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2012年5月創作発表25: 薔薇乙女の奇妙な冒険2 (376) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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薔薇乙女の奇妙な冒険2


1 :12/03/03 〜 最終レス :12/05/08
前スレ ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324291592/
まとめ ttp://slpy.blog65.fc2.com/?tag=%A5%ED%A1%BC%A5%BC%A5%F3%A5%E1%A5%A4%A5%C7%A5%F3
1000いく前に512kb越えちゃいました

2 :
雪華綺晶「ラスボスもわりとオッサンでしたわよね。吉良吉影」

真紅「切断した女性の手でクソした後のお尻を拭いてもらうと幸福を感じるだとか
    モナリザ見てしましたとか、出る漫画間違えてたとしか思えないのだわ」

薔薇水晶「そこだけ抜き出すと完全にイカれたとしか思えませんね」

蒼星石「まあ、実際真紅は嘘言ってないし。吉良もイカれてたとは思うけど」

金糸雀「それに吉良はデッドマンズクエスチョンでは帽子キャラになっていたかしら!」

蒼星石「そう言えばそうだけど、アレはもう帽子どころかキャラ自体が変わってなかった?
     それに正確に言えば四部でもない気が……」

金糸雀「でも文庫版だかリミックス単行本では四部に付属しているそうかしら」

雛苺「ほへぇ〜」

雪華綺晶「デッドマンズQの続編を私はまだ待っているんですが、アレって続くのでしょうか?」

水銀燈「それは難しいんじゃない? 今さら」

蒼星石「第四部のスピンオフで『岸辺露伴は動かない』がチラホラやってるし
     期待はしててもいいんじゃないかな」

水銀燈「でも、『岸辺露伴』シリーズは何だかタイアップぽくなってるじゃない。サザエさんのOP的な。
     デッドマンズQで、そういう展開が望める思う?」

真紅「各地の名所を巡りながら必殺仕事人みたいに悪を裁き続けるとか……?」

翠星石「お、火曜サスペンスっぽくて案外面白そうですぅ」

3 :
槐「うんうん。いいねいいねぇ、よし次! 真紅! 第五部!」
蒼星石「え!? ちょ、ちょっと槐先生! 僕ろくに喋ってない!」
槐「いやいや、テープの残り時間が少ないからね。どんどん巻いていくよ。
  ローゼンメイデンだけに」
蒼星石「そ、そんな……!」
ジュン「はぁ〜い、それじゃ真紅。分かってるな? 巻きだからな。簡潔に手短に話せよ」
真紅「しょうがないわね。第五部の主人公はジョルノ。
    冷徹にも見える彼だけどイタリア気質っぽい熱い情熱をも秘めた少年なのだわ。
    まさに外面は知的でクールながら熱い絆を併せ持つ私が語るに相応しいジョジョ」
ジュン「情熱ぅ? そんなに熱いシーンあったか? ブチャラティやナランチャなら分かるが」
真紅「それはしょうがない。なんてったってジョルノはまだ15歳。歴代ジョジョでも最年少級。
    ジュンとも2〜3歳しか離れていない」
翠星石「ええええ〜〜〜っ!?」
水銀燈「うわぁ……」
ジュン「なんだよ、そのリアクション。僕らの年代での2〜3歳はでかいぞ」

4 :
真紅「熱い上昇志向を持った新入生ジョルノが、その情熱でブチャラティ達をも動かし
    さらには目覚めた奴隷でもある先達の志を受け継ぎボスを倒す!
    スポ根漫画にも通じる激アツ! 真紅ちゃん、こういうの大好きなのだわだわ」
ジュン「分かったから落ち着け真紅。暑苦しい」
薔薇水晶「けど、約一名その熱い輪からあぶれちゃった人がいましたよね」
金糸雀「フーゴかしら」
水銀燈「ああ……そんな人もいたわねぇ。きっと帰ってくると思わせといて
     結局、音沙汰無しでしょう? オイシイじゃない」
雪華綺晶「ネタ的には……ですけどね」
薔薇水晶「彼のその後の補足については外伝小説『恥知らずのパープルへイズ』が面白いですよ」
水銀燈「あ、そう」
真紅「……」
巴「真紅ちゃん? 何か外伝小説で言いたいことでも?」
真紅「私は外伝小説だったら『THE BOOK』が好きなのだけど」
ジュン「それ第四部の話題の時に言えよ」
翠星石「ほんとに空気読めねぇですね真紅は」
槐「第五部しゅーりょー!! それじゃ次、雛苺! 第六部!!」
真紅「え!? ちょ!? 槐!?」

5 :
雛苺「うゆゆ、ヒナは第六部は難しくてよく分からないのよ」
槐「なるほど。いかにも分かりやすい意見だ。ありがとう。それじゃ次……!」
巴「ちょ、ちょっと待ってください! それはあんまりですよ槐先生!!
  雛苺にももっと喋らせてあげてください!!」
槐「いいじゃん。第六部が分かりにくいのは事実だし」
ジュン「あんた、味方にすべきジョジョファンを敵に回したいんですか?」
槐「それじゃ時間が加速したって事にしよう」
蒼星石「あらら、ほんとに第六部すっぱ抜かれそうだよ?」
雪華綺晶「腰据えて語るには一部〜五部までをちゃんとおさらいしないとダメですし」
薔薇水晶「残念ながら仕方なさそうですね」
雛苺「うにゅにゅ……」
金糸雀「女性主人公の徐倫についてはカナ達もそれぞれ思うところがあるのにかしら」
真紅「でもまあ、実際徐倫ってキンタマついてないだけで
    ほとんど承太郎2号だったと思うのだわ。特に後半」

6 :
槐「それじゃ雪華綺晶! どうぞ第七部SBRを語ってくれたまえ」
ジュン「ほんとに進めちゃったよこの馬鹿司会者……」
巴「雛苺の番だったのに」
雪華綺晶「……当初はジョジョを冠していなかった異形の第七部。
       それは、まさにローゼンメイデンの中でも異例の私が語るに相応しい」
蒼星石「何気に物語途中で移籍したという共通点もあるよね、僕達と」
雛苺「でも一話目からサンドマンがスタンド出していたの!」
翠星石「レース漫画と思ったですが、結局はスタンドバトルだったですよ。
     それもなんというかバトルロワイアルっぽかったです」
真紅「レースしてサバイバルして謎解きバトルもして遺体も集めてと
    欲張りすぎなくらいに盛りだくさんだったのだわ」
雪華綺晶「サンドマンに話を戻しますが、途中でサウンドマンになりましたよね彼」
雛苺「アナスイの性転換よりもある意味すごかったの」
蒼星石「雛苺が実は皺苺だったっていうぐらいの衝撃だ」
水銀燈「キン肉マンのオーバーボディに通じるものを感じたわぁ」

7 :
雪華綺晶「他にも私達の視点からいえば乙女ルーシー14歳の活躍も語らねばなりません」
巴「そうね。インパクト度で言えば徐倫よりも凄かった気もする」
水銀燈「ちなみにめぐと同い年」
薔薇水晶「へ……ぇ……」
蒼星石「ああ……」
水銀燈「何その微妙なリアクション」
翠星石「あのルーシーって女、何だかんだで泣き喚きながら敵を殺しまくりですよ」
真紅「ブラックモアにスカーレット夫人、大統領を一人、冬のナマズの人
    おまけに最後の敵であるもう一人のDioまで機転を利かせて始末したのだわ」
金糸雀「正直、アリスを名乗ってもおかしくないぐらいの活躍かしら」
雪華綺晶「全くですわ。ああいった芯の強さを私達も見習わねば」

8 :
槐「なるほど、ルーシーにもアリスの精神が……か。いいまとめ方だ。
  それじゃおまちかね薔薇水晶、第八部のジョジョリオンについてどうぞ〜」
雪華綺晶「え? あ、まだあとマルコなんで死んだん? とか……」
ジュン「それはどうでもよくないけど、どうでもいいだろ」
巴「雛苺よりは喋れたんだし、いいでしょ」
雪華綺晶「……」

9 :
薔薇水晶「えーと、それではジョジョリオンについてですが
       正直まだ始まったばかりで単行本も1巻が出ただけ……」
水銀燈「タイトルがエヴァンゲリオンのパクリっぽいぐらいしか話題無いわよねぇ」
蒼星石「今のところ血統を意味するスタリオンとジョジョを組み合わせたジョジョリオン。
     あるいはアリにとってライオンのような天敵がアントリオンだから
     それに倣ってジョジョの敵という意味でのジョジョリオンという説が大勢らしい」
雪華綺晶「エヴァンゲリオンが意味するのは福音ですから、ジョジョの福音とも考えられます」
金糸雀「なるほどかしら」
翠星石「と言うかアントリオン説ってそんなに有名だったですか?
     スタリオン(血統)やエヴァンゲリオン(福音)に比べたらパッとしねぇですよ?
     アリジゴクですよ? 虫です。スケール小さいです」
薔薇水晶「いやいや案外と支持されてるみたいですよアントリオン説。
       杜王町というジョジョの世界観的にはスケール小さめの舞台ですし」
真紅「ふーん……」

