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2012年4月FF・ドラクエ226: ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv1 (346)
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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv1
- 1 :12/04/04 〜 最終レス :12/04/28
- ドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようというリレー小説企画です。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。
※キャラの予約制あり。
予約をする際は捨てトリで構わないのでトリップを付け、使用するキャラを全て明記して下記のスレで予約してください。
DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/
予約期間3日で、予約の書き込みから72時間が経過すると予約解除として扱います。
「予約キャンセル」等、予約に関することは他の書き手さんが検索しやすいように必ず「予約」の文字を入れてください。
もし投下作品に不安があるのなら、総合掲示板の「投下SS一時置き場」でアドバイスを受けてください。
また、規制などで本スレに書き込めない場合も一時置き場をご利用ください。
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/
前スレ
ドラゴンクエスト・バトルロワイアル Lv11
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1294627098/
【避難所】 DQBR総合掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/game/30317/
まとめWiki
http://w.livedoor.jp/dqbr2/
- 2 :
- ----基本ルール----
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
----放送について----
スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。
----「首輪」と禁止エリアについて----
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
- 3 :
- --スタート時の持ち物--
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
--制限について--
身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
しかしステータス異常回復は普通に行えます。
その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。
※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
名前欄:タイトル(?/?)
本文:内容
本文の最後に・・・
【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【座標/場所/時間】
【キャラクター名】
[状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
[装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
[道具]:キャラクターがザックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
[思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
以下、人数分。
※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
- 4 :
- 【作中での時間表記】
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
例
【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】
【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:な下着 ガーターベルト
[道具]:な本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
- 5 :
- 代理投下します。
- 6 :
-
思考する。
あの老人が何の目的でこの殺し合いを開いたのか?
人類に向けての復讐?
己の力を見せつけるため?
自分が世界を掌握する上で邪魔な要素を取り除くため?
目的が復讐だったと考えても、限定的な一部の人間を集めて殺し合わせることが一部に対する復讐だとは思えない。
そもそも自分を含め個人を連れ去る力があるのだから、その個人を連れ去って自分で好きなようにすればいい。
人類全体だとかに恨みがあるならもっと大勢の人間を誘拐して殺し合わせ、苦痛を与えればいい。
己の力を見せ付けるのならば、こんな回りくどいことしなくても町の一つや二つを壊滅させるだとか、もっと効率的な方法があるはず。
突然誘拐して首輪を付けられるほどの力を持っているのに、「殺し合い」というコトを強要させることが彼女には理解できなかった。
嘗て、ピサロは人類全てを狩り尽そうとした。
強欲な人間達にロザリーをいいように扱われ、挙句殺され。
進化の秘宝に手を出すほどの恨みを、ピサロは人類に抱いていた。
だが、そのきっかけを作ったのは他でもなくピサロの配下であるエビルプリーストであった。
それを知った上で、真実を突き詰めるために世界樹の花でロザリーを蘇らせた。
計略によって殺され、最愛の人を魔王として利用された彼女が一番の被害者なのだから。
そこからピサロの誤解を解き、共に諸悪の根源を叩いた。
と、自分が経験してきたことに関して言えば、敵味方を問わずに理由はハッキリしていたのだ。
それに比べて、今回は敵側の意図、目的が全く読めないのだ。
彼女の頭の中にはそのもやもやがずっと残っている。
何かをする上で「理由」というのは必ず付きまとってくる。
今までの自分の行動もそうだし、知り合った者もそうだった。
故郷が襲われた理由。
天空の勇者が自分でなければいけない理由。
ピサロたち魔族が人間を恨む理由。
そう、全ての事柄には「理由」がある。
じゃあ、あの老人がこんな回りくどいことまでして殺し合いを行う「理由」とは?
「だーーーーーー!! わからーーーーーーーーん!!」
ふんわりとした緑髪が特徴的な彼女、ソフィアはずっと頭を抱え込んで考えていた。
しかし、何時まで考え込んでも答えは出てきやしない。
ならば、今までどおりに自分から動きその真意を探ればいい。
自分の故郷が襲われた理由、ピサロが人間を恨む理由、その原因を作ったやつの行動理由。
全て自分で突き詰めてみせればいい。
「っしゃ! 考えるのは性に合わん! まずはあのオッサンをぶっとばす!! そんでから何でか聞き出す!」
「ほう、随分と威勢がいいな」
頬を叩き喝を入れて動き出そうとした瞬間に、背後から突然声がする。
瞬間的に戦闘の構えを取り、声の方へと振向く。
「まあ、落ち着いて私の話を聞け。私に闘うつもりは無い……お前があの老人と敵対するつもりならな」
振向いた先にいた魔族の男は、静かにソフィアへと話しかけ始めた。
- 7 :
-
「ってーと、そのシドーってのを復活させるためにこの殺し合いからさっさと抜け出したいわけだ? えーっと……」
「ハーゴンだ。偉大なるシドー様の復活の舞台は揃っている。そのためにもこんな場所で油を売っている暇はないのだ」
ハーゴンと名乗る男は、静かにソフィアへと語りかけた。
自分がシドーという破壊神を蘇らせようとしていること、その復活をロトの血筋が止めようとしていること。
自分と、魔族全体の野望を包み隠さずソフィアに話した。
「ふーん……その、ハーちゃんがやろうとしてる復活の儀式ってのは、ここじゃ出来ねえのか?」
「ハー……まあいい、確かに生贄もこの場なら容易に調達できる。出来んことは無いがな。
この場でシドー様を呼び出したとして、こんな世界を支配しても意味がないのだ。
シドー様が破壊し、納めるべき世界はあのロトの血筋たちが支配する世界で無ければいかん」
妙な名前を付けられたことに対し眉を潜めるが、冷静にハーゴンは質問に対する回答を返す。
「……止めぬのか?」
「ん? 何で?」
次はハーゴンがソフィアへと問いかける。
問いかけを受けたソフィアは疑問の表情のまま崩れない。
「貴様は人間だろう、何故人間を滅ぼそうとしている私を止めぬ?」
「だって、今はそうじゃねーじゃん?」
ハーゴンの問いかけに、真顔で返答をするソフィア。
呆気に取られたような表情を浮かべるハーゴンに対し、ソフィアは言葉を続ける。
「人間を滅ぼしたい理由は分かったけど、それ今関係ねーじゃん?
ハーちゃんはこっから抜け出してーってことはさ、つまりあのオッサンたちに何かしら一泡吹かせたいと思ってるわけだろ?
あたしも、こんなん考えてるオッサンたちになんか仕返ししてやりてーしさ」
「この世界を抜け出して元の世界に戻れば、私は貴様の住む場所まで破壊しようとしているのだぞ?」
「そん時は、あたしがぶっ飛ばすしからいい。
元の世界に帰ってからの話よりさ、今どうすっかの方が大事だろ?
で、今アタシもハーちゃんもこの殺し合いをどーにかしたいと思ってる。
ならアタシには今ケンカを売る理由なんて無いんだよ」
ハーゴンの口から思わず笑みが零れる。
目の前にいる将来の敵がいたとしても、現状が味方ならそれでいい。そんなこと、考えすらしなかった。
自分も人間を恨んでいるし、人も自分達を恨んでいるものだと思っていた。
「今、お互いそうしたいと思う「理由」がある。それだけで充分だって」
さて……決まりだろ? 改めてよろしくな。ハーちゃん」
人間が、自分に向けて手を差し出している。
今まで、こんなことが起こるだなんて微塵も考えなかった。
「あんな大声で独り言を呟いていた辺りから只者ではないと思っていたが……予想以上だったな。
しかしその呼び名は何とかならんのか、ソフィアよ」
呼び名に対し渋い表情を浮かべ、ハーゴンはソフィアの手を取る。
「いいだろ? 呼びやすいしさ。ハーゴンってなんかこう、ボって感じがしてヤなんだよ」
「……まあいいだろう、ところで具体的な策や戦術はあるのか?」
沈黙。
先ほどまであれだけ喋っていたソフィアの口が重く閉ざされる。
溜息を一つついてから、ハーゴンが口を開く。
「……もう一度、お互いの情報を整理するところから始めるか」
「わ、わりいな」
- 8 :
-
世界を一度救った者、世界を滅ぼそうとしていたもの。
相容れることは無いであろう二人はこうして、そして力をあわせることにした。
その先に待つ事を憂いたりすることなど、取らぬ狸の皮算用に過ぎない。
まずは、今を切り抜けることが大事なのだから。
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。まずは情報整理。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く脱出する。まずは情報整理。ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。
- 9 :
- 終了。
続いて代理投下。
- 10 :
- >>1
乙です!
- 11 :
-
「んんっ! よしっ!」
ピシャリと、乾いた音が二つ鳴る。
いい感じに肉のついた頬を叩いて、これから為すべきことを考える。
殺し合いに積極的に参加して、他人を?
どこか隅っこに隠れて、ガタガタ震えながらひたすらこの悪夢が覚めるのを待つ?
それとも、鋼の意志を持って正義の道を往く?
セントシュタイン城下町在住の女の子リッカはそのどれも選ばない。
無理に決まっているではないか。
どうやって武器も持ったことのない女の子が、殺し合いを進んでやろうという気になれるのだ。
リッカの支給品には武器の類が一つも入ってない。
つまり、デスタムーアとその配下に、この肉体ひとつで戦えと言われたに等しい。
そんなこと言われてもリッカは全力で却下する訳だ。
こんな小さな握りこぶし一つでは、相手を100回殴っても殺せはしないだろう。相手が虫でもない限り。
さらに、あの大魔王デスタムーアの見せつけた強大な力も、リッカには逆効果だった。
チャモロの放ったバギクロス、つまり真空系呪文の中でも最大級の威力を持つ呪文をくらっても、顔色一つ変えぬあの対魔力の強さ。
リッカが一人で生き残るためには、ああいう強力な呪文を使う魔法使いとも戦わねばならないのだ。
重ねて言うが、リッカは普通の女の子である。
ある一点を除けば、そこいらにいる同じ年頃の娘と何一つ変わらない、平々凡々な少女である。
あの時、王に与えられたとある試練も、仲間がいなければどうなっていたことやら。
そして、今リッカに装備できるものは何一つない。
この時点でリッカの取り得るスタンスの候補の中から、殺戮の二文字は消えてなくなる。
仲間を殺して生き残るということも選べはしない。
それはリッカにとっても幸運なことだった。
もしも、誰にでも使えて、かつどんな敵でも瞬時に殺せるような超兵器を持っていれば、考えは変わったかもしれない。
今のような考えに至らず、無思慮で浅はかな行動に出たかもしれない。
自分が命を踏みにじっている光景を想像するだけで背筋が凍りそうだ。
「私がここでもできることなんて、これしかないわよね……」
思わず声に出してしまったのは、自分に言い聞かせるために無意識に漏れたものか。
彼女が殺し合いを否定したのは強靭な精神力ではなく、その肉体の弱さを自覚してるが為という部分が大きく占める。
つい、とリッカの指が地図の上を走り、いくつかの場所を通った。
「北にある城、東にある町、南西にある町。 あとは温泉っと。 候補はこんなところかな」
行き先の候補は四つ。
彼女が他の一般人と違う点があるとすればただ一点のみ。
リッカという存在を成す根幹、言わばリッカをリッカを足らしめるアイデンティティが普通の人とは違う。
「うん。 泣く子も黙る宿王として、やれることをするしかないわ!」
そう、彼女はこの年にして、城下町の超一流宿屋を切り盛りする少女。
つい先日、宿王グランプリの覇者になり、親子揃って宿王の称号を得たのである。
- 12 :
-
宿屋、それは食事を用意して布団を敷くだけが仕事ではない。
宿王の経営する宿屋ともなれば、最高のサービス、最高のおもてなしが客を待っているのだ。
泊まる部屋には埃の一つもなく、ふかふかのお布団と枕はどんなにクッタクタに疲れた日でも、一晩眠れば体力は完全に回復する。
その時お客が食べたいと思ったものを、宿屋としての経験と勘でさりげなく用意する。
そして、帰るときにはどんな客も満面の笑顔になり、また来るよと言ってくれるのだ。
そんな客の笑顔を見るために、リッカは昨日も一昨日も、ずっと働いていた。
ルイーダやロクサーヌと今日も一日大変だったねと、労いの言葉を掛け合うために生きている。
「私ができるのは、みんなが休める最高の宿屋をこの世界でも用意すること!」
決意を口にしていると、不思議と気分も高揚してくる。
リッカがするべきなのは戦うことではなく、信じること。
戦いに疲れた戦士たちの休息の場を作り、羽を伸ばして休んでもらうことだ。
ルイーダもあのウォルロ村で出会った不思議な少女も、戦いの道を選んでいるだろう。
ならば、生きて帰ってくれると信じて、リッカだけにしかやれないことをすべきだ。
あの人らがただいまと言える場所を、安心して眠れるベッドを用意するのが自分の使命。
それは現実逃避と言うのかもしれない。
魔王の言う殺し合いには乗らずに、自分が今までやってきたことをここでも同じようにするだけ。
日常を再現し、あたかも何事もないかのように振る舞う。
けれど、現実から逃避するのがいけないのだろうか。
現実を直視するとは、魔王の言うままに命の重さを知ろうともせずに、殺しをすることなのだろうか。
だったら、リッカは現実なんか見なくていいと思う。
魔王の言いなりになるくらいなら、いくらでも日常というなの夢を見続けている方を選ぶ。
「それじゃあ、出発!」
そう決意したリッカの足に迷いはない。
町や集落についたら、やることはたくさんある。
まずはもちろん宿屋を探すこと、宿屋を探したら掃除をする。
掃除をしたら、今度は寝具の準備だ。 シーツはもちろん、シワ一つないような綺麗なものに取り換える。
その次は調理器具の点検だ。 使えるものは何か、使えない物は何か、念入りに調べる必要がある。
食材については心配無用だ。
彼女に支給されたのは色とりどりの食材の宝庫。
霜降り肉にプラチナクッキー、スライムまんなるスライムを模した中華まん。
それに黒胡椒などの香辛料から、竜の火酒など細やかな部分にまで手が届く充実っぷり。
山海の珍味も、珍しい果物も、地方の名産水など、一人では到底食べきれないほどの量がある。
このザックの中にぎっしり詰まった食べ物を、どう調理するか今から頭の中で考える。
しかし、これだけ未知の食材を目の前にすると、好奇心が抑えきれない。
とりあえず飲み物なら調理の必要はないから、いくつかある中から一つを選ぶことにしてみた。
ウォルロの名水など、知ってるものから知らない物まで様々にあるではないか。
ザックから取り出した青色の瓶に入った清涼飲料水なるものの蓋を開け、グイッと飲んでみる。
- 13 :
-
「……うわ」
まず第一声がそれだった。 マナーが悪いのでしなかったが、一瞬吐き出すことさえ考えた。
なんというか、口当たりが悪い。
おまけに苦味とも渋みとも判断のつかない得も言われぬ味が口内に広がり、とても不快な気持ちになる。
滋養強壮のための飲み物ならまだ納得もいくが、何故だか知らないがダメージさえ負った気分になった。
10種類のハーブがどうのこうと書かれているが、正直混ぜすぎた結果このような珍妙不可思議な味になったとしか思えない。
まああれだ。 これはハズレ商品というか、こういう飲み物も有難がって飲む好事家もいるということだろう。
そう思ってポーションと書かれた瓶を捨て、リッカは歩き出すのであった。
【D-5/森林/朝】
【リッカ@DQ9】
[状態]:HP 9/10
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧 支給品一式
[思考]:宿屋を探す
※ポーション@現実 は捨てられました
【ポーション@現実】
2006年にサン○リーから発売された清涼飲料水。
体力が回復するという謳い文句だったが、あまりの不味さにダメージを回復するどころかダメージを受けると言われた。
FF? 何それ美味しいんですか?
