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2012年09月創作発表64: 獣人総合スレ 10もふもふ (783) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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獣人総合スレ 10もふもふ


1 :2010/08/06 〜 最終レス :2012/10/14
獣人ものの一次創作からアニメ、ゲーム等の二次創作までなんでもどうぞ。
ケモキャラ主体のSSや絵、造形物ならなんでもありありです。
なんでもかんでもごった煮なスレ!自重せずどんどん自分の創作物を投下していきましょう!
ただし耳尻尾オンリーは禁止の方向で。
エロはエロの聖地エロパロ板で思う存分に。
荒らしには反応せず相手せず、完全無視が一番安全です。
獣人スレwiki(自由に編集可能)http://www19.atwiki.jp/jujin
あぷろだ   http://u6.getuploader.com/sousaku
あぷろだ2 http://loda.jp/mitemite/
避難所 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1237288452/

【過去スレ】
1:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220293834/
2:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224335168/
3:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227489989/
4:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1231750837/
5:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236878746/
6:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1243614579/
7:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1250254058/
8:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1263143962/
9:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1277458036/

2 :
>>1乙。お前なかなか目端が利くな、鹿馬ロ入るか?」
「GJだよ>>1くん!御褒美にこの“生キャラメル(?)”をあげるよ!」
「やめろよサン……>>1、それ多分ジンギスカンキャラメルだからな。コーヒー置いとくぞ」
>>1さん手際良いっス!怪我したらこの保健委員を呼んで欲しいっス!手厚く看護するっス!」
「中身を見たい生き物がいたら持って来ると良いっス。僕がヤってあげるっス……うふふ」
「白倉先生、保健委員とキャラ被ってますよ」
「……ぼそぼそ(跳月先生こそキャラ立ってなくて埋没してまスよ)」
>>1おつ。おい塚本、お前《馬鹿ロリータ》とかいうチーム作って小学生襲ったらしいな。指導室来い」
「塚本……君はハルウララだと思っていたのに。少年院でも達者でな。僕は祈ってるよ、別名祈り虫だけに」
「お前も馬鹿ロリータの一味だって聞いたぞ鎌田。指導室来い」
「ナ、ナンダッテー>Ω ΩΩ」
>>1おっつー。私がハルカ特製肉じゃが作ったげる」
「……お前マジでおかんみたいだぞ」
「うっさい爬虫類、タバコ食べさせるぞ☆」

3 :
「持つべきものは友ニャ。そして乙するべきは>>1なのニャ」
「おお、さすがクロにゃ、シャコージレイをわきまえてるニャ」
「あの、えっと……>>1さん、乙かれさま、ニャ」
「ニャー!コレッタ、おまえ天然ぶりっこするなニャ!」
「ひゃっほーー!!雪ゆきユキ!え?>>1?僕は雪で頭がもうなんかもうひゃっほーー!」
「コラ犬太!待て!ステイにゃ!」
「うおー!何処だ冬将軍!!寒いだろーが!!」
「確かに寒いなー。それに探しても全然冬将軍て居ないなー。ちょっとベンチで休むかー」
「そうだな!もう何か月も探してるから、焦ってもすぐには見つからないのかもしれない!」
「へー、そんなに探してるのかー、大変だなー。とりあえず>>1乙しとくかー」
「雪ゆきユキ〜〜!あれ、こんな所に雪だるま?……うわ!でっかいカマキリが死んでる?!」
「こら犬太!虫の死骸食べるんじゃないニャ!」
「ぐえっ、食べてないってばっ、り、リード緩めてっ、ぐえっ

4 :
「よ…葉狐ちゃーん…」
「もたもたしてると置いてくでー。こっちや、こっち。」
「ちょ、ちょっと待ってってば、ふぅ」
「しっかりしいや、香苗姐ちゃんは体力ないなァ。
 なんやまだ>>1乙もやっとらんやないの。ほんなら私が済ませてまおか」
「あんまり年上からかっちゃダメよ。レイギっていうのがあるでしょ」
「そうよ、店長さんなんだから敬意払わなくちゃ」
「はーい、メイドのお姉ちゃん。」
「「私はメイドじゃないの。ウェイトレスなのよ」」
「ふーん、どっちかわかんないや」
「はぁ、はぁ(こ、こいつ………!)」
「それじゃ私たちも>>1乙やっておきますかー うふふ」
「(あぁ!息あげてる間にタイミング逃した!)」

5 :
「ほら、ソウイチ! 何をそんな所でぼさっとしてるのよ、>>1乙しなくちゃ行けないでしょ!」
「うっせーなー、そんなに尾羽広げて急かさなくたって>>1は逃げ出したりしねーだろ?」
「何言ってるのチビ助! 何事も手早く行動するのが一番なのよ!」
「なっ……! い、言ったなぁぁぁっ!? 誰が豆粒ドチビだこの白髪頭!」
「そ、そっちも言ったわねぇぇぇっ!! アンタみたいなチビ助に言われたくないわよ!」
「風間部長も空子先輩も落ちついてください、それより早く>>1乙しないと行けませんよ?」
「「鈴鹿さんは黙ってろ!(黙ってて!)」」
「ちょ、風間部長、空子先輩!?」
「あらあらぁ、お二人ともほんまに仲がよろしおすなぁ、うちの部員にも見習わせたいくらいどすぇ」
「あ、烏丸さんも見てないで二人を止めてくださいよ!」
「いややわぁ…夫婦喧嘩は犬も食わぬと言いおりますし、うちは>>1乙だけしてお暇しておきますぇ」
「え? あの!? そんな烏丸さん!? 帰らないでくださいよ!?」
「誰が超マイクロドチビだっ!!」
「誰が白髪葱みたいな頭よっ!!」
「……ああもう済みません、私が風間部長と空子先輩の代わりに>>1乙しておきます」

6 :
スレ復旧お祝い&これを投下できるのはきょうだ!投下。

7 :
件名:夜会のお誘い
本文:夏の空もますます眩しい季節になりました。さて、8月7日深夜から8日未明にかけて、夜会を開催したいと思います。
おいでの時間も、お帰りの時間も自由です。お時間よろしければネコ族のみなさま、どうぞ、この会にご参加いただければ幸いです。
時:8月7日午後11時より(終了未定)
所:蕗の森公園にて
参加料:無料
その他:雨天中止
蕗の森町内会・夜会実行委員
7月下旬、泊瀬谷の携帯にこんなメルマガが届いた。前の季節の置き土産か夕立の降りしきる街を走る市電。
車中で頬を緩めながら画面を眺める泊瀬谷は、久しぶりに参加する夜会に早くも心躍る。
「この日、晴れるかなあ」
降るなら今のうちにどんどん降っておくれ、暦は盛夏の季節だぞ。忘れ物をした生徒は、叱ってあげられるけど、
入道雲を忘れて行った季節にお小言を言うことが出来ない。傘の先から雫が垂れて、車内の木製の床に濃い丸を広げてゆく。
家路に向かう、夕方の市電。雨とケモノの毛並みでほんのりと湿度が上がる。隣の空席にはイヌの毛が残っていた。
市電は停留所に止まる。扉が開くと、夏の蒸れた空気が車内に遠慮なくお邪魔するが、誰もとがめることも無い。
暑くない夏なんて無いし、寒くない冬なんて無い。誰もがそんなこと知っているし、文句は言わないのだ。
泊瀬谷の対面に座るイヌの女性がすっと立ち上がると、パンプスの音を木の床で鳴らせながら降り口の方へ歩いていった。
バッグからすっと財布を取り出す姿は、まるで映画のワンシーンを思い起こさせるようではないか。と、泊瀬谷は彼女を視線で追う。
(格好いいな…あの人)
白く輝き、ウェーブがかった髪の毛からは、よその国の香水のかおりが漂う。
スーツは泊瀬谷が雑誌でしか見たことのないような、有名ブランドもの。
バッグも泊瀬谷が幾ら頑張っても、爪に火を灯す生活をしないと買えないほどのものだった。
たわわな尻尾を揺らしながら、彼女は降り際に片手で携帯を取り出すと面倒くさそうに話し始めた。
「もしもし?あなた?ええ、鈴だけど…」
白いイヌの女性は、灰色に飲み込まれるように雨の街に消えていく。泊瀬谷は彼女のようになることは出来ない、と悟った。
誰かが願いを叶えてくれるなら、いや、望みなんか叶わなくたっていいので自分の願いを聞いて欲しい。
『わたしも格好よくなりたいな…』
でも…いざ、話なしなさいってなると、そんなこと出来るわけが無い。
例えば、夜会に来たネコたちに、こんな話をしたらきっと尻尾を地面に叩きつけて笑われるに決まっているだろう。
泊瀬谷は寝たふりをしながら、使い古したトートバッグを抱きしめる。教科書とちょっとの文庫本ばかりの中身は、
ずっしりと泊瀬谷のふとももにのしかかる。泊瀬谷の尻尾は知らず知らずのうちに、隣の女学生を叩いていた。
雨の日のために出したショートブーツに傘の雫が垂れる。お気に入りなんです、と泊瀬谷が言い訳して履いているが、
裏を返せば新しいものが買えないだけの悲しいお話。風に流された大粒の雨は古い市電の窓ガラスを打ちつける。
「夜会、晴れればいいな…」

8 :
夜会当夜。世間さまは葉月の夜。でも、旧暦の『七夕』で忙しい地域もあるんだとか。それ、頂き。で今回の夜会は七夕祭りだ。
この間までの雨はウソのように上がり、雨粒の代わりに星くずたちが降り注いでいた。
傘なんていらない。合羽なんて必要ない。今宵は夜会を楽しむがいい、と星空の誘いにかどわかされて泊瀬谷は、蕗の森公園にやって来た。
八月でも『七夕』ということだけあって、広場の真ん中には大きな笹が据えられて、葉っぱが夜風に拭かれて揺れている。
集まってきたネコたちは、とくにざわつくことなくのんびりと時間を共有するのが、ここでの不文律。
その中の輪に入ろうと泊瀬谷は公園の門を潜るが、沈んだ気持ちに包まれていた。
「残念だな。白先生も、帆崎先生も来れないなんて」
たった一人でやって来た泊瀬谷は、寂しくベンチにR姿の脚をそろえて座っていた。
今回は、白先生と帆崎先生を誘って今宵の夜会に臨んだのだ。
が、医者の不養生とよく言ったもの、白先生は季節の急な移り変わり目に付いてゆけず体調を崩し寝込んでいる。
帆崎は帆崎で夏休みだから、生徒指導の会議や文章作成というこの季節ならではの仕事があるということ。
さらに、常連・尻尾堂のおやじはマタタビ酒の飲みすぎで今宵は来ない、との風の噂。
泊瀬谷は一人暮らしだから、一人ぼっちには慣れているはず。なのに、お祭りというせいか寂しさが募るばかり。
こんなときに、自分に構ってくれる人がいれば。
こんなときに、何も言わず自分の話を受け止めてくれる人がいれば。
遠くから聞こえる、誰かの笑い声は泊瀬谷の周りに透明な殻で包み込む。
一人だけ暇で悪うございました。天の川なんか梅雨の豪雨で増水してしまえ。彦星も現をぬかさず仕事しろ。
織姫もペルセウスに浮気してしまえ。ソイツの方が将来安泰だぞ。ふと泊瀬谷は、夜空に瞬く二人に嫉妬をしてしまった。
泊瀬谷は他のネコたちを眺めながら、楽しそうに集うネコたちを冷たく、そして遠い目で眺めていた。
コツンとスニーカーで小石を蹴る。
天には甘い星の川が流れているというのに、泊瀬谷の寂しさを癒すことは出来ない。
大勢ネコたちがいるというのに、逆に寂しさを感じてしまうのはどうしてだろう。
自分ひとりここから立ち去っても、夜会はつつがなく続いてゆく。それを考えると泊瀬谷の瞳が星に照らされてしようがない。
『願い事を短冊に書いて、この笹の葉に吊るしましょう』
誰が書いたか知らないが、こんな立て札が広場中央の笹の側に立っていた。
そうだね、せっかくのお祭りだもん。楽しまなきゃね…。彦星、織姫、ごめんなさい。生意気言ってごめんなさい。
泊瀬谷は備え付けの短冊とサインペンを手に取り、泊瀬谷なりのささやかな願いごとを込めて筆を走らせた。
せめて、わたしのくだらない祈りごとでも見て、二人してせせら笑ってちょうだい。それがわたしからの差し入れです。
と、泊瀬谷は人に見られぬようにこっそり笹の葉に隠すように吊るした。
周りは見知らぬネコばかり。こんなに蕗の森町にはネコが住んでいたんだと再認識していると、一人のネコが泊瀬谷の肩を叩く。
はつらつとした声が泊瀬谷の背中を叩く。振り向くと、いつぞや学園内で出会った、若いネコの女性ではないか。

