2013年01月エロパロ369: みつどもえでエロパロ 8卵生 (170) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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みつどもえでエロパロ 8卵生


1 :2012/06/21 〜 最終レス :2013/01/06
みつどもえのエロSSを書いたりエロ妄想をしたりするスレ
エロなしもおk
前スレ (実質)
みつどもえでエロパロ 6卵生
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1309081667/
まとめ
ttp://www43.atwiki.jp/mitudomoe_eroparo/

2 :
保守

3 :
『ひとはの憂鬱』待ち保守ですよ

4 :
再開情報記念age

5 :
>>1
スレ立て乙

6 :
どうもいろんな方に迷惑をおかけしてるようなので、
さくっと最後まで行きます。
といって、長いので連投規制にひっかかりつつです。

7 :
やっとだ。
やっと先生を抱き締められる。
先生が私を持ち上げるため抱え方を変えようと腕を解いた。
瞬間、私はばっと自分の腕を先生の脇の下に差し入れる。
ぐったりと伸ばしっぱなしにしていた脚も一気に引き寄せ、くるぶしを叩きつけるように先生の腰に回す。
ありったけの力と、此処まで我慢してきた想いの全てを両手足に込めて、全身で先生を抱きしめる。
「え…な…?」
私の動きからワンテンポ遅れて先生の手が私の腰を掴んで持ち上げ…られず、汗で滑った勢いのまま胴と肩を通り過ぎ、
まるでバンザイしてるみたいなポーズになった。
むふ……上手くいった。
弱くて小さいひとはちゃん。
だけどいきなり違うリズムを返されたら、やっぱりこうなりますよね。
「うわちょっ待ってひとはちゃん!!?」
う〜ん、待ちきれないのは先生の方じゃないんですか?
私の中で、おちんちんがまた震えの最高値を更新する。
そして一拍遅れて根元がプクッと膨らんで、目いっぱいに広がった膣口をもう一回り押し広げようとする。
『管』の中心を塊が駆け上がろうとするのを、粘膜で感じ取る。
おお……おちんちんって結構単純な構造してるんだなぁ
身体を激震に犯されながらも、人体の神秘に感動すら覚えている私の傍で、
「ぐあっ、あああ!!」
先生は目を白黒させながら、まるでどこかへ逃げ出そうとするかのように膝立ちになった。
おやおや、お出かけですか?当然私も着いて行きますよ。なんせ先生の恋人ですから。
「んぐぅ〜〜…」
大好きな人の背中に回した腕と脚をより複雑に絡めあわせて、身体の全てを密着させる。
うああああ〜…!
抱き締めてもらうのも気持ちよかったけど、抱き締めるのも最高に気持ちいい!
どんなに力を込めても揺るがない硬さがすっごく安心する。しかも同時に温かくていい匂いまでするんだからたまらない。
多幸感で頭がグラグラしてきた。鼻血が出ちゃいそうだよ。
「うがっ、ああっ、あぐあっ!」
その浸っている隙を突くように、先生はバンザイ膝立ちのまま倒れ込んで……ベッドに押し付けて引き剥がす気か。
意図を悟った私は素早く先生の耳元に甘い声音と吐息を吹きかける。
「つぶれちゃう」
「〜〜〜ッ!!」
矮躯が叩きつけられようとするまさにそのとき、力強い腕が両側から伸びて来てバフンとベッドを鳴らした。
そうそう。この身体は硝子細工より脆いんですよ。気をつけて扱ってくださいね。
おっと、『中身』は別ですから。思う存分エグって気持ちよくなって。
ふたりの体勢が変わったことでおちんちんに子宮が鋭角に突き上げられ、膣壁が傷ごとぐにゅりと捻られる。
『幸せ』の麻酔が効いていた私だけれど、さすがに脳髄を握りつぶされるような痛み……が、来ない?
……下半身の痛覚は、まるで本当に麻酔をかけられたようにぼんやりしたものに変わった。
もちろん感覚はある。むしろ人生で1番敏感になってる。
幹を這う血管も、ツルツルの亀頭も、先端の小さな尿道口すらくっきり感じ取れる。
だけどなんていうか…急に痛みの上限が出来上がったみたいだ。
痛いのは痛いけど、ある程度以上はぼやけてなんだかよくわからないや。

8 :
「あれ…?」
おかげで上手く回らなかった呂律も、かなりマシになった。
先生の身体が熱すぎるのが気になるけど…違う。私の体温が下がってるんだ。さっきまであれだけかいてた汗が全部引いてる。
痛みと負荷が大きすぎて、生理機能までおかしくなって来たんだ。
…………この身体、いよいよ限界が近いって事か。
「きひいいぃっ!!」
「ッ!」
耳をつんざく悲鳴が、意識を現実へと引き戻す。
……どうせ先生も限界なんだ、ちょうどいいや。このままスパートをかけてしまおう。
「ひとはちゃん離れて!!」
いやあそれはちょっと無理な注文ですよ。
だって指一本でも苦しかったんです。こんな大きなモノを入れられたら、1ミリの隙間だって作れないに決まってるじゃないですか。
それに…ごめんなさい。こんなふうにグチュグチュ掻き混ぜられたら、反射でますます締め付けちゃうんです。
でもいいですよね?なんせ先生は噛み付かれるのが大好きな、変態野良犬教師ですもんね。
「だっ、めだっ!!」
プク〜。根元が更に膨らみ、爆発へのカウントダウンを告げる。
「出、る〜〜〜〜〜っ」
早く出ろ。早く出ろ。
私は期待に胸躍らせながら柔壁のうねりを大きくし、一滴でも沢山吐き出せるよう全身くまなくマッサージしてあげる。
そして―――

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く、かはぁ〜…っ」

――何も起こらないまま、波は収まってしまった。
「は、ふっ……入り口、キツくてたす、かった……」
ちっ、締め付けが強すぎて我慢の手助けになっちゃったのか。
縛り付けたら通り抜けられなくなっちゃうなんて、ここまで単純な構造だとは。
……と言ってもこの顔中びっしりの脂汗。とっても我慢したんですね。
教師の理性?男のプライド?
うぅん、どこまで持つか試してあげたくなっちゃうよ。
「ひとは、ちゃん…はっ…。
なんっで……?」
ひざまずいた体勢で私をぶら下げたまま、先生は搾り出すように疑問符を吐く。
受け取った私は、まずは首を楽にしようと、アゴを赤く濡れた左肩に引っ掛けてから、ゆったりと唇を動かす。
「んっ……何が?」
「ひゅっ…ひぃ……。
きょっ…はっ、最後は……」
「『抜いて』なんて言った覚えありませよ。『上手くやって』とは言いましたけど」
「んなっ……?!」
当たり前の事実を告げただけだというのに、腕の中で先生が絶句して停まってしまった。
これはいけない。
急いで前壁をおちんちんに押し当ててキュキュッと「やめて!」 むふぅ。面白い。
痛覚が麻痺してくれたおかげで、色々楽しめそうだな。

9 :
「くはっ…はっ……んぐっ。はふ……。
そんっ…むちゃくちゃ……」
「先生、『わかった』って言ったから。
いやぁ女性経験豊富な先生ですから、私の知らない上手いやりかたを知ってるものだとばっかり」
「くっ……!」
「何です?言いたいことがあるなら言ってもらって結構ですよ。
ほら、恋人に遠慮なんてしないでぇ」たっぷり中に出して。
きゅっきゅっきゅっ。リズミカルに締め上げる。
その度におちんちんは逃げ場を求めてお腹の中を跳ね回ろうとする。
もちろん私の締め付けは、そんな自由を許すような甘いものじゃあないけれど。
無駄ですよ。どこにそんな隙間があるんですか?そもそも入りきら程狭いトコロに、力ずくで嵌め込んでるんです。
結局ろくに動けずせいぜい私の傷を広げることしかできてません。
360度どこ探したって、もう先生に逃げ路なんて無いんですよ。
「やめてやめてやめて!お願い動かさないで!!
ぐぅ〜〜っ、くっ…はっ……そう、じゃないんだ。
お願いっ…聞い…っく、ひとはちゃんはまだ高校生で、未来があっぐぅっ!?動かさないでって!
ひとはちゃん!!」
ふぅ…やれやれ。
私は『最後』の話をしてるのに。そんな後の話、今は関係ないよ。
「ん…ふぅ……。
ねえ先生。私は先生の恋人です。だから私には特別をください。特別な女の子にして」
「してる!
……するからっ!!もっとするから!!」
「じゃあ中に出して。『可能性』があるって想いながら。
まあたぶん大丈夫ですから。お願い」
「なんでそうなるの!!?」
「だから、特別」
などと言いつつキュキュッ。
びくんびくん!あははっ。ほれほれ頑張れ〜。
「そんな『特別』っ!
〜〜〜っ、こうやって直接…セックスしてるのは、ひとはちゃんが初めて「証明できます?」 はあ!?」
私ってとっても優しい恋人だなあ。
血の溢れる噛み跡を、アゴ先でぐりぐりするくらいで許してあげるんだから。
「高級な『お店』はそういうのもあるんですよね。履歴に残ってましたよ?」
「行ってない!」
「証明できます?」
「行ってない!!!」
「だから私にはずっと傍に居るんだって覚悟と一緒にに下さい。
商売女相手じゃ、そんなのしたことないでしょう?『お願い』」
「〜〜〜〜ッ、ひとはちゃん!」
左耳から入ってきた私の名前は、困惑と悲壮と後悔の色で染め上げられていた。
ああ…先生、ごめんなさい。
だけど、
「先生。私は先生が世界で1番大好きです。何だってできます。
今日は身体の全部で触れてあげました。
初めてだけどフェラチオ一生懸命頑張りました。
お尻の穴の内側まで見せてあげました。
私の処女膜と子宮の感触、愉しんでもらえましたか?
先生に『女』にしてもらえた事、一生の想い出にしますね」

10 :
だからこのくらいの我がまま、当然許してくれますよね?
「な、ぐっ…!?」
ああん、勘違いしないで下さい。
「先生、大好きです。
先生の恋人にしてもらえたなんて夢みたい。
こうやって恋人として抱いてもらえて幸せです。
心の底から想ってます」
ただそれはそれ、これはこれってだけなんです。
もちろん先生のことは信じてますけど、やっぱりこうしておけば安心じゃないですか。
『心』はテープと違って一生擦り切れる事がないですしね。
「ひとはちゃんごめん!お願いだ!土下座するしなんでも買うしどこでもつれて行くから!!約束するから早く離れて!!」
先生の震えはだんだん小刻みになっていく。
その分の力が集中してるみたいに、管内の粘液塊が『入り口』をぐぐっと広げる。
ふふふ…あとちょっとだ。
「約束かぁ……。
先生、さっき何でもするって約束してくれましたよ」
「これ以外なら何でもする!」

「私、この1年ずっと約束を守ってきました」

「…?
1年……??」
「先生に会いにくるのは日曜と木曜だけ。
去年、約束しましたよね。
私ずっと守ってきましたよ」
「あっ!!?」
刹那、頭の中を高校生活の画が走馬灯のようによぎった。
嬉しかったこと、楽しかったこと、怖かったこと、辛かったこと。
色褪せたものなんてひとつもない。いつか先生に聞いてもらおうって大切に仕舞っておいた想い出たち。
ぐるぐる回ってぐちゃぐちゃに混ざり合って、真っ暗な色になる。胸が塗り潰される。
こんな薄っぺらい身体にはもう抑えきれない。
想いは雫として溢れ出て、重力に従い黒髪の海へ溶け堕ちて行く。
「それ…は、キミが友達と……高校、生活が……」
「私この1年ずっと約束守ってきました!守ってきたんです!
先生との大切な約束だったから!!
苦しかった!痛かった!毎日先生に会いたかった!!
良いことした日はいっぱい褒めて欲しかった!嫌なことがあった日はいっぱい慰めて欲しかった!
変わって行く毎日が怖かった!毎日一生懸命我慢して頑張った!!
そうだよ!私いっぱい我慢してきた!!」
あんなに苦しくて痛いのはもう嫌だ。
あんな毎日には戻りたくない。
私はずっと此処に居るんだ!!

11 :
決意を力に代えて脚へと注ぎ、身体同士を更に密着させる。
子宮が軋むのも無視して、ひたすら先生に近づく。
「なのに先生はいきなり約束破るんですか!?
『先生』なのに!!」
「が…っ!
やめて!またミシミシ鳴ってるから!絶対まずいよキミの身体が!
ダメだ!!」
ぎゅうっと抱きしめる。しっかりと。握り潰すように。
ほら『私』、狭いから気持ちいいでしょう?
ごしごしと頭を撫でる。ていねいに。摩り潰すように。
ほら『私』、浅いから気持ちいいでしょう?
だから先生、全部をください。

早くしないとひとはちゃんが壊れちゃいますよ?

「ひっ…どは、ぢゃん!!」
ぎりっ、と奥歯を噛み締める音が聞こえたのと同時に、先生が体位を対面座位に戻して、私の肩を痛いくらいに掴む。
弱くて小さいひとはちゃん。
大人の先生がその気になればこんなもの。あっさり上半身を引き剥がされてしまう。
でも。


「先生」
先生の目を見る。先生の瞳に私を映す。私だけを。


「……………………わかった、よ」
先生が言う。
血を吐くように。
ごめんなさい。
だけど私だってたくさん血を流してるんです。だからお相子です。
それにほら、こうすれば少しは楽でしょう?
お尻を先生の足に乗せて体重を逸らせ、子宮の圧力を解いてあげると、苦悶の表情は僅かに和らいだ。
よかった…。
「くっ……約束、して。身体に何かあったら、必ずボクに相談するって。
どんな些細なことで「わかってます」
んもう、相変わらず心配性で気の小さい人だ。
今はもっと恋人に掛けるのにふさわしい言葉があるでしょうに。
先生らしいといえば先生らしいですけど。

12 :
「……約束だよ」
「はーい。
じゃあ先生。ちゃあんと約束を守ってくれたから、最後にもうひとつごほうびをあげますよ。
左手の薬指を、私の口まで持ってきてください」
「…?
うん……こう?」
「はむっ」
「えっ!?」
雄々しく立つ指をぱっくり咥えて、舌を絡ませる。感じる塩味はちょっと濃い。
先生たっぷり汗をかいてるから…それとも私の汗の分?……ふたりが交じり合ってできた味、っていうのもなんだかいいな。
味わいを求めていったん根元まで咥え込んだら、今度はちゅうちゅう吸いながら首をゆっくり引き抜く。
上唇に爪を感じたところで、舌先を指と爪の間に差し込みくすぐってあげる。そしてまた、根元まで扱くように飲み込んでいく。
さっきのフェラを思い出しながら、見せ付けるように指をおしゃぶりしてあげる。
「んちゅ…ぢゅぅ……」
「え、え、えっ?」
上目遣いの視線の先で、先生は真っ赤になって戸惑ってる。…悦んでる。
むふふ〜。ごまかせませんよーだ。
ゲンキンだなぁ。今日までは同じ視線を向けても、目を伏せてふわふわ笑ってるだけだったのに。
「んちゅ、ちゅぅ…じゅっ……」
相手の鼻息が荒くなってきたのを確認したところで、メインを舌遣いに切り替える。
たっぷりの唾液を擦り付けて、指がふやふやにふやけるくらい濡らしてあげる。
関節をエラに、爪先を鈴口に見立てて、時に優しく時にねっとりと愛撫すると、
お腹のおちんちんと連動してぴくっぴくっと跳ねるのが可愛くて、
私はだんだん本来の目的を忘れて夢中になっていく。
「ぢゅ…る…っ、ふっ、んちゅ、れるぅ…」
「ひとは、ちゃん……」
「ん……ふぅ。
それじゃ先生」
ちゅるんと口から引き抜いた薬指は、たっぷりの唾液で濡れそぼり、日を受けててらてらと淫靡に輝いている。
昨夜からの生活とか、朝ごはん前であることとか、終わった後の言い含めとか、色々天秤にはかかるけど、
傾きを変えるには全然足りない瑣末事ばっかりだ。
「この指、私のお尻に入れていいですよ」
恥ずかしさなんて微塵も感じない。
「おし………へぇっ!!??
やっ…そんな、こと別に……っ!
しないって!しないよそんな変態みたいなこと!!」
「いいですよ。
興味、あるんですよね。そういうDVDも持ってるんですから」
「あっ…あれはちょっと、友達に押し付けられたというか…そうなんだ!
あれはボクのじゃないんだよ!友達が忘れていったヤツ!!全然見てないっていうか、今度捨てる気だったんだから!!」
「はいはい。
じゃあ私が興味あるってことにしてあげますから、いいですよ」
……もちろんそんな興味あるはず無い。
確かにあれからずっとお尻の穴はヌルヌルしたままで、なんとなくむず痒いと言うかスースーすると言うか……私はノーマルだってば!

13 :
「だからしないって!
『初めて』のひとはちゃんにそんな事できるわけないでしょ!!」
さっきまでの苦しそうな表情はあっさり消えて、
真っ赤になって目をぎょろぎょろさせながら、一応口でだけはもっともらしい言葉を紡ぐ。
『初めて』の女子高生にシックスナインまで要求しておいて、今さらそんな事言っても説得力ゼロですよ。
もうここまで来たんですから、全部さらけ出しちゃって下さい。
私がなんでも受け入れられるってところ、見せてあげます。
「初めてだから、させてあげます。してあげたいんです。
私が今できる1番の『気持ち良い』をあげたいんです」
何事も最初が肝心だ。
『初めて』でもこれだけ美味しいんだって事を覚えさせておけば、
今日の回顧と明日への期待で、もう他になんて見向きもしなくなってくれるはず。
そのためだったら、この程度なんでもない。
「さあ先生」
両手でやんわり先生の頬を包み、アゴをなぞって意識を収束させる。
恋人に、自分がさせる行為とその意味に目を向けさせ、胸へと刻み込ませる。
そして揺れる瞳が定まったのを確かめてから、私はお呪いをするように言霊を唇に乗せる。
「指を、私のお尻の中に入れて」
「…………」
先生がごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと動き出す。
お尻に大きな手が、窄まりに硬い指が添えられる。
「ん…ふ……」
ゆっくりと力が入り、
指が、
 内臓に、
  進入してくる。
「ふぐぅぅ…ふっ……」
鼻から深くを息を吐いて圧迫感を逃がしながら、お尻の穴を広げて受け入れる。
あらゆるサイズがSS規格になってる私の身体だと、ココは指でもかなり厳しい。
普段は意識しない、できない皺達が、一本残らず全部ぴっちり伸び切って、表面がツルツルになっているのを知覚する。
それでも関節部分を通すのは勇気が要る。
「…んっ」
まずは第一関節。
1番太いところが肉のリングを通りすぎると、一気に2センチくらいにゅるんと入り込んできた。
ついに大好きな人に、腸壁にまで触れられてしまった。
痛覚は相変わらず麻痺しているからいいけれど、明らかな逆流感に生理的嫌悪が呼び起こされて身の毛がよだつ。

14 :
「あっぅ…はぁ〜…」
「だいっ、じょうぶ……?」
声の響きからはもちろん心配が感じられる。
でも鼻の穴を広げて興奮しきった表情を見ると……ふふっ、思わず口元が吊り上がってしまう。
どこまでも嘘のつけない人だなぁ。
「余計な事は…いい、からっ……」
軽くお尻をゆすって、返答と要求の続きにする。
さすがに5年間付き合ってきた恋人だ。ちゃんと意図を汲み取ってくれて、2・3度目をまたたかせてから進行を再開させた。
「くうっ……」
いよいよ第二関節だ。
括約筋は限界まで広がりきっているというのに、まだ直径差がある。抵抗がある。
けれど、ふたりの唾液のぬめりと意思がついに、
「…〜〜うんっ!」
!!
「ボクの…入った…っ!」
一気に根元まで。
お尻の肌に汗で濡れた手のひらが密着する。
「ちょっ…と待って、くはっ…くださ……っ!」
「う…うん」
最後の瞬間、ピリッと走った痛みに嫌な予感がする。
切れてないかが心配になって、リングへ力を込めて、抜いてとくり返してみる。
「あうっ…ひとっ……!
ダメ、イッちゃう…!」
う…一緒に『前』も動いちゃうから……。
………もういいや。後のことなんて知るもんか。元からそのつもりだったんだし。
「ンッ……いいですよ、先生。
……どうですか?」
「う…わ…ツルツルしてるよ…っていうかうわわっ、
これっ、ボクのがはっきりわかる……っ!!
これ、ここ、こんなに薄いんだ…!」
驚嘆…ううん、感嘆。感動すら入り混じった嘆声がもれる。
もちろん驚きなのは私も同じだ。というか今日は人体の不思議に驚いてばかり。こんなふうになってるんだ……。
『壁』なんて言うけど、この薄さはもう『膜』に近い。
先生の指とおちんちんにつままれてる。
つままれて、グリグリされて…破られちゃうんじゃないかって恐怖の悲鳴を、なんとか飲み込む。
「熱くて、にゅるにゅるしてて……あっ、でもこっち側は空間が……?」
「くふぇっ」
こっちの努力なんて気にも留めずに、薬指は遠慮なく洞窟内を冒険する。
私が望んだことだったけど、
背中側にぐりょっと第一関節を曲げられて、中身を掻き出すように腸壁を擦られたのはさすがに限界を超えた。
蛙のような妙な声が口を割って飛び出してしまった。
「せっ…先生っ!掻き回さないで!!」
「あっ!ごめん!!」
ぐ…はあぁ……。
ほんといちいち調子に乗ってくれますね…っ。

15 :
「ごめん!大丈夫ひとはちゃん!?本当にごめん!!」
「かふぅ……遊ぶのは、また今度に……。
今は、先生のに押し付けて……」
「う…うん。
うっ…」
先生の薬指が…2本目の肉杭が、薄膜を挟んでぴったりと寄り添う。
強張りにはすでにこれ以上無いほどの圧迫感を与えていたはずだけれど、『真後ろ』の空間が無くなったことで苛烈さが増したようだ。
先生は眉を寄せて切なそうに啼いた。
「それでそのまま…ふぅ……。
ん……動かしていいですよ」
「う…うん。
あっ…でもこのままじゃボク、腰を動かせられないから…。
もう1度ひとはちゃんが寝転んでくれない………かな?」
この期に及んでまだ逃げ路を探しますか。
やれやれ…いくら読みきってたとはいえ、さすがに気分を害されるよ。
「ハァ……勘違いしないでください。
動かすのは『私』です。お尻と腰を抱えて、『私』を動かしてください。
軽いものでしょう?」
だってこの身体、たった34kgしかないんですから。
あの頃とほとんど変わってないんです。
私も先生の両肩に置いた腕の力で手伝ってあげますから、昔以上にひょいひょいやってください。
「かっ…軽いから、ボクは……」
「じゃあしてください。
自分の手でするみたいに、上手に『私』を使って気持ちよくなって。
思いっきりシてくれていいですよ」抜けないように脚を絡めてますから。
ね?と確認するように首をかしげながら、踵で先生のわき腹を小突いてあげたところで、先生はやっと納得してくれた。
大きく息を吐き出してから、右腕を私の背中にぐるりと回した。
「………動かす、ね…」
ひょい。軽い挙動で持ち上げられる。
とすん。軽い音と一緒に下ろされる。
「うあああぁっ!!」
それだけで先生は全身をガクガク震わせて大騒ぎの大喜び。
『中』は相当すごい事になってるんだろう。
そりゃそうだ。
「ぐううう〜〜っ!」
こちらも尋常じゃない摩擦を味わってるんだから。
お腹を先生の腹筋で、腸壁を薬指で押さえ込まれてるせいで、あらゆるベクトルがひとつに収束する。
痛覚が麻痺していても、生理機能そのものを揺さぶる衝撃を叩き込まれるせいで、
目の前が真っ暗になり激しい嘔吐感までやってきた。
だけどこれでいい。
これなら先生は天国みたいに気持ち良いはずだよ!!
「ぐあっ、腰ごと持っていかれるかと思…っ!も、イく…!」
「1回だけなんて情けないですよ早漏!
ほらぁっ!
にぃ〜〜〜〜〜〜〜…」
「そんっ…ああっくっ!」
私の掛け声にあわせて、身体が上方向へスライドしていく。

16 :
開ききった肉傘は釣り針の返しのように柔ヒダを引っ掛け、こそぎ落とすようにしながら入り口へと下がっていく。
膣肉を掻き出されていると錯覚しそうな程の強烈な刺激によって、下腹にますます力が入り、密着度は天井知らずに上昇する。
膣壁が敏感なエラの裏側にびっとりと吸い付き、ギリギリまで伸びきってからぷつっと千切れるように剥がれて過剰なまでの逆撫で感を与える。
皺の数だけ何度も何度も何度も。
もちろん刺激を送り込む対象はカリだけに留まらない。
『閉じている』のが自然な私の処女孔は、おちんちんが退くのにあわせて収縮し、亀頭を最後まで舐るように責め立てる。
入り口の柔肉の噛み付く強さで幹を扱き、中に詰まった精液を発射口へと絞り導いてあげる。
視覚効果だってきっと抜群だよ。
抜け出ていく幹に吸い付いて凸型に変形したアソコって、男の人はすっごく興奮するって本にはあったし。
「…〜〜、」
「くうぅっ!」
ぷちゅん、と膣口のリング肉にカリ首が引っかかる。
ひと際強く噛み付いてあげてから、踵を腰骨に当てて挿入開始の合図を送る。
「いぃ〜〜〜〜〜〜〜…」
今度は、下へ。
びったり閉じきった膣道は、最早穴なんて無い肉塊に等しい。
だからピンクの丸い矢じりは凄まじい抵抗を受けながら、みっしり詰まったお肉の海を掻き分け進むしかない。
「うわっ…ゾロゾロって……!すご、擦れる…っ!」
ミリミリと拡張音を響かせながら矢が埋まる度、とろんとした瞳がますます潤む。どんどん近づいてくる。
愛らしくて、美味しそうで、直接舌を這わせたくなる衝動がゾクゾクと背筋を駆け上る。
もっと美味しく熟せられるよって、頭の奥から響いてきた声に従って、私は腰に円運動を追加する。
「ぐっ…ちょっ、痛い…っ。痛い痛い痛い!
ひとはちゃんそれホントに痛いってっ。ちょっ…緩め、てぇ…!
んあぁ……っ!!」
むふぅ。そんな嬉しそうな声出されたら、ますます止まらなくなっちゃいます。
ただでさえ効果の足りない私の潤滑液は、身体の機能不全のせいで分泌量が更に落ちてる。
おまけに表面に塗布された分も、締まった膣口によってこそぎ落とされて、シーツに薄赤の染みとして消えていくばかりだ。
明らかに摩擦係数の上がり過ぎた粘膜で左右に抓って、こんなにおちんちんの形を歪ませちゃったら、
男の人にとっては拷問になっちゃわないかなって気になったけど……この分なら、いらないお世話だったみたいだ。
「…〜〜いっ!」
亀頭が奥まで辿り着いたら、すぐさまツブツブとコリコリで大歓待。
離れて寂しかった時間の分だけ、うねりと締め付けで帰還を祝福してあげる。
むふ…子宮口で亀頭にディープキスしてあげると、先生ってばギュッと身体を竦ませて悦ぶんだよね。
……本当は鈴口に重ねて『くちづけ』したいけど…う〜ん、ちょっと角度が難しいな。
「ぐああっ!
もう無理!!イクイクイクっ!!」
「さぁ〜〜〜〜〜〜〜…」
「ああもうっ!くうっ!」
先生だって愉しくてしょうがないくせに。
全身から湯気が出そうなくらいに汗を噴出しながら浅い呼吸を繰り返し、苦しそうな‘フリ’をしていても、
お尻の中の薬指の動きのおかげで、気持ちははっきり伝わってくる。
『隣』で亀頭が上下するのに合わせて、薄膜ごと捻じ込むようにぐいぐい押し付け、
裏スジとカリに最大限の負荷が掛かるように調整してるんだから。
やっぱり先っちょが気持ちいいんですね。もっと先生の気持ち良いところを教えてください。
自分でする時みたいに沢山ゴシゴシしてください。
セックスと一緒にオナニーまで愉しめる恋人なんて、すっごく豪華でしょ。
でも腕の縦運動とうねりの横運動だけでも凄いのに、膜越しの垂直運動で三重奏にしちゃうなんて、
おちんちんが蕩けて無くなっちゃっても知りませんよぉ。

17 :
「…ぁ〜〜〜〜〜〜〜んっぐぅ!!?」
ゴールインは三度目だったけど、今度の衝撃はあまりに強くて危うく舌を噛み切るところだった。
原因は、いよいよ追い詰められて抑えられなくなってきた、彼氏の欲望だ。
『私』が落ちきるのに合わせて腰を突き上げられたせいで、また一段子宮が内側へへこんでしまった気がする。
「ひとっ、ああっ、あっ!」
しかも肉棍を打ち付けただけじゃ収まらず、めりこませたままごりゅごりゅ擦り付けて来た。
指のときもそうだったけど、男の人ってそんなにお胎に帰りたいのかな。
パスタみたいに細い子宮口を通り抜けられるはず無いのに、泣くほど必になって尻尾を振っちゃって。
「ぐ…ぶっ!
がんば、れ…ぜんぜ…ぇ…っ」
こんな一生懸命な姿を見せられると、お部屋の中に招待してあげたい所だけど……流石にこればっかりは無理だ。
せめて代わりに私も全体重を掛けて、軟骨みたいなコリコリ子宮で鈴口を押し広げ、尿道の内粘膜にまで悦楽をプレゼントしてあげる。
腸壁に爪を立てられたって受け入れられる。
カズノコ天井って噂以上に気持ちいいんだろう。
先生ってば息が詰まっちゃってるのに、ザラザラの奥壁を使った亀頭研磨が止められないみたい。
薬指に猛烈な力を込めて、裏スジが破けないかと心配になるくらいに直腸からグリグリ、グリグリ。
「せんっ…ぐっあ、ひゅっは、ああ……っ!」
「ごめんごめんごめん!!
ひとはちゃんごめん!!」
今は気にしないで。もっと『私』を好きにして。
心配は後でたっぷりしてくれればいいですから。
私は右手で優しく先生のアゴをなぞって、気持ちを伝える。
剃ったばかりの綺麗なアゴには、赤い跡――興奮で更に溢れ出した左肩の血液――が残った。
……やっぱりヒゲは邪魔だったな。もう一生伸ばさないよう後で『お願い』しておこう。
「よ、おぉ〜〜んぐっ!!ごおっ!!ろっぐうっ!!」
「あっ、あっ、があぁっ!!」
ストロークは急激に短縮し、亀頭部への集中攻撃へと切り替わる。
腕と薬指と膣と腸とが、何もかもがめちゃくちゃに動き回り、
お互いを溶かして混ざろうとするかのように激しく擦りつけぶつかり合う。
どうです先生?
小っちゃな『私』だからこその、最高の『気持ち良い』ですよ。こんなの他の女じゃ絶対味わえません。
「なぁ「ごめん!!!」 がぶぐ!??」
7度目のカウント途中で、ついにギブアップ宣言があがる。
上げかけていた腕を勢い良く下ろし、今までに無い強さと角度で亀頭を子宮に叩きつけて―――…

…―――今、先生と私、『くちづけ』した――…
「イクッッ!!!」
は じ け た っ!!
おちんちんがお魚みたいに跳ねながら、けれどくちづけをしっかり維持したまま、熱い粘液を口移ししてくれる。
沢山のおたまじゃくしが入り口を通ってお部屋へ押しかけ、内壁にピチピチぶつかり回る。
奥の奥の奥、最後に残った空間を埋められる原始的な官能が、頭の中を真っ白に塗りつぶしていく。
すごくすごくすごくすごく幸せ!!!
幸せすぎて吐きそう!!!

