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2013年19創作発表87: 【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!3 (148) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!3


1 :2013/04/06 〜 最終レス :2013/10/01
有り得ないけどどこかにあるかもしれないもう一つの地球――
これは、科学と魔法の混在する不思議な世界で紡がれる、脚本無き冒険活劇。
可能性は無限大! 主人公は君自身!
物語の世界を駆け抜け、誰も見た事のない伝説を紡ごう!
詳しくはこちら
いやはての書庫〜ローファンタジー世界で冒険!まとめwiki
http://www48.atwiki.jp/lowfantasy/pages/1.html

2 :
――仄暗い舞台裏に人影が二つ。
『――あのルールは、一体どういうつもりだね』
『どういうつもりも何も、そのまんまですよ。
 見た所、随分と無粋な方々を招き入れて下さったようですから。
 本選を始める前に一掃しておきたいと思ったまでです』
二人の男の声――秘密裏の会話。
『……馬鹿な。そんな事をして何になる。
 星の巫女の復活を急がねばならないのは君達も同じ――
 ――いや、君達の方だろうに』
『確かに、巫女様の『調和』の力は世界を恙無く回していく為に不可欠な物です。
 不足、乱れ、不和を相Rる力――豊穣の祈願、病魔の根絶……
 戦争や天災ですら、あの方は未然に御防ぎになる』
『あぁそうだ。世が乱れてからでは遅い。それに彼女が生み出す経済効果は莫大だ。
 ……ローファンタジアの復興には、金が掛かるだろう?』
 
『えぇ、まぁ……あの祭りは我々の主催でしたからね』
『だからこそ我々が資金を出して音楽祭を開き、星の巫女の代役を立てる。
 そうして信仰を集めると同時に、星の巫女代理を利用したグッズ展開や宣伝を行い、
 それで得た利益の四割を星霊教団に譲渡する。そういう話だった筈だ』
『でしたねえ。お互いに得る物の大きい、とても良い取引でした』
『ならば何故――』
『――ですが、貴方々は分かっていない。私達の事を。
 いいですか?私達、星霊教団は――星の巫女の大ファンなんですよ。それこそ世界一の。
 私達が求めているのは星の巫女の代理でも、金でもなく、彼女自身の復活なんです』
『なんだと……?』
『要するに――お膳立て、ご苦労様でした、という事です。
 既にフェネクスの方とは話が付いています。
 本選以降、貴方々が運営に口を出す事は出来ません』
『馬鹿を言え!祭りの資金は誰が出していると思って――!』
『何言ってるんですか。星誕祭は――チャリティですよ。見返りを求めるなんて野暮です。
 勿論、それを承知でゴネるのは勝手ですけど……
 今回の音楽祭は、色んな人が注目してますからね。
 そんな事をすれば、一体どんな経済効果が得られるのやら――』
『――もういい。言いたい事はよく分かった。……だが残念だったな。
 我々が雇った連中の多くは落選してしまったが……無事に本選へと勝ち残った者もいる。
 結局、優勝するのは我々の手の者だ』
『……さあ、それはどうでしょうねえ』
『……ふん』
一人が立ち去り、一人が残される。

3 :
『――本当に、これで良かったのですか?』
残された一人が振り返る。
視線の先に前触れ無く現れる三つ目の人影。
薄暗闇に紛れる夜色のローブ、細やかな体躯――フードから垣間見える金色の髪。
『確かに彼らにはまだまだ成長の余地があるでしょう。
 ですが、これは強引過ぎです。
 漸く戻りかけてきた力を使ってまで……こうする必要があったのですか?』
夜色の影は答えない。
その答えを語られるべき相手は自分ではない――男はすぐに察した。
ならば自分に出来るのは、星の巡りを見守る様に、時を待つ事だけなのだ、とも。

4 :
>前スレ252
>「だから、言ったろ何をしようが無駄なんだ。その中では、出る手段は特になし。」
二人は自らの術式が通じない事を認識すると、感心したように呟いた。
「成程、”輝くトラペゾヘドロン”か――」
トラペゾヘドロン――”偏四角多面体”。
これは彼らなりのこの空間の呼称であろうから、深く考える必要は無いだろう。
>「まぁ、俺の方が、空間を統べる能力が高かったって事だ。」
そう言ってアサキムは扉を開き、元の世界へと帰還した――つもりだった。
扉の先、そこは漆黒の闇。
敵を無減の間に閉じ込めたつもりが、自分もそこに招待されてしまったという訳である。
「ククッ」「引っかかったのは」「貴方の方だ」「ワタシは」「ボクは」「闇を這う暗黒の化身さ」
「暗闇は」「望むところ」「齎すは」「狂気と混乱」
今までと同じ調子の声が響くが、二人の姿は無い。
代わりに闇に浮かび上がるは爛々と輝く三つの目と、闇よりも尚昏い漆黒の翼。
人知を超えた化け物がいる事をうかがわせるが、暗闇でその全貌を見る事が出来ないのはせめてもの幸運と言っていいだろう。
何故ならその姿を見たら発狂してしまうからだ。
「冥土の土産に教えてあげようか」「この姿の事を」「”這い寄る混沌”って言うんだ」
迫りくる“這い寄る混沌”の脅威。
漆黒の空間から、無数の触腕が、鍵爪が、アサキムに襲い掛かる!
絶対絶命だ――攻略方法に気付かない限りは。
「君”一人”なんて敵じゃないんだよ」という相手の言葉。
裏を返せば、二人以上だったら状況は変わってくるとも取れる。
それを裏付けるように、二人で戦っている時よりもアヤカが一人で戦っている時の方が彼らの存在の力が強くなっていた。
そして「知らない人は」「興味が無い人は」「自分の世界にはいないって事」という言葉。
逆説、関係の深い人物なら隔離空間に入って来れるという事。
現に一切外部から遮断された隔離空間であるにも拘わらず、アサキムはアヤカが先に戦っているところに乱入できた。
攻略方法に至る材料はすでに揃っている。後はアサキムがそれに気付くかどうかだ。

5 :
>「――お前、本当にいい面の皮してやがるな!
> ちょっとやそっと殴られたくらいじゃ、堪えない訳だ!」
「ヒヒャハハハハァ――――ッ!! とォぜんッ!
オレの面の皮は最上級に最強なイケメン面だからなァ!
仏頂面の堅物野郎とは出来が違うんだってのRやてめェ!!」
高笑いを浮かべながら青の竜人の顔面に拳を叩きこむゲッツ。
光と闇の魔力が生み出す混沌の魔力と、何色にも染まることのない純粋な破壊の魔力が衝突する。
互いにその性質は破壊。圧倒的な破壊力は拡散する事なく、目の前の竜を屠る為だけに一点に収束される。
ゲッツの爪がジャックの頬の肉を抉り粉微塵に吹き飛ばすが、相手の五爪を揃えての貫手がカウンターとして心臓に伸びていく。
爪の先にあるのは――fの字を象った、傷。
>「光を抱いて飛んでゆくの 無慈悲な海溝から宙を指して
>死せる大地に蒔かれた息吹 凍りつく指先を融かす愛の焔よ
>この澄んだ瞳は誰も冒せはしないさ 手なずけられない情熱を携え飛び出して行け
>はるか時を越え 地を馳せて君を護るアスピダ 眼差しの先何があるのか分からないけれど
>今動き出した運命を切り拓くその力を 血潮に霞む戦場にも猛き女神はもたらすの」
歌が響く。神格の力がゲッツの身に流れ込み、傷から黒紅と蒼白の混ざる力≠ェ吹き上がる。
その力によって相手の爪は止められ、その直後にゲッツは相手の頭に頭を叩き込んだ。
額の特に厚い骨格部を相手の鼻面に叩きこめば、蒼竜は鼻を潰し血をまき散らしながら転がっていく。
「ヒヒ――ッ、ヒヒャハハハハハッハアハァ!!
悪ィなあ精霊楽師ッ! オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!
馬鹿でアホで嘘つきで弱くてちっこくてヘタレだがなァ! こいつの歌はこいつだけのモンだからよォ!
だから、さっさとその雑音、終わらせやがれェ!! グウウゥルァッ!!」
割れた額から血を吹き出しながら、魂と心を刻む死霊を焼きつくし引き裂き食いちぎりながら。
ゲッツは歌声に背を押されて駆け出した。体を巡る四色の魔力は祖神の力の発露。
清廉潔白なジャックとは似ても似つかないゲッツは、しかしながら清濁併せ呑むだけの度量を持つ存在。
相手のような繊細な技法は持ち得ない。だがしかし、こと力――暴力、圧力、戦力、破壊力に関してはゲッツに一日の長が有った。
「Wings on my back I got horns on my head(背に翼を、頭には角を得た)
My fengs are sharp and my eyes are red(俺の牙は鋭く瞳は赤く染まる)
Not an queite an angel or the one that fall(天使とも堕天使とも程遠い姿だが)
Now choose to join us or go straight to Hell(我らの下に集うかまっしぐらに地獄行きか さぁ選ぶがいい!)」
倒れこむジャックの体に闇が流れ込み、死霊を殺しながら光が吹き上がる。
我を持たぬジャックは茫洋とした瞳で駆け抜け、ゲッツに無数の貫手を放ってみせる。
あらゆる無駄をそぎ落とし、あらゆる感情を削ぎ落した一撃は、常に100%のパフォーマンスを発揮する。
常に最高の実力を発揮し続けられるジャックはたしかに強い、強いが。
>「歴史に刻まれた神の剣より 名も無き青銅の盾として私は――
>はるか時を越え地を馳せて君を護るアスピダ 重なる世界 歌はいざなう 忘られし地へ
>闇を怖れずに突き進む 朱の星のしるべに 願いよ届け宙の彼方へ 早緑の未来勝ち取るために
>猛き心よ どこまでもゆけ!」
「竜刃昇華[シェイプシフト]――」 / 「無為無我の――」
膨れ上がる二種の魔力。ゲッツは鋼の腕に力を注ぎ込み、ジャックは全身に力を巡らせる。
互いに取った構えは徒手、貫手。
街道に蒼と紅の線が引かれる。地面を引き裂きながらの加速、後に残されるのは中心点に伸びる一対の直線。
赤熱する石畳に焦げ臭い匂いを残しながら二つの線は互いの先端を衝突させる。
「――アスカロン<b!!」 / 「――八正道=v
機械よりも遥かに正確なジャックの一撃と、正確も隙の無さも全てを捨て去るゲッツの一撃。
爪と爪が衝突し、拮抗を生み出した。

6 :
歌のバックアップは互いの背を押す。熱量の歌と、冷徹の歌、鏡写しのようなその様。
実力は互いにほぼ互角。だが、しかし拮抗は崩れていく。なぜならば――
>「抜き取るばかりがイカサマじゃない――そら、くれてやるよ。
> お前にとっちゃあ、ブタもいいトコだろうけどな」
「――な、に? ジャックとあの竜人の戦いの最中を抜けてくるなんて……、ありえなッ!?」
閃くカードが、心の中で再現する感情に挟み込まれた。
自在に感情を作り、生み、支配する事の出来るディミヌエンドに取って、自分の感情が思い通りにならないことなどそう無いことだ。
明らかに暴れ狂う死霊の群れの力が弱まり、ジャックの背を押す力が削れていく。
とっさにその場で感情を創りだし状況を立てなおそうとするがもう遅い。
>「そして……眠らせた奴らの懐を逐一弄ってた所を想像すると、
> アンタにもちったあ可愛げってモンが見えてくるが――
> ――それでも独り占めはよくないな。少し分けてくれよ」
懐からヘッジホッグが星の欠片を引きぬき、この場から消えるのが目に映る。
それを見てため息を付きディミヌエンドは歌うのを辞めた。
死霊は消え去り、ジャックの背を押す力は消える。だが、ゲッツの背を押す力は無くならない。
>「――で?頼まれ事はこなしてやったぜ、無頼漢。
> ここまでさせておいて、まさか負けたりしないだろうな」
崩れる拮抗は、ここで決定した。
「これで終いよォ!」「くッ、見捨てたな……!」
>『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
> まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
> これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』
「私に、触れるなオストカゲッ!」
アナウンスのタイミングとゲッツがジャックをディミヌエンドの方に吹き飛ばしたのは同時だ。
ディミヌエンドは血だらけで自分の方に転がってくるジャックを汚らわしいものを見るような目で見下ろして。
数度深呼吸を重ねた後に、感情を見せない能面の笑みでフォルテ、ゲッツ、ヘッジホッグの方を見た。
>『それでは現時点で参加証を五つ持っていないユニットは――
> ――え?なんですって?変更?また?……分かりました』
「命、繋ぎましたねえ? でも、私の歌唱は最高の道具といっても良い代物。
そして私のバックの力があれば――私が星の巫女の代理になることなんて造作も無いんですよ。
分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手」
フォルテ達に対しての笑顔は、多分に嘲笑が含まれる。
己の勝利を疑ってやまない絶対の自信が彼女または彼には有るのだろう。そうでなければこのような態度は取れないはずだ。
何せ、周りに居るすべての視線は己の対する敵対で、今にも飛びかかってきそうな怒りがそこには有る。
それでも己の有利性を疑わず有れる者は、よっぽどのナルシストか自信過剰家か――はたまた、本当に実力が有りそれを鼻にかけるタイプのどちらかだ。

7 :
>『あー……実はですね!一つ説明していなかったルールがあるんです!
> 敢えて、ですよ!決して忘れていたとか、後から追加されたなんて事はないんです!
> で、そのルールなんですが――』
「そこに転がっている薄汚い田舎の竜人さえヘマをしなければ、私に弱点なんてありませんから。
立ちなさい、ジャック。お前の飼い主が誰だか、忘れたわけじゃあないでしょう?
さっさとその小汚い手を払って私を担ぎあげなさい。2秒。1、2」
「了……解、した」
血だらけの竜人は光の魔力で体を癒しながら立ち上がり、ディミヌエンドを担ぎ上げる。
疲労困憊し、満身創痍の体でしかし強い意志を瞳から漏らしながら。
口数の少ない竜人は、ゲッツ達を網膜に焼き付けるように睨みつけて。
>『参加証を集める際に歌や踊り、パフォーマンスを用いなかったユニットは、
> 星を完成させている、いないに関わらず、本選への出場を認めない――だそうです』
「では、ごきげんよう。残念でしたね、本当に――かわいそうに=B
皆さんも本選、楽しんで観劇してくださいますよう宜しくお願いしますね?
――貴方がたは本選でその心折り尽くしてあげますから。さようなら」
「飛ぶぞ」
凍りつくような愛らしい笑顔を浮かべながら、他の参加者の心を折りに行くディミヌエンド。
夢潰えた若者の表情をいとおしげに眺めつつ、それを担ぎ上げる竜人は苦々し気な表情を浮かべ。
地面に亀裂を残しながら竜は飛翔し――中央区の高級ホテルの方面へと飛び去っていくのであった。
>「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
> だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
> 格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」
「俺の流儀だと使える手は八方尽くすのが王道だからなァ?
兎にも角にも例を言うぜ。サンキュ、ヘッジホッグ。
今夜は酒奢ってやんよ――まあ金はこいつの年金から出る訳だがよ」
傷だらけの体にまた新たな傷を大量に刻み込み、服を染みだした血で赤黒く染め上げる竜人は笑う。
犬歯をむき出しにしつつ、いつもどおり適当な面の厚さっぷりを発揮してみせた。
それでも頭はしっかり下げる当たり、感謝の念はしっかりと抱いているのだろう。
「にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?」
ふと、何気ない話題のように相手がアイン・ソフ・オウルという事に言及するゲッツ。
しかし、口から出るのは何者かとか、そういう言葉ではなかった。
ここで喧嘩の誘いを迷いなく出来る当たり、この男も中々にブレない男である。
「んでもって――、なんだかんだで予選は突破か。
周り見てると、音楽できそうにねぇ奴らも結構居るしなァ。ま、結果オーライって所かね」
周りにもとりあえず参加してみたような輩が居たりした恐らく記念参加の人も居たのだろう。そして、一部の人々はなんとか星を奪われずに澄んだようで。
取引をしながら一箇所にその星を集めて、数チームが辛くも本選に辿り着けるようになったようだ。
近くの通りでパフォーマンスをしていたアイドルグループや、珍妙なギターのギタリストの目立つメタルバンドなど。
残った組は中々に突き抜けた奴らの集まりだ――と言えることだろう。
「……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー」
ひらひらとヘッジホッグに手を振りつつ、いつものようにフォルテを担ぎ上げる竜人。
血だらけの衣服は触れるとじわりと血をにじませるが本人に気にする様子は無い。
だが、普段より多少手つきが柔らかい当たり、一応ながらフォルテのことは労っているらしい。
気がついたようにヘッジホッグの方を向き首を傾げ、乗るか?と開いた片方の方を顎で示してみた。

8 :
ホテルの一室に戻ってきたのは、企業の幹部。
先ほど聖霊教団の者と話していた――神魔コンツェルンの表向きの経営者となっているものだ。
その男は酷く怯えながらホテルの一室に足を踏み入れ、得た情報会話の内容、全てを魂ごと略奪された。
欠片も残らず消え去った男の前には、葡萄酒を嗜み、パンを食いちぎる一人の男の影があった。
「――神魔コンツェルンは滅びない、まだ利用価値が有るからなあ?
そうだろう、ディミヌエンド、ジャック。……俺がバックに付いているんだ、勝ってもらわなければ困る。
あの調和も、あの美しさも、あの力も――全て俺が求む者。どうせ強かに欲を穿くならば――丸ごと奪い去ったほうが良い。
その為なら俺は手間を押しまんさ。俺の望む世界を創るために、なあ」
銀色の長髪、仕立ての良いスーツ、整った顔に浮かぶ冷えきった笑い。
――神魔大帝の姿をしたナニカがそこにあった。
頂天魔の格を得て負けて散華した筈のあの魂が、何故か此処に存在している不思議。
何が有ったのか。コレは何であるのか、それは分からない。
だが、少なくとも。このイベントがまともな物になることは、そう無いといえるだろう。
「……私は、母の全てを虚仮にして、母を負かした存在も終わらせたいだけです。
全部、何もかも。壊れてしまえばいい、闇に飲まれてしまえばいい。
それを貴方が良しとして、私に力を化すならば。私はその間だけ、貴方の思惑に乗って差し上げますよ」
能面のような顔を蒼白にして、脂汗を必至に隠しながらいつもの態度を取る人妖――ディミヌエンド。
片膝を付きながらも、目線を逸らすこと無くどろりとした色の目を向けるのは、ひとえに意志力。
愛されぬ者は、この世界に対する感情表現を、負の形でしか表すことが出来なかった。
「知らん。唯俺は、俺の信仰を貫くだけだ。そのために有利となるならば、そのために必要となるならば。
何億死のうが俺が死のうが自由がなかろうがあろうがどうでも良い。
行くぞ、人妖。明日の予定を決めなければならないだろう。策略を組まなければならない。
戦いである以上はそれは儀式だ。ならば全身全霊で向かうのが正しさというもの、時間がない。
予選突破チームのデータは集めさせておいた。裏に手を回し楽な相手を回してもらう様にはしたが前準備はしておくに越したことは無いからな――」

9 :
対して、扉の横の壁に背中を預ける男は、この空間を満たす負に有っても正を貫き聖を掲げていた。
何にも染まらぬ強固な我が、絶対の一、個としてこの男を成立させていた。
竜種は強引に人妖を立ち上がらせると、ホテルの最上階の廊下に出る。
荒い息を吐いて地面に崩れ落ちる人妖を冷めた目で竜人は見下ろしていて――そこに近づくもう一つの影が、ふらつく人妖を抱きとめた。
「……大変だったようだね、ディミヌエンド。怪我はなかったかい?
彼に頼んで見せてもらったようだが、敵は強敵のようだね、あの歌は素晴らしかった。
まるで彼女のような=\―? 彼女、彼女とは、一体誰、……なにか、私は――」
穏やかな声を響かせる男は、仕立ての良い服を来た初老の男性だった。
年の頃は大凡70代ころだろうか。年齢相応の落ち着きを持った表情で、人妖の頭を撫でて。
子供に接するように優しく話しかけていたが、その表情は歪み、苦痛を覚えているようで。
それを和らげるような歌声が、響く。子守唄のような、穏やかなハミングは――人の魂を眠らせる死霊の歌。
だが、穏やかな眠りは死の一つの形。優しさを持って歌えば、ひとつの安息がそこには生まれるといっても良い。
「お義父様。貴方の娘は、私です。
私は、ディミヌエンドではありませんよ。――私は、フォルテ・スタッカート。
だから、愛して。私を、抱きしめて。たとえそれが、虚栄でも……良いから」
憔悴する男性の耳にささやきを投げかけ、崩れ落ちる男を竜人に預ける。
名残惜し気な視線の流れを、竜人は僅かに追うが見ないことにした。
肩に男を担ぎあげると、不本意そうに人妖は声を響かせた。
「道具です。有意義に、そう――有意義に使わなければならない。
メンテナンスは、欠かすわけにはいきませんから。勿体無いですからね、仕方ありません。
行きますよ。田舎者の役立たずで汚らわしい鱗まみれの私の下僕。せめて私が価値を見出す存在であるように」
「知っている。……不本意だが俺は頑丈でな、そうそう壊れることはない。
そして、俺はお前と組む有用性を知っている。精々付き合ってやるさ。……一人にする事は無い」
目線を交わさず、心を交わさず。3つの影はホテルの一室へと消えていくのであった。

10 :
>「――だからその『感情』(カード)、少し借りていくぜ。
 なに、安心しろよ。才も愛も、それを絶やせるのは時の流れだけだ。
 俺が少しばかり拝借した所で枯れやしないさ」
賭博師の手が背中に触れ、”カード”を抜き取っていく。
心の奥深くまで見抜かれたような気がしてドキリとした。
賭博師というのは相手の隠し持っているカードが何か見切った上で掠め取っていくものだ。
そんなのいくらでもくれてやるけどさ――頼むからまじまじ見て確認したりせずにそのまま流してくれよ!
青い光を纏い跳躍するヘッジホッグ。
そこから先は人の域を超えた動きのため、何をやっているのか認識できなくなった。
>「ヒヒ――ッ、ヒヒャハハハハハッハアハァ!!
悪ィなあ精霊楽師ッ! オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!
馬鹿でアホで嘘つきで弱くてちっこくてヘタレだがなァ! こいつの歌はこいつだけのモンだからよォ!
だから、さっさとその雑音、終わらせやがれェ!! グウウゥルァッ!!」
オレがちっこいんじゃない、お前がでかすぎるんだ! と抗議する代わりに謳い続ける。
確かに嘘つきで弱くてヘタレだけど歌っている時だけは違うんだぜ!
オレはまがい物の感情を表現出来る程器用じゃない、ゲッツはそれをよく分かっている。
>「――アスカロン<b!!」 / 「――八正道=v
ぶつかりあう力と力。
拮抗状態から次第にこちら側が優勢になっていき、ついにディミヌエンドの歌が途絶える。
それはヘッジホッグが星を掠め取るのに成功した、という事を意味しているのだろう。
>「これで終いよォ!」「くッ、見捨てたな……!」
>『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
 まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
 これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』
ゲッツの勝利を見届け、予選終了のアナウンスが流れるのを聞いた瞬間、全身の力が抜けて地面にへたりこむ。
死霊を使役する呪いの歌が響く中でヘッドギアを外していたのだから当然だ。
ヘッドギアをはめながら辛うじて立ち上がる。

11 :
>「私に、触れるなオストカゲッ!」
――今なんて言った? 聞き間違えたのだろうか。
>「命、繋ぎましたねえ? でも、私の歌唱は最高の道具といっても良い代物。
そして私のバックの力があれば――私が星の巫女の代理になることなんて造作も無いんですよ。
分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手」
「……」
もしかしたら端から見れば互角に見えるかもしれない。
が、オレには相手の方が上手だと分かってしまうだけに、言い返す言葉がなかった。
きっとヘッジホッグの活躍がなかったら今頃――
その上後ろ盾がついてる……だと?
>「そこに転がっている薄汚い田舎の竜人さえヘマをしなければ、私に弱点なんてありませんから。
立ちなさい、ジャック。お前の飼い主が誰だか、忘れたわけじゃあないでしょう?
さっさとその小汚い手を払って私を担ぎあげなさい。2秒。1、2」
>「了……解、した」
さっきのはやっぱり聞き間違いではなかった。DVならぬパーティー内暴力の現場を思いっきり目撃してしまったんだけど!
満身創痍の奴をアッシーにしてんじゃねーよ! 自分で歩けよ!
>「では、ごきげんよう。残念でしたね、本当に――かわいそうに=B
皆さんも本選、楽しんで観劇してくださいますよう宜しくお願いしますね?
――貴方がたは本選でその心折り尽くしてあげますから。さようなら」
>「飛ぶぞ」
「おい竜人! なんでそんな奴と組んでんだよ! 今すぐユニット解散しちまえー!」
飛び去って行く竜人にとりあえずユニット解散をお勧めしておいた。
あの竜人もいかにも堅物正義漢って感じで個人的に嫌いなタイプだけどさ……それにしてもあんなドSド外道と組んでるような奴じゃないだろ!
ああ見えて実はドMで需要と供給が一致しているのだったらもう何も言えないけど!