- 14 :
- 代理しゅうりょーです。
3作ともボリュームあってちかれた……。
意外なスタンスを取るローレシア王子と影の騎士。
マーダー候補と思われたハーゴンとソフィアの邂逅。
宿王リッカのこれからの活躍が楽しみです。
- 15 :
- 前スレでは代理投下ありがとうございました。
もしかしたら書き込めるかもしれないので、書き込めたら投下をはじめます
- 16 :
- 「『モシャス』」
桃髪の少女が呪文を唱えると、たちまち彼女は別の少女に姿を変えた。
カールのかかったふわふわの緑髪。
動きやすいからと好んで着用していた、ちょっときわどいレオタード。
鏡の中には、心に深く刻んだ、妹のように思っていた幼馴染の姿がそのまま映っている。
「やっぱり、そうよね。なら、どうして私は生きているの?」
この姿で感じた、村を焼き燃え盛る炎の熱さは、突き刺さる剣の痛みは、ちゃんと覚えている。
あの日あの場所で、少女――シンシアは、伝説の勇者に成り代わって倒れたはずだった。
「まあ、助かったことは素直に嬉しいけれど、殺し合いだなんて……」
「うわあ、別の人になっちゃった!」
シンシアがため息をつきながら呪文を解除すると、とつぜん背後から声がした。
彼女は思考を打ち切りそちらを振り向くと、蒼髪の少年が扉の隙間からこちらを覗いていた。
見つかったことに慌てた少年は、ぱたぱたと手を振りながら弁解し始める。
「ごめんなさい、覗きたかったわけじゃないんです!
たまたま二階から降りてきたら、こちらのほうから人の気配がして。
そうしたら、鏡の前のおねーさんがいきなり違う人になって、それで……」
「大丈夫よ、私のほうこそ驚かせてごめんなさい。よかったら、こっちにおいで」
手招きを受けた少年は、満面の笑顔で扉を開くと、シンシアの側へと座った。
レックスと名乗った少年は、殺し合いなんかしたくないと力強く答えた。
シンシアもそれに安心し、同行の約束を交わすのに時間はかからなかった。
しかし不安を隠せぬシンシアに、レックスはしばしかける言葉を悩み、そして。
「大丈夫だよ、おねーさんはぼくが守る! なんたって僕は『伝説の勇者』なんだから!」
「……えっ?」
それまで微笑みを絶やさなかったシンシアの動きが、ぴたりと止まった。
何かまずいことを言っただろうかと、レックスの表情が曇る。
「勇者……この子が? ううん、この子『も』……?
そんなはずない、でも、嘘だとも思えない……。
もしそうだとしたら、私たちの今まではなんだったっていうの……?」
「どうしたの、おねーさん!」
突然、うわ言を呟きはじめたシンシアの肩を、レックスは思わず揺さぶる。
そうして我に返ったシンシアは、一転して表情に悲しみを湛えて呟いた。
「レックスくん、私の話を、聞いてくれる……?」
- 17 :
-
○
シンシアは語りはじめる。
伝説の勇者となるべき一人の少女を、魔族から匿う為にはじまった山奥での生活のこと。
いつしかその目的を忘れ、まるで姉妹のように過ごした幸せな日々のこと。
やがて魔族に見つかり、凄惨な虐殺がはじまったこと。
せめて彼女だけは生かそうと、モシャスを用いて身代わりとなり、その身を差し出そうとしたこと。
少女へと変化した自身の背にかけられた、声にならない彼女の叫びが耳から離れないこと。
抵抗むなしく力尽きようとする中で、最期に聞いた魔族たちの歓喜の咆哮のこと。
「伝説の勇者がほかにも居たのなら、私はあの子を一人にしないで済んだのかな……?」
話し終えるころ、シンシアは泣いていた。
レックスもまたその瞳に大粒の涙を溢れさせていて。
「ひどいよ、幸せに暮らす人たちを、家族を! かってに引き裂いて……!
勇者の血が、なんだっていうんだ!」
レックスとて、他人事ではない話であった。
祖父は、魔物に攫われた祖母を救うため、勇者を探す旅にその人生の全てを捧げ、果てたという。
父はそれを引き継ぎ、やはりその人生の何もかもを犠牲にし続けていた。
自身もまた、血脈を恐れた魔族の策略によって、生まれた直後から両親との長きに渡る別離を経験している。
伝説の剣を振るう彼に、再会を果たした父の見せた、あのいくつもの感情がない交ぜになった表情は未だ忘れられずにいる。
勇者と呼ばれる存在が他に居るという話は、レックスにとっても衝撃的ではあった。
けれど今はそれよりも、その存在が結局は悲劇を招いていることが、何よりレックスには辛かった。
勇者の血脈は、それだけの多くの犠牲を払うほどに価値があるものなのか?
ただ平穏に暮らすことすらも、許されないものなのだろうか?
やるせない想いを涙を共に掃って、レックスは思いを込めて宣言した。
「会いに行こうよ、おねーさん。もう一人のおねーさんに!
ぼくたちは、みんなで幸せにならなきゃいけないんだ!」
「ありがとう……」
シンシアには、レックスの気持ちが嬉しかった。
レックスは、家族ほぼ全員がこの殺し合いに巻き込まれている。
情報交換の際、名簿から父と母と妹とを次々に紹介され、シンシアは言葉を失った。
友達だという魔物の写真を見せられたときには、さすがに少々面食らいはしたが、なんにせよ、彼女よりずっと厳しく辛い状況に置かれているはずなのだ。
- 18 :
- ましてやこの殺し合いには、彼女の村を襲った魔族の王――ピサロも参加している。
レックスの家族が安全である保障は、どこにもない。
今この瞬間にも、誰かが殺されている可能性だってある。
なのに彼は、こうして明るくシンシアを励ましてくれている。
どうしてと、その手を取った瞬間にすぐに間違いに気付いた。
握った手は、小さく震えていた。
不安でないはずがなかった。
明るく振舞うことで、強くあろうとすることで、彼は自身の不安を押し潰そうとしていただけ。
レックスの精一杯のつよがりに気付いたとき、シンシアの目には決意の火が灯っていた。
「もう大丈夫、一緒に家族を探しましょう」
「うん! いこう、おねーさん!」
照れ笑いを浮かべるレックスを見つめて、シンシアは想う。
彼が私を守ってくれるというのなら、私も彼を守ってあげようと。
彼があの子と――ソフィアと同じ伝説の勇者であるというのなら、なおのこと。
そう、例えこの身を再び犠牲にすることになってでも――。
【E-8/欲望の街 豪邸/朝】
【レックス@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:家族との合流 おねーさん(シンシア)を守る
【シンシア@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:ソフィアとの再会 レックスを守る ピサロは……?
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
- 19 :
- 投下終了です。
モシャスのルールはこんな感じで大丈夫ですかね?
- 20 :
- ドラゴン、ハッサン、男魔法使い
投下します
- 21 :
-
男は怒っていた。
男は猛っていた。
男は荒れ狂っていた。
男の名はハッサン。パイナップルのような髪型をした、筋骨隆々の大男。
簡素なベストに身を包み、むき出しになった二の腕や腹、太腿には、鋼のように鍛え上げられた筋肉を纏う。
その、暴力的ながらどこか官能的ですらある筋肉の束が脈動する。
総身が震える。心臓が早鐘を打つ。沸騰した血液が体中を駆け巡る。
ハッサンの鼓動を際限なく早めているもの……その名は怒り。
共に世界を巡り、苦楽を分かち合い、死線を潜り、笑い合い、旅路の果てに勝利と平和を勝ち取った、血よりも堅い絆で結ばれた友が、殺された。
チャモロ。
世俗と縁を断った村でひたすらに神の教を学び、魔王を討伐する苦難の旅に参加した少年。
生真面目でお固い性格で、ハッサンの下品な冗談をよく眉を顰めては窘めてきた。知識も広く、学のないハッサンや親友の王子に講釈を垂れては無知を嘆く。
時には感性で行動するハッサンと意見が対立することもあった。だがそれらを不快に思ったことはない。むしろ楽しかったと言っていい。
彼の言葉に嘘はなく、仲間を思い平和を願う気持ちもまた人一倍強かった。だからこそ年若くとも対等の友として信頼でき、共に戦場を駆け抜けられたのだ。
その、チャモロが、まるで虫を潰すかのように殺された。あっけなく。あっさりと。無常にも。
ハッサンは……ただ、見ていただけだった。手を伸ばせばそこに彼はいたのに。
滅びたはずの魔王に気圧され、チャモロのように反旗を翻すこともなく。
結果として、手を出さずにいたことは正解だった。あの時牙を剥いていたらハッサンもまたチャモロの後を追っていただけだっただろう。
それでも、何もしなかったことには変わりない。行動せず、チャモロの死をただ傍観していただけだという事実は動かない。
だからこそ、怒る。
だからこそ、猛る。
だからこそ、荒れ狂う。
許せないのは誰か。それは自分自身だ。
もちろん元凶たる魔王だって許せはしない。蘇ったのならもう一度滅ぼすと心に決めている。
だが、それでも……そんなことをしても、もうチャモロは戻っては来ない。
もしかしたらあの一瞬、自分がチャモロを静止していれば……結果は違っていたかも知れないのだ。
チャモロを殺したのはデスタムーアだ。だがチャモロをみすみす死なせたのは、他ならないハッサン自身。
許せない。許さない。俺は、恐れに呑まれた俺自身を許さない!
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおーっっっ!」
- 22 :
-
チャモロはいいやつだった。
口うるさいが仲間思いで、悪を憎み、困っている人間に手を差し伸べずにはいられない、そんなやつだった。
何より……まだたったの十五歳だったのだ。
未来があった。
やりたいこともまだまだたくさんあっただろう。もう五年もすればハッサンの身長だって追い抜いたかもしれない。
旅の中ではパーティの女性陣にそれぞれ相手がいたこともあり浮いた話こそなかったが、世界を救った英雄とあっては引く手は数多あっただろう。
無限の可能性があった。
何者にでもなれる。どこへだって行ける。いつかは父親になったかもしれない。
そんな未来は、可能性は、一瞬で奪われた。
「ゆ、許さん……」
もう取り戻せないなら。もう、その手を掴むことができないのなら。
生きているハッサンが、逝ってしまったチャモロに報いてやれるとしたら。
「絶対に……絶対に許さんぞ! 貴様らああぁぁーっ!!」
この手でチャモロの仇を取る。彼の遺志を継ぎ、死ぬ必要のない者を誰一人死なせず、魔王を討つ。
それが義務だ。チャモロを死なせた自分への、それが罰だ。
咆哮と共にハッサンは走り出す。どこへ行くかなど考えもせず。
涙が滂沱として流るる。が、頬を濡らす前に後方へと吹き散る。大の男が一人、泣きながら全力で駆けていく。
ここで涙は枯れてしまえばいい。今必要なのは友を思って泣く悲しみではなく、友の無念を受け継ぎ力へと変える闘志だ。
「チャモローっ! 見ていろよっー! 絶対に、仇を、取って、やるからなーっ!」
走りながら叫んでいるので息も絶え絶えだ。
それでも、胸に溜まった重苦しい物を、一時でも忘れるために叫ぶ。
「俺はーっ! 絶対にーっ! お前のーっ! 仇をとうわぁ!」
あまりにも頭に血が登っていたため、足元がお留守になっていた。木の根に躓き、ハッサンは盛大にすっ転ぶ。
ゴロゴロと転がっていき、大木に激突。思わず息が詰まる。
「は、はあっ、はあっ……! ごほっ!」
脱力し四肢を投げ出す。手足が重い。心臓が破れそうだ。身体が酸素を欲している。
叫ぶ者がいなくなれば、森は静寂に満たされる。ただ自身の荒々しい呼吸音だけが耳にうるさく響く。
- 23 :
-
「はあ……」
何をやっているんだ、と自責する念と、ひとまずは落ち着け、という自制の念がせめぎ合う。
熱は未だ冷めやらない。だが、今はそれを発散する相手がいない。
これでは駄目だ。もっと冷静になれ。クールに。
深く息を吸う。吐き出す。何度も何度も。
呼吸が落ち着けば、思考も自然とクールダウンする。
周囲を見れば、現在地は見覚えのある暗い森林だとわかる。この光景は知っている。
かつて冒険した魔王の世界だ。現在地は島のほぼ中央、森の中だろうと推測もつく。
ハッサンはむくりと起き上がると、手近な木へと近づきするすると登っていく。道具を必要としないのは大工の面目躍如だ。
一際背の高い木の天辺で周囲を見渡してみれば、やはり想像通りの位置に街がある。
この世界を攻略する際に拠点とした絶望の街だ。後に、希望の街へと名を変えたが。
「そう、だな……絶望だけじゃないんだ。希望はある」
ハッサンは思い出す。デスタムーアへ最初に反応したのは他でもない親友だった。
少なくとも一人ではない。この場にはハッサンだけではなく、親友のレイドックの王子もいる。
勇者として一行を率いていた彼と合流すれば、魔王とて二度打ち破れるに違いない。
彼がどこにいるのかはわからないが、とりあえず人の集まる街へ行って誰かと接触する。それがまずやるべきことだ。
頭は冷えた。地へ降り立ち、いざ街へと向かおうとしたところ……轟音が鳴り響く。
反射的に身構えたハッサンの全身を、次いで吹きかけてきた熱風が叩く。
火傷をするほどではない。どこか遠く離れた所で起きた爆風が、距離を減ることで弱まったのだと歴戦の経験は看破した。
音の響いてきた方向、風が吹いてきた方へとハッサンは駆ける。
もう、戦いは始まっている……!
- 24 :
- ■
数分走ってたどり着いたのは、森の中にポッカリと空いた広場だ。
だが、めらめらと炎上する木や中途でへし折られた大木を一瞥すればそこが元々森の一部だったことは明らか。
その中心、この異変の発生源に目をやれば、緑色の巨大なトカゲ……ドラゴンが、牛でさえ丸呑みにできそうな巨大な口腔を開き紅蓮の炎を吐き出すところだった。
ドラゴンと相対するは、ハッサンの逞しい肉体と比べるべくもない貧相な体つきのローブの人物。
まずいと走り出すハッサンに気づかず、その人物は手にした杖を掲げる。
「マヒャド!」
人物……皺がれた声からして老人か、その老人から強力な魔力が迸る。
魔力は原子を急速にマイナス方向へ振動させ、熱エネルギーを低下……大気中にいくつもの氷槍を生み出した。
ドラゴンの吐き出す炎の息と氷槍が激突し、もうもうたる水蒸気が立ち込める。
竜が小癪な人間に怒りの咆哮を上げ、丸太のような前足を振り上げる。あれで老人を押し潰そうというのか。
ヒャド系の最上位呪文を放った老人は、次の動きに移るのがワンテンポ遅れる。とても頑健とは言えない魔法使いの肉体は、一瞬で木っ端微塵にされるだろう。
その未来を覆すため……ハッサンは疾風のように戦場へと飛び込んだ。
「させるかよぉぉおおおおおっ!」
「何っ……!?」
「爺さん! 下がれ!」
全身の筋肉へ血流が行き渡る。燃料を得た筋肉たちは歓喜の声を上げ、赤く、太く、自らを弾けさせる。
前後にハッサンを挟む老人とドラゴンの目には、ハッサンのシルエットが一回り大きくなった……と見えたに違いない。
躍動する筋肉。燃え上がる闘志。
その合奏は、人の身でありながら捕食者たるドラゴンの一撃を受け止める。
「おおおおっ……!」
チャモロを殺された怒りを思い出せ。
何も出来なかった己を恥じろ。
その全てを力に変えて、悪を討て!
倒すべき敵をハッサンは得た。意志と、力の方向性が今一つになった。
ならばこそ……全力全開、全速前進。漲る力がハッサンを駆り立てる。
ハッサンの全身の筋肉に血管が浮き出る。恐れを知らぬドラゴンが、小さき人の膂力に押されつつある状況を理解できぬと目を瞬かせた。
後ろで老人が息を飲む音が聞こえた。それすらも心地いい。
「燃え上がれ、俺の魂……!」
深く、腰を沈める。
全身の力を腰へと集約させ、ドラゴンの巨体を引っ張る。
腕力だけではない、全身を使った、これこそ渾身の……
- 25 :
-
「……ぬううううぅぅぅぅりゃぁぁあああああっ!」
絶叫と共に、溜めに溜めた力を爆発させる。
ハッサンが極めた職業は武闘家と、戦士。そして上級職たるバトルマスター。
彼が修めた技の一つ……武闘家の基本にして、されど強力無比なるこれこそまさに。
ともえなげ!
