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2012年3月なりきりネタ325: 一緒に冒険しよう!ライトファンタジーTRPGスレ8 (154)
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一緒に冒険しよう!ライトファンタジーTRPGスレ8
- 1 :
- 組み上げられた新たなる法則、果てなく巡る円環の理。
光と闇と境界の勇者達の活躍により、滅びの定めは免れたかと思われた。
だがしかし。再び世界を作り替え唯一神とならんとする者が彼らの前に立ちはだかる
数多の世界の命運をかけた最終決戦が今、幕を開ける――
―― 一緒に冒険しよう! ライトファンタジーTRPGスレ8 ――
詳細はこちらを参照してください。
まとめウィキ「ぼうけんのしょ〜Light Fantasy@ウィキ」
http://www36.atwiki.jp/lightfantasy/pages/1.html
専用掲示板(避難所などがあります)
http://www1.atchs.jp/lightfantasy/
なな板TRP系スレまとめWIKI「なな板TRPG広辞苑」
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/56.html
- 2 :
- >「それじゃ、まずは……薬草チョコもストックが切れてきたし、補充に行こっかな。
> 新製品とか、季節限定品なんてあったらいいなー。
> 他にも、どこかお勧めのお店があったら、案内ヨロシクね!」
「はいっ!チョコのお店ならこっちです!」
ルーチカは元気良く返事をして歩き出した。
「新製品ならメープルものが。
チョコ以外にもクッキーとかコロッケとかバターロールとかタレとか沢山出てます。
魔力を持つ特殊な楓のシロップが、オーシアにも入るようになったんですよ。
学校の調合実習で飴作った事もありますけど、
週末の大掃除の後始末で疲れた時なんか最高で・・・」
元々は生徒達が集団で「ノスタルジィ」や「レクイエム」等の呪歌を歌いながら校内を回り
紛れ込んだ不要な動物やアンデッドを排除するのが“週末の大掃除”だったのだが、
世界の枠組みが変わってから「レクイエム」の効果が超ランダム化してしまい
往々にして更にその後始末が必要になる、とルーチカはテイルに説明した。
「なのに訓練だし研究も兼ねるっていう理由で
ノダメ校長がレクイエムの使用を中止しなくって、
だから後始末が・・・って
世界が変わったんだから当然ですよね。すみません。
シロップ、小売りもしてくれる問屋さん知ってますから、
レオ先生が料理に使うなら後でそちらにご案内します」
「それから、季節限定なら・・・あっ、季節じゃないですけど期間限定で、
ちょっと前に凄く流行った“巨象印の缶コーヒー”のコラボで
チョコとアイスとドーナツとヨウカンとキャンディーとウイロウが出てますよ。
パッケージの象の絵が十何種類もあってかわいいんです!
でももしお昼まだでしたら、デパートで日剣物産展やってるんで
“うどん”とか“餅”なんか食べるのもいいと思いますし・・・」
(世界を揺るがす戦いの準備をしている神様に、
自分が出来る事といったら食べ物の紹介・・・現実ってそういうもの、か・・・)
テイルの求めに応じて店を巡りながら、ちょっと考えるルーチカだった。
- 3 :
- >前スレ244
>「石化したのか男がか?…瓜二つの顔を持った奴か
>もしかしたらその人物は平行世界のもう一人の男だったりしてな…
>あくまでも可能性の話だがな」
ビャクさんが提示した一つの可能性。
そういえばさっき見えた妖精、ボクに似ていたような気がするぞ。
ここと紙一重の平行世界があって、その世界の者達がこちらに干渉を仕掛けている・・・?
・・・まさかね。
>2
ルーチカちゃんが、世界が変わった後のちょっとした変化を語る。
端からみたらちょっとした変化でも、端から見れば一大事だ。
「あ、あはは・・・アンデッドが暴れ出しちゃうんだね・・・」
形而下レベルでは元通りになるように再編したはずなのに、そんな所にまで影響が出ているなんて。
これだから突貫工事はよくない。
まずは魔力補充用チョコを買い込む。
「ふふっ、魔風の森のシロップが入るようになったか〜」
光と闇の勢力が対立していた少し前まではあり得なかった事だ。
これも光と闇の融和のおかげ。
続いて、期間限定お菓子や日剣物産展を案内される。
「餅って美味しいけど気を付けないととっても危険なんだよ。
日剣に行った時に、仲間が喉に詰まらせて大変だったんだから!」
店が立ち並ぶ賑やかな通り。人々の笑い声。
隣には懐かしい友達。思わず当初の目的を忘れそう。
とても世界の命運を決める大決戦が迫っているようには思えない。
それでいい。この人達は何も知らなくていいのだ。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! バラグ&グラムフィギュアだよ〜」
そんな掛け声が、感傷的な気分をぶち壊す。
「バラグ&グラムフィギュア!? なんじゃそれ」
「知らないのかい? 伝説の魔導士ロランドが作ったと言われるガイア最高峰のゴーレムだよ」
知らないも何も二人とも知り合いです。バラグさんに至っては一時期フツーにパーティーにいたぞ!
そういえば、控えメンバー達は、世界改変後は何処に待機してるんだ。
「もしかして魔法学校にうじゃうじゃ匿われてたりして・・・」
何が飛び出すか分からない後援団体だけに、その可能性は否定できない。
一通り買い出しを終えたボク達は、オーシア魔法学校方面へと向かう。
- 4 :
- 【>>2-3】
陽が西に傾き始める時刻に入り、正午近くは混雑を見た広場も、やや人を散じた感がある。
瞳を彷徨わせて人の流れを眺めていたアヤソフィアは、大通りから広場に入って来た妖精に気づいて目を止めた。
オーシア魔法学校の生徒らしき少女を伴ったテイルに。
テイルの横で歩く少女は、容姿が見た目通りであるならば十を少し超えたくらいの歳だろうか。
連れ立った妖精と親しげに雑談する表情は柔らかく、魔術師然とした雰囲気は感じられない。
「フェアリー=テイル。そちらの方は……オーシア魔法学校の方のようですが?」
噴水の縁から立ち上がったアヤソフィアは、初対面の少女に顔を向ける。
この少女は制服からしてオーシア魔法学校の生徒であろう。
オーシア魔法学校は、ガイアの勇者を後援する団体であるらしい。
ならば戦士への支援を行う自分とは、立場的にはそう違わないのかもしれない。
「初めまして。私はアヤソフィア=エヴレン。
次元律の均衡を保つ戦士達の補佐を任務としております」
アヤソフィアが簡潔に自己紹介を終えると、オーシアの校舎から鐘の音が響く。
授業の終了を報せる為の鐘の音は、音程の異なる鐘が同時に鳴る仕掛けが施され、多声的な美しさを感じさせた。
聞いていると、鬱積した感情が何処かに溶けて消えてしまう気もして来る。
しかし、それがアヤソフィアには緊張感を失い、浮ついた気持ちになっているかのように感じられた。
今は自分に出来るだけの事を、出来る限りの努力で行わなければならないのに……。
アヤソフィアは、消え去ろうとする鬱積した感情を敢えて呼び戻す。
己が死に瀕した地下洞窟を思い起こすと、彼女の表情には再び石の硬さが戻った。
「……そろそろ集合の刻限ですね。鐘の音はこの付近にいるのなら聞こえるはずですが」
【>>ルーチカ オーシア魔法学校の前の中央広場にて挨拶】
- 5 :
- ビャクがリーフと話を終えて後、しばらく街中を歩いていると、通りの端から水色の髪をした妖精が現れる。
朗らかな声を持つ見慣れた姿は、フェアリー=テイルのものだ。
「あっ、ビャクさん。
そうだ、せっかくだから少し話さない? 少し暇になっちゃってさ。
まだ少し時間もあるし、ジュース一杯分くらいの時間なら良いよね?」
そのように声を掛けると、妖精は笑顔を浮かべ、歩道にせり出したカフェのテラス席を差した。
小さな指の先には、十三の瀟洒な椅子が白いパラソルの下に置かれている。
妖精が席に着くと十二の席が埋まった。
椅子に座って楽しげに足を揺らす妖精は、十三番目の席をビャクに勧めて注文を述べる。
「オーシアン・トロピカルミックスジュースお願いしまーす!」
現在、ルーチカは日剣物産展でテイルを案内している。
今、此処に居るのは二人目……別のテイルとも言うべき存在であった。
鏡から抜けだした如く瓜二つで、まるで双子のよう。
容姿も声も魔力の波形、手に持つソフィアの宝珠すらも全くの同型。
テイル当人を除けば、何者にも区別は付けられないであろう。
「ボクたち随分一緒に旅を続けてきたけど、ビャクさんにも一度聞いてみたい事があったんだよね。
勇者……って、どんな存在だと思うのかって。
昔はガイアでは死霊皇帝と戦う戦士たちは、みんな光の勇者って呼んでたんだ。
光と闇の融和でカオスの勇者に改名して、ボクはガイアの力を継いで……。
今は何て呼べばいいのか、よく分からないんだけどさ」
そこで言葉を切った妖精は、ストローで青と黄色のグラデーションを持つ液体を掻き混ぜる。
海と砂浜をイメージしたジュースは撹拌されると、複雑な色彩を持つ緑となった。
それを妖精は音も無く吸い込み、ビャクの話を聞く様子を見せる。
――――。
グラス一杯分のジュースが消えるだけの僅かな時間が流れる。
「……ジュース一杯の時間って早いね。
まだ集合時間にはちょっと早いけど、先に広場の方に行ってるよ。
じゃっ、また後でね!」
そう言い残すと、妖精は空になったグラスを残して、跳ねるように走り去ってゆく。
- 6 :
- >「そう、ですね。まずは出来る範囲の事から始めなければ……ありがとうございます、ヒノ」
心の中にある迷いに、選択肢を見出したのだろうか。
アヤソフィヤは、映司に礼を言うと自分のすべき事をする為、雑踏の中へ消えていった。
「……あいつに、お前のありがたいお言葉でもご教授してやったのか?」
「アンク……」
アンクは映司とアヤソフィヤの話を盗み聞きしていたと
言わんばかりに、口元を歪める。
しかし、アヤソフィヤの背を見つめるアンクの目には
不遜の色も、怪訝な眼差しも存在していなかった。
そんな2人を、市場の雑踏の中から見つめる緑色のジャケットの男。
異常な雰囲気を身に纏うその男に、アンクがゆっくりと背後を確認する。
「…アンク?どうかした?」
アンクの怪訝な表情に、思わず映司も背後を見つめる。
しかし、2人の視線の先には既に何もいないようだった。
――少しばかりの不安を残し、2人はオーシア魔法学校へ続く広場へ向かった。
「あ、アヤさん。すみません、お待たせしちゃって。」
買い物袋を手にした映司がアヤソフィヤに駆け寄る。
その横で、アンクは何者が自分達を追尾しているような気配を感じていた。
(……気のせいか?いや……この気配は、何処かで感じた事がある。
誰だ……!?チッ……!!)
【広場に到着、アンク:周囲に何者かの気配を感じる】
- 7 :
- 定期報告と本部の状態含め様々情報を終えた後、すっきりと晴れぬ気持ちになりながらも
その後はいろんな工房を見て回りながらPDA型COMPと着ている電光被服を再び使えるように完全に修繕できる者達を探し回っていた。
幸い、少々時間が掛かったもののなんとか修繕をしてもらえる事ができた。
完全に使える状態になった被服を取りに行くとすぐに着用したあと、歩きながら灰色の外套を着ていると
目の前にテイルが現れる。
>「あっ、ビャクさん。
そうだ、せっかくだから少し話さない? 少し暇になっちゃってさ。
まだ少し時間もあるし、ジュース一杯分くらいの時間なら良いよね?」
こちらもCOMPの修理やら整備に時間が少々かかるので時間を持て余していた。
断る理由も特に無いので
「構わんぞ、こちらも丁度時間が出来たからな」
了承し、指定されたカフェテラスで席についてテイルは飲み物を注文すると
こちらはアイスコーヒーを頼む。
しばらく待っているとテイルが口火を切るように喋る
>「ボクたち随分一緒に旅を続けてきたけど、ビャクさんにも一度聞いてみたい事があったんだよね。
勇者……って、どんな存在だと思うのかって。
昔はガイアでは死霊皇帝と戦う戦士たちは、みんな光の勇者って呼んでたんだ。
光と闇の融和でカオスの勇者に改名して、ボクはガイアの力を継いで……。
今は何て呼べばいいのか、よく分からないんだけどさ」
話している最中に二人の頼んだ飲み物が届いたので、アイスコーヒーに口を付けながら
自身の思う勇者とは何か、に関してどう答えるべきかほんの一瞬ではあるが思考し己の考えのまま述べる。
「なんと答えるべきか、そうだな…何らかの使命を持ち人々に希望を与える
そんな物が世間一般の持つ考えだろうが、やはりそれは背負わせられる者に寄っては
人々に望まれている伝説の存在にもなるし、所詮は一部の者が自分達に都合が悪い者を排除するテロリストにもなりうる存在だからな
難しいといえば難しい所だが…今目の前にいる連中はどんな状態でも己を貫ける者達―善でも悪でもない
それを超えた何かが君達なのだと思う、うまくは言えんが」
と自分なりの答えを話し終えた後、テイルは席を立ち上がる
>「……ジュース一杯の時間って早いね。
まだ集合時間にはちょっと早いけど、先に広場の方に行ってるよ。
じゃっ、また後でね!」
こちらもそう言ってああ、またなと告げて
彼は走り去っていくどこかに走り去ってゆく。
丁度飲み終えた頃に、取りに来るように言われた時間に来たようで。
飲み物の料金を払いながら、取りに行く店に行こうとしたとき
ふと思った事があった。
「テイルの奴―利き手が左手だったか?」
注意深くいちいち観察していたわけではないが、確かグラスを持っている手はいつもは
右手だった気がするが、それもおぼろげの記憶もあり気のせいだという事にしておく
そして目的の物を取りに店に向かった後無事受け取り、広場へと向かった。
- 8 :
- >「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! バラグ&グラムフィギュアだよ〜」
>「バラグ&グラムフィギュア!? なんじゃそれ」
「あ、それは・・・魔法学校が出してる雑誌で今連載してて。
子供が旅しながら行く先々で魔法の人形を見つけて、それを戦わせる、
みたいな話で、ノダメ校長の企画らしいんですけど・・・」
“バラグ”のモデルの方には、以前の格闘大会で少しだけ会っている。
こんな事をして気を悪くしないだろうか。
待たせておいた雪豹のカランダーシュを連れて、
買い物を済ませたテイルさんと一緒に
皆さんとの待ち合わせ場所という中央広場に向かうと、
>「フェアリー=テイル。そちらの方は……オーシア魔法学校の方のようですが?」
噴水の縁から立ち上がったのは、隙のなさそうな感じの女性。
>「初めまして。私はアヤソフィア=エヴレン。
> 次元律の均衡を保つ戦士達の補佐を任務としております」
(次元律・・・均衡・・・ええと・・・)
「初めまして。私はルーチカ、魔法学校の生徒です」
流れ出た難しい用語に気を取られて、挨拶が外国語の教科書のようだ。
「テイルさんのお仲間の方、ですよね。
ノダメ校長が皆様とお話ししたいとのことで、お迎えに参りました」
「テイルさんには、以前、学校行事でトラブルが起きて、
それでとてもお世話になって・・・」
テイルさんと知り合いな訳をあたふたと説明していると
>「あ、アヤさん。すみません、お待たせしちゃって。」
アヤソフィヤさんに駆け寄ってきたこの人もお仲間のようだ。
容貌も服装も異国風の青年に、ルーチカは同じように挨拶した。
「・・・テイルさんアヤソフィヤさんのお仲間の方、ですよね。
ノダメ校長が皆様とお話ししたいとのことで、お迎えに参りました。
あの、私はルーチカ、魔法学校の生徒です。申し遅れましたが」
徐々に人数が増えてきたので説明を追加する。
「それから・・・不慮の事故で校舎を壊さないため、
ノダメ校長は校庭の実習施設でお待ちするとのことです」
授業終了の鐘以降、一般生徒は校庭立ち入りを禁じられている。
新しい世界の神が率いるパーティーの存在が引き起こすかもしれない“何か”に対し、
一般生徒はあまりに非力なのだ。
「お揃いになりましたらご案内します」
そして一般生徒であるルーチカは、
雑踏に紛れ皆の視野の端をかすめた“誰か”達の存在など気付きもしないのだった。
- 9 :
- 【>>6-8】
火野やビャクも合流すると、ルーチカの案内で全員がオーシア魔法学校の敷地内に足を踏み入れた。
広い校庭を眺めると、端の方には太陽の光を受けて鉛白に輝く石造りの建物が鎮座している。
真珠の鳥籠と形容したくなるような外観。ルーチカが語った校庭の実習施設であった。
人口密集地に存在するオーシア魔法学校は、不測の事態に対応する為、魔術を実践する際には、この建物を使用する。
竜帝山脈から伐り出した石で作られた堅固な壁。常に防護の力場を発生させる魔術結界。
二つの仕掛けが、物理的にも魔術的にも外界への影響を内部へ留めるのだ。
建物の前に着くと、ルーチカの手で押された石の扉が、重く軋んでゆっくりと開く。
円形の部屋は優に二体の竜が戦い合える程の広さを持ち、窓は無かったものの照明として魔術の光球が幾つか中空に浮いていた。
『御苦労さまです、ルーチカ』
澄明な美しさを感じさせる声が、室内の空気を震わせる。
ルーチカに労いの言葉を掛けたのは、歌と詩の神に愛された人ならざる種族……セイレーンだった。
彼女は人に似た姿で、背には鮮やかな翡翠の羽を伸ばし、足元から覗くのは華奢な鳥の脚。
栗色の巻き毛は足にまで届くほど。金色の瞳。細い体は淡い緑色の衣で包まれる。
美貌の異種族は訪問者に向かって微笑みを浮かべると、ふっくらした桜の唇を動かして言葉を紡ぐ。
『ようこそ、オーシア魔法学校へ。
フェアリー=テイル=アマテラス=ガイア様。それに異世界の方々。
私はノダメ=カンタービレ。この魔法学校の校長です』
校長の挨拶に続いて、彼女の隣に立っていた浅黒い肌の青年が朗らかな声を出す。
『よっ、久しぶりだなっ!テイル……と、ご新規の勇者さん方。
オレはレオ・テンペスト。魔法学校の教師だ。
一時期はテイルと同行してたし、まあ大体の事情は把握してるぜ』
レオは金髪で赤い目をしており、しなやかな動作と格闘家の様な出で立ちも相まって、名前通りに獅子の如き印象を与えた。
続いて、彼の後ろに座り込んでいたエルフ族が銀髪を揺らして立ち上がり、自己紹介する。
『はいはーい!担当科目が精霊魔術のメルディ・ミストグローブでーす!
レオと同じく勇者のサポートしてたけど、世界の新生後は元の職場に出戻ってました!』
レオもメルディも魔法学校の上位魔導師であり、ここで待機していたのは不測の事態を懸念した校長の差配である。
一通り魔法学校側が各自の紹介を終えると、まずはアヤソフィアが口火を切った。
彼らに対して自らの名前と所属を名乗った後、不躾とも呼べる感じで拙速に要求を述べる。
「さっそくですが、我々はデミウルゴスの一部と言われるシャードを用いる為、魔法機械を求めています。
シャードからデミウルゴスの情報の一端でも読み取れる事を期待して、です。
高度な魔法象(ゴーレム)ならば、それが可能かもしれません。
もしオーシア魔法学校が、その様な魔法象を所有されているのなら提供して頂きたい」
セイレーンの校長はアヤソフィアの余裕の無さを嗜めるよう、じっくりと一呼吸置いてから返答を返す。
『世界樹に巣食い、永らく世界を蝕んできたデミウルゴスは、封印されておらず消え失せた訳でもありません。
彼の者は狂気の神と同様に、この世界に破滅を齎す負の因子たりえるでしょう。
我々も来たるべき危機に備える為、闇の眷属も含めた各地の族長と連携してデミウルゴスへの対策を練っていました。
そしてミルゴのシャードを使えないだろうかとの話は、各族長間の会合でも浮上していました』
セイレーンが片翼を動かして部屋の中央を指し示すと、そこにはレオよりニ回り程大きい鉄色の鎧が置かれていた。
魔法機械で出来た鎧型の魔法象(ゴーレム)が。
その背の装甲の一部は今は開かれ、内部の複雑精緻な機構を見せている。
『自律式のゴーレム、バラグさんです。
世界新生の後は、勇者の一人としてオーシア魔法学校に招いておりました。
今回は貴方たちの話を聞いて、是非に協力したいとの要望で、今ここへ来てもらっています。
すでにレオがバラグさんの背を開いてますので、後は内部の機関に接続すれば、そのシャードは力を発揮する事でしょう』
そう言って、ノダメ=カンタービレは促す様にテイルに微笑む。
- 10 :
- >4
>6-8
>「フェアリー=テイル。そちらの方は……オーシア魔法学校の方のようですが?」
「うん、ルーチカちゃんって言うんだ!
前に死霊皇帝軍とキーアイテム争奪戦をやった時にすごく助けてくれたんだよ」
>「テイルさんには、以前、学校行事でトラブルが起きて、
>それでとてもお世話になって・・・」
ボク達のせいで危険な目にあったのに、そう言ってくれるなんて。
「・・・?」
不意に、誰かに見られているような視線を感じる。
平行世界のもう一人の自分・・・ビャクさんの言葉を思い返す。
>「あ、アヤさん。すみません、お待たせしちゃって。」
な〜んだ、ヒノさんか。
程なくしてビャクさんも合流し、いざオーシア魔法学校の訓練施設へ。
- 11 :
- >9
懐かしい面々がボク達を出迎える。
「ノダメ校長、レオ君、メルちゃん・・・!」
「よっ、元気にしてたか!?」
「うん、世界改変後はどう? 色々影響が出てる?」
「普段はそう感じないけど魔法の授業をやってると色々ねー」
久しぶりの再会で危うく会話が弾みそうになるところを、アヤさんが、単刀直入に用件を述べる。
ノダメ校長は、その内容を予想していたかのように、適格に答えを返す。
と言うより、最初から準備万端整っていた。部屋の真ん中に彼はいた。
「バラグさん、バラグさんじゃないかあ!」
バラグさんの装甲の一部は開かれていて、校長がシャードをはめこむように促す。
「ここかな?」
それらしき隙間にシャードをはめ、接続する。
バラグさんの目から光が発せられ、空中に映像を映し出した。
長い金髪をなびかせる美しい女性の姿が現れる。
「私はデミウルゴス、全ての始まりたる創造主にして、終焉の機械仕掛けの神――
今語っている私は、ミルゴ、とあなた達が呼んでいる創造主の側面です」
大地はひび割れ、草木一つ生えない荒れ果てた世界の光景が映し出される。
「遥か古、古という表現が適切なのかは分かりませんが、とにかく宇宙がただ一つだった頃。
人々はそれはそれは高度な文明に到達した。しかしそれを扱うには、精神性はあまりに未熟だった。
戦乱の果てに荒廃しきった世界。そこに生き残った人々の最後の希望として、私は作られた。
私に課せられた使命は、何の争いも無い、搾取する者も搾取される者もない、何の悲しみも生まれない完璧な世界を作り上げる事」
続いて映し出されるのは、緑溢れる森、どこまでも広がる草原、人々が行き交う賑やかな街道。
『私は自らに刻まれた使命に従い、完璧な世界を作り上げようとした。
でもどんなに手を尽くそうとも完璧とは遠く離れていく――だから全てを無に帰した――』
平和な世界の光景が、一瞬にして崩れ去る。
『完璧な世界を作り上げる事が不可能だと判断した場合、その世界を終わらせる終焉の神としてのプログラム。
それがデウス――デウス・エクスマキナと呼ばれる側面です。
以来、何度も何度も、気の遠くなる程の数多に渡って、世界を創り、終わらせて来ました。
完璧な世界など最初から不可能だったのです。いえ、唯一可能な方法は、何も存在させない事。
所詮私は世界樹に巣食い世界を破滅に導く邪神だった――』
ミルゴの瞳が哀しみに揺れ、そして意を決したように投げかけた、ように見えた。
『私・・・デミウルゴスは、世界改変の際に、ここと鏡面となっている平行世界に逃げ込みました。
この機械人形に、デミウルゴスの居場所への門を開く力を与えます。
勇者達よ、どうか、私の存在を消し去ってください――』
そこまで言うと、映像が消えていく。
『どうか今の世界を守って。一度だけでいい、終焉ではなく創造の神になりたい』
最後の言葉は、紛れもなく切なる懇願だった。
「・・・」
暫しの放心状態の後、はっとして問いかける。
「バラグさん、大丈夫だった!?」
- 12 :
- >>8
>「・・・テイルさんアヤソフィヤさんのお仲間の方、ですよね。
ノダメ校長が皆様とお話ししたいとのことで、お迎えに参りました。
あの、私はルーチカ、魔法学校の生徒です。申し遅れましたが」
学園からの出迎えは、まだ幼さの見える少年だった。
しかし、その眼差しや態度から見るに幼さを抑えて余りある
余裕も感じられる。
「あ、どうも!俺は火野映司、こいつはアンクです。」
会釈をし、アンクを指差しながら挨拶をする。
しかしアンクは先程の異常な気配を、未だに気にし
それどころではなさそうだ。
校舎内を舐めるように睨み付けながら、気配の正体を探っている。
そして、校長のいる場所へ招かれるように校舎内を歩いていく。
幻想的な風景を感じさせるその部屋の扉を開ける。
>『ようこそ、オーシア魔法学校へ。
フェアリー=テイル=アマテラス=ガイア様。それに異世界の方々。
私はノダメ=カンタービレ。この魔法学校の校長です』
「お、つっ!!あ、どうも……!!」
セイレーンを初めて見た映司は言葉を詰まらせながらも
会釈をする。
そしてその隣にいた青年や少女にも、挨拶を済ませ
シャードに関する説明を受けることにした。
「なるほど……」
説明を聞きながらメモをする映司。
そんな姿を見つめ、アンクはにやついた口元で映司に声をかける。
「そのシャードとやらが、奴らの手に渡ればどうなるんだろうなぁ。」
赤い異形の腕が、シャードへと伸びようとする。
しかし、それを映司が制しバラグと呼ばれたゴーレムの装甲の中へ入っていった。
>『どうか今の世界を守って。一度だけでいい、終焉ではなく創造の神になりたい』
シャードからのメッセージを聞き、映司は小さく頷いた。
それは消え入りそうなその声に対する、確かなただ1つの答えだ。
「分かりました。――終わりじゃなくて、始まりを。
明日も、明後日もみんなに朝は来ますよ。絶対。」
- 13 :
- 【>>11】
魔法象(ゴーレム)の内部に挿入された神の残滓たるシャードは、女神の幻像を生じさせるとの形で力の一端を示す。
宙に映じられた幻影の女神は、デミウルゴスが太古に造られた破壊と創造を繰り返す機械神である事を語った。
デウス・エクスマキナとは破壊のプログラムであり、ミルゴである自らは創造を担当しているのだと。
彼女は哀切の声音で訴える……邪神でしか在れなかった己を、デミウルゴスを滅ぼして欲しいと。
そう言葉を残して、ミルゴは吹き消される炎の如くフッと姿を消す。
「……完璧な世界でなければ破壊する……」
自らの理解を越えた話にアヤソフィアは短く頭を振り、そのまま黙ってしまう。
聞いたままを受け入れるならば、今の世界は前の世界を屍として創られた事となる。
ミルゴも遥かな過去に造られた人工の機械神であるはずだが、心を持ち合わせていたのだろうか。
或いは透徹した機械の知性が、このメッセージを残す事が再度の創世に最適と判断して行動しただけなのだろうか……?
もしもミルゴに心が在ったならば、今までにどれほどの苦悩を感じ続けてきたのか……想像すら及ばない。
しかし、その切なる願いすら、デミウルゴスの奸計ではないかとの疑惑が拭えなかった。
デミウルゴスは、この世界の主神格であるガイアすら手玉に取っているのだ。可能性としては捨て切れない。
アヤソフィアの沈思はテイルがバラグを案じて発した言葉と、すぐさま彼が返した音声で破られた。
『ああ、とりあえず俺の視覚と聴覚機能に問題は無いようだ。
各種動作の稼働にも支障は無い。ミルゴの台詞も把握している。
おまけに……あまり望ましくない情報までシャードから流れて来た。
直接ミルゴに創られた原初神達では、デミウルゴスを倒すという結果に至らない……ってな。
ミルゴは創造の際にデミウルゴスの終焉を妨げない為、原初神をそう創るらしい。
アマテラスが乗っ取られたのも、ソフィアの一部が狂ったのも、それが原因だったわけだ』
【>>12】
火野は創造神として自らを終えたいとのミルゴの意思を受け止め、了解の意志を虚空に残す。
彼の口調に気負いは無く、アヤソフィアには自然な事として受け入れた様にも聞こえた。
「ヒノの言う通りです。この世界を崩壊などさせません。
……バラグ、貴方には並行世界に移動する鍵が与えられたそうですが、それはどのようなものですか?」
アヤソフィアがバラグに並行世界への移動方法を問う。
『そうだ、並行世界に行く方法について説明した方が良いな。
まずは五元素の均衡を崩して、安定力の弱まった空間を作り出す。
金属には火を、火には水を、水には土、土には木、木には金属の力をぶつけるわけだ。
次にシャードの力で相転移の力場を発生させて、不安定になった建物内部の空間だけを並行する世界と入れ替える。
要は並行世界に向かう人物はこの建物に残って、今の世界に留まる人は建物の外に出ていれば良いわけだ』
「私は行きます。悔恨の涙で溺れるつもりはありません」
アヤソフィアは迷うことなく即答した。
校長のノダメ=カンタービレは残る事を伝えた。
向こう側にも自分と同じ存在がいるだろうとの理由と、この世界で自分が不在となる影響を鑑みての事だ。
「では、残る方々には今のうちに謝意を伝えておきます。我々に御協力頂き、深く感謝の意を表します」
そう、簡素にアヤソフィアが述べた。
全員の意思が明らかになれば、バラグは床に描いた魔法円の中央に立ち、並行世界への移動準備を始める。
接触する大気を変質させる金属の饗宴。天井を舐める勢いの火炎。異界の湧水。噴き出る土塊。瞬く間に群生する樹木。
魔術で生じた五種の力が順に相される度に空気が震え、やがて床に描かれた紋様が発光して周囲を空色の光で満たす。
ミルゴの力、神の摂理を内に宿したシャードが空間を歪ませ、隣接する鏡面世界を近づける。
時間にして僅か数瞬……目眩を伴う空間の振動が起こった。
アヤソフィアは他に大規模な変化が起こるかと身構えたが、それ以上は何も起こらない。
全く変化を見せない室内の様子に、アヤソフィアが当惑を滲ませて言った。
「……何も変わった様には見えませんが、すでに世界を移動したのでしょうか。
そうですね、まずは外に出て確認してみましょう。
三ヶ月前の世界新生で分岐した並行世界なら、僅かな違いはあるにせよ、ほぼ先程と同じ世界のはずですが」
- 14 :
- 合流の場所である広場にて無事全員と合流し、アンクの様子が少しおかしい事に気づきながらも
その場に居た案内役の生徒らしき人物を確認しルーチカと名乗った後
自己紹介する。
「始めまして、俺はビャク=ミキストリ
一応簡単に言えばアヤソフィアの言う世界を守る戦士の一人だ
よろしく頼む」
一通り自己紹介を終えてそのままオーシア魔法学校の敷地内に入る。
それなりに歴史があることを見受けられると思いながら内部に足を踏み入れた。
案内されるがままに石の扉の先までに足を進めると何人かのこの学園のや教師やら学園長やらがそこに居た。
>『ようこそ、オーシア魔法学校へ。
フェアリー=テイル=アマテラス=ガイア様。それに異世界の方々。
私はノダメ=カンタービレ。この魔法学校の校長です』
>オレはレオ・テンペスト。魔法学校の教師だ。
>『はいはーい!担当科目が精霊魔術のメルディ・ミストグローブでーす!