12 :
>「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
 だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
 格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」
今は素直に本選進出を喜ぶべきだろう。賭博師野郎に満面の笑みで最上級の謝意を示す。
「君最高だよ! 最高の駄目ギャンブラーだ!」
そもそも何で財布を掏ったかというと一文無しになってギャンブルの資金が底を尽きたからであろうが
これ程の力を持ちながらなんで一文無しになってたんだろう、という疑問はここでは置いておく事とする。
>「にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?」
「なんでそーなる! 普通そこは素性に関する探りを入れたりとかさぁ!」
一応様式美として突っ込んでおいたものの、まあ戦闘狂だから仕方がない。
>「……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー」
ゲッツはいつもの調子だが、オレはそれどころではなかった。
本選では純粋にパフォーマンスだけで勝負しなければならない。あんな奴に絶対断じて星の巫女の座は渡すものか!
でも……どうすればいい? どうすれば勝てる?
と悶々と考えている間にいつもようにゲッツに担ぎ上げられる。いつもと同じだが、いつもより少しだけ優しい手つきだ。
「ゲッツ……ありがと」
耳元で呟く。
”オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!”正直に言おう、オレはこの類の発言には本当に弱い。
オレにとっては、小難しい理論を並べた上での優れているという評価よりも、理屈も何もなく好きという思ったままの感想の方が何倍も価値あるものなのだ。
だからこそ言えない。相手の方が精霊楽師として上だ、なんてさ。その時だった。
『ボクと契約して超人気シンガーソングライターになろうよ!』
声が聞こえたような気がした。後ろを振り向く――何もいない。
前に向き直る……と見せかけてもう一度振り無く。
サッとビルの物陰に半透明の何かが隠れたような気がした
なんとなく半透明の類の存在の気配を察知できそうなヘッジホッグに聞いてみる。
「ヘッジホッグ、オレの後ろなんか憑いてない!?」

13 :
『俺の流儀だと使える手は八方尽くすのが王道だからなァ?
 兎にも角にも例を言うぜ。サンキュ、ヘッジホッグ。
 今夜は酒奢ってやんよ――まあ金はこいつの年金から出る訳だがよ』
「……なんだ、喧嘩っ早いだけの向こう見ずかと思ってたが……
 中々分かってるじゃないか。いいぜ、それで手を打って――」
『君最高だよ! 最高の駄目ギャンブラーだ!』
「――気が変わった。リシュブール、三十年物のヴィンテージだ。
 それ以外じゃ絶対に譲らないからな」
『にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
 ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
 この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?』
「この都市を丸ごと買えるくらいの金を積めば、考えてやる――
 ――いや、待て……お前、何故その『言葉』を知ってる?」
アイン・ソフ・オウルとは、強烈な自己の発露。即ち誰もが持ち得る物。
故に歴史を紐解き、世界を分解(バラ)せば、その力を身に宿す者はそれなりに存在する。
だが『力』ではなく、『アイン・ソフ・オウル』そのものを知る者は、そうそういない。
創世の時から続く因果――その核心に近付いた者でなければ、知り得ない言葉。
「――っ」
不意に兆す眼部の違和感。微かに溢れる蒼の燐光。
極僅かにだが、意志の制御をすり抜けて『力』が漏れ出している。
自分の中の何かが震える様な感覚――直感的に、これは『共鳴』だと理解した。
「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」
右手で両眼を覆って小さくぼやいた。
運命の女神様には、どうやらディーラーのセンスが無いらしい。
『……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
 って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー』
無神経な竜人の要求――だが、不愉快な事情を記憶の隅に追い遣るには、都合が良かった。
「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
 ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」
向かう先は中央区の高級ホテル――ではない。
思い出したくもない嫌な気配を感じたから、というのも訳の一つだ。
だが何よりも、この街には高級ホテルよりもずっと金の掛かる宿泊施設がある。
それが一番の理由だった。

14 :
『ボクと契約して超人気シンガーソングライターになろうよ!』
ふと、背後から聞き慣れない声が聞こえた気がした。
振り返る――御し切れてない『力』が、精霊楽師の後方に『何か』を捉えた。
『ヘッジホッグ、オレの後ろなんか憑いてない!?』
「――お前の仕事仲間じゃないのか?」
何かが見えてはいるものの、公衆の面前で石畳と意思疎通を図る趣味はない。
相手にせず、歩き出す。
向かう先は歓楽街――高級カジノ。
賭博場には案外、休憩所や食事処などのサービスが充実している。
ホテル業を併せて営んでいる所もある。
客を出来る限り引き止める為だ。賭け事は基本的に長期戦になる程、親側が有利になる。
元々はカジノに長居する様に、客室はシンプルで居心地の悪い物するのが常識だったが、
ここは芸術の都フェネクスだ。賭博目的でない観光客も大勢来る。
カジノで金を落としていく様な金持ちを呼び寄せる為にも、客室の質は申し分なかった。
派手なネオンに彩られた入り口を潜ると、すぐ真正面にカジノコーナーがある。
ソファはない――座りたければ賭けの席に着けというカジノ側の無言の要求。
「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
 もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」
積極的なガイド業務――最高級のスイートルームに泊まる為なら、なんて事のない代償。
受付嬢がペンを走らせている間にカジノコーナーを振り返る。
眼の異常は未だ収まる様子がない――金の気配がよく見え過ぎる。
「どうせこんな事になるなら、あのディーラー……一泡吹かせてやれば良かったか。
 ――おい、へっぽこ楽師。そこのルーレット、誰か適当に勝たせてやるつもりだ。
 軽く遊んで回るくらいの金は稼げる。その辛気臭い面をどうにかするんだな」
婦人然としたディーラーがさり気なく客を見回している。
客寄せパンダを探している時の眼だ。
今一つダサい格好をしたお上り観光客、ガキ臭い風貌――新鮮な反応が期待出来る。
「さて……俺も、こんなになっちまったのは仕方がない。
 今日の負け分くらいは取り返しておくか」
今なら何処の席が当たりなのか、金になるのか、簡単に見分けられた。
となればディーラーを相手にするゲームは却って面倒。
カジノを大損させてやるつもりでもなければ、スロットで十分だ。
ボタンを規則的に押すだけでいい。結果は既に見えている――
「……駄目だな。これじゃゲームにならないぜ」
まるで面白味がなくて、すぐに席を立つ。
仕方なく、いい具合に眼が曇ってくるまで酒でも煽る事にした。
あの竜人と一緒では、静かには飲めないだろう。
酒の味も分からないまま、溺れる様に――だが、その方が都合が良かった。
――そうでもしなければ、背後に押し寄せる過去の気配を忘れられそうにない。

15 :
>「この都市を丸ごと買えるくらいの金を積めば、考えてやる――
> ――いや、待て……お前、何故その『言葉』を知ってる?」
「ちィと色々面倒事に巻き込まれたり首突っ込んだら色々知っちまってなァ。
ま、良いんじゃねェの? こんなに人居るならそりゃ何人か居るだろうしよ」
ヘッジホッグが態度を乱したのに対して、ゲッツはいつも通りの大雑把な振る舞いを見せる。
竜人は確かに世界の成り立ちを知り、大いなる力の源を理解し、それを振るう術を知っている。
己の抱える世界観、己の力が明らかに善性のそれでは無く、悪性のそれである事も当然理解している。
その上で、知る前から何も変わらず振る舞うことが出来たのは、その力に傷つけられたことが無いからだろうか。
>「――っ」
「……なる程、近いとこうなるわけだなァ?」
インナーの奥から光が漏れだしていた。それは傷から漏れだす深紅の力。
相手の力の僅かな漏洩に対して、此方も又呼応し鼓動を返していたのだ。
心臓の鼓動に合わせて明滅を繰り返したその光は、ゲッツが瞑想をする事で次第に抑えこまれていった。
>「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」
「運命[Destiny]なんて破壊[Destroy]しちまえばいいだろうよ。
気に入らねぇから俺は俺の運命なんざブチのめしてブチ変えてやるつもりだしよォ。
俺は殴って運命を変えるが、お前さんだって騙すなり盗むなりイカサマするなりで変えてやりゃいい」
ゲッツの辿り着いた結論は、一つ。運命が気に入らないなら文句を言う前に変えてやればいい。
幸いなことにそれが出来る札℃ゥ体は最初から皆に配られているのだから。
馬鹿の論理極まりないが、その理論は馬鹿のそれ故にシンプルに分かりやすい。
>「ゲッツ……ありがと」
「はン、しおらしぃテメェなんざ気持ち悪いだけだっての。
いつも通りにしときな。それで十分だ」
目線を合わせること無く、ゲッツはフォルテを担いだまま歩き出す。
飾り気の無い言葉はいつも通りにぶっきらぼうなのは仕方のないこと。
だがまあ、相手に貸しを作ろうとしないその振る舞いはさっぱりとした生き様であるとも言えるだろう。
(正道、ねェ。俺の覇道とどっちが強いか――ワクワクしてきた……!
戦略練らねェとなァ……、互いに策なしで今は互角。
んでもって奴らは絶対次は策持ってかかって来る。そういう訳ならこっちも策出してやっと五分。
そっからブチのめせるかは運と気合と根性次第……ってところだなァ)
竜人は相方を肩に載せたまま、戦いに特化した頭脳をぐるぐると回していた。
戦略を確実に立ててくる相手と五分に闘うには、此方も頭脳を回すしか無い。
恐らく最終的には運に任せることになるだろうが、今のゲッツにはその運が何方に転ぶかは分からなかった。
災厄はニュートラルに有る。その災厄がゲッツ達に振りかかるか、ディミヌエンド達に振りかかるかは――判断不能であった。

16 :
>「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
> ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」
「安心しな、使い果たされようと俺の懐は欠片も痛まねぇ。
なにせ俺様無一文だからさァ! ギャハハハハハハッ!!」
高笑いを浮かべつつ、フォルテとヘッジホッグの掛け合いを尻目に駆け出すゲッツ。
色とりどりの町並みを冷やかしながら2mを越す巨漢は道を進んでいく。
いつも通りに道は存在感で開けていくが、時折陽気な大道芸人やらに話しかけられて適当に相手もする。
普段のそれとは異なる雰囲気。ゲッツにとっては非日常といっていい空気がこの街には満ちている。
だが、ヘッジホッグが案内していくその先には、この街に来て以来久しく感じていなかった気配を感じていた。
すなわち、焦げ付き=B運命に火が付き、魂を燃料にしてぶつかり合う空気――鉄火場だ。
カジノの空気は、賑やかで綺羅びやかで清潔な雰囲気だ。合法な高級カジノであるから、比較的に緩んだ気配もある。
だが、それでもゲッツの嗅覚は確かに嗅ぎつける。戦場≠フ気配というものを。
勝手にチェックインを済ませるヘッジホッグの目的には気づいているが、犬歯を剥き出しにするだけで済ませた。
>「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
> もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」
「一晩幾らかは分かんねぇが――、要するに今晩減る以上に稼げば特するわけだろ?
っし、ちょいと勝ってくる。俺も無一文ってのは格好つかねぇし?
て訳でフォルテ、1万だけ貸してくれや。勝って増やして勝った分半分貰うけどよ、絶対勝ってやっから」
馬鹿の理論が再度炸裂。減るなら減る以上増やせば得をするなんて事を大真面目に口にする。
そして、絶対に勝てるから金を貸してくれなどと人間の屑極まりない発言を追加でダメ度数が倍プッシュである。
それでもなんだかんだで幾らかチップを分けてもらえば、ゲッツはそのチップを抱えて歩いて行く。
鼻を効かせた。焦げ臭い匂い、戦場の気配を嗅ぎ分けるのがゲッツの嗅覚。
その鼻先が獲物の臭いを嗅ぎつける。空気が違う一部の卓――ルーレットの卓に座り込む。
鋼色の瞳が獣の気配を帯びて細められ、周囲の参加者に威圧を振り空気をがらりと変えていく。
「……5」
貰ったチップの半分ほどをベットし、ゲッツは目を細める。
息を深く吸い、回転を目で睨みつける。空間に満ちるのは不吉な気配。
あえてその気配をゲッツは望んでいた。賭けに付いては素人である己が勝つ方法は、これくらいだ。
ディーラーが玉を投げ込む。跳ねる玉、からからころころ音が響く、次第に音の感覚は短くなっていき、そして停止。
――ゲッツの周囲で歓声が響き渡った。
それから十数分後
>「……駄目だな。これじゃゲームにならないぜ」
「よー旦那ァ! いやはは上等上等、三十六倍的中なんざ普通ありえねぇんじゃねーのこれ、ルール知らねぇけど!
厄がどーも他に向いてたみたいでよ、素人が闘うならあれしかねぇと思ったが五分に賭けて正解ってもんだったな!
おーっと、マスター、アースクエイクな! 適当にナッツとかくれやおう」
上機嫌で新調した財布を尻ポケットに入れた竜人が隣にどっかと座り込む。
蒼色の瞳に対して鋼色が交錯し、意味ありげににやりと細められた。
「ま、お前さん相手に細かい話してもらえるくらい打ち解けてると思える程幸せな頭じゃねェんだけどよ。
酒でうやむやにしてぇってンなら付き合ってやるさ。幸い俺は武力だけじゃなくて肝臓も最強だからなァ! ギヒャヒャヒャヒャハァ!」
高笑いを響かせながら、ゲッツは異様に癖の強いカクテルを煽る。
アブサンの香りが竜人の鼻孔を通りぬけ、衝撃を脳髄に叩きこむ。
くあーっ、と幸せそうに声を漏らしながら、底抜けに馬鹿っぽく楽しそうに竜人は酒を飲み始めるのであった。

17 :
ヘッジホッグの瞳から青い燐光が舞うのに呼応するように、ゲッツの傷から赤い光が漏れ出していた。
>「……なる程、近いとこうなるわけだなァ?」
オレはというと、背中の虹色の翅が一瞬現れかけておっといけないと消す。
何この「邪気眼持ち同士は引き寄せあう」みたいな新設定!
>「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」
>「運命[Destiny]なんて破壊[Destroy]しちまえばいいだろうよ。
気に入らねぇから俺は俺の運命なんざブチのめしてブチ変えてやるつもりだしよォ。
俺は殴って運命を変えるが、お前さんだって騙すなり盗むなりイカサマするなりで変えてやりゃいい」
「何がいいか、なんてそんなの分かんないもんだよ?
ブタだと思ったものが案外トリプルセブンだったりして。
あの時財布を盗られて本当に良かった!」
高尚に言えば塞翁が馬、平たく言えば結果オーライ。
でも不運を幸運に転化し運命を味方に付ける事が出来るならそれ程素晴らしい事はない。
>「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
> ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」
>「安心しな、使い果たされようと俺の懐は欠片も痛まねぇ。
なにせ俺様無一文だからさァ! ギャハハハハハハッ!!」
……うわー、あんなはした金では安すぎるとは思ってたんだ、うん。
というか何でこいつら無駄に楽しそうなんだろう。
>「――お前の仕事仲間じゃないのか?」
ヘッジホッグは半透明の存在に気付きながら見て見ぬふりをした。
だって今明らかに見てたよね!?
「やっぱり見えてるでしょ。妖精系種族ってわけでもなさそうだし……
あーっ、もしかして大怪我して手術したら必要以上にハイテクな目が入れられてた、とか!?
目からビームも発射できちゃったりするんじゃない!?」
とか何とか言いながら観光ガイドが案内するまま付いて行き、行き付いた場所はあろう事かカジノ。
ようやく自分の置かれた状況を認識したオレは不良観光ガイドに抗議する。
「何て場所に連れて来てんだよ! これでも超堅実且つ品行方正な人生を……
……うわーすっげー!」
感じた事のない賭博場独特の空気を肌で感じて唾を飲む。
ちょっとだけならいいか、と思わせる程の魅惑的な光景だ。
響き渡るスライムレースの出走者紹介。モンスター闘技場の周囲は異様な熱気に包まれている。
>「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
 もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」
>「一晩幾らかは分かんねぇが――、要するに今晩減る以上に稼げば特するわけだろ?
っし、ちょいと勝ってくる。俺も無一文ってのは格好つかねぇし?
て訳でフォルテ、1万だけ貸してくれや。勝って増やして勝った分半分貰うけどよ、絶対勝ってやっから」
「殴ってりゃ勝てる喧嘩じゃないんだよ!? 分かってる!?」

18 :
全くこの人は勝負事と名がつけば何でも勝てると思ってるのだろうか。
問い詰めたい、小一時間問い詰めたい! 結局何だかんだで貸すんだけど。
>「どうせこんな事になるなら、あのディーラー……一泡吹かせてやれば良かったか。
 ――おい、へっぽこ楽師。そこのルーレット、誰か適当に勝たせてやるつもりだ。
 軽く遊んで回るくらいの金は稼げる。その辛気臭い面をどうにかするんだな」
一見適当な事を言っているようにも聞こえるが、ヘッジホッグには何かが見えているのかもしれない。
目の前にあるのは円卓と見まごうような巨大なルーレット。その名もホイールオブフォーチュン――運命の輪。
ちょっと運試ししてみようか。
「そこのボク、遊んで行かない?」
ディーラーに声をかけられ、席に座る。
好きな数字の場所にチップを置けばいいだけらしい。ならば――賭ける場所は000。
回る球に身を乗り出して声援を送る。
「行け、止まるな――ッ!! いや、止まれ、そこーーーーーっ!! ……よっしゃあああああああああ!!」
ヘッジホッグの目に狂いは無かったようだ。ディーラーが裏で手をまわしていようと関係ない。
始まる前から勝負は始まっていて、ディーラーに目を付けられて尚且つヘッジホッグの言葉を信じて席に座ったオレの勝ちだ。
十数分後、“軽く遊んで回るくらいの金”を手に入れたオレは席を立った。
今にも宴会を始めそうなゲッツ達の後ろを足早に通り過ぎる。アイドルたるオレとしては今話しかけられたら間が悪い。
トイレに入って何気なく鏡を見ると、鏡越しに半透明の小さい美少女が思いっきり映っている。
今流行りの小さいおっさんじゃなかったのがせめてもの救いだろうか。
「思いっきり見えてるんですけど!」
『ドキッ!』
「ってか何で隠れる!? 誘い受けか!」
『いえ、あのっ、セールスとか初めてで緊張して……』
鏡に映った自分と会話するオレを後から来た人が不審そうな目で見ているのに気付き、慌てて個室に入る。
トイレの個室で電話してる人ってよくいるよね!?
「訪問販売お断り! と言いたいところだけどちょっと興味があるから聞いてやろうじゃねーか。契約するとどうなる?」
『作詞作曲の才能が手に入ります!』
「料金設定はどうなってる? 例えばこれだったら?」
適当に札束を取り出して見せる。
『えーと、あの……大変申し訳ないんですが……』
「何だよ!」
『対価としては生命力を戴くようになっておりまして……』
まんま悪魔の契約じゃねーか! 駄目駄目そんな契約! いや、でもなぁ……。
――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う? 相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
――……あー、なンだ。てめェ、歌も楽器も達者な癖して、センスだきゃからっきしだわなあ。

19 :
別に気にしてる訳じゃないよ!?
断じて気にしている訳ではないけど、欲しいか欲しくないかって言われたら……喉から手が出る程欲しいですとも!
寿命長いしちょっとだけなら……
「ちょっと聞いてみるけど寿命に換算して何年?」
『まさか一括払いなんて要求しません。毎日ちょっとずつ貰う、的な?』
つまり常に吸われ続けるって事じゃん! やっぱ駄目だろ。
常識的に考えるとそうなのだが、ディミヌエンドのクッソ憎たらしい笑顔がフラッシュバックする。
――分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手
ここではたと気づく。これ明らかにアイツの罠だろ! 話にならねーよ!
というかいつまで付きまとってるつもりなんだろう。そろそろここに来た当初の目的を遂げさせてほしいんですけど!?
「さっさとどっか行け! こっちは半透明の非生物とは違って色々事情が……」
『何そわそわしてるんですか?』
「お前のせいでさっきからずっと我慢してんだよ分かったら出てけ!」
『それはすみません、見ての通り半透明なのでどうぞお構いなく』
「そういう問題じゃねーよ!?」
♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪
「よくも見やがったな……絶対契約してやらん!」
悪態をつきながら手を洗う。鏡を見れば、当然のごとくまだ憑いている。
『ぐすっ』
「泣いても駄目! どうせアイツの差し金だろ!」
『違うんです……あいつに扱き使われるのが嫌になったんです! ギャフンと言わせてやりたい……!』
「えっ……」
正直言ってかなり気持ちが動いた。いやいやいや、こんなやっすい手に騙されてはいけない。
どうせオレを乗せるための策略に決まってる。
鏡に向かって喋っている光景にまたしても不審な目を向けられ、そそくさと外に出る。
ゲッツとヘッジホッグはというと、案の定宴会の真っ最中。ああもう、人の気も知らずに楽しそうだなあ!
修行の時にもらった扇をハリセン的に使って二人の頭をスパパーンと風圧ではたく。
「呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
これより地獄の特訓を敢行する!
太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!」
カジノの一角にあるゲーセンコーナーをびしっと指さした。

20 :
『よー旦那ァ! いやはは上等上等、三十六倍的中なんざ普通ありえねぇんじゃねーのこれ、ルール知らねぇけど!
 厄がどーも他に向いてたみたいでよ、素人が闘うならあれしかねぇと思ったが五分に賭けて正解ってもんだったな!
 おーっと、マスター、アースクエイクな! 適当にナッツとかくれやおう』
「――幸運の女神様よ。男選びのセンスが悪いぜ、アンタ。
 ……マスター、こっちはラスティ・ネイルを頼む」
深く項垂れ、カウンターに肘を突いた左手で頭を抱えながら、賭博師は絶望を吐露する。
そもそも一体何が五分なんだとか、まさか当たりか外れかで五分と言うつもりかだとか、
そんな突っ込みを入れる気力すらも湧かなかった。
『ま、お前さん相手に細かい話してもらえるくらい打ち解けてると思える程幸せな頭じゃねェんだけどよ。
 酒でうやむやにしてぇってンなら付き合ってやるさ。幸い俺は武力だけじゃなくて肝臓も最強だからなァ! ギヒャヒャヒャヒャハァ!』
「別に……聞いて楽しい話じゃないさ。話して楽しい話じゃ、もっとないがな。
 誰も得しないんだから、話す事もない……それだけの事だ」
過去を語ったところで、何かが変わったりはしない。
既に賽は投げられている。銀球は放たれ、ルーレットは回り出した。
どんなイカサマも、もう届かない。だったら――ゲームを降り続けるだけだ。
いつかツケを払わされる時が来るまで――そういう風に生きてきた。
直後に強烈な風圧が賭博師の頭を強かに叩いた。
右手に持っていたグラスから盛大に酒が零れ、赤髪を濡らす。
ラスティ・ネイル(錆び付いた釘)――赤錆塗れになった賭博師。
――運命の女神様は随分と皮肉のセンスが利いていて、思わず深い溜息が漏れる。
『呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
 これより地獄の特訓を敢行する!
 太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!』
「……アレが一夜漬けの特訓くらいでどうにかなる相手だったら、
 俺は今頃呑気にスロットでも打ってるだろうな。
 まぁ……まずは座れよ。ここはバーだぜ。騒ぐところじゃない」
竜人側の空いた席を顎で差す。
バーテンダーは磨いていたグラスを置いて、既にオーダーを待つ姿勢を取っていた。
「コイツに『XYZ』を頼む。……あぁ、こう見えてもコイツ、年金暮らしだそうだ。
 ちゃんと飲める歳にはなってるさ」
バーテンダーが静かに頷く。
使用されるのはラム、ホワイト・キュラソー、レモンジュース、それらをシェイク。
小さなグラスに飾り気のない白が注がれる。

21 :
「……名前の由来も、ついでに教えてやってくれ」
XYZ――終わりの三文字。転じて『これ以上はない究極』『最高にして最後の酒』の意。
ラムの微かな甘味とレモンの酸味、シェイクによって生まれる氷点下と細やかな気泡が、
柔らかな飲み口を作り出す。誰の口にも飲み易い、究極の名に相応しい一杯。
「あの高飛車楽師は、ソレだ。素人目にも分かるさ。ありゃ格が違う。
 まさに究極、最高で……お前にとっては、終わりみたいなモンか」
だが――と、賭博師は言葉を切り返す。
「そのカクテル……お前みたいなガキには、ちょっとキツいだろう。
 それに飾り気が無さ過ぎる。だから『最高』ではあっても、『最愛』じゃあない」
グラスに満ちた白は受容ではなく、何よりも触れ難い反射の色だ。
どんなに優れたバーテンダーでも、その一杯に手を加える事は出来ない。
完璧であるが故に、既に完結してしまっているからだ。
誰にも触れられない――愛せない。それが『究極』の、唯一の欠点。
「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
 ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」
要するに賭博師の言わんとする事は――

――特訓なんざ誰がやるか。自分で何とかしろ――だ。

22 :
>>4
「ちっ、」
「めんどくさいね。これは」
こいつは、ニャルラドホテプ?
知り合いの、美少女とは、大違いだ。
「まぁ、少しぐらい、改変してもいいよね。言い訳も何となく考えたし。やれ、」
「りょうかい。っと」
アヤカに、アインソフオウルで、結界を壊させる。
でも、見た目はあんまり変わらない。
「こっからが、本番ってことで」
混沌の邪神の前後には、灰色のオーロラカーテンが
「まぁ、こんだけ数揃えたんだ。勝てるっしょ。」
そこから、出てきたのは
全ライダー
全スーパー戦隊
が、立っていた。
なんと、アサキムは、スーパーヒーロー大戦の世界と繋げてしまった。
さっき壊したのは、世界との壁
この結界は、それによって、内部や、外部の干渉を阻止していた。
だが、アサキムは、この結界を作った張本人。
壊すどころか、即興改造もおてのもの
壊したら、後は簡単、召喚したヒーローに、敵を認識させる幻術をかければいい。
「まぁ、精々がんばれや。そいつら、全員相手すんの、如何にお前でも結構キツいよ。」
そう言い、そこを立ち去る

23 :
>「別に……聞いて楽しい話じゃないさ。話して楽しい話じゃ、もっとないがな。
> 誰も得しないんだから、話す事もない……それだけの事だ」
「苦味は深み、渋みは重厚さよ。
そんでもって、損得考えて生きるのなんか……糞みてぇ。そんな感じじゃね。
ま、話すなら聞くし話さねぇなら聞かねぇさ」
アブサンをちびちび口に運びつつ、ぎしし、と犬歯を顕に竜人は笑う。
ツヨンの酩酊効用は竜人にも僅かには聞くようで、少し普段とは違う雰囲気なのは酒のせいだろう。
普段よりも多少は静かで、落ち着いた話しぶりだったのは、腹を割って話すというのも馬鹿騒ぎと同じほどに竜人が好むものだったからだ。
鋼色の瞳が細められ、相手の青い瞳と合わされて、そして外れる。強い光は、酒が入ろうが抜けようが何時だって輝くだけだった。
そして吹く風。
風によってグラスに囚われた深緑色の湖の湖面には波風が立つ。
それに零れないように竜人が選んだのは、迷いなくそれを一気飲みすることだった。
>「呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
> これより地獄の特訓を敢行する!
> 太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!」
まくし立てる吟遊詩人をジト目という名のメンチで睨みつけつつ、竜人はため息。
全くこいつは、といった感じの呆れながらも楽しそうな笑い声が喉元から漏れだして。
鋼の方の腕でこつんとフォルテを小突きつつ、二杯目のアブサンを頼む。
「バッカ、のんきに酒飲んでる場合じゃねーから呑むんだろォが。
俺なんか前日死ぬって戦場でもいつも通り飲んでたぜ?
んでもって此処はバーだしよ。場所には場所柄なりの振る舞いってもんがあんのよ。
って訳でお前さんも今日はおとなしく飲んどけや」
そう言いつつ、ヘッジホッグが顎でさした席に、ゲッツはフォルテの首根っこを掴んでクレーンキャッチャーの様に落とした。
出てきたアブサンに焦がし砂糖をいれて水を入れ、白濁した深緑の液体を竜人はまた啄み始めていた。
そして、XYZを頼みフォルテに飲ませるヘッジホッグの意図を汲んだのか、ゲッツは静かに目を細めて二人の会話に耳を傾けて。
>「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
> 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
> ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」
「俺の義手……『竜刃』はよ、俺の思いで変形して進化する。要するに兵器としては無完成なシロモノな訳だ。
それはな、俺にとっては完成も完璧も完全も、胸をくすぐらねぇからそれを望まなかったからそうなったんだよなァ。
どれだけ不恰好でも、どれだけ無様でも、どれだけ他と劣っていようと、どれだけ何か間違っていようと。
――先に進むため、前に進む為に努力する様ってのは、俺の魂をひりつかせるもんだ。
テメェの有様は、俺にとっちゃ確かに最高じゃねェかもしれねぇよ? だがなァ、俺の魂をひりつかせるのは間違いなくテメェの歌だ。
分かりやすく言ってやるか? フォルテ・スタッカート」
ゲッツの持つ武装は、永久に完成せず、永久に成長し続けることを望んで作られたものだ。
それは、完成とは止まることであるという竜人の思考が生み出したもので。
なりふり構わず前に進むものの方が、完成されて達観した者よりゲッツにとっては好みだったのだ。
そして、ゲッツはゲッツらしくいつも通りに真っ直ぐな言葉を口にしようと、鋼の双眸を凶悪にぎらつかせながら笑って。
「この世の全てがテメェのファンを辞めても、俺だきゃテメェのファンだ。
ってかよ、心臓にサインまでされてんだぜ? 最強かつ未だ成長し続けてる英雄様の卵様である俺様にサインを刻んだお前は間違いなく大物さ。
だからビビんな。胸はって、いつもの様に何処からくるか分かんねぇ無駄な自信抱えて舞台に立ちな。
俺はそれを全力で支えてやる。――戦場じゃテメェに支えられてるがな、今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ」
そこまで言い切って、アブサンを飲み干してミントフラッペを二つ頼むゲッツ。
その振る舞いも、その態度も何もかもがいつも通り=B
いつもと変わる必要など無い、いつも通りで挑んで、いつも通りに勝ってやれ。
だから、今日は飲もうとしよう。それが竜人の言い分、断じて特訓よりも酒が飲みたいわけではない。

