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2013年04月創作発表67: 【長編SS】鬼子SSスレ6【巨大AA】 (219) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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【長編SS】鬼子SSスレ6【巨大AA】


1 :2012/10/16 〜 最終レス :2013/03/31
●ここは以後日本鬼子の長編SS(または数レスに渡る大きな作品)や巨大AAを投稿するためのスレです。
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前スレ 【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1312089400/26-
本スレ 【是空も】萌えキャラ『日本鬼子』製作29 【萌え】
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1348498003/
避難所スレ 萌キャラ『日本鬼子』制作in避難所12
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1343118801/
萌キャラ『日本鬼子』まとめwiki
http://www16.atwiki.jp/hinomotooniko/

2 :
またSSは隔離されるんですね…。
迫害の歴史は変わらないのか。

3 :
スレ立て乙です

4 :
>>1乙です。

5 :
>>2
見限ればいいじゃん。まともなSS書きもまともな絵師もほとんど外部に居るだろ。そういう事だ。何を期待してんだ?

6 :
>>1乙! これで安心して続きを投下できる。アリガタイ! そんな訳で「チリチリおにこ」続きを投下しますっ
────────────────────────────────────────────────────
  ◇ ◇ ◇
 結界の向こうは今までと大して変わらない光景が広がっていた。溶岩の流れや赤熱した岩の光に照らし出され、
ぼんやりと浮き上がるごつごつとした岩々。
相変わらずな地獄のような景色を見回しながら、嘘月鬼はたずねた。
「……で、そのでけー式鬼はドコにいやがんだ?話からすっと結界の真ン中にいンだろーがよ」
 だが、嘘月鬼の気楽な様子に反して紅葉の様子がおかしかった。今までにない緊張感を漂わせている。
「なんて……なんて事っ、これは……っ!」
今までの冷静な様子とは打って変わって尋常ではない雰囲気だ。
そして、やにわにヘルメットのバイザーを慌ただしく操作しだした──
  ◇ ◇ ◇
 紅葉は結界を抜けた途端、背筋を走り抜けるおぞけ……いや戦慄を感じた。
 空間を満たす気配が尋常ではなかったからだ。この空間に居座る敵の強大さが肌で感じられた。
 ──これはレベルBどころの強さではない!──
 気の迷いかと念のためバイザーを操作し、呪力濃度を測定する──
 ──間違いない。尋常ではない呪力と障気だ。最低でもレベルA、下手するとそれ以上の難敵だ。
 自分一人ではいかようにもなる。が、ただでさえ苦戦する相手に足手まといまで引き連れている状態で挑むのは
自滅行為だ。
 紅葉の決断は早かった。手元の自在符に結界から脱出するための手形データを転送し、脱出用の結界手形に
変更させる。これでこの符を持てば結界を抜け出せるはずだ。
「……状況が変わったわ。アナタ達は今すぐここから脱出なさい」
「あン?いってぇ、どういう事だ?」
浮月鬼が状況が読めないとばかりに聞き返してきた。
「事前情報が間違ってたわ。敵の強さが想定外よ。あなた達には荷が重い」
 このコ達には追跡符の仕込んだ財布を渡してある。今も持っているはずだ。この前のように追跡して
合流するのは難しくない。
「とりあえず、私は忍務を済ませてくる。アナタ達は帰って休みなさい」
 そう言うと、データを変更して手形にした自在符を浮月鬼に投げて渡す。岩の式鬼は投げてよこされた自在符を
いつものように器用に尻尾でキャッチした。
「その自在符を使えばこの結界から脱出できるはずよ」
「そらあ、オレっちらはそれでいーけどよ。姉ぇちゃんはどーすンだ?予想よか、厄介なヤツなンだろ?」
「……私一人くらいどうとでもなるわ。そんな事より、アナタこそ、その子をしっかり守りなさい」
「あ、あぁ」
おにこはキョトンとした顔で紅葉と嘘月鬼のやりとりを見守っている。
「へっ、オレっちの逃げ足は姉ちゃんも知ってンだろ。ソの心配は無用さ」
「……そう、なら行きなさい──」
 紅葉は二人に背を向て、瞬動術で飛び出した──
  ◇ ◇ ◇
──紅葉は崖の上から結界の中央に居座る式鬼の繭を見下ろしていた。周囲は切り立った崖で囲われている。
眼下は無数に流れる溶岩流があった。アチコチに地面が顔を覗かせているものの、崖の下の地面は煮えたった溶岩が
幾重モノすじとなって常にドロドロと流動している。
 その中央に孤島のような溶岩の切れ目があり、そこに5メートルはあろうかという巨大な繭が鎮座している。
その繭は周囲の溶岩に根を張るように触手を伸ばしていて、まるで溶岩から栄養を得ているようだ。
そして繭自身は鼓動するように蠢動を繰り返していた。半透明の薄い膜の向こう側では式鬼の本体が蠢いている。
羽化は間近のようだ。

7 :
「──あれね。あれさえ潰せば脱出の道は開ける──」
これだけの質量の式鬼は消滅の際には膨大な『気』を放出する。式鬼を駆動するのに使われてた『気』が暴走して
外部に放出されるのだ。
その『気』を束ね直し結界の要にぶつける事で結界を破れる。
 その仕込みは既に済ませていて、式鬼を処理した瞬間にコマンド印を結ぶ事で結界破りは機能を発揮する。
 かつて、彼女が何度も忍務で行った手口だ。もっとも、この式鬼を封じ込める為の結界だ、これだけ大規模な結界、
この式鬼を処理すれば遠からず自動解除されるだろうが、必ずそうなるとも限らない。念には念を入れて、だ。
自在符をおにこ達に渡してしまったため、紅葉にはそれ以外、脱出する術がないが、いつものことだ。
 繭の周囲には『眷属』だろう。羽虫のような怪物が繭を囲むように地面に止まって羽を休めている。
 あの『眷属』を刀の「贄」にすれば、本体を簡単に処理できるだろうか。奇襲には最適な距離まで近づけば──
その時だ──
「あった!もみじだ〜〜」
 唐突に頭上から明るい声が響きわたった。途端、『眷属』たちが外敵を察したのか一斉に飛び立った。
「! あなたたち!帰りなさいと言ったでしょう。ここで何をしてるの!」
 いきなり頭ごなしに怒鳴りつけられたおにこがビクッと怯えた。
「ふぇ……」
その途端、明るい笑顔が曇り、一転、つぶらな瞳に涙がみるみる溜まっていく。
「やいやいやい、まちゃがれ、そいツぁ幾ら何ンでも不条理だ。不手際はそっちにあンだかンよ」
おにこに代わって、おにこを頭に乗せている嘘月鬼が抗議をした。
「……なんですって?」
怪訝そうに尋ね返す紅葉に嘘月鬼はまくし立てる。
「あぁ、そうさ。ねぇちゃんのフダが効果なかったンだよ。このまんまじゃ、結界を抜ける事ができネってんで、
 ねーちゃんを捜しにきたっつー寸法よ」
 そういって、今まで尻尾に持っていた自在符を紅葉に向けて叩きつけるように投げて寄越した。
 紅葉は右手でキャッチして、自在符のディスプレイを確認する。
『認証不可──通行は認められません』の表示が目に入った。嘘月鬼の言うとおり、結界を抜けられなかったらしい。
 自在符に転送するデータを間違えたか?だが、今回の忍務データにもうこれ以外のデータはないはずだ。
 だが、話はここで途絶えた。『眷属』達が襲いかかってきたのだ──
『眷属』達は半透明な羽根を持ち、不快な音で空気を振動させながら、腹から幾つもの鋭い針を伸ばし突撃してきた。
 だが、この程度なら紅葉の敵ではない。紅葉は難なく回避する。だが問題はおにこ達だ。
弱いとみて、おにこ達に式鬼は殺到した。
「おにこ!早く『変化』してっ!」
紅葉は『呪縛』のクナイで式鬼を次々打ち落としながら指示を飛ばす。
 嘘月鬼はおにこを頭に乗せたまま、囲まれないよう、必死に逃げまどっている。
 おにこは、べそをかく直前だったが、紅葉の指示に一転、表情を引き締めると目を閉じ集中した。ほんの数瞬後、
まぶたを上げると開いた瞳は赤く紅潮し、おにこの着物の裾からは赤い紅葉が散り始めた。変化した証だ。
どんな状態でも変化できるようになったのも何度も繰り返し訓練した賜物だろう。
「もえちれ!」
不安定な嘘月鬼の上に立ち、ナギナタをブン回す。危なげなく振り回された得物は一鬼、また一鬼と、羽虫のような
式鬼は次々と撃退していく。
 おにこ達が危なげなくなってきたのを確認すると紅葉も叩き落とした眷属にとどめを刺しにかかった──

8 :
 ◇ ◇ ◇
三人が動きを止めたのは空に舞う眷属がいなくなってからだ。
「──さて、とりあえず、当初は凌げたわね。まだ次があるわ。いい、まだ変化を解いては駄目よ」
 おにこに釘を刺して、紅葉はマグマ溜まりの中央に鎮座している親玉の繭を観察した。
子分──分身というべきか──が滅されたのを察したのか、表面に白くて大きい「あぶく」のようなものが
幾つも浮き上がっている。『眷属』の卵だろう。
 成長してから生み出される『眷属』は先ほどのよりも手強くなっているはずだ。さらに言うと本体自身もいつ
『羽化』するかわからない状況だ。早くおにこ達をこの結界内から退避させなければ。
(全く、あのいいかげんな男、転送する脱出データを間違えるなんて)
 そういった事はよくあるので、あのいいかげんなエージェントの手違いだと思ったのだが──
「……本部、応答せよ」
紅葉は本部を呼び出す。
「──なんだい?」
 応答はすぐあった。紅葉は少し苛ついた声でデータの転送を要請する。
「手形データのエラーよ。もう一度脱出用データを転送して頂戴。あの手形データでは結界を離脱できなかった」
 彼の不備は毎度の事だ。再度正しいデータを送ってもらい、再度手形を作れば問題ない。そう考えていたが……
「あ、ダメダメ。データ転送はできないね。やっと君が逃げ出したいほどの相手が出てきたんだもん。
 そのまま死んで頂戴な」
「…………何?」
あまりに軽く言われたため、一瞬何を言われたのか分からなかった。
「いやあ、紅葉ちゃんもなかなか悪いコだねぇ。機密の持ち逃げだって?デッカイ賞金がかかっているよん。
 このまま死んでくれると、ボクちんもーかっちゃってウハウハなんだ。あ、モチロン、例の『機密』とやらを
残しててくれると助かるナ〜後で回収して、それを取引先に高く売りつけられるからさ〜」
いつもの軽薄な調子で軽快に裏切りを告白してくる。
「……」
「いやぁ、いちお、ウチの稼ぎ頭だったからさ。そーそー紅葉ちゃんを向こうの企業に売るのはどーかな〜
 ……って思ってたんだけどサ。最近、ホントご無沙汰じゃん、オシゴトとか色々。あ、これはもーダメかな〜〜ってネ。
 だからサ、悪く思わないでね!こっちもビジネスなんだからさっ、君の尊い犠牲はムダにしないで有意義に稼がせて
 貰うからさっ!そこで死んでネ!」
 軽薄とも言える軽やかさが今では不気味だった。この男は今までもこうやって、仕事仲間を裏切ってきたのだろうか。
「……そう、最初から分かってたのね」
 紅葉は内心舌打ちしたい気分だった。この、のらりくらりした男の表面にいいように騙されていたとは……
不覚以外の何者でもない。こうも勘が鈍っていたとは。
「今まではイイ稼ぎ手だったし、無理めの依頼もいっぱいお願いしてきたけどね〜紅葉ちゃん、へーきで突破
 しちゃうんだもん。
  でも、最近陰ってきたようだし、そろそろ潮時かな〜ってさ。ま、隠すのも限界っぽかったから、露見する前に
 売り込んだ方がお客さんとの今後のお付き合いにも有利だからねっ。だから、紅葉ちゃんも最後のおシゴトせーぜー
 ガンバってね〜。あ、そうだ。最後に何か言う事とかある?」
 最後まで飄々とした様子で聞いてくる。その様子だけ聞けばいつもの仕事の通信と変わりがない。
「……そう。せいぜい高い賞金を貰う事ね。お金を数え終わったら振り向いてご覧なさい──そこに私がいるわ」
 そう言い捨てるとヘルメットを脱ぎ、内蔵されている通信機をクナイで破壊した。
 自分以外信用しない生き方をしてきたのだ。この程度の裏切りなど、珍しいことではない。自分一人の事ならば
いかようにもなる。が、問題は今、自分一人ではない事だ。

9 :
 紅葉は自分の突発的な行動で目を丸くしている二人の鬼を横目で見た。状況は最悪だ。厄介な敵に足手まとい。
未熟な生徒は自分の身は守れるかもしれないが、この戦場で生き残ることは困難かもしれない。
──自分の見通しの甘さでこのコ達が巻き添えにされるかもしれない──今まで経験したことのない慄きが全身を
かけ巡った。冗談ではない。そんな結末、受け入れられるものか。まがりなりにも自分が教えを説いたこのコを
みすみす死なせることなどできるものか。たった今、向こうとは切れたばかりだ。なら、思うようにさせて貰う。
通信機能の死んだヘルメットを再びかぶり直し、二人に向きなおる。
「状況が変わったわ。あなた達にも手伝って貰うことになる」
 紅葉は今までにない気迫をにじませ静かに呟いた。

10 :
という訳で、「チリチリおにこ」第13話>>6-9を投下したっ
【専門用語解説】
屍体回収業者:したいかいしゅうぎょうしゃ
 リサイクル業の一環。名の通り、死体を回収し、再利用できるように処理する業者。
 『死者』の中には、生前、悪霊に身体を憑依されるのを嫌って「聖別」したり「対悪鬼術式」等を身体に埋め込んで
いたりする為、処理の大半を人力で行う事も多い。
術者が簡易式鬼を呼び出し処理を行うが、屍体に触れ、式鬼が消滅すると、その屍体は「聖別」化されているので、
後の処理は人力でしか行えない。
 そういった事情で、不法投棄された遺体に関しては式鬼で回収を行う訳にもいかず、仮に出したとしても回収率は低い。
回収された遺体はニーズに合わせて処理され、各臓器は培養層にストックされる。骨組みや筋肉等も式鬼のヨリシロの
材料として利用され、脳組織も『呪言補助プロセッサ』として、フォーマットされ保存される。
特に心臓に関しては人格が残留している可能性が高いため、特に綿密に処理される。
【専門用語解説】2
防霊処置:ぼうれいしょち
 基本的な建築物の殆どにこの処理が施されている。霊的な非実体存在が通り抜けられないよう処理されたモノ。
ただし、完全ではない。完全を求めるなら、さらに厳重に処置が必要である為、値段も相応にかかるようになってくる。
高レベルの式鬼程、こういうものをすり抜ける事に長けている為、政府高官などは乗り物や建物には信じられない程

防霊処置に金をかけている。
───────────────────────────────────────────────
今確認したら、ゼンブで15話なので、残すところあと2話だっ!

11 :
乙で〜す。
現状がヤゴなら羽化後は蜻蛉かな〜なんて想像をしつつ、メリーさん化した紅葉女史に八つ裂きとされる裏切り者の末路も気になる所であります。

12 :
嘘月鬼いいキャラだな。

13 :
これは映像化するしかありません。面白すぎる

14 :
ところで前スレは容量埋まってます?埋まって無いなら埋めちゃいます?それとも埋めないでチリチリ完結辺りまで放置します?

15 :
という訳で「チリチリおにこ」>>6-9の続きを投下しまスっ
────────────────────────────────────────────────────
  ◇ ◇ ◇
「──んで、紅葉のねーちゃん。今ンところはあのデカブツをブッ倒すしかここを脱けだす手段がネってか」
嘘月鬼は今聞いた話を確認した。
 溶岩溜まりの中央に鎮座している巨大な繭。それはだんだん羽化の蠢動を早め、表面に浮きでた無数の卵にも
ヒビが入りはじめている。どちらも間をおかず、生まれ出て襲いかかってくるだろう。
「やることがシンプルでしょ?気張りなさい」
紅葉は素っ気なく返した。
おにこは嘘月鬼の上に座りながらもやや緊張した面もちでナギナタを握りしめている。
 ドクン ドクン ドクン……
 繭の胎動が伝わってくる。大気が鳴動し、恐ろしい存在が生まれ出ようとしていた。
紅葉は生まれようとしている式鬼に目を見据えたまま、背後にいるおにこ達に指示を出す。
「とにかく、あなた達は寄ってくる雑魚から身を守る事に専念なさい。余計な事にわずらわされなければ、
 私はアイツに専念できる。返事は?」
「あい!」
おにこがナギナタを掲げ、元気よく返事する。
「わぁってら。ヤベー奴に自分から関わったりゃしねーよ」
続いて嘘月鬼も返事する。
「……そろそろ来るわよ。気をつけなさい」
紅葉はヘッドマウントディスプレイを下ろし、戦闘に備えた。
 どくん どくん どくん!
繭に亀裂が入る。表面を割り、ずるりと長大な腕が伸び、灼熱の地面をつかむ。
抜け出るように上体が半透明な膜から出てきて頭を持ち上げた。
 オォオォオォオォオォオオォオオオオオオ〜〜ン
 獣のような声で咆哮し、昆虫のような頭部の魔物が生まれた。頭から胸にかけては黒光りする甲殻に覆われている。
昆虫を模した頭部は凶悪な面構えに加え、口からは時々チロチロと火が漏れ出ている。甲殻の下から伸びている
足は剛毛の生えた腕でそれぞれ凶悪な鉤爪がついていた。そして足の付け根からは鋭い棘が無数についた腹部が
伸びていた。
六本の腕を足のように使い、おぞましい昆虫とも獣ともつかない巨体が這いだした。全体的なシルエットはヤゴに
類似しているが、こんな生物は地球上のどこにもいないだろう。
 同時に繭についていた卵もポロポロと地面に落ち、割れた。中から先ほどの眷属よりも一回り大きく、そして堅そうな
甲殻に鎧われた蟲の化け物が生まれた。シルエットだけ見れば蜻蛉のようだが、凶悪な針と牙を備えている。
 前の眷属より手強そうだ。眷属達は卵から孵ると同時に羽ばたき、宙を舞い始めた。無数の羽ばたき音が
響きわたり、周囲は不快なノイズで満ちた。
 紅葉は崖から飛び降り、灼熱の地面に着地すると同時に繭に向けて疾走する。瞬動術は使わない。一つはおにこ達に
向かう敵を減らす為、もう一つは贄を少しでも多くひと所に集める為だ。
 紅葉の動きに刺激され、新たに生まれた眷属達は紅葉に向け殺到した。
 だが紅葉は怯まない。走りながら得物に手を伸ばす。眷属達は五月蝿いくらいにノイズをまき散らしながら
紅葉の頭上に飛び寄ってきた。そして、唐突に尻尾から、鋭い針を飛ばした。
「!」
 紅葉は咄嗟にかわす。無数の棘がカカカッと乾いた音をさせ、灼けた地面に刺さり、穴を穿った。
 眷属達はその凶悪な飛針を次々と放つが紅葉はそのことごとくをかわし、弾き、受け流した。
「よぉっし、いいぞーぶっちめっチまえ〜」
「もみじがんばれーーーっ」
後方で紅葉を応援する声が飛ぶ。

16 :
「簡単に言ってくれるわね……」
 紅葉はそう呟くと、手近な眷属に向け跳躍し、刀を繰り出した。
が、しかし……
 ギンッ!!
 「?! なにっ!」
 眷属の甲殻は紅葉の攻撃を弾き返した。ビリビリと手が痺れ、一瞬刀を取り落としそうになる。
「もみじあぶないっ!!」
後方でおにこが警告する。
「!」
 膨大な『炎の気』が前方で膨れ上がるのを感じた。紅葉は咄嗟に目の前の眷属を足がかりに瞬動術で宙を跳ねた。
途端、今居た空間を長大な炎の帯が通り過ぎていった。親玉……いや、『本体』の式鬼の火炎攻撃だ。
予想どおり、強烈な火炎を吐けるらしい。足がかりにされた眷属は逃げ損なって一瞬で焼き尽くされた。
「もみじーーっ!」
 おにこの悲鳴が響く。一瞬の事だったので、おにこには紅葉が炎に包まれたように見えたのだろう。だが……
「その程度?」
紅葉はそう呟くと、再び手近な眷属へと跳びかかる。そして、次の瞬間、眷属を蹴り落とし、地面に叩きつけていた。
 ピギィィィィィッ!!!
地面に叩きつけられた眷属は裏がえり、のたうち回っている。『気』で強化された蹴りを受けた上、固い地面に
打ち付けられ、甲殻にヒビが入っていた。そこにすかさず、刀を叩き込んで、とどめを刺した。
眷属はまるで絡みついたいとがほどけるように分解され、無に還った。すると、刀が偽りの命を吸い、不穏な気配を
刀身に揺らめかせた。命を吸った妖刀は斬れば斬るほど切れ味を発揮する。
「本番はこれからよ……っ!」
 ザンッ!
   ザンッ!
      ザザンッ!
 紅葉は次々と飛来する飛針をかいくぐって空を跳び、立て続けに三匹の眷属を硬い甲殻ごと斬りはらった。
 そのたびに刀の斬れ味は冴え渡り、屠る手応えは軽くなっていく。
眷属を四匹屠った後、本命の式鬼に攻撃を加えようと分身である眷属どもに背を向けて走りだした。
 一瞬、目標を見失った眷属どもがあわてて、紅葉を追いはじめる。本体である巨大な式鬼は六つの腕で身体を固定し、
向かってくる紅葉にむけ、灼熱の炎を吐いた。
 太い柱のような炎が圧倒的な圧力と熱をもって紅葉に襲いかかる。
だが、紅葉は易々とその炎をかわした。威力は目を見張るほどだが、当たらなければ無意味だ。
次に、式鬼は接近する紅葉を押しつぶそうと前足の一つを振り上げ、地面に叩きつけた。巨大な鉤爪が、頭上から迫る。
 だが紅葉は横っ飛びに飛びのき、かわすと、逆にその前足を斬り飛ばした。
 ザンッ
甲殻に覆われてない前足はアッサリと妖刀に切断された。
おおぉおぉおぉおぉぉぉぉぉぉおお〜〜〜〜〜っ!
 前足を斬り飛ばされた式鬼が咆哮する。六つある足のうち、一つが失われた。
ついでにもう一太刀、胴体にも斬りつける。
 ギィィンッ
刀は弾かれた。この程度の『贄』ではこの甲殻を斬り裂けないらしい。なら、別の所を切り裂けばいい。
足りないなら『贄』を追加すればいい。手はいくらでもある。
次の瞬間、再び二つの腕が両側から挟み込むように紅葉を襲った。
 が、紅葉は残像を残し、上方に瞬動。腕は互い違いにすれ違うようにして空を掴んだ。紅葉はすかさず『気』で
強化した脚力で空を蹴り、急降下。その勢いのまま、交差した腕を両方とも斬り飛ばした。
またも空気を震わせ、昆虫の頭部をもった獣が絶叫する。
一際大きな叫びに周囲の空気が振動し、地面が鳴動した。