18 :
「あっ、あっ、かあっ…まだ出る…っ!」
「ぅん…せん……おめめ、逸らしちゃめーですよぉ……」
俯いて私を無視しようとする恋人の首を両手で握り締め、ツルツルのアゴを親指で押し上げる。
ほらっ、先生も何もかもを『私』で埋めてください。
「あがっ、虹……っ!」
うわあああっ!今日1番可愛いお顔してますよ!!
目を見開き大口を開けて、涙と鼻水と涎でぐしょぐしょにし「げぼっ!」 …あ〜あ、良い所だっていうのに限界なのか。やっぱり使えない身体だよ。
心は最高潮なのに、身体の方がダメージの許容値を超えてしまったようだ。胃の奥から甘酸っぱい液体がこみ上げてきた。
慌てて口を閉じたけど、量が多すぎてすぐに私は食事中のチクビ(※ハムスター)みたいになってしまう。
いけない、このままじゃ先生に……そうだ。

これも先生にあげますね。

「んちゅっ…ぐぶぶっ…!」
「!
〜〜〜〜っ!!???」
下のお口のお返しに、上では私から口移しで粘液をご馳走してあげる。
とはいえ流石に突然すぎたようで、『ひとはちゃんの全部が大好き』な先生でも、唇を合わせた瞬間は目を剥いて停まってしまった。
けど大丈夫。
「〜〜〜〜〜ごくん!」
むふうっ!!
「げあっ、おごぶぷっ…ぐぶふ、げぽっ!」
「ごきゅっ、んぐ、ふぐく、ぶふっ…ん、ぐう!」
やっぱりそうだ。
気持ち良くなってるときの先生は、私の思うがままにできるんだ。
今だってほら、両手は私のお尻を握り締めて、子宮ゴリゴリするのに忙しいから、突き放そうなんてそぶりは微塵も見えない。
「……ぐふ〜っ、ふっ、ふぶ…っ」
「ふぐっ、ずっ…ぐ、ふぅ〜……」
やがて注ぎ合うものが尽きても、ふたりはひとつのまま。
上と下でくちづけし合い、両の手を硬く握り締めたまま、塊となって春の光と空気を浴び続ける。
ずっとこのまま――…
「げふっ!ごはっ!!
が、はあ〜〜…っ!ぜ、はぁ…。ぜはー…!」
突然先生が咳とともに唇を離し、そのまま天井へと荒い息をくり返す。
その挙動にはっとして、私は両手を先生の首から離し、茫然と手のひらを眺める。


19 :
ぐー。ぱー。ぐー。ぱー。

……………………………………………………まいっか。

「ごふっ…!
びと…ばっ、だいじょ…ごほほっ、がはっ!
が、はぁ〜〜…っ、ひと…ぢゃん、だいじょうぶ?」
怖いものなんて何も無い。何もかも終わったんだから。先生の恋人になれたんだから。
今だって先生は、血と涙を流しながらでも私へと優しく手を差し出してくれてる。
私を1番に想ってくれる。
これからはずっと、これが私の日常なんだ。
涙なんかひとカケラも無い楽しい毎日が、ずっと続くんだ。

「ごめん、ひとはちゃん……っ」

幸せだなぁ…。


20 :



ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり………。
先生は恋人である私を、まるで世界一貴重な美術品のような扱いでシーツに下ろし、腰を引いていく。
「う…ああ…すごい血が……。
…って、あれ?あんなに出したのに……?」
埋め尽くしていた相手が居なくなっても、注ぎ込まれたものはお部屋に留まったまま。
子宮口は極小だし、アソコはもうぴったり閉じちゃってるし、おまけに液っていうよりゼリーみたいにドロドロだから、
立ち上がらなければずっと中に溜めておけそうだ。
「とにかくティッシュティッシュ…タオルの方がいいか。
痛っ…。
ボクは包帯が要るな……。
……ひとはちゃん、すぐ拭いてあげるからね。あっ、飲み物も持ってくるから。
水がいい?オレンジジュースも冷えてるけど……あったかいのの方がいいのかな?そうだ、お風呂もすぐ沸かしてあげるからね。
ちょっと待ってね。ごめんね」
むふ〜…こうやってお胎でタプタプくゆらせるの、すっごく気持ち良いなぁ。癖になっちゃいそうだよ。
満たされてるって感じで……おおっ、私上手いこと言った。
「……ひとはちゃん?
……ね、ひとはちゃん?」
枕からもシーツからも先生の匂いがするし、お日様はポカポカして暖かいし、もう今日はこのままずっと寝転んでたいなぁ……。
うん、そうしよう。今日はふたりでゴロゴロの日だ。
どうせしばらくは指一本動かせそうにないんだし。
そうと決まれば最後にもうひと頑張り。
「ちょっ…ひとはちゃん本当に大丈夫!?
お願い返事して!!」

 先生!
「先生!」

「……はい」


 抱っこ
「抱っこ」



21 :
==========

朝日が昇れば、私は『今日』を組み立てるために立ち上がらなければならない。
……まあ、さすがに今日はいつもの順番通りとは行かなくても許してもらいたい。
「じゃ…じゃあいって…き、ます……」
「いってらっしゃい」
みっちゃんの憮然とした声に追い出されるようにして、私は玄関から足を踏み出…痛たたっ!一歩動くだけでも辛い!!
……とは言え無理してでも行かねば。家の前で立ち止まってたら、パパに変に思われちゃう。
日直の友達の手伝いをするからって理由で、お弁当も我慢してもらったんだし。
私は塀に手を着いて身体を支えながら、通学路を進む。
油の切れた人形のように……。
「うぐっ…流石に昨日は無理しすぎたか……」
股間だけじゃなく、身体中から異常を告げるアラートが鳴り響くせいで頭がグワングワンと揺れる。
ひと眠りした後も色々やったからなぁ……。
アソコが使えなかった分逆に、色んなところで――…
『それじゃあ『お掃除』してあげます』
『いいですよぉ……このまま髪にたっぷり掛けて下さい」
『お風呂まで抱っこで連れてって』
『先生が汚したんだから、先生が洗ってください』
『ん……また大きくして……』
『今度こそごっくんしてあげます』
「わー!わー!わー!!」
恥ずかしすぎる自分の台詞を、耳を塞ぎ大声を出して追い払う。
完全に、純度100%の恥女じゃないか。
わ…私としたことがなんであんな馬鹿な事を……

『あう…ごめん、ひとはちゃん……』

むふう。


22 :
だってしょうがないよね。先生が可愛すぎるのがいけないんだよ。
あくまでも恋人を喜ばせる目的でやったことなんだし、別に私が特別エッチな子ってわけじゃないって。
恋人のためだもん。だって私は先生の恋人なんだから。
むふふぅ〜。
ああなんて幸せな響きだろう次はいつ会いに行こうかなもちろん先生にはお仕事があるけど恋人との時間を大切に「おはよう三女」
「うひょわああ!!?」
突然背後から声を掛けられたせいで、肺の酸素をまるごと絞りつくしての悲鳴を上げてしまう。
空気の振動を受けて、電線のスズメたちがぱたぱたと飛び立っていった。
こっちも口から心臓が飛び出るかと思ったよ……。
「び…びっくりした……。
なによいきなり。挨拶しただけでしょ」
「あ痛たた……す…杉ちゃん。
ごめんごめん。ちょっとその…まあ、あれがそれで……」
驚きの余韻と無理に動いた痛みのせいで、今は挙動不審もはなはだしい所作と台詞しか並べられない。
あれがそれって何なんだ。
「……………まあ、いいけどね。
はぁ〜……。手伝わせてと言ったのは私だから、昨日は協力したけど……二度は無いから」
杉ちゃんは右手に金色の携帯を掲げ、盛大にため息をつく。
ただでさえ切れ長で、意思の強い真っ黒な瞳の杉ちゃんにジト目を寄越されると、
こちらとしては曖昧に笑いながら引き下がるしかないよ。
昨日のことを思い出すとなおさら。
昨日。
結局あの後、お昼を過ぎても…1日中先生と一緒に居たかった私は、一計を案じて、
みっちゃんと杉ちゃんに協力してもらう事にした。
携帯電話のグループ通話機能を使ってふたりと先生の携帯をつなぎ、私が杉ちゃんの家に居るかのように家へ連絡を取ったのだ。
先生がちゃんと挨拶しに行くからって言ってくれたのは嬉しかったけど……何か作戦を考えないと殴りされるのがオチだよ。
せっかく一緒になれたのに、いきなり独りになっちゃうなんて全然笑えない。
あっ…でもお胎の子が居ればふたりか。
なんてね。
………………いや、大丈夫大丈夫。大丈夫だって。計算上は安全圏だったし。うん。きっと。たぶん

23 :
「ちょっと三女?」
「はっ!?
あ…あははっ、今日は天気がいいし、春風も気持ちいいね。ついウトウトしちゃうよ」
「あえて突っ込まないであげるわ」
「アリガトウ…………。
……ところで何でこんなに早く?」
「みつばに」
ひと言いって、杉ちゃんは人差し指で携帯を叩いた。
なるほど、みっちゃんがフォローを頼んでくれたのか。
昨日から何度も悪いなぁ。今度黄昏屋のシュークリームを買って帰ってお礼にしようっと。
最近またカロリー気にしだしてるみたいだけど、その分ローカロリーのおかずを勉強して普段を抑えてあげればいいんだし。
お互いの足りないところをフォローし合うのが、私たち三つ子の自然なカタチなんだから。
……胸を張って言える。大好きな恋人が、そう言ってくれたから。
「三女……。
………正直、昨日の件はあんまり……いいわ。余計な事は言わない。
今のあなたの顔を見てたら、何も言えなくなっちゃった。っていうかそのうち丸ごと矢部っちに言ってやる事にするわ。
まったく…美少女って逐一卑怯よねぇ」
「え〜っと……ありがとう」
最後に妙な皮肉が聞こえたけれど、せっかくスルーすると言ってくれてるのだ。こちらも流しておこう。
「……ほんっきで嬉しかったのね。キラキラが溢れて眩しいくらいよ。
こりゃ男共がほっとかないだろうし、今日から一段と厄介な事になりそうねぇ。
はあ………」
最後にもうひとつ嘆息を残し、杉ちゃんは携帯をポケットに仕舞った。
よくわからないけど面目ない……っと、そうだ。
「ねえ杉ちゃん。携帯ってネットで調べ物もできるんだよね?」
「うん」
「お願いがあるんだけど……」
「いいわよ。何を調べればいいの?」
「…………女の子のあそ………やっぱりいいや。忘れて」
「『あそ』?」
「忘れて」
言えない。
言える訳が無い。
アソコが腫れてふくらんでしまっているなんて……っ!
治療法を調べてもらおうかと思ったけど、いくら相手が親友でも流石に聞けないよ。
うぅ…でも一生このままだったらどうしよう。先生に嫌われちゃうかな……ってまあ犯人は先生なわけだから、どうとでもできるか。

24 :
「……まあ深くは聞かないわ。
言っとくけど全部貸しだからね」
「へへぇ〜。ありがとうございまする。
このご恩は必ずお返ししますので」
いつものように懐の深さを披露してくれた幼馴染に向かって、ひとまずは精一杯のお礼を告げる。
直立不動ではあるけれど、誠意はしっかり込めた。
……お胎が痛くて、今はお辞儀なんて無理だよ。
「……いちいち……。
行きましょう。なるべく人目につかないよう、早めに出たんでしょう」
「う…うん」
返事と共に、また一歩踏み出し…あいたたっ!やっぱり身体中が痛い!
な…何か楽しいことを考えて気を紛らわせなきゃ。
楽しいこと、楽しいこと……
『大好きだよ、ひとはちゃん』
むふう!
「なんかもう、眩しすぎて目が痛いわ……」

25 :



教室に一番乗りしたといったところで、始業時間が近づけば当然人は増えてくる。あわせて『視線』も倍の速度で上昇してしまう。
恋人どころか好きな人もいないという設定の私だし、大人しく座ってればまさか気付かれまいとは思うけれど、
クラスには先輩『経験者』も何人か居るわけで。
小さなきっかけから、大切な先生との関係が崩れてしまわないかと、どうしても脈拍が上がってしまう……。
今日はなんだかいつも以上に『視線』が強いし。
「おっはよーさん!姫!」
「ひぎっ!?」
神戸さんに背中へ圧し掛かるように抱きつかれた瞬間、目もくらむほどの激痛が襲ってきた。
いつも通りのスキンシップとは言え、今日これをやられちゃたまらない。
…だってふたり分の体重でアソコが椅子に押し付けられたんだよ!?
本気でぶん殴ってやろうかと思ったよ(痛みで身体が動かないけど)!!
「な…なんなん姫?どしたん?」
「べ…べふに。おふゃよう」
ダメだ、痛みのせいで思いっきり呂律がおかしくなった。しかも周りの柳さんと時枝さんにも聞かれちゃったよ。
「ねえ姫、やっぱり体調悪いの?
朝からずっと座りっぱなしだし、いつも以上に無口だし……」
「だよなぁ。輝きが凄いから心配すべきなのかどうか迷ってたけど、やっぱ変だ。
なあ姫、なんかあったなら言ってくれよ。あたしじゃ協力できるかどうかわかんないけど、話すだけでも軽くなることってあるぜ?」
ああ〜っ、みんなの善意が余計に痛い!
「ほんま何千ルクス出とんねんってくらい明るいなぁ〜。
よっぽどええ事あったんやろけど、身体悪いんか。
保健室行く?」
授業始まったらタイミング見計らっていくつもりだから、ほっといてぇ〜っ!
っていうか今は立ち上がれないんだって!
「調子悪いんは足?お腹?
そんな膝ぎゅっと合わせて……あれ?ひょっとして姫……」
ぎっくぅ!
流石先輩、鋭い!
「三女はそのっ…ちょと今朝ひさ「やあ三女!おはよう!」
杉ちゃんのフォローを明るいアルトが遮る。
黒板側の入り口から入ってきたのは、

26 :
「さくらちゃん」 「松原!」 「松原さくら!」 「どしたのさくら?」
私、杉ちゃん、神戸さん、柳さんの呼びけが同時に向けられる。
受け取ったさくらちゃんは軽く肩をすくめてから、他クラスだってことを意にも介さず颯爽と私の席へと歩いてきた。
やっぱりさくらちゃんの凛々しさには憧れちゃうなぁ。黒の深い瞳も…あれ?メガネが無い。
「やあ三女、おはよう。
昨日は本当にありがとう。これ、私がよく使ってる湿布だ。良かったら使って」
意味不明な台詞と共に湿布薬のだろう、緑色の箱が私の前に置かれた。
日曜日?さくらちゃんと勉強会したのは土曜日だよ?
「え?え?え?」
「昨日は本当にありがとう。キミが一緒に走ってくれたおかげで、色々吹っ切れたよ。
今日からまた陸上部でやって行くことにした。
でも運動の苦手なキミがあれだけ走ったんだ、きっと今日は筋肉痛で立つのも辛いだろうと思って湿布を持ってきたよ。
使ってくれ」
今度の台詞はわざとらしいくらいに説明的だったおかげで、あわせて右手に掲げられた携帯の意味がパパッとわかってしまった。
みっちゃん……微妙にありがた迷惑というか恥を拡散してくれたというかでも悪いのは私だしなぁ……。
「んだよ姫。
めったに運動しないヤツが長距離走ったんなら、ちゃんと風呂でマッサージしとかないと」
一応、助かったか……。
「ありがとうさくらちゃん。
っていうか陸上部って…っ!」
「ま、そういうことだ。残念ながら私は文学少女にはなれない星の下に生まれてきたようだ。
…中学の友達も歓迎してくれた。
嬉しい限りだけど…やれやれ、2年近く独り芝居をやっていた現実を突きつけられるのは、辛いねどうも」
う〜ん、爽やかな笑顔だなぁ。わかり易い友人だよ。
「ふふふっ、それは残念続きでご愁傷様だね」
「まったくだ。
ま、回り道をした分、今日からしっかり頑張るよ。
せっかく髪長姫に好きだって言ってもらえたんだ、それにふさわしい女の子にならなきゃね」
笑顔と一緒に、パチリと星が飛び散りそうなくらい魅力的なウインクをプレゼントされて、私は不覚にもまともに赤面してしまう。
むぐぐ……こないだは私の圧勝だったけど、やっぱりやるねさくらちゃん。
「う…うん。
それは立派な心がけだよ、うん。心がけだけどね」
「……本当にありがとう、三女」
口をへの字に曲げている私に軽く微笑んでから、さくらちゃんが頬を寄せるようにふんわり抱きついてきた。
一瞬身体の痛みを心配したけど、そこはさくらちゃん。上手く体重を掛けないように、けれど温もりの伝わる絶妙な抱擁だ。
そして更に、右耳にはこしょこしょ声が吹きかけられる。

27 :
「一応王子様とのゴールインおめでとうとは言っておくけど、あんまり褒められた事じゃあないよ」
「う……ごめん。
みっちゃんから無茶振りされたんでしょ?それも合わせてゴメン」
「なあに、そっちは気にしてもらう必要は無い。
それだけみつばさんから信頼されてるって証拠なんだから。
ま、今後は私もキミの物語の登場人物に加えてくれ。
情報かく乱にせよなんにせよ、今日同様、松よりも良い手際を披露できると思うよ」
「……ありがとう」
もうそれしか言えないよ。
「うん。
……じゃあね!また遊びに行くから!!」
秘密の打ち合わせが終了したさくらちゃんは、ばっと身を翻して来たときと同じく颯爽と教室を出て行った。
戻ってきたんだな。春風みたいに爽やかな、私たちの友達が。
……先生、ありがとうございます。
「輝きが更に……。
姫、そういう事だったんだ……」
茫然とした柳さんの声にはっとした私は、補足説明のため慌てて隣へ顔を向ける。
「そっ…そうなんだ!
ちょっと恥ずかしかったから黙ってたんだけど…んも〜、しょうがないなあさくらちゃん」
急いでストーリーを組み上げなくちゃ!
青春ごっこしてたみたいで恥ずかしくてって事にして、走ったルートはどうしようかな?
時間も決めとかなきゃだし…ああ〜、ゆきちゃんの霊よ私に宿れ(ゆきちゃん生きてるけど)!!

28 :
「姫、ソッチの人やったんや……」
「そうそう、私ってソッチの……は?」
え…ちょっと待って。不穏な響きが混じってたよ?
それに何でみんなじりじりと離れていくの?
「そうか…それでどんな男子が言い寄ってきても袖にしてたのか……。
う〜ん……なんかあたしがAクラに来たせいで、ふたりを引き裂いちまったみたいで悪いなぁ……。
ってなわけで今日からあたし、別のグループで昼食べるから。
じゃ」
「『じゃ』じゃないよ時枝さん!絶対おかしな誤解してるから!!
柳さんからもなんとか言って!」
「私、文化としては認めてるけど、自分に害が降りかかるのはちょっと」
「『害』って!?
机を引き離さないで!!」
「……ま、そいういうカモフラージュもアリか」モニョモニョ
「杉ちゃん!?」
無いよそんな選択肢!!
はっきりと感じる。
ガラガラと音を立てて、築き上げてきたものが崩れていく。
 「え…丸井さんって……」
 「でも杉崎さんも中学の時の噂だとね……。で、ずっと一緒にいるってことは……」
 「知ってる知ってる丸井…みつ…?とにかく『丸井さん』を取り合って、杉崎さんと松原さんが毎日……」
 「うっわ大スクープ!東校の友達にも……」
 「そんなっ!丸井さんがレズだったなんて!」
 「う、ええ?いやでも確かに『好き』って言ったって…しかも否定しなかった……」

うああっ、今日からの学校が……生活全てが怖い!!

「あ、姫が髪まで真っ白になって崩れ落ちた」

うわ〜〜ん!!!

<おわり>

29 :
==========
==========

………………………………。
…………………。
………。
ふ…ふふふ……。
わかったよ。
そっちがその気なら、こっちにだって考えがあるよ。
私だって知ってるんだから。みんなのあの事とか、あの話とか。
実はアレの事だって見てたんだよね!
ここまでのお返しに、ぜぇ〜〜んぶ話してあげるから!
さあ、覚悟して!!

「次はあなたの番だよ!!」

<ここから始まるプロローグ>

30 :
終わり!!

二〜三日後にあとがきやらなんやら書きます。
ちょっと休みます。

31 :
>>30
長編お疲れ様でした

32 :
以前注意されたのにこりずに。
ちょっとだけ……。
丸井ひとは(成長)
デザインテーマは『地雷超美少女』。
寒気がするほど整った顔立ち、骨格そのものが小さい華奢な矮躯、雪のように白く滑らかな肌、
宵闇に濡れた髪、虹色の瞳を持った妖精を思わせる超美少女。美しすぎて逆に不自然で不気味なほど。
おまけに家事万能で、一途に想ってくれて、床上手(耳年増なだけとも)で、
アソコの具合がえげつないくらいイイという充実のスペック。
でも性格は地雷。おまけにドS。弱みを握られる(優位に立たれてしまう)と……。
ひとは、ふたばはざっくり言って『めんどくさい女』としてデザインしてます。

エロシーンについて
ベッドで待つ〜先生イくまで、120kBもあるんですけど……。コレ無かったら完結を半年前倒しできました。
みつどもえと言えば『その他の体液』なので、初期プロットはひとはにお漏らしさせてたんですが、
身体ダメージと噛み合わないので嘔吐させました。でも矢部にぶっ掛けてもなぁ…と思い、飲ませてみました。
どうでしょうか?一応、私は正気です。
なお、繋がったまま長々と交渉してるのはプロットどおりです。私は正気です。

33 :
お話について
1年間お付き合いありがとうございました。
マナーの悪い私の行動に、切れずに付き合ってくださって本当に感謝しております。
特にまとめサイト管理人様には、どれだけ感謝してもしたりないくらいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
初期に書いたとおり、最初と最後だけ読めば通じるお話でした。
月曜〜金曜は、私の妄想設定を垂れ流してるだけという。
あくまで第一話なので、ひたすら伏線を張って全く回収していません。
そしてひとはと矢部の関係も、むしろ問題提起で終わってます。
要は、まだまだ続きます。
というわけで、次回は千葉視点。以前書いたものの全面リテイクになります。
絶対3万字以内で収めます。
それではまた……。

34 :
お疲れ様です。
次回作の予定があるんですね。
よかった。楽しみにしてます。
そのうち、矢部視点も書いてもらえると嬉しい。
いろいろ葛藤があっただろうし、矢部の目から見た
ひとはの描写を読んでみたい。
ところで、正気なようでよかったです。
読んでてちょっと心配になりました。


35 :
やはり正気を疑われていた……ッ!
ひとはが矢部のメールチェックしてたあたりで突っ込みが入っていたら、
もうちょっと大人し目になってました(言い訳)。
チョコチョコ視点のお話がでるためタネ明かししてしまうと、
『とびはねっ!』のメンバー分は高校生でやります。

SSS隊とみつばはゴメンナサイ。

36 :
age

37 :
ts

38 :
誰か居る?

39 :
専ブラだから更新してたらみてるよ

40 :
保守あげ

41 :
ほしゅ

42 :
ほしゅ

43 :
復活あげ

44 :
みつどもえ再開来たみたいだね

45 :
>>44
kwsk

46 :
今週発売の週刊少年チャンピオンで、
次号の予告(7月26日発売号)から再開の告知がある。

47 :
もうすぐ、宮なんとかさんに再開できるのか
再開後も下の名前は無いままだろうな

48 :
下の毛は多分あるよ

49 :
225卵生が前提の小ネタ
「はい、三女の写真できたわよ!」
杉崎が手に持っていたのは、矢部っちの腕に抱きついて無邪気に戯れているひとはの写真。
「どれどれ…うん結構可愛く撮れてるじゃない!私ほどじゃないけど!私ほどじゃないけど!」
「ひと、なかなかの美少女っス!!」
「そうだな、三女にしては写真写りいいなっ」
「…>< でも良かったね三女さん、可愛く撮ってもらえて」
「うん…(むふぅ…)杉ちゃん、さすがベテランカメラマンなだけあるね」
「そうね、三女が可愛く写る瞬間を逃さなかった私の技量もあるかも知れないわね」
「でもあれだろ、三女は矢部っちとイチャコラしてる時が一番可愛いってことだよなっ」

一同「!?」
「ちょっ、変なこと言ってんじゃないわよ!」「ね、ひとは、あんな童貞に興味なんか…」
「………そうだよ、ただの宮園さんの思い込みだよ…///」
「…ひとはの顔がガチレッドみたいな色になってるっス!!」
おわり

50 :

短い中にも各キャラの個性が出てて良かった
宮崎さんは常に余計だなぁ!

51 :
いやこの宮下さんは俺的にかなり空気読んでるぜ

52 :
杉崎のストーいや、ディープラブが歪みねぇ!!

53 :
読んでくださった皆様ありがとうございます。
>>50
誰が発言者か書かなくてもセリフで何となく分かるようにすることを狙ってたので、そう言って頂けるとありがたいです。
>>51
本当は吉岡さんに言わせようとも思ったんですが、「三女さん矢部っちのこと好きなの!?」
みたいなややこしい方向に行きそうだったので「誰も言わなかったことをあえて言う」ことに定評のある
宮内さんにバトンタッチしました。
現在次なる矢部ひとSS(※非エロ)を執筆中です、期待せずにお待ちください。。。

54 :
移籍したらページ数変わるのかな?

55 :
変わると思う
……だとすると2話入れてくるか、もしくは1話が長くなるのかもしれない
後者だと今のテンポが好きな人にとっては問題だよね
まぁ、考えても仕方がないし移籍してからのお楽しみだ

56 :

「…お風呂、湧いたよ」
「あっ、…ひと!」
小生は事故にあって、腰から下が動かなくなってしまったっス。
足の代わりに、車椅子を使ってるっス。ひとやみっちゃんが色々と小生のお世話をしてくれて、とても助かるッス。
「大丈夫ッス!服はほら、自分でぬげるから……」
「……ちょ…何もここで全部脱がなくても…」
「ほら、ひと!一緒に入ろ!わあ!」
「………………また洗濯機にぶつけた…………昨日直したのに…………」
「ごめんね!ひと…小生、車椅子でどこでも行けるのが嬉しいから、つい車輪をブンブン回してしまうッス……」
「……また直すから……今度は気をつけてね……ほら、あの手すり持って…」
「んしょ!」
「持ち上げるよ!?せえの!」
「へいやっ!」
「えっ、…ええ……身体…流してから湯船入ってよ……」
「大丈夫、大丈夫!ほら?ひともお風呂入ろ!」

57 :

「ひとー、小生の足さわって!ほら、ペシペシって!」
「……………」
「うーん…感じるような感じないような…」
「…じゃあ、ふたばが目をつぶって…私が叩いたら、手を上げて…」
「わかったッス!はい、いつでもバッチリッス!あ!ひと今触った!」
「……わかるんだね」
「本当だ!…でも、自分ではまだ動かないなあ…!」
「…多分、骨を通して振動が身体の上まで伝わってるんだと思う」
「ふうん、さすがひと!えへへ…ひと!大好きだよ!」
「わあ…っ…!もう…よくそんなに機敏に動けるね…」
「こんなの余裕ッス!小生パラリンピックに出て、金メダル取るッスよ!」

58 :

基本思いつきで書いてるので、続きはないです

59 :
いやいやここからキマシタイムがはじまるんじゃないんですの?

60 :
勿論始まるよ!?♪。

61 :

「えと、……え?何やってるの…?」
「こうやって、…んしょ!バスタオル敷いて、ほら!ゴロゴロ〜〜…
ね!からだ拭けるでしょ!」
「…そんなことしなくても…私が拭いてあげるのに…」
「大丈夫!ひとに、迷惑かけたくないから…!…ほら、服も着れた!」
「………じゃあ、髪乾かしてあげる」
「お願いするッス!」
「…終わったよ。手を上げて…よい…しょ…う………」
「ひと、大丈夫?小生、重いから…あ!ひと、あれ取って!あれ持ったら1人で車椅子に戻れるッス!」
「ちょ!何してんのよあんたたち…!ち、ちょっと、足、の、踏み、場、が…」
「ちょっと!みっちゃん、手伝ってよ!ふたばを車椅子に乗せるの、1人じゃ大変なんだから…!」
「大丈夫ッス!あの、箱があったら……みっちゃんは早くお風呂入らないと、虫が寄ってくるッスよ!」
「失礼ね!」
「ええ……結局、手伝ってくれなかった……」
「ひと、ドライヤー貸して!小生が髪乾かしてあげるッス!」
「いや、もうこっちはいいから……」

最後は普通に、パパが運んでくれたのでした。

62 :
週間連載終了記念あげ

63 :

「…ちょっと、みんな、もうすぐ家出る時間だってばあ…!!ちょっ、ほら、みっちゃん、ドーナツ…、よし起きた、もう行く時間だからね!」
「ひとー!おはよう!」
「あー…おはよう…ふたばは、ちょっと待って!」
「ひと!小生もう着替え終わったッス!朝ごはん食べとくねー!」
「ええっ、…なんで匍匐前進であんなに…」
「ちょっと!私のドーナツ何であんたが食べんのよ!私のドーナツ!!」
「…うるさいなあ…早く起きて、顔洗って、ご飯食べて、学校に行く準備してよ…」
「ちょっとあんた、私を引っ張って起こしてくれる?このワンアクションが、一日で一番エネルギーを使うのよ!」
「………………もう…………ほんの少しくらい、ふたばを見習ってよ………
ふたばは足が全然動かないのに………自分で起きて、自分で着替えて、自分で動いてるじゃない………
………五体満足なみっちゃんは………布団から起きることさえできないの…………?手も足も、全部ちゃんと動けるのに……!ふたばと違って、自由に身体が動けるのに……………!!」

64 :
なんだこれ

65 :
見てわからぬか!