24 :
>「……アレが一夜漬けの特訓くらいでどうにかなる相手だったら、
 俺は今頃呑気にスロットでも打ってるだろうな。
 まぁ……まずは座れよ。ここはバーだぜ。騒ぐところじゃない」
>「バッカ、のんきに酒飲んでる場合じゃねーから呑むんだろォが。
俺なんか前日死ぬって戦場でもいつも通り飲んでたぜ?
んでもって此処はバーだしよ。場所には場所柄なりの振る舞いってもんがあんのよ。
って訳でお前さんも今日はおとなしく飲んどけや」
示し合わせたような同じ反応。なんでこいつらこんなに気が合うんだろう!
何故か飲んだくれ達にTPOを言い聞かされ、気付けば物理的に席に着かされていた。
そしてヘッジホッグが勝手に酒を注文する。
>「コイツに『XYZ』を頼む。……あぁ、こう見えてもコイツ、年金暮らしだそうだ。
 ちゃんと飲める歳にはなってるさ」
「えっ、ちょっと……XYZってレシピが謎に包まれたフェネクス特製のトンデモカクテルじゃないだろうな!」
>「……名前の由来も、ついでに教えてやってくれ」
何が入っているか分からない罰ゲームカクテルではないだけ良かったものの――究極とはまたすごい名前つけたな!
一口飲んでみると、確かに美味しい。
明かりに透かして眺めてみる。何かを混ぜるのが憚られるような綺麗な白。
>「あの高飛車楽師は、ソレだ。素人目にも分かるさ。ありゃ格が違う。
 まさに究極、最高で……お前にとっては、終わりみたいなモンか」
「そんなはっきり言うなよ! 素人目にはいい勝負なのを期待してたのに!」
審査するのが素人の集まりならあるいは……という淡い期待も砕け散った。
歌は人と勝ち負け競い合うものじゃない、楽しけりゃ勝ちだ。
ならば何故こんなにも悔しいのだろう。
それは本当は歌でなら誰にも負けないって心のどこかで思っていたから。
だけどアイツは容赦なく現実を突きつけた。虚構の自信を突き崩した。
むしゃくしゃして”究極”のカクテルを一気に呷る。美味しいけど二杯目を頼む気にはならないな……。
やっぱり白より色が付いている方が楽しい。
>「そのカクテル……お前みたいなガキには、ちょっとキツいだろう。
 それに飾り気が無さ過ぎる。だから『最高』ではあっても、『最愛』じゃあない」
「どういう意味……?」
>「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
 ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」
「最高も無理だけど最愛はもっと無理だ。人間って異質なものを怖がるんだよ……」

25 :
普段翅を隠しているのは、一見人間のようなオレの背に妖精の翅を見れば普通の人間は怖がるから。
人間にとって異種族は畏怖の対象で、彼らと交わるのは禁忌で。
そして禁忌の証を前にしたとき畏怖は恐怖から嫌悪へと転化する。
それを差し引いても我ながらいわゆる誰からも愛される、ってタイプではない。
本当はアイドルなんて柄じゃない、実力で勝負するしかない、なのにそれすらも……
>「俺の義手……『竜刃』はよ、俺の思いで変形して進化する。要するに兵器としては無完成なシロモノな訳だ。
それはな、俺にとっては完成も完璧も完全も、胸をくすぐらねぇからそれを望まなかったからそうなったんだよなァ。
どれだけ不恰好でも、どれだけ無様でも、どれだけ他と劣っていようと、どれだけ何か間違っていようと。
――先に進むため、前に進む為に努力する様ってのは、俺の魂をひりつかせるもんだ。
テメェの有様は、俺にとっちゃ確かに最高じゃねェかもしれねぇよ? だがなァ、俺の魂をひりつかせるのは間違いなくテメェの歌だ。
分かりやすく言ってやるか? フォルテ・スタッカート」
静かに語り始めたゲッツに、顔を上げる。
「望みさえすれば”完全”が手に入ったの? ゲッツはそれを拒んだの……?」
至高の美、永遠なるもの、究極の理想を追い求めるのは芸術家の性だ。
確かにそこにある手を伸ばせば届きそうな輝き。其れに対する恋にも信仰にも似た胸を締め付けるような憧憬。
空の彼方の星に手を伸ばしても、当然届くはずがないのと同じで。
表現したい世界がこんなにも確かにあるのに。ほんの欠片ほども表現出来なくて、もどかしくて、足掻いて……。
でも今なら、オレが望みさえすれば完全が手に入る。
どうせ寿命は長いんだ、哀れな詩精に生命力少しぐらいくれてやってもいい。
だけどゲッツは足掻く様にこそ意味があると言ってのけた。
>「この世の全てがテメェのファンを辞めても、俺だきゃテメェのファンだ。
ってかよ、心臓にサインまでされてんだぜ? 最強かつ未だ成長し続けてる英雄様の卵様である俺様にサインを刻んだお前は間違いなく大物さ。
だからビビんな。胸はって、いつもの様に何処からくるか分かんねぇ無駄な自信抱えて舞台に立ちな。
俺はそれを全力で支えてやる。――戦場じゃテメェに支えられてるがな、今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ」
「……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!」
そう言い放ち、バルコニー席がある外に走り出る。
その途端に目にたくさん溜った涙がぼろぼろ零れてきて、押し売りにきた背後霊に心配される有様だ。
「うぅ……えぐっ……ひっく……」
『大丈夫……?』
「違うんだ。たった一人でもファンがいる事がこんなに嬉しい事だったなんて……。
ごめんね……せっかく来てくれたのに断らなきゃいけない。
その人、完全なんていらないって言うんだ。おかしいでしょ?
届かない星に手を伸ばして格好悪く足掻く様にこそ意味があるって」

26 :
『本当にいいの? 超人気シンガーソングライターになったら何千万人のファンを得られるかもしれないんだよ?』
「いいんだよ。オレのたった一人のファンは流行に乗っかっただけの何千万人のファンよりもずっとずっと価値があるんだ」
『……分かった。君はいくら付きまとっても契約してくれそうにない。大人しく身を引くよ』
すごすごと去っていく詩精……と思いきや、ぱさっと半透明の何かを落とした。
“恥じらいポエムノート”と半透明の文字で書かれているそれを拾い上げて半透明のページをぱらぱらとめくり、唖然とする。
なんというか――詩精……だよな!? 生命力と引き換えに至高なる詩の才能を提供するという詩精で合ってるよな!?
いや、至高の芸術すぎてオレの理解を越えているのかもしれない!
『嫌―――――!! 見ないで-―――――ッ! 駄目なんですセンスないんです!』
落し物に気付いた詩精が物凄い勢いでUターンしてきてポエムノートを奪取した。
「いやいや、詩精だろアンタ!」
『だってまだ誰とも契約してないですから!
契約して生命力を貰えば超イケてる詩が作れるようになるんじゃないですか?』
「ん? 詩の才能は最初から持っていてそれを提供する対価として生命力を貰うんじゃなかったっけ」
『ウソだドンドコドーン!』
「オレの葛藤は何だったんだぁああああああ!!」
あかんわこの子、そもそもの詩精システムを勘違いしとる!
どこの業界にも落ちこぼれというものは存在するらしく、完全なる詩の才能なんて最初から手に入らなかったわけだ!
あの他人を道具としてしか見ないドSド外道のお膝元で、この落ちこぼれの詩精はどれだけ虐げられてきた事だろう。
今度こそすごすごと帰ろうとする詩精に後ろから声をかける。
「待て! あんな奴のところに帰る事ねーよ! オレと一緒に来い! 絶対契約はしてやんないけどな!」
『いいの? 役に立たないよ?』
詩精は戸惑ったようにこちらを見つめている。
「オレに付いてくるからには役に立つとか立たないとか言うんじゃねー! 今度言ったらアイツのところに送り返すぞ!」
『うわぁあああああん、フォルっちー!』
小さい美少女が物凄い勢いで飛んできて肩の上に乗った。いつの間にか半透明じゃなくなっている。
何だ、ちゃんと実体化できるんじゃん!
オレはキーボードに変化させたモナーを抱え上げながら言う。

27 :
「ゲッツはああ言ったけど少しだけいつもと違う事をやろうと思うんだ。付き合ってくれる?」
歌って本当に凄いと思う。気持ちを代弁してくれる歌を探せばあらゆる状況において存在するといっても過言ではない。
でもやっぱりオレの感情を完全に表現できるのは、オレの言葉だけだ。
いや、完全から程遠くたっていい。届かぬ星に手を伸ばす事こそに意味があるのだから。
夜空にキーボードの音が響く。それを聞いた詩精が五線譜にペンを走らせる――
英雄になる事を望む少年と英雄譚を謳う事を夢見る少女の出会い、それはきっと、壮大なサーガのはじまりを飾る曲。
『ねえ、それってさ……』
「ンなわけねーだろ!」
♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪
「ねえ見て見て。 可愛いでしょ!」
ゲッツ達に何事もなかったかのように駆け寄り、肩の上に座っている小さい美少女を指さす。
ヘッジホッグにとっては最初から見えてたから今更だろうけどゲッツの反応が見ものだ。
小さい美少女がゲッツとヘッジホッグの間の空間に陣取り、五線譜ノートを広げて見せる。
『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』
「ははっ、小さい美少女なんて見えるぞ、疲れてるのかな」
オレはというと、ミントフラッペを飲みながらわざと余所を向いて知らん振りをするのであった。

28 :
>>22
世界の壁が壊され、現れたのは……仮面でバイクを乗り回す不審者とカラフルなピチピチスーツを着た変態の集団であった!
ところで語り手はかねてより疑問に思っている事がある。
今やピチピチスーツは戦隊ものの様式美と化していて誰も疑問に思わないが
最初に戦隊物を考えた人は何でヒーローの戦闘服をピチピチスーツにしようと思ったんだろう。
だって普通に考えてあんなスーツ着て戦いたくないぞ。
そんな事は置いておいて、ヒーロー達は這い寄る混沌に一斉攻撃をしかける……はずだったのだが。
戦隊が強力な攻撃を繰り出すには5人揃わなければいけないのだ。
歴代戦隊がひしめきあうこの中で同一シリーズの5人が集まるのは至難の業であった。多けりゃいいというものではない。
「どこにいるんだ! グリーン、ブルー、イエロー、ピンク!」
「はいはい! ここにいます!」
「はあ!? お前シリーズ違うだろ! 俺、マ○レンジャーだから!」
少しデザインが違うだけでピチピチスーツという点では皆似たようなものだ、仕方がない。
「ええい、こうなりゃ巨大ロボットで一気にケリを付けるぞー!」
「この際5色揃えば何でもいいや!」
普通は戦隊もののクライマックスシーンでは
シリーズごとに定められたテーマに従った統一性のある小型ロボが飛んできて合体するものであるが
今は同一シリーズで揃えている暇が無いので5つそれぞれ全く脈絡のない不揃いなパーツが場の勢いで合体した!
――カッ!! 眩い光がおさまった時、そこにいたものは……
『中華4000年の歴史……先 行 者 !!!!!!!!!』
「変なの出たああああああああああああ!!」
どことなく馬鹿っぽい手の上げ具合に、とても投げやりな感じの顔立ちという素敵デザインのロボットであった。
そして基本的な言語能力完備! 股間にキャノン砲を搭載!
『キャノン砲発射準備!』
先行者は股間のキャノン砲を充填しはじめた!
そこに時空を超える電車が猛スピードで突っ込んでくる。
仮面ライダーの中で唯一バイクではなく電車に乗るシリーズがあるのは有名な話である。
「ヒーローは遅れてやって来るってな、俺参上!」
『電車は邪道!』
「ぎゃあああああああああ!!」
ドゴーン! 何故かキャノン砲が電車に向かって発射された! 真っ二つになって吹っ飛ぶ電車。
数十人の戦隊ヒーロー達が電車の残骸の下敷きになる大参事!
終末を越えてカオスと化す――これが這い寄る混沌の本当の恐怖! どーする導師様!?

29 :
『……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!』
「――つくづく、バーには似つかわしくない奴だな、アイツは。
 これで氷が溶ける前に帰って来なかったら……役満だぜ」
置き去りにされたミントフラッペを横目に、グラスに残った僅かな酒を一息に煽る。
下手糞な笑顔に震えた声――お陰で酒の味は最悪だ。
バーテンダーには営業妨害で奴を訴える権利があるだろう。
「で、どうするんだ。お前の財布、随分と重症みたいじゃないか。
 まさか、今度はアイツをあやしてこいだなんて頼みやしないだろうな。
 ガイドの真似事くらいはしてやれたが、ベビーシッターは流石に業務外だぜ」
視線は動かさず、言葉一つで責任の所在を隣の竜人に預け切る。
「それに……ただの戦闘馬鹿って訳でも無かったんだな、お前。
 お前みたいな奴は――好きじゃないぜ。やり難いったら、ない」
この手の輩は時折、他人の懐に深く飛び込んでくる。
恐ろしく絶妙に。無視出来ないくらい近く、突き放せない程に遠く。
無自覚的に、己が馬鹿である事の利点を理解し、最大限活用しながらだ。
捨てた筈の過去を、理想を、引きずり出される様な感覚を堪能させてくれる。
いや――違う。
『損得考えて生きるのなんか……糞みてぇ。そんな感じじゃね。』
微かにアルコールの巡った頭に、竜人の言葉が残響する。
――確かに、アイツはクソ野郎だった。
頭にあるのはいつだって、何が欲しくて、どうやって得るか。
ただひたすら欲の為だけに生きて――だから俺は、一度死んだんだ。
――過去を呼び戻していたのは自分自身だ。
臆病風はいつの間にか、賭博師の足を再び、かつて忌み嫌った生き方へと誘っていた。
欲の為に生きて、欲の為に死んでいく――そんなのは絶対に御免だ。
欲望とは人生を楽しむ為の玩具だ。誰が握っているのかも分からない手綱じゃない。
コインかダイスの様に、指先で手慰みにして、弄んでやる。俺がお前を乗り回してやる。
新たな生を得た時に、そう誓った。
その誓いこそが自分とアイツを隔てる境界線。
踏み破る訳には、いかない。
「……だが、まぁ、なんだ。他人の金で飲む酒ってのは、美味いモンだ。
 コイツの為なら……もう少し、お節介を焼いてやってもいいかもな。
 アイツがまた、バーで泣きべそを掻いたりしなけりゃの話だが」
酒代程度じゃ到底釣り合わないトラブルは目に見えている。
――だからこそ、やってやる。

30 :
『ねえ見て見て。可愛いでしょ!』
「……一体何を言ってるんだ?お前は」
『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』
『ははっ、小さい美少女なんて見えるぞ、疲れてるのかな』
「小さい美少女?そんなモン、一体何処に――あぁ、成程な。
 やっぱりさっきのカクテルが良くなかったか。……まぁ安心しろ。
 一晩寝ればちゃんと治る――――奴もいるからな」
詩精など、これっぽっちも見えていないと言った体で賭博師は憐憫の眼を楽師に向ける。
勝手に落ち込んで、勝手に立ち直って、悪戯に酒を不味くしてくれた礼には丁度いい。

31 :
>「……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!」
>「で、どうするんだ。お前の財布、随分と重症みたいじゃないか。
> まさか、今度はアイツをあやしてこいだなんて頼みやしないだろうな。
> ガイドの真似事くらいはしてやれたが、ベビーシッターは流石に業務外だぜ」
「いんや、あいつなら勝手に戻ってくるさ。
ミントフラッペが溶ける前には必ずケロッとした顔で帰ってくるね、賭けてもいいぜ?」
ゲッツはヘッジホッグの言葉に対して、犬歯をむき出しにして笑うゲッツ。
酒を煽る姿は、先ほどから変わりはしない。責任の所在を預けられたとて、どうってことはない。
ある程度ゲッツはあの吟遊詩人の人格は理解していたし、この程度で折れる類の精神構造はしていないことを知っている。
>「それに……ただの戦闘馬鹿って訳でも無かったんだな、お前。
> お前みたいな奴は――好きじゃないぜ。やり難いったら、ない」
「馬鹿なら戦いは楽しめねぇよ。戦いを味わって楽しみ尽くすにゃ、学者様とかとは違う頭が居る。
戦闘狂は馬鹿の仕事じゃねぇのさ。馬鹿の戦闘狂は直ぐに死んじまうからな。
んでもって――俺はお前さんみたいなのは割りと好きだぜ? テメェの在り方ってのを理解してる奴は強いからなァ」
鋼色の瞳を細めながら、ゲッツは真っ直ぐに相手を見据える。
一方向からこの竜人を見れば確かに馬鹿だろうが、ある一点から見ればただの馬鹿とは言い切れない。
戦いについては猪突猛進以外の手も使うし、また挑発にも正気を失うこと無しに挑むことが出来る。
それがゲッツが、馬鹿には戦闘狂は出来ないということだろう。
戦いを深く考えぬものが、戦いの全てを狂ったように楽しむことは出来ないのだから。
酒の酔に揺られながら、にやりにやりと笑顔を垂れ流す竜人。
瞼を閉じれば黒いスクリーンに投影されていく、様々な戦いの光景。
どれも通常生きていれば体験することのない極上の死地であり、最高の戦場だった。
そして、今日の敵であった同種の神官と、精霊楽師。
彼らはこれまで戦った相手と較べてはるかに強いわけでは決して無い。
だがしかし、ひりつく感覚はたしかに彼らから感じられた。言うなれば、魂が燃えるような、そんな感覚だ。
「――叩き潰すにァちィと惜しい。骨の髄まで楽しみ尽くしてやらァ。
それが俺の王道――正道だからなァ」
胸の傷からざわりと負の色彩を持つ光が漏れだし、そして消えた。
厄災という明らかに負の印象を与える世界観を持つ、ゲッツ。
その力は、これから先どのように役立つのかはわからないが、気にすることはない。
祖神と出会い、どのようなカタチでも力は力である事は理解しているし、己の在り方にも一つの指針を見出していたから。
だから、ゲッツの有様は今日の戦いでも、新たなアイン・ソフ・オウルとの出会いでもそう揺らぐことはなかった。

32 :
>「……だが、まぁ、なんだ。他人の金で飲む酒ってのは、美味いモンだ。
> コイツの為なら……もう少し、お節介を焼いてやってもいいかもな。
> アイツがまた、バーで泣きべそを掻いたりしなけりゃの話だが」
「もういっちょ賭けだ。なんだかんだやかましく戻ってくるのに一兆ジンバブエドルな」
ゲッツが自分の分のミントフラッペを飲み干した直後に、やかましい奴は戻ってきた。
>「ねえ見て見て。 可愛いでしょ!」
>『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』
「オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?」
戻ってきたフォルテの肩に座る美少女をおもむろに指先で摘み上げるゲッツ。
鼻をすんすん鳴らして暫く立って、その正体にたどり着く様は、どう見ても犬か何かだ。だが竜人だ。
刺身にするとか漬けにするとか結構散々で涙目になっているが、げらげら笑ってフォルテの肩に載せ直すのだった。
「いい曲じゃン。
――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?」
アブサンをちびちびやりながら詩精にナチュラルに絡み酒をかます竜人。
ヘッジホッグがちょっとした仕返しをするのに対して此方はどこまでも平常運転だった。

33 :
>「小さい美少女?そんなモン、一体何処に――あぁ、成程な。
 やっぱりさっきのカクテルが良くなかったか。……まぁ安心しろ。
 一晩寝ればちゃんと治る――――奴もいるからな」
「何で存在を認めてくれないんだよ! なあゲッツ、ここにいるよな……おんぎょおおおおおお!?
食いもんじゃねーよ!?」
小さい美少女はゲッツに摘まみあげられて、肉食獣に捕えられた小動物のごとくじたばたしていた。
>「オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?」
『否、”元”手下であります! あんな奴の所にはもう金輪際帰らないであります! ちょっとフォルっち、何なのコイツ!?』
「何かって聞かれたら色んな答えがあるけど……オレの一番のファンかな」
>「いい曲じゃン。
――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?」
呆れた振りをしてそっぽを向いて、零れ出る笑みを隠す。 今いい曲って言ったよね!?
「全くお前は……小さい美少女と対等に張り合ってんじゃねー! なんかお腹すいたな……。
マスター、野菜オムレツとアボガドのチーズフォンデュとナッツの盛り合わせお願いします!」
考えてみれば当たり前だ、結局この街に着いてから何も食べていないのだから。
お腹がすくのも忘れる程本気で悔しがったり悩んだり泣いたりしたなんて、らしくないな――
妖精吟遊詩人なんていうものは一歩引いた位置でおちゃらけておくのが丁度いいのに。
泣いてたのがバレバレなのが恥ずかしくなって、出て来たナッツをポリポリ齧りながら全く違う議題を繰り出す。

34 :
「小さい美少女じゃ何かと不便だと思うんだ。そこで名前を付けようと思う。
だからってアンチョビシュールストレミング14世とかいうDQNネームは無しの方向で。
逆にポチとかコロとか安易すぎるのも駄目。
詩精……ラナンシー ……ナンだとカレーに付けるパンだし……ラッシーじゃどこの名犬だよ!」
―― 今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ
こんなに調子狂ったのはお前のせいなんだぞ。
これでもATフィールドの固さは根暗の引きこもりにもひけを取らないのにさ……ただガードの仕方が違うだけで。
ゲッツは、無意識のうちに避けている事――心の奥底に眠っている自分でも気付いていない願望を容赦なく引き出してくる。
オレは傷付くのが怖くて、本気でやって笑われるのが怖くて、主役を避ける生き方をしてきたんだ。
「そうだな……ナンシー、とかどうだろう」
出て来た物を食べきったらお腹がいっぱいになってテーブルに突っ伏す。
「ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?」
そう言ってから、ゲッツが絶望的に音痴だった事を思いだす。
それに……あの歌でイメージされている英雄を目指す少年がプロレスラー体系のマッチョなんて有り得ないのである!
「いや、やっぱヘッジホッグの方がいい……かも……? 導師様も歌が上手かったっけ……」
まずいな、だんだん意識が遠のいてきた。こんな所で寝たら……駄目だ…ああ、本戦楽しみだ…な……

35 :
>>28
えぇぇぇぇんヒーローがやられてるよぉぉ;;
なんて子供なら、言うのだろうだが
アサキムは、凄く笑顔だった。
「ニャルラドホテプよ。ネガの始末をしてくれて有り難う。」
(召喚陣の書き方間違えたかな)
よく見ると、なんか、色が雑な戦隊もいるし
「悪の軍団は不滅だぁぁぁ」
なんていう。奴もいたし
「ニャル子を呼ぶか」
ニャル子に電話して、脅して呼ぶ。
脅し内容は、導師としてのイメージが崩れるから内緒だよ☆

36 :
>>35
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! ニャル子です☆」
アサキムの召喚に応じ、銀髪の美少女が乱入する。
いかにも神話の神が持っていそうな豪奢な装飾が施された剣を掲げ、高らかに呪文を詠唱する。
「――オーロラオーラ!」
空間を虹色の光が走り、変なロボットが消滅する。そして暗闇が照らされ、”這い寄る混沌”がその姿を現した。
顔の無い円錐形の頭部、それが乗っているのは不定形の肉塊。
そしてその肉塊から無数に生えた触腕や鍵爪が不気味に蠢いているのだ。
大変だ、普通であればこの姿を見た者は発狂してしまう。しかし誰一人として発狂する様子は無い。何故なら――
「あ、これ? 聖剣ヴラグフェルド。エレメントセプターをアレに渡しちゃったでしょ?
ビジュアル的に神話の神っぽい武器がないと格好つかんから、銅の剣になってたのをイースの民に元に戻して貰ったの。
なんかビジュアルしか元に戻ってない気もするけどまあいっか」
地の文の流れなんてお構いなしにアサキムに向かって妄言を垂れ流すニャル子。
気を取り直して、何故なら――
「もう、アサキム導師ったら〜。
いくら何でもニャル子にナイト&アルト倒すの手伝えって言っても無理っしょ。
だって本質的には同一人物だよ!? いや、同一種族……と言った方が近いのかな?
だがしかし確かにバハムートとベヒモスを別物に仕立て上げちゃった超大作RPGも存在する! それは……」
何も無い胸を張って高説賜るニャル子。というかこいつは本当にニャル子なのか!?
否、ニャル子は貧乳ネタで弄られない程度には普通に巨乳の美少女だったはずだ!(※ ラノベ的普通乳=巨乳)
「「っざけんなァ、フェアリー・テイル・アマテラス・ガイアァアアアアアア!!」」
ついに痺れを切らしたナイト&アルトの声が響き渡る。
もうバレバレだと思うがニャル子の正体はニャル子のコスプレをしたテイル(ガイアver/戦闘形態)であった!
天位の座を追われたとはいえそこは調和のアイン・ソフ・オウル。
この隔離空間においてはただそこにいるだけで人々が狂気に堕ちるのを阻止し、謎の混沌パワーを封じる。
混沌の化身からしてみれば最悪の相手であった。
「「皆殺しじゃぁああああ!! ゴルゥアアアアアアアアアアア!!」」
“這い寄る混沌”は、無数の鍵爪を展開し一同を切り裂かんとしてくる。
しかし混沌パワーを封じられた這い寄る混沌など恐れるに足りないだろう。

37 :
>>「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! ニャル子です☆」
>>「オーロラオーラ!」
ニャル子が登場した。そして魔法が発動された。
「おい、アヤカ?ニャル子って魔法使えたか?」
「ううん、使えない。」
「でも、CV.あ○み○だよね?」
「うん。でも、魔法使ってるね。」
「「まさかとは思うけど」」
そんな事をボヤいてると、ニャル子?が話しかけた。
「随分と長い話に、なったが、大分CVが、新○里○に近づいたな。」
「何でだろ、イタく見えてきた。」
「言うな、アヤカ。」
以上の結論から、ニャル子?はテイるト判明しました(苦笑)
世間話をしていると、にゃるらどほてぷがキレて、攻撃してきた。
でも、手で叩く程度で、打ち落とせるので
問題ない
「さっさときめちまうか。アヤカ」
「了解!対極」
「陰陽」
「「破邪砲!」」
二人の、火と水の砲撃が、うねりを上げて
にゃるらどほてぷを包み込む