17 :
 残りの腕は三本。だが、その身体を支えるのに最低でも二本の腕を使うことを考えれば、実際の攻撃に使える腕は
あと一本。
「いける!」
そう思った時だった。おにこの悲鳴が聞こえたのは
「ぴゃぁあっ?!」
「おにこっ?!」
一瞬だけ、紅葉の注意が敵の式鬼からそれた。その一瞬が致命的だった──
その一瞬の間隙をぬい、横なぎに払われた太い一本の腕が強烈な膂力をもって紅葉を張り飛ばした──
 ◇ ◇ ◇
「おにこアブねぇっ!!」
 いきなし、一匹の雑魚がおにこに向かって毒針を飛ばしてきやがった。
「ぴゃぁあっ?!!」
 おにこのヤツぁ、びっくりしながらもなンとか毒針をナギナタで弾き返した。
「ちぇいっ!」
次の瞬間には跳躍し、なンとか雑魚を返り討ちにすることができた。あっブねっ!!
 あのねーちゃンとの稽古はオレっちの頭上でも有効らしい。腕を上げてやがる。てーしたもンだ。跳びあがって
雑魚を迎撃したおにこの下にオレっちはまわりこんでアタマでおにこを受け止めた。
おにこは器用にオレっちのアタマに着地する。
「!っ もみじっ!」
と、唐突に焦った声で、おにこが叫ンだ。なンだ、急に?いってー何がおこった?
 だが、オレっちは振り向いて様子を確認する必要はなかった。すぐそばをスッゲー勢いで張っ飛ばされた紅葉の
ねーちゃんがスッ飛んでいったからだ。
 ちぃっ!!あにやってンだ。あのねーちゃん!
 そして、紅葉のねーちゃんは背後の崖に叩きつけられ、落下しそこなって、かろうじて崖にひっかかった。
そンはるか下はドロドロとした溶岩が河となって流れてやがる。崖の端っこから石ころが転がり落ちて溶岩の中に
ダポン、ダポンと落ちてった。
 くそっあのねーちゃんが脱出の鍵だってのに、なんてこった!あにいきなりヤられそーになってんだよっ!
「うっちゃん!いって!」
おにこが珍しくせっぱ詰まった声でオレっちに言った。だが、そいつぁ聞けねぇ相談だ。
 戦闘中に紅葉のことを察知できたおにこも大ぇしたもンだが、オレっちも、負けてねぇ。敵の不穏な気配を
察知していた。
「バカっ!そっちよか、あっちを気にしやがれっ!見ろ!炎が来ンぞっ!」
身体ごとまわって、おにこの視線をあのバカでっけぇ式鬼に向けさせた。
 ソイツは、最初ン時みてぇに、口を開いて、紅葉のねーちゃんに向かってでっけぇ火柱を吐こうとしている所だった。
残り三本の腕で身体を固定してっから、全力で攻撃をするツモリなンだろう。
 ヤベェぞ、紅葉のねーちゃんがアレをまともに食らったら、消し炭も残らねー。
「!!っ うっちゃん!」
おにこも同じように察したらしい。焦った声で叫んだ。
「わぁってらぁっ!おにこ!その辺の雑魚をあいつにぶつけて気ぃ引け!」
オレっちはそう叫び返すと、一番近くの雑魚に突進した。オレっちの飛行速度はそう速くねぇ。あの火炎を
邪魔する事ができるとしたらそンくれぇしか方法がねンだ。
「ちぇぇぇええええぁぁああああーーーーーっ!!」
  ガンッ
 おにこが目いっぱい、ナギナタの背で空中を飛行している雑魚を殴り飛ばした。張り飛ばされた雑魚は装甲を
ヘコませながら、ピギィィッッつって吹っ飛び、ヤツの複眼あたりに叩きつけられた。ちっこいとはいえ、さすがは
鬼の馬鹿力。

18 :
 ゴゥッ────
 次の瞬間、ヤツぁスッゲェ火柱を口から吐きやがった。だが、ヤッパ、さっきのが利いたらしい。わずかに狙いが
それ、火の柱ぁ、紅葉のねーちゃんをハズレて遠くの崖にぶち当たり、空しく四散しやがった。
へへ。ざまぁみろってんだ。
 紅葉のねーちゃんが先に腕を切り飛ばしてたのも結果としちゃぁよかったらしい。衝撃を支え切れずに軌道が
ブレやがった。
──けど、今ので間違いなく目ぇつけられちまったよーだ。デカブツの複眼がこっちをニラみ、他の雑魚どもが
改めてオレっちらを囲むように飛び回りだした。
……しょーがねぇ。紅葉のねーちゃんがあーなっちまった以上、オレっちらがヤるしかねぇのか。
「おにこよぉ」
オレっちは頭上のおにこに声をかけた。
「あい」
「このままだと紅葉のねーちゃんはヤラれちまう」
「あい」
おにこは静かに返事をする。
「そしたら、こっから逃げる手段がなくなっちまう。そうなりゃオレっちらだっておしめーだ。だからよ……」
「あい」
「オレっちらであのデカブツ、ブッちめちまおうぜ!」
「あい!!」
 おにこの返事は力強かった。おし、いい返事だ。
「よっしゃ!行くゼ!」
不本意だが、コレしか手がねぇなら、ヤルしかねぇっ!オレっちはおにこがしっかりツノに掴まっているのを
確認すっと、デカブツに向け一番の速度で飛びだした。
 ◇ ◇ ◇
「…………」
──私はブラックアウトした視界が徐々に戻りつつあったのを自覚したが、気を失っていたのが一瞬の事なのか
数時間後なのか判別がつかなかった。
「がっ……はっ……」
 どこかで荒い呼吸を繰り返す息が聞こえる。『気』で強化していたはずの手足もロクに力が入らず、なにもかも
朦朧として、萎えた腕で必死に身体を支えている。
 時間の経過とともに徐々に意識レベルが回復してゆく……そう……私は紅葉……現在……戦闘中で……
 戦闘中!!そこまで考えて急に意識が覚醒した。
「ぐ……なんて事」
 ビキリと身体が軋む。現状に対する状況を把握してゆくにつれ、だんだんと絶望的な状態に陥っていた事を
思い出した。
まさか最後の最後にあのコの声で動揺するなんて。
 現状は最悪だ。周囲を確認すると私は溶岩の河の上の崖に辛うじて上半身が引っかかる形で九死に一生を得ていた。
身体を支えてる肘に押されて小石が崖から転げ落ちる。小石は遙か下を流れている溶岩流に飲み込まれて瞬く間に
消えていった。
 身体を引き上げようにも、手足に力が入らず、萎えたままで、落ちないようにするのが精一杯だ。呼吸一つするのにも
全身に痛みが走る。あれだけの力で張り飛ばされたのだ。『気』で身体を強化していなければ即死だったかもしれない。
 だが、その『気』も意識が途切れ、呼吸が乱れた今、消え失せた。ダメージのある身体では『気』を練るのも
かなり難しい。
「……なら、なぜ、私は今も生きてる?」
数秒もかからず、現状と自己の状態を確認して最初に浮かんだ疑問だった。
とどめを刺すには絶好の状態だ。敵がこれを見逃すとは考え辛い。辛うじて動く身体を捻り、頭をめぐらせて敵の方を
振り返った。
 すると、目に飛び込んできたのはあのコの奮闘する姿だった。
あの浮月鬼の頭上で、時にはそこから跳び上がり、ナギナタを打ちはらっては次々と眷属を斬ってゆく。

19 :
 その動きは拙いながらも、まるで私の動きを真似たようだ。確かに戦闘訓練の時、教え込んだ足捌きだが、
浮月鬼の協力があるとはいえ、それをまさか空中で再現されるとは思わなかった。
考えてたより、あのコの上達は目覚ましかった。この極限の戦闘状態が彼女の才能を覚醒させたのだろう。
「ちぇあっ!たあっ!」
 ナギナタの一振り一振りごとに、着実に眷属どもは打ち落とされてゆく。
眷属達の打ち出す飛針もことごとく跳んで、あるいは弾いてかわしていた。
 この非常時にもかかわらず、紅葉は考えずにはいられなかった。
このコの先を見てみたい、鍛えれば私を越えるかもしれない……
が、そこまで考えて、その考えを打ち消した。鍛えれば何だというのか。あのコは正式な弟子ではないし、
私は追われる身だ。今も我が身の不始末であのコを巻き込んだような状況なのに。
 その上、あのコの声でこんな簡単に動揺するなんて……陰謀にはめられたり、連続してあの小癪な式鬼に後れを
とったりと、最近はケチの付き通しだ。
「私もヤキがまわったかしら……」
 自嘲気味に考える。己の身一つなら何とかなると強がっていたが、この体たらくだ。私はこれ以上、あのコと一緒に
いない方がいいのかもしれない。
 最初はあのコの中に鬼子の影をみていたが、この成長で鬼子とあのコは違うのだろうと結論に至った。
ならば、私のような闇に生きる者はあのコの前からは消えるべきなのだ。でなければ、いずれあのコも闇に喰い殺される
ことになる……さっきまで考えていた事と全く逆の結論に及んでいた。
 それにあのコはこの先、もう十分、生きていけそうだ。あのコを胡散臭い式鬼にまかせるのは若干不満が残るが──
 そう考えるうち、彼女の奮闘も佳境に入った。ほとんどの眷属が切り払われ、残るはあの巨大な式鬼だけとなっていた。
だが、その式鬼は迎え撃つように口の中に強力な火炎をため込んでいる。
 いけない!あれでは式鬼の方が少しだけ早い!!
 無謀にも式鬼が火柱を吐く前に倒そうというのか、おにこはナギナタを構え、そのまま浮月鬼とともに、
突進していった。このままだと、あのコはチリも残さず燃え尽きてしまうだろう。そうはさせない。
「助けるのはこれが最後よ……」
 そう呟くと、私は崖を蹴り、ありったけの『呪縛クナイ』を取り出すと、そのすべてを式鬼に対して投げつける。
結果、式鬼の動きは一瞬だけ『呪縛』され、止った。そして支えを失った私の身体は崖から落下していった──

20 :
という訳で「チリチリおにこ」第14話>>15-19を投下したっ
【専門用語解説】
紅葉の妖刀/おにこの薙刀:もみじのようとう/おにこのなぎなた
 妖刀自体はこの世界にはいくつも存在し、とりたてて珍しいものではない。実際、血を吸うと切れ味が増す妖刀は
もみじのもの以外にも多数存在する。
が、紅葉の妖刀はある特性により、企業の極秘プロジェクトにかかわっており、そのプロジェクトは一度動き出すと
大多数の一般人を無為に巻き込む非道なものだった。
紅葉はそのプロジェクトを阻止する為、その妖刀を持ち逃げしたのだ。
武器としての性能は血を吸う事で上昇する威力に上限がないのではと思われる程のキャパシイと、いかなる物理的手段を
もってしても破壊できないほどの堅固さが特徴。
そのため下手に封印することもできず、破壊する手段を模索している最中である。
 一方、おにこのナギナタはかつての「プロジェクトOniko」の残骸である。ナギナタ単体では「岩を切れる業物」以上の
特徴はなく、ガラクタ程度ならともかく、本来なら巨大式鬼どころか初期の『眷属』の甲殻さえ斬ることはできない。
作中、一撃で巨大式鬼を下しているのは「鬼に対する一撃死」の性質によるものである。
 その性質は「ひのもと鬼子」の属性に由来するものであり、それは「鬼子」が「ナギナタを持つ」ことにより
発揮される特殊能力──妖力──である。
そういう意味で言えば、チリチリも鬼子と言える。また、登場する敵のほとんどが式鬼であるこの世界では、ほぼ無敵の威力をもつ。
─────────────────────────────────────────────────────
>>11-13
感想どうも。励みになりまス。
>>11
ヤゴで生まれて暫く暴れたあと、蜻蛉になる生態なのかもっ その前に軍隊出てきて退治されるだろうけどっ
>>14
残り書き込めるのはたった3KBで、そんだけ書きこむとオチるんじゃなかったか……あと1話でこのシリーズ終了なので
どうしたものか……暫くは閲覧できるようにして欲しいなーというのが個人的な気分。

21 :
乙です。
個人的な妄想としては、もう少し苦戦して嘘月鬼も若干犠牲になって、回復まで三日月状態とかも有りかなぁ、とか。

最低限panneau ◆zhBLFACeVoさんがhtml化前にデータ吸い上げなされるまで放置、な感じで大丈夫そうですかね。
まとめられた状態にして下さったならば、誰でも何時でも見れるでしょうし。お客様な私は、投下や編集をなされる皆様に頭が上がりません。
板全体の容量的には大丈夫なのかな?終盤スレの突然落ちは確かレス数980代超えた時に1日以上放置…だったはず。容量落ちは関係ない…はず。

22 :
それでは、「チリチリおにこ」最終話>>15-19の続きを投下しまス。
────────────────────────────────────────────────────
 ◇ ◇ ◇
 今にも火を吐こうとしていたデカブツの動きが一瞬とまったよーに見えた。いざとなったらアチぃの覚悟で
オレっちが身を盾にしておにこを火炎から守ってやろうかと思っていたが、こりゃぁチャンスだ。
「よっしゃっ!今だ!おにこ!いっちめぇ!!」
オレっちはおもいっきり、おにこをすっ飛ばした。
「たぁぁぁぁぁああああああああっーーーー!!!」
気合い一閃!!
 デカブツは頭のてっぺんから下まで真っ二つに斬り裂かれた。おぉ、相変わらずおっとろしー威力だぜ。
 デカブツは雄叫びをあげるヒマもなく、身体ン中に溜め込んだ炎をまき散らしながら、自分で自分の身体を
焼き焦がして崩れ落ちやがった。
 んで、次の瞬間、デカブツから吹き出した膨大な『気』がどこかに吸い上げられ、運び去られた。そンで、
パキャァァァンっと、ガラスが砕けるみてーな音がして、この周囲一帯を覆っていた結界が砕け散るのを感じ取った。
おぉ、なンか圧迫感ンがなくなったナ。
「おし、紅葉のねーちゃんもうまくやったよーだな」
「! もみじっ!?」
オレっちの頭の上に着地したおにこが思い出したように叫んだ。
 おっと、そういや、まだ崖にぶら下がってンかな。あのねーちゃん。あの結界破りは印を結んで起動させるとか
いってたが、あの状態でどうやったんだ。
──が、結論から言うと紅葉のねーちゃんは居なかった。その場所にはクナイが一本、ぶっ刺さっているだけだった。
「もみじっ!もみじーーーーーーーーっ!!」
おにこの悲痛な声が響きわたる。そんでおにこのヤツぁ取り乱してメッチャ泣いた。オレっちらは限界ギリギリまで、
辺りを探しまくったが、紅葉のねーちゃんはどーやってもクナイ以外、何ンも見つかンなかった。
「で、でーじょーぶだって。何ンで、オレっちらの前から姿を消したかわかんねーケド、あのねーちゃんが簡単に
 死ぬわきゃねーって。そンうち、フラリと顔を見せるって!なっ?」
 ホントにどーしよーもなくなって、オレっちはエリアを離れながら、そー言っておにこをなだめたが、おにこは
長いこと泣きじゃくってた。
 だが、これ以上居続けたら人間どもが調査用の式鬼を寄越してくる可能性が出てくる。見つかるのぁヤバい。
何ンかが近づいてくる気配を察知したンで、オレっちらは逃げるよーにソコを離れるしかなかった。
……しかし、ホントの所、どーしちまったンかね。
状況からして、溶岩の河ン中にドボンしちまったとしてもオカしかねーんだが、あのねーちゃんがそーそー
簡単に死ぬたぁ考えづれぇ。かといって、オレっちらを追っかけるのをヤメちまうってのも変といやぁ変だ。
いってぇ、どういった心境の変化だ?なンともモヤモヤする結末になっちまったもンだ。
「ま、なンだ。あンだけしつこかったんだ。いつかまたフラリと姿現すにちげーねーって。あン時みたくよ」
 オレっちは振り切ったと思ったのにアッサリ見つかっちまった時の事で、おにこを慰めた。
「……うん」
おにこは例のクナイを握りしめ、涙声でぽつりとうなづいた。今となっちゃ、そのクナイがあのねーちゃんの
居た証しだな。
「あ、そーだ。なンならよ。紅葉のねーちゃんと同じ事してみっか?そしたら、そのウチ見っかるかもしんねーしよ?」
 オレっちはおにこのヤツを元気づけたいあまり、何を口走ったかあんま深く考えなかった。
「おなじこと?」
おにこはさんざっぱら泣きはらした目で問いかけてきた。
「おぅよ、鬼退治」
オレっちは適当な事をいった。まー紅葉のねーちゃんに会った時にねーちゃんのやってたシゴトだから間違いねーだろ。
「それで、もみじ、みつかる?」
ここがオレっち、嘘月鬼の本領発揮よ。

23 :
「同じ業界に居たら、同業者として会うこともあンじゃねーの?今の状態よか、ダンゼン会いやすいたぁ思うぞ?」
「おにこ、もみじのおしごとの事、よくわかんない……」
そらぁそうだろうな。オレっちだって人間のこたぁ、大してわかんねぇしよ。
「なぁに、オレっちに任せときナ。何ンとかなるって。マネジメントしてやっからよ」
ま、口から出任せなンだがよ。今までも何ンとかなってきてたンだ。これからも何ンとかなンだろ。
「おにこ、もみじにもう一度会いたい。だったら、何でもする」
静かに、決意に満ちた声でおにこは宣言した。ま、だったらオレっちはできることでサポートするしかねーよな。
 煽りたてといてなンだが、おにこの強情さはヤんなる程、分かりきってる。
「おっし、ンじゃあ、キマリだな。これからは街を拠点にすることになンぞ。覚悟はいいな?」
「うん!」
 よっしゃ、街での過ごし方もちったぁ、紅葉のねーちゃんに教わったし、暫くはなンとかなンだろ。
オレっちはおにこを頭にのっけたまま、街に向け、飛ぶ進路を決定した。オレっちの飛ぶそン先には街の明かりが
ウゼぇくれーにキラメいていた。
────────────────────────────────────────────────────
 ◇ ◇ ◇
「か〜えっでちゃーん、ごっくろーさん♪どう?何か見つかった〜?」
 オフィスの一角。軽薄な声が響きわたった。オフィスといっても、この時代、畳三畳程もあれば個人的なオフィスなど
いくらでも開くことはできる。
 彼も多少手狭ながら、こじんまりとした個人経営のオフィスを持っている。フリーエージェントの一人だ。
もっとも、あまり有名ではない。半ばモグリ。
 手狭な空間に書類や認証符が乱雑に積み上げられ、まばらにある木製の机の上にはガラクタが散らかっている。
頻繁に書類を持った小型の式鬼が出入りして情報を交換していく。これが紅葉が今まで「本部」と呼んでいた場所の姿だ。
「……えー?ゼッタイ、見つかるって。溶岩の底に沈んだんじゃないかって?ないない。例え溶岩に沈んでいようとも、
 そんなんでどうこうなるモンじゃないって。ホントに送ったセンサーに引っかからない?おっかし〜なー?」
 男がいくつもの情報端末で情報収集しながら、熱心に通信向こうに話しかけている。今、オペレーションの真っ最中なのだ。
紅葉と名乗るくのいちが死んだであろう場所に人を送り、遺留品を走査させている。だが今の所、何も見つかっていない。
──ひょっとして、あの程度の難物では無理だったか──
そんな嫌な予感がチラリと脳裏をよぎる。
 彼はひょんな事からとある企業が賞金をかけている、くのいちの情報を入手した。そして、そのくのいちが身を
隠し、自分の下で働いている事を偶然、知った。
 彼女の仕事ぶりは他者よりも優れていたため、企業に売り渡すのは惜しかったが、近頃は事情が変わってきていた。
彼女の業績がふるわなくなってきたのだ。おまけに、おそらくは企業が欲しているだろうモノに追加の賞金が
かけられた。その金額は尋常ではない額で、男はその値に目が眩んだ。
 最近、彼女のシゴトが低迷ぎみだったこともあり、彼は彼女を謀Rることにしたのだ。彼女を罠にハメた後、
彼女の情報をその企業に売った。それだけで、かなりの金を得ることができた。
(もっとも、多少無理めの任務も彼女は易々とこなしてしまう為、そこまで持っていくまでが大変だったのだが)
 また、その企業と重ねて契約し、彼女の遺留品を回収する契約を取り付けた。成功すれば、一生金に困らないだろう。
「ま〜もーちょっと探してみてよ。ひょっとして、溶岩にまぎれて流されちゃったかもしれないからさ♪」
 積み上げられた書類に囲まれながら、手早く空中に投影された情報をクリックし、人員の配置情報を次々と指示を出し、
陣型を再配置しては、処理する。
 事が済んだら、この件にかかわった人員も謀殺せねばならないだろう。企業とはそういう契約になっている。
 だがその前に、結界の崩壊が報告されている。予定に反して、彼女が「勝利」してしまった可能性もある。
 その場合も想定して、それなりの人数の精鋭部隊を派遣してある。
いかな彼女であれ、あれだけの敵と戦った直後の消耗した状態では凌ぎきれないだろう。
 表向きには軽薄に振る舞いながらも男は頭の片隅で冷酷に計算を組み立てる。
 そうまでして探さねばならないもの。それは一振りの刀だった。紅葉というくのいちは、企業の技術の粋を結集して
製造した妖刀を持ち逃げしたらしいのだ──

24 :
 内心、目的の物が見つからない苛立ちを隠しながら、軽薄な声で通信向こうの相手に次の指示を飛ばす──
「あー、そんじゃね〜次に探すべきエリアは──」
 そういいかけて男の言葉が止まった。
「お探しのものは──」
 凛とした冷ややかな女の声が男の耳朶を打つ。
 「──この刀かしら?」
首筋にヒタリと冷たいものが押し当てられていた。一瞬、男の意識が空転する。
馬鹿なっ!ここが突き止められる訳がないのにっ何故だ?!どういうことだっ?!
……だが事実、彼女はここに居る。ここにいて、男に刀を突きつけている。
男のヒタイからだらだらと嫌な汗が流れ出し、声が詰った。震える肘が積み上げられた書類の束を崩す。
書類がバサバサと床に散らばった。
「言ったはずよね?『全てがすんだら振り返ってみなさい』と」
「ま、まま、待って──」
いつも軽妙に回る舌は男を裏切り、口の裏に張り付いて動かなかった。
「た、助け──」
女は頓着せず、冷たく言い放った。
「今がその時よ──」
────────────────────────────────────────────────────
 ◇ ◇ ◇
──都市伝説──
電子によるネットワークが寸断され、代わりに脳波ネットが普及した現代でも口コミを媒体に虚実入り乱れて
囁き続けられるお話がある──
 最近とある街の片隅で、恐れとも好奇心ともつかない感情とともに囁かれる噂話があった……
「ねぇねぇ、知ってる?この前、となりのクラスの子が暴走した式鬼に襲われたとき『チリチリさん』に助けられた