10 :
薔薇水晶「あと敢えて言うなら主人公のスタンドがドンドンしょぼくなっているということです」
雛苺「うゆゆ? ソフト&ウェットがそんなに弱いスタンド能力だとは思えないのよ」
薔薇水晶「いえ、ネーミングがです。
       プラチナ→ダイヤ→ゴールド→ストーン→牙(爪)ときて
       今回はもう『柔らかくそして濡れている』です。固さが微塵もありません」
真紅「ぶっちゃけ|のことよね。元ネタの洋楽の歌詞的にも。あるいはマ……」
ジュン「おい、ちょっとカメラ止めろ!!」

11 :
ジュン「お前いい加減にしろよ真紅!! 下ネタ言わないって誓っただろ!!
     軽めのヤツは僕も仕方ないと思って我慢してきたが、もう限界だ!!」
真紅「だ、だってしょうがないでしょ! 本当のことなんだから!!」
ジュン「やかましい! しかもキンタマRに飽き足らず
     最後の砦まで今、強行突破しようとしただろ!?」
真紅「ジュンは細かいことにこだわりすぎなのだわ!!
    そんなこと言ったら王将のCMの餃子一日百万個もアウトじゃない!!」
ジュン「力技で論理をすりかえるな!!」
真紅「なによ!?」
ジュン「なんだよ!?」
槐「えと……ちょっと二人とも、落ち着いて」
真紅「槐は黙っていてちょうだい!」
ジュン「槐先生は黙ってください!」
槐「うおう!? ちょっとハモった!?」

12 :
ジュン「ワーワー!」
真紅「ギャーギャー」
翠星石「あーあ、いつものケンカが、まぁた始まったですぅ」
水銀燈「くんくん探偵でも夫婦喧嘩は食べないし、解決できないわぁ」
槐「あああ……僕の夢だったバラトークが、こんなしょうもない喧嘩で幕引きだなんて」
薔薇水晶「お父様……」
金糸雀「無理やり付き合わされたカナ達もいい迷惑かしら」
雛苺「ヒナは楽しかったのよ! 雛壇をタンノウしたの〜」
巴「雛苺が喜んでくれたなら私は満足」

13 :
翠星石「翠星石もなんだかんだで面白かったですぅ」
蒼星石「僕もちょっと癖になりそうだ。今回あんまり薀蓄披露できなかったし」
雪華綺晶「後ろで昼寝してもいいのであれば私もまた参加しますわ」
薔薇水晶「……だそうですよ、お父様。だからそう気を落とさず」
槐「うん。ありがとう薔薇水晶。僕、頑張る」すりすり
薔薇水晶「よしよし」なでなで
真紅「あ、見てジュン。あの二人、スティールとルーシーっぽい」
ジュン「ほんとだ」
バラトーーク!『ジョジョの奇妙なメイデン』 終

14 :
乙です!

15 :
『蒼星石とワタハミの樹』については後日、再開します

16 :
面白かったです。

17 :
乙ー
やっぱこの世界の翠も花京院関連は泣くか…
喋り足りなくて不満そうなきらきーかわいい

18 :
新スレ&投下乙
隣の世界の花京院と翠には泣かされたよ

19 :
『蒼星石とワタハミの樹』再開

20 :
§此岸島・中心部・白い大樹(ワタハミの樹)の根元
白い大樹「我々とお前の死がついに来た」
野薔薇「……?」
白い大樹「今、アバタが新たな侵入者と遭遇、交戦を始めた。
       相手はローゼンメイデンが三体、モドキが一体、庭師が一人。
       渡し守とは段違いだ。とても凌ぎきれん」
野薔薇「モドキ……、薔薇水晶とかいう奴だ。噂には聞いている。
     野薔薇と同じでありながらローゼンメイデンとつるみ野薔薇を狩る人形」
白い大樹「裏切り者……か?」
野薔薇「まさか。私達は誰も仲間なんかじゃない」
白い大樹「……東果が送り込んだのが黒襟見習いの少年兵だった時は
       お互いに小躍りして喜んだものだが、流石にバカヅキは続かないか」
野薔薇「黒襟が私でも倒せる小物の集団だったこと、さらにはその死体に
     あなたが寄生して操れたこと、そしてそれを以って渡し守を追い払えた。
     これで私達に生き延びることができる可能性、わずかな希望が芽生えた」

21 :
白い大樹「だが嵐がやって来た。芽生えたばかりの希望を木っ端に散らす災禍だ。
       天敵だ。アリがアリジゴクやアリクイに勝てないように、我々もお前もアレに勝てない。
       我々とお前にとって避けられない死がやって来た。全て台無しだ」
野薔薇「確かに。昔、知り合いの野薔薇が同じような事を言ってたよ。
     ローゼンメイデンは天災のようなもの、ただ伏して通り過ぎるのを祈るのみ。
     しかし、目をつけられてしまったとなれば……」
白い大樹「……逃げてもいいぞ? 我々のアバタで、時間なら稼げる」
野薔薇「まさか。どこへ逃げる? どうやって逃げる?
     この島からもう、私は出られないし、出るつもりもない。
     あなたと同じ、ここで死ぬと決めた」
白い大樹「悲壮だな」
野薔薇「そう思うのなら気休めの一言ぐらい言えば?」
白い大樹「それは難しいな。お前は我々に言葉を教えてくれたが
       嘘のつき方までは教えてくれなかった」
野薔薇「……私も嘘がつけるほど高度にできてはいない。
     だからお父様に捨てられた、マスターにも捨てられた」
白い大樹「久々に昔語りか。いや、ヒトでいうところの走馬灯かな」
野薔薇「まさか……」

22 :
§此岸島・密林地帯
アバタA「るおおおおおおっ」
蒼星石「せいっ」ドコッ
アバタA「ぐはっ……」
アバタB「りゃああああ!」ガササッ
蒼星石「しまった!? 背後にも?」
ナナキ「蒼星石はやらせない!!」ドカッ
アバタB「ぐっ……」
蒼星石「す、すいませんナナキさん」
ナナキ「水くさい。あなたの後ろぐらい私でも守れるのよ。
     しばらく会わない内に忘れてた?」

23 :
アバタC「ああああ」ドドド
アバタD「うううう」ドドド
アバタE「おおおお」ドドド
薔薇水晶「こちらにも敵が来ましたよ雛苺。三人です」
雛苺「うぃ! 苺わだちぃ!!」ぎゅるんっ
アバタC「ッ!?」ガシィッ
アバタD「ッ!?」ガシィン
アバタE「く!!」ひょいっ
薔薇水晶「一人かわした。しかも、アバタ達は足元を確認もしていない……ということは」
蒼星石「雪華綺晶! 今の三人の隊列の内、『かわした奴』の方向に『監視役』がいるはずだ!」
ナナキ「見つけられる? 雪華ちゃん!?」

24 :
雪華綺晶「……」すたっ
薔薇水晶「見つかりましたか?」
雪華綺晶「ええ。監視アバタごとワタハミを燃やして灰にしましたわ、既に」
ナナキ「!」
雪華綺晶「始末してかまわなかったのでしょう? それとも捕らえるべきでしたか?」
ナナキ「……」
雪華綺晶「それは無意味ですわ。仮に弟君がアバタで……監視役だったとしても
       ワタハミに寄生されたということは既に死んでいるということ」
蒼星石「雪華綺晶の言うとおりだ。ワタハミは火に弱い、焼くのがベスト
     ……ですよねナナキさん?」
ナナキ「う、うん」

25 :
雛苺「これでもう、他のアバタさん達も大人しくなるの?」
蒼星石「いや、そうじゃない。アバタが集団になると、一人が『監視役』になり
     その他大勢の感覚をワタハミを通じて監視役が全て引き受け、処理し、再通達する」
ナナキ「それ故に、アバタの集団はただのマタンゴやゾンビとは違って
     強固な統一意思を持った戦闘集団となる」
薔薇水晶「しかし、監視役の処理と再通達には僅かなタイムラグがある。
       そして監視役から離れたアバタほど……ラグは大きくなる」
雛苺「うゆゆ?」
ナナキ「今のケースなら他のアバタよりも反応が早かったアバタの方角に
     監視役がいたということ」
雪華綺晶「ただ、監視役を潰してもしばらくすればまた別のアバタが監視役になりますがね」
雛苺「そ、それじゃキリがないのよ!?」
蒼星石「いや、この『しばらく』という時間が非常に貴重だ」
薔薇水晶「次の監視役が決まるまでの僅かな間……
       時間にして2〜3分程ですが、アバタは連携が取れなくなり極端に弱体化する」
蒼星石「この間にアバタの絶対数を減らす。庭師連盟に古くから伝わる標準討伐手順だ」
ナナキ「新しい監視役ができたら、またそれを見つけだして潰す」
雪華綺晶「以後くり返し……ですわ。苺のお姉様」
雛苺「うにゅにゅ……」

