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2012年3月創作発表131: 【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 6【厨二】 (269)
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FF魔法閉じ込めスレ 7th stage (112)
【リレー小説】磯野カツオの冒険 (701)
【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 6【厨二】
- 1 :
- ここは、人類が特殊な能力を持った世界での物語を描くシェアードワールドスレです
(シェアードワールドとは世界観を共有して作品を作ること)
【重要事項】
・隕石が衝突して生き残った人類とその子孫は特殊な能力を得た
(隕石衝突の日を「チェンジリング・デイ」と呼ぶ)
・能力は昼と夜で変わる
(能力の名称は地域や時代によって様々)
・細かい設定や出来事が食い違っても気にしない
まとめ:http://www31.atwiki.jp/shareyari/
うpろだ:http://loda.jp/mitemite/
避難所:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1267446350/
前スレ:http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1293009392/
以下テンプレ
- 2 :
- テンプレ 2/3
キャラテンプレ
使わなくてもおk
・(人物名)
(人物説明)
《昼の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
《夜の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
(分類)について
【意識性】…使おうと思って使うタイプ
【無意識性】…自動的に発動するタイプ
【変身型】…身体能力の向上や変身能力など、自分に変化をもたらすタイプ
【操作型】…サイコキネシスなど、主に指定した対象に影響を与えるタイプ
【具現型】…物質や現象を無から生み出すタイプ
【力場型】…【結界型】とも呼ばれる。周囲の空間の法則を書きかえるタイプ
- 3 :
- テンプレ 3/3
【イントロダクション】
あれはそう、西暦2000年2月21日の昼のことだった。
ふと空を見上げると一筋の光が流れている。
最初は飛行機か何かと思ったんだ。
けれどもそれはだんだんと地面の方へ向かっているようだった。
しばらくすると光は数を増し、そのうちのひとつがこちらに向かってきた。
隕石だ。今でもうちの近所に大きなクレーターがあるよ。
とにかく、あの日は地獄だった。人がたくさん死んだ。
だが、隕石が運んできたものは死だけではなかった。
今、あの日は「チェンジリング・デイ」と呼ばれている。
それは、隕石が私たち人類ひとりひとりに特殊能力を授けたからだ。
物質を操る、他人の精神を捻じ曲げる、世界の理の一部から解放される……。
様々な特殊能力を私たちはひとりにふたつ使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
隕石衝突後に新しく生まれた子供もこの能力を持っている。
能力の覚醒時期は人によってバラバラらしいがな。
この能力の総称は、「ペフェ」、「バッフ」、「エグザ」、単に「能力」など、
コミュニティによっていろいろな呼び名があるそうだ。
強大な力を得たものは暴走する。歴史の掟だ。
世界の各地に、強力な能力者によって作られた政府の支配の及ばぬ無法地帯が造られた。
だがそれ以外の土地では以前からの生活が続いている。
そうそう、あとひとつ。
これは単なる都市伝説なんだが、世界には「パラレルワールドを作り出す能力」を持つ者がいて、
俺たちの世界とほとんど同じ世界がいくつもできているって話だぜ。
- 4 :
- テンプレ以上
スレタイちょっと変えてみた
【昼夜別】入れとくべきだったかな? まー次は戻すってことで
- 5 :
- >>1乙!
しかし前スレ400行かずに512KB埋まるとは…
長編作品が多いのは良いことだ
- 6 :
- >>1スレ建て乙。
前スレ笑かしてもらいましたw
- 7 :
- いつの間にか埋まってたか
いちおつ
>前スレ鑑定士
桜花さん苦労人ですねぇw
- 8 :
- >>1おつです
さて新スレ投下一番乗りいただきます!
前スレ316-319の続きです。何かというと『臆病者〜』です
間隔が広くなっておりすいません
- 9 :
- 『終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる(キリッ)』
とかいう言葉でかっこよく締めてみた私だったが、その直後に睡魔の激しい猛攻にさらされ、あえなく敗北してしまっ
た。そして今。目を覚ましてみればアナログ時計はなんともきれいなLの字型。夜中の3時、良い子はねんねする時間……
ではない。良い子にしてればお母さんの手作りホットケーキにありつけるほうの3時だ。
さて昨夜寝付いたのが何時なのかはこの際置いておくとして、だ。基本的に私は規則正しい朝型の生活を送っていると
自負している。休みの日でも遅くとも午前10時までには起きておかないとその日一日中鬱になるタイプに属する人間だ。
そんな折り目正しい私があろうことか昼、むしろ夕方にさしかかろうかというような時間まで惰眠を貪ってしまったのだ。
ああ、鬱だ。もう今日一日なんにもしたくない。もういっそ死んでしまうか……と平時の私ならきっとこうぼやいて
ベッドの上で体育座りでもするのだろうが、流石に今はそんな悠長な時間の無駄遣いをしていられる時ではない。それ
くらいの空気は読める男だ。その昔、『神宮寺秀祐は有言実行が服を着て歩いているような男』とさえ言われたこの私だ。
『終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる(キリッ)』
などとキメキメで言ったそばから、昼過ぎまで寝ちゃったので今日はお店お休み♪(テヘッ)では道理に合わない。
名がすたるというものだ。やると言ったからには必ずやり遂げる。有言実行とはそういうことなのだ。
だがしかしである。よくよく考えてみればだ。これまでにおいて発生した牧島との遭遇は、まったくの偶然(を装った
牧島の故意もあり得るが)か、牧島のほうからの接近によって起きたものであって、私のほうから彼に接触を持つという
ことはなかった。理由は説明するまでもなく単純で、接触しようにも方法がないからだ。連絡先を知っているわけでなく、
まして住所などもっての他。彼は私を監視でもしているかのように私の行き先に現れるが、もちろん私には彼の行き先や
居場所を探知できるような能力もない。
……手詰まりじゃないか。『終わりにす(以下略)』などとかっこつけてみた結果がこの体たらく。もう少し状況を把
握してからかっこつけるべきだったかもしれない。牧島の本来の狙いが私なのだから適当に外をブラブラしていれば
襲撃されるだろう、という推測も、今となっては望み薄な気がした。昨日一日で状況は大きく変化している。比留間博士
があの場に現れるという奇天烈な事態は、私だけでなく牧島にとっても衝撃だったことは想像に難くない。
完全に推測の域を出ないが、牧島のバックに誰かいるという前提自体、牧島に刷り込まれたブラフだったのではないだ
ろうか。あるいはブラフでなかったとしたら、それは牧島の一種の思いこみ、なのかもしれない。
まあなんでもいいが、とにかくこちらから何かしかける手段がないことはどうにもしがたい。だがどうにもしがたい
ことをただ座って考えていても結局どうにもならないしできない。考えてみれば朝も昼も飯を食べていないのだ。なんだ
道理で腹が空いてるわけだ。なにか簡単なものでも、そう思って腰を浮かせたのとほぼ同時だった。
- 10 :
- 「うん? メールか? ああでもこの着信音は確か……」
どこぞから電子音が響いた。もちろんすぐに自分の携帯だとわかったが、なぜか耳慣れない着信音。そのちょっとした
違和感の理由は、メールを開いてみてからわかった。
『夜見坂の付属施設に襲撃あり。襲撃者は戦闘用改造生物が多数、その他は現在不明。
特務部門の支援見込めず。施設深部への侵入が確認された場合、秘密保持のため施設を爆破する』
ERDOに関連してなにか緊急の連絡がある場合に発信されるメールの着信音は、それとわかるように普通のメールと
違う着信音に設定していた。このメールの内容はまさしくそれに分類されるもので間違いない。ちなみにこのメールは
研究部門内の情報処理課から、各研究チームのチームリーダークラスに送信されることになっている。研究部門内だけ
というところがミソであり、ERDOのダメなところだと思うのだが、これについて語ると一日が終わってしまうので控える
としよう。
いずれにせよだ。牧島という男は実は本当に素直でわかりやすい人間なのかもしれない。こちらから接触する手段が
ないと嘆いてみれば、こうして目立つ行動を起こしてくれる。
……どうしてか私は襲撃者が牧島だとあっさり断言してしまっている。もちろん根拠なんてものはない。ただメールの
文面を見た瞬間から、間違いなく彼だとそう確信してしまったのだからしかたがない。
私はわかっている。終わりが近いことを。終わらせるべきなのだということを。そのつもりでいる。
だから彼もわかっている。それを望んでいる。私の描く終わりと、彼の望む終わりの形はきっと異なるのだろうけど。
だから彼は呼んでいる。必ず私がわかるように、決して私が逃げられないように、ERDOという組織を媒介にして。
だから私も応えなければならない。チェンジリング・デイという災禍の日に縛られ続ける自分に、そして彼に、引導を
渡すために。
……よし。出陣の掛け声といこう。今度こそかっこよく決まりそうだ。
「終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる」
眼鏡をくいっと押し上げながらキメてみたものの、朝昼の仕事を取り上げられてご立腹の胃袋がブー垂れる音が同時に
響いたせいで、なんとも締まらない出陣声明となった。とりあえず、腹ごしらえはしっかりしておくとしよう。
つづく
- 11 :
- 今回は短いですが、投下終わりです
- 12 :
- 一番投下乙です、続きを待ちます!
前スレついに落ちたみたい
- 13 :
- 相変わらず台詞回しが上手い
- 14 :
- 連続になりますが、>>9-10の続き投下します
終わり終わりと言いつつ、まだ終わりません
また今回はかなり長いです
- 15 :
- 『夜見坂の付属施設』という表現はやや曖昧な印象を受けるかもしれないが、ERDO研究部門の人間にとっては問題なく
通用する共通語だ。ERDOが影の運営母体となっている私立夜見坂高校、その傍らに併設されている付属中学校。
『夜見坂の付属施設』とERDO研究部門の人間が発言した場合、それはもっぱらこの付属中学のことを指しているのだ
と判断して間違いはない。
ERDO研究部門が擁する最大の実験用箱庭とも言うべき場所だが、私はあまり積極的に関与はしていない。だから「夜見坂」
がどこにあり、どうすればたどり着けるのかといった基本的なことも恥ずかしながら失念していた。腹ごしらえを済ませた
後で資料を引っ張り出し、地図を確認し、どうにかこうにか所在地を確認することができた。
そんな些細なつまづきも経つつ、私は今ようやくそこにたどり着いたのだった。すでに街は薄闇に沈み始めているような
時間になっていた。
一見すれば一般の中学校とさして変わることのない、夜見坂高校付属中学の校門。その外側でただつっ立っている分には、
中に悪意ある襲撃者が侵入し、醜悪な改造生物が闊歩しているらしいという雰囲気は特段感じられない。その印象が正しい
にこしたことはないのだろうが、残念ながら今の私はそれを否定せざるを得ない。
3時ごろに届いたメールの後、自宅からの移動中にさらなる連絡が届いていた。
『戦闘用改造生物の総数、正確には測れず。しかしかなりの数に上る模様。
また、現地に対能力犯罪専門組織の進入も確認。襲撃者同様、施設深部への侵入確認時は
より一層の秘密保持のため、施設を爆破する』
とのことだった。さて、ここで言われる『対能力犯罪専門組織』とは、おそらく以前に遭遇した『バフ課』なる存在
のことだろう。つまり、あのワイヤーアクションヒーローがここに来ている可能性があるわけだ。あのガーゴイルを一
人で締めあげた彼のことだ。きっとキメラやケルベロスたちも華麗に葬り去っていることだろう。次代を担う少年少女が
学び育つ学び舎の壁やら廊下やら天井が血しぶきに染まる光景が思い浮かんで、軽くめまいがした。
率直に言って、彼らを味方と考えるべきではない。牧島を追うという目的は一緒かもしれないが、その理由はどう考えて
も一緒なはずがないのだ。だから、利害が一致する保証もない。最悪の場合、見つけた時点で牧島をすことだってあり得
るだろう。私としてはそれは困る。
彼を10年の間縛り続ける、私への復讐心という枷。そんな枷に繋がれたままで死なせることだけはしたくない。
そしてもちろん、その枷の鍵を開けられるのは私しかいないのだ。だから私は、あの常人離れした男が率いる手練れたち
より早く、彼を見つけなければならないのだ。
「運が悪ければ……私も敵とみなされるかもしれないけどな」
それは大きな不安だった。下手を打てば私自身が中途半端なままで命を落とすという危険。だから思わず声になっていた。
だがそれはあくまでも、ただの独り言のはずだった。
- 16 :
- 「そうねぇ、バフ課は見境ないものねぇ。さ〜てじゃあそんな怖がりなオジさまに素敵なボディガードはいかが?」
中年男の独り言にまさかの返答がきた。背中越しに聞こえたその声には、確かな聞き覚えがある。いや、きっと忘れよ
うにも忘れることはできないだろうあの。命の恩人であり、その直後に命を奪われそうになった女性。
「さぎり、アヤメ……?」
この時の私を隠し撮りした写真がもしあったとしたら、私は多少法に外れる手段を用いてでもそれを地球上から抹消
しにかかるだろう。振り向いた私の顔を見た途端、腹を抱えて笑い転げた狭霧アヤメを見て心底そう思った。
「はあ、お腹苦しいわぁ。まったく神宮寺のオジさまったらいきなり顔芸するんだもの。そんな不意打ちはズルいわよ」
腹筋をさすりつつ、いまだこみあげる笑いを噛みして言う彼女。なかなかに失礼な女性だ。そんな酷い顔してたのか?
