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2013年08月FF・ドラクエ222: ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv4 (493) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv4


1 :2013/04/11 〜 最終レス :2013/08/11
ドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようというリレー小説企画です。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。
※キャラの予約制あり。(任意、利用しなくてもOK)
予約をする際は捨てトリで構わないのでトリップを付け、使用するキャラを全て明記して下記のスレで予約してください。
DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/
予約期間は10日(延長なし)で、予約の書き込みから240時間が経過すると予約解除として扱います。
「予約キャンセル」等、予約に関することは他の書き手さんが検索しやすいように必ず「予約」の文字を入れてください。
参加したいけどそもそも予約って何? という人はWiki内のこちらのページをご参照ください。
予約〜投下の手引き
http://w.livedoor.jp/dqbr2/d/%cd%bd%cc%f3%a1%c1%c5%ea%b2%bc%a4%ce%bc%ea%b0%fa%a4%ad
もし投下作品に不安があるのなら、総合掲示板の「DQBR一時投下スレ」でアドバイスを受けてください。
また、規制などで本スレに書き込めない場合も一時置き場をご利用ください。
DQBR一時投下スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1335864807/
前スレ
ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv3
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1354629614/
【避難所】 DQBR総合掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/game/30317/
まとめWiki
http://w.livedoor.jp/dqbr2/

2 :
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。

3 :
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。
 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
 【座標/場所/時間】
 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。
※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。

4 :
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24


【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】
【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する

━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。

5 :
 

6 :
「ちっ、勝手にしろ!!」
ハーゴンから踵を返し、ソフィアの方へと走り去っていくハーゴンを見やり、ピサロは小さくぼやきながらも走り去る。
手負いの魔物は、失うものがない。
故に己を省みない行動へ、平然と躍り出てくる。
容赦なく降り注ぐであろう攻撃の数々をやり過ごせるかどうかは、正直言ってピサロにも自信はない。
ましてや、ミーティアを守りながらなど。
ああ見えて、あの女はアリーナに引けず劣らずの天才的な戦闘センスを持っている。
弱点や能率のいい打撃を本能でたたき込むアリーナとは、方向性こそは違う、が。
一瞬で大局を判断し、ふさわしい行動と号令を飛ばす。
だから、さっきもああ言ったのだろう。
それが彼女にとっての最良の判断だったのだから。
もちろんピサロも、彼女が死ぬとは思っていない。
なんだかんだいいながら、単騎でアレを撃破してしまうのではないだろうか?
最悪でも、うまいことごまかしながら逃げてくる、そんな気がする。
彼女は、死なない。
絶対的といってもいいほどの安堵が、自分の中にはあった。
だから、ここは彼女の言うとおり絶望の町へ逃げる。
ハーゴンは向こうへ向かってしまったが、彼女なら最良の判断ができるだろう。
自分は言われたとおり、ミーティアを安全に絶望の町まで送る。
「は、なして!!」
その時、脇に抱えていたミーティアが体を大きくよじって反抗する。
小さなものであれば無視して走り続けてもよかったのだが、ピサロの予想以上にミーティアの動きは激しい。
いったん窘めるために、ピサロはやむなく足を止める。
そばにある木を背負わせるように体をおろし、ミーティアの顔の両端をふさぐように木を押さえつけていく。
「ソフィアが言っていただろう。逃げろ、と」
「嫌です! ソフィアさんを放っておけません!」
予想通りの答え、そんなことだろうとは薄々思っていたが。
逃れようとする彼女に、ピサロは顔をずいと彼女の方に寄せ、わざと低いトーンで告げる。
「奴は私たち、特に戦えないお前を逃がすために一人残ったんだ。
 そのお前が自分から危機に飛び込んでは、奴の考えが無駄になる。
 ヤンガスから頼まれていることもある、私はお前の保護を最優先するぞ」
「ですがそれでも!!」
冷たい言葉に、ミーティアは声を荒げて反論する。
「危険に晒されている人を放ってどこかにいくなんて、出来ません!!」
その言葉まで読んでいた、と言わんばかりの冷たい目線をミーティアに向け、ピサロはさらに言葉を続けていく。
「……もう、忘れたのか?」
先ほどよりもさらに冷徹な声が、ピサロの口より零れる。
何もかも圧倒する迫力に押し負けないよう、ミーティアは少しだけ拳に力を入れた。
「お前がわがままを言わずにあのまま絶望の町に向かっていれば、ヤンガスは傷つかずに済んだのだぞ?」
はっ、とする。
無理を言ってヤンガスをつれてきたのは、自分だ。
彼に傷を背負わせたのは、自分だ。
それだけは、事実として消えない。

7 :
 

8 :
「でも」
だが、それはピサロを助けようと思ってのこと。
どうしても不安だった、という気持ちが隠しきれなかった。
「私なら大丈夫だと言ったはずだ。
 これが最善であり、最良の選択だと」
だが、ピサロはそんなことを知らない。
そこにあるのが善意だろうと何だろうと、最後の結果がダメなら何の意味もない。
「それとも何か? "私を信用する"というのは嘘だったのか?
 お前自身、納得してそう決めたはずだろう?」
「それは……」
「何かしら不満があるなら言えばよかっただろう。
 後で意見を変えたというのならば、それは"わがまま"だ」
覆い被せるように言葉を重ねていく。
説得と言うより、もはや恐喝に近い。
「これはお願いや提案という生易しいものではなく、警告だ。
 もう一度同じことを繰り返せば、次に命を落とすのはお前だからな。
 ソフィアがくれた時間を無駄にするわけにはいかん。絶望の町へ、逃げるぞ」
ようやく静かになったミーティアを見て、ピサロはホッと一息をつく。
再び走り出すため、彼女を抱きかかえようと手を伸ばした時だった。
「だったら……」
静かに、それでも上品な声でミーティアは告げる。
「ピサロさんだって"わがまま"じゃありませんか」
「何だと……?」
続くミーティアの言葉に、思わず喧嘩腰で反論してしまう。
「要は、自分は悪くなくて、全てこのミーティアが悪いと言いたいのでしょう?」
「落ち着け、ミーティア。今は時間がない」
だが、ここで逆上しては時間がなくなってしまう。
怒る気持ちを抑え、冷静にミーティアの言葉に対処しようとする。
「私だってただ守られるだけではないと、あの時言いました。
 ピサロさんだって、その私の言葉を信用してくれていないではないですか。
 三人で動いた方が、安全だとあれほど言ったのに」
「それは、お前を危険に晒さぬために」
「ミーティアは大丈夫だとあの時言いました」
が、一転してミーティアの語調が強くなる。
先ほどとは鏡写しになるように、ピサロの語調がどんどんと弱まっていく。
ミーティアの指摘ももっともであるからこそ、ピサロは言葉に詰まる。
「……嘘つき」
そして、呆れた声でミーティアは言う。
「私を信用しているというのも嘘、エイトが死んでいるというのも嘘、嘘嘘嘘と、ピサロさんは嘘で塗り固められているのですね。
 楽しいですか? ミーティアを翻弄させて、みんなを傷つけて、楽しいですか?」
先ほどのピサロのように冷たく、淡々とミーティアは言葉を続ける。
その目には、初めの頃の優しさなど微塵もこもっていない。
「もう、あなたには惑わされません」
本能に導かれるまま、ミーティアは動く。
先ほどミーティアを操ろうとしていた何かが、彼女を再び傀儡のように動かしていく。
何かを握りしめ、両手をまっすぐ延ばす。
見慣れぬそれにピサロが不信感を抱くと同時に。
ぱんっ、と軽い音がし、ピサロの体がぐらりと傾いた。

9 :
 

10 :
.

11 :
ケーキを交換したときに、万が一を考えたソフィアが持たせていたもの。
黒い鉄の塊、この場にいるたいていの人間が知ることのない武器。
"銃"が、その手に握られていた。
どさり、と体が倒れる音がする。
素人同然の彼女でも、この至近距離ならば外すことは無い。
ミーティアが両手で支えていた銃からは、微かに煙が吹き出している。
だが、嘆くことはしない。
自分を惑わす存在を撃った、それだけだ。
時間がない、一緒にエイトを探してくれる"仲間"の保護を優先せねば。
「ま、て」
地に這い蹲りながら、ピサロは起きあがろうとする。
が、打ち込まれた場所がピンポイントだったのか、うまく起きあがることが出来ない。
ミーティアは、冷たい目線でピサロを見つめている。
彼女が走り去る前に名前を、名前を呼んで彼女を引き留めなければ。
「……リ……」
名前を。
「……リー」
彼女の名前を。
「……ザ、リー」
彼女の名前を呼ばなければ――――
「ロザ、リー!!」
あれ。
ちがう。
そうじゃない。
なんで。
かのじょは。
みーてぃあ。
なのに。

「ピサロ様の、嘘つき」

"彼女"がくるりと振り向き、ぴったりと額に銃を当て、引き金を引く前にそう言ったような気がした。

.

12 :
 

13 :
 

14 :
.

