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2013年01月創作発表163: ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目 (221)
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ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目
- 1 :2010/09/04 〜 最終レス :2012/11/15
- 時代はうなぎよりウーパールーパー!ミ(゜θ゜)彡
モバイラーもあるよ!(εё)
前スレ:ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1249981120/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/864.html
前々スレ:俺スーパーモバイラー
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239426090/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/149.html
関連レス:これから書いていこう
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239915589/1-51
+(・─・)+ +(・◇・)+ +(×o×)+ ……。
- 2 :
- ちなみに、ウーパールーパー R で検索してトップに出てる
サイトに行けば最終形態のウーパールーパーが見れるよ!
- 3 :
- 別に楽しみにしてくれる人はいなくていい。
俺が楽しく週間連載ごっこが出来ればそれでいいのだ。
創発万歳!独りよがりサイコー!あははははははーっ!!!
「いくつになっても投下をすれば胸がドキドキするの」
というわけで、身悶えながら「 グレートサラマンダーZ 再開 」
前スレ投下済み「 グレートサラマンダーZ 」
※レス番はすべて前スレのものです。
:プロローグ
>39
プロローグとエピローグを間違える。
:第1章 「 グレートサラマンダーZ、出動する。」
>45>47>50-52>59-61
うぱるぱ王国秘密警察によって強制的に秘密基地に連行されたうぱ太郎は
うぱ松とR、無理矢理グレートサラマンダーZのパイロットに任命される。
そこでいきなりグレートサラマンダーZに乗り込みパトロールに出動する。
:第2章 「 うぱ松、苦悩する。」
>64-66>69-72>78-81>88-90>94-96>98-100>102-103>107-112
うぱるぱ救出に励むも、週刊誌に載ったり警察に捕まりそうになるなど、にわかに
グレートサラマンダーZの周囲が騒がしくなる。そしてまさかのテレビ出演。
うぱ松はうぱ太郎達を援護する為グレートサラマンダーZ2号機の開発に着手しようかと迷う。
このスレからの「 グレートサラマンダーZ 」
:第3章 「 うぱ太郎、絶叫する。」
テレビ出演をきっかけにグレートサラマンダーZは一躍人気者になる。
また、うぱ太郎の涙の主張が功を奏したのかウーパールーパーを食べる人は激減する。
そんなある日うぱ太郎はパトロール中、久しぶりにうぱるぱSOS信号を受信する。
グレートサラマンダーZと共に駆けつけたうぱ太郎は廃墟の中の地獄絵図に愕然とする。
そしてうぱ太郎とグレートサラマンダーZは最悪の状況に追い込まれていく……
:第4章 ちょーてきとーゆるゆるトンデモ展開。
幼稚園レベルの思い付きを成立させるため、思いっきり引っ張る。
:第5章 後出し後付け満載で収束へ。
:最終章 蛇足かもしれない。
と、まぁこんな感じでちんたら進めていきます。
下記、前スレ投下2レスを見て許せるwようなら
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/864.html
で専ブラ、●無しでも前スレが見ることが出来ますので興味のある方はどうぞ。
また、投下時必ず名前欄に「 グレートサラマンダーZ 」と入れますので
見るのが嫌な方はすいませんが、NG設定もしくは手動にてスルーお願いします。
投下スレ数は安定しないかもしれませんが毎週水曜日夜投下予定。
- 4 :
- 47 名前:「 グレートサラマンダーZ 」 :2009/10/14(水) 22:13:33 ID:BDhnE7iV
「…………何、……これ」
奇怪な現象を前に、うぱ太郎は立ち尽くしている。
「……これは君の力だ。君はグレートサラマンダーZのパイロットなんだ。うぱ太郎、
君は選ばれた者の宿命として、危機に瀕したうぱるぱを救わなければならない義務がある。
そこの机に座ってくれ。これから詳しくグレートサラマンダーZについて説明する」
「ちょっと待ってください!」
「いいから早く座れ!」
(なんで僕なんだ…… そんなこと急に言われたって僕に出来るわけがない……)
虚ろな表情のまま、うぱ太郎は古ぼけた木製の椅子に座った。
(なんで僕なんだ……)
「滅多にいない1メーター級の山椒魚から細胞を勝手に拝借しバイオテクノロジーとDNA
操作で、細胞組織の根本から見直し、伸縮性に富み自然治癒力を大幅に向上させた本体を作った。
グレートサラマンダーZの動力源は半永久機関の特殊モーター。その力を駆動系と電力発電系に
分配している。充電用バッテリーは5年間メーカー保証付きのメンテナンスフリータイプを――」
(なんで…………)
混乱していた。うぱ松の説明は、うぱ太郎には届かなかった。
「グレートサラマンダーZの動力モーターには幻の金属と呼ばれるオリハルコンを使用している。
ただ、オリハルコンだけでは動力にならないからそこに、うぱるぱ王国特産の希少金属、
オリアキコンを組み合わせる。簡単に言えば両者は反発しあう磁石だ。それをもとに一旦
廻り始めたら無限に廻り続けるモーターができた。ただしそれだけではモーターのトルクが足り
ない。そこでさらに反発しあう王国名物の希少金属、オリフユコンとオリナツコンをペアで
使用してリピートリングとパワーリングというリングモーターを作った。
そのリングをメインモーターの回転軸に組み込み摩擦抵抗を完璧に抑え、反発力を極限まで
高めた。そのおかげで一気にトルクが跳ね上がった。が、それを制御出来なければ意味は無い。
ここで王国幻の逸品の希少金属、オルシーズンの登場だ。純度100%オルシーズンを使用し、
職人が精魂つめて作ったスピードバルブ。このスピードバルブがこのモーターの要になる。
リピートリングとパワーリングの相乗効果で、回転エネルギーは倍々ゲームで加速していく。
ただ、そのままでは、行き着く先は暴走だ。そうならないための制御バルブがスピードバルブだ。
通常スピードバルブは自動制御だが、手動操作に切り替え可能だ。ただ、それはあくまでも
緊急用だ。短時間で遠くに逃げるための手段と思って欲しい。計算上ではスピードバルブを
手動制御で全開にし、10秒以上アクセル全開にすれば動力モーターは異常回転をきたしグレート
サラマンダーZは暴走する。基本的にスピードバルブ制御を手動にする必要は無いが、もし
その必要があった場合はくれぐれも注意して欲しい。
万が一グレートサラマンダーZが暴走した場合うぱ太郎、君の生命の保証は出来ない……。
……おい、聞いてるのかうぱ太郎! 重要な事だぞ!」
「…………」
うぱ太郎は机に突っ伏して寝ていた。
うぱ松の講義はうぱ太郎にとってあまりにも退屈で長かった。
「おい!ちゃんと話を聞け、うぱ太郎!」
「…………」
うぱ太郎は目覚めたばかりでぼーっとしている。うぱ松は怒った。
「コラ!うぱ太郎!しゃきっとしろ!しゃきっと!」
「うるさいっ!」
うぱ太郎は逆ギレした。勢いあまってエラが輝いた。その刹那グレートサラマンダーZの目が光った。
「う”る”さ”い”っ”!!!!!!!!」
グレートサラマンダーZの咆哮が、またもやパドックの窓ガラスを割った。
「うるせーボケっ!」
うぱ太郎はマジギレした。グレートサラマンダーZはしゅんとした。うぱ松は頭をかかえた。
- 5 :
- 81 名前:「 グレートサラマンダーZ 」 :2009/11/05(木) 19:44:15 ID:BtMptZUS
5匹のウーパールーパーを収容し終え、グレートサラマンダーZを窓枠だけに
なった自動ドアの出入り口に向かわせた時だった。
「待て」
呼び止める真田の声に、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせ振り返る。
左足を負傷しながらも愚直なまで基本に忠実に、両腕で銃を構える真田。
「…………」
「…………」
張り詰めた静寂が、いる者すべてを無言にさせる。
ふぅ、と息を吐き出す。もうエラは輝いていない。うぱ太郎が沈黙を破る。
「……僕には拳銃の弾も効かないみたいです。さっき撃たれたけどなんとも
なかったです。それでも、撃って気が済むなら撃ってください。
あなた方を怪我させたことは申し訳ないと思うけど、僕はあなた方に従うつもりは
ありません」
ぱんっ!
ぼよん。
グレートサラマンダーZを真っ直ぐに見据え、真田は撃った。
グレートサラマンダーZの体の中心を弾丸が射抜いたはずだった。
しかし僅かに皮膚に突き刺さっただけでそれは役目を終えた。
「……僕はウーパールーパーを助けることを悪いことだと思っていません。
だけど、警察まで出てきて、拳銃で撃たれた……」
うぱ太郎の声が震える。
「……あなた方の正義ってなんですか?」
「…………」
うぱ太郎は涙声になっている。真田は静かに銃を下ろした。
「僕に教えてください!仲間を助けちゃダメなんですか!」
「…………」
うぱ太郎の涙の問いに、応えられる者はだれもいなかった。
沈黙の後、真田が口を開く。
「……君には君の想いがあるだろう。……だが、私には私の立場と責任がある。
答えにならず申し訳ないが、私に言えるのはそれだけだ」
うぱ太郎のうせび泣く声が響く。真田の表情から険しさが消える。
「……さぁ、もう行ってくれ。我々4人は病院直行だ。救護班に見つかればまた君は
厄介な状況に追い込まれる」
「……すいません」
うぱ太郎はグレートサラマンダーZの姿勢を戻し、真田達を残しコンビニを後にした。
――そして秘密基地に戻る移動中、うぱ太郎はずっとコックピットで泣きつづけた。
- 6 :
- 前スレでは、頭の中では完結しているし断片的だけど書き溜めもあるし大丈夫。と余裕を
かましていたが結局は放置にてスレdat落ち(サーバー移転が一番の原因だがw)
しかし今回は俺がスレを立てたという重責wがあるので意地でも完結させるぜ!!!!!
(レス代行スレ立て代行ウィキ編集の職人さん、ありがとうございます)
というわけで次の水曜日から本編再開しますのでどうぞよろしくおねがいします。
- 7 :
- >>2-6代理投下
- 8 :
- 投下乙
完結できるよう頑張れ
- 9 :
- >>2
ひいいいいいいいいい!!!!!?????
- 10 :
- , -'- 、
(《《.||》) r‐‐、
_,;ト - イ、 l) (| 良い子の諸君!
(⌒` ⌒ヽ ,,ト.-イ
ヽ ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒) ウーパールーパーもまたRだった
ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /
〉 | `ー^ー― r' とか言って、私たちと共演させたりしてはいけないぞ!
/───| | l l
irー-、 ー ,} / i
/ `X´ ヽ / 入 |
- 11 :
- わかったからおまえは何か穿けw
- 12 :
- やったーモロだー!
- 13 :
- 第3章「 うぱ太郎、絶叫する。」
季節が巡り、グレートサラマンダーZのテレビ出演から半年の月日が流れようとしていた。
絵になる、話題になると睨んだテレビクルーの思惑どおり、涙を流すグレートサラマンダーZの
姿は、緊急放送された翌日から多々あるワイドショー番組のトップを飾り、目撃情報や怪情報が飛び
乱れた。
思いもよらぬ形で担ぎ出されたグレートサラマンダーZは、その風貌とうぱ太郎の謳った演説から
人間社会の人々に「涙の大山椒魚」と呼ばれるようになり一躍『時の人』となる。反面その涙の
大山椒魚を直接見たいが為にウーパールーパーを脅す人が後を絶たず、うぱ松やうぱ太郎、グレート
サラマンダーZの関係者を悩ませ、うぱるぱ王国住民を不安に陥れた。
放送で流された映像は著名な動画サイトにアップされ、日本におけるウーパールーパーの惨状が
全世界の人々に知れ渡るはめになった。
本場メキシコの天然物ウーパールーパーが減少の一途をたどり、両生類愛好家を嘆かせている最中、
ギネスブック申請モノの世界最大と思われる両生類が発した主張は世界中の多くの者の注目を浴びる
ことになる。その主張は生物学者、宗教家、自然環境保護団体、いかがわしい輩たちを巻き込んで
喧々囂々の大論争に発展した。
しかしその騒動も時とともに終焉を迎える。
人の噂も七十五日……。過去に幾度とあった珍獣ブームと同じく「涙の大山椒魚」も2ヶ月も持たずに
世間の興味の対象から外れていくことになる。
見ない日のなかったテレビ特集番組も別の話題に移り変わり、ノイローゼになりそうなくらいに
鳴り続けていたうぱるぱSOS信号の受信音もさもすれば、グレートサラマンダーZがテレビに出る
以前よりも少なくなっていた。
道を行けば記念撮影を求められ人だかりができ、もみくちゃになって蹴られたりしていたのが
遠い日の幻だったかのように、うぱ太郎とグレートサラマンダーZは静かな日々を取り戻した。
- 14 :
- 「結局、何がしたかったんですかね? 老人Xって……」
パトロール巡回を終え、秘密基地に帰還したうぱ太郎は基地スタッフに淹れてもらったコーヒーの
紙コップをいじりながらうぱ松に問いかける。前回出動と同様に今日もうぱるぱSOS信号はキャッチ
しなかった。平和な日々が続いている。
「……さあな。金持ちの考えてることはよくわからん」
図面を睨んでいたうぱ松も手を休め、煙草を燻らせはじめる。
放送のあった翌日からSOS信号は激増した。そして秘密基地の予想どおり、そのほとんどが
ウーパールーパーを食べるわけではなく「涙の大山椒魚」見たさのイタズラだった。
しかし、悪いことばかりでもなかった。ウーパールーパーを食べるということを嗜好として
許容出来ない人たちがこぞって拒絶反応を示し始めたのである。
「ウーパールーパーを食べるなんてキモい」「普通に無理。神経を疑う」
難しいことを考えているわけではない。単に個々の趣味の問題である。だが若い世代、特に女性から発せら
れたその言葉は、専門家や博識者が力説するよりもはるかに世情を動かす力があった。
一部スーパー、食料品店に並んでいた食材としてのウーパールーパーは徐々に姿を消し始め、飲食店の
メニューからはウーパールーパーの文字が消えた。ペットショップには「食用としてのウーパー
ルーパーの販売はしておりません」と張り紙がなされるようになった。
「おまえが警察ぶっとばしたからそれを利用してグレートサラマンダーZを悪者に仕立てようと企んだ
とは思うが、結果的に逆効果になったな。……まぁ、我々からすれば過程や経過はどうあれうぱるぱを食べる
人間が激減してくれたんだ、願ったり叶ったりだな。ある意味老人Xに感謝しなければいけない」
緩くなった口元をごまかすようにうぱ松は煙草の煙を吸い込む。
「そうですね。一時はひどい目にあったけど終わってみればなんとやらで何とかなっちゃいましたから
結果オーライってやつですね」
昔日を懐かしむかのようにうぱ太郎も苦笑いを浮かべる。
逃げたくはなかった。負けたくはなかった。
渦中の人となりパトロールを遂行するには厳しい状況の中、あえてうぱ松はグレートサラマンダーZ
を出動させた。
うぱ太郎も乱発するSOS信号に苦慮しながらも日々パトロールに励んだ。
間違いなくイタズラと思われる場所へも自ら出向きウーパールーパーを食べないでと訴え続けた。
記念撮影を求められれば喜んでポーズをとり、背中に乗せろと言われれば嫌な顔ひとつせずリクエスト
に応え、東に横断歩道を渡れずに困っている老婆がいれば身を挺して車を止め、西に泣き止まぬ赤子が
いれば笑顔見せるまであやし続けた。
以前から進められていたグレートサラマンダーZ視聴覚データーリモート確認システムは急ピッチで
作製され、秘密基地には大型の3D対応液晶テレビがモニター用として設置された。
そしてうぱ松は自身が搭乗するモビルスーツ「グレートサラマンダーR」の開発に着手していた。
- 15 :
- 「……平和ですね」
ぽつりと呟く。そしてうぱ松の吐き出した煙を目で追う。
「あぁ。だが老人Xがまた我々にちょっかいを出してこないとは限らない。まだまだ油断は
できないぞ、うぱ太郎」
「……はい」
ためらいがちにうなずく。
そして意を決したかのようにうぱ松を正面に見据え、うぱ太郎は繰り出した。
「……うぱ松さん。僕、落ち着いたら警察に出頭したいんですけど」
「出頭……?」
「えぇ。怪我させちゃった警察の人に謝りたいと思って……。それにテレビに出たときウーパー
ルーパー食べる人がいなくなったら警察に出頭するって約束してますので……」
不安な色を滲ませながらも、よどみのない意志を放つ瞳。
――真面目な奴だ……。
心の中で静かに思う。そしてひとつ息をつき、うぱ松は話し始める。
「……そうか、わかった。……ただ、まだその時ではない。もう半年は様子を見たほうがいい」
「……はい」
「それと、そのときは俺も一緒に行こう」
「えっ!?」
思いがけないうぱ松の返事にうぱ太郎は動揺する。
警察に出頭。
社会経験の少ないうぱ太郎にとって、それは理由はどうあれ犯罪者として烙印を押されるための
通過儀礼という負のイメージしか浮かばない一大事である。
「でも、うぱ松さんには関係ないことだし……」
「うぱ太郎。確かにお前は救出活動の最前線で戦ってきた。だからといってその結果の責任全てを
しょい込む必要はどこにもない。警察を負傷させたことだって我々には正当な理由がある。
それに偉そうに言えば俺はうぱるぱ救出活動の最高責任者で、うぱ太郎は組織の中では一番の下っ端だ。
下のものがやらかしたことを上のものがフォローしたり責任を取るのは至極当たり前のこと、うぱ太郎が
気にすることではない。というかそれくらいしか俺の仕事はないからな。
いずれにしても俺はいままでうぱ太郎が救出活動で失敗したことがあるとは一度たりとも思っていない。
だから警察に行くときも堂々と正面から入っていけばいい。俺も一緒に行くから心配するな」
「…………」
困惑気味のうぱ太郎を諭すかのように、そう言ってうぱ松はニヤリと笑う。
グレートサラマンダーZ涙の主張。その後のうぱ太郎の献身的な姿勢。ウーパールーパーを
食べない人から湧き上がったウーパールーパーを食べるなんてキモい、という声。そしてブームに
対して熱しやすく冷めやすい世間。それらが一体となりうぱるぱ王国に神風が通り抜けた。
あれから半年が過ぎた。直近10日間のパトロール出動でSOS信号受信件数は1件。
それはグレートサラマンダーZとうぱ太郎がうぱるぱ救出活動を遂行するようになってから最良の数字だった。
「うぱ太郎。グレートサラマンダーRが完成したらシェイクダウンもかねて
景色のいいところにロングツーリングにでも出るか」
遠い約束である。グレートサラマンダーRの完成は半年以上先の予定だ。
それでもうぱ太郎は笑みを浮かべてうぱ松の誘いにこたえる。
「あ、いいですね。すごい楽しみだな」
そして目がかゆいふりをして、こぼれそうになった涙をそっと拭った――
- 16 :
- すべてが終結したわけではない。
しかしグレートサラマンダーZの完成から手探りの状態で始まったうぱるぱ救出活動は、山あり谷ありの
多難を乗り越えて予想外の展開ではあるが着実に実を結びつつあった。
うぱ松のまとめあげた救出活動記録の数字に秘密基地スタッフは喜びを讃えあい、うぱるぱ王国住民は
安堵のため息を漏らした。
『この争いも終わりが近づいている』
住民の誰もがそう思った。
うぱ太郎やうぱ松、秘密基地のスタッフさえもそう信じて疑わなかった――
「え……? 3匹……!?」
老人Xの手によるテレビ出演から7ヶ月が過ぎた。
ウーパールーパーを食べる人間が激減した今でも、うぱ太郎は週2、3回グレートサラマンダーZ
を繰り出しパトロールを続けている。
SOS信号を受信することはほとんどない。
それでものんびりと街を流しては困っていそうな人に何か手伝えることはありますか?と声をかけ、
逆に呼び止められたら周囲の迷惑にならない限り近寄って愛想を振りまいた。
パトロールにかこつけたドライブといってもいいくらいに穏やかな午後。
だから鋭い発信音とともにナビに表示されたSOS信号受信にうぱ太郎は驚きを隠せなかった。
最後にSOS信号を受信したのは1ヶ月前、それも子供のイタズラによるものである。
「……3匹か。……またイタズラかな?」
グレートサラマンダーZを路側帯に停めナビの到着予定時間を確認する。
「よし、久々だからファステストモードで行こう!」
緊張で少しだけ体が震える。そしてそれはすぐに消えていく。
風を切り裂いて駆け始めるグレートサラマンダーZ。
しかしその先に待ち構える悪夢を、うぱ太郎が知るすべはどこにもなかった――
- 17 :
- 今日はここまで。
※規制中の身(8/22永久規制発動)なのですいませんが「グレートサラマンダーZ」に対する
レスは全レス返さないw方針で行きます。めんどくさがりでごめんなさい。
このスレにレスがつくとパソコンの前で、ありがたや〜と拝んでますので
(初めて自分でスレを立てたのでマジで思ってるw)それで勘弁してくだしい。
- 18 :
- ここまで代理レス
- 19 :
- 投下乙乙
平和だっただけに続きが怖いなぁ
頑張れうぱ太郎
- 20 :
-
工業団地と呼ばれる地域の区画の片隅にぽつんと立つ3階建ての小さな貸事務所風のビル。
プレート痕が残る看板にテナントが入居していた名残は感じさせるものの、もう出入りする者は
誰もいないのか、正面玄関には空き缶やペットボトル、菓子の空き袋、枯れ葉などのゴミが手も
つけられず散乱している。
ベージュの外壁にはいくつもの黒い筋が走り、土ほこりや水垢で汚れた窓ガラスに輝きはない。
「怪しいなぁ」
うぱ太郎はぽつりとつぶやく。
ナビに導かれた現場はお世辞にもいい雰囲気の場所とは言えなかった。
「……嫌な予感がする。うぱ松さん忙しいかな」
テレビ出演騒動後、コックピットに新設された秘密基地通信ボタンを押す。むき出しの外部
スピーカーから数回の呼び出し音のあと秘密基地スタッフの声が流れる。指定番号間通話無料の
携帯電話をうぱ松が改造を施したシステムである。
『うぱ太郎君お疲れ。どうかした?』
「あ、お疲れ様です。久々にSOS信号拾ったんで現場来たんですけど、なんか怪しいんで
うぱ松さんに指示もらおうかと思って。いますか?」
『あー、うぱ松さんスポーツ新聞と煙草持ってトイレ行っちゃったから多分しばらく無理』
「あちゃー」
うぱ太郎は苦笑する。うぱ松の長トイレは有名で、煙草を持ってトイレに向かったら20分は
出てこないというのが秘密基地内の定説になっている。
『ちょっと待って。いま映像モニター切り替えるから』
映像データーは通話とは別に、うぱ太郎がグレートサラマンダーZ越しに見ている映像にグレート
サラマンダーZのステータスデーターが付加されて秘密基地に転送されている。パソコンを通じ
大型液晶テレビにて常時確認できるのだが、危険な状況に陥ることがなくなったいま、
新設されたモニターは純粋にテレビとして活躍している。
『今見てるビルだよね? うーん、そんな古いわけじゃないけど……無人ビルっぽいね』
「ですよね」
『うぱ太郎君、周囲確認しててくれないかな。うぱ松さん戻ってきたら追っかけ再生で見せるから。
電話はこのままでいいな。うぱ松さん戻ったら呼びかけるよ』
「了解しました」
基地スタッフに言われるままにうぱ太郎は周囲を見渡す。
ビル脇には車を10台ほど停められる駐車場がある。風化が進んでいるようでスペースを区切る
白線はだいぶ色が薄くなっている。そして車は1台も停まっていない。
大企業の配送センターでもあるのか、少し離れた大きな通りにはよく見るロゴの入ったトラック達が
それなりに走っている。
そっとアクセルを入れてビル周辺を歩く。
もし、SOS信号を受信していなかったら気にも留めない日常の風景だろう。寂れていく様も
「不況」という言葉でまかなえる範疇にある。
しかしSOS信号を受信したという事実が、ありふれた景色に不穏な空気を流す。
「イタズラか罠か……。でも最盛期の時のように人でごった返すことはなさそうだな」
わざとらしく独り言を口にして心を落ち着かせる。そして再びグレートサラマンダーZを
ビル正面に移動させる。
- 21 :
-
『お疲れさん』
「うあ! お、お疲れ様です」
突然のうぱ松の呼びかけにうぱ太郎は肝を冷やす。入れっぱなしの通信システムのことを
完全に忘れていた。
『どうした? 何ビビってる?』
「あ、いえ通信繋ぎっぱなしなことすっかり忘れてボーっとしてたらいきなりうぱ松さんの
声がしたんで……」
『あぁ、すまん。ちょっとトイレにこもってたからな。……しかしひと通り映像確認したが、
いい感じに怪しさ醸し出してる現場だな』
「そうなんですよ。なんか久々に嫌な予感がして……」
多少びびりは入っていた。ただ、怪しい場所という認識をうぱ松や秘密基地スタッフと共有
することで、うぱ太郎の不安は少しではあるが解消されている。
ハンドルを握り直し、うぱ松の指示を待つ。
『相当手の込んだイタズラ、もしくは老人Xの手によるものかは判らないが何かしらの罠と
思って違いないだろう。ただ閑散とした無人ビルとはいえ、近くには商業施設もあるし交通量の
多い道路もある。いくらなんでも建物爆破とか銃撃戦とかそんな派手なことはできないはずだ。
こちらから指示は出す。だが、もしうぱ太郎がヤバいと思うならいつでもダッシュで逃げて来い』
「了解しました!」
うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせて、あらためて周囲を見渡した。
不審者、不審車、不審物。危険につながりそうな気配を感じさせるものはなにもない。
――よし、行くぞ!