9 :
「せんせい!お久しぶり!!」
「杉本さん?」
「ミナでいいよ」
金色の短い髪を揺らし、白い尻尾をピンと立てた杉本ミナは、相変わらずラフな格好をしている。
泊瀬谷の横に腰を掛けるミナも、どうやら一人でのこのこ夜会に参加したらしく、話し相手を探していたのだ。
「あの、ミナさん。この夜会のことは…」
「淺川くんに誘われたんだよね、はじめ。『芸術家たる者、美しいものを芸の糧にしなければならないっ!』ってね。
でね、きょうの午前にウチの店で淺川くんに会ったとき、丁度出版社の人から打ち合わせの電話が淺川くんにあってからさ、
ちょっとした仕事が入りそうって言ってたんだ。でも、あの人それを蹴って夜会にわたしと一緒に来そうな勢いだから…」
「行かせたんですか。出版社に…?せっかく夜会に誘ってくれたのに」
「もちろんね。最後まで悔しそうだったよ。今頃、担当の人とどこかの居酒屋で飲んでるんだろうね。オトナって大変じゃん」
「ですよねー」
もしも、自分がミナの立場だったらどうしただろうか。周りを気にせず、自分をさらってゆく白いイヌを思い浮かんでいた泊瀬谷は、
ほぼ同世代のネコなのに、ミナはどうしてこんなにオトナなのか、と自分のことが恥ずかしくなってきた。
「でもね、仮に…泊瀬谷先生がわたしの立場で、淺川くんじゃなくてヒカルくんだったら……、
泊瀬谷先生の方をヒカルくんは取るんじゃないかな。仕事なんかすっ飛ばして」
「ミナさん!ヒカルくんは…ヒカルくんは…」
「淺川くんみたいな純粋な仕事人間もいいけど、好きっていうことに純粋な子も好きだよ、わたし。ほら、せんせ。尻尾、尻尾」
知らず知らずに尻尾をベンチ叩きつけていた泊瀬谷は、眉を吊り上げる。
わたしは素直すぎるところがある。通信簿の数字は5ばかりでも、先生からの評価はけっして5ではなかった。
『泊瀬谷さんのいいところはみんなにやさしいところです。でも、本当にそれがいいのか考えましょう』
夏が来ると思い出す一枚の通信簿。自分がつける側になって、初めて言葉の重さを実感した。
そんな気持ちを忘れていないか、泊瀬谷スズナ。気まぐれなネコだからって、誰もが許しちゃくれない。
「織姫と彦星って、バカ正直だよね。年に一度だけ会えるんなら、会ったその日にどこか逃げちゃえばいいのに」
ミナはベンチに座って天の川を見上げながら、ぴんと足を伸ばした。伸びをするのはネコの気まぐれ。
一方泊瀬谷は、相変わらず眉を吊り上げていた。自分のこと言われているのではないかと勘違いする。
だが、ミナは照れ隠しに手首を舐めながら話を続けた。

10 :
「でもさ、わたしはバカな方が好きだな。そんな子を見ると、なんだか応援したくなるしね。せんせ、分かるでしょ?
それにさ、わたしもバカだから…。ボヤボヤしてるうちにアイツも離れていって、たまに会うとケンカばっかり」
「アイツ……ですか?」
「アイツの代わりに謝るね。いつもイタズラしてごめんなちゃい」
両手で丸メガネを作り、体を小さくするミナの言いたいことは泊瀬谷に伝わった。くすっと、泊瀬谷に笑みが戻る。
夜という時間がこの世に存在してよかった。
24時間明るいままで、毎日暮らしていくのはつらすぎる。
昼間、走り疲れたたケモノたちを夜はやさしく受けいれる。
昼間が自分を叱り飛ばす父親だとすれば、夜は自分が生まれた胎内で抱く母親。
泊瀬谷とミナは、夜の弱い星の光りを心地よく受け止めていた。
「ねえ。今度のお休みの日、またここに来ない?昼間だけどさ」
「……大丈夫ですけど」
「キャッチボールしよう。キャッチボール」
泊瀬谷は運動がいささか苦手なことを気にしていたが、星を見ているうちにどうでもよくなっていた。
長居してもしょうがないからと、泊瀬谷とミナは揺れる笹の葉を見ながら蕗の森を去る。
公園の入り口にある駐輪場には、ミナが乗ってきたバイクが月夜に照らされて鋼の輝きを放っていた。
青い夜になるとすこぶる調子がいいらしい。白いヘルメットをミナがひょいと手に取ると慣れた手際で頭に被る。
「ここに来る途中、ウチの事務のミミさんを家まで送っていったの。丁度メットがひとつ空いてるから泊瀬谷先生も送ってあげるよ。乗ってって」
「いいんですか?」
「いいの。いいの」
ミナと同じ形をしたクリーム色のヘルメットを泊瀬谷は受け取ると、髪の毛を気にしながらぎこちない手つきで被る。
ネコミミの形をしたヘルメットの耳あてに収まる泊瀬谷の耳。はじめて被るヘルメット。
既に愛車に跨り、エンジンを掛けていたミナが後ろを振り向くと、大きくミナのヘルメットに包まれた頭が揺れる。
「せんせ。乗ったり乗ったり」
初めて乗るバイクは体の底から振動が伝わり、高揚感とシンクロする気がする。
不安になって、泊瀬谷はミナにぎゅっとしがみ付き子ネコに戻った気がする。
白いヘルメットから顔を見せる襟首の髪に、女の子を見た気がする。
「涼しいね」
優しいエンジン音を立てて、二人の声が公園から遠ざかってゆく。
ゆっくりと眠る街を走り流し、休んだ軌道がライトに照り返されて、月夜のツーリングに誘われ。
信号は既に黄色の点滅でまどろみを覚えていた。ふと、二人の乗せたバイクは歩道の脇に止まる。
「ところで、せんせは何てお願いごとを書いたの?」
「えっと……『月がきれいでありますように』って」
「せんせらしいね!」
夜会を抜け出した二人のネコの、小さな笑い声が空に光る。

おしまい。

11 :
8月に七夕の地域って、意外と多いのねー。
投下おしまい。

12 :
安定して面白いってすごいよね
わんこ乙コレはポニーテールうんぬんかんぬん

13 :
携帯規制解除やっほい!
ミナは本当に気持ちのいいお姉さんだ
はせやん乙女ちっくでかわいいね

14 :
案外、くすぐったい。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1313.jpg

15 :
これまた意外なシーンがw
はせやんの顎なでなでしたい

16 :
顎をまふまふしたい

17 :
表情がエロいw

18 :
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1328.jpg
この後走って逃げた

19 :
清志郎はすごいぞおお

20 :
すいません、一寸思うところが有って削除してありましたが、再度あげました。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1205.jpg
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1206.jpg

21 :
以前、絵師さんが乗せて頂いた相関図の絵を使って、ケモ学SSガイドを作ってみました。
相関図を見て「登場キャラが多い」と感じられる方もいらっしゃるようで、主要キャラ中心に
初期作品をまとめました。よく出るキャラは多くはないので、初めてケモ学に触れる方の力になれば幸いです。
また、事後になってしまいますが、いつもの絵師さんの絵を使用させていただきました。すいません。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1246

22 :
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/868.html
の冒頭を勝手に絵コンテ切ってみた。
http://loda.jp/mitemite/?id=1251

23 :
最悪だ。
カレーうどんのつゆが、わたしの手にはねた。
母さんが弁当を作り忘れたから、たまに学食に行くとコレだ。ほっておとくと、取れなくなるからたちが悪い。
「風紀委員長であるわたしとしたことがー。あーん!!」
自慢の白く柔らかいウサギの毛並みが、カレーの香りとともに染み付いて午後の授業のための集中力を奪ってしまう。
とろみの付いたうどんのつゆは、なかなか冷めずわたしのメガネをいたずらに白くするだけ。カレーの風味もどこかへ消えてしまった。
今日は毎月楽しみにしている『コミック・モッフ』の発売日だから、きっと浮かれてしまっていたのだろう。
返却口に食器を返すとすぐさまに、学食側の洗面所へとはせ参じた。誰かが見ているような気がして、落ち着かない。
無駄だと思いつつ、洗面所で染まった箇所を洗うが、悲しくも事態は前と変わることはなかった。
ただ、手が冷たいだけ。ただ、濡れた毛並みが情けないほどわたしの体にへばりついているだけだった。
「あ……」
誰もいないと思っていた洗面所に、誰かが使っている気配がする。あれは同級生の小野悠里。
大きなキツネの尻尾を揺らし、銀色の艶かしい髪を片手で掻きあげ、そして胸元からははみ出さんばかりの豊かな胸。
鏡を前に歯ブラシを咥え、また熱心に歯を磨いている。ブラシの音が洗面所に微かに響き渡っていた。
歯磨きをしているというだけなのに、図り底得ない色気を感じ、よからぬ妄想図がわたしのメガネに焼きつく。
彼女は本当にわたしと同じ高等部の生徒なのか、と誰も得しない自問自答を繰り返しながら、自分のお情け程度の胸に手を当てる。
何もかも正反対なわたしは、小野の不思議な魅力に取り付かれたのか、何故か彼女をじっと見つめていた。
ハッカのような歯磨きチューブの香りが、わたしの瞳を半開きにさせる。
「小野さん?」
ハンカチで手を拭きながら、わたしの呼びかけに振り向いた小野は、ちょっと頷くと再び鏡の方を向く。
歯ブラシを口から出すとともに、磨いたばかりの白い泡がたらりと口からこぼれる。糸を引いた白い泡が彼女の口を汚す。
流しに垂れた泡の音をわたしは聞き逃すはずが無い。むしろ、その音に理由なき色気を感じたのだ。
手持ちの赤いコップで小野は口をゆすぐと、再び口からぷくぷくと白い泡を細い口元からこぼしていた。
「委員長だ。リオちゃん、珍しいね。ここで会うなんて」
「ちょ、ちょっとね。お弁当を忘れて学食で食べたんだけど……」
「いつもお弁当だもんね、委員長は。ンフフ」
そういえば、小野と面と向かって話すのは、これが初めてかもしれない。
小野悠里。キツネの高等部女子生徒。実家がお寺で弟が一人。わたしの持つ彼女に関するパーソナルデータはこのくらい。
そして、横から彼女を見ると、制服からでもやゆん、よゆんとたわわに実った胸が誇らしく見える。きっと柔らかい。
「わたしとちょっと、あそばない?」だなんて言葉が口癖でも不思議じゃない、学園の妖女。
仮に同じセリフで男子を誘惑しても、わたしなら「ぷっ」と一笑されるだけかもしれないが、彼女なら化かされたように
男子は彼女の後を付いてゆくのであろう。はいはい、男子なんかそういう生き物なんだよっ、バーカ。
「小野さんは、いつも……」
「あら、『小野さん』だなんて。『悠里』でいいわよ、リオちゃん」
使った後の歯ブラシを洗いながら、悠里はわたしより遥かに年上っぽい声で、わたしを同級生と認めてくれた。
コップとお揃いの歯ブラシケースは、お年頃の女の子のもの。水気を切ってポーチに収めると、悠里はわたしを教室へと誘った。

24 :
悠里といっしょに歩くと、女のわたしでも男子の気持ちが分かる気がする。
一歩ごとに大きな尻尾は揺れて、わたしの純真な乙女心を落ち着かせない。見慣れている二次元の世界では、ここまでの色気は出せない。リアルの勝利か。
銀色の髪の毛は、ミステリアスな彼女の雰囲気とよく似合い、例えば悠里の為にお小遣いをすっからかんにされても後悔は無い。
「そうだわ。今日の放課後、わたしとご一緒出来ないかしら。りんごちゃんは吹奏楽部、翔子はバイトなんだって」
もちろん、わたしは無言で首を縦に振っていた。悠里のことに、俄然興味が湧いてきたのだ。
わたしと悠里との共通である友人は、わたしと同じウサギの星野りんごだ。
りんご曰く「年下でも年上でも、うぶな男子をからかうのが趣味」だとか。悠里とつるむことの多い翔子は、
そのことにやや苦心しているようだが、悠里の側に立って御覧なさい。理由はすぐに分かるから。
放課後、約束どおりに悠里とわたしは、帰り道を共にした。彼女がローファーを履く姿に見とれる。
足を靴に入れる仕草、屈むとふわりと顔を覆う前髪、スカートから覗く太腿、そして母なる大地を思い起こさせる胸がゆらり。
悠里の一つ一つの仕草が、どうしても色っぽくわたしの胸に訴えてくるのだ。足音さえ、大人を感じさせると思わないか。
とんとん!とつま先を床で叩くと同時に二つの豊かな胸が声を合わせるように揺れている。夏服のせいか著しく見える。
それを見ながら、わたしは自分の小さな胸を触ってみたが、何かが起こるということはなかった。
そうだ。出かけたことは無いけれど、デートに行くとしたら男子は、きっとこういう気持ちになるのだろう。
言葉で表すにはもったいないほどなのだけど、あえて言うなら「どぎまぎ」「はふはふ」「くらくら」そして「ふわふわ」。
まるで綿菓子の上を歩いているような感じ。雲ではなくて綿菓子だ。ここだけはどうしても譲ることは出来ない。
ちらりと横目で悠里を覗き見するわたしは、周りからはどう見てもおかしな子のようにしか映らないのだろう。
スタイルが良い悠里は、制服の着こなしが洒落ている。白いソックスが、キツネの細い脚によく似合う。
普段はどんな格好をしているのだろう。トップスも大人びたものも似合うんだろうし、スカートも短くても格好が付く。
流行のサンダルもちゃっかり履きこなして、世の『オトコノコ』たちを独り占めするんだろうな。
勝手に悠里を着せ替え人形にしてしまったわたしは、彼女の潤んだ目を見るのが少し恥ずかしくなった。
「お気に入りの店に行こうかと思ってね。誰かを誘おうと思ったんだけど、ごめんなさいね。リオも委員会がなくてよかったね」
「そうね、うん!うん……。わたしもさ、お……悠里と話したいなぁ!って思っててさ!ね!ね!」
悠里から誘われなければ、彼女の服装のことでやかましくお小言をしていたのかもしれない。
ただ、今は、悠里に興味津々。悠里の気になる店とは、一体どのような店なのか期待が高まるとともに、果たして自分が来店しても
一人で浮いてしまわないのだろうかと、少々心配になってきた。大人の世界にいてもおかしくない悠里のお気に入りの店だもの。
だってさ、銀座のおしゃれなカフェで「ガリ○リくん」をかじるようなものじゃないか。
この間は教室で落雁を食べていた。どうやらお取り寄せで手に入れた『鱚屋』の落雁。甘い物にはぬかりの無い
わたしたちの年代の子にしては、なかなか大人びた選択だ。上目遣いで甘えて来る洋菓子もいいが、三つ指付いて迎え出る和菓子もいい。
街の書店の脇を通り過ぎるが、悠里といっしょなので『コミック・モッフ』の表紙を直に見ることが出来ない。
今月の表紙『若頭』なのになぁ。むっはー!
「ここなのよ。ここ」
郊外へと伸びる私鉄の乗換駅前。わたしたちと同じ学生の姿も多い。悠里が指を差した店舗は、出来たばかりのものだった。
だが、すこしばかり「今日の」わたしには、ちょっと足止めしたくない店なのは致し方ない。
なぜなら、看板には『しの田のうどん』と書かれていたのだから。

