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2012年09月創作発表78: ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第五部 (356) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第五部


1 :2012/07/14 〜 最終レス :2012/10/12
         (_   /
     マ     / / 気 .ジ い
     ジ    〈   | に  ャ い
     す    ヽ  | 入. イ よ
     か    l´  | っ  ロ
      ッ   _|  | た !
 _   !?  /   \!
   `゙´ ̄`´__  /\     /
.    r' ̄ ̄  _ヽ/☆  7/ ̄
   /'´二 ヽ / ニ/ }  ☆  ☆
  _/l、二ニ ノニヽこ{_ノ、☆  ☆
   _二ニ´--一 ' |,ィ=.\ ☆  ☆
   /  / (・)   (・ソ ゙´  |ヽ、☆
.  | ,.く    '-_ヽ._   ヘ `ヽ、_
.   | ハ.ヘ ヽ ̄ ,フ !r'   __j | ト、 /
  ハヘ  |ヽ、`¨´/ >< ルヘ | /
   /ヽミヽ,>、 __¨    トー つyァ Y
    _Y 、_ノ_、ヽ  `仁´ノハヽ|
  |'´ /l、  _)¨´   (ヽニノ,.ヘ
  | /  7 ´ _.)     l ̄  ヘ
  | |  `ヽ´_ノ      ヘ    ヘ
  ヽ ヽ__,/        | _,.-ヘ

このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください
この企画は誰でも書き手として参加することができます
詳細はまとめサイトよりどうぞ

まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/
前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第四部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334678828/

2 :
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス
Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン
Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO
Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影
Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ
Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ
Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・R/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ
JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆
恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ
ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー
バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド
ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ

3 :
スレ立てありがとうございました。
私の投下は前スレ>>486 〜 スレの最後 までです。
よろしくお願いします。

4 :
前スレ書き込めないのでこっちに感想。
乙でした!
セッコ登場の時点で嫌な予感はしていましたが、DIOが混じることでここまでえぐい状況になるとは…
少年たちよ安らかに眠れ。ちびっこは生き残れない運命なのだろうかw
あと本能で怖がるFFが何気にかわいいw
H&F逃げてー!

5 :
拙作「羊たちの沈黙」のwiki収録完了しました。
指摘のあった誤字、自分で気がついたミスなどは修正しました。
収録後さらに気がついた点などがありましたらご報告ください。

6 :
遅くなりましたが投下乙です。
いやぁ、自分はホラーな面をゾクゾクしながら読んでたんで楽しかったです。
ジョジョってやっぱりホラーな漫画なんだなとつくづく思いました。次回も期待してます!

7 :
自分で読み返した際、DIOがまるでチョコラータがゲームに参加しているのを知っているかのような考察をしていたので、以下の一文を本文中に追加しました。
チョコラータもこのゲームに招かれているといいが。
放送を目前に迎え、DIOは以前にも増して名簿の配布が楽しみになっていた。

ついでに以下の文をDIOの状態表に追加しました。
セッコから、組織の事、チョコラータの事、セッコの事などの情報を得ました。
それがどの程度のものか(チョコラータのスタンドについてなど)は、先の書き手さんにお任せします。

それでは、今晩あたりc.g氏の投下でしょうか?
予定時間を告知して頂ければ、支援に参りますのでよろしく。

8 :
したらばに投下告知来てたんですね
今夜24時了解です。

9 :
いやぁ、吸血鬼が人を食う・柱の男が吸血鬼/人を食うってのはあったがまさかカニバリズムとは……ッ!
思いつきそうで思いつかない、コロンブスの卵的斬新なアイデアッ!
DIOのカリスマがヤバいぜ!

10 :
ウィル・A・ツェペリ、ワムウ、J・ガイル、スティーリー・ダン、モハメド・アヴドゥル
トニオ・トラサルディー、宮本輝之輔、マリオ・ズッケェロ、ジャイロ・ツェペリ
ビットリオ・カダルディ、ビーティー、橋沢育朗、ドルド
投下します。

11 :
 ◇ ◇ ◇

 ぱちぱちぱち……―――

 ◇ ◇ ◇

12 :


直後、順を追って三つの影が動いた。
ワムウが隙をついてツェペリに襲いかかる。ノーモーションから足の筋肉だけで跳躍、水平方向に跳ぶように彼は獲物に向かっていく。
次に動いたのはウィル・A・ツェペリ。襲撃に気づいた彼は距離をとるように後ろに飛び下がり、同時に波紋を込めた水滴を解き放つ。
練りに練った波紋を円盤状に。波紋カッターがワムウを迎撃せんと宙を飛ぶ。
そして三つ目の影は―――
「なッ!?」
「…………ほゥ」
ツェペリが驚きのあまり帽子を落としかけた。ワムウは興味深そうにそう唸った。
ワムウの行く手を遮り、ツェペリが放った円盤は地にたたき落とされた。ジャイロ・ツェペリと名乗る、謎の男によって放たれた鉄球によって。
ホールが沈黙に包まれる。その沈黙は場違いなほど明るい男の声によって破られた。
「おっと、お取り込み中、4・2・0〜! 横やりしてしまってすまんが、少しだけ俺の話を聞いてくれない?
 いやいや、そぉんな時間はかからな……―――」
男が全てを言い切る前に、またも三つの影が動きだした。
飛びかかるワムウ、とっさに防御姿勢をとったジャイロ、そして二人に割ってはいるように飛来した波紋カッター。
「こいつは手荒い歓迎なことでッ」
憎まれ口を言い切る暇もなく、彼は身を翻す。凶悪な笑顔を浮かべ、ワムウが来訪者に襲いかかっていた。
ワムウは一目見てジャイロを気に入ったのだ。
飄々とした態度の後ろに隠れる確かな実力と自信。それはワムウにあの男、ジョセフ・ジョースターのことを思い出させたのだ。
誇り高き『ツェペリ』の姓。それはワムウにとって、もう一人の認めるべき男、シーザー・アントニオ・ツェペリを思い出させたのだ。
魂を震わせた二人を思い出させる男の登場はワムウの心を揺さぶった。咄嗟に身体が戦いを求めるほどに。
ワムウの頭から垂れ下がる髪が、飛びかかるカッターの軌道をほんの少しだけずらしていった。ツェペリの攻撃はかわされた。
ワムウはジャイロに向かって一目散に向かっていく。ジャイロは柱の男の蹴りを避け、続く拳をしゃがんでかわす。
悪態ぐらいつかせてくれてもいいじゃねーか! そんなジャイロの悲鳴を無視し、柱の男はなおも攻勢をかける。
素早い連撃、呼吸すらする暇もなく攻め立てていく。柱の男が大きく構えをとった。体勢を崩したジャイロが膝をつく。大技で勝負を決めんとするワムウ……ッ!
「―――!」
だが、直後、男は持ち上げた両腕を交差させ、防御態勢をとった。
一筋の風が吹き、ウィル・A・ツェペリが豹のように柱の男に飛びかかっていた。
同時にその脇をすり抜け、ワムウを狙って投じられた鉄球。どちらも食らえば手痛いダメージは確実だ。

13 :
ツェペリに対しては牽制の意味も込め、カウンターの拳。鉄球に対しては、直感的に避けたほうがいいとみて、関節外し。
鉄球が凶暴な声をあげ、ワムウの皮膚を掠めていった。人間離れした回避方法に、ジャイロはあっと声をあげ、驚いた。
ワムウの拳はツェペリを捕えられず、空振りに終わる。そして同じく、ツェペリの拳もワムウを捕えることはなかった。
直前で身体を捻り柱の男が反撃、シルクハットが拳圧で吹き飛んだ。
戦いは再び振り出しに戻る。ワムウが後ろに跳び下がると、一旦距離をとり、場を落ち着かせる。
唸りをあげた鉄球が、ホルスターへと納め直された。風に煽られ浮かんだシルクハットを、宙で掴むと、かぶりなおす。
誰一人傷つかず。誰一人息を乱さず。全てが一瞬のうちに起きた出来事であった。
当事者を覗いて、その場にいたものは呆気にとられ、ただ目の前の戦闘に釘付けとなるほかなかった。

 ◇ ◇ ◇

14 :


「J・ガイル、宮本を連れて地下から脱出しろ。今すぐにだッ!」
「それをわしがさせるとでも?」
「おいおい、戦いはいけないよ、戦いは。お二人さんよォ、落ち着いて。ね?
 まずは話し合いから……―――ッと!」
暴風のような風が吹き抜け、思わずジャイロは身をすくませた。
そしてそれが二人の男が激突した時に生まれたものだと気づき、彼の口から呆れた様な言葉が漏れ出した。
同時に背中にじんわりと嫌な汗をかく。直接戦いに巻き込まれたらひとたまりもない。さっきは幸運だっただけで、また巻き込まれたら命がいくつあっても物足りない。
戦線離脱、ジャイロは二人の戦いから隙を見て抜け出す。俺は戦いたくてここにきたわけでもないんだ。情報だ、情報。
そう一人ブツブツつぶやきながら、男は頭を下げ、瓦礫や家具に隠れホールを横切っていく。
その隣をワムウとツェペリが、ほとんど影のようになりながら駆け抜けていった。
まるで鉄をぶつけ合っているような鋭い打撃音がホール中に響く。
老人と巨人は踊るように部屋を横切り、飛び跳ね、くるりと回り、戦い続ける。
これだから戦闘狂は困る。拳を持って語らい合えば、なーんていうがナンセンスだぜ。
せっかく口があるんだ。言葉で話し合えば、もっと簡単に、穏便に済むって言うのによォ。
ジャイロの独り言はなおも続く。誰に聞かせるわけでもなく、若干私情が混じっているのは否めなかった。
さてさて、それでは他の参加者さんたちにお聞きしましょうか、と。身を伏せ、地面を這い、なんとか安全地帯まで切り抜けたジャイロ・ツェペリ。
ほっと一息つくと、彼は顔をあげた。しかし案の定と言うべきか、さっきまでそこに見えた四つの人影は誰一人、もう残ってなどいなかった。
戦いを離れた場所で見ていたのは四人の男たち。彼らはとうに、身の危険を感じ、この戦場を離れていた。
指示を出されたJ・ガイルが引きずるように宮本を地下へと引っ張っていき、それを止めるためにトニオが後を追っていった。
スティーリー・ダンはこんな部屋にいてたまるか! と言わんばかりに、トニオにくっつきこの場を離れていった。
そうして最後、ポツン……とホールに取り残されたのはジャイロ・ツェペリ、ただ一人だったのだ。
せっかく意気揚々とこのホテルにやって来たというのに。
わざわざ危険を冒してまで、あの二人が戦い狂う舞台を潜り抜けてきたというのに。

15 :
なんてこったい、そう嘆いたジャイロの脇をツェペリの放った波紋カッターが再度かすめていく。
慌ててその場にしゃがみ込み、彼は深い深いため息をついた。
殺人者を求め、『納得』を求め、はるばるやってきた彼だったが、燃え盛っていた使命感や義務感が、少しだけなびいた。
楽天家で気分屋の面もあるが、ジャイロは元来真面目な性分だ。
少年の死に関わる情報を期待していただけに、この肩すかしはおおいに彼を落胆させた。人が多くいて期待値も高かっただけに、その落差も大きかった。
微かな疲労と上手くいかない苛立ち。だがこれぐらいではへこたれていられない。それでも前向きに行こうと、彼は自身を奮い立たせる。
ジャイロはそっと息を吐き ――― 刹那、後ろ髪が逆立つような気配に、反射的に、振りかえった。