己を奮い立たせるように心の中で気合を入れる。
グレートサラマンダーZの姿勢を戻す。そして両開きと思われる玄関扉を押す。
案の定、鍵はかけられていない。
ビルの中に踏み込む。
午後の日差しと窓ガラスのおかげで中はそれほど暗くない。
灯ってもいないのに天井の両端の煤けている蛍光灯がやけに目に付く。
廊下の奥に見えるのは階段とエレベーター、ありきたりなマークの付いたトイレのドア。
1フロア1テナントの造りなのか、事務所への入り口はセロテープの貼り跡が残る自動ドア
1ヶ所しかない。
自動ドアの前に移動する。
建物内に通電されている様子はない。
グレートサラマンダーZのパドルシフトを操作し、うぱ太郎はドアに手をかける。
…ぐごッ
わずかに開いた後、反発する。
それは電源の入っていない施錠された自動ドアの動きだった。
――ここじゃない……。
緊張を紛らすようにうぱ太郎は大きく息を吐いた。
視線を移す。そしてグレートサラマンダーZを階段に向かわせた。
- 22 :
-
階段の踊り場の小さな窓から日が差し込んでいる。
区切られた光の中を夜光虫のように埃が宙を舞い、陰の中に消えていく。
一歩一歩、階段を上がる。
処刑台に向かっているわけでもないのに足取りは重い。
狭い空間から抜け出す。視界が広がる。
「!!っ」
不自然なのは明らかだった。
2階フロア。
造りは1階とほぼ同じ。事務所入り口の自動ドアも1ヶ所。
しかし事務所入り口の自動ドアはすでに開ききっていた。
「ここか……」
開いたドアの前に行き、室内を見る。
仕切り板と思われる壁に赤いペンキで矢印が記されている。
あからさまである。
オフホワイトの壁に赤いペンキ。毒々しい色で描かれた印は鮮烈な憎悪を発している。
もはや挑発してるとしか思えない状況に、うぱ太郎は思わず身を硬くする。
『うぱ太郎、聴こえるか』
「はい」
スピーカー越しにうぱ松の声がする。
『ずいぶん丁重なお出迎えだな。油断するな、慎重にいけ』
「はい!」
――大丈夫、みんな見ててくれる。
両手で頬を叩き、うぱ太郎はもう何度したか分からない心の準備をする。
ゆっくりと踏み出す。いつもの挨拶はしない。そして僅かに暗い室内に入る。
「…………」
壁に記された矢印はホラー映画のタイトルのように赤いペンキがたれ落ちている。
そして矢印が指す先の床には、ことさら大きく乱暴に矢印が描かれている。
「…………」
空気が重い。目に見えない悪意が室内に充満している。
のし のし のし
一歩二歩とグレートサラマンダーZを進める。
どくん。どくん。
心臓が脈打つ。
床の矢印の上に立つ。そして矢印のその先を見上げる。
- 23 :
-
「!?っ」
『!!!』
『えっ……?』
奇妙な光景が映し出された。
巨大なてるてる坊主のようなものが5体、首に結び目をつけて天井から吊るされていた。
手足はだらりと投げ出され、頭は前下がりになっている。
「…なに、これ…」
『くそっ、なんてことしやがる!』
『ひどい……』
グレートサラマンダーZの視聴覚モニターに補正が入り色調が鮮明になる。
黒褐色3体、赤褐色2体、体長いずれも1メートル前後。
そこにはぴくりとも動かない5体の大山椒魚が首吊り死体のように天井からぶら下がっていた。
「な…………………」
目を覆いたくなるような惨状にうぱ太郎は言葉を失う。
『……うぱ太郎、聴こえるか』
すかさずうぱ松がフォローをいれる。
「…………」
しかしうぱ太郎の返事はない。
『うぱ太郎!答えろ!』
「…………」
『うぱ太郎、しっかりしろっ!!!』
スピーカーの向こうでうぱ松が怒鳴る。
「…………えぇ」
あまりにも壮絶で異常すぎる光景に、うぱ太郎はそう答えるのがやっとだった。
『うぱ太郎、おまえは一旦その場から離れろ!』
『うぱ太郎君、こっちでうぱるぱ王国協力隊の人たち手配するから無理しないで』
「…………」
うぱ松やスタッフの声は届いていなかった。無意識のうちにグレートサラマンダーZを立ち
上がらせ、うぱ太郎は吸い寄せられるようにふらふらと不自然な大山椒魚の群れに近づいていく。
「……ごめんなさい、ごめんなさい…………」
微動だにしない大山椒魚の前でうぱ太郎はうなだれる。
『話を聞け!うぱ太郎!』
『うぱ太郎君!!!!!』
スピーカーの声を錯乱する精神が断ち切る。
- 24 :
-
惨劇の絵が脳裏に焼きついて離れない。
自らが騙っていた生物の死がうぱ太郎の魂を苛む。
――僕がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかった……
パイロットとしての自責。
悔しさ。そして悲しみ。
うぱ太郎の頬を一筋の涙が伝う。
――許せない……
あざ笑う虚像。影のままの老人X。
怒り。そして憎しみ。
体の中から何かが激しく湧き上がる。
『落ち着けっ!!!うぱ太郎!!!!!』
うぱ松の怒声。しかしうぱ太郎には響かない。
立ち尽くしたままのグレートサラマンダーZ。
「……許さない」
コックピットの中でうぱ太郎のエラが虹色に輝く。
「……僕は、僕は!」
頭の中で何かが弾けた。
「僕 は 絶 対 許 さ な い っ ! ! ! 」
「僕”は”絶”対”許”さ”な”い”っ”!”!”!”」
怒りのままに衝動のままにうぱ太郎は叫んだ。
グレートサラマンダーZ共鳴。空気が震える。
その刹那。
- 25 :
-
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「う、うわああぁあああぁああああぁぁぁぁぁあああああああああああー!!!!!!!!!!!!!!」
『!?っ』
『うぱ太郎君っ!!!』
うぱ太郎絶叫する。死んだはずの大山椒魚5体が突然激しく暴れだした。
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「ひぃいいぃー!!!ごめんなさいごめんなさい!僕が悪いんじゃないっ!悪いのは老人Xです!!!」
『うぱ太郎っ、落ち着けっ!!!』
『うぱ太郎君!!! …………あれ?』
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「許して許して!呪わないで祟らないで!南無阿弥陀仏っ南無阿弥陀仏っ!どうか成仏してくださいっ!」
『よかった!うぱ松さん大山椒魚みんな生きてますね!』
『あぁ。どうやら殺してから吊ったんじゃなくて生きた状態で天井から吊られたんだろうな。
どのくらいの時間かは分からないが、死んだふりして体力を温存してたんだろう。大山椒魚の
生命力は半端ないしそれに皮膚呼吸もできるしな。……それより問題はうぱ太郎のほうだ』
『えぇ、完全に自分を見失ってますね。て言うか、うぱ太郎君びびりすぎ』
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「ひぃいいっ!噛まないでくださいっ!僕はまだゾンビになりたくないっ!!!」
『落ち着け!この馬鹿!!!』
「ゾンビに襲われてるのに落ち着いてられませんっ!!!」
『ボケがっ!いい加減気づけ!!!
……うぱ太郎、間に合ってよかったな。大山椒魚はみんな生きている』
「は…………?」
うぱ松の罵声でやっとうぱ太郎は気づく。
「…………あっ!」
『そういうことだ。まったく臆病な奴だな。というか今までこれ以上の修羅場何度もあったろうに』
「……………………」
うぱ太郎、恥ずかしさのあまり固まる。
「うぅ、すいません。てっきり死んだものかと……。それにお化けとか幽霊って苦手なんです。僕」
『うぱ太郎君。お化け屋敷とかホラーハウスいったら心臓麻痺でショック死しそうだね』
基地スタッフがクスクスと笑いながら話す。
「ううぅ。……すいません。他の人には内緒でお願いします」
うぱ太郎、乾かぬ涙もそのままに身悶える。
あきれ声でうぱ松が続ける。
『まぁ、そんなことは気にしなくていい。それよりうぱ太郎、お前は一旦その場から離れろ。
グレートサラマンダーZの腕じゃ首の縄を解くのは無理だ。下手したら止めを刺しかねん。
うぱるぱ王国協力隊の人達にあとは任せてお前は撤収だ』
「え……? でも」
指示に納得できないのかうぱ太郎は渋る。
- 26 :
-
『でもじゃない。グレートサラマンダーZとお前がいてもできる事は何もない。邪魔になるだけだ』
『うぱ太郎君、大丈夫だよ。そこアクセスいいから協力隊の人15分ほどで到着すると思う。
大山椒魚もうぱ太郎君びびらせるくらい元気なんだから心配ないよ』
「……分かりました。じゃあ僕はこれで撤収「ちょっとちょっと!!!ロボットかモビルスーツか知らないけど
そこにいるんでしょ!そんな死にぞこないの生きた化石なんてどうでもいいから早く私達助けなさいよっ!!!」
「!!!」
『!!!』
『!!!』
その声はグレートサラマンダーZ外部音集積マイクを通じてコックピットに響き渡った。
それは通信システム越しに聞いても頭が痛くなるようなキンキン声だった。
――やばっ、すっかり忘れてた……
うぱ太郎動揺。
「……うぱ松さんすいません。すっかり忘れてました」
『……いや、気にするな。俺もだ。大山椒魚を刺激しないしないように慎重にうぱるぱを探してくれ』
「了解しました」
うぱ松の声に機嫌の悪そうな色はない。
うぱ松の指示をもとに、うぱ太郎はグレートサラマンダーZの姿勢を戻し部屋の奥へ進んだ。
――……あれだ。
生ゴミが入るような巨大なポリバケツ。
蓋の代わりに目の粗い網棚が乗っている。そしてその上に置かれた出刃包丁3本。
――あれならグレートサラマンダーZの腕でよせられる。よし!
うぱ太郎はグレートサラマンダーZをポリバケツに近づける。そして立ちあがらせる。
「!?」
網棚、そして出刃包丁。しかしバケツの中を確認する邪魔にはならない。
SOS受信信号どおりの3匹のうぱるぱがいる。
白、黄色。
そしていつかうぱ太郎が見たショッピングピンクのうぱるぱが、じっと
バケツの底からグレートサラマンダーZを見上げていた。
- 27 :
- 今日はここまで。
永久規制、かわいそうなアタクシ。っと騒いでいたが
密かに9/10に解除されていたw
規制時はまた代行スレにご厄介になるのでよろしくお願いします。
- 28 :
- 投下乙
- 29 :
- ウーパールーパーは80年代半ばの珍獣ブーム時に
層化系企画会社が創作・登録した商標であり、日本だけで使われてる名称。
原産地及び動物学会では一切使用されていない。
企画会社は借金だらけで倒産夜逃げしたらしいが
ウーパー名義だけはペットショップに残ってしまった。
できうれば、このような恥ずかしい捏造偽名は使わない方が望ましい。
- 30 :
- \
 ̄ヽ、 _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`'ー '´
○
O
:::::::`.............、
;;;;;;;::ッ..、 ミ:、ー――x.... シ:::| と思うウーパールーパーであった
.: : : : シ;:::..、ミ:::> ´  ̄ ̄ `::ト、i ,r::ツ
.i i : : : シ,;::::Y . : : : : : . ヾ/
j j.:ミ,;::::::::;イ : ::0;:. : : : : ..;0:: i::::::::シ
: : : :..:´゙゙´゙|i 、_ _, ;!`゙´
`ー=、.._ >x,.`ニニニニニニ´イ
/ /
〈 :<
\ :\
>,.;.`ト、
´´´
- 31 :
-
「君は…………?」
――蛍光ピンクのうぱるぱ……
記憶が鮮明に蘇る。
週刊誌にグレートサラマンダーZの記事を載せるためにSOS信号を発したピンクのうぱるぱ。
グレートサラマンダーZが大山椒魚型ロボットではないか。という噂を流したと思われるうぱるぱ……
「はいはい、その節はどーも。でも昔話をしてる暇はないの。早くここから出して頂戴」
「でも…………」
「あなたの使命はウーパールーパー助けることなんでしょ!うだうだしてないで早く助けなさいよ!
ご老人から目つけられてるのよ!こんなとこで長居してちゃ命がいくらあったって足りないのよっ!!!」
コックピットの中でためらううぱ太郎をよそに、ピンクのウーパールーパーは語気を荒げて
グレートサラマンダーZを睨めつけた。
「…………」
『うぱ太郎、聴こえるか?』
「はい」
戸惑ううぱ太郎にスピーカー越しのうぱ松から指示がでる。
『お前が躊躇する気持ちも分かるが今は救出が先だ、早急に保護しろ。その娘には聞きたいことが
山ほどある、救出完了したら速攻で基地に戻って来い』
――敵かもしれないのに……
「……了解しました」
理不尽な思いは消せなかった。
うぱ太郎は気乗りしないままグレートサラマンダーZを動かし、バケツの蓋になっている
網棚と出刃包丁をよせた。そしてゆっくりとバケツを倒し3匹のウーパールーパーを救出する。
「早く逃げて頂戴!」
コックピットに乗り込んだとたんだった。2列の3人掛けシート前列にふんぞり返り、ピンクの
ウーパールーパーは開口一番そう言い放った。後列シートに座った白と黄色のウーパールーパーは
借りてきた猫よりもおとなしく、一点を見据えたままなにも喋らない。
「うぱ松さん、うぱるぱ3匹救出完了しました。これより帰還します」
ピンクのウーパールーパーを無視し、苦々しい気持ちのままうぱ太郎はうぱ松に報告する。
『了解。しかしその前にひとつだけ確認したいことがある。ピンクの娘さん聴こえるか?』
「あたし? 聴こえてるわよ。あなたは?」
外付けされたスピーカーからうぱ松の声がコックピットに響く。
全方向型集音マイクがうぱ太郎の直後に座るウーパールーパーの声を拾う。
『俺は、うぱるぱ王国科学技術省特殊銃器開発課特殊車両部第二班メカニック担当うぱ松というものだ』
「無駄に長いわよ。あたしはうぱ華子、ハナは華麗の華。あと白がうぱ倫子。倫理のリンよ。
黄色がうぱ民子。民衆の民でタミ。それで聞きたいことって?」
『単刀直入に聞く。お前は我々が老人Xと呼んでいる者の手先か?』
「!?っ…………」
核心をつくうぱ松の問いに、うぱ太郎、基地スタッフの面々が息を飲んだ。
- 32 :
-
「失礼ね、人をスパイみたいに言わないで頂戴。確かにご老人はあたしの飼い主だけどそんなんじゃないわ。
ある意味あたしも被害者なんだから」
『被害者……?』
「……そう。倫ちゃんと民ちゃんは養殖モノだけどあたしは天然モノ。ソチミル湖出身の生粋の
メキシコサラマンダーよ。自然種のメキシコサラマンダーはワシントン条約で保護対象になって
久しいのに密漁、密売で何の因果かこんなところにいるわけ。それがご老人の手によるものか
密売者の手によるものかは、あたしが小さかった時のことだから判断つかないけどね。
ようはさらわれて無理矢理連れてこられたってこと。誘拐事件の被害者よ、ニュースにもならないけど」
『…………判った。詳しい話は基地に戻ってから聞こう。うぱ太郎、大至急帰還しろ』
「…………了解しました」
――被害者……
うぱ華子をどこまで信用していいか判らなかった。
わだかまりを残したままうぱ太郎はハンドルを握り直す。
「あたしからひとついいかしら?」
『あぁ、答えられる範囲でだが』
グレートサラマンダーZを発進させようとした矢先、うぱ華子がマイクに向かって話しかけた。
「このロボット造ったのうぱ松さんだっけ、あなた?」
『あぁ、そうだが……』
「そう。他の人は信じてなかったけどご老人は褒めていたわよ、面白いもの造るな。って」
『ほう、そりゃ光栄だ』
「馬鹿ね、こんなもの造って。あなたご老人に目をつけられたのよ。それがどういう意味か分かる?
もう生きちゃ行けないのよ、このロボットに関わった者すべてが。あたしを含めてね」
――どういうこと?
『ずいぶん悲観的だな』
うぱ太郎が口に出そうとした瞬間、すでにうぱ松の声がスピーカーから流れていた。
「あなた達だって分かってるんでしょ、ご老人がどんな怪物かって……
死ぬ前に外から地球を見たいって自家用スペースシャトルを発注するような大馬鹿者なのよ。
天文学的な桁の資金を持っているのよ!ほとんどのことはお金で解決できる人なのよっ!
