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2012年3月漫画サロン245: 「泉こなたを自させる方法」を考える36 (164) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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「泉こなたを自させる方法」を考える36


1 :
前スレ消えたんで、とりあえず設置してみた。
■前スレ
「泉こなたを自させる方法」を考える35
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1289608681/
■保管庫等
こなた自Wiki
http://www34.atwiki.jp/konataowata/
つかさビッチWiki
http://www10.atwiki.jp/tsukasa-bocchi-owata/
VIPのらきすたSSまとめ
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/
らきすた呼称リスト
http://www.syu-ta.com/luckystar/luckystar-namecalled.shtm

2 :
>>1

3 :
>>1乙です。
http://uproda.2ch-library.com/470544GOf/lib470544.jpg

4 :
>>1

SS来るといいな

5 :
 嗚呼、新たにスレが建ったのですね。
お疲れ様です。
SSはまだ需要はあるでしょうか?

6 :
ある!
ある!

7 :
長編です、整理が終了したものからUPします。
トランスミッション
夏のコミケが終わった数日後のある日
4人は、こなたの家に集まっていた。
こなた:「ねえみんな コミケでちょっと面白いのを手に入れたんだけどさ〜」
つかさ:「ふぇ コ コミケって あのコミケ?」
かがみ:「また あんた 変なものを見せるんじゃないでしょうね?」
みゆき:「あら? こなたさんより面白いものあるんですか?」
かがみ:「ぷっ う うけたわ みゆき、そ そのつっこみは、こ こなた こっち見んなよ、笑いが止らなくなっちゃうでしょ」
つかさ:「ふふふ・・・ うん たしかに こなちゃん 面白いもんね〜」
みゆき:「ふふ 本当のことを言ったまでですよ、いつ見ても面白いですし」
こなた:「ちょ ちょっと みゆきさん!」
みゆき:「では こなたさん、貴方より面白いものを 見せてくれませんか」
こなた:「うんもう みゆきさんったら・・・」
こなた:「ランダムトランスカード を手に入れたんだよね、4人用だから みんなで楽しめるかなって思ってさ」
かがみ:「何よ その 怪しげな名前のカードは」
こなた:「このカードはね、それぞれのボタンを1人ずつ押したまま4人目が押すと、ランダムで入れ替わるというカードなんだよ」
みゆき:「つまり 押した瞬間 みなさんが自分以外の誰かになっているということですか?」
こなた:「そう そうなんだよ みゆきさん!」
つかさ:「ふ〜ん じゃあ私も もしかしたら お姉ちゃんになれるかも知れないんだね」
こなた:「うん まあ そういうことになるね、夏休みもまだあるしさ 2〜3日毎に入れ替わって生活してみない?」
つかさ:「うん 面白そうだね やってみたいな〜」
みゆき:「そうですね 他人の目から見た自分を見たり、他人を経験するのも面白いかも知れませんね」
かがみ:「うん まあ みんながやるならしょうがないか、やってあげるわよ」
こなた:「それじゃあ みんな指でそれぞれのボタンを押して・・・」
こなた:「では最後に 私が押すね? ぽちっとな!」

8 :
以下、カッコ内は入れ替わった人物です。
こなた(?):「ううん・・・」
かがみ(?):「ん・・・」
つかさ(?):「う〜ん・・・」
みゆき(?):「ん・・・」
みゆき(?):「うん・・? もう入れ替わったのかな?」
つかさ(?):「うわっ! ほ 本当に入れ替わっている!」
みゆき(?):「その驚き方だと 私に入っているのは こなちゃん?」
つかさ(こなた):「うん ということは、みゆきさんに入っているのは、つかさだね」
みゆき(つかさ):「うん そうだよ」
こなた(?):「ちょっと うるさいわよ!」
みゆき(つかさ):「その感じだと こなちゃんに入っているのは、お姉ちゃんだね?」
こなた(かがみ):「そうよ こなたになっちゃったわよ」
かがみ(?):「あらあら 本当に入れ替わったんですね」
こなた(かがみ):「ふう 私に入ったのは みゆきね?」
かがみ(みゆき):「ええ そうですよ」

9 :
こなた(かがみ):「まさかね 本当に入れ替わるなんてね」
つかさ(こなた):「まあまあ かがみん、滅多に体験できないことなんだしさ、楽しもうよ」
みゆき(つかさ):「ゆきちゃんの 代わりってできるかな〜 心配だよ〜」
かがみ(みゆき):「大丈夫なんではないでしょうか、一人っ子ですし 気ままに楽しめますよ」
みゆき(つかさ):「うん そうだね 楽しまないとね」
つかさ(こなた):「じゃあ もう遅いし、次回は明後日入れ替わることにして、解散しよっか?」
こなた(かがみ):「そうね あんまり帰りが遅くなるっていうのもあれだしね」
つかさ(こなた):「じゃあ お姉ちゃん帰ろう!」
かがみ(みゆき):「ちょ こなたさん いきなり抱きつかないでください」
つかさ(こなた):「ふふ〜ん 明後日までは、私と みゆきさんは姉妹になるんだよ」
かがみ(みゆき):「そ そうですね 言われてみれば」
つかさ(こなた):「そうそう じゃあ行こうよ」
かがみ(みゆき):「それでは みなさん 失礼します」
こなた(かがみ):「うん おやすみ〜」
みゆき(つかさ):「おやすみ〜」
こなた(かがみ):「つかさも がんばりなさいよ」
みゆき(つかさ):「うん わかったよ お姉ちゃん」
こなた(かがみ):「じゃ おやすみ〜」
みゆき(つかさ):「うん おやすみ〜 お姉ちゃん」

10 :

こなた(かがみ):「ふう 明後日までは こなたか・・・」
ゆたか:「お姉ちゃん ちょっと教えてほしいところがあるんだけどいいかな?」
こなた(かがみ):「うん いいよ〜」
ゆたか:「えっとね ここなんだけど・・・」
こなた(かがみ):そっか ゆたかちゃんもいるんだしね しっかりしないといけないわね。
ゆたか:「お姉ちゃん?」
こなた(かがみ):「えっ! ああ ここわね、こうやって こうして解くといいよ」
ゆたか:「そっか〜 こういう解き方があるんだ〜 ありがとう お姉ちゃん」
こなた(かがみ):「ううん わからないことが聞きなさい 教えるからさ」
ゆたか:「うん!」
こなた(かがみ):ふう やっと終わったわね、まんがも読みたいけど、パソコンがあるからちょっと遊んでみようかしら。
こなた(かがみ):何よこれ、ちょっと あいつ こんなことまでやっていたの? しかも おじさんまでやっているとわね。
こなた(かがみ):困ったわね・・・

11 :

再び こなた家に集合した4人
こなた(かがみ):「やっと こなたから開放されるわね」
つかさ(こなた):「ちょっと それは酷いよ〜」
みなみ(つかさ):「ゆきちゃんちのチェリーちゃん 可愛かったよ〜」
かがみ(みゆき):「楽しかったですか?」
みなみ(つかさ):「うん うちは犬とか猫はいないからね 1日中遊んでたよ」
かがみ(みゆき):「ふふふ・・・ それは良かったですね」
つかさ(こなた):「さあ! はじめるよ 次は誰になるのかな〜 ぽちっと・・・」
みゆき(かがみ):「今度は みゆきになったね」
こなた(つかさ):「こなちゃんに なっちゃった・・・」
かがみ(こなた):「ふふ〜ん 今度は かがみんか・・・」
つかさ(みゆき):「あら 今度は つかささんになったんですね」
みゆき(かがみ):「ちょっと あんた私の身体を変な風に使わないでよ」
かがみ(こなた):「わかっているってば かがみん・・・」
こなた(つかさ):「でも お姉ちゃん 今度は ゆきちゃんだから チェリーちゃんと遊べるよ」
みゆき(かがみ):「そ そうね」
かがみ(こなた):「ふふ〜ん」
みゆき(かがみ):「うっさい バカ! 黙れ!」
つかさ(みゆき):「それではまた 明後日にここでってことで・・・」
みゆき(かがみ):「そうね また明後日 会いましょう」
かがみ(こなた):「じゃあ 行きますか、みゆきさん」
つかさ(みゆき):「そうですね それでは みなさん」

12 :

みゆき(かがみ):「あっ つかさ ちょっと話があるんだけどいいかな?」
こなた(つかさ):「うん いいよ〜」
みゆき(かがみ):「つかさ 実はね・・・」

13 :
こなしね

14 :
スレ立ったんだ
乙です

15 :
こなしね

16 :
 2月上旬にSSをひとつ、投下させて頂きます。
宜敷くお願いします。

17 :
 女は3人寄れば姦しい。
この言葉は対象の年齢を選ばない。
老若問わずその場に3人の女性が集えば成立する関係がある。
そうして人が小規模の集団を作った時、その結びつきを恐ろしいスピードで強固にするたったひとつの方法がある。
「こなたにはホントうんざりだわ」
不快感を表すようにかがみが口を尖らせて言った。
「どうかされたのですか?」
みゆきが気遣うように問うたが、かがみの口調は明らかに水を向けていた。
「あいつ、学校に漫画持って来てるのよ。黙って読んでりゃいいのに私にまで見せてきてさ。参ったわよ」
やや憎悪を混ぜた声には、これまでのように呆れている様子はない。
「ヘンな人形も持ってたりするよね」
絶妙のタイミングで相槌を打ったのはつかさだ。
彼女は平素にこやかに振る舞っているが、深潭には泉こなたに対する侮蔑の念が覗いている。
この想いは彼女よりも遥かに温厚で貴人のような佇まいの高良みゆきもまた同様である。
「眉を顰めたくなる言動が多いですからね」
やはり笑顔を絶やさないがその分、静かな怒りが感じられる。
「いい加減ウザイのよ」
かがみの独り言に2人は頷く。
いつも人を食ったような態度でやるべき事もやらず課題などは自分に頼るくせに、しばしば自分をバカにするこなたを――。
柊かがみは赦せなかった。
「そうだよね〜」
学力は自分とさして変わらず料理の腕も劣っているくせに、たびたび侮る発言をするこなたを――。
柊つかさは赦せなかった。
「身の程を弁えていただきたいものです」
物腰優雅、容姿端麗、成績優秀の高値の花と成り得るハズが、オタク発言の連発で俗悪の世界に自分を引きずりこみ己が品格を貶めた泉こなたを――。
高良みゆきは赦せなかった。

18 :

”身の程を弁えるべき”
才女みゆきが何気なく放ったこの一言が、柊姉妹の悪辣な面を呼び起こした。
「だったらさ、みゆき。こういうのはどう?」
直截簡明なモノの言い方をするかがみは、3人がこれからとるべき行動を実に分かりやすく言葉にする。
「あ、それいいかも!」
「ええ、賛成です……ふふ……」
邪悪な笑みはこの場にいない少女――泉こなたに怨恨の情をもって叩きつけられていた。
 泉こなたはいじめに遭っていた。
殴る蹴るといった肉体的な暴力は加えられないが、彼女が置かれている状況は直接的な暴行を受ける事を望みたくなるほど辛辣だ。
存在の否定――即ち、無視。
もともとB組ではつかさ、みゆき以外とはさほど親しくしなかったこなたは、ここに至って友誼を広げなかったことを悔いた。
いじめの主格がその2人だったからだ。
宣戦布告はなく、静かに始まったこなたへの攻撃。
”無視”といういじめには宣告の必要はない。
さりげなく、ごく自然に標的を避けることが強いて言えば開始の合図である。
「ねえ、つかさ……私が悪いなら謝るからさ……」
ホームルームが終わるとこなたはすぐにつかさの元へ駆け寄った。
「………………」
もちろん彼女は返事をしないし、反応することもない。
「私のことで怒ってるんでしょ? ちゃんと言ってよ」
「ゆきちゃん、一緒に帰ろう」
つかさは懇願するこなたの脇をすり抜け、みゆきに話しかけた。
「ええ、今日は委員会の仕事もありませんので。かがみさんを迎えに行きましょう」
極めて穏やかな口調でみゆきが答える。
これがこなたに対する当てつけなら、にこやかな笑顔の裏に悪辣な爪を研いで彼女を一瞥しただろう。

19 :
しかし残酷な少女たちが行っているのは”無視”である。
もはや惨めなこなたを優越感を以って蔑視することすらしない。
「………………」
じわりと滲み出た涙を少女は指先で拭った。
傷心の彼女を慰めてくれる者はいない。
「柊さんや高良さんってオタクってイメージあったけど違うんだね」
戸口の近くでそんな声がした。
「同一視されていたのですね。少し前まではそういう方とよくお話をしていましたから無理もありませんが……」
みゆきがいつもの温厚な口調で言う。
「ヒドイ話だよね。私たち、あんなヘンな種族じゃないのに」
つかさが同調する。
クスクスと時おり、ひそみ笑い。
みゆきの言うように最近まではいつものメンバーで居た。
しかししばしば周囲を顧みない言動をするこなたに辟易し、2人が彼女を疎外し始めるとその空気はすぐにB組内に伝播した。
人は群れると強くなり、1人では出来ない事を成し遂げる。
元々クラスの生徒たちはこなたに良い印象を持っていなかった。
その理由はつかさたちとほぼ同様である。
世間ではまだ異端視されがちのオタクの面を隠すどころか執拗にアピールする節さえある少女に、そうした趣味を持たない生徒たちが
揃って閉口することはごく自然な反応といえる。
といってあからさまに忌避することもできなかったのは、つかさ、みゆきの存在によるところが大きい。
こなたと違い、この2人は悪印象は持たれていない。
険のないつかさに、篤実で博識のみゆきである。
好かれることはあっても嫌われる要素はない。
この2人がこなたと親しくしていたため、彼女に辛辣に当たれば同時に2人への罪悪感も芽生えさせてしまう。
そのために表向きは一クラスメートとして扱っていたにすぎない。
ところがこの2人がこなたを放逐すると一転、罪悪感の軛(くびき)から解き放たれた生徒たちはこれまでの鬱積を晴らすように
”無視”といういじめを肯定してしまった。
これまで交際範囲の狭かったつかさとみゆきはこれを機にB組の生徒たちとも交わるようになった。
かくして圧倒的多数が1人の少女を孤立させる、という構図が閃電が駆けるよりも速く成立してしまったのである。

