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2012年3月創作発表142: 新西尾維新バトルロワイアルpart3 (303)
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新西尾維新バトルロワイアルpart3
- 1 :
- このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。
【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士のし合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/
【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまでし合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。
【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。
【参加者について】
■戯言シリーズ(7/7)
戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞
以上45名で確定です。
【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。
【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
0-2:深夜 .....6-8:朝 .12-14:真昼 .....18-20:夜
2-4:黎明 .....8-10:午前 ....14-16:午後 .....20-22:夜中
4-6:早朝 .....10-12:昼 ...16-18:夕方 .....22-24:真夜中
【関連サイト】
まとめwiki ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
避難所 ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/
- 2 :
- 【1日目/朝/D‐6ネットカフェ】
【貝木泥舟@化物語】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜8)、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、貴重品諸々、ノーマライズ・リキッド」(「」で括られている物は現地調達の物です)
[思考]
基本:周囲を騙して生き残る
1:情報交換する
2:怒江はとりあえず保留
[備考]
※貴重品が一体どういったものかは以後の書き手さんにお任せします。
※取得した鍵は、『箱庭学園本館』の鍵全てです。
※言った情報、聞いた情報の真偽、及びそれをどこまで理解したかは後の書き手さんにお任せします。
【一日目/早朝/D-7斜道郷壱郎の研究施設】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
1:情報交換する
2:舞ちゃんに護ってもらう。
3:いーちゃんとも合流したい。
4:ぐっちゃんにも会いたいな。
[備考]
※「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。
※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイヤルについての情報はまだ捜索途中です。
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました。
※言った情報、聞いた情報の真偽、及びそれをどこまで理解したかは後の書き手さんにお任せします。
- 3 :
- 前スレ容量オーバー&さるさんのため代理投下です。
最初から見る場合は前スレの>>337-359からご覧ください。
- 4 :
- と言う事で新スレやらいろいろやったけど、余裕ができたので
羽川翼投下します。
- 5 :
- 【0】
羽川翼、高校三年生。
テストは落とした1問以外全て満点。
間違えた問題はその問題が悪い。
俗に言う天才。
部活には所属していない。
眼鏡に三つ編みが特徴。
服装は大体制服に統一。
そのため気付かれないが巨。
戦場ヶ原ひたぎと神原駿河と同じ中学を卒業。
視力はあまり良くない。
完全無欠の委員長。
小学生のころから委員長をしていた。
そのころのあだ名は「バサ」。
今は誰も呼ばないが忍野忍のみ「バサ姉」と呼んでいる。
性格は真面目で、品行方正な良識人。
かなりの博識。
他人を助けるために自己犠牲もいとわない。
非常に精神面が強い。
善人から見て善人。
大の子供好き。
家族構成は義父、義母、当人。
家族関係は冷え切っている。
それを説明し複数の友達が彼女の前から消えるほど。
吸血鬼もどきのお人好しも動揺するほど。
そのため休日は散歩の人している。
春休みに遭った吸血鬼もどきの人間に助けられた。
好きな人は阿良々木暦。
そして、"猫に魅せられた少女"。
- 6 :
- 【零】
ブラック羽川、年齢不明。
正式名称「障り猫」。
羽川翼の知識を持っている。
だが頭はよくない。
むしろ悪い。
1より多い数や3行以上の文を理解できない。
またつまらない言葉遊びや駄洒落を言う。
語尾に「にゃ」がつく。
言葉の途中の「な」が「にゃ」になる。
「……」
ネタ切れではにゃいのにゃ。
説明中に放送が終わったのではじめるだけだにゃ。
名簿には知っているにゃまえが4人いるのにゃ。
一人目は戦場ヶ原ひたぎ。
あの人間の彼女である女だにゃ。
名前は呼ばれてにゃく、まだ死んでいにゃいようだにゃ。
二人目は八九寺真宵。
ご主人にとっては面識があるようだが、こっちは全然知らにゃい。
そしてこっちも死んでいにゃい。
三人目は阿良々木火憐。
あの人間の妹であるらしい奴だにゃ。
そして同様に呼ばれてないのにゃ。
そして四人目。
阿良々木暦。
名前は呼ばれた、つまり…死んだのにゃ。
「……いーさんに騙された、のかにゃ」
今考えれば本当にバカだったにゃ。
人間がここに来ていない?
来ていたじゃにゃいか。
半分以上覚えていないが、騙されていたじゃにゃいか。
戯言を吐かれたじゃにゃいか。
虚言を吐かれたじゃにゃいか。
妄言を吐かれたじゃにゃいか。
「……あまり気分がいいものじゃにゃいにゃ」
騙されて気分がいい奴なんていにゃいのにゃ。
だから、とりあえずはこう言う事にしておくにゃ。
いーさんは、す。
阿良々木ハーレムも、知らない。
この行き場のないストレスを発散する。
そして、ブラック羽川は動く。
- 7 :
-
「………にゃ?」
しかし、ここでブラック羽川に一つミスが浮かぶ。
先ほどは東の方向を戯言遣いが示した。
そのおかげで東に行けた。
だが、今は違う。
周りに目印になるようなものはない。
一旦座って放送を聞いたため、方向が分からなくなった。
コンパスを使おうにも、どっちがどっちか分からない。
「………とりあえず、こっちな気がするにゃ…」
ブラック羽川はその方向に歩き出した。
その方向に何があるか分からない。
そして、彼女の本当の人格がどう思っているかも、分からない。
【1日目/朝/E-4】
【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]ブラック羽川、体に軽度の打撲、顔に殴られた痕、下着姿、騙された怒り、どこかに移動中
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:ストレスを発散する
1:いーさんをすために学習塾跡まで戻る
2:絶対にあの男(日之影空洞)をぶちす
[備考]
※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です。
※全身も道具も全て海水に浸かりました。
※阿良々木暦がこの場にいたことを認識しました。
※向かっている方向については後続の書き手さんにお任せします。
投下終了です。
ただのつなぎですが、矛盾などがあれば指摘をお願いします。
そして先ほどの話の感想。
貝木さんはやっぱり一筋縄じゃいかないなー。
それでも玖渚も情報は持ってるからどっかでボロが出そうかな…?
そして長文…いつか自分も書けるようにならねば。
と言う事で投下乙でした!
- 8 :
- お二方ともお疲れ様です。
まずは、静寂を切り裂く脆弱な義理策、の感想を。
入り組んだ騙し合いになってまいりました。
貝木と玖渚、嘘と真の入り混じったパソコンを挟んだ策戦。
どちらに軍配が上がるか、はたまはどちらにも上がらないのか。
それはそれで球磨川が嘘とばれたらすぐにまた嘘付く貝木さんマジ詐欺師。
次いで、騙物語。
羽川完全にドジっ子化しております。
行き場を見付けて早々に行き場を見失うとは。
しかも狙ってる相手が両方とも厄介極りない。
どうなる事やら。
それでは、真庭鳳凰と否定姫を再投下を開始します
- 9 :
- 真庭鳳凰。
真庭忍軍十二頭領のひとりにして、実質的な頭。
彼は、彼らしくなく、絶望していた。
思い悩むのが彼と言えるかも知れない。
しかしそれでも、たかだか六時間足らずで、参加させられている四人の内の二人が死んでいるのは予想外を通り越して唖然、唖然を通り越して絶望に到らしめていた。
しかも死んだ二人が問題だ。
片や、傍若無人がしのび装束を着て歩いているような、それだけの実力を持った真庭喰鮫。
片や、蓄積され続けた経験と知識、対女性限定の一触即の脅威の忍法を持った真庭狂犬。
少なくとも、こうもあっさりと死ぬような甘いしのびではないはずなのに。
「…………こうもあっさりと」
歯噛みする。
死んだ。
六時間も経たずに。
あたかもそこらに転がっている枯れ枝のようにあっさりと、その命は消え去った。
特に惜しまれるのは真庭狂犬の死だ。
今まで出会った怪物はどちらも、一応女性の範疇に収まっている筈の存在だ。
であれば、真庭狂犬の忍法狂犬発動が絶大な効力を持っていた筈なのに。
容易く優勝にまで至れたであろう筈なのに。
だからこその絶望した。
しかし、同時に安心もする。
名簿に書いてある限りの生き残り。
真庭蝙蝠の存在。
喰鮫と狂犬の二人があっさりと死ぬほどの戦場を生き残れている事。
たかだか六時間で二体の化物と出会う戦場の中で生き残れている事。
これは非常に心強い。
忍法骨肉細工の事を置いてもなお、心強い。
「………………」
しかしそれとは別に、心配材料が二つある。
一つは名簿にある、鑢七実の名。
空前絶後の化物が、平然と名簿に名を連ねている異常事態。
既に出会った化け物二人にもう一人。
それにもっといるだろう化け物を合わせれば一体どれだけの数の化け物が蠢いているのか。
そしてもう一つ。
左右田右衛門左衛門の名。
「…………まあ良い」
それと同時にもう一つある否定姫の名。
つまり否定姫も居ると言う事。
ならば否定姫をしてしまえば、左右田右衛門左衛門の精神を大きく揺さぶる事も可能。
多かれ少なかれ。
人質として活用するのも勿論有用であるし、囮としても使える。
左右田右衛門左衛門よりも速く、否定姫を見付ける。
逃れ得ぬだろう、今は亡かった筈の友との戦い。
最後に出会った時は予想通りし合うために戦った。
そして今、死んでいないと分かったらどうなるか。
し合い、戦い合う事は恐らく避けられ得ぬ事。
実力は互角。
拮抗している実力に差を付けるには、戦いに勝つためには、遅かれ早かれ、生かすかすか、何だろうと否定姫を見付ける事は必要不可欠。
「――我は」
- 10 :
- ならばそれ以外で差を付けなければならない。
炎刀も勿論その一つとして使えるだろうが、差を付けれる物は多いに越した事はない。
蝙蝠と出会えればなお良いがこんなにも広大な場所で、偶然、会えるとは思えない。
勿論、優勝するのは鳳凰自身でなくても良い。
蝙蝠が優勝して願えば良いとも思える。
だが、分からない。
蝙蝠の状況が分からない。
状況が分からない以上は信頼し難い。
放送後すぐに既に死んでいる可能性もあり得るのだから。
少なくとも合流を模索するのならば、生きていると思えるだけの何かしらの痕跡を見付けなければならない。
しのびである蝙蝠が、何か痕跡を残してると思えないが。
歩き回るしかない。
動き回るしかない。
弱い味方でもなれる者が居れば良いが、強い敵しか存在しないかも知れない。
強い味方になり得る者が居るかも知れないし、弱い敵が多ければ良いと思う。
だが、今のままでは分からない。
それでも、
「我は、勝つ」
真庭の里を復興する。
真庭の里のためにも。
勝って、真庭の里を救う。
既に終わってしまっていると言ってもいいかも知れないが、それでも、救う。
そう決心を改め、歩を進める。
今後の禁止エリアは既に斜線を入れて万が一にも近付かないようにし、死んだ人間には横に線を引いて消し、遅くなっていた足を速める。
まず手始めに、否定姫を見付けるため。
どれだけかかろうとも、先に見付けてしまえば良いのだから。
そう、決意を改めたのは何時だったか。
何とも無しに入った場所。
地図ではレストランと書かれた場所に入り込んで早々、いた。
もういた。
あっさり見付けた。
ちょっと早過ぎるだろう。
「――――――」
外に比べて涼しいな、などと内心で思いながら否定姫のいる方を見詰める。
幾つもある柔らかそうな座席の、しかも壁際の一つに座りながら、地図や名簿を机の上に広げ、
「…………すぅ……」
あろうことか、突っ伏して眠っていた。
鳳凰は半分呆れ、半分驚き、しかしそれでも気配をしながら近付く。
何らかの偶然が働かない限り起きるとは思っていないのだがそれでも念には念を。
起きられて暴れられても厄介だ。
何が支給品として配布されているか分からない分、尚の事。
そう思いながら、炎刀を見る。
素人だろうとこれを他の者に持たれていたとしたら、そしてこれの正体を知らずに相対していれば。
「――我とて、危うい」
- 11 :
- 実に危うい。
死んだとしても何ら可笑しくはなかった。
ゆっくりと片腕を振り上げる。
後々面倒もあるし、してしまおう。
「…………う……ん?」
中、不意に、否定姫が顔を上げた。
寝惚け眼の否定姫と、目があった。
振り上げたままで止める。
否定姫が何も持っていない事は分かっている。
少なくとも、何かを取り出すような動作をした瞬間には振り下ろせる。
「否定姫、で間違いはないな?」
「うん? …………ああ、そうだけど誰?」
「真庭鳳凰」
目を擦っていた否定姫の動きが、名乗った途端に止まった。
傍から見ていても分かる程にすっと目が細まったかと思うと、体を起こした。
それなりの覚悟が出来ているようだった。
寝起きでありながらこうも肝が据わっているか、と思わず舌を巻くが表には出さない。
「始めまして――で、どうするつもり?」
「す」
人質にするという選択肢もある。
すか人質として使うか悩む所ではあるが、こう言う時は反応を見るのが一番良い。
されたくないのであれば、扱い易い人質として使えるだろう。
そう、頭を巡らせながら言った。
「じゃ、せめて痛くないようにしてくれる?」
あっさりと答えは返って来た。
そして言葉通り、何時されても良いと言う風にも見える。
微かな驚きを禁じ得ない。
覚悟が出来ていると見えてはいたが、あっさりと言えるほどとは思ってもいなかった。
蝙蝠のような意味でではないが、命乞いの一つぐらい聞く気はあったのだが。
「――これからされるにしては随分と冷静な」
「それなりの場所は潜って来たからね……怨み辛みを買ってる自覚ぐらいあるわよ。例えば」
微かに笑いながら、
「あいつにあんたの暗を命じた事、とかね」
言い切った。
まさか何を言ってもされないと思っている訳ではないだろう。
それでも見事、鳳凰自身を前にしながらそう言い切った。
何時でも腕は振り下ろせる。
否定姫が何かをしようとしていない事は分かっている。
それなのに。
「――ふ」
- 12 :
- 気が付けば、思わず小さな笑いを漏らしていた。
否定姫。
今は亡き奇策士とタメを張れるほどに、意地が悪い。
恐らくこちらが悩んでいる事などお見通しなのだろう、と思う。
読み切った上での挑発か、いや案外偶然での挑発か、そこまでは分からないがそれでも味方に置きたいという誘惑が、微かに襲ってくる。
そしてそれすらも読まれて、読んでいるのか。
「しても良いけど、何かあるんだったら起こして頂戴」
わたしは眠いのよ。
そう言って、否定姫は机の上に突っ伏した。
鳳凰は何も言わないで腕を振り上げたままでいる。
す気になれば、すぐにでもせるように。
「……ところで」
「――なんだ?」
「優勝する気?」
「そうだ」
「否定する」
面倒臭そうに。
面白くなさそうに。
憂鬱であるかのように。
それでいて、当然のように。
否定姫は言葉を紡ぐ。
鳳凰の夢を否定する。
「――あなたの夢を否定する。
悩んでいるようだから言ってあげる。
けど、否定する。
わたしは決して肯定しない。
あなたの夢、希望に何の意味もないと否定してあげる。
現実しかないと否定する。
否定して否定して否定する。
何も叶いやしないと否定する。
ただ無意味なだけだと否定する。
ご都合主義なんてないと否定する。
今のあなたの思考すべてを否定する。
否定して――否定して否定して――否定して否定するわ」
突っ伏したまま、顔すら上げず、言うだけ言うとそれっきり、
「おやすみ」
そう言い残し、何も言わなくなった。
何時の間にか寝息が聞こえ始める。
否定姫が寝てしまったようだ。
眠かったのだろう。
力を抜いて、腕を降ろした。
- 13 :
-
――否定する。
耳の中に、その言葉が響く。
何故こうにも否定ばかりしてくる相手しか居ないのだろうか。
死んだ魚のような目をした男。
否定され、悩み、悩んで、決意を改めた。
はずなのに。
二度目は否定的な否定姫。
否定されて否定されて否定された。
生き残って夢を叶えると言う夢を、否、希望を否定された。
それでも。
「我は、生き残る」
生き残る。
叶うか分からなくとも。
そうするしかないのだ。
「しのびは生きて、死ぬだけなのだから」
強がりでしかないと分かっていても呟く。
――否定するわ。
空耳だと分かっていても、思わずレストランの方へ振り返っていた。
しかし後ろに否定姫の姿はない。
何処か暗澹としたレストランが見えるだけだった。
前に向き直り、歩き直す。
立つ鳥跡を濁さずとは行かないが、せめて行き続けよう。
飛ぶ羽が奪われれば足で、足をもがれれば体で。
「我は迷えど、止まらぬ」
泥の中だろうと、決して止まらない。
奈落の底だろうと、決して停まらない。
地獄の底辺だろうと、決して留まらない。
絶対に。
「――さて、まずは……」
如何しようか。
影から狙うも良し。
陰から誘うも良し。
蔭から見るも良し。
翳から捜すも良し。
選り取り見取りとは行かない。
しかしそれでも選択肢は十分ある。
味方を作るにしろ、敵を見るにしろ。
時間があるかは別問題だが。
「ふむ」
如何しようか。
- 14 :
- 【1日目/朝/G−8】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]健康、精神的疲労(小)
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)
[道具]支給品一式×2(食料は片方なし)、名簿、懐中電灯、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、ランダム支給品2〜8個、「骨董アパートで見つけた物」、首輪×1
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
1:北へ向かう
2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
3:今後どうしていくかの迷い
[備考]
※時系列は死亡後です。
※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発
※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
レストランの中は静かだった。
誰も居ないかのように、静かに水滴の音だけが一定の調子でし続ける。
その中で否定姫は相変わらず突っ伏していた。
いや、相変わらずと言うのも変な話だ。
誰も来なければ永遠に突っ伏し続けるだろう。
机から床に滴り落ちる血。
真っ赤な血は否定姫の首から流れ出していた物。
鋭利な刃物で斬り落とされたような首の断面と、なくなった首輪。
そして、机の上に置かれた頭。
首から溢れる筈の血は弱々しく零れるだけだ。
既に血を流し尽くしたかのように。
凄惨な現場。
非業の死。
その筈なのに、置かれた否定姫の顔に苦しみの色は見えない。
眠っているかのように穏やかで、涼やかだった。
血で染まっているのにその亡骸も綺麗だ。
されている筈なのに、丁寧に扱われていたと疑いたくなる程に綺麗な物。
真庭鳳凰にも何か思う所があったのかも知れない。
かつての友人への多少なりの引け目か、最後の願いを果たす位の義理か、それとも別の何かか。
しかしされた。
人質にする気が起きなかったのか、出来なかったのか、それとも別の何かがあったのかまでは分からない。
だが、真庭鳳凰が左右田右衛門左衛門を敵として戦わざるを得ないと思った時点であるいは。
この終極は、辿り着かざるを得なかった物か。
この終局は、到らざるを得なかったのかも知れない。
この終曲は、鳴りを潜める事は出来ずにあったのだろう。
速いか遅いかの違いに過ぎない。
否、本当にそうだったのだろうか?