38 :
『何で存在を認めてくれないんだよ! なあゲッツ、ここにいるよな……おんぎょおおおおおお!?
 食いもんじゃねーよ!?』
「お前は……本当に騒がしくて、大した奴だよ。
 俺に二杯目のグラスを諦めてでもバーから去りたいと思わせたのは、お前が初めてだ。
 しかも、それでまだ酔っ払っちゃいないってんだからな」
『オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
 刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?』
『否、”元”手下であります! あんな奴の所にはもう金輪際帰らないであります! ちょっとフォルっち、何なのコイツ!?』
『何かって聞かれたら色んな答えがあるけど……オレの一番のファンかな』
「なんて言えばいいんだ?凄く感動的な答えなんだろうが……
 ……摘み上げられて食われかけてた奴が求めてる答えじゃなかっただろうな」
投げやりな口調。
この二人に常識的思考が通用しないのは、賭博師もいい加減理解した。
ついでに、この先、自分がこうして突っ込みを入れる機会は増える一方だと言う事もだ。
『いい曲じゃン。
 ――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
 足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
 あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?』
「だったら俺はプロデューサーをやってやるさ。
 優勝してからの事は任せといてくれ――それまでの事は全部任せた」
『全くお前は……小さい美少女と対等に張り合ってんじゃねー! なんかお腹すいたな……。
マスター、野菜オムレツとアボガドのチーズフォンデュとナッツの盛り合わせお願いします!』
「……お前、カウンターの向こうでフライパンを振り回してるバーテンダーを見た事あるのか?」
もっとも幸いな事に此処はカジノホテル――レストランだって一階にある。
バーテンダーが気を利かせて、オーダーはそちらに回す。
――自店の酒よりも他所の皿に夢中の客を前にした、バーテンダーの心境は芳しくないだろうが。
『小さい美少女じゃ何かと不便だと思うんだ。そこで名前を付けようと思う。
 だからってアンチョビシュールストレミング14世とかいうDQNネームは無しの方向で。
 逆にポチとかコロとか安易すぎるのも駄目。
 詩精……ラナンシー ……ナンだとカレーに付けるパンだし……ラッシーじゃどこの名犬だよ!』
『そうだな……ナンシー、とかどうだろう』
「悪くないな――つまり頭から音が抜けちまってるって意味だろ?」
賭博師が毒を吐く。
誰かに名前を貰える事への羨望、その裏返し――半ば無意識の事だった。
半ば、だ。賭博師は間抜けじゃない。自分自身の姿がよく見えてしまう。
欲深な蒼眼など無くともだ。
ワインをボトル一本丸ごと、頭から引っ被りたい気分になった。

39 :
『ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?』
『いや、やっぱヘッジホッグの方がいい……かも……? 導師様も歌が上手かったっけ……』
「……生憎だったな。俺は恥ずかしがり屋なんだ。寝言だったって事にさせてもらうぜ。
 おい竜人、俺は年金暮らしのシニアをスイートルームに連れ込む趣味はないぜ。
 保護者責任はちゃんと果たすんだな」
カウンターに突っ伏して本格的に眠り出したノータリンを憐れみの眼で見下ろし、溜息を一つ。
視線を上げる。
「――バーテンダー。ゴールデンドリームを頼む」
散々騒がしくして、自分も少し喋りすぎた。
ここは酒場――おしゃべり広場じゃない。
この上、たかが一杯や二杯のグラスで席を立つのは気が引ける。
――長い夜を酒に沈めるには、悪くない口実だ。
眼の前にグラスが差し出される。
柔らかに濁った淡黄色――バーの薄赤い照明がそれを、黄金に生まれ変わらせる。
軽く口をつけた。
「……甘い、な。やっぱり俺には少し甘すぎたか。――ま、願掛けには丁度いいさ。
 お前達の明日が、この一杯の様に柔らかで……甘い物であるといいな」

40 :
――翌日、賭博師の目覚めは最悪だった。
「……悪いが先に行っててくれ。持病の発作で目が見えないんだ。
 少し休めばすぐに治る――具体的には後三十分くらいだな……」
持病の病名は二日酔い――症状は強い二度寝の渇望感と、暴力性の向上。
もし小煩い精霊楽師が朝っぱらから騒ぎ散らそうものなら、実力行使も辞さない。
無論、三十分後に気分が良くなって、まだその事を覚えていたらの話だ。
「嘘じゃないぜ……俺達はチームだろ。俺を信じろよ――
 ――三十分経ったら絶対にドームまで駆けつけるさ」
結論から言えば、賭博師は嘘を吐かなかった。
約束を守り、確かにドームの中に賭博師はいた。
ごった返したドームの観客席に。
「どの道、譜面も歌詞も覚えちゃいないんだ。俺がいなくたって関係ないだろ」
呟く賭博師の手には本選用のパンフレット。
形式はトーナメント制。
勝負は両チームが同時にパフォーマンスを行う。
客席には特殊な魔術陣が施されており、観客達の感情の変移を観測出来る。
より強く、観客達を歓喜、興奮、畏敬、恐怖――感動させた方が勝者となる。
最後に、直接的な戦闘、つまり暴力行為は――両チームが同意した時のみ、許可される。
ただし、その場合も勝利条件は変わらない。
「まぁ、か弱い少女達がムキムキの竜人にぶん殴られて終わりじゃ、酷すぎるよな。
 それで……最初の対戦相手は――?」
賭博師の指がパンフレットを捲る。頁一枚分の未来、そこに記されているものは――
「……こりゃまた、初っ端から苦労しそうだな」

――これから、決められるものだ。

41 :
>>37
>「陰陽」
>「「破邪砲!」」
メ○ローア……じゃなくて陰陽破邪砲が炸裂し、ニャルラトホテプを包み込む!
「惜しい事を…」「我らを」「受け入れれば」「天位を狙える力を」「手に入れられたというのに」
負け惜しみのような言葉だけを残して――炎と水の奔流がおさまった時、そこには何も残っていなかった。
それと同時に暗黒の空間が砕け散り、周囲の風景が塗り替わる。
他の街よりもひときわ大きい喧騒に、鮮やかな色彩。どうやら無事に元の世界に帰ってきたようだ。
「やれやれ、バロックの海に帰ったか」
と、黒いローブをまとい、フードを目深に被った何者か。
顔を覗き込むと金色の髪に青い瞳の女神である事がわかるだろう。まるで顔バレを怖れる芸能人である。
そしてそれを言うならディラックの海だ。
「バロックといえばこうしちゃいられない、音楽祭の本戦始まっちゃうよ!」
2,3歩歩きだしかけて振り返る。
「何しに行くかって? もちろん観戦……じゃなくて警備。
いや、さっきみたいのが出て来たから警戒するに越した事はないかなーって。
祭りっていうのはいつの世もどさくさに紛れてやんちゃする奴が出るもんでしょ。
神魔大帝はあの時人為的に”厄災”を呼び出し頂天魔となった……。
もしもあの時と同じように”厄災”を呼び出すものを持ち込んでる輩がいるとしたら……一大事だ。
……まあアレが出るらしいから合間に聞いてくれてもいいけど?」
この親馬鹿(馬鹿親?)、警備を口実に友人夫婦を我が子の応援に誘っているだけではなかろうか!?

42 :
「ふむ、やはり奴等では事態を解決できたようだな」
「此処では余り派手な活動は出来ませんでしたが、アサキム導師とアヤカ殿ならば
解決できるはずです」
一方、このフェネクスにて彼の出身世界である理想郷群が交流しているという事で
様々な事情があるが、第一に死んで居る事になるエスペラントは表立って自身の身分を明かす行動が出来ない
正確に言えば彼の本名である人間は人間を辞めた時点では死んだとも言えなくも無いが
ともかく彼は公式上では死んでいる人間が、故郷の国家などに知れ渡るのは非常に不味い状態になる
場合によっては戦争や既に本人死亡で失効になっている広域指名手配などもありえる為
今この場では余りにも目立つ行為は避けなければならない
「それで尚且つ指令(オーダー)をこなさなくてはいけないのが
宮仕えも辛いところだ」
「必ずこの場では何かしらの出来事が起きるでしょう
彼らは動きを見せるはずです」
なんにせよこのフェネクスの地に置いて神魔コンツェルン
や世界再編組織レヴァイアサン―この世界ではいろんな者達の思惑が渦巻いている
このような場所でも目を離せない
二人は、始まる音楽祭の本戦を見ながら細心の注意を払いながら
周囲に対しても観察の目を向けていた

43 :
>「だったら俺はプロデューサーをやってやるさ。
> 優勝してからの事は任せといてくれ――それまでの事は全部任せた」
「あれだろおい、お前さんノリに乗じていい所だけ持ってこうって算段だろ?
キヒハっ、そうは問屋が許さねぇさ。
悪ィが俺らに同乗するてんなら地獄か天国かは分からねぇがとにかくノンストップの片道切符だからよ。
ま、精々穏便にこのイベントが終わるのを待てば良いんじゃねーの、穏便に終わらせるのにお前さんが巻き込まれる可能性も十二分にあるけどよ」
ヘッジホッグの発言のウラを読み、犬歯をむき出しにしながら竜人はげらげらと下品に笑う。
相手が何かと干渉せず、傍観者で居たがる事は何となく竜人は感じていた。
関わりたくないのならば此方から巻き込んでやる。そんな迷惑な発想が出てくるのがこの竜人だった。
>「ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?」
酒をかっ喰らいつつ、新たな仲間と吟遊詩人のコントを見ていれば、此方にネタはふと振られた。
そして歌を歌えと今回の主人公様は、この竜人にのたまってみせて。
竜人はうげ、と声を漏らしつつ、後頭部をごりごりと書いて、苦笑を浮かべ。
「……保証はしねぇがやってやる。
なに、勝負事だってんなら俺にも相応の手は有るからよォ」
一応歌ってやる、そう言って見せれば、目の前には既に寝腐っているフォルテが居る。
竜人はため息をつきつつ、自分のジャケットを相手にかぶせて、酒を一杯ちびりと流し込んだ。
>「……生憎だったな。俺は恥ずかしがり屋なんだ。寝言だったって事にさせてもらうぜ。
> おい竜人、俺は年金暮らしのシニアをスイートルームに連れ込む趣味はないぜ。
> 保護者責任はちゃんと果たすんだな」
「後で適当に布団に放り込んどくさ、この幸せっぷりならタイルだろうがシーツだろうが見る夢は変わんねぇだろうし。
あと、因みに俺は恥ずかしがりなんて要素は欠片もないっ、何せイケメンで最強だからな。
だからこいつの面倒は俺が見ておくから心配はいらねぇよ」
横でカウンターに突っ伏す妖精っぽい吟遊詩人を見て、苦笑を浮かべ。
任せておけと竜人は胸を張る。胸筋のせいで並のおなごよりも遥かに胸囲が有った。
>「――バーテンダー。ゴールデンドリームを頼む」
「さて、も一杯。……アブサンと砂糖で」
普段からの愛飲酒ではあるが、芸術家の酒であるアブサンを一献。
深緑色の色彩に、強烈に癖のある芳香と味。
一言では表しきれないその味は、誰にも忘れられない個性とも言い換えられた。
「……この強烈さが堪んねぇ。
柔らかで甘いのも嫌いじゃないが――刺激だよなァ」
けけ、と声を漏らし、とん、とテーブルにグラスを置くと竜人は席を立った。
肩に軽々と吟遊詩人を担ぎ、飲み過ぎんなよーと声をかけて去っていった。
まあ、その注意は結局のところ、無意味だったのだが。

44 :
「はあ、マジかよ。ま、了解。どうせお前さん本選乗り気じゃねェんだろ。
任せとけや、俺の素晴らしい芸術的肉体魅せつけて買ってきてやるよ。
見せ筋じゃあないが筋肉には自信あるしよ」
おもむろに上半身裸になって筋肉を見せびらかす竜人。
なるほどその肉体は鍛えぬかれていたし、無数の傷跡は彼が歴戦の武人であることを如実に語っていた。
そういう場であればよかったのだろうが――、そういう都市であった為、問題なかった。
通行人が歓声を響かせながら撮影する中、竜人は馬鹿笑いを響かせながらポージングしていた。
数分後、撮影に飽きた竜人は周囲を睨みつけて通行人を散らし、歩き出す。
そして、たどり着いたは中央ドームだ。トーナメント表を見てみれば、参加チーム数は八チーム。
決勝に進みたければ二回勝利しなければならない。そして、恐らくその先には――。
「最初の相手は――、はァン? バンド、か。
名前は――King-Show、か。聞いたことはあるけど、どうしたもんかね。
因みにパフォーマンスはあっちが先らしいぜ。俺とお前でどうするよ、喧嘩してくれそうにはないけど?」
ゲッツはフォルテにそう尋ねつつ、舞台袖から対戦相手のバンドのパフォーマンスを眺めた。
人間五人組のバンドだ。ボーカル、ベース、リードギター、リズムギター、キーボード。構成に問題はない。
壮大なメロディを奏でながら、バンドの演奏が始まった。
そして、顔に罅のようなマークを入れたボーカルが前に出て、マイクを握りしめて声を張り上げた。
「僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
犬神つきのはびこる街に やって来た男は
リュックサックに子ネコをつめた少年教祖様さ
『この僕が街の悪霊どもを追いはらってあげよう』
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
『この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!』」
その歌唱力は決して高くはない、どころか一般的に見て上手いと思う人はそう居ないだろう。
だが、観客たちは熱狂し、叫び声を、歓声をあげドームを満たしていく。
歌唱力とは別の点、人を惹きつける何かがあれば、それで十分に人は付いて行く。
最高が最愛とは限らない、最高がもてはやされるとは限らない好例がそこにあった。

45 :
「僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
犬神つきを治したいなら 踊ることが大事
犬神の家にアンテナを立てて踊り続けろ
アンテナだったら僕が持ってる お安くしとくぜ
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
「この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!」 」
歌詞の内容は、宗教を虚仮にしているような内容。
と言っても、その内容を深く読んでいけば、この世に蔓延るエセ宗教を揶揄したものである事が分かるだろう。
曲名は、僕の宗教へようこそ。
「ハイ ハイ ハイ ハイ ハイ レディース・アンド・ジェントルメン
お父っつあん アンド・お母っつあん、踊りなさい 踊りなさい。
このアンテナ、そんじょそこらのまがいもんとはちょっと違うよ、かのアメリカ大統領も愛用したってえスゲ一品だ、
成層圏のそのまた向こう、大宇宙にポッカリと浮かぶお月様その裏側のクレーターから飛んでくる宇宙線を
見事にキャッチしてくれるスグレ物なのよ。
この宇宙線が万病に効く効く、もちろん犬神つきにだって効果覿面よ。
さあ アンテナを屋根に立ててごらんなさい、あんたの娘さんも、嘘みたいに元気になって
喜ぶあんたたちの前で、きれいな声で、ほらほら、オペラを歌ってくれるはずさ! 」
長々しい語りの間も楽器隊は、素晴らしい技術力で美しくも荒々しいメロディを奏で上げる。
そうして語りが終わり、最後のサビへと曲は入っていく。
「ほらね」
「宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
だが、しかし 少年はペテン師なのさ
アンテナを立てたおうちは崩れていった
少年はネコを連れ町を出て行った
町は崩れて廃墟となった
その様子はまるで月面のようだった
僕の宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ! 」
劇的に曲は展開していき、曲は終了する。
その後も客の熱狂は冷めやらず、何曲かを続けてパフォーマンスタイムは終了。
次はフォルテ達の出番だ。
歌がうまくなかろうとも、何かを伝えようとする意志や勢いだけで人はこうにも熱狂する。
それを前にして、吟遊詩人はどう思うだろうか。

46 :
>「悪くないな――つまり頭から音が抜けちまってるって意味だろ?」
「もう! だったら君の芸名は何でハリネズミなのさ。
可愛いよね針鼠って。いかにも触ると痛そうに見えるけど触ってみれば案外痛くないし……」
>「……保証はしねぇがやってやる。
なに、勝負事だってんなら俺にも相応の手は有るからよォ」
夢現の中で、ゲッツが歌ってくれると言ったような気がした。
今夜はとても幸せな夢が見れそうな気がするな――
♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪
「起きてフォルっち、朝だよー」
小さい美少女――ナンシーに耳元で囁かれ目を開ける。
窓から差し込む柔らかな光の中起き上がって伸びをする。
確かバーで寝こけて……ああ、ゲッツが運んでくれたんだな。
洗面所の鏡の前を占拠し、髪をスタイリング剤でセットしてうっすらとソフトなV系メイクでキメる。
服はいつも通りのV系吟遊詩人ファッションだが、例によって同じデザインのものをリーフに新調して貰ったものだ。
気合いを入れても結局通常グラフィックのままじゃんというツッコミは禁止である。
「待たせたな、どーだ! イケてるだろ?」
ゲッツ達も今日の主役のオレに合わせてバッチリキメてくれているはずなのだが――
>「……悪いが先に行っててくれ。持病の発作で目が見えないんだ。
 少し休めばすぐに治る――具体的には後三十分くらいだな……」
>「はあ、マジかよ。ま、了解。どうせお前さん本選乗り気じゃねェんだろ。
任せとけや、俺の素晴らしい芸術的肉体魅せつけて買ってきてやるよ。
見せ筋じゃあないが筋肉には自信あるしよ」
持病の発作と聞いてピンと来た。オレと同じ類の邪気眼的ロマン溢れる持病に違いない。
そういえば最近少しマシになってきたような気がするのは何故だろう。
「――分かった。それ以上言わなくてもいい。それはそうとゲッツ、ボディビル大会じゃねえよ!?」
衣装の良し悪し以前に何故か脱いでいらっしゃるゲッツに突っ込む。
が、もちろんそれで服を着るはずもなくそのまま街に繰り出してしまった。
こういうジャンルのファッションのつもりらしいが、少なくともオレとコンビを組んでいるようには見えない。統一感皆無だ。
しかもギャラリー達に筋肉見せびらかして上機嫌、ノリノリでポージングまでする始末。
主役のオレを差し置いてがっつり目立っていらっしゃる――!
昨日物凄く感動的な事を色々言ってくれたような気がするのは夢だったのか!?
「恥ずかしいから他人の振りしようかな……っていきなりモーゼすな!」
撮影会に飽きたらしいゲッツが睨みをきかせると海が割れるように道が開ける。本当に便利な能力である。
お蔭で程なくして中央ドームに辿り着く。

47 :
>「最初の相手は――、はァン? バンド、か。
名前は――King-Show、か。聞いたことはあるけど、どうしたもんかね。
因みにパフォーマンスはあっちが先らしいぜ。俺とお前でどうするよ、喧嘩してくれそうにはないけど?」
残念な事に、というべきか案の定と言うべきか、ヘッジホッグは来そうになかった。
が、人数の少なさは楽器演奏の面では何ら問題にはならない。
超高性能魔導シンセサイザーたるモナーはレジストレーション機能完備、あらゆる曲の情報が記録されている。
つまり一人で全パート演奏できるってこと。とはいってもやはり見栄えの派手さにおいて人数は多いに越した事はないのだが……
「後攻か、ラッキーだな!」
普通のチームは今日のために特訓したとっておきの曲を出してくるのであろうが、オレ達は歌う曲すら決めていない体当たりっぷり。
しかしそれは裏を返せば生粋の楽師たるオレにはいつでも歌える持ち曲が膨大にあるという事で、ゲッツとの間には霊的連結という都合のいい能力がある。
ならば相手の出方を見た上で選曲できる後攻が断然有利だ!
対戦相手のパフォーマンスが始まった。
似非宗教を揶揄する「僕の宗教へようこそ」
何か深い意味がありそうで分かりそうで分からない「イワンのばか」
とにかくダメ人間を連呼する「踊るダメ人間」
歌はよく言えばヘタウマ系、歌詞だって幻想的に美しいわけでもスタイリッシュに格好いいわけでもない。
それにも拘わらず熱狂する観客達。こんなのアリ!? 歌唱力では断然こちらが勝っている、だけど強敵だ――そう確信する。
最高が最愛とは限らない、だけど最愛はある意味最高よりも難しい物だ。
いや待て、今回の大会は必ずしも最”愛”を目指す必要も無いんじゃないか!?
ここでルールをもう一度思い出してみよう。
観客達をより感動、つまり感情をより大きく動かした者が勝ち、そしてその感情の種類は問わない――
必ずしもプラスの感情じゃなくてもいいという事だ! それに気付いた途端、一気に勝機が見える。
「ゲッツ、やっぱりオレには最愛なんて無理だけどさ……お前がファンになったオレを見せつけるから!
もし空き缶投げられても許してな! 歌詞はナンシーがカンペ出すから宜しく!」
モナーが二つに分裂しつつ変身。
オレはキーボード型シンセサイザーを構え、ゲッツには主にビジュアル的な意味でギターを持たせる。
そしてオレ達のターンが始まった。まず一曲目。
「辛い時 悲しい時 人はそんな時 心の隙間に闇が出来る
その心の闇に 魔物達は容赦無く 入り込んでくるのだ
だから 苦しくても 挫けるな 落ち込むな くよくよするな
何事にも 屈しない 強靭な心こそが 最強の武器なのだから!」
胡散臭いカルト宗教大いに結構! だけどやるからには助けを求める奴をきっちり救ってみせろ!
という訳で神妙不可侵にして胡散臭い男が世の闇を祓う「レッツゴー陰陽師」。
続いて二曲目。真ん中にダークな雰囲気の曲を挟むことでギャップを演出。
「さぁ 歌いましょう 踊りましょう  パラジクロロベンゼン
さぁ  喚 (わめ)きましょう 叫びましょう パラジクロロベンゼン
犬も 猫も 牛も 豚も みな パラジクロロベンゼン
さぁ 狂いましょう 眠りましょう 朽 (く)ち果てるまで さぁ」

48 :
何か深い意味がありそうでよく分からない厨二病ソング「パラジクロロベンゼン」。
そしていよいよ三曲目、一回戦のメインディッシュ。
二曲目とは打って変わって、びっくりするほどユートピアなハッピーサマーソングだ!
「38℃の真夏日 夏祭り こんな日は  ガンバンベ! 踊れ ミツバチ(Hey!)
ブーン ブンシャカ ブブンブーン 行き先イケメン ハイビスカス
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン リズムに合わせて羽上下行くぜ
ブーリ ブリチャカ ビガッ ビガッ そこどいて ちょっとどいて 行かせておくれ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン 打ちのめされても猛アタック(オーレ)
胸ドキドキ ワクワク 体ノリノリ♪ お尻ふりふり エンジンブンブン 良い気分
スッゲー 情熱あっから  ゼッテー誰にも渡したくはねー ダッセー飛び方でもいいから 上へ飛べ デッケー夢持って
超マニアック 特攻隊長 本日も絶好調 続いて キャプテン飛びだして “針出せ Let's Go!”
花畑に 舞い踊る 蝶々には なれない でも少しだけでもいい 甘いミツを ちょうだい
ガンバンベ! 踊れ ミツバチ(Hey!)
ブーン ブンシャカ ブブンブーン 高嶺の花でも関係ねえ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン 草食系とかマジ勘弁
ブーリ ブリチャカ ビガッ ビガッ 誰かがテンパりゃ助けに行くぜ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン ごめん 凹んだら 慰めて(オーレ)」
そう、その昔「音が出るフリスビー」等と揶揄されアマゾンのレビューを大炎上させたという伝説的楽曲、「ミツバチ」である。
しかし何の印象にも残らない単なる駄曲が寄ってたかって馬鹿にされようか、いや話題にすらならない。
敢えて言おう、それ程の旋風を巻き起こしたこの曲は間違いなく名曲だと!
そして観客の感情を方向性問わず動かした物勝ちの今回のルールの下ではこれ以上ない選曲と言えよう。
「ボス 父ちゃんが言った 仲間はずっと宝だから
女王 母ちゃんが言った その人守りなさい」
ひたすら賑やかなこの曲の中で一か所だけ優しく語りかけるようなフレーズのサビを歌い上げる。
意味の無い勢いだけの電波ソングと言われがちだが、王道少年漫画のテーマ曲にしてもいいと思うのはオレだけだろうか。
サビを超えるとといよいよクライマックスだ。
「Shake your body Move your body 真夏のバカンス バウンス
だんだん Nice Dance オエオエオー スッゲー 情熱あっから  ゼッテーあのミツ持ち帰ろうぜ
ダッセー飛び方でもいいから 上へ飛べ デッケー夢持って!」
盛り上げるだけ盛り上げて収拾付けずに投げっぱなしのような終わり方は仕様!
これ以上無いドヤ顔でポーズをキメる。

49 :
天井から降り注ぐ発光が煩わしい。
ドーム内に充満する勇み足な熱気と喧騒が頭痛を加速させる。
――不意にドームを震わせる歓声。賭博師が頭を抱えた。
「……苦労させられるのは、俺の方だったか?」
十連積みにされたアンプが吐き出す轟音が賭博師の脳内を激しくシェイクする。
観客共の熱狂的な声援とジャンプ――軽い目眩さえ覚えた。
「ただの人にしちゃあ、かなり良い線行ってるんだろうが……」
あの精霊楽師には勝てないだろう。
アイツの歌声はまさしく『魔性』だ。
人の領分から外れた天賦の才――人が巨人に力比べで勝てない様に、アイツには勝てない。
『さぁ 歌いましょう 踊りましょう  パラジクロロベンゼン
 さぁ  喚 (わめ)きましょう 叫びましょう パラジクロロベンゼン
 犬も 猫も 牛も 豚も みな パラジクロロベンゼン
 さぁ 狂いましょう 眠りましょう 朽 (く)ち果てるまで さぁ』
精霊楽師が招く感情――困惑と未知。
決して優れた曲ではないと分かっているのに、魔を帯びた声に心を揺さぶられる。
つまり屈服だ。神が見えざる手で人の頭を垂らさせる事に等しい。
本人にそんな意図はまるで無かっただろうが――偶像が纏うには確かに相応しい衣装だ。
「……やっぱり俺が出る幕は無かったな。この分なら次も――」
どうせ勝ち抜くだろう。最後に当たる相手も分かり切っている。
俺はただ決勝まで、ドームの外で一服でもしていればいい。
ステージに背を向けて出口へ――ドームを去る直前、背後で響く鮮烈な炸裂音。
とっさに振り返る――Bブロックのパフォーマンスが始まっていた。
ステージで踊る極彩色、魔力の燐光――その中央に舞い降りる三人の少女。
人外種――じゃない。魔力を感じない。ただの人間だ。
天上の星が地上へと降り立つかの様な幕開け。
今日一番の歓声が湧き起こる。最初に演じたロックバンドの時よりも――
――魔性の声を持つ精霊楽師の時よりも、更に大きな情動の渦が生まれた。
微弱な魔力を用いた花火と、それを目眩ましにしたワイヤートリック。
着地と同時にすかさず振り撒かれる、手を振りながらの笑顔。
たった二つの演出とプロの精神が、魔力も世界も持たない少女達を、星に至り得る偶像へと押し上げていた。
賭博師は無言でパンフレットを開く。
次の対戦相手は――まず間違いなく、決まりだ。
人間三人のアイドルユニット。
ボーカル、ダンス、ビジュアル、それぞれに特化した三人。
それらを一つに纏める事で、チーム単位で完璧なアイドルを作り上げている。
「……腕のいい裏方がいるな。下手すりゃ討伐されちまうんじゃないのか。
 『魔性』ってのは――光を際立たせるには丁度いいもんな」
精霊楽師の次のパフォーマンスまでは、まだ時間がある。
賭博師はドームを出た。依然として頭痛は止みそうにないし――
――少しは手を貸しておかないと、後で金儲けをしそびれても困るからだ。