「ここまで歓迎してくれるとはな…これもテイルの人徳とやらか」
そんな事を呟きながらシャードの話を火野たちと同じく聞く態勢を取りながら
聞いていくうちにある言葉に対してどうも嫌な予感というより先ほどの守護者委員会の超広域情報収集部門の葉―リーフ―から
提供されたとある情報が頭を過りそれが正しいのならば既に相手は行動を起こしている事となる。
(やはり本当の話なのか…?本部壊滅は疑いようはなくても平行世界からの彼らと同位存在と
幾つかの存在がこの世界に刺客を放ち紛れ込んでいるのというのは)
先ほどテイルと話していた時に利き腕が違って見えたこともその事に関して
それが事実だと言う事に思えてくる。
>『どうか今の世界を守って。一度だけでいい、終焉ではなく創造の神になりたい』
悔恨と真摯なる心からの願いの言葉を最後に説明を終える。
完璧な世界など何処にもないそれを気づくのに時間が掛かりすぎたが
こうして見ると彼女も憐れな被害者に思えてくる。
枷を外すために必死になっている自分とは大違いだと自嘲の笑みを心の中で浮べながら
「気づくのは遅すぎたなお前も俺と同じく罪を重ねすぎた…だが
言われなくてもそうするつもりだ。その時はゆっくりと眠れ
もう二度と過ちを犯さぬように」
- 15 :
- アヤソフィアが平行世界に移動すべくバラグに尋ね
バラグからは平行世界移動に関しての説明を受ける。それによれば
どうやらこの部屋に居れば此処に残れと言う訳だ。もちろん答えは決まっている。
「既に俺達は後手に周っている可能性が高い、これ以上の先延ばしを理由など何処にも無い
俺は向かう、一刻も早く居くべきだ」
そう主張して残るべく意思を表示するとこの世界に残る彼らに警告する。
「俺達は向かうが、そこから先何が起こるかわからない
何があっても冷静な目で自分を感じたことを信じろ、いいな?」
あちら側に逃げ込んだデミウルゴスは既に復活し、刺客を送り込んでいる可能性が非常に高いため
注意を呼びかける。
そして残る側の人達は退室し、平行世界移動の儀式を始めると
あっと言う間に辿り着いたらしい。しかし何処も変わっていないように見える。
これに関してアヤソフィアが発言する。
>「……何も変わった様には見えませんが、すでに世界を移動したのでしょうか。
そうですね、まずは外に出て確認してみましょう。
三ヶ月前の世界新生で分岐した並行世界なら、僅かな違いはあるにせよ、ほぼ先程と同じ世界のはずですが」
「平行世界は身近ですぐ隣にある場所だ、何も変わっていない可能性は高いが
無限に分岐する物だ、ほんの少しの誤差もあればまったく真逆の事になっている事もある
例えば…この世界の同一人物が自分達にとっては敵だったりな」
もしたらればの話は幾らしても仕方ないが、こちらも予知能力者ではないし
あらゆる事態が起きてもおかしくないのだ、だからこそ油断や警戒はとても重要なことである。
「では確認の為に外に出てみようか、とりあえず俺が先に出る
後に続くのは誰でもいいが不測の事態に備えていつでも戦える準備はしておけ、いいな?」
そう言って片手に無命剣フツノミタマを召喚し、部屋から出て学園内から出るための通路から
敷地内に入る入り口を目指し歩き続けて、敷地内入り口に出てから外を見てみる―がそこは
何もない世界が広がっていた。否―太陽とこの学園と敷地内はそっくりある
しかし見渡す限り先ほど在った広場もなければ活気賑わう市場も無い
まさに全てまっさらで何も残っていない世界だった。
「…最悪だな、核戦争で滅んだ世界にも行った事があるがアレでも多少は残骸があったが
本当に何もない―ディストピアの可能性が高いが、この地だけかもしれん
もっと他のところも見てみよう」
敷地内に入る入り口からまっさらの土地に続く敷地に最初の一歩を踏み入れて
辺りを見回した。
- 16 :
- >12-13
>「分かりました。――終わりじゃなくて、始まりを。
明日も、明後日もみんなに朝は来ますよ。絶対。」
形が改変されたとはいえ、今の世界もまた、デミウルゴスが幾度目かに作った世界をベースに作られている。
デミウルゴスを倒し今の世界を守り抜けば、ミルゴは今度こそ創造神になると言えるだろう。
「約束する。あなたの願い――叶えてみせるよ」
>「ヒノの言う通りです。この世界を崩壊などさせません。
……バラグ、貴方には並行世界に移動する鍵が与えられたそうですが、それはどのようなものですか?」
バラグさんが、平行世界に行く方法を述べる。この建物ごと向こうに行ってしまうらしい。
魔法学校の授業で困らないだろうか。なーんて、また建物ごと帰ってくれば大丈夫だよね!
「みんな、本当に行く? 次元転移の時に酔っちゃうかもよ〜?」
>「私は行きます。悔恨の涙で溺れるつもりはありません」
>「既に俺達は後手に周っている可能性が高い、これ以上の先延ばしを理由など何処にも無い
俺は向かう、一刻も早く居くべきだ」
わざとおどけた調子で念押しすると、アヤさんが力強く頷き、ビャクさんが出発を促した。
今更聞く必要なんて無かったのだ。
>「では、残る方々には今のうちに謝意を伝えておきます。我々に御協力頂き、深く感謝の意を表します」
>「俺達は向かうが、そこから先何が起こるかわからない
>何があっても冷静な目で自分を感じたことを信じろ、いいな?」
「ノダメ校長、みんな、ありがとうね!
・・・やだなー、そんな顔してどうしたの。すぐ帰ってくるに決まってるでしょ!」
ボクはいつものこの調子でいい。本当のことはビャクさんが言ってくれたから。
残る者達が建物から出たのを確認し、バラグさんがついに平行世界への転移を始める。
神秘的な光景が展開され、思わずそれに見とれている間に、転移は完成し、空間が揺れる。
>「では確認の為に外に出てみようか、とりあえず俺が先に出る
後に続くのは誰でもいいが不測の事態に備えていつでも戦える準備はしておけ、いいな?」
見たところ何も変わっていない周囲に戸惑いながら、恐る恐る外に出る。
「ここが・・・平行世界?」
外に出ると、何もかもが変わっていた。何も無かった。
>「…最悪だな、核戦争で滅んだ世界にも行った事があるがアレでも多少は残骸があったが
>本当に何もない―ディストピアの可能性が高いが、この地だけかもしれん
>もっと他のところも見てみよう」
「どういう事・・・? まさか、もうデミウルゴスに消されたの!?」
その時、目の端に妖精の姿が映ったような気がした。
「・・・!?」
その方向を振り向いて見ても、すでに姿を消している。
「こっちの世界でのボク達がいる・・・。男さんを石化させた奴みたいに、敵かもしれない!」
- 17 :
- >>13>>14
>「私は行きます。悔恨の涙で溺れるつもりはありません」
アヤソフィヤの言葉に続くように、映司もその場に留まる。
この先に、何が待っているかは分からない。
しかし、立ち止まっているわけにはいかない。
アンクも渋々、映司の後ろに立つ。
>「平行世界は身近ですぐ隣にある場所だ、何も変わっていない可能性は高いが
無限に分岐する物だ、ほんの少しの誤差もあればまったく真逆の事になっている事もある
例えば…この世界の同一人物が自分達にとっては敵だったりな」
目の前に広がっていたのは、先程と同じようでまるで違う世界。
そこには何も無く、ただ「無」の世界が広がっていた。
ビャクの言った、すぐ隣にある場所。その言葉に何か引っかかりを感じたのはアンクだった。
以前から感じていた謎の視線。あれは、研ぎ澄ました直感でも捉えられない
ものだった。
異次元からの視線。そう考えるとあの違和感にも合点がいく。
「気をつけろ……映司。さっきから妙な気配がうろついている。
――こいつは、まさか。」
>「こっちの世界でのボク達がいる・・・。男さんを石化させた奴みたいに、敵かもしれない!」
ティルも同時に警告を告げる。この世界には何も無いように見える。
しかし、確実に「何者か」はいる。
「まさかって……何だよ。え?これは……!?」
映司の足元に転がるのは銀色のコイン。よく見ていけば、点々とそれらは
散らばっている。
手に取り見つめると、それは禍々しい力に満ちている事を直感出来た。
それは半分に割られた、欲望の「根源」たるセルメダルそのもの。
アンクは舌打ちをしながら、周囲の気配を探る。
感じるのは、無の中にありながらも確かに存在する「欲望」の力。
「どうやら――1手、いや2手以上遅れたらしいなぁ……!!」
【平行世界にて、謎の気配。半分に割れたセルメダルが大量に散乱している】
- 18 :
- 「では、皆様どうぞお気を付けて・・・お帰りを待ってます!」
神や異世界からの来訪者に『この世界を守って』と安易に頼む資格は、
この世界に住む当事者でありながらまるで無力な自分には、無い。
ただ深々と一礼して、ルーチカはノダメ校長と共に“この世界”に残るため外に出た。
振り返ると、実習施設は平行世界の残像なのか、靄を纏ったように姿を霞ませていた。
(テイルさん、皆さん、どうか無事で・・・でも、何に祈ればいいんだろう・・・)
ルーチカの指が、無意識に傍らのカランダーシュの毛並みを追っていた。
- 19 :
- 【>>15-17】
ビャクに続いて建物から出たアヤソフィアは異様な光景に絶句する。
魔法学校の敷地から先は、茫漠とした荒野の如き姿を晒していた。
ビャクがそれを見て、最悪のディストピアと化した世界との可能性を示唆した。
彼がそう思うのも、無理からぬことであろう。
大地はまるで途方も無い程の大きさの巨人が、途方も無く巨大な剣で島を水平に薙ぎ、平らに削り取ったかの如く。
一面の更地の上に残るのは、オーシア魔法学校だけであったから。
「ディストピア……阻害された場所、ですか。
確かに此処の他は何もありません。
地平線が見えると言う事は、私の身長とガイアの大きさから勘案して、約4.5km四方には何も無いようです。
オーシア魔法学校だけは、防護魔術で異変の影響を逃れたのでしょうか?」
何度か感じたビャクに威圧された感覚が、今は無い。
自分に出来る事に専心していれば、悪戯に胸に痞えを感じる事もないのだろうか……と、思い浮かべる。
「それでは、私は校舎内を捜索してみます。
建物が無事に残っている以上、生存者がいるかも知れません」
ビャクに向かってそう言ったアヤソフィアが、校舎に向かい始めて数歩。テイルが警告の声を発した。
敵かも知れない並行世界の存在を告げて。
間を置かずにアヤソフィアがテイルの視線の先を追うと、先んじて火野が異変を感じたようだった。
地面にばら撒かれた夥しい数の割れたメダルに。
アヤソフィアが姿無き何者かの気配を探る為に耳を澄ますと、メダルの一枚がチャリ……と音を鳴らした。
透明化の魔術で姿を隠した者が、散乱するメダルを踏んだのかもしれない。
そう判断したアヤソフィアは真視の魔術を唱えた。
「我が視線は虚像を貫き、真実を映す。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、この両眼に魔力を宿らせ、真視の力を与えよ――gram sight」
魔術に依って可視帯域を広げられた網膜が、見えざる何者かの姿を映す。
術者の視界の中で透明な大気が色を宿し、背に翅を持った人の形を描く……テイルと瓜二つの妖精の姿を。
「フェアリー=テイル……いえ、姿を隠して潜んでいるのは並行世界のフェアリー=テイルの様です」
『あーあ、見つかっちゃったよ。どうする?イョーベールさん?』
悪戯の仕掛けを見破られた時の様な無邪気な声を上げ、姿隠しの魔術を解いた妖精が全員の前に姿を現す。
水色の髪、虹色の翅、尖った耳、青い瞳、子供の様な肢体。
現れた妖精の特徴は、全てが完全にテイルと一致していた。
- 20 :
- 自分の名前を呼ぶ妖精の声を受けて、魔法学校の校舎屋上から小屋程もある巨大な蟹が顔を覗かせた。
以前、テイルやビャクと行動を共にしていた黄金の巨蟹、イョーベールである。
魔物としか形容出来ない巨大な異形の出現に、アヤソフィアが小さく呻きを上げた。
「むう……もう少し隠れて様子を窺おうと思ったのだが、見つかっては仕方あるまい。
ちなみに私は単なる魔物では無く、アルコーンのイョーベールだ」
黄金の大蟹はイョーベールと名乗り、校舎の屋上から飛び降りた。
その巨体にも関わらず、大蟹は器用に用いた節足で衝撃をして、派手な着地音をさせない。
イョーベールはテイルを見ると、訝しむような口調で訊ねる。
「お前たちはいったい何者だ? 何故テイルそっくりの姿をした者がいる?
いや……その前に自分から名乗った方が良いな。
我々は見た目はアレだが勇者たらんとする者たちだ。
そこで十柱のアルコーンに対抗する力を探して、勇者支援組織のあるオーシアに来たわけだ。
しかしオーシアは荒野。さらにテイルそっくりの者が校舎から出てくるではないか。
とても怪しいので、我々は隠れて様子を窺っていたというわけだ。
信頼できるサムシングが欲しいなら、センス・ライ(嘘感知)の魔術でも唱えて調べるといい。
私が微塵も嘘を言って無い事が、お手軽に分かるはずだ」
大蟹は隠れていた理由を一息に語った。
アヤソフィアは大蟹の中の聞き慣れない単語に眉を顰めて、アルコーンとは何なのかを問い返す。
対してイョーベールは、表情の無い球形の瞳を質問者に向けて応えた。
「うむ、解説しよう。アルコーンとはデミウルゴスが世界を崩壊させる際に使う十一の天使。
このオーシアを破壊したのも、おそらくはアルコーンの仕業だろう。
ガイアでは、私以外の十柱のアルコーンが枝切りを行っている最中だからな。
おっと、今の世界は樹形の枝分かれはしていないから枝切りとは言わなかったが
まあ用語はともあれ、要するに世界を破壊する作業だ。
さて、それでは改めてお前たちが何者で、目的は何かを問わせてもらおうか?」
- 21 :
- >17
>「どうやら――1手、いや2手以上遅れたらしいなぁ……!!」
「あっちゃー! 早くデミウルゴスを見つけよう。
せめて被害がこっちの世界だけに収まってるうちに!」
>19-20
>「フェアリー=テイル……いえ、姿を隠して潜んでいるのは並行世界のフェアリー=テイルの様です」
アヤさんの魔法によって、もう一人のボクが姿を現した。
『あーあ、見つかっちゃったよ。どうする?イョーベールさん?』
校舎の屋上から、巨大な蟹が飛び降りてくる。確かにイョーベールさんだ。
「イョーベールさん? こっちでは男さんの鎧になってないの?」
このイョーベールさんの話が本当なら、彼らは味方。
そして、イョーベールさん以外の10柱のアルコーンが世界の破壊を行っている最中らしい。
彼は一通り自分達の事を説明すると、今度はこっちに問いかけてきた。
「ボク達は……この世界と鏡面になっている平行世界の勇者。
この世界に潜むデミウルゴスを仕留めるために、向こうの世界からやってきたんだ。
向こうの世界の勇者支援組織であるオーシアの力を借りて、ね。
つまり君たちと目的は同じって事。この際協力しない?」
もう一人のボクとイョーベールさんに、共闘を持ちかける。
彼らが彼らの言う通り味方なら、何の問題も無い。
仮に敵の罠でも、これでデミウルゴスに至る手掛かりが得られるなら好都合だ。
- 22 :
- 【>>20】
「では失礼ながら……嘘感知の魔術を使用させて頂きます」
『ああ、一思いにやってくれ。魔法防御も今はオフにしておくぞ』
「我が耳は真実を聴き、虚偽を明らかとする。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、この両耳に魔力を宿らせ、真偽を聴き分ける力を与えよ――sense lie」
アヤソフィアの唱えた嘘感知の魔術は、尋問などに使われる魔術。
その成否は被術者の魔法抵抗力に依存するが、相手の同意さえあれば術者は絶対に吐かれた嘘を聴き分ける事が出来る。
イョーベールが同意している以上、彼の持つ絶対的な魔法防御能力も今は発揮されない。
全く同じ台詞を復唱させた結果、下記の点には一つの嘘も混じっていない事が示された。
○私はアルコーンのイョーベールである。
△我々は勇者たらんとする者たちである。
○十柱のアルコーンに対抗する力を探して、勇者支援組織のあるオーシアに来た。
△オーシアを破壊したのは、アルコーンの仕業だろう。
○テイルそっくりの者を警戒して、様子を窺っていた。
○アルコーンとはデミウルゴスが世界を崩壊させる際に使う十一の天使。
△ガイアでは、私以外の十柱のアルコーンが枝切りを行っている最中。
幾つかには、嘘ではないが真実とも言えないと言う結果が出る。
嘘感知の魔術は、微妙な言い回しや、推測に基づいた発言も意味を厳密に捉えて、真実では無いとの結果を示してしまうのだ。
アヤソフィアは、魔術で得られた結果を小声で仲間たちに伝えた。
「――――以上の結果から、イョーベールの発言に嘘は無いようです」
【>>21】
黄金色の大蟹が自らの素性を語り終えると、次には此方が何者であるかを問い掛けてくる。
それに対し、テイルは自分たちが並行世界の勇者である事を告げて、自分たちとの共闘を持ちかけた。
大蟹も傍らの妖精も口を差し挟まずに興味深げな様子で、テイルの話を聴き入っていたが、一呼吸の思案の後、最初に大蟹が口を開く。
『フム、そうか……ところで、嘘感知の魔術はもう良いな?
いつまでも心を覗かれているのは気持ち良いものじゃないのでな。そろそろ無効化させてもらおう』
如何なる原理の能力を使ったのだろうか。
黄金の巨蟹が口から黒い霧を放つと、それは周囲の大気に薄く拡散して魔術伝達を阻害し、感知の魔術の効果を掻き消す。
『これで、子供にどうやって赤ちゃんが生まれるのかを聞かれても困らないな。
もちろんキャベツ畑から生まれる!そうだろう?ハッハッハ!』
豪快に笑ったイョーベールは、思い出したように言葉を続けた。
『おっと……それで、さっきの答えだったな。良かろう!我々も喜んで協力させてもらおうではないか!
世界は違えども、私は真の勇者になる事を望んでいる!共に力を合わせてデミウルゴスを打ち倒してやろう!』
- 23 :
- 巨蟹に続いて、今度は妖精が口を開く。
『……敵が来るよ。ううん、攻撃が来るって言った方がいいかな?』
「攻撃……どこからですか?」
テイルに酷似した妖精が唐突に発した言葉を聞き、アヤソフィアが周囲を見回す。
吹き渡る風の他には、荒涼とした風景の中に動くものは何も無く、敵らしき者を見つける事は出来ない。
攻撃を予告した妖精に視線を移せば、足元に散らばるセルメダルの一枚を摘み上げて、それを鑑定するかのように眺めていた。
こんなものは今までこの世界に無かった筈なんだけどなあ……と、小さく呟いて。
一しきり眺め終わると、妖精は鈍色に曇ったメダルへの興味を失ったようで、小さな親指に乗せて宙に弾いた。
『残念ながら、どこから来るのか、どんな攻撃なのかまでは分からないよ。
この世界の神族としての力で予知しただけだからね。
なんとなくだけど攻撃が来る方向は……あっちかなー?』
妖精は弾いたメダルが転がった方向を指差す。
それが、まるで今転がったメダルで攻撃が来るらしき方角を決めたようにも見え、先程の予言めいた言葉から信憑性を著しく削ぐ。
真贋のはっきりとしない断片的な情報に、アヤソフィアは眉を顰めて妖精の顔を睨む。
「……予感との断りが入った以上、全幅の信頼は置けませんが、攻撃が来るのなら今のうちに対応策を講じた方が良いでしょう」
『そうだね。この島を荒野に変えた様な攻撃だったら一溜まりも無いだろうけど。
うーん……そういえば、この壊滅したオーシアで魔法学校だけ無傷で残ってるってのも不自然だよね。
もしかしたら何かの強力な結界が機能しているのかもしれないし、中に籠ってれば多少はマシだったりして。
まあボクの予言を信頼出来ないのなら、無理にとは言わないんだけどさ。
でも、そうだねぇ。この建物の中にそんな結界を生み出す様な物があるのなら――――』
妖精は何かを面白がるような表情で囁く。
『――――デミウルゴスと戦うのに役立つかもね』
その言葉はアヤソフィアに思案させる。
アヤソフィアにもオーシア魔法学校だけが無傷で残っているのには、何らかの理由がありそうだと感じられた。
もしも中に生存者がいればオーシアで何が起こったのかも、聞く事が出来るかも知れない。
「……そうですね。まずは生存者の有無を確かめましょう。
オーシアは古代遺跡が至る所に残っています。
地上はこの有様ですが、地下には広い空間があってもおかしくありません。
他の区画の住人たちも、その様な場所に逃れていれば良いのですが……」
そう口にした事で、今更ながらオーシアの住人たちの行方が案じられた。
世界は違えども、ここには同じ町並みが有った筈である。
街を巡り、名物らしき食べ物を屋台で頼み、何人かの人物とは話もした……それが今は跡形も無く、変わり果てた姿を晒す。
オーシアで起きた破壊の瞬間を想像したアヤソフィアは、肺の中の空気が濁ったかの様に気分が悪くなった。
彼女は街を変えた原因を検討したが、脳裏に浮かぶ幾つかの可能性は、どれも暗い想像しか齎さなかったから。
微かに怒りの感情を滲ませる足音を立て、アヤソフィアは校舎の中へと向かってゆく。
魔法学校の外観は貴族の邸宅の如きカントリーハウス風で、石造りの外壁からは城館と言う言葉を連想させる。
入口の玄関から大広間へと入ると、何時間も人の呼気が混じわらなかったであろう冷えた空気が出迎えた。
ごくありふれた調度品の並ぶ大広間は、外との対比を思えば聖域のようにも感じられる。
「一般的な学舎の構造としては教室、寮、図書館、食堂、浴室、倉庫……などでしょうか。
魔法学校ともなると、他にも色々な施設が在るかもしれませんが。
一応、敵からの攻撃を予言されていますし、校内の捜索は全員で行動した方が安全かもしれません」
アヤソフィアは大広間の幾つもの廊下や、扉や、階段を見回しながら言った。
【>>ALL 生存者の捜索に校舎の中へ】
- 24 :
- >>19
>『あーあ、見つかっちゃったよ。どうする?イョーベールさん?』
「え?ティルさんが2人……。」
姿を現したティルに瓜二つの妖精に驚きながらも、映司は
つとめて冷静に呟く。
その時、屋上から声が響くと同時に大きな影が映司達の
視界から降りていく。
>「むう……もう少し隠れて様子を窺おうと思ったのだが、見つかっては仕方あるまい。
ちなみに私は単なる魔物では無く、アルコーンのイョーベールだ」
「……おい映司!!」
巨大な魔物に見えるイョーベールに対し、警戒心をむき出しにする
アンクが叫ぶ。
しかし、彼の語る言葉に耳を傾けるべきだと判断した映司はそれを制止する。
> さて、それでは改めてお前たちが何者で、目的は何かを問わせてもらおうか?」
彼の問いかけに対し、映司達と共に来た方のティルが答える。
>向こうの世界の勇者支援組織であるオーシアの力を借りて、ね。
つまり君たちと目的は同じって事。この際協力しない?」
それに賛同するように映司も言葉を続ける。
「俺は、火野映司。ティルさん達と住む世界は違うけど……俺達も
これ以上世界を壊させたくないんです。」
>>22
アヤソフィヤがイョーベールの言葉に嘘が無いかどうか
呪文を唱え確認しているようだ。
アンクは慎重そうにそれを見つめ、彼女の返答を待った。
>「――――以上の結果から、イョーベールの発言に嘘は無いようです」
「嘘がないか。まぁ、それでも協力するにせよ用心するに越した事は
ないようだがなぁ……」
アンクの手には半分に割られた銀色のメダルがあった。
――その瞬間、アンクの背後で何かの影がゆっくりと揺らめく。
「……ッ!!」
瞬時に振り返るも、そこには誰もいない。
しかし確かに感じた気配は、彼がよく知る者のそれに似ていた。
――アヤソフィヤの案により、校内に生存者がいるかどうか調べることになった。
映司もそれに続くように校舎の廊下を見渡していく。
「……誰か――!!誰かいませんか!?俺達は、敵じゃありませんから
。いたら出てきて下さい!!」
映司の背後に、緑色のジャケットが霞む。
その影は、全てが消し去られた世界で狼狽する彼らを笑っているかのように見えた。
【校舎内で謎の影。映司に接近。】
- 25 :
- >「ディストピア……阻害された場所、ですか。
確かに此処の他は何もありません。
地平線が見えると言う事は、私の身長とガイアの大きさから勘案して、約4.5km四方には何も無いようです。
オーシア魔法学校だけは、防護魔術で異変の影響を逃れたのでしょうか?」
「恐らくそうだろうな、此処は相当の防護魔術を誇っているようだ
ならば人が居ない事には不自然さを感じる事だが」
学園から出る入り口に足を踏み入れようとしたととき、一気に意識を持っていかれそうになり
一歩を踏み止め学園の内側に急いで戻る。
平行世界といえどこの学園から外に出れば恐らく俺は問答無用で永久闘争存在と化すだろう
この土地に刻み込まれている防護魔法か特別な何かが自分の理性をようやく留めている
それほどまでにこの世界は追い詰められている事を肌で感じていた
>「どうやら――1手、いや2手以上遅れたらしいなぁ……!!」
「だがどう巻き返すかが今後重要になるな、今更どうこう言ってもこの状況は変わらん」
アンクの示す言葉は本当の事ではあるが、それを理解した上で行動することが現在重要である。
>「こっちの世界でのボク達がいる・・・。男さんを石化させた奴みたいに、敵かもしれない!」
>「フェアリー=テイル……いえ、姿を隠して潜んでいるのは並行世界のフェアリー=テイルの様です」
>『あーあ、見つかっちゃったよ。どうする?イョーベールさん?』
テイルの警告と同時にアヤソフィアが魔術を使って見つけた者それはこの世界のもう一人のテイルであった。
しかし、同じ世界の自分に会えば同じ世界には矛盾が起きて同じ人間が存在できないはずのタイムパラドックスが働くはずなのだが
それが生じていないこれはどう言う事なのだろうか?
この世界の法則がそれを認めているからか、あるいはこちら側(自分達)のテイルを別人と認識したのか
>「むう……もう少し隠れて様子を窺おうと思ったのだが、見つかっては仕方あるまい。
ちなみに私は単なる魔物では無く、アルコーンのイョーベールだ」
「ほう、この世界ではまだ勇者側に付いて居たんだな…」
少し意外だと思っていたが、一応は顔見知りではあったがこの世界では余計な混乱や騒動を招かぬために自分の事について詳しく聞かれるまで黙っておく。
案の定あちら側のイョーベールもこっちに対しても正体を尋ねてくるがテイルが返し
アヤソフィアによる尋問に使用する魔術によりイョーベールの言っている事の裏取りを取った。
そして信用できると判断したこちら側のテイルの共闘を持ちかけてあちら側も了承する。
反対する理由も無いが、何かが引っかかる言いようの無い違和感があった。
- 26 :
- >『……敵が来るよ。ううん、攻撃が来るって言った方がいいかな?』
>『残念ながら、どこから来るのか、どんな攻撃なのかまでは分からないよ。
この世界の神族としての力で予知しただけだからね。
なんとなくだけど攻撃が来る方向は……あっちかなー?』
「ふうむ、それならば対策のしようがあるまい…
いや一つだけあるか」
ボソッと最後の言葉を呟く
自分がこの結界を踏み越えればこの世界の全てを破壊し尽くすまで辞めない戮機械になるだろうが
それは本当の最悪の選択肢だろうが
>全幅の信頼は置けませんが、攻撃が来るのなら今のうちに対応策を講じた方が良いでしょう」
>うーん……そういえば、この壊滅したオーシアで魔法学校だけ無傷で残ってるってのも不自然だよね。
もしかしたら何かの強力な結界が機能しているのかもしれないし、中に籠ってれば多少はマシだったりして。
まあボクの予言を信頼出来ないのなら、無理にとは言わないんだけどさ。
でも、そうだねぇ。この建物の中にそんな結界を生み出す様な物があるのなら――――』
>『――――デミウルゴスと戦うのに役立つかもね』
あちら側のテイルの最後の言葉とその言葉に考えたアヤソフィアが学園の探索を提案する。
確かに役立つ物であればありがたいが、こいつ等に乗せられている気がしなくもない。
だがどの道この地から出れば永久闘争存在化するのは明白なので選択肢は限られていた。
「今はそれが今後響く重要な事だろうな、判断として間違ってない決まりだ」
アヤソフィアや火野達の後ろ側に連ねる形で校内の生存者を探しながら
近くに居るこの世界のテイルに尋ねてみる。
「お前はあの時話したテイルだな?お前には聞きたいことがある
この世界ではお前達以外の仲間はいるのか?それと
お前がしたあの時質問に俺が答えた事にどう思った?それを聞かせて欲し――」
『そうだけど、そうだねじゃあまず最初の質問を他の仲間たちは―』
>「……誰か――!!誰かいませんか!?俺達は、敵じゃありませんから
。いたら出てきて下さい!!」
会話の答えを聞こうとした矢先
生存者を探すために叫んでいる火野の姿が目に入った時
その背後に蠢く影のような何かを見つけるが、良い存在には到底見えず
それが襲い掛かるように見えた。
「ッ!!させん、無双剣!」
魔力で作られた十字の剣がそれに突き刺し指を鳴らすとそれのみを爆破した。
「気をつけろ!何か居るぞ!」
無命剣を召喚し、周囲に関して警戒し始める。
それは何か
- 27 :
- 意気揚々と校舎に入ろうとした黄金の巨蟹は口惜しげに叫ぶ。
『むう、さすがにこの巨体では人間用の建物の中には入れん!