分からない。
しかし本当か否かなどと言うもしものそれは、あり得たかもしれないありえない事。
意味もない。
事実ではないのだから。
水滴の音がし続ける。
レストランの中は静かだった。
【否定姫@刀語 死亡】
- 15 :
- 以上です。
ちなみに全回言い忘れていましたがマウンテンバイクはスルーの方向で行ってます。
修正および加筆点としましては名無しの方が挙げられていた脅威などを増し増し。
次いで味方を捜していない現在の理由を追記。
否定姫との事についても理由らしい物を加筆したのが大体です。
前回に引き続き、変な所や感想があればお願いします。
- 16 :
- test
- 17 :
- 書き手として参加したいのですが、
したらばに予約してもいいのでしょうか。
流れは大まかには把握しているつもりですが、
何か注意すべき点があれば
どなたか、教えてくれませんか。
ちなみに、零崎軋識、櫃内様刻で書こうと思っています。
- 18 :
- 予約はしたらばの予約スレにお願いします。
ゲリラ投下などは今のところやっていないので必ず予約してください。
注意すべき点は一応放送後のSSと言う所に気をつけてさえもらえれば大丈夫なはずです。
予約楽しみに待っております。
- 19 :
- っと、すみませんあと一つだけ。
予約にはトリップ必須です。
名前: の欄に 半角の#のあとに英数字やら感じやらを入れるだけです。
あと、E-mail欄に sage と入れておいてください。
入れないとスレがいちいち上がってしまうので、対応をお願いします。
注意点はこれくらいのはずです。
- 20 :
- すみません。
少しばかり勘違いしていました。
仮に予約する場合、零崎軋識、単独にしようと思います。
- 21 :
- test
- 22 :
- test
- 23 :
- 返答ありがとうございます。
早速予約してみます。
- 24 :
- 初投下ということもあるので念のため、
仮投下スレに零崎軋識を投下します。
- 25 :
- 本投下します。
仮投下時と大筋は変わりません。
ご指摘された誤字の修正と、言い回しを少しだけ変えました。
零崎軋識で
『家族』と『他人』
です。
- 26 :
- 『零崎一賊』―――人鬼
血ではなく流血で結ばれた『家族』
彼らは、例外こそあるものの、皆が皆、後天的に『零崎』となっている。
だからこそ、軋識は思う。
もしかしたら、数時間前にあった彼は、『零崎』だったのではないかと。
まだ、『零崎』に目覚めていないだけだったのではないかと。
自分の『零崎』としての感覚が、彼を『零崎』として認識できなくても、
まだ目覚めていなかったのならば、それは仕方がない。
と、考えたところで、しかし、軋識は自らの考えを否定する。
だって、あんな奴が『零崎』なわけがない。
いつかの雀の竹取山で双識は、
『零崎』は全員が全員、D.L.L.R.シンドローム(傷症候群)の患者かもしれない、
などといったが、あのときの顛末を思い出すまでもなく、
その仮説を容易に否定できるだろう。
そう、あんなわかりやすい反証がいるのだから。
あの―――意の塊のような男が
”まだ”『零崎』に目覚めていないはずがあろうか。
なぜなら―――もし、彼の内側に『零崎』が眠っているのなら―――
とっくに目覚めているはずだ。
あれだけの意を持つ男が、”人をして”
なお、自らの『零崎』を押さえつけているなんて、考えづらいのだから。
まぁ、彼が『零崎』に目覚めていない『零崎』である可能性は零ではない。
たとえば―――
彼が”まだ一人もしていない”なら
とはいえ、そんなのはやっぱり仮説だ。
確かめるまでもなく、彼は大量の人を犯しているだろう。
人をしていないはずがない。
あれだけの意がありながら、人をさずにいられるわけがない。
あの意を抑えることができるなんて、そんなのは―――
『異常』だ。
と、そこまで考えたところで、軋識は、考えるのを止めた。
「さて、どうするっちゃかね」
時刻はまもなく放送が始まろうかというところ。
場所はD−6、ネットカフェの前、
薄明るい空の下、零崎軋識は立ち止まって思案していた。
- 27 :
- ◇
『人識――家族と他人、どっちが大事っちゃ?』
つい、数時間前、人識にそう尋ねて以来、軋識は考えていた。
『家族』と『他人』、どちらが大事なのか。
『家族』―――
<<自志願(マインドレンデル)>>―――零崎双識
<<少女趣味(ボルトキープ)>>―――零崎曲識
『他人』
<<暴君>>―――玖渚友
三人の内、双識か曲識のどちらか、あるいは両方がいることは間違いない。
この六時間近くの間、手がかりをまったく得られずとも、
軋識の『零崎』としての感覚は”いる”と告げている。
一方、<<暴君>>は、いるかもしれないとは思うが、
いるという確実な根拠はなかった。
だから、確実にいるだろう『家族』を探すのが順当に思えた。
けれど、そう考える過程で軋識は―――
<<愚神礼賛(シームレスバイアス)>>零崎軋識は―――
否、
<<街(バッドカインド)>>式岸軋騎は―――
気付いてしまった―――<<暴君>>へと近づく方法を。
簡単なことだった。
自分と彼女をつなぐものは、ここに招かれる前も後も変わらない。
かつて世界を震撼させたサイバーテロ集団
―――<<同志(チーム)>>
式岸軋騎はその一員なのだから。
- 28 :
-
もし<<暴君>>がいるのなら、この会場のどこかから、ネットワークへともぐり、
何がしかの行動を起こすだろうことは想像にかたくない。
ならば、簡単なことだ。
こちらも同じようにもぐればいい。
もしもこの会場にネットワークが張り巡らされているならば、
高い確率で、<<暴君>>と接触することができる。
―――おあつらえ向きのように、近くには『ネットカフェ』があった。
けれど―――
そこで式岸軋騎は迷ってしまった。
いや、零崎軋識が迷ってしまった。
<<暴君>>へ接触しようとすること。
それは、双識と曲識を裏切ることにならないだろうか。
先程、探すのは『家族』が順当と考えたが、
それは手がかりがない状態での話。
<<暴君>>へと近づく手段を見つけてしまった今では、
むしろ、『他人』を探すほうが順当に思える。
否、
そうするべきなのだろう。
仮に<<暴君>>に接触できた場合、いや、接触できなくても、
ネットワークへともぐることは、
『家族』の手がかりを得られる好機であり、かつ、
主催者たる不知火袴に報復する上では、有益あのだから。
そう考えて、軋識はネットカフェへと歩みを進めた。
なのに―――
軋識はこうして、ネットカフェに入ることもなく、
立ち往生していた。
- 29 :
- 「………全く、馬鹿ばかしいっちゃ。ここまできて迷うなんて」
『家族』と『他人』、どちらか一方を選ぶ必要なんてないのだ。
実際、零崎軋識は―――そして、式岸軋騎は―――
今までどちらを選ぶこともなく、二つを両立させていたのだから。
それをゆるがせたのは、人識に放った問いもあったけれど、
つい先ほど会った、あの化け物女の存在も大きかった。
『あなた達、一賊の誰かがわたしの弟
――七花と言うのですが――
を万が一にもしたらとしたら』
『根こそぎ全員、します』
「きひひひ………、それは本来俺達『零崎』のセリフだっちゃ」
あの化け物女は、あくまで一側面においてではあるが、
―――少なくとも、『家族』か『他人』かと迷っている自分よりも、
よっぽど『零崎』らしいと、軋識は思ってしまった。
「まぁ、なんにせよ、ここまできて回れ右なんて
ばかばかしいな」
と、軋識の口調が変わった。
「もう放送も近い。まずは放送を聞いてからだ。
それから、中を探るか」
軋識は、ひとまず式岸軋騎として動くことを決めた。
そして、放送が始まった。
- 30 :
- ◇
『実験の最中だが、放送を始める。―――』
放送が響き渡る。
どうやら、最初とは違う者のようだ。
けれど、そんなことは些細なことだ。
報復対象が増えたに過ぎない。
『―――さて、まずは死亡者の発表――の前に、荷物を確認してみろ。
その中に白紙だった紙があるだろう?
今は参加者一覧――つまり名簿に変わっている筈だから確認しておけ。』
その言葉をきいて、軋騎はデイパックの中をさぐる。
そして、大した苦もなく、名簿を探しあてた。
そして、知る。
零崎双識
零崎曲識
―――玖渚友
軋騎は思わず口元を緩ませた。
―――あぁ、もうすぐ彼女に会える
「待っていてください、<<暴君>>」
そうしてネットカフェへと足を進めようとして、
『―――零崎曲識―――』
軋騎は止まった。
- 31 :
- ◇
思考が固まる。
自分は何を考えていたのだろうか。
何をしようとしてたのか。
―――そうだ、歩いていた。
どこに?
―――ネットカフェへ
何のために?
―――会うために
誰に?
―――<<暴君>>に
ならば、なぜ止まっている?
―――放送を聞いたから
では、何を聞いた?
『―――零崎曲識―――』
ぐしゃり
手に持っていた名簿は握りつぶされ、
コンクリートの上へと落ちた。
「トキ―――、俺は―――、俺は―――」
口からこぼれ出る言葉は、されど、意味を紡がない。
悔しさ、悲しみ、嘆き、憎しみ、
そうした感情が胸のうちから湧き上がっていく。
そして、その想いは―――
「ゥ、ゥ―――、ゥゥゥゥゥゥウ!………………………………
……………ゥゥ……ゥ……………………………………………」
しかし、その想いは吐き出されることはなかった。
- 32 :
-
◇
いったい自分は何を考えていたのだろう。
『家族』か『他人』か、なんてことに頭を悩まさせ、
『家族』が死ぬ可能性を考えなかったなんて。
知っていたはずだ。
ここには、『化け物』がいることを。
数時間前、自分は会ったばかりじゃないか、『化け物』に。
あの『死色の真紅』にすらも匹敵するだろう、『化け物』に。
それなのに、曲識の名前が呼ばれる瞬間、
自分は<<暴君>>に会うことばかり考えていた。
「―――トキ」
嘆きたい
憤りたい
叫びたい
けれど―――
自分にそんな資格はない。
ついさっきまで、自分は『他人』のことを優先して、
『家族』のことをすっかり忘れていた。
―――そんな男に、どんな資格があるのか。
もう、遅い。いまさら遅い。
曲識は死んだ。
もうとりかえしはつかない。
もう、謝ることすらできない。
ならば―――
ならば、せめて償おう。
式岸軋騎としての自分は捨て、零崎軋識としてのみ生きよう。
そうすることが、きっと償うことになると信じて。
- 33 :
-
「すまない、トキ」
零崎軋識は、そうして、ネットカフェに背を向けた。
―――<<暴君>>に会うなんていう罪深いことは、もはや軋識には許されていないのだから。
そして、
「まってろ、レン、人識」
守ろう。
双識を、人識を、―――『家族』を
命に代えてでも守ろう。
『家族』を裏切ろうとした自分の命が、
『家族』より重いわけがないのだから、
そして、
「かるーく、零崎を始めてやるっちゃ」
そう。
してしてしまくる。
強いも弱いも関係ない。
『死色の真紅』も、『化け物』だって関係ない。
自分には、選ぶ権利なんてないのだから。
自分は『零崎軋識』なのだから。
「―――零崎に歯向かった奴は、一族郎党皆しだっちゃ」
【一日目/朝/D-6ネットカフェ前】
【零崎軋識@人間シリーズ】
[状態]頭に痛み、擦り傷、強い罪悪感
[装備]愚神礼賛@人間シリーズ
[道具]支給品一式(名簿のみ紛失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考]
基本:一族郎党皆し
1:トキをした奴を探し出して一族郎党皆し
2:会場にいる『家族』以外の参加者を見せしめで皆し
3:『家族』(人識を含む)との合流、及び保護
4:零崎一賊に牙を向いた不知火袴およびその関係者を皆し。及びその準備。
5: 情報機器(暴君)に近づくのをできる限り避ける
6:もしも<<暴君>>に会ってしまったら………
※名簿をざっと見ただけで捨てています。参加者の名前を把握していないかもしれません
※握りつぶされた名簿はネットカフェ周辺に転がっています
- 34 :
- これで本投下を終えます。
感想、そして、批評、よろしくお願いします。
長所と短所、それぞれ書いてくれるとうれしいです。
文章、キャラ、フラグ、プロット、
どんなことでも気軽に書いてください。
あと、特に間(改行など)について意見をもらえると助かります。
横書きの文章は間の加減がいまいちわからないので。
これからも書いていくつもりなので、なにとぞよろしくお願いします。
- 35 :
- 投下乙!!
軋識がマーダー化しましたか
今までどっちつかずでヘタレてた大将が一気にかっこよくなったw
でも零崎みたいな宗像と面識は無いけど零崎になってる伊織に会ったらどうなるのか
今のところ玖渚と一緒にいる伊織とは会う可能性は低そうだけど…
(危険人物は多いけど)マーダーは少ないし今後の展開的にも良SSでした!