・・・俺も分からん

66 :
ふたば可哀想

67 :
「そっか、ひとはちゃんは胸が小さいことを気にしてたんだね」「まだ小6だし、気にしなくていいと思うけどなぁ」
「先生に何が分かるんですか、…気にしますよ…」
巨乳好きの先生にとって、少しでも魅力的な女の子になりたい。
…なんて、言えるわけ無い…
「どうして?まだこれから大きくなるかもしれないのに」
「……教え子の胸の話をするなんて、先生は変態です」
「ひどいなぁ、もう…」
『これから』って、中学、高校と上がっていくうちに、ですよね。それじゃ遅いんです。
私が小学校を卒業したら、先生と会う機会は確実に減ってしまう。
それまでに……先生に振り向いて欲しいから……
「ひとはちゃんは、そのままでもじゅうぶん魅力的じゃないかな?」
「…!?」
「いつも家で頑張ってるから家事はお手の物だし、小動物の面倒をしっかり見られる世話好きだし、ついでに頭もいいし」
「だから、胸の大きさなんて気にしなくても、ありのままのひとはちゃんを好きになってくれる男の子が、きっと見つかると思うよ」
「……」
先生……
「先生は…」
「…ん?」
「…先生は、胸の小さな女性に告白されたらどうしますか!?」
…何聞いてるの、私…
「えっ…そ、そうだなぁ」「やっぱり、胸の大きさよりも」
「その女の人が本当に僕のことを思ってくれてて、僕もその人を幸せにしてあげたい、って心から思える相手なら、誰でもいいよ」
「……」
「なんてね…僕そんな事いえる立場じゃないんだけど…はぁ……」
「…先生にも、先生のアレが小学4年生(※)でも気にしない、って言ってくれる女性が見つかるといいですね」(※2卵生)
「大きなお世話だよ!」
「何言ってるんですか、先生のは小さいでしょう」
「ひとはちゃんひどい!!」
アレが小学4年生でも気にしない女性なら、…ありのままの先生を好きになった女性なら、ここにいるんですけどね。
おわり

68 :
ネタ被りとかしてたらごめんなさい
これとは別のやつを今書いてるので、仕上がったらまた来るかもしれません

69 :
待ってるッス
それまで車椅子もっとうまく乗れるように特訓しておくッス

70 :
そのネタを引っ張るのはやめろw

71 :
パラリンピック篇

72 :

「あー!しんちゃん、おはよう!」
「あー、…ふたば。おはよう。ちょっと止まれよ。押してやるから」
「大丈夫ッス!しんちゃんに迷惑かけなくても、小生は一人で動けるッス!」
「うわっ、おい…お前、そんなに動いて、昼休みのドッジボールまで体力もつのかよ…」
「あ!そうだった!ドッジボールのこと忘れてた!えへ、じゃあ、しんちゃんに車椅子押してもらうッス!」
「おう…そういえばふたば、ふたばは今、身体どこまで動くんだ?」
「腰から上は全部動くッス!ほら!全然普通に動くッスよ!」
「足は全く動かないのか?」
「…、…全然動かないなあ…」
「お前、学校でトイレ行きたくなったらどうするんだよ。そんなんじゃしゃがめないだろ」
「職員室の横に車椅子用のトイレがあるよ!小生ひとりで入れるッス!こうやって、こう、車椅子から降りてね!」
「ふたば…大変だな…こんな身体になってしまってな…」
「ごめんね…しんちゃんに心配かけちゃって…しんちゃんは優しいね!小生はしんちゃんのこと、大好きだよ!」
「お、お…………………」

73 :
最近忙しすぎて全然SS書く間がないですあげ

74 :

「ただいまー」
「ちょっと、右の車輪どうしたのよ!?ぐにゃぐにゃじゃない!」
「…堤防の階段を降りようと思ったら、転がり落ちてしまったッス…!」
「…怪我はすぐ治ったんだろうけど……どうすんの車椅子……」
「なんでもう少し奥のスロープを使わなかったのよ!階段を車椅子で降りられるわけないでしょ」
「しんちゃんのチーム、フォワードが押されてたから…早く小生が援護に回ろうと思ったッス」
「…とりあえず、ホイールなんとかしないと、動かないよこれ…そもそもどうやって帰ってきたの…」

75 :
横から失礼いたします。
小学生話はもう書かないつもりだったのですが、コミックスを読んでいたら小ネタを書きたくなりました。
これでも5〜6時間くらい消費するんですよねぇ。
スピッツの『マフラーマン』より。

76 :
恋する乙女は女子力100倍だよ!
「三女さん、今度はマフラー編んでるの?」
「…………」
私の問いかけに、大人しい友達はただコクンと首を縦に動かしただけで、また手元の作業に没頭し始めた。
いつの間にか恒例になった三女さん達の家での勉強会。
今日も大きなコタツの上で私と宮ちゃん、杉ちゃん、みっちゃんがカリカリとシャーペンを走らせている中で、
一抜けした三女さんはいそいそと水色の毛糸を取り出し作業に取り掛かり始めた。
……まあ、本当の一抜けは最初の1分でグーグー寝息を立て始めたふたばちゃんなんだけど。
でもコタツの魔力の前では、仕方ない事かなぁ。
窓の外は木枯しさんがひっきりなしに駆け抜けているのに、腰から下はポカポカ別世界で私も幸せすぎて蕩けちゃいそうだよ。
やっぱりコタツはいいなぁ。うちはママがリビングのコーデと合わないからって、置いてくれないんだよね。
う〜ん……ママの言う事もわかるけど、生活は生活として……でも似合わないのも確かだし、悩むなぁ。
「その毛糸、初めて見る色だよな。
三女たちは普段使わない色っていうか……矢部っちあたりは好きそうだけど」
「……………………先生用のマフラーだからね」
「えええええええ!??
それってどういう事!?やっぱり三女さんは矢部っちと!?
あっ…クリスマスプレゼントだね!!凄い!ステキ!
輝くツリーの前で頬を染めながら手渡す三女さん!
そしてさっそく首に巻く矢部っち!
『うわあ、凄く暖かいよ!』
『大げさですよ』
『ほんとだって。ほら、ひとはちゃんも一緒に巻こうよ』
『えっ……』
そして近づき、重なるふたりのシルエット!
きゃーーーーーーーーー!!」
 「え〜っと、横が6cm、縦が2cm、高さが5cmだから……」
 「みつばって相変わらず算数苦手よねぇ。ほらっ、まずは縦と横で面積を出すのよ」
 「うっさいわね、わかってるわよ。これからやろうとしてたところなんだから」
 「杉崎、こっちの変な形のブロックはどうやって体積を出すんだ?」
「……………はぁ〜……。やっぱりこうなっちゃったか。時間が無いから仕方なかったとは言え……。
はぁ〜〜」
と、三女さんは眉を寄せて重いため息をつく。
歳の差がある上、教師と生徒の禁断の恋なわけだからいろいろ辛いのはわかるけど、
三女さんはもうちょっと柔らかい表情を意識した方がいいと思うんだよね。
せっかく髪も肌も綺麗で、目も鼻も口も耳も整ってるんだから、
もっとこう……自然な感じの表情になったらすっごく可愛いと思うんだけどなぁ。

77 :
「これは、あのガチレッドフィギュアとの交換のためにしょうがなく、嫌々編んでるものだよ」
三女さんがその細いアゴで示した先――古い型のテレビの上には、マトリョーシカ(誰がどこで買ってきたの?)と一緒に、
5色のスーツが勢ぞろいしてポーズを決めていた。
「矢部っち、先にクリスマスプレゼントを渡しちゃったんだ。
んも〜、ムードわかってないなぁ。ツリーの前で渡さなきゃ!
それに女の子にヒーローフィギュアなんて……あっ、でも恋人が喜ぶものなわけだから、これはこれで正解なのかな」
「あくまでその設定で行くんだね。予想はしてたけど」
「交換って、別にそんなのしなくていいじゃん。
どうせ矢部っちのことだから、ガチャの人形なんて全種余るくらい買ってたんだろ?」
「宮代さんにしては見事な推理だね。ご名答だよ。
……先生はくれるって言ったけど、あの先生に借りをつくったりなんかしたらそれこそ丸井家末代までの恥だから、
マフラーと交換にすることにしたんだよ」
「またまたぁ〜!照れ隠しなんてしなくていいから!
それにしても彼に手編みのマフラーなんて、王道中の王道だよね〜!」
「……確かに三女は女子力高いわよね、実際。
宮下、あんたちょっとは見習いなさい」
「そう言うお前は編めんのかよ。
だいたいさ、あたしがマフラーって、キャラ違うだろ。
想像してみろよ。教室の隅でピンクのマフラーをいそいそと編んでるあたしを。どう思う?」
「「キモい」」
即答を返したのは杉ちゃんだけでなく、さっきまで算数のプリントにうんうん唸っていたみっちゃんまで加わっていた。
「おい!そこまで酷くないだろ!」
「うわ寒気した。みつば、コタツの温度上げて」
「MAXにするわ」
「コラァ!
吉岡からも言ってやってくれよ!」
「えっ、えっ、えっ……」
頬を染めながら編み棒を動かす宮ちゃん………。
「うん、一生のうちで1回くらいは見てみたいって思うかな。怖いもの見たさっていうか……」
「「ぶふっ」」
急いで返した回答に、即答してくれたのはまたも杉ちゃんとみっちゃんだった。
肝心の宮ちゃんは目にうっすら涙を溜めて、窓の外を向いちゃってる。
「え?あれ?私変な事言っちゃった?」
「…………宮城さんはどうでもいいとして、とにかく私はしょうがなく編んでるんだよ。
先生の手に渡るものに手間をかけるのなんて悔しいから、編み方も可能な限り適当だよ」
ほら、と差し出された水色のマフラーは編み目がばらばらだった。
三女さんの作品はいつもきっちり目が揃って飾り編みまで取り入れられていて、
売り物と大差ないくらいのクオリティなのに、これは明らかに手作り感が丸出しで、
作者の言葉通りの気持ちがそのまま現れてるみたいだ。
「それやたら編むの早いと思ってたら、手ぇ抜いてたのね」
「本来ならこんな不出来な作品は私のプライドが許さないんだけど、
今回は先生にマトモな物を渡してなるものかっていうプライドの方が勝ったよ」
「そ…そうなんだ………」
ある意味すごいこだわりだなぁ。




78 :
「はい先生。約束のブツです」
おはようの挨拶が飛び交う朝の教室で、
三女さんが矢部っち用の机に近づいて行き、ポイッと無造作にマフラーを放り投げた。
表情からも声からも動作からも、恋のオーラはまるで見えない。
どころか一切の感情が見えない。
もうずいぶん慣れてきたけど、その姿はやっぱりちょっと怖い。
無表情が作り物みたいな顔立ちをさらに加速させて、周りの景色とそぐわないギクシャクした画になっちゃうんだよね。
「わあっ!ありがとうひとはちゃん!
嬉しいなぁ〜〜!」
目の前にある静かな画とはまるで正反対に、矢部っちが明るい声と全身を使った身振りで喜びを表現する。
これもいつもの事だけど、まるっきり空回りしていて痛々しい。
こういう空気の読めなさが、いつまで経っても春が来ない最大の理由なんだろうな。
「すごく良くできてるね。それに暖かそうだ。
さすがひとはちゃんの作ったマフラーだなぁ」
「良くできてますか?」
「うん!お店で売ってるのよりも綺麗だよ!」
「はっ……」
会話によって、今日初めて人形の顔に『表情』が浮かぶ。
まるっきり目の前の相手を小ばかにした、嘲笑の表情が……。
「な…何……?」
「ああいえ、先生の目の節穴ぶりが見事すぎて思わず笑いが漏れてしまいました」
「え…あ……え〜っと……?」
何のことだか全然わかんないって顔で、矢部っちが目が泳ぐ。
情けないことこの上ないけど、とりあえず目を向けた天井で次の言葉が見つかったみたいだ。
矢部っちは明るさを取り戻し、三女さんへ向き直った。
「な…なんにせよ、手作りマフラーなんて人生初だよ。本当にありがとう、ひとはちゃん」
「はっ……」
そして嘲笑、リテイク。
「……今度はなに?」
「いえいえ。
人生初の手編みの贈り物が小学生の教え子からなんて、実に先生らしくて哀れで笑えました。
そもそも生徒からこんなふうにあっさり物を受け取るなんて、教師としての自覚ゼロですね。
教育委員会に知れたら怒られるだけじゃ済まないかもしれないのに」
「えっ、あそっか。しまっ……。
ひ…ひとはちゃんこのマフラーすごく嬉しいんだけどやっぱ「返却は不可ですから」
今日もまた、慌てた言葉は金属音のような冷たい声でばっさり切り捨てられてしまう。

79 :
「ガチレッドを返す気はありませんし、先生に借りをつくるなんてまっぴらごめんです。
まあそのマフラーはもう先生の物なんです。
誰にも見つからないよう教室のゴミ箱に捨てても、埃だらけのクローゼットに一生仕舞ってくれてても、
私は一切気にしませんよ」
「そっ…そんなことしないよ!
確かに生徒からこうやってもらったっていうのは、あんまり良くないのかもしれないけど、
そんなの誰にもわからないことなんだし、こんなにステキなマフラーを仕舞っておくなんてもったいないよ。
今日から毎日してくるからね!
ほらほら、こんなふうに!」
水色のマフラーは、大急ぎの手つきで持ち主の首元に巻かれる。
……あれ?単体で見たときはそうでもなかったけど、こうしてみるとかなり目立つ色合いだ。
矢部っちは服のセンスがダメダメで暗い色ばかり使うから、鮮やかな色だと浮き立っちゃうのか。
「好きにしてください」
「うん!大好きになったから、毎日使うね!」
「………………………………………………………………」
また、正反対の表情が向かいあう。
何も考えてないみたいな底抜けに明るい笑顔と、
眉をぎゅっと寄せたしかめ顔が…三女さん、何かを我慢してるみたい……?
「いやぁ〜あったかくて幸せだなぁ〜」
「矢部先生〜、今週の保険だよりの件でちょっと〜」
「栗山先生!何でしょう!なんでもお手伝いいたします!」
正直、矢部っちは栗山っちと向き合うときはもうちょっと目の位置に気をつけた方がいいと思う。
表情がだらしなさ丸出しになるのはもう諦めてあげるけど。
「インフルエンザ予防の……あら、可愛いなマフラー。手編みですね」
うん、やっぱり普通はひと目でわかるよね。
三女さんには悪いけれど、売り物としてはお粗末だから。
「えっ?あ…はい、ちょっと……」
「矢部先生ったら、隅に置けないんだから。
こんなステキな贈り物をしてくれるお相手が居るなんて」
「へっ?いえいえいえいえいえ!違うんですよ!
これはこのひと……じゃなくって、まあ、女の子から贈ってもらったものではあるんですが、
いろいろ事情がありましてですね」
「ふふふっ、惚気話を聞かされないうちに退散しておきます。
保険便りの件は海江田先生にお願いしますから。
じゃあ!」
「栗山先生ぇ〜〜〜〜!」
いつものように、表情は正反対。
情けない泣き顔と、愉快そうな笑顔。
まるで、何もかもが計算どおりに進んだ目の前の画が愉快で堪らないっていう、歪んだ笑顔。
……ほんと、表情で損してるよ。
もったいない。

「むふう」

<おわり>

80 :
千葉の高校生編は、オチが決まらないのであんまり進んでないです。
私はオチをはっきり決めておいて、逆算で物語を作るタイプなので、オチが決まらないと全然進まない……。
しょうがないんです。
決してハチワンダイバーにはまって全巻を何度も読み直しているから時間が無いわけではないです。

81 :
ガンプラさん久々だね 乙〜

82 :
そういえば埼玉の人って、ガチャポンの事なんて呼ぶんですかね?
今回の話を書いていて凄く迷いました。
ので、「ガチャの人形」とか中途半端な言い回しになりました……。
埼玉の人おられたら教えてプリーズ。
今後の参考にします。

83 :
あ、ガンプラさん!
自分、ガンプラさんの丸井ひとはの憂鬱に影響されて、ド素人ではありますがSS書きたいなと思い始めたんです。
次回作も楽しみにしております。

84 :
>>83
ありがとうございます。
自分の創作で誰かに影響を与えられたというのは、嬉しい限りです。
私も趣味で書いてるだけのド素人で、
他の誰かの作品を楽しみにしてる読者の一人でもあるので、>>49様の次回作も楽しみにしています。
(>>50は私の書き込みです)
楽しみにしてくださってる方が居てくれる事を励みにして、
私も次回作をそろそろ本腰入れて取り掛かります。
とりあえずカプセルファイターオンラインは封印します。

85 :
ほしゅ

86 :
人がいない

87 :
今月のどうでもいい話。」
主に量産機を使ってます。
いや…私みたいなアクションゲーム下手がワンオフ機使ったら、なんか恐れ多いじゃないですか。
なのでVガンを重宝してます。

そいうわけで、『青空に誓って』シリーズとして。
『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』より、
『俺に彼女はいなくて幼なじみとは何でも無さすぎる』
タイトル長すぎて、名前欄に入らないよっ!!

88 :
さぁ〜って、今日は何して遊ぶかな?

「あ〜…だりぃ……」
まだ朝の7時半だってのに、9月の日差しは刺すような強さで俺の身体をジリジリと焼く。
暑い。を通り越して熱い。学帽脱ぎてえ。
しかもだ。月曜の朝っぱらからこの灼熱地獄の中登校してるってだけでも表彰ものなのに、
俺を待ち受けてるのは朝の数学ミニテストと来てる。
「やってらんねえ。心の底からやってらんねえ。」
この学校マジで頭おかしいんじゃねえか?1年の夏休み明け早々、なに激しいスタートダッシュきめてんだよ。
いくらこの辺の公立で偏差値1番高いからって、やりすぎだろどう考えても。俺が心臓麻痺ったらどうすんだよ?
せめてやる気のある奴にだけやらせとけっての。俺は就職(予定)組なんだよ。受験とかしらねーんだよ。
ああ学校行きたくねえ。ぬほど行きたくねえ。
なんかフケる理由が沸いて出てこねえかなぁ。あの目の前を歩いてるサラリーマンのおっさんが突然血を吐いて倒れるとか……。

「おはよう、千葉くん」

突然背中に冷水を浴びせかけられた。錯覚に陥る。
そのくらいその声は澄み切り過ぎて寒々としていた。
前にテレビで見た、塩分の濃度が高すぎて一切の生物が住めない、だからこそ世界一綺麗な湖を思わせる声。
「あれ?
……おはよう、千葉くん」
俺からの返事が無かった(実際は心臓が痛くてできなかったんだが)せいで、
確かめるような二度目の挨拶には、戸惑いの色が混じってしまった。
いけね。せっかく声をかけてくれたってのに。
「あぅっ…おっ…おは……っ!おはよっ……ござ、んぐっ……おはよぅ……っ!」
短い挨拶を返すだけなのに、根性無しな喉は引きつり震えてろくに仕事をしやがらねぇ。
……まあそれもしょうがないっちゃ、しょうがない。
振り向いたらすぐ後ろで、白く輝く妖精が微笑んでいたんだから。
常識からすると俺は今、猛烈にキモい事を考えた。『妖精』って何なんだよ『妖精』って。頭大丈夫か?ってレベルだ。
だけど現実に目の前に居るんだからしょうがない。
「……突然背中から声をかけられたからって、驚きすぎじゃない?」
背丈は150あるかないかってくらいだけど、顔も腕も腰も脚も、パーツの全部が小さく華奢でバランスが整ってるから、
『子供っぽい』なんて印象は全然ない。
いやむしろ静かで落ち着いた…波紋の無い水面を思わせるその雰囲気は、近づくだけで身が引き締まる思いだ。
とにかく存在感がすごい。
身体の線は今にも消えてしまいそうなくらい細いっていうのに、周囲の風景からはっきりと浮かび上がってる。
だってこの娘は周囲と『色』が違いすぎる。

89 :
「意外と小心なんだね」
まず目に飛び込んでくるのは白。
夏用のセーラー服から延びる手足はホクロひとつすらなく、
誰も足を踏み入れたことの無い雪原みたいにひたすら白く滑らかで、動作に沿って光の軌跡を空間に残してゆく。
「昔はもっと……かなり怖いもの知らずだった気がするけど。
身体が大きくなった分、心臓が縮んじゃった?」
一瞬遅れて目を奪われるのは黒。
腰の上まで伸ばされた長い髪は、寒気がするほど真っ暗なだけじゃなく、今にも水が滴りそうなくらいに艶が満ちていて、
まるでそこだけ夜が取り残されてるみたいだ。
「あと、ちょっと猫背になってたよ。
せっかく背が高いんだからしゃんとしてた方がいいよ。せっかく背が高いんだから。
ていうかまた高くなった?見上げてると首が痛いくらいなんだけど」
そして最後に、虹から目を離せなくなる。
遠目には『黒』として映るこの娘の瞳は、だけど近づいて見ると、
色とりどりの複雑な形をしたレンズが何枚も重なって造り上げられている事に気が付く。
揺れるたび、万華鏡みたいに移り変わっていく虹彩を前にしたら、
どんな男も心臓を鷲づかみにされて、ただただ棒立ちになることしかできなくなる。
心の全てを奪われてしまう。
「これはもう、今日から私と話するときは常時膝立ちになってもらおうか…………なんてね」
薄桜色の唇が下してくれるなら、どんな無茶な命令だって俺はためらいなく従って見せる。
誰だってそうなるに決まってる。
『美少女』なんて言葉じゃまるで足りない。
そもそも俺たちと同じ生き物とは思えない。ありえないくらいに可愛いすぎる。
だからみんな、ありえないあだ名で呼ぶんだ。
『白銀の妖精』、『虹の魔法使い』、『生きた芸術』、『白い神姫』、『髪長姫』……『姫』。
今はもう、昔の呼び方をするやつは少ない。
この娘の事を昔から知っていたとしても、『今』は恐れ多すぎてとてもじゃないけど呼べない。男子は特にそうだ。
「おはざーっす!」
『今』この名で呼べるのは、この娘にそう呼んで欲しいと願われた人間だけだ。
幸いにも、マジで超ラッキーな事に、俺はその数少ない人間の中に入ってる。
だから俺は、深々と頭を下げながらその名を呼ぶ。

「三女さん!!」

「……おはよ。
…………黙ってたと思った急に大声で……。今度はこっちが驚いたよ……」
「ああっ、す…スンマセンシタっ!」
「だから声が大きいってば。
それにそんないつまでも深々と頭を下げられてたら、目立っちゃうよ。……んもう」
「す…スンマセン、マジで……っ」
後頭部に降りかかってきた弱った声に慌てて直立に戻ると、目線の下では細い眉が下がってしまっていた。
「ほら、はやく学校行こ」
せかすように俺を促す三女さんは、相変わらず目立つのが苦手だ。

90 :
とびっきり可愛いのに目立つのが苦手だなんて、三女さんを知らないやつが聞くといぶかしむ。
気持ちはわかる。
女ってのはちょっとでも自分の外見に自信があると、見せびらかすようにして練り歩くのが普通だからだ。
実際、近所(っていうか三女さんの姉)にもその典型的なタイプが居る。
…けど、三女さんを見るとみんなひと目で納得するんだよな。
『妖精だから、人目に触れてると消えちゃうんだ』ってさ。
「ウッス」
スイーっと音も無く歩みだした三女さんを追いかけ……るまでもなくすぐに追いつき、右隣をキープして通学路を進む。
三女さんと俺では歩幅がまるで違うから、逆に追い越さないようにするのが難しい。
つうかぶっちゃけ三女さんは身体の縮尺が若干おかしい。
背が低いけど頭身が高くバランスが整ってるってことは、つまり全てのパーツがむちゃくちゃ細くて小さい。
腕や脚どころかスカートの巻かれたウエストすら、
ちょっとこけただけでポキっと折れちゃうんじゃないかって心配になるくらいだ。
この辺の現実離れした儚さも、『妖精』扱いされる要因だよなぁ。
と、俺は頭の中に記憶させた三女さんの姿を眺めながら思う。
……隣は下手に見られない。三女さんはやたらに勘が鋭いから、じろじろ見たりなんてしたら気味悪がられてしまう。
それが俺の立ち位置なんだ。
「朝から元気なのは良い事だけど、次からはちょっと気をつけて欲しいかな」
「スンマセン……。
尊敬する師匠にはしっかり挨拶を返さなきゃいけねえって、はりきりすぎちまいました」
「師匠?」
左腕から昇って来た小さな疑問符へ目を向けたくなる衝動を必で押さえつけ、首を前に固定したまま会話を続ける。
あどけなく首をかしげる三女さんの可愛さは、冗談じゃなくて人級の威力を誇るんだ。
下手に見たりしたら心臓が止まっちまうかも知れない。少なくともせっかくの会話が続けられなくなる。
「エロスの師匠っスよ!つまりは人生の師匠と言っても過言じゃないっス!
最大級の敬意を払うことはむしろ義務っスから!!」
女子との会話に何言ってんだこの学帽は!?と、これまた知らないやつは思うだろう。
しかも相手はただの女子じゃない。手で触れようとしたらすり抜けちまいそうなくらい儚くて可憐なんだ。
性的な話題を出すなんて、正気を疑うレベルかもな。
ところがどっこい、この方は三女さんだぜ。
「ふふっ……」
ほら、小さいけれど満足そうな笑い声だろ?
「その設定まだ生きてたんだ。
うん、エロスに敬意を払うのはいい事だよ。まあでもエロ本のために土下座までされたのは驚いたけど」
「うわちょっ…いつの話ですか、いつの!?それこそもう無かったことにしてくださいよ!
ちょっとした若気の至りっつーか、抑えられない衝動があったっていうか、ぐわもうマジ最悪だ!
朝からすげーテンション下がった!」
「『お願いだからみせてくださーーい!!』」
「やめてくれー!」
「…………」
大げさに頭を抱えるポーズをとった俺に返ってきたのは、無言の静寂。
けどきっと、頬を薄く染めて『むふー』と超可愛い微笑みを見せてくれてるんだろう。
もちろん今度も心臓に悪いから、目は向けられない。それでもはっきりわかる。
前を行く男子……だけでなく、サラリーマンのおっさんまで、
どいつもこいつもがこっちを見た途端胸を押さえてフリーズしてるんだからよ。
そして、三女と何気なく会話しながら通り過ぎる度増えていく、羨望の視線、視線、視線。
ふははっ、超優越感!!
どんなに成績が良くったって、この立ち位置は手に入んねえだろ!!

91 :
……なんて浸ってる場合じゃねえか。注目が集まるのは、三女さんにとっちゃ良くないんだから。
俺は1歩斜め前に進み、自分の身体を使って周囲の視線を遮断する。
ま、さっきも言ったとおりの白と黒が目立ちすぎるから、この程度じゃ焼け石に水なんだろうけどよ。
「あーそれにしてもあっついっスね。いつになったら涼しくなるんスかねえ?」
ちょっと不自然かもだが、短い登校時間は無駄にできない。
俺は背後に向かって会話を続ける。話題は無難であり鉄板でもある天気についてだ。
「あからさまな話題変更だね」
「あーそれにしてもあっついっスね。いつになったら涼しくなるんスかねえ?」
「……あんまりいじめるのも可哀想だから、今日は許してあげようか。
そうだね。家の床に落ちた雌豚の汗がべたべたするから、はやく涼しい季節になって欲しいよ。
私も髪を伸ばしてるから暑いのは厳しいし」
意識を集中させてる背中が、長い髪がかきあげられた気配を感じとる。
いつの頃からか三女さんのお決まりになったその画は、額に入れれば美術館に飾れそうなほどに美しくて、
周囲の注目を特に集める(三女さんは気付いて無いっぽいが)。
なんかもう神秘的って感じで、宙を舞う黒髪から光の粒子が飛び散って見えるんだよなぁ……。
「暑いし、手入れが大変でお金も掛かるし、抜け毛の掃除が面倒だし、まったくもって参っちゃうよ。
うち、みっちゃんも髪を伸ばし始めたでしょ?排水溝とかすごいことになって大変なんだよ」
……さすが三女さんだぜ。話の中身に夢がねえ。
「大変なんですねぇ」
「大変なんだよ。
……ま、苦労の甲斐はあるんだけどね。昨日も……ふふふっ」
ここで今日初めて、声に温もりが灯る。
近寄りがたい、近づくと痛みを感じる芸術に生きた柔らかさが加わって、その美しさがさらに完璧になる。
……違うか。完璧になるのはきっと隣に………って、んなことはどうでもいいんだよ。
せっかく三女さんが明るいんだ、このまま楽しかった昨日の想い出を話させてあげるのが、俺の役目だろ。
そもそもさっき自分でも思ったじゃねえか。俺みたいな劣等性が、上機嫌の『姫』を連れて歩けるなんて超ラッキーなんだぞ。
オラッ、テンション上げてけ!
「やあ千葉くん」
ぐわぁ……マジでテンション下がる声が後ろから……。
「やあ千葉くん、おはよう。今日は早いじゃあないか。
いつも遅刻ギリギリに登校する千葉くんにしては珍しい」
決意をカンペキ白紙にしてくれた耳通り良い声の発信源は、きびきびした動作で三女さんを通り過ぎて俺の左に並び、
ついでにこっちが肩を落としてるのも無視して上機嫌に挨拶をリピートしやがった。
「さくらちゃんおはよう」
「おはよう、三女。
千葉くんもおはよう。と、さっきも挨拶したのだけれど。
ちゃんと返して欲しいものだな。友達に無視などされると傷ついてしまうよ」
「うるっせーな。てめえこそ何でこんなに早いんだよ」
「おや、三女から聞いていないのかい?
Aクラは毎朝小テストをやっているから朝が早いんだよ。
なので毎朝、千葉くんが猛ダッシュで校庭を横切っている姿を楽しませてもらっているよ。クククッ」
などと性格の悪さ丸出しに、猫みてーな眼を細めて笑ってるこの女、『松原さくら』は、
俺の…というか俺と佐藤と三つ子の中学からの知り合いだ。
『知り合い』だ。少なくとも俺は『友達』になったつもりは一切無い。今はふたばと佐藤とはちょいアレだし。
…まあそれはさておきとして、特徴は見ての通りとにかく性格が悪い。マジで悪い。殴りたい。俺は女は殴らんが。

92 :
「というわけで私達にとってはこの時間はいつもの時間なのだが、クククッ。
千葉くんにとっては早起きなわけだから、三文どころじゃないくらい良い事があったようだな。なあ千葉くんや。
今日の幸せをしっかり噛み締めて、明日からの生活態度を見直すと良い。クックックッ」
「うるせえ。それに『千葉くん』とか呼ぶな、気持ち悪い」
「などと挨拶を返されないまま言われてしまったよ。ひどいと思わないかい、三女?」
女子にしては高い170近いその背をわざわざ屈み気味にしながら、松原は背後へと必要の無い援軍を求めやがった。
こいつは〜〜!
三女さんは勘が鋭いってのに、おかしな話題の振り方すんな!
「さくらちゃんの態度が………まあ、確かにそうだね。
私が言うのもなんだけど、挨拶はちゃんと返さなきゃだめだよ、千葉くん」
「ぅ……はよーさん」
「声が小さいなぁ千葉くんや」
俺は男だ。女は殴らん。
だから持ち上がりそうになった右手を、左手で必に抑える。
顔が引きつるのを抑えられなかったくらいは、許容範囲だろ。
「おはよう松原」
「まー表情が硬いのが気になるが、よしとしてあげよう」
男じゃなくなっていいから、こいつの顔面に拳をめり込ませたい。
「そんなにクワッと糸目を見開くなよ。怖い怖い。
助けてくれ三女」
「さくらちゃん。事情はわからないけどさすがに「姫!おっはよーさんやで!」 くえっ」
「!?」
底抜けに明るい大声が、俺の援護へ入ろうとしてくださった言葉を途切れさせる。
なんだなんだと慌てて振り向くと、前のめりになった三女さんの背中の上に、小柄な女が圧し掛かっていた。
うあ……1番嫌な女が来てしまった。
もう校門も見えてるんだから、最後まで幸せに浸らせといてくれよなぁ。
思わず天を仰いだ俺をさておいて、寄り集まった女子3人は…………なんだっけ?
なんかうるさくなる的な…かしま……かさま……?まあそんな感じで、高い声を響かせ始めた。
「ちょっ…神戸さん重いって」
「え〜〜、傷つくわぁ。そんな変わらへんやん」
「よくもまぁそこまで図々しくなれるな寸胴娘。あきれを通り越して関心するよ。
お前と三女じゃ縦が似てても体積が大違いだろうが」
「寸胴呼ぶな松原さくら!
そらちょいくらいは負けるけど、めちゃは違わへんわ!」
「お前、眼球の水晶体が濁ってないか?」
「むかっ!
そこまで言うなら確かめたろやんか!
姫っ、体重ナンボよ?」
「私の意志は無視なの!?
ていうかはやくどいて〜〜!重……じゃなくて暑いって!」
「フォローがむしろ傷ついた!
教えてくれるまで絶対どかへんし!」
腰をまげたままじたばたしている三女さんを助けるため、
今すぐにでもこのチビ女を引っ剥がしたいところだが……触れたりしようもんならどうなることか……くそっ。
「なんでそうなるの!?」
「親友に隠し事は無用やで!」
「いつ親友にまで上り詰めたんだお前は……」
「とにかく私に退いて欲しかったら、真実を述べるんやー!」
「えー、朝から何なのこの理不尽………。
しょうがないなぁ……………だよ」
と、不満の色を滲ませながらではあるけれど、三女さんはチビ女だけに聞こえる声で要求に従った。
……なぁ〜んか納得いかないんだよなぁ。どうもこいつを特別視してるっていうか、なんか尊敬してるっていうか……。
そりゃ定期テストで全教科満点取るような奴だけど、だからって三女さんがこんな『上』に置くか?
いったい何があるんだろう……?