私は此処に留まるしかあるまいな……別に結界とやらを恐れているわけではないぞ!』
イョーベールが外に留まった事に依って、オーシア魔法学校内部に入るのは七名。
テイル、テイルに酷似する妖精、ビャク、火野、アンク、アヤソフィア、バラグ、宝珠化したソフィア。
【>>24-26】
アヤソフィアは同行する仲間と共に、夕暮れの陽で暗い橙色に染まった廊下を歩く。
人の姿を探し求めるも、幾つかの小部屋には誰の姿も無い。
採光の窓から漏れる光は徐々に弱く、頼りなくなっていき、夜に差し掛かると感じた瞬間、廊下が突然蒼白い光で満たされた。
校舎内の各所に備え付けられた魔術の角灯が一斉に点灯して、魔法学校の内部に夜が到来する事を拒んだのだ。
「……校内の機能は生きているようですね。
あちらに講堂が在るようですので、向かってみましょう」
大勢の生徒たちが授業を聴講する大講堂へ入ると、火野は人を求めて叫ぶ……敵ではないから出て来て下さいと。
果たして、その火野の叫びに応えて現れたものだろうか。
幾つもの長椅子の置かれた部屋を歩く火野の背後には、朧な緑の影が生じていた。
灯りを厭い、薄闇を求める幽鬼が、彼の落とす影を住みかとして定めたかのように。
「ヒノ、背後に何者かがいますッ!」
アヤソフィアの言葉と同時に、ビャクが魔力の剣を緑の靄に向かって放ち、標的付近で爆発させた。
舞い散る粉塵と共に、火野の背後に揺らめく緑の靄は霧散したかのように見える。
アヤソフィアも、今の一撃で謎の影は倒れたのだろうか……と考えた。
あり得ない事ではないが楽観はできない。常に最悪の自体を考えながら慎重に行動しなければ。
「今の靄のようなものは……敵だったのでしょうか?
生存者が此方を警戒して、魔術の探査を行っていた可能性も無いとも言い切れませんが。
いずれにしても、ここは完全な無人では無いようです。
あれが何者かは分かりませんが、此方に警戒される状況が発生した以上、次は何らかのアクションを取ってくるでしょう」
アヤソフィアが言葉を切ると、空々しい仮初の静寂が講堂を満たす。
この空間は最初から無人であると言わんばかりに……。
その静寂を破って、アヤソフィアは二人のテイルに向かって訊く。
「そう言えば、オーシア魔法学校は勇者の支援組織と聞きました。
フェアリー=テイルは、内部構造に付いて思い当たる点などはありませんか?
重要な物を安置する場所や、大勢の人間が隠れらそうな場所などに」
- 28 :
- アヤソフィアが魔法学校の構造に付いて訊くと、テイル……に似た妖精が小首を傾げる仕草をする。
あまりに相似した二人の妖精は、少し目を離してしまうと、どちらが元のテイルなのか外見での判別はできない。
その一方の妖精は、自分と全く同じ姿をした妖精を見て口を開いた。
「うーんボクは知らないなー。もう一人のボクに聞いてみてよ」
肩を竦める動作をした妖精はビャクへと近寄り、先程自らに問われた事に応える。
「勇者とは何か? あの時のビャクさんの答えを簡単に表せば……英雄と戮者は表裏一体って所かな?
うん、そうだね……英雄としての偶像なら、まずは自分以外の誰かの承認を受けなくちゃいけない。
光の勇者なら、光の眷属たちのね。
ガイアには自称もいるけど、魔物と戦ってれば、一応街の人たちもそれなりに勇者として認めてくれる。
そして闇の眷属や魔物にとっては……まあ戮者って方の印象かな。
ビャクさんの考えは、役割としての勇者を的確に表していると思うよ。
でも、ボクは勇者って存在に対して、もっと抽象的な考えを持ってるんだ」
妖精が視線を向ける先は、無人の大講堂。
まるで無数の椅子に見えざる観客が座っているかのように。
「そうだね……ボクが承認する勇者とは、物語の最後のページを閉じられた者たちさ。
最後の選択を誤らずに物語を終えた者、それが勇者。だから別に戦士である必要は無い。
だけど、竜の王に“世界の半分をやろう”なんて誘われて、エンディングに至れなかった者は勇者失格だ。
きっと彼が、ううん、彼ら偽勇者がやり直すにはリセットしなきゃいけないだろうね……世界を」
声音には何処となく冷たい響き。
言い終えると、妖精はクルリと踵を返して廊下へと出てゆく。
「さぁて……此処は置いといて、ボクはあっちの方を探してみようかなー?」
- 29 :
- >22-23
アヤさんが、嘘感知の魔術をかけ、彼らが概ね真実を言っている事を証明してくれた。
>『これで、子供にどうやって赤ちゃんが生まれるのかを聞かれても困らないな。
もちろんキャベツ畑から生まれる!そうだろう?ハッハッハ!』
「さっすがイョーベールさん! よく分かってるじゃ〜ん!」
イョーベールさんと一緒になって笑う。世界が違っても、向こうのイョーベールさんにそっくりだ。
>『……敵が来るよ。ううん、攻撃が来るって言った方がいいかな?』
もう一人のボクが発した言葉に、一瞬緩んだ場の空気が再び張り詰める。
その提案により、ボク達は魔法学校の校舎に入っていく。
>24
>「……誰か――!!誰かいませんか!?俺達は、敵じゃありませんから
。いたら出てきて下さい!!」
ヒノさんが呼びかけると、影のような存在が一瞬姿を見せた。
ビャクさんがいち早く反応し、それを攻撃する。
「生存者の人だったら出てきて! 敵じゃないからさ」
当然反応は無く、静寂が辺りを支配する。
>「そう言えば、オーシア魔法学校は勇者の支援組織と聞きました。
フェアリー=テイルは、内部構造に付いて思い当たる点などはありませんか?
重要な物を安置する場所や、大勢の人間が隠れらそうな場所などに」
オーシア格闘大会の時の記憶を呼び覚まして考える。
「魔道具技術室……。
色んな魔導装置があって、バラグさんの魔力補充も出来たはずだ」
>28
もう一人のボクが、勇者とは何かを語る。物語の最後のページを閉じられた者。
勇者の導き手であるボク達妖精が、物語の語り手となるための条件。
それは、勇者達が最後の選択を誤らずに物語を終える事だ。
不意に、背筋が凍るような恐怖を覚える。
世界を滅ぼそうとする者達は皆、成り損ないの元勇者と言えるのではないだろうか。
ボク達も最後の選択を誤れば、そうなってしまうのかもしれない。
>「さぁて……此処は置いといて、ボクはあっちの方を探してみようかなー?」
「おっと、こんな時に一人になるのは死亡フラグだ」
もう一人のボクを追いかけて廊下に出る。
- 30 :
- 宇宙力猛吹雪ユニバースフォースブリザード。
- 31 :
- >>26
>「気をつけろ!何か居るぞ!」
「え……!?」
ビャクの声に動揺し、思わず周囲を見渡す。
しかし映司の視界には何も映らない。
>「ヒノ、背後に何者かがいますッ!」
その最中、アンクにはビャクの放った剣が影に当たったかのように見えた。
しかしそれは霧のように一瞬で消え去り跡形も無くなってしまう。
「……やはりな。やはり”あいつ”か……コソコソと隠れる卑怯者の
ヤツらしい。」
アンクは口元を歪めて校舎を見渡す。
確実にまだいるであろうその影の主を見つける為に。
そのアンクの耳元で声が聞こえる。
「……アンク、いつまでそんな連中に手を貸している?
俺達の目的を思い出せ……力を取り戻し、世界を喰らう。
そう、この何も無くなってしまった世界のようにな……!!」
アンクは思わず1人廊下に駆け出し、声の主を探る。
「やはりなぁ……!!貴様がこの世界を潰したのか?
チッ、隠れてないで出て来い……ウヴァ!!」
叫んだアンクの足元に割れたコインが転がってくる。
それは黒煙を上げると同時に全身を包帯でくるまれたような
異形の怪物へ変化する。それは欲望の半身、クズヤミーと呼ばれる怪物である。
「……チッ!!この雑魚が!!……は、離せぇええ!!
おい、俺のメダルを返せ!!返せぇええええ!!」
次々に出現するクズヤミーに飲み込まれるようにアンクは
その身を封じられようとしていた。
その背後では緑色のジャケットを着た長身の男が
アンクから奪ったメダルを手にほくそ笑んでいた。
「フッ、情けないぞアンク。これでオーズには変身出来ない、
この世界で野垂れ死ぬがいい。」
【アンク、クズヤミーによりメダルを奪われ体を封じられる】
- 32 :
- エターナルフォースフレイム。
- 33 :
- 【>>29-31】
重要な物が安置されていそうな部屋は何所かとの質問に、テイルは魔道具技術室と応えた。
では、まずそこに向かいましょうと言いかけて、アヤソフィアが違和感に気付く。
広めの講堂内を見回すと、一人姿が欠けている……アンクの姿が。
二人のテイルが室内から出る前、すでに何者かに囁きを受けたアンクは講堂から廊下へと出ていたのだ。
「また……ヒノ、アンクの個人行動癖は治らないのですか。
彼は未知の場所での単独行動が生存確率を著しく下げる事を、一度良く思い知るべきです」
アヤソフィアが部屋の出入口を目で追った時、其処からは激昂とも呼ぶべきアンクの叫び声が流れてくる。
誰かが外にいるのだろう……彼に声を上げさせた何者か。おそらくは先刻の緑の影の正体が。
「……急ぎましょう。今回は彼も宝探しに興じているわけではないようです」
アヤソフィアが外に出ると、待ち受けていたのは全身に白い布を巻いたような者たち。
特定の地域では死者に包帯を巻いて保存する慣習が存在する。
彼らの風体は、まるでそれらの屍たちが棺の中から蘇ったかのようだった。
しかし包帯の覆われていない部分を見れば黒く、さらには顔の中心にも単眼にも似た漆黒の大きな円。
アンクは……その人とも魔物とも判別出来ない者たちに、腕を、足を、胴を掴まれて、身動きを封じられていた。
「貴方がたは何者ですか?オーシアの関係者なら我々は敵ではありません。アンクを解放してください」
アヤソフィアが屑ヤミー達の背後に陣取る男へアンクの解放を要求するが、その応えは攻撃と言う形で返って来た。
屑ヤミーの一匹が、アヤソフィアに向かって大振りに腕を振るう。
この正体不明の怪人達は頭が良くないようで、攻撃を試みる際の動きを冷静に見極めれば、楽に攻撃を躱す事が出来た。
上体を捻じって相手の攻撃を躱すと、アヤソフィアは短剣を抜いて屑ヤミーの左肩に渾身の突きを入れる。
刃は水面から跳ねる小魚の如く。刃を受けた相手は壁へと叩きつけられた。
「……敵対的行動と認識しました。ならば実力行使で彼を解放して貰いますが宜しいですか?」
倒れた相手を視界に収めて警戒したまま、緑のジャケットの男に切っ先を向ける。
謎の人物はガイア風の格好では無い。異世界人なのだろうか。
アヤソフィアは浮かびかけた疑問を振り払う。
相手の正体を測るより、まずはアンクを戒めから解放するのが先決と思えた。
接敵しての交戦はビャク、ヒノに任せて、後方での援護に努めるべきと数歩後退する。
剣を交えて屑ヤミーの戦闘力を測った結果、彼らなら容易に制圧するだろうとの感触を得ていたから。
「えっ……あ……ッ!」
彼女には理論で全てを計ろうとする傾向があり、計算外の事態には弱かった。
だから……壁に叩きつけられて倒れた屑ヤミーが、咄嗟に手近な魔術灯(ランプ)を投げつけるのを避けられない。
無様な転倒。辛うじて頭部を守れたものの背を強かに打った。
再び緑のジャケットの男に視線を向けると、彼は人では無い姿へと変じていた。
鍬形虫の鋏を思わせる一対の角、腕には鎌、緑の複眼と胸部。印象は何処か変身した火野の姿にも似ている。
アンクにウヴァと呼ばれた魔物が激しいスパーク音を立て、頭部に太い光の束を生んだ。
次の瞬間、そこから放たれた光条が無数に枝分かれして、廊下全体を駆け巡る。
遮蔽物の無い廊下で、幅いっぱいの空間に撃たれた雷撃は回避困難。
今から防御魔術を詠唱しても間に合わないだろう。
「……これを最初から狙っていたなら、たいしたものですッ!」
アヤソフィアは目を強く閉じて、迫りくる電の嵐に耐える準備をする。
- 34 :
- かなり広い上に教室やら様々な部屋が多いので探索に時間がかかると思った矢先
アヤソフィアの目星を付ける重要な質問によりこの世界側のテイルは知らないと答え
こちら側のテイルは魔道具技術室という場所があることを思い出したようだ。
>「勇者とは何か? あの時のビャクさんの答えを簡単に表せば……英雄と戮者は表裏一体って所かな?
うん、そうだね……英雄としての偶像なら、まずは自分以外の誰かの承認を受けなくちゃいけない。
ビャクさんの考えは、役割としての勇者を的確に表していると思うよ。
でも、ボクは勇者って存在に対して、もっと抽象的な考えを持ってるんだ」
自身が述べた答えを的確と言ってのけたこの世界のテイルは更に自分は抽象的な認識だと答える
しかし、ここでも言いようの無い疑念が浮かぶこの感覚は説明のしようが無いが
まったく異なる世界軸の者は此処まで変わるのは不思議ではないのだが
>「そうだね……ボクが承認する勇者とは、物語の最後のページを閉じられた者たちさ。
最後の選択を誤らずに物語を終えた者、それが勇者。だから別に戦士である必要は無い。
きっと彼が、ううん、彼ら偽勇者がやり直すにはリセットしなきゃいけないだろうね……世界を」
その答えを聞いて思わず自虐の意味を込めた笑みを浮かべた
己自身が至った判断も優先順位いや自分の中で勝る物が上で違えば必ず辿っていた道であるからだ
それを否定する事は出来なかった。なぜならば自身も既に幾つもの世界を滅ぼしている者だから
しかし、この言葉は世界を滅ぼす者だけに向けられているのか?他にも向けられる存在にも言っているようにも聞こえなくも無いが
「ふふ…確かにその通りかもしれんなあながち否定が出来んな
完璧な強者なんて者は存在しない―全てを貫く事ができる者なんて本当に一握りだがな」
結末に至るには様々な事がありそれを綺麗にまとめようなんてのがそれこそだれかに仕組まれたことだ
愛する人と世界を天秤に賭けた時、それこそ綺麗な結末ではなかったが。
>「さぁて……此処は置いといて、ボクはあっちの方を探してみようかなー?」
>「おっと、こんな時に一人になるのは死亡フラグだ」
二人のテイルの内一人が廊下に探索に出て、単独行動を危ぶんだこちら側のテイルが追いかける。
さすがにこのまま二人を放っておく事も出来ない。
「待て、一人で追跡するにも危ないぞ!」
追いかけたこちら側のテイルの方を追い、その背を追いかける
廊下に出た時追ったはずのこの世界のテイルが消えてしまった。
それも忽然と
「居なくなった…?こんな短時間にか!?」
当たりを見回してもすぐに音もなく消える場所などありもしない
神隠しにあったように消えてしまった。
「どう言う事だ…?何か居るのか?」
暫し呆然としそうになったが、警戒するように無命剣を構えて
周囲を確認するように見通していた。
- 35 :
- >34
廊下に出るも、こちらの世界のボクの姿は見当たらない。
ややこしいので、こちらの世界のボクを以後テイルBと呼ぶ事にする。
「どこー? ふざけて隠れんぼなんかしてる場合じゃないんだから」
>「居なくなった…?こんな短時間にか!?」
しかし、テイルBの捜索は、突如聞こえてきた叫び声によって後回しになる事になった。
>31
>「……チッ!!この雑魚が!!……は、離せぇええ!!
おい、俺のメダルを返せ!!返せぇええええ!!」
「この声は……アンクさん!?」
>33
声が聞こえた場所に駆けつけた時、先に駆けつけていたアヤさんがすでに戦いを繰り広げていた。
アンクさんは、ミイラ男のような者達に全身を拘束されている。
それを助けに行こうとしたアヤさんが、ランプを投げつけられて転倒する。
「アヤさん!? 今行くよ!」
ボクが駆け出した一瞬後。
ミイラ男達のボスのような長身の男が、異形の姿へと変身し廊下いっぱいの幅の雷撃を放つ。
「頼んだよ、ソフィア――!」
アヤさんの所まで走り、エレメントセプターの魔法防御結界を展開する。
- 36 :
- 「アヤさん!?アンク……それにお前は!!」
廊下に出た映司は、突然訪れた脅威に身構える余裕すら無かった。
アヤソフィヤの目前に、異形に変化した長身の男の放つ雷撃が
降りかからんと迫る。
その刹那、ソフィヤの防御結界がその攻撃を間一髪、さえぎった。
「お前は……グリードの、ウヴァ……!!そんな、封印した筈なのに。」
驚きを禁じえない映司の言葉に、ウヴァがその禍々しい右腕を突き出し
高らかに叫ぶ。
「俺は、蘇ったのだ。今度は、封印されるようなヤワな存在ではなく
世界すら喰らう存在として!!アンクからメダルは貰った……
最早貴様らなど脅威でもないわ!!」
ウヴァの放つ雷撃が映司の足元をかすめる。
倒れこんだアンクを守るように立つと、その手でウヴァの胴体を押し上げて
タックルを喰らわせるようにぶち当たる。
「俺やアンクを恨むのは勝手だけど……みんなが住む世界だけは!!
うぉおおおおお!!」
必死のタックルを放つ映司だが、ウヴァは身じろぎもせず
せせら笑う。
そしてその禍々しい両腕の鎌で映司の体を切り裂いた。
赤い血と、銀色のメダルが映司の体から飛び散る。
それを見たアンクは、映司が徐々にグリードになっているという
事実を改めて知るのだった。
「がっ……がはっ……ア…アンク」
それでも尚、アンクを守ろうとする映司。
しかしウヴァはその身を踏みつけ、前進する。
その全身に強力な雷撃を溜め込み周囲のクズヤミーを弾丸のように
ソフィヤの結界へ飛び込ませていく。
「……異世界人ども。そんな結界など、ぶち壊してくれるわ!!
やれ!!」
【ウヴァ、結界を突破して雷撃を放つべく突撃。攻撃を受け映司重傷】
- 37 :
- 12世紀から13世紀に掛けて、西欧の錬金術師達は人工生命を創造しようと、様々な生物の属性を凝縮させたメダルを作り上げた。
錬金の秘術が生み出したメダルは、意図して不完全な状態に置かれた事で、完全な状態を渇望するようになる。
やがて飢餓的に高まった欲望が自律した意志へと進化を始め、メダルを核とした肉体を構成するに至った。
誕生した生命体は強い欲望を持っていたが、それが満たされたとしても精神の充足を感じない。
従って際限なく何かを欲し続ける。己に足りない物を満たそうと人間や世界を喰らう。
欲望から生まれ、他者の欲望を糧とするが故に、彼らには相応の名前が付けられた……グリード≪強欲≫と。
この世界に現れたウヴァなる怪人は、昆虫の属性を織り込んだメダルを核とするグリード。
虫の外骨格に似た強靭な肉体を備え、腕の鎌と頭部から作り出す雷を武器とする。
過去に火野に封印されたらしきウヴァは、何らかの要因で蘇り、彼の持つメダルを狙って異世界まで追って来たのだろう。
【>>34-36】
ウヴァの攻撃範囲内には、一瞬にして枝状の紫電が張り巡らされた。
迸る電光は雷神が腕を一振りしたかの如く。それがアヤソフィアの手前の空間で弾けて霧散する。
電撃を阻んだのは虹色に揺らめく半透明の壁。駆けつけたテイルが咄嗟に張った魔術障壁であった。
目を開いたアヤソフィアが己の身を確認すると無傷であり、髪の毛一本すら失ってはいない。
「この障壁は……フェアリー=テイルですか。感謝します。
フェアリー=テイルは、引き続き魔術障壁の展開をお願いします!
ビャクは敵の迎撃を、ヒノはアンクの救助を!」
アヤソフィアが振り返って言うと、テイルの背後では火野が驚愕の色を表情に浮かべていた。
続いて口から発された、お前はグリードのウヴァ。そんな……封印した筈なのに。との二つの言葉からアヤソフィアも理解する。
講堂内で火野の背後に現れた緑の影こそが、ウヴァと呼ばれた者であり、虫の魔人が明確に火野映司を狙っていた事も。
火野は捕らわれのアンクを見ると、即座に張られた結界を越えて彼の元へと駆けていた。
受ければ無事で済むとは思えない閃雷の鞭を紙一重で躱しながら。
「……ヒノ!? 生身では危険です!」
アヤソフィアの制止にも火野は止まらない。
アンクがメダルを奪われた事で変身できなくなった火野は、己の体を武器として体当たりするという信じ難い行動に出た。
当然の如く、常人の力では錬金術が生みだした超生命に抗するべくもない。
ウヴァの鎌が宙に躍ると、火野は傷痕から銀の破片と赤い飛沫を散らせて地に倒れ伏す。
アンクの持っていたメダルを奪い、火野を打ち倒し、ウヴァの標的は此方に移ったようだった。
防御結界を弱めるべく、無数の屑ヤミーに生きた徹甲弾となる事を命じ、ウヴァ自身は再び電撃を生成する。
『喰らえ!虫けらどもが!』
荷電した空間が耳障りな音を鳴らす。
直後、頭部を眩く輝かせて昆虫のグリードがプラズマの砲撃を放った。
結界で防がれた最初の一撃に倍する雷の奔流が、結界を貫いて此方側にまで幾本もの枝を伸ばす。
「ぅ……くっ……!」
アヤソフィアが表情を歪めて苦痛の声を上げる。
結界は雷を完全に防ぐには至らないまでも、威力を減じさせ、即死の破壊力には届かせないようだった。
しかし屑ヤミーを用いて弱められれば結界の消滅も時間の問題。その前にウヴァの電撃を止めなければならないだろう。
- 38 :
- 結界手前に近づいて来るビャクとテイルに向かって、アヤソフィアは敵に視線を向けたまま手短に戦況を説明する。
「あの怪物が火野やアンクを狙っていたようです。推定の名称はウヴァ。見ての通り雷の力を自在に操ります。
ヒノとアンクは両名とも結界の向こう側で負傷。ヒノには……早急な救護が必要でしょう」
血溜まりに倒れる火野の姿を見てアヤソフィアには焦りが生じていた。
彼を失ってしまうのではないかとの……。
火野が言っていた、自分に出来る無理をすれば良い、との言葉には自己の死も内包されていたのだろうか。
今にも恐怖や悲嘆に転じて混乱しようとする感情を抑えて、アヤソフィアは敵の攻撃を観察した結果を小声で伝える。
「魔物の雷は間断無く放たれる訳ではなく、僅かに止む瞬間が有ります。
どうやら雷を溜めてから放つという行程には、一呼吸程度の時間を擁するのでしょう。
雷が途絶えた瞬間に全員で一時に攻撃すれば、かなりのダメージを与えられると思われます」
何をするのか細かく打ち合わせるだけの余裕は無い。
各自が最適の判断で行動するだろうと判断して、アヤソフィアは敵を攻撃すべきタイミングだけを伝えた。
『ふん……内緒話は終わったか? 何をしようと貴様らなどコアメダルの力を得た俺の前には無力だがな!』
高圧的に言い放ったウヴァが、頭部に纏わせた雷を発射する。
浴びれば一瞬で火柱と化すような雷柱が、七色に輝く魔術障壁に叩きつけられた。
それが結界の最後……そして此方側が攻撃に移る瞬間。
「我が記憶の海より、欺きの色と形を掬い上げる。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、偽りの姿を世界に映し出せ――illusion」
広範囲の攻撃魔術や投擲攻撃を使用すれば、魔物が回避した際に背後の火野達まで傷つけてしまうだろう。
従って、アヤソフィアは敵の目的につけ込む事にした。
彼女が魔術で作り出したのは、今までに見た事が有る十数枚のセルメダルの幻影。
相手の狙いがこれであるならば、瞬間的な判断を鈍らせる可能性が有ると踏んだのだ
「貴方が欲しいのはこれですか? ならば受け取りなさい!」
アヤソフィアは、触れれば消える幻影のメダルをウヴァの足元に投げつける。
それを無視できずに思わず手を伸ばしたウヴァは、掴んだ瞬間に消えた事でセルメダルが幻影である事に気付く。
攻撃を掛けるのに充分なだけの隙を晒して。
- 39 :
- 結局、この世界のテイルは忽然と姿を消したときアンクの叫び声が聞こえた事に対し
テイルと共に向かうとそこにはクワガタのような火野が変身するよう物に近いベルトを持った異形の存在が
その周囲にはミイラ男のような者達が居り、アンクを拘束していた。
アヤソフィアにクワガタの怪人による電撃を間一髪テイルの魔法障壁により防がれるが
>「お前は……グリードの、ウヴァ……!!そんな、封印した筈なのに。」
「顔見知りか?味方だったというわけでもなさそうだが」
火野は奴の事について知っているようだ恐らくアンクも知っているだろう。
>「俺は、蘇ったのだ。今度は、封印されるようなヤワな存在ではなく
世界すら喰らう存在として!!アンクからメダルは貰った……
最早貴様らなど脅威でもないわ!!」
「俺やアンクを恨むのは勝手だけど……みんなが住む世界だけは!!
うぉおおおおお!!」
そう言った後、オーズの力も使わないままウヴァに体当たりを仕掛けた瞬間
ウヴァの攻撃により、身体から赤い血と本来の人間ならば決して出るはずの無い銀色のメダルが同時に流出する
その光景を見た時、この男は人を半ば辞めてでも誰かを救い続けてきたことを身を持って知ることとなり
自分の胸の中に激情が湧き上がる。
そんな時、二撃目の電撃が一回目と違い貫通し威力を弱めているもののアヤソフィアにダメージを与えてしまう。
>「あの怪物が火野やアンクを狙っていたようです。推定の名称はウヴァ。見ての通り雷の力を自在に操ります。
ヒノとアンクは両名とも結界の向こう側で負傷。ヒノには……早急な救護が必要でしょう」
どうやら雷を溜めてから放つという行程には、一呼吸程度の時間を擁するのでしょう。
雷が途絶えた瞬間に全員で一時に攻撃すれば、かなりのダメージを与えられると思われます」
現状と彼女の相手の攻撃に対する分析を聞いて攻撃の隙を突いて相手を倒す一撃を加えれば良いようだ
彼女はその隙を作るべく、幻影魔術を唱える。
そして同時に一瞬で無命剣から杖の状態に変えてからその先を向けて
同時に詠唱する。常人が使えば魔族と呼ばれる最悪の存在の者を生み出す可能性がある
この世界ではないどこか別の発展しながらもとても強力な魔法を
「我・法を破り・理を超え・破軍の力・ここに得んとする者なり・・・爆炎よ・猛炎よ・荒ぶる火炎よ・焼却し・滅し・駆逐せよ・我の戦意を以って
・敵に等しく滅びを与えよ・・・我求めるは完璧なる殲滅!」
>「貴方が欲しいのはこれですか? ならば受け取りなさい!」
幻影を投げつけた瞬間、狙点周辺の気流も制御する事で制御力を上げ、より遠くに、威力を集中して、精密に攻撃できる技を
アンクに極力傷つけぬようにヤミー達を巻き込むように
「<マキシ・ブラスト>イグジストッ!」
ウヴァやヤミー達に向かうように
杖の先から放たれる熱と衝撃が触れるもの全てを完膚なきまでに破壊し、目標領域を徹底的に殲滅する一撃が放たれる。
- 40 :
- >「我が記憶の海より、欺きの色と形を掬い上げる。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、偽りの姿を世界に映し出せ――illusion」
「フン!!何をしようが無駄だ!!」
ウヴァはアヤソフィヤの唱える言葉を鼻で笑うと
接近戦にて確実に倒すべく更に前進する。
>「貴方が欲しいのはこれですか? ならば受け取りなさい!」
>アヤソフィアは、触れれば消える幻影のメダルをウヴァの足元に投げつける。
その刹那、ウヴァの目の前に大量のセルメダルの幻影が出現する。
欲望の権化であり、単純な気質を持つウヴァにとってはそれは気を削がれるのに
充分過ぎるものだった。
「こいつは……!!俺の、俺のものだぁあ!!」
セルメダルを手に掴もうとした瞬間、予測し得なかった
声と衝撃がウヴァの目前に現れた。
>「<マキシ・ブラスト>イグジストッ!」
周囲のクズヤミーを掻き消しながら、その鮮烈な一撃は
ウヴァの全身にも直撃する。
「う、うがぁああああああ!!だ、誰だキサマァ!!」
大量のセルメダルを撒き散らしながら、 後退しふらつく
ウヴァの隙を倒れこんでいたアンクは見逃さなかった。
すぐさま、ウヴァの懐へ飛び込むとその胸部から数枚のメダルを抜き取る。
「や、やめろ……そ、それを返せ……」
アンクの手にあるのは、緑色のメダルが3枚。
ウヴァの体と、力を形成する最も重要な「コアメダル」に違いなかった。
「映司、お前のお陰だな。礼くらいは言っておいてやってもいい。」
地に伏せる映司を横目に、アンクは逃げようとするウヴァを睨みつける。
『逃げるだなんてさぁ、赦さないよ。ウヴァ。』
這いずるウヴァの背中に、数枚のコアメダルが突き刺さる。
謎の影が消え去ると同時にウヴァの体が小刻みに震えながら
校舎の壁を突き破る。
「よせ……暴走はいやだ。やめろ、やめろぉおおおおおお!!」
- 41 :
- 「ガァァアアアアア!!」
校舎の上空に浮かぶのは大量のコアメダルを飲み込み
暴走状態となったウヴァが巨大な触手で地面を破壊しながら
突き進んでくる。
「チッ……暴走したか。」
――「アンク、そのメダル。使うしかないでしょ。」
舌打ちをし、焦るアンクの横で地に伏せていたはずの
映司が立ち上がる。
既に血の気は無く、手からは数枚のセルメダルがこぼれ落ちていた。
そして、アンクの手元にある緑のコア3枚を指差す。
「お前……その体でこいつを使うつもりか?
どうなっても知らないぞ。」
意外にも映司を気遣うようなアンクの言葉に映司は
少しだけ微笑み、オーズのベルトを巻く。
アンクは渋々ながらも、3枚のコアを投げつける。
「――変、身!!」 ―『クワガタ・カマキリ・バッタ!! ガータガタキリバ・ガタキリバ♪』
映司の全身を緑色のオーラドライブが包んでいく。
頭部にクワガタの力、胸にカマキリの力、そして脚部にバッタの力を
宿した昆虫のコンボ『ガタキリバコンボ』へ変身したのだった。
「皆さん……俺が奴を引き付けます!!その間に総攻撃を!!」
そう言うと、オーズの姿が幻影の如く数体に分離し
暴走ウヴァへと突撃していく。
【ウヴァ暴走→重症の映司ガタキリバに変身し突撃】
- 42 :
- >36
>「お前は……グリードの、ウヴァ……!!そんな、封印した筈なのに。」
他の世界で封印された筈の、世界の脅威となる存在が、今ここに立ちはだかっているらしかった。
レヴィアタンの仕業か――それともデミウルゴスの差し金か?