氏の続編も楽しみにしてます
- 36 :
- まずは『家族』と『他人』の感想を。
此処に来て軋識の大将がマーダー化。
零崎と式岸のどちらかを選んだ結果、修羅の道を選びましたか。
皆しと言ってもしても死なない様な輩とす前にされそうな輩しか居ないし。
復讐もしても死なず厄介な形で復活する相手に対して果たしてどのような結果を迎えるのか。
と言うか何気に危なかった貝木さん運良い。
全体を通して面白かったです。
そして◆ai0.t7yWj.氏、今後ともよろしくお願いします。
それでは、黒神めだかの投下を開始します。
- 37 :
- 黒神めだか。
今現在、少し悩んだものの、黒神真黒が居たと思しき場所には向かわずクラッシュクラシックへと向かっている道中。
理由はまさか同じ場所に居続ける事はないだろうと言う物でしかない。
実際、クラッシュクラシックも途中で本命は箱庭学園の軍艦塔。
その最中に放送は始まった。
黒神めだかは放送を聞く時でも足を止めるどころか名簿を出すつもりもなかった。
今どこかの誰かが名簿を取り出して見ているとすればそれは絶好の機会だ。
絶好の機会。
名簿に誰が居ようが居まいが如何でも良い。
自分と言う人間を完成させる機会。
その人物の注意が周りから逸れて居る機会を逃す手はない。
文字通り異能を、奪い取る手もあるし、見る目もある。
近くからでも遠くからでも良い。
見付けようと目を凝らす。
歩き続ける。
『阿久根高貴』
足が止まった。
無意識の内に足が止まっていた。
生徒会書記。
阿久根高貴。
死んだ。
足が動かない。
別段それ以外に何があると言う事もなく、放送は終了した。
合計で十一人死んだだけだ。
その中の一人が阿久根高貴だっただけだ。
それだけだ。
「――案外、過剰評価が過ぎたかも知れんな」
黒神めだかは呟く。
そして、足を進める。
何事もなかった様に。
誰も死んでない様に。
無表情に歩を進める。
頭を巡るのは今後の禁止エリアの場所。
地図は既に頭の中に入れてある。
そこの何処が何時どうなるかも分かった。
そう言う意味で今の放送は価値ある物だ。
阿久根高貴が死んだ事を放送された所で。
「所詮『特別』ではその程度――あの男や女のような『異常』には劣るか」
参加者ではなかったらしい一人を含めて死んだ十二人の内の二人を除けば、自分を完成させるに足る足掛かりにもならない存在だったのだろう。
だから死んだのだ。
それに過ぎない。
役立たずが消えたに過ぎないのだから問題などない。
歩きながら名簿を取り出す。
足が止まった。
無意識に足が止まっていた。
あっても何も可笑しくない名だった筈なのに。
「――――人吉、善吉――――」
- 38 :
- 人吉善吉。
彼もまた、自分を完成させる役に立つのか。
喜界島会計は居ない。
何故居ないかは分からないが、居ないのなら別に良い。
如何でも良い。
『特別』ではあるが、居なくても完成させる足掛かりが欠けるとは思えない。
あって良いかも知れないが、必要ではない。
「そう」
足を進める。
止まっていては遠ざかる。
完成には遠ざかる。
『完全』には遠ざかる。
止まっている場合ではない。
『特別』を見付けよう。
『異常』を見付け出そう。
まずは真黒を。
次いで全てを。
完成させよう。
自分という人間を完成させる。
そのためなら、
「私を完成させるのに、手段を選ぶつもりはない」
何も選ぶつもりはない。
兄をす事も、厭わない。
地面に何かが落ちた気がした。
足を止めて下を見ても何もない。
首を傾げる。
水滴が下に落ちた。
上を見上げる。
水滴一つ落ちて来ない。
「気のせいか……?」
歩き始める。
気付かない。
地面に落ち続ける水滴の正体を。
気付かない。
目から流れ落ちる水滴が何かを。
気付かない。
頬から流れ下る水滴の事すらも。
気付かない。
滴る水滴が己から出ている事も。
気付かない。
今は、まだ。
気付かない。
- 39 :
- 【1日目/早朝/C−3】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]足の裏に刺し傷(ほぼ完治)、めだかちゃん(改)、『不死身性』(弱体化)
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、心渡り@物語シリーズ
[思考]。
基本:自分という人間を完成させる。
1:真黒を見つけたら、『異常』を『完成』し、す。
2:クラッシュクラシックに向かう。
3:色々な異能の持ち主と戦い、その能力を自分のものとする。
4:ついでにす。
5:左右田右衛門左衛門には警戒しておく。
6:多分無理だろうが、時間があれば箱庭学園の軍艦塔に行く。
[備考]
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも先ほど、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
※疑問には思っているが、まだ『不死身性』が弱体化したとは本気では思っていません。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※宗像形の暗器は不明です。
- 40 :
- 以上です。
今回投下が早い上に短めですが、変な所や感想などがあればよろしくお願いします。
- 41 :
- 投下乙です
これはめだかちゃん正常化フラグですかね〜
でも原作でも思いっきり涙流した後に善吉とガチバトル繰り広げてたしまだなんとも言えないか
過負荷と出会った場合どうなるのか
にしてもマーダー少ないとか言ったけど日和号込みで6人いたのか
それなのにマーダーがしたのはまだ喰鮫入れて4人というのもおかしな話w
- 42 :
- 注目の組み合わせの予約が来たな
- 43 :
- 仮投下スレに突っ込むほどではないと判断して何時も通りそのまま投下します。
時宮時刻の投下を開始します。
- 44 :
-
時宮時刻はある種の面倒臭がりである。
幾つか道があったとすれば、より簡単な道を選ぶ性質。
操想術師としてはあるまじき、支配よりも解放を得意とする存在。
彼はそれが原因で『呪い名』の最上位、《時宮病院》を追放されていた。
その時に与えられた名が、《時宮時刻》。
今の彼の名。
そんな、面倒臭がりな彼。
そんな彼にも夢があった。
いや、野望と言い表した方が良いのかも知れない物だ。
「世界の終りが見たい」
支配でもなく、解放でもなく、征服でもなく、蹂躙でもなく、終焉を。
終わりを、見たい。
終いを、視たい。
終を、観たい。
最終を。
寄り道がてらに薬局でなくなった腕の傷を治療をしながら、時宮時刻は考える。
元《時宮病院》に所属していた人間。
あろう事か病院と付く場所に所属していた自分が自分で自分を治療する事になっている皮肉を。
ではなく、世界の終りについてを。
「…………うーん」
既に世界の終わりへの道は出来上がっている。
《人類最終》の解放。
死んだ人間はそれにしては少ない気がしないでもないが、今は気にしないでおく。
と言っても《少女趣味》と《人喰い》が死んでいる時点で中々だと思わないでもない。
しかしそれではまだ足りない。
不安要素を取り除かなければ、と。
放送を聞き終えて、名簿を見尽くして、そう思う。
何せ既に《人類最終》の解放は出来ているものの、万が一にも出来るとは思ってないがそれでも、戻される可能性はなしではない。
時間が解決する事だが、今はまだ不完全な解放に過ぎないのだ。
不完全の内に元に戻されればどうなるか。
考えたくもない。
だから考える。
可能性を。
もしかしたら、止めれるかも知れない者は、誰か。
名簿の名をなぞる。
「《戯言遣い》」
いーちゃん。
狐さんの敵。
橙なる種の鍵。
「《人類最悪》」
狐さん。
砂漠の狐。
人類最悪の遊び人。
- 45 :
- 「《人類最強》」
赤き征裁。
砂漠の鷹。
人類最強の請負人。
「厄介なのはこんな所かな?」
《愚神礼賛》と《自志願》は入れる必要はないだろう。
利用している十三階段の一人、右下るれろから《人類最終》に《愚神礼賛》は歯牙も掛けられなかったと聞いている。
それに零崎のもう一人の三天王、《少女趣味》が死んでいる以上そこまで警戒する意味はないかも知れない。
「いや」
否。
結果的に、状況的に有利だったはずのるれろが今はもう死んでいる《少女趣味》と戦い、相討ちに持ち込まれた。
『し名』よりも『呪い名』に近い性質を持っていたと言うのは過程に過ぎない。
狐さんに言わせればきっと、「どうだろうと結果的にそうなっていた」とか言うんだろう。
そんな零崎一賊三天王の一人。
念のためにも、
「《自志願》」
切り込み隊長。
二十人目の地獄。
零崎一賊三天王の一人。
紳士と知られるこの男は候補に入れるべきなのかも知れない。
以上の四名。
これらさえ抑えられれば、あるいは解放すれば、《人類最終》が元に戻される可能性は大幅に減るはず。
ならば、だったら、
「やる価値はある」
だが正直、難しい。
何せ相手にするのは《人類最終》を元に戻せそうな、言うならば止められそうな相手だ。
全員が全員一癖や二癖程度の相手じゃない。
対極の対極の対極の《人喰い》が死んで居ない事が幸いと言えば幸いだがそれでも。
下手をすれば死ぬよりも面倒な事になりかねない様な相手しかいない。
だがしかし、
「いや、だからこそ」
しないといけない。
《人類最終》が止まれば世界の終わりは、無くなる訳ではないが、遠退く。
こんな、決して生き残る事を諦めた訳ではないけれど、生き残れるかも怪しい場所でそれは避けたい。
例え何者かにされ、死ぬ事になったとしても、世界の終わりが近いか遠いかで死心地が違うはずだ。
だから、やる。
《戯言遣い》を。
《人類最悪》を。
《人類最強》を。
《自志願》を。
そして、名簿に名を連ねている以上は居るかも知れない四人を凌ぎ得る無名の異才を。
「解放しよう。そして」
- 46 :
- 過程で駒が増える分には問題ない。
使い捨てれば良いだけだから何の問題もない。
さて。
治療もここで出来そうな事は終わって準備も万端。
それでは、《時宮時刻》一世一代継ぐ者なしの、
「世界の終わりを……」
再開しよう。
【1日目/早朝/G-6薬局前】
【時宮時刻@戯言シリーズ】
[状態]背中に負傷、左腕欠損 (共に薬局で可能な治療済み)
[装備]
[道具]支給品一式、錠開け専門鉄具@戯言シリーズ
[思考]
基本:生き残る。
1:できるだけ多くの配下を集める。
2:この戦いを通じて世界の終焉に到達したい。
3:スーパーマーケットにて食料補給。
4:戯言遣い、西東天、哀川潤、零崎双識、終わりに繋がりそうな者は積極的に解放する。
[備考]
※「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。
[操想術について]
※対象者と目を合わせるだけで、軽度な操想術なら施術可能。
※永久服従させる操想術は、少々時間を掛けなければ使用不可。
- 47 :
- 以上です。
何時も通りな感じですが、変な所や感想などがあればお願いします。
- 48 :
-
○構想/ナナシ○
夢はそう簡単には叶わないね
○発想/ナナシ○
だい‐よう【代用】
[名](スル)あるものに代えて別のものを使うこと。「糊(のり)がないので飯粒を―する」「―品」
か‐のう【可能】
[名・形動]《「能(あた)う可(べ)き」の音読》
1 ある物事ができる見込みがあること。ありうること。また、そのさま。「現在―な方法は限られている」「実現―な(の)計画」
2 文法で、そうすることができるということを表す言い方。動詞の未然形に、
文語では助動詞「る」「らる」(古くは「ゆ」「らゆ」)、口語では助動詞「れる」「られる」などを付けて言い表す。
り‐ろん【理論】
個々の現象を法則的、統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系。
また、実践に対応する純粋な論理的知識。「―を組み立てる」「―どおりにはいかない」
じぇいる‐おるたなてぃぶ【代用可能理論】
今やらなければならないことを先送りしてもそれはいつかはやらないといけなくなり、
それでも尚やらなければどうなるかといえば、誰かが代わりにやってしまうという理論。「―を唱える」「―どおりに《物語》は進む」
○夢想/×××××○
こんな夢を見た。
今ではぼくの記憶は愚か、誰の記憶にも留めることの無かったかもしれない。
何時頃だったか、しかし場所は異様にくっきりと。
一人の《危険信号(シグナルイエロー)》と対面し、勉強道具を広げながら。
ただ淡々と静かに、潭々と静かに、譚々と静かに。
勉強にしては微妙にして曖昧な緊張感をこれ以上崩すもんかとばかりに気を遣いながら対面していた。
《危険信号》。
《病蜘蛛(ジグザグ)》の弟子。
《曲絃糸の使い手》。
《戯言遣い》の弟子。
紫木一姫。
通称姫ちゃん。
というより彼女自身がそう望む。
言語能力が多少未熟で、よく慣用句や諺を素で間違える。
とても素直で、可愛らしい女の子。
それ故か、はたまた必然なのか。
彼女は直ぐに骨董アパートの住人たちとも仲良くやっていけた。
- 49 :
-
と。
いう表の顔あり。
表があるということは、裏があることを意味する訳で。
戦士として。
狂戦士として。
彼女は生きてきた。
バラバラとし。
スパスパと切り。
ザクザクと裂き。
ジグザグと化す。
なんていう非常識甚だしい裏の顔もあったり。
とにかくぼくの知っているところで5本の指に入るぐらいには強い子だった。
―――――けれど。
それでも、死んだ。
どこまでも死んでいた。
はてしなく壊れていた。
とぎれなく崩れていた。
そんな彼女が、ここにいる。
変わらない。
本当に変わらない。
でっかい黄色のリボンを初め全体的に真新しい制服に身を包み、心休まる笑顔を時折ぼくに見せる姫ちゃんが。
その姫ちゃんが。
口を開いた。
もう二度と聞くことないはずのその声が。
嬉々として、危機もなく。
爛々と揚々と明るく儚げなどこか欠けているその声を、ぼくは聞いた。
……全くもって。
あらん限りに戯言だ。
○迷想/ハチクジマヨイ・ツナギ○
静かな空間が、ここに存在した。
まるでこの一点の場においては周りの空間から隔離されているような、曖昧な感覚。
徒ならぬ緊張感を糸で仕掛ける罠の如く張り巡らせて、まさしく一触即発の状態を無意味に保つ。
風が吹く。
身で感じるには、余りにも無風が吹く。
- 50 :
-
木々は揺れ、変哲もない建物は風の吹く音を僅かに反響させる。
それが分かるほど、この二人の間には沈黙しかなかった。
いや、ただの沈黙で有れば両者共々助かっただろう。
しかし違う。只の沈黙とはわけが違う。
片やツナギ。
属性「肉」、種類「分解」の「魔法」使い。
その口に囚われた物は捕食され分解されて、吸収される。
彼女の生きる目的は自身を「魔法」使いにした水倉神檎にされる為。
死ぬために生きるというのは一見すると可笑しく思えるが、これが中々そうではない。
生きているからには遅かれ早かれいずれは人は死ぬべきなのだ。
否、付け加え化物でさえもそれは例外ではない。
さながら阿良々木暦の様に。
彼女もまた、いずれは死ぬべきなのだ。
そういった観念から見たら、彼女にとってこのし合いはどう映っているのだろうか。
絶望か、はたまた希望か。
る場に置いて、ない人間はどう行動するのか。
これもまた。
完全なる人間の創造には不可欠なのだろうか。
とは言ったところで今回、彼女がこうして黙しているのにはまた別の理由がある。
その原因がもう片方の少女。
―――――――蝸牛に迷った少女だった。
@
放送が幕を閉じる。
何とも言い難い巧妙なぐらい微妙な空気が、狭き空間を絶妙に支配した。
何処でも例外はない。
何方でも特例はない。
つまりはこの場。
八九寺真宵だって蚊帳の外ではなかった。
母の日まで蝸牛に迷った少女。
今現在は、前が見えなく途方に暮ちゃっている。
まるで迷子。
蝸牛の殻の様なぐるぐるとした道に迷いこんでしまった子供。
あの人ならきっと、と。
一つの道標を辿っていたのに。
道標は、消えた。もしくは変わった。
阿良々木暦と云う一つの道標。
- 51 :
-
無残にも死んだらしい。
本人の意思も無下とし。
周囲の意地も無視とし。
感情の意義も無為とし。
価値の意味も無味とし。
意思なんか無く、意地なんか無く。
意義は消えて、意味は崩れ去る。
幻想がどうであろうと、現実は現実であり。
抗えない現状に、少なくとも八九寺真宵と言う少女は絶望した。
「主人公」は名無しと成り下がる。
「主役」もエキストラに崩れ入る。
「脇役」が移り変わるなど甚だしい。
人一人が平等に裁かれ、成長し、異常となる。
それが、このバトルロワイアルであった。
阿良々木が死んだのは、それを受け持つに足りなかったということだろう。
「吸血鬼」という異常を持ちながら、
「主人公」と言う特権を有しながら。
それでも朽ち果てていった一人の少年。
『普通』の少年。
『特別』でもなく。
『異常』の所有者になれなかった者。
『主人公』という座から振り落とされて。
数々の参加者に光を強制的に見せて、勝手に闇を見せた。
その犠牲者の一人。
その被害者の一匹。
八九寺真宵は、確かにここに生きていた。
―――さて。
八九寺真宵は泣いている――――――――わけではない。
無論ながら悲しくない訳ではない。
だからといって、繰り返すようだが泣いている訳ではない。
―――正直言って、どう反応すればいいのか彼女は分かっていなかった。
何しろ彼女の知っている阿良々木暦は吸血鬼である。
幾ら半端者とは聞かされたところで、彼は不死身であったのだ。