「―――ッ」

戦いはいよいよ勢いを増し、二人はまるで暴風のようにホールを縦横無尽に駆け巡っていた。腕と腕が絡み合い、脚と脚が錯綜する。
第六感が命じるままにジャイロは飛びあがった。そして考えるより先に、彼は鉄球を投げた。
鉄球はワムウに向けて投じられる。ワムウは振り上げかけた拳を引き、咄嗟に回避行動をとるしかなかった。
「く……、ぬぅん!」
押されていたツェペリが足元の瓦礫につまづき、致命的な隙を生んでいた。ジャイロは瞬間的に、彼を助けるために鉄球を放っていたのだ。
ジャイロの加勢がなければ、ワムウの拳は胸を貫き、戦いは柱の男の勝利で終わっていたに違いない。
鉄球を右腕に受け、ワムウの表情が痛みと、そして驚きに強張る。ツェペリはすかさず危機から脱出し、ワムウより大きく距離をとった。
なぜ自分はこの紳士を助けてしまったのかはわからなかった。だが考えるでもなく、魂が反応したとでもいうのだろうか。
ジャイロはひとまず湧き出た疑問を横に置き、舞い戻ってきた鉄球を受け止める。
冷たくツルツルとした鉄球の感触が、ジャイロの思考をクリアに、そしてクールにさせてくれた。
まぁ、理由が何であれ、誰か人を助けられたのはいいことだろう。楽観的な彼は深く考えずにそう結論付ける。
だが鉄球を投げ、戦いに足を踏み入れたという行為。ジャイロは覚悟した。それが意味することは、ひとつだ。
この戦いは避けられない。ここは引いていい場面ではない、と。

16 :
ツェペリは乱れた呼吸を整える。言葉も言えぬほどに疲弊していた彼は目線と表情で感謝の気持ちを示した
ジャイロは手を挙げ返事を返す。視線を逸らすことができなかったのだ。
少しでも警戒心を緩めれば、筋骨隆々のあの男が襲いかかって来るに違いない。ジャイロにはそれがわかっていた。
ワムウがニヤリと口角を釣り上げる。冷たいナイフのような殺気と部屋が縮むかと錯覚させる圧迫感。
ジャイロが低く腰をさげ、戦いの構えをとった。それを見てワムウは益々笑顔を色濃くした。
レース前、スタートの瞬間を待つような、異様な雰囲気が辺りを漂い始めていた。
「ったく、なんでこんな面倒な事に巻き込まれちまったんてんだ」
唐突にジャイロはそう言い、不満げに顔をしかめた。
俺はただ情報が欲しかっただけなのによォー、そうぼやいたジャイロ。ツェペリは自然と隣に並び立つと、彼を庇うように一歩前に踏み出した。
申し訳なさそうな、困った笑顔を浮かべた英国紳士。軽い気持ちで言っただけにジャイロは慌てて、まぁ、仕方ねェよな、そう付け加えた。
隣でツェペリが、お詫びと言ってはなんだが、そう切り出し、戦いの後に一緒に朝食でもどうかね、と持ちかけてきた。
ジャイロは何も言わなかったが、ニカッ、と金歯を輝かせ笑顔を返した。
つられてツェペリも柔らかな笑みを返す。ジャイロのほうをちらりと見据え、彼はこう付け加えた。
「ジャイロ君、実を言うとわしも『ツェペリ』なんじゃよ。
 改めて自己紹介といこうか。ウィル、ウィル・A・ツェペリだ。よろしく」
「ジャイロだ。ジャイロ・ツェペリ。よろしくな、ウィル。ニョホホホ……!」
ツェペリの姓を聞き、ジャイロは驚き、目を見開いた。
しかし彼は、何事もなかったように差し出された手を握り、男たちは肩を並べ柱の男と向き合った。
今語るにはあまりに時間がない。それが二人が抱いた共通の思いだった。
時代を超えても血縁は結びつく。言葉に出さずとも、それが男たちには理解できたのだ。
大切なのは共に戦える事。詳しい御託は朝食の時にでもとっておこう。

17 :
「わしが前、君は後ろでいこう」
「任せた。それから、ぎっくり腰になっても任せておけ。こう見えても俺は医者なんだぜ?」
「それはそれは頼もしいことで!」
ツェペリがクスクスと笑いを漏らす。帽子をかぶり直しながら、ジャイロも面白そうに肩を揺らしている。
戦いを前にして、程よい緊張感が二人の間を漂っていた。強張りすぎるでもなく、緩みきるでもない。
ワムウが獣のように、歯をむき出しにした。凶暴な笑みが戦いの合図だった。
床を滑るように浮いた巨体。ツェペリが雄叫びをあげ、柱の男と激突する。ジャイロが後ろで叫び、鉄球が空を裂く。
時代を超えた戦いが、今、始まった。

 ◇ ◇ ◇

18 :


「トニオさん……、トニオさん! 待って、待って下さい……ッ」
後ろから悲鳴のような懇願する声が聞こえてきた。だがトニオは脚を止めなかった。
普段運動し慣れていない身体を目一杯動かし、なんとかJ・ガイルに食らいつく。
見た目に反し、J・ガイルは身軽な様子で軽快に先を進んでいく。だが諦めてなるものか。自分を励まし、トニオは駆けていく。
歯を食いしばり、身体に鞭打ち、男を追った。床を蹴り、階段を駆け下り、いつしか辺りの様子はすっかり変わっていた。
ホテルを抜け、地下に潜り、更に進んだころになってようやくトニオはJ・ガイルに追い付いた。
突然止まった影に、トニオは少し離れた位置で同じく脚を止めた。心臓がドクドクト脈打ち、今にも破裂しそうだと思った。
苦しそうに胸に手をやるトニオを、J・ガイルは面白そうに眺めている。トニオは何も言わなかったし、何も言えなかった。
滴る汗をぬぐい、息をつく。二人に後れをとっていたスティーリー・ダンが、ようやく追いついた。
ニヤニヤ笑って余裕を見せるJ・ガイルに対し、二人の男は息も絶え絶え。呼吸を落ち着けるまでに、少し時間を要した。
脇腹に鋭い痛みを感じる。ほんの少し走っただけだというのに脚がつりそうだ。
トニオ以上にダンは疲れている様子だった。ぜぇぜぇ、と息を弾ませ、膝に手をつき、苦しそうに喘ぐ。
トニオは横目で心配そうにその様子を伺っていたが、今はそれより急がなければいけないことがある。
彼は顔をあげると、J・ガイルに話しかけた。
「戻りまショウ、J・ガイルサン。戻ってワムウサンを説得して……もう一度話し合うンデス。
 全部誤解なんデス。冷静になって、素直に話し合エバ……きっとうまくイキマス」
J・ガイルは笑いながら、ポケットへと手を伸ばす。これ見ようがしに膨らんだポケットを叩くJ・ガイルを見て、トニオは宮本のことを思った。
走っている途中から宮本の姿が見えなくなっていたことには気がついていた。きっとスタンド能力で紙になったのだろう。
人質のつもりなのだろうか。トニオが唇を噛みしめるのを見て、J・ガイルの笑いが大きくなった。
男が返事を返してきた。何が面白いのか、彼は終始笑いっぱなしだった。

19 :

「ククク……なァに言ってんだい、トニオさん。もう状況はどうにもならねェぐらい悪化してるんだぜ?
 ワムウの奴が暴れ出したら、気が済むまでアイツは戦い続けるだろう。突然の横やりには驚いたが、まぁ、終わりには変わりないさ。
 ホテル大連立はこれにてお終い。最初から、手をとりあって、なんてのは夢物語だったのさ」
「ちがいマス! まだ間に合いマス! きっと話し合えば私タチはわかりあえますヨ!」
「ククク……音石を殺した奴がいるってのにか? 人が死んでんだぜ! 馬鹿言っちゃいけねェよ、トニオさん!
 少なくとも俺は御免だ。この先殺人狂と一緒なんて命がいくつあっても足りやしねェ。
 ましてや手を組むだなんて、そんなことするのは馬鹿がすることだ。
 そんなことするぐらいなら強いものの味方について、醜くても、汚くても、俺は生き延びようって思うぜ。
 死にたくないから俺はそうするんだ。それが俺の選択なら、アンタに一体何の権利があって口をはさむんだい? エエ?」
「それハ……ッ!」
「トニオさん……」
割り込むように、トニオの後ろから声が聞こえてきた。その声は冷たく、突き放すような口調だった。
ようやく落ち着いたダンが口を挟んできたのだ。トニオの肩にそっと手を置き、彼はコックの耳元に語りかける。
「もう無理ですよ、トニオさん。諦めましょう。
 J・ガイルさんの言う通りとは言いませんが、私も皆が仲良く、なんて出来るとは思っていませんでしたよ」
「ダンさんまで……ッ!」
「さぁ、早く戻りましょう。ここは暗くて、足場も悪い。スタンド使いじゃない僕らにとってはあまり危険です。
 トニオさんはもっと自分のことを大切にしてください。ここは殺し合いの舞台で、いつどこで、襲われるかわからないんですよ?」
「ダンさん、でも……!」
もし、その時トニオが冷静であったなら、何か違和感を感じられたかもしれない。
ダンの呼吸が、やけに乱れていること。J・ガイルの笑みがニヤリと更に深まったこと。
だけどトニオはあまりに人がよすぎた。人を疑わないということは美徳であるが、殺し合いの場ではあまりにそれは美しすぎるものだった。

20 :
支援

21 :

 ―――ズンッ……

ナイフが肋骨の隙間から滑らかに侵入し、心臓の真中を突き破っていった。
トニオ・トラザルディーの心臓を。スティーリー・ダンの持つナイフが。

「……エ?」
「……だから危険だと言ったでしょ」
「ククク……、ヒヒヒヒヒヒッ! これは傑作だッ! なんてこったい、まさかこうなるとはよォ!」

胸を貫く銀色の刃を、トニオは馬鹿みたいに見つめていた。せりあがってきた液体が口から噴き出る。
真っ白なエプロンに飛び散る赤を見て、自分が吐血したのだと、トニオはようやく気がついた。
それでもわからなかった。考えられなかった。考える間もなく、トニオの体は横に傾いていき、そしてそのままの表情で、彼はその場に倒れ伏した。
後に残されたのは青い表情で、深呼吸を繰り返すスティーリー・ダン。洞窟内に笑い声を響かせるJ・ガイル。
ジメジメとした空気に混ざって、血の臭いが込み上げてきた。
凶器を振るった男は後ずさり、壁に背を突き自分の手を見つめる。肉を抉った生々しい感触が、そこには残っていた。

 ◇ ◇ ◇

22 :


