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2012年5月エロパロ268: ポケモン その22 (319) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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ポケモン その22


1 :12/02/15 〜 最終レス :12/04/29
◆ポケモン系のエロパロSSスレです 皆で楽しくマターリ行きましょう◆
※次スレは480KBor950レスオーバを見かけたら、早めに立ててください
【諸注意】
・人×人もしくは人×ポケモン専用スレです
・ポケモン同士及び801は、各専用スレ/他板がありますのでそちらへどうぞ
・題材は基本的に職人さんの自由です(陵辱/強姦/獣姦おk)
・荒らし&アンチへの反応は無用&スルー
・ポケモン板の話題を持ち込まない
・ここの話題を他板に持ち込むことも厳禁
※職人さんへのお願い
・台本形式(フグリ「おはよう」アレッド「よぉ、フグリ」など)は
 嫌われるので止めたほうがいいです
・投稿する際には、名前欄に扱うカプ名を記入し、
 冒頭にどのようなシチュのエロなのかをお書き下さい
・女体化/スカトロ/特定カップリング等が苦手な住人もいます
 SSの特徴を示す言葉を入れ、苦手の人に対してそれらのNG化を促しましょう
※読者さんへのお願い
・SSを読んだ場合、感想を書くと喜ばれるかも
・作品叩きは荒れるので止めましょう
 *苦手なカプ&シチュであってもSSに文句を言わず、
  名前欄の語句をNGワードに設定してスルーしましょう*
・本人の許可なく投稿SSの続編及び改造は行わないでください
 *SSは書いた職人さんの汗の結晶です…大切に扱ってください*
他スレへのご案内は>>2
過去スレ一覧は>>3をそれぞれご覧ください

2 :
【ご案内】
■保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/
※その他のジャンル、ノンジャンルの部屋→ポケモンの部屋その1
 (その2はポケモン同士スレの保管庫になります)
■絵板
http://oekaki1.basso.to/user71/pkemn/index.html
■エロパロ板内ポケモン系他スレ
 【ポケダンも】ポケモン同士総合スレ14【本家も】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1304080059/
 ポケモンいとなみちゃっと〜第43夜〜
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291780986/
■その他のスレ
 ポケモンで801@その13
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1293347287/
  PINK削除依頼(仮)@bbspink掲示板
http://babiru.bbspink.com/housekeeping/

3 :
■過去スレ
ポケモン その21
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1319546335/
ポケモン その20
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296735999/
ポケモン その19
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1290606361/
ポケモン その18
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1287031142/
ポケモン その17
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1285484092/
ポケモン その16
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260979645/
ポケモン その15
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243152196/
ポケモン その14
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1223218534/
ポケモン その13
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1214052359/
ポケモン その12ノコ
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200838351/
ポケモン その11ブイ
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1194609742/
ポケモン その10カインのい10をはく
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1183106767/
ポケモン その9レセリア
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ポケモン そのウソ8
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ポケモン その7カマド
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161096830/
ポケモン その6
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139064747/
ポケモン その5
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1128077497/
ポケモン その4
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1122744582/
ポケモン その3
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1104769969/
ポケモン その2
ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073303380/
ポケモン
ttp://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1009071438/

4 :
>>1
プラチナ時代みたいに小さくなったカトレアお嬢様とBW主人公とかのネタ
が思い浮かんでしまった

5 :
>>4
カトレア好きの俺が全裸で期待してる

6 :
W:シンオウ二人旅
――217番道路 温泉宿
 その後、トバリを経由して北に進路を向ける事数日。昼夜を問わずに車を走らせ続け、蓄積した疲労は二人共ピークに達していた。
 そこでダイゴは急遽エイチ湖の近郊にある温泉(兜沼)に車を止めて、体を休ませる事に決めた。ゲームでは雪が絶えない216番道路以北だが、現実ではそんな事は決して無い。寧ろ、夏の暑い時期なので日中の屋外はまるでフライパンの様な有様だった。
 未だ明るい裡に温泉宿の部屋を取り、身体を汚す垢を洗い流し、同時に溜まった疲れを温泉に浸かって発散させた。
 そんな湯上りホカホカの状態の二人が戻る部屋は同じ。行楽シーズンのピークなのか、部屋は一つしか空いておらず、それは拙かろうとダイゴは他を当たろうとしたが、シロナがそれを止めた。
 ……その目に何かを期待している様な妖しい光を見た気がした。
 ダイゴはそれに警戒しつつも、結局部屋を取る事にした。自分がしっかりしていれば間違いは起こらない……否、起こさせないと根拠の無い自信に裏打ちされた決断だった。
 そうして、数日振りに人間らしい食事を取り、腹を膨らませた二人。ダイゴは日本酒で晩酌をしていて、シロナはそんなダイゴにとある疑問をぶつけてみる。
「ダイゴさんは」
「僕?」
 ぐいのみに銚子の酒を注いでいるダイゴ。部屋着であろうジーパンを着て、上に浴衣を羽織っている。下着に浴衣のみのシロナの声に反応すると、彼は顔を向けて来た。
「ダイゴさんは、何れは会社を継ぐんですか?」
「・・・」
 大学卒業後の進路。親御さんが大きな会社を経営しているのだ。一人息子であるダイゴはそうなる可能性が高い。それとも、それ以外の生き方を模索しているのだろうか?
 シロナの質問は只の好奇心だったが、ダイゴの心を揺さ振り、決して触れてはならない何かを呼び覚ますには十分だった。
「っ」
 部屋の温度が低下したのがシロナには判った。原因は明らか。目の前の男から放たれている負の波動だった。
「冗談じゃないね」
 そうして、口を割ったダイゴの言葉には明確な拒絶とそれ以外の恐ろしいモノが含まれていた。
「あんな魑魅魍魎の世界、金を詰まれても御免さ」
「でも、御曹司ですよね。跡継ぎとかは」
 理由は判らないが、ダイゴはデボンと言う会社を嫌っているらしい。今迄顔色を変える所を見た事が無いシロナでも一発で判る憎々しげな顔。まるで呪わしい仇の破滅を願う様な表情はそれだけ恨み辛みが深いと言う事だろう。
 止せば良いのにシロナはそのダイゴの触れて欲しくない部分を逆撫でしてしまったらしい。
「俺の知ったこっちゃねえよ」
「!」
 それはシロナの知っているダイゴでは無かった。
 唯判るのは、ダイゴが尋常で無い憎悪を胸に飼っていると言う事だ。全身に感じる寒気に自分が今、冷や汗でびっしょりな事にシロナは気付いた。
「さっさと潰れちまえば良いんだよ。あんな糞っ垂な会社は……」
 吐き出し尽くせぬ胸の澱に苛立った様にダイゴが酒を呷る。しかし、その顔は急に酒が拙くなった様に不機嫌さで一杯だった。
「……御免なさい。興味本位で聞く話じゃなかったですね」
「そうだな」
 人間、何が地雷になるか判らない。それを踏んでしまったシロナは早々に謝罪し、場を収めて貰う事にした。そんなダイゴは冷ややかな言葉と視線で彼女を迎え撃った。
『だったら、態々訊くんじゃねえよ、小娘』
 ダイゴの顔は確かにそう言っている様にシロナには感じられた。だが、吐いてしまった言葉は飲めないので、シロナはそれに耐え、黙って俯く他無い。ダイゴに対し、僅かの恐怖心を抱いてしまった。
「おい」
 そんなシロナの態度に苛立った様にダイゴがシロナを呼んだ。それに顔を上げる。
「一寸付き合えや」
 それを見計らってダイゴがシロナに使われていないぐいのみをパスで手渡す。相伴に預かれとのサインだった。

7 :
「あ、お酒……」
「何? 酔い潰れた女に狼藉働く程下種じゃないよ、僕は」
 言っている意味は判る。しかし、いきなりそう言われても困る。
 シロナは困惑しながらダイゴを見ると、彼はそう言った。……先程の空気は何処に行ったのか、今のダイゴの纏う空気や顔、声色はシロナが知っている普段のダイゴだった。
「それは構いませんけど……お酒は飲んだ事が」
 シロナが困っているのはそう言う理由だ。一滴たりとも飲んだ事が無い訳ではない。しかし、好んで酒を嗜む程飲み慣れても居ないし、日本酒の様に度数がある酒は殆ど未知の領域だった。だから、酔ってしまった時の自分に責任を持てない。
 別にダイゴに狼藉を働かれてもシロナとしては構わなかった。
「……聞かなかった事にするね」
 いや、其処は構えよ。何考えてるんだ、お前。自分を大事にしろ。
 ダイゴはそう言って叱り飛ばしたかったが、シロナ相手に大きな効果は見られないだろうから実際に口には出さなかった。
「……ならこれも人生経験だ。それでさっさと潰れて、寝ちまえば良いのさ」
「は、はあ。じゃあ、一寸だけ」
 断れるならばそうしたい所だが、ダイゴの機嫌を損ねたと言う引け目があってそれを撥ね退ける事が出来ないシロナは渋々と言った感じにこれを了承。
 ダイゴが注ぐ日本酒を抱いた恐怖を忘れる様に一息で呷ると、直ぐにお代わりを要求した。
「……ふう。口当たりが、結構爽やか。もう少し頂けます?」
「ああ。どんどんイってくれよ、シロナ君」
 水口の、それでいて淡い甘さと芳醇な米の香りがとても心地良い。その味が気に入ったシロナはダイゴにもっとよこせと空のぐいのみを渡す。
 中々酒付き合いが良いお姉ちゃんにすっかり機嫌を戻したダイゴは面白そうに酒を注いでやった。
――凡そ三十分経過
「んぐっ……っ、ぷはあ」
「し、シロナ君?」
 物凄いペースで酒が消費されている。途中から一切言葉を無くし、黙々と酒を呷り続けるシロナの姿に流石のダイゴも不安になってきた。
 それ位にして置いた方が……
 そんな言葉を掛けて見るも、やはりシロナは止まらなかった。
 確かに、万人受けする美味い日本酒ではあるが、飲み慣れない人間が鯨飲すればそれは二日酔いの悲劇を招く。その状態で車に揺られるのはかなりの拷問だろう。しかも明日は船に乗って樺太に渡る予定もある。
 これは予定の変更が必要か、とダイゴが考え始めた時、シロナはその動きをピタリと止めて、カクンと顔を下に向けた。
「お、おい? 大丈夫かい?」
「・・・」
「駄目だ、反応が無いや」
 その様子が普通じゃないと踏んだダイゴが声を掛け、肩を揺すって見るも、反応が全く返って来ず、シロナは俯き続けるだけだ。
「ダイゴしゃん」
「は?」
 さてどうしてくれようと思案していると、突然シロナが口を開く。顔は相変わらず下を向いていてどんな表情かは判らない。
「顔、ゴミ、付いてまふよ……ひっく」
「あ、ああそう。……取れたかな」
 そうして、自分の顔に指を指される。俯いた状態でどうやって確認したのか、その秘密を聞き出そうとはダイゴも思わない。
 恐らくだが、シロナは嘘を吐いている。又はそれは本当で何かを企んでいる。それに嫌な予感を持ちつつ、ダイゴは浴衣の袖でごしごしと顔を拭うとシロナに尋ねた。
「んー、駄目れふ。こっちに来れ。取ってあげまふ」
「……ええい、侭よ!」
 嗚呼、罠の臭いがプンプンする。だが、此処でそれを断っては酔っ払っているシロナが何をやらかすかダイゴは気が気じゃない。
 面白半分に勧める冪じゃ無かったと悔やんでももう遅い。ダイゴは腹を括ってシロナに顔を近づけた。
「っ!」
 ほら、やっぱり来た! ガシっと両腕で首根っこを掴まれて、離脱が不可能になった。
 そうして、顔を上げたシロナ。顔は真っ赤で、その目には獲物を前にして飛び掛ろうとする食肉目の獰猛さを象徴するみたいな鈍い金色の輝きがあった。
 その光に目を奪われて動けないで居ると……
――ちゅう
「!? ……っ! っ……っだあああ! な、何すんだ君は!?」
 軽く、触れ合う程度だが確かに唇が重なった。ダイゴは腕の拘束を解いて立ち上がると手の甲で口を拭い、焦った様に叫んだ。この酔っ払い! 通報しますよ!?
「ケラケラケラ! やっらー! きしゅしちゃっらぁ〜っ!」
 それをやったシロナは鬼の首を獲った様に喜んでいる。腹を押さえてケラケラ笑い、そしてそのまま後ろにひっくり返った。

8 :
「なっ」
 その様子を見てダイゴが絶句。これは大丈夫なのか、と本気で心配を始めた。
「あははははは! あは、はー…………もろきゅう」
「も、もろ?」
 そうして、シロナは暫く笑い続けた後、電池が切れた様に一切の言葉を失いピクリとも動かなくなった。
 ダイゴは警戒しながらシロナに近付くと、最早脅威は去ったという事を知った。
「くー……くー……んふふふぅ……」
「寝てる」
 酒量の限界を大きく逸脱したらしい。シロナは顔をにやけさせながら夢の世界にトリップしていた。
「酒、弱かったんだなあ」
 今度から勧める相手には気を遣おう。そう肝に銘じたダイゴはさっさと布団を敷き、酔い潰れたシロナをお姫様抱っこして抱えて、寝床へ導いてやった。
 ……その夜。
「――はっ!?」
 布団に入って暫くして。ダイゴがうつらうつらし始めた時にそれはやって来た。何者かが布団に侵入し、抱き付いて来ている。
 これは物盗りや強盗じゃない。もっと性質の悪い何かだ。そう思い、恐る恐る視線を下へ向けていくと……
「すー……すう……」
「な、にぃ!?」
 ダイゴの顔が驚愕に染まった。いや、決してこの場面を想像しなかった訳じゃあない。ひょっとしたらあるかな位に思い、直ぐに自分で否定した事だ。それが現実に起こっている。
 シロナがしっぽりと抱き付いて居た。寝る時は上は裸と決めているダイゴだが、それでも夏の夜にこうも密着されると暑苦しくて堪らなかった。
「・・・」
 驚かせるんじゃないよ、全く。ダイゴはシロナの腕を振り解くと、さっきそうした様に姫抱っこでシロナを彼女の布団へ強制送還した。
「恐いなあ、ほんと。何かのホラーショウみたいだよ」
 変な所で叩き起こされて、機嫌が悪い筈なのに、何故かそれ以上に自分の貞操が危機に晒されている気がして体を震わせる。
 何かそれに伴い尿意を催して来たので、ダイゴは起き上がるとトイレに行って、肝臓で分解した酒を外に放出した。
「だい、丈夫、だな。うん」
 そうして、自分の寝床に戻り、闖入者が居ない事を確認して布団を頭迄被り、目を閉じる。今日はもう厄介事は起こらないだろう。そう思ってダイゴは目を閉じた。
「……またかよ、おい」
 そうして、日付が変わって少しした後に再び怪異に遭遇する。寝ながらにして、一体どうやって近付き、また布団に潜り込んでいるのかその様を想像して、途中で恐くなった。
 これはもう本当に怪談の域。それをやっているシロナはきっと妖怪なのだろう。
「糞が。それならこっちも役得だ!」
 だが、その妖怪相手に泣かされっ放しのダイゴさんじゃあない。腕と脚を絡み付かせる妖怪を調伏する様にしっかりと抱き締めてやった。
「ぁん……はぁはあ……ダイゴ、さぁん……」
 これには流石のシロナも大誤算。はあはあ悩ましく酒臭い吐息をダイゴの首筋に吹き掛けながら、それでもシロナは眠ったままだ。
「これ、朝が恐いなあ」
 即席の抱き枕をゲットしてご満悦の筈が、ダイゴは難しい顔をしていた。
 主に、寝て起きた後の言い訳について。それを考えながら、シロナの抱き加減を堪能するダイゴ。女性特有の柔らかさ。鼻腔を擽る甘酸っぱい香り。胸元に押し当てられる乳肉の感触が些か窮屈で、またかなり暑苦しい。
 寝苦しさの中、彼是考えている裡にダイゴもまた夢の世界に招待された。

9 :
「……うーん、朝……?」
 再び尿意を覚えて目を開ける。窓辺からは光が差していた。時計に目をやると朝の六時過ぎだった。
 ……えーと、何か重要な事があった気がするが何だろう。って言うか、何でこんな暑苦しくて、全身が汗でべた付いているんだろう。胸の当たりも重苦しい。
 ダイゴは視線を下に下げて全てを思い出した。
「くー……くかー……」
 幸せそうな寝顔を晒して眠るお姫様の姿があった。
「はっ? なっ!?」
 シロナが自分の胸を枕に寝ている件について。
 ……そうだった。昨夜はシロナが酔い潰れて、布団に侵入して来たんだった……! そんな大事な事を何で忘れるのさ僕の馬鹿! ……と、悔やんでばかりも居られない。
 ダイゴはシロナを起こさない様に振り解くと、その彼女の姿に一瞬、ドキッとした。
 シロナの着ていた浴衣は外れて彼女の布団の脇で皺を作って打ち捨てられていた。
 そんなシロナは今、下着……黒い面積の狭いローレグのショーツ以外は全く付けていない。ピンク色の乳首はツンと天井を向いていて、紛う事無きパンイチ状態だった。
「……//////」
 そうして、良く見れば自分の胸元にはキスマークと思しき赤い痕が何箇所かあった。
 つまり、何か? 粗裸の女を抱いて寝て、更にキスマークを付けられたって事か?
 ……何時の間にそんな行為が行われたのかダイゴには記憶が無い。考えても全く判らなかった。
「……風呂に入るかな」
 取り合えず、放って置こう。自分の責任じゃあ無い。
 ダイゴはシロナの浴衣を彼女に上にかけると、更に布団を上から被せた。
 そうして、空いたシロナの布団を畳んで部屋の端に寄せると、Tシャツを着て、バスタオルと手拭を持ってトイレ序の朝風呂へと出掛けて行った。
「ダイゴさん」
「何だい?」
 旅籠を出て車を北に走らせる。煙草を吸っていたダイゴがシロナの視線に気付いて顔を向けると、シロナは真面目な顔で聞いて来た。
「あたし、昨夜、何かやりました?」
「……覚えていないのかな?」
 その顔を見る限り、酒は残っていない様だった。だが、言う冪事は山程あった。ダイゴは顔をヒク付かせながら煙草のフィルターを吸う。すると、シロナは途端に真っ赤に染まった。
「あ、い、いや! その、あの……//////」
「まあ、何も無かったからそれで良いさ」
 どうやら、記憶を失っている訳では無いらしい。と言う事はキスの件は覚えているのだろう。その後の事は不明だが。ダイゴとしては、それは無かった事にしたいのか不用意な追求は一切せず、代わりに煙を吐き出した。
「はいぃ……」
 それでシロナは叱られている気分にでもなったのだろう。しゅんと項垂れて身を小さくするシロナが何だか普段よりも可愛く見えた。
「しかし、幾らか惜しかったがね」
「! それって……」
 そんな気持ちがダイゴにそう言わせたのだろうか。それを聞いたシロナは途端に顔を上げてダイゴに真意を問うた。
「意味は自分で、ね」
「ふ、ふふ……期待、しちゃいますよ?」
 だが、やはりダイゴはそれを自分の口で語らない。中々に小賢しいやり方だが、シロナはそれを好意的に解釈する事にした。その証拠に、彼女の瞳の奥には何らかの生臭い情念が確かに宿っていた。
「さて、どうだかねえ」
 果たして、これの発言が未来にどう影響するのかはダイゴにだって判らない。しかし、シロナが明確な好意をこちらに向けている事だけは判っている。その瞳が何よりも正確に教えてくれているのだ。
 嘘や打算は全く含まれない、濁り、それでいて又、澄んだ女の瞳。
 少しだけだが、ダイゴにはそれが嬉しかった。

10 :
――リゾートエリア 別荘
 翌日。樺太の南東の端。僻地の極みと言った場所にあるリゾートエリア。誰かにとっては必要な場所らしいが、それにしたって交通の便が悪過ぎる場所だ。
 去年と同様に、ダイゴはその場所に来ていた。シロナと共に。
「ほえええぇ……これが件の」
「そ。親父の別荘。完成したから見に行ってくれってね」
 案内された別荘地。その一角にある建物の前に連れて来られ、シロナが感嘆の息を呑んだ。建物の規模自体は然程大きくは無い。しかし、敷地は広くてプールだってある。地価の安いだろう樺太だから、金さえ積めばこれ位の別荘を建てるのは朝飯前なのだろう。
「別荘……あたしには遠い世界の事で判りませんが、お金ってある処にはあるんですね」
「あくまで親父の物だ。僕のじゃない。しかし、態々ホウエンから避暑の為に来るには此処は不便だよ」
 ホウエン経済界の支配者。デボンの社長が建てた別荘。そりゃあ、金が無いと考える方がおかしい事だ。だが、ダイゴは決してそれを誇らない。自分の功績では無いからと、鼻に付く発言をする事も無かった。
 成金には嫌味な人間が多いが、ダイゴはそうではないらしい。シロナはそれだけでもダイゴを評価したかった。大学でそう言った連中を何人か見ていたからだ。
「そうですね。シンオウの人間でもよっぽど用事が無い限り、樺太には渡りませんからね」
「だよね。……君が偶に見に来てくれれば、僕は助かるんだけど」
 唯、この別荘にも問題が無い訳ではない。南から北の奥地迄涼む為に態々数日掛けて来る価値があるのかと言う話だ。ダイゴの父が社長である限り、何日も会社を休む事は出来ないだろう。
 それでも、この僻地に別荘がある限り、ダイゴはまた父の命で見に来なければいけない。流石のダイゴもそれは遠慮したい所だった。だから、シンオウ在中のシロナにこの別荘の管理を頼みたいダイゴ。
「御免なさい。無理です。無い袖は振れませんので」
「あはははは。はあ。そっか」
 だが、シロナは断った。シロナは樺太に来る様な用事は常に抱えないし、未だ出会って十日前後の人間にそんな重たい頼みをされて、それに頷く程シロナは軽率ではない。
 彼の言いたい事も判るが、シロナは責任を持てないのでそれを丁重にお断りした。
 予想していた答えが帰って来たのでダイゴは乾いた笑いを浮かべてがっくり肩を落とした。
「……何で建てたんだろう」
「……さあ、何ででしょう」
 親父の野郎、無駄遣いしやがって。忌々しい建物を睨みながらそんな事を思ってもダイゴは現実には無力だった。呟かれたダイゴの言葉にシロナも首を傾げるしかなかった。金持ちの道楽についてさっぱり理解が行かなかったのだ。

11 :
「さて、じゃあ行こうか」
「え、もうですか」
 到着してから一時間と経っていない。敷地周りと何も無い別荘内部を確認した所でダイゴが撤収を宣言する。幾ら何でも早過ぎる。もっとゆっくりしないのかとシロナは言いたいが、ダイゴがその発言を撤回する事は無い。
「確認しに来ただけだから。って言うか、帰る迄、余り時間が無い。さっさと車を返しに行かないとさ」
 ダイゴがホウエンに帰る迄、時間が幾分も残されていない。さっさと此処を出なければ船の最終便の時間に間に合わなくなる。端からこの場所で観光を楽しむ気は無いダイゴは一刻も早く樺太から離脱したかったのだ。
「――そうです、ね」
「シロナ君……」
 その言葉に別れの匂いを察したシロナが悲しそうに顔を俯かせた。それに対し、ダイゴはどんな言葉を掛けて良いのか判らなかった。
 夜。一日でシンオウ〜樺太間の往復と言う強行軍を終えて、二人はキッサキに帰って来た。車に乗り込み、南に進路を取る。
 その最中。ぽつりとシロナが零した。
「遠い、ですね」
 口元には煙草。真っ暗な窓の外をじっと見詰めていた。ガラスに映ったその表情は暗かった。
「そうだねえ。遠いねえ、樺太は。こっからコトブキ迄は更にだけどさ」
「そうじゃなくて……」
 ダイゴにだってその表情の意味は判る。だが、それに敢て気付かない様に見当違いな事を言ってやる。もう遅いだろうが、これ以上余計な情を募らせて別れが辛い物になる事を避けたいダイゴなりの気遣いだった。
 しかし、それはあくまでダイゴの勝手であって、シロナにそれが通るかは別の話だ。溜め息混じりに煙を吐くシロナの顔は明らかにがっかりしていた。
「ホウエン?」
「ええ。北と南。……遠いですよ」
 別に取り繕う必要は無かったが、シロナの表情を目の当たりにして、どうしてか胸が締め付けられる様だった。だから、ダイゴは正解を言ってやった。
 そして、シロナは更に悲しそうな顔をする。うっすらと涙が滲んでいる様なその顔。ダイゴは何かを悩む素振りを見せ、ハンドルから手を放して腕を組む。そうやって少しの間考えた。……考えたが、良い返答は浮かんで来なかった。
「どうにもならんねえ」
「ならない、ですよねえ」
 結局、それだけしか言えなかった。堪える様にギュッと目を瞑り、煙草で胸の苦しみを紛らわせるかの様なシロナの姿。
 心を揺さ振られるその姿にダイゴは何とか平静な振りを装う。それでも、手を差し伸べたいと言う欲求だけは蓄積されて行く。
『厄介な女に目を付けられた』
 そんな事を思ってみるも、胸の高鳴りだけはどうしもようも無かった。

12 :
――コトブキシティ ロータリー前
 夕刻。途中で仮眠を挟み、辿り着いたシンオウ最大の都市は、傾いた日差しに晒されて彼方此方に影坊主を伸ばしている。車を返却し、山盛りの荷物を両肩に担いだダイゴは同じく大荷物を抱えるシロナと向き合う。
「明日のこの時間には、未だ空の上かな僕は」
「・・・」
 オレンジ色に仄染まる二人の横顔。飛行機の出発時刻は明日の正午過ぎ。凡そ二時間掛けてカントーへ飛び、それから乗換えを行ってホウエンのカナズミ空港へと向かう。
 接続便が何時に出るかでそれは変わるだろうが、シロナはそんな事に興味が無い。何とか、再びの別れの瞬間を先延ばしにしたかった。
「さて、僕の十代最後の冒険はこれにて。石はちっとも掘れなかったけど、それでも楽しかったよ。……有難う、シロナ君」
「はい」
 終わりを告げる様に図れるダイゴの謝辞。そいつを聞きたくないシロナは耳を塞ぎたい気持ちで一杯だった。そんなどうでも良い言葉を寄越すより、もっと欲しいモノがある。
 あの温泉宿での出来事はそれが発露した結果だ。そして、シロナはもう自分自身を抑える事が出来そうに無いし、自重する気も更々無かった。
「で、君はどうする? 僕はもう一泊して明日に備えるけど」
「あたしは」
 さて、何と答える冪か。恐らく、この場での受け答え次第で自分の未来が全く変わるであろう事をシロナは予見している。人生の岐路と言う奴だろう。
 シロナの腹はとうに決まっている。問題は何処でそれを言うかだが……
「途中迄なら送ってけるけど? まあ、家の前迄は無理だろうけどもさ」
「・・・」
 シロナの家はシンオウ大に程近い場所にあり、バスに乗って十数分と言った場所にある。近いと言えば近いが、ダイゴもバスに乗って迄見送ろうとは思っていない様だ。
 此処で要求を捻じ込む冪か。……否、未だだ。未だその時ではない。
「さ、行こうよ。暗くなっちゃうよ?」
 出方を伺うシロナ。そして、チャンスが到来。ダイゴが後ろを向いた隙に、シロナはその背後に近寄り、Yシャツの裾をギュッと握った。
「シロナ君」
「ダイゴさん……」
 それに気付いたダイゴが振り向いた。
 ……もう此処迄来てしまった以上、後戻りは不可能だ。脈打つ心臓が胸を破って飛び出しそうだ。ありったけの勇気を込めて、シロナは頬を桜色に染めつつ、女の魂と心意気をダイゴに叩き付けた。
「奢って、くれませんか?」
「え」
 今迄行動していてダイゴは全くこちらに興味を注ぐ素振りを見せなかった。そりゃ、紳士的に振舞われて悪い気は一切しなかったが、それが十日近く続けば拷問に近いもどかしさが募る。
 そして、それ以上に女としての自信を無くしてしまいそうでもあった。そちらに気があるのを知っている癖に、知らない素振りをされる。
 もうそんなのは嫌だったのだ。
「ホテル、奢ってくれませんか?」
「――」
 だから、ストレートに欲望を言葉で伝える。どれだけ想っていても、口に出さなければ相手には伝わらない。別離が避けられないと言うのなら、せめてそれ位は叶えて欲しかった。自分をしっかりと見て欲しかった。
「あたし、このままじゃ……このままじゃ……!」
 既成事実と言う名の罠に訴える事。女としては真性に外道な手段。シロナ自身も承知している事だ。しかし、もう彼女には己の体位しかダイゴに対する武器は持っていない。
 己の女の肉体を楔として、また鎖としてダイゴを打ち抜き、縛る。
駆け引きと言ってしまえばそれだけの話だが、そんな手に訴える程に、シロナは女としてダイゴに抱き締められたかった。

13 :
「――確かに」
「!」
 目を閉じて逡巡する事数秒。ダイゴは全てを理解した様に呟くと、また頷いた。その仕草に希望を見た気がするシロナが俯き加減だった顔を上げた。
「確かに、これで終わりにするのはお互いに宜しくない事かもな」
「――っ」
 腐れ縁で済ます段階に既に無い事は判り切っていた。
 シロナの気持ちについて、ダイゴだって知らなかった訳ではないし、それに蓋を出来る状態では無いと言う事も筒抜けだ。何時からか、女の顔で見て来る様になった彼女を此処迄追い込んだのが自分だと理解している。
 それでも知らぬ存ぜぬと通して来たのは、単に余計な事に心を砕き、それにより得られる事象に価値を見出せないからだった。簡単に言えば損得勘定だ。
 そして、それ以上にシロナと言う人間を信じられないからこそダイゴは頑なだった。二週間に満たない期間で相手を正しく理解するには無理がある。信じられないから、理解が及ばないから触れるのが怖い。未知の物に人間が抱く根源的な恐怖に似たモノだろう。
 だが、それでもダイゴは漢だ。女に其処迄言わせてしまった以上、これを断り、恥を掻かせてしまっては漢が廃る。もう肉体言語に訴えるしかないとダイゴは悟ったのだ。
「それじゃ、君の気持ちについては最後迄責任を持とう。だから、その道楽に付き合う」
 顔色を変えず、冷静な振りをしつつ、そんな事をほざく。内心、ダイゴの心は困惑で一杯だった。これ程の短期間で何故こんなに懐かれたのか、首を傾げる。
 だが、その目を見る限り、金目当てだとか陥れようとか、何らかの悪意は見られない。そうやって幾度も裏切りを経験している故にダイゴは他人決して心を晒さない。それが付け入る隙になるからだ、
 だが、シロナは違う。純粋に抱いて欲しいと、懇願する女の瞳だった。
 それに危険が無いと踏んだからこその決断。些かチキンだが、ダイゴ本人としてはその辺りは切実だった。
「道楽じゃあ、無いですよ」
「っ」
 そんなダイゴの苦悩を知らないシロナは何だか嘗められた気がして、ダイゴの胸に倒れ込み、そこにすっぽりと収まった。
 好き好んでやっているのは事実だが、女の一大決心を道楽などと言う戯言で済ませて欲しくなかった。だから、シロナは潤む瞳に恋心を乗せて、ダイゴのそれを射抜いた。
「女の生き様です」
「それは失礼を」
 覚悟を見せ付ける様に輝く金の瞳。確かに、茶化して良い場面ではない。心が決まっているなら、こちらもそれに対する誠意を見せなければ嘘になってしまう。
 ダイゴは自分も腹を据えた事を示す様に銀の瞳をシロナに向ける。彼女は嬉しそうに微笑み、体を密着させて来た。

14 :
次回、エロパート。今回は早めにセクロスを挟んでます。おまいら覚悟は宜しくて?