 ですって?」
「えー?政府の人じゃないのー?鬼害対策……とかの」
「それだって噂話じゃん」
「いや、それがさ。ちっさい着物姿の女の子だったらしいよ?そんな子がそんなアブナい仕事してないっしょ。ふつー?」
「えっ『チリチリさん』ってアレでしょ?鬼を食う鬼で、真っ赤な鬼のような目をしてて、鬼を食ってる所に出くわしたら、
 目撃者まで頭からかじられちゃうってゆー……」
「聞いた聞いた。でもアタシが聞いたのは小さい身体なのにでっかい岩を投げられるくらい怪力だって。
 で、目をあわせちゃいけないんでしょ。目をあわせたら襲われるから……逃げようとしても、自分で投げた岩石に
 乗っておっかけてくるって……」
「あれ、でもさっきチリチリさんに助けられたって……」
「もー、どれが正しいのよー」
「あ……そういえばさ、親戚の知り合いのコがこの前、満月の夜にさ……
 まぁるい岩の塊に乗って空飛ぶ女の子をみたって──」
「へー……でも何で『チリチリさん』なの?」
「それがね、チリチリさんが現れる直前や現れたあとって、散ってるんだって──」
 ──街の片隅で囁かれる噂は人の畏れが見た、ただの幻影なのか……それとも真実なのか……
『チリチリさん』は一体どういう存在なのか……
                                それを正しく知るものはいない──
                                                       ── チリチリおにこ 完 ──

25 :
という訳で、「チリチリおにこ」最終話>>22-24を投下しましタっ!
【専門用語解説】
DNA編集技術:でぃーえぬえーへんしゅうぎじゅつ
 作中で「手軽にDNA編集が可能」といった記述があるが、『人権』を持つ生体へのDNA編集は実の所様々な法規制や煩雑な
手続きがあり、それなりの金額と手間を要する。
逆に屍体からの臓器移植は比較的規制が緩い為、一般ではこちらの方が頻繁に行われている。
 その際に臓器は蘇生処理が施され、方式としては薬物を用いた「薬物蘇生」と式鬼を憑依させる「式鬼蘇生」などが存在する。 
それぞれ、メリット・デメリットがあり、状況に合わせて選択するのが一般的である。
【専門用語解説】
鬼子の分身/クローン:おにこのぶんしん/くろーん
 かつて、ひのもと鬼子はクローン培養され、「制御された傀儡の鬼」として活動していた。しかし、色々あって制御を
振り切り、イチの存在に戻った……ハズであった。その群体から何かのエラーにより「ひのもと鬼子」から株分け
されたのがチリチリという存在である。
 もとは「鬼子」であったため、不完全とはいえ、ある程度の記憶を有する。そのため、かつて共闘したことのある紅葉に
対して不自然な程、信頼を寄せている。
(実際は背中を任せあう程信頼しあった共闘ではなかったが)
───────────────────────────────────────────────
 長かったこの物語もこれで終幕となりまス。
いままで、お付き合いくださった方、どうもアリガトウございましたっ!
>>21
紅葉の援護射撃がなければ、嘘月鬼は火炎が直撃して半壊になってたかもっ …そんなルートもあったかもしれない……

26 :


27 :
乙乙。
ようやく読みきりました!
リサイクル徹底社会の様相や、嘘月鬼と紅葉の腹の探りあいなど、
ハードボイルドで新鮮な魅力がいっぱいでした。
しかしなぜか自分が思い浮かべていた街の絵は、
19世紀ロンドンのイメージだったというw

28 :
感想どうもです!
霧の都ロンドン……動力的に後退している世界なのでエネルギー事情は近い所にあるかもっ

29 :
何か書いてみようかなあ・・・

30 :
是非とも色々書いて下さいな〜。
どのキャラクターを使っても、または使わなくても問題ないはずですので〜。

31 :
支那の問題なんてどうでもいい

32 :
こに誕らへんに鬼子纂の続きを投下しようと思います。
九ヶ月くらいぶりだから、もう忘れちゃってる方も多いかとは思いますが、ね!

33 :
キタ!wktk!

34 :
>>32
きたきたーーっ!!
今のうちに、お話がどこまで行ったか、復習しとこうっと。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=827889
>>29
楽しみにしてます!
どうぞお気軽に。

35 :
師匠が私に教えた事はそれほど多くない。そんなうちのひとつ。
「小鬼よ、お前を見て恐れぬ人間がいたら、そやつは殺してもかまわん。
人間は絶対に鬼には敵わない。鬼に敵うとしたら、そやつはもう人間ではない。
鬼は人を喰らいRものと、昔から決まっておる。
そやつが人間であれば、そしてまともに「生きたい」という本能があれば、
そこに恐怖が生まれる。お前を恐れ、逃げ出すなり命乞いなりをするだろう。
そうしないというのは、「命」を粗末にする事よ。
火の付いたダイナマイトを抱えてもヘラヘラ笑っていられる奴は
爆死したって文句は言えんじゃろ?それと同じ。
死んじゃうのがむしろ自然の摂理。
ゆえに殺しちゃってもオーケー。文句を言われる筋合いはナッシング。
良いか小鬼、自分が鬼である事を恐れるな。
恐れられ、忌み嫌われる存在である事を嘆くな。
守りたいものがあるのなら「強いモノ」であれ。
でもって、お前を恐れ、忌み嫌いながらも
勇気を出して歩み寄ってくれる人間がいたとしたら…
その時からお前は「ヒノモトオニコ」を名乗り、それに応えよ。
お前の姉は、その辺がすっぽ抜けておったからの。」

36 :
久しぶりに更新。
【長編SS】日本鬼子SSスレ3【巨大AA】 http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1292673546/"> より
『少年と女神様』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/oniko-ss03_boy-and-venus.xhtml
『世紀末もの』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/oniko-ss03_ruined.xhtml
『burnout』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/oniko-ss03_burnout.xhtml の3作品が
鬼子SSスレ作品まとめ http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/ に上がりました。
JavaScript非対応用
『少年と女神様』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/iframe/oniko-ss03_boy-and-venus.html
『世紀末もの』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/iframe/oniko-ss03_ruined.html
『burnout』 http://lepanneaunoir.web.fc2.com/oniko-ss/iframe/oniko-ss03_burnout.html

37 :
>>35
恐いけれど、独特の論理をもっていて、時に優しくて人間くさい。
まるで八百万の神様のようですね。
お姉さんって誰だろ?

>>36
いつも乙です!
今回は特に、どれも美味しい作品ですねえ。
「作品を中央に寄せる」ボタン、初めて気がつきました。
これ、いいですね!

38 :
ヒワイドリ小咄
其の1:テトさんに相談
「テトさん、テトさん」
勝手にテトの家に上がり込んだヒワイドリはテトに呼び掛けた。
「何人の家に勝手に上がり込んでるんだ。」
妖怪なので、セキュリティガン無視でドアを抜けてきたヒワイドリに家の主の剣呑な声が響いた。
「すんません。相談したいことがありまして。」
「はぁ?相談?」
「相談です。」
「帰れ。」
「そうじゃなくってですね。実は…」
ヒワイドリは話を始めた。鬼子が最近鬼呼鈴を付けたおかげでパワーアップしたこと。
そしてお仕置きfがきつくなってドMでもない限り耐えられないことを話した。
「ふうん。ならいい方法がある。」
「な、何ですか。それは。」
「君たちみんながドMになればいいんだよ。」
ヒワイドリは逃げ出した。
其の2:櫻歌ミコさんの熱い眼差し
「テトさん、テトさん」
勝手にテトの家に上がり込んだヒワイドリはテトに呼び掛けた。
「今度は何だ。」
家の主の声が響いた。
「ミコさんのことでちょっと。」
「ん?どうした。」
「なんか、こちらをじっと見ている気がするんですけど。」
「ああ、気でもあるんじゃないか。」
ヒワイドリはついにわが世の春が、と思ったが、即座に考え直した。
「だったらヤイカガシやチチメンチョウもそういう目で見るのは何故なんでしょう。」
「ああ、お前らが旨そうに見えるんだろう。」
「は?」
「夜忍び込もうとかしない方がいいぞ。」
「何故ですか。」
「あの娘ね、暗い所では狼になるんだ。」
その時、ヒワイドリの背中に走るものがあった。
※櫻歌ミコ第二形態:暗い所では骨を加えた狼になる。

39 :
どうも、歌麻呂です。こにぽん誕生日おめでとう!
というわけで、まず最初に、
「FALL BLOE」のライナーノーツ的なものをここに載せようかと思います。
自分の作品を作品外で語るのは好きじゃないんですが、
鬼子さんWikiを頻繁に更新してくださってる方から、
「編集人の性として、作品の魅力を極限まで伝えきりたい!」
という強い要望があったので、思い切って投下することにしました。
自分としても、残したいものは少しでも残したいと思っているので。
ただ、こういうものは作品理解をより深めることができる一方で、
読み手の興を醒ましてしまう可能性もあるものだと思うので、
「そーゆー見方もあるんかいなー」って程度に読んでください。
あらゆる詩、歌詞に言えることですが、
解釈なんて人それぞれですし、答えなんてないもんですからね。
以下の書き込みは、歌詞の一側面なんだなー、程度に読んでください。
というわけで、次の書き込みから始めようと思います。
最初に二レス使って、自分の情景解釈をしまして、
次の二レスで、細かいところを追究したいと思います。
よろしくお願いします。

40 :
旅の道はひとり身の道
山の下の海はあかねで
岩の岸はしぶきを立てる
叫ぶ心を見ているような
 一番第一聯は、旅をする鬼子が、山の迫る岩の岸から海を眺める場面である。
森を分ける 道なき道を
山を駆ける 陽すらも射らず
波を聞ける 迷路は抜ける
視界ひらけてワタツミの空
 一番第二聯は、一聯(海に行き着くまで)の回想である。木々の生い茂った山を駆け、海岸まで出る経過を描く。
夕波千鳥秋日和
思えば渚眺めてた
ふるさと胸に想いを馳せた
さあ海原へ 進みゆかん
 一番第三聯は、回想を終えた鬼子の決意と新たな一歩を表している。
くれない紅葉 散るさまを見て
ひとり少女は舞い立った
迫る月夜のささめき覚え
走る面影 それは秋風(FALL BLOW)
 一番第四聯、サビは鬼子と心の鬼の戦いをモチーフにした。

41 :
里の日々をふとして思う
山の村の稲はこがねで
川の小石 手に取り集め
笑顔まぶしいみんながいたな
 二番第一聯は、鬼子の古里の日々を回想している場面である。里で、大勢の仲間たちと戯れた日々を懐かしんでいる。
森を見たら 小川が流れ
川を見たら 青空うつる
空を見たら 雲らが集い
雲を見てたら涙が出てた
 二番第二聯は、回想を終えた鬼子が、情景を眺めている場面である。森から小川、小川から青空、そして青空を見る。
そこには沢山の雲が浮かんでおり、鬼子は里の「みんな」を重ね、思わず涙を流す。
夕焼小焼秋桜
思えば胸の中にいた
ひとりじゃなくて 支えられてた
さあ峠の坂 進みゆかん
 二番第三聯は、鬼子が孤独でないことを悟る場面である。孤独からの脱皮、成長を描いている。
くれない紅葉 散るさまを見て
ひとり少女は旅立った
無垢で無邪気な花守るべく
走る面影 それは秋風(FALL BLOW)
 二番第四聯、サビは鬼子が戦う動機をモチーフにした。小日本を守るために戦う……この歌詞ではそれを理由の一つとした。

42 :
 一番は全体を通して、日本鬼子の過去、現在、そして未来を描こうと心を砕いた。
 一番第一聯では「日本鬼子」というものを描いた。鬼子の背負う孤独、あらゆるものを受け容れる姿を旅路と海原で表現した。
 また、あかねは鬼子のイメージカラーであり、海は先ほど言った通り、鬼子の譬えである。
鬼子はその海を見ている。すなわち鬼子は鬼子自身を見ていることになる。これは、代表でない鬼子を暗に示している。
岩の岸のしぶきは、多くの人々に支えられて今に至っているという日本鬼子の「叫ぶ心」を表している。
 一番第二聯の「道なき道」とは、日本鬼子の誕生が、今までにないものであったということであり、
それはつまり道のない道を進まねばならなかったことを示している。
 そして私自身、前代未聞の衝撃を受け、道なき道を鬼子と共に歩もうと考えた。「陽すらもいらず」とは、その当時の苦心を描いた。
 その頃、ある作品が世に出た。それが「HAKUMEI」であった。
それは、視界が開けて見える海と空のような輝きを放っていたのである。
 一番第三連目の「夕波千鳥」は、歌聖柿本人麻呂の造語と言われている。
   近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば
            心もしのに 古思ほゆ
 荒廃した旧都を訪れた人麻呂が偲んで詠んだ歌である。
 しかし、私は今の鬼子を嘆いて「夕波千鳥」を組み入れたつもりはない。その情景の美しさに見とれて、組み入れたのである。
 鬼子の故郷は「旧都」である。つまり「過去」である。
あったことは紛れもない事実であるが、しかし今はもうその姿は見当たらない。夕波と鳥だけがそのままでいる。
 だからこそ、鬼子が進むのは海原という広い世界か、海原という「日本鬼子たち」なのである。
 なお、「海原の先に何があるか」という議論がかつてされたが、私は太平洋のどこか、程度にしか考えていない。
歌詞を書くにあたって、真鶴岬に訪れた。岬付近に「御林」と呼ばれる森があり、山は海のすぐそばまで迫っている。
この景観に見惚れて、作品にしたい、と思い、書いた次第である。
 一番第四聯、サビの「紅葉」は鬼子を象徴するものである。
よって「くれない紅葉」は「紅色の紅葉」と「暮れない鬼子」という意味を込めている。これは作者の願望である。
 しかし、私は実際、人気が衰えていく様(散るさま)も見ている。
 同様に、鬼子をこよなく愛し、盛り上げようとする人々も大勢見てきた。彼らの姿と、鬼子の舞い立つ姿を私は投影した。
 秋の「FALL」は、「落ちる」という意味もあるのはご存知だろう。
これは「葉の散るさま」を意味している。一方風の「BLOW」は「一陣の風」を意味している。
鬼子を愛する一陣の風が、再び鬼子を舞い上げよう、そんな願いを籠めた。

43 :

 二番は全体を通して、小日本の存在を散りばめている。
第一聯、第二聯、第三聯には、それぞれ「小石」「小川」「小焼」と、
「小」の字が入っているのは、全て小日本をほのめかしている。
何故なら二番は、鬼子と小日本の関係性を描いているからである。

 二番第一聯「村の稲」や「川の小石」は、小日本候補に挙がった全ての小日本を指している。
 鬼子は、小日本ひとりひとりの笑顔を思い返しているのである。
 二番第二聯の「森」はうっそうと茂ったイメージから、混沌を意味する。その中にある「小川」は、先述の通り小日本を表している。
加えて、川は海(=鬼子)に通じることから、鬼子と小日本の繋がりを象徴するものである。
 空は広がりを意味する。広がりはネットの世界を髣髴させる。
 空に浮かぶ雲らは、つまりネット上で鬼子の世界に集まった我々である。雲らが集い、あらゆるものを創りだす。
それが「FALL BLOW」であり、多くの鬼子作品である。
 我々の創りだしたものが、人に感動を与えるのである。
 二番第三聯の「夕焼」はその色から、鬼子の意味であり、「小焼」は先述の通り小日本である。
「秋桜」は、「秋」が鬼子で、「桜」は小日本である。また、「秋桜」はコスモスの和名でもある。
コスモスは宇宙であり、それは鬼子の世界の象徴でもある。
 「胸の中」というのは、鬼子の世界の中にいる全てのキャラクターを指し示している。
 鬼子の世界は、鬼子ひとりだけではなく(もしくは鬼子と小日本だけではなく)、
多くのキャラクターによって支えられているのである。
 峠の坂は、苦境を意味している。それは鬼子にとっては天魔党との戦いであり、数多の心の鬼との戦いであろう。
永遠とも思えるような坂道だが、それは一歩を踏むごとに高みへと近づいている証拠でもある。
峠の坂を進むのは、地道な努力の積み重ねであり、それが高嶺へ至る最善の道であるといえる。

 一番のサビでは、鬼子をこよなく愛する人々を描いたが、二番第四聯のサビでは、小日本をこよなく愛する人々を描いた。
 二番の「FALL BLOW」は、舞い散る桜の花びらが、春一番によってふわりと舞い上がるさまをイメージさせる。

と言った感じで。ちなみに今日の夕方ごろに
『【編纂】日本鬼子さん十三』を投下しようと思ってます。
三日に分けて連載するので、よろしくお願いします。

44 :
>>38
頑張れヒワイドリw
UTAU(VIPPALOID)って各自のキャラ濃いな…。
>>39-43
ライナーノーツとは珍しい。
編纂投下楽しみにしてます!

45 :
【編纂】日本鬼子さん十三「俺、強くなれるのかな?」
   十一の一(本日は一から三までを掲載)
   φ
 つまるところの、平凡な昼下がりってもんだ。般にゃーの家の庭を掃く雑用に専念できる。こんなのどかな午後は久しくなかった。
 俺にちょっかいを出すヒワイドリやヤイカガシは、変態どもの集う岩屋の基地にいる。
定期的な会合とやらがあるようだが、知ったこっちゃない。
鬼子も留守である。田中の住む世界に行って、鬼退治をしている。これも日常的なものになってしまった。
少なくとも、この数週間で、鬼子の日課になってしまったことに今更文句をつけることもないだろう。
「あとね、あとね、この前のお話のつづき、きかせて!」
「ふふ、こにったら物好きね。この前は……貧乏な町娘のお百が、街道の一本桜で、殿様の子に恋に落ちたところだったかしら」
「とってもいいむーどになったけど、その想い人さんが江戸へ奉公にでかけちゃうとこまできいたよ!」
 そして、小日本と般にゃーは縁側でのんびりと雑談をしている。
 本当に、何事もない、穏やかな日だ。
「白狐爺こと、みんな忘れちまってんのかよ……」
 誰にも聞こえないくらい小さな声で、俺は呟いた。
 白狐の村で、俺と鬼子は悪しき鬼どもに負けた。
そのとき、白狐爺が己の気力を犠牲にして鬼たちを祓ってくれなければ、こうして雑用すらできなかっただろう。
 力を使い果たした白狐爺は今もなお療養中であった。
せめて白狐爺が回復するまであの村に留まりたかったが、般にゃーの命が来て、紅葉山まで引き返したのだった。俺は心配だった。
 ――鬼が来たら、わたしがこの村とおじいちゃんを守ります。
 弓を携えたシロがそう言っていた。その声は震えていた。弓はかたかた音を立てていた。
心配なのは、あいつだって同じなのだ。いや、あの場所にいた誰もが、不安を抱えていた。少なくともそのときは。
「――そして、一つ約束をしたの。
もしお百が、毎日欠かさず恋歌を……お百は歌が上手だったのよね……桜の下で詠んでくれたら、貴女を決して忘れない、と。
お百は毎日毎日、その人の無事を祈り、想いを籠めて詠んだわ。雨の日も、風の日も。お百は献身的だったの。
でも想い人は、江戸で多忙な日々を送り、いつの間にかお百のことを忘れてしまったの」
「かわいそう……」
 それがこの有様だ。何もない一日。誰も彼もが悠々自適に過ごしている。
 白狐爺は何のために俺たちを助けたんだっけか?
「奉公が終わって、国に帰ることになったその日も、お百は恋歌を詠んだわ。
想い人が、一本桜の脇を過ぎようとしたとき、ちょうどその歌声を耳にしたの」
 般にゃーの語りは続いていた。
「そして、想い人は全てを思い出し、お百の元へ駆け出し、ひざまずくの。
『ああ、私はなんて過ちをしてしまったのだ! お百、私は今の今まですっかり君のことを忘れていた! 
君の全てを、私を恋い慕ってくれていたことを! しかしお百、この国へ帰ってきたのは、結婚するためなのだ。
君を置いて、私は嫁へ貰われるのだ! 許しておくれ、こんな私を、許しておくれ!』
『百合姫様、いいのです、思い出しさえしてくだされば。私はそれだけで幸せ』
うら若き二人の女子は、手を合わせ、指を絡ませるの。
『お百、せめて今宵だけでも、逢瀬のひとときを……』
そう言って、百合姫はお百と口を重ね――」
「って、ちょっと待ったああ!」
 思わず叫んでしまった。俺の不安を一気に吹っ飛ばすくらい強烈な話をしていることにようやく気付いた。
「あら、わんこは百合話、ニガテなのかしら?」
 般にゃーはいたずらっぽい笑みをもらしている。ユリバナシ? なんだか知らんが、どこか背徳的な香りのする言葉だ。

46 :
   十一の二
「わんわん、大声だすのは『オトナノタシナミ』じゃないよ」
 小日本にたしなめられる。というか、その言葉はどこで覚えたんだ。
「こんな話を聞いて、小日本に悪い影響が出たらどうするんだよ」
「あら、ならチチドリが攻めでチチメンチョウが受けの話に変える?」
「なんだよそれ! わけわかんねえよ!」
 どういうことか、背筋に嫌な汗が流れる。聞いてはいけないと本能が警告しているようだ。
 般にゃーはため息を洩らし、草履を履いて立ち上がった。そして、胸元から煙管を取り出し、吹かしはじめた。
「興が醒めたわ。今日の話はこれでおしまい。こに、恨むならわんこを恨みなさい」
「わんわんのせいだー」
「なんでそうなるんだよ……」
 般にゃーが気分屋なのは今に始まったことじゃない。だから俺は半ば諦めて、庭掃除を再開しようとした。
 普通だったらそうするのだが、今日は少しだけ様子が変だった。
「今日はひげがぴりぴりして落ち着かないの。嫌な気分ね」
 般にゃーの視線が泳いでいた。いや、何かを指し示しているように見える。そして、俺に合図を送っているようでもあった。
 そのとき、般にゃーはその手に持っていた煙管を、紅葉の幹目がけて素早く投げつけた。それは真一直線に飛び、突き刺さった。
 その幹に人陰が見えた。
「何者なの。名乗りなさい」
 般にゃーの一言で空気が張りつめた。鳥の声も風の音も聞こえない。沈黙が続く。姿の見えない睨み合いが続いた。
 突如幹の陰から火焔が吹き出た。
 侵入者の攻撃――そう認識するよりも早く、身体は行動に移っていた。火焔の熱気と交錯し、馳せた。
 やることは決まっている。幹から顔を出す相手に、気合を籠めた鉄拳を喰らわせる。
まさかここまで来ているとはつゆも思うまい。駆けながら拳を引き絞る。
「んー、花粉症かな?」
 それは不意のことだった。幹から無防備の相手が現れた。目を細め、鼻をこする女性は、やけに露出の多い、褐色の肌をしている。
俺はとっさに攻撃の態勢を解いた、が、全速力の足は少しも止まらない。体勢を崩しながら、距離は詰まり、そして――。
 奴の胸の中に顔をうずめていた。