20 :
(なんでさ……なんで……こんなことになるの……?)
こなたはぎゅっと拳を握りしめた。
 2人がC組に向かいかけた時、かがみは既に廊下にいた。
「どうする? どこか寄ってく?」
というかがみの自然な誘いに、
「そうですね。そういえば駅の近くにスイーツのお店ができたそうですよ」
自然に乗るみゆきである。
彼女は頬にそっと手を添えて、
「あ、でもかがみさんはおやめになったほうがいいかもしれません。そのお店のケーキはとても美味しいそうですから――」
やはり穏やかな調子で言う。
「言ってくれるじゃない、みゆき」
こなたと違い、みゆきの軽口は角が立たない。
生真面目で寄り道や買い食いを嫌うみゆきでさえこの雰囲気を楽しみ、今では積極的に柊姉妹と親睦を深めている。
一歩学校の敷地を出てしまえば、生徒は表現し難い解放感に酔いしれる。
女子高生の他愛ない世間話は、道行く陵桜の生徒がまばらになったところで憎きこなたへの罵詈讒謗に変わる。
「前からムカついてたのよ。ああいう要領のいい奴見てると腹が立つのよ。成果は努力に応じて正しく発現すべきだと思わない?」
提出物の類を他人に頼っておきながら、いざ考査となると自分と変わらない点数を上げるこなたは、かがみにとっては憎悪の対象だ。
「同感です。私も泉さんとお付き合いする中で幾分、品格を毀(そこ)ないかけました。
その際はお二人にさりげなくフォローして頂いたおかげで助かりました」
こう吐くみゆきはそれまでの温厚そうな笑顔を豹変させ、対峙する者を竦ませる鬼の形相を見せた。
「オタクって理解できないよね。あんな調子で疲れないのかな?」
憐れむようで明らかに馬鹿にしている発言はつかさから発せられた。
「疲れるのはこっちよ。妙なテンションで決め台詞だか何だか叫ばれたら恥ずかしいわ。咄嗟に他人のフリしたくなるもん――」
妹の苦言に息巻いたかがみはもちろん、最後に”他人だけど”という言葉を添えるのを忘れない。
こういう話題になると女子は実に活き活きとする。

21 :
「かがみさんはご存じないかもしれませんが、B組の人たちは泉さんを相当嫌っていたようですよ」
みゆきはこなたいじめの状況を説明する。
といっても伝えるべきことは極めて簡潔である。
B組のほぼ全員がこなたを内心退けていたこと、当の少女は無視されるという情況に終始俯いていること。
そして最も重要なのが、
「もちろん黒井先生はじめ教師陣は気付いていません」
これである。
毛嫌いするこなたへの攻撃として、最も顕在化しにくい方法を模索していたのはかがみとみゆきだった。
暴力沙汰を起こせばそれはただちに教師の目に留まり咎を受く。
だが”無視”という行為であれば客観的にいじめの実態を観測することはできないし痕も残らない。
何より周囲を顧みないオタクに精神的な苦痛を受け続けてきた彼女たちにとって、この方法は正しく因果応報。
仕返しの手段として最適なのである。
「ふん、いい気味よね――あ、ここじゃない?」
残酷な会話はかがみがスイーツショップの看板を見つけたことで中断された。

22 :
 今夜はここまでです。
続きは明日に投下します。

23 :
「ただいま」
こなたは部屋の奥まで通る声で言ったが、たったこれだけの行動も彼女にとっては苦痛極まりない。
学校で無視され続ける彼女には日中、声を出す機会がない。
会話をする相手がいないのだから口を開く時といえば、授業中に教師に指されて問題に答えるくらいである。
1週間、2週間と行われるあまりに静かで苛烈ないじめは、こなたに発声の仕方を忘れさせるほどに大きな打撃を与えている。
「おう、おかえり。最近は寄り道しないんだな」
作務衣姿のそうじろうが出迎える。
「あ、うん。今のところ欲しい物もないしね」
不自然にならないよう笑顔を浮かべてこなたは自室へ向かう。
後ろ手にドアを閉めれば、そこはもう彼女だけの空間である。
目の前の人間に無視されることもなければ、背後からの蔑むような視線やせせら笑いに悩まされなくて済む。
「うっ……ひくっ…………」
日中とは別の孤独感に彼女は涙を流した。
(私……何をしたんだろう……? かがみだけじゃなくてつかさやみゆきさんまで怒らせて…………)
小学生当時、今と違って内気だったこなたはその性格のせいで度々揶揄われてきた。
いわゆるネクラで傍から見ればいつもオドオドしていて鬱陶しい存在であったことは間違いない。
その時分から既にオタクではあったが、自室に引きこもりがちな内向的なオタクだった。
それを変えようと中学に上がると同時に明るく振る舞い、いつも俯いていた自分と決別するために社交的な面を研鑽してきた。
彼女の心がけそのものは正しかったが、今となっては行き過ぎた。
いつしか饒舌になったこなたはTPOの弁えを忘れ、殆ど自分にしか分からない話題を延々続けたがる疎ましい存在になってしまっていた。
(つかさ、明日は喋ってくれるかな……?)
という淡い期待を胸に部屋着に着替える。
腕にも足にも、どこにも怪我はない。
(ちゃんと謝ろう。原因は分からないけどきっと私が悪いんだ)
じわりと滲む涙を拭い、彼女は”そうじろうの娘”を演じるために静かに部屋を出た。

24 :
 しかし彼女の決意も虚しく、翌日もまた昨日と同じ6時間が展開された。
そもそも謝罪という行為は、それを受け止める相手がいてこそできるものである。
耳を貸すどころか、彼女の存在すらないものとして扱うつかさやみゆきに、もはやこなたは謝ることさえできない。
自分はいじめに遭っている!
無視され始めて半月。こなたはようやくその結論に辿り着いた。
これまではつかさやみゆき、かがみとの復縁ばかりに気を取られるあまりにB組全体をしっかりと見ていなかったためだ。
呆然と休み時間を過ごすこなたは件の3人だけでなく、B組の生徒が1人残らず自分を無視していることに気付いたのだ。
ななこに相談すれば事態は好転するかもしれない。
だが自分たちの2倍近くを生きてきた者より、1人を標的にいじめを行う未成年たちのほうがよほど知力に長け狡猾である。
彼女たちは糾弾されても回避できるいじめ方をしているのだ。
直情的な黒井ななこを煙に巻くなど容易いことなのである。
「………………」
教室内はワイワイガヤガヤと実に賑やかだ。
今やこなたを虐げることで団結しているB組の生徒たちは、仲間内では分け隔てなく親睦を深めている。
「でさー、昨日の話だけど……」
「マジで? やったじゃん」
「今日部活中止なんだよな。どっか遊びに行かね?」
不完全に混ざり合った声がこなたの耳元をかすめ、頭上を飛び交い、教室中に蟠る。
その声の中心にいて、しかし決してその輪の中に入れないこなたはこの上ない孤独感を味わわされる。
(………………)
こなたはゆらりと立ちあがった。
希望がないわけではない。
教室の喧騒から逃れるように教室を抜け出す。
目指すのは隣のクラス。
C組の柊かがみなら話ができるかもしれない、と淡い期待を抱く。
幸いなことに求む人物は廊下にいた。
「か、かがみ…………」
名前を呼ばれ、肩越しに振り向いた彼女は明らかに面倒くさそうな顔である。
「あの、さ……かがみ、話がある――」
「私はないから」
氷よりも冷たい視線で一瞥した後、かがみはこなたの脇をすり抜けてB組に向かう。

25 :
「ちょっと待って! 謝るからっ! 私が何したか分からないけどちゃんと謝るからさっ!!」
嘆願だった。
たった一本の細い命綱に縋るように――。
怯えと真摯さの混じった目がしっかりとかがみを捉える。
「”何したか分からない”のに、”ちゃんと”謝るって矛盾してないか?」
かがみは歩みを止めない。
立ち尽くすこなたとの距離を徐々に広げながら、
「結局、あんたは一生そのままってことよ」
遠回しな絶縁を叩きつけ、勝ち気な少女は教室の中に消えた。
(私が……何したっていうのさ…………)
悲しさに些かの悔しさを織り交ぜた少女は記憶を辿る。
(前の日までいつも通りだったじゃん……私がボケて、かがみが突っ込んで……なんで……?)
楽しかった記憶はまだ霞すらかからないほど鮮明に残っている。
時間はそう経っていない。
輪の中心から一転、孤独の迫(さこ)に転がり落ちた彼女の中では途轍もなく永い時間のように感じられたが、
まだひと月も経っていない。

26 :

まだ絶望の底の底まで陥っていない彼女は執拗にアプローチを試みた。
つかさに訊ね、みゆきに迫り、かがみへ声をかける。
悉く無視されても電話で、あるいはメールでとあらゆる手段を用いて原因を探ろうとする。
だがそうすればするほど、こなたはさらなる孤独感――というよりもはや孤独そのもの――に苛まれる。
彼女が考えつく全ての方法にも、彼女たちは一切取り合わなかった。
家に帰ればそうじろうとゆたかがいる。
家族である彼ら2人だけはこなたの唯一の話相手であり、味方でもあった。
しかしだからといって学校で起こっている事を打ち明ける勇気はこなたにはない。
心配をかけてしまうという負い目もだが、娘想いのそうじろうや実の姉同様に慕ってくれるゆたかが何らかのアクションを起こし、
騒ぎを大きくしてしまうのではないかという不安もある。
すっかり臆病になっているこなたは、その末路についておおかた予想ができている。
そうじろうなら担任か直接学校にアクセスするだろう。
ゆたかはまずみなみに相談し、彼女からみゆきに辿り着くだろう。
どちらにしても渦中のこなたが騒動の禍中に放り投げられることは明らかだ。
だから彼女は家では明るく振る舞った。
いつもと変わらない”泉こなた”を演じれば、そうじろうもゆたかも”いつもどおり”に接してくれる。
「お姉ちゃん、最近元気ないみたいだけど大丈夫?」
テレビをぼんやりと眺めていると、不意にゆたかが声をかけた。
その表情は言葉通り心配そうだ。
「ん? そんなことないけど……ちょっとゲームやりすぎたかな」
尤もらしい言い訳をして微苦笑する。
悟られるわけにはいかない。
「今日は早めに寝ようかな」
ウソがバレることを恐れたこなたは、不自然にならないように立ち上がり居間を出ていく。
その背中に向かって、
「何か悩んでることがあったら私に言ってね。どれだけ力になれるか分からないけど……心配だから」
優しく声をかけるゆたかに、こなたは危うく落涙しそうになる。
「うん、ありがとね、ゆーちゃん」
ここで多弁になればボロが出る。
こなたは敢えて言葉少なに振り返ることもせず自室に飛び込む。

27 :
自分にはまだ味方がいる。
味方をしてくれ、とはとても言えないがこなたにとっては唯一安らぎを得られる相手だ。
(ごめんね、ゆーちゃん……)
少女は心の中で何度も謝り、枕を濡らしながら一夜を明かした。
 気丈に振る舞えるのも3週間が限界だった。
1ヶ月近く続く陰湿ないじめは、こなたの精神を悉く食い荒らしていく。
外では頼る者のいない彼女は学校を休みがちになり、登校しても保健室に閉じこもることが多くなった。
オアシスであったからだ。
校医のふゆきは優しく、こなたに対して温かみのある言葉をかけてくれる。
彼女は心に傷を負う者への接し方を心得ていて、決して探りを入れるような無粋な真似はしない。
保健室に入り浸ることで勉学が疎かになっても教室に戻るように働きかけることもない。
こなたにとってはどこよりも居心地が良かった。
彼女がほんの少し元気を取り戻した時、殆ど気まぐれ同然にクラスに顔を出すのだが、やはり生徒たちは一切関わろうとはせず
ようやく奮い立たせた勇気は微塵に砕け散る。
昼休み。
こなたは中庭の端にあるベンチで隠れるようにパンを食べることが多くなった。
チョココロネ。
環境が変わっても好みだけは変わらない。
教室や食堂を利用せず、それ以外の場所で時間を潰す生徒は多い。
性の別に関係なく2、3人――あるいは5人6人とグループを作って広い敷地内に散在する。
中庭にもいくつかのランチスポットとも言うべき憩いの場があり、日当たりのよい場所にも木陰にもベンチがある。
そうしたスポットで仲良さそうに昼食を楽しむ生徒の群れを見て、こなたの心は引き裂かれる。
「ちょっと前まで……」
ふと漏らす。
「ああやってみんなで一緒にいたのに」
つかさ、かがみ、みゆきの顔が浮かんでは消える。
ここ数日、顔もまともに見ていないこなたは、あれだけ談話を続けてきた彼女たちの顔をはっきりと思いだせない。
彼女たちだけではない。
さほど交わりのなかったクラスメートの顔もまた、暗闇の向こうに消え去っている。