50 :
回ってきたのは己等の番、先の歌によって場の雰囲気は確実に暖められていた。
だが、その暖気はゲッツ達のための熱ではない、大切なのはこの狂熱の色彩を、以下にして己色に染め上げるか。
己の身体の古傷からうっすらと発光を漏らしながら、竜人は口の形を弓へと変じさせていた。
傍らには己の友。そして、この都市で己等と行動を共にすることとなった者の気配も感じていた。
故に、いつも通りでは有るが不安はない。有るのはいつも通りに、未知への興味と興奮だけだ。
>「ゲッツ、やっぱりオレには最愛なんて無理だけどさ……お前がファンになったオレを見せつけるから!
>もし空き缶投げられても許してな! 歌詞はナンシーがカンペ出すから宜しく!」
隣の吟遊詩人が放り投げてきたギターを受け取るゲッツ。体格が良いため、この手の長物は良く映える。
初めて持ったはずの楽器は不思議とゲッツの手に馴染み、心臓が刻むリズムのパルスと同期したような感覚を得た。
その感覚に不快は覚えなかったため、ゲッツはにたりと笑んで足元の小柄を見下しながら。
「任せなァ……、空き缶位なら方向一発で粉微塵だからよォ! ゲヒャヒャヒャハ!!
油断せずに――、だが楽しみながら駆け抜けろや、踊る馬鹿のが俺ァ好きだからよォ!!」
いつも通りの馬鹿笑い、そして普段からフォルテに背を押されて闘うお返しのように、今はゲッツがフォルテの背を押した。
今日の戦い≠フ前衛≠ヘ吟遊詩人。歌も楽器も達者でない竜人は、応援の心だけを携えて背を押すことしか今はできない。
だが、それでいい。そういう戦いも、竜人は嫌いではなかったから。
そして、癖が有ろうが己のチャート一位のスターの歌を、一番近い特等席で聞けるのだから、文句など有ろうはずが無い。
故に、おもいっきり背中を押して吟遊詩人を舞台に押し出して、ゲッツもまたその巨体を揺らしながら壇上へど躍り出たのだった。
――身体が勝手に動く。
心臓のリズムに合わせて、指が勝手に動き勝手にコードにそってメロディを奏で始める。
効果的なハーモニクス、アーミング、ハンマリング。吟遊詩人を食わない程度に、しかし確固とした存在感がそこにある。
歌のメロディに心が踊る、心が沈む、心が狂う。これが、歌か。魂を震わせる音色を間近で効く竜は笑った。
(――人のことァ言えねぇが、こいつも我が強ぇ……! だが、こういうヤツじゃねェと、詰まんねぇのよなァ……!
どーせなら、合わせてくか――――なァ、相方よぉ?」
にぃ、と視線をフォルテにずらして、竜人は目を瞑って最後のメロディに集中していく。
心臓の鼓動に合わせて魔力を送り出していき、ギタの音色と心臓のリズムを呼応させていく。
次第に音色に竜の魔力が混ざりだし、妖精と竜と人の魔力が入り交じる、音と魔のカクテルがそこには生まれた。
竜種の威圧が帰って抑圧の反動としての興奮を生み、感覚の熱狂は帰って加速を進めていく。
最後のボーカルとギターの余韻が収まり、静寂。耳に入る音は失われたにも関わらず、心にはまだ音が残る。
数秒後、観客たちから響き渡るのは、馬鹿みたいな笑いと、馬鹿みたいな歓声。
盛り上がりという一点だけに関して言えば、先ほどの比ではないと思われる。
結果発表は10分後。結果は、言うまでもなかったろう。フォルテ達の圧勝であった。

51 :
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
一方その頃、ドームの外。
一人の賭博師が居た。まだドームの中は熱狂冷めやらず。
外を歩く人影は少なく、閑散とした模様で。
一人歩くその賭博師の前に、フリルをふんだんに使った衣装が目立つ異種が居た。
ディミヌエンドだ。
死霊を携え、無数の精霊を歌詞の無いハミングで躍らせる様は、異質なもの。
支配といった色彩が強い彼女の表現は、ことコンクール等といった評価が求められる場では強いものだ。
精霊を従属されるハミングはふと止んで。双眸は細められて賭博師を見据えていた。
>「……腕のいい裏方がいるな。下手すりゃ討伐されちまうんじゃないのか。
> 『魔性』ってのは――光を際立たせるには丁度いいもんな」
「おや、ごきげんよう。チーム……なんでしたっけ、あまりにも卑小過ぎて記憶にありませんでした、申し訳ないです。
どうやら運良くここまでやってきたようですが――、私達の居場所は当然のように決勝。
あなた達は私達に触れることすら出来ず、上り階段の半ばで死ぬことでしょうねえ。
次のアイドルユニット……、確か名前は『プロジェクト・フェアリー』、でしたか。あなた方を叩き潰すには十分な実力でしょう。
ま、私達が相手ならば――申し訳ないことに敵ではないのですが、ねえ」
丁寧すぎるほどに丁寧な口調だが、慇懃無礼な発言が口を次いで出てくるディミヌエンド。
一人ならばこのような振る舞いは出来ない。なにせ、いくら歌が達者で強力な精霊行使ができようと、近づかれればたやすく負けてしまう身の上だ。
しかも、現状ジャックの姿は見当たらない。という事は、他の護衛か何かが居ると考えるのが適当なのだろう。
「……ああ、もしここで私を闇に葬ろうというのならば辞めておいたほうが良いでしょう。
今回のユニットには私のスポンサーも共に参加しているのですけれど……、彼は一段居場所の異なる相手ですから。
でしょう、マモン=H」
青い髪と青い瞳をしたスーツ姿の男が、居た=B
最初からそこに居たのだ、恐らく。それを誰にも完治されていなかっただけで。
青い男はにたりとした笑みを浮かべて、賭博師に一例をする。
「やあ。ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー」
気さくに笑う男は、青く輝く瞳をヘッジホッグの視線に絡めていく。
見るだけで、声を発するだけで。何かを掴み掠め取るような卑しさと異様な魅力を感じさせる存在感。
紛れもなくこの男、アイン・ソフ・オウルだ。それも特級の。
しかし、敵意はない。むしろ有効的な感情すら感じさせてみせた。
「敵対の意志は今はない。ただ、俺はお前らに勝ち進んで欲しくて、なあ?
すこしばかり発破を賭けようと思ったわけだ。……あの吟遊詩人に伝えておけ。
お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、と。そこで知るだろう、真実を――とな。
以上。俺は必要以上に俺のものを開帳するのは好まないからな。帰るぞ、ディミヌエンド」
「……はい」
一方的に言葉を投げかけると、興味を無くしたのか後ろを向き歩き出す二人。
ふと思い出したように、強欲はにたりと笑い。
「お前からは良い匂いがする。良い素質だな。
あとはそれに従うか、それに抗い続けるか。何方にしろ俺にとっては良い見世物だ。
期待してるんだよ、お前らには。精々足掻け、美味しく頂いてやるから」
そう言うと、次の一歩で二人は姿を消した。
空間の残り香を消し去るように、風が吹き荒んでいた。

52 :
一方、ドーム内では優勝者の発表が行われようとしていた。
フォルテ達の圧勝、誰しもがそう思っていた。
――しかし、現実は違った。
「それでは結果を発表致します。優勝は…」
祈る人、期待する人、目を輝かせ結果を待ちわびる人たち。
会場は一瞬で期待と緊張の空気で満たされた。
そして審査員が手を伸ばし、結果が記載された紙を開く。
「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」
――え?
審査員の声が会場で反響する中、会場の観衆は驚きというよりも、皆、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で、
次第にその理解が追い付かない現実に、言葉にならない声となって各々の口から漏れだし、
それは徐々にざわつきの波となって会場中に押し寄せていった。
――誰?
――知ってる?
――読み間違えたんじゃ?
――フォルテじゃないのか?
――マジかよっ…

53 :
合奏の際に最も重要なパートはどこかといったら殆どの人がメロディと答えるだろうか。
確かに完成された演奏において最も目立つ花形パートであり、その認識は間違っていない。
しかし演奏が完成するかの鍵を握っているのは、リズムを刻むドラムと尤も低音を担うベースなのである。
つまり何が言いたいかというと主役が主役たり得るのは一歩引いた位置で支える土台があってこそってこと。
ゲッツのほうを一瞬見ると、視線が合った。
>(――人のことァ言えねぇが、こいつも我が強ぇ……! だが、こういうヤツじゃねェと、詰まんねぇのよなァ……!
どーせなら、合わせてくか――――なァ、相方よぉ?」
本来調和しあう協和音のみで作られた曲は文句なく綺麗だけどシンプルすぎて物足りない、と思わない事もない。
背筋がゾクゾクするような美しさは本来溶け合わない音同士が溶け合った時に生まれるものなのだ。
例えば今隣にいるのがいかにもオレと組んでそうな美少女だったら――そりゃあ文句なく綺麗だけど詰まんなかっただろうな
溶け合う異質な魔力、妖精の奔放さに竜の重厚感が隠し味として加わり、爆発的な熱狂を生み出す。
世界の全てと繋がれそうな、森羅万象を手に入れる事だって出来そうな錯覚を覚える。
ずっと歌を歌ってきたけどこんなのは初めての感覚だ――
演奏が終わり、歓声を全身に浴びながら隣を見る。行ける、こいつと一緒なら。
ありがとう、お前がいるからオレは歌える――なんて言えるはずもなく。
口を開けば軽口しか出て来ない。
「何だよ、思ったより上手いじゃん!」
♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

54 :
>「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」
10分後――勝利を確信していたオレ達は面喰った。
でも相手ってそんなチーム名だったっけ。明らかに違うよね!?
「ちょっと待て! 対戦相手もそんなチーム名じゃなかったぞ!?」
「し、しかしこの紙にそう書いてありますので……」
「ふむ、確かにそんなチームは参加してませんね……」
「と、いう事はつまり……」
「紙が何者かによってすり替えられた模様です!」
ざわめきの中、眼鏡をかけた小学生が立ち上がり推理を披露し始める。
「犯人はこの中にいる! じっちゃんの名に懸けて!」
「じっちゃんは作品違うし微妙に使いどころ間違ってるし!」
「小学生は引っ込んでなさい。紙はBブロックのパフォーマンスの間に探しておきますので」
「紙がそんなに重要か!?」
そんなgdgdな感じで、Bブロックのパフォーマンスが始まる。
派手な演出に思わず感嘆の声が漏れる。
その上、今回の大会の趣旨を正しく汲んでいる正統派アイドルユニット。
趣旨を完全無視したグループがひしめき合う中では間違いなく有利そうだ。
「すげえ! オレ達もあんなんやらないとダメかな!?」
でもゲッツに派手な登場をしろなんて言ったら何かを破壊せずにはすまないだろう。それはまずい。
近くでは、Bブロック後攻らしい二人組が騒いでいた。確かチーム名はミカエル&レオン。
長い緑髪をツインテールにしたエルフ娘と、ヘッドホンを付けた金髪少年風魔族というコスプレっぽい二人組である。
「魔王様、初戦から見るからに強敵ですね。大丈夫でしょうか……」
「案ずるなエル、私が3日3晩かけて作った”ファイナル幻想即興曲”で楽勝だ!
幻想即興曲をファ○ナルファンタジーのバトル風にアレンジしようなんてまさか誰も思うまい!」
いわゆる漫画等で言う所の”主人公達のチームと対戦せず脱落していくその他のチーム”のオーラ全開だった。ご愁傷様です。

55 :
「テメェ等、下手糞な演奏してんじゃねぇぞ!!」
そしてBブロックのパフォーマンスの最中に
伝説のインディーズ界でカリスマ的人気を誇る悪魔系デスメタルバンド
メンバーはヨハネ・クラウザーII世 (Gt,Vo) 、アレキサンダー・ジャギ (Ba,Vo) 、カミュ (Dr) の3人
DMC(デトロイト・メタル・シティ)が電撃参戦し、そのファン達も他のアーティストとの小競り合いや
場外乱闘を平然としながら突如混沌とした状態と化していた
そんな中、特に数々の“伝説”が熱狂的信者によりでっち上げられこの宇宙すら作った事にされてしまった
クラウザーII世こと根岸 崇一(ねぎし そういち)は
本来は心優しい青年ながら、このような状況を内心苦々しく思いつつこの騒動を何とか止めたいと考えていた
「(大変な事になっちゃったよ〜どうしよう!)」
何とかこの場を諌める方法を考えていた。
この青年やはりヨハネ・クラウザーII世として歩む道は前途多難であり
そして生まれ持ったなにかがあることには間違いない
そして彼だけは無く、此処にはメジャーデビューによりミュージシャンとして潜入している
山崎まさゆき―淫夢ファミリーが潜入していた。
その目的は何なのか、それははっきりしないが
何かの出来事の火種となりうる事は想像は容易い
これから波乱万丈なBブロックは始まりつつあることを
エスペラントと静葉達は何も言わず見ていた

56 :
一方その頃、大会運営委員会事務所には、よからぬ話を交わす人物たちの姿があった。

57 :
>>41
「天位を狙えるだと?、生憎分の悪い賭は、必要時以外しないんだ。」
ふっ、と笑い、元の世界へ戻る。
と、終わった直後テイルが、なんか一緒に観戦・・・もとい警備を強要いや、依頼してきた。
「ああ、別にいいけど、これなんとかなるか?」
と、見せたのは、グロくてハッキリとお見せできないぐらいヒドい真っ黒な、右手
「これなんとかならないと、これ以上、戦闘は・グフッ」
口から血を吐き出しながらそう伝える。
「こいつは、アインソフオウルの効かない、呪い、天の能力使おうとしたら、失敗した。」
「どうすればいい?」
今にも、アサキムは、ぶっ倒れそうだ。
どうする、テイル!

58 :
『おや、ごきげんよう。チーム……なんでしたっけ、あまりにも卑小過ぎて記憶にありませんでした、申し訳ないです。
 どうやら運良くここまでやってきたようですが――、私達の居場所は当然のように決勝。
 あなた達は私達に触れることすら出来ず、上り階段の半ばで死ぬことでしょうねえ』
「……ご挨拶だな。もっと可愛げってモンを身につけたらどうだ。
 そんなんだから半透明じゃないお友達が出来ないんだぜ。
 ――ママはそんな事、教えてくれなかったか?え?」
降り注ぐ人工太陽光、飛散する死霊の気配、加速する頭痛――導かれるのは無遠慮な毒言。
『次のアイドルユニット……、確か名前は『プロジェクト・フェアリー』、でしたか。あなた方を叩き潰すには十分な実力でしょう。
 ま、私達が相手ならば――申し訳ないことに敵ではないのですが、ねえ』
「だろうな――そこまで分かってるなら、俺が暇じゃないって事も分かるだろ。
 コミュニケーション能力診断テストは赤点だぜ。次回の実施日は未定だ。さぁ、どけ。
 そのフリル、心底似合ってないが……パラシュート代わりって訳じゃないんだろ」
賭博師が黒の楽師を押しのけようと右手を伸ばし――足が止まった。
予感がした。このまま右手を突き出せば間違いなく、良くない事が起きるという予感が。
『奴』に近しい性質を持つからこそ僅かに知覚出来た。
『……ああ、もしここで私を闇に葬ろうというのならば辞めておいたほうが良いでしょう。
 今回のユニットには私のスポンサーも共に参加しているのですけれど……、彼は一段居場所の異なる相手ですから。
 でしょう、マモン=H』
真正面に男が立っていた。賭博師とは対極の蒼髪、賭博師と同じ蒼眼。
蒼い燐光が賭博師の眼から、体から、意図に反して横溢する。
『やあ。ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー』
「……よう、久しぶりだな。元気にしてたか?
 最後に会ったのは何時だったか……三万年ぐらい前だったか?」
投げ遣りな返答――まともに相手にするつもりはないという意思表示。
或いは圧倒的力量差を前にした、せめてもの強がり。
『敵対の意志は今はない。ただ、俺はお前らに勝ち進んで欲しくて、なあ?
 すこしばかり発破を賭けようと思ったわけだ。……あの吟遊詩人に伝えておけ。
 お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、と。そこで知るだろう、真実を――とな。
 以上。俺は必要以上に俺のものを開帳するのは好まないからな。帰るぞ、ディミヌエンド』
「俺だってタダでメッセンジャーごっこをする趣味はないんだがな。
 ……まぁ、代金の方はアイツから取り立ててやるとするさ」
勝手に立ち去ってくれるなら僥倖だ。引き止める理由はない。
舌打ちを一つ鳴らし、抑えの効かなくなった蒼眼を指で抑える――
「――まだ何か用があるのか?帰りの運賃でも貸してくれってか」
不意に立ち止まった強欲の背を疎ましげに睨む。
睨むと言うより、目を逸らせないの方がより的確ではあるが。
『お前からは良い匂いがする。良い素質だな。
 あとはそれに従うか、それに抗い続けるか。何方にしろ俺にとっては良い見世物だ。
 期待してるんだよ、お前らには。精々足掻け、美味しく頂いてやるから』
「……あぁ、そうかい。ソイツはありがとうよ、ナルシスト」
強欲が去り、数呼吸かけて賭博師は蒼光を抑える。
ようやく平常に戻った頃には、もう気配の残滓は飛散し切っていた。

59 :
「――お礼に一つ、教えてやるよ。
 この事は誰も気づいちゃいないだろうが……実はお前が呼んだ名前は偽名でな」
誰もいない虚空へ向けて賭博師は語る。
皮肉を吐く様に、諧謔を弄する様に。
「本当の名前は、まぁ幾つかあるんだが――――『マモン』って言うのさ」
告白は誰の耳にも届かず、風が奪っていった。
「さて……余計な時間を食っちまったな。さっさと用を済ませ――」
『――やっと見つけましたよ!こんな所で油売って!
 二回戦にはちゃんと出てもらいますからね!』
不意に頭上から降り注ぐ声――音飛び詩精が夏に群がってくる羽虫の様に近寄ってくる。
随分と都合のいいタイミング――ではなく、恐らくは。
「……お前、アイツらが何処かに行くまで待ってたな?」
露骨に狼狽える詩精――図星だったらしい。
「まぁ……丁度いい。チャラにしてやる代わりに一仕事してきてくれ」
白紙のカードを一枚創り出し、メモ代わりにして渡す。
「そこに書いてあるように働け。経費はアイツにツケとけばいい。
 考えてみれば、俺がアイツらの為に走り回って自腹を切る義理はないからな。
 だがお前にはそれがあるだろ。そら、少しは役に立てよ。行ってこい」

……
『テメェ等、下手糞な演奏してんじゃねぇぞ!!』
ドームの中から酷い喧騒が溢れてくる。
「悪いな。変な奴らに絡まれちまってね――
 ――準備が終わるまで、もう少し時間を稼いでくれよ」
賭博師の手中には数枚のカードがあった。
竜人から抜き取っておいた『自己顕示欲』のカード。
他人に挿し込んでやれば、ちょっとした騒ぎを起こさせるくらいは容易い。
エントリー用紙のすり替えに続くアクシデントに、大会運営は随分と手間取ったらしい。
二回戦が始まったのは、賭博師の頭痛が完全に鳴りを潜めた後だった。
先攻はプロジェクト・フェアリー。
登場の仕方は至って普通。
『ねえ 消えてしまっても探してくれますか?』
奇を衒う事をやめてきたか――それとも、温存か。

60 :
『きっと忙しくてメール打てないのね
 寂しい時には 夜空見つめる
 もっと振り向いてほしい 昔みたいに
 素直に言いたくなるの』
プロジェクト・フェアリーは三位一体の完璧な偶像だ。
各々に得意分野はあるが、皆が総合的に高い能力を誇っている。
複雑なメロディラインを正確になぞり、激しいダンスを併行して踊りこなすセンスがある。
『ねえ 忘れられてるフリすれば会ってくれますか?
 待ち続ける 私マリオネット
 貴方と離れてしまうと もう踊れない
 ほらね 糸が解れそうになる
 心がこわれそうだよ――』
一曲目は悲愛の歌。
終わってしまった愛に縋る脆さを綴った歌――誘う情動は、庇護欲。
曲が移り変わる。
『あなたがとても好き!他の人が見えないくらい!
 どこにでも連れて行って!二人だけの夢を見ようよ
 ストレートラブ!ストレートラブ!』
曲調と歌詞が一転して明るくなり、歌声もそれに準じて変化する。
二曲目は恋の歌。
真っ直ぐで限りのない恋愛感情を歌う――呼び起こすのは恋慕の情。
『ホントのこと言うと 前は知らなかった
 こんな素敵な人 近くにいたことを
 「もう恋なんてしない」なんて
 言った私が別の人みたいだよ
 それぞれの生き方 してきたのに不思議な気分
 これからは二人で 同じ道を歩いて行くよ
 ストレートラブ!ストレートラブ!』
ソロパートが始まる。
一人を壇上に残して、残る二人は――客席へ。
視線をステージへ強く集中させた後でのサプライズ――魔力要らずの魔法の演出。
『いつまでも愛したいな こんな思いは初めてかも
 あの日もし会わなかったら 大きな幸せ逃してたよ
 それぞれの生き方 してきたのに不思議な気分
 これからは二人で 同じ道を歩いて行くよ
 
 あなたがとても好き!他の人が見えないくらい
 どこにでも連れて行って!二人だけの夢を見ようよ
 これからも私をよろしく!』
二曲目が終わった。
最後の曲は彼女達の代表曲。
表現するのは苛烈な格好良さ――植え付けるのは、憧憬と羨望。

61 :
一連のパフォーマンスを見て、賭博師は直感する。
プロジェクト・フェアリーは次の対戦相手を――精霊楽師を見てはいない。
全く方向性の異なる感情を、完全に表現する――それは、あの黒の楽師の領分だ。
三人掛かりで同じ事が出来れば、アイドルとしてのパフォーマンスの分、上を行ける。
そういう魂胆だろう。
「……要するに、通過点扱いって訳だ。舐められたモンじゃないか、え?」
先攻のパフォーマンスが終わった。
精霊楽師がステージに立つ。
「見返してやれよ、楽師。アイツら……仮想ラスボスには持って来いだろ」
客席の最後尾――賭博師が右手を掲げる。指に挟んだカードが光を規則的に反射した。
それが“合図”だ。
音飛び詩精に任せた仕事が決行され――刹那、ドームの中に夜が訪れる。
賭博師の任せた仕事その1――“照明関係の配魔盤に、カードを差し込んでこい”。
「星になって来い。今なら羽が生えようが、空を飛ぼうが――全部演出で済ませられるさ」
言葉と共に、ステージの上へカードを投擲――魔力の燐光がその軌跡を可視化する。
強欲から預かったメッセージをそのまま記した最後の一押し。
ビビってる場合じゃないと分からせてやるには、十分過ぎる。
人工の宵闇は、そう長続きはしないだろう。
予備の魔力源に配線が切り替われば、照明は再び光を放つ。
詩精がちゃんと仕事をこなしさえすれば――七色の光を。
賭博師の任せた仕事その2は――“魔力が復旧されるまでに、照明にフィルムを被せろ”。
失敗するとは思っていなかった。あの詩精は、意地でもやってのけるに決まっている。
少しは役に立て――あの一言は、音飛びにとっては酷い屈辱だったに違いないからだ。

62 :
>>57
>「ああ、別にいいけど、これなんとかなるか?」
アサキム導師が見せたのは、モザイクがかかった右手だった。
>「これなんとかならないと、これ以上、戦闘は・グフッ」
>「こいつは、アインソフオウルの効かない、呪い、天の能力使おうとしたら、失敗した。」
>「どうすればいい?」
解呪は得意分野だが、このレベルの呪いを解くにはエレメントセプターが必要だろう。
あれはフォルテに渡した、という事は袋係のリーフが持っているという事だ。
そしてこんな時は一流の袋係であるリーフはどこからともなく現れるはずなのだが……
まあいいか、スペアポケットから勝手に取り出そう。
スペアポケットからエレメントセプターを取り出し、解呪の魔法をかける。
「――プリズミックレイ」
七色の光がアサキム導師の右腕を包み込む。
その時、エレメントセプターと一緒にくっついて来たらしい紙がひらひらと落ちた。
【すみません、運営事務所の一室にてホモヤクザに捕まっています】
「えっ」

63 :
私は大会運営事務所の一室にて監禁されているのでした。
「我が淫夢ファミリーの一員である山崎まさゆきになんとしてでも優勝してもらわねばならん。
貴様に裏方として手腕を発揮されては困るのだよ。悪いが足止めさせてもらう」
「こんな所にも事務所があったんですねえ」
「事務所はどこにでも現れる。俺が事務所と思えば事務所だからな」
「ところであれはなんですか? 何かばねとか飛び出てるんですけど…」
部屋の隅に置いてある変なガラクタのような装置を指さします。
「聞いて驚け、厄災召喚装置だ!
ローファンタジア跡から部品を拾い集めて適当に組み立ててみた。
山崎まさゆきが負けそうになったら使う!」
「それまずいですよ! 変なの出てきて世界終了になったらどうするんですか!?」
「うむ、もうすでに変なのが出たかもしれん!
だがそのような些事は我々の壮大な野望の前ではどうでもいい事……。
我が淫夢ファミリーは必ずや美しき淫夢帝国を創り上げるのだぁああああ!
星の巫女となった山崎まさゆきを足掛かりとしてな……!」
もうツッコミどころが満載すぎて呟くしかありませんでした。
「悪夢だ……!」