47 :
   十一の三
「おー、わんこったら、そんなに会いたかったのか。よしよし」
 耳元で囁かれ、頭を撫でられる。
身震いがして、俺は瞬時に四歩下がった。
「な、なんだよ邪主眠(ジャスミン)! いきなり出てくんなよ!」
「いきなりって……。わんこが先に飛び出てきたんだよ?」
 邪主眠は俺の言っていることを理解していないようだ。
奴は赤い眼を点にして、緑色の髪をぽりぽりと掻いていた。
そうやって腕をあげられると、豊満な胸囲がより強調されるから、目のやり場に困る。
「じゃあ、どうして俺たちに攻撃したんだよ!」
「攻撃? さっきのくしゃみのこと?」
 くしゃみ? 
疑問を繰り返そうとしたところで、木陰から少年が現れた。
「邪主眠ったら、すすきの花粉にやられちゃったみたいでさ、くしゃみするたびに火を吹くから、何度火事になりかけたことか……」
 その少年の顔には、明らかな疲労が伺える。
頭襟、烏を思わせる黒髪、山伏衣裳、分厚い書物を脇に抱え、高下駄を履いている。
見違えるわけがない、風太郎だ。
「それどころか、茶屋があると勝手に食べちゃうから、道中切り詰めても切り詰めても……」
「この腕念珠、風太郎に買ってもらったんだ!」
 風太郎の苦労話をよそにして、邪主眠は真新しい腕珠を見せつけた。
これは風太郎に同情せざるを得ない。
「わんわん、このひとたち、だれー?」
 小日本がやってきて俺の袴を掴んだ。不満げな顔を浮かべている。
「そうか、小日本は知らなかったよな」
 小日本は頷いた。悪い奴らじゃないから、すぐに仲良くなれるだろう。
「こいつらは、俺の知り合いだ」
 小日本の顔が、ぱっと輝いた。

48 :
>>39-43
ライナーノーツ、ありがとうございます!
さっそく転載させていただきました。
http://www16.atwiki.jp/hinomotooniko/pages/220.html
鬼子ちゃんと鬼子ファンへの応援歌なんですね。この歌詞って。

49 :
35
【新規さんへ】
・このスレには九州外伝=日本Ω鬼子という荒らしがいます。
 コテハンごとあぼーんすることを推奨します。
なおコテハンを外してをIDをコロコロ変更し、自演を繰り返したりもするので要注意です。
・その他に天使ちゃんと呼ばれる荒らしがいます。
 コテハンは持たずにスレを荒らしに来るのが特徴です。
・SS書きをターゲットにし住民の中を裂こうとする荒らしがいます。
 基本的に絵を描く人もSSを書く人も何ら確執はありません。
荒らしに餌を与えないで下さい。
荒らしに構う人も荒らしです。

50 :
【編纂】日本鬼子さん十三続き
   十一の四(本日は四から六までを掲載)
 犬地蔵師匠の村で暮らしていたころ、一匹狼のように見栄を張って、独りきりであった。
少なくとも、寄り添ってくる奴らを無視して、独りであろうと努めていた。それでもなお俺に近付く物好きがいた。
それが邪主眠と風太郎だった。
 邪主眠は、数年前にひょっこり姿を現した天竺の鬼神だ。
ここでの鬼神というのはつまり、鬼とも神ともとれる、程度の意味で、荒々しい神という意味ではない。
異国の神さまなんてどっちつかずなもんだ。
俺がどんなに拒絶しても、奴はちっとも気にすることなくちょっかいを出してくる。これが腐れ縁というやつだろう。
 風太郎は天狗一族の少年で、邪主眠の近所に住んでいる。俺たちは知らぬ間に村中を探検するほどの仲になっていた。
いわゆる幼なじみというやつだ。いつだって俺が先頭で、風太郎は背中にいた。
歳が近く、性格が対になっていて、補い合える関係だったから今まで一緒にいられたのかもしれない。
俺は先に行動するのに対し、風太郎は先に思考する。風太郎は饒舌だが、俺はそれほどしゃべらない。
「心の鬼の探究、それはある種、自分自身の心の探究でもあるんです」
 屋敷の中で、風太郎はお茶を手にしながら言った。軽い自己紹介のはずだったのだが、いつの間にか心の鬼の話になっている。
奴は心の鬼を熱心に研究する変わり者でもあった。幼い頃から聞かされているから、もううんざりである。
「その姿を見て、瞬時に特性を理解しなくては、無防備な心に付け込まれてしまいます。
姿かたち、知性、口癖……そういう観点を統合して、あとは勘に頼らざるを得ないんですけど、
鬼のある程度の特性なら、一目で判断できるようになりました。
例えばヒワイドリ。数多のRを平等に愛する色欲系の鬼で、その数はごまんといる。
人間の三大欲求はご存知ですよね? すなわち食欲・睡眠欲・性欲です」
「はんにゃー、せーよくってなあに?」
「大人になったらわかるわよ」
 小日本の問いかけに、般にゃーは平然と答えた。
「むー……。こに、早く『オトナ』になりたいなあ……」
 大人にならないでくれ、と切に願う俺がいる。
 風太郎の演説は、二人の問答を無視して続いていた。
「これらの欲求から生じる心の鬼、たとえば痩せたい願望があるにもかかわらず暴食に走らせる餓鬼(かつき)、
布団のぬくもりに誘われて惰眠を誘う布団羊鬼(ふとんのようき)、そしてヒワイドリや押栗鼠鬼(おしりすきー)
……そういった鬼たちは単純でわかりやすいから、その数も非常に多い。そして、亜種もあります。
本来どんなRでもいいはずなのに、ある一人に執着するヒワイドリがいたっておかしくない。
何しろ心の鬼は全て解明されたわけじゃないですからね。
欲求から生じる鬼がいる一方、怒りや恨み、虚勢高慢、罵詈雑言。
そういった感情から発生する鬼は多種多様で、まさに十人十色否十鬼十色百鬼百色。
同じ鬼なんていないと言っても過言ではなく、つまり――」
「その話、まだ続くの?」
 般にゃーはすっかり呆れていて、紅葉饅頭をかじっていた。小日本はうとうとと頭をゆらゆらさせ、邪主眠は般にゃーの二又尻尾を興味深げに眺めていた。
「す、すみません! 鬼閑獣(きかんじゅう)が憑いちゃったみたいですね」
 心の鬼で冗句を言う輩を、奴以外に見たことがない。しばらく見ない間に、ずいぶんな通になったようであった。
「ま、その知識は評価するわ。わんこも見習ったらどう?」
「んなこと――」
「いえ、僕は全然ですよ。わんこに敵うのはこの雑学と空を飛べるくらいですし……」
 反論しようとしたところで風太郎が謙遜の言葉を述べた。
おかげで俺はすっかり何も言えなくなってしまい、自棄になってお茶を一気に飲み干した。
舌が火傷するほど熱かっだが、何食わぬ顔をする。

51 :
   十一の五
「ところで般にゃーサマ」
 咳払いをし、風太郎が問いかけた。
「般にゃー、でいいわ」
「恐れながら……般にゃー、僕たちを何の目的で呼んだんですか?」
「あー、そういえば、犬地蔵のジッチャンはなんも言ってなかったねー。ただ、般にゃーのとこへ行けって」
 邪主眠が饅頭を頬張りながら言った。
 すっかり忘れていたが、確かに気になる。村からこの山まで、結構な日数を歩かなくちゃいけない。
遊びに来るだけではあまりにも遠い。般にゃーのことだ、師匠に理由を言わずに二人を寄越したのだろう。
「邪主眠は風太郎の護衛のために来させたの。風太郎、貴方に重要な役目を与えるわ。いい? わんこの御供をなさい」
 一刻の沈黙が流れた。驚愕のためというより、疑問を孕んだ沈黙だった。転寝から覚めた小日本が、きょろきょろと辺りを見渡した。
「なあ般にゃー、俺は鬼子の供をしているつもりだ。供が供を持っちまっていいのか?」
 再び静寂が続いた。小日本が心配そうに俺と般にゃーを交互に見ていた。般にゃーは眼鏡を上げると、おもむろに立ち上がった。
そして、縁側から庭に降り、再び煙管を取り出した。人差し指に火を燈し、煙管に火を点けると、一口吸い、大きく息を吐き出した。
霞のような紫煙が浮かび、そして消えた。紅葉の一葉がさらりと落ちた。
「わんこ、貴方は旅に出るの。鬼子の元を離れて、風太郎と一緒に国を巡るのよ」
「な……」
 言葉を詰まらせた。あまりに突然のことで、どう切り返せばいいのか分からなくなってしまった。
そもそも、頭の中でちゃんと整理できておらず、何一つまとまってすらいない。
「き、聞いてねえよ、そんなの!」
 だからその程度のことしか言えなかった。
「そりゃ、今初めて話したんだから」
 般にゃーは至極当然と言った風に返した。
「道中苦しんでいる人間がいたら助けるの。それが貴方への課題よ」
「人間を助ける? 冗談じゃねえ」
 人間はただ鬼子を畏れ、苦しめるだけの存在だ。その真実が頭の中を駆け巡っている。でも、思考は止まったままだ。
「神が人を愛さなければ、だれが人を愛すのよ。貴方は半人前にしろ、愛す側なの。立場をわきまえなさい。
ちょっとは感謝されるようになってから私の前に現れることね」
「んなこと言われたったって」
 般にゃーの一言一言が突き刺さって、じわりと胸と顔が熱くなった。立場ってなんだよ、愛するってなんだよ。
そんなの、俺には分かんねえよ。人間は人間を愛さないのかよ。それなら、人間の存在理由ってなんなんだよ。
 般にゃーは、何食わぬ顔で煙管を吸っていた。それが腹立たしくて仕方なかった。
いっそ旅に出て、般にゃーを見返してやろうかとも思った。
でもそれは般にゃーの思う壺だろうし、鬼子の元を離れることに、どうしようもない不安を覚えていた。
「こには、こにはやだよ!」
 小日本が精一杯の声を張り上げた。
「わんわんいなくなっちゃうの、や!」
「そうですよ、最近の鬼が強くなってることだって、般にゃーならご存知でしょう?」
 風太郎も般にゃーの意見には反対の姿勢であった。
「聞く話によれば、隊を組んで襲う鬼だっているそうじゃないですか。今、わんこを別行動させる必要があるんですか?」
「だからこそ、よ」
 般にゃーは煙を吹き散らして言った。

52 :
   十一の六
「わんこを旅に行かせるのは、緊急事態だからよ。今はまだ鬼子一人で互角に戦えるけどね、手に負えなくなる日がきっと来るわ。
その前に底上げをしなくちゃ、私たちは死ぬしかない。私達はそういう綱の上に立っているの」
 底上げ、という言葉に俺は身震いがした。それは、俺がみんなの足を引っ張っているような、そんな響きを持つ言葉だった。
俺を否定するような言葉。左遷。旅へ行かされるってことは、戦力外ってことなんじゃ。
「連携も大切よ。でもね、賢い相手は弱点を突いてくる。一度崩れた連携ほど哀れなものはない。間もなく卑劣な死がやってくるわ」
「でも、旅をしなくたって、鍛えられるし、連携だって……」
 傍から見れば、今の俺は目を覆いたくなるくらい悲愴な姿をしているのだろう。それでも、俺はここに留まりたかった。
「根本的なことを分かってないみたいね」
 訴えは容易く切り捨てられた。
「どうも最近、嫌な予感で髭がぴりぴりするのよ。強い邪気はちっとも感じないのだけど、例えばあの木の上とかね」
 俺は呆然としていて、般にゃーの言葉を聞き流してしまっていた。
 だから、煙草の煙を吹いた般にゃーが、不意に煙管を紅葉の幹に投げつけても、しばらくそれに気付かないままでいた。
 煙管の突き刺さった紅葉が勢いよく燃え上がった。それは焔の幻影であった。ようやく俺は事に気付いたのであった。
「出てきなさい、卑しい鬼よ!」
 叫ぶが早いか、燃え上がる紅葉から人型のものが落ちてきた。忍の服を着た者だった。
体中に付いた幻影の火を払いのけているうちに、般にゃーが駆け出していた。
忍は袖を払うのをやめ、手裏剣を般にゃーに投げつけると同時に左へ走り出した。般にゃーは手裏剣を掴みとり、投げ返す。
直接忍にではなく、その進行を妨げるために奴の足元を狙い、それは突き刺さって烈火となった。
忍は飛び退き、樹上に隠れた。
 紅葉山がざわめきだす。
風が枝葉を揺らしているのだろうか。それともあの忍が風のように木々を伝っているのだろうか。
奴は今、どこにいる?
「邪主眠は私の援護を。わんこはこにを守ってあげて」
「りょーかーい」
 邪主眠はのんびりと庭に降りると大きく伸びをした。胸が引き上げられ、大きさが強調される。
 一方俺は「戦力外」の言葉を追いやって、小日本を茶の間の隅にやり、その前に立ちはだかっていた。
一切の攻撃も通させない。その心意気だった。
「風太郎、どうかしら、何か分かる?」
 風太郎は一呼吸の間に思案し、常に肌身離さず持っている書を開いた。そこにはありとあらゆる鬼の図が書かれていた。
「忍の鬼のようですから、身は素早く、多くの武器を駆使するはずです。
心の鬼か、堕ちた神の鬼かは分からないですが、少なくとも戦い慣れてはいるはずです。
邪気は薄いけど、気を抜かないほうがよさそうですね。むしろ強い邪気を隠していて、僕らを翻弄する気かもしれない。
呪術に長けた鬼によくある型ですよ、これは!」
「御明察だな」
 部屋から女性の声がした。
 俺ははたと部屋を見渡した。今、この間にいるのは、俺と小日本と風太郎の三人だけだ。
そして、それは明らかに小日本の声ではなかった。無邪気さはなく、研ぎ澄まされた理性を持った声だった。
般にゃーのような間延びた印象はなく、きびきびとした鋭さを感じる。
 間違いない、敵だ。
 とっさに臨戦態勢に入るも、姿が見えない。さっきからどこに隠れている? そのくせ先の声はとても近くから聞こえた。
「まさか!」
 直感が天井を見上げさせた。奴は今まさに天井から落ちてくるところだった。
音もなく畳に着地し、両股を大きく開いて重心を下げている。
忍の姿だった。

53 :
【編纂】日本鬼子さん十三続き
   十一の七(本日は七から十一までを掲載します)
 一瞬目が合ったような気がする。凛々しい釣り目は細く、額金に描かれた巨大な目がぎょろりと俺を貫いた。
覆面から除く顔は、若々しい女性のものだった。その手に鞭のようなものが握られていた。
それに気付いたころには俺の視界は失われていた。頭から伸びる雄々しい角が、残像として眼の裏側でちらついた。
 鞭で目を潰されたらしい。俺は、少しも反応することができなかった。
 今まで戦ってきた何よりも、速い敵だった。
 疾風がすぐ脇を過ぎた。
 小日本の短い悲鳴を、全身で感じた。俺はとっさに小日本を呼んだ。しかし反応はない。息すらも聞こえない。
ただ、小日本の気配が刻々と遠のいていくことだけは分かった。
 黒とも白ともつかないまぶたの裏側で、小日本の残像を追った。
平衡感覚がつかめず、足元がおぼつかない。縁側で足を踏み外し、鼻先から転んだ。
痛みで頭の中が真っ白になる。鉄の味がする。
 小日本を負う手段は、空気の震えを捉えるこの身と、直感だけに限られていた。
 今の俺には、どういうわけか、それだけで充分であった。
 小日本は、今目の前にいる。
 俺にはその確信があった。
「今すぐ小日本を離せ、卑怯者」
 燃えるような怒りをたぎらせて、言った。
「卑怯者?」
 思った通りの場所から、聞き慣れぬ声がした。
「まさか、本気で言ってるわけではないな?」
 毛が逆立つような、冷徹さを思わせる声だった。
 何も見えないまま臨戦態勢に入った。でも今なら奴の攻撃を見切れるような気がした。
理屈でない不思議な力のようなものが俺の周囲をうずまいていた。
「目的遂行のためには、使えるものは全て使う。地理を活用し、弱者を利用する。
それをお前は卑怯と称すのか? そんなもの、武士道が創りだした幻想だ」
 しかし、奴はちっとも攻撃しないどころか、ほんの些細な攻撃の意欲すら感じ取れなかった。
それなのに俺は一寸も動けなくなっている。
 俺の心の弱みを、もてあそぶように突いてくる。
「武士道を妄信するのは、全てを心得た剣士か、戦を知らぬ素人だな。貴方は――自分の至らなさを私のせいにしているだけだろう?」
 俺は、戦わずして負けていた。
「退きなさい、わんこ。奴はくないを持ってるわ。下手に動かないで頂戴」
 遠く背後から般にゃーの声がした。
「目的は何なの、答えなさい」
 般にゃーが侵入者に問いかけた。奴はしばらく沈黙を続けたあとで、こう口を開いた。
「……ぷりんとやらを、頂くつもりさ」

54 :
   十一の八
 このあと、あらゆる出来事が立て続けに起こった。
 最初に、前方から何かが跳びついてきて、俺に抱きついてきた。
敵の不意打ちだと思って、やられた、と思った。
そのまま俺は尻もちをついた。
後頭部を地面にぶつけて、意識がもうろうとする。
鼻をすする音がした。
そして、今俺を抱きしめるのは、小日本なのだと理解した。
「まさか……いや、そんな」
 それから般にゃーの、戸惑いまじりの声がする。
「行けるはずがないわ。だって、貴女は『知らない』はずだもの」
 何が行けるはずがないのか、この状況で何が起こっているのかは分からない。
しかし心当たりが全くないわけではない。
 紅葉山には「門」がある。
 田中の住む世界。紅葉石に触れ、「ある言葉」を唱えると行けるという。
その「言葉」は俺だって知らない。
向こうの世界はそれだけ秘匿的で禁忌的な世界なのだ。
 それなのに。
 ――いただきます。
 奴がこう呟いた途端、奴の気配は消え失せてしまった。
 しばらく俺は、何も考えられなかった。
頭が揺らぐ。今まさに意識を失うところであった。
「わんわん、わんわん! こわかった、こわかったよお!」
 頬に温もりを感じた。
 それは涙だった。
 小日本、お前は、俺のために本気で泣いてくれているのか。
 俺は馬鹿野郎だ。
 馬鹿野郎だ……。
 そして、眠るように気を失った。

55 :
   十一の九
 ちらちら。ひらひら。
 いつの間にか、母上の膝を枕にして、まるくなっていた。
 ぽろぽろ。ふわふわ。
 子守唄が聞こえる。
幼年の俺はとろんとしていた。
母上の手が、とん、とん、と拍を刻んでいた。
それにあわせて息をする。
肺いっぱい春の空気に満たされた。
 薄目をあけて、母上のかおを見た。
そのかおはぼやけてよく見えなかった。
 そうだ。
俺は母上の記憶をもっていなかった。
 それなら、この唄はいったい誰が? 
春の陽だまりのなか、ぼんやりとそのかおを眺めた。
すると、すこしずつその輪郭がはっきりとしだす。
 子守唄をうたうのは、小日本だった。
 しかし、俺の知っている小日本ではなかった。
俺よりも、鬼子よりも背の高い女性の姿をしていた。
 やさしくつむられた目の、やわらかいまつ毛の一本一本。
口ずさむ唇はうるおいに満ちていて、引き締まっていた。
 そして、互いのかおのあいだに、豊満な胸があった。
俺は赤子のように、その手をのばしていた。
 うすくひらいた小日本の目と俺の目があうと、小日本は音もなく微笑んだ――

56 :
   十一の十
 はっとして、大きく目を見開いた。
「わっ」
 目の前に小日本がいた。俺のよく知る、小柄な童女だ。夢かうつつか、その無垢な瞳から、じわりと涙が溜まりだした。
「わんわん、よかったぁ……!」
 小日本は泣き出した。その声を耳にして、ここが現実であることを理解した。俺はすっかり夢を見てしまっていたらしい。
 泣かしてばかりだ、と思う。
「憐れね、わんこ」
 脇の座布団に般にゃーが座っていた。はだけた着物から谷間が露出していて、思わず目を背けてしまった。
 般にゃーの隣には、向こうの世界から帰ってきた鬼子が座っていた。
どこか沈んだ面持ちで俺を見ていた。鬼子のことだ、罪悪感を抱いているに違いない。
邪主眠も風太郎も心配そうにしている。
「こにがいなかったら、誰が面倒を看たのかしら?」
 般にゃーの言葉には、呆れと安堵が混在していた。見えなかった目が見えるし、鼻の焼けるような痛みも引いていた。
 小日本の恋の素。その癒しの力によって、俺は急速に回復したのであった。
「わんこ、ごめんなさい、私がいれば、こんなことには……」
 鬼子は、色々と言葉を考えた挙句、そう言った。
 そりゃ自分がいない間に仲間の一人を人質にされ、もう一人が負傷したと聞けば、謝りたくなるのも分かる。
鬼子がいたら、もしかしたら小日本が人質にされていなかったのかもしれない。
 でも、そういう問題じゃない。
 俺は俺を許せなかった。
 強くなりたい。
これまでにないくらい切に、切に願った。鬼子を守るため、小日本を守るため……。
守るだけじゃない。いつか必ず、あの鬼を倒してやる。
 だが俺は俺というものに自信が持てなくなっていた。打ちひしがれていた。
何度も鬼と戦ってきたが、一度も勝てない。拳を交えることなく戦意を喪失してしまった。仲間を危ない目に遭わせている。
「般にゃー、俺、強くなれるのかな」
 そんな俺でも、まだ望みはあるのだろうか
「その見込みがなかったら、とっくに追い返してるわよ」
 般にゃーは、さも当然のように言った。
「安心して。貴方には素質がある。ただそれを充分に発揮できてないだけなのよ」
 般にゃーは決して、俺を見放しているわけではないのだ。
「強くなりなさい。そうしたらきっと、あなたの憧れる鬼子の本当の強さに気付くはずよ」
 いつの日か、白狐爺に言われたことがある。
 ――鬼子の道は鬼子のものであるし、お主の道はお主のものである。
お主が鬼子の培った道の上で戦おうなど、それこそ宿世が許さぬというものじゃ。
お主はお主の道を究めるが良い。そのためにも大いに悩みなさい。
苦心して見つけだしたものこそ、真の生きる道じゃよ。
 その本意がなんとなく分かったような気がして、思わず感情がこみ上げる。何度も何度も目をこする。
 そして、決心した。
「俺、旅に出るよ」

57 :
   十一の十一
 行く宛はない。
ただ、今なら人間の生活をちゃんと見ることだってできるような気がする。
すっかり零の状態になってしまったから、何だってできる。
 それに、俺には帰る場所があるのだから。
「風太郎、荷物は任せたぞ」
「やれやれ、わんこは荷物の管理が苦手だからね」
 風太郎は肩をすくめ、ため息をついた。
まんざらでもないようだった。
「じゃ、おねーさんはしばらくここにいようかな。ここらへんの茶屋ちぇっくも済んでないし」
 邪主眠は相変わらず呑気であった。
多分、この旅が終わって帰ってきても、邪主眠の性格は変わらないだろう。
 床から身を起こし、大きく伸びをした。
「あの……わんわん」
 目を赤く腫らした小日本に袖を引っ張られた。
じっと見上げられた。
「こにはね、本当は、行ってほしくないの」
 その小さな訴えに、言葉が詰まる。
「でもね、わんわんが行きたいっていうなら、こに、ガマンする。だから――」
 それからその手を胸に置き、ゆっくりと目を閉じた。
そして、その手を俺に差し出す。
手のひらには桜色の鼻緒があった。
「恋の素と、こにのきもち、いーっぱい注いであげたから。
ケガしちゃっても、これがあれば大丈夫だから、寂しくなっちゃっても、これがあれば大丈夫だから、だから……」
 かえってきてね。
 そう言って、小日本はまた泣いた。
 この涙を、最後にしてやる。
もう二度と泣かせはしない。
俺は誓いを心に刻みつけて、少女の涙をそっと拭った。
(続く)

 次回の【編纂】日本鬼子さん十四は……?
 田中たちの住む世界への侵入に成功した忍の鬼、烏見鬼。
 そこで待ち受けているものは、鬼にとっての楽園であった!
 烏見鬼は人間たちに紛れ込むようにし、浮浪する鬼、綿抜鬼とのコンタクトを狙う!
 烏見鬼の任務は成功するのか?
 鬼子たちの今後の行方は?
 そして、「田中の住む世界」と「鬼子の住む世界」の関連性とは……?
 果たして、歌麻呂はこの物語を書き切ることができるのかッッ!
 怒濤の十四話、更新日、未定ですッッッ!!!