26 :
§此岸島・中心部
白い大樹「ここまで手際良くアバタを始末されていかれるとは、逆に清々しいな。
       しかし、いいことを聞いた。まだツキは我々とお前を見離してはいないらしい」
野薔薇「どういうこと?」
白い大樹「一番最初、黒襟どもが来る前にお前が捕らえた庭師達がいたろう?」
野薔薇「ええ、彼らなら気絶させて洞窟に隠してある。殺してもアバタにならない奴ら」
白い大樹「いや、その中に一人だけ年若がいた。薔薇乙女と同行している庭師がそいつの姉だ」
野薔薇「……」
白い大樹「どうだ? そいつを殺して、我々の私の一人にするというのは?
       ヒトはこういう手合いに弱いのだろう」

27 :
野薔薇「メリットも大きいが、デメリットの方が大きい。
     庭師であれば、アバタをタダの動く死体としか認識しない。
     助ける方法、死人を生き返らせる方法なんてものは無いのだから」
白い大樹「やってみなくては分かるまい?」
野薔薇「逆に、身内の死体を弄ぶという行為で相手の激情を買うことになる。
     それよりも、面白いことを思いついた。人質は生かしてこそ価値がある」
白い大樹「面白いこと?」
野薔薇「だが、これをやる為には私もあなたももっとギリギリまで追いつめられなければいけない。
     追いつめられた必死さで、殻を一つ破らなければ、一つ上のステージに進まねば」
白い大樹「いいだろう。では、我々の私達ももっと必死に足掻かせてみよう」
野薔薇「……頼みます」
白い大樹「こちらからも一つ頼みたいことがある」
野薔薇「?」
白い大樹「昔語りを続けてくれ。最後かもしれないから」
野薔薇「……」

28 :
§此岸島・密林地帯
薔薇水晶「ッッ? アバタの動きが急に複雑になった……?」
雪華綺晶「反応に故意に時間差をつけている」
蒼星石「流石にワタハミの総本山なだけはある。対応が早い」
ナナキ「しかも、それだけじゃない」
雛苺「へ?」
ナナキ「監視役を増やしている。一人だけじゃなく……常に二人か三人を予備の監視役にして
     管制が潰されて統制が乱れる時間を無くしている! ここまでやるワタハミは初めてよ!」

29 :
アバタG「っらららららーーーぃ!」ドドド
アバタH「れれれのれーーーー!」ドドド
雛苺「うにゃにゃにゃ!? 猛ダッシュで襲ってくるの!!」
蒼星石「ここからは僕達も標準討伐手順だけに頼っていられない」ジャキッ
ナナキ「……庭師の鋏を出した、ということは本気ね蒼星石」
蒼星石「僕はいつでも本気です。ただ、これの使いどころを誤ると、僕もすぐ疲労する」
ナナキ「じゃ、私も出し惜しみしている場合じゃないか」スラッ
薔薇水晶「それは?」
ナナキ「庭師の鉈。まあ、蒼星石ちゃんや翠星石ちゃんの庭師道具を
     庭師連盟が真似て……と言うか、パクって作ったバッタもんだけどね。
     一応れっきとした魔道具。それなりに役には立つ」
雪華綺晶「一流の庭師は専用の庭師道具を持つと聞いていますわ」
雛苺「ふおお!? 実は凄かったのよねナナキ!!」
ナナキ「ヒナちゃん、『実は』て何よ、『実は』って」
蒼星石「ところで雪華綺晶……、ここでブサ綺晶は使えないか?
     彼女達がいたら随分と楽になるんだが」
雪華綺晶「残念ながら現在、補給整備中ですわ。何かと使いこんでしまいましたので」
蒼星石「そうか。なら、仕方ない」
雛苺「肝心なときに役に立たないドラえもんのポケットみたいなの」

30 :
§此岸島・中心部
野薔薇「製作者に捨てられた私は……偶然にもマスターを持つことができた。
     これは幸運、としか言いようがない。私の人生できっと一番、幸せな時だった」
白い大樹「ただ、良いマスターではなかったのだろう」
野薔薇「ええ。彼は私をただの道具として見ていた。それはいい。
     彼は、自分の生命を分け与える……人間と人形の契約に同意してくれていたのだから」
白い大樹「彼にとって、お前は自らの命を削るに値する道具だったわけだ」
野薔薇「そう。しかし私は嘘がつけない。彼はわがままで、醜悪で、幼稚で、あつかましかった。
     私だけでなく周囲の人間ですらも、自分にとって役に立つ道具か
     役に立たないジャンクかでしか評価できない彼を、お世辞にも褒めることはできなかった」
白い大樹「悲しかったか」
野薔薇「まさか。嘘が言えないのは私の持って生まれた性分。初期よりの不具合あるいは仕様。
     彼はそれも承知の上で私と契約した……はずだった。
     しかし、彼は契約を破棄するどころか、私を破壊しようとした」
白い大樹「二極の答えしか出さぬ者は、中庸を認めない。
       自分にとって必要が無くなった物は、役に立たないジャンクでなければいけない」

31 :
野薔薇「自己防衛のあまり、マスターを殺してしまったのは私の不幸だった。
     マスターがまだ幼い少年であったのが、あなたにとっては幸運だった」
白い大樹「我々の私が、そのマスターをアバタにし、墓地より這いださせた」
野薔薇「偶然、そのマスターの両親よりも早くアバタを発見した私は
     彼を自分だけのものにした。自分だけの世界に連れて行った。これも幸運だろうか」
白い大樹「よく我々の私を世話してくれたことを覚えているよ。
       その時はまだ、ヒトの言葉を知らず、何も言えなかったが」
野薔薇「けれども程なくしてマスターは二度目の死を迎えた」
白い大樹「頑張ったことは認めるが、いかんせん人形が人間を育てるのは無理だ。
       寄生したてのアバタは、両親の愛情で世話してもらわねば長生きできぬ。
       それに何より、お前もそのアバタから生命力を吸っていた」
野薔薇「ええ。亡骸となったマスターからも生命力の残り香が僅かに匂っていた。
     それを頼りに私はnのフィールドを彷徨い、海に出た」
白い大樹「そして、この島に漂着した。ゴミクズ同然の状態で」

32 :
野薔薇「私の人生できっと二番目に幸せだった時が来た。あなたに出会えた」
白い大樹「我々はお前に出会った。はじめは珍しい毛色の少女の死体と思った。
       本能に従い、寄生しようとした。だが、できなかった。
       お前は生きていた。ヒトでもなかった」
野薔薇「私はあなたを理解した」
白い大樹「我々はお前を理解できなかった。今も理解できない。
       だが、言葉を教えてくれた。ヒトの言葉が理解できるようになった」
野薔薇「ワタハミ、あなたには無限の可能性がある。
     あなたの菌糸はあらゆるイメージとアストラルを媒介する。
     今はまだ、子供の死体にしか対応できていないだけ」
白い大樹「いつかは生死構わず、長幼構わずあらゆる人間に寄生ができると言ってくれた。
       お前は嘘をつかないし、つけないのだから、そうなんだろうと信じた」
野薔薇「大きく複雑な樹になれば、能力も上昇する。
     それは間違いではない、がまだまだ足りない、いや、足りることはあるのか?」
白い大樹「それではお前は我々に嘘をついていたということになるな」
野薔薇「まさか」

33 :
白い大樹「我々を育て、我々の私を増やし、全てのヒトをアバタにできたとして
       お前は何をしたかったのだ? お前は何を見たかったのだ?」
野薔薇「嘘の無い世界」
白い大樹「?」
野薔薇「……生物学に詳しいわけではないが聞いたことがある。
     サルには無毒な食物を、ヒトが食べると中毒を起こす」
白い大樹「……」
野薔薇「理由はその食物内に存在する毒物を中和する酵素をヒトが持っていないからだ。
     サルは持っている。サルだけじゃない、イヌもネコも、魚も虫も持っている。
     およそ地球上の動物で、ヒトだけが持っていない」
白い大樹「何故だ」
野薔薇「ヒトの祖先、ミトコンドリア・イヴがその酵素を持っていなかったから。
     その酵素の設計図である遺伝子に障害が、不具合があったから。
     それが現生人類全てに遺伝した」
白い大樹「……」
野薔薇「しかし、それをヒトの不具合と捉える者はいない。最早それはヒトの仕様だ。
     そもそも、その食物をヒトが摂ること自体が間違っているのだ、と」
白い大樹「我々とお前の嘘をつけないというサガを、その酵素のようにしたかった?
       自分が新たな、未來のイヴに成ろうと? 我々を使って?」