28 :
こなたにとって最も近しい存在はそうじろうとゆたかであり、次いでふゆきなのである。
「………………」
甘ったるいチョコレートが舌に膠着(こびりつ)く。
喉の渇きを覚えたこなたはブリックパックのジュースをゆっくりと飲む。
「うっ…………」
無性に悲しくなってくる。
マンモス校にいながら、なぜ自分の周りには誰もいないのか。
なぜ誰も彼も自分の傍から離れて行ってしまったのか。
その理由が分からないから彼女は悲しい。
「あれ? 泉ちゃん?」
不意に名を呼ばれ、こなたは咄嗟に声のした方を見た。
(しまった…………!!)
彼女は目に涙を溜めたまま顔を上げてしまう。
「チビッ子、どうしたんだよ? こんなところ――」
やって来たみさおとあやのは、明らかに様子のおかしいこなたを見て訝しげな表情を浮かべた。
「あ、うん……みさきちたちこそどうしたの?」
同級生との会話を久しくしていなかったこなたは、誤魔化し方が極端に下手になった。
みさおはクラブの用事のため部室へ寄った帰り、あやのは委員会の仕事を済ませた後で鉢合わせし、偶々ここを通りかかったのだという。
「なんでこんなところで食べてんだ?」
柊たちとは一緒じゃないのか、と言いかけたみさおは慌てて口を噤んだ。
それが無粋な質問であると思わせるほどに、こなたの憔悴ぶりは酷かった。
「泉ちゃん…………?」
翳るこなたの顔を、あやのが覗きこむようにして呼びかけた。
「ううっ………………」
自分を気遣うような2人の視線に、溢れる涙を必死に堰き止めようとしていた精神の堤防が脆くも崩れ去った。

29 :
そして――――。
「え!? 泉ちゃんっ!?」
ぽたり、ぽたり。
零れる涙が少女の足下を僅かに濡らす。
「な、なんで泣いてんだよ? ウチら何かしたか?」
困惑したみさおが幼馴染みに目配せする。
だが視線を向けられたあやのはオロオロするばかりだ。
「違う……よ……違うから……」
2人のせいじゃない!
こなたはそう言うつもりだったが、昂った感情が発音を押さえ込んでしまう。
「なあ、チビッ子……何かあったのか? こんなところで独りでさ――いっつも柊たちと一緒にいるじゃん?」
”独り”と”柊たち”という単語がこなたの心を鋭く抉る。
怯えたような目を向ける彼女に、2人はしばし顔を見合わせた。
数秒の間を置き、
「良かったら聞かせて?」
あやのが柔らかい口調で言い、こなたの横に腰をおろした。
みさおもそれに倣う。
そのあまりにも優しすぎる言葉――しかも他人からの――に、こなたはどう返せばよいか分からなかったが、迷っている風の彼女に、
「誰にも言わないから、ね?」
思い出したように付け足したあやのの一言に、ようやく心情を吐露する決意が固まった。






30 :
 今夜はここまでです。
明日は不本意な飲み会参加のため、次の投下は金曜日になります。
それでは、また。

31 :
「そんな事が…………」
事情を聞いたあやのは困ったように俯いた。
「教室での柊ちゃんはいつもと同じ調子だったから全然気がつかなかったわ」
「だよな。休み時間になるとしょっちゅう出て行くから、またかと思ってたけど……そっか――妹と眼鏡ちゃんに会いに行ってたってワケか」
みさおが頷く。
しかし分かったような顔はできない。
こなたは最近の状況について仔細に語ったが、彼女が受ける苦痛が明らかになっただけで、そうなった原因が判然としない。
「心当たりとかないのかよ? キッカケみたいなのとかさ」
「ううん……分からない。前の日まではほんとに普通で――3人で喋ってたから……それが急に誰も口利いてくれなくなったから」
「イタズラ……にしてはさすがに悪趣味だし1ヶ月近くもするなんてヘンよね?」
「それに柊も妹もそういうコトするタイプじゃねーしな」
そこが分からなければ解決の方法がない。
こなたを無視するようになったのは何故なのか?
なぜ3人ともがそうしているのか?
換言すればここが判明すれば縒(よ)りを戻す方法も自然と定まってくる。
「先生には相談したの?」
という問いに、こなたはかぶりを振った。
もちろん騒ぎが大きくなり、報復されるのを恐れてのことだ。
「まさか柊の奴がそんなことやってるなんてな…………」
誰からも好かれる朗らかなみさおが怒気を露にした。
あやのも彼女ほどではないが心中想うところがあるのか、平素からは想像もつかない険しい表情である。
かたやこなたは自分に代わって憤慨している2人へ、というよりもこの陵桜という広い空間の中で永く孤独を味わっていた自分に、
これまでと同じように話しかけてくれたことに感謝していた。
親しかったかがみたちに揃って顔を背けられた衝撃の大きさも相俟って、知り合って日の浅い2人との会話が
これほど貴重なものになるとはこなた自身、想像もしなかったことだ。
「――チビッ子」
一瞬、憐れむような寂しそうな目をしてみさおが言う。
「頼りないかもしれないけど力になるぜ」
表情の翳りはほんの一瞬。
次にはもうみさおはいつもの快活な少女に戻っていた。
「みさきち…………」
一度は涸れた涙が再び溢れる。

32 :
「私も――」
あやのがグッと拳を握った。
「このままじゃ泉ちゃんが可哀想よ。何ができるか分からないけど私も協力するわ」
「峰岸さん…………」
こなたは複雑な表情を浮かべた。
この申し出は彼女に万倍の力を与えてくれる。
家族以外には校医のふゆきにしか心を許せない状況の中、みさおとあやのの援けは何物にも勝る宝同然だ。
しかしこなたにはその厚意をすんなりと受け容れる余裕はなかった。
「すごく嬉しいけど……でもかがみとは中学の頃から一緒だったんでしょ?」
ここに引っかかりを感じるからだ。
特にみさおとはかがみを巡って――もちろん本気ではない――所有権争いの真似ごともしている。
付き合いの長さ、深さからいっても2人がこなたに左袒するより、かがみを援護する方が自然に思える。
「んなの関係ねーよ!」
こなたの言わんとしていることを読み取ったか、みさおが怒鳴った。
「いくらクラスが一緒だったからって柊の肩持つ理由になるかよ」
かがみに対する憤りの念が突慳貪な口調を通してこなたに伝わる。
「柊ちゃんたちのしてる事……立派なイジメよ。黙って見過ごすなんてできないわ」
争い事が起こった時、どちらかと言えば仲裁役に回ることの多いあやのも珍しく旗幟を鮮明にした。
「みさきち……峰岸さん…………」
人前で泣くのは恥ずかしいことだと思っていたこなただったが2人の想いに胸を打たれ、滂沱として流れる涙を堪えることができないでいた。
「泣くなって。泣くよりこれからどうするか考えようぜ」
みさおがこなたの肩をポンと叩いた。
「――っつっても私は難しいこと考えるの苦手だから大して役に立てないけどな。あやのならきっと頼りになるぜ」
「こういう時はみさちゃんの行動力も必要なのよ?」
自嘲気味に笑うみさおに、あやのはすかさずフォローを入れた。
「ありがと……みさきち、峰岸さん……ひくっ……ありがとう…………」
恥も外聞も捨ててこなたは泣いた。
まさしく子供のような様に、2人は困ったように顔を見合わせた。

33 :
(お父さんにもゆーちゃんにも言わなかったのに…………!!)
視界を涙で滲ませながら、こなたは気付いた。
苦境に立たされた時、打ち明けて助けを求めるならまず家族だ。
娘想いの父に、病弱ではあるが芯の強い部分もあるゆたか。
こなたはどちらにも相談しなかった。
だが今、目の前にいる――。
日下部みさおと峰岸あやのに対しては――あっさりと心情を吐露してしまった。
この2人なら何とかしてくれるかも知れない、という想いがあったからか。
それは当の本人にも分からない。
ただ心のどこかでは頼りになる存在だと認識していたのは間違いない。
だからこそ優しさに触れ、素直に打ち明けることができたのだ。
「でもどうしよう……? 柊ちゃんを問い詰めるわけにもいかないよね?」
幼馴染みに頼りになると言われたばかりの少女は、早くも今後の対応に苦慮した。
「問い詰めるったってチビッ子のこと無視してんのは明白だろ? やっても意味ないと思うけど」
「ううん、そうじゃなくて……止めさせるってこと」
「素直に聞くとは思えないけどな」
「そうよね…………」
まだ肩を小さく震わせて泣いているこなたの前で、2人は彼女を気遣うように小さな声で話し合う。
辛辣ないじめは早く無くなってほしい。
こなたはそう願っているが精神的に追い込まれている彼女は、こうして2人が心配してくれるだけで充分だった。
同級生との久しぶりの会話らしい会話。
殆どの人間にとって当たり前の意見交換という行為は、無視され続けてきた少女にとっては大いなる救いなのである。
「チビッ子、いつもここで食べてんだろ?」
不意に話題を振られ、
「え? う、うん……そうだけど……」
こなたは曖昧に頷いた。
「ならうちらも明日からここで食べるよ」
「…………?」
「お昼休みになったら柊ちゃんはすぐB組に行くから、私たちがここにいるなんて気付かないと思うし」
「え、でも…………」

34 :
渋るこなたに、
「心配しなくていいよ。当面は柊ちゃんとは今までどおり接するから。泉ちゃんが不利になるような事はしないからね」
やはりあやのは包み込むような笑顔を向ける。
いじめを外側から解決に導くなら、当事者――特に加害者側を刺激しないことが重要だ。
多くの教師あるいは親はこの点をなおざりにし、傷を広げ、耐えがたい最悪の結末を皮肉にも自らの手で招いてしまう。
「気持ちはすごく嬉しいけど……でももし見つかったら……」
「見つかったら?」
「2人も目をつけられるんじゃないかなって…………」
こなたは言葉を選び選び慎重に述べたが、つまるところ自分に加担することで2人までもが標的にされるのを恐れているのである。
「はぁ〜……」
聞こえよがしにため息をついたみさおは腰に手を当て、口を尖らせた。
「あのなぁ、チビッ子。それが厭ならこうやってお前と話してないで、とっくにどっか行ってるっての」
「…………?」
「そもそもこんな大事になってんのに無視できるかよ。うちらまで目背けたらチビッ子が救われねーだろ?」
「救われ……る……?」
「そうだぜ。知らない仲じゃねーんだからさ。もうちょっと頼ってくれてもいいじゃん」
潤んだ瞳はみさおをじっと捉え、それからあやのにも向けられた。
みさおの良きパートナーは彼女とは対照的に言葉ではなく、小さく頷いて自分の意思を伝える。
「でもそのせいで関係ない2人まで巻き込まれたら――かがみたちとの仲が悪くなるでしょ……?」
やはりそこが気になるこなたは、嬉しい申し出も素直に受け入れることができない。
「見損なうなよ」

35 :
なおも逡巡するこなたに苛ついたようにみさおが言う。
「イジメなんてつまんねー事やってる奴と仲良くする理由なんかねえよ。あやのだってそうだろ?」
「ねえ、泉ちゃん。私たちは自分の意思で泉ちゃんを助けたいって思ってるの。あ、ううん……そんな恩着せがましい意味じゃなくてね。
だから柊ちゃんたちとの仲が悪くなっても構わないし、みさちゃんが言ったように仲良くする理由もないわ」
「峰岸さん…………」
「むしろ恥ずかしいくらいだぜ。そんな奴と5年間同じクラスだったってチビッ子と張り合ってたのがさ」
「………………」
「さっきも言ったけど私たちが勝手にやろうとしてるだけだから、もし泉ちゃんが放っておいて欲しいって言うならこれ以上は関わらない。でもね――」
あやのは小さく息を吐き、
「私もみさちゃんも……泉ちゃんの味方だってことは忘れないでほしいな」
天使の微笑みを浮かべた。
だが顔を上げたこなたはその微笑みを見ることはできなかった。
何度目とも分からない溢れた涙が視界を滲ませ、暈かし、そのすぐ向こうにいる心強い味方の姿を歪ませた。
「あーー!!」
突然みさおが叫んだ。
「チビッ子、泣いていいのは今だけだかんな! 私もあやのもいるんだから、明日からはいつもどおりにしろよ!?」
「ちょ、みさちゃん…………」
「だって見てらんねえじゃんか。いっつも飄々としてるチビッ子がこんなになってるんだぜ? よっぽどつらかったんだろ?」
「うん…………」
2人は泣きじゃくるこなたを困ったように見つめる。
「ああ、つらいと思うぜ。どこにも味方がいないっていうのはさ――」
みさおは珍しく憂いを帯びた表情を浮かべる。
この後、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた後もこなたは泣き続けていたため、2人は彼女を保健室に連れて行った。

36 :
 今夜はここまでです。
それでは、また。

37 :
GJです!!!
背景コンビがかがみ達と談判
→3人にないことないこと吹き込まれる背景コンビ
→背景コンビもかがみサイドに加担
→こなたますます雪隠詰め
…な展開と予想してみる。