確かに彼女自身が阿良々木の不死身性を目視したのは少ないが、そんなこと疑うまでもない。
そんなもの、普段の彼を見ていれば分かることであったし、そこを疑うことなどできようもなかった。
- 52 :
-
「――――――」
口を動かす。
されど声は微かも出てこない。
目を動かす。
視点が一点に定まらない。
だから彼女はまだ、放送が終わって一分を経った今でも、何もできずにいた。
戯言遣いのことも、頭から一旦離れ頭には「あり得ない」と「悲しい」という気持ちが
混雑して猥雑して、何もできない。
ただ愕然と、立ち尽くすだけである。
けれど時は刻まれてゆく。
一瞬、一瞬、また一瞬。そしてそして、
―――――そうして。
ようやく、八九寺真宵からは言葉が漏れだした。
その声は沈んでいて、悲しげで、絶していて、望まれていない。
けれど言葉を紡がれて、繋がれて。
一つの文となって、同じ場に平然と佇む同じく小柄な少女に問いかけられる。
「―――――――――嘘ですよね、ツナギさん」
その声は、抑揚のない静かな声だった。
しかしそれだけで彼女の心境を表すには十二分である。
ツナギだってそれを感じらるのにさして時間を掛けることはなかった。
結局は現実の否定。
今頃死んでいるのか、いやまだかすかな寝息を立てているであろう否定姫の如く、彼女は現実を否定する。
幻想に抱きついて、いつまでたっても離さない。
まるで子供が駄々を――比喩になっていないが子供が駄々を捏ねているように彼女は直視しなかった。
純粋と言えば心は救われるのだろうか。
只管と、放送を直視―――直聴せずに今を生きる。
ないしは生きていないのかもしれないが。
そんな彼女に浴びせられる言葉は、勿論ツナギの言葉だ。
幼い声は、少女を背中を押した。
目掛けるは―――――暗き深淵の底。
疲れ混じりに、言葉を吐かれる。
「んなわけないじゃない」
辛辣。
辛いことが二つ束となる。
まさしく彼女の言葉は、八九寺にとって辛辣だった。
正しいが故に、反論もできず。
悶々と現実逃避は渦を巻く。
意味の無い逃避行。
勝手知らない絶望と云う道を我武者羅に走り、迷子となる。
ただ、何にしたって小学生が受け持つには少々荷が重かったというものだ。
元々逆境に弱い彼女。
こんな現実受け入れられるはずが無いではないか。
- 53 :
- 「………す」
漏れ出した言葉は聞きとれない。
ツナギもだが、八九寺自身ですら何て言ったのか分からないあまりにも小さき声
八九寺はもう一度言葉を繰り返す。
「…………………いです」
今度はそれなりの張りが出ていた、が。
声は震えている。喉が渇いている。
故にそれは、「声」という形ではなく、「ノイズ」と言った方が的確だった。
八九寺も分かっている。
だから、三度目の正直。
「……………失礼ですが、私、貴方のことが嫌いです。ツナギさん」
簡潔にそう言い残し、ただそれだけで学習塾跡の方へ一人で去っていく。
足を大きく踏み出しながら手を勢いよく振り続ける。お世辞にも綺麗なフォームとは言えない不格好な走り方。
それでも彼女は一人で進む。―――、一度も振り返ることもなく。
唐突で突拍子の無い行動。
規律なんて無く、ただ子供の我儘で一人で去っていく。
自分の言うことに頷かないから嫌いだなんてまるで子供の我儘だ。
我儘を突き通せるほど、彼女は混乱していた。心は放送の手によって攪乱されたていたのだろう。
どれだけ大人ぶろうとも、やはり子供には違いないのだから。
「……………へ?」
一人残されたツナギは、数秒の間固まる。
既に八九寺の姿は姿を見失った。
とはいえ八九寺の足が特別速いわけではない。
ただ単にツナギが彼女の姿を目で追っていなかっただけで、
八九寺の言葉を理解した時には目の前に広がるのは閑散とした住宅街であった。
更に呆然とすること数秒。
ツナギは降ろしていた腰をゆったりとした動作で上げる。
「―――――――――ふぅ、ま。真宵ちゃんの駄々に少しは付き合ってあげますか」
面倒臭そうに、お尻に付いた土を軽く払いながら言った。
ツナギは走りだす。
しかし、進みは遅い。
頭脳は大人並とはいえ体は子供並みなのだ。
八九寺真宵とそう大差のない体つき。
追いつくにしても、難しいだろう。
ただツナギはそんなこと言われなくとも分かっている。
分かったいるからこそ、溜息をつかざる負えなかった。
「…………全く、こんなときにいーさんは何をやっているのかしら」
声は虚しく空に響く。
無論、八九寺真宵や戯言遣いには届く訳もなかった。
- 54 :
- ○追想/×××××○
この現実に甘んじていたのは誰でもなくぼくだったのだろう。
誰でもなく、この不肖戯言遣い。
愚かで馬鹿で現実を直視できていなかったのは、
真宵ちゃんでもなく。
ツナギちゃんでもなく。
鳳凰さんでもなく。
翼ちゃんではなく。
巫女子ちゃんでもなく。
姫ちゃんでもなく。
―――――このぼく。
ぼくこそが、誰にも負けないぐらい現実逃避を繰り返す異端者で良かったんだ。
だって未だにぼくはたった一人の死を引き摺っている。
姫ちゃん。紫木一姫。
夢に出てくるほどまでにぼくは彼女の死を振り切っていなかった。
いや振り切る必要はない。
寧ろ人の死を簡単に振り切ることのはあんまりだろう。
なので言い方を変える。
その少女の生を何時までも心残りにしている、という現実逃避。
こんな人間じゃなかったはずなのに。
以前ぼくはそう思ったはずだ。
事実、未だぼくでも信じられないほど姫ちゃんはぼくの心に何時までもこびりついている。
死んだ今でなお、少なからず二ヶ月ほどは経った今でさえ夢を見て、
『姫ちゃんとお喋りをしたい』
なんていう傑作な戯言の様な幻にぼくは縋りついている。
飛び込んだと言っても過言では無く真実だ。
こんなにも現実を知らない人間でも、なかった。
だから初めは、あのまま翼ちゃんに裏切られてされたかと思った。
けれど違うようで、黄泉の世界でも、天国地獄でもなく、ただの夢だという。
この暑い蒸されるような骨董アパートの小汚い卓袱台の上に広がる勉強道具を見る限り、
確かにいつかの記憶と合致する。……まぁぼくの記憶力の申すことだからうろ覚えで間違いないだろうけど。
閑話休題。
死後の世界ではなかったのだとしたら、ぼくが見ているのは間違いなく夢で間違いないと思う。
元々の話で夢の何を知っているかと問われたら何も知らないと答えざる負えないが。
夢なんてもの、ぼくが現実世界で一から十まで覚えて現実世界に帰れるわけないし、時間が経てば全てを忘れる。
けれど、これは夢だと断言できた。
中々くだらないが、やはり姫ちゃんがここにいる以上。
そうなのだろう。―――いや、そう信じたかった。
戯言ここに極まり。
まぁそうでもなければ、よく分かんないけど《怪異》の仕業なのかもしれないが、頷ける話じゃないし。
そもそも改めて考えてみると、吸血鬼ってそもそも何なのか。
そのこと自体もよく知らないし。あくまで道聴塗説、都市伝説レベルのぼくの知識ではやはり鬼に構わず何とも言えない。
だからここではIFの話はしないでおく。せっかくの夢だから。
畏まって固まりながら動く必要もない。
――――――――だから、ぼくはその幻に抱きついていようと思う。
姫ちゃんと言う、幻を。
少しばかりの、現実逃避を。
- 55 :
-
@
唐突ながらぼくは、姫ちゃんに対し何かを感じ取っていた。
それも彼女の生前の時には感じられなかった新鮮な感触。
当然ながらこれはぼくの夢想なのでこの姫ちゃんは本物と違う。
違う故にそこから何かを感じるのは仕方ないが、今回の場合わけが違ったりする。
やはり直観にこそ違いないが、その感じ取ったものの内容は多分分かっている。
――――ぼくは、デジャブを感じていた。
何とと聞かれたらぼくはこう答えるであろう。
姫ちゃん本人と、「彼女」との存在が、だ。
とある狐は唱えていた。
《ジェイルオルタナティブ》。
代用可能理論。
全ての人間に代わりはいる。大まかにいっちゃえばそんな考え方。
ぼくはその理論を否定する気はない。どちらかというと認めている節もあると我ながらにして思う。
その根拠。それを裏付ける根源。
零崎人識。
ぼくの裏の存在。
姿に、口調に、性格に。
何から何までぼくと違う。
だからこそ、鏡に映ったぼくであり、同一なのだろう。
故にぼくの代理品。
欠陥製品に対する、人間失格。
そんな無関係に等しき人間関係を有したぼくだから、代替可能理論を割かし肯定的にみることもできるのだろう。
あくまで「的」であり、全てを肯定をしている訳ではないのだけれど。
兎にも角にも。
ぼくは「彼女」の代替品を姫ちゃんと定めてしまった。
正確には姫ちゃんの方が先代であり、「彼女」の方が後代なわけだけど。
しかしながら姫ちゃんと話している内にとある既視感を姫ちゃんに覚えていた。
脳裏に思い浮かんだのは、「彼女」。
不覚にも、不躾にも、重ねてしまった。
目の前でぼくと会話している紫木一姫(ひめちゃん)。
小柄な体格で、どこか儚げで、けれど元気で、場のムードメーカー。
幾ら夢とはいえ、否。
夢だからこそ、ぼくのそんなイメージが最大限に現れて益々「彼女」を重ねてしまう。
改めて言わせてもらうとここはぼくの夢だ。
前述の通り断言する訳じゃないけど、ここはそう信じたいと思う。
まぁ少なくとも現実世界ではないことは確かだ。
- 56 :
-
夢の中。
ぼくの記憶。
ぼくの記憶の断片。
ぼくの深層心理
ぼくの深層心理の欠片。
だから。
この姫ちゃんはぼくの偏見なる姫ちゃんのイメージの具現化。
それがこの姫ちゃんであり、本物の姫ちゃんでは決してない。
そんな事は分かっている。
確認するまでもなく、この姫ちゃんは云わば偽物であり、本物はもう何処にもいない。
けれど、楽しかったのもまた事実。
彼女と話していて、ぼくは楽しかった。
たくさんの人をしたも同然のぼくがそんな幸せにありつけるなど本来は許されない。
ぼく自身分かっているつもりだし、姫ちゃんに関してもそのつもりであった。
けれど、そうはいかなかった過去がある。もしくは今がある。
よく云う話で亡くなってから気付く大切さと云うやつ。
ぼくの場合。死んでから。―――――全てが片付いた後に気が付いた。
気が付いた。気が付いてしまった。気が付けた。
どの言い方が正しいのか寡聞にしてぼくが存じる術はないわけだが、結果は無論のこと同じである。
不謹慎な私情かもしれない。
不適切な感情かもしれない。
それでも言うのであれば、姫ちゃんと過ごした二ヶ月近く。
ぼくは楽しかった。
そしてぼくは否応なしに思いだしていた。
八月も暮れる頃、西東診療所にて彼女が死んだ姿を。
「―――――――――そうなんだよなあ」
声は虚空へと消える、狭き骨董アパートの中だというのにもかかわらず、声はどこまでも遠くへと届いた様な不思議な感覚を覚える。
そんなどうでもいいところで夢だと確証つけつつ過去を振り返った。
あの時ぼくはらしくないほど取り乱した。
みいこさんがいなければ、こう言い方は卑怯かもしれないけれど今のぼくはいない。
同時に、姫ちゃんがいなければ、ぼくはここまで成長できるはずはなかった。
だからぼくは彼女が好きだったのか?
―――――いや。そうじゃないだろう。
それは結果論に過ぎない。
- 57 :
-
―――――ぼくは、
「…………さて、そろそろお別れの時間だよ」
姫ちゃんの陰が、影が。
おぼろげになってゆく。消えてゆく。去ってゆく。
なんて儚いのだろう。
なんで夢は儚いのだろう。
なんと人は儚いのだろう。
姫ちゃんのかげが、亡くなってゆく。
―――――ぼくは、姫ちゃんの、
「楽しかった」
姫ちゃんの顔は笑みで満ちていた。
こんなぼくとの会話でも、楽しんでもらえたのだろうか。
現実的なことを言うとただ単にぼくの夢であるからぼくの都合によりそうなっていたのかもしれない。
……けど、それでもいい。
それでも、ぼくは。
ぼくは、ぼくの知っている姫ちゃんを笑わせることはできたのだから。
それは十分に幸せなことではないか。
―――――ぼくは、姫ちゃんの、あの無垢で、純粋な笑っている姿が、
「だから、今度は救ってあげる。姫ちゃんみたいな子を見つけちゃったんだ。とんだ迷子さんでね、ぼくがいないと何もできないんだよ」
――――――――――大好きだったんだ。
ぼくがそう思うと同時に、姫ちゃんは笑顔のまま、消えてった。
口先が何かを描いていたが、生憎ぼくに声が届くことはなかった、それはきっとこれからも。
ぼくはデジャブを覚えていた。
《危険信号(シグナルイエロー)》紫木一姫と。
幽霊と名乗る少女―――――――八九寺真宵ちゃんと。
あぁ、成程。姫ちゃんの夢も見る訳だ。
自己完結。自己満足。
ぼくは一人で頷きながら、孤独寂しく納得していくのであった。
と。
その時。
瞬間の出来事だった。
ぼくの視界が真っ白となっていく。
ただ、それは何も夢の終わりではなかったらしい。
- 58 :
-
「―――――や、初めまして。戯言遣いくん。僕の名前は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」
外見的特徴、内面的特徴ともかくとして、場所は変わらず骨董アパート。
ここにきてまさかの新キャラ登場である。
○落想/クマガワミソギ・ヤスリナナミ○
場面を変えて、この最強最悪及び最凶最弱な二人の旅路を見てゆこう。
重い足取りも仕方なしに(恐らく)学習塾跡の廃墟に向けながら、一応球磨川を先導に歩みを進める。
この調子でいけば、あと十分もすれば何ら問題も見せず学習塾跡の廃墟に到着すると思わしき距離まで進んでいた。
とはいえ、球磨川の体力の無さもさることながら、七実の方はそれ以上に体力は削れている。
何しろ、このエリア内のほぼ北から南を色々と寄り道もしながら来たのだ。
そもそもの話、通常レベルの人間でさえ無理難題とまでいかずとも、難しいことを成し遂げている。
それでいて持久力の無い癖に、彼女は果たしていた。
もしかしたら。
仮定の一つとして、彼女は見取ったのかもしれない。
匂宮出夢の《し屋》としての法を。
零崎人識の《人鬼》としての技術を。
その為の観察だったのかもしれない。
その為の診察だったのかもしれない。
しに長けた両者の先天的な《才能》を盗み見たのかもしれなかった。
故に、多少の体力の無さ、持久力の無さを補っていたのかもしれない。
―――――それを知るのは本人のみ。
そんな彼女はふと、一つの考えを思いつく。
別に放送が終えて直ぐにする、振る話でも無かったのかもしれないが、
特別先延ばしにするほどの提案では無かったので容赦の欠片も与えず話を振ろうとした。
「ところで、禊さん」
一応備考として記述しておこう。
とがめが死んでいることを既に知っていた七実にとって、放送なぞ取るに足らないものであった。
正確に言うと、それにより七花がどう動くか、という一抹の念が過ったことにはよぎったのだが、それも直ぐに通り過ぎる。
- 59 :
-
それにより七花に余計な邪念が振り払えたのであれば、それに越したことはないだろう、と。
七実は、七花と最高の形で決着をつけたいと思っている。
自分が虚刀流の体質故に負けたあのときとは違い、刀を使う気などない今回。
七花の傍らに「とがめ」という不確定要素が乱入するのは七実にとって面白くない。
それだと、圧倒的な力差を見せつけてしまうからだ。
当然の様に、七実の圧勝、という意味で。
そういった意味では、七実にとってとがめの死は非常に有益なものでさえあったいえるだろう。
良い起爆剤になってくれよるだろうと、寧ろ淡い期待を抱き始めているほどであった。
『………なんだい? 七実ちゃん』
一方の球磨川。
彼の場合、かつての仲間。
現在の形はどうであれ、確かに仲間と認識していた彼は、死んだらしい。
阿久根高貴が死んでいた。
異常事態だ。
非常事態だ。
球磨川禊にとって、それは駄目だ。―――危険、レッドゾーン。
かの通常状態の黒神めだかがこの「負完全」球磨川禊を放っておかなかった理由の一つ。
要は球磨川禊は『仲間思い』なのだ。
形はどうであれ、表現の方法がどうであれ。中身の状態がどうであれ。
『仲間思い』と云うこと自体は変わらない。
良くも悪くも。
善でも悪でも。
弱い者の、愚か者の味方であり、仲間であり、友達でいたい。
そんな彼にとって、阿久根の死は重大で重要他ならない。
一歩間違えば、暴走に歩くあろう。
二歩間違えば、戮に走るだろう。
三歩間違えば、虐に飛ぶだろう。
――――――――ただ、幸いしてそれができないのが現状である。
鑢七実。
前日本最強の名に恥じず、強者であり、『過負荷』。
強すぎるが故に、過負荷となりゆる彼女が傍にいる以上、暴走してはいけない。
義務、そして責任。
『−十三組』という一つの組織の仮にも臨時にも頭首を任されている以上、
ここで暴走しちゃいけない。仲間を失った悲しみのあまり、仲間を減らしては意味が無さ過ぎる。
- 60 :
-
―――落ち着け。
―――落ち着け。
そう、心に言わせる。
成果あってか徐々に心は静かになってゆく。
荒々しい波を立てていた心は、最後に手を胸に添えた後、閑散として戻す。
『大嘘憑き(おおうそつき)』の名は伊達ではない。
自分の気持ちに、格好つけて、括弧つけて。
抑える、治める。偽りの鍍金を、心に被せていった。
最終的に、彼の顔には笑顔が戻る。
ニコニコとした、可愛らしい顔が球磨川の顔に映る。
そう言った動作の後、ようやく先の七実からの質問へと戻っていった。
「―――いえ、何のことも無いのですが。わたしは不治の病に罹っている、といいましたよね」
『うん、可哀相だよね。本当』
ちなみにだが。
既にこの二人それなりに情報交換は済んでいる。
話を持ちかけたこと事態は確かに球磨川に間違いはないのだが、それに乗じたのは七実自身である。