それがたかだか1匹の大山椒魚のロボット全力で潰しに来るのよ!無事でいられるわけないじゃない!!!」
『……その手はずをお前は知っているのか?』
「知るわけないじゃないっ!!!変なクスリで眠らされて気づいたらこの有様よっ!!!」
うぱ松の問いかけに身を捩じらせてうぱ華子は怒り声で答える。
- 33 :
-
『……分かった、ありがとう』
「…………」
慣れない女の激情を目の当たりにしてうぱ太郎は言葉を失う。
それを知ってか知らずか、うぱ華子は冷静さを取り戻したかのように静かに続けた。
「こうなった以上あたしはあなた達に命を預けるしかないの。生半可な気持ちでいたら為すすべもなく
秒殺されるわ。ウーパールーパーを守るのが使命なら命を張ってでもあたしを助けて頂戴」
『あぁ、努力する。……うぱ太郎、聴こえるか?』
「……はい」
激昂にあてられて萎縮しているのか、うぱ太郎の返事に覇気はない。
それを諭すかのように、うぱ松は穏やかな口調になる。
『予定変更だ。相手の出方を見る。うぱ太郎はとりあえず川に入って隠れていてくれ』
「川……ですか?」
『そうだ。それでゆっくりでいいから1ヶ所に留まらず絶えず移動してくれ』
「ちょっと、なによ川って。そんなところいて安全なわけ?」
指示に不安を覚えたのかうぱ華子は聞き返す。
『絶対安全とは言えないがとりあえず身を隠すには絶好の場所だ。基地に戻ってきてもらいたいのは
やまやまなんだがもし老人Xが実力行使でグレートサラマンダーZや俺達を排除しようというなら
基地の場所を知られるのは困る。尾行されたりGPSの発信機でもつけられて位置情報を把握
されている可能性も否定できないからな。いずれにしてもグレートサラマンダーZの中でおとなしく
している限りは安全だ。それは保障する』
「……あ、あの、うぱ華子さん達はグレートサラマンダーZの中に居るより協力隊の人達に
匿ってもらったほうが安全じゃないですか?」
思いついたままにうぱ太郎は提案する。しかしうぱ松は聞き入れない。
『うぱるぱ王国協力隊はあくまで協力者であって我々の戦いに巻き込むことは出来ない。
最悪のことを想定すれば、彼女達の体に発信機が埋め込まれていてそれを辿って老人Xの手の者が
彼女達を襲いに行く可能性もある。そんな争いに無関係の人間を巻き添えにするわけにはいかない』
「ちょっと待ってよ。なによ発信機って。そんなもの埋め込まれている訳ないじゃん」
疑惑の目で見られていると思ったのかうぱ華子はうぱ松に食い下がる。
『最悪の場合を想定してのことだ、君を疑っているわけじゃない。ただ最新の技術なら豆粒大の
大きさで電波を発するものを作ることは容易だ。それにさっき君が言っただろう。変なクスリで
眠らされたって。その間、君が気づかないうちにその手のモノを君の体に取り付けられている可能性も
ある。取り越し苦労で済めばそれにこしたことはない。しかし老人Xに対しての君の言葉を信じるならば
このくらいの用心はしておいたほうがいい』
「……分かったわ。まぁ用心にこしたことはないからね。あなた達の思うままにして」
『他になにかあるか?うぱ倫子さんうぱ民子さんは?』
「彼女達は気にしないで。あまり喋らないから」
『……了解』
うぱ松は一呼吸置いた。
――被害者……。
うぱ太郎はうぱ華子のことを考えながらじっとハンドルを見つめ指示を待った。
- 34 :
-
『うぱ太郎、聴こえるか?』
「はい!」
うぱ松の声にうぱ太郎は思わず身を硬くした。
『さっき言ったとおり、まずは川を目指して移動してくれ。川に入ったらなるべく深いところに
潜って水面にはでないように。あとは遊泳していてかまわない』
「了解しました!」
『こちらから指示はだすがうぱ太郎も最悪の事態を想定して行動するように。まずはそこのビルを
出るときだ。充分周囲を確認してからビルから脱出してくれ。だが、もし万が一襲撃されることが
あってもグレートサラマンダーZにちゃちな鉄砲や刃物は通用しないから安心しろ。それは警察との
一戦でお前も分かっている筈だ。それでも人海戦術で次から次へと敵が現れるようなら相手にしないで
速攻で逃げろ。川に入ってしまえばこちらの勝ちだ。なんなら海まで行ってしまってもいい。
水中に入ったらこちらからの指示がでるまで陸には上がらないでくれ。老人Xがどんな武力装備で
来るかはなんともいえないが水中に居る限りはたとえ居場所が知られていても武器の殺傷能力は水の力で
半減する。それと通信は切らないでそのままにしていてくれ。約30分後にこちらから呼びかけるから
そのつもりで』
「了解しました!」
『頼んだぞうぱ太郎!』
「はい!」
心を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
――僕がしっかりしないと駄目なんだ。
強く自分に言い聞かせた。
――大丈夫、うぱ松さんもスタッフのみんなも見守ってくれる。
シートベルトのバックルを確認し滲んだ手の汗を拭った。
「あの、僕、運転荒いんでシートベルト必着でお願いします。それと結構揺れるんでいつでも踏ん張れる
ように体をしっかり支えていてください。あと舌噛んじゃいけないんで川に入るまでの間はなるべく喋らない
でください。それじゃこのビルから離れます」
「……了解」
うぱ倫子とうぱ民子の返事はなかった。うぱ華子の声だけが緊迫するコックピットに小さく響いた。
――大山椒魚さん、もう少しで協力隊の人が助けに来ますのでそれまで頑張ってください。
心の中で縄を解けなかった大山椒魚にお詫びを入れた。
窓の外を見る。まだ日が沈むには早い時間で午後の日差しが目に眩しい。
――よし、行くぞ!!!
どんな戦いが待ち受けているかは分からない。それでもうぱ太郎は救出した3匹のウーパールーパーを
乗せて力強くグレートサラマンダーZを発進させた。
- 35 :
- 今日はここまで。
- 36 :
-
「協力隊メンバーより大山椒魚5体無事救出したと連絡がありました。5体とも元気にしてるそうです。
2体に生態調査用と思われるタグが付いているので、それをもとに捕獲された場所を調べているそうです」
「グレートサラマンダーZ、川に入水、遊泳を始める。と、うぱ太郎君から連絡はいりました」
「了解」
スタッフに確認の言葉を返し、険しい表情のままうぱ松は煙草に火を点けた。
――先制パンチは無し。……老人Xとの初顔合わせになるのか、それとも何事もなく終わるのか?
緊迫感がスタッフの動きを機敏にする。しかし余裕があるのか焦燥感を表情に出している者はいない。
深く煙を吐き出したあと、己の迷いをかき消すかのように大きな声でうぱ松は指示を出した。
「コックピットのうぱ太郎とうぱ華子の会話、ここでも聞こえるようにモニタースピーカー繋げ。
こちらの音は伝わらないようにマイクレベル下げろ。通信、映像データーはすべて記録。映像は拡大表示
出来るようにモニター増設。今のうちに予備レコーダーも準備しておけ。それとうぱるぱ王国協力隊
全メンバーの所在を確認してくれ。医療班はいつでも出動できるように待機だ」
「了解!」
うぱ松の号令にスタッフが我先にと行動を始めた。そんな中、一人のスタッフがうぱ松に声を掛けた。
「うぱ松さん、ちょっと気になることが……」
「なんだ?」
咥え煙草のままうぱ松は振り返った。
「偶然かもしれませんが、うぱ太郎君のいる周辺の高速道路が一部通行止めになっています」
うぱ松の表情が変わる。
「……怪しいな」
「えぇ。偶然にしては出来すぎかと……」
スタッフの表情も曇る。
「しかし、通行止めの高速に誘い込もうとしてるならグレートサラマンダーZには有利に働くかもしれん」
「え……?」
困惑気味なスタッフの前で、うぱ松は一転、不敵な笑みを浮かべる。
「グレートサラマンダーZは現代のスーパースポーツと呼ばれる車と同等の動力性能を持っている。
今はスピードバルブ制御を最高時速150キロで制限しているが、制御を切り替えればメーター読みで
きっちり300キロは出る。リスクは伴うがスピードバルブ制御をカットし、モーター出力全開に
すれば400キロに届くはずだ。俺の試験運転ではメーター読み350キロまで出た。まだアクセルに
余裕がある状態でだ。メーター誤差5パーセントとしても約330キロ。普通のクルマに出せるスピード
ではない。
うぱ太郎はまだスピードバルブ制御オートの状態しか知らない。しかし操縦に慣れた今なら未知のスピード
領域にもすぐに順応出来るだろう。もし老人XがグレートサラマンダーZの動力性能を甘く見積もっている
ようなら影を踏ませることもなく楽勝でぶっちぎりだ。
もし高速に乗せないための措置だとしてもファステストモードでアクセルを踏めばグレートサラマンダーZは
街を縦横無尽に駆け抜ける。敵に追いつかれることはないと言っていい」
力説するうぱ松。しかしスタッフは懐疑的な表情を見せる。
「……罠と知ってて相手の懐に飛び込むつもりですか?」
真剣な面持ちのスタッフ。しかしそれを茶化すようにうぱ松は答える。
「まさか。逃げるが勝ちって言うだろう。危ない場所からはさっさとオサラバする。交戦するつもりは
さらさらない。……詳しい通行止め区間、経緯、解除予定時間を確認してくれ。あと交通情報に限らず
どんな些細なことでもいい、何か気になることがあったらその都度伝えてくれ」
「了解しました」
スタッフが背を向けたことを確認し灰皿に煙草を強く押しつけた。
口ではそう言うものの、うぱ松の中では烈火の如く闘志がメラメラと燃え上がっていた。
爆音を轟かせていた青春時代の思い出が、うぱ松の血を激しくたぎらせる。
――高速で勝負……か。上等だ老人X。ポルシェでもRーリでも持ってきやがれ!!!
基地スタッフが忙しそうに動き回る。その中でうぱ松の右手は、人知れず硬く握り締められていた。
- 37 :
- 今日はここまで。
- 38 :
-
川幅約30メートル。濁った緑の水流に乗って泳いでいけば1時間ほどで海に出る、地域の
主流となる川。
以前、海に向かった際に入水した川に入ったうぱ太郎は、うぱ松の指示通り、グレートサラマンダーZ
を川底で静かに前進させていた。
「……あの、うぱ華子さんは本当に老人Xの手下じゃないんですか?」
澱んだ川の色は、うぱ松が言ったように身を隠すには絶好の場所に思えた。安全と思われる
場所に移動したことで心に余裕が出来たうぱ太郎は改めてうぱ華子に確認した。
「さっきも言ったじゃない、そんなんじゃないって。ご老人はあたしの飼い主なだけ」
うぱ太郎の直後の席をぶん取ったうぱ華子はぶっきらぼうに答える。
「そうですか……」
先ほどのヒステリックな様を思い出し、うぱ太郎はそこからさらに問うことをためらった。
「それとよそよそしいから敬語は無しでお願い。あたし達のことは華ちゃん、倫ちゃん、民ちゃんって
呼んで。あなたのことは太郎ちゃんって呼ぶから」
ぶっきらぼうな口調のままうぱ華子が提案する。
「……わかりました」
頭では分かったつもりでも、今までの慣習がうぱ太郎の口を離れない。
「……あ、あの。……みんな、なんていうか古風な名前ですよね?」
沈黙の中、間を持たせようと、やっとの思いでうぱ太郎は話題を振る。
しかし口を開いたのはうぱ華子だけで、うぱ倫子とうぱ民子は終始無言だった。
「まぁね。老人の趣味だからしょうがないんじゃない? それに名前って言うより記号だから」
「……記号?」
想定していない返答にうぱ太郎は思わず聞き返す。
「そう、体の色で名前が決まってるの。ピンクに近い色は花子、白に近いのは倫子、黄色は民子、黒に
近い単色は藍子。太郎ちゃんマーブルでしょ? うちらの感覚だったら太郎ちゃんは鮎子だね」
――なんで僕が鮎子……?
「……あの、意味が分からないんですけど」
あいかわらずの敬語で、うぱ華子に素朴な疑問をぶつける。
「だから言ってるでしょ記号だって。色の種類と同じことで個々に名前なんて無いの。あたしはみんなと
同じは嫌だから自分で華麗の華に代えたけど、ご老人にしたら別にたいした問題じゃないのよ。
ご老人はね、ウーパールーパーのカラーバリエーションを増やすことを趣味にしてるの。わざわざ工場
建てて研究所作って専門家雇っていろいろ研究させてるわ。倫ちゃん民ちゃんはそこで生まれた実験体よ」
「実験体って……?」
違和感ある言葉に思わずうぱ太郎は振り返り、うぱ倫子とうぱ民子を凝視する。
――!?
白と黄色。
混乱と動転で救出する際には気づけなかったが、2匹のウーパールーパーはエラの毛細血管の隅々までもが
体と同じ色だった。
――普通じゃない……。
白の碁石で作られたようなうぱ倫子とレモン石鹸で作られたようなうぱ民子。
その人為的な特殊さは綺麗さを通り越して不気味ささえ漂わせている。
驚き、言葉を失ううぱ太郎を横目に、うぱ華子は話し続けた。
- 39 :
-
「染色体とか遺伝子とかDNAとかDOHCとか、とにかく訳分からないことを施されて生まれてきた
養殖モノってこと。
ご老人の最終目標は7匹でレインボーカラーを揃えることと、錦鯉みたいなツートンカラーのウーパー
ルーパーを造ることなの。まぁ実際は専門家の人達にやらせてるだけなんだけどね。予算は使い放題で
給料もいい、さらにご老人が気に入った色のウーパールーパーを繁殖できたなら莫大な臨時ボーナスが
手に入る。専門家達は目の色変えて日々研究に取り組んでいるわ……。
そうして年間何千匹ものウーパールーパーがご老人の工場から生まれてくるわけ。だけどご老人が
おきに召すのはほんの一握りの綺麗なもしくは特殊な色を持ったウーパールーパーだけ。たぶん生まれて
くる総数の1パーセントにも満たないでしょうね。それで平凡な色で生まれたほとんどのウーパールーパー
は無償で各方面に譲られていくの。その先どうなるかはわたしも知らない。……ドナドナの世界かもね」
ドナドナと言われても歌を知らないうぱ太郎にはぴんと来なかった。ただ老人Xに関する情報は
否応無しに耳に入っている。
「……人間に食べられるんですか?」
「……さぁ。それは工場に出入りしている業者に聞かないと分からない」
苦悶の表情で問ううぱ太郎に、うぱ華子は静かに答えの無い返事をした。
「……老人Xはたくさんウーパールーパー食べるんですか?」
ウーパールーパーが好き、食べるのも好き。ブームを起こした仕掛け人。
基地スタッフから教えられた老人Xに対する情報がうぱ太郎の頭の中に湧き上がる。
「ご老人はウーパールーパーなんて食べないわよ。食べる必要なんてまったくないもの。
珍味とかゲテモノは好まない普通の料理好きよ。超絶な美食家だけどね」
――えっ……?
植えつけられた情報との相違にうぱ太郎は戸惑う。
度が過ぎているけどウーパールーパーが好きなのは間違いない。……でも。
交錯する思考を整理し、うぱ太郎はうぱ華子に尋ねた。
「……じゃあ、どうして食べられそうになっているウーパールーパーを助けているだけなのに、老人Xは
僕達を…… グレートサラマンダーZを敵対視するんですか!?」
うぱ華子は困った笑みを浮かべる。
「うーん……。……たぶん、寂しいというか悔しかったんだと思うよ」
「悔しい? ……どうしてですか?」
「……ご老人にとってウーパールーパーは愛玩動物なわけ。ある意味溺愛しているわ。
そんな可愛いはずのウーパールーパーがある日、とんでもないテクノロジーを駆使して造られたロボットで
人間に反抗したんだからたまったもんじゃないわ。まだ大山椒魚型ロボットだったからよかったものの
巨大ウーパールーパー型ロボットだったら速攻で逆上したでしょうね。ウーパールーパーを冒涜してるって。
うぱるぱ王国出身のウーパールーパーが造ったロボットだからそんなこと別に気にしなければいいんだけど、
それでも愛するウーパールーパーが人間に歯向かった。ってとらえちゃったんでしょうね。
……飼い犬に手を噛まれた。って言うか、純情可憐なウーパールーパーのはずが実はとんでもないやり手で
一杯食わされた。って感じかな。可愛さあまって憎さ100倍ってこと。
まぁ、よく分からないけど、このロボットを敵対視してこの世から抹消しようとしてるのは間違いないわ」
――ウーパールーパーを食べるブームを作ったのは老人Xじゃないかもしれない。でもあまりにも身勝手だ……。
ハンドルを握るうぱ太郎の手がわななく。しかし怒りの納めどころは何処にもなかった。
- 40 :
- 今日はここまで。
- 41 :
- 投下乙
設定が出てくるとぐっと引きつけられるねー
- 42 :
-
「……僕達は老人Xの単なるわがままに振り回されているだけなんですか?」
重い口どりでうぱ太郎は質問する。
「まぁそうね。些細なことを我慢できない人だからね。ほとんどのことはお金積めば何とかなるし、
それが出来る人だし……。あたし達も運悪くそれに巻き込まれてしまったってこと」
無表情のまま、うぱ華子は答えた。
ふと疑問がよぎる。巻き込まれてしまった……って……。
「……華子さんや倫子さん、民子さんは老人Xに気にいられてるんでしょう? どうしてこんな危ない
目にさらされてるんですか?」
「それは簡単。もうあたし達は賞味期限が切れたから」
「……賞味期限?」
「そう。ピンク、白、黄色、よりご老人の好みに近い色のウーパールーパーが造られたの。世代交代よ。
さっき言ったように花子、倫子、民子の名前を引き継いでね。そうなれば私達は用済みのお払い箱。
ご老人にしたらあたし達はもう鑑賞価値の無い平凡なウーパールーパーなのよ。
本来ならそこでどこかに引き取られるんだけど、今回こんな計画があったから太郎ちゃん達をおびき寄せる
エサにちょうどいいと思ったんでしょうね。
それとあたし、太郎ちゃんの出てたテレビ大笑いしながら見てたから、きっとそれも面白くなかったんだ
と思う」
「……ウーパールーパーを何だと思ってるんだ」
「カードを集める子供と同じよ。気に入ったもの、レアなものは手元に残す。価値のないものは処分。
ご老人の趣味の対象。それだけのことよ」
「………………」
理不尽な思いは幾度とした。納得できないことも多々あった。
しかし、その経験をも凌駕し、己の理念からは想像できない怪物が存在することを、うぱ太郎は改めて認識した。
――神にでもなったつもりか……?
うぱ太郎、うぱ華子の会話をモニターで聞いていたうぱ松は苦虫を噛み潰していた。
うぱ松だけではない。スタッフ誰もがそう思い、激情を胸に抱いた。しかしそれを口にする者はいない。
「……すいません。老人Xがウーパールーパーを食べるというのはガセネタのようでした」
過去に老人Xについて調査したスタッフがうぱ松に話しかける。
「気にするな。老人Xがとんでもない金持ちで悪趣味なことに変わりはない」
素っ気なくうぱ松は答える。
情報に誤りはあった。ウーパールーパーを寵愛しているブリーダーと言えなくもない。だがグレート
サラマンダーZを敵対視していると分かったいま、もはやそんなことは問題になりえなかった。
「それよりうぱ華子の話し振りからすると老人Xはいよいよ本気になったようだな」
他のスタッフにも聞こえるようにうぱ松は声を張り上げた。
「そのようですね」
うぱ松の声に全スタッフが作業しながら耳を傾ける。
「相手の出方を伺ってみるか」
「どうするんですか?」
「遊泳をやめてグレートサラマンダーZを川岸の広い場所で待機させる。もしそこに敵が集まるなら
誰かしらに発信機が取り付けられていると考えて間違いないだろう。敵が来ないなら再び川に入ってもらい
俺と技術班が出向いてなにか仕掛けられていないか徹底的に調べる」
「大丈夫ですか?」
「無為に時間を過ごすよりはいいだろう。いまのままでは何もできないからな」
「わかりました」
「これからグレートサラマンダーZを上陸させる。データー処理係は逐一映像を確認しろ。あと
気づいたことがあったら遠慮はいらない。どんな些細なことでもいい。その都度報告してくれ!」
ひときわ大きく、うぱ松の声が基地内に響く。
「「「了解っ!」」」
その時を待っていたかのように、うぱ松の号令に全スタッフが大声で応えた。
- 43 :
-
グレートサラマンダーZが遊泳を始めて30分が過ぎた。
うぱ華子の老人Xに関する話を引きずり、うぱ太郎は終始無言だった。
助けを求めるようにナビの時計表示を見つめ、そろそろ指示がくると自分に言い聞かせる。
――とりあえずなんか喋ろう。雰囲気悪いし……。
「……あの。倫ちゃん民ちゃんって、さっきから一言も喋らないけどいつものことなんですか?」
突然のうぱ太郎の質問にうぱ華子は苦笑する。
「はい、まず敬語は禁止ね。……彼女らのことはあまり気にしないで。不思議ちゃんコンビだから。
実験体どうのこうのはあまり言いたくないけどなんか変なのよね。覇気が無いって言うか自我が無いって
いうか。そのくせなんか見えてるみたいで突然意味不明なこと言うし……」
「……そうですか。じゃあ僕もあまり気にしなくていいのかな」
「うん。気楽に構えてればいいよ」
うぱ太郎の問いにうぱ華子はフレンドリーに答える。そしてすぐに真顔に戻る。
「その話は置いといて、あたし達ちゃんと助かるんでしょうね? うぱ松さんだっけ、頼りになるの?」
「うぱ松さんはいろんな意味で凄い人だから大丈夫だと思う。……そろそろ指示はいると思うけど」
通信用スピーカーとナビ時計表示を繰り返し見つめ直す。その直後、スピーカーからわずかなノイズが漏れた。
――きたっ!!!
