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2012年3月エヴァ309: もしもシンジとレイが双子だったら (150)
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もしもシンジとレイが双子だったら
- 1 :
- つーか実際あの二人は兄妹(姉弟)みたいなもんだよね
- 2 :
- おいおい
キメラとシンジさんを一緒にすんじゃねえよ
- 3 :
- お互いのことなんて呼び合うんだ?
- 4 :
- シンジのことを「お兄ちゃん」って言うレイはアリ?
- 5 :
- 一卵双生児は性は同じです。顔も似ています。
一つの卵子が何らかの原因で二つに分かれたものですから。
- 6 :
- そんな当たり前のことをドヤ顔で言われても
- 7 :
- _ _,. へ_/| / ヽ j | ヽ _____
``<_三三ミニァ 〉 〈 | r'´∠ -─┴ '´
\ `ヽ、_」 , - ─‐-- ─- 、 r<_/
\ 、 \ _ムィ 一/⌒ヽ、ー‐- `ヽ、」 /´ /
ハ  ̄/ / \∠ /
/ 厂 ̄7/ | 、 マ辷 ´
/ // / | ! \ ト、\
/ // j / / //| | | ヽ | \
j // | | | ||i! / j ||| || ! ヽ
i| / | | | | | iト、 // //||| |!|| | !
|レ|! ヽ | 「 T十r-ト、 〃 /i/ |/|/!/| |il | | |
| || ヽ | r〒テヾ、!ト、 /フー十|十!「|ij | ,イ |
| i! | ヽソ トィン:} ヽソ ===ミ、/!_|/ノ | >>1
| i! ヽ _|ハ┴''┴ 、 /├ ' | あんたイカぁ?
ト|| , -──‐|ハ rv──‐ァ /|├-─- 、 !
i |/ | || ト、 ヽ / /{| | \ |
|| ! |!┤ \ 、__ノ / j ハ \|
トiハ /ハヘ | ` ‐-‐ ´ 〃 | | j
! |! / トト! ! \ / /|_j.」 i /
| | __ `フ┬‐く \ / / | , |/
!| !イ`ヽ / | \ / | / \ レ /
|| || レ′ ` ー--‐ '´ V `y /
ハ| || ィ′ 、 `ー一 / | //
∧ ||j! | ヽ / | / /
! | ll | | , / /
- 8 :
- レイ「お兄ちゃん、わたしのお弁当にお肉入れないでって言っているのに‥‥」
- 9 :
- レイ「お兄ちゃん、わたしが寝てるときぱじゃまめくっておかずにしないでって言っているのに・・・・」
- 10 :
- シンジ「夜中に僕の布団に潜り込んでくるレイがいけないんだろ」
- 11 :
- >>5
一卵性双生児で男女という事例、リアルでも存在してます。ものすごくレア
(出会ったら学会発表もの)ではありますが。
- 12 :
- 世界に5組くらいいるらしいな
- 13 :
- チン毛が生え始めたので一緒にお風呂に入るのを拒否るシンジ
- 14 :
- うむ。双子だと、ヒロインはアスカだけになるから丸く収まるな。
おまいらの不毛な争いもなくなる。
- 15 :
- シンジの恋人役としてのヒロインは明らかにアスカだしな
- 16 :
- 双子で近親相姦に走るに決まってるだろ
- 17 :
- >>13
レイはなんか無頓着そうだから「なぜ一緒に入らないの?」とか言ったりして
- 18 :
- むしろ先に生えてくるのはレイの方だろ
- 19 :
- ヨスガノソラ
- 20 :
- >>11
手順は
排卵→卵子分裂→とある理由により二人の男の精子が→それぞれ卵子に突撃
ってこと?
- 21 :
- テスト
- 22 :
- >>20
卵子の分裂は受精してはじめて開始だからそれはないよー
すみませんが、ここ人がいないようなので失礼します。
ずっと昔(5年近く前だ…)エヴァ板に投下したネタをここで完結させたいと思います。
遅れたのは 就活→引っ越し→卒業制作→就職 の流れのためでした。
当時読んで感想とか書いてくれていた人がもしここを目にすることがあったら、
あの頃は本当にありがとうございました。
とりあえず前スレは
thirdchildren -霧亥-
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1127448659/
玉依シイナがミサトそっくりな件について
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1157685881/
では少しの間、スレをお借りします。
- 23 :
-
戦闘終結より数分。
荒廃した『ジオフロント』、すなわち『南極』に続く第二の超構造体(メガストラクチャー)内部空洞の全景。
破壊は周辺数階層分の平盤と周壁にまで及び、一帯に点々と散らかった珪素生物戦闘体の残骸が
廃工場群のように黒煙をあげている。焦土と化した旧『第三新東京市』市蓋区画の最外縁では
戦略自衛隊(JSSDF)の生き残りが、撤退と並行して状況の観測を続けている。
大量の瓦礫と、硬化堆積物の破片と、濁った重油と鉱滓と。さまざまな廃物の上に熱塵が黒々と渦巻き、
変わり果てた景観を多重の幕で覆っては薄れることを繰り返す。
空電のざらついた沈黙が辺りに満ちている。
- 24 :
-
熱硬化したジオフロント堆積層の中心に、人の持てる限りの技術で封塞されたネルフ本部施設が
傷つき汚れた姿を晒している。周辺は熱と衝撃による大規模な摩耗痕で浅い峡谷になり、林立していた
補助設備群はあとかたもない。
戦自の爆撃で露出した超構造体(メガストラクチャー)のみが、傷ひとつないなめらかなプレート面を見せている。
中央、巨大な円形の開口部が底深い闇を湛えている。
穴の傍らには、自ら屠った珪素生物の屍骸の山に囲まれ、エヴァ弐号機がひざまずいた姿勢で休止
している。四つの眼をもつ頭部の先には、堆積層の稜線上で同じく片膝をついて静止した姿がある。
エヴァ初号機。
損傷の激しい装甲に代わり、変容した黒い素体組織が硬質の光を放っている。背甲部は隆起して
巨大な外部端子の基部を形成し、伸び出した黒い電纜が九本、物理制圧された量産型エヴァ
九機の装甲の下に潜り込んでいる。
初号機を中心にした不揃いな機体群の輪を、導索条を通じて青い電光が縫う。電視技師級の目を
持っていれば、圧縮された電子標示が周囲に明滅するのを捉えることもできる。
巨大な電磁効果が機体群のシルエットに重なって脈動する。
プログラムは既に展開され始めている。
- 25 :
-
施設内自家発電の、いくぶん輝度の違う照明が第二発令所の諸構造を浮かび上がらせる。
幾層かに分けられた橋体のうち、最上階の司令卓はもはや人影もなく暗い。今ここを動かしているのは、
その下の主管制階である。主卓の三人を中心としたオペレータらは外部端子で各コンソールと硬脳電結し、
スクリーンを流れ落ちる表示を視覚で追うことなく、高速で処理を続けている。
彼らの背後に立つのは、ネルフ副司令冬月コウゾウ、作戦部長葛城ミサト、そしてE計画主任科学者
赤木リツコ。それぞれに口をつぐんだまま、主画面に大きく映し出された初号機を注視している。
『初号機と、エヴァシリーズ各機の同調完了』
『エヴァシリーズ、全システムは初号機を主核として安定』
補佐オペレータの声に続いて、主画面下部を覆う複雑な巨大電相模式像とその解読図が変化する。
初号機とエヴァシリーズが形成する統合ハードウェアをいわば電子の眼で見た、この状況のもうひとつの視点
である。精密な情報複合体の中心は、むろん初号機およびその現在の搭乗者の情報構造そのものである。
無音の電子協奏を見上げたまま、ミサトは一方の足から他方へ体重を移しかえる。
「…碇司令を疑うわけじゃないけど」
両肘を掴んでいた手を片方放し、軽く曲げた指で唇をかすめる。
「本当に、信用できるの? あのエヴァシリーズを」
- 26 :
- 変わり果てた初号機とともに映っている九体の量産型エヴァ。集積蔵跡を利用した極秘施設で建造され、
試験稼働でその一帯を破壊しつくしてジオフロントに飛来した、パイロットの搭乗を前提としない、人類補完
計画遂行の一翼を担う人造ネット接続機。特定の意思に統御されないそれらの並列起動は、そのまま
セーフガードの大量転送(ダウンロード)、つまり階層居住圏の壊滅を意味する。〈ゼーレ〉の終末シナリオに
織り込まれたそのカタストロフは、彼らにとって〈サードインパクト〉と呼ばれる事象の一端に過ぎない。
ミサトの近傍の席に坐るオペレータが、顎を突き出すようにして斜めに振り返る。
「心配ないですよ。システムは完全に制圧されてます。
ま、相当に無理な接合ですが、初号機の増設ハードとしてあれ以上のものは望めませんからね。この際、
贅沢は言えませんよ」
日向の言葉に頷きつつ、冬月の顔に刻まれた厳しさは晴れない。
「…この上、委員会が何か仕掛けていると思いたくはないがね」
「念のため、MAGIによる電相監視は続行中です」
別の主席オペレータが長髪を払って端子をさらに一つ側頭部に差し、素早い指さばきでコンソールを叩く。
やがて主画面下の情報像はおおまかに統合され始める。
『初号機、接続相を形成完了』
『第一から第二十五までの予備電子界を、MAGIの監視のもとで並行検証します』
- 27 :
- 『MAGIの管制レベルを最終調整』
『検証終了。接続予備シークエンス開始…問題なし。進行中』
管制主席に坐るうちで唯一の女性オペレータが、ひととき情報流から眼を上げて感嘆する。
「初号機、MAGIの最終検証をクリア。すごい…エヴァシリーズとの論理誤差まで、自力で統合してます。
さすが、碇司令ですね」
口にしてしまってから、伊吹は背後のリツコを気にする。
答えはない。
青葉が肩をすくめ、日向が口を挟む。
「史上初のエヴァ接続者は伊達じゃないってことだろ。俺たちはせいぜいフォローに徹するだけさ」
ミサトが視線を走らせる。明滅する表示の明かりの中、リツコの表情に変化はない。
青葉があえて平板に告げる。
「…階層閉鎖システムへの再接続準備、完了しました」
リツコが初めて唇を開く。
「了解。
始めましょう。階層の主システムへ、アクセス開始」
発令所に一気に緊張が高まっていく。
主画面の中で、初号機の躯体を駆け巡る電光の束が閃光を放つ。
- 28 :
-
超構造体(メガストラクチャー)内部の闇。
累々たる巨大な珪素基系の屍骸を潜り抜けるようにして、霧亥、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイは
