとは……」
母親「魔法使い、お庭の方で遊んでいらっしゃい?」
魔法使い「……おじいさま、おとなしくしてるから」
魔法使い「ごほん、よんでたらだめ?」
領主「かまわんが……魔法使いが読める様なのがあるかな」
魔法使い「わたし、もういっぱいもじがよめるのよ!」
領主「そうかそうか、お前は賢い子だね」ナデ
領主「じゃあ、おじいさまのお部屋に行くが良い。場所は解るね?」
魔法使い「うん!ありがとう、おじいさま!」
魔法使い「わたしね、いっぱいおべんきょうして」
魔法使い「ぱぱとままみたいに、りっぱなまほうをつかえるひとになるの!」
領主「うんうん、良い子だ! ……さあ、いっておいで」
魔法使い「うん!」パタパタ……
領主「……紅い瞳をして産まれてきた時には落胆したが」
領主「しかし、孫というのは可愛い物だ」
母親「そうね。まだ魔法は使えないけど……」
父親「……あの子は賢い。加護は違うが……優れた加護を持っては居るだろう」
父親「それならそれで、構わないさ」
- 94 :
- 領主「……新しい名には慣れたか?」
母親「ええ、まあね」
父親「僕はやっと、かな……やっと、呼ばれても違和感無くなったよ」
領主「女が『母親』……息子が『父親』だったな」
母親「……新しい家にも漸くなれたけど」
母親「やっぱりこっちに帰ってくるとほっとするわね」
父親「最初は半信半疑だったんだ。こんな……話」
領主「女……否、母親が見つけたんだったな」
母親「そうよ。盗賊が奥の扉を開けろとか言って、片付けている時にね」
父親「お前が片付けた訳じゃ無いだろ。丁度そこに居合わせただけで」
母親「……細かいことは良いのよ」
領主「まあ……あれが無ければ、魔法使いも居なかった、と考えると」
領主「盗賊と国王には感謝せねばならんな」
母親「……私は盗賊が死んだ時、元に戻すんだと思ってたわ」
領主「国王に変わったからと、はいそうですか、とはいかんだろう」
領主「それに……『家系図』が見つかった今、あんなものもうどうでも良い」
父親「前に言ってたルーツ、だな」
母親「そう……最果ての地から逃れた姉弟二人……雷の加護を持つ二人が」
母親「近親婚の末、産まれた男の子。それが……初代領主様、ね」
領主「近親婚を繰り返していたという話は聞いたことがあった」
領主「故に、この家の者は圧倒的に雷を加護に持つ者が多い」
母親「一緒に見つけた本によると、その加護以外の者は」
母親「最初の頃は全て『劣等種』とされていたみたいね」
領主「しかし他者の……これも優れた加護を持つ者に限るが」
領主「その血を入れる事で繁栄が叶ったのだ」
領主「……そうして、『劣等種』は優れた加護を持たない者の事を指す様になった」
- 95 :
- 父親「ぞっとしたよ。女と……母親と契れと言われた時にはね」
母親「自分だけだと思わないで頂戴、お兄様」
領主「……これで雷の加護を持つ子供が産まれていれば、言う事は無かったんだがな」
父親「だが……まだ解らないだろう?確かに瞳の色は加護を映し出す事が多い」
父親「……『多い』だけだ」
領主「ふむ……しかし……」
母親「あまり期待しない方が良いと思うけどね」
母親「……『少年』の話だって聞けなかったんでしょう?」
領主「…… ……雇った傭兵は戻らなかったからな」
母親「あれから警戒も厳しくなったのよね」
母親「……女剣士は死んだのかしら」
父親「失敗したんだろう。もし本当に死んでいたら、あの国王のことだ」
父親「盛大に葬儀をするだろうさ」
領主「……あの街には暫く関わらんと決めたのだ」
領主「魔物の数は増え、その力も増している」
領主「……今度こそ、我らは密かに軍を結成させて」
領主「魔王に……着くのだ」
父親「傘下に入るってのは……ちょっと頂けないけどね」
母親「それも作戦の内、よ」
- 96 :
- おひるごはーん
- 97 :
- 食い付くポイント眼鏡なのかよwww
魔法使いか……
- 98 :
- 母親「その時には貴方が領主ね、お兄様」
領主「儂はまだまだ元気だぞ」ム
母親「誰もお父様を勝手に殺したりはしないわよ。だけど……無理は出来ないでしょ」
領主「まあ、それはそうだが……」
父親「僕でもお前でも良いよ、女……母親。魔法使いが立派に育てば」
父親「あいつでも良い」
領主「魔法使い、か……」
母親「……私はもう一人作ろうって言ったんだけどね」
領主「ふむ……まあ、それはそれでありだな」
領主「優れた方を立てれば良い……それだけだ」
母親「……迎えに行ってくるわ。悪戯をする様な子じゃ無いと思うけど」スタスタ
パタン
領主「あいつは……何が気に入らんのだ、魔法使いの」ハァ
父親「それはそれなりに可愛がっては居るよ。あんなんでも『母』だ」
父親「……拘っている、んだろう。『雷の加護を持つ男の子』にね」
領主「困ったモンだな……」
父親「そう何度も何度も、妹と肌を合わせる、ってのもな……」
父親「そっちの方が困ったモン、だ」ハァ
父親「……女って生き物は強いんだと、思い知らされたよ」
……
………
…………
魔法使い「ヒトと、マは……」ブツブツ
魔法使い「あ、このえ、きれい……これが、えるふ? ふぅん……」
魔法使い「ひととかわらないんだな……」ブツブツ
- 99 :
- 魔法使い「よし!よんだ!つぎは、こっち……ん、ほのおの……?」
魔法使い「いつも、ぱぱとままが、『ほのおのかご』がどうとか……いってたな」
魔法使い「……ふふ、ふたりとも、びっくりするかな」
魔法使い「ええと…まず、しんこきゅうして……」
魔法使い(……)
魔法使い「ほのおよ!」ポッ
魔法使い「!!」
魔法使い「で………できた!」
魔法使い「できた!わたしにもできた!」
魔法使い(おどろくかな……ううん、ぜったいほめてくれる!)
母親「魔法使い?まだ本読んでるの? おやつにしましょうか」
魔法使い「!! はーい、まま!いまいくわ!!」タタタ
魔法使い「まま!みて、みて!」
母親「どうしたのそんなに慌てて……」クスクス
魔法使い「(……スゥ)ほのおよ!」ポッ
母親「!!」
魔法使い「ねぇまま、みた!?いまの、みた!?」
母親「そう……やはり炎の加護を受けていたのね」ハァ
魔法使い(……え?まま?)
母親「魔法使い、どれぐらい練習したの?」
魔法使い「え……おじいさまのおへやで、ほん、みつけて……」
魔法使い「やってみたらできたの」
母親「……本当に?」
魔法使い「う……うん!ほんとうに!」
母親(ほら見なさい、お兄様……!)
母親(やはり……この子は、炎の加護。瞳の色の通り……!)
母親「そう……これは……やはり、期待できるわね」
魔法使い(まま……かおが、こわい。きたいできる、って)
魔法使い(わるいことばじゃ、ないはずなのに)
魔法使い(……なんで?)
魔法使い(ほめて……くれないの?)
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