『うぱ太郎聴こえるか』
「はい!」
口調は素っ気なく、優しくもなんともない。それでもうぱ松の声が聴こえるだけでうぱ太郎は安心できた。
一言一句聞き漏らさないようにうぱ太郎はスピーカを凝視する。
『今いる場所から2キロほど下流にキャンプができそうな岸辺がある。そこに上陸してくれ。
川から上がったら周囲に不審者不審物がないか充分見回して確認するように。何事もなくても
その場所で10分ほど待機してくれ。こちらで映像は確認するが気づいたことがあったらすぐに
報告。あと外部集音マイクと通話マイクのレベルも上げておいてくれ』
「了解しました!」
――よし、行くぞ!!!
戸惑っていた気持ちの隅々にまで気合が注入される。
うぱ松にいわれたまま音量ボリュームを操作し、うぱ太郎はハンドルを握り直した。
「太郎ちゃんって、うぱ松さんのこと好きなんだんね。いきなり声変わるんだもの」
「えっ……?」
不意を突かれた言葉にうぱ太郎は振り返ったまま固まってしまう。
「別に変な意味じゃないけどね。でもすごい嬉しそうにしてるし」
「くさいと言うか恥ずかしいけど、好きっていうか信頼してるからだと思う。グレートサラマンダーZ
造ったのはうぱ松さんだし、うぱるぱ救出活動の責任者だし。ヤンキーっていうか暴走族上がりだけど
いじめっ子タイプでもないし……」
「じゃあ、あたしも太郎ちゃん信頼するから、必ず守ってよね」
うぱ太郎を鋭く見据えたまま、真剣な表情でうぱ華子が言い放った。
――……そうだ。うぱ松さんを頼ってばかりじゃダメだ。操縦するのは僕なんだ!
うぱ太郎はうぱ華子を強く見つめ返した。そして唇に力を込めた。
「うん。大丈夫だよ。グレートサラマンダーZはちょっとやそっとじゃやられないから」
「命預けるんだからね!しっかり頼むわよっ!!!」
「了解っ!」
吐いた言葉と同様にアクセルに力を込め、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを水流に乗せた。
- 44 :
-
グレートサラマンダーZを水面から出し、うぱ太郎は岸辺を確認した。
両岸ともにそれなりの広さはあるが、より広いと思われる岸辺にグレートサラマンダーZを近づけた。
「こちらうぱ太郎。グレートサラマンダーZをこれから岸辺に上げます」
『了解!』
うぱ松の返事を確認し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かした。
車で乗り入れ可能な平地。河川敷広場というほど立派でもないがそれなりに管理されているようで、
未舗装の道路部分と芝生部分は明確に分かれている。周囲に住宅はないが、天気のいい週末なら家族
連れがピクニックをしててもおかしくないような場所だった。
グレートサラマンダーZを立ち上がらせて周囲を見回す。
遠くを車が走っているだけで不審と思われるものは何もなかった。対岸を眺める。こちらも
平穏そのものだった。
――何もなさそうだな。
心の中でつぶやいた瞬間、かすかにスピーカーからスタッフとうぱ松の声が流れた。
『うぱ松さん、パトカー先導にピックアップトラックが3台続いています』
『パトカー?』
――凄いな。僕は良く見えないのに基地じゃそこまで分かるんだ。
うぱ太郎は目を凝らし、遠くを走る車の群れを見た。
独自の配色とパトライトでパトカーは認識できるものの、後続の車はかろうじて台数が分かるくらいだった。
『ピックアップにビデオカメラらしきものが積まれてますが……』
『何?』
スピーカーから訝しそうなうぱ松の声が流れる。
――ビデオカメラ……。
うぱ太郎に過去の記憶が蘇る。
老人Xの仕業と思われるテレビ出演。半年以上経つのにレポーターの一挙一動がいまだに忘れられない。
ビィイイイン、ビ、ビィイイイイイイイイン、ビィイイイイイイイイイイイン
そのうぱ太郎の思考を遮るように軽い音質の排気音が響いた。
『2ストエンジン?単車か?映像は?』
『画面ではまだ確認出来ません!』
うぱ松の口調が徐々に荒くなる。
ビィイイイン、ビ、ビィイイイイイイイイン、ビィイイイイイイイイイイイン
――バイク?何処だろう?
- 45 :
-
『うぱ太郎、周囲確認!』
「はいっ!!!」
うぱ松の声に反応し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを素早く動かす。
――えっ……?
排気音に気をとられた僅かな隙に、パトカーと後続車はすぐそこまで近づいていた。
「うぱ松さんバイク分からないけど、なんかパトカー近くまで来てます!」
『やはりピックアップにテレビカメラ積まれてます。カメラマンも乗ってるようです!』
『何がしたい?警察もグルか?』
ビビィン、ビ、ビィイイイイイイイイィイイイイイイイイイイイン
――なっ!
黒い2つの影が視界を切り裂いた。
突然、宙を舞った2台のバイクにうぱ太郎は反応できない。
『うぱ太郎!逃げろっ!!!』
――2ストモトクロッサーだと?いいセンスしてやがるっ!!!
秘密基地の映像モニターの前でうぱ松が叫ぶ。
ズザザザザザッ!!!
立ち上がったグレートサラマンダーZの前、2台のバイクはブレーキングターンを決めた。
――!?
舞い上がる土埃。
まるでアクション映画のように、黒一色のライダーが手にするマシンガンが火を噴いた。
- 46 :
- 今日はここまで。
来週こそはちゃんと水曜日に投下しよう。
- 47 :
- 投下乙
- 48 :
-
土埃、白煙、連続する乾いた銃声。
非現実的な瞬間が鎮魂歌のようにグレートサラマンダーZの視聴覚モニターから流れた。
急転直下の出来事に、うぱ太郎はただ呆然とそれを眺めることしかできなかった。
「ちょっとちょっと!!!何よこれっ!!!」
目の前で繰り広げられる殺戮ゲームのような世界にうぱ華子、鬼の形相で
金切り声を上げる。
その声でうぱ太郎、目覚める。
――ふ、ふざけるなっ!!!
「みんなっ!つかまってて!!!」
咄嗟に対応できなかったことを悔やみながらもうぱ太郎、動く。
『マシンガンだと?殺傷能力は!!!』
スピーカーの向こう側、うぱ松が怒鳴る。
『サブマシンガンです。威力は拳銃とさほど変わりませんっ!グレートサラマンダーZ
なら大丈夫なはずです!』
『うぱ松さん!やはり撮影されてます!!!』
『いま警察に電話して状況確認してます!』
次々と声を上げるスタッフ。
アクセル全開。すかさず跳ねる+しっぽを振るボタン。ハンドルを目一杯左へ。
グレートサラマンダーZ、ローリングしっぽソバット炸裂!!!
ぐわしゃーん!!!!!!!
マガジン装填中だった黒ライダー二人、バイクごとなぎ倒す。
勢い余ってグレートサラマンダーZ、地べたを転がる。
「きゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!っ」
響くうぱ華子の悲鳴を無視してうぱ太郎、体勢を立て直す。
グレートサラマンダーZ、立ち上がりファイティングポーズ。
「後ろ」
「えっ!?」
ずっと無言だったうぱ倫子、ぽつりとつぶやく。
270度視野の視聴覚モニター、真後ろはほぼ死角。
即座にうぱ太郎、ハンドルを切り振り返る。
何処から沸いたのか3人目の黒ライダー、迫る。
妖しい光、最上段から振り下ろされる。
――日本刀!?
「うわっ!!!」
うぱ太郎、焦りでハンドル滑らす。
日本刀、グレートサラマンダーZ後頭部直撃。
ぎんッ!
鈍い金属音を残し日本刀、折れる。
切っ先が絵に描いたように、くるくると宙を舞う。
黒ライダー、お手上げポーズのあと折れた刀を放り出して逃げ出す。
「待て!!!」
グレートサラマンダーZ、大ジャンプ。黒ライダーを押しつぶす。
――残りは!!!
うぱ太郎、素早くグレートサラマンダーZを立たせ周囲を確認。
よれよれの黒ライダー2人、バイクを押して逃げていく。
少し離れた場所でパトカー脇に立つ警官。その隣にはビデオカメラを覗き込む男達。
――テレビ?マシンガン撃ってるのに誰も止めない??まさか警察も老人Xの手下???
ビデオカメラ、警官を前に展開された銃撃戦。
しかしそれが黙認された事実にうぱ太郎、愕然とする。
- 49 :
-
『うぱ太郎、一旦川に戻れ!』
スピーカーからうぱ松の声。
「了解っ!!!」
怒鳴りに近い声でうぱ太郎即答。
グレートサラマンダーZ、ダッシュで川に飛び込む。
「ふーっ!ふーっ!」
――みんな敵だ。警察もテレビの人も!!!
川の中、爆発したアドレナリンを抑えるかのようにうぱ太郎は繰り返し息を吐く。
「……ねぇ、太郎ちゃん。……いつもこんなハードな目に遭ってるわけ? ……おぇ」
激しい動きに酔ったのか顔を真っ青にしたうぱ華子が話しかける。
充分に息を整えたあと、うぱ太郎は振り返る。
「いつもじゃないけど。……それより大丈夫?」
「……何とかね。……うぶっ!!!」
「わーっ!吐かないで!!!」
シートベルトを外し、うぱ華子を介抱するうぱ太郎。
その後ろでうぱ民子がうぱ倫子相手にグレートサラマンダーZの中で初めて言葉を口にした。
「ジェットコースターみたいで面白かったね!」
「うん」
「5回転ぐらいしたよね」
「うん」
「…………」
緊張感のかけらもないうぱ民子とうぱ倫子の会話にうぱ太郎は脱力する。
――怖くないんだ……。て言うか、華ちゃんの心配しないんだ……?
「……さっき言ったでしょ、この2人は変だって。表情乏しいし、いまいち会話噛み合わないし。
それにこんなデタラメな動きしてるのにけろっとしてるしさ。嫌になるね、まったく」
うぱ太郎の心情を察したのか、へろへろの状態ながらもうぱ華子が解説する。
――そういえばさっき、なんで敵が後ろにいるって分かったんだろう。モニター映ってたのかな……?
疑問がよぎる。あまり関わりたくないような気もしたが、うぱ太郎はうぱ倫子に尋ねる。
「……あの、倫ちゃん。さっきどうして後ろに敵がいるって分かったの? モニターに敵は
映ってなかったと思うんだけど……」
「なんとなく」
ぽつりとそうつぶやいただけでうぱ倫子は口を閉ざす。
「予知っていうか、殺気を感じとるアンテナが変な実験のせいで過敏になったんだと思うよ。
でも惜しいことに凄い能力なんだけど10秒前ならまだしも直前に言われたって手の施しようが
ないんだよね」
またもやうぱ華子の解説がはいる。
「……うーん、確かに。さっきももうちょっと早ければ避けれたと思うけど」
うぱ華子につられてうぱ太郎も素直に思ったことを口にする。
しかしそう言ったあと、ちょっとだけ後悔する。褒めていれば場の雰囲気が良くなったのではと。
ちらりとうぱ倫子の様子を伺う。無表情で何を考えているのか分からない。話を聞いていたかさえも疑問だった。
――だめだ。あまり気にしてちゃこっちが持たない。楽に行こう。
再び静寂に包まれたコックピット。その中で自分にそう言い聞かせ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを
川の最深部に移動させた。
- 50 :
-
「……うぱ松さん。どこまで本気か分かりませんが、映画ロケが行われるということで
高速道路に限らず至る所で交通規制が敷かれています。いまうぱ太郎君がいる場所もその
対象地区です。
協力隊の人に銃撃戦が行われてると警察に通報してもらったんですが、映画ロケだから気に
するなと言われたそうです。老人Xは警察と協力関係にあるか、もしくは老人Xが警察を買収
したとのではと思われます」
「……映画ロケにカモフラージュするためのパトカーとビデオカメラか。ここまできたらもう
本物の警察かどうかも怪しいものだな。まぁいい。こっちはひたすら逃げるのみだ。せいぜい
グレートサラマンダーZの実力を侮るがいい」
緊迫する秘密基地。
情報を収集するスタッフ、映像を解析するスタッフ、ひたすら電話を掛けるスタッフ。誰もが
せわしなく動く。
そんな中、目頭を押さえて一息ついていた映像解析中のスタッフがうぱ松に声を掛けた。
「うぱ松さん。映像と音声シンクロさせて確認したんですが、やはりうぱ倫子が後ろと言ったとき
敵の姿は画面に映っていませんでした。霊感ヤマカン第6感ってやつですね」
「そうか。……確かにうぱ華子が言うように惜しい才能だな。10秒前とは言わないがせめて5秒
あれば危険予知装置としていい武器になったかもしれないが……」
「予知と言うより、自分のテリトリーに踏み込まれるのに敏感。と考えるのが妥当かもしれません。
うぱ倫子の言葉にうぱ太郎君が反応してグレートサラマンダーZが振り返るのに約1秒掛かってます。
そのときにはもう敵が目の前にいました。私感ですが半径10メートル以内に外敵と思われる
モノが侵入したらセンサーが感知するような仕組みかと」
「そうか。……なら、せっかくうぱ太郎と同乗してるんだ。この際、使えそうなものはなんでも
使わせてもらおう」
スタッフの話を聞いたうぱ松は早速、通信マイクを握り締めた。
「うぱ太郎聴こえるか?」
『はいっ!!』
――いい返事だ。まだ心は折れてない。
うぱ太郎の歯切れのいい応答にうぱ松は安堵する。
「再度敵の動きを探る。2キロほど下流に車では入れない場所がある。川の流れに乗るくらいの
スピードでそこに移動してくれ。現場に着いたら今度は上陸しないで川底で待機するように」
スタッフから提示された地図をもとにうぱ太郎に指示を出す。
『了解しました!』
――うぱ太郎はOK。……さてニュータイプのご機嫌は?
マイクを握り直し、うぱ松はうぱ倫子に呼びかけた。
「それとうぱ倫子さん聴こえるか?」
『…………』
『……たぶん、聴こえていると思います』
返事はなかった。代わりに聴こえたうぱ太郎の不安げな声にうぱ松は苦笑する。
「君は勘がいいな。さっきは間に合わなかったがなかなかどうして大したものだ。ありがとう。
もしまた君が危ないと感じたら遠慮なく言ってくれ。君の一言で救われる場面がきっとくる」
『…………』
うぱ倫子の無言の返事に作業しながら密かに耳を傾けていた周囲のスタッフの顔が青くなる。
うぱ松が族上がりで上下関係や言葉遣いに厳しいのは有名だった。舐めた口調の新入りは速攻で
うぱ松にシメられる。それが秘密基地での定説であり、新人スタッフの通過儀礼でもあった。
悟られないように、スタッフ達はうぱ松の顔色を伺う。案の定、うぱ松は引きつった笑顔を浮かべていた。
「聴こえてない……か?」
冷静を装ううぱ松。
『た、たぶん、聴こえているとは思いますが……』
うろたえているのがはっきりと分かるうぱ太郎の返事。
- 51 :
-
『……わたし、知らない人とは話さない』
―― …………。
唐突に吐かれたうぱ倫子の言葉に基地スタッフの面々は凍りついた。
『きゃはは、うぱ松さん振られちゃった!って冗談だけどホントあまり気にしないで。
ちょっと世間知らずで空気読めなくて変なの見えてるけど別にそんな悪い子じゃないから!』
スピーカー越しにうぱ華子がけらけらと笑う。
『……華ちゃん。それ褒めてない』
うぱ倫子、不服そうな声。
『倫ちゃん。それたぶん嫌味』
さとすうぱ民子。
『……イヤミ? ……ざます?』
うぱ倫子、つぶやく。
「だめだこりゃ」
モニタースピーカーの前でがっくりと肩を落とすうぱ松。
そんなうぱ松に笑いたいのを堪えながらスタッフが話しかけた。
「不思議ちゃんパワー炸裂っすね。うぱ太郎君も大変だ」
「仲がいいのか悪いのか、なんだかよく分からない連中だな。まあ、あの状況を目の当たりに
してもまだパニックになっていない。とりあえずは良しとしよう。引き続き情報収集を頼む」
「了解!」
返事を残しスタッフは作業に戻る。
――さてと。
気を取り直し煙草を火を点ける。そして今後を占うかのようにうぱ松は吐いた煙の行方を追った。
――2ストロークのオフロードバイク。250ccならオンロードでもそれなりに速い。
機動性という意味ならグレートサラマンダーZと同等かそれ以上だろう。
しかし勝算はある。敵の足がオフロードバイクとカメラを載せたピックアップだけなら
通行止めの高速に乗れば一気にぶっちぎることが出来る。
……しかし、それが敵の罠である確率もめっぽう高い。
答えを見出せるわけもなく煙は宙に消えていく。うぱ松はまた深く煙を吸い込む。
――まだ一か八かの勝負をするときではないが……
思い出したようにうぱ松は携帯電話のメモリーを呼び出した。
グレートサラマンダーZの映像を確認する。透明なくすんだ緑の世界が映し出されている。
「すまん、私用の電話をする。廊下にいるから緊急な用件があるなら叫んでくれ。すぐに戻る」
「了解!」
スタッフに声をかけうぱ松は廊下に出る。
メモリーを呼び出す指が止まる。懐かしき名前がそこにある。
――この際、使えそうなものはなんでも使わせてもらう!
自分自身に強く言い聞かせ、うぱ松は親指に力を込めた。
- 52 :
- 今日はここまで。
- 53 :
- y
- 54 :
-
――ここら辺でいいかな……?