珪素生物らの侵攻経路を逆方向に歩いていく。
円形の開口部は頭上に遠ざかり、荒廃した通廊や剥き出しの足場は黒い塵灰ばかりに包まれている。
開口部からの明かりとともに、観測インプラントに感じられる階層居住圏の通常電磁放射も薄れていく。
周囲の闇を占めるのは、幾列もの導管や隔壁のほかは、用途も知れない構造物の塊ばかり。
「なーんにも動いてないのね」
好奇心半分、苛立ち半分でアスカがこぼす。声は雑然とした暗がりに吸い取られるように消える。
「まだ、動力切られてるから」
まっすぐ前方を見つめて歩きながら、レイが答える。
レイの身体は、先ほどの戦闘のまま、大半が珪素基系の機構で再構成されている。全身を覆う黒い装甲の
なかで、わずかに顔が白く浮かんでいる。知らず知らず彼女の身体を注視していた自分に気づき、アスカは
強い自己嫌悪を覚える。
「碇司令と初号機が、この階層の内部システムを再起動できれば、一時的に機能すると思うわ」
思わずアスカは聞き返す。
「一時的、って…」
- 29 :
- レイは振り返らない。
「ネット端末遺伝子を持つ人間の、正式な命令じゃないから」
「…そう、よね。あたしたちはみんな、変異した染色体しか持ってないもの」
アスカはプラグスーツに覆われた自分の手のひらを睨み、強く握って顔を上げる。
ジオフロントからの距離が増すにつれ辺りの電磁的沈黙は厚くなっていく。古い空気の裾に塵が舞い上がる。
二人の前を、霧亥は無言で歩いていく。階層居住圏で生産されるものとは全く異なる規格のスキンスーツは、
先の戦闘で負った損傷をほぼ自己修復してしまっている。右手には黒い矩形の銃が握られている。
重力子放射線射出装置。同じ重力子で構成された障壁を除き、あらゆる物質と空間を貫通する威力を
持つ武器である。この階層でサードチルドレンと呼ばれる以前、霧亥はこの銃を手に都市構造体を旅する
探索者だったと、今ではアスカもレイも知っている。
ふと、霧亥が足を止める。
ぶつかりそうになって文句を言いかけ、アスカが真顔になる。
「…もしかして、始まるの。再接続が」
霧亥の背中は動かない。
やがて振り向くことなく、歩みを再開する。
- 30 :
-
ジオフロント中央。
あるいは腹部を潰され、あるいは腕をもがれたエヴァシリーズ九体に囲まれた初号機。
周辺にはエヴァシリーズに繋がれたものも含め、大量の黒い導管束と電子機関群が展開されている。
突然、輪の上空の大気が密度を増す。
蒼白い閃光が弾けるように焦土を縫う。
放電は堆積層の隆起と周壁を越え、灼けた平盤を拡がり、騒擾する暗闇を抜けて彼方の都市構造に達する。
- 31 :
-
発令所の活気は緊張を帯びて高まっていく。
『接続シークエンス開始』
「接続開始。主導権をMAGIから初号機に移譲します」
青葉がめまぐるしく変転する情報をさばき、電相像を整理する。幾つもの標識が主画面にまたたく。
初号機を示す複合表示に対峙するもうひとつの巨大な電相が、ふいに情報流を受け入れ始めた。
「階層主システムの応答を確認。認証が始まっています」
日向の報告を受け、ミサトはぎゅっと両肘を掴む。
「どうやら門前払いはくわずに済んだみたいね」
「わからないわよ」
振り返ったミサトに、リツコは首を振る。
「むしろ、ここからが本番だわ」
両手を無造作にポケットに突っ込んだ姿に、階層居住圏始まって以来の成功の興奮はかけらもない。
「階層システムの、予備電子界。
未だかつて、私たちが…階層居住人類の技術が到達したことのない、未知の領域、よね」
- 32 :
- 「そう。
これまで、単なる居住者である我々からは一切隠されてきた、この階層の主統治システムの稼働領域。
この先を知っているのは、11年前に初号機で接続を試みて戻ってきた碇司令、ただ一人よ」
リツコは無表情に語る。
「以降は、初号機からの直通回線に同期してのオペレーションとなります」
傍らの席から、伊吹がさりげなく説明を添える。
ミサトはうなずき、目もとをわずかに引き締める。
碇司令。
11年前の、事故に終わったと公表された初号機での接触実験をリツコが『成功』と呼ぶ理由、そして
そのとき自ら被験者を務めた碇が、今、サードチルドレンに代わって初号機に乗っている理由。それは
恐らく同じものであり、答えは碇本人しか知らない。
オペレーション段階の進行にともなって、主画面の映像は変化していく。
- 33 :
-
ジオフロント堆積層深部に建造された、超長期型の完全循環系をもつ密閉型シェルター。
完全閉鎖された直通エレベータの外扉の前に、重武装の加持が佇んでいる。
内部に旧第三新東京市や近郊の住民を保護して、高い装甲壁がそびえている。ちょうど加持の頭上あたりに
古い文字列が並び、摩耗した影を落としている。
仰ぎ見て加持は微笑する。
「これが、本来の第三新東京市、か」
手にした煙草の煙が揺らぐ。遠景のエヴァシリーズは電磁効果を過密加速し、震動が足もとまで伝わってくる。
「かつての要塞都市でも、ネルフ本部でもなく、この生命保存シェルターこそが整備計画の核。
世界再建の要、人類の砦…本当にその名の通りにならずに済めばいいんだが」
加持は煙草をもみ消し、扉を離れて歩いていく。単身でも都市空間を縦走可能な重スキンスーツと数々の
携帯装備、両脇に吊るされた武器。硬質化した起伏を踏み越えていく加持の周囲に、やがて数人ずつ
同様の重武装に身を固めた姿が合流してくる。みな大きな仕事を終えたあとのように、妙にさっぱりとした
表情を見せている。これが最後の出立になるというのに、悲壮な影はみじんもない。
何人かが加持に不敵な笑みを向ける。
「済んだか?」
「ええ、全ての外部進入口のロックを確認しました」
- 34 :
- 「発令所下の最後の緊急ルートだけは構造上残ってますが、シェルター周辺に大規模な震動や火災が
感知されれば、それも自動的に遮断されます」
「俺たちの街はこれでそっくりこの中におさまったってわけですか」
「現時点で望みうる限り安全に…と、願いたいっすね」
いかにも気楽そうなやりとりに、加持は笑う。
ともに歩く元ネルフ保安部、警備部、諜報部の面々も笑っている。
「これで、外にいるのはよっぽどの物好きだけになったってことですよね」
「覚悟を決めたって言ってくれよな」
硝煙をあげる堆積層と、珪素生物の残骸をあとに、発掘できた限りの古い技術時代の武器で身を鎧った
人々は歩いていく。彼らの頭上、破れた装甲天蓋ごしに都市構造体の闇が開け、そのさらに遥か上方には、
確実に近づく終局を未だ知らない階層居住圏が広がっている。
「覚悟ねえ。安全に隠れて生き延びるチャンスをふいにして、他の都市に手助けに出向いてくなんて
やっぱりただの物好きと違うか」
「どうせなら英雄願望と呼んでくれい」
加持は笑う。人々は笑う。焦土を踏みしめて歩いていく。
まずは、撤退しつつも明確な目的を見失っているJSSDF残存部隊へ。そして、協力を要請して彼らと合流し、
唯一残った数条の軌道車輌に分乗して、階層居住圏の各都市へ。砦に入れなかった人々のもとへ。
わずかに傾いで疾走を始めた軌道車輌の窓から、加持はジオフロントを振り返る。最後の一瞥に乗せて呟く。
「やっぱり俺はこういう性分らしい。そっちを頼むよ。
すまないな、葛城」
- 35 :
-
近隣三十七小層におよぶ大居住区をまとめる都市連結体、『第二東京』。
セカンドインパクトとその直後の動乱がおさまったあとに整備された、高度に効率化された重層居住区が整然と
組織されている。
中央区画、第二東京駅。
人々の行きかう広大な駅舎を横切って、旅装の相田ケンスケが走ってくる。
鈴原トウジが手を挙げて迎える。
ケンスケは駆け寄り、息を切らして大儀そうに頭上の電光掲示板を仰ぐ。環状軌道線の運行情報が
幾つかの言語に切り替わりながら表示されている。
トウジも付き合って見上げ、苦笑いした。
「なんや、久しぶりに会ういうのに遅刻かいな」
ケンスケは眼鏡を直して汗をぬぐう。
「悪い悪い、やっと席を確保した急行が、途中で止められてさ。戦自車輌の通過待ちだよ」
「そんなんお前なら迷惑どころか大喜びやろ」
トウジがおおげさに呆れ顔を作り、ケンスケはにやりとしてカメラのおさまった鞄を叩いてみせた。
「…ま、とりあえず、元気そうで良かったわ」
「お互いにね」
- 36 :
- うわあ。あげてるし。すみません。
- 37 :
- 周囲を首都の喧騒が通り過ぎていく。人波をさけて歩きながら、二人は手短に近況を伝え合う。
「委員長は?」
「なんや親戚のツテ頼って、東北の方に越してったで。やっと落ち着き先が決まっていろいろ忙しいらしいわ」
「そっか…いまだにこの辺でうろうろしてんのは、俺たちくらいか。
他のクラスメートはみんな、俺たちよりずっと前にさっさと疎開しちゃったしなぁ」
「してへんヤツもおるけどな」
なにげない声の硬さに気づき、ケンスケは黙る。
広場の天井付近に設置された巨大な電子画面に、今日のニュースが映示されている。途切れた会話に代わり、
なんとなく二人が見上げる。画面内ではお天気お姉さんが各地の電磁波変調予報や、〈山間〉部の建設者
移動情報を解説している。平時と異なるのは、画面下に政府広報の帯が時おり小さく流れることくらいである。
「…どうなっとんのやろ、第三新東京市」
ケンスケは首を振る。
「わかんないよ。完全に情報統制されてる。パパの端末こっそり見ても、もう一切情報が来てないんだ。
現地も、政府関係者以外は進入禁止らしいし。噂も伝わってこないよ」
トウジはこぶしを握る。
「わかっとるわ、そんなこと。どうせワシらには、できんことの方が多いんや」
「…そうだな」
しばらく二人は黙りこむ。頭上では重力野球の試合速報が流れ始める。
やがて、二人はお互い気遣うように笑みを浮かべる。
「…今度は、こっそりドンパチ覗きに行くわけにはいかへんで」
- 38 :
- て言うか、遺伝子レベルではシンジの妹であり母親でも有るんだろ
- 39 :
- >>38
ゲンドウの遺伝子が入ってないから妹ではないんでないか
- 40 :
- 「何言ってんのさ。行きたいのは、トウジの方だろ」
「うるさいわい」
広場の入り口には、大きなアーチの上を埋めるように軌道車輌の都市間交通網模式図が明滅している。
第三新東京市を示す点は赤く変わり、市方面に向かう全経路が〈全線運行停止〉の表示で塗り潰されている。
無言で睨みつけたまま、トウジとケンスケはただ立ちつくしている。
〈閉鎖階層〉≧階層居住圏。
記録も残されていないほど古い時代、一つの階層の機能がネットスフィアから切り離され、ネットの恩恵を