「……!?!?!?!?!?!?」
ドラゴンは宙を舞う。翼なき身であれば空を飛ぶことなどできないのは自明の理。
ならばなぜ今、己は飛んでいるのか?
その答えは、遙か下方で己を見上げている人間の仕業だと納得するほかなかっただろう。
「爺さん! 今だ!」
ドラゴンを投げ飛ばしたハッサンは、さすがに力を使い果たしたか膝をつく。
絶好の機会なれど追撃の余裕はない。だが、それはあくまでハッサンに限ったこと。
十分に魔力を練る時間を稼いだ魔法使いの老人にとっては、宙を舞う翼持たぬドラゴンなどまな板の上の鯉と同義だ。
「若いの、やるじゃないか。わしも負けてられんな……!」
老人が両の手を打ち合わせると、循環した魔力がスパークし閃光を生み出す。
強力すぎて目の前にドラゴンがいる状況ではとても使えなかった呪文だが、今なら別だ。
「唸れ、轟音……!」
解放の時を迎えた魔力が爆ぜた。それはまさに地から天へと立ち昇る雷鳴――
「……イオナズン!」
空を、閃光が染め上げる。
先ほどとは比べ物にならない轟音がハッサンの耳を貫いた。
- 26 :
-
「……ぬううううぅぅぅぅりゃぁぁあああああっ!」
絶叫と共に、溜めに溜めた力を爆発させる。
ハッサンが極めた職業は武闘家と、戦士。そして上級職たるバトルマスター。
彼が修めた技の一つ……武闘家の基本にして、されど強力無比なるこれこそまさに。
ともえなげ!
「……!?!?!?!?!?!?」
ドラゴンは宙を舞う。翼なき身であれば空を飛ぶことなどできないのは自明の理。
ならばなぜ今、己は飛んでいるのか?
その答えは、遙か下方で己を見上げている人間の仕業だと納得するほかなかっただろう。
「爺さん! 今だ!」
ドラゴンを投げ飛ばしたハッサンは、さすがに力を使い果たしたか膝をつく。
絶好の機会なれど追撃の余裕はない。だが、それはあくまでハッサンに限ったこと。
十分に魔力を練る時間を稼いだ魔法使いの老人にとっては、宙を舞う翼持たぬドラゴンなどまな板の上の鯉と同義だ。
「若いの、やるじゃないか。わしも負けてられんな……!」
老人が両の手を打ち合わせると、循環した魔力がスパークし閃光を生み出す。
強力すぎて目の前にドラゴンがいる状況ではとても使えなかった呪文だが、今なら別だ。
「唸れ、轟音……!」
解放の時を迎えた魔力が爆ぜた。それはまさに地から天へと立ち昇る雷鳴――
「……イオナズン!」
空を、閃光が染め上げる。
先ほどとは比べ物にならない轟音がハッサンの耳を貫いた。
- 27 :
-
■
「……仕留め損なったな」
老人はそう、呟いた。
戦闘を終え、巨大な竜の影が見えなくなった頃、ハッサンは桁外れに強力な魔法を放った老人と改めて対面していた。
「あれでか?」
「手応えがなかった。深手は負わせただろうが、死んじゃおるめえ」
油断なく天を睨んでいた老人は、やがてふっと息を吐いた。
「まあ、追い払うことはできたんだ。助かったぜ、若いの」
「俺はハッサンだ」
ハッサンが差し伸べた手を、老人はしげしげと見つめた。
すっかり白くなった顎髭を弄び、ハッサンに問う。
「どういうつもりだ?」
「あんた、すげえ魔法使いだな。あんたが仲間になってくれれば、俺も心強いぜ」
「仲間、ね。わしを仲間にしてどうするんだ?」
「決まってる。あの魔王……デスタムーアをぶっ潰すのさ!」
力を発散したとは言え、ハッサンのまだ熱は冷めやらない。
いや、老人と協力してドラゴンを打ち破ったからこそさらに燃え上がったとも言える。
あの凶暴そうなドラゴンと単身で互角に戦っていたのだ、この老人がいれば魔王打倒へも一歩も二歩も近づくだろう。ハッサンは確信していた。
「ふむ……魔王を、か。まさかまたこんなことになるたあな……」
「何だよ、前にも魔王と戦ったことがあるって口振りだな」
「まあな。ま、いいだろう。よろしくな、ハッサン」
す、と老人はハッサンの手を取った。
承諾を受け、ハッサンは快活に笑ってその手を握り返す。
「あだだっ! 痛いじゃろうがこの馬鹿力め!」
「あ、すまん!」
余りの握力の強さに老人が顔を歪め、慌ててハッサンは手を解く。
- 28 :
- 書き込めるようになったみたいですね。失礼しました
- 29 :
-
解こうとした。
「すまん、か……それはこっちのセリフだぜ、ハッサンよ」
「え?」
どういう意味、と問おうとした口が開かない。
ハッサンと繋いだ老人の右手。
その反対、左手はハッサンの胸元に添えられている……
「な、ん……で?」
ハッサンの胸元に生えた、ナイフの柄を握っている。
よろよろと後ずさるハッサンを突き飛ばし、老人は地面に置いていた杖を拾い上げ、言う。
「すまんな、ハッサン……メラゾーマ」
杖の先から生まれた豪火は、ハッサンの差し伸べた血塗れの手を焼き、肩を焼き、全身を飲み込んだ。
声もなく……ハッサンは、消し炭となる。
あっけなく。あっさりと。無常にも。虫を潰すように。
ハッサンはチャモロと同じ所へ逝った。
「ふう……まずは、一人」
老人は汗を拭う。
気づかれやしないかヒヤヒヤものだった。
まともにやれば、ドラゴンをぶん投げるようなバケモノとやりあえるはずはない。
ハッサンがお人好しでよかったというところだ。
「もう一度言うぜ、すまねえなハッサン。俺ぁな、どうしてもやらなきゃいけねぇことがあるんだよ」
手近な石に腰を下ろす。
彼の脳裏に浮かぶのは、魔王でもハッサンでも勇者でもない、たった一人。
共に旅をし、勇者を支えた仲間の一人……賢者の存在である。
魔王バラモスを滅ぼし、その上の存在である大魔王ゾーマもまた滅びた。
まはや世界を覆う影はない。
ならば、彼はこれからどこに行けばいいのだ?
数十年も練り上げ続けた魔法の業を、誰に対して振るえばいいというのか。
もはや強大な魔物はいない。全て勇者一行が狩り尽くしてしまった。
力をぶつけるべき相手がいないまま、ゆっくりと朽ち果てていく……
- 30 :
-
そんなことは、お断りだ。
いる。いるのだ、たった一人。
魔王すらも滅ぼしうる己の魔に、たった一人並び立てる者が。
賢者。賢き者。
魔法使いと僧侶、両方の技を極めたもの。
何度も何度も彼と共に呪文を放ち、敵を蹴散らしてきたあの女なら。
たった一人、己と対等であると認める、あの女なら。
「なあ、確かめようぜ。俺とお前と……どっちが本当の、本当に最強の“まほうつかい”なのかを、よ」
魔王を滅ぼすなど、どうでもいい。たとえあのデスタムーアがどれほど強大だったとして、この渇望を超えられはしない。
もう、賢者しか見えない。
そのために邪魔になるのなら、たとえ勇者とて……老いた魔法使いは歩き出す。
天秤の片割れ、究極と対になる至高を求めて。
【ハッサン@ドラゴンクエスト6 死亡】
- 31 :
-
【E-4/森林/朝】
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康、MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:女賢者と決着をつける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
【???/???/朝】
【ドラゴン@DQ1】
[状態]:全身にダメージ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:!?!?!?
※ドラゴンがどこに飛んでいったかは後続の書き手にお任せします。
投下終了です
タイトルは「あなたしか見えない」
>>28
いえ、宣言してから再投下すればよかったですね
こちらこそ申し訳ない。それとありがとうございます
- 32 :
- 投下します。
- 33 :
-
気がつくと自分は、ギロチン台の上にいた。
自分の置かれている状況に気づいて、トロデーンの近衛隊長・エイトは当然ながら困惑した。
身体は縄のようなもので手も足もぐるぐるに固定されて、身動きをとることがかなわない。
そして仰向けにされた自分の首の真上、むき出しになったギロチンの刃が圧倒的な質量と存在感を持って、エイトの目の前に立ちはだかっている。
今にも己の首を断たんとするかのようなその存在の恐ろしさに、歴戦の勇士と呼べる彼でも思わず直視できずに目をそらし、そしてなお、その視界に飛び込んだものにエイトは目を瞠る。
「あれ、起きちゃったのね」
赤い、そう血のように赤い髪をまとめたポニーテールが、小さな後頭部でぴょこりと跳ねた。
声だけを聞くならその様子はとても朗らかで、だがあまりに異常なこの現状において、彼は狂気すら感じて息を呑む。
「君は……」
「覚えてない? さっきまで、いっしょにお喋りしてたじゃない」
「……バー、バラ?」
「よかったぁ、覚えててくれたんだ。エイト」
そんなとても正常とは呼べない会話で、エイトはふと思い返した。この悪意にまみれた殺し合いの世界に放り込まれ、ほどなくして初めて出会った赤毛の少女。それがこの目の前のバーバラだった。
心細そうに、それでいて思い詰めた様子でたたずむ不思議な少女に話しかけた。彼女は、あの強大な魔物、デスタムーアを知っていると言うので、話を聞いた。……聞いていたはずなのに、なぜか途中からの記憶が無い。
しかし二人しかいない今、この現状が意味するところは一つしかなかった。彼女が自分をこの状況に陥れたということ、今のエイトには他の答えなど到底見つけられそうにない。
「……騙したのかい?」
「もう、人聞きが悪いなぁ」
少女はあどけない笑みを浮かべ、困ったように首をかしげる。
「あたしは、みんなを救いたいだけなんだ」
「それで、僕を気絶させて、ギロチンにかけるっていうのか」
「気絶じゃないよ、眠らせただけ。あたしがあげたお花、覚えてる? あれは『ゆめみのはな』って言って、ラリホーとかと同じ効果があるんだって」
「そういうことを聞きたいんじゃないんだよ」
「……ねぇ、エイト。あたし、どこまで話してたっけ? 確か、夢の世界の話のことは、してたと思うんだけど」
ころころと表情が変わる、年相応の少女の姿と声に、エイトは違和感を深く強めながらも、頷いた。
- 34 :
- 「人の夢を具現化した世界があった。そこではまた、人々は現実の世界と違う人生を営んでいた、って」
「そう。そして、それを成し遂げていたのが、あのデスタムーアなの。奴は人々の夢を振り回して、絶望や欲望に満ちた自分の世界に閉じ込めようとした。許されることじゃないわ」
「そう、か……それなら、それならなおさら、奴の言いなりになっていてはだめだろう! 殺し合いなんて……」
「うん、そうだね。あいつらならきっとそう言うね。前のあたしもきっとそう言ったと思う。でも、だめなの。だめなんだ」
ふっと、少女の笑顔に陰りが生まれる。それはエイトがこの少女に出会ったとき初めて見た愁いと同じものだ。
「たまごは割れたのに……希望の未来は、生まれたはずだったのに……奴は、蘇ってしまったのよ」
「たま、ご?」
「ゼニス城でたまごが孵って、生まれたものがなんだったのか、あたし覚えてないの。気がついたらあの広間で、目の前にはまた、デスタムーアがいた……あのグレイス城で見たように、あたしたちは終わらない悪夢の中にいるのかもしれないわ」
「ゼニス……グレイス……? バーバラ、君はいったい……」
己が首に浮かぶギロチンのことも忘れ、エイトは懸命に首に身を乗り出そうとするが、俯いた彼女の表情を伺うことは叶わなかった。
「……ううん。こんなの、きっと夢ですらない。夢も現実もごちゃまぜにして、人の心を閉じ込めた、ただの牢獄でしかない。だけど、これが……たまごから生まれた、あたしたちの未来だったなら」
歌うように紡がれる少女の言葉は、最早エイトの方へと発されてはいなかった。ただ血なまぐさい空へと溶けて、冷たい風とともに霧散する。
「生きて夢を見る限り、人は絶望や欲望にまみれた狭間の世界を、生み出してしまうのかも、しれない」
「君は、どうしたいんだ……? どうするつもりだ?」
遮るようにして発されたエイトの問いかけに、しかし責めるようなまなざしを向けるでもなく、バーバラは優しく笑いかける。
「言ったでしょ。あたしはみんなを救いたい。人の心がなんどもなんども踏みにじられるのを、終わりにしたい」
「それは……」
「最初に救ってあげる。エイト。あたしの魔法力で、からだが死んだ後も、夢の世界で生きるようにしてあげる」
エイトの背筋を悪寒が、せきとめられていた土石流があふれだすように、一気に駆け出した。
- 35 :
-
- 36 :
-
- 37 :
- 「わかったんだ。カルベローナはそのために、夢の世界で生きる人の心を守るために、あの世界で生き続けた」
「……バーバラ」
「ちょうどいいよね。そうやって、あの部屋にいたみんなのことも救ってあげて、そしたらこの世界では『優勝』になるんでしょ? ついでにデスタムーアも倒しちゃえばいいんだよ」
「バーバラ、聞いて」
「そうして、全部なくなっちゃえば……あとは夢の世界で、みんなも幸せに暮らしていけば」
「バーバラ……ッ!!」
エイトが掠れる声を必死で絞り出すと、夢見るような口調で一人語り続けていたバーバラは、きょとんとした顔でエイトのほうへと向き直る。
――違う、違う。エイトは歯噛みする。こんなつくりものの表情に、少女の本心は映し出されていない。
隠しきれないほどの愁いを、どうすることもできない絶望を抱えたバーバラのほんとうの願いはいま、こんな夢物語のなかに宿ってはいないはず。
「だめだ……そんなことをしては、だめだ」
「エイト?」
下手なことを言えば、飛ぶのは自分の首だ。あの部屋で見た首輪の爆発とは違う、もっと直接的なギロチンの刃という狂気に断たれて、生きた首を落とされてしまうのだろう。だがそれでも、目の前で苦しむ少女を放っておくことは、エイトにはできなかった。
彼女の心に声を届けるべく、必死に声を選び、振り絞る。
「人は……人は、生きているからこそ、夢を見るんだろう? 君のはなしが本当だったとして、夢の世界というものがあったとしても、根底にあるのはきっと、人の『命』だ。生きていこうとする力だよ」
「……いの、ち」
「そんなに簡単に諦めちゃだめだ。君はそんなことを望んではいない。現実世界で、君の仲間や、愛するひとたちと生きていくことが、君の本当の希望だったはずだ。そんな風にして見る夢こそが、ほんとうに幸せなものなんじゃないのか!」
ギロチンの恐怖に震える中で、どうか届けと必死に振り絞ったゆうき。
しかし、はじめは呆けたように聞いていたバーバラは、やがて再び哀しげに眉をゆがめる。
「……叶わない。そんなこと、叶わない」
「でも」
「知ったようなこと言わないで。現実に生きていくなんて……『命』なんて。あたしには、あたしにはそんなの、はじめから無かったの!!」
激昂する様子とは裏腹に、少女の小さな手が、おぼつかない様子で静かにギロチンに伸びていく。
- 38 :
- 全身を早鐘のようにめぐる血の脈動が、息をすることも困難なほどに駆け回り、エイトに命の警鐘を知らせていた。
「やめ、ろ……やめるんだ」
「今はわかってもらえない。あいつも、みんなも、あたしが裏切ったってきっと思う。けど、それでもいいの。たまごから生まれた未来を知っているのはあたしだけだから」
「君は、きみ、は、」
「エイトは、少しだけあいつに似てるね。この手で救えて、うれしいよ」
「バ……あ、あ……」
「うれしいから……あたしの本当の名前、教えてあげるね」
ギロチンの刃の傍らで、血と同じ色の髪を垂らした少女は、静かに微笑む。
「あたしは、大魔女バーバラ」
彼女の髪の色と同じ色が、断末魔の絶叫とともに、水溜りのように彼女の足下を覆っていく。
牢獄の町が、すこしの狂気に包まれた。
「魔女バーバレラの血を受け継ぐ者よ」
【A-4/牢獄の町 処刑場/午前】
【エイト(DQ8主人公)@DQ8 死亡】
【残り55人】
【バーバラ@DQ6】
[状態]:健康(HP満タン)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 ゆめみのはなセット(残り9個) かわのムチ
エイトの不明支給品(0〜2)
[思考]:参加者を自分の手で殺害 優勝してデスタムーアを倒す 絶望
※ED直後からの参戦です
- 39 :
-
- 40 :
- 投下乙です
初代では生還したエイトがいきなり脱落か……バーバラこええ
戦って負けるではなく、ギロチンで処刑されるとか背筋がゾクッとした
- 41 :
- お二方投下乙です!