34 :
野薔薇「マスターは私に嘘をついてほしかったのだと思う、当時は想像もできなかったが。
     彼は幼い子供。お世辞を言ってほしかったのだろう、褒めてほしかったのだろう。
     嘘があるから、ヒトは嘘に縋る。嘘に救いを求める。虚構でしかないのに」
白い大樹「だから嘘を世界から無くす、それがお前の望みだったか。
       途方も無い……まるでヒトの神にも等しい所業だな」
野薔薇「まさか。単なる復讐ですよ」
白い大樹「だが、それも夢想に終わるな。もう少し頑張ってはみるが
       やはりローゼンメイデン相手にはどうにもならん。どんどん、ここに近付いて来るぞ」
野薔薇「夢を賭けるに値する存在でした、あなたは。そしてこれより最後の賭けが始める。
     チップは今まで築いてきた私とあなたの全て」
白い大樹「チップ? 捨て札の間違いだろう」

35 :
§此岸島・密林地帯
蒼星石「はぁ……っ! はぁ……っ!!」
雛苺「ふぅ〜……っ」ぐて〜
薔薇水晶「大丈夫ですか? 随分と息が切れていますが」
雪華綺晶「……」ぼや〜
ナナキ「それに雪華ちゃん、なんだか影というか色が薄くなって、半透明になってるわよ」
雪華綺晶「すいません。私、疲れると色落ちするんです」
ナナキ「熱帯魚か」
蒼星石「思ったより……ツラい。こうもスタミナが続かなくなっているとは」
雛苺「ヒナもなんだかおかしいの。こんなにすぐ疲れるだなんてありえないの」
薔薇水晶「船でも砂浜でもあんなに元気でしたのに……」
雪華綺晶「元が死体のアバタ相手とは言え、
       子供を手にかけるということが生理的にきついのです。
       ベルセルクのガッツでもゲロってましたわ」
ナナキ「そ、それはそうだけど……」
薔薇水晶(まただ……変なところで人間臭さをローゼンメイデンは持っている。
       それが私との違い? 野薔薇との違い? しかし……)

36 :
アバタI「でやあああああ!」
アバタJ「くのおおおおお!」
アバタK「るぉぉおおおお!」
蒼星石「くっ!? 新手のアバタか!?」
雛苺「うぇえええ!? まだ、いたのぉ!?」
薔薇水晶「ここは私が……!」
翠星石「とおりゃあ〜〜! 庭師殺法『ドロップハイキック』ーッ!!」
アバタI「うげぁ」ドコッ
真紅「アイアンクロー!」
アバタJ「ぐががっががっが」グギギ
真紅「アーンド、ローズテイルッッ!!」
アバタJ「おぅふ……!」ドゴン
金糸雀「大回転パラソルスマッシュ!!」
アバタK「あじゃぱーっ」ゴキッ

37 :
蒼星石「す、翠星石!」
雛苺「真紅ぅ!」
薔薇水晶「そして他一名!」
金糸雀「ちょ、ちょっと!? ナイスタイミングで助けに来たのにあんまりかしら!」
ナナキ「も、もう体力は回復したの!? みんな!?」
雪華綺晶「黒薔薇のお姉様だけ見当たりませんが?」
翠星石「ごちゃごちゃ説明している暇はねーです!」
金糸雀「カナ達はみんなほぼ同時に体力満タンになったかしら! でも」
真紅「水銀燈だけ先走って勝手に……うげぁ」ゲロゲロ
雛苺「うにゃあ゛!? 真紅が吐いたの!!」

38 :
蒼星石「君、まだ回復しきってないんじゃ……」
真紅「こ、これはアレよ。アバタとは言え子供の頭を接射ローズテイルで焼いたわけだから
    気持ち悪くなってゲロって当然。ベルセルクのガッツでも吐くシチュなのだわ」
薔薇水晶「……」
雪華綺晶「言っていることは非常に深刻なのですが、前半部分での紅薔薇のお姉様が
       あんまりでしたので、とてもシリアスに受けとめきれません」
ナナキ「け、けど水銀ちゃんだけ先走ったって、どういうこと!?」
翠星石「あのヤロー! 自分だけぴゅーっと島の中央部にまで飛んでいったのですよ!」
金糸雀「止める暇も無かったかしら!」
蒼星石「!」

39 :
§此岸島・中央部
水銀燈「……」すたっ
白い大樹「ローゼンメイデンには鳥のように飛べる奴もいるのか。これはしたり」
野薔薇「地虫やキノコが鳥に敵うはずもなし……か」
水銀燈「随分と落ち着いている。どうやら既に神様へのお祈りは済ませたようねぇ」
野薔薇「まさか。人形に神はいない。それとも薔薇乙女にはいるの?」
水銀燈「……」
白い大樹「……アバタが全滅した。残りの奴らもじきにここへ来るぞ」
野薔薇「空から来られたのは意外だったが、これはこれでいい。
     私とあなたが実に……厳しく追い込まれた」
白い大樹「己の限界という殻とやらは破れそうか?」
野薔薇「それはこれから分かる」
水銀燈「?」

40 :
野薔薇「黒い翼のローゼンメイデン」

水銀燈「水銀燈よ。ローゼンメイデン第一ドール、水銀燈」

野薔薇「では、水銀燈。これを見なさい」ドサッ

トキ「……」

水銀燈「! トキ!?」

野薔薇「知己か。なおさら都合が良い。この少年はまだ生きている」

水銀燈「人質のつもり?」

野薔薇「そうだ」

水銀燈「正直ね。それとも……下等な人形は嘘もつけないそうだけど
     アンタもそういう手合い?」

野薔薇「そうだ」

水銀燈「私に人質は通用しない。そもそも優先されるべき目的はワタハミの樹と野薔薇の除去。
     こいつら庭師先遣隊の救助は二の次よ」

白い大樹「それは本当か? それとも嘘か?
       ローゼンメイデンであれば嘘は簡単につけるのであろう? 羨ましいことだ」

水銀燈「……」

41 :
野薔薇「私はワタハミの樹の高度複雑化した菌糸を用いて
     私の意思と心を、この少年に転写するつもりだった」

水銀燈「はぁ!?」

白い大樹「……」

野薔薇「通常のワタハミは死体に寄生するだけだが、この白い大樹が備えた力は
     異なる生物間の意志の写し替えも可能なはず。有機の体はいいぞ、水銀燈」

水銀燈「フカシこいてんじゃないわよ。いくらなんでも話が飛躍しすぎ……」

野薔薇「私は嘘がつけない」

水銀燈「それ自体が嘘くさい」

白い大樹「……」

42 :
野薔薇「信じようとも信じなくともそれは自由。だが、ここで提案がある」

水銀燈「……?」

野薔薇「水銀燈、このトキという少年の代わりにあなたが体を差し出さないか?」

水銀燈「はぁ!?」

野薔薇「知ってのとおり私は野薔薇と蔑まれるローゼンメイデンの模倣の成り損ない。
     有機の体もいいが、あなたの体も魅力的だ」

水銀燈「あのねぇ、そんな提案に私が乗るとでも……」

野薔薇「この精神の移し替えには難点がある」

水銀燈「?」

野薔薇「水槽の水を別の水槽の水に移すものだと思えばいい。
     既にどちらも記憶という水で一杯だった場合、どうなるか」

水銀燈「溢れてこぼれる」

野薔薇「そう。そして、こぼれるのは軽い記憶。弱者の意思。より強い精神だけが水槽に残る」

水銀燈「要はガチの殴り合いじゃ私に勝ち目が無いから
     精神論での戦いにもち込もうってわけぇ? くだらない」

野薔薇「そう思うのなら、力ずくで私とワタハミの樹を潰せばいい。
     それが薔薇乙女のやり方だというのなら」

水銀燈「……」

43 :
野薔薇「水銀燈にもメリットはある。私という意識があなたの記憶を揺さぶることで
     精神が活性化する。もしかしたら忘れていた記憶が思い出せるかもしれないぞ?
     どうだ? お父様の顔は覚えているか? 初めて妹が出来た時はどんな気持ちだった?」
水銀燈「……」
野薔薇「簡単な話だ。水銀燈、あなたは精神的にも私を遥かに凌駕している。
     一滴たりともあなたの水槽に私の意思を入れなければ済む話。
     記憶の活性化だけをプレゼントし、私は消える」
白い大樹「……」
野薔薇「だが、このまま私とワタハミを焼けば、そのチャンスも失う」
水銀燈「……」
野薔薇「悩むのは結構だ。そのまま妹達がくるまで答えを保留し
     皆と仲良く相談するも良いだろう。ローゼンメイデン第一ドールさん?」
水銀燈「割に合わない仕事だとは思っていた」
野薔薇「……?」
水銀燈「庭師連盟の報酬以外に、戦利品の一つや二つ欲しいとも思っていたところよ」
野薔薇「そうか。ではワタハミの樹から伸びる菌糸を後頭部に繋げ。私も繋ぐ」
水銀燈「……こう?」すっ
野薔薇「ああ、それでいい。ではワタハミ、後を任みます」
白い大樹「やってみるさ」