15 :
埋めネタの余りでGJさせて〜
ダ15を ゲット するなんて さすがだね ボク!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          |\
          |  \ _
         /        \
        /   / /\   \
       /  /\ /   \  \
       \ / ・  ・    / /
        / /\ _\ /\/
        ∨    \_/
けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね
After all, I am the strongest and heavy.
カゲ>>2 けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね
>>24ウ けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね
プリ>>6 けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね
ゲン>>4 けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね
>>467 けっきょく キミが いちばん かわいくて もえるんだよね

16 :
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                   ○
      __          O
   ´       `  、  o
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/::.∧  / 入   ゝ     ト.、
::.::.::.:| ー‐'´  \         |::.ハ
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::.::.:./ ′_,,x≠     \ト、 |  } |::.::.| (⌒⌒)
二/ l!〃            N ノノノ二ノ  \/
/  |////      ///〉ー´  v           -─‐
    |    /`ー 7    /    v         /,ィ=ミ、
    |父x.  {   /   入          ? / 〃⌒ヾ}}
   八爻爻xx ー ' ,. <  ーァ   ハ      [二l二l二l二l
     ー‐z父爻父人   /    ァ     /[] ∩  ∩
八    /  /   }  Yー'′   ハ     〈_ノlo∪  ∪o
ー`ー‐く  父爻爻爻X父      ァ      |::ゝr 、 、
: : : : : : :.|: : / : : : : : | : : : : ヽ              ル::.:| }  ̄ ̄´
前スレで落とし損ねたシロヒカAA
にしても、スレ数400位で次スレってすごいな

17 :
そんだけ容量を消費したってことだろうな。
いやいや、音さんを貶すつもりはないよ。寧ろもっとやってくれお願い。

18 :
X:結実
――トクサネシティ ダイゴ宅
「ちょ、ど、どうなったんすか! 続き! 早く続きをば!」
「落ち着きなよユウキ君。血走ってるよ」
 興奮気味にユウキが叫ぶ。良い場面で話がぶった切られた事に鼻息を荒くして、その続きをせがむ。そんなユウキの様子にダイゴは苦笑を禁じ得ない。
「そりゃ、血走りもしますわ! ……しっかし、意外ですね。てっきりダイゴさんがあの手この手で誑し込んだと思ってたのに……」
「どう言う意味さ、それは」
 何を考えてる? 若干、顔をヒク付かせたダイゴ。セクシャルな事象に疎かった嘗てのシロナにがっつり調教を施す程、彼だって鬼畜じゃあない。
 ……まあ、あくまでその時はの話であって、時を経るに連れてその度合いは増して行くが、それは未だ語るに早い事だった。
「いえ、別に。……そうか。シロナさんの方が先に参っちゃったんですか」
「ああ。未だに判んないんだけどね。惚れるに当たる詳しい理由がさ」
 ダイゴにその気は無かった。しかし、結果としてシロナの興味はダイゴに移った。一体何が原因だったのかシロナは杳としてその時の心境を語ろうとしない。男であるダイゴがシロナの女心を解するのは些か無理があった。
「……案外、最初の出会いがあって、ダイゴさんがシロナさんの中で美化されたのでは?」
「それはありそうだけど……体を許すって言うのは突飛過ぎる気がさ」
 ユウキが思いを口にする。思い出補正でダイゴの存在が曲解されて、憧れやら逢いたい欲求が恋心と混同された結果ではないのか、と言う事らしい。
 一理あるユウキの発言にダイゴは半分だけ同意した。だが、それにしたって自分なんぞに容易く股を開くと言うのは勇者を通り越して愚の骨頂だとダイゴは思っていた。
 どう考えてもシロナのそれは自分の安売り以外の何物でも無い愚行だと今ならば断言出来た。しかし、考え様によっては、それはとても失礼な物言いだった。
「初恋って言うのなら、それを引張ってでも成就させたかったんですよ。まあ、それは本人にしか判らない事でしょうが」
「それだけ精神的に苦しかったって事かねえ」
 だが、所詮それはダイゴの頭の中での事。その時のシロナの精神状態は判らないが、そうするだけの価値があると踏んだから、彼女はそうしたに決まっている。
 抱かれても良いと思った男だからこそ、体を開いた。多分それだけの事だろう。後になっての意味付けは何にもならない事だった。
「で……頂いてしまった訳ですよね、ダイゴさんは」
「ご明察。美味かったよ」
 本題は此処からだ。シロナがダイゴを誘い、ダイゴはそれを受けてシロナを喰った。そんな事実が確かに存在するのだ。
「二十歳前のシロナさんを、かあ。……すげえ気になる」
「はは。下卑た話だから詳しくは語らないけどね」
 その様子を想像してユウキがぐびっと唾を飲んだ。ユウキとてチェリーでは無いが、あれ程の美貌を誇る女(しかも今より若い)に如何わしい事を施すと言うのはそれだけで下半身が元気になりそうだった。
 だが、それをやった益荒男であるダイゴはそれを語りたくないらしい。……確かに、自分の彼女との初合体の場面を嬉々として語る様な奴は余り居ないだろう。
「そんな! 此処迄来て生しは酷いですって!」
「そうかい? ん〜、それじゃあ、少しだけね」
 此処で話を切られたら行き場の無いリビドーが制御を失う。拝み倒すみたいにユウキはダイゴに話の続きを強請る。
 熱意に負けた様にダイゴは頷く。それは話を引張った責任を感じての事だったのかも知れない。
 軽々しくオーケーしちゃったけど、ホテルに着く迄はかなり困惑してたよ。
 抱く事に不安があった訳じゃない。選択を焦り過ぎたって自責があったのさ。
 でも、いざその時になったらそんなモノは吹っ飛んだよ。……何故かって?
 そりゃあ据え膳喰わぬはって奴だよ。それだけに集中したかったんだなあ。

19 :
――コトブキシティ ビジネスホテル
 シロナの手を引き、ダイゴは安ホテルのダブルの部屋を手配した。明日の朝、出発の時間が来る迄はこの密室で二人っきり。邪魔は入らないし、やるべき事も決まっている。
「あの」
「・・・」
 うら若い男女が個室で二人だけ。セクシャルな流れになるのは或る意味自然の成り行きだ。車の中ではずっとそうだったのに、今迄そうならなかったのが逆におかしい位なのかも知れない。
 そして、ダイゴだって今回は逃げるつもりは無い。シロナの挑戦を真っ向から受け止める気だった。心配げに見てくるシロナにダイゴは何も言わなかった。
「しゃ、シャワー浴びて来ますね」
 沈黙が痛かったのか、シロナがシャワールームへ行こうとする。事に及ぶ前に身体を綺麗にしたいのだろう。温泉宿からこっち、シャワーを浴びた記憶は二人には無い。相当に汚れてしまっているのは間違い無かった。
「不要」
「きゃっ! ぁんん……ふっ……んっ」
 ダイゴがそれを阻止する。腕を引張って引き寄せると、シロナは成す術無くダイゴに捕まり、その唇を奪われた。
 先ずはご挨拶の軽めのキス。お互いが喫煙者であるので、その味はほろ苦い。少しだけむずかる素振りを見せたシロナだが、ダイゴが唇を吸うと力が抜けた様に大人しくなった。
「前に言ったろう。汗臭いのは嫌いじゃないって」
「でも、そんなの恥ずかしい……」
 抱き締めた時点で判る。煙草臭さに混じり、シロナの汗と体臭が混じった芳醇な匂いが鼻腔を擽る。局部は更に蒸れて豪い具合になっているだろう事は想像に難くない。だが、やはりシロナは女としてそれが恥ずかしいらしかった。
「何故恥ずかしがるね? 寧ろ、君の全部を堪能する義務があるんだけどな、僕には」
「それは……う、ううぅ」
 シロナの生の匂いに興味津々な辺り、ダイゴはかなりマニアックだ。シロナとて肌を晒して受け入れる位の覚悟はあったが、まさかそんな事を要求してくるとは思わなかったらしい。
 自分の中の恥じらいと格闘している彼女の顔はダイゴにとても可愛らしく見えた。
「観念しなよ。数日風呂に入らない位で人間にゃあしないさ」
「うぅ〜、わ、判りました。……でも、少し待って下さい」
「うん?」
 口元に僅かな笑みを引きつつ、念を押す様に言うとシロナは諦めた。
 が、シロナはダイゴの腕の拘束をするりと抜けると、自分の荷物の前に立ち、中身を漁り始めた。何をしたいのか判らなかったダイゴは怪訝な表情をしながらもそれを見守ってやった。
「逃げる訳じゃないです。これが必要だから」
 そうして、目当ての物を探し出したシロナの手には黒っぽい何かが握られていた。封が空いていないそれを見るに下着の類だろうか。ダイゴには余り興味が無い。
「良く判らんが……好きにしてくれ」
「ええ」
 まあ、本人がそう言っているのだから必要なのだろう。それを止める気は無いのでダイゴはシロナの好きにさせる。すると、シロナは決意に満ちた表情で頷くとダイゴの目の前で服を脱ぎ始めた。

20 :
「「・・・」」
 お互いに言葉は無い。ダイゴは感情の無い表情でシロナを見詰め、シロナは全身を赤くして全裸になると、手に持っていたそれを着用し始めた。そして、凡そ一分。
「お待たせ、しました」
「――へえ」
 ダイゴの前に立ったシロナの姿に彼は少しだけ表情を柔化させる。馬子にも衣装、と言うのはおかしいが、その姿はかなり扇情的だった。
「随分気合を入れたな。それが君の裃かい?」
「勝負下着、です」
 黒いストッキングにガーターベルト。布の面積が殆ど無い黒のブラと以前に見た事のあるローレグのTバック。ちゃんと脱げる様にパンツを最後に履いている辺りは好印象だ。
「ふむ」
「お気に召しませんか?」
 何時の間にこんなセクシーランジェリーを揃えていたのか判らないが、そんな物で勝負を挑む辺り、シロナは本気なのだろう。
 だが、それを見てダイゴの顔がまた硬いモノに戻った。その心意気は買うが……
「いや、至極どうでも良い」
「え」
 その理由は言葉の通り。興味がそそられない。たったそれだけ。そのダイゴの言葉にシロナの目が点になった。
「高が布切れ数枚でどうにかなるモンじゃないさ。少なくとも僕はね」
「ちょ、一寸待って下さい……自分が馬鹿らしくなって来たんですけど」
 勇気ある女性のトライをそんな失礼な言葉で済ませるとはどれだけダイゴの意思は固い……否、枯れているのだろう。一世一代の女の花道を否定された気がしたシロナは涙目だった。
「流石に僕も其処迄は言えないさ。僕も、ガーターベルトはエロくて好きだよ」
「な、なら!」
 ダイゴもコキ下ろしてばかりじゃあない。相手の良い部分は褒めるし、フォローも忘れない。交渉事にとってはかなり重要なテクニックだ。
 シロナの艶姿。並の男なら蹲って動けなくなる強烈なセクシャリティを発揮するそれにはダイゴだって全くの無反応である筈が無いのだ。実際、かなりエロい。
「しかし! 今、僕は無性に君を裸に引ん剥きたい気分だ! 例えそれが動物的行為と謗られようとも君の一糸纏わぬ姿に魅了されたい! 人間だって動物だ! 美しい女性の裸体に性的興奮を感じて何が悪いっ!!」
 だが、ダイゴには確たる欲求が存在し、それに肖る限りはこの程度の色香に惑わされる事は絶対に無い。
 どうやら、御曹司の意思の固さは特筆モノである様だ。……そのベクトルは別にして。
「・・・」
 一気に捲くし立てられたその言葉。まるで固有結界が発動した様に感じられたシロナはパンツの裾に手を掛けた。
「脱ぎますか? これ」
「いや、結構。効果があると踏んで着ているんだろ? なら、それに肖ってみなよ」
 どうも乗り気じゃないダイゴの様子に、いっそ全裸になって、その状態で挑んでやろうかと思ったのだ。
 だが、ダイゴはそれを止めた。シロナの頑張りを自分の我侭で無に帰すのは忍びなかったのだ。そして、シロナの腕を取ると再び自分の方に引張った。
「きゃあ!?」
 小さな悲鳴と共にまたダイゴの胸の中にすっぽり納まるシロナ。
「あっ――」
 その状態でダイゴを見ると、シロナはそれ以外の言葉を忘れてしまった。
「僕に任せてくれる?」
 ダイゴは淡く微笑んでいた。そんな顔で言われては誰だってその身の全てを相手に委ねたくなってしまう。勿論、シロナとて例外ではない。
「は、はい……お願い、します//////」
 やはり、シロナはそう答える。それが開幕のベルに聞こえたダイゴはそのスレンダーな身体を一瞬だけ強く抱いた。
 シロナに勝負を挑まれた!

21 :
「じゃあ、どうしようかねえ」
 十分では無いが時間はある。プレイ内容について熟考するのもこの場合、吝かではない。普段は使わない頭の引き出しを漁り、ダイゴがエロの知識を脳内に巡らせる。
「あの」
 そうして、少しの間考えていると、借りて来た猫宜しく大人しかったシロナが恐る恐る呟いた。
「や、優しくお願いしますね……?」
 しっかり上目遣いで言ってくるシロナの姿はいじらしく、ダイゴの中のサディスティックな欲求を煽る様だった。
「そんな事は判ってるって。君、初めてだろ?」
「……判りますか?」
 だが、その思いは封する。その初々しいシロナの様子を見る限り、男慣れしていない事はダイゴにだって判る。そんなお嬢さん相手に身勝手な男の欲望を押し付ける真似はダイゴの男のプライドとエゴが許さない。
「まあね。僕も初めてなんだよね」
「ええ!?」
 ダイゴの次の言葉にシロナが吃驚した。そんなまさかダイゴに限ってそんな……
 初めて同士の対決は上手く行く保障が何処にも無い事位シロナだって知っている。道中の始まったばかりだと言うに、シロナの胸は途端に不安に支配された。
「いやいや。童貞って事じゃないよ。初物を相手にするのがって事。慎重にならないといけないだろ?」
「は、はあ、良かった。……経験豊富なんですね、ダイゴさんって」
 だが、ダイゴが言いたいのはそうじゃない。何か誤解しているシロナの疑念を晴らす為に説明を付け加えてやった。すると、シロナは自分の勘違いだと判った様で安堵の溜め息を吐く。出来るならシロナは全行程をダイゴにリードされたかったのだ。
「そうでも無いさ。大学入る迄チェリーだった、と言って置くよ」
 意外かも知れないがダイゴは性的な事象に於いて、臆病な一面があった。だが、大学に入ると彼はその苦手意識を克服する為に色々と手を尽した。
 書物や映像で知識を磨き、それだけでは足らずに風俗をも使って実地に励み腕を上げた。未だに極め尽くさぬ身なれど、ダイゴの女の扱いは二十歳前の小僧にしてはかなりの腕前を誇っていた。
 そんなダイゴではあるが、処女喰いは未知の領域。この状況は己の腕が何処まで通用するのかを問われている様であったのだ。
「んっ」
「中々大きいね。肩凝らない?」
 喋ってばかりでは先に進まない。ダイゴは背後から抱き抱える形でシロナの大きなおっぱいを丁寧な手付きで触り始める。
 触れれば指が食い込む様な柔らかさ。しっとり汗ばんでいるので掌が吸い付きそうな肌触り。加えて、ずっしりと両手に掛かる肉の重圧感。恐らくは90以上あるに違い無かった。
「凝りますよそりゃ……はぅ……ぁ、あっても邪魔、です」
「僕には無いから判らない世界だね。……こっちは、どうかねえ?」
 そんな重荷を絶えず背負うシロナ本人はこの脂肪細胞の無駄遣いを快く思っていないらしい。そして、残念ながらダイゴもおっぱい星人では無いので興味を向ける事は無い。
 乳弄りもそこそこにダイゴは片手の指をシロナのショーツのクロッチ部分に伸ばす。そして、爪でカリッと芯を持つ突起部分を引っ掻くとシロナが鳴いた。
「ふきゅううううぅぅ!!」
「――おや?」
 今迄聞いた事の無い可愛い泣き声。何が起こったのか少しの間、呆然とするもダイゴは全てを理解し、顔面全体に極悪な笑みを張り付かせた。
「――あ」
 自分自身、こんな声を出せるのかと口元を急いで覆うも、もう遅い。弱点が露呈してしまった以上、ダイゴがシロナの其処を愛でない道理は無い。
「ふ、ひ、ひひひひひひ……っ!」
「ひぃ」
 不気味な笑いにシロナが引き攣った声を漏らす。ダイゴの女の趣味。それはクリトリスが大きくて敏感な女。正にシロナはその趣味を満たすのに打って付けの相手だった。
「成る程ね。其処が、ツボか。……黄金のお触ラーの腕前、とくと見よ!」
「ぁ、や――」
 ゴキゴキと十本の指を鳴らし、ダイゴが敵陣地の攻略に乗り出す。戦略爆撃に晒される塹壕の中の歩兵みたいに、シロナはその時が過ぎるのを今は堪えるしかない。

22 :
「堪らないね、こいつは。自分でも随分と弄ってるな?」
「しっ、知らない……! 知りませんよぅ……!」
 布地を横にずらして露出したそれを丁寧に弄る。顔を出したシロナの豆は包皮が捲れ上がった状態で天井を向いて屹立していた。
 シロナは元来、自分で慰める時には外性器の刺激を当てにしていた。だが、去年のテレビ報道以来、その回数は爆発的に増加し、散々自分の手で開発されたその部分は小豆並みの大きさになってしまっている。
 シロナとしても少し気にしていた部分であり、何だかそれを詰られた気がして顔を恥ずかしそうに左右に振った。
「実に僕好みだよ。涎が出そうだ……!」
「っ……んんっ、ふう、ふぅ……気に入った、んですかぁ?」
 だが、ダイゴはシロナを苛めたい訳ではない。小指第一関節の大きさのシロナのクリトリス。弄る度に腕の中で震えるシロナが年齢以上に幼く見えて、もっともっと喘がせて見たくなる。
「こんなデカい豆、自重しろって方が無理だよ。もっと弄れば更に大きく育つかなあ?」
「やだ! やだぁ! 弄っちゃ駄目ですよぅ! あ、んんんぅ……!」
 封したと思っていたダイゴの欲望が鎌首を擡げる。実に自分好みの身体をしているシロナを好きに開発し、開拓してやりたいと言う衝動を抑え切れなくなりつつある。
 指の腹でもどかしい位の速さで円を描く様にくりくりと突起を転がしてやるといやいやと頭を振りながらシロナは甘い喘ぎを漏らした。
「あー、糞。布が邪魔だ。脱げ」
「え……」
 とうとう苛立った様にダイゴが零した。クロッチ部分を脇に押さえるのが面倒臭くなったのだ。シロナにその旨を催促すると、彼女は戸惑った。
「もうとっくに洪水だろ。再利用考えるならそれが良いと思うけど?」
「そうですけど……!」
 割れ目から滲む透明な汁はかなりの量でベッドシーツに暗い染みを残している。当然、シロナのショーツもその被害を受けていて、放置すればお釈迦になってしまう程の濡れ具合だった。
 だから、観念してとっとと脱げと理論的に降伏勧告をするも、シロナの羞恥心がその受諾を容易にさせなかった。
「ええい、先に進まん。脱がすよ」
「ああっ!? ちょ……」
 流石に業を煮やしたダイゴが往生際の悪いシロナに止めを刺すべく、その黒い布地を引っぺがし、序にブラのホックも外して殆ど裸の状態に引ん剥いてやった。
「……おお」
「うう……(涙)」
 ストッキングとガーターのみになったシロナの姿にダイゴが嘆息する。己の美意識を刺激して已まない女性の艶姿に目を奪われてしまう。
 そんな状態にされたシロナは両手で胸を覆って、涙目の恨めしい視線をダイゴに向ける事しか出来ない。
「綺麗なモンじゃないの。恥じ入る事は無いさ」
「ううぅ……ダイゴさんのえっちぃ……!」
 パッと見、スレンダーだが、出る部分はしっかり出ていてグラマラス。俗に言うモデル体型と言う奴なのか、そんなシロナの朱の差す白い肌にアクセントの様に映えるガーターの黒がとてもエロい。
 そして、取り分け目を奪われるのが、室内の光を照り返す彼女の下半身。そこには髪色と同じ黄金色の薄いアンダーヘアが生えていて、その直下にはそんな美しさとは対極に当たる様なピンク色の大きな肉芽が顔を覗かせている。
 劣情以外の感情をダイゴの内部に呼び起こす様な光景だった。シロナは尚も涙目でダイゴを睨むが、その視線がダイゴのスイッチを押した。
「男がスケベで何が悪い!」
「あひいいんんんっっ!!」
 ダイゴがシロナを押し倒し、勃起した肉の塊を抓み上げると、力の限り捻り上げる。そして、そのまま乱暴に上下に至極とシロナは歓喜とも苦痛とも付かない悲鳴を喉から搾り出した。
「弄り倒して君のスケベ成分を引き出してやるよ」
「あっ! あっ! あんっ! あんっ! んああああ……っ!!」
 チュコチュコシコシコ。クリ豆を苛めるダイゴは耳障りの良いシロナの可愛い喘ぎ声を聞きながら、シロナの耳元で囁く。その顔は愉悦に歪み、恐ろしさを感じさせる暗く冷たい微笑が張り付いていた。

23 :
――数十分経過
「ひっ、ひう、ぅ……んくっ、ふぐう……ぅ、うああ……」
 言葉を忘れてしまった様に泣き喘ぐシロナ。腰は完全に浮いていて、開脚した脚もビクビクと痙攣している。
「良い匂いだね。ほんと堪らねえ。味も絶妙だし……」
「はああああ……ふはあああああ……♪」
 頬に流れる涙の筋。口の端からだらしなく零れた涎。天国を垣間見ているであろうシロナを他所に、ダイゴはシロナの下の口にキスをしている真っ最中だ。
 塩味の中に混じる酸味。どろっとした白濁した桂冠粘液は彼女が本気で感じている証だろう。肺を満たす穀物が醗酵した臭いとチーズ臭のブレンドはシロナのそこがかなりの上物であるようにダイゴには感じられた。
「…………ふむ」
 口元を伝う生臭い汁を拭わずにシロナの様子を見るダイゴ。
 荒い息を付き、時折痙攣しては喘ぎ声を漏らし、尻の穴を開いたり窄めたりしながら、白色の本気汁を滾々と溢れさせている。弄り倒された彼女のクリははち切れんばかりに充血して赤黒い姿を見せている。
 ……誰から見ても大分出来上がっている状態。これはもう本丸に挑む条件を満たしたのでは、と踏んだダイゴは確かめてみる事にした。
「どれどれ」
「あう」
 にゅぷぷ。人差し指を割れ目に差し込んでみた。少しだけシロナが声を上げたがたったそれだけ。特に窮屈さや違和感は得られず、ダイゴの指は容易くシロナの女に飲み込まれる。
 今度はもう一本指を増やして半分程埋めてみたが、今度は反応すら返って来なかった。
 ダイゴはシロナに対し、気付けを行う事にした。
「それ! お目覚めの時間だよ!」
――ガリッ
「ひぎゃあ!?」
 ビンビンに滾ったシロナの小豆をダイゴは軽くだが噛み潰してやった。その激痛を伴う刺激にんでいたシロナが絶叫と共に復活を果たす。
「がっ、ぁ、あひぁあああああ――――っっ!!!!」
 ダイゴは止まらない。高速で指を抜き差しし、グレフェンバーグと思しき場所を指の腹で擦り捲る。同時に、クリを極限まで吸引してその裏筋を舌先で左右にブラッシングしてやった。
 暴れ馬の如く脚や腰をバタ付かせ、悲鳴に近い声を撒き散らすシロナ。割れ目からピュッと噴出した何かの液体がダイゴの顔を汚す。ダイゴは最初それを小便かと思ったが、アンモニアの臭いは無かった。
「んむっ……気付いたかい? 誘ったのは君なんだからもっとしっかりしなよ」
「や、めっ! もう止めてえええええええっ!!」
 口を勃起クリから離して、それでもGスポットへの愛撫を止めないダイゴは顔を拭いながらシロナに向けて笑い掛ける。
 涙を零しながら中断を懇願するシロナは全身をガクガク震わせて潮をシーツの上にブチ撒いていた。
「え、そう? ……残念」
「はっ、あっ……はああ……ぅ、あっ……」
 少し、弄り過ぎた。顔には出さないがそう思ったダイゴは言われた通りにしてやると、シロナはピタリとは行かない迄も、大分落ち着きを取り戻した様だった。
 少しの間だけ、身体の震えが止まらなかったが、それもほんの僅かの事だった。

24 :
「んじゃ、名残惜しいけどそろそろ本番と行こうかね」
「……っ//////」
 これ以上、どれだけ弄った所で変わりは無い。そう判断したダイゴは封印していた一物を解き放つ決心をした。
 その手初めとして、上に来ていた胸元の開いたセクシーなシャツを脱ぐ。
 すると、シロナの視線はダイゴの半裸の上半身に向けられ、魅了された様に目が離せなくなった。
 腕の太さから言ってそれ程体格が良い訳では無いと勝手に思っていた。だが、目の前に存在する男の鋼の肉体には女である自分ですら嫉妬する色気が満ちている。
 完全な逆三角形で、腹筋は綺麗に割れている。胸筋や背筋ははっきりと見える形でその存在を浮き彫りにし、触れば適度に柔らかそうな印象すら与えて来る。
 まるでボクサーの様に絞られた身体の基礎はきっと趣味の石収集の過程で勝手に形成されたモノなのだろう。だが、ダイゴの肉体はシロナを以ってしても目に毒だった。それ程の危険な色気を放っていた。
「? ――――っッッ!!?」
――ジジィー……ぶるるんっ!
 そして、ジッパーから飛び出したそれを見てしまったシロナ。今しがた頭に思い浮かべた女の劣情の綺麗に吹き飛ばして戦慄し、今度こそ目を奪われた。
「何だい? 何か珍しいものでも?」
「あ、ぁ……ぅ、嘘……」
 それはペニスと言うには余りに太くて無骨、そして長くて大き過ぎた。天を摩す峨々たる怒張。
――それは正に肉塊だった
「嘘じゃないんだなあ。君にはこいつを根元迄喰って貰う訳だ」
「む、無理です!! そんなの絶対……!」
 ハガネール。シロナの頭に自然と単語が湧き上がった。
 太さ、長さ、雁の高さ。どれを取って見ても規格外の一物。成人男性の平均的なそれについてシロナは知っていたが、目に映るそれはどう見てもその範疇には収まらない。
 子供の腕位は楽にあるそれ。細身のスプレー缶と言った佇まいの肉の槍は青筋を走らせ、ビクビクと透明な先走りを先端から漏らして泣いている。
 そんな対戦車ライフルが挿入る訳が無い。シロナは恐怖で涙目だった。
――ピクッ
 そんなシロナの反応が癇に障ったのか、ダイゴがまるで親の仇を見る様な凄まじい形相でシロナを睨んだ。
「あー、煩せえ女郎だなあ。そっからは赤ん坊だって出て来んだよ。貴様が責任持って気合で咥え込めや」
「や、止めて……! お、お願いですダイゴさん! 怖いよう……!」
 若さ故の過ちか否か。どうにもダイゴは感情が昂ぶると素の自分を晒してしまう弱点があるらしい。平時であるならばこんな戯けた間違いは早々犯さないが、ダイゴだって若いのだ。化け物を見る様な視線を向けられればこうもなってしまう。
 前に温泉宿で垣間見た恐ろしいダイゴが降臨してしまった。挿入られる事も勿論だが、そんな怖いダイゴを見るのはもっと嫌だった。
 だから、シロナはゆっくりと迫って来るダイゴに、早く自分の知っている優しい姿に戻って欲しくて、頬に涙の筋を伝わせて訴えた。

25 :
「…………大丈夫。その為に余計に弄ったんだ。君ならきっとやれるさ! 頑張るんだシロナ!」
「ダイゴさん……」
 それにハッと気付いてダイゴが平常心を取り戻す。
 いかんいかん、変身していた。不用意に相手を怯えさせるのは趣味じゃない。
 ダイゴは本丸への門を力尽くでこじ開けるのではなく、シロナ本人に訴えて自分から開けさせる道を選んだ。
 ダイゴ自身、自分の竿の大きさについては理解しているのだ。無理矢理やってしまえば、それは禍根を残す結果となる。それだけは決して犯してならないこの場に於けるタブーだった。
「此処で止めても良い。でも、それで後悔は無いのか? 本懐遂げるんだろ? なら、君の女気で俺を魅了してくれよシロナ!」
「!」
 何時もの様に君付けで呼ぶ事を放棄し、しかも一人称が僕ではなく俺。
 その事がダイゴの心に一歩踏み込んだ証の様に感じられて、シロナは途端に嬉しくなった。
「そう、ですね」
 真剣に見据えてくるダイゴの白銀の瞳。
 ……一体、何を恐れていたのか。こうする事が当初の望みで、それはもう後一歩の所で叶うのだ。為らば、こんな所で足踏みはしては居られない。必要なのはほんの一握りの勇気と覚悟。たったそれだけ。
「お願いしま……ううん」
 蝦夷っ娘として、女として、生きた証を立てさせて貰う!
「来て、ダイゴ!」
「よっしゃあ! もっこすの気概を見せたるけんのう!」
 シロナは腹を括り、両腕と両足を開き、ダイゴを招く様にその身体を開く。極上の笑みを浮かべながら。
 敬語とさん付けが無くなった事にシロナの想いの深さを知ったダイゴは火の国の漢の魂を刻み付ける為に己の分身をシロナの淫裂に宛がった。
 ……彼が熊本人かどうかは甚だ怪しいが、それは気にしたら負けだ。

26 :
「んんぅっ!」
 先端が進入して来た。引っ掛かりや痛みは無く、多少の圧迫感だけであっさりあの巨大なモノの先を飲み込んだ事はシロナ自身としても予想外。女体の神秘と言う奴だった。
 そうして、ダイゴは少し進んで膜と思しき抵抗がある場所で一端止まる。
 ゆっくり行きたい所だが、それはシロナの苦痛を長引かせる事でもある。介錯を引き受けたならば、情は交えずに一撃で首を落としてやるのが武士の情け。
 ……そして、この場に於ける男の優しさと言う奴だ。
 ダイゴはシロナの黄金の瞳を一度見て、微かに微笑んだ。
「せーの、新・日・暮里♂っ!」
「んん――――っっッッ!!」
 一端腰を引いて、シロナの腰骨を掴み、強いストロークを叩き込む。
――プツッ
 先端に纏わり付く膜の障害を一気に引き千切り、ダイゴのフェアリーエクスプレスがシロナの最奥へと到達した。
「っ、ぐ……貫通、おめでとう」
「は、ぁ、あ……あ、かはっ……」
 到達の瞬間からもうシロナの中は熱烈歓迎をダイゴに見舞って来た。その歓迎会に少しだけ呻き、ダイゴはシロナを見る。
 涙を零れさせ、大きく息を吸って足りない酸素を体中に行き渡らせている様なシロナの姿。少しだけ胸にきゅんと来たのでダイゴはその労を労う事にした。
「そしてようこそ」
『大人の世界(性的な意味で)へ』
「んっ……♪」
――ちゅっ
 シロナの呼吸を阻害する様にダイゴは唇をシロナのそれに覆い被せる。すると、シロナは両手両足全部でダイゴを掻き抱き、嬉しそうに舌をダイゴの口へ差し入れる。
 積極的なシロナに多少驚いたが、ダイゴは憚る事はせず、同じ様に自分の舌をシロナのそれに絡み付かせ、唾液を啜ってやった。
 感極まった様にシロナの目から大粒の涙が一つ零れた。

27 :
長いから一端切るよ。続きは寝て起きてからでも。

28 :
音ゲーマーさん乙っす
ハァハァしながら読んでたのに新・日・暮里♂で超笑ったwww
続き楽しみに待ってます!