その闘いはあまりに熾烈で、大規模だった。
ホテルの壁をぶちぬき、柱をへし折り、三人は場所を変えても、戦い続けていた。
「ぐっ……ヌゥン!」
「それそれそれッ」
「おいおい、あまり無理なさんな、おじいちゃんよッ」
即席コンビの息はぴったりだった。
まるで長年共に戦ってきたかのように阿吽の呼吸で、二人のツェペリはワムウを攻め立てる。
前衛のツェペリはある程度距離を保ちながらも、時折懐に飛びこみ、危険な一撃を浴びせてくる。
床を蹴り、ツェペリが左右にフットワークを刻みながらワムウに迫る。
ジャイロの鉄球を避けることに意識をさいていた柱の男は、いとも簡単に接近をゆるしてしまう。
「波紋疾走ッ!」
関節を外した痛みをッ 波紋で和らげッ ズームパンチッ!
太陽のエネルギーを込めた一撃をガードするわけにもいかなく、柱の男は避けるしかない。
腰から上を水平にするほどに傾け、そのままの体勢で蹴りを放つ。
当たるとは思っていないが、絶えず牽制をしなければツェペリは畳みかけるように襲いかかって来るのだ。
山猫のような身のかわしと俊敏さはシーザーを彷彿させる。しかし彼以上に、ツェペリには長年の戦士としての経験があった。
体力や拳の重さは及ばないが、流れを読む老獪さ。ワムウは敵ながら感心する。
ジャイロも一流の戦士であるが、ツェペリがうまく前後にバランスを整えていることで、このコンビはより凶悪なものとなっていた。
面白い! 強敵との戦いはいつだってワムウの心を震わせてくれる!
拳を完全に避けきることはできず、波紋はワムウの右わき腹を抉った。
煙を上げて溶けた自らの傷口に手をやりながら、それでもワムウは楽しそうにニヤッと笑った。彼は自分が負けるとはこれっぽッちも思っていない。
男はなにもただ考えなしに、防戦に回っていたわけではないのだ。ワムウにも策はあった。
そろそろ攻めるとしようか、ワムウは一呼吸つく人間ども尻目に、自分の中でギアをあげる。
人間と違って飛びぬけたタフネスと体力があるからこそ、ワムウは当初『見』に回っていた。
ジャイロとツェペリの距離感やチームワークを見極め、綻びを探す。
そしてあちらの戦法がある程度定まってきた今、ワムウもまた攻めるべき場所を見つけたのだ。
「フフフ……次は、此方から行かせてもらうぞッ」

23 :
支援

24 :

二人のツェペリが構えをとった。ジャイロが下がり、ツェペリが前に出る。
当然だろうな、そう風の戦士は思う。見た限りジャイロは波紋使いではない。
高速回転する鉄球は波紋と似た効力を発揮していた。ワムウとて直撃すれば皮膚が爛れ、身体を貫かれる。
だが鉄球と波紋の最大の違いは防御への応用性。
ジャイロは波紋を身に纏わしているわけではない。それはつまり、ワムウがジャイロに触れることができたなら、肉を抉り、『食する』ことは容易なのだ。
それをさせないために、ツェペリが絶えずバランスを取り、ジャイロのガードに回っているのだが。
風の戦士が動いた。今まで退いては押し、絶えず距離をとっていたツェペリに対し、猛然と突っ込んでいく。
肉を切らせて骨を立つ気か。ツェペリはワムウの拳を受け流し、刈り取らんばかりに振るわれた脚を飛び跳ね、よける。
まるで暴風雨を相手しているかのようだ。ツェペリは身を沈め、首元目掛けて蹴りを放った。その攻撃は右腕によって阻まれた。
腕が融ける痛みにも怯まず、ワムウは更に一歩踏み込んだ。
ひたすらに前に、それがワムウの戦法だった。シンプルな力技だが、それだけに対処法も限られてくる。
単純な力技で上回るか、ワムウに撤退を選ばせるほどの攻撃を喰らわせるか。
そしてワムウほどの強者にそうさせるのは、非常に困難であった。
「ウィル!」
「……大丈夫だ! ジャイロ君、君は後ろで堪えておれッ」
ワムウが仕掛けた超近距離戦、それは同時にジャイロの鉄球をも封じる策であった。
ツェペリと密着するように戦われては、ジャイロも鉄球を今までのように投じられない。
攻防一体、ではなく、攻攻一極による戦法。巧みさもあれど、そのシンプルな力比べをワムウは好んだ。
波紋を流され、肌のあちこちが爛れていく。だがその痛みこそが、戦いを実感させてくれる。生きていることを、ワムウに教えてくれる。
脳天目掛け、腕を振るう。間一髪、紙一重でツェペリはこれを逃れる。
だが、避けたはずだというのに次の瞬間、ツェペリの頬を、額を、いくつもの刃が撫でて行った。
ワムウは一枚上手であった。風の流方、拳に纏わせた風が、かまいたちのようにツェペリに襲いかかったのだ。

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ジャイロが吠える。血に視界が塞がれたツェペリは勘と聴覚で、危機を察知し、その場を逃れるために跳躍する。
ワムウが踵を振り下ろしたさきには誰もいなく、かわりに飛来した鉄球をさけるために、柱の男はやむなく距離を取る。
血を拭うツェペリ、鉄球でその間をやり過ごすジャイロ。状況はあまり変わってないように思えた。
いや、近距離戦線を逃れられただけに、人間たち有利なのだろうか。
そうではない。ワムウはさらに笑みを深めた。こうなることも、男は計算済み。高速で飛ぶ鉄球を何度もかわし、隙を伺い続けるワムウ。
そして、ジャイロが一瞬だけ攻撃の手を緩めたその時を、彼は見逃さなかった。
ツェペリの目が大きく見開かれる。ジャイロは男の鋭すぎる戦闘センスに、ゾクリと肌を震わせた。
ワムウの両の手、その内側で極小の台風が生まれた。それは風の弾丸、嵐の球体といっていい。
ジャイロの繰り返し投じられた鉄球、黄金の回転を、ワムウはセンスだけで見よう見まねした。そしてそれを一つの技として、確立してしまった。

戦いの天才! 二人のツェペリは恐れおののいた。今二人が対峙する相手は、間違いなく規格外の化け物だった!

ワムウの手に出現した風の球体。禍々しいまでに圧縮された空気の塊。
幸運にも、その一撃は空振りに終わった。前に立つツェペリ目掛けて突きだされた右腕は、途中で軌道を変え、地面に叩きつけられてしまった。ワムウ自身も、暴れる風をコントロールしきれていなかったのだ。
だが転がるようにワムウの脇をすり抜け、振り返ったツェペリは、その威力を見て戦慄した。
もうもうと立ち込める砂埃の中、ワムウの技の跡は『完璧な球体』として地面を抉りとっていたのだ。
一ミリの誤差もなく、精密な機械で抉り取ったかのように。あまりの美しさに寒気がするほどだ。
その一撃が直撃したならば、一体どんなこととなるだろう。
嵐にねじ切られ、吹き飛ばされて壁に叩きつけられるか。肉を抉り飛ばされ、身体の半分がミキサーのようにかきまぜられるか。
ジャイロの額をツゥ……と一筋の汗が伝っていった。末恐ろしい、ワムウの戦闘能力。もしも、奴が完璧に黄金の回転を身につけたとしたならば。

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30 :

「ジャイロ君、前衛と後衛、後退しなァい?」
「アンタが俺みたいにガンガン鉄球投げれるってなら考えてやってもいいけど?」
「やれやれ……最近の若者は手厳しい。直接相手してるのはワシなんだぞ?」
軽口をたたいてはいるが、二人に余裕は一切ない。退いても駄目、押しても駄目。打つ手なし、と言う言葉がジワリと滲み出てきそうになる。
距離を取って引いたならば、ワムウは一気に押しつぶしに来るだろう。
柱の男の大技、『神砂嵐』。あまりに離れすぎてしまっては、二人にこの技を封じる手段がない。
そして二人には、あれを受けきれるほどの体力もタフネスもないのだ。発動されてはその時点で詰みだ。
かといって前に詰めれば今ワムウが見せた圧縮された風の球体がツェペリを襲うだろう。
神砂嵐と違って、ワムウはあれを動きながら繰り出すことができるのだ。
そうなれば前衛を務めるツェペリへの負担が大きすぎる。しかも先にわかった通り、ジャイロも援護射撃がしづらくなる。
余裕を見せるワムウに対し、突破口が見えない二人は動けない。
自分を上回る策と戦法を期待し、静かに待っていたワムウが腕組を解いた。
遊びは終わりだと言わんばかりに、ワムウの身体が膨らんだ。筋肉の膨張、本気の構えで男は二人を『殺り』にくる。
どうする……? どうすればいいんだ……? 二人のツェペリを焦燥感が包んでいた。

その時だった。

“ウォオオオオオム―――ッ!”

「!?」
「なんだ?!」

31 :
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33 :
答えはすぐに眼の前に現れた。
謎の鳴き声が響いた直後、音を立てて天井が崩れ落ちる。
舞い散る木片に紛れる一つの影。人でない何者かが地面に降り立った。
三人の間に割って入ったように現れた影。
爬虫類を想わせる鱗のような肌。獣のように鋭い視線。全身から発せられる人間離れした怪しい妖気。
そう、我々は知っているッ! この少年だったモノの姿をッ 異形の姿に変身した、その本当の姿をッ
これはッ これはッ 『橋沢育朗』だったモノ! 『来訪者バオ―』だッ!
死と戦いの臭いをかぎつけ、超生物バオ―が、今、このサンモリッシ廃ホテルにやってきたッ!
新たに役者が加わり戦いは次の局面へ。
闘争は終わらない。否、更にスピードを上げ、四人はブレーキをなくしたトロッコに乗せられ、加速していく……!

 ◇ ◇ ◇

34 :
支援

35 :


育朗は走っていた。走って、走って、走って……。
とにかく走ることだけが目的だった。どこへ向かっているなんぞ、考えていなかった。
少年は一刻も早く、その場を離れたかったのだから。
走りながら少年の体が大きく変わっていった。鱗のような肌が全身を覆い、光沢ある髪が空へと向かって伸びていく。
寄生虫バオ―もまた、その場を離れることを望んでいた。橋沢育朗『たち』は、東に向かい、猛スピードで駆けていく。
脇目も振らず走り続け、擦り傷、切り傷ができても止まらない。彼らは止まらなかった。一心不乱に、ただ少年は走り続けていた。
固く閉じた目の裏、真っ暗闇の脳裏に浮ぶ億泰の首。記憶に焼きついたその光景は、どれだけ振り払おうとしても忘れられなかった。
バオ―が、育朗が、どれだけ素早く宙を駆けて行っても。鳥のように、林の間を潜り抜けて行っても。
死んだ億泰の姿は、決して離れることなくついてくる。息を引き取る直前の、あの穏やかな笑顔を浮かべたままで。
せめて億泰が怨んでくれていたならば。よくも殺してくれたなと、憎々しげに呪ってくれたならば。
だが彼は笑ったのだ。全てを成し遂げ笑顔で死んだ。その事が何よりも育朗を苦しめていた。
彼は自分を人間だと言ってくれた。嬉しかった。そうでないのかもしれないが、そう思っていいんだと許された気がしたのだ。
なのにそんな彼を殺したのは“怪物”である自分だ。恐ろしかった。内臓を撒き散らし、血肉を貫き、止めを刺したのは自分なのだ。
自分が殺したのだ。自分のことを人間だ、そう言って笑って励ましてくれた少年を、育朗は殺したのだ……!
育朗は恐ろしい。自分と言うものが何なのかわからなくなり、考えれば考えるほど、自分が自分じゃなくなりそうだった。
“怪物”であるもう一人の自分にいつか全てを奪われるのでは。そんな有りもしない冗談すら、今の育朗には笑い飛ばせなかった。
だから逃げた。だから走った。逃げて走って、そうしていれば考えないで済むと思った。だが心優しい育朗は、忘れることなんぞできなかった。
血肉を貫く感触、真っ赤に染まった自らの手が記憶の中でよみがえった。
目を固く閉じ、育朗は吠える。悶え苦しみの叫び声をあげ、バオ―は空を飛び、地を駆けていく。
場所も知らず、周りを見ず、少年はひたすら走った。何も考えたくない、逃げだしたい。そう一途に思い、彼は走り続けていく。

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 ―――誰か助けてくれ “割れるように、頭が痛いんだ”
 ―――考えたくないんだ。自分が人間なのか、怪物なのか。 “張り裂けんばかりに、胸が苦しいんだ”
 ―――僕は自分が、恐ろしい……ッ “一体、何が起きているんだ……”

 “この想いを……”『このにおいを……』  ――― “消してくれ”『消してやる』

その苦しみはッ その悲しみはッ 育朗が人だからこそ 感じ取っているものだというのにッ!
悲しいから泣くのではないッ 恐ろしいから逃げだしたのではないッ
人だッ! 橋沢育朗が、誰よりも人だからこそッ 育朗は今、苦しみ、怒り、涙しているというのにッ!