25 :
店内に入ると学生で一杯だった。
わたしたちの通う佳望学園のほか、隣町の学校、海岸沿いの女子高の生徒が多い。寄り道してまで食べてみたいということか。
壁際の席に座ったわたしたちは、さっそくオーダーを決めようとしたところ、悠里はすぐさまオーダーの伝票に書き込み始めた。
ここでは、お客が自らメニューが書かれた伝票に印をつけて、オーダーするシステムのようだ。
「きつねうどんねー。リオちゃんは?」
少し考える演技をする。お昼のトラウマを若干蘇らせながら、わたしはつゆがはねても少々平気である
悠里と同じきつねうどんにすることにした。それに、出来上がる時間も同じだから待つこと無い。なんて聡明なわたし。
「ここの油揚げは最高ね。豆腐はたんぱく質たっぷりだから、美容にもいいし」
「もしや!」
じっと、悠里の胸元を凝視するわたしはもうだめかもしれない。彼女が手を拭くたびに、二つの胸が揺れてどうも目を困らせる。
しかし、もっとわたしを困らせるものが目に入ってしまったのだ。毎日顔を会わせてる、ソイツの顔。
(う……。マオのやつ。朝のことは覚えてろよ、この愚弟が)
わたしと違う天秤町学園に通う中学生の弟のマオ。どうやら帰り道、友人たちといっしょにここに来ていたらしい。
いつも利用する私鉄の乗換駅だから、ここに来ていても不思議は無いが、せめてわたしがいない時間か日に来て欲しかった。
呑気にうどんをすすりながら、友人たちと談笑しているマオは、もしかしてわたしの悪口でも言っているのだろうか。
あちらが笑えば笑うほど、わたしは取り残されたような孤独感を抱いてやまないのだよ。
「お待たせさまでした」
二つどんぶりが並んでわたしたちのテーブルの上に並ぶ。熱々の湯気が夕飯前のわたしたちの食欲をかっさらい、
それに答えてわたしは油揚げが麺の上に浮かぶ姿に見とれる。すうっと息を飲み込むと、出汁の効いた風味が鼻腔をくすぐる。
揺れるつゆの香りと、油揚げの甘い香りが混ざる独特の風味なら、わたしの体の一部であるメガネを曇らせる価値が十二分にある。
つゆに浮かぶ葱はゆっくりと回転し、麺と葱の色合いが食欲を誘った。悠里は丁寧に割り箸を割ると、手を合わせていた。
「い、いただきます!」
割り箸で摘んだ麺は程よい硬さ。やや少なめにわたしは口にすると、わたしの口に麺の腰の強さが伝わる。
つるっと暖かい麺を一口ですすると、先からつゆがはねてわたしのメガネに張り付いた。
油揚げを口に咥えると、甘い汁があふれ出て口いっぱいに広がりつつも、熱さで少し舌が痛い。
半分に噛み切られた油揚げは、つゆに浮かんで丼の中でくるりと葱といっしょにまわっていた。
「やっぱり、ここの油揚げはいいでしょ?あら、そうだ。リオちゃん、お冷を汲んでくるね」
悠里は開いたコップを片手に席を外すと、尻尾を揺らしてお会計そばの冷水機へと向かっていった。
一人取り残されたわたしは、マオをじっと監視し続けた。ヘンな気持ちは無いけれど、アイツがヘンにさせるんだ。

26 :
悠里が自分のコップで水を汲む。こんこんと糸のように冷水湧き出る機械の前で、彼女は大きな尻尾を揺らしていた。
ここで言うのもなんだが、悔しい。何だか悔しい。悠里の後姿は、色気の溢れる大人のシルエットだったのだ。
ローファーを鳴らして冷水機に向かう姿、一歩進むたびに尻尾がやゆん、よゆんと揺れて、ふわりとスカートもつられている。
お年頃の青少年だったら、かどわかされても「それじゃあ、仕方ないね」と呆れられるオチ。
オンナノコに甘い幻想を抱いて、本物の女の子を知って壊れることを恐れる世代の「オトコノコ」の考えることって!!そんな「オトコノコ」が、
妖しい色香を漂わせるわたしの同級生と冷水機の前でかち合った。ソイツは、毎日会っているウサギの少年だった。
「お先にどうぞ」
悠里はわたしの弟のマオに、順番を譲り一歩下がってマオを立てた。コップ片手にマオは、会釈をする。
とくとくと冷水機は白い糸を描きながら、のどを潤す水を湛えていた。その時間は短いようで、意外と長い。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ、ボク。どうもね」
悠里はマオの後に続いて冷水機から水を注ぎ始めたのだが、わたしはふと星野りんごの言葉を思い出した。
「年下でも年上でも、うぶな男子をからかうのが趣味」
きっと、悠里はマオと目を合わせたと同時に、りんごの言葉を如実に現すスイッチを入れているだろう。
イヌ科独特の尻尾のゆれを御覧なさい。マオのような少年は、きっと尻尾を見ているだけで、よからぬ妄想を抱くのだ。
マオが喜んで読んでいる少年マンガ誌で連載されてた『ているずLOVE』でも、やたら尻尾の描写がリアルだったじゃないか。
マオはそういう「Rはいてない!」的な作品は読み飛ばしていた(と思う。多分)。そういう文化を小バカにするヤツなんだ。
だけど、女のわたしが読んでも萌えたというのに、弟ぐらいの中学生が見たら……。おっと、ジャッジメント!!
「あっ」
わたしと悠里が同時に同じ言葉を呟く。
悠里は冷水機からの水を不注意で溢れさせ、手を濡らしてしまったのだ。いや、不注意では無いことは、わたしにだってわかる。
濡れた手で持っていたコップを側の机に置くと、ぶんぶんと手首を振って、真珠のような水滴を飛ばす。
ケモノの手は一度濡れると後始末が悪い。ハンカチを探そうと(している振りの)悠里を見てマオが彼女の甘露溢れる蜘蛛の巣へ。
「いけない。ハンカチがバッグに……」
「お姉さん、コレをお使いください!!!」
手持ちのコップをすぐさま置いて、自分のポケットからハンカチをすっと渡すマオは、ここだけ見れば非常に紳士的であり、
騎士道を重んじる勇者のようだ。しかし、経験値の足りない勇者は魔女のまやかしに玩ばされるんだ。

27 :
「ありがとう。助かったわ」
「は、はい」
机の上には、冷たい水が湛えられたコップが並んでいる。
片方は悠里のもの。もう片方はマオのもの。ぱっと見、どちらが誰のものか分からない。
悠里のコップは、年上のお姉さんの甘い口元触れた、オトナの甘味。甘くて、イケなくて、そして甘くて……。
「えっと……。どちらでしたっけ?」
「……えっと…」
弟は悠里の甘い口元を気にしながら、自分のコップを思いだそうとしていた。
きんきんに冷えた水。年上のお姉さんの口元。そして、彼女の口元が触れたかもしれないコップ……。
「ふふふ……。どうぞ?」
弟はじっと並んだコップを見つめながら、悠里の口元を想像していたに違いない。バーカ。
「そうだ、こっちだったね。ごめんね」
わたしが見つめていたから間違いないが、確実に悠里は悠里のコップを拾い上げ、マオに微笑みかけた後わたしの席に戻ってきた。
マオは自分のコップだというのに、恐る恐る残ったコップを掴み明らかに動揺した足つきで友人の待つテーブルへと戻る。
せめて、悠里が今日の日のことを忘れるまで、あのウサギがわたしの愚弟だとバレませんように!
悠里とさよならをして、自宅に戻ると残念ながら弟は帰宅していなかった。
わたしの高貴な趣味をバカにして、リア充街道まっしぐらの因幡マオ。この間、楽しく汚れなき二次元少女を愛でていたら、
渋柿を十食べたような顔をされた。彼に一矢報いるために、わたしはあの光景を目に焼き付けてきたんだ。
清く正しい少年も、妖艶な女子にとってはおもちゃ同然なんですよって。わたしだって!わたしだって!
弟の帰宅が待ち遠しい。制服のまま、居間で待つわたしのおもちゃになっておくれ。リアルに「コレなんて○○?」だよ。
くんくんと開きたての文庫(ラノベですが)を匂う。結構気に入っているスカートを揺らす。ニーソックスの脚をバタつかせる。
白く雪のような毛並みがはためくスカートから見えるじゃない?そうよ、わたしってば、みんな大好き女子高生だよ。
オトナの色香漂う悠里と同じだよ。おまけに頭に『文学』ってつけていいんだから。希少価値!
弟の声が玄関からゆっくりと響く。おかえり!わたしのおとうとくん!
「ただいまー」

おしまい。

28 :
上の作品はわんこ ◆TC02kfS2Q2氏の 「きつねの子」です

29 :
連続で代理失礼します。
ているずLOVEはチラ裏?的なものかしら?念のため本スレには代理しないようにしておきます。
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30 :
港に城が現れた。鉄(くろがね)で組み立てられ、街のどの建物と比べても大きく見える。
人々は仕事の手を休め、安らぎを忘れ、じっとその城を見ていた。
「帰って来たぞ!」
「おかえり!」
「いつ振りかねえ。『双葉』が帰って来たのは」
街の人々と、港の城は顔見知り。この街で生まれ、この国で育まれ、この大洋を駆け巡る、八嶋の国の自慢の戦艦『双葉』。
海軍工廠の建物と並び、波は白い泡を立てて洗い、船は長旅の疲れを癒しているかのように人々の目に映った。
「おかあさん!軍艦が帰って来たよ!」
「そうね。それじゃ、和豊さんも帰って来たのかね。この間絵はがきが届いてたしね」
丘の上に立つ小さな家屋。屋根に上ったネコの少年は、土間で回覧板を隅々まで読んでいた母親に「軍艦、軍艦」と叫ぶ。
屋根の下の畳の部屋では、少年の姉が小さな手帳に短くなった鉛筆で、せっせと書き込んでいた。
久しぶりにご馳走が食べられると、少年は目を輝かしながら屋根の上でピョンと飛び跳ねる。
青い空に少年の毛並みの白さが、雲と重なっていた。眩しい夏の光を全身に受けて。
「この間さ、笠置のねーちゃんが港の近くを飛んでて、憲兵さんに怒られたんだって」
「久しぶりのお天気だから、翼が黙ってなかったんだろうね。ハヤブサって子は」
「でも、笠置のねーちゃんが軍の機密を……」
と、言いかけた途端に母親の視線を感じ、ヘビに睨まれたカエルのように固まる。
ずり落ちそうな足を踏ん張りながら、なんとか話題を変えようと。
「この間のご飯はお腹いっぱいだった!」
「まずかったよね」
縁側に顔を出した姉が耳をたたんで目を細めた。
手にしている手帳にはぎっしりと文字が並んでいた。
「何言ってるんだよ。あれは『楠公飯』ってね、少ないお米であんたたちをお腹いっぱいにする不思議なご飯なんだよ」
「お母さん。あれ、手間は掛かるけど……あんまりね、味は」
強火で玄米を倍の水でそのまま炊き上げ、一晩寝かす。そしてさらに炊くと乏しい食事事情の時代でも、満腹になる『楠公飯』の出来上がり。
だが、味の保障はない。毎日は到底食べられない、とスズ子は大地の有り難味に愚痴る。
でも、人々は船の帰りや大海原に安らぎが訪れることを祈り続けていたことは、変わらないのであった。
「スズちゃん!読み物書いている暇があったら、回覧板を早くお隣に回してちょうだい。小説なんてね!あんた……」
「はーい。でもさあ……いずれね、この国は読み物でいっぱいになる時代が来るよ。きっと」
ゆらゆらと母親の尻尾が、五つの大洋を駆け抜ける艦隊の旗のように揺れていた。
―――その日の夕方、父母、姉弟は揃って夕方の涼しい風に当っていた。
縁側から居間に風が吹きぬける。虫が誤って入ってきた。姉弟揃って虫を追い駆けて天井を見上げるが、そこには板はない。
爆撃弾が引っ掛かるのを防ぐ為だ。この間、傷めた腰を庇いながら父親が取り払ったのだ。
時間が経つのを感じながら、誰かの帰りを待ち続け、夜空と星に浮かんだ『双葉』の影を遠くに望む。

