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2013年01月エロパロ266: 【獣人】亜人の少年少女の絡み11【獣化】 (266) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【獣人】亜人の少年少女の絡み11【獣化】


1 :2012/08/07 〜 最終レス :2013/01/05
このスレッドは、
   『"獣人"や"亜人"の雄と雌が絡み合う小説』
                    が主のスレッドです。
・ママーリand常時sage推奨。とりあえず獣のごとくのほほんと、Hはハゲシク。
・荒らし・煽り・板違い・基地外は完全スルーしましょう。
・特殊なシチュ(やおい・百合など)の場合は注意書きをつけて投下。好みじゃない場合はスルー。
・書きながら投下しない。
 (連載は可。キリのいいところまで纏めて。
  「ブラウザで1レスずつ直書き」や「反応を見つつ文節を小出し」等が駄目という意味)
メモ帳などに書き溜めてから投下しましょう。
・『投下します』『投下終ります』『続きます』など、宣言をしましょう。
・すぐに投下できる見通しがないのに「○○は有りですか?」と聞くのは禁止です。
・作品投下以外のコテ雑談、誘いうけ・馴れ合いは嫌われます。
・過去作品はエロパロ保管庫へ。
http://sslibrary.gozaru.jp/
+前スレ+
【獣人】亜人の少年少女の絡み9【獣化】(実際には10)
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1293283774/
+過去スレ+
【獣人】亜人の少年と亜人の少女の絡み【人外】
ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1061197075/
【獣人】亜人の少年少女の絡み2【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1098261474/
【獣人】亜人の少年少女の絡み3【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1118598070/
【獣人】亜人の少年少女の絡み4【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1152198523/
【獣人】亜人の少年少女の絡み5【獣化】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167835685/
【獣人】亜人の少年少女の絡み6【獣化】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197755665/
【獣人】亜人の少年少女の絡み7【獣化】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207906401/
【獣人】亜人の少年少女の絡み8【獣化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225275835/l50
【獣人】亜人の少年少女の絡み9【獣化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250959076

2 :
でだ。
根暗鬱・ちょい似非思想混じりモノの上、
前文にあたる設定パートだけしか出来てないけど、先に投稿してよろしいか?
この後の分はもうちょっと調整が必要なんで

3 :
うん、まあ、人はいないよなあ。

4 :
「…統制のとれなくなった共和軍は仲間割れを起こし、
あろうことか同じ艦船の中でまで同士討ちを始めました。」
 少女がそこまで読みあげると、教壇の女教師が話を切り出した。
「佐藤さんありがとう。さて、このように軍のトップがおらず、組織の私兵としてしまうと
組織自体の対立や私欲で動かす人が居た場合に、大きな混乱が起こってしまうわけです。
…同じ問題が少し前にもありましたね?」
 女教師の呼びかけにしたがって、生徒の幾人かが手を挙げた。
指名されたのは先に読み上げをしていた佐藤という少女、
「はい、旧日本自衛軍が、欧米の押しつけた文民統制を固持した衆ぐ政権により
戦略D兵器の投入を先送りにし続けました。」
 女教師は、優秀な生徒を持ったことを誇らしげに続ける。
「素晴らしい回答でした。そうですね、軍事が政権によって操られることがどれだけ危険か、
その良い証明でもあるわけです。そしてそれの反省から生まれた組織があります。…山崎さん、なんでしょう?」
 間を置かずに回答が返る。
「軍議院です。軍に所属していた人や、その御親族の方だけが参政権を持ちます。
専門家の集まりで、軍同様の階級があって機敏で、それと決議が一般の議会より優先されるので、
軍の行動を妨げる事がありません。」
 教科書通りの文面が戻り、再び満足げに頷いた女教師が称賛する。
「よく出来ました。…軍を一本化する事の大事さ関しては、みんなも良く知っていると思いますが、
20年前の戦争ではそれが出来ていませんでした。その結果が日本本土への侵攻を許してしまったのです。
皆さんの中にも、お祖父さんやお祖母さん、伯父さん、伯母さんを奪われたという人も居るでしょう。」
 女教師の呼びかけを受けて、生徒たちは顔を俯けたり、悔しそうな表情を作ったりと、さまざまな反応を見せた。
女教師も表情を曇らせる。
「私も、幾人かの親族と知人を…。」
 しかしそこでは止まらない。
「…先ほど佐藤さんが言いましたね、戦略D兵器の利用が遅れたと。
そうです、あの戦争は、既に完成していた、ABC以上のD、ディメンジョン兵器を用いていれば、
共和軍艦隊を迎え撃つことは可能でした。」
 快活そうな少女が、いきなり声を上げる
「E兵器に拘ったから!」
 最良の答えを返した少女へ柔らかな表情を向けると、女教師の顔は険しいものに切り替えられた
幾人かの生徒が、教師とは別の方をちらちらと盗み見る中、それを気にせず女教師は続ける。
「…戦犯達による政権は、旧時代のアメリカとの同盟を妄信し、
助けが来るまで防衛に徹するべきだといいました、そしてD兵器は危険だという嘘を放送し、
一方で、とても危険で、役に立たないE、つまりエビル兵器を後押ししたのです。」
 教師の言葉のうちの、“役立たず”という言葉を、生徒達は隣の生徒と嘲い合う。
ただ1人、少女は、表情を硬して俯き、もう1人、少年は、その少女の様子を窺っていた。
 と、俄かに学校全体が騒がしくなったかと思うと、チャイムが鳴った。
教室ごとの騒音は拡大してゆき、それに負けじと女教師が次回の授業の準備を呼び掛ける中でも、
少女、E4076-1美梨は少しの音もたてず、俯き続けた。

5 :
※余聞1
D兵器、ディメンジョンと表記されるものの正確には「時空間兵器」は、ABC兵器を超える大量破壊兵器。
D弾頭と呼ばれるシステムから空間を粘土のように捻じり、
大体球状の範囲の物体を、物質の剛性等をほとんど無視して、
ルービックキューブの柄のように、ぐっちゃぐちゃのモザイクにしてしまう兵器。
作中では危険性は(政治的圧力もあって)嘘だとされているが、実際には、
「(先ほども述べたルービックキューブのように)発動からの一定時間を経ると、
巻き込まれた範囲の物質が、発動時同様の挙動をしながら互いの元の座標に戻ろうとする」
という「揺り戻し現象」を引き起こす。空間兵器じゃないのです、“時”空間兵器なのです。
当然ながらそれに巻き込まれれば、時空間兵器発動と同様の被害が再度発生することになる。
例えば、巻き込まれた戦艦の廃鉄材を溶かして、電車の車体フレームを作ったとすれば、
そのフレームの鉄原子が、なんとか戦艦の形に戻ろうとして、時空間をミキシングして捻じれつつ、
他の残骸が多くある場所に近づこうと飛んでゆく、地面にめり込みえぐってゆく、なんて事が起こるわけですね。
電車の中に人間が乗ってたら、言うまでもありません。
また「揺り戻し現象」は複数回、起こり続けます。少しずつ規模は小さくなってゆきますが。
小さい事がじわじわ起こり続け、一定のラインを超えると一気に大きな反応を起こすので、
この時代の人間はまだ気付いてません。そもそもD兵器への非難自体、危険思想扱いです。

6 :
E兵器、「エビル兵器、邪悪兵器」は、規模こそ小さいもののD兵器より強力すぎて、また人間そのものを冒涜する兵器。
それは、ベースとなる人間に、遺伝子や薬剤による生命科学、ナノテクノロジーや機械構造による物理工学、
そしてそこに邪な魔法技術までをも組み込んで作りだされた、人造の悪魔。
旧自衛軍は、大陸の共産軍の侵攻と、米国の同盟無視を予見、
日本の孤立無援状態、戦力差・資源差から戦闘が破滅的な状態に陥ることが間違いないと考え、
また、戦略兵器の投入による国際関係の失墜も考慮してD兵器を禁じ、
既に試作されていたE兵器の増産と、兵士自体や国民レベルでの強化や、敵への恐怖を与える作戦を立案した。
一部の人間が持つ特殊なミトコンドリア「キックモーター」を利用することで、
普段は細胞に含まれているだけの微細小胞機械「セルマシン」を発動させ、
セルマシンが細胞を歪め、人間の体をわずかに変貌させ、同時にセルマシンが構築する多重の魔法陣が、
歪になってゆく人間の体という 生贄 を利用することで、連鎖的に莫大な魔力を生み出し
物理法則を超えた肉体の変形を可能にする。
そして半人半獣の姿になった人間という「魔」そのものは、この世のものではない戦闘力を発揮するのだ。
少数の試作型が日本各地の戦場に投入され、僅か100人未満のそれだけで、
戦線を日本海にまで押しだすまでの無茶苦茶な戦果を上げているのだが…
E兵器のイメージがとにかく不気味なのと、試作のは完全な機密任務で活躍は広くに知らされていない事、
さらにこれを用意していたためにD兵器を使わなかった、という戦後政権のプロパガンダにより悪者扱い。
自衛軍兵員や国民の適合者から志願を募ったり、前線で瀕の重傷を受けた兵を強引に肉体改造し、
生産を重ねて、戦争終結までに約17000人ほどがロールアウトしたのだが、
その多くが、ほぼ人権が剥奪されている、と言っていいほどの扱いを受けている。名字が使われないのが好例。
国を救うために人間を捨てたのに。
戦闘能力は脅威以外の何物でもなく、製造された全体の7割を占める汎戦闘種(主に肉食獣モチーフ)の
無装備の単体が肉弾だけで難なく高層ビルをなぎ倒せるだけの破壊力を持ち、
バイオケミカルによる汚染、核の直撃や、D兵器の炸裂にあっても、
魔法によるおぞましいまでの再生能力や、防御の加護が肉体を維持し続けるという
負けるはずのない兵器。人を超えたもの。だがどれだけ再生しても感じた苦痛は残るのだ。
現在は、リミッターの首輪を付ける事で、攻撃性能力をほぼ封印するよう法定されている。
(それでも大型の獣程度の膂力はあるだが)
当然の話なのだが、戦後政権が彼らを忌避したのは、この論外の能力のせい。
精神と互いに影響しあう「魔法」を体に宿らせた副作用として、
彼らが強い人間性をもっていることに着目した政府側は、
彼らはあまりにもオーバースペックであり、国民に僅かでも攻撃性を向けることは即、戮に繋がる事を利用、
国民という人間の盾が、彼らを取り囲んで虐め、監視し続ける形に仕向けたのだ。

7 :
ああ夜が明ける!途中までしか調整できねえええヽ(`Д´)ノ
エロパロ板でエロに全然絡まない駄文垂れ流しって何かの犯罪じゃないかな、もう。

8 :
バス道路から逸れた、整然と並ぶ木の間の道を、夕暮れの中、2人の影が歩いてゆく。
「クソっ、佐々木のババア。今更煽るような話に持ち込みやがって…」
毒付く少年の声、それから少し遅れて、
「…もう、やめた方がいいよ。せいちゃん。」
気に病むような少女の声。だが少年、東静一の怒りは収まらない。
「美梨、あんな嫌がらせされて、悔しいとか、あるだろっ…」
自分のための義憤だという事が分かっていても、美梨は黙ってしまう。
2人の家、いや塀もある屋敷は林の中に建っていた。
二十数年前までは立派な町があったそこは、気化爆弾によって灰燼だけの土地となった、
生き延びた人たちの中には、血の流れた場所に住もう、などという心や力を持っている人など残ってはおらず、
できるだけ遠くの、快適な都会地へ移っていった人たちの土地は、巡り巡って国が受け取った。
そして国は、その戦いで戦った兵士たちを厚遇し、人の住まなくなった土地に幾らかの手を入れて屋敷を建て贈った。
少し昔の感覚で言えば、嫌がらせ以外の何物でもないだろうに、そんな事はお構いなしに、
「昔の政治がどうとか、前の軍の姿勢がどうとか、美梨はエビルでもその後に生まれたのに
なんで悪いなんてことになるんだよ!」
「もうやめて。お願いだから!」
美梨の呼びかけは悲鳴に近かった。
「私はいいの。辛くても誰かを傷つけるわけじゃないもの。
お母さんや私の身元だって、おじさまが保証してくれてるのだから、酷い目に…あうことも、ないわ。」
話しかける途中で、そうではない同属のことが脳裏を掠めたのか、美梨は僅かに口ごもる。

9 :
美梨の母、E4076梨絵は、戦火に巻き込まれて重傷を負った、
治療の過程でE兵器適合が判明、自衛軍で手術を受け、汎戦闘種・狼型の形質を宿した。
しかし終戦後は、それは社会での枷となり、リミッターという物質の枷が重ねられるように付けられ、
そのまま戦後復興の際の労働力へと駆り立てられた。
獣化状態での身体能力でも負担となるほどの重労働と、終戦から時間が経つほどに広がるE兵器への偏見。
そんな中で唯一、彼女を庇ったのが父親となった男だった。
彼も戦地に出ていた1人で、E兵器に救われたことから、時代の流れに嫌悪感を感じていた。
互いの献身に触れるうちに、二人は結ばれ、梨絵は美梨を身篭った。
E兵器の配偶における女性というのは、妊娠しにくい、
強化された体の免疫が男性の精子のほとんどを排除してしまうためだ。
E兵器の男性は真逆で、精子の保存性が高く、高い確率で妊娠させることはできる。
だがミトコンドリアの形質は母からしか受け継がれない。
キックモーター特性を持たない母親からは、E兵器へと変じる能力を持たない子しか産まれず
機能しないセルマシンのほとんどは、そのまま細胞内で分解されてゆく。
それを踏まえ、政府はそのうちにE兵器は子孫を残さずに絶滅すると結論付けていた…
そして美梨が産まれた。
棘の付いた枷の中でも。幸福な家庭を作れると信じていた梨絵の元に、夫の悲報が届いた。
街中で暴行を受けていたE兵器の親子を庇い、
不壊の兵器に苛立つ暴漢の凶行を、普通の人間の身で受けてしまったのだ。
結局、暴漢は罪には問われなかった。
梨絵はいくつかの町を渡り歩いた。全てを与えてくれた人のいない場所にはいたくなかった。
美梨と、E兵器専用の強靭なドッグタグの中にしまわれた親子3人の写真だけは片時たりとも身から離さずにいた。
彼女を探している人物が現れたのは、そのような生活のなかで、まだ美梨が物心付く前のこと、
その男性、東氏は、梨絵の夫の元同僚で、力になることを約束してくれたのだった。
それはきっと、亡き夫の最後の導きだったと、梨絵は娘に教えている。
東氏の家には、E兵器にも変わらず接する、というよりむしろ素敵であると評する風変わりな奥さんと、
梨絵と同じように世の中にいられなくなったE兵器達、また彼らを不愉快に思わない人々が下働き、
というよりは共同生活をおくっており、そして東氏には、美梨と丁度同い年の男の子がいた。
男の子と女の子は、このときから家族になった。
母親から、人を守る人になりなさい、と言われて育った美梨は、人一倍で危ういまでの優しさを持つようになる。
だが同時に彼女の体は、やはり母親の形質を受け継ぎ、守護のために造られた破壊兵器、汎戦闘種・狼型が息づいていた。
そして10歳の時の検診が、首輪、Eリミッターを装着する、人ではない人生の始まり。

10 :
「せいちゃん…、政府の悪口を言ってるのが家以外の人に聞かれたら、おじさまがご苦労されるわ。
今でさえ、いい顔をしない町の人だって…。」
美梨の悲しそうな声を聞いて、静一の声もトーンダウンする。するが、止まらない。
「…でもさ、政治家はさ、軍議員を飼い犬にしたいから、参政権持ってる元軍人にバラマキしてんだぞ?
日本守ってたエビルの人たちだって、同じ軍人なのに、何で別になるんだよ…。」
父親の語ったE兵器に助けられた話から、その子供が素直に考えた、ごく自然な結論だった
だが優しい美梨の回答はない。理不尽さを感じても、E兵器がそれを社会に表現する方法はないことは
彼女自身の体で知っている。どう足掻いても兵器であり暴力なのだ。
静一は知らない。
美梨は定期健診で、E兵器としての指導を受けたことがある。
それはリミッターを僅か1%開放しての、自分の力を知覚することだった。
荒れ果てた訓練場、僅かに力を増した12歳の美梨の小さな手は、獣のそれへと形を変える、
おずおずと、構えた腕を振り下ろす。何が起こるとも思わなかった。
目標として無造作に置かれた廃車は、表現すらしがたい轟異音と共に原型を留めないまでにバラバラに引き裂かれ千切れ飛んだ。
前日にクッキーを作るときに使った、調理用のアルミホイルを引き裂くより力を込めたつもりはなかった。
無意識に腕と同じ獣の形になっていた脚は、小さな少女の体重を支えきれなくなり、床にペタリと座り込んだ。
以来、美梨は自分の力に恐怖を覚えた。それが親しい人に向いてしまったときの事を考えさせられる読本が配られた。
自分が事故を起こしてしまう悪夢が襲い、眠れなくなる日が続いた。
それが、説明では1%開放となっているリミッターが、実際には20%開放されており、
E兵器の少年少女が自分の力を大なり小なり誤解するように仕向ける教唆プログラムであることなど、彼女は知る由もない。
静一は、後を歩いているはずの美梨の方を見遣る、どこかで立ち止まってしまったのではないかと思うほど静かだった。
美梨はすぐ後ろだったが深く俯いてしまっていて、ただ、とても悲しそうであることだけしか見えなかった。
「美梨…。」
呼びかけても、彼女の表情は取り戻せる気配は無い。
それ以上は何もできることもなく、ただ、とぼとぼと歩き、2人は家に帰りついた。
夕食は親達と子供たちが1つのテーブルを囲むのが東家。
その中で、美梨はいつもどおりに食事を取っていた。親たちの話しかけに笑顔で答えていた。
それが、静一には余計に辛く思い、味も分からない、メニューも覚えられない夕食を無理やり腹に収め、
自分の部屋へ逃げ込むように篭ると、布団を敷いて、強引に眠りに付こうとした。
しばらくして隣の美梨の部屋から物音が聞こえ、彼女も早々に部屋に戻ったようだった。
最近は、彼女が服を脱ぐ、衣擦れの音が嫌にはっきり聞こえる。服を脱いだ美梨の体。
一瞬、頭を乗っ取った卑劣な想像とその原動力の思春期の性欲を何とか自己嫌悪に転換して、
後悔を抱えながら眠りに付いた。

11 :
今日はここまで、ごめんね。この次から濡れ場があるんだけど、
そこも煮詰めなおしてるんで、今は無理。
「後味最悪のラブラブ純愛が少しずつ捩れ壊れゆく強姦」路線、かな。

12 :
GJ!期待してまってるぞー!