ヤバイ、ヤバイ、ヤンデレチックなキャラが二人も現れやがったぞ! 一人じいさんだけど!
順序がやや入れ替わる形になりますが、代理投下しておきたいと思います
- 42 :
- 全ては終わったはずだった。
同盟国だったムーンブルクの陥落をきっかけに行われた邪教の教祖であるハーゴンの討伐。
それが僕の……僕たちロトの血を引く勇者たちの旅の目的だった。
魔物に脅かされた世界の平和を取り戻す為に。滅ぼされたムーンブルクの民の無念を晴らす為に。
サマルトリアとローレシアの陥落を防ぐ為に。
でも僕にはそんなのどうでもよかったんだ。
僕が生まれたサマルトリアの国。ロトの子孫が作った国。
それなりに活気に溢れていて国民にも十分な温情が与えられている。
ごくありふれてどこにでもあるような一般的な国だと思う。
ロトの勇者への狂信を除けばだけど。
そんな国に僕は長男、王位を継ぐものとしてこの世に生を受け、いずれは王の座を継ぐものとして僕は様々な英才教育を施された。
帝王学、魔術、剣術、マナー……数えきれないくらいに学ばされた。
その過程で僕はどの分野もそつなくこなすことができ、周りからはすごく期待されたものだ。
魔術も使え剣術もできる理想の英雄。
それが幼少の僕の肩書きだった。
そんな肩書きは、すぐに無くなってしまうのだけれど。
十歳になる頃だったかな。
他の子孫――ローレシアとムーンブルクで生まれたロトの子孫は元々備えていた才能をメキメキと発揮させているという噂が流れたのだ。
ローレシアの王子は剣術、ムーンブルクの王女は魔術。その分野で頂点をとれる才覚だという話を僕は聞いた。
そして、その話を聞いて父上は僕に今までの稽古以上を求めてきた。
きっと、悔しかったのだろう。他の子孫がロトの子孫として英傑の一歩を歩み始めているのに――――僕には何もなかったから。
当時の僕は剣術、魔術……両方の才能がなかったのかイマイチ伸びなかっただったのだ。
かと言って政治、芸術に秀でていた訳でもない、俗に言う何にも秀でない凡人。
一般的に見るとどれも悪くはないけれどロトの子孫としてみれば落第点、とてもほめられたものではなかった。
こんなはずじゃなかった。
もっと真剣に取り組め。
本当にロトの子孫なのだろうか。
口々に僕を罵る声が聞こえた。父上が、母上が、剣術、魔術の師が。
うるさいうるさい。そんなの知ったことか。
僕だって好きでロトの子孫になったわけじゃないのに。勇者になりたいわけじゃないのに。
なぜ一番にならなくてはいけないのか。なぜ戦わなくてはいけないのか。
癇癪のように叫んだものだ。
だけど尽きぬ疑問を晴らす機会は存在しなかった。
一に勇者、二に勇者、三に勇者。周りが僕に言うのは立派な勇者になれ、ロトの血に恥じぬ行いをしろ。そればっかりだった。
僕の選択肢はロトの子孫にふさわしい勇者となるための修練をひたすらに積む道しかなかった。
普通に学校に行って友達と遊んで笑いあう機会もなく。両親に人並みの愛情を注がれることもなく。
僕は、普通に暮らしたかっただけなのに。僕が本当に欲しかったのはありふれた日常だったのに。
- 43 :
- 僕の抱く理想とは逸脱して大人達からは叱咤が飛び、侮蔑の視線が突き刺さる。
城内ではよく言われたものだ、期待ハズレのカインだって。
その呼び名を聞いて鼻で笑ってしまったものだ。
勝手に期待しておいてどんな言い草だ。背負いたくもない期待をなぜ僕に押し付けるんだよ。
僕という存在には勇者というシンボルマークしかないの?
それに気づくことはある種必然だったのかもしれない。だってさ、僕個人を見てくれる人なんて誰も居ないんだし。
誰も彼もがロトの血をひく王子というレッテルでしか見ないんだから。
父親、母親、国民。
“ただ一人を除いて”誰もが僕を勇者に仕立て上げる気だ。
トの血なんてくだらないものが僕から未来を奪っていったんだ。
いつしか僕は何をするにも愛想笑いをしてごまかすことで日々を過ごすことに慣れていった。
少なくとも笑っていれば不要な怒りを買わずに済むから。何かに反発してもどうせ仕置と称して受けるはずのない罰も受けるだけだから。
誰と話してもカインとして認めてくれないから。
光の先にあったのは闇だった。もう今は思い出せない僕の本当の表情。
偽りの仮面をかぶりただ人形のように大人達の言うことを聞いてるのが一番楽だから。
外へ逃げ出すことも考えたけど僕は即座に却下した。僕の理解者を置いて逃げるなんてできない。
加えてお金も武力もないのに二人旅なんて無理だって僕の頭は残念ながら理解していたんだ。
幾ばくかの可能性にかけても何も出来ずにのたれ死ぬだけだ。
道化のように振舞っている内に期待はずれとは別にのんきものとも呼ばれるようになった。
何をするにも愛想だけはよくて気長。期待はずれとは裏腹に悩み事や苦労がないみたいだと。
傍から見ればそんな風に見えるだろうけど僕からすると真っ赤の嘘だ。
どうせ本気を出しても僕の評価は変わらない、二言目にはローレシアの王子は、ムーンブルクの王女はもっとできる。
そのような言葉が出るのはわかりきっていたからだ。
数年後、ムーンブルクが魔物の手によって陥落した。
王、国民は死に、王女は行方不明だという伝令がサマルトリアに届き、国中が大騒ぎになった記憶がある。
これを受けて王はローレシアの王子と協力して速急に邪教の教祖、ハーゴンを討ち取れと僕に命じた。
未熟者であるお前でも盾ぐらいにはなるだろうって言葉を捨て台詞に残して。
そうして僕はハーゴン討伐の旅に無理矢理追い出されてしまった。やる気なんて端からある訳がない。
とりあえずローレシアの王子でも適当に捜そうと僕は勇者の泉やローレシアに行ったり、リリザの町でのんびりと過ごしたりしていた。
- 44 :
-
「お前、カインだよな?」
宿屋で食事を取っていた時にいきなり声をかけてきたバカそうな奴。
僕の名前を知っている、かつ一人旅でサマルトリアで見かけなかった。
このことから導き出されるのは――。
「いやーさがしましたよ」
ローレシアの王子以外思いつかなかった。なんて、運が悪い。
彼も僕と同じくハーゴン討伐を命じられたらしい。
僕とは違って剣技の才能に恵まれたんだ、たいそうな期待を込められているだろう。
それを思うと胸がチクリと針が刺さったかのような痛みを覚えた。
これは、なんだ。このなんともいえない、そして気持ちが悪いものは。
まさか、嫉妬している? 期待外れのカインが?
滑稽にも程がある。くだらない、今更何を嫉妬するというのだ。
僕は誰にも理解されないし、理解されるつもりもない。
何もかもが遅すぎるのだ。過ぎ去った年月はもう巻き戻せないし新たに手に入ることもないはずだ。
この旅も可能性としては成功しない確率のほうが高いのだ。下手な希望を持つとまた打ち砕かれる。
その後、ローレシアの王子――もょもととの二人旅となった。
途中で適当に逃げ出そうと思って実行したけどいつの間にかに彼は背後に立っているのだ、化物かよ。
そして、その言葉があながち間違いでないと知ったのはモンスターとの遭遇で痛いほどわかることになる。
彼は戦闘に入ると彼は瞬く間にモンスターを破壊していったのだ。
僕が出る隙なんてなかった。旅をするのにはそれなりの強さがいるから僕も戦ったけど彼とは比較にならないだろう。
それはそうだ、僕は彼と違って期待外れなのだから。期待通りとは違うのだ。
旅の途中、犬に変わっていたムーンブルクの王女――ルーナを救って三人旅になった。
彼等とは上辺だけの付き合いであり絆などなかった。城にいた時と同じ、のんきものの仮面をつけて表面上はにこやかにしていたはずだ。
昔は仲が良かった気がするがそれも今は思い出せないし別に思い出す必要性も感じられなかったし。
続く旅の中、僕はベラヌールという町でハーゴンの呪いにかかって死にかけた。
何もない人生の終わり。まあこれはこれでいいのかな、そう思った。
僕が死んでもどうせアイツ以外悲しまないだろうし。ああ死んだのか、そんな感じでサマルトリアでは噂になることだろう。
同じく旅をしていた二人にも置いていけと言った。助けてもどうにもならないよって。
これは真実そのものだ。剣技ではもょもとには敵わないし魔術ではルーナがいる。
子供でもわかる、僕はいらないって。彼らだって内心、僕のことを必要とは思っていないだろう。
僕を助けるメリットが存在しないもの、生きる確率はゼロだ。
だけど結末は違った。彼等は僕の呪いを解く為に世界樹の葉なんて貴重なものを持ってきたのだ。
僕が考えていた理論とは全くの辻褄が合わない。この疑問は未だに解決ができず迷宮入りしている。
なぜ、と問いかけても「仲間だから当然」というありきたりな答えしか返ってこない。
そんなこと露程もおもっていないくせによくもほざいたものだ。
- 45 :
- その後は至って簡素なものだ。僕達は中断していた旅を再開して敵地であるハーゴンの神殿でハーゴン、復活した邪神シドーを討滅して旅は終わったはずだった。
失われた平和がこの世界に戻り、人々は歓喜の渦に包まれるというハッピーエンドだ。
たぶん、存分に美化されて御伽話にでもなるのだろう。僕にとってはくだらなくて唾でも吐きたい気分だけど。
そうして各国を凱旋してローレシアでの祝勝会が終わった矢先の出来事が今現在の僕が巻き込まれている殺し合いだった。
最後の一人になるまで生き残るというふざけたゲーム。
その主催者である大魔王デスタムーア。最初の説明の場で強大な重圧を巻き起こしたクソジジイ。
もょもとレベル、いやそれ以上の化物なのかもしれない。
「凡人たる僕を巻き込むなんてどこの喜劇だろう……本当に」
そんな戯言を言ってる場合ではなく僕は行動しなければならない。
何としてもアイツと一緒に生きてこの世界から抜けださないといけないのだ。
手に入れるはずだった普通をもう一度掴む為にも。
だからといってデスタムーアと対峙するだなんてやっていられない。化物は化物同士で殺しあっていればいい。
幸いなのか、不幸なのか。どちらの判断を下せばわからないけどこの世界にはもょもと、ルーナがいる。
彼等なら情に訴えれば必要とされていなかったであろう僕でも協力してくれる可能性がある。
僕みたいに心の中で何を思っているかわからないから決して信用はしないけど。
ハーゴンは論外。僕は敵対していたのに加えて直接手を下したのだ、手を組んでくれる可能性はないだろう。
竜王の曾孫はいまいち読めない。一応人柄はそれなりにいい印象があるがもょもと達と同じく詳しくはわからない。
まあ、手を組むことに戸惑いはないけれど。
「リア…………」
僕のたった一人の理解者、アイツ、妹。
リアだけは僕の本当の姿を知っている、愛してくれている。
あの約束の夜、僕たちが誓ったものは殺し合い程度では崩れはしないだろう。
例え、もょもとやルーナを犠牲にしてでも僕はリアと一緒にここから脱出してみせる覚悟はある。
やっと自由になれるかもしれないんだ。普通の暮らしができるかもしれないんだ。
凡人ではあるけれども何とか生き抜いていけるくらいに強くなったのだ。
サマルトリアなんて牢獄に篭らずに外の世界でリアと一緒に生きていける。
家族も国も国民も過去の残影として捨て去ることができるのだ。
自由を手に入れるのだろう? 普通を手に入れるのだろう?
他者を蹴落とすことを迷うな。
「さてと、行こうか」
少しばかりの時間を思考に費やしたがいつまでもここでじっとしている訳にはいかない。
こうしている間にも機会はなくなっていく、行動は迅速に――全ては脱出の為だけに。
麻の袋に入っていた剣を腰に差して僕は歩き始めた。
「生き残る為の第一歩を」
◆ ◆ ◆
- 46 :
- 全ては始まったはずだった。
お兄ちゃんがハーゴン討伐の旅に出立しどれだけの時間が過ぎたのだろうか。
大体一年半ぐらいはあった気がする。
私がハーゴン討伐の報告を受けて最初に思ったのは破られた平和の再来でもなくもう魔物に脅かされずに国が繁栄する未来でもなかった。
お兄ちゃん。やっと、お兄ちゃんが帰ってくる。
ただ、それだけが私の幸せだった。
だって私の世界にはお兄ちゃんしかいない。誰も、誰も私を見てくれないんだもん。
その理由の魂胆にあるのはやっぱりロトの血だった。
私の生まれた国、サマルトリアはロトの子孫の血をひくといった特徴以外は何もない国だった。
国民は普通に笑って怒って怖がって哀しんで。そんな普通の国。
ただひとつ、ロトの血を受け継いだ勇者というものに狂信的であることを除いて。
それ故に勇者の資格なき私には誰も見向きをしなかった。だって、もうお兄ちゃんが後継者としているんだもの。
加えて私は女として生まれたから特に厳しかった。武術も使えずに政略結婚にしか使い道がない。
ムーンブルクでは女の子しか生まれなかったから差別の風潮はなかっただろうけど。
そう見られていることが周りからは態度で示されていた。
お父様やお母様は私を母に預けたっきり顔を見せなかったらしいし、周りの人達も私には期待なんてしていなかった。
私はこの世界で本当に一人ぼっちだった。誰もが皆出涸らし娘としか見ない。
だからこそ昔の私はお兄ちゃんが憎かったんだ。
みんな、お兄ちゃんしか見ない。お兄ちゃんの言葉しか聞かない。
どうして私を見てくれないの? どうして私と話してくれないの?
お兄ちゃんが私が手に入れるはずだったもの、全部持っていったんだ。
だから、昔の私は考えたのだ。お兄ちゃんがいなくなってしまえばいいんだ、殺しちゃえばいいんだって。
そうしたらみんな私のことを見てくれるかもしれない、そんな淡い希望を込めて。
深夜、幼い私はお兄ちゃんの部屋に忍び込んで――。
簡単だ、私がどう行動しようが誰も気にもとめないんだもの。妹が兄の部屋に行くのに何の疑いを掛ける必要がある?
もう、お兄ちゃんをことでしか私は生きていけないんだ。
そう、思っていた。
- 47 :
-
お兄ちゃんがベッドの上で苦しんでいるのを見るまでは。
いつものほほんと笑っているお兄ちゃんが、泣いている? 苦しんでいる?
それを見た私の頭は真っ白で、何も考えられなくて。
「バレちゃったか……」
そこにはいつも通りのお兄ちゃんが、いや違う。いつも通りの仮面をかぶったお兄ちゃんが優しい笑みでいたんだ。
そうしてお兄ちゃんは私に色々と語ってくれた。
期待外れのカイン、どれだけ努力しても認めてくれない、誰も僕の本当の気持ちを知ってくれない。
愚痴は次から次へと溢れでてきた。
そして、真実はこうだ。
ただ勇者になることだけを強要されたお兄ちゃん。
ただ人形のように黙っていることを強要された私。
私達には、翼がない。鳥籠に閉じ込められた小鳥だった。
嘘だよ、こんなの。どうして、私もお兄ちゃんもロトの血ってだけで苦しまなくちゃいけなかったのよ。
お兄ちゃんと私に味方なんて――――いるじゃない。
お兄ちゃんには私が、私にはお兄ちゃんが。
思考が急速に回転していく。綺麗サッパリな頭は私とお兄ちゃん以外の不純物を駆逐していく。
そして私が導き出した結論は、簡単簡潔でごくありふれたものだった。
「ねっ、お兄ちゃん。やくそく、しよう?」
私たちは――約束したんだ。
「ずっと、ずっと死ぬまで私達はいっしょにいよう」
ずっと、ずっと一緒にいよう、ただそれだけ。例え周りが認めてくれなくても、何を犠牲にしてでも――一緒にいよう。
勇者を強いるお父様もお母様も城内の兵士さんも料理を作ってくれるコックさんも私を育ててくれた母の人も城下町の人達もいらない。
私とお兄ちゃんだけがいればいい。
この汚くてどうしようもない世界で、私はお兄ちゃんだけを見る。
だから、お兄ちゃんも私だけを見て。私だけと話して。私だけを愛して。
それが一番だよね、お兄ちゃん?