受けない代わりに、セーフガードの渉猟から内部の居住者たちを隠した。また、超構造体を物理的・電子的に
閉鎖することで、都市のカオスに住み着いた珪素生命から居住圏を守り通すことにも成功していた。
混沌とした巨大都市構造体の片隅で、居住者たちは自分たちが孤立していることすら知らずに、階層内部で
完結した生存を享受してきたのである。
一世代前、古代の堆積層から発掘された記録媒体によって、人々は自分たちの置かれた状況を知った。
- 41 :
- すみません。底辺でひっそりやろうと思ってたのに。
終わったらスレタイに合ったこと何かやります。ご勘弁ください。
- 42 :
- 外部の脅威を知らない世代は、階層の外に信号を発信してネットスフィアに復帰しようとした。それは階層の
主システムの使命と衝突し、階層は、通信に使われた『南極』周辺をシステムダウンさせて実験を阻止した。
周辺の都市は完全に機能停止し、また中核部の大爆発によって階層社会は大混乱に陥った。十年以上の
時間を消費して一部が旧に復したとき、人々はその惨事をセカンドインパクトと呼び、以降、外部への通信や
階層システムへの接触は第一級の禁止技術となり、関連した知識や古代記録は機密となった。
しかし、人々には想像もつかなかったことだが、階層主システムの活性化は付近を移動していた珪素生物の
注意を惹いた。その支族は閉鎖階層を見つけ、長年死んでいると見なされていた超構造体の開放を試みた。
珪素生物の技術は充分に高度なものであり、階層が開かれるのは時間の問題だった。
階層主システムは、内部生存圏を守るため、電子侵攻を強引にシステム内部へ引き込み、汚染された端末を
封鎖して焼き切った。接続機に侵入した珪素生物のプログラムは強制的に内部空間に転送(ダウンロード)され、
外部制御を断たれて自走を始めた。
かくして、階層居住圏に使徒が襲来した。
- 43 :
- >>39
父親が違っていても妹は妹だ
- 44 :
-
「双方向回線、開きます」
主画面のなかで、エヴァシリーズを率いた初号機の像と、階層主システムを表わす巨大な情報構造との
あいだで電子索はますます密に絡み合い、膨大な情報が交換されているのがわかる。
「初号機は全電子予備界を階梯遡上。主構造との接触までヒトマル」
「MAGIによる検証、全てクリア」
「正シークエンス、進行中」
スクリーン群で変転する表示の明かりに洗われながら、ミサトはいぶかしむ。
初号機の情報構造のなかで、搭乗者の信号はまるで機体に融け込んでいるかのように稀薄である。
それに初号機からは必要データが提出されるだけで、搭乗者からの通信は一切行われていない。
あのなかはどうなっているのか。
だが、あえてその疑問を口にできる者はいない。
- 45 :
- 閉鎖階層内部の安定した環境で生きてきた私たちは、世代が進むにつれて多くの技術や
身体機能を失ってきたの。私たちは今の身体では完全にはエヴァを起動させることはできない。
情報インターフェイスとしてのエヴァを使うには、幼少時に身体改造によって脳の再艤装を行い、
多くの擬似人格で補助を行う必要があるの。
それが適格者(チルドレン)。エヴァに乗れる人間が限られているのはそのためよ。
「選ばれた、あるいは仕組まれた子供たち、か…」
以前、リツコが語ったことをミサトは思い出す。リツコはかつてセントラルドグマの深部施設で、エヴァと人間との
より現実的な接続方法を研究し、失敗している。唯一実用に堪えたのがのちのダミープラグの技術である。
人間を適格者にする研究はエヴァの建造と並行して完成されたはずである。つまり、碇司令がエヴァに乗れる
はずはないのだ。本来ならば。
実際、十一年前の接触実験で自ら被験者を務めた碇は、そのとき、一時的ではあるが重大な人格・情報の
混濁を受けたと記録に残っている。
が、事故と公表されたその実験の結果を、リツコは「成功」と語る。そして現に今、碇は初号機に乗っている。
ミサトは未だ何も知らない自分を意識する。
あのなかで彼はどうなってしまっているのか。
- 46 :
- しいて想像しまいとしていても、気がつけば視線はいつしか画面内の初号機に戻っている。
思考を新たな報告が中断する。
「初号機、主システムに接触します」
すべての人間が一斉に主画面を見上げる。
後方で、ぽつりと冬月が呟く。
「碇。本当に、これで良かったんだな」
/
建築構造とも有機組織ともとれる巨大連続体のそびえる非空間
漂う碇の仮想身体
周囲を取り巻く変動情報の断片が電子塵となってきらめきながら継時崩壊していく
微速変相する自分の仮象を立て直す碇
一つの方向を見定める
/断線感覚もなく移相する風景
近くにある明るい群果状の動力制御アイコンを軽く叩く碇
/
- 47 :
-
「あ、点いた」
真っ暗な通廊の先で、古い搬送軌道の制御卓が表示灯を点滅させる。
霧亥はさっさと移送台座に乗り込む。レイがアスカを無言で促し、あとに続く。
「ほんとに動くの?」
「ああ」
霧亥は顔もあげず制御盤をいじる。いくつかの表示が映し出される。
移送台座の手すりに寄りかかり、アスカは錆びつき塵の層に覆われた走路を不審げに見おろす。
「…ちゃんと走るんでしょうね、これ」
レイは首をかしげる。
「レールの状態に依存するから、どのくらい時間がかかるかは不明ね」
アスカはげんなりした顔で手すりを離す。
「ま、徒歩で行くよりはマシか」
がくんとひと揺れして、移送台座はプラットホームを離れる。風が起こり、軌道の両側の暗闇が高速で
流れ始める。
霧亥を先頭に、三人は行く手の古い走路の彼方を見据える。
- 48 :
- >>39
え? だって父親も何も、母親のクローンなんでしょ?
(すこし人外要素が混じってるだろうが)
シンジから見たら母親×2にはなっても妹にはならんのじゃないか
- 49 :
-
広い発令所のなかが急に明るむ。
初号機からの送信画面が変転し、風景らしきものが映し出されている。
重なり合うさまざまな構造体の絡み合いが擬有機的な景観を作り出し、微光の大穹隆が遥か彼方の
黒い仮想地平まで続いている。
見知らぬ眺望に、人々が嘆声を洩らす。
「これって…?」
ミサトが圧倒された表情で呟く。
コンソールを流れるデータを瞬時に判読し、伊吹が答える。
「初号機を中継した、階層主システムからのリアルタイムの信号です。
おそらく、今接続している碇司令の、電子身体の擬似視覚、そのままだと思われます」
同じくデータを処理しながら、青葉と日向も興奮を隠せずにいる。
「予備電子界の風景、ってとこか…」
「すごい…成功、なのか?」
一人、リツコだけが無表情を変えずにいる。ミサトが振り返る。
「でも、これだけじゃ何がなんだかわからないわよ」
- 50 :
- 「そうね。まずはシステム中枢に当たる部位を特定しないことには、何もできないわ」
日向が落胆に近い表情を見せる。
「この広大な情報領域を捜し回るわけですか…?」
「まるで、未踏査区域を探索する探検家だな」
青葉の述懐に、冬月が苦く笑う。
「探索か。ここはサードチルドレンにコツを教示願いたいところだな」
ミサトが組んだ腕をほどき、一方の手を腰に当てる。
「…で、そのサードチルドレンは?」
「再起動中の、超構造体の測位システムが位置を捕捉してます。現在、内部空洞の奥を移動中の
ようです」
「アスカとレイも一緒?」
「みたいです。古い搬送施設を起動させて使ってますね」
リツコが初めて嘆息する。
「…もうそこまで機能掌握しているのね。碇司令は」
画面内では、ところどころ不鮮明ながら確実に表示部分を広げていく超構造体内部地図と、
同じく写像されてゆく精細なシステム経絡の描画が進行している。
- 51 :
- >>48
宇宙人の人間のハーフだよな。
ちなみに、カヲルはミサトの子供でイイんだよね
- 52 :
- 三人がたどっている経路を見、ミサトが目を見開く。
「待って、この方向ってまさか、さっき重力子放射線で消却されたあたりを目指してるの?」
「はい。ですが、先に現れた使徒らしき物体は、既に活動停止している模様です」
日向が問題の座標を拡大表示する。青葉が走査地図を追加する。
「周辺に、ATフィールド、または侵入対抗電子空間の痕跡は検出できません」
「確認できる限りでは、珪素生物の反応は皆無です。
…やはり、先に現れた、使徒と思われる個体の撃った重力子放射線で殲滅された可能性が
高いですね」
「あの大群を一撃で殲滅か…同所にいたセーフガードとおぼしき戦力も、かね」
冬月がやや厳しい表情で確認する。青葉はうなずく。
「間にある超構造体の遮蔽効果のため、走査野の一部が不鮮明ですが、恐らく」
「…そうか」
ミサトは再び主画面を見上げる。
「第拾四使徒…一度ここを襲い、初号機が倒した、唯一の重力子放射線射出装置装備型。
それがなぜ、私たち階層居住人類の味方を?」
日向が画面内の初号機を一瞥する。
「碇司令が、階層システムの記録から直接ダウンロードして使ったという可能性は?」
- 53 :
- 伊吹が小さく息を吸い込む。
「そんな…確かに、今の初号機なら不可能じゃありませんけど」
「いや、それはないさ」
青葉が首を振る。
「使徒が攻撃を行ったのはただ一回、初号機がエヴァシリーズを制圧する寸前だけだ。その時、
碇司令はシステム外縁に接触してもいないはずだ」
「そもそも、使徒を形成するだけの、都市から独立した大容量ハードウェアは、過去の使徒襲来で
すべて使い捨てられてるわ。今さら、どうやってそれだけの器能体を用意したの?」
ミサトは日向の肩越しにコンソールを覗き込む。
「対象が活動停止してるとして…霧亥君たちは、使徒を確認しに行ったのね?」
「それとも、超構造体の先を見に行ったのかもしれんな」
冬月の言葉に、一瞬全員が沈黙する。
「『外』、…ですか」
ミサトが呟く。この階層内部だけを世界として生きてきた彼らにとって、『外』は深宇宙にも等しい。
冬月は疲れた目を画面内の初号機に向け、静かに溜息をつく。
- 54 :
-
劣化した軌道に火花を散らし、搬送台は暗闇の底を疾走する。
「ネット球(スフィア)は、人のために作られた器。
世界の上に綴られた、もう一つの世界」
レイは珪素基系の甲冑に覆われた黒い細い手を、手すりに軽く置いて立っている。
「高度に成長していく間に、それは利用者を選別するようになった。
そのためにあるのがセーフガード。
その存在理由は、ネットスフィアの基底現実であるこの都市から、正規のアクセス能を持たない
不法居住者…すなわち、ネット端末遺伝子を持たないすべての者を、ネットへの脅威と見なし
排除することにあるわ」
耳を傾けるアスカの長い髪が真っ暗な空間に激しくなびいている。
「要するに、ネット端末遺伝子のない人間は皆しってことでしょ?