>「俺やアンクを恨むのは勝手だけど……みんなが住む世界だけは!!
うぉおおおおお!!」
止める間もなく、ヒノさんは生身で突撃していった。
切り裂かれた傷口から、銀色のメダルが散る。
彼は、自分を犠牲にして戦うあまり、人間では無い物になりつつある。
完全な状態を渇望する魔物になりつつある――!
この世に、完全なもの以外認めない事ほど恐ろしい物はないのだ。
「もうやめて……ボクには分かる、キミは物語の最後のページを閉じるべき人だ。だから……」
こんなに頑張ったら駄目だ。
適度に適当な位じゃないと、息切れして物語の最後まで走れない。
>「……異世界人ども。そんな結界など、ぶち壊してくれるわ!!
やれ!!」
- 43 :
- >38-39
クズヤミー達が結界の力を弱めていく。
「結界が……!」
だが、結界が消えた瞬間、アヤさんが反撃のチャンスを作り出す。
>「貴方が欲しいのはこれですか? ならば受け取りなさい!」
唱えるは、全てを焼き尽くす火炎の魔法。
敵を一人残らず殲滅する灼熱の獄炎。
「ファイアストーム!」
>「<マキシ・ブラスト>イグジストッ!」
奇しくも、ビャクさんの渾身の一撃と同属性だった。
ウヴァは、ひとたまりもなく息も絶え絶えになって逃走を開始する――。
>40-41
勝利は確実かと思われた。だが。追いつめられたウヴァが暴走した!
ヒノさんが、重症の状態で、我が身を省みず変身する。
>「――変、身!!」 ―『クワガタ・カマキリ・バッタ!! ガータガタキリバ・ガタキリバ♪』
「ああもう! 頼むから怪我人は大人しくして!」
彼にはいくら言っても無駄だ。こうなったら早くウヴァを倒すしか選択肢はない。
エレメントセプターを構えて狙いを定める。
「完全になんかならなくたっていい、在りのままでいい――」
これは、ウヴァに対しての言葉と見せかけて、ヒノさんに対しての言葉。
「――プリズミックレイ!!」
虹色の魔法の光がウヴァに照射される。
これは、アンデッド化や洗脳された者達を本来の姿に戻す魔法だ。
ウヴァに対しては、彼を元のメダルに戻す力が作用するだろう。
- 44 :
- 【>>39-43】
ビャクとテイル、両者から放たれた魔力が赫灼たる紅蓮の檻を作り出す。
ウヴァを中心とした円柱状の空間は、今や地上に現出する焦熱地獄が如く。
灼熱の内なる者は、輝ける火焔の舌に全身を嘗められ、苦痛が生じる間も無く灰塵に帰した。
灼熱が生じる境目に居た者は、半身から火を噴いて転げ回り、絶叫を残しながら焼失した。
アヤソフィアは魔術の威力に、畏怖が入り混じった嘆賞を漏らす。
「なんと凄まじい……竜の炎すら上回るのではないでしょうか。
ヒノやアンクに、余波が及んでいなければ良いのですが……」
ビャクが気流制御で攻撃範囲を限定していなければ、猛り狂う火精の輪舞は、火野達まで灰に変えたかも知れない。
そう思わせるに足るだけの痕跡も、床の上には残されていた。
真紅の魔炎が消え去ると、溶融した石材の一部は赤熱する溶岩と化していたのだ。
その沸々と音を立てる火色の石畳の上では、黒い影が宙を掻き毟っていた。
炎に呑まれ、緑の外骨格を黒く焦げ付かせながらも、強靭な生命力で辛うじて命を保った昆虫のグリードが。
苦悶するウヴァが声を上げて後ずさると、その隙を突いて走り寄ったアンクが掴めるだけのメダルを胸から抜く。
狂騒の向こう側に火野の姿を確認すると、アヤソフィアの心はようやく安堵を得た。
「どうやら巻き込まれてはいないようですね……。
まずは火野の治療を優先し、衰弱している敵を捕獲して情報を得ましょう」
力の源を失ったウヴァは倒れ、這いずり、そのまま力尽きるかと思われた。
不意に現れた黒く凝る半透明の腕が、幾枚ものメダルを瀕死のグリードの背に突き刺し、暴走に導くまでは。
錬金の秘術から生まれた超生命であるが故に、暴走に依って元の金属としての性質が強められたのだろう。
手足を備える肉体を失ったウヴァは、無機質な鉄色の正八面体に変質してゆくと、要塞の如き姿を天空へ浮かべる。
自身の体から発する光の帯で、周囲の空間にセフィロトの樹の如き、円と線で構成された図形を描いて。
異様な物体の出現に、アンクが暴走したか、と吐き捨てていた。
「暴走とは……いったい何故……?」
訊き返す声は掻き消される。地響きの唸りにも似た破壊と崩落の轟音で。
オーシア魔法学校の二階から上は、ウヴァが姿を変えた瞬間に巨体に押し潰され、半壊してしまっていた。
砕け散った大量の瓦礫は、無数の銀色のメダルに変化し、ウヴァであった物体に吸い込まれて巨大化を加速させてゆく。
暴走するウヴァの能力をガイア世界の何かに喩えるなら、かつて天空都市エリュシオンに存在した破壊装置が近いだろう。
地上の命全てと引き換えに、魔を滅ぼすという魔導機械に。
今のウヴァも周囲の物質全てをセルメダルへと変化させて吸収し、世界を無に還すまで動き続けるのだから。
- 45 :
- 【>>41】
無差別破壊を行う巨大飛行物体を見た火野は、アンクが奪ったメダルで変身するとアヤソフィア達を向いて言った。
>「皆さん……俺が奴を引き付けます!!その間に総攻撃を!!」
「分かりました。ですがヒノ、一つだけ言わせてもらいます。
一人が出来る無理には限界が有りますが、皆で力を合わせれば、その限界も広がります。
私は貴方に死んで欲しくない……死ぬつもりの無理ならば許しません!」
アヤソフィアの言葉を背に、分身したオーズが跳躍する。
全身に包まれた装甲で、彼の表情は誰にも窺い知れない。
アヤソフィアは味方全員に向けて、物理的な防御力を向上させる魔術を唱え始めた。
相手の巨体を考えれば、気休め程度の効果しか上げないと知りながら。
「我、作りしは見えざる鋼の障壁。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、彼の者を守る盾となれ――――protection」
この戦いで自分は何が出来るのだろうか……先刻、ウヴァに浴びせられた炎の半分すらも作り出せない自分に。
防護魔術を仲間に掛け、後は歯噛みするだけなんて情けなさすぎる。
アヤソフィアの胸に自らへの憤りの炎が灯った瞬間、虹色に煌めく光線がテイルの杖から伸びて空に放射された。
テイルは暴走するウヴァに対して、何らかの魔術を唱えていたようだった。
しかし、巨大な多面体の周囲に描かれた光の図形が盾となって地上から投射された光線を阻み、蒼穹へと拡散する。
アヤソフィアの見た感じでは、宙に浮く物体に変化の兆候は見られない。
「フェアリー=テイル、今のは何を……?」
アヤソフィアの疑問には、宝珠の姿を取ってテイルの手中に収まる竜が答えた。
精神と肉体に生じた異常を元の状態に戻す、状態解除の魔法を使ったのだと。
「暴走状態を解除して元の状態に戻す……考え方は間違っていないと思います。
ですが、周囲に光の力場を張り巡らせているアレに魔術を通すには、魔力の絶対量が足りなかったのでしょう。
魔力の集積場を作る魔術か、内部に膨大な魔力を蓄えている物があれば……」
言い掛けて、アヤソフィアは先刻のテイルの言葉を思い出す。
魔道具技術室には色んな魔導装置があって、バラグさんの魔力補充も出来た筈、との言葉を。
この魔法学校の内部には、他者に魔力を供給できるような代物があるのだ。
「フェアリー=テイル、魔道具技術室に魔力を供給できる物があるのは確かですね?
今の術は魔力を増幅して撃てば通るかもしれません。貴方も一緒に付いて来て下さいっ」
そうテイルに言葉を掛ける。有無を言わせずに引き摺って行かんばかりの剣幕で。
上方から長く伸びる触手に蹂躙され始める校舎を見て、アヤソフィアは切迫した表情でビャクに言葉を残す。
天井を失って瓦礫に満ちた廊下を駆け始めながら。
「ビャク、しばらく火野をお願いしますっ。
無論、破壊が可能なら私たちに遠慮する事なく、あの物体を破壊してしまっても構いません!」
【>>テイル 共に来るよう促し、魔道具技術室に向かって疾駆】
- 46 :
- >44-45
「デミウルゴス……お前の思うようにはさせない!」
周囲をセルメダルと化しながら吸収していくウヴァ。
さながら、世界を喰らう無の化身。
暴走ウヴァは、ボクが放った究極の純化の魔法を、いとも容易く阻んだ。
奴が纏う光の図形が、強力な魔法結界になっているようだ。
「くそっ、効かない……どうすれば!?」
重傷且つ存在までも不安定になっているヒノさんや
同じく力を発揮しすぎると危ないビャクさんに頼るしかないのか?
そう思った時、アヤさんが、名案を出した。
>「フェアリー=テイル、魔道具技術室に魔力を供給できる物があるのは確かですね?
今の術は魔力を増幅して撃てば通るかもしれません。貴方も一緒に付いて来て下さいっ」
今はそれに賭けるしかない以上、そうする以外の選択肢はない。
「お願い、少しの間だから持ちこたえて!」
アヤさんと一緒に、魔道具技術室に向かって駆け出す。
校舎の中央部に位置する、魔道具技術室に到着する。
校舎自体が巨大な五芒星結界になっていて、ここはその中心に位置すると聞いた事がある。
部屋の真ん中に、魔法陣のような装置がある。これが魔力増幅装置だろうか。
雑然と各種マジックアイテムが置かれているので、アヤさんにも役に立つものがあるかもしれない。
『しかし奴の防御結界は並大抵の魔力では突き破れぬ……
テイルが最大限まで魔力を蓄えたとしても足りるかどうか』
『いいから早く乗りなよ』
ソフィアがぼやいていると、不意に、さっき消えたはずのテイルBが現れた。
しかも7頭身の戦闘形態になっていて、すでにかなりの魔力を蓄えているように見える。
「今までどこに!?」
『こんな事もあろうかと”向こう”に行って魔力を蓄えてきた』
元の世界にいた時に見えたような気がした妖精はやっぱり彼だったのか?
そんな事を思いながら、魔法陣のような装置に乗る。
「君は世界を渡る手段を持っている。そうでしょ?」
魔力充填完了して、装置から降りながら問う。
テイルBはそれには答えず、代わりに念を押した。
『行くよ、チャンスは1回きりだ。同時に当てなきゃ突破できない!』
「大丈夫だよ、ボクはキミだもの」
その言葉通り、魔力の充填によってボクも戦闘形態になったから、やっぱり瓜二つ。
アヤさんとテイルBと共に、ウヴァと戦っているヒノさんやビャクさんの元へ向かう。
「今行くよ、みんな無事でいて――」
- 47 :
- テイルの放つファイヤーストームとの相乗効果を含め自分達に立ちはだかる
敵対者を焼き払う紅蓮の灼熱地獄により火野やアンクを除き全てを焼き払ったに見えたが
そんな業火の中を?い潜り這い蹲る虫の如く辛うじて生き延びた者がいた。
>「う、うがぁああああああ!!だ、誰だキサマァ!!」
「不運だな、そのまま焼けていればこれ以上苦しまずに済んだ物を
楽にないというのも考え物だな」
醜くもそんな状態になっても逃げようとするウヴァを憐れみながらも
アンクにコアメダルを引き抜かれた時に、動きが這い蹲ったまま停止した。
戦闘が無事終わり杖の切っ先を地面に置こうとしたとき、突如現れた黒い腕により
事態は一変する。背中に数枚のメダルが入った直後、ウヴァの叫ぶ
>「よせ……暴走はいやだ。やめろ、やめろぉおおおおおお!!」
その言葉が断末魔のように聞こえた後、その姿は先ほどとは違う形に変異して行き
あっと言う間にその姿は姿形状を留めずに奇妙な正八面体の要塞のような形になる。
>「チッ……暴走したか。」
その状態を見てアンクはそう呟く。周囲のものを破壊しながら大量のセルメダルへと変えていった。
しかしそれと同時に抑えられていた永久闘争存在の力が意志が泉から湧き上がるように溢れ始める
だがまだこの地に施された何らかの術か仕掛けのお陰なのか奇跡的にギリギリだが自我を保つ事が出来ていた。
気づいた直後に周囲を見ていたら、オーズが傍に居た事に気づき重傷であったことを思い出し
自分の身の事など棚に置いて湧き上がる感情をぶつける
「馬鹿者が!!下手をしたら死ぬぞ!命を少しぐらい惜しめ!」
火野にこのようなことを言っても無駄なのは百も承知だが
少し自分の命の執着のなさに危なさをかなり感じているが
もう起きてしまった事はどうしようもない。
テイルがなにやら魔法を掛けたようだが恐らくは何らかのこちらに有利にする物のようだと推測した
そんな状態の中、アヤソフィアがこちらに声を掛けてくる
既に永久闘争存在化しつつある証で半ば自由意志が消失している証である虚ろな緑の瞳を隠し
向き直る。
- 48 :
- >「ビャク、しばらく火野をお願いしますっ。
無論、破壊が可能なら私たちに遠慮する事なく、あの物体を破壊してしまっても構いません!」
「引き受けた…!せいぜいお前達が見せ場がある所まで
取って置けるまでかは分からんがな」
意志を保つので精一杯でも皮肉を込めた笑みを自然に出来るように意識しながら
悟られぬよう、テイルやアヤソフィアの背を見届けた後
再度目の前に居る無差別に破壊を繰り返す正八面体を向き直ると同時に
杖の状態から無命剣フツノミタマに戻し変身したオーズに向かって
「無命剣よ!我が命の輝きで病を癒せ!!」
オーズに光り輝く暖かい光りが周囲を包む
病など内面の治癒をしそして負ったはずの傷を当人の身体に無理の無い程度の回復速度を促進させた。
フツノミタマは本来治療に関することにも高い能力を発揮するが代償として己の全ての力を使い果たす
敵を屠る技と治療する技は同時には滅多に使えないが、今は永久闘争存在化により力が有り余るほどの力が湧きあがるため
回復速度を速めることも可能だが、それは当人の本来の治癒速度を早めてしまい負荷を掛けて寿命を減らすことになってしまう。
「オーズ、お前は此処で死ぬべき存在ではない…
無理をするな生き残る事を考えろ」
閉じていた目を開けてから告げてから問題は目の前のウヴァの暴走体は
あいも変わらず周囲の物をセルメダルに変えているこのままでは意識を完全に失うのも時間の問題かもしれない
自分を今でも繋ぎとめている存在がこの校舎という建物に施された物ならばいつ効力が消えてもおかしくない。
なんとか自分が意識のある間には倒したいと考えていたが
とある事が思い浮かび、無に返す正八面体を恐れぬように素早く近づき迫ってくる触手と落ちたセルによって出現する
立ち塞がる屑ヤミー達を最初に尋常ではない数の黒い十字剣を突き刺してから大規模な爆破によって薙ぎ払い、次々と湧き上がるヤミーを
炎が纏った無命剣により斬り捨てながら既に常人を遥かに超えた速度で上手く場所を確保しながら
ようやく間近まで来る事には成功するが正八面体を全て無に返す力を加え防護するエネルギーシールドらしき物と発動していると思われる
物理・魔法の種を問わず、またどれほど凶悪な破壊力であろうと、お構いなしに外部からの攻撃の一切を無効化するという反則的な代物
無敵結界が発動し、反発するように力と力がぶつかり合うしかし
特性的に次第に中和するように成って来ていた。永久闘争存在化の力を確認出来た時作戦を実行する。
「互いに反発している所に更に別の膨大な力をぶつけそれごと食い破る!
オーズ!!共に打ち込むぞ!無命剣よ!我が命の輝きで道を照らせ!」
オーズにタイミングを教えて指示した後
その言葉と共に剣から強大な炎の嵐が巻き起こり、それは自身に押し留まる事の無い流れる力をそのまま流し続けながら
バリアを突き破ったが、その炎の流れは治まらず寧ろ勢いを増していき触手やヤミー達の攻撃は絶え間なく続いていたが
彼らを焼き尽くすほどの業火が彼の周りに渦巻き広がっていった。
- 49 :
- >>45>>46
>「分かりました。ですがヒノ、一つだけ言わせてもらいます。
一人が出来る無理には限界が有りますが、皆で力を合わせれば、その限界も広がります。
私は貴方に死んで欲しくない……死ぬつもりの無理ならば許しません!」
無理を押し通す映司に、アヤソフィヤの言葉が重く響く。
しかし、目の前にある危機を止めれるかもしれない力が自分にある以上
戦わずにいられなかった。
「はい……!!必ず、戻ってきます!!」
勢いよく飛び上がると、分身能力で増えたガタキリバコンボの
軍勢が一気呵成に触手を切り裂いていく。
カマキリのメダルの力が、コンボの特質により極限にまで研ぎ澄まされ
次々に触手を撃破していく。
「やったか……!?いや……」
アンクが目にしたのは、破壊された触手すら瞬時に再生してみせる
暴走ウヴァの脅威だった。
周囲の物体をセルメダルに変え、受けたダメージを瞬時に回復しているのだろう。
アンクはアヤソフィヤとティルが一計を得たと感じ、オーズへ時間稼ぎを促す。
「映司ぃ!!あいつらが戻ってくるまで何とか持ちこたえろ!!」
>>48
>「オーズ、お前は此処で死ぬべき存在ではない…
無理をするな生き残る事を考えろ」
ビャクが映司を諭すような声で呟く。
しかし、その周囲では信じられない程の力を感じさせている。
彼自身にも、重大な異変が起きていることを映司が気付くには
充分なものだった。
「ビャクさんも無理をしているんです……俺も、出来るだけ。
出来るだけをやるだけですよ。――ウォオオオ!!」
降りかかる光弾を弾きながら、オーズは暴走ウヴァの本体へと迫る。
しかし、1体また1体と触手に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる
ガタキリバコンボ。
劣勢に傾きかけたその時、ビャクの声が悠然と轟いた。
>「互いに反発している所に更に別の膨大な力をぶつけそれごと食い破る!
オーズ!!共に打ち込むぞ!無命剣よ!我が命の輝きで道を照らせ!」
「ビャクさん……!!はい!今……行きます!!」
その瞬間、アンクは地上に叩きつけられたオーズの元へ駆け寄り
その手に握られた朱色の3枚のメダルを見せる。
「炎か……確かにウヴァにはいい作戦だな。ヤツは炎に弱い。
再生能力も弱るかもしれないな。ガタキリバは負担がでか過ぎる。
――こいつを使え。」
- 50 :
- 「これは……クジャク、コンドルのメダル。それに、タカ?
お前、どうして……」
アンクの手からこぼれ落ちたのは、自身の体を形成する
タカのメダルだった。
このメダルはいわば彼自身。これをオーズに預けるという事は
自らの命運を託すという意味になる。
「映司、お前を信用してるわけじゃない。ただ、借りを返してやりたいだけだ。
あのクズどもで、俺を甚振った借りをな。
――アヤソフィヤ達が動いた。奴らに考えがあるはずだ。」
オーズは躊躇無くそのメダルを手にし、オーズドライバーへ装填する。
「分かってるって。お前、お前の意思があるなら…少しは体への負担が
減るってくらい。」
アンクはしばし空を見上げると、少しだけ口元を歪める。
そして、セルメダルの山を残し消えていく。
その目には欺瞞も、悪意も存在しなかったように見えた。
「変身ッ!!」 ―タカ・クジャク・コンドル!! タージャ〜ドル♪―
オーズの体が、真紅のタジャドルコンボへと変貌する。
炎と飛行能力を操る鳥類のコンボである。
ビャクの放った炎が周囲のヤミーや触手を焼き尽くさんばかりの
力を持ちながら本体へ迫る。
「うぉおおお!!セイヤァァァ!!」
それと同時にオーズが背中から発生させた翼で飛び上がり、腕に
装備した盾「タジャスピナー」にメダルを装填し、極大のエネルギーを充填する。
『ギ・ギ・ギガスキャン!!』
オースキャナーから電子音声が流れ出し、真紅のエネルギーがビャクの攻撃に
加勢するように撃ち放たれる!
『映司!!拙い……避けろ!!』
しかしその刹那――同時に暴走態の本体から放たれた光が、攻撃により硬直したタジャドルコンボの
身を打ち落とした。
『アヤソフィヤ……!!』
アンクは祈るように言葉を吐いた。次に託すべき者の名として。
【タジャドルに変身、ビャクと同時にウヴァへ攻撃するが
反撃を受け相手には直撃せず】
- 51 :
- 【>>46】
アヤソフィアはテイルを伴って振動する廊下を走り抜け、幾多の魔道の品を収蔵する保管庫に辿り着いた。
最初に目に飛び込むのは入口近くの粉末、丸薬、塗膏の類、禍々しい色彩の魔石。金器銀器の煌びやかな骨董。
次に鳥や獣の姿を模した魔法象に、円柱型の水槽で手足を掻くホムンクルス。万色の液体で口までを満たす瓶の林。
それらの奇態な品々を差し置いて、一際目を惹くものがあった。
室内の中央部に置かれた装置。表面に無数の魔昌石が埋め込まれ、盤上に複雑精緻な魔法陣が構築される台座だ。
そして、その魔導機械の前には、テイルの戦闘形態と同様の姿をした長身の妖精が待ち構えていた。
「アナタは……今までどこに?」
最前の戦闘中に姿を消した妖精を見て、アヤソフィアの口調が責めるような響きを持つ。
虹の羽を持つ妖精は、そんな質問を興味なさげに撥ね付け、テイルへ向かって魔力の供給を促がす。
己に相似する妖精に促がされ、テイルは魔法陣に乗って魔力の供給を受け始めた。
微細な魔力の電光が魔法円を駆け抜け、テイルに魔力が注がれてゆく。
その間に、アヤソフィアは荒らす様にして室内を探し始めた。
「魔導機械そのものを持って行く事は……無理ですね。
魔昌石のような魔力変換を可能とする魔道具があれば良いのですが……それも出来るだけ高出力の」
魔術や物理的手段を用いて、解錠と破壊を繰り返す姿は、知らぬ者が見れば災害に乗じた賊にも見えただろう。
アヤソフィアが、厳重に施錠された箱の中から蒼い真球の宝石、ブループラネットを見つけるのは容易かった。
強烈な生命の波動が、閉じた箱を通してでも伝わって来たから。
宝石を手に掴んだアヤソフィアは、箱のプレートに書かれた簡素な説明文を口に出す。
「ブループラネット、触媒を使わずに莫大な生命力を紡ぎ出せる水の魔石。
生贄を用いる魔術では代用品と為りそうですが、これを魔力に変換する事は可能なのでしょうか……?」
三柱の神が作った魔石の内、これだけは複数存在しており、オーシア魔法学校でも一つを確保していたようだった。
アヤソフィアが、さらに他の魔道具を探そうとした時、テイルが魔法機械の台座から降りた。
もう他を探す時間など無い。止むなくアヤソフィアも二人の妖精に続いて部屋を出て走った。
疾駆する左右では轟音が響く。背後でも建物の倒壊が進んで、幾つかの部屋が崩れる天井に呑まれていった。
- 52 :
- 【>>47-50】
アヤソフィアは恐るべき破壊を耳に聞き、臭いを鼻で嗅ぎ、舌の上にも味わい、次いで目に映す。
再び戦場へ戻ると、荒野だった大地には無数の炎が踊り、空は瘴煙の薄布で覆われていた。
まずは煙の中で浮揚する巨大な立方体が目に留まり、続いて溢れる魔物の群れと、それに斬りかかる戦士達が映った。
瞳に緑の焔を宿したビャクは、燃え盛る霊剣を振るって道を切り開く。
火野は肉体を覆う甲冑の色を、昆虫の緑から、不死鳥の炎色に代えていた。
自在に宙を舞い、盾から真紅の光弾を撃ち出し、彼はウヴァの作る光の力場の表面に赤熱する大きな痣を作り出す。
ビャクは負荷の掛かった一点を狙い澄ますと、霊剣から噴き出す火焔を突き刺して光の力場を相した。
火焔は嵐となって大きく燃え広がり、浮遊するウヴァを紅蓮の海に沈没させる。
轟く重い金属音。ウヴァの接地した大地が無数のセルメダルに変じた音のようだった。
直後、鳥の力を宿したオーズが反撃の光を浴びて高く打ち上げられ、大地への滑落を始めてゆく。
>『アヤソフィヤ……!!』
アンクの姿はどこにも見えなかったが、アヤソフィアは彼の声を遠音に聞いた。
その言葉に込められた意味を察して、二人のテイルに向かって叫ぶ。
「フェアリー=テイル、術の用意を!狙うのはヒノとビャクで開けた光の力場の穴です!」
アヤソフィアは標的の動きを止めるべく、自分も呪文の詠唱を始めた。
今さら火球の魔術程度で、何かの足しになるとも思えない。
やるべきなのは確実に切り札を切らせて、無駄撃ちをさせない事である。
「全てを奈落の底へ引く力。万物を大地に繋ぎ止める力。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、重力を強めて見えざる重き枷となれ――――gravity」
見えざる不可視の力が、空に浮かぼうとするウヴァの動きを鈍らせ、重力操作の有効範囲に留める。
重力場なら敵の体内に向かう必要が無く、力場を突き破る必要も無い。
さらには巨大な相手にも、小さき者にも、相応の力として働く。
双児の如き妖精の一方は、動きを鈍らせた標的に杖を向け、無邪気とも言える微笑みを浮かべて言った。
『それじゃ、どこまでやれるか見せてもらおっか。
奇跡の起こらない世界での奇跡の起こしっぷり。勇者達の力をね』
アヤソフィアはテイルの術の発動を見届けることなく、自らの魔術の完成と同時に疾走する。
そして、疾走しながら更なる魔術の詠唱を始めた。
ウヴァを地に繋ぎ止めたのとは逆の力。重力を弱めてヒノの落下を遅らせる術を。
激しい動作の最中に、魔術が必要とするだけの精神集中を行うのは、極めて至難である。
しかし狂的なまでの集中力が、アヤソフィアに走りながらの呪文詠唱を可能とさせた。
「全てを奈落の底へ引く力。万物を大地に繋ぎ止める力。
無限なる円環を満たす不可視の力よ、重力を弱めて我が意のままに落下を制御せよ――――falling control」
重力制御の魔術はオーズを効果範囲に捉え、大地へ墜落せんとする勢いを弱める。
墜ちて来るオーズの真下で、アヤソフィアは彼を受け止めるべく腕を伸ばす。
「ヒノッ……!」
【>>火野 重力制御の魔術で大地へ滑落する勢いを緩め……受け止める】
- 53 :
- age
- 54 :
- >52
ヒノさんとビャクさんが、必死でウヴァを食い止めていた。
二人とも人間では無くなりつつあるのが分かる。
>「フェアリー=テイル、術の用意を!狙うのはヒノとビャクで開けた光の力場の穴です!」
アヤさんの声を受け、呪文の詠唱を始める。プリズミックレイとは別の魔法。
これで、ウヴァを倒すだけでなく、ヒノさんとビャクさんも救ってみせる。
「――生きとし生けるものに あまねく降り注ぐ光よ」
アヤさんが、重力の魔法でウヴァの動きを止める。準備は整った。
テイルBと目配せし、呪文を発動させる。
「―― 呪縛の枷を解き放ち 万物を無縫の姿へ還せ」
『プリズミックレイ!』
テイルBの光線が、ウヴァの力場の穴を射抜く。
力場にひびが走るが、破壊するまでには至らない。
「――オーロラオーラ!」
その瞬間、虹色の光のカーテンが降り注ぐ。
オーロラオーラ――プリズミックレイの範囲魔法。
それはその場にいる全ての者に、あまねく注がれる。
「みんな見て、綺麗でしょ。これが、ソフィアが抱く生命の色――」
光は、力場に走る隙間からウヴァの本体に到達する。
断末魔のような、高音の金属音が響いた。
砂の城が風化するように、ウヴァは端からメダルとなって崩れていく――。
- 55 :
- 【>>54】
テイルは両手で握りしめた杖の先端をウヴァの巨体に向け、柔らかな唇で呪文の韻律を力強く紡いだ。
杖を飾る宝石からは七色の極光(オーロラ)が噴水の如く溢れ出し、周囲一帯に幻想的な色彩を付与しながら広がってゆく。
虹で織られた光の垂れ幕は“その場にいる全ての者”に降り注いだ。
それは暴走するウヴァをコアメダルへと戻し、要塞の如き巨躯を無数のセルメダルとして砕け散らせた。
一分にも満たない間、虹色に染まった空間を銀円の雨が降り続ける。
テイルの言葉通り、それはとても綺麗で、とても美しかった。
しかし、極大の解除魔術とて必ずしも万物を元の状態に戻すわけではない。
無数のセルメダルは無生物故にか、元の瓦礫には戻らず、紛い物の銀雪として地面を覆い隠してゆく。
ビャクの手の甲に施された魔術印は解除される事無く、極彩色の光の中でも変わらずに残されたままである。
人ならざる者になりつつある火野も、強い意志で人間の肉体に戻る事を拒めば、解除魔術は完全な効果を上げないかも知れない。
彼が全てを掴める手を求めて強き力を欲し、内へ潜む魔物が去らぬように呼びかけてしまえば……。
さらに、予期せぬ変化を現す者もいた。
アヤソフィアが光の中で力無き呻きを漏らし、オーズから腕を離して両膝を突く。
水で満ちたグラスに針の穴が穿たれたように、アヤソフィアからは生命力が抜けていた。
体に傷が付いたわけではない。血を流しているわけでもない。生命力だけが失われているのだ。
彼女の纏った魔術を阻むケープは、極光の中で千々に崩れると跡形も無く消えてしまっていた。
「くっ……ぅ……」
胸を押さえるアヤソフィアの表情は苦しげで、呼吸すらも労力を要する様だった。
そして……絡みつくような忍び笑いが漏れてくる。
アヤソフィアの右腕に描かれていた虹蛇の呪的紋様が、彼女の全身の皮膚上を泳ぐが如く這う。
くすくすと漏れる笑い声の主は、極光を浴びて命を得たかのような、この虹色の蛇だった。
白い肌に刻印として描かれていた虹蛇は蠢き、アヤソフィアの細い首筋に頭部を落ちつけると女の声で語り始める。
【「うふふっ、お久しぶり。私の声は忘れてなぁい? 私? 私は……」】