とまあ今はそれはどうでもよくてだな。
「狭霧さん、どうして君がこんなところに」
「どうしてって、さっき言ったわよ? 怖がりな神宮寺オジさまの素敵なボディガードになりに来たの」
そう言って、ブロンドのポニーテールをふわりと揺らして微笑む。相変わらず可憐な外見にそぐわない浮世離れした言
動。やはり彼女は根っからそういった得体の知れない部類の人間なのだろう。
「よく意味がわかりかねるが……君は私がここにいる理由を知ってるのか?」
「そんなの知るわけないわ。でもねぇ、ここの中学校でなにか変なことが起きているのは知ってるわ。バフ課が介入してるっ
ぽいこともねぇ。なんか久しぶりに楽しそうだと思って来てみたら……ねぇ」
意味ありげにクスリと微笑んで一拍置き、彼女は続けた。
「あの時のオジさまがなんだか悲壮な空気漂わせて立ちすくんでるんだもの。これはもうますます楽しそうだと思ってねぇ」
悲壮な空気、か。無理もないだろうが。味方のいない敵地に戦闘のプロでもない私が一人っきりで乗り込まなければな
らないのだ。悲壮感のひとつやふたつはタダでくれてやれるくらい発生するだろう。
だがもし彼女がその言葉通りに協力してくれるならば、「一人っきりで」という一番の不安点が解消されることになろう。
また彼女は言動の端々に危険人物の香りがプンプン漂っているし、前回ので本格的な軍用ナイフを惜しみなく披露
もされていた。頼りになる気はする。一点だけどうしても引っ掛かる点がある以外は。
「狭霧さん。君が助けてくれるのはありがたい。私自身、一人ではどうしたものかと思っていたところだからね。でも、
君は以前私をそうとした。そしてその時、こうなったはずだ。『次に私が死のうとしていると君が感じた時、君は私をす』
とね。あれはもちろん、今でも有効なんだろう?」
「それはもちろん」
即答だった。だから私もすぐさま返す。
- 17 :
- 「ならどうして今さない? 悲壮感漂う私を見て、一思いにすことはできただろうに」
今度はすぐには答えが返ってこなかった。むしろ彼女は意外そうに目を丸くして、数秒の間固まっていた。張り付いた
その表情を解いた彼女は、沈黙のまま中学校の門へと、私を追い越して歩んでいく。不意に立ち止まり、背中ごしに声。
「人間って時々、信じられないくらいにバカよねぇ。誰だってそう」
……なんだかよくわからないが、唐突に馬鹿にされているらしい。脈絡がなさすぎてむしろ腹も立たないが。そんなこと
を思ったところ、さらに声が飛んできた。
「ま、いいわ。要するに、別にす気になればいつだってせるのよってことよ。女性にこんなこと言わせないで恥ずかしい」
何を恥じらっているのかさっぱりわからんが、つまり「今はす気がない」ということだろうか。なるほど、女性の心
は移ろいやすいものだしな……ということにしていいのだろうか。いやもうそういうことにしておこう。
「わかった。後ろから刺されないように気をつけるよ。狭霧さん、協力ありがとう」
「……ねぇ。その『狭霧さん』て呼び方やめましょうよ。ここから先私たちは相棒、バディなんだから。ねぇ?」
「バディて……あーでは、アヤメさん。よろしく頼む。ついでに『神宮寺のオジさま』もなんとかしてくれ」
「えー、何が気に入らないのかしら。ましゃーないか。じゃなんて呼び方をお望み?」
ここで少し考える。『狭霧さん』をやめた手前、『神宮寺さん』はまず受け入れられない。かといって下の名前を用い
るのは、一回り若い女性に無理矢理名前で呼ばせて悦に入るヒヒオヤジっぽくてなんか嫌だ。そこまで考えて、私の中にひと
つの単語が浮かんだ。
それを己の呼称として使われることに、私はずっと抵抗していた。だいぶ慣れてしまったとは言え、こっ恥ずかしさは
やはり完全には拭いきれないそれ。
だが、どうか。今の私は、つい先日までの私とはどこか違っているのではなかろうか。いや、違っていなければならない。
変わらせるだけの出来事が、が、この短期間の中にあったのだ。
今の私は強くなければならないのだ。目の前の困難を覆す力を持った強い人間だということにしなければいけないのだ。
程度や性質の差こそあれ、多くの人が罹患するあの病。例に漏れず私も、それを患ったことがあった。その時、私が創り
出した呼称。とある厨二少女にほじくり返されてしまった、その恥ずかしい記憶。弱い自分に力を与える、痛々しい真の名。
「『ドクトルJ』。ここから先、私のことはそう呼んでくれ」
- 18 :
- 開きっぱなしの校門を踏み越え、いかにも私立な感じのするどこかお洒落っぽい校舎の入り口までたどり着いて、私は再
びめまいを感じた。校門前で自分が思い浮かべた凄惨な光景は、あながち行きすぎたものでもなかったらしい。
「バフ課ったらずいぶんと派手にやってるわねぇ。どう処理する気なのかしら」
さして驚いたふうでもないのんきな口調で言いながら、狭霧、もといアヤメさんが地面にしゃがみこむ。その前には一体
の黒く巨大な犬、だった何か。そしてその周りに大きく広がる赤黒い血だまり。いくつも転がっている不気味な生物のまだ
新鮮な死体と、それらが未だ垂れ流し続ける生臭い血の匂い。こんなものが子ども達の学び舎の中にあってはならない。
「全部ナイフで一撃、か。どうりで何の音もしないわけよねぇ」
そんな異常な光景の前で、アヤメさんはあくまでものんきだった。本来なら決して関わらない、関わるべきでない社会の
人間なのかもしれないが、彼女の平静さは今の私にはむしろありがたい。
「ま、わんちゃんの死体眺めてたってしょうがないわ。行きましょうドクトルJ」
そう言い残して、大して警戒もなくスタスタと校舎内に消えていく。肝が据わっているのか、単に何も考えていないのか。
いや、きっと両方なのだろう。彼女の場合はそんな気がする。
そして彼女が呼んだ通り、今の私はいつもの『神宮寺秀祐』ではない。『ドクトルJ』なるマッドサイエンティストっぽ
い男なのだ。『神宮寺秀祐』にとっての非現実は、『ドクトルJ』にとってはなんら驚くに値しない見慣れた現実でしかない。
それは結局弱さをくじくための詭弁妄想の類でしかないが、その妄想を補強してくれる存在がいれば、本当にそう思えてく
るから不思議なものだ。今の私にとって、狭霧アヤメがその役割を果たしていることはもはや言うまでも――
ふと、視線を感じた。ここで『視線を感じる』ことのメカニズムについて小一時間ほど語りたいところだが、小一時間
ではすまなくなることが目に見えているのでやめにする。
右、左、後ろと確認するが、誰もいない。だが確かに感じる。よほど強い視線なのだろう。もう一度、今度は左、右、後
ろと確認し、最後に上を見上げた。そこでようやく、一方通行だった視線は交差した。
「牧島……」
四階建ての校舎の屋上に、その男は立っていた。遠いゆえあまり表情などは読み取れないが、いつものサングラスをして
いない。だからこそ、この強烈な眼光を発しているのだろうか。
手招きするでもなく。何を言うわけでもなく。それでいて彼は、明らかに私を呼んでいる。すべてに決着をつけるために。
「待っててくれ。すぐに着くからな」
あくまで独り言の声で呼びかけて、私はアヤメさんに続いて校舎に足を踏み入れた。
- 19 :
- 遅れて入ってきた私にブーブー言っているアヤメさんを横目に見つつ、私は上を目指すためにまずは階段を探すことに
した。実は入ってすぐのところにエレベーターがあった(最近の中学校はほんとに贅沢だ)のだが、危険な香りしか感じない
ので利用は避けた。
校舎の中も酷い有様だった。廊下、壁はもちろんのこと、天井まで血が飛んでいる。そしてまた当然にその血の発生源
がごろごろ転がっている。もう少し残虐表現控えめにできないのだろうか。
「鋭利な刃物で首を一撃。彼らはプロなんだから、それが一番手っとり早いってわかってるのよ」
心の声が普通に声になっていたらしく、アヤメさんが解説してくれる。
「しかし、結構な数がすでに退治されているようだ。バフ課っていうのは相当だな」
「うーん、そうでもないんじゃないかしら。あ、ほら」
そう言って彼女は、廊下の一角を指さした。そこにはもはやすっかり見慣れた赤黒い液体の水たまり……の他、見慣れ
ていない、だがある意味では改造犬以上に見慣れたものが横たわっていた。
「バフ課の人間、か……?」
「たぶん、ていうか百パーそうねぇ。たぶん私たちが思っている以上にわんちゃんの数が多いのよ。一匹ずつなら難なく
相手できても、囲まれたら……ねぇ」
言いながらもなぜか微笑むアヤメさん。さすがに私は笑えない。
俊敏で強靭なあの改造犬をさらりと始末できるバフ課という集団も脅威だが、そのバフ課の人間の死体も転がっていると
いうこの状況。一歩一歩を慎重に進まなければ、命がいくつあっても足りないといったところだ……と言っているそばから
鋼の心臓を持つ女は相変わらず注意散漫な感じでのこのこ歩いて行く。泰然としすぎていて逆に不安だ。
「アヤメさん。ふと気になったんだが。武器は持たないのか」
「え? やだ持ってないわけないでしょ。ちゃんとここに、前にあなたの頸動脈を切断しようとしたナイフがあるわ。他
にもいろいろあるけど、全部は教えてあげない」
「あ、そう。ならいいんだが」
なんでこれだけ死体が転がっている状況で手に持たないんだと聞きたかったのだが、もういい。とにかく階段を探そう。
階段を見つければあとは上まで一気に上ればいいだけだ。
「にしても広い学校ねぇ。移動教室とか大変そう」
「君の口から『移動教室』なんていかにも青春な言葉が飛び出ると、それはそれでまた怖いな」
「む。失礼しちゃうわねぇ。私だって……」
そこまで言いかけて、彼女の顔色が変わった。いや、顔色というよりは、全身の雰囲気が変わったというべきかもしれない。
いつの間に抜いたのか、手にはしっかりとナイフが握られていた。
「戻りましょう」
学校の廊下というのはひたすら細長く、遮蔽するものはあまりない。私はアヤメさんに指示されるまま少し来た道を戻り、
トイレに隠れることになった。言う必要はないと思うが、女子トイレである。
- 20 :
- 「アヤメさん、あの先何かあるのか」
「……教室の中に人がいたわ。たぶんわんちゃんも。音聞こえなかった?」
「いや、すまない。私にはさっぱりだ」
「まったくもう。あなたはサバンナに放り込まれたら一日ともたずに食べられちゃうタイプねぇ」
大きなお世話と言いたいところだが、地味に悔しい。言い返せずにいると、再びアヤメさんが口を開く。
「でもこれ、使えるかも」
「は? 使える?」
「行くわよドクトルJ」
と言うが早いか彼女は音もなく飛び出し、これまた音もなく全力で駆け抜けていく。すっかりおいてけぼりを食ってし
まった。とにかくここは彼女に従ってみよう。
全力でドタドタと廊下を駆ける。すぐに息切れを感じる。年だ。やっとこさたどり着いた教室では、緊張しきった空気で
三者が対峙していた。
一人はもちろん狭霧アヤメ。もう一人、というか一体はおかしな姿形の犬。頭が3つあるやつだ。そしてもう一人。
まだ青年といった顔立ちの男。しかしその服装は間違いなく以前私が出会ったあのヒーローと同じもの。バフ課の一人だ
と思われるその人物は、ナイフよりやや大きめの刃物(マチェットとかいうやつだ)を手に、アヤメさんとケルベロス、
そして新しくこの場に現れた私へと順番に視線を送っている。
「びっくりッスよ。狭霧アヤメに友達がいたなんて」
「あら、失礼ねぇ。友達じゃなくて相棒よラヴィくん」
「……俺、あんたに自己紹介した記憶はないッスが。気安く呼ばないでほしいッス」
「あらあらラヴィくんはツンキャラだったのねぇ。そんなツンキャラで現在ちょっとピンチのラヴィくんを、今ならこの
私が助けてあげてもよくってよ。条件付きで」
これが彼女なりの考えなのだろうか。今のところ私にはよく読めないが、任せておくことにした。少し離れた位置で待
機を決め込む。
「ケッ、寝言は寝てから言うもんッスよ。敵の施しなんて受けねッス」
「ツンも時と場所をわきまえたほうがよくってよ。すでに結構傷だらけじゃないの。今私を味方にしておかないと、この
三つ首君の次は私に襲われちゃうかもしれないわよ? 勝てるの?」
「ケッ、そんときゃもう諦めて死ぬだけッス」
少し投げやり気味に吐き捨てられたその言葉が、不思議と胸にひっかかった。
「若い奴が、そうそう簡単に死ぬなんて言うもんじゃないぞ」
アヤメさんに任せたつもりが、口を挟んでしまった。アヤメさんに怒られそうな気もするが、こうなってしまった以上
とことん口を挟むしかない。どっちにしろ、今のままでは彼女の思惑通りにいっていないことは事実だろうしな。
- 21 :
- 「君の協力が必要なんだ。私はどうしても上に行きたい。だが階段が見つからないし、いつキメラに襲われるかわかった
もんじゃない。危険がいっぱいだ。その上君たちバフ課もいる。狭霧アヤメという人物と一緒にいる以上、見つかり次第
敵とみなされる恐れありだ。まわりが敵だらけという状況をなんとかしたい。だからはっきりしておきたい。私はバフ課
と敵対するためにここに来たわけではない。今に限っては彼女も同様だ。私はただ、牧島という男に用があるだけなんだ」
最後にチラつかせた「牧島」という単語に、青年はしっかり反応してくれた。それは同時に、やはり彼らも牧島を標的
としてここにいることの証明だった。
「アイツの関係者ッスか? あー……うー、わかったッス。正直に言やあそりゃ俺だってまだ死にたかないッス」
「はい、決まりっと」
そんな声が聞こえるや否や、同時に響いた銃声。1発目の後やや遅れて2発目が聞こえ、間もなく3発目が響く。我に
返って見回すと、青年とアヤメさん、そしてついでに私を威嚇していたケルベロスが、3つの頭から血を流してピクピク
していた。誰の仕業かなど言うのも馬鹿らしいが――
「ふう〜。ハンドガン握るの久しぶりすぎて緊張しちゃったわ」
などとまるで緊張してなさそうな顔と声で言っている危険人物だ。さっきまでナイフを握っていたはずの手には、黒光り
する拳銃がしっかりと握られていた。見事な速撃ちぶりに、青年も呆気に取られている様子だ。
この青年や死亡したバフ課隊員の名誉のために言っておくが、本来拳銃を使ったからといって簡単に倒せる程度の代物で
はないのがこの改造生物たちだ。今は単にこのケルベロスが3人の人間に注意を向けていたために反応しきれなかっただけ
のことだろう。とは言っても、正確に3発の銃弾で3つの頭を撃ち抜いた彼女が凄腕なことも間違いはない。
「さてと。じゃあラヴィくん。約束は守ってもらうわよ?」
私の思案など露も知らず、アヤメさんはしてやったりの顔で青年に語りかける。乱入した形になってしまったが、一応
彼女の思惑に沿った結果にはなったようだ。ラヴィ君と呼ばれている青年は少し苦い顔になりつつも、目下の脅威が去った
こともあってか、緊張は緩んでいる。
「約束なんてした覚えはないけど、まあしかたないッスね。んで、俺はどうすりゃいいんスか」
彼に決定打を与えたのが私だったせいか、彼は私に向かって喋っていた。だが残念ながら私は狭霧アヤメの金魚のフン。
どうするつもりかは彼女の頭の中にしかないのだ。なのになぜか彼女はにこにこと私を眺めるばかりで何も言ってくれない。
しかたないので私はいかにもなんでも了解している雰囲気で彼女に発言を促すことにした。
「ふむ。それについてはアヤメさん。君の口から説明を」
「はいはい。ラヴィくん、隊長さんの居場所、教えてくれないかしら」
- 22 :
- 半ば無理矢理に助けて協力させたラヴィ君の情報をもとに、アヤメさんとともに校内の探索に戻る。階段の場所も教え
てもらい、2階へ。ラヴィ君の部隊を率いる隊長はこの階にいるはずらしい。
実はすでに深手を負っていたらしいラヴィ君はあの場に置いてきた。彼は隊長の居場所や校内の構造のほかにも、いく
つか情報をくれた。
彼らの標的はやはり牧島勇希であること。改造生物の数は正確には把握できておらず、キリなく湧いてきているように
感じること。見たことがないタイプのものもいること。バフ課側の損害もすでに大きく、隊長から撤収命令が出ていること。
幸い、この中学校が何か怪しい、というようなことまでは言っていなかった。施設を爆破などされたらたまったものでは