29 :
「相当キツイだろう事は判るよ。やっぱり、痛いかい?」
「い、いえ……っ、痛みは大丈夫……けど、お腹が、苦しい……」
 体面座位の格好でダイゴはシロナを抱き締めていた。苦しげに息を吐くシロナは辛そうに顔を顰めている。
 規格外のダイゴのハガネールを咥え込んだシロナは文字通り気合でそれを成したと言っても過言ではない。裂けて血が出ていない事が不思議な位だった。
 無論、ダイゴによる入念な前戯がそれに一役買ったのは間違い無いが、未だに男を知らないシロナにダイゴのそれは矢張り大き過ぎた。
 膣の伸縮限界に迫る様な容積の肉の柱は子宮を押し潰し、他の内蔵を上に押し上げている。それ故の圧迫感だった。
「そりゃあ慣れて貰うしかないかな。……で」
「あぐっ! くっ……」
 破瓜の痛みが和らいだのならば、それで御の字。しつこい位ねちっこく弄った甲斐があったと言うモノだ。しかし、生本番と言うのは只嵌めて終わりではない。嵌めて、その果てにある絶頂目指して駆け抜けなければならない。
 試しに、ほんの少しだけダイゴがシロナの身体を竿を中心に揺さぶってやると、彼女の顔には明瞭な苦悶が浮かび、何かを耐える呻きも口から漏れた。
「駄目、か。慣らす必要があるなこれは」
 初めて男を受け入れたのならそれも頷ける。男を喰い締めて奥の深い部分で快楽を得るにはシロナの性感は未だに幼いのだ。直ぐによがり狂えと注文を付けてもそう簡単に順応出切る筈が無い。
 ダイゴはゆっくり頷くと、本丸の攻略を一端休止する事にした。これ以上を望むならば、シロナが心と身体を開いてくれなければどうにもならないからだ。
「ダイゴ……あたしの事は良いから、動いてくれても」
「そいつは却下。君ばっか苦しい思いをするなんて僕のプライドが許さないんでね。きっちり中逝きを経験して貰うよ」
 自分の事は無視して好きにやってくれとシロナが誘惑する。だが、断固としてダイゴは首を縦に振らない。実際、挿入ているだけでも気持ち良いし、動かさない限りは萎える事はあっても暴発は絶対に無い。
 何よりもこの場で真っ先に気遣わないとならない事はシロナの状態である。それをおくびにも出さず、ナチュラルにやってのけるダイゴは天然の誑しである可能性が高い。
「気遣ってくれてるの? ……優しいんだ、ダイゴ」
「そいつは勘違いだよ。優しくなんて無い。只の我侭さ」
 女の初めては後々迄記憶される重大なメモリアルに成り得るイベント。そんな初めてのシロナの性体験を歪なモノにする事は男として出来ない。
 それがダイゴの抱える優しさの正体。本人はどうもそれを認めたくないらしい。
「うん。ずっとあたしの中で勘違いのままにしておくね」
「……好きにしてよ」
 そんなダイゴの漢気にきゅんきゅん来たシロナは苦痛を忘れて嬉しそうにダイゴに体を擦り付けた。
 フェミニストを気取る気は更々無いダイゴはシロナの好きな様にさせる。シロナの嬉しさを象徴するみたいに、膣肉が蠢動してハガネールも分厚い装甲を削り出す。だが、ダイゴの鋼の装甲はその程度でびくともしない。
 逆に、胸板に密着するおっぱいの圧力の方が苦しい程だった。

30 :
――凡そ小一時間経過
「はあ、はあ、ハア、はぁ……はー……っ」
「こう言うのだよな、君が求めていたのは」
 シロナを点す為に我慢強くダイゴは粘り続けた。差し入れた一物を萎えさせない様に、細心の注意を払いつつ、愛でる様にシロナを触り、時にはキスをし、ある時は甘い言葉を耳元で囁き続けた。
 女のエクスタシーはメンタルな部分に占める割合が多い。やろうとすれば困難極まるそれを見事にやってのけるダイゴは相当な手錬である事は疑い様が無い。
「ん……んぅ……そう、なのかな……」
 心満たされれば、自然と身体が開く。シロナの心に訴え続けたダイゴの作戦勝ちだ。
 望みは既に叶ったが、本当は一体どう言う風に愛されたかったのかシロナの頭には漠然としたイメージしかない。だが、ダイゴによって施されるそれが何に勝って心地良い事は確かだった。
「実際、塩梅はどうなのさ。さっきからナニが熱持ってる感じがね。放っといたら君に溶かされそうだよ」
 最初は緊張して頑なだったシロナの女は今では蕩ける程に泥濘み、結合部から白い粘液が溢れ出ている。孕んだ熱が一物を焼く様で満足に動けないダイゴはかなり窮屈な思いをしていた。
「凄く、ぁ、熱くて……お、お腹が切ないの……! きゅんきゅんって勝手に反応して、疼くの……」
 ワナワナと閉じた瞳を震えさせ、シロナは熱い吐息混じりに漏らす。意思を無視するみたいに膣壁と襞がダイゴを奥に誘おうと蠢動している。
 簡単に要約すると、もう辛抱堪りませんって所だろう。
「えーと、つまりそれは……」
 シロナの言いたい事が何と無く判ったダイゴは先程そうした様に軽くシロナの奥を小突いて揺すってやる。
「ふああああ……♪」
 その声と表情が全てを物語る。作戦再開のゴーサインは既に出ていた。
「解れたって解釈させて貰うよ」
 だからと言っていきなりがっつく様な真似をしては、それは変態紳士としては二流。最早、落城は時間の問題だと理解したダイゴは最後の仕事に取り掛かる様にゆっくりと腰を動かし始めた。
「んあっ♪ あはっ♪ ふは♪ っあ♪ あはぁ♪」
「良い感じだね。此処迄引張った甲斐があったってもんさ」
 トン、トンとリズムを刻む感じで奥側を軽く突く。それに反応してシロナの小気味良い喘ぎ声がダイゴの耳に抜ける。何故か楽器を演奏している気分になるダイゴだった。
「な、なんれ……あらひっ! は、初めてらのに、き、気持ひ良いよぅ……♪」
「そう言う風に誘導したからさ。いや、初めての試みだったけど成功したみたいだ」
 惚けて呂律が回っていないシロナ。その顔はだらしなく緩み、涎が口の端から滴っていた。その様子はとても先程迄処女であったとは信じられない痴態だった。
 そして、何故かと問われれば、それこそがダイゴの手腕だった。嵌めたまま動かず、緊張が解れるのを待ち、愛撫や言葉でシロナの心に火を点けて、身体がその気になる様に燃えさせた。
 ポリネシアンセックスに通じるやり方が実を結んだ結果であり、シロナが経験の無い女でも例に漏れなかったのだ。
「んんふぅ……ふっ、んん♪ くぅうんん……ンッ♪ ンッ♪」
「あー、しょうがないなあ。一気に攻め落とすか」
 完全に頭の螺子が跳んでいる様なシロナは最早人語を解す段階に無いらしい。会話がもう成立しない事に呆れる様にダイゴは腰を抜ける寸前迄引張り、渾身のコメットパンチをシロナのパルシェンにお見舞いしてやった。
――ぶぢゅうっ!
「ッッ――!!?? ぁ、ああ……!」
 タイプ相性的に水と氷が相し合って、鋼攻撃は等倍計算。しかし、今のシロナはダイゴの計らいで物理防御が裸同然迄下がっている。加えて、この瞬間の為に力を溜め込んで来たダイゴのハガネール。
「ふああああああああああああ――――っッッっ!!!!」
 当然、耐え切れる道理は無い。シロナはカッと目を見開き、身体を弓形に仰け反らせ、経験した事の無い激しい絶頂に襲われた。

31 :
「喜んでくれてる様で何よりだね」
「まっ、ちょ、と、止まってえええええ! あらひ、今逝っ! 逝ってるのぉ!!」
 ダイゴの口調と顔は柔らかいが、腰の動きは極悪。うねうねと左右にグラインドさせ、上下に竿を操って膣を擦り上げるワイリングをも織り交ぜる。コンボ数は500を軽く突破しているのでボーナスは15万は最低保障される。
 絶頂を迎えている最中にそんな派手に動かれては何時迄経っても波が収まらない。エクスタシーの大波に精神を浚われそうになっているシロナは涙を流しながら中断を懇願する。
「結構。その調子で今度は僕を導いてくれ。じゃなきゃ何時迄経っても終わらないよ?」
 だが、ダイゴがそれを聞く理由は無い。寧ろこれ位狂った譜面配置の方がダイゴには心地良いので、自分の快楽を優先して腰を高速でピストンさせた。
「あーっ! あーっ!! んああああああーっ!!」
「……話、聞いてる?」
 衝かれる度にダイゴの高い雁首が敏感な部分を擦り、全身に電気を走らせて、思考を白く塗り潰す。涎と涙で化粧したシロナの顔は随分と魅力的にダイゴには映る。
 しかし、それはあくまで意思疎通が可能と言う前提を経たモノであって、再び言葉を忘れて牝に成り下がってしまったシロナにダイゴが感じ入るモノはそれ以上無かった。
「あ、ぁ……っはあ…………♪」
「返答無し、ね。義理は果たしたから勝手にさせて貰うよ」
 一端ピストンを止め、ぺしぺしとシロナの頬を張ってやるも、人間らしい反応は返って来ない。そんな相手に掛ける情けは既に無いと、刑執行を告げる様にダイゴがフルパワーを発揮する。
「んひぃ……! んぃいいいいいいいいっっ!!」
 両手両足の爪でシーツを掻き毟り、びゅるびゅる潮を噴く。普段は綺麗な姉ちゃんなのにこんなケダモノじみた咆哮と姿を晒しては全てが台無しと言うモノだ。既にホテルの個室全体がシロナの放つ生臭い獣臭に満たされていた。
 其処から更に数十分経過。ダイゴのハガネールはその質量は圧倒的だが、高い物理耐久が仇となり絶頂迄の道程が果てしなく遠い。もうカウントする事も億劫な程快楽地獄を経験させられたシロナは本当に壊れてしまいそうだった。
「またぁ……! ま、また来ちゃう……来ちゃうよおぅ……!」
「はっ、はっ……あ、後一歩! だけど、そいつが遠いな、糞」
 シロナが掠れ果てた声で何とか呟く。身体はもう殆ど動かずにダイゴにされるがまま。
 全身汗でびっしょりのダイゴはやっとゲージが点滅した事を悟った。これでもかと言う程シロナの秘洞を掘削し、耕すダイゴは或る意味鬼だった。

32 :
「ダ、イゴぉ……♪」
「し、シロナ」
 生まれて初めての目交いがこんなにも濃厚で、心を亡くす程に激しい。もうシロナの魂にダイゴの存在は嫌って位に刻み込まれ、トロトロのメロメロだ。他の男の存在を挟み込む余地が無くなる程に。
 牝として服従した事を示す様に、がっちり既成事実固めをお見舞いするシロナは最後の力を振り絞っていた。絶頂に際し迸る男のリキッドを全て飲む為に。
 その行動がダイゴの背筋をゾクゾク震わせ、一物の耐久力が一気に削られた。
「で、出ちゃう? 精液出ちゃう? あっつい赤ちゃん汁シロナの中に射精しちゃうの?」
「ああ、そのつもりだ。僕のポリシーだから」
 ビクビク震えるダイゴ自身の戦慄きを察知したシロナが涙顔で問うと、ダイゴは頷いた。
 是非も無い事だ。抱いた以上は生で膣内射精しこそがダイゴの信念。それは相手が誰だろうと変わる事は無い。だから、ダイゴはシロナに対しそうするのだ。
「妊娠……赤ちゃん……お、お嫁さ、んっ! んんんぅうううううぅ――!!!!」
 ダイゴの本気が知れたシロナは種付けされる自身を思い浮かべ、一際大きな絶頂に達する。泣き叫びながら天辺に昇り詰めたシロナは図らずもダイゴの最後のスイッチを押してしまった。
――ガブッ
「ぐっ!? つ……く、ぅ……っ」
 肩口に鋭い痛みが走り、その痛みの中でダイゴは渦巻いていた男の白い欲望全てを解き放つ。
 ダイゴのラスターカノン! 急所に当たった! シロナは潮噴いて倒れた!
 その量は凄まじく、子宮の吸い込みを超えて吐き出される精液が本気汁と混じって結合部から泡と共に溢れ出した。
「ふー、んふーっ、ふぅー……♪」
「……こいつは、可愛いジョニーの分、ってね」
 ダイゴの肩に噛み付いたシロナの口からは鮮血が滴っていた。それを啜り、本能的に腰をくねらせる。子宮にびゅるびゅる注がれるゼラチンの様な硬さを持った熱い奔流にシロナは内部から焼かれた。
 マーキングされた精液の味と匂いを子宮に覚え込ませる様に深くて長い絶頂をぽろぽろ涙を零しつつ甘受する。
 ダイゴはシロナの犬歯が肉を裂いた事による肩の痛みが癖になりそうな程に気持ち良くて、普段よりも余計に精液を吐き出していた。
 長い射精の最中、ダイゴは頑張ったシロナを褒める様に噛み付いたままの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに身を捩り、彼の一物をぎゅっと抱き締めた。

33 :
「シーツが一寸汚れたか。まあ、許容範囲かな」
「くすん……すん、ぐすん……」
 シロナと言う城の攻略を終え、ダイゴが埋まっていた破城鎚を抜き放つと、その幹には赤黒い血がべっとりとこびり付いていた。
 同時に割れ目からトロトロと溢れ出す少しだけピンク色をしたザー汁とマン汁、破瓜の血のカクテル。それをティッシュで拭いながらベッドに目をやると、少量の赤い染みがシーツの表面に刻まれていた。
 これだけ派手にやってこの程度で済んだのなら、十分過ぎる結果だ。実際、それ以外の汁による被害が甚大なのでシーツは引っぺがさないとならないが、それに触れる気はダイゴには無い。
 どうしてかは判らないがシロナは洟を啜って泣いていた。
「あー……えっと」
「ゴメン……ゴメンねダイゴ……血が……」
 後始末に追われていたダイゴがその手を止めてシロナに注目した。少し待っていると、シロナが辛そうに言葉を搾り出す。無論それは血で汚れたシーツの事ではない。ダイゴの肩にある歯型の事だった。
「え? ああ、気にしないでよ。結構、気持ち良かったから。って言うか、怪我人って意味じゃ、君の方が重症だろ?」
「でも……」
 肩の傷についてダイゴは何も言う気は無いし、恨んだりも怒ったりもしない。寧ろ、シロナの経験した痛みを少しでも共有出来た気がして逆に誇らしい気分だった。
 だが、シロナは大好きなダイゴを図らずも傷付けてしまった事に大きなショックを受けている様だ。瞳に夕焼けが差す程に泣き腫らしたその色はオレンジ色だった。
「気にし過ぎだ。シロナが満足してくれたなら、それで良いよ。……どうしても気が済まないって言うなら」
「っ?」
 後始末を放り出して、ダイゴは小さくなっているシロナの身体を強く抱いてやった。弱々しく泣いている女が目の前に居るのだ。此処で包んでやらにゃ漢が廃る。
 そして、ダイゴは戸惑っているシロナの茜差す目を見ながら言った。
「キスの一つでもくれよ。僕はそれで良い」
「そんな事で、許してくれるの?」
 要求はたったそれだけ。難しい事は何一つ無い。シロナの中の蟠りを解消するには一番良い方法だとダイゴはそう思った。
 実際、それはシロナにとっても簡単な事。だが、その程度で自分の愚行を水に流してくれるダイゴの真意が良く判らない様で、相変わらず不安げな瞳をダイゴに向けた。
「許す許さないじゃ無くて……まあ、そう思いたいならそれで良いよ」
 最初から怒っていないのだからこれ以上気にされてもダイゴとしては困る。だから、その辺の解釈はシロナに任せる事にした。
「……欲しいんだよね。心からの君のキスがあれば、傷も直ぐに塞がるさ」
「……うん♪」
 納得させる様に付け加えたダイゴの言葉に、やっとシロナは得心が行った様だった。
ダイゴは怒っていない。それ所か、こちらに気を遣ってくれている。底抜けに優しいダイゴに身も心も全てがときめいた。
 もうシロナは自分の気持ちを抑えられなくなり、心にある言葉を素直に口走るとダイゴの唇にむしゃぶり付いた。
「ダイゴ……好き……♪」
「シロナ……」
 情熱的なキスが連続で降り注ぐ。だが、ダイゴにとってそんな事は瑣事だ。
『ダイゴが好き』
 初めて聞いたシロナの明確な好意。その言葉に呪縛された様にダイゴは動けず、シロナの気が済む迄唇を犯され続けた。

34 :
「僕の何処が気に入ったの?」
「さあ? 自分でも判らない。気付いたら、もうどうにもならなくなってた」
 後始末を終えて、タオルケットを被って横になる。ダイゴに密着して、その腕を枕にしているシロナ。ピロートークの御題はシロナがどうしてダイゴに執着するのか。
 しかし、残念ながらそれはシロナ本人にも皆目検討が付かない事だった。一目惚れとは違う。だが、逢いたいと言う感情は去年からあって、手掛かりを掴んでからそれは変質し、この十日前後で完全に恋慕に変わった。
 ……だから、さっぱり訳が判らなかった。
「君、絶対男見る目無いよね」
「ふざけないで。あたしが好きになった貴方がそんな悲しい事言わないでよ」
 起点となった感情の正体は判らなかったが、それでもダイゴはシロナが見る目無しだと言う事を信じて疑わない。自分の様な人間の塵芥、ストーンファッカーに心と身体を許す等、並みのチャレンジャーに出来る事では無いからだ。
 だが、そんなダイゴの発言にシロナが真っ向から噛み付く。ダイゴが自分の品位を下げる様な事を言えば、そのダイゴに惚れた己の立場が無くなる。抱いた思いを汚される様な言葉は例えダイゴだとしても許せなかった。
「そ、だね。……悪い」
「んもう」
 失言に気付いたダイゴが謝罪するも、それに怒ったシロナはプイッと顔を背け、ダイゴに背中を向けてしまった。何と言うか、そのシロナの姿はとても可愛かった。
「……離れたくないなあ」
 背中を向けたままシロナが零す。怒りの感情は直ぐに沈静化し、今度はその隙間に寂しさが滑り込んで来た。それを無視する事は出来ない。
「一緒に居たい……」
 もう半日もすれば、目の前からこの男は居なくなってしまう。引き止めるのが無理だと判っていても、そんな甘い希望に縋りたい。
 願いを叶えて、心と身体で繋がった。それで良いと思っていたのに、今はそれだけでは足りなくなっていた。
 愛欲と言う奴は求め始めればキリが無い。例え強欲と罵られ様ともその味を知ってしまったシロナが我慢何て出来る筈が無かった。
「もっと長く……もう少しだけ……」
「そんなに、僕が好きなの?」
 シロナの顔は見えない。だが、それでも彼女が涙を必に堪えているだろう事は予測が付く。だから、ダイゴは訊いた。シロナの自分に懸ける思いを。
「うん……好き。大好き」
 飾る言葉が一切無いシンプルな回答。だが、それに滲む女の情念は筆舌に尽し難い。そいつを聞いてしまったダイゴに撤退の二文字は最早存在しなかった。
 だから、ダイゴはシロナの思いに対する自分なりの答えを提示してやった。
「そっか。なら、いっそ付き合うかい?」
「うん…………え?」
 シロナは内容を確かめず反射的に頷く。そして、何を言われ、何に同意したのか後になって気付いて目が点になった。
「責任云々を言うつもりは無い。順序が逆な気もするけど、それだけ思われて心を動かされないのも如何かと思うんだよね」
「は、はいぃっ!? あたし、とダイゴ? 付き合うって、こ、恋、人?」
 ダイゴの言葉は半分以上耳から向こう側に抜けてしまった。只判るのはダイゴと自分の関係が一段階深くなりそうだと言う事。
 こんな神展開はシロナにとっては大誤算。まったく予想だにしていなかった。
「ああ。君が望むって言うなら僕もそれ相応な覚悟で当たらせて貰おうかな、と」
「・・・」
 一寸だけ落ち着いて、気持ちが整理出来る余裕が出来た。確かにダイゴの言う通り、真っ当な順序を踏むなら、ファックと告白は逆でなければならない。
 それを早々に終わらせた今のシロナに怖いモノは無いし、この場で望めばダイゴの恋人と言う地位を確保出来る。
 全ては自分の気持ち次第。とんとん拍子に流れる展開に作為的な何かを感じたシロナは警戒したのか、その一言が中々言い出せなかった。
「厭なら聞かなかった事にしてよ。その気が無いのに無理強いしたってね」
 何時まで経っても次の言葉が無いので脈が無いとダイゴは感じたのだろう。少しだけ気落ちした声色で残念がる。
「あ、あの」
 このままでは時間切れになってしまう。シロナは起き上がると姿勢を正し、正座の格好でダイゴに立ち向かう。
「何?」
 その様子が普通じゃないと感じたダイゴもまた、姿勢を崩したまま起き上がった。そして、ベッドの上で二人はお互いを見合う。
「ふ、不束者ですが、よろ、宜しくお願いします……//////」
「……あはは、こちらこそね」
 紅葉を散らしたどたどしく言ったシロナは今にも三つ指を付きそうだった。流石に其処迄はして欲しくないダイゴは代わりにぎゅっとシロナを抱き締めてやった。

35 :
――翌日 シンオウ空港
 やや早い時間に起きてシャワーを浴びて身支度を整えた。チェックアウトを終えて寝床を引き払い、電車に乗って一時間弱で空港に辿り着く。
 ホウエンへの土産を幾つか見繕い、大きな荷物と一緒に宅配業者に預け、身軽になったダイゴはその時が来るのを出発ゲート前でじっと待っていた。
 隣を見れば、其処には昨日結ばれた恋人の姿。見送りは別れが辛くなるので遠慮したい所だったがシロナはそうすると言って聞かないので結局ダイゴが折れるしかなかった。
「お別れね」
「ああ。寂しいね」
 刻々とその時が近付いている。もうシロナはそれを嘆く真似はしない。只、その刻の到来を遅らせたくて、ぎゅっとダイゴの手を握り締めていた。
「ええ」
「でも、僕にも向こうでの生活があるんだ。君がそうな様に」
 ダイゴにもその気持ちが痛い程判る。自分も同じ気持ちを抱えているのだ。交際を決めた翌日にさよならしなければならないのは、酷過ぎる。付き合ったのならば色々とやりたい事は山積みだし、伝え切れていない思いも沢山あるのだ。
 だが、それでもダイゴは行かねばならない。シンオウでは無くてホウエンが彼の生活の中心である故に。
 こんな事ならば、出会いの初日からそうして置けば良かったと悔いる真似はみっともない事だった。寧ろ、あの下積みがあってこその今の自分達なので、その時の自分達の気持ちを無かった事にはしたく無かった。
「きっと、ダイゴは向こうでもモテるんでしょうね」
「え? ……いや? そう言うのは無いよ。有ってもお断りしてるしね」
 遠距離恋愛の初めに付き纏う懸念事項。ダイゴのイケメン具合はシロナ自身がその身を以って確かめた。離れ離れになれば当然、彼に付く悪い虫の存在が気になる。
 そんなダイゴは正直な所を言ってやる。自分が石好きの物好きと言う事はキャンパス内でも知れ渡っているし、その趣味を理解して言い寄る女は居ない。
 偶にそれを無視して交際を申し込む輩が居るが、それはダイゴの持つ御曹司と言う肩書きが目当てでダイゴ本人を見ようとしない。ダイゴはそう言った連中は問答無用に突っ撥ねていた。
「やっぱり、モテてる……」
「シロナが心配する事じゃ……それよりも君はどうなのさ」
 ダイゴの胸中を判らないシロナは少なくとも確かにそう言う女が居る事に嫉妬心を抱いたのか頬を膨らませる。ダイゴはお前も同じではないのかとシロナに訊くと、シロナは胸を張ってそれに答える。
「そいつは御心配無く」
「本当かよ」
 少しだけ意外。そして何と無くだが悲しい胸の張り方だとダイゴは苦笑する
 シロナは自分がモテる方ではないと知っているので自分自身を引き合いには出さない。ヤニ臭くてタッパのデカイ女だから寄って来る男は今迄では粗皆無だった。
「うん、だからね」
「……何?」
 こっちについては安心しろ。シロナはそう言いたいらしかった。
不意に、シロナの顔に影が差した気がしてダイゴは眉を顰める。そして語られた次の言葉にダイゴの眉が釣り上がった。

36 :
「あたしは側に居れないから。だから、浮気を咎めるつもりは無いわ。そうなったら多分、あたしもするでしょうし」
「何だそりゃ」
 ……お前は何を言ってるんだ? そして、何を考えてる? 嘗めるな小娘。
 シロナの胸中に全く理解が及ばないダイゴはあからさまにムッとした顔でシロナを睨んだ。
「何ってそれは」
「試してるつもりかよ。監視の目が無いから自由に不貞を働けって」
 明確な敵意を放つ白銀の瞳。それに萎縮したシロナは身を硬くする。随分安く見られたモノだと大仰に両手で失望感をアピールするダイゴ。その目は笑っていなかった。
「い、いや、だって」
「……冗談じゃないよ。そして、感心出来ん言葉だね」
 慌てて取り繕う発言をするも、上手く口が回ってくれない。ダイゴの機嫌を損ねる様な発言はそれだけで命取りなのに、またやってしまった。学習能力の無い己の脳味噌を抉り出したい気分に駆られる。
 ダイゴは大きく溜め息を吐くと、悲しそうに目を伏せた。
「――」
そして、再びシロナの瞳を見遣るダイゴ。その輝きにシロナは瞬間、呼吸を忘れた。
「君と付き合うって決めた。だから絶対浮気はしねえ。君もそんな事言うな」
――そんな事になったらお互いに傷付いて、拗れるだけ。お前の選んだ男を信じろ
「……うん。ごめん。少し弱気になってたわ」
 ダイゴの漢気が発露し、シロナの胸中の不安を全て吹き飛ばした。
「たださ」
「……え?」
 しかし、ダイゴの話には続きがあった。思わぬ増援にシロナが軽く身構える。
「それを実現するには君の協力が要るんだよね」
「な、何?」
 何やら、雲行きが怪しい。そして、とても悪い予感もする。どんな要求をされるのか、全く想像が付かないシロナは生唾を飲み込む。
 そして、語られたダイゴの要望は以下。
「パンツくれ」
 ……実にシンプルで判り易いお願いだった。
「パ!? あ、ええっ!?」
 予想の遥か斜め上を行った言葉にシロナは混乱した。
「昨日、汁塗れで汚れたあれが良いな。僕に頂戴よ」
「なななな! 何に使う気よ、一体!」
 しかも、態々昨日の残り香が交じる半分お釈迦になったアレを所望するとはかなり高レベルだ。女の下着をどうするかなど訊かなくても判る事だろうに、シロナはお約束の様にやっぱり訊いてしまう。
「逢えない時に君を思い出す。額縁にでも入れて壁に飾ろうかな」
「・・・」
 スーハースーハークンカクンカ。
 使い道としては間違い(?)じゃない。後は履くか、被るか、それとも染みの濃い部分をしゃぶる位か。
 少なくとも絵画の様に壁に飾るのは大きな間違いな気がしてシロナが絶句する。
 そんな碌でも無い使い道をされると判っている相手には渡したくない。女物の下着は結構値段が高いのだ。
「無論、只じゃないよ。僕の昨日から履いてるトランクスと交換だ。……それ以外の汚れ物はもう洗濯して送っちゃったからさ」
 シロナが渋い反応を示す事は予想済み。だからダイゴも交換条件を引張って来る。それに心の天秤をガクッと揺らしたシロナは抗えない欲望に身を焼かれる。
「だ、ダイゴの……パンツ……(ごくり)」
 昨日から着用と言う事はアレか? 行為の最中ずっと履きっぱで、我慢汁やら汗やらその他諸々のダイゴ成分が凝縮されたレア物か!? ……ヤバイ。凄え欲しい。
 ……以上、シロナの心の声。
「悪い取引じゃないと思うけど?」
 天使の顔をした悪魔が右手を差し出す。要求を呑むなら手を取れと誘惑する。
「――」
――ガシッ!
 そんなモノに抗える訳が無い。シロナはダイゴの手を両手で握り締めた。

37 :
「毎度あり。……生装備は落ち着かないね、やっぱ」
「そうなんだ。へえ……」
 お互いのパンツ交換を終えた。ダイゴはシロナが荷物から取り出したそれをビニール袋に入れてカーゴパンツのポケットの一つに丸めて捻じ込んだ。
 対してシロナは、ダイゴがトイレで脱いで来たそれを直接手渡された。遠目にはハンカチにしか見えない四つに畳まれたそれに興味津々だ。
 生装備のダイゴも気になるが、人肌の温もりが残る脱ぎたてホカホカのそれを眺めていると無性に匂いを嗅ぎたい衝動に駆られた。
 ……だが、残念。其処で時間切れだった。
 ダイゴが乗る飛行機の機内案内のアナウンスが聞こえて来た。直ぐに搭乗ゲートに向かわなければ乗り遅れてしまう。ダイゴは至極当然、シロナに背中を向けた。
「さてと、僕はもう行くよ」
「あ――」
 時間はもう無い。そして最早、お互い出来る事は幾らも無い。ダイゴは今度こそシロナに二度目の別れを告げる。
「これが今生の別れじゃない。寧ろ始まりだろ?」
 一度だけ振り向き、そう伝えた。
 今回は是迄。だが、付き合いを続ける限り、二人の仲は連綿と続いて行く。ダイゴはそう信じたかったのだ。
「ダイゴ」
「え?」
 シロナがダイゴの胸に顔を埋め、潤んだ瞳でダイゴのそれを見た。交差する二つの輝き。
――ちゅっ
 白銀の虹彩を網膜に焼き付けながら、シロナがダイゴの唇に軽く口付けした。
「……シロナ」
 黄金の瞳は揺れて、零れる涙の粒が別れの悲しみを象徴する。ダイゴはそれを拭ってやろうとは思わない。自分だけに向けられる惜別の情。もう少しだけ見ていたかった。
そして、刻は来た。北と南に分かれて暮らす刻が。
「寂しくなったら、何時でも電話するわ。だから、ちゃんと構ってね?」
「勿論さ。密に連絡を取り合おう。それが長続きの秘訣さね」
 お互いに電話番号は交換し合った、後はどれだけ長く続けていくか次第。だが、それについての心配は最早しない。きっと、長い付き合いになる。そんな予感を二人共抱いていたのだ。
「こっちも換えのパンツが必要になったら言うからさ!」
「うん! 何時でも言ってね!」
 出発ゲートに消えていくダイゴが最後にそんな戯けた事をのたまう。シロナも手に四つ折したトランクスを握り締めて、涙の混じる笑顔で手を振って背中を見送った。
 ……それから数時間後。別れの余韻を引き摺るシロナは自宅へ戻って来ていた。
 あたし 恋に落ちてゆく 焦げるような視線 冷たい唇〜♪
「!」
 突如、シロナの携帯電話が鳴る。着信音は例のアレ。発信者を確認すると、直ぐに手に取り通話を開始した。
「も、もしもし? ダイゴ!?」
『そ、僕だよ。早速掛けてみたけど、ちゃんと繋がるんだね」
 先程別れた男からの電話だった。時刻的にカントーに着いた辺りだろうか。きっと接続便を待っているに違い無かった。
「う、うん。それで……どう、したの?」
『ああ、言い忘れた事があってさ』』
 こんなに早くまた声を聞けた事がシロナには嬉しかった。直接会えないのは寂しいが、それでも恋人の生声を聞けばそれだけで元気になりそうだった。
 だが、一体何の用件で電話を掛けて来たのかがシロナには気になる。用が無いのなら別に構わないが、どうにもそれと違う様な気がした。事実、ダイゴには態々電話で言う程の用件があったのだ。
「何、かしら」
『うん、それはね……』
 シロナは緊張した面持ちでダイゴの言うそれを聞いた。
「!!? ――マジで?//////」
『大マジだよ。……用件は以上。次に逢う時を楽しみにしてるよ、ハニー』
――ピッ ツー、ツー……
 言いたい用件を終えて、ダイゴはさっさと電話を切ってしまった。
「……ダイゴの、馬鹿//////」
 そして、赤面したシロナが小さく呟く。
 ……一体、ダイゴは何を言ったのか? それが後々に意味を持ってくる事は何と無くだがその時のシロナ自身も予想出来た。

38 :
遠距離恋愛スタート。
どうでもいいけど、今回の中の人の筆者のイメージについて。
大誤算はスクライドのカズマ、白菜さんはモッコス、又はテラエロスの人。アニメのキャストは無視してくれよ?