だから本来なら、〈厄災〉で正常な端末遺伝子を失った私たち放浪世代(ディアスポラ)に、生きのびる
可能性はなかったってわけね」
アスカは掴んだ手すりをかたく握りしめる。
「その私たちずっとかくまってくれてたのが、この閉鎖階層。
だけど、いくらネットに繋がってないからって、物理的座標を特定すれば直接仕掛けることができるわ。
連中にはハードウェアの強制走査権みたいなもんがあるんでしょ? それに、同じようにセーフガードからの
隠れ家を必要としてた別の不法居住者も、ここを狙い始めた」
- 55 :
- >>51
オイオイどっから出てきたのその話w
ミサトが南極調査隊にいたからって、アダムにダイブした遺伝子
とやらがミサトのもんだとは限らないと思うが
- 56 :
- 「珪素生物。ネットのカオスから生まれた、都市の寄生者たちよ」
アスカは手すりを放し、両腕を支えによりかかる。
「使徒形成は、連中のハッキングを強制終了させるための、階層防衛機構の捨て身の切り札ってとこね。
正規の救援を要請できない階層が取れる手は、それしかなかった。…ちぇ、つまるところ私たち、今まで
ひたすらバグ取りに精出してたわけか」
レイは少しだけ振り返る。
「私たちは使徒を全て倒してしまった。もう身代わりの代償はいないわ」
けげんそうにアスカが反駁する。
「全てじゃないわ。この先に、また現れたじゃない。忘れたの? 今、私らはそれを確かめに行くのよ」
レイは答えない。
アスカが見つめるなか、レイは黒光りする自分の手の甲に視線を落とし、やがて、再び顔を上げる。
「…ネットの法と、カオス。どちらが勝っても、人は生き残れないわ」
アスカは溜息をつくと、くるりと身をひるがえして、手すりに背中を預ける。はためく髪が表情を隠す。
「着いたら、ちっとは説明、あるんでしょうね」
走査卓の前で、霧亥は銃を握り締め、無言で前方の闇を見据えている。
やがて視線の先、真っ暗な走路の彼方に、終着点とおぼしい標識灯がかすかに浮かぶ。
- 57 :
-
ジオフロント。
辺りにたちこめる熱気の靄は少しずつ薄れ始めている。
不動の初号機を囲み歪んだ円環を作って擱座しているエヴァシリーズ。青い電光が輪を走り抜けている。
計十体のエヴァの演算器能が融合され、かつて人がなした全てを超えて急速に出力を増大させていく。
中心で、初号機の両目は炯々と光を放っている。
/
無限に交錯する情報複合体の中を漂う碇
/の仮象身体をその内に含む初号機の情報構造
巨大な双眸の仮象で表わされる走査体系が膨大な情報景観を見渡す
システム融合した全てのエヴァを制御し、一直線に目的地に向かう碇
その個有情報構造は徐々に初号機に取り込まれつつある
領域検索を続けるうち、しだいに経絡が絞られてゆく
初号機の眼で仮象地平を見据える碇
/の前で風景が一変する
闇の中にぽっかりと浮かんだ高い城門
古風な門扉は堅く閉ざされている
周辺にゆるやかにわだかまる破損キャッシュの霧
大扉の前に佇む碇
/
- 58 :
-
超構造体外縁部。
内部通廊の先はぽっかりと開けた外側の空間に続いている。
休止中の超構造体の沈黙を通して、馴染みのない電磁効果がかすかに伝わってくる。
アスカはリフトから降り立った姿勢のまま、最後の外壁の向こうから目を離せないでいる。一瞥し、
霧亥はためらいなくアスカを追い抜いて、超構造体の向こう、禁じられた『外』へ歩き出す。
アスカが慌てて声を尖らせる。
「ちょっと! 何考えてんのよ、そっちは『外』でしょうが!」
霧亥は振り向きもせず歩いていく。
アスカは躊躇し、足踏みし、かぶりを振って、結局走って横に並ぶ。
相変わらず足取りを緩めない霧亥の右手は、固く銃把を握っている。
霧亥はアスカを一瞥する。
「別に外には出ない」
「じゃ、他に何があるのよ。再起動が成功するとして、それまで待たないと、私たち、セーフガードに
ナマで見つかる人間第一号になっちゃうでしょうが」
- 59 :
- まくしたてるアスカの少し後ろから、レイが唇を引き結んでついてくる。
霧亥は少し肩を怒らせる。
「…使徒を確かめる」
アスカが呆れ顔になる。
「それはわかってるわよ。だから…」
「できるだけ、こちら側から観測できる地点を探しましょ。まだ危険だわ」
レイが後を続け、アスカはわが意を得たりという顔をする。
「ほら、優等生もこう言ってるんだし。わざわざ最前線に突っ込むことないわよ」
霧亥は答えない。
無言で分厚い灼塵を踏み越え、外壁の隙間に出る。
レイは黙ったまま立ち止まる。アスカが二人を見比べ、やがて意を決したように霧亥を追う。
- 60 :
-
/
城塞の巨門の前の碇 背後には別の城門のように佇立する初号機
目を閉じる
/まぶたの裏に制御ウィンドウが立ち上がる/
/細い光条の絡み合い
/特定できない顔と声の幻
/見知らぬ荒景
/視覚的空電/
/
(認証開始)
/
(確認作業開始/経過/経過/経過///)
(/中断/再開/中断/)
(/再試行)
/
(認証確認)
(接続機構構築/////完了)
/
(最終入力要求)
//
門扉を正視する碇
碇「統治局のメッセージ通り、私はここに来た。エヴァ初号機とともに」
背後にそびえ立つ初号機
無限遠を見つめる巨大な光る双眸
碇「私は」
/
- 61 :
- 2人は双子
- 62 :
-
超構造体の内部通路の壁が尽き、同じ素材がそのまま開口部になって四方に拡がっている。
足もとから、傷ひとつないなめらかなプレート面がほぼ垂直に暗闇へ落ち込んでいる。
わずか数歩先は暗い虚空である。
奈落を見下ろす通路の口に佇み、霧亥、アスカ、レイは周囲を見渡す。一帯は闇に沈んでいるが、
種類の少ない背景電磁放射に目が慣れてくると、遠く近く、未踏の都市構造がそびえているのが
少しずつ見分けられてくる。
巨大な輪郭はあちこち激しい戦闘の痕跡で汚れている。薄い白煙をあげているのは、点在する
珪素生物やその武装の残骸。超構造体の上に築かれていたはずの構造物は、大口径の重力子
放射線で跡形もなく消却されている。床面すれすれに発射され、下部構造を大きくえぐり、正面の
多重壁を貫通して続く射線は、闇の奥へどこまでも伸びている。
無機質な匂いの風が吹き上がってくる。アスカが背伸びして闇の奥を窺う。
レイが誰にともなく言う。
「穴の先600kmまで、敵はいないわ」
- 63 :
- 愕然として、アスカが振り返る。
「そんな遠くまで? ったく、どんな目ぇしてんのよ」
「穴はもっと続いてる」
霧亥が付け加え、アスカはげんなりした顔になる。
「…あっそ。
で、使徒はどこよ。それが本題なんでしょうが」
霧亥は無言で奈落のふちに歩み寄り、足の下に落ち込む暗闇を見透かす。
アスカが続き、ふいにそれを認識して声をあげる。
奈落の底に、黒い粘性の漿液にまみれて、ひときわ巨大な珪素基系塊がある。主な構造は既に崩壊し、
組織片が黒々と濡れた小山を作っている。既に活動停止して久しいとおぼしき、第拾四使徒の巨躯である。
「…あ」
レイが小さく声をたてる。
使徒の頭部が、いちじるしく劣化して床面に落下している。その脇、白い骸骨の仮面に癒着するように
人の姿が仰臥している。周囲には黒い不活性の物質が飛散し、左腕と両脚は半分以上ない。残った部位は
レイと同じ黒い装甲で覆われているが損傷が激しい。かろうじて白い顔が見えている。先の戦闘時、弐号機の
戦闘補佐をレイに任せ、珪素生物の流入を止めるべく、超構造体に単身突入していったカヲルである。
一瞬レイを見、暗闇の底を見下ろして、アスカは理解する。
「…使徒は、あいつが」
- 64 :
- レイの目もとを表情の影がかすめる。
「…わざと造換塔を使ったのね。ここから見える分だけでも、可能な限り潰しておこうとして」
無言で霧亥が前に出る。
押しのけられる形になって文句を言おうとしたアスカは、そのまま息を呑む。
超構造体の外縁ぎりぎりを踏みしめ、霧亥は重力子放射線射出装置を構える。
銃口はまっすぐカヲルに向けられている。
視線を感じたのか、汚塵と鉱滓のなかでカヲルがゆっくりと目を開き、頭上の三人を見上げる。
霧亥は正確にカヲルめがけて構えている。
カヲルは銃口を見上げている。
不動の数秒が過ぎ、張りつめた闇の底から、先にカヲルが口を開く。
「…霧亥か。良かった、間に合って」
霧亥は銃口を逸らさない。
カヲルは再び瞑目する。
「交戦中のセーフガード駆除系と珪素生物は一掃した。それと近隣の、捕捉できる限りの造換塔もね。
けれど、全ての座標を特定することはできなかった。第二波の転送(ダウンロード)は時間の問題だ」
- 65 :
- 静寂のなか、意外に鮮明に言葉が届く。
「…もう単独で武装を作るだけの器能はないけれど、僕と、この使徒の身体は、おそらく駆除系生成の
材料になる。…使徒を強引に作出するために、自分で断線したからね。たとえ階層内部に戻っても
使い物にならないだろう」
銃口越しに見据える霧亥を、カヲルは真剣な眼差で見上げる。
「霧亥。今度こそ、僕を消してくれ」
霧亥の目がわずかに険しくなる。それを見てとったのか、カヲルの声はふっと緊張をとく。
「君が来てくれて良かった。その銃なら確実に終わらせられる。
…ありがとう。初号機にいるもう一人の適格者にも、よろしくと」
何もできずにいる焦燥のなか、アスカが聞きとがめる。
「…もう一人?」
が、霧亥は一度わずかに下がった銃身を再び構える。
辺りに重力子充填のノイズが響き始める。
アスカは我知らず向き直り、そして霧亥の目つきの硬さに言葉を失う。
止める前に引き金が引かれる。
- 66 :
- むしろユイとレイが双子では?