15 :
向こうの手には強力な槌と剣、尾には巨大なボウガン。
只でさえ強力な力も合わさって、一撃が致命傷になることはわかる。
鳥頭のトサカ野郎にバイキルトかけたぐらい――――それに匹敵するぐらいはある。
その圧倒的ともいえる戦力の前に立つ自分は、なんと表現すべきか。
舞い上がる砂埃の中、そんなことを考えていた。
正直言って勝てる気はしない、相手の攻撃を全てよけながらこちらの攻撃を全て有効打にするなんて、人間が人間である限り不可能だ。
それでも、まるでこの状況を楽しむかのように、ソフィアは不敵に笑う。
笑っていられるのは簡単な話で。
「ハッ、理由もなしに只動くだけの機械野郎にぶっ殺されるほど、こちとら甘かねーよっ!」
負ける気がしないからだ。
とはいえ、勝機があるわけでもない。
ギリギリのギリのギリのギリを攻めて、守る。
一歩間違えば即アウト、エビルプリーストと仲良く肩を組んで歩く羽目になる。
だから至って冷静に局面を見つめ、ふさわしい動きを選択していく。
頭の中でいくつもの"手段"を思い浮かべ、"結果"をはじき出す。
本能による戦闘ではなく、洗練された思考で動く。
対峙する魔物もソフィアの命を刈り取らんと、持てる全てを放っていく。
初めの一度以降、既に二度ほど獲物を逃している故の思考の変化だった。
もちろん、ソフィアはそんなことを知る由もないが。
瞬速で飛び交う無数の矢を、斬魔刀でなぎ払っていく。
あれだけ巨大なボウガンをこの間隔で打ち込める、ということからもあの魔物が只の魔物でないことはわかる。
だが、ここで遠距離戦の手札を消費させておけば、いざという時逃げ出すのが容易になる。
弓は素晴らしいかもしれないが、幸いにも矢は大したことはない。
斬魔刀の広い刀身もあって、次々に弓矢をへし折っていく。
難なく全ての鉄の矢を弾き飛ばしたところで、ソフィアは次の一手を撃とうと動く、が。
「――――ッ!!」
頬を掠めていく一本の矢。
すんでのところでかわせたからよかったが、もう一歩踏み込んでいれば直撃だった。
魔物は好き好んで只の鉄の矢を使っていたわけではない。
本命の矢をしっかりと当てるために、鉄の矢をバラ撒いていたのだ。
そして、放たれた本命の矢は。
ソフィアの心に、はっきりと"恐怖"を植え付けていた。
すれ違うたった一瞬に、まるで大魔神のような威圧を植え付けられた。
たった一つわかるのは、あの矢に当たれば"相当まずい"ということ。
「遠距離でチンタラしてる訳にも、いかねーなっ!」
カモフラージュの木の矢を飛ばす魔物に、ソフィアは一気に距離を詰めていく。
遠距離でグダグダしていれば、次こそはあの矢の餌食になってしまう。
自分にあるのは、そこまで得意というわけではない呪文だけ。
片や命なんて簡単に奪い去ってしまいそうな魔神の矢。
まさか近距離より遠距離の方が分が悪いとは。
計算を誤った自分に悪態をつきながら、ソフィアは魔物へと向かう。

16 :
 

17 :
「おおっ、るぁっ!!」
巨大なリーチを誇る斬魔刀の先端で薙ぐように、ソフィアはギリギリの距離を保つ。
これ以上踏み込めば剣や槌の餌食、と分かっているから。
それ以上先には、踏み込めない。
だが、魔物は違う。
魔物にしてみれば近づけば近づくほど有利であるし、遠ざかれば遠ざかるほど有利である。
ソフィアの攻撃の合間合間を縫い、そそくさと近寄っていく。
先端を掠めるように当てては後ろに飛び退き、当てては飛びのき。
時に振るわれる槌と、刃から飛び出す雷をもいなしながらの攻撃。
戦いのペースは疑うまでもなく、キラーマジンガが握っている。
「クソったれ……!」
只事では済まないだろうとは思っていたが、さすがに予想の範疇を超えていた。
このままでは自分の体力が追いつかず、ジリ貧になってしまう。
何かないのか、何かないのかと、戦いながらも思考を平行させる。
「……ん?」
その時、魔神の異変に気づく。
なんてことはないただの布切れ、正直ボロボロすぎて防具になるかどうかも怪しいくらいだ。
そう、そんな布切れに何故、圧倒される気配を覚えているのか。
いや、この圧倒される気配は、知っている。
そう、数刻前に味わったアレと。
「――――っつあっ!!」
酷似していた、だからとっさに刀を前に構えた。
刀が矢を受け止め、矢とともに激しい共鳴を繰り返し。
斬魔刀は矢を飲み込むように、ボロボロと崩れさっていった。
「マジかよ……」
思わず、言葉を失う。
武器という物が壊れるという場面に立ち会うことは多くはない。
ましてや、このような業物に関しては、世界中を探しても一人か二人ぐらいだろう。
そんな業物の刀が崩れさっていくのを見たソフィアは、正直言って驚きを隠しきれずにいる。
だが、驚いている暇はない、驚かせてくれる時間をくれるわけもない。
これを好機と見た魔神が、一気に距離を詰めてくる。
たった一瞬で距離を詰め終えた魔神が、両に持つ武器を振るう。
片や星すら砕くと言われた幻の槌。
片や雷神を宿し得る素質を持った刃。
ふくろから武器を出そうとしても、間に合わない。
アストロンも、間に合いはしない。
迫りくる武器を、ただ黙ってじっと見つめるしかない。
「唸れ、邪なる力よ」
そう、思っていた。

18 :
 

19 :
まるで風を纏うように颯爽と現れた男が、闇を纏った拳で魔神を殴り抜いていた。
魔神の力はソフィアに向いていた、故に横から襲いかかる力に対応など出来るわけもなく。
武器を振りあげたままの姿で、転がりながら吹き飛ばされていった。
「ふむ、キラーマシンと似ていると思えば……。
 堅さも力も段違い、ということか」
呆気にとられるソフィアをよそに、魔神を殴り抜いた男、ハーゴンは震える拳を見つめる。
「ハー、ちゃ」
ようやく事態を認識し始めたソフィアが、ゆっくりと口を開いていく。
「アタシは、逃げろって、言ったのに」
「助けてやったというのにその態度か」
たどたどしく言葉を紡ぐソフィアに、ハーゴンは鼻を鳴らしながら即座に言い返す。
珍しく黙り込んでしまったのを好機と見たのか、淡々と言葉を重ねる。
「そもそも私は、あの程度の傷でどうにかなるほどヤワではない。
 そんな程度の神官ではシドー様に呆れられてしまうからな」
自分を頼れ、と言いたいのか。
どこか照れくささを含んでいるようなぎこちない言葉が、ハーゴンからソフィアへとかけられる。
信用していなかったわけではないが、彼の実力を少し甘く見ていたようだ。
しっかり人を見て判断せねばと自戒しながら、ソフィアは柔らかく笑う。
「……ありがとな」
ハーゴンは振り向かない、振り向くことをしない。
恥ずかしいからか、初めての感覚にどう接すればいいのか分からないからか。
「集中しろ、来るぞ!」
少し冷たい言い回しをする事にした。
「応ッ!」
帰ってくるのは、心強い返事。
ああ、これも初めてのことだ。
ひとつ、心の中で考え事をしながら。
ハーゴンはソフィアとともに魔神へ向かっていった。

20 :
.

21 :
 

22 :
 

ここには太陽の輝きも、時に表情を変える空も無く、あるのはただただ禍々しく濁った妙に明るい空だけ。
微塵も変わる様子を見せない空だけを見ていると、まだ数分しか経っていないようにも思える。
実際にはそんなことはなく、支給された時計を頼りにするならば、もう半日にさしかかる辺りだ。
その間に、明らかに半日の量ではない様々な経験を重ねてきた。
きっとそれは誰だって同じなのだろう。
過ごしたこと、出くわしたこと、起こったこと。
そしてこれからに対して、受け入れていかなくてはいけない。
自分やゲロゲロはともかく、タバサは大丈夫だろうか?
こんな小さな体にそれだけの情報を詰め込んでも、大丈夫だろうか?
きっと今も耐えきれないほど辛いのだろう、彼女にとってこの半日は他の誰よりも濃く、そして厳しかったのだから。
自分が声を失った彼女にしてやれることは、何だろうか?
そのとき、コツンと何かがぶつかる音がする。
隣を見れば、うつらうつらしながら頭を揺らすタバサの姿があった。
子供の身には、半日という時間は長い。
ましてやあんなことがあったのだから、その疲労は自分たちの比ではない。
「無理しなくても、大丈夫ですよ」
眠気を見せるタバサに、ローラは優しく声をかけていく。
それと同時に、タバサはハッとして顔を振るい、頬を軽く叩いていく。
寝ていられる状況ではない、それを理解した上で無理をしているのだろうか。
続いて声をかけようとしたときに、タバサがペンをさらさらと走らせていく。
<ねたくない>
眠りたいけど眠れないのではなく、眠かろうがなんだろうか眠りたくない。
タバサはその意志を突きつけてから、そのままペンを走らせる。
<こわい から>
意味ありげに空白を挟み、一息ついてからその空白を埋めていく。
<こわいゆめをみるから>
夢、夢、夢。
この殺し合いが始まってから、初めの方に見た夢。
家族みんなが、ゲロゲロに殺される夢。
兄が死んだ今、あれが現実ではないことは分かっているのに。

23 :
 

24 :
.