13 :
>>1-11乙!
>>2から早速連載始まってるとは魂消たわ!
それに、読んでみて思ったんだが、内容もすげぇな。
かわうそルルカの作者様にせよ、>>1様にせよ、
どうしてこのスレはこんなハイレベルな連載陣に恵まれてるんだ!?
世界観が好み過ぎて二次創作書きたくなるレベル…

14 :
ごめん、獣人要素がまだない

15 :
第3次大戦があった。
それはアフリカ・南米・東南アジアの経済的台頭で、経済的に陰り、
というか破綻まっしぐらになった中華共和連邦(事情あって北朝鮮を取りこんじゃいました)。
国民の不満を逃がすために以前から流してた嫌日誘導と、
その最中で日本が自衛隊を自衛軍としたことで歯止めが利かなくなり、
振り上げた拳の落とし所を間違うと、政府そのものへの鬱積から転覆しかねない状況に陥ったため、
日本への武力誇示が必要になってしまった。
当時、経済的に好調になったアメリカが、日本から「債務返済しろ」という突き上げをくらって
煙たがっていたことを利用して、上層部同士で密約を交わし、
アメリカの南米の共産国家群への攻撃を黙認する、中連の日本への侵攻を黙認する、という条件のもとだ
共和軍は、中華共和国連邦の第1党の党軍。人民解放軍がベースで、
連邦政府高官の親戚縁者、要するにいい所のボンボンが身内人事で偉くなってゆく状態は相変わらず。
しかし、その状態を解決せずに、党が一枚岩じゃなかったのが致命的な事態を引き起こす。
連邦政府の米国と密約した側は、あくまでもナアナアの関係を維持したい派閥であり、
日本を適度に荒らし回って、国家体系をぶち壊しにした辺りで、米国が介入し
「同盟国に攻撃してもらっては困るね。あ、でも日本はもう統治力無くなってるね。
仕方ない、我が国が半分を管理しよう。残り半分は中連さんにお渡ししよう。」
という目論見だったのだが…
中連側の、自国至上主義で、アメリカとの密約に関わってない人達の関係者も、共和軍には多く
何も知らずに「普通に全部攻め落とせば良い、日本を全部手に入れる」と考えていた一派が
日本から飛び立った米国籍の避難民を載せた旅客機を撃墜したことで、問題が表出。
(これに関しては、日本がその直前にE兵器を投入したため、
 甚大な被害を被った共和軍将校が徹底的な反抗作戦にでたのが原因)
至上主義派閥は叱責を受けるも、親米談合派閥を弱腰であると反発、
戦争中にクーデターを起こす、という行動に出た。
その結果、艦船や基地内での主導権争いからくる同士討ちが相次ぐこととなった。
元々、小国日本などは片手間で落とせる、として大軍を動かしていなかった事もあってか、連邦内の軍同士で内戦が勃発。
更に東南アジア等の、連邦を煙たく思っていた諸国が、ここぞとばかりに連邦内に武器を密輸。
それらの武器がアメリカ製だったり連邦製だったりしたものだから、国家間問題は拗れに拗れ…
漁夫の利を得た日本が軍国主義を基礎に再興する一方で、連邦は崩壊。
煽りをくらって軍事制圧併合されてしまった近隣の小国があるかと思えば、
談合派閥を元とする国、至上主義派閥を元とする国、それらに抑えられていた中小派閥の連合、
古い血筋を持ち出してきた新興国、欧州等の支援を受けた少数民族の独立国等により
数年が経過して、5つほどの大国と、15ほどの小国が入り乱れることとなった。
また、同じ時代の戦いでD兵器が用いられた戦いがあった。
D兵器はエネルギーをばらまく核兵器と違い、与えるエネルギー次第で攻撃範囲が厳密に指定できる兵器だ。
サイズは小さくし辛いが、それでも大型トレーラーには積める。テロリストには何の問題もなかった。
それは、エルサレムで発動した。
彼らはためらわなかった、自分達の聖地は遺構が粉砕されてしまったのだから、もはやためらう理由が無いのだ。
爆心地を占拠し、隣り合っていた彼らの聖地へ向かうテロリスト達を、報復のD兵器の牙が襲った。
テロリストが用いた数十倍の威力のD兵器、そして報復に報復、
その武器は時代遅れな物と違って、何の汚染も残さないのだから。
敵も味方も使いたいだけ使えばいいとばかりに、聖地を時空間ごと切り刻んだ。何度も、何度も。

16 :
その後にどんな惨事が待ち受けるか、何も知らずに。


コピペミスで切れた(;´Д`)

17 :
強引な早寝が祟って、静一の眠りは夜更けに覚めた。強烈な月明かりが彼の顔を照らしたのも原因だが。
美梨に謝りたい。
夢の中から頭を覆っていたのはその事一つ。
だが、今は無理だ、ということは理性では分かっていた。
就寝した美梨の部屋に入ってはいけない、それは年頃の二人だからという理由が主ではなく、
彼女は、というよりはE兵器である彼らは、寝る時には裸か、それに近い装いをするからだ。
夢の中では様々な精神状態が誘発される。E兵器である体はそれにも鋭敏に反応し、起動を起こす。
仮に寝ぼけたとしても、リミッターによって破壊的な攻撃は防げるようにはしてあるのだが、
肉体自体の変形まで止められるわけではない。
朝に、膨れ上がった体で張り裂けた、あるいは鋭く伸びた爪牙で切り裂かれた寝巻を見たくなければ、ということだ。
強いて言えば、病知らずのE兵器の肉体は、それほど衣服に頼る必要はないのだから、
それほど大きな問題はなかった。
しかしその問題が、今、静一の前に立ちふさがっている。
布団から体を起こす。満月も近い月明かりのおかげで部屋の電気を付ける必要もなかった。
廊下へ通じる襖の前まで来て、行っては駄目だという気持ちと、一刻も早く謝らなければという気持ちがせめぎ合う。
掛け布団は使っているのだから、彼女は自分から隠すはずだ、
部屋に入った非礼は先に謝ればいい、と自分に言い聞かせて。
美梨の部屋の襖をわずかに開け、彼女が布団に包まれて眠っている事を確認した。
問題ない。襖とは逆に向いて横になっていて、二つに分けてまとめられた長い髪がこちらに向いている。
少なくとも、裸らしい裸を見てしまうことはなさそうだ。
意を決して部屋に飛び込む、後は謝るだけだ。布団越しに肩に手をかけ、
なるべく優しく揺り動かし、彼女の目が覚めるように促す。
だが、彼女は目覚めない、深い眠りのようだった。
問題なのは、外から受けた影響から体の重心が動き、横向きだった体はころりと転がり、
肩にかかっていた布団が引きずられ、斜めになった掛け布団の下から、
美梨の可愛らしい乳房が露わ
になってしまったことだ。月明かりが彼女の肌を真っ白く輝かせる。
静一はその事故にあって、見慣れた可愛らしい少女の顔と、
それに並んだ、見慣れない白く柔らかい曲線の体を、息も出来ずに眺めていた。

18 :

触りたい。
雄が動かす。
左の手が伸び、僅かに自制から躊躇って、女性に近づいている彼女の体の直上で腕が痙攣する。
触りたい!
手のひらの真ん中に、少女の尖った先端が触れる、止まらない、手のひらが暖かな感触に染まる。
押し過ぎた、慌てて力を抜くと、僅かに汗が乗った肌は優しく押し返し、手のひらに指に吸いつく。
何度目かの唾をごくりと飲み込む。体は雄の機能に突き動かされる。
このまま。
と、美梨が大きく息を吐いた。
静一の全身が跳ねあがり、飛び退く、だが、美梨は目を覚ましたわけではなかった。
これも静一が知らないことだが、E兵器達は夢現の変化により、体の内外からの圧迫感を感じることは珍しくない、
だから美梨は、眠りの中、自らの体に悪戯が及んでいるとは想いもしていない。
ただ、姿勢が変わって、重力のかかり方のかわった肺から、息を吐いただけだった。
美梨の布団のそばにひっくり返った静一の顔色は、月明かりの反射もあって酷い、
ここに来た原因の自責の念と、その時にあってもなお、卑劣な行為にでてしまった事が重なり、
いっそ自分の首を絞め千切りたいほどの罪悪感に駆られていた。
だが、手のひらに残る、あつさ。
動悸を抑えながら立ち上がり、よろよろとしながら美梨の部屋から出る。音をたてないように襖を閉める。
自分が辱められた事を、彼女が全く気付かないでいて欲しい。
邪に卑怯に願いながら、わずか数メートル先の自分の部屋まで戻る。
今すぐにでも後ろから辱怒に震える美梨が罵声を浴びせてくるのではないかと怯えながら。
そんなことは美梨は絶対にしない子だと分かっていても、
数分前の事で、二人の関係が今までとは決定的に変わってしまったように思えて、
そうであれば、違う別の事が起こってしまうのではないかという考えが頭を支配していた。
小さな頃は、二人は互いにケッコンしたいとも思っていた。
だがそれから成長するにつれて、結婚とはどういう関係かが解ってきて、おいそれと触れない関係になった。
だから親身な兄妹のような関係になるように留めていた。
しかし、手のひらに残るあつさは、子供心や、あえて遠ざけていた意識を強烈に突き付ける。
部屋に戻り、布団を被り、自業に唸る。
左の手のひらがあつい。
処理をすれば自己嫌悪はもっとひどくなると分かっていても雄の残り火は収まる気配はなかった。
ティッシュの中に随分追い出しても。
最後の滴を出し切る際、少年の体に添えてあったのは、あつい、とてもあつい左の手のひらだった。
意識はまだ収まる気配もなかったが、そこで体力の方が尽きた。
美梨が少しでも狼の力を表出させれば、その人の何十万倍もの嗅覚に汗と青臭さが絡み付くのは間違いないほどの醜態、
だが、それを気にする余裕もなかった。

19 :
翌朝、静一はいよいよ美梨と顔を合わせられなくなっていた。
寝汗を言い訳に風呂、便所、洗顔、食事、身支度、忘れ物の確認、
ありとあらゆる手段を用いて、彼女の行動と時間をずらし、広い屋敷の狭い生活範囲の中で逃げ回った。
通学には同じバスを使わなければならないにしても、元々隣り合って座るような習慣はない。
幸いにもバスの座席は十分に空いていて、美梨とは随分離れた場所に座ることができた。
視線を逸らす、逸らす、逸らす。余所余所しさは昨日の、夕方の、事があるので、
不審に思われないだろう、と願う。自分はどこまで卑怯なのかと目眩すら覚えた。
教室は一緒、父親が彼女の身元引受のために同じ学級という制度が憎らしい。
あらぬ方向を向き続け、ふらふらしたような状態で、教室の前にまでなんとか辿りついたところで、
僅かな異変に気付く。騒がしい。
1人の少年が下着一枚の半裸になっていた。名前までは知らない、別の学級の、E兵器。
彼の後ろには卑劣な笑みを浮かべた少年たちが群れて廊下をふさいでいた。
珍しい事ではなかった、若い嗜虐欲求を満たすには、反抗できず傷も付かない奴隷、E兵器は格好の玩具なのだから。
視線が他人と並行線を取り戻した静一の視界に、竦む美梨の背中があった。
その時、静一の中で、何かが外れた。
外す力になったのは前日からの義憤か、それとも昨晩の贖罪か、あるいはもっと別の物か、
ともかく、静一は、人垣を抜け、生徒たちがそれぞれの感情を持って遠巻きにしている空白地帯を横切る。
他の少年たちが僅かに後ずさる中、リーダー格の少年は、自分達の遊戯に邪魔が入ると察し、
不機嫌な表情を向けた。
「やめろ。」
静一は、その一言を吐き出してから、やっと息を吐けた。
悪童は鼻で笑う。
「何の風紀委員だ?おい。」
取り巻きたちが制止する、あいつは軍人の子だ、軍家相手は危ない、止めた方がいい、
だが悪童は一睨みで黙らせる。
「自分の所のイヌと遊んでやってるんだよ。俺は。」
その一言で、今までは別の学級とあって知らなかった事情、身元引受と分かり、やっと静一も話しやすくなった。
「E兵器は人間だ。法律で権利セイゲンの決まりがあるけど、玩具にしていいわけじゃない。身元引受人でもだ。」
教科書通りの回答しかできなかった事が悔しい。言い返される。
案の定、
「軍事、営利、その他の行動上は、民間人であってもE兵器どもへの命令権があんだよ。おら!取ってこい。」
投げられた上履きが静一を掠めて飛んでいき、生徒たちが場所を開けた廊下に落ちる
E兵器の少年は一瞬戸惑った後、駆けだす。
「イヌが二本足で走るんじゃねぇぞ!」
雷に打たれたように戦慄し、立ち止まった少年は、その場で両手を床に付き、
E兵器の時の行動を再現できるのだろうか、人の四つん這いではなく、獣の歩みで投げられた靴へ向かう
人の足の長さが邪魔になるので、酷く不安定でゆっくりとしか動けないようだったが。
静一からは彼の顔は見えなかったが、視界の片隅に美梨がいた。

20 :
悪童が笑う、
「ほら、イヌだろ?人間にはあんな気持ち悪い動き、できねぇよ?」
取り巻きたちも、幾分気色を取り戻してきたようだ。引きつったようだが笑い始める。
「おい、イヌなんだから手で持つなよ、口で咥えろ。」
悪童が続ける。
「バケモノを何匹も飼ってる家の人間だっけな?お前。よっぽどバケモノがお気に入りなんだろうな。」
少し、語りのトーンが変わった事を静一は感じた。攻撃の対象が自分に向いている。
「飼ってるイヌかネコにでも、毎晩お世話してもらってるから恩返しとか思っちまった口かい?」
事実にかすかに触れる、殴りかかりたい。多少なりとも父親には鍛えられている。
簡単な投げ技のコツがある。一度殴った相手が無暗に殴りかえしてくれば一発だ。
衝動が体の各所の筋をギシギシと鳴らす。
似た感覚が蘇る。昨晩、衝動のままに行動した悪事。衝動にがちりと歯止めがかかる。
と、食い止められた思考が反動で別の方向に回り始める、何故、連中は自分を攻撃し始めた?
別学級でもこの集団の暴力ぐらいは何かと目に耳に付く。何故、それが直接自分に向かない?
挑発だ、こちらから殴りかからせようとしている。
軍家の息子とはいえ、議員等でもない普通の家だ。多少発言権があっても、他人に殴りかかっていい権利はない。
むしろ家庭の責任問題にまで伸びかねない。
E兵器は文書の上では守られていても、実際には疎まれるもので、
それを庇っている父親に、下手な醜聞を付けるわけにはいかない。
何か、こちらからの挑発の方法はないか、強烈な、一発は
背後に向けて生徒群衆の奇声が向く。
目を逸らした隙に殴られる可能性があったが、静一はそちらを見てしまった。
どうやら、躊躇していたE兵器の少年が、ついに口で上履きを咥えてしまったようだった。
静一は顔をしかめる。美梨は、
瞬間、反撃が見えた。静一は声を上げる。
「おい、そこの犬!軍家の命令だ!その靴を俺に向かって投げろ!」
軍家の発言権は、一般のそれに勝る。そう教育されている子供たちだ、
周りの者が意図を掴めずにあっけに取られる中、少しの躊躇の後、E兵器の少年は上履きを口から離し、
命令通り、静一に向かって靴を投げた。
自分に当たれば「相手の飼い犬の躾の悪さ」を咎める事ができる。だが上手くいけば。
靴は上手く飛んでくれたので避けるのはそれほど難しい事ではなかった。
そのまま靴は飛び、静一を対角にしていた悪童、その顔に直撃した。
生徒の群れが息を詰めるような声を上げてざわめく。あまりに上手くいったので、静一もあっけに取られる。
悪童も何が起こったのかを把握できず、しかし次の瞬間、顔を怒りに染め、
怒声と共に、静一に殴りかかってきた。
あとは、簡単だった。
教師への説明も、軍家が侮辱を受けた、と言えばよかった。

21 :
ごめん、濡れ場詐欺。 orz
さんざん時間がかかっておいて、
このスレにおいて誰特な人間のオナニーとケンカだけっていう…
次回!次回こそは!

22 :
最近は作品投下が続くな。賑わっててすごくいい
いつまでもこうだといいんだが

23 :
はいフラグ入りました

24 :
難しい設定の話だとエロい展開に繋げにくいし、
作品の味を損ねそうならば無理して濡れ場を用意しなくてもいいと思うよ

25 :
改変入れた部分と濡れ場の切り出し部分の調整が上手くいかず、止まってます(;´Д`)

26 :
・試製戦闘種・蝗型、および同型改
E兵器全ての礎となった第一号。
E兵器開発計画の主要メンバーである若き天才科学者が、第一号を製造するに当たり、自らの体を供出。
初期技術においては結合させる生物の知能が高すぎると、精神融合による人格への悪影響の恐れがあったため、
単純な節足生物で、構造が発達しつつもシンプルな昆虫で、草食を主とし、
更に不安定要素となる大きな変態を行わない不完全変態である「蝗」が用いられた。
融合実験自体は成功したものの、初期の時点ではいわゆる「変身」に必要なだけの魔力連鎖発生が足りなかった。
その後、改造に改造を重ね、ついに完成の日を見る。
テストの一環として日本本土奪還作戦に投入され、山をも穿つと言われる蹴りを武器として、大きな戦果を上げたとされる。
戦場に出るときに必ず被っていた髑髏のモチーフが施されたフルフェイスと血染めのスカーフは、E兵器の代名詞となった。
同氏は、戦後のE兵器弾圧の流れと、数多くの人をその兵器に改造してきた事の苦悩を綴った手記を残し、
現在、行方不明となっている。
・試製工兵種・蜘蛛型
蝗型と並列開発されたE兵器。強靭な蜘蛛の糸を自在に操り、さまざまな環境に適応可能な工兵を目指したもの。
…結果は「THE - 平均点」。悪くはないんだが、兵器としてはそれほど。
戦後はE兵器の不遇な立場ながらも、レスキュー隊員として多くの人を助けるが、
当時の国内メディアではE兵器の活躍を載せるなど論外であり、メディアは専ら悪評ばかりを広めていた。
彼が評価されるのは幾分未来の話である。
その後の同型だが、女性の被験者で再適応を行った際、魔法技術のベースである発掘遺物と
高い同調性が確認され、その発掘遺物が神話通りの者であることが証明された。彼女こそ「アラクネ」であると。

27 :
・試製工作種・蝙蝠型
E兵器の初期のもの。初の哺乳類結合種でもあり、1体のみしか制作されていない。
被験者は自分こそが正義だと名乗る、しかし重犯罪者だった模様。
モチーフが選ばれたのは「魔術による生物兵器の代替兵器」というコンセプトが先にあり、
そこに東欧のヴァンパイアのイメージが重ねられた結果でもある。
完成なったそれは、まさしくそのホラームービーを再現しうる能力となった。
夜陰に紛れてレーダーにも掛かりもせず音もなく敵陣に辿り着いた彼は、気の毒な誰かを襲う。
伝説どおりに吸血(大きな代価となる魔術儀式である)を受けた者は、一定の潜伏期間の後に、
体内で蔓延するセルマシンの魔力欠乏から、感染者が知る限りの魔力補填儀式、すなわち吸血を衝動的に行う。
当然、連鎖的に感染は拡大してゆく。それが戦場で起こればどうなるかは想像を絶するだろう。
なお、通常感染者は酷くても精神錯乱と不完全な変身程度だが、
高度なE兵器適合体質の場合、オリジナル同等の変身能力だけでなく、別種の能力覚醒も考えうる、という。
実戦投入は行われたが、戦場に置いて犯罪行動(戦乱に乗じた犯罪者への私刑とのこと)から、外部操作による機能停止。
逮捕され、軍法によって刑判決を受け、E兵器をシンプルな手段でせる試製魔術兵器のテスト台とされたという。
彼を葬った事で、その兵器と呼ぶのも躊躇われる様な小さなナイフ、
しかし僅かにも罪ある者が握れば腕が焼け爛れるほどの強い魔力を宿す魔術兵器は、
「ホワイトアッシュ(白木)」と呼ばれるようになった。
…などともっともらしい話が語られているが、彼が実在したかは不明。都市伝説の類である。
・試製〜汎戦闘種・狼型
E兵器が基礎技術を確立し、満を持して作られた哺乳類結合種の汎戦闘種。
伝説の月夜に狂う狼男、ではなく、兵士に対し狼という本能や能力を与える目的の物で、
一般的なE兵器としての能力だけにとどまらず、嗅覚・聴覚等の補佐能力もまた強力なものとなった。
懸念されていた精神融合の部分に関しても、体系の中にある兵士としてはむしろ好影響となり、
E兵器のなかでは最も数多く生産されることとなった。