うぱ松に従い2キロほど水中を移動したうぱ太郎は、次の指示を待つべく
グレートサラマンダーZを川底で待機させていた。
15分ほどの道中、居心地の悪かった沈黙も時とともにコックピットになじみ、
うぱ太郎はうぱ華子の容態を確認したくらいで無理に話題を振ることをやめた。
うぱ倫子うぱ民子は再び無言になり、うぱ華子も静かになった。
ナビでおおよその移動距離を確認しうぱ太郎は基地に連絡する。
「うぱ松さん聴こえますか?」
『おう、どうした?』
「川岸の様子確認出来ないんで判断できないんですけど、今いる場所で大丈夫ですか?」
『あぁ、問題ない。そこで10分ほど待機していてくれ。こっちもモニターで確認はしているが
気づいたことがあったらすぐ報告すること』
「了解しました!」
――とりあえずは落ち着ける。……でもマシンガンで襲ってくるなんて。……老人Xは本気だ。
気持ちに余裕ができたうぱ太郎は今日の出来事を振り返った。
中3日、間隔を空けてグレートサラマンダーZ出動。死んでいると思った5匹の大山椒魚が生きていた事。
クスリかなにかで眠らされたといううぱ華子たち。周到に準備された罠……
うぱ太郎の心に不安がよぎる。うぱ太郎は振り向きざまにうぱ華子に問いかけた。
「華ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、クスリで眠らされたって昨日今日?何時頃か覚えてる?」
「今日のお昼頃かな」
――グレートサラマンダーZの出動時刻とほぼ同じ頃……。いくらなんでもタイミングが良すぎる……
「気づいたときはバケツの中にいた?」
「ちがうわ。気づいたら知らない部屋で男4人が生きたままの大山椒魚を天井から吊るしてた。
その後であたし達はバケツに入れられて包丁つきの蓋で閉じ込められたのよ。気を失ってたのは
実質1時間くらいだと思う」
「……自分の体に発信機とか付けられたと思う?」
「発信機がどれくらいの大きさか分からないけどそれはないと思うけどね。体に変な違和感もないし」
「…………」
――映像はよく分からないけど、通信と位置情報は携帯電話の機能をうぱ松さんが魔改造して
グレートサラマンダーZに載せているはず。もし老人XがグレートサラマンダーZに載っている
携帯電話の番号やGPS端末情報を認識できてるとしたら……
- 55 :
-
「あ……」
うぱ太郎が考えこんでいる時だった。うぱ倫子が何かを思い出したように声を出す。
「ちょっとなに? 何か言いたいの?」
うぱ華子が問いかけ、うぱ太郎が視線を移した瞬間、
ぐらっ。
「わっ!」
「きゃっ!!」
大波にでも打たれたかのようにグレートサラマンダーZが激しく揺れた。
「……また来た」
「ちょっとなによ!? あんた何見えてるのよ!!!」
「地震??」
つぶやくうぱ倫子をうぱ華子が怒鳴る。うぱ太郎も揺れの正体をつかめない。
「光った、爆発」
うぱ民子の声。視聴覚モニターを背にしたうぱ太郎とうぱ華子は為すすべがない。
ぐら、ぐらっ。
「!!!っ」
「ああ、もうっ!!!」
再びの揺れにうぱ太郎うぱ華子は体勢を崩す。
『うぱ松さん、手榴弾です!』
『ちっ、次から次と獲物出しやがって!』
通信スピーカーから基地内の怒声が流れてくる。
『うぱ太郎、その場から離れて全力で泳げ!とにかく1ヶ所に留まるな!』
「了解っ!」
うぱ太郎、うぱ松に従いシートベルトにかまわず乱暴にグレートサラマンダーZを発信させる。
「何よもう!川の中だって全然安全じゃないじゃないっ!!!」
のたうちながらうぱ華子は誰に向けたか分からない責め言葉を吐く。
――だいたいの位置はばれてるけどグレートサラマンダーZが見えてるわけじゃない。ただ闇雲に
手榴弾を投げてるだけだ。整備されてるとこもあるけど川辺のほとんどは草木が生え放題で
敵は移動に手間取るはず。全速で逃げればなんともない。
うぱ太郎アクセル全開。グレートサラマンダーZ、激しく身をくねらせながら川の流れに乗る。
うぱ太郎の予想通り、出始めこそ幾度かの衝撃波を受けたものの待機していたところから離れるにつれ
それはなくなった。
- 56 :
-
「うぱ松さん、聴こえますか?」
アクセルを緩めずうぱ太郎は基地のうぱ松に呼びかけた。
『なんだ?』
「あの、僕思うんですけど、華ちゃん達に発信機が付けられてるんじゃなくて、グレートサラマンダーZ
の携帯の番号っていうか位置情報確認するGPS端末の番号みたいなのばれてて秘密基地と同じように
老人Xの部隊にもグレートサラマンダーZの居場所把握されてるんじゃないでしょうか?」
『……おまえもそう思うか?』
うぱ松も同じ疑問を抱いていると分かり、うぱ太郎は少しだけ自信を持って話を続ける。
「ええ。華ちゃんに聞いたら、眠らされたの僕が基地を出たときとほぼ同じ時間なんです。
警察の罠のときは人質が3日間拘束されてたけど、あの時はまだ通信システムなかったから時間を
かけておびき寄せたんだと思うですけど、いまはグレートサラマンダーZの動きが手に取るように
わかるから入念に準備してグレートサラマンダーZが動いたときに罠を発動させたんじゃないかと」
『そのようだな。何故いまになって老人Xが我々に牙をむいたかもそう考えれば辻褄が合う。
マシンガンに手榴弾、傭兵の手配。グレートサラマンダーZの位置情報システムの解析。それが
整うまで老人Xは密かに爪を磨いていたんだろう……。
経費削減で自社開発は断念した。それでも念のため飛ばしの携帯電話を使って通信、位置情報
確認システムを作ったが老人Xに対しては無意味だったようだ……』
ある程度想定していたのだろう、うぱ太郎の考えをうぱ松はあっさりと受け入れた。
『ところで話は変わるが、うぱ華子さんたち。君達は泳げるか?』
「バカなこと聞かないでよ。ウーパールーパーなら当たり前でしょ」
「泳げるよ」「……泳げる」
スピーカー越しのうぱ松の問いかけにうぱ華子達はそれぞれおもいおもいに答えた。
『そうか。なら話は早い』
「……ちょっと待ってよ。なんか物凄く嫌な予感がするんだけど」
突然の意味不明な問いにうぱ華子が訝しげな顔をする。
『察しがいいな、その通りだ。君達にはグレートサラマンダーZを降りてもらう』
「こんな所で?冗談でしょ?」
うぱ松の返事にうぱ華子の眉がつり上がる。
『いや冗談じゃない。コックピットの中は確かに安全だ。しかしグレートサラマンダーZに乗って
いる限り君達も攻撃の対象になる。多少の危険は伴うが橋の袂で君達を降ろす。降りたら君達は橋脚付近の
水中に隠れていてくれ。グレートサラマンダーZが遠く離れた頃を見計らって、俺の知人を迎えに出す』
「ふざけないでよ。もし降ろされた近くに手榴弾投げられたらあたし達なんて一発であの世行きよ。
あまりにもリスクが高すぎるわ」
うぱ松の提案をうぱ華子は断固拒否する。しかし後ろでうぱ民子が目を輝かせていた。
「凄い。九死に一生を得るスペシャルだ。こんなこと滅多に経験できないよね」
「……民ちゃんバカな事言わないで。このロボットでさえあんなに激しく揺れたのよ。九死に一生
どころの話じゃない。確実にRるわ」
うぱ民子がうぱ華子を苛立たせる。しかし、さらにうぱ倫子が追い打ちをかける。
「華ちゃん、潔く散るのが男の華」
- 57 :
-
「あァ?この期に及んで誰がうまいこと言えっていった? それにあたしは女よっ!!!」
激怒し、うぱ華子は激しくうぱ民子達に噛み付いた。
「ったく、どいつもこいつも揃いも揃ってバカばっかりで嫌になるわねっ!何よ潔く散るって!
あんた達そんなに死にたいの?ならさっさと降りれば?あたしは絶対降りないからね!!!」
「華ちゃん、死ぬの怖いの?いつかは死ぬんだよ?だったらドラマチックに死にたいじゃない」
逆上するうぱ華子を気にせず、マイペースで答えるうぱ民子。
その声に、うぱ華子ついにキレる。
「あんた達なんかと一緒にしないでよっ!死ぬのが怖いなんて当たり前のことでしょ!!!
逆にあんたらに聞きたいわよ!死ぬのが怖くないのかって!!!
……でもね、そんなのが理由なんかじゃない。
確かに死ぬのは怖い。痛いのだって大嫌い。
……でもそれ以上にあたしは嫌なの。
もう自分の人生を他人に弄ばれたくないのッ!!!!!!!
他人に人生を決められるなんてもう真っ平なのよっ!!!!!!!」
「…………」
『…………』
うぱ華子の怒声にコックピットは静まりかえる。
通信用スピーカからも、慰みの言葉一つ出てこない。
――さらわれて無理矢理連れてこられたのがやっぱり悔しかったのかな……。
うぱ華子の心情を思う。
しかしうぱ太郎は同情や憐憫の言葉を掛けることは出来なかった。
- 58 :
-
重苦しい沈黙がコックピットに蔓延する。
「……ごめん、言い過ぎた。それでもあたしはこのロボットから降りるつもりはないわ。
現状ではこの中が一番安全だと思うから。もし民ちゃんや倫ちゃんが降りてもあたしは絶対降りない。
生死にかかわる問題よ。あたし自信で決めさせてもらうわ」
自ら作り上げてしまった静寂をごまかすかのように、うぱ華子は静かに話した。
その時を待っていたかのようにスピーカーからうぱ松の声がする。
『……うぱ太郎、お前はどう思う?』
「…………」
うぱ松の問いにうぱ太郎は黙り込む。
少し前にうぱ華子と交わした言葉が胸を貫く。
――華ちゃんのことはよく知らないし、気持ちも分からない……。だけど……
「……僕は、もしコックピットに残りたいというならそれで構いません。華ちゃんの言うとおり、もし
降りる瞬間を狙われたら華ちゃん達どころかグレートサラマンダーZでさえも危ないですし、それ以外にも
川には大きな魚とか鳥とかウーパールーパーを捕食する外敵がいて降りるには危険だと思います。
それに…………」
『それに、なんだ?』
渋るうぱ太郎にうぱ松は容赦なく続きを促した。
――僕は…… 僕は、約束したんだ!
「それに理由はどうであれ、こんな危険極まりない場所に女の子を置き去りにするような真似は
僕には出来ませんっ!!! 僕がみんなを守りますっ!!!!!!!!!!」
- 59 :
-
秘めたる胸の想いを爆発させたせいか、うぱ太郎の息は上がり、目にはうっすらと涙を溜めていた。
うぱ太郎の傍から見れば恥ずかしくなるような宣言にうぱ華子達は何も言えずただ黙っている。
通信スピーカーから基地内のどよめきやはやしたてるような歓声が次々と流れてくる。
くくく。という含み笑いに続いてうぱ松の声がする。
『……うぱ太郎、ずいぶん言うようになったな。……それでいい。男はそうじゃなくちゃな』
「…………」
自分の吐いたセリフに恥ずかしくなったのか、うぱ太郎はうぱ松に言葉を返すことが出来なかった。
『うぱ華子さん、さっきのは無しだ。忘れてくれ。我々は必ず君達を安全で老人Xの手の掛からない
場所に連れて行く。それまでまだ怖い思いをするとは思うが頑張って乗り越えてくれ。
うぱ民子さんうぱ倫子さん。九死に一生とは言わないがこれから先どんどんハードな状況に陥るはずだ。
スリルとアクション満載の逃走劇になるからケガしない程度に楽しんでくれ』
響き渡ったうぱ太郎の叫び声の余韻からか、うぱ松の声にうぱ華子達は無言で小さく頷くだけだった。
『うぱ太郎、この通信が終わったら一旦通信用携帯をボックスから出してバッテリーを外せ。
そのあと全力で5キロほど移動して川から上がれ。15分ほど待機して追っ手が来るかどうか確認しろ。
もし15分経過しても敵が見えないようなら携帯のバッテリーは外したままで川を使って基地に戻ってこい。
もし追っ手が来たならまた川に入って携帯のバッテリーを入れろ。そして今度はこっちから動く。
敵を引き連れて市街地の大通りを流せ。最終的な行き先は追って指示する』
――うぱ松さんはまだ華ちゃん達に発信機が仕組まれている可能性を捨てていない。
でも、もし華ちゃん達に発信機が仕掛けられてなかったら僕達の勝ち……
早速うぱ太郎はグローブボックスを開け、配線まみれになっている携帯電話のロックを外した。
「……うぱ松さん、通信出来なくなるし基地でも居場所見失いますが構いませんか?」
『ああ、構わない。上陸する場所はうぱ太郎の好きにしていい』
「了解しました!」
携帯電話を手にし背面を見る。電源を切るだけじゃダメなのかと思いつつもうぱ太郎は
慎重にバッテリーカバーを外す。
「うぱ松さん、バッテリー外す準備できました」
『了解。……うぱ太郎、まだ発信機の件は解決したわけじゃない、油断するなよ。
これからが本番だ。覚悟決めろよ!』
「了解。じゃあバッテリー外します!」
バッテリーがロックされている爪を指で煽る。小さな雑音とともに通信スピーカーが静まり返る。
コックピットに再び沈黙が訪れた中で、うぱ太郎はうぱ華子達を前に緊張気味に話し始めた。
- 60 :
-
「運がよければすんなり基地に戻れるけど、そう簡単にはいかないと思う。
敵がいたらまた激しく揺れたり転がったりするから、みんな舌噛まないように気をつけて」
「お水飲みたい」
うぱ太郎が呼吸を置いた瞬間、突然そう言って後部座席のうぱ民子が手を揚げた。
「…………」
人の話をまるで聞いてないうぱ民子を見てうぱ太郎は途方にくれる。
「あんたねぇ、太郎ちゃん話してるんだから少しは空気読みなさいよ」
「だって、喉乾いたもん」
――緊張感のきの字も無い……。
諦めに似たため息をついた後、うぱ太郎は自然に苦笑いを浮かべていた。
咎めるうぱ華子とうぱ民子の子供じみた返答で、張り詰めていた肩の力がゆるりと抜けた。
「別に気にしなくていいよ華ちゃん。なんか僕も喉渇いたからみんなで飲もう。民ちゃん、
シートの後ろのボックスに未開封のペットボトルあるから取ってくれないかな」
うぱ太郎の返事に嬉々としてうぱ民子はペットボトルの入ったボックスをあさり始めた。
「あっ、赤虫グミだ! 太郎ちゃん食べていい?」
「うん、いいよ。長丁場になるかもしれないからお腹減った人は食べて」
やった。と小さく叫び、うぱ倫子はペットボトルと赤虫グミを取り出す。
そして1本と1粒をそれぞれに配り、すぐに座席に戻りペットボトルのキャップを開けた。
- 61 :
-
「まるで子供の遠足ね」
川の中、グレートサラマンダーZはすいすいと泳いでいく。
後部シートではしゃぐうぱ民子とうぱ倫子を横目で見ながらうぱ華子がつぶやく。
「まぁ、はしゃげるって言うか休めるのは今のうちだけだから」
ペットボトルを口にしながらハンドルを握るうぱ太郎が答える。
ある程度の速度で移動していれば敵に襲われることはない。それはコックピットにいる
全員が短時間の経験で気づいたことだった。
「このまま海にでも行って、のんびり波にでも揺れてればいいじゃない?
沖合いに出たらさすがに敵も追ってこないよね」
うぱ民子うぱ倫子が遠足気分なら、うぱ華子とうぱ太郎はドライブ気分だった。
「うーん、海で泳がせたことあるけどグレートサラマンダーZは海ではいまいち性能発揮
できないんだ。大もとの大山椒魚が川育ちのせいか分からないけど……」
以前、海で泳がせたときのことを思い出す。波と相性が悪いのかグレートサラマンダーZの
動きはスムーズと言えるものではなかった。
「……造ったのうぱ松さんでしょ? 変なところで律儀よね」
「よく分からないけど妙なこだわり持っている人だから」
そして会話がとぎれる。
残された時間、うぱ華子は瞳を深く閉じ、うぱ太郎はモニター群に目を凝らした。
「……じゃあ、そろそろ」
うぱ太郎の声で、うぱ華子達は手にしたペットボトルのキャップを硬く絞りボックスに戻した。
うぱ太郎は改めてナビを確認する。午後3時50分、携帯のバッテリーを外して15分経過。
現在地は大きな橋の近く。両岸とも営業車やトラックなどが昼食を取ったりサボったりする広い場所。
――もし敵が襲って来たら速攻で川に戻って携帯のバッテリー入れて電源オン。
すぐに対岸に渡ってそこから大通りを目指す!
敵が来ないようなら、いろいろあったけど今日のパトロールは終わりだ。
振り返り深呼吸をする。そしてうぱ太郎は話し始める。
「さっきも言ったけど、川から上がったらかなり派手に動くと思うからみんなシートベルト
はしっかりお願いします。それとマシンガンくらいじゃグレートサラマンダーZはびくとも
しないんで撃たれても心配しなくていいです。それじゃ川から上がります」
無言で頷くうぱ華子達を確認し、うぱ太郎は岸辺に上陸するべくアクセルをそっと踏み込んだ。
- 62 :
- 今日はここまで
- 63 :
- うぱ太郎がかっこよすぎてこまる
- 64 :
-
秘密基地。
煙草を手にグレートサラマンダーZの動向を見守るうぱ松は、話しかけられたスタッフと
問答を続けていた。
「うぱ松さん、やはりうぱ華子達にも発信機が取り付けられていると……」
「あぁ。見せしめに大山椒魚吊るして、有無を言わせずマシンガンに手榴弾だ。餌に発信機が付いて
ないなんてぬるい考えは捨てたほうがいい」
「……それを承知でうぱ華子達を降ろそうとしたんですか?」
「まぁな。しかし彼女達を生かしておけない理由があるならわざわざこんな面倒なことはしない。
そしてグレートサラマンダーZの位置情報を認識しているならこの基地の位置も把握している筈だ。
基地の防衛設備など皆無に等しいから急襲されれば我々はいちころでダウンする。だがそれもしない。
要は老人Xの目当てはあくまでグレートサラマンダーZであってウーパールーパーではないということだ。
だからグレートサラマンダーZの位置情報さえ発信しておけば、獲物を吊り上げた彼女達はお役御免で
コックピットから降りても攻撃対象から外れると踏んだわけだ。まぁ彼女達は降りなかったわけだが」
「……でも、どれも推測の域を出ていないのでは」
「あぁ。どれもこれもあくまで俺の推測で、確証されていることは何一つ無い」
そう言ってうぱ松はちらりと映像モニターを眺めた。
――ただじっとしていたって何も変わらない。
心の中でうぱ松は強く念じる。
直後、グレートサラマンダーZの映像データーが激しく乱れた。
うぱ松は煙草をもみ消し、話し込んでいたスタッフは慌てて席に戻る。
「聞いてくれ。これから先グレートサラマンダーZを市街地経由で高速に乗せる」
「!?」
うぱ松は立ち上がり、大きな声で言い放った。
一気に基地内が緊迫する。
罠に飛び込むのか……? 口には出さない。しかしスタッフ誰もがそう思い表情を硬くした。
「今までの川辺の戦い、老人Xはマシンガン手榴弾にオフロードバイクで兵を整えてきた。
旧世代の2ストバイクだが機動力も高いしそれなり速い。敵ながらいい選択だと思う。
そして当然のごとく高速に乗ったら適材適所で新たな兵が出てくるだろう。1リッター超スポーツ
バイクもしくはポルシェRーリ、GT−Rかもしれない。皆が思うように罠である確立は極めて高い。
しかしグレートサラマンダーZにはそれらに対抗する、いやそれらを上回るスピードがある。
幸いなことに、俺がはるか昔に最高速テストをしただけだから老人Xにその性能はばれていない。
大山椒魚のロボットが高速を時速400キロで駆け抜けるなんて敵は夢にも思わないだろう。
通行止めの高速道路。それはグレートサラマンダーZにとって唯一にして最大の味方になる。
作戦は至って単純。高速に乗ったら敵を1ヶ所に引き付けてタイミングを見計らって全速で逃げる。
それだけだ。その後でうぱ華子達を俺の知人に保護してもらう。その知人というのは……まぁ、あれだ。
ぶっちゃければ俺の族時代の知り合いだ。
しかしながら単車での無謀運転や修羅場には慣れているがさすがにマシンガンや手榴弾には勝てない。
なので敵を充分に引き離したのを確認したあとでグレートサラマンダーZからうぱ華子達を降ろし、
そいつに受け渡す。その後この地区の管轄から遠く離れた警察署にうぱ華子達を連れて行ってもらい
そこで保護してもらう。最後にグレートサラマンダーZの通信用携帯の電源を切って川でも使って
基地に帰還すれば一件落着だ。どうだ、簡単だろ」
- 65 :
-
静かな川辺の風景が流れるだけで、グレートサラマンダーZから送られてくる映像に敵の姿はない。
モニターを確認しながらスタッフの一人がうぱ松に話しかける。
「……確かに簡単そうですが、性急すぎませんか? もう少し川の中で敵の動きを見るのも手かと」
「川の中を移動していれば確かに安全だし時間は稼げる。しかし我々はグレートサラマンダーZの視聴覚
データーでしか敵の動きを探ることが出来ない。悠長に構えすぎて敵に体勢を整えられるのは危険だ」
「高速道路上にバリケードを張られるとか、遠距離からの狙撃なども考えられますが……」
「この地区の高速は見通しがいいしトンネルも少ない。それに多少の障害物ならグレートサラマンダーZ
のオートパイロットシステムで回避できる。遠距離の狙撃でもライフル弾くらいならどうってことはない」
スタッフの質問にうぱ松は迷うことなく即答する。
他のスタッフは固唾を呑んでやり取りの行方を追っている。
「……了解しました。……再度グレートサラマンダーZのいる周辺の道路状況を確認します」
「よろしく頼む」
うぱ松さん迷わなかった…… 楽勝だろ、たぶん…… 罠を承知で突っ込むのか……
さっさとけりつけて帰りたい…… 吉と出るか凶と出るか…… うぱ太郎君大丈夫かな……
基地スタッフそれぞれが思いを胸に宿す。
そんな困惑した空気を薙ぎ払うかのようにうぱ松は基地内に響き渡る声で激を飛ばした。
「敵は1人や2人じゃない、これからうじゃうじゃ湧いてくるはずだ。映像の確認を怠るな!」
その声にスタッフ全員がびくりと肩を揺らした。すぐに誰もが映像モニターを凝視する。
「了か…!? ちッ早速かよ!うぱ松さん、来ました!またオフロードバイクです!!!」
返事もままならないうちにスタッフの1人がモニターに敵の姿を見出す。
瞬時の差で映像が激しく動く。揺れる地面、光る水面、一瞬宙を向いた後、水中へ。
乱れ暴れる映像がスタッフを否が応でも緊張させる。
「ご苦労なこった。俺は知り合いに連絡を入れる。その間うぱ太郎から通信入ったら目的地は
高速インター、まずは幹線道路で逃げ回って敵の状況を確認と伝えろ」
「了解!」
刻一刻と状況の変わる中、突破口を開くべく、うぱ松は携帯を握り締め廊下に向かった。
- 66 :
-
――やっぱり誰かに発信機が付けられてる。僕が甘かった……
敵を見るなり川に飛び込んだうぱ太郎は、水中で自分の考えの浅はかさを悔やんでいた。
しかし皆が静かにしているだけでコックピット内の空気は悪くない。
さっきの休憩でみんな落ち着いたのかと思いながら、うぱ太郎は通信用携帯のバッテリーを
セットし電源を入れる。そしてグローブボックスに動かないようにロックし通信ボタンを押した。
「うぱ松さん、聴こえますか?」
『……うぱ太郎君、お疲れ。いまうぱ松さん席外してるんだ』
少しだけ間をおいてスタッフの声が返ってくる。
「そうですか。……えーと、やっぱりって言うか残念ながらって言うか、敵が追ってきたんで
これから反対側の岸に上がって大通り向かいます」
『了解。それでうぱ松さんからなんだけど、いま通行止めになってるけど高速のインターに
向かえって。で、とりあえず幹線道路走って敵の出方を確認。て伝言あった』
「……高速ですか?」
『そう。うぱ太郎君、いよいよグレートサラマンダーZの力を解放する時がきたよ!』
「え……?」
緊張と期待を一緒にしたようなスタッフの声に、うぱ太郎の瞳はプラスチックで囲われている
スピードバルブ制御ダイヤルに釘付けとなった。
『スピードバルブ制御をカットしてアクセル全開で高速道路を使って逃げるんだって。うぱ松さんの
話だとメーター読みで時速350キロは確実に出るし400キロに届くらしいよ』
「400キロ!?」
非現実的なスピードにうぱ太郎はごくりと喉を鳴らす。
『そう。それで敵を置き去りにするんだって。敵ぶっちぎったらうぱ松さんの族時代の
知り合いにうぱ華子さん達を託してこの地区から遠く離れた警察に保護してもらう予定なんだ。
その知り合いにいま連絡してるんで席外してるけど、うぱ松さんじきに戻るから安心してていいよ』
――……凄い。時速400キロも出るんだ!