93 :
「……ホンマごめんなさい。調子乗ってました。
以後、気をつけます」
答えを聞いた途端、チビ女は身体を下ろして神妙な顔で一歩さがり、三女さんの背中に頭を下げた。
アホめ。
……けど、くそ。
ちゃんと三女さんの背を隠すように後ろから着いてくるってことは、
こいつもちゃんと『友達』やってんだよな。あーくそう。
「ほれ見ろ寸胴」
「ちょっと待って。いくらなんでも軽すぎるやろ。
姫、若年性骨粗しょう症とちゃう?むしろ内臓どっかに落としてきてへん?
あっ、一部発泡スチロール製か!!ならしゃーない!!」
腕を組んで真剣な顔で悩んでいたチビ女は、なんか意味不明な結論に勝手に辿り着いて、
イイ笑顔の前でポンと手のひらを合わせた。
「私は普通の人間だよ………」
「またまたぁ〜」
「いやいやいや、その返しはおかしいからね」
「またまたぁ〜。
まあそれはそれとして、私徹夜したから超調子悪いねん」
「お願いだから私と会話のキャッチボールを心がけて。
それに全く調子悪そうには見えないよ」
「というわけで姫、ベホイミかけて」
「……………??
べほ……何?」
ある意味有名な名詞ではあるが、ゲームに疎い三女さんは単語に全く追いつけないみたいで、
ただその細く整った眉を下げただけだった。うむ。困った顔も可愛い。
「ベホイミはベホイミやけど……姫はケアル系か。じゃあケアルラで」
「いや、だから何なのそれ?」
「えっ、ケアル系でもない?
ああなるほど、ディア系やねんな。確かに姫はコンゴトモヨロシクって感じやわ〜〜。
ディアラマをお願いします…って、スキルスロットに残ってへんか。メディアラハンはもったいないなぁ」
「だから何なのそれ?さっぱりなんだけど」
「何って、回復魔法に決まってるやん」
さも当然といったふうに、チビ女はアホな事をのたまう。
当然、三女さんの困惑は深まるばかりだ。
ったく…ふたばもそうだがこいつにしても、脳内回路がどうなってんだ?
なんとかと天才は紙一重って言うが、こういうタイプは昔から揃いも揃って独自路線貫いてたんだろうか。
「……………………もう一回言ってくれるかな?」
「回復魔法」
「私15年間生きてきて、ここまで突っ込みに困ったのは初めてだよ」
「またまたぁ〜。隠さんでええって」
「だから返しがおかしいよ!?」
「だって姫ほどの美少女が、回復魔法を使えへんはずがないやん」

「意味が全くわからない!!!」

深まりすぎて底を突き破ったんだろう、むしろ驚きの表情で三女さんしては珍しい大声を上げる。
珍しいからそれこそ当然、校庭を横切っていた生徒達がいっせいにコッチを向く。
ザワ...
「あ……っと、ごめんなさい。何でもあ…ませ……」モニョモニョ
自分へ向かってきた視線から身を隠すように、三女さんは俺の背中へ身を寄せる。
しかもこの引っ張られる感は…カッターシャツをギュッと握られてるのか……!

94 :
おおおっ!
うわもうすげえ…なんていうか、なんて言うんだコレ!!
輝くくらいの美少女が、俺を頼ってくれてるこの状況!!男に生まれてよかった的な!!
更には俺以外の男共の悔しそうな表情までついてくるし!!
  「やれやれ……キミも所詮男だねえ、千葉くんや」
ここまで頼られてるのに黙ってたら、それこそ男じゃねえぜ。
まかせて下さい三女さん。俺がこの空気を読まないチビにビシっと言ってやりますから!
「おい、いい加減にしとけよチビ…神戸」
「気安く私の名前を呼ぶな糸目ゴリラ。ね」
予想してたがやはり、返された声と表情には『嫌悪』がはっきり載せられていた。
さらにきっついのはこの目。マジで完全にゴミ虫を見る目だ。
別にこいつを好きとかどうとかは全くないとは言え、やっぱ女子にここまでやられると凹む……が、負けるか!
「三女さんの迷惑になるようなことはやめろ!」
「姫ぇ〜、あんまこいつに近づいたらあかんって。孕まされてまうで」
「ぶうっ!
おいおまっ……」
嫌そうな顔のまま、だけど恥ずかしげもなく出された単語によって、俺は頭の中身ごとフリーズしてしまう。
こ…の女、朝っぱらから何つーことを!?
「え…あっ、ごめん千葉くん、シャツ伸びちゃうね。
神戸さん、そんな言い方酷いよ。千葉くんは見た目よりずっと真面目で優しいよ」
『見た目より』って!!三女さんからもそう見えるって事っスか!!?
あんまりな事実をぐっさりと叩き込まれて、目の前が真っ暗になる。吐きそうだ。血を。
「あかんって。美少女やねんからもっと真剣に自分の身を守らんと。
『エグい顔で私を視姦すんなこのゴリラ』くらい言わな」
「おい!マジでいい加減にしろよ!!」
「ウホウホうるさいなあ。私は人間の言葉しかわからへんねん。
ちゃんと日本語マスターしてから学校こいや」
「しっかりマスターしてるっての!」
「はあ?」
俺を見る目がさらに『低く』なる。しかも完全に馬鹿にしたせせら笑いまで付いて来た。
「現国で補修受けるような低脳が、よくもまあ言えたもんやな。
それともギャグのつもりか?
言うとくけど、自虐ネタは実際のところそこそこできとる人間が言うから面白いんであって、
お前みたいな類人猿が使っても痛々しいだけやで」
「ぐ、くくっ……」
ぐああっ、やっぱダメだ。何を言っても10倍になって跳ね返ってくる。
だが三女さんの前で引き下がるようなマネは……ってこのまま会話をくり返す方が恥の上塗りになりそうな……。

95 :
「神戸さん、成績の事はまあ……アレなんだけど、でも千葉くんはそんな目で私を見ることなんてないよ。
そもそも千葉くんは、あんまり私を『見て』ないよ」
「三女さん……っ!」
ああ…さすが優しいぜ。この際『成績の〜』は聞かなかったことにしとこう。
「なんども言うけど、姫はこいつに甘すぎるで。
さっきもこいつ、『学校のアイドルに頼られる俺超カッコEー!』って頭の中でオナっとったんやから。
キモいわ〜」
「げっ!」
なっ……!?
え、なんでわかったんだ!?
「ショックを受けてるところ悪いが、顔に出てたぞキミは」
「うちの学校にアイドルなんて居ないでしょ。
ふたりとも、おかしないちゃもんつけて千葉くんを困らせないで」
「ぐはあっ」
ただでさえ痛い一撃だったってのに、松原に容赦ない追い討ちをかけられ、
おまけに三女さんの純粋な善意によって良心を抉られてしまった俺は、
今度こそ深い暗闇に落ち切って、校庭に膝を突いた。
「わっ、千葉くん!?」
「やめときなって姫。姫がそうやって甘やかすからこいつが勘違いするねん。
ゴリラはゴリラの身分があるって、わからせとかな」
「ぐっ…くそっ、さっきからゴリラだの類人猿だの!」
10倍返しが待っていたって、言われてばっかじゃいられねえ。
せめて勢いだけでもって、俺はびしっと立ち上がって、
「じゃあお前は姫の何やねん」

96 :
ちょい中途半端なんですが、今日はここまで。
多分4分割くらいになりそうです。
短くしたいんだけどなぁ……。

っていうか、今更ですが三女の容姿設定を明らかに失敗しました。
なんか自分でもどの位置狙ってるのかわからなくなってきました。
少年漫画(ラノベ)路線狙ってるのか、少女漫画(恋愛小説)路線狙ってるのか……。

97 :
しばらく原作読んでないうちに新キャラが!?

98 :
ほしゅ

99 :
ノーダッシュ格闘ってどうすれば上手くできるんですか?
またグダグダ長くなりそうな予感。
オリキャラが多すぎて、すでにみつどもえじゃないという現実から目を逸らし、続きます。
っていうか、キャラクタを高校生に成長させてる時点でみつどもえじゃないから、
もうどうでもいいや。開き直った。

100 :
びしっと細い指をアゴ先に突きつけられて、動けなくなる。
背は俺より30cm近く低い、身体のでかさなら1.5倍以上の差がある、しかも女に、
指一本で勢いごと押しとどめられてしまう。
「お…俺、は………」
何だろう?
エロ師弟、なんてこのタイミングで言えるほど俺は非常識じゃねえっての。
幼なじみ……は佐藤やふたばの方で、インドア派の三女さんとはそれほどつるんでたわけじゃない。
つか、冷静になるとあんまり接点無かった。今なんてもっとそうだ。
大人しくて成績がよくて学校1…どころか、テレビに出てくるアイドルよりも明らかに可愛い『髪長姫』と、
補習の常連で汗臭い俺の間には、高い壁か深い溝くらいしか見あたらないような……。
いやいやいやいやいや。なんだかんだで俺ら付き合い長いじゃん。
難しく考えること無いんだって。近所の同い年だから、結構仲良く「一応言っとくけど」
甲高い関西弁に、今度は現実へと引き戻される。
だめだ。さっきからあっちへ投げ飛ばされたりこっちへ引き回されたり、やられっぱなしだ。
こいつが相手だといつもこうなっちまう。
「幼なじみとか近所の子とか、そんなん答えにならへんで。
それは単にお前の運がよかっただけやねんから。お前自身が何か努力して手に入れたもんとちゃうやろ。
お前は姫に何ができる?お前と一緒やと姫に何の得がある?
やのに勘違いしてええ気になって、勉強も部活もせずにダラダラダラダラ毎日遊び呆けやがって。
底辺にも程があるわ」
「あ…いや、部活はやってねー…けど、っていうか、補習とかで忙しくて……悪かったな、ほっとけ。
くそ」
「悪い。
所詮高校の勉強なんて、やったらやっただけ上がるもんやねん」
「で…できる奴はそうなのかもしれないけどよ……」
「自分ができへん方やってわかっとるなら、人の倍の努力しろや。
それともその暇も無いくらい『忙しい』んか?ほほう、面白いやんか。
じゃあ先週は何が忙しかった?言ってみい。聞いたるわ。
遊ぶのに忙しかったとか言うなよ」
「う、ぐ………」
口を開く度、容赦なく足場を切り取られていく。もう一歩も動けない。
俺は俺なりに頑張ってるつもりなんだ。けど……やっぱこの学校の勉強は難しくて……。
でもそれは俺にやる気が無いから、なのか?
確かに先週はゲーセン行ったし漫喫行ったし、ダチとカラオケも行ったし日曜はラーメン屋めぐりに行った……。
頑張ってるつもり、なだけだったかも……あれ?俺ってマジで底辺なのか……?

101 :
「おい神戸、いい加減にしろ」
言い返す言葉も見つからなくなって喉を引きつらせてる俺に代わるように、松原が乗り込んできた。
いつもクールなその声に熱が篭っているように感じたのは、気のせいじゃない。
でも多分、その熱さは俺のためってわけでもないんだろう。
「たまたま持って生まれた才能に甘えきって、毎日遊び回ってるお前に言えた台詞じゃあないだろうが」
「持ってるもんを最大限活用して何が悪い?
それになんぼ要領良かったって、やるべき勉強はしっかりやっとるから成績ええねん。
そも、私はちゃんと目標持って勉強しとるで。こいつと一緒にすんな」
「目標じゃなくて目的だろう。
男と一緒に居るためだけに、わざわざハードルを低く設定してるのは悪じゃないとでも?」
「旧帝大目指しとっても『低い』言ってくれる松原さくらは、
さぞ崇高な目標を持って日々生きとるんやろなぁ?」
「そうやって持ってるモノをひけらかして、あまつさえ傲慢に人を見下すような姿、
優しい『兄ちゃん』が見たら何て言うかね」
「兄ちゃんはちゃんと物事を見て判断する人やねん。
どやされるのは努力してへんこのブタゴリラ。
私の兄ちゃんをそこらの『優しいだけが取り柄です』みたいなつまらん男と一緒にせんといて」
「ほう、特殊な価値観をお持ちの御仁のようだ。
さすが寸胴幼児体型のキミと恋仲になるだけの事はある」
「そういう言い方こそ悪やろが!」
「やめろってお前ら!」
不穏な空気をちょっとでも追い出すため、今度は俺がふたりの間に身体をねじ込む。
10倍返し、100倍返しだなんてかまってられねえ。
三女さんが今にも泣き出しそうなんだから。
「朝っぱらからやめろって。周りに見られてんぞ。
おい松原、よく知んねーけどここにいねえ奴をガリガリ言うのって………」
結局また、勢いは言葉と一緒にすぐにどっかへ行っちまう。松原の、後悔に揺れる目を見た瞬間に。
ぐああっ、なんて言えばいいんだよ?最悪なのはこいつが1番わかってんだよ。
何かに熱くなるなんてバカバカしい、才能のあるなしなんてどうでもいいってポーズを取ってて、
でもポーズが上手くできてないのを1番気にしてるんだよこいつは。知ってんだよ俺は。
だからかける言葉が出てこない。これも結局俺がバカだからなのか。
真面目に勉強してねえから、言いたいときに言いたい言葉が見つからないっていうのか?
三女さんの不安を追い払えないっていうのか……っ!!

102 :
「い…いや、お前が助けに入ってくれたのはありが「おいっす千葉ぁ!」 ぐはっ!!」
ぐわっつ〜!背中にマトモに膝が入った……!息が詰まる……っ。
こんな礼儀もクソもない、人間に最低限必要な常識の足りてない事をしやがるアホはひとりしか居ねえ。
「いきなり何しやがんだ!クソ痛かったぞシノケン!」
背中を押さえつつ振り向けば、目線のチョイ下にはやっぱり同じクラスの男子、
篠田健一が妙に上機嫌で立っていた。
「人に膝入れといて笑ってんじゃねえよ!ぶっすぞ!」
「いやいや、朝の挨拶だって」
「こんな挨拶使ってる国は、世界中探しても存在しねえよ!」
「俺とお前の仲だからこそ通じる挨拶なのさ」
と、何かを成し遂げた男の顔で親指を立てるシノケン。
「じゃあ俺も挨拶してやらあ。後ろ向け」
「とか言いながら強制的に背中向かせようとすんな!痛てて!肩いてえ!
やめろ馬鹿力!!」
……何か、こんなマジ顔で必に抵抗されると逆に気ぃ削がれるな。
急激にどうでも良くなった俺は、痛がるアホを解放してやる。
「次は無いからな」
「肝に銘じておきまする。
でもって、チワーッス!!」
シノケンはいきなり方向転換して、敬礼のようなポーズで俺の後ろの女子三人……ていうか、
明らかに三女さんに向かって挨拶する。
大声を受けた三女さんは、背筋の凍るような冷たい無表情で軽く頭を下げた。
近所に住んでる女の子はいつも無表情で無口ですぐに姿を消して、
わけのわかんねえ不思議な奴だとずっと思ってた。
でもさ、違うんだ。
姉妹想いで友達想いで、本と特撮と家事が好きで、小さな子供や小動物に優しい女の子なんだ。
誰も見てないところでこつこつと勉強に料理に裁縫に……色んな事を頑張ってる凄い子なんだ。
ちょっと恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
どうしたらいいのかわからないから無表情なんだ。
とりあえず相手と周りを観察することから始める子なんだ。
優しくゆっくりと、一緒に遊ぼうって手を差しだしてあげれば良かったんだ。
………気付いたときには、もう遅かったんだけどよ。

103 :
「あ、えっと、俺……友達で…そうだ、千葉の友達で篠田健一って言います。
さっきみたいに千葉とすげーフレンドリーにやってて……。
シノケンって呼んでくだ……みんなに呼ばれてます。
シノダケンイチで略してシノケン…って解説なくても丸わかりだっつーの!超そのまんまだっつーの!
あはは………」
幼さが薄まってますます精巧になった顔は、表情がなくなると綺麗すぎて逆に恐い。
おまけに深い虹色の瞳で見つめられると、ただ前に立ってるだけでもガンガン追い詰められてしまう。
男なら特にそうだ。
そして大抵の男が今のシマケンみたいに、キョドりながら思いついた言葉を早口で並べ立てるしかできなくなる。
「………………………」
気まずい空気を敏感に感じ取ってても、それでも速さに追いつけない女の子は、ますます表情と口を硬くしてしまう。
高くて硬い壁が築かれる。
「え〜〜っとですね………そんなわけで、まあ、できればこれからよろしくお願いします……」
明らかに空気が気まずいのに、ある意味ど根性で、一応ラインを確保しておこうとシノケンが右手を差し出す。
のにあわせて、松原が三女さんの前に立つ。
「おおっと、ゆっくりしたいのは山々なんだがAクラはそろそろ小テストの時間だ。
髪長姫、遅れちゃまずいですよ。行きましょう。
神戸、さっきの最後は私が悪かった。すまん……ごめん」
「ん。
ほらほら姫、はよ行こ」
言うだけ言って松原が先頭に立ち、チビ女が背中を押して行ってしまう。
俺達もさっきの空気も置いてきぼりにして、見事な連携だ。
女ってわかんねえ…っていうか、松原が男らしすぎんだろコレ。
俺こそシノケンを止めなきゃなんなかったのに、ボーっと見送るしかできなかった………あっ。
「………」
見送る先で三女さんが軽く俺に振り向いて、無表情なままだけど右手を振ってくれてる。
あわせて動く唇はたしかに『またね』と言ってる。
嬉しい…んだが、情けないトコばっかだった今はの俺は、
目を逸らしてちょっと右手を上げる仕草しか返せなかった。
「……………おい、千葉」
そして女子三人が校舎の影に消えるとすぐ、マヌケに手を差し出したままだったシノケンが口を開いた。
「んだよ。俺らもさっさと行くぞ。竹セン、テスト遅れるとうるっせーだろ」
「一体どんなネタで髪長姫を脅してんだ?」
「なんでそうなるんだよ!!!」
「いや、あの美しい髪長姫とむさいゴリラのお前が仲良くできるなんて、それ以外ありえねーだろ。
しかも取り巻きの小さい方、神戸ゆみだろ?天才の。
馬鹿のお前じゃ、ますますいい空気になれるはずがねえじゃん」
こ…こいつ、真顔で言いやがって……。前歯へしおってやろうか。

104 :
「あのチビ女はいつか泣かす予定だよ。
三女さ…丸井の方は、家が近所……的な、まああれだよ」
こんなに答えになってない。今まで気付かなかったけど確かに思う。
悔しいがそれくらい俺達の間には距離がある。
一緒にいたって三女さんには何のメリットも無い。ステータスにならない。
一緒に居る意味が無い。
ちくしょう。
「近所ってさ、お前らうちの高校から近いんだから、他にも髪長姫と家の近い奴沢山居るじゃん。
でもあんなふうに気軽に会話して、去り際に手まで振ってくれるくらい仲良いのは……はっ!
『幼なじみフラグ』かっ!?頼む、売ってくれ!!」
「……致命傷で頭の悪い事言ってんじゃねーよ」
ったく…漫画の読みすぎだっての。んな都合のいいもん現実にあったら、誰も苦労しねーんだよ。
「本庄とかD組の岡部とかともよく話してんだろうが。
単に………」
あ、そっか。
俺は三女さんにとって、そうなんだ。
唐突に見つかった答え。
するっと内側に入り込み、まるで長年使い込んできた帽子みたいに身体に馴染む。
どんなに認めたくなくてもこれが現実なんだって、突きつけられる。
「?
何だよ、どうした?脅迫用のテープレコーダーを家に忘れてきたのか?」
「そのネタもうやめろ!!」
「ネタじゃねえって!
髪長姫を絶望的な現状から救い出し、晴れてゴールインするという、
俺の壮大なサクセスストーリーに繋がってんだよ!」
「もうお前しゃべんな」
はぁ〜…っと思わず重いため息が出る。
こんなアホ言うやつにすら成績がまるで負けてる自分の現実に、更に頭が痛くなる。
はあぁ〜〜〜〜…。
「元気出せって」
「今結構マジで意わいたんだが」
「んで?『単に』なんなんだよ、関係はごふっ」
「話をとっちらかすな。いい加減殴るぞ。ったく…」
「殴ってから言う…ぐはっ、肝臓に入っ……っ」
「単に キーンコーンカーンコーン やべっ、とっとと行くぞ!!」
「てめっ……!」

単に、『登場人物A』だからだよ。
三女さんにとって何より大切な、あの1年間の。


105 :
今週はここまで。
プロットが完成して気付いたんですが、全体的に盛り上がりの無い話です。
盛り上げようが無かった。

106 :
これ読んでるヤツいんの?

107 :
知らんがな

108 :
アップされたものは全部見てます、感想とかは書かないけど

109 :
見とるよ〜ノ

110 :
読んでますぜ、矢部ひとが大好きだから、サイドストーリー的な物も全部。

111 :
ほしゅ

112 :
寒くなってきたので全裸待機がつらいです><

113 :
フルアーマーZZのミサイルがかわせません。
というのは冗談で、最近かなり忙しくてなかなか書く間がありません。
ちょいちょい進めるので、気長にお待ちを。

114 :
――――――――――

キーンコーンカーンコーン
古文の中村が4時間目の授業を早めに切り上げてくれたおかげで、
今日は一足早く購買のパンを確保し、席で悠々とチャイムを聞く事ができた。
ラッキーラッキー。
……とは言え、次はプリントの宿題が出ている英語だ。
しかも席順からいって、オレがあてられるのは間違いない。
そして当然、オレが宿題をやっているはずがない。
この場合、昼飯を安心して食うために取るべき道はひとつだ。
「たのんます本庄さん!英語の宿題見せてください!!」
後ろの席の友達に頭を下げる!!
「も〜…またあ?
先週、『これで最後にする』って言ってなかったっけ?」
「今度こそこれが最後ですので!!」
「あのねえ……」
合掌した手のひらの向こうで、メガネの上の眉毛がへの字に曲がってしまう。
確かに我ながら調子の良いこと言ってるとは思う。
しかしだからといって、退くわけにはいかないんだ!!
「頼むって!昔なじみの情けでさ!」
外で遊ばないタイプの本庄とは小6の時はあんま一緒に遊ばなかったし、
中学なんてオレらとは違ってたんだが、
高校で同じクラスになると、お互いの中学に散った6−3のメンツの話題で盛り上がり、
そのまま結構仲良くなった。
つうかあのクラスの奴らとは学校がバラけても、
何だかんだと連絡を取り合ったり情報を交換しあったりってことが多い。
チクビの葬式には全員集まったし。
ま、当たり前っちゃ当たり前だよな。
あんなに密度の濃い…まるで何年もを圧縮したような一年だったんだ。自然、縁も太くなるって。
「そろそろその情けも底を尽きそうなんだけど」
……太い、はずなんだが……。
「ボクだって英語は得意じゃないんだ。ちゃんと頭を捻って辞書を調べて…苦労してやった宿題なんだよ」
「次回は必ずやるから!頼む!!」
「………………はぁ〜…。
お昼食べたらプリント出すよ」
本庄様は盛大なため息付ではあったが、最後にはいつもの通り優しい言葉を口にしてくださった。

115 :
「へへぇ〜!ありがとうございます本庄大明神様!ナマンダブナマンダブ」
やはり持つべきものは友だな。おかっぱ頭の後ろに後光が見えるぜ。
感謝の意を盛大に込めて拝んでおこう。
「……そういう事されると、見せたくなくなるんだけど」
「いやぁ、これで安心して昼メシが食える!」
心配事が無くなったら、さっそく腹がとてつもなく減ってきた。
パパッと包みを破いて本日の戦利品、大人気でめったに食えないトマトパンをほおばる。
うむ、絶妙な酸味だ。さすがは人気No.1になるだけはある。
ハシケンがいたらよこせよこせとうるさかっただろうが、
『味噌ラーメンがオレを呼んでいる』とか言って学食消えてくれて助かったぜ。
「調子いいなぁ……。
何度も言うけど、提出物はちゃんと自分でやらないと痛い目を見るよ」
「わぁ〜ってるわぁ〜ってる。
……あっ、提出で思い出したけどよ、2学期後半の体育の希望、もう出しちまったか?」
「?
まだだけど……」
「おっ、間に合ったか。
アレ、@を剣道にして柔道はB番希望にしとけ」
「なんで?
先週は、剣道は防具を買わされるからB番にしとけって言ってたのに」
「こないだ職員室でヒゲ岡と駄弁ってたときに聞いたんだが、今度新任の体育教師が来るんだってよ。
んで、そいつが柔道の鬼みたいなむちゃくちゃ厳しい奴で、
前の学校で倒れるまでランニングとかさせてだんだと。
第一希望優先で決まるから、現状人気の無い剣道を@にしといて柔道を確実に回避するのがベストだろ。
防具はしゃーねーけど、3年あるんだからちょこちょこ使うことになるかもしんねーしな。
岡部とかにも言っとけ。こっそり」
「……うん、わかった。
ありがと。ほんといつも助かるよ。
…ペアとかチームとかでも色々足引っ張ってごめんね」
オレの見事な計画を聞いて、本庄ははにかんだ笑みを浮かべる。
芋づる式に口に浮かんできたのは、正直余計だけどよ。
ったく、こいつ素直すぎなんだよな。いちいちんな礼いらねっての。恥ずかしい奴だぜ。
こういうときはさっさと話題を変えるに限る。
「別になんも気にしてねーよ。
それより夏にお前に組んでもらったパソコン、調子悪いんだけど」
「えっ?おかしいな……。
BIOSにエラーは出てた?」
「難しいことはわかんね。とにかくネトゲやってたら突然ガクガクになったりする」
「う〜ん、それは多分単純にマシンの性能不足だね。
なんせあれ、8割方ボクのお古パーツで組んでるからなぁ。
どうしてもそのゲームがやりたいなら、グラボを交換するしかないと思うよ」
「ソレ、いくらくらいすんだ?」
「15K…じゃない、1万5千円くらい。
いっそ2万5千くらいのを買った方がいいかな。長く使うなら」
「げっ、結構すんなぁ」
「下を見ればいくらでもあるけど、安物買いのなんとやら、だよ。
夏休み、アルバイトしてたんでしょ?」
「む……金はまあ、あるにはあるんだが………」

116 :
部活に入らず、塾も行ってないオレは、夏休みの時間を引越し屋のバイトに使って資金集めに汗を流した。
他人様の思い出のこもった家財道具の運搬は、筋肉以上に神経を使ってキツイなんてもんじゃなくキツかったが、
運搬のルールとかアイデアとか知れて面白かったし、苦労に見合ったかなりの額が懐に入ってきた。
……入ってきたが、すでに結構アレやコレに使ってしまった現実があったりする。
さらに2万5千円は痛い。
だがゲームはやりたいし、すでに結構知り合いもできちまったしなぁ……。
「………しゃーねえか」
「急ぎじゃなければ、来週末に秋葉原に行く予定があるから、ジャンク屋回ってきてあげるけど。
3〜4千円くらいは安く買えると思うよ」
「サンキュー。
……来週ならオレも行こっかな。昼メシ向こうにして。
どうせお前もそのつもりなんだろ?」
秋葉原は本庄にパソコン(超格安の)を作ってもらうとき初めて行ったが、
思ってたよりにぎやかで面白いところだった。
こいつの解説も、わけわかんねーけど聞いてて結構楽しいし。
何より、ウワサのメイド喫茶は想像の遥か上を行く『良さ』だったし。
東京の女の子って、なんであんなにレベル高ぇんだろ?水道水に特殊な成分でも入ってんのか?
……まあ鴨橋も、三女さんやふたばが生まれ育った町というのがあるにはあるけど、
あの辺りは色々世界が違いすぎるから別枠だ。
「……ボクの予定としては、安いところで済まそうかなって思ってたけど、
千葉くんが行きたいっていうなら行ってもいいかな」
「あっ、お前それはズルくね?男ならズバっと正直に生きようぜ」
「別に……ボクは正直だって」
「んだよぉ〜。お前がオレを連れてったんじゃん。
オムライスのときもわざわざショートの娘に代わってもらってさ。
アレだろ、実は本庄うなじフェチだろ?」
「フェチって……。
そういうの無しにあの女の子、肩が綺麗っていうか細く「お楽しみ中のところ申し訳ないんだけど」
「「どうわあっ!!?」」
突如横から割り込んできた高音程にびっくりして、オレと本庄は飛びのきながら悲鳴を上げてしまった。
あ…あぶねえ、口に何か入れてたら大惨事だったぜ……。
「まったく、真昼間の学校でいかがわしいことを堂々と……。
ほんっとサルね、あんたたちって」
あわやというところまで人様を追い込んでおきながら、その元凶は悪びれた様子も無く、
耳の両横から胸先まで延ばしてるドリルみたいな髪をサッと払いながら失礼な事をのたまった。
パッツン揃えられた前髪の下の目つきは、昔と変わらず鋭くキツい。
っていうかマジ動物を見る目だぞコレ。