- 67 :
-
/
虚空に立つ霧の城門
長い背をたわめ、巨大な両腕を開く初号機
碇の仮想身体が不規則に揺らぐ
人の形だけをとどめた記号
碇「…私は/僕は」
/
第二発令所。主画面上では、認証シークエンスが完了しようとしている。
緊迫する職員たちの間で、冬月は一人初号機だけを見ている。
正確には、その内部にいるはずの男の姿を見ようとしている。
冬月は思い返す。
…人類補完計画を提唱したあの日、私にだけは話してくれたのだったな。
ゲヒルンで行われたあの最初の接触実験の、真相。
お前が、一度だけ初号機をインターフェイスとして階層システムの深部にまで到達し、そこに隠されていた
統治局の代理構成体と接触できた、その理由は…
- 68 :
-
周囲の大気が一瞬歪み、ついで穴の底から爆発が壁面を駆け上がる。
アスカとレイが頭をかばって伏せる。
一拍おいて、衝撃が叩きつける。
/
ふと、虚空を見上げる碇の形
記号化された顔に鋭い笑みが刻まれる
口を開く
迷いのない双眸
「僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです」
/
空間に巨大な鐘の音に似た轟音が鳴り渡る
/
発令所の全ての画面で光が展開してゆく。
主画面に映る初号機に、冬月は虚しい笑いを投げかける。
「…お前こそが、ここのシナリオと母事象との相違点、そのものだからなのだったな」
- 69 :
-
/
門から伸び出す光る有機的な軸体 周囲を変転する情報列が取り巻いている
見る間に量を増す索体群
碇の身体を絡め取り、そのまま門そのものに引き込んで没する
失われる人の形
城門を見つめる初号機の巨大な双眸
/
広大な閉鎖階層。その内部は、大半が住む人もない未踏査の集積建造物に占められている。
営々たる建設者の活動によって増設されてゆく、そびえ立つ都市構造体。その機能の多くは、
階層居住圏の技術のすべてをもってしても、未だ解明できていない。
その構造物の連なりを、今、裂けるような音を引き連れて放電が駆け抜けていく。
そして、地響きにも似た稼働の重低音が轟き始める。
- 70 :
-
発令所に緊張した音声が響く。
『階層主統治システム、アクセス承認。初号機による再起動、成功しました』
一斉に様相を変じたスクリーン群を、ミサトが振り仰ぐ。
「やったの?!」
「そのようね」
リツコは冷静さを崩さないが、口もとには笑みが浮かんでいる。
オペレータ、スタッフらの間に歓声が湧く。
勝利の余韻もつかのま、日向、伊吹、青葉の三人はあわただしく状況を報告し始める。
「初号機、主要構造を検索中。階層内部の都市恒常機能を掌握していきます」
「並行して、階層統治システムに接続。階層閉鎖コマンドを要求。各種再設定、進行中です」
「反応、返ってきてます。目的のファイルを実行する前に、かなりの確認作業が必要になりそうですね」
「閉鎖コマンド自体にはロックが掛かってるようです。MAGIと連携してパターン解析を開始します」
「通信量の増大に対応するため、同時進行で機体器能を増設しています。演算速度、さらに増大」
ジオフロントを俯瞰する別の映像画面が、増殖する初号機の素体が巨大な多重翼となって拡がり、
天蓋を越えて伸びてゆくさまを映し出している。九体のエヴァシリーズもその裡に組み込まれていく。
冬月は苦く笑う。
「…これが、エヴァの本来の機能。そして、本来の姿、か」
未だ、搭乗者からの一切の通信はなされない。
- 71 :
-
階層居住圏各所。
人の住む基盤である都市構造体は、微小だが長い震動を続けている。
前例のない事象に人々は混乱し、幾つかの居住区を恐慌が席巻する。建造中のシェルターに
到する市民と、治安出動する都市連軍。両者の間で衝突が起こり、混乱が拡大していく。
そのとき、居住区の管理システムが次々に起動し、自動的に事態に介入し始める。
徐々に混乱が収まっていく。
人々は畏怖を、あるいは感慨をこめて、昨日まで単なる〈地形〉だった都市構造体を眺める。
- 72 :
-
超構造体外縁。
熱気と、錆びた金属の輝きを放つ塵の渦が怒涛となって外壁に砕け、急速に吹き散らされる。
アスカは頭をかばっていた両腕を恐る恐る下ろす。
壁面の上から見下ろすと、破壊された深淵が流動する塵雲の隙間からのぞく。唇を噛み、
アスカはただ立ちつくす。
と、隣でレイが息を呑む。
そのレイの脇をすり抜けて、銃をしまい、あっさりと外壁のへりを蹴って、霧亥が飛び出す。
「…え?!」
巻き起こった強い上昇気流が壁面を打ち、ふいに視界が晴れる。霧亥は熔けて粗く固まった
傾斜を、熱い靄をついてあぶなっかしく滑降していく。その目指す方向に目を凝らしたアスカの
表情がぱっと変わる。
はっとして、レイが手を伸ばす。
「駄目、その先は」
「何言ってんの」
レイの手を軽く払いのけ、アスカは鮮やかに勝気な笑みを見せて振り返る。
我知らず胸をつかれ、レイは瞬きする。
「…あの馬鹿が飛び出してった時点で、『外』も『中』も、もう無効に決まってるじゃない!」
アスカはめいっぱい背伸びして奈落を覗き込み、霧亥を追って断崖を伝い下りていく。
とまどって立ちつくすレイの眼下で、黒い靄が薄れ、消却された使徒の残骸の跡に、状況を
信じられないままに目をみはる、カヲルの姿が現れる。
- 73 :
-
引きちぎった導管でカヲルの身体を背負った霧亥が、垂壁を全身で登り終える。
先に上がったアスカは誘導に使った懸下ワイヤーを回収している。ひゅるっと終端を振って、
細いが強靭なワイヤーが手首の収納環に巻き取られる。
「まさか非常時のためのプラグスーツのサバイバルツールが、こんなことで役に立つなんて
思わなかったわ。…というよりも、またも使徒を助けるなんて想像もしなかったわけだけど」
アスカはじろりと視線を流す。霧亥は傷ついたカヲルを背中に縛りつけたまま、黙々とスーツの
前面をはたいているが、顔を上げてアスカを見る。アスカはおおげさに溜息をついてみせてから、
意外に素直に笑う。
霧亥は少しの間その顔を見つめ、再び視線を逸らす。
レイは少し離れたところに立っている。
「最初から、彼を回収するために来たの」
霧亥が無言で振り返る。レイの表情は硬い。
微妙な緊張を感じ取って、アスカが二人を見比べる。カヲルはぐったりと目を閉じている。
「碇司令から、そう命令されてたの」
「え…?」
アスカの顔に混乱が湧き上がる。
「どういうことよ、ファースト。碇司令は最初からこいつのことを知ってたの?