少年はあまりに若く、あまりに純粋すぎた。無垢な心は罪悪感に蝕まれ、答えを探し、もがき苦しんでいる。
何かにあたり散らさねばならないほどに。やけっぱちな覚悟で、無謀な事をしでかすほどに。
バオ―は木々の先をしならせ、幹を蹴り、林の中をすり抜けていく。一段と大きな木で飛びあがると、彼は遂に目的地へとたどり着いた。
沈みかけた月が、異形の影を屋根へと落とす。バオ―は高く、高く舞い上がる。夜空を背後に、来訪者が空を駆けていった。
バオ―はその臭いを知っていた。風に紛れ、嗅ぎつけたのは自分と同じ、怪物の臭い。
両手首から鋭い刃が飛び出した。空中で回転すると頭から落ちていく。そして刀を振るい、彼は館の屋根を破壊し、中に侵入した。
そうだ、怪物を倒してやる。怪物を倒せば、この悲鳴はやむだろう。
怪物は人間の敵なのだ。怪物がいなければ、億泰は死ぬことなんかなかったのにッ
そうだ……怪物が、怪物がッ! 億泰を殺したのは、怪物だッ!
“ウォオオオオオム―――ッ!”
バオ―が鳴き、叫ぶ。あるいはそれは彼の心があげた悲鳴だったのかもしれない。

 ◇ ◇ ◇

39 :
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40 :
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41 :


突然の来訪者、誰よりも早く反応したのはツェペリだった。
「ジャイロ君ッ」
初動を見せず、一跳び、二跳び。ジャイロの元へと辿りつく。そのまま彼の手を取ると、同じく俊敏な動きでロビーへと脱出を試みる。
そうはさせまいとワムウは足元にグッと力を込め……そこで、動きを止めた。
今動けば殺られるのは自分だ、そう彼は理解したのだ。充満する色濃い殺気は、異形の者からワムウへと直接放たれていた。
“怪物”のターゲットはワムウ。二人のツェペリが動き出してもバオ―はピクリとも反応せず、むしろワムウが見せた僅かな隙を利用して、距離を詰めていた。
柱の男は不愉快そうに眉をひそめる。
無論、問うまでもなく、目の前の謎の生命体はかなりの強者であろう。
それはわかっている。わかっているが、それでも戦いに横やりを入れられるというのは不愉快だ。
それが因縁の血縁者と、しかもここからが本番だ、というところで邪魔をされたならば尚更である。
ホールを一瞥するワムウ。姿が見えなくなった二人のツェペリ、微動だにせず、此方の隙を伺い続ける来訪者。
いささか不満はあるものの、こうなってしまった以上は仕方あるまい。
ワムウは部屋中の風を操り、屋内に小さな台風を生みだした。瓦礫が舞い、木片が飛びかう。これは一種のパフォーマンス。
相手の反応を伺う。バオ―は動かなかった。動揺一つ見せず、むしろ呼応するように、吠え猛る。ワムウがニヤッと笑みを見せた。
そうか、お前も闘争を望むか。戦いを求めて、はるばるここまでやってきたというのか。
「その殺気、甘んじて受けとめよう。だがな、怪物よ、いささかいきり立ちすぎだ。
 躾のいき届かない駄犬には、お痛いを味わってもらおうか」
そっと諭すように、そう話しかけた。バオ―は言葉を理解しているのか、していないのか、雄叫びで返した。
次の瞬間、怪物が動いた。
床板を踏み抜くような勢いで、猛烈な勢いでワムウに迫っていくッ 両手首から飛び出した鋭い刃がワムウの首筋を狙い、振るわれたッ!
「ふん、どこの馬の骨とも分からん奴だが……いいだろう、そんなにも死にたいのと言うのであれば、このワムウが葬ってくれるわッ!」
第二ラウンド開始だ。怪物同士の戦いが、今、幕を開ける。

 ◇ ◇ ◇

42 :
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44 :


「いいのか?」
「いいのかって、何がじゃ?」
「ワムウの奴のことに決まってんだろ」
「なら今から戻るかい?」
「勘弁願いたいね」
ジャイロの即答にツェペリは声をあげて笑った。だがすぐに笑いを止めると、真顔に戻った。
そしてジャイロにこう問いかけた。
「それで……一体ここで何が起きたと思う?」
「さーっぱりだ。俺は機械整備士でもないし、発明家でも何でもない。
 ただわかってるのは、『コレ』が自動車って呼ばれる乗り物らしいってことぐらいかな」
ツェペリは顔をしかめ、胡散臭そうにジャイロを見つめる。
彼が何も言わないので改めて視線を戻すと、目の間の光景を見つめボソリと呟いた。
「わしにはどう見てもタダの鉄屑にしか見えんが……」
実際そうであった。ロビーは二人が戦ってきた場所以上に荒れ果て、ボロボロになっていた。
壁をぶちぬき、一台の車が玄関で煙を上げ、止まっていたのだ。暴走した車のタイヤ跡が、ありありとホールの床にしるされていた。
相当スピードが出ていたのは間違いないだろう。フロントガラスは粉々、ボンネットは巨人に握りつぶされたように無茶苦茶だった。
にしても、車の操作方法を誤ってホテルに突っ込むとは。
自動車と言うものはよくわからない。だが機械に振り回され、こんな滅茶苦茶なことしでかした運転手はさぞかし間抜けなんだろう。
沈黙のままに、二人はそう思った。
「……ゥ、クソッ! なんだってんだ、このクソッ!」
二人の耳が唸り声を捕えた。見れば運転席に人影がある。
捻じれた運転席から身を捻りだした少年は幸いにも、怪我を負ってないようだった。
とは少年といえども油断はできない。二人はいつでも戦えるように身構えながら、ゆっくりと近づいた。
二人が少年に声をかけられる距離までゆっくりと近づいていく。一方少年は、何を思ったのか、車を蹴り飛ばし、ナイフでところ構わず無茶苦茶に傷つけ始めていた。
チクショウ、だの、クソッたれ、だの悪態をつきながら刃物を振り回す。

ジャイロがツェペリを見る。ツェペリもジャイロを見た。それはどう見てもフツーの少年とはいえそうにない様子で、二人は顔を見合わせると、きまり悪そうに表情を変えた。
どうやらこの少年、相当危ないやつのようだ。少なくとも二人が知っている健全な少年は、自動車を乗り回し、あげくのはてにやつあたりでナイフを振ったりはしない。
そういう少年のことは、危険人物と言うのだ。
なるべく刺激しないように、優しい口調でツェペリが声をかけた。距離は充分すぎるぐらい取っていたが、腫れものに触れるような感じで彼は言った。
「あー、少年よ。えーと、君がこの車に乗ってきたのかね?」
「ああ?」
振り向いた少年を見て、ジャイロはぎょっとした。そして今までの態度を改める。
ただの不良少年では到底持ちえないほどに、その眼光は落ち窪んで空っぽだった。
ジャイロはこの目を知っている。この目に心当たりがある。
父に連れられ、医師として病院を回っていた時に何度か目にしたことがあった。鈍く腐ったような瞳は、R中毒者特有の症状だ。
少年は辺りを見渡した。自分がどこにいるか今になって確認しているかのようだった。
奇妙な空白を置き、ツェペリの問いかけに彼が答える。少年の声は一切の潤いを持たない、枯れきった樹木のような声だった。

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「そうだけど?」
「怪我は大丈夫かね。見たところ出血はないようだが、捻挫だったり、打撲だったり……」
「いいや、大丈夫さ」
傷だらけの少年はそこで突然、笑いだした。
前後の会話と脈絡のない笑い。それはツェペリに少年を危険人物と判断させるに十分だった。
ジャイロもいつの間にか、彼の元へと近づいており、二人は先と同じよう戦闘態勢を取っていた。
場に流れた緊張感もしらず、少年は馬鹿笑いを続け、そしてピタリとその笑いがやんだ。
興味深そうに並んだ二人の男を眺め、ぼそりぼそりと誰にともなく話しだす。
感情の起伏と表情の入れ替わりに、常人ではついていけない。少年は狂人と呼ぶにふさわしかった。
「うーん、あんた達二人ともいい人っぽいよなァー。見るからに善人っていうのか?
 困った人を放っておけないタイプだろ? おせっかい焼きっていうんだろうけどさ、あれって一種の自己投影らしいぜ。
 つまりさァ、他人を助けるふりをして、結局は自分が助かってるってやつ。
 優しい優しい僕にも同じぐらい優しくしてくれよォ―。俺がやるからお前もやれよォー。そう言うやつらしいぜ。
 そうすることで、過去の自分だったり可哀想な自分を慰めるんだってさ。そう考えると、すっげーダイナミックな自慰行為だよなァ?
 キャハハハハ! 自慰行為! 自慰行為だってさ! うははははは! きッたねェー! ぎゃははははははは!」
そしてまた笑いがやんだ。二人の男はどうすればいいのかわからず、何も動けなかった。
敵でない以上攻撃するわけにはいかない。かといって放っておいていいかといったら断じてNOの危険人物だ。
ツェペリが横目でジャイロを見ると、彼は何も言わず肩をすくめた。お手上げということだろうか。
確かにお手上げだ。そして更に悩ましいのがあまり考える時間がないということだ。
ツェペリは悩んだ。そして、まるでその時をねらっていたかのように、極めて自然な感じで少年がデイパックへ手を伸ばした。
響く銃撃音、飛び散る弾丸。狂ったような笑い声をまたもあげながら、少年はあたりかまわず銃を乱射した。
ツェペリが間一髪でかわすことができたのは、ジャイロが直前で気がつき彼を突き飛ばしたからだ。
二人は瓦礫を壁に、大声で話す。銃声音に紛れ、ジャイロの怒りに満ちた声が聞こえてきた。
「おい、なんだってんだ、アイツ?! 頭おかしーんじゃねーの?! なんなの!?」
言葉が終わるか終らないかのうちに、ジャイロが投げた鉄球が少年に襲いかかる。
彼は攻撃を予想していただのろうか。俊敏な動きで車の背後に回ると、鉄くずを盾に彼もまたその場にしゃがみこむ。
鉄を打つ音とともに鉄球がジャイロの元へと返ってきた。その間も、少年の笑い声が途切れることはなかった。
ジャイロは悪態を打つと、少し離れた位置にいるツェペリに手で合図する。
少しの時間をおき、同時に二人で挟み撃ち。少年をハッキリとして敵と認識し排除する。
だがその策に対し、ツェペリは浮かない顔で頷くでもなく、首を振るでもなく。
ジャイロは男をじっと見つめ、隙を見て彼に近づくと脅すようにこう言った。
二人の男の頭上を、何発かの銃弾が飛びぬけて行った。首をすくめて、ジャイロがまたも悪態。そして言う。
「ウィル、まさかアンタ子供だからって手緩めようとしてるんじゃねーだろうな?
 言っとくがアイツ、確実に薬ヅケだ。見ただろう、腕にあった注射跡。
 あれはこの殺し合いが始まってからできたような傷跡じゃねー。ジャブジャブのヅケヅケ。完全なまっ黒さ」