先ほどみたいな泣き落としもすることなく、案外すんなりと、意外とすっきりと球磨川には身の分を話していた。
七実自身、違和感が無いわけではない。
寧ろ、違和感の塊に衝突していた。何故、話してしまったのか、と。
初めは邪魔さえしなければいい、と考えていたのに何故ここまで進展しているのだろう。
とはいえ、気付いていた。
自身の僅かな心境の変化に、気が付いていた。
それでいて、笑える。自嘲ではなく純粋な面白さという意味で。
要するに。
七実は友情に、ぬるい友情に浸っていた。
かつての七実風に言うのであれば、錆びている。
けれど、それもまた良いのかもしれない。―――――――と。
自然に行き着いた。
その事実は善と動くか悪と動くか。
両者共々、知る由はない。
- 61 :
-
閑話休題。
つまり互いにある程度の情報を握っているし理解している。
だからこそ、躊躇いなど見せず単刀直入で切り込んでいった。
「ですからその『おーるふぃくしょん』とやらでわたしの病を消すことは可能なのでしょうか、疑問に思ったもので」
《物語》の根本的塗り替え。
設定を無視して、キャラを破壊し、アイデンティティーの消滅を意味することとなる。
仮に成功できたとするならば、彼女の敵は限られてくるだろう。
例えば、鑢七花。
彼が対七実戦の時でさえとがめとの約束故、手を抜いていたのであればわからない。
例えば、哀川潤。
彼女の場合、一戦で全てに片を付けないと後々その体質故七実が勝つのも難しい。
例えば、水倉りすか。
血を流せば、勝機は著しく衰えるに違いない。
挙げればいることにはいるのであろう。
ただ、云い方を変えればいるだけであり、いざやってみないことには分からない。
病の無い彼女の潜在能力が如何なほどなのか―――――――――を。
誰も知らない。当人でさえも、それは分からない。
けれど一つ言えることは、とてつもなく―――凶悪さが増すであろうということ。
病。
不治の病。
《神》が与えた彼女への罰、もしくは枷。
一億に及ぶ病魔。
一つ一つが、十割に限りなく近い致死率を誇る病魔を遠慮忌憚なく、肉体に埋め込んだ。
各々の病魔が慢性的に合併症を引き起こし、情け遠慮なく身体を責めまくる。
しかし彼女は。
彼女の天才性は、病魔までも拒絶した。
毒も、病気も―――拒絶する。
どれだけ苦しく、どれだけ痛く、どれだけ死にそうであっても――――彼女の身体は死を選ばなかった。
これ以上なく病弱で、どうしようもなく虚弱でありながら―――ぎりぎりのところで踏みとどまって、彼女は生きるのだった。
死にぞこないという言葉さえ、ふさわしくない。
彼女は、そう―――――生きぞこないだ。
生き地獄。
少なくとも、この病魔は彼女にとって邪魔でしかなかった。
いくら桁外れの治癒力、毒の耐性などという《副作用》が身につこうが、そんなことどうでもいい。
彼女が持ちたかったのは、健康な体と、ささやかな夢。
- 62 :
-
健康な体。
言うのであれば、球磨川禊の『弱き身体』など、いい具合に良い的であろう。
ささやかな夢。
現―――という言い方もおかしいが、当時日本最強鑢七花と最高の形で決着をつけること。
その為に、この病魔はあまりにも邪魔。
少なからず、七実の目論見通りに行くのであれば、今の七花は「全力」だろう。
文字通りの「全力」。
とがめが消えた今、約束、及び拘束。―――そこまで七実は言わないが、錆を払い除けて対立するはず、ということには思い至った。
仮にそうなった場合。
七実は七花とどうなるであろうか。
あくまでとがめが生きていたのであれば、七花は惜敗とも言えない惨敗するのは分かっている。
事実としてそうだったのだから。
なら、なら―――――――――。
@
そして、球磨川の答えは―――――――――。
@
そして、目の前に広がるは学習塾跡の廃墟。
その時、一陣の風が舞う。
否。
勢いの良い“風圧”が、七実を襲った。
七実は飛ばされた。
○幻想/×××××○
ぼくという人間を語る場合が仮にもあった場合。
そのプロフィールに勿論のこと「主人公」なんて三文字や「主役」という二文字は当てはまらない。
それは我らが哀川潤さんにお任せしとけばいい。
仮定として狐面の通り、この世界が一つの《物語》なのだとしたら、
ぼくは精々言ったところで「村人C」を頂けただけでも僥倖と言えるだろう。
―――とはいったところでそんな「脇役」を演じるだけなら面倒だしふけるという手を取るかもしれないけどね。
全くもって戯言だ。
- 63 :
-
ともかく。
ぼくには「主人公」なんて荷が重すぎることなどできないし、肩も重い。
そもそも原点回帰として「主人公」ってのがなんなのかっていうのは実を言うとよく分かっていない。
かつて世界を救ったぼくとしても理解はできない。
イメージはできる。
具現化はできない。
とにかく善人であれば「主人公」というと違う気がするし。
とりあえずハーレム創っていたら「主人公」というとこれもまた違う。
とりわけ最強を張っていたら「主人公」。―――でもない気がする。哀川さんは特例なのだ。
このように―――というのもまた違う気もするが、
ぼく自身「主人公」っていうのを理解していない。
故にぼくが「主人公」ではない。っと断言はできない訳だけど、確証はある。
ぼくみたいな欠けている人間が、「主人公」であってはならない。
それもまるで人鬼の様な、死神の様な不吉の象徴を表した様なぼくが、張って良いものでは少なくともない。
「主人公」は哀川さんこそが相応しい。
だからぼくの出る幕はない。
そう思っているのだが―――――。
「いやはや、僕の名前を呼ぶ声が聞こえたから急いで駆け付けてみたら中々面白い人材がいるもんだね」
「だったらこんなところで遊んでないで、さっさとその声の元に駆けつけたらどうなんだい? きっと君の新しい顔を待ってるよ」
「アンパンマンかよ――――それに」
少なくとも、ぼくは呼んだ覚えはない。
もし呼んでいたとしたならば、相変わらずぼくの記憶力は相当に優秀になる。
「君であってるよ。戯言遣いくん」
どうやらぼくの記憶力は優秀らしかった。
「………ふーん、理事長(しらぬいくん)も面白いことやってんなー。この世界の僕はまだ封印されてるのか」
封印とはなんだろうね。
いやいや、ぼくの夢。
こんな中二病出してどうすんだ、さっさと目を覚ませろよ。
なんて都合の悪い夢だ。まるでぼくみたい。
- 64 :
-
なんつーかよく分かんないけど纏めるとしよう。
姫ちゃんが消滅した後、余韻に浸りながら帰ろうと念じるぼくの元に一瞬閃光が走った。
その後、彼女が現れた。
唐突に、簡潔に。
前振りも前置きも無く、如何にも当然の様にぼくの眼前で寛いでいる。
今現在、彼女の姿は「哀川潤」。
曰く、「このほうが君も話しやすいだろう」との事らしい。だからぼくの前には先ほどの安心院(あじむ)さんの姿はない。
ちなみに《身気楼(ミラージュプナイル)》という彼女の特技を使ったとのことだ。
……………。
余計な気遣いはいらないから早くぼくを還してくれるとありがたいんだけど。
しかし彼女。
何ていうんだろうね。
その姿。――――全然似合っていない。
そりゃ顔も身体も声も全て哀川さんなのだから違和感はない。
けれど似合ってもいない。
ま、戯言としておくとでもしよう。
…………で。
「貴方は何なんです」
最終的にはこれに尽きるだろう。
何であれ、ぼくは彼女を知らない。
どれだけぼくの記憶力がポンコツであろうと、―――ここまでの『異常』を覚えてないわけがない。
夢とはいえ、夢だからこそ知りもしないものは具現されないから。
彼女は間違いなく第三者だ。
それも、ぼくとは無縁の処ながらラスボスに匹敵すべき誰か。
狐面風に言うのであれば、因果から外されるべきキャラクター。
縁の≪合う≫はずの無い、非登場人物。
正直言って今この瞬間、ぼくと彼女が対峙しているという事態は、非常事態。
ぼくが語るべき存在では、なさそうである。
「いや、別に僕は何者になるつもりもないよ。ラスボスなんて真っ平ゴメンだ」
易々とぼくの意見と同義な言葉を吐いてゆく。自分は登場するべき者ではない、と。
だからこそ必然的にぼくは彼女に疑いの眼差しを向ける。
その視線を感じ取ったのか、彼女はおちゃらけた口調で返した。
「元々僕はこの世界の住人でもないしさ。いわば僕は並行世界(パラレルワールド)の住人さ」
- 65 :
-
…………並行世界。パラレルワールド。
同一の時間帯に置いて、軸の違う幾つもの同一の世界。
もう一つの現実。
アナザーワールド(別の世界)ではない、パラレルワールド(並行世界)。
――――――――まるで、怪異の様な言い分であった。
そういえば吸血鬼もそんなことをできるなんて都市伝説もあるが、一体全体どうなんだろう。
しかしここで怪異の話をしても仕方が無いので、安心院ちゃんに焦点を戻す。
………戻したところでどうこうという話ではないけど。
正直に言って、意味が分からない。
そんなの、人間業ではない。
尤も、ぼくに人間を語って良いのかどうかは微妙なところではあるが。
「僕は簡単に言うと『球磨川くんが改心しきった世界』からやってきてね。
能力も制限なくなったし《腑罪証明(アリロック)》でここでやってきたわけだけど」
話がどんどん難しくなっていく。
誰だよ、球磨川って。玖渚じゃなくて?
KUMAGAWA 球磨川。
KUNAGISA 玖渚。
……自分で言っておいてなんだけど、予想以上に母音子音が被っていてびっくりした。
横道にそれたね。
そんなことは、(玖渚が本当に関係していたら別だけど)どうでもいい。
それよりもぼくとしては――。
「…………ま、結果的にぼくとしては早く戻りたいんだけど」
し合いの場に戻るってのも上々に複雑な気分だけど。
戻らない訳にもいかないだろう。
「いいじゃん。僕もそろそろ帰らなきゃいけないからね、それまでの辛抱だ」
彼女自身、それが迷惑だと分かっているのが厄介だ。
戯言も、きっと碌に聞いてもらえないだろう。
…………いったいぼくのターンは何時まで続くのだろう。
これがテレビであれば直ぐ様スタジオにカメラを戻すのに。
しかしそんなぼくのボヤキは当然ながら聞きとれるはずもなく、
彼女は困ったように語り始める。
「しかしバトルロワイアルか。――――――見事に僕の邪魔する計画だよ。理事長(しらぬいくん)も困った人もんだと思わないかい?」
「…………ん?」
- 66 :
-
あれ? 何かがおかしい。
この人は、主催(あっち)側の人間じゃないのか?
時空を越えてこの計画を目論んでいたんじゃないのか?
ぼくはてっきりそう思っていたのだが。
見事に嵌り役であったし。
「僕は『主人公』を創りたいって言ってたのに。主人公体質を無に還して何がしたいんだろうねー」
「……………『主人公』」
哀川さんの声で言われると、思わず流してしまいそうになってしまうが、
気にするべき点はそこではない。
――――――主人公体質が無に還される?
「尤も、この哀川潤ちゃんは性能が下がっちゃいるけど有していることには有しているけどさ」
「……………」
この場合、よかったとみるべきなのだろうか。
いや違うだろう。正直なところぼくはこの件、
「バトルロワイアル」に置いても放っておけば参加されようがされまいが、
さっさと片付けてくれるなんて言う淡いというか甘い期待をもっていたのだ。
しかし、彼女の調子が万全でないというのであれば、そう簡単に事を進めるのは困難なのかもしれない。
………ならば、ぼくは。ぼく達はどうすればいいのだろうか。
「だけど、全部が全部失敗。という訳でもないらしいね。
主人公体質を自力で手に入れようと頑張ってる子が割といるのがまだ救いって感じさ」
「へぇ、そんな人もいるんだね」
ならば、ぼくは幸いなことに裏方作業に没頭でもしておくことができる。
別に見せ場が欲しいわけじゃあるまいし。
そんなぼくの思いとは裏腹に、安心院さんはぼくに告げる。
静かに、淡々と。小馬鹿にした調子で。
「いやいや何他人事ぶってんの、戯言遣いくん。――――それは君もだよ」
静かに、淡々と。
それは告げられた。
無論ぼくに向かって、ぼくに宛てられたメッセージ。
『君もだよ』。
つまりはぼくもまた、「主人公」として成長しつつある。ということなのだろう。
だけど、だ。
「心当たりが無いね」
- 67 :
-
言葉通りの意味で、心当たりなんて何一つなかった。
ぼくは、そりゃかつては「正義の味方」にだってなってやった。
それでも先ほどの安心院さんの言葉の意味をそのまま捉えるならば、ぼくもまた、凡人以下に成り下がっているのだろう。
なら、ぼくが「主人公」になれるわけがない。
「中々君は決め付けが早いよ。もっと真剣に考えて御覧? 君は救いたいんだろう?」
「何をさ」
「―――そりゃ、ここにいる参加者達をさ」
「……………」
ちなみにだがぼくは何も言ってない。
今まで適当に相槌を返していただけのはずなのに。
「いや、正確に言うとドラゴンボール宜しく悪人以外の皆、だったかな」
「…………的外れにも程があるよ、安心院(あじむ)ちゃん」
実際ぼくはそこまで大層なことを考えていない。
ただ、早くこんな茶番終わればいいと思っただけだ。
誰も死なずに、穏やかに、或いは厳かでもいいから片を付けてほしいだけである。
出来ることなら、この上なくハッピーエンドで……。
至極まっとう戯言かな。
「僕のことは親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい
あと僕のことをちゃん付けにするのもよろしくないね。一応僕は君なんかよりずっと年上だぜ?」
…………彼女は一体全体何者なんだろう。
狐面の男の様に、『《物語》を読んでいる』とでも言うのか。
傍観者じゃない癖に、よっぽど傍観者よりも傍観者らしく。
ラスボスじゃないと語る癖に、ラスボスであるような佇まい。
こいつはいったい何者なんだ。
「けど一つ言わせてもらうと、女を守りたいだけの男を僕は『主人公』と言う気はないけどね」
「なら言わなければいいだろ」
ぼくにそれを強要させてどうする。
「まぁ、実際そんな男はライトノベルでしかいねーんだろうけど」
「じゃあ案外ぼくはライトノベルの『主人公』なんじゃない?」
仮にそんな小説が出たとしても面白みも何もないだろうけど。
ただ読者を退屈させ、暗い気分にさせるだけしか効能はないんだろうけどさ。
「ふうん。じゃあ案外そうなのかもしれないね」
ふふふ、と不敵な笑みを見せながらポロリと言葉を残す。
何故納得したかぼくとしては教えてほしいところだが。
- 68 :
-
「君は十分『主人公』だから僕は傍観とさせていただくよ」
「……おいおい傍観者はぼくの仕事だ。―――君は元の世界にでも帰ってろ」
「『おいおい』は僕の台詞だよ。君はちゃんと自分の仕事を全うしなきゃ」
ぼくの仕事。
――――――玖渚がいたら救うこと。
どうする気もないけど、老人自体をどうする気もないけれど。
彼女だけは、救って見せなければいけない。
今のあいつは―――――ただの劣化人間なんだから。
ぼくの仕事。
――――――真宵ちゃんを守ること。
自己満足ながら、ぼくはもう誰も亡くしたくない。
真宵ちゃんとは少し仲良くなりすぎた。
相まって姫ちゃんの代理品と言うのであれば、
今度こそぼくは、救ってあげなければいけないのだろう。
義務であって、責任でもある。
出会ったが故に、出合ったが故に。
どうやらぼくのロリコン説は徐々に真実味を帯びてきたようだ。
一応否定はしておくが、それもまた一興。
ぼくは自己満足の為に、自己中心でも、自己弁護だとしても。
ぼくは、彼女を失うのを恐れている。
ぼくはいつからここまで強くなった。
ぼくはいつからこんなに薄くなった。
知る訳が無い。
知らなくてもいいと思う。
ぼくは、ぼくだから。
死にたくないんだ。
亡くしたくないんだ。
思えば、ぼくは最初に姫ちゃんと彼女を比較していた。
比較するということは、どこかぼくは彼女と姫ちゃんを重ね合わせていたのだろう。
ぼくはもう二度とあんな絶望に浸りたくない。
別にいいじゃないか。
怖くても。
恐れても。
竦んでも。
だけれども、ぼくは――――――。
- 69 :
-
「さて、『主人公』。お別れの時間だよ」
「………そりゃどうも」
長かった。
とても―――――長かった。
けれどもぼくはまた戻るんだ。
あの薄汚い世界に。
きみとぼくの壊れて不気味で素朴で囲われたような世界に。
し合いの世界。
普通の世界。
財力の世界。
政治力の世界。
暴力の世界。
その全てが入り混じった様な無茶苦茶滅茶苦茶ハチャメチャで。
それこそまるで《神》のような存在が介入したかのような破綻した《物語》。
だが、進む。
時は、刻み、進まれる。
今こうしている間にも《物語》は進んでいる。
ならばぼくはそろそろ「傍観者」を止めなければいけない。
やってやろうじゃないか。
「主人公」でも。
「正義の味方」にだってなってやろう。
「あ、心配しなくてもいいよ。僕はこのバトルロワイアル自体には介入しない。
正確には『僕』が介入しないだけで、この世界の僕が介入するのは知らないけど」
「……本当でしょうね?」
「その点は安心していいぜ(安心院さんだけに)。僕は生れてこの方約束を破ったことが無い気がする」
安心院さんは言う。
そして、彼女は変装を解いた。
赤さが消え失せ、先ほどの姿に戻る。
………こちらの姿はよく似合っていた。
哀川さんの姿よりはよっぽどに。
彼女は、息を吸う。
どうやらお別れの時間がやってきたみたいだ。
ならば、告げる言葉は何でもいいだろう。
「それじゃ、精々お元気で」
- 70 :
-
暗転。
フェードアウト。
○煩想/ヒノカゲクウドウ・クマガワミソギ・ヤスリナナミ○