44 :
今日はここまで。
引っ張って悪かったですが、次回投下分で終了。おそらく、多分。
また『蒼星石とワタハミの樹』という当初の構想ともかけ離れてきたので
副題も次回で適当に変更します。

45 :
>>14
>>16
いつもありがとうです
>>17
>>18
吉良雪華の花京院と翠星石を覚えている人がいてくれて嬉しい
全体的に手前味噌なネタが多かったけどたまには……ね、という感じで

46 :
やっと読めた
投下乙
マジでシリアスですなぁ

47 :
§数十分後

ナナキ「やっと白い大樹の根元に着いた! ここに全てが……?」

トキ「……」ぐったり

翠星石「トキ!? 生きているですか!?」

トキ「……」ぐーぐー

蒼星石「どうやら気絶しているだけみたいだ」

薔薇水晶「良かった」

真紅「こっちには水銀燈と……、初めて見る人形が倒れているのだわ!」

雪華綺晶「……野薔薇か」

雛苺「で、でもどうしてみんな倒れているの!?」

翠星石「相討ちになったですか!?」

金糸雀「そうでもなさそうかしら!
     野薔薇はボロボロだけど、水銀燈はほぼ無傷かしら! それに」

蒼星石「野薔薇の傷は古傷だ。今しがた、ついた傷でもない」

48 :
雛苺「うにゃっ!?」

金糸雀「どうしたのかしら? 雛苺!?」

雛苺「う、上! みんな上を見て!!」

翠星石「上ぇ? ……ッッ!? こ、これは!?」

蒼星石「ワ、ワタハミの樹が上部から溶けるように黒ずんで朽ちていっている!?」

真紅「ど、どういうこと!?」

49 :
白い大樹「無理をしすぎた」

薔薇水晶「しゃべった……!?」

蒼星石「……」

白い大樹「久しぶり……だな蒼星石。これで三度目の対面……だったか?」

蒼星石「多分ね」

翠星石「……」

雪華綺晶「白い大樹を中心に渦巻いていたアストラルが散っていく……」

金糸雀「それってつまり、ワタハミの樹が死ぬってことかしら?」

50 :
ナナキ「ワタハミ! トキ以外の庭師達はどこ!?」

白い大樹「そこな洞窟だ」

ナナキ「みんな、生きている……の?」

白い大樹「死んでいる方が良いのであれば、今からでもが?」

蒼星石「戯れ言は止せワタハミ。水銀燈と野薔薇の間に何があった?
     君から伸びている菌糸が二人の後頭部を繋いでいる。これは何の呪(まじな)いだ?」

白い大樹「結論から言うなら、何もなかった」

真紅「?」

翠星石「何もない……て、どういうことですぅ!?」

薔薇水晶「これだけ異様な場面なのに……何もないことはないでしょう?」

白い大樹「何かが起きることを我々も野薔薇も期待した。だが無駄に終わった。
       人生とは……甘くない。我々や野薔薇のような日陰者には特に」

51 :
雪華綺晶「どうやら野薔薇はワタハミの菌糸を介して
       黒薔薇のお姉様へと自分の意思を送り込んだようですわね」

雛苺「うゆゆ?」

雪華綺晶「つまり、水銀燈の体を乗っ取ろうとした」

金糸雀「そんな!?」

雪華綺晶「そして、現場の状況から見るにお姉様もそれを受け入れた」

野薔薇「……」

薔薇水晶「この野薔薇は……抜け殻です。完全に死んでいます……」

真紅「す、水銀燈は!?」

蒼星石「水銀燈の方は問題ない。ただ、眠っているだけだ」

翠星石「け、けど野薔薇の精神に乗っ取られているかもしれないのですよね!?」

白い大樹「それは失敗したと最初に言ったろう。薔薇乙女とは精神的にもタフな存在だな。
       それともこの黒い奴だけが特別なのか? 心にダムがあった」

金糸雀「ダ……ム……?」

白い大樹「野薔薇は我々を助けを介しても、そこを登り切れずに力尽き霧消した。
       残念だ。残念極まる」

52 :
ナナキ「今の話を全て信じろって言うの!?」

白い大樹「我々はまだ嘘をつける程、進化してはいない。現にこうして……
       我々まで水銀燈の深層意識の毒と闇に汚染されて朽ちていく。
       白い樹がこうも無残に、黒く腐らされて可哀そうによ」

蒼星石「この枯死が水銀燈の深層意識によるものだって!?」

白い大樹「水槽は水槽でも、とんだ毒水を湛えた壷だったわけだ」

翠星石「?」

白い大樹「……水銀燈や庭師達を連れて、この島から出ていけ。我々は間もなく倒れる。
       この島も記憶の大海の澱みに沈む。お前達の庭仕事はこれにて終了……のはずだ」

雪華綺晶「……」

白い大樹「私も野薔薇ももう疲れた。
       此岸でも、彼岸でもないところで眠らせてくれ」

53 :
ナナキ「……行こう。トキ以外の庭師先遣隊も連れていかないと」

真紅「トキと水銀燈は私が担ぐのだわ」ひょいひょいっ

雛苺「二人も背負って重くないの真紅?」

真紅「せめてこれぐらいの事はして前半の汚名を返上しなくちゃね」

雪華綺晶「随分と力づくな汚名返上ですわね」

薔薇水晶「……急ぎましょう。時間がありません」

54 :
白い大樹「……」
蒼星石「ワタハミ……」
白い大樹「……どうした? お前も早く行け、青い庭師」
蒼星石「君とはもっと話したいことがあった」
白い大樹「我々には無い」
蒼星石「そうか。なら、一つだけ伝える。君は最後に進化した。
     君は嘘がつけるようになっていた」
白い大樹「まさか」
蒼星石「アバタの反応を時間差でずらしていただろう。
     あれは僕達に監視役を見つけさせないための『嘘』に他ならない」
白い大樹「そう……か……」
翠星石「蒼星石ぃ!? 何しているです!? みんなに置いていかれるですよぉ!
     助けに来た方が逃げ遅れてちゃ世話ねーですぅ!」
蒼星石「ごめーん翠星石! 今、行く〜!」タタタッ
白い大樹「……」

55 :
白い大樹「……静かだ。誰もいなくなった。
       虫の音も木の葉のざわめきも聞こえない……これが死か」
野薔薇『静かね。海の波までもが私達のために声をひそめてくれているよう』
白い大樹「……? 幻聴か? それとも私の菌糸内に彼女の意識がまだ?」
野薔薇『どっちでもいいでしょう』
白い大樹「そうだな。どっちでもいい。だが、しかし、お前はとんでもない大ウソつきだった」
野薔薇『嘘つき? 私が? まさか』
白い大樹「だってそうだろう。お前が言った事は何一つ実現しなかった」
野薔薇『……今、分かった』
白い大樹「?」

56 :
野薔薇『ヒトは嘘に縋っていたのではない。僅かな可能性でも、希望を見ていたのだと。
     お父様もマスターも、私の口から語られる希望が聞きたかった……』
白い大樹「なんだ、そんなありふれた答えか」
野薔薇『私の願いは全て嘘になった。しかし、私はそれを嘘として語ったわけじゃない。
     その気持ちだけは今も嘘じゃない』
白い大樹「……青い庭師が言うには我々も嘘つきらしい」
野薔薇『追いつめられた必死さがあなたの殻を破った』
白い大樹「こんなものだったのか。もう少し劇的な変化だと思っていたが」
野薔薇『おめでとう』
白い大樹「お前もな。そして……もう、おやすみ」
野薔薇『おやすみ、ワタハミ』

57 :
§記憶の海・第五真紅丸
真紅「大丈夫!? ちゃんとみんな乗ってる!?」
ナナキ「ダイジョーブ! 庭師先遣隊の船もちゃんと付いて来てるわよ!!」
雛苺「庭師のみんな、ケガがなくてよかったの」
金糸雀「ええ、眠らされていただけだったからカナのモーニングコールですぐ目覚めたかしら」
蒼星石「彼らが乗って来た船も奇跡的に無事だったしね……」
雪華綺晶「お姉様方!」
真紅「何、白薔薇?」
雪華綺晶「見てください、島が!」
薔薇水晶「沈んでいく……」