31 :
「泊瀬谷一等兵、帰宅しました」
子供たちが若々しい声を聞くなり、玄関に駆け出す。彼らが飛んでいった先には、海軍の軍服姿の若人が姿勢を正して玄関で敬礼をしていた。
その脇で父の姉が彼の側に申し訳なさそうに立って、同じように小さく敬礼。
「和豊、お帰り」
「お兄ちゃん!ねえ、アレやってよ!アレ!」
少年は和豊の尻尾に飛び掛るや否や姉に自分の尻尾をつかまれる。
「春男、和豊さんは入湯上陸で帰って来たんだから、ゆっくりさせてあげなさい」
「お姉ちゃんも見たいくせに!バーカ!」
べーっ、と舌を出して姉のスズ子は弟をあしらうが、和豊には微笑ましく映った。
潮風に洗われた和豊の毛並みは、不思議と垢抜けて見えた。
その日の夕飯はいつもと比べて格別に豪華だった。居間を包む香りがいつもとは違う。
真っ白いご飯に、野菜を煮たもの。どれも、彩が豊か。子供たちも争っておかずに群がるが、母親から尻尾をつかまれる。
和豊にとってはご馳走続きの一日だ。なぜなら、昼は昼でカフェにおいて『入港ぜんざい』を口にしたからだ。
しかし、このことは子どもたちに知られるとうるさいので、泊瀬谷家では「機密事項」である。
「和豊、軍艦はどうだ」
「仲間も上官も、みな良い人ばかりです」
久しぶりに実家に戻った和豊は兄の横顔を伺う。もう、どのくらい会っていないんだろうか。
地面が揺れていないなんて、和豊にとっては海軍学校を卒業して以来のことだった。
一方、兄は国民学校の教師だ。腰を痛めているので、地上で黙々と働くことが彼にとっては誇り。
この瑞穂の国を背負うお子たちを育て、教鞭を振り、繁栄させるのだと、兄は口にはしないが目で語っていた。
夕飯も終えて、それぞれがゆっくりとした時間を過ごしていると、家の外を出ると一つも物音さえしない夏の夜が広がっていた。
折角だからと家に帰って来た和豊と兄は、配給で少しばかり手に入れた酒を酌み交わしていた。
「ネコに入湯上陸だなんて、上官も洒落たことを賜りますね」
「海軍は昔から洒落ているのだ」
水の貴重な軍艦では風呂に入るために、上陸を許可する。それを『入湯上陸』と呼ぶ。
部屋の奥から「お風呂が沸きましたよ」と、声が飛んでくる。和豊はこの言葉でさえ懐かしい。
そのころ、和豊の姉が和室に蚊帳を広げていた。
スズ子は相変わらず手帳に文字を書き続け、春男は和豊の尻尾に絡み付いていた。
天に白鳥が羽ばたき、星の一粒一粒が眩い。誰もが星空が恒久に変わらぬことを願いつつ、『双葉』に一筋の願いを託していた。
「まあ、お前は海軍で散々使われるんだな」
「兄さん、ひどいですよ。ぼくが三毛猫だからって」
「お誂えだよ。『オスの三毛猫が船に乗ると沈まない』って昔から言うからさ」
兄に酒をゆっくりと酌みながら、和豊は頬を赤らめた。
「じきにお前はすぐに出世するよ」
「ご冗談を」
「教師は昔から洒落ているのだ」
また、ご馳走を食べたいなと願いつつ、子供たちは蚊帳の中に潜っていった。
和豊は自慢の三色の毛並みを夏の風に揺らして、風呂場に向かう。

おしまい。

32 :
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※二週間ぶりの投下になります。暑くてバテバテでしたが、これからまた頑張りマスです。
※創発二周年おめでとうございます。私は来月9日がここの二周年だ。

33 :
           /         \
          /        \  . \  ここはお前の日記帳じゃないだろ・・・常識的に考えて
        /  \   /   \ ヽ   |  こういうことはチラシの裏にでも書いてろ、な?
        \●/   \● /    .|
        /  ∧  \         |
        \_/ l_/        .|
____    ヽ ` ̄ ̄´         . |
     \--‐‐{              |
  u   . \ /{             .|//
        \. {           / /
u     u   │ ヽ  .      / /

34 :
>>32
英せんせー!オレだー!結(ry

35 :
ケモノじゃないけど魚人ネタってアリ?

36 :
とりあえず投下しちゃえよ。

37 :
>>35です。
言い訳付きで避難所に投下しました。

38 :
とりっぷわすれた
ttp://dl7.getuploader.com/g/6%7Csousaku/310/uranai.png
ttp://dl7.getuploader.com/g/6%7Csousaku/311/uranai2.png
2枚目意味わからんって人↓
ttp://jinrou.dip.jp/~jinrou/

39 :
>>38
わらたww

40 :
>>38 かわええのう。
夏を忘れてしまう前に、こんなSSを。

41 :
泊瀬谷が誰もいないと思っていた保健室には、犬上ヒカルが一人で本を読んでいる姿があった。
とくに身体の具合が悪いというわけでもないのに、純白のベッドに腰掛けてハードカバーの本を黙々と捲っていた。
しかし扉が開く音に気付いたヒカルは、必死に大きな本を背中で庇おうとする。
「ヒカルくん?」
顔ではウソを突き通しても、尻尾が全てを暴き倒す。白い毛並みが真実ならば、足元の影は虚言を表す。
真っ直ぐに閉じた口から、誰からも見透かされるウソが聞こえてくる。
「具合、悪いのかな……」
「いいえ」
「それじゃ、保健室に来ちゃだめでしょ」
「……ごめんなさい。一人っきりになりたくて」
保健室の主・白先生の姿はない。こともあろうに、無用心にも鍵がかけられていなかった。
消毒と薬品の匂いは保健室が保健室であることを物語り、飾られたマグカップやコーヒーのサイフォンも端役として演じている。
部屋に置かれたベッドのシーツは乱れていない。几帳面な白先生が整えたままの姿であろう。
そのベッドにイヌ独特の毛が然程付いていないということは、ヒカルがここに来てそれ程のときは経っていない証拠。
スリッパの足音を鳴らさぬようにイヌの少年に近づくネコの泊瀬谷。ヒカルの担任教師だからこそ、気がかりで、ほっとけなくて。
泊瀬谷の白い毛並みを窓からの夏最後の光を浴びる。白い毛並みが真実ならば、足元の影は虚言を表す。
「先生は?」
「具合なんか悪くないよ。ただ」
後ろに見え隠れする本をヒカルが隠す姿は、親にお説教された幼稚園児と比べてもなんら変わりがなかった。
と、例えても誰もが納得するようなものだった。秋の稲穂に被さる綿雪を思わせる尻尾がベッドからこぼれる。
泊瀬谷は一介の現国教師。
泊瀬谷はただのネコ。
教えてくれなくたって分かっている。それでも、イヌの少年を自分の瞳に映そうと、映そうと。眼球に焼きついたって構わないぐらい。
だけど、理屈はどうしても答えられません。理屈は考えるもの。考えても、考えても、考えても。
この場から離れたくないという理屈はどうしても答えられません。だからと言って、親切な答えはご遠慮いただきたい。
内に秘めたる思いをひたすら隠し続けることの苦しさで、我慢が出来ずに爪が顔を見せるのだが、ヒカルには悟られたくはない。
「先生、一人で本を読みたいなって、思ってね」
「先生もですか」
つい『先生も』と、こぼすヒカル。気付いているのか、わざとなのか真意は不明。
そこに深入りすることなく、泊瀬谷はトートバッグから適当に一冊取り出して、笑顔を繕う。
ひとつウソをついて、またひとつ自分を苦しめ、泊瀬谷は自分の爪をそっと仕舞う。

42 :
     ××××××
泊瀬谷が生を受けて17度目の夏。
学校からの帰り道に親友である飛鳥の恋人の話を聞くのが、泊瀬谷の日課になっていた。
潮風が飛鳥と泊瀬谷のスカートを揺らし、ごろごろとのどを鳴らしているかのように二人は目を細める。
垢抜けない白いカラーのセーラー服に反抗して、ちょっとばかしオトナっぽく紺色のソックスが足元を引き締める。
突き抜けるような青い空と、物静かな海には花が咲き始めた二人のネコには良く似合う。
「はせやん、タケルのことなんだけどー」
「またー?」
「うん」
甘えるような言葉で飛鳥の相談ごとはいつも始まり、泊瀬谷もその相談ごとを受けることは、苦であるよりもむしろ楽しみであった。
飛鳥は背中まで伸ばした黒髪が自慢のシロネコの少女だ。揃えられた前髪が清楚さを物語る。
泊瀬谷からは飛鳥のことが非常におとなしく見え、飛鳥から見ると泊瀬谷こそ大人しいと言う。
しかし、泊瀬谷は飛鳥の方が同い年なのに年上のように感じ得る。それは、タケルの存在だ。
タケルは彼女らが通う高校から少し離れた狗尾高校という男子校の生徒。大柄な洋犬で女の子なら
だれでも抱きしめられたくなるような、真っ白く誇り高い毛並みを持つ男子生徒だ。
学校から帰りの電車の中で、飛鳥にタケルが話しかけてきたことから二人は始める。
飛鳥がタケルと付き合い始めたのは、それぞれが高校に入った頃のこと。
「ここ、涼しいですよ」
タケルの心遣いからだった。
青い海の見える涼しげな窓際、タケルの純粋な親切心が恋心に変わる。そして、二人が付き合うようになるには、そう時間は必要なかった。
そのとき泊瀬谷も一緒に電車の中に居たので、タケルのことは少しばかりは知っている。
始めこそぎこちない二人だったが、日に日に二人はお互いのことを深く知るようになる。
立派な体格のタケルの姿を見て、泊瀬谷は飛鳥のことを嫉妬したと同時に心から幸せを祝った。
友人の恋人だもの、応援しなきゃ。
あるとき、飛鳥はタケルの普段見せない仕草を嬉しそうに話していた。
タケルの尻尾にきゅっと爪立てちゃった、だの。
「尻尾を握ると嫌がるんだよ。大きい体してるのに。で、いきなりわたしが指から爪を出すと『ひっ』って声出して驚くんだ。かわいい」
泊瀬谷は飛鳥の話を勝手に自分に当てはめて、にこにこと楽しんでいたのだった。
「飛鳥も果報者だぞっ。あれだけの男子を彼氏にできるって」
「ううん。そう思われても仕方ないけどね」
「だって、タケルくんすごい人気者だよ」
海岸沿いのコンクリの護岸の上、両手を広げ尻尾を立てて歩く。飛鳥は子どものようにはしゃぐ泊瀬谷と違う目をして俯いていた。
両手でしっかりとカバンを携えた飛鳥が歩くたびに、膝でぽんぽんとカバンの背がぶつかる。
海風がスカートを捲ろうとふわり。泊瀬谷は海側に背中を向けてカバンを持ったまま押さえる。
同時に飛鳥の黒髪が揺れて足取りを止める。遠くで私鉄電車が揺れる音が聞こえてきた。
しかし、飛鳥の不安を誘うような、何かに必死に縋りたいような気持ち。泊瀬谷にはそれが分からない。

43 :
「わたし、タケルと別れようかなって、思ってるんだ」
「えっ」
興味から理解。知ることは気持ちの晴れることかもしれないが、同時に伏せたくなる事実もはらむ。
「タケルと付き合ってきて考えたんだけどね」
両足揃えて護岸から飛び降り、ローファーの足音鳴らす。スカートがふわりと舞い上がる。
大柄なイヌが小さなネコを連れて歩く姿は、学校の女子たちの間では目を引くものだった。
できることなら、ずっと二人が幸せでいて欲しい。たとえ、自分の幸せを二人に分けて、ぽっかりと穴が開いてしまってもいい。
だからこそ、飛鳥の気持ちを理解するのが困難だった。
「タケルくん、優しいのにどうして」
「どうしてって……。なんだかねえ、優しすぎてイヌのことが分かんないのよね」
「頼り甲斐があって」
「そうなんだけど、ほら。わたしたちってネコじゃない。それが彼には分からないみたいなのね」
種族が違う。
イヌとネコだから。
ツメが違う、牙が異なる。
瞳も違う、そして何もかも違う。
言い訳を見つければ見つけるほど、湧いてくる二人の違い。
所詮はオトナの言い訳だ、と吐き捨てても泊瀬谷には受け入れられない純粋な子どもの気持ち。
「タケルはタケルで『お前は気まぐれすぎる』って言うし、わたしはわたしでタケルのこと『真面目すぎだよ』って思うんだよね」
「真面目って、だめ?」
「うーん。放っておいて欲しいときに心配してくれるんだよね。うれしいけど」
「……うん」
同じネコ同士だからこそ分かる、ネコの価値観。
親切心が恋心、恋心が老婆心へと変わるとき。
「はせやんもイヌの男子はやめた方がいいかも。はせやん、恋愛初心者だし」
「教習所も通ってないけどね。それに、わたし」
「いつかは『泊瀬谷センセ』って呼ばれるようになるんだもんね」
「なれるかな」
「なれるよ」
海岸沿いに立つ古い建物が目に入る。同じ制服の男女が群れ、解きかけのクロスワードパズル雑誌を伏せて駅員が改札を始めていた。
二人が乗る私鉄の郊外線に、成人式を二回ほど迎えた電車がゴトゴトとホームになだれ込む。
ブレーキの空気が吐き出される音に、身体の小さな生徒は怯えていた。運転士が窓から顔を出す。
その中には狗尾高の男子生徒が幾ばくか乗り合わせており、イヌの生徒ばかりとあってか、かなり車内が狭く感じる。
『好きっていうことと、なりたいっていうこと』
泊瀬谷が悩み続けているうちに、飛鳥は駅入り口に駆け込んで定期券をすっと出す。