ない。それはさておき彼の情報からは、バフ課の人間とニアミスする危険はほぼないらしいという事実がわかった。
そこでひとつ疑問なのだが。よし聞いてみよう。
「アヤメさん。どうしてわざわざ隊長に会いに行く必要が?」
どのみち撤収するのなら、無視した方がいい気がするのだが。その問いに、アヤメさんは意外そうな顔をした。
「もちろん協力してもらうためよ。私ねぇ、わんちゃんの相手は対人戦ほど自信ないのよ。複数でいっぺんに来られたりし
たらテンパっちゃうわ。それにラヴィくん言ってたでしょ、新型っぽいのもいたって」
「いやでもね。君、明らかにバフ課と因縁がありそうなんだが。協力してもらえるのか?」
「そこはほら、さっきみたいにあなたが説き伏せればいいんじゃないかしら?」
……私任せか。これから会う男が、さっきの青年のように単純でまっすぐな性格ならいいのだが。
その男の名前を、私は知っていた。バフ課が来ていると知った時から、一抹の予感はあった。世界というものは人が思っ
ている以上に狭く、予期できる程度の偶然に満ちているのだと実感する。
「ドクトルJ! こっち!」
思案を打ち破る叫び。同時に体が左に引っ張られる感覚。少し遅れて、視界の右側に光が散った。アヤメさんに引っ張
られて倒れ込んだ先で首をめぐらせると、廊下の窓ガラスが割れ、そこから見るも奇妙な生物が侵入していた。
「ちょっと油断してたわねぇ。外からも来るなんて」
言うなり彼女は左手に拳銃、右手にナイフの装備ですっくと立ち上がる。ためらいなく拳銃を1発2発と撃ちながら、
少しずつ接近していく。はたと立ち止まり、言った。
「うーん、ちょっと面倒かも。ドクトルJ、先に行ってくれる? この階をうろついてれば、たぶん会えると思うわ」
軽く死亡フラグが立ってしまっている気もしたが、私がいてはより戦いにくいのかもしれない。人を守りながらの戦い
は難しいものなのだろう。今回のような奇襲がある以上私一人になるのはそれこそ死亡フラグだが、この際しかたない。
「わかった。後で必ずまた会おう」
アヤメさんが小さく頷くのを見届けて、私は一人、2階の探索に戻った。
- 23 :
- アヤメさんにあの場を任せて2分ほど歩きまわってみたが、死体はごろごろしているものの、生きているキメラにはま
だ出会っていない。アヤメさんがさっさと始末したケルベロスをのぞけば、さっきの見たことのない姿形のものが初だ。
とここで少しタイムだ。こういうことを考えると、大抵逆のことが起きるのだ。私の安堵を踏みにじるようにここぞと
ばかりにキメラが現れ――
「ああ、やっぱり。現れなくてもいいのに」
とうとう出てしまった。形はオーソドックスなキメラだが、私一人には十分な脅威。血走った白目に丸見えの牙。だら
だら垂れ流すよだれ。元が犬とは思えないほど肥大した筋肉と、それによって巨大化した体。
そんなものを前にしても、今の私は逃げるわけにはいかない。後ろにひくわけにはいかない。前進あるのみなのだ。
それでいて、能力を使って倒すわけにもいかない。使えば私はあっという間に昏倒してしまう。
「うおっと」
私の心中など察してくれないキメラは問答無用で飛びかかってくる。たびたびキメラと戯れる機会があった私は、その
行動パターンをある程度わかっていた。でなければ私のごときただの中年男に回避できるレベルの素早さではない。
だが避けるので精いっぱいだ。一応右手にはさっきのラヴィ君から譲ってもらったマチェットを握りしめてはいるが、
こんなもので反撃できるだけの隙は見いだせない。
だからとにかく避ける。アヤメさんもすぐに来てくれるかもしれない。それまで凌げばいいのだ。
形ばかりだが、マチェットを牽制するように構える。それを見てか、キメラの姿勢は一層低くなった。さてキメラがこ
の構えになった時、次の攻撃は……
「脚狙いだ」
キメラの飛びかかり、もとい突進に合わせて、私は思いきってそれを飛び越すように跳躍した。読みはぴったりだ。
だが詰めは甘かった。キメラの方に振り返った瞬間には、それの醜悪な牙が迫っていた。まともな生物には為し得ない
反転をしたのだろう。無理だ。間に合わない。やられる。死ぬ。…………死ぬ?
「こんのクソが!」
足掻け。最後まで諦めるな。喉元を食いちぎられるまで、いや食いちぎられてもだ。腕がもげてもだ。腹が破れてもだ。
まだ五体満足なこの状況で、何を諦めると言うんだ。
私は足掻く。最後まで諦めない。固い廊下に組み伏せられて背中が痛かろうと、のしかかるキメラの刃物のような爪が
体に食い込もうと、鋭利な光を放つ牙に恐れを感じようと。もはや決まりきった勝負の結果に必死に抵抗するこの姿がどれ
だけ無様でも。がむしゃらに右手の得物を振り回す姿がどれほど滑稽でも。報われても、報われなくても。
世界が神の振ったサイコロ遊びで決められると言うのなら、人は自分が納得できる目が出るまで神にサイコロを振らせ
続ければいいだけだ。
そうして自分の限界をとうに超えた格闘の果てに、私は”生”の目を掴んだ。
「まったくよぉ。扱い方もわからんような武器なんて持ってる意味ねえだろうが」
アヤメさんのものではない。男性の声がした。わずかだがはっきりと聞き覚えのある声。それはまさに二重の意味で、待
ち人来るの思いだった。
などと考えている間に、のしかかっていたキメラの体重から解放される。その額からは、ナイフの柄らしきものが突如と
して生えていた。致命の一撃を受けたキメラはそれでもまだ踏ん張っていたが、グルルと呻いたかと思うと、間もなくがく
んと崩れた。
- 24 :
- よく似た体験を前にもしていたのだった。目の前で息絶えている敗者は異なれど、今私のほうへと悠然と歩んでくるのは、
やはりあの時と同じあの男。
「や、やあ。また会ったね、シルスクさん」
「ああ。それもどうにもおかしな状況でな。あの時なら巻き込まれたってだけで済む話だが、今回ばかりはそうもいかない」
言葉より早く彼は動いていた。首元に冷気を感じる。前にアヤメさんと会った時にもなった状況の再現だった。
「あんたなんでこんなとこにいる? ここで何してる? まさか中学校の校舎を散歩してたなんて言うんじゃないだろ?」
刺し貫くような眼光。答えによっては、彼は躊躇いなく右手を一閃するだろう。人を助けはするものの、すこともな
んとも思っていない。そんな本質が見えた気がした。
「フン、だんまりか? 答えられないようなことか? 竦んで声が出ないってわけでもないだろうが」
いや、実際はかなり竦んでいる。彼のこの買いかぶりの理由はよくわからないが、声が出ないとはいかないまでも竦ん
でいる。迫力がありすぎる。それでも、今の雰囲気だとこのまま黙っているのもNGだ。なんとかしなければ。
「きょ、協力を――」
「その人、放してもらえる? シルスクさん」
振り絞った言葉は言い切れず。私の前方、シルスクの後方から聞こえた声にかき消された。それは当然というか聞き慣れ
た声ではあったが、それがなぜ”シルスクの後方”から発せられたのか。彼の背後に人の気配などまったく感じなかったのに。
不思議を抱えつつも、とりあえず形勢は逆転していた。相変わらず私の首にはダガーが押し当てられていたが、そのダガー
所持者の首元には、湧き出るように出現した狭霧アヤメのナイフがつきつけられている。それでも、彼は眉ひとつ動かさない。
「狭霧アヤメか。貴様までなんでこんなとこに」
「聞こえなかったかしら。彼を放して」
数秒、二人はそのままにらみ合った。ややあって、首元の冷感が消える。どうやら解放されたらしい。まったく、アヤメ
様様だ。
「ありがとシルスクさん。さて、とー。ドクトルJ、後はあなたの仕事だから」
シルスクがナイフを鞘に納めるのを見届けて、アヤメさんもつきつけていたナイフを引いた。そしてそのままどこかの教
室から持ってきたらしい生徒用の椅子に腰かけ、お休みの体勢になる。さっきの襲撃を彼女は一人で切り抜けてきたのだ。
疲れもあるのだろう。無事再会の喜びに浸れない状況なのが寂しいところだ。
「さてそれじゃあ改めて質問に答えてもらおうか」
少しだけ眼光を緩めて再度の質問。私はさっき彼の部下のラヴィ君にしたものとほぼ同じ説明を彼にした。シルスクはし
ばらくどこか遠くを見つめて唸っていたが、
「牧島との関係は?」
と、別の質問を投げてきた。答えにくいことではあったが、協力してほしい手前だ。嘘をつくことは好ましくないし、そ
もそも隠すべきことでもなかった。
- 25 :
- 「牧島は私の妻の弟だ。手っ取り早く言えば義弟だ」
これにはさすがにシルスクも、そしてアヤメさんも驚いたようだ。揃って目を丸くしている。
そうなのだ。私自身改めて思ったが、彼は私の義弟なんだな。ずっと嫌われている気がしていたから、そう思ったことも
なかったが。
「事情は……正直わからん。相当に込み入った事情がありそうだしな。それには興味もないし、立ち入る気もない」
気だるげに髪をわしゃわしゃしながらそう言って、さらに続けた。
「牧島は屋上だったな。そこまでついて行ってやる。あんたの用事が済み次第、今度は俺の用事を済ませる。それでいいな
ら協力するさ」
彼の言う「用事」。それは、最悪の場合牧島をすということもあり得るのだろうか。
「その用事とは、彼を害するということか?」
包み隠さずはっきりと問う。少しだけ眉をひそめつつも、シルスクはすぐに答えをよこした。
「すことはしない。あいつは生け捕りにする。まあ正確に言えば、せないからそうするしかない、ってだけだが」
奇妙なことを言っている。「せないから生け捕りにするしかない」らしい。どういうことだろうか? あいつは不死能
力でも持っていたか? しかしあいつの夜間能力はワームホール能力だし、昼間能力は知らないが今はもう日が暮れているし……
「ほら、条件は出したぞ。あとはあんた次第なんだからな。どうするんだ?」
せっつかれた。せっかちな人だ。とりあえず彼の思惑はわかった。出自からして、狭霧アヤメより信頼できそうな気も
する(ごめんねアヤメさん)。
「わかった。それでいい。わがままに付き合わせてすまないな」
「フン。まあ気にするな。たまにはまともに人助けらしいこともやっときたいところだったんだ。まあ……」
そこでいったん言葉を切って、私の後方に視線を送りながら続けた。そこにいるのが誰か……ま言うまでもないか。
「都合アイツとも協力することになるのは虫酸が走る思いだけどな」
「あらあら、シルスクさんてば失礼ねぇ。以前あれだけ熱く激しくやり合った仲じゃないの」
「熱く、激しく……やり合う……?」
「おいこらゲスい想像やめろすぞ」
さっきよりさらに怖い顔で怒られてしまった。失禁しそうだ。ゲスいも何も、私はアヤメさんの言葉を復唱しただけなの
だが。まあつまり、アヤメさんとバフ課は相当仲が良くないということでいいだろう。
「ま、まあシルスクさん。今は堪えてくれないか。二人とも私の協力者ということで」
「フン、わかっているさ。ガキじゃないんだ。ああそうだ。ところであんた、名前はなんて言うんだ?」
そう言えば彼には名前を名乗る機会がなかったのだった。もちろん私には本当に名乗るべき誇るべき名前がある。それ
でもやはり今この時名乗るのは、それとは別の名前なのだ。「強い自分」という役割を演じるための、もうひとつの名前だ。
「『ドクトルJ』。私のことはそう呼んでくれればいい」
つづく
- 26 :
- ひゃっほうアヤメさんだ!あと隊長だ!
なんかすごい組み合わせができたなー。大人の世界だぜ。
いよいよ大詰め、楽しみにしてます。
- 27 :
- ttp://loda.jp/mitemite/?id=2265.jpg
同居人がお風呂上りに全裸で徘徊し、目のやり場に困っています。
いくら注意しても1枚、タオル1枚さえ局部を隠そうと
しません。どうすれば改善できるでしょうか?
(相談者/女子高生/ふぁいやーさん/16歳)
>1乙ですー。
あああ読み進めてないSSが…!
- 28 :
- >>15
乙です、今回もまとめて読みました
いやー……たいちょにアヤメさんですか!
クライマックスの舞台にふさわしい役者が揃いましたな
たいちょもラヴィくんも、性格把握した(たぶんw)描写が素晴らしい!
ま、とりあえずドクトルはその呼び名を全面降伏の上受け入れたらいいと思うよ☆
>>27
相談内容から、笑えるネタ絵を期待して開いたのに……
謝罪と賠償(=つづき)を要求する!w
- 29 :
- >>25
わーアヤメさんだー
最後どうなるのかwktk
>>27
お、久しぶりの投下かな。乙
ふぁいやーさんには「人のふり見て我がふり治せ」ということわざを伝授しようふひひ
- 30 :
- >人のふり見て我がふり治せ
彼女は別に治すとこなくね?www
- 31 :
- それからの道のりは、いたく平坦ですこぶる順調だった。正確には階段を上がっているわけで平坦ではないのだが、
それは言葉のアヤというもので、ツッコまずにスルーするのが大人の対応というものだろう。
2階から3階へ上がったところで複数のキメラの待ち伏せを受けたが、私の心強いバディ達(少し気に入ってしまった)
が早業で葬ってしまい、そのまま4階へ。
そして現在は、屋上へ続く階段を探して4階をさ迷っているところである。そう、学校の屋上というのは概してレアな
場所なのだ。建物に階段はいくつもあるというのに、屋上へ繋がる階段は1、2か所しかないなんてのはよくある話だ。
私の通った中学高校も例に漏れずそんな構造になっていた。
とまあこんなどうでもいいことをつらつらと解説しつつ歩けるほど、二人の仲間が脇を固めてくれている安心感は
大きいわけである。こんなことを言っている間にも、窓を割って侵入してきたキメラ(猿のような姿だが)が3匹、あっと
言う間に血祭りに上がっていた。
「ねぇシルスクさん? 私こんな姿のキメラって初めて見たんだけど」
「あ? ああ、このゴリ猿な。こいつらはキメラとは別物だ。造られ方からして違うはずだ」
「あらそうなの? どう違うのかしら」
「フン、知ってどうする。説明するのもめんどくさい。適当に想像するなりしてろ」
「ドクトルJ〜、シルスクさんが冷たーい」
と乙女の声で言いながらアヤメさんがトタトタと駆けよってくる。もとのキャラがキャラなので逆に恐怖だ。いい感じに
あしらっておこう。
「ああ、ほら。シルスクさんはツンデレなんだよきっと」
「ということは、そのうちデレるのかしら?」
「たぶん、ね」
少し先を歩いているシルスクの背中が微妙に気立った気もするが、気付かないふりでいるのがお互いの幸せのためか
もしれない。と思ったのだが。
「おい、ドクトルJ」
怖い顔で振り向かれてしまった。殴られるのだろうか。グーで殴られるのだろうか。いやしかしツンデレと言われたくら
いでそこまでカチンとく――
「階段だ。屋上に出られるぞ」
- 32 :
- シルスクの指さした先には、確かに階段があった。その階段の突きあたりには、少し重そうな金属製のドア。間違いなく
屋上へ続く扉だろう。
この扉の向こうに、彼はいる。私を待っている。10年間の苦しみに終わりをもたらすそのために。
私もまた、そのために今日ここまでやって来た。辛い道のり……というほど辛い道のりではなかったが、それは隣の二人
の力があったからこそ。私一人では、命をいくつ失ってもここにはたどり着けなかったことだろう。
ここにたどり着いて、今更思う。私はどんな決着を思い描いて、ここにいるのだろうか。私の望む理想の終わり方とは
どんな形なのだろうか。なんたる無思慮と罵られるかもしれないが、そんなものには考えも至らなかった。ただ彼をどうに
かしなければ。私への復讐心のみで生きているようなあの男をなんとかしてやらなければ。その思いだけでここに来たのだ。
わからない。どんな終わりが理想なのか。求められる決着の着け方とは。わからない。
それでも今、確実にひとつだけ言えることがある。今の私は、どうしようもなく死ぬのが怖い。死にたくない。惜しげも
なく危険な能力を濫用していた頃の自分が、遠い過去のことのように。
どうしてこんな気持ちになるのか、それもよくわからない。ただ本当に、私は死ぬわけにはいかないのだと、それだけが
はっきりこの心にうぐえへっ!?