いよいよ持ってうぱ太郎はスピードバルブ制御ダイヤルから視線を離せなくなった。
通行量の少ない直線道路でアクセル全開のフル加速や最高速チャレンジを幾度も繰り返した。
時速150キロで制限された動力性能。すぐに乗りこなせたわけではない。しかしそれを容易に
操れるようになるのはたいして時間は掛からなかった。
うぱ太郎の体が震える。
それは不安ではなく、未知の領域に踏み込む歓喜の武者震いだった。
『それで厳しいとは思うけど街中走っているときに敵の編成とかどういった攻撃をしてくるか確認して
欲しいんだ。それ参考にうぱ松さんも作戦組み立てると思うから………… うぱ太郎君、聞いてる?』
「え? あ……。聞いてますです。敵の確認ですよね?」
スタッフの問いかけでうぱ太郎は我に返った。しかし依然、瞳は制御ダイヤルに捕らわれている。
『そう。敵が高速道路専用のバイクとか車準備してるかもしれないから追われる身で苦しいとは
思うけどたまに後ろ見てみて。ちょっとでも映像取れたらこっちで解析するから』
「了解です!」
――スピードバルブ制御カットしたらどんな相手にだって負けない!!!
……いや、落ち着こう。いまは逃げながら敵を確認することに集中だ!!!
ようやくうぱ太郎は気持ちを切り替える。そしてうぱ華子たちに街に出ると伝え、対岸に向かい
グレートサラマンダーZを発進させた。
- 67 :
-
「派手なアクションないなぁ」
「いやいやいや、民ちゃん。いまでさえ怪しいバイクに詰め寄られてるのに滅多なこと言わないでよ」
交通規制の敷かれた幹線道路。
至る所にパトカーが停まり赤色のパイロンが置かれている。その中をグレートサラマンダーZが数台の
バイクとピックアップトラックを引き連れて駆け抜けていく。
うぱ民子の言葉通り、後続の敵集団は川から市街に向かう幹線道路を走るグレートサラマンダーZ
を付かず離れず追い回すだけで銃器を使って仕掛けてくることはなかった。
うぱ太郎はグレートサラマンダーZを時々立ち止まらせては敵の様子を伺った。その度、敵集団も
その場に留まりグレートサラマンダーZが再び動くのを待った。
たまに見かける警官はグレートサラマンダーZとマシンガンを携えたライダーが乗るバイクを見ても
まったく意に介さず、知らない振りを決めこんでいる。通行人や建物から顔を出す者はただ唖然とグレート
サラマンダーZを見送っていた。
「うぱ松さん聴こえますか?」
『おう、膠着状態だな』
うぱ太郎は秘密基地に呼びかける。
席に戻ったうぱ松から、高速に乗ったらスピードバルブ制御をカットし、通行止めが解除になる約100キロ先
のインターを目指し走る。そこで手配済みのうぱ松の知人と合流、うぱ華子達を渡す。と、指示を受けた。
カワサキ製逆輸入車を駆るうぱ松の知人が合流場所に到着するのが約30分後。
その30分間、前半を市街地で敵の情報収集。そして後半で高速道路に乗り込む段取りである。
「相変わらず敵はオフロードバイク7台、ピックアップ3台で変わらないですね。川を出てから
攻撃はまったく受けてないです。市街地での銃撃戦はさすがにまずいですもんね」
『そうだな。いくら老人Xでも一般市民を巻き添えにするようなことは出来ないだろう。
敵にグレートサラマンダーZを無理矢理高速に追い込むような動きもないか?』
「ないですね。本当にただグレートサラマンダーZの後を付いてくるだけです」
『高速に乗せたいのか乗せたくないのか判断のしようがないな……。よし、ちょっと早いが
高速のインターに向かえ。付近まで行ったらまた敵の状況を確認だ』
「了解しました!」
うぱ松の指示のままにうぱ太郎はグレートサラマンダーZを走らせた。
脇道裏道を使うなどの小細工はせず、ひたすら大きな通りを使ってインターを目指す。
敵の数は一向に変わらず攻撃してくる気配もない。
老人Xの手によると思われる交通規制とうぱ太郎のスピードバルブ制御カットに掛ける期待の先走り
によりグレートサラマンダーZは瞬く間にインター入り口の案内板前に到着した。
グレートサラマンダーZを停めてうぱ太郎は緩い左カーブの先にあるインター入り口を確認する。
――通行止めになっているけどパイロンが立ってるだけで入り口は完璧には封鎖されてない。
グレートサラマンダーZなら余裕で通り抜けられる……。
やはり、高速道路に誘い込むのが目的なのかな……?
少しだけうぱ太郎は考え込む。
本線入り口ゲートのスペースは広いからそこで仕掛けてくる、もしくは特別な武器や車が待機している。
高速の本線に敵の主力部隊が待ち構えていて総攻撃を仕掛けてくる。……あるいは取り越し苦労。
しかし自分で考えても埒が明かない気がしてうぱ太郎はすぐに考えることをやめた。
入り口ゲート直前で再度基地に報告することだけを決めてうぱ太郎はグレートサラマンダーZを
ゆっくりと動かした。
- 68 :
-
「うぱ松さん、ゲート直前まで来ましたけど敵に変わった動きはないです。数も増えてないですし
こっちに向かってくることもありません。特別な車や武器もなさそうです」
ゲートの直前でグレートサラマンダーZを止め、うぱ太郎は基地に報告する。
『了解。なら早速乗り込むことにしよう。うぱ太郎、まず最初はスピードバルブ制御はそのままで
時速100キロ前後で移動しろ。6分、約10キロの距離だ。そこで敵にグレートサラマンダーZの
速度はそんなもんだと思い込ませろ。いま追われている敵のバイク、車もその速度なら余裕で出せる。
もし車が幅寄せしたり突っ込んできそうな気配を見せたらそのときはスピードを出して構わない。
まぁ100キロ出して事故ったらエアバッグ付いたでかいピックアップでも無傷では済まない。
そんな無茶はしないだろう。
進行方向前方に投げたら自爆の可能性もあるから敵は手榴弾を使えない。マシンガンで撃たれても
たいして気にすることはない、そのまま進め。
10キロほど走っても特殊な車やバイクが来ない場合、そのタイミングでスピードバルブ制御を変える。
オートマシフトはそのままで構わないがアクセルオフの状態じゃないと制御は切り替わらない。
アクセルを抜いた状態でまずはダイヤルをM300に合わせろ。それでじんわりアクセルを踏み込め。それで
メーター読みで時速300キロに到着する。そのあとまたアクセルを抜いてM∞に合わせろ。
その後もじんわりとアクセル操作すればグレートサラマンダーZはさらに加速する。
前にも言ったがスピードバルブ制御完全カットのM∞モードはモーターの持てる力をフルに発揮する。
しかし、ラフなアクセル操作をすればモーターが異常回転をきたし暴走する恐れがある。
全神経をアクセルワークに集中させろ。くれぐれもアクセルをベタ踏みするような馬鹿な真似はよせ。
高速に乗ってすぐに速そうで強力そうなのが出てきたらその時点で制御を切り替えて逃げろ。
最後に最悪の場合、高速から川に飛び込んで敵を撒くことも視野に入れている。その場合、気合と根性の
フルブレーキングが必要になる。念の為それも頭に入れておけ。以上だ』
「了解!」
うぱ松さん相変わらず話長いなと心の中で思いつつも、うぱ太郎は威勢良く返事を返す。
そしてはやる気持ちを抑えられずスピードバルブ制御を封印しているプラスチックカバーに手を伸ばした。
『うぱ太郎!』
「はいっ!」
まるで見透かしたようなうぱ松の声に、うぱ太郎はカバーに伸ばした手を思わず引っ込める。
『スピードバルブ制御を切り替えればグレートサラマンダーZは別次元の走りを魅せる。
しかし操作に慣れた今のお前なら充分に乗りこなせると俺は信じている。びびらずに自分の力を信じろ。
だからといって油断はするなよ。まだまだ何があるか誰にも分からない。慎重かつ大胆にだ。
今の内にカバーを外しておけ。走行中に切り替えられるようポジションも決めとけよ』
「了解!」
――……驕るな。……操縦には慣れたつもりだ。でも過信してちゃだめだ。
うぱ松の言葉を噛み締め、うぱ太郎は改めてカバーに手を伸ばした。
両側をマジックテープで固定された透明なプラスチックカバーを外す。ダイヤル式の制御スイッチが
あらわになる。
ダイヤルに手を添える。今までと同じシートポジションで問題ないことを確かめる。
振り向く。そしてもう何度目かわからない状況説明をうぱ華子たちに伝える。
- 69 :
-
「話し聞いてたと思うけど、これからとんでもないスピードで走ることになるからいままで以上に
シートベルトしっかりして何かあったら踏ん張れるようにしていて欲しい。
150キロ以上で走るのは僕も初めてで戸惑うかもしれないけど、なるべくみんなに負担掛けない
ように頑張るから」
「太郎ちゃん、ここってファイナルステージ?」
「……ファイナルステージって」
うぱ民子に話の腰を折られうぱ太郎は苦笑する。
「まぁみんなを目的地まで連れていってそこで別れることになるからファイナルステージでいいかな」
――変な子だと思ってたけど、場を和らげてもらってだいぶ救われたな。
休憩のときも民ちゃんに喉渇いたって言われなければ僕はそんなこと考えもしなかったはずだ。
相変わらず深刻さのかけらも無い表情のうぱ民子を見て、うぱ太郎は心の中で静かに感謝する。
「じゃあ、どっかでラスボス出て来るのかな?」
「うーん、僕的には出て来てほしくないけどね。……でも油断禁物だから注意は怠らないよ」
「倫ちゃん、なんか来る?わかる?」
「……わからない」
「はァー、あんたら平和だね。死ぬかもしれないっていうのに……」
「華ちゃん、あんまりプリプリしてたらラスボス来る前に高血圧で倒れちゃうよ。
ケセラセラ。なるようになるだよ」
「はいはい、もう怒る気力もないわよ。運命共同体の舵取りなんだから太郎ちゃんしっかり頼むね」
「じゃあ、そろそろ出発だね。太郎ちゃん」
「え…? あ… うん。なんか調子狂うな。それじゃあ、出発します」
取り止めのない話しを終えてうぱ太郎はグレートサラマンダーZを発進させた。
行き先が2つに分かれている。うぱ松の指示があった方面を表示板にて確認する。
どちらの道路も敵が陣取ったり封鎖されている様子はない。
――もし高速道路本線で敵が待ち構えているならどちらか一方に追い込みたいはず。
それもしないということは最悪上下線ともに敵が待機してるのかもしれない……。慎重に行こう。
一旦グレートサラマンダーZを停めて後ろを見る。
付かず離れずの位置で敵集団も停まる。ことさらゆっくりとグレートサラマンダーZを発進させて
本線に向かう緩いカーブの上り坂を進む。視聴覚モニターの片隅に敵の姿が離れて映る。
近寄られている気配はない。むしろ遠ざかっているように思える。
高速道路、本線合流地点。うぱ太郎はまたグレートサラマンダーZを停める。
後方の敵、変化なし。右見て左見て不審者、不審車無し。
夕暮れに近い通行止めの高速道路。
まるで閉鎖された空港跡地の滑走路のように、片側2車線の道路が悲しいくらい真っ直ぐに
彼方を目指している。
- 70 :
-
「うぱ松さん、聴こえますか?」
『おう、いよいよ本線だな』
「はい、状況は依然変わらず。新たな敵の姿も今のところ見えません」
『了解。俺の知り合いもスタンバイ出来てる。いつ出てもいいぞ』
「了解しました!」
基地との応答。
うぱ太郎、うぱ松ともに気負いもなく落ち着いている。
ナビの時計表示を確認しうぱ太郎、ゆっくりとアクセルを踏む。
グレートサラマンダーZ、約100キロ先をインターを目指し進み始める。
「なんか拍子抜けだ」
うぱ民子がつぶやく。
「いやいや、まだ3分も走ってないよ。敵が来るとしたらこれからかな。僕は来てもらいたくないけど」
ハンドルを握りながらうぱ太郎が答える。
後続を確認するため、時速100キロで左右に蛇行しながら敵の集団をモニターの片隅に映す。
――敵がこの調子ならスピードバルブ制御カットで一気に引き離せる。
ナビの時計表示がカウントアップする。
3分経過。いまだ敵の様子は変わらない。
うぱ太郎、そっとスピードバルブ制御ダイヤルに手を掛ける。
その時だった。
視聴覚モニターに、前方上空に浮かぶ妙な物体が映し出された。
思わずうぱ太郎はアクセルから足を離し、ゆっくりとグレートサラマンダーZを止めた。
「……何だあれ?」
「……鳥。じゃないわね?」
「UFOかな?」
「…………」
浮遊する黒い存在。
あまりにも違和感を発するその佇まいに、うぱ太郎含め誰一人答えを見出すことは出来なかった。
- 71 :
-
「……ヘリコプター……だと?」
映像モニターに映る小さな影を藪睨みにしてうぱ松はつぶやいた。
そして新たな敵の出現に騒然とする中で、プリントアウトされた画像を見たまま1人のスタッフがうめく。
「……狂ってる。……正気の沙汰じゃない」
「どうした?」
尋常でない言葉を耳にし、うぱ松は青ざめたスタッフに聞き返す。
「……AH‐64D。……通称ロングボウアパッチ。自衛隊機かどうか分かりませんが
日本には10機しかないはずの対戦車攻撃ヘリコプターです。……いくらなんでも相手が悪すぎる」
「対戦車攻撃ヘリ……? 火力の装備は!?」
スタッフの返事にうぱ松の声色が変わる。
「……30ミリ機関砲、誘導ミサイル16発、ロケット砲も積んでるかもしれません」
震える声でスタッフが答える。
「威力が判らない!具体的に言え!!!」
うぱ松の怒気のあふれる声が基地内に響く。
「30ミリ機関砲。工事現場によくある重機が乗る分厚い鉄板2枚重ねたって楽勝でぶち抜きます!
サブマシンガンとは次元が違います。いくらグレートサラマンダーZが頑丈でも蜂の巣にされますよっ!!!」
泣きそうな顔でスタッフが叫ぶ。
蜂の巣にされるという衝撃的な声にスタッフ誰もが言葉を失う。
―― これが……本命か……
映像モニター上で次第に攻撃ヘリはその姿をあらわにする。
―― 考えろ! いままでの状況を! 探せ! 突破口はどこにあるっ!!!
しかし思考とは裏腹にうぱ松もまた、ただ呆然とモニターの前で立ち尽くすだけだった。
- 72 :
- 今日はここまで。
- 73 :
-
「……凄い。……戦闘ヘリコプターだ」
目前に迫る現実感のない世界に、うぱ太郎はまるで人ごとのようにつぶやいた。
「……太郎ちゃん。……さすがにやばいんじゃないの?」
挟み撃ちにされた状況に、うぱ華子は弱音を吐く。
「後ろからは狼の群れ、前に現れるは孤高の虎。絶体絶命大ピンチ!」
緊迫した事態に、うぱ民子の声は心なしか弾んでいた。
「…………」
相変わらず、うぱ倫子無言。
「……たぶん大丈夫だよ。マシンガンとかで撃たれてもグレートサラマンダーZにはあまり
効かないからヘリコプターの機関銃みたいのも問題ない思う。
それにこの状況でミサイル撃ったら敵味方関係なく吹っ飛んじゃうから撃てないと思うし」
うぱ太郎、その場しのぎで適当に答える。
「……そうね。そうであってほしいけどね。……それにしてもたかだが大山椒魚型ロボット1匹に
ミサイル積んだヘリコプターまで出すなんてさすがご老人。やることがえげつないわね」
うぱ華子、余裕のない笑みを浮かべる。
「太郎ちゃん、どうするの? 悪者軍団みんなじりじりして固まっちゃったよ?」
うぱ民子、ハードアクションの世界に身を投じたいのかうぱ太郎を急かす。
「…………」
うぱ倫子、案の定無言。
「うーん、ちょっと予想外の展開なんでうぱ松さんに確認してみる」
前方から独自の風切り音を響かせながら攻撃ヘリがじわじわと距離を詰めてくる。
後方のバイク集団は逃げ道を遮るかのように道路幅いっぱいに陣を取りはじめた。
攻撃ヘリ搭載機関砲の破壊力など知る由もないうぱ太郎は、迫りくる危機にたいして構えもせず
呑気に秘密基地のうぱ松へ呼びかけた。
- 74 :
-
――本命は攻撃ヘリ機関砲。バイクからのマシンガンや手榴弾は逃げまわせるための手段。
攻撃ヘリはまだ撃ってこない。R頭に機関砲ぶっ放せばすぐに勝負は決着していたはず。
攻撃対象の延長線上に味方がいるので避けたのか……?
しかしいくら戦闘ヘリとはいえ構造上、戦闘機のようなスピードは出せる筈もない。
余裕かましてなぶり殺しにするつもりなのか……?
「くくくっ、あはははははっ!」
沈痛な空気が漂う基地内で、突如うぱ松が笑い出した。
「どうやら侮っていたのは俺のようだな、老人X。まさか攻撃ヘリまで持ち出すとはな、恐れ入ったぜ。
上等だ。売られたケンカ、喜んで買ってやろうじゃないか!」
映像モニターを睨めながらうぱ松は吼える。
「無茶な!」
「うぱ松さんっ!」
すぐにスタッフから悲鳴に似た声があがる。
しかしうぱ松はまったく耳を貸さなかった。
「そのアパッチとやらの最高速度は!?」
攻撃ヘリの性能を語ったスタッフにうぱ松は詰め寄る。
「……実測は不明ですが自衛隊機のロングボウアパッチは最高速度266キロと発表されています。
しかし簡易装備のアパッチは296キロ出るとも言われています。念のため300キロ強のスピードは
あると思ってたほうが無難かと思いますが……」
不安げに答えるスタッフをよそに、うぱ松は高らかに宣言する。
「それで充分だ。……奴らはグレートサラマンダZがヘリコプターを凌ぐ速度で移動できるなど
夢にも思っていない。その僅かな隙をつく!」
「しかし!」
「しかしもお菓子もない。やるしかないんだ。
大丈夫だ、我々には運もある。もし川に潜んでいた時にヘリで襲われてたら為すすべもなくグレート
サラマンダーZはやられていた。逃げ場を海にしていても同じことだろう。
人目をはばかっていた為ともいえるし単なる偶然のめぐり合わせかもしれない。
だが老人Xはそうしなかった。要はグレートサラマンダーZのスピードを舐めているってことだ。
障害物のない無人の高速道路なら、ゼロヨン10秒台の脚が炸裂する。30秒あればはるか1キロ先だ。
その時に気づいたってもう遅い。いくら戦闘ヘリとはいえグレートサラマンダーZには追いつけない。
あとはパイロットの度胸しだいだ」
「……狂ってる」
スタッフの1人が小さくつぶやいた。
老人X、マシンガン、対戦車攻撃ヘリ。そしてそれに真っ向から立ち向かおうとするうぱ松。
誰にむけられた言葉なのか。
しかし誰もそれを問いただすことは出来なかった。
「…………」
スタッフは皆、口をつぐむ。
『うぱ松さん、聴こえますか?』
直後、モニタースピーカーから場違いな程に気の抜けたうぱ太郎の声が流れた。
静まり返った基地内に、更なる静寂が訪れた。
- 75 :
- 今日はここまで。
- 76 :
- 来てた!乙ー!
- 77 :
-
『 ……? うぱ松さん、聴こえますか?』
スピーカーを通して、再びうぱ太郎の声が基地内に響く。
攻撃ヘリに狙われている筈なのに、その声に焦りや怯えの気配はない。
目の前の脅威を分かっていないだけ…… 知らぬが仏……なのか?