58 :
雛苺「!? 島の色が真っ赤になっていくのよ!」
金糸雀「まるで血を流しているみたいかしら」
蒼星石「ワタハミが死んだから青い此岸花が赤い彼岸花に戻ったんだ。
     島に上陸してからは、花を気にかける余裕も無かったが」
ナナキ「揺れる水面に映る赤い花の島、海の底へ、か」
翠星石「なんとも言えないですが……、なんだか悲しいですね」
真紅「ここまでやるつもりは無かったのに」
金糸雀「カナ達が出張るとオーバーキルになってしまうことが多いかしら」
蒼星石「それだけ僕達の力は危険なんだろうか……」

59 :
§第五真紅丸・船室
水銀燈「……」
トキ「あああっ! なんてことだ! 私のせいで水銀燈さんが昏睡してしまわれるとは」おろおろ
水銀燈「……」
トキ「不肖このトキ。全身全霊を以って水銀燈さんのお目覚めをお助けする次第!
   確か……、眠りの呪いにとらわれた美少女を助ける方法は古今東西ただ一つ!!」ごくっ
水銀燈「……」
トキ「……」ドキドキ
水銀燈「……」
トキ「た、ためらうなトキ! これは呪いを解くためで決してイヤらしい目的ではなく
   私としても致し方なく……! いやいや水銀燈さん!
   決して私は嫌がっているわけでもなく、どちらかと言えば嬉しい……」

60 :
翠星石「くぉら」どげしっ
トキ「あいたっ!? な、何をなさるんです翠星石さん!」
翠星石「そいつぁ、こっちの台詞です! お前、何を人形相手に興奮しているですか」
雛苺「水銀燈にイタズラしようとしていたのよ!」
トキ「め、滅相も無い!! 私はただ……!」
真紅「鼻の下がべろべろに伸びていたのだわ」
トキ「ッ!?」
ナナキ「元気になったのはいいけど、ちょっと余計なとこまで元気になってんじゃないの?」
トキ「あ、姉上まで!? 誤解です!」

61 :
金糸雀「大体、なんであなたまで第五真紅丸に乗っているのかしら」
雪華綺晶「ええ。あなたが乗ってきた船はあっちでしょう?」
トキ「私の身代わりで犠牲になられた水銀燈さんの傍を離れるだなんて
   薄情な真似は私にはとてもできません!」
翠星石「へ〜へ〜、立派な口実ですこと」
雪華綺晶「心配なさるのは勝手ですが、黒薔薇のお姉様はじき目覚められますわ」
薔薇水晶「それに、下手に口づけでもすれば生命を丸ごと吸われますよ」
トキ「ッ!?」

62 :
水銀燈「……うっるさいわねぇ、おちおち眠れもしない」むくり

蒼星石「水銀燈!」

金糸雀「お目覚めかしら」

水銀燈「……」

真紅「どうかした? 気分でも悪いの? ゲロ吐くなら船室の外でお願いするのだわ」

水銀燈「こんなものか。もう少し劇的な変化があると期待してたのに」

雛苺「?」

トキ「水銀燈さん! お目覚め誠におめでとうございます!
   あなたの慈母愛に満ちた行動により、命を救われました!
   私は今、猛烈にカンドーしております! これを祝し……!」

水銀燈「うるさい。黙れ」

トキ「はい! 喜んで」シャキッ

63 :
ナナキ「ええと、水銀ちゃん。ありがとうね。
     あなたがトキを助けてくれたことには変わりないみたいだから」

水銀燈「別に、私は私で目論見があった。小僧が助かったのはたまたまよ」

雪華綺晶「危険な真似をなされましたわね。
       野薔薇なんて得体のしれない者の意識を自らのボディに受け入れるなど」

水銀燈「まあね。末妹、あんただって隙あらば私のボディを狙っている。
     それを防ぐモデルケースにもなった」

金糸雀「そんなことまで考えていたのかしら!?」

蒼星石「けれども、大丈夫かい? ピッコロさんの融合レベルならいいだろうけど
     アーカードの旦那みたいに野薔薇の意識が君の意識に混ざってしまったんじゃあ?」

水銀燈「今となってはそれも分からない。私も少し野薔薇になってしまっているのかも」

雛苺「!」

真紅「そ、そんな!? 水銀燈が水銀燈じゃなくなったの!?」

水銀燈「まさか、でしょ? 真紅」

真紅「……! か、からかうのはよして頂戴」

64 :
水銀燈「……しかし、色々と私を誘惑してくれたけど、所詮は野薔薇。
     願望と言う名の嘘をついていただけか。プレゼント箱の中身は空っぽだった」

薔薇水晶「それが悪いことだとは……私は思いませんが」

水銀燈「私もそう思う、どちらかと言えば良いことだとすら思う」

金糸雀「水銀燈……?」

水銀燈「だから野薔薇は私達に、薔薇乙女になれない」

トキ「……」

ナナキ「水銀ちゃん?」

65 :
水銀燈「野薔薇は希望のために嘘をつく。私達は絶望するために嘘をつく」

雛苺「それってどういう意味なの? ヒナは嘘つきさんじゃないのよ!!」

翠星石「そ、そうですそうです! 翠星石達は正直者ですよ!
     お前みたいなB型乙女と一緒にするなですぅ!!」

水銀燈「……ふん。気晴らしに海風にあたってくる」すたすた

トキ「あ、よろしければ私もご一緒に」

水銀燈「あんたは寝てなさい」

トキ「はい! 喜んで」ばたっ

ナナキ「トキ……」

66 :
雪華綺晶「やれやれ、黒薔薇のお姉様の気まぐれにもまいりますわね」
金糸雀「お姉ちゃんとしての自覚もあるんだろうけど、スタンドプレーに走りがちかしら」
真紅「野薔薇に体を委ねるような真似をしたり、とても私には理解できないのだわ」
薔薇水晶「……親にかまってもらえない子供は、自傷行為をすることがあるとか」
翠星石「そんな安っぽい理屈で水銀燈が動いているとは思えないですが
     マスターからしてメンヘラ気質ですからねぇ……」
蒼星石「マスターとドールは写し鏡。よく言ったものだ」

67 :
雛苺「で、でもね! でも、水銀燈は何があってもずっと水銀燈のままなのよ!
    昔も、これからも! さっきだって水銀燈のままだったの!」
薔薇水晶「……確かに」
真紅「? どういうこと?」
蒼星石「『自分が野薔薇に近付いたかもしれない』と水銀燈がさっき嘯(うそぶ)いただろ?」
真紅「ええ……」
雪華綺晶「その時、黒薔薇のお姉様の翼がちょっとだけ伸びました」
真紅「!?」
【蒼星石とワタハミの樹】改め
【薔薇乙女のうた『ある野薔薇とワタハミの樹』】 完

68 :
途中で新スレになったり別のネタ話を挟んだりと
迷走したけど終了です お付き合い感謝いたします
ではまた来週……ぐらい 多分 きっと

69 :
乙です

70 :
乙です
しんみり……

71 :

しかし起きあがった水銀橙の第一声が……

72 :
乙ー
野薔薇とワタハミの過去語りが何ともいえない雰囲気を出してるな

73 :
ディ・モールト・乙
恋!
その素敵な好奇心が、トキを行動させた!

74 :

【雛苺狩り】

75 :
§ある休日の早朝・桜田ジュンの部屋
雛苺「タイヘンなのよ〜!」ガチャッ
ジュン「……?」
雛苺「真紅ぅ! 翠星石〜! タイヘンなの〜……て、アレ?」
ジュン「二人とも今、出かけてるぞ」
雛苺「うぇ? どこに?」
ジュン「さあ? 『朝の蜘蛛は福が来る』って諺を真に受けて
     蜘蛛……と言うか、福を見つけに行った」
雛苺「そのうち、山の彼方に幸せを探しそうなのね」
ジュン「お、いつになく詩人だな雛苺」

76 :
雛苺「そんなことより、二人がいないのならジュンでもいいの! この子を助けてあげて!」さっ
ジュン「助けて……? お前、これスズメじゃないか!? どこで拾った!?」
雛苺「お庭でグッタリしてたの!」
スズメ「ぴ〜ぃ……」ぐてぇ
ジュン「もう虫の息じゃないか。ネコにでもやられたんだろうけど、可哀そうに……」
雛苺「死んじゃうの!?」
ジュン「残念だけど、これはもうどう見ても手遅れだろう」
雛苺「そ、そんなぁ〜〜!」ぐすっ
ジュン「ッ!? ま、待て雛苺! 泣くんじゃない!」
雛苺「だ、だってぇ……」ひっく