止められた言葉は、処刑台の冷たさを孕んで続けられる――――レヴィアの声にて。
【「アヤソフィア=エヴレンのPlayerよ」】
- 56 :
- 【「火野映司にアンクは初耳だったはずよねえ? Playerについては?」】
【「Playerは創造主とか、神、と言い換えても良いかしらぁ?」】
【「そう、このレヴィタンこそがアヤソフィアの神。彼女を創造し、自由意志に干渉し、その人生全てを観劇する者」】
【「でもアヤソフィアの側は私を視る事も、声を聴く事も、存在を識る事も、他の如何なる手段でも観測は出来ないわ」】
【「被造物が創造主を観測するのは僭越だもの」】
異世界に座すレヴィアは、アヤソフィアに描かれた蛇の紋様を通して語る。自らこそが創造主であると。
しかし、音無き静寂の裡に沈むアヤソフィアは、一句たりとも呪わしい狂君主の言葉を聞かなかった。
レヴィアに関わる一切の真実は、知る事が許されない故に。
【「私ね、水のソフィアを食べちゃったの……心臓も脳漿も」】
【「それは竜との同化を促がして、私にソフィアの力を得させたわ」】
【「ガイア人を創造した力でアヤソフィアを創り、境界を操る力で、新生した世界に存在を滑り込ませたってわけよ」】
朦朧とした様子のアヤソフィアを感じ取ってか、レヴィアの声に楽しげな響きが加わる
【「あらぁ、オーロラオーラでとっても苦しそう」】
【「狂気の神との戦いで、“男”さんに掛けた全治の魔術なら即死だったのに……なかなか上手くいかないわねぇ」】
【「前に治癒魔法を掛けたのに、ダメージを受けちゃった事があるでしょう?」】
【「アヤソフィアは、アナタの力そのものを受け付けない……そういう風に創造したの」】
【「何のためにそう創ったのかですって? それはね……」】
【「クモの巣に掛かった蝶を助けようとしたのに、誤って翅をもいでしまう時の……素敵な表情を見たかったからよ!」】
【「アナタ自身の手で誰かの物語を終わらせる! これが一度は神への道を閉ざしたアナタへの報復!」】
【「絶対されない、決してしもしないって宣言したアナタへの回答!」】
【「その衰弱は決して癒えないわ……アヤソフィアは、このまま真綿で首を絞められる様に緩やかな死を迎える」】
【「蘇生しようにも無理よぉ。だってアヤソフィアの生も死も、私が所有しているもの」】
【「これが本物のPlayer。そして駒は駒。自覚なき奴隷。超越者を気取った狐仮面とアズリアにも見せてあげたかったわぁ」】
【「うふふっ、せっかく即死じゃなかったんだから、デミウルゴスとの決戦まで持つといいわねえ?」】
【「くっ……うっ、ふっ……あはははははははははははははっ!!】
爆発する様な哄笑を最後に、レヴィアの声が異界に遠ざかって消えてゆく。
アヤソフィアの全身を這いずっていた蛇の紋様は、位置に寸分の狂いも無く元の右腕に収まっていた。
やがて魔術の極光も完全に消え、荒れ狂う猛火が鎮まれば、残るのは大地を埋め尽くす銀色の海。
オーシアの校舎は数本の太い柱だけが地上に形を留め、その他殆どの建築素材はセルメダルに形を変えて残された。
粗く息を突くアヤソフィアは膝を押さえ、さらに一呼吸置いてから、ようやく立ち上がって、疲労の色濃い声音を洩らす。
「申し訳、ありません……急に疲労が出たようです……私は走った程度しか、していないというのに。
それに……どうやら、校舎の中は、最初から生徒も教師もいなかった……ようですね」
アヤソフィアは、精神にも疲労を滲ませたようで再び座り込む。
レヴィアの声を聞けなかった彼女は、数分の休息で体力を戻すつもりでいた。
流れる時間が敵となった今、それが全くの無駄である事も知らずに。
- 57 :
- 墜落していく中で、映司は不思議と痛みを感じれずにいた。
本当は怖かったのだ。自分が怪物になる事が、誰かを傷付ける存在になってしまうことを
恐れていたのだ。
今は、その恐怖が不思議と遠ざかったように思える。
映司は目を閉じ、運命を受け入れるように「死」を待ち構えた。
―「ヒノッ……!」
その時、アヤソフィヤの声が聞こえた。
同時にその暖かな光に包まれるように、映司は死の瀬戸際から
救われたのだった。
「……ッ、ア……アヤさん。」
変身が強制解除され、振り絞るような声が映司は声を漏らす。
その視界の中では、苦しげにしかし懸命に彼を救おうとした彼女の
顔が浮かんでいるように見えた。
>【「うふふっ、お久しぶり。私の声は忘れてなぁい? 私? 私は……」】
「……まさか。」
映司は薄れ行く意識の中で、声の主を記憶から探し出す。
彼女の名前は、レヴィア。世界を作り変えると宣言した神の如き存在。
>【「火野映司にアンクは初耳だったはずよねえ? Playerについては?」】
【「Playerは創造主とか、神、と言い換えても良いかしらぁ?」】
【「そう、このレヴィタンこそがアヤソフィアの神。彼女を創造し、自由意志に干渉し、その人生全てを観劇する者」】
アヤソフィヤのレヴィアの関係。その真実を聞いた映司の全身を撃ち抜くような
重い痛みが走る。
気を失っていく映司の手から零れ落ちたタカのメダルが再び再構成され
アンクの姿を象っていく。
「なるほどなぁ……アヤソフィヤの創造主。
つまりは操り人形ってわけか。」
>【「その衰弱は決して癒えないわ……アヤソフィアは、このまま真綿で首を絞められる様に緩やかな死を迎える」】
【「蘇生しようにも無理よぉ。だってアヤソフィアの生も死も、私が所有しているもの」】
>「申し訳、ありません……急に疲労が出たようです……私は走った程度しか、していないというのに。
それに……どうやら、校舎の中は、最初から生徒も教師もいなかった……ようですね」
座り込んでしまうアヤソフィヤの肩に、アンクの手が伸びる。
そしてそのまま肩車をすると、姿無き声の主に小さく言葉を漏らす。
「お前も、俺も……作られた存在だってわけだ。
だが、このまま終わらせるなんてのはこの俺が許さないからな。
俺もお前も……生きているんだ。どんな姿でも、どんな世界でもなぁ……!!」
- 58 :
- >55-57
>「くっ……ぅ……」
極光のもとで、アヤさんが苦しげな声をあげる。
解除魔法であるこの魔法が、誰かを傷つけることなんてあるはずがないのに。
>【「うふふっ、お久しぶり。私の声は忘れてなぁい? 私? 私は……」】
忘れもしない、この世界を消し去り、唯一神とならんとする者。
完璧な世界を作り上げようとする者。
――きっと、どこかで少しだけ道を踏み外した、勇者の成れの果て。
「レヴィアタン……!」
>【「アヤソフィア=エヴレンのPlayerよ」】
「なんだって!?」
彼女によると、アヤさんは、レヴィアタンが作って世界に滑り込ませた被造物。
そして、ボクの力が必滅の毒となるように作られた存在。
レヴィアタンがボクに仕返しをするためだけにこの世に生を受けた手駒……。
「うそだ……嘘だ嘘だ嘘だああああああ!!」
レヴィアタンの言う通り、この事実に気付くチャンスはあったのに。
気付いていれば、こうはならなかったのに。
>【「くっ……うっ、ふっ……あはははははははははははははっ!!】
勝ち誇ったような哄笑がいつまでも耳にこびりついて離れなかった。
アヤさんが目を覚ます。自らの正体も、残酷な運命も知らずに。
- 59 :
- >「申し訳、ありません……急に疲労が出たようです……私は走った程度しか、していないというのに。
それに……どうやら、校舎の中は、最初から生徒も教師もいなかった……ようですね」
テイルBがボクを物陰まで引っ張って行って囁く。
「終わってしまった事を今更悔やんだって仕方ないでしょ? 大事なのはこれからの事だ。Playerがいなくなっても被造物は死ぬわけではない。
アヤさんの命が尽きる前にレヴィアタンを倒せば、アヤさんはPlayerが課した特殊ルールから解放される……かもしれない」
Playerがいなくなったら被造物は勝手に生きていく。
そんな事をアズリアさんのPlayerが言っていたのを思い出した。
ボクの力を受け付けない事は、言わばレヴィアタンの恣意によって課せられた特殊ルール。
テイルBの言う事に賭けてみる価値はある。
>「申し訳、ありません……急に疲労が出たようです……私は走った程度しか、していないというのに。
それに……どうやら、校舎の中は、最初から生徒も教師もいなかった……ようですね」
>「お前も、俺も……作られた存在だってわけだ。
だが、このまま終わらせるなんてのはこの俺が許さないからな。
俺もお前も……生きているんだ。どんな姿でも、どんな世界でもなぁ……!!」
戻ってみると、アンクさんがアヤさんを励ましていた。
自分も、出来る限りの笑顔で声をかける。
「ううん。あれを倒せたのはアヤさんのお蔭だよ。本当に助かった。
大丈夫、きっと全てがうまくいくから――」
『良ければ私の中で休んでおくか?』
宝珠化しているソフィアがアヤさんに、自分の中で休むように促す。
- 60 :
- 【>>57-59】
生気が抜けてゆく感覚は、いつまでもアヤソフィアに残ったままだった。
動けぬ彼女を見かねたかのように、アンクが細い腕を掴んで自分の首に回す。
そのまま担がれそうになると、アヤソフィアは身を捩って、それほど体調は酷くありませんと言い掛けた。
しかし、胸の悪心が言い掛けた言葉を止めさせ、アンクの背に体を預ける事を余儀なくさせる。
>「お前も、俺も……“ ”だってわけだ。
>だが、このまま終わらせるなんてのはこの俺が許さないからな。
>俺もお前も……生きているんだ。どんな姿でも、どんな世界でもなぁ……!!」
すぐ傍では、怒りの感情を滲ませたアンクの声。
アヤソフィアの鈍った頭では、その耳元近くで語られた内容すら上手く聞き取れない。
「……アンク。無事でしたか。姿が見えなかったので心配しましたが。
申し訳ありません……しばらくの間、背中を貸してもらいます。
まずは……今までに得られた情報を篩に掛け、今後の行動の指針を決めなければ……」
虚脱するアヤソフィアは、頭を振って夢魔の誘いを跳ねのけ、意識を覚醒の世界に引き戻す。
行動の指針を決めるに当たって再確認するべきは、敵の目的と動機と手段であった。
デミウルゴスが遂行するべき目的は、古代人の倫理観に基づく理想の世界を創造できなければ、全てを壊す事である。
敵対者の動機は重要度が低い。法廷でを行うわけではない。情状を斟酌する必要も無い。だから言及しない。
最も重要なのは手段。デミウルゴスが世界を破壊する為の手段を知り、此方が相手を破壊する手段を知る事。
大きく息を吸い込むと、アヤソフィアは一息に喋る。
「敵の居場所と能力、ついては倒すべき方策を検討する必要があります。
居場所については、ミルゴの言葉だけでは鏡面世界の何処かとは知れても、正確な位置までは特定出来ませんが。
能力は現時点で分かっているものは三点。アルコーンの使役、他者への憑依、異世界への移動能力。
半身のシャードを欠いて本来の力を失っているのか、いずれも直接的に破壊を為す能力ではありません。
ガイア神ですら抗しえなかった憑依は、何らかの対策が必要であると思われます……」
その対抗手段が存在しそうだった校舎は、杭の様に大地を突き刺す太い石柱の残骸を残すだけであった。
目に映る校舎は全壊と言っても遜色無い状態だったが、地下空間は破壊を免れて保持されている可能性が高い。
この地下空間を改めて捜索するべきか。未だ姿を見せぬデミウルゴスを求めて別の地に移るべきか。
方針を決めようにも、睡魔の群れがアヤソフィアの頭の中を踊り、思考を散じさせてしまう……。
縺れる思索の内で沈黙するアヤソフィアは、ビャクと視線が合った。
「……ビャク、この世界の守護者委員会とは連絡を取れませんか?
元の世界では壊滅させられた本部も、並行世界では無事に残っている可能性が有ります。
もし無事ならば、これ程の切迫した事態……すでに彼らも行動を起こした、と考えてもおかしくありません。
異界から来た我々を、すんなり信用してくれるかは別として、連携を取れるなら協力を仰ぎたいものです。
対価として、デミウルゴスのシャードを譲渡すれば、それも可能なのでは。
私は……残念ながら、通信に必要な精神集中すら困難な状態です……」
絞り出す様な声で、アヤソフィアは提案した。
その会話の切れ目を窺うようにして、テイルがアヤソフィアに声を掛けてくる。
微笑みを浮かべ、きっと全てがうまくいくから……と。
続いて妖精の手に宝珠として収まる竜神が、私の中で休むかとアヤソフィアに問う。
竜の声音には、粘りつくように甘く、不快な響きが混じっていた。
絶好の獲物を見かけ、どうやって罠に嵌めたものかを思案する猟師、とすら感じられる程の。
「いえ……重傷を負った訳でも無いので、すぐに回復すると思います……」
アヤソフィアは明確に拒む。宝珠が自らを閉ざす檻と感じて。
話題を逸らしたかった。だからアンクと火野に聞く。ウヴァが暴走する直前の事を。
アヤソフィアは囁くような弱い声で問い掛けた。
「そう言えば……虫の魔人が姿を変じる直前、陽炎のように揺れる影が見えました……。
あれは空間操作の魔術か、それに類した能力で何者かが遠隔からの干渉をしたと思われます。
心辺りはありませんか……? あの魔物の背後で暗躍しそうな者などに。
アンクはウヴァとの名前を知る程度には、魔物とも面識があったようですが……」
- 61 :
- >>60
>「そう言えば……虫の魔人が姿を変じる直前、陽炎のように揺れる影が見えました……。
あれは空間操作の魔術か、それに類した能力で何者かが遠隔からの干渉をしたと思われます。
心辺りはありませんか……? あの魔物の背後で暗躍しそうな者などに。
アンクはウヴァとの名前を知る程度には、魔物とも面識があったようですが……」
レヴィアにより何らかの影響を受けたアヤソフィヤが振り絞るように
アンクへ問いかける。
アンクには、あの声に確かに聞き覚えがあった。
それも、その声の主とはずっと前から傍にいた。
「あぁ……知っているさ。だが、あいつはあいつであって
あいつではない。俺も自分で何を言っているのか分からなくなるが、
確かにあの声は――」
アンクの背後の空間が歪み、その背中を黒色の手が触れようと迫る。
異変を察知したアンクが、その手を掴みあげ震えるような声で叫ぶ。
「やはり――貴様だったか。―――映司。」
空間から現れたのは、火野映司。
アンク達と共に旅をしてきた映司はまだ意識を失くしてその場に倒れている。
ならば、目の前に現れたこの男は誰なのか。
アンクは1つの可能性を考えた。
「お前は、もう1つの世界の映司だな。”メダル”の力に支配され、
自分を失くしたグリード。それが未来の映司。
つまり、こいつは――」
空間から姿を現した映司の両腕と両足は、既にグリードへと変貌していた。
漆黒の、邪悪な恐竜を思わせるその表皮と少しばかりは
残っているであろう人間としての上半身。
そのアンバランスさが不気味さを表している。
「「ウヴァもたいしたことないなぁ。俺がせっかく蘇らせてやったのにさ。」」
映司は邪悪な笑みを浮かべ、倒れこんでいるもう1人の
自分を見つめた。
「「アンク、お前の言う事は正しかったよ。人間なんて、守る価値なんてないんだ。
お前も、こっちに来いよ。楽しいよ、力を使うのは。」」
映司の言葉に対し、アンクは愕然とした表情を浮かべる。
別の世界の彼とはいえ、これは映司自身の未来を暗示しているからだ。
「……アヤソフィヤ、こいつが影の正体だ。
そして、世界を破壊したのもおそらくこいつだろう。」
【グリード化した映司と対峙】
- 62 :
- >60
>「いえ……重傷を負った訳でも無いので、すぐに回復すると思います……」
アヤさんは、ソフィアの申し出を断る。
その声音の中に、ソフィアに怯えているような、警戒しているような気配を感じたような気がした。
「ソフィア――?」
宝珠と化したソフィアを見つめる。
このソフィアは、水のシャードを欠いた不完全なソフィア。
まさかアヤさんを取り込むことで、水のソフィアを取り込んだレヴィアタンを間接的に取り込もうとしているとしたら?
ソフィアの宝珠は相変わらず美しい輝きを放っている。
「――なーんてね」
一瞬とはいえボクは何を考えてしまったのだ。そんな事があるわけがない。
- 63 :
- >61
ウヴァを背後で操る者について尋ねたアヤさんに、アンクさんが答える。
>「やはり――貴様だったか。―――映司。」
もう一人のヒノさんが現れた。
>「……アヤソフィヤ、こいつが影の正体だ。
そして、世界を破壊したのもおそらくこいつだろう。」
信じられないけど、納得は出来てしまう。
私利私欲を捨て世界を救う勇者と、自らの欲望のままに世界を滅ぼす破壊者は表裏一体の存在。
ヒノさんのように純粋に誰かを助けたいと思っていればいるほど――
何かの拍子に世界を滅ぼす者へと転身してしまう。
>「お前は、もう1つの世界の映司だな。”メダル”の力に支配され、
自分を失くしたグリード。それが未来の映司。
つまり、こいつは――」
ボクは、倒れているヒノさんをかばうように立った。
すぐに回復魔法をかけてあげたいところだが、今は気絶したままの方がいいのかもしれない、とも思う。
>「「アンク、お前の言う事は正しかったよ。人間なんて、守る価値なんてないんだ。
お前も、こっちに来いよ。楽しいよ、力を使うのは。」」
「確かに……自分を犠牲にしてまで守る価値なんてないのかもしれない。
そうすればあなたみたいになってしまうのなら――。
でも! お前の欲望のために踏みにじられていい程度の価値では絶対ない!」
>「……アヤソフィヤ、こいつが影の正体だ。
そして、世界を破壊したのもおそらくこいつだろう。」
間違いない。こいつに憑依しているのは――
「”デミウルゴス”! 貴方様を頂戴しにはせ参じた!」
デミウルゴスだけでも世界を滅ぼす存在だが、これは最終目的のための通過点でもあるのだ。
レヴィアタンに対抗するには、破壊神としてのデミウルゴスを倒し、創造主としてのデミウルゴスの助力を手にする事が必須。
「こいつにデミウルゴスが乗り移ってるのだとしたら、まずはデミウルゴスを引きずりださなきゃね。
一番手っ取り早い方法は憑依先の精神力を根こそぎ奪い尽くす事――かな」
と、テイルB。
「それなら――シェイド!」
当たった者の精神力を奪う闇の球を、大量に作り出してぶつける。
- 64 :
- 【>>61】
アヤソフィアに問い掛けられたアンクは、何かを確信しながらも、それを信じられないと言った態であった。
その背後では揺れる陽炎が現れ、影の色で宙に輪郭を象ってゆく。
原始の生物が持つ膂力を備え、薄闇を切り取ったかのように昏い腕を。
その異様な気配を感じ取ったのか、素速く振り返ったアンクが己の背を翳らせる昏黒の腕を掴み上げた。
やはり――貴様だったかと語り、未だ明瞭としない影に向かって名を呼び掛ける……映司と。
アンクに名を呼ばれた事で、黒き腕の持ち主が姿を現す。
黒竜を無理やり人の姿に似せたような半身を持つ……火野映司が。
「……ヒノ……この世界の……ですか?」
アヤソフィアは火野に眼を凝らしたが、僅かな間に視力が衰えたのか、彼の輪郭は陽炎を纏っているかの如く滲む。
しかし、其処から発される声は紛れも無く聞き慣れた火野のものである。
ならば、彼はこの世界での火野なのだろうか……。
違う。明らかに。霞む目でも彼の精神に棲むモノは視える。
異形の半身を持つ者は、人に守るべき価値などない、力を使うのは楽しい、此方に来いと、暈けた視界の中で謳う。
あれが火野である筈が無い!アヤソフィアはそう叫びそうになる。
しかし、アヤソフィアが叫び出す前にアンクが続けた。
彼がメダルの力に支配された未来の火野であり、この世界を破壊したのも彼であろううと。
「あれが未来のヒノ……私には、とても信じられません……」
確かに時は人を変える。白糸も墨の中に沈め続ければ、流水に晒しても色の落ちぬ黒糸に変わり果てるだろう。
それでも彼が此処までの変貌を遂げるとは、アヤソフィアには受け入れ難かった。
身を捨てて戦い続け、得られる未来がこれでは……あまりに報われない。
何とか終点を変える事はできないのか……そんな思案に沈む暇は無かった。
- 65 :
- 【>>62-63】
アンクの言葉を受けたテイルは、未来の火野こそがデミウルゴスの器であると判断して、すぐさま動いた。
精霊魔術にも長けた妖精がシェイド、と呼びかけると、闇の精霊たちは四方八方に球形の黒として現れる。
この闇の精霊たちは、生物に取り付いて精神力を奪う。
墨を吸った筆を振り散らしたような無数の黒点は、弾薬として使うには充分な量と思える。
戦いは開始された。即座に無数の暗黒の球は雨と放たれ、未来の火野たるグリードを漆黒の檻に閉じ込めた。
そこだけが暗く、昏く、冥く、闇い。一切の光なき魔力の闇が標的の精神を削る。
百を超えるシェイドを一時にぶつけたならば、竜すらも昏倒させるだろう。
が、グリード化した火野は禍々しき爬虫類の皮膚から眩き紫の光を発すると、難無く暗黒の檻を消滅させた。
テイルの視線の先には蔑むような化け物の姿。彼は口元に勝ち誇った愉悦を浮かべて嘲笑する。
『傷つくなぁ。デミウルゴスの前座扱いなんてのは』
千切られた闇の破片の後には、代わって吹き荒れる氷雪が現れる。
次の瞬間、幾つもの鋭き氷槍が凍てつく大地から伸びた。
アンクが蹠からの奇襲を躱そうとした拍子に、アヤソフィアは彼の背から投げ出される。
大地に打ちつけられたのに痛みも冷たさも無い。すでに彼女は触覚も鈍っていた故に。
周囲を見渡せば、僅か数瞬の間で何も無い大地に樹氷の森が出来上がっていた。
グリード化した火野が持つ、強力な冷気を操る力の一端である。
最初に攻撃を仕掛けたテイルから仕留めるつもりなのか、彼は細い妖精の体躯を凝眸すると腕を一振りした。
凍結した地肌からは、次々と新たな氷柱の槍が作り出されて地表の空間を抉る。穿つ。突き立てる。刺し貫く。
間断なく生成される氷柱の勢いはテイルの付近が最も激しく、自ら誘いを掛けたばかりのアンクの周辺は最も少ない。
だから、アンクの近くにいたアヤソフィアは一撃を受けるだけで済んだ。
冷たき樹氷の槍が蒼褪めた肌を掠めて血を流させる。決壊する堤防の如く生命力の流出を加速させる。
全身の感覚が鈍っていたのが幸いした。痛覚が生きていれば苦痛に蹲って呻くしか無かっただろうから。
未来の火野が完全な破滅を求める存在ならば、全員が滅ぼすべき対象に入っているはずである。
別の時間軸の火野をしても、この世界での火野の未来は消えない。
同じ存在だから、とりあえず彼だけは助ける、と言う事もないだろう。
アヤソフィアは上体を起こして周囲を見た。
氷の爆発とでも呼ぶべき現象が、そこかしこで起きている。
絶え間もなく地から出ずる氷槍は、しばらくすると砕け、千の破片と化して白霧の濃さを一層に増す
白濁する無明の世界でも何故か火野の姿だけは明瞭に視えた。荒い呼吸に胸が上下している。生きているようだ。
ヒノに治癒を……そう言い掛けて気付く。
短身の妖精も、灰色の戦士も、すぐ傍に居た筈の青年も、複雑に絡む樹氷の格子と、白き闇に溶けて見えない。
その白霧の中で蒼白い灯火として輝く物があった。
先程の攻撃の際に懐から転がりでもしたのか、生命力を発する蒼きブループラネットが凍てつく地面に鎮座している。
これは今の自分には恩恵を与えない無用の長物。使うべき人物は他に居る……火野だ。
自分に僅かの治癒も齎さない生命の石が、火野を目覚めさせるのに役立つのだろうか?
当然の疑問は、心室に掛かった霧が考える事を止めさせる。
いや……自分に出来る無理をするべく、考える事より行動する事を選ばせた。
アヤソフィアが力を込めて手足を動かす。
「ヒノ、己の未来ならば……その未来の己を目に焼き付け……己の手で……」
言葉は続かない。口を塞いでしまったから。
アヤソフィアは蒼い宝石を咥え、口中に収めたまま、倒れた火野に近づかんと、萎えた手足を使って這い進む。
治癒の魔術が使えぬ自分が癒し手となるには、これより他に手は無い。
氷の破片が舞い散る中を這い続ける内に、アヤソフィアの世界から音が消える。
無音の世界の終点では火野の顔が見えた。
ブループラネットに依る治癒効果を最大にするには、直接彼の体内に取り込ませるのが一番だろうと思える。
アヤソフィアは僅かに開いた火野の口に己の唇を近づけると、口移しにて口中に含んだ宝石を呑ませた。
「……己の未来を変えてください」
それが最後の言葉となる――――もはや、アヤソフィアは舌を動かすのも困難であったから。
【>>火野 強い生命力を与える宝石を呑ませる】
- 66 :
- 【一応、生存確認を取らせてもらうわ】
【予定、要望、質問、その他不明な点があれば遠慮無く言って頂戴ね】
- 67 :
- >65
大量の闇球は、相手を飲み込み漆黒の魔力の檻となる。
だが、まるで吹き散らされる塵のように、あっさりと霧消した。
>『傷つくなぁ。デミウルゴスの前座扱いなんてのは』
「さすがに一筋縄ではいかないか……」
敵が攻撃に移った。氷の柱が次々と地面から生えてくる。
程なくして周囲が見えなくなり、相手がどこにいるのかも把握できなくなった。
「ファイアボール!」
火炎球の魔法を連射して防ぐ。
が、容赦ない氷柱の生成速度に追いつかなくなり、間一髪で避ける。
避けるのも追いつかなくなり、氷の槍が肌を掠める。
「うあっ……」
足を滑らせて転んだ。間もなく終わりの瞬間がやってくる。
本当に強大な敵の前に屈する時って、ドラマチックな盛り上がりも無く、こんなにもあっけないものなのか――。
「うおおおおおおおおおお!! ――ライオディアス!!」
聞こえたのは、ヒノさんの咆哮。感じたのは、身を焦がすような熱気。
だけどそれも一瞬。
何事かと目を開けた時には、樹氷の森が跡形も無く消え去っていた。
そして、ヒノさんが、グリード化した自分自身と対峙していた。
『ラトラーターコンボの熱線か――貴様、どうして動ける!?』
「アヤさんが俺に命を託してくれたんだ――だから、絶対負けない!!
お前を倒して未来を変えてみせる!」
アヤさんは、地面に力尽きて倒れていた。
普通の意味の力尽きたじゃない。最後の力を振り絞って、それすらも尽きたという感じで。
「アヤさん……アヤさん!?」
彼女にとっては生命を司る力が毒になる。
ボクに出来る事は、彼女がした事が無駄にならないよう、ヒノさんを精一杯手助けする事だ。
今までの攻撃パターンから、相手は氷属性。ならば炎系の大魔法で焼き尽くすまでだ。
「放霊の時は来たりて此へ集う――朕の眷属、幾千が放つ漆黒の炎――カラミティブラスト!!」
幾百、いや、幾千の炎の槍が未来のヒノへ到する。
- 68 :
- 霧に煙る世界の中で独特の旋律が響いた。
≪LION・TORA・CHEETHA≫ ≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫
直後、烈しい灼熱感を孕んだ声と共に、黄金の火線が氷霧を縦横無尽に貫いて溶かす。
凍れる大地を光を纏った何者かが駆け、白い闇の世界を一片も残さずに破砕していた。
明瞭さを取り戻した大地に立ち、青い複眼で凝然と映司グリードを睨めつけるのは、黒き装甲に金色の手足を備えた戦士。
ウヴァから取り戻したセルメダルで、火野は獅子や虎豹の力を備えるラトラーターコンボの形態に変身していた。
オーズが使ったのは、一瞬で河川をも干上がらせる熱線。
それを映司グリードはすぐさま看破した。彼は未来の火野映司である。
過去の火野が取れる戦術全ては、映司グリードの想像の範疇を越える物では無い。
未来を変えて見せると叫ぶ火野に、映司グリードは告げた。
「お前が味わう懊悩も失意も絶望も、全て俺が一度通って来た道だよ。
つまり……今抱いている希望が、決意が、どれほど虚しいものかも俺は知っているわけだ。
お前は磔刑に処されたキリストの如く、最後には自分が守ろうとする者たちに裏切られるのさ。
侮蔑の言葉を矢と投げられ、理解はされず、僅かな友も無惨に奪われる。
度し難い愚者達を泥の海から引き上げようとして、その重さに耐えかねて、最後には自分も泥の海に沈んでゆく」
火野映司とは別の未来を辿った映司グリードも、世界の平穏を望んで戦った。
その中で幾度も人間の醜さを知り、果ての無い欲望を見せられ、神の存在意義を何度も問い続ける。
やがて途方も無い時の流れに心を蝕まれ、彼は安息の渇望にも疲れてしまう。
異形に変化する肉体を持った彼は、怪物とさえ呼ばれた。
生きれば生きるほど世界に幻滅し、死を望むようになった。
ああ、俺はこのまま狂ってしまうのだろうか。誰にも知られず。孤独に。
かつて葬ったグリード達すら恋しく感じ始めている。
自分と他者を繋いで広がってゆく無限の絆を望んだのに、戦えば戦うほどに絆は失われてゆく。
「泥寧の中で俺は悟った……グリードを生み出した人間こそが真のグリード、救われるには値しないって。
この世界も同じさ。神やら悪魔やらを生み出したのも結局は人の作り出したガラクタだっただろう?