117 :
「おまっ…いきなり現れて失礼だぞ杉崎!!」
「うっさいわね。
礼儀をどうこう言いたいなら、まず自分が常識を身に着けなさい」
「お前に常識を問われたくねーよ、ドリル巻き毛。
いくらウチが頭髪自由だからって、そこまで自由の限界に挑戦してるのはおめーくらいだっての」
「なっ……!?
私はちゃんと生徒手帳で推奨されてる『胸先以上』を守ってるわよ!」
「そういう問題じゃねーだろ……」
杉崎は昔に比べれば大分マシになったとは言え、相変わらず常識が若干ズレている。
オレが言うのもなんだがセンスもちょっとズレてる気がする。
妙に少女マンガ的っていうか……親の影響なんだろうがさ。
……しかしこのドリル、現実に可能だったんだな……。
「だいたい私が限界だったら、三女は何なのよ!!」
「お前、あの芸術を切れってのか?
それこそ常識ねえな」
「………一気に何もかもどうでもよくなったわ。
あんたと話してるとどんどんアホになりそうで怖いわ……。
ったく…あんたに関わってるせいで、本庄までうなじフェチになっちゃうし……」
「え〜…。
杉崎さんまでそのネタ使うんだ……」
「つうか何しに来たんだよ。違うクラスにずけずけ入ってくるんじゃねえよ」
「用件があれば入っていいって校則にあるでしょ。
あんた達が、スカートが極端に短い異様なメイド服を思い出してキモい顔してるせいで、
その用件言うのが遅れちゃったじゃない」
「別にそういう店じゃねえっての!
むしろみつばんトコのファミレスの方が異様に短くなっただろうが!!アレ絶対お前が関わってるだろ!!」
「……いちいち脱線させないでって言ってるでしょ」
そう言う杉崎の目は、明らかに泳いでいた。
誤魔化しやがったなこいつ。
「ほら、コレ」
と、杉崎が机の端に置いたのは…大学ノート?
なんだ??
「夏休みの宿題のノートよ。今日返却されたやつ。貸したげるからありがたく思いなさい。
数Tは私の、現国と古文は松原の、英語は三女のよ」
「えっ、三女さんのノート!?」
「私と松原と三女のよ。あんたそろそろいい加減にしないと張り倒すわよ」
「う……」
確かに今のは『三女さん』にがっつきすぎだった。反省しとこう。
「……んで、なんでお前らのノートなんだ?」
「…ああ、今週末の学年テスト、基本的にここから問題出るからか。
良かったね千葉くん。Aクラの、しかも教科が得意な人のノートなら綺麗にまとめられてるだろうから、
目を通すだけでもかなり違うよ」
ワケがわからず困惑してるオレの横で、さっさと答えに辿り着いた本庄が親切に解説してくれる。
さっそく中身を確認してみると、おおっ、さすが三女さん字も綺麗…じゃなかった、内容が綺麗に纏められてる。
適当に書きなぐってるオレのノートとは段違いだ。

118 :
「杉崎さん、いつもボクに千葉くんを甘やかすなって言ってるけど、
やっぱり1番気にしてるんだね」
「気持ち悪い事言わないでよ。千葉も勘違いしないでよね」
耳に入ってきた台詞はいわゆるテンプレだが、『萌え』とかそういう良さはまったく感じない。
なんせ杉崎の表情が心の底から嫌そうだからな。
くそっ。別に淡いもんを期待してるわけじゃねーが、それでもそこまで嫌がらなくてもいいだろうが。
いちいちむかつく女だぜ。
「正直ブタゴリラの手垢が付くなんてぞっとするけど、三女に頼まれたからしょうがなく、よ。
明後日までにコピーするなりなんなりして、返しなさい」
「ええっ、さん…じゃねえ、なんつーか……」
「別にソコは食いついていいわよ。アホね。
聞いたわよ。朝、神戸にまたズタボロにやられたって。三女が気にしてたわ。
それで、三女と松原が力を貸してあげたいって。喜びなさいな」
「そりゃサンキューだけどよ、別にズタボロって程じゃあ……」
「ふんっ」
目を逸らして言いよどむオレを見て、杉崎は無い胸の前で腕を組み、挑発的に鼻を鳴らした。
が、一拍置いて『やれやれ』といったふうにあらためて口を開いた。
「まあしっかり落ち込みなさい。あの子の言うことは99パーセント正しいわ」
「おい!!!
ここ今『落ち込むな』ってフォロー入れる流れだろ!!なんだよそれ!!」
「何で私がフォローしてあげなきゃなんないのよ。
あんたが遊びまわってるのもバカなのもブタゴリラなのも真実でしょうが。
そもそもあんたは、女生徒全般からの評価が底辺な自覚が全然足りないのよ」
「う…ぐ……」
言葉は目つき以上に鋭くて、オレはまともに心臓を切り裂かれてしまう。
そうなんだよな。基本オレって女子からの評価低い…っつうか、言いたくないが正直変質者扱いだ。
原因はわかってる。ガキの頃に散々披露しまくった数々の『秘技』のせいだ。
当時は可愛い悪戯のつもりだったんだが、今思い返すと若干…かなりアグレッシブだった事は認めざるを得ない。
いやもちろん、炸裂させる相手はしっかり選んでたさ。
女を困らせるのが男の仕事であって、泣かせるような真似をしたらお天道様に顔向けできなくなる。
その辺、オレの目に間違いはなかった。
が、手を引くべきタイミングを致命的に間違えちまったんだよな……。
みつばの目が冷めてきてた辺りで……ええい、昔の事はいいんだよ。重要なのは今だ。
つうか別に、知らねえ女子から冷たい目を向けられてるのは気にしてないんだよ、オレは。マジで!!
ただ、あの頃、そして今の三女さんの目がどんなだろうと考えると、昔の自分をはっ倒したくなる……。
「負債と周囲からの視線をしっかり意識して、真人間としてつつましく生きなさい」
「…負債があるのはお前だって…うるせーな!!」
「キャッ!つばを飛ばさないでよ!汚いわね!!」
危うく口から出かかった言葉を誤魔化すための大声だったが、うまく行ったみたいだ。
ギャーギャーわめきたてる杉崎からは、余計な事が聞こえていた様子は見られない。
……まーこいつはむかつくが、だからってこれとあれとは関係ない。
杉崎は杉崎なりにズレを直そうって頑張ってるんだしな。

119 :
「まったく!
とにかくせっかく三女と松原が好意で貸してくれたんだから、しっかり勉強しなさいよ。
ここまでしてもらって赤点とったら、それこそ最低よ」
「わかってるよ…って待て、さっきから三女さんと松原って、お前のノートはなんだよ?」
「もちろん私はしっかりお代をいただくわ。そのために私が持ってきたんだし。
明日の放課後、活動用具室の奥に積んでるダンボール、生徒会室に運んどいて。
全部で5箱あるから」
「はあっ!?
なんだよソレ!?」
「私がやってる環境整備委員会の仕事で、先輩方の残していった部活用具を処分する予定だったんだけど、
使えそうなラケットとか竹刀とかあったから、時間見つけて仕分けたのよ。
生徒会役員に引き渡して、各部活に配分してもらうの」
「じゃあ委員会の奴に手伝わせろよ。オレを巻き込むな」
「個人でやったのよ。廃棄の予定を少し延ばしてもらって。
誰かに無駄な借りは作りたくないし、あんた引越し業者のバイトしてたんでしょ?
その要領でちゃちゃっと運んじゃってよ」
「ダンボールの持ち運びに要領もくそもあるか!」
まあ有るには有るが、アレは持ち上げるときに腰を痛めないとか、物にキズをつけないコツだ。
移送そのものは楽になるわけじゃねえ。やってられるかっての。
「じゃあ数学は赤点になってもかまわないのね。
あ〜あ、かわいそうな髪長姫。
せっかく手を差し出してあげたってのに、ブタゴリラがロクな結果を出せないせいで、
またお顔が暗くなってしまわれるわ」
「わかったよ!運んでやるよ!!」
「『運んでやる』ぅ…?」
「運ばさせてください杉崎様!」
くっそー!!腹立つ!!!
「最初からそう素直に言いなさいよね。
おかげでお昼食べる時間、ほとんどなくなっちゃったじゃない」
「なぬ!?」
杉崎に言われて左手のGショックを確認すると、表示は12:32分…げげっ、15分無い!
「やっべ、英語の宿題!
くそっ、今日はメシは抜きで写すか……。
本庄も急いで食えよ…って食い終わってるし!!」
途中から会話に参加してこないと思ったら、ちゃっかり本庄は完食してやがった。
机の上の弁当箱は、青い包みに戻されている。
「途中からボクにあんまり関係ない流れだったしね」
「だからって!!」
「これくらい割り切りよくなくちゃ、6−3じゃやってけなかったって。
プリントは貸すけど、その前にコーヒー飲みきってよ。汚されたくないし」
「はあ……。やっぱり宿題見せてもらってるのね。
まあいいわ、私はAクラに戻るから。
そうそう、三女からもうひとつ言伝。
明日のお昼はパンを買わずに待ってて、だって。良かったわね。
じゃ」
「ちょっ…お前ら一気に色々言うな!混乱する!」
ええっと、とにかく英語がでも缶コーヒーを空にする前に三女さんのノートを明日は買わないで!!?

120 :
「たっだいまーっと。
いや〜やっぱ醤油ラーメンの方が美味かった…おっ、千葉のそれ、トマトパンじゃん。
半分くれよ」
「頼むから今は黙っててくれ!!」
「おーいC組、今日は授業の前にプリント集めるぞー」
「あっ、先生来た」
チクショウ!!

121 :
今週はここまで。
野郎どもの会話内容は悩みます。
最近個人的に『品の無い会話』に凝ってて、ネタ帳に台詞アイデアをメモってるんですが、
千葉たちは多分、あまりヌレヌレな会話をしない気がしたので、
全体的に明るく(?)修正しました。

122 :
保守

123 :
「…三女さん、おはよう」
「おはよう、松岡さん。どうしたの、そのアザ」
「えっ…これはね…!屋根裏で地縛霊を探してたら、あ足がすべっちゃって!」
「…お大事に」


「おはよう、松岡さん。また、転んだの」
「!?…うん、…今度は、南公園の横に、…東公園の横にあるお墓に行った時ね、墓石にね、……ぶつけて、…ね?」
「大変だね」


「…おはよう、松岡さん。そのヤケドは…」
「………………ゆ、……………幽霊、
に…………」
「さっちゃん」
「…さ、三女、さん」

124 :
7スレ目が唐突に落ちた悪夢があるので、ちょこちょこ入れないと不安です。

125 :
――――――――――

キーンコーンカーンコーン
ふへぇ……。やっとガッコ終わったぁ〜……。
「あー…今日も疲れた。クタクタだぜ」
「千葉くん、最後思いっきり寝てたよね」
「睡眠学習してたんだよ」
「じゃあ、次の宿題は手助け要らないね」
「え〜っと、それはまた別問題であってだな……」
「おい千葉ぁ、ゲーセン行こうぜ。駅んとこの。
アベちゃんとうっちん呼んで2vs2のランダム戦やろっぜ」
シノケンは俺の答えの前に、すでにスマホの上で指を踊らせ召集をかけていた。
今日は三女さんたちから借りたノートをコピって勉強しなきゃならんのだが……いいか。
テストは来週なんだから、コピーだけしときゃあ時間はあるさ。
「あれ?
篠田くん、塾は?」
「休み」
パソコン部に向かおうと立ち上がった本庄が口にした素朴な疑問に、シノケンはしれっとした顔で答える。
よくもまあ。ある意味感心するぜ。
「サボりだろが」
「おっ、アベちゃ〜んからメール返って来た。
おっけだって」
「…ま、好きにしろや」
俺も中学の後半(だけ)は塾へ行っていたから、アレのめんどくささはよくわかる。
……サボった場合、家に帰ってから余計に面倒な事になるんだが、
こいつの自己責任にまで踏み込むつもりはサラサラ無い。

126 :
「俺、一旦帰ってチャリンコ取ってくるから、先行っといてくれ。
一応言っとくが、メダル引き出しのパスワード変えといたぞ」
「え〜〜!
ケチケチすんなよ、2000枚もあるんだから」
「ざけんな。
貴重なタネ銭払って、コツコツ貯めた俺の財産だっつの。
んじゃ、後でな」
「ケチ学帽!お前には友情がないのか!そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
シノケンはなおも意味不明の文句を唱え続けてるが、んなもん相手にしてられるか。
背中で受け流しながら、さっさと教室を出る。
「あっ、ちょうどよかった。
久しぶりだね、えっと…千葉、くん」
そしてすぐに、今度は別の野郎に呼び止められてしまった。
背は俺よりちょい下くらいに高く、物腰からも雰囲気からも真面目さがにじみ出ている、爽やか系のイケメンだ。
久しぶり、と言われても俺はこんな輩に覚えは……んん?
「夏の試合のときはお世話になったね。ありがとう」
夏の試合…ってことはやっぱそうか。
「弓矢部の奴だよな」
「うん、そう。
弓道部の野崎だよ……ごめん、考えてみたらあの日は自己紹介もしてなかったよね。
野崎智也。
よろしく、千葉君」
弓野郎はイケメンらしくはにかみながら、スッと握手を求めてきた。
無論、俺に野郎の手を握る趣味は無い。のでポケットに両手をつっこんだままスルーしておく。
この後の展開を考えると、余計に仲良くする気なんて起きねえし。
「んで、何か用かよ。
俺、帰るところなんだけど」
「……ああ、えっと、ちょっと話があるんだ。申し訳ないけど時間もらえないかな」
差し出した手を無視された弓野郎は、一瞬停まったがすぐに爽やか笑顔に戻って(その余裕もむかつくな)、
はきはした声でしっかり要求してきやがった。
さて、俺とは全く接点のなさそうなイケメンが、下手気味(?)に出向いてきた。
イケメンさえも思わず弟子入りを申し込みたくなるほど、俺から発されるオーラが漢気に満ちているからだ。
なわけはない。
「丸井の事か?」
「……まあ」
やっぱな。
ったく…またかよ。俺は三女さんのマネージャーじゃねえっての。
めんどくせえ。
が、
「りょーかい。
おーいシノケン!悪ぃけどさっきのナシで!
今日は真面目に塾行っとけ!!」
その分、あの人の『面倒』を減らせられるんだ。
やるしかないだろ。

127 :



「うあ〜あ、いつになったら涼しくなんのかね………」
弓野郎を引き連れてやってきたのは、こういうときにいつも使う場所。
ウチの『1−C』から出てすぐ、隣の校舎と繋がる3階渡り廊下だ。
4階部が屋根になって日陰を作ってくれて、風通しもそこそこいいはずなんだが、それでもやっぱ暑いもんは暑い。
寄りかかったコンクリ壁も、日差しで熱されてやがった。
あーくそっ、パソコン部で話したいな。あそこクーラー効いてる…でも部外者立ち入り禁止なんだよなぁ。
静かだから、声も響いちまうし。
もちろんここだって、放課後とは言えチョコチョコ人が歩いてるが、外からの音でそこそこうるさいし、
野郎ふたりが話してる事なんか誰も彼も興味ないから、ただ通り過ぎていくだけだ。
「あっ、野崎くんバイバイ」
「ああ、うん。さようなら」
前言撤回。
イケメン様ってのはどいつもこいつも目をひくみたいだ。
何人かの女子が、弓野郎に『だけ』挨拶して帰っていった。
しかもさっきの女なんて、こいつが返した途端嬉しそうに顔を赤らめながら『キャー』とか走っていくし。
へーへー、人気があって結構なことですね。ケッ。
「さっきの子は同じクラスの子でさ。
…で、あー……まずは、夏の事。千葉君も弓を届けてくれてありがとう。お礼、遅くなってごめん」
「『千葉』でいいよ。でもって礼もいらねえ。
俺はただ持って行っただけだ」
「でも、その分の時間を割いてくれたじゃないか。だからありがとう」
態度悪くかったるそうに話す俺に対しても、イケメン様はあくまで爽やかだ。
丁寧な言葉遣いには嫌味とかそんなのは1%も見当たらないし、
頭まで下げて気持ちが表面のモノだけじゃないって証明してくださる。
あー…そういやこいつの家、ちょい遠い町の地主かなんかやってるって噂を聞いたような。
本当に礼儀ができてるわけか。
佐藤んちも親父さんの稼ぎがいいし、イケメンはデフォルトで金持ち設定が付いてくるのか?
ううわ、なんだよそれ。
この不条理に対する怒り、また佐藤にちょっかい出して晴らしとこう。
「あの日の試合に勝てたのは、丸井さんと千葉が俺の弓を届けてくれたおかげだよ。
いや、それ以上にあの弓は祖父からもらった大事なものだったから……。
……こっそり返してくれたのも助かった。
弓を隠したのは俺の小学校からのとも「その辺の細かいストーリーはマジ興味ねーから。悪いけど」
8月の登校日、弓道場がうるせえなぁって思いながら帰る途中だった。
三女さんが『妙なところから『視線』を感じて気になったから』と、弓を持って(音も無く)現れた。
落ちてた場所からして誰かが嫌がらせかなんかで隠したんだろうと踏んで、持って行こう……としたけど、
人が集まりすぎてて近寄れない(実際は三女さんが行けば人が割れるから、ある意味簡単に行けるが)、
って困ってたから、俺が代わりに持ち込んだんだよな。
こういう事になるのは読めたんだから、俺が見つけたって言って渡せばよかったかなぁ……。
「こっちだって忙しいんだ。さっさと要件頼むぜ」
「……そうだね」
弓野郎は俺のぶった切りに軽く鼻白んだが、一拍後には体勢を直して……だけじゃなく、
硬い意志と覚悟まで用意してから言葉を続ける。
「話っていうのは、丸井さんにもお礼を言いたくてさ。
それで彼女の携帯番号を「丸井は携帯持ってねえ」

128 :
やっぱコレか。
なぜだか知らんが、俺が三女さんの携帯番号を知ってるって噂が学校に広まってんだよな。
おかげで1学期は地獄だったぜ。噂を広めた張本人は絶対見つけて、御礼してやる。
俺はみつばの番号すら知らねっての。
……知らないと言うか、教えてもらえなかったんだが。
あの雌豚、この4月から携帯持ち出したから軽く番号聞いてみたら、
『なんであんた如きに教えてあげなくちゃなんないのよ。思い上がらないで』とかほざきやがった。
そのくせ、あいつは好きなときに非通知でかけてきやがるし(番号の流出元は松原か杉崎だろう)…くそっ。
世の中むかつく事ばっかだぜ。
…って、とりあえずみつばの事は置いとこう。今は三女さんについてだ。
「まだあの噂を信じてる奴が居たって事実にびっくりだよ。
あの人はマジで携帯持ってねえから、当然番号なんて知らない。ついでにマル秘情報的なものも知らない。
知ってるのは鴨橋町に住んでて、3人姉妹の三女で、姉が『丸井ふたば』で、
家事が趣味で、特撮ヒーローマニアってことだけ。
そんくらいはどうせお前も知ってんだろ。
一応丸井んちの電話番号は知ってるけど、教える必要性も意味もないから教えないし、
友達でもないのにいきなり家に電話かけるとか真性の変態だから諦めろ。
なんかで調べてもいいけど、あの人の家族からイタ電と判断されたら、
『丸井ふたば』の取り巻きに即されるから覚悟しとけよ。
以上」
もはやテンプレとなった『三女さん情報』を機械的に並べ立てていく。
よどみなくスラスラ言えてしまう自分が果てしなく悲しい。
……しかしあのふたば親衛隊(正式名称は忘れた)の連中、何をどうやって情報集めとかしてるんだろうか?
あいつらにつっこんだら敗けだと思ってある程度スルーしてるが、やっぱ気になるぜ。
「えー、あー……」
ガーッと連射された言葉に圧されて、弓野郎が目を泳がせる。
相手がジタバタしてる隙にさっさと消えるのは簡単だけど、
そしたら今度は下駄箱に手紙コースなのは目に見えてる。だから俺は、ちゃんと釘を打っておく。
「あの日の礼は俺から伝えとくよ。
お前があの日助かったって事だけで、丸井は充分喜ぶよ」
「いや…やっぱりお礼はちゃんと自分で言いたいから………」
さっきまでの歯切れのいいしゃべり方から一転、弓野郎はモジモジもにょもにょしだした。
キメえ。そういうのをやっていいのは可愛い女子だけだ。
「じゃあ普通にAクラ行って言えや」
「そりゃそう、なんだけど………。
丸井さんいつも誰かと居るし、ひとりになるとすぐ消えちゃうっていうかさ………。
ああっ、変な事いうけど彼女本当に『消える』んだよ。ずっと見てたはずなのに、パッと居なくなるんだ。
それでさ、まあ、落ち着いて話せる機会を持ちたいっていうか……」
「落ち着いて、個人的に伝えたいって事は、礼以外の意図が有るってことだろ。
そういうの、丸井には迷惑なだけだぜ。
家と家族の事が忙しいから、今は誰かと付き合うとか考えられないって、
そう言われて学校のイケメン野郎がこぞって振られたの、知ってんだろ。
『髪長姫』は、真剣に忙しい人なんだよ。俺らと違ってな。
だからやめとけ」
「あー……知ってる、んだけど……」
「自分は違うってか?
自分がイケメンだからか?金持ちだからか?学校の人気者だからか?
少なくともこの高校では、自分と付き合えばメリットがでかいってか?」

129 :
そうだろう。その通りだ。損得で言えば丸ごと得だ。
ぐうの音もでねえ。
目の醒めるような美少女が、三十路前のパッとしないおっさんを想って悩んでるなんて、おかしいさ。
だけどさ、
「勘違いするなよ」

三女さんは自分の『幸せ』を目指して、自分の力で一生懸命頑張ってるんだ。
横から他人がどうこう押し付けんな。

「丸井はただ、拾ったものを持ち主に返しただけだ。そんなの当たり前だろ。
お前と仲良くしたいってんなら、あの日自分で直接渡したよ。
勝手に運命感じちゃって暴走すんなよな」
ただでさえ歳の差があるってのに、相手は元担任だ。しかも小学生のときの。
常識以前の問題だらけだ。ロクな事にならねえに決まってる。
一生懸命頑張るだけ頑張って、傷ついて終わるかも知れねえ。
何も知らないガキが、勝手に夢見てバカやってるだけなのかも知れないさ。
「知ってるだろ、あの人は誰にでも優しくて、親切なんだ。そういう人なんだ。
ちょっとくらいお前が特別だとしても、お前だから特別なストーリーに発展したりなんて無いっての」
んな事は本人が1番わかってんだよ。
わかってて、わかってるから頑張ってるんだ。
恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
それでも『外』に出ようって、勇気を出して頑張ってるんだよ。
あんなに小さな、すぐに壊れてしまいそうなくらい華奢な子が、歯を食いしばって頑張ってるんだよ。
「………わかってる、つもりさ。
あんな事がきっかけで上手くいくなんて、本気で思ってるわけじゃない。
だけどせめて、自分の気持ちだけでも伝えたいんだ」
だから押し付けないでくれ。
あの子が自分の足で立って頑張ってる間は、あの子の思うとおりにさせてくれ。
させてあげたいんだ。
俺らは子供だけど、だから頑張る権利は誰にも否定させない。
させるもんか、絶対に。
「お前さ、弓を拾ってきたのが普通の女子でもこんなに突っ走ったのかよ?
さっきの女子みたいに、軽く流して終わりだったろ。
ただ相手が『髪長姫』だから、過剰反応で勘違いしちゃってるんだよ。はっきり言って痛いぜ」
「いっ…いや、そんなつもりじゃないって。
俺は真剣に……」
「俺のダチにもイケメン野郎がいるからわかるんだが、お前ら基本、
女が自分を気にしてるって自惚れがあんだよ。ズバっと言って悪ぃけど。
実際、自分の告白が相手に迷惑になるかもって、真剣には思ってねーだろ。
って言われても理解できないのが変だって、わかれ」
「………………………」
ここまで言われてやっと、勘違い男は静かになる。
悔しい気持ちをぐっと噛みし、苦い顔で飲み込む。

130 :
「じゃあ、キミみたいに」
わけがないよな。
いいさ、ここまで言われて黙ってたら男じゃねえって、それはわかってやる。
「じゃあ今のキミみたいに、彼女への気持ちを押し隠してずっと『いい人』で居ろっていうのかい?
それが正しい選択肢だって?」
「はあ〜〜……。
その手の勘違い、本気で迷惑なんだが。
俺は別に丸井の事をどうこう思ってねえよ」
どいつもこいつも勝手に勘違いするな。
「お前らさ、噂ででもいいよ、俺が丸井の彼氏だ的な妄言吐いたって聞いた事あるか?
丸井と付き合いたいみたいな不相応な夢を語っちゃってたって、聞いた事あるか?
お調子者のバカな男なんだから、そういうの思ってたらダチにポロっと漏らすだろ。
俺はお前らよりよっぽど現実見て生きてんだよ。
丸井とはちょっと関わりがあるだけだって、自分の立場を知ってるんだ」
俺は勘違いした事なんて1度も無い。
知ってるんだ。直接聞いたから。

―――そうだね。私らしくないよね。…でも、だから変わらなきゃって思ったんだ。
―――先生のパソコン。今の…ううん、これまでの生徒達の事がすごく細かく書かれてた。
―――先生にとって、誰かを助けるっていうのは、誰かの幸せのために頑張るっていうのは当たり前の事なんだよ。
―――先生と一緒に居るには、『私』のままじゃふさわしくないんだって、そう思ったの。
―――先生みたいになりたい。いきなりは無理だけど、できる事からやってみようって、そう決めたんだ。
―――先生へ――
―――先生を――
―――私は、先生が――

だからずっと、ちゃんと、『登場人物A』の端役を、端役らしくこなして来た。
ただ、思っただけだ。
「ま、あいつの苦労もちったあ理解してるから、
お前らみたいなのに聴かれれば、正直に答えてるんだよ」
想いを語る横顔がすごく綺麗だって。
頑張って誰かに手を差し伸べて、なのにこの娘が傷つくなんて、すごく悲しいって。
それだけなんだ。
「………………………」
やれやれ、黙ってくれたか。今度こそ話は終わりだな。

131 :
俺はそう判断して壁から背を離し、黙りこくった野郎を置いて下駄箱へと「関わりって、小学校の時のかい?」

!!?

心臓が凍る。ギョッとしてモロに背中が震えたのが自分でもはっきりわかる。
一瞬後には、動揺しちゃまずいだろって脳が命令するけどもう遅い。今のキョドりは見られちまった。
何だコイツ何で知ってんだ偶然か偶然だろ落ち着け探りを入れろあくまでサラッと背中向きのまま!
「な…ナにいってんダお前?」
アホか俺!声が上ずってんぞ!
「噂で聞いたんだ。
丸井さんが小学生の時の担任と……その…デキてるって。
千葉は…何年生のときか知らないけど、その担任のとき丸井さんと一緒のクラスだった……んだろ?」
ちょっ…マジでか!?んな噂が流れてんの!?
8割方正解に辿り着いてんじゃねーか!!
「…………はあ?
お前頭ダイジョーブか?エロ漫画かなんかの読みすぎじゃねーの?
俺、小学生のとき丸井とは2、3回同じクラスだったけど、
んなエキセントリックなロリコン教師なんて出会ったことねーって」
必で心臓を押さえつけ、乾いた喉を湿らせてから、なんとかばかばかしそうな声音を引き出す。
……背中向きのままってのが不自然なのはわかってるが、しょうがないだろ。
汗だくの顔を見せるわけにはいかねえっての。
「………そりゃ、まあ、確かにありえない話だけど……」
「だろっ!?」
相手が迷いを見せてくれた分、こっちに余裕が戻ってきた。
勢いのままバッと振り返り、ガンガン畳み掛けてやる。
「教師と生徒がなんて漫画だぜ?しかも出会ったのは小学生の頃だぜ?常識で考えてありえねーだろ。
いるんだよな〜。他にも『幼なじみフラグ』とか真顔で言う奴もいたし。痛ぇっての。膿んでんじゃねえか。
何であの超絶美少女があんなおっさんを好きになるんだっつーの。
アレだろ、どうせ三女さんに振られたヤツが腹いせに広めたデタラメだろ?
お前、嫌がらせの片棒担いでんのと一緒だぜそれ。最低だよ。もう忘れろってんなネタ。
………なんかしょっ…証拠、みたいなのでもあんのかよ?」
「……………………」
無いだろまさか?黙ってんじゃねーよくそっ、さっさと答えろ!心臓がめちゃ痛いんだよコッチは!!
「無い、さ。噂だけだ」
よっしゃあ!! 「でも」 なんだよ!?
「じゃあ何で千葉はそんなに髪長姫に近いんだい?」
「…そりゃどーいう意味だよ。俺みたいなバカゴリラが髪長姫と仲いいのは納得いかねーってか」
「……悪いけど、そういうの、有る」
だよなー。俺もすげーそう思うわ。
超マズイ。俺のせいで三女さんに迷惑かけるなんざ、最悪だ。
「お前、素でむかつくな。
……あのなぁ、俺は丸井と近所で小中一緒なんだ。ちっとぐらいは親しくなるっての。
あいつだって人間なんだから、誰とも関わらずに生きてくなんて、それこそありえねえだろ」
「その条件で括るなら、該当する男子はこの学校にも沢山居るじゃないか」
「そ…そりゃそう、なんだけどよ……」
だぁ〜、やっぱこれは答えになんねえか!
わかっちゃいたが厳しいぜ。

132 :
「それにさっき千葉は言ったよな、『関わりがある』って。
やっぱり何かあるって事だろ?」
「うっ……」
俺のウルトラスーパーバカ野郎!!
なに調子乗って余計な事くっちゃべってんだ!!
ええいちくしょう、どうするどうする!?早く反論しろ黙ってちゃ余計怪しいぞほらもう5秒は経った早く!!
「……ちっ、しゃーねえ」
「?」
「まあホントの事言うと、丸井がかなり親しくしてる野郎が居てさ。
付き合ってるとか、そういうわけじゃねえけど」
「……やっぱりそうなのか」
「ああ、佐藤って言ってな」
困ったときのイケメン頼りだ。
許せ佐藤、巻き込ませてもらうぜ。お詫びに今度うまい棒奢るからな(それ以上奢るつもりはない)。
「そいつこそ丸井と超近所でさ、もちろん小中と一緒だった…っていうか、
幼稚園から11年間ずっと同じクラスだったんだ。
今はそいつ私立行ってるけど、やっぱそんだけいつも一緒に居たらそりゃあな。
しかもそいつ、イケメンで頭良くてサッカー上手くて結構金持ちなんだよ」
やべー。佐藤を殴りたくなってきた。
「何よりすげえのが、そいつの丸井への尽くしっぷりでさ。
ガキの頃からずっと、丸井が願ったら何でもやった。
ちょっと見てて引くレベルで何でも。
丸井が『空を飛んで来て』って願ったら、飛ぶレベル」
どうやってかって?知らねーよ。でも飛ぶんだよ。
ふたばが願えば、あいつは何だってできるようになるんだから。
「…じゃあ、なんで別々の高校に進んだんだい?」
「さっきも言ったが、別に付き合ってるってわけじゃないからな。
傍から見てるとなんだそりゃ、って感じだが……ま、そういう関係。
それに丸井も最近は、あいつの負担になってるって気付き始めたみたいで、
ちょっと距離おいて自分で何でもやろうってしてるんだ」
松原との事も含めて、さ。
それがわかってないのは佐藤だけだ。本当にバカな男だぜ。
「んで、俺はその佐藤とガキの時からつるんでるんだよ。
むしろコンビ組んでた。漫才でようぜってくらい。
さっきイケメンのダチが居るって言ったろ?そいつ。
だからそいつを挟んで、俺は丸井とちょい関わりがあるんだよ」
『上手い嘘は真実を何パーセントか混ぜること』。
昔そう本で読んだ気がするが、本当の事だったんだな。
スラスラと『間』を埋めるネタが出てくるぜ。