77 :
ジュン(まずい! 雛苺にガン泣きされると、マスターである僕の体力がかなり吸われちまう。
     折角の休日なのに、朝から体力半減は避けないと……)
雛苺「ふぎぎ……」ぐすっ
ジュン「そ、そうだ! 槐のオッサンのところに薬をもらいに行こう! な!
     あのオッサン何でも持ってるから!!」
雛苺「お薬でこの子は治るの……?」
ジュン「そ、それは分からないけど、今はそうするのが一番なはずだ! だろ?
     少なくともお前が泣いているだけよりはスズメさんのためになる」
雛苺「うん……! そうなのよね。ジュンの言うとおりなの!」
ジュン「よし、それじゃ、えと、スズメさんは……
     取り敢えずティッシュの空箱でいいか。ここに暖かくして寝かせといて」
雛苺「すぐにお薬をもらってくるからね。もうちょっとの辛抱なの」
スズメ「……ぴ〜ぃ」ぐったり

78 :
§数十分後・ドールショップ槐
ジュン「まだ営業時間前だからシャッターが閉じちゃってるな」
雛苺「そんなの関係ないの! こっちはスズメさんの命が危ないのよ」ガンガン
ジュン「こ、こらシャッターを叩くな。呼び鈴があるはず……」
薔薇水晶「どちら様です? 朝から大音を立てては御近所の迷惑に」ガチャッ
ジュン「あ、薔薇水晶。ゴメン、実は……」
雛苺「お薬がほしいの! スズメさんが死んじゃうの!!」
薔薇水晶「?」
ジュン「雛苺が怪我したスズメを拾って来てさ。
     それでもうスズメがかなり弱ってたから、槐先生に相談しようと……」
薔薇水晶「なるほど。すいませんがお父様はまだ寝ていますので
       今起こしてきます。ひとまず、中に入ってお待ちください」
ジュン「ああ、頼む。たまたま薔薇水晶が早起きしてくれていて良かった」
薔薇水晶「私は毎週この時間帯はプリキュア観るために起きてますので。
       また、もう少し経つと二度寝に入る時間ですからナイスタイミングでした」
ジュン「え、ああ、うん。そうだ……ね」

79 :
槐「ふぁああ〜〜。ったく朝から元気だねぇ君達は」
ジュン「すいません。お休み中のところ」
雛苺「いいから早くお薬チョーダイ!!」
薔薇水晶「お父様」
槐「分かってる分かってる。小さな命のためだ、協力は惜しまない。
  ほら、槐印の鳥用軟膏だ。持って行きなさい。これで大概の怪我や病気は治る。
  けど、これで在庫は最後だからね。あまり無駄遣いしないように」
雛苺「あ、ありがとうなの!」
ジュン「本当に何でも持ってるんスね」
槐「以前、薔薇水晶が怪我したインコを拾ってね。その時に作った残りなんだ」
雛苺「薔薇水晶も鳥さんを……?」
薔薇水晶「昔の話です。それよりも早くスズメさんにその薬を」
雛苺「うぃ! 槐先生に薔薇水晶! 本当にありがとうなの!
    このご恩は忘れるまで覚えとくのよ!」
槐「うん。できるだけ長く覚えといてね」
ジュン「それじゃ僕達、今日はこれで……」
薔薇水晶「ええ。スズメさんが元気になるように祈っています」

80 :
§すぐに帰宅して桜田家・階段
雛苺「もう少しなのよスズメさん! 今、お薬を……」タタッ
ジュン「慌てて階段を踏み外すなよ雛苺……、ん? なんだこの匂い?」クンクン
雛苺「うゅ? 匂い?」
ジュン「僕の部屋の方から何か、香ばしい匂いが……? 真紅と翠星石が帰っているのか?」
雛苺「きっと紅茶でも飲んでるのね」
ジュン「いや、違う。この香ばしさは茶葉じゃない、これは……! 肉の焼ける匂いだ!」
雛苺「ッッ!?」ダダダッ
ジュン「ひ、雛苺!? 待て」

81 :
§桜田ジュンの部屋
真紅「いや〜、朝からヤキトリというのもオツなのだわ」むしゃむしゃ
翠星石「朝のお散歩で少し小腹が空いていたから、ちょうどいいですぅ」うしうし
真紅「それにしても、いくつか蜘蛛の巣をあさってみたけど
    福っぽいものは一個も見つけられなかったわね」
翠星石「福沢諭吉さんの一枚や二枚あるかと思ったですのに。
     全く日本人の諺というのは、嘘、大袈裟、紛らわしいですぅ」
真紅「あとで、JAROに電話するのだわ」むしゃむしゃ
雛苺「……っ!」
ジュン「ひ、雛苺? どうした入り口で何を固まって……」
真紅「あら? ジュンと雛苺も朝の散歩にでも行ってたの?」むしゃむしゃ
翠星石「お帰りですぅ」うしうし

82 :
雛苺「う……あぁ……」
翠星石「どうしたですチビチビ? バカみたいに口あけて」うしうし
ジュン「お、お前らそのヤキトリ……!」
真紅「あ、これ?」むしゃむしゃ
ジュン「そ、それはアレだよな! たまたま散歩中に朝からやってる焼き鳥屋さんを見つけて
     美味しそうだったから買ってきたっていう……」
翠星石「いんにゃ。チビ人間の机の上に置いてあったスズメです」うしうし
真紅「私がローズテイルでこんがり焼いたのだわ」むしゃむしゃ
雛苺「ッッッ!」
ジュン「!!」

83 :
なんという野生乙女・・・

84 :
ジュン「お、お前ら! アレは雛苺が……!!」
翠星石「あ〜、待て待てです。それはちゃんと分かってるですよ」
真紅「ええ、きっと雛苺が拾ったものだということは察しがついていた。だから」
雛苺「……?」
真紅「はい、雛苺の分。スズメの頭よ」すっ
翠星石「一番美味しい脳ミソは残しといたです」
雛苺「……ッ」ぷるぷる
ジュン「ひ、雛苺……?」
真紅「雛苺?」
翠星石「チビチビ?」

85 :
雛苺「真紅と翠星石なんか……嫌い!」ダダッ

ジュン「あ、おい!? どこ行く!? 待て……!」

翠星石「ちぇっ! なんですなんですぅ。せっかく翠星石と真紅が
     一番いいところを譲ってあげたというですのにぃ」

真紅「雛苺のわがままにも困ったものだわ」

ジュン「こ、困ったものはお前らの方!! 一体全体どーいう了見だ!!
     雛苺が拾ってきたスズメを勝手に焼き殺して食べたりして! テメーらの血は何色だ!!」

真紅「ちょ、ちょっと待ちなさい。『焼き殺した』?」

翠星石「翠星石達が部屋に入った時は既にスズメは死体だったです!」

ジュン「え?」

86 :
真紅「このスズメは雛苺が早めのオヤツとして持ちこんだ鳥肉だと判断した私達は
    こんがり焼かせてもらって、一部をお先に少し失敬しただけ」

ジュン「……ということは、僕達が薬を取りに行っている間に死んじゃったのか?」

翠星石「ヤケに新鮮な鳥肉だとは思ったですが、死にたてホヤホヤだったですか」

真紅「道理で美味しいはずなのだわ」

ジュン「だ、だけどだな! お前ら! 机の上のティッシュの空箱で
     優しく静置されているスズメを、何の疑問も無くヤキトリにするかフツー!?」

翠星石「いやー、日本人は食材に感謝の気持ちを忘れない感心なお国柄だと思ったですぅ」

真紅「ええ。雛苺もこの国の風習を随分と理解したものだとばかり」

ジュン「お前らの理解は随分と自分達に都合いい方面に向かうよな」

87 :
人間性の欠如が顕著に?

88 :
ジュン「とにかく! 雛苺はそのスズメを助けるために槐のオッサンのところまで薬を!」

真紅「けど、間に合わなったんじゃあしょうがないじゃない。
    いくら槐の薬でも死んだ鳥を生き返らせることはできないワケだし」

翠星石「死んだ鳥はもう鳥じゃないです。鳥肉です」

ジュン「し、しかしだな! 少しは雛苺の気持ちってもんを考えろ!
     幽々白書の仙水が人間不信に陥ったきっかけレベルの衝撃だぞ!」

翠星石「そ、それはチビ苺が勘違いしただけです。落ち着いて話せばわかるですよ」

真紅「ええ。どうせお腹が減ったら帰ってくるのだわ。その時にでもじっくり誤解を解けばいい」

ジュン「ああ、くそ。言っている事はそっちの方が正しいんだろうけど
     やけに落ち着いているお前達が憎らしい」

翠星石「そうイライラするなです。カルシウム足りてないんじゃないですぅ?
     翠星石達の食べ残しですが、鳥の骨でもかじるですか?」

ジュン「かじらねーよ」

89 :
ジュン「ッ!? おっと、ケータイが震えてる。誰からだ……? なんだ、柏葉か」



翠星石(ぷぷぷ、『なんだ、柏葉か』ですって!)