39 :
今日は静かだな…

40 :
>>38
エロシーンなのに笑いしか出て来なかったのはあのセリフに全部持ってかれたからだ(笑)
GJ

41 :
Y:恋人は御曹司
――トクサネシティ ダイゴ宅
「・・・」
 ダイゴが話し終わった。ユウキは何かに耐える様に全身をぷるぷるさせて居た。
「ユウキ君? どうしたの?」
「何処が少しですか! 官能小説読んでるかと思いましたわ! あー、身体の一部が痛いよ」
 その様子が気になったダイゴが顔を覗き込むと、途端にユウキは大声で叫んだ。その影でいそいそとチンポジを直している辺り、相当に血が巡っている様だった。
「おや、そう? ……じゃあ、ちょっと休憩しようよ。僕も喉が渇いてね」
「お願いします」
 少し、喋り疲れたのでダイゴは休憩を告げるとユウキもそれを了承。
「ビールで良いか〜い?」
「はーい!」
 ダイゴは冷蔵庫を漁ると麦酒を取り出した。銘柄はオリオ○とサッ○ロ。住人の趣味だった。
――同刻 ミナモシティ デパート
 ダイゴとユウキが男臭い薔薇色の空気を醸し出している中、もう一方の主役は百合色の芳しさの只中に居た。
 留守番のダイゴに付き合ったユウキ。そして、その一方で買い物に出かけた婦女子達。
 話の中心人物であるシンオウ元チャンピオン、現在はダイゴのパートナーとして家に同棲中のシロナ。そして、ユウキのパートナーであるスパッツとバンダナが目を引く女性、ハルカ。
 トクサネからそう距離は無いホウエン本土の端のデパート。今は其処が彼女達の主戦場だった。
 そんな二人は戦利品の山を小脇に置いて、屋外の喫煙所で休憩中だった。シロナの片手には煙草。もう片手には特盛のアイスクリーム。それに付き合うハルカの手にもアイスクリームと缶ビール。
 昼間っから中々に不良だが、二人とも成人しているので咎める者は誰も居ない。
「じゃあ、シロナさんは遠距離恋愛が実って今こうしているんですね」
「そうねえ。実ったかどうかは判らないけど、お互い好き合った結果なのは確かね」
 留守番組と同じく、女性陣も昔語りに華が咲いている。ダイゴは兎も角として、ハルカはシロナの来歴について殆ど知らない。だから、それを語ってくれるのはハルカとしては有り難かった。
「凄いロマンチック。遠距離は難しいって聞きますけど」
「人の心の距離は地理的な距離に比例するって理論があるのよね。だから、他人から見ればそうでしょうけど、実際あたしは楽しかったわ」
 離れていればいる程に人の心は離れやすいモノだ。いざ逢おうと思えば、その為に消費される交通費と時間は馬鹿にならない。
 だから、一度拗れればそれに消費する金と労力が惜しくなる。損得勘定が働いてしまうからだ。二人はその危険性を知っていたので、関係を拗れさせない様に細心の注意を払って遠距離恋愛を楽しんだのだ。
「へえ」
「最初は十日に一度程度。でも、それじゃ足りなくってどんどん増えて。その裡彼の方からも掛かって来て……最後は週三位にはなってわね」
 最初はシロナの方からやや遠慮がちに連絡を取っていたが、直ぐにそれだけでは寂しいと気付いてその頻度が増える。そうすると向こうも声を聞きたいと言う欲求が湧いたのか、電話を掛けて来る様になった。
「……電話代、痛そうですね」
「痛かったわねそりゃ。でも、遠くても繋がってるって実感の対価だから、高いとは思わなかったな」
 頻度に比例して増していく通信料金に一時頭を痛めていた事もあったが、それも必要経費と割り切れば何も感じ無くなった。今となっては良い思い出だった。
「そうやって、他愛無い話で笑って、悩みの相談に乗ったり乗られたり……一年何てあっという間だった。そしてまた夏が来たわ。因縁の季節がね」
「お二人にとっての出会いと再会。当然、逢ったんですよね」
 そして、それを繰り返す裡にシロナの元にまた例の季節がやって来た。付き合い始めてから一年経過しての夏休みだった。
 興味津々と言った感じに身を乗り出すハルカはその夏のイベントを是非聞きたい様だった。
「聞きたい? ハルカちゃん」
「お願いします!」
『来いやあああああああ――っっ!』
 確認する様に尋ねるとハルカは頷く。訊く迄も無い事だった。
「そうね。じゃあ……」
 ハルカの姿を確認すると、シロナは短くなった煙草を灰皿に放り込み、溶け始めたアイスクリームに舌を這わせる。
 別に嬉々として話す様な内容では無かったが、シロナは続きをゆっくりと語り出した。
 あの人は何時だって唐突な事を言い出すのよね。昔から変わらない。
 でも、あたしはそれに振り回されるのは嫌いじゃないの。寧ろ、好きな方。
 あの日もそうだった。……あたしに冒険をあっさり決意させたのよ。
 惚気るつもりは無いけど、ほんと、我ながら厄介な男に惚れたもんよ。

42 :
 ダイゴとシロナが結ばれて一年が経過していた。シロナは考古学の才能を開花させ、若いながらも考古学部のエースとして一目置かれていた。
 キャンパス内での名声が高まるに連れ、色々な方面から彼女の引く手は数多となり、彼女の存在は一寸したアイドルの様だった。
 背の高さと煙草臭さを除けばかなりハイスペックを誇るシロナは当然の様に異性にモテ始める。だが、既に心に決めた相手が存在する彼女は誘いの全てを断り続けた。
 考古学部の姫君の恋のお相手は誰なのか? キャンパス内では多くの憶測が飛び交ったが本人が口外しないので、結局の所それは謎のままだった。
――シンオウ大 キャンパス内
『そいつは厄介だねえ。こっちにも同様の伝承はあるけど、手掛かりついてはさっぱりな状態さ。君が直接話を付けるしかないよ』
「そうなのよねえ。でもあの門番さん、頭が固いのよね。何を言っても梨の礫よ」
『神話の巨人、レジギガスか。材質が何で出来てるか非常に興味深いね』
「うん。でも現物を見れない事にはこれ以上の進展は難しいわね」
 講堂裏手の人が寄り付かないであろう寂れた喫煙所。シロナは煙草を片手に電話中だった。お相手は彼女にとっての王子様である鋼の貴公子。内容は今現在手掛けている自分達の研究について。
 気紛れにダイゴが始めた調査だったが、それが自分の興味に共通すると判ったシロナが協力を申し出て、共同研究の形と相成った。
 シンオウ創世神話に登場する原初の巨人、レジギガス。その巨体に縄を括り付けて大陸を引張り、シンオウ本土を形作ったと言われるポケモン。
 そして、その眷属である岩、氷、鉄の三種の巨人について。
 距離が離れているに関わらず、シンオウ地方とホウエン地方には似通った民間伝承が散見出来る。
 しかし、その巨人と思しき像が安置されているキッサキの神殿には容易に立ち入る事は出来ず、ホウエンの巨人達については何処に眠っているのかさえさっぱり判らないのが現状だった。
『今直ぐに如何こう出来る話じゃないか。気長にやろうよ』
「うん。あー、悔しいなあ。あそこに入れれば発見があるだろうにさあ」
 考古学的、地質学的に非常に面白い題材ではあるが、難問が山積みで二人の研究は中々上手く進まなかった。

43 :
『処でさ、もう少しで夏休みだろ? 今年はどうしようか』
「そうねえ。今年は研究があるからあんまり遊んでられないけど、どうして?」
 閑話休題。得られるモノはお互いに無いと判断したダイゴが話のベクトルを変える。今年の夏の予定について。
 今迄話に上る事はあったが、仔細については全く決めていない。それをこのタイミングで振って来たダイゴにシロナはその意味を問う。
『いやさ、今年は僕、そっちに渡る用事が無いんだよ』
「え……逢えない、の?」
 次いで語られたダイゴの言葉を聞いてしまったシロナはズンと胸が重くなってしまった。一昨年、昨年と続いて今年もシンオウで逢うと思っていたのにそうではない。再会を楽しみにしていたシロナは泣きそうな声を出していた。
『は? 逢うに決まってるでしょ。何の為の長期の休みなのさ』
 しかし、矢張りダイゴは期待を裏切らない男である。楽しみにしていたのは彼も同様であり、若い身空で恋人と離れ離れが続くのは心と身体が悲鳴を上げる。だから、夏休み中は絶対にシロナと過ごすと彼は決めている。
「でも、シンオウには来ないのよね? 別荘は?」
『親父が今年こそは避暑に使うって意気込んでるんだよ。流石に面を合わせたくは……否、邪魔をするのは気が引けてね』
「……そう。社長さんが直接見に来るのね」
 話を聞く限りではダイゴは父親と一緒に居たくは無いらしい。家族仲が悪いと言う話は聞いた事が無いので、休みの最中に迄顔を見たくはないのだろうとシロナは推測した。
『だから、それについては別の解決策用意してるよ。君の時間を僕にくれないか?』
「え、と……どういう事?」
 今回のステージはシンオウではない。別の相応しい場所をダイゴは用意している。だが、察しの悪いシロナは未だ話が見えていない。
『鈍いな。君がホウエンに来ないかって事だよ。君の研究も別の角度で捗ると思うよ?』
「! あ、あたしが九州に渡るって言うの?」
 今年は君が移動しろ。……それがダイゴの言う所の今回の夏休みの過ごし方。
 それでやっと合点が行ったシロナは慌てて聞き返したが、ダイゴの返事は変わらない。
『そ。こっちにも考古学的に面白い史跡は多くある。飛行機代は負担するから、夏はこっちで過ごさない?』
「――」
 夏の盛りは南の大地へ。己の知らない土地。新しい発見と知的好奇心の充足。
 青い海。広い空。灼熱の太陽。隣を見ればマイダーリンの姿。抱き付くのも、キスを強請るのも、○○○○も思う侭。
 ……だって若いんだもの! この一年どれだけ溜め込んだと思ってるの? 寂しくて、逢いたくて、声を聞くだけで我慢して。それでもずっと独りで自分を慰めて。そんな惨めな生活ともやっとオサラバ! あたしとダイゴのめくるめく濃『以下検閲削除』
『シロナ? やっぱり無理そう?』
「行く行く! 行くに決まってる! こちとら逢えなくて気が狂いそうなんだから!」
 急に黙ったシロナに不安を感じ、返答を催促したダイゴだったがその心配は無かった。きっかり0.3秒で即決し、シロナはダイゴの案を呑む旨を告げた。
『じゃあ、決まりな? ……っと、同僚が呼んでる。詳しい日時が決まったらそっちから連絡をくれよ。またな』
「おっけー! 任せといて!」
 向こうで用事が入った様だ。ダイゴは話の続きを次回に持ち越す発言をし、シロナはそれに元気に答えて通話を終えた。
――ピッ ツー、ツー……

44 :
「……はあ。あたしもとうとうホウエンデビューかあ」
 シロナは煙草を咥え、火を点す直前に独白する。
 てっきりシンオウで逢うと思っていたらまさか自分がホウエンを尋ねる事になろうとは。
 自分の意志でシンオウを出た事の無い田舎小娘に大きな決断を迫ってくれた遠方の恋人に感謝の念が湧いて来る。ブレイクスルーを果たす良い切欠を与えてくれたからだ
「でも……ふ、うふふ。楽しみだなあ」
 そうして、煙草に着火してシロナはにやけた笑みを張り付かせた。
 不安が無い訳ではないし、少し高いが旅費位は自分でどうにかする。だが、それ以上に今迄一年、電話越しでしか繋がりを得られなかった恋人と直接逢える事が嬉しい。
 それ以外の何もかもが瑣事に成り下がる程、シロナは乙女回路が覚醒状態だった。
「今のが件の王子様かね?」
「ひゃあ!?」
 背後から聞こえた男の声に吃驚したシロナは吸っていた煙草を取り落とした。そうして振り返ると其処には見知った人物が居た。
「な、なななななナナカマド博士!? ど、何処から涌いて……!」
 眼光の鋭い老人だった。この人物こそ、ニッポン国の誇るポケモン研究の大権威ナナカマド博士。シロナの考古学、ポケモン研究の師匠であり、シンオウ大に於けるVIPである。
 その手にはA4サイズの封筒が握られており、大学に何らかの用事があったのだと推察出来る。
「こら。人をボウフラの様に言うでない。……いや、盗み聞きする気は無かったが、君が余りにも楽しそうなのでつい、な」
「はあ、それは失礼を」
 そんな御仁が人の訪れない喫煙所に姿を見せたのはシロナの顔を見に来たからに違いなかった。
 厳つい外見に似合わず意外にも子供好きなこの男とシロナは彼女が幼い頃から今迄続く長い付き合いがある。故にシロナの軽口程度は、博士は容易く受け流せるのだ。
「君も青い春を謳歌している様で安心した。てっきり、研究以外に興味は無いモノと思い込んでおったが、杞憂だった様だ」
「あたしだって女です! 若さ故の過ちだ何て、博士にも言わせませんから!」
 少しばかり穏やかな表情で博士は頷く。シロナは子供の頃から色恋沙汰には縁遠く、その手の浮付いた話を聞いた事が無かった。
 しかし、そんな彼女が男を作ったと言う噂が聞こえて来ては興味をそそられると同時に安心感を博士は覚えた。シロナは華の女子大生。このまま枯らすには惜しいと常々思っていたのだ。
「そんな無粋はしない。……君は儂にとって孫娘も同然。今と言う刻を後悔せずに駆け抜けているなら、それ以上嬉しい事は無いよ」
「・・・」
 別に博士は恋愛を咎める気など全く無い。だが、何故かシロナは博士に皮肉られていると感じた様だ。棘がある発言をするシロナを宥める様に博士が言うと、シロナは敵意を向けるのは間違いと思ったのか口を閉ざした。
「さて、ワシはもう行く。……偶にはマサゴの研究所にも顔を出してくれ」
「はい、判りました」
 博士はもう少し喋りたかったが、シロナにその気が無いと気付き、早々に退散を決め込んだ。
最近はシロナも自分の研究で忙しいのでマサゴタウンの研究所には久しく顔を出していない。去り際に態々言うのは、案外博士も寂しいからだと勝手に思ったシロナは少しだけ顔を綻ばせて、博士の背中を見送った。

45 :
「……はあ、吃驚した」
 結局、火を点けた煙草は碌に吸わないまま無駄になった。かなり強面のナナカマドが背後から気配も無く忍び寄れば大抵の輩は吃驚する。
 付き合いの長いシロナでさえ慣れない事は多いし、未だに謎の部分を博士は多く残している。
「こりゃ急いで予定立てないと」
 ナナカマドについてシロナが思う事は今はもう無い。それ以上にやるべき事がシロナには山積みであった。
 夏季休業迄は凡そ一月の猶予がある。それ迄に抱えている予定を整理し、旅行に必要な荷物を纏め、日程を決めて飛行機を取らなければならない。
 そう考えると一月と言う期間は意外に短い。だが、そんな事位でシロナは怯んだりはしない。
「ふ、ふふふ……! 待ってなさいよ、マイダーリン♪」
 後少し。もう少しで男旱を抜けられる。
 生理後のムラムラする期間に連れ合いが遠くに居て逢えないと言う事態は切なさを超越し泣きそうになる。送られたダイゴのパンツをボロボロになる程酷使したのは己を持て余していた証拠だ。……そんな惨めな生活ともオサラバ出来る。
 女盛りのシロナがそれに躍起になるのも仕方の無い話だった。
――凡そ一ヶ月後 シンオウ空港
 そして、あっという間に時計は進み、一月が経過した。
シロナは早朝から出発ゲート前で待機していた。今日は夏季休業の前日でシロナは普通に講義があったのだが、それを無視して朝一番の飛行機に乗る為だ。
 因みに出席に関しては友人に代返を頼んでいるので問題は無いが、余り褒められた事では無いのも確かだ。だが、それもシロナなりの気合の入れ方だと考えれば、或る意味仕方無い事と思えてくるから不思議だ。
 そんな彼女の荷物はボストンバッグが一つだけ。但し、その中身はバッグの容量限界を超越する程にパンパン。研究資料やら着替え。対決に際し使用する小道具やらが満載だ。シロナはそれを小脇に抱えて、只黙って時が来るのを待っていた。
 そうして、出発時刻がやって来て、飛行機内の座席に着き、独り言を漏らした。
「去らば、シンオウの大地」
 次いで、テイクオフの瞬間。もう一言だけ呟いた。
「そして、ようこそ。新天地へ」
 新たな世界、新たな自分が目の前に開けている様だ。自分と向き合う瞬間が大量にある事が旅の醍醐味の一つ。シロナは無意識的にそれを楽しんでいるみたいだった。
「ZZZ……」
 離陸して二十分経たぬ裡にシロナは眠りに落ちた。前日は気が逸って中々寝付けなかった。その反動が現れた所為だった。
 そうして、シロナの目が覚めた時、飛行機はランディング直前だった。

46 :
徐々に長くなっていく……
読む方の都合もあるだろうから小出しに行かせて貰うよ。続きは朝までお待ち下さい。

47 :
――カントー国際空港
「えっと……接続便は、こっち?」
 先ずシロナは降り立った空港の広さに唖然とさせられた。彼女の道中は半分しか来ていないので、もう半分を行う為に別の飛行機に乗り継がなければならない。
「むうう……広過ぎて判んないよお」
 だが、田舎小娘のお上りさんであるシロナにあるのは不安と戸惑いだけだ。通路の案内板を見ると言う事も思い付かず、ふらふらとした足取りであらぬ方向へ向かおうとした。
 すると……
「Hey,where are you going?」
「――What?」
 後方から掛かった誰かの声。否、誰かではない。シロナはその声の主を良く知っていた。そして振り返ると、シロナは嬉しさの余り泣きそうな顔になってしまった。
「This way. Come on, honey」
「Oh,w,what are you doing……Darling!」
 彼女の王子様であるダイゴがこっちへ来いと合図を出していた。シロナは小走りに駆け寄るとダイゴの胸へダイブする。彼はしっかりと彼女の体を受け止めた。
「よ。Long time no seeってね。驚いた?」
「そりゃ驚くわよ! で、でも何で……」
 何時もは電話越しにしか聞けない声。しかし、抱き締める温もりは本物で、息を吸えばやや煙草臭いダイゴの懐かしい匂いがシロナの肺を満たす。
「一刻も早く逢いたくてさ。態々来ちまった。……迷惑、だったかい?」
「そんな訳無い! ……嬉しいわよ、ダイゴ」
 上目遣いで訊いて来るシロナにダイゴはそう答えた。北海道の彼女と合流する為に態々九州から関東に飛んでくるとは流石ダイゴである。シロナへの愛がそうさせたのか、それとも単に暇なだけなのかは判らなかった。
「……おっけ。色々と言いたい事はお互い山とあるんだろうけど、此処じゃ往来の邪魔だな。こっちだよ、付いて来なよ」
「うん」
 この場合、ダイゴの真意はシロナにはどうでも良い事柄だった。逢えて嬉しいのは確かだし、道を知っている人間に出会えてホッとしている。シロナはダイゴに手を取られて空港の奥へと進んでいった。

48 :
――空港 待合所
「席も隣同士なんだ。良かった」
「ああ、君、随分早くから席取ってただろ? だから、そいつが埋まる前に急遽僕もリザーブしてたって訳だ。準備良いだろ」
 ダイゴの航空券を見ながらシロナが呟く。
 シロナは一月も前に飛行機のチケットを取っていた。ダイゴは早い段階でそれを聞いていたので、シロナには内緒で隣の席を確保していたと言う訳だ。
「そうね。そのマメな処、あたしも見習いたいわ」
「真似して直ぐに出来るモンじゃない。君は君の生き方を貫きなよ」
「そう、だね。うん」
 ダイゴのこの行動がマメなのかどうかは不明だが、シロナにはそう感じられたらしい。しかし、そんな部分を見習われてもくすぐったいダイゴはやや苦笑しながら言うと、シロナもそれもそうだと言った感じに頷く。
「さて」
 返して貰った航空券をポケットに収め、時刻を確認するダイゴ。出発時刻迄はやや暫くある。雁首揃えて只待っているだけでは面白くないので、ダイゴは自分の荷物である小さめのショルダーバッグを漁ってある物を取り出し、シロナに問う。
「事前の打ち合わせ通り、アレは持って来てるよな?」
「勿論だけど、まさか」
 少し前の話だ。ダイゴがシロナに或る物を勧め、シロナがそれをやり始めた。程無くしてシロナはそれにどっぷりと嵌るが、今回の旅行にはそれを持って来いとダイゴは彼女に打診していたのだ。
「ああ、そのまさか。……一狩り行こうぜ、お嬢さん」
 ダイゴがシロナの眼前に突き付けた或る物。……PSP。暇潰しの手段は某狩りゲー。
「・・・」
「何さ?」
 ダイゴの申し出に対し、シロナはどうにも乗り気ではないらしい。……と言うか、些か困った表情をしている。気になったダイゴが訊いてみる。
「このネタ……平気なの? 別ゲー持って来るなってゲーフ○に叱られない?」
「そんな事言われてもさあ。だって台本にはこうあるんだよ」
※余計な突っ込みはノーサンキュー。(作者)
「ちょっと! 問題発言よ、それ! ……了解。付き合えば良いんでしょ」
「最初からそうしてくれれば良かったのさ」
 シロナはダイゴの申し出を渋々受け、自分の荷物から愛機を取り出すと、時間が来る迄表面上は仲良く狩りを楽しむ事にした。それしか選択肢は無かった。
――三十分強経過
「うぐぐぐ……何、これ。凄い屈辱なんだけど」
「悔しがるのは判るけど、悲しいけどこれ、プレイヤースキルの差なんだよね。……乗るよ。続きは上でね」
 三つ程クエストこなすと機内案内が始まった。乗る人の列に並びたいダイゴはシロナにゲームの中断を申し出た。自力の差を見せ付けられたシロナは乗る迄の間、終始悔しそうにしていた。
――ホウエン カナズミ空港 
「相変わらずあっちいなあ。君もそう思わん?」
 空の上でも幾つかクエストをこなすと、そこはもう火の国だった。二人は空の玄関に足を踏み入れ、これを通過。ダイゴが車を預けた屋外の駐車場へと向かう。
ダイゴにとっては慣れ親しんだ土地。だが、体感温度がカントーとは三度以上違う様に感じられる。
 シンオウ育ちのシロナにとってはかなり酷な環境と思しき夏のホウエン。ダイゴはその辺りをどう思うのか尋ねてみた。
「ああっ!? お、乙る乙る! こんなの無理だわよ!」
 握ったPSPを離さないシロナは何かと格闘中だ。何と対峙しているのかは訊かないが、もう少し感心を払って欲しいダイゴは少しだけ寂しそうだった。
「……ま、頑張んなよ」
「――あ」
 何を言っても無駄と判断したダイゴはさっさと先に行ってしまう事にした。シロナはそのダイゴの動きに気を取られたのだろう。操作を誤りベースキャンプへ送り返されてしまった。

49 :
「さて、今回は時間がたっぷりあるんだよな?」
「ええ。夏は全部こっちで過ごす予定よ。……二ヶ月、位?」
 屋外の駐車場で荷物をトランクに放り込み、車に乗り込むとダイゴが尋ねた。シロナは助手席でシートベルトを締めながらそれに答えてやる。
「凄い気合の入れ様だな。家族への言い訳とか、スケジュール調整、大変だったんじゃないの?」
「色々制約は付いたけど、どうって事無いわ。今のあたしは愛に生きるって周りにはがっつり言って来たからね」
 聞く限り、夏の全ての時間をシロナはホウエンで消費するらしい。研究で忙しいとか前に言っていたがそれはどうなったのだろうか。
 ……きっと愛と肉欲が学業を上回ったに違いない。だが、そいつは訊くだけ野暮なのでダイゴは黙っていた。
「なら、問題は無いな。じゃあ、最初に僕の家に招待するよ。遊ぶにしろ、研究するにしろ拠点は必要だよな」
 空を飛んで行ければ楽なのだが、色々と見せたい場所もある事だし、ホウエンが始めてのシロナにそれを勧めるのは憚られる。ダイゴはエンジンを掛けると車を発進させる。
「ダイゴのお家……カナズミ?」
 デボンのお膝元と言えばカナズミシティだ。だから、当然シロナはそう思った訳だが事情はやや異なる。
「いいや? トクサネだよ」
「トクサネ……と、トクサネぇ!?」
 確かに、ダイゴの実家はカナズミに存在する。だが、それは父親の家でありダイゴ個人の家はトクサネシティにある。
 それを聞いた時、シロナは最初聞き違いだと思った。だが、彼女の耳は正常だった。だから余計に吃驚した。
――トクサネシティ ダイゴ宅
「長い道程、ご苦労さん。狭い家だけど、上がってくれよ」
「お、お邪魔します」
 朝一に出たって言うのに辺りはすっかり夜だった。ホウエン南の洋上に浮かぶ鉄砲伝来の地。種子島。只管南に向けて走り、船に乗って漸く辿り着いたのがこの場所だった。
「はあ〜……」
 通された居間でシロナが疲労の滲む溜め息を漏らす。流石に疲れている様だ。
「暫く、此処が生活拠点だね。自分の家だと思ってくれよな」
 ダイゴの言葉を聞き流しつつぐるっと家の中を見回すシロナ。そんなに広くは無いが、男一人が住むには十分な広さがある。
 整理整頓が行き届いている居間の隅には化石やら宝石の原石やらが収められているキャビネットが置かれていた。数がそんなに多くないのは未だ収集の最中だからだろうか。石に余り興味が湧かないシロナはぼんやりとそれを眺めていた。
「このお家、借家なの?」
「いいや? 持ち家だよ?」
 少し気になったのでシロナが尋ねてみる。こんな僻地に家があるのも驚きだが、同じ大学生であるダイゴが家を持っているとは思えなかったのだ。だが、ダイゴの答えはシロナの予想を上回るモノであった。
「嘘ぉ!? 建てたの!? ダイゴが!?」
「ああ、地価は凄い安いんだよ、此処。家の代金の方が高かった位さ」
 驚いた事にこの家はダイゴの持ち家であるらしい。一体幾ら掛けたのかは判らないが、かなりの額が必要になった事は想像に難くない。
「さ、流石は御曹司」
「違う違う。自分で稼いだ金でだよ。親父の脛を齧った訳じゃないよ」
「そうなの?」
「高校時代は体力作り目的でずっとガテン系のバイトやってた。それの貯金と石集めで拾った宝石やら鉱物を売った金をプラスして土地の購入費用と家の頭金にした。
 ……未だローンが少し残ってるけど、直ぐに払い終えて見せるさ」
 てっきりツワブキ社長辺りに金を出して貰ったものと思ったがその予想すらも外れた。思いの外、ダイゴはしっかりと自立した大人であるらしい。今迄知っていたダイゴのイメージがシロナの中で崩れていく様だった。
「……凄い。何て言うか、上手く言えないけど、凄いわ」
 自分と一つしか違わない筈なのに、ダイゴが何時もより矢鱈と大人びて感じられて仕方が無い。純粋に感心したシロナは尊敬の眼差しでダイゴを見やる。
「はは、凄いのは良いからさ。長旅で疲れたろ? 一寸引っ掛けなよ」
「あ、うん。ありがとう」
 自分の彼女に褒められるのがこっ恥ずかしいのか、頭をぼりぼり掻いて照れ臭そうにするダイゴ。これ以上褒め千切られるとくすぐったくてぬので、ダイゴはシロナの長旅をを労う為に冷蔵庫から缶ビールを取り出して手渡す。
 丁度良い具合に喉が渇いていたシロナは受け取ると直ぐに封を開けてキンキンに冷えた中身を喉を鳴らして飲み干した。

50 :
――翌日
「ぅ、うーん……」
 シロナが尿意を覚えて目を開けると、其処はベッドの中だった。昨晩は酒盛りをしていた記憶が少しだけあるが、其処から先の事は全く覚えていない。自分の格好が素っ裸である事に気付くが、ダイゴとナニをした記憶すら無い。
 大方、酒に負けてダウンしてしまったのだろうとシロナは決め付けた
「ん〜……」
 起き抜けのままの働かない頭で辺りを見回す。壁時計は朝の八時を指している。部屋の片隅にはやや大きめの箪笥と姿見。ドアの近くには作業机が置かれていて読みかけの科学雑誌が置かれていた。
 そして、窓辺には額縁に入った自分の使用済みの下着がシロナを睨んでいる。前にダイゴに送ったもので間違いない。それを見ているとダイゴが何を考えているのか判らなくなるシロナだった。
「あれ、ダイゴ?」
 それで思い出した様にシロナはダイゴの姿を探すが、自分の隣には寝ていた形跡はあるもののもぬけの殻。シロナは床に綺麗に畳まれていた服を拾い上げ、下着だけをつけて居間へのドアを開ける。
「ああ、おはようさん。飯は出来てるよ。顔を洗ってきなよ」
 シロナの存在に気付いたダイゴは読んでいた新聞から目を放し、シロナに朝の挨拶をした。そして、テーブルに用意されている朝餉を指差した。
「ああ、悪いわね。そうさせて貰うわ」
 初日からこんなだらけていて良いのかと内省するも、この微温湯に使っている様な緩い空気を気に入りつつあるシロナは結局ダイゴの厚意に甘える事にした。今は未だこれで良いと納得し、洗面所へと消えた。
「頂きます……」
「どうぞ」
 本日の献立……焼き魚、おひたし、スクランブルエッグ、浅漬け、お吸い物。
 ダイゴが作ってくれた簡単な朝御飯を前に手を合わせるシロナ。彼女は料理が苦手な為、例え簡単でもこうやって料理を作れる人間には純粋に憧れを抱く。
「! ……美味しいわね」
「そう? 普通だと思うけどね」
 一口食べてみてこれはとシロナは思った様だ。単純な料理程美味く作るのは難しいが、ダイゴのそれは火の通しや水加減、味の濃さ等基本の部分が驚く程に正確だった。だから美味くない訳が無かった。
 本人が注意しない限り男の料理は大雑把になりがちだが、ダイゴのこれはコクとキレが両立した至高の一品。それを作った本人は随分と控えめな態度だった。
「むぐむぐ……おふぁわり」
 腹が減っていたのか、シロナは次々に朝飯を口に放り込んでいく。そうしてご飯粒をほっぺに貼り付けながら空になった茶碗をダイゴに差し出した。
「あいあい。洗濯物とかある? あるなら出しといてね」
「はーい」
 茶碗に炊き立てご飯を山盛にしてやるダイゴ。主夫稼業が板に付いているのか、飯の後は洗濯に取り掛かる積もりの様だ。外は朝にも関わらずムカ付く位にかんかん照りだった。
 シロナは茶碗を受け取ると間延びした返事をして食事を再開する。洗濯する物など、寝室に畳んで置いてある服と今着てる下着位しかなかった。

51 :
――数時間後 トクサネシティ 海岸
 正午少し前。洗濯物を干し終えたダイゴは島を案内する為にシロナを連れて海岸に来ていた。肌を焼くお日様は時間と共に眩しさを増すが、海岸近くは潮風が吹いているので何とか過ごせる状態だった。
「海風が気持ち良いわねえ」
「何も無い場所だけど、来年位には賑やかになるんだろうな」
 サンダルを脱いで砂浜を歩くと裸足の足裏が焼けた砂の所為で熱い。それを我慢しつつシロナは北では見られないエメラルド色の海面を眺めながら呟いた。
 島の案内という名目でシロナを連れて来たは良いが、実際今のトクサネには海以外見る冪場所は存在しない。新名所と成り得るだろう場所は、矢張りあそこ位だろうか。ダイゴは海に背を向けて、丘の上に建設中の大規模な建物に視線を移す。
「あれ?」
「そ。宇宙センター。宇宙(そら)に懸ける想いの結晶って奴だね」
 釣られてシロナも同じ物をやや仰ぎ見る。建設中の宇宙センターの薀蓄については旅行雑誌のコラムを見てシロナは知っていた。年内中に工事を終え、来年度を目処に施設を稼動させるらしい。
「航空宇宙学は畑違いだけど、何か浪漫があるわね」
「そうだね。僕達の生活が変わる訳じゃないけどさ」
 鉄の塊を宇宙に上げる何てスケールが大き過ぎて地べたを這い回る自分には想像出来ない世界。だが、それでも何らかの浪漫を感じるのは、言葉では言えない衝動みたいな物が胸に湧いている所為だとシロナは思った。
 宇宙では先端技術の研究が行われるのだろうが、それが目に見える形で陽の目を見るのは数十年と先の話だろう。変わりがあるとすれば、自分達の島が賑やかになる位な物だとダイゴは冷静な目で建設現場を眺めていた。

52 :
「おーい! あんちゃ〜ん!」
「お? よう」
 風が弱くなり、体感温度が増したので遮蔽物の無い砂浜から離脱しようとした矢先、遠くから子供が声を張り上げながら走って来た。
 この子供こそ、後にRSEで王者の印をくれる少年である。ダイゴは少年と知り合いなので、片手を上げて挨拶とした。
「何やってんのさ、この糞熱い中。泳いでる様には見えないし」
「うん? 散歩だよ、散歩」
 少年はこの熱射病を誘発しそうな酷暑の中、ダイゴが何をしているのか気になったらしい。別に隠す理由は無いのでダイゴは答えてやった
「散歩ってあんちゃん、もう十分トクサネの人間だろ? 海岸に珍しい石何てそうは落ちてるモンじゃねえよ?」
「知ってるさ。だけど、今回は客人が居るんでね。その案内がてらさ」
 元はカナズミの人間のダイゴだが、家を手に入れて越してきて以来、彼はすっかりこの島の住人に受け入れられている。
 当然、島に散策する価値があるものが無い事は島の人間なら誰だって知っている。潮流で運ばれたゴミの中からお宝を漁る方がよっぽど有意義な程に。だが、ダイゴが散歩に来たのは本当で、その理由である人物を少年に指し示す。
「客人って……おおっ!?」
「こんにちは」
 ダイゴの隣の女性に目を遣り、少年は驚いた声を上げると共に目を丸くする。
 その女性(まあ、シロナだが)は社交辞令的に顔に営業スマイルを浮かべて軽く会釈した。
「う、嘘だろ……! あの大誤算がこんな綺麗な姉ちゃんを連れてるなんて! 金で買ったのか!? それともエッチな事をして無理矢理……!」
「良し。喧嘩なら買うぞ。構えろや」
「じょ、冗談だよ、あんちゃん! 怒るなって!」
 石好きの変人と名高いダイゴだが、この少年も例に漏れないらしい。しかし、後半の言葉は男として馬鹿にされた気がして看過出来ない。無論本気では無いが、少しばかり気を乗せたファイティングポーズを取ると少年は縮み上がった。
「あー……えっと、ま、まさかとは思うけど、姉ちゃんって、あんちゃんの?」
「そう。彼女って奴よ」
 話の方向を逸らす為に少年はシロナに対し、思っている疑問をぶつけてみた。当然、シロナとしては憚る事は何も無いので正直に答えた。
「・・・」
「おい、どうした?」
 その言葉を聞いた少年は絶句し、目を閉じたまま固まって動かなくなった。
「俺、あんちゃんを誤解してたよ。石にしか興味無いって思ってたのに、見えない処で色々やってたんだなあ」
「色々って何か人聞きが悪いね、そりゃ」
 感慨深げに少年が漏らす。残念なイケメンだのストーンファッカーだのと呼ばれる事に耐性はあるが、流石のダイゴも無機物である石に欲情出来る程変態の道は極めていない。
 だが、ダイゴは並の女には欲情は愚か目もくれない。そんな彼が熱を上げる稀有な女がシロナである。上玉で無い訳が無かった。
「そうねえ。イロイロ、よねえ。ダイゴ♪」
「ちょっ、君も煽るなよな」
 話の中心人物がニシシ、と笑っている。因みに、イロイロとは子供には聞かせられないセクシャルに甘ったるくて生臭い出来事が選り取り見取りである。ダイゴも情操教育に悪い話はしたくなかった。
「邪魔して悪かったな。その姉ちゃんにトクサネをしっかり案内してやんなよ。じゃあな」
「ああ。またな」
「バイバイ」
 少年の方もこれ以上絡むのは逢引の邪魔になると判ったらしい。撤退を決意すると言葉もそこそこに足早に去っていった。近い裡にどうせまた会う事になるだろうからダイゴにはそれ以上言う事は無い。対して、シロナは少年の背中に軽く手を振っていた。
「元気の良い子ね。御近所さん?」
「そう。偶に糞生意気で殴りたくなるけどね」
「あれ位の歳なら、それ位が丁度良いわね」
 興味がある訳ではなかったが、何と無く聞いてみるとダイゴは答えてくれた。どうやら同じ町内会の子供らしく、越して来た当初から妙に絡まれている……懐かれているのでは無く絡まれているらしい。判った情報はそれだけだった。

53 :
「ねえ」
「何だい?」
 散歩に戻って十数分後。後ろを歩くシロナが突然、シャツの裾を握って来た。何事かとダイゴは振り返る。
「ん……その、ね」
「何さ。勿体付けるなよ」
 良く見ればシロナの頬が若干、赤く染まっている。だが、戸惑った様に言いたい用件を中々言わない。熱い中で歩みを止めたくないダイゴは早く言って欲しかった。
「あたし、あなたに甘えて良いのよね? ……その、こ、恋人として」
「・・・」
 知らない土地である事を良い事に自分でもかなり戯けた事を口走ったとシロナは気付いたのだろう。それでも、二人が付き合っている事実は変わらないので、シロナは相方であるダイゴにどうしても確認を取って置きたかったらしい。
 そいつを聞いたダイゴは一瞬、呆気に取られた。
「……ハッ」
「あ――」
 正気に戻ると同時に笑いが込み上げる。俺の彼女はこんなに可愛いと認識させられたダイゴはシロナの手を取った。
 タコだらけでゴツゴツした男の掌が自分の汗ばんだそれに触れた。たったそれだけの事なのにシロナは何故かドキドキしてしまった。
「今更、だろ? シロナ」
「そうだったわね、ダイゴ」
 付き合って一年。思えばこうやって手を繋いで普通の恋人らしい逢引をした事すら無かった。だが、今から夏の終わり迄はそうする自由が許されている。
 有り余る時間の中、二人の夏は始まったばかりだった。

54 :
次回、再びエロ。相当趣味に走った内容だからキャラ崩壊が著しい。
それでも読んでみる?