28 :
“悪漢をやり込めた”ことで、調子に乗っていたのは間違いなかった。
同じ道でも、先日とは打って変わって、静一の歩みは軽いものだった。
だがしかし、その後ろを歩く美梨は。
そして静一は、振り返ってしまった。林の中の道の暗がりにいる彼女を。
静一は理解できなかった。その微かな不機嫌を押しして、明るく努めて問いかける。
「なんだよ美梨…、なんで難しい顔してるんだ?」
問いに怯えるように一瞬俯いた美梨は、低く視線を迷わせた後で短く呼吸をし、
酷く苦しそうな顔で、そして口を開いた。
「…“静一さん”は、解決だと思われますか?」
最初は意図が掴めず、すこし考えてから、応える。
「あんなに派手に、軍法にもひっかかるような犯罪をやったんだから、
あいつはもうエビルと関わることすらできなくなるよ。」
社会にあるとしてもE兵器は軍に属する。それを軍家に害意を持つ者が利用するのは認められない。
それが子供であれば始動する立場の親にも責が行く。それぐらいのことは静一も知っていた。
だが、すぐに美梨が返した
「そうですね、確かに彼らは十分な報いを受けるとは思います。
でも、そうではないんです。」
完全に分からなくなった静一に向かって、続ける。
「あの後、先生たちの話し合いを聞いてしまったのですが、
あの命令をしていた人は最近、少し辛い事があったらしいのです。」
段々、不機嫌を隠せなくなった静一が、語気も強めに反論する。
「自分が嫌なことあったからって、エビルにひどい事をしてもいいっていうのかよ!」
悲しそうな顔で呼吸を整えた美梨、
「それは勿論悪い事です…。でも少しすれば元に戻ったと思います。」
不可解な回答に、静一は怒りを混ぜる。
「戻るって、またエビルをオモチャにするみたいな状態だろ、そんなのがいいわけないだろ!?」
美梨は、一度答えようとして、俯いて躊躇う、しかし
「そういうのは…、長く続かないと思います。親とか大人の人から咎められて、それでおしまいだと。
でも静一さんの行動で、戻らなくなってしまうかもしれないのです。二度と、元に。」
抑えきれなくなった静一が、美梨に駆け寄り、両肩に掴みかかる。
「平気!?酷い事をされて、させられて、苦しくても、悲しくても?それを元に戻す!?」
間近にした静一に目を伏せた美梨は、一言一言を苦しそうに
「…はい。私は、いじめられていた彼と、同じ型の、狼のE兵器です。」
「…え?」
何故それがここで話に含まれるのか、分からなかった。
「静一さん、あの後、彼を見ましたか…?」

29 :
「茫然として、酷く後悔した顔をしてました…、今すぐにでも消えてしまいたいような、そんな事を思っていたんだと思います。」
静一に理解は、出来ない。
一方で、美梨は、何かを心に決めたようだった。
「私たちは、狼、いえ、“犬”です。犬は、どのような飼い主でも、離されるのは最も辛いことです。」
嫌な響きに、少年は息を呑む。
「さっき、静一さんも彼を犬と呼んでいました。それが本来あるべき姿なんです。」
少女は強く言い切った。そして更に続ける。
「私はE兵器。あなたたちの道具で…。」
「やめろ!」
考えたくもなかった、親しい少女の直視できない一面を自身に語られることが許せず、
静一は遮るための叫びをあげた。
「美梨は…、そんな、悲しい事を言うなよ!ずっと、ずっと家族なのに!」
答える、兵器の娘。
「家族、ですよ。…でも、私は“人”では、ありません。首輪の中で命令どおりに生きるE兵器です。」
2人の距離は1メートルも離れていなかった、少女は思惑あってそこに壁を作ろうとした。
少年は、そこに壁などあって欲しくなかった。
首輪に囚われた大切な“人”を、取り戻さなくてはいけなかった静一は、無理に2人の間の歯車を回す。
「関係ないよ!大切な家族で、そばに居て欲しいんだ。」
まっすぐな気持ちをぶつければ、という思いは浅はか。
少女の悲しそうな顔は、より一層深くなった。
「一生、静一さんのそばに居させて頂きます。ですが、大切な人には、なれません。」
ずいぶん前から激しく打っていた心臓の音が、ひときわ重く、静一に響く。
彼女は自分の物になるということなのに、とても大切な何かが手に入らない。
自分の物にしたいのではない。彼女が、道具ではなく人間でいてくれれば。
他は何もかも否定されてもよかった。自暴自棄も手伝って、歯車を逆に回す。
「…美梨、おまえのエビルの、姿を見せてくれ。…バ、バケモノ、なんだろ?林の中でいいから!」
美梨は体を震わせる、予想外だったのだ。
「それは…、あの…、今は。」
そうだ、抵抗してくれ、聞けない命令もあると。
「できないだろ!?」
やった!これで…
「…すみません、服や靴が破れてしまいます。これは、おじさまから頂いた物です。」
…止まって、たまるか。次は、ええと。
「…ふ、服を脱げばいいだろう!」
後悔が強い鼓動を引き起こす。
少女が、この命令を聞いてしまうのは駄目だ。しかし。
「わかり…、ました。」
止めてくれ!と言いたかった。すぐにでも。
だが、命令を跳ね除けさせるのが今の目的なのに、覆す命令をしたら意味がないのじゃないか?
思考が酷く絡まって声も出せなくなった少年から少し離れ、
木陰に入った所で、少女は着衣を一つ一つ身から外して、丁寧に折りたたんでゆく。
すぐに、素肌の肩が晒される。昨晩見た、右の肩。その下の…乳房。

30 :
裸の少女が、林の中に立っていた。
いくらかの場所だけを腕で隠しただけの姿で、いかなる思いかも読み取れない面持ちで少年の方を見やる。
「あ、あう…あ、は、早く、エビルの姿!」
獣毛に覆われた獣の姿になれば、人の姿としての破廉恥さは薄れるはずだと思い、嫌な命令を重ねてしまう。
そこで少しの恥じらいの欠片を見せた少女の姿が、歪む。
両手、両足、両腕、両脚、先から毛が覆ってゆく。骨格も人と獣の間の形に捩れてゆく。
鋭い爪、長く尾が伸び、腹までを毛が包んだ所で、恥部は隠れ人目につかなくなる。少年は息を付く。
苦しくは無いのだろうかと気に出来る余裕も。
しかし首元は温かく飾った狼の毛は、少女の乳房の形や先端は隠さなかった。
頭髪は狼の銀、耳も獣のそれに置き換わり、獣毛が輪郭や頬を飾ってはいるものの、
顔自体は人のそれのままだった。静一の心臓は穏やかにならない。
「これで…、いいですか。」
姿を変えた美梨は、いつもどおりの声で、問いかける。
ああ、どうすればいい、これ以上の、絶対に抵抗してくることなど…。
理屈は、だんだんと崩れていた。静一はふらふらと獣の美梨に近づく。
欲情していたのかもしれない。彼女の裸に。
手に入れたかったのだろう。彼女の体だけでも。
何も言い訳できない。
裸に触られるのは、耐えたのだろうか、伸ばされた手を受け入れ、先ほどのように両肩を掴まれる。
「…こ、このまま、抱かせろ。」
吐き捨てるように、言う。もう、どうすれば。
「…かまいません…。」
逃げてほしい、嫌がってくれ。
木に押し付け、獣の娘を屈ませる。ベルトに手をかけて、いくらか手間取った後、
下半身につけた衣類を纏めて脱ぎ落とす。雄は既に機能していて、人の少年は恥と悔いを増す。
どうすればいい。
獣毛の足を押し広げる。持つ力なら人の力などではびくともしないはずなのに。
多くの場所は毛に覆われていても、生殖器と排泄器の部分は粘膜が覗いていた。
体を進め、広げた足の間に割ってはいる。体だけ見て、彼女の顔を見ないように。
何も抵抗されない。
体を固定するために、相手の腰に置いた右手を滑らせ、足の外側から手探りで内側に差し替える、
手が内腿に触れると毛の質が違う、柔らかく温かい。
止まれない。

31 :
腕に自分自身が当たり、次いで、手が少女の奥に届き、指で、探る。
そこは毛や肌とは違う、粘りついた。びくりと震えたのは、間もなく失う乙女ではなく、雄の方だった。
10と少しの年齢で得た、偏った知識しかなくとも、雄が後押しする。
穴が、ある、はず。
「…け、汚してやるからな。」
まるで欲を受け止めるだけの人形のように、美梨は体を開き続ける。
柔らかな毛に包まれたスリットの中、絡みつく粘膜の間を二本の指で探る、
人差し指は押し出されたが、延ばした中指の先が、ぬるりと滑る。
指に力を籠め、乱暴にもぐりこませる。胎内は、熱い。
痛くなるように、乱暴に、乱暴に掻く。美梨の体が撥ねた。
だが、そこまでだ。制止もされない。後はもう、残っていない。
美梨の膣内から指を引き抜いて、自由になった右手で雄を握り締める。
圧し掛かった。顔は肩のほうに食いつかせ、美梨の顔を見ずに済むように。
獣根を、美梨の体に押し付ける。先端の粘膜に彼女の腹の毛が絡み、少し痛い目を見た。
見えないので、少し苦労して、やっと探り当てる。美梨の粘膜。
突き込もうとした。だが、美梨の秘肉は受け入れず、押し返され、逸れる。
摩擦で、より雄の獣性が猛る。
もう一度、やはり駄目だ。押し当てるまではいっても跳ねる様にはぐれてしまった
次のは尻の排泄器の方へ、次のは粘液にはぐらかされてスリットをなぞる。
次も、その次も同じ、美梨のクレバスに従って押し出される。呼吸ばかり激しくなって、上手くいかない。
ただ、押し出された獣根が何がしかに触れるようで、美梨の体が震えるのは分かる。
美梨の入り口を指で検める、と、そもそも受け入れる角度が違う事にやっと気付いた。
自身は体を起こして、両脚を抱えるようにして美梨の体をを引きずり寄せ、
腐葉土の地面に完全に寝かせ、もう一度圧し掛かる。
もう、目的など忘れ、獣性に支配されていた。
押し当て、押し付ける、少し違うのがわかる。窪みに食い込んだ感覚がある。
粘膜と粘膜、潤滑する粘液が足りず、酷い痛みが走る。
と、恐ろしい、というような感覚が走った。
支えが無くなって、食い込む。先ほどの痛みのまま、男性器の粘膜が全て引き剥がれたのかと思った。
熱い。美梨の胎内に居た。
「は。ははっ。」
静一の頭の中に、自分の方がよっぽど獣だという感覚が湧き、
そして次の瞬間、本能にかき消される。

32 :
押し込んだ。美梨の股の、奥の奥まで。
獣根の鰓には、上方から少し固めの内組織が重量をもって圧し掛かり、粘つく誘惑と摩擦を与える。
それが彼女の子宮口だとは、知るはずもない。ただ快楽を求めて擦り付ける。
奥の奥、熱い粘膜の中に頭を埋めきり、そこから引き、鰓を粘膜に滑る子宮口と絡み付き誘う襞に吸い付かせる。
幾度かは、引いた勢いのまま膣口からはぐれ出た、淫猥に湿った音を立てて。
掻き出された粘液が、内股の柔毛を汚すが、気にも留めずに、また、肉襞を貫きに戻る。
静一は上半身の服も強引に脱ぎ捨てていた。肌が、彼女の毛皮と擦れる。
肌から滲み出た汗が、艶のある毛皮に染み込み、毛玉になるように絡ませ、べた付かせる。
逃げもしない、温かい体。
手のひらはいつの間にか、乳房をとらえていた。毛で手触りこそ違う。
とてもあつい。しかし同じものだと分かる。逃がすまいと乱暴に握り締める。
獣の少女はただ受け入れるまま、人の少年は強引にそれを貪る。
少年は欲楽に導かれて、それを味わうだけの単調な動きに囚われていった。
強い刺激のため、少女の体にぶつけ当て、擦りつけ、彼女に沈め込む。
男になったばかりとしてはよく堪えたほうだった。
その時には、完全に雄が体を動かした。腰は雌を捉えて深く食いついた。身動きはとれなくなる。
どこか管が弾けるのではないかと思うほどの量の半液体が、獣根を湿していた粘液を押し抜け、
それを受け取る外の器へと注がれる。幾度か脈動が続き、捻り出す。
だが、あともう一滴、出せずに留まってしまったような。
しかし、十分。いや、やり過ぎた。汚しきってしまった。
全身の筋肉が無理な動きをしたと悲鳴を上げ、思わず、呻き声を漏らした。
悔やむ気持ちが覆い始めた体を、ゆっくり離そうとした、その時
それまでは獣根を優しく包んでいた粘つく肉襞が激しく絡み付き、管の中に残った精液を搾り取った。
あわてて身を離すと、急激な抜き取りのためか、美梨の秘所からは多くの粘液も共に引きずり出され、
彼女の、白めの毛に覆われた尻と、その下にあった尾を、酷く汚した。
露になった白くべた付くその液体は、静一に、罪を告げていた。
美梨は静かに涙を流していた。
その涙に、どのような心が混じっているか、静一は気付けなかった。

33 :
というわけで、「静一くんの視点」編完了です。
調子が良けりゃ、「美梨ちゃんの視点と内心」編も上げられるんだけど、
今日明日に出来上がらなかった場合、ちょっと忙しくなるんで来月頭まで無理かもです。

34 :
>>33 GJ!
美梨タソかわいいけど、切ないな。このままずっと主従関係になってしまうのか

35 :
蝗と蜘蛛と蝙蝠は仮面ライダーのパロディ?
蜘蛛もスパイダーマンっぽいけど

36 :
パロディというか、オマージュなのか。ごめん、元ネタあんまりわからない
獣化→えっちの流れはよかったよ

37 :
前スレ落としてしまいました。
前スレの658さん、忠告読み飛ばしてしまいすみません。
完全にこちらの確認不足でした。

38 :
>>37
埋め乙です
保管庫はどこかにDAT上げて管理人さんに依頼すればいいのかな
やったことないのでわからないけど

39 :
新スレ移行しましたので、改めて注意書きなどを。
カワウソ族の女の子と、オオカミ族の青年の絡み。
性奴隷モノです。ジャンルに付き物の描写は一通りあると思うので、
苦手な人はトリップまたは「かわうそ」でNGを。
自然災害ネタがありますので震災などで強いトラウマのある方もご注意下さい。
プロローグ+第1話〜第6話は前スレに投下。>>1の保管庫に収録していただいてます。
(現在、4話までしか収録していただけてないようです。
 渋に改修版が全話ありますので、アカウントお持ちの方はどうぞ)
残り3話+エピローグですが、どこかにかなり過激?な描写が入る予定です。
投下開始時に想定していたより時間が取れなくなってしまったので、
間が開きながらの投下になりますが、お付き合いください。

ということで、かわうそルルカの生活 第七話です。
前回が一番・・・と言いつつ、今回も前半はキツい話になってしまったような気がします。
でも、きっと辛いことばかりじゃないよ!


40 :
     【7】 −水掻きのついた手−
 広場に射す陽の傾きが、一夜明けたことを物語っていた。
 随分と長い時間、気を失っていたようだ。
 ルルカを現実に引き戻したのは、お腹の中に感じるちくちくする感覚──、表面に小さなトゲが並
んだ猫科のペニスだった。三人組の黒豹の男たちがルルカを使用していた。
 ルルカを後ろから犯していた男は、意識の無いルルカをペニスで貫いたまま、体を洗うプールに浸
けようとしていた。目の前に、水面に映った牝獺の姿があった。きれいな乳房から上の鏡像は、あの
自分にそっくりな牝獺に見えた。驚いて水面を叩いたルルカの手の先で、像はめちゃくちゃに崩れて、
消えた。
「やっと目が覚めたか」
「鳴き声を聞かないとそそらないからな」
 ルルカは頭を水に突っ込まれるのをすんでのところで免れた。過去にも何度か同じようにされたこ
とがある。息が長く続く獺族とはいえ、意識を失った状態で水に浸けられては堪らない。
 またいつもの日常に帰ってきたんだ──。
 毒の副作用か、ぼんやりとした頭でルルカは記憶を辿った。毒針を打たれ、ジエルとウォレンに続
けて犯されたことは覚えている。ウォレンに口を塞がれ、苦しくなって……。その後、何があったの
だろう。ウォレンと何か言葉を交わしたような気がする。
(そうだ、おさかな……。あれ……?)
 ルルカは口元に手を当てた。あのとき感じたはずの不思議な味の食べ物──。口の中には、一切の
痕跡が無かった。
(思い出せない……、何も……)
 しっとりと甘い魚の味も、匂いも、ルルカの記憶には残っていなかった。舌先に感じたと思った噛
み砕かれたその食べ物の形も──。あれは夢か幻だったのだろうか。きっとそうに違いない。そもそ
も、ウォレンがルルカに魚を食べさせる理由が無いのだから。事実が無ければ、思い出せるはずもな
い。
 ウォレンは反抗した牝獺に制裁を加えると言った。ルルカは犯されながら何度も呼吸を止められ、
そのまま気を失ったのだろう。
(あれは……、私の願望が見せた、ただの夢──)
 薄っすらと血の匂いがした。意識の無い間に、殴られたのかもしれない。
(そうだね。私にはこんな匂いがお似合いなんだ──)


41 :
 ルルカを犯していた黒豹族の男は、一旦ルルカの中からペニスを引き抜き、その逆立ったトゲで膣
の粘膜を引っ掻き、ルルカに悲鳴を上げさせた。
「一回の使用で射精一回って決まりだよな。まだ出してないぞ」
 射精の時間が短く、精液の量も少ないことをコンプレックスにしているせいか、猫科の獣を祖先に
持つ一族は、時間をかけ、たっぷりと牝獣の体を弄んで楽しむことを好んだ。ざらざらした舌で牝獺
の性器や乳房を舐め回し、出し入れが出来る特殊な爪を持った手で体のあちこちを撫で回しつつ、と
きおり爪を食い込ませる。
 今ルルカを犯している男は、後ろから牝獺の小さな体をしっかりと抱き直してペニスを再び挿入す
ると、乳房を強く押し潰すようにして揉んだ。そして、乳首を指先で摘まみ上げると、意地悪にも、
そこにゆっくりと爪を立てる。
 ルルカは、あの牝獺の乳首を貫通していたリングのことを思い出し、ぞっとした。あれは夢ではな
い。毒針を打たれる前にルルカが見たこと、聞いたことは疑いようのない現実──。
 心臓がドクッと脈打ち、体を巡った血が、ぼんやりしていた頭を覚醒させる。ルルカははっきりと
見た。もう一頭の牝獺、ミルカの体に施された加工の痕。聞かされた、獺族の最期。自分があと八か
月ほどしか生きられないこと。ルルカはこれまで、人のを意識することはあっても、自分がこの世
から消えて無くなることについて、考えたこともなかった。それだけに、あの狼族の言葉は重く圧し
掛かる。
 ルルカは頭をぶるぶると振って、嫌なことを忘れようとした。昨日のあれは、これまでで最悪の"お
つとめ"になった。今、黒豹の男にペニスを挿入され、体のあちこちを弄ばれていると、馴鹿族に犯さ
れた恐怖が甦ってくる。自分と同じように彼らに凌辱されたミルカのことも、どうしても頭から振り
払えない。
 彼女を連れてきた狼が、馴鹿たちに語っていた。ルルカにそっくりなあの娘は、肉の市場に近い大
通りの端に繋がれているらしい。彼女がシエドラに捕らわれたとき、牝獺を補充する先がそこしか空
いていなかったからで、この器量なら広場に繋がれていてもおかしくない、と狼は自慢げに言った。
 広場ほどでないとはいえ、人通りの多い市場の近くでは、彼女の体が蝕まれるのにそう時間はかか
らなかっただろう。使い込まれて緩んだ体に活を入れるために加工が施されたとき、彼女を襲った恐
怖は想像を絶するものだったに違いない。
 ミルカを意識すればするほど、ルルカの体は敏感になっていくような気がした。乳首が固くなり、
猫科の爪が食い込む痛みがズキズキと響いた。痛みの中に、ルルカを興奮させる妖しい刺激があった。
この感覚を、あの娘はずっと感じ続けなければならないんだ──。
 ルルカは小さな手で顔を覆った。ミルカのことを思うと胸が苦しくなった。獺の手では決して外せ
ない金属のリング。あんなものを体にぶら下げて生きていくなんて。体の敏感な部分にかかる不気味
な重さを、ルルカは想像せずには居られない。特に股間に着けられたリングは──、直前にウォレン
の手で体を突き抜けるような快感を味わわされていただけに、永久に体に刺激を与え続けるリングの
存在は恐怖だ。
 ルルカは自分の空想に耐えられず、身を捩った。それは勢い、男のペニスを締め付ける動きになっ
てしまった。
「何だ? 反応が良くなったぞ……?」
 黒豹の男はそう言って、あろうことか、ルルカの陰核に爪を突き立てた。
 ルルカは悲鳴を上げ、再び気を失った。