58 :
乙!こうやって少年は旅立つ訳ですな……って、ミキティ(?)たかだか「ぷりん」の為に鬼子宅を襲撃したのかっ?!
なんとリスキーなw もっと簡単に入手できるとこが人間界にあるだろに……ん?彼らはまだ人間界にはいけないのか?

59 :
乙です。
いつもながら丁寧にネタを拾ってくれていて、
鬼子ワールドへの愛を感じますね。
人間界に話が及ぶと、ちょっとスケールが広がって大変になってくると思いますが
ご無理なさらず続けていってくれればと思います。

60 :
あぁ。そっか。勘違いしてた>>58
人間界にいくために、通り道にある鬼子宅を襲撃して強引に突破した。という話か。

61 :
ほんとに、それ自体ドラマチックで面白いのみならず、
ネタも拾いまくってくれて、にやにやがとまらないったらないw
最初の五変態の会合はこれですよね。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=28966011
で、わんこと風太郎の旅路はこれ!
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1248318
ほかにもあるんだろうな〜。
ということは、わんこはしばらく物語の語り部からは離脱?

62 :
風太郎がわんこに敵うのは雑学と飛べることくらい。って言ってたのはSS・みずのてからかなって思った。

63 :
ジャスミンのくしゃみで火を吹くのは以前鬼子が黒焦げにされてたっけなw
チチドリ攻めとヒワイウケのネタまで取り入れてるのはワロたw

64 :
まさかこんなにコメントを頂けるとはゆめにも思わなんだです……!
ありがたやありがたや。
>>58 >>60
ミキティは鬼子宅を強引に突破しました(笑)
無理難題を出されたミキティ、忠実な子……!
>>59
今後十話くらいのプロットはすでに出来上がっちゃってたりします。
手に負えないほどスケールを広げる予定はないので、大丈夫です、多分!
>>61
意識的に・無意識的に、色々なネタを拾わせていただいています。
ちなみに「すすきのの道」はパラレルだったりします。
『おによめ2012夏号』を読むと「ナルホド!」と頷けるはずです!(ステマ)
>>62
「みずのて」は、何度も読んじゃいました。
丁寧に書かれていて、色々見習わせていただきました。
>>63
マニアックな人にも面白く、というスタンスで今回は書かせていただきました。
邪主眠をもう少し目立たせてあげたかったなあ、と反省。
とまあ、鬼子纂は色々な作品・ネタ・折々の書き込みを吸収した、
いわばリスペクト&リスペクトな作品です。
だから頭に【編纂】と付けてるんですが、独りよがりなところがあるので、
到らぬところはあるかもしれませんが、
これからも生ぬるい目で見守ってやってくださると嬉しいです。

65 :
  ◇ ◇ ◇
鬼子「鬼子と!」
ついな「ついなの!」
鬼・つ「「鬼ONほうそう!」」
鬼「明日は『くりすます』ですね!独り身の寂しいみなさまこんにちは〜ひのもと鬼子です」
つ「ちょい待ちぃや!何いきなり視聴者にケンカ売っとんのや!」
鬼「え?だって、明日は『くりすます』ですよ?」
つ「それはさっき聞いたっちゅーねん!それが何でそないな挨拶になんねん!」
鬼「ですから、そんな日にあたしたちの放送を聞く人なんて、カップルや家族ではありえないでしょう?
 わたし達の放送はそんな寂しい人たちの心をあったかくして差し上げることこそが使命だと思うんです」
つ「別の意味で熱うなるっちゅ〜ねん!なんやねん、その自虐趣味か加虐趣味か分からへん思考!それに、
 そない幅の狭いニーズだけやのうて、もっと幅広い層にもちゃんと視聴してもろとるに決まっとるやろ。
 自分で勝手にこうやと限界キメて狭い殻ん中に籠るンは、うちはごめんやで!」
鬼「ハッ! ……それもそうですよね。わたし、間違ってました。何度叩きのめされてもシツコく懲りず、
 しぶとくまとわりついてくるだけのことはあります。
 さすがはゴ(ピー!)よりもしぶといと評判のついなちゃん」
つ「ふんっ せやろせやろ!……ん?なあ……それ褒めとんのやろか?」
鬼「もちろん!言うまでもありません!
  そして、ついなちゃんの助言に従って、冒頭から『りていく』しようと思います!」
つ「ん、んー……?せ、せやな。ま、出だしは変えた方がええやろ」
鬼「それでは改めまして!
  ──お茶の間のみなさ〜〜ん!こんばんわ、ひのもと鬼子ですっ」
つ「如月ついなやでっ」
鬼「明日は『くりすます』です。きっと、美味しそうな『くりすますけーき』でお祝いしている事でしょう」
つ「せやなっ!みんな楽しゅうやっとるやろ!」
鬼「この日ばかりはみんな楽しそうですよね。でも、その切った『けーき』は一皿、二階の部屋から半年以上
 出てこない内弁慶のお兄さんにも忘れずちゃんと分けてあげて下さ……」
つ「ちょっちょっちょ、ちょ〜〜〜〜待ちーやっ!なして引きこもりがおる事になっとんのやっ!」
鬼「え?いえ、だってさっきの層を切り捨てる訳にもいきませんし……これで家族団らんの層も取り込んでいますよ?」
つ「そのご家庭ってそないな境遇やったんか?!やのうて、逆に団らんの方にケチついとるやないけ!さっきの層って
 なんやねんそれ!なしてわざわざネガティブな層にスポット当ててんねん!そーゆーんはそっとしといたり!
 大体やなー、日本全国の家庭に必ず引きこもりがおるわけないやろがっ!」
鬼「え……そうなんですか?」
つ「なに真顔で聞き返しとんねんっ?!やり直しやっ やり直し!」
鬼「えー……っと祝日にもかかわらず、お仕事の忙しい皆様、お疲れさまです。ひのもと鬼子です。
つ「なんや変な出だしやなぁ……(小声) えと、如月ついなやでっ」
鬼「明日は『くりすます』です。楽しむ準備は万端ですか?街中を歩くだけでもワクワクしますね?」
つ「せやなっ街の飾り付けとかピッカピカ光るヤツとかテンションあがんねんやっ!」
鬼「急にバイトが入って街ゆく『かっぷる』を眺めるハメになったアナタ!無理して早めに仕事を片づけたのに本命の
 彼氏に『ごめん、急用が入った』と見え見えの『どたきゃん』された『きゃりあうーまん』のあなた!
 鬼ONほうそうが心に空いた隙間をうm……」
つ「だーーーーーっ!!カットや、カット!!なんやねん!その妬み僻みに満ち満ちたシチュエーションはっ!!」

66 :
鬼「え……?」
つ「え?やない!なに意表を突かれた的な顔で聞き返しとんねんっ!さっきから聞いとったらなんやねん!
 無駄にネガティブな層への語りかけはっ!ニッチにもほどがあるっちゅ〜ねんっ!」
鬼「いえ、だからこの放送を聞いてくれそうな層に語りかけることでもっとこの放送を有名にしようかと」
つ「不特定多数にケンカ売っとるよーにしか聞こえへんわ!もっと普通でええんねんっ一般の家庭、
 普通なカップルたちへの語りかけ。それで十分やっちゅ〜のっ!大体、何やねん、心の隙間てっ!」
鬼「いえ、心の鬼に憑かれないよう、この放送で隙間を埋めて差し上げようかと」
つ「無為にえぐっとるよ〜にしか見えへんわっ!余計なお世話にもほどがあるわっ!
  もっとふつーでええねんっ普通で!」
鬼「そ、そんな難しい……」
つ「難しないっ!一体、今までどんだけ荒んだクリスマスを過ごしてきとったんや?!」
鬼「え?あたしですか?……うちは『くりすます』とは無縁ですから……特には」
つ「なんや。寂しいやっちゃなーそんなんやから歪んだクリスマス観になるんやで〜」
鬼「そういうついなちゃんだって……」
つ「へ?う、うち?」
鬼「どういう『くりすます』をすごすつもりなんですか?」
つ「う、うち?!ききき、きまっとるやないけっ ウチはクリスマスにはおじーちゃん達とせーだいに祝うんやでっ」
鬼「へー……あの『まっど、さいえんちすと』のおじーちゃんが……てっきり発明につきっきりだと思っていました」
つ「うぐっ」
鬼「うぐ?ついなちゃん……さては……うそ、つきましたね?」
つ「ぐぬぬ……え、ええやないけっ!クリスマスに夢みることくらいっ。
  そ、そーゆー鬼子こそ何にもあらへんクセにっ」
鬼「だったら、折角ですからもっと夢のあること考えてみましょうよ」
つ「へ?夢のあること?一体、どういうこっちゃ?」
鬼「だから、今言ったじゃないですか。くりすますに夢を見ることを ですよ。
 たとえば、ですね〜。くりすますの夜、憧れの人を独り占めできたら……なんてどうかしら?アナタはどうしたい?」
つ「う、うち?うちは……その……ポッ(///)」
鬼「あら、どなたか心当たりがいるのね?」
つ「うちは……のにーやんと……」
鬼「ふんふん」
つ「手……を……」
鬼「手?」
つ「……い…で……を…たい」
鬼「はぁ、街の中を手をつないで歩きたいと…………ぷ」
つ「あぁんっ?!笑ろた?今、鼻でワロたやろ!」
鬼「あ、いえいえ。そーですねー。やっぱり女の子ですから、ロマンチックな日は好きな人と過ごしてみたいなあ
 って、思いますよね〜(棒」
つ「ほう?ほなら、鬼子やったら、どないなクリスマスを過ごすつもりや?」
鬼「あたし?そーですねーあたしだったら……素敵な夜景の見えるバーで……」
つ「ほぅほぅ?」
鬼「こう、『君の瞳に乾杯』みたいな台詞はベタですが憧れますよね〜」
つ「ま、まあ、せやな」

67 :
鬼「……で、『今日はもう帰さない』とか『部屋をとってあるんだ』なぁんていってきて……」
つ「ん"?」
(SE:ポワンポワンポワン)
(BGM:なんかエッチそうなの)
鬼「例えば……そう素敵な人と……あんな事とかこんな事とか……あン……もぉ、ダメですよぅ
 ……そんな……とかいいつつ……え?こ、ここでですか?……とか……」
つ「お、おぉ〜ぃ、鬼子ぉぉ〜」
鬼「あ、いやぁ、そんなコトまで……他の人に見られちゃうぅ……あん、巧さぁん……」
つ「ぬがっ! お、お、鬼子ぉぉおっ!」
 (SE:ビシィッ)
鬼「あぅ、痛っ!なんです。今いいところだったのに」
つ「い、い、い、今、巧のにーやんで何妄想しとったぁぁあ!!」
鬼「何って、ごく普通のカップルの営みですけど?具体的には……(ボソボソヒソヒソ……)」
 (SE:ぽひーーーーっ)
つ「…………ふあぁっ?!(///)ふ、ふ、ふ、不潔や〜〜〜っ!!
  巧にーやんでそないな汚らわしい事考えるんやないでっ!」
鬼「失敬な。素敵な殿方との逢瀬をそんな風に言わないで下さい」
つ「逢瀬云々やのーて、自分の発想が不純や言うとんのやっ!なんやねん、ちょっと話ふっただけでクライマックス
 超特急なガチ妄想にハシりおって!」
鬼「それが何か?第一。ウチは代々『イイ男は押し倒してでもモノにしろ』が家訓なんですからね」
つ「な、何やねん、この肉食女子……」
鬼「鬼ですもん」
つ「それいいたいだけちゃうんかい!」
鬼「あぁん、想い始めたら止まらなくなってしまいました。巧さ〜んv あなたの鬼子が今、行きま〜すv」
つ「あ!こらナニ勝手に抜け駆けしてんねん!っちゅ〜かこのままやと巧のにーやんのてーそーが危ない!
 こら、全力で阻止せな!ちょお待ちぃ、鬼子ぉお〜」
 (SE:ドタドタドタ)
──アイキャッチ「鬼子とついなの鬼ONほうそう!」──
http://ux.getuploader.com/oniko4/download/548/Oni-on%21.png
(BGM:なんか疲れたようなコミカルなような曲)
鬼「あぁ……巧みさん……あんまりです……」
つ「せやな。いくら何でもあれはないわ……」
鬼「私たちの事、ぜんっぜん眼中になかったですね……」
つ「鬼子はまだえぇで。うちなんか最初っからそうやったで」
鬼「でも、なんだかんだいって構ってもらってたじゃないですか。ズルイですよ。
  何にもしゃべってないのに気遣ってもらえるなんて。あたしもああやって気遣って貰いたいです」
つ「そーゆー鬼子かて、ロクに話しかけれへんうちを差し置いてガンガンいってたやないけ。
  巧のにーやん、ちぃとばかし、引いてたで」
鬼「それで押しきれたらよかったのに……」
つ「それについては阻止できたんはよかったけどな……」
鬼「男のひとってみんなあぁなんでしょうか……」
つ「そんなことないで……て、いいたいけどなあ……鬼子ンとこのナマモノ見てるとどーやろ?」
鬼「まさかあそこでハンニャーが出てくるなんて」
つ「あんな寒いのに胸元メッチャあいた寒そうなドレス着とったな」

68 :
鬼「みました?巧さんのあの表情!」
つ「ハンニャーの胸元に目ぇ釘付けやったな……賭けてもええで、あれはうちらの事、完全に忘れとったで」
鬼「もう!男の人って、みんなああなのかしら。胸の大きさが女性の全てじゃないというのに」
つ「せや、せや!胸がでっかいのが全てやないで!」
鬼「……はぁ、私だって全くないわけじゃないのに」
(SE:ぽよん、ぽよん)
つ「ぐ……ぬ、う、うちかて全く無いわけやないで……それに、しょ、将来性は十分や」
(SE:ぽよぽよ)
鬼「はぁ、せめて、もう少し大きければなあ……」
(SE:ぽよん、ぽよん)
つ「これからやのうて、今、成長してくれへんかなあ……」
(SE:ぽよぽよ)
(SE:ぽよん、ぽよん)
(SE:ぽよぽよ)
(SE:ぽよん、ぽよん)
(SE:ぽよぽよ)
鬼・つ「「はぁ〜〜〜ぁ……」」
つ「……っだーーーーーっナニが悲しゅーて女二人して自分のR揉み続けなあかんねんっ 勝負や鬼子!
  このもやもや、鬼子をシバく事で晴らさな収まりがt」
(SE:ポコポコポコポコビシッバスッバシッゲシッ)
鬼「はぁ、他の日にしてくれないかしら。ついなちゃんはそれで気が晴れるでしょうけど……
  あたしはそんな事では気晴らしにもなりませんし」
つ「ぐぬぬ……じぐじょ〜〜〜思い切っりシバいとってなんちゅう言いぐさや〜〜」(ボロッ)
(SE:ピロリロリピロリロリx2)
鬼「あ……田中さんからめーるが届きました」
つ「あん?うちンとこにもや」
鬼「なになに『くりすます会』の案内めーるですって」
つ「なんや、『そろそろ収録も終わるだろうから適当にみんなで集まって騒ごうよ』やて?!くぅ〜〜たくみぃ〜
 持つべきものは友だちやなぁ〜〜」
鬼「ホントに」
つ「ほなら、ちゃっちゃと済ませて次いこかっ!」
鬼「それでは今日の鬼子作品の紹介に移りましょう──」
===========================================
…という訳で、クリスマス前夜の放送って設定で書いてみたっ!なんか色々ネタ混ぜているウチに長くなったっ!w

69 :
「ねえ、呪いの動画って知ってる?」
ネット上に数多存在する「呪いの動画」と称されるもの。
その中に、「本当の呪いの動画」が存在していた。
「全て駆逐されたんじゃなかったのか!?」
「途上国にデータが残っていたようです!」
「2chにスレが乱立しています!!」
「うわあああああああああああああああああっ!!」
「貞子ッ…!!」
ネットを介して拡散する「サダコ・ウイルス」。
日本は、人類は破滅へのカウントダウンを刻みはじめた。
「意味論だよ。言葉を変質させる事で、その実体を変えてしまうんだ。
情報体であるサダコ・ウイルスには、有効ではないかと私は考えている」
「そんなものが…」
「あるんだよ。いや、『いる』と言った方がいいかも知れない。
インターネットの膨大な情報の中から生み出されたキャラクター、
あるいは妖怪、あるいは魔物、あるいは…」

鬼。

貞子「誰?」
「ひのもと おにこ。 あなたを、萌え散らさせて頂きます」

サイバー空間を舞台に、今、人類の存亡を賭けた最終決戦が始まる!!
「貞子VS日本鬼子」

70 :
貞子たんと組み合わせるとは……この発想、ありそうでなかった!!!

71 :
そして入場者にはミラクルヒワイライトプレゼント。
ヤイカ「みんなで鬼子に力を送るでゲス!!」

72 :
萌え散らされた貞子は、意味をずらされて萌えキャラに…!!
(あ、すでに萌えキャラ化もされてますがw)

73 :
【新規さんへ】
・このスレには九州外伝=日本Ω鬼子という荒らしがいます。
 コテハンごとあぼーんすることを推奨します。
なおコテハンを外してをIDをコロコロ変更し、自演を繰り返したりもするので要注意です。
・その他に天使ちゃんと呼ばれる荒らしがいます。
 コテハンは持たずにスレを荒らしに来るのが特徴です。
・SS書きをターゲットにし住民の中を裂こうとする荒らしがいます。
 基本的に絵を描く人もSSを書く人も何ら確執はありません。
荒らしに餌を与えないで下さい。
荒らしに構う人も荒らしです。

74 :
サダコ・ウイルスから救われた人類。
…だが、新たなる恐怖が日本を襲う!!
「検死の結果、毒物は検出されなかったそうです」
「? じゃあ、死因は一体…」
謎の怪死事件をつなぐ遺留物-
「形状は、蛇の鱗に酷似しています。でもDNA鑑定の結果は…」
「…人間?人間の鱗だっていうのか?」
更なる犠牲者と、「怪物」の目撃証言。
パニックに陥る日本列島。
それは、「昭和」という時代が遺した「呪い」。
「…彼女は『被害者』だったのじゃよ。社会の差別と偏見が、彼女を怪物にしてしまった…」
「! こ、これは…」
「そう…彼女は、『へび少女』は既にこの世にはいない」
恐怖と疑心暗鬼によって生まれ、伝染し、増殖していく「へび少女」。
日本を救えるのは、もう「彼女」しかいない!!
「…信じるしかありません。『萌えが差別<ヘイト>を食い尽くす』と」
『へび少女 VS 日本鬼子』
シャキンッ!!
鬼子「『うろ娘(こ)萌え』という言葉を、ご存知ですか?」
鬼が出るか!蛇が出るか!?

75 :
さだこ・へび少女ときたら、次はひょっとして…口裂け女?!昭和のモンスター大集合っ?!

76 :
--映画化第3弾--
戦いは、終ってはいなかった…
次々と蘇る、前世紀の怪異達!!
口裂け女! 「わたしキレイ?」
人面犬! 「ほっといてくれよォ!」
ターボばあちゃん!「シャーカシャカシャカー!!」
テケテケ! 「テケテケェ!!」
メリーさん! 「今、あなたの後ろにいるの」
仮死魔霊子! 「足をよこせぇぇぇぇ…」
ノストラダムス! 「恐怖の大王が降りてくる…」
失明ピアス! 「… パリンッ(←踏まれた)」 
鬼子、絶体絶命の危機!!
それを救ったのは、萌えキャラとなった貞子、へび少女、
そして元祖萌え化都市伝説キャラ・「花子さん」!!
「萌えキャラの力、今こそご覧に入れましょう!!」
日本の未来を賭けた、恐怖と萌えの全面対決!!

『おばけ VS 日本鬼子 -アポカリプス-』

プレミアム前売り券を買うと、
「復刻版 カッパ・ブックスの妖怪大百科」が憑いてくる!!