25 :
 
    ――――すきじゃなかったの
今眠りにつけば、あれよりももっと恐ろしい夢を見そうで。
それはいつしか現実とすり替わりそうで。
心が壊れてしまいそうだから、眠らない。
夢を見るわけにはいかないから、起きているしかない。
もう一度母に会うまで、母に会うまでは眠りにつくわけにはいかないのだ。
そこまで強く意志を決めたときに、暖かく柔らかな感覚に包み込まれる。
「大丈夫ですよ」
ローラがぎゅっと抱きしめてくれる。
それはまるで母親のように、暖かく、大きく、広く。
いつか自分に子供が出来ればこんな風に抱きしめてやりたい、なんて思っていたこと。
タバサの言葉の意味の全てを理解することは出来ない。
それでも、理解できなくてもしてやれることはある。
大きな柱を失って、グラついている彼女の心の支えになってやれるくらいのことは、できる。
逆に言えば、せめてそれくらいはさせてほしい。
戦う力を持たない自分が守れる、数少ないものだと思っているから。
あの人の代わりにはなれない、それはわかっているけれど。
この体全てを使って、できることぐらいは、しなくては。
そう、だから今は。
抱きしめさせて、欲しい。
「ぁ……」
その時、掠れた様な声が耳元で聞こえる。
ローラの肩の上に顔を置くように、そこから見つめていた風景に。
長い長い髪、すらっとした気品のある姿が写ったような気がして。
「おかぁ、さん」
出ないはずの声が漏れ、ゆっくりと手が挙がり、指を指す。
「ゲロゲロさん!」
「わかっている!!」
ローラが声を飛ばすのと同時に、ゲロゲロは人力車を引く力を増して行く。
目指すはタバサが指差した方角。
まっすぐ、まっすぐ。

26 :
一人から二人に変わるのは、すごく大きな話だ。
一人で出来ることより、二人で出来ることの方が多い。
当たり前の話だが、今はそれがこの上なくありがたい。
互いが互いの隙をカバーし、休むことのない攻めを続けていく。
向こうが一人に集中すれば、空いた一人がその隙を突く。
同時に何人も処理できないということが分かった以上、この単純かつ王道の戦法がとても有効だ。
さらに、初めて共に戦うというのが嘘だと思えるほどに二人の息はピッタリと合っていた。
片や世間に逆らい、人間を滅ぼそうと先陣を切った邪神官。
片や運命に逆らい、ただただ理由を求め続けた天空の勇者。
己の道を信じ、突っ走ってきた二人だからこそ、不思議と息が合っていたのかもしれない。
一人が攻める、魔神が動く、その隙をもう一人が攻める。
先ほどの攻めとは打って変わり、今度は自分たちのペースに魔神を陥れている。
だからといって、慢心しているわけではない。
近づきすぎれば槌と剣、遠退きすぎれば重圧の矢が襲ってくる。
ただ、それを許さないように絶妙なラインを守って攻め続けているだけ。
先ほどとは違う意味で「ギリギリのギリのギリのギリ」を攻め続けている。
故に、決定打を叩き込めない。
踏み込みすぎれば、この均衡が崩れるから。
持久戦になればあちらに分がある、何かこの状況を変えなければいけない。
何か、何か無いだろうか。
その時、ふと頭にあるものが過ぎる。
初めの支給品確認で感じ取った違和感から、これを使うのはやめておこうと思っていた物。
それが今、この瞬間を打破するのにピッタリの代物。
思いついたと同時にハーゴンは"袋の中"でそれを取り出し、地面を滑らせるように魔神へ投げつけていく。
投げつけたのは、あろうことか一本の剣。
しかも殺傷を目的としていないどころか、魔神の目の前にわざと突き刺しているかのように投げつけている。
一体何を考えているのか? 正直ソフィアにはそれが読めなかった。
「時間が出来る、逃げるぞ」
そして、続く言葉の意味も理解できなかった。
魔神が意気揚々とその剣に手を伸ばそうとするまでは。
突如として剣が姿を変え、宝箱の姿へと変わる。
ソフィア自身も何度も目にし、何度も煮え湯を飲まされた存在。
ミミックが、魔神へと襲い掛かっていた。
疑問点は多々あれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。
そしてハーゴンに何やら策がある事を察し、魔神がミミックに手を焼いている間に一度退くことを決意した。

27 :
 

28 :
 
「おい、ソフィア」
「あンだよ」
魔神から距離を置き、少し離れた場所でハーゴンはソフィアに問う。
「貴様、天雷の使い手だったな?」
「ああ、そうだけど」
古くから伝わる天来の呪。
先祖であるロトはそれを扱いこなしていたという。
先程、カーラを斬ったときにソフィアが剣に纏わせたのも、そうだ。
本物を見るのは初めてだったが、雷の呪をハーゴンは他に知らない。
実際に問いかけてみれば、それが正解だったわけだが。
土台がそろったことを認識し、ハーゴンは本題へと入っていく。
「試したいことがある、私の合図で"私に向かって"撃て」
「はぁ!?」
突拍子もない提案に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
雷に焼かれたい自殺願望でも生まれてきたのだろうか?
「自殺願望者でないことぐらい、おまえも知っているだろう。
 策あってのことだ、上手くいけば奴を一撃で無力か出来る」
まるでソフィアの心を見透かしているかのように、ハーゴンはソフィアに返答していく。
にわかには信じ難い話だが、あのハーゴンがここまで自信を持って言っているのだから、よっぽどの策と"理由"なのだろう。
ソフィアは今度こそ、"彼"を信じる。
「……いいけど、ちょっと時間かかるぜ」
「どれくらいだ」
「まあ、集中すりゃちょっとだな」
「十分だ、詠唱に集中し、完成したら私に撃て」
必要最低限のことだけ告げると、ハーゴンは一目散に飛び出していった。
既にミミックは魔神の手によって完膚無きまでに砕かれ、再び自分たちを標的にしようとしていたからだ。
「ちょっ、ハーちゃん!!」
「任せろ、お前があの長時間稼いだのだ、私が短時間稼げぬ道理はない」
ハーゴンの心の中は未だに読めない。
だが、時間もない。
これほどまでに危険な賭けに出るに値する"理由"があるのだとすれば。
それが魔神を無力化させることができるというのならば。
乗らない道理はない。

29 :
 

30 :
 

31 :
.

32 :
 
「我は天導の勇者――――」
いつも通りの詠唱を、いつもより集中して始める。
飛びかかったハーゴンを認識した魔神が、標的を定めていく。
ハーゴンもそれを認識し、構えを変えていく。
「森羅万象怒りの叫びよ、今こそ我が元へ」
片や星すらも砕く破壊の槌。
片や幻と呼ばれた鉱物の棍。
砕く力が上乗せされた武器同士が、互いにぶつかり合う。
「闇を斬り裂き、光を齎すは我が右手」
はちきれんばかりの力に、互いの武器が跳ね返る。
その跳ね返りを生かして魔神は剣を振るい。
ハーゴンは地を蹴りあげる。
「光なき道を進む道標となれ」
最後の言葉を紡ぎ、出来上がった魔力を右手に込め。
その形をまるで槍のように変えていき、前を見る。
目指すは、たった一つ。
「――――ブチ抜け」
目を見開く。
「ギッガデイイイイイイイン!!」
一点を貫く槍を、ソフィアが大きく振りかぶる。
光が、一直線に進んだ。
「待っていたぞ、ソフィアアアアアア!!!!」
一直線に伸びる雷に応じるように、ハーゴンが片手を掲げる。
その手には、自身の体をまるまる飲み込んでしまいそうなほどの大きな闇の玉。
ソフィアの投げた雷が、吸い込まれるように闇の玉へと飲み込まれていく。

「おおおおおおおおっ!!」

視界が、白く塗りつぶされていく。
そのまぶしさに、ソフィアは思わず目を背けてしまう。
やがて、突き刺さるような光が弱まっていくのを確認し、背けていた目を元に戻す。
一時的に失っていた目という機能が、じわりじわりと形を取り戻していく。

33 :
 
「メドローアという呪文を、知っているか」
真っ先に聞こえたのは、ハーゴンの声。
「強力なメラとヒャドを合成することで完成する、伝説の極大消滅呪文」
何かを語りかけているハーゴンの声とともに、ソフィアの視界がじわじわと戻る。
「まぁ、端的に言えば」
ようやく全て戻ったとき彼女は二つ、認識する。
手を掲げて笑うハーゴン、地に倒れ伏している魔神と。
いや、正確に言えば三つだろうか。
「これはその上を行く破壊呪文だな!!」
ハーゴンの手の上で"空間"が"淀んで""歪んで""抉れて"いるのだから。
何が起こったのかは分からないが、ハーゴンが何をしたのかは大体分かる。
なぜなら、自分はアレに荷担している人間なのだから。
「くっ、流石にそう長くは操っていられんか。だが……」
掲げている腕を少しだけ引くが、直ぐに元に戻す。
溢れ出さんばかりの力を操っているのだから、魔力やその類の消耗は免れないだろう。
それでも、ハーゴンは笑い。
「そのまま放てば貴様のマホカンタの餌食になるのは分かっている。
 ならば、私はこれをこのまま手にし――――」
隙をさらけ出すように、魔神へ飛びかかっていった。
魔神はそれを認識しているのか、いないのか。
魔神もハーゴンに向かって真っ直ぐに飛びかかる。
「殴るッ!!」
魔神が振りかざすのは、星を砕く槌。
ハーゴンが振りかざすのは、握り拳。
両者が、激突する。

ふわりと右腕は空を切り、体は遠くの樹に叩きつけられる。
何が起こったのかというと、少し難しいが。
魔神が振りおろしたはずの星を砕く槌と、ほぼ右半身がごっそりと無くなっていたことだけは確かだ。
損傷を確認しながらも、魔神は動こうとする。
人間を、人間を狩らなくてはいけない。
幸い失ったのは右半身と槌だけ、尾の弩弓はまだ形を保っている。
近寄ってくる男と女、どちらに狙いを定めるべきか。
距離が近いのは男だが、隙があるのは女か。
魔神は計算する、残された時間と力をフルに使って。
たった一本の魔神の矢を当てるために。
そして、答えが弾き出されたとき。
「ソフィアさん!!」
割り込むように、もう一人の女の声が響いた。

引き金が、引かれる。

.

34 :
.