55 :
読んでみたいとでも言えばいいか?

56 :
逆に読みたくないって言われたら書かないのか?w
ちょっと驕り過ぎだろ

57 :
音ゲーマーさんGJ!
・・・なんだけど、ちょっと最後の一言がアレじゃねーかなーと思ってしまう。
投下してくれるのは凄くありがたいんだけどね・・・。

58 :
読みたいに決まってるって確信した上での「読んでみる?」だもんなぁ……
何かエロシーンっぽい言い回しだよな
「もっと激しくしてほしいのか?」「もう、分かってるくせに」みたいな
癖なんだろうけど、それを俺たちに対して使うのはどうかと思うぞww
何はともあれ続き待ってます

59 :
Interval:雌ぬこと遊ぼう
 シロナがダイゴの家に来て一ヶ月が経とうとしている。
 夏の時間が半分程消費された辺りだが、今日に至る迄でダイゴが企画していた遊びの殆どは終了している。
 キンセツのゲームセンターで遊び、煙突山に登ってフエン温泉に浸かり、ヒワマキの近くでヒンバス釣りをやってみたり、送り火山で神話の調査を行ってサファリでポケモンを追い回し、サイユウの近くで泳いだりもした。
 行っていないのは古代塚や小島の横穴、おふれの石室位だが、それらの場所も近い裡に連れて行く事がダイゴの中では既に決定済みだった。
 そんな二人が何をやっているかと言うと……
――ダイゴ宅 居間
「ちょ、ちょっと! こっち来るんじゃないわよ!」
「落ち着きなって。十分狩れる相手だよ?」
 仲良く狩りの真っ最中。クエストは火竜夫婦の同時狩猟。
ターゲットのレイアに追い回されてCynthia(シロナのプレイヤーネーム)はきりきり舞いしている。
 対して、Steven(ダイゴのプレイヤーネーム)は余裕の貫禄でレウスを太刀で鱠にしていた。
「無茶言わんでよ! あたしゃ、アンタみたいに廃人じゃないのよ!」
「ええ〜? それって酷くない?」
 プレイ時間が廃人と常人を分ける差だと言うのなら、シロナも着実にその域に踏み込みつつある。もう丸三日、二人は家から一歩も出ておらず狩りとファックばかりの生活に浸っている。
「……よっしゃ。One down.One more go,and finish this」
「May day! May day! I need your help!」
 ダイゴが一匹を捕獲。後一匹で勝負が決まるのだが、追い込まれたシロナは遂に泣きを入れた。
「あー、全く。下位だよ、これ? そんなちょろい機動に惑わされるんじゃないよ」
「それは出来る奴の理屈だってのよう!」
 隣のエリアで交戦中なので救援に向かっても良いが、助けてばっかりだとシロナの為にならないとダイゴは踏んだのだろう。休憩がてら煙草を咥えて吸い始める。シロナの涙目の視線が刺さるみたいだったが、煙草を吸い終わる迄ダイゴはそれを無視した。
「ランク上げに躍起になるのは判るけど、急ぎ過ぎじゃないか? 自力が追い付いて無いよ?」
 何とかクエストを終了させ集会所に戻って来た。此処最近の進行頻度は異常で、武器も防具も満足に揃わない状態で狩りに望むシロナは常にと隣り合わせの状態だ。
 しかもシロナ自身のプレイヤースキルはお世辞にも高いと言えないので、カバー役のダイゴにとっても負担が大きい。
 些か拙速に過ぎるシロナが何を考えてるかは知らないが、もう少しゆっくりまったりと歩んで欲しいとダイゴは常々思っている。
「判ってるわよ。でもさ、早く着てみたいじゃないの」
「新しい装備?」
 シロナもそれについては理解している様だ。だが、譲れない理由があるので彼女も無茶を承知でやっているのだ。その理由と言うのが実に下らない事だった。
「エロ装備よ、エロ装備! ちゃんと聞いてたんだから!」
『エロの代名詞って言やぁキリンだけど、些か見飽きた感が否めないんだよね。僕のお気に入りはレックス足にナルガ装備だね。アレの尻はエロいよ?』
※2Gが現役の頃の話と仮定して下さい。(作者)
「ああ、だからか」
 そう言えば、酒を飲みながらやっている時にポロっと口走った記憶がある気がする。
 シロナはそれを覚えていて、その素材を手に入れる為に急いでランクを上げているのだろう。何とも涙ぐましい努力だとダイゴは少しだけ感心した。
「でも一人じゃキツイからさ。こうやって、半ば寄生虫に成り下がっても頑張ってるんじゃないの」
「うーん、まあ、確かに目の保養にはなるんだろうけど、所詮ゲームの中だからねえ」
 良く考えればそれはシロナ自身の為でなく、ダイゴの冗談めいた言葉を叶える為にやっていると言っても間違いじゃない。しかし、其処迄されてもぶっちゃけコメントに困る。
それが女心と言うのなら、ベクトルが間違っているとダイゴは冷静に分析する。

60 :

「そんなのよりは、君がリアルで直接何か着てくれた方が手っ取り早いと思うけど」
「!」
「あ」
 リアルとゲームを混同してはいけない。それならば、ゲームの中ではなくリアルでシロナに何かを期待……と、其処迄考えてダイゴはまたしても自分が要らん事を口走った事に気付いた。
「うふ。うふふふふふ」
「あー、やっべ」
 後悔してももう遅い。シロナの顔には邪悪な笑みが満たされている。何と無く悪い事が起こりそうな予感にダイゴが若干顔を引き攣らせた。
「確かに聞いたわよ? あたしにエロい格好、して欲しいんだ。ダイゴってば」
「まあ、否定はしない。最近、少しマンネリ気味だから新しい刺激があっても良いかなってさ」
 ハンターの顔を覗かせるシロナにダイゴは怯む事無く答える。
 思い返せば去年、シンオウで初めて犯った時、シロナの気合の入った格好に何か色々と酷い事を言った気がするダイゴ。
 しかし、近頃シロナとのそれに飽きが来ているのも事実なので、ダイゴはそれが打開策になるならと正直に言った。
「うんうん、判るよ男の子。あたしみたいな可愛い彼女がえっちぃ格好したら、それだけで嬉しいのよね? お姉さんにはちゃんと判ってるんだから☆」
「……僕の方が年上なんだけど」
 お姉さん振りたい年頃か否かは不明だが、何だかとても嬉しそうなシロナに一応突っ込んでやるが全然利いていない。自分で可愛いとか言うなとも言いたかったが、実際最近のシロナは可愛いのでダイゴは言葉を飲み込んだ。
「皆まで言わない。……一寸待ってなさい。こんな事もあろうかと、向こうからちゃんと用意して来てあるんだから」
「お、おい! ……はあ。どうせ、最後には引ん剥いちまうんだけどね」
 シロナはゲームを切り上げると何かを取りに荷物が置いてある寝室へと引っ込む。ダイゴは声を掛けるが、彼女は行ってしまった。
 これから起こる生臭い展開に心を躍らせる程ダイゴは若くない。
だが、最終的にシロナを裸に剥いて組み伏せる未来だけは見えている。今まで何度も通過した儀式だが、それが無かった事は一度たりとも無かった。そして、ダイゴの予感は外れない。
「お待たせにゃん♪」
 あ、野生(?)の化け猫が飛び出して来た。

61 :
「・・・」
「ありゃ、どしたの? おーい、もしもしお兄さ〜ん?」
 ダイゴは渋い顔で世にも珍しい二足歩行の食肉目を見ながら、現実を否定するみたいに煙草に手を伸ばす。絶句して何も言わないダイゴを不審に思ったシロナはダイゴの目の前でヒラヒラと手を振ってみた。反応は直ぐに返って来た。
「君、もう少し歳を考えた方gあべし!?」
「未だ若いわよ! 二十歳前の婦女子に何を言うのさ!」
 ライターで火を点ける直前にシロナのフリッカージャブがダイゴの顎に入った。煙草は落ちて床に転がり、言葉も最後迄言えないままだった。
「ぅ、ぐ……済まん。大人びてるから、どうしてもトウが立って見えてさ」
「それ以上ほざくと顔面爪で掻き毟るわよ?」
 殴られた箇所を摩るダイゴはシロナの顔を見て少し自分の発言に後悔した。どうやらとても怒っているらしい。配慮に欠ける台詞が気に食わなかったのか、爪と牙を剥き出しにして威嚇する視線を送っている。
 歳相応に見られたいと言うシロナの乙女心だろう。恐らくそれは男である限りダイゴには解せないモノであるに違いない。
「……で、それって猫? まさか、ニャルマーって奴かい?」
 これ以上ボロが出ない裡にダイゴは話を本題に持っていく。今のシロナの格好について。
 ダイゴの見る限り、普段アレを致す時のシロナの格好と殆ど違いは無い。敢て違いを指摘するとすれば、猫耳のカチューシャとお尻の辺りに見えている特長的な螺旋型の尻尾だろう。
 そんな尻尾を持っている猫型のポケモンがシンオウに居る事をダイゴは思い出した。
「そうにゃのよ? このコスで挑めばお堅い彼氏も一発で燃え上がるって雑誌で紹介してたにゃん」
「何の雑誌だよ、そりゃあ」
 雑誌に書かれた記事を鵜呑みにした結果がこれとはお粗末過ぎて笑いすら込み上げない。
 語尾に『にゃん』を付けたり、猫宜しくシナを作ってみたりもしているが、端から見ていてどうしても無理してる感が否めなかった。
 案外、シロナの持っている大人っぽさが邪魔している所為かも知れないとダイゴは考えた。……考えたが、結局現状は何も変わらなかった。
「その……僕、猫嫌いなんだよね。どっちかと言えばポチエナの方が」
「あ゛? 我侭抜かすな。股間の一物噛み千切られてえのか?」
 ひょっとしたら好みの奴が居るかも知れないが、無理してるしてない以前にダイゴはコスプレに興味が無い。それでも強いて好みを挙げるとすれば、ダイゴの場合は犬だった。
 だが、そんなダイゴの言葉は自分の努力の全否定とシロナは受け取ったのだろう。喧嘩腰で脅かすみたいな口調で言い放ちダイゴを睨み付ける。
――ピクッ
 その瞬間、ダイゴの眦が釣り上がり、青筋の十字路がこめかみ辺りに出現した。
「――んだとこら?」
「あ」
 この瞬間、拙いと直感的にシロナは思った。今迄何度か遭遇した事のある怖い状態のダイゴが顕現してしまった。
 頻度こそ少ないが、ダイゴは何かの拍子で普段被っている対人用の仮面を落としてしまう事がある。条件は不明だがこうなった状態のダイゴは冗談抜きで危険だとシロナは彼との付き合いの中で知っていた。
 ……知っていた筈なのにまた自分から地雷を踏んでしまった。だが、シロナは自分を悔やむには遅過ぎる事を直ぐに理解させられる。
「随分デカイ口叩くじゃねえかよ、雌猫が」
「あ、あのだ、ダイゴさん?」
 口調、表情、声色、纏う空気。普段の彼とはベクトルが180度違う様な豹変振り。正にダークサイドだ。刺激すれば命が危ないと踏んだシロナはダイゴを宥めようとするが、良い言葉が思い付かないのか、青い顔で視線を泳がせる。
「良いぜ? 貴様の主人が誰なのか、その身体に徹底的に教え込んでやるよ」
「きゃあっ!?」
 そうしている裡に時間切れ。ダイゴはシロナを米俵宜しく軽々と担ぐとそのまま寝室に入っていった。
 
 シロニャに喧嘩を売られた!

62 :
――ダイゴ宅 寝室
「きゃん!」
――ボフッ
 乱暴に放り投げられシロナはお尻からベッドに着地する。黒いオーラを纏うダイゴは上半身を肌蹴ながら、思わず背筋が凍り付く様な視線で上からシロナを見下ろしていた。
「も、もう! そんなに、お、怒らないでよ。只の冗談……だからさ」
「……冗談、ね。俺は女郎に嘗められる事だけは好かねえんだ。覚えとけ、小娘」
 愛想笑いを浮かべ、冷や汗を顔に張り付かせたシロナは泣きたくなる気持ちを抑えつつ懸命にダイゴを宥める。
 それが上手く行ったのか、少しだけダイゴの空気が和らいだ。
「ご、ごめん。調子に乗ってたわ」
「…………うんうん。素直な娘は好きだよ」
 機嫌が戻りつつある事を知ってシロナは平謝りする事がベストな選択と思ったらしい。だから自分の胸中を偽り無くダイゴに告げると、彼は落ち着きを取り戻したのかシロナの知っているダイゴに徐々にだが戻っていった。
「でも……」
 ……しかし、それも一部を除いてだ。
「ひっ!?」
 そいつを見てしまったシロナは危機が去っていない事を知り、引き攣った声を上げる。
 それはダイゴの目で、ダークサイド状態を維持している様に洒落にならない怖さだった。
「きっちりお仕置きは受けて貰おうかねえ。ひゅっ、ひ、ひひひひひひひ……!」
「ひいぃ〜(涙)」
 ダイゴの声帯を通過する不気味な声色。それに身の危険を感じたシロナは泣きを入れて這って逃げようとするが、腕を捕まれてしまって逃げる事が出来なかった。
「成る程。この尻尾はクリップでくっ付いてるのか。と、すると……」
「だ、ダイ、ゴ?」
 ダイゴが目に入ったのはニャルマーの尻尾。彼女が好んで履いているローレグTバックに括り付けられたそれを外すと、少しの間思案して箪笥の方へと近付いて何かを取り出してごそごそやり始めた。
 厭な予感しかしないシロナは心配そうな顔でそれを見ていた。
「えっと、針金とガムテープがありゃ良いかな。後は……こんなもんか」
 ダイゴは工具箱を引っ張り出し、取り出した何かに細工をしている様だ。作業自体は直ぐに終了して、ダイゴは出来上がったそれをシロナの目の前にチラつかせる。
「な、なな、何? 何なの、それ?」
 それを見た時、何に使うのかシロナは初め判らなかった。だが、何と無く卑猥なフォルムのそれにセクシャルな用途を感じたのか、自分の身を守る様に身体を強張らせた。
「うん? ケツ穴用のバイブ。ニャルマーの尻尾をくっ付けてみた。ちょい不恰好だけど」
「お、お尻!? まさか……じょ、冗談よね? ね!?」
 ダイゴはあっさりと正解を語った。長さと太さ共にかなりの容積を誇る疣付きの張り型だ。前の穴にも使えそうな大きさだったが、ダイゴが後ろ用と言い張るのだからそれは正しいのだろう。
 だが、そんな事はシロナにとってはどうでも良い。
 今迄散々生臭い事をして来たがそっちの純潔を捧げる覚悟は未だシロナには備わっていない。これがダイゴの悪ふざけである事を願いたい状況だったが、残念ながらダイゴは本気と書いてマジだった。
「何を馬鹿な。猫のコスってんなら、尻尾はバイブって相場が決まってるよ。……さ、観念してマンホールを開きな」
「や、やだ! お、お尻何てやった事が……!」
 シロナは逃げ出そうと必にもがくが、その機会は既に失われていた。腰を捕まれて引き倒されて履いているパンツを引っぺがされそうになる。
「だから、開発しようって言うのさ。これ位じゃないと仕置きにはならんからね」
「や、やめ……! 止めてえええええ!」
 せめてもの抵抗に叫んでみるモノのその程度でダイゴの魔手から逃れる事は不可能。シロナの下半身を守っていた布切れはあっさりと取り払われた。

63 :
「往生際が悪いね、ぬこさん」
「い、いやああんん!」
 尚も逃げるシロナの腰を引っ掴んで拘束し、尻肉を断ち割って汁を滴らせる赤貝とピンク色の菊の花を露出させる。まるで生娘の様に顔を手で覆い恥ずかしがるシロナだが、ダイゴは微塵の情けも浮かべる様子は無い。中々に鬼畜な御仁だ。
「安心しなよ。ちゃんと解してやるからさ」
「ああん! ダイゴのスケベえ!」
 本来は排泄器官である窄まりに口を近付けて軽く息を吹きかけてやる。すると吃驚したようにシロナの身体は跳ねて、肛門自体もひくひく妖しく蠢いた。
「聞き飽きた言葉だぜ。……んっ」
「んんぅ……!」
 男がスケベで何が悪い。前に言った事がある気がするが、今更そんな台詞を吐いても仕方が無いのでダイゴは指に力を込めてシロナの後ろの穴を押し開く。
 ぽっかりと口を開けたブラックホールの淵の部分、肛門の皺の部分に舌を伸ばして円を描く様にゆっくりと舐めてやる。
 些かの嫌悪感があったのだろうか、シロナは顔を顰め、唇を噛んでその感触に耐えている様だった。
「どれどれ? 匂いの方はどうかな?」
「なっ、なななな////// 何やってんのよ馬鹿ああああああ!!!!」
 ダイゴの取った行動がシロナを慌てさせ混乱の極みへと導く。自分でも恥ずかしい場所に彼氏が鼻を寄せてくんくん臭いを嗅いでいるのだから当然だ。
 シロナに羞恥心が僅かでも存在している限り平常心を保つ事は先ず無理だろう。シロナは全身を茹蛸宜しく真っ赤に染めて叫ぶ事しか出来ない。
「ふむふむ。序に味もっと」
「ひいっ!? あ、ああああああ〜〜!!? ちょ、う、嘘でしょ!? やや止めなさいってばあ//////」
 ぞくり。
 尻の内側に生暖かい感触を覚え背筋を張り詰めさせる。それがダイゴの舌によるモノだと気付いた時、もうシロナは正気では居られなかった。
 不浄の穴を執拗に舐めるダイゴ。よもやこれ程の辱めを与えてくるとはシロナには超誤算。正直、ダイゴと言う男を甘く見過ぎていた。
 恥かしくてにそうなのでシロナは中断を懇願するが、イニシアチブを握っているダイゴがその旨を聞き入れる訳が無かった。
「やっぱ君ってば良い匂いだな。味も申し分無し。こいつは珍味だよ」
「馬鹿馬鹿あああああああ////////////」
 とんでもない言葉を聞かされて羞恥の涙を零れさせたシロナは生まれてこの方味わった事の無い感情の処理が出来ず、結局の所ダイゴのされるままで居るしかなかった。
「癖になるな、こりゃ」
「ひゃんんっ! ああんんぅ……」
 惚れた女のケツの穴を舐める事等屁とも思っていない……寧ろ、それを率先して楽しんでやっているダイゴは相当に修練を積んだ変態で間違いない。
 どんな美人であれ、肛門がひり出す場所である以上、其処が汚れと穢れを孕んでいる事は誰だって判る。
 そんな場所の饐えた臭いとおぞましい風味を絶品と言っている辺りダイゴはかなりの上級者だ。新しい玩具を得た様にその顔には酷薄な笑みが張り付いている。
「もう一寸堪能しておくかね」
「あ……ぁ、そ、そんな……あ、ああ……♪」
 遠慮も憚りも無く、ダイゴはシロナの直腸への穴にむしゃぶり付き、舌を差し入れて頑なさを解しつつ、分泌される腸液を啜り飲み干す。
 じゅぶじゅぶじゅるじゅる。味わった事が無い異質な刺激がシロナを襲っているが、その中で嫌悪とは違う何か妙な感覚が芽生えてきて、シロナはそれを持て余してもどかしさを体に募らせていった。

64 :
――凡そ十分経過
「あんっ! あんっ! ああはぁ……」
 生まれた感触に蝕まれてシロナは体をピクピクさせて口元から涎を伝わせて甘い喘ぎを漏らしている。その様子を見る限り、最初の方にあった嫌悪感は最早存在せず、寧ろそれに心地良さを感じている様だった。
「ふむ」
 滾々と湧き出す生臭い腸汁を啜り、口元をベトベトンにしたダイゴは舌が疲れたので塩梅を確認する為にシロナの尻穴から口を離した。粘着く唾液と汁の混合物が穴の淵とダイゴの口元の間に糸を引いていた。
「んくっ! ……うんんん」
――ずぶっ
 解れたぽっかりアナルにダイゴは人差し指を入れてみた。シロナは少しだけ顔を顰めただけでそれを苦も無く根元迄飲み込んだ。
「んで」
「ひぐっ!? ぃ、痛……痛いよ、ダイゴ……!」
 侵入した異物を押し出そうと腸壁がダイゴの指を締め付ける。容量には未だ余裕がありそうなので今度はその状態から更に中指を捻じ込んでみる。
 ぶっすり突き立てられた指に多少の痛みを感じたシロナは涙目で振り返り、その旨をダイゴに訴える。今の段階ではこれが拡張の限界らしかった。
「まあ、何とか入るか。じゃあ、ローション使って、と」
 此処で漸く小道具の出番がやって来る。シロナの拡張具合と張り型の太さを相談すると挿入するのは難しい所だが、それも他の道具のアシストあれば可能となる。準備が良いダイゴはその辺りも抜かりが無い。
 一番太い部分が入り口さえ通過すれば問題無いので、何処からか取り出した乳液をバイブとシロナの尻に入念に塗り込んで滑りを増してやる。準備完了だ。
「お待たせした。きっちり咥え込むんだよ」
「あ、ああ……ま、待って! ちょっと待っ……ひぃううぅううう!!」
 挿入に際し、一度シロナの鼻先に突っ込む張り型を突き付けてその大きさを認識させるダイゴ。視界に飛び込むグロテスクな形状に恐怖を覚えたシロナは怯えた声で猶予申請する。咥え込む覚悟なんぞは全く決まっていなかった。
 しかし、ダイゴはそれを無視した。そんな戯言を一々聞いていられないと、張り型の先端をシロナの後ろの穴に宛がうと力を込める。
 ぬるっとした感触と僅かな引っ掛かりを手に感じ、ダイゴがバイブを更に奥へと突き出すと、シロナは切ない悲鳴を上げてそれを飲み込んだ。
「んで、スイッチオンってな」
「ぁ、がっ!? かっ、はっ、ぁひいんん!!」
 間髪居れずにダイゴがバイブの電源を入れる。強さはシロナの事をお構い無しに最初から強。MAXで無い辺りがダイゴなりの慈悲だろうが、それでも尻穴調教が初めてのシロナにとってその強度は過酷だった。
 腰に響く振動にシロナはシーツを掻き毟り、体を左右にくねらせる。
「今迄に無い反応。気に入ったのかい?」
「違っ! くっ……し、振動が……! く、くすぐったくって凄い変な感じが……!」
 そんなシロナの反応をダイゴは顔色一つ変えずに只管冷静に眺め、抑揚の無い落ち着いた口調で問うた。
 黙っていても脂汗が浮かび、歯の根が噛み合わずにガチガチと音を立てる。シロナにはそう答えるのが精一杯だった。
「上手い言葉は浮かばんけどまあ、慣れろ」
「ひゃうっ!!」
 冷たくそう言ってダイゴはシロナの腹下に腕を入れて腰を浮かせた。そうして、鈍く唸りを上げる電動コケシの根元を引っ掴んで穴から抜ける寸前迄引張る。
 排便と似た感覚がシロナを襲って甲高い声が喉を通過する。
「んじゃま、往くかね」
「んひっ!? ぉっ! おほおおおおおおおおおおっ!!」
 仕置きの本番はこれからだ。ダイゴはバイブを強く握り、腕でシロナの腰が逃げないように固定すると凄まじい速度でそれを出し入れし始めた。
 疣付きの張り型が穴の淵を通過する度、体に電気が奔る様だった。ダイゴの超速ピストンに我を忘れた様にシロナは仰け反り、天井に向かって顔を上げて吼えた。
「それそれ♪」
「おっ! んおっ! おおおんんんん!!」
 ダイゴは嗜虐的な笑みを浮かべ、残像が見える速度で只管ピストンする。シロナが感じている事は明らかで、回数を増やす度に彼女の割れ目からは透明な飛沫が噴出してシーツに染みを作っていく。
 腰をホールドされて逃げられないシロナはダイゴの仕置きを甘受する事しか出来ない。目を見開いて涙を零れさせ、だらしなく舌と涎を垂らして獣の如くよがり狂う。形振り構わない感じ方だった。

65 :
「おーい? お前さん、猫なんだろ? もっと可愛く鳴いて欲しいね。それじゃ只のケダモノだよ」
「ふ、ふっ、ふう……ふうう……そんにゃ、ころ、言っらっへぇ……」
 取り合えず百回程シェイクして、ダイゴはシロナの腰から腕を放すと、シロナは支えを失った様にベッドに倒れ込む。その体は不随意的に痙攣していた。
 冷徹なダイゴの言葉に回らない呂律で答えるシロナの顔は完全に蕩けていて、何ともそそる女の表情だった。
「難しいって? ……そうだなあ。猫らしく可愛く鳴けたらもっと気持ち良くしてあげるけど?」
「も、もっと?」
 ダイゴとしてはもっとシロナの身体で遊びたい所。だが、喘ぎに品の無い女は好かないダイゴは譲歩してやる事にした。そもそも最初はそう言うプレイだった筈なのでシロナにも華を持たせてやろうと思ったのかも知れない。
 その言葉にシロナは明確に反応し、肉欲と期待の入り混じる濁った瞳をダイゴに向ける。
「ああ。未知の領域に連れて行ってあげるよ」
「お、お尻……もう、苛めない? それなら……」
 ダイゴはシロナに対しやりたい事が山程ある。挿入前にこれだけ出来上がっているのなら、今回は難易度の高い目交いに挑戦しても良いと考えている。だが、それを成すにはシロナ自身が心を開いてくれないと無理だった。
 ダイゴの言葉に対するシロナの考えはこれ以上の尻穴調教は勘弁して欲しいと言う事。それ以外だったら何だってやってやると思っている辺り、本当に恥かしかったらしい。
 しかし、彼女にとって頭に涌いたその考えこそが更なる肉欲の地獄への切符だと言う事が本人には気付けない。
「ああ。ちゃんと雌マ○コの奥を開発してやるさ」
「(ごくり)」
――にやり
 意図した訳では無いが、結果的に誘導に成功したダイゴは雄の優位性を示威する様にジッパーを下げてエレクトした自分の一物をシロナの目の前に晒した。
 生唾を飲み込むと同時にトロンとした顔になったシロナは雌としての自分の今の立場を示す様に四つん這いのままダイゴに尻を向けた。
「わ、判ったにゃん……ご、ご主人様のぶっといチ○ポでシロニャのスケベマ○コをズボズボお仕置きして欲しいにゃん……♪」
 そうして既に洪水状態になっている自分の女に指を這わす。ビラビラを開いて恥かしい部分を丸出しにすると溜まっていた粘度の高い果汁がベッドへボタボタと滴り落ちる。
 シロナは本当に畜生に堕した様に、ダイゴを明確に誘う言葉を口にして尻をふりふりと振った。
「……媚びろとは言ってないが、まあ上出来か」
 それを見聞きしてダイゴは若干萎えた。其処迄やれと言った覚えはない。
って言うかご主人様って何だ。シロナに飼われたい欲望があるかどうかは知りたくも無いが、少なくともダイゴに女を飼う趣味は無い。
 だがしかし。シロナ自身にそれを言わせたという事はこれ以上先延ばしにしても何も変わらない事の証でもある。ダイゴはとっとと先に進む事にする。
 一応、尻穴弄りは今回は仕舞いなので、バイブのスイッチだけはオフにしてやった。

66 :
長いので切るよ。また朝にでも。
頭の悪い発言をしてしまって申し訳無い。良く考えたら凄い失礼な物言いだな。不快な思いをされた方には謝罪します。すいませんでした。