64 :
異質と異質の相乗効果で熱狂を生み出した後、慣れない繊細な動きで疲れた手指をストレッチしながら、予選発表を待っていた。
疑うことはない。あの感覚であれば、勝つのは当然とすら言える。
だからこそ、ふんぞり返ったままいつも通りの態度の大きさで席に座っていたのだが――――。
>「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」
>「ちょっと待て! 対戦相手もそんなチーム名じゃなかったぞ!?」
「はァ、フッざけんなってのォ――!! おいおいおい、切れっぞ、ハッ、ブチ切れっぞ?
切れてないっすよ、とか言わねぇでガチで行くぞ、ア゛ァ!?」
ゲッツ、爆発。
いつも通りのチンピラそのもののガナリ声で、Bブロックや他の参加者たちの鼓膜をピンチに陥らせていた。
2m超の巨体の竜人というだけでもその威圧感は想像するも恐ろしいのだが、更にそれがチンピラだとしたら。
それはもはやどうしようもないだろう。一般ピーポーである担当者はもはや半泣きである。
暫くがなりつつ、なんとかBブロックのパフォーマンスが終わるまで事態は保留という結果となった。
はん、と鼻を鳴らしつつ尻をまた椅子にたたきつけるように座り込み、半眼で他のチームのパフォーマンスを眺め始めるのだった。
>「すげえ! オレ達もあんなんやらないとダメかな!?」
「おー、要するに電流爆破デスマッチな感じで行けばいいんだなァ?
そういうのは得意だぜ? 俺なんか見るからにレスラー系だしな!」
派手、という点では間違っていないし、パフォーマンスという点でも悪くはないが、何から何まで間違っていた。
確かにプロレスは素晴らしい筋肉と、素晴らしい技が織りなす最高のショーの一つ。
しかしながらこの大会はプロレスの大会ではない。DDTやらパワーボムを決めても残念ながらあまり評価はされないだろう。
そうこうしているうちに、なんのかんの有っての第二回戦。
ここを勝ち進めば、このブロックでの予選は終了。
順調に勝ち進んでいったとすれば、次の次が決勝となるだろう。
先攻は、『プロジェクト・フェアリー』。
我那覇響・四条貴音・星井美希の三人で構成された765プロダクションのユニットの一つだ。
それぞれの得意分野を生かしつつ、平均的に高いポテンシャルを持つ彼女らのパフォーマンスは圧巻の一言。
一曲目は『マリオネットの心』。ダンスを得意とする彼らを持ってしても高難易度とされるダンサブルな一曲だ。
しかしながら、そつなくそれをこなし、観客の心を一気に此方へと引き込んでいった。
そして、続くは二曲目。『ストレートラブ!』。
一曲目と比べて遥かに明るく、そして真っ直ぐに感情を吐き出していく勢いある楽曲だ。
曲の振り幅の大きさは、曲の印象をより強く観客に印象づけさせる。
如何にもアイドルな楽曲が、観客の心を揺さぶっていた。
大盛況の中、先攻のアピールは終了。
後攻である、フォルテ達の出番が――――来た。
>「……要するに、通過点扱いって訳だ。舐められたモンじゃないか、え?」
>「見返してやれよ、楽師。アイツら……仮想ラスボスには持って来いだろ」
「――ヒハハッ! 上等ゥ。
任せときな、舐められたままで事を済ませたことはこの方一度もねェんだ。
ぶちかましていこうじゃねェの――なァ?」
ギターをチューニングしつつ、ゲッツは己の魂を励起させていく。
吹き上がる存在感、傷口の光。
いつも通りに何事にも全力で。違う点は一つだけ。
背中を押すのが、この竜人で、背中を押されるのが吟遊詩人であるという点だった。
そして、パフォーマンスが――――始まった。

65 :
一方。そんな盛況の正逆の場が有った。
「――ック、いやいや、愉快だな、痛快だ。神魔大帝も、頂天魔も、全ては無駄で。無意味よ。
この世の本質が解き明かされ、そして人は絶望を知り、絶望を乗り越えながら前へと進んでいく。
希望もまた一つの欲望。奴らが俺を否定しきれるわけがない。楽しみだなぁ、この後の世界が。
なあ、見たいんだろう。お前はもう一度、お前の愛した精霊の最高の姿を。
見せてやろう、そして俺はそれを奪い取る。なにせ、俺は強欲だからなあ」
控え室。薄暗いその部屋で、青い髪と青い瞳の男は笑いをこぼす。
神魔大帝と同じ顔をしたその男は、しかしあの男とは確実に別人。
淡々と言葉を吐き出す男の視線の先には、老いた吟遊詩人が居る。
ラルゴ・スタッカート。フォルテの父親であり、テイルの夫。
今は記憶を失い、その魂はディミヌエンドの音律で縛られ茫洋とした瞳を晒すだけだった。
その茫洋とした瞳の先には、ディスプレイ。そしてそのディスプレイには、テイルとアサキムが有った。
「……白虎野の娘よ、ああ」
一言、その呟きの感情は、焦がれ。
憧れに心を焦がす、焦がれる程にその心は魅了されていた。
記憶は消し飛んで居る筈なのに、頭のなかで彼女のための歌を紡ぎたくなる。
だが、その意識は、次の瞬間に死霊の鎌で刈り取られることとなり。
(私は、一人。わかっている。でも、それでも。まやかしの家族でも、今だけは)
己の膝の上で眠るその男の頭に手を置きながら、中性的な吟遊詩人は喉から音を吐き、調声を済ませていく。
淡々と、感情など無いただの機械であるように。歌に込められた感情以外に、己の私情は必要ないとばかりに。
ただ只管に、ディミヌエンドは音律を吐き出すシステムへと己を昇華させ続けていた。
(俺は俺の正義を貫くだけ。我の為に無我を振るおう。それが俺の正道だ。
それに――迷いを抱くものを導くのもまた、貫く者≠フ責務故)
そのディミヌエンドに軽く視線を向けながら、竜人は只瞑想を重ねていくだけ。
静寂が、控え室には満ちていた。陰鬱に、沈鬱に。
青い魔力に冒されたその部屋は、様々な感情が綯い交ぜとなっているのだった。

66 :
>「はァ、フッざけんなってのォ――!! おいおいおい、切れっぞ、ハッ、ブチ切れっぞ?
切れてないっすよ、とか言わねぇでガチで行くぞ、ア゛ァ!?」
「わーっ! すみません、すみません! 声量だけでもう暴力沙汰ですけど警察とか呼ばないで下さい!
もう、チンピラじゃないんだから……いやどう見てもチンピラだよ!」
例によって例のごとく頭を下げるオレ。
ちなみにチンピラは昔から天敵である。だって恐いもん!
そんな騒動がありつつ何とか通報される事も無く第二回戦が始まった。
相手は”プロジェクトフェアリー”。
美少女三人組による正統派アイドルユニットというアドバンテージがある上に、歌やダンスのレベルは相当高い。
歌の作風は全て趣向が違うものの、全て恋愛を扱ったものという共通点があった。
なるほど、あれが人々が理想として思い描く”フェアリー”か。
半分本物の妖精から一つ突っ込ませてもらうとすれば、妖精はやれ惚れた腫れたくっついた離れたの忙しい世界に生きてはいない。
そもそも少女のような姿を象った無性種族だ。
もしも恋をしたならそれはきっと人間の尺度からは大きく外れたもので、恐ろしくスケールがでかくて、全世界を巻き込んでしまうようなものだろう
それはもはやあのアイドルソングに謳われているような恋愛というカテゴリーに入らないのではないだろうか。
しかし今重要なのは正解か不正解かではなくウケるかウケないかであって。
本物が偽物に負けるはずはないという気はさらさらない。
むしろよく出来た偽物のほうが本物よりもいかにもそれっぽいというのは周知の事実だ。
それは作られたものの完璧さ、造花の美しさに通じるものがあるだろうか――
「結局ああいうアイドルソングが無難に一般受けするんだよな。
しかも今回の大会の趣旨って一応アイドルオーディションだし。
一回戦は電波ソングに電波ソングで対抗して勝ったしここは捻らずに正統派アイドルソングで対抗した方がいいとおもう。
という訳で二回戦のテーマは“フェアリー”、ケルティックな民族調曲で勝負だ!
本物の妖精の世界観を見せてやろうぜ!」
ちなみに一回戦のテーマは“音の麻薬”コンセプトは得体の知れない勢いで押し切れ!でした!
民族調曲は、某動画サイトでは往々にして「なぜ伸びない」というコメントや
「もっと評価されるべき」などというタグがついているマニアックなジャンルである。
台詞の上三行と下二行が繋がってない、だって? アイドルとは崇拝の対象という意味だ。
草原渡る風に、漣立つ海に、世界を包み込む女神の愛を見る――
それが妖精の世界観であれば、アイドルソングで何も間違ってはいない。
オレ達の出番が来た。照明が落ち、辺りが暗闇に包まれる。

67 :
>「――ヒハハッ! 上等ゥ。
任せときな、舐められたままで事を済ませたことはこの方一度もねェんだ。
ぶちかましていこうじゃねェの――なァ?」
>「星になって来い。今なら羽が生えようが、空を飛ぼうが――全部演出で済ませられるさ」
客席から魔力の軌跡を描きながらカードが飛んでくる。
『お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、そこで知るだろう、真実を――』
「ああ、星になってやろうじゃん!」
ヘッドギアを外し、モナーの一部をスピーカーに変身させて自動演奏させる。
今回の相手はダンスが達者、こちらもまずダンスで掴みだ!
曲はもはや十八番となったアレしかないでしょう!
ダンスのお相手は……プロレスラー体形のマッチョなんだよなあこれが。
「オレが綺麗に舞ってやるからお前はプロレスみたいなノリでいいぜ!
でもうっかりガチで殺しにくるのはシャレにならないから無しな!
Shalll we dance?」
暗闇の中で前奏のコーラスを歌い上げる。
やがて七色の光がステージを照らした時、観客は比喩ではない妖精を見る事になる。
背中には降り注ぐ光と同じ色の翅、手には光の剣を携えて。いつかの戦いを象った舞を踊る。
「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして」
魔力の軌跡を描きながら宙を舞い、霊的ラインがあればこその完璧なシンクロで踏み込み、躱し、切り結ぶ。
「一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ」
最後は時代劇の決闘シーンのラストのように、鏡写しのような動作で斬りかかり交差する演出で締め。

68 :
ステージに降りたち、余韻冷めやらぬうちに次の曲へ。
ステージを照らすライトは、さながら澄み切った海底へ差し込む光だ。
2曲目は”玻璃の海”。手に携えるのは竪琴。
オレは宙を舞う月翅の妖精から一転、玻璃の海に眠り続ける女神へと歌を捧ぐ海精となる――
「とめどなく繰り返す 波の最果てに
この玻璃色の躰 記憶沈み込ませてる
夢の痕揺らめく 鈍の砂に眠り続ける
あまたの哀しみ憂い よろこびの欠片」
もちろんモナーは竪琴型になってもレジストレーション機能完備だ。
寄せては返す波のような伴奏に乗せて、優しくどこか切ないメロディを歌い上げる。
「アムリタを捧げる神の杯に 鐘の音は外つ国の黄昏告げ
海精の竪琴が 水泡に奏でる海神の追憶
時に掻き消された 透き通る宇宙の冥域に
仄白く響いた祈り囚われの碧い面影
砕け散る波間に 浮かぶ昔日の祝福の地
癒されぬ悲しみを ただ月の光が包み込む」
神代の終わりと共に眠りについた忘れ去られた神か。あるいは正義の名の下に封印された異教の神か――
解釈は人の数だけあっていい。それぞれの物語を想像してもらえたなら大成功だ。
波の音が遠ざかって行くようにフェードアウトさせて演奏終了。
続いて3曲目――調和〜Harmonia〜
まさにド直球で精霊楽師が歌うためにあるような歌だ。
「遥かの旅へ 風は空を翔ける 見上げた暁の 彼方へ消える
奪い与え燃えゆく 赤き青き炎 めぐり行く時の輪と 重なり踊る
母なる海へ波は寄せて返す 優しきゆりかごに命は芽吹く
物語は集う 広大な大地へ 豊穣の息吹受け 幾奥の命 煌めく
ハルモニア 生まれゆく 愛しき調べ
ハルモニア 響きあい 輝ける世界を創る 精霊の調べ」
それは四大の精霊へ捧ぐ、惜しみない感謝の歌。
調和のアインソフオウルであった星の巫女をテーマにした本大会においてこれ以上はない選曲だと思う。
決勝戦にとっておかなくていいのか!?ってほど。でも決勝戦で歌う歌はもう決めてあるのだ。
「風吹く道で 旅人は駆けゆく 始まりの種火をその手に掲げ
零れ落ちる雨は 渇きを潤して 地の果てを拓いて 数多なる人が出会う
ハルモニア 求めあい 繋がりゆく 絆を奏で
ハルモニア 止め処なく 溢れ出す喜び奏でる 精霊の奇跡」
恐い程にオレが思っている通りの歌詞を歌い上げる。
もしもオレの歌が喜びを奏で人々の絆を繋ぐことが出来たならそれ程素晴らしいことは無い。
精霊楽師なら誰だってそう、最近まではそう思っていた。
最後のフレーズを全力で謳いあげる。どこかで聞いているであろう憎たらしいアイツにも届くように。
「ハルモニア 生まれゆく 愛しき調べ
ハルモニア 響きあい 輝ける世界を創る 精霊の調べ」

69 :
精霊楽師のパフォーマンスが始まる。
七色の照明が集う所――虹色の羽を広げ佇む特異点。
『月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
 時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
 水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
 今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして』
拡散する魔法の光/魔性の音色――人には届き得ない妖精の高みから降り注ぐ純粋な芸術。
暗闇を切り裂く刃/剣戟の軌跡――楽師と竜人、二人にしか紡ぎ得ない、唯一無二の物語。
『一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
 浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ』
『魔』の持つ力が観客達の心をこじ開け、積み上げられた物語の全てを流し込む。
生粋の表現者――視覚よりも聴覚よりも深く心に伝わる魔力が抗い難い共感を齎す。
「……まぁ、悪くはないな」
素っ気なく呟く賭博師――その眼の色が緩やかに踊る。
蒼から紫へ――強欲から虚飾へ。
己の異変に気付いた賭博師の右手が眼を数秒覆う――色はすぐに、元に戻った。
『とめどなく繰り返す 波の最果てに
 この玻璃色の躰 記憶沈み込ませてる
 夢の痕揺らめく 鈍の砂に眠り続ける
 あまたの哀しみ憂い よろこびの欠片』
曲調が一転して穏やかに――劇的な感情を押し込まれた観客に休息を与える。
平時の性格はどうあれ、ステージの上でならば、あの楽師は一級の支配者らしい。
困惑/闘争/安らぎ/清濁併せ全てを与える――それは王が民に対して為す行いだ。
「……あの黒フリルと同軸上にいるとは――言ってやらない方がいいだろうな。
 だが……これでアイツがステージ上で大ゴケでもしない限り、決勝のカードは決まりか」
王様候補が二人――賭博師の背筋を悪寒が撫でる。
嫌な予感がした。
根拠のない――だからこそ、とびきりに嫌な予感が。
『風吹く道で 旅人は駆けゆく 始まりの種火をその手に掲げ
 零れ落ちる雨は 渇きを潤して 地の果てを拓いて 数多なる人が出会う
 ハルモニア 求めあい 繋がりゆく 絆を奏で
 ハルモニア 止め処なく 溢れ出す喜び奏でる 精霊の奇跡』
「調和……か。出来ればこのまま、予定調和で終わって欲しいもんだが――」
そう都合よく星が巡るとは思っていなかった。
決勝戦――死霊を統べるあの楽師との対決。
良くない予想が一つ、賭博師の心中にはあった。
精霊楽師はヘッドギアを外し、虹の翼を解き放った姿で真の力を発揮する。
その『状態』が――あの死霊楽師には無いと、言い切れるのか。
精霊楽師が力の底を見せて漸く届いた『仮想ラスボス』が――
――あの黒フリルにとってはまだ、余力を残した状態に過ぎなかったら。

70 :
「……追加料金もいい加減、青天井だぜ。
 使い走りは、これで終わりにしてもらいたいモンだ」

……
――決勝を前にして、賭博師は初めて精霊楽師の控え室を訪れた。
「よう……まずは決勝進出おめでとう、だ。
 そんでもって、もう一つ……速達便のお支払いは現金のみとなっております、ってな。
 お前達のお陰で、まともな仕事が絶えなくて助かるよ、本当に」
皮肉げな賭博師の言葉――同時に楽師に歩み寄り、右手を伸ばす。
抜き取られる一枚のカード――超一級の演奏技術。
「借りるぜ、これ。……まぁ、お前ほど使いこなせはしないが」
カードの強さは、それ一枚のみで決まりはしない。
重要なのは組み合わせ――優れた技術も、賭博師ではその全てを引き出す事は出来ない。
「最後くらいは、俺もステージに立たせて貰うぜ。
 ……お前達が負ければ、俺は骨折り損だからな」
この大会では直接的な戦闘行為をパフォーマンスに含めるか否かを、演者が選択出来る。
恐らく黒フリル共は前者を選ぶ。
勿論逃げの手を選ぶ事は可能――だが竜人がいる以上、こちらも前者となるだろう。
パフォーマンスの一環として戦闘行為を行う場合、
一、二回戦の様に先攻後攻に別れる事は不可能だ。
双方が同時にパフォーマンスを始める必要がある。
事前にプログラムを組んで挑めた今までとは違う。
パフォーマンスがいつ終わるかは誰も分からない。
通常の戦闘と同じ様に即応的な演出が求められる。
また、同時進行するパフォーマンスの中で、常に観客の心を掴み続けなければならない。
渾身の歌声も、観客の興味がそちらを向いていなければ、ただの雑音と何ら変わらない。
「……そうだな。決勝の前に一つ、アドバイスをくれてやる。ありがたく聞いとけ」
前触れもなく賭博師が切り出す――敗退チームから無断借用してきたギターを弄りながら。
「前にも言ったが……あの黒フリルは完璧だ。
 俺は正直、今でもお前が勝てるとは思っちゃいない。
 ……おい、コレ、悪いが調律してくれ。演奏技術は借りたが、手入れまでは出来なくてな」
借り物のギターを乱雑に投げ渡し、続ける。
「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
 それこそアイツに負けちまってもだ。
 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」
――俺の人生が正にそうであったようにな。
最後の皮肉は、心の中だけに留めておいた。
やがてスタッフが控え室へ、楽士達を呼びに来た。
薄暗い廊下と舞台裏を抜けてステージに立つ――出迎えるのは眩い照明と怒涛の如き歓声。
決勝戦が、始まる。

71 :
>>62
「くっ、っふう。助かった。」
エレメントセプターのご都合主義魔法のおかげで、何とか一命を取り留められた。
後は、自分で何とかなるはずだ。
「あっ、後。俺は、観戦とかは野球ぐらいしかしないから、passな」
とりあえず、捕まえられないように、さっさと引く。
と言うのは、建前で
「アヤカ、悪いけどさ、」
「はいはい、隠密として、ライブ見てこいでしょ。解ったわ。」
自分は、
(さっきだけど、微弱ながら、マモンの気配がした。何故だ?この町にいるのか。)
確かに、マモンがかけたのろいなら、拘束力が、高まっても不思議ではない。
「とりあえず、リーフ救いに行こうかな?。」
そう思い、適当に散策しながら、リーフ救出に向かう。

72 :
>>71
>「とりあえず、リーフ救いに行こうかな?。」
「そうだね」
という訳で適当に道中でソフトクリームなんて食べつつ、ホモヤクザの事務所にやってきた。
何故大会運営本部の一室にホモヤクザの事務所があるのかはもはや突っ込んだら負けというものだろう。
ホモヤクザのボスことTNOKがボク達を出迎える。
「これは罠よー、来たらいけないー」
棒読みながらも一応様式美に則った台詞を言うリーフ。
「HAHAHA、やはり来たか! 皆の衆、やっちまえ」
TNOKが命じると、どこからともなく下っ端ホモヤクザがわらわらと現れ、ボク達を包囲する。
ホモヤクザ達の手には、何故か縄や蝋燭などの危ない装備。
TNOKが念を押すように部下達に言う。
「あ、分かってるとは思うが女の方はそのままお帰り戴いていいぞ。興味無いから」
「ですよねー」
流石淫夢ファミリー、徹底したホモっぷりである。

73 :
>「オレが綺麗に舞ってやるからお前はプロレスみたいなノリでいいぜ!
>でもうっかりガチで殺しにくるのはシャレにならないから無しな!
>Shalll we dance?」
「ブチ決めてやるさ、演舞もイケメン竜人の嗜みの一つだからなァ! ヒャハハハハハハッハ――――ッ!!」
ステージに上る前に拳をごつん、と吟遊詩人の拳に強引にぶつけ合わせて。
いつも通りに竜人は三下の如き高笑いを響かせて歩みを進めていった。
煌々と輝く鋼色の瞳は、共に舞う相手の姿を決して逃すことはない。
「――シ、ィ」
犬歯と犬歯の間から笛のような甲高い音が一瞬漏れでて、共に場に立つ者の意志を感じた。
どう来るかわかっているからこそ、全力で行っても問題ないことが分かる、究極の予定調和。
背から生まれるのは、気高く輝く銀のフレーム。そしてフレームを繋ぐように深紅の光が皮膜となって翼を生んだ。
しゃがみ込み、地面を蹴る。翼が羽撃く。重力の軛をねじ伏せながら、弾丸のように空へと舞い上がる竜人。
優雅ではない、気品もない。だが、ただただ力強くそして偉容を感じさせはした。
胸元に竜人は己の手を伸ばす。胸元の傷から漏れる、深紅の光。
形無き光を捉えるように右手を握りしめ、鞘から剣を引くように竜人は一気に腕を振りぬいた。
手に握られるのは、光の剣。繊細な虹の刃とは対照的な、豪壮な深紅の大剣だ。
空中で体勢を整えて、構えを取った竜人はいつも通りにふてぶてしく笑みを浮かべる。
(懐かしいぜ、精々楽しもうや……、なァ?
付いてきな、最高の演舞を見せてやっからよォ)
>「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
>時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
>水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
>今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして」
演舞は魅せるものである事をゲッツは忘れては居ない。
それでも、出会いの衝撃、あの剣戟の心の踊りを忘れることなど出来はしない。
だから、己の出来る最高の演舞を示し、それに相手を巻き込むことで、ゲッツはフォルテに挑むこととした。
相手がどこまでも付いてきてくれることがわかるからこそ、一撃一撃、一合一合がより複雑に、そして華美になっていく。
メロディに合わせて響く鍔迫り合いの音、曲調に合わせて空に描かれる色とりどりの魔力のライン。
元来舞踊とは神に捧げるものであったとする説がある。
今此処で展開されているそれは、神に捧げる歌と舞踊の儀式と言っても過言ではなかっただろう。

74 :
>「一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
>浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ」
ゲッツは、思う。ああ、コイツの歌を聞きながら戦うのは、楽しいと。
狂わされようがどうでも良い。獣の魂が大人しいなどむしろ獣の魂に失礼というもの。
これ以上無く心を暴れさせ戦う事の出来る相方はコイツだと魂が叫ぶから、最後の一合でゲッツは浮かべる。獣の笑みを。
「――グッジョブ」
ぼそりと呟きつつ、さり気なくゲッツはサムズ・アップして。
翼を即座にたたむと重力に素直に従って垂直落下。五点当地で衝撃を減らして立ち上がる。
分割されたモナーを持ちながら、ゲッツも又伴奏を手伝っていく。
楽器の担当はパーカッション。音痴ではあるが、リズム感自体はそれ程悪くはない。
適性的に打楽器が向いていた。そして、二曲目をそつなくこなし、三曲目。
(――調和、か。調和の女神がこの世界を収めていたから平和だとしたらなァ……。
もし俺が、神様なんかになっちまったら、世界とかソッコー滅びそうなんだよなァ。
……俺、悪者なのかねェ。……ま、どーでもいいんだがよ)
調和の理で世界が満たされていたからこそ、ネバーアースは平和だったのだろうとゲッツは思う。
現に、テイルが神位を降り、空位になって以来この世界では多くの災害が巻き起こっている。
調和が失われるだけでこれならば、災厄≠ナ世界が満たされたらどうなるか。
ゲッツはそう考えたが、考えるだけ無駄だと気づいてどうでもいいと思うことにした。少しだけ、心の底に澱を残して。
そして、当然のような勝利が、来た。
理解していた、そうなることは。そして、此処から先にあるのが、本番だ。
ゲッツはそう心の何処かで確信していて、その確信は現実となるのは確定していた。

75 :
■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■
そして、決勝直前の控え室。
ゲッツはどこで買ってきたのか大量の肉を頬張りつつ、足でリズムを取って鼻歌を響かせる高等技能を発揮中。
その最中に賭博師が現れる。
>「よう……まずは決勝進出おめでとう、だ。
> そんでもって、もう一つ……速達便のお支払いは現金のみとなっております、ってな。
> お前達のお陰で、まともな仕事が絶えなくて助かるよ、本当に」
「おふ、ははおへはいふはははふほはほふへふはっはへほはー(よう、まあ俺がいるから勝つのは当然だったけどな)
…………んぐっ、金の払いはフォルテにおまかせってことで、いっちょ頼むぜ?」
いつも通りに面倒事をフォルテに放り投げつつ、大量の肉の入ったケバブサンドを口に放り込み嚥下する竜人。
此処から先が正念場と思っているのか、今のうちに英気を養っておく心づまりだ。
>「最後くらいは、俺もステージに立たせて貰うぜ。
> ……お前達が負ければ、俺は骨折り損だからな」
「おいおいおい、勝つぜ?
今まで俺とフォルテで余裕の勝利だったんだからよ、お前がいりゃもう三倍よォ!
普通なら1+1は2だが、俺達は違う。1+1で200だ!10倍だな!!
これが、三人居てみろよ! 1+1+!で300! 100倍だぜ!!」
ゲッツの提唱した謎理論、そもそも計算結果がおかしいとか、10倍じゃなくて100倍だとかは置いておく。
それでも、この竜人不利である事は百も承知の上で勝つ気満々で此処に居た。
むしろ、勝ち気が無いときなど無いのがこの竜人といえば竜人なのだが……。
>「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
> それこそアイツに負けちまってもだ。
> 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」
「そーそーそー、最初っから諦めてりゃ勝てるものも勝てねぇ訳よォ!
それでいい、勝ちに行こうじゃねぇの、先に進んでいこうじゃねぇの。
――ブチかまそうぜ、きっと超楽しいからよ? ゲヒャッ! ギヒヒャハハハハハハハ――――!!」
高笑いを響かせて、ゲッツはステージまでの道を堂々と歩んでいく。
その先には、光り輝く舞台があった。
交響都市フェネクス、音楽祭決勝戦。鏡写しの戦い、この世界の裏と絡んだ戦いが、始まる。
視線の先には慇懃無礼な精霊楽師と無骨で無愛想な僧兵の二人。蒼の男はそこにはいなかった。
だが、異様に高まる空間の熱気の何処かに、濃密な欲望が混ざり込み始めていた――――。

76 :
■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■
「――行きますか、ジャック。マモンは用事があると言って消えてしまいましたけど。
まあ問題はない。どうせあの男なら強欲のままに動いて場を壊すに決まっている。
大切なのは、それまで負けないこと。……激情に駆られぬように」
精霊楽師は声を響かせる。沈黙を割く低い中性的な声。
声の行き先に居たのは、蒼の竜人。民族衣装を来た姿は、清冽な威圧を持つ。
そして、声を受けて竜は犬歯を見せながら言葉を返す。
「背信者には罰を与えるのが俺の正道。だが――大義が有る故。
お前を裏切ることはない。任せておけ、俺がお前の盾だ。
お前の仕事は歌うこと――通せ、その道を」
竜人の言葉は、頑なであり、なおかつ力強い。
己の実力と立場を理解し、そしてその上で進む道を過つ事が無い故の直線的な在り方だ。
「――分かっていますよ、だから黙りなさい。
貴方の言葉などで私は変えられませんから」
その気高い在り方を即座に切り捨て、フリルのドレスの裾を靡かせて楽師は立ち上がる。
迷いなく控え室を出て行こうとするが、足が一歩止まって。
術で拘束され、記憶を処理された老齢の吟遊詩人の前にしゃがみ込みながら、小さくささやいた。
「……お父様、…………いって、きます」
楽師は振り返れない。僧兵は振り返らない。
歩む先には光り輝くステージが一つ。
視線の先にはおちゃらけた吟遊詩人と頭の悪そうな竜人傭兵と何処の馬の骨か分からないギャンブラー。
負けるつもりはない。だから、楽師は息を吸い込んだ。