38 :
 問題が解決したわけではない。
依然としてこなた自身はクラスで孤立させられる理由が分からない。
知ろうにもそれを教えるべき者が揃って口を閉ざしているためだ。
だが僅かながら――こなたにとっては飛躍的に――事態は好転した。
彼女は”完全な孤独”からの脱却に成功したのだ。
「って感じで最近は深夜アニメが多いんだよね」
お決まりのチョココロネを齧りながら得意気に語る。
彼女を挟むように両脇に座るみさおとあやのは話を半分ほどしか理解できていないのか、目を白黒させている。
「よくそんな時間まで起きてられるよなー」
「どうしても眠い時は録画するけどね」
みさおは何とか話についていこうとする。
「あ、ごめん……あんまり興味ないよね……」
微妙な空気の流れを感じたこなたは慌てて軌道修正しようとする。
昼休み――。
あの日以来、2人は昼食を持って中庭に来るようになった。
校内では人目を避けるようにしていたこなたも、みさおとあやのだけは心を許せる大切な存在となっている。
これまで会話できなかった分を吐き出すように、彼女は多弁になって昼休みを過ごす。
ゲームのこと、アニメのこと……。
言いたい事はいくらでもあったハズだ。
ただしそれを聞く相手はこれまで彼女が交わってきた人物ではない。
「いや、いいぜ。私もたまにそういうの観るし」
こなたは少なくともかがみに対しては遠慮はなかった。
通じないのを前提にマニアックな話題をわざと選んでぶつけていた節さえある。
それが許された――と、こなたは思っている――のは、かがみが呆れながらも、きちんとそれに応えてくれていたからだ。
「ふふ、泉ちゃんってほんとにアニメが好きなのね」
今、かがみとはまた違う包容力のある2人がここにいる。
こうして周囲の目も気にせず、孤立無援となったこなたに救いの手を差し伸べる少女たちがいる。
「最近はいろんなのがあるしね。でもこの時期になったら――」
自分の好きな話題に多少食いつかれたことで、こなたはさらに饒舌になってアニメ話を繰り出そうとする。
が、ある事に気付き彼女は慌てて続きを呑み込んだ。
”この時期になったらスポーツ中継で番組が潰されるのがイヤだ”

39 :
こういう意味の発言が後に続くハズだった。
言葉を切ったのは、もちろんみさおへの配慮だ。
彼女がスポーツ好きであることはこなたも知っている。
具体的にどの種目を好いているかは別にして、このような発言をしてしまっては気を悪くするかもしれない。
(……だよね。私もオタクとかアニメを批判されるのはイヤだし……)
こなたは頷いた。
「いろんな番組が始まるよね! ドラマとかさっ!」
自らの頭に冷水を浴びせかけ、半ば強引にこの話題を切り上げようとする。
「それより泉ちゃん、お昼それだけで足りるの?」
あやのが半分になったチョココロネを不思議そうに見て問うた。
「私、あんまり体動かさないしこれくらいで丁度いいんだよ」
「栄養バランスとか悪いと思うんだけどなあ……」
「チビッ子のイメージにピッタリだよな。胃袋も小っちゃかったりして」
と言って笑うみさおの弁当箱もどちらかといえば小振りだ。
中にはもちろんミートボールが入っている。
「そういえば、みさきちのお弁当にはいつもミートボール入ってるよね」
口を尖らせながらこなたが言う。
「ああ、大好物だからな。あとハンバーグも」
「なんか子どもっぽい…………」
「見た目が子どもなのに何言ってんだよ」
「まあまあ2人とも」
苦笑交じりにあやのが口を挟むが、当然のことながら険悪なムードにはならない。
どちらもこうした掛け合いを楽しんでいる節がある。
こなたのちょっとした一言には嫌味がないし、みさおも些細なことを気にするタイプではない。
あやのの仲裁役もほとんど流れに沿って与えられた役割のようなもので、本気で止めようとしているわけではない。
多少の気遣いはあれど、こなたが飾らず自然体でいられる空間を2人は見事に作り出していた。
「あのね……」
おおかた食べ終わったところであやのが改まった。
「柊ちゃんにそれとなく水を向けてみたんだけど、悪いことしてるっていうか後ろめたいところはあるみたいなの」
「えっ…………?」
こなたの顔が強張った。

40 :
「あ、大丈夫! それとなく、だから。泉ちゃんは心配しないで」
「う、うん…………」
「B組の話を避けたがっている様子だったから、もしかしたら罪悪感持ってるかもしれない」
と良い方向に向かうことを匂わせるあやのに、
「それは甘いんじゃねーの?」
みさおは冷たく言い放つ。
「誰だって”チビッ子をいじめてます”なんて言うわけねえよ。ただ隠したがってるだけだろ」
「そうなのかな……」
「だってさ、うちらには打ち明けないわけじゃん。ってことは柊はうちらの前ではいい人でありたいって思ってるわけよ。
陰でそんな卑怯なことやってるって知られたら嫌われるかもしれないからな」
こなたを慰めるように状況を伝えるあやのに比し、みさおは辛辣で現実的な意見を叩きつけた。
理想派と現実派、平素とは立ち位置が逆になっている。
「なんでかがみたちは私を無視するようになったのかな……?」
2人への問いかけではなく、殆ど呟きだった。
「理由なんてないと思うぜ」
その呟きをしっかり拾っていたみさおが言う。
「こんな事するのに理由なんかない――っていうかどんな理由があったってやっちゃダメだろ。んなこと小学生だって分かるぜ」
「そうね……そのとおりよ」
あやのも同調する。
「それとなく聞き出してみるわ。泉ちゃんは気にしないで……」
この峰岸あやのという少女は意志が弱そうに見えて、言いたいことはハッキリと言う性格だ。
その強さがこなたには頼もしい。
「うん、ありがと……」
という言葉を何度吐いたか分からない。
保健室通いだった彼女が元気を取り戻せたのは、誰あろうこの2人のおかげなのだ。
以前と違い顔色のよくなったこなたを見て、みさおとあやのは微笑した。

41 :
 少なめですが本日はここまでです。
明日のまどマギ展の為、今夜は早めの就寝です。
>>37
 ありがとうございます。
面白い予想ですが残念なことに、僕はそんなに優しくはありません……。

42 :
こなたんのあいかわらずな空気の読めなさが炸裂しかけてやばいと思ったぜw
>>僕はそんなに優しくはありません……。
なんという外道…これは間違いなくこなた転落フラグ…

43 :
裏切り展開かと思ったがそうじゃない、それ以上に残酷な展開となると・・・
二人が謎の【自】を遂げる、とか?

44 :
裏切りではなく、最初からグルだった、とか・・・?
>みさおとあやのは微笑した。
これが怪しい

45 :
あの学校って共学だよね?
男子が女子のイジメに加担するとは考えにくい
こなたが女子に無視されるなら、とっとと男ヲタクに擦り寄るだろう
幼児体系でもヲタ男にとっては女王様。女友達とつるむよりも居心地はいいだろう
こなたはそのぐらいのしたたかさは持ち合わせてる。人知れずめそめそなんかしない
あるいは、無視されてることすら気づかずわが道を行くかもしれんw

46 :
 同じ頃。
別の3人組は学校生活を存分に謳歌しているようで、昼食時もやたらと機嫌がよい。
「みゆきのお弁当って結構あっさりしてるのね」
いつもの如くB組に来ているかがみは、箱も中身も平凡なみゆきの昼食をちらりと見やった。
「キャビアとかフォアグラとか入ってないの?」
ボケなのか本気なのか、そう問うたつかさは妙に目を輝かせている。
「い、いえ、さすがにお弁当にそれは……期待はずれですみません」
そして誤る必要もないのに卑屈なみゆきである。
彼女たちは実に愉快そうだった。
日常で発生するストレスはこなたに向けることで発散される。
直接的な手段に出られない牴牾(もどか)しさはあるが、たった一人の標的を束になって追い詰める快感は一度味わってしまうと、
再びその心地よさを得たくなってくる。
おまけにこなたを疎外することで彼女たちの団結はより強固になり、複数でいることに安心感や安定感を齎してもくれる。
しかしこの直後、放たれたみゆきの一言により状況にちょっとした変化が起こる。
「ここで大切なお話なのですが……」
周囲に聞かれまいとしてか、明らかに声量を落とす。
「少し前から日下部さんと峰岸さんが、お昼休みを泉さんと過ごしています」
瞬間、かがみとつかさの顔つきが変わった。
「そう…………」
頬杖をついてかがみは難しい顔をした。
つかさは空席となったこなたの座席を一瞥した。
「完全に孤立したわけではなくなりましたから、これまでのように無視という手段では大してダメージを与えられませんね」
”ダメージ”という単語にさしかかった時、みゆきは露骨に厭そうな顔をした。
彼女にとってはできるだけ使いたくない言葉だった。
このワードは今では一般的だが、認識する際にはどうしてもロールプレイングゲームを連想させられてしまう。
ロールプレイングゲーム――泉こなたが学校内でも平然と持ち出す話題にある、テレビゲームの一種だ。
(せめて”打撃”とでも言い換えるべきでしたね……)
後悔する一方で、そんな忌み嫌う単語がさらりと出てしまうほど毒されてしまった自分が憎くもなる。
「じゃあどうするの?」
展開が変わった時、つかさは質問ばかりする。

47 :
「スマートではありませんが、聞こえよがしに悪口雑言を叩きつけるありません」
「そうよね……証拠が残らない方法っていったらそれくらいか。手あげたりしたらすぐにバレるし」
かがみがつまらなさそうに言った。
痕跡が残らない程度の暴力に訴えるのもあるが、そもそも手加減するのだからフラストレーション解消にはならない。
おまけにこなたが格闘技経験者であることも厄介である。
「録音されない限り彼女に抗う術はありませんよ」
どこか不安げなつかさに、みゆきはやんわりとした口調で言う。
だが丁寧なのは口調だけで、その中身は物腰優雅な才媛からは想像もつかないほどドス黒い。
 いじめっ子に共通の特徴として柔軟性や弾力性が挙げられる。
よく聞く文句として、
”いじめをするような奴は頭が悪い”
というのがあるが、これは厳密には正しくない。
頭の悪い部分とは人道的な面を指摘しているのであり、彼らの中には品行方正、成績優秀である者も多い。
何より憂慮すべきは彼らの知性が”いじめの実態を隠蔽”することに強く傾けられている点だ。
クラスメートを巻き込み、教師を欺き、保護者を誑かすことなど造作もないのである。
したがってたとえ標的への攻撃手段を変えても、あくまで教師陣にマークされない範囲での方法となる。
「ほんっとキモいわよね〜」
「そうそう。オタクなんてさ、ヘンな単語ばっかり連発するし」
「同感ですね。視野狭窄と言いましょうか、神話などには随分詳しいイメージはありますが人としては……」
かつてこなたを含めて形成されていたグループが、その旧構成員に聞こえるように罵詈雑言を並び立てる。
「迷惑だよなあ。こないだも電車乗ってたらやったらデカイ紙袋ぶらさげてる奴がいたぜ」
「あとリュックサックにポスター2本突き刺してる奴もいるよな。マジ邪魔だっつの」
「あいつら声でかいんだよな。しかもやたら演技がかってるし。言葉もおかしいし」
「普通の会話で”ガーン”とか”ギクッ”とか言わないわよね〜」
こなたと親しかったかがみたちが先んじて罵倒し始めたため、クラスメートもそれに乗じて争うように同調した。
無視から一転、今度は逆にクラスメートからの総攻撃を受ける恰好となり、こなたはさらに縮こまった。

48 :
こうなると授業には集中できないし、休み時間などは到底教室にいられる雰囲気ではない。
彼女は日の半分ほどを保健室で過ごし、昼休みは逃げるように中庭に向かうという生活スタイルを確立してしまった。
「…………」
こなたは俯いたまま時が過ぎるのを待つ。
先ほど3時間目が終わったばかりだ。
次の授業をしのげば待望の昼休み。
この陰鬱な地獄から抜け出せることができるのである。





「柊ちゃんたちがそんなことを?」
こなたにとって唯一心休まる時間、場所。
彼女は最近の変化を数少ない味方に打ち明けた。
「こっちのクラスじゃ相変わらず変化なしだからな。やっぱ悪いことしてるなんて思ってないぜ」
吐き捨てるようにみさおが言った。
「私もそう思う……かがみたちがちょっとでも悪いとか思ってくれてたら良かったけど……」
「もう悠長なこと言ってられないわね」
あやのがギュッと拳を握りしめた。
「どうすんだ?」
「もちろん先生に相談するのよ。まずは黒井先生に。それでも駄目そうなら桜庭先生にも言ってみる」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
まさかの展開にこなたが思わず立ち上がった。
「先生に言うのはやめようよ」
「泉ちゃんの言いたいことは分かるけど、このままじゃ何も解決しないと思う」
「それは……そうだけど……」
「それに学校で起こってる事だから、いつまでも先生に黙ってるわけにもいかないし」
「でも……!」
こなたの背を汗が伝う。
もしななこに訴えでもしたら、直情的な彼女は必ずホームルームでこう言うだろう。

49 :

”泉をいじめとう奴は正直に名乗りでえ!”
これは彼女にとって最も避けたい状況だ。
高校生にもなっていじめというのもバカバカしい話だが、もうそこまで成熟――あくまで実年齢という意味で――している人間であれば、
親や教師に少し注意されたくらいで己を曲げることはしないだろう。
むしろ密告された報復として、こなたをさらに追い詰める可能性が高い。
あやのの芯の強さはこういう時に限ってはこなたにマイナスに働く。
「仕返しされるから……峰岸さん、お願い……! 誰にも言わないで」
こなたは懇願したが、本音をストレートに伝えるなら、
”騒ぎを大きくしないで!”
と、なるだろう。
さすがにここまで強い口調で反駁されると、あやのも主張を押し通せなくなる。
「………………」
「………………」
すっかり怯えた様子のこなたは言葉ではなく、今にも消えそうな光の宿った双眸で訴える。
「あやのの気持ちも尤もだけどさ、一番大事なのはチビッ子がどうしたいかってことじゃね?」
「………………!!」
「チビッ子に代わって私らが動くにしても、それでかえってチビッ子が追い詰められたりしたら意味ないじゃん。
波風立てて余計に悪化したりしたら、私もあやのも責任とれないだろ?」
「みさきち…………」
「結論出すの急がなくていいと思うぜ。まだチビッ子が我慢できるんだったらな」
「そう……そうよね……どうしようもなくなったらその時は訴えればいいのよね」
険悪になりかけたムードを立て直したのはみさおの一言と、それをすぐに受け容れたあやのである。
「2人ともごめん……私のせいで面倒ばっかりかけて……」
と言いかけたこなたに、
「泉ちゃんのせいじゃないわ。悪いのは柊ちゃんたちのほうなんだから」
あやのはやんわりと言って聞かせる。
その言葉にこなたが俯いた時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