67 :
「貴様には並のお触りでは生温い。お触り王の力、その身にしかと刻み付けるが良い!」
 気合を入れる様に両腕をグルグル回し、首をゴキゴキ鳴らす。
 準備が整ったダイゴはシロナの下腹部に手を伸ばす。
「にゃあっ!? や、やあん! いやんん……♪」
「ふふ。相変わらず立派なクリチ○ポだね。よーく育ってるみたいだ」
 ダイゴの指が触れたのはシロナの弱点である肉豆。
 去年の別れの後の電話でダイゴがシロナに告げた要件。次に逢う時迄毎日欠かさずクリトリスでオナニーする事。
 最初は戸惑ったシロナだったが彼女は律義にその言い付けを守り、結果としてそれがシロナのクリトリスを立派に成長させた。
 ダイゴ好みに育ったクリ豆は此処一ヶ月で彼自身の手によって好き放題弄られて親指の爪程の大きさになってしまい、勃起状態ではフードの役割を果たす胞皮から完全に捲りあがっている始末だった。
 そんな大きな弱点に指の腹でも触れようものなら、それはシロナにとって甚大な被害を齎す。自然と媚びる様な甘い声が喉を通過して、もっともっとと体が快感を強請るのだ。
腰が勝手に動いてダイゴの指と其処が触れ合う摩擦を大きくする。
「だけど、こいつの出番は来ない。今は……」
 当然、ダイゴはそれ位承知だ。弄り倒したい気分に駆られるが今はそれよりも優先する事がある。ダイゴは狙い澄まし自慢のハガネールをシロナのパルシェンに宛がって……
――じゅぷん!
「こいつのターンってな」
 根元付近が埋まる程一気に撃ち貫いた。
「ふみゃああああああああっ♪」
 大質量の肉の楔がシロナの陰道を埋めた。その圧迫と最奥に到達した際の内臓に響く衝撃にシロナは玉の涙を零し、実に嬉しそうな猫っぽい喘ぎを漏らした。
「ご、ご主人しゃまの、は、挿入っれきらにゃあ……♪」
「相当、欲しがってたみたいだ。膣内の様子で判るよ」
 此処最近はシロナが頻繁にお世話になっているダイゴの御神木。膣自体がその太さや大きさを憶えてしまっている様に熱烈な歓迎を行う。
 奥へ奥へと誘うシロナの媚肉の感触はダイゴにとっても馴染み深い物だが、その程度でダイゴの鉄壁の装甲は揺るがない。
「はいっ! はいぃ……! オチ○ポ様素敵ですにゃぁんんぅ……♪」
「? ……そいつが演技じゃない事を願うよ」
 突っ込まれてシロナが歓喜しているのは明白だが、些か過剰に演技している気がしてダイゴが訝しむ。猫っぽく振舞うのも良いが、気持ち良い振りをされているとしたら堪らない。深い詮索はしなかったが、ダイゴは何か違和感を覚えた。

68 :
「さて、今回はこの先を目指さないとなあ」
「ふにゅ?」
 今回の目的は何時もの様にズッコンバッコンする事とは趣が異なる。
 ダイゴ自身、やり方は知っているが自力でそれに至った事が無いので先行きが些か不透明だ。思案するダイゴに幾許かの不安を感じたシロナはダイゴのハガネールを咀嚼しながらその顔を覗き見た。
「ちょいと無茶する事になるから先に謝っておくよ。ゴメンね、シロナ」
「んっ……っ……? ……♪」
 決心した様に頷き、ダイゴがシロナの唇に軽くキスを見舞う。
 無茶をすると言っているが、ダイゴが何をしたいのか判らないのでシロナの中の不安は増幅される。でもまあ、さっきの様に尻を苛められない限りは大丈夫だろうと勝手に納得してダイゴの薄い唇を強く吸った。
「動ける? 机迄移動するよ」
「ご主じ……ダイゴ? 何、する気?」
「今に判るよ」
 キスを終えたダイゴは一物をシロナの中に埋めたままそう言う。益々訳が判らないシロナは正気に戻ってダイゴに聞き返すが、結局彼はそれだけ言ってニヤリと笑うだけだった。
「そう。其処に手を付いて……もう少し腰を上げてね」
「もう少し……んっ! こ、こう、かなっ?」
 寝室の入り口脇に置かれている粗末な作業机。シロナはその角に両手を付き、立ちバックの状態でダイゴを咥え込んでいる。ダイゴは挿入の角度を気にしている様に何度かシロナに腰の位置の修正を求める。
「待て待て……おっけ! どんぴしゃ! 後は……こっちで……っ」
「へっ? へっ!? 何? 何なの!?」
 そうして、それを繰り返す裡、ベストな角度を見つけてシロナにその位置の固定を促して一物をシロナの中で動かし始める。
 後は任せろと言われても何をやっているか判らない状態で落ち着ける筈もない。シロナは再び大きくなる不安を振り払う様に後ろのダイゴに声を掛ける。
「焦らずに……ゆっくり……っ! せーの、西・日・暮里♂!」
「ぅあ――」
 シロナが不安なのも判るが、ダイゴも集中力を切らす訳にはいかなかった。だから、それには答えずに代わりにフェアリーエクスプレスをシロナの奥の奥へと埋没させる。
 そうして、シロナは自分で最奥だと思っていた場所よりも更に深い所に侵入ってくるモノの存在を感じ、少し呻いた。
「よっしゃ! 抜けた!」
 細くて狭いゴムの輪っかを抜けた感触が亀頭部分に伝わって来た。
 それがウイニングラン到達の証の様に感じられ、ダイゴは柄にも無く嬉しそうな声を上げた。
「――あ、あ……? こ、れ……ひょっとして……?」
「ご明察」
 対して、シロナは不思議な感覚の中に居た。ダイゴの一物から感じられる圧迫感や熱はそのままなのに、何と言うか心にあった隙間が暖かく満たされている様な妙な充足感や安心感が沸々と胸の中に湧いている。
 その正体について何と無くシロナは察しが付いていたが、どうにも怖くてそれを確かめられない。現状を確認しようとしないシロナに現実を見せてやる為にダイゴはシロナの掌を下腹部へ導いてやった。
「う、そ」
「信じられないって? まあ、普通はそうだよね」
 掌に触れたのがダイゴの先端である事がシロナには直ぐに判った。恐る恐る視線を下げると、臍の下がぽっこりとダイゴの形に膨らんでいた。
 ダイゴはシロナの項にキスを落としながら穏やかにそう零していた。
「え、と……あの」
「こいつが今の処、僕が君に示せる最大の誠意だ。上手く行くか不安だったけど、実際上手く行って良かったよ」
 何か目の前の事態が現実離れしていてどうにも頭が働かない。これで痛みの一つでもあれば状況認識が容易いのだが、それすらない。唯、胸一杯の安らぎがあるだけだ。
 ダイゴの言葉に偽りは無い。彼が習得している技術の中で最大級の難度を誇るのがこの子宮姦だ。角度調整以前の問題にメンタルの面でお互いが深く噛み合っていなければ到達が不可能な性行の一種の極地。
 今迄、ダイゴにはそう言った相手が居なかったのでずっと試す事すら出来なかったが、シロナと言うパートナーを得てやっと今宵成功を収めた。
相手がエクスタシーを得ている状態では子宮が硬くなって逆に到達が難しくなるのだが、それすら撥ね退けられたのは二人の相性が抜群に良いからなのかも知れなかった。
※現実に実行可能かは問題じゃありません。(作者)

69 :
「来てる、のね? ダイゴが……あたしの赤ちゃんの部屋に」
「ああ」
 本来入ってはいけない場所。だが、それすらも動員し文字通り全身を使ってダイゴを受け入れられた事がシロナには何よりも嬉しい。受け入れるのが女の悦びと言うのであれば、確かにこれ以上の到達点は無かった。
「……じゃあ、始めようか」
「うん………………は?」
 シロナに残された最後の布地を取り払う為にダイゴはブラのホックを外しながらシロナに戦闘開始を告げる。ブラジャーは直ぐに外れ、猫耳と尻尾以外、完全にシロナは全裸になった。
 シロナはその言葉に反射的に頷いてしまった。そうして二秒程の沈黙を経て慌てて聞き返した。
「いや、嵌めて終りじゃないっしょ? 僕は未だ一発たりとも発射してない。だから付き合ってよ」
「あ、や、いやいやそうだけど! こ、この状態で!?」
 当然の成り行きとして、ダイゴはシロナの子宮を用いて射精を行う腹積もりだ。無論、シロナだってそれが判っているが、未知の経験が連続し過ぎてどうにも気後れしてしまっている様だ。
「何の為に此処迄来たのさ。大丈夫。丁重に扱うから安心して未知のエリアに旅立ってくれ」
「大丈夫って何が……っ、ふひゃああああああああああああ!?!?」
 そして、此処で中断されては生しなのでダイゴは適当に言葉を紡いで腰をゆっくりと慎重に動かし始める。
 其処から生み出された言葉に出来ない強烈な快楽に言葉の途中でシロナは涙交じりの悲鳴を上げた。
「おうっ!? こいつは激しい……!」
 幹を扱き上げるマン肉と雁首を締め上げる子宮口の相乗効果はダイゴを以ってしても抗い難いものであるらしい。露骨に左右に振られた着地皿が連続する様で、ケツプリするなって方が無理って言える程の身体が嫌がる厭らし過ぎる配置。
 だからダイゴは動きを止めざるを得なかった。
「な、にっ……にゃにこれ凄ぉいいいいっっ!! ふごいっ!! ふごいぃぃ!!!」
 それ以上に悲惨なのがシロナの有様で、ダイゴが軽く動かすたびに脳裏にバチバチと火花が散って見える様な有り得ない気持ち良さに、まるで一鍵ビームを喰らった様にゲージの殆どが吹っ飛んだ。
「何って……ウテルスだろ? ポルチオ超えてるって話だけど、与太話じゃなかったみたいだね」
「知らない……こんらの知らにゃい……! こ、怖い……ダイゴ怖いよぅ……!」
 男である以上女の快楽を理解出来ないダイゴだが、一般的な見識については理解がある。腹膜で得られる快楽が女性では最上と言われているが、子宮で得られるモノはシロナの様子を見る限り超えているのは間違い無い。
 舌は回らず、思考は曖昧。蝕む快楽に意識は徐々に刈り取られ、最終的には呼吸も満足にすら出来ない。……そう言う劇薬にも似た快楽だ。体験している本人にとっては確実に地獄だろうが。
 そのほんの入り口に立ってシロナは本能的な恐怖に怯える。処女喪失の時もこうやって怯えを見せたシロナだが、今回のこれは前回のそれとは微妙に異なる。
 受け入れる事そのものへの恐怖と受け入れた後に生まれた物に対する恐怖の違い。歯を食いしばって耐えれば良いと言うモノでは無い。何故なら、生まれた物は確実にシロナ自身の一部だからだ。
「恐れるな」
「っ」
 だから、ダイゴに言える言葉はたったそれだけ。励ます訳でも叱る訳でもない。自分の一部なら自分でどうにかするしかない。
「唯、喰らい付け。そして、飲み干せ。それだけの事さ」
「ダイゴ……」
 どっち道、ダイゴが射精を果たす迄、シロナはそれに晒される事になる。避けられないなら、楽な道を行く方が良い。
 そいつに流されず、逆に牙突き立てて、食い尽くしてやれば良い。今はこの状態を楽しめとダイゴは言いたいのかも知れない。シロナは何だかそれがダイゴからの挑戦状の様に感じられた。

70 :
「よっこいせっと」
「きひぃんんぅっ!! は、はっ……ぁ」
 ダイゴはシロナの膝裏に手をやって刺さった一物を中心にシロナを持ち上げる。深かった挿入が尚深みを増してシロナの脳味噌にピンク色の霞を掛けた。
 ダイゴが駅弁状態に移行したのはベッドに戻りたいからだろう。腰に結構負担が行くこの体位を苦も無くやってのけるとはダイゴは中々足腰が丈夫らしい。長年野山駆け回って石収集を続けて来た賜物なのかも知れない。
「今回はコイツも動員するか。……シロナ」
 その途中でダイゴはふと思い付いた。箪笥の横の姿見。折角だから今回は色々試してみようと行き当たりばったりに決めてみる。
 シロナの身体を支えているので手が使えないダイゴはシロナに指示を出して姿見を引っ張り出させ、その角度を調節させる。
「っ……っ……これで、良いの?」
「ああ。ご苦労さん」
 深い挿入状態で今は体を少しでも動かす度に絶頂しそうになるシロナにとってそれは中々の重労働だった。
 手が震えて上手く掴む事すら難しかったが、何とかそれでもダイゴの注文を捌く事が出来た。そんなシロナの労苦を知ってか、ダイゴはシロナを言葉で労ってやった。
「良く見えるな。繋がってる箇所がさ。君はどう思う?」
「……最低よ。でも……でも、気持ち良い……!」
 ベッド脇に腰掛けて、繋がっている自分達の姿を鏡に映す。
 汗の膜に覆われ、全身を真っ赤に染めて、自分の一番深い場所で男の竿を食い占め、顔に歓喜の涙を伝わせる浅ましい牝が一匹。
 そんな女を穿ち、喘がせ、泣かせて鳴かせて玩んで、一番深い場所に到達出来て、安っぽい征服感に酔っている馬鹿な牡が一匹。計二匹の獣が互いの肝を抉り合い、悦に浸っていた。
 鏡でも使わない限り、情事の最中の全身像を正しく把握するのは難しい。だが、それを見てしまえば羞恥心が湧くのも自然な事だろう。実際、男であるダイゴだって実は恥かしい。シロナもまたそれは同じだった。
 だが、最後にシロナは実に悔しげに涙の筋を張り付かせながらそう呟いた。もっともひくい気分に関わらず、其処に快楽を見てしまっているシロナはもうダイゴと言う男から離れられない運命なのかも知れない。
「なら良い。……動くのは君に任せよう。僕は弄りに徹するからさ」
「きゃあ……! っ、まさか……あたしを試してるの?」
 自分の状態を正しく認識しているならば、ダイゴに言う事は無い。漸くお触りの時間がやってきた事を喜びつつ、後はシロナに任せる事にした。
 乳に食い込む指の感触に甘い痺れを感じながら、シロナは此処に至って攻め手を放棄するダイゴの真意を測りかねているみたいだった。
「さあ? 君なら判るんじゃないの? 僕の考え位は」
「! ……嘗めないで! あたしは……!」
 何時もの如くダイゴは正解を杳として語らない。案外、疲れたから休憩しているだけなのかも知れないが、そんな無駄に意味深に言われれば、大抵の人間は深く考えてしまう。
 少なくともシロナには、さっき快楽に恐怖した自分に対し、それに自分の意思で挑んでみろとダイゴが嘲笑っている様に感じられた様だった。
 だからシロナは決意した様にキッとダイゴを一度睨むと、目をギュッと閉じて子宮で竿の先端を扱く様にゆっくりとだが着実に腰を上下させた。
「ぐうっ! ぐっ……」
「ふっ……きひいぃ……! ァ、アンタをっ、気持ち良くする位! 訳無いんだからあ!!」
 ずっと受身だったシロナが初めて見せた積極攻勢。高密度の虹色の滝が絶え間なく降ってくる様でそれにゲージを喰われ掛けたダイゴだったが、ジェットスティックを恐れない乱打打ちで何とかそれを凌いだ。
「フッ、ならやってみな。……俺の本気を引き出して見ろ!」
「上、等っ……! 絶対溺れさせてやるんだから……!」
 何時も好きにされっぱなしと言うのは嫌だ。だから今回はあたしがダイゴを気持ち良くしてやる。
 それが今のシロナの行動原理であるが、何と無くそれが果し合いの様に映ったダイゴはシロナを挑発するみたいに言うとシロナもそれをその通りに受け取ったのだろう。
 絶えず浅い絶頂が襲う様で、気を抜けば腰が勝手に動く状況ではあるがそれでもシロナは理性をすり減らしながら今夜得た女の最終兵器を使い、ダイゴの装甲を削っていった。

71 :
「その意気や良しってね。でも、君にはデリケートな場所だ。乱暴にはするなよ?」
「知った、こっちゃ……ないっ! ……わよぉ♪」
 子供を孕む宮だから子宮。本来、性行で使う様な場所では無いが、使ってしまったのなら出来るだけ其処に負担を与えない様に使ってやるのが吉だろう。乳を鷲掴み、捏ね回しながら言う言葉では無いがそれでもだ。
 何かあってからでは責任取るのが難しいからこそのダイゴの言葉だが、シロナ本人はそんな事情はブッチ無視だ。何が何でもダイゴに勝ちたいシロナの女の執念と言う奴かも知れなかった。
「ううっ!? や、やるねえシロナ……っ」
「んふっ……ふふっ♪ そう、でしょ? 偶には勝たせなさいよ……んっ♪」
 普段から最中はダイゴ任せである事が多いシロナが積極的に腰を振って攻め立てると言うのはダイゴにとっては馴染みのない光景である。
 必になって快楽を共有して、気持ち良くしようとするシロナの熱意には思わず絆されそうになるダイゴ。装甲には自信がある彼であっても心に訴える様な真摯な攻撃には強いとは言えない。実際、彼の耐久ゲージは絶賛低下中だった。
 自分を褒める様な呻き混じりのダイゴの言葉にシロナは途端に嬉しくなった。今迄はダイゴ主体だったので自分が彼に快楽を与えていると言う実感は得難かったが、今回はそれを明確に感じている。
 シロナは快楽で思考を馬鹿に染めつつも頑張って腰を振った。このままダイゴを絶頂に導き、もっともっと褒めて欲しい。……そんな甘い夢を見ている様だった。
「え? だーめ♪」
「にゃっ!? ふみゃあああああああああああ――っ!!!」
 しかしながら、現実は常に非情だ。ダイゴがにっこり笑うと同時、突然意図しないタイミングで強い突き上げを喰らったシロナは再び猫っぽい声を上げて悶絶する。今しがた頭に描いた妄想も一瞬で掻き消えた。
「そう……ぅ、簡単に……っっ、譲りたくないんだなあ。……男としてさ」
「やあああぁああぁ!! 意地悪! イジワルぅ!! なんれ動くのようっ!!」
 弄りに徹すると言って置きながら、その言葉を守らないダイゴを非難する様に鳴きながら劈く声で喚くシロナ。イジワル過ぎるダイゴの腰の動きに強制的に絶頂させられた。
「おっと、失敬。つい、ね。もっと気張るから許してよ。……ね?」
「いやあああんんん!! ぐちゅんこぐちゅんこらめええええええっ!!!」
 男の安いプライドがそうさせた。そんな事言っても女であるシロナがそれを理解出来ると思わないダイゴは言葉の代わりに行動で示す事にした。
 天辺に昇ってこれ以上行き場がないのに更にダイゴが腰を打ち付けるものだから、シロナは天井に頭にぶつけている状態なっている。
 今の絶頂が下から迫る新たな絶頂に上塗りされる。幾らシロナでもこんな発狂譜面に身体と脳味噌が付いて行ける筈もなかった。
「くううう……っ! こりゃ長くないなあ……!」
「壊れ……あらひ壊れひゃうううんんん!! ゆるひて……もっ、ゆるひ……!」
 発狂状態に身を置いているのはダイゴも一緒。ゲージが輝きを失い、代わりに下腹部に溜まっているマグマが開放先を求めて暴れ出した。
 速度を徐々に増す串刺しストロークにとうとうシロナは許しを懇願する。涙と鼻水と涎を垂れ流し、嗄れそうな声で必に訴える。それでもシロナの女はダイゴの一物に尚も牙を突き立てて、一番深い部分で精を飲もうと咀嚼する事を止めない。
「おいおい、違うだろ。終わらせたいなら……んつっ! 僕を搾り取ってからだね」
「ひくっ!? っ――」
 思考と体がバラバラの非常にヤバイ状態にシロナは居るが、ダイゴだって止まる事は出来ない。男の絶頂が吐き出すモノである以上、それが成される迄止める気持ちはこれっぽちもない。許す許さないの問題でも無い。
 そうしていると、突然シロナの頭がカクンと落ちた。電源が落ちたみたいに一切の動作が無くなり、体をダイゴに預けて動かなくなった。

72 :
外に出かけてくる。相変わらず長くて済まない。続きは夕方に。

73 :
「え? なっ――」
 そいつが異常事態に感じられたダイゴも中断を余儀無くされた。
まさか、落ちた? そんな馬鹿な。異常興奮による脳貧血だろうか。現状が不明瞭なのでダイゴは下を向いて動かないシロナに呼び掛ける。
「シロナ?」
 声を掛けても反応は無い。仕方無しに頬をぺしぺしと張ってやるが、それでもシロナは沈黙したままだった。
 おいおい、本当に大丈夫なのか? 自分がそうした癖に反省している素振りは微塵も見せず、緊張感が感じられない言葉を脳内で呟く。
「――ハア」
 そうして一分程待っていると、シロナは突然顔を上げて辺りを見回す様に眺めてゆっくりと息を吐いた。
「あ、気付いた?」
「――」
 シロナに何が起きたのかダイゴには想像も付かないが、失神を通り越して本当に未知のエリアに渡っていたとしたら大変だ。後背座位では顔が見えないのでダイゴは無理矢理シロナの顔を後ろに向かせる。
 忘とした表情で瞳にも生気が無かったが、それも一瞬の事だった。ダイゴの顔を瞳に収めた途端、シロナは破顔し、嬉しそうにダイゴの裸の上半身に体を擦り付ける。
「ご、ごしゅりんしゃまあ……♪」
 ……こんな言葉を吐きながら。
「――あ?」
 今度はダイゴが混乱する番だった。その表情を見た時、最初別人だと思った。声色も纏う空気もダイゴの知っているシロナのそれではなかった。普通じゃない輝きを放っている彼女の金の瞳を見ているとそれに吸い寄せられる気分になってくる。
 男を誘う魔性が憑いている様な淫靡で扇情的な空気がダイゴの肌に不快感と共に纏わり付く。それでも、嬉しそうに笑うシロナの顔は本当に綺麗で、魅了されそうになっている自分に気付いてその誘惑を振り払う。
 ……やべ。本当に壊しちまったか? ……否、違う。きっと変なスイッチが入っただけだろう。ダイゴはそう思う事にした。思わなければ頭が変になりそうだった。
「ん〜♪」
「んぬっ!?」
 彼是考えているとシロナに先制攻撃を許してしまった。ぶちゅっと言う擬音と共に深く深くキスされた。
「んふぅ……っちゅ、ちゅう、くちゅ、ぷちゅ……あふうう……♪」
「〜〜っ!! ……っ! ぶはっ! はあ、はあ〜……な、何ぃ?」
 こんなに激しい奴も出来たのかとダイゴが驚く様なキスだった。ぐっちゃぐっちゃと舌で口腔を掻き回されて、生気や魂やらを吸い取る様に口を犯して来る。
 鼻で息をした所で酸素は全く足りず、視界が霞み始めて拙いと気付いたダイゴは何とかシロナから逃れる事が出来た。涎だらけの口元を拭う気すら起こらない。
 一体全体どうなってる? まさか欲動(イド)の発露と言う奴なのだろうか。ダイゴには判らない。
「ご主人様☆」
「ううっ」
 ダイゴの混乱は他所に、変な方向に覚醒したシロニャさんは本来の仕事を思い出した様に激しく腰を振り始める。先端の敏感な場所が子宮口のリングに引っ掛かり、痛みにも似た刺激を与えて来て、ダイゴが呻きを漏らした。
「シロニャのスケベ子宮……ひもちいいれふかぁ……?」
「えっ……ぁ、ああ。も、勿論。実はもう逝っちまいそうだよ」
 艶の乗った媚びた台詞を垂れ流し、シロナは実に活き活きとした顔でダイゴの竿を扱き立てた。
 これが普段のダイゴなら『媚びた女は好かん』(`・ω・´)キリッ……とか言う台詞を吐いてシロナを跳ね飛ばすんだろうが、今のダイゴはシロナの発する空気に飲まれているのか、自分の思っている事を素直に喋ってしまう。
「やあん……やぁん♪ 特濃チ○ポザーメンごっくんしたらシロニャ、赤ちゃん出来ちゃいましゅにゃんん……♪」
「えと、げふん! ……どうだろう? でも、君は飲みたいんだろう? 腰が動いてるぞ?」
 自分が妊娠した姿を想像して興奮しているのだろうか。顔を手で覆って恥かしそうにいやいやするシロナはどうみてもそれに嫌悪感を持っている風には見えない。それ所か目ににハートマークを浮かべている。
 少し落ち着いたダイゴは咳払いすると冷静に突っ込みを入れる。今迄生で何度と無く種付けを行ってきたが、妊娠の兆候すら確認されていない。
 そりゃあ、子宮に直に種付けを行えばそうなる確率が上がるのだろうが、少なくともダイゴはそう簡単にいかない事を理解している様だった。
 それよりも重要なのは上下左右複雑にグラインドしているシロナの腰の方で、もう子宮で咥え込んでいるにも関わらずそんな動きをするものだから幹の部分が痛みを訴えていた。

74 :
「はい♪ はいぃ♪ ご主人様の高貴なザーメンっ、シロニャの下賎なケダモノマ○コにお恵みくらひゃい……♪」
「そんな事言うなよ。君は僕の今のパートナーなんだからさ」
 シロナは自分を貶す言葉を吐いて、体を熱くしている様だ。『残念な美人』……今のシロナを表現するにはこれ以上ピッタリな言葉はダイゴの頭に思い浮かばない。
(……こいつ、Mか?)
 少しだけシロナの本性を見た気がしたダイゴだったが、別に詰ってやる気は起こらない。
 寧ろ、そんな風に自分を卑下して欲しくないダイゴは逆に優しい言葉を送ってやった。
 そんなのはSに成り切れない屁垂れの言い訳だと考える奴も居るかもだが、シロナ相手に酷い言葉を掛けたくないと言うダイゴのなりの優しさでもある。甘さ、と言っても良いかも知れない。
「ありっ、ありがとうっ、ごらいまふっ! シロニャ感激してまた逝っぢゃいまっず!!」
「うおおっと!? ……くっあ」
 だが実際、その言葉が嬉しかったのか、シロナは絶頂を誘発され、涙を零しながら仰け反ってダイゴのジュニアを再起不能にする様な強さで抱き締める。
 もうこの時点でダイゴのゲージは空っぽになり、閉店迄の秒読みが開始された。
「もっ、無理だ。注ぐからな? で、でもその前に……」
「ふえぇ? ……あは♪」
 このまま果てるのは勿体無い。今回はやりたい事を最後迄やると誓ったダイゴは尻の穴に力を込め、唇を噛んで僅かの延命を図る。
 絶頂後の脱力状態で半分放心していたシロナはダイゴがまた何処かから引張ってきた最後の小道具を見て愉快そうに笑った。
「一回、やってみたかったんだよな。今日の記念って事で、記録しておこう」
「写真……ご主人様とあたしの愛の証を残すんですね♪」
 ダイゴが手にしているのはデジカメだった。
 ダイゴのポケナビ、シロナのポケッチに写真機能は付いていない。まあ、若し付いていたとしても、どうせならちゃんとしたカメラで思い出は残したいモノだろう。例えそれがハメ撮りと言う生臭いモノだとしても。
 こう言う場面に於いて、彼の物持ちの良さと周到さは本当に侮れないモノだった。
「簡単に言えば。んじゃ、往くぜっ!」
「あっ! ああっ♪ ご主人さまああああんんんっ!!」
 もう話している時間すら惜しかった。蟠る欲望を解放する為にシロナに悪いとは思いつつも乱暴に腰を叩き付けて、射精へのボルテージを高める。その激しい腰使いにダイゴの雄々しさを垣間見させられたシロナは歓喜の表情で咽び泣いた。
「シロナ……っ! 良いかい?」
「はいっ! 来てぇ!! シロニャにいっぱいびゅーびゅーしれぇ!!!」
 顔と口には出さないがダイゴも結構な苦境に立っている。もう自分とシロナの境が曖昧で、一物の先端部はシロナに食まれて感覚が殆ど無かった。
 だが、その苦労も此処迄だとシロナに種付け宣言すると、シロナもとっくに準備完了と言った具合に叫び返した。
「それじゃあ遠慮無くっ!」
「シロニャを腹ボテのブニャットにしてええええっっ!!!!」
 これだけ頑張ったのだから子宮を直接耕すのも吝かじゃない。若し、本当に妊娠したのなら覚悟を決めれば良い。
 ダイゴはシロナに射精したかったし、シロナだってダイゴに射精して欲しかった。二人は自分の欲望に素直に従う事にした。
「つお! ……ぅ、く……ぐっ」
「はにゃあああああああああんんんんんんんっっっ――――!!!!!!」
――ぶびゅっ! びちゃびちゃ……
ダイゴのアイアンヘッド! 急所に当たった! シロナは小便漏らして倒れた!
「は、あっ、っ! し、シロナ! さあ!」
「あー……あはあ……ぁ、あへえ……☆」
 尿道を伝うダイゴの白い血液がシロナの最奥へ灼熱感と共に溜まっていく。子種を撒き散らしながらデジカメを構えて、姿見に映る自分達をフレームイン。
 絶頂の快楽に意識を半分落としながらも、シロナは何とか自分の姿を綺麗に残したいと思ったのだろう。黄金水を迸らせながら、両手でピースし、だらしなく弛緩した表情を何とか笑顔に変える。そうして、ダイゴはシャッターを切った。

75 :
「ふーっ、ふうー……ふっ……っ、どうかな」
「ひれいに、撮れてまふかあ?」
 蟠っていた相当量の溶岩を放出し切ったダイゴは荒い息を吐き、疲労を顔に滲ませる。シロナの子宮内膜に亀頭を使って直接精液を塗り込みながら、たった今撮った写真を確認する。シロナも出来が気になるのかフラフラしながらデジカメに顔を寄せる。
「……ひゅう。ちょっと表情硬いけど、これはこれで……(ごくり)」
 映し出された写真を見て生唾を飲む。
 意図せずに撮れてしまった決定的瞬間。俗に言うアヘ顔ダブルピース+放尿シーン。
 しかもそれをやってるのがシロナ程の美人だと言うのだから、胸も下半身も熱くなって当然だ。アヘ顔と言うより、寧ろトロ顔と言っても良いそのシロナの表情にはダイゴも思わず目が眩みそうだった。
「あ、ぁ……もう、らめぇ……」
「あ、また!?」
 ダイゴはその写真をシロナに見せようとしたが、その直前で彼女は力尽きた。先程と同様に力を無くして、ダイゴの一物を腹に収めたままベッドに倒れそうになるが、ダイゴが体を支えてやったのでそれは回避された。
「馬鹿に……あらひのオマ○ゴ……馬鹿にらっちゃっらあ……♪」
「お、おい!? しっかり!」
 うわ言の様に呟いてシロナが落ちた。再び向こう側に渡ってしまったのだろう。今度こそ正気に戻って欲しいダイゴは反応を返さないシロナの肩を揺さ振り続けた。
「――」
「シロナ? 生きてるか?」
 今度は二分位掛かったろうか。戻って来たシロナはむっくりと顔を上げて、今度は自分で顔をダイゴの方へ向ける。心配そうに覗き込むダイゴの顔を見た瞬間、シロナの目が見開かれる。
「…………っ! くぬううううう〜〜っ!!!」
 悔しげな唸り声を上げた次の瞬間。
――ガブッ
 シロナは支えるダイゴの二の腕に噛み付いた。
「あ痛ててててっ!!? 噛むな! 噛むなってば!!」
 血が出る様な事は無かったが、かなりの強さで噛み付かれた。そいつが痛かったダイゴはシロナを遠ざけようとするが、未だに下半身で繋がっているのでそれは無理だった。
「アンタ……あたしに何したのよ……? あたしがあんな事口走る訳が……!」
 噛み付き攻撃の後に待っていたのは恨み言だった。睨み付ける金色の視線が矢の様に刺さって来るが、そんな事を言われてもダイゴにはどうしようも無かった。
「ええぇ〜〜!? それって僕の所為!? いや、どう考えても台本の所為だろ! 作者に文句を言ってくれよ!」
「うっさい!! こんな辱めをよくも……アンタ、すわ! してあたしも……!」
 メタ臭い発言をして難を逃れようと試みるも火が点いた怒りを鎮火するには至らない。心中をほのめかす発言をしている辺り、今のシロナは本気なのかも知れない。