133 :
「あんま見せたくねーけど、そいつと俺と丸井が一緒に映った写メあるぜ。
髪長姫の写メだぜ?
知ってるだろ、写真に撮られるの嫌ってて、しかも勘が良いから盗撮もできないって話。
その写メがあるって意味、わかるよな」
ここは、賭けだ。
本当は三女さんが映ってる写メなんてねえ。
見せたくない理由は用意してるし、佐藤と俺の(ふたば撮影)はあるから、リスクは小さくできてるが、
それでもかなり踏み込んでる。
口調はさっきまでと同じでダルそうな演技を続けてるけど、心臓はバクバク鳴って痛いくらいだ。
頼む、上手くいってくれよ……!
「……見せたくないって、どういう事さ?」
「見せたら、こいつなら勝てるかもとかお前が思うだろ。
ぶっちゃけお前なら、佐藤とイケメン度は互角だと思うし、あいつ背ぇあんま無いからなー。
それがめんどくさい。
別に見せたくないのはお前だけってわけじゃないぜ?
変に現実見せて基準を作ったら、学校中色々めんどくせーことになるだろ。だから佐藤の存在自体隠してる。
つか、当然丸井だってこんな完全プライベートな事に踏み込まれたくないだろうし、
正直勝手にこんだけ話した上、写真まで見せるのは俺もすげえ気まずいんだよ。お前にんな義理もねーし。
ケチくせえだろうが、でかい『貸し』にさせてもらう。
それでもどーしてもって言うなら、見せてもいい」
さあどうだ!?
「……わかった。ごめん、いいよ写真は。
それに俺のわがままで、もうかなりキミたちのプライベートに踏み込んだよね。本当にごめん」
よっしゃあ!!パート2!!
「そういうこった。
あ〜あ、貴重な放課後を30分も使っちまった。つか、お前も部活いいのかよ?」
「ああ…ごめん、そうだね。部活には遅れるって言ったけど、確かにもういかなきゃ」
「おう、お勤めごくろーさん。
んじゃあな」
長居は無用だ。
俺は右手をひらひら振って、この場からさっさと離れることにする。
あー疲れた。
「ごめん!もうひとつだけ!!」
パアン、と手のひらを合わせる音と共に、弓野郎が声を張り上げる。
こいつの声質は良く通るから、結構遠くまで響いたみたいだ。
校舎の方を通っていた女子が、びっくりしてコッチを向いたのが見えた。
まだあんのかよ……。

134 :
まだあんのかよ……。
「あんだよ?」
「……その佐藤くんとは、付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「ちっ…『まだ』な。そういうレベル。
未練がましいぜ、お前。
さっきも言ったが髪長姫にちょっと優しくされて勘違いして、俺にこんだけ時間使わせといてよぉ。
おまけに突っ走って丸井に迷惑までかけるようなら、流石に普通にキレるぜ。あんま関係ない俺でも。
そういうの、全部考えて行動しろよな。すでに普通人の俺から見て痛いぞ」
「………ああ、わかったよ。度々ごめん」
再三俺が釘を打ち込んでやっと弓野郎は話を打ち切り、神妙な顔で再び頭を下げてから校舎へと消えていった。
……あれだけやっておけば大丈夫、だろう。と思いたい。
にしても、反省点ばっかだったなぁ。特に最初のがまずかった。
かなりあやふやな噂だったし、キョドらなけりゃどうとでも誤魔化せたはずだ。
あらかじめの心構えもだが、なんか作戦考えるかぁ……。
「はぁ〜あ……めんどくせ」

135 :
今週はここまで。
まだプロットの3分の1という絶望感。
続ければ続けるほど、話の整合性をあわせるのが難しくなります。
わかってたことではあるんですが。

136 :
頑張ってくだされ
本編読んでると、みつばと千葉は
悪友っぽい仲の良さだけど、高校でも相変わらずなのね(´・ω・`)

137 :
>>136
激励ありがとうございます。
悪友っぽさを感じていただければ、嬉しい限りです。
ぶっちゃけ、私のSSの時間軸というか世界観では、
このふたりが付き合う的な事はないです(一生スパンで)
原作でも千葉は男の子コミュニティ、みつばは女の子コミュニティで動いていて、
全く違うタイムスケジュールで行動しているので、
離れてしまえば(高校が別々、など)ほとんど接点なくなりそう。

138 :
フフフ

139 :
みつば「なんで寝巻きで来てんのよ!?」
ふたば「着替えをしないまま登校してしまったっス うっかりうっかり」

田渕「なんか今日のふたばはエロくないか?」
千葉「お前もそう思っていたか・・・あの格好だと胸と太ももが強調されるからか?」
三好「そういやハロウィンパーティーで狼コスプレしてた時はちょっと尻が見えてて興奮しちゃったぜ」
佐藤「お・・・お前らふたばをイヤらしい目で見るな!!」

140 :
しんちゃん…

141 :
いくらなんでもあれは無防備すぎる
校門飛び越えるところはヤバすぎるだろう

142 :
風邪をひいた……。
治りかけだけど。

143 :
――――――――――

「だ〜っ、やっぱ今日はスロットやめときゃよかった」
ゲーセンの自動ドアを潜ったところで、日の落ち始めた空に向かってひとり愚痴る。
せっかくのメダルがかなり吸い込まれちまった。
気のノらねえ日は、出が悪いんだよな。わかってはいたんだが……ちくしょ。
ムカつきをちょっとでもごまかすため愛用の『69』帽のツバを意味無くいじってから、
俺はチャリ置き場へ足を向けた。
あの後一旦家へ帰った俺は、着替えてからノートをコピーしにコンビニへ行こうかと思ったんだが、
気を勉強に向ける気力がどうしても沸かなかったんで、ちょっと気晴らしに駅前までやってきた。
が、結果は見ての通りってわけだ。チッ、順調に増やせてた最初でやめときゃよかったぜ。
「くそっ」
イライラする。
何がってわけじゃねえ、何もかもがムカつく。
チビ女も、弓野郎も、杉崎も。
シノケンまで好き勝手いいやがって。何が『髪長姫を脅してる』だ。ふざけんな。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。じめついた重ったるい空気も鬱陶しい。
モスグリーンのタンクトップに薄手の迷彩ズボンの、これ以上ないくらい軽装なはずなのに、
汗が後から後から吹き出てくる。
太陽が居なくなったんだから、とっとと涼しくなりやがれってんだ。
「……晩メシ食ってとっとと寝るか」
今日はもう何もする気になんねえ。ノートのコピーも明日で良いや。どうせ一週間あるんだ。
この後の予定を脳内で組み上げた俺は、まとわり付いてくる鬱陶しいモノ全部を蹴り飛ばすつもりで、
足をペダルにたたきつけた。
シャー
うっし、我ながらいい加速だ。そしてハンドル捌きも華麗だぜ。
車と歩道の間に生まれた細いスペースを縫って、駅前を駆け抜ける。
前輪によって高速で回されるダイナモが、俺を喝采するかのように快音を鳴らす。
そして風が身体に当たり汗を吹き飛ばすと同時に、雨の匂いを運んできた。
くあ〜っ、涼しくて気持ちいい……雨の匂いだと?

144 :
パラパラ...ザー
「げっ」
水滴が帽子のツバを叩いたとおもったら、すぐさまアスファルトが真っ黒に染まった。
よりにもよってゲリラ豪雨かよ。とことんついてねえ。
…かまうもんか、濡れたってすぐ乾く格好だし……?!
さらに加速するため足に力を込めたところで、視界とケツがガクガク揺れだした。
この感触……嘘だろ、パンクしやがった!!
急いで愛車の後輪に目を向けると、予感の通りタイヤが無残にひしゃげてやがった。
今日は最悪だ!!
泣きたくなる気分を押さえ込んで、とにかく避難場所を…と見回すと、
ちょうど進行方向左手に、シャッターの下りた文房具屋が軒先を突き出しているのが見つかった。
俺は残っていた勢いごと、安全地帯へとチャリごと滑り込ませる。
ザー...
「ふう……。
あぁ……最悪だ……」
…はぁ〜あ、パンクしちまったものは仕方ない。
この勢いが長く続くわけねえし、ちょい雨宿りしてから押して帰るか。
おふくろに晩メシ待ってくれって電話……ま、いいか。めんどくさい。言わなくても待ってくれるだろ。
ジャバジャバジャバ
「そこの緑色!ちょっとどきなさい!」
「あん?」
一息ついたところに突然、盛大な雨しぶきと一緒に、命令形が俺に向かってきた。
その方向へ顔を向けると、濃い目の茶髪の女が必の形相でチャリをこいでいるのが雨のカーテン越しに見えた。
運転者の様子と裏腹に、その速度は大したことはない。
前カゴいっぱいにつまったスーパーのレジ袋のせいも有るんだろうが、それにしたって遅い。
……体力無い上、自重が重いんだよな、コイツ。
「……!!
ぼさっとしてんじゃないわよデカブツゴリラ!私が風邪ひいたら国家の一大事よ!
さっさとどきなさい!」
向こうも俺だってことに気付いたみたいだ。根拠不明の上から目線がさらに一段昇った。
いきなりこんな態度で来られたら拒否するのが普通だろうが、こんなヤツでも付き合いは長いんだ。
心の広さを見せて場所を空けてやるとしよう。
「へえへえ。
久しぶりだなみつば…って待て停まれ危ねぐわっ」
「きゃっ!」
ガシャン!
信じられないことに長女は、勢いをさず鉄のフレームごと突っ込んできやがった。
スペースを空けようと体を傾かせていた俺は、(雌豚の体重+自転車)×スピードを喰らって、
濡れた石畳に勢い良く吹っ飛ばされてしまう。

145 :
「いってえっ!」
「おっとっと……ふう、上手く停まった。
あー、これでひと安心だわ」
なんとか上半身を起き上がらせると、さっきまで俺の立っていた場所では、
長女が満足そうな表情で人心地ついていやがった。
そのまま、背中まで伸ばした髪を慣れた手つきで軽く絞り、赤いカチューシャを一旦外してパパッと水滴を払う。
謝罪の言葉は一向に出てこない。
「なに考えてんだクソ女!!停まれよ常識以前の問題として!!」
「うっさいわね。
私の進行方向にボーっと突っ立てるからよ。ほら、あんたの自転車も早く退けなさい。
私のがちゃんと入らないじゃないの」
「マジぶっすぞ雌豚!!」
「ぎゃんぎゃん吠えないでよ、うっとうしい。
早く自転車退けなさいってば。特別にあんた自身は端っこに入らせてあげるから」
「ここ、俺が先に入ってたろうが!お前が出て行けよ!!」
「こんな美少女が、あんたみたいなガラ悪いゴリラと一緒に雨宿りしてあげようって言ってるのよ。
ありがたく思いなさいよね」
コッチの命令を無視して、長女は自転車から降りて本格的に滞在準備を始めやがった。
デニムの短パンからハンカチを取り出し、薄ピンクのキャミソールから露出した肩を丁寧に拭いていく。
動きの振動で、アゴ先から雨粒がひと粒ポトリと落ちて、胸の谷間に消えていった。
……こいつ結構おっぱいでかくなったよな……って違う!
「おい!出て行けって言ってんだろが!!」
「こんなか弱い女の子を雨の中放り出そうなんて、どうかしてるんじゃない?
いいじゃない、あんたもあんたの自転車も、濡れようが雷にうたれようが大した被害じゃないわ。
こっちなんて明日明後日のお弁当のおかずが入ってるのよ」
言って、長女はカゴのレジ袋を指差す。
……ちっ、気に入らんが、しょうがねえ。
「……なんでお前がスーパーで買い物なんてしてんだよ」
立ち上がって軒先へと戻った俺は、渋々ながらも自分の自転車を雨の下へと移動させる。
長女がこんなもん持ってるときに出会っちまうとは、タイミング悪いぜ。
「バイトの終わりとスーパーの特売が重なるから、ひとはにいつも色々頼まれてんのよ。
私は年がら年中能天気に遊びまわってるあんたと違って色々考えてて、色々忙しいの。
そっちはどうせゲームセンター帰りでしょ?」
「うるせえ」
「あんたただでさえガラ悪いんだから、もうちょっとマトモな遊び方しなさいよ。
しかもなにそのカッコ?かっこいいつもり?暑苦しいのが余計ひどいわよ。
ワキ、毛が見えてキモいんだけど。になさい」
「うっせえ!!」
なんでこいつは…女ってのは余計なことばっか言うんだ。ムカつくぜ。
怒鳴られたのを気にせずに、澄ました顔でケータイいじってんのが更にムカつく。
「…あっ、もしもし。ひとは?
…うん、最悪。ちょっと雨宿りして帰るわ。
…大丈夫よ。隣に千葉居るから。こいつ無駄にゴツイし。
…そうね。ま、ブタゴリラの方は、美少女を襲ってると勘違いされて通報されるかも知れないけど」
あーくそっ!さっさと止めよ雨!!

146 :
ザー...

「……………」
「……………」
長女の自転車を挟んで、シャッター左端で俺が、右端で長女が、それぞれ背を預けて降りしきる雨を眺める。
雨の勢いは大分ましになったが、まだここから踏み出そうとは思えない。
頼むからマジでそろそろ止んでくれよ。腹減ってきた。
さっき跳ねられたときに、トランクスまでぐしょぐしょになったから気持ち悪いんだよなぁ。
いい加減左肩が冷たいのも我慢できなくなってきたし。雌豚の野郎、横幅でかいんだよ。
「ねえ」
雨音に、違う音が混じる。
綺麗な声だな。
不覚にも、感想を浮かべてしまう。
昔から思ってたが長女は……こいつら三つ子って、妙に綺麗な声してやがるんだよな。
……まあ、綺麗なのは声だけじゃなくて……三女さんとは比べもんになんねえけどさ。
「ねえって言ってるでしょ。
私が呼んであげてるんだから、1秒以内に返事なさいよ」
「うっせ。…なんだよ?」
「あんたこんな遊びまわってていいの?
バカ過ぎて進級も危ないんでしょ。ひとはが心配してたわよ」
「超大きなお世話だよ!!」
「来週テストなんでしょ。
成績のいいひとはが帰って勉強してるのに、最底辺バカのあんたがゲームセンター行ってるとか、
寝ぼけてるか脳が腐ってるとしか思いようがないんだけど」
「う・る・せ・え!
さっきから大人しく聞いてやってりゃ、誰がバカだ!誰が!!
てめえとは高校自体のレベルに差があんだよ!!
東高でギリ中間のお前が相手なら、余裕で俺のが上だっての!!」
「なっ…なんですって!!」
自転車の向こうで、赤カチューシャ女が目を吊り上げる。
はんっ、そうだよこんなヤツ相手にムキになることないんだった。立場は俺の方が遥かに上なんだ。
「おっと、俺としたことが。
東高のバカ女相手に声を荒げるなんて恥ずかしいぜ。いかんいかん」
「むっか!
なによ、あんたなんてちょっとバクチに勝っただけじゃない!
中3のとき、担任から無理だからやめとけってしきりに言われてたくせに!!
むしろあの頃、私の方が順位上だったでしょ!!」
「はぁ〜あ、負け犬の遠吠えは哀れですなぁ。
あっ、『負け犬の遠吠え』って意味わかりますかぁ?難しい言葉使ってすみませーん」
「ぜったいすブタゴリラ!ムサい!汗臭い!ハゲ隠しの帽子がウザい!!」
「帽子の下は普通だよ!!何回言えばわかんだバカ女!!」
「どぉ〜だかしらね。
何年も何年も、わざわざ古臭い学帽まで買って被ってるなんて、ハゲてるからとしか思いようがないわ」
「違ぇってんだろ!
帽子はトレードマークっつーか、繊細な男心があんだよ!!」
「なによ男心って!キモいわね!!さっきも文句言うふりして私の豊満なおっぱいガン見してたし!!
キモ過ぎてキモしなさい!!」
「うっ…なっ……見てねーよんなもん!
豊満っつーかお前はただの豚だろうが!!
土日に思い出したかのようにジョギングしてるのが見苦しいんだよ!!」
「あっ…あれは健康のためにやってるのよ!ダイエットなんか私には必要ない…あっと」
無駄な反論の途中で、長女は身体をビクッとひるませたかと思ったら、
慌てた手つきで短パンのポケットからブルブル震えるケータイを取り出した。

147 :
「ロッカー入れた時にマナーにしたまんまだったわ……家か」
ピッ
「…なに?今忙しいんだけど。
…えっ、とっくに雨やんでる?」
「お?」
長女が向けた目線を追って外を見てみると、空には三日月がくっきり浮かんでいた。
どうやら目の前の事に注意を奪われて、無駄な時間を過ごしちまったみたいだ。
「…色々あったのよ。
…わかってるわよ、すぐ帰る。じゃね」
ピッ
「ああもうっ、あんたのせいで晩ゴハンが遅れちゃったじゃないの」
文句を垂れながら、さっそく長女は自転車のスタンドを戻して発進の準備を始める。
「こっちの台詞だっての。
…………あー、送って…俺、ゆっくり目だったら漕いで帰れるぜ」
何言ってんだ俺は。……いやしゃーねえだろ、もうかなり暗いんだから。
こんなヤツでも一応女なんだし、むしろ帰り道ほとんど一緒なんだから当たり前っつか、いいじゃん!
そういう気分のときもあるんだよ!!熱くなんな俺の顔!!
「?
……ああ」
いざ出発しようとペダルに足をかけた格好で、長女が振り返る。
ぽかんとしていたのは一瞬で、すぐ俺の意図に気付きやがったのか、目を糸にして楽しそうに笑った。
最悪だ。いつもみたいに気付かず流せよな。
しかも……ちくしょ、こういうときだけ素直な笑顔とかやめろ!!
「大丈夫よ、15分もかからないんだし、この辺明り多いし。
あんたこそ風邪引かないよう、さっさと帰ってシャワーでも浴びなさい。
ちゃんとテスト勉強もしなさいよ」
「うっせ。とっとと行け雌豚」
「じゃあね。
ひとはを心配させてるって事、ちゃんと考えなさいよ」
最後まで余計なひと言を残して、太めの身体が風に乗る。

148 :
ジャバジャバジャバ...
さて俺も行くか、と愛車のハンドルを押したところで、
「あっ!そうだー!!」
前の方で小さくなった背中が止まって、大声を上げた。
「あんだよー!」
「肩、濡らしてくれてありがとー!一応お礼言っておいてあげるー!
本当に一応だからねー!!勘違いしないでよねー!!!」
ジャバジャバジャバジャバ
……屋根から外れたとこまで寄ってたの、バレてたか…。
あぁ、くっそっ!!
いつもいつも鈍いくせに、なんでこんなときばっか勘が冴えてんだ、あの女!
「何もかも上手くいかねぇな!!」
むしゃくしゃする気分をまぎらわすため、すぐ横にあった空き缶入れを蹴っ飛ば……そうとして、やめる。
……俺は別に不良じゃねえんだ。無意味に物壊したり汚したりしないっての。
「……ううっ…風が寒ぃ……。
ちっ……」

そして家へ帰ると、晩メシはとっくに片付けられていて、
俺はカップラーメン2つで我慢するハメになった。

なんだそりゃあ!!!
「当たり前に決まってるだろ。
遅くなるなら連絡よこしな、バカ息子」

149 :



机の上に広げたノートには、綺麗な文字が綴られている。
うむ。持ち主のイメージ通り、コンパクトで良く整ってる。
更には赤青緑のペンで色分けされて、華やかさも備えてると来た。
唯一問題なのは、内容が全くわからん事だ。
「ジドウシにタドウシぃ?
めんどくせーなぁ……」
英文の上下に書かれた『ポイント』らしき日本語は、
けれどさっぱり意味がわからず読み手を混乱に陥れるばかりだ。
外人はマジでこんなの意識して会話してるんだろうか?アメリカ人に生まれたかった……。
「……だーヤメヤメ!
今日はシャワーあびたしメシ食ったし、もう勉強無理!早めに寝て明日の朝やろう!!」
サクッと英断を下して、教科書とノートを本棚(8割漫画で埋まってる)に戻す。
「……………………」
戻した手をずらし、本棚からB5サイズの薄い紙包みを取り出す。
大分手垢が付いてしまったが、昔からむしゃくしゃしてるときはなんとはなくこれを見てしまうんだよな。
なので、まあ、やっぱり今日も手にとってしまったというわけだ。
俺は左手で紙袋を軽く持ち、右手で慎重に、貴重なその中身を引き出す。
中身……かなり昔の『主婦の友』を。

150 :
『私があげたせいで殴られちゃったね…』
『いいよ』
「……………三女さん……」
表紙を見ていると、色んな事を思い出す。
コレをプレゼントしてもらった日の事とか、一緒にザリガニ釣った事とか、
鉄棒でちょっとしたイタズラをしてしまった事とか。
中学の帰り道に見た、夕日に浮かぶあの笑顔とか。
明るい思い出が内側に染みこんで、心を緩ませてくれる。
無礼な雌共……松原もチビ女も杉崎もみつばも、まあ許してやろうかという気持ちになる。
まったく。ちょっとは三女さんを見習って、おしとやかにしろよなあいつら。
ふた言目にはキモいだのイタいだの。この俺のどこが………………「おいちょっと待て」
あれ?冷静になると俺、なにを何年も前にシャレで渡された本を大事してんだよ。
しかも表紙だけ見て癒されてるとかマジでキモくね?
ってか、運よく近所に住んでるってだけで何も頼まれてないのに、バクチの受験してまで同じ高校入って、
そのせいで補習で苦しみながら付きまとってるって、カンチガイ野郎もはなはだしくね?
真性にイタい気が……。
「……寝よう!」
今度こそ決めた!今日はもう寝よう!
本を紙袋へ、そして本棚へ戻す。
明りを消して、ささっと布団へ身体を横たわらせ、ぎゅっと目を閉じれば……

『突然調子付いて、かなりイタかった』
『自分ができへん方やってわかっとるなら、人の倍の努力しろや』
『底辺な自覚が全然足りないのよ』
『ちゃんとテスト勉強もしなさいよ』

「わかったよ!地道に毎日勉強すりゃいいんだろ!!!」
もっかい、今度こそ、俺は真面目に机に向う。
夢見てるだけじゃ、明日はマシにならないことくらいわかってんだよ、俺だって。

151 :
やっと全体の半分かな……。
ちなみに、千葉のデザインテーマは『フラグなんて無い』です。
ではまた。

152 :
ガンプラさんお疲れ

153 :
ほしゅ

154 :
なんだか風邪が長引いてるっていうか、喉がおかしいのが……。
もう何週間げほごほやっているのやら。疲れやすいし。まいったなぁ。

155 :
真夏の4時間目の授業にサッカーとか、どう考えても狂ってる。
体育用として使っている白色無地の野球帽が、汗を吸って色を変えていく。暑い。やってられるか。
「行ったぞディフェンス!誰か止めろ!」
が、ボールがやってきたんなら働かねえとな!!
「俺が行く!
お前ら進行方向に壁作ってろ!」
オタオタしている本庄たち体育苦手組に指示を出してすぐ、脚の筋肉をフル稼働させる。
親指の付け根を意識してグランドを踏みしめ、一気にトップスピードへ持っていく。
向かってくる相手は、サッカー部の利根川だ。
流石は本職、ドリブルにブレが無い(体育の授業で部の奴が本気出すなや)。
さらに俺を翻弄するかのようにボールの前で左右の足を何度も行き来させ、進行方向にフェイントをかける。
高速シザース、のつもりだろうが遅ぇ!佐藤だったら3倍速はいくぜ!
「もらった!」
「なっ!?」
思い描いたイメージ通り、自分のつま先がボールを奪い取る。
そのまま相手の身体を押しのけ、今度は俺がドリブルで敵陣侵攻を開始する。
ひとり、ふたりとかわして「てっつん受け取れ!!」ドカッ ゴール前の味方へロングパスが…おしっ、通った!
ピピー!
「ゼッケン無し組、ゴール!」
ホイッスルと一緒に、体育教師の野太い声がコートを横切る。
サッカー部をカウンターした上、得点につながるナイスプレー。
当然のごとく自チームの野郎共から、賞賛の声と眼差しが俺へと集まる。
「んで、試合終了だ!
1−3で、ゼッケン組の勝利!」
まあ、負けてんだけどよ。
そら本職居るチームには勝てんわ。帰宅部員な俺の戦力なんてたかが知れてる。
努力した分だけ成果が帰ってくる、なんて程現実は甘くないって知ってるけどよ、
それでもやっぱ、頑張ってる奴の方が有利に出来てるのが世の中だって。実際。

156 :



白帽を脱ぎ、頭から水道水を浴びる。髪を短く刈ってると、こういう時便利だ。
ジャババ...
くああ〜っ、冷たくて気持ちいい!!
あ〜…今日は学帽に着替え直したくねえ、っていうかもう帽子無しで過ごしてぇ。
……いや、そりゃそうだろ。学帽は特に蒸れるんだぜ。夏場はキツイなんてもんじゃねえんだぞ。
別に帽子にそれほどこだわりあるわけじゃねえし。
そもそもだ。ネタだったんだよ、中学の入学式に学帽かぶって行ったのは。
クラス分けのときに担任に帽子取れって言われたら、終わりにするつもり程度のネタだったんだ。
そして実際、おっさんの担任教師に、取れと言われた。
が、そこでもうひとネタ挟んだのがまずかった。
『帽子を取ると、ドブ川が綺麗になったり鉄骨が曲がっちゃったりするんスよ〜』と、
母ちゃんに教えられたネタ(しかしこれ、元ネタ何なんだ?)を披露したら、担任が大爆笑して、
『じゃあかぶったままで良しとしてやろう!』と、なぜか許可される事になってしまった。
……その半年後、一回試しに帽子を被らず登校した事もあったんだが、
友達からは『帽子の無い千葉は千葉じゃない』、
担任からは『あのネタを使ったからには卒業まで押し通せよ!』と、難癖に等しいいちゃもんをつけられる始末。
高校でこそはと思ってはいたんだが、これまた入学式の朝、
今度はおふくろがいらん気を回して校章入りの学帽を用意しやがってたんで、
もうヤケクソで同じ『ドブ川ネタ』を使って……現状に至る、というわけだ。
付け加えると、どうも俺は学帽がかなり似合うらしい。
主に歳の行ったおっさん・じいさん教師に『古きよき昭和を思い出す』と、やたら評判がいい。
んな年号は、俺が生まれた時点でとっくに終わってたっつーの。
長くなった。
とにかく俺は、基本的に帽子を被っておかなきゃいけない状況に追い込まれてるってわけだ。
卒業まであと二年半。
結構、辛い。

157 :
――――――――――

「おい千葉。お前せっかくタッパも幅もあんだから、なんかやれよ。もったいないぜ?
うちのサッカー部どうよ?正直あんま強くねーし、逆に今からでもレギュラー狙えるぜ。
俺も口利きするしさ」
男子の汗に満ちた教室(窓全開なんだが)で着替えていると、さっき抜いた利根川から部へのお誘いがかかった。
なかなかいい話…に聞こえる気もするが、よくあるパターンだったりする。
自分で言うのもなんだがガキの時から身長も力も有ったし、運動神経も中々な俺は、
中学時代から色んな部活に誘いを受けてきた。
部長やエース部員が直接勧誘に来たことだって、1回や2回じゃない。
「あ〜…サンキュ、なんだが、いいわ。帰宅部の道を極めたいんでな。
悪ぃ、スマン。サンキュ」
だけど俺は、無所属を貫いてきている。練習試合の助っ人くらいはやってるけど。
どうもなぁ…真剣に『スポーツ』やる気になれねえんだよな。『遊び』なら大歓迎なんだが。
先輩後輩の上下関係とかも、できるなら避けたいし。……いや、我ながら嘗めた事言ってると思うが。
「……そっか。
でもマジもったいないぜ。何かやった方がいいって絶対」
「利根っちもそう思うよな。千葉、体格だけじゃなくてバカ力もすげーし。
こないだ柔道部の新谷と腕相撲して、引き分けたの知ってるか?」
「知ってる知ってる。あの時居たもん、俺。教卓壊したやつだろ。
新谷がビビリまくってて超笑えた。『うをー!ヤベー!』って、お前の挙動がヤバイっての」
「しかも千葉って、結構万能にやれるよな。サッカーも野球もバドミも。
どれも授業で、本職の奴とそこそこ互角だったじゃん」
「ああ、まあサンキュってか、いいじゃんそこらは。色々な」
うちの高校は部活所属自由とは言え、やっぱ帰宅部はちょっと気まずい。だからこの話題はあんま良くない。
ワイシャツのボタンを留める手も鈍る。
「千葉くん、なんだかんだで超人のふたばちゃんに着いて行ってたから、
自然と色んなスキルが上がってたんだろうね。
ふたばちゃんには何ていうか…周りの人を引き上げるところあるし。
思えばそういうところもアイドルの素養だったんだろうな」
流れに乗って、後ろで着替えていた本庄がのほほんとつぶやいた。
懐かしむような声には、悪気は全く見えない。むしろ俺への尊敬の念すら感じられる。
が、それはNGワードってやつだ。
「おま、ばっ……」
「えっ、アイドルのふたばちゃんって、あの『丸井ふたば』かよ?」
「うん、そうだよ。
ふたばちゃんは誰とでも仲良かったけど、千葉くんとは特に親しかったんだ」
だーかーらー!なんっでそんな誤解を呼ぶような言い方すんだよお前は!!
このクラスは鴨小、鴨中出身が俺らだけなんだぞ!空気読んでくれ!