50 :
 その夜。
現実逃避も兼ねて自室でネットゲームに興じていたこなたは、携帯電話の着信音にコントローラを置いた。
メールが届いている。
 発信者:峰岸さん
 件名:今日はごめんね
 本文:今日はごめんね。
    泉ちゃんの気持ちも考えないで軽率なこと言ってしまって。
    あれからみさちゃんと話し合って、やっぱり泉ちゃんの立場を一番に考えるべきだってことになったの。
    泉ちゃんはどうしたい? いじめを止めさせるのはもちろんだけど、柊ちゃんとまた仲良くしたいと思う?
    それとも縁を切ってしまったほうがいいかな? 正直、こんな事されたら私なら許せないけど……。
    あくまで泉ちゃんの気持ちが大事だから、何でも私たちに話してね。
文章の後半は視界が歪んだためによく読めなかった。
4行目を見た瞬間に、こなたは落涙している自分に気付いた。
昼休みを一緒に過ごしてそれで終わり――ではなかった。
自分のいないところで、みさおとあやのは自分の事について話し合ってくれている。
助けてくれる。支えてくれる。
真剣に考えてくれているのだ。
それが分かっただけでもう、彼女は救われた気になった。

51 :
 宛先:峰岸さん
 件名:Re:ありがとう
 本文:どうしたいか私もよく分からない。
    仲直りっていうのは多分違うと思う。でも前みたいに戻りたいって気持ちもあるよ。
    だってまだ理由が分からないし。私がみんなに嫌われるようなことをしたのは分かってる。
    でもちゃんと聞きたい。悪いところがあったらなおしたい。それでまたみんなと一緒に遊びたい。
    峰岸さんと日下部さんには本当に感謝してる。本当にありがとう。
    正直、私ひとりだったらどうなってたか分からない。
    2人に助けてもらわなかったらきっと塞ぎこんでたと思う。
    本当にありがとう。
拙い言葉で精一杯の謝意を伝える。
何があってもこの2人を失うわけにはいかない。
こなたにとって最後の砦となるこの2人だけは――決して失ってはならないのだ。
便箋で作られた紙飛行機のアニメーションがメールを送信したことを告げる。
それと同時にドアが遠慮がちにノックされた。
「お姉ちゃん、入っていい?」
外にいるのはもちろんゆたかだ。
「ちょっと待ってね……うん、いいよ」
携帯電話を閉じ、涙を拭う。
「はい、お姉ちゃん」
入って来たゆたかはクッキーを乗せたトレイを差し出した。
「みなみちゃんに貰ったの。お姉ちゃんにもおすそ分け」
「ありがたいね。早速いただくよ」
花弁の形に焼かれたクッキーはほんのりと甘い。
ひとつ、またひとつと口に運んでいくこなたを、じっと見つめるゆたか。

52 :
「何かあったの?」
という問いに、こなたはギャグマンガのようにクッキーを喉に詰まらせそうになった。
「最近元気なかったみたいだけど今日のお姉ちゃん……なんだか嬉しそう……」
「そう? そうかな…………」
「そうだよ」
小早川ゆたかは峰岸あやのに似ている。
争いを好まない、おっとりとした性格はもちろん、普段は滅多に自己主張しない割にここぞという場面では芯の強さを見せる。
しかも他人の機微にも敏感である。
「よく分からないけど元気になってよかったよ。お姉ちゃんが暗いと心配だし……」
「ゆーちゃん…………」
こなたがゆたかに相談しなかったのは騒ぎが大きくならないように、心配をかけないようにという理由からだった。
だが実はそれだけでは無かったことに彼女はいま気付いた。
こなたはゆたかにとって常に頼りがいのある姉でありたかったのだ。
だからこそ自分が追い詰められていることを打ち明けられなかったのだ。
「あはは、なんか心配かけちゃってたみたいだね。ごめんね、ゆーちゃん」
「う、ううん……!」
「でも大丈夫だよ。疲れてたように見えたのはちょっと寝不足だっただけでさ。ほら、これ」
と言ってモニターを指差す。
爪楊枝のようなキャラが画面狭しと動き回っている。
安堵したゆたかは、夜更かししすぎないように、と忠言を残して部屋を出て行った。
(私が妹みたい…………)
再びパソコンに向かったこなたは久しぶりに笑っていた。

53 :
 今夜はここまでです。
次の投下は火曜日夜になります。
今日、声優という職業の人に初めて会いました。
新鮮な出来事でした。
それでは、また。

54 :
男子を誘惑(または買収)して犯させる
という展開は同人誌でお腹いっぱいなのでやめてくださいね♪

55 :
こなたの反応が普通の女の子すぎる
本当にらきすた知ってるの?と問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい
二次創作ならまずキャラクターを理解しないことには始まらないよ

56 :
SSの内容はさておき、私的日記はやめろ反吐が出る

57 :
山岡さん、>>1を自させる方法を考えて

58 :
自分の文才に酔ったーSSはこのスレだけにしてくれよ

59 :
女の子を自に追い込むSSを、どんな顔して書いてるんだろう
ニヤニヤ笑いながら?おー怖い

60 :
いじめられっ子の心理描写が秀逸
作者は実際にいじめられた経験があるに違いない
だからこんな悪趣味なSS書く気になるんだな

61 :
 それから数日、午後9時過ぎ。
シャワーを浴び終えたみさおは下着姿のまま、自室でぼんやりとテレビを観ていた。
お堅いニュースは頭が痛くなるし、ドラマも時の俳優の顔だけで中身が無くつまらない。
チャンネルをあちこちに変えた挙句、結局はお笑い番組に落ち着く。
「俺が陸上選手!」
「なにっ!?」
芸人たちが短時間のうちにネタを披露しては画面の端に消えていく。
「あ〜つまんね〜〜」
中空に向かってみさおがぼやいた時、傍にあった携帯電話が鳴った。
「………………」
サブ画面を確認したみさおはレコーダーの録画ボタンを押してから電話に出る。
『ごめん、こんな時間に。もしかしてもう寝てた?』
相手は律義な性格である。
生真面目なみゆきならともかくも、みさおはこの時間帯に就寝するような性質ではない。
電話の相手はそれを分かっているが、挨拶代わりにこう言っているのである。
「いや、まだ起きてたからいいぜ。それよりどうした?」
みさおは冷たい口調で言った。
『どんな感じかと思ってね』
彼女の声のトーンなど気にせず、電話の相手は対照的に嬉々とした様子で会話を進めようとする。
ああ、とみさおは息を吐いた。
「柊の言うとおりだったぜ。あいつ、うちらに泣きついてきたよ」
『やっぱりね。最後は日下部たちに行くと思ってたわ。ゆたかちゃんやおじさんには絶対言えないだろうからね』
電話の相手――柊かがみの声は弾んでいた。
「………………」
みさおはすぐに言葉を挟まず、観るとはなしにテレビを眺める。
関西出身の芸人がどこかの歴史博物館の設定で交互にボケとツッコミを繰り返している。
「わんわん泣いていじめられてるって訴えてきたぜ?」
かがみの知らない近況を語るみさおの声は暗い。

62 :
しかし心底愉快そうなかがみはそうした友人の様子に気づこうともせず、
『もう2週間くらいになるんじゃない? そろそろどん底に叩き落としてやりなさいよ』
残酷なことをさらりと言ってのける。
『あいつ、ビックリするわよ? まさか日下部と峰岸が私たちの側だなんて思わないもん。
真実を知ったらどんな顔するかしらね。ねえ、日下部はあいつがどんな顔すると思――』
「なあ、柊…………」
ほとんど聞き取れない声量でみさおが遮る。
こうなるとさすがにかがみも言を並べ立てることはせず、沈んだ様子のみさおの言葉を待った。
「そのことなんだけどさ…………」
嬉々として、そして饒舌だった彼女の気分を落ち着かせるように話しかける。
『なによ? どうしたのよ?』
「あ、いや……」
『ほんとにどうしたのよ? あんたちょっとヘンよ?』
気遣うように問うているが、かがみの口調はみさおを心配しているというより急かしているようだった。
幼少の頃、誕生日に親や姉から貰えるプレゼントを待ち焦がれているような――。
種明かしをした時のこなたの苦痛と屈辱に塗れた表情を想像しては悦に入るかがみは、しんみりした空気を嫌っているようだ。
『日下部?』
この通話で初めて名前を呼ばれたみさおは唇を噛んだ。
「柊…………」
『だから何なのよ?』
「さっきの話……なんだけどさ」
『うん』
「ちょっと思うところがあるっていうか――」

63 :
 人は誰でも残酷な面を持つ。
たとえ聖人君子でも必ず加虐性向が潜んでいて、あるキッカケでそれが容易く発現してしまう。
倫理観の発達していない幼年期においては、地を這う蟻をわざと踏み潰したり、ハムスターなどの小動物をいじめたりする子がいる。
こうした性質は成熟とともに倫理観を備えることによって抑えられていくものであるが、精神的に発達していても閉鎖的な環境と
一定の条件が揃えば、嗜虐に耽る人間が完成してしまう。
勝ち気で積極的なかがみも、清楚可憐で物腰優雅なみゆきも、平素の振る舞いや性格は違えどもこの点は根っこの部分で共通している。
「ほんっとあのゴミ、いい加減どっか行ってくれないかな」
「そうだよね。生きてても何の価値もないもんね」
「同感です。地球を汚す害悪でしかありませんよ」
6時間の授業を乗り切り、ホームルーム終了とともに鞄を持って逃げだそうとしたこなただったが、
運悪くななこに用事を頼まれ、20分ほどロスしてしまった。
B組の生徒は部活に寄り道にと次第に離れていき、こなたが仕事を終えて教室に戻って来た頃には誰の姿もなかった。
――彼女が厭う3人の少女を除いては。
こなたは鞄を持って用事を引き受けなかった軽率さを恨んだ。
机に提げられた鞄に目を留めたかがみたちは、彼女がやがて戻ってくることを分かっていた。
そして件の標的が戻ってくる絶妙のタイミングで聞こえよがしに悪口雑言を浴びせるのである。
「………………」
こなたは足元を見ながら机に向かう。
こういう時、目を合わせてはいけない。
いじめの内容が無視から攻撃に変わった以上、彼女たちは些細な理由で突っかかってくる可能性がある。
「オタクってほんと嫌だよね〜」
追い打ちをかけるようにつかさが言う。
敵意の視線を肌に感じながら、こなたはようやく鞄を手に取る。
だがすぐに立ち去ることはできなかった。
彼女の前に柊かがみが立ちはだかったからだ。
「………………」
こなたは少しだけ顔をあげた。
獲物をいたぶる動物のように、残忍な笑みを浮かべたかがみがいる。

64 :
「ど、どいてよ……」
この教室には彼女たち以外誰もいない。
密告する生徒も止めに入る教師も。
「聞こえないわねぇ?」
クスクスと嘲笑。
上品すぎるみゆきの笑い方は、今のこなたには最も効果的な攻撃である。
「どいて…………」
刺激をしてはいけない、刺激をしてはいけない。
こなたは小さな体を傾け、目の前の壁をすり抜けるように捌いた。
「あんたムカツクのよ」
かがみはついにストレートに憎悪をぶつけた。
だがぶつけたのは言葉だけで、まだ手は出さない。
揉み合いにでもなれば格闘技経験者を相手にするかがみは不利になる上、傷をつければいじめの実態が明るみになってしまう。
「あんたみたいなオタクが――」
さらなる罵声を浴びせかけた時、教室のドアが音を立てて開いた。
「柊ちゃんたち、何やってるの……?」
あやのだった。
すぐ横にはみさおもいる。
「峰岸…………」
滑稽な一幕だった。
こなたを囲い込んで思い思いに嬲っていた3人は、闖入者の姿を認めた途端に驚愕の表情を浮かべた。
あやのはそれ以上は何も言わず、みさおを伴ってこなたの傍に歩み寄った。
「泉ちゃん、何を言われたの?」
「………………」
こなたはすぐには答えない。
直接的に自分をいじめる者たちと、庇う者たち。
その間に立たされ、報復を恐れる彼女には素直に窮境を訴えることはできない。
「泉ちゃん?」
だが珍しく険しい顔つきのあやのに心強さを感じたこなたは、
「私のこと……ムカツクって……ゴミだって……」
あやのにだけ聞こえるようにぼそぼそと語った。