35 :
一人の女の叫びが響く。
勝ち誇っていた男の顔が焦りに満ちる。
一台の人力車が止まる。
何が起こったのか理解出来ないただ一人の女を。
飲み込むように放たれる一本の矢。
風を切る音と共に、肉が抉れる音が聞こえる。
自分の状況を理解していないのか、ごく普通に胸に手を当てる。
染まるは、赤。
理解すると同時に、体が曲がり、口から血の塊を吐き出す。
宙を舞いながら、ゆっくりと重力に従い落ちていく長い髪。
どさりという、何かが倒れ込む音。
誰も彼もが、それを見ていることしかできなかった。
何がどうなって、何が起こったのか、即座に理解できるものなどいるわけもなく。
ただ、彼女が倒れていく姿に。
"違う姿"を重ねた者が一人いて。
「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」
音を出すことが出来なかった喉から。
声無き声、いや音を絞り出し。
単身、人力車を飛び出していく。
「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」
息継ぎすらも忘れ、音で詠唱をしていく。
後ろから呼び止める声も、何も、もう聞こえない。
ただ目の前にいる魔物のことしか、見えない。
「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」
彼女は怨念と怒りと悪を操るリュカの娘。
もし、彼女にも同じ力が備わっているとすれば。
もし、彼女が"操る"ことを捨て、悪をむき出しにしたならば。
どうなるかは、予想するまでもない。
ましてや、今の彼女は"母親"を奪われたと思っているのだから。
「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」
掠れ始めた音と共に、タバサは真っ直ぐに手を突き出す。
小さな子供に圧し掛かっていたストレスや重圧が。
放たれた呪文と共に、爆発する。
再び、世界が白に包まれる。

36 :
 

37 :
 

そう。
攻撃呪文。
イオナズンだ。
もう、分かるだろう。
タバサが知らない、知るわけもないたった一つの要素。
魔神の呪文障壁。
怒りで増幅された呪文。
けたたましく鳴り響く山彦。
向かうはたった一点。
言うまでもなく、それらは全て呪文障壁に弾かれ。
魔神どころか、そこら一体を綺麗に飲み込んでいった。

煙がゆっくり、ゆっくりと晴れていく。
右半身を失ってなお、魔神は動く。
命を狩るため、命を狩るため。
左手に残された刃を振るう。
ざくり。
切り裂いたのは、肉。
振りかざした刃は、魔王の右腕に深々と刺さっている。
緑色の皮膚から、紫色の血が流れる。
「――おおおおっ!!」
だが、彼は怯まない。
そのまま、魔神の腕を捻るように刃を奪い。
残された鋼鉄の左半身に広がる綻びを、更に広げるように引き裂いていく。
そして、払いからの一突き。
赤く光る目の部分を潰され、ついに魔神は動かなくなった。
魔神が動かなくなったことを確認することもせず、尾の弩弓だけをもぎ取り、魔王はその場を走り去っていく。
あの時、タバサが唱えた二回分のイオナズンは、マホカンタを介して自分達へと牙を向いてきた。
引いていた人力車を用いローラを庇うことは出来たものの、タバサは自分よりも遥かに前に居た。
考えなくても結末など分かっている、それでも、それでも微塵の可能性に賭けたい。
煙が引いていく中、魔王は走る。
「――タバサ」
魔神から、少し離れた場所。
魔王……否、ゲロゲロは探し人を見つけた。
いや、人というよりは"それ"だろうか。
皮膚は焼け爛れ、一部は炭化し。
蒼く透き通るような髪は、殆ど残っておらず。
帽子はおろか、小さな身体を包んでいた服ですら布切れ同然だ。
そして、それを抱きかかえているのは。
傷を負い、頬から血を流し、泥に汚れ。
それでも、まるでわが子を撫でるかのように"それ"を撫で続けている。
ローラの、姿だった。
道具も呪文も、何の役にも立ちはしない。
状況を理解すると同時に、刃が手からするりと落ち。
地面に、刺さった。

38 :
 

何度目かの視界の白化。
こう、短時間に何度も経験するのは初めてだが。
とにかく、また"視界を取り戻す"という感覚を味わうハメになった。
今回はデカい傷を負うというオマケつきで。
生きていられることに感謝すべきか、とは一瞬考えたものの。
取り戻した景色の所為で、そんなものは吹き飛んでいた。
「……おい」
傷が残る体を引きずり、痛みを堪えながら近寄る。
「おい」
分かってはいる、分かってはいるのだが。
「おい!!」
ボロ雑巾のようになった、ハーゴンの姿がそこにあった。
「待ってろ、今」
回復呪文を唱えようとした腕を、ハーゴンが掴む。
それがどういうことなのか、何を語るのか。
ソフィアもそこまで馬鹿ではない……いや、寧ろ彼女が一番"分かりすぎる"だろうか。
「私は……」
何かを喋ろうとするソフィアに人差し指を当て、震える口を動かす。
二発のイオナズンに加え、自身が制御していた"破壊呪文"が制御を失い暴走。
オリハルコンで出来た棍以外は、その破壊力に耐え切れず藻屑となっていた。
弾け飛ぶ力に裂かれ、イオナズンに焼き尽くされた体に、力が残っているわけも無い。
寧ろ身体が残っていることが奇跡と言うべきか、流石の邪神官と言うべきか。
「仲間、を……信頼、ということを、知らずに、生きていた」
自分は何を言っているのだろうか、今一分からない。
それでも、浮かんでくる言霊たちを止めることが出来ない。
「人類を、滅ぼすこと……それだけが、我が望み。
 私に、賛同し……従う者は……山のように、居た」
人類の根絶。
自分を筆頭にそれを望む者たちは多い。
故に破壊神を信じ、それに狂信する魔物は後を絶たなかった。
中には、人間も混じっているほどだ。
「だが……信頼というのは、無かった。
 我等は、人類を……滅ぼすことが、目的。
 それを成し遂げる、上での……仮初の姿……」
目的はただ一つ。
ならば、その目的さえ果たせれば他はどうでも良い。
それ以外はただの柵でしかないから。
「誰が、欠けようと問題は、ない。
 悲しむ、ことも……怒るこ、ともない。
 ただただ、人類を、滅ぼすこと、に向かう、それだけ、だ」
仲間意識、友情、連携、そんなものは何一つ無い。
死んだら終わり、何も残らない。
いや、残るとすれば人類根絶への道標か。
それだけを信じ、それだけのために生きるものとしては。
それが残ることだけでも、ありがたかったのだが。
「だから、生まれて、初めてだった……誰かに"信頼"されるのは」
だから、生まれながらにして彼は"誰も信じなかった"。
ただ信じていたのは破壊神の存在のみ。
だから彼の事を"誰も信じていなかった"。
魔物ですら、信じていたのは彼ではなく"破壊神"だったのだから。
「ソフィア、よ」
顔を見る。
泣いているのか怒っているのか、なんとも判らない顔をしている。
まあなんとも、それは彼女らしい顔で。

39 :
 

40 :
.

41 :
 

42 :
 
「ありがとう」
そのまま、あふれ出す言霊をぶつけていった。
「……まあ、この私の、優秀な、部下だ。
 私が居な、くとも……シドー様、の、復活は、約束され、ているだろう」
そう、自分が居なくとも。
"破壊神"を信ずるあの者たちならば、案ずることは無い。
所詮自分は"神"の偶像でしかないのだから。
"誰も信用していない"者が一人消えても、大局には変わりは無い。
ああ、気づいてみると空しいもので。
少し、笑えて来る。
「……時間か」
出来上がった笑顔のまま、その一言を呟いた。

.

43 :
 

44 :
「……………………」
ハーゴンの亡骸を抱え、ソフィアは辺りを見渡す。
遠くには何かを悲しむ魔物と女性。
その少し離れた場所に、魔神の残骸。
自分の傍には無抵抗のまま受けたイオナズンでバラバラに千切れたミーティアの一部。
「どいつもこいつも…………」
取り残されたのは、自分一人だけ。
周りだけが加速していくように、取り残されていく。
「…………勝手に急いで、勝手に終わンな」
周りの景色が、いつかの光景と重なっていく。
それでも、コレだけのことが重なっても。
一滴の涙すら、この両目からは零れない。
「はっ」
短く、笑う。
ガラリと何かが崩れるような、彼女だけの音がする。
でもそれは、聞こえない。
「機械になっちまった方が、楽かもしれねーな」
魔神の残骸を見つめ、自虐のように一人ごちる。
彼女は気づかない。

笑ったつもりの自分の顔が、全く笑っていなかったことなど。

【ピサロ@DQ4 死亡】
【ミーティア@DQ8 死亡】
【タバサ@DQ5王女 死亡】
【キラーマジンガ@DQ6 死亡】
【ハーゴン@DQ2 死亡】
【残り27人】

45 :
 

46 :
 

47 :
 
【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ:0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失 HP1/7
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:ローラと共に行く、エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す、アレフへのかすかな不信感、ゲロゲロと共に行く
※一部支給品詳細
  ソフィア不明支給品:KBP GSh-18(16+0/18)@現実→F-4のどこか
  マジンガ不明支給品:ただのぬのきれ→消失
  ギュメイ不明支給品:木の矢→損壊、魔神の矢(3本)@トルネコ→損壊
  消失及び損壊:おなべのふた、エッチな下着、ピサロの外套、星砕き@DQ9、ミミック@トルネコ(ハーゴン不明支給品)
           山彦の帽子@DQ5、人力車@現実、斬魔刀@DQ8、ハーゴンの支給品袋(基本、不明(0〜1)含)
  その他放置(F-4南部平原):破壊の剣@DQ2、杖(不明)、マントなし、ピサロの支給品一式(ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品)

以上で投下終了です。
銃については前話にて描写はされていませんでしたが、ソフィアが事前に渡しておいたということにさせていただきました。
その他指摘などございましたら、お気軽にどうぞ。

48 :
.