その巨体に似合わず、日之影は身震いをしてしまった。
抵抗しようにもない、手遅れな現実を突きつけられて、反射的に身震いをしてしまう。
「―――――――ッチ」
思わず、無意識ながら舌打ちを打つ。
音は反響し、無として還る。
近くで横たわる戯言遣いに反応はない。
寝息の音だけが、小気味良く繰り返される。
されど今の日之影空洞にとってそんな戯言遣いの姿など見えていなかった。
「死人がこんなにいるとはな…………」
今現在、彼はかつてないほどに苛立っていた。
口調こそは冷静なそれでこそあるが、内心はやはり苛立ち以外にない。
理由に至っては極めて簡単。
「俺は何やってんだよ………ッ!」
叫び声を上げる。
雄叫び。
受け入れきれない現実をただただ受け入れるしかない何もできなかった現在を生きる他ない事実。
事実は時に残酷だ。惨酷だ。冷酷だ。
残酷な現実は、惨酷な現状を、冷酷なまでに映してしまう。
のんびりと動いている気はなかった。
寧ろ、意気は高まるばかりで救おうと云う気は変わることもない。
それでも、十人死んだ。
「…………阿久根。――――不合格とは言ったものの強さは随一だったのにな」
その中の一人。
阿久根高貴。
破壊臣。旧破壊臣。
生徒会。生徒会書記。
強さはめだかも謳い、善吉も認める程である。
不合格とはあくまで対過負荷に対するものであり、それ以外の戦いであれば怠りは見せないはずだ。
―――にも関わらず。脱落した。
この六時間と言う、長いようで短い時間に置いて、早々と役目を終えた。
日之影の感情は高ぶる。
日之影の心情は滾る。
従って、彼の魂は燃えあがる。
- 71 :
-
「絶対許さん……ッ」
静かに言葉を吐き、
激昂のまま、近くにあった机を殴る。
物に当たることで、少しだけ気持ちに整理を付ける。
「…………」
余談だが、机は壊れてしまった。
たった一撃にして、ほぼ全壊されている。
それほどまでに、彼、日之影空洞は強かった。そして今も強い。
だが、今回に限りは、その強さを有するが故に感情を抑えられない。
日之影空洞は、箱庭学園の英雄である。
悪漢を蹴散らし。
悪人を払い除け。
悪党を叩き潰す。
武勇に優れ、箱庭学園の平和を文字通りの意味で守っていた。
その甲斐あってか、彼が生徒会長を務めていた頃、箱庭学園は平和が当たり前のように保たれていた。
そんな伝説をわけなく作った男。
だからこそ、「守れなかった」という事実は心に響かせるのには十分である。
死んだ人間がどんな奴かは知らないし、
した人間がどんな輩かは知らないが、
それでも守れなかったという事実は、確実に、着実に、日之影の心を蝕む。
ただ、ここで屈するほど彼のメンタルは弱いわけではない。
否。
彼のメンタル自体はさほど強いわけではない。
けれども、やらなければいけないことがあるなら話は別だ。
「―――――――俺は、まだやれる」
まだ彼は折れていない。
英雄は、屈しない。
悪党にも。
現実にも。
そして、再び彼は始動する。
残りの参加者を救うために。
だから一先ずは、彼にとって、誰とも知らない正体不明の戯言遣いの手当てが先決だ。
そう思っていたが、今この時をもって些か事情が変わってしまった。
「…………ん?」
- 72 :
-
ふと、外の景色が見えた。
夜もすっかりと更けてきて、朝日が見え始める。
ここがし合いの場でさえなければ、清々しい気持ちになっていただろうが、生憎そうはいかない。
そんな都合に嘆息を吐き、何気なく視線を下に向ける。
この場合、向けてしまった。という表現の方が正しいのかもしれない。
視線の先には、球磨川禊、鑢七実の両名の姿があったのだから。
@
そこからのストーリー展開は極めて簡単である。
日之影は球磨川を打倒するべく、動いていった。
もしもの時を考えて、名前も知らない戯言遣いを物陰に隠し、何故か上半身が裸だったので自身の制服を被せる。
ついでに、このディパックの地図やコンパス、飲食類を残し、それ以外を戯言遣いのそれに移した。
―――――――日之影は生身でも十分怪物なのだから。
そしてそれは、本人も承知している。
故に、荷物の重さの軽減も兼ねて、荷物を戯言遣いのディパックに移した。
見ず知らずの人間に対して、それは不用心と思われるかもしれないが。
「過負荷どもに取られるよりはマシだろう」
相手は過負荷。
どんな卑怯も。どんな欺瞞も。どんな非道も。
容赦なく行える。
それに、球磨川の欠点。
『大嘘憑き(オールフィクション)』の正体を彼は知らない。
どれだけパンチを加えようが平気で立ち上がり。
どれほどキックを与えようが普通に立ち直る。
治癒能力ではない。
単なる治癒能力なら服の修復に理由づかない。
よって、どんなことをされるか分からずにいる立場であるが為。
考えようが答えは出ないもの。
――――ならば、どんな施しを受けようが、今まで共に戦ってきた身体(つよさ)を正々堂々ぶち込んでやればいい。
支給品の移し換えは、単なる用心の一つ。
警戒に警戒を重ね、その上で用心しておくにこしたことはない。
「………さーて、と。じゃー俺のワンマンショー見せてやるぜマイナスども」
戯言遣いに一瞥をくれると、それきり振り返ることもなく、
堂々と、勇ましく、走り出す。
その姿は、誰にも気づかれない。
述べるに及ばず、戯言遣いにも。
言うまでもなく、球磨川禊にも。
分かり切ってるが、鑢七実にも。
- 73 :
-
だから、何時の間に近づいたのか。
鑢七実の背後を取り、その目一杯に振りかぶった拳は、容赦なく振りかざされた。
手応えは―――――――――皆無でこそあったけど。
七実の身体は、まるで蝶々の如く、華麗にひらりと舞っていた。
下がること、三メートル強。
優雅に爪先から、静かに着地。
球磨川は特に驚くこともなく、ただただ何をするわけでもなく、七実を姿を目で追っていた。
日之影空洞は、手を前に出したまま愕然と固まっている。
今現在、風一つない、この場に置いて三人の姿は確かにあった。
………客観的にみると、二人の姿が、ある。
「……………」
「……………」
あまりにも、静かだった。
何事もなかったかのように。
―――七実の身体は動かない。
――――――――風は既に止んでいる。
@
「………ッ!」
息を飲む。
日之影空洞は正直言って驚きを禁じ得なかった。
なにせ、彼の姿は見えないはずなのに、その癖振りかざした拳に手応えを感じないなど、あり得ない。
哀川潤は、さして問題もなく見えていたが、それとこれとは話が別だ。
まず、感じ取れる雰囲気が全然違うと言うのに。
強大な存在だった哀川潤。
虚弱な様相な彼女とは、話が違うであろう。
そう考えた。
そう行き着いた。
しかし、日之影は知らない。
今攻撃した彼女は最悪なまでに――――強き存在であるということを。
一方で“風圧”を受けた七実は、特に何もしていない。
- 74 :
- 強いてしていたというのであれば―――――忍法・足軽。
起源を辿れば元は真庭忍軍十二頭領が一人。虫組、「無重の蝶々」こと真庭蝶々の忍法である。
その忍法の概要は、発動者の体重と、背負っている物の重さを消し去ってしまうと云う忍法、もしくは歩法だ。
彼女の疲れがそれ相応に溜まらない理由の一つ。
自身の体重を支える必要が無いのだから、歩くこと自体はさして疲労には変わらない。
とはいったものの、忍法を発動させ続けていることや、言っても歩いている事実自体は変わらないが為に疲労が溜まらないこともないが。
無論、先に挙げたし名両名の件もあったのかもしれないけれど。
さて、話を戻して七実が姿の見えない日之影の殴打を空振らせた理由。
これもまた簡単で、体重を消していた七実にとって、日之影の殴打から発生する風圧は、あまりに強烈なものであったが故だ。
ただでさえ、本来の開発者である真庭蝶々は当時はまだ凍空一族の『怪力』を見取っていない弱すぎる鑢七実の手刀であれど、吹っ飛んだのだから。
日之影の怪力強打を避けれない理由はない。
強すぎる腕力で出された、殴打は重すぎた。体重が消えた、七実にとって。
今の七実は軽すぎるが為―――――――攻撃が通用しなかった。
少なからず、近距離最強と謳われようが、近距離攻撃が通用しないのであれば、雑魚キャラも同然と成り下がる。
(…………くそっ)
毒を吐こうが、意味を成さない。
つまり端的に言って、今のこの状況。
先手を加えたのが幾ら日之影であろうとも、絶対的に絶望的に日之影の不利と云うことは明らかだった。
蛇足でこそあるが、付け加えとして語っておこう。
日之影空洞が、何故球磨川禊ではなく、鑢七実に対して初撃を加えようとしたか。
またしても簡単だ。
それは球磨川に攻撃しても無意味だということは理解していたから。
先だって、生徒会戦挙開幕直前、日之影はめだかから聞いた過負荷という人種を排除しようと動いた。
そして日之影は当然の様に、球磨川の背後を取り顔面を黒板に打ちつけたり、自身の強さを余すことなく叩きつけたつもりだ。
しかしながら―――――次の瞬間には、無傷だった。
まるで、日之影の攻撃など『無かったことにされた』かのような元通り。
日之影が与えたダメージは愚か、仲間の過負荷がやった骨折だって。
まるで無意味。
理屈は分からない。
もしくは知りたくもない。
ただそうだとしても、意味が無いことを知っている以上、攻撃をすることに意味を見出せなかった。
ならば、どうするべきか。
――――球磨川の仲間に手を加えればいい。
七実を球磨川の味方と思った理由。
単純な話で、球磨川と碌に話の通じる奴は大概そいつは過負荷だろう。
そんな安直な考えのもとで、日之影は七実を襲った。
安直とはいったものの、よくよく考えてみれば、そう考えるのも無理のない話で。
- 75 :
- 日之影自身、球磨川との第一接点(ファーストコンタクト)は最悪なものであった。
それは、球磨川禊と言う人物も。
それは、球磨川禊を取り巻く仲間と言える人物も。
故に、短絡的だと思われようが、「そう云う人間」という印象しかない以上仕方のないのかもしれない。
事実。鑢七実は――――――――強すぎるが為に負(マイナス)という立場の人間である。
閑話休題。
一方で、七実、球磨川も戸惑いが多少なりとも無いわけではない。
なにせ唐突に七実にだけに強風が吹いたのだから。
「………どなたか、その辺りにいるのですか」
小さな、弱々しい、しかしおぞましき声は、日之影の耳に届く。
だが言葉を返すわけにもいかない。
返してしまったら最後。
されてしまうかもしれない。
不思議と、常に自信満々の日之影の物とは思えない直感が襲う。
この、七実の姿を前―――後ろにしては。
『う〜ん……。なんか知っているような………』
手を顎に添えて、真剣な表情で、考え出す球磨川。
その間五秒。
ふと思い至ったように名簿を取り出す。
『そういや、さっき名簿見て思い出したことがあったんだっけ』
「そうでしたか、ならばできるだけお早めに思い出してください」
悪びれもせず、その忘れられていた当人を前にして球磨川は言葉を発する。
言うまでもないが、球磨川からは日之影の姿は見えないし、日之影も忘れ去られていたことなんて何とも思っていないが。
思ってこそいないが、快く思うとも限らない。
「…………」
幸いにして、見方を変えれば馬鹿にした球磨川の言葉を機に、愕然とした思いから脱することができた。
同時に、この二人の関係をはっきりと見取ることもでき。
――――この二人は俺の敵。
ということも、十分に認知するに至った。
人鬼の如く、標的に関してさして拘りこそもってはいないが、一つだけ貫き通したことはある。
悪。
相手が悪である。
少なくとも、それだけは貫き通してきた。
- 76 :
- そして、幸にも不幸にも、球磨川禊と鑢七実は、日之影空洞の正義の眼鏡に適ったということだ。
だから、ボルテージが燃えあがる。
元英雄としての強さを盛って。
元会長としての誇りを兼ねて。
咆哮とシンクロして、元英雄は―――――――――悪を潰す。
『――――思い出したよ七実ちゃん! きっと近くに日之影空洞っていう―――』
「マァァァイナスゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウゥゥウウウウウウウウウゥウウ!!」
『―――なんか知らないけど英雄とか自称しちゃう中二病の空気のうっっすい子がいる感じだね!』
「………成程。元気のよろしいようですね。―――――いえ、悪いのかしら」
球磨川の言葉を遮りながら、再び七実に向かって強打を放つ。
思いを力に変えて。
どこかで聞いたことのあるキャッチフレーズを現実のものにしながら、その殴打は繰り出された。
ただ、それとは裏腹にまたしても七実の身体が吹っ飛ぶ以外に、手応えはなかったけれど。
日之影としては、先ほどのは偶然の産物で、本当の力量は果てしなく弱い、
というものを微量ながらに期待はしていたのでまたしても七実に攻撃を加えた。
結果としては、現実の理不尽さを身に覚える他なかったけれど。
「………空洞さん、と仰いましたか」
空から、地面に着地したところで、背後を振り返り、七実は言う。
前に吹っ飛んだのだから、相手は後ろにいるだろうと云う考えであったが、さすがに視線は明後日の方向に向いている。
日之影は、そんな光景に口角をあげ、頬を歪ます。
この状態であれば、まだ勝機は零ではない!
じっくりと、ゆっくりと観察して、視察すればいい。
そうすれば、きっと勝利への鍵は――――――見えてくる。
「まにわにさん方の如く気配を消している……というわけではないようですね。
どちらかというと、認知が出来ない………と言った感じでしょうか」
ゆったりと、言葉を紡ぐ。静かに、言葉を繋ぐ。
相も変わらず視線がこちらに向かないが、やはりそれでも威圧感が物凄い。
屈するには足らないが、躊躇うに及ぶ。
「まぁ、姿が見えないのならどうしようもないのでしょうけど、お分かりの通りわたしに空洞さんの攻撃は届きません。
あと分かっているでしょうが、禊さん。彼にも攻撃は無意味だとわたしは思いますよ……」
どうでもよさげに、七実は片手に持った石の《刀》を弄びながら言う。
軽々と振り乱れている刀は、日之影から見てただの子供の玩具にしか見えない。
―――少なくとも、持ち上げるにも難解な重い、もはや「重い」という言葉だけで表していいのかも不明な重量の塊だとは気付けない。
よもや、そんな塊を、あんな矮躯、貧相な体でもちあげているとは思えないだろう。
……今はまだ、忍法・足軽の歩法で持ち上げてこそいるが、持ち上げている理由を凍空一族の『怪力』にシフトさせたら最後。
それは、最悪級の凶器に変わる。
一方で球磨川。
自己紹介で、一向として喋らなくなったけれど、別に日之影の存在がどうこう、と云う話ではなく、
単に七実が一回、二回と舞っている姿を見て、面白そうだなー。と思っていただけで、それ以外の他意はない。
- 77 :
- 故に、自分が喋る雰囲気になれば喋るのに躊躇いはなかった。
『ひっどいなー。七実ちゃん。痛いものは痛いんだから変に刺激させないでほしいな』
「あら、それは申し訳ございません」
「…………」
テクテクと吹っ飛んでいった七実の方に近づきながらおちゃらけた風に七実に対し言う。
七実に関しては手を口元に添えて声を僅かばかりにあげてクスクスと言った感じで返す。
日之影は動かない。
どちらかというと、動けない。
正直言って、彼ら二人に対して気味悪がっていた。
球磨川は論外だとしても、あくまでもされようと、そこまでいかずとも攻撃されていた相手を前に、平気で笑っている。
そして、球磨川を――――なんらものともしていない。
不気味。
この一言で、片が付く。
しかしこの場合、そのシンプルさが、逆に不気味さを極めにかかる。
とはいえ、不気味さで退く訳にはいかなかった。
ここで、二人を打破しなければ、学習塾で寝ている戯言遣いに被害が及ぶ可能性が非常に大きい。
攻撃が効かないとはいえ、時間稼ぎにはなるであろうし、そもそも守るべき相手がいると云うのに退くなど彼のプライドが許さなかった。
なにせ彼は―――――――英雄なのだから。
そんな中、無粋な、野暮な、艶消しな。
――――否、もしかしたら救いの声が。
一つの声明が、一つの生命があがる。
「――――――――――阿良々木さんっっ!」
迷子の少女。
八九寺真宵は今確かにここに―――――――いた。
○瞑想/ツナギ・エムカエムカエ○
江迎怒江は、動揺していた。
「ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ」
相も変わらず、狂ったレコーダーの如く、同じ台詞を吐き続ける。
吐き続けて止まらない。
口から漏れ出す、不規則な声も。
足から零れ出す、規則良き音も。
- 78 :
- 止まらない。
………。
どこに、向かっているのか分かりもせずに。
………。
まず、おさらいをしてみようと思う。
江迎は、貝木泥舟と云う、詐欺師に手荷物を全て、文字通り全てを預けた。
彼女は地図も、はたまたコンパスすらも持ち合わせていない。
故に、この会場の何もかもが本来は分からない。
もっと言うのであれば、いくらコンパスや地図をもっていたところで時間の遅い早いはあれどいずれは腐ってしまう。
「ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ」
第一回放送までの彼女が的確に行動できていた訳。
それはある程度以上は地図の内容を覚えていたほかないだろう。
貝木泥舟の手力を借りて、地図をじっくり見て精一杯覚えたに違いない。
「あの男の所為だ。あの女の所為だ。あの男の所為だ。あの女の所為だ。あの男の所為だ。あの女の所為だ」
あの男―――球磨川禊。
あの女―――西条玉藻。
貝木泥舟と離れ離れになった理由。