「ボケッとしてんなドクトルJ! とんでもないのが来やがった!」
背中、そして直後に体前面まんべんなく鈍い痛みが走り、同時に怒声が聞こえた。どうやらシルスクが私の背中を思いっ
きり蹴飛ばしたようだ。倒れ込んだまま振り返って確認すると、それは危機回避のやむを得ない手段であり、シルスクなり
の優しさだったことを悟った。
それは一見して黒豹のようだった。だがご多分に漏れず体中の筋肉は異常に発達。バイソンのような体格になっているが、
それでいてしなやかさも失われていない。並のキメラやケルベロスですら赤ん坊に見えるレベルの危険さを全身から発散
させる異形の怪物がそこにいた。
「ドクトルJ! こいつはさすがにめんどそうだ! 俺とこの人鬼でどうにかする! あんたはさっさと上がれ!」
「あらららシルスクさんと私死亡フラグ全開。巻き込まないでもらえます?」
「黙れ人鬼俺だってほんとならこっちから願い下げだ! だがこいつは一人じゃ無理だ! 元が黒豹だぞってよっと!」
まるで協力関係を築けていない中、黒豹の俊敏な飛びかかりをこれまた俊敏な身のこなしで回避するシルスク。黒豹の
飛びかかりを回避できる人間が知り合いにいることに驚きを隠せないよ私は。
「驚きの表情を隠せない人がギャラリーにいるのはテンション上がるけど……ドクトルJ、ここは素直に上がった方がよくっ
てよ」
「ほら、人鬼もこう言ってる! さっさと行け! どうせ俺の用事はあんたの後なんだ! 一緒に行ったって暇するんだよ!」
黒豹を射す眼光で見据えたまま、シルスクは促してくる。目で会話はできなかった。
アヤメさんを見ると。こちらを見返して、軽くウィンクをよこしてくれた。それが余裕を演出し、私を安心して先に向かわ
せるためのポーズとしての行為だとすれば。
まるで母親か姉のようで、なんとも素敵な女性じゃないか。
- 33 :
- 黒豹の黒豹らしからぬ野太い咆哮を背中に聞きながら、最後の階段を駆け昇る。重たそうな金属製の扉に手をかける。
まさか鍵がかかっているとかいうオチはないかと内心ヒヤヒヤしていたがそんなこともなく、また見た目ほどの重量感も
なく、意外にあっさりとその扉は開いた。
実際には大した時間でもなかったはずだが、随分久しぶりに外に出られたような感覚だった。
濃紫の夜空が広がっていた。少なめの明かりのおかげで、星も綺麗に輝いていた。
少し暑くなりはじめた季節とは言え、この時間になれば涼しさも戻る。風もそよそよと吹いて、心地よい空気。
そんな穏やかな大気の中に、男の背中があった。
1歩、2歩、3歩と。少しずつ彼の元へと向かう。相変わらず何かを錯誤したような黒ずくめのその背中は、残念ながら
私へと何一つ語りかけてはこなかった。だから私から、その背中へと声をかける。
「約束通り来たぞ。牧島」
「ああ。思ったよりは早かったな」
「仲間がいたからな。でもここにたどり着いて思ったよ」
彼は振り返らない。背を向けたまま、だがしっかりと会話にはなっている。だから私はそのままで続けることにした。
「君はもともと私がちゃんとここにたどり着けるようにするつもりだったんだろう? 途中でわけのわからん死に方は
しないように。私の死にざまを見届ける、あるいはその手で私に止めを刺す。それが君の望む終わりの形だろうからね」
そうなのだ。冷静に考えればそのはずなのだ。私への復讐心で動いている彼が、その復讐を最初から最後まで使いっ走り
のキメラたちにやらせるはずはないだろう。私の負傷具合には幅があったかもしれないが、少なくとも彼は私の命が欲しい
わけで、死体が欲しいわけではないのだ。
それが的を射ているのかどうかは定かではない。彼の背中からはなんの言葉も返ってこなかった。代わりに別の問いが
飛んできた。
「比留間の研究所で、あれを視たんだろ?」
核心だ。だがそうだ。今日この日のことなんてどうだっていい。彼の思惑いかんにかかわらず、私はこうしてここまで
来られたのだ。重要なのは今日なんていう一日のことではない。その一日を幾度も繰り返した、10年という長い歳月が
育んだ束縛と復讐心の清算こそが目的なのだ。今日という一日は、その10年の中の単なる一日に過ぎない。
ここからの問答は、その清算の仕方を決定づける極めて重要なやり取りになるのだろう。どんな終わりを望み、理想と
するか。それすらもあやふやなままで、私は待ったも失敗も許されない背水に立つのだ。
今もまだわからない。どんな結末が。どうして私は死を恐れ出したのか。きっと喉元まで出かかっている答えは、どうし
ても喉元から先へと出てこようとはしない。
だから今の私にできることをするだけだ。神宮寺秀祐という人間として、誰にも恥じることのない姿を見せてやるだけだ。
- 34 :
- 「ああ、視たよ」
「何か感じたことはあるか?」
あの時私が感じたこと。いくつもある。
「たくさんあるとも」
そう。いくつもあるんだ。たくさんあるんだよ。
「言ってみろ」
「ひとつめ。美希はとても賢いのに、肝心なところでおバカだ」
なまじ飲み込みがよくて頭の回転も速いばかりに、自分の身に起きた能力という異変をあっさり受け入れて。あろうこと
か私のためにそれを使ったりなんて。そんなことしなければ、今も生きていただろうに。
「……そうだな。姉さんはバカだよ。……まだあるんだろ?」
「ふたつめ。美希はほんとにわがままだ。まあ知ってはいたが」
私を助ける代わりに私の前からいなくなるなんて。それでいてご丁寧に3つも願い事をして私を縛りつけようなんて。
ずるい。本当にずるい。
「……次で最後にしよう」
「わかった。その代わり長くなるぞ」
「好きにしろ。お前の最期の言葉として聞き届けてやるさ」
あくまで背中を向けたまま。それでも牧島は、私のこのもはや誰に話すこともできない亡き妻への思いを、感情を揺る
がせることもなく静かに聞いていた。いや、聞いてくれていた。
「みっつめ。美希はバカだし、わがままだ。そうは思っても、愛した女が命を落としてまで自分を助けてくれた。そのこと
が嬉しいのも確かだ。あの日消えかけた私の命は、美希の命とひとつになることで蘇った。だからね」
息が詰まった。呼吸することも忘れていた。喉元につっかえていた答えが、見えたような気がした。
「だから私の命の価値は、あの過去を視た時から私の中で大きく変化したんだよ。私は今、死ぬのが恐ろしく怖いんだ。
生物は本能的に死を恐れるというそれ以上に死が怖い。死にたくない。いや、死んではいけないとさえ思う」
牧島の背中が少しだけ、揺らいだように見えた。
「10年前のあの日以来、私は自分の生に価値が見出せなかった。大切なものは全て失ってしまった。正直さっさと死んで
しまいたかった。早く妻と娘のところに行きたいとそう思っていた。でもそんな願いは間違っていた」
ああ、そうだ。これが答え。こんなにも簡単で、明確な唯一の答えだ。
「矛盾した願いだった。行けるはずもない。行ったって会えるわけがない。10年前のあの日から、美希の命はずっと
私とともにあるのだから。命に形があるのならば、私の命の半分以上は美希の分で構成されているに違いないさ。非科学だ
オカルトだ電波だと笑いたければ笑ってくれて構わない。でも愛する妻が命を以って繋いでくれたこの命だ。無下に捨てる
ような真似はもうしない。長くなったが要約すると」
要約するとなんだろうか。私は結局――
「美希がいない。それだけで私の10年間は本当にからっぽだった。でも真実を知った今は……少しだけ幸せだ。生きていて
よかった」
- 35 :
- 本当に。生きていてよかった。生きている限り、これからもずっとそう思える。生きている限り、美希と一緒なんだと。
「死ぬ間際になって、『生きていてよかった』か。うらやましいことだな」
感傷には浸れない。今度は彼のターンなのだろう。満を持してと言うべきタイミングで、黒い背中が翻った。
「死ぬのが怖くなったか。それはちょうどいい。さぞかし死に物狂いで抵抗してくれるんだろうな」
校舎の下から見上げた時と同様、やはり今日はサングラスをしていない。目元が露わになっていた。暗く沈みこんだような
その瞳からは、もう光を感じられなかった。
「お前の言うとおりだ。姉さんは本当にバカだよ。お前なんかを助けて自分はコロリとっちまって。そんなバカでもな、
僕にとっては大切な大切なたったひとりの家族だったんだよ! 大好きな大好きな姉さんだったんだよ!」
感情が迸る。姉への想いと私への復讐心と憎悪で煮えたぎる血走った瞳を私に向けて。
彼はこの10年間、こんな目をして過ごしてきたのだろうか。あの黒いサングラスの下に、こんな負の感情で溢れかえる
目をひた隠して生きてきたのだろうか。ここで私への復讐を果たさなければ、彼の10年間は無意味なものになってしまう
のだろうか。
「お前のせいで姉さんは死んだよ! お前のせいで! だから僕はお前が憎くて仕方ないんだよ」
言いながら胸元から取り出したのは。まずい。拳銃だ。距離10メートルほど。素人なら外す距離か……?
「さあ神宮寺。死ぬのが怖いんだろ? だったら命乞いでもしてみせろ」
命乞い、か。そうだな。たとえ彼の10年間が意味のないものになったとしても。彼の復讐心を打ち砕いてやる。復讐を
果たさせないまま、その復讐心を叩き潰す。
「牧島。君の復讐は絶対に遂げられない。遂げられるわけがない」
「なんだと」
「さっきも言ったが。美希は命を以って私の命を助けてくれた。今の私の命は美希の命でもある」
「ハッハッ! 非科学だオカルトだ電波だ! 本気で言ってるのか神宮寺」
割と本気だが、ばっさり言われるとそうでしかないのが辛いところだ。だが怯んでもいられない。
「結構本気だけどな。まあいい。あの日美希は私を助けてくれること、自分の命を捨ててでも私の命を繋ぐことを自分で
選んだ。あの日の美希の選択、想い。その結果として今ここにいる私の命を、君は簡単に奪えるのか?」
牧島は無言。たたみかける。
「美希の選択と想いを無下にできるのか? そんな権利が君にあるのか? 君からすれば私はクズなのかもしれないが、美希
にとっては大切な存在だったのかもしれない。そうであれば嬉しいね。あの日の美希の死を、銃弾一発で無駄死ににする気か?」
答えはない。でもその表情にはかすかな揺らぎが見えた。
「もう一度、何度でも言う。君の復讐は絶対に叶わない。君に私はせない。君の復讐心が美希への想いに起因するもの
である限り、君は絶対に、私をせない。ああ、そうだよ。私がずっと矛盾した願いを抱き続けていたように」
君の私に対する復讐心は、その心に芽生えた瞬間から矛盾を孕んでいたんだよ。最後にそう告げた時、銃声が一発響いた。
それは私にかすることもなく、背後の虚空へと吸い込まれていったようだった。
- 36 :
- 「神宮寺、秀祐……お前は本当に嫌な、憎い男だ。ずるい奴だ」
「ああ、知ってるよ。すまないな。でもそんな男でも、美希は愛してくれたらしい」
きっかり4秒の間の後、牧島は拳銃を静かに、ためらいながらも降ろした。
「僕は、自分が間違っていたとは思わない。姉さんはお前にされたも同然だ。だけど……だけどお前の言うこともわか
らなくない。オカルト的とは言え、今のお前の命は姉さんが繋いだものだってのは100%疑いようもない」
復讐を遂げさせることなく、復讐心を消す。それで彼の10年間が無意味なものになるかどうかは後ほど考えるとして、
ひとまず無事に終えられた。そう思った。
「僕はこの10年間、いろいろなものを犠牲にした。人間として持っているべきものの多くを捨てた。道徳観念、倫理観
なんてのはもう真っ先にだ。ガーゴイルってのは、その賜物のひとつだよ」
彼の色と光を失った瞳は相変わらずのままだった。それはブラックホールのように、どこまでも落ち沈む黒い穴のようだった。
「それでも結局、このザマだ。感情に訴えかけられてほだされ、理性で制御されちまう。それでもお前が憎いという気持
ちが消えるわけじゃない。してやりたいという衝動がおさまるわけじゃない」
言いながら牧島は拳銃を持った右手を――彼のこめかみに押し当てた。途端、心臓の鼓動がバクンと跳ねあがる。
想像しなかったわけじゃない。それでも、こんな光景は見たくなかった。
「やめろ」
それしか言えない。何も浮かばない。語彙のなさが情けない。もっと気の利いたことを言えれば。
「牧島勇希! 銃を降ろせ! 降ろさないとすぞ!」
そう、こんな風に……え?