42 :
 太いペニスが、お腹の中を擦り上げている。いつの間に別の男に変わっていたのだろう。それは草
食獣の逸物の感触だ。四つん這いの姿勢で犯されている。胸環の鎖を引き上げられ、起こされた顔を
周囲の景色に向けた。見慣れないテントと食べ物が積まれた陳列台が視界の片隅に映る。ここは、肉
の市場、ラムザ? だとすると、自分はルルカではない──。
 射精を終えた男が、離れていく。次に待っている者は誰も居なかった。
 首を曲げ、きれいな形の乳房を見る。お尻をついて股間を覗き込んだ。体のどこにも小さな金属の
環は嵌められていない。ルルカにそっくりの美しい牝獺の姿。ルルカの体と違うのは、陰核がはっき
りと分かるくらいに赤い肉の襞から飛び出しているところだけだ。自分は、"加工"される前のミルカ
なんだ、と思った。
 いつも行列を作っているはずの人たちが、遠巻きにして自分を見ているのは何故だろう?
 ミルカを指差し、ニヤニヤと笑っている者も居る。男たちの口は動いても、声は聞こえなかった。
音の無い世界にミルカは居た。獺槍を構えた豹頭の男が二人、灰色の衣装を着た狼が一人、ミルカに
近付いてくる。通訳のクズリは居ない。不安に包まれるミルカの前で、突然、何かの準備が始められ
た。
 石畳に開けられた穴に、木の柱が立てられた。横木が括り付けられ、十字の形になる。忌まわしい
記憶の中に同じものがあった。それは、儀式で子宮に狼の精液を流し込まれた牝獺を磔にした十字架
だ。永久に発情し続ける体に変化していく恐怖におののいたあの夜の──。
 股間の位置にあった正面に突き出した棒は用意されなかった。代わりに足を大きく開いて固定する
ための横木がもう一本、十字架の根本に据えられた。
 ミルカはあのときと同じように、十字架に磔にされた。ミルカがわずかに暴れることも許さないと
いったように、腕や足首だけでなく、両肩と太ももの付け根にも縄がかけられ、入念に縛り付けられ
る。
 濡れた布で乳房が丁寧に拭かれた。
 何故──?
 布で擦られた刺激に固くなった右の乳首を、豹頭の男が摘み上げた。男のもう一方の手には、鋭く
光る長い針が握られていた。ミルカがそれに気付いて驚く間もなく、その針の先は彼女の乳輪と毛皮
の境目を真横に貫いていた。
 音の無い世界では、彼女自身の悲鳴も聞こえなかった。ただ、叫んだ喉が張り裂けるように痛い。
 ミルカは自分が何をされているのか、理解できなかった。シエドラの住人は何のためにこのような
酷いことをするのか──。以前と比べて膣の締りが悪くなったと男たちが噂していたことなど、ミル
カは知らなかった。儀式が終わって以来、誰とも言葉を交わしたことが無いのだ。公用語を話せない
種族は憐れだ。何も知らされぬまま、ただ不安に怯えるしかない。
 針が引き抜かれるのと同時に、乳輪を突き抜けた穴に金属の棒が通される。乳輪の広がりよりも少
し短いくらいのその棒の両端に小さな金属の球が嵌められた。胸環を嵌められたときにも感じた、金
属が噛み合う不気味な衝撃。ミルカは、その装身具は二度と外せないのだろうと直観した。ちょうど
乳輪を指で摘み上げたような形に変形させるその道具は、男の手が触れなくても牝獺の乳首を常に刺
激する効果を持つ。
 痛みが和らぐと、すぐに乳首が固く勃ってくる。その乳首の根本に新たな針が近付けられるのを見
て、ミルカは絶望の呻きを上げた。抵抗を奪われた牝獺の乳首を、針は易々と貫通する。その穴に今
度はリング状の金属が嵌められる。右の乳房が惨めに飾られ、ミルカは神経を常に刺激し続けるその
装身具の不気味な重さに震える。右の乳房が飾られたなら、当然、左も──。ミルカは覚悟したが、
だからといって全身を引き裂くような痛みがさらに二度、身を襲うのを我慢できるものではなかった。
 股間が布で拭かれ、ミルカは『うそ、やめて』と口に出して叫んだ。自分でも分かっている。最近、
特にそこが大きく肥大して飛び出してきていたこと。
 男がニヤニヤしながら、指の先で光る小さな金属片を見せ付けた。それは円いプレートのようで、
中央に穴が開いている。その穴は、ミルカの陰核をほんのわずか締め付ける程度の大きさのものが選
ばれていた。プレートがミルカの飛び出した陰核に嵌められた。それはリングを通した陰核を常時刺
激するための仕掛けだった。
 絞り出された陰核はもう一つの心臓のようにずくずくと脈打った。悪趣味な男の一人が、ミルカの
頭を押し下げ、股間を覗き込ませる。陰核の根本、プレートすれすれの位置に、針の先がゆっくりと
近付けられるのが見えた──。


43 :
 『やめて!』と叫んだルルカは、自分がいつもの広場に居ることに気付いた。後ろから男がルルカ
を抱きかかえ、宙に体を浮かせている。腹に回された手と膣に押し込められたペニスで体が支えられ
ている。ルルカは気を失ったときと同じ恰好で犯されていた。囲んでいる男たちの毛皮が黒一色から
鮮やかな黄色と黒の斑点模様に変わっていることで、ルルカは自分を使っているグループが入れ替わ
っているのを知った。
(夢……だったの?)
 あの宿の広間で、ルルカははっきりと見た。狼に鎖を引かれたとき、目の前にあったミルカの無惨
な股間の様子──。金属のリングが突き通った陰核の根本に、確かに同じ銀色に光る小さなプレート
があった。ルルカは無意識にそれを見なかったことにしていたが、今見た夢がその存在を思い起こさ
せてしまった。シエドラの牝獺にとって、最も効果的な、そしてあまりにも恐ろしい"加工"の傷跡。
 プレートに絞り出された牝獺の陰核は、リングの重さで常に刺激され続けることになる。リングの
刺激ばかりではない、剥き出しにされた陰核は男たちの毛一本擦れるだけで敏感に反応してしまうだ
ろう。
 十字架から降ろされたミルカは足を閉じ合わせることができなくなっていたに違いない。足を閉じ
ようとすればあのプレートが陰核をさらに絞り出すことになる。恐ろしい仕掛けだ。彼女が常に足を
突っ張ったように開いていた訳が分かる。
 それにしても、ミルカの興奮の度合いは尋常ではなかった。体に嵌められたリングの効果か。ウォ
レンに股間の突起を触られたときに感じた息苦しいほどの強い快感。あれを常に感じさせられている
としたら、加工された牝獺がほとんど動けなくなるというあの狼の言葉は大袈裟ではない。
 ルルカの見た夢は、自分が目にしたことを基に記憶が勝手に創り上げた幻想に過ぎない。ただ、あ
まりにも真実味があった。ミルカの記憶がそのままルルカの中に流れ込んできたのではないかと思う
ほどだ。彼女とそっくりの姿であるルルカには、他人事ではない。想像の中と同じことが、いずれ
ルルカの身にも降りかかる。早くて半年後には……。
「こいつがこんな声で鳴くのは珍しいな」
「ああ、でもなかなかいい声だ」
 嘆くルルカをよそに、ルルカを犯す豹頭の男たちは世間話を始めた。猫科の男はよくこうして数人
でつるんで牝獺を使う。犯しつつも、牝獺の膣の感触から意識を逸らすように会話をして、なるべく
交尾を長引かせようとした。一人で来ないのは、行列の後ろから上がる「早く終わらせろ」という苦
情を人数頼みでかわすためだ。
「で、何の話をしてたっけ──?」
 男たちは、目の前の牝獺が自分たちの会話に耳を傾けているとは夢にも思わない。広場はいつも通
り行き交う人々で埋め尽くされている。群衆の中で、ルルカは孤独だった。
(そうだ、私はウォレンを怒らせて……。ウォレンは制裁だと言って──)
 ルルカは、毒針を打たれた後のことを思い出した。
(本当に独りになってしまった──)
 ルルカを犯している男は、背中からルルカの胸環を掴み、もう一方の手でルルカの腹部を支えてい
る。俯くと、呼吸に合わせて揺れる牝獺の可愛らしい乳房が目に入る。馴鹿族の男たちに殴り付けら
れた乳房は、前と変わらない形をしていた。よかった、とルルカは思った。でも、何かよかったとい
うのだろうか。
 ウォレンは、自分のこれをきれいな乳房と言ってくれた。見た目も、触り心地も、最高だと。ルルカ
は嬉しかった。ずっと胸環で押え付けられないように努力していた。
 何のためにそうしていたんだろう。母に大事にしなさいと言われたから?
 自分でもその形が好きだったから?
 母は言っていた。女の子の乳房は、大事な人にだけそっと見せるものなのだと。
 私は誰に見せたかったのだろう。見てもらいたかったのだろう。褒めてもらいたかったのだろう。
 それは、ウォレンにだったのかもしれない。彼はシエドラでただ一人、自分の言葉を聞いてくれる
人だったのだから。
 でも、もういい。私は独りでんでいくのだから──。


44 :
「──で、その"獺槍"なんだけど」
 男の口から出た、その恐ろしい言葉にルルカは飛び上がりそうになった。
「面白い話があるんだ。
 あれを誰が作ったのか、いつ作られたのか、分からないそうだ」
「へえ〜」
「世界中で数に限りがあるらしい。シエドラにあるのも三本だけだ。
 折れてしまったら、もう二度と同じものは作れない。
 ただの尖った金属に見えても、とても精巧にできている。
 特殊な研磨が施されていて、血を通す細かい溝もある。
 だから、ほとんど内臓を傷付けずに獺どもをひと突きにできるんだ」
「どうせすんだから、別にあの槍じゃなくてもいいってことにならないか」
「さあな……」
 彼らにとってはたわいもない話かもしれないが、ルルカにはそうではない。男の指が股間の突起に
触れて、ルルカは『ひっ』と小さく叫んだ。
「こいつ、前よりお豆がでっかくなってないか?」
「使っているうちにどの獺も飛び出てくるんだよ、そこは」
 豹族の男たちは、ルルカの陰核が大きくなったという話題を受けて、街の牝獺の性器の具合につい
て、品評を始めた。誰もが口を揃えて、ラムザの市場に居る牝獺が最高だと言う。
(ミルカのことだ……)
 ルルカは嫉妬を感じた。そんな評価をもらったところで、牝獺にとっていいことなど無いのに。
「この牝獺、前よりちょっと締まりが悪くなってないか?」
 ルルカは驚いて、男のペニスを強く締め付けた。
 性器が緩んでいるなんて評判が広まれば、ルルカにもあの恐ろしい加工が施される。
 そうなれば、二か月もしないうちに自分はぬ──。
 股間に力を込めた後、すぐにルルカは、しまったと思う。今ので言葉を理解できることがばれたの
ではないかと不安になった。気付かれていませんように──。緊張で息がどんどん荒くなった。
「いや、そんなことはないぜ」
 ルルカに挿入している男はそう言うと、しばらく絡みつくようなルルカの膣の感触を楽しんでから、
射精せずに引き抜いた。
「ほら、もう一分過ぎてるだろう。次はお前だ」
 豹族の男たちは、順番にルルカに挿入し、誰が最後まで射精を我慢できるか競っているようだ。手
の空いた男が、新たにルルカを抱いた男に話しかける。
「そういやお前さ、別の街に居たんだろ」
「それがどうしたのさ?」
「いやさ、他所での獺の扱いって見たことがなくてさ」
 獺槍に突かれて晒し者にされるに決まっているだろう、と問われた男は答えた。特殊な槍の先端は、
内臓をほとんど傷付けない。そのまま数日間生き長らえる獺の因は、衰弱か餓。失血は稀だ。
垂直に立てられた槍の上で、成す術の無い獺は、見世物にされる。
「そういや、こんなのがあったな。
 牡と牝の獺が捕えられたんだが、並べた槍が近過ぎたのか、
 二頭が手を繋いでしまってさ、離さないんだ。
 きっと夫婦だったんだろうな」


45 :
(それはいつの話なの?)
 夫婦、と聞いてルルカは思わず尋ねたくなった。この一年以内の話なら、自分の両親かもしれない
のだ。
「住人は大激怒さ。
 槍を離して、その後、二頭の性器を激しく責めた。
 ああ、獺は槍で突かれる前に丸裸にされるんだ。知ってるだろ?
 まず、刷毛のようなものを棒の先に付けて性器を刺激したんだ。
 牝獺ってのはすごいもんだな。そんな状況でも感じるのか、
 最後には淫水を撒き散らして喘いでた。
 獺って生来、交尾が好きなんだ」
 男は、ルルカの聞きたいことは全く語ってはくれなかった。
「牡の方は最初勃たなかったが、射精できたら精液を牝獺の膣に入れてやるって、
 通訳が言ったらさ、必になって射精したよ。
 空中で腰を激しく振ってな、刷毛にあそこを擦り付けてた。
 ちんちんだけじゃない、普段は見えない睾丸も飛び出てくるんだ」
「どうせぬのに、精液を牝獺に入れても仕方ないだろう」
「精液はそのまま地面に垂れ流しだったけどな」
(酷い……)
 獺槍に突かれた獺の運命は、ルルカがかつて聞かされていたものより、ずっと悲惨だった。父獺が
ルルカに語らなかった生命を繋ぐ神聖な部分への嗜虐的行為は、そのまま精神への冒涜となる。
「いい思いをした後は、思いつく限りの先の尖った物で体を突き刺されてさ、
 おっぱいも性器も……、狙い澄ましたように小さな陰核にもさ。
 血が穴という穴から噴き出して、それでもすぐにはねないんだ、獺は。
 牡の方は睾丸を叩き潰されていたな。
 そのうち飛び出たアレの先端から血の混じったドロッとしたものが垂れてきてさ、
 いやあ、残酷、残酷」
「そんなの見たのに、お前、よく勃つな」
「いや本当、シエドラに来てよかった。獺がこんな風に使えるなんて。
 槍で突いた牝も、みんな一発ずつヤればいいんだ」
(もうやめて……)
 ルルカにとって、その話は他人事ではなかった。言葉が通じることが知られたら、ルルカも獺槍に
刺されるのだとウォレンは言った。それ以上のことを彼は語らなかったが、すぐにはねない体を晒
し者にされることは間違いない。この男が語った獺に対する私刑は、どこでも普通に行われているこ
とかもしれない。
「ちょっと、不思議なんだ」
 男が最後に一言付け加えた。
「牝獺の方は、言葉が分かっているみたいだった」
「まさかぁ」
 ルルカは愕然とする。
(お母さん……? うそ、うそよ……)
 話の中に出てきた牝獺は、自分の母かもしれない。そして、もう一頭の牡は、父かもしれない。あ
の優しくて、誇り高い両親がそんな惨めな最期を迎えていたかもしれないなんて。
 二人は、自分を囮にして逃げた報いで、そんな目に遭ったのか──、ふとそう思って、ルルカは頭
を振った。
(お父さんとお母さんは、そんなことしないよ……)
 また両親を信じられなくなっている自分が悲しかった。


46 :
 母が公用語を話せたということは、母と自分以外にも公用語を習得した獺がどこかに居るというこ
とだ。ルルカはそう思うことにした。両親のことを心配してばかりも居られない。ルルカ自身にも重
い現実が圧し掛かっている。
 豹族の男たちが、全員、ルルカの中に射精を終えて離れていく。ルルカは地面にお尻をぺたりとつ
け、体を洗うのも忘れて俯いていた。しばらく誰も近寄ってこないことに気付き、周囲を見渡す。人
々が遠巻きにしている様子に、ルルカは驚いて身を起こした。まるで夢の中で見た、ミルカが"加工"
される直前の光景だった。しかし、怯えるルルカの前に現れたのは獺槍を携えた豹頭の執行人ではな
かった。
『ジエル……?』
 昨日の今日でまた彼に会うことになるとは思わなかった。
 ルルカは股間から豹たちの精液を垂らしたまま、恥部を晒す獺のポーズを取る。恥ずかしいが、体
を加工されるよりはずっとましである。
『何をされるの……? 私……』
 ジエルは、それには答えず、やれやれといった風に手のひらを返してみせる。
『お前は本当、分かんないやつだな。
 会話をしちゃだめだって言ってあるだろう。
 他の牝獺は俺たちに話しかけてきたりしないぞ』
『あ……、はい……』
 まあ、いいか、と彼は言った。
『どうせそこらに居る連中に獺語は聞き取れないんだ』
 牢に居たときによく会話をしていたからか、儀式のときの反抗的な態度からか、ジエルはルルカを
特別に思っているところがあるようだ。あるいは、広場の牝獺が長く生きられないことを知っている
からか。
『あの、ウォ……』
『なんだ?』
 ウォレンの名前を言いそうになって、思い止まる。さすがにルルカも、これまで以上に慎重になっ
ていた。
(私がウォレンの名前を知ってたらおかしくないかな。
 えっと、確かジエルが獺語の発音で「ウォレンの旦那」って言ってたよね)
『……あなたがウォレンって呼んでた人は来てないの?』
『今日は見かけないな』
『そう……』
『獺語で狼族の名前なんて覚えたって、何の意味もないぞ?』
 ルルカは落胆しつつも、心のどこかでほっとしていた。ウォレンに謝りたかった。ただ、その後の
彼との関係がどうなるか、確かめるのが怖かった。