それは球磨川禊が箱庭学園に現れたからだ。
既に尊敬の念は消え去っている。
両頬を切り裂かれたしまった理由。
それは西条玉藻が箱庭学園に現れたからだ。
既に恐怖の念に犯されてしまい。
この場合、後者が今の彼女を作る大きな要因となった。
「全てはあいつらの……………。―――――痛い。イタイ……いたい、よ」
大きな声で叫ぼうとしたら、口の痛みが直接的に神経を襲う。
痛みや恐怖の所為で、脳が、正常に回らない。
さて、今の現状をおさらいをしたところで、今の話をしようと思う。
西条玉藻。
凶器に、はたは狂気に犯された彼女が齎したプレゼントは、傷だけに収まらなかった。
「…………」
江迎の足取りは、重い。
一歩一歩、ドラゴンボールの戦士の如く鉛でも身につけているかのように、足の動く速度は遅い。
- 79 :
- 重くて遅くて。
ただ、それもそのはずである。
「……………ここ……どこよ……」
………頭の端に螺子込んだ―――否、捩じ込んだ地図の形が、恐怖をもって抹消されてしまったのだから。
ポンッ、といった軽い感じで。
いつの間にか、気付いた時には記憶から消えていた。という言い方が適切である。
故に、彼女の目的地は定まっていない。
勿論辿りつきたいのは、西東診療所。もしくは診療所に無事にいけたのであれば僥倖であるが、簡単にいくとは思えない。
それに彼女は今、地図の中身を忘れた。というだけではないのだ。
恐怖が頭の中を占領している。
ただ死にたくない。幸せになりたい。
そして――――貝木に嫌われたくない。
必要と言ってくれた、彼を。
女神と言ってくれた、彼を。
愛すると言ってくれる彼を。
盲目的に愛し、偏執的に狂う。
彼女は涙を流す。
頬に届くと、傷に触れて、痛かった。
しかし彼女は涙を拭かない。
それどころではなかったから。
一心不乱に、走る。
走って、走って。既に満身創痍だ。
足が向かう先は東西南北、先ほどから様々ではっきりいって出血多量の彼女にとって、致命的であった。
舞台が整わない、彼女。
実力が伴わない、彼女。
彼女は今はまだ、《主人公》として内実が未到達。
故にこの《物語》に関与できない。
空気キャラとして、地味なキャラとして、一章分の描写を以て、これにてお仕舞い。
- 80 :
- 【一日目/朝/E‐3】
【江迎怒江@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大)、精神的疲労(中)、混乱状態、出血(中)、口元から頬に大傷(半分口裂け女状態)、ヤンデレ化
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
基本:泥舟さんとの恋を邪魔する者は問答無用です
1:顔の傷を治療する
2:球磨川さんをす
3:地図が欲しい
[備考]
※『荒廃する腐花 狂い咲きバージョン』使用できるようになりました。
※西東診療所か診療所のどちらかを目指しているつもりですが、てんで方向が定まっていません。
ですが、偶然辿りつける可能性は秘めています。
※これ以上にストレス他、負荷を与えると過負荷成長する可能性が大きいです。
@
そんな、フラフラな女の姿を追っている少女の姿があった。
額には大きな絆創膏。
下半身には何も身につけず、上半身には身体に合わない服に身を包む彼女は、江迎怒江の姿を追っていた。
八九寺真宵ではなく、江迎怒江の姿を。
「…………真宵ちゃん大丈夫かなぁ」
小言を吐く。
その小言は、江迎には聞こえない。
正確に言うと聞こえたところで如何しようもならないだろう。
幾ら、『荒廃した腐花』であろうとも混沌状態に陥っているのであれば、ツナギの敵ではない。
少なくとも今。
マイナス成長を迎えていない江迎には、
全身兵器も変わりないツナギと比べると手数にまずは劣る上に、思考能力に欠如があるのなら、勝ち目はほぼないと言える。
勝負はやってみないと分からない。
とは言ったものの、大抵はテンプレート通りに行くものだ。
ここはバトルロワイアル。
命がけの戦場。
奇跡を頼み綱にするなど、愚行も愚行。他ならない。
閑話休題。
ならば、何故。
それこそ自身の様な「魔法使い」、「魔法」使い。加え影谷蛇之のような悪しき者が現れたら、
八九寺真宵と云う、か弱き少女は、抵抗する間もなくされてしまうだろう。
- 81 :
- それこそ、「実を言うと超能力者でした」とか、
週刊少年ジャンプの如く「よく分からない異能を身につけちゃったぜ!」的な展開が無い限り、されてしまうのは目に見えている。
ならば、何故。
考えるまでもないことである。
――――この女が、あんまりにも分かりやすく『過負荷』だったから。
としか言わざる負えない。
故に、今彼女は監視の念を込めて、ここでこうして八九寺真宵を置いて追っている。
出遭いは一方的であった。
ふと、八九寺の後を追うように走っていた彼女だが、その最中に唐突に、突拍子もなく目の前にいたのだから。
ただグチグチと言葉は口が碌に機能してないせいか、空気の漏れたような間の抜けた声で加え濁った様な声で、
走っていただけで、ツナギの姿を目で捕らえるとまでも行かなかった。
その姿を見て、ツナギは直感的に思った。
この女、危険ね……。
そう思ったからツナギは少し迷い、後を付ける様になった。
決意に至った理由は言うまでもなく、戯言遣い、八九寺真宵。
それに心配するまでもないのであろうが、タカくんこと―――供犠創貴に、加え水倉りすかという存在を守るためだ。
基本的に一人先立ち、戦線を張る仕事の都合上、勘違いされるかもしれないが、
彼女は仲間と言うものは大切にしている。
次いで言うと、人の命も、それ相応、もしくはそれ以上に大切にしている。
無差別に減らされる多人数よりは――――自分の命を賭けれるほどには。
結論として。
周囲に零れ出す、過負荷臭。
時折、手に何かが触れた時に発する腐敗臭。
付いてゆけば付いてゆくほど、危険視することを怠れない。
「………いーさん、ホントマジで頼むわよ……」
独り言は、誰にも聞かれない。
- 82 :
- 必死に走る江迎の背中をよそ眼に、彼女は四人の参加者に思いを馳せる。
そんな彼女もまた、巻き込まれる形で《物語》に関与できる可能性と閉ざしてしまう。
彼女が、次の《物語》に関与する時、どうなっているかなど誰にも分からない。
【一日目/朝/E‐3】
【ツナギ@りすかシリーズ】
[状態]健康、下半身裸
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)、お菓子多数
[思考]
基本:襲ってくる奴は食らう
1:まずは、あの女(江迎怒江)を追う。
2:危険人物であるが、勝機があれば食っておくのも手の一つかな。
3:いーさん……。真宵ちゃん……。
4:タカくんとりすかちゃんがいたらそっちとも合流する
5:なんか食欲が落ちてる気がする
[備考]
※九州ツアーの最中からの参加です
※魔法の制限に気づいています(どのくらいかは、これ以降の書き手さんにお任せします)
※処理能力の限度についてもこれ以降の書き手さんにお任せします
○謬想/ヒノカゲクウドウ・クマガワミソギ・ヤスリナナミ・ハチクジマヨイ○
日之影が、叫んだ先を振り返るとそこにいたのは、ツインテールの小柄な少女。
全力で走ってきたのだろう。
そんなことは考えるまでもなく、窺える。
息切れを途切れさすことなく、肩を上下に揺らしながら、彼女は弱々しく、登場した。
「阿良々木さーん! いないんですか!」
虚しく響く声は、誰の心にも響かない。
彼女の眼は、何処にも向いていなかった。
- 83 :
- 日之影は愚か、鑢七実の凍てついた視線だって気付いていない。
虚空を見続ける少女。
常に守られてきた少女。
力もないし、知恵もないし、器量もないし、度胸もない。
日常と非日常とを渡り歩いている彼女にだって、非常識、というわけではないのだ。
親しき人の死なんて言うまでもなく。
――――好きな人の死なんて夢にも思えなかった。
ただ、その現実は明確に存在して、確実に続いている。
例えそれが、受け入れられない現実だとしても。
少なくとも、彼女。
鑢七実にとっては、その介入は都合のいいものであった。
故に、逃すわけもない。
故に、壊すほかにない。
八九寺の瞳に映る現実を押しつけて。
八九寺の眼に映える幻想を潰すだけ。
―――――日之影空洞、今しがた介入した八九寺真宵という「雑草」を刈り取るにはもってこいの機会。
七実の顔には、三日月形の笑みを隠すことなく、晒している。
寒気すら覚えるその笑みは、八九寺には映らない。
――――しかし、日之影空洞にははっきりと、映った。
――――故に、彼は気付いていた時には八九寺の元に走っていた。
考える時間を惜しんで、直感、いや本能といってもいい反射で日之影は八九寺の元へ走る。
「………煩いですね」
そんな日之影の姿など露知らず。
口調とは裏腹に、どこまでもホッとしたように言う。
肩を竦め、溜息を吐いた――――と、同時に七実は、八九寺の元へと走る。
正確に走った、描写をしていいのかも不明瞭な、怒涛の速さ。
内容を説明してしまえば、忍法・足軽と、虚刀流の足運びの合わせ技。
と言うほかないが、言葉ではとてもじゃないほど表現しきれなかった速さで、八九寺に迫る。
かつて。それはとある年の四月のこと。
真庭忍軍十二頭領が一人。虫組、「棘々の蜜蜂」こと真庭蜜蜂は、その速さに目が追いつかなかった。
……ならば、八九寺真宵にその速さが見取れる道理が何処にあろうか。――――いや、ないだろう。
「…………へ」
空気が漏れたかのような、間の抜けた声を発する。
八九寺の視界には、ようやくといった感じで映ってしまう。
ただ、呆然とした。
瞬きすらも許されず、大好きな人を求めてやってきたのに、目の前には、石の塊を振りかぶる修羅。
- 84 :
- 背丈としてはほとんど変わらないが、とても大きく絶望を照らし出す。
「……………ぁ」
思わず、声が漏れ出していた。
既に、頭上には石の塊。
勢いよく振りかざされたそれは、迷いもなく、八九寺の頭に――――。
「オォラァァァァアアアッッ!!」
―――振りかぶることは、叶わなかった。
七実の身体は、“風圧”によって再度吹き飛ばされる。
予定調和と言えば、予定調和。
七実は頬を歪またまま、静かに爪先から着地を果たす。
「…………ぁ、あ、ぁあ、ああ」
声に成っていない声をする方を向けば、そこに先ほどの少女の姿は見えない。
確かに存在こそしているが、七実からは生憎見えない。
実際には、尻餅をついて、ガタガタと震えている八九寺の姿はある「隔たり」を以て視界に映らない。
「隔たり」。
大きな。
とても高校生の物とは思えない巨大な人影。
日之影空洞―――――英雄が立っていた。
「おら、来いよ過負荷(マイナス)。この俺が――――正面切って戦ってやんぜ」
七実は耳に声が届いた。
前方から、吹き飛ばされた方から。
「……………あら」
目を凝らす。
何でも見取ってしまうその目を、凝らす。
と。
やがて――――――――。
「ようやく、姿を捕らえることが出来ました」
人吉善吉は、日之影空洞の姿を視認するのに苦労する。
ただ言いかえるのであれば―――――決して永遠と見れない訳ではない。
何時かは、見れる。
隣にいたとして。遠くにいたとして。
傍にいたとして。果てにいたとして。
目を凝らし、意識を研ぎ澄ましていれば――――いずれ見ることも可能となる。
- 85 :
- ――――元々人付き合いがとても得意とは言えない。シャイとは言えないけれど、
そんな一つの繋がりが発見しやすさの確率に拍車をかけた。
堂々と、果敢と、勇壮に。
屈することなく、凛とした気色で、
臆することなく、臨とした姿勢で。
タックルをかました体勢から、ゆっくりとファイティングポーズへ戻す。
瞳には、決意の目。
ジッ、と。
睨みつけるような眼光で七実の姿を捕らえ、睨む。
七実は、じっくりとその姿を見る。診る。
ようやく現したその姿を、じっくりと。しっくりと。
そして。
一言、呟いた。
「そこから一歩でも動いたら、今度は容赦なくそこの少女はさせていただきますので注意なさってくださいね。その逆も然り、で宜しくお願いします」
冷たい。
絶対零度の声。
声に温度こそないが、それでもそう思わせる声の質。
そんな声で言われたのは、処刑宣言であった。
対しての日之影空洞と言えば。
勇敢な態度を変えることもなく、張りのある声で答える。
「――――ハッ、言ってろよ過負荷(マイナス)。てめぇなんか動かなくたって守れるんだよ、勝てるんだよっ!!」
温かい。
燃え猛る炎の如く熱い声。
声に温度こそないが、それでもそう思わせる声の質
次いで、日之影の枷。ないしは『囮』となった八九寺真宵はと言えば。
パクパクと、口を開閉を繰り返すだけで、何もできない。
砕けた腰が修復できず。
- 86 :
- 何時までも、どれだけ経とうが立ちあがるに至らなく。
「…………あ、え………。ど、どうし………て」
八九寺は、今この時。
過酷なる現実を受け入れられた時。
ようやくにして、我に帰る。
記憶が巡る。
思念が迸る。
「………………どうして…………私は……………」
同時に沁みる、自身の行動の浅深さ。
ツナギに今となっては思いもしてなかった「嫌い」という言葉を浴びせたこと。
我武者羅に走ったこと。
無意識に入っていた鑢七実の姿のこと。
どれもこれも、言い訳のできないぐらい恥じる行動。
本来やってはいけないサバイバルの禁則(タブー)。
自責に苛む彼女の前には、今この時を以て、戦闘と偽る暴虐劇が始まったのである。
@
その時の球磨川と言えば、そんな三人で繰り広げられる光景をのほほんと眺めているわけではなかった。
彼は今、歩いている。
何処へ?
学習塾跡の廃墟へ。
何時?
八九寺真宵が叫んだ辺り。
何故?
鑢七花がいるかどうかと――――日之影空洞があそこを意地でも守っていた理由のわけを探すため。
…………以上を以て、既に彼は探索を始めていた。
まるで、七実のことは心配した様子はなく。
信頼の証なのか。
どうでもよさの証明なのか。
今の、『嘘』を吐いている彼の心を知るのは容易くない。
だから本心で何を考えているのか。
それを分かるのは本人のみである。
- 87 :
- ―――――いや、もしかしたら本人も分かっていないのかもしれないが。
そんなこんなで、適当に一階から探索を始めていた。
まず目に入ったのは、そのどうしようもないほどの古臭さであろう。
所々に見るに堪えないヒビ、亀裂。
―――こんなところでも生物と言う生物は存在しているらしい。
やはり塾の廃墟と言うだけあり、取り残された机の幾つかには蜘蛛の巣が張られていた。
さらには親切設計で部屋の四隅には埃まで完備していたのである。
普通の感性を持つ人ならば、まずは一歩引いてしまうであろうボロさ。
しかし球磨川はそんな古臭さなど目にもくれない。
さも、それが日常的な光景と言わんばかりに。
一階には何もなかったと、碌に調べてもいないが思った球磨川は、二階へと上がる。
二階に上がると、目に入るは机の山。
一瞬錯覚現象かと思えるぐらい、綺麗な机の『山』がそこに存在していた。
『げ、げげー! これはミステリーサークルじゃないか―。………まぁ何でもいいんだけどさ』
ボケてみて物哀しかったので、訂正して適当な探索を終わり、三階へと上がろうとする。
……というよりはっきり言って面倒になってきたので人がいないかどうかを主点に変えて探索している。
足取りを疲れない程度に速めながら、三階へ到着した。
一つの部屋のドアに手を掛ける。
ギィ。
そんな音を出した時、球磨川は気付いた。
この奥に、誰かいる。――――と。
だが躊躇をしても仕方が無い。
そう思いドアを勢いよく開けると、一人の、ブカブカな箱庭学園の制服を身につける男の姿が見えた。
「………………」
『………………』
目があった。
次の瞬間、球磨川は駆けていた。
○連想/×××××・クマガワミソギ○
「…………まぁ、なんか疲れた」
ぼくの声は彼方へ消える。
ぼくは唐突に目が覚めて、開口一番そんな一言を呟いた。
夢が覚めるのに唐突と言う言い方も何だと思うが、上手く言葉が見当たらない。
- 88 :
- まだ寝起きで頭の方はまだ目が覚めていないのかもしれなかった。
夢。
やけに鮮明と覚えている。
姫ちゃんとの楽しげな会話。
そこから思い起こされた真宵ちゃんのこと。
最後に突拍子の無い―――安心院なじむさんとの邂逅。
……どうせ時間が経てば忘れるのだろうけど、ぼくはそんな夢を見ていた。
恐らく基本支給品の一つだったであろう腕時計を見る。
時間は、六時十分弱。
―――ギリギリアウトでぼくは放送に間に合わなかったらしい。
既に辺りは無音。
閑古鳥ではないし、なにやら慌ただしい音(具体的に言うと階段を下りるような音)が聞こえた気がするけど、その音は遠のいていく。
………きっと幻聴だったんだろう。ここに来てから色々あったしな。
疲れていても仕方のないことかもしれないね。
戯言だった。
寝そべったまま、ぼくは周りを見渡す。
今になったようやく気付いたがぼくは寝てから少しばかり場所が移動しているようだ。
少なからず寝る前のぼくはこんな物陰に隠れるように寝ていない。
………翼ちゃんが隠してくれたんかなぁ、そんなことも思ったが違ったようで。
ぼくの上には見慣れない白を基調とした制服が被せられていたから。
まあ例えそんなものがあろうとも、翼ちゃんはやってないって言い張ることでもないけど、大方後から来た違う人だろうね。
出来ればぼくの身体の下引いてもらった方が身体が冷えないし助かってけれど。我儘はいけない。
んー? じゃあさっきの足音ってもしかしてこれを掛けてくれた人のものだったりするか?