人間こそが最も醜悪な化け物、無窮に魔物を生み出し続ける魔物の根源なのさ。
その開悟が俺に新しい力を覚醒させた……時の螺旋を遡り、過去を変える力をね」
- 69 :
- 【>>67】
不意に鈴の音の如き軽やかな韻律が耳に障り、映司グリードが言葉を切る。
彼が針の如き眼差しを詠唱の主に向けると、複雑な印を結んだ妖精が火霊に働きかけていた。
テイルの周囲には紅蓮の塊が幾つも躍っている。
>「放霊の時は来たりて此へ集う――朕の眷属、幾千が放つ漆黒の炎――カラミティブラスト!!」
力ある音節が妖精の口から流れると、幾百の燃え盛る炎が嵐と放たれ、映司グリードに火色の穂先を突き立てた。
灼熱の炎塊が映司グリードを包んだ瞬間、オーズが大地を蹴って疾駆する。
火野の狙いは、両腕のトラクローで映司グリードの体内から恐竜系メダルを奪取する事。
しかし、獲物を狙う豹の如く迫るオーズの突進も、未来を生きる映司グリードには想像の内。
今のオーズは最速の形態を取っているが、急停止や転回は不得手。
いかに雷速の動きであっても、攻撃位置と仕掛けるタイミングさえ判っていれば止められる。
オーズが仕掛けるであろうタイミングは、妖精が放った魔術の援護が教えてくれた。
テイルの攻撃を無駄にしないように、オーズは必ず連携して攻撃を仕掛けるはずだ。
体勢、軌道、過去の戦いの記憶が映司グリードに火野の動きを正確に読ませる。
映司グリードは、唸りを上げて胸を抉らんとしたオーズの片腕を掴み、冷波の咆哮を上げて身を覆う炎を吹き払った。
オーズの金色の腕が、掴まれた場所から霜を噴いて凍結し始める。
「過去の世界には、未来では破壊されて失われたセルメダルも揃っていた。
恐竜系のメダルも9枚全てがね……。
この凍気は放っておけば肺腑まで伝わって、最後には魂までも凍らせる」
怪力でオーズの腕を絞め上げるグリードは、力の作用する方向を変え、オーズを肉体ごと吊り上げると無造作に投げつけた。
暴君竜の力で投げられたオーズは軽々と宙を飛び、学園跡に聳える柱に一切の加減無く背中から叩きつけられた。
そして……重力に引かれて垂直に落ちると、未だ無数のセルメダルが散らばる大地の上に倒れ込む。
セルメダルは緩衝材としては、さして上等な物では無かったようで、甚大な衝撃を与えたオーズから変身を解除させる。
「俺はメダルに支配されているわけじゃない……自ら求めたんだよ、アンク。
今度は世界の滅亡まで一緒に旅をするってのは、どうだい? 俺達のゴールまでさ」
極寒の瘴煙を背負うグリードは、再び氷霧の薄布を張り巡らさんとしていた。
表情を歪めたアンクが答えの代わりに炎を撃つと、映司グリードの姿は氷片となって砕け散る。
それは、映司グリードが超常の力で作り出した氷の幻像であった。
氷で作られた虚像は、グリードの体から噴き出す瘴煙と共に無数に姿を増やしてゆく。
先程テイルが放った火炎魔術の集中打は、映司グリードの表皮を爛れさせていた。
氷の幻像は再度攻撃される事を厭って、攻撃を分散する囮として作り出されたものであろう。
「アンクなら、最後まで付き合ってくれるかと思ったんだけどなぁ……。
言っておくが、お前はグリードだ。人間に近づけば近づく程、両者に厳然と横たわる溝に苦しむ事になる」
背後から掛けられた声に向かって、アンクが鳥類の赤腕を振るう。
宙に紅蓮の孤月を描く一撃を、映司グリードは己の腕で鍔迫り合い、残った腕でアンクの額に掌底を返す。
勢いで数歩後ろに下がったアンクは、脳を揺らされた衝撃に膝を突いて前のめりに倒れた。
同時にアンクの体から何かが罅割れる時の硬質音が鳴る。彼の本体であるコアメダルが損傷したのだ。
「……メダルだけ連れてってやるよ。過去の俺が持ってる奴も一緒にね」
ビャクに、テイルに、自分に闘気を向ける火野に、映司グリードは紫の陰火を灯した視線を向ける。
物質を無に還す紫の波動こそが、映司グリードの真なる武器。
その虚無の力を掌に宿して、映司グリードは無数に作り出した氷の幻像の一つに紛れた。
「あのシールドは厄介そうだから、お前かららせてもらうよ」
戦場を駆け巡る無数の映司グリードの一体がビャクの背後に迫り、その肩口目掛けて掌底を叩き込む。
その掌には紫の光を伴った虚無の波動。
強烈な負の力は、容易に接触した箇所を分解して致命傷を与えるだろう。
【>>ALL 氷の幻像に紛れつつ、接近して虚無の波動で攻撃】
- 70 :
- >68
>「泥寧の中で俺は悟った……グリードを生み出した人間こそが真のグリード、救われるには値しないって。
この世界も同じさ。神やら悪魔やらを生み出したのも結局は人の作り出したガラクタだっただろう?
人間こそが最も醜悪な化け物、無窮に魔物を生み出し続ける魔物の根源なのさ。
その開悟が俺に新しい力を覚醒させた……時の螺旋を遡り、過去を変える力をね」
「過去を変える力を手に入れたなら――どうして滅ぼすためにそれを使う!?
時を螺旋に例えるなら……同じことを繰り返すように見えて、少しずつ前に進んでいるはずだ!」
>69
>「過去の世界には、未来では破壊されて失われたセルメダルも揃っていた。
恐竜系のメダルも9枚全てがね……。
この凍気は放っておけば肺腑まで伝わって、最後には魂までも凍らせる」
「ああ……! ――ヒールライト」
変身を解除させられたヒノさんに駆け寄り、気休めの回復魔法をかける。
グリードを睨み付ける、と、グリードの姿がどんどん増えていくではないか。
>「……メダルだけ連れてってやるよ。過去の俺が持ってる奴も一緒にね」
どれが本物か分からずに翻弄されているうちに、アンクさんもやられた。
>「あのシールドは厄介そうだから、お前かららせてもらうよ」
どこかにいる本物のグリードから告げられる、容赦無き死の宣告。
次の標的は――強力な防御技を持つビャクさん!?
――その時。
「――フラッシュ!」
呪文を唱えたのはテイルB。ただ強烈な光で辺りを照らすだけの魔法だ。
しかし、氷の氷像の表面に被せられていた幻影が破れ、どう見ても氷の氷像である事が顕になる。
「ビンゴ! 氷の幻影なら強い光を当てれば破れる――!」
本物のグリードが、ビャクさんに掌底を叩き込もうとしているのが見えた。
- 71 :
- 「見切ったあ、――プロテクション!!」
間一髪で割り込んで、エレメントセプターの防御障壁を展開する。
エレメントセプターにあしらわれたデュープリズムは、物質界を司るソフィアの象徴石。
光や闇の力を打ち消す、というイメージが強いが、それは概念的なものの干渉の阻止という事が出来る。
揺らぐ事なく確かに存在する物質界の象徴なら、虚無の力に対抗できるはずだ。
衝突の瞬間――二つの力は相しあい、凄まじい反動となって襲い掛かってきた。
「うわああああ!!」
衝撃にさらされ、派手に飛ばされる。
が、見ればグリードの方も少なからず衝撃を受けて体勢を崩しているようだ。
ビャクさんの口から、聞き覚えのある呪文が紡がれる。
『我・法を破り・理を超え・破軍の力・ここに得んとする者なり・・・爆炎よ・猛炎よ・荒ぶる火炎よ・焼却し・滅し・駆逐せよ・我の戦意を以って
・敵に等しく滅びを与えよ・・・我求めるは完璧なる殲滅!』
「ビャクさん、それは……」
感覚的に分かる、立て続けに何度も使っていいような技じゃない。
だからと言って彼を止めたところで他に手段はあるのか?
逡巡している間に、呪文は完成する。
「<マキシ・ブラスト>イグジストッ!」
呪文は解き放たれ、煉獄の炎が巻き起こる――!
- 72 :
- 「先ほどから聞いていれば貴様があの火野と同じ存在とはな…」
テイルの防護障壁とグリードの一撃で激しい衝突に吹き飛ばされた後
何事もなかったかのようにその手に剣を持ったまま少しずつ近づいていく
その言葉に対して鼻で笑いながらも決してグリードの目を離さぬように睨みながら。
「俺は貴様の言った道を何千、何万と嫌というほど味わい通ってきた
確かに救いようの無いどうしようもない輩もいるのは事実だな
俺も幾度と無く後一歩で沈みかけたが悪足掻きが性根に染み付いてるお陰で
なんとか最近持ち直したがなそれがどうしてかわかるか?」
だが目の前にいるのが立場が異なった上で一歩間違えたら目の前の怪物と同じようになっていただろう
しかしそれでも自身の心に焼き付き、そして信じる者達の笑顔が昨日の出来事のように浮かぶ
それに対する高ぶる感情を抑えられずに叫ぶように
「それと同じように人の温もりや優しさに助けられたからだ!そしてそれを輪のように広げて行こうとする
者達がいることも、周囲を変えていく子供達がいる事も俺は知っている!
人とは負の一面だけが全てじゃない己を省み考え成長していく生き物だ
貴様のそれは諦めでしかない!」
己が手を差し伸べ救い幾度なく裏切られ報われず醜さのみを見せ付けられ絶望に囚われていた
しかし死ぬことも許されず戦い続けていた
そんな自分を救ってくれたのも優しい人たちがいた
人とはとうに理を違え、この手は多くの人達を忘我とはいえ決して許されぬ戮の限りを尽くす
その腕を持つ自身にどうしようもないくらいお人好しで気にしていないくらいの笑顔でその身の危険を厭わず
手を差し伸べてくれた。
そんな俺に家族同然に慕ってくれる子供達も
そうした人達のお陰で胸の内には失望や諦めや絶望だけではなく
忘れかけていた優しい気持ちや思いやりの暖かさが残っている
己を奮い立たせ、己の全てを投げ打ってでも救いたい存在が
この場の者によっては今の彼の周囲には支えるように幻影が立っているように見えるだろう。
今この世界に存在しえぬ者達だが、どこの場所に居ても見守っていると言わんばかりに
「彼らがいるから今の俺がいる…だから
かけがえの無いを彼らのいる場所を守るためなら
俺は喜んで悪魔に魂を売り渡してだって見せるさ!!」
周囲からは風が巻き起こりカッと目を見開く
その身に背負った想いが起こすように
- 73 :
- 渦のように発生した風は次第に勢いを増していく
彼の発する言葉に反応するが如く激しく
『全てには創造から開拓に始まり終焉ならば灰燼に終わる
死と生は同一なりゆえに相克する
死は生を求め生は死を求める
無限と虚無に囚われる者よ求める物はと問えば
解答せし言葉それは―――』
その言葉はまさしく創られた意義を持つ超人にとっては与えられた特性にして方向
解放者達にその力とあり方の膨大な奔流の内ほんの一部を扱う鍵を与えられる
超人刻印(ツァラトゥストラコード)
しかし今回は腕の魔術刻印及び永久闘争化の根源的な力が加わり
比較にならないほどの奔流と化していたがしかしそこに己を見失わず
その流れさえも己の全てへと変えていった―――
肌が赤く染まり、髪は白髪に変わる
オッドアイだったその瞳は黄金の瞳に統一されていた姿から
以前の時よりもさらに増した異様な雰囲気と神々しさの光を纏った
超人―否創造と破壊、無限と虚無を秘めた神人が現れた。
「超人刻印――解放(ブースト)、固有名『無限』『虚無』―維持結合完了(ダブルネームチェンジ)構築完了
真名『全能』超越解放(オーバーブースト)」
それを押し止め、己という存在の中で至ったすべての力を制御し循環させる。
双方の力を上手く放出するために背中には幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり
白い翼と黒い翼という形で力が流出されている
本来ならばその力は神のみが持つ事が許される力
人が持つには強大すぎる力だが双方の力を持った『全能』の力はとてもとても均衡が崩れやすいため極めてバランスが危うい。
しかし、今は完全に自らの物としており雰囲気と相俟って身体からエネルギーが溢れ出るのが視覚面にはっきりと現れていた。
「お前と俺は似ては居ても決して相容れない存在だ、野放しにしていれば
俺の守るべき大切な人達に滅びが向かうだろう
だから今この場で貴様には消えてもらう永久にな!!」
金色の炎が宿った霊剣をかつての己に一瞬重ね、人に絶望してしまった異形の存在に
時空操作で一瞬で背後に周り剣先を突き付けた。
- 74 :
- 【>>70-73】
連携する二人の妖精が、戦況に変化を与えてゆく。
氷晶の幻像は鏡面世界のテイルが生み出した閃光で、全てが氷塊である事を明らかとされた。
もう一方のテイルは光の索敵で映司グリード本体の位置を知ると、即戦の構えを取ったまま、半ば飛ぶ様に駆ける。
写し身の妖精はグリードに向かうテイルを瞳に映しながら、誰にも聞こえざる呟きを口中に響かせていた。
『人工の光源を作り出すだけなら、ボクでも容易い。
でも……世界が必要としているのは、こんな光じゃない。
ミルゴが創造できず、デウスも破壊できない光。
あの光を得られなければ、ガイアは波が訪れる度に崩れ去る砂上の楼閣だ』
映司グリードの動きが、ビャクの背に向けて左腕を突き出したままの姿勢で唐突に止まる。
紫の光を宿した掌を止めたのは、テイルの詠唱で築かれた魔術障壁。
虹色に輝く防護壁は即座に用を為した。虚無の波動と衝突して互いの存在を相する事で。
テイルとグリードの攻防は両者を衝撃で弾き、その間隙をビャクが詰めてゆく。
歩きながら彼は語る。人の温もりや優しさに助けられた事が自らを絶望に堕とさなかった理由であると。
そして、人は成長してゆく生き物だと続け、映司グリードの言葉を諦念と断じる。
「子供達が周囲を変えてゆく……人間が己を省み、考えて成長していく……?
ああ、悪いね。俺は未来には興味が無いんだ。
そもそも、未来を変える為に過去に来たわけじゃない。俺が変えるのは過去だけだ。
今を飲みこんだら過去へ。過去も飲み込めば、さらに過去へ。何度でも欲望を喰らい尽くす。
最後には遡れないほどの過去で最初の欲望を喰らって、全ての欲望を無に還す。それが旅の目的さ。
慌ててゴールまで行かないのは……楽しいからだよ、力を振るうのが」
楽しいだって? 嘘をつけ、グリードの欲望は決して満たされない……。
ビャクに返された虚無王の言葉を聞き咎める様に、喪神から意識を取り戻したアンクが吐き捨てた。
『あいつと同じ顔してグリード気取りってのが、余計にムカつかせるなァ。
おい、映司……いつまで寝てやがる! 使える馬鹿なら、あの使えねえ馬鹿を何とかしてみせろ!
もう一度だけ、こいつを貸してやるからよ!』
アンクは己の胸から真紅のコアメダルを抜くと、火野に向かって投擲した。
もう一度だけ、との言葉を付け加えたのは、その次が無い事をアンクも覚悟していたからである。
≪TAKA・KUZYAKU・CONDER≫ ≪TAJADOR!≫
火野が紅蓮の輝きに包まれ、背中からは真緋の色で燃焼する三対の翼が出現し、彼は再び鳥の力を宿すオーズとなった。
同時にビャクの姿も一変する。魔人の如き鮮血色の肌にも関わらず、神々しさを感じさせる異貌へと。
必然、映司グリードの意識は目前のビャクに向けられる。
「へえ……それだけの力を振るうのは楽しいだろう? 正義やら救済やら未来の為って肩書きが有れば猶の事にな」
映司グリードが冷笑しながら紫の光を両手に灯した。
その虚無なる輝きを烈火の視線で射抜き、ビャクは火と燃える言葉で宣告を下す。
>「お前と俺は似ては居ても決して相容れない存在だ、野放しにしていれば
>俺の守るべき大切な人達に滅びが向かうだろう
>だから今この場で貴様には消えてもらう永久にな!!」
「消えるのはお前だ。その巨大な力と欲望……俺が喰らってやる!」
咆哮する獣の叫びを上げた映司グリードが、ビャクの頭部目がけて破壊の光を帯びた腕を横薙ぎに振るう。
死神の鎌は紫の残滓を宙に残しながら、標的が存在していた空間を確かに切り裂く。
しかし、映二グリードの攻撃で虚無に還るより早くビャクの姿は掻き消えていた。移動先は攻撃者の背後。
刹那、黄金に輝く霊剣がグリードの胸を貫き、その傷痕から砕けた紫の破片を零させる。
「……やるじゃないか。
だけどな、一枚でもコアが残っていれば、セルメダルで何度でも肉体を再構成できるのさ。
無限のセルメダルよ、最も欲望深き者へ集え! 俺の元に来い!」
- 75 :
- 虚無王の発散する欲望で、大地に散ったセルメダルが動く。
但し―――燦たる太陽の炎を纏うオーズに向かって。
「俺の過去に過ぎないお前が、この俺より……強い欲望だと……何故だッ」
手にした斧に、舞い上がる無数のセルメダルを取り込ませながら、宙を駆けるオーズが虚無王の正面に迫ってゆく。
赤熱した火色の刃は、虚無王の肩口を狙って振り下ろされた。
左右への回避は出来ない。ビャクの霊剣がグリードの胸を縫い止めて動きを封じていたから。
グリードの黒い躰には二本の筋が加わった。右肩から左脇腹までと左肩から右脇腹にかけて。
クロス状に裂けた傷口から、霊剣の炎で金赤に焼かれた金属片が勢い良く噴き出す。
「GAAAAAA―――!!」
灼熱する黄金の飛沫が散る中で、虚無の王が長く尾を引く絶叫を発した。
残響に混じる金属の破砕音が、映司グリードのコアメダルが破壊された事を告げる。
瓦解してゆくグリードの躰は、耳障りな軋みを上げながら歪み始めていた。
虚無の欲望に捕らわれた未来の火野映司が、彼の属すべき時空に還るのだ。
それが虚無なのか、元の時代なのかは知れないが。
虚無王が大地に零した融解金属に目を遣ると、蠢きながら一箇所に集まった金属は、ミルゴのシャードと同型の物体に変じた。
それをテイルと同じ姿をした妖精は無造作に掴み上げ、己が似姿のテイルに向かって放り投げる。
『……それがデウス・エクス・マキナのシャードだろうね。
ミルゴのシャードと二つ合わせて、デミウルゴスのシャードってわけだ。
でも、この世界からの持ち出しは彼らが許してくれるかな?
個人所有するには、ちょっぴり渋い顔されそうな代物だけど』
鏡面世界の妖精は、オーシアの大気を鳴動させる東の空を見上げる。
その視線の行方、雲の無い蒼穹の彼方には、幾つもの点が広がっていた。
- 76 :
- アヤソフィアは眠るように倒れていた。
その肌は血色を失い、心臓も鼓動を止め、すでに躯と称すべき物体である。
彼女は何一つ真実を知る権利を与えられぬまま、生の波動を、物語を途絶させた。
まるで最後を看取らせる事すら許さないかの様に、呆気無く抜け殻となった。
彼女には自由意思が無かった訳ではない。
ただ……それは、レヴィアの考え一つで簡単に揺らぐ脆弱なもの。
オーシアへの道中でビャクを恐れたのも、己の存在が感知される事を恐れたレヴィアの意思。
火野を命を賭して助けたのも、無を操る彼の力をレヴィアが欲したから。
寄せていた好意も紛い物。
少なくとも、レヴィアに取っては虚無を操る力を育てて収穫しようと言う計略の一環。
今のアヤソフィアは、食べ残されて捨てられた葡萄の皮に等しい。
そして、この葡萄の皮は捨てられても所有権までは放棄されなかった。
アヤソフィアの生も死も所有する海魔の女王は、彼女が死に際しても軛を外さない。
テイルに奪わせる為の命と魂。始めから蘇生等できるようには創っていないのだ。
温い潮風が茫漠とした荒れ地を駆け抜ける。
風で髪を揺らすアヤソフィアを、不死鳥の意匠を施されたオーズが見つめていた。
それが幻である事を願っているかのように。
しかし……いくら見つめ続けても、彼は幻の光景が消え去らぬのを知った。
『命があっても意思に干渉される。
意思が有っても、命の無い俺とは似てる様で正反対だったな……』
アンクが吐き捨てた灰色の声は、アウグルト海から流れる潮風に溶けて消えた。
- 77 :
- オーシア東の洋上には、百を超える船影。
デミウルゴスを含む、全ての脅威を討滅する任を受けた浮遊艦隊フレーデフェルトであった。
全鑑に戦士を搭載した艦隊が進むのは海では無く空。
異世界から持ち込まれた鋼鉄の船体には、幾つもの砲身が備え付けられ、戦艦とも言っても良い外観である。
その船体の中央から長く伸びるメインマストの最上部には灰色の外套を纏い、金色の長髪を潮風に靡かせた男が立っていた。
髪や瞳の色は違えど、顔の造りは何処となくビャク・ミキストリに似ている。
「殲滅の騎士、調律は如何ぁ? まだ弄って欲しい所はあるぅ? 例えば男の人の真ん中でブラブラしてるもの、とかぁ」
竜の仮面を付け、濃紺色の法衣を纏う人物がマスト上の人物に話しかけた。
ねっとりと絡みつくような甘い声で。
彼女は世界守護者委員会の元老院の一人、ロード・ティアマト。
数ヵ月前から超人計画に携わっている人物である。
『今の所、調整に不具合は無い……ネクタイもだ。
ロード。オーシア跡に例の奴らがいるのは確かだな?』
殲滅の騎士と呼ばれた男は目を眇めて水平線の向こうを見つめながら、甲板に立つロード・ティアマトへと問い返す。
「ええ、いるわよぉ……第一級の封印指定が、ごろごろっと。
巨蟹のアルコーン。巨大金属生命体……は消失。別時間からの干渉者に正体不明の連中。
アースランドと同じように祟天の柱だけは残ってるみたいだけど、他は全部更地になったみたい
現時点でオーシアにいるモノは、もう全部纏めてジェノサイドで良いんじゃないかな」
『島の惨状を見るに、その決定も仕方なかろうな―――金剛杵《ヴァジュラ》よ!』
灰色の外套を纏った戦士が片手を天に翳すと、彼の手の中には先端が三又に分かれた刃を持つ棒状武器が現れた。
金剛杵とも呼ばれる破壊兵器が。
槍にも似たこの武器の能力は着弾した瞬間にスパークし、街数区画分に相当する面積に雷撃の雨を降らせるというもの。
多少の誤差があろうと逃れる事は敵わない、対軍仕様の広範囲攻撃兵器である。
『標的は20キルテ先のオーシア。ゆくぞ……破ッ』
「あ……待って、何か一つ消えてるみたい。ええと観測計器に依れば未来の存在……だって」
制止する女の声は一足遅い。
裂帛の気合と同時に投擲されたヴァジュラは、すでに視認すら出来なかった。
速度は音速。秒速340mで大気を切り裂くヴァジュラは、一分も掛からずオーシアへと到達するだろう。
そして何かに接触すれば、周囲数kmに渡って雷撃の雨を降らせる。
予告なく放たれた雷槍は、耳を劈く風切り音を放ちながらオーシアへと迫っていた。雷そのものの如く。
- 78 :
- >72-75
ボクの足掻きは、無駄ではなかった。二人の戦士が、想いを繋ぐ。
>「お前と俺は似ては居ても決して相容れない存在だ、野放しにしていれば
俺の守るべき大切な人達に滅びが向かうだろう
だから今この場で貴様には消えてもらう永久にな!!」
ビャクさんが突き刺した剣が、グリードの胸を縫いとめる。
だが、グリードはまだ崩れ落ちない。
そこへ、オーズとなったヒノさんが駆ける。その姿は、さながら燃え盛る太陽。
アマテラスの寵愛を受けているみたいだ、と思った。
>「GAAAAAA―――!!」
振り下ろされた炎の剣が止めを刺す。崩れていく虚無の王に告げる。
「安心して、ヒノさんは絶対あなたみたいにはさせないから――!」
後に残った物は、一欠片のシャードのみ――。
「やっぱりデウスに取りつかれてたんだ……」
そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。
>『……それがデウス・エクス・マキナのシャードだろうね。
ミルゴのシャードと二つ合わせて、デミウルゴスのシャードってわけだ。
でも、この世界からの持ち出しは彼らが許してくれるかな?
個人所有するには、ちょっぴり渋い顔されそうな代物だけど』
彼等って誰だろう、と思ったが、今はそれどころではない。
「二つ合わせて創造神デミウルゴスのシャード……
バラグさん! 二つはめればアヤさんを生き返らせれない!?」
が、アンクさんがゆっくりと首を横に振る。
『無駄だ、元より蘇生できるようには作られていない』
>76
>『命があっても意思に干渉される。
意思が有っても、命の無い俺とは似てる様で正反対だったな……』
「……ねえ、この戦いが終わったら、彼女を元いた世界に帰してあげよう?」
例えレヴィアタンの策略のために滑り込まされた結果でも、故郷である事には変わりはないから。
>77
そんな会話は、緊急事態によって中断される事となった。
「――ん? 何か飛んでくるんだけど!」
『あーあ、せっかちな奴らめ。あれは金剛杵《ヴァジュラ》!
着弾した途端に周囲数キロが雷に打たれて黒焦げだ!』
「周囲数キロ!? もう逃げられないじゃん!
みんな集まれ!――ウォーターウォール!!」
皆を周囲へ集め、周りを半球状の水の壁で覆う。
純水は、雷を決して通さない――!
- 79 :
- 【>>78】
大地に突き刺さったヴァジュラは、内包する力を雷の大海嘯と為して噴き出した。
爆裂して広がる閃雷は大気を疾り、地中を穿ち、テイルの張った“水の壁に守られた場所以外の全て”を駆け抜ける。
地上に残る文明の残骸を撃ち砕く。天藍の空に棚引く薄雲すらも千々に引き裂く。
月天(ルナ)にも届かんばかりの勢いで、輝く雷衝の波濤は全てを押し流す。
オーシアには魔術の成果を残す事に生涯を掛けた魔術師がいた。遺跡の財宝を基に壮麗な彫刻を残した盗賊がいた。
翼竜の養殖に励む騎手が。結婚を反対されて島に逃れてきた恋人が。未来を夢見る魔法学校の生徒たちがいた。
しかし……オーシアの人々が紡ぐ物語は、此処に終わってしまった。
いつの日か、虚無なる土塊と化したオーシアに訪れる者達が、荒れ果てた大地に何かの物語を読み取る事は無いだろう。
何処とも知れぬ場所から来た者たちが、何の感慨も愛着も持たず、オーシアそのものを奪い去ってしまったのだから。
残るのは焦げ付いた空虚さ。瓦礫すらも残らない。残るのは一本の柱。それに数名の異邦人。
『テイル、ビャクさん、火野さんにアンクさん、バラグさんにイョーベールさん……やっぱり全員生き残ったね。
アヤさんは光を持たなかったから仕方無いけれど』
水のドームの中に座り込んだ鏡面世界の妖精は、透明な天蓋の向うに見える艦隊を見ながら呟く。
一方、妖精が瞳に映す浮遊艦隊の旗艦“ベルゼナウ”の甲板では、殲滅の騎士が鷹の如き眼で大地を睨みつけて吐き捨てていた。
『まだ生き残りがいるようだ。巨蟹のアルコーンに加えて、まったく気に入らん奴がな。
滅するべき存在と馴れ合っているのは……情でも湧いたか』
殲滅の騎士の言葉を受けて、ロード・ティアマトも地上を覗く。
「あら、攻撃に殲滅の属性を付加してても、大物はあっさり消えないってわけねぇ。
鏡面世界の貴方は死なないから別として、光の神、と分身、境界の神、アルコーン、ゴーレム、ライダー、随分残ったこと。
破壊者デウス・エクス・マキナの波動が微かに存在するのも感じるわ。
あれは危険すぎるから滅。シャードになってるのなら回収しないと。
ベルセルクの調整は、完全に出来てるけど……どーするっ?」
『無用だ。それに言っておくが……私とあの男は決して同一の存在などでは無い』
そう言い放つと、灰色の装束に身を包んだ男はオーシアの大地へ飛び降りた。
竜の仮面を身に付けた女は、ベルゼナウを緩やかに降下させて彼に続く。
後続の艦船に先駆け、いち早く大地に降り立った殲滅の騎士は、水のドームが張られた場所に近づいて来る。
彼はビャクに似た面持ちをしていた。冥界で遭遇した時の氷の表情に。
炯々とした光を瞳に宿して、彼はテイルに述べる。
『……私が何体ものアルコーンを始末している間に、首謀者たるデウスは君たちに仕留められたか。
まずは手間を省いてくれた事に礼を言おう。手に持つそれはデウスのシャードだな? それを渡してもらおうか。
過ぎたる破壊の力は、君の様な無思慮な者が所有するには危険な代物。我々が管理しよう。安全も保障する』
次いで、殲滅の騎士は水のドームの中で巨体を縮こめるイョーベールに凍てつく視線を投げかけた。
ビャクには視線すら送らなかったが、刃の様な気を彼に向けて発散しているのは、誰にでも容易に感じ取れるだろう。
視線を大蟹からテイルに戻した殲滅の騎士は、抑揚を抑えた感情無き言葉を吐いて続ける。
『そして……そちらの大蟹も引き渡してくれ。アルコーンと我々は共存出来ないからな』
- 80 :
- >「消えるのはお前だ。その巨大な力と欲望……俺が喰らってやる!」
だが奴の攻撃は届かない。攻撃がいかに強力であろうとも当らなければ意味は無く
時間よりも早く動く自身の一撃が虚無の王を貫く
そしてもう一人の自身であるオーズはその身に炎を宿し因果を破壊するが如く
終幕の一撃を放った―
>「GAAAAAA―――!!」
消え行く自身がなり得たかも知れない存在に否定した者達の想いの力を込める様に
自然と口からこぼれる言葉があった。
「俺はお前だ、道を違えればそうなっていただろうな…
だがお前が負けたのは力の差じゃない貴様が否定した人間の想いに負けたんだ
お前が否定し諦める最中に俺は進み続けた!それがお前の敗因だ!」
その言葉が完全に終える頃には既に消失し、デウス・エクス・マキナのシャードだけが残る。
自身を信じ、思っている人たちを思い出しながら心のどこかで虚しさも感じていた。
>『……それがデウス・エクス・マキナのシャードだろうね。
ミルゴのシャードと二つ合わせて、デミウルゴスのシャードってわけだ。
でも、この世界からの持ち出しは彼らが許してくれるかな?
個人所有するには、ちょっぴり渋い顔されそうな代物だけど』
彼等――この言葉ですぐにその存在が思い浮かぶと同時にすぐ近くに居ることが分かる。
その予感は当たり、先端が三又に分かれた刃を持つ棒状のそれ金剛杵《ヴァジュラ》がやってくる
>『あーあ、せっかちな奴らめ。あれは金剛杵《ヴァジュラ》!