47 :
 ジエルは抱えてきた荷物の包みを解き、何かの準備を始める。ルルカには『後で説明する』とだけ
言い、作業を続けた。
 石畳に柱が立てられるのを見て、ルルカの背筋が凍った。しかし、それは、牝獺を括り付ける十字
架にしてはあまりにも低い。短い獺族の股下よりも少し低いのだ。地面すれすれに括られる横木の方
がまだずっと長い。柱の頂点に、ルルカのよく知っているものが据え付けられた。
(これは……)
 表面に無数の突起が付いた、樹脂の塊。ジルフに言われて膣に出し入れしていたあの道具。それは、
獺の窯牢で最後に使っていた一番サイズの大きなものだったが、ウォレンのペニスに慣らされた身に
は随分と小さく見えた。
『ほら、ちんちんの代わりだ。下の口で咥えるんだ』
『下の……?』
『お○○こに決まってるだろ、ほら』
 ジエルがそう言って、ルルカの胸環を引いた。柱の真上に股間が来るように立たせ、しゃがめと命
令する。膣口に樹脂の性具が触れるのを感じて、ルルカの心臓はどくんと脈打った。体の奥からじわ
りと愛液が滲み出るのが分かる。相変わらずだった。ルルカの発情した体は、男たちの凌辱の手から
離れたときほど強く疼いた。
 突起だらけの性具を求めるようにルルカはゆっくり腰を下ろして、それを飲み込んだ。『ああっ』
と声が漏れる。懐かしい感触だった。牢の中で自慰にふけったときのことを思い出してしまう。生身
のペニスよりもルルカは感じてしまうのだ。
 体を洗っておけばよかった──。量は少ないとはいえ、最低でも三人分の猫科の男たちの精液がお
腹に溜まったままである。グジュグジュと音を立てて、精液と愛液の混ざった液体が漏れ出した。
 ジエルは完全に道具を膣に咥え込んだルルカの両足を掴んで開き、膝を立てさせて足首を横木に縛
り付けた。ルルカは大きく足を開いて地面に固定されてしまった。柱の先端の道具はちょうど子宮の
入り口の高さにあり、楽な姿勢を取ろうとすると、ルルカはその部分に体重を預けるしかない。
『うう……』
 もう妊娠することはできないと言われた子宮を意識させられ、ルルカは呻いた。
 ルルカを拘束したジエルは、しばらくそのまま立っていた。牝獺の裸の体を視線が舐め回す。ルル
カは今更なのに、乳房や飛び出した陰核、粘液でべとべとになった太股を見詰められ、恥ずかしさに
消え入りそうになる。
『見ないで……』
『そうは言ってもな、止められるものじゃない』
『そんなに獺族が憎いの……?』
 ルルカの問いに、ジエルはしばしの沈黙を挟んで、意外なことを言った。


48 :
『そりゃあ、お前が可愛いからに決まってるだろう』
『えっ?』
『皆に聞いて回ったわけじゃないが、少なくとも俺はそう思ってる。
 誰だって可愛い牝とよろしくやりたいのさ。憎いわけじゃない』
 そんな風にちょっと涙を滲ませてるところなど、最高だな、とジエルは言った。男たちにとって、
獺族は小柄で従順な生き物だ。毛皮はとびきり美しく、可愛らしい小さな頭に、形のいい乳房。そん
な体に不釣り合いな熟した果実のような性器。そういう牝が、いつでも牡を受け入れるとなれば、使
いたくなるのが当然だ──。
 ルルカは戸惑った。ジエルの言葉は、獺族が恨まれているから、自分も迫害され続けているのだと
いうルルカの認識と大きく食い違っていた。
『だったらどうしてあんなに酷いことをするの?』
『あんなって?
 ああ、リングを着けられた獺を見たんだな。それで暴れたのか』
 皆、過去の怨念に囚われているんだ、とジエルは言う。確かに儀式のときは、シエドラの民すべて
が獺族に対して憎しみの言葉を投げ掛けた。しかし、家畜の証を獺の体に刻んで、動物と変わらぬ身
分に落とすことで彼らは満足するのだ。獺の方は、人としての資質を剥ぎ取られ、獣の身に堕ちたか
らこそ、こうして生きることが許される。シエドラは長い時間をかけて獺をさず利用する方法を編
み出してきた。どうしてそれが始まったのか、今はもう誰も知らない。シエドラ以外では獺族は見付
け次第すことになっている理由がはっきりとは分からないように。
『皆、生まれたときからこうやって牝獺が繋がれたシエドラに暮らしている。
 当たり前すぎて、大昔から続いてる仕組みに誰も疑問を持たないんだ。
 いや、おかしいとは思ってもただ惰性のまま習慣を続けてるのさ。
 放っておきゃあ、おいしい思いもできるんだからな。
 獺槍の話を知っているか? あれは数に限りがあるそうだな。
 この世の全ての獺槍が折れて無くなるまで、お前たちへの迫害は続くのかもしれん。
 いや、それより先に獺族が滅ぶか……。
 そのときには、クズリ族の嫌な役目も終わるのさ──』
 ジエルの言葉は、ルルカに向けられているというより、彼の呟きに近いように聞こえた。獺族との
通訳を続けてきたクズリ族の彼には思うところがあるのだろう。
 ルルカは彼の声を聞きながら、ふと思い出した。これまでの牝獺に対する彼の気遣いにお礼を言わ
なければ。
『ジエル……』
『そうだ、俺はこんなことを言いに来たんじゃない』
 ルルカは途中まで出かかった言葉を飲み込んだ。彼の後ろに狼族の姿が見えたからだ。本来なら
クズリ族は牝獺に近付くことを許されていない。こうしてジエルが来ているということは、当然、彼
に指示を出した者が居る。通訳を必要としている狼族が居るということだ。
 ルルカは自分が、膣を串刺しにされた恥ずかしい恰好で拘束されていることを思い出した。


49 :
『お前に、というかお前たち獺全員にだが、悪い報せがある』
 ジエルは屈んで、ルルカの胸環に大きな丸い札をぶら下げた。
『……何て書いてあるの?』
『懲罰中。口を使うこと、だ』
『!?』
 口を──って?
『相手のモノに、歯を立てるな。決して傷を付けるな。
 血でも出たら、お前の歯は全部抜かれることになる』
 どういうこと──?
『鼻でなんとか息はできるはずだが、どうしても呼吸が苦しくなったら、
 相手の腕をトントンと二回叩くんだ。
 この場合に限っては触れることが許されている。
 時限は丸一日、明日のこの時間までだ。
 かなり辛いぞ。覚悟を決めるんだな』
 ジエルの大きな爪の付いた指を口に突っ込まれ、ルルカはようやく、口を使う、ということの意味
を知った。
『でも……、私はすでにお仕置きを受けているのに──』
 ウォレンがそれを遂行したと証明するために、第三者としてジエルが呼ばれたのではなかったのか。
『昨日のあれは、個人に対する制裁。これは連帯責任だ。
 誰かが掟に逆らえば、街の全ての獺に今一度、立場を思い知らせてやることになっている』
 ルルカは愕然とする。
『それじゃあ、私のせいで……』
『そうだ』
『動けない子だっているのに……』
『みんな同じだ。
 お前を含めた若い三頭以外は皆、何度も経験している。
 恨まれたりはしねえよ』
 ジエルはそう言ってくれたが、自分のせいで、シエドラに居る全ての牝獺に迷惑をかけてしまった
という事実はルルカの胸を締め付けた。悔やんでも悔やみきれない。かといって、このことをルルカ
が知っていても、あの場面で耐えられたかどうかは分からない。
 苦情が出ないように、シエドラに居る二十七頭の牝獺は三つのグループに分けられ、時間差を付け
て制裁を受けるという。今、ルルカの他に同じように膣を貫かれて身動きのできない牝獺が八頭、街
のどこかに居る。自分がその分も責めを受けるから、彼女たちを解放して欲しいと訴えるルルカを、
ジエルは軽く撥ねつけた。
「説明は終わったか?
 歯を立てたらどうなるかもな」
「へい、よく言って聞かせました」
 ジエルと入れ替わりに、ルルカの前に立ちはだかったのは、馴鹿族への"おつとめ"の最中に入って
きた、あの青い衣装の狼だった。言葉が通じないことを充分承知しているのだろうが、狼はルルカに、
こう言った。
「若いお前は、口は初めてなんだろう?
 最初の相手が狼族でよかったな。せめてもの慈悲だ──」
 どういう意味だろう──?
 その狼の態度は、初めて会ったときのウォレンとどこか似ていた。ただ、ルルカがもううっかりと
返事をしてしまうことはない。
 狼は腰の紐を緩め、ペニスを露出させた。ルルカはウォレンのときのようにそれを舐めさせられる
のかと思ったが、彼自身の手で鞘から剥き出された本体は見る見るうちに大きくなった。
「お前はあいつとよく似て可愛いからな」
(あいつって、ミルカのこと? 可愛い……?)
 ルルカは、ジエルが言っていたことが当を得ているのではないかと思った。男たちは牝獺が憎くて
責めるのではない。ただ、受け身で可愛らしいから興奮するのだと。
 まだこの先に待ち受ける苦悩を知らないルルカは、目の前に突き付けられたペニスをぼうっと見て
いた。ルルカは、このペニスがウォレンのものだったら、と思った。
(ああ、どうしてウォレンが来なかったんだろう──)


50 :
 ルルカの頭が、強い力で引き寄せられる。
 獺の小さな丸い頭を鷲掴みにして、狼はいきなりペニスをルルカの口に押し込んだ。
『んふっ……』
 狼は膝を突き、ルルカの体を前のめりにさせると、喉が水平になるようにしながら、さらに奥へ突
き入れる。硬いものが喉を押し広げ、ルルカは悲鳴を上げようにも声すら出せなくなる。
 息は、鼻を通してかろうじてできていた。ペニスの根本の瘤が、ルルカの頬を大きく膨らませると、
頭を微塵も動かせなくなった。普段こんな大きさのものを下の穴で受け入れているなんて──。子供
を産めない体にされてしまうのも、当然といえば当然だ。性器の内側の感覚はかなり鈍い。それは牝
が牡の行為を恐れないようにするための自然の摂理だ。口は膣に比べると遥かに敏感で、押し込まれ
る凶器の大きさ、固さ、表面を走る血管の一つ一つを感じ取ってしまう。
(怖い──)
 ルルカは涙をぽろぽろとこぼした。
 狼は、ルルカの喉の奥に射精を始める。ペニスはびくびくと跳ねるように上下に動き、ルルカの呼
吸を妨げる。ルルカが慌てて狼の腕を二度叩くと、彼は胸環を掴んで持ち上げ、呼吸がしやすいよう
にしてくれた。
 約束が守られていることに、ルルカは安堵した。しかしほっとするのもつかの間だった。狼の射精
は三十分以上続く。ルルカは延々と流し込まれる精液の量に怯えた。同じものがいつもは子宮に注が
れているのだ。
 狼がルルカの口からペニスを引き抜く頃には、ルルカの前に長い行列が出来ていた。獺の口を犯す
ことができる機会は滅多にない。一度試してみようと大勢が集まる。
 狼と入れ替わりに新たな男のペニスが口中に捻じ込まれ、狼が最初であることがせめてもの慈悲だ
という言葉の意味を知った。
 匂いが、味が──、膣では感じることのない強く嫌悪感を催す感覚がルルカを襲った。狼による口
虐は、性器が極端に大きいだけで、精液はほとんど無味無臭だった。それに比べ、他の種族はそれぞ
れ強い特徴を持っている。精液自体に強い臭いや、舌がピリピリするような刺激や苦みを持つ種族も
いる。クズリ族ほどではないが、性器の周辺に臭腺を持つ者もいる。そして、射精が始まれば動かな
い狼族と違い、多くの種族は牝獺の喉を膣に見立て、腰を使って擦り上げるのだ。
(ごめんなさい、ごめんなさい……)
 ルルカが暴れたせいで、同じ目に遭っている他の牝獺に申し訳なかった。リングを着けられた牝獺
は、自由の利かない体で、息苦しさのサインを上手く相手に伝えられるのだろうか。
(本当に、ごめんなさい……)
 いつか誰かの粗相で自分が罰を受けることになっても、決して恨むまいとルルカは誓った。
 男たちの行為を早く終わらせるには、舌で刺激をすればいいとルルカは本能的に気付いた。しかし、
ルルカが上手く舌を使えるようになると、その分、男たちの入れ替わりが早くなるだけだ。行列に並
ぶ人が減らない以上、無駄な努力だった。
 ルルカは絶望の中、きっかり二十四時間、休みなく、ひたすら口で奉仕を続けるしかない。
 いつもと違い、行為の合間に体を洗わせてもらうことはできなかった。膣を使う場合と違って男の
方はルルカに舐めてきれいにしてもらえるから、牝獺がどんなに汚れようと構わないのだ。
『もうしません、もうしませんから……。
 お願い……、許して──』
 口がペニスから解放される度に、ルルカは獺語で叫んだ。


51 :
 広場を囲む建物の輪郭が光り出し、朝が来たことを告げる。あと少し我慢すれば、この地獄も終わ
る──。ルルカの拘束は何度か解かれた。小便をさせるためと、お腹をパンパンに膨らませた精液を
吐き出させるためだ。日に五度の食事は、この制裁の間は与えられなかった。恐ろしいことに、それ
でもお腹は空かなかった。喉も乾かなかった。精液の大半が消化され、ルルカの体に吸収された証拠
だ。
 最後の男がルルカの口の中に精液を吐き出した後も、ルルカは大きく口を開けて次のペニスが押し
込まれるのを待った。意識は朦朧として、拘束が解かれていくのも認識できなかった。脇の下から差
し込まれた手がルルカの体を柱から引き抜き、水路の近くへ運ぶ。口の中に指が突っ込まれ、流し込
まれた大量の精液を水路に吐かせた。
 水差しの口が口元に押し当てられ、ルルカは混濁した意識のまま、母親の乳房に吸い付くようにし
て水を飲んだ。仰向けに寝かされ、誰かがルルカの口に指をかけ、開こうとする。まだ凌辱が続くの
かと恐れたルルカは、頭を大きく振って拒んだ。
「参ったな、こりゃ。通訳を連れてくるべきだった。
 怖がらなくていい。喉を診るだけだ──」
 ルルカはようやく、自分を取り囲んでいる数人の男が、ルルカを犯そうとしているのではないこと
に気付いた。
(……お医者さん?)
 丈夫な獺族にはそういう役割の者は居なかったが、シエドラに医者という職業があることをルルカ
は知っていた。何度か性器の様子を診られたことがある。ルルカは言葉が分からない振りをするため、
少しだけ抵抗をしてみせた。そして、仕方なく口を開く演技をした。
「裂傷などは無いようだね。奥が少し腫れてるようだが、すぐに治まるだろう」
 彼らが自分の健康を気遣っていることに、ルルカは驚く。消化器系を痛めれば、さしもの獺族も弱
ってしまう。だから、この特別な罰を与えるとき以外は口を性器代わりに使ってはいけない規則なの
だ。
「日付が変わるまで、ゆっくり休みなさい。
 いや、そう言っても分からないか……」
 医者の一人が、ルルカの胸の札を別のものに取り換え、そう言った。数人の医者は、ルルカの繋が
れた辺り一帯に縄で囲いを作り、誰も近寄らないようにして去って行った。
(え──?)
 ぽつんと取り残されたルルカは、しばらく呆然としていた。
 信じられない──。
 広場に繋がれて初めて、ルルカには半日近くの長い休憩時間が与えられたのだ。ルルカは近くの水
路で、精液でべとべとになった顔を洗い、ブルブルッと水を払う。そんな風にしたのは久し振りのこ
とだ。男たちの衣装を濡らさないように気を遣う必要が無いのだ。体を石畳にうーんと大きく伸ばし
てみる。誰も生意気だと言ってルルカを殴ったりしない。
(本当に、日付が変わるまで何をしててもいいんだ……)
 ルルカには不思議だった。ルルカは咎められるようなことをして、罰を受けたはずなのだ。それな
のに、こんな自由が与えられるなんて。自分以外の牝獺も、きっと自由な時間を満喫しているだろう。
しばらく悩んだルルカは、結論を出した。罰というものは、それなりに厳しくなくては意味がない。
ただ、それで獺を病気にでもさせたら、シエドラにとって損失になる。牝獺を利用するためのシエドラ
の制度は長い時間をかけて熟成されており、なるべく長く、なるべく有用に牝獺を使おうとしている
のだ。あの忌まわしい"加工"だって、悪意によるものではないのかもしれない。
 ジエルが言っていた通り、それはもうただの慣習でしかなく、牝獺が憎くて仕組まれているのでは
ないのだろう。あの断罪の儀式は、罪深き獺族がシエドラで生きることを許される儀式なのだ。だか
ら、こうして休息が与えられたのだ。
(でも、その慣習のために私たちの心はいつも押し潰されそうになってるんだけど──)


52 :
『体をきれいにしなくちゃ……』
 ルルカは長い時間、男たちの精液を洗い流さずに居たことを思い出す。昨日の猫科の男たち、その
前はウォレン、ジエルの精液も……。馴鹿族のそれも、流れ出た分以外は体の奥に残っている。さら
に前のアンテロープの男たちのものも──。ルルカは憂鬱になった。まだウォレンの精液だけなら、
我慢できたかもしれない。口を犯されることで、ルルカは狼族の精液が量が多いだけで味も匂いもし
ないことを知った。
(だからといって、ずっと洗わないでいるのは嫌だけど)
 ルルカは、疲れが残ってふらふらする体で立ち上がり、プールに近付いた。
(まだ……、血の匂いがする……)
 ふと、おかしいと思った。こんなに血の匂いがするなら、さっきの医者たちは大慌てになったはず
だ。
 何気なく胸環に手をやると、それが体にべったり貼り付いていることに気付く。
 血だ──!?
 ルルカは見慣れない量の血を見て、頭がくらくらした。胸環が当たる部分の毛皮に、大量の血が染
み込んでいる。顔を洗ったときにこぼれた水が、乾燥していた血を溶かしたのだ。慌てて環の裏を指
で探ったが、傷口も痛みもどこにもない。
 これはルルカ自身の血ではない。
 ならば──?
(まさか、そんな──、ウォレン!?)
 薄れていた記憶が、次第にはっきりとしてくる。
 ルルカは思い出した。
 ルルカはウォレンに口を塞がれて気を失ったのではない。彼は確かに、胃の中に隠してきた魚をル
ルカに食べさせてくれた。途端に、ルルカの口の中にあの魚の味や匂いが甦ってきた。
(そうだ、思い出したよ。ウォレンは魚を食べさせてくれた──)
 魚でお腹がいっぱいになり眠気に襲われたルルカの胸に、温かい感触が広がった。ルルカは最初、
眠りに落ちるときに体が温かくなる生理現象だと思った。だが、違った。それは、ウォレンの体から
滴った血の温かさだった。血はルルカの胸環と乳房を真っ赤に染めた。
「参ったな、少し興奮して傷口が開いてしまったらしい」
 ウォレンは「忘れろ」と言って、ルルカの鼻先に自分の鼻を押し付けた。
 ルルカが眠りに落ちたのは、その後だ。大量の血を見て気が遠くなったのかもしれない。
 あれは、ウォレンが馴鹿族の間に割り込んだときに負った傷だ。ルルカが気絶しているうちに、応
急手当をしていたようだが、相当深い傷だったらしい。馴鹿族が不思議なくらいに大人しくなってい
たのはウォレンに大怪我をさせたからだ。