44 :
――――恋が実ることなんて無いと思っていました。
全ての恋は、氷漬けにされた花。眺めているうちは美しい。だけども取ろうと思って氷を触ってみると手を傷めてしまうのです。
爪を立てても、けっして花には届かない。いつかあの花を手にしたいと、氷が融ける日を毎日ずっと待ち続けていました。
わたしが高校生のころ、友人たちは、氷を一ミリでも融かそうと熱心に暖めたり、かじったりしていたのですが、
わたしにはその頃それに興味が無かったのです。いや、無かったと言えばウソになります。手を出すことが出来なかったのです。
時間はわたしに残酷です。
頭をぶつけて母親を追い駆けていた子ネコは、いつの間にか大きくなって、一人だちの日が来てしまったのです。
教師である父の元、わたしは一生懸命に教師になる勉強をしました。大学に入りました。学校に勤めることになりました。
社会的な地位も手に入れることも出来ました。しかし、氷漬けの花のことをすっかり忘れていたわたしが、
がむしゃらにオトナになることだけ考えていた頃は、終わっていたと気付きます。そして、花のことをふと、思い出したのです。
すっかり氷が融けて、水に濡れた若い花をオトナになってしまった今、手にしてしまったのでした。
花はきれいでした。何処にでもあるような花でした。そして、もうそれは、冷たくもありませんでした。
一輪の花を手にすることがこんなに嬉しいことだとは思いもしませんでした。しかし、同い年のみんなは、
とっくにわたしよりも大きくてお値段も高い立派な花を両手一杯に抱えていたんです。
それでも、わたしは自分が手にしている小さな花が愛しくて堪らないのです。
―――時と雲は流れる。
     ××××××
交わす言葉は無くていい。
そっと側にいることだけが、約束だから。

45 :
義理を重んじるイヌと自己を愛するネコだって、二人を繋ぐものがあれば、きっと。
種族が違っても、きっと上手くやっていけるはず。
「先生、分かってるよ。一人で本を読んでいたってこと」
「……ごめんなさい」
耳をたたんだヒカルは、そっと隠していた本を腿の上に差し出す。
ヒカルの一緒にベッドに腰掛けて、顔を赤くしてお説教。だって、泊瀬谷は担任教師。
「いけないことしていたから『めっ』てするよ」
白くて豊かなヒカルの尻尾を泊瀬谷は握る。そっと、大切なものを手にするように。
柔らかい。温かい。くすぐったい。そして、ヒカルの表情が胸を打つ。
小さなネコだって、イヌを困らせることができるんだよ。と、言いたげな泊瀬谷は、ヒカルが油断している隙を狙って、指から爪を伸ばす。
「ひっ」
「へへへ!」
するりと抜けたヒカルの尻尾の感触が泊瀬谷に残る。もう、二度は触らせてくれないのだろうかと、心残り。
「お仕置きはおしまい。だから、もう何も言わないよ。今度は、ヒカルくんが先生にお仕置きする番だからね」
「……お仕置きだなんて」
「具合も悪くないのに、保健室に来たんだもん。ヒカルくんからお仕置きされなきゃ」
泊瀬谷の声は授業のときよりも明るい。そして、つづけて。
「こんなお仕置きはどうかな。『ヒカルくんが保健室に勝手に入っていたことをわたしはずっと黙っておく』っていうの」
いつの間にか泊瀬谷はヒカルの肩に寄り添って、瞳をそっと閉じる。
「だって、先生はきまぐれなネコだもの。こんなお仕置き、苦しくて苦しくて……」
きっと大丈夫。ずっと大丈夫。
わたしはヒカルの気持ちをきっと、ずっと分かっているはずだから。
泊瀬谷は自分がネコでヒカルがイヌであることに深く感謝しながら、くんくんとヒカルの襟首を嗅いだ。

おしまい。

46 :
秋がやってるよ!
投下終了。

47 :
もう最高です。このふたりは萌える。
はせやんかわいいなあ本当にもう。

48 :
はせやーん!ヤーンヤーンヤーン(エコー)
結婚してくださぁぁぁい!サアーイサアーイサアーイ(エコー)
……ヒカルきゅんと、な!

49 :
言い過ぎかもだけど、書き込みをためらうほどクオリティ高いスレだな まったく

50 :
にやにやにやにやにやにや

51 :
久しぶりに投下しにきた俺が通りますよ。
すっかり気温も下がって涼しくなったけど、今回は夏の名残のようなSSを一つ。
次レスより投下。

52 :
 
「くそ……最悪だ」
 
 未だ残暑も厳しいある日。
 晴れ渡る空の下、両手に押すバイクの重みを全身に感じながら、私は様々な事に対して悪態を漏らした。
 じりじりと毛皮を突き刺す日差しを浴びて、目玉焼きでも焼けそうな位に熱くなったアスファルトから陽炎が立ち昇る。
 こんな地獄のような状況の中、わざわざクソ重い愛車を延々と押して行こうだなんて、普通は考えたくも無いだろう。
 しかし生憎、今の私はこの炎天下の中、愛車を押して行かざるえない状況にあった。
 
 始まりは今から三十分ほど前、私が愛車のZUと共に一陣の風となっていた時の事だった。
 残暑も風の彼方へかっ飛ぶ軽快な走りから一転、唐突に前輪から生じる不快な違和感。
 嫌な物を感じた私が咄嗟に愛車を止めて見た物は、重力に負けて力無く潰れた前輪のタイヤだった。
 そう言えば、少し前くらいに交通事故の現場の、交通整理しているその脇を徐行して通り過ぎたのを思い出す。
 恐らく、其処で鉄片かガラス片でも踏んでしまったのだろう、これでは流石の愛車も性能の発揮しようが無い。
 
 しかし、直ぐに異変に気付く事が出来たから良かったのだが、、
もし気付かずに走ってタイヤをバースト(破裂)でもさせていたらと思うと、私は背中の毛皮を毛羽立ててしまう。
 なにせ、高速走行時においてのタイヤのバーストほど、バイク乗りにとって恐ろしい事態は無いからだ。
 
 当然、私は足を痛めた愛車を走らせる訳に行かなくなり、
結果、厳しい日差しの中、愛車の修理工具のある自宅のマンションまで重量230キロ超の愛車を延々と押す羽目になったのである。
 こういう事になるのなら、せめてパンク修理の道具ぐらい持っていけば良かったと後悔しても後の祭だ。
 今は、せめてチューブが揉まれてヨレヨレになる前に家に辿り付ければと祈るくらいか。
 
「……暑い」
 
 茹だるような暑さに、私は何度目とも付かぬ愚痴を漏らす。
 こういう時に限って綺麗に晴れ渡った空が、今の私には酷く恨めしく感じる。
 雲と言う傷害物が無い事を良い事に、太陽がこれ幸いと強烈な日差しで私の不快指数をがんがんと上げて行くから。
 暑さに喘ぐ私の横をごぉっ、と轟音をあげてトラックが通りすぎて行く。後に残るはむわっとした熱気と鼻に突く排気ガスの臭い。
 自宅のマンションまで後数キロ、それまで私はこの状況をずっと耐え続けなければならないのか。
 全く、夏もとうに過ぎたというのに……この蒸し暑さは何なんだ?
 
「……そうだった、これがあったんだ……」
 
 それでも舌は出すまいと我慢して押し続けて幾数分、
私は目の前に広がる光景を前に、絶望感を入り混じらせた呟きを漏らした。
 高低差約35メートル、総距離1.5キロに渡って続く長くキツイ上り坂。
 この坂を乗り越えた先に、私の自宅のマンションがある。
 
 何時もならば、愛車の馬力に任せてあっという間に通り過ぎてしまうこの坂、
しかし、今の私の目には、この坂が何処までも高くそびえる険しい山岳にも見え、思わず尻尾をくねらせてしまう。
 
 今の気分としては、このまま残った体力を振り絞って坂を一気に上り切ってしまいたい所ではある。
 だが、未だ暑さ厳しい時にそんな無謀なマネをすれば、即、熱中症でぶっ倒れる事になってしまうだろう。
 しかしだからといって、このくそ暑い中をのんびりと登って行こうという気にもなれない。
 
 さて、どうした物か……ま、ここは取り敢えず、煙草でも吸いながらゆっくりと考えるとしよう。
 誇り高き獅子族ものんびり気質なネコ族の親戚、時にはゆっくりと考えたい時もある。
 
 そうやってバイクのスタンドを立てて、ヘルメットを小脇に置いた私が、懐から煙草を取り出そうとしたその矢先。
私の横を通り過ぎた軽トラが少し離れた場所で急に止まり、そのままするするとバックして戻ってきた。
 そして、怪訝な眼差しを向ける私の前に軽トラが止まり、その開いたままの窓から作業着姿の白猫の女が身を乗りだし、
 
「ねえ、其処のライオンの貴方。一緒に乗っていかない?」
 
 とうの昔に過ぎ去った夏空の様な笑顔を私へ向けて、そう切り出した。

53 :
「にしても、あんな所でパンクするだなんて、災難だったね」
「…………」
 
 ばつの悪そうに助手席に座る私へ向けて、軽トラのハンドルを握る彼女が話しかける。
 しかし、私は何も答えず、代わりに窓の外を流れ行く景色を眺めながら。尻尾の先でシートをぺしぺしと叩くだけ。
 そんな私の態度に彼女は少しだけ苦笑すると、ホンの少しだけ軽トラのスピードを上げた。
 
「やれやれだ……」
 こちらから軽トラの運転の方へ意識を傾けた彼女を横目に、私は小さく漏らしつつ荷台の方の窓へ視線を向ける。
 その荷台の上には、足を痛めた私の愛車がロープでしっかりと固定されて、風を一身に受けている所。
 
 本当の所、こう言う事は自分自身で何とかするのが私のスタイルなのだが、
それで変に意地を張って、結果ぶっ倒れる事になったら余計に恥かしい事になると考え
結局、家がバイク屋をやっていると言う彼女の勧められるがまま、私は彼女の世話になる事となった。
 
 ……こんな所、もしあの”とっつあんぼうや”に見られでもしたら、
奴はそれこそ鬼の首を取ったかのように私をからかってくる事だろう。
 その様子を思い浮かべただけで、癪に障る。
 
「ねえ、獅子宮先生、だっけ?」
「ん、あ…ああ?」
 
 物思いに耽っている所で、彼女に初対面にも関わらず名前を言われ、思わず戸惑う私。
 何故、彼女は私の名前を知っている? 名前なんて言った覚えなんぞ無い筈だが……。
 その思考を表して訝しげにくねる私の尻尾。それを見て取った彼女は少し慌てて説明する。
 
「あ、驚かせてゴメンね? 実は言うとわたし、何度か佳望学園に来た事があって、その時にあのZUを見た事があったのよ。
それで、持ち主が誰なのかがちょっと気になって学園の生徒に聞いてみたら、あなたの物だって」
「…なるほど」
 
 なんだ、そう言う事だったのか、驚いて損した気分だ。
 思わず溜息を漏らす私の横顔を眺め、彼女は不意にクスリと笑う。
 
「ん…? 何故笑う?」
「わたしね。今まで獅子宮ってどう言う人だろうってずっと思ってたのよ。
何十年も前に産まれたZUを、まるで新品みたいに磨いて大事に乗り続けてる人だから、素敵な大人の女性なのかなって。
けど、実際に会ってみるとせんせって何だかワイルドな感じな人だったから、ちょっと意外だなぁって思っちゃって」
「む……それって遠回しにバカにしているのか?」
「バカにしてないって。むしろ誉めている方よ?」
 
 どうもそうは聞えんのだが……まあ良い、くだらない事は気にしないで置くとしよう。
 それより、今は少しだけ気になった事を聞くとする。
 
「所で…えっと」
「あ、わたしの名前は杉本 ミナ。ミナと呼んで良いよ」
「じゃあ、ミナ。お前は何度か学園に来た事があると言っていたが、一体何の用で学園に?」
「んと、学園に昔からの知り合いが居てね……っと」
 
 其処まで言った所で、目的地である自分の家のバイク屋傍の駐車場へ到着したらしく、
軽トラを止めた彼女――ミナは早速、荷台の愛車を下ろすべく尻尾を靡かせて外へ出ていってしまった。
 ……むぅ、聞くタイミングが少しだけ悪かったか? 肝心な事が聞けなかった。
 

54 :

「ここがミナの店か……」
 
 ミナに少し遅れて軽トラから降りた私は、まだ秋らしくない暑い日差し注ぐ中、駐車場から彼女の店を見やる。
 恐らく戦前から存在しているのであろう、木造の長屋並ぶ商店街の光景に溶け込む様にして佇む、一軒の古びた店舗。
 その瓦屋根に掲げられた所々錆びの浮いたホーローの看板には『杉本オート』と大きく書かれ、その存在を無言で示していた。
「ん、手伝おうか?」
「別に良いよ。私にとってこれが仕事だし」
 
 店の観察を終えた私がミナの方へ目線をやれば、
彼女は軽トラの荷台から私の愛車を降ろそうと、尻尾を左右にくねらせている所であった。
 その様子に少し心配した私が彼女へ手を貸そうと声を掛けるが、返って来た答えは少々つれない物。
 そして、軽トラから降ろした愛車の前輪に移動用の台車を取りつけた彼女は、愛車を店内へ押しつつ私へ話しかける。
 