77 :
wwww なんで妖怪版アヴェンジャーズみたくなってるのさwww

78 :
本スレ29にSSが投下されたので、
後々参照しやすいように、リンクを張っておきます。
「ついなのクリスマス」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1348498003/655-658

79 :
シリーズを重ねる毎に、どんどんチープになっていくのはお約束ですw

80 :
〜映画新シリーズ第一弾〜
…それは、太古の昔から地球上に存在していた。
リポーター「これはCGではありません!現実の出来事です!」
…あらゆる物質に宿るエネルギー生命体「ツクモガミ」
警官「廃材の化け物だ…」
…奴らは、ある日突然、人類に牙を剥いた。
男「化け物…っていうか、これは…」
「ロボット」の姿をとって。

「あの赤いロボットは味方です!」
「強いな、流石メイドインジャパンだ?」
「僕の名前はジン。君は?」
「私はジャプティマスプライム。あなた達の言葉で言うと
  『日本鬼子』 です」
中国大陸支配を狙う、悪のツクモガミ軍団!
「今この時より、我がこの国の支配者である!
故に、『チャイナトロン』と呼ぶがよい!!」
正義の機械生命体に、人類の未来は託された!
「萌えないゴミの回収日です」
-HINOMOTO ONIKOR-
…目に見える力が、全てではない。
同時上映、「日本鬼子 東京に現る」

81 :
  ◇ ◇ ◇
 まるで春が咲き誇ったような舞台だった。紅をさし、白粉を塗り、幾つものカンザシで美しく飾りたてた女たちは
艶やかな笑みを浮かべ、色とりどりの着物を纏いて舞を舞う。その後ろでは同じように美しく着飾った女たちが
華やかに微笑みながら楽を奏で瀑布の音に負けじと楽の音を奏でていた。
 大量に流れ落ちる水の音にもかかわらず、研ぎすまされた技量で奏でるおんな達の演奏は妙なる調べを観客達の耳に
届け震わせた。度重なる練習により磨き抜かれた足運びは一糸乱れぬ舞踊と相まって一斉に花開く世界を
そこに再現した。
 ここは滝の上に設えられた大舞台。巨大な滝を背景に設置されたこの舞台には55人ものおんな達があがり、
舞い踊ってもビクともしなかった。
 今日はこの町の鉱山が閉鎖される最後の日。そのためおんな達は最後の宴にと呼び出された。金を輩出していたこの
金山もついには金脈が尽きたのだ。そこで金山が閉鎖される最後にと盛大な宴が開かれることになった。
 そのためだけにこの舞台が用意され、おんな達はここぞと日頃鍛えた芸の腕前を披露した。そして舞台の上には
艶やかな春が、夏が、時には秋や冬までが咲き誇った。
 いつもは、やんややんやとはやし立てる観客の男達は魅了され、固唾をのんで見守っていた──
──違う。そうじゃない。男達の表情は硬く強ばっている知っているのだ。この後何が起こるのか、どうなるのかを──
あたしはとっさに振り返った。
いた。楽の音を奏でる娘たちの中に。同じように微笑みながら演奏を続けるあたしの姿が──
 何も知らないあたしは笑みを浮かべながら内心では必死に楽器を奏でていた。これから起こることを何も知らずに──
 駄目、みんなそこに居てはいけないっ!!あたしは警告しようと必死に叫んだ。
「──────っ!」
だが、大量の水が流れ落ち、その音に負けじと響きわたる楽の音、たかが小娘ひとりの声が届くはずもなく──
「──────────っ!」
 それでも必死に声を張り上げる。みんなそこから逃げて、と。だがしかし、必死に声を絞り出そうとしても声が出ない。
 やがて宴もたけなわにさしかかった。楽の音も踏みならす舞いにも一層熱がこもる。すると、舞台の端に一人の男が
現れた。舞台の死角だったので、女たちは誰も気づかない。舞踊に演奏に一心不乱だ。男は屈強な肩に大きなまさかりを
かかえている。永く使い込まれて所々黒く錆が浮かんでいて、研ぎすまされた刃だけがあたしの目にやけに白々と映えた。
「!!」
知っている。あたしは知っている。男がなにをするつもりなのか──
 やめて!お願いやめて!
「────っ!」
 必死に懇願するもやはり声は出ない。おとこはあたしに気づかない。おんな達は一層艶やかに、華やかに舞い踊る。
 おとこはまさかりを振り上げ、舞台を支えている太いツタに向け振りおろした。
これだけ大きなまさかりでも太いツタは容易には切れない。
「───────っ!!」
あたしは叫ぶがやはり声が出ない。おんな達は気づかない。男衆が自分達の舞踊に魅了されてると信じきっていた。
舞台の上のあたしはだんだん白熱していくみんなの踊りと演奏についていこうと必死だった。
幾度目か振りおろされたまさかりでツタに切れ目が入る。
「──────────っ!!」
もはや自分でもなにを叫んでいるのか分からない。誰の耳にも入らない。舞台の熱狂が頂点に達したその瞬間──
 ブツン
 ツタが切断された。
舞台の要のツタが切られた瞬間、55人ものおんな達が上がってもビクともしなかった舞台は一瞬でバラバラに
なった。突然の事でおんな達は自分の身に何が起こったのか分からぬままだろう。悲鳴をあげながら、わたしと
54人ものおんな達は奈落の底へと落ちていった──

82 :
 ◇ ◇ ◇
「────っ!! っは!はあっ!はあっ!」
 息苦しさと共に目が醒めた。
「……夢…」
 またあの時の夢……数百数十年経った今でも時々うなされる。これからもうなされ続けるだろう悪夢──
 私はゆっくりと起きあがると人気のない城内を見回した。明かりになるようなものはなく、周囲は闇に沈み、
私の着ている白い夜着だけがぼんやりと闇にうかびあがっている。
 私は窓に歩み寄ると鎧戸をあけた。戸はギイときしんだ音をさせつつ開いた。途端、青白い月の光と冷たく清浄な
外の空気が城内に入り込んでくる。それらに身を晒しながら外を眺めた。
 闇に沈んだ城下町は月明かりに照らされ、ぼんやりと輪郭を浮かび上がらせている。こんな時間だというのに、
いや、こんな時間だからこそ、町のあちこちに明かりがぽつぽつと灯っている。夜は鬼の時間なのだ──
 そんな町を眺めながらも私の目は過去に向けられていた──
  ◇ ◇ ◇
 ──さいしょ、あたしの目の前に無造作に放り出されたそれはボロクズに見えた。
「!せん太? せん太ぁ!せん太ぁ────!」
 あたしは駆け寄ろうとしたが屈強な男衆に組みしかれ、地面に押しつけられた。もがこうと必死にあがくが、
男たちの手はビクともしなかった。
そして、目の前に放り出されたボロクズのような男は弟・せん太の変わり果てた姿だった。
「まったく、あんたたち姉弟はそろいも揃って強情だねぇ『姉ぇちゃんを返せ』『おうちに返して』その一点張りだ」
 頭上からそんなあきれたような声がふりかかる。あたしは声のするほうを見上げた。そこには一人の美女がキセルを
ふかしていた。あたしが無様に土間の地面に頬を押しつけられているのとは対照的に一段高い畳の上に寝そべり、
気だるげにひじかけにもたれ掛かっている。肩を大きく露出した紫の着物を纏い、大きく結い上げた髪の毛には
いくつものきらびやかなかんざしを刺していた。まるで遊女のような格好だが、遊女ではない。
 女は艶やかな紅をさした唇からけだるげに言葉を紡ぎ出す。
「いいかげん、あきらめることだね。あんたは『売られ』たんだ。おとなしく『しつけ』られて『客』をとってくれれば
 悪いようにはしないよ。毎日おいしいおまんま食べれて、綺麗なおべべも着られるってんだから」
そう言って、唇からぷかあっと、キセルの煙を吐き出した。
 そう、この女は女衒(ぜげん)だ。人買いから女を買い、色町に売り渡す。あたしはこの女に『買われて』この
色町へやってきた。らしい。
「じゃけん、なんかの間違いじゃ!おっとうがそんな事をするわけはない!あたしたちをうちに返して!」
 あたしはなおもそう言いつのった。だが、女はあたしの必死の訴えも聞き飽きたとばかりにキセルをふかしている。
そして豊満な胸の谷間から一枚の紙切れを取り出すと無造作に開いてピラピラとふってさし示した。
「そうはいっても現にあんたを買い取った証文がここにあるんだ。この金額を返済しないかぎり、アンタはずっと
 ここでこのままよ」
 そこには間違いなくおっとうの名前が記されているという。だけど、その頃のあたしは字も数も分からなかった。
だから信じられなかった。
「そんなこと──」
 いつもの堂々巡りにさしかかった時、どぼっと鈍い音が響いた。
目の前のボロクズのようになったせん太──弟だ──に男が無造作に蹴りを入れたのだ。
「やめて!弟に酷いことしないで!ぶつならあたしをぶてばいいでしょ!」
 弟に駆け寄りたいが、ずっと男衆に組みしかれ、押さえつけられていて動くことすらままならない。
「わかってないね。あんたは大切な商品なんだ。そうムザムザと商品を傷モノにできるもんかね」
 つい、と手にしたキセルで男衆に合図を送ると、男の一人がせん太の髪をひっつかんで顔をこちらに向けさせた。

83 :
「っ!せん…太っ」
あの人なつこかった弟の顔は見るも無惨に腫れ上がり、原型をとどめていなかった。腫れたまぶたが目を塞ぎ、意識が
あるのかも分からない。腕と言わず足といわず痣だらけで身体は埃にまみれていた。意識があるようには見えなかったが、
かすかに「姉ちゃん……」と唇が動いたような気がした。
顔を背けたかったが男衆に無理に顔を向けさせられた。
「わかるかい?このボウヤは言うことを聞かないあんたの代わりにこんな目にあっているのさ」
 再び女がキセルを振ると、男は無造作に手を離した。せん太は力なく、べしゃりと地面に顔を突っ伏した。
「せん太ぁっ!」
そんなあたしたちの様子も目に入らないように、女は無関心な調子で言葉を続けた。
「うちの男どもにとっちゃ、こういう事は毎度の事でね。あんたみたいな娘やこのボウヤみたいなコの扱いには
 手慣れたもんさ。今はかろうじて死なない程度にしちゃいるが、今夜一晩、川べりにでもほっときゃ死んじまうだろうね。
 その子。今まで何度もやった事だから確かな事よ」
「そんな……!」
あたしは女を見た。女はそ知らぬ顔でキセルをふかしながら言葉を続けた。そして相変わらずけだるげに指示を出した。
「さ、あんた達。そのボロクズを河原に捨てといで」
「へいっ!」
 男たちが無造作に弟をかつぎ上げた。あたしはぞっと肝が冷えた。
「まって!お願い、まって!」
 懸命に駆け寄ろうとあがく。が、あたしを押さえつける腕は少しも緩まなかった。そうしているうち、弟はアッサリと
あたしの目の前から運び去られてしまった。
……そんな……このままでは……弟は、助からない……
「そんな……弟が……何を……何をしたって言うの……」
誰ともなく呆然と呟いた言葉だったが女が答えた。
「きまってるじゃない。ぬ・す・っ・と。いい?あんたがどんなツモリであっても、うちの商品なんだ。それを勝手に
 連れだそうとするのは立派な盗っ人。なら、殺されても仕方ないわよねえ?」
「そんな……」
 不意に、かん、と音が響きわたった。女がキセルの中身を灰入れに捨てた音だ。あたしはビクリと身をすくませる。
「事実よ」
女は冷然と言い捨てた。
 いつの間にか男衆の戒めはなくなり、あたしは地べたに力なく座っていた。
しばらく間をたっぷりもたせて、女は口を開いた。
「そうねえ……だけど、あのボウヤを助けるすべはまだ残ってるわよ?もちろん、あなた次第だけど」
どこかなぶるようにそう言ってくる。
「………………」
 あたしに重い現実がのしかかってきた。前からそこにあったのに頑なに認めなかった現実が。
「……かり……した……」
かろうじて口から言葉が漏れた。
「あら?今、何か言ったかしら?気のせいよね〜?」
 まるで、捕まえたネズミをいたぶるネコのようにわざとらしく女は聞き返した。
「わかり……ました……言うことを……聞きます……だから……弟を……」
「ん〜聞こえなあ〜い。今夜はひときわ寒いわね〜河原の石には今頃、霜がおりてるんじゃないかしら〜」
「わかりました!何でも言うとおりにします!『しつけ』も『客ひき』も何でもします!だから、弟は!弟の命だけは!」
そこまで叫んで何かがぷつりと切れた。後は嗚咽で言葉にならなかった。女はそれで満足したようだ。何か合図を
したんだろう。男が一人、出てゆく気配がした。

84 :
「んふふ、いいコね。あのボウヤは今から手当をすれば何とか助かるでしょうね。何なら雇ってあげてもいいし
故郷(くに)に帰るなら幾らかお金をもたせてあげてもいい。とにかく悪いようにはしないわ。あなたが約束をちゃんと
 守るなら……ね」
 そう言って、泣き続けているあたしに歩み寄り、キセルの尻でつい、とあたしの顎をあげ、顔を上に向けさせた。
 そのまま目をすがめ、あたしの泣き顔をのぞき込む。何故かあたしはこの女の瞳がネコのようだ。と、ボンヤリと思った。
「ふぅん……あんた、上玉とはいかないが、磨けば上の下くらいにはなれるかもね……悪くないわ」
 そう言って手を離すと、もう用はないとばかりに軽く手をふった。すると男衆は心得たように先ほどまでの荒々しさ
とはうって変わった丁寧な手つきであたしを部屋から連れ出した。
 その手が逆にあたしに酷い現実を思い知らせた。
──あたしは『商品』なのだと。
   その夜、あたしは一晩、泣き通した────
 ◇ ◇ ◇
 ──あれから結局、弟にはあわせられなかった。男衆にどうなったのかしつこくたずねたが、ぶっきらぼうに
三日は眠りっぱなしだろうという答えが返ってくるだけだった。
 あたしはその後、『客』をとるための『しつけ』と『芸事』の練習をみっちりと仕込まれる為に息つく暇さえなかった。
『しつけ』とは『客』をとるための作法やら、技量やらの総称だ。所作のこまごまとしたものから屈辱的なことまで
色々とさせられた。男衆を相手に練習させられることもあった。
 あたしが今までゴネていたため、時間を無駄にしたと酷く責められた。先輩の遊女に手ひどく叱られながら必死で
覚えることを頭に詰め込んだ。
 そうこうしているうちにあっという間に三日が過ぎ、一週間が過ぎ、半月が過ぎた。どんな辛い仕打ちにも弟の為と
自分に言い聞かせ、堪え忍んだが、とうとう弟に再会することは叶わなかった。男衆のいう事には弟はあの女に言い
含められたそうだ。あたしが弟の為に身売りを承諾した事を知り、また暴れ出そうとしたという。だが、それであたしが
酷い目にあうとときふせられ、小銭を渡されてしぶしぶ郷里(くに)に帰った。と。
 それを聞いてあたしは心のどこかで安堵した。おそらく弟とはもう会うこともないだろう。しかし、今のあたしを
見られたくはなかった。もうこの後はあたしの事など忘れて達者で暮らしてくれればいい。そう自分に言い聞かせた。
……そして、いよいよ格子部屋にあげられ、そこに来た『客』をとる。という頃、あの女に呼び出された──
  ◇ ◇ ◇
「あんた、鉱山にいく気はないかい?」
あの女はキセルの煙を吐き出した後、唐突にそう切り出した。
 ボロクズのような弟と再会させられた例の土間のある建物の中だ。あの女は相変わらず遊女の様な紅色で肌を露出した
着物を着て肘掛けによりかかり、キセルをふかしながらそう問うてきた。
「……鉱山?」
女は紫煙を吐き出しながら、うっすら笑みを浮かべた。
「そ。鉱山。ま、ここじゃ名前を出すのもはばかる金山の町なんだがね。活きのいい娘を数人、寄越して欲しい
 って、話があってさ。それだったらあんたがいいんじゃないかってね。これでもあたしの目利きは確かだと評判でね。
 あんたは上玉って程じゃないが磨けば上の下はいけると踏んでいる。この話に丁度いいんじゃないかってね。
 何せ、向こうの『客』は金を掘り起こしている連中さ。金払いもいい。
 これでもほかに希望者が殺到しているんだよ?それでも、まあ、向こうさんの希望が希望だけに、ね。それで
 あんたにも声をかける事にしたのさ」
 どうでもいい。どの道自由のない人生だ。どこであれ同じ地獄が続くのなら。興味などない。そう思った。
だがそれに続く言葉が少しひっかかり、あたしの注意を引いた。
「それに、向こうの『客』の相手はなかなか大変だが、稼ぎの良さはここと段違いだしね。上手くいけば、あたしの
 様に遊女から足を洗えて、しかももう身売りしないで済むくらいの田畑を用意できる金子まで稼げるだろうさ。
 弟さんと郷里(くに)に帰りたいだろう?」
思わず、顔をあげた。今何と?

85 :
「……興味をもったね?そうさ。あたしも昔はここで『客』をとる身だったのさ。だが、必死で『芸』と読み書きを
 覚えて自分の『証文』を買い戻すことができた。それでこうやって……」
 その女の言葉をあたしは遮った。
「今、弟と帰るって……だってせん太は郷里(くに)に帰ったと……」
言葉を遮られたのがよほど不快だったのか、女は渋面になった。急に不愉快そうになり、小さく舌打ちすると
つっけんどんに言葉を継いだ。
「言葉のあやって奴よ。で?あんたにとっちゃこんな機会、もうないかもしれないよ?どうすんだい?」
──あたしは暫く考えた後、その話を承諾した。どうせどこにいっても同じなのだ。なら自分の証文を買い戻せるかも
知れない。この話にのってみるのもいい。そう思っていた。

86 :
  ◇ ◇ ◇
 ──出立には三人の男衆と二人の遊女が一緒だった。男衆は、女たちが逃げたりしないように鉱山までの見張り役兼
道案内。遊女二人はあたしと同じく鉱山行きが決まった年若い娘たちだ。
 二人とも年が近いこともあり、道中、早い段階で打ち解けた。二人ともすでに格子部屋で『客』をとった経験があり、
あたしよりも少しだけ先輩だった。一人は線が細く、肌がやけに白い娘。名を桔梗といった。
「でも、痛くしといて気持ちいいと思ってる客が多いのよねーおまけに○○いじっときゃ女は悦ぶって勘違いしてるし
 終わった後、ヒリヒリして薬油塗っとかないと次の客がとれやしないったらないよ」
 桔梗は病気じゃないかと思うくらい、白く細い外見に似合わず、あけすけに客との交合を話題にあげつらう娘だった。
「いいじゃないかい。そんなの適当にアンアン言っときゃ満足して金払いがよくなるんだからさ。それよか、あたしゃ、
 やたら春画に描かれてることを鵜呑みにしてねちっこくいいかいいかとたずねて来る事の方が迷惑さね」
 そう言ってガハハと豪快に笑うのはもう一人の娘。桔梗とは対照的で、肌は浅黒く、エラがはり、骨格がガッシリ
した娘だ。名をおますといった。自分の顔を芋に例えて笑い飛ばす豪快な娘だった。
 二人ともあたしがまだ格子部屋にも上がってない事を知ると、心配そうに顔を見合わせた。
「ちょいとそれ本当かい?!この先の相手は鉱夫なんだよ?!もうちょっとやりようはなかったのかい?!」
おますは憤懣やるかたなしといった風情だ。
「最初の客はうちらでもそれなりに相手を選んでもらったんだよ?!それなのによりにもよって……っ」
 よくわからない表情でいるわたしに二人はこう教えてくれた。
 なんでも、『客』の中にも『初モノ好き』がいるらしく、値が張るにもかかわらず、そういう娘ばかりを率先して
買う『客』がいるという。そういう客は逆を言えば『初モノ』を扱い慣れた客でもあり、そうでない客に比べて娘が
痛手を引きずることが少ないのだという。
「それなのに……これからいくお山の『客』連中は荒くればっかりと聞いてるよ。ちゃんと女の扱いを心得てるのかねえ……」
 そう呟く桔梗の脇をおますが肘でドンと突いた。あたしを不必要に怖がらせないよう、気を使ってくれたのだ。
「安心おし!向こうに着いたらあたしが男衆に掛け合ってどうにかしてやっから!なぁに、向こうだって娘が使いモノに
 ならなくなるのは困るハズだし!少しはマシになるさ」
そういって、安心させるように胸をドンと叩いた。
 あたしは勇ましいその言葉に力づけられたが、逆におますのことが心配になった。あたしたちの立場は決して強くない。
 身体に傷を付けられるようなことこそされないものの、身体に傷をつけずに酷い目にあわせる手段はいくらでもある。
 おますはその外見によらず愛嬌のある娘だが、それが男衆に通用するかはあやしい所だ。二人にとってあたしは
後輩にあたるのだろうが、あたしたち三人とも遊郭に身を
置いてそんなに時が経っていない。おますの強がりは空元気にすぎないと痛感していたのは当の本人かもしれなかった。
 ……そんな心配をしながら、山道を歩いていると、ゾクリと背中を這い上がるイヤな気配を感じた。
 まただ。あたしはそう思いつつ振り向いた。そこには男衆の一人がしんがりをつとめていた。
「どうぢだ、はやぐいがねぇが」
 だみ声でそんな風にせき立ててくる。三人の男衆のうち二人の事は粗野な男、ぐらいの印象しかない。が、この男は
強烈だった。
 おますはよく、自分の顔の出来を芋に例えていたが、この男ほど醜くはない。芋を崖の上から転がし落としたら
こうなるかというくらい、あちこちがデコボコしてて傷だらけで、小さいいびつなまぶたの向こうからは藪睨みの目が
ねちっこい視線を放っている。背は身体も他の男衆よりも短躯で、あたしの肩までしかない。それなのに横幅はあたしの
倍近くあり、身体はガッシリしていた。聞けば、流行り病に倒れた娘を町の外に運び出す仕事をよくしていたそうだが、
あたしは例え病で死ぬ事があってもこの男に運び出されるのだけはゴメンだと思ったものだ。この男には何の非も
ないのに、それがわかってても沸き上がる嫌悪感はどうしようもなかった。
 この醜い男の本名は知らない。だが、病で死んだ娘を運び出す役割が多かったためか、骸(むくろ)と呼ばれていた。
そして、この男から何故か粘っこい視線を感じることがたびたびあったのだ。
 あたしはその男の視線から逃げるように足を早めた──