50 :
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51 :
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52 :

畳みかけるように、こう付け加える。
「それにワムウの野郎がいつまで足止めされるかもわからねェ。下手すりゃさっきの怪物くんも交えて大乱闘になっちまうぜ?
 そんなんは俺は御免さ。アンタがやらないってなら、俺がやる。今度は逆だ、俺が前、アンタが後ろ」
俯いていたツェペリだが、少しの沈黙の後、彼は顔をあげた。口を開いた時には、もう彼の顔にも声にも迷いはなかった。
「いや……大丈夫じゃよ」
戦わなければ生き残れない。
出来ることなら、殺したくはない。そう考えるのは甘いのだろうか。その理想を夢見る偽善者だと馬鹿に出来ようか。
弾丸がまた数発、二人の頭上を抜けて行った。ジャイロはホルスターから鉄球を取りだすと手の中で回転させる。
指を立てて突撃の合図。挙げられた指の数が減っていく。3本、2本……1、……そして0。
黄金の回転が地面に叩きつけられ、爆発が起きた様にあちこちで瓦礫が吹き飛んだ。
少年が突然のことに驚いた声をあげた。同時にツェペリは瓦礫から身を躍らせると、そんな彼に向かって飛びかかっていった。

 ◇ ◇ ◇

53 :
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54 :
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55 :
ものすごいスピードで振るわれた二本の刃。だがワムウはいとも簡単にそれを避けた。
そして避けるだけでなく、拳を一閃。カウンターぎみに腕を振るうと、面白いぐらい綺麗に拳がバオ―の顔面を捕えた。
きりもみをあげて来訪者が宙をきり、壁へと叩きつけられる。
いや! 壁をぶちぬき、そのまた隣の部屋まで吹き飛び、怪物の身体はそこでようやく止まった。
ワムウは追撃に走るわけでもなく、ゆっくりと隣の部屋と足を踏み入れた。
男の顔は強張っていて、いつもの戦いを楽しむような笑顔は浮かんでいなかった。
ひどくうかない表情で彼はバオ―の姿を探し、そし死角からの奇襲に対しても冷静に対処した。
淡々と、感情を見せることなく、まるで作業のように。
バオ―の攻撃をいなし、かわし、今度は脚を振るった。
首筋へ打つと見せかけて、軽いフェイントを一つ入れた後、逆の足で思いきり胸目掛けて蹴りあげる、
肋骨が折れた様な鈍い音が響き、バオ―が悲鳴をあげた。ワムウはやはり面白くなさそうで、淡々と攻撃を続けていた。
戦いは一方的であった。ワムウとバオ―、両者の間には大人と子供ほどの実力差があり、どちらが優勢かは一目見てもわかった。
だがワムウは不満げだった。さきほどまで上機嫌であった男は、嫌悪を込めた目線で目の前の化け物と戦い続けていた。
もう何度目になるかわからない、バオ―のダウン。
防御のために折り重ねた両腕の隙間から、ワムウの掌底がねじ込まれ、バオ―はまたも吹き飛ばされ、叩きつけられる。
今度の一撃は効いたようだ。バオ―は立ち上がれない。後頭部を強く打ったせいか、唸り声をもらし、彼は地面で苦悶の表情を浮かべていた。
聞こえる足音、覆いかぶさる影。次の攻撃が襲ってくる。そうわかっていても、それでもバオ―は動けなかった。
ワムウが腕を突き出し怪物の喉元を掴む。力の入らない全身、宙づりにされ弱弱しくもがくバオ―。
ワムウは真正面からバオ―の目を覗きこんだ。しばらくの間、ワムウはまるでそうすることで化け物の心の内を覗きこもうとしているかのようだった。
やがて、無造作に放り捨てられる。背中から地面に叩きつけられ、バオ―の息が一瞬とまった。
柱の男が、ゆっくりと口を開いた。抑揚のない声だった。
「何をそんなに脅えているのだ、怪物よ」
バオ―は何も答えない。答えられるほど、身体は回復していない。
ワムウは話を続ける。彼がバオ―を見つめる視線は変わらず、興味のない映画を見ているかのように、乾ききッていた。
「貴様との闘争はまったく面白くもなんともない。お前からは一切の誇りも、自信も、闘気も感じられんのだ。
 なんのために貴様は戦っているのだ。誇りをかけてか? 納得をかけてか? 一族を背負ってか?
 どれでもない。貴様が戦う理由はただ、貴様が脅えているからなのだ。
 名もなき怪物よ。貴様は闘争の場で、俺ではなく、自分自身の恐怖と戦っているのだッ
 ……ふん、確かに貴様は強いのだろうな。脚力、拳力、ありとあらゆる武器となる身体……。人間とは比べ物にならないほど、貴様は強い。
 だが貴様はあまりに弱いッ あまりに腑抜けているッ 」
怒気を含めた言葉とともに、バオ―の胸に脚を振り下ろす。
足裏でバオ―が、唸り声をあげ、苦しそうにのたうつ。ワムウは黙らせるように、もう一度足を振り下ろした。
大人しくなった化け物に、柱の男は話を続ける。
「恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!
 今のお前は何物にも成れん、哀れな生き物でしかない。
 何のために戦うのだ? 誰のために戦うのだ? 誇りを持たぬ戦いなんぞ、犬のクソに劣っておるわッ」

56 :
支援

57 :

ワムウはまた蹴りをお見舞いしようと脚をあげ、反射的に飛びのいた。
バオーの刃は空振りに終わった。会話の最中にそこまで回復したというのだろうか。だとしたらたいした回復力だ。
だがワムウは動じることない。ゆっくりと風を巻き起こすと、その風を纏うように展開していった。
そう、ワムウがバオーに対し圧倒的優位となれるのはこれがあるからだ。
来訪者バオーは発達した触覚で感情やにおいをかぎ取り、それを元に相手の距離を詰めたり位置を捕えたりしている。
だがワムウは風の流法を司る男。気流を乱し、闘気と殺気を抑えることでワムウはバオ―から身を隠すことに成功した。
ましてや、今バオーは恐怖におびえ、遮二無二闘っている。そうなっては相手の恐怖を嗅ぎつけることも難しくなる。
ワムウの言うとおりだ。恐怖を克服しない限り、バオーは決してワムウに勝てはしない……!
「去れ。貴様が恐怖を克服せん限り、俺に勝つことはできん」
来訪者も本能的にそれを悟った。
じりじりと背を見せることなく慎重に距離を取り、ある程度離れた位置まで来ると一目散に逃げていく。
悔しみを込めて、怪物が咆哮をあげた。敗北者の声が遠くなり、やがて聞こえなくなるまでワムウはその場に立ちつくしていた。
「……ふん」
勝利に浸ることもなく、後味の悪さだけが残る戦いであった。ワムウはそう思った。
踵を返すと、男は脚をロビーのほうへと向けた。研ぎ澄まされた聴覚はさきほどから絶えず響き続ける銃声と、男たちの怒号を捕えていたのだ。
ツェペリたちはまだいるようだった。ならば、闘わない手はない。そう男は思う。
この燃え盛る闘志を沈めるには、やはり、あの二人しかいない。
グッと握り拳を作ると、彼は目を輝かせる。あの二人との戦いを思い出すと疲労なんか吹き飛んでしまう。
策を弄し、ギリギリの死地を切り抜け、全力を振り絞って自分に向かってくる二人のツェペリ。
そう、それこそが戦いだッ! ワムウが愛してやまない戦いと言うのは、そういうもののことをいうのだ!
焦る気持ちを抑え、ロビーへ足を踏み入れた柱の男。どうやらこちらも戦いは終盤を迎えているようだ。
ツェペリが攻め立て、ジャイロが逃げ手を封じる。受けに回った少年は苛立ち気にナイフを振るうが、空振りに終わる。
―――勝負ありだ
ナイフを振るった際にできた大きな隙を見て、男は一人呟いた。
ツェペリもその隙を見逃さなかった。床を蹴り、大きく跳躍すると練りに練った波紋を纏わせ彼は突撃する。
ナイフを持ち上げなおすが、少年は間に合わない。ツェペリの拳のほうが早い。

そのはずだった。
「―――ガ、ハッ……?」

だが次の瞬間、ツェペリの口元から大量の血が噴き出した。
何が起きたかまったくわからない。ワムウもそうだ。ジャイロもそうだ。
拳がぶれ、男の攻撃は少年を捕えることなく空振りに終わった。その最中ヴィットリオ・カダルディだけが、らんらんと瞳を輝かせていた。
少年の顔が禍々しい笑顔に染まった。
ワムウとジャイロの絶叫がこだまする中、銀色の閃光がツェペリの体を貫いた。


58 :
支援

59 :

 ◇ ◇ ◇

「つまりは、スティーリー・ダン。お前も“こちら側”だったってことか?」
「ああ、そうだ」
「ククク……まったく嫌なやつだな、お前も。いや、最初は善人面してるだけに、俺よりよっぽどタチが悪いぜ。
 見てみろってんだ、この俺を。両手が右手で、見るからに悪人面。
 ああー、俺もお前みたいによォ、綺麗な面して他人信頼されるような、そんな人間になりたかったぜ。ヒヒヒ……!」
歯の浮く様な台詞だと、J・ガイル本人もわかっていた。
自分が言った冗談が面白かったのか、彼は大きな笑い声をあげると腹を抱えて、一度作業を中断した。
ダンは笑えなかった。ほほが痙攣して、かろうじて笑顔らしき中途半端な顔を作っただけだった。
J・ガイルは肩を揺らしながら、休めていた手を動かし始めた。手の動きに合わせてゴリゴリ、と何かを削るような音が響いていく。
ダンは耳を塞ぎたかったが、J・ガイルが話しかけてくるものだから、そうもできなかった。代わりに目を瞑り、ぐっと下っ腹に力を込めた。
まっとうな道を歩んできたわけではなく、人の死には普通の人よりも慣れているつもりだった。だがそれでも、血の臭いだけには慣れなかった。
「お前もどうだ? 一緒にやってみねーか?」
「いいや、遠慮しとく。私にはそっちの趣味がないんでね。それより、J・ガイル、先にはっきりさせたいことがある」
J・ガイルはお楽しみを続けながら、続きを促した。
ダンの口調が気に入らなかったのか、上機嫌で絶えなかった笑いを彼はひっこめた。
黙々とナイフを振るうその背中は、まるで不器用な木彫り職人のようだった。ダンは雰囲気の変わったJ・ガイルを見て、少し怯んだ。
「……私を殺さないほうが、いい。いや、訂正しよう。
 J・ガイル、君にとって私を殺さないほうが必ずや得になるだろう。だからこれはお願いになるのだろうな。
 私を殺さないでくれ。そして、次に会ったとき、ワムウと話をさせてくれないか」
「何か考えがあるのか?」
ダンは黙りこんだ。トニオ達を裏切ッた事に関しては後悔していない。
ワムウが突然暴れ出し、J・ガイルを追い始めた時から、こうしようと決めていたことだ。
ツェペリとトニオ、J・ガイルとワムウ。どちらに与すれば得を得られるか、リスクはあるが後者であるとダンは判断したのだ。
なにより、洞窟の中でJ・ガイルと会った時点でもう引き返せない位置にいた。
ワムウという抑止力を失ったJ・ガイルは正真正銘の狂人だ。大人しく撤退を選ぼうにも、そうしていたら、間違いなくトニオもろともダンは殺されていただろう。
あの時J・ガイルが漏らした殺気。その鋭さに、ダンは震えた。
唇を一舐めし、もう一度口を開く。ダンは慎重に言葉を選んだ。
「ウィル・A・ツェペリを、始末した」
「ハァ?!」
「私は『スタンド使い』だ。
 もちろん、能力を明かすことはできないが、今確かに、私にはツェペリを始末した手ごたえがあった。
 その内ワムウがここにやってくるだろう。その時、このことは黙っていてほしい。
 そして私に話をさせてほしい」
「てめェ、今、自分が何をしたかわかっているのか……?」