とんだ入れ違いだ。
………うーん、気になるっちゃあ気になるし、追えば直ぐに追いつきそうなものだから追ってもいいけど。
まずはぼく自身の身仕度を整えてからじゃないと、どうしようもない。
そして先立っては、
「この服を頂くとでもするか」
いい加減身体が冷えてきて寒い。
なので遠慮する間もなく、ぼくは被さってあった制服を身に付けた。
シャツも何も着ないで制服を着るっていうのは些か抵抗はあるものの仕方ないと考えるしかない。
同時に、この制服がどんだけでかかろうと、再発注は出来ないのだから余計なことは考えないでおこう。
- 89 :
- そう、これは元々ぼくの制服でぼくの為に作られて制服なんだから、何の違和感も存在しないよ。
最高の着心地だ。万歳万歳、僥倖僥倖、剣呑剣呑。
―――――戯言他ならなかった。
ちなみにその際だが、一つ感じることがあった。
「温かいな……」
服を着ると、温かかった。まるで今の今まで着ていたかのように。
袖の先まで、余すところなく温かかった。
つまり意味するところで言うのであれば、この服は、先ほどの幻聴かと思った足音の正体の主の制服かも―――いや、凡そそうなんだろう。
………けど、後を追うのはまだ止めておこう。
ぼくは放送と言う大型のイベントを聞き逃している。
死亡者の数も、禁止エリアとやらの場所も――――知らない。
致命的だ。
参加者としては、大いに重大な知識の欠如だ。
ならば下手にここを動くよりかは、きっと制服やらを取りに帰ってくるであろうその人や、
もっと可能性の高いところで言うと、そろそろ真宵ちゃん、ツナギちゃんが来るかもしれないからね。
ここでその人たちを大人しく待ってるのも一つの手だと思う。
「…………戯言、なのかなあ」
まあともかくとして。
それならばせめてこの廃墟内にいたほうが、真宵ちゃん、ツナギちゃんも楽になると思うけど。
……まさか二人死んでねえだろうな。
決意早々、守る相手が既に死んでいたらぼくはもはや自したいぞ。
多分ツナギちゃんもいるだろうし、よっぽどのことがなけりゃあ大丈夫だと思うけど……。
「よっぽど……ねえ」
そんなこといいだしたら、こんな事態が起こっていること自体「よっぽど」な事実だと思うけど。
この際置いておこう。
でないと、なにかがどうにかなりそうだ。
閑話休題。
頭を悩ませるぼくに新たな試練が待っていた。
「………腹減ったなぁ」
自分の呟きにうんうん、と頷きを付けくわえながら、ぼくは思ったことを呟いてみる。
恐らくは眠ってしまったからだと思うけれど、異様に今のぼくは腹が減っていた。
それこそ、あのいろんな意味でトラウマ料理、《ぞんち》のキムチ丼大盛りのご飯抜きでも平気で平らげてしまいそうなぐらいには。
別にぼくとしては支給品として入っていた食料一式でも構わない訳だが、
- 90 :
- やはり後のことを考えては、取っては置きたいものに違いないし。
それにだが、先ほどどっかの机の中にミスドのドーナッツが入っていたと思う。
さっきは気味が悪かったから反応しなかったけれど、こうなってくると話は別なのかもしれない。
ぼくは立ちあがる。
三階だったか、二階だったか忘れてしまったけど、まぁ探せばあるだろう。
………。
―――――さて、ぼくは、守るんだ。
真宵ちゃんを。
玖渚のやつも。
みんな。
ぼくはもう、悲しみたくはない。
だから、ぼくは歩くんだ。
ディパックを拾う。
そしてそれを背負って、ぼくは進み始めた。
@
結果として数歩進んで、歩みをとめた。
理由があるとはいえ、格好がつかない。
……まあ格好がつかなくとも、この際は歩みは止めるほかないわけだけれど。
「って、あれ? ディパックがなんか重たい様な」
というわけで理由だけど。
ディパックの重さが、変わっている気がした。
- 91 :
- それも重たくなった的な意味を込めて。
気にもなったので、ぼくはしょうがなしにディパックを肩からおろし、ディパックの口を開いて漁って見る。
感想としては。
「………うわあ」
カオスな空間がそこには存在していた。
赤が混じっているような。
青が混じっているような。
黄が混じっているような。
緑が混じっているような。
橙が混じっているような。
紫が混じっているような。
劣化したドラえもんの四次元ポケットみたいな。
一体全体この鞄はどうなっている。
御蔭さまで中身がぱっと見見れない。
どんな防犯対策だよ。
ただ、今初めて使った訳でもないので、手を突っ込むのには躊躇はいらない。
ぼくは躊躇いもさほどなく手を突っ込んでみる。
安心と信頼のディパックである。
「んー、お、これは………」
まず、飛び出してきたのは、紙だ。
一枚の紙。ちなみに先のお札ではない。
一瞬白紙かと思ったけれど、どうやらそれは裏面みたいで表面には、でかでかと文字が浮かんでいた。
『参加者名簿』
と。
@
ぼくは参加者名簿を歩みを再開しながら、見渡してみた。重さの内容については後で確認を取るとしよう。
余談だが、その際階段等があっても、漫画みたいにゴッシャーンみたいな展開にはならなかったけど(ちなみに今は三階のとある部屋にて探索中)。
さて、肝心の名簿なのだが、どうやらあいうえお順と言う奴らしい。
まず、一番上に堂々と記されているは―――――――我らがヒーロー哀川潤の名前であった。
「………ま、ある意味では予想どおりかな」
確かこの計画の趣旨が《完全なる人間の創造》だ。
安心院さん風に言うのであれば、《主人公の育成》。
- 92 :
- どちらであれ、哀川さんをここで活用しない手はないだろう。
相応しすぎる。
ただ、どうやって連れてきた―――となると疑問は少々残る訳だが。
まさか眠っている間に隙を取られた、なんて哀川さんらしくもないへまをやらかすわけもないし。
………うーん、不思議だ。
まあ、今はまだ考えても仕方のないことか。
次に行こう。
目線を下にずらすと阿久根高貴と言う名。
「知らない………んー? この机にもないなぁ」
この机の中にもなかったし、その名前も聞き覚えが無かったので、次に進んで、
その下。阿良々木火憐。
その下。阿良々木暦。
――――あった。予想通り。案の定。
ファーストキッスを奪われたという妹さん(?)の方までご丁寧に。
ならば、ぼくたちは止まってはいられないだろう。――――この机にもない。
早く、合流しなきゃね。
早く。一刻も早く。真宵ちゃんの為に。玖渚の為に。
そんなときである。
ギィ。
と。
ドアノブの軋む音がした。
同時に息を潜める。
今更かもしれないが、やって置いて損はない。
一旦名簿をポケットに仕舞う。
「………心底戯言なんだよ」
諦めの自嘲を含みながらぼくは呟く。ただし、声は控えめ。ぼくでも聞こえるか聞こえないかぐらいの。
ぼくは机の中を探るために降ろしていた腰を上げる。
戦闘態勢、なんて高尚なものではないが、降ろしているよりはいいだろう。
はぁ。
あわよくば、これがツナギちゃん、もしくは真宵ちゃんであれば嬉しかったところなんだけど。
どうやら違ったみたいだ。
勢いをもって、そのドアを開かれる。もしかしたら壊れたんじゃないかってぐらいの勢いで。
当然だが、そこにあったのは人影。
――――なのだろうか。
ぼくは戸惑った。
相手も戸惑ったのだとろう
- 93 :
- 平凡な、ただそれだけでしかない戸惑い。
そこにはキャンバスがあった。
かつて、絶望の果てにて天才の画家が描いた絵に出遭ったような感覚。
カメラで写すほど明瞭でなく、僅かが差異が確かに存在するのに、気付けない。
そして、なにより《過去の自分》を写しているような。
そんな風に思った。
身長はぼくと同じぐらい。
学生服。正確には学ラン。ぼくの着ている制服とは違い、真っ黒。
落ち着いている漆黒に相応しい黒さを放つ髪は、後方で二本だけはねている。
似ていると言えば、似ているぼく達。
代替可能理論。
そうはいったものの――――これはまるで――――。
先に動いたのは相手だった。
突如現れた大きな螺子をもって、迫っていて、螺子でぼくを突き刺そうとしていた。
それはまるで無駄のない動作で、最弱と謳われる彼(ぼく)だからこそできる、と言ってもいい。
音がひずみ、光がゆがむ。
仮にこれが漫画であれば一ページ全部使う代わり、一コマで語れそうな
芸術的ではないけれど、速く、迫力があり、それに値する名シーンの様、と言われるぐらい彼の行動は完璧だった。
避ける方法など皆無。
受ける方法など絶無。
しかしぼくはこれを斜め右後ろに上半身をずらすことによって、その螺子をかわした。
勿論本来ならそんなことは不可能だ。
ぼくの運動神経は並み以下とは言わないが、決してそれ以上ではない。
人類最強の腕刀の躍動を見切れるような動体視力も速筋力も、ぼくは所有していない。
だが。
たとえ時速二百キロでダンプカーが突っ込んだところで、それを五キロ先から知覚していたとならば、
誰にとっても避けることは簡単だろう。
相手の突きは、ぼくにとって五年前から予想が付いていたかのように明瞭だった。
ぼくは自分のディパックを乱暴に肩から降ろしながら、遠心力を利用して相手の顔面にぶつけようとする。
しかしそんなぼくの行動は十年も前から知っていたかの如く、首の動きだけで無効とする。
無理な態勢で相手の攻撃を避けるために、ぼくはそのまま後ろ向きに倒れてしまった。
ただし当然だが、受け身を取る様な愚は犯さない。
そんなことに片腕でも浪費すれば、すかさず相手の螺子が煌くだろう。
案の定、相手は外した一撃目の螺子が、ぼくの心臓を狙ってきた。
まずい。この姿勢で避けることができない。
いや、無理に身体を転がせば《この一撃》に限っては回避することは可能だ。
ただしその次が、次の次の瞬間、どう惨めに足掻いたところで三刹那先の一秒間に脊髄の中心に螺子が穿たれる。
それはまるで忌むべき未来予知の様に、はっきりとイメージできる映像だった。
ならば避けようが避けまいが意味がない。
だったら単純に受けるまでだ。ぼくは右ひじを張って、螺子の先端にへと向けた。
と。
相手はひじを引く様な形をとり、螺子の軌道にタイムラグを生じさせた。
必然、ぼくのエルボーは勢いあまって空振りする形となる。
そうなると、そう――身体の正面を開いた状態。
心臓も肝臓も含め、全ての内臓を相手に晒した姿勢となる。
- 94 :
-
嘘に塗れた光こもる瞳がかすかに笑う。
そこから、手首を返して、螺子の先端がぼくの心臓を狙う。
一瞬だけ停止して。
そして二倍速で振り下ろされる考えられないほど大きな螺子。
ぼくの晒しつくした様な弱点を的確に狙ったかのように、ぼくの感覚器官の不意を突く形で訪れる最弱意思。
息を呑む暇すらない。
そう、本来ならばきっと、息を呑む暇すらなかっただろう。
ただし、この状況だって、ぼくは生まれる前から知っていた―――なにせ自分のことのようなのだから―――――。
「――――!」
『――――!』
螺子の先端は服一枚を貫いたところでぴたりと止まった。
ぼくの左人差し指と左中指も、だから、彼の瞳を、まつ毛が瞬きするたび触れるぐらいの距離で停止した。
膠着状態。
向こうは心臓でこちらは両眼。
それは天秤にかければ重さの違いは明らかだが、ハナから向こうは天秤にかけるような問題ではない。
肉を破って骨を抜き、心臓を粉砕することなど、相手にとっては赤子の手を捻る潰すよりも簡単だ。
ただしそのわずかなタイムラグは、その瞳を破壊するに十分。
逆もまたそう。
こちらは心臓を犠牲に眼球を瞬壊でき、
あちらは眼球を生贄に心臓を滅可能。
だからこその膠着状態。
そのままの姿勢が五時間ほど、あるいは五刹那ほど続いて、
『―――――傑作だねぇ』
と。
相手は螺子を消した。
「―――――戯言だろ」
と。
ぼくは指を引いた。
相手はぼくの上から退く。
ぼくは身体を起こして立ちあがる。
ぱんぱん、とぼくは服に付いた砂利を払い、それからゆっくり背伸びをした。
まるっきり予定調和の茶番劇だった。
こういう結果になることは分かり切っていたことで、
- 95 :
- だからまるで夏休みの宿題を終わらせたときのような脱力感のみが、今のぼくの身体を支配していた。
『―――――僕は球磨川っていうんだ』
乱れた衣服を整えながら、相手――――彼は言った。
『球磨川禊。で、君は誰なんだい? 《―――――》』
それは。
さながら。
自分の名前を他人に確認するような、
違和感のある問いかけだった。
これが。
これこそが戯言遣いと大嘘憑きの第一接点(ファーストコンタクト)。
奇しくもそれは、底辺に位置するぼく達にお似合いのボロボロな廃墟でのであった。
○情想/ヒノカゲクウドウ・ヤスリナナミ・ハチクジマヨイ○
戦いとは、大抵の場合互いの実力が均衡いているときに言うものであり、
それ以外の場合は、大概違う日本語が用意されている。
今回の場合、用意されていた日本語は、生憎にも「戦い」ではなかった。
今回、日之影空洞に用意されていた日本語は―――、
「虐」
で、あった。
今の日之影。
全身が既に血塗れである。
左腕を、だらしなくおろし――――おろさざる負えなく。
それでも懸命に右腕とあまり慣れない足技を酷使して、七実に勝とうとする。
全ては、後ろにいる少女の為。
- 96 :
- 据えては、悪者をブッ倒すため。
抵抗しようにも、日之影の体格が大きすぎて、七実の体格が小さすぎるが故に焦点が定まらない、
加え仮に当たると思った瞬間でさえ、忍法・足軽の効果の所為でパンチは避けられてしまう。
それでいて、七実は蜜蜂により見取った刀の使い方を駆使して、双刀で、撲を試みる。
何時かの話。
七実は刀を使ったが故に、負けてしまった。
しかし今は使っている。
トラウマとして覚えていない訳でもないし、どちらかと言えば使いたくないという念が押し寄せるが、
万が一の時を考えて、彼女は出来る限り、接近を試みたくはなかった。
理由として、思い出してほしいのは四月、七実が蝶々を撃破した時のことを考えてほしい。
あの時、七実は忍法・足軽という忍法へ施した対処法は、襟元を掴んで離さなかったことだ。
そうすることで、いくら風圧がこようとも、吹き飛ぶ心配はない。
七実としてはそんな雑魚―――雑草と同じ理由で負けるなどという恥さらしは晒したくはないし、
どうせ持っているのだから一回ぐらいは使っておこう、というどちらにせよ日之影自体には眼中も向いていない理由であった。
「…………」
七実は、冷然と。
無言のままに戮を行使している。
一に殴打。見事に脇腹に双刀が炸裂する、きっと肋骨の幾つかは折れたであろう。
二に強打。もう一度、左肩。神経がもはや正常に作用してなく、新しく呻き声を上げることもない。
三も乱打。次いで右肩。「―――――がぁ?!」という呻き声と共に骨の折れる、無駄に軽快な音が響きわたる。
四も猛打。心臓を打つ。もしくは斬る。ゴキッという歪な音が、背後にいる少女にも聞こえる。血を吐いた。
五には――――死体も同然の英雄の姿の完成である。
「……………がはっ……」
喋ることもままならない。
もはや、嗅覚も、視覚も、触覚も、味覚も動いていない。
死の足跡が近づいていた。
否。
本来であれば、もう既に死んでいてもおかしくはない。
それでも彼は立っている。
それでも彼は守っている。
それでも彼は戦っている。
地に足を付け、こんな姿でも堂々と、果敢と、勇壮と。
- 97 :
-
英雄は、死んでいない。―――――身も、心も。
「―――――――――もうやめてくださいっっ!」
涙声で、日之影の背後から、少女の声が聞こえる。
八九寺真宵、蝸牛の少女。
「や、止めて……くださいよ! 貴方も! 貴方もっ!」
日之影空洞に向けて。
鑢七実に向かって。
目の前に繰り広げられる惨劇に、対し、彼女はそもそもの異論を言いだした。
無粋で、野暮で、艶消しながら。その声は、日之影にとって救いであった。
―――――日之影は、彼女がまだ生きているという事実を噛みしめて、戦意を上げる。
上げたところで、既に意味はないけれど。
下げたところで、既に意味はないけれど。
確かに、今ここに英雄がいた。という場面が嬉しかった。
気が付けば、七実の猛攻は既に止んでいる。
もう、必要が無いと感じたのであろう。
静かに、廃墟の方を眺めている。
視界の見えない日之影にとって、そんなことわからない。
闘志を保ち続けていた。
そして無意識のうちに、彼は語る。
「………ぉ、俺、……みた、いな。強、い…奴って……のはな」
英雄は最期に、語る。
「も、もう喋らないでください! ―――私のこと良いですからっ! 早く治療……を」
「仲間………を、守れる。………ってい、うの。が――――――醍醐味………でな」
必死に訴える八九寺を他所に、日之影は語る。
もう自身でも、手遅れだと察したのかもしれない。
- 98 :
- だけれども、だけれども―――――!
「俺の……な、まえは………日、之……影……く、う洞だ。」
英雄は。
「忘……れないで………く。れる、と…………嬉、しい」
生きた証を、残した。
- 99 :
-
@
かの武蔵坊弁慶は、直立不動のまま死んだという。
無数の矢に貫かれ、それでもなお、薙刀を杖として立ち続けたという。
医学的にはあり得ない。という議題が持ち出されているが、
それは今ここによってあり得る話として確証されることとなる。
この英雄。
日之影空洞もまた。
直立不動のまま―――――――――死んでった。
【日之影空洞@めだかボックス:死亡】
@
「ひ、日之影さん? う、嘘ですよ、ね? やめてくださいよ………冗談は……」
一人取り残された八九寺真宵は戸惑った。
突如として、喋らなくなった日之影空洞。
かといって何をするわけでもない。
ただ、ただ。
虚空を映す瞳を、悪党七実に向けていた。
それだけである。
今まで繰り返していた過呼吸も、何も。
―――――していない。
「い、いや。」
八九寺の頭に思い浮かんだ可能性は一つ。
だけど、確かめたくない。
けれども、信じたくもない。
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