77 :
吐き出す。身体から吹き上がるのは、死霊の群れ。
皆、戦争で死んでいった者達、古き兵士たち。肉体の随所が失われ、その目には重い感情が載せられている。
死霊たちげ上空へと空砲を鳴らし、その場を戦場の激戦区であるかのように演出し始めた。
死霊の奏でるバックミュージックは、悲しげなギターソロから始まっていく。
「――I can't remember anything(何も思い出せない)
Can't tell if this is true or dream(夢なのか現実なのかもわからない)
Deep down inside I feel to scream(私の奥底から叫びの声が沸き起こっても)
This terrible silence stops me(この恐ろしいまでの沈黙が私を押しとどめる)
Now that the war is through with me(私の戦争は終わった)
I'm waking up, I cannot see(目覚めてももはや何も見えない)
That there is not much left of me(もはや私に残ったものは僅かばかり)
Nothing is real but pain now(現実にはもう何もない 苦痛以外の何もかもが)
Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please, God, wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」
戦争の悲惨さを歌う歌。
この都市に居る者達も、多かれ少なかれあの日から何らかの事件や争いに巻き込まれたものが殆どだ。
そのトラウマを抉るような、歌詞。そして、死霊がその感情を増幅し、争いに対する生理的な恐怖をこの場に生み出しはじめた。
「――アスカロン『正道』……空打」
そして、そこに生まれた隙を付くように、蒼の竜人が拳に魔力を纏わせ遠当てで此方を掃射し始めた。
この争いへの恐怖の最中でも、この竜人だけはまったくもってダメージを受ける事無く戦い続けている。
その理由は――、絶対的な個としての完結性。
他者を侵し力を発言するのが多くのアイン・ソフ・オウルだとすれば、この竜人は個に終息するアイン・ソフ・オウルなのである。
故に、ディミヌエンドの産む死霊まみれの空間の中でも変わること無く戦い続けることが出来るのだった。
言うなれば、フォルテの歌は仲間に力を与え希望を生む歌だとすれば、ディミヌエンドはその逆――敵対するものから何もかもを奪い去り絶望を生む歌だ。
あまりにも対照的。この戦い、どちらが勝つのか、そも決着が付くのか。
それは恐らく、神の居ないこの世界ならば誰も知らぬことだろう。

78 :
「食えばいいってもんじゃだいだろ。脇腹痛くなっても知らないぞー」
ブラックホールのごとくケバブサンドを飲みこんでいくゲッツに半ば呆れ半ば感心しながらケバブサンドをかじる。
一個で十分なんだけどこれ……。
決勝戦は戦闘行為込みの形式を受けて立つことになった。
純粋な歌手としての技術は向こうの方が上だから不確定要素が強い形式を選んだのは妥当ではあるのだが。
一つ大問題がある。
本来なら今回こそ全力で掛からなければいけない相手なのに、さっきみたいにホイホイっと真の力を解放するわけにいかないってこと。
何故ならパフォーマンスは両者同時で、相手は死霊を使役する呪いの歌の使い手。
下手をするとSAN値直葬されてしまう。
そこに現れたのは、意外な人物というべきか最初からいるはずだった人物というべきか。
>「前にも言ったが……あの黒フリルは完璧だ。
 俺は正直、今でもお前が勝てるとは思っちゃいない。
 ……おい、コレ、悪いが調律してくれ。演奏技術は借りたが、手入れまでは出来なくてな」
「それ位お安い御用……ってどこから持ってきたのこれ。後で返すんだぞ!
んでもって使うのはこっち。思い通りの楽器に変身し自動でエフェクトまでかかる超ハイテク楽器だ!」
無断借用という名の盗品のギターを取り上げ、モナーをもう一つ分裂させて渡した。
3つに分裂させたからといって別に小さくなるわけではない。質量保存の法則? そんなもんガン無視である。
>「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
 それこそアイツに負けちまってもだ。
 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」
>「そーそーそー、最初っから諦めてりゃ勝てるものも勝てねぇ訳よォ!
それでいい、勝ちに行こうじゃねぇの、先に進んでいこうじゃねぇの。
――ブチかまそうぜ、きっと超楽しいからよ? ゲヒャッ! ギヒヒャハハハハハハハ――――!!」
「お前ら……相変わらずテンポのいい掛け合いだけど内容は微妙に噛みあってねーよ!?」
突っ込みながら笑みが零れる。
負ける事も想定の範囲に入れているヘッジホッグと、負ける事なんて端から眼中にないゲッツ。
二人の言葉に救われたような気がした。
「そうだね。負けたって終わりじゃない。だから怖がらずに勝ちに行こう
決勝戦のテーマは――”伝説”だ!」

79 :
ゲッツを追いかけてステージに踊り出て、客席に向かって手を振る。
プレッシャーなど感じていないとでもいうように。
「伝説を謳う者、フォルテ・スタッカート様だ! よろしくー!」
対戦相手は言うまでも無く、クッソ憎たらしい死霊楽師と仏頂面堅物竜人。
ディミヌエンドが、死霊の群れを召喚する。
>「――I can't remember anything(何も思い出せない)
Can't tell if this is true or dream(夢なのか現実なのかもわからない)」
表現するのは戦争によって荒廃しきった世界。呼び起こすは争いに対する恐怖。
平和を願う反戦の歌を敵の妨害に使う発想は流石というべきか――
対するオレの一発目はコレだ!
「遥かな時の果てから 響く星の声
遠い記憶の彼方の 物語呼び覚ます」
Light Fantasy〜星の呼び声〜。
典型的な異世界召喚型冒険譚をモチーフにした歌詞が現出する世界、それは女神が統べ精霊が戯れる御伽の国。
ただ一途にワクワクするような冒険、未知への胸の高鳴りを歌い上げる。
>「Deep down inside I feel to scream(私の奥底から叫びの声が沸き起こっても)
This terrible silence stops me(この恐ろしいまでの沈黙が私を押しとどめる)」
「子どもの頃読み聞かされた 不思議の世界巡るお伽噺《Fairytale》
ほんの少し耳を澄ませば 未知への扉が開く」
>「Now that the war is through with me(私の戦争は終わった)
I'm waking up, I cannot see(目覚めてももはや何も見えない)」
「終わりが迫りくる 世界の祈りが時を越えて
あなたへと届くとき 素敵な冒険始まる」
>「That there is not much left of me(もはや私に残ったものは僅かばかり)
Nothing is real but pain now(現実にはもう何もない 苦痛以外の何もかもが)」
「女神が紡ぐ愛の歌 全ての哀しみを癒す旋律《Melody》
奇跡を起こす合言葉は あなただけが知る」
リアルな戦争の悲惨さを歌い上げる相手に対して、オレの方はそれが欠片もない。
冷静に考えると滅びの危機に瀕した世界だというのにリアリティ0だ。
それでいい、伝説とはそういうもの。
美しいもの、楽しかったことだけずっと覚えていて欲しいから――
>「Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please, God, wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」
「――今始まる伝説《Fairytale》」

80 :
掴みはOK! 多分!
戦闘民族達の方を見てみると……やってるやってる。
相手チームはディミヌエンドが歌担当で堅物竜人は戦闘専門できっちり役割分担してるっぽいけど
戦闘拒否のチームと対戦する時は竜人何してたんだろう。
などと考えている場合ではない、次だ次! やっぱり伝説には奇蹟や魔法が付き物でしょう。
という訳で“Magia”――意味は”魔法”。
「いつか君が瞳に灯す 愛の光が時を越えて
滅び急ぐ 世界の夢を 確かに一つ 壊すだろう
躊躇いを飲み干して 君が望むモノは何?
こんな欲深い憧れの行方に 儚い明日はあるの?
子どもの頃夢に見てた 古の魔法のように
闇さえ砕く力で 微笑む君に会いたい
怯えるこの手の中には 手折られた花の勇気
想いだけが頼るすべて 光を呼び覚ます願い」
勇壮なオーケストレーションに乗せて、ダークでスタイリッシュな歌詞を歌い上げる。
筋肉ムキムキの戦闘民族が戦ってる後ろで歌って何の違和感も無いけど
これ、魔法少女もののテーマなんだぜ? ウソみたいだろ?

81 :
――星の巫女代理を決めるこの戦いにおいて、勝敗の決め手となるのは強さではない。
そして歌の巧拙でもなければ、見てくれの良し悪しでもない。
世界最大の宗教の看板娘に求められるのは、人の感情――心を支配する力。
要するに――この戦いにおいて、『ダサい』真似は厳禁だ。
「……そこんとこを考えると、俺はとことん向いてないよな、この戦い」
『手札』を掠め盗り、紛れ込ませる賭博師の技能は――端的に言えば『セコい』やり方だ。
死霊を統べ、桁違いの歌唱力で人の心を屈服させる黒の楽師とは、同じ妨害行為にしても格が違う。
「だからって……俺に何も出来ない訳じゃあない。
 ギャンブルの華は一発逆転、そして総取り……やってやるさ」
肝心なのはドーム内の空気――歌うのが精霊楽師でも死霊楽師でも関係ない。
誰が歌い、誰が戦おうと、生み出される『熱』は全て観客達に帰結する。
コインは積み上がっていく。
勝つのは最後だけでいい。
最後の最後に相手を出し抜き、募った『熱』を――全ての心を掻っ攫う。
それが出来れば、例えそれまでに何度負けていようが、全てが清算される。
勝ち筋は見えている――後は辿るだけだ。丁寧に、脇道を潰しながら。
最も避けなくてはならないのはジリ貧だ。
格好の付かないまま、じわじわと嬲られていくのは良くない
観客の心を徐々に凍り付かせて、総取りするべき熱が失われてしまう。
必要なのは苛烈な戦い――激しい衝突がより大きな熱を生む。
それに関しては――あの竜人が良く分かっている筈だ。心配はしていない。
「それに、既に種は撒いてある――人間、金が絡めば絡むほど、熱くなるモンだ」
観客席から聞こえる双方への声援は、これまでとは比べ物にならない程に大きい。
決勝戦だからという事もあるが、それだけではない。
賭けだ。最後に勝つのはどちらなのか、賭博師は観客を対象に賭けを開いた。
歌唱の巧拙とカリスマ性で勝るのはやはり死霊の楽師――裏を返せば見返りの少ない賭け。
親――即ち賭博師が配当と倍率を操作すれば、より多くの者を精霊楽師に賭けさせられる。
より熱狂的に応援させられる――賭博師の懐は反比例的に寒くなっていくが。
なにせ応援させる事だけが目的の賭けだ。
勝とうが負けようが、賭博師の収入が支出を上回る事はない。
精霊楽師が星の巫女代理の座を得て、そこから商業展開が出来なければ――
――恐ろしい額の借金を背負う事になる。
「まぁ……そうなったら勿論払うつもりはないんだが――
 ――二度とここには顔を出せなくなるだろうな。
 この街は中々気に入ってるんだ……頼むぜ、ホント」

82 :
>「伝説を謳う者、フォルテ・スタッカート様だ! よろしくー!」
「覚えとけやテメェ等ァ!
あそこに居る鱗が青っぽい竜人に比べて圧倒的に主人公っぽいカラーの竜人の俺様がゲッツ・ディザスター=Eベーレンドルフよォ!
俺のほうがイケメンで俺のほうが強くて、格好良くて優しいから俺を応援するのは当然だよなァ!?
って訳で声援頼むわッ! オーケーッ!?」
べらべらとよく回る舌に乗せて、怒声の如き自己紹介を済ませる紅の竜人。
その振る舞いはきっと誰がどう見ても脅迫をするチンピラにしか見えなかったことだろう。実際問題大差はない。
引き合いに出された蒼の竜人はといえば、仏頂面を崩すこと無く構えを撮り始めていたのだ。
>「遥かな時の果てから 響く星の声
>遠い記憶の彼方の 物語呼び覚ます」
そして、歌の始まりと共に振るわれる蒼の竜の拳、遠当て。
その中で、ゲッツはニヤリと笑い、一歩を踏み出して。
「――アスカロンッ!」
胸元から一息に光剣を引き抜くと同時一閃、遠当てを撃沈する。
その後、獣のように身体を屈ませると、全身に力を込めて身体を前方へと駆動させる。
極端な前傾姿勢は、最初から最後まで徹頭徹尾攻撃のためだけに費やされる構え。
光の剣を握りつぶすと同時に、ゲッツの両手の爪に光が纏わり付き、爪が延長される。
>「Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please,God,wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」
>「――今始まる伝説《Fairytale》」
「ギシャァッ!!」「ぬぅんっ!」
無色の力と紅の光が爪と爪を介して衝突をし、ドームを轟音と衝撃で揺らして行く。
その一合だけで、見るものが見ればかなりの衝突であると分かるだろう。
まさに、伝説になっても可笑しくないであろう、圧倒的な印象を残す戦いが作り上げられていく。
「うッオオオオオオオオオオオオオオオッ! スゲエ!」
「うっわ、私こういうの苦手ー」「あの竜人二人共良い身体してる……///」
「いや、やっぱ男の子ってこういうの燃えちゃうんだよなー、いいなあ!」
観客たちからは、多種多様な叫びが上がり、熱狂にドームの中は包まれていく。
つかみはバッチリと言える。なにせ、人身の掌握に長けた者が互いの陣営に居るのである。
それは当然、観客の心も掴んで当然。そして、その上に賭博師のブーストがかかれば、かくやである。

83 :
>「いつか君が瞳に灯す 愛の光が時を越えて
>滅び急ぐ 世界の夢を 確かに一つ 壊すだろう
>躊躇いを飲み干して 君が望むモノは何?
>こんな欲深い憧れの行方に 儚い明日はあるの?
>子どもの頃夢に見てた 古の魔法のように
>闇さえ砕く力で 微笑む君に会いたい
>怯えるこの手の中には 手折られた花の勇気
>想いだけが頼るすべて 光を呼び覚ます願い」
そして、フォルテが紡ぐ歌は、人間の感情や絶望や、希望や不安を語る歌。
感情のあるその歌に対して、相対する様に、人工的なキック音が切り込んだ。
紡がれる声は、不自然過ぎるほどに人間性というものを排除した、機械の如き歌声だ。
「Buy it,use it,break it,fix it,(購入せよ。使用せよ。破壊せよ。処理せよ)
Trash it,change it,(Mail) - upgrade it,(廃棄せよ。変更せよ。メールをアップグレードせよ)
Charge it,(Point) it,zoom it,press it,(充電せよ。強調せよ。拡大せよ。圧迫せよ)
Snap it,work it,quick - erase it,(撮影せよ。作業せよ。迅速に削除せよ)
Write it,cut it,paste it,save it,(記入せよ。切取せよ。貼付せよ。保存せよ)
Load it,check it,quick - rewrite it,(読込せよ。確認せよ。迅速に上書きせよ)
Plug it,play it,burn it,rip it,(接続せよ。起動せよ。ライティングせよ。リッピングせよ)
Drag and drop it,zip - unzip it,(ドラックアンドドロップせよ。圧縮せよ。解凍せよ)
Lock it,fill it,call it,find it,(固定せよ。充電せよ。呼出せよ。検索せよ)
View it,code it,jam - unlock it,(検分せよ。暗号化せよ。固定を解除せよ)
Surf it,scroll it,(Pause) it,click it,(ネットサーフィンせよ。スクロールせよ。ポーズせよ。クリックせよ)
Cross it,crack it,(Switch)- update it,(クロスせよ。クラックせよ。スイッチをアップデートせよ)
Name it,read it,tune it,print it,(命名せよ。解読せよ。調音せよ。プリントせよ)
Scan it,send it,fax - rename it,(スキャンせよ。送信せよ。ファックスデータの名前を改名せよ)
Touch it,bring it,pay it,watch it,(接触せよ。決定せよ。支払せよ。監視せよ)
Turn it,leave it,stop - format it. (転向せよ。出発せよ。フォーマットを停止せよ)」
淡々と紡がれる声は、ドーム全体に無機質に響き渡り、人々の心を縛り上げていく。
魔法に対して、徹底的に熱のないそれは――科学、プログラム、心なき歌。
その声は観客の熱狂を縛り上げ、支配していく。なにせ、その歌詞の全てがディミヌエンドから紡ぎ出される命令≠ネのだから。
「――我を信奉せよ、人形たち」
熱狂が産む従属ではない、感情が産む服従ではない。
徹底的に管理された感情と意志によって全てを統制する様は、この少女の奥底にある歪みを体現していると言えたかもしれない。
当然、ディミヌエンドの紡ぐ歌の支配は、この声の届く全てに対して有効なもの。
許可がなければ動くことも出来ない支配された人間へと人を変えていく歌は、狂気と言えただろう。
そして、賭博師の目論見を根本から破壊するであろうこの歌は、ゲッツ達にとっては凶器と言えたことだろう。
「殺しなさい、ジャック。命令ですから、これ」
「――任せろ」
「ちょ、お……うごけねー! ぎぁ ッ!? いや、テメ、イテッ、やめろ、Rやボケェ!!」
絡め手に対する耐性が全くとして存在しないゲッツはといえば、もはやデカイだけの只の的。
ジャックはあえて爪や牙ではなくマウントポジションを取った上で裸拳でゲッツをメッタ打ちにし始めた。
肉や骨を殴る生々しい音と、飛び散る血、それが歌に合わせて淡々と只管続けられる。
その薄ら寒い光景と、徹底してディミヌエンドによって統制されたドームは、不気味な沈黙に包まれていた。
その中で死霊楽師はといえば、意地悪そうな目を細めながらとてもよい笑顔を賭博師に魅せるのであった。

84 :
「いつか君も誰かのために強い力を望むのだろう 愛が胸をとらえた夜に 未知の言葉が生まれてくる
迷わずに行けるなら 心が砕けてもいいわ いつも目の前の哀しみに 立ち向かうための呪文が欲しい
君はまだ夢見る記憶 私は眠らない明日 二人が出会う奇跡を勝ち取るために進むわ
怯えるこの手の中には 手折られた花の刃 想いだけが生きる全て 心に振りかざす願い」
オレのMagia《魔法》に対してディミヌエンドが繰り出して来たのは、Technologic《科学》。
ほぼ全て命令形で構成された機械的なラップ調の歌詞が延々と繰り返されるという異色の曲。
ああ、アイツの歌は”科学”なんだ。その時々の状況や気分に左右されない、確立した確固たる技術。
音楽には二面性があるという。
理屈では説明がつかない情緒的なそれこそ魔法のような側面と、音の順列組合せを基本とした高度に論理的で数学的な側面。
音楽理論? 何を隠そう常に赤点でした! 楽譜が読めりゃオールオッケーじゃんみたいな!
「Technologic (これが技術だ)  Technologic (これが科学だ)
Technologic (これが未来だ)  Technologic (これが進化の果てだ)」
>「――我を信奉せよ、人形たち」
もしかして押し負けてる!? いや、ただ押し負けているだけならまだいい。
先程までの客席の熱狂が嘘のように、潮が引くように静まりかえっていく。
何だろう、ぞっとするような背筋が凍りつくような感じがする
>「殺しなさい、ジャック。命令ですから、これ」
>「――任せろ」
はあ!? 何言っちゃってんのこの人達!
これのど自慢大会かアイドルオーディションであって天下一武道会でもないし増してや殺し合いじゃねーから!
ま、いいや。ゲッツが大人しく殺されるはずねーし? 10倍返しにされて後悔するこったな!
「目覚めた心は走り出した 未来を描くため
難しい道で立ち止まっても空は 綺麗な青さでいつも待っててくれる だから怖くない くじけない
捕らわれた太陽の輝く不思議の国の本が好きだったころ 願いはきっと叶うと教えるお伽噺を信じた 光と影の中」

85 :
>「ちょ、お……うごけねー! ぎぁ ッ!? いや、テメ、イテッ、やめろ、Rやボケェ!!」
――思いっきりマウントポジションとられてボコられていた。オレの勇者様に何てことをしやがる!
ゲッツ、ステータス変化系の妨害技にクッソ弱いんだよな……。ディミヌエンドの歌にかかってしまったのか。
それは呪歌の力がディミヌエンドに競り負けたという事を如実に現していた。
もう認めざるをえない。アイツが歌っている限りオレの歌は届かないんだ。
どうしようもなくなって、自分たちの日頃を棚に上げて人の事は言えない台詞を叫ぶ。
「卑怯者め! お前らどー見ても悪役じゃねーか!」
ディミヌエンドが悪役なのは最初から分かりきっているとして、竜人の方は訳アリのいい人に一瞬見えたのは気のせいだったのか。
オレの吟遊詩人の勘も当てにならないもんだ。
しかし残念な事にこの勝負に善悪は関係ない。悪のカリスマというのも歴史上にはゴマンと存在するわけで……。
このまま行ったら負ける、始まったばかりだと言うのにもう危険な奥の手を出すかどうかの選択を突きつけられる事となった。
ふと昨日の夜の事を思いだす。あの時、驚くほど自然に言葉が生まれてきたんだよな……。
――迷う余地ないな。
もちろん、オレを陥れるための罠かもしれない。相手の思う壺なのかもしれない。
それでもいい、迷わずに行けるなら心が砕けてもいい。論理《ロゴス》と伝説《ミュトス》の戦い、受けて立ってやる。
ステージ中央に歩みを進め、静かに語るように謳う。
「世界を喰らう破滅の竜と 竜を打ち倒した聖者の物語
ありふれた神話に隠された 誰も語らぬ一ページを今こそ語ろう」
物語には力がある。
時に奇想天外でツッコミどころ満載な物語が、完璧な科学的論理に裏打ちされた論文にも勝るとも劣らない力を持つ事がある。
その最たるものが神話であり伝説だ。
「支配の正当性」と書いて《ものがたり》と読ませる歌詞があるように
古の国々は神話をもってその権力を確固たるものとし、歴代のカルト宗教は莫大な資金を投入して洗脳映画を作り信者を集めたという。
そして歌を使えば、小説にすれば大長編となるような壮大な物語の世界を僅か数分で描き出す事が出来るのだ!
――ファフ君様、ゲオルギウスお姉様、力を貸してな!

86 :
静かな民族調の導入部分から一転、曲調はアップテンポなロック調へ――
モナーを自動演奏に切り替え、ヘッドギアを外してヘッジホッグに投げ渡す。
「預けとく! 危なくなったら後ろからはめてくれよ!」
虹の翼を解き放ち、神格化――主な効力は大幅な能力値の上昇。
そのオマケとして不必要な物理法則ガン無視のグラフィック塗り替わりが発生する。
背に広げる翼は神格妖精の証である三対六枚、身に纏うは白い薄絹の衣。
それは何物にも染まらぬ純白ではなく、光の当たる方向によって様々な色を見せる虹色光沢の白だ。
誰だこの真面目なシーンでおっぱいとか言ってる不届き者は。それは多分気のせいなんじゃないかな!?
「音型展開《シンセサイズ》――アロー!」
モナーを弓型に変化させ、ジャックに光の矢を放つ。
ハメ状態が解除されて一端距離が離れたところで、一同をびしびしと指さしながら言い放つ。
「お前ら大会の趣旨分かってんのか!? 会場冷めきってんじゃん! いきなり殺し合いとか怖すぎて子ども泣くぞ!?
そしてゲッツ、オレが来たという事はどういう事か分かってるな!? ファフ君様のパートは任せた!
折角の晴れ舞台なんだからさ、ぱーっと華々しくいこうぜー! 音型展開《シンセサイズ》――キーブレイド!」
鍵盤を象った剣を携え、ゲッツの隣に並び立つ。
これからオレ達がやろうとしている事は、ディミヌエンドとジャックには絶対出来ない事だ。
それはきっとオレ達にしか歌えない歌だ。
「決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割」
歌いながら剣を振るいながらジャックを牽制しつつ、ゲッツに目で合図を送る。
音痴だって関係ない、この地上にお前以上にファフ君様パートに適任な奴はいないんだから。
さあ、ブチ決めてくれよ!?