60 :
支援

61 :

J・ガイルの声には怒気が含まれていた。脅え、一歩後ずさりたくなるのを必死で堪え、ダンは虚勢を張る。
sラのようにガンを飛ばしてくるJ・ガイルを、彼は涼しい目で見下す。
内心は恐怖でいっぱいだった。ナイフの先からポタリと垂れた血に目が奪われた。
だがここで脅えていると思われたら、この先ダンはずっと舐められっぱなしだ。それだけは避けなければならない。
数センチまで近づいたむさくるしい男の顔に、ゆっくりと話しかけた。
物わかりの悪い馬鹿に、丁寧に説明する皮肉気な調子でダンは喋った。
「わかっていますとも。貴方は今、こう考えたのではないでしょうか。
 なんだってウィル・A・ツェペリを処分したんだ。奴の能力を見てなかったのか、このスカタン!
 波紋ってのが何だかよくはわからないが、どうも太陽のエネルギーのことらしい。
 ならばこのツェペリって男、使えるぞ! うまく扱えば吸血鬼も敵じゃねェ! と」
「!」
「そう、私は知っています。絶対無敵の吸血鬼、その上、最強のスタンドを従える、ある人物を……」
「まさか、てめェ……!」
うまくJ・ガイルが釣れたことに、ダンは自信をつける。
今までずっとイイ気で、自分のことをなめ腐った態度でみていた男を欺いた優越感。
血の気のなかった頬に赤みがさした。僅かな興奮を感じ、ダンは話を続ける。
「フフフ……J・ガイルさん、私はね、ワムウを失いたくないのですよ。
 だからツェペリを始末した。不安の芽は徹底的に摘むのが私の性質なんでね。
 優秀な当て馬は万全な状態で手元に置いておきたい。ここまで言えばわかるのではないでしょうか?」
「一つだけ聞かせろ。てめのースタンドは……?」
ぐっと胸を張ると、男はこう答えた。
ゲームが始まって以来、初めて彼は自分のことを誇らしく、そしていつも通りの余裕のある態度で答えることができた。
「スティーリー・ダン、スタンドは『恋人』のカードの暗示……ッ!
 ミスター・J・ガイルッ! ここはひとつ、協力しようではありませんかッ
ワムウを操り、そして最強のスタンド使いの、あのお方を倒すためにッ
 ここは手を結ぼうではありませんか…………!」

 ◇ ◇ ◇

62 :
支援

63 :


「ウィル――――ッ!」
ジャイロの絶叫とともに、鉄球が投じられた。
少年はかろうじてナイフでそれを受けきると、なんとか弾き飛ばすことに成功した。
よろめいた少年に、再び鉄球を叩きこもうと振りかぶるジャイロ。しかしそんな彼よりも素早く動くものがいた。
風が駆け抜けていった。少年の体は木の葉のように軽々と吹き飛ばされ、玄関脇へと叩きつけられる。
グェ、と蛙を踏みつぶしたような声を少年があげた。
その速さ、力強さ。柱の男が醸し出す強者の雰囲気は圧倒的だった。
少年の判断も素早かった。今壁に叩きつけられたとは思えないほど素早く起き上がる。
ドリー・タガーによりダメージは軽減されている。ビットリオは超スピードで迫りくる男を前にしても冷静だった。
そう、自分が敵わないということがわかっており、ここは逃走するしかないとわかっているほどに、彼は冷静だった。

「なッ―――!」
「く……、卑怯なまねを…………ッ!」

爆発、閃光、轟音、黒煙。
ビットリオは惜しげもなく支給品を使用した。使わなければ逃げられない、そう判断して、実際そうした。
結果的に彼の目的は果たされた。突然目の前全てが光に覆われ、平衡感覚が狂うほどの音の嵐、おまけに催涙ガスが辺りを立ち込めていた。
涙が止まらず、咳を繰り返すジャイロ。ワムウが風を巻き起こし、辺りがようやくおさまったころにはビットリオの姿はなかった。
代わりに、ホテルから遠ざかっていくような一台のバイク音が聞こえただけだった。
ワムウは苦々しげに扉から外を見つめた。太陽が昇りかけている。時間が時間でなければ、地の果てまで追ってやろうと思ったのに。
無念に満たされた思考は、ジャイロの叫び声で引き戻される。
ツェペリの脇で膝を落とし、ジャイロが意識を確かめている。いつも見せていた飄々とした余裕が、今ばかりは見られなかった。
それほどに、ツェペリの傷は深いようだった。血がまるで泉のように噴き出ていて、ジャイロの服が真っ赤に染まっていった。
「どうだ?」
「…………今見てる」
ワムウが問いかける。ジャイロは喋る暇すら惜しいと言わんばかりに鉄球を操り、デイパックから包帯や薬品を取りだした。
ツェペリが激しくせき込んだ。口元から血が噴き出し、そしてタラァ……と鼻筋から血が流れていく。
それを見て、ジャイロの顔色が変わった。
「……クソッ!」
「なんだ?」
ジャイロは無言で鉄球を地面に叩きつける。
床に現れたのはツェペリの頭蓋骨を横から切った断面図。医学に詳しくないワムウはジャイロの狙いがわからない。
ただ少なくとも、貫かれたはずの心臓よりも、脳のほうに何かしらの問題があることだけはわかった。
余裕があって話せる範囲でいい、そう前置きして柱の男が説明を求めた。
手を休めることなく治療を続け、ジャイロは歯の隙間から唸るように言った。

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「心臓のほうは大丈夫だ。超ラッキー、スーパーついてるぜ、ウィルの野郎。
 まるで狙ったように骨の隙間をすり抜けて、内臓にはほとんど傷がついてねェ。
 それどころか、血管も無事だ。出血が多いように見えたが、俺の鉄球とこれだけの治療器具があれば対処できる範囲内だ」
「……ならば問題は」
「そうなんだ、心臓は問題ないはずなんだよ。だがな、ならなんでウィルに意識がない?
 脳を覗いてみれば明らかに変な個所があるッ 異物だッ だけどいつ、何が侵入したってんだ?
 脳ん中に何かを埋め込まれた? んなわけあるかよ。というより、そんなことは現代の医学じゃ不可能だッ
 スタンド攻撃? このタイミングで? くそ、手術の出来る場所が欲しい……
 だが、あまりに時間がなさすぎる……ッ!」
ジャイロは不甲斐ない自分を呪い、地面を叩いた。救える患者がいるのに、救う施設と時間がない。
ワムウのほうを振り返った彼の目は悔しさと悲壮感の色に染まっていた。自分の無力さに震える一人の男がそこにいた。
ワムウは何も言わなかった。ジャイロと同じように、ツェペリの傍らにひざまずくとそっと腕を伸ばした。
何か言いたげな表情を取ったジャイロだったが、目で黙らせる。
俺を信用しろ、悪いことはしない。柱の男はゆっくりと慎重に、ウィル・A・ツェペリの頭に手を伸ばす。
そして波紋を纏わない彼の頭に、自らの手を侵入させていった。
「……ッ!」
「指示しろ。流石の俺も全く傷つけないように人間の体内に侵入するには神経を裂く。
 貴様が道を示せ、ジャイロ・ツェペリ。異物はどこにある? どれぐらいの大きさだ?」
戦いの中で常に涼しい顔でいたワムウの額に、大粒の汗が浮かび上がる。
ジャイロはもう一度鉄球を投じ、ツェペリの脳電図を示す。
即席の執刀医と介助師。患者を救うために、二人は必死で生を繋ぎとめていく。
遠くどこかでもう一度バイクの音がした。だがそんなことに構っていられるほど、二人には余裕がなかった。