53 :
(ウォレンは……、私を助けるためにあんなに血を流して……)
 どうしてこんな大事なことを忘れてたんだろう。ウォレンが忘れろと言ったから? その言葉が暗
示になってしまったのかもしれない。でも、思い出した。
 ウォレンは、あの恐ろしい凶器のような馴鹿族の角から、ルルカを守ってくれた。傷付きながら、
奪い返してくれたのだ。
 ルルカはあのとき、どうして止めてくれないのかとウォレンを責めたことを恥じた。
 お魚を食べさせてくれたのも夢なんかじゃなかった。この血の跡が何よりの証拠。もう一度食べさ
せてくれないだろうか。今度はもう忘れないから──。
(ウォレンが忘れろなんて言うから、本当に忘れてしまうところだったよ)
 ルルカはくすりと笑った。同時に、涙がじわっと染み出してくる。
『ウォレン、おっぱいは拭いてくれたみたいだけど、やることが大雑把だね。
 忘れろって言うくらいなら、環の裏まできちんと拭かなくちゃ──』
 ルルカは、目尻の涙を両手で拭った。そのまま頬に手を当てる。口元が緩むのを抑えらない。
 嬉しい──。
 ルルカは踊るように、プールに飛び込んだ。ぐるりぐるりと体を回転させ、汚れを洗い落とす。
ウォレンの血を流してしまうのは忍びなかったが、いつまでもその鉄臭い匂いを纏っているわけにも
いかなかった。
 体を垂直に水に浮かべて水面から顔を出す。獺族はそうやって水に浮いていることができる。その
姿勢のまま、指で性器を丁寧に洗った。指先のぬるぬるした感触が次第に無くなっていく。流れてい
く粘液の中にウォレンの精液も混ざっている。ウォレンの精液だけ残しておけたらいいのに……。
 プールを出たルルカは、陽に照らされた石畳でゴロゴロ転がって体を乾かす。
 気持ちよかった。仰向けになり、手足を広げ、陽の暖かさにまどろむ。
 冷静になってみれば、ウォレンは狼族の責務を果たしただけかもしれない。シエドラの資産を管理
する狼族は、牝獺を目の前でなせるわけにはいかないのだから。
 ルルカは夢を見た。
 夢の中で、ウォレンに抱かれていた。彼の厚い胸の毛がルルカの乳房を優しく撫でていた。
 ペニスを挿入し、とくんとくんと響く射精を続けながら、ウォレンはルルカの痺れた手足を優しく
揉んだ。
 こうすれば、早く毒が抜けるだろう。
 ルルカの小さな手を握って、ウォレンは言う。
 水掻きだ──、と。
 獺族の手と足には、指と指の間に張った膜のようなものがある。
「狼族にもあるんだ。
 ぬかるみに四肢を踏みしめるために、
 遠い時代の祖先が持っていたもの──。
 お前たちのは泳ぐためのもの──。
 不思議と、似ているだろう?」
 ゆっくりとウォレンの鼻先がルルカの鼻先に触れたところで、目が覚めた。本当にウォレンがそん
なことを言ったのか。どこまでが本当の記憶でどこからがルルカの願望が見せた夢なのか、分からな
い。
(それでも、嬉しいよ……)
 ウォレンが助けてくれたことは紛れもない事実だから。そして、夢の中のウォレンが言いたかった
のは、きっと、狼族も獺族もそんなに変わらない、ということだ。
『おててにみずかきのある子は、だあれ?
 それはかわうそです──』
 母から何度も聞かされた子守唄を思わず口にした。
(狼の手にも、本当に水掻きなんてあるのかな──?)


54 :
 陽が傾くと、医者たちが再びルルカの前に現れ、喉の具合を中心に、性器や肛門を丁寧に調べ、
「大丈夫、健康だ」と太鼓判を押した。決してぞんざいな扱いではなく、彼らは真剣にルルカの体調
を気遣っていた。胸環に掛かっていた牝獺が休息中であることを示す札は回収されたが、ルルカの調
子が悪ければ、まだしばらくそれは付けられていたのだろう。
 ルルカは彼らの行為に感謝した。シエドラに来てから、言葉を交わせない相手に対し、そんな気持
ちになったのは初めてのことだ。
 街に住む者たちはそれぞれ何らかの職を持ち、真剣にそれを務めている。ウォレンだって、きっと
そうだ。いつもふらふらとして遊んでいるように見えるけれど、狼族としての務めを果たしている。
牝獺をなせないように監督するのが狼族の役目の一つであることは確かで、ウォレンがルルカを気
遣うのは、そういった背景もあるのだろう。あのウォレンの優しさは、きっと自分だけに向けられる
ものではない。そう思っても、感謝しないわけにはいかなかった。
 ルルカは、そんなウォレンを怒らせてしまったのだ。
(ウォレン、わがままで、身の程知らずな獺でごめんなさい)
 ルルカは初めて、彼に対して素直な気持ちになっていた。
 ウォレンに次に会ったら……。
『まずは、ごめんなさいって言おう。
 そして、ありがとう、と──言うんだ』
 ルルカは、ウォレンの喜ぶ顔が見たいと思った。どうしたら彼に喜んでもらえるだろうか。それを
考えるだけで、幸せな気持ちが胸の中に広がった。


55 :
以上です。
次回、かわうそルルカの生活 第八話は、サブタイトル『獺の血』
シエドラを襲う災厄。
ルルカは密かに想いを寄せるようになった狼の本当の姿を知る。
そして、ルルカ自身の中に眠る獺族の本当の力にも気付くのだった。
「分かったよ、ウォレン。私、やってみる──」
みたいな感じでお送りします。お楽しみに。

56 :
いつも乙です。

57 :
新作キタコレ! 早く読まねば!

58 :
あ、そうそう。海外の掲示板で、
ルルカとウォレンっぽいキャラデザのふたりの絡みが描かれた絵を発見したから置いとく
ttp://u18chan.com/uploads/data/13325/gray_by_bearpatrol_u18chan.jpg
どう考えてもふたりはこんなことしないだろうけどなwww
あと海外絵なので、自分の中のイメージを崩したくない人は『視聴厳禁』

59 :
ニホンカワウソが絶滅種に指定されたと聞いて
ニホンオオカミも絶滅してるし…
ルルカたんは生き残れますように
できればウォレンと一緒に

60 :
ニホンカワウソが絶滅種に指定されたってニュースを見て
書き込みに来たら先を越されてたw
ここに来てる人は、あのニュース見たらルルカ思いだすよな。

61 :
corruption of championのnagaの絵描いたの誰だろうな
うすしおあじとは少し違うか

62 :
保管庫管理人さま、収録ありがとうございます
いつもお疲れ様です

63 :
ルンファクの最新作に可愛いケモノがいるのな
しかも可愛いのが何とも
ズコーな要素が多いだけにこれは意外

64 :
>>63
耳しっぽ男はふたりいるけど、可愛いのなんていたっけ?
まあ自分は現在進行形でハマり倒してますが。

65 :
仲間にできる雑魚モンスターの事だけど違ったかな?
ハマり倒してますってなんかヘンなふうに読める

66 :
>>65
パァムキャットあたりかな。あれ仲間にすると“ケモナ”って名前になるw
あとはモコモコとか。
キツネ耳しっぽ男をキツネ獣人に脳内で置き換えて楽しんでます。
ケモノ抜きでもゲームとしておもしろい。

67 :
ケモノがいなさそうな作品でヒョッコリいるとなんかうれしい

68 :
ここって、小説じゃなくて夢日記とかも投稿していいのでしょうか?

69 :
>>68
夢小説じゃなくて夢日記???
テンプレ守ってたら何書いても咎められることはないと思うけど
関心無ければ基本スルーだからねこのスレ

70 :
>>69
先日見た夢が、このスレ向きな夢だと思ったのでまとめたものです。
出来が悪ければスルーして頂いて構いません。
スレ汚しになるかもしれませんが投下させて頂きたいと思います。

71 :
いや、実はな。この前、獣人ホストになる夢を見たのよ。
より正確に言うならば、ケモノの風俗店員?
お客さんの女の子も当然メスケモな。
実家に帰省中なのにそんな夢見たもんだから、起きて一番に夢精してないかと大慌てw
してなくて本当に助かった…。
寝起きのメモを小説みたいに書き直したものなので質は推して知るべしだが、
それでもよければご覧下さい。
以下、具体的な内容↓

72 :
俺は、夢の世界で草食系獣人だった。
職業は新人のホスト。今日が初仕事という感じ。
この世界でいうホストクラブとは、我々の言うホストクラブ(飲酒店)とは違う。
店に来た発情期の女性客に対して、性交渉の相手をしてあげることで発情を癒す店なのだ。
だからこの世界のホストは、医者的な立場に近い。
性職もとい、聖職と呼ばれている感じだろうかw
カラオケボックスのような見た目の店内。俺は裏方から待合室の客の様子を伺う。
どうやら初仕事のお客さんは、リアルな猫科の美人さん。
髪の毛が無いタイプのメスケモだと思ってもらえれば差支えない。
OLさんの顔が虎猫になったイメージかな。仕事帰りだと思われる。
胸はちょっと大きめで、クールビズではだけたスーツの襟元から上胸毛が覗いている。
俺は心の中で「やべぇ、惚れる」と呟いた。
で、いざ部屋の前に来て、磨りガラスのドア越しに準備をしていたら、
中から美人さんの自慰の音が聞こえてくるんですよ。
なんだか、待ちきれなくなってしまったみたいで。
客を待たせた時点で減給確定だったんだが、
俺は何故かそこでドアを開けず、放置プレイ続行してしまったw
下手に苦情が出たら地方のホストクラブに飛ばされるかなと若干不安だったよ。
ちなみに店内についてなんだが、裏方では全部の部屋をモニタリングしてて、
ギシギシアンアン音声まで聞こえてくるわけね。
俺はコンタクトレンズ型の角膜モニターを操作して、周囲の壁を透過させ、ドアの向こうを見るつもりが、操
作を誤って、他の周りの部屋の様子まで一緒に透けさせて見ちゃった。
もう入れたり出したり、噛みついたり舐めたり、たいへんな様相なのよ。他の部屋は。

73 :
で、目の前の部屋で自分を待つお客さんは、声を押しして必に股間をいじっているわけ。
俺もホストスーツの社会の窓を開けて確認すると、トランクスにすっかり黒いシミがついちゃっていた。
そんなこんなで、俺はついに部屋への突入を決意。
「ようこそいらっしゃいませ。*****(店名)へ」
クールな口調でホストみたいなこと言いながら、颯爽と彼女の隣に着席したところ、
閉め忘れてた社会の窓から俺の武器がドーンと出現。
美人さんも俺も、ぽかーん。
会話も進まず、おどおどしている間に、美人さんがクスクスと笑いだす。
実は、美人さんは「仕掛け人」で、俺が初仕事だと思っていたのは、研修だったらしい。
残念と肩を落とした所で目が覚めた。
そんな夢。もうカオス通り越してオカズになるレベルだった。
こんな夢あるんだな。ここのスレに通いつめていたおかげで見れた夢だと思うので
感謝の気持ちを伝えたくて、このような汚物投下に至ったわけだが。
いやもうほんとにすまんかった。しばらくROMるので大目に見てやって下さい。
あと他にも同様の夢をみた人とかいたらお話を聞きたいです。

74 :
あとあと問題になったときの為にトリップ残しときます。
ご迷惑おかけしました。お目汚し&スペース取ってもうしわけない…

75 :
うらやましす
熱帯夜の日に、身体中毛が生えて狼化的なものをしてめっちゃ暑かったのが一回ある
しかし俺は夢をあんま良く覚えてない人

76 :
獣人の探偵で何かハードボイルドに事件を解決する夢見たことあるな

77 :
俺も2回だけあったなぁ、獣化の夢
1度目は自室で左の脇?辺りを突くと獣化するっていう体質で、
思い切り突くとマズルが伸びて毛がわさわさ生えてるのが実感出来た、
けど中途半端で止まってもう一度、突こうと思ったらそこでおしまい。

78 :
>>76
それなんてホームズw

79 :
いま少し時間と予算をいただければ

80 :
最近の週刊少年ジャンプもそうだが、
メインの連載終わったら急に過疎化したりしそうで怖いな、このスレ

81 :
>>76>>78
ノハールもあったな
>>79
弁解は罪悪と(ry

82 :
獣人のハードボイルドものというとBlacksadとか

83 :
>>82
懐かしいタイトルが出てきたなw
理由は忘れたが、買えなかった覚えがある

84 :
獣人とは違うけど恐竜物で
「さらば、愛しき鉤爪」なんてのもあったな

85 :
鉤爪シリーズは3作目のクォリティが格段に落ちたのが残念だった

86 :
お久しぶりです。相変わらずスローペースで申し訳ないですが、
今回含めて残り3回!お付き合いください。
かわうそルルカの生活 第八話、できました。
注意事項は >>39 を参照。
物語もいよいよ佳境です。

87 :
     【8】 −獺の血−
 本当に昨日のウォレンはどうかしていた──。
 ルルカは石畳の上で大の字になって、すっかり暗くなった空を見上げた。街灯の光に邪魔をされ、
ぼやけてしまっているが、空には無数の星が輝いている。この空も、いつかウォレンが連れて行って
くれたあの高台から眺めれば、もっときれいに見えるのだろう。また連れて行ってくれないだろうか。
しかし、ウォレンともう一度言葉を交わすことができたとしても、ルルカから星を見たいと言い出す
のは気が引ける。
 確かにウォレンは血を流すほどの怪我を負いながら、ルルカを助けてくれた。獺族とダムのことを
調べてきてくれた。だが、それはきっと、シエドラの牝獺を目の前にした馴鹿族たちの行動を予測し
てのことだろう。ルルカを恐ろしい目に遭わせることを承知で"おつとめ"に連れ出したことへの埋め
合わせだったのではないか、とルルカは思う。それ以外は、いつも通りのウォレンだったではないか。
 意地悪を言ったり、時間をたっぷりかけて街を連れ回し、恥ずかしい思いをさせたり。いつものよ
うに四つ足で歩かせて、後ろからお尻の穴や濡れた性器を眺めていたウォレンを思い出し、ルルカは
口をとがらせた。
(男の人って、そんなに裸を見たいのかな……)
 ルルカ自身、自分の体が嫌いではなかった。灰褐色の毛並みも、可愛らしい乳房もそうだ。ただ、
男たちがわざわざ見たいと思うほど魅力があるものなのかは分からない。美しさで言えば、あのシェ
ス地区で会った狐族の女性の方がずっと魅力的なのではないかと思う。彼女は決して、人前で裸になっ
たりはしないだろうけれど。
 ジエルは、普段は隠されている女性の裸を見ると、男は欲情するのだと言っていた。欲情というの
はどういう心身の状態なのか、それを向けられる身には何とも想像し難いが、いつも自分を犯す男た
ちや、ルルカを前にした馴鹿族が見せた興奮のことを指しているのは理解できた。
(でも、私はいつだって裸だし、おっぱいも、ここも隠すことはできないのに……)
 ルルカは仰向けになったまま、自分の性器にそっと手を当てた。くちゅっと音がする。二度と止ま
らない恥ずかしい液体の湧出が今も続いていた。肉の襞が折り重なって花びらのように開き、中央に
はぽっかりと開いたままの膣口が内側の桃色の粘膜まで覗かせている。
 男たちに丸出しの性器を見られることには慣れていたのに、ウォレンに見られたときは何故だか恥
ずかしくなった。ウォレンにだけはこの性器を見られたくないと思った。それはきっと、彼がこんな
風に醜く歪められる前のルルカの性器を知っているからだ。彼こそがルルカの初めての相手だったの
だから──。
 ルルカはウォレンとの交尾を頭に思い浮かべた。お腹の中をいっぱいに満たす大きなペニス。儀式
のときに感じた激しい痛みはもうぼんやりとしか思い出せないが、自分の性器は、あのときウォレン
の形に合うように造り変えられてしまったのだと思う。ルルカは目を閉じるだけでウォレンの形をお
腹の中に感じることができた。それだけ何度も繰り返し、彼と交わってきた。間違いなく、この街で
一番多くの回数、ルルカが受け入れたのはウォレンだ。憂鬱に感じていたそれも、今ではさほど嫌悪
するものでもないと思えた。長くて穏やかな狼との交尾は、ルルカにとって安息の時間でもある──。

88 :
(え……? ちょっと待って)
 ウォレンはルルカはすぐにはなないと言った。青服の狼が告げた八か月というルルカの寿命を、
彼は自信ありげに否定した。もしかすると、それは彼自身、狼との交尾がルルカの体にもたらす効果
について気付いていたからかもしれない。
(まさか、ウォレンは私の体を休めるために……?)
 そんなわけはないよね、とルルカは頭を振った。それは単なる結果論であって、ウォレンも他の皆
と同じように、ルルカを犯したいだけなのだ。そう。そうに決まってる。
『だってウォレンはいつも調子のいいこと言って、私をがっかりさせてばかりで……』
 ルルカはそう小さく呟いて、ふふっと笑う。もう、自分ががっかりすることはないだろう。ウォレン
が見たいなら、いくらでも恥ずかしい裸を見てくれていい。ウォレンがしたいと思ったら、いつでも
自分の体を使ってくれればいい。がっかりさせてはいけないのは自分の方だ。ウォレンにはルルカに
そう要求する資格がある。ウォレンがあの馴鹿族の巨大な角を恐れていたら、きっと自分は今こうし
て生きてはいまい。
 言葉でお礼を言うだけでは足りないと思った。どうしたら彼に恩返しができるだろうか。小さな木
のお椀以外、何も持たない自分に──。
 交尾を受け入れることが一つの答えかもしれない。もっとも、ルルカが許そうと許すまいと、
ウォレンが自分の体を好き勝手に使うことはこれまで通りだろう。
『それじゃあ、恩返しにならないね……』
 そう呟いたルルカは、股間が妙に疼くのを感じた。いつにも増して息が荒くなる。性器から溢れる
蜜の量がどんどん増えてくることに気付くと、妙に恥ずかしくなって全身がかあっと熱くなった。
 ルルカは慌てて水に飛び込む。体を冷やせば、その疼きは少し治まることを、これまでの経験で知っ
ていた。
 男の人はどうして牝獺を使うんだろう──。
 水から上がって再び仰向けになったルルカは、その疑問を反芻した。半年前の儀式以来、途切れる
ことなく体を責め続けられていたルルカは初めて、そのことについてゆっくり考える時間を持ったの
だ。
 ルルカはずっと、男たちが獺族を恨んでいるのだと思っていた。常時その体を穢し続けることで罪
深き種族に反省を促しているのだと思った。だからルルカは獺族が犯した罪の正体を知りたかったの
だ。自分が受けている罰の重圧と釣り合う理由が無ければ納得できない。
 その思いは今、揺らいでいる。ジエルは、シエドラの住人が牝獺を使う理由は憎しみではないと言った。
『可愛い……から?』
 ウォレンも確か馴鹿族に向かってそんなことを言っていたように思う。ルルカはドキッとする。
ウォレンのことを考えただけで、何故だか頬が熱くなった。ウォレンの精液がお腹の中に吐き出され
ている錯覚が生まれる。ルルカはその感覚に身を任せた。そうしていると、何故だか分からないが、
優しい気持ちになってくる。
(男の人は、何故、精液を流し込もうとするんだろう?)
 ルルカは初めてそれを受け入れたとき、体の中に排泄されているのだと思った。精液を小便だと思っ
て恥辱に悶えた。そのときの印象がルルカの意識を縛っていた。だが、今はどうだろう。自分は
ウォレンの精液を拒絶するどころか、望んでいる。
 精液は、女性の体を穢すためのものではない──。
 そう考えると、合点がいった。きっと、同族の精液を受け入れることで、女性は子宮の中に新しい
生の結晶を得る──。
 考えてみたら、当たり前のことなのかもしれない。いや、一度そう思い当たったら、それ以外に無
いと思えるほど、筋が通っている。
(そうか……。
 だから苦しい思いをしても、女の人は男性を受け入れるんだ……?)
 ──苦しい?
 確かに、ルルカがいつも強制されている交尾は、小さな体の獺に果てしない苦痛を与えている。だ
が、街を歩く幸せそうな同じ種族の男女のペアからは、そんな苦悩を感じない。ルルカは、馴鹿族の
話を聞いたときに同じようなことを考えたのを思い出した。彼らは異種族のパートナーを持つと言う。
彼らの語るその性生活は、喜びに満ちたもののようだった。
 一生発情し続ける自分と違って、短い時間のことだから耐えられるのだろうか。そもそも、発情と
は何なのか。
 ルルカ自身が、牢の中で自分の性器を刺激していたとき感じた快感の正体は何?
 ウォレンに撫でてもらったとき気持ちよかったのは何故?
 ミルカが浮かべていた恍惚の表情の意味は──?