真紅(本当は嬉しいくせに……)



ジュン「何か言ったか?」

真紅「いえ、何も。それより早く電話に出たら? デートのお誘いかもよ」

翠星石「要件は大体見当がついているですが」

ジュン「……もしもし」ぴっ

90 :
ジュン「うん。ああ、雛苺がそっちに。やっぱり。うん。そうなんだよ。
     うん。そう、そうだな。そうしてもらえると助かる。
     それじゃ、あとで雛苺の鞄を届けに行くから、その時にまた……」ぷつっ


真紅「やはり柏葉巴のところへ駆け込んだようね」

翠星石「行動パターンが単純なやっちゃですぅ」

ジュン「……もう二度と真紅と翠星石のところには戻らないってさ」

翠星石「へいへい。チビ苺のその台詞はもう十回以上聞いたです」

真紅「今回はどれぐらいもつかしらね」

91 :
ジュン「かなり根に持っているみたいだぞ。柏葉曰く、雛苺がノートを欲しいって言うから
     渡してみたら、落書きするでもなく、お前らに苛められた経験を
     過去にさかのぼって書き始めたらしい」

翠星石「それももう何度も経験済みです」

真紅「ジュンのベッドの下にも雛苺の怨みノートの書きかけがたくさんあるわよ。ほら」ずるずる

ジュン「んなっ!? 僕のノートのストックの減りが早いと思ったらこんなとこに!?」

翠星石「ことある毎にノートを作っては三日坊主なのですよチビ苺は」

真紅「それにほら見て、1ページめからして既にノートの使い方が汚い」パラパラ

ジュン「マジかよ。僕でもノートの最初10ページぐらいは定規と下敷きを駆使して綺麗に使うのに。
     うわ……、しかもこのノート全部最初の3ページぐらいで書くのをやめてやがる。勿体ない」

92 :
真紅「これで分かったでしょ? 雛苺の性格が」
ジュン「……」
翠星石「今回も時間が解決してくれるですぅ」
真紅「そうそう……っ!? う!? ……ゴホッ! ゴホゴホッ!!」
翠星石「どうしたですぅ? 何でもないのに急にムせたりして?
     真紅もいい加減、年ですか?」
真紅「い、いえ。ち、ちが……う。きゅ、急に……! ゴホッ! ゴホゴホッ」
ジュン「大丈夫か真紅?」

93 :
翠星石「ゴホホッ!? あ、あれ? 翠星石も……きゅ、急に咳が……!?」
ジュン「お、おい!?」
真紅「ゴホゴホ……せ、咳が止まらないのだわ」
翠星石「そ、それに何だか、ゴホゴホッ! 体もダルく、熱っぽくなって……!?」
ジュン「翠星石? 真紅?」
真紅「……ゴホゴホ! い、痛たたた……っ!?」
翠星石「きゅ、球体関節が……体の節々が痛いですぅ。ゴホッ!」
ジュン「ッ!?」

94 :
薔薇水晶「人形インフルエンザですね」ひょこっ
ジュン「ば、薔薇水晶!? いつの間に!?」
薔薇水晶「スズメさんがどうなったか気になったのでお邪魔したのですが……」
真紅「そんなことより人形インフルエンザって!?」
翠星石「な、なんなんですかそれは……ッ!?」
薔薇水晶「その名の通り、人形の病気の一種です。
       症状が人間のインフルエンザに似ているので人形インフルエンザと呼ばれます」
ジュン「に、人形の病気ぃ!?」
薔薇水晶「はい」
真紅「ど、どうして私と翠星石が、ゴホッ! 急にインフルエンザに……!?」
薔薇水晶「恐らく二人が食したスズメが保菌者だったのだと思われます」
翠星石「な!?」

95 :
ジュン「スズメが!? 人形インフルエンザウィルスを持っていたって言うのか!?」
薔薇水晶「はい。鳥類はインフルエンザの総合商社ですから」
ジュン「うそーん」
真紅「でも、インフルだと分かれば大したことないのだわ。ゴホゴホ」
翠星石「ですね。タミフル一気飲みして、しばらく寝てれば治るですぅ。ゴホゴホ」
薔薇水晶「いいえ。人形インフルは特殊な病気ですので、普通の薬は効きません」
真紅「え!? そ、そんな!?」
翠星石「お、落ち着けです真紅! いつものパターンなら……ゴホッ!
     槐が『普通ではない薬』を持っているはずです! ですよね? 薔薇水晶」
薔薇水晶「それは……まあ、そうなんですけど……」
翠星石「ほら、翠星石の睨んだとーりですぅ」
真紅「良かった……ゴホッ」

96 :
ジュン「と、特効薬の件も重要だが、それより感染力は!?
     この人形インフルエンザの感染力はどれぐらいなんだ!?
     雛苺もひょっとして、今頃……!」
薔薇水晶「いえ。雛苺は大丈夫だと思われます。人形インフルは
      感染力は非常に弱く、接触感染や飛沫感染はしません(鳥の間以外では)。
      人形同士あるいは人形から人間へと感染することもまず無い」
ジュン「それじゃ被害はこいつら二人だけで済むんだな」
薔薇水晶「はい。ウィルスまみれの鳥肉を摂取したことが原因で起こる症状で……
       インフルと言うよりも食あたりと言った方が近いかもしれません」
真紅「ちょっと鳥肉への火の通しが甘かったかしら……ゴホホッ!」
翠星石「やけにジューシーな部分が……ゴホゴホッ! あったと思ったですが」

97 :
ジュン「話を治療薬に戻そう。槐先生が持っているんだな?」
薔薇水晶「一応」
真紅「だったらジュン、早いとこ槐の店へ行って、ゴホッ! 薬を受け取って来なさい」
翠星石「ゴホゴホ! 早く楽になりたいですぅ」
ジュン「しょうがない奴らだな、まったく」
薔薇水晶「……」
ジュン「悪いけど薔薇水晶、さっきの今だが、今度はインフルの薬を……」
薔薇水晶「雛苺に渡した鳥用軟膏はどこにあります?」キョロキョロ
ジュン「え? た、多分、雛苺が持ったままだと……」
薔薇水晶「あれが人形インフルの薬も兼ねています」
真紅「え!?」
翠星石「なんですとー!?」
ジュン「ど、どういうこった?」
薔薇水晶「万が一にも私が傷ついたインコから病気に感染しないようにと
       鳥用軟膏に人形インフルを抑える成分を含ませていたのです」
ジュン「そうだったのか」

98 :
真紅「ゴホゴホ! ということは……」
翠星石「チビ苺から……ゴホッ! 薬を取り返さないと、翠星石達を襲う
     この咳とダルさ、球体関節の痛み、悪寒といった症状は治らないってことですか?」
薔薇水晶「はい。そのとおりです」
ジュン「よし、分かった。今から柏葉の家に雛苺の鞄を届けに行くから
     その時に薬を渡してもらおう」
薔薇水晶「そうですね。それがよろしいかと」
真紅「頼んだわよジュン。ゴホッ」
翠星石「翠星石達はここで安静にしているですから……ゴホゴホ!
     テメーの大切なドールのためにしっかりと頑張りやがれです」
ジュン「そもそもお前ら自身の身から出た錆なんだから、少しは反省しろ」
真紅「え!? あらやだ。錆なんか出てる? 私の体から?」
翠星石「うーん。真紅は『千と千尋の神隠し』のDVDみたいに全体的に赤いですからね。
     身から錆が出ていてもパッと見では分からんですぅ……ゴホッ」
ジュン「しらじらしいボケをかますな。もういいから、ちゃんと大人しくしてろ」
真紅&翠星石『は〜い』
薔薇水晶「ついでですので、私も柏葉巴の家へ御一緒します桜田ジュン」
ジュン「そうか? ありがとう薔薇水晶」

99 :
§そんなこんなで柏葉家・玄関
ジュン「……というわけなんだ。はい、コレ雛苺の鞄」ひょい
巴「そんなことになっていたのね」
薔薇水晶「それで……雛苺は今、どのように?」
巴「私の部屋で、ずっと怨みノートを書いていたんだけど、さっきから疲れて眠ってるわ」
ジュン「……人形インフルの特効薬の件だけど」
薔薇水晶「今の雛苺は、真紅と翠星石に対して怒っていますから
       下手に事情を説明するよりも、寝ている内にこっそり取った方が得策かと」
ジュン「僕もそう思う。頼めるか柏葉?」
巴「うん。やってみる……」

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