 ◇ ◇ ◇

68 :
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69 :
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70 :
時刻は、もう間もなく六時なろうとしていた。
「それでは、ビィーティー……君の意見を聞かせてもらおうか」
アヴドゥルが尋ねてきた。ビーティーは返事もせずに、ただ崩れかけのホテルの様子をじっと見つめていた。
吹き抜けの玄関ホール、崩れかけの天井に穴だらけの床板。あちこちで瓦礫が山になり、床のいたるところに血痕が飛んでいた。
何かが起きたことは明白であった。だがそのなにかが、まったくもってわからない。そしてそれを認めることが、ビーティーにとっては何より屈辱的だった。
怒りに拳が震える。情けなくて、悔しくて、噛みしめた唇からツゥ……、と一滴の血が流れて行った。
アヴドゥルは辛抱強く返事を待った。数十秒経っても何も言わない少年を見て、彼は静かに視線を逸らした。
慰めることも非難することもしなかった。こんな達観したような態度ですら、きっとビーティーは嫌がるのだろう。そうアヴドゥルは思ったから。
彼は少年でありながら悪魔のような知性を持ち、だからこそ人一倍誇り高い。
今のアヴドゥルの態度は彼を子ども扱いするものであった。それが彼の気に障ると彼にはわかっていたが、どうしようもないのだから仕方ない。
アヴドゥルは傍らにスタンドを呼び出した。
「『魔術師の赤』……ッ!」
ボッ、という音とともに空間に火がともる。つり下がった六つの炎がアヴドルの横顔を照らした。
ビーティーが見ると、男は鋭い視線であたりを見回していた。その横顔は、まるで今にも戦いが起こるかのような緊張感が漂っている。
アヴドゥルが囁くように口を開く。彼はじっと炎を睨み、少年に問いかけた。
「君に私のスタンド能力を説明した時のことを覚えているかね?」
「ああ」
「実を言うと私は一つだけ嘘をついていたんだ」
「何……?」
「私の能力は確かに炎を操ること。だが実を言うとそれだけではないんだ。
 炎は全ての始まり、即ち生命の始まり。私は炎を制することで生命を制することもできるのだ。
 そう、私は生命の流れを読み取ることができるのだよ、この『生物探知機』を利用してね」
言葉を言い切るか、言い切らないかの内に、上下の炎が大きく動いた。
アヴドゥルはビーティーを庇うように、さらに身を寄せる。
同時に彼のスタンドが動くと二つの炎が龍のように身をくねらせ、片方は遥か頭上の天井を、他方は床に転がる瓦礫を包みこんだ。
一瞬のうちに辺り一面が炎に包まれ、崩れかけのホテルはたちまち即席サウナ室へと姿を変えた。
玉のような汗がビーティーの額から噴き出した。その隣でまるで舞台の上に立つ俳優のように、アヴドゥルが胸を張り、叫んだ。
「つまり私は君たちの存在にもとっくに気がついていたのだよッ
 屋根の上のお前、そして、姿を隠している君ッ そろそろ正体を現したらどうなんだね……ッ!」
アヴドゥルは気づいていたのだ。ホテルに一歩足を踏み入れたその時から、自分たち以外の何者かがここに存在していることに。
皮膚がひりつく様な鋭い気配、見透かすように向けられた何者かの視線。相当の手だれだな、アヴドゥルはそう思っていたのだ。
「出てこないというのであれば……やれッ、『魔術師の赤』!」
アヴドゥルのスタンドが再び動き出したのと、二つの影が動いたのは同時だった。
『魔術師の赤』は振りかぶった動作を止め、上空からの攻撃を両腕で防ぐ。
本体のアヴドゥルはビーティーを引っ張るようにその場から跳躍、床下からの攻撃を紙一重で避けた。
咄嗟の危険を回避し終えると、ビーティーは掴まれていた腕を振り払う。お節介かくんじゃない、そう隣に並び立つブ男に毒づいた。
少年の態度にカチンときたのか、男も負けじと皮肉でやり返す。私がいなかったらな、ビーティー、君は間違いなく死んでいたんだぞ?
喧嘩腰ではあったが今はそんな時ではない、そう判断できるぐらいに二人は大人であり冷静だった。
男と少年は並び立ち、目の前の危険に眼を細める。姿を露わにした二人の男、炎を背後に影が踊る。
機械仕掛けの身体を持つ、如何にも胡散臭そうな軍人崩れの男。
一見ただのsラにしか見えず、そのくせ視線だけはやたら鋭い伊達男。

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73 :

魔術師の赤がそっと腕を動かした。その動きに合わせるかのように炎は益々燃え盛り、四人は炎の渦に囚われた。
戦いは避けられないとアヴドゥルは思った。
二人の男はどちらも交渉のテーブルについてくれそうにない。情報を聞き出そうと手を緩めれば、間違いなく手痛い反撃を喰らうことになるだろう。
殺るか、殺られるかの勝負になる。アヴドゥルの勘がそう囁いた。男はぐっと全身に力を込めると、仕掛けるタイミングを見計らう。
「数分だけ時間を稼いでくれ。その間に僕が策を考える」
ビーティーがアヴドゥルの耳元でそう言った。男は頷き、戦いの構えをとる。
気の抜けない、嫌な沈黙が四人の動きをからめ捕る。轟々と音を立てて燃え盛る炎が、容赦なく室温をあげていく。
滴る汗を拭うことすら隙を生みかねない。アヴドゥルは辛抱強く隙を伺っていた。来るべきタイミングを逃さんと、全神経を集中させていく……―――

そして時が来た。
壁にくくられた古時計がカチリと音を立て六時を示した、まさにその時。
三つの影が、動きだした。

【B-8 サンモリッツ廃ホテル1階大階段前ロビー / 1日目早朝(放送直前)】
【モハメド・アヴドゥル】
[スタンド]:『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』
[時間軸]:JC26巻 ヴァニラ・アイスの落書きを見て振り返った直後
[状態]:健康、後悔
[装備]:六助じいさんの猟銃(5/5)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊、脱出。DIOを倒す。
1.この場を切り抜ける。
2.ポルナレフを殺した人物を突き止め、報いを受けさせなければならない。
3.ディアボロとは誰だ?レクイエムとはなんだ? DIOの仕業ではないのか?
4.ブチャラティという男に会う。ポルナレフのことを何か知っているかもしれない。
【ビーティー】
[能力]:なし
[時間軸]: そばかすの不気味少年事件、そばかすの少年が救急車にひかれた直後
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球、薬品数種類
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.この場を切り抜けるため、策を考える。
22公一をさがす
[備考]
アヴドゥルとビーティーの移動経路は次の通りです。 ぶどうが丘高校 → 杜王町立図書館 → サンモリッシ廃ホテル

74 :
支援

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【マリオ・ズッケェロ】
[能力]:『ソフト・マシーン』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:紫外線照射装置
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して金と地位を得る。
1.この場を切り抜ける。
【ドルド】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジョルノの双眼鏡、ポルポのライター、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
0.この場を切り抜ける
1.コレ(ライター)を誰かに拾わせる。
2.仲間が欲しい。できれば利用できるお人好しがいい。
[備考]
ドルドがどのタイミングから屋根上に潜んでいたかは次以降の書き手さんにお任せします。

 ◇ ◇ ◇

78 :
支援

79 :
支援

80 :
「―――……ここは?」
「気がついたか、ウィル」
はっきりしない頭で考える。ウィル・A・ツェペリが最後に見た光景は飛びかかってきた少年と銀色に輝くナイフの切っ先。
そこで記憶が途絶えていた。襲われたかどうかすらあやふやで、そもそも今自分がどこにいるかすら、ツェペリにはわからなかった。
身体を起こすと、胸に置かれていたシルクハットが転がり落ちる。どうやら彼はベットに寝かされていたようだった。
起き上がったついでに自分の身体を点検してみる。
身体は包帯でぐるぐる巻きにされ、一番深い刺し傷には何度も軟膏を塗りなおしたような跡が残っていた。
手慣れた、そして丁寧な治療が彼の体には施されていた。
上半身を起こしたところで、ツェペリは枕元の椅子に座っているジャイロの存在にようやく気づく。
服の乱れはあるものの、どうやらジャイロは大きな怪我を追ってないようだ。苦虫をつぶしたような顔で、黙って彼にコーヒーカップを突き出したジャイロ・ツェペリ。
自分のことはともかく、彼が無事であることがとりあえずツェペリを安心させた。ほっと息を吐くと彼は笑顔でカップを受け取り、ジャイロに話しかける。
「どうやら一杯食わされたようじゃの。やれやれ、年はとりたくないものだ」
「まだあまり動かないほうがいい、あくまで応急処置なんだ。出来ることなら病院にぶち込んでベッドごとぐるぐる巻きにしてやりたいぐらいだぜ」
「そいつは勘弁願いたいもんだ。年をとったと言ったが、まだまだ若い者には負けていられんぞ」
カップの奥から、ジャイロに笑いかけてやる。ジャイロはぎこちなく笑顔を返したが、やがて目線を逸らし窓の外の風景へと目を向けた。
ツェペリもつられるようにその視線を追う。東に面した窓からは登りかけの太陽がよく見えた。
ついさっきまで辺りは夜だったというのに、もう太陽が出ようとしているのか。時間の進む速さに驚きを隠せないツェペリ。枕元に置かれた時計を見てみる。
時刻は6時前だった。放送が始まるまでもう数分もかからないだろう。
皆は無事なのか、戦いはどう終わったのか。ワムウは、トニオは、宮本は……。皆はいったいどこにいるのだろうか。
ツェペリには聞きたいことが山のようにあった。その一方で憂えたジャイロの横顔を見て、ああ、やはり全員無事とはいかなかった、とも思った。
熱いコーヒーをもう一口含むと、彼は時間をかけてその風味を味わった。口の中にじわりと広がる苦味が、彼の思考をはっきりさせていく。
誰一人悲しい想いをさせたくなかった。誰一人失いたくなかった。ツェペリは別れの辛さを人生通して嫌というほど味わってきた。
もう二度とそんな想いをしたくないし、誰にもそんな想いをしてほしくない。彼は常にそのために行動してきたはずだったが、現実は非情である。
無力感と虚無感に大きなため息が漏れ出た。誤魔化すようにもう一度カップを口元へ運び、ツェペリは目を伏せる。
小さく丸まった老いぼれの背中を、ジャイロは複雑な視線で見つめていた。
熱々のコーヒーが冷め始めたころ、サイドテーブルにカップを置くとツェペリが姿勢をただした。
気持ちが落ち着いたのを見てとったのだろう、ジャイロも窓際から離れると、もう一度枕もとの椅子に腰かける。
しばらくの間、沈黙が流れた。先に口を開いたのはジャイロだった。
「残念な知らせがある」
「言ってみてくれ。覚悟はできてるよ」
ジャイロはツェペリの真っすぐな視線を受け止めきれず、堪らず視線を床へと落とす。
帽子から垂れ下がった前髪をかきあげると、深い溜息を吐く。またしばらくの間沈黙が流れ、そしてジャイロが言った。

81 :
支援

82 :

「ウィル、アンタの容体についてだ」
「……容体?」
てっきり仲間の死を告げられるものだと思っていた老人は、びっくりしたかのように目をしばたかせる。
ああ、やっぱりな。そう言わんばかりに、ジャイロの表情に影がさす。彼は奥歯を噛みしめると、なんとか声を絞り出した。
「アンタが戦いの途中倒れたのは敵スタンドの攻撃だ。脳内に極小のスタンドが隠れ潜んでいた。
 その攻撃が元で大きな隙が生まれ、アンタはあのナイフ少年の一撃をくらっちまったってわけだ。
 だが本当にラッキーな事で、刺し傷はそれほど痛手じゃない。狙ったみたいに心臓の横をすり抜け、大きな血管も全くの無傷だ」
「……そりゃ、よかった。日ごろの行いのおかげだのう」
ジャイロは返事も返さず、話を続ける。
「むしろ重症だったのは今言った、脳内に潜んだスタンドの攻撃のほうだ。
 ワムウの野郎がいなかったらどうなってた事やら。アイツのおかげで今のあんたは生きてるようなもんだぜ。
 俺がやったこと言えば止血と簡単な治療、被害の拡大を防ぐことだけだった」
「……そうだったのか。あやつには今度会った時、たっぷり礼を返すこととしよう」
ツェペリは次第に不安に襲われ始めた。ジャイロの歯切れの悪さが、不穏な空気を醸し出していた。
焦燥に突き動かされるまま、ジャイロに問いかけた。何を躊躇っているかはわからないが、ハッキリ言ってくれ。
さっきも言ったが私は覚悟している、何が起きても平気だから。そう言おうと口を開きかけた時だった。
「ハッキリ言おう。アンタは大きな後遺症を負った」
ジャイロはツェペリと視線を合わせようとしなかった。ジャイロは医師としての罪悪感から、それができなかった。
助けられなかった自分の非力さ、医術と技術の限界。情けない気持ちでいっぱいだった。こんなにも惨めな気持ちになったのはいつ以来だっただろうか。
信じられないという想いで自分を見つめるツェペリの視線が、なによりもジャイロには辛かった。
ツェペリの唇が震える。言うべき言葉を探しているようだった。
逃げては駄目だ。最後に残った医師としての矜持がジャイロを患者と向き合わせた。顔をあげ、視線を合わせると、彼はきっぱりとした口調でこう言い切った。