焦燥の沈黙の中でスタッフ面々は声も出せず苦悩する。
「……あぁ、すまん。聴こえている。……いかにもラスボスくさい奴が出てきたな、うぱ太郎」
2度目の呼びかけにうぱ松が口を開いた。
『……えぇ。さすがにやばいかなって思ってグレートサラマンダーZ停めちゃいました』
「あぁ、それでいい。まさか攻撃ヘリまで出してくるとはな。さすがに俺もここまでは想定して
なかった。もはや完全に常人の域を逸脱した狂った世界だな」
嘆かわしい言葉を出すも、うぱ松の口ぶりはいたって穏やかだった。
「うぱ太郎、よく聞け。この攻撃ヘリの機関砲はバイク野郎に撃たれまくったマシンガンとは比較に
ならないほどの破壊力がある。いままでのように撃たれても平気。って訳にはいかない代物だ。
2〜3発、いや1発でも貰えばグレートサラマンダーZの走行に支障をきたす恐れがある。
そのぐらいヤバイものだと肝に銘じてくれ」
『…………』
真剣な面持ちでうぱ松が語る。しかしうぱ太郎の返事はない。
「だがまだ手はある。基本はさっき伝えたことと同じだが、これから言う事を頭に刻み込め。
まず、敵はグレートサラマンダーZが時速400キロで走れるなど夢にも思っていない。
味方同士の相撃ちを考慮しているのもあるが、もしグレートサラマンダーZの性能を熟知しているなら
逃げられないうちに躊躇せず撃っていたはずだ」
『…………』
「逆に考えれば老人X軍はいつでもグレートサラマンダーZを倒せると思い込んでることになる。
そこで相手が余裕かまして油断しているところを突いて一気に逃げ切る。
手始めに後続のバイク軍団に突っ込んで暴れろ。別に倒さなくてもいい、敵の輪の中に入っていれば
攻撃ヘリは機関砲を撃つことが出来ないってことだ。
次にひと暴れしたらなるべくバイク野郎の近くで動きを止めてスピードバルブ制御をM300に切り替えろ。
おそらくバイク軍団は攻撃ヘリが撃ちやすいようにグレートサラマンダーZから距離をとるはずだ。
その瞬間、アクセルを全開にしろ。矢よりも早くグレートサラマンダーZは駆け抜ける。
ベストのタイミングは攻撃ヘリと正面切って向き合ったときだ。いくら空中とはいえ1秒2秒で
ヘリが方向転換するのは難しい。それに攻撃オペレーターがいるとは思うが猛スピードで走るグレート
サラマンダーZに瞬時照準を合わせられるとは思えない。その敵が体勢を整える僅かな時間でケリをつける。
とにかく初動のタイミングとその後の全開走行が鍵だ。
M300でアクセル全開。300キロになったらすぐに制御をM∞に切り替えてアクセルワークに注意して
400キロで逃げろ。相手が油断してもたつく様なら速攻で勝負ありだ。たとえ攻撃ヘリだろうとグレート
サラマンダーZに追いつくことは出来ない。通行止め解除区間に到着すればもう敵は機関砲を撃つ
こともままならないはずだ」
『…………』
「空中を自由に舞えるという利点がヘリにはある。しかしいま乗っている高速道路は目的地まで比較的
カーブも少なく、たとえ直線的に迫られてもそう易々と尻尾をつかまれることはない。
最高速はグレートサラマンダーZの時速約400キロに対してヘリは約300キロ、加速力も乏しい。
約100キロ先がゴールの20分間全開全速かけっこ競争だ。難しいことは何もない。
ただ制御を切り替えたグレートサラマンダーZの加速力はオート制御とはまったくの別物だ。
初動からの加速重力と、M∞に切り替えてからのアクセルワークには充分気をつけろ。以上だ」
『…………』
うぱ松の長い演説が終わる。
たしかに機関砲の威力の説明はあった……。しかし……。
誰も口に出せなかった。基地内のスタッフ達はただうつむいてうぱ松の話しを聞いているだけだった。
- 78 :
-
――やばいな。嘘ついちゃった……。
戦闘ヘリの機関砲をマシンガンと同等と思っていたうぱ太郎は、うぱ松の話しはそっちのけで
つい今しがたうぱ華子達に軽々しく大丈夫と言ってしまったことを心の中で気にしていた。
『何か質問はあるか?』
「あ…? えーと……」
コックピットに響くうぱ松の問いかけにうぱ太郎は言葉を詰まらせた。
――バイク軍団に突っ込んで暴れて、戦闘ヘリと向き合ったらM300にして、アクセル全開で300キロ
なったらM∞に切り替えて注意してアクセル踏んで400キロ近く出す。よし、大丈夫!
「えーと、戦闘ヘリの機関銃ってそんなに凄いんですか?」
言われた事を頭の中で整理できたうぱ太郎は、いま自分が気になっていることをうぱ松に尋ねた。
『 ……。……グレートサラマンダーZにとって、今までの拳銃やマシンガンがゴム鉄砲なら、
攻撃ヘリの機関砲は立派なエアガンぐらいの威力になる。当たり所が悪ければ相当まずい。
だが、主要駆動部分とコックピットはそれなりに強化しているから、もし撃たれたとしてもいきなり
手足がもげたり爆発するようなことはない。ただ万が一当てられて走行不能になったら
すぐに口を開けてコックピットから脱出しろ。口の開閉モーターはメインモーターとは別回路で
バッテリー直だから閉じ込められることはないと思うが、脱出経路は早めに確保したほうがいい』
「……了解です」
――やっぱり、マシンガンみたいに受け流すことは出来ないんだ……。
グレートサラマンダーZから脱出なんていままで一度も言われたことがないのに……。
やはり僕の考えが甘かった。相当気合いれないとまずいな……。
気を引き締めたあと、うぱ太郎は視聴覚モニターを見つめた。
ローターの上には鏡餅みたいなモノが乗っかっている。蜂の巣のようなもしくは輪切りにされた
レンコンのようなものが両翼下についている。翼先端にはよくある戦闘機のように、ミサイルらしき
ものが装備されている。着陸用のタイヤも3つ、むき出しになっている
そこまで明確に見えるほど攻撃ヘリはグレートサラマンダーZに近づいていた。
ハンドルを少し切り後方も確認する。バイク軍団は通せんぼをするかのように道幅一杯に陣を広げている。
「うぱ松さん、聴こえますか?」
『おう』
「僕がタイミングとって突っ込んでいっていいんですか?」
『あぁ、任せる。向こうさんは多分こちらの出方を伺ってるんだろう。さっきも言ったように
バイク軍団に紛れていればヘリは機関砲を撃てない。うぱ太郎の間合いで一気呵成に飛び込め』
「了解しました!」
ごくりと息を呑んでうぱ太郎はハンドルを握り直した。
そして視聴覚モニターを睨んだまま話し始めた。
- 79 :
-
「ごめん。さっき何も考えないで大丈夫って言っちゃった」
「……いいわ別に。……ずっとこんなもんだから感覚マヒしてきちゃったし」
「気にしない気にしない。それよりいよいよ盛り上がってまいりました!」
「…………」
うぱ太郎の言葉にうぱ華子達は三者三様に答える。
「……何回言ったか分からないけど、また暴れることになるんでみんなしっかり身体支えてて。
あと話し聞いてたと思うけど、急発進でフル加速するんだけど、かなりGかかって気持ち悪くなる
かもしれないから注意して。正直、僕も150キロ以上の加速はどんなものか経験ないんだけど」
「……了解」
「いつでもOKだよ!」
「…………」
うぱ華子は少しだけ不安と苛立ちを見せる。
一方、うぱ民子は無邪気を通り越して能天気にはしゃいでるようにしか見えなかった。
『うぱ太郎、聴こえるか?』
そして、うぱ倫子の無言の返事に重なるようにスピーカーからうぱ松の声が流れた。
「はい!」
『もう一度言うが、この作戦は初動が全てだ。攻撃ヘリと正面切って対峙しても怯むな。
躊躇すればそれだけ相手に時間を与えることになる。心に決めたら一気にアクセルを踏め。
敵に背中を見せることになるがびびるな。けして後ろは振り返るな!』
「了解っ!!!」
うぱ松の声が引き金になった。
「うぉおおおお!!!!!」
ハンドルを目一杯左に切り、雄叫びとともにうぱ太郎はアクセルを踏み付けた。
路面を激しく掻きむしり、グレートサラマンダーZ、バイク軍団に向かって突っ走る。
――跳べ!
迷いもせず真正面から突っ込み、跳ねるボタン押下。
横並びのバイク軍団1人に頭からぶち当たり、左右2人を道連れに、バイクごと薙ぎ倒す。
着地時流れた後ろ足を逆ハンドルで踏ん張り再アタック。4人目を沈める。
目で敵を追う。
「待て!!!」
うぱ松の言った通り、無傷のバイク3人は既にアクセルターンで向きを換えていた。
――間に合わないっ!
すぐに目標を代え、うぱ太郎は倒れたライダー1人に襲い掛かる。
ライダーの腕が奇異な方向に折れる。そしてのたうち回る。
――僕は謝らない! 恨むなら老人Xを恨め!!!
即座にグレートサラマンダーZを立たせ、すぐ戻す。
もんどりうっているライダーを押さえ込み、攻撃ヘリを探す。
――撃てるものなら撃ってみろ!
攻撃ヘリコプター、進行方向前方正面。距離は変わっていない。
足蹴にしたライダーは力なくもがいている。
- 80 :
-
――大丈夫、今日は乗れている。
周囲を確認した後、スピードバルブ制御ダイヤルへ視線を送る。
過信でも驕りでもない、余裕はある。と胸にこめ、うぱ太郎は制御ダイヤルに手を伸ばす。
アクセルオフ、オートマシフトをニュートラル、ダイヤルをAUTOからM300へ切り替える。
一呼吸置いてアクセルを煽る。
―― や ば い !?
本能的な直感だった。
ありえない音圧がコックピットを震わせた。
猛獣の咆哮。近づいてはいけない領域。
グレートサラマンダーZのモーター音が著しく変化した。
それはうぱ太郎が知るグレートサラマンダーZの音ではなかった。
『うぱ太郎っ! びびるなっ!!!』
通信スピーカーからうぱ松の檄が飛ぶ。
――暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走……
うぱ太郎の中で再三聞かされたうぱ松の言葉が繰り返された。
体感一発で、それが脅しでないことをうぱ太郎は理解する。
気持ちを落ち着かせ、空ぶかし1回2回3回。さらにアクセルを強く踏み込む。
――これが本当のグレートサラマンダーZの音……
怯みながらも暴圧的な音質に身を委ねる。
そして、びびるな。けど驕るな。と、心の中で何度も唱え続けた。
『うぱ太郎、聴いてるのか!!!』
うぱ松の怒鳴り声。
「うぱ松さん!!!」
『おう!』
負けじとうぱ太郎も声を張り上げた。
「これちょっとうるさ過ぎですよ! ったく、これだから族上がりって言われるんですよ!!!」
- 81 :
-
一瞬の沈黙のあと、通信スピーカーの向こうが大いに沸き上がった。
『言うねぇ、うぱ太郎君』『この際だからグレートサラマンダーZにゴットファーザーホーン付けようぜ』
『うぱ太郎君、うぱ松さんヒクヒクしてるよ……』『致命傷ぐらいで済めばいいね。うぱ松さんのヤキ』
スタッフの冷やかしの声が次々とあがる。その後にひと際大きな声でうぱ松が笑った。
『うるせーだと? このこだわりの音が分からないなんてうぱ太郎もまだまだだな。
……まぁいい。ともかくその意気で頼む。ビビッてんじゃねーぞ!気合入れろや!!!』
「了解!!!」
うぱ太郎の返事とともにスピーカー越しの喧騒は納まった。
すぐに気持ちを切り替えて視聴覚モニターを睨む。依然として攻撃ヘリとの距離は変わらない。
倒れた仲間を救おうとしているのかピックアップ1台が様子伺っている。それ以外のバイク軍団は姿を
消していた。
――真下を通れば死角になって戦闘ヘリは一瞬だけどグレートサラマンダーZを見失うはず……
すぐに機関砲は撃てない。迷うな。ためらうな!
「これから出るから!!!」
うぱ太郎、叫ぶ。
うぱ華子達の返事を待たずに強引にアクセルを踏み込む。
秘められた力が開放する。
爆音を置き去りにしてグレートサラマンダーZ発射。
「ぐぉ…!!!!!」
「…ん…あっ……」
「凄っ!?」
「?……!!っ」
瞬きする間もなくスピードメーターは時速100キロを越えた。
はらわたが押しつぶされそうな圧力と奇妙な浮遊感にうぱ太郎は思わず体のありかを探す。
急速に視界が狭まり、景色が糸になって流れていく。
それでもうぱ太郎は歯を食いしばりながらアクセルを踏み続けた。
―― まだだ。まだアクセルに余裕はある……
スピードメーターは時速200キロを越えた。
グレートサラマンダーZ専用となった通行止めの高速道路。比較対象は何処にもいない。
だが、時速150キロの速度しか経験のなかったうぱ太郎にとって200キロ超の
スピードはすでに狂気の世界だった。
―― びびるな! 踏み抜け!!!
「うぉおおおおぉおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
うぱ太郎、絶叫する。
エラが虹色に輝く。うぱ華子の小さな悲鳴を残しグレートサラマンダーZはさらに加速する。
そしてスピードメーターは時速270キロを越えた。
- 82 :
- 今日はここまで。
- 83 :
-
プカァ
__
(( / +( ゜д゜)+ ))
| ∪∪
/ /∪∪
V
- 84 :
- ちょうど腹が減っていたんだ。
- 85 :
-
――1分1キロで時速60キロ、6秒で100メートル、1秒で16.6メートル
時速300キロだから5倍にすれば1秒で約80と3メートル
時速400キロだと6.6倍の16.6メートル…… 暗算無理!
視線をずらすのはもちろん瞬きさえためらう状況下、うぱ太郎はただ一点を見つめて
意味不明な秒速の計算をしていた。
接地感に乏しく、アクセルを踏む右足はもとより床で踏ん張る左足でさえも捉えようのない
不安が付きまとう。目を離したら先のない世界にハンドルを握るうぱ太郎の手がこわばる。
ビュィビュィビュィビュィビュィビュィビュィビュィ……
「うわっ!」
「な、何っ!!!」
うぱ太郎、うぱ華子が同時に叫ぶ。
「太郎ちゃん、300キロ出てる!」
密かにモニターを凝視していたうぱ民子が指を指す。
突然モーターが小刻みに唸った。それに連動しコックピットに細かな衝撃が続く。
グレートサラマンダーZ、時速300キロを越える。その瞬間、リミッター作動。
――やばい!ダイヤル切り替えなきゃ!!!
アクセルオフ!ダイヤルM∞!
うぱ太郎、いきなりアクセルオフ。
その瞬間、がくんと全員が大きく前につんのめった。
――なっ……!?
150キロ制限でリミッターを作動させたことは幾度もあった。
操縦には慣れたつもりだった。うぱ松の話もちゃんと聞いていたつもりだった。
自分は上手くやれると信じて疑わなかった。
うぱ民子の声、グレートサラマンダーZの挙動でうぱ太郎は痛感する。
グレートサラマンダーZの真の性能に自分が追いついていないことを。
そして自ら吐いた言葉とは裏腹に自分がいかに驕り、思い上がっていたかを。
―― …………。
うぱ太郎に呼応するかのようにグレートサラマンダーZ失速。
――僕は……
いまだ200キロを大きく超えるスピードでグレートサラマンダーZは迷走する。
何度も何度も打ちのめされた。しかしその度に成長してると信じていた。
胸をよぎる。もう無意味かもしれないと。
それでもうぱ太郎は秘めたる想いを心の中で叫んだ。
――認めろ。僕はまだまだだ。……でも落ち込んでる暇は無い! 僕は約束したんだ!!!
視聴覚モニターを見つめながらこわばる左手をハンドルから離した。
そして指を2〜3度曲げ伸ばし、うぱ太郎はスピードバルブ制御ダイヤルに手を添えた。
- 86 :
-
「あはは、みんなごめん。焦っちゃった!」
「……!?」
気まずさを笑ってごまかすうぱ太郎。
コックピットに一瞬ビミョーな空気が流れる。
「どんまい。バッチこーいッ!!!」
うぱ民子はケラケラと笑いだす。
「あんたら……」
シートでずっこけたまま、うぱ華子は愛想を尽かしたようにあきれ顔を作る。
「…………」
密かに腹を立てているのか無言のままうぱ倫子は口を尖らせた。
急激なアクセルオフでグレートサラマンダーZのスピードは一気に230キロまで落ちこんだ。
しかしそれが幸いする。途切れた加速感から解放されたうぱ太郎は慎重かつ大胆にダイヤルをM∞に切り替える。
そしてつま先を意識してじんわりとアクセルを踏み直した。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
視聴覚モニター下部に赤文字で注意を促すメッセージが点滅し始める。
充分に表示を確認し、うぱ太郎はハーフスロットルから徐々にアクセルに力を込めた。
240、250、260、270、280……
グレートサラマンダーZが再び加速を始める。
290、300、310、315、320……
途切れることなくスピードメーターの数値は上昇する。
――落ち着いてれば大丈夫。300キロ超えてても怖くない。
開き直ったのか根拠の無い悟りを開いたのかうぱ太郎の身体からはすっかりと力が抜けていた。
空気抵抗によるものかGTオートスポイラー作動によるものなのか310キロから鈍った加速力が、
グレートサラマンダーZの挙動とうぱ太郎の心に安定をもたらした。
323、326、330、333、336……
アクセルにまだ余力はある。しかしうぱ太郎は焦ることなく、優しくつま先に力を加える
だけだった。
340、342、344、346、348…… そして350キロを超えた。
――どのくらい走ったんだろう? パニクってたから全然わからないや。
でもヘリコプターに撃たれてる気配は感じないから大丈夫。
ここからさらにスピード上げて400キロ目指す!
田舎の山間を縫うように走る高速道路。だが、なだらかなカーブや坂はグレートサラマンダーZの
走りになんら支障をきたさなかった。
うぱ太郎は視聴覚モニターを睨んでいる。が、機体の安定がコックピット内にも伝わったのか
いつのまにかピリピリとした緊張感は消えていた。
加速感は途絶えたがグレートサラマンダーZはじりじりとスピードを上げ、メーターは
時速380キロに達しようとしている。
- 87 :
-
「ねー、なんで太郎ちゃんのエラ光るの?」
「え…? えーと…」
常識を超えたスピードに身を投じ、その世界にうぱ太郎は順応しつつある。
「えーと僕とグレートサラマンダーZって遺伝子とかDNAとかそんなので引かれ合って
いるみたいで、僕の感情が爆発したとき共鳴っていうことで光るみたい」
うぱ民子の質問に視線をぴくりとも動かさず、だが余裕を持ってうぱ太郎は答えた。
「シンクロしてるんだ」
「よく分からないけど、僕が怒鳴ったりするとグレートサラマンダーZもたまに重低音で
超音波出したりするからそういうことだと思う。それが理由でパイロットにも選ばれたし。
それにうぱ松さんは別だけど基本的に他の人が乗ろうとしても乗れないようになってるし」
「太郎ちゃん専用?」
「そう。コックピットの鍵は僕自身なんだ。僕が近づけば口が開いて中に入れるし、外に
出て距離をとれば勝手に閉まる」
「凄いなー」
「僕が作った訳じゃないけど本当に凄いと思う」
ハンドルアクセルに気をつかいながらもスムーズに会話は出来た。
パニクってるとき話しかけられたらキレてたかもしれないとうぱ太郎は心の中で苦笑する。
おおよその時間経過を判断し、目標地点への到着時刻が気になり始めた頃、通信スピーカーから
うぱ松の呼び声が流れた。
『うぱ太郎、聴こえるか?』
「あ、はい!」
モーター音を考慮し、うぱ太郎は大きめの声で返答する。
『余裕だな。だいぶ話も弾んで楽しそうじゃないか』
「いえいえ。結構って言うかかなりいっぱいいっぱいです」
素直に答えた。やっと今になって言えることだった。
通信が入ったなら目標地点到着もそろそろかとうぱ太郎は思案する。
『……時速390キロか。だいぶ頑張ってるな。メーター誤差マイナス5パーぐらいだから
実際のところは約370キロってとこだ。目標地点まであと10分もあればお釣りがくる。
インター駐車場で緑の単車が待ってる。調子に乗りすぎて降りるインター通り過ぎたりするなよ』
「了解です。……えーと、うぱ松さん?」
少しだけヘリコプターのその後が気になる。しかし、そのことを口にもせず堂々と喋るうぱ松に
うぱ太郎は話を出しそびれた。
『なんだ?』
「えーと、さっきはうるさいとかって生意気言ってすいませんでした」
『気にするな。小僧は生意気ぐらいで調度いい。それより合流地点はもうすぐだが最後まで気を抜くなよ』
「了解です!」
- 88 :
-
――時速350キロ以上のスピードで逃げたんだ、もう大丈夫。
それに確認しようにもこのスピードで後ろ向いてたら間違いなく事故る。
結局ヘリコプターのことは聞かずじまいで終わる。でもそれはもうどうでもいいことだった。
切り替えてうぱ太郎は頭の中で段取りを確認する。
到着予定は約10分後。料金所を出たすぐ脇で緑色のバイクが待っているのでその人にうぱ華子達を
保護してもらう。その後、通信用携帯のバッテリーを外して川を使って基地に戻る。
――結局、戦闘ヘリからは1度も攻撃を受けなかった。作戦が綺麗にはまったのかな?