大事なのは私の本当の姿を愛してくれるお兄ちゃんだけだから。
そう、愛しているからこそ一緒に死んで欲しい。
だってそうでしょ? この殺し合いは最後の一人になるまでしか生き残れない。
ということは私とお兄ちゃんのどちらかしか生き残れないんだもん。
じゃあ二人一緒に死ぬしかないじゃない! それが、たったひとつの冴えたやり方だよ。
きっと、絶対そうなんだ。未来なんてもう、私達にはないんだから。
それしか――――もう道はないんだよ。
- 48 :
- 1746 名前:Eternal promise ◆1WfF0JiNew[sage] 投稿日:2012/04/05(木) 01:49:04 ID:???0
状態表忘れてた…!
【C-7/平原/朝】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る。
※レベルは45に到達しています。
【E-2/森/朝】
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式 支給品×3(本人確認済み)
[思考]:お兄ちゃんと一緒に死ぬんだ♪
- 49 :
- 続いて◆CASELIATiA氏の代理投下いきます
- 50 :
- ホンダラさん、それはグランエスタードが誇る最終兵器である。
誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりもお金持ち。
そんなホンダラさんは、エスタード島のみんなに引っ張りだこ。
ボルカノが金の無心にくれば、ポンと気前よく100万ゴールドを渡すほどの太っ腹。
甥の少年にこういったアイテムがないかと聞かれれば、即座に出す物持ちの良さ。
伝説の英雄が封印された温石レベルの財宝なんて、ホンダラさん自身も忘れるほどたくさん所有してます。
歩くたびに地面に花が咲き、海が割れて金が降ってくるほどの美しさ。
グランエスタードの女性はみんながホンダラさんに夢中。
「今日は私と付き合って、ホンダラさん!」
「いいや私よ!」
「何よ引っ込んでなさいよ、この泥棒猫!」
「アンタの方が泥棒じゃないのよさ!」
正直、女に不自由してないホンダラさんにとっては、こういうやり取りは日常茶飯事なだけにうっとおしいです。
「やれやれだぜ……」それがホンダラさんの口癖です。
バーンズ王は政治の問題に直面すれば、度々ホンダラさんの元を訪れ知恵を借ります。
その度に、お前もまだまだだな、と呆れながらも優しくアドバイスするツンデレっぷり。
こんな風にみんなに慕われているホンダラさん。
全盛期のホンダラさんときたらもう、すごすぎてここに書ききれないほどの量の偉業を打ち立てています。
世界を救ったのも一度や二度ではありません。
詳しい偉業の内容を知りたい人は今すぐグーグル先生に尋ねてみよう。
さて、そんなホンダラさんがこんなバトルロワイアルに放り込まれたとあれば、黙ってられません。
DQBR2nd最終話 『希望を胸に、すべてを終わらせる時』
ホンダラさん「チクショオオオオ!くらえムドー!ギガスラアアアアアアッシュ!」
ムドー「さあ来いホンダラ!実はオレは一回刺されただけで死ぬぞオオ!」
(ザン)
ムドー「グアアアア!こ このザ・フジミと呼ばれる四天王のムドーが……こんなおっさんに……バ……バカなアアアアアア」
(ドドドドド)
ムドー「グアアアア」
【ムドー@DQ6 死亡】
ジャミラス「ムドーがやられたようだな……」
グラコス「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
デュラン「人間ごときに負けるとは魔族の面汚しよ……」
ホンダラ「くらええええ!」
(ズサ)
3匹「グアアアアアアア」
【その他×3@DQ6 死亡】
- 51 :
- ホンダラ「やった……ついに四天王を倒したぞ……これでデスタムーアのいる城の扉が開かれる!!」
デスタムーア「よく来たなソードマスターホンダラ……待っていたぞ……」
(ギイイイイイイ)
ホンダラ「こ……ここが敵の本拠地だったのか……!感じる……デスタムーアの魔力を……」
デスタムーア「ホンダラよ……戦う前に一つ言っておくことがある。お前は私を倒すのに『ホットストーン』が必要だと思っているようだが……別になくても倒せる」
ホンダラ「な 何だって!?」
デスタムーア「そしてお前の家族はなんか世話するのが面倒になったんで最寄りの町へ解放しておいた。あとは私を倒すだけだなクックック……」
(ゴゴゴゴ)
ホンダラ「フ……上等だ……。オレも一つ言っておくことがある。このオレに実はたくさん借金があるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
デスタムーア「そうか」
ホンダラ「ウオオオいくぞオオオ!」
デスタムーア「さあ来いホンダラ!」
ホンダラの勇気が世界を救うと信じて……! ご愛読ありがとうございました!
【DragonQuestBattleRoyale2nd Fin】
アクバー「……あれ? 私は?」
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ ここまで妄想 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ ここから現実 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
その頃、ホンダラは温泉に入って完全に気力を失っていた。
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:泥酔
[装備]:なし
[道具]:酒@現実 支給品一式 支給品(未確認)
[思考]:あぁ〜極楽だぁ〜。
【ヘルハーブ温泉】
原作通り、意志の弱かったりレベルの低いものが入ると気力を失い、身も心も骨抜きになる。
どのくらいの強さの意志なら正気を保てるかは不明。
- 52 :
- 代理投下します。
- 53 :
-
ああ、一度でいいから死ぬ前に……してみたかったな。
***
マーニャが目覚めると、そこは森の中だった。
ふくろに入っていた時計を確認する。現在の時刻は朝。
それにしては辺りはまだ暗い。密集した木々のせいか、はたまたこの世界特有の空模様のためかは、わからないが、
しかし、何にせよ、視界が悪すぎる。
(死ぬなんてゴメンだわ。けど殺し合いなんてのも、冗談じゃないわ)
だけど、じゃあ、どうしたらいいのかしら?
こっちにはその気がなくても、やる気満々の誰かが襲ってくることは充分に考えられる。
その時は――容赦なんてできずに、ゴメンナサイネ、なことになってしまう、かもしれない。
とにもかくにも、自分の攻撃手段といえば呪文以外の取柄はなかった。武器を構えて戦うことには慣れていないのだ。
もしそのような状況に陥った場合、身動きの取りづらい場所では接近されたときに対抗するすべが無い。
(とりあえず、もう少し見通しの良い場所に出たいわね)
詳しく考えるのはそれからにしよう、とマーニャが歩き出したとき、草場の陰に人の気配を感じた。
(誰かいる――女の子? えっ、ちょ、ちょっと待って!)
こっそり様子を窺うと、なんとその少女は自分の喉元にナイフを向けていた。
- 54 :
-
「ちょっとアンタ、何してるのッ!」
「イヤぁ! 離して! 邪魔をしないで!!」
髪を振り乱し錯乱する少女の腕を抑え、その顔にマーニャは平手をお見舞いした。
握っていたブロンズナイフが地面に落ちると、少女は抵抗をやめてその場にへたり込む。
辺りに他の者の気配は無い。どうやら一人のようだ。
マーニャは一つ溜息をつき、刺激しないようゆっくりと少女のそばに歩み寄った。
「まさか、自殺、するつもりだったの? どうして、そんなこと」
「だって……嫌になったの。もう何もかも」
「なにもかも、って?」
少女がぽつりぽつりと話しだす。
マーニャは寄り添い、その小さな肩を優しく撫でた。
そして、さっきまで他人を警戒することを考えていたにも関わらず、
この見も知らぬ少女の話に根気よく付き合ってやろうと思った。
何故なら、なんとなく、本当になんとなく、似ていると感じたのだ。目の前の少女は、見た目は全然違うけれど、自分の妹に。
(ミネア。こんなことになってしまって無事でいるのかしら。心配ね。
まぁそれはさておき、今はこの子をなんとかしないと。
弱ってる女の子を放っておくなんて、あたしのガラじゃないわよね)
――そしてマーニャは少女の身の上話を一通り聞いた。
父親が殺され、国が滅ぼされたこと。
呪いをかけられ、犬の姿に変化させられたこと。
悪しき神官と邪神を討つために、過酷な旅を続けたこと。
ようやく悲願を果たし、国の復興を目指そうとした矢先、
こうしてわけのわからない殺戮の場に駆り出されたこと。
倒した筈の仇の名が、参加者名簿に載っていること。
「ぜんぶ無駄だったの。私のしたことなんて、何にもならなかった。
だから、どうせ死ぬのなら、自分で見切りをつけようって、そう思って」
- 55 :
- そこまで喋ると少女は膝を抱え泣きだした。か細く、必死に堪えるように。
それを見てマーニャは、ああ、この子は泣き方を知らないんだなあ、ちゃんと泣いたことがないんだろうなあと思った。
「あなた、真面目チャンなのね」
「どういうこと……?」
「わかるのよ。やっぱりあたしの妹に似てる。
目の前の世界が全てだって思いこんで、必死に今まで闘ってきたのよね。
ああしなきゃ、こうしなきゃって自分を追い込むことで、道を作ってきたんでしょう?」
少女は肩を震わせた。
マーニャは困り顔で微笑んだ。
そうなのだ。世の女の子の中には、この少女のようにとてもとても真面目で、頑固で、不器用で、潔癖で、張り詰めていて、
泣くことも甘えることも頼ることもうまくできない、そんな子が少なからずいることをマーニャは知っていた。
そしてそんな子には幸せになってほしい。そう思ってもいる。
だから、慰めるのだ。
「でも、もったいないわよ? だってホラ、――こんなに可愛いのに」
言って、マーニャは少女の頭巾を取り去った。
この異世界でのくすんだ朝日にはもったいない金色が、あふれ出た。
「ふふ、キレイにしてるじゃない。
女の命っていうけど、髪の手入れってホント大変でしょうがないわよねー。
ねえ? あなたと一緒に旅をしてたっていう男の子たち、その辺のことに全く気がつかなかったのかしら?」
***
バカな子たちね、なんて仲間の悪口を言われて、けれど少女はどうしてか悪い気がしなかった。
仲間として、王女として、今まで多くの人に労わってもらい助けられてきたことは確かだったけれど、
こうして――そう、こうして女の子扱いをしてくれた人なんて、一人たりともいなかったのだ、自分自身も含めて。
一度でいいから、恋を、してみたかった。
特別な使命など何も持たない、ありふれた普通の女の子として、"恋する少女"になりたかった。
- 56 :
- ***
「私の支給品……」
「ん?」
「これ……結婚式のときにつけるのよね、花嫁が……私も……つけて、みたかったな」
「あらいいんじゃない? 女の子みんなの夢だもの。ね?」
「でも、こんな首輪を填めたままじゃ、似合わないかな」
そこから先は、一瞬の出来事だった。
「ありがとう――あなたに会えて私、うれしかった」
いつの間にか拾い上げられたブロンズナイフ
少女はそれを自分の首にあて思い切り引いた
鮮血が噴き出し
整えられた金髪と綺麗なシルクのヴェールとを赤く染めた
やがて体は力を失い倒れ伏し
それきり静止した
マーニャは目の前の惨状に、声を出すことすらできなかった。
【あきな(ムーンブルク王女)@DQ2 死亡】
【残り55名】
【F-5/森林/朝】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(1〜3)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない あきなの死に呆然
※あきなの支給品:ブロンズナイフ、シルクのヴェール@DQ5、水のリング@DQ5、基本支給品一式
- 57 :
- 生存者数確認しときます
5/6【DQ1】○勇者/○ローラ姫/○竜王/●ゴーレム/○ドラゴン/○影の騎士
5/6【DQ2】○ローレシア王子/○サマルトリア王子/●ムーンブルク王女/○サマルトリア王女/○竜王の曾孫/○ハーゴン
5/6【DQ3】●男勇者/○女賢者/○女武闘家/○男魔法使い/○オルテガ/○バラモス
6/6【DQ4】○女勇者/○アリーナ/○マーニャ/○ミネア/○シンシア/○ピサロ
6/7【DQ5】○主人公/●デボラ/○フローラ/○ビアンカ/○王子/○王女/○スライムナイト
5/6【DQ6】○主人公/○バーバラ/●ハッサン/○テリー/○ミレーユ/○キラーマジンガ
6/6【DQ7】○主人公/○マリベル/○アイラ/○キーファ/○ガボ/○ホンダラ
5/6【DQ8】●主人公/○ゼシカ/○ヤンガス/○ミーティア/○ドルマゲス/○ククール
6/7【DQ9】○女主人公/○リッカ/○サンディ/○エルギオス/○イザヤール/●ギュメイ将軍/○ルイーダ
4/4【 J .】○ムドー/○ジャミラス/○グラコス/○デュラン
53/60
で、現在残り53名ですね。
- 58 :
- 代理投下ありがとうございます。
生存者数を訂正し忘れてました。すみません
ムーン王女の名前はパラレル設定ではなく同一人物です
サマル話の作者さんが後であわせますとおっしゃってくださったので、
それに甘えさせていただきこのようにしたいと思います。ご意見あればお願いします
- 59 :
- エイトやムーン王女の脱落早すぎ
- 60 :
- ほとんどが勇者パーティからの参加だから仕方ない
- 61 :
- 面白い実に面白い
- 62 :
- 「殺し合い……そんな、せっかく暗黒神も倒して世界に平和が戻ったのに……」
ゼシカは歯噛みする。
あのデスタムーアという魔族は、かの暗黒神ラプソーンかそれ以上の禍々しさを感じる。
そしていきなり首輪をつけられ、殺し合いを強制されている。
唐突すぎて、未だに実感がわかない。
だが、それでもこれは現実なのだ。
鈍く冷たい感触を首筋に伝えてくる拘束具がそれを教えてくる。
渡された袋の中には名簿が入っていた。
知らない顔が大半であったが、頼もしい仲間の顔が見える。
そして――
「ドルマゲス!?」
仇敵を目の前にしてゼシカの顔は青ざめた。
ドルマゲスはかつて自分と仲間たちの力によって完全に滅ぼした筈だった。
なのに何故ここにいるのか?