65 :
「そう…………」
あやのは深刻そうな表情で口元に手をやった。
「――いい気味」
憔悴したこなたの顔を覗き込むように彼女は言った。
「えっ…………!?」
こなたは驚いた。
この状況、この空気の中、最もあり得ない台詞が峰岸あやのの口から発せられたからだ。
彼女はまだ天使のような微笑みを浮かべている。
「泉ちゃん、私たちが本当に味方してると思った?」
しかし彼女が紡いでいく言葉は悪魔よりも悪魔らしい、追い詰められた者を震え上がらせ、絶望の底に叩き落とす暴力である。
「本当は違うの。柊ちゃんたちに見離されたらきっと私たちに泣きついてくる。だから味方のフリをして見てたのよ」
「そんな……ウソ、でしょ…………?」
全身から力の抜けたこなたは、鞄を落としたことにも気付かない。
自分には味方がいる。
その事実だけでかがみたちからの苛烈な責めに耐えてきたこなたは、まさかここで5対1の構図になるとは思いもしなかった。
「面白かったわ。私たちを信じて泣いてた泉ちゃん。騙されてるとも知らずに」
男を惑わすような彼女の笑顔は、こなたにとってだけは残酷な夜叉の顔である。
「えー? こなちゃん泣いてたのー? 私も見たかったなあ」
つかさが無邪気にそう言うと、
「こっそり撮っておいたの。後でひーちゃんにも見せてあげるね」
こなたから目を逸らさないようにしてあやのが言う。
「そ……そんな……なんで――?」
燥(はしゃ)ぐつかさに内心苛つきながら、展開についていけないこなたは呆然と立ち尽くした。
「”なんで”?」
それまで笑顔だったあやのは、口元にだけ笑みを残して冷たい瞳でこなたを見下ろした。
分からないの? と言いたげな双眸が少女を容赦なく貫く。
「泉ちゃんが悪いのよ。みさちゃんのことバカにしたから」
抑揚のない声がこなたの耳を衝き破ろうとする。

66 :
「赦せなかったの。知り合って日も浅いみさちゃんにあんな言い方する泉ちゃんが」
「峰岸さん…………」
「だから柊ちゃんから話を聞いた時は自業自得だと思ったわ。胸がすく想いだった。いい気味よ!」
大和撫子と表現して差し支えない口数の少ない彼女は、ここぞとばかりに烈しくこなたを責め立てた。
豹変ぶりに困惑するこなたはカラカラに渇いた喉で、
「最初……最初からそうだったの……?」
暗中に光明を探し出そうと呟く。
「ふふふ、泉さん。そろそろ現実を直視したほうがよろしいですよ?」
みゆきが厭らしく笑った。
「と言ってもアニメだかゲームだかに没頭して現実から目を背け続けてきた貴女には到底無理な話でしょうけれど」
「あはは、こなちゃんどんだけ〜」
嘲笑と侮蔑が渦を巻く。
こなたは歯噛みしながらあやのから視線を逸らした。
「みさきちも……?」
今となってはこの呼び方にも不自然さが伴う。
不意に名を呼ばれたみさおはピクリと体を震わせ、
「あ、ああ、まあな……」
あやのの陰に隠れるようにして返した。
「ま、そういうわけだ、チビッ子。恨むなよな。元を辿れば……お前が悪いんだからな……」
みさおはこなたの目を見ないようにして言った。

67 :
なぜか歯切れが悪くぎこちない笑みまで浮かべているみさおに代わり、
「私たちを散々に弄んできた罰ですよ、泉さん。全て貴女自身が招いたことなのです」
みゆきが口の端を歪めて言った。
「罪咎の深い賤しい貴女にはピッタリでしょう?」
「………………」
「こなた――私はね」
今度はかがみが前に進み出てくる。
「あんたのそういう顔が見たくてたまらなかったのよ!」
「かがみ…………」
「フザけた顔していっつも私をバカにしてたあんたの! そういう顔が見たくてしょうがなかったの!」
周囲に誰もいないことを確認し、彼女は声を限りにこなたを罵る。
「これであんたが頼れる人はいなくなったわね! あはははッ! ざまあみろ、こなた!! 苦しめこなたぁっ!!」
広く狭い教室に柊かがみの笑い声が轟き響く。
その後ろではみさおが拳を握りしめ、何かに耐えるように体を震わせていた。

68 :
 今日はここまでです。
それでは、また。

69 :
 数時間の記憶が彼女にはない。
あれから誰に何を言われたのか、どうやって帰ったのかも定かではない。
気がつくと彼女は家の前に立っていた。
鞄はしっかり持っている。制服にも汚れはない。
これならそうじろうもゆたかも何かに勘付くことはないだろう。
「はは…………」
自然に漏れる笑い。
まだ帰る家と温かい家族がいるだけでも幸せだ――と。
泉こなたにはそう思う余裕はなかった。
今日から、明日からどうすればいいのか。
そのことで頭がいっぱいだった。
「おかえり」
だからそうじろうの出迎えには生返事をして、夢遊病者のように自室に向かう自分にも気付かない。
「お、おい! こなた……大丈夫か? 熱でもあるのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけだから」
覇気のない声と抑揚のない口調は、そうじろうの目にはただ体調不良としか映らない。
「そうか? 長引くような医者に行ったほうがいいぞ。学校も無理なら休んでいいからな」
という思いやりの言葉は、サボり癖のある者にとっては甜言蜜語である。
実際、こなたも休めるものなら学校を休んでしまいたいと思っている。
だがもし――。
もし明日、厚意に甘えて欠席してしまったら……。
自分はきっと、もう二度と学校には通えない。
分かるのだ。
散々に心に傷を負った彼女には、たった一度の欠席がかろうじて残っていた気力を悉く蒸散させてしまうこと。
失った気力は取り戻せないこと。
待ち受けるのは悲劇的な結末であることが。
「うっ……うぅ…………!!」
鞄を投げ出し、ベッドに突っ伏したこなたは泣き続けた。
苛烈だった。
あまりにも惨憺すぎる現実だった。

70 :
友人――と思っていた――からの2度の責めが、彼女の精神を修復不可能なくらいに引き裂いたのだ。
「なんで……なんでこんなことに…………!」
声をして泣くこなたは、もう洗いざらい打ち明けてしまおうかと思った。
不出来な娘の姿を晒し、不甲斐ない姉の姿を露呈してやろうかと思った。
まさか家族までもが掌を返すような真似はするまい、と。
その一点での希望はある。
(やっぱり無理だよ…………っ!!)
だが、できないのだ。
加害者が全校生徒の前で、”私はいじめをしている”と発表するよりも、
被害者が近しい人物に、”私はいじめられている”と囁くほうが万倍も難しいのだ。
主に羞恥心と恐怖心とが――。
泉こなたという容れ物をいっぱいに満たして彼女の手足に幾重にも重い鎖を巻いていく。
いつしかそれが枷となり、彼女の行動をじわりじわりと押さえ込む。
飄々と……。
もういつものようには躱せない。
間もなくそうじろうが夕食の用意ができたと呼びに来るだろう。
食卓では彼とゆたかの3人、頭を交えて団欒をするだろう。
その時、どんな顔をして時を過ごせばいいのだろうか。
作り笑顔はぎこちなく、声にも元気が出ない。
2人は優しいから何があったのかと問うてくる。
だからといって現況を打ち明ける気にもなれない。
(お母さん…………)
こんな時、最も頼りになる人物は最も遠いところにいるのだ。

71 :
 翌日からの学校生活はまさに地獄だった。
罵詈讒謗の数々はこなたをどこまでも苦しめるのに、彼女には見た目に傷ひとつ残さない。
傍目に異常を窺わせるとするなら、せいぜい目の下にできたクマくらいだ。
数で圧倒的に勝るいじめグループは教師のいないタイミングを図っては遠巻きに、あるいは直接的にこなたを甚振る。
”オタク” ”キモイ” ”消えてしまえ” ”人間のクズ”
とにかく彼らの語彙の中から選りすぐりの文句を際限なく浴びせてくるのだ。
無視されていた頃のほうがよほど楽だった――こなたは思った。
もともとB組のつかさ、みゆきはもちろん、休み時間ごとにやってくるC組の3人の存在が煩わしかった。
特にかがみやあやのは、わざわざこなたいじめのためだけに足を運んでいる節がある。
「あ、なんだ? こいつまだいたんだ?」
「よく学校に来られるよね。みさちゃんにあんなヒドイこと言っておいて」
「ふふ、その咎をいま受けているのですよ、峰岸さん」
「分かってる。でもこんなのじゃ足りないわ。ねえ、みさちゃん?」
「え? あ、ああ。だな……全然懲りてないんじゃね?」
授業と授業の間に挟まれる10分。
3人はチャイムが鳴り終わると同時にB組にやってきて、チャイムが鳴り終わる頃に教室に戻っていく。
変化はこれだけではない。
この5人が揃って昼食をとるようになったのだ。
絶えず聞こえる談笑。
彼女たちが他愛もない世間話をしているのか、それとも自分を揶揄しているのかはこなたには分からない。
だが追い詰められた彼女は、聞こえる全ての声と音が自分に向けられているものだと錯覚した。
「昨日のドラマ観た?」
「あの俳優カッコイイよね」
こんな会話すら言葉の裏に自分への攻撃が潜んでいるのではないか?
(………………ッ!!)
昼休みが始まると同時に、こなたは鞄を持って中庭に飛び出した。
ドアの向こうに、廊下の角に、植樹の陰に誰かが隠れていて自分を笑っているのではないか?
負の感情に呑みこまれたこなたは中庭端の木に隠れるようにしてパンを齧った。
サッカーボールを蹴る音がする。
普通に考えれば元気のいい男子たちが遊んでいるのだろうと想像がつくが、こなたはそうは考えない。

72 :
あれは自分を狙っているのだ!
サッカーをして遊んでいる風を装って隙を見てボールをぶつけようとしているのだ!
周りには敵しかいない。もう味方はいない。
(もうイヤだっ! イヤだよッ!!)
恐怖心に打ち勝てなかったこなたは半分も食べていないパンを捨て、耳を覆って職員室に走った。
訴え出るのではなく、早退の手続きをするためだ。
午前中――それでも朝のホームルームから数時間が経っている。
ここまでよく耐えたと自分に言い聞かせ、こなたは地獄から脱出した。





そうじろうやゆたかに心配をかけるわけにはいかない。
その想いで普通の学生を装うこなたにも限界はある。
みさおとあやのの裏切りから3日。
針だらけの教室と、庇(ひさし)にもならない中庭と、天国と表現してもいい保健室での生活。
勉強は遅れに遅れたが構わなかった。
大学に行けなくてもいくらでも道はある。
卒業後は自分をいじめる者のいない世界に飛び出て、新たな人生を歩もう。
まさか社会に出てまでかがみやつかさに付き纏われるハズもない。
辛抱だ。今は辛抱だ。
この地獄は永遠ではない。
卒業するまでの辛抱なのだ。
何度も何度もそう思い込むようにし、今日もこなたは快活な娘――そして姉――を装う。
自室ではゆたかが入ってきてもいいように、適当にゲームをつけておく。
プレイしなくても画面を見れば、こなたがいつもどおりであると思い込んでくれる。
そうじろうとの会話はアニメ観賞に集中している風を装って極力減らす。
相手は実父だ。喋ればボロが出て学校での生活が明るみになるおそれがある。
自分から波風さえ立てなければ泉家の居心地の良さは平日昼間の比ではない。

73 :
周囲の目を気にしなくてもいいし、声や音に敏感にならずに済む。
「………………」
録り溜めていたアニメを流しっぱなしにし、こなたはぼんやりと画面を眺めていた。
内容も癖のある声優の声も入ってはこない。
入らなくてもいいのだ。
こうして穏やかな時間さえ過ごせれば、こなたはそれで満足だった。
それを苛立たしげに破ったのは、携帯電話の着信音だった。
相手毎に設定を変えていないため画面を見るまで誰からかかってきたのかは分からない。
煩わしそうに、緩慢な動きで携帯電話を手に取るこなたの顔が青ざめた。
出たくない相手だった。
このまま電源を切ってしまいたい相手だった。
だがそんな事をしたら――次の日に何を言われるか分からない。
「………………」
こなたは震える手で通話ボタンを押す。
「もしもし…………」
『良かった……出てくれないんじゃないかと思ったぜ……』
こなたは最初、どちらかの電波状況が悪いのかと思った。
この快活な相手の声は、平素からは想像もつかないほどにか細かった。
だからといって何が変わるわけでもない。
今や聞き取りにくいみさおの声を聞いただけでも、こなたは激しい動悸に襲われてしまう。
だがこの時、彼女の様子は明らかにおかしかった。
『チビッ子…………』
と、消え入りそうな呼びかけの後、
『ごめんな…………』
この一言をハッキリと述べた。
「えっ…………?」
惑うこなたは思わず胸を押さえた。
鼓動が早鐘を打つ。
『ホントにごめん……騙して悪かったよ――』
電話の向こうでみさおは何度も謝った。

74 :
「ど、どういうことなの……?」
『こんな事するつもりじゃなかったんだ。結果的にチビッ子を騙したことになるけど……でもこんな事したくなかったんだ』
「意味が分からない……なんで…………」
こなたにはみさおを責めるなど到底できなかった。
手酷い目に遭わされ続けたいじめられっ子は、自分の安全が確保されるまでは報復という手段には出ない。
それにメールなどではなく、言葉で直接謝っている彼女を責めるほど彼女は残忍ではない。
何より――。
彼女は気付いていた。
あやのが豹変し自分を陥れた時、みさおが逡巡していたことに。
歯切れの悪い口調で言葉を選び選び、かがみたちに追従していた様子のみさおに。
『柊たちから持ちかけられたんだ。その、チビッ子を陥れるのに協力してくれって――』
みさおは訥々と語り始めた。
『私も意味が分からなかった。よく聞いたら柊たちがチビッ子をいじめてるって分かって……私は反対だったんだけどさ……。
あやのが――協力するって言いだしたんだ』
「峰岸さんが……?」
『私のために――らしい」
「………………」
あの裏切りの日、温和なあやのが表情を一変させたのをこなたは思いだした。
かがみたちの側にいる理由は、彼女の口からハッキリと語られている。
『あやのはああ言ってたけどさ、私は別に気にしてなかったんだ。でもあいつ、昔から私が絡むと自分の事のように考えるからさ――」
こなたはみさおが羨ましくなった。
世話役程度にしか認識していなかったあやのに、それほど大切に思われているみさおが羨ましくなった。
「ううん、あれはやっぱり私が悪いよ。たとえ冗談でも言っちゃいけないことだったから……ごめん……。
峰岸さんに言われるまで気がつかなかった……ほんとにごめん……」
『だから私は気にしてないんだってヴぁ。そんな事いちいち取り上げてたらキリがないぜ。
それよりほんとに謝らなきゃいけないのは私のほうなんだ。チビッ子を裏切ったことになるんだからな…………』
「みさきち…………」
動悸は既に治まっていた。
代わってこれまでにない感情に襲われたこなたは、
「みさきちは何も悪くないよ」