「それにしてもこのZU、本当に良く手入れされているね。これ、せんせにとって大事な物なのかな?」
「ああ、大事な人からの貰い物だからな」
 
 私の短い返答にミナはふぅんとだけ返し、店内の修理スペースへと押した愛車のスタンドを立てた。
 そして、ふと店内を見まわした私は、使い古しのパンク修理用工具を戸棚から取り出す彼女の背にむけて問う。
「この店、ミナ一人でやってるのか?」
「ううん、お父さんと一緒にやってるんだけどね……おと―さーん! お客さーん!」
 ミナが答えて、店の奥にいるであろう父親へ声を掛けるも、返って来るのは静寂ばかり。
 その様子に今、店には父親が居ないと察したのか、ミナは不機嫌に尻尾を左右に振って、
「もうっ!、お父さんったら店開けっぱなしにして何処行ったのよ! 大方、友達に誘われて囲碁の勝負って所かな?
……ごめんね、せんせ。ちょっと時間掛かりそうだけど良いかな?」
「別に構わん。こうやって修理してもらえるだけでも僥倖なんだ。文句は言ってられんさ」
「ありがと、せんせ。なら30分程で仕上げるから」
 言って、ミナは手馴れた動きで工具を使い、手際良く愛車の前輪のタイヤのチューブを露出させる。
 そして、少しだけ空気を入れたチューブを盥に入れた水に浸してパンクの個所を探しつつ、彼女は私へ問う。
「所でさ、せんせはこのZUは貰い物だって言ってたけど……誰から貰ったのかな?」
「……何故その様な事を聞く?」
「んー、ちょっとね、昔に私の親戚が乗ってたのよ、これと同じ色をしたZUに。
でも、その親戚の乗ってたZUはある事情で貰われちゃったから、ひょっとしたら同じ物なのかなって」
「……」
 言いながら作業する彼女の、バイクに向けるその眼差しは、何処か遠くへ置き忘れた恋心を見つけた少女の様で、
その様子を前にした私は、何だか聞き返すのも悪い気がして、喉元に出かけた言葉をそっと胸中へと戻した。
 と、そうしている内に、にわかに動きを慌しくした彼女がある所を指差して言う
「せんせ、ちょっと見て。たぶんパンクの原因はここね。ガラスか何かを踏んだ物と思うけど」
「ああ…パンクする前に交通事故の現場横を通ってな、恐らくそれでかもしれん……直せるか?」
「大丈夫! バイクを押してたからチューブが揉まれてないか心配だったけど、その様子も無さそうだし。
この程度なら15分も掛からないわ」
 私の問いにミナは自信満万に拳を軽く振り上げ、早速とばかりにパンクの補修へと取り掛かる。
 パンク個所周りをグラインダーで軽くヤスリ掛けした後、補修用接着剤を丁寧に塗ってその上に補修パッチをペタリ。
 チューブ式である故、自転車のタイヤ修理と同じ感じでは在るが、彼女はよほど手馴れているらしくその動きは実に手際が良い。
 私が以前、一人でやった時はけっこう時間が掛かった物だが……流石はその手の職についた者と言うべきか。

55 :

「ふぅ、おおむね良しって所ね。けれどせんせ、分かってると思うけど修理したタイヤでは…」
「高速走行は危険だろ? 如何しても強度が落ちるからな」
「そうそう! 最近のバイク乗ってる子ってそれが分かってないから危なっかしいのよね…っと」
 私と話しながらも、ミナは手際良く修理したチューブをホイールへ戻し、金属のヘラを使って外側のタイヤもホイールへ戻す。
 その一才の無駄の無い彼女の動きには、流石の私でさえも思わず感心してしまう。
――と、丁度ミナが作業を追えた所で店内に入ってくる誰かの足音。
「ふぅ、あっついあっつい、やっぱクーラーの効いてる店が一番だわ」
響いた声に、耳をピクリと動かして振り向くと、其処にはミナと同じ作業服姿の白猫の中年男性の姿があった。
同じくその姿に気付いたミナは耳と尻尾を一瞬だけピンと立てると、直ぐ様尻尾を不機嫌に左右にくねらせて、
「あ、お父さん!」
「おう、ミナ。帰っていたのか?」
「もぅっ! 『帰っていたのか』じゃないわよ! 店開けっぱなしで何処行ってたのよ」
不機嫌に尻尾をくねらせるミナに対して、白猫の中年男性――もとい彼女の父親は苦笑い浮かべつつ、
「いやぁ、ちょっと、二軒隣の田中さんにバイクのブレーキの調子が悪いって言われて見に行ってたんだけどな。
その修理した後で田中さんに『一局行きません?』って誘われて、それでつい対局に熱くなってる内に……」
「それで店のことすっかり忘れちゃった訳ね……後でお母さんに引っ掻かれても知らないわよ?」
「う゛、いや、悪いけどミナ、この事はお母さんにはナイショにしてくれねぇかな? この前も怒られたばかりだし……」
酷く申し訳無さそうな表情で頼みこむ父親をミナは一瞥し、溜息一つ。
「…分かったわ。今回だけよ」
「わりぃ、物分りの良い娘もって助かったぜ」
「でもその代わり、今日の後の仕事はお父さんがやってね?」
「ぐっ…分かった。やっぱそうは上手くいかねぇわな……」
上手く娘にやり込められ、たははと苦笑して見せるミナの父親。
如何も、ネコ科のケモノの夫婦は総じて恐妻家の様である。本人は満更でもなさそうであるが。

56 :

「じゃあ、後の仕事は俺がやっておくから、ミナは上がって良いぞ……っと、そのライオンの姉ちゃんは?」
「ん? この人は、お使いの帰り道にこのバイクのタイヤがパンクして困ってるのを見掛けてね。
それで、帰るついでにって店まで来てもらって、今修理終わった所」
 私を指し示しつつのミナの説明に、彼女の父親は何故か溜息一つ付いて言う。
「なんでぇ、折角美人の姉ちゃんのバイク弄れるのかと思ったのに……もう少し早く帰ってりゃ良かったか?」
「お 父 さ ん っ ! !」
 ちっとも反省の様子が見えない父親の様子に、思わず尻尾の毛並み逆立てて怒鳴るミナ。呆れる私。
 しかし父親はひらひらと「へいへい、スマンね」と言う感じに尻尾の先で答えるだけ。
 と、その流れでちらりと私のバイクを見た父親は、ふと何かを思い出す様に言う。
「そういやこのZU、どっかで……」
「所でお父さん、この前に頼まれた宮永さんのバイクの修理まだ終わってないんでしょ?」
「――おっとそういやそうだった。いけねいけね」
 ――しかし言いきる前にミナに仕事を促され、父親は修理最中の別のバイクの方へ行ってしまった。
 私は父親の話を無理やり切り上げるような彼女の妙な行動に、一瞬だけ妙な物を感じた。
 はて、このZUの事で話されたくない事でもあるのだろうか? ……まぁ、人様の事情に深入りしてもしようがないか。
そんな私の思考とは余所にして、ミナは何処か疲れた様にふぅ、と深い溜息一つ付いて、
「ゴメンね、せんせ。お父さんがあんな人で……。
腕前は良いんだけどね、あんな性格だから何時もお母さんに怒られっぱなしなのよ」
「いや、良いさ。亭主関白よりかはネコの夫婦らしくて良いじゃないか」
「まぁ、そりゃそうなんだけどね」
 と、私に向けてニシシと明るく苦笑して見せた後。
ミナははと何か思い立った様に尻尾をピンと跳ね上げて、
「ねぇ、折角だからさ。パンク修理後の試験走行もかねて、わたしとツーリングしてみない?」
「…んな? 別に良いが…しかし随分といきなりだな」
 一応了解しつつも怪訝な表情を向ける私へ、
彼女は初めて出会った時と同じ、夏空の様な笑顔を向けていう。
「ふふっ、ネコは気まぐれなのよ」

57 :
 吹きぬける風に、ほんのりと潮の香りを感じる潮騒通り。
 夏の盛りを過ぎて若干車通りも少なくなったこの道を、2台のバイクが風を切って走り行く。
 一台は私の駆るZU、そしてもう一台はミナの駆るエストレア。
「今日は絶好のツーリング日和ね、せんせ!」
「ああ!」
 吹き付ける向かい風に構う事無く、私とミナは言葉を交わす。風になびくミナの尻尾。
 作られた時代も場所もコンセプトも異なる2台だが、今は足並み揃えてエンジンの二重奏を奏でる。
 特に私のZUはパンクして走れなかった鬱憤を晴らすかの様に、鋼の心臓からDOHCサラウンドの鼓動を鳴り響かせている。
 しかし快調に飛ばしていた私とミナへ無粋にも待ったを掛けたのは、顔を赤くした信号機。
 
「ねぇ、これからちょっと寄りたい所があるけど、せんせにも付き合ってもらってもいいかな?」
「……ん? 別に構わないが……?」
 信号待ちで止まった所で、私の横へ止まったミナから突然の提案。
断る理由も見付からなかったので頷いてみた物の、このタイミングで何処へ行くのやら?
 そんな疑問を表情と尻尾に出さないように私は彼女へ問う。
「それで、何処に行くんだ?」
「んっと、ここからだと5分程度の場所。そう遠くないわ」
 ミナのその答えと同時に信号機が青という名の緑色へ顔色を変え、再び私と彼女は走り出す。
 そして、彼女の先導にしたがって走る事、約五分。着いた場所は海の見える小高い丘にある小さな墓地であった。
 駐輪場へバイクを止めた私は、こんな所に墓地があったのだななどと周囲を見まわしつつ、彼女の尻尾追って付いていく。
「ここよ、わたしが寄りたかった場所」
 言ってミナが指し示したのは、墓地の片隅の、海が見渡せる場所にある一つの墓。
その墓石には『杉本家先祖代々之墓』と掘られていた。
「墓参りか」
「まぁ、そういった所ね」
 私の問い掛けに答えながら墓に線香を上げるミナのその横顔は、
手の届かぬ遠い――遠い何処かへ行ってしまった者を想うような、何処か深い思いを滲ませる、そんな表情。
その横顔を見ている内に、私の中に膨らみ始める『ひょっとすると、まさか……?』という思考。
何だかとてもイヤな予感を感じつつも、私は彼女へ問う。
「……まさかとは思うが、修理中に言っていた親戚と言うのは……」
「違うわよ、せんせ」
「……なに?」
 しかしミナから返ってきた返答に、思わず間の抜けた声を漏らす私。自分とした事が……。
そんな私の様子がおかしかったか、彼女は少し苦笑して続ける。

58 :

「私がここに来たのはおじいちゃんの墓参り。お盆は忙しくて行けなかったからね。
それに、おじいちゃんはZUが好きだったから、ついでにせんせのZUを見せてあげようと思ってね」
「なるほど……それで、その親戚は?」
「んー、彼だったら今頃はアメリカ辺りで元気にやってると思うわ」
 なんだ、驚かせる。一瞬、その親戚に何か関係あるのではないかと思ったではないか。
……いや、待てよ? そう言えば私の愛車であるZUを譲ってくれたかつての先輩も確か、ネコ族で今は海外に……。
「それじゃ、線香も上げた事だし。そろそろかえろっか。わたしの我侭に付き合ってくれて有難うね、センセ」
「ん、ああ……」
 物思いに耽っていた所にミナに声を掛けられ、私はまたも気の抜けた返答を返してしまった。
その様子を何と思ったか分からないが、ミナはクスリと笑うと、さっと尻尾を翻して歩き出す。
 彼女のその背中へ向けて、私は先ほど思っていた事を聞こうとし――途中で思い直し、言わない事にした。
私なんかの下らぬ好奇心の所為で、彼女の夏空のような笑顔を曇らせて良い物か、と思い止まったのだ。
 そんな私の様子に気付いたのかそれとも気付いていないのか、ミナが足を止めて振り返り、
「……? どうかしたの、せんせ?」
「ああいや、少し考え事しただけさ」
「ふーん……あ、そうだった! せんせに一つ言い忘れていた事があった!」
「……言い忘れてた事?」
オウム返しに問う私へ、ミナは言う。
「アイツが学校で悪戯しても、怒るのは程々にしてやってね?」
 言いながら小さく身体を縮めて、両手の指先で丸眼鏡をつくって見せるミナのその仕草に、
私はようやく、店に向かう最中に彼女が言った、『昔からの知り合い』が誰であるのかを理解した。
 そんな私の頬を、ホンの少しだけ秋の香りを混じらせた風が吹き抜けてゆく。
何気に空を見上げると、何時の間にか流れてきた鰯雲が私を見下ろし笑っていた。
――――――――――――――――了―――――――――――――――――――

59 :
以上です。
すっかり肌寒くなってきた……。

60 :
GJ! ミナ素敵です。
また新しい交友関係ができた。世界が深まっていいねいいね。
杉本オートと父親はほぼ初出か。いい雰囲気のお店、行ってみたいなー

61 :
バイクでツーリングしてみたいな
獅子宮先生とかミナ姉さんの話見てると本当にそう思う

62 :
原付から初めてみたら?スクーターなら簡単だし五万から買えるよ。
原付で隣の県まで行けたら中型で日本一周できるって岐阜から東京にきた黒猫が言ってた。

63 :
バイクに乗りたい俺は痔がヤバい

64 :
>>63
保健室の三十路ばばあに痔薬を塗ってもら……ん?休日の日中に
誰か来t

65 :
新聞部のメンバーに蛇人がいたら、やっぱり潜入取材とかが得意なんだろうか。

66 :
それどっちかっていうとカメレオンの領分じゃね

67 :
CV:大塚明夫 的な意味だろう

68 :
>>67
誰が上手いこと言えとww

69 :
wikiトップのアクセス数がなんかやばいんだけど

70 :
どっかで晒されたか?
怖いな…

71 :
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1286530377/

72 :
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/701.html
を元にして
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/1054.html
の続きを書きました。