158 :
「おい千葉ぁ!」
案の定、シノケンが怒りの表情でズンズン向かってきた。
勢いのまま、俺の襟を握って首を締め上げる(ポーズなので苦しくはない)。
過剰反応しすぎな上、いらん演技入れんな。かっこつけかウケ狙いか知らんが、キモイぞ。
「髪長姫とフラグ立ててるだけでも分不相応だってのに、あの超ロリ巨乳神とまでとはどういうことだ!?」
「何だその果てしなく頭の悪そうな神は………。
ていうか襟を放せ。シャツがシワになんだろが」
「話を逸らすんじゃねえ!俺は本気で言ってるんだ!」
シノケンは正気を疑うような台詞を口にしながらヒートアップし、俺の襟を掴んだ手に更に力を込める。
ウゼぇ…って、ああっ!第一ボタン飛んだ!
「何すんだテメっ!」
調子乗りすぎな振る舞いに、優しい俺でも沸点へと達する。
普段から溜まっていた分の怒りも込めて、思いっきり膝を突き上げる。
「肝臓があああっ!」
おお、上手い具合に入った。ちょっと満足。
ついでに首と一緒に自由になった身体を屈め、落ちたボタンを拾っておく。
「ったく……あ〜あ〜、コレ、おふくろに怒られんじゃん。くそっ。
あのなぁ、確かにふたばとはダチだが、んなの別になんでもねーっての。
あいつに『友達になってくれ』っつったら、誰でも一発でなれんだよ」
大変なのは、そっからだ。
『幼なじみフラグ』なんて都合のいいモンは無い。絶対無い。はっきり言える。
もしちょっとでも存在してるなら、佐藤はあんなに苦労してないはずだ。
……『可愛くてスタイル抜群で天才で天真爛漫でアイドルな幼なじみが一途に想ってくれる』?
はっきり言える。
あれだけ苦労しといて見返りがその程度だなんて、まともだったらやってらんねえ。
だから、佐藤は世界一の大バカ野郎だっていうのが、俺らの間での共通見解なわけだ。
昔から。この先ずっと。
絶対変わらない。
……けど、あそこまでやんなきゃ誰かを『好き』になった事にならないとしたら、そりゃちょっと息苦しいよな、
とも思ってるけどさ。
「本気で可愛い彼女が欲しいってんなら、くだんねえ事のたまってないで走り回れや。
走った分だけ返って来るかは知らんがな」
というわけで俺は、大げさに木の床をのた打ち回っているアホへ、冷ややかな現実をぶっかけてやった。
「うっわ、余裕発言来ました!そんなに余裕シャクシャクなら、フラグ一本俺にくれ!」
しかし今度は別のところから文句が上がる。
厄介な事に、一旦着いてしまった火は、元を断ってもなかなか消えないみたいだ。
テメエらとっとと着替えて昼メシに移れっての。購買行く奴も居んだろが。
「だからんなモンは存在しねえ!寝ぼけた事言ってんじゃねーよボケどもがっ!」
「ふざけんな!
Aクラの杉崎さんに松原さんに丸山さん、D組の貝塚さん!!レベル高い子ばっか狙いやがって!」
「こいつ沼南さんとも微妙にいい空気なんだよな〜。
ウチのクラスの女子じゃ最上位だってのに」
「んな空気はお前らの妄想だっ!
大体なんで俺ばっかなんだよ!?本庄だって沼南とよく駄弁ってんだろが!!」
前も言ったが元6−3メンツは連帯感的なもんがあるからだし、松原とはむしろ敵対関係だ。
しかしその辺の説明がややこしいので、結局消火活動は進まない。やれやれだぜ……。

159 :
「ていうかよぉ、千葉って見るたび違う女連れてね?」
「あっ、そうそう!
こないだ駅前でかなり可愛いデコッ娘に、親しげな飛び蹴り喰らってたぜ!」
「マジで!?」
「お前らソレうらやましいのか!?」
これは恐らく虻川の事だろうが、あいつにしてもみつばにしても挨拶代わりに打撃を見舞ってきやがって、
東高の女はどんな日常生活送ってんだ。
「絶対おかしいよな!なんでこんなゴリラがハーレム築けるんだ!?」
「ありえん!どう考えてもありえん!」
「これだけ多人数の女子の弱みを握ってんだから、やっぱ相当サイレントスキル高いんだろうな……」
「なあ千葉。
髪長姫は諦めるけど、沼南さんの脅しに使ってるデータだけでも譲ってくんね?」
「お前ら脅迫ネタ大好きだな……。
ぶちすぞ」
しかも脅してること前提で話を進めやがって。
「ま、ギャグは置いてやるとして真剣な話、髪長姫が普通に話してくれるのが狂ってるよなぁ」
いつの間にか復活していたシノケンが、真面目な顔で失礼を重ねてきやがった。
真剣な話で狂ってるってどういう事だ。今度こそ再起不能にするぞ。
だが哀しいことに、援護が入るのはシノケン側ばかりなのである。これこそおかしい。
「狂ってる狂ってる!超狂ってる!」、
「あの氷の美少女が、こいつと話すときは笑ってるんだよな!!」
「えっ、マジ!?丸井さんが笑ってるとこ見たの!?」
「見た!超絶可愛かった!もう後光が見えるくらい!!」
「うわやべっ、見てえ〜!」
「稀にふわって感じで笑ってるぜ、あの人。
週明けの朝とか、なんでかすごい機嫌良さそうに輝いてるときあるもん」
「え〜でも、髪長姫は表情無い方が良くね?
あの人肌ツルッツルで白くてさ、むしろ冷たい表情の時の陶器人形感が、ゾクゾク来る」
「おお!マッキーが上手い事言った!
そうそう、髪長姫って陶器でできてる感じするよな!まさに生きた芸術!
こないだ腕まくりしてたけど、日焼け線とか全然無いの!どんな生き方して来たのか、かなり謎!!」
…確かに、なんか不自然なくらい綺麗だよな。太陽に当てないよう保管されてたって言われても、信じられる。
子供の頃から普通に俺らと一緒にマラソンとかしてたし、ザリ釣りもプールも一緒に行ってたはずなんだが……?

160 :
「そもそもあの美貌が…っていうかどこ取っても綺麗過ぎ。
爪まですごい整ってて、手タレでも行ける」
「腰、腰!あの細さがヤバい!!抱き締め一回5000円だったら普通に払う!!」
「わかるわかる!
俺さ、アイドルだったら星井美希派だけど、やっぱ丸井さんは別枠…ってか、別格だわ」
「如月千早と水瀬伊織を足しっぱって感じだよな」
「一回でいいからあのぶるっとした桜色の唇に触れたい!!指先でチョンでいいから!!」
「1番スゴいのは目だろ!あんな綺麗な目してる人間、絶対他に居ない!ありえんレベルで綺麗過ぎるって!
今更だけどあの人ほんとに人間か!?
……えっ、俺の夢?」
「ウケる!集団幻覚説!!
なんか逆に説得力あるわー、ソレ。うわ恐えー」
「夏の怪談……Aクラの出席番号34番は、実は空欄でした!」
「恐えー!!!」
ドワ〜っ!と教室の沸きあがりが最高潮に達する。
シャツのボタン留めてた奴も、ベルト締めてた奴も、のんびり座ってた本庄までもが大口を開けて笑う。
やがて爆笑の渦は収まって行き、静かになったところで場を閉める様にシノケンがひと言発した。
「ほんっと、千葉はんで欲しいな!」
「お前がね」
「肝臓があああっ!」

161 :



「あれ?千葉、パン買ってこねーのか?」
ふたつの机を向かい合わせて作ったテーブルの上には、すでにシノケンと本庄の弁当箱がL字に並んでいる。
いつもならここに、俺のパンと缶コーヒーが加わるから、この問いかけ出るのはわかる。
「いや…何か昨日、待っててくれって言われたような、言われなかったような……」

「やっほー岸崎!
調理実習で作ったのお弁当を持ってきてやったゾ!
感動でむせび泣きながら食しなさい!」
「ああ…うん。
ありがとう……」

教室の端で開催された胸焼けするような青春劇のせいで、クラスの雰囲気が一気に尖る。
どっちかっつーと気が弱い野球部の岸崎は、空気に晒されてまともに顔が青くなる。多少可哀想だがその程度はな。
しかし弁当持ってきた泣きボクロ女、どっかで見たような。……確か三女さんの取り巻きの、柳…だったか?
てことはAクラは調理実習だったのか。
……はっ!ひょっとして三女さん、俺に弁当を届けるから待ってくれって伝言を……無いか。
そんな展開、端役の俺には分不相応だ。ありえんありえん。
「岸崎むかつくなぁ……。
あっでもあの彼女って、Aクラだよな。
ああ…髪長姫が輝く笑顔で手作り弁当持ってきてくれないかなぁ……おい千葉、どうした?げっそりした顔で」
「ショックだ……。シノケンとおんなじ事考えてしまった……」
「どういう意味だテメェ。
…いいじゃん、ちったあ夢見ろよ。お前、何かとすぐ諦め気味だぜ。
俺が言うのもなんだけどさ、もうちょい熱さをだせって。
余計なお世話かも知れんが、俺から見りゃ豪華な選択肢が揃ってんのに、もったいないって思う。
思うぜ?」
「夢、なぁ……」
友達が俺を気遣ってなるべく明るい声と表情で、でもちゃんと真面目に助言をくれる。
わかる。わかってる。つもり、なんだが……どうも何もかも漠然としすぎてて、足が動かないんだよな。
「そう!お前は自分がいかに幸せな立場に居るのかわかってない!
あの誰もに平等に冷たいはずの髪長姫が、あたたかい笑顔を向けてくれるなんて、
どんなに神に感謝してもし足りないほどありがたいことなんだよ!!」
さっき真剣に考えたこと全部無し。
「ほんっきでしつこいぞ、シノケン。まじウゼぇしキメぇ。舌噛み切ってくれ」
「お前の理解度が低いから、しつこく言ってんだっつの。
本来髪長姫は、誰にでも…イケメンだろうがフツメンだろうが、平等に冷たいところがありがたいんだろうが。
2年の滝嶋先輩のモーションに、『はあ?』のひと言で返したのとか有名じゃん。
『はあ?何言ってるんですか?』の『はあ?』で。
だから『ひょっとしたら俺にもチャンスが』って、全男子が夢と希望を持てるわけじゃん!」
「ごめん篠田くん、ボクから見てもキモい」
俺同様、それこそ全く『夢も希望も無い』事を知ってる本庄が、
その事の補正無しに純粋に残念そうな視線をシノケンへ向けた。

162 :
「なのにお前らには自然体で接して、
あまつさえこんなブタゴリラに、芸術そのものの笑顔が向けられてるわけだ!
何なの!?神は、世界はこんな不条理をなぜ許してるんだ!?」
「千葉くん、ボクのコロッケ半分要る?」
「いや、悪いって。もうちょい待っても誰も来なかったら、パン買いにいくわ」
「聞けよ!!」
「うっせーな。いい加減にしろ。周りにも迷惑だろうが」
と思って見回すと、意外すぎることにクラス中が『うんうん』とうなずいていた。
男女どっちも。反応してないのは本庄と沼南だけだ。
おいマジかよ……。自分のクラスなのに何なんだこのアウェー感。若干にたくなったぞ。
「この上、髪長姫が手作り弁当届けてくれるとか素敵イベントが有った日には、お前を呪いしてやるからな」
「へえへえ。んなイベントは絶対起こらないっての。
もし起こったら、お前におかず分けてやるから心穏やかに過ごしてろ」
「マジっ!?
いやぁ、持つべきものは親友だなあ!」
コロッと切り替えて、満面の笑みで箸を進めだすシノケン。
俺、なんでこいつとダチになったんだっけ……?
「けど、本当に三女さん…丸井さんは人気があるねえ」
「あん?
……千葉の無理解もおかしいが、本庄って髪長姫関係、完全に他人事っぽく言うよな。
むしろお前らの興味なさが疑問だわ、正直」
「そうかな?」
「そうだよ。
あの信じられん程の美貌はもちろんだし、毎日自分で弁当作ってくる家庭的なとこもイイし、
態度は冷たいけどすごい親切じゃん。いや噂しか知らないけど」
「親切…ね……」
そこで本庄の表情は、微妙なものに変わる。何だ?
「なんだよ、実際三女さんはすげえ優しいじゃん。
…あー、まあ、優しくなった、ってか、積極的になったよな」
「確かにね。
だけどやっぱりボクは、三女さんには油断しちゃいけないって感覚が強いなあ。悪いとは思うけど」
「そりゃ昔は色々悪だくみ……いや、イタズラには巻き込まれたけどよ、今は違うだろ」
「ごめん、怒らないでよ千葉くん。ボクもそれはわかってるって。
だけど『今』だからこそやべ…色々あるから大人しい……どうも悪口言ってるみたいになっちゃって良くないなぁ。
とにかく、そうは言ってもやっぱり『三女さん』を感じるんだ。端々に。
こないだ見かけたとき、すごい形相で鴨小の方を睨んでたし。
ボクとしては、千葉くんが松原さんと仲良い事の方がうらやましいって思うけどな。
背が高くて、すごく美人で……」
「お前眼鏡の度がずれてんじゃねえか?
それともショートのうなじフェチ補正かよ。けど、あいつ性格が最悪だぜ。
そもそもあの女は俺の敵だ」
「おいお前ら、いちいち俺を置いて話すんなよ。
とにかくルックス最高、性格最高な髪長姫と同じ高校に通ってるわけだぜ。恋人になれたら最高じゃん。
男なら誰しも夢見るじゃん。……あ、スタイルが及川雫だったら更に最高だった」
シノケンが名前を口にした、最近テレビに出てきた爆乳アイドルの身体と、三女さんの顔を、
頭の中でコラージュしてみる。……バランス悪くて微妙だ。
俺、巨乳は巨乳で好きだけど、そこまでおっぱいにこだわり無い派だし。
やっぱ三女さんは今の妖精スタイルで完成してるだろ。それが理解できんとは、バカな奴だぜ。
教室が静まり返ってるのにも全然気付いてないし。

163 :
「あ〜…俺、今気付いたわ。スレンダーもいいけど髪長姫はやっぱおっぱいが悲しいわ。
パーフェクト賞に一歩足りなかった。
けどまあいい!おっぱいが残念でも、俺は髪長姫とフラグを立てたい!どんなのでもいいから!!」
「良かったな、立ったぞ。たった今」
「えっ、マジで!?」
「ああ。
亡フラグが」
「へ?」
俺の指した指先に釣られて、シノケンが上半身ごと首を180度後ろへ向ける。
そこには、
「…………………………」
氷の表情と氷河期のオーラで、三女さんが立っていた。
三女さんの昔からの特徴にして必、無音行動と気配ゼロ。
教室中が息を呑むほどの容姿をしてたって、視界に入らなきゃ気付きようがない。
これらも『妖精』と呼ばれる所以だが……確かに本庄の言うとおり、三女さんには『三女さん』なところがあるな。
「あっ、ああっ!」ガターン!
哀れ(自業自得でもあるが)度肝を抜かれたシノケンは、座ったまま足をもつらせるという器用なマネをして、
痛そうな音と共に、椅子ごと床に倒れ落ちた。合掌。
「なんっ…ぜんぜ、気配が…っ!?
やっ、すみっ…ごめっ、ごっ…ご機嫌麗しゅう、かみな…ひめ!」
「……千葉くん、友達は選んだほうがいいよ」
「こいつは完全に赤の他人なんで、心配ご無用です。
友達とか言ってるのはこいつの虚言癖ですから、無視しといてください」
「あっ、てめっ、千葉……っ!」
「久しぶり、三女さん。
他クラスに入ってくるなんて珍しいね。どうしたの?」
「なんだかご無沙汰してたね、本庄くん。
うん。これを千葉くんに届けにね」
そう告げながら、三女さんは右手で唐草模様の四角い包みを持ち上げる。
身長差があるから、ちょうど座ってる俺の目前に来た。
この形状、このサイズは、まさか……!って、いやいや、まさかあ。
「昨日杉ちゃんが言ってたと思うけど、うちのクラス、お弁当の調理実習だったんだ。
ちょっと他の班を手伝ってて遅くなっちゃって。お待たせしてごめんね。
お口に合えばいいんだけど」
嘘だろ!!!??!?
「えっ、あの、えぅあ、おっ…俺に、ですか?弁当を?」
「………」
驚きの疑問に対して、三女さんは変わらず冷たい、だけどどことなく恥じらいを感じる表情でうなずいてくださる。
ま・じ・で!!!?
「本庄、俺の頬を「漫画みたいなことをしなくても、現実だって。早く受け取ってあげたら」 ………」
なんかいざという場面ではやたらとドライな本庄の言葉に背を押されて、俺は恐る恐る唐草包みを受け取る。
やべえ、手がふるえる……っ!

164 :
「男の子用だと思って、パ…お父さんの大きなお弁当箱を使ったんだけど、
材料費400円以内が課題だったから、おかずがちょっと少ないんだ。
なるべくデコレーションは控えて、量重視で作ったんだけど」
「いえいえいえいえいえいえ!!全然いけます!超満足です!
むしろ全部白メシでも『登場人物A』の俺には勿体なさすぎっスから!!
自覚ありますから!!勘違いしてません!」
「とうじょうじんぶつ?」
「なんでもありません!!ありませんとも!!」

「………ふふっ」
目の前に浮かんできた微笑は、値の付けられないくらいの芸術で。
至近距離でくらった俺の心臓は、一瞬カンペキに停まった。

「ああ…ごめんごめん。
いやいや、我ながら『女子の手作りお弁当』の威力はすごいなあって。
あの千葉くんが、こんな挙動不審になるくらい喜んでくれるなんて、思ってもみなかったよ。
……あっ」
「はい何でしょう!?やっぱ何かの手違いっスか!?
今すぐお返ししましょうか!?」
「いや、そうじゃなくて。
シャツ、ちょっと脱いで」
「脱い……っ??!?!?」
どどどどどういう事だ!?ここは学校だぞ!!周りはクラスメイトだらけで真昼間だぞ!!!?
「ちょっ…なに変な想像してるの。
ボタンだよ、首の。取れてるから、ほら、私、ソーイングセット持ってるんだ」
「ぼた…ああっ、ぼた…ボタンっスね!いやあわかってますよ、瞬時にわかってましたって!
脱ぎます脱ぎます!1秒で脱ぎます!!」
「慌てなくていいよ。お昼休み、まだあるし。
おっと、ボタンあるかな?」
「ありますあります!すぐ出します!!」
この状況で慌てないわけがない。
ブルブル震える指先をなんとか押さえつけてボタンを外し、ワイシャツだけ脱いで手渡す。
あっ、やべ。体育の後だった。汗臭いって床に叩きつけられたらどうしよう。ショックでんでしまうかも、俺。
「………………」
俺がバクバク心臓鳴らしてるのなんて無視して、三女さんは手近な椅子に座り、
スカートのポケットから小さな白いケース…ソーイングセットを取り出した。
そのまま流れるような美しい動きで針と糸を取り出し、ボタンを元の位置へと縫い付けてくださる。
美しい。
それ以外に感想が思い浮かばない。
雪みたいに白く滑らかで、小鳥の脚みたいに細い指が踊る光景から、目を離せない。
しかも踊るたびにワイシャツが直っていくんだから、まるで魔法みたいだ。
……そうだ。チビ女の言う通りだった。三女さんは魔法が使える。虹色の瞳を持った魔法使い……。
「……あんまり見ないで」
「申し訳ありません!!」
持てる最高速度で首を窓へと向ける。
あの芸術を見られないなんて、胸が締め付けられるくらいにもったいない。
だけど白い神姫の言葉に逆らうなんて、絶対ありえない。

165 :
「………我ながらオバサン臭いなあって思うんだ。
土日とか、お弁当ストックの切り干し大根煮たりして……女子高生なのに笑っちゃうよね」
「ぜんっぜんそんな事ないっス!
家庭的で女の子っぽくて、すごく良いって思います!!」
「そうかな?」
頭の後ろから聞こえてくる声は、頼りなくか細い。まるで道に迷った小さな女の子みたいだ。
どうしよう。どうすりゃいい?
三女さんに喜んでもらうには、自信を持って納得してもらうには、どう言うのが1番だ?
この子の1番は……そう。昔から。
「そうっスよ。男なら、誰だってそう思ってます。
『先生』とか、大人でももちろん。
メシ、美味かったら幸せっスから。自分の着るもん綺麗だったら、すげえ嬉しいっスから。
いっつも笑ってるっしょ?疑う余地ゼロで嬉しそうに」

「………そうだね」

ちったあ言葉の使い方が上手くなれたよな、俺。
勉強、苦労してきた甲斐あった。

「できた。こっち向いてもいいよ。
はいコレ」
「ウッス。ありがとうございます」
「どういたしまして。
お弁当、後で感想聞かせてね」
無表情で、無音。
だけど目の前に立ってる三女さんは、確かに嬉しそうだ。
だから俺も、すげえ嬉しい。
こういうのが、『幸せ』って言うんだろ?
「じゃ」
スイー
……………………………さて、と。
髪長姫が出て行ったのを見計らい、クラスの野郎共(本庄だけはどっか行った)が俺の席へと集まってくる。
緊張の満ちる中、落ち着いた手つきでゆっくりと包みを解く。
銀色の四角が現れる。
ザワ...
「落ち着け」
ザワザワ...
ここで慌てるのは素人だ。嘗めるな、俺は長年『登場人物A』をやっている。
さっきまでの出来すぎた展開があったとしても、ちゃんと本庄との会話を覚えている。
三女さんはイタズラ好きという、アレだ。
つまりこの場合考えられるのは、

166 :
@全部白いごはん
A空
B毒入り
C害虫入り
D妄想の具現化
ドライな本庄にも見えていたということは、Dは無い。
ということは受け取ったときに感じた重みも本当だからAも無い。
三女さんに命を狙われるほど憎まれた覚えは無いから、BとCも無い。
つまり正解は、
「全部白メシだな」
ふっ……我ながら完璧な推理だ。
三女さんのパーソナルカラーである白色を生かしつつ、さっき自分で振ったネタの回収までできる。
あまりに隙の無さ過ぎる推理に酔いながら、蓋を開く。
第一声は『やっぱりじゃん!』だな。
パカ
そこには、白いご飯なんてなかった。
面積の半分はチキンライスの綺麗な赤に染まっている。散りばめられたグリーンピースが眩しい。
メインおかずのミニハンバーグは網状の焦げ目が食欲をそそる。
プラ串にはプチトマト、うずらたまご、ウインナーが彩りよく纏められてて、
しかもウインナーは定番のタコさんだけでなく、カニさんや魚さん型の飾り切りで目を楽しませてくれる。
育ち盛りの高校生用に、全体的に肉多目のメニューにしつつも、
小松菜のおひたしとレタスでちゃんと栄養と彩りのバランスが考えられてるのが嬉しい。
そしてお弁当と言えばコレ、卵焼き。
断面を上にして敷き詰められた淡い黄色には、中心にカニカマボコ、間に味付け海苔まで巻かれていると来た。
か…完璧なチキンライス弁当だ……。
ゴクリ...
自分を含めたクラス中の男子が唾を飲み込む音(買って来たカルピスを自分の席で飲んでる本庄のも含む)が、
教室を占める。
「………………」
ゆっくりと蓋を閉じる。
待て。落ち着け。
できる男は再確認だ。
もう一度ゆっくり、さっきの軌跡を100%なぞって蓋を開ける。
パカ
「ほんじょ「美味しそうなチキンライス弁当だって。早く食べなよ」 …ありがとう」
現実なのか……っ。

167 :
「……いただき「おい千葉」
厳かに手を合わせている中、ぐっと掴まれた肩の方へと振り向くと、かつて無いほど真剣な表情の篠田健一が居た。
「俺に分けてくれるんだよな、親友」
「はあ?なに言ってんだ?誤作動してる喉掻き毟ってねよダボハゼが」
「てめええ!今日という今日は頭に来た!
お前をしてその弁当を俺がいただく!!」
「シノケンに分けるなら俺にも分けろ!!」
「俺も俺も!!」
「プチトマトだけでいいからくれっ!!」
「寄るんじゃねえてめえら…うわあ!!?」

騒ぎの中、ヒジを盛大に擦り剥いても尚、弁当を型くずれさせることなく守りきった俺を褒めろ。

………なるほど、三女さんは俺をこのドタバタに巻き込む事を狙っていたわけか。
さすが三女さん、見事な計略だぜっっ!

「いい加減ウザいって」
感無量でチキンライスを掻き込む俺へと向けられた本庄の目は、どこまでも冷ややかだった。

168 :
後2回でこの話はおしまいです。
なんだかんだで長くなったなぁ。
今回の補足
アイドルは某ゲームから引っ張ってきました。
私はゲームやったこと無いんですが。気軽に使うとファンの人とか怒りそうな気もしつつ。
このシリーズ、完結にいつまでかかるか不明なため、すたらないアイドルを考えた結果です。
キャラは一応ひととおりピクシブ辞典で調べたんですが、すごい細かいですね。設定が。
どうも私の話は何かを食べるシーンが多い。
マンネリ気味がひどいんですが、腰を落ち着けて会話する状況って他に思いつかない……。
書いてるうちに、本庄くんの台詞が増えました。
男子のふたばに対する感想は、もうちょっと入れたかった……。
ちなみにこれもピクシブ調べたんですが、ロリ巨乳って、
年齢が幼くて巨乳じゃないとロリ巨乳にならないらしいです。
ふたばを正確にカテゴライズすると、童顔巨乳になるようです。
もうジャンル細かすぎて、着いていけないよ……。
しかし『ロリ巨乳』って、これ以上ないくらい頭の悪そうな単語ですよね(褒め言葉)。
3日くらい徹夜して、やっと思いつけるようなレベルで頭悪いわー(褒めてます)。

169 :
乙です。
体調に気をつけて頑張ってくだされ

170 :
ほしゅ

171 :
あけおめことよろ〜です。

172 :
――――――――――

幸せな昼食後の、眠さマキシマムな午後の授業も終わって、本日の業務は終了…と行きたいが、
ピョンピョン女から理不尽に要求された荷物運びが残っている。
人の足元を見やがった杉崎はムカつくし、血は止まったとはいえヒジを痛めたこの状態で、
肉体労働なんてやってられるかとも思う。
だが、引き受けてしまった以上、すっぽかすわけには行かない。
俺は貴重な放課後を削って、活動用具室……旧第二視聴覚室へとやってきた。
用具室と言えば聞こえは良いが、要は卒業生が部室に残していったラケットとかグローブとかを置いてる倉庫だ。
倉庫なので、校内で1番使われない空き教室が選ばれている。すなわち、4階端部屋だ。
そして生徒会室は向こうの校舎の1階端。思いっきり対角に配置されていやがる。
「くそっ、やっぱ引き受けるんじゃなかった」
作業開始前にすでにやる気メーターはマイナスに振り切れているが、突っ立ってても荷物は自分で移動しない。
なんとか気持ちを奮い立たせてドアに手をかけ…ようとしたところで、ケツのスマホがブルブルふるえ出した。
画面を確認してみると、メール着信……当の杉崎からだ。どうせサボるなとかそういうムカつく内容だろう。
メールを開くまでも無い、と判断して、スマホをケツに戻しておく。
いちいち頭に来るやつだ。そんなに信用ならねえんだったら、監視にでも来いっての。
こみ上げてくる怒りを右手に込めて、景気良くドアを横引きに開け……られねえ。鍵がかかってやがる。
「なんだあ?」
この学校は生徒の素行が良い(俺も含めてな)から、基本的に空き教室や屋上は開きっぱなしだ。
活動用具室もそうだったはず。実際、俺は入学直後の校内見物で中を見たことがある。
しかし、再度手に力を込めても、やはり結果は同じ。年季の入ったドアはガチャガチャ鳴るだけだ。
元々視聴覚室だったここのドアは、小窓ひとつ無いから中は見えないが、人の気配は感じない。
ということは授業とかで使用中って事もないだろう。
「ちっ……」
誰だよ鍵かけやがった野郎は。ここには盗る価値のあるもんなんてねーっての。
……1階の職員室まで鍵をもらいに戻るのは、超めんどくせぇな。しゃーない。
「……………」
振り向いて廊下を確認する。
よし、人影は無い。
俺はドアに向き直り、スマホを入れてるのとは反対のケツポケットから、生徒手帳を取り出す。
適当な厚さになるようページを開き、ドアとドアが重なってるとこの隙間に差し入れる。
そして鍵のある部分を下からガンガン叩きつつ、もう一方の手で力いっぱいドアを揺すってやる。
ガタガタガタガタガタカチャリ
「おっしゃ」
音と手ごたえの双方から開錠を確信して、俺は軽くガッツポーズを取る。
ここの校舎は結構古い上、世の中の不景気にならって、使ってない教室は鍵の更新がされてない。
だからこうやって、力技でも簡単に開けられるってわけだ。
……俺は別に不良じゃねえって。この技だって、仲良い先輩から教えてもらったもんだしな。本当だって!!

173 :
ガラッ
「………?」
なぜか教室手前半分のカーテンが閉められてる。しかも後ろ半分は窓が全開だ。蒸し暑いのがマシになっていいけど。
やっぱ誰かが使ってたのかと思って、教室を見回して見る。
通常教室の1.5倍程度の大きさを持つ室内には、机が階段状に備え付けられてる。
窓際には古臭い部活用具の数々が雑多に積まれてるが、
流石に生徒の素行の良い学校だけあって、それなりに整頓が行き届いている。
前見たときよりちょっと小奇麗なのは、杉崎が手を入れたからだろう。
後は…向こう端の机の上に、何か白い布みたいなのがチョコチョコ乗ってるが、人間の姿は見えない。
「………まいっか」
タラタラしてても時間の無駄だ。今日はノートのコピーもしなきゃならんし、とっとと終わらせよう。
ダンボールは……………………あれか?
ドアから教卓をはさんで向こう側、木製の掃除用具箱の横に、黒い布の被せられたでかい塊がある。
端からボール紙の茶色が見えるから、多分間違いないだろうとは思いながら、歩み寄って確認してみる。
予想通り、布の下はダンボールが並べられていた。
中身は…テニスボールやら剣道の面やら。そして1番上にはA4のルーズリーフが一枚入っていた。
そこには、昨日数学ノートで眺めた杉崎の字で、『再利用可能品リスト』。
他にも環境整備委員の仕事として杉崎が仕分けた事や、何かあった場合の携帯番号まで書かれていて、
アフターサービスも万全だ。俺にももっとサービスしやがれと強い憤りを感じる。
なんだってこんな隠すみたいに置いてんだ、あの女?
人に頼むんなら、運びやすいよう出入り口近くに置いとけってんだ、ボケが。
どうも今日は気が削がれる事ばっかりだぜ。
ため息ひとつついて、なんとなく周りに目をやってみる。
さっき目に付いた白い布が、近くの机にもひとつ乗っている。………たたまれたセーラー服?
キャッキャッウフフ
?!!???
ガチャガチャ...
「あれー?
ヤナギーン、ドア開いてるよー?」
「えっ、嘘っ!?制服ドロとか!?
……園っち、誰から鍵もらった?」
「神戸さん」
「じゃあ掛け忘れだよ。あの子、頭は良いんだけど雑なの。全般的に」
「どれどれ……?」
ガララ...
ドアがゆっくりと開き、そろりそろりといった足取りでブルマ姿の女子が入ってくる。
女子は3歩進んだところで立ち止まって、背伸びしながら首を回して辺りを確認し、
やがて後ろから来たもうひとりの女…昼にも見たAクラの柳へと、敬礼付きで結果を報告した。
「現場には誰も居ません、警部。
制服も、ちゃんと3着あります」

174 :
「ね。
昔も似たようなことあったから」
「ヤナギン、神戸さんとオナチューだっけ?」
「小学校も一緒。ていうか近所。
5年生のときにあの子が引っ越してきてからだけど」
「そうなんだぁ〜。
じゃあさ、神戸さんの彼氏って見たことある?」
「あるよん。神戸の隣の家のお兄さんなんだ。私も私のお兄ちゃんもお世話になった。
4コ上で、今は北海道大学に行ってる」
「てことは遠距離恋愛?」
「そういうこと」
「超かっこいいってほんと?」
「いやぁ〜、普通のメガネさん。
頭良くて、落ち着いた雰囲気なんだけどね。正直、神戸と付き合うとは思ってなかった。
まあ神戸の方は、子供の頃からその人にめちゃくちゃ懐いてたから、熱意に押し切られたかな?
優しい人だし」
「へぇ〜」
「写メあるよ。見る?」
「見る!!」
おお…俺もちょっと見たい。などという余裕はもちろん無い。
なぜなら俺は今、掃除用具箱の中に無理矢理体を詰め込んでいる状況だからだ。
狭いっ、そして蒸し暑い……っ!
ただでさえ人が隠れるようにできていない木の箱は、身体のでかい俺の場合、腰を屈めてやっとのぎゅう詰めだ。
怪我してるヒジが、モップの柄か何かに当たってかなり痛い。
それはまだ我慢できるが、湿度の高い真夏の空気が一切動かず肌にまとわりついて熱中症一歩手前だ。
さらに緊張もあわさって、滝のように汗が吹き出てくるから、シャツだけじゃなくズボンまでもうびっしょり。
これで目の高さのところに穴が空いてなかったら、暗所も加わって流石の俺でも発狂してたかもしれん。
しかしなんなんだこいつら、なんでこんなところで着替えを?女子は更衣室あるだろ。
「園っち、一応盗られたり触られた形跡ないか見ときなさいよー」
「りょうか〜い。
それにしても、照明の業者さんが早めに来ちゃったからって、こんなところを仮更衣室にすること無いのにね。
上がってくるのめんどくさかった」
「ノゾキをシャットアウトできるとこ少ないから、しょうがないよ」
なるほど、だからカーテンが閉められていたのか。
使ってるのは1−Aみたいだから、杉崎からのメールはこれについてだったのかもしれん。
なんというドッキリ☆ハプニングイベントだ。

いらねえええええええ!!!!