76 :
「……出来るのかい? 唯の小娘に過ぎない君に」
「そっ! ……そんなのはやってみなくちゃさ」
 だが、生きるかぬかの瀬戸際に追いやられてダイゴだって黙っている訳にはいかない。頭から冷水を被った様に思考を冷静に研ぎ澄ますと、凍て付く視線を投げ付けながらシロナに問い掛ける。
 急にクールダウンしたダイゴに怖気付いた様にシロナの言葉の後半は尻すぼみだった。
「無理だな。って言うか、本当に心中して良いの? 君の好きなえっちな事が出来なくなっちゃうよ?」
「!! そ、それは、困るわね//////」
 その言葉を聞いて、シロナには絶対無理だとダイゴは確信した。もう脅威に感じる必要は無いので今のシロナにとって切実な部分を問い質すとシロナは顔を赤くして小さく呟いた。
「はいはい。これでも見て機嫌直してよ。結構綺麗に撮れてるよ?」
「〜〜////// さっさと消せ馬鹿ああああああっ//////」
 ご機嫌取りにならないと知りながら、さっきの写真をシロナに見せるダイゴはかなり性格が悪い。
 自分の恥かしい姿を目の当たりにしたシロナは両目に涙を溜めて大声で叫ぶ。しかし、ダイゴにそんなものが通じる筈も無かった。
「厭だ。こいつは僕の家宝にするって今決めたよ」
「ふ、ふええええええんんっ!! もうお嫁に行けない〜〜!! 全部アンタの所為よおう〜〜!! ダイゴの阿呆〜〜っ!!!」
 写真に保護を掛けながら口走った台詞にシロナは憚らずにわんわんと泣き始める。
 尻を採掘され、子宮に竿を突っ込まれて、アヘっている自分の姿を写真に撮られた。嫁に行けないと言うシロナの台詞も納得の鬼畜的所業。それを全部やったダイゴは極悪人の鑑だった。
「煩いよ。元はと言えば君が誘って来た癖にさ」
「うっさいうっさい!! アンタ責任取ってあたしと結婚しなさいよね!?」
 耳にやかましいシロナの泣き声に流石のダイゴも付き合い切れなくなって来た。全てを自分の所為にして欲しくないダイゴは眼輪筋をヒクヒクさせて努めて落ち着いた口調で話すが、シロナには全く効果が無い。
 仕舞いにはとんでもない台詞が飛び出すが、それを受け取る余裕は残念ながらダイゴには無い。
――ピキッ
「〜〜〜〜っだあああああ!! これ以上駄々捏ねんじゃねよ雌猫ぉっ!!!」
「はううううんんん!!?」
 困った時のダークサイド解放。シロナを無理矢理黙らせる為に刺さっていた一物を突き上げて子宮底をぶっ叩いてやった。それには流石のシロナも堪らず、喘ぎ声で言葉を中断するしかなかった。
「今日の俺は絶好調だぜ? 黙らねえってんなら、台本無視してハメ倒してやる」
「ちょっ! ……マヂで?」
 シロナの顎を掴んで、鼻と鼻がぶつかる至近距離で恐ろしげな表情と声色でダイゴが囁いた。台本云々には突っ込まないが、未だ続きがあるのかと若干の期待を込めてシロナは聞き返した。
「……フッ」
「・・・」
 ダイゴは答えず、鼻で笑っただけだった。
『やだ……きゅんと来ちゃったわ』
 その仕草がどうしてか、やたら男前に映ってシロナは胸と子宮をときめかせた。
「…………優しく、してくれるなら//////」
「はあ?」 
 我慢しても良い事は無いと気付いたシロナは条件を提示する。これ以上泣き言は言わないから、優しく抱いてくれと懇願する様な視線でダイゴを見た。
 その思っても見ないシロナの言葉にダイゴは阿呆みたいに口を開けてポカンとしていた。
「だから……続き……」
「…………何だかんだで君も楽しんでるんだな。……良いよ。おいで」
 もじもじとしたいじらしいシロナの態度にダイゴはダークサイドモードを強制終了させられた。流石にこんなシロナを組み伏して無理矢理犯すみたいな抱き方をするのはダイゴ自身も嫌だったからだ
 今度は出来るだけ、普通の恋人同士の様に紳士的に頑張ろうとダイゴは決めた様だった。
「うん。優しく、可愛がってね……?」
 シロナによる涙を溜めた上目遣いでの可愛らしいおねだりの構図。
「っ! ……そう、だね」
 ダイゴは不覚にもドキッとさせられた。それが下火なっていた性欲に油を注ぐみたいで、ダイゴの下半身に血が一気に巡り痛みを感じる程だった。
『堪らねえZE!!』
 心の中でそう叫びつつ、血涙流しながらガッツポーズ。石と戯れるのも悪くは無いが、所詮は無機物。今はそれよりも恋人であるシロナと遊びたい気分で一杯のダイゴだった。

77 :
――数時間後
「ふう〜〜! 良く働いたなあ、今日は」
 額に浮かぶ汗を拭い、実にさわやかな笑顔を湛えるダイゴ。その白い歯が室内灯に照らされてキラリと光る。
「で、未だするかい? もう一寸なら余裕あるけど」
「・・・」
 情事のパートナーであるシロナに呼び掛ける。彼女は割れ目から注がれた精液(凡そ四発分)を溢れさせ、ベッドに沈んだまま一言も答えない。
「シロナ〜? ……ありゃ?」
「・・・」
 異常事態が頻発していたが流石にダイゴもおかしいと思った。急いで確認するとシロナは目を瞑った状態で完全に意識を失っていた。一応、息はしていて胸が上下に動いてはいるがそれだけだ。
 返事が無い。只の屍の様だ。
 両方の頬に刻まれた乾かない涙の痕が彼女の味わった快楽地獄を象徴するみたいでとても痛々しかった。
「…………(汗)」
 子宮を苛め過ぎた結果がこれだよ! 
 別に壊れる程激しく責め立てた訳じゃない。努めて冷静、且つ丁寧慎重に扱った積もりだ。でも、犯っている最中、何度か腕をタップされた記憶があるような無い様な……?
 ダイゴは顔に冷や汗を張り付かせてどうする冪か考える。だが、現状をどうにかする妙案は浮かばなかった。
「ま、いっか」
 ダイゴはそれ以上考えない事に決めると後始末を開始する。シーツを引っぺがして、シロナの小便で汚れた床を拭き、使用した小道具を綺麗にして元の場所に戻した。
 そして、疲れた体へのカンフル剤の様に冷蔵庫のビール缶を取り出し、それを飲むとさっさと寝てしまう事にした。その間、シロナは目覚めなかった。
――翌日 ダイゴ宅 居間
「「・・・」」
 無言で二人が向き合っている。ダイゴは床に正座。シロナは椅子に座って冷ややかな目でダイゴの頭を見下ろしている。
「で、さ」
「ハイ。ナンデショウ」
 ダイゴは恐ろしくてシロナの顔が見れなかった。ロボット宜しく機械的な受け答えでシロナの言葉をやり過ごそうとした。
「凄くさ、腰が痛いのよね」
「それは……僕の所為、かな。……あはは」
 身に覚えが有り過ぎる! 愛想笑いでシロナの追求を逃れようとするも、次の瞬間には逆に追い詰められる。
「何笑ってんのよ」
「……スイマセン」
 ほら、やっぱり来たよ。逃亡を許さないシロナの絶対零度の視線で全ての動きは停止する。事の渦中に居るダイゴは甘んじてそれを受けるしか無かった。
「あたしにはアンタ以外に原因思い付かないけど? ……って言うか、途中でこれは拙いって思わなかった訳? 何度もタップした筈だけど」
「それは知ってたけど、続ける冪かなって」
 で、シロナ様のお小言。要約すれば、もうちょっと気を配れなかったのかって事らしい。それに対するダイゴさんの受け答えは以上。相手が悦んでいたので中断は出来なかった。
「「・・・」」
 金色と銀色の視線が交差する。どちらが悪いのか、正しいのか。シロナもダイゴも睨み合いを続けている裡に馬鹿らしくなって来た。

78 :
「ま、良いわ」
「え」
 先に折れたのはシロナの方だった。意外な展開にダイゴも母音の一つを喉に通過させる。
「だって、あたしの為に頑張ってくれたんでしょ? 愛そうとしての空回りなら、それは許せるかなって、さ//////」
「……ほっ」
 あれだけセクシャルに生臭い展開を経験しながら随分と寛大な処置だ。惚れた女の弱み? ……否、違う。ダイゴの性格や癖をある程度理解した上での選択だろう。
 それに安心した様に溜め息を吐くダイゴ。……しかし。
「でも!」
「う」
 ビシッと鼻先に人差し指を突き付けられて再びダイゴは迷妄に突き落とされた。
 ……じゃあどないせえちゅうねん。
「無茶した事に変わり無いんだから、今日は一日あたしの言う事聞きなさいよね」
「そりゃあ仕方無いけど……腹を切れとか首を括れとかは流石に」
 それを言われちゃあ何も言えない。ダイゴは素直にシロナの言葉に従う事にするが、限度はある。これ以外に誰かを始末しろとか、財布の限度を大きく超えた何かを寄越せとか言われても困る。今迄の恨み辛みが積み重なれば、それは在り得る事だった。
「馬鹿! あたしがそんな酷い事ダイゴに言う訳無いでしょうに!」
「まあ、そうだね。……じゃあ、僕は何をすれば?」
 が、シロナは些か優し過ぎた。そんな無茶な要求は最初からする気すらない。シロナからのダイゴへの要求は実に簡単な事だった。
「そんなの簡単よ。……デートに行こっ! ダーリン☆」
「ええ〜? 腰、痛いんじゃなかったの?」
 がばちょ。正座状態のダイゴの顔にシロナが自分の重たいおっぱいを密着させ、その呼吸を阻害するみたいに抱き付く。
 こう言う展開には慣れっこなので、ダイゴは隙間を見つけて気道を確保すると冷静にそう言った。
「気合で耐える。駄目ならダーリンに姫抱っこして貰うから平気」
「……恥かしくない? それ」
 腰が痛い事を承知でそれを強請るのはどう言う神経なんだろうか。その皺寄せが自分に回る事は容易に想像出来る。だが、シロナが自分の道を譲るとは到底思えなかった。
「あたしは平気。ホウエンの人間じゃないから」
「僕には羞恥プレイな内容だな、そいつは」
 ……まあ、そうなったらなったで一興だ。やってやろうじゃねえか、糞っ垂れ。
「ほらほら。喋ってないで連れて行く。勿論、ダイゴがリードするんだからね?」
「判ったよ。はあ、判った。仰せの侭に、お嬢さん」
「宜しい♪」
 ダイゴは抗う事を諦めた。自分の腰の強度を信じてダイゴはシロナの申し出に頷く。すると、シロナは勝ち誇る様に顔に満面の笑みを浮かべた。
――で、家から出て数歩の所
「――たわばっ!?」
「!」
――ピキーン!
 秘孔を突かれた様な声を上げてシロナが直立不動のまま固まる。何が起こったのか、ダイゴは知りたくなかった。
「こ、腰が……ぁ」
 ああ、やっぱり。随分と我侭なボディをお持ちでらっしゃる。ダイゴはさっさと帰りたい気分に駆られた。
「早速、僕の出番な訳?」
「いや未だま……くっ、痛くて、動けないわ……うう」
 逢引を強請ったのはシロナの筈なのにこれでは先行きが思いやられる。
幸いにして主導権はダイゴにあるので、彼は彼女を注文通りに抱き上げながら、遠慮無くそいつに肖らせて貰う事にする。
「はあ〜。……近場で良いよね、今日は」
 面倒臭い女だと心で悪態を吐きつつ、それでもやっぱりシロナを可愛いと思っている辺り、ダイゴは微妙に素直じゃない。そうじゃなかったら、例え金を詰まれてもダイゴはこんな真似はしない。
「くううぅ……あたしの腰を撃沈した暴れん棒将軍が憎いぃ……!」
「悪うござんした、へいへい」
そして、シロナもダイゴのそんな部分が好きなのだろう。
 せめてもの仕返しにダイゴへの恨み言を口走ってみるが、お姫様抱っこされている状態では唯の惚気にしか聞こえなかった。

79 :
これはもうポケモンの話じゃないな…。今回はこれにて失礼。

80 :
>>79
ほんとお疲れ様でした。

81 :
すげえ…
もう勝てる気がせえへん

82 :
Z:通い夫のススメ
――ミナモシティ デパート 屋外喫煙所
「……ってな感じかな? あたしの話は♪」
「・・・」
 やたらと嬉しそう顔を綻ばせるシロナ。惚気るつもりは最初無かったが、話している裡にどうでも良くなったのだろう。そいつを聞かせられたハルカは砂でも吐きそうな気分になりながらボリボリと鼻頭を指で掻いた。
「? ハルカちゃん? 何よ?」
「えーっと、その……」
 ハルカの難しい表情が気になったシロナが尋ねる。ハルカは唯の惚気話だけならば未だ許容出来たがそれで済まない話も語られた事に困惑している。その辺りは自重して欲しかったのだ。
「周りには誰も居ないわ。それに聞きたいって言ったのは貴女よ?」
「そうですけど……」
 ハルカとしては聞いてて壁を殴りたくなった位には面白かったが、誰が聞き耳を立てているか判らない状況でそれを言うのは迂闊過ぎるとも思った。
 だが、シロナはそんな事を気にしている素振りすらなかった。随分と男らしい態度に呆れながらも感心していると、自分の顔に水滴が落ちてきた事に気付いて空を見上げた。
「……降って来たわね」
「ええ」
 厚い雲が空を覆っていて、遠くからはゴロゴロと雷鳴が轟く音が聞こえていた。
 暦は八月。今の季節には頻繁にある夕立だった。
「取り合えず、避難しますか」
「ですね」
 雨曝しになるのは堪らないので、女郎二匹は戦利品を急いで抱えると建物の中に逃げ込んだ。
――同刻 ダイゴ宅 居間
 繰り返す過ちにこの身を委ねたとしても〜♪
 ダイゴのナビが鳴っている。着信音は判る人には判る曲。ダイゴは手にしていた缶ビールを置くと、直ぐにナビに手を伸ばし、電話に出る。
――ピッ
「あいあい。……ああ。こっち? 土砂降りだけど」
 通話しながらトクサネの空模様を実況するダイゴ。天気はあいにくの雨。先程から降り始めた雨は雷を伴って弱まる気配を見せない。
「了解。もっとゆっくりして来ても良いよ?」
 相手方の天気も同様に雨らしい。帰還には時間が掛かると告げられてダイゴはこっちの事は気にするなと相方に伝える。
「……え? 厭だって? 判った、健闘を祈るよ」
 が、向こうはそう思ってはいないらしい。雨脚が弱まり次第、何とか帰る旨を告げて向こうは電話を切った。
――ピッ ツー、ツー……
「奥さん(仮)ですか?」
「ああ。雨にやられて難儀してるってさ」
 通話を聞いていたユウキは話していた相手が誰か判っている。一応、語尾に(仮)を付けては見たが、ダイゴは全く気にしている様子は無い。
『シロナは僕の嫁』
 ……とか本気で思っているのだろうか? だとしたら大した益荒男だ。それだけ、積み重ねてきた歴史や想いに自信があるに違いない。ユウキは感服した。
「……で、何処迄話したっけ」
「シロナさんが夏に来て、その途中迄です」
 ユウキの考えを見通した様な表情でダイゴが聞いてくる。何時の間にやらこの男の話に夢中になっている自分を悔しく思いつつも、ユウキは言った。
「ああ、そうだった。……じゃあ、どうする? 未だ聞く?」
「知ってる癖に。……お願いしますよ」
 変に焦らすのは野暮のやる事だと非難めいた視線で続きをせがむ。此処迄来たなら時間の許す限り聞いてやろうとユウキは思った。
「だろうね」
 最初からそんな反応は予想していたのだろう。未だ残っていた自分の缶ビールの中身を一息に呷り、ダイゴが続きを語り出す
 結末は知ってた。別れが来るってのは最初からお互い承知だった筈なのに。
 でも、いざその時が来ればお互いにそいつを先延ばしにする。無駄だって判っててもね。
 ……でも、重要だったのはその後さ。
 彼女が泣いてるって判って、居ても立っても居られなくなったよ。
 僕の柄じゃ無かったけどさ。

83 :
 暦の上で夏はとうに終り、木々の葉が色を変える季節がやって来た。
 九月の下旬。別れを翌日に控えながら、二人は裸で抱き合っていた。
――ダイゴ宅 寝室
「「・・・」」
 言葉が出尽くした様に、お互いの喉を通過するモノは無かった。
 ……別れが近付く度、零れる涙も拭う涙も量を増していく。そんな中にあって突然シロナは泣く事を止めた。一体どんな心境の変化だとダイゴは知りたい気分に駆られたが、興味本位で聞く事は憚られた。
 シロナの気持ちを考えれば軽々しくは訊けないし、それ以前にダイゴも同じ気持ちを抱いていたからだ。
「どうやったら一緒に暮らせるんだろうね」
「……君はそうしたいの?」
 ふとそんな事を呟くシロナにダイゴが訊く。期間限定の半同棲生活。熱いのは最初だけで飽きが来れば自然と冷めるものと踏んでいたダイゴだったが、シロナはそう感じてはいなかったらしい。
「やっぱ、今の大学辞めて、こっちに編入するっきゃ無いかな」
「止めときなよ、そいつはさ」
 本気でそう考えているのならば非常に厄介な事だ。お互いの生活がそれぞれ別の土地にあるのだから、どうしたって別れなければならない時は来る。
「どうして? やっぱ、迷惑」
「それ以前だよ。君は自分の意思で今の大学選んだんだろ? なら、最後迄横道逸れずに貫きなよ」
 ダイゴの持つ固い意志だ。
 今の状態を維持する為に、何もかも捨てるのは間違いだし、捨てたら戻らない物も世の中多くある。シロナにそんな選択をして欲しくないダイゴは優しい口調で宥める様に囁いた。
「……実にアンタらしいわね」
「っ」
 帰って来たのは感情が無い、低い声色。思わずダイゴが言葉に詰まる。何も滲まない筈のシロナの声だったが、ダイゴはその中に失望の感情を見た気がした。
「それが辛いから言ってるのに、そう言われちゃ頑張らざるを得ないわよね。……あはは」
「シロ、ナ」
 乾いた笑いがダイゴの耳に届いた。それが耳に残るみたいで一刻も早く掻き消したかったが、ダイゴにはそれが出来ない。戸惑いながら彼女の名を呼ぶのが精一杯だった。
「たったそれだけの事なのに、あたしには苦し過ぎるよ……」
「……っ」
 その声を通して、シロナの精神的な脆さがダイゴには具に見える様だった。この微温湯の生活を知った後にまた独りに戻るのは寂し過ぎる。だから、一緒に居たいと。
 その手を掴んで束縛し、ダラダラと肉欲のみの生活を過ごせるのならば、直ぐにでもそうする所だ。だが、そんな真似は餓鬼の我侭と変わらないとダイゴは気付いている。
 人並みに生きたいのなら、常識やら自制やら、遵守する物が多過ぎる。群れるのが嫌ならばそこからはみ出せば良いだけの話だが、そんな勇気も無い。
「僕だって……俺だって……っ……」
 だから、ダイゴは誰にも聞こえない様にごちる。
 離れたくない気持ちだけは一緒だった。
――翌日 カナズミ空港 待合ゲート
「此処迄で良いわ。有難うね。送ってくれて」
「……ああ」
 一夜明けて、別れの日がやって来た。ダイゴはエアームドを使って、シロナを空港迄送ってやった。もう何回か通過した事だからと、お互いに普通の会話に始終しようとする。
「さてっと、次に逢えるのは来年かしらね」
 考える程に寂しさが募って動けなくなりそうだった。だから、シロナは心に蓋をする様に言葉を紡いだ。
「それ迄、あたしが生きてれば良いけどね、あはは」
 そうやって強がって、無理に笑ってみるがそう簡単に根付いた気持ちは取り除けない。だが、止まる事は許されないので、シロナは作り笑いを浮かべてダイゴに背を向ける。
「じゃあ、そろそろ行くね。また逢「待てよシロナ」……え?」
 ゲートを潜ろうと一歩踏み出した所でダイゴの声が響いて、それはシロナを振り向かせた。

84 :
「流石にさ、そんな状態の君を送り出す訳にはいかないね」
「な、何言ってるのよ。あたしがどうかした?」
 真剣な顔付きと声色だった。だが、シロナには呼び止められる理由が浮かばなかったので困った様にダイゴの顔色を伺う。
「……泣いてるじゃないか」
「え――」
 そうして語られた言葉にシロナは自分の指を頬に宛がって、涙の筋が伝っている事に漸く気付いた様だった。
「や、やだ! ……ぁ」
「無理しないでよ。……いや、違うな。我慢しないでくれよ」
 慌ててそれを拭おうとしたシロナはダイゴに両腕で抱き締められた。胸から空気が抜けるような強い抱擁。ダイゴは辛そうな顔で搾り出すみたいに言う。
「何、言って」
「とぼけんな! 逢えない事が泣く程辛いんだろ!? 僕だって……出来るならさ」
 言っている意味が解らなかったシロナはそう言うが、その言葉が気持ちをはぐらかしている様にダイゴには感じられたらしい。だからなのか、ダイゴは真摯な気持ちをぶつける様に叫び、また呟いた。
「! ダイ、ゴ……?」
「でも、現実はそういかないから。だから、辛いなら言ってくれ。何を犠牲にしても飛んで行くから。素直に頼ってくれよ」
 ダイゴの様子がさも意外に映ったのか、シロナは少し戸惑っていた。中々心の内を晒さない彼がそんな事を言うのは恋人にも馴染みの無い事だった。
 そして、ダイゴは止まらない。胸の熱さを相手方に伝えようと必だった。
「――」
 そんな事を言われて嬉しくない訳が無い。シロナの涙が量を増す。
「で、でも、そんな迷惑を、あなたに」
 だが、彼女はそれを振り払う様に呟く。縋るのは簡単だが、それに甘えたくない。これ以上面倒臭い女だと思われたくないシロナの最後の意地だ。
「! 馬鹿が!」
「っ」
 だが、そんな言葉でこの男の意志を曲げる事は叶わない。鼻先で怒鳴られたシロナは身体を小さく震わせる。
「迷惑とか言うな! ……他ならぬ俺がそうしたいって言ってんだ。素直に頷いとけ」
「ダイゴ……!」
 その後に待っていたのは優しい抱擁。もうこれ以上堪えるのは無理だと悟ったシロナは白旗を掲げ、ダイゴの肩に顔を埋めて啜り泣きを始めた。
「ほんと、格好悪いなああたし。アンタの前じゃ、どうにも女々しくなっちゃって」
「女の子だろ? それが悪いとは思わないけど?」
 もう少し強い涙腺が欲しかったと願ってみるも、生まれ付いての泣き虫はどうしようもない。ダイゴに元気を分けて貰った気がするシロナは泣きながらも、何とか笑う事が出来た。
 そして、ダイゴはそんなシロナが少しだけ羨ましい。泣きたい時に素直に泣ける様な情緒はとっくの昔に彼の中ではに絶えていたからだ。
「ありがと。でも、もう少しこっちで足掻いてみる事にするわ。どうしても無理ならその時は、ね?」
「ああ。待ってるよ」
 やっぱり、この男には敵わない。シロナはそう理解出来たのだろう。涙を拭って身体を離すと、シロナはそう言って改めて笑った。
 最後位はやっぱり笑って別れたいと言う気持ちはダイゴも持っていた。何時もの作り笑いじゃない、自然な笑顔を湛えてダイゴは頷いた。
――ちゅっ
「またね! ダーリン!」
「応! またなハニー!」
 この度の逢瀬はこれにて終了。最後に一度だけ軽い口付けを交わすと、シロナはゲートを潜る。ダイゴはその背中を消える迄じっと見ていた。
――数ヵ月後
 季節は師走の上旬。新たな年の幕開けに向けて町行く人々は例外無く皆忙しそうだった。そして、それはダイゴもまた変わらない。
 そんなある日、彼は不意に呼び出しを喰らった。呼び出した人間はオダマキ博士。ホウエン随一と呼ばれるポケモン研究家。
 デボンコーポレーションが多額の出資を行っている事は知っていたが、ダイゴ自身、博士との接点は多くない。二年前の化石復元装置の折に少し顔を合わせた程度だった。
 だが、会いたいと言っている相手を無碍にする程ダイゴも冷酷では無い。空は晴れ渡り、放射冷却で吐く息が凍る程寒い日だったが、それでもダイゴは早い時間からホウエンに於ける辺境の地、ミシロタウンを訪れていた。

85 :
――ミシロタウン オダマキ研究所
「やあやあ、ダイゴ君。態々ご足労申し訳無い」
「い、いえ、それは構わないのですが」
 出迎えてくれた博士は冬の寒い時期だと言うのにハーフパンツと半袖の姿だった。高校生位になる娘さんがいると言う話だが、随分と若い印象を抱かせてくれる。
 しかし、どうもそれが年齢に対して落ち着きがない印象をも与えてきたのでダイゴは苦笑した。
「ひょっとして緊張してるかい? そんな顔じゃ福が逃げる。もっとリラックスして」
「はあ」
 緊張していると勘違いした博士は肩の力を抜く様にダイゴに訴えるが、その原因が自分にあるとは思っていないらしい。無論、ダイゴは緊張などしていないので適当に話を受け流す。
「こうして会うのも久し振りだね。……どうかね? 大学の研究の方は」
「え、と……ぼちぼち、ですか」
 とっとと本題に入って欲しいが今度は世間話が博士の口から飛び出す。今のダイゴは鉱物学と材質構造学を学んでいて、まあ順調に研究を重ねているが話が長くなるので詳細は話したくなかった。
「? 何か要領を得ないね。ひょっとしてトラブルでも?」
「いや別にそんな。……そ、それよりも、一体何の用事で僕を? 僕としては呼び出される理由がとんと浮かばないんですけど」
「随分せっかちだな、君は。そんなんじゃ彼女に嫌われちゃうよ?」
「・・・」
 好い加減、察して欲しいダイゴはとうとう自分から呼び出された訳を訊いてみる。
 しかし、博士はダイゴの心情を解する素振りすら見せない。マイペースなのは良いがそれに他人を巻き込まないで欲しいダイゴはこうも思った。
 ……余計なお世話だ。尤も、流石に口には出さなかったが。
「おっ、と。そんな怖い顔されたこっちとしても困るなあ」
 どうやら顔に出てしまったらしい。慌ててダイゴは顔をポーカーフェイスに戻した。
「白状すると、君に会いたいって人が居てね。君を呼んだのはその人なんだよ」
「……博士以外で、ですか」
「そう。会えばそれが誰か判ると思うよ。早速、準備は良いかな?」
「――承知」
 話しを聞いてみると、博士では無い誰かが面会を希望したとの事。しかも、博士はその相手の名前を勿体付ける様に言わない。
 何だか面倒臭い話になりそうな予感を感じつつも、ダイゴは博士に頷き、研究所の応接室に案内された。
――オダマキ研究所 応接室
「! あな、たは!」
 其処で待っていた人物にダイゴは少し面食らう。全く予想もしない相手だったのだ。
「……君がダイゴ君かね?」
「は、はい。ツワブキ=ダイゴです」
「うむ。儂はナナカマド。弟子のシロナが世話になっている」
 それはシロナの師匠だった。話は聞いていたが実際に会うのは初めて。聞いていた以上の強面にダイゴも少しだけうろたえ、身構えてしまった。
「オダマキ博士……これは」
「驚いたろ? オーキド博士を超えるニッポンのポケモン研究会のゴッドファーザーが君に面会を求めたんだ。……で、一体何をやらかしたんだい?」
 ホームグランドのシンオウ以外でも大きな権力を持つこの御仁が何故自分に接触を求めたのか、ダイゴには解らない。
「やらかしたって……身に覚えが無いですけど」
「え、それは……それは何とも詰まらないないな」
「おい……!」
 オダマキ博士はダイゴが何か悪さをしたのだと勝手に思っていた様だ。しかし、ダイゴには当然記憶に無い事であり、それを正直に告げるとオダマキ博士は実に残念そうな顔した。
 ……ふざけんなよ、おっさん。またダイゴの顔が怖い顔に変化しそうだった。
「ゴホン! オダマキ君、若人を弄るのもその辺にしたまえ」
「おっと。失礼しました」
 話が進まないと判断したナナカマド博士は咳払いしてオダマキ博士を諌めると、オダマキ博士は悪びれる様子も無くそう言った。

86 :
「それでだ、ダイゴ君。君を呼んだのは他でもない」
「はあ」
 漸く本題に入った。何かもう此処に至るだけで疲れたダイゴは気の無い返事で答える。
「これをシロナに届けてやって欲しい」
「は? な、何故僕が? って言うか、シロナ?」
 ナナカマド博士は厳重に包装された小さな箱を取り出してダイゴにそう告げる。そんなのは冗談じゃないときっぱり断りたかったが、自分の恋人の名を聞いて少し心が揺れた。
「適任者が君しか居ないからだ」
「……どうにも、解せません。宅配じゃ駄目なんですか? 態々僕に名指しする意味も判りませんよ」
「中身が業者に預けるのが憚られる貴重な物だと言う事だ。それなら、信用の置ける人間に任せたいのが人の性ではないかね?」
 事情がどうにも不明瞭だ。幾ら届ける先がシロナだと言っても、理由も聞かされずにそれを受ける程ダイゴは御人好しじゃない。ナナカマド博士の言葉も説得力に欠けていた。
「信用? ……ハッ。初対面の僕と貴方に信頼関係も糞も無いでしょう。適任者は探せば幾らでも居る筈。他を当たって下さい。何ならご自身で直接……」
「それは無理だ。この後はイッシュに飛ばねばならないのでな」
「それは僕には関わり無い話ですね」
 本来北に居る筈のこの男が南にいる事自体がレアケースだ。自分で動けない理由が研究で忙しいからと言うのは理解出来る。しかし、信用が置ける人間……と言う言葉は些か荷物を届けさせる理由としては苦しい。
 何か裏があるのは間違い無い。そう思うからこそダイゴは素直に頷かない。
「むう、中々食い下がるな君は」
「貴方の目からは敵意は感じられない。でも、何かを隠している気がする。進んで腹を割って話したいとは思いませんよ」
 ナナカマド博士の言葉には事情をはぐらかそうとする意思が見える様だった。そして、何よりもその目。ダイゴはそれが気に喰わないのだ。
「む」
「・・・」
 そうして、ダイゴとナナカマド博士は少しの視線で会話した。お互いを探りあう様な目線を交差させて、その様は半分睨み合いだった。
「其処迄読んでいるなら遠慮は要らんな。……ダイゴ君」
「?」
 そして、先に折れたのはナナカマド博士の方。言おうとしなかった事情を語ろうと決めた様だった。
「是非、シロナに逢ってやって欲しい」
「……やっぱり」
 その理由とやらはやはり、シロナとの接触。ダイゴは彼女の名前が出た時から、半ばこの答えは予想していた。
「普通なら儂も此処迄御節介を焼かない。だが、アレを見てしまえばな」
「アレって……シロナに、何が」
 態々、届け物と言う名目を使ったのは、弟子に対する博士の照れ隠しなのかも知れない。
 しかし、それをダシにしてでも逢って欲しいと言う事は、事態は逼迫しているのだろうか。シロナに一体何が起きたのか。ダイゴは嫌な予感しかしない。
「別に。唯独りで泣いておっただけよ。……君の写真を握り締めてな」
「っ!」
 ナナカマド博士の言葉を聞いてダイゴの表情が一気に崩れた。
「何時の、事ですか」
「儂がシンオウを出る前だから……一週間前だな」
「――」
 努めて冷静な素振りで尋ねるが、ダイゴは内心かなり動揺している。そして、言葉を聞いて絶句した。
「で、どうかね。受けてくれるかね?」
「それは―― っ、受けざるを得ないでしょうね」
 あの泣き虫なシロナの事だ。それ以前から泣いているに決まっている。辛いなら連絡をしろと言ったのに、無理して耐えて結果師匠に世話を焼かせるとは本当にどうしようもない。ダイゴは決断した。
「おお! やってくれるか!」
「シロナの事だって言うなら話は別ですよ。今からちょっくらカチコミかまします」
 これ以上、自分の彼女が周りに迷惑を掛けるのは忍びない。泣かせている側の責任として一刻も早くシロナを泣き止ませる必要が生じている。それはダイゴにしか出来ない事だった。
「へええ。君、見掛けに因らず熱かったんだね。随分意外だな」
「そんなんじゃないですよ。僕は只、僕自身の誓いを履行するだけですから」
 少し感心した様にオダマキ博士が見てくるが、ダイゴはそれを誇ったりはしない。その行動が半分、自己満足であると知っているからだ。それ以外に理由を付けるならば、それは彼が九州男児の端くれだからなのかも知れない。
「うむ、ではしっかりと届けてくれ。貴重な代物である事は変わらないからな」
「今のシンオウは雪国だ。滑らない様に履物には注意だよ。……頑張って」
「それでは」
 ダイゴは小包を受け取ると、挨拶もそこそこに足早に研究所を出て行った。今から飛行機に乗れば夕方にはシンオウに辿り着ける。急がねばならなかった。