75 :
頭で考えるより先にそう言っていた。
「だってそうしなかったら、今度はみさきちがかがみたちに――やられるでしょ? それに峰岸さんの言うとおりだと思うし……」
『チビッ子――』
みさおは声を詰まらせた。
しばらく重苦しい沈黙が続く。
どちらも何も言わなかった。
互いが互いの言葉を待つように、息遣いすら聞こえない通話が繰り広げられる。
それを先に破ったのはみさおだった。
『なんとかチビッ子に向かないようにするから』
「え…………?」
『ごめんな……ハッキリ柊たちに言えりゃいいんだけどさ――ごめんな…………』
「………………」
『でも私はチビッ子の味方だからな。できる限りのことはするから』
「みさきち…………!!」
これが本当の日下部みさおだ、とこなたは思った。
あやのが全てを明らかにした今、みさおがわざわざこんな話をする意味がない。
(………………)
あの時の、あのつらそうな表情のみさおを見ていたこなたには分かった。
彼女がしたくてでもできない事と、したくなくともせざるを得ない事との間で揺れ動いているのを。
通話を終え、携帯電話の電源を切ったこなたはベッドに倒れ込んだ。
多勢に無勢。
いくら外向きの性格だろうと、いくら喧嘩が強かろうと、いくら運動能力が高かろうと。
人は少数である限り、多数には勝てないのだ。
(みさきちでも、かがみや峰岸さんは止められないってことだよね…………)
だが孤独に比べれば少数のほうが遥かにマシだ。
(もう少し……もう少し頑張ってみよう……)
表だっては出来ないが、みさおが味方であると分かった時。
こなたはほんの少しだけ希望の光が強くなったのを感じた。

76 :
 今日はここまでです。
常に予想を裏切る展開に持っていけるよう、あれこれ考えていました。
それでは、また。

77 :
ダレてきたのでそろそろ〆を…

78 :
だれるって早すぎないか?
JEDI氏のSSっていつももっと長いんだが

79 :
「氏」ってなんだよ「氏」って
ーSS書きに敬称をつける神経が信じられん

80 :
「あらあら……泉さんはまだ学校にいらっしゃるのですね」
「恥知らずだよね。みんなにウザがられてるのに」
「空気読めないオタクって嫌よね」
授業と授業に挟まれる休み時間は10分。
この僅かな時間を、いじめっ子たちはフル活用する。
チャイムが鳴ると示し合わせたようにやって来るC組の3人。
つかさ、みゆきを交えてこなたと絶妙な距離をとって罵詈讒謗の限りを叩きつける。
「自分がしたことを考えたら、とてもこんなところにいられないと思うけど……」
「だよな。でもオタクっつってもさ、さすがにちょっとくらいは悪いと思ってんじゃね?」
「甘いですよ、日下部さん。ああいった人種は決して悔悛しないものなのですから」
「そうかあ? 普通は罪悪感持つもんだぜ? 内心じゃ反省してるかもしんないぜ?」
「反省だけなら猿でもできるっていうしね」
かがみは厭らしく笑った。
口汚い罵りを俯くことで回避するこなたは、己の惨めさに落涙しそうになる。
彼女たち以外の生徒たちは積極的にいじめには加担しない。
何かキッカケがあれば便乗してくるであろうが、わざわざ近くまで寄って来ての罵倒はない。
彼女が辛うじて耐えられるのは、みさおの言葉の端々に自分を庇おうとしてくれているのが感じられるからだ。
そうでなければ机の中の全ての物を鞄に詰め込んで、すぐにでも教室を飛び出していただろう。
ここで逃げだせば行きつく先は当然、保健室となる。
この傷の浅いうちからあのオアシスに浸かりきってしまえば、次に教室に戻ってくるのが難しくなる。
耐えられるだけ耐える。
そうじろうとゆたかの前では気丈に振る舞い続けるこなたには、まだ出来得る努力だった。
「………………」
10分は恐ろしく長い。
かがみたちはこなたを嬲るのに飽き、やや離れたところで世間話をしているが、当の本人はその声すら自分を侮辱しているように聞こえてしまう。
跳梁跋扈するいじめっ子たちも、チャイムが鳴るか担当教師が入室した途端、蜘蛛の子を散らしたようにその場を離れていく。
責めは鮮やか且つ巧妙であるため、頻繁に出入りを繰り返す教師すらその実態には気付かない。
よほど正義感の強い者でない限り、担任は基本的に自分のクラスにはいじめはないと思っている。

81 :
その兆候が見え始めても気付かないフリをするか、積極的に関わらず自然消滅してくれるのを内心で望むのだ。
「自分ら、いつまでも喋っとらんと席つきや」
資料集を手にななこが入室したと同時にかがみたち3人は素早く教室を出て行った。
仲良しグループがこなたを蚊帳の外に置いて談笑している様子を見られないように。
いじめっ子の中に恐ろしく頭のキレる者が1人でもいた場合、もはやそれはいじめの範疇を超える暴力となる。
「よっしゃ、ほな号令頼むわ」
似非関西弁がこなたの耳には五月蠅かった。
 ある日の放課後である。
いつもならホームルーム終了と同時に鞄を引っ掴み、文字通り逃げるように下校するこなただったが、
今日だけはそうすることができなかった。
クラスメートが1人、また1人と教室を出ていく。
こなたはその流れに沿って不自然にならないように廊下に出る。
だがそのまま校門に向かおうとはせず、人混みに紛れて辺りを見回す。
壁際に立ち、こなたはそっと携帯電話を開いた。
 発信者:みさきち
 件名:no title
 本文:放課後、柊たちに話をつけるから授業が終わったらチビッ子はすぐに下校してくれ
    それとこのメール読んだらすぐに消してくれ

82 :
受信時間は12時33分となっている。
この淡々とした一文は昼休みに送信されたものだ。
中庭でコロネを齧っていた時にこのメールを読んだこなたは、危うく喉を詰まらせそうになった。
”話をつける”という表現がみさおの意志の強さを表しているが、彼女の出方次第ではどうなるか分からない。
自分をその場に居合わせさせず下校を促すというのも、火の粉が飛ばないようにするためだろう。
(そんな時に私だけ帰るなんてできるわけないよ……)
自分が関わっている問題なのだ。
背が低いおかげで人の波に潜り込むに不自由はなかった。
ギリギリC組が見える辺りで待っていると、みさおを先頭にかがみ、あやのが出てくる。
3人は教室のすぐ外でつかさとみゆきと合流し、廊下の向こうへ消えていく。
こなたは慌ててその後を追った。
 宛先:みさきち
 件名:Re:
 本文:話をつけるって、かがみたちを止めるってことだよね?
    気持ちは嬉しいけどみさきちが危なくなるかもしれないからやめて。
昼休み、こなたはすぐにメールを送り返したが、それ以降みさおからは何の連絡もなかった。
すぐ傍にかがみたちがいて携帯電話を操作する隙がなかったのかもしれない。
あるいは強い決心をした故にそれが鈍らないように敢えてこなたとの繋がりを断ち切ったのかもしれない。
どちらにしてもこの後のみさおの行動がこなたに希望を抱かせ、また同時に不安を煽るのは間違いない。
(みさきち…………)
5人の後ろ姿を見失わないように距離をとりつつ尾行するこなたは、校舎を出たところで彼女たちがどこに向かうのかを悟った。
この方向だと辿りつくのは体育倉庫の辺りだ。
やはり重大な話をするために人目を避ける必要があるのだ!

83 :
長けりゃいいというものじゃないだろ
卑しくも物書きの端くれなら推敲って作業をしようよ

84 :





果たしてこなたの思った通り、5人は体育倉庫の裏で頭を交えた。
だが彼女たちが対等の立場を保って円陣を組んでいるのではない。
みさおを主におき、残る4人が彼女に向きなおる恰好だ。
「みさちゃん、話ってなに?」
盗み聞きするのは気分が良くなかったが、こなたは倉庫の陰からそっと様子を窺う。
問いかけるあやのは険しい表情をしている。
芳しくない話題であることを本能的に察知しているようだった。
「もうそろそろやめようぜ? 見てらんねえよ……いくらなんでもチビッ子が可哀想じゃんか……」
みさおの声が聞き取りにくいのは、こなたのいる場所が離れているからではない。
「はっ!? あんた、今さら何言ってんのよ!?」
こういう時、かがみは大仰に反応する。
こなたの位置からは彼女は背を向けているため表情が分からないが、驚愕の中に怒気を孕んでいることが読みとれる。
「そうだよ! 日下部さんだってこなちゃんにバカにされてたでしょ? これくらいじゃ済まないよ」
かがみに続き、つかさが慌てた様子で言う。
あやのは何も言わず口元に手を当てて困ったように俯いている。
「いや、それは……そんなに気にならなかったし……まあ、知り合って間もないのに言われることじゃない、っていうか……」
つかさに迫られるのは予想外だったのか、みさおは途端に語調を弱めた。
そこへ畳みかけるように、
「つかささんの仰るとおりです。ああいった人間には思い知らせておくべきなのですよ」
みゆきが冷たい口調で諭す。
「だったらさ、直接言えばいいんじゃないか? なにもこんなやり方しなくてもさ」
4人を相手にしてもみさおは怯まない。
あやのがちらっとかがみを見やった。
「あいつにどれだけバカにされたか……日下部が思っている以上につかさやみゆきは何度も恥をかかされてんのよ?」
「だからそれをちゃんと説明すれば――」

85 :
「したって分かるわけないわよ! 普通そんなのちょっと相手の顔見たら分かるだろ? あいつはわざとやってんのよ。
ロクに努力もしない癖にいいところだけ持って行って……! そういうのが我慢できないのよっ!」
「お、お姉ちゃん……声が大きいよ……!!」
つかさが辺りをキョロキョロして嗜める。
こなたは慌てて顔を引っ込めた。
「私も泉さんのおかげで品位を損ないかけました。特にあの時の屈辱は今でも忘れられませんよ…………」
みゆきが拳を握りしめた。
ウェーブのかかった長髪が僅かに細動している。
「ゆきちゃんが司会やった時のことだよね?」
というつかさの問いに、みゆきは小さく頷く。
「低劣な小学生みたいな野次でした……おかげで会は難航――満座で恥をかかされたのですよ私は!!」
みゆきがヒステリックに叫ぶ。
「日下部さん、あなたはクラスが違ううえに泉さんともさほどお付き合いがなかったから分からないでしょうけれど。
私はもう我慢できないのです。ええ、かがみさんもつかささんもです。日下部さん……この堆い憎悪をご理解いただけませんか?」
普段、滅多に自分を主張しないみゆきが恐ろしいほどの剣幕で怨恨の情を叩きつけた。
「もうウンザリなんです。私は決して泉さんを赦しませんよ……ええ、彼女がどんなに謝罪しようとも――」
「………………」
みさおは何も言わない。
「考えてみなさいよ。私たちほどじゃないにしても、あんただって愚弄されてたのよ? まあ、あの時は庇ってあげなかった私も悪いけど……。
あんたは気にしてないかもしれないけど、すごく恥ずかしかったし申し訳ないとも思ってたのよ」
「どういうことだよ?」
「私がこなたを紹介したばっかりに日下部にイヤな思いさせたんだから。あいつが初対面同然の相手にあんな態度とるなんて思いもしなかったし」
「いや、だからさ……私は別に気にしてないって――」
「私はそれじゃ気が済まないのよ!」
「柊…………」
誰も顔を合わそうとしない。
皆それぞれにこなたに対する憤懣を小出しにしつつ、みさおの心変わりを責め立てた。
が、彼女はやはり芯が強いようだ。
「それでもさ……それでもこういうやり方はよくないと思うぜ。卑怯じゃんか。大勢でこういうのやるって――」
「みさちゃん」

86 :
それまで黙っていたあやのが口を開いた。
「いくらみさちゃんの言い分でも理解できない。私はみさちゃんに代わって仕返ししてあげてるのに」
「あ、あやの…………」
「みんな泉ちゃんにイヤな思いさせられてるのよ? だったら仕返しするのが普通でしょ?」
「普通って……あやの、本気でそう思ってんのかよ?」
「本気よ、私たち。それにね、私たちは悪くないの。悪いのは泉ちゃんのほうなのよ?」
そのとおりだ、とつかさが加勢した。
いじめの大義名分を得た――つもりになっている――4人は頑として意志を曲げない。
奇妙な間を置いて、
「日下部……あんたまさかこなたの味方するとか言い出さないわよね?」
かがみが腰に手を当てて言った。
みさおは返答しなかったが、無言でいることが何よりの回答となってしまう。
「そうですか……日下部さんは泉さんへの恨みはないということですね……」
「みさちゃんとは分かり合ってたつもりだったけど、私の思い込みだったのね」
「いいよ、もう日下部さんとは喋らないから」
この中ではどちらかと言えば諍いを嫌うタイプの3人が、怒りを通り越して憮然とした様子でその場を去っていく。
みゆきたちに見つからないように、こなたは体育倉庫の反対側に回り込んだ。
「日下部――」
最後に残ったかがみは去り行く3人が自分の声の届かない位置まで移動したのを確認してから、
「あんたの好きにすればいいわ。私も無理にあんたに付き合ってもらおうとは思ってないから。でも――――」
蔑むように、
「――どうなっても知らないわよ」
警告のつもりか脅迫めいた言葉を落として3人の後を追った。