73 :
終礼のチャイムと同時に外へ跳ぶ。
秋の晴れ間にうさぎ跳ぶ。
凪に囲まれたウサギ島。緑の雑木が美しい。
「せんせー、さよならー!パン太郎!!プリントかじらない!」
ボブショートでメガネ、真面目ちゃんを絵に描いたような小さな小さなウサギの子が、真っ赤なランドセル背中に声を響かせていた。
誰よりも早く外に出るんだとクラスメイトをすり抜けて、秋の気配を感じ取る。
山は紅葉、海は凪。大分落ち着いてきてたけど、まだまだやる気の太陽がウサギの瞳を赤く染める。
「おーい、ハル子」
木造の校舎を背にして秘密の場所にまっしぐらに跳び込もうとしたとき。
クラスの男子の声が足元から、まるでハル子の細い脚を舐めるようにじっと見つめるかのごとく聞こえてきた。
ハル子が視線を落とすとグラウンドの片隅が穴だらけ。ちょうど、ハル子が入れるぐらいの大きさの穴から土がばっさばっさと泉のように溢れる。
「どうだ!おれが掘ったんだぞ!いちばん立派な穴が掘れるウサギが偉いんだぞ!」
ぴょこんと穴から顔を出した男子ウサギが、ハル子の短いスカートに向かって自慢するも、無邪気な視線がハル子を突き刺す。
「えっち!!!!」
          #
ハル子は小さなウサギの子。
きょうは頑張って島を渡った。島の大人の手を焼かずに、いつもの船長に感謝した。
誰もいない船着場。待ち時間はふんだんとある。潮風だけが話し相手、だと思いきや。
どこかで見たことある大人。カギ尻尾の靴下ネコ。半分垂れた前髪は、一度見ただけでは忘れられない。
その名は淺川・トランジット・シャルヒャー。旅する根無し草の写真家のネコ。
白と黒の毛並みと、カギ尾は会う者全てに印象付ける。
「淺川はどうしてココに来てた!」
「気まぐれ」
「気まぐれって?」
「気まぐれ」
「もう!」
淺川はいつもそうだ。子どもを、子どもだからってからかって!と、ハル子は小さく煮えたぎる。
きょうもおてんとさまが味方して、青いお空を見せてくれた。秋の昼間に珍しく、雲ひとつない日本晴れ。
それに負けじと海原も、青い波を立ててたが。「きょうは波が強いね」と小さなウサギに一蹴されるこの有様。
そう。ハル子は小さなウサギの島の住人である。ウサギばかりが住み着く『宇佐乃島』は、他の種族の進入を拒んできた。
一日数本の渡船に乗って、朝が早かったハル子は本土の船着場の小屋ですやすやと寝ていた。
そこにバイクのヘルメット片手に淺川、トタン屋根のお粗末な小屋を覗いてみると、いつか見たウサギの少女がだれていた。
きょうは日曜日。島のゆったりした時間から離れるのも良かろう。

74 :
ハル子は目をこすりながら、大人のネコの顔をはっきりと見た。こんなヤツ、一度会えば誰だって覚えているはずだ。
「淺川だ。どうして淺川なんだ!」
「悪いね、淺川で」
「わたしね、淺川がここにやって来るんじゃないのかなって、思ってたところだよ」
小さなポーチを庇いながらベンチから飛び跳ねるハル子の姿は、淺川にはまるでぬいぐるみのように見えていた。
そばに置いておいても飽きることのない、小さなウサギのぬいぐるみの話は留まることを知らない。
「そうだ。わたしの話聞いてくれるかな」
「100万円くれたら」
「ふざけてる!」
「おれはいつも真剣だよ」
「やっぱりふざけてる」
船着場の自販機でMAXコーヒーを淺川が買うと、飲んだことがないというのでハル子にぽんと手渡した。
目を丸くしたハル子は、お辞儀をして缶を開ける。いつもは見ているだけのコーヒーは想像以上に甘く、舌触りが滑らかでもあった。
キャラメルをコーヒーにしたような舌触り、未来の飲み物のような味はハル子にとっては新鮮でもある。
甘さの割には後味を引かないのは、分別をわきまえた大人の身振りにも似ている。ハル子にはまだ遠い。
「ごちそうさま」
「どーも」
缶を両手で握ってハル子は話を淺川に始めた。
「わたしの島って、ウサギ以外はいないんだよ」
「知ってるよ」
「でも、見たの。ネコの子がわたしの島に居るところ」
           #
ハル子は良く晴れた放課後には、秘密の場所に行くことがお決まりになっていた。
アスファルトで固められた道を走り、脇には涼しげな風薫る雑木林。枝と枝の間には波打ち際が見え隠れ。
ひと気のない丘を目指すと、とうの昔に役目を終えた発電所の建物が視界に入る。
真っ暗に、そして蔦が絡みついたコンクリートの建物は、島の歴史をよく知っているはずだ。
『立ち入り禁止』の看板が錆び付いていた。フェンス脇の切り株にハル子は腰を掛けて、ランドセルを下ろす。
無機質なコンクリート、物静かな雑木林、土地の色。そして真っ赤なランドセル。映画のパートカラーのように、
ぽつんとハル子のランドセルが、彩色を忘れた背景に一輪の花を咲かせる。飴玉のような、女の子の甘い香りが廃墟に漂う。
ハル子はその中から隠していたカメラを取り出した。小さなハル子には釣りあわない、機械と言ってよいがたいの良いカメラ。
見る人が見れば結構な値段のするカメラだ。それは、こっそりと兄の部屋から持ち出したもの。大体の使い方は分かると、ハル子は少し自慢げだった。

75 :
この風景を心のままに切り取りたい。
この風景を色あざやかなまま持ち帰りたい。
そして、大人になって、島を出ても、この島のことをずっと覚えていたい。
夢中でシャッターを切る。技術は二の次、感じたままにフイルムに焼き付ける。
カメラは不思議な機械だ。機械ってものは冷たいものや、頑固者だと思われがちだが、カメラだけは違う。
持ち主の言うことを聞くどころか、持ち主以上の感性を持っているのではないのだろうかという、人間じみた印象を植えつける。
そして秘密の場所で、ハル子は島で暮らしているだけでは分からないことを知る。
「あなた、だれ?」
カメラを下ろして、人影を見つめる。じっと相手もこちらを見る。
じょしこーせーみたいな制服着た女の子。年はハル子と同じぐらい。肩にかかった髪に憂い気な瞳。
しかし、この島には制服を着て通う小学校はない。それどころか、高校もないし、その子はネコの子だ。
「この島にどうやって来たの?」
「……」
静かな無音。
期待した答えは戻ってこない。
「ねえ、教えてよ」
またしても、返事はない。
むしろ、返事を否定するような。でも、血の通った生き物が側にいることは確か。言葉だけのコミュニケーションはいらない。
だから、ネコの子はつかつかとハル子の方へ歩み寄り、大きなカメラを興味深げに見つめていた。
そうしていると、カメラの持つ不思議がまたひとつ明かされる。それは、心を開かせること。
「あなたもカメラが好きなの?」
「は、はいっ」
ネコの少女の言葉に、思わずハル子も返事する。
ハル子を認めた彼女は、初めて言葉をつらつらと繋げる。
「わたしもカメラは大好き。だって、ウソがつけないから」

76 :
ざっざと土地を踏むネコの子の足元は都会的なローファー。胸元の赤いリボンが目に残る。
時間に取り残されたこの島に、彼女の格好は進んでいるように見えた。それは、島のせい。
ハル子は彼女の「あなたなら、もしかして知ってるかも」との言葉に首をひねっていた。
何?何を?それにどうやってこの島に?シャッターを切る手が動かない。
少し怖くなったハル子は急いでカメラをランドセルに仕舞いこみ、秘密の場所から逃げ去ろうと駆ける。
ネコの子も同じ方向へと脚を向けていた。発電所跡が元の時間を取り戻す。
ハル子の通い慣れた帰り道は、ネコの子がついて来るだけで不安なものになった。
大人に見つかったらどうしよう。この島できて以来ネコが立ち入ったことはない。
それを覆すと大人たちが騒ぎを起すことは分かっている。それを知ってか知らずか、彼女はハル子の後をついて来る。
誰も通らないのがいつもの道。いつも通りに誰も通らず、家まで着けばいいのにとハル子は背後を気にしていた。
「いない……」
どこにも見当たらない。さっきまでいたはずの子。この道は一本道だから、どこかで別れるはずはない。
気にしたくはないけれど、気にはなる。せっかく戻った道をハル子は戻ると、ネコの少女は寂しげに道端に立っていた。
「来ないの?」
「……」
アスファルトを濡らしそうな涙が一滴。
「折角、会えると思ったのに」
「……ねえ。だれにかなあ」
憂いた気持ちなのに空は青い。
お構いなしと言わんばかりの天気は、皮肉にも二人を締め付ける。
何もこんなときに晴れなくても、と。だんだんとハル子はネコの少女に心引かれる。
「あっ」
一本道を軽トラが登る。見慣れた車。見慣れた影。
エンジンの音で子ネコはたじろぎ、脚を振るわせる。
車窓がハル子の前で止まると、窓からハル子の両親が見えた。
「おとうさん!」
「ちょっくら出かけるからな。ハル」
「え?」
「夕方には戻る!なあ、母さん」
家のことなどどうでもよい。自分の背後に隠れた彼女が心配。
思いもよらないとはこのことか。ハル子の両親を乗せた軽トラは、なにごともないまま通り過ぎたのだ。
「気付かれなかったね」
「……うん」
「そういえば、自己紹介まだだったよね。わたしは『ハル』。学校に『はるお』がいるから『ハル子』って呼ばれてるの」
いつの間にかネコの少女は昔からの親友のように、ハル子の手首を掴んでいた。
          #
「淺川、聞いてる?わたしの話し」
飲みかけのMAXコーヒーを手に、ハル子は隣の淺川を横目で覗き込んだ。
相変わらずの淺川は「ああ」と軽く返すだけ。
「もう!」
「聞いてるって。その証拠に、その女の子の名前を当ててやろうか」
「分からないくせに」
淺川は耳の後ろを掻きながら一言。
「『モモ』だろ」

77 :
          #
丘の上に建つ日本家屋。歴史があるといえば通りが良いが、逆を言えばがたがきている。
両親は出かけているし、兄も当分戻らない。祖父は朝からお隣に、と言っても数百メートルは先の家。
「ここがわたしのうちよ」
「……」
「遠慮しないで。モモちゃん」
扉をチキンと閉めておけば、鍵なんか要らない。島ではよくあること。
がらりと土間に通じる引き戸を開けると、静かな空気だけが二人を包んでいた。
子供用のスニーカー脱いで、木目が美しい廊下を駆けると柔らかい音が響く。「こっちよ」とハル子が手招きするので、
モモはローファーを土間で揃えてお邪魔する。木と紙だけで出来た古い家に二輪の小さな花が咲く。
この家にネコの子がいる。
それを知ってるのは、ハル子とモモだけ。
二人だけの共有感。
すっと抜ける風。
少し破れた障子紙。
「迷路みたいでしょ。おじいちゃんのおじいちゃんが建て増ししたんだって」
「おもしろい」
「でしょ?」
モモが笑うと、ハル子も笑う。
ランドセルを揺らして廊下の突き当りまで行くと、薄い桜色のふすまが目に入る。
「ここがわたしの部屋」
自慢しようとふすまを開けると、六畳ほどの和室が広がる。
勉強机に、マンガが詰め込まれた本棚。さりげなくウサギのぬいぐるみが転がる。
そして、立て掛けられたコルクボードにはいっぱいの写真。モモが興味を引いたのはそれだった。
「モモちゃん、カメラ好きなんだもんね」
耳の後ろを掻きながら、モモは呟く。
「……すごい」
くいるように写真を見つめるモモに、ハル子は何故だか分からない影を見た。
写真がモモの心が締め付ける。はっきりと分からないものほど、苦しいものはない。
ハル子はランドセルの中のカメラをそっと取り出して、クッションの上に置いた。
「カメラマンになりたいな」
「えっ」
「うん。早くこの島を出てカメラマンになるんだ。だって、カッコいいんだよね」
ハル子は机の引き出しを開き、一冊の雑誌をモモに見せる。
両親の部屋から勝手に持ち出しであろう週刊誌。鶉の水彩絵が描かれた表紙をひとつ捲ると、海の色あざやかな写真のページが眩しかった。
ニ、三ページ風景画が続き、終わりのページの下段には文章が記載されていた。
「『世界中旅してると、やっぱり生まれた国が落ち着くんだよなあって思うじゃないですか?ある国では耳を齧られたりしたぼくですが、
落ち着くとまた旅に出て行きたくなる衝動にかられるんですよね。わかります?これ?そうだ、今度の日曜日ウサギの島への港町に
久しぶりに行ってみようかなぁ。まったくきれいなところでしたよ……と淺川氏はあっけらかんと語る』だって」
「……」
頭を垂れるモモ。パタンと週刊誌を閉じるハル子。雑誌の日付は最新号だった。
「わたし、この淺川って人好きだなー。写真もだけどね!」
「好き、なの?」
「うん。すんごくカッコイイよね」
メガネ越しに目を輝かせるハル子とは対称的に、モモの目は光るものを湛えていた。