アホか!!こんなもん現実的に考えて、リスクとメリットが全然釣り合ってねえんだよ!!
見つかったら残りの学校生活真っ暗になるだろうが!!それにこんなしんどい体勢で興奮できんわ!!
大体、ネットでイロイロ見放題な今時、女子の下着姿くらいで……はっ、いかん!
重大な事実に気付いた俺は、慌ててぎゅっと目を瞑る。まぶたの上を汗が流れ落ちてかゆい。
エロスは正々堂々とが千葉流だ。こんな覗きまがいは、ただの犯罪だぜ。
「姫、入ったら内側から鍵かけといて。
これ鍵。パース」
なにい!?三女さんまでいらっしゃってるのか!!?

175 :
聞こえてきたあだ名に反応して、思わず一瞬目を開きかけてしまう。
だがしかし、俺は男だ。惚れ……じゃなくて色々あれだ、ちょっとそのとにかくの女が居るなら、
なおの事ぜったいに見るわけにはいかない。
俺はまぶたに力と決意を上乗せする。
「………?」
「どったの姫?」
「一瞬『視線』が……?
……ううん、なんでもないよ。ごめん」
カチャカチャ...カシャン
「ごめんね、私のせいで遅くまで居残りになっちゃって………」
三女さんの声は、ひたすら申し訳なさそうで、最後の方は消え入りそうだった。
ただでさえ鈴のように物悲しい響きをもつ声質は、哀しみの色が混じると、
聞いているだけで心臓が締め付けられてるみたいに痛む。
「そんな暗いオーラをださないでよ。
私もヤナギンも気にしてないんだから、姫も気にしないで欲しいな。
班なんだから、オールフォーワン・ワンフォーオールの精神は基本だって。
ね、ヤナギン?」
「そうそう。
気にするなら、せっかくの美白を長時間真夏の太陽に晒しちゃったことにしなさいな」
「……私、昔から日に焼けないんだよ。
不健康そうだよね……」
声はまた一段暗くなる。
白銀に例えられる三女さんの肌は、神秘的なまでに美しい白さで、儚く可憐な雰囲気を見事に彩ってる。
男子どころか女子すらも羨望でため息が絶えない、誰もに誇れる美しさなのに、
本人はまるで自信を持っていない。
不思議じゃない。ただ、くやしい。噛み締めた奥歯が軋むほど。
俺じゃあどんなに必に褒め称えても、気休めの世辞だとしか受け取ってもらえない。
くそっ、何やってんだよ矢部っち。あんたが三女さんの殻になってどうすんだ。バカ野郎。
……バカは俺だ。自分の力不足を他人のせいにするなんざ、男として最低だ。
「そういう話じゃないっていうか、そういうレベルじゃない白さなんだけど……まいっか。
いちいちネガティブにならない!調理実習のときの元気を出しなさい!
それでもって、苦手なところは遠慮なく頼ってよ。せっかく友達なんだからさ」
「……うん」
「大体、これくらいじゃあ今朝もらったマーマレードのお礼にもならないよ」
「マーマレード?」
「姫手作りの、夏みかんマーマレード。
昨日、姫がデザートに持ってきてたんだけど、クラッカーにつけて食べると、んも〜〜ぅ!
あんまり美味しかったから、小瓶に分けてもらっちゃった」
「えー!いいなぁ〜!
姫、姫!私にもちょうだい!」
「あ…ごめん、柳さんに渡したので最後なんだ。食いしん坊の姉がムシャムシャ食べちゃって……。
おすそ分けでもらった夏みかんはまだあるから、また作るよ」
「でも優先順位は私が先だからね〜。
友達特権だもんね〜」
「えぇ〜っ!姫、私も友達だよね!」
「ダメです〜。『美少女の友達になる普通の女の子』枠は私がもう埋めてます〜。
園っちは、もっとキャラ付けをはっきりさせてから登録申請しなさい」
「ずるい!それ1番美味しい枠なのに!」
「美味しいの、ソレ……?」
黄色い声が飛び交うたび、鈴の音には呆れが強く出て、その分だけ悲しみの色合いは薄まってきた。

176 :
なかなかいい仕事をする。
いつも手も足も出せない(しかも今は箱詰めな)俺より、よっぽど頼りになってやがる。
……当たり前か。『今』の三女さんには、頼れる友達をつくる力がしっかりある。
俺ってつくづく、居ても居なくても何も変わらん端役だ………。
「か〜な〜り美味しいってば。
解説は後でしてあげるから、姫も早く着替えなよ」
「そうだね。今日は私も汗、すごくかいちゃったよ」
情けなく肩を落としている俺の耳に、衣擦れの音が入ってくる。
たかが聴覚情報…とは侮れない。
両腕を上げて体育着を脱いでるのとか、スカートのチャックを上げてるのとかが、
暗闇の中にリアルに浮かんでくる。
しかも頭の中で肌を晒してくれているのは、どれもこれも見知った顔だから、
妙な肉感があって……何というか、新次元のエロスを開拓された気分だ。
って、さっきまでヘコんでたくせに我ながら節操の無いうおお制汗スプレー何処に吹きかけてる…ダメだ!
これじゃ完全に変態じゃねえか!もう耳も塞いで「姫のブラ、可愛いね」 …………。
「ほんとだ。見たこと無いデザインだね。
メーカーどこ?」
「うん…この辺では売ってないっていうか……ちょっとね。
うぁ…今日はブラまで汗でびしょびしょだよ。換えなきゃ……」
直後、俺の極限まで神経を尖らせた聴覚は、『プツッ』という小さな音を捕らえた。
こ…これは……っ、三女さんがブラを外しているのか……!
ノーブラの三女さんが、俺のすぐ近くに!!
「………まあ、私にブラなんて意味ないんだけどね……」
「いきなり虚ろな目で自虐ネタかまさないでよ……。
私も無い方だから悩みはわかるけど、姫ってちょっとおっぱいにこだわりすぎだよ?
ネコの名前といい」
「おっぱいとはすなわち女子力そのものだからだよ……。
見たこと無いデザイン?それもそのはずだよ。
私はアンダーすら無さ過ぎて、通販で特別小さいのを取り寄せてるからね。
女児用キャミで充分なくせに、背伸びしてブラを着けてる私を笑うがいいよ……」
「そんなにウエストのくびれた女児が居たら、不気味だってば。
……しょうがないなあ」
「……えっ、柳さん?
キャッ!?」
三女さんには珍しい、女子そのものな可愛い悲鳴が上がる。
純度100%の驚きで満ちた高音は、クールで物静かないつもを知ってるからこそ実に新鮮で、
むしろ俺の方が驚愕で口が半開きになってしまう。
だが、後に控えていた衝撃は、それとは比較にならないほど大なものだった。
「あっ…んぅっ……。
は…あっ……」
まるで小鳥のさえずりのように瑞々しく、それでいて頭の芯を熱くさせる艶を含んだ音色が、鼓膜を震わせる。
声を上げまいと必で抑え付けているのに、裡から来る抗いようの無い感覚に競り負けてしまう。
そんなはしたない自分が恥ずかしくて、我慢が募り、けれどそのせいでますます声に熱が篭っていく。
初めて聞く、三女さんのあられもない心の透けた声。
あの三女さんの。
あの天上の世界の住人のように清純な三女さんの。
あのオナニーのオの字も知らないはずの三女さんの。
あのトイレには行った事が無いと言われても信じてしまえそうな三女さんの!
喘ぎ声……っ!!

177 :
「あっ…あ、はあ……ふくぅっ」
う…あ……。すごく綺麗なのに、すごくエロい。
まぶたの裏が赤く染まる。頭に血が上りすぎてクラクラしてきた。鼻血が出そうだ。
なんだなんだなんなんだ?いったい何が起こってるんだ??
眼を開ければそこにに広がっているであろう、桃色の世界を目撃するため…ダメだ!
我慢しろ千葉雄大!目を開くな!それは絶対にやってはいけない!!
「ほれほれ〜、ここがええのんか〜」
「やっ…んぁ……。
やめっ…やな…ああっ!」
すみません普通に勃ちました。
「……いよっし!」
「あ……は…ぁ……」
突如始まった桃色空間は、また突如、達成感に満ちた女の声で強制終了される。
馬鹿野郎!もっと続けろ……じゃなかった、一体全体、どういうつもりだ!?
「な…にを……はふ…。
と、つぜん……」
「ほら、これでノーブラだと乳首が目立って困るでしょ?
ブラの意味ができたじゃん。
やったね!」
「はあ…はぁ…っ、そっ…んな、ばか…な……っ」
1度押し寄せた波はすぐには引かないんだろう、三女さんが息も絶え絶えに抗議を上げる。
羞恥と屈辱と、そして情欲のミックスされたその声も、さっきとは違う味わいで俺を熱くさせる。
鼻の下を垂れていく液体の感覚はもう、汗では無いと断言できない。
「う…わぁ〜、びっくりした……。ヤナギンが暑さでついに壊れたのかと思ったよ〜。
でも、姫の喘ぎ声って綺麗だったなぁ。ドキドキしちゃった。録音しとけばよかったぁ〜」
「はあ…ふくっ…う……。
や…めて……」
「ねえ〜。
私も姫のおっぱい、すべすべのプニプニでつい夢中になっちゃった。
大丈夫だよ、姫。これならどんな男も充分楽しめるから。自信持って!」
「む…ちゃ、くちゃ……!」
「乳首も薄ピンクですっごく綺麗だったよ。
使い込んで黒ずんでるヤナギンのとは全然違った!」
「やだもぉ〜、園っちってば!さっきから冗談ばっかり!
あんまり調子に乗ってると、肉塊にしちゃうゾ☆」
……しかしこいつら(特に柳とかいう方)、さっきから明るい声で妙な会話するな……。
それとも女子って、男の見てないとこじゃ、結構バカな会話するもんなのか?
「……ふう〜…。落ち着いてきた……。
…二度とこういうマネはしないように」
「ひっ…!ごめっ…ごめんなさい!謝るから睨まないで!!」
「わっ…私もヤナギンも、姫はうらやましいくらい綺麗だって事を伝えたかっただけだって!!
ほらほら、美少女は常に笑顔じゃなくちゃダメよ!!ねっ!?」
突然、女子どもが方向転換する。おそらくは『ギヌロ』と血走った目玉を向けられたんだろう。
アレ、普段とは180度違う向きで心臓に悪いからなぁ。
実際俺も、ちょっと思い出しただけで寒気がしてきた。ぶっ倒れそうなくらい暑いのに。

178 :
「いよっ、髪長姫!
美しいお顔に可憐なお身体、しかもお優しくて家事万能と非の打ち所がございません!
あっしら平民の女子力では、足元にも及びませんぜ〜。
のう、園村屋よ」
「そうでございまする。この程度でお怒りになられては、姫様のご高名にキズが付きまするぞ!」
「………もうっ、調子いいんだから」
「ぐえっへっへっ、そんなに褒められたらこの柳、照れちゃいますぜ。
……でもこれだけ完璧だと、遺伝子を調べたら美容整形に飛躍的な進歩が起こりそうだよね。
お姉さんも、あのご当地アイドル『丸井ふたば』なわけだし。
美少女形成の遺伝子が見つかるよ、ぜったい」
「もうひとりのお姉さんも、すっごい可愛いんでしょ?
松原さんが『理想の少女像そのままの、天使のように愛らしい女の子』って、絶賛してたよ」
「その情報は無視していいよ。
ていうか、聞かなかったことにして………」
一体あいつの目には、長女がどう見えてるんだ……?
確かに長女は可愛い。
もちろん、三女さんやふたばみたいな桁外れの美少女とは比較にならんが、
『黙ってれば可愛い』女子揃いだった6−3でもさらに上位に位置していただけあって、
言動の残念さと腹周りに目を瞑れば、普通に高得点なのだ、ヤツは。
うちの学校にも、長女(が頻繁に見せるパンツ)目当てで駅前のファミレスに通ってる奴だって居る。
かと言って、松原だって負けてはいない。
癪だが、凛と輝く黒い瞳も、不適に笑う薄い唇も、形良く尖った顎も、
本音を言えば充分に美人の範疇に入っている。
スタイルは……まあ松原はぶっちゃけ貧乳(俺査定A)なわけだが、
流石元陸上部だけあって良く引き締まってて、
太腿の細さとか、むしろ長女の方が涙を流して悔しがっていいレベルだ。背が高いのも映える。
さらにメンタルと学力に関しては、改めて比べるまでも無く松原に軍配が上がる。
それでも何故か、ガチで理由不明に、あの女は長女を崇拝している。
……微妙に馬鹿にしているようにも見えるが。
でもはっきり言って、俺的に人生最大の謎のひとつなんだよな。たぶん、一生わからない予感がする。
「無視なんてできるわけないじゃない。
あのクールな松原さんが、うっとりした表情で語ってたんだよ。気になっちゃうってば。
…ううむ、こうやって考えてみると姫ってば、周りのキャラの布陣も豪華だよね。
私、ちょっとやそっとのキャラ付けじゃあ友達申請できないなぁ」
「申請制度なんてとってないよ」
「アイドル級に可愛いお姉さんたち、クールビューティーの松原さん、
天才の神戸さん、でもって姉御肌で頼れる杉崎さん……あっ」
杉崎の名前が出たところで、教室の空気が少しだけ張り詰める。
次いで、さっきまでのんきそうだった園村とかいう方の声が、恐る恐るといったふうで続ける。
「あ…や〜……私はもちろんヤナギンの味方なんだけどぉ〜…」
「別にいいって。あの子が仕切り上手な事、私だって認めてる。
まあ?今日みたいにグループの和を乱されると、溜まるものはあるけどさ」
「杉ちゃんは、火曜日はお稽古事があるから……」
「姫。
私、姫の事すごく好きだし、努力家なところすごく尊敬してる。
でも、その八方美人なところはどうかと思うな。
お弁当もいろんなグループを行ったり来たりして。
姫は特別だからみんな従うけどさ」

179 :
「…………うん。みんなが良くしてくれるからって、私、好き勝手してるよね……。
ただ、それでも私は……」
「わかってる。姫がクラスの雰囲気良くしようとしてくれてるの。優しいって思うよ。
でもね、ちょっとおせっかいが過ぎるよ」
声にははっきりと棘が感じられる。
ついさっきまで、キャッキャウフフと華やかだった雰囲気は、
ただの一言を契機に、寒々しい荒野に変わってしまった。
女は怖い。なんでこんな簡単に温度が切り替えられるんだ、こいつら。
「……ごめん」
「姫に謝ってもらうことじゃないけど。
でもそっか、お稽古事か。さすがはお嬢様って感じだよねぇ」
「だよね〜、ヤナギン。
庶民とは一緒にやってられないっていうんなら、お嬢様学校とかに行けばよかったのに」
「いっそ杉崎学園とか作って、別世界に引っ込んでればいいのよ。
ショップを何件も店ごと買い取るくらいお金余ってるんだから」
「あの噂って、ホントなの?」
「冗談みたいだけど、本当。
私、子供の頃、あの子が下北沢の雑貨屋さんをまるごと買い取ってるの、この目で見たもん」
杉崎の負債。
金に物を言わせてわがままし放題だった女子の悪評は、鴨橋小の外にまで鳴り響いていた。
ぶっちゃけた話、杉崎は6年生にあがる以前から、男子の間ですら評判が悪かった。
高価な物を見せびらかしてたし、何でもかんでも金で解決しようとしてたし、
超が付くくらいの高慢高飛車だった(これは今もか)。悪くならないはずが無い。
小学生男子の間ですら悪かったんだから、女子連中の間じゃ相当だ。
4年も経った今ですら、基本サバサバしてる虻川が、苦笑いして思い出話するくらいなんだから。
杉崎の件については、良いも悪いもめちゃくちゃに掻き回して訳わかんなくする長女の性格が、
プラスに作用した唯一の事例だと、俺は思ってる。
「高校入って、ひと目でわかった。あの目つき。
あの時、成金らしいヤラシー目でこっちを見下してたの、よく覚えてる」
中学に入ってしばらくした頃、杉崎は自分のやってた事の恥かしさとかで、すっげー悩んでた。
プライドが高くて、しかも自分がズレてる自覚がある分、
一時期のふたばより深刻だったかもしれない。
……結局のところ俺は男子だから、詳しい事は何も知らん。
だが、あの杉崎が委員会の仕事に積極的で、後輩の面倒見が良くて、節約にうるさくて、
しかも全部をうまく切り盛りできるようになったんだ。
きっと相当な苦労があったんだと思う。
「そのくせ、私は普通の子と一緒の苦労してる、みんなと同じだよってポーズしちゃってさ」
女ってのはわからん。わからなさ過ぎて怖い。
杉崎の気の強さを慕うグループもあれば、未だに昔の事を掘り返すグループも居る。
しかもひとつのクラス内で、だ。

180 :
「……実際、杉ちゃんは私たちと同じ条件で勉強して、学校生活して、
委員会のお仕事してるよ。
お稽古だってして、Aクラに居るんだから、普通の子よりすごいくらいだって思ってる。
……思ってくれない、かな?」
「姫は昔からの友達だから庇うのはわかるけど、杉崎さんのはあくまでポーズじゃない。
私、そこが嫌いなの。
少ないお小遣いでやりくりしてるって言ってたって、
あの子が豪奢なドレスですごい車に乗ってるの、何度も見かけるし。
1学期の打ち上げのときとか、軽〜くカラオケ貸し切りにしちゃってさ。
あの日は空気読んで黙っててあげたけど、根本的にズレてるよね」
はきはきとした口調での断定。
それは分厚い壁みたいに、三女さんの想いをシャットアウトする。
「…………そうだね」
ここまで、か。
だけどそれでもすげえ。
あの大人しくて無口だった三女さんが、こんなにはっきり主張するようになってたなんて、思いもしなかった。
女の子にとって、誰かを『好き』なるって、こんなに特別な事なんだ。
……やっぱ、くそっ。わかってた事だけどよ。
「だけど、柳さん」
なんて勝手に結論付けてるバカ野郎を置いてけぼりにして、
小さな鈴を思わせる声は、だけど凛々しいくらいに明確な響きで空気を震わせ続ける。
壁なんて越えて行ってみせるって、想いと一緒に。
「杉ちゃんは、お金持ちの家に生まれた責任をしっかり果たしてるよ。
私たちとは別世界の事‘も’してるんだよ。
お稽古事もパーティも、普通の高校生ならしなくてもいい事だって思わない?
ドレスを着て出かけるのは、ふさわしい格好があるからだし、
高校に入ってから、杉ちゃんが学校に高価な物を着けて来たの、一度も無いよ」
「姫……」
「ズレてるところがあるの、認める。
だからこそ、普通じゃない、おかしいって思ったなら、はっきり言って欲しい」
「……それって、甘えよ。
『悪いところは教えて』なんて、空気読めない子の言い訳じゃない。
周りを見て、合わせるよう努力するのが普通でしょ」
「でも、柳さんは私に教えてくれたよ。
流行の音楽とかテレビとか、カラオケでもデュエット一緒に歌ってくれた。
私には、素敵に笑って教えてくれたよ」
「姫の事、すごいって思えるからよ。
わがままとか自分の事とかじゃない、家の事情と向き合って、
家の事も学校の事も一生懸命頑張ってるの見せられたら、誰だって力になりたいって思うわ。
それこそ、普通に」
「杉ちゃんは私よりずっと頑張ってるよ。ポーズなんかじゃなく」
「ふうん……。
例えば?」
「例えば………」

181 :
例えば、自主的に再利用可能な部活用具を仕分けたり。
やってる。ただでさえ稽古事とかで忙しいってのに、自分の時間を削ってだ。
よっぽど物を大切にする気持ちが無かったら、出来ない。
バカか、あのピョンピョン女。何を親友の三女さんにまで秘密でやってんだ。意味不明なプライド持ってんなよ。
こうなったら俺がズバッと出て行って……なんて出来るわけねえ……。
……わかってるさ、三女さんがこんなに勇気を見せてくれたんだ。
ここで出て行くのが男だ。
つったって、無理だって実際。こんな状況で出て行ったら100%変態野郎だぜ。
叫ばれて生徒指導室連行で、おふくろまで呼ばれて、晒し者になって……。
漫画みたいに次の週になったら何事も無く、なんてのはありえないんだ。
残り学校生活の2年半、容赦なく地獄になる。
「お稽古事こそ、杉ちゃんの家の事情で……」
「それは結局自己研鑽よ。自分の事で、自分の都合なの。
遅くまで部活や塾で頑張ってる子はいくらでも居る。
姫みたいに逃げられない事情があって、家のお手伝いやアルバイトしている子だって居るわ。
それが『頑張ってる』だって思ってるんなら、ただの友達贔屓よ」
やっぱ無理だって!!
俺は佐藤じゃないんだ。普通の男子高校生なんだ。明日からの毎日が大事なんだよ。
いいじゃん、確かに惜しいタイミングだけど、杉崎が頑張ってる事はいつか証明されるって。
ていうか、近いうちに生徒会報かなんかで、このリサイクルの件が載るって。
放っといても無問題だって!!
大体、俺は杉崎に義理も何もないっての!!
むしろムカついてる!いつもいつも人をバカにしやがって!
今日だってメールじゃなくて電話で教えてくれりゃあ、こんな目にあわずに済んだんだ!
生徒会には細かいメモ準備してたくせに……あっ。
そういえば、左手に詳細を書いたルーズリーフを持ってるんだった。
「………………」
俺はあくまで目を瞑ったまま、右手で穴の開いている箇所を確認する。
作戦。
@この穴からメモを教室へ落とす。
A物音を立てて注意を引く。
B落ちてるメモに気付く三女さんたち。
C杉崎さんすげーっスわー。っべーっスわー。カンドーっスわー。
「委員会の仕事だってしてるし、クラスを率先してまとめてくれてるよ」
「委員会なんてボーっと座ってればいいし、仕切り屋なのはあの子の性格だわ。
本当にクラスをまとめる気があるなら、仕事の多い委員長に立候補すればよかったはずよ。
そういうところが、杉崎さんのポーズなの」

182 :
いやいやいやいやいやいや。
もしこっち向いてるヤツが居たら、穴からメモを差し出してるの丸見えじゃん。
中に人が居るのがモロバレじゃん。出て行くのと一緒じゃん。
そもそもこのメモ、かなりくしゃくしゃになってて汗で湿ってて、怪しさ爆発じゃんか。
リスクでかい。無理だな無理。
すんません、三女さん。マジすんません。後で土下座でも何でもしますから。
『先生みたいになりたい』
今電撃的にわかったぜ。矢部っちすげえ。すげえいい先生だった。
泣いて言い訳しながら土下座して、情けねえ大人だって笑ってたけど、全然そんなこと無かった。
だって俺今、出て行けねーもん。指も動かせねーもん。
わかってなかった。気付いたときにはもう遅かったとかじゃなかった。
俺じゃそもそも無理だった。進行形で無理。
それに俺、矢部っちみたいなイジられキャラじゃねえし。
プライドあるっつーか、土下座しても許してもらえないキャラっつーか、
しかもあの頃のドタバタは、所詮教師と生徒の間のことだったから…ってダメじゃん俺。
完璧言い訳モード入ってんじゃん。
覚えてるっての。矢部っちは校長先生にも、おふくろ達PTAにもボコボコにされてた。
変態教師とかシャレになんねえ場面でも、堂々と出て行ってたよ。
流石は三女さんが惚れるだけはあった……でも、美少女に好かれるんだったらやる価値あるか…ってだから!!
損得勘定する時点でダメ過ぎるだろ!!やっぱのやっぱで無理!!結論出た!!
俺は所詮『登場人物A』だし!過剰な期待かけられても困る!!
『変わらなきゃって思ったんだ』
「でもわかって。杉ちゃんは誰より頑張ってるんだよ」
「いいってば、姫。園っちにも言った通り、私だって杉崎さんを認めてる部分はあるの。
それでいいでしょ。
私は姫の事が好きだし、これからも カタン ……?」
「あれ?」
「ヤナギンも姫も聞こえたよね?
後ろの方から………」
もう上手く聞き取れない。
耳の中は、自分の心臓がバクンバクンと鳴る音が反響して、痛いくらいだ。
脱水症状になりそうなくらいカラカラだったのに、嫌な汗が後から後から滝のように噴き出てくる。
「……くしゃくしゃのノートだ……。
こんなの、落ちてたっけ……?」
「わかんない。
前に着替えた子が落として行ったのかな?
園っち、最初に見渡したときあった?」
「ん〜……。
あんまり意識してなかったけど、なにも落ちてなかったような……」
心臓が痛ぇ。
血流が激しすぎて、鼻だけじゃなく、耳からも血が噴き出そうだ…っ。

183 :
「姫、なんか書いてある?
名前とか」
「……これって……!」




まとめると、なんだろ?
そうだな……とりあえず土下座はせずに済んだ。
後は、やっぱ頭いい人間は良いこと言えるもんなんだなって思ったわ。マジで。

184 :



「………もう誰も居ない……よな……?」
三女さんたちが出て行ってから、ずいぶん経った(と思う)。
目のところの穴で最後の確認をしてから、用具箱のドアを内側から開く。
「ぶっ…はあああああ〜〜〜っ!!!」
肺全体を使って、深呼吸する。
シャバの空気が美味すぎる。生きてるって素晴らしいぜ。
「はぁ〜〜っ、ふう〜〜っ」
今回はかなりキッツかった。
後5分、出て来るのが遅かったら間違いなく気絶してた。
最悪そのまま汗で水分が全部出て、ミイラ化してた可能性もある。
冗談の類じゃない。
教室は窓が締め切られてかなり室温が上がってるってのに、
汗がガンガン蒸発していくせいで涼しく感じるくらいだ。
さっきまで俺が押し込められていた環境、推して知るべし。
「ふはぁ〜〜〜っ。
……ヤベ、何か飲まないとぶっ倒れるな。
購買にポカリ ガラッ っ〜〜〜!!??」
ひとりごちている俺の目線の先で、突然教室の入り口が開く。そして、
「わっすれものやねん〜♪」
訳のわからん歌(おそらく自作)を機嫌よく口ずさみながら入ってきたのは、
俺にとって最悪の相手、チビ女だった。
チビ女は当然すぐに、ギョッとして固まっている俺を発見する。
「……………」
ガキみたいにキラキラ輝く大きな瞳は、すぐさまスイと細まり、
いつものごとく、虫を見る蔑んだ眼差しへと移り変わった。

終わった……!!

「……………」スタスタスタ
俺の事を息をするようにディスりまくっているこいつの事だ、
こっちの言い分を聞かず、容赦なく『ノゾキ!』とか大声を上げるだろう。
どころか背びれ尾びれを付けまくって、
『口からよだれを撒き散らしながら下半身裸で押し倒そうとしてきた』くらいは証言するに違いない。
「…………あれ?」ガサゴソ
なんでよりにもよってこいつが来るんだよ、畜生!
つうか、お前みたいな幼児体型じゃ勃たねえっつの!なめんな!!
だが東大確実とされてるこいつは教師の間でも特別扱いだし、劣等生の俺じゃあ分が悪すぎる。
まさかとは思うが、た…退学の可能性も……っ!!
「…………やっぱあった」

185 :
嘘だろマジかよオイッ!?
脳が破裂するほど勉強して入った高校なのに!
スマホまで買ってくれるくらい、おふくろも超喜んでたのに!
何よりせっかく三女さんとの高校ライフを満喫できてたっつーのに!!
ていうか三女さんだよ三女さん!
やべえ、三女さんの可愛さは近隣の高校でも有名なんだ。
それをノゾいたなんてレッテル貼られたら、夜逃げ確定じゃねえか……!
「……………」スタスタスタ
くそう、こんな事ならあの時ちゃんと目に焼き付けときゃ…じゃねえ、ちゃんと名乗り出ときゃよかった。
同じノゾキのレッテル貼られるなら、チビ女のレイプ疑惑より杉崎を助けといた方がマシだったし、
あいつに恩を売っときゃ働き口の紹介くらいは「…っておい!」
身動き取れなかった俺を完全に無視して、スタスタと教室から出ようとしているチビ女の背中へ慌てて声をかける。
「…………なんやねん」
逐一むかつく事に、チビ女は背中向きのまま、めんどくさそうに返事をする。
しかしとりあえず猶予時間は得られたみたいだ。
俺は何とか自分の言い分を通すため、小さな背中へと主張を続ける。
「俺は変な事なんてしてねーからな!
おかしなこと叫んだりすんなよ!!」
「…………叫ぶって、何を?」
「何をって……『ノゾキ!』とか、『チカン!』とか」
「ノゾいとったんか?」
「してねえ!一切何も見てねえ!!」
「やったら、別に何も叫ばんわ」
「そう、だから叫ぶなよ絶対……って、へ?
え、ノゾキ扱いしないのか?」
意外な回答に思わず拍子抜けする。しかし油断は出来ない。
チビ女は相変わらず背中向きで表情は見えないし、声には友好的な雰囲気は全く感じられない。
「なんやねん。ノゾキ魔にして欲しいんか?
お前はアホな上にドMなんか?」
「なわけねーだろ!」
「そしたら呼び止めんなや」
「……いや、まあ、そうなんだが………」
「……………はぁ〜〜…。
あのなぁ、私はちゃんと物を見とんねん。
お前はド低脳やけど、しょーもない事するヤツとちゃうの、わかっとるわ」
「……え?
え…え〜〜っと……?」
え?あれ?
俺、褒められてんの?けなされてんの?
「私、アホと話して時間無駄にすんの、ぬほど嫌いやねん。
バイバイ」
ガララ ピシャン
「え……。
ええ〜〜〜………???」

だから何なんだよ女ってぇ〜……。
誰か解説してくれよぉ〜……。

186 :2013/01/06
今回はここまで!
やっと終わりが見えました。次回で千葉編は終了です。
ひとはの扱いが、やっぱり難しいです。
前にも書きましたが、そして色んな人に喧嘩を売りますが、
147でバストAAじゃ、絶対もてないって!!
少なくとも寸胴幼児体型じゃ、
いかにルックスが美少女でも無理だと思ったので、
描写に色々頭を捻りました……。
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