49 :
改めまして、前スレ投下乙です。
容赦なく切り捨てて行ったなあ。
男魔法使いの考えに、さすがのホンダラも読めずにたじたじ……?
アリーナとミネアとサイモンのやりとりが、ほんとにいい。
うらやましいぜ!
とはいえ牢獄の町にはビアンカたちが……
ジャミリアもいるしまだまだ波乱が……
あ、ドルなんとかさんはお疲れさまです

50 :
お二人とも投下乙です
>宴への招待状
あまりに最速で切り捨てられるドルマゲスはあまりに哀れだけど、相手が魔物とはいえ手が早すぎたな
男魔の失望ももっともすぎる理由だわ
しかし、劇中でアリーナも言ってるけれど、ドルマゲスは巡り会わせが悪かったとしか・・・
運命を呪い世界を憎むという境遇そのものは、このロワで悩んでる勇者やその仲間に多少近かっただっただけに
ちょっと違うRやタイミングがあれば、ドルマゲスにも何か変化が広がっていたのかもしれないねえ
そしてサイモン、完全にハーレムじゃないかそこを代わるんだ
>天までアクセル踏み込んで
一気に状況が動いたなあ
ピサロを圧倒するミーティア怖っ、とか、ハーゴンなんだよその合体奥義はwwwwとかいろいろあったけど
やっぱり山彦大反射のインパクトが強烈、そりゃあ大惨事が起こるわ
ハーゴンが、2勢のキーワードもなった「ありがとう」を使いながら笑ってあまりに綺麗に逝くのに対して
それを見送ったソフィアが笑えなくなってしまう、というのが切ないというか、なんとも皮肉
特に「いつかの光景と重なる」がもう辛い(そのシンシアも次で呼ばれちゃうんだよなあ)

51 :
>天までアクセル踏み込んで
少しずつ積み上がっていた死の気配が、ここに来て一気に爆発したこの感じ
タバサやミーティアはともかく、ミーティアに恋人を重ねていたピサロとか
いつしかソフィアとの絆を選ぶようになっていたハーゴンとか
爆発は一瞬のことだったけれども、それぞれがそれぞれに死を引き起こしたように見えて
ソフィアからすれば確かに、勝手に急いで勝手に終わってしまったんだろうなあ
置き去りにされることを受け入れられず、自らも終わりを選ぶ者が多い中、
一人何もかも背負っていかざるをえない、ソフィアの姿が痛ましい
改めて投下乙でした

52 :
とりあえずこれだけ言わせてくれ。この2nd、病んでる(病む)奴多すぎだろw
1stが割と熱血路線だった反動か何かかこれはw
このまま進めば優勝エンドまっしぐらな気がしてならんぜ。別にそれはそれで構わんけどさw

53 :
レックスの後を追うことになってしまったタバサ
心を通わせた同行者ラドンが死の一歩手前なリュカ
同行者が影の騎士なフローラ
いろんな奴が集まってもうすぐえらいことになりそうな場所にいるビアンカ
5勢に希望が見えない

54 :
ソフィア…かわいそう…
ミネアリーナはどんどん友情を深めているというのに、ソフィアはどんどん孤独になっていく…この対比がつらい

55 :
全体的にもやもやーっと絶望的空気が漂っているけど、でもそれだけじゃなくて、
いろいろなRを通してすこしづつ前に進んで行ってるような感じもあって、
希望の芽もちょっとずつ出てきているような気がする
ここの書き手さんたちの手腕ならなんだかんだで綺麗に終わりそうだなーって思う

56 :
ミーちゃんの爆弾っぷりが凄い。
仲間殺して、自分やられて、それが大惨事引き起こして。

57 :
大作投下乙です。
>宴への招待状
あぁ、ドルマゲスさん…リア様の柔肌に傷をつけたんだもの、仕方ないね。
男魔法使いの魅力が上がっているように感じる、彼にはとことんヒールでもらいたいところ。
アリーナ組は胸の奥がじんわりとあったかくなります、サイモンよかったね。
ろうごくの町にはバーバラという不安要素もあるので、どうなるのか楽しみです。
>天までアクセル踏み込んで
あまりの衝撃に、読んだあと動悸が…皆さんお疲れ様でした。
それぞれが大切なものを守りたかっただけで、誰も悪くないのにこの悲劇。
ただでさえボロボロなのに、ダメ押しの放送がきたらどうなってしまうのか。
あと、この話だけ見るとピサロが修羅場で彼女の名前間違えた彼氏みたいで…w

58 :
1、これからどうするか
2、欲望の街で何をどうするか
3、怪我の治療
4、そういえばさっき僕女性に担ぎ上げられたっけ
5、今も女性が力仕事してるしね…………
6、…………あれ、これでいいのか、僕は?
【結論】
男としてのプライドとは一体?

◇◇

非常に下らなくアホらしい、但しそれなりに重要な男としてのプライドの話は頭の片隅に追いやり、カラカラと音を立てながら進む猫者の荷台で淡々と治療を進めることにする。
こんな状態でデュランとまた戦闘になっては正直勝ち目はない。
出来れば自身の目的があるマーニャは付き合わせたくはないし、傍に控えているこの狼にもどれほどの能力があるのか判断がつかない。
なんか鼠っぽかったあの魔物と相打ちにでもなってくれれば楽出来ていいのだが……まあ、あの様子では流石に期待出来なかった。
あれから時間が立ちすぎている。デュランが他の誰かを殺している可能性が高くなり続ける。
焦っては事を仕損じる。わかってはいる。
頭の中で堂々巡りする会議をどこか他人事のように感じていた。

「アンタ、実は隠れ真面目系学級委員長タイプでしょ」
マーニャの声。
前は見ているがこちらを見ないで放たれた言葉は唐突すぎて、意味すら理解出来なかった。
「……僕が真面目系に見えるの?」
若干小馬鹿にするような感じで反論してみる。
自慢出来るような事ではないが、まず自分は見た目からして真面目に見られることはない。誰が目に痛い配色の服を着たトサカ髪の優男の事を真面目系の奴だと判断するのか。
因みにマーニャもそう思うらしく、まあ見た目は反抗期の子供よね、なんて言ってきた。

59 :
反抗期になった記憶なんてありませんー(……本当に無くしているだけかもしれないが)とそれこそ駄々をこねる子供のように頬を膨らます。
「外見じゃなくってさ、こう……なんでもかんでも自分で背負おうとしてるトコ、っていうか」
マーニャの脳内に妹の顔が浮かび、続けて先ほど別れたばかりのフローラと目の前で死を選んだあきなの顔も浮かぶ。
共通して「しなくてはならない」という脅迫概念を抱いている3人だった。
今日はよくそんな人間に合う日だ……ロッシュだってそうだった。
「あのさあ、本当にしなきゃいけないこと、なんてのはそんな多くないのよ?
自分がやらなきゃいけない、自分しか出来ないって思い込んでるけどね、実際は他の誰かがすんなり終わらせていることだってあるのよ」
「…………え、いや、僕はそんなつもりはなi」
「自覚があろうがなかろうが、アンタは自分で自分を追い詰めてんのよ!自分の評価ってのは他人からしか下せないんだからね!
んで、今アタシはアンタに真面目系以下略って評価を下したんだから黙ってマーニャちゃんの有難ーーいお話を聞きなさい」
「横暴だよ!?」
「 黙 っ て 聞 き な さ い 」
ぐぐ、と押し黙ったロッシュに対する接し方は、まあ自分でもかなり横暴だとは思った。
それでも真面目な奴ってのは優しく諭す程度じゃ意見にヒビしか入らない。しかもそのヒビを直さないままに突っ走る。
どこまでいっても救われなかったあきなの姿。
もっと強く止めていれば、防げたかもしれない死。
うじうじ悩むのは自分の役目では無いとはいえ、学習しないわけではないのだ。
義務感なんてものは放っておけば膨らみ続けて最終的には ― ― ―踏み潰される。
妹と重ねているのかもしれない。

60 :
ただの同情からきているのかもしれない。
ひょっとすれば、自分が抱いた感情は的外れなものなのかもしれない。
― ― ―だからって。
「ギャンブルだって最初はアレコレ考えるわよ。 でもね、結局追い詰められたら小難しい理論なんて持ってるだけ無駄になるの。
“しなきゃいけない” ― ― ―?そ、ん、な、も、の、は、ね、え、 ― ― ―」
だからって、止められないし ……
「この世に存在してないの!てっきとーーーーーに暮らして、アンタがしたいかしたくないか、結局は判断基準はそれだけよ!!」
単に、自分がムカつくから言うだけだった。

◇◇

よくある理論ほど真理である。
考えすぎる癖に関しては自覚はあったが(というか仲間から大分指摘されたが)まさかここまでボロボロに言われるとは思ってなく、一瞬意識が明後日の方向を向いていた。
適当に、適当に……なんて考えている時点で適当になんて考えられるハズがないので、なんとなく項垂れてみる。
当のマーニャは言いたいことを言えて満足なのか相変わらず前を向いたまま猫車を引っ張っていた。

61 :
重くないのかなー、僕軽くはないんだけどなー、力持ちだなー、なんてズレたことを考えた。
あんだけ獣みたいにうーうー唸ってりゃ悩んでいることぐらいわかるわよ、と最後に突き付けられた言葉。
なんだろう、これが姉の包容力とでも言うのだろうか。こう、言葉は大分アレだったのだが暖かい気持ちになる。
…………同じく妹がいる身としては情けなくもなる。
いや、妹がいた、と言った方が正しいのかもしれない。二つの意味でも、だ。
亡くした妹と、無くした妹。
あーでも、僕としてはターニアにはまだ妹でいて欲しいしなあー、そりゃあ兄のように慕っていた人物が一国の王子とか、他人行儀になったって仕方ないんだけどさー!
いや、それでもだよ。あのパーティーのときにターニアはこれからお兄ちゃんって呼んでいい?って聞いてきてくれたわけだし、僕はそれを了承したわけだし、これは合法的にターニアが妹になったってことなんじゃないの?
…………ああ、いや、でも。僕の妹だったターニアとあのターニアは実質的には同じ人間でも、全てが同じわけではないんだ。
何も知らない無邪気なターニアじゃなく、どうしたってレイドック王子という肩書きが出てきてしまう。
いやいや、でもだy
「さっきから妹への愛がだだ漏れよ。シスコン」
生ゴミでも見るような目でマーニャがこちらを見ていた。
因みに僕は死にたくなった。
ウブな少女のように真っ赤になった顔を両手で隠しキャーキャー叫ぶ。
恥ずか死。恥ずか死。恥ずか死。
隣で大人しく座っていた狼が僕と同じポーズをして真似ていた。
本当に恥ずか死でも出来そうだった。
「まあ、でも……」
からり、と今まで途切れる事のなかった猫車の音が止まる。
マーニャが静かにこちらを見ていた。
「それがアンタのやりたいことならいいのかもね」
やかましいけど、と付け加えて再びマーニャが猫車を引っ張っりだす。
僕はと言えば首を傾げ、マーニャが言った言葉の意味を考えていた。
狼も同じように首を傾げて真似をしている。
………………ターニアを妹にしたい?
表し方が非常に犯罪臭いので直す。
ターニアともう一度仲良くなりたい?