着弾した途端に周囲数キロが雷に打たれて黒焦げだ!』
この言葉からして間違いなくこの世界の守護者委員会だろう
しかし、すぐ近くから犬の鳴き声がするそちらの方向に目を向けていると
小さな震える子犬と子供を庇う様に身を屈める母親の犬が居ることに気づく
「ッ!!ふざけるなこれ以上―」
必死に生きている者達の命を奪わせてたまるか――
テイル達に居る場所から離れている犬達の場所反射的に一瞬で時間操作で移動し抱き抱える
しかし彼らの元に戻る前にヴァジュラは大地に突き刺さるともう間に合わない
庇う様に抱き抱えたまま、すぐに浮遊し障壁を張って輝く雷衝の波濤を凌いだ。
しかし仮にも神にも達した存在であるゆえ、地を洗い流した雷といえど全力を込めた
障壁を貫くことは不可能である。
そんなビャクの光景を宇宙と大気の狭間から見つめる一つの存在があった。
小さな命に対してでも全力で手を差し伸べた彼に対してその心意気に感心するように
笑みを浮かべて眺めていた。
「さぁて、そろそろ仕事のようだ我ながらこの性格は悩ましいが
今更変えるなんてのは今までの積み重ねの否定だからな」
そう呟いて地上近くの観察を続けていた。
- 81 :
- 地を洗い流し、全ての物を奪い去った雷が消え去った後障壁を解除する。
腕に抱える犬の親子の無事を確認すると内心ホッとする。
しかしそれも束の間だった。
すぐ近くに感じたことのある存在の気配がこちらに迫ってくる事に
ゆっくりと視線を向けると確かに自身の顔にどことなく似ている男がやってくる。
それに続いて艦隊も降りてくるそれは間違いなく討伐艦隊―世界守護者委員会所属に間違いなかった。
男は間違いなく自身に似て非なる存在、恐らく出自もまったく違うのだろう。
彼に対してそこ等にいる他人の空似―そういった印象しか抱かなかった。
「なるほど、この世界ではどうやら超人計画は次元共生群理想郷(アルカディア)ではない所で
推し進められていたようだな」
自身が生まれた出身世界―国に近いコミュニティ(共通意識の元に集まる組織・集団)についてポツリともらす。
この世界は様々な平行世界のテクノロジーを空間ゲートの行き来により習得し発展させており
軍事・民間問わず流用・改良し使われている。
特徴としては基本方針として人々を新たなる段階に平和的に導き共存することであり。
異能などをを持つ超人を生み出す超人計画やパッチと呼ばれる物をつかったりでなんらかの異能を持っており、
普通の人間がいないのが特徴である。
もしくは完全に他人の空似の可能性も高いが、この際今はどうでもいい事だ。
>『……私が何体ものアルコーンを始末している間に、首謀者たるデウスは君たちに仕留められたか。
まずは手間を省いてくれた事に礼を言おう。手に持つそれはデウスのシャードだな? それを渡してもらおうか。
過ぎたる破壊の力は、君の様な無思慮な者が所有するには危険な代物。我々が管理しよう。安全も保障する』
『そして……そちらの大蟹も引き渡してくれ。アルコーンと我々は共存出来ないからな』
何も感じていない自身が戮者と同じような目をした奴はテイル達にそう慇懃無礼にデウスのシャードの引渡しを要求する
同時にビャク自身には視線は向けないが明確にそして明らかな威圧感と若干気や敵意を交えた気を向けてくる。
こちらとしても下手に事を荒立てる積もりはないが、此方としてもどこか同属嫌悪のような物を胸に抱きつつ
それを自分でも無意識に言葉に込めながら反論する。
「…待て、各世界に置いて世界の自浄存在(勇者等の善勢力などの事)に関して彼らに対しては滅亡瀬戸際以外
極力協力関係が推奨され、自己解決させるのが基本のはずだが?
あまりにも強引過ぎれば過度な世界干渉になるはずだ
このデウスのシャードは此方の世界側の物だ、管理権限はこちらにあるはず」
世界守護者委員会では基本中の基本を述べながら主張する。
多世界に対して大きな出来事があった上でその世界が末期であれば強引に消滅させる権限は確かに持っている。
しかし、追い詰められた末期でなく統治とは言わなくてもその世界に法が通っているのならば
それをある程度遵守はしなくてはならない。
非常にややこしくなるものの別世界に逃げた世界を滅ぼす存在を追ってきた恒久戦士は
その世界にいる世界守護者委員会の構成員は協力する義務がある。
担当・管轄に任された恒久戦士がば権限は逃げた世界側に移るが、
裁量権・権限が大きいのは追ってきた方だ。しかしそれも関わる災厄の大きさで臨機応変にも変わるが
普段はこれが通されている。
「シャードの使用権をよってこちら側にある主張する、このアルコーンに関しては今の状況を見て
観察程度の余地はあると思うが?共存できるか出来ないかは今後の判断で決めろ
知略で我々を嵌めるより世界を滅ぼす方が手っ取り早いはずだそれなのにこちら側に付いたのだ
それ相応のリスクは伴うが使える切り札は例えジョーカーでも持っておいたほうがいいのでは?
この世界の状況を見る限りはな」
既に末期に近いように見えるこの世界を見渡せる限りの視線を向けると
抱き抱えた犬達を撫でた。
- 82 :
- 【>>81】
「むう、真名が全能とは実に恐ろしい奴だな!
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかなとか、今にもそこのライダーが言い出しそうだ。
さらに、あれ程の力を持ちながら、奴はまだ変身を一回分は残しているような気がしてならん」
イョーベールは畏れ入ったという感じで、眩しそうにビャクを見つめた。
この大蟹が今までどこに居たのかと言うと、セルメダルの山に埋もれていたのである。
それをオーズが全部吸い上げた事でようやく動けるようになり、テイルの居る場所まで避難して来たと言うわけだ。
解放一番、自分を引き渡せと言われたイョーベールは、ビャクと一緒になって殲滅の騎士に向かって言い放つ。
「いきなり現れて当事者の意思確認も行わず共存出来ないなどとは、あまりにも排他的で狭量じゃないか。
しかも、引き渡さなければ暴力に訴えようという気配がぷんぷんする。
廃墟と言ってもいいオーシアに大規模攻撃を掛けるぐらい無思慮な奴なら、そう思われても仕方はあるまい。
だが、力づくで言う事を聞かせようとしても、こちらは光の神が二柱に竜神が一柱!神人が一人!
さらに、仮面ライダーとどんな魔力も破壊するゴーレムまでがいる。
自分でも、言っていて恐ろしさを感じるぐらいだ。
断言しても良いが、君ら程度では返り討ちに遭うだけだぞ」
スラキャンサーは相手と戦闘になっても此方側に非が無い事を主張する為、まずは理性的に話し合う事にした。
極力無益な戦いを回避するべく、彼我の戦闘力差も言い含める。
威圧や挑発をしているように感じたのなら、間違いなく気のせいだ。
これで問答無用などと言って攻撃してくれば、間違いなく彼らは三流の悪役と言えよう。
『……安い挑発に乗る気は無い。これは何匹ものアルコーン達と戦った上での結論だ。
デウスの眷属は終末や結末に属する。己が破壊者である事を躊躇わぬようにな。我々とは根本的に違う』
アバウトな説明だけで大蟹とのやり取りを終えた殲滅の騎士が、ビャクを鋭い鉄槍の視線で射た。
イョーベールは終末の巨人や終末の者について説明しようとしたが、殲滅の騎士は口を挟む余裕を全く与えない。
どうやら、スラキャンサーの意思はお構い無しのようである。
『各世界の自浄存在へ解決を委任する事と、過度な世界干渉の自重……か。
その両目に嵌る硝子玉で、しっかりとガイアを見渡すが良い。
海洋の古都オーシアを越え、絢爛たるアースランドの栄華を。日剣の繁栄を。竜帝山脈の峻険さを。
それが見えるか?いや……見えまい。そんな物は残っていないのだからな。
此処には、この世界の存在達が自己解決出来なかった結果が広がっている。
彼らの自己解決能力に関しては、欠如していると判断せざるを得まい。
天地を廻旋し、乾坤を捏造する程の力を扱わせるには、明らかに知恵も力も不足している。
そして、過度な世界干渉を問われるのは、他世界の住人であるお前たちも我々と同じ立場ではないかな。
シャードの所有権の説明は……ロード、任せた』
そう言って、殲滅の騎士は背後の女を見た。
彼の背後には、見るからに悪役然とした仮面を付けた人物が立っている。
- 83 :
- 「あらあら、挨拶もしないで喧嘩腰なんて……御免なさい。部下の非礼はお詫びするわ」
それがオーシアに着艦した艦船から、斑に焦げる大地へ降り立ったロード・ティアマトの第一声。
貌を竜の仮面で覆う女は、ソプラノの声域で風のそよぎを駆逐しながら言葉を紡ぐ。
「私はティアマト。そこの無礼な男の上司に当たるわ。
本名じゃなくて称号だけど、悪く思わないで頂戴ね。
で、そっちは殲滅の騎士。名前は捨てちゃったって設定らしいから、そう呼んで上げて。
役割についてはビャク=ミキストリと同じよ。
此方は、だいたいの事情は把握しているから、改めて聞きたい事があればお好きにどうぞ。
教えても問題無い範囲なら、何でも教えてあげられるわ」
務めて友好的であるかのように声音は甘い。香水に凝縮された薔薇の芳香の如く。
挨拶を述べた彼女は、シャードを持ち続けるテイルに静かに歩み寄った。
今しがた、殲滅の騎士に促がされた話を続ける為に。
「本題に入るけれど、シャードの管理権については微妙な所ね。
鏡面である筈の二つの世界に、デウス・エクス・マキナが一体しか居ないんですもの。
これは、ガイアの世界新生を境に世界が分岐した事を意味するわ。
デウスが存在する世界と、存在しない世界とにね」
ティアマトは指で霊気の文字を作り出し、宙に三つの円を描きながら。滔々と流れる水の如く説明する。
「Aと言う派生元の世界から、B世界とC世界が生まれたとすれば、私たちはBで貴方たちはCね。
そしてデミウルゴスと言う存在は、Aの世界に属するわ。
貴方達の目から見れば、デウスが並行世界に逃げ込んだ様に見えるかもしれないけれど、此方側から見れば違う。
此処はデウス・エクス・マキナが移動しなかった世界なのよ。
そして、そちら側と全く同じように私たちもデウスを追跡していたわ。
だから、どちら側の守護者委員会も管理権は主張できるの。
あっ、勇者に任せるのが一番って点は異論の余地の無い点ね」
竜仮面の女に言葉を切られ、指を下ろされると、霊気の地図は役を終えた様にさらさらと風に崩れた。
「強いてシャード所有に優先権を付けるなら、このガイアの勇者。次に並行世界のガイアの勇者。最後に守護者委員会の順。
まずは最優先権を持つ、このガイア世界の存在に意見を窺いたいわね。
貴方にシャードを持つに足るだけの資格があれば、何も問題は無いんだけれど」
ティアマトが水を向け、鏡面世界のテイルを話に誘う。
『うん……実はボクの選択は、もう定まってるんだ。
ボクはシャードを所有するつもりも使用するつもりも無くて、相応しい人物に預けるつもりなんだ』
虹色の羽を持つ妖精は、迷いの無い明朗さで言った。
そして、彼はオーシアの大地に立つ全員を順番に見ながら言葉を続ける。一人ひとりに問い掛ける様に。
『この虚無の大地の中に光を見出して欲しい。
ボクはそれが出来た人にデウス・エクス・マキナのシャードを委ねたい。
光だけじゃ漫然として掴み所に困るかも知れないけど……まあ、光を感じる様な何かを見つけて欲しいって事だよ。
雷が落ちる直前に、ビャクさんが子犬を見つけたようにね』
- 84 :
- >79-83
荒れ狂う雷が、オーシアを虚無と化した
>『テイル、ビャクさん、火野さんにアンクさん、バラグさんにイョーベールさん……やっぱり全員生き残ったね。
アヤさんは光を持たなかったから仕方無いけれど』
「光……?」
艦船から降りてきた男が、デウスのシャード、そしてイョーベールさんの引き渡しを要求してきた。
「イョーベールさんはボク達の仲間だ! 渡せるもんか!」
ビャクさんが、謎の男にシャードの所有権を主張し、男がそれに反論する。
よく見ると、二人は似た顔立ちをしている……。
>83
>「あらあら、挨拶もしないで喧嘩腰なんて……御免なさい。部下の非礼はお詫びするわ」
今度は、竜の仮面を付けた女が出て来た。
彼女によると、デミウルゴスがこちらの世界に逃げ込んだのではなく
二つに分岐したうちのデミウルゴスが存在する方の世界なのだという。
そして、テイルBに話が向けられた。
>『うん……実はボクの選択は、もう定まってるんだ。
ボクはシャードを所有するつもりも使用するつもりも無くて、相応しい人物に預けるつもりなんだ』
>『この虚無の大地の中に光を見出して欲しい。
ボクはそれが出来た人にデウス・エクス・マキナのシャードを委ねたい。
光だけじゃ漫然として掴み所に困るかも知れないけど……まあ、光を感じる様な何かを見つけて欲しいって事だよ。
雷が落ちる直前に、ビャクさんが子犬を見つけたようにね』
「光を見つけろって……」
そう言われても、この世界に形ある物はもう何もない。
ふと、ボク達をこっちの世界に見送った少女の顔が脳裏に浮かんだ。
―― では、皆様どうぞお気を付けて・・・お帰りを待ってます! ――
思い出す、妙なる旋律に乗せた詩――
セイレーンの血を引く少女の、傷付いた魂さえも癒す歌声――
――旋律――歌声?
「そうか、形がある物じゃなくて形の無い物なら!」
通常の魔法体系からは独立して存在する魔法――呪歌――
形がないゆえに、ミルゴですらも作り出す事が出来ず、デウスも破壊できないもの――
「世界を救う鍵は、形ある物が全て壊れても存在し続けられる光は……呪歌、かもしれない……!」
- 85 :
- 【>>84】
殲滅の騎士の引き渡し要求を聞くと、テイルは激昂して叫んだ。
>「イョーベールさんはボク達の仲間だ! 渡せるもんか!」
「何とも嬉しい事を言ってくれるじゃないか!」
さて……スラキャンサーの所有権から、デウスのシャードの所有権に話が変わると何やら雲行きが怪しい。
テイルBが光を探せた者にシャードを譲渡したいなどと言い始めるのだ。
しかし、すでにシャードはテイルの手の中にあるので、負けそうならこのままバックれることも一応は可能である。
この漠然とした課題にはテイルも思案していた様子であったが、しばらくすると何かを閃いた様子で言った。
>「世界を救う鍵は、形ある物が全て壊れても存在し続けられる光は……呪歌、かもしれない……!」
テイルの言葉を聞くと、テイルBは意味深な笑みを浮かべる。
『ふふっ、何が正解かなんて問題じゃないさ。ボクは謎解きを求めてるわけじゃないからね。
重要なのは、何かを見つけられるか。それとも何も見つけられないのか。
虚無なる世界で思い描いたものを見つけるのは困難だろうけど……君らなら奇跡を起こせるって、ボクは信じてるよ』
テイルBの笑顔は実に胡散臭い。巷に溢れるトリックスターどもと同じくらい胡散臭い。
この手の連中は、概してロクな事をしないものなのだが。
「ふうむ、呪歌が光となるか。それでは呪歌でも歌うか?
オーシアの生徒なら、呪歌の一つぐらい歌える奴だっているだろう。
とりあえず、誰か適当な奴を生き返らせてみるぞ。
レヴィアの手駒だった女と違って、別にオーシアの人間は蘇生を禁じられていないからな。
とりあえず、影は薄かったが一応面識のあるメルディとレオに掛けてみよう。
おっと、掛けるのは鏡面世界の二人にだったな」
イョーベールは鏡面世界のメルディとレオにザオリクを唱えた。
しかし、過去にアズリアを生き返らせた実績ある呪文は、これと言った効果を発揮しない。
「ええい!どういう事だ!」
両手で頭を抱えた拍子に、うっかり体勢を崩したイョーベールが前方のゴーレムに倒れ込む。
完全に過失であって故意では無いのだが、家ほどもある巨体の蟹なので下敷きになった方は堪ったものではない。
バラグは還らぬ人となった。色々と適切な表現ではないかもしれないが。
「これは、いかんな……ザオリクが効くと良いのだが」
蘇生の呪文は効果を発揮してバラグは元通りとなった。
ちなみに、この呪文はゴーレムなどの物質系モンスターにも有効だ。
「む……今度はちゃんと蘇ったぞ。別に蘇生呪文が封じられている訳ではないようだな。
となると、さっきのザオリクが失敗した理由としては、幾つかの理由が考えられる。
まずは鏡面世界のメルディとレオに蘇生が効かなくなってる場合。
そして別の理由としては……最初から二人とも死んで無い場合だな。
何しろ、オーシアには古代文明の遺跡が多々残っている。導師級の魔術師達もだ。
それらを使って、奴らが未曾有の危機を回避していたとしても、何ら不思議ではあるまい」
他にも理由はあるかもしれないが、0才3ヶ月の大蟹には、これと言って思い付かない。
「うむむ、しかし呪歌はどうしたものか……。
ところでティアマトとか言ったな。この柱は何だ?学園跡に一本だけ残っているようだが」
何でも聞け、と言ったのを思い出してイョーベールは竜仮面の不審な女に聞いた。
テイルがこれと言った質問をしなかったので、代わりに何か聞いておく事にしたのだ。
何でも質問してくれと言ったのにスルーしたら、怒り出すかも知れないと思っての事である。
生後三ヶ月の大蟹に気遣われる守護者委員会と言うのも、果たしてどんなものだろうか。
- 86 :
- 蒼穹の頂きに座す太陽が、黒く焼き尽くされた焦土を睥睨する。
風の啼泣だけが姦しく流れ続ける無人の荒野は、虚無の世界を象徴しているかのようにも見えた。
吹き抜ける潮風はオーシアに訪れた異邦人達を打って、複雑に音程を歪め、怨嗟にも似た叫びを作り出す。
その風の叫び声を掻き消したのは女。巨蟹のアルコーンに問い掛けられたティアマトの声。
「それは祟天の柱。貴方にはこう言った方が良いかしら……枝伐りした世界樹の枝って。
ガイア世界は、すでに七回世界樹を枝伐りして枝継ぎをしているわ。世界に活力を与える為にね。
でもガイアは世界構造を変革した事で、世界樹の一部と言う世界ではなくなってしまったでしょ?
だから今の枝は起源や由来が不明になって、ガイア人も世界樹の枝とは呼称していないのよ。
オーシアにこれが在ったのは、古代王国時代に魔術の発展に使われていたからね」
『……ロード、そんな化け物の質問にまで馬鹿丁寧に応える必要は無い。
シャードの所有権が誰に有ろうと、アルコーンは滅しなければならないのだからな。
己が望まれない存在である事は、その魔物とて既に分かっているはずだ』
殲滅の騎士は、血錆の浮いた声で吐き捨てる。
彼にとってデウスの眷属は滅ぼすべき存在。テイルが仲間だと言った程度で認識が変わる訳も無い。
そのテイルを冷然たる視線で射ながら、身体髪膚から伐たる気を放つ騎士は言葉を続けた。
『異界のフェアリー、君の写し身は自分で処する覚悟も責任感も無いようだ。そのシャードは此方に渡せ。
つまらぬ謎掛けに応じろと言うなら、一足先に光とやらを提示させてもらおう』
灰色の外套を纏った騎士が両手を広げると、彼の正面中空には緑翠の燐光を放つ一振りの剣が現れた。
この練気の剣は、純粋な気を練り上げて鍛えられた剣。
単体でも充分な威力を持つ霊剣ではあるが、その真価は別の所にある。
『無駄無しの弓《フェイルノート》』
広げた彼の右手に弓が現れた。
この魔弓に番えて射られた矢は攻撃者が存命している限り、標的が何処に逃れようと軌道を変えて、命中するまで追う。
『真紅の魔槍《ガ・ジャルグ》』
二つの武器を召喚しながら彼にはどちらの武器も構える様子が無く、さらに左手に真紅の槍を召喚した。
どのような魔法も触れた瞬間に消し去ってしまう魔槍を。
『―――武具練成』
戦士が両手に持った武器を練気の剣へ重ね合わせると、三種の武器は陽炎のように揺らいで新たな形を成す。
練気の剣の真価とは別種の力を取り込み、別の武器へと変化する事である。
創造されたのは、練気の剣にフェイルノートとガ・ジャルグの属性を付与された魔剣。
すなわち投擲されれば命中するまで標的を追いかけ続け、魔術による障壁をも無効化する必中の剣であった。
琥珀の炎を纏う剣を鏡面世界の妖精に突きつけると、殲滅の騎士は無感情に声帯を振動させる。
『下らぬ遊戯に付き合うつもりはないが、一応は答えておくか。
天には太陽が輝く……光あるものだ。この霊剣にも炎が灯る……これも光。
二つもあれば、お前にも充分な光を感じられる事だろう』
問われた妖精は特に恐れる様子もなく、ゆっくりと首を振って答えた。
君には何の光も感じない……ビャクさんの抱えた子犬にも劣るくらいだよ、と。
対峙する両者の間で張り詰める空気は、さながら今にも割れんとする一枚の薄氷。
「殲滅の騎士、無用の諍いは控えなさい。
シャードは……そうね、私達は資格ある者が定まるまで様子見させてもらうわ。
それまでは、喫茶室でティータイムにでも興じていようかしら」
剣呑な空気を察したティアマトは、軽い叱責の声を出して殲滅の騎士を手元に引き戻す。
同時にベルゼナウに向かって歩きながら、思念の糸を旗艦に伸ばして乗組員に警戒態勢を敷かせた。
ビャクの力量を把握した彼女は、イョーベールに関しては彼預かりでも充分だろうと判断している。
だが……妖精の試す様な態度が気に入らない。従って不測の事態に備えたのだ。
- 87 :
- >「むう、真名が全能とは実に恐ろしい奴だな!
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかなとか、今にもそこのライダーが言い出しそうだ。
さらに、あれ程の力を持ちながら、奴はまだ変身を一回分は残しているような気がしてならん」
この言葉に思わず自虐の笑みを浮かべて
「そうでもないさ…いかに沢山力を持っていても救えない人々が居るんだからな」
力はあれど全ての人々を救う事は出来ない―全てを知る事は出来ないのだからそう答える彼はどこか悲しみを背負っているように見えた。
>しっかりとガイアを見渡すが良い。
海洋の古都オーシアを越え、絢爛たるアースランドの栄華を。日剣の繁栄を。竜帝山脈の峻険さを。
それが見えるか?いや……見えまい。そんな物は残っていないのだからな。
此処には、この世界の存在達が自己解決出来なかった結果が広がっている。
彼らの自己解決能力に関しては、欠如していると判断せざるを得まい。
天地を廻旋し、乾坤を捏造する程の力を扱わせるには、明らかに知恵も力も不足している。
そして、過度な世界干渉を問われるのは、他世界の住人であるお前たちも我々と同じ立場ではないかな。
「まだこの世界に住まう者達は滅んじゃいない、それだけでもこの世界にはやり直す力がある 足りなければ付ければ良いだけの話だ生き残る者にはその権利がある
最初か可能性の否定は部外者がするものじゃない、この世界に生きる者がすることだろ!?」
そんなビャクの言葉に意も解さずに殲滅の騎士と名乗る男は入れ替わりに艦から出てきた女に見覚えがあった。
ロード・ティアマト―ビャクの所属している世界側でも最高権力を持つ元老院の一人である
今の所こっちの世界の彼女はそれなりに優秀な科学者であり水面下では様々なことをやっていたようだ
最近自身の独自の理論で作った艦船を実験航海を行った時に行方不明となったが。
ビャクは彼女に対してはいけ好かない女だと判断していたが、こちらでもその認識は変わりはなさそうだ。
>此処はデウス・エクス・マキナが移動しなかった世界なのよ。
そして、そちら側と全く同じように私たちもデウスを追跡していたわ。
だから、どちら側の守護者委員会も管理権は主張できるの。
あっ、勇者に任せるのが一番って点は異論の余地の無い点ね」
「強いてシャード所有に優先権を付けるなら、このガイアの勇者。次に並行世界のガイアの勇者。最後に守護者委員会の順。
貴方にシャードを持つに足るだけの資格があれば、何も問題は無いんだけれど」
「なんともややこしい事になっているな…まったく余計な事をしてくれる」
そんな愚痴をこぼしながらも
彼女の説明について無言で聞きながらこの世界側の彼女らの言い分も理解できた
その権利があるテイルBに問いかける
彼の選択は決まっていたが、その答えは安易ではなくとても難しい問題であった
>『この虚無の大地の中に光を見出して欲しい。
ボクはそれが出来た人にデウス・エクス・マキナのシャードを委ねたい。
光だけじゃ漫然として掴み所に困るかも知れないけど……まあ、光を感じる様な何かを見つけて欲しいって事だよ。
雷が落ちる直前に、ビャクさんが子犬を見つけたようにね』
「光か…」
抱きかかえたこの地に生きる新しい命―この暖かさはまだほんの小さい光だ
だがこの光だけではこの世界は救えない
それを如何にして見つけるかを悩んだときテイルが何かを思い出したように
その糸口のきっかけを話す。
>「世界を救う鍵は、形ある物が全て壊れても存在し続けられる光は……呪歌、かもしれない……!」
>『ふふっ、何が正解かなんて問題じゃないさ。ボクは謎解きを求めてるわけじゃないからね。
虚無なる世界で思い描いたものを見つけるのは困難だろうけど……君らなら奇跡を起こせるって、ボクは信じてるよ』
「それを光にするのもしないのも俺達次第だ、ならばその呪歌を詳しく知る者は?」
- 88 :
- >「オーシアの生徒なら、呪歌の一つぐらい歌える奴だっているだろう。
とりあえず、誰か適当な奴を生き返らせてみるぞ。
イョベールはそう言って鏡面世界のメルディとレオに蘇生を試みるが その方法はうまく行かなかった
>「ええい!どういう事だ!」
「既に蘇生できないほど手遅れだと言う事じゃないのか?」
ビャクが見る様子からして既にこの世界の生命サイクルが完全に狂っている可能性がある と指摘した矢先に
イョベールは転んでバラグを壊してしまうが蘇生の呪文は効いたようで元に戻る。
そこで彼は自身とは違う仮説を唱える。しかし上記以外にも別の原因も否定できない。
>「うむむ、しかし呪歌はどうしたものか……。ところでティアマトとか言ったな。この柱は何だ?学園跡に一本だけ残っているようだが」
>「それは祟天の柱。貴方にはこう言った方が良いかしら……枝伐りした世界樹の枝って。
ガイア世界は、すでに七回世界樹を枝伐りして枝継ぎをしているわ。世界に活力を与える為にね。
でもガイアは世界構造を変革した事で、世界樹の一部と言う世界ではなくなってしまったでしょ?
だから今の枝は起源や由来が不明になって、ガイア人も世界樹の枝とは呼称していないのよ。
オーシアにこれが在ったのは、古代王国時代に魔術の発展に使われていたからね」
「全て無くなった世界で唯一残っている数少ない物―それが世界樹の枝に関係する物
何かあるな、この学園と共に残っているのなら意味は必ずあるはずだ」
もしかしたらこの柱がこの学園を守るための学園と世界を切り分ける装置であったとしたら
この学園が残っているというのも辻褄は合わなくもないが
そんな思考を遮る様に殲滅の騎士は横槍を入れる言葉を吐く。
>シャードの所有権が誰に有ろうと、アルコーンは滅しなければならないのだからな。
己が望まれない存在である事は、その魔物とて既に分かっているはずだ』
『異界のフェアリー、君の写し身は自分で処する覚悟も責任感も無いようだ。そのシャードは此方に渡せ。
つまらぬ謎掛けに応じろと言うなら、一足先に光とやらを提示させてもらおう』
>『無駄無しの弓《フェイルノート》』
『真紅の魔槍《ガ・ジャルグ》』
『―――武具練成』
「貴様、何を考えている!?」
ついには業を煮やしたのかその手に持った剣に弓と槍の特性を混ぜ込み練成する。
ティアマトとは反対に既に対話ではなく武力で全てを解決しようとする言葉とその姿勢に
ほとほと呆れ果てていた。将来全ての記憶と理性を削り、消耗しきった状態でも
こうはなりたくなかった。だがこれが近い未来の自分なのかもしれないと思うと寒気がしてしょうがない。
>『下らぬ遊戯に付き合うつもりはないが、一応は答えておくか。
天には太陽が輝く……光あるものだ。この霊剣にも炎が灯る……これも光。
二つもあれば、お前にも充分な光を感じられる事だろう』
「三下sラの考え方が身に染み付いているようだなとても知性のある者とは思えん交渉方法だ
刃物をちらつかせれば解決する事態だと思っているのか?」
あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎるもはや殲滅の騎士と名乗る奴とはもはや語る舌はないと等しく考えたほうが良いのかもしれない
もしくはあのティアマトの教育が成っていないのかどちらにしろ状況を悪化させる事だけは避けたかった。
>「殲滅の騎士、無用の諍いは控えなさい。
シャードは……そうね、私達は資格ある者が定まるまで様子見させてもらうわ。
それまでは、喫茶室でティータイムにでも興じていようかしら」
彼女は殲滅の騎士に対して叱責し、そう言って艦隊の元に戻っていく。
だが彼女はただ手を拱くような人間ではないのはビャクは分かっていた。
決定的な何かがあればそこを突いて全力で動いてくるだろう。
「現状で呪歌を歌える者をこの鏡面世界で探すかあるいはこっち側の世界で探すか
…個人としてはこの祟天の柱には何かがあるのだとは思っているのだがな
どの道光を見つけられる選択肢はこれしか思い浮かばぬ以上此処から選ぶしかあるまい
他にも道があるのならば聞かせて欲しいがな時間がないことだしな」
柱を見つめて今考えられる選択肢を告げる。
この世界には時間がない既に滅び行く世界では一秒でも貴重なのだ
それを早く決めねば何時消えてなくなってもおかしくないのだから
- 89 :
- >85-88
>『ふふっ、何が正解かなんて問題じゃないさ。ボクは謎解きを求めてるわけじゃないからね。
重要なのは、何かを見つけられるか。それとも何も見つけられないのか。
虚無なる世界で思い描いたものを見つけるのは困難だろうけど……君らなら奇跡を起こせるって、ボクは信じてるよ』
意味深な笑みを浮かべるテイルB。
イョーベールさんが、試行錯誤の結果、オーシア魔法学校の人々の一部が死んでいない可能性を示唆する。
>「うむむ、しかし呪歌はどうしたものか……。
ところでティアマトとか言ったな。この柱は何だ?学園跡に一本だけ残っているようだが」
>「それは祟天の柱。貴方にはこう言った方が良いかしら……枝伐りした世界樹の枝って。
ガイア世界は、すでに七回世界樹を枝伐りして枝継ぎをしているわ。世界に活力を与える為にね。
でもガイアは世界構造を変革した事で、世界樹の一部と言う世界ではなくなってしまったでしょ?
だから今の枝は起源や由来が不明になって、ガイア人も世界樹の枝とは呼称していないのよ。
オーシアにこれが在ったのは、古代王国時代に魔術の発展に使われていたからね」
「世界樹の枝……!? 今も残ってたのか――!」
前の世界のオーシアの人々は、校内に世界樹の枝があった事を知っていただろうか。
おそらく知らなかった。悠久の時の流れの中で忘れ去られていた。
でも、こっちのオーシアの人々も知らないままだったとは限らない。
デミウルゴスの脅威に直接さらされた世界ゆえ、それに対抗するためにこの存在に気付いていたかもしれない。
「古代王国時代、主要な都市は植樹された世界樹の枝を中心に発展したという――
その枝を通じて都市同士を行き来できたらしい」
殲滅の騎士が光を放つ武器を錬成してテイルBに見せているのを余所に、ボクは祟天の柱に近づく。
>「現状で呪歌を歌える者をこの鏡面世界で探すかあるいはこっち側の世界で探すか
…個人としてはこの祟天の柱には何かがあるのだとは思っているのだがな
どの道光を見つけられる選択肢はこれしか思い浮かばぬ以上此処から選ぶしかあるまい
他にも道があるのならば聞かせて欲しいがな時間がないことだしな」
祟天の柱に手を触れ、主要な都市を思い浮かべていく。
すると、鮮明なイメージが次々と浮かんでは消えていく。アースランド、ロンダニア、日剣――
ただし何処もかしこも、見えるのは荒れ果てた大地ばかり。
荒れ果てた大地――はたと思い出した。それなら、空はどうだろうか。
ボク達の世界ではすでに堕ちた、天空都市エリュシオン。
でも、こちらでも同じ歴史を辿っているとは限らない。祈るような気持ちで、思い浮かべる。
すると――、見えた。かつて天使が住まい、最も発達した魔法文明を持っていた美しき天空の都市が。
「行こう――エリュシオンがまだ残ってる!