「修羅場を抜けたらまた修羅場っと。お待たせドクトルJ。なんか大変そうねぇ」
「アヤメさん? シルスクさん?」
このタイミングで。グッドなんだかバッドなんだかわからないが。あの黒豹をくぐり抜けてきたのだ。無事再会の喜び
に浸りたいが。
「牧島勇希! さっさと銃を捨てろ!」
シルスクが全開すぎて声もかけられない。牧島は牧島で、来訪者には目もくれずずっと私を見つめている。それはそうだ
ろう。彼は私の言葉を待っているのだろう。
「牧島。君が死んでどうなる。何か意味があるか?」
ニヤリと。あのいつもの陰湿な笑みを浮かべた。
「いろいろなものを捨ててきたよ。でも結局、このどうしようもなく邪魔な理性を捨てなきゃ、僕の望みは叶わない」
彼の意図が読めない。拳銃で頭を撃ち抜けば死ぬだけだ。理性ではなく物理的に脳みそが吹き飛ぶだけだと――
甲高く耳をつんざく火薬の音。夜の闇の中に明るく散る火花。噴き出る真っ赤な液体。がくんと膝から崩れ落ちる、その体。
あっさりと。あまりにあっさりと。なんのためらいもなく引き金を引いてしまった。
あまりにあっけなく、彼は死んでしまった。まるで、最初からこうするつもりだったかのように。その覚悟をしてい
たかのように。
- 37 :
- 「チッ、くっそ……やっちまった……まずいなこいつは」
隣で誰かがそんな悪態を吐いていた。ああ、本当に。やってしまったよ。彼が死ぬことを考えなかったわけではなかった。
それでもこうして目の前で死なれてしまっては。だが待て。死んだと決まってはいない。いやほぼ即死だろうが、まだ息が
あるかもしれない。そう思って牧島に近づこうした。
「近づくな! というよりさっさとここから離れろ!」
シルスクがそう叫んで静止してきた。それこそまた鬼の形相だ。しかし、一体どういうことだろうか。と、同じ疑問を
持った女性がいたらしい。
「どういうことかしら? シルスクさん」
「説明しなきゃダメなのか!? とにかく早く……ってヤバい!」
鬼の形相から、阿修羅のような形相になるシルスク。その視線の先にあるのは牧島の死体……のはずだったが。
それは動いていた。というよりは蠢いていた、という表現が最適な、気味の悪いぜん動運動を繰り返していた。頭、胴体、
腕、脚。それぞれが別の芋虫のように激しくうねり、原型をとどめないほど変形、肥大が始まっていた。
「なんなんだ、これ……」
「牧島勇希の昼間能力だ。ガーゴイル、強化型キメラ、ケルベロス、さっきのゴリ猿はやつのこの能力で造られたもんだ」
「昼間能力? 今は夜よねぇ」
「うちでつけた能力名は『血中ウィルス』っつってな。血の中に特殊なウィルスを作ってんだ。ウィルスだからしばらく
は潜伏期間みたいな感じで残る。だから夜でも有効なんじゃないかというのがうちの専門家の見解だが、よくはわからん」
シルスク、解説ありがとう。わかったようでわからないことも多いが、とりあえず牧島の昼間能力は相当にエグいもの
のようだ。そしてそうこうしてる間にも牧島の死体の変異はますます進行、むしろ峠を越えたような雰囲気だった。
「あーあ。もう完成しちまったって感じだな」
シルスクも同じ印象を持ったらしい。全体のグロテスクな蠢動は終わっていた。全身は赤黒く巨大になり、背中にはコウ
モリを3倍ぐらい立派で凶悪にしたような翼。それは以前に見たあれよりも数倍は凶悪な、正真正銘の悪魔だった。前回のが
デーモンなら、これはアークデーモンとでもいったところか。
強靭に膨れ上がった四肢がのそりと動く。牧島勇希という死者の体を借りて顕現した悪魔が、ゆらりとその脚を大地に
つける。つり上がった目。鋭くとがった鼻。大きく裂けた口と、鋭い牙。面影など感じようもなかった。
「どーすんのこれ」
「逃げるが勝ちと行きたいがな。ほっといてもロクなことにならんだろ」
そう言ってシルスクはダガーを両手に構える。アヤメさんも左手に拳銃、右手にナイフの構え。倒すつもりなのだ、あれを。
ただの人間が敵うとは到底思えないあれを。もはや見る影もないが、もとは牧島だったあれを。
『グギャアアァァァアァァァアアァァアアアァァァ!』
と、周囲の音が一切聞こえなくなるほどの悪魔の咆哮。それを合図に、二つの影が動く。悪魔の左右から。腕ではなく
剣へと変型した両腕を、二人ともするりするりと危なげなくかわしながら。かたや銃弾を何発も撃ちこみ、かたやどこから
取り出すのかナイフを目にもとまらぬ早業で次々と投げ込む。
- 38 :
- それが以前と同様の出来の悪魔だったならば、あっという間に勝負がついていたのかもしれない。だが今回のが以前より
明らかに手強いだろうことは、見た目の凶悪さの桁違いぶりからもはっきりしていた。こうして手強くなることがわかって
いたから、シルスクも牧島が死ぬことを避けようとしていたのだろう。
「表皮が硬すぎる! ナイフが刺さりもしない。俺が武器の手入れ怠ってるみたいじゃねえか」
「銃弾もまるで通らないわねぇ。ロケットランチャーで吹き飛ばすくらいしかなさそうよ」
「んなもん今あるか!」
「じゃお手上げねぇ」
いったん退いた二人のそんなやり取りが聞こえてくる。やはり厳しいようだ。確かに銃弾もナイフも悪魔の足元に転がっ
ている。全部弾かれたのだろう。
さまざまなフィクションで、装甲が硬くて容易にダメージが与えられない敵というのは往々にして現れる。そういう敵
が出現した時、取られる対処はどういうものがあるか。
アヤメさんが言ったように、圧倒的な破壊力で装甲もろとも吹き飛ばすのも手段のひとつだ。あるいは何らかの方法で装甲
を弱体化させるのも考えられる。また、さらに別の手としては……
「中から攻めよう」
二人が私に振り向く気配。意味を測りかねているのだろう。
「私の能力を使って倒す。だがあまりに動かれると使えない。さっきみたいに一定位置から動かないようにさせてくれないか」
シルスクは相変わらずピンと来てなさそうな顔をする中、アヤメさんは理解してくれた。
「あ、そっかぁ。確かにあなたの能力なら外皮の硬さなんて関係ないわねぇ」
「……確実に仕留められるんだろうな?」
「確実とは言いたくないね。8割がた、と思ってほしい」
「……フン。ま、賭けとしちゃ十分だな。とりあえずあいつをあまり動き回らないようにすりゃいいんだなっておいおいおい!」
焦ったような声と同時に、シルスクは駆けだしていた。見れば、悪魔がはばたき、今にも飛び立とうとしている。羽根が
あるんだからそりゃ飛ぶのだろうが、動き回らせるなという条件を考えれば最悪の状態だ。
少し遅れて追うアヤメさんが、途中で何かを拾っていた。シルスクが落としたもののようだが、それが何かまでは判別
できない。
十分に揚力を溜めた悪魔が、大地を蹴る。その体が夜空に舞いあがる。まったく同時に、一直線に駆ける弾丸もまた、それ
目がけて大きく跳躍する。どんな攻撃も通さない硬質の皮膚に、臆することなく飛び付き絡みつく。悪魔の上昇は止まらず。
それでも彼は決して離れない。鋭い剣となった両腕の攻撃が届かない安地に潜り込み、悪魔とともに空に昇る。
だかそこからどうするつもりか。もしかして考えなしか。それならそれでまたむしろ男前だが。そう思った矢先。
「そいつを撃ってこい! 狭霧アヤメ!」
指示が飛んだ。見れば、アヤメさんは悪魔に向かって銃らしきものを構えている。さっき拾っていたあれだ。改めて見れば、
それには見覚えがあった。
- 39 :
- パシュンと空気漏れのような軽い発砲音。飛びだすのは弾丸ではなく、一本のワイヤー。それは過たず夜空の悪魔へと
伸びていく。そのワイヤーの先端が悪魔の表皮に刺さ……らない。どういう作戦かわからないが、失敗したのか。そう思った。
「よし! もう一度トリガーを引け! さっさと!」
弾かれたワイヤーを、悪魔と空中戦を演じる男がしっかりと掴んでいた。左脚で悪魔の首、右脚で右脇の下をしっかりと
ロックし、上半身はフリーという曲芸みたいな格好で。まったく、どういう目と筋力と反射神経をもってすればあんな芸当が
できるのかまるでわからない。人体の神秘があそこに極まっている気がする。
そしてさらに状況は動く。シルスクの指示通りに引き金を引いたのだろうアヤメさんもまた、オートで巻き取られるワイヤー
に引っ張られる格好で上空に昇る。2人の人並み外れた人間と、1体の元人間だった異形が、星明かりが散らばる夜空で
交差していた。
しかしだ。あそこからどうするつもりか。悪魔は2人を振り落とそうと体を揺らす。あれでは私の能力は使えない。だが
あれを地上にひきずり下ろすのはあの2人がかりでも無理だろう。やはり考えなしか。
いや、信じよう。なにせ彼らは2人とも、私の命を助けてくれた恩人なのだ。今日もまた、彼らのおかげで私は無傷でこ
こまで来られたのだ。必ず何かやってくれる。
だから私も、遠くで眺めてなんていられない。彼らは余裕そうに見えて、命を落とすかどうかギリギリの死闘を繰り広げ
ているのだ。言いだしっぺの私が、止めを刺すはずの私が、安全地帯でボーッとしているのは道理が通らない。
1歩踏み出す。同時に、上空から屋上の床へとワイヤーが伸びてきた。約10秒の間があって2本目が、さらに約10秒
間隔でさらに2本、合計4本のワイヤーが、上空から床へと伸びた。そして声が響いた。
「注文通り、固定してやったからな! あとはあんた次第だ! できるだけ早くケリをつけてくれよ!」
その言葉に上空を見上げれば。4本のワイヤーでがんじがらめになった悪魔は、確かに固定されていた。おそらく2人を
振り落とそうと身を回転させたせいで、むしろ自分でワイヤーを巻き付けた格好になったのだろう。
しかしまさか、空中で固定してしまうとは。シルスクもアヤメさんも、上空にいる間にこの方法を思いついたのだろうか。
上空で悪魔とともにワイヤーに絡め取られて苦しそうな彼らだが、その姿のなんとかっこいいことか。ヒーローとはああいう
存在のことを言うのだと思う。
さあ、後は私の仕事だ。感慨にふける時間はない。これからす相手が元は愛した女性の弟だったことなんて、今考える
ことではない。そもそも、もうそんな姿は見る影もないのだし。
満天の星空を背景に磔になった哀れな悪魔へと、この右手をかざす。無言で行こうかと思ったが、やっぱりやめよう。締ま
らない。
「心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】、発動」
詠唱。同時に、視界はモノクロに反転する。その中に、強靭な悪魔の胸元の、規則的に拍動する心臓だけが赤々と輝いていた。
それがある限り、どれだけ強靭な体を持とうと。どれだけ硬い骨格を持とうと。この能力には抗えない。
BPM:1。そう設定して、集中を解く。即死には至らない。だが長くももたない。
抵抗がゆるんだことを感じたのだろう。シルスクとアヤメさんは固定していたワイヤーを解放し、脱力した悪魔とともに
落っこちてきた。
「ふひゅー。ほんとにやってくれたな」
「空の上超怖いわぁ」
疲れも感じさせず、2人とも生き生きしている。つくづく凄くて怖い人たち。
- 40 :
- 悪魔はまだ動いていた。もはや満足に立つこともできないのだろうが、死に切ってもいない。
さすがにここまで姿が変貌してしまっては、罪悪感は湧かなかった。これはすでに牧島勇希ではない。牧島勇希だった何
かだ。
だが。彼は理性という制御を外すため、この姿になることを選んだのだ。こうなることがわかっていたのだ。こんな姿に
なってまで、私への復讐を成し遂げようとしたのだ。10年間蓄積してきた憎悪と怒りを、こんな形で昇華させたのだ。
凄まじい、凄まじい執念だ。
目の前で、悪魔は最後の力で立ち上がる。それが動物的本能か、それとももっと別の何かか、知る由もない。ゆらりと、
また倒れそうな足取りで、私に近づいてくる。断末魔の「致命の絶叫」がこだまする。直後。腹部から背中へと、感じたこと
のない鋭い痛み。目の前には、再び倒れ込みもう動かない悪魔。その右腕が。私の腹に。深々と。突き刺さって。
◆ ◆ ◆
「……尖崎くん。君まだ入院してたんだね。しかも相部屋とか」
「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。ドクトルJ主任も随分派手にお怪我されたようじゃありませんかあ」
「うん、まあね。あれ、尖崎くんだいぶ痩せたね」
「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。入院ついでに痩せなさいなんて言われてロクなもん食べてないもんで
すからああはあは。大きなのっぽのお世話ってもんですう」
随分肉分が落ちて普通体型になりつつある尖崎くん(誰かわからない? まあそれならそれでいいや)のかなり解読不能
な台詞を左耳で聞きつつ、病室の白い天井を見上げた。まあ寝ているのだから見上げるまでもなく自然とそこに目が行く。
なぜ当然のように生き延びているばかりか、のっけからくだらない無駄話なんかして登場しているのか、という声が聞こえ
てきそうだが、それは的外れだと言わせてもらいたい。なぜなら私にも今のところさっぱりわからないからだ。目を覚まし
た時には、この病院のこの病室のこのベッドの上だった。
あの日から5日が経っているらしい。全て終わった、のだろう。終わりの記憶が曖昧すぎて、その実感さえあやふやだ。
「痛つ!」
それでも、腹部に残るこの痛みこそが、何よりの証拠なのだ。私は確かにあの場にいて。牧島という男は死んで。私たち
の因縁は、そこで断ち切られた。この痛みは、あの男が最後まで持ち続けた執念。その恨みのこもった一撃だった。傷が治っ
てもこの痛みは生涯忘れることはないだろう。
本当は彼には言わなければいけないことがあった。彼が執拗に私を追わなければ、私は10年前の真実をきっと永遠に
知ることはなかっただろう。逃げ続け、避け続けていたのだから。
妻の死の真相を知り、今自分の命を大事に思うこんな気持ちになれたのは、彼のおかげと言ってもいいのかもしれない。
私の願いが実はとうの昔から叶っていたことに気付けたのもそうだ。
だから、ありがとう。そう言いたい。身勝手なのはわかっている。それでも言わせてもらう。
そしてもう一人。全て終わった今だからこそ、言わなければならない人がいる。
ずっと勘違いをしていた。遠くに行ってしまったと思っていた。いつも誰よりもそばにいたのにな。知らなくてごめんな。
「美希、ありがとう。俺は今、少しだけ幸せだ」
おわり
- 41 :
- …ふう。終わったー
一年以上やってたんですねー。最後まで飽きずに読んでくださった方ほんとにありがとう
話の終わらせ方だけ決めて書いてたので、途中でいろいろ変えたりとかもしてました
捨てた伏線とかもあったり。大して伏線自体張ってないけどw
さてひとまずドクトルJ主役の話は終わりです。ですが僕にはすでに忘れ去られてると思われる
もうひとつの作品があるので、変わらずこちらで書かせてもらうと思います
後は気楽に小ネタとか絵とか描きたいなと思ってます
今回隊長とアヤメさんには頑張ってもらいました。大好きな二人です。アヤメさんまるっきりいい人っぽく
なっちゃいましたがw
- 42 :
- 完結お疲れ様です
悲しい終わり方でしたがドクトルカッコ良かった
砂にも期待
あとアヤメさん可愛い
- 43 :
- うおお!隊長すげー!アヤメさんかわいい!