62 :
すとん。
パズルのピースが綺麗にハマった気がした。
そういやそんなことをあの魔物と話をしていた時も考えていた気がする。方向性は随分と真逆になったが。
「うへ、うへへへー」
犯罪者みたいな笑い方だったが、まあ致し方ない。
よくある理論ほど真理である。まったくだった。
もちろん目標を立てた所で問題はかいけつしていない。デュランのこともデスタムーアのことも、この世界から脱出する方法も全然わかっていない。
…………ただ。
重かった心が少しだけ軽くなった。少しだけ。問題の量を見れば頭痛がするので目を背けた。
「マーニャお姉さーん、ありがとうー」
ママから姉へ、ランクダウンなんだかアップなんだかよくわからない変動を起こしつつも、きっかけをくれたことに礼を一つ。
マーニャはゆっくりとこちらを振り向き、非常に美しい笑顔で…………
「お礼は5割増しの大特価でいいわよ? ……犯罪者予備軍のシスコンお兄ちゃん?」
「違うその言葉はそんな笑顔で言う言葉じゃない!」
マーニャの中での僕はシスコンとして固定されてしまい、覆すのは不可能そうだった。
男としてのプライドとは一体。何回目かの自問自答にがう、と狼が楽しそうにに一回鳴いた。

【F-8/北部/夕方】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP6/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む マーニャと共に欲望の町へ
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。
【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)
221 名前: ◆PnfI0WoaXs[sage] 投稿日:2013/04/18(木) 20:31:58 ID:???0
以上で投下終了です。
問題がないようでしたら代理投下の方お願い致します
222 名前: ◆PnfI0WoaXs[sage] 投稿日:2013/04/18(木) 23:07:04 ID:???0
盛大にミスを犯しました。
すみません、トリップキーの入力をミスしました、◆6UNSm6FHE6です。
----
代理投下終了です。
ロッシュが目的を手にした……!
マーニャはお姉さんしてるなぁ

63 :
投下乙です
マーニャ姉さんは本当になんでそんなに怪力なんだww
そしてこのクッソシリアスな状況でシスコン発動wwwwwおいロッシュwwwww

64 :
投下乙です
8組初キルがまさかこの人になろうとは

65 :
「嘘だ」
目をそむけていたリュカに、ラドンが告げる。
同時にラドンは大きな血の塊を吐き、辺りを竜の血で染めていく。
「嘘じゃあ、ないさ」
すかさず駆け寄ったリュカが、祝福の杖を当てながら言う。
妻のことなど愛しては居ない、それは本心だ。
事実、自分の今までの行動に愛は無く、そこにあったのはただの打算。
だからそこに、僕の人生の中で、彼女に対する愛情なんて無い。
「では、問おう」
分かりきっている事を聞いて来た竜は、そのまま言葉を続ける。
「何故、泣いているのだ」
その言葉を聞いた時に、ハッとする。
頬を流れる冷たくて暖かい液体が、双眸から流れ出ていることを。
まるでシャボン玉を触るかのように、人差し指の背で片方のそれを拭う。
「さぁ……目にゴミでも入ったかな」
もっともらしく、かつ不自然の無いように答えを誤魔化していく。
涙が流れる理由は無い、自分は彼女の事を愛していない。
だから、この涙は感情から来るものではない。
そう、言い聞かせていた。
自分に。

「リュカ、主が道を間違えようとしている時、それを正しく導くのは従者の役目だ」
竜の声が聞こえる。
「頼む、リュカ。いや、お願いします、リュカ様。
 貴方の行く道は、こちらではない」
その声は、今まで出会ったどんな魔物よりも落ち着いていて。
「愛していないと言うのならば、それでもいい。
 私は、正直に思ったことを言えば良いと思っている」
どんな魔物よりも、悲しみに満ちていて。
「だが、その言葉を伝える相手は、私ではないだろう。
 伝えるべき人の目を見て、ちゃんと伝えてくれ」
どんな魔物よりも、痛みが籠もっていて。
「初め、私の目を見てくれていたように!」
それは、叫び。
「目を見て告げられると言うのならば、私もそれを認めよう……」
悲しい、直線的な叫びだった。

.

66 :
「ビアンカは――――」
無意識に切り返すように、その名を告げる。
ビアンカは北にいる、彷徨う鎧から得た一つの情報。
そして、北にはあの魔鳥が向かっている。
目に見えた危機が、迫っている。
「私が向かう。必ず、必ずや守ってみせる」
考えている事を見透かしてくるかのように、ラドンは言葉を被せてくる。
「でも、僕は」
「頼む」
何度切り返そうとしても、ラドンは言葉を被せてくる。
「もう、主が行くべき道ではない道を黙って見ているのは、嫌なのだ」
まるで親の暴力に震える、子供のような声で。
「リュカ、頼む。私は、もう苦しみたくない。この毒よりも辛い痛みに、耐えられない」
かつて、仕えていた主君は道を踏み誤った。
人間の愛を知るために、人間の女性を片端から攫う。
ただ愛が知りたかっただけ、愛を知らずに生きただけ、皆が受けたものを享受したかっただけだという。
だが、その姿はまるで私利私欲に塗れた人間のように、堕ちていた。
誇り高き王が落ちる絶望が、ラドンの心には深く残っていた。
だから、今の主には道を踏み外して欲しくない。
生涯を賭けてでも尽くしたいと思った存在。
それがまた崩れて行くくらいなら、この命など惜しくは無い。
「リュカ……私を、貴方に、仕えさせてくれ……」
そう思えるくらいには、辛いことだから。


「……分かったよ」
折れた。
真っ直ぐな思いに、リュカの方が折れることを選んだ。
ラドンは思わず、嬉しそうな顔を浮かべる。
そしてリュカはそそくさと近寄り、ラドンの傷の手当てを続ける。
支給品であった毒消し草を傷口に詰め、少しでも毒の回りを弱くしていく。
「一つ約束してくれ、必ず……生きて戻ると」
治療を施しながら、リュカは言う。
「ああ、竜神王に誓おう」
ラドンが返答すると同時に、リュカはラドンの前足にバラモスの持っていた爪を装備させる。
そしてふくろに、薬草を上回る治癒力を持つと書かれていた草を詰めていく。
祝福の杖には及ばないにしても、草ならば一人で傷を癒すことが出来る。
だから、リュカはその草をラドンに託していく。
「リュカ」
荷物を詰め終わった後、ラドンはくるりと振向いて言う。
「思いを、欺かないでくれ」
そして、その一言と同時に北へと駆け出して行った。
「ぐっ……」
歩きだしてしばらくしてから、傷口がずきりと痛む。
治療が施されているとはいえ、完治に至っているわけではない。
しかも傷口からは、未だに致死の毒が彼女の体を蝕んでいる。
「リュカと誓っただろう、倒れている暇など無いッ」
もたつく体をふるわせ、ラドンは力強く前へと進んでいく。
少しでも体力を取り戻そうと、リュカより譲り受けた弟切草を噛みながらただ前へと進む。
「そして何よりも、私は見届けねばならん」
道は決まっている、光も見えている。
だというのに、止まっていられるわけがない。
ラドンは、ただひたすらに前へと進む。
「だから私は、生きるッ!!」
前へ、前へ。

67 :
「参ったな……」
駆けだしていったラドンを見送り、リュカは振り向いて進路を変えていく。
ここまで言われた以上、言葉を曲げるわけにもいかない。
ラドンは、自分を信用しているのだ。
主が従者を信頼するように、従者もまた主を信頼している。
その気持ちを裏切ることは、出来ない。
「何やってんだ、僕は」
信頼、という言葉に思わず苦笑する。
自分はそんな言葉を吐く価値のない人間だと、知っているから。
幼き頃から男手一つで育ててくれた父の言葉に背き、"偽り"で一人の女性に結婚を申し込んだ。
信頼なんて物は、今も崩れていると思っている。
ふと、先ほどバラモスから奪い取った支給品を取りだしていく。
手のひらに易々と収まるそれを手に乗せ、リュカはため息をつく。
「置き土産まで、君は悪趣味だね」
もう物言わぬ肉の塊と化したそれに向けて、リュカは皮肉をぶつけていく。
リュカの手に握られていたのは、どこにでもある結婚指輪。
結婚、という二文字が頭に浮かんだ瞬間、頭を抱えそうになる。
「最高の嫌がらせだよ」
このタイミングで、あの時のことを思い返させるとは。
狙ってやったのだとしたら、相当な未来予知だ。
だが、それを投げ捨てることはせず。
黙って袋に入れてから、リュカは歩き出した。
「僕は」
ある一つの言葉を。
「彼女を」
呪詛のように繰り返し。
「愛してなど――――」
自分に言い聞かせるように。
【B-4/東部/夕方】
【リュカ@DQ5】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:フローラと家族を守る、南へ。
【C-4/北東部/夕方】
【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(小) 致死毒(進行中)
[装備]:サタンネイル@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)、消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。北へ向かい、ビアンカたちを救う。
※ラドンの毒は本来即死効果のものであるため、キアリーによる完治はできません。
  定期的な解毒or治療の施しがない場合、第3放送頃に死に至ります。
----
投下終了です。ご意見ご感想お気軽にどうぞ。
>Wiki管理人の方へ
投下のついでで申し訳ないのですが、なんかまた怪しいページ作られてるんで削除の方だけお願いします。

68 :
投下乙です
ラドンいいこと言ったなあ
ラドンの言うとおり、リュカは自分の気持ちやフローラからずっと目をそらしてきたんだろうな
ラドンが命を賭けた今、もう逃げることはできないだろう
今後が楽しみだ

69 :
彼女の体をむしばむ毒って…

ラドンって♀だったのか…

70 :
ほしゅ

71 :
投下乙です。
ついにリュカが腹を括った。

72 :
おつ!