…キリイ、どうなのよ!」
- 74 :
- 霧亥は憮然と目を逸らす。
「…こいつは使徒じゃない」
「ちょっと、それ答えになってないでしょうが」
さらに言いつのろうとするアスカを抑えるように、カヲルがうなだれていた頭を起こす。
「彼女たちが疑うのも無理はないよ。今の僕は足手まといにしかならない。…いや、もっと悪い。
さっき言ったろう、僕には力もないし、セーフガードユニットをダウンロードされるのを防ぐ手段もない」
肩越しに訴えるカヲルから、霧亥は頭をねじるようにして顔をそむける。
「別に、それはどうでもいい」
無愛想に答えてそのまま歩き出す。その背に向かって、レイがもう一度問いかける。
「命令じゃないなら、なぜ助けるの」
霧亥はレイを一瞥する。
「お前はなぜ助けない」
アスカがぱっと目をみはり、それからカヲルを見る。カヲルは耐えるように視線を落としている。
レイは動じない。白い顔を少しうつむけて答える。
「彼の言う通りだもの。次の転送が来たら、彼は私たちを排除する兵器として再構成されてしまう
可能性がとても高いわ。彼は、階層にとって危険なのよ」
カヲルが頷く。が、霧亥は足取りを緩めず、元来た隔壁の奥へ戻っていく。
「え…ちょっと、キリイ!」
- 75 :
- アスカがあわただしく追いすがってくるのをそのままに、霧亥は搬送軌道のコンソールを操作して
搬送台座に乗り込む。アスカは続いてプラットホームに立つが、一度立ち止まって、霧亥の顔を
じっと見つめる。
「ファーストの肩を持つわけじゃないけど、…ほんとに、そいつを階層に連れてって大丈夫なの?」
移送台が再起動する。霧亥はコンソールの表示を見たまま答える。
「戻れば初号機がある。こいつは敵にはならない」
カヲルが必死の面持ちで見つめる。アスカは虚をつかれた顔になり、それからにっと笑う。
「わかった。
…もし万が一のことがあったら、私が弐号機で何とかしてみせるわ」
カヲルは驚くほど無防備に表情を崩す。
霧亥が振り返る。不敵な笑みを残し、アスカは大股に台座に乗り込む。
「それでいいでしょ、ファースト」
追いついてきたレイの顔を、驚きと動揺がよぎる。レイは装甲された自分の身体を見下ろし、
ふいに頼りない表情になって、唇を結んで頷く。
「…わかったわ」
乗り込むレイに、アスカが手を貸して引っぱり上げる。
霧亥は無言でキーを叩く。
移送台は振動し、少しがたつきながら復路を滑走し始める。
- 76 :
- test
- 77 :
-
軌道の軋りが超構造体内部に消え、残響も暗闇に吸い込まれる。
使徒の骸のあった辺りにわだかまる黒塵の雲のほか、辺りにもう動くものはない。
懸崖の下にできたクレーターが、周囲に散らばった珪素生物の残骸とともにゆっくりと冷えていく。
突如、それらの上を電光が駆け抜ける。強烈な放電が宙で大量の結節点へと収束し、雲を裂いて
使徒と珪素生物の残骸、さらに床面の素材そのものを直撃する。
瞬時に周囲の情報圧が激増する。
大気が引き裂け、沸騰する空間の下、使徒と珪素生物を材料に次々とセーフガードが立ち上がる。
奈落を埋めた駆除系の大群は、超構造体を見上げ、一斉に垂壁の上へと群がり登っていく。
- 78 :
-
/
線画のような風景のなかを歩く碇の仮象体
起伏する地面 歪んだ山稜 動かない湖面 粗っぽく描画された植物
ノイズのような暗白色の霧がすべてを覆っている
自分の身体を見下ろす碇
歩いているのは、十四歳の少年である
手足の先から黒い微細亀裂が成長し、仮象を侵食してくる
呟く碇
「…時間、ないな」
見守っている初号機の気配
/
「初号機、まもなくシステム中核と接触します。階層閉鎖コマンドを要求…」
接続作業のなか、伊吹がふと眉をひそめる。
「待ってください、…何、これ」
リツコとミサトが相次いで覗き込む。
「どしたの?!」
「おかしいです、この電相構造って…」
日向と青葉も異常に気づく。
「階層システムじゃない。初号機だ。いや、…まさか、これは」
「素体内部に異常発生! …制圧したはずの、エヴァシリーズですッ!」
「なんだと?!」
- 79 :
- 冬月が目を見開く。俯瞰画像のなかで、初号機の演算翼がゆっくりと傾いでいく。その根本から
別の素体構造が噴出し、みるみるうちに成長して初号機を侵食する。
「…なんてこと」
データをスクロールしたリツコが一瞬絶句する。
「量産型の操作に使われたダミープラグが再起動している。パーソナルデータを擬装していたんだわ」
「どういうこと?!」
リツコは険しい表情でミサトを一瞥する。
「…碇司令のデータを、ダミーの裏に二重記載していたのよ。一度制圧されることで潜伏状態に
入って、アクセスが成功してから、内部から初号機のコントロールを奪うつもりだったんだわ」
伊吹のコンソールの上に屈み込み、キーの上にすばやく指を走らせる。
「どうするの?!」
「ダミーが何を最終目標としてプログラムされているのかを突き止めないと。このままでは何も手が
打てないわ。マヤ、MAGIの監視網から強制介入して」
「はい!」
にわかに新たな緊張を帯びた発令所の中央で、冬月は絶望的な予感に襲われる。
初号機を振り仰ぎ、祈るように呟く。
「…碇、急げ。急いでくれ、頼む…」
/
初号機/碇はすべてを知覚している
/
- 80 :
- /
発令所での人々のせわしない声/システムに喰い入ってくるエヴァシリーズの執拗な衝動/
階層居住圏の各居住区へ急ぐ加持たちの動向/超構造体内部を疾走する搬送台/
未だ階層システムの侵入対抗電子空間に阻止され壁面から次々と剥がれ落ちる駆除系/
霧亥の重力子放射線射出装置に走るわずかな静電衝撃/
/
十四歳の碇シンジは全力で仮想地形を駆けていく
冬月の懇願の声が囁く空電になって聴覚野にオーバーラップしている
/碇 捜せ はやく 頼む/
苔むした廃墟を過ぎ、折れ曲がって蔓に覆われた電信柱の脇を走り抜ける
うず高く積み上がった瓦礫の谷間から木々が黒々と枝を伸ばしている
少年の仮象は幻の第三新東京市を駆け抜ける
書割のような虚景を、エヴァに侵食されながら走り続け、山間の湖畔にたどりつく
巨大な爆発の跡とおぼしき丸い水辺が、単純化された波を描画されて暗く広がっている
赤黒い波が打ち寄せた形のまま凍りつき、波打ち際に壊れたエントリープラグが座礁している
それを見た瞬間、碇シンジの全身を虚無の恐怖が掴む
/無限に続く都市
/無人の風景
/徘徊する珪素生物たち
/意味を喪失した膨大な時間
/もはや自らの起源も忘れ、無作為に成長を続ける都市
/増殖しカオスを抱え人間を拒むネットスフィア
- 81 :
- //だが、少年は憶えている幾つもの痛みで自ら心を強打する
/「帰れ」
「あんたみたいな気持で乗られるの、迷惑よ」「じゃあ寝てたら。初号機には、私が乗る」
「そうやって、人の顔色ばかり見てるからよ」「うるさいわね! ちっともよかないわよ!」
「他人だからどうだってぇのよ!」「あぁ、あんた見てるとイライラすんのよ!」
「…気持ち悪い」
//
痛みが虚無を貫通する
視界が甦る
砂を蹴ってハッチの内部に飛び込む碇シンジ
かつてそうしていたように操縦席に座り、操縦桿を握り、そのアイコン/最優先コマンドを通じて
最後の接続を強行する
ほぼ同時に、まがまがしく成長した黒い亀裂が少年の身体を縦横に喰らい尽くし始める
/
超構造体外。
胸壁の下には、開口部から階層に侵入しようとして機能停止した駆除系が散らばっている。
なおも駆除系の群れは壁面を登っていこうとするが、やはり開口部に達した途端に動きが鈍り、
白煙をあげて転がり落ちていく。しかし、群れの数は尽きず、状況は膠着する。
やがて、宙に別の放電が収束する。
床素材に一瞬にしてクレーターができる。圧縮された情報が物質化され、黒い大きな人型になる。
形成された上位セーフガードは、異様に長い手を差しのべて手のひらを広げる。
- 82 :
-
衝撃。
軌道の遥か後方で超構造体が揺れる。
同時に黒い矩形の銃身を、唐突に微小な衝撃が走り抜け、消える。
霧亥が弾かれたように顔を上げる。
コンソールを掴み、移送台の動作を無理やり最高速度に上げる。軌道が派手に軋る。
「ちょっと…、何なのよ!」
投げ出されそうになった身体を引き上げながらアスカが悲鳴に近い声をあげる。レイがすばやく
背後を振り返る。が、続けて激しく足もとが揺れて、レイはアスカの隣に床に膝をつく。
「…このままの速度を維持すると、到着する前に車体が分解してしまうよ」
カヲルがすべて知っている表情で呟く。
霧亥は答えない。ただまっすぐ前方を見据えている。
移送台が奥深くから厭な軋みをあげ、不規則に跳ねる。レイがアスカの腕を掴む。
次の瞬間、軌道終端に激突して跳ね上がった移送台は床面に突っ込み、勢いのまま滑っていく。
上下左右に揺さぶられながら、レイとアスカは固くお互い掴まり合って耐える。
真っ暗な通廊の彼方、ジオフロントから射す光芒が徐々に強まっていく。
いきなり眼前が開ける。
開口部突端に正面衝突して砕け散った移送台から、四人は勢いよく宙に投げ出される。
- 83 :
- 一気にジオフロントの眺望が広がる。
レイが両肩から黒い翼が展開し、アスカを掴まえていったん飛び上がる。視点が上昇し、
異景がさらに広がる。
降下していきながら、レイとアスカはそれを見る。
硝煙をあげる周壁と焦土の中央で、巨樹のような初号機の増設素体が崩壊し始めている。
何対もの長大な翼はたわみ、傾き、幾つかは折れて落下し、堆積層に突き刺さっている。
翼枝を垂らしていく初号機の装甲は、素体が補綴形成したものも含めて無理やり引き剥がされ、
組織片と体液にまみれたそれらが生々しく散らばっている。
中心部は黒く沸き立つ活性体に覆われつつある。構成情報のせめぎあいが構造樹形を揺らし、
奔騰する素体組織のなかから次々とヒトの手足や頭部らしきものが突出して、一斉に初号機
本体を力任せに引きちぎり、食い破っていく。
血の臭いが辺りに充満している。
アスカが喉の奥で小さく呻き声をあげる。
レイは悲愴な表情になる。
「…碇司令」
log.25 終
- 84 :
-
〈もし、我々以外にも都市に生きている人がいて、
いつかその人が、この閉鎖階層を訪れることがあったら、
そして、我々もそれまで生きのびることができていたなら、
そのときには、我々の行動にも意味があったと言えるかもしれない〉
風景は静まり返り、都市の背景電磁放射だけが長く脈打っている。
露出した超構造体(メガストラクチャー)のプレート面から、階層の天井まで、眺望をさえぎる
ものはない。
見渡す限り人影はなく、たださまざまな残骸だけが累々と重なっている。
超構造体上に積もった瓦礫の露頭に座礁したエヴァ初号機。
影が長く落ちている。
エントリープラグ挿入口から、壊れたプラグが突出している。周辺に劣化した素体組織が
まとわりついている。プラグ外殻の破損箇所から内部が窺える。黒い不活性物質の溜まりが
見え、黒光りする飛沫が破れ目の周りを汚している。
どこかから吹き寄せられてきた砂塵が周囲を埋めていく。遠目には冷たい砂浜にも見える。
もはや機能しないプラグの内部から高く低く、空電のホワイトノイズが響いている。
- 85 :
-