少し悲しい終わり方でしたがドクトルが健在で良かったです。
随分と長い期間楽しませてもらいました。この大作を完結までお疲れさまでした。
- 44 :
- おおー完結乙でした! 面白かったです!
ドクトル最後まで味のあるオヤジだった。こういうオヤジ大好きですw
隊長やアヤメさんも全然違和感なかったしでいい見せ場だったなー
見つめ合うとの方も続き期待です。
- 45 :
- 投下します。SS書くの自体が久しぶりになってるや……。
- 46 :
-
――トンッ
何かが走り抜ける音が流れていく。
夜の闇を纏うかのように人の形をした者が4つ、森を走り抜けた。
身のこなしが全員特殊な訓練を受けたそれだった。
やがて先頭を走る男が止まる。
男が見上げるその正面には、分厚い玄関が遮るかの様にそびえたっている。
しばらく付近の様子を眺め、黒髪を適当に切っただけのざんばら髪を掻き、面倒くさそうに男は口を開く。
その声はまだ、中学生位の声変りもしていない高音だった。
「リーリン、どうだ?」
声を掛けられた、リーリンと呼ばれた恐らく男と同様中学生位の少女は一つ頷き、耳を澄ます。
ツインテールにした黒髪が揺れ、括りつけられた音のならない鈴が揺れる。
「……人は一人だけ。情報通りね。でも今回の害対象は気が乗らないわね?
普通の女子中学生でしょ。どう思う? ロック」
リリーは顔を体の大きな男に向ける。その巨体は2mを超えるが、
その顔つき自体は普通の少年のものだった。
ロックと呼ばれた少年はゆっくりと口を開く。
「僕たちは“機関”の任務を忠実に守るだけだよ」
その答えにリリーはため息を吐き、ロックと呼ばれた少年から別の少女へ視線を移す。
そこには栗色のショートカットにした髪の少女がポツンと立っている。
「ロックの言う通り。私達は“機関”の子供達。機関の任務に意見は挟まない」
「……はあ、ウインドもか。しょうがないわね。じゃ、お願いね。ブレイクエンド」
「ああ、分かった。少し下がってろ」
先ほどまで先頭で走っていた、ブレイクエンドと呼ばれた少年は軽く右手を扉に触れる。
たったそれだけの事。それだけで右手が触れた部分が、扉の一部が“消滅した”
いかに頑丈な鍵がついていようと関係ない。彼の両手が触れた部分が消滅する。
それが、ブレイクエンドと呼ばれた少年の夜の能力だった。
「さ、終わったぞ。入るか」
ブレイクエンドはそう声を掛け、扉を開ける。
音もなく開けた扉の奥に4人は順番に入っていく。
夜の闇は建物の中に入ることでさらに増す。
電気の一つもつけていない廊下を4人は音もたてず進む。
目標の位置はすでに把握済、その位置を知るリーリンが先頭に立つ。
やがて、何も変哲のない木の扉の前に立ち、リーリンは足を止める。
後ろを振り向き、ブレイクエンドに目だけで合図を送り、
ゆっくりと扉のノブに手を掛ける。
再び音もなく扉が開き、同時に色が写り込む。
その部屋には明かりがともされていた。
「……起きてたか」
ブレイクエンドは口の中だけで一人ごちりながら、リーリンを押しのけ
任務を遂行するため突入した。対象を害するのは自分の役目だと思いながら。
- 47 :
-
部屋の中は電球の淡い光が周囲を照らし、視覚だけで容易に部屋の中が観察できた。
ごく普通の部屋――本棚には漫画や小説のような本が並び、机にはぬいぐるみが置かれている。
そんな普通の部屋の角にシングルベッドが一つ、置かれていた。
当然、そこには一人の人間――恐らくブレイクエンドと同年齢程度の少女が身を起こし、
突然入ってきた不審者を見ている。
その視線にブレイクエンドは一瞬止まる。
――その少女は、流れるような黒髪を肩口まで伸ばし、白い肌は陶器を思わせた。
ほっそりとした体つきに、どこか視点の定まらないはっきりした目。
十人見れば十人可愛いと答えるような容姿の少女――これが、今回の害対象だった。
“機関”の命令書には、このごく普通の家庭で育った少女を害する事が書かれていた。
彼女の能力は未発現。ただし、将来発現したときには世界を破滅させる程の能力であること。
また、機関でも利用できる能力ではないこと。
以上のことが害処分対象の理由。まだ起こっていない未来の事象を理由にした害命令だった。
ブレイクエンドはそこまで思い返し、しかし特別な感傷を抱かず任務を遂行するため、
さらに一歩部屋に踏み込む。後ろではリーリン達も踏み込んでいるのが気配で分る。
いままで任務でも同じ事はあった。せめて苦しませず一撃です。
その想いの下、ブレイクエンドはさらに一歩踏み込もうとした時、目の前の少女は始めて口を開いた。
その言葉は今されようとしている人の言葉としては場違いな内容だった。
「あなたの名前は……?」
その声は細く、しかしはっきりと聞こえ、今、この場では余りに無意味な問い。
故に、ブレイクエンドはその言葉に答える。
「俺は宿木 壊。……おまえの名は?」
「一華、牡丹 一華。そう、あなたも私を壊しにきたのでしょう?」
一華と名乗った少女にブレイクエンドは頷きを持って返し、腰にさしていたナイフを抜く。
同時に後ろで待機していたリーリンの小声で叱る声が聴こえた。
「ちょっと、ブレイクエンド。任務中は本名出すの厳禁よ」
「分かってる。だが、これから死ぬ少女相手だ。
せめて、恨む相手の名前くらい教えても構わないだろう?」
「……そう言う所甘いわよね。そう言うのが任務失敗につながっても知らないわよ」
リーリンの言葉を無視し、ブレイクエンドは一歩、また一歩近づいていく。
一華はそれを見ても反応しない。いや、静かにブレイクエンドの正面に向き直り、
ただ、座って彼を待っている。まるでしてくれるのを待っているかの様に。
――ただの平凡な家庭で育った少女が、今されようとしているのを受け入れている。
その事実にブレイクエンドは何かがおかしいと思う。
この少女は本当に“平凡な家庭に生まれた少女”なのか、と。
一瞬の逡巡がブレイクエンドの心に宿る。
何かがおかしい、と。
――答えは音として帰ってくる。
「されたら困るんだけど。その子は僕の大事な荷物なんだけどな。今回の依頼のね」
- 48 :
-
その声に最初に反応したのはリーリンだった。
瞬間的に両手にハンドガンを持ち、発砲。
その銃弾は声がした方向へ吸い込まれるように向かい、壁にぶつかり火花を散らす。
いや、それは壁ではなく、そこに埋め込まれたスピーカーだった。
「っな!! これは……罠!?」
「あぶないなあ。子供がそんな危ないおもちゃをもってるんじゃない……ぞっ!」
全く別の方向から声が聞こえ、同時にリーリンの体が浮き上がる。
――いや、正確には見えない相手に投げ飛ばされていた。
不意の出来事にリーリンは対応をとることが全くできなかった。
先ほど銃弾がめりこんだ壁に背中を強打し頭から落ちる。
そのまま崩れるように倒れ、そこから動く気配がない。
「……敵だ! ロック!」
だが、倒れた仲間を無視するかのようにブレイクエンドは声を上げる。
同時、ブレイクエンドの号令に応じるかのようにロックは能力を行使する。
瞬間、壁が崩れ、その素材が拳大の礫となる。
空中に展開された無数のつぶてがマシンガンのように一華へと降り注ぐ。
任務を優先し対象をす。もしくは見えない敵が護衛者ならば一華を守る行動を行うだろう。
そう見こんだ結果の行動だった。
――だが、到したはずの礫は“見えない壁に跳ね返されるかのように”はじけ飛ぶ。
「……最近の子供は危ないね。容赦なく人の荷物を狙うとか、強盗罪じゃないのかい?」
同時にロックの真後ろから声が聞こえ、ロックの胸部が“割れた”。
まるで透明な刃物が通っているかのように赤黒い心臓が見え、ロックの膝が折れた。
致命の一撃――それを認識し、ブレイクエンドはしかし動かない。
ただ、口だけが動いている。敵の情報を得なければならない。
不意の戦闘は完全に相手が上手だった。やみくもに動いては一方的にやられる。
そう悟ったがゆえの行動。
「よう、謎の敵。そんなに子供が怖いのかい? 姿くらい見せたらどうだ?」
「やだね。最近の子供は凶暴で怖いんだよ。sラな僕じゃ正面からやりあったらされるさ。
だからわざわざこうやって仕込みやって卑怯な手で攻撃してるんだよ」
意外なことに返事が返ってきた。そう思うと同時、今度は知っている声が耳元に届く。
――声は囮、敵は能力を使用している。少なくても自身を透明化させる能力。
いえ、ロックの攻撃を防いだことから、自身や物の透明化を行う……
いえ、気配や声以外の音もなかったことから考えて、それ以上の物を隠匿する能力。
これが敵の有する能力。
突然囁かれた声にブレイクエンドは頷く。
それはウインドの能力、声を所定の位置にのみ届かせる能力によるものだった。
- 49 :
-
敵の能力は厄介極まりなかった。こちらから迂闊に動くこともできなければ、
敵の位置を把握することもできない。この手の敵を手っとり早く倒すのは本来ロックの役目だった。
礫による広範囲攻撃。敵がどこにいようと関係ない面による制圧能力を持っていた。
だが、すでにロックは死んでいる。
当り前だ。この敵は俺達に能力を知られる前に、自身にとって一番戦いにくい相手を優先してしたのだ。
つまり、俺たちは完全に嵌められたと言うわけだ。
そこまで考え、ブレイクエンドは指示を出す。出した結論は単純明快だった。
「ウィンド。任務は失敗。撤退だ。この敵は俺達では勝てない」
「……分かった」
それだけでウィンドはあっさりこの部屋から離脱する。
「おやおや、いいのかな? 任務失敗で。それに僕が入り口に罠を仕掛けてるとか考えないのかい?」
見えない敵の言葉にブレイクエンドは笑う。
「ははっ。どうせ勝てないなら逃げる方を選ぶさ。
それにその質問をする時点で罠がないのがばればれだ。
これで安心してウィンドを離脱させられる」
「なるほどなあ。それはそうだ。一杯食わされたな。
この荷物をそうとする人間の害も依頼に入ってたが、そっちは半分失敗かな。うーん残念だ」
それこそ全く残念に思ってなさそうに呟く見えない敵にブレイクエンドは苛立ちを感じる。
明らかに見下している口調だった。
「はっ、全然残念そうに聞こえないな」
「sラってのは、いつも詰めが甘いもの。失敗が当り前なのさ」
「意味が分かんねえ。自分でsラって言ってるってのはどこの馬鹿だよ」
「僕の事だよ、分かってる事を言わなくていいさ。
それに、残念ながらお前達はそのsラ以下なんだよね」
せせら笑いを含みながらの敵の言葉。
明らかな挑発を含んだ言葉。その言葉にブレイクエンドはあえて乗る。
「あーそうかい。それより俺の任務はまだ終わってない。リーリンの回収もしないといけないからな」
「おや、そうなのか。でも僕はそろそろ失礼したいところなんだけどね」
「あれだけの挑発を行いながら戦う気はないって、どんな冗談だ?」
相手の言葉自体は判断材料にならない。それだけは良く分かった。
ただ、ウィンドが逃げる時間を稼げた事を確認すると行動を開始する。
ブレイクエンドは吠えるように言葉を吐きだすと、一華をすために走り始める。
距離にして8歩の距離。一華の顔もはっきり見える。
その薄いピンク色の唇が動く。
「コ ロ シ テ」
それを知覚した時、一瞬だけ、ほんの一瞬だけブレイクエンドの動きが鈍る。
すでに何人もしているはずの心に動揺が走る。
何故、そこまで死を熱望するのか、と。
「うん、君のような男は厄介だ。下手に追い詰めるとかまれかねない。
万が一があると困るから、僕はここで退散するよ」
敵の男の声が聞こえ、その瞬間閃光と爆発が辺りを包みこんだ――
- 50 :
-
「……うっ!!」
体が激しい痛みを訴えるがそれを無視し、ブレイクエンドは起き上がる。
そこにあったはずの家はなくなっていた。そこに残るのはがれきの山のみ。
ブレイクエンドは爆発の瞬間、自身の能力を発動し、
致命傷になりそうな自身に向かってくる全ての物を打ち消した。
それでも発動範囲が両手であるため、打ち消せない部分が体に当たり、さらに床が抜け落下。
衝撃で気を失ってしまい今に至る。
「完全にがれきとなってるか……あの敵は……きっと標的を連れて逃げ出したな」
ポツリと呟き、体を起こす。
「……任務失敗か。こりゃ“機関”に戻ったら消されるかもな」
呟き、立ち上がる。きしむ体を無理矢理動かす。
そこに、先に脱出したウィンドが彼に気付いたのかすぐに近づいてきた。
「ウィンド……奴は?」
「車でいなくなった。目だし帽を被った男だった。
多分気絶した標的の少女を担ぎあげてトランクに入れた。だから少女も男と一緒」
「……そうか」
それだけを言葉に出しブレイクエンドは歩き出す。
――ロックは目の前で死に、リーリンも恐らく生きてはいないだろう。
半分、仲間を失った……か……
すでに周囲一帯は明るくなっていた。恐らく異変に気付いた機関が“回収”にくるだろう。
それだけを考え、近くの木の根元まで歩くとそこに寄りかかるように座り込む。
ウィンドも同じように座り込み、ただ、機関がやってくるのを待っていた――
- 51 :
-
その後の事は全て流れるように過ぎていった。
俺とウィンドは消されこそしなかったが、任務失敗の罰として“機関”を追放された。
着の身着のまま追い出され、俺たちは鍛えた体一つで普通の人間達に混ざり、
普通のバイトをしなから何とか生活だけはできるようになっていた。
あの作戦の失敗、その結果がどうなったか、知ることはできなかったし、
知りたいとも思わなかった。
その時の仲間を失った虚無感すらも、時と共に薄らいでいくのが分かるのがただ悲しかった。
――そして、普通の人間としての日常と共に数年が過ぎることになる。
続く
以下設定
宿木 壊(コードネーム:ブレイクエンド)
元機関の能力者。とある作戦の失敗により、機関を追放される。
一話目では14歳、2話目以降開始時17歳予定である。
昼の能力
不明
夜の能力
ブレイクエンド(意識性、力場型)
両手に触れた物全てを消滅させる能力。
代償は肉体の疲労のみ。
コードネーム:リーリン
元機関の能力者。黒髪をツインテールにした少女である。
とある作戦の失敗により、消息不明になっている。
ブレイクエンドは死んだと思っているが、機関は彼女の死を確認できていない。
昼の能力
不明
夜の能力
チャージショット(意識性、操作型)
銃弾の威力を上げる、誘導弾にする等の能力を付加させる能力。
実際は飛び道具全般に使用可能だが、彼女は銃弾にしか使用していない。
- 52 :
-
コードネーム:ロック
元機関の能力者。中学生にして身長2mを超える巨漢。
しかし顔はどこにでもいる中学生である。
とある作戦の失敗により、死亡した。
昼の能力
不明
夜の能力
ロックレイン(意識性、操作型)
セラミックでできた物を自在に操作する能力
コードネーム:ウィンド
元機関の能力者。栗色の髪をショートカットにした少女。
とある作戦の失敗により、機関を追放される。
一話目では14歳、2話目以降開始時17歳予定である。
昼の能力
不明
夜の能力
ボイステレポート(意識性、操作型)
音声を距離に関係なくピンポイントに届ける能力。
効果範囲は視界内
- 53 :
- 投下終了です。予告だけして全然書けてなかったので、
リハビリがてら久しぶりに書きました。
次は……やっぱり遅くなると思います。
- 54 :
- 投下乙です
しょっぱなから急展開にビックリ
続き待ってます
- 55 :
- 作品おもしろかったっすよ。
投下乙です。
謎の女の子が気になります。
- 56 :
- 久しぶりの投下乙です!