「まさか、本当に蘇ったの? あの大魔王ってのが蘇らせたの?」
だとしたなら放っておくことは出来ない。
仲間を探し、ドルマゲスを今度こそ討ち果たす。
そしてその後はなんとかして首輪を外してこの世界から脱出するのだ。
「デスタムーアなんかの思い通りになんて絶対にさせるもんですか!!」
「良い答えだ」
ゼシカの決意に呼応する声があった。
振り向くとそこには青白い肌をしたローブ姿の男。
だが彼から放たれる魔力は明らかに人のものではなかった。
「誰なの?」
「名乗りもせず誰何とは無礼者め。だが今回は特別に許そう。
我が名は竜王。王の中の王、竜王じゃ」
「竜……おう?」
ゼシカの脳裏にエイトの、竜神族の姿が浮かぶ。
そういえば魔力こそ攻撃的ではあるが、その身にまとう雰囲気はどこかしらエイトたちに似ていなくもなかった。
「あなた……竜神族なの?」
「ふむ? よく解らぬが興味深いな。ワシは己の出生を知らぬ。
だがそろそろお主も名乗るべきではないか。特別も度が過ぎると無効とせざるを得ぬぞ」
「……ゼシカ・アルバートよ」
ゼシカの名を聞いて満足そうに竜王は頷いた。
「ゼシカよ。お主はどうするつもりだ?」
「アイツの言ってた殺し合いゲームなら乗る気はないわよ。絶対にこの首輪を外して脱出してやるんだから」
「その意気やよし。どうじゃ、ワシと組まぬか? お主は素質に溢れておる」
竜王が手を差し伸べてきた。
だがゼシカはその手を取らずに逡巡する。
「初対面でいきなり口説かれるのは初めてではないけど、状況が特殊だわ。
おいそれと信用できないわね。後ろから斬られちゃたまんないモノ」
「道理じゃな。どうすれば信用する?」
「まずはあなたの考えを聞かせてくれるかしら? いえ、その前にあなたの道具を見せて頂戴。
もちろん私も見せるわ」
「よかろう」
- 63 :
-
ゼシカと竜王は一旦距離を取るとお互いの袋の中から支給された道具を取り出した。
ゼシカは草・粉セット。両手で抱えるくらいの袋に様々な種類の草・粉が入っている。
知っているものでは上薬草や毒蛾の粉。知らない物では火炎草や惑わし草など本当に様々だ。
竜王のふくろに入っていたものは3つ。
あらゆる魔法を弾き返すというさざなみの杖と、キメラの翼5枚セット、
そして――竜の意匠が施された剣――天空の剣だった。
(あの杖はヤバイわね……もし敵対した時私の攻撃手段が格闘のみになっちゃう)
格闘スキルを極めた彼女だが、やはり得意な戦闘法は呪文による魔法戦闘だ。
短剣スキルもわずかにかじってはいるが、高レベル相手に通用するものではないし何より得物がない。
それにもう一つの武器、天空の剣からは何か聖なる力を感じる。
竜神王の武具に似た感覚が伝わってくるのだ。
「それで、どうするね?」
「杖と剣を渡してもらおうかしら」
「よかろう、それで信用が買えるなら安いものよ」
「!?」
なんと相手の出方を探るための要求にあっさりと応じてきた。
「なぜそんなにあっさりと渡せるの? 武器を得た私が襲いかかるとは思わないわけ!?」
「お主のような美女に襲われるならむしろ本懐よ。それにワシの強さはそんなアイテムに左右されるものではないし
その剣はおそらく認められたものにしか扱えん」
ゼシカの問いに竜王は事も無げに答える。
本当に意に介していないようだ。
(自分の強さに本当に自信があるようね。それに何故か憎めないわ……エイトに似てるからかしら)
「杖だけでいいわ。後は――」
「ふむ、まだ信用されぬか」
「あなたの事を話してくれる? それと何でここまで私に執着するのかも」
竜王はゼシカに向かって軽く杖を投げると、ため息をつく。
「確かに面倒になってきたわ。だが、お主にはそれなりの価値がある……もう少し粘ってみるとしよう」
「なんなのよその価値って」
「後で話そう、まずはワシのことであったな」
竜王は自らの事を語りだした。
かつてアレフガルドの地で魔物の長、竜王として世界を脅かしていたこと。
しかしロトの子孫と名乗る勇者が現れ、無念にも討ち果たされてしまったこと。
「つまりあなたは一度死んで、蘇ってここに来たっていうの?」
「そうじゃ。蘇ってすぐ見たのがあの髭面じゃぞ――不幸極まりないわ」
竜王は深々と嘆息する。
(こんなところに実例が……これはやっぱりドルマゲスも復活してるってことね)
- 64 :
-
「それにしても許せんのはアレフの奴じゃ!」
「アレフってあなたを倒した勇者の事?」
「そうじゃ! 奴は本当に嫌な奴なんじゃぞ!? ワシがせっかく攫ったローラ姫をあっさりと奪いおって!」
「攫ったあなたが悪いし、そもそも何で手元に置いておかないのよ」
「いや、それは泣かれたからして……まて、危害を加えるつもりはなかったのだぞ? ただ求婚をだな……」
「じゅーぶんな危害よねソレ」
ゼシカの容赦のないツッコミに竜王はわずかに鼻白む。
「酷いのお主……それにじゃ! あ奴は勇者なんてもんじゃない、暗殺者じゃ!」
「どういうこと?」
「アイツは仲間も連れずたった一人で万の軍勢を従えた我が居城に乗りこむと、
蛇のように警戒網を必要最小限の戦闘ですり抜け、ワシの元へ単身現れたのじゃ!」
ちなみに側近の魔物たちはアレフ潜入の報を受けて、そのほとんどを討伐へ向かわせていたという。
その隙をついてほぼ無傷のアレフが現れ、戦いを挑んできたのだ。
慌てた竜王は懐柔策を試みるが、アレフはそれを一蹴。1対1の勝負となったが、
動揺を隠せぬ竜王は全力を出せぬまま必殺の一撃を受けて倒れたという。
「懐柔策って?」
「ワシは女の子いっぱいの明るい世界しか興味なかったからの。必要のない男共と暗い夜の世界は誰かにくれてやっても良かった」
「擁護の価値もない邪悪ね」
なんだか話しているうちに最初は威厳のあった竜王がどんどん崩れていく。
警戒していた自分が馬鹿らしくなってくるほどだ。
「もう、解ったわ……あなたの馬鹿な野望は置いとくとして、デスタムーアをギャフンと言わせるまでは協力しましょう」
「うむ、ようやく我が偉大さを解ってくれたか」
ゼシカは右手を差し出す。
竜王もまた手を差し出した。
両者の腕が触れようとした時、ふと思い出してゼシカは尋ねた。
「そういえば私の価値って何? 素質があるっていってたけど」
「うむ、それはだな……」
確かに自分は大賢者の末裔であのサーベルトという偉大な兄と同じ血を分けている。
魔道の腕も世界屈指と自負しており、竜王が見込むのも当然だと思った。
竜王の差し出した手はゼシカの手を通り過ぎる。
「?」
「これじゃよ」
ふにっ
ゼシカの胸が揺れた。
むに、むにゅう、むにょん
なんと竜王はゼシカの胸を揉みしだいた!
- 65 :
-
「ブラボー ――ボラブッ」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ゼシカは絶叫を上げ、竜王に渾身のアッパーカットを見舞った。
竜王は天を仰ぎながら宙を舞い、慣性の法則に従って顔から地面に激突する。
「痛いではないか、何をするのだ」
「こっちの台詞よ! いったい何をするの!」
鼻血を抑えながらむっくり起き上がる竜王にゼシカは胸を庇いながら涙目で抗議する。
「ふむ? お主の巨はローラの美にまさるとも劣らぬ素晴らしさを持っておる
是非ともこの手で堪能したかったのだ」
「! ド!! 大大大!!!」
「よせ、そのような軽蔑の視線で罵倒するのは。ゾクゾクするではないか」
「駄目だこの竜。はやくなんとかしないと……」
ゼシカは頭を抱える。
自分は早まった決断をしてしまったのかもしれない。
【E-3/荒野/朝】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 羞恥
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
基本支給品*2
[思考]:@仲間を探す Aドルマゲスを倒す B首輪を外し世界を脱出する
【竜王@DQ1】
[状態]:HP14/15 鼻血(もう止まっている)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:@ゼシカと同行する Aデスタムーアを倒し、世界を脱する。
- 66 :
- 大変遅くなりましたが投下しました。
指摘などあればよろしくお願いします。
- 67 :
- コピペの確認ミスでゼシカの基本支給品が*2となっておりますが1つだけの間違いです。
- 68 :
- ダメだこの竜王。早く何としないと…。
1stの竜王知ってるとこの竜王に盛大に吹くわw
- 69 :
- 悉くパワータイプの勇者たちや前回生存組の連続脱落といい、1stと2ndで性格も背景もガラリと変わってるな
意識してひっくり返してるのか、書き手の趣向から偶然そうなってるのかわからんが
最近は会話システムも付いたけど、やっぱ余計なこと喋らない=正確に想像の余地ありすぎなDQすごい
- 70 :
- test
- 71 :
- 既にwikiには収録していただきましたが、本投下しておらず、また修正した点もありますので
これが書き込めるようならゆっくり投下していきたいと思います
- 72 :
- 大陸のやや北西に位置する湖の水面に、長い金髪を一つに編んでまとめた女の姿が映し出されている。
何かを見つめながら物思いに耽るその姿は、さながら絵画のように。
女は名を、ビアンカという。
山奥の村に住む、愛と正義のおてんば娘である。
その手に乗せて見つめているのは、燃え盛る炎をかたどった煌びやかな指輪――炎のリング。
彼女に支給された品の、最初の一つである。
「皮肉なものよね……」
ビアンカは、大きくため息をついてひとりごちる。
彼女と炎のリングには、浅からぬ因縁があった。
アルカパで宿屋を営んでいたビアンカの一家は、父親の不調を機に空気の良い山奥の村へ居を移した。
新しい生活に徐々に馴染んでいった中で、健康であったはずの母のほうが先に他界。
喪失の痛みに耐えながら、ビアンカは父とともに慎ましくも忙しない生活を送っていた。
心の傷がだいぶ癒えたころに現れたのが、十年以上にわたり音沙汰の無かった幼馴染、リュカであった。
幼きころの冒険にて頼れるところを見て以来、淡い想いを抱き続けていたビアンカは、この再会に大きく喜んだ。
が、同時に近く結婚をする為に結婚指輪を探しているという報せを聞き、大いに落胆した。
最後になるかもしれないからと、無理やりについていった二つ目の指輪を探すという冒険。
その冒険の中で、話を聞かせてもらっていた一つ目の指輪こそが、炎のリングであった。
短い時間でも行動を共にしたことで、ビアンカのリュカへの想いは一気に膨れ上がることになる。
無事に結婚の条件を揃えた彼に、祝福半分と、下心半分を抱えて、ルドマンの館までついていった彼女。
その想いを察してくれたのであろう、フローラの気配りによって、選択を迫るまでには至れたものの。
彼女のその手は取られることなく、共に冒険して手に入れた水のリングは、フローラの指へと旅立っていった。
それから数年たった今でも、ビアンカはこの想いを振り切れないままでいる。
村では彼女をいたく気に入り、嫁に迎えたい、いっそ婿入りでもいいと、言い寄る男が何人もあらわれた。
その中に、いい人がいなかったというわけでもない。
だけれど未だにビアンカは、その申し出の全てに対して首を縦に振ることができずにいた。
「ちょうどいい機会なのかもしれないわ」
炎のリングは、ビアンカからリュカへと渡すことのできなかったもの。
すなわち、敗れた恋の象徴であった。
こうして再びめぐり合ったことは、新たな一歩を踏み出せというメッセージなのかもしれない。
まあ、殺し合いという舞台に呼びつけられた最中に、新たな一歩も何もあったものではないのだが。
吹っ切ってやる。
そのために、大きな深呼吸を一つして。
「リュカの――」
ビアンカは、大きく振りかぶって湖に向けて炎のリングを――
「それを捨てるなんて、とんでもございませんっ!」
「――ばっか、やろおおおーーー……お?」
- 73 :
- 投げ捨てる寸前に、突如、ふくろのなかから『羽根の生えた壺』が現れた。
驚きのあまり、ビアンカは投げる姿勢のまま固まってしまった。
「おそらくそれは、手放したら二度と手に入らない貴重品でございます。
それでもどうしてもお捨てになるというのなら、せめて錬金にお使い下さい、おじょう様!
もしかしたら、何か素晴らしいものができあがるかもしれません」
カンカンパカパカと、その蓋を口のようにして動かし語る姿はどうにも間抜けで、思わずビアンカは脱力して吹き出した。
そうして毒気をすっかり抜かれてしまった彼女は、かえってすっきりした表情で口を開く。
「ふふ、ふふふふっ……、そうよね、捨てるなんてとんでもないよね。
私には縁のなかったものだけど、アイツとフローラさんにとっては大切なものだもんね」
炎のリングの輝きからは、ふつうの指輪とはまるで違う、ただならぬ雰囲気が感じられる。
これを手にする為の旅は、水のリングのときよりもずっと苦しい冒険であったと聞いている。
水のリングもまた、滝に隠された洞窟の最奥に安置されていた、なにやら曰くありげの代物であった。
二つが対となっているのなら、そのどちらもに何らかの不思議な力があることは明白。
ひょっとしたらこれがリュカの冒険にとって、とても大事な役割を果たしたりするのかもしれない。
「捨てようとした直後に言うのも何だけど、これは渡せないわ。
ぜったいに、アイツのところに届けなきゃいけない」
「そうですか、きっと懸命な判断でございましょう」
ビアンカは炎のリングを自身のポケットへと大事にしまった。
中できゅっと握るたびに、リュカへの想いが溢れていく。
打算的な考えは、少なからず含まれている。
リングを渡すという建前があれば、後ろめたくなくリュカに会いに行っていいんだとか。
リュカと再会できたなら、またしばらく彼と一緒に居られる時間が作れるだろうかとか。
どうして選んでくれなかったの?って、いじわるをしてみてもいいかなだとか。
おおよそ、どれも殺し合いとは似つかわしくない考えだったけれど。
根底にあるのはずっと単純で、彼の為に何かをしたいという強い想いだった。
想いは、そんな簡単に捨ててはいけない。捨てるなんてとんでもないものだ。
「私は、今でもリュカが好き。
――大切なこと、気付かせてくれてありがとう」
くるりとターンして、ビアンカは笑った。
編まれた髪が、風に乗ってふわりと揺れる。
恋する乙女の見せた、最高の笑顔であった。
「それで……あなた、いったいなんなの? 魔物ってわけじゃ、ないんだよね?」
「よくぞ聞いてくれました、おじょう様! わたくしは錬金釜のカマエルにございます!」
- 74 :
- 首をかしげたビアンカの前で、カマエルの錬金講座がはじまった。
○
「か、可憐だ……!」
そんなビアンカの無邪気な笑顔に、大きく心を動かされた男の姿が森の中にあった。
男は名を、アレフという。
ロトの血筋を引くものにして、たった一人でアレフガルドを魔の手から救済した英雄である。
アレフは世界救済の暁に、ラダトーム王ラルス16世から、王女ローラ姫を授かった。
彼女は大いにアレフを慕ってくれているし、アレフ自身、彼女に対してほとんど不満はなかった。
強いて言えば滅多に首を横に振らせてくれないところだが、まあその程度はかわいいものといえよう。
この殺し合いにローラ姫もが巻き込まれていることを確認してから、アレフはすぐに行動を開始した。
一刻も早く彼女を捜索し、保護し、守り抜くために。
その為に戦いが求められると言うのなら、誰であろうと剣を取ってやるとさえ意志に燃えていた。
ローラ姫はアレフにとって、捨てることなどありえない、唯一無二の存在。
他の女に、現を抜かしている場合ではない。
そのはずなのに。
未だに彼は、木陰越しに見えるビアンカの姿から目を離すことができないで、いる。
【C-4/森林/朝】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 炎のリング@DQ5 カマエル@DQ9 不明支給品(0〜1)
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい
※カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【アレフ(DQ1勇者)@DQ1】
[状態]:戸惑い
[装備]:剣(詳細不明)
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:ローラとの再会のためには剣を取ることも辞さない ビアンカに対して――?
※C-4の森のどこかに「隠された小さな湖」があります。原作狭間の世界であったアレです。
【カマエル(錬金釜)@DQ9】
ドラクエ9に登場する、カマ口調(一応丁寧語)で喋ることができる錬金釜。
8と違って持ち歩けはしないが、はじめから素材を投じるだけで新たなアイテムを作ることが可能になっている。
一方で、最高難度の錬金にはセーブ強要からの確率勝負を挑んでくるためトラウマを残した人も多いかも。
基本的には錬金アイテム関連以外の話には口を挟みませんが、話しかけると泣いて喜びます。
- 75 :
- 「それを捨てるなんてとんでもない」 投下終了です。
続いて◆pYxekWC1yw氏の代理投下
- 76 :
- あのデスタムーアとかいうやからは気に入らぬ。
えらそうにしおって、実にふゆかいじゃ。
わしを誰と心得る。
手元にあるふくろに入っていたのはタンバリンに銀のたてごと、笛。
こんな楽器ばかりでは、かの王のなかの王たる竜王の曾孫ともあろうものが、旅楽士さながらではないか。
しかも視線をあげれば、湯けむりの向こうで酔っ払いが楽しく温泉につかっている。
あやつと宴会でもせよというのか?
腹の虫が治まらぬ。
そうだ、ロトの末裔たちがいたではないか。
ちょうど良い。あいつらを探してやらせよう。 こういうのはむかしから「ゆうしゃ」の仕事なのだ。そうと相場がきまっておる。
あいつらならデスタムーアとかいう奴を倒せるにちがいない。わしが手をだすまでもないことじゃ。
たん! 彼は手遊びにタンバリンを叩く。しゃらん!