/
//
霧亥は肩で呼吸をしながら、感覚の失せた両足を踏みしめた。
傍らで、統治局代理構成体はもぎ取られた片腕を垂らし、同じく荒い喘声を繰り返していた。
霧亥は隔壁に背中で張りつき、遮蔽物の陰から数発撃った。爆発が辺りを席巻した。
少し遅れて、十数体分の駆除系セーフガードと珪素基系の破片がばらばらと降ってきた。
「霧亥、時間がない」
代理構成体が超構造体の一角に片腕を突っ込み、格納されていた設備を無理やり引き出した。
反動で、無事だった腕もがちぎれそうになって垂れ下がった。後方からは変わらず、走りくる駆除系
の多数の足音が響いてきていた。霧亥は目で問いかけた。
「これは手段としては最も危険性が高いものだが、同時に最も成功性が高いと予測できる。
私のこの行動は、閉鎖階層内部にも多大な影響を及ぼし、現在ネットスフィアから隔絶されて
いる階層主システムに、最終防衛プログラムの実行を強制するだろう。しかし、君をこの階層の
内部に送り届けるには、ほかにできる方法はない」
- 86 :
- 代理構成体の手の先は微細に分岐増殖して入力端子になり、引き出された古い物理端末に
黒い糸のように入り込んだ。端末が活性化した。
同時に、閉鎖階層とその外部を隔てている超構造体が、長く低く震動した。プレートの一部、
後から建設された構造物に隠された部分がガシンと音をたてて開き、内部に通じる真っ暗な通廊が
現れた。
長く閉ざされていた暗闇を、霧亥は無言で見据えた。
「これ以降、我々からの全ての信号は遮蔽され、君は階層内部で孤立することになるだろう。
内部がどれほど変化しているかはまったく不明だ。だが、過去ただ一度この階層からネット
スフィアに接続し、階層全体をネットから切断した何者かの記録は、どこかに残っているかも
しれない。
我々は、階層がセーフガードに発見される前に君がその記録を発見し、ネット端末遺伝子が
今も階層内に存在するかを確かめてくれることを信じている」
爆煙の向こう側から駆除系と、それを駆逐する珪素生物たちのたてる戦闘音が近づいてきた。
代理構成体は統治局標の章の刻印された顔を霧亥に向けた。
「君が内部に進入した段階で、セーフガードは君を感知できなくなる。しかし珪素生命たちは侵入
の試みを続けるだろう。内部で時間がたつほど、状況は困難になると予想できる」
- 87 :
- 「我々が発掘した最終プログラムの母事象では、碇シンジという人物が鍵を握っていた。彼を探す
ことが探索の第一歩となるだろう。しかし、彼がどんな姿でいるかは不明だ」
霧亥はただ視線を返すと、銃を懐にしまった。
代理構成体は身体の各部を変化させて武装を造り出し、霧亥と、硝煙の向こうから押し寄せる
敵勢との間に立った。砲撃が周囲に着弾し、足もとが大きく揺さぶられる。
「その入り口はあと三十秒ほどで完全に閉鎖される。今すぐに君の探索を始めることを勧告する」
霧亥はもう一度代理構成体を見据えると、身をひるがえして超構造体の奥へ走り出した。
爆煙の幕を裂いて突っこんできた珪素生物を、代理構成体が巨大に成長した腕で押さえ込む。
たちまち周辺は代理構成体とセーフガード、そしてその両方を排除しようと襲う珪素生物たちの
激しい戦闘に巻き込まれた。
霧亥はひたすら超構造体の奥めざして走った。と、周りが瞬時に明るくなったと思うやいなや、
後方からの巨大な爆発が背中を突き飛ばした。霧亥は足をとられ、それでもがむしゃらに前に進み、
閉まりかかる隔壁の向こうにぎりぎりで転がり込んだ。背後で隔壁が次々とと地響きをたてて閉まった。
爆発も戦闘も、超構造体のプレートの向こうに消えた。
霧亥は立ち上がった。
静まりかえった暗闇の彼方に、階層内への出口とおぼしいかすかな明かりが見えた。
- 88 :
-
男は死んだ都市のなかにただ一人で立っていた。
霧亥はすぐに男を見つけた。機能も建設者の活動も停止した、電子的にも完全に沈黙した
都市のなかで、男だけが信号を発していた。
網膜に表示される情報を読み取ることはまだできなかったが、霧亥は男に近づいた。
男は霧亥より頭ひとつ半ほど背が高かった。
無表情に口を開いた。
「古代に行われた統治局との交信記録によって、外部に探索者が存在することは知っていた。
君が、霧亥か」
男は特務機関ネルフ総司令碇シンジと名乗った。
その後、死んだ都市が〈南極〉と呼ばれていること、<セカンドインパクト>のこと、そしてここで
戦うことになる<使徒>という存在のことを聞いた。
そして、霧亥のサードチルドレンとしての時間が始まった。
//
/
- 89 :
-
ジオフロント。
硝煙をあげる周壁と焦土の中央で、巨樹のような初号機の増設素体が崩壊し始めている。
何対もの長大な演算翼はたわみ、傾き、幾つかは折れて落下し、硬い堆積層に突き刺さる。
翼枝を垂らしていく初号機の装甲は、素体が補綴形成したものも含めて無理やり引き剥がされ、
組織片と体液にまみれたそれらが生々しく散らばっている。
中心部は黒く沸き立つ活性体に覆われつつある。構成情報のせめぎあいが構造樹形を歪ませ、
奔騰する素体組織のなかから次々とヒトの手足や頭部らしきものが突出している。それら異物は
初号機本体の素体を食い破り、自らの組織を埋め込み、物理構造侵食を最も暴力的な形で
行っている。
辺りには血の臭いが満ちている。
「…碇司令」
黒い翼を揃えて降り立ち、背中に羽を収納したレイが悲愴な顔で呟く。
隣で、アスカは必死に吐き気をこらえている。
床面を陥没させて着地した霧亥が頭を上げ、初号機を見据える。
突然、構造樹全体を強烈な電光が縫う。太い放電はそのまま周囲の構造体に伝播し、
堆積層と周壁を伝って階層の大天井に達する。
霧亥の銃にまた新たな電磁衝撃が走る。今度のは先ほどよりも長く、驚いている霧亥の腕に
まで伝わってやっと消散する。
都市構造体が新たに長い震動を始める。立っていられないほどではないが足もとが揺さぶられる。
「…どうなってるのよ、キリイ!」
何とか自分を抑えたアスカが問いかける。霧亥は答えず、ふいに少し離れた堆積層に視線を
向ける。
- 90 :
- ほぼ同時に、その真上に別の放電がほとばしり、集束して床素材から何かを構成し始める。
霧亥が表情を引き締め、カヲルを背負ったまま銃を構える。レイがアスカをかばって前に立つ。
形成はほとんど時間を要さずに完了し、蒸気の靄が晴れたあとに、背の高い樹状の人型が佇む。
霧亥が銃を下ろす。
人型には四肢もなく、足もとは床から生え出たようになっている。顔は白い平静な仮面で、
かすかに慈悲に似た表情が漂っている。数本のラインを交差させた標章が額に刻まれている。
アスカが慎重に人型を窺う。
「キリイ、知ってるの? こいつ…何なのよ」
「統治局だ」
「え…?!」
顔色を変えたアスカの前で、人型がゆっくりと口を開く。
「その通りだ。
私は統治局…ネットスフィアの支配レベルの代理構成体。
君たちにメッセージを伝えるため、基底現実に転送(ダウンロード)された」
アスカがレイを押しのけて前に出る。
「ちょっと待ちなさいよ。ここはネットから切り離されてるんでしょ? なんでネットスフィア側の
意思が、階層のなかに実体化できるのよ!」
代理構成体の表情は微動だにしない。
「階層の閉鎖はたった今解除された。階層システムはつい先ほど、君たちが初号機と呼ぶ
あの複製体をインターフェイスとし、搭乗者の遺伝子情報でネットへの仮接続を行った」
霧亥が再び険しい表情になる。
アスカは代理構成体と初号機を見比べ、必死に理解しようとする。
「仮接続? 搭乗者…って、碇司令が?!
どうしてよ! 今までのことが全部無駄になるじゃない!」
- 91 :
- 代理構成体は冷静な語調で答える。
「周囲の機体に記載されている一群の意志が、搭乗者の遺伝子情報を自分に上書き
していたのだ。現在、端末を支配しているのはそれらの意志だ。この低次の行動はセーフ
ガードの介入を許し、階層にいる全ての人々に確実に脅威をもたらすだろう。
だが、これによって我々もある程度自由にこの階層に介入できるようになった。
実行者を止め、この事態を収拾するには、あの初号機に行ってみるしかないだろう」
「…碇司令に会え、というのね」
レイはまっすぐ代理構成体を見つめている。
「そうだ。我々としても、彼が碇シンジ当人だということは予想していなかった。だが、現在の
状況では、その事実が君たちの助けになるだろう」
霧亥が頷いてアスカを見る。
「初号機に行く。惣流、弐号機は動かせるか」
アスカははっとして我に返る。
「まだ内部電源は残ってるから、たぶん大丈夫。けど、予備電槽使いきっちゃったから、
そんなに長くは起動してられないわよ」
「すぐ終わらせる」
アスカは呆れたように霧亥を見つめ、そして身をひるがえして弐号機の方に駆け出していく。
レイは代理構成体を凝眸している。
「…わたしと彼はどうなるの」
目で、霧亥の背中のカヲルを指す。カヲルはひとことも喋らず、頭を垂れている。
「心配はない。君たちは霧亥や人々の助けになってくれると予期されている。
わたしには限定的な統治局の効力を与える機能が付与されている」
代理構成体の肩に当たる部分から細い糸状の出力回線束が伸び、レイとカヲルの前に
差し伸べられる。
- 92 :
- レイは霧亥を見る。霧亥は頷く。
かすかに息を吸い込み、レイは出力端子を手に取る。
と、端子の先が手のひらの内部に潜り込み、瞬間、レイは短く息を吐いて上体をたわめる。
「綾波」
端子はすぐに抜け、レイはわずかに額に汗を浮かべて顔を上げる。
「…大丈夫」
見つめる霧亥の背中で、カヲルが身体をくくりつけていた導管を切って床面に降り立つ。
霧亥が振り返る。カヲルの脚はレイと同じ珪素基系の素材で再形成され、損傷も修復
されている。カヲルはどこか寂しげな顔で微笑し、長い刃状の武装を展開してみせる。
代理構成体は糸状の端子を再び引き込み、三人を見つめる。
「これでこの階層にいる限り、君たち二人はセーフガードの命令を強制されないだろう」
話し続ける代理構成体の足もとが劣化し始める。
「すぐにセーフガードが階層に流入するだろう。君たちは階層が制圧される前に初号機に
到達し、それを機能させていま一度ネットとの接続を遮断するよう、強く勧告する」
「階層の他の人々を守るには、それしかないわ」
レイが強い調子で言い、代理構成体は頷く。すでに肩のあたりまで劣化が及んでいる。
「私は限定付きの代理構成体。これで通信を終わる」
その言葉を最後に、代理構成体は劣化した物質塊となってその場に崩落する。
霧亥、レイ、カヲルは、堆積層の稜線の上に見えている初号機をそれぞれに仰望する。
「…行こう」
霧亥が短く言い、同時に、再起動した弐号機が超構造体開口部の陰から顔を覗かせる。
- 93 :
-
(目を覚ます。何かがおかしいと感じるが、それが何なのかはっきりとはわからない。
正面には見知らぬ天井。どこかに似ているが……思い出せない。
自分の手を持ち上げて見てみる。軽く握り、また開く。再び何かを思いだしそうになるが、
やはり掴めないまま意識の外に逃れてしまう。
人が入ってきて、気分はどうかと訊く。思いついて、たずねてみる。僕はどうしたの?