……戦闘ヘリとの戦いというか、グレートサラマンダーZと僕との戦いだったな。
あるいは僕が僕自身と戦うような……。
乗りこなせた思ってたけどまだまだグレートサラマンダーZの奥は深い。
うぱ松さんに怒鳴られないようもっと頑張ろう。
うぱ太郎の中で長かったパトロールが終わろうとしていた。
目的地のインターでうぱ華子達を降ろせば大役は終わる。そのあと、携帯のバッテリーを外して
ナビ頼りに川にでも飛び込めばもう攻撃を受けることもない。造作もないことに思えた。
「ねぇ、もうすぐ到着地?」
「……あ、うん。あと10分もかからないと思う」
今日の出来事を振り返っていたうぱ太郎にうぱ華子が呼びかける。
「一時はどうなることか思ったけど何とかなりそうね」
「……うん。ここまでくれば大丈夫かな。もし戦闘ヘリに追いつかれても通行止め解除に
なってるはずだから最悪一般車に紛れ込めば機関銃も撃てないだろうし」
「人目につく場所じゃマシンガン撃たなかったからね」
「そう。さすがに老人Xでも一般人を巻き添えには出来ないと思うしね」
会話が途切れ、うぱ華子は大きくため息をついた。
相当疲れただろうとモニターを見つめたままうぱ太郎はうぱ華子の身を案じた。
無口なはずなのに危機に直面するごとに盛り上がるうぱ民子。終始無言のうぱ倫子。
アクティブな不思議ちゃんとちょっと不気味な不思議ちゃんに比べれば、うぱ華子はまともな感覚の
持ち主に思えた。それゆえこの異常な状況では気苦労が絶えなかっただろうと今更ながら気遣う。
――あともう少しで僕の役目は終わる。でも最後まで気を抜くな!
ナビはあるけど降り口通り過ぎないように念のため基地から指示出してもらおう。
もう逃走劇も最終段階に突入していた。
最後の最後で失敗しないようにうぱ太郎は減速指示をもらうよう基地のうぱ松に呼びかけた。
- 89 :
-
秘密基地。
うぱ太郎の決死の逃走が見事にはまり、攻撃ヘリ出現で一気にはびこった悲壮感あふれる空気は
だいぶ払拭されていた。
猛スピードで驀進するグレートサラマンダーZから送られる映像データーをスタッフ達は逐一チェックし、
事ある毎に映像を分析した。死角はあるが後続を映す映像には攻撃ヘリの姿はおろか影すらも見当たらない。
いけるかも……。誰もがそう思い、成功を信じた。そしてそれは確信に変わり始めていた。
『うぱ松さん、聴こえますか?』
「おう」
うぱ太郎とうぱ松との会話も、グレートサラマンダーZのコックピットでの会話もすべて基地内で
筒抜けである。
コックピットと同じように基地内のスタッフもうぱ太郎が落ち着きを取り戻すに連れ、明るい
表情を取り戻しつつあった。
『すいません、ナビあるんですけど念のため降り口の前で指示もらえますか。スピード出すぎて
るんで減速の加減が分からなくて』
「了解。とりあえずいきなりアクセル抜くなよ。がっつり衝撃来るからな」
『……すいません、それさっきやっちゃいました』
さっきのあれか。とスタッフが口にする。そういえば急にスピード落ちたなと誰かが答える。
急激に失速したあとにスピードバルブ制御が切り替わったことをうぱ松も思い出し苦笑する。
「了解。……降りるインターの5キロ程前から減速を始めろ。最初はじんわりとアクセルを抜け。
200キロ前半まで落ちたらブレーキ使い始めろ。150キロまで落ちたら制御をまたAUTOにもどせ。
そのくらいだ。指示は出すが気は抜くなよ。位置情報の正確さはグレートサラマンダーZの積んでる
ナビのほうが上だ。基地からの指示はあくまで目安だと思え。あとはうぱ太郎次第だ」
『了解です!』
――……素直な奴だ。攻撃ヘリの機関銃の威力を少なく見積もって伝えたのは正解だったな。
それでもあの状況下を無事に切り抜けた。大したもんだ。
安堵の笑みがこぼれる。
しかしスタッフに気づかれないようにすぐさまうぱ松はマイクを握り直した。
「うぱ太郎!」
『はい』
「……今日は頑張ったな」
ねぎらいの言葉。
スタッフ誰もが驚いた顔でうぱ松を見つめた。
『……はい』
「……これからスピードバルブ制御はお前の好きなときに変えていい。好きなだけ走りこんでいつか
俺をぎゃふんと言わせて見ろ。まぁ10年早いと思うがな」
『はい!』
スピーカー越しのうぱ太郎の声が弾んでいた。
良き師弟関係……。スタッフ誰もが目を細めた。
- 90 :
-
「インターで待ってる男は俺がいた族の頭だ。いい奴だが口の利き方には滅法うるさいからな。
失礼のないようにしろよ」
『はいっ!』
「久々のうぱるぱ救出活動だ。最後まで気合入れろよ!」
『了解で うわっ!!!』
うぱ太郎の小さな叫び声。
一瞬で基地内の空気が暗転する。
「……? どうした。うぱ太郎?」
すぐさまうぱ松は映像モニターに目を移した。
『わかりません。なんかいきなり横風に煽られたみたいになって……』
「横風……?」
モニターに映る景色に何ら異常は見当たらない。
しかし、スタッフの声で状況は一変する。
「馬鹿なっ!うぱ松さん、爆発です! 攻撃ヘリのミサイルかもしれません!!!」
「なんだと!」
「ミサイルです! グレートサラマンダーZ後方左側に着弾しています!!!」
もうすぐ終わると誰もが信じていた。
叶わなかった。描いていたシナリオがたったいま音を立てて崩れた。
「馬鹿な!グレートサラマンダーZは外温と同化するから温度差識別や赤外線では追尾できない!
それに敵に姿は見えないはずだ、誘導ミサイルなど当たるはずがない!!!」
怒鳴るうぱ松に青ざめたスタッフが呪文を唱えるように返した。
「ヘルファイアミサイル。最新式は射程10キロメートル、ハイテクノロジー化により誘導追尾方式
は多種多様。もしミサイル誘導チップが誰かに組み込まれたとしたら……」
「何?」
『うわぁああああぁああああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!』
『きゃぁあぁあああぁぁああああああぁぁあぁぁああああああああああぁああああああああああああああああ!』
『ひゃあああああああぁああああああああぁぁぁぁぁああああぁあああああああああぁぁぁああああああああ!』
『っ!!!!!!?!!!?!!!!??!??????!!!!!!!!!?!!!!!!!????!!!』
その刹那、通信スピーカーから絶叫が響いた
「どうした!うぱ太郎っ!」
応答。そして映像モニターを見たうぱ松、目を疑う。
―― 空…だと…?
青。一面大写しの空が映像モニターを支配。
対戦車戦闘ヘリ、誘導ミサイル、射程10キロメートル。時速370キロ。
――まさか2発目? 爆風で吹き飛んだ???
『ああぁああああああぁああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!』
『ぁあぁぁああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあああああぁぁぁあああああああああああああぁ!』
『あああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁああああああああぁあああ!』
『!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!?????!!!!!!!???????!!!』
- 91 :
-
「うぱ太郎っ!!!」
映像モニターから瞬時に把握。
――きりもみじゃない! 姿勢は安定している!!! 平地に着地出来れば何とかなる!!!!!
「うぱ太郎っ!落ち着け!!!前を見ろっ!!!!!」
うぱ松、叫ぶ。
しかし新たな危機が迫る。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走危険!!! 】
―― 何っ!!!
モニター下部、緊急メッセージ激しく点滅。
「オーバーレブだと? ……!?っ まずい!うぱ太郎アクセルを抜けっ!!!!!」
無負荷、空転。限界まで回ろうとするメインモーター。
『うわぁああああああああああああああぁあああああああああぁああああああああああぁぁぁあああああああ!』
『きゃぁあぁあああああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあぁああああああああああああああああ!』
『ひゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁああああぁあああああああああぁぁぁあああああああああ!』
『っ!!!!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!!!!!!!!???????!!!?』
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走危険!!! 】
「落ち着けっ!アクセルを抜け!!!!!うぱ太郎っアクセルを抜けっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あらん限りの声でうぱ松、叫ぶ。
『うわぁああああああああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!?』
『きゃぁあぁあああああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあああああああああああああああああ!?』
『ひゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁあああああああああ!?』
『っ!!!!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!!!!!!!!???????!!!?』
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走モード突入!!! 】
「馬鹿野郎!アクセルを抜け!うぱ太郎っ!!! おわっ!」
突然、映像モニター、増設モニターから閃光が飛び散った。
- 92 :
-
「 ――――っ …………?」
モニター群。ホワイトアウト、砂嵐、そしてブラックアウト。
「 ……何が ……何が起こった??? 」
光の残像に眼が泳ぐ。
数回の話中音ののち、余韻を残したまま通信スピーカーは無音になる。
「……うぱ太郎?」
呆然。
「…………」
誰一人声を出せないスタッフ。
「うぱ太郎っ!」
通信マイクを握り締め叫ぶ。
位置情報システムからグレートサラマンダーZのマーカーが消えた。
「うぱ太郎っ!!!」
握り拳で通信ボタンを力任せに殴りつけた。
『……おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけになった……』
無常なアナウンスが基地内に響く。
「うぱ太郎、ふざけるなっ! うぱ太郎っ!!!」
握り締めたマイクを床に叩きつける。叫ぶ。
「うぱ太郎おおおっ!!!!!!!
映像データー受信遮断。位置情報システム所在地確認不可。通信システム圏外により通話不能。
うぱ松の声は届かない。
2発のミサイル攻撃を受けたグレートサラマンダーZ、消息不明――――
第3章「 うぱ太郎、絶叫する。」 完
- 93 :
- 今日はここまで。
次回から第4章「 グレートサラマンダーZ、たいむとらべる。」へ突入。
忙しい&ある程度書き溜めたい。ので1週飛ばして15日から新章スタート予定。
146KB ……容量大丈夫かな?(ただダラダラと長いだけだがw)
- 94 :
- 乙、容量ならまだまだ心配要らないよ
350KB一気投下とかしないかぎり大丈夫
- 95 :
-
第4章「 グレートサラマンダーZ、たいむとらべる。」
霞ひとつない無垢な空。
冬のなごりなのか、遠くの山肌に見える雪がやけに目に沁みる。
「……?」
まったく見覚えの無い場所で気がついた。
「……何処だ? ……ここ?」
視聴覚モニターに映る残雪に違和感を覚え、発せられる強い反射光に眼が眩んだ。
「……痛てててて」
身体の節々から鈍痛が湧き上がる。
何が起こったのか理解できず、もやが掛かったような曖昧な記憶を探る。
「 …………。」
高速道路。
今、そこにいるはずだった。
――……戦闘ヘリ出現。アクセル全開で逃げる。
あと5分で目的地到着。緑の単車の人に華ちゃん達を託して…………
「やばっ!戦闘ヘリっ!!! ――――?」
眼を見開き視聴覚モニターを睨む。敵の姿はない。
即座に振り返る。後部座席にうぱ華子、さらにその後ろでうぱ民子うぱ倫子がシートで気を失っている。
混乱。
次第に鮮明になる記憶から、重要な何かがすっぽりと抜け落ちている。
――訳わからない……。 ここ何処だ……?
風に煽られた気がして、その後……
高速道路から一転、まったく理解不能な場所にいる。
まず状況を確認するのが先決と思い、うぱ華子を揺り起こそうとした手を止めた。
そして今ひとつ釈然としないまま、うぱ太郎は再び視聴覚モニターを眺めた。
- 96 :
-
「……?」
モニター下部で点滅する赤文字に気づく。
見覚えはある。しかし何かが微妙に違っていた。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
【 下記エラーメッセージをお控えのうえ、至急サービスマンにお知らせください 】
【 自己診断モード:リピートリングモーター動作停止 】
【 障害発生(モーター部)の為、走行機能停止中。至急サービスマンにお知らせください 】
「なっ!!!」
衝撃的なメッセージが飛び込んできた。
反射的にアクセルを吹かし、大きくハンドルを切った。
ぴくりとも動かない。
シフトレバーをガチャガチャと忙しく、そして優しく丁寧に動かした。
しかしうぱ太郎の願いむなしく、グレートサラマンダーZは何の反応も示さなかった。
――……やばい、動かない。
点滅する赤が鼓動を煽る。
しかしそれだけでは留まらない。うぱ太郎の受難はさらに続く。
【 0000−00−00 02:36 】
【 位置情報を取得できません。GPSアンテナの接続を確認してください 】
眼を移した先のナビモニター。
自動で更新されていく地図画面が消えている。
代わりにオールゼロの日付とアンテナ故障を思わせるメッセージが異常事態を主張していた。
うぱ太郎の額から汗が噴出す。
――まずい、ナビも壊れてる。
うぱ松さんに怒られる……。って言うかナビないと帰り道わからない。
いや、グレートサラマンダーZも動かないし、とにかく基地に連絡しないと……。
壊してしまったという負い目はある。
しかし1人で悩んでも解決できる問題でないことは容易く想像できた。
それに報告連絡相談の徹底は、うぱ松から耳にタコが出来るほど聞かされている基地の方針である。
深呼吸のあと、少しだけ震える指でうぱ太郎は基地通信ボタンを押した。
「……?」
おかしかった。
いつもなら通信ボタンを押した直後に呼び出し音がする。
そして呼び出し音5回以内に必ず誰かが応答していた。
しかし、それが今は通信ボタンを押してもしばらく無音の後、スピーカーから通話中音が
虚しく響くだけだった。
- 97 :
-
「 …………。」
何度も通信ボタンを押す。しかし結果は変わらない。
通信システムが不通に陥るなど経験もないし、考えたこともなかった。
うぱ太郎の汗が冷や汗に変わる。
携帯電話が繋がるか否かは現代社会における生命線のひとつでもある。
頭の中がぐるぐるになるまで考える、考える。
「あっ! もしかして!?」
うぱ太郎は小さく叫んだ。
流れる汗を拭う。そしてグローブボックスを開け、携帯電話のクリアボタンを押した。
画面が立ち上がる。ここでも表示される日付時刻は狂っている。
しかしそれは眼中に無い。確認したいのはただ一点だけだった。
「よし!」
笑みがこぼれた。
うぱ太郎の予想通り、携帯電話のアンテナ表示が「圏外」になっていた。
――あはは、圏外ってなんて田舎なんだ! もしかしてGPSも圏外?
何ひとつ問題は解決していない。
それでも小さなことだが、自力で答を見つけだせたことにうぱ太郎は喜びを感じた。
コックピット内部に被害は無い。
自分の置かれた状況を理解した上で、うぱ太郎は何故こうなったか考え始めた。
――ミサイルって通信スピーカーから聴こえた気がした。
姿かたちは見えなかったけど戦闘ヘリにミサイル攻撃されてその爆発の勢いで
圏外の山奥に吹き飛ばされた。そう考えるのが一番妥当か……。
実際、走ってた高速、田舎だったし……。
モニターを見回してうぱ太郎は仮説を立てる。
映るのは戦闘ヘリはおろか人の気配さえまったく感じられない野原の絵である。
――携帯が壊れた可能性もあるけど、ミサイル爆発の衝撃で圏外の山まで吹っ飛ばされた。
その際、グレートサラマンダーZのモーターが壊れた。ついでにナビのアンテナも壊れた。
ナビや携帯の日付時刻もリセットされた。
気を失ってから2時間半経過ってところかな……。
仮説からぽんぽんと予想が連なる。
グレートサラマンダーZ動作せず、ナビ故障現在地不明、通信手段断絶という状況を再認識する
ことになったが、我ながら冴えているなとうぱ太郎は内心、自画自賛する。
「参ったな……。まぁ、とりあえず水でも飲んで落ち着こう」
口にした弱音の割に、うぱ太郎は落ち着いている。
爆風で吹き飛ばされたのなら今いる場所はそれほど高速道路から離れていないはず、という
推測も心の拠り所にもなっている。
水を取ろうとシートベルトを外し後方へ移る。うぱ華子達は依然気を失ったままだ。
そっとボックスを開け、飲みかけのペットボトルを手にする。
- 98 :
-
――そうだ。マニュアル!!!
ひらめく。
以前うぱ松に言われたことが鮮やかに蘇る。
困ったときのQ&A集。
まだ一度も見たことはない。が、ボックス内にマニュアルがあるのは間違いないはずだった。
手当たり次第にボックスを漁る。
封筒に入ったコピー用紙の束がすぐ見つかりペットボトル、赤虫グミと一緒に取り出す。
マニュアルがあったからといって直せるかは分らない。されど期待感に胸が高鳴る。
シートに戻り、ペットボトル片手に早速うぱ太郎は困ったときのQ&A集を捲りはじめた。
――あった!
必要とする項目を見つけ、うぱ太郎は記載内容を一心不乱に目で追った。
《 モーター障害時(自己診断モードによるエラー表示)の対応について。
故障回路をバイパス(切り離し)することにより一時的に走行可能になる。
ただしあくまでも応急処置なので走行不能に陥る前に早急に修理すること。
リピートモーター切り離し可能:走行にさほど影響なし。ただし最高速度は時速80キロに制限。
パワーモーター 切り離し可能:走行に影響あり。早急に修理が必要。最高速度、時速30キロに制限。
スピードバルブ 切り離し可能:走行に影響大。走行不能に陥る可能性大。最高速度、時速10キロに制限。
メインモーター 切り離し不可:走行不能。速やかに機体から降りること。
切り離し手順。
オートマシフト位置、パーキング。ブレーキベタ踏み+ハンドルめいっぱい左に切る。
その状態でしっぽ振るボタン5秒以上長押し。
視聴覚モニターに『故障部切り離しますか?』と表示が出たら追加で跳ねるボタン5秒以上長押し。
『XX(故障部分)切り離し中』と表示が変わったら切り離し完了。
『切り離し出来ません。早急に修理手配をお願いします』と出た場合、切り離し不可。
状況にもよるが、速やかにコックピットから退避すること。
うぱ太郎へ。壊したら罰金100万円! byうぱ松 》
「げっ!!! こんなとこまで……」
記されたうぱ松の脅し文句にうぱ太郎は大げさに驚き笑う。
されど逆に励ましの言葉のように思えて、逆境に立ち向かう意志に大きく火がついた。
――走行にさほど影響ないなら……。よし、やるぞっ!
マニュアルを横目に、手順に従い操作する。
無理な姿勢で攣りそうになりながらも、心の中でゆっくりと数を数えながら反応を待つ。
【 リピートモーター切り離し中。至急サービスマンにお知らせください 】
―― 来たっ!
マニュアル通り表示が変わった。期待感が最高潮に達する。
―― 動けっ!!!
全身全霊を込めて願う。
オートマシフトはパーキングのままで、うぱ太郎はアクセルを煽った。
- 99 :
-
ヒュイン、ヒュイン、ヒュイイイィイイイィーン!!!
――よし!よし!よしっ!!!
眠っていたグレートサラマンダーZのモーターが眼を覚ました。
歓喜で胸が熱くなる。
すがさずシフトをドライブに入れる。指先が覚えている出動前の動作チェック。
立つボタン。グレートサラマンダーZ立ち上がる。
しっぽ振るボタン。グレートサラマンダーZ左右に尻尾を振る。
跳ねるボタン。グレートサラマンダーZ垂直跳び。
「よっしゃーっ!!!」
うぱ太郎、叫ぶ。
若干のパワーダウン感は否めなかったが気にしなければさほど問題にはならなかった。
暗雲から差し込む光を見たかのように、うぱ太郎の心に希望の青空が見る見る広がっていく。
「うるさいなー、もー!」
「…………」
「……ねぇ。ここ何処?」
動き始めたグレートサラマンダーZの振動とうぱ太郎の雄叫びで気を失っていたうぱ華子達
が眼を覚ました。
気持ちよく寝入っていたのか棘のある声と、モニターに映る見慣れない景色に不安を覚えたのか
どこか怯えがかった声が響く。だがグレートサラマンダーZの再始動で気を良くしているうぱ太郎は
そんな声を気にもせず、振り向き上機嫌に話し始めた。
「ごめん。ちょっといろいろ壊れちゃったみたいで直してたんだ。
えーと、もう戦闘ヘリもバイク軍団もいないから大丈夫、安心してていいよ。
でもいろいろ問題があって、まずナビと携帯が壊れたっていうか圏外になってて基地のうぱ松さんと
連絡取れないんだ。それとナビの地図が出なくなっちゃったんで今何処にいるかも分らない。
たぶんだけど戦闘ヘリにミサイル攻撃受けて、高速道路から山の中に吹っ飛ばされた時に
壊れちゃったんだと思う。
でも、ちょっと壊れたけどグレートサラマンダーZは今までどおり動くから高速道路
見つかればすぐに帰れると思う。最悪、携帯繋がらなくても道路さえあれば何とかなると思うし」
「……迷子っていうか、……ぶっちゃけ遭難してる訳?」
「そーなんですか山本さん?」
遭難という言葉にうぱ華子の動揺ぶりがうかがえた。
グレートサラマンダーZは動くようになったものの、現在地が不明なことは確かな事だった。
少し浮かれすぎたかとうぱ太郎は自分を戒める。それでも遭難というには大げさな気がした。
とりあえずどう突っ込めばいいか分らないうぱ民子は無視してうぱ華子に話し掛ける。
「うーん、まぁ遭難といえば遭難かな。でもミサイルで吹き飛ばされたからってそんなに
遠くまでは来てない筈だから大丈夫。戦闘ヘリもいないし。ちょっと歩き回るかもしれないけど
道路があれば標識もあるだろうし、人がいれば道も聞けるからそんなに心配しなくていいよ」
「そーなんそーなん!」
「……命を狙われる最悪の状況からは脱出できたって訳ね。……っていうか民ちゃん、
遭難してるのにあんた何でそんなにはしゃげる訳?」
嬉々とし、幼稚園児のごとく騒ぐうぱ民子に、うぱ華子はあきれ顔を通り越し、あきらめ顔で聞く。
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