89 :
 ルルカははっとして身を起こした。
(そうか──)
 ルルカは性行為が本来、快感を伴うものであることに気付いた。これまで交尾に対して嫌悪感しか
なかったとはいえ、ルルカにも全く理解できないわけではない。
 それはおそらく女性にも、男性にも、どちらにも感じられるもののはずだ。ルルカは自分を使って
いるときの男たちの興奮を思い起こした。ルルカに精液を流し込むウォレンが荒い息を吐いていたの
を思い出した。おしっこをするときの淡い快感はルルカにも想像できる。射精に伴う快感は、おそら
くそれよりもずっと強いものに違いない。
(じゃあ、男の人たちは──、ウォレンは、
 私が牢の中でしていたようなことを、私の体を使ってしているんだね)
 そう思うと、何だか可笑しくなった。快感を得ようと必になっていた自分の姿をウォレンに重ね
た。怖かった、自分よりずっと体の大きな者たちが、急に可愛らしく思えてくる。汚らわしく感じて
いた精液に対する嫌悪も薄れる。女性の体から染み出る快楽の証でもある液体を、男性は激しい射精
という形で吐き出しているだけなのかもしれない。
『私……、ウォレンの精液なら、嫌じゃないかも……?』
 ルルカは気持ちが浮かれてくるのを感じた。交尾が本来、愛情を伴う行為なのであれば、ルルカは
自分のこの身ひとつでウォレンを喜ばせることができるかもしれない。
 今度は頬だけでなく、体中が熱くなった。股間が疼いて、また愛液が染み出してくる。ルルカは慌
ててプールに飛び込んだ。冷たい水の中を何度も宙返りする。
 おかしい──。体の疼きが止まらない?
 水から上がっても、性器がぬるぬるしていた。また仰向けになって大きく喘ぐ。ルルカは戸惑った。
いつも感じている疎ましい発情の疼きとは明らかに違う。これまで噛み合っていなかった心と体が、
同じものを求めていた。ウォレンと交尾がしたくてたまらない。ウォレンの力強い腕に抱かれたい。
彼の荒い呼吸と、射精の脈動をこの身に感じたい──。
 ルルカはこの瞬間になってようやく気付いた。
(そうだ、私はウォレンのことが好きなんだ。
 好きになってしまったんだ──)
 獺なんかに慕われても、ウォレンにとっては迷惑だろう。それでも、気持ちが抑えられない。今す
ぐにでもウォレンに会いたい。ルルカは石畳の上で体をくねらせる。足を大きく開いて、片手を股間
に添えた。指先が陰核に触れ、ルルカはどきっとした。可愛らしく飛び出したそこから、ウォレンに
触られたときのような、快感の波が生まれた。他の男たちに弄られたときの、神経を擦られるような
痛みは無い。もう一度触れてみると、先ほどのような強い感覚はもう生まれなかった。それでも、じ
んわりと気持ちよさが体に広がる。ルルカは夢中になって股間を撫でた。自分の手を、ウォレンの指
先に見立てていた。
 ウォレンにここを触ってほしい。ウォレンがここを優しく触ってくれたら──。
 足音を感じて、ルルカははっと体を起こした。
 尖った長い耳、細く突き出したマズル。一瞬、ウォレンかと思ったが、違った。痩せ型で背丈も狼
族ほどではない。砂漠のオアシスに住むアンテロープたちと似た砂のような色の毛皮に、布を巻き付
けたような衣装。彼は胡狼(ジャッカル)族の青年だ。ルルカは彼を知っている。手にぶら下げた大
きな木の桶──、牝獺の給餌係だ。
(見られた?)
 ウォレンを想って自慰に耽っていたルルカは、恥ずかしさに消え入りそうになった。
 縄の囲いを超えて近付く胡狼の男の姿に、ルルカは慌てて立ち上がり、両手を広げて牝獺の心得の
ポーズを取った。尻尾を大きく持ち上げると、肛門まで愛液でべとべとになっていた。心臓をどきど
きさせて俯くルルカの腕を、胡狼族の男が掴んだ。

90 :
(えっ?)
 男は、ふっと笑う。
「今は隠しててもいいんだぞ」
 言葉が通じないはずのルルカに理解できるように、彼はその小さな獺の手を手に取り、ルルカに胸
を覆わせる。
(えっ? えっ?)
 頭をポンポンと叩くように撫でる男に、ルルカは反射的に獺語で『ありがとう』と言っていた。
(ありがとう……。そう、ありがとう……なんだけど……?)
 突然優しい言葉をかけられてルルカは混乱していた。奴隷の扱いを受けていない自分に戸惑い、そ
して裸を晒すことが急に恥ずかしくなって体を丸めた。そんな風にしても大丈夫かと不安になりなが
ら、胸を両手で覆い、尾を腹に巻き込んで股間を隠した。
 視線から逃れるように後ろを向いたルルカに構わず、胡狼族の男は落ちていたルルカの食器を拾い
上げ、まだ湯気の出ているスープ状の食べ物をその木の椀に注いで、すぐに立ち去って行った。
 取り残されたルルカは一度隠した胸と性器から手を離せなくなっていた。そのまま寝転がって天を
仰ぐ。久し振りに触った自分の乳房──。自分の体なのに、本当に長い間触れていなかったように思
う。柔らかい。初めてオトナの服を着せてもらったあの日に触れた、母の乳房と同じだった。遠い記
憶を辿れば、幼い頃に顔を押し付けるようにして抱かれていたことまで思い出す。
『お母さん、ルルカは立派なオトナの獺になりました……』
 思わず呟いた。涙が滲んでくる。母に今の体を見てもらいたいと思った。でも、それは叶うはずも
ないことだ。大事な人にだけ見せるものだと言われた女の子の体──。母の代わりにそれを見てもら
うとしたら、この先、そう長くは生きられないルルカにとってその相手はウォレンしか居ない。
 ウォレンは許してくれるだろうか。もし、愛想を尽かされたままだったら……。
 ルルカは不安に包まれた。ルルカが一方的に想いを寄せるようになっただけで、ウォレンにとって
ルルカはシエドラに何頭も居る牝獺の一頭に過ぎないのだから。そう思うと、涙が次から次へと溢れ
てきた。自分が牝獺であることがこんなに悲しいなんて。
 ひとしきり泣いたルルカは、曲げた尾の先で乳房を隠しながら食事の器を手に取った。精液を飲ま
され続けた胃もすっかり元通りになり、食欲が戻っていた。ルルカは食べ物をゆっくり噛み締めなが
ら、さっきの青年にもっと真剣にありがとうを言うべきだったと思った。
(もちろん獺語で、だけど)
 彼もそうだし、ルルカの体調を診てくれた医者たちも、誰もルルカを蔑んだりしていなかった。そ
れが何だか嬉しい。
 食事はいつもよりずっと美味しく感じた。普段は必ず犯されながら食事を摂らねばならないのがシ
エドラの牝獺の規則だ。ルルカはその食材が混ぜこぜになった獺用の食べ物をゆっくり噛み締めて味
わった。
 食事を終え、ルルカは食器を手に取って何気なく眺める。木目のきれいな木の器、その椀の糸底の
円の中に、指先に感じる奇妙な凹凸がある──?
『え──?』
 ルルカは驚いて椀を裏返した。広場に繋がれたときに手渡されてから、一度もこんな風に見たこと
はなかった。
 そこには、にっこりと微笑んだ獺の顔が彫ってあった。
 それはきっと、この街の誰かが彫ってくれたものだ。切り出した木片を丁寧に磨き、時間をかけて
小さな獺の顔を彫り込んだのだ。シエドラに囚われた牝獺たちが、せめて寂しい思いをしないように
──。
 ルルカの目からまた、光るものがこぼれた。


91 :
 うとうとしていたルルカの胸の環が引かれた。鎖を誰かが掴んでいる。気付けばルルカを守ってい
た縄の囲いは取り除かれ、いつものような行列が建物沿いに広場の端まで伸びていた。日付が変わっ
たのだ。慌てて立ち上がったルルカは、胸と股間を手で押えていた。一度隠したものをまた見せるの
には勇気が要った。ルルカは恥ずかしさを堪えながら、乳房を突き出し、性器と肛門が同時に見える
挨拶のポーズを取る。
 男たちの様子は、まるでこの二日間の出来事が無かったかのように、いつもと変わらない。裸の牝
獺の体を吊り上げ、乳房と性器を観賞するのは、大きさも精液の量も並ならぬペニスを持つ馬族の男
だった。ルルカは牡獣の大きな手で頭を石畳に押し付けられ、体を横にした姿勢でいきなり犯された。
 短い足を片方だけ持ち上げられ、体をくの字に曲げられ、膣の横側を強く擦り上げられる。
「俺はやっぱお○んこの方が好きだよ」
「まあな」
 男はルルカの口を犯した者の中の一人だった。そう、本人を、ではないけれど覚えている。ルルカ
は色々な種族のペニスを口で咥えることで、自然とその形を記憶に刷り込まれていた。さほど感覚の
強くない膣の中に、以前は感じなかったペニスの形を感じている。街に居るそれぞれの種族の牡が、
どんなタイミングでどれだけの量を射精するのかも知ってしまった。だから、お腹の中に吐き出され
る精液の飛沫も、これまで以上にはっきりと感じた。その匂いや味までもが想像できてしまう。
 これまでのルルカならその変化を恐ろしいと思っていただろう。恥辱に打ち震え、嗚咽していただ
ろう。しかし、小さな木の椀に彫られた彫刻が心の支えになった。指先で触れると、そこに可愛らし
い獺の顔がある。
(私はもしかして、独りじゃないのかもしれない……。
 ずっと、独りなんかじゃなかったのかも──)
 その小さな彫刻は、絢爛な馴鹿族の陶器の装飾とは比べものにならないくらい質素であったけれど、
これほどルルカの心に沁みるものは無い。
 それはルルカのたった一つの持ち物であり、宝物だった。
 男たちも、きっとルルカが憎いわけではない。小さな獺の体から快楽を汲み上げようと必になっ
ているだけ。そう思うと、嫌な感じはしなくなった。内臓を押し上げられ、ときには子宮の中まで掻
き回される肉体への呵責はこれまでと同じものであっても、不思議と苦しさまで我慢できた。
(ウォレン……?)
 ルルカの使用が再開されてからあっという間に数日が経った。体に触れる爪の感覚が、好きになっ
た狼族の青年のものだと思って顔を起こしたルルカの前に居たのは、あの胡狼族の給餌係だった。
(えっ? 珍しい……よね)
 犬科の牡は、牝獺の使用時間が長くなるため、行列のできるところへは来ないものだ。案の定、列
の後ろから「早くしろ」との罵声が飛んだ。
「分かってるよ!」
 男は尻尾を立てて大きく膨らませて虚勢を張った。おそらく上半身に巻いたぶかぶかの布の下で背
中の毛もいっぱいに膨らませているのだろう。しかし、比較的背の低い彼の醸し出す迫力はウォレン
のそれに遠く呼ばない。
 男は、ルルカの乳房に手をゆっくり押し付けて、「うん、これだ」と呟いた。
「こないだ、手を重ねた上から感じたこの弾力が忘れられなくてさ」
(わざわざ確かめに来たの?)
 男はルルカの乳房を何度か揉んで、乳首を優しく摘み上げる。その手つきがなんとなく心地よかっ
た。ウォレンにもこんな風にしてもらえたら、と思うとルルカの乳首は固くなった。その乳首を指先
で捏ね回されるのが気持ちいい。
「いいな、お前のおっぱい、すごくいい」
 男は何でもすぐ口に出すタイプのようだった。自分の体を褒められるのはルルカにとって悪い気は
しない。後ろからまた罵声を浴びて、胡狼族の男はようやくルルカに挿入した。
(あっ……)
 普段より少し潤っているような気がするそこへ、犬科のペニスが捻じ込まれる。待ち焦がれていた
ウォレンと同じ形のもの。ただ、一回り以上小さいけれど。
 そうだ、とルルカは思った。この男との交尾で、ウォレンを喜ばせる練習ができるのではないかと。
 ルルカは自分を犯している男を観察してみる。挿入し切った後の男は、ほとんど体を動かさずに目
を細めて、はぁはぁと荒い息を吐いている。ルルカも息を荒げているが、それは発情の止まらない体
になってからずっとのことだ。男がもし激しい動きをしたならば、それに釣られてルルカの小さな体
はより多くの空気を求めて喘ぐことになるが、犬科の牡が相手ならそんな心配は無い。

92 :
 お腹の奥に男の精液が吐き出される度に、男はうっと軽く呻く。
(気持ちいい……んだよね?)
 ルルカは、例のリングを着けられた牝獺のあそこが痙攣したように動くと言われていたことを思い
出す。それが男の人たちにとって具合がいいらしい、ということも。では、その真似をしてみたら……?
 ルルカは、試しに股間にぎゅっと力を込めてみて、すぐに緩め、それを何度か繰り返した。狐族の
男が、驚いたような顔をする。
「なんだ? 急にいい感じになったじゃないか」
(えっ?)
 ルルカはどきっとした。男の言った内容に驚いたわけではない。男の声を聞いた瞬間、股間から淡
い快楽の波が湧き起こったからである。
 ルルカはもう一度、男のペニスをそっと膣で締め付けてみた。男の表情に反応がないので、もう一
度。そしてもう一度……。
「奥を突いて欲しいのか?」
 男はそう言って、ルルカの締め付けのタイミングに合わせるように、軽く腰を突き出し始めた。ル
ルカの体はゆっくりと揺さぶられた。
(なんだか、不思議な感じ……)
 男のペニスがぐっと体の奥に押し付けられる度、じんわりと快感が広がるのだ。ウォレンに体を撫
で回されたときほど強いものではないが、確かに気持ちいい。ルルカは、次第に自分の息が男と同じ
くらいに荒く吐き出されていることに気付く。リズムを合わせて、二つの肉体がお互いを刺激し合っ
ている……。
 胡狼族の男は、最後にブルッと体を震わせて、ひときわ激しい飛沫をルルカの体の奥に叩き付けた。
それが前立腺液を射出する犬科の牡の生理だということをルルカは知らないが、ウォレンのいつもの
終わり方と同じだと思い、頬が緩む。
(満足してくれた? 気持ちよかった……のかな?)
 はあっと大きく息を吐いて、男はルルカの体から離れた。
 身を起こしたルルカの頭に、男の手が載せられた。男はゆっくりとルルカの頭を撫でて言う。
「すごく良かった。ありがとう──」
 褒められた──。
 嬉しさに体が震えた。心臓がドキドキと鐘を打つように鳴った。
 この体験は、ルルカにとって天啓だった。ルルカが頑張ることで、相手の牡の快楽を高めることが
できる。それは延いてはこの身ひとつでウォレンを喜ばせることができるという事実だ。ルルカはこ
の新しい発見に夢中になった。
 牝獺は、交尾の最中、相手の体に触れてはいけないことになっている。ルルカは相手の動きに合わ
せて体を引いたり押し付けたりすることで、牡の期待に応えられるように努めた。種族ごとに交尾の
流儀には違いがある。ルルカはそれに合わせて自分の動きを変えるよう工夫した。猫科のトゲの生え
たペニスだけはどうにも苦手なままだったけれど。
 数日もしないうちに、男たちの態度が変わった。もう誰もルルカを殴らなかった。交尾の後、胡狼
の青年のように頭を撫でてくれる者も増えた。ルルカは驚いた。実に半年もの間、自分を苦しめてき
たものが、ちょっとした見方の違いで嬉しいことに変わるのだ。
 ジエルの言っていたことは正しいのかもしれない。誰も獺を憎み続けることはない。ルルカはシエ
ドラの一員になっていた。辛い役目だけれど、独りじゃない──。
 ルルカは男たちを受け入れるとき、自分からお尻を上げて誘うポーズを取るようにした。恥ずかし
いけれど、胸がどきどきした。男たちが喜んでいる様子が分かって、ルルカも嬉しくなる。
 牝獺たちが、最期に感謝の言葉を口にしてんでいくという話が、今では分かるような気がした。
 シエドラの住人は、誰もが何らかの仕事に従事している。それは、獺族が隠れ里の生活の中で、一
人一人役割を持っていたのと同じことだ。シエドラにおいて、ルルカたち牝獺の役割は、その小さな
体で街の男たちを癒すことなのだろう。
(ウォレンに早く会いたい……)
 ウォレンにこの発見を伝えたかった。ウォレンにも自分の体を楽しんでもらいたいと思った。
 ウォレンのことを想えば、それだけで性器が潤うのが分かった。
 獺は交尾中に相手の体に触れてはいけない。ウォレンのあの胸の立派な毛は眺めているだけでも
ルルカをうっとりさせる魅力があったが、もし触れることができたなら。ウォレンに体の奥を優しく
突かれながら、指先にあの長い毛を絡めたら、きっと素敵な思いに浸れるに違いない。
 ルルカの頭の中はウォレンとの交尾で一杯になった。しかし、待ち焦がれても自分では彼に会いに
行けない。シエドラの街の構造はルルカの頭の中に入っている。でも、ウォレンがどこに住んでいる
のかすら、ルルカは知らない。