78 :
「お兄ちゃんがまた遠くに行ってしまう」
聞こえるか聞こえないほどのモモの声。ウサギのハル子が聞き逃すことはなかった。
『淺川』と言う人は一度会ったことがあるだけだ。しかも殆どすれ違いのようなもの。
ハル子がこうして淺川についてつながりを保てるのは、今のところ雑誌やネットの媒体のみだけだある。
その淺川のことを「お兄ちゃん」と呼ぶものが居た。
モモだ。
「どうしたの?モモちゃん……。ほ、ほら!マンガでも読む?『ているずLOVE』一巻が出たんだよ!やっと島に届いた……」
「どうして、みんなお兄ちゃんのこと好きになるの」
小さな影が落ちる。
「港町に来たら、お兄ちゃんに会えると信じてた。お気に入りの港町があるからって。でも、そこには居ないからこの島に来たのに」
「知ってる?この島……ウサギ以外は……」
「知らなかったの」
          #
「そのあとモモちゃんは部屋を飛び出したの。尻尾が廊下に着かないくらいの速さで」
「……」
「淺川っ」
「続けて」
「ふん。……それからモモちゃんの姿を見ることがなかったのね。二度とわたしの島に来ないのかなって。でも、どうしてモモちゃんは」
「『わたしの島に来ることが出来たんだろう』だろ」
淺川にセリフを盗られたハル子は頬を膨らます。理由は分かる。淺川にとってこの問題は易過ぎる。
あのとき、引き止めればよかった。自分が行くって言えばよかった。でも、モモが笑いながら淺川のもとに戻ることはない。
ほんのわずかな出来事だったと聞く。不慮の事故。しばらく交差点に花束が絶えることはなかった。
写真家になることを自分以上に望み、応援し、そして写真家としての姿を見せられなかったことを悔いて。
「お兄ちゃん、フイルム買って来てあげる」
淺川が耳にした妹の声は、これが最後。ハル子にモモがかぶさって見える。
そして
「用事思い出した。帰る」
「え?何しに来たのさ!淺川!」
すっくと淺川自慢の長い脚で立ち上がり、壊れそうな待合室を立ち去る。
飲みかけのMAXコーヒーを片手にハル子が追い駆けると、後ろ向きで淺川が置き土産。
「今度連休の日にでも、佳望町に連れてってやんよ。お前みたいなじょしこーせーのお姉さんに案内役をしてもらってさ」
「あーさーかーわーっ」
太陽はいつの間にか天高く昇っていた。
船着場の最寄り駅。一時間にわずかな私鉄沿線。公衆電話の側に淺川の愛車が休息をしていた。
鈍い光を反射して、革のシートが美しいリッター級のバイク。そして、傍らにはネコの少女。
「よお。久しぶりだな、モモ」

おしまい。

79 :
面白かった
こんな小説俺も書きたい

80 :
ここ最近絵師さんが来なくて寂しい……飽きちゃったんだろうか?

81 :
創発板にはいるけど、他のスレにいるみたいだね。ろだで見かける。

82 :
        ∧,,∧        : :: :: :::::ヽ  やあ ようこそ、香川県へ。
       (´・ω・)    / ο : : :: :: :::::ヽ このうどんはサービスだから、まず食べて落ち着いて欲しい。
.    シュッ  >、/⌒ヽ   |  ν : : :: : ::::::::l  うん、「また香川」なんだ。済まない。
  ───ミ'-‐y' / i_ ヽ、  : : :: :: :::::::/   うどんは別腹って香川じゃ言うしね、うどんで許してもらおうとも思っていない。
        `⌒ー′ | |::|  )゙  ..::::〃:ィ´    でも、このうどんを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
      \\  \ | |::|  /" ''  : : ::⌒ヽ   「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
            \=::| i       、 : ::::|____ 殺伐とした水不足の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
  .    (,,_@三 ミ_,,)\ |      ..::| : :::|::::::|;;;| そう思って、このうどんを茹でたんだ。
  .     \__/  \      : :::| : :::|::::::|;;;| じゃあ、2杯目の注文を聞こうか。

83 :
いぬの日!

84 :
はっ!!ここはイラストもオケ?
最近描いたのに心当たりがあるんだけど。

85 :
おーけーおーけー
歓迎よ

86 :
>>84
期待!

87 :
>>84
期待!

88 :
うう、まぬけな連投すいませんorz

89 :
こころあたり有り
http://imepita.jp/20101102/230140

90 :
>>89
可愛すぎる!!
もっふもふが暖かそうでいいなあ。

91 :
>>89持ち帰りは可ですか?

92 :
ファンシーな世界だな

93 :
白倉先生と同種

94 :
>>89
もふもふ!
地平線まで続くもふもふロードにダイブしたい

95 :
獅子宮せんせいで書いてみた。短いものでも。

96 :
自転車は自分だけの時間を与えてくれる。一人になりたいならば、自転車に乗ればよい。
ペダルに己の力を込めて、ハンドルに自身の行き先を委ねて、すうっと空気に溶け込めば一人きりの時間が流れる。
「……」
風が心地よい。カーディガンでも少し寒いぐらいだ。だけど、体の毛並みはふかふかと体温を護ってくれる。
頬をなぞる風が毛並みを揺らし、季節の変わり目だと自己主張しているのがびしびしと分かる。
学校からの坂道を犬上ヒカルは自転車で駆け下りていた。すっかり秋めいた周りの景色にヒカルの白い尻尾に毛並みが映える。
ヒカルはイヌのケモノの少年。秋の稲穂に負けないぐらいのたわわな尻尾が、吹流しのように風に乗る。
きょういいことがヒカルにあった。そんなときの自転車はまるで自分の考えていることを知っているかのように、
ヤツは素直に忠実に走ってくれる。足取りが軽い。ヒカルはもともと感情を露にしない子だが、尻尾は隠しきれなかった。
前かごに収まっているヒカルのカバンがほんのちょっと重い。だけど、重いから嬉しい。家に着くまで重みでヒカルを押さえくれる。
いつしか自転車は坂道を降りきって、商店街へと差しかかる。賑わいの前の静けさか、欠伸をしている店主を横目に走り去る。
とくに用事はないけれど『商店街』と聞くと、買い物欲が掻きたてられるのはご愛嬌、ですよね。
「あっ」
反射的にブレーキを握り、金属が軋む音を散らばらせると、ヒカルはぐらつく前輪を固める。両足が地面に降り立つ。
尻尾が静かにサドルをなぞる感覚が、尻尾から腰、腰から背中へと伝播してくるのがビシビシと分かる。
「獅子宮先生だ」
学校で現代社会の教鞭をとる獅子宮怜子。その人だ。
八百屋で獅子宮先生を見た。
野菜を吟味する獅子宮先生を見た。
獅子宮先生はライオンだ。ライオンのケモノは皆勇ましい。
威風堂々、教室の空気をごっそりもぎ取ってしまうほどの気配を持つ女教師。
獅子宮怜子の姿をヒカルは視線で追うと、さらにブレーキをぎゅっと握る。
ざわざわと昼下がりの商店街は教室よりも騒がしく、人一人居なくなっても誰も気付かなくないぐらいの賑やかさ。
ただ、獅子宮怜子は違った。彼女はライオン。どんなにたくさんのケモノに囲まれても、彼女が吠えれば皆が振り向く。
もっと言えば、もはや彼女のトレードマークになっている隻眼が、獅子宮怜子の持つ存在感を誇張するぐらいに創り上げていたのだ。
ヒカルは自転車を押しながら獅子宮怜子が物色している八百屋の脇に近づくと、自分自身の気配を消したくなった。
獅子宮怜子に気付かれるのがけっして嫌というのではなく、なんとなく、ほんとうになんとなく、理屈では伝えられない気まぐれ。
野菜選びに夢中になる獅子宮怜子と自転車の前方を気にしながら、カチカチと自転車の車輪を廻すと、
ぴょんとヒカルの目の前に子ネコが飛び出した。反射的にブレーキを握る。金属の軋む音が飛び散る。獅子宮怜子が振り向く。
「なんだ、犬上少年か」
八百屋の中の獅子宮怜子は絶壁の上で雄叫びを上げる獅子と言うより、ダンボールの中に放り込まれた新たな飼い主を待つ獅子のようだった。
ごくりとつばきを飲み込んで、ヒカルは小さく会釈を獅子宮怜子に交わした。

97 :
ヒカルは元々口数の少ない子だ。その代わりに言葉や表情を使わずに相手に印象を伝えるのが得意な子だ。
それだけ相手の気を許しやすいタイプの少年。しかし、ヒカルが尻尾を隠して警戒すれば話は別。
「おかしいか?わたしがここにいることが」
「……」
雑踏の中。午後の日差し。
「わたしだって料理ぐらいは……」
意識的に目を合わせまいと獅子宮怜子が横を向く。手には袋詰めされた男爵イモが息苦しそうに詰まっている。
土から顔を出したばかりの男爵イモは、洗ってそのまままるかじりしてもよいぐらいに、生きが良く見える。誰もしないと思うが。
それに気付いたヒカルは恐る恐る獅子宮怜子に言葉をかけた。
「カレーですか」
「ああ、カレーだ」
忙しなく店主が他の客をさばいている中、獅子宮怜子は他の具材を適当に選び会計を済ませた。
一方、ヒカルは心なしか尻尾を揺らすことが隠せなかった。ゆらゆらと、揺れる尻尾。
      #
隻眼のライオンが野菜を詰め込んで、その隣を白いイヌの少年が自転車を押す。増えてきた人ごみの中通り抜ける。
商店街をさよならして、人通りが少なくなった電車通りに抜けると、ヒカルは車道側に獅子宮怜子と歩道で並んだ。
教師と教え子。その関係を知っている者から教えてくれなければ、その答えを導くことが出来ない雰囲気を獅子宮怜子は持っていた。
「先生、カレー作るつもりなかったですよね?」
たわいのないヒカルの言葉に獅子宮怜子が足を止め、ビニール袋の中で野菜がもみ合う音だけを残す。
ヒカルは獅子宮怜子に横顔を許す。逆を言えば、横顔しか許さない。
犬上ヒカルはそういう子だ。ヒカルをよく知る獅子宮怜子だって知っている。しかし、返事はやや歯切れが悪い。
「そ、そんなことはない。料理は苦手だが、わたしだって女の端くれだ。カレーの一杯や二杯」
「カレーに使うのはメークインですよ」
大きく息を吐いたのは獅子宮怜子。これ以上少女のように恥らっても仕方がない。
「そうなのか?」
「型崩れがしませんしね。ぼく、ちょっと先生を試してみたんです。わざと『カレーですか』って。そしたら先生は『カレーだ』と返した」
牙を見せずに、ぐっと堪えるライオンの姿があった。
二人をからかいに後方から路面電車が轟音と共に近づいてくる。
「オトナをからかうんではないっ。犬上少年」
「ごめんなさい。ちょっと……」
路面電車の音が二人の間に割り込む。地響きがするかのような鉄の車の音。

98 :
「なんだろう。先生の印象に八百屋さんってなかったから」
レールと車輪のつなぎ目が二人の開いた会話の隙間を救う。モーターの音がけたたましい。
二人の間を繋ぐ電車の音はヒカルにはちょっと恐ろしくも聞こえた。だって、獅子宮怜子が許してくれるのかヒカルには想像出来ないから。
路面電車が通り過ぎませんように。ヒカルは白い毛並みを揺らしながらまだたきをして祈った。
「ふふふ。面白いな、犬上少年。野菜も食うぞ、わたしは」
あっけない答え。
二人に呆れたのか、昭和生まれの電車は遠くに過ぎ去って行った。
再び、二人は歩き出す。信号も二人を見つめてちょっと青ざめていた。
「先生は……、あの」
俯いたままヒカルは獅子宮怜子を呼ぶ。
「先生はライオンですね」
「ああ、どう見てもライオンだぞ」
「えっと、あの。『オズの魔法使い』のライオンですね」
信号機が気を利かせたのか、顔を赤らめて二人の足取りを止める。
「『オズの魔法使い』のライオンは勇気が欲しい『臆病ライオン』。勇気が手に入ると噂を聞いて、人間の少女のドロシー、
イヌのトト、そしてブリキのきこりに藁の案山子と共にエメラルドシティを目指すんです。先生はライオンです」
「わたしがか」
「本当は女の子らしく料理をこなしてみたい。でも、料理は苦手。男爵イモでカレーを作ろうとしてましたからね。
それで勇気を手に入れようとエメラルドシティ……八百屋に向かった。ですよね、獅子宮先生」
「わたしにメルヘンを当てはめるとは思わなかったぞ」
「メルヘンでしょうか?あの物語は。オトナが読んでも十分面白いと思いますよ、多分。
誰だって自分の欠けているものを補いたく思うでしょうしね。でも、ぼくはまだまだそれが分からない」
「若いな」
「若いですね。ダメダメです」
白く大きな尻尾は少し元気がなく見えた。
「犬上少年。ひとつ聞いていいか」
ピンと跳ね上がるヒカルの尻尾がサドルに当たる。道端に落ちていたタバコの吸殻をぎゅっと踏んで、獅子宮怜子は恥ずかしげに問いかけた。
「男爵イモで、なにが出来るかな」
「……」
いきなりヒカルは自転車に飛び乗ると、ペダルに足を掛けた。獅子宮怜子の問いかけを無視しているわけではなく。その証拠に
「コロッケとか、ポテトサラダですね」と、背中を向いたまま答えていたのだから。
「うむ、犬上少年。礼を言おう、ありがとう」
ヒカルは軽く会釈をすると「ここで曲がりますから」と言い残して、自転車をこいで自宅へ向かっていった。
カバンに『オズの魔法使い』の和訳初版を詰め込んで。

おしまい

99 :
獅子宮先生……。もっと、おはなしが書きたいです。
投下終了です。

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