87 :
出だしは悪くない。
賭博師の判断――眼の前で燃え盛る感情の波濤を浴びながら。
感情とは坂道を転がり落ちていく岩と同じだ。
それが大きければ大きいほど加速は進み、止める事は困難になる。
宛ら運命――そして精霊楽師はそれを味方に付けた。
運の巡りが良ければ。決勝を前に言った言葉が賭博師の頭にリフレインする――
『Buy it,use it,break it,fix it,(購入せよ。使用せよ。破壊せよ。処理せよ』
――直後に賭博師の手から、一切の動きが奪われた。
流麗にして瞬速――超一級のカード捌きを誇る自慢の右手が、これっぽっちも動かない。
いや、右手だけではない――腕、肩、膝、足、その他全て。
瞼を閉じて開ける――たったそれだけの事すら出来なくなっていた。
額から汗が伝う。会場の熱気が原因ではない。客席はとうの昔に凍り付いている。
汗が眼球に触れ、滲んだ視界の先――――死霊の楽師が微笑んでいた。
家畜の素質があるファンが数十人規模で増やせそうな、とてもいい笑顔だ。
「――その面、一体何のつもりだ?」
笑っている――俺の自由を根こそぎ奪いやがった奴が、俺の眼の前で。
奪われた、奪いやがった――賭博師の根源に宿るモノの琴線が震えた。
湧き起こる紅蓮の如き怒り――賭博師の眼に宿る蒼に欲深き光が宿る。
溢れ出る魔力が歌に宿る魔性を遮り――体の自由を奪い返す。
「クソ小憎たらしい笑顔引っ下げやがって……お友達になって下さいってか……?え?
 だったらお望み通り……遊んでやるよ。あぁ心配するな、コインは必要ない。
 代わりにカードを貰うぜ……本気で、根っこから、引き抜いてや――」
『預けとく! 危なくなったら後ろからはめてくれよ!』
怒りで狭窄した視野の外から聞こえた楽師の声。
同時に賭博師の視界が投げ付けられたヘッドギアで埋まり――直撃。
眼と頭髪から漏れ出す蒼の光が収まった。
「……あぁ、いいとも。その時は二度と外れないように力一杯やってやるよ」
皮肉を吐きつつも賭博師は左手を前へ。
薬指の根本にある錠前型の指輪が煌めく。
銀メッキの鏡面を利用したイカサマ道具であり――
――諸事情により銀行の世話になれない賭博師の魔導金庫。
常時空っぽで全く用を成していなかったそれにヘッドギアを収納。
『決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割』
「そんでもって……俺にはよく分からんが、何かするつもりなんだろ?お前。
 だったらコイツもついでに頼むぜ。このままじゃどうにも消化不良だ」
深紅の竜人へと放つ一枚のカード――自分自身から抜き取った激怒の感情。
どうも感情任せにブチ切れて暴れ散らすなんて事は柄に合わない。
合わないどころか、出来ない奴らだっている。
このドームには特に――だから任せた。代弁を。抑圧からの解放を。
圧倒的な暴力は、その象徴にこの上なく相応しい。
きっと最高のカタルシスを生み出してくれる。
「――だから頼むぜ。ブチかましてやりな」

88 :
>「――その面、一体何のつもりだ?」
「いえいえ。人の努力が潰れていく様は、中々私から見ると心地よいので。
術師としては完璧である私を倒し、優勝する為に色々と小賢しい策を弄したのは知っていますよ。
――よく頑張りました、褒めてあげます。まあ……無駄だったんですけど。ねぇ?」
怒りを湧きあがらせながら、此方を睨みつけるヘッジホッグを前にしながら、しかしながら楽師は笑い続ける。
人の努力が徒労に終る様が、人の希望が潰える様が。面白くて仕方がないかのように。
感情を完全に制御できるのでなければ、もうこの時点でディミヌエンドは抱腹絶倒していただろう。
それ程に、現状ではこの楽師の実力は普通の領域から隔絶していたのだ。
そして、一方の竜人同士はと言えば。
「ち、ィ。中々いい筋してやがるけどよォ……ッ! 体が動かなくてもできることはあンだよッ!!」
只管に殴られ続けていたゲッツは、しかしながら血反吐を吐きつつも表情を崩すことはない。
四肢の一つも、指先の一つも動かせぬというのに、竜人は不敵な表情を崩さず、声を荒げた。
もう幾度目かも数えられぬ打撃は、肉を引き裂く音が混ざった。
「ぬ……ぅ!?」
ゲッツの皮膚を突き破って生えたのは、金属光沢を持つ棘。
逆立った鱗を思わせる微細な棘は伸びることで相手の拳を貫き、磔にしてみせた。
そして、その直後にフォルテの撃ち放つ光の矢が、ジャックを吹き飛ばして。
>「音型展開《シンセサイズ》――アロー!」
>「お前ら大会の趣旨分かってんのか!? 会場冷めきってんじゃん! いきなり殺し合いとか怖すぎて子ども泣くぞ!?
>そしてゲッツ、オレが来たという事はどういう事か分かってるな!? ファフ君様のパートは任せた!
>折角の晴れ舞台なんだからさ、ぱーっと華々しくいこうぜー! 音型展開《シンセサイズ》――キーブレイド!」
「さァ? 私は勝つ事だけを目的としていますから。
観客が冷めようと、人が死のうと、子供が泣こうと、誰が悲しもうと――」
フォルテの抗議を受けても、ディミヌエンドは体勢を崩すことはない、感情は揺らがない。
淡々と、薄ら寒い、敬意の欠片も感じられない敬語をつらつらと紡いでいき。
にたり、と歪みきった笑顔を浮かべて、首を嫌味なほどに可愛らしく傾げて。
「――どうでもいいでしょうに。ねぇ?」
目的が達成されるのなら、それ以外はどうでも良いと臆面もなく言い放った。
これが挑発であればまだ良い。だが、挑発でもなんでもない。
ディミヌエンドは自分の目的のためなら自分以外の全てが犠牲になっても良いと、心の底からそう思っていたのだ。
機械的な歌唱で縛り付けられた観衆たち、異様な静寂。だが、それを破る流れが会場には生まれつつ有った。
>「決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割」
>「――だから頼むぜ。ブチかましてやりな」
ヘッドギアを外し、本気になったフォルテの歌唱が響いていく。
そして、ヘッジホッグの怒りの感情は、ゲッツに委ねられた。
確かにそうだ、この手の感情的な行動が一番似合うであろうパーティメンバーは、パーティ内最低の知能指数のこの竜人に他ならない。
凶悪な感情の奔流を受け取った竜人の全身の古傷から、赤い光が吹き出し、服を引き裂き始めた。
空間を歪ませ、裂け目を作り始めるほどの圧倒的な力の物量、質。そして、それを携える竜人の声は空間の支配率を変化させていった。

89 :
「ったく……、紳士な俺様にこんなもんよこしやがってよォ……!
しゃーねー、しゃあねぇわなァ!! マウント取られてボコされて素面で居られる方がどうかしてんだよなァ!!!
目ン玉ひん剥いて心に刻めェ! 一生お目にかかれねぇスッゲーもん出してやっからヨォ!!
だから、もうちィっと派手に行こうやッ!! 冷めて斜に構えて、俺は賢いとか馬鹿じゃねェの?
祭りなんだぜ、此処ァよォ! 騒げよ! 笑えよ! 冷めてちゃ詰まるもんも詰まんねぇからなァ!!!」
機械的な要素、理性的な要素から大凡かけ離れた竜人の発言、行動。
馬鹿のように大きい怒声には竜種の魔力とアイン・ソフ・オウルとしての支配律が宿っている。
ディミヌエンドの歌唱は確かに強力だが、あくまでもそれは世界の理の中の力。
理を外れた力を前には、その圧倒的な力ですら拮抗するまでもなく、塗りつぶされていく。
竜人は、にたりと笑う。笑顔という表情の本質、攻撃性に立ち戻ったそれだった。
「――――竜刃昇華[シェイプシフト]、完全竜化[ドラグトランス]」
竜の全身を紅の奔流が包み込み、ドームの中が赫の力に飲み込まれていく。
光の波濤が止んだ時、ドームの天に向って二度目の紅が駆け抜けた。
『天上天下 我に敵う者などいないッ!!
愚かな人間よ 恐れおののき平伏せッ!!』
天蓋が、砕け散った。否、ドームの屋根が竜へと変化したゲッツの咆哮で消失したのだ。
天から観客と、仲間、敵を見下ろすのは、小型の竜種。サイズとしては5m程か。
しかしながら、小型とはいえどその実力は紛れもない竜種のそれで、更にその竜はアイン・ソフ・オウルでもある。
『グウゥウウゥルァァア――――――――ッッッ!!』
轟音、爆音といって良い咆哮が、死霊楽師の魂の拘束をついに粉砕、正気に戻った観客たちは歓声を響かせる。
それは、ディミヌエンドに対するブーイングでもあったし、此方に対する応援でも有ったし、龍に対する恐怖でも有った。
兎にも角にも、ドームの中は悲鳴と怒号と歓声で埋め尽くされ、それは沈黙の前の数倍にも達していた。
抑圧からの開放が、感情の爆発をこの空間に生み出していたのである。
「数えきれぬ勇者が その魔竜に挑んだ
されどどんな力も 通じる事は無かった」
フォルテは朗々と歌を続け、転じて楽師はうろたえてそこに佇んでいた。
竜の威圧だけではこうはならない、吟遊詩人の詩と歌が、賭博師の手癖の悪さが、それらが組み合わさることで現状を生み出していたのだ。
しかしながら、それでも忘我から即座に舞い戻ることが出来たのは、流石と言わざるを得ないだろう。
「な、んだこれは。……聞いてない、聞いてません……!
マモンは……? 糞ッ、ジャック! アイン・ソフ・オウルを発動しなさいッ!」
「……ッ、任せろ。あんな粗暴で粗野な輩に、ハイランダーを名乗らせはせん。
――全ては、大義が為に。我のアイン・ソフ・オウル、諸法無我=v
武僧と楽師は互いに言葉を交わし、またも蒼の竜人は己の存在を薄め始めていた。
我のアイン・ソフ・オウルだというのに、我を捨て去るその様は一種特殊とも言える。
そして、相手は此方とはまた異なる形での力の発露と協力が存在していた。

90 :
精霊たちが音を奏でる。なにか壮大なものが始まっていくかのような、疾走感と盛り上がりのある前奏。
これまでとは違う、感情の発露、疾走、そして――力を奪うのではなく、与える歌。
相手に対して妨害などの干渉が困難と見るやいなや、この楽師は即座に支援へと移行したのだ。
「生まれ落ちた 鬼子は 遥か遠く 宙を睨める
有智に雑じる 邪道は 何故か惶懼 虚夢の如」
朗々と歌い上げる声は、力強くそしてみずみずしい。
女性の声で紡がれるその歌に重ねるようにして、竜人の声が混ざりこんでいく。
「栄え墾る 刻よ 萬壽を越えて 無期に 永らえ」
「剥がれ落ちた 箔沙 在るが儘に 子良をなぞる
無恥を詰る 覇道に 何時か参来 後楽の国」
「行き交う 雲よ 然らば 今 吼えて 唾棄に 諍え」
互いに掛け合うように歌を重ね、歌と死霊の力場に蒼の竜人は埋没していく。
そして、歌の力と竜人の力が一体化する事で歌をアイン・ソフ・オウルの力へと昇華させ、吟遊詩人、賭博師、赫竜に挑むに足る域へと昇華させた。
「「深く 冥く 濁る 無疆の闇を 切り裂いて 踊れ 己の信義 辿りて」」
『退屈しのぎにすら なりもしない奴らだ
少しは気概のある奴をよこせ今すぐ』
いつの間にか音に乗って移動した竜人は、空中へと移動。
音速での戦闘が空中では開始された。梵字が空中で踊り、ゲッツへと光弾が降り注ぎ、蹴撃と拳撃が乱れ舞う。
手数で押し切ろうとするジャックに対して、ゲッツが取った行動は単純。
爪に力を込めて全力で振り下ろすだけだ。
『ギシャァ――――――ッッ!!!!』
地面に衝突し、粉砕音を響かせながら地面を転がっていくジャックは、しかし次の瞬間からまた空中へと移動。
魔の力と聖の力を入り交じらせて、戦闘を継続し続けた。
そして、地上のディミヌエンドはと言えば――。
「「堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か」」
己を魔王へと例えたこの歌を紡ぐことで、辺の死霊もまた強化。
無数の死霊の鎌が、吟遊詩人と賭博師の魂を刈り取り、敗北を与えんと襲いかかっていく。
その死霊達もまた、普通の魔力で縛られた時とは段違いの実力を誇っていた。

91 :
>「――――竜刃昇華[シェイプシフト]、完全竜化[ドラグトランス]」
ドラゴン変化キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
>『天上天下 我に敵う者などいないッ!!愚かな人間よ 恐れおののき平伏せッ!!』
ドームの天井がぶっ飛んだ! やっべーあまりにハマリ役すぎたかも! 弁償費用どうしよう。
後先考えずに新曲披露なんてパ○プンテしたのが間違いだったのか!
もうこうなったら優勝するしか道はない!
無敵の竜王の力を借りることに成功したオレ達に対して、ジャックとディミヌエンドは"魔王"で対抗する。
予選のときに見せた、ジャックが自らの世界を消すことで呪歌の効果を最大限に引き出す技だ。
>『退屈しのぎにすら なりもしない奴らだ少しは気概のある奴をよこせ今すぐ』
>「「堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か」」
「――妖精の鐘《ティンカーベル》!」
襲い掛かるディミヌエンドの死霊の鎌。
対してオレは周囲にミュージックベルのような12個の鐘を展開。
それぞれの音に対応した属性の精霊を使役する霊的音響兵器だ。
「覚悟しろ竜よ これで終わりだ この私が必ずお前を倒す」
鐘を両手に踊るように、放たれた精霊達が死霊の鎌を打ち落とす。
霊的な存在が見える者なら、凄まじい魔法戦が繰り広げられているのが見えるだろう。
『いいだろう面白いやつだ かかってくるがいい
暇をつぶすにはちょうどいい勘違いするな』
何度めかのゲッツの爪の一閃が、ジャックを地面にたたきつける。
「「現世に生くること 泡沫の如くなり
滅ぶこと 常なれば ことを成し 憂き世に花を」」
「竜は待ち続けていた 倒される日を 最強の先にあったのは耐え切れぬ孤独
勇者は恋をしていた 孤高の竜に 誰も汚すことできない 気高き心に」
竜達の戦いは一時膠着状態。
相手は語りのようなパートに突入し、オレは先程の激しい曲想から一転して静かなメロディを歌い上げる。
中間部――クライマックスのための溜めだ。
ちょっと危ない歌詞だけど今のゲッツはお前達には絶対倒せないぜ?
なぜならファフ君様の攻略法は――

92 :
「大罪奴(罪) 傲然漢(傲)憎悪食らい(憎) 悪鬼羅漢(羅)
大英雄(雄) 豪胆漢(豪) 贄美の舞(舞) 第六天魔王 有りの紛い」
『少しはやるようだな 楽しかったぞ だがそろそろ終わりにしよう』
「ええ悠久の悲しみは終わり 必ずこの剣で あなたを倒す《救う》」
片や魂の叫びのようなグロウル。片や静かに言葉を交わすような掛け合い。
奇しくも同時に中間部を終え、互いに残すは最終フレーズとなった。
「クライマックスだ、ド派手にキメようぜー! 音型展開――アスカロン!!」
剣の聖女様にあやかった光り輝く聖剣を携え、ゲッツの背に飛び乗る。
なんかドラゴンライダーみたいでかっこよくね!? でもこいつに乗るのはお勧めしないぜ?
オレ以外だったら一瞬で振り落とされて死ぬからな!
時々思うんだ、この世では実現されることはなかったけどさ――
もしファフ君様とゲオルギウス様が一緒に戦ったら向かうところ敵無しだったんだろうなって……。
「栄え墾る刻よ 萬壽を超えて無期に永らえ」
「もう泣かないで愛しい人 私達永遠に結ばれる」
最後まで己の信念を貫きデレなかった魔王と超美女の勇者様にデレちゃった竜王、どっちが強いか――いざ、勝負!

93 :
>>72
着いた後、いきなりホモが襲ってきたので、軽く槍で瞬殺し、
「言いたいことは、それだけか?なら、R」
『圧縮爆破』【グラビトン】
球体場の、爆発物を、周りに回し爆破
勿論、ホモの住処に片っ端にだ。
「まぁ、てめえらみたいなゴミを始末するには、こんなのがお似合いだ。」

94 :
>>93
>「言いたいことは、それだけか?なら、R」
>『圧縮爆破』【グラビトン】
流石導師様、ホモに囲まれても何ともないぜ!
ホモヤクザの事務所は阿鼻叫喚が響き渡る暇もなくあっけなく爆破された。ご愁傷様です。
「助かりました、ありがとうございます」
と、リーフ。
何故彼女は爆発に巻き込まれていないかというと、きっと背景に溶け込む能力の賜物である。
そして彼女から、さっきまで厄災召喚装置(再利用)があったがそれも一緒に爆破されて吹っ飛んだことを知った。
なんという結果オーライ。
「さ、騒ぎになる前に出よう!」
が、幸い部屋一つの内装が吹っ飛んだ事が騒ぎになる事はなかった。
その直後、ドームの天井が消し飛んだからである。
ボク達が客席に着いた時、まさに決勝戦の真っ最中だった。
それはいいのだが、ただの熱気とは違う、妙な気配がする。この気配は……”強欲”!?
周囲に神経を張り巡らしてみると、様々な歓声が聞こえてきた。
「今だたたみかけろ!」
「頼む! お前らが負けたら一文無しなんだよォ!」
「こけろ! こけろ!」
どう見ても賭けてます本当にありがとうございました。
「誰だよギャンブルなんてけしかけたのは!」

95 :
押し込まれた。黒の楽師は多くのコインを得て、尚も強硬に挑んでくる――即ち勝負所。
精霊楽師も深紅の竜人も、裡に秘めた特異点――唯一無二の力を解き放つ。
極彩色の光を帯びた妖精の羽/業火をも凌ぐ紅蓮を宿した破壊の竜の姿。
互いの風情は正反対――だがどちらも『極まった物』にしか宿り得ない美があった。
賭博師の内側、奥深くに宿るモノ――激昂により眼を覚ました欲深き魂が擽られる。
欲しい――と。
華やかに舞う虹色の輝き、森羅万象を従える妖魔の魅力。
一点のくすみも曇りもない真紅、万物を滅ぼす竜の暴力。
どちらも酷く魅力的だ――奪い取ってでも、力ずくにでも、手に入れたい。
今なら容易く抜き取れる――背後から忍び寄って、手を伸ばす。
簡単だ。ほんの一歩前に踏み出すだけ――心の中に引いてきた線を超えるだけ。
一度越えてしまえば、その先にあるのは光と輝きだけだ。
「ぐっ……おい……お前達……そこ……どけ……」
髪を染め上げた深紅色が剥がれ落ちて、全てを呑み込む海の如き蒼が顕になる。
双眸に宿る蒼が際限なく深まっていき――
『堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か』
――妖精の鐘を躱して肉薄した死霊の鎌が、賭博師の突き刺さった。
湿り気混じりの咳、口元から伝う鮮血――肉体にまで影響が及ぶ程の魂の傷。
酷く深い――賭博師の内に棲まうモノにまで届くほどに。
「……痛え……な……クソッタレ……。
 だがな……生憎この程度じゃ殺れない奴が、俺の中にはいるんだよ……。
 流石に今のは効いたみたいで……暫くは大人しくなるだろうがな……」
血反吐を吐き捨て、両手を伸ばす――間合いの内側にいる死霊共へ。
二枚のカードを抜き取った。
一枚は死霊そのものの力、もう一枚は死霊を従えていた歌の持つ力。
「だが……これじゃあもう、ロクに歌えそうにないな。
 まぁ、元々そんなキャラでもないんだが……だから、代わりにお前達が歌え。
 あのいけ好かない魔王様をブチのめすんだ。美味しい所だけ、乗っかってやろうぜ」
死霊のカードは懐へ。
歌唱のカードを両の掌で挟む――ほんの一瞬で、一枚のカードが手品の様に山札へ。
力を無数のカードに分割して作り直した――そしてそれを客席へとバラ撒く。
更にもう一度山札を生成――今度は歌詞を記したカード。それも観客達へ。
「お前は……強いよ、黒フリル。小手先の細工じゃあ敵わなかった。
 ……なら、やり方を変えるまでさ。ギャンブルだって最後にゃ元手の多い奴が笑うんだ。
 これだけの人数がいれば、お前の歌声なんか、きっと霞んじまうぜ」

96 :
>「……痛え……な……クソッタレ……。
> だがな……生憎この程度じゃ殺れない奴が、俺の中にはいるんだよ……。
> 流石に今のは効いたみたいで……暫くは大人しくなるだろうがな……」
「……今、のは。いや、まさか。……そんな筈は、無い……ッ」
紅の奥から溢れだした蒼の力に、楽師は触れたことが有る。
圧倒的なその存在感は、彼女の知るあるもののそれに強く、酷似していた。
そして、彼が垣間見せた欲。その濃さは、ソレと寸分違わないほどであったのだから。

>「クライマックスだ、ド派手にキメようぜー! 音型展開――アスカロン!!」
『任せろやァッ! ブチかますぞ、張ッ倒すぞ! 覚悟しとけや堅物共がよォ!!』
壮大な衝突、そして残すは最後のフレーズ。幕を引くには丁度良い瞬間。
己の背に乗る重量に、竜は心地よさを感じた。心が通じ合い、互いにどう動くべきか理解しているというこの状況に。
だから、歌う。己の心を歌に載せて、この世界へと伝え、己を主張するために。
>「もう泣かないで愛しい人 私達永遠に結ばれる」
『待ち侘びた勇者よ 我のそばを離れるな そなたはもう我のものだ』
「「深く 冥く 濁る 無疆の闇を
切り裂いて 踊れ 己の信義 辿りて」」
天空で竜は最後のフレーズへの盛り上がりにシンクロするように、空中に光玉を生み出した。
深紅のそれは、夜だというのに、太陽にしか見えなかったことだろう。
強い。果てしなく強い光が、ステージを照らし、闇を吹き飛ばしていった。
波動が死霊を引き裂く。それでも、ディミヌエンドは、瞳の闇を濃く、暗くして諦めない。
歌が止まる。一瞬に、心の叫びが口をついで出る。その感情は作られたものでもなんでも無かった。
「妬ましいッ、親に愛され、光の元で育った貴方が――フォルテ=スタッカートがッ!!!
勝つッ、私の総てが、私の上に居る総てを超える為にッ! もう、二度とッ、出来損ないなんて呼ばれないためにッ!!」
ディミヌエンドは、強い。そして、どのような歌も模倣することの出来る稀代の楽師だ。
しかし、ディミヌエンドの歌う歌は、結局のところ本物の紛い物でしかない。
オリジナルには決して叶わない、オリジナルに迫ろうとも常に比較をされ続けるのがディミヌエンドのあり方。
その中で醸成された多大な劣等感は、他者に対する異常なまでの妬みと《嫉妬》を与えた。
血走った瞳で、無数の死霊を召喚し己の身体に取り込むことで強制的に地力を向上させ、最後の歌唱へと臨む。
蒼の竜人は、何も言わず。ただ無我と化して、その意志と共にして力を振るうのみだ。
「「堅く 赤く 光る 究竟の波を
振り放いて 興せ 還らぬ上は 鬼と成りて」」
>「お前は……強いよ、黒フリル。小手先の細工じゃあ敵わなかった。
> ……なら、やり方を変えるまでさ。ギャンブルだって最後にゃ元手の多い奴が笑うんだ。
> これだけの人数がいれば、お前の歌声なんか、きっと霞んじまうぜ」

97 :
最後のフレーズ、これまでの数倍の力を込めて歌い上げられるそれはこのままならば負けていただろう。
だが、しかし忘れてはならないこの世界の仕組みを、この世界の絶対の理《ルール》を。
この世界には、奇跡がある――。
「「「「「『二つの魂が惹かれあい結ばれて
変えられぬ(抗えぬ)運命を(宿命を)確かに変えた
伝説になった彼らは 今も二人寄り添い 僕らを見守っている』」」」」」
――奇跡が、起こった。
確かに二人で歌っただけならば押し負けたかもしれない。いくら強かろうと、相手も同格なのだから。
だがしかし、それが3人ならば?4人なら?10人なら?100人なら?1000人ならば?
一人一人の歌の力はディミヌエンドの100分の1にも満たないかもしれない。
だが、101人ならどうだろうか。1000人ならばディミヌエンド10人分だ。
そう。最後の最後で、勝利を決定づけたのは多くを味方につけたという事、この戦いの本来の目的に立ち返ったこと。
ディミヌエンド達は、彼らが軽視していたものに負けるのだ。
『その愛は永遠に――』
太陽の様に輝く光玉が、天へと上り詰めていく。
人々の歌が作り出す感情の光、心の魔力、極微量な世界の破片がその光に混ざり合っていく。
すべての色が混ざり合う交錯点。そこで生まれたのは、総てを孕む、至高の白。
『ブチかますぞ、相方ァ!』
力を限界まで圧縮し、空中に固定化するゲッツ。
最後の引き金を引くのは――吟遊詩人、今宵の主役の一人に任された。
そして、その絶望を前に打ちのめされ、片膝を突きながら光を見上げる吟遊詩人が、居た。
(――ッ、私の価値は、勝つことに有る……!
なのに、だというのに……ッ。ここで負けて、無様を晒したら。
私は、私の劣等感《嫉妬》に負ける……ッ! それだけは、それだけは許されない、それだけは絶対に私は認めないッ)
「負けたく……無い…………ッ!」
最後の最後で出てきた言葉は、負けたくないというシンプルな解答。
だが、このままならば負ける。そして、その負けは竜人と汲んだとて覆らなかっただろう。
決着が、近い。
しかし、ある者は気がつくかもしれない。
この場の熱狂に混ざる、異様なまでの欲と、その欲の中心点となっているのが精霊楽師だという事が。
負けたくない、あいつが羨ましい、あの人の様になりたい。
その強い欲は、徐々にディミヌエンドの支配する小さい世界領域を侵食し始めていた。

98 :
ゲッツが空中に真紅の光玉を作り出す。
竜の背に立ち光の中から、散々苦戦させてくれた死霊の楽師を見下ろす。
その瞳は夜の帳より尚昏い闇を宿している。観念するんだな、お前なんかに星の巫女代理の座は渡せねー!
目が合った瞬間、歌が止まる。
>「妬ましいッ、親に愛され、光の元で育った貴方が――フォルテ=スタッカートがッ!!!
勝つッ、私の総てが、私の上に居る総てを超える為にッ! もう、二度とッ、出来損ないなんて呼ばれないためにッ!!」
驚いた。
常にすました態度を崩さなかったディミヌエンドが初めて感情を見せた事と、その発言の内容にだ。
妬ましい――? オレが!? オレの人生黒歴史ばっかりだぜ!?
“親に愛され光の下で育った”なんて形容が相応しい者はもっと他にたくさんいるはずだ。
いや、歌と楽器を教え精霊楽師として育ててくれた父親と、いつも影から手を差し伸べてくれていたであろう母親がいる事
それだけで本当はとてもとても幸せな事なのかもしれない。
>「「堅く 赤く 光る 究竟の波を
振り放いて 興せ 還らぬ上は 鬼と成りて」」
今まででも半端なかったのにここに来て更に今までとは段違いの底力を見せるディミヌエンド。
悲壮なまでの意思、壮絶な気迫が伝わってくる。やっぱり強い。
オレだってお前が妬ましくて仕方がない。
楽器を弾かずとも己の体一つで森羅万象を表現する事のできるまでの歌唱力。
あらゆる歌を歌いこなす完璧な表現力。
あんな態度のくせにファンを惹きつけてやまない問答無用のカリスマ性――
絶対勝てやしない。一対一だったら……だ。
「「「「「『二つの魂が惹かれあい結ばれて
変えられぬ(抗えぬ)運命を(宿命を)確かに変えた
伝説になった彼らは 今も二人寄り添い 僕らを見守っている』」」」」」
頂上決戦の最後の最後で勝敗を分けるのは――基本中の基本、単純な物量。
誰かさんがいつの間にか客席に歌詞カードをばら撒いたらしかった。
無数の歌声が折り重なり、場を支配していく。

99 :
「『その愛は永遠に――』」
剣を頭上に掲る。この剣を振り下ろせば――終わる。
終わらせてしまうのを暫し惜しむように、光を仰ぎ見る。
綺麗な光……共に歌った人々の世界の断片、命の輝きの結晶とも言うべきもの。
全ての色の絵の具を混ぜ合わせると黒になるけど、光を混ぜ合わせると白になるんだよね。
こんな白ならアリだなあって思う。
>「負けたく……無い…………ッ!」
それは重々承知だが生憎こっちもはいそうですかと負けるわけにはいかない。
優勝しないと天井の修理代出ないし!
それに――こいつは負けなきゃ前に進めないんじゃないかな?
こいつをここまで勝利に執着させているのは敗北への恐怖だ。
手の届かぬ輝きを掴みに行くような勝利への渇望とは似てるけど全然違う。
「負けは終わりじゃない!
全てを破壊するしかなかった魔竜は、聖女様に負かされたら始祖の神様になれたんだよ!
そんで種明かし! 無敵の竜王様を倒す鍵は――」
この歌に込められたちょっとした謎掛け。
それはとても簡単なようで、とても難しいもの。今のディミヌエンドは絶対持っていないであろうもの。
「“真っ直ぐな光の方向へと向かう心”だあッ!!」
剣を、振り下ろす。地面に迫る光玉、ディミヌエンドの表情が絶望に染まるのがスローモーションのように見える。
人はすぐに負の感情に捕らわれる。憎しみに突き動かされて更なる憎しみを生み出す。
自分が持っているものの素晴らしさには気付かず、無い物ねだりばっかりする。
ディミヌエンドの歌の力だって、才能もさることながら壮絶な努力の末に手に入れたものなのかもしれない。
他人から見ればそんな事は分からないから、勝手に嫉妬するのだ。
でもゲッツと一緒に戦っている時だけは、何故か真っ直ぐに光の方だけを見ていられるんだよな……
光が、炸裂する――
それを見ながら呟く言葉は、敗者への手向けではなく……
「なんだよ、ちゃんと自分の感情持ってたんじゃん。聞かせてくれよ、お前のオリジナルの歌を……」
実は派手な演出の割には殺傷能力は無い。だって音楽祭で死人出したらシャレにならんでしょ!
それに……純粋に聞いてみたかった。ディミヌエンド自身の歌を。
だからここで死んでもらうわけにはいかない。
ディミヌエンドが纏う心の鎧の象徴――死霊やらの物騒な玩具だけを綺麗さっぱり吹き飛ばすのだ。

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