「アンタの足はもう動かない。もう二度と動くことはない。
 神経がズタズタに切り裂かれ、その上複雑な脳回路に絡み付いてる。
 アンタの足はもう、奇跡か魔法でもない限り治らないんだ…………ッ」

音が死んだかのように、その瞬間、二人のツェペリの中で何かが崩れていった。
脇に置かれた時計の秒針が、やけに大きく音を立てて進んでいく。階下で何か音が聞こえたが、二人が動くことはなかった。
互いに信じられないような、信じたくないような気持ちのまま、見つめ合う。今度こそ、はっきりとホテル全体に響く様な物音が聞こえた。
ジャイロはきまりが悪そうに視線を逸らすと、席から立ち上がる。腰のホルスターにぶら下がった鉄球に手をやりながら、すぐに戻るとツェペリに言った。
後に残された老人は、今まで以上に、年老いて、弱弱しく見えた。
呆然とした表情が痛々しい。つい今しがた浮かべられていた笑顔が、遥か前のものに思えるほどだった。
静まり返った部屋、物音は動き続ける秒針のみ。虚ろな視線で彼は時計を見る。分針が上を向く。短針が六を指す。

放送の時間だった。

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【B-8 サンモリッツ廃ホテル3階 一室 / 1日目早朝(放送直前)】
【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前
[状態]:下半身不随、貧血気味、体力消費(中)、全身ダメージ(中)、???
[装備]:ウェッジウッドのティーカップ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.???
【ジャイロ・ツェペリ】
[能力]:『鉄球』『黄金の回転』
[時間軸]: JC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)、全身ダメージ(小)
[装備]:鉄球、公一を殴り殺したであろうレンガブロック
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ、ドレス研究所にあった医薬品類と医療道具
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
0.階下の様子をチェックしに行く。ツェペリにどう応じればいいかわからない。
1.麦刈公一を殺害した犯人を見つけ出し、罪を償わせる
2.ジョニィを探す。
[備考]
ジャイロの参戦時期はJC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後でした。

 ◇ ◇ ◇

88 :
支援

89 :
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90 :
必死で動かしていた脚を次第に緩めていく。それに合わせて徐々に、バオ―の姿が橋沢育朗のものへと戻っていく。
やがて脚が止まったころには、すっかり元の姿に戻っていた。
育朗は膝に手を置くとぜぇぜぇ、と呼吸を繰り返す。疲れてはいなかった。
けれども心落ち着かせるために、彼はそのままの姿勢で数分の間動かなかった。
やがて林の隙間をぬい陽光が東から差し込んできたころ、育朗はようやく体を起こし、口元を伝う血と汗をぬぐった。
そして、振り絞るように大きく、息を吐いた。
悔しいな、そう彼は思った。そして強くなりたい、そうも思った。
億泰の死に涙するには、あまりに過ごした時間が短すぎた。億泰の死を笑い飛ばすには、あまりに育朗は真面目で、優しすぎた。
少年の死を見つめることは育朗にとってとても辛いことだ。けれども誤魔化すことはもうできなかった。
自分にもっと力があれば、自分がもっと強ければ、虹村億泰は死なずに済んだのだ。その事実はどんな刃物よりも鋭く、育朗の心を貫いた。
噛みしめた唇からツゥ……と一滴の血が流れる。握りしめた爪の先が、鋭く掌に食い込んだ。
『恐怖をわがものとせよ』 ――― ついさっきまで戦っていた大男の言葉をもう一度思い出す。その通りだ、育朗はいつも脅えていた、恐怖していた。
億泰を殺した男と戦った時も、億泰の元から逃げ出してしまった時も、そしてたった今、風の戦士と戦っていた時も。
育朗の心にはいつも恐怖が纏わりついていた。どれだけ忘れようと思っていても、その気持ちを消し去ることができなかった。
誰かと戦うことを心地よいと思ったことはない。人知を超える力があっても、育朗はその事を幸運だと思ったこともないし感謝したこともない。
自分はバオ―の力を制御しきれていない。下手をうてば彼は殺人者になるのだ。バオ―が引き起こす戦いゆえに、バオ―がもたらす脅威の力ゆえに。
少年は脅えていた。人に殺されることも、殺人者と戦うことも確かに怖いことだ。
けれども彼にとっては何よりも、自分の中にどす黒い殺意があることが、制御しきれない力があることが、この上なく怖いことだった。
「……だけど」
育朗は顔をあげる。東の空、わずかに顔を出した太陽が育朗の目をくらませる。
眩しさに目を細め、けれども視線を逸らすようなことを彼はしなかった。
逃げちゃ駄目だ、恐怖から。誤魔化してはいけない、自分の罪を。
あの男の言うとおりだ。今できないのであれば、できるようになればいい。立ち止まってしまえばそこでお終いだ。
成長しなければ、強くならなければ、誰もこの手で守れない。誰かと手を繋ぐことも、握りしめることも、出来やしないのだ。
育朗は太陽に向かって吠えた。別に意味はなかったが、そうしたかったからしたのだ。
喉が痛くなるぐらい、息が切れるまで、少年は叫んで、叫んで、叫んだ。気が済むまで叫んで、そして育朗は叫ぶのをやめた。
そして何をするでもなく、少年はその場に立ち尽くす。ふと彼の脳裏を一人の『友達』の顔が横切った。
血まみれのくせに笑顔で手を差し出し、弱弱しく彼がつぶやいた言葉。

 ―――『俺とお前は、もうダチだろ。離してなんかやんねーよ』

91 :
支援

92 :
支援

93 :

視界がぼんやり滲んでいく。登ったはずの太陽はキラキラと輝く光の帯のようだった。
ぐっと込み上げる感情を抑え、育朗はギュッと奥歯を噛みしめた。
今はまだ『その時』じゃない。まだ何かを成し遂げたわけでもない。なら今はまだ泣く時じゃない。
今はまだ、すべきことが山ほどあるのだ。まだ感情のなすがままに身を委ねることに、自分は相応しくなんかない。
代わりに育朗は誰にともなく、こう呟いた。それは自然と漏れ出た少年の本音だった。
本当ならもっと早く伝えるべきだった。もっともっと早く、それこそ彼と出会った直後なら間にあったはずだったのに。
まだ彼が生きているうちに、面と向かって伝えたかった。育朗を人間と言ってくれた彼に、育朗をダチと呼んでくれた少年に。
感謝の言葉を込め、この言葉を送りたかった。

「億泰君、ありがとう……」

なんでもっと早く気付けなかったのだろう。なんで彼とここで出会ってしまったのだろう。
こんなにも簡単で、こんなにも大切な事を億泰は育朗に教えてくれた。育朗は繰り返し、繰り返し、ありがとうと言い続けた。
彼の目が涙で潤んだ。遅すぎた感謝の言葉は誰に届くでもなく、虚空に消えていった。
穏やかな風が吹き抜けていくと、温かな空気が頬を撫でて行った。その柔らかさが育朗にもう一度億泰のことを思い出させた。
蓋をしたはずの感情が溢れだす。育朗の頬を涙が伝う。一滴だけ溢れ出た水滴を感じながら、少年は声を押し殺し涙した。
強くなること、誰かを守ることを育朗は少年に誓った。悲しいのでもなく、嬉しいのでもなく、それでも涙が止まることはなかった。
橋沢育朗が少年から青年になった瞬間だった。その涙は一人の『男』が流す、決別の涙だった。

【C-6 中央 / 1日目早朝(放送直前)】
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:全身ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊し、スミレを助けだす。
1:億泰君、ありがとう……
[備考]
※『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました。

 ◇ ◇ ◇

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「さァて、どうしたもんかなァ」
ヴィットリオ・カダルディは興味なさげにそう呟いた。次に、思い立ったようにイスから立ち上がると、彼はキッチンへと向かっていった。
少年は今、民家で体を休めていた。ついさっきまで殺し合いをしていたとは思えないほど、ゆったりとした平和な時間を彼は過ごしていた。
リビングに戻るとソファーにドッカリと腰を下ろす。
何の気なしにテレビの電源をつけてみたが、チャンネルを回せど回せど、画面はなにも映してはくれなかった。
ツマンネーの、少年はそう悪態をつき電源を消す。そうして静かになったリビングで、彼はなにをするでもなく、ただぼんやりと天井を眺めていた。
しばらくの間そうしていたが、ふと我に返ると、彼は朝食の時間にしようと思った。
キッチンで見つけた林檎を取り出すと、ドリー・タガーを器用に操り、皮をはいでいく。
大きすぎる刀を使っている割には、とても手際がよかった。数分もしない内に林檎を丸裸にしたビットリオは子供のように、一人はしゃいだ。
得意げな表情のまま、水と食料を取り出し、少しばかり早い朝食をとりはじめる。
少年が食事にかぶりつく音が部屋内に響く。どこまでも平和で穏やかな、朝食のワンシーンだった。
朝食をとりながら少年は考える。さて、どうしようか。この後一体どこに行こうか。
さっきはシルクハットのじいさんを殺し損ねてしまった。車も壊してしまった上に、一人も殺せず逃げる羽目になった。
少し悔しい。もっとうまく立ち回ったならば、きっと成果を上げれたはずだろうに。
後悔がビットリオの中でこみ上げる。同時にそんな自分に腹が立ち、彼は八つ当たり気味にナイフを机に降りおろした。
ガンッ、という音を立て垂直にナイフが突き刺さる。ビィィイン……と薄ら寒い音を立て刃が震え、鳴いた。
「ッたくよォー……」
とはいえ終わったことをクヨクヨするのは自分らしくない。前向きに、建設的に考えよう。大切なのは今後どうするかだ。
林檎にかぶりつきながら彼は立ち上がると、窓際へと足を運ぶ。
ひょいと外を覗けば、さっきまでいた屋敷の方角が少し明るくなっているのが見えた。一体なにが起きているのだろうか。
あの明るさ具合は火事でも起きてるのではないだろうか。ビットリオは林檎をもうひとかじりした。
ならもう一回あそこに戻るもいいかもしれない。
きっと誰かが戦っていて、それが元で出火したのだろう。
それに火につられて他の人が来る可能性もある。行けば何かが起こることは十分あり得るわけだ。
「でもなァー」
一度行った場所にもう一度、というのは何というか味気ないしつまらない。
それに他に選択肢がないかと言われればそうでもない。数分前に聞こえた二つの音、南から聞こえた少年の叫び声と西から聞こえた救急車の音。
こちらを目的地にするのもいいかもしれない。道中誰かに会えば、そいつにちょっかい出せばいいし、中央に近づけばそれだけ人も増えるだろう。
「でもなァ、うーん……」
ソファーに座るとビットリオは頭を悩ませる。どれも、これだ! と思えるような決定打がない。
悩ましい。どうしたものか。うーん、うーん、と唸ると少年は腕組みをし、頭を悩ませる。
そうして考えて、考えていると、そのうちなんだかどうでもいいように思えてきて、とりあえずは朝食を楽しもうと彼は思った。
ソファーから立ち上がるともう一度キッチンへと向かっていく。冷蔵庫の中にチーズがあったはずなんだよなァ、そんな風に暢気に朝を過ごすビットリオ。
廊下を進む彼の頭上で壁掛け時計がカチリと音を立てた。長針が一つだけ、時を進めた。
時刻は六時前、もう間もなく放送の時間であった。

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