87 :
  ◇ ◇ ◇
──しつけは済んでるということで、おますの努力も空しく、あたしはすぐに格子部屋にあげられた。
格子部屋とは文字通り格子で区切られた部屋で、『客』が外からおんなを品定めするための部屋だ。格子の向こうで男が
気に入った女を見つけるとおんなを買いに店に入ってくる。
 ──格子部屋に出されて最初のあたしの『客』のことはよく覚えていない。『しつけ』で教えられたことが、
頭の中を空回りしていたことだけは確かだ。教えられてた事はほとんど無意味だったような気がする。
 気がつけば、あたしの身体は剥き出しのまましとねの上に横たわっていた。そして、事が済んだ『客』は悪態を
つきながら早々に部屋を出ていってしまっていた。
──まるで嵐のようだった。それがかろうじて覚えていた印象だ。難破した船がバラバラになるように自分の身体が
バラバラになってなかったのが不思議だった。
 ぼうっとしていると、男衆の一人が無造作にやってきて、まるで犬小屋の掃除をするように部屋の中を片づけはじめた。
 あたしの横たわるしとね周り以外を手早く片づけ追えると、
「おう、お初だってな。きょうはこれでおしめーだってよ。ゆっくり寝てていいぞ。今日は特別にやってやるがよ。
 次からはてめーの使った部屋の事はてめーで始末をつけな。わかったな」
 無造作にそう言い捨てて、さっさと部屋を出ていった。
 ──これからずっと、こんなことを続けるのか……それも毎晩、何回も──
 ぼんやりとそんな事を考えて横たわっていたが、その時はもう一つ、部屋に入ってきた気配に気がつかなかった。
 その気配はあたしのそばに寄ってくると、無防備なあたしの身体に何かを這わせはじめた。首、肩、R房、わき腹、
へそ、そして……ほと。
今日、もっとも痛めつけられただろう場所に触れられ、その痛みであたしの意識はハッと目覚め飛び上がった。
 バッと身体を起こした。あたしの上に覆い被さっている影が何かわかった途端、全身の肌が泡だった。あの男が、
そこにいた。デコボコの芋のような顔面、小さな白目がちな目、醜い容姿……骸と呼ばれてる男だった。
あたしはとっさに手近なものをかきよせ、身体を隠しながら男から少しでも離れようと後ずさった。
今、この男に襲われてもなす術はない。せめてもの抵抗に精一杯睨みつける。
「……何をしてるの……!」
あたしの声は怒りと恐怖で震えていた。だが、それ以上に動揺していたのは男の方だった。
「お……おでば……おでばだだ、がらだをふいでやろうがど……」
例のだみ声で必死に弁明しようとしていた。そして、その手には湿った手ぬぐいが握られており、その手ぬぐいは
あたしの破瓜の血で赤く染まっていた。
 カッと頭に血が昇り、考えるより先に身体が動いた。素早く男に近寄ると、その手から手ぬぐいをひったくり、
また離れた。例え血の一滴でも自分の一部がこの男に握られているのはガマンがならなかった。
「……出てってっ!」
精一杯の嫌悪と怒りを込めて言い放った。
「お……おでは……おでは……っ」
「出てって!」
もう一度、ハッキリ言うと、男は肩をおとし、トボトボと部屋を出ていった。
──完全に男の気配が消えてなくなると、あたしは完全に力が抜け、部屋の壁にずるずるとくずおれ、気を失うように
眠りに落ちた。
 結局、あたしはあれから三日、格子部屋に出られなかった──
  ◇ ◇ ◇
 最初の『客』は序の口だった。鉱山の男たちはみな屈強で、粗野で荒々しく、あたしはそのたびに翻弄されっぱなしだった。
 夜毎繰り返される嵐、暴風にも似た荒々しさに吹き散らされるあたし、どれだけ強く爪を突き立ててもビクともしない
背中……繰り返される偽りの愛……上滑りする睦事……
『愛』というものがピンとこないまま愛してると紡ぐ唇の虚ろさ……あたしを抱き寄せる、抗がいがたい屈強な腕……
汗と鉱物と埃混じりの男の臭い……

88 :
「なあに、そのうち慣れるさ」
 おますはガハハと笑いながらそう言うが、あたしは最初、そうは思えなかった。だが、人間というのは、思ったより
強かなものらしい。気がつけば、一晩に何人かの『客』をとれるようになっていた。しかも『しつけ』で教わった技を
自分なりに応用さえできるようにさえなっていた。
 とはいえ、だからといって生活がラクになった訳ではなかった。なんとか『客』を捌けるようになってきた頃、
今度は『芸』を仕込まれはじめた。これは別段おかしな事ではない。おんな達はよく宴の席に呼び出され、芸を披露する
こともある。前の町でも、わずかなりとも習ってもいた。
 夜は『客』をとり、昼は芸の稽古……再び息の詰まるような毎日がはじまった。『芸』のほうはまだお座敷にあがれる
腕前ではない。それでも、宴で芸を披露できる程度に上達すれば『上客』をとれる機会が増えるかもしれない。
そうなれば実入りがよくなる。それは自分を買い戻す好機につながる。なので、あたし達は必死で稽古にかじりついた。
それだけではない。読み書きができる遊女に必死に頼み込んで字を教えて貰っていた。
 もっとも、そちらの方は桔梗やおますには怪訝な顔をされたのだが。証文という、自分の命を握られてるようなものを
自分以外のものだけが読める状況が嫌だった。少なくとも、騙されにくくなるはずだ。だから字も懸命に覚えた。
 その間、骸というあの男もこの町に留まっていた。あたし達をここに送り届けた男衆のうち、二人は早々に帰って
いったというのに。
 何をしてくるでもなく、気がつけば、粘っこい視線を時々投げかけてくる……だが、それだけで近づいてもこなかった。
薄気味悪かったが、自分ではどうしようもない事もわかっていたので放っておくしかなかった。
そうやって過ごしていると、数年などあっという間に経過していった──
  ◇ ◇ ◇
「ねえねえ、聞いた?近々盛大な宴が開かれるらしいって!」
 ある日、その愛嬌でいろいろな所から話を仕入れてくるおますが、そんな知らせを持ってきた。
「へぇ、するってぇと、お武家様や大名なんかも出てくるのかい?上手くいけば、お偉いさんに見初められて身請けっ!
 なんてこともあるかもしれないねぇ……」
いつもは歯に衣着せぬ物言いをする桔梗でさえ、珍しく舞い上がった事を言い出した。
 ここ数年遊女として生きてきてわかった事がある。今の生活を抜け出す術は三つしかない。という事だ。
一つ、借金を返して綺麗な身体になること。でも、実際には日々の生活費や、着物・化粧だけでなく、色々な事に
 お金がかかる。切り詰めても少しずつしか貯まらない。
ここは他の色町よりは『客』の羽振りは良いと聞いていたが、それでも期待していた程ではなかった。
一つ、死んでしまうこと。たまにこの生活に耐えられなくて井戸に身投げする娘がいる。時々うらやましいと思って
しまう自分がそこにいた。けれど、結局は少しずつだけど貯まってゆく金子と桔梗とおますの存在とが身投げを
思いとどまらせていた。
一つ、誰か偉い人の目に留まり、誰か『客』に借金を返済して貰い、身請けされること。これも滅多にあることでは
なかった。でも、それでも女達はその僅かな望みにすがるしかなかった。
「場合によっちゃあたし達も呼ばれるかもしれない……ということかしらねぇ……?」
 あたしたちも芸を覚えて結構経つ。今ではそれなりにお座敷に呼ばれるようになっていた。もっとも、あたし達より
上手な芸達者はこの小さい町の中でもかなり居る。
「ま、それでもあんたは呼ばれないだろうね〜な、に、せ、山芋だもんね〜」
桔梗がそういっておますをからかった。いつも自分の顔を芋になぞらえ冗談にしているおますは苦笑するしかない。
……はずだったが、何故かおますは得意げだった。
「んふ。ふ、ふ、ふ〜ん。それがねぇ。お大名様は遊女全てを参加させるよう、お命じになられたの、よ〜」
「全員?!」
 この町の遊女はそう多くないとはいえ、50人はいる。
「それは……盛大な宴になるわね……」
あたしの感覚では正直、想像がつかなかった。
「な、に、を、悠長な事言っているんだいっ これは大きな好機なんだよっ」
そういって、おますがあたしの肩をドンとこづいた。強い力に思わずあたしはよろめく。

89 :
「そうだよ。あたしたちにだってまったく当てがないなんてこたぁないハズだよっ。だったら、ここはめいっぱい
 発憤しようじゃないかえ」
桔梗がそういってあたしの肩をゆさぶった。
 その日、あたし達は「宴の日」の為の準備に大半を費やした。おますの持ってきた知らせはすぐに他の女達にも
知らされたのだ。遊女の全てを呼び寄せる盛大な宴のわりに催される日は思いの外すぐだった。
 しかも、その理由はこの金山が閉められるからだとか。だとしたらあの町に戻ることになる。丁度、金子が
貯まってきた所だ。あと少し、頑張ればあの証文を買い戻せる。この町での稼ぎは思ったほどではなかったが、それでも
やはり、他の所よりよかったのだろう。おんなが自分を買い戻せる事はめったにないとおますから聞いていた。
 ともあれ、女達はこの日のためにとっておきの白粉いや紅を用意し、きらびやかな衣装をひっぱりだし、かんざしを
磨いた。あたしたちもそれらに不備がないか確認し、互いに協力しあった。
「いい、もし、この中の誰かがお武家様の目に止まって身請けされても恨みっこなしだからね」
 おますはそういってあたしたちとうなずきあった。おんな達の間ではこういう事があると陰で足の引っ張りあいをする。
誰だってこの苦界から抜け出したいから。でもあたし達がそんな事をしても自滅するだけだ。あたしたち三人は
気心がわかりあってるためか、自然と協力しあってた。おかげで、先輩遊女達のイヤがらせじみた妨害も力を合わせて
切り抜けられた。
──宴当日──
 あたしたちはめいっぱいめかし込んだ。とっておきのカンザシをいくつもさし、目立つように真っ赤な朱塗りのクシで
髪を結い上げた。自分の顔は山芋だと冗談をいうおますでさえ丹念に白粉を塗り紅をさした。
「さあ、二人とも出番よ。お大名様たちにあたしたちの艶やかさを見せつけて失禁させてやろうじゃないかえ!」
桔梗がいつものミもふたもない言い回しであたしたちを鼓舞した。
「いやあね、あんた何いってんのさ」
おますがちょっと困ったように応じた。でも、ガチガチに緊張していたあたしはつい、吹き出してしまった。それを
見ておますも苦笑を浮かべる。
「まったく、しょうがないね。あんたたちもドジ踏むんじゃないよ」
 そして、舞台が始まった──
 まるで春が咲き誇ったような舞台だった。美しく飾りたてた遊女達は艶やかな笑みを浮かべ、色とりどりの着物で
舞を舞う。その後ろでは同じように美しく着飾った遊女達が艶やかに微笑みながら楽を奏で瀑布の音に負けじと楽の音を
奏でていた。研ぎすまされたおんな達の奏でる演奏は妙なる調べを観客の耳に届け、震わせた。度重なる練習で
磨きぬかれた足運びは一糸乱れぬ舞踊と相まって一斉に花開く世界をそこに再現した。
──演奏はだんだんと早くなっていく。あたしは必死で楽器を奏でる。それなりにひけるようになってきたと思ったが
まだまだ未熟だ。そう思いながらも、目の前を踊り舞うおんな達にあわせ楽器を奏でる。
いよいよ失敗するのではないかと緊張が頂点に達したとき、視界がぐらりと揺れた。
「っ?!」
 なんだと思う間もなく妙な浮遊感が襲い、あたしは訳も分からず悲鳴をあげた。次の瞬間には全身が激しい衝撃に
襲われ気を失った。
かろうじて記憶に残っていたのは崩壊してゆく舞台の端に立ち、大きなまさかりをもった男の姿だった──

90 :
>>81-89
はい。そんな訳で、とあるキャラの過去話。「はなのうた・前半」をお届けいたします。一体、誰の過去話なのか。
終盤にはわかると思いますが、どうぞお付き合い下さいませ。
後半は明日。投下する予定です。それでは。

91 :
  ◇ ◇ ◇
──次に意識を取り戻したのは喉の奥に水が入り込んでむせかえった時だった。全身を激しい痛みが襲う。身体が
重く頭も重い……せき込む度に激しい痛みが全身を走った。そして、たまらず胸に入りこんだ水を吐き出した。
「ぜぇ……ぜぇ……、気が……ついた……かい?」
息も絶え絶えのその声で、あたしはあたしを半ば引きずるようにして水辺から引き上げようとしてくれてる人物が
おますだと気がついた。
「ひどいもんだね……あんた。でも、生きててくれてよかった……」
 あたしは全身を覆う苦痛と吐き出す水でそれどころではなかった。おますに水辺から引きずられながら水を
吐いていた。えずく度に全身は耐えがたい痛みに苛まれる。身体の感覚はないがまだ身体の大半は水の中に
あるようだ。
首の後ろを引っ張られ、引き上げられる。身体の上半分が水から出た所でおますは力尽きたのか手を離した。
「ごめんよ。あたしにゃこれ……以上……引き上げられない……」
全身の痛みが強くて体の感覚が分からない。頭も打ったのかぼうっとする。視界がぼやけていて見えるものも全て
あやふやだ。おそらくは白い小石が集まっている川岸だろうか。ぼんやりした視界は一面、白かった。
「一体……何が……おこった……の」
 動かない唇を動かし、かろうじてこう聞いた。おますも力尽きたのか、あたしの側に横たわるように腰を下ろした。
「あたし……にも……何がおこったのか……わかりゃしないよ……舞台が……急に崩れて、みんな……落っこち
 ちまったんだ……」
 息も絶え絶えに返事が戻ってくる。
「みんな…は…桔梗は……どこ……?」
その答えはしばらくしてから返ってきた。
「桔梗は……死んだよ。……みない方がいい……他の……みんなも……ひどい有様さ」
「そんな……」
 あの高い舞台の上から落ちたのだ。あたしやおますのように命があるほうが幸運なんだろう。やがておますは水を
吸い、重くなった衣装をひきずりながらのろのろと立ち上がった。
「さて……あたしはともかくあんたも酷い有様だしね。待ってな。今、助けを呼んでくるよ」
 おますだってなにかしら痛手を負っているのだろう。足を引きずるようにしながらやっとという感じで立ち上がった。
「あ……」
 霞んだ視界におますがゆっくりと遠ざかってゆくのがぼんやりと見えた。あたしは急に心細くなり、おますを呼び
止めようとした。
「まって……お願い……まって……」
だが、痛手を負った身体は思うように動かなかった。おますを追いかけようとしてもまるで芋虫のようにずりずりと
前に進む。途端、甲高い音をたてて懐からこぼれ落ちるものがあった。ぼんやりとした視界に黒く楕円形のものが
いくつも写る。
「あ……いけない……」
自分を買い戻す為の金子だ。貯めた金子をお守り代わりに懐にしのばせていたのだ。このお金さえあれば、自分を
買い戻せる。自分を買い戻し、家に帰り、もう一度せん太に会える。
 腕を前に伸ばし、硬貨を集めようとする。が、全身の痛みで、身体が思うように動かない。力が入らない。無理に
腕を伸ばし、震える手でやっと一枚だけ掴みとる。全身の痛みのせいで硬貨をつかんだ感覚がない……
 あたしは自分の金子さえ拾い集められない自分の腕の弱々しさ、ふがいなさに涙がこぼれた。同時に男たちの腕を
思い出す。
 自分を抱きよせるときの腕、自分を押さえつけた腕……自分にもあれだけの力強い腕があれば……そう思わずには
いられなかった。そうやって、腕を伸ばし、うつ伏せになった状態でどれくらい経っただろう。やがて遠くから
おますの助けを求める声が聞こえてきた。
「おねがいです、助けて、助けてください。舞台から滝に落ちて……死にそうなんです──」
「…………」
 何かぼそぼそ声が聞こえて来たような気がした。相手は男の二人組のようだ。そして、何か鋭い声がしたと思ったら、
次の瞬間、柔らかいものを叩く鈍い音が響いた。

92 :
「ギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
おますの絶叫が響き渡った。その声を断ち切るようにゴッゴッと身の毛もよだつような音が覆いかぶさる。やがて何も
聞こえなくなった。
「お、おい、何もRことなかったんでねーべか……」
しばらくしてそう囁く男の声が聞こえた。
「馬鹿言うでねぇ。お上の言うことに逆らう訳にもいかねーべ。聞いたべ?『おんなたちを決して助けてはならぬ』
 とよ。女たちはぜってー助からねえ。なら、いっそ楽にするのがせめてもの慈悲っちゅうもんだべ」
 男たちの声はこれ以上おんな達に関わるのはゴメンだと囁きあうと足音が徐々に離れていった。
 あたしはそのまま、水辺に取り残された。目から涙が後から後からあふれ続ける。あたし達が何をしたというのか……
 桔梗はあけすけで、明るく、どんな時もミもフタもない物言いで、元気づけてくれた。おますは愛嬌ある笑顔で
どんなに辛くても屈託なく励ましてくれた。二人とも懸命に
生きようとしていた。確かにあたし達は汚れた女なのかもしれない……でも、こんな風に虫ケラみたいに殺されるような
罪深いことなどしていないはずだ。
男は言っていた。
「おんなたちを助けてはならぬ」と。それはつまりこの事態はお上が引き起こし、最初からおんな達をみんなR
つもりだったのだ。
……あたしは無力だ。身体はこれ以上動かない。桔梗は死んだ。おますもたった今、死んだ。殺された。二人とも
いい仲間だった。辛いときも互いに支えあい慰めあったから、井戸に身投げをせずに済んだ。二人のいないあの世界で
一人、生き延びられる気がしない。それに、今の状況からあたしが生き延びられるとも思えない。
 あたしの身体は水で冷えきって、身体の痛みも感覚とともに徐々に無くなってゆく。あたしもそろそろ終わりだろうか。
こんな事になっても思い出すのはせん太の事だった。あと少しで会えると思った弟。最後に、せめて、せめて一目
だけでも、会いたかった……
 シャン、シャン……
どれくらいそうやっていたのだろう。どこからともなくそんな音が聞こえてきた。あの世へのお迎えだろうか?
あたしのような女でも、極楽浄土へいけるのだろうか?それとも地獄につれていかれるのだろか……
 ジャリ……
 ぼんやりとした視界に砂利を踏みしめた足が写った。
「?」
 どうやら、お迎えではないようだ。なんとか霞んだ目を見上げると、お坊さまが立っているのがぼんやりと見えた。
少しだけあたしの胸に希望が灯る。助かるかもしれない……と。
「お坊さま……助けて……助けて……ください……」
「助かりたいか」
お坊さまにしては精悍な声が問いかけてきた。
「だが、見たところ、酷い有様だ。その様子ではどうやっても助からん」
ピシリとした言葉使いはお坊さまらしからぬ物言いだった。
「そんな……」
「だが、手だてが無いわけではない。お前にはどうやってでもやり遂げたい未練があるか?復讐したい相手がいるか?」
 低く、力強い声が不思議な魅力をもって淡々と響く。
「もし、あるなら手を貸そう。外道へと身を堕とす事になるが、それで良いなら未練を要に命永らえる外法がある」
 お坊さまの言葉とも思えぬ言葉だが、その時のあたしは何も考えられなかった。
「このまま人として死ぬのならば安らかにRよう。だが、外道に堕ちてでも叶えたい望みがあるなら……」
「────」
 あたしは答えを口にし、弱々しく顔を伏せた。せん太に会いたい。その未練のためだけにあたしは魂をこの男に
売ってしまってもいいと思った。半分、自暴自棄になっていたのかもしれない。どうせ地獄に堕ちるとわかりきってる
汚れた業深き女の身。なら最後くらい自分の思うままにするのもいいだろう。答えた口元は知らず笑みを浮かべていた。

93 :
「──よかろう。その望み、しかと聞き届けた」
その怪僧はそう約束した。
  ◇ ◇ ◇
 手にした錫丈を傍らに置くと、男はあたしの上にかがみ込んだ。そして、あたしの手から掴んで離さなかった硬貨を
とりあげた。
「タガメか。いいだろう。これを使う。この術には要となる蟲が必要だからな」
その言葉で、あたしが金子だと思い必死で掴んでいたのは虫けらだと知った。何と滑稽なことか。
 しかし男はこう言った。
「念のこもった虫けらならより確実になろう」
 男は、懐から朱塗りのさかずきと札を取り出し、川の水をすくって、虫と札をその中に入れた。そして、何か口の中で
ゴニョゴニョと呟いていたが、意識の薄いあたしには何を言っているのかは分からなかった。やがて、あたしを川の水の
なかから抱き起こすと、そのさかずきを口元に持ってきた。
「飲め。歯は立てるな」
 あたしは言われた通り、さかずきの中のものを飲み干した。ガサガサした不快なものが喉の奥を通り過ぎるのを感じる。
飲み込んだ後、ケホケホとせき込んだ。不快なものはゆっくりと腹の中を下ってゆく。
 どくん
急に、胃の腑の中で何かが弾けた。今までの痛みに数十倍はあろうかという痛みが腹の中で破ぜた。まるで無数の針が
腹の中で炸裂したかのようだ。
「────っ!!」
すさまじい絶叫が口をついて出た。身体をのたうち回らせ暴れ回る。鋭い痛みの針が胃の腑を突き破り、次々と全身を
貫き、引き裂きながら広がってゆくようだった──
──どのくらいそうしてのたうち回っただろうか……短い間だったようにも何日も経ってしまったようにも思う。
気がつくと、辺りはすっかり暗くなっていた。
 あたしは、あいかわらず、川べりに横たわっていた。冷たい水が身体をじっとりと冷やしている。だが、相当長い時間、
水に浸っていたはずの身体は問題もなく動いた。水を吸って重くなった着物を引きずり、立ち上がる。不思議な事に
身体の痛みは引き、新たな力が全身に漲っている。
 やがて、そんなあたしの耳に、シャン、シャン、と、例の錫丈の音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「……気がついたか。もう動けるようだな」
 お坊さまは後ろにおんな達を引き連れて歩いてきた。ボロボロの衣装、青白い顔と肌……あたしと同じ、他のおんな達か。
当然、その中にはおますや桔梗の姿はみられなかった。知らない顔ばかりだ。
「お前で最後だ。すくい上げられたのはこれだけだったか……まあいい。ついてこい」
 そう言うと、この暗い川辺を歩きだした。あたし達は不思議と真っ暗なはずの夜道を不自由なく歩くことができた。
お坊さまはあたし達を伴い歩くうち、川辺から山道へと踏み
いっていった。そして、シャン、シャンという錫丈の音に導かれるように足を運ぶうち、前方にボウ、と何かの明かりが
見えてきた。誰かが道をやってくる。
 明かりを掲げ、やってきたのは男だった。質素な衣類からすると、この辺りの農夫らしかった。
「なんだべ?この遅い時刻に……ひぇっ?!」
 男はあたしたちの異様な様子にひどく驚いたようだった。おんな達は血塗れでボロボロな衣装をまとっているのだ。
驚くのも無理もない。だがそれよりも、あたしはその声を聞いて怒りの炎が胸の奥で燃え上がるのを感じていた。
 この声。あの男の声だ。おますを殺したのはこの声の男だった。あたしはこの男を許さない、許さない許さない……
あたしは突如沸き上がった怒りとともに男につかみかかった。