なんだかテンションが上がってきた!
しゃらん!
デスタムーアを倒してくれたら、わしのことはリュウちゃんと呼んでもよいぞ!
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:健康(ハイテンション)
[装備]:なし
[道具]:ふしぎなタンバリン、銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる
- 77 :
- 投下します
- 78 :
- 「大変なことになっちゃったわ……」
砂地の真ん中、見通しがいいこの場所に一人の美女が立っている。
酒場の女主人ルイーダは、溜息をついた。
腕を組むことで、胸元の曲線が悩ましげに形を変える。
絵になりそうな美女だというのに、そのマイペースっぷりは元の世界にいたときそのままである。
「あのコたちも大丈夫かしらね……」
共に宿屋を盛り上げた仲間たちもまた、巻き込まれたという事実。
名簿を片手にかぶりを振った。
「年長者として、あのコらは私が守ってみせるわ。ミロ、力を貸してね」
ルイーダは、魅力的な胸元からペンダントを取り出した。
それは彼女の親友ミロと、ルイーダとをつなぐ友情のペンダント。
ミロはかつて、子供をかばって魔物に襲われ、その命を奪われた。
そのことを思うと、若い頃の自分の無力さと、親友がいかに強かったかが理解できる。
今、ルイーダは親友と同じく、命をかけて守りたい仲間がいた。
祈るように、ペンダントを見つめ続ける。
それだけで亡き親友の力が注ぎ込まれるかのように、心が熱く燃えた。
「よし!見てなさいよピンクのじいさん。
この私が骨の髄まで酔わせてあげようじゃないの」
空元気と言えばそれまでだろうが、それでもルイーダは胸を張って歩き出した。
仮にも彼女は冒険者、今では並の奴らに遅れは取らないという自負はある。
丈の高い靴では歩きにくい砂地も、ずんずんと歩き続ける。
だが、とある気配がその歩みを止めさせた。
彼女に思いがけない壁が立ちはだかったのだ。
- 79 :
-
「何とも、勇ましいことですな」
「!?」
ルイーダの視界では捉えられていなかったのだが、砂交じりの風を越え、ひとつの影が近づいてきていた。
近づく影の正体がやがて、明らかになる。
一人の男が現れたのだ。
高身長で筋骨隆々、渋いバリトンボイスの壮年男性。
弾けんばかりの上腕二頭筋、六分割の腹筋が眩しい。
歩くたびに大気が震えそうな、雄々しいオーラに包まれている。
そして甘いマスク……ではなく。
「だが、女の一人歩きは危険極まりない。突然で失礼ながら、
私があなたを安全な所まで送り届けましょうぞ!!!」
あらくれのマスクを被った、マントと一丁の男が剣を片手に何やら主張している!
ルイーダは逃げ出した!!
しかし回り込まれてしまった!!!
「遠慮なぞ無用です、何が起こるか分からぬ混沌たるこの地ではそれが命取り!!」
「あんたのその恰好も、充分命取りだってのよ!!」
しばし、追いかけっこを繰り広げようやく和解(?)する。
話してみると、案外マトモな人物のようだ。
見た目はちっともそう見えないけれど。
名前はオルテガといい、どうやら戦いに身を置いていたとのこと。
まあなんというか納得の肉体である。
ただ一丁なのは忍びない。
ルイーダは偶然支給品に入っていた、趣味の悪い色のズボンを譲った。
オルテガはしきりに頭を下げていたが、さっさと履いてよ、とルイーダはそっぽを向いた。
- 80 :
-
「私が魔物と戦っている最中に炎に巻かれ、服が下着を除きすっかり焼け落ちたそのとき。
何の因果か……気が付けいたときにはその恰好のまま、ここに呼ばれていたのです。
デスタムーアめ、許すまじ。必ずや天誅を下してやりますとも」
「だからって、そのマスクはないでしょ。マントはともかく」
話をしながら、彼女はひそかに感じ取っていた。
酒場の主人という立場もあって、多くのあらくれをルイーダは目にしてきた。
だが、このオルテガ……ただのあらくれなどではない。
ヤバいくらい次元が違う。
ガチで。
超ガチで。
風格、力量、ポテンシャル、何から何までハイスペックな予感がしてならない。
例えばタイマンで巨大な魔物やドラゴンと張り合ったり。
溶岩の中に落ちても強運で生き残ったり。
重要なアイテムをスルーして魔王の城に挑みそうな気すらしてきた。(想像でしかないのだが)
というか、ただのあらくれじゃなきゃなんだろう。
超すごいあらくれとか、スーパーあらくれとかだろうか。
「支給品が衣服だったのは幸いでした。偶然なのやら、魔物も見苦しいと思ったのやら……」
ルイーダの思考をよそに、オルテガは自分の出で立ちに苦笑したのか肩を竦める。
今でもわりと見苦しいわよ、と危うく口に出しそうになった。
「それでも顔を隠すなんて、怪しまれないわけがないでしょ?」
- 81 :
- 「ハッハッハ、これは失敬。ですが、このゲームに巻き込まれ、多くの人が不安がっている。
その心を思えば今このとき、こんな顔を見せるわけにはいかぬのです」
「えっ?」
朗らかに笑っていたオルテガの声のトーンが、少し落ちる。
何やら神妙な顔……表情はわからないが。
ともかく、それっぽいムードを漂わせ話を始めた。
「この覆面の下には、醜い火傷の古傷が残っております。
とても手ひどく魔物にやられたらしいのですが、これを見せ人々の不安をいたずらに掻き立てたくはない」
「そうだったの……」
ルイーダは考えを改める。
おかしな恰好をしていても、彼は非常に紳士的だった。
外見で判断するなんて、思えば良くないことである。
「ごめんなさい、貴方を誤解していたわ」
オルテガは気にしないでくれと、豪快に笑い飛ばしてくれた。
最初に抱いた多大なる警戒も、徐々に解れている。
何やら彼のカリスマ性を今、感じ取ったかもしれない。
「それで………魔物にやられた『らしい』、って?」
「ううむ、情けないことですが私は過去の記憶をほとんど失っております。
覚えているのは名前と、ほんの僅かな昔の記憶のみ。
何やら重大な使命を負っていたような気もするのですが……」
酒の上での苦労話なら、積もるほど聞いてきた。
しかしこれほどまで衝撃的で、壮絶な何かを抱え込んだ男は、ルイーダにとって初めてだった。
女主人のベテランの話術をもってしても、かける言葉が見当たらなかった。
- 82 :
- 「ですが……私には燃えるような、正義の心がここにある。
今、卑劣なる魔物達の狼藉を許しはせず、必ずや無力な人々を守り通す。
その覚悟さえあれば、過去や素性など解らずとも奮起する理由には充分ではありませんか」
オルテガは、拳を固め、突き上げる。
それだけだというのになんとも頼もしく見えてきた。
気持ちのいい男だとルイーダは思う。
外見を除けば、まるでお伽噺に出てくる勇者のような心を持っているではないか。
「……ウフフ、私ったら男を見る眼が衰えたのかしらね?思ったよりもずっと素敵。
逃げたりなんかしてごめんなさいね、オルテガさん。よろしくね、私はルイーダよ」
「はっはっは、照れますな。まずは貴女をお守りしましょう、ルイーダさん……むっ?」
「?」
なにやらオルテガが頭を抱えている。
一体何が引っ掛かったのだろうか。
「ルイーダ、ルイーダ……ううむ、聞いたことがある……」
「え?」
「ルイーダさん!私はかつて貴女と会ったことがあるのかもしれません!」
突然むき出しの肩を、屈強な両手に掴まれる。
前触れがなかったのも相まって、ルイーダはひどく驚いた。
「あなたは、私のことを覚えておりませんか?」
「たぶんアナタみたいな人なら会ったら一生忘れないと思うけど……」
- 83 :
-
残念ながら覚えがない、とルイーダから告げられ、オルテガは項垂れた。
口ではああ言っていても、記憶を取り戻さなくてもいいというわけではないのだ。
失われた過去を取り戻したい思いを感じるのも無理もない。
「だが……おお、そうだ!貴女とお酒を交わしたような気がしますぞっ!あなたの店で!!」
「確かに、私は酒場の主人だけど。でも、本当に覚えがないもの!」
「家もかなり近所だったような気が!!これは、記憶が溢れるように湧いてくる!!」
「だから、私は知らないって言ってるでしょーがっ!!それとも何、口説いてるの!?」
「なっ、何をおっしゃる!!」
巨体に食い下がられては一たまりもない。
ルイーダがお茶を濁そうとからかうが、オルテガが存外あわてた。
「こう見えて私には……私には…?」
「?」
「ううむ…誰か大切な人がいたような……?」
再び頭を抱え込むが、今度はかなり深刻に考え込んでいるのかしゃがみこんでしまった。
確かに記憶を取り戻そうと懸命なのは分かるが、いつまでもこの砂地にいるのは危険だった。
見通しがよすぎるし、何より空気も悪い。
「……オルテガさん、どう?」
「ダメですな……せめて、私を知る人物がここに来ていれば……」
「こんなにたくさんの人がいるんですもの、可能性はあるわ。
人のいる場所を目指しましょう、ね?」
「ううむ……その通りですな」
- 84 :
-
気を取りなおしたオルテガはルイーダの傍らで歩き出す。
東と西、二人はおおよそ二つの町の中間地点にいる。
だが岩山を迂回しなくてはならない東のルートは時間がかかると感じた。
二人は西にある森を抜け、絶望の町を目指すことに決める。
「森は暗く視界も悪いゆえ、気を付けねばなりません。私の眼の届くところに居ていただけますかな」
「わかったわ。でも女だからって、アマく見たらダメよオルテガさん。
私はタダの女主人じゃないんだからね」
にんまりと笑ったルイーダは、ふくろから短剣を取り出した。
「あんまり情けないトコ見せたら、私があなたを守っちゃうんだから」
【F-5/砂地/朝】
【オルテガ@DQ3】
[状態]:健康 記憶喪失
[装備]:稲妻の剣DQ3 あらくれマスク@DQ9 ビロードマント@DQ8 むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、まずはルイーダを守り森を抜け西の町へと向かう。
殺し合いは拒否するが、主催者たちやマーダーとは断固戦う。
記憶を取り戻したい。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。
【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:短剣(詳細不明) 友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガと絶望の町に向かい、共に人を探す。
DQ9主人公とリッカを保護したい。
殺し合いには乗らない。
[備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。
- 85 :
- 投下します
- 86 :
- 困っている人々を助けたい。
私は天使だった。
人々の感謝の気持ちの結晶である星のオーラを集め、女神セレシアを復活させるために、創造神グランゼニスによって造られた存在、それが天使。
私もはじめは使命のために人助けをした。星のオーラを集めるのが天使の使命だったから。
ある事件を境に、私は天使としての力の大半を失った。羽と光輪と失い、そして星のオーラを見ることさえできなくなってしまった。
星のオーラが見えなくなっても、いや、見えなくなったからこそ、人々の感謝の気持ちが「見える」ようになった。
見えるというより、感じるという表現が正しいのだろうか。温かいものが伝わってくるような、そんな感覚。
いつしか人助けは、使命のためではなく、誰かのためにするようになった。
天使の掟から逃れるため、人間となってからも、人助けを続けた。
女神セレシアの復活を果たし、天使が役目を終えて「星空の守り人」となってからも、私は地上に残り、人助けを続けた。
天使としてではなく、同じ大地に生きる人間として。
だけど、まさか自分が助けを求める側になるなんて。
「…まさかロープが切れちゃうなんて」
深い枯井戸の底で、無残にも千切れたロープを握りしめた桃色の髪の少女が一人項垂れる。
もしかしたら井戸の中に誰かいるかもしれない。助けを求めている人がいるかもしれない。
そう思い井戸の底へと降りていく途中、頼みの綱が文字通り切れてしまったのだ。
「でも、誰もいなくてよかった」
ロープが千切れたのははるか上空。あの高さから落ちて、下に誰かいたとすれば、きっと先客の命はなかったであろう。
幸い、彼女は高いところから落下することには慣れていたため、少し膝をすりむいただけで済んだ。
まずはここから脱出しないと。
今こうしている間にも、どこかで助けを求めている人がいるかもしれない。
尤も、今助けが必要なのは彼女なのだが。
何か脱出の役に立ちそうなものはないかとふくろの中に手を入れてみる。
彼女の手に紐のようなものが触れる。
脱出に役立つ道具だろうか。期待に胸を膨らませながら、その紐を掴んで引くと――
パァン!
大きな破裂音が井戸の中に響き渡り、辺り一面が色とりどりの紙吹雪で覆われた。
ふくろから出てきたのはハッピークラッカー。
今鳴らしたものとは別に、あと4つふくろの中に入ってるようだが、こんなものがいくつあってもこの状況では何の役にも立たない。
再びふくろの中を探ると、次に出てきたのは銀色に輝く盾。
最高級の防御を誇る一品であるが、こんなところで身を守ってどうしようというのか。
盾に彫りこまれた見えざる魔神の道でよく見た顔が、少し憎らしく見えた。
遠かった空が、更に遠く見える。
人間として生きることを後悔したことは一度もなかったが、この時ばかりは翼を持つ天使の身を恋しく思った。
今は届かぬ空を、呆然と眺めていると――
- 87 :
- 「そこに誰かいるの?」
クラッカーの音を聞いて気づいてくれたのか、井戸の外から人の声がした。
役に立たないハズレアイテムかと思いきや、意外な方向で役に立ってくれたクラッカーに謝罪と感謝の意味を込めて軽く一礼をし、
そして、外にいる声の主に助けを求めることにした。
もしかしたら、外にいるのはゲームに乗った殺人者かもしれない。
良い人のフリをして近づき、道具を奪うつもりかもしれない。
だけど、こうして声をかけてくれた人のことを疑うなんて、彼女にはできなかった。
いや、仮にできたとしても、今彼女がとれる行動は他にないのだ。
「すみませーん、ここから出してもらえますかーっ!」
「ちょっと待ってて、今ロープ下ろすから」
その声の後、しばらくするとロープがするすると下りてきた。
「ありがとうございま…うわぁっ!」
ロープを掴んた途端、物凄い力で上へと引き上げられた。
翼があった頃のような空を飛ぶ感覚に懐かしさを覚える間もなく、あっという間に地上への脱出を果たしたのであった。
「助けていただき、本当にありがとうございましたっ!」
引き上げてくれた青い帽子の少女に対し、深々と頭を下げる。
「気にしないで、困っている人がいたら助けるのは当然でしょ?
それにしても、なんで井戸の中なんかに?」
どうやらこの少女も自分と同じく、困っている人を見ると助けずにはいられない性格らしい。
彼女が殺し合いに乗っていないことに安堵し、桃色の髪の少女は、井戸へ落ちるまでの経緯を語り始めた。
- 88 :
- 「人助けのため、ね。ねえ、それなら私から一つお願いしていいかしら?」
「もちろんです!魔物退治から物探し、馬小屋の掃除から宿の呼び込みまで何でも請け負いますよっ!
あ、でも会心のボケで5回笑わせろとか、季節はずれのクリスマスケーキを持って来いとか、
そういう無茶なのは勘弁してくださいねっ!」
「えーと、この状況でそういうの頼む人って、多分いないと思うわよ?」
「なんとっ!そうなんですかっ!では一体どんな頼み事なんです?」
「私、あのデスタムーアって奴を叩きのめしてやりたいの。
強そうな人たちを大勢集めておいて、武術大会じゃなくて殺しあいよ?そんなことして何が楽しいのか全っ然わかんないわ!
だから、あいつをコテンパンにやっつけてこのふざけたゲームを終わらせたいの!