87 :
――カナズミ空港
「シロナ……待ってろよ」
 行楽シーズンからは外れているので飛行機はどの便も空席が目立っていた。窓口に万券を叩き付けてチケットをもぎ取ったダイゴはおっとり刀のまま飛行機に飛び乗った。
 全ては愛故に。……等と言う言葉からは縁遠い位置にいるとダイゴは常々思っていたが、今の自分の行動を省みて、それが本当かどうか判らなくなりそうだった。
 唯、シロナに逢いたいと言う心だけは真実だったが。
――カントー国際空港
「あ、しまった」
 そして道中半分。中継地点に至ってダイゴは重要な事を思い出した。
「シロナ、今何処に居るんだ?」
 今現在の彼女の居場所が全く判らなかった。シロナのアパートの詳しい住所は聞いていないし、彼女が普段大学の外でトレーナー以外に何をやっているのかも聞かされていない。
 付き合っている筈なのに色々とお互い知らない事があると気付かされるが、残念ながら何かと議論している余地はダイゴには無い。
「……繋がりやしねえ」
 兎に角、無駄足は踏みたくないのでシロナの携帯に電話してみるも繋がらない。未だナナカマド博士が居ると信じてオダマキ研究所にも電話してみたがそちらの方も繋がらなかった。
「参ったねえ」
 尋ね人を探して冬のシンオウを彷徨うのは非常に草臥れる事請け合いだ。だが、手掛かりが無い以上はそうしなければならない可能性は高い。シロナが電話に出てくれる事を祈りながらダイゴは接続便を待った。
――シンオウ空港
「相変わらず繋がらないし。……仕方が無い」
 時刻は夕方。日はとっくに暮れて、辺りは暗い。結局シロナが電話に出る事は無く、ダイゴはシンオウに辿り着いてしまった。
 もうこうなったら可能性が高い場所を当たるしかないと決めたダイゴはボールをフォルダーから取り出して、開閉スイッチを押す。そして、召喚されたエアームドはダイゴを背に乗せると雪のちらつく夜空へと羽ばたいていった。
「……僕は何やってるんだ? 何やって……」
 冷静になって思い返すと自分が随分と馬鹿な事をやっている気がしてくる。だが、そう思っても来てしまった以上は最低でも預かった荷物を届けなければ帰る事が出来ない。
 今は兎に角シロナの居場所を突き止める事が先決だ。
 ダイゴは決路した。行き先はシンオウ大。シロナの学舎を尋ねれば何らかの情報が得られる可能性が高い。主人の指示を受けてエアームドが進路をコトブキ方面へと向けた。

88 :
――シンオウ大学 ロビー
 辿り着いたシンオウの最高学府。人影は疎らで学生とは殆ど擦れ違わない。
 もう窓口が閉まる時間ギリギリだったのでダイゴは急いで学生課に向かい、話しを聞いてみる事にした。
「あの、済みません」
 部外者が在学生に用があると言ってもそうそう通るモノでは無いが、ダイゴも火急的用件なので無理を通させて貰う。余り期待しないで使ったが、ナナカマドの名前はやはり効果覿面だったらしい。全館放送でシロナを呼び出す事が出来た。
 しかし、その本人がキャンパス内に居ないのではどれだけ呼び掛けても無駄だ。結局、シロナは姿を見せる事は無かった。
「……にっちもさっちもいかんったい」
 窓口は閉じてしまった。五里霧中の状態に陥り、ダイゴは途方に暮れる。電話も相変わらず繋がらなかった。
「Hey! Wait a minutes」
「え」
 しかし、天はダイゴを見捨てない。彼に話し掛ける人間が一人。
「私、知ってるネ。シロナのlocation」
 女だった。英語交じりの片言の日本語。褐色の肌をし、シロナ以上の長身で、黒髪の何やら見た事の無い髪型をしている。此処の学生……なのだろうか。
「シロナ、きっと研究所行ったヨ。今日、Fridayネ」
「Laboratory? と言う事は、マサゴタウン?」
 そう言えば、未だに博士の研究を手伝っていると言う話をシロナ本人が語っていた気がする。バイトなのかボランティアかは知らないが、貴重な情報であるのは確かだ。
「Yeah.Probably」
「! 助かったぜお姐ちゃん! Thanks for your help!」
 話しを聞き、これならかなりの確率でシロナに逢えると確信したダイゴは礼もそこそこにキャンパスから出て行こうとする。しかし、シロナの友人と思しき学生(?)が興味深そうな視線を投げ掛けていたので、ダイゴは歩みを止めて振り返った。
「オニイサン、シロナのsteadyデスカ?」
「え……あー、どうだろ。所詮ホウエンから飛んで来る位の絆しか無いからねえ」
 その目を見て、他意は無い純粋な興味本位の質問だとダイゴは解った。だが、真実を語るのはやや恥かしいので、かなり遠回しな言い方でダイゴは逃げる事にした。それを聞いた学生は少し考え込む様な素振りは見せたが、結局何も言わなかった。

89 :
それじゃ、またな。

90 :
乙…

91 :
[:残念なイケメン×残念な美人
――マサゴタウン 研究所前
「着いた。行き違いになってなければ良いけど」
 コトブキの南に位置するナナカマド博士の城。室蘭中心部に位置する研究所にダイゴが辿り着いた時、夜ももう八時を回ろうかと言う頃だった。
 マサゴはダイゴが今迄訪れた事が無い場所なので空を飛ぶが使えず、結局特急列車に飛び乗るしかなかったのだ。
 外から見る限り、電気は付いているし人の気配もしている。ちらつく雪に悴む指先が逆に熱を孕む様に痛みを与えて来る。ダイゴはもうこれ以上寒い中をうろつくのは御免なので、半ば祈る気持ちで研究所の敷居を跨いだ。
「頼も〜う!」
「……はいはい、何か用ですか? こんな時間に」
 そうして中に入り玄関で来客を告げると、白衣を着た草臥れた様子の若い研究員が奥からやって来た。
「ナナカマド博士からの届け物です。それで……シロナさんは、いらっしゃいますか?」
「シロナ? ……ああ、彼女なら居ますよ。どうぞ、入って下さい」
 遥々ホウエンから持って来た小包を取り出して、ナナカマドのサインが入っているのを確認させると、男はダイゴを研究所の中に案内した。
「……ふう」
 矢張り、シロナは此処に居るらしい。一体どうなる事かと冷や冷やしたが、何とか目的は達成出来そうだ。男が入って行った部屋の前の廊下で溜め息を吐いていると、中から話し声が聞こえて来た。
『お〜い、シロナさん』
『何ですか。この状況、判るでしょう? 邪魔しないで』
『そうもいかないの。君にお客だよ。外で待ってる』
『はあ? 馬鹿言ってんじゃないです。第一こんな時間に』
『良いから行きなさい。どうせ煮詰まってるんなら素直にリフレッシュだ』
『……判りましたよ、ったく」
 バタバタと慌しい足音が聞こえると直ぐに、やや乱暴にドアが開かれた。眉間に皺を寄せて機嫌が悪そうなシロナが中から出て来る。白衣は着ておらず、黒い上下の服を身に着けていて、それはダイゴが見た事の無い服装だった。
「はああ……この糞忙しい時に何処の誰だってのよ」
「あー、お邪魔だったかな」
 ぶつくさと文句を言い、不機嫌さを隠そうとしないシロナを刺激しない様にダイゴは落ち着いた口調で話し掛ける。それに気を良くしたのか、シロナの刺々しい空気が少しだけ和らぐ。
「邪魔って事は無いけどさ。今あたし修羅場ってるから、結構気が、立ってて……」
「みたいだね。……ちゃんと寝れてる? 大分やつれてる感じが」
 じっとシロナの顔を眺めると、拭い切れない疲れが滲んでいる印象を受けた。目の下には隈が出来ているし、顔色も良くない。最後に逢った時と大分印象が異なったのでダイゴも心配になってしまった。
「・・・」
「ん? 何? 僕の顔、何か付いてる?」
 すると、シロナはダイゴの顔を見詰めて、そのまま固まってしまった。それがどうにも腑に落ちないのでダイゴはその旨を訊いてみる。
「――あ」
 漸く、シロナは現状を認識した。
 嘘。……ああ、こりゃ駄目だ。堪えられない。ってか、何でこいつが此処に居るのよ。嬉しいじゃないのよこん畜生! ……以上。残念な美人ことシロナさんの心の声。
「んなっ!?」
「……っ! ぅ〜〜っっ!!」
 がばっ。抱き付かれると同時に声にならない嗚咽を漏らし、シロナは泣き崩れた。相当に心労を溜めていた事が明白な振る舞いにダイゴも茶化していい場面では無いと思ったのだろう。
 だから、シロナが落ち着くまでの間、暫く好きにさせてやった。

92 :
「えっと、大丈夫じゃなさそうだな流石に」
「何で……なんでアンタ此処に……」
 涙と鼻水で着ているコートの前の一部がびしょ濡れになってしまった。だが、シロナが落ち着いたのなら安い物だとダイゴは思う事にした。シロナは泣き腫らした目のまま至極当たり前の疑問を投げて来たのでダイゴはそれに答える。
「君の師匠からのオーダーさ。泣き暮らしてるからフォローしろって」
「博士が?」
「ああ。届け物も序に預かったけど」
「そっか。そう、だったんだ」
 自分が受けた博士からの依頼について、小脇に抱えた包みを指差してダイゴは簡単に説明してやった。すると、シロナは博士に気取られていた事に吃驚した様だった。
「やっぱ、厭だったよな。連絡無しにこんな」
「んな訳無いべよ! ……にしても人が悪いな博士。何もかも知ってたのね。頑張って耐えてたのに、馬鹿みたい」
 連絡が取れなかったのも要因にあるが、それでも些か無礼な訪問である事には変わり無いのでダイゴが謝ると、シロナはそんな事はしなくて良いと首を横に振った。
 そして、やや照れ臭そうに呟く。現状が師匠に筒抜けだった事について、彼女なりに思う事があったらしい。
「ああ、実に馬鹿だな」
「何よ」
 そして、それについてはダイゴも同意見だったので遠慮無く頷くと、シロナは頬を膨らませた。
「無理せず頼れって言ったろ。それで余計に泣いてたら涙が枯れちまうっての」
「だって、それは」
「言い訳は聞きたくない。面子とかプライドとか……もうそんなの気にする間柄じゃないだろうに」
 好きでやっている事なのでシロナに対して怒るのはお門違いと言う奴だが、それでもダイゴは無理に強がっているシロナの姿が我慢ならない。
 手の掛かる女は嫌いだが、恋仲だと言うのならそれを受容してこそ真の漢だ。その想いは曲げたくないのでダイゴは真剣な顔と言葉をシロナに送った。
「ごめん、なさい」
「良いよ、良いよ。こんなのは僕だって柄じゃ無いって思ってるからさ」
 やっぱりシロナは叱られていると思ったのだろう。しゅんと項垂れてしまうが、そんな顔をして欲しくないダイゴは自分を引き合いに出して場を和ませようとした。
「そんな事無いから!」
「なっ! 随分きっぱり言い切るな」
 だが、返って来たのは強い反発の声。寧ろ、笑い飛ばして欲しかったダイゴは予想外の反応に思わずシロナに聞き返してしまった。
「あたしがそう思ってる。間違い、無い」
「そ、そうかよ」
 随分と独善的な考えだが、そんなに顔を真っ赤にして言われてしまえばダイゴとしてもそれで納得せざるを得ない。実は言われて満更でもないので、照れ隠しの様に赤くなった自分の頬を掻いた。

93 :
「一寸待ってて。今日はもう上がるわ」
「良いのか?」
「うん。多分、続けても進展無いから」
 これ以上込み入った話は此処では出来無い事だった。今日はもう撤収する旨を告げると、シロナは再び部屋に入って行った。
「お待たせ。……それでさ」
「ああ、何?」
 そうして少し待っていると手荷物を抱えたシロナが出て来た。二人揃って研究所を出ると、シロナがダイゴに尋ねる。
「今日の宿とかってどうしてるの?」
「あー、それについてはその……未定だね」
 今日のこの後の予定に付いてだった。今から飛行機に乗ったとしてもカントーから先には行けない事は見えていたので、てっきりダイゴは宿を手配しているものとシロナは思っていた。だが、違った。
「何それ。もう宵の口過ぎてるわよ?」
「うっせ。来るのに精一杯で宿迄手配出来なかったんだよ」
「そっか。なら、仕方ないわね」
「だろ?」
 シロナに逢う事が第一だったのでその辺の事は準備不足だった。外は相変わらず雪が降っていて、今から宿を探して彷徨うのはダイゴとしても辛い所だ。そして、自分の彼氏にそんな真似をさせる程シロナだって冷たくは無い。
「ならさ、泊まってく?」
 一番良い解決策を持っていたので、シロナはそれを使う事にした。ダイゴの為、と言うよりは態々遠くから自分の為に来てくれたマイダーリンを容易く帰したくないと言う女の打算なのだが、それは言わぬが華と言う奴だった。
「は? あ、いや……そいつは」
「って言うか、泊 ま っ て け?」
「――」
 準備も無しに婦女子の部屋に転がり込むのはダイゴとしても抵抗がある。だからやんわりと断ろうとしたのだが、途中で言葉に詰まってしまった。
 有無を言わせぬプレッシャーを纏い、選択を強制してくる笑顔のシロナの背後に人ならざる何かの影を見た気がしたダイゴは戦慄する。
 これを断れば絶対に血を見る。最悪、命すら危ない。女の情念の恐ろしさの一端を見た気がしたダイゴは頷くしかなかった。
「Yes,Your highness(仰せの儘に)」
「やったあ♪ じゃあ、行こっ! ダイゴ♪」
 自分でそうさせた癖に、シロナは実に嬉しそうな顔でダイゴの手を取る。そんなダイゴの顔は若干引き攣っていた。
――移動中 空の上
 シロナの寝床に向かって二人は移動中。ダイゴはエアームド、シロナはトゲチックの背に乗っている。雪混じりの夜の空気が高速移動に際して体感温度を著しく下げ、体全体がしばれそうだった。
「君の家ってコトブキだったか? 住所とか知らないんだよね僕」
「そ。入学時から変わってない。詳しくは着いてから教えるから」
 実は半分凍り付いていて手足の感覚が希薄になっているダイゴだが、それも少しの辛抱だと頑張って耐えている。流石に雪国育ちのシロナは平気な顔をしていた。

94 :
――コトブキシティ アパート シロナの部屋
「入って。散らかってるけど、あんまり気にしないでね」
 そうして、やっと辿り着いたシロナの塒。前に聞いた通り大学にやや近い場所で、コトブキ市街の中心からは外れた場所にあるアパートの一室だ。
 家賃、交通の便、治安……やや間取りは狭いが女の一人暮らしには十分だと言う理由でシロナはずっと住んでいるらしい。
「ああ。それじゃお邪魔――」
「ん? 何?」
 ダイゴはそんなシロナのお宅を最初に訪問した誉れ高い殿方である。履いていた滑り止め付きの登山用のブーツを脱いで、中に足を踏み入れて……否、踏み入れる直前に部屋の惨状を見て絶句した。
「本当に散らかってるね。これ、掃除した方が良くない?」
「こっちの方が便利だからそうしてるのよ。探し物が手に届く処……に無い事も多々あるけど」
 部屋は物で溢れかえっていた。ゴミ溜めと言える程酷くは無いが、実際埃は溜まっているし、移動する足場を見付けるのも中々困難な有様だ。一言で言うと、汚かった。
 しかも、ベッドの枕の側に丸めてあるあの布製の物体は以前、シロナにあげた自分のトランクスではなかろうか……?
 どうやら、ちゃんと『正しい』使い方をしてくれている様だった。
「って言うか、脱いだ下着をそのままって女性としてどうかと思うけど」
「え? やだ、欲しいの? 別に良いけど//////」
 生活ゴミはきちんと出している様だが、それでも脱ぎ散らかしたパンツやブラが無造作に床に転がっていると言うのはだらしない印象を与えて来る。割とシロナは大雑把な部分があるので少しは覚悟していたが、完全にその上を行かれてしまった。
 幾ら急な来客とは言え、その辺りの恥じらいは持って欲しいダイゴ。しかし、シロナにそんな言葉は効果が無いらしい。
「要らない」
「四文字で片付けないでよ……」
 もうコメントするのも辛いのできっぱり言ってやる。だが、シロナはそれでは不満らしい。
「腹減った」
「それも四文字……ってお腹空いてる? 何か取る?」
「こう言うイベントって彼女が料理を振舞ってくれたりするもんじゃないの?」
「それは厭味? あたしの腕、知ってるでしょ? って言うか、冷蔵庫が空だから無理」
 今度は思った事をそのまま言ってやったが、シロナは料理を作る気は無いらしい。
 夏に一度作って貰ったが、その余りの食材の墓場っぷりにダイゴを以ってしても完食する事が敵わなかったヘルディッシュは未だ健在の様だ。最近台所を使った形跡が見られないのは、彼女がそれを気にしているからなのかも知れない。
 だが、それはそれ。これはこれと言う奴だ。
「……駄目女」
「え? 何?」
「別に」
 ……何と無く判ってはいたけど、やっぱり残念な美人ってレベルじゃ無かったよ。せめて私生活のメリハリ位は付けていて欲しかった……って、僕に言われてりゃ世話無いか。
 以上。残念なイケメンことツワブキ=ダイゴさんの心の声
「これ、ダンボールに入れて良い?」
「良いわよ。……って、それは駄目! 今読んでる最中! 机に置いておいて」
「その机に置き場所が……うーん」
 何かパズルやってる気になってきた。平面的には勿論、立体的な配置にも些か苦しい程物の量が半端じゃない。その大半が書物なのだが、中には何に使うか判らない奇妙なオブジェや銅鐸のレプリカの様な物が混じっている。
 それらが部屋の床の大部分を占領していて座るスペースすらない有様。割と几帳面な方なダイゴがこんな惨状の部屋を放って置ける筈も無かった。
 だから、泊めて貰うせめてもの礼にと部屋を片付け始めるも、それは終わる気配を見せなかった。
 あーだこーだしていると、シロナが注文した宅配ピザが届けられ、何とか座るスペースを確保したダイゴは其処に座って休憩する事にした。

95 :
「それで、届け物って何なの?」
「知らないよ。開けてみれば?」
 シロナの興味はナナカマドから託された届け物に注がれている。ダイゴは中身に付いては貴重な物であると言う事しか聞かされていない。ナナカマドがシロナに逢わせる為の口実として用意した物であるに違いないと思っていたので興味は無かった。
「・・・」
「これは……笛か? 随分、古いな。材質は何かの骨? 大半が風化してるけど」
 包装を破って中を確認したシロナは無言のまま、固まっていた。
 ダイゴはシロナの様子が気になったので中を検める。入っていたのは古ぼけた笛だった。独特の形状をしていて少なくとも千年以上は前の物である事は間違い無い様だが、考古学は専門外なのでそれ以上の事は解らない。
「まさか――」
「え?」
 シロナの呟きが聞こえたダイゴは彼女の顔を見る。その顔は少しだけ青かった。
「ごめん、何でもない。……食べよ? 硬くなっちゃう」
「? ああ」
 其処で目が合ってしまった。これ以上は聞かれたくないのか、シロナは強制的に話を中断した。気にはなったが、態々訊く気も無いダイゴは言われた通りにピザの切れ端を口に運んだ。
「ダイゴ、明日には帰っちゃうの?」
「ああ。そのつもり……だったけどさ」
 腹を満たし、一息吐いた所でシロナが突然訊いて来た。当初の目論見では一泊してそのまま帰る予定だったが、今のダイゴにはもうその気は無かった。
「けど?」
「片付けを半端なまま帰りたく無くなった。バッツリ片を付けて帰る事にしたばい」
 ダイゴはそう言っているが、結局理由は何でも良かった。シロナの顔が未だに曇ったままなのに自分を優先して帰る事は憚れたのだ。
「……そう。未だ居てくれるんだ。ありがと」
「別に君の為じゃないさ」
「知ってるよ、ふふ」
 些かシロナを甘やかし過ぎとダイゴは思ったが、直ぐにその考えを忘れ去る。自分の都合でそうするだけだとシロナに言うと、彼女はその答えを知っていた様に微笑んだ。
「で、僕は何処で寝れば良いんだろう」
「はあ?」
「はあ? って。布団敷けるスペース空いてないし。まさか立ったまま寝ろとは流石に言わないよね?」
 もう日付が変わりそうな時刻だった。
 眠気が襲って来ていたダイゴはシロナに尋ねるが、何故かそれにシロナは怪訝な顔をした。寝る以上は床で間違い無いだろうが、その場所が無いのだ。ではその空間を何処に確保するのかと言う話になってくる。
 そして、その場所は既にあったのだ。
「あたしの隣空いてるでしょうに」
「……あ?」
 ポンポン、とシロナが自分の寝台を掌で叩く。ダイゴはそれが何を意味しているのか判らなかったが、それが判ると一瞬顔を顰めた。
 コッチニイラッシャイ。妖怪が舌なめずりして手招きしている様だった。
「問題、ある?」
「いや……まあ、良いか別に」
 その厭そうな顔に気付いたシロナが悲しそうな顔をすると、罪悪感が湧いたのかダイゴは何も考えない事にした。どうせ今日はこのまま寝てしまうだけだし、疲れているので何もする気は起こらない。シロナの事は狸の置物だと思えば良いと、心を空にした。
「抱き枕げっと〜♪ 温い温い♪」
「冷たい……そして、呼吸が苦しい」
 そうして、寝る準備を終えて狭いベッドに二人して横になるとシロナがダイゴに抱き付いて来る。末端冷え性なのか、シロナの手が裸の上半身に触れる度に凍えそうになるし、体が密着し過ぎていて息苦しい。
「ほれほれ。お兄さんが好きなシロナさんのおっぱいですよ〜?」
「……素直に寝かして」
「ちえっ」
 ぐいぐいとお乳が顔に押し付けられると、ダイゴは不機嫌そうに漏らす。その反応を見てダイゴが疲れていると判ったのだろう。シロナは残念そうに舌打ちし、事に及ぶのを諦めた様だった。

96 :
 次の日。ダイゴは半日を費やして宣言通りシロナの部屋の掃除を終えた。
 翌日にはホウエンに帰る気だったので飛行機の切符も取り終えた。
 物が無くなって寒々としたシロナの部屋。特にする事も無かったので昼間外に出た時に買ってきた酒を喰らってさっさと寝てしまう事にした。
 未だ寝るには早い時間帯だったが、シロナも此処最近は根を詰め過ぎて疲れが取れないらしい。ダイゴが寝る事を決めるとシロナもまた自分の寝床に入り、その場所を昨日と同じく半分譲ってやった。
 夏の間の爛れた時間が嘘みたいに二人の間に生臭い空気は存在しない。だがそれでも、互いがその存在を必要としているかの様に二人は抱き合っていた。
「あの笛、結局何だったの?」
「知りたいの?」
「一寸はね。駄目なら構わないけど」
 昨日もそうだが、今日もナニをする気は起こらない。だが、このまま素直に寝てしまうのも勿体無い気がしたので、ダイゴは気になっていた届け物に付いてシロナに訊いてみた。
 シロナは言うのを戸惑っている感じなので、ダイゴは無理に訊く気は無かった。
「両親のね、形見」
「え……」
「ずっと博士に預けっぱだったけど、このタイミングで返ってくるなんてね」
 だが、少し待っているとシロナは話し始めた。最初に飛び出したフレーズでそれがかなりヘビーな内容である事がダイゴには知れた。
「あたしのお父さんとお母さんも考古学者でね。妹が生まれて直ぐにんじゃった」
「えっと……事故か何か?」
 大抵の事にはポーカーフェイスで対応出来るダイゴも、こう言った内容の話題にはどう対処す冪か判らない様だ。だから、正解だと思える様な受け答えを手探りで見付けるしかなかった。
「さあ」
「さあって……」
 果たしてそれが正解だったのか否か。シロナの返事は何か他人事の様な響きを含んでいた。
「あたしもあんま覚えてないのよね。って言うか、思い出したくない」
「……アンタッチャブルな質問だったか」
「良いのよ別に。隠す事でも無いし」
 どうやらシロナにも色々と単純じゃない過去があるらしい。言うのが辛いならこれで終わりにしてくれても構わないとダイゴは思ったが、訊かれた以上はシロナも話すのを止めなかった。
「……アルセウス、知ってる?」
「創造神、だろ。……待て。じゃあ、まさかアレって」
「そんな事も知ってるんだ。……天界の笛。本物か偽かは知らないけど、お父さんがんでも放さなかったのがあの笛なのよ」
 そして、シロナの口から出た言葉でダイゴはピンと来た。創造神に纏わる神話で笛に纏わるモノは幾つもある。曰く、資格ある者が吹けば、始まりの間へと通ずる路が現れる。ダイゴが知っているのはそんな逸話だった。
 そして、恐らくあの笛がそうなのだろう。
「両親が何考えてたのか、未だに判んない。創造神に会うんだって冬の真っ只中出てって、テンガン山で行方不明になって……槍の柱の近くで氷付けになって見つかったわ」
 物の真贋は別にして、シロナの両親はその神話を信じていたらしい。
 幼い子供二人を残して地に赴くのは親としては間違っているのだろうが、学者としてはその行動原理は間違いじゃない。その知識欲と探求欲は賞賛に値される程だ。だが、結局彼等は代償に命を失った。
「お父さん達が何を見たのか。命を賭けて迄求めたモノの価値はどれだけなのか。同じ道を辿ればそれが判るんじゃないかって、ね」
「それが君が考古学を学ぶ理由?」
「……なーんてね。馬鹿みたいにシリアスになる話じゃないってね。あたし自身、それに引き摺られたくないし」
 ダイゴはシロナが考古学に懸ける想いの一端を見た気がした。人に引き摺られていると言えばそれだけだが、それを決めて良いのは本人だけだ。少なくとも、シロナには気負いや衒いは見られない。
「……無理、してないか?」
「全然? ……ダイゴはどうなの? 会社を継ぎたくないのは判るけど、どうして地質学? お師匠さんの影響?」
 おかしな箇所で強がるのはシロナの欠点だが、この問題に関してはその心配は要らないらしい。そうして、少しだけ安心すると今度はシロナが質問を返して来た。

97 :
「まあ、半分はそうだな」
「もう半分は?」
 ダイゴは半分だけ頷いた。幼少時から磨いて来た石への想いと実績、そして師であるネムノキ博士からの教えと情熱が彼をその道へと誘ったのだ。だが、それは重要な要素ではあるが決して根幹では無い。
「逃避、だな」
「え」
 そして、残り半分。その言葉が今のダイゴの根っ子の部分だった。
「僕が唯一自分で選び取ったんだ。それに、僕は逃げてるんだ」
「・・・」
 良い言葉が浮かばない。一瞬だけ見たダイゴの瞳はんだ魚の様に生気が無く、またハイライトが失われていた。それが何を意味するかシロナには皆目検討が付かなかった。
「悪い。もう、寝るよ」
「え、ええ。お休み」
 ダイゴは話を打ち切り、背を向けてしまった。その広い筈の背中が今はどうにも小さく、頼り無く感じられる。何時もなら抱き付く所だが、他人を拒絶する様なオーラがダイゴの全身から出ていてシロナにもそれが出来ない。
 ダイゴもシロナも結局、その日はお互いに背を向けて寝る事になった。
――翌日
「じゃあ、僕はそろそろ」
「うん。気をつけてね。来てくれて、嬉しかった」
 出発の朝、挨拶もそこそこにダイゴはシロナの部屋を出ようとした。シロナとしても今回は引き止める気も、泣く様な事もしない。態々来させた上にそんな真似をすれば自分の株が更に下がる事は請け合いだったからだ。
「「・・・」」
 だからこそ、気持ち良く別れる為に余計な気は起こさない。お互いにそれは判っている事だった。唯一つの問題を除けば、だ。
「……って、本来ならこの台詞が出る筈なんだけどさ」
「判ってる。判ってるわ。でもね?」
 外に行く用意は既に済んでいる、だが、ダイゴは困惑したまま中々部屋から出ようとしない。シロナは複雑な表情を浮かべたまま、窓の外を指差した。
「この天候じゃあ、どうしようもないわよ。ねっ?」
「何だってんだよぉ、ったく!」 
 コトブキ方面の天候、大荒れ。猛吹雪の為飛行機が飛べません。
 憤慨したダイゴは叫びを上げるが、シロナはそれを宥めながらも内心嬉しかった。もう一日。そう、もう一日だけ彼氏と一緒に居られるのだ。悪天候を恨む気は更々無かった。
「諦めなさいな。お金も返ってくるだろうし。……それよりもさ」
「ぞくっ」
「もう一晩居てくれる?」
 これだけの吹雪だ。全便欠航も有り得る話だし、外に出るのも辛い状況だ。密室に二人缶詰になる事は決定した様なモノなので、シロナは玄関に改めて鍵を掛けると熱っぽい視線と共にダイゴににじり寄る。
「満喫にでも逃げるかな」
「そりゃ無いべさお兄さん! 今日こそはしっぽりむふふと洒落込みましょうよ! ねっ!?」
 此処はシロナを殴り倒してでも外に逃げる冪だろうか。だが、シロナの気持ちも考えればそんな手は使いたくない。だからと言って、このまま留まれば重労働を課せられるのは間違い無い。
 『今日こそは』と明確に言っている辺り、相当気合を入れて搾り取ってくるのは目に見えている。……さあ、どうする?
「あーもーあーもー。……好きにしてくれよ、とほほ」
「わーい! 一名様ご案内〜♪」
「むぎゅっ」
 結局、それしか道は無かった。白旗を揚げる様にダイゴが両手を上げると、シロナがじゃれて来た。顔を乳で挟まれて息が苦しかったが、今日一日は我侭なお姫様の為に奉仕に徹する事をダイゴは渋々ながら決めた様だった。

98 :
――更に翌日
 シロナの部屋で迎える三日目の朝。天候は晴れ。今度こそホウエンに帰れるとダイゴは歓喜していた。
「……何だ、この感じ」
 そう、確かに最初はしていた。だが、その時が来ていざ部屋を出ようとすると言い様の無い寂しさに駆られた。
 夏の終わりにも味わった感覚。その時は仕方が無いと諦めていたが、今回はどうにもそれが後を引く様で気持ち悪かった。きっぱりすっぱりと気持ちに整理を付けて帰らにゃならんのに、それが出来ない。
「ダイゴ?」
 ベッドから起きてタオルケットで身体を隠したシロナが心配そうに見てくる。
「そっか」
 ダイゴはシロナを見て全部理解した。この感情こそがシロナを苛んでいたものだと気付いたのだ。
「そりゃあ、泣きたくもなるか」
 泣きたくなったら素直に言え。そんな事を言った自分だったが、それが酷く無責任な事の様に思えて腹立たしくなった。
 シロナの痛みを正しく把握しない癖に何が頼れだ。決して軽々しく言えない筈なのに、そう言ってしまったのは矢張りそれが他人事だったからだろう。
 だが、一端その正体を知ったのならば、その処理の仕方は容易に見える。
 お互いに離れられない位に惹き合っている。だが、距離があって逢うのが難しい。一緒に住む事も今は出来ない。
 それなら……
「今回はこれにて。また、近い裡にね」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
 今度こそ、シロナの部屋をダイゴは出る。昨日十分にキスされたので、別れに際してのそれは無い。背中を見送る裸のシロナは三日前が嘘の様に晴れやかな顔だった。
――飛行機内 雲の上
「僕も同じ病気になるなんてなあ」
 カントー行きの飛行機の中、ダイゴは自分が今恋を患っている事を痛感していた。逢えない事、触れ合えない事がこれ程辛いとは考えもしなかった。
 だが、それはシロナも同じだと考えれば耐える事が出来た。
「でも、今年はこのまま終わらねえ」
 しかしだ。ダイゴは今回その気持ちを抑える事はしない。自分の好きにやって何が悪い。だから、ダイゴはそうするのだ。
「最後のサプライズ、くれてやるからなシロナ……!」
 ビッグサプライズを思い付いたダイゴはニヤリと笑った。
――同刻 シンオウ大 教室
「くしゅんっ!」
「What? シロナ、Did you catch a cold?」
「ぐす……I don`t know。何とかは風邪引かないもんよ」
 講義が始まる少し前だった。ノートと教科書を広げていたシロナが突然くしゃみをする。隣に居たシロナの同期がその様を見て特に心配する素振りも無くそう言った。シロナも鼻を啜ってその言葉を気にしてない様に振舞う。
「きっと、steadyが噂してるですヨ。背が高い銀髪のhandsomeなオニイサンネ」
「なっ!? な、何で知って……!」
 にんまりと笑う同期の言葉に途端にシロナが真っ赤になって慌てる。
「やっぱりネ! 彼、ホウエンから来た言ってました。そうさせたシロナ、悪女だヨ」
「だーかーらー! 何で知ってんのよ! ダリア!」
 からかう同期……ダリア(後のルーレットゴッデス。現在は外国語学部に所属)にシロナが激しく詰め寄るが、ダイゴにシロナの居場所を教えたのは彼女なので知っていて当然だった。
 だがダリアは性格が悪いのか、シロナの慌て振りを見てケラケラ笑うだけだった。

99 :
ゲーム中の描写やテキストから几帳面と大雑把と書き分けてみたけど、作者的にはシロナさんは家事が壊滅的なイメージがある。大誤算はその逆。
皆さんどう思います?

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