94 :
「あっああっ、あぁあぁぁあぁあああっ」
喉の奥から人とも獣ともつかぬ叫びがほとばしる。巨大な手が男を掴みあげ、絞めあげた。あたしはその男の喉元に
牙を立てようとむしゃぶりついた。
「そこまでだ」
 シャン、
錫丈の音が耳朶を打つ。途端、身体が見えない何かに縛られ、動けなくなった。農夫はいましめからとき放たれ、
気を失ってずるりとくずおれる。
「ぎっ……が、がぁっ……っ!!」
ブツブツと、念仏のように響く言葉の旋律があたしを縛る。重々しく、深い声があたしを押しとどめた。あたしは
呪縛された身体を無理に動かし、頭をめぐらせた。視界の隅でお坊さまが札を掲げ、ブツブツと何かを唱えていた。
掲げたお札は青い不思議な光を放ち燃えているようだ。
「うぬの目的はそうではなかろう。そんな事に力を使うでない」
そう言うと、まじないを止めたからだろうか。お札の光は光を失い、身体の自由をとりもどした。だが、あたしの
怒りは復讐を妨げた男に、お坊さまにそのまま向けられた。
「がぁあぁっ!!」
怒りの衝動のまま彼にとびかかり、肩口にかみついた。そして笠が飛び、血が散った。
──それから、暫く時間が経過した──
 やがて、かなり時間が経過して怒りが引き、あたしは我に返った。あたしの首筋にそっと指が添えられた。思いの外
優しい手の指先。その感触にハッとして、身体を離した。目からはいつの間にやら赤いものが流れていた。あたしは
怒りに飲まれ、今何をしたのだろう?
「気が済んだか──」
 肩口を噛み裂かれているにもかかわらず、全く動揺した様子もなく、男は言った。
「お前の望みは弟との再会だったはずだ。それを忘れぬことだ。それ以外の事で力を使う事は許さぬ。よいな」
だが、あたしは別の事に驚いていた。
「お坊さま、あなたは……」
 笠が飛んだ男の姿は異形だった。精悍な青年の顔にはこめかみから太くガッシリしたツノが生えていたのだ。
 また、眉間には鋭く斜めに刀傷が入っており、ひきむすばれた眼差しが強くきびしい眼光をたたえていた。
あたしは自分の卑しくあさましい性分を見抜かれいるような気がして狼狽え、目を逸らした。
「これか?そうだ。拙僧もうぬらと同じ……外道よ」
落ちた笠を拾い、かぶりなおしながら男はそう言った。肩口の傷には全く頓着していない。
「さて、本来ならもう少し先でやろうと思うたが、よい機会だ。ここで済ますとしよう」
男は再び、懐をさぐり、札を数枚取り出すと、あたし以外のおんな達に向きなおった。
「うぬらの望みはうぬらをこんな目にあわせた者達への報復……そうであったな」
そう言うと、左手で印を結び口の中でブツブツと何事か唱える。と、右手に持ったお札が白い炎に包まれた。
「うぬらをこんな目にあわせたのはこの国の領主だ。お前たちの口からここの隠れ金山の秘密が漏れることを恐れ、
 口封じのためにこんな事をしでかしたのだ……」
 そう言うと、手のお札を宙に放った。すると、お札はほの白い火の玉となり、それぞれ、おんなたちの頭上に
漂いだして止まった。そしてお坊さまは、おんな達にこのような事を目論んだ者達と領主の名を告げた。
「その火の玉の後をついてゆけ。おまえたちの仇の元へ導いてゆくだろう。存分に復讐するがよい」
 すると、おんな達の足下から青白い炎が沸き上がり、おんな達は炎に包まれた。一瞬後には、大きな青白い
火の玉になり、お札の白い火の玉に導かれるようにして、空を飛んでいってしまった。
「うぬらの望み、成就することを祈っておるぞ」
空に散ってゆく火の玉を見送り、男はボソリとつぶやいた。数年後、おんな達の呪いか領主達は落城し、姫達は
奇しくもそろって水に身投げする憂き目を見ることとなった……

95 :
「……さて、つぎはうぬの望み……だったな。懸想した娘はさっきのおんな達の中にはおらなんだか?」
 お坊さま(この呼び方がふさわしくないのはわかっている)がおんな達が消えた後、その後ろに控えていた人物に
声をかけた。
 あたしはその人物を見てギョッとなった。
「いいえおぼうざま。だっだいまみづがりまぢだだ」
 ひどいだみ声でその男は答えた。ひどく低い短躯、がっしりした体つき、傷だらけの芋のような容貌……その男は
あの醜い男、骸(ムクロ)だった。男のねっとりとした粘っこい視線があたしをねめつけていた。
  ◇ ◇ ◇
「なんで?!どうしてっ?!あんたがここに居るのさっ?!」
あたしは嫌悪感で身を引きながら叫ばずにはいられなかった。
「この男は領主のたくらみを知ってそれを逆に利用してやろうと目論んだのだ」
お坊さまが淡々とあたしの質問に答えた。
 曰く、おんな達が滝壺に落とされたら、自分も助けに飛び込み、そのまま死んだ事にしてしまえば、ともに郭抜けが
できる。おんなを助け、下流に流れ着いて適当な所で陸にあがり、その後は自由に住む所を定める。醜い自分でも
そうやって郭抜けをすれば一蓮托生。女も一緒に過ごさない訳にはいかないだろう。
「……だが、実際に飛び込んでみたものの、この男自身も水に溺れ、おんなを助けるどころではなかった。結局、
 瀕死の状態で流れ着いた所に偶然居合わせたのでな。丁度、足下を這いずっていた虫ケラを使って拾い上げた」
 ……あたしはこの醜い男の考えを知ってゾッとした。この男にずっとみられていたこともさることながら、この男の
考えに嫌悪感しかわかなかった。下手をすればこの男に救われていたかもしれないのだ。この男と落ち延びるなど
冗談ではない。
「近寄らないでっ!あんたと一緒なんてまっぴらごめんよっ」
男は無言でじっとこっちを見ている。熱っぽい、ドロリとした視線を注いでくる。それだけで全身に汚ならしいものを
塗りたくられているかのような嫌な気分に陥った。
「おでば……おめえをずぐえながっだ……おめえをものにでぎながっだ……だがら、ぜめで、づいでいぎでえ……」
だみ声でそんな事を言ってきた。
「拙僧はうぬの望みを叶えると約束した。それが望みなら仕方なかろう」
あたしが「お断りよっ」と、叫ぶ前にお坊さまがそう言ってしまった。
「なっ……!そんっ……お坊さまっ!?」
あたしはお坊さまに言い募ったが、お坊さまの意見を翻させることは不可能だった。逆になにがいけないのかと問わ

言葉に詰まった。理屈ではないのだ。この言い知れぬ不快感、嫌悪感……それらをうまく説明できたとしてもお坊さまの
意志は変えられなかったろう……結局あたしの訴えは聞き入れられなかった。

96 :
  ◇ ◇ ◇
 どの道、あたし達はお坊さまの導きなしには世の中を渡り歩けないと説明された。世の中を見る目が変わっているの
だという。半ば幽霊と同じ状態で世に存在しているのだ。なので、今のまま、お坊さまの導きもなしにさまよい歩けば
たちまち道に迷い、永久にこの世を彷徨う事になるのだとか。つまりこの身がなじむまでの暫くの間は一緒にいくしか
ないのだそうだ。
そして出立。あたしの望みを叶える為、お坊さまに導いてもらう事になっている。しかし、その前に桔梗とおますをはじめ
おんな達を供養してから出立したかったがお坊さまに止められた。
「やめておくことだ、うぬはまだ領主らに抹殺されかかっている最中だと忘れたか。それに、我らは外道だ。外道に
 弔われては成仏できるものもできなくなるやもしれぬ……業腹だろうが弔いはこの辺りの者達に任せるがよかろう。
 見捨てた後ろめたさで弔わずにはいられぬ事だろうしな」
……そう言われては諦めるしかなかった。せめて、二人の亡骸は一緒に葬ってもらえるよう、一緒に河原に並べて
おくことにした。
二人とも酷く痛めつけられた亡骸だった。できるだけ
綺麗にしてあげたかったが、顔を布でぬぐってやることしかできなかった。……せめて死化粧をと近くで採れた赤い実を
すりつぶして紅をさした。
「こんな事しかしてあげられなくてごめんなさい……」
 そしてあたしはおますと桔梗。二人の亡骸に別れを告げた。
──それから。あたし達はお坊さまのシャン、シャン、という錫丈の音に導かれながら、自分の故郷に帰った。そこに
弟のせん太がおっとうと一緒に暮らしているはずだった。
──だが、そこには誰もいなかった。家は荒れ果てあばら屋になっていた。裏の畑も雑草が生い茂って人の手が入った
様子はなかった。そして、おっとうの姿も弟の姿もどこにもみつからなかったのだ……
 あたしは隣近所の人に話を聞いてみた。そして知ったのは信じたくない事実だった。
 おっとうは何年も前に死んでいた。半ば騙されるような形で人買いに娘を……あたしを買い取られ酒に溺れる日々
だったという。弟も姉を連れ戻すと出ていったきり、結局戻らなかった。そして、金子が尽きる頃におっとうは体調を
崩してしまっていた。挙げ句、誰にも看取られず、ある日ひっそりと息を引き取っていたそうだ。
 あたしはおっとうが埋められた墓の場所を聞き、いってみた……土まんじゅうの上に丸石が二つ……それがおっとうの
墓だった。
「おっとう……どうして……どうして……」
その言葉しか出てこなかった。最初は何故あたしを人買いに売ったりしたのか。そしてどうして死んでしまったのか……
気のいい人だった。大らかな人だった。だから人買いにコロリと騙されてしまったのだろう。何となくそうじゃないかとは
思っていたが、それでもあの辛い生活の中では自分を売ったと聞いておっとうを恨まずにはいられなかった。
でも……それでも、それも生きていればこそ。なのに……
 あたしは暫くの間、呆然とおっとうの墓の前に佇むことしかできなかった。桔梗……おます……そしておっとう……
好きな人が次々と居なくなっていく……
 そして弟は行方がわからない。どこを探せばいいのだろう?
長い間、墓前に佇んでいたが、やがておっとうにも別れを告げると、弟の事が気がかりになってきた。もうあたしの
肉親は弟だけになってしまった。それと気になったことがある。
「弟はここに帰ってきていなかった……?」
 あたしの聞いていた話と違う。せめて弟が帰ってきていたら、おっとうは死ななくとも済んだかもしれないのに。
これはどういうことなのか、あの女にもう一度話を聞く必要が出てきた。色町に居る女衒の、あの女に──
  ◇ ◇ ◇
──だがあの女の居た色町一帯は焼き払われ廃墟と化していた。聞けば大火が出たという。おんなたちも沢山焼け死に、
色町は壊滅状態だった。
 廃墟と化した町のなか、偶然見かけた男衆の一人をつかまえて話を聞き出した。
「女衒の姐さん?さあな。あの大火以降、行方知らずよ。おんなどもと一緒に焼け死んじまったのかもしんねぇなあ」
 あたしは力が抜けてしまった。これでせん太の手がかりは途切れてしまった……
「せん太?あぁ、姐さんに騙されてた間のあの抜けた小僧の事か」
 あたしは聞きとがめた。騙されていた?問い返すと、男は事も無げに語りだした。

97 :
「あぁ。姐さんが小金を稼ぐ毎度の手なんだがよ。時たまああいう小僧と賭け……ちゅ〜かお遊戯をするのよ。
 ま、小金稼ぎかね」
賭け……その言葉にあたしは不穏な響きを感じていた。男のお喋りはなおも続く。
「姐さんは時々ああいう小生意気な小僧を見つけてはこういう話を持ちかけてコキ使うのよ。持ちかける話はだな。
 『姉ぇちゃんを取り返したかったら、うちで働け。働いている間、一日に二刻だけ自由に動ける時間をやろう。
 その時間の間にこの色町のどこかにいる姉ぇちゃんを見つけ出せたら、無条件で姉ぇちゃんを返してやろう。
 もちろん、うちで働いて姉ぇちゃんを身請けできるだけの金を稼いでもいい。金子が貯まれば姉ぇちゃんを買い
 戻せるぞっ』ちゅ〜てな。
 ──っつても、実際にゃ、その娘は大抵、よその色町へやっちまうから、その町じゃぁ見つかりっこねぇ。
 一日のうち二刻は無駄に走り回っておしめーって寸法よ。
 せん太って小僧もよく働いたぜぇ。見つからなくても姉ぇちゃんを買い戻すってはりきってな。つーても、小銭で
いいようにこき使われてやがったな。やがて、色町ン中みんな探し尽くして、やっと町ン中にゃぁ姉ぇちゃんは
いねぇって気づいたらしい。姐さんところに怒鳴り込んできたっけな。そしたら暴れたんで今度こそ男衆にごてーねーに
かわいがられて河原にポイよ。ま、死なれても寝覚めが悪いから今度はある程度手加減はされてたがね。今頃はどこで
どーしているのやら」
……あたしはその話を聞きながら、怒りに震えていた。思い出す。あの時、格子部屋に上げられる前、呼び出された事……
鉱山行きの話……つじつまの合わない話……あたしたち姉弟をいいように使って金を儲けていたのだ。あたしを金山に
送り、弟を小間使いにこき使って……全て合点がいった……だが、そのおかげで……その結果おっとうは身を
持ち崩して死んでった……
「ところでよ。あのガキの事を尋ねるってこたぁ、おめぇ、あのガキの姉か?っつーこたぁ、ヤマから抜け出して
 きやがったのか?」
そういって、あたしの肩をつかんだ。抗いがたい力強い男の腕がまたもあたしを捕らえようとした。その時だ。
 ゴッ
 あたしは怒りを男にぶつけた。巨大な腕が男を捕らえ、焼け残った建物の壁に叩きつけた。男は「ぶぎゅべっ」
と、蛙がつぶされるようなうめき声を上げた。ぎりぎりと巨大な腕が男を絞め上げる。
いつの間にかあたしの帯の一部が巨大な腕の形となって男を締め上げていた。
「答えなさい。弟を捨てた河原はどこ?」
男を睨めつけ、問いつめると男はひっと息をのんで
「ば……化け物……」
 と、呟いたっきり、気を失ってしまった。結局、弟の行方はわからなくなってしまった。あたしは腹立たしげに男を
放り出した。あの女にいいようにされていたなんて。なんと腹立たしい。あの女など、地獄の業火に焼かれてしまえ。
できればこの手で八つ裂きにしてやりたいとさえ思った。
……ふと自分の腕をみるとポタポタと流れる赤いもので汚れてる事に気がついた。そしてそれは目から出て頬を伝っている。
どうやら、血の涙を流しているらしい。怒りでボンヤリとした頭でそう考えるまま、顔を洗おうと水を貯めている
手近な桶をのぞき込んだ。
──そこには亡者の顔が写り込んでいた。頬がげっそりとこけ、青白い顔は幽鬼の色だ。口からは牙が生え、目は
白目の部分が真っ赤に染まり、血がダラダラと流れている。あさましく醜い、亡者の姿。これが、今のわたし……
まさに化け物だった。
 だが、あたしは頓着せず、目から流れ出た血を洗い落とした。幽鬼だろうが亡者だろうが、今はもう、どうでもよかった──
  ◇ ◇ ◇
 町を出ると入り口でお坊さまが待っていた。あたしが見失わないよう、目印としてチリーン、チリーンと導きの鈴を
鳴らし続けていた。まだ、世を見る目になれていないのだ。一人で世の中を動けるようになるにはまだ少し時間がかかる。
「どうした。話は聞けたか」
お坊さまがあたしに気づき、声をかけてきた。あたしは急に気恥ずかしくなり、顔を隠したくなった。この人にもあの
幽鬼のような顔を見られているのだ。同じ鬼なのに、この人の凛々しさと比べてあたしの何と浅ましく醜い事よ。つい、
目を逸らしがちになりながら答えてしまう。
「いえ……弟の行方は辿れませなんだ……」
「そうか」

98 :
 あれから、せん太が放り出された河原の場所は調べがついた。町の裏手の川だったが、手がかりは何も得られなかった。
お坊さまは、ややあって、あたしたちにこう申しつけた。
「ならば、少しつき合え。この近くで人喰い鬼が出没するそうだ」
  ◇ ◇ ◇
──夜。町を離れ、街道からも少し外れた所で、あたしたちは火を焚き暖をとった。パチパチとはぜる炎を見つめつつ、
あたしはお坊さまにたずねてみた。
「それでお坊さま、人喰い鬼とは……?」
 これだけ暗くても、笠を脱がないのはやはりツノを隠すためなのだろうか……?
それはともかく、お坊さまはうむとひとつうなずくと人喰い鬼について語りだした。
「この街道沿いで女が何人も襲われているらしい。人喰い。と言われても、喰らうのは骸のほんの一部分だけ……
 という事らしいな。襲われた女のむくろがそこかしこで見つかるので噂が出回るようになった。ということだ」
 お坊さまは、じっと動かぬまま炎を見つめ、淡々と概要を語りつづける。
「なにぶん、この格好だ。物の怪や怪異の話は色々と舞い込んでくる。今回も是非にと鬼退治を依頼されたのだ」
そういって語り終えた。あたしはだいたいの要約を聞き終えたが、腑に落ちない点がいくつかあった。
「しかし、お坊さま、聞いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「何故、私を同行させたのでしょう?私は非力なおんなですのに……次に、その鬼を見つけだしてどうなさる
 おつもりなんです?お坊さまはお坊さまではないのでしょう?」
そうたずねると彼はくっくっく、と、愉快そうに笑いだした。
「……そうよな。我は外道よ。本来、仏門からはもっとも遠き存在よ。それゆえ、例え人喰い鬼が出没しようとも、
 退治するいわれなどない」
それならどうして……と、再びたずねようとしたあたしを片手で制して、彼は語り続けた。
「まずは最初の問いに答えよう。単純な事だ。人喰い鬼はおんなを狙って出没するそうだ。ならば、おんながいなければ
 遭遇することかなわぬかもしれぬ。次に……うぬはすでにか弱い女ではない。拙僧は見てみたいのだ。うぬがどれ程の
 使い手に生まれ変わったのかを」
正直、あたしはお坊さまが何をおっしゃっているのか分からなかった。
「そういう意味ではうぬにも期待しているぞ。オケラよ」
そう言って、炎の向かいにうずくまる醜い男に声をかけた。
言われた男は腰を下ろし、ただ無言でじっと炎を見つめている……
もちろん、この男はあたしがムクロと呼んでいた男だ。当然、あたしたちの旅にもずっと同行していた。最初お坊さまに
名前をたずねられた時も、あのだみ声で「おずぎにおよびぐだぜえ」と言うばかりで、名乗ろうとはしなかった。
 なので、お坊さまはこの男を蘇らせるのに使った虫ケラの名前……オケラと呼ぶようになった。
それにしてもこの男には相変わらず嫌悪感しか沸かない。なので、普段はできるだけその存在を意識の外に締め出している。
 だが、時々この男の粘っこい視線が身体を舐めるように這い回るのを感じていた。その度に肌が泡立つような嫌悪感に
さいなまれていた。
……とはいえ、ムクロ……いや、オケラはかつて男衆に身をおいていたからわかる。身体もガッチリしているし、荒事は
お手のものだろう。だが、あたしはそんな世界とは無縁で生きてきた。芸事だけの世界に生きてきたおんなが同じ
外道に堕ちたからといって物の怪退治に駆り出されても何かできるはずがない。そう申し立てたが、お坊さまはそうは
思わなかったようだ。
「ふ……うぬは既に力の一端を拙僧に示したではないか」
「お坊さま、それは……」
「シッ!」
 あたしがお坊さまに真意を確かめようとしたとき、何かの気配が近づいてくるのを感じていた。
男二人は素早く立ち上がり、焚き火を挟んで接近してくる人影と対峙した。
 サク、サク、サク、と軽い足音をたててその人影はゆっくりと焚き火の灯りの中に踏み込んで来た。

99 :
「やあ、こんばんわ。ちょっと火に当たらせてもらっていいかな。人探しをしているうちに道に迷っちゃって。女の人を
 探しているんだけどね。ボクのねーちゃんなんだ……」
やんちゃそうなその声を聞いた時、あたしは自分の耳を疑った。
「せん太……せん太なのかい?」
  ◇ ◇ ◇
 そこにはなつかしい少年の姿が立っていた。人なつっこそうな童顔、質素な着衣、間違いない。弟のせん太だ。
向こうもあたしの事を見て気がついた。
「姉ぇちゃん、姉ぇちゃんなのかい?」
だが、感動の再会とはいかなかった。
 ジャリン!!
唐突にあたしと弟の間にお坊さまの錫杖が割って入ったのだ。
「っ?! お坊さま、一体、何を?」
お坊さまは錫杖を構えながら、笠の向こうの目は油断ならぬ光を放ち、弟を睨みつけている。
「よく見ろ。ぬしの弟、既に外道に堕ちている」
言われ、目を弟に戻すと弟は棒立ちでブツブツと何か
呟いていた。いつの間にか目は塗りつぶされたように漆黒に染まっていた。何より、首の斜め後ろに異様な大きさの瘤が
膨れ上がり、そこにいくつもの小さな人面瘡がより集まっていた。
「姉ぇちゃん……姉ぇちゃん……かい……」
せん太が虚ろに繰り返す。すると首の瘤から甲高く小さい声があがった。
「イーヤ、かか様ジャネェ」
別の声が続いた。
「チガウ、ねね様ジャナイノ!」
別の声が叫ぶ
「こんなのかー様じゃナイ!」
「妹、妹ハドコダ妹ハドコダ!」
「チガウチガウチガウ!コイツハチガウ!」
ひとしきり人面蒼たちが騒いだあと、弟はゆっくりとこちらに向きなおった。
「そうか……違うのか……なら……喰い殺しても……いいよね……」
 漆黒に塗りつぶされたせん太の目があたしをうつす。せん太の口から牙が生え、指の爪が鋭く長く伸張した。
ギリギリと額から突き破るようにツノが突き出した。
「……せん太!」
 次の瞬間、信じられない速さでせん太は襲いかかってきた。お坊さまの錫杖がそれを阻んだ。
 ギャリンッ!
せん太のカギ爪と錫杖がかみ合い、火花が散った。あたしに向かって突進してきたせん太はその錫杖によって弾き
とばされた。
「あははははっ あははははっ!!」
そのまま、けたたましく笑いながらせん太は闇の中へと駆け込んでいった。呆然となったあたしをそこに残したまま。
一体、せん太に何があったのだというのだろう……?
  ◇ ◇ ◇
「──怨念の集合体だ。うぬの弟はそれに取り込まれて鬼と化したようだな」
お坊さまの説明によると、同じような境遇で死して朽ち果てた魂たちが寄り集まり同じ境遇の弟に取り憑いて鬼と化したの
だろう。と、いうことだった。

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