仲間は多いほうがいいでしょ?だから――」
全てを聞くまでもなく、返事は決まっていた。
「大魔王討伐、ですねっ!謹んでお受けいたしますっ!」
クエスト『大魔王デスタムーア討伐!』を受けました。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はアリーナ。あなたは?」
「私はアンジェ。よろしくお願いします、アリーナさんっ!」
二人は堅い握手を交わし、決意を固めた。
「「打倒、デスタムーア!」」
「大魔王だかなんだか知らないけど、私の拳で成敗してあげるわ!」
竜の鱗も軽々引き裂く力を持つ爪を手に、アリーナが吼える。
「どんな強力な攻撃が来ても、絶対に守りきってみせますっ!」
鉄壁の守りを持つメタルキングの力を宿した盾を手に、アンジェが返す。
見た目とは想像もつかない強さを持つ彼女達であったが、ただ一つ決定的に足りないものがあった。
「…ところで、デスタムーアはどこにいるのかしら?」
「きっと洞窟に…って、あれっ?それらしいものが見当たりませんっ!」
――「かしこさ」である。
- 89 :
- 【B-4/井戸の側/朝】
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5 支給品一式
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:膝に擦り傷(行動には支障なし)
[装備]:メタルキングの盾@DQ6
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
- 90 :
- 9は一回しかプレイしてないからあまり記憶に残ってないんだよなあ
この機にもう一回最初からやってみようか
今なら大分安く手に入るだろうし
既にクリアしてるデータと通信すれば楽に進められるし
- 91 :
- ◆CruTUZYrlM氏の代理投下します
- 92 :
- と思ったらレベルがなんか下がってて本文がほぼ書き込めない……
申し訳ないのですが、代理投下を中断させていただきます。
手に空いている方がいらっしゃいましたらどなたかお願いします。
- 93 :
- 彼女は戦うことにしか、生きる意味を見出せなかった。
戦いの果てで傷つき、倒れることが出来れば本望だと思っていた。
戦士として魔物と戦い、戦士として人間と戦い。
傷つき傷つけ、時には血を啜りながらも生きてきた。
そして新たな戦場を求め、彷徨い続ける。
ある時、転機が訪れる。
「魔王を討伐する勇者が仲間を探している」
そんな噂を耳にし、彼女はアリアハンの酒場へと向かい、勇者の仲間へと申請した。
幸運にも彼女は三人のうちの一人に選ばれ、共に冒険をすることとなった。
勇者との冒険は、想像以上に充実したものだった。
見たことも無い魔物との戦いや、自分がまだ知らない世界を知った。
より広い視野や新たな戦法を手に入れるために、悟りの書を用いて賢者にもなった。
呪文を用いた戦い、それを組み込んだ新たな戦法。自分の中の戦いはますます面白くなっていった。
そして、何よりも大きな収穫だったのは魔王との戦いだった。
勇者や他の仲間には黙っていたが、興奮していた。
自分の想像がつかないレベルの強者と戦うことが出来るなど、願っても無い幸運だった。
相手にとって不足は無し、叶うことなら自分ひとりで戦いたかったが贅沢は言っていられない。
やまたのおろち、ボストロール、バラモス、ゾーマ。どの相手も本当に楽しい戦いだった。
本当に充実していた。魔王を討伐するまでは。
魔王を討伐するということは、この世に平和をもたらすと言う事。
この世に平和をもたらすと言う事は、魔物は消え、自分の望む戦場が無くなってしまう事である。
覚悟はしていたが、耐えられなかった。
体が、血が、肉が、脳が、彼女を構成する全てが、戦いを欲していた。
渇きを止めるために、共に冒険をしてきた仲間の中で一番強いと感じていた勇者に戦いを挑もうともした。
しかし勇者は、平和になった世界のどこかへと旅立ってしまった。
自分を満たしてくれそうな、そんな強者達は居なくなっていた。
彼女はこの渇きを満たすため、何も無くなった下の世界をただ当ても無く歩いていた。
嘗て、冒険を共にした勇者と戦う。ただそれだけのために、まるで死人のように歩いていた。
そんな彼女が、この殺し合いに呼ばれた。
「デスタムーアと言ったな……私に戦場を与えたもうたこと、感謝する」
僥倖以外の何者でもなかった、形はどうあれ「戦える」のだから。
あの場で確認しただけでも勇者や、共に冒険した仲間たちが居た。
そして、叶うならば一人で戦いたいとすら願ったバラモスの姿まであった。
それだけではない、自分の知らぬ強者たちも居るという確信もあった。
忘れていた感覚が、ふつふつと沸き起こる。
興奮が止まらなかった、命を賭した戦いが、ここにはあるのだ。
細かい話や、理屈などどうでもいい。
人を斬り血を浴び、悪人と称されても構わない。
戦えるのならば、それでいい。
悟りを開き、賢者とまで呼ばれた彼女は、戦いを求める修羅になった。
さあ、戦士たちよ。
どこからでもかかって来るがいい。
どんな手段だろうと、どんなに大勢だろうと私一人で相手になろう。
私も、全力で貴様達を討つ。どんな手段を使ってでもだ。
私は生き残る。生きて生きて次なる戦いへ身を投じて見せよう。
- 94 :
- 間もなくして、一人の少年と遭遇した。
外見は幼くとも、身なりは剣士のものである。
この地に舞い降りて出会った最初の相手に、興奮を抑えきれぬまま彼女は話しかける。
「戦士よ、我が名はカーラ。剣を取って私と戦え」
支給された物資の中で、武器と呼べる唯一のモノだった銅の剣を少年へと突きつける。
少年はカーラの突然の言動に、若干うろたえている。
無理も無い。この殺し合いの地で初めて出会った人間にいきなり剣を突きつけられているのだから。
カーラは、少年に剣を抜かせるために口を開く。
「どうした、剣を抜かぬなら私から行くぞ」
弱者とて容赦はしない。戦場では強者も弱者も男も女も同じ、一人の戦士なのだから。
追い詰められた弱きものが、突如として力を発揮するところを彼女は幾度と無く見てきた。
その絶望から来る力とも、正面から立ち会いたい。
目の前の少年は、まだ動かない。
「……良かろう、では行くぞ」
剣を仕舞い、呪文を唱える。
それを隙と判断したのか、少年は背を向けて全速力で走り出す。
が、次の瞬間には目の前にカーラが立っていた。
「失望させるな、次は無いぞ。剣を取るかこのまま死ぬか、選べ。」
速度強化呪文、ピオラ。
一時的に増幅された俊敏さで、風のように少年の隣を過ぎ去って追い抜かす。
首筋に剣が当てられていることを皮膚で感じ取ると同時に、頬が切り裂かれていることを認識する。
これ以上退けないと判断したのか、少年はゆっくりと腰に携えていた剣を引き抜く。
「……それでいい」
嬉しそうに首筋に当てていた剣を引き、カーラは間合いを取る。
「改めて、名を名乗ろう。我が名はカーラ。お前の名はなんと言う?」
「……キーファ」
「その名、この身にしかと刻んだぞ」
戦士たるもの礼儀を欠いては、生涯の恥となる。
剣を突きつけながら、互いに自己紹介を行う。
改めて、戦いの幕が開く。
カーラの気持ちは今にも張り裂けんばかりに、高ぶっていた。
- 95 :
- キーファの眼前にあるのは銅の剣、自分が手にしているのは奇跡の剣。
武器だけで言えば相当の差がある、それでも少年は臆していた。
そう、銅の剣の切先に臆していた。
カーラの全身から発せられる武器の差だけでは埋まるはずもない何かが、キーファの全身に圧し掛かる。
奇跡の剣を握る手に何時も以上に力がこもる。
そして、威圧から来ていた緊張の糸が切れ、キーファが先に動きだす。
素早く後ろに間合いを取り、カーラのデッドラインから抜け出す。
それを察知したカーラがキーファよりも素早く間合いを詰めてくる。
突進してくるカーラを目視してから、キーファは剣を地に突き刺し、特殊な構えを取る。
切りかかるカーラの剣の太刀筋にあわせながら体を捻り、手で剣の刀身を挟む。
そしてカーラの力を利用し、全身のばねを使い、カーラの体ごと放り投げる。
しかしカーラも自分の体が宙に浮いていることを認識し、地面につくまでに体勢を整えて着地する。
キーファの額から一滴の汗が流れる。
一発で成功したはいいものの、受け流す対象がいなかったために力を利用して放り投げるだけに留まってしまった。
両手に残る若干の痺れから、次は成功しないと確信する。
ならば、この一回で生み出すことが出来た間合いを生かすしかない。
剣を引き抜き、大きく息を吸い込み、地にしっかりと足を着ける。
カーラが銅の剣を手に、こちらへ迫ってくる。
全身に緊張感が走ると同時に、力がみなぎる。
今、切りかからんとするカーラの姿が目に映る。
待っていた、と言わんばかりにキーファは奇跡の剣に炎を纏わせる。
- 96 :
- 「何?!」
予想もしない展開に、カーラの目が大きく見開かれる。
二度とないチャンス、ありったけの力を振り絞りキーファはその剣を振り抜く。
今、肉を切り裂かんとする炎剣。それを防ぐことは間に合わない、と判断したカーラは銅の剣を力強く炎剣へと振りかぶる。
しかし銅の剣では炎剣の勢いを殺しきることは出来ず、その刀身は脆くも崩れ去ってしまう。
炎剣の切先が頬に触れ、肉を焼く感覚に襲われる。
が、砕けた銅の剣の切先がキーファの腕に当たり、力の振るう先を僅かに逸らす。
それと同時に体を捩ることで、炎剣の直撃を免れる。
銅の剣が壊れることを前提とした動き、カーラの戦局を見据える能力にキーファは驚愕の色を隠せない。
「なるほど、面白い技術だ」
流石に両の足だけで着地は出来ず、片手を地で摺りながらカーラは体勢を整える。
キーファの渾身の一撃から免れるために、カーラは唯一の武器を失った。
攻めるなら今しかない、この機を逃せば終わりだと判断したキーファが間合いを詰めていく。
その足を止めようと、カーラの手から無数の氷刃が襲い掛かる。
可能な限り避けつつ、眼前に迫る物は炎剣で砕く。一歩、もう一歩、確実にその足はカーラへと近づいていく。
そして、一回の跳躍で届く間合いまで近寄ることに成功した。
「おおおお!!!」
両足に力を込め、全身を利用して素早く飛び掛る。
空中から大きく振りかぶり、渾身の力でその炎剣をカーラに目掛けて振り下ろす。
切り裂かれる、肉。
その太刀筋は心の臓まで辿り着いている。
その切り傷を彩るのは――――冷たく輝く氷だった。
ドサリ、と重い音と共にキーファの体が崩れ落ちる。
「即席の剣としては、上出来だったな」
カーラの左手から生える血に塗れた氷刃が、ゆっくりと砕ける。
そう、待っていたのはカーラの方だった。
キーファの火炎斬りを見た彼女は、何かに魔力を付与させることが可能なのではないか? と疑問を抱いた。
そこからヒントを得、彼女は左手に「氷の刃」を生成しようとし、学んできた呪文をぶつけていった。
キーファに向けて撃っていた氷刃は意識を逸らすためのブラフ。
簡単に掻い潜れるほどの弾幕だった理由は、カーラの意識が氷刃生成に向いていたからだ。
そして、キーファが渾身の一撃を叩き込まんと力を攻めに注いだその瞬間。
左手に無事に出来上がった氷刃を素早く振るい、守りを忘れたキーファの肉体を駆け抜けるように切り裂いた。
「魔力の付与……お前の技を少し借りさせてもらった。
見よう見まねでどうなるかは分からなかったがな、呪文を学んでいて助かったというべきか。
新たな技と戦いが私の中でまた一つ生まれたこと、感謝するぞ」
キーファは応えない。体が小刻みに震えながら、大量の血が大地に広がっていく。
キーファの横を通り抜けながら、カーラは辺りが焼け焦げている地面に深々と突き刺さる剣を引き抜いた。
「さらばだ、キーファ。お前の名と共に、この剣と私は生きよう」
弔いの意を込め、生を停止した彼の前で祈る。
彼が強者であった証と、その思いを受け止めるように。
彼の剣と、その荷物を携えて彼女は歩き出す。
- 97 :
- 「しかし、衰えたな。賢者としての呪文の修練ばかり行っていたとはいえ、剣の鍛錬は怠るものではないな」
戦いを振り返り、彼女は一人呟く。
賢者として学んでいた期間が長く、剣を集中して振るう事が無かったこともあり、いつぞやの自分と比べると格段に筋力が落ちていた。
これから、さらに強いものとも戦うことになる。そのためにも、あの頃の自分の筋力に追いつき、追い越さなければいけない。
それまでは習得した呪文を駆使し、この戦場を生き残ることになるだろう。
自身に課せられた試練か、と一人で思い、笑ってしまう。
「それで、何時まで見ているつもりだ?」
振向き、静かに背後の森へと視線を移す。
「……やはり、気づいていたか」
「ふん、今にも戦いたそうにうずうずしておる奴の気配が読めんくらいでは、この場は生き残れんだろう」
カーラに指摘され、木の陰から魔人が姿を表す。
彼女が嘗て対面した魔王に匹敵する闘気。
久々に覚える感覚に、カーラは再び興奮する。
「で、お前も私と戦ってくれるのか?」
「そうだな、できれば私も今すぐにでも戦いたい……だが」
予想外の返答に、彼女の表情は険しくなる。
「この戦いが始まってから、そうすぐに強い者、ましてや成長する強き者と闘っても面白くないだろう?」
魔人は構わずに、一人話し続ける。
カーラは今にも奇跡の剣を携え、飛びかからんとしているのを必死に我慢している。
「私もデスタムーア様の配下である以上、この殺し合いを進めなければいけない。
そこでだ、先ほどの戦いで瞬時に新たな技術を身につけたお前の力を見越した上での提案がある」
カーラも、魔人も動かない。両者が両者の領域を侵さないギリギリの位置で立ち止まっている。
「この場にいる、様々な強き者と戦い、再び出会ったときにその戦果を共に語り明かそうではないか。
互いがどれだけ強きものと闘ってきたか、どのような経験を積んだのか。
互いに磨きをかけ、その上で最高の戦いをしようではないか。
再び相見えたときに、お互いが最高の戦いが出来る準備はこちらにある」
魔人は世界樹の雫とエルフの飲み薬を手に持ち、カーラへと提案を続ける。
カーラの険しい表情が少しずつ解け、魔人へ向けられていた剣の切先が下ろされる。
「なるほど、いい提案だ。私も今の少年のような未知の強者ともっとたい。
お前に勝てないわけではないが、お前も私と同じ強者を求めるものならば、それも面白いだろう」
その言葉に、魔人は思わず笑みをこぼす。それに応えるように、カーラも笑みをこぼす。
そしてカーラは懐から一枚のメダルを取り出し、魔人へと提案する。
「では、今度は私から提案だ。ここから北へ向かうか、南へ向かうか。この小さなメダルの表で決めぬか?
表が出れば私が北へ向かう、裏が出ればお前が北へ向かう。それでどうだ」
「異論は無い、それで決めようではないか。
申し遅れたな、我が名はデュラン。強き者を求め、この地へとやってきた。お互いに楽しもうではないか」
「私はカーラ、お前と同じく強き者を求め、この地を駆け巡ろう。二度と得る事のないと思っていた戦いの場、存分に楽しませてもらうぞ」
魔人も提案を受け、強き相手に失礼の無いようにお互いの名を名乗る。
そして、互いの実力を認めた上で交流として、この地での戦いを満喫することを示す。
- 98 :
- 「行くぞ」
カーラの指から弾かれたメダルが宙を舞う。
ゆっくりと回転を重ね、両者の視線をその身に受けながらふんわりとカーラの手中に戻る。
両者の行方をメダルが示す。
戦いにしか生きれない戦女と、戦いを求める魔人。
それぞれの道に、それぞれの闘うべき強者が待ち受けている。
「では、さらばだ。再び相見える時は、互いの全力でぶつかり合おうではないか」
「ああ。私はお前が届かない高みにまで、辿り着いてみせよう」
魔人は静かに笑いながら足を進め、戦女も振り返らずに足を進める。
互いの道が再び交差するその時まで、互いの道を突き進むだけ。
【キーファ@DQ7 死亡】
【残り52名】
【E-7/中央部/朝】
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:頬に火傷、左手に凍傷、MP消費(小)
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
【デュラン@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ6、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。
※表裏の結果でどちらがどちらに向かったのかは後続の書き手にお任せします。
- 99 :
- 代理投下終了
長すぎって言われたので途中勝手に分割しました
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