予告以来ずっと気になってましたよw
いきなり急展開ですね。続きも期待してます
さて、ちょっとした小ネタを投下しようと思います
- 57 :
- 白夜「ついに、ついにこの時が来たのね(うきうき)」
楓「? なになに?」
白夜「永かった……本当に永かったわ……。何度も諦めそうになったけれど……たまには我慢ってしてみるものね(うきうき)」
楓「ねーねーどしたの?」
白夜「さてタイトルは何がいいかしらね……」
楓「むむ〜ガン無視。こら! 邪気眼厨二! 人の話聞きなさい!」
白夜「ひ! ……な、何よ。フロイライン楓じゃない。いきなり大きな声で驚かせないでちょうだい」
楓「最初っからいましたけど。ところで白夜、何をうきうきしてるの?」
白夜「え? あら……わ、わかるの? 今日の私の上機嫌ぶりが。表に出しているつもりはないのだけど」
楓「丸出しですやん! ウチの存在が目に入ってないほどきゃぴるんで独り言言ってましたやん!」
白夜「きゃ、きゃぴるん!? この白夜がきゃぴるんしていたですって!?」
楓「それはもう。「ついにこの時がきたのね(キラッ)」って目から星を散らすかの如く」
白夜「……」
楓「さらには「たまには我慢ってしてみるものね。神様ありがとう♪ 大好きです///」的な。そんな痛乙女的なノリで」
白夜「一部に凄まじい捏造がまぎれている気がするわ」
楓「気のせいだし。ほんとに言ってたし。まそれはウチ的にはどうでもよくてさ。真面目な話どうしてそんなうきうきしてるの?」
白夜「やっぱりふざけてたんじゃない。ま、いいわ。そうね、楓にも関わりのある話かもしれないし、説明してあげましょう」
楓「ウチにも関係ある? なんだろー」
白夜「実はね……ドクトルJ主役の話がようやくめでたく終わりを迎えたのよ」
楓「……? ふ、ふーんそうなの(ドクトルJ……って誰? なんか聞いたことある気もするけど……不審な名前ね)」
白夜「そう、そうなのよ。さて、そこで、よ!」
楓「わ! いきなり大きい声出さないでよね! さっき自分で言ってたくせに」
白夜「こほん。柄にもなく興奮してしまったわ。ごめんなさい。さて、そこで、よ」
楓「ふむ」
白夜「ドクトルJ亡き後、当然次なる物語が紡がれるはず。そしてその主役にこの白夜が選ばれるのは創造主の定めし絶対不変の真理」
楓「ほう(……え? ドクトルJは死んじゃったの? さっき白夜「めでたく」って言ったよね? そっか、やっぱり悪い人だったのね……!)」
白夜「そもそも、最初からドクトルJよりこの白夜のほうが主役向きの設定のはずなのよ」
楓「へー(主役向きじゃない……確かに悪い人ってあんまり主役向きじゃないよね。白夜が主役でもロクな話にならなそうだけど)」
白夜「創造主もようやく気付いたのでしょうね。さて、どんな話になるのかしら。楽しみだわ」
- 58 :
- 楓「なるほどー。そりゃ確かにうきうきもするねー。あそうだ。さっき白夜もやってたけど、タイトルの予想でもしよっか」
白夜「いいわね。胸が躍るわ」
楓「白夜らしさで考えると……『じゃきがん!』とか。『じゃき☆がん』あるいは『じゃきがんっ』でも可」
白夜「不可」
楓「これしかないってくらいぴったりなのに。じゃーね……『朝宮遥のゆううt』」
白夜「仮の名前な上に別の何かに似すぎている気がするから却下」
楓「せめて最後まで言わせてよ……じゃーね……『厨二女と叛逆男』。お、これイイ感じ」
白夜「どこがよ。またパクリだしそもそもそれ主人公叛逆男のほうじゃない。却下よ」
楓「厳しいよー。じゃーねもうこれで最後ね……『白夜は友達が少ない』! これで決まり(ドヤッ)!」
白夜「貴女がアニメ好きだということだけはよくわかったわ。とりあえずその虚しさが募るだけのドヤ顔を早く引っ込めなさい」
楓「事実友達少ないよね? 事実を元にして書いたほうがやっぱり面白いでしょ。『この物語は全て事実です』の注意書き付きww」
白夜「…………(グスン)」
楓「あ……ご、ごめん。調子に乗っちゃって」
白夜「い、いいのよ。どうせ事実なんだから。友達と呼べる友達なんて10人くらいしかいないわよ」
楓「10人いるんだ……普通にいるじゃん」
白夜「そんなのはどうだっていいのよ! もう、タイトルなんてこの際なんでもいいわ。私が主人公の話が紡がれるというだけd」
??「あのさ、白夜ちゃん?」
白夜「ひ! こ、この声は……まさか……!」
??「ひ! な、なんでそんな驚いてるの!? こっちがびっくりしちゃったよ」
楓「いきなりなんかでっかいオジさん現る! 白夜、この人誰?」
白夜「ど、ドクトルJ貴方……至福と安息の園へと還ったのではなかったの!?」
楓「ひ! これがドクトルJ!? 悪い人!? のお化け!? ってことは怨霊!? きゅ〜(パタリ)」
ドクトルJ「あ、え? あれ? ちょ君、大丈夫? 失神しちゃった。なんでだろ白夜ちゃん」
白夜「亡者が何の前触れも挨拶もなく突然現れたのだから失神くらいするでしょう」
ドクトルJ「いや私亡者じゃないし。ちゃんと足あるでしょ。それに亡者はわざわざ挨拶しないと思うよ」
白夜「で、何用かしらドクトルJ。いえ、違ったわね。”前”主人公さん? ”次期”主人公たるこの白夜に何用かしら」
ドクトルJ「切り替え早いねさすが。そうそう、そのことなんだけどね」
白夜「”次期”主人公のことかしら? あ、まさかドクトルJ、懲りずにまだ主人公の座に居座ろうとでも企んで、この白夜を……」
ドクトルJ「いやいや、私はもう引退だよ。そうじゃなくて、次の話の主人公さんだけど……」
白夜「ええ。この私ね」
- 59 :
- ドクトルJ「ああ、それがね……もんのすごーく言いづらいんだけどね」
白夜「?」
ドクトルJ「白夜ちゃんは知らないかもしれないけど、『見つめ合うと砂になるからお喋りできない』って話が既にあってね」
白夜「……」
ドクトルJ「私の話が終わったから、今度はそっちに注力するらしいんだ」
白夜「…………」
ドクトルJ「まあさらに言うと、助手くんが主人公の話なんてのもあるらしいんだけどね。生意気なことに」
白夜「………………」
ドクトルJ「だからまあその……ほら、なんだ」
白夜「私が主役の話はなかったこと。宵闇の彼方に葬り去られたってわけね」
ドクトルJ「う、うんまあ……なかったことって言うかもともとそんな予定もなかったんだろうって言うか……」
白夜「そう。ありがとうドクトルJ。わざわざそれを教えるために、負傷をおしてまで来てくれたのね」
ドクトルJ「あ、いやまあ、その……元気出しなよ(遥ちゃんがしおらしい……逆に怖い)」
白夜「いいのよ、気を使わないで。余計に虚しくなってしまうわ。ねぇ、ドクトルJ……」
ドクトルJ「う、うん。どうしたの?」
白夜「……なんだか急にお腹が空いたわ。ハンバーグが食べたいわね」
ドクトルJ「はは。わかったよ(なんだかんだでかわいいとこあるよね。幸薄いし。ギャグキャラ化してきてるし)」
白夜「お腹下すまでヤケ食いしたい気分だわ」
ドクトルJ「あのぅ……私の甚だ厳しい財政事情も考えつつヤケ食いしてね? 頼むよ? ほんっと頼むよ?」
楓「ウチもついて行くわよ! 一緒にお腹下すまでヤケ食いしてあげるわよ!」
ドクトルJ「蘇生してる! しかも厚かましいな! さすが白夜ちゃんのお友達。じゃ私もヤケ食いするか。お腹下さない程度に」
楓「それにいいじゃない白夜! こうしてウチとコンビで小ネタやってるんだし」
白夜「……確かに、小ネタだって立派に作品だものね」
楓「そうよ! この小ネタではウチらが主役よ! だから元気出して! 顔を上げて! 前を向くのよ!」
ドクトルJ「あっつ。修造みたいだ。いい友達だね白夜ちゃん。彼女と一緒に小ネタの女王を目指してみたらいいんじゃないかな」
白夜(小ネタの女王って……響きが負け組っぽく感じるのは私だけかしら……)
というわけで、ちょっとした宣伝も兼ねた小ネタでした。実際白夜はもう小ネタで頑張ってもらおうと思いますw
楓ちゃんかなり勝手に使ってて、すっかりキャラ変わってるかも…小ネタなので勘弁してもらえると助かります
- 60 :
- 『俺の白夜がこんなに可愛いわけがない』っ!
…どっちかというと黒猫役がピッタリすぎるけど
- 61 :
- それは真っ先に考えたけどあえて避けたというのにw
- 62 :
- >>41
完結お疲れ様です。ハッピーエンドで良かったw
アヤメさん&シルスクが流石に強いですね。
見詰め合うと…の続きも期待していますが、白夜主人公の小説も是非読んでみたいですねw
>>27
ちょwwひどいww
流石akutaさんww
>>53
ゴーストが圧倒ですか。
題名からして、この少女がただならぬ力を持っていそうですが……
続き期待してます。
それと個人的な事なのですが、諸事情により大分留守にしてしまってすみませんでした。
私は旧◆IulaH19/JYで新◆zKOIEX229Eです。
リリィ編の方を書け次第投下させていただこうと思っているので、よろしくお願いします。
- 63 :
- どうも、ハイパーお久しぶりです。ファイア&スモーク書いた人ですはい。
顔を出すのは1スレ目以来なので、現在浦島太郎の気分を味わいまくってますw イラストもSSもかなり増えましたねー。小春と幸助を使っていただいて、非常に嬉しいですw
……と、前置きはこのへんにしといて。
最近創発トナメや創発の野望を見てて、久々にこっちで何か書きたくなったので、できれば近いうちに投下しようと思ってます。
一応wikiに目を通して設定などを確認していますが、設定ミスを犯さない自信がないので、あまりにもひどいミスがあったらつっついてください、喘ぎます。
それでは、今回はこのへんでー。
- 64 :
- おおーwktk
- 65 :
- あ、ちょいと質問があるんですが。
バ課連中のコードのネーミングって、規則とかってあります?
- 66 :
- 無いよ
ただ同じ人が作った所は同じ付け方をしてる…かも?
- 67 :
- 特に規則はなかったと思った。
一応傾向をみると、能力にもとづいたコードネームが多いかな?