93 :
(ウォレン、どうして来てくれないんだろう──)
 ルルカは突然、不安になった。あの魚を食べさせてくれた日から、もう一週間以上経っている。や
はり彼はルルカに怒っているのだろうか。愛想を尽かせてしまったのだろうか。彼が別の牝獺の体を
使っているのではないかと嫉妬しながら、自分が誰とも分からない男を彼に見立てていることに背徳
感を覚えた。
 ウォレンに会いたい──。そう思っても、鎖で繋がれた身分では、どうにもならなかった。
 そしてルルカはやがて、泥沼のような性の罠に堕ちていくことに気付くのだった。
 自ら積極的に牡を刺激する交尾のやり方は、激しく体力を消耗する。ルルカは以前より、蓄積した
疲労で短い眠りに落ちていることが多くなった。ウォレンに会えないまま、ひと月ほどが過ぎていた。
ルルカはペニスを体に受け入れたまま、夢うつつに男たちの会話を聞いていた。
「何だ、最近いいって聞いてたけど、もうお終いか」
「目を覚ましてるときしか良くないんじゃ、そろそろか」
「早く──されないかな」
 その男の言葉に、ルルカは驚いて目を開けた。はっきり聞き取れなかったのは、あまりにも恐ろし
い言葉を意識が拒絶したからだ。しかし、確かに耳には入っていた。
(うそよ……、そんなまさか……)
 男は、"加工"と言ったのだ。
 ルルカを囲んでいたのは、いつだったか彼女を輪姦した、五人組のアンテロープの男たちだった。
「もう旬が過ぎたってことさ。ただ、こういうのは珍しいな。
 普通は時間をかけてちょっとずつ良くなっていくんだ。
 この牝はいきなりだろ?
 後は坂道を転げ落ちるようなもんさ」
(そんな……)
 ルルカはパニックになった。秘密を隠し通すことに慣れ切った体は、平静を装っている。しかし、
心は引き裂かれそうだった。素晴らしいと思ったルルカの発見は、ルルカ自身を追い詰めるものだっ
たのだ。それでも一度男たちを喜ばせることを知ってしまった体は、アンテロープの男の動きに合わ
せて反応してしまう。膣を目一杯締め付け、侵入してくるペニスを押し留める。先端が子宮口に到達
するのと同時に力を緩め、一気に突き込ませる。
 太いアンテロープのペニスはルルカの内臓を子宮ごと押し上げた。ルルカの体は大きく跳ねる。確
かに男は強い快感を得るだろうが、こんなやり方ではルルカ自身の体が持たない。そのことに気付く
のが遅かった。
「おっ、まだ頑張るねえ、この牝」
 ルルカを犯している男は満足そうな呻きを上げながら言った。
「俺の見立てだと、あと一、二か月ってとこだね」
(何が……)
 男は指をルルカの乳首に当て、輪を作って見せる。その意味を悟って、ルルカは悲鳴を上げそうに
なった。
「賭けるか? あと何日でこの牝が"加工"されるか」
 アンテロープの男たちはルルカを順番に犯したうえで、ルルカの体に金属の環が通されるまでの日
数を予測した。ある者は最も短く、五十日だと言った。そして一番長く言った者でも、七十日という
のが彼らの見立てだった。予想を当てるのは経験豊富なことを自慢するのが目的だ。それゆえに、彼
らが的外れな数字を言うわけがない。
「思ったより早かったな。
 広場の牝でもこうなるには普通、もうちょっとかかる」
「色んな牝獺を使ったが、こんなに変化の激しいのは初めてだ」
 男たちから解放されたルルカは、水路へ駆け寄り、吐いた。
 ウォレンは、ルルカがすぐにはなないと言ってくれたが、それは彼自身がルルカを守ろうとして
くれていたからではなく、おそらく、他の牝獺と比べてルルカの感度が良くなかったからだ。
 加工まで長くて七十日、その後の硬直までの時間も、かつて広場に繋がれた牝獺よりも短いのだろ
う。八か月ほどと言われたルルカの寿命は、突然、半分になってしまった。しかし、ルルカが恐れた
のはではない。このままウォレンに会えないかもしれないことだ。
(ウォレンと何日会ってないの?
 以前は週に一度は来ていたのに……。
 あと……、四か月……、いや、三か月ほどで、私は……)


94 :
 さらにひと月が経った。ウォレンはルルカの前に現れず、ルルカの気はおかしくなりそうだった。
「少し緩くなったか?」
 自分を使う男の、何気ない呟きに怯えた。
 どうしてこんなことに──。
 ルルカの体は、彼女の思いをよそに、男の動きに反応し続けた。無理に止めようとしても、反応が
薄くなれば、男たちは狼族に牝獺を加工するように訴えるだろう。人々の言葉が分かるルルカだから、
このような事態に陥ってしまった。普通の獺ならば、ただ何も知らず状況に身を任せるだけで済んだ
のだ。少しずつ性に目覚め、シエドラでの自らの役目を悟り、そして感謝してんでいく。ルルカは
違う。迫るの恐怖に怯えなければならないのだ。
 ウォレンを喜ばせてあげたい。前より良くなったと誉めてもらいたい。頭を優しく撫でられたい。
ただ、それだけが望みなのに──。
 男たちはルルカの苦悩など露知らず、途切れることのない行列を作った。ルルカは錯乱していた。
子宮の奥まで貫くサイズのペニスの持ち主に犯されると、ルルカはウォレンに抱かれていると思い、
自ら腰を激しく揺すり、膣を必に締め付けた。『ウォレン、ウォレン』と何度もうわ言のように呟
くルルカの声を聞いて、男たちはいい声で鳴くようになったと感心した。
(ウォレン……、どうして来てくれないの──?)
 獺族の本当の悲しさとは、誰かを好きになってはいけないことなのだとルルカは思った。
 以前は締まりのいい膣のおかげでしばらくは子宮に押し留められていた精液が、男が体を離した瞬
間からだらだらと流れ出ていることに気付いたルルカは絶望した。膣が緩んできている──。
(もうだめ……、私……。ウォレン──)
 ルルカは立ち上がり、ふらふらと噴水に向かって歩き始めた。牝獺の異常な行動に気付いて周囲の
男たちはギョッとし、何事かと見守った。建物の壁に繋がれた長い鎖がピンと張り詰める。
『あなたに会う方法があるよ、ウォレン……』
 それは、「ウォレンに会わせて」と公用語で叫ぶことだ。たちまちルルカは取り押さえられ、毒針
が打たれて声を奪われるだろう。乳首と陰核に穴が開けられ金属の環を通されたルルカは膣と肛門を
間断なく犯される。ほんの一、二週間で全身が硬直し、槍で突きされるのだ。それまでに、ただ一
度でいい。ウォレンに抱いてもらえたら──。
(私はミルカのように動けなくなる。
 もうウォレンを喜ばせてあげることはできないかもしれない。
 ごめんなさいも言えない。助けてくれたお礼を言うことも……)


95 :
『ウォ……、
 ウォ……。』
 噴水の前に、ルルカを加工するために縛り付ける十字架の幻影が見えた。三つのリングを体にぶら
下げ、その強い刺激に足を閉じることが出来なくなって淫水を垂れ流して喘ぐルルカ自身の姿も──。
 そんな体になってもウォレンが現れなかったら?
 怖い──。もし、そこまでしてもウォレンが来てくれなかったら、と思うと、体が震えて声が出な
かった。
 まさか、ウォレンは獺に魚を食べさせたことがばれて追放されたのでは……?
(ああ、やっぱりだめ……)
 天を仰いだルルカの頬に落ちたのは、大粒の涙──ではなかった。
『……雨?』
 いつの間にか、空を雲が覆っていた。ざあっと音を立てて、大きな雨粒がシエドラの街に降り注い
だ。広場の中心にある噴水の噴き上げる高さが、いつもより高くなったような気がする。
 広場に居た人たちは、慌てて走り去っていく。ルルカの前に列を作っていた男たちも、無頓着な気
質の種族を除いて姿を消した。
(何故、皆慌てているの?)
 ラッドヤートに居た頃、ルルカは時々こうした雨に遭うこともあった。それは世界に残った数少な
い森林地帯に降るもので、平原に位置するシエドラではほぼ見ることはない。ルルカは、これがシエ
ドラに来て初めての雨だと気付いた。ここの住人はきっと、それより以前からずっと雨を見ていない
のだ。
(みんな、雨に慣れてないんだ……)
 シエドラの民の生活は雨とは無縁のものだった。降ったとしても通り雨程度のものだ。今、街を水
蒸気で煙らせる強い雨が、これまでのものと違うとは、この時点で誰も気付いていなかった。
 雨は少し弱くなったものの、止むことなく静かに振り続けた。街の住人は建物の中に閉じ籠り、必
要なときだけ布を被って外出するようになった。獺族のルルカにとって、雨は水の中に居るのと変わ
らない、心地よいものだ。ルルカは思わぬ休息を得ることになった。
 しばらくして、市場で見る日除けのテントが雨を凌ぐためにルルカの頭上に張られたが、雨の中、
わざわざやってきて牝獺を犯そうという者はほとんど居なかった。


96 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 街の中央、噴水広場のすぐ近くに集会所があった。平屋のその石の建物にはいくつもの部屋があり、
人々は何か相談事があるとそこへ集まった。普段は街を出歩かない狼族の姿がよく見られるのもここ
である。集会所の裏に慌てて張られた小さな雨除けのテントの傍に、若い牝獺が立って、雨を体に受
けていた。ここに繋がれて以来、凌辱にまみれてきた彼女に、激しく降り続く雨が思わぬ平穏をもた
らしていた。犯され続けて熱を持った体に雨の冷たさが心地よい。
 乾いているときはふかふかした手触りの獺の体は、水に濡れると黒くなり、しっとりとした質感に
変わる。体が濡れると、もう傷跡が薄れてきてもいいはずの卑猥なマークが、下腹部にはっきりと浮
かび上がった。今ではその焼き印が表しているものがよく分かる。そのすぐ下にある真っ赤な花びら
のように口を開いた自分の牝の性器そのものだ。にやにやと笑みを浮かべた男たちにその性器と焼き
印の痕を見比べられると、恥ずかしさが込み上げてくる。それは常に裸で過ごしていても、決して麻
痺することのない感覚だった。
(あの娘はどうしているだろう──)
 儀式の後、広場に残された一頭の牝獺。交尾を強要される日常からいっとき解放されて初めて、心
に余裕が生まれたのか、彼女はあの牝獺のことを思い出した。一緒に儀式を受けることになった見知
らぬ仲間。同じ境遇のあの牝獺は、自分と同じように怯えながら、それでも自分ともう一頭の牝獺を
守ろうとしてくれた。体を抱き寄せてくれたあの小さな手の優しさを忘れない。憎らしいクズリ族の
男に、毒針を打てと腕を差し出したあの勇気を──。いつかもし再会することがあれば、そんな機会
はおそらく来ないのだろうが、彼女にお礼を言いたいと思った。
 集会所の裏手から、どこへ続くのか分からないほどの長い石の階段が伸びていた。普段は犯されな
がら目の端に入れるだけだったその石段を見て、ふと思った。広場とこの集会所の間には、いくつか
の建物があるだけだ。
(あそこから広場が見えるかもしれない……)
 人目があるうちは考えもしなかった発想だ。牝獺たちを繋いでいる鎖は、プールで体を自由に洗え
るように非常に長く作られている。その牝獺の鎖も、階段を少し登れるくらいの長さがあった。
 恐る恐る石段を登り始めた牝獺は、人の声と足音に驚いて足を止めた。こんな雨の中を──?
 慌てて、帆布のテントの下に戻る。
 牝獺は建物の裏から、集会所に早足で入っていく人々の影を見守った。細長い尾を緊張させて駆け
つける豹族の男たち。体格に似あわぬ機敏さで雨の中を走る灰色の衣装を纏った狼族の男たち。その
中に、見慣れない赤い衣装を着けた狼族の姿があった。
 顔にまばらな灰色の毛が残っているものの、全身が白い毛並に変わりつつある初老の狼の姿に、牝
獺は、不思議な畏敬の念を覚えるのだった。


97 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 広間に十数人の狼族と豹族の男たちが集まっていた。白い毛の狼──狼族の族長が席に着くと、皆、
濡れた体を拭く手を止め、彼の言葉に耳を傾けた。
「水瓶を監視している者たちから、伝令が入った。
 このまま雨が降り続けば……」
 男たちの顔に動揺の色が浮かぶ。
「水瓶から溢れた水が、シエドラを襲うだろう──」
 族長は、大きな紙を木のテーブルに広げた。
「これは……?」
「少し前にウォレンが作って寄こしたものだ」
「ウォレンが?」
「シエドラ周辺の史跡を探索するのに人手が欲しいと言ってな」
 その紙には地図が描かれていた。シエドラと獺の水瓶を結ぶ広大な土地を俯瞰したものだ。
「皆も知ってると思うが、あの水瓶は太古に獺族が作ったものだ。
 シエドラとの間にも砂に埋もれた遺跡があるが、誰も関心を持たなかった。
 ウォレンは何故だか、それを調べると言い出した。
 そんな折の、この雨だ」
 獺の水瓶──巨大な治水ダムから、放射状に薄い線が描かれている。それはダムが大干ばつの発生
する以前の時代に作られたことを意味していた。水瓶から供される水はそれらの水路を通って、周辺
の平原に点在する集落へ運ばれるようになっていた。世界が乾き切った後、シエドラの民がその水路
を埋め、全ての水が自分たちの元へ流れるように変えたのだ。
「水が足りないときは、それで良い。
 ただ、こんな雨が来ようなど当時の人間には想像もつかなかっただろう。
 このままではまずいことになる。
 見ろ──」
 族長は、水瓶から一直線に伸びる三本の平行線を指した。
「これは?」
「中央の線が、今シエドラに水を運んでいる水路だ。
 それを挟む二本の線は、水路が引かれた周辺の土地が窪地になっていることを示している。
 水を溢れさせない構造らしいが……」
 族長の深刻な面持ちに、皆が首を傾げる。
「分からないか?
 水瓶から溢れた水を拡散させる水路は、我らシエドラの先人が埋めてしまった。
 下手をすれば、この窪地の幅いっぱいの大量の水がシエドラに押し寄せる……。
 そう、ウォレンが言っておった」
 事態を飲み込んだ男たちは騒然となる。
「水瓶の監視はどうなってる?」
「何かあっても、伝令では間に合わん」
 街を統治する狼族の男たちは、彼らの手足となって働く豹族を全員、集めるよう指示を出す。水瓶
からシエドラの間に通信係を立て、ランタンの光が届く距離で通信をリレーすることになり、集会は
解散となった。


98 :
−/−/−/−/−/−/−/−/−
 街が騒がしくなった。いつの間にか体を丸めて寝ていたルルカは、足元の水路を流れる水が今にも
溢れそうになっていることに気付き、飛び起きた。これは、雨のせい──?
 人々が激しく降り続ける雨の中を駆けていく。何か荷物を詰め込んだ大きな袋を抱えている者も居
れば、着の身着のまま慌てて走っていく者も居る。方角を考えれば、皆、高台に登る石段の方へ逃げ
ているようだ。
「早く避難しろ」
「家を離れられない者は、建物の一番高いところへ上がるんだ」
「水瓶が溢れ始めたそうだ──」
 何故、人々が避難しているのか、ルルカにも状況が飲み込めてきた。石畳に突いた手のひらが水に
浸かっている。シエドラの街は浸水していた。おそらく、街の低いところは水没するだろう。この広
場だってそうだ。人の姿が消えると、ルルカは不安に包まれた。広場が水没しても、ルルカを繋ぐ鎖
は充分に長い。獺族にとって水はそんなに恐ろしいものではないし、息が続かなければ、建物の壁に
でもしがみ付けばなんとかなるだろう。ルルカはそれでいい。では、動けない牝獺は?
 体に金属リングを穿たれた牝獺は、満足に体を動かすことができなくなる。きっとまともに泳ぐこ
とは不可能だ。水が頭の高さを超えたら、彼女たちはんでしまうう。ルルカは、ミルカのことを想っ
た。広場の石畳に溢れた水は、すでにお尻を着けたルルカの尾の半分ほどを浸している。ミルカは街
のどこかで恐怖に怯え、震えているに違いない。
(牝獺は見捨てられたんだ──)
 ルルカは水に流されそうになっていた木のお椀を手に取り、ぎゅっと握り締めた。
(私たちも、この街の一員だって思えるようになったのに……)
『何だぁ? 噴水がえらく噴き出してやがるな』
『えっ? ジエル……?』
 突然声がした方を振り返り、ルルカは飛び上がりそうになった。ジエルのすぐ後ろに、ウォレンの
姿があったからだ。相変わらず、上半身を自慢げに露出させたウォレンの豊かな毛は、水に濡れて無
数の針のようになっていた。ルルカが驚いたのは、突然の再会であることばかりではない。ウォレン
は右手と左手、それぞれに胸環を掴んで牝獺の体をぶら下げていた。腕を曲げ、足を大きく開いたそ
の姿は、金属リングの"加工"を施された牝獺であることを示していた。
(ウォレン……。その娘たちを助けてくれるの?)
 両手が塞がっているウォレンの代わりに、鍵を受け取ったジエルがルルカの鎖を壁から外した。
『ウォレン殿から、お前に頼みがあるそうだ』
『……殿?』
『ああ、そうか。知らなくて当然だな。
 普段はこういう呼ばれ方を嫌う人だが、今はそんな事態じゃない。
 この人は、シエドラの治安を守る最高責任者だ』
『え──?』
 ルルカは待ち焦がれていた狼の顔を見る。いつもと同じウォレンだ。鋭い狼の目つきと裏腹に、調
子のいい言葉が飛び出してきそうな、懐かしい顔。
(ウォレンが……最高責任者?)
 ルルカは戸惑った。ウォレンも獺語の会話の内容を想像できるのか、照れるように顔を逸らす。
『時間が無いから、かいつまんで話すぞ。
 お前はあの人について行け』
『えっ?』
『ウォレン殿は、お前が牝獺の中で一番、この街の構造を知っていると言うんだ。
 俺にはとても信じられないが……、本当か?
 歩ける獺たちに、高台までの道を教えるんだ。できるな?』
『うん……、大丈夫……。だけど──』
『高台で、ジルフが牝獺を保護してくれる。
 俺は街の北側、お前はウォレン殿と一緒に南側を回るんだ』
(一緒に……)
 ジエルはルルカの鎖をウォレンに手渡し、代わりに加工されて動けない牝獺の身柄を引き受けた。
ジエルはすぐに高台への階段がある方へ走り去っていく。取り残されたルルカとウォレンは気まずそ
うに向き合った。


99 :
「えっと、久し振りだね……、ウォレン……」
 ルルカは嬉しさに頬が緩むのを気付かれないように必になった。会いたかったとは言えない。獺
が狼を待ち焦がれるなんて、おかしなことだ。さらには好きになってしまっただなんて──。
「あの、ごめんなさい、私──」
 ウォレンはルルカの言葉を遮った。
「時間が無い。話は後だ。ジエルから事情は聞いたな?」
「う、うん」
「じゃあ、頼む。手伝ってくれ」
 ルルカは頷いて、鎖を引くウォレンについて走り出した。
(どうしてだろう、大変なことが起きているのに、胸がわくわくする……)
 ウォレンと一緒に居られることが嬉しかった。そして、彼の役に立てるということ。
 走りながら、ルルカはウォレンに声をかける。街にはもう人通りも無い。今なら存分に話ができる。
「自警団って、本当だったんだ」
「ああ」
「遊び人だなんて言って、ごめんなさい」
「そんなことを気にしてたのか?」
 ほんの少し言葉を交わしただけだったが、この短いやりとりで、ルルカはウォレンがもう彼女に対
して怒ってないことを知った。これまで抑揚が無く、感情を読み取れないと思っていた公用語の響き
から、ウォレンの気持ちが伝わってくる。
(ウォレン……、許してくれたの?)
 思わず、笑みがこぼれる。いつもの言葉足らずで強引なウォレン。そしてそれに振り回される自分。
この関係が心地良かった。これまでと違うのは、ルルカがウォレンに好意を寄せているということだ。
「でも、どうして……?」
(どうして助けてくれるの?)
 誰もが見捨てようとしていた牝獺を、ウォレンは──。
 彼の答えは、ルルカの気持ちを裏切らないものだった。
「誰も見捨てようとしていたわけじゃない。
 牝獺が溺れてんでもいいなんて、誰も思っちゃいない。
 これは狼族の仕事だからだ。待たせてすまなかったな」
「あの娘は……、ミルカは?」
「ミルカ?」
「あの……、青い服の狼が連れてた」
「そうか、ミルカっていうのか」
 ウォレンは、物事には順番があるんだ、と言った。街の住人を避難させることを優先したのは、獺
族は少々水に浸かっても命を落とすことはないからだ。動けない八頭の"加工"された牝獺は、すでに
ジルフの下に避難させているという。
「そうだ、みんなの食器を……」
 ルルカは手に握ったままだった木の椀を見せる。これは牝獺にとっては唯一の宝物だ。
「分かっている。ほら」
 ウォレンは腰に着けた袋に集めた食器を見せ、ルルカの食器も預かった。


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