73 :
ほとんどのパートが夕方(放送前)に到達しており、数少ない午前のパートもそのまま放送でも問題ない状況、
そろそろ第二回放送の予約解禁を検討してもいい頃と思うのですが、いかがでしょう?
とりあえず、今月いっぱいくらいで放送前パートの予約を一旦締め切り。
その後、すべての予約が消化されたら、第二回放送の予約を解禁。
その投下を待って、放送後の予約解禁へ…といった流れを提案をしたいのですが
さすがにあと2日足らずしかない、今月いっぱいでの予約一旦締め切りというのは性急すぎるでしょうか
もう少し時間を取って、たとえば今週いっぱいくらいは見てからのほうがいいでしょうか?
みなさんの意見をいただけたらと思います

74 :
自分は今月いっぱいでも構いません。
もし、今週いっぱいを望む書き手様達が多数いらっしゃるのならば、
そちらでもよろしいですよ。

75 :
>>73
私も大丈夫だと思います。
ルイーダさんだけ午後ぼっちなうですが、彼女はまだどうとでもできますしね。
氏の提案どおり、四月いっぱい予約一時締切り、◆50QT/sbUqY氏の投下の翌日くらいに放送予約解禁。
放送が本投下された二日後くらいから放送後予約解禁、でも大丈夫だと思います。

76 :
ほしゅ

77 :
特に意見もなさそうですし、>>73-75の通り、一時的に放送前の予約を締め切ろうと思います。
◆50Q氏の投下が来て二日後ぐらいに放送予約解禁です、こちらは再び本スレでアナウンスさせていただきます。

78 :
タバサ。
タバサを、失った。
守れなかった。
止められなかった。
救ってやれなかった。

ローラは相変わらず、亡骸を撫で続けている。
自分の視点からでは、その表情を窺い知ることはできない。
彼女の頬を流れる赤と透明の液体がタバサの額に落ち、火傷を冷やすかのように濡らす。
バトルロワイヤルというこのゲームの、なんと残酷なことだろう。
戦う力を持たぬもの、未来ある幼きもの。願い、背負うもの、善悪すら関係ない。
参加者に待っているのは無常なる死であり、平等でないのは、それが訪れる順だけだ。
この瞬間に自分の命が繋がっているのも、偶然に過ぎない。
タバサの命が繋がっていないのも、偶然にーーー
数分前まで、この小さな人間の心臓は確かに動いていたというのに。

異形の自分を恐れることなく、声をかけてくれた。
嘘偽りのない言葉に、心惹かれた。
不安な様子も見せず、励ましてくれた。
彼女の手は、とても温かかった。
記憶のない自分に、名前をつけてくれた。
それは、確かに私への贈り物だった。
自分を信じて、守ろうとさえしてくれた。
気を失うほど張り詰めていたのに。
目を覚ました彼女は、太陽のように笑った。
純粋無垢な姿に、眩しささえ覚えた。
いまはどうだ。
彼女はもう動かない。
二度と笑うこともない。
その温もりも徐々に失われてゆくのだろう。
こんなにも一瞬の間に、こんなにも呆気無く、少女の命の火は消えてしまったのだ。

79 :
 
彼女と過ごしたのは目覚めてからの半日足らずで、僅かそれだけの間しかない。
けれどその半日は、記憶を失った自分にとっては、全てだ。
全ての中心にいたのは、タバサだったのだ。
ゲロゲロを構成し、大部分を占めていたものが根幹から揺さぶられる。
目の前が真っ暗になるとはよく言ったものだが、まさにその通りだった。
立っているのがひどく億劫になり、ゲロゲロはその場に腰を下ろした。
ゆるゆると首を回すと、離れた場所で少女が両手を組んでいる。
傍にはおおよそヒトの形をしたものが落ちており、どちらもぴくりとも動かない。
彼女も、自分と同じように失ったのだ。
かける言葉など見つからないし、かけようとも思わない。
ローラとタバサの間に割り入ることができないように、あの空間を邪魔することは、誰にもできない。
此方に危害を加える様子は無いようなので、とりあえずはそっとしておく。
手前に、ひとつ、首が落ちていた。
赤い水溜りの中に、長い髪が広がっている。
心臓が跳ねた。
タバサがお母さんと呼び、必死に追った女性だ。
(……違う。どことなく雰囲気は近い気もするが、母親ではない)
走っているときは、遠すぎて気付かなかった。
今改めて確認すると、その髪の色彩はタバサやフローラのそれとは異なる。
焼け縮れ見る影も無いが、元は美しい濡羽色だったに違いない。
全身の火傷は、休むことなく痛覚を刺激している。
特に鋭い痛みを覚え、右腕に視線を移した。
傷は熱をもち、ずくん、ずくん、と悲鳴を上げる。
傷だけではない。
殆ど風の吹かないこの場では、爆発の残した熱が、身体に纏わりつくようだった。
あつい。
頭はクラクラとし、息苦しく、こめかみを汗が伝う。

80 :
 

「……おい」
何故だろうか、思ったよりも遠くで聞こえたような気がした。
決して大きくない影が自分の足元に落ちて、次に、破れた黒いスカートが視界に入る。
面を上げることは、できなかった。
この惨劇を引き起こしたイオナズンは、元々タバサが放ったものである。
彼女と共闘していたらしい彼は、タバサの意図したものではないとはいえ、その犠牲になった。
もし、自分がタバサを止めることができていたら。
こんなことには、ならなかったのだ。
「………」
続く言葉は無かった。
こちらの返事を待っているのだろう。
自責の念に駆られ、無意識のうちに視線を落とした。
スカートの裾からすらりと伸びた脚には程よく筋肉がついている。
それだけではなく、真っ赤なものもついている。
あぁ、なんて、なんて。

(芳しい)


目を見開いた。
(芳しい?)
なにが。どうして。
熱に侵された頭でその感情の意味するものを探り当てる。
高い知能と僅かな記憶のおかげで、すぐに正しい認識に辿り着くことができた。
だが、それが幸か不幸かと言われれば、間違いなく不幸だろう。
その認識は、闇への片道切符だったのだ。
イオナズンによるものだと思っていた熱は、決して、そんなものが原因などではなかった。
それは、辺りを満たす「死」の所為。
咽せ返るほど強く漂う人間の血の匂いが、ゲロゲロの血を沸かせている。
もっと真紅の花を咲かせろと叫んでいる。
転がる首を見て心臓が跳ねたのも、フローラの心配などではなかった。
無残な姿に、心が躍ったのだ。

81 :
 
条件反射というものがある。
梅干を見ると唾液が出るのも、その一種だ。
ゲロゲロに影響を与えたのは嗅覚と視覚から得た情報だけだが、日常的に殺人を犯していたゲロゲロにとって、その情報は梅干そのもの。
身体は正直だ。
ムドーの至福の時には、必ずこの匂いがしていた。
地に吸い寄せられるように這い蹲り、やがて動かなくなるのも同じだ。
ゲロゲロに覚えが無くても、ムドーが覚えている。

目がチカチカする。
魔物としての本能が、大きな口をあけて、ゲロゲロを飲み込もうとしている。
手が震える。
抗おうとする意思を、強すぎる欲求が押し流していく。
息ができない。
先刻は押さえ込んだはずの衝動がこみ上げ、抑えられない。
当たり前だった。
誰かに煽られたわけではない。
誰かを甚振る場面を見たわけでもない。
汚い欲望が己の内から湧いたのだと認めたのは、他でもない自分なのだから。
目の前の少女が異変に気づいたようで、顔を覗き込んでくる。
構えてはいないものの、その手にはしっかりと剣が握られている。
あぁ…今、下を向いていてよかった。
もし、顔を上げていたら。
彼女の瞳の色を知ってしまったら。
きっと、自分は、彼女を。

82 :
 

「ーーーローラを、頼むッ!」
絞りだすように言い捨て、走り出した。
向かう先など決めていないが、その場から逃げ出すことさえできれば良かった。
後ろで何か叫んだが、ゲロゲロには届かない。
聞こえないわけではない。
それどころではなかっただけだ。
二人に危害を加えないよう、己を保つことで精一杯で。
痛みがブーイングするのを無視して、ゲロゲロは足を動かした。


《勿体無いことを。
 アレの腹を裂けば、さぞかし好い声で鳴くに違いない》
音も無く背後に忍び寄った死神が、しわがれた声で囁く。
姿など見ずともわかる。
忘れようがない、憎き相手だ。
《貴様も、今度こそ理解したであろう?》
そうだ。理解した。
理解したからこそ、逃げたのだ。
理性を失うのは、とても恐ろしいことだ。
自分が自分ではなくなってしまうような、得体の知れぬ不安。
負けはしないと、決意をしたはずだった。
なのに耐えられなくなる、まるでRのように魅惑的ななにか。
そんなものが、自分の、全ての魔族の心の底に、大海のように広がっている。
まさに今ゲロゲロの心にぽっかりと開いた穴を満たそうとしている。
《ゲームを効率よく進めるためにいながら、何一つ「死」に貢献しない貴様の行動が今まで見逃されていたのも、
 いずれこうなることが必至だったからなのであろうな》
いやらしい笑みを浮かべたそれは、透けた身体の向こうに流れる木々を映しながらゲロゲロを囲むように回る。
言葉が出ない。
タバサに対し抱いた感情に名前をつけることは、未だできそうにない。
けれど、その感情を抱いている間は道を違えることはないと、根拠の無い理屈で思考を放棄してきた。
いずれ記憶が戻ったときに、向き合う必要があることはわかっていた。
わかっていたけれど、実際はどうだ。
記憶など戻らずとも、事実、自分は害悪な魔物だったではないか。
ボーダーラインは既に越えてしまっていて、意志の力だけでは引き返すことができないのは自覚している。
結局は自分もこの声の主と同類なのだ。