- 68 :
- 返答ありがとうございますw
よしゃー、これで色々書けるぞぉー。
- 69 :
- おお、人が帰ってきてくれる…こんなに嬉しいことはない
これからまたよろしくお願いします
さて投下します
二本立て?です
- 70 :
- 白夜「まったく、何故この白夜がこんな役回りを……とんだ道化じゃない」
白夜「なんて愚痴を言い募っても虚しいだけね。今日は楓もいないし……」
白夜「……一人ぼっち」
白夜「べ、別にどうということもないわ。夜の闇を祓うという特別にして崇高な使命を背負ったこの身には、本来孤独こそ相応しいのよ」
白夜「相応しいのよ」
白夜「…………」
白夜「もう! さっさと終わらせるわ!」
白夜「この白夜が主役の物語を押しのけて侵攻、じゃなく進行している物語『見つめ合うと砂になるからお喋りできない』」
白夜「あまりに久しぶりすぎて、前回までの話を忘れている人もいるのではないか……ほらそこの貴方とか!(ビシィ)」
白夜「安心なさい。そんな貴方のために、この白夜が前回までのあらすじを語りつくしてあげるわ」
白夜「まるまる2レスほど使う予定よ……え? 長過ぎる? もっとコンパクトにまとめろ? 我がままね。虫酸が走るわ」
白夜「まあ2レスは言いすぎたわね。さて前フリなのになんだかすでに疲れてきたから、そろそろ始めるわ」
主人公、伊達豪輝(だてごうき)はそれはそれは人相の悪い高校2年生。その人相の悪さから肩身の狭い思いをしながらも、
彼は日々慎ましく懸命に生きていたわ。彼はチェンジリング・デイから10年が経った今でも能力の発現がない無能力者だった。
2年生に上がってしばらくしたある日、中学校からの付き合いで数少ない友人の一人、寿々代夏海(すずしろなつみ)と一緒に
下校することに。この寿々代夏海さん、なかなかの美少女だそうよ。そんな美少女に汚らわしく浅ましい妄想を抱きつつ伊達豪
輝は、学校の最寄り駅まで……え? 何? 事実と違うことは言うな? はいはいごめんなさい。「汚らわしく浅ましい妄想を抱
きつつ」の部分は白夜なりの脚色ということで流してちょうだい。
えっと、どこまでいったかしら……あ、学校の最寄り駅まで一緒に帰ったの。夏海さんと別れた後、伊達豪輝は少し寄り道。
そこで彼は不良に絡まれる子羊を見つけ、悪人ヅラのくせして正義漢ぶって助けに入ってしまうの。よせばいいのに。案の定窮
地に陥った伊達豪輝だったけれど、その窮地の中でついに彼の昼の能力が覚醒。彼の昼の能力は『人を砂に変える力』。またの
名を『砂塵の邪眼【ゴルゴン・アイ】』。後者はもちろん、この白夜命名よ。
思ってるより長くなってきたから、一気にはしょるわ。その日迷える子羊伊達豪輝は一睡もせずに夜を明かし、翌日。ご両親
に能力のことを打ち明け、賢明なお父様のおかげで能力の発動条件を絞ることができ、遅刻しながらものこのこと学校へ。能力
専門の病院にでも行けばいいと思うのだけど、それはきっとこの後の展開次第ね。
人気のない学校の下足室で、彼は見るも麗しい巾着袋を拾ってしまうの。寿々代夏海さんの協力で落し物預かり所へと出向い
た彼は、そこでこの世のものとは思えない天女のような美少女と、恐れ多くも正面から衝突し、あろうことか尻もちをつかせて
しまう! ほんとこの悪人ヅラはどこに目をつけて何を考えて歩いていたのかしら。破滅と救済の音色を気がふれるまで聞かせ
てあげたいわ。物腰柔らかくいかにも高貴なお嬢様といった雰囲気のその少女。浅ましくもその少女の匂いをクンカクンカして
いるところで、前回の話は終わっているわ。
何よこの男。じゃないの。なんでこんなのが主人公なのよ。それよりこの白夜のほうがよっぽど――――
- 71 :
- 四時間目の現国をいつもより6割増しくらいの真面目さを演出しながらこなし、お待ちかね……ってほどでも
ない昼休みとなった。ちなみになぜいつもより真面目に授業を受けたかと言えば、あくまでやむを得ない事情で
遅刻しただけであり、決してダルいからフケていたとかいうヤンキーじみた理由ではないってことをことさらにクラスメ
イトたちにアピールしておくためだ、ということをここであえて強調しておく。
さて本当なら昼休みに入るやいなや夏海をとっ捕まえて、俺のこの危険な能力についての話でも聞かせてやろうと
思っていたんだが……あやつめもう教室からいなくなってやがんの。まああいつのことだ。きっと学食の数量限定ラ
ンチメニューをゲットするために廊下を全力で駆け回り、運悪く先生に見つかって説教をかっ喰らい、数量限定ラン
チメニューにはありつけずにしょっぱい飯でも食うことになるんだろう。
まあそもそも普段から一緒に昼飯を食ってる間柄でもないんだった。仮に追っかけて「夏海、ちょっと用があるん
だ。昼飯、一緒に食べないか(キリッ)」なんて爽やかに言ってみたところで、「いやあたし美香と一緒に食べるし(ツン)」
とかすげなく返されてパァになるだけな気がする。……自分で言っといて切ないなこれ。絶対やだなこれ。
できればあいつには早いうちに話をしておきたいと思う。中学の時から、あいつとはいつだって目を見て話せた。
ころころと変わる感情豊かでわかりやすいその表情を楽しみながらお喋りしてきた。それはもう、過去の話になって
しまうのかもしれない。それは寂しいし辛いことだけど、それを隠したままでいられるわけもない。不自然に目を逸らす
俺を見れば、いくら夏海だっておかしいと思うだろう。
ただでさえ、俺と目を合わせて話をしてくれる人間は少ない。もともと少ないんだから、それがさらに減ってしまった
ところで大したことでもないんじゃないかと、さっきの授業中にこっそり考えたりもした。
そんなわけなかった。少ないからこそ、今いる人たちは貴重なんだ。大切なんだ。そんなことはわかりきってるって……
それなのに本当に、本当になんなんだよ能力って……
「おい豪輝。どうしたんだそんな芸人みたいな顔してボーッとして。ほら、さっさと弁当食べようぜ」
俺自慢の坊主頭が無造作に撫でまわされる微妙に気持ちいい感覚と同時に、正面から声がした。断りもなく人の頭を撫でる
この無礼者が言うとおり、相当ボーッとしてたんだろう。こんな近くに野郎が立ってたことに声をかけられるまで全っ然気付
かなかった。
「おい、マジで大丈夫か? 遅刻してきてたし、どっか具合悪いのか?」
まだボーッとしてる俺にさらに声。さていいタイミングなんで、この気遣いに溢れた、最近の男子高校生としてはよく
できた部類に入るイケメンを紹介しておこう。といっても所詮野郎なんで、かなりはしょることにする。
名前、島津龍一(しまづりゅういち)。一年の時からのクラスメイトで、数少ない俺の友達の一人。外見性格ともに
イケメン、だがとある事情によりまるでモテない。そう、まるでモテない。イケメンのくせしてプッ。宝の持ち腐れププッ。
以上紹介終わり。
「…………なあ豪輝。なんか今お前の表情にものすごい悪意が見えたんだけど。気のせいかな」
「おいおい気のせいだよ何言ってんだかこのイケメンは。ほら飯食おうぜ。俺もう腹ぺこぺこだし」
島津を横目に、弁当を持って歩きだす。天気もいいし、屋上にでも行きたい。そんな気分だ。
今日こいつで4人目だ。母さん、父さん、夏海、そしてこの島津。俺が目を見て話せる存在だった人たち。話ができる
ことに変わりはない。それでも、相手の目を見られない。表情がわからない。たったそれだけのことなのに、たったそれ
だけのことで、なんだか遠くに感じてしまう。そんな風に感じるのは、結局俺のほうだけなのかな。相手も同じように感
じてるのかな。もしそうならなんか安心できる……ような気もするけど、やっぱり嫌かな……
まあとにかく、いい機会だ。夏海は捕まらなかったけど、いずれはこいつにも説明しておくつもりだったわけだし。昼飯
を囲みながら、俺のこのはた迷惑な能力について語ってやることにしよう。
- 72 :
- で、屋上。昼飯を食いながら、俺は恐る恐るといった体で昨日の話を切り出し、一部始終を話して聞かせた。その間
も俺は島津の顔を見られなかったから、こいつがどんな顔で聞いていたかはわからないけど、なんとなくこいつの視線が
俺の顔に向けられていることはずっと感じていた。飯を食う手も止めていたみたいだった。しっかりと、真面目に聞いてく
れてるんだと思えた。
「へっへぇ。そんなことがあったのか。豪輝もようやく能力開眼ってわけだ」
「さっぱり嬉しくないけどな。もう誰とも目合わせられないんだぜ俺」
「まいいんじゃないか? 豪輝と3秒間目を合わせられる人間ってそうそういないだろ」
「お前もそういうことを言うか……」
で結局こういう流れになる。朝母さんにも言われてきたんだよそれは。もう少しヒネるかオブラートに包みなさいって。
しかしまるで反論なんてできないのが悲しいところ。
「まあでも、そういうことだったのな。なんか今日のお前いつになく挙動不審だと思ってたけどさ」
「挙動不審にもなるって。お前とか夏海なんかはちゃんと俺の目見てくれるだろ。俺が気抜いてそんなお前らと目合わせ
ちゃったら、お前ら砂になっちゃうんだぞ? 俺のせいでさ」
「つっても、別にあっという間に全身砂になっちゃうわけでもないんだろ?」
「そりゃそうなんだけどな。やっぱりやだよ。怖いだろうが」
怖い。何が怖いかって言えばそれはいろいろだ。目の前で人が砂になる。まして親しい友達が、数少ない友達が砂になる。
そしてそんなことになったら、もうその友達も他の連中のように俺を避けるようになるかもしれない。本当に一人になって
しまうかもしれない。そういう怖さだ。どこまでいっても自己中でしかない、内向きで情けない怖さだ。
「んなあ、豪輝」
俺の中で渦巻く恐れと不安を知るわけもない非モテイケメン島津は、鼻につくかつかないかギリギリラインの爽やかボイス
でそう短く呼んできた。視線をこいつの学ランの第2ボタンあたりに落ち着ける。
「ちょっと僕の目を見てくれ。こいつをどう思う」
「すごく、パッチリです……じゃなくて。お前俺の話聞いてた?」
「もちろん話は聞いた。でもさ、僕は自分の目で見ないと信用しない面倒な性格だから。お前の能力、ちゃんと見せてくれよ」
どんなツラしてこんなこと言ってんだこいつは。自分でも言ってるがほんと面倒な奴だな。俺ができる限り発動させまいと
必死に避けてきたことを、今自ら進んでやれとぬかしてる。ふざけて言ってるんだとしたら正直、無神経すぎる。ぶん殴りた
いくらいに他人への配慮が足りない子だ。もう少し道徳の授業を真面目に受けろと言いたい。
でもだ。視界の隅にチラつくこいつの顔にあるのは、悪ふざけをしている時の表情じゃない。テスト勉強を一緒にした時
みたいな、真面目で隙のない顔だ。こいつはこいつなりに真剣に、俺のこの危険な能力を自分に味わわせろと言ってるんだ。
意味はわかりかねた。でも、やらなきゃいけない気がした。
- 73 :
- 「……3秒目合わせたら、手足が変な感じになると思う。それ感じたらすぐに目逸らせよ」
「うん、わかった」
大きく頷いた。顔を見ていない俺にもはっきりわかるよう、そうしてくれたんだと思う。少し呼吸を整えてから、ゆっくり
と、島津の学ランの第2ボタンから上へと視線を上げていく。口、そしてむかっ腹が立つほどシュッとした高い鼻を通過して、
目的地へ。パッチリ二重なイケメン仕様の目元で、きっかり3秒間留まる。3秒なんて何を考える暇もない。あっという間に、
予定調和の異変は訪れた。
「うわっ! うわっ! 手が! 足が!」
と島津が騒ぎ始めた頃には、もう手足は元通りに再生していた。再生できるってところは、この能力の唯一と言っていい
救いだと思う。再生できる原理はさっぱりわからんけど、それを言ったらそもそも砂になる原理からしてわからんし。投げや
りすぎるって? 投げやりにもなるだろ頼みもしないのに突然こんな迷惑な能力与えられたらさ。考える気にもなれない。
「ふうー、再生した。よかったよかった。でも、確かに砂になったな」
「信じるか?」
「そりゃもちろん! なっかなか面倒な能力だよなぁ」
手を握ったり開いたり、肩をぐるんぐるんと回したりしながら、なぜか弾んだ声でのたまう島津。なんか今日はこいつ、
いまいち掴めないな。こんなわかりにくい奴だったっけかな。
「なあ島津。お前、怖くないのかよこの能力」
「怖い? なんで?」
「いやだって砂になるんだぞ? 実際今なっただろうが」
露骨に首をかしげる島津。これもまた、顔を見られない俺にはっきりわかるようにそうしてくれているんだと思う。改め
て言っとくけど、こいつは普通にいい奴だ。このタイミングで首をかしげるという行為に及ぶ理由はまるで不明ではあるけど。
「僕はむしろ安心したんだけど。豪輝の話は全部本当だってわかったからさ。3秒目を合わせたって全身砂になるわけじゃ
ないし、砂になったって元に戻れる。何も怖がる要素ないよ」
のんきな口調でそう言って、爽やかに笑った。
こいつにとってはなんでもない言葉だったかもしれない。でもそれは俺にとっては、今何よりも言ってもらいたい言葉だっ
たのかもしれない。怖くなんてない。避けることもない。女々しいとは思うけど、誰かにそう言って欲しかった。
軽く泣きそうになったので、ちょっと予防線を張っておくことにした。
「ふん。少しは怖がれっての。とにかく、万一ってこともあるから、今日からは基本ノールックトークな。なんならもう話
しかけてくんな」
……ちょっとのつもりが、俺ったらどうしてこう必要以上に分厚い予防線張っちゃうんだろう。最後の一言は明らかにいら
なかっただろうが。
この露骨で強烈な予防線を前に、島津はクスリと苦笑してから、
「わかったよ」
とそっけなく答えて俺の不安と絶望ゲージを振り切れるほどマキシマムまで高めた後、
「面倒で迷惑な能力を持つ奴同士、改めて仲良くやってこう」
と続けてくれたもんだから、俺は本当にいい友達を持ったんだなと、感激の大波が北斎の浮世絵のように豪快に押し寄せてきた。
と同時に、できればそういうことは「わかったよ」で妙な間を取らなくていいから一気に言い切って欲しかった、と軽くイラッ
としたことは一生の秘密にしておこうと思った。
つづく
- 74 :
- 投下終わりです
忘れてるだろうということであらすじでも書こうと思ったけど普通に書いても
つまらんかと思ってこんなのにしました
というわけで今度はこの物語にお付き合いください
- 75 :
- 投下乙
白夜ちゃんかわいいのう
そしてイケメンはマジイケメン
- 76 :
- >>74
投下乙ですよー。
白夜かわいいよ白夜。描きたいけどゴスロリ描けないよゴスロリ。
砂になっても、戻れるならまだちょっと安心ですねw
- 77 :
- 真面目な能力考えるのって、意外と難しいですねー。
- 78 :
- 某スレのロリコン筆頭が久々にこっちで書くと聞いて飛んできました
- 79 :
- ※ただしセクハラするのは合法ロリに限る。
- 80 :
- 時雨さんにセクハラですねわかります
- 81 :
- 無茶しやがって…
- 82 :
- 外見年令12歳+三つ編みとかもう凶器だね! これはもうぬわーっ!
- 83 :
- 死んだか……
時雨さんはまだ絵になってないから描けばいいじゃない
- 84 :
- これ以上私に仕事を増やせというのか全然いいけど!
作者さんに無断で勝手に描いちゃっていいんですかぬ?
- 85 :
- そのへんは作者さんに聞いてくださいとしか言えない
- 86 :
- デスヨネー。
- 87 :
- >>84
私はいっこうに構わん!
って言うか描いてもらえるならめっちゃ喜びますw
- 88 :
- >>87
構わないんですか! やったー!
あ、でも一応本人確認のために酉出していただけねーでしょうか?
- 89 :
- 本人確認てのもおかしなようなww
無断でも何でも、よっぽど悪意のある作品でもない限り
描いてもらって嬉しくない作者なんていないと思うけど。
- 90 :
- >>88
酉出しー。最近あまり書いてないから微妙に出しづらかったりw
89さんもいってるように、好きに描いてもらえればいいんじゃないかと思います。
少なくとも自分は喜びますw
- 91 :
- いやぁ、とりあえず念には念をってことでw
>>90
ありがとうございます!
SSが一段落したら描きますね!
フフフ……三つ編みロリババァ……素晴らしい……。
- 92 :
- いやっほー! 時雨さんじゅうにさい、楽しみだなぁ……
- 93 :
- どっちで区切っても割と正しいから困るw
- 94 :
- そんな上手くないから、期待しないで待っててね!
>>93
言われてみれば、確かにそうですねw
- 95 :
- つか創発はロリババァ好きが多すぎるw
- 96 :
- ロリババァはロマンですしおすしw
- 97 :
- 創発で洗脳されました
- 98 :
- ロリババァと聞いて
- 99 :
- ロリババァもいいけど、ババァと言う程でもないくらいの年令の合法ロリもいいものよ!
19とか23とか!
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