看護師は安心させるようにほほえんで、事故にあったのよと答える。もう大丈夫よ。
少しだけ安堵する。もう少し訊いてみる。何の事故? 何が起きたんですか?
看護師はもう一度ほほえむ。街の郊外で、大規模な情報漏出が起きたのよ。あなたは
そこに倒れていたの。きっと情報流を直接浴びてしまったのね。
きっと、って?
まだ意識が安定していないのよ。もう少し休まなくては。
大丈夫…です。大丈夫だと思います。教えてください、何があったのか。
駄目よ。
どうして?
あなたがわたしに何が起こったのか訊くのは、これで四十一回目なのよ。でも心配すること
ないわ。脳がショックからさめれば元通りになるから。さあ、もう少し眠りなさい。そう言って
看護師は枕元の計器類をチェックし、出ていく。
混乱する。
ホワイトノイズが詰まっているような頭で必死に考えようとする。思い出そうとする。けれど、
何も掴めないまま、また意識がぼやけてくる。部屋の景色が遠のいていく。
そして目を覚ます。正面には見知らぬ天井。何かがおかしいと感じるが、思い出せない…)
- 94 :
-
霧亥、レイ、カヲルの三人を肩の上に乗せ、弐号機は隆起の上の初号機めがけ駆ける。
初号機の樹形はエヴァシリーズによって変更させられつつある。幾つも突出した翼状構造物が
配置を変えられ、新たな形状が生み出されていく。変動する構造の中心で、初号機本体は
生贄のように両腕を開いて吊るされている。
あと少しで堆積層を登りきるというところで、突然周囲を衝撃が襲う。
『何なの?!』
「超構造体の方よ」
弐号機が大きく頭をめぐらせる。
先ほど四人が出てきた開口部の傍に、いつの間にか黒い背の高い人影が立っている。
プラグ内で拡大表示してみて、アスカは眉をひそめる。
ゆうに人間の身長の三倍はあるその姿は、明らかに人間離れしている。
額の標章がさらに拡大される。統治局のと似ているが、もっと簡素なデザインである。
『セーフガード…?』
プラグに激しい警告音が響く。
直後、激しい爆発が周辺一帯を吹き飛ばす。
弐号機が肩の上をかばって後退する。本部施設周辺の堆積層が爆圧で掘削されていく。
開口部に立つ人型は、左右対称の形に広げた手のひらを宙にかかげている。異様に長い
指を縦断するようにして、額の標章と同じマークが刻まれている。
人型は手を下ろす。黒い長衣に似た外装が一瞬広がったように見える。
瞬間、周囲に膨大な数の放電が集束する。
- 95 :
- 『今度は何?!』
弐号機の肩の上でカヲルがきつく眉根を寄せる。
「気をつけて! 駆除系を落とす気だ」
渦巻く放電群は真下の物質を削り、再構成し、瞬く間にそこに駆除系セーフガードの大群が
立ち上がる。セーフガードの標章を刻印された人形の顔と、黒い球体関節と白い鋭い手足を
持った群れが、一斉に走り出す。
レイがはっとする。
「…初号機を目指してるわ」
「惣流、行け!」
霧亥が短く叫ぶ。
『わかってるわよッ!』
弐号機は再び初号機をめがけ、堆積層の傾斜を一気に駆け登る。
変容した初号機の全容が視界を占める。
- 96 :
-
第二発令所は衝撃に揺れる。
「直撃ですッ!」
冬月が主画面を見上げ、焦慮するスタッフらを叱咤する。
「今のは物理的な衝撃に過ぎん! アブソーバを最大にすれば耐えられる」
ミサトの胸元で白い十字のペンダントが揺れる。
「地下のシェルターへの影響はっ?!」
「ぎりぎりで堆積層が盾になり、被害ありません! ですが、次が来たら外殻部が露呈します!」
唇を噛むミサトに、リツコが厳しい表情で向き直る。
「今はここよりも初号機を優先させなければならないわ。わかってるはずよ」
ミサトは一瞬唇を噛み、そして表情を引き締める。
さらに警報が鳴り響く。
「堆積層上に、正体不明の戦力が多数出現! 初号機を目指しています!」
「…ネットの法の行使者、セーフガード。ついに来たか」
冬月が呟く。ミサトは振り返る。
「あれが、本物の…外部侵攻、ですか。しかし、なぜ初号機を?」
「たとえ不完全でもネットの端末であり得、ネットスフィアの脅威となる可能性のあるものは全て
破壊する。そんなところだろう」
リツコが伊吹の傍に歩み寄る。
「マヤ、こちらから初号機への回線は?」
「駄目です、全て遮断されています! 現状で初号機に情報干渉するには、直接器体に
接触するしかありません」
「エントリープラグから直接内部信号を送る、か」
ミサトが呟いて、ジオフロントの全景マップをすばやく一瞥する。
- 97 :
- 彼女の前で日向が高速でコンソールを操作する。
「現在、弐号機が単独で向かっています。しかし、追加武装は使いつくし、機体も内部電源に
切り替わっています」
スクリーンのひとつに弐号機の活動限界までの時間が表示される。残り三分もない。
その隣に堆積層の隆起を登りきった弐号機の映像が広がる。巨大に成長された樹状構造に
阻まれ、ネット端末と化した初号機本体まではまだかなりの距離がある。
と、初号機の構造翼の幾つかがばらけて黒い触手の束になり、多方向から弐号機に襲いかかる。
「駄目、避けてっ!」
思わずミサトが叫んだ瞬間、一条の光が弐号機の肩から触手群を撃ち抜いて伸びる。着弾点に
あたる階層の胸壁が大爆発を起こす。
「…霧亥君!」
弐号機の肩の上が拡大表示される。上下する機体に揺さぶられながらも銃を構えている霧亥の
姿が、発令所に大きく映し出される。
「セーフガード第一波、初号機に到達します!」
「周辺組織を攻撃しています! このままでは…」
霧亥の隣で、珪素基系装甲で身を鎧ったレイとカヲルが、黒い矩形の翼を広げる。
弐号機の足元に舞い降り、それぞれ大量の駆除系を相手に立ちふさがる。階層居住圏には
解析すらできない強大な武装が、駆除系をひと薙ぎで屠っていく。
重力子放射線が再びエヴァシリーズを射抜く。霧亥を肩に、弐号機は巨大な構造樹のなかへ
中心の初号機目指して突っ込んでいく。
- 98 :
-
(やがて、言われた通り、脳機能は元通りになり、事故の詳細を今度はきちんと聞く。
けれど退院できるほどに回復しても、記憶は戻らない。自分の名前だけはわかる。碇シンジ。
でもそれだけだ。しかしいつまでも入院しているわけにもいかず、市の福祉サービスを頼って
当面の住まいに移る。年齢上、まだ未成年の生徒だ。
少しずつ、ここが〈東京都〉であること、階層居住圏のこと、ここに住む人々のことを覚えていく。
それでもそれらを前から知っている気はしない。現実味がない。
都の中学校の二年に転入する。結局身元は判明せず、情報震災孤児として暮らす。
碇シンジ。自分の名前だけが現実だ。だが、それに付随する何かを思い出そうとするたびに、
深い混乱とパニックの予感が襲い(駄目だ)、あわてて他のことに気を向ける。
今はまだ駄目だ。そういう気がする)
- 99 :
-
『どぉりゃあああああッ!!』
弐号機は絡みつく翼の触手をはねのけ、引きちぎり、樹状構造の中心を目指す。
後方ではセーフガードの兵器を展開したレイとカヲルが駆除系を駆逐し、時間を稼いでいる。
次々と生え出る触手にさえぎられ、弐号機は初号機に近づいたかと思うとまた離される。
『チッ! キリイ、時間が惜しいから乱暴に行くわよ!』
弐号機はいったん後退し、構造樹の真上はるかに大跳躍して、真っ逆さまに初号機めがけて
降下する。黒い触手が大量に分裂し、一斉に空中の弐号機に突進する。何本かの触手が
弐号機を貫通する。
『キリイ! 行って!』
弐号機が肩の霧亥をかばっていた手を放し、向かってきた触手をひとまとめに押さえ込む。
霧亥は頷き、落下する弐号機から一気に身を躍らせる。襲い来る触手の合間にかろうじて
初号機が見えている。何度か触手の先に絡めとられそうになり、高速で擦過する黒い束に
ぶつかって遮られながらも、霧亥は最後のぎりぎりの隙間をすり抜けて、初号機の素体の
すぐ傍に着地する。
顔を上げる。頭上には構造樹の翼枝が幾重にもそびえ、弐号機がその向こうに落下する。
その衝撃で、磔刑の姿勢の初号機がぐらりとかしぎ、霧亥のいる突起部にぶつかる。
霧亥はためらうことなく、一気に素体をよじ登って背甲部を目指す。エヴァシリーズの出力端子
が何本となく装甲を貫いて突き立った、エントリープラグ挿入口へ。
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