87 :





一部始終を見聞していたこなたは目前で繰り広げられたやりとりにショックを受けたが、
それ以上にみさおを庇うために飛び出す勇気が出せなかった自分に烈しい憤りを感じた。
執拗ないじめの常態化は、それを受ける者を卑屈にし積極性を奪う。
もういじめっ子はいないというのに、ぽつりと佇むみさおに駆け寄って声をかけることもできない。
(私のせいでみさきちが…………!)
とは思うのだが体が動かないのだ。
陰惨な現場を見た後、彼女の心に芽生えるのは自責の念。
自分を取り巻く交友関係が崩れるのも精神的な痛みが強いが、いじめに遭う自分を庇ったばかりに、
他人がうまく行っていたグループから一転して敵視される瞬間を目の当たりにした時の苦痛は計り知れない。
直接、声をかけられないなら別の手段で――。
こなたが携帯電話を手にしかけた時、
「くそっ!!」
みさおが倉庫の壁面に拳を叩きつけた。
その音にこなたはビクリと体を震わせる。
自分をいじめることで結びつきを強くしていた絆が、みさおの造反で脆くも断ち切れたのだ。
だが引き裂かれた友情はすぐに修復されるだろう。
今度はこなたに加え、みさおをも標的にすることで。
「………………!!」
こなたは居た堪れなくなってその場から走り去った。

88 :
 今日はここまでです。
だいたい半分ほどが終わりました。
それでは、また。

89 :
読者の評判を気にするくせに、感想にレスしないって何様のつもり?

90 :
 こなたにとって劇的な変化とはいえない。
今回の件は直接自分が関わっているわけではないからだ。
敢えて彼女を主軸に置いて状況を述べるなら、
”いじめられっ子が2人に増えた”
この一言に尽きる。
不思議なことにいじめる側は標的が2倍になると加虐によって得られる快感が2倍になるのに対し、
被害者側は仲間が増えてもその精神的苦痛は半分にはならない。
むしろいじめという負の連鎖をさらに長く、より強固なものとしてしまう。
本能的にそれを悟ったこなたは、昼休みが始まると同時に逃げるように中庭に駆け込んだ。
そうじろうやゆたかの手前、何日も学校を休むわけにはいかず、こうして自ら針の筵(むしろ)に座りに来るのである。
心を残酷な獣たちに食い荒らされた彼女には、チョココロネの味もほとんど分からなくなっている。
機械的に口を動かし、咀嚼し、嚥下しているのはただ意味もなく生きているからだ。
前髪を垂らして地面を俯瞰しながら昼食をとるこなたは、その瞬間まで誰かが近づいてきていることに気がつかなかった。
「………………?」
土を踏む音が間近に聞こえ、こなたはゆっくりと顔を上げた。
「チビッ子……隣いいか?」
目の前には自分と同じかそれ以上に憔悴した様子のみさおが立っている。
返事も聞かずにベンチに腰をおろした彼女は、補助バッグから包みを取り出した。
”峰岸さんたちは……?”
こなたはそう問いかけた口を慌てて閉じた。
わざわざ自分から傷を抉るような真似をしたくはなかったし、そもそもそうする資格すら自分にはないのだと思いなおす。
「みさきち…………」
状況がこうなっている理由を知っているこなたは、しかしその点には触れない。
盗み聞きしていたことがバレてしまうからだ。
「ごめんな……チビッ子……」
なぜか先に謝ったのはみさおの方だった。

91 :
「話つけるって偉そうなこと言って……結局、何もできなかった…………!!」
悔しそうに拳を握りしめるみさおを見て、こなたは喚き散らしそうになる自分を抑える。
「昨日さ、柊たちに言ったんだ。もうこんな事はやめようってさ。柊たちだって悪いことだって分かってると思ってさ」
「そう、だったんだ……」
ウソを吐くのはこんなにも苦しいものなのかと、こなたは初めて思い知った。
「お昼休みのメール、すぐに返したけどみさきちから何も返事がなかったから気になってたんだ」
「ああ……ごめん。あれ、帰ってから気がついたんだ。時間も経ってるしつい返しそびれてさ……」
こなたは一応納得した風に頷くが、それはウソだろうと思った。
財布同様に手近にある携帯電話を昼休みから帰宅するまでにチェックしないわけがない。
「ちゃんと言えば分かってくれるって思ってたんだけどな…………」
みさおの深く陰鬱なため息がこなたの心に黒い影を落とす。
「ちょっとでも罪悪感持ってるなら私でも何とかできたかも知れないけど…………。
ごめんな、チビッ子――何の役にも立てなかったな」
「そんなことないよ!」
こなたは久しぶりに大きな声を出した。
「みんなが私のことどう思ってるのか分からないけど……でも多分、やっぱり私が悪いんだと思う。怒らせたんだと思う。
私、けっこう言葉がきついからイヤな想いさせてた――と、思う」
「………………」
「それは私のせいだから……! でも私のせいでみさきちまでハブられたりしたら――」
こなたの記憶にハッキリと焼きつけられた表情。
去り際の、
”どうなっても知らないわよ”
という言葉とともに見せたあの恐ろしい顔が、一夜明けた今でもこなたを震わせる。
(ハブられたりしたら…………?)
こなたはたった今、自分が口にした言葉を反芻した。
仮定の話ではない。
現に日下部みさおはここにいるではないか。
彼女はとっくにかがみたちのグループから外されているのだ。

92 :
いる場所のない少女が、同じくいる場所のない少女の元へ寄ったというだけの。
辛辣な現実である。
自分にはまだ多少の免疫があるが、みさおにはないだろう。
そう思うとこなたは居た堪れなくなる。
「私も今日からここの常連だな〜」
みさおが天を仰いで言った。
通る声だったが、それが強がりだとこなたにはすぐに分かった。
「結構いいとこじゃん。教室とかと違って静かだし」
「うん…………」
ここが”いいところ”だと感じられる人間は、そもそも静かな場所を好む性格だ。
つい最近まで気の置けない友人たちと戯れていた彼女たちにとっては、己が孤独をまざまざと見せつけられる忌まわしい場所でしかない。
「み……みさきち……」
いつもどおりに呼ぶか、それとも”日下部さん”と呼びなおすか迷ったこなたは、結局言葉にしやすい方を選んだ。
「どした?」
力なく、実に力のない声が返ってくる。
「ごめん……私のせいでみさきちまで……みさきちまでこんな事になって…………」
「チビッ子のせいじゃねーって。私が勝手に行動した結果なんだし。謝らなきゃいけないのはむしろ私のほうなんだ」
そう呟くみさおには、もちろんこれまでのような朗らかさは微塵もない。
普段が快活な分、こうして消沈した時の落差は大きい。
その落差がこなたをさらに苦しめる。
昼休みが終わる頃、
「あやのだけは分かってくれるって思ってたんだけどな……」
とみさおが呟いたのを、こなたは聞き逃さなかった。

93 :
 いじめる側の楽しみは2倍になっても、いじめられる側の痛みは半分にはならない。
これに対しては補足しておくべき文言がある。
”いじめられる側の人数が増えると、いじめる側の手は分散される”
毎時間のようにB組にやって来ては遠くから近くからこなたを嬲っていたかがみとあやのが、
ほぼ2回に1回の割合で来るようになった。
さらにはねちっこく甚振るタイプのつかさとみゆきが、休み時間になると頻繁にC組に向かうようになる。
こなたにとってその理由を推測するのは極めて容易い。
彼女たちがもうひとりのターゲット――日下部みさおへの攻撃を始めたのだ。
その様子をこなたは知り得ない。
つかさ、みゆきがいるC組にわざわざ潜り込んで、どんな手でみさおを責めているのかを見る気にはなれない。
当然そこにはかがみとあやのもいるわけだから、一時的に止んでいる自分へのいじめを自ら誘発するようなものだ。
つまるところいじめられる者が2人になったとしても、彼女たちはそれぞれ孤立しているのである。
主犯格の攻撃の手が緩んだところで、クラスの雰囲気が変わるわけではない。
今やこなたを利用することによってストレスを発散し、その行為そのものを娯楽に結び付けている彼らは、
教師の目が行き届かない限り跋扈する。
そんな中で唯一の仲間と同じ時間、同じ空間を共有できるのは昼休みの短い間だけ。
「………………」
次の授業の用意をと、こなたは鞄から教科書類を取り出す。
表紙には別段おかしなところはない。
だが1ページ開くとすぐにそれが普通でないことに気付く。
インキで塗りつぶされた字。
抜けているページ。
縁にカッターの刃を仕込んだ跡。
乱暴な寄せ書きのように書き散らされた罵詈雑言の数々。
それらが教科書、ノートの区別なくあちこちに見られる。
悪口雑言の中には一般の高校生では知り得ないような難解な言い回しもある。

94 :
みゆきだ、とこなたは分かっているのだがこれを土産に教師に訴えたところで、
”辞書で調べれば誰でも書ける。犯人が私であると断定できる証拠ではない”
こう回避されるのはすぐに分かる。
ボロボロのノートをぼんやりと眺めていると、どこからか嘲るような笑い声がした。
こなたは机に突っ伏した。
こうしていれば視線を感じることはない。
耳障りな生徒たちの声は届いてしまうが、それも数分の辛抱だ。
もう間もなくチャイムが鳴り、担当教師が入ってくる。
そうなれば彼らも手出しはできない。
(あともうちょっと……)
その僅か数分が彼女には途轍もなく永く感じられるのである。





1日、2日と経つと妙なことにこなたの精神は多少落ち着きを取り戻してきた。
かがみたちの責めが緩くなってきたからだ。
これまでは毎日、毎時間のように絡まれ、学校にいる間は一時も休まることはなかった。
だが新たにみさおが標的に加えられたことで攻撃の手は薄くなり、かがみたちの顔を見る時間が少なくなったのだ。
これがこなたの心理に及ぼす影響は大きかった。
クラス37人に敵視されるより、つかさやみゆきといった以前まで親しかった者に虐遇されるほうが遥かに苦痛なのである。
いじめは単純に数の問題ではない。
彼女にとって周囲の人間は、”特別な存在たる者”と”その他大勢”であり、その他大勢に分類される者がいくら徒党を組んだところで、
つかさやみゆきに攻撃されることに比べればずっと優しいのだ。
聞こえよがしの悪口も、私物隠しも――。
いじめの内容よりも、誰がそれをしたか、のほうが重要だということに彼女は最近になって気付いた。
しかし――。
聡明なみゆきやかがみは、その事にずっと前から気付いていたのかもしれない。
たとえいじめられた経験がなくとも、いじめる側はされる側の気持ちをよく心得ている場合がある。

95 :
だからこそ狡猾に、最も効果的な方法――即ち自分なら耐えられないコト、絶対にされたくないコト――で容赦なく嬲るのだ。
それを窺わせる出来事が数日後に起こった。
「なあ、こなた」
昼休みになり、みさおの待つ中庭に走りかけたこなたの前にかがみたちが立ち塞がった。
「な、なに…………?」
眼前の恐怖の対象に、こなたは殆ど聞き取れない声で返す。
相手の顔は見ずに。
視線を上げればそこには見たくない顔が4つも並んでいる。
「また私たちと仲良くしたい?」
訊ねてきたのはつかさだった。
「えっ…………!?」
その一言にこなたは思わず顔をあげた。
反射といってよい反応だった。
人が通常モノを考える時のプロセスを経ずに、つかさのふわりとした優しい口調も相まってこなたは思考を疎かにしてしまった。
いじめが終わる!
また皆と仲良くやれる!
暗中に光明を見たように、強張っていたこなたの表情がほんの少し弛緩する。
「私たちもこんな事はしたくなかったのですが……泉さんの度重なる言動に嫌気がさしてしまってつい…………」
と悔悛しているとも取れるみゆきの発言に、こなたは徐々に警戒心を緩めた。
「だからあんたが前みたいにまた私たちと仲良くしたいっていうんなら考えてもいいわよ」
かがみが腰に手を当てて言った。
心理学に触れたことのない彼女たちだったが、無意識的に対象の心を揺さぶる硬軟両方の構えで以ってこなたに迫った。
みゆきが持ち上げ、かがみが交渉を持ちかける。
孤独感に苛まれるこなたはこの波状攻撃によって陥落寸前である。
「………………」
一歩退いたところであやのが成り行きを見守っている。
こなたの答えはもちろん”イエス”だが、そう素直に言葉は出てくれない。
「ただし条件があるわ」
焦れたかがみが急かすように言った。
「条件って…………?」
心中ビクビクしながらこなたが問い返す。

96 :
 今日はここまでです。
他の職人さん方はもう戻られないのでしょうか?
是非とも新たな作品に触れたい職人さんが多数いらっしゃるのですが……。
それでは、また。

97 :
スレを独占しておいてよく言うわこのスト

98 :
お前のー臭くなって住民がいなくなるから
他の職人が他のスレにいってしまうんだ

99 :
面白い作品だと思うけどなあ

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