83 :
 
《何も戸惑うことは無い。躊躇う必要も無い。
 この世界では、多くの者がエゴで他人を殺しているのだ》
足が止まる。
なだらかなカーブを描く服を乗り越え、鈍色の腕が胸に差し込まれる。
言葉だけでは飽き足らず、物理的にも心の臓を捕らえようというのか。
《腹は減っていないか?》
そのまま全身が自分に重なり、身体を乗っ取られるような錯覚に陥る。
仮にそうだとして、誰が気づく?
誰も気づきはしない。
《奴等の臓物の味は知っているだろう?命を刈り取る瞬間の、絶望の表情を覚えているだろう?》
一度堕ちてしまえば、どんなに楽だろう。
苦しむことも無いし、我慢も葛藤も必要ない。
自分を縛るものは無く、欲望に身を任せ、自由に生きられるのだろう。
(…冗談ではない)
嫌だった。
波に流されたくはない。
渦に溺れたくはない。
認めたく、ない。
《ムドーよ。残虐なる魔王よ。大魔王デスタムーアの忠実なる僕よ。その力を行使するのだ》
「断る」
《何故だ。貴様は1匹の魔物であり、人間を殺める側の存在なのだ》
「その言葉は間違っていないのだろう。
 だが、そうだとしても…自分は、まだ「ゲロゲロ」でいたいのだ。
 タバサの信じた、エルギオスの信じた、「ゲロゲロ」で在りたいのだ!」
いつかくる、そのときまでは。
願いをぶつける。死神がたじろぎ、身体から這い出る。
乱暴に左腕を振り上げる。
迷いを断ち切るかの如く、刃で巨躯を二つに分かつと、醜い姿が煙のように揺らぎ霧散した。

84 :
 

近くに人の気配は感じられない。
自分の荒い吐息だけが、辺りの静寂を邪魔している。
(こんな幻につけ込まれるとは、我ながら情けない…)
傍らの大樹に背を預け、呼吸を整えながらゲロゲロは思う。
(ローラを置き去りにしたこともだ)
頭に浮かぶ彼女は、どれも泣き顔ばかりだ。
タバサを抱きしめては、涙を流している。
まだああしているのだろうか?
ローラも、かなりの怪我を負っていた。
箱入りである彼女だ。
あんなに酷いダメージを受けるのは、初めてではないだろうか。
命を脅かすほどの損傷ではなかったが、痕は残るかもしれない。
残っている薬を譲るのは、何も惜しくはない。
だが、届ける手段が見つからない。
あの匂いは自分には刺激が強すぎる。
(…大丈夫だ。少女に頼んだではないか)
魔物である自分を、隙だらけで居た自分を、彼女は斬らなかった。
尤も、この姿だからこそという理由かもしれないが。
どちらにしろ彼女がゲームに乗っている確率はないと判断する。
それに、二人は失った者同士だ。
きっと力になってくれる。
(大丈夫、大丈夫だ。問題ない)
自分の所業から目を逸らすように、言い聞かせるように繰り返す。
人力車の上でローラが見せた、人間が聖母と呼ぶものに似た表情。
そんな側面もあったと、ふと思い出した。
彼女の探し人は、日頃からそんな微笑みを向けられていたのだろう。
今は無理でも、いつかまた同じように笑えたら良い。
漠然と、そう思った。

85 :
 
(さて、これからどうするべきか)
もう来た道は戻れない。それだけははっきりしている。
多少は落ち着いたが、殺人の欲求は燻ぶり続けている。
血の匂いをさせる人間には、近づかないでおくべきだ。
次も逃げられる保証はどこにもないのだ。
思えば、今まではタバサを第一に行動してきた。
こうして独りになると、本当に自分がしたいことがすぐには思いつかない。
参加者との戦いで命を失うかもしれない。
主催の手の者が自分を殺しにくるのかもしれない。
先に、ムドーに支配されてしまうかもしれない。
残された時間の行動指針が必要だ。
悪を少しでも減らそうか。
今斬り裂いた仇だけは、許すつもりはない。
だが、バラモスだけを探し回ってなどいられない。
思索する。
何ができる。何をしたい。何をしたらいい?
(タバサの両親を探すのだ)
タバサの努力、優しさ、弱さ。
この半日に自分が知ったありとあらゆる一面を、懸命に生きた証拠を、彼女が愛する者へ余すことなく届けること。
本人を失った今、唯一自分ができる彼女への恩返しであり、償いでもあった。
そして、もうひとつ。
タバサは、父が魔物使いだと言った。
父を見つけたらなんとかしてくれるだろう、そうも言ったのだ。
魔物使いに寄り添う魔物は、邪気が消えるという。
もしかすると、自身に潜む闇も、振り払えるのではないか。
道を踏み外さないように、帰る場所を示してくれるように、自分の澪標となってくれるのではないか。
そう考えたのだ。
現状では、彼に一縷の望みを託すことしかできない。
(目標は定めた。あとは、そこへ向かうだけだ)
結局、やることは変わらないが、行動理由は異なる。
誰かのためではなく、自分のために。
深呼吸をすると、全身が痛みを訴える。
止血もせずそのままにしていた右腕は紫に染まっているものの、細かな傷は、既に塞がっていた。

86 :
 
(確かに、自分は魔物だ。自分の欲のため、罪無き者を殺める生き物だ。
 生まれ持った能力も、内に秘めるものも、人間とは異なる。
 それは紛れもない事実であり、逃れられない真実でもある)
殺戮が魔族の歩むべき道だというのなら、自分は違う道を探してみせよう。

「諦めなければ道は自ずと開かれる。そうであろう?エルギオス」


【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す、アレフへのかすかな不信感

【E-4/南部森林/夕方】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失 HP1/7 殺人衝動
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサの両親を探す。血の匂いのする人間を避ける。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
ーーーー
以上で代理投下終了です。
投下乙です。
ついにムドーが来たか……ゲロゲロはあらがい続けられるだろうか?
残された二人も心配だけど……

87 :
あ、それと放送予約は明後日に解禁でいいでしょうか?
翌日はやっぱ急かなと思いますし……

88 :
投下乙です
ああ、ゲロゲロ…
タバサを失った哀しみよりも
毒のように魔王としての本性に蝕まれていく様子がなんとも切ない
是非ともフローラやリュカとの邂逅を果たしてほしいものだ
そして何気にハーちゃんの前で手を組むソフィアも泣ける……

89 :
予約のことですが、明後日からで大丈夫だと思います。

90 :
投下乙です。
記憶が戻らなくとも、体がその衝動を、その快楽を覚えている。
ゲロゲロはムドーに戻ってしまうのか、決別できるのか。

91 :
【アナウンス】
24時間後、5/5 0:00に放送予約解禁です。
予約は従来通り予約スレで行われます。

92 :
避難所の一時投下スレに放送案を投下しました。
特に問題なければ明日までには本投下したいと思います。

93 :
「デスタムーア様、定時放送の時間でございます。死者は17名、生存者は27名です」
薄暗い空間で、一人報告をするアクバー。
跪くその先には、この殺し合いの首謀者。
「して、今回の禁止エリアは、どのように……」
アクバーが問うと、同時に一枚の紙が投げて寄越される。
そこには、今回の禁止エリアが記されていた。
但し。
「二倍にしろ」
その数は、六つ。
始めに指定していた数の、二倍だ。
「死者が半数を過ぎたならば、事は終わりに近い。
 もっと加速させて行くべきじゃろう? 今回はそれで行け」
「はっ」
短く返事をし、アクバーは放送へ向かう。
卑しく笑う、主君の声を背にしながら。
「ゲームより12時間、半日が経過した。
 私の声を再び聞くことが出来た諸君、いかがお過ごしかな?
 第二回の定時放送を行うぞ。
 今回は間怠っこしい前置きは省略する、諸君等も情報が欲しいだろうからな。
 まず……禁止エリアだが、デスタムーア様のご意向により二時間に二つ、計六つを指定させて貰う。
 20時 E-3 E-7
 22時 D-5 B-3
 24時 E-8 G-4
 以上六つだ、数が多い故、聞き間違えの無いよう確認するのが良いだろう。
 次に……この六時間で命を落とした者の名を告げる。
 グラコス
 カーラ
 もょもと
 シンシア
 アレフ
 アルス
 バラモス
 ミレーユ
 アイラ
 デュラン
 オルテガ
 ドルマゲス
 ピサロ
 ミーティア
 タバサ
 キラーマジンガ
 ハーゴン
 以上、17名だ。
 ククク……貴様等がこれほどまでに殺戮を好んでいるとはな。
 初めの六時間で、命を奪う快楽に目覚めたか?
 ならば、より多くの命を奪えば良い。貴様等は、そうせねば生き残れぬのだからな……。
 では、殺人者の諸君、六時間後にまた会おう……」
そして、半日が過ぎた。
【残り27人】

94 :
賛同レスがいくつかついたため、本投下させて頂きました。
予約解禁は二日後の5/7 0:00でいきたいと思います。

95 :
【アナウンス】
24時間後、5/7 0:00に放送後SS予約解禁です。
予約は従来通り予約スレで行われます。

96 :
それと、第二放送に到達したので12日の夜9時からDQBR2ndラジオ、チャモっていいとも!! を行いたいと思います。
実況スレなどはまた張らせて頂きますので、宜しくお願いします。

97 :
ラジオきたー

98 :
放送乙です。
6時間で17人もか…結構脱落者多いのな。ペースは1stより早いのかな?
書き手の皆様方も乙です!

99 :
代理投下行きます

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