もしかしたらこっちの世界の生き残りの人も逃げ込んでるかもしれない!」
ビャクさん達に声をかける。
- 90 :
- 【>>87-89】
ビャクとテイルが推理を始めた。何も無い世界だけに思考する事は重要である。何かが有る世界でも重要ではあるが。
推理が導き出したl結論は、世界樹の枝を使ってエリュシオンにワープしようというものだった。
しかし、ティアマトの説明によれば、この世界は三ヶ月前の世界新生で生まれている。
従って三ヶ月前の時点で壊れているエリュシオンも、壊れたままであると考えるのが自然であろう。
「三ヶ月前の時点で派生した世界なら、それ以前の状態はこの世界でも同じ気がするのだが……。
いや!お前たちの考えに賭けてみる価値はありそうだな!
そもそも、最初から諦めの道しか見えない奴では、永遠に真の勇者にはなれまい。
全てをハッピーエンドに納めてこそ真の勇者ってもんだろう?誰かの手駒に過ぎん者でさえもな。
私は行くぞ、最高の結末を目指して!それがどんなに細くて険しい道でもだ!」
イョーベールは仲間を順番に見回しながら言った。
この言葉は、アヤソフィアの死体を通して、此方を観測しているかも知れない存在にも向けられている。
昂然とした口振りのイョーベールは、側面を向いたまま屹立する柱に向かう。
どんなに勇者っぽい事を言おうとも、やはり蟹なのでカニ歩きせざるを得ない。
しばらく進んだ所で、巨大な蟹は何かに気付いた様子で叫んだ。
「そういえば いにしえのゆうしゃは まるで かにのように あるいていたという。
もしかしたら わたしは しんのゆうしゃに なりつつあるのかもしれん」
大蟹の喋り方も、どことなく勇者を彷彿とさせるものに変わっていた。
さて……蟹の勇者覚醒はともあれ、柱という構築物を用いて移動する方法としては、どのような物があるだろうか。
答えは複数あれど、魔術的には柱を用いて異境に通じるゲートやサークルを作る事が一般的と言えよう。
古代王国時代に於いては、魔術で複数の柱を立て、その位置や方位で様々な場所に渡る門を形成していたと考えられる。
ガイア人の末裔が地球に存在していた事を鑑みれば、世界樹を用いた魔術門は異世界にまで通じていたのかも知れない。
その魔術を知る者は今は誰も居なさそうなので、イョーベールは新しい門を作る事とした。
「わたしの あるこーんとしてのちから えだきりは せかいじゅも きりわけるぞ」
イョーベールは大ハサミで祟天の柱をジョキンと切って、横に真っ二つにしてしまった。
枝伐りとは、枝葉である小世界を大元の世界樹から分離させる用語である。要するに次元切断なので世界樹も切れるわけだ。
真の勇者に成りつつある実感が生まれた傍から、こんなアルコーンとしての能力を使うのはどうなんだろうか。
それはともあれ、切断した柱をイョーベールがデンと地面に突き刺すと、ニ本の杭でまさしく門と言える物が形作られた。
二本の柱の間は陽炎の様に景色が歪んでおり、そこに空間の綻びが生じた事を示す。
「よし、行くぞ!エリュシオンに!」
カニ歩きの大蟹が門の間を潜ると、その先には消えたはずの街並みが在った。
魔法学校を除く、オーシア全ての街並みが以前と変わらずに在る。
しかし、街の外れから見える眺望は青く澄んだアウグルト海ではなく、白く霞んだ雲海の広がり。
敷き詰められたような雲の彼方は、どこまでも続くような青空である。
この街は、かつてのエリュシオンと同じく、大空に浮遊しているのだ。
「ふむ、ここがエリュシオンか?天空都市にしては屋台が並んでいて俗っぽい感じもするのだが」
イョーベールはエリュシオンもオーシアも知らないので、天空都市に抱いた感想もそんなものだった。
この街の人は、突如として広場のど真ん中に現れたイョーベールに対して魔物を見た時の感想を覚えたようだが。
ぎゃあぎゃあ喚きながら、彼らは一目散に逃げてゆく。
ドラゴン並の大きさを持つ、巨大蟹が現れた時の反応としては実に普通である。
『崩壊したエリュシオンの建築資材として、オーシアを丸ごと使ったのか。
見た限りでは、アーランドや日剣や他の国々も、アーコロジーの一部を形成しているようだね。
レジナ、ルダメ、ミト、メルディ、もょもと……ガイア人の殆ども此処に集まってるみたいだし。
リアン、ルド、ソル、ルーチカ、アース、乱堂武、恐山神威、アズリア……光持つ者たちの多くも。
デミウルゴスの出した解が結実を結ぶ時は、今を置いて他に無い』
イョーベールに続いて世界樹の門を通って来たテイルBは、エリュシオンを見ると感慨深げに言った。
街の人たちに悪いスラキャンサーではない事を説明しているため、イョーベールは聞いていないのだが。
- 91 :
- テイルが祟天の柱に手を触れ、その後に思ってもいなかった手掛かりを告げる。
>「行こう――エリュシオンがまだ残ってる!
もしかしたらこっちの世界の生き残りの人も逃げ込んでるかもしれない!」
>「三ヶ月前の時点で派生した世界なら、それ以前の状態はこの世界でも同じ気がするのだが……。
いや!お前たちの考えに賭けてみる価値はありそうだな!
「ようやくこの世界にも希望の光が見えてきたな、可能性があるのならば
それに縋るしかあるまい」
イョベールとテイルの言葉に同意するように自身も賛同の言葉を連ねる。
既に事態は逼迫している以上は現状は予断を許さない状況なのだから。
そして早速イョベールはエリュシオンに行くべくアルコーン特有の枝切の能力を使う。
空間の綻びが出来ると共に告げる。
>「よし、行くぞ!エリュシオンに!」
「さてこの行動が吉と出るか凶と出るか…どうなることやら」
イョベールは真っ先に飛び出して、テイルや他に移動する者達と同じく綻びの中に入る最中
小さく呟いて入っていく。
門を模した空間の綻びから身体を完全に抜け出した先の光景は
先ほどの風景な無へと帰った退廃的な場所ではなく、本来ならばありふれた空間であった所だろう。
今この世界ではとても貴重な物なのであろうが。
>「ふむ、ここがエリュシオンか?天空都市にしては屋台が並んでいて俗っぽい感じもするのだが」
「此処は生き残った人々の最後の居場所だ、風景なあの学園よりは
幾分かマシな方だ」
そうこれが当たり前の光景なのだ普通ならばだ。
しかし以外にも終末思想溢れるギスギスした光景には到底見えなかった。
そんな事を思っているときに鏡面世界のテイルが復興したことに対して
見解を述べた後意味深な言葉を呟く。
>『崩壊したエリュシオンの建築資材として、オーシアを丸ごと使ったのか。
見た限りでは、アーランドや日剣や他の国々も、アーコロジーの一部を形成しているようだね
光持つ者たちの多くも。 デミウルゴスの出した解が結実を結ぶ時は、今を置いて他に無い』
「ならば此処はやはり生きとし生けるもの全ての砦と言う言葉が相応しいようだ
…デミウルゴスの解……」
それについて何かを尋ねようとした時、バスケットにパンを沢山入れた少女達が近づいてくると
テイル達にバスケットからパンを取り出して差し出してきた。
「貴方達も避難して来た方達ですか?大変だったでしょう、お兄さん達。
よかったらどうぞ」
差し出したパンを受け取り、女の子の頭を撫でると抱きかかえていた犬達にパンを与えた。
(この世界でもまた負けられない理由が出来たな…)
喜んで食べている犬達を見ながらそんな事を思っていた時、既に謎の集団が自分達を囲っていることに
まだ気がついていなかった。
- 92 :
- >90-91
イョーベールさんが、世界は三か月前に分岐したので、それ以前は同じではないかと指摘する。
では、今見えたエリュシオンは何なのだろうか。とにかく行ってみるしかない。
>「よし、行くぞ!エリュシオンに!」
「おう!」
イョーベールさんが作り出した門をくぐり、エリュシオンに向かう。
そこには、以前のオーシアと同じ街並みが広がっていた。
>「ふむ、ここがエリュシオンか?天空都市にしては屋台が並んでいて俗っぽい感じもするのだが」
「いや、この街並みはオーシアだ――!」
周囲の人々が、悲鳴を上げながら逃げて行っている。
「皆さん、彼は悪い蟹ではありません!」
>『崩壊したエリュシオンの建築資材として、オーシアを丸ごと使ったのか。
見た限りでは、アーランドや日剣や他の国々も、アーコロジーの一部を形成しているようだね
光持つ者たちの多くも。 デミウルゴスの出した解が結実を結ぶ時は、今を置いて他に無い』
「崩落したエリュシオンの浮遊機構を核に各国の力を結集して再構成したってことか……」
>「ならば此処はやはり生きとし生けるもの全ての砦と言う言葉が相応しいようだ
…デミウルゴスの解……」
「デミウルゴスの解――デミウルゴスが世界を分岐させた事には何か重大な意味が……?」
デミウルゴスは、完全な世界を目指すための創造と破壊のプログラム。
自分以外の者の世界新生の企みを良しとしなかったとしたら……
もしかしたら、レヴィアに対抗するためにこちらの世界を作ったのかもしれない。
>「貴方達も避難して来た方達ですか?大変だったでしょう、お兄さん達。
よかったらどうぞ」
「ありがとう!」
パンを受け取り、お礼を言う。
そして子犬にパンをあげているビャクさんを微笑ましく見ていると……何者かの気配を感じた。
「――ディスペルマジック!」
魔法解除の魔法を使うと突然、人影が現れる。
現れた者達は……ノダメ校長、メルちゃん、レオ君――魔法学校のみんなだった。
「もう、びっくりさせないでよ〜!」
『驚かせてすみません、今のは”石ころ帽子の歌・改”という呪歌の効果です。全然気付かなかったでしょう』
『今新しい呪歌を急ピッチで開発中なんだ。
普通の魔法は神の力を借りたものだからいくらでも増やせるものじゃない。
でも呪歌は普通の魔法体系とは違う位置にあるから、いくらでも新種が作れる事を発見した』
「それってつまり……神を超える可能性があるってこと!?」
『ここでは何だから世界防衛作戦本部に行って話そう!』
そう言って、世界防衛作戦本部なるところに案内される。
- 93 :
- 【間章・light fantasy.∞ or light fantasy.death】
夕刻を迎え始めたエリュシオンは、薄紫に照り映える雲海を絨毯に。黄昏に塗られた空を天井としていた。
都市の中心部には、魔法学校に代わって城館程もある石造りの建築物が建つ。
アルコーンの攻撃に晒された鏡面世界の住人たちが、彼らへの対策を練るべく造り上げた魔術的な構造物である。
レオに依れば、現在は魔法学校の導師たちが中心となって、新種の呪歌を開発するべく、此処で研究が行なわれているとの事。
続いてメルディが世界防衛作戦本部に行って話そうと、井戸端会議に誘う様な軽快さで、地上からの訪問者たちを招いた。
「世界防衛作戦本部か……ふふっ、一周したようなハイセンスな名前だね。
ボクも皆に話したい事があるから丁度良いや。お邪魔させてもらおっかな」
鏡面世界のテイルは足取りも軽やかなメルディに続いて、建物の入り口から廊下の奥へと消えてゆく。
内部の幾つもの広間では、種族や年齢を異にした大勢の者たちが輪を作り、喧々諤々と己が魔術理論について論じていた。
とりわけ人が集まっている広間に着いたメルディは、レジナ様!テイルちゃんを連れて来たよ!と陽気に叫んだ。
『……ぬ、なぜテイルが二人もおるのじゃ?ついに斬られて分裂でもしてしもうたか?
と言うより、この三ヶ月の間、今の今まで行方を眩ましてどこに雲隠れしておった?』
広間に入って来る二人のテイルを見ると、一人の妖精が不審げな物を見る様に、やや腰を屈めながら上目遣いに二者を見比べる。
小柄な妖精は透き通る様な薄衣を纏い、足首まで伸びる翡翠の髪の中程からは、光の加減で色を変える二枚の羽を突き出していた。
容姿は人間の子供にも似ていたが、深い泉の如く澄んだ瞳には長寿の種族特有の愚と賢を併せ持った光を宿す。
この妖精は、フェアリー族を取り纏める族長フェアリー=レジナ。
鏡面の並行世界に於いても、やはり彼女はテイルを旅立たせた人物である。
「族長!そんな事より、これから重要な会議を始めるので議長になって下さい。
異世界から来た彼らも交えて、皆に一つの選択をしてもらわなくちゃいけないんです」
故郷を同じくする妖精が堰切った様に発する言葉を聞くと、フェアリー=レジナは呆れた様にフッと笑った。
すぐさま精霊を使った告知に依ってエリュシオン全域に会議の開始が知らしめられ、広間には溢れんばかりの人が集まった。
入り切らぬ者たちは別室から、或いは廊下や庭から、魔術の大鏡や水晶を用いて広間の様子を窺う。
『ようお集まり下されたな、各々方。
此度はフェアリー=テイル・アマテラス・ガイアから、重要な議題の提案があるそうじゃ』
異種族の群衆を前に、妖精族の族長は少しでも威厳を出そうとするかの様に声を張り上げる。
議長の紹介を受けた者、この世界のフェアリー=テイルは、ふわりと宙空に浮揚して周囲に視線を投げ掛けた。
列席者の最前列近くには光の勇者として同行した者たちや、様々な種族の指導者たちが固まっている。
虹の羽を緩やかに動かす妖精は、彼らを順に眺め渡すと、落ち着いた声音で語り始めた。
- 94 :
- 「まずは皆さんの懸案である世界崩壊の危機について、朗報を持って来たので、お聞きください。
ガイアに破壊を齎したアルコーンは、一人を除いて世界守護者委員の騎士が全て葬ってしまいました。
彼らを呼んだデウス・エクス・マキナも、今はシャードとなって、異世界から来た勇者の手にあります。
デミウルゴスに依るガイア滅亡の危機は去ったのです」
光の神の力と名を受け継いだ妖精の言葉を聞き、聴衆には困惑と歓喜の波が生まれ始めた。
しかし、その波は大きなうねりを持つ前に逆態の言葉で即座に制される。
「ですが……この平和も団結も、当然ながら永遠のものではありません。
デミウルゴスが居なくなっても、世界を滅亡させようとする者は今後も現れ続けるでしょう。
今も次元の薄壁一枚隔てた並行世界では、レヴィアタンが魔王として暗躍しているようです。
いつの世も欲動に憑かれた者たちが平和を壊そうとする。その度に悲劇も繰り返される。
そして、それを終わらせる為、遥かなる太古にデミウルゴスが造られたのです」
鏡面世界のテイルの口から、デミウルゴスが何者であるかが語られ始める。
彼が創造と破壊を繰り返す機械神である事。先代のガイアに憑依していた事。倒されて二つのシャードを残した事を。
それを既に知る者は黙ったまま聞き続け、まだ知らぬ者たちの間からはざわめきが生まれた。
「破壊と創造は輪舞曲の様に繰り返されましたが、その試みは決して無駄ではありませんでした。
幾星霜もの長きに渡って創世と滅亡を繰り返した末に、彼は遂に完全なる世界に至る道を発見したのです。
一人の妖精の旅の始まり。一見ありふれた冒険物語の内に……それは在りました
魂と肉体の深奥に宿る神秘の光。奇跡と希望の光。万象の根源にも至る光を見つけたのです」
猶も語り続ける妖精は、蒼き瞳に煌々とした明星の輝きを宿しながら己と全き同じ姿を見た。
その網膜の奥の奥まで焼き付けんとするかの如く。
「"光"の存在に気付いたデミウルゴスは、それを論理的に解析する為に様々な障害を作り上げました。
その結果、"光"は障害を経る度に強くなり、共に旅する仲間たちにも伝播していきました。
破壊者と化して一度は光を失った超人や、最後の検証として送り込まれた光持たぬアルコーンにすら。
彼らは破滅した虚無の世界から、エリュシオンと言う希望の光をも見つけ出して見せました。
この確定と不確定が揺らがない筈の世界に置いてさえも。
間違いなく"光"には再現性がある。"光"を万人が手にする事は決して不可能ではありません」
妖精が言葉を続ける度に、漣の様なざわめきが広がってゆく。
その意味を理解する者、しない者、どちらの心も数え切れぬ疑問符で埋め尽くされてしまったから。
「完全なる世界とは、普遍的に存在する奇跡が全てをハッピーエンドに導こうとする世界に他なりません。
それが、何度も創世と破壊を繰り返してデミウルゴスが出した結論です。
死霊皇帝との融和にソフィアの復活、他者との戦いは無くせずとも最後には大団円で報われた。
して終わりでは無く、諍いを繰り返して来た光と闇の種族たちが互いの傷を受け止めて和解し合ったのです。
何百年も起こりえなかった奇跡的な事象が、たったの数年で幾度も起こった事でガイアの戦乱を解決に導いた。
これは偶然の連なりではありません。"光"を持つ者でなければ為し得なかった偉業です。
もしも……誰もがこの"光"を持てたならば、世界は間違いなく理想郷へと変われるでしょう。
デミウルゴスが創ろうとしていた最も望ましき世界。全ての者が報われる優しき世界に」
語り続ける妖精の眼差しは、見えざる他界の者にまで語ろうとするかのように、何処までも遠い。
対する聴衆は、その全てが唯一人へと視線を集め続けている。
「卑近な言い方をすれば、デミウルゴスが構築したかったのは、ご都合主義の世界とも言えます。
ご都合主義……なんて言うと拒否感を覚えるでしょうけれど、それは世界を外側から見る観測者の視点に過ぎません。
世界の内側で生きる者からの視点から見れば、それは間違いなく幸福な世界と言えるのではありませんか?
そして、"光"を持つ者たちと創世の力を持つシャード。すでに理想郷に至れる鍵は此処に揃っています」
たっぷりと二呼吸程置いて、この世界のテイルは声の届く者全てに向かって告げた。
いや、意志の届く者全てに向かって問い掛けた。
「お集まりの皆さんに問いたいのは、ボク達はデミウルゴスの計画を継ぐべきか、です」
- 95 :
- >93-94
>『ようお集まり下されたな、各々方。
此度はフェアリー=テイル・アマテラス・ガイアから、重要な議題の提案があるそうじゃ』
もう一人のテイルの口から、デミウルゴスの解、の正体が明かされる。
ボク達が幾度の困難も乗り越えてここまで来れたのは、未来を切り開く奇跡の光を持っていたからだった――。
完全なる世界など存在しない、だからこの世界を破壊させないでくれ、とミルゴは言っていた。
だけどデミウルゴスは完全なる世界に至る答えを見出していた。
万人が"光"を持つ世界。普遍的に存在する光が全てをハッピーエンドに導こうとする世界……。
そして、すでにその世界に至る鍵は揃っているという。
もう一人のテイルが、全ての者に問いを投げかける。
>「お集まりの皆さんに問いたいのは、ボク達はデミウルゴスの計画を継ぐべきか、です」
誰も虐げられない、誰も悲しまない、全ての者が幸せになれる世界――
普通に考えたら当然継ぐべきだろう。でも……そんな世界が本当に成立するのか?
突然の話に、周囲は騒然としている。それを制するように、テイルBが口を開いた。
「突然の話で俄かには信じがたいのは重々承知です。
明日、もう一度会議を開きましょう。そこで答えをお聞きします。」
―― その夜
ボクは夜空を見上げながら、今までの旅を思い出していた。
族長の軽いノリの指令から始まった、世界を救う旅。前だけを見て駆け抜けてきた日々。
当初の目的は、闇の帝王死霊皇帝の封印だった――しかしそこから、常にボク達の周囲で、歴史は激動していった。
かつて人間の少女だったヴァンパイアのアイリスさんとのと、彼女がもたらした死霊皇帝との和解。
第三の神ソフィアの存在の発覚と、その復活。
世界を滅ぼそうとする存在デウスとの度重なる戦い。そして明かされたその正体――。
空に輝く赤い星を見上げて呟く。
「まめちゃん、あなたが言っていた誰も救わなくていい、誰も倒さなくていい結末、とはこの事だったの……?」
妖精――悠久の時を生き人間に寄り添い、物語語る種族。
世界の内にいる住人でありながら、どこか他人事のような観測者の視点を持つ種ともいえる。
完全なる世界は停滞し、そこに物語は生まれない。だけどそれが何だというのか。
世界の内側で生きる当事者はそんな事は知った事ではない。
端から見て面白くないから完全なる世界は拒否する、というのは観測者の傲慢ではないのか。
「ビャクさん、あなたはどう思う……?」
デミウルゴスの解を受け入れれば、亡くしてしまった大切な人にまた会えるんだよ……?」
- 96 :
- >>92
テイルの魔法解除により現れた人影はこのエリュシオンに避難した魔法学校側の馴染みの人物達であった。
彼らが突如現れるまで気づかなかったその技術は呪歌の技術にて作られた事そして呪歌には無限の可能性がある事を示唆し
細かい話をするため、世界防衛作戦本部なる場所に案内されることに。
「この世界の希望となるかそれとも新たなる騒乱の始まりか…」
何れにしろそれは今の所は未来にならなければ分からない事を口走りながら
世界防衛本部に向かう彼らの後に突いて行くことに。
>>93-95
そして世界防衛本部なる建物の内部に入り、広間にそのまま行くことになる
其処には様々な世代、種族の者達が大勢話し合っている光景を観察していた。
だがそんな事も瞬く間にある議題の名の下に中断することになるが。
>『ようお集まり下されたな、各々方。
此度はフェアリー=テイル・アマテラス・ガイアから、重要な議題の提案があるそうじゃ』
議題を提案するこの世界のテイルはまずは滅亡が回避された事を告げるその平和も永遠ではない事も
繰り返される悲劇のためにデミウルゴスが作られた事も。
そのデミウルゴスも創世と滅亡を繰り返した末に完全なる世界に至る道を探し出したこと。
そこからはテイルの旅の始まりから今後の重要な議題の中心である
奇跡と希望、魂と肉体の深奥に宿る神秘の万象への至る可能性の光――
それを自身とイョベールの例に、このエリュシオンを見つけ出したことを前面に押し出す。
「人の生きようとする意思と偶然の重なり起こした結果だと思うが
それを奇跡呼ぶのは自由か」
自身が取り戻した光が招き寄せた結果ではなく、単なる偶然と人の生きようとする意志の結果だと言いながらも
その話に冷静な状態で続けて聞き続ける。
万人が"光"を持つ世界、光が全てを笑顔と幸せに導く世界になりえる鍵についての話をした時
その場にいた全員に投げかけた言葉について自身の過去の因縁に大いに思い悩むことになる
二度と取り戻せないはずの物を取り戻せること
己の行ってきた事を全否定することになる言葉を。
- 97 :
- >「お集まりの皆さんに問いたいのは、ボク達はデミウルゴスの計画を継ぐべきか、です」
全てがある意味ご都合主義と呼ばれ、望むまま
悲劇が無く差別や蹂躙されることの無い世界――
口にすることは簡単だが立ちはだかる物は数え切れないほど神が作った不平等以外の何者でもない
障害が無い世界が成立する―普通ならば戯言と一蹴される理想論が現実になる旨を伝えられる。
嬉しいと思わないわけでもないだが心の内を占めるのは己の全てを否定された気がした―
力が足らず自分を守るために散った苦楽に共にした戦友達、愛する人をこの手に掛けた事がが無くなる
確かに無意識に手を掛けた者達が蘇る可能性がある
もちろん嬉しいはずだろう。しかし素直にはそうは思えなかったのだ。
本来死せるはずでなかったとしても自らの意思で役目を理解し覚悟を決めて死んだ者達の否定・冒涜ではないのかと
そんな考えが浮かんだ。
>「突然の話で俄かには信じがたいのは重々承知です。
明日、もう一度会議を開きましょう。そこで答えをお聞きします。」
騒然とする広間をもう一人のテイルはその言葉で締め括る。
しばらくは己の中での葛藤と疑問に悩み、思考を繰り返す。
抱く想いが正しいとは限らないだが大切な人達が生き返るのは良いことなのか
恐らく彼女が蘇っても僕は――
答えが出ないまま延々と繰り返す羽目になるのかと思われた矢先、テイルが突如問いかけてくる。
>「ビャクさん、あなたはどう思う……?」
デミウルゴスの解を受け入れれば、亡くしてしまった大切な人にまた会えるんだよ……?」
「それは本来この世界の人間が決めることだ、私が口を挟む余地は無い事かも知れん
しかし個人の考えとして許されるのなら正直悩む所だな―
会いたい人に会えるしかしそれは命を掛けて己の使命を果たし散っていた死者達の冒涜とも取れる
俺の最愛の人は蘇ったとしても」
し合う事になるだろうな、と告げる。
彼女は既に存在概念として全てに滅びと悪影響を与える者となってしまった。
其処に自己の意識などまったく関わらずにだ。
今の自分と彼女が引き合えば必然的にし合わなくてはならないだろう
例えどんなに愛し合い相思相愛でも。
「だがそれをこの世界の大勢が肯定するのならばそれも良しだろう。
ただ…本来死ぬべき人間が死なないのだ多世界に影響を及ぼす可能性は十分にある
そうすれば俺は役割を全うする側でこの世界を滅ぼしに来るだろう」
そんな事態にはなっては欲しくなかったがそれが今の自身の役目になってしまっている。
レヴィアの術で永久闘争存在になっても自我を保てるがそれも何時までかは分からない。
今更犯した咎を恨んだ所でどうしようもないが
- 98 :
- ビャクさんが、ボクの問いに答えた。
>「それは本来この世界の人間が決めることだ、私が口を挟む余地は無い事かも知れん
しかし個人の考えとして許されるのなら正直悩む所だな―
会いたい人に会えるしかしそれは命を掛けて己の使命を果たし散っていた死者達の冒涜とも取れる
俺の最愛の人は蘇ったとしても」
「蘇ったとしても……?」
一瞬の逡巡ののち、しあう事になる、とビャクさんは告げた。
>「だがそれをこの世界の大勢が肯定するのならばそれも良しだろう。
ただ…本来死ぬべき人間が死なないのだ多世界に影響を及ぼす可能性は十分にある
そうすれば俺は役割を全うする側でこの世界を滅ぼしに来るだろう」
「そんな……」
そんな事は絶対に嫌だ。だからこそ、迷った。
奇跡の光に満ちた世界……
それは、ビャクさんの愛する人の残酷な運命さえも、彼自身の変えられぬ役目すらも、変えてくれるかもしれない。
いや、きっと変えてくれる――。
「ビャクさん、ボクはデミウルゴスの解を……」
受け入れる、そう言おうとした時。
――どこからか歌声が聞こえてきた。セイレーンの血を引く者だけが持つ、神秘の歌声。
―― 闇を照らす 星明かり 久遠の時の 彼方より
―― 記憶運ぶ 旅人よ 我が腕に 抱かれ眠れ
「――っ!」
頭を抱え、膝を突く。突如として膨大な情報が流れ込んできた……? いや違う、元々持っていた記憶が甦ったのだ。
一人の妖精として生を受ける以前の、女神と一体だった時の全ての記憶。
アマテラスの全ての記憶、光の眷属が住まう概念世界タカマガハラにいた頃の記憶。そして、神々が織りなす壮大なる神話。
そして、ガイアの持つすべての記憶――”星の記憶”。それは、長い長い生命の物語。
光に満ちた概念世界にいた頃……ボクは確かに幸せだった。
でも当時、その事を認識はしなかった。全てが混然一体としていて、それを認識する自我が無かったのだ。
――神話の果てに、やがて神は人を生み出すに至る。
一方、物質世界の生命たちは、悠久の時をかけて命を紡ぎ続けた。無意味とも思える営みの果てに――概念を操る種、人が生まれた。
やがて、人はその概念を操る力をもって神々を生み出した。
神が人を作ったのか、人が神を作ったのか――議論は無意味。そのどちらも真実なのだ。
創世の記憶は時の彼方となり、光の神と闇の神が対立し、人と神が同時に存在する事が当たり前となって久しくなったこの時代に……
ボクは固有の人格を持つ固体、”フェアリー・テイル”として生まれ落ちた。
花香り水せせらぐ妖精の森にいた数十年間……ボクはやっぱり幸せだった。でもやっぱり、自分が幸せだなんて一度も思った事がなかった。
そして、長い長い記憶の中では本当についこの前。族長の命を受け、世界を救う旅に出た。
ついこの間のはずなのに、もう随分昔の事のように思える。
悠久の記憶の旅を終え、気が付くと、目の前で少女が微笑んでいた。
「ふふっ、新しく覚えた呪歌です。
忘れてしまった遠い昔の事を思い出させる歌――遠い記憶《ロストメモリー》」
ボクは、少女――ルーチカちゃんと、ビャクさんに告げた。
「ルーチカちゃん、ビャクさん、ボク決めたよ――」
その答えが、間違いだったとしても、とんでもない自分勝手だったとしても、ボクは……
- 99 :
- ―― 次の日
再び作戦本部に人々が集まり、この世界のテイルが問いかける。
問いかける、というよりは確認する、と言った方が正しいだろうか。
「皆さん、デミウルゴスの解を受け入れる覚悟は出来ましたか?」
「受け入れない――」
そう言い放ったボクに、皆の視線が集まる。
「ボクは知ってる……何の苦しみも悲しみも無い穏やかな世界を。でも、それは何もないのと同然だったんだ。
御存じのように、ボク達はここまで世界を救う旅をしてきた。辛かった、苦しかった、悲しい事もたくさんあった。
でも……どうしてだろう。楽しかった。世界を救う使命を胸に、仲間達と共に駆け抜けた日々が、本当に楽しかったんだよ」
誰も傷つかない穏やかな日々よりも、怪我人も死人も出る冒険が楽しかったとは、よく考えれば不謹慎極まりない発言だ。
とても正しいとは言えない結論だ。それでいい。
ボクにとって重要なのは、正しいか正しくないかじゃない、楽しいか楽しくないかだ。
昔から妖精とは善悪の概念が薄いもので、神様に至ってはやりたい放題するもので。
ボクは妖精で神様なのだ。まともなはずがない。
「ボクは妖精――物語の語り手。だから安心して、世界《物語》をここで終わらせたりはしない。
これは序章の終わりだ。未来へ繋ぐプロローグだ。必ずやレヴィアタンを倒し、未来を切り開く――!
だから……お願い、力を貸